トム「あまり僕をからかうなよジェリー、もう逃げられないようにしてあげるから」 (30)

僕がトムに捕まってからもう半年。
最低限の食事と水しか与えられない僕は、ストレスでやせ細り毛も抜け落ちた。
もう走り回る余力も戦略を練る余力もない。
生きる事が辛くなり、最近僕は自ら食事を拒む。
無理矢理口にねじ込まれても、僕はそれを嘔吐する。
…今日も始まった、拷問の時間だ。

「今日は、尿道にシャー芯を一本ずつ入れようね。
そのあとシャー芯を折って、体内に黒鉛を残してあげるからね。」
この男も相変わらず飽きないものだ。
僕の体は既に半壊していて、縫合の痕が全身に刻まれている。
形だけ肉体と繋がれている四肢はすでに機能していない。
僕がもがくたびにそれは地面と擦れ合わされ、化膿していくばかりだ。
「一本目ぇ。」
痛い。痛い痛い痛い。
僕は声にならない悲鳴を上げる。
渇き切った頬を、溢れる涙が痛めつける。
どうして僕はこんな事になってしまったのだろう。

思えばあの頃は楽しかった。
トムを欺いてはきたけれど、僕はひと時もトムを見下したことはない。
対等な立場だからこそ、トムは競い合う対象だった。
僕は心のどこかでトムを友達だと思っていた。
どうして、僕は今こんな事になっているんだろう。
ごめんねトム、許して。
僕はこの半年の間、何度も許しを乞ってきた。
その声がトムに響く事はない。

「二本目ぇ。
まだまだ入るよね?ジェ・リ・イ。」
二本目の芯が僕の肛門にねじ込まれた。
それは腹の方まで突き刺さり、激痛に悶えつつも僕は痙攣する。
僕の足から何かが滴っている。
ああ、僕は失禁しているんだ。
体の力が出ない。
トム、僕が憎いなら、いっそ殺して欲しい。

「おもらしするなんて悪い子だねジェリー。」
そういうとトムは、僕の体を折り曲げていった。
僕の体内で、芯が砕かれていく。
細々とした芯の断面が僕の腸に傷を付けていく。
恐怖と絶望の中で、僕はこの時死を望んでいた。
「三本目、尿道と肛門どっちに入れようかな。
やっぱり、こっちだね。」
トムの笑みは狂気に満ちていた。
その直後、僕の右目に激痛が走った。
視界の右半分が真っ暗で何も見えない。
僕は全てを察した。
全身の痙攣が収まらない。

「四本目はどこか、もう分かるよね?
ジェリーは頭が良いもんね。」
勿論、僕は彼の行動が分かる。
この後僕は、直ぐに全盲になってしまうだろう。
この半年、トムの顔と実験道具以外のものは視界に映らなかったが、それさえも見える事はなくなる。
閉ざされた視界の中で待ち受ける拷問の事を考えると、僕は震えが止まらなかった。
ごめんなさい、許してください。
僕はただ、友達の作り方がわからなかった。
それだけだったのに。

それから間もなく、僕の視界は閉ざされた。
暗闇の恐怖の中で、容赦なく襲い掛かる五本目の芯。
僕の尿道が、更に広げられてしまったようだ。
「ジェリー、もっと楽しもうよ。」
トムの囁き声が響いたのも束の間、僕は針のようなものを突き刺された。
一度、僕の意識は途絶えた。

しばらくして、僕は目を覚ました。
全身に響き渡る、とてつもない激痛。
麻痺して動きの鈍っている肉体を強引に跳ね上げつつ、僕は発狂した。
「どうだいジェリー、麻酔を使って2時間かけて肉体を痛めつけた、その分の痛覚が一度に襲い掛かる痛覚は。」
意識が上手く働かない中、僕はトムの言葉を聞いて更なる恐怖を覚えた。
「ついでに、前足と後ろ足を逆にしてみたよ。
って、どうせ動かないから変わらないか、あはは。」
どうして僕は生きているのだろう。
どうして死ぬ事が許されないのだろう。
誰か、僕を殺して。
僕を自由にして。
トム、君はいつからおかしくなったの?

ジェリーが可哀想に思えてきた

「ジェリー、失うもの等なかった君に僕の気持ちはわからないさ。
僕はね、飼い猫なんだよ。
君のせいで僕は不当な扱いを受け続け、時には体罰も受けてきた。」
僕の腹が切開されていく。
「君は他者の管理下にいない自由なネズミだったから、僕の気持ちなんてわかりゃしなかっただろうね。
今はどうだい?
管理下で何かを失う恐怖に束縛される立場になって、僕の気持ちはわかったかい?」
僕の体内には異物が詰められていく。
怖い、痛い、辛い、死にたい。
「今更悔いても事は遅いんだよ。」
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して

「破ァ!!」
その時、叫び声と同時に目の前が真っ白になった。
気が付けば、僕は五体満足でベッドに横たわっていた。
「危なかったな、相手の立場を考えないように人の心を誘導する悪霊がこの辺りにはよく出没するんだ。
さ、これで大丈夫だ。」
僕の目の前にいたのは、寺生まれで霊感の強いTさんだ。
寺生まれって凄い、改めてそう思った。
僕はこの日を境に、トムに少しだけ優しくなった。

HAPPY END

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