男「やばい、間違えて妹にラブメールを送ってしまった…」(277)

腹筋しようぜ

妹「ぜーぜー……」ガチャンッ

男「……なんだ、そんなに息を切らして」

妹「こ、これ! このメール本当なの!?」

男「(あちゃー、本当にコイツにメール送っちまったか)」

男「(でも、女さんの名前は打ってないからばれてないはずだ……しらを切るか)」

妹「ねぇ、おにい!」

男「あー、なんだ、その……友と普通にからかいあってただけだが……」

妹「こんな告白みたいな文面で?」

男「アイツが、後輩から告白されたから助けろと。だから、真似していじってた」

妹「……そう、なんだ……」

男「(我ながら良い頭の回転だ)」

妹「そっか……ご、ご飯、もうできるから、呼んだら来てね……」

男「あ、あぁ(テンションガタ落ちだな、どうしたんだ?)」

妹「じゃ、じゃあね、おにい」ダッ

男「……ドアぐらい閉めてほしいもんだが」

こうですか、わかりません

――


友「よう男」

男「なんだお前か」

友「ひっでぇ扱い……んで? 告白の方はどうなったよ」

男「……おじゃんだ」

友「は?」

男「間違えてラブメールを妹に送って、冷静になって、怖気づいた」

友「マジで」

男「マジだ」

友「おいおい、そんなんでいいのかよ」

男「よくないだろうけどさ……」

友「相変わらずヘタレだねぇ」

男「ヘタレじゃねぇ」

友「そうかい。ま、いいんじゃねぇの? そのまま妹ルートにでも行けば」

男「ギャルゲみたいに言うなよ……そもそも、何が好きで妹に……」

友「器量良し、作法良し、そして君に夢中の出来た妹じゃないか。そんな妹との、禁断の恋……あぁ良いじゃねぇか」

男「やめろ気持ち悪い……というか、あいつが俺に夢中だと?」

友「あぁ。弁当を忘れれば、この上級生の教室にだって、物怖じせずに健気に届けてくれるし、
  部活が無い時は君の帰りを校門で待って、一緒に帰ろうと笑顔で言ってくれるじゃないか」

