桃太郎「三匹の乙女を連れて鬼退治の旅」 (42)

村はずれ 民家

じいさん「そろそろ山へ行って来る」

ばあさん「分かりました。気をつけてくださいね。最近、物騒になってきているようですから」

じいさん「ああ、気をつけるよ」

ばあさん「貴方がいないと、村の人たちも困るんですからね」

じいさん「はっはっは。それはお互い様だろうに」

ばあさん「私は貴方ほど立派ではありませんから」

じいさん「そんなことはない。お前もこの村には不可欠だろうに」

ばあさん「やめてください、もう」

じいさん「はっはっは。行ってくる。夕暮れ時に戻ってくるから」

ばあさん「はい。お気をつけて」

ばあさん「さてと、私も仕事をしようか」

ばあさん「よいしょ……よいしょ……」コネコネ

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村人「あ、あの!! すみません!! 先生!!」

ばあさん「あらあら、申し訳ありません。今、主人は山のほうへ薬草を採りに行っていて」

村人「そ、そうですか……あぁ、大変だぁ……!!」

ばあさん「怪我人でもいらっしゃるの?」

村人「は、はい! この女の人が倒れていて!!」

女性「はぁ……はぁ……ぐっ……」

ばあさん「まぁ、酷い怪我ね。とにかくこちらに上げてくれるかしら」

村人「わ、わかりました!!」

女性「ぐ……うぅ……」

ばあさん「失礼しますね」

女性「あ、あの……わた、し……」

ばあさん「あら。貴女、身篭っているのね。どうしてこんなことに」

女性「私はどうなっても……いい……ただ……このお腹の子だけは……」

ばあさん「わかったわ。今は喋らないで。応急処置しかできないけど、主人が戻ってきたらすぐに治療するわね」

女性「この子は……たすけて……あげて……おねがいしま、す……」

>>2

ばあさん「わかったわ。今は喋らないで。応急処置しかできないけど、主人が戻ってきたらすぐに治療するわね」

ばあさん「わかったわ。今は喋らないで。私は応急処置しかできないけど、主人が戻ってきたらきちんとした治療ができるから」

村人「俺はどうしたら!?」

ばあさん「主人を呼んできてもらえるかしら。私だけだと簡単な治療しかできないから」

村人「山にいるんですよね!! 行ってきます!!」

女性「はぁ……はぁ……」

ばあさん「もう少しの辛抱よ。主人は腕のいい医者だからね」

女性「す、みません……」

ばあさん「いいのよ。それよりこのお腹だともう臨月かしら」

女性「は……あ……あぁ……」

ばあさん「しっかりして。気をしっかりもちなさい」

女性「この……子に罪……はないん……です……」

ばあさん「ダメっ。もうすぐ母親になるんでしょう。弱気にならないで」

女性「お、お願い……この子……は……たすけて……」

ばあさん「助けるわ。大丈夫よ」

女性「すみません……おね……が……」

ばあさん「目を閉じないで。もうすぐ主人が戻ってくるわ。それまで耐えるのよ。もうすぐ戻ってくるから」

村人「連れてきました!!!」

じいさん「老体を労わらんか」

ばあさん「……」

村人「女の人は!?」

ばあさん「……今し方、息を引き取った」

村人「あぁ……そんなぁ……」

ばあさん「でも、まだこの人の子どもは助けなけないと」

じいさん「妊婦か。よし。子どもを取り出そう」

ばあさん「準備は出来ています」

じいさん「お前さんは外に出ていろ」

村人「は、はい!!」

ばあさん「お願いします。この人に託されてしまいました」

じいさん「そうか……。取り出したら、ワシらで育てよう」

ばあさん「勿論です」

じいさん「では、切開を始める」

オギャー!! オギャー!!

