幸運の死神 (44)

昔々あるところに女の子がいました


その女の子は海沿いの町に住んでいました


その女の子はある不思議な事が昔からよく起きていました


昔から自分の回りにいる人たちが次々と不幸になってしまうのです

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事故に遭えば自分だけ無傷


人に何かをしたら自分に都合のいいことばかり起きて、相手は不幸なことばかり起きる


女の子はクラスメイトや両親にまで煙たがられていて、いつも一人でした


女の子は皆から好かれようと一杯努力しました


でもいつも自分だけ幸せ、周りは不幸


だから女の子はいつも独りぼっち


首に提げている双眼鏡だけが心の拠り所でした

女の子の日課はマンションの屋上から双眼鏡で海の景色を見ること


その時だけは自分が世界と一つになったみたいで不安が吹き飛びます


いつかあの海で自由に動き回りたい


そう願って過ごしていました


ある日、女の子に嬉しい知らせがありました


学校行事の遠足で海に行くというのです

当日、女の子はやっぱり独りぼっちでしたが、念願の海にきたのです


この海は一般にも開放されている安全な海域で、しかも今日は平日故に貸切状態です


双眼鏡は荷物置き場に置いて、女の子は浜辺を走り、海を泳ぎ、大はしゃぎしました


海に入っていると、まるで自分はここから生まれたのかと思ってしまうほど安らかな気持ちになりました


昼頃、休憩時間に双眼鏡を取りに行くと、そこには何もありませんでした


女の子は必死になって探しましたが、見つかりません

何で、どうして


そう思っていると、クラスのリーダー格の女子が来ました


見て、コイツ不幸な顔してる!あっはっはっ!


双眼鏡は海に投げ捨てたわよ


あんな小汚ないの、要らないでしょう?


そう言いました


女の子はすぐに海に飛び込み、双眼鏡を探しに行きました

かなり遠いところまで泳いで探しましたが、双眼鏡は見つかりませんでした


探している間、さっきいた場所からドンドンと音が聞こえてきました


こんなお昼に花火でもやってるのかなぁ


集合時間に間に合わなくなると考えて、双眼鏡は諦めることにしました


そして、トボトボと集合場所に戻ると

浜辺はスプーンで抉られたように穴だらけ


其処ら中に血が流れ、「クラスメイトだったモノ」が、道端のペットボトルのように転がっていました


放心状態の女の子に、軍服を着た男性が近付いて来ます


大丈夫か!?生き残りは君だけか…?


後に聞いた話ですが、みんなには不幸にも既に制海権を取っていたはずの海域に深海棲艦が来てしまったのです

軍服の人は言います


生き残れるだなんて、君はなんて幸運なんだ…


幸運?


幸運ってなに?


幸せってなに?


自分だけが幸せなのは幸運なの?


自分だけがいい思いをして、相手が苦しむのを見るのは幸せなの?


苦しみを分かち合うこともできない私を幸運と言うの?


女の子は軍服の人に掴みかかりました


今まで溜め込んできた苦しみを全てぶちまけるように激しく

動揺していると判断されすぐに引き剥がされました


そしてそのまま家に送られました


家に無事帰ってきた女の子


待っていたのは両親からの呪いの言葉でした


お前だけ生き残るだなんて!


他の家の方達から怨嗟の言葉が来るのよ!


この、死神め!


お前なんて産むんじゃなかった!

女の子は泣きながら後ずさりしました


その時、壁に立て掛けてあったバットがカランカランと床に転がりました


女の子はそれを手に取り、両親に降り降ろしました


な、何をする!


やめなさい!


外してしまいました


両親が何か言っていますがどうでもいいことです


今度は外さない


腕を振り上げ、両親の頭に――――

腕が動きませんでした


何処からか現れた厳つい老人が女の子の腕を掴んでいるのです


そんな女の子に近づいてきてこう言いました


憎いか?


こんな運命になる世界が憎いか?