男「弁当はまぁありがたいが、一緒に帰ってるのは、俺が買い物の荷物持ちする為だからな」

友「君がそうでも、案外、あっちはそう思ってないかもしれんぜ?」

男「さいですかい……」

友「それで、メール受け取った妹さんの反応は?」

男「このメールはなんだって聞かれたけど、何とか誤魔化して来たよ」

友「そうじゃなくてだな……」

男「あぁー、なんか慌ただしく俺の部屋来たと思ったら、急にテンション下げて戻ってったよ」

友「ほっほー……なーるーほーどーねー」

男「何ブサイクな顔して笑ってんだよ」

友「うるせー節操無し……さて、新しいフラグを建てたところで、女さんへの再アタックは何時にすんだ?」

男「……もう少し、時間を下さい」

友「足りない時間は勇気で補えよ」

男「その勇気を溜めるのに時間をくれって言ってんだよ……」

友「へいへい。ま、困った事あったら、言えよ」

男「あぁ、わかったよ……」


――

下駄箱



男「はぁ……どうしたものかねぇ……」

女「あれ、男君どうしたの?」

男「うお、女さん……」

女「そんなに驚かなくてもいいじゃない。溜息なんてついて、どうしたの?」

男「あぁー、今日の晩飯はどうしようかなって、迷ってて(貴女の事で悩んでたなんて言えないしな……)」

女「そっか……兄妹だけで暮らしてると、大変だね」

男「もう慣れたよ。それに、家事はそれぞれ分担だし、苦労はしない」

女「ふーん、男君って、家庭的なんだ」

男「しょうがなく、ね」

女「それでも、良い事だと私は思うよ」

男「……ありがとう」

女「ふふ。ねぇ、今日は一緒に帰ろっか」

男「え?」

女「あんまりこうして二人で帰る事は無かったけど、友達なんだから、良いよね」

男「え、えぇ、喜んで(友達、ね……ま、一緒に帰れるなら良いか)」

「兄さん!」


男「ん、なんだ、妹か。どうした?」

妹「……その人、誰ですか……」

女「あら、男君の妹さん? 私は女、男君の友達よ」

妹「友達、ですか……」

女「そう、友達」

妹「……」ジリッ

女「……」

男「えーと、お二人とも、何を睨みあってるんですか?」

妹「兄さん、今日の買い物は沢山するから、一緒に行こうって言ったじゃないですか」

男「あぁー、そうだったな」

女「あら、今日は一緒に帰ってくれるんじゃなかったの?」

男「ちょっ」

妹「兄さん、私との約束を忘れて、この人と帰るんですか?」

男「えーと、そういう訳じゃ無くてな」

女「なら、私もその買い物についていこうかしら」

妹「いえいえ、私達につき合わせるのもなんですし、女さんは大丈夫ですよ」

女「荷物持ちは多くいた方が良いんじゃない? 沢山買うんでしょう?」

妹「兄さんと私だけで大丈夫ですよ。兄さんはこう見えても力持ちなんで」

男「ついてくるくらい、良いじゃないか?」

妹「兄さんは黙ってて下さい」

男「はい」

女「男君、ついてくるくらい良いって言ってるわよ?」

妹「そういう問題じゃ、無いんですよ……」

女「……どういう問題なの?」

妹「そ、それは……」

男「あー、わかったわかった。ゴメン女さん、今日はコイツと約束してたから、また今度で……」

妹「兄さん……」

女「……ふーん、そっか。まぁ、男君がそういうならしょうがないっか。じゃあ、また今度、帰りましょうね」

男「あぁ、ゴメンな」

女「良いのよ。それじゃ、妹さんも、またね」

妹「えぇ……さよなら……」

男「(ふぅ……なんでこんな俺は身の危険を感じてるんだ)」

男「(というか意図せず、女さんと約束しちまったな……)」

妹「おにい?」

男「……なんだ?」

妹「さっきの人は、誰?」

男「あぁ、女さん。同じクラスの友達だよ」

妹「本当に、友達?」

男「あぁ、まぁ、ね……」

妹「ふーん……」

男「そ、それは良いとして、今日の献立何にすんだっけ」

妹「カレーでしょ! おにいの好きなの作ってあげるって、昨日言ったじゃん!」

男「そうでしたね、えぇ、はい……というかさ、なんで二人きりだと呼び方変わんの?」

妹「それは、あれよ……さすがに他の人いてあの呼び方は恥ずかしいでしょ」

男「恥ずかしいってのは、自覚してるのか」

妹「もう、いいから行こうよおにい」グイグイ

男「あーこら引っ張るな」



女「なるほど、ね……」


――

アリアッザイマシター


男「はぁー、また沢山買うなぁ」

妹「今日のカレーは豪勢に、ハンバーグも入れようと思って」ガサゴソ

男「お、俺の好物ばっかりじゃないか」

妹「ホント、子供みたいな好物だよねぇ」

男「うるさい」

妹「普段は大人っぽい癖に、舌は成長しないんだから。ピーマンいつになった食べれるようになるの?」

男「俺が天寿全うしたら食ってやるよ」

妹「食べる気ないじゃん……」

男「まぁな。よし、詰め終わったんなら、全部荷物貸せよ」

妹「え、でも今日のはさすがに重いから、全部は無理だよ」

男「言うと思ったよ。じゃあ俺が詰めといた、この軽いの持て。俺がそっちの二つ持つ」

妹「え、でも……」

男「俺は力持ちなんだろ? 任せろよ」

妹「う、うん……」


マタオコシクダサイマセー

男「もう日沈んだか、早いな」

妹「冬だからねぇ」

男「寒くないか?」

妹「平気。おにいこそ、薄着そうだけど、寒くないの?」

男「男の子は、ちょっと寒いくらいじゃ、根をあげませんよ」

妹「そう……」

男「まぁ、でも、そろそろマフラーかそこらを買わないとな」

妹「あ、じゃあ、私は編んであげよっか?」

男「うん? あー、良いなそれ」

妹「でしょ? 私とおにいの二人で一緒にくるまれるようなヤツ編んじゃうんだから」

男「いや、それは、いいかな」

妹「えーいいじゃん」

男「不便だろ」

妹「……そういう問題じゃないんだけどなぁ」

男「でも、編んでくれるんだったら、嬉しいな。一人用のマフラー」

妹「考えておきます」

男「なんでそっちは保留なんだよ……」

妹「ねぇ……」

男「なんだ?」

妹「さっきの人って、本当に友達?」

男「……やけに食い下がるな」

妹「昨日のメール、あの人に送りたかったんじゃないの?」

男「……」

妹「やっぱり」

男「まぁ、なんだ。なんでわかった」

妹「さっきあの人と別れた直後、なんか遠い目してた」

男「なるほど……顔に出てたか」

妹「……」

男「……」

妹「おにいは……」

男「ん?」

妹「あぁいう人がタイプなの?」

男「さぁ。タイプとかそういうの、気にしたことないから」

妹「そう……おにいらしいね」

男「……あー、それで思い出したけど」

妹「何?」

男「昨日は間違えてメール送って、悪かったな」

妹「……うん、気にしてないから」

男「なんかあの時、様子変だったけど、なんかあったのか?」

妹「何でもないよ……」

男「本当に?」

妹「……本当だって」

男「そうか……それじゃ、さっさと帰って、ご飯にしようか」

妹「うん、そうだね……」



――

男「ごちそうさまでした」

妹「おそまつさまでした」

男「すっごい旨かったよ」

妹「そりゃあ、おにいの舌は熟知してますから。当然当然」

男「ははっそうか。あ、食器、水に浸けといてくれ。もうちょいしたら洗うから」

妹「うん、わかった」

男「はぁー、食った食った」ピリリン ピリリン

男「お、電話だ」

妹「……誰から?」

男「んー、見たことない番号だな。ちょっと電話出てくる」ガチャッ

妹「わかった……」

男「はい、もしもし男です」

女『あ、やっと出た』

男「……えっとこの声は、女さん?」

女『そー大当たり』

男「えっと、なんで俺の番号を?」

女『ちょっと人に聞いてね。さっきした約束の詳細を決めようと思って』

男「え、はぁ(いきなり電話が来るとは、緊張するな……)」

女『それで、どうしよっか』

男「えっと、何が?」

女『何がって、これからずっと、一緒に帰ってくれるって約束したでしょ?』

男「あー(あれ、話デカくなってないか?)」

女『気の抜けた返事ねぇ……それで、どうなの?』

男「いや、俺の記憶と話が違うような気がして」

女『そりゃそうよ。私がちょっと付け足したもの』

男「そりゃ横暴ですよ」

女『それで? どうなのかな、男君』

男「えーと、腑に落ちませんが、お供させて頂きます」

女『ふふ。良い返事ね』

男「……本当に、これからずっと二人で帰るのか?(マジかよ、なんかとんとん拍子に話が……)」

女『何度も言わせないの。じゃ、これからよろしくね』

男「は、はい。よろしく、お願いします」

女『ふふ、固いわね。それじゃあ、また明日ね、男君』

男「はい、それじゃあ」ピッ

男「……」

男「(マジかよ……)」ボフッ

男「(俺が、女さんと、一緒に帰る?)」

男「(夢じゃないよな、感覚あるし)」ギリッ

男「……」グッ

男「(苦節18年、ようやくこの俺にもチャンスが……)」

男「よし、ここからだぞ、男よ……」

男「引き締めて行けよ……」



妹「……」



――

男「ふわぁーあ……」

男「おはよー妹」ガチャッ

男「……あれ、いない」

男「うん? 書き置きか」

男「えっと……活動の関係で、朝早く出なければならないので、作ってあるご飯を食べて下さい」

男「……あいつ部活の朝連あるとか言ってたか?」

男「まぁいいか」

男「今日はなんたって、決戦初日になるんだからな……」



――

男「……」

友「ようヘタ男」

男「なんだチャラ男」

友「相変わらず口が悪い事で。で、何時頃作戦再開するんよ」

男「んー、事情が変わって、ちょっと時間かける気だが」

友「なんだよ事情って」

男「お前に話すの面倒だから、そっちで勝手に想像してくれ」

友「妹ルートに入ったか!」

男「心底頭弱いなお前は」

女「へー……何の話してるの?」

友「お、女さん! 奇遇ですね」

男「……おはよう、女さん」

女「妹さんと……なんですって?」

友「聞いてくださいよ女さん。コイツね? 自分のいもう――」

男「誇大妄想狂は黙ってろ」バキッ

友「あ、アバラに……ドラゴンブローが……」

女「私とあんな約束したのに、へー……責任取らないでそっち行っちゃうんだー……」

男「いや、そんな訳ないでしょう」

友「なになに? 責任負わされちゃうような出来事起こしちゃったの男君?
  やることが早いねぇ、このこの」

男「……それで、女さん、今日どうするんですか?」

友「あー出た出た、めんどくさがりの無視作戦。男の馬鹿! もう知らない!」ダッ

男「……馬鹿も消えたんで、話し易くなりましたね」

女「ふふっ、それより、さっきの話は一体なんなのかな?」

男「あれはあいつの妄想なんで、気にしないで下さい」

女「ふーん、まぁそういうことにしておいてあげる」

男「なんだか、目が怖いですよ」

女「……まぁ、いいわ。ねぇ、今日さ、えっと、一緒に帰るだけじゃなくて、お、お昼御飯も一緒に……だなんて考えてるんだけど」

男「は?」

女「お、お昼御飯も一緒に、どうかなー? なんて……」

男「(……落ち着けよ男。お前は冷静だけが取り柄だ。ここで選択肢は間違えるな上目でも可愛いなこの人)」

女「ダメ、かな?」

男「……いえ、一緒に食べましょう」

女「ほ、本当?」

男「はい。是非とも一緒に」

女「……ふぅ、良かった。断られるかと思っちゃった」

男「女性の誘いを、無碍には断りませんよ」

女「ふふっ、紳士さんね」

男「えぇまぁ。……というか、ちょっと急ぎましょうか。時間、結構ヤバイですよ」

女「あら、本当。じゃあ、競争よ!」ダッ

男「な、速っ」

女「ほらー! 急がないと遅刻だぞー!」タッタッタッ

男「革靴で何であんな速度出るんだよ……」

男「(でも、順調だぞ、男よ……)」



――

友「ようストリートファイター」

男「なんだ坊主」

友「作戦協力者に対して、手をあげるとは良い度胸じゃないかい? えぇ?」

男「お前がダル絡みしたからだろうが……」

友「いいのかなー? 共犯者ってのは、お互いの首根っこ掴み合ってるもんなんだぜ? 言いふらしちゃっても良いんですよー?」

男「……ヤキソバパン一個で手打ちだ」

友「それに杏仁豆腐な」

男「ドクペでも飲んでろよ三下」

友「あぁん?」

男「それより、お前んとこの部活ってさ、今日朝連あった?」

友「うん? あったけど?」

男「女子テニス部って、活動してたか?」

友「お前……女さんに見切りをつけて、もう新たな標的を……」

男「妹がさ、朝早く出かけてたんだけど……あいつ見かけた?」

友「おちょくりがいが無いねぇ……いや、見てないぜ。どうしたんだ?」

男「さぁ、知らん。それを知りたいから聞いてるんだ」

友「……なるほど、これは、一波乱きそうだねぇ」

男「何がだ」

友「ま、服の下にマガジンでも仕込んどけって話だ。ま、それはいいとして、早速パンをごちそうになりますかねぇ」

男「金やるから、勝手に買ってこい。俺は約束がある」

友「お、珍しいじゃねぇか」

男「まぁな。ほら、これ」

友「お、五百円ってちょっと多くねぇか」

男「定食でも食って来いよ。情報料だ」

友「はぁ……俺もお前みたいにそういうことサラッとできりゃあなぁ、女性にモテるんだろうか……」

男「知るかよブサイク」

友「……僕標準だからね?」

男「わかったから、さっさと行って来い」

女「あら、何話してるの?」

友「あ、女さん、聞いて下さいよ。コイツがね」

男「黙れ低能。あ、どこで食べます?」

女「うーん、屋上とかいいんじゃない? 風情があって良いかも」

友「俺もお前と屋上に行きたくなってきたな。何勝手にそこまで関係進んじゃってんの?」

女「勝手に?」

男「バカ、お前」

友「あっ、やべ」

女「えーと……」

男「あー、ささ、こんな低能置いて、屋上行きましょうか、ね?」ズイズイ

女「え、あぁ、はい……」

友「……」

男「ま、またなー、友」ガララッ

友「あぁ……」

友「全く、無茶しやがって……」



――

女「うーん……風ちょっと冷たいわね……」

男「まぁ、冬だからね」

女「ご、ごめんね。私、屋上でお弁当食べるのに、憧れてて……」

男「あぁ、なるほど。わかるよ、そういうの」