村人「――産まれたのですか!?」

じいさん「ああ。無事に産まれてよかった。元気な男の子だ」

村人「おぉ……!!」

ばあさん「この人が命がけで守った赤子は大切に育てなければいけませんね」

じいさん「うむ。それにしても何故、このような傷だらけの姿に……」

村人「見つけたときにはもう血だらけだったんです。多分、山賊にでも襲われたんじゃないですか。最近、町のほうでもよく悪さをしてるっていいますし」

じいさん「山賊か……。この辺りで襲われたとなれば鬼か猿か……」

村人「どちらでも関係ないでしょう。やってることは同じじゃないですか、あいつら」

じいさん「そうだな……」

ばあさん「あなた、まずは弔いを」

じいさん「そうだな。出来る限り手厚く葬ってやらねば」

ばあさん「そのあと、この子の名前も決めましょう」

赤子「オギャー!! オギャー!!」

じいさん「名前か……そうだなぁ……」

15年後 村はずれ

桃太郎「ジジイ!! ババア!! ちょっと町まで行ってくる!!」

じいさん「桃太郎、今日も行くのか?」

桃太郎「あったりまえだろ!! 俺が行かなくてどうするんだ!!」

じいさん「しかし、お前はまだまだ子どもだ。町で何かあったらどうする?」

桃太郎「俺は誰にもまけねえよ!! 俺に勝てるやつなんて町にはいねえんだ!! いや日本中を探したっていねえな!!」

ばあさん「そういってまたケンカして傷だらけで戻ってこられると、こっちは心配で心配で」

桃太郎「気にすんな!!」

ばあさん「わかったよ。ほら、いつものを持っていきな。きびだんごだよ」

桃太郎「助かるぜ! ババア!! んじゃ、いってきまーす!!」

ばあさん「桃は邪気を祓い、不老不死のように元気でいられる薬だといわれているが……名前の通り育ってしまいましたね……」

じいさん「男の子は元気なほうがいいがなぁ」

ばあさん「桃太郎……」

じいさん「さ、中に入ろう。今日も患者が来るからな」

ばあさん「はい」



桃太郎「どんな傷にも効果抜群の薬、あらゆる危険に備えて一つはもっておくと安全な危備団子はいらねえか!!」

町民「よぉ、桃太郎。一つもらっておくよ。丁度、今から少し遠出するんだ」

桃太郎「ありがと、おっさん。いつもわるいねぇ。今日は一個おまけしとくぜ。他のやつには内緒な」

町民「調子いいな。他のやつにも同じこといってんだろ」

桃太郎「いってねえよ。おっさんが初めてだ」

町民「そうかい? また買いにくるよ。これ、御代な」

桃太郎「毎度ありぃ」

桃太郎「うしっ。ちょっと休憩にするか」

桃太郎(今日の稼ぎも上々だな。あとは自分で薬を作れるようになりゃあ、ジジイとババアも楽できるなぁ。ふっふっふっふ)