動揺しつつも女の子は頷きます

さらに老人は言います


力が、欲しいか?


こんな世界に復讐する力が欲しくないか?


今ある全てを棄ててでも




復讐する力…世界を変える力…


女の子は言葉を噛み締めます

そして答えました


私に、力を下さい


老人はにやりとし、放心した女の子の両親に言いました


突然の来訪失礼する


私は海軍中央指令部元帥というものだ


実はこの子を届けてからしばらく監視させてもらっていた


この少女は素質があるからだ


艦娘としての、そしてもう一つ存在としての素質が


我々海軍にこの子を預けていただきたい

両親は躊躇いもなく了承しました


家から出る際一度両親を振り返り、こう言われるのが聞こえました


もう二度と帰ってくるな!


女の子は元帥の乗って来た車に乗り込みました

書き溜め消えたからちょっと休憩

ごめんね、タイトルに入れ忘れたけど、これ艦これSSなんだ
あと今更艦あるけど一応閲覧注意
再開します

海軍本部に行き、艦娘になった女の子


この力は我々にとって脅威にも成りうる


君は新たな世界を手に入れた


力をどう使うのも、誰に味方するのも君の自由だ


君のしたいように選択し、進んでいくとよい


そう老人…元帥に言われましたが、よく分かりません


ですが、棄てたものはたくさんありました

まず名前


女の子はそれまでの名前を棄て、雪風と言う新しい名前を貰いました


また、それに伴い戸籍や経歴などの全ての過去の情報がなくなりました


食事なども普通の食べ物ではなく、燃料や弾薬を摂取するのが主になりました


艦娘は兵器です


だから、人間のような扱いなどされないのです

さて、女の子…雪風は自分の所属する場所、鎮守府へ派遣されました


そこにいた司令官は、新任の雪風を暖かく迎えてくれました


暫くは本出撃はせずに演習や個人メニューの訓練ばかりでしたが、鎮守府の人達は雪風の才能に大いに期待していました


そして雪風の初出撃日


それは簡単な哨戒任務のはずでした

任務完了で帰投する間際、異変が起こります


正規空母の方が敵の大群を見つけたのです


戦艦棲姫、空母棲姫、南方棲戦姫……


どれも普通はこんな浅い海域にいるはずのない者達です


結果、哨戒部隊はろくな抵抗もできずに壊滅


増援部隊も含め、たくさんの轟沈が出てしまいました

しかし雪風だけは無傷で帰投しました


幸運にも敵の砲撃が不発だったり、近くの艦娘に弾が流れていったからです


報告を聞いた司令官は嘆き悲しみ狂いました


壊滅した哨戒部隊には、司令官と固い絆を結んだ艦娘が含まれていたのです


結局、艦隊指揮がまともになされなくなったその鎮守府は解散し、雪風は新たな鎮守府へ派遣されることになりました

雪風の着任した鎮守府では同じ様な不幸な事件が起こりました


それでも雪風は体に何の傷も負わない


一つ、また一つと鎮守府がなくなっていき、雪風も転々としていました


最終的に、雪風を引き入れてくれる鎮守府はどこにもなくなりました


雪風は人間だったころと同じになってしまいました

雪風は今、たった一人で海に出ています


どうあがいても、新しい人生を手に入れても、結局は変えられない運命に絶望してしまったのです


いっそ死んで楽になりたい


そう思った雪風は装備も、ろくな補給も持たずに一人海をさ迷っていました


そして漸く、深海棲艦を見つけ、無抵抗に砲撃を浴びるのを待ちました

ですが、いくら待っても砲撃が来ません


雪風は憤慨しました


雪風は、私は!自由に死ぬこともできないの!?


ふざけるな!


何が幸運ですか!


みんなに言われてきた子運なんて嘘だ!


幸運なんだったら、どうして私はこんなに苦しいんだ!


勝手に決め付けるないでよ!

>>25修正


ですが、いくら待っても砲撃が来ません


雪風は憤慨しました


雪風は、私は!自由に死ぬこともできないの!?