女「え、本当?」

男「あぁ。外で食べる方が、ご飯もおいしく感じるし」

女「……そういう意味じゃ、ないんだけどなぁ……」

男「それに、女さんみたいな綺麗な人とこういう所でご飯食べれるの、俺は嬉しいよ」

女「そ、そう……ありがとう……」

男「(我ながら心臓強いな……ビックリだ……)」

女「結構、そういうセリフ言えちゃうんだね、驚いた」

男「これでも頭の中で反芻してから、言葉にしてるんですよ?」

女「本当かなぁ……あ、あと」

男「何?」

女「妙な敬語禁止。前から思ってたけど、私達、友達でしょ?」

男「そ、そうか……」

女「まぁ、女子からは大人っぽくて良いって話も出るけど、友達に使うのはダメだと思うよ?」

男「いやぁ、どうしても、女さんにはこう敬意を払わないといけないような気がして……」

女「あら、そんな気を遣わせちゃったかしら」

男「いや、こっちこそ気が利かなくて、ゴメン」

女「そうそう、そんな感じね」

男「なんか、気恥しいというか、なんというか」

女「あ、それと、さんもつけなくて良いのよ。女、それだけで呼んでちょうだい」

男「そこまで徹底しますか」

女「ハードル高い?」

男「いや、そんなことは(メッチャ高いです、はい)」

女「じゃあ、呼んでみて?」

男「え、えっと……女?」

女「なぁに男?」

男「いや、試しに言ってみただけ……(か、顔が正面から見れん……)」

女「あはは……言いだしっぺだけど、私も、ちょっと恥ずかしかったかな」

男「(おいおい、なんか女さんとの関係がラディカル・グッド・スピード並の速さで急接近してません?)」

男「(俺生き急いでるよな、確実に……)」

女「あ、それと、さんもつけなくて良いのよ。女、それだけで呼んでちょうだい」

男「そこまで徹底しますか」

女「ハードル高い?」

男「いや、そんなことは(メッチャ高いです、はい)」

女「じゃあ、呼んでみて?」

男「え、えっと……女?」

女「なぁに男?」

男「いや、試しに言ってみただけ……(か、顔が正面から見れん……)」

女「あはは……言いだしっぺだけど、私も、ちょっと恥ずかしかったかな」

男「(おいおい、なんか女さんとの関係がラディカル・グッド・スピード並の速さで急接近してません?)」

男「(俺生き急いでるよな、確実に……)」

男「……えっと、じゃあ、ご飯食べよっか」

女「う、うん、そうだね」

男「女は、弁当自分で作ってるのか?」

女「そ、そうだよ。男も?」パカッ

男「あぁ、一応ね。簡単なのしか作れないけどね」カポッ

女「……ハンバーグって、結構手の込んだの作るじゃない」

男「いや、昨日の残りだよ。妹が作った」

女「ふーん……そうなんだ」

男「家事は二人で均等に分担してるんだけどなぁ。料理はいつまで経っても敵わん」

女「二人?」

男「あぁ、妹と二人暮らし。親戚の家を、御好意で借りてるんだ」

女「……ご両親は?」

男「いや、もういないよ」

女「……その、ごめんなさい」

男「あれ、知らなかったのか?」

女「し、知らないわよ」

男「一応友には言ってあるから、皆知ってるもんかと」

女「そんな重要な事は、あんまり言わないんじゃない?」

男「そうか、アイツこういうのだけは口が重いんだな。少し見直した」

女「……妹さんと、二人暮らし、ね」

男「あぁ。アイツはなんでもできるから、何も苦労してないけど」

女「ふーん……というか、今のでなんとなく理由がわかったけど」

男「何の?」

女「妙に大人っぽいというか、落ち着いてるっていうか、男が他の男子とは違う雰囲気出してる理由」

男「あー……そういうことか」

女「自覚、あるんだ」

男「まぁ、嫌でもね」

女「そっか……」

男「……」

女「……妹さんの事、どう思ってるの?」

男「え、どういう意味?」

女「意味も何も無いよ。とりあえず、正直に答えてね」

男「……」

女「ねぇ?」

男「……すまないと、思ってるかな」

女「え?」

男「両親を小さい時に亡くして、遊びたい時も遊べなくさせて、不憫な思いをさせてきたからな……」

女「……」

男「俺が親代わりになんないと、なんてまぁ、そんな事を一人前に考えたりしてるけどね」

女「そっか……偉いね」

男「いえいえ」

女「ふふっ、なんか深い話しちゃったね。迷惑だった?」

男「いや全然。ただの事実を話しただけだから」

女「男は強いねー……あれ、もう時間こんなに経っちゃったんだ」

男「あぁ、本当だ」

女「さて、重い話はここまでにして、楽しい話をしながらちゃっちゃと食べちゃいましょう?」

男「自分で振っておいて……」

女「はいはい、このポテトいらないなら貰っちゃうねー」ヒョイッ

男「あっ、俺のおいもさんが」

女「おいしいわねー」モグモグ

男「これは、さすがの私でも覚悟が完了しそうですが?」プルプル

女「あら、じゃあ私のお弁当のも食べさせてあげようかしら?」

男「な、マジですか?」

女「あら、何を期待してるのかしら?」


キャッキャッ ワーワー


妹「……」


――

女「それじゃあまたね」

男「えぇ、また明日(まさか放課後まで長々と話せるとは思わなかったな……)」

女「まだ固いなぁ……」

男「もうこれは癖だから、しょうがない」

女「じゃあその癖も、私が淡雪を溶かすように直してってあげようかしら」

男「なんか自分のアイデンティティが一つ消える気がするけど……」

女「ふふっ、それじゃあね。今日は楽しかった」タッタッタッ

男「うん、もう暗いから気をつけて」

女「うーんわかってる! バイバーイ!」タッタッタッ……

女「それじゃあまたね」

男「えぇ、また明日(まさか放課後まで長々と話せるとは思わなかったな……)」

女「まだ固いなぁ……」

男「もうこれは癖だから、しょうがない」

女「じゃあその癖も、私が淡雪を溶かすように直してってあげようかしら」

男「なんか自分のアイデンティティが一つ消える気がするけど……」

女「ふふっ、それじゃあね。今日は楽しかった」タッタッタッ

男「うん、もう暗いから気をつけて」

女「うーんわかってる! バイバーイ!」タッタッタッ……

男「……」

男「楽しい、か……」

男「(なんだか突然、女さんから積極的に話してくれるようになった……)」

男「(前は、集団の中でちょくちょく話す程度だったけど……)」

男「これは、幸先良いかもな」


――

男「ただいまー」ガチャッ

妹「……おかえり」

男「お、帰ってたのか。部活早く終わったのか?」

妹「う、うん。まぁね。こう暗いと、球が見えないから」

男「あぁ確かに。というかお前エプロンなんかして……今日は俺が飯当番だろ?」

妹「あー、お腹、減っちゃって……我慢できなかったから」

男「あーゴメンな。ちょっと友達と話してたら、遅くなっちまった」

妹「……誰と話してたの?」

男「うん? あー……あれだよ……」ゴソゴソ

妹「……おにいが、好きな人か……」

男「正面きって言われると恥ずかしいが、そうだな」

妹「そっか……」グッ

男「恋愛なんて初めてだけど、あれだな……こんな、楽しいものだとは思わなかったよ」

妹「……」ギリリッ

男「ふぅ、玄関で話すのもなんだから、あがっても良いかな?」

妹「あ、そ、そうだね。うん、ゴメン……」

男「ご飯、もうできちゃってる?」

妹「う、ううん。今シチュー作ってるけど、まだ煮込み切れてないよ」

男「そうか、じゃあ、後は俺が作ろう。当番すっぽかしちゃ、悪いからな」

妹「え、い、いいよ! 当番とか関係なく、料理が好きで作ってるんだから……」

男「それじゃ俺がダメなんだよ。着替えたらすぐ行くから、待っててくれ」ガチャッ

妹「……」


――

グツグツ


妹「……」

妹「(これを、入れれば……)」

男「ふー、お待たせ。あれ、何してんだ?」ガチャッ

妹「っ!? あ、な、なんでもないよ! ちょ、ちょっとシチューに新しい調味料試そうと思ったけど……」アセアセ

男「踏ん切りがつかなかった、と。んで、どんな調味料なんだ?」

妹「い、いやー! パプリカだよ! パプリカ! ほら、あのピーマンみたいなヤツ!」ササッ

男「お前……」ジトッ

妹「……(ば、バレた?)」

男「パプリカはやめてくれよ……あれもピーマンみたいなもんだろ?」

妹「(ふぅ、バレてない……)そ、そんなこと言ってないで! 少しは好き嫌い無くそうって、努力しないとダメだよ!
  それに、さっき入れようとしたの、ただの粉末だよ?」

男「ピーマンはピーマンだ。粉だろうがなんだろうが、それ以上でもそれ以下でもない」

妹「わ、わかったよ……今回は、入れないであげる(我ながら良い頭の回転ね……)」

男「はいはい。それじゃあ、俺が引き継ぎますんで、妹は席についてゆっくりしてください」ズイズイ

妹「うわ、押さなくても座れるよぉ!」

男「良いから良いから、ほらお嬢様、お座りになって下さい」スッ

妹「……だから、椅子引かなくても座れるって……」

男「どうぞどうぞお嬢様。遠慮なさらず」

妹「い、いきなり引いたりしないでよ」スッ

男「あ、バレた?」

妹「おにい!?」ガタッ

男「はははっ、冗談だよ。ほら、座って?」

妹「むー……」スッ

男「はい、ちょっと押しますよー。これくらいで良いか?」

妹「う、うん……」

男「よし、じゃあちゃっちゃと作っちゃいますよ」

妹「相変わらず、エプロン似合わないねぇ、おにいは」

男「ほっときなさい」

妹「ふふふ……」


――

妹「むー……」スッ

男「はい、ちょっと押しますよー。これくらいで良いか?」

妹「う、うん……」

男「よし、じゃあちゃっちゃと作っちゃいますよ」

妹「相変わらず、エプロン似合わないねぇ、おにいは」

男「ほっときなさい」

妹「ふふふ……」


――

クソ、マウスが勝手にダブルクリックして重複してしまう……

男「ごちそうさま」

妹「ごちそーさまでした」

男「洗いもの、俺がやるな」

妹「え、悪いよ」

男「当番すっぽかしたのは俺だって、さっきっから何度も言ってるだろ? 俺がやるべきなんだよ」

妹「むー。強情だなぁ」

男「お前もな。まぁお前は、さっき俺が買ってきたアイス大福でも食べて待ってなさい」ガサゴソ

妹「あー! アイス大福!」

男「全部食って良いぞ?」

妹「ほ、本当? 後でお金請求したりしないよね?」

男「君は兄をそんな卑しい人間だと思って、今まで生きてきたのかい?」

妹「いや、違うけど……」

男「文句言うなら、一つもあげませんよ?」

妹「あー! ゴメンナサイ! ありがとうねおにい!」

男「全く……ほら、フォークも」

妹「ありがとー。それじゃ、いただきまーす!」

男「ったく、現金だな……」

妹「おいしー!」

男「そうか、それは良かった」キュッキュッ

妹「おにいにはもうあげないよーだ」

男「はいはい」サー

妹「……」

男「ふんふーん」

妹「鼻歌なんて、随分ゴキゲンだね……」

男「ん? まぁなー」フンフフーン

妹「……」グッ

男「あ、そういえば今日さー。お前、なんで朝いなかったの?」

妹「……ちょっと、ヤボ用で……」

男「そうか。まぁ、危ない事やってるわけじゃないんだったら、俺は良いけどさ……。
  部活の朝連かなぁと思ったけど、違うってわかって、どうしたのかと思ってたから」

妹「だ、大丈夫だよ。もう終わったから」

男「そうか。ならいい」パッ パッ

妹「……私、もうシャワー浴びて、寝るね……」

男「あれ、一個しか食ってないじゃん。いらないのか?」

妹「う、うん。おにい食べて良いよ……」タタタッ ガチャッ

男「……どうしたんだ?」


――

男「おーい、妹ー」コンコン

妹「……」

男「……もう寝ちまったのか?」


ガチャッ


妹「……何?」

男「あぁ、大丈夫か?」

妹「何が?」

男「いや、大福一個残してたし、元気無いのかと……」

妹「そんなんじゃ、ないよ」

男「本当か?」

妹「だから大丈夫だって言ってるじゃん!」ダンッ

男「っ……」

妹「……ごめんなさい」

男「部屋」

妹「え?」

男「部屋に、入って良いか?」

妹「……うん」


――

男「真っ暗じゃないか、明り点けるぞ」

妹「うん……」

男「……それで、ちょっと話をしたいんだが」

妹「ベッドに座って……」

男「わかった」ボフッ

妹「……」ボフッ

男「(さて、どうしたものか……)」



ダキッ


妹「……」

男「……(何でいきなり抱きつかれてんだ?)」

男「(……やっぱり、何かあった、か)」

男「(顔埋められちゃ、表情見えないけどな)」

男「なぁ、妹」

妹「……何」

男「ちょっと、絞めが強いかな?」

妹「うるさい」

男「はい……」

男「(語気が強いねぇ)」


男「(本当、どうしたもんか……)」

妹「おにいってさ……」

男「うん?」

妹「結構、筋肉質なんだね。胸板とか」

男「あー。帰宅部だけど、筋トレだけはしてるからな」

妹「それに、いい匂いするし……」

男「お前が気にいってる洗剤で、服洗ってるしな」

妹「……」

男「(まただんまりに戻ったか)」

男「なぁ、一体どうしたんだ? 明らかに、今のお前はおかしいぞ?」

妹「……おかしいって、何が。こうして抱きついてる事?」


男「いや、そうじゃない。いつもの、元気が取り柄というか、明るいお前が、なんか妙に落ち込んでるように見えるからさ」

妹「……そっか、それくらいはわかる、か」

男「やっぱり、なんかあったんだな?」

妹「うん、あったよ……」

男「……言えない、か?」

妹「……ごめんなさい」

男「何か、やましいことなのか?」

妹「……」

男「そうじゃないなら、無理に言えとは言わない。こうして、抱きついていたいんだったら、好きにしてていい」

男「お前が落ち着くまで、俺はこうしてるから」

妹「……わかった」ギュウッ

男「(ちょっと苦しいんだが)」

妹「ゴメンね。まだ、言えそうに無いよ……」

男「そうか……」

妹「ゴメンね……」

男「俺は、いつでもお前の味方だ。お前の為なら、何でもやってやりたいって思ってる。
  だから悩みでもなんでも、話したくなったら、いつでも俺に相談しろ。良いね?」ナデナデ