桃太郎「ハーッハッハッハ。もうすぐ!! 俺の野望が実現するぜぇ!! ヒャーッハッハッハッハ!!!」

「桃太郎がまた不穏なこといってるぞ」

「金稼いでなにするつもりなのかねぇ」

「怖いけど、桃太郎の売る薬はとっても効くからなぁ。買わないわけにもいかねえのが……」

桃太郎「おい、そこ。コソコソ話してないで危備団子買っていけよ」

桃太郎「毎度ありぃ。今日も完売だな! さぁて、何か買って帰るかぁ」

桃太郎「へっへっへ。今日はババアに魚でも捌いてもらうかぁ。ジジイの胃袋には野菜を詰め込んで……」

娘「おっと」ドンッ

桃太郎「いって! どこに目をつけてんだ!!」

娘「ゴメン、ゴメン。それじゃあ」

桃太郎「んだよぉ。やろう。野郎じゃねえか、女だもんな」

桃太郎「……ん?」

桃太郎「あれ……? あれ? 銭袋が……」

桃太郎「まさか!?」

娘「えへへ。結構あるね。ありがとー、おにーさんっ」

桃太郎「だぁー!! てめぇ!! まちやがれぇ!!!」

娘「やだよー」テテテッ

桃太郎「それがねえと飯を食わせられねえだろうがぁぁ!!」ダダダッ

娘「あたしだって、そうだもーん」

桃太郎「他人様の金で腹を満たそうとすんじゃねええ!!!」

桃太郎「待ちやがれぇ!!!」

大男「む?」

桃太郎「おぉ!?」

大男「お前は、桃太郎とかいうクソガキか。最近、景気がいいらしいなぁ」

桃太郎「あぁ? 誰だこらぁ。ぶっとばすぞぉ?」

大男「ガキのくせに威勢がいいな。死にたくないなら、どけ」

桃太郎「……はいはい。すみません。どうぞ」

大男「ふんっ。ほら、早くこい」グイッ

少女「うっ……」

桃太郎「その女、どうするんだ?」

大男「ガキには関係がないだろう」

桃太郎「まぁ、そうだけどな」

大男「まぁ、お前があのおかしな団子を売るのと一緒だ」

桃太郎「おかしな団子じゃねえよ!! すげえ薬だ!!」

大男「そうか。機会があれば買ってやるよ」

村はずれ 民家

桃太郎「たっだいまぁ」

ばあさん「おかえり、桃太郎。今日はどうだったんだい?」

桃太郎「……」

じいさん「どうした?」

桃太郎「ジジイ!! ババア!! すまん!!! 有り金を全部盗まれちまったぁ!!!」

ばあさん「あらあら」

桃太郎「だが、盗んだ相手の顔はバッチリ見た!! きちんと探し出してケリつけてくっからよぉ!! ちょっと待っててくれ!!」

じいさん「馬鹿な真似はよせ」

桃太郎「俺は天下の桃太郎だぜ!! このまま舐められてたまるかってんだよぉ!!」

じいさん「もし相手が山賊の一味だったらどうするんだ?」

桃太郎「あぁ!? 山賊ってあんなチンケなスリもやんのかよ!! ハッ!! 底がしれるぜぇ!! 俺がボッコボコのギッタンギッタンにしてくるからよぉ!!」

じいさん「落ち着け。ここ数年、この辺りは荒れてきておる。町に山賊が住み着き、裏の商いも盛んになっていることはお前も知っているだろう」

桃太郎「それがどうしたんだよ」

じいさん「目を付けられれば、どうなるか少しは考えろ。団子を売れなくなるぞ」

桃太郎「ちっ……。商売ができなくなるのは困るな」

じいさん「変な奴とだけはケンカをしないでくれよ」