ふざけるな!


何が幸運ですか!


みんなに言われてきた幸運なんて嘘だ!


幸運なんだったら、どうして私はこんなに苦しいんだ!


勝手に決め付けるないでよ!

そう叫ぶと水平線の向こうからネグリジェを着た深海棲艦、戦艦棲姫がこちらに向かってきました


戦艦棲姫は言います


幸運…幸運ネ…


私モ運ダケナラトッテモイイワ…


キット貴方ト同ジ…


幸運デアルガ故ニ生キノビテシマイ、幸運デアルガ故ニ全テヲ失イ苦シム…

雪風は言い返します


私と同じ…?


深海棲艦なんかと一緒にしないで下さい!


大体、何を悠長に話しているのですか!


早く私を殺してよ!

戦艦棲姫が笑います


同ジヨ…


ソシテ貴方ヲ殺ス気ナンテ無イワ…




雪風は叫びました


なんで、なんデよ!


早ク、早く楽にシてよ!


コンナ世界なんテ意味無イんデす!

戦艦棲姫が囁きました


ナンデッテ…?


貴方ガ私達ノ仲間ダカラヨ…


ダッテ、私ノ配下達ガ攻撃シテイナインデスモノ…


シカモ、気付イテル…?


既ニ貴方ハ深海二誘ワレテイルノヨ…?

私達ト一緒ナラ、幸運モ不幸モ関係ナイワ…


ダッテ、私達ト同ジトイウ時点デ…


サァ、一緒ニ深海デ溶ケ合イマショウ…?


戦艦棲姫は雪風に手を差し出しました

雪風は元帥の言葉を思い出しました


”こんな運命になる世界が憎いか?”


憎い…憎イよ…


”この少女は素質があるからだ”


”艦娘としての、そしてもう一つ存在としての素質が”


もう一ツ…深海棲艦とシテノ素質…


”力をどう使うのも君の自由だ”


”君のしたいように選択し、進んでいくとよい”


…………元帥サんは…最初カラ見越してイタのカナ…

雪風は聞きました


深海ニ行けば、楽になレマすか?


もう、苦しまナクテ、イイノデすカ?


自由に、コの海で過ごセルヨウニなリマスか?




戦艦棲姫は答えます


エエ…保証シマショウ…

雪風は戦艦棲姫の手を取りました


戦艦棲姫はあるものを雪風に渡しました


コレ…アナタノ物ジャナイノ…?


体が沈んでいきます


雪風はそれを…いつか失くした双眼鏡を受け取り、首に提げました


ソウイエバ、コノ双眼鏡ハドコデテニイレタンダッケ…?


ナンデ大事ダッタンダッケ…


マァイッカ…


モウ地上ノコトナンテドウデモイイデスシ…

完全に体が水中に入ってしまいましたが、不思議と苦しくありません


体の周りに黒い靄のようなものがまとわりついてきます


眠イ…


眠気が我慢できなくなり、目を閉じました


どうしてか元帥と同じ匂い、雰囲気がする双眼鏡を大事に抱きしめながら





















ヨウコソ…………幸運ノ死神サン…………

それからしばらくして、深海棲艦達の強さが格段に上がりました


何かに守られているように砲撃を避けていくのです


特に夜戦時


とてつもない運を発揮し、急所を的確に突いて艦娘を沈めていきました

人が感じる幸運・不運は、その人の感性によります


ですが、圧倒的な…死神のような存在がいて


その存在が運を操っているのかもしれません


あなたが不運に感じるときがあるとき、それは彼女の仕業かもしれません




幸運の死神の彼女の…

終わり

意味があるようで特にない

敵のカットイン率高すぎだろふざけんなと思いながら書いてました

ちなみに姫級の敵やレ級の運は軒並み50を越えます

ではご拝読ありがとうございました

今まで酉使ってなかったんで、過去作を置いときます
全て短編なので暇なときにさっくり読んでいただければ幸いです

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