妹「ん……」

男「(こんな時、父さんや母さんがいれば、お前の悩みもすんなり解けるんだろうか)」

男「(俺は、お前の親代わりになれてるだろうか)」

男「(それは、わからない)」

男「(でも、一つだけ言わなきゃいけないことはある)」

男「お前は、俺の大事な家族だ。それだけは、絶対だ」

妹「……うん」

男「(これで、良い)」

妹「もう少し、頭撫でて」

男「わかった」ナデナデ

妹「んっ……」スリスリ

男「(ちょっと、絞めがキツイ、かな)」

男「(でも、これも良い、か)」



――

id変わらんうちに。眠いから、今日はあとちょっと足して終わりにしますわ

友「おはようさん」

男「どーも」

友「きのうはおたのしみでしたね」

男「えぇまぁ。おかげさまで」

友「ちったぁ否定しろよ……俺だけ魔法使いになりそうで不安になるだろ」

男「いや、実際楽しかったしな」

友「一人だけ悦に入りやがって! 一緒に二大賢者になって、暗黒の王を倒そうって、約束したじゃないですかぁ!」

男「一人でもいけるんじゃないか? 応援してるよ」

友「ふぅー、このクール野郎は見下しやがって。まぁそれはいいとして、進展あったかい?」

男「あぁ、かなり、ね」

友「ははっ、そうかいそうかい。めでたいから喧嘩しようぜ?」グッ

男「それに、地味にお前の事、見直したぜ?」

友「は? 何が?」

男「俺の家族の事、言いふらしまくってると思ってたが、それくらいの常識はあったんだとな。女さんと話して、気付いたが」

友「あぁー……まぁ、実際? 何度か君の事についてぇ、女子達から沢山質問されたけどねぇ、僕は言わなかったぞぉ?」

男「何だそれ。俺の代理人か何かにした覚え無いぞ?」

友「俺だって好きでやってるわけじゃねぇよ。君の紳士度を少し下げて貰えれば、俺だってこんな事しなくて済むんですけど」

男「お前は俺がまるでモテモテの主人公みたいに言ってるけど、冗談は大概にしろよ?」

友「まぁ、少しは誇張してるけど、何度もお前の事を聞かれてるのは嘘じゃない。お前、結構人気だぜ?」

男「帰宅部の俺がか? 実感ねぇよ」

友「お前の場合、鈍いんじゃなくて、どうでもいいんだろうな。標的以外」

男「……さぁな。なんせ実感無いし」

友「持たざる者の気持ちくらいは、考えてくれよ」

男「……善処します」

友「話逸れたけど、女さんとあれからどうよ?」

男「あぁ。なんか、お昼も二人だけで食べれるわ、名前で呼び合えるようになるわで、なんか急接近したよ」

友「……もう告白しちゃえよ」

男「まだ友達だろ? もう少し、お互いを知ってからだな……」

友「知ってるか? そういう告白ってのは、関係できてから間髪入れずに行く方が良いって話」

男「え、そうなのか?」

友「いや、まぁお前のペースってのがあるんだろうけど、そういう話もあるって、参考にな」

男「……お前」

友「まぁ、頑張れや、少年」

男「経験無い癖によく言う」

友「な、お前なぁ。できた友人が素晴らしいアドバイスしてやってんだから、礼の一つくらい言えよ」

男「……あぁ、そうだな。ありがとう」

友「野郎に礼言われてもねぇ」

男「あ、女さんおはよう」

女「あ、おはよう、また会ったね」

友「……お前それわざとか?」

女「あ、友君もおはよう」

友「……おはようございます女さん。聞いて下さいよ、男がね? 僕の事無視するんですよぉ」

女「ふふっ、相変わらず仲良いわねぇ。それに比べて、男はまたさん付けなんてして、私ちょっと疎外感感じちゃうなぁ」

男「あっ、ゴメン。つい癖で」

友「オウフッ。本当に名前で呼び合ってるんですね」

女「ふふっ、まぁね」

男「ちょっと慣れないけどな」

女「あら、私は男って、呼びやすくて良いと思うわよ?」

友「……(あー、これ俺いたらあれだわ、今日の活力持ってかれるわ)」

男「そ、そうかな……。ん、どうした友」

友「あー、俺今日ダチに渡すもんあったから、ちょっと急ぐわ。hr前に渡してくれって言われてし」

男「そうか。そりゃありがたい」

友「お前……」

女「じゃあね友君」ヒラヒラ

友「は、はいー。またどこかで会いましょー女さーん(あぁ、俺は弱い奴だよ……)」タタタッ

男「……」

女「ふふっ、なんか気を遣わせちゃったみたいだね」

男「アイツは、もう少し遠慮ってのを知った方が良いよ」

女「中々手厳しいわね」

男「まあね」

女「ところでさ、今日は一緒に帰るだけじゃなくって、どこかに行ってみない?」

男「えっ、どこかって……(こ、これは、あれだよな)」

女「だ、ダメかな?」

男「い、いえ! 喜んで御供します(で、デートってヤツか!?)」

女「ふふっ、御供って……きびだんごでもあげないといけないかしら?」

男「いや、それは……」

女「男君って、なんか賢い犬って感じよね」

男「えー」

女「……犬耳は、似合わないわよね、さすがに」

男「(俺は一体何を期待されているんだろうか……)」

女「まぁ、それは良いとして、どこ行く?」

男「あぁーとそうだな……」

男「(あれ、今日妹の部活無い日じゃなかったっけ……)」

男「(ということは買い物……)」

女「あれ? もしかして、先約あった?」

男「……妹と買いもの行く日なんだけど……」

女「ふーん……妹さんと、ね」

男「あっちは断っても別に良いんだけど……うーん、ちょっと考えても良いか?」

女「あら、どうして?」

男「いや、ちょっと家庭内事情で(昨日なんか不安定そうだったし、今日も朝早く出てったし……)」

女「もしかして、妹さんと何かあったの?」

男「まぁ大した事じゃ、ないんだけどさ……なんか、妹の様子がおかしかったから心配で……」

女「ふーん……」

男「(どうしようか……女さんと遊びに行けるなんて夢みたいだけど、妹の様子も……)」

女「……ねぇ、男はさ」

男「うん?」

女「妹さんが今思春期って事、わかってる?」

男「し、思春期?」

女「そう、思春期。心が不安定で、それでいて多感な時期の事よ」

男「は、はぁ……」

女「様子がおかしかったからって、あんまり構い過ぎるのも良くないと思うわよ。むしろ一人にして欲しいって思ってるかも」

男「……」

女「貴方にはわからない、女の子特有の悩みかもしれないじゃない? 好きな人が出来たとか、そういう難しいものだったりさ」

男「……なるほど」

女「ちょっと距離置いてみて、どうなるか見てみれば? 心配になるのはわかるけど、一人の時間をあげるのも大切だと思うわよ?」

男「(一人の時間、か……)」

女「それに、男もたまには息抜きしても良いんじゃない? 親代わりって言うけど、貴方もまだ学生なんだから」

男「息抜き? 俺が?」

女「えぇ。他の男子みたいに、もっと馬鹿やっても良いんじゃない? つまらない事でも、笑えるようにさ」

女「いつも微笑みは浮かべてるけど、本当に笑ってる貴方の姿、私全然見たことないもの」

男「女さん……」

女「あー! まーたさん付け!」

男「あっ、ゴメン」

女「全く、謝って済むなら警察はいらないのよ? だから、ちゃんと名前で呼んでね?」

男「……善処する」

女「頼りないなー」クスクス

男「もう性分なんだよ」

男「もう性分なんだよ」

女「まぁ、いいわ。あ、学校着いちゃったね」

男「結構ゆっくり歩いてたつもりなんだけどね」

女「話しながらだと、早く感じるよね。ちょっと私、部室に用事があるからここでお別れしないと。また後でね」

男「あぁ、それじゃあまた」

女「教室着く前に、行きたいとこ決めちゃってねー!」タタタッ

男「わかった!」

男「(女さん、いや女か……)」

男「(本当に良い人だ……あんな聡明な人を、好きになれてよかった……)」

男「(さて、何処に行こうかな……)」



女「ふふっ……」

――



男「やっと授業終わったね、女」

女「古文眠すぎよ……。それで? 行く場所はもうさすがに決めたでしょ? 六限もあったんだから」

男「……」

女「……もしかして、あんまり外出ない子だったりする?」

男「恥ずかしながら……」

女「なんというかまぁ、妹さんにつきっきりなのねぇ……」

男「面目ない」

女「ふふっ、じゃあ私が案内してあげようかしらねぇ。紳士さんにエスコートしてもらうのが、夢だったんだけど」

男「中々あれだね。こう、グサッと来るね君の言葉は」

女「あら、別に貴方を責めてる訳じゃないのよ? ただちょっと、自分の幻想に嘆いてただけよ」

男「……これからはもう少しそちらの方も勉強させて頂きます」

女「ふふっ、殊勝ですこと」

友「ようお二人さん」

男「子供は帰る時間だぞ。早く帰りな」

友「君ねぇ……女さんの尻に敷かれてるのに言える言葉かよそれが」

女「あら、敷いてるつもりはないんだけど」

友「へーへー。全く、からかう隙の少ない二人だよ。もう少し歳相応に生きて欲しいもんだが」

女「ごめんなさいね。こういう風に育っちゃったから。ね?」

男「あぁ」

友「けっ、もう軽く結界張りやがって。そんな薄情な男さん達なんてアタシ知らないもん!」ダッ

男「……あいつ、構って欲しいだけだろ」

女「良いじゃない。それだけ信頼されてるんでしょ」

男「まぁ、そういうことですかね」

女「何はともあれ、そろそろ行きましょうか?」

男「えぇ、どうかよろしくお願いします」

女「迷子にならないように、ちゃんとついてくるのよ?」

男「はいはい」

女「はいは三回でしょ」

男「はい」

女「こらっ」クスクス



――

男に痛い目見てほしく思ってしまう俺は間違っているだろうか

>>88
俺も思ってるから安心してくれ

友「アイツに彼女、ねぇ……まぁ、あの雰囲気ならあっという間にくっつくだろ……」

友「(良かったな……)」

妹「あ、友さん」

友「うん? あぁ、妹ちゃんか」

妹「あれ、今日は兄さんと一緒じゃないんですか?」

友「あー、アイツねー。あんな薄情な子は置いてきましたよ」

妹「はくじょう?」

友「女さんと、これからどっか行くんだとさー」

妹「えっ……」

友「あれ、連絡とか来てない?」

妹「え、はい……」

友「うーん、おっかしいなぁ。俺とゲーセン行く時はいっつも連絡してるのに」

妹「……えっと、兄さんは何処に?」

友「うん? あぁ、まだ教室にいたよ。楽しそうに、女さんとくっちゃべってた」