桃太郎「わかってるよ。ケンカする相手はいつも選んでるっていってんだろ」

じいさん「それならいいんだ。……ああ、いや、ケンカはいかんぞ」

ばあさん「桃太郎、ごはんはできてるよ。お食べ」

桃太郎「ハッ!! 今日は食欲がねえからいらねえ!! 川にいって水のんでくる!!」

ばあさん「そんなこと言わずに」

桃太郎「ついでに洗濯もしてくる!! むしゃくしゃしてっから着物をもみくちゃにしてやりたい気分だぜ!!!」

じいさん「お前も、疲れているだろう。しなくていい」

桃太郎「俺を止めたきゃ腕ずくでとめてみやがれ!!! ジジイ!!」

じいさん「はぁ……。わかった。好きにしろ」

桃太郎「しゃぁー!!!」ダダダッ

じいさん「稼ぎが少ないときはいつもああだな」

ばあさん「ですね」

じいさん「気にせんでも多少の蓄えはあるというのに、バカ息子め」

川辺

桃太郎「くっそー!! あの野郎!! 女だけど」

桃太郎「次会ったら体で払ってもらうぜ!! ったくよぉ!!!」ゴシゴシ

桃太郎「腹がたつー!!!」

村人「おぉ、桃太郎。荒れてるなぁ。どうしたんだ?」

桃太郎「聞いてくれよぉ!! 折角ババアの団子で儲けを全部どっかの山猿に持っていかれたんだ!!」

村人「そりゃあ、災難だったなぁ」

桃太郎「今度見つけたら、女に目覚めさせてやる!!」

村人「女だったのか?」

桃太郎「ああ、俺ぐらいのメスだったな」

村人「そうかぁ。そいつは町に住み着いてる山賊かもしれねえなぁ」

桃太郎「ジジイもそんなこといってた。山賊の本拠地に火でも放ってやろうか」

村人「そんな度胸もないくせに」

桃太郎「あるぅ!! 俺を誰だと思ってんだよ!! 日本一の桃太郎だぜ!?」

村人「自称だろ。俺たちの目にはただの村一番のガキ大将にしかみえないぞ」

桃太郎「大体、山賊がなんで町で悪事を働いてんだよ。それじゃあ山賊じゃなくて町賊じゃねえか」

村人「山で旅人を襲うよりも町で商いをしたほうが美味いメシにあり付けるからだろ。それに山賊どもの根城は山奥にある。間違っちゃいねえよ」

桃太郎「知ってるよ。町で動き回ってるゴキブリたちが山奥に盗んだものを運んでるんだろ」

村人「それだけじゃない。盗品を売りさばいて金にしてる」

桃太郎「ふぅん」

村人「昔は食料ぐらいだったのに、最近は人まで商品になってるらしいなぁ」

桃太郎「人だと?」

村人「ああ。あいつらは人間じゃねえよ」

桃太郎「人って金になるのか?」

村人「若い娘なんかは金持ちに売られるって話はよくきくぞ」

桃太郎「ってことは、あの女もか……? 気の毒に」

村人「なんか見たのか?」

桃太郎「丁度、売られていくところをこの目で見た、と思う。怪しい男が連れてたからな」

村人「お前……まさか……」

桃太郎「んだよぉ。なんもしてねえよ」

翌日 町

桃太郎「傷の特効薬~危備団子はいらねえかぁ~」

「桃ちゃん、一つくれぇ」

桃太郎「毎度ぉ!」

「昨日は運が悪かったな。これからは気をつけなよ。俺は応援してっからよ」

桃太郎「おう。ありがとな。ひとつ、おまけしとくぜ」

「おぉ。また買うよ」

桃太郎「はいよぉ」

桃太郎(今日こそはでけえ魚と野菜をしこたま買って帰ってやる)

桃太郎「しっかし、堅気の商売をするだけじゃ俺の計画は遅々として進まねえなぁ」

大男「よう。桃太郎」

桃太郎「おっ。いらっしゃい」

大男「噂通り、えらい人気だなぁ」

桃太郎「あったりめえよ。この団子は本物だからな」

大男「そうか……」

桃太郎「買ってくか?」

大男「一つもらうか」

桃太郎「ほらよ。昨日の女が高く売れたのか?」

大男「詮索すると碌な目に遭わんぞ」

桃太郎「じゃあ、知りたくねえや」

大男「それで、この団子はどうやって使うんだ?」

桃太郎「団子を傷口に塗るだけ。傷に合わせる場合はすこし千切って量を調整するといいぜ」

大男「ほう? どんな傷にも効果があるっていうのか」

桃太郎「おうよ。まぁ、風邪とかには効かないけどな」

大男「なるほど。良いことをきいた。ではな」

桃太郎「またどうぞー」

桃太郎「……」

町民「桃太郎! 昨日は助かったぜ! また団子がなくなったら買うからなぁー」

桃太郎「おう。あ、そうだ。なぁ、ちょっと聞きたいことがあんだけどさぁ」

町民「なになに。何でも言ってくれよ。知ってることならなんでも教えてやるよ」

大屋敷 正面玄関

桃太郎「ここがこの町一番の金持ちの家かぁ」

町民「お前が知らなかったのは意外だな。この町で商売始めて2年ぐらいだろ?」

桃太郎「俺は下町のこと愛してるからなぁ。上町のことはよくわかんねえんだよ」

町民「まぁ、お前が上流階級の人間を相手に商売できるとは思えないけどなぁ」

桃太郎「俺もそう思う」

町民「それで、ここの主に団子を売りつけるのか?」

桃太郎「いや、団子は売れないだろうなぁ。多分、女じゃねえと」

町民「お、おい。そういうことは言わないほうがいいぞ」

桃太郎「そうなのか?」

町民「町の役人だって買収されてる話とかもあるんだからな」

桃太郎「なるほどなぁ」

町民「ほら、もう行こうぜ。売るんじゃないなら用はないだろ」

桃太郎「そうだな。丁度ハラも減ったし。一緒に昼飯でもどうだ?」

町民「お、いいねぇ。いくか」

大衆食堂

「はい、おまちどう」

桃太郎「いただきます!」

町民「桃太郎、変なこと考えてないだろうな?」

桃太郎「変なことって?」

町民「確かにあの屋敷にはよく若い女が連れ込まれてるらしいけどよ。俺たちにはどうにもできないぜ?」

桃太郎「そんなのわかってるってぇ」

町民「本当か? お前がケンカするときはいつも誰かの為だからよ。俺ぁ、心配だ」

桃太郎「はぁ? 俺はケンカしたいときにケンカする男だぜ?」

町民「お前なぁ、自分がガキ大将って呼ばれてるわけをしらねえのかよ」

桃太郎「日本一強いから」

町民「ちげえよ。ああ、いや、強いのは間違いないんだがよ」

桃太郎「だろ? なんていっても、百薬の長である桃を背負ってるからな。強くねえといけないわけだ」

町民「強く健やかにって意味が込められてるんだと思うんだが」

桃太郎「おいおい。見てみろよ。どっからどうみても俺はとんでもなく健やかだろうが」

上町 大屋敷 裏口

桃太郎「(なげえしでけえ塀だなぁ。こんなに広かったら掃除とか面倒だろ)」

桃太郎「(まぁ、将来はこういうところに住むのが俺なんだけどな)」

桃太郎「(ちょっと中の様子でも見てみるか……。ここよじ登れそうだな)」

桃太郎「よっと」ガシッ

桃太郎「(さてさて、どんな奴が住んでるか……)」

「ヒャッハッハッハッハ!! ほぉれぇ!! ほれ!! しっかり鳴けぇ!! 犬がぁ!!!」

桃太郎「(ん……? なんだ?)」

主「お前は犬だろう? 鳴け! 鳴かんかぁ!! 鳴かねばエサはやれんぞぉ!!」

イヌ「わん……わん……」

主「きこえんなぁぁ!! んんー!? こいつは人間かぁ!? 人間の娘になどワシは興味ないぞぉ!!」

イヌ「わ、わんっ! わんっ!」

主「ヒャーッハッハッハ!! 鳴きおったぞぉ!!! こいつは本物の雌犬だな!! 今回もいい買い物ができたなぁ!! ヒャッハッハッハッハ!!」

イヌ「ぐっ……うぅ……うぅぅ……」

桃太郎「(なんだここ。変態屋敷かよ……。あの女、尻尾までつけてるし)」

役人「――何をしている?」

桃太郎「お勤めご苦労さま」

役人「早く立ち去れ。ここは子どもの来るところではない」

桃太郎「はいはい。ごめんなさい」

役人「全く」

桃太郎「だけど、用事を済ませてからでいいか?」

役人「用事だと?」

桃太郎「あんただって知ってるんだろ? この中で何が起こってるのか」

役人「……子どもには関係のないことだ」

桃太郎「いーや!! 子どもだろうが大人だろうが関係ない!! もう見ちまったからなぁ!! 今から俺は関係者だ!!」

役人「なに……!?」

桃太郎「さーて、ケンカしてくっか」

役人「待て!」ガシッ

桃太郎「なんだこらぁ? はなせよ」

役人「何をやろうとしているのか分かっているのか?」

桃太郎「とめたきゃ、腕ずくでとめろ」バッ

役人「力のない者が人を助けることなどできはしない」