妹「へー……そうなんですか……」

友「(妹さんとの約束すっぽかすような事は、アイツはあんましないはずだが……)」

妹「……ちゃんと連絡してほしいですけど。まぁ良いです、そういうことなら」

友「はぁ……男も所詮は人の子か。夢中になっちゃってまぁ」

妹「……全く、女の子に現を抜かしてもいいけど、連絡くらいはくれてもいいと思いません?」

友「その通り。まぁ、まだ教室にいると思うから、行ってとっちめてやっても良いと思うぜー?
  あんまり、邪魔はしない方が良いと思うけど。バイバイ、妹ちゃん」

妹「さようなら……」


妹「わかってますよ……邪魔はしません」


妹「……」ギリッ





――

男「(結局、ゲーセンにまで来たわけだが)」

女「ぐぬぬ……」

男「(この人、クレーンゲームに樋口さん一枚使ったよ……)」

女「あと……もうちょっと……」テュワン テュワン

男「……やっぱり、俺がやろうか? 慣れてるし」

女「……意地があるのよ……女の子にはぁ!」グイーン ガシッ


ポロッ


女「あっ」

男「あーあ。ぬいぐるみさんに10タテされちゃった」

女「くっ……このー……」ワナワナ

男「(あー、なんというか、負けず嫌いなんだな)」

男「(結構、こういうところも、かわいいな……)」

女「男!」

男「なんでございましょうか」

女「お願い……私の敵を、取って……」

男「……別にそんな演技しなくても」

女「男のやる気を出そうとしてあげてるんじゃないの。風情が無いわねぇ」

男「さいですか。まぁ、元々やるつもりだったけど」

女「ふふっ、中々やる気ね。腕まくっちゃって」

男「伊達に友にゲーセン狩りだされてるわけじゃないからね。アイツが格ゲーやってる横で、やることないからずっとクレーンやってたし」

女「……友君も違う事やるのわかってる人狩りだすなんて、中々傾いてるわね」

男「まあ、おかげでクレーンだけは上手くなったけどね」チャリーン

女「じゃあお手並み拝見しちゃおうかしら」

男「このクレーンの腕前は、伊達じゃないさ」



グワン グワン


男「(女さんが色々と動かしたおかげで、地味に紐の輪っかが露出している……)」

男「(そこが、狙い目か)」


ガクンッ 


男「(よし、ちょうど真上)」


テロレロテロレロ テロレロテロレロ


女「……」

男「(輪に入った!)」


ウィーン


女「おぉー!」

男「ふぅー……(完璧に入ったし、後は運ばれるのを待つだけ……)」



ガチャンッ


男「いっちょ上がりです。さぁどうぞ」

女「やるじゃない男ー」

男「ざっとこんなもんだよ」

女「ふふっ」ギュー

男「……今更だけど、結構デカイねこれ」

女「そう? 抱きしめるのにはちょうどいいわよ?」ギュー

男「(ぬいぐるみ抱きしめてるのも、かわいいな)」

女「どうしたの?」

男「いや、我ながら良い腕だとね」

女「ふふっ、中々男も言うようになったわね。あ、そうだ、私とゲームで勝負しましょう?」

男「え、女ってゲームできるの」

女「私に不可能はないのよ」

男「……かく言う俺も、あんまりクレーン以外はやったことないけどね。良いよ、その勝負乗った」

女「負けたら……そうね、晩御飯を何か奢って貰おうかしら?」

男「あぁいいよ。負けたらなんでも……」

男「(晩御飯……あ、妹に連絡するの忘れてた)」

女「……どうしたの?」

男「あぁー……やっぱり、明日、相手の弁当を作ってくる、で良いかな?」

女「あら、別にそれでも良いけど……晩御飯、食べに行かないの?」

男「そうしたかったんだけど……ゴメン、妹に連絡するの忘れてて、遊ぶのは晩御飯前までにしてもいいかな?」

女「……ふーん、そっか。でも、今から連絡すれば、全然間に合うんじゃない?」

男「いや、連絡せずに来てアイツも怒ってると思うから、少し早めに帰るよ……」

男「(完全に忘れてた……舞いあがり過ぎだろ、俺……)」

女「そっ、じゃあしょうがないっか」

男「ゴメン、でもあと一時間くらいは大丈夫だから、その間にかたをつけよう」

女「ふふっ、時間は短くなっちゃったけど、そうこなくっちゃね」

男「よし、じゃあちょっと電話してくるから、何でやるか決めておいて」タッタッ

女「えぇ、わかったわ」

女「……ふーん」


――

男「……」プルルルルル

男「(携帯には出ない、か)」

男「(家の電話は……)」ピッ

男「……」プルルルルルル カチャッ

妹『……もしもし』

男「あ、もしもし妹? ゴメンな、すっぽかして」

妹『……ケーキ』

男「は?」

妹『ショートケーキを二個買ってくれないなら、今すぐ電話切る』

男「わ、わかりました。買ってきますから、帰りに。だから切らないで下さい」

妹『ふぅー……もう、メールででも良いから連絡してよ……』

男「ゴメン、ついうっかりしてて……あ、ご飯はもう作ってる?」

妹『うん。まさか、いらないとか?』

男「いやぁ、その、晩御飯までには帰るから、さ」

妹『はいはい。さっさと帰って、私のご機嫌取ってね?』

男「はぁ……ゴメンな、本当に」

妹『良いよ。そのおかげで、私はケーキ食べれるんだしー』

男「二個とか、太るぞ」

妹『うるさい。約束忘れ魔の癖に』

男「わ、悪かったですよ……」

妹『もう、早く帰っ――』


パシッ


「もしもしー? 妹さん?」

男「なっ、女! 勝手に電話取っちゃだめだよ!」

妹『……誰ですか?』

女「女です。この前会ったでしょ?」

妹『……あぁ、その節はどうも』

女「ゴメンねー。貴方のお兄さん勝手に借りて。私も連絡するように、気を利かせてあげれば良かったかしら」

妹『いえ、いいですよ。兄さんが忘れ性なのがイケないだけですから……』

女「そっ……まぁ男も悪気は無いみたいだから、許してあげてね」

妹『……えぇ』

女「今度お家に行って、お詫びでもしようかしら」

妹『……いえ、お気遣いなく』

女「ふふっ、それじゃあ代わるわね。はい、男」

男「……もしもし、妹?」

妹『……早く帰って来てね。私、ご飯、作って待ってるから』

男「あ、あぁ、わかった。それじゃあ、な」ピッ

女「怒ってた?」

男「えぇまぁ。というか、勝手に電話取ったら驚くよ……」

女「やるゲーム決めたのに、遅いんだもの」

男「ゴメン……それで、何やるの?」

女「ホッケー、格ゲー、パンチングマシーンよ!」

男「ほー、良いのかなそれで」

女「えぇ勿論。まぁ、パンチングマシーンは利き手と逆でやって貰うけど」

男「ハンデありきですか……」

女「もし私が格ゲーとかで負けても、最後に発散できるようにしたのよ」

男「さいですか」

女「よし、じゃあさっさと行くわよ!」


――

男「で、俺が全勝した訳ですが」

女「……」ボロッ

男「なんか、逆にこっちが悪い気してきたな……」

女「くぅー……見てなさい、今度やる時は負かしてやるんだから!」

男「えぇ、どうぞそうぞ」

女「……全く、まさか全部全力でやってくるとは……」

男「いや、手を抜くのは失礼と取られるかと」

女「ふっ、まぁ、それもそうね。案外楽しかったし、良いわ」

男「お弁当、楽しみにしてます」

女「あー、そうだったわね……しょうがない、じゃあ作って来てあげましょう」

男「ありがとうございます」

女「次は、貴方が作る側になるのよ」

男「ははは……(負けず嫌いだなぁ)」

男「……あ、もうこんな時間か」

女「あら、ちょうど一時間経ったのね。じゃあ、今日はこれでお開きかしら」

男「うん、ゴメンね。短くしちゃって」

女「良いのよ。次からは、連絡してあげてね?」

男「はい、肝に銘じておきます」

女「よろしい。それじゃあ、私あっちの駅だから」

男「ん、じゃあここでお別れだね」

女「お弁当、朝ご飯でも抜いて、楽しみにしてなさいよー」タッタッタッ

男「わかったよー」

男「……」

男「(ちょっと早く終わって、残念だな……)」

男「(俺も帰るか……)」


――

男「ただいまー」ガチャッ

妹「……おかえり」

男「はい、ケーキ屋で買ったケーキですよ」

妹「……入って良し」

男「すいません……」

妹「全く、これに懲りたらホウレンソウを怠らないように」

男「……どこの課長さんですか」

妹「ご飯、私は先に食べちゃったから、着替えて早く食べてね」

男「あぁ、ありがとうな」

妹「残さず、食べてね……」

男「わかってます」

妹「じゃあ、温めてくるから……」

男「ん、すぐ行くから」ガチャッ

男「(ふぅー……今日も楽しかった……)」

男「(ゲーセン連れてって貰ったのは、女さんが気を利かせてくれたのかもしれないな……)」

男「(これからは、もう少し調べてないとな)」

男「(しかし、どさくさに紛れて、凄い事約束したなー……)」

男「(女さんの手料理、か……)」

妹「おにいー! まだー?」

男「あぁー、今行く」ガチャッ

妹「ほら、座って座って」

男「はいはい」

妹「はいは一回」

男「はい……」

妹「ほら、残さず食べるんだよ……」

男「はい、頂きます」モグッ

妹「……」

男「うん、旨いな」ングング

妹「……」

男「どうした、黙ってこっち見て」

妹「ううん、何でもないよ……」

男「あ、先にケーキ食って良いぞ?」

妹「いや、そういう訳じゃないんだけど……ケーキは、おにいが食べ終わるまで待つよ」

男「そうか、じゃあ、早く食べないとな」

妹「あんまり急がなくても良いよ……でも、残しちゃだめだよ」

男「わかっておりますよ」

妹「……」


――

最低でもあと一時間くらいは

男「ふぅ、ごちそうさまでした」

妹「……はい、おそまつさま」

男「今日もおいしかったよ」

妹「そっか……」

男「(うーん……やっぱり怒ってるなぁ)」

妹「じゃあ、ケーキ食べよっか」

男「あぁ、そうだな」

妹「んーと……」ガチャッ

男「ちゃんと御所望の物だろ?」

妹「ん、結構。って、三つ買ってきたの?」

男「あぁ。俺も食べたくってな」

妹「もう、本当に二個食べる訳ないじゃん。二つって言ったのは、一緒に食べるつもりで言ったからだよ……」

男「あ、そうだったのか……」

妹「おにいと一緒に食べたいから……」

男「……ありがとうな」

妹「……うん」ズキンッ