桃太郎「へっ。力ならある!! 俺は日本一の桃太郎だぜ!!」

役人「その拳で何を救ってきたのかは知らないが、所詮は子どものケンカだろう」

桃太郎「んだとぉ?」

役人「君にできることはない。去るんだ」

桃太郎「力があっても人を助けられないお前がいうんじゃねえよ」

役人「な……」

桃太郎「ここで見てろ、腰抜け役人が」

役人「……殺されるぞ? ここは鬼と呼ばれる賊共が屯している場所だ」

桃太郎「鬼? ああ、そう」

役人「奴らは人間ではない。女子供にも容赦はしない。だから……」

桃太郎「俺だって容赦はしねえ!! いくぜぇ!!」ダダダッ

役人「待て!!」

役人「くっ。仕方ない……」

大屋敷 庭

主「さぁて、エサを与えてやろう。ヒャーッハッハッハ」

イヌ「うっ……く……」

主「ほれ、食え」ドサッ

イヌ「ぐぅ……」

主「犬だろう? 落ちたものを貪れ。ほれほれぇ」

イヌ「はむっ……」

主「いい子だぁ。今日は特別可愛がってやるからなぁ。ヒャッハッハッハッハ」

イヌ「うぅぅ……うぅ……」

桃太郎「おーい、豚野郎」

主「誰だぁ?」

イヌ「え……?」

桃太郎「今からてめぇぶん殴って、そのイヌを俺が拾う。いいな?」

主「なにを言っている、小僧? どこから入りこんだか知らんが、生きては帰れんぞぉ?」

桃太郎「ただの豚に日本一の桃太郎が負けるわけねえだろ」

主「桃太郎……? お前が……?」

桃太郎「おう、知ってるのか?」

主「なるほど……なるほど……」

桃太郎「さぁ、やるかぁ!! どっからでもかかってこい!!」

主「噂は聞いている。下民相手に怪しげな薬を売り歩いている溝鼠だろう」

桃太郎「怪しくねえよ!!」

主「確かに、ワシではお前には勝てんなぁ」

桃太郎「おっ。潔く負けを認めるのか?」

主「ああ……そうするかぁ……」

桃太郎「なんだよ。どいつもこいつも腰抜けだなぁ」

イヌ「あ……きのうの……」

桃太郎「よし、今日からお前は俺のイヌだ。いいな?」

イヌ「ど、どうして……」

桃太郎「あぁ? お前に我が家の残飯処理をさせるために決まってんだろ」

イヌ「だ、だめです……にげてください……ここには鬼が……」

桃太郎「鬼なんて俺が一ひねりにしてやるよ」

主「では、やってもらおうか」

桃太郎「あ?」

大男「――言ったはずだ。詮索すると碌な目に遭わないとな」

桃太郎「なぁんだ。やっぱりお前がいたのかよ」

イヌ「に、にげてください! 私のことはいいですから!!」

桃太郎「バカ言うんじゃねえよ!! 俺は天下の桃太郎!! 一度やるといったら必ずやり遂げる男!!!」

イヌ「で、でも!!」

桃太郎「安心しろ。こんな家なんかより、もっといい家を紹介してやるよ」

イヌ「あ……」

桃太郎「行くぞ!!」

大男「ふん」

桃太郎「おらぁぁぁ!!!」

大男「俺たちは鬼だぞ? 舐めるな」ドゴォッ

桃太郎「ごっ……!?」

屋敷内

賊「ヘヘッ。ガキが庭で暴れてるみたいだぜ」

「俺たちがいるって知らなかったのか? バカなガキだなぁ」

「まったくだ」

カラス「アー!! アー!!」バサッバサッ

賊「なんだ? どっから入ってきたやがった、このカラス」

「廊下が汚れたらどやされるぞ。さっさと殺せよ」

忍者「大事な相棒に乱暴なことはしないでもらおうか」

賊「だれだ――」

忍者「……」ザンッ

賊「が……あぁ……!?」

「な、なんだてめぇ!?」

忍者「鬼退治を依頼された者だ」

「な、なんだとぉ!?」

忍者「すまない。少年が心配だ。通してもらうぞ」



主「ヒャッハッハッハッハ!! そーれ! あ、そーれ!! なぐってなぐって、くるしめろっ!」

大男「さっきまでの威勢はどうしたぁ」ドガッ

桃太郎「おっ……がっ……」

イヌ「も、もうやめてください!!」

桃太郎「下がってろ……メス犬……」

イヌ「ダメです!! 死んでしまいます!!」

桃太郎「うっせぇ!! お前を助けるって昨日決めたんだ!! 黙ってみてろ!! ボケナス!!!」

イヌ「あぁ……そんなぁ……どうして……」

主「ふぅ……。飽きたわ。殺してしまえ」

大男「はいよ」

桃太郎「はぁ……はぁ……」

大男「桃太郎、遺言はあるか?」

桃太郎「俺の命と引き換えに……このイヌを野良にしてやってくれよ……」

大男「残念、そりゃ聞けねえな。――死ねっ」

イヌ「やめて!!!」ガブッ!!

大男「いてぇなぁ!!」ドゴッ

イヌ「きゃん!?」

桃太郎「な……」

主「このメス犬、人間の腕を噛むのかぁ」

大男「調教が必要ですね」

主「そうだなぁ」

イヌ「う……いた……ぃ……」

桃太郎「や……ろう……」

大男「とりあえず、こいつは殺すか。あの団子で商売しようとおもったが、こうなっちゃった仕方ないなぁ」

桃太郎「ぐ……うぅ……」

大男「じゃあな」

カラス「アー!!! アー!!!」バサッバサッ!!!

大男「な、なんだ!? こいつ!!」

カラス「アー!!! アー!!!」バサッバサッ!!!

主「何をしているぅ!!」

大男「そうはいってもこのカラスが!!」

主「鳥ぐらいなんだ!! 早くころせぇ!!」

忍者「……では、そうさせてもらおう」

主「お、おまえは……!?」

忍者「いい趣味をしているな。この稚拙な遊戯をしている間に、お前が手懐けた鬼共は退治させてもらった」

主「鳥……そうか……きさまぁ……猿に雇われた……」

忍者「……」ザンッ

主「ぐぅぅ……あああ……!!」

桃太郎「誰だ……あい、つ……」

大男「なぁぁ!? お前ぇ!! 大事な金づるをぉぉ!!」

忍者「これが私の仕事だ。商売敵を消して欲しいと言われてな」

大男「猿共の差し金かぁ。ククク……あいつらも頭がわりぃなぁ……だから猿だっていわれてるのによぉ……」

忍者「私もそう思う。しかし、依頼された以上は遂行する」

大男「鬼に勝てるとでも思ってんのかぁぁ!!」

町 路地裏

桃太郎「う……ん……」

イヌ「あ、だ、だいじょうぶですか?」

桃太郎「どこだ……ここ……」

イヌ「下町まで移動してきました。あの黒ずくめの人に助けてもらって」

桃太郎「あいつはいないのか……」

イヌ「もう去っていきました」

桃太郎「わるいな……俺の所為で……怪我させて……」

イヌ「い、いえ、そんな、助けようとしてくれてありがとうございます」

桃太郎「これ、やる」

イヌ「これは……?」

桃太郎「傷口に塗ればすぐに治る。きびだんごっていうんだ……」

イヌ「でも、これは桃太郎さんが使わないと」

桃太郎「いらねぇ……。お前がつかえよ……俺はもう帰るから……。じゃあな……」

イヌ「え!? まってください!!」



村人「ん? ありゃあ……」

イヌ「こっちでいいんですか?」

桃太郎「もうやめろよ……家にかえれよ……」

イヌ「私に家なんてありません……」

桃太郎「そうなのか……」

村人「桃太郎!! だいじょうぶかぁ!?」

イヌ「あ、えっと……そのぉ……」

桃太郎「大丈夫だよ……」

村人「ひでぇ怪我じゃねえか。誰とやりあったんだよ」

桃太郎「とにかく……帰る……」

イヌ「ご、ごめんなさい」

村人「で、そのお嬢ちゃんは?」

桃太郎「俺のイヌだよ……」

村人「お、おお、おまえ……!! いつの間に……!?」

民家

イヌ「あ、あのー!」

じいさん「はいはい。怪我でもしたのかい?」

イヌ「私は大したことがないですけど、桃太郎さんが」

桃太郎「よぉ……ジジイ……」

じいさん「も、桃太郎!? どうした!?」

桃太郎「ケンカした……」

じいさん「中に入れ! ほれ!!」

桃太郎「あぁ……」

ばあさん「桃太郎、何があったんだい?」

桃太郎「なんでもねえよ……」

じいさん「薬を用意してくれ」

ばあさん「はい」

イヌ「しっかりしてください! 桃太郎さん!」

桃太郎「(あー……かっこわるぅ……)」

じいさん「どうだ?」

桃太郎「もう大丈夫だ。ありがとよ」

じいさん「なわけがないだろうが。ほら、寝とけ」

桃太郎「いいんだよ。俺の体のことは俺が一番よくわかって……いてて……」

じいさん「寝とけ」

桃太郎「ちっ。運が良かったな、ジジイ。今日の俺は少し素直だぜ」

じいさん「そりゃあ、よかった」

桃太郎「ふんっ」

イヌ「あのぉ、桃太郎さんは……?」

じいさん「おぉ、桃太郎。娘さんが粥をもってきてくれたぞ」

イヌ「お婆様が持っていって欲しいというので……その……」

じいさん「ワシとばあさんはまだやることがあるから、桃太郎のこと看てやってくれるか?」

イヌ「は、はい!! がんばります!!」

じいさん「よろしくな」

桃太郎「けっ。必要ねえよぉ」

イヌ「桃太郎さん、どうぞ」

桃太郎「おう……。つっ!?」

イヌ「あ、まだ持てないですか。私が食べさせてあげますね」

桃太郎「お前、怪我は?」

イヌ「お婆様に治療していただきました」

桃太郎「俺があげた団子はどうしたよ」

イヌ「ここにありますけど」