男「まぁ、本当に二つ食べたいんなら、食べてもいいぞ?」

妹「もう、私そんなに食いしん坊じゃないよ……」

男「ははっ、まぁいいさ。明日にでも食べてくれ」

妹「……わかった」

男「じゃ、食べよう」

妹「うん」

男「どれどれ……」ングング

妹「あ、何先に食べてるの」

男「んー、旨いわ」

妹「もう……」モグモグ

妹「あ、おいしいねこれ」

男「だろ? ちゃんとケーキ屋さんで買ってきて良かったよ」

妹「高かったんじゃない?」

男「いや、そうでも無かった……」

妹「へー……」

男「苺は後で、と……」ングング

妹「……ねぇ」

男「ん、何だ」

妹「今日は、どこ行ってたの?」

男「あー。女さんと、ゲーセン行ってた」

妹「……そう。楽しかった?」

男「あぁ、楽しかったよ。途中でゲーム対戦したんだけどさ、それがまた……(あれ、なんだ、頭クラクラしてきた……)」

妹「そっか……楽しかったの……」

男「あ、あぁ……(なんかこう、頭が圧迫されてるみたいに眠い……)」

妹「……どうしたの? 眠くなってきた?」

男「う、あ……(い、意識が……持たない……)」

ダンッ


妹「……楽しかった、ね……」


妹「……」ギリッ


――

書き溜めあるけど、今日はこれで終了っす

男「……」

男「うーん……」

男「(頭が重い……なんだこの感覚……)」

男「(腕も動かない……なんだこれ、手縛られてんのか)」

男「(これは、一体……)」

「起き――?」

男「(誰だ……まさか、強盗とかじゃねよな……)」

「おに――きた?」

男「(妹……あいつ無事か……?)」

妹「ねぇ? 起きた?」

男「妹っ!」

妹「……」

男「……なんだお前かよ……」

妹「なんだって何よ。名前呼んだ癖に……」

男「いや、なんか強盗でも入ってきて気絶させられたのかと……」

妹「ホント、慌てずにそういうの考えれるなんて、冷静だよねぇ……」

男「それだけが、取り柄だからな。で、これやったのはお前か?」

妹「……えぇ、そうよ」

男「だったら、この縛ってるの取ってくれよ。動けん」グイグイ

妹「……動けなくしてるんだから、当たり前じゃない」

男「もしかして、まだ怒ってるのか?」

妹「おにいが今想像してる事で怒ってると思ってるんだったら、それは違うよ」ギシッ

男「な、馬乗りになるのはやめなさい」

妹「今日さ、女って人と遊んでたんだよね」

男「は、はい」

妹「私の事忘れて……」

男「……はい、面目ない」

妹「私の事、忘れて……」グスッ

男「え、お、おい。何泣いてるんだよ」

妹「私の事忘れるくらい……あんな奴が好きなんだ……」ポロポロ

男「お前……」

妹「私ね、あのメール貰った時にね、嬉しかったんだよ……本当に……」

妹「直接的じゃないけど、明らかに告白なんだってわかる文で、凄いドキドキしたの……」

男「……」

妹「でも、それは私宛てじゃなかった。私じゃない、全く別の人」

妹「……私の事を忘れさせるくらい、貴方の事を夢中にさせるくらいの人」

男「っ……」

妹「その人も、貴方の事を名前で呼んでた……何も、恥じる事なく……」

男「妹……」

妹「お父さんとお母さんが火事で死んじゃって、色んな人に助けられて、今までずっと二人で生きてきたけど」

妹「私は、怖くて名前で呼べなかったよ……せめて、二人きりの時に、おにいなんて言う程度……」

男「お前、まさか」

妹「……いつから貴方を好きになったかなんて、覚えてない。気付いたら、ずっと意識してた」

妹「優しくて、何でもできて、私の事ばかり考えてくれる貴方に惹かれて、いつの間にか好きになってた……」

妹「貴方が、一人の男性として、好きなんです……」グッ

妹「間違ってるってわかってても、迷惑で、誰かから後ろ指をさされるような行為だってわかってても……」

妹「好きなんです……」

男「……」

妹「でも、あの女さんって人が出てきて、私の感情のたがが、外れちゃった」

妹「今までは、傍にいれるから良いと思ってて、我慢できた」

妹「でも、学校であの人を見て、貴方があの人と楽しそうに喋ったり、電話したりしてる所を見て、私の中の何かが狂った」

妹「私が、朝早く出た日あったでしょ? あれね、近くのドラッグストア行ってたんだよ」

妹「でも、市販のじゃ効果が薄いみたいだったし、私もこんな事したらダメだって、踏み止まったの」

妹「二人でお弁当食べてるの見るまでは、ね」

男「お前、見てたのか」

妹「うん、まぁね。で、その日にわざわざ病院行って、睡眠障害だって言って、薬貰って来たの」

妹「実際、貴方のせいで寝れなかったし、お医者さんもちいさな所の適当な感じの人だったから、すぐ貰えちゃった」

男「あれ、あの時って確か、お前部活に……」

妹「休んだよ。普通に病院行くからって言って。でも、睡眠薬がこんなに利くだなんて思わなかった。私も、淡い希望で入れただけだったんだけど」

男「……」

妹「……自分でもビックリするくらい、沸点低かったよ、私」

妹「私……」

男「なぁ、泣くなよ……」

妹「眠らせて、縛って、私の感情を一方的にぶつけて……自分がごちゃごちゃで、何をしたいのかわからなくて……」

妹「でも、何かしないと、貴方が何処かに行っちゃいそうで、怖くて……」

男「おい、妹?」

妹「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

男「……ふぅー」

妹「もう重荷にならないようにするから、傍にいて下さい……それだけで、良いから……」ギュー

男「くるしいよ……」

妹「ひっぐ……嫌いに、ならないで下さい……」

男「(……こんなに、想われてたんだな、俺は……)」

男「(こんなに……)」

妹「うぅ……」グスッ

男「……ねぇ、妹」

妹「……な、何?」

男「縛ってるヤツ、とってくれるかな?」

妹「……はい」

男「(ん、なんだビニール紐か。頑張れば自力で取れたかな)」チョキン

妹「……ごめんなさい、こんな事して」

男「……抱きしめて、良いか?」

妹「えっ?」

男「ごめん……ちょっと失礼」

妹「え、な、なんで……」アワワ

男「……俺は、お前の傍にいる」ギュッ

妹「っ!」

男「俺は、こんな事でお前を嫌いになんかならないし、何処にも行かない。むしろ、ちゃんとそういう気持ちを伝えてくれて、嬉しかった」

妹「え、えぇ?」

男「俺も、お前が好きだ。ただ、お前の言う、好きとは、違うけどな」

妹「……」

男「でも、俺とお前は家族だ。どうやったって、誰にだって、切れない関係だ」

男「それだけは、変わらない。お前の気持ちには、応えられないかもしれないけれど……それだけは、絶対だ」

妹「……」

男「……」

妹「あの人の事、本当に好きなの?」

男「えっ……」

妹「どうなの」

男「……あぁ、好きだ。本当に」

妹「そっか……」

男「……」

男「(お前と、同じくらい、女さんの事は好きだ)」

男「(だから……)」

妹「……じゃあ、離さないようにね」

男「えっ」

妹「その人の事、好きなんでしょ……私の告白を断るくらいに」

男「あ、あぁ」

妹「だったら、ちゃんとその人と恋人にならないと、許さないよ」

男「……妹」

妹「許さないから……」

男「わかった、約束する」

妹「……よろしい(これで、いいんだよね……)」

男「……約束する」


――

男「おい、弁当持ったか?」

妹「うん、ちゃんと入れたよ」

男「よし、じゃあ行くか」ガチャッ

妹「うん」

男「しかし、やっぱり寒いな」

妹「そうだねー。耳当てあって良かったー」

男「もう防寒着ダルマだな。カイロ、マフラー、手袋、コートに耳当て……」

妹「逆におにいがネックウォーマーだけで十分っていうのがおかしいんだよ……」

男「代謝が、良いからな」

妹「男の子はいいなー」

男「まぁなー」

妹「……」

男「ふー、寒い寒い」

妹「あの、さ……」

男「うん?」

妹「本当に、今日告白しちゃうの?」

男「あぁ。俺に二言はありませんよ」

妹「もうちょっと待っても良いんじゃない? 友達から、とかさ」

男「そんな事言っても、元々友達だし。それに友が、こういうのはなるべく早い方が良いって言ってたぞ?」

妹「うーん、それでいいのかな……」

男「善は急げって言うし、案外あいつが言ってる事も正しいのかもな」

妹「まぁ、おにいがそういうなら良いけど……」

男「(呼び方戻ってるな……良かった……)」

男「もう駅着くぞ、いつもの子いるんじゃないか?」

妹「あー。あそこで待ち合わせしてても、いっつも遅れてくるんだけどね……」

男「……そうか。まぁ、俺は先行ってるよ」

妹「うん、じゃあまた後でね。ちゃんと報告するんだよー?」

男「わかってますよ」ピピッ

妹「頑張ってねー!」

男「あぁ!」


妹「……頑張って」



――

友「よう、おはようさん」

男「よう」

友「昨日はどうだったよ? 女さんと遊びに行ってたんだろ?」

男「あぁー、まぁな(それ以外にも色々あったんだが)」

友「それで、手ごたえは? 暖簾に腕押し?」

男「いや、あっちも楽しんでくれてたよ」

友「ほほー、それはそれは」

男「で、今日告白する」

友「まぁ落ち着きたまえよ」

男「……反応早いな」

友「あぁー、君、俺が言ったこと信じたのか」

男「まぁな」

友「……本当にやる気か?」

男「元々、メールでデートとかに誘おうとしたじゃないか。で、次はこれでしょう」

友「あー……まぁそうだが」

男「それで、お前が言った情報を頼りにして、告白する訳ですよ」

友「そうですか……」

男「まぁ、骨は拾ってくれよ」

友「それはフラグだぞ?」

男「ははっ……まぁ、ちょっと頑張ってくるよ」

友「さすがのお前でも緊張してるんだな」

男「まぁ、な」

女「おはよーう」

友「……邪魔もんは規則正しく学校に行くとするよ。また後でな、お二人さん」

男「あぁ、悪いな」

女「あら、友君行っちゃうの?」

男「今度は呼びだしだってさ」

女「ふーん……まぁ、男がいるなら良いけど」

男「えっ」

女「ふふっ。ねぇ、今日もちょっと何処か行こうよ。妹さんが、大丈夫なら」

男「チクチク刺してくるね……それで、今日の放課後なんだけど……」

女「あ、用事とかあった?」

男「(よし、落ち着けよ。最適な場所と言ったら……)」

女「?」

男「放課後、少し俺についてきて欲しい。良いか」

女「……」

男「……あれ」

女「ふふっ、いやちょっと。いきなり真顔になったから何かと思ったのよ。元々そのつもりよ、何言ってるの」

男「あ、あぁ、そうだったな」

女「ふふっ、変な男。ほら、そんな変な子は置いてっちゃうぞー!」タタタッ

男「あ、こらっ! 待ってって!」

男「(妹、俺、頑張るからな……)」


――


女「はーい、男」

男「あれ、女どうしたの?」

女「用が無いと話しかけちゃダメなの?」

男「いえ、そういう意味では……」

女「まぁ普通に用あるんだけどね。はい、これ」

男「……その包みは?」

女「……本当にこれが何なのかわからないの?」

男「はい……あっ、もしかして……」

女「約束のお弁当よ!」

男「ま、マジですか!」

女「……君、結構抜けてるのね……」

男「面目ない」

女「まぁ、いいわ。早速屋上へ行きましょう!」

男「きょ、今日は寒いぞ?」

女「気にしないの。さ、行きましょ」グイッ

男「う、腕を引っ張らなくても行きますよ」


――

女「うーん、やっぱりこの解放感ねぇー」

男「カイロいる?」

女「ううん、ちゃんと持ってるよ」

男「そっか……で、お弁当の方は……」

女「忘れてたくせに中々ガッつく子ねぇ……まぁいいわ。はい、これ」

男「おぉ、女さんのお弁当……神々しや」

女「開けてみて」

男「はい」カパッ

男「おっ、これは……和食メイン……」

女「ふふっ、一口一口、私に感謝しながら食べなさい」

男「いただきやす、姐さん」

女「おう、食って良し……こんな感じかしら?」

男「ははっ、ノリが良くて助かるよ」

女「そうかしら。でもそう言ってくれるのは嬉しいかな」

男「じゃあ本当に、いただきます」パクッ

男「おー、旨い」

女「ちゃんと炒めてから煮てるから、当然よ」

男「いやそれでも、俺の作るのか目じゃないくらいにおいしいよ」ングング

女「ふふっ、ありがと」

男「こっちのもおいしいなー」ングング

女「……」ジー

男「うん? 女も食べないの?」

女「いえ、そうじゃなくて。君の鞄に入ってる、お弁当らしき包みが気になってねー」

男「あ、あぁ、食べる?」

女「ちなみに、誰が作ったの?」

男「一応、俺だけど」

女「じゃあ食べる」

男「結局、食べさせあいになっちゃったね」

女「そうね、でも、これはこれで良いと思うわよ?」

男「女の舌に、合うかどうかわかりませんが、御吟味どうぞ」パカッ

女「はいはい……ろ、ローストビーフ?」

男「あぁ、冷えてもおいしいからね。で、このパンに挟んで食べるんだ」

女「変わってるわね……これ自分で作ったの?」

男「まぁね。作り置きのだけど」

女「へぇー、やるじゃない」

男「ささっ、どうぞこのパンに包んで」

女「わかりましたっと……」モグッ

女「うーん、おいしいじゃない。塩加減もちょうどいいし」

男「胡椒キツくない?」

女「ううん、これくらいのが好きよ」

男「良かった……」

女「……ねぇ、男」

男「ん、何?」

女「今日さ、やっぱり何処か行くの、やめよっか」

男「えっ……」

女「あ、いや、そういう意味じゃなくてね? ちょっと、話したい事があるっていうか……」

男「……」

女「また屋上で、話がしたいなーと、思ってね……それに、なんだか男も話あるみたいだし」

男「(す、鋭いな……)」

女「だ、ダメかな?」

男「いえ、全然……というか、屋上好きなんだね」

女「まぁねー。なんというか、気にいってるの、解放感とか」

男「そっか」

女「それじゃ、放課後に屋上で、ね?」

男「……あぁ」

女「ふふっ、じゃあさっさと食べちゃいましょう。どっちが早く食べ終わるか――」

男「きょ、競争、好きだね……」


――

友「授業中もソワソワし過ぎだっつーの」

男「今僕はコンセントレーションしているんだ話しかけないでくれ」

友「はいはい、じゃあ検討を祈る」

男「あぁ、じゃあな軍曹」

友「話は後でゆっくり聞くからなー……」

男「……」

女「ふぅー、おまたせ男」

男「あ、あぁ、遅かったね」

女「うん、ちょっと選択授業の残りでね。じゃ、行きましょうか」

男「あぁ……」

女「……」



――

女「あっははー……やっぱり寒いねぇー」

男「……」

女「……それで、話って何?」

男「あ、あぁ、えっと……女の方は?」

女「私のは、貴方の話を聞いてからって、もう決めちゃったのよ」

男「は、はぁ……」

男「(何を躊躇することがある……)」フゥー

男「(妹に背中を押して貰ったんだ……あんな必死の想いを伝えて貰って)」

男「(アイツの想いを踏みにじってまで、俺はここにいる)」

男「(だったら、伝えろよ)」

男「女、いや、女さん」

女「こら、またさんつけて……」

男「いや、今はつけさせてくれ」

女「……」

男「(何を伝えたいのか、頭ではわかってるよな)」

男「(だったらそれを、全部伝えろ)」

男「女さん……」

女「何?」

男「俺と……」

男「俺と付き合って下さい」

女「……」

男「貴女の事が、皆の中で一緒に遊ぶ程度の時から、好きでした」

男「理知的で、人に意見を言う時も物怖じしない。自分に自信を持った女性。そんな貴女が好きだったんです」

男「そして、一緒に遊ぶようになってから、更に貴女に惹かれました」

男「とっても面白くて、負けず嫌いで、そんな飾らない貴女に魅了されたんです」

男「……こんな、感情の起伏が乏しいような人間ですが、どうか……」

男「どうかこの俺と、付き合って下さい!」

女「……」

男「(言った。言い切った……)」

お腹痛い

女「ふーん……」

男「……」

女「……ぷふっ」

男「?」

女「あっはっはっはっ!」

男「えっ……」

女「よ、よくもそんなセリフ言えるね。もしかして、結構熱血君?」アハハ

男「……」キョトン

女「ご、ゴメン……ちょっと待って……」ヒーヒー

男「えっと……」

女「いやー、告白されるなぁーなんて思ってたけど、まさかこんなだとは思わなくって……」

男「は、はぁ……」

女「あぁー面白い……」

男「……コッチは、一応マジメなんだけどな……」

女「えぇ、知ってる」

ごめんなさい、ちょっともう限界です
ここから先はもう少しちゃんと考えてから、明日投稿します

女「……だから、それが馬鹿馬鹿しくて笑ってるんじゃない」

男「……えっ」

女「……君ってさ、シスコンだよね。しかも重度の」

男「え、あ(何を言い出すんだ、この人……)」

女「その上、親もいない、部活にも入ってない、顔がちょっと良い程度で何の取り柄も無い」

女「――そんなのをさ、私が好きになると思う?」

男「なっ……」

女「他の子たちが君の事、あーだこーだ噂しててさ。ちょっと面白そうだったから、どんな人かと思って近づいてみたら……」

女「……何も面白くない、結局他の男子と、何も変わらないじゃない」

男「……(一体、何を……)」

女「周りが何も見えてない、思慮の足りない……他のうるさい男供と一緒……」

女「そもそも、ブラコンの妹と一緒に暮らしてる奴の事を、少しでも面白そうだなんて思った私が、馬鹿だったわね……」

女「あぁー、まぁ、最後のあれは面白かったわよ。あんなセリフよくも噛まずに言えたわね。ちょっと関心した」

男「女、い、一体何を……」

女「それと、もうさん付けに戻していいわよ。そっちの方が言いやすいんでしょ? 私ももうそっちの方が良いから」

男「っ……」

女「じゃあ、そういうことで。ごっこはおしまいだから、またねー」

男「ま、待って!」ガシッ

女「腕、掴んでも意味ないよ? そんな事しても何も変わらないと思うけど」

男「そ、そんなこと……」

女「はぁ……ムカツクなぁ」

男「っ!」

女「だからあなたみたいな男は嫌いなのよ……未練たらしい。一度断られたんなら、素直に退きなさいよ」

男「そ、そんなこと……」ギリッ

女「あれ、君結構握力強いね、意外。というか、離してくれないかな」

男「……なんで」

女「うん?」

男「何で……何で、そんな酷い事言うんだよ」

女「あら、私は他人に意見言う時物怖じしないって、あなた知ってなかったっけ」

男「そ、それはっ!」

女「だーかーら、もう一度言うね? 君みたいな子とは、付き合う気は無いの。
  君にああして近づいたのは、まぁ、暇つぶしというか、気まぐれ。そんな感じよ」

男「なっ……」ガクッ

女「ふぅ、痛かった。女の子に暴力っていうのは、関心しないね」

男「……」

女「それじゃあ、お互い話は終わった訳だし、私帰って良いかな?」

男「……ざけるなよ」

女「うん?」

男「ふざけるなよ! 俺は、俺は……友にも協力して貰って……」

女「彼結構義理堅いしね。まぁ、それくらいはやってると思ってたけど、余計ね」

男「それに……俺は……」

女「ふぅー……どうせ、妹さんにも、昨日辺り励まされたから後には退けないー、だとかなんとか言うんでしょ?」

男「そ、そうだ……」

女「……それが気持ち悪いって言ってんのよ!」

男「っ……」

女「あなたは漫画の主人公にでもなったつもり? 皆がいるから後には退けないとか、それはただの体の良い我儘よ。
  私が嫌だと言ってるんだから、素直に聞きなさい」

女「全く。妹の方は異常だと思ってたけど、あなたもここまで異常だとは、正直予想を超えてたわ」

女「はぁーあ、久しぶりに怒鳴っちゃった。じゃ、もう疲れたから帰るね」

男「お、女!」ダッ

女「――これ以上、私に怒鳴らせたいっての?」ギッ

男「うっ……」

女「それじゃあね。明日からは、まぁ普段みたく話しかけても良いけど、妙な期待はしないでね」


コツコツ……


男「……」

男「なんだよ……それ……」


――



ガチャッ


妹「あ、おかえりおにい!」

男「……」

妹「ど、どうだった?」

男「……」

妹「え、あ、ちょっと! 無言で部屋戻ろうとしないでよ!」

男「黙ってろ!」

妹「ひっ……」

男「……黙っててくれ、お願いだ」

妹「お、おにい……」


ガチャッ バタン


男「……」



――それが気持ち悪いって言ってんのよ!


男「ははっ、気持ち悪い、か……」

男「気持ち悪い……」

「おにいー!」

男「……」

妹「おにいってば! もう! 勝手に入るよ!」ガチャッ

男「……何しにきた」

妹「あ、明りくらいつけなよ。それに、何しにきたじゃないでしょ」

男「……結果くらい見て察せよ」

妹「……それは、なんとなくわかるけど。おにいが、その、ドッキリで本当は成功しましたー! なんて言うかも――」

男「ふざけんなよ!」ダンッ

妹「ひっ」

男「お前の、お前のせいでなぁっ!」ガシッ

妹「ちょっ、おにい肩痛いよ……」

男「お前のせいで、俺は、おれはぁっ! 振られたんだよ!」

妹「えっ、それってどういう……」

男「……俺達兄妹の事を、女さんは大層気持ち悪がってたって事だよ……」

妹「……」

男「シスコンだブラコンだ、お前達は異常だってな。他にも色んな言葉並べられて拒絶されたよ、俺は……」

男「お前が、お前が俺の事好きとかになってなけりゃ、こんな事には……」ガクッ

妹「お、おにい……」

男「なんで……なんでよりによって、こんな言われ方しなきゃなんねぇんだよ……」

男「父さん母さんが死んで、たった一人の家族だからって、お前に優しくしなければ……こんな……」

妹「……ごめん」

男「なぁ。なんで兄貴の事なんか本気で好きになってんだよ……それでなくても、もっと普通に妹出来てたろ?」

男「そういえば、お前が女さんと初めて会った時、お前やけに食い下がってたよな……あれがいけなかったんじゃねぇのか?」

妹「っ……」

男「あぁ、あれ嫉妬か、今気付いたけど。確かに、気持ち悪いな。
  兄貴がただ女子生徒と帰ろうとしてたのに、約束だなんだって、食い下がってさ」

妹「……酷い、よ」

男「酷い事言われたのはなぁ、俺なんだよ、俺」

男「はぁーあ……もういいよ、部屋から出てってくれ」

妹「で、でも――」

男「出てけってのが聞こえねぇのかよ!」

妹「……」

男「出てけよ……今混乱してて、このままだとお前に当たっちまいそうで、怖いんだよ……頼むから……」

妹「……うん」ガチャッ



妹「……」バタンッ

妹「(あの女っ……)」


――

もう当たってるのに

>>186
やべ、殴っちまいそう辺りに脳内変換してくれ

妹「ねぇ、おにい? 学校行く時間だよー」トントン

妹「……ねぇえー?」

妹「(だんまり、か……)」

妹「……朝ご飯、冷蔵庫に入れてあるから、せめて、それだけは食べてね……」

妹「行って、来るから……」

妹「(昨日おにいと話してから、暴れるでもなく外に出るでもなく、おにいは黙ったまま部屋を出ようとしない)」ガチャッ

妹「(おにいは、私のせいで振られたって、言ってた……)」

妹「(私の、せいで……)」

妹「(でも、あんなにもおにいを荒ませるなんて、普通の断り方じゃない)」

妹「(あの女を、問いただす……そして、おにいに謝らせる……)」グッ


――

女「で、私を呼び出した、と」

妹「そうよ」

女「ふーん、そう……兄想いねぇ」

妹「茶化さないでくれます?」

女「ふふっ、ごめんなさいね。でも、わざわざあなたのお兄さんが振られた屋上に、呼びだされるとは思わなくて、ちょっと感傷にね」

妹「(よくもズケズケと言えるわね、コイツ……)」

女「それで、まず何が聞きたいのかしら、あなたは」

妹「どうして兄さんを振ったのか、私に理由を話して下さい」

女「ふーん、理由かぁ……」

妹「えぇそうです。兄さんを傷つけることを正当化できるような、立派な言い訳を期待します」

女「はぁ……理由ねぇ……。君達がだいぶ傷付くような事長々と言うけど、良い?」

妹「今更何を……良いから全部話しなさいよ、下衆女」

女「一応私先輩なんだけど、まぁいいわ……話してあげる」

女「で、私を呼び出した、と」

妹「そうよ」

女「ふーん、そう……兄想いねぇ」

妹「茶化さないでくれます?」

女「ふふっ、ごめんなさいね。でも、わざわざあなたのお兄さんが振られた屋上に、呼びだされるとは思わなくて、ちょっと感傷にね」

妹「(よくもズケズケと言えるわね、コイツ……)」

女「それで、まず何が聞きたいのかしら、あなたは」

妹「どうして兄さんを振ったのか、私に理由を話して下さい」

女「ふーん、理由かぁ……」

妹「えぇそうです。兄さんを傷つけることを正当化できるような、立派な言い訳を期待します」

女「はぁ……理由ねぇ……。君達がだいぶ傷付くような事長々と言うけど、良い?」

妹「今更何を……良いから全部話しなさいよ、下衆女」

女「一応私先輩なんだけど、まぁいいわ……話してあげる」

女「私ね、結構告白されるのよ。君のお兄さんみたいに根暗入った子やら、お調子者の猿みたいな子やら」

妹「ね、根暗……」ギリッ

女「おぉ、眼が怖い。まぁ、それはいいとして」

女「一応、私だって女性な訳だから、恋くらいはしたいのよ。ただ、そこらの普通の子じゃ面白く無いわけ」

女「私の考えるような思考回路に、全く当てはまらないような、そんな型破りな男の人がいないか、ってね」

女「あ、勘違いしないでね? そこらの不良みたいな、型落ちの事言ってるんじゃないのよ?」

女「おっと、ゴメン。ちょっと一方的に話過ぎちゃったわね。何か意見ある?」

妹「いいから続けなさいよ……」

女「あらそう? じゃあ続けるね」

妹「(コイツ……)」

女「まぁ、自分で言うのもなんだけど、私こういう人間だからあんまり妥協とかしたくないの。
  自分がどれくらいの容貌で、どれくらい有能かとか、そういうのもちゃんと自覚してるし」

女「だから、そんな自分に合う男の人を探してるのよ。さっき言ったみたいな、ね。
  私が飽きないような、そんな人をね」

妹「そ、そんなこと……わからないじゃない。付き合ってみて、初めてわかることとか……」

また夕方以降に投稿します

女「わかるのよ、残念だけど。漫画みたいに、次点の子と試しに付き合ってみたら惚れちゃったなんて事、そうあると思う?」

女「無いわよ、そういうのは無かった。何度か実験的に試したけど、駄目だったのよ」

女「だから、彼をもう好きになる可能性は、無いの」

女「理由の説明終わったけど、わかった?」

妹「それが、理由……? そんなあんたの独善的な欲求の為に、兄さんをあんな風にしたっての?」

女「どんな風になってるか聞いてないけど、まぁ、そういうことになるわね。でも正直、私も中途半端に興味を持って、悪かったって思ってるわ」

妹「……悪かった?」

女「えぇ、これは本心よ。私の勝手で、変な事に付き合わせちゃった訳だし。
  まぁ、ゲームセンターに遊びに行った時には、もう完全に興味削がれちゃったけど。
  親しくなればなる程、彼感情表現増えて、わかりやすくなってきちゃって」

妹「なによ、それ……」

女「……ゴメンね、彼の期待に応えられなくて。まぁ、彼も応えてくれなかったけど」

妹「なんなんなのよ、それっ……」ギリッ

女「うん?」

妹「そんな、人の感情を踏みにじる行為が、許されると思ってるの!?」

女「ふふっ、君達やっぱり、結構情熱を秘めてるタイプね。それはそれで面白いけど……」

女「ゴメンね。私は、手段を選ぶような人間じゃ、ないのよ。一番手っ取り早い方法で、片付けようとする人間なの」

妹「それで誰かが傷付いても!?」

女「私だって穏便に済ませたいわよ。少しずつ、フェードアウトでもしようかなぁだなんて、思ってたけどさぁ……」

女「彼がいきなり告白してくるじゃない? だから、しょうがなく思った事を正直に言って、断っただけよ。
  シスコンの根暗な君とは、付き合えませんって」

妹「……」

女「なんか反論無いと、張り合い無いんだけど」



パンッ


女「……」

妹「はぁはぁ……」

女「ふーん、それが君の反論。肉体言語とは、やるわねぇ」

妹「……私がね、どんな気持ちで兄さんを応援してたか、わかる?」

女「……」

妹「一体どんな気持ちで、兄さんをアンタみたいなアバズレの所に送りだしたと思ってのよ……」

妹「あんたに告白する前日に、私が先に兄さんに告白したのよ……私が!」

女「……」

妹「自分でも異常だって、解ってるわよ……肉親に恋愛感情以上のものを抱くなんて、兄さんには迷惑なんだって」

妹「でもね、兄さんはちゃんと、真正面から私の気持ちを受けとめて、優しく断ってくれたわよ、アンタと違って!」

女「……」

妹「……睡眠薬なんて物まで使って、兄さんに気持ちを伝えた私に言う資格は無いかもしれない……」

妹「でもね、アンタは絶対に許せない……引っかき回すだけ引っかき回して、兄さんをあんなに傷つけて……」

妹「よく告白される? だから、何? それが人の好意を踏みにじって良い権利になる訳? 自惚れてんじゃないわよ!」

女「……」

妹「私から……兄さんを取っておいて、勝手な事抜かすんじゃないわよ!」

女「……」

妹「……何よ、アンタも何か反論してみなさいよ。張り合いないじゃない……」

女「……ふーん」

妹「何よ、このアバズレ」

女「いえね、兄妹揃って、人に自分の感情押しつけるのが、上手いと思ってねぇ……」

妹「っ……このっ!」

女「もう面倒だから、私帰るねー。たった今、夜にやることできちゃったから」

妹「な、待ちなさいよ!」

女「るっさいわね!」バシッ

妹「きゃっ」ドサッ

女「断るも断らないも、どんな風に断るかも個人の勝手じゃない、馬鹿じゃないの?
  そりゃ傷つけたかもしれないけど、私の事を何も知らないあなたに、言われる筋合いは無いわよ」

妹「よくもそんな事抜け抜けとっ!」

女「……言ってなさい、そこでいつまでも」コツコツ

妹「っ……覚えてなさい! アンタに絶対、頭下げさせてやるんだから!」

女「はいはい、楽しみにしてるわー……」コツコツ

妹「くっ……アイツ……」

妹「(余裕かましてんじゃないわよ……)」

妹「(見てなさい……)」

妹「(絶対、後悔させてやるんだから!)」






女「ふふっ……なぁんでこうも、私の思う通りに動くのかしらねぇ……」


――

妹「(あの女にどうすれば復讐できる……)」

妹「(弱みを握らないと……アイツに振られた人に話を聞いてみようかしら……)」

妹「(でも、そんな事、そうやすやすと話してくれるかしら……)」

友「あれ、妹ちゃん奇遇だね」

妹「……」

友「あれ、もしもーし?」

妹「……あっ、ど、どうも」

友「ん、スカートに砂汚れついてるけど、大丈夫?」

妹「あっ、え、えぇと、ちょっと壁に擦っちゃったのかな。あ、ありがとうございます、教えて頂いて」

友「あはは、良いよ良いよ」

妹「先輩は部活帰りですか?」

友「いや、ちょっと居残り。美術の課題がねぇ……妹ちゃんは?」

妹「私は……ちょっと、友達と話してて」

友「そうか……」

妹「……」

友「……男、大丈夫かい?」

妹「えっ」

友「アイツが今日学校に来なかった理由はおおよそ検討つく。その、残念だったとしか、俺には言えないが」

妹「……その、ごめんなさい。アドバイスも貰ってたみたいなのに、こんなことになっちゃって……」

友「謝る事ないさ。俺が面白半分に、急かし過ぎたせいかもしれないし……」

妹「先輩が気に病む事なんて、無いです……(あの女が、悪いだけ……)」

友「そうか……君達は優しいな、本当」

妹「……あ、ありがとうございます」

友「それで、今アイツはどうしてる?」

妹「えっと、よっぽどショックだったみたいで、部屋に籠っちゃってます。ご飯は作ってきたので、食べてるとは思いますけど……」

友「あちゃー、重症だねぇ。まぁ、かなり惚