桃太郎「つかわねえなら返してもらうぞ」

イヌ「え……あ、はい……。どうぞ」

桃太郎「なんだ、嫌そうだな」

イヌ「いえ! そんなことは!!」

桃太郎「……いいよ。やるよ。さーて、メシを食うか」

イヌ「私が食べさせてあげますね」

桃太郎「俺を舐めるなぁ!! 天下無敵!! 日本一の桃太郎だ!! 1人で食べられる!!! かせぇ!!!」

イヌ「あ、熱いですから、気をつけてください」

桃太郎「ハフッ!! ハフッ!!」

イヌ「……」

桃太郎「で、お前。これからどうするんだ?」

イヌ「ど、どうするといわれても……」

桃太郎「帰る家はないとか言ってたな」

イヌ「はい……」

桃太郎「両親はどうしたんだよ」

イヌ「鬼に……その……ぐすっ……うぅぅ……」

桃太郎「もういい。悪かった」

イヌ「す、すみません……」

桃太郎「とりあえずここにいろよ。拾っちまった責任はとってやるからよ」

イヌ「いいんですか!?」

桃太郎「お前の俺の飼い犬だからな」

イヌ「はい!! わかりましたっ!!!」

桃太郎「わかりましたじゃねえよ。変な女だな」

ばあさん「桃太郎、傷のほうはどうだい?」

桃太郎「まだ少し傷むけど問題ねえ」

じいさん「娘さんは……」

イヌ「すぅ……すぅ……」

ばあさん「おやおや。安心しきってる顔で寝ていますね」

桃太郎「この女、暫くここで飼うからな。よろしく」

じいさん「飼うのか? 犬のような耳と尾をつけているのが気になっておったが……」

桃太郎「これはあとで外させる」

ばあさん「そろそろ話してくれないか、桃太郎や。何があったんだい」

桃太郎「ケンカしただけっていってるだろ」

じいさん「ただのケンカじゃないだろう」

桃太郎「……」

ばあさん「言っておくれ。別に怒ったりはしないよ」

じいさん「叱ったところで桃太郎が心を入れ替えることもないだろうからなぁ」

桃太郎「ちっ。まぁ、大したことじゃないんだけどよぉ」

じいさん「……そうか。この娘さんは鬼の商品になっていたのか」

桃太郎「みたいだな。で、なんか癇に障ったから連れてきた」

ばあさん「鬼にやられたんだね」

桃太郎「……」

じいさん「腕っ節では村一番とはいえ、流石に鬼には敵うまい。言っただろう、お前は子どもだと」

桃太郎「うるせぇ!! ケンカでは一度も負けたことがなかったんだ!!! 俺は日本一の桃太郎だからな!!!」

じいさん「ケンカというても子どものケンカだろうに。鬼のそれはケンカではない。戦だ」

桃太郎「関係あるかよ!!」

ばあさん「桃太郎?」

桃太郎「んだよ!?」

ばあさん「もうこんな姿で帰ってくるのだけはやめておくれ」

桃太郎「うっ……」

ばあさん「こんな老いぼれより先に死なないで。約束だよ」

桃太郎「わーってるよぉ。うっせえなぁ」

じいさん「ふむ……」

川辺

桃太郎「くっ……!? やっぱ、いてぇ……。骨とかおれてんのか……」

じいさん「桃太郎、何をしておる」

桃太郎「血だらけの着物、洗わなきゃいけねえだろ。ボケ」

じいさん「……町に剣術の道場があるのは知っているか?」

桃太郎「いや。それがどうした」

じいさん「強くなりたいなら、行ってみぃ」

桃太郎「なんでだよ?」

じいさん「お前がいつもいつも誰かのために戦おうとするのを見ていると、心配なんだよ。お前はワシらの言うことを一切きかんからぁ」

桃太郎「そんなことねえよ」

じいさん「団子だって別に売り歩く必要はないんだぞ」

桃太郎「俺がしたくてしてるだけだ。口出しすんな」

じいさん「わかっとる。だからな、これから何があってもいいように、お前はもっと強くなるべきだ。元々、ケンカには強いお前だ。剣術を習えば虎に翼だろう」

桃太郎「……考えとく」

じいさん「ああ、そうしてくれ。洗濯もほどほどにな」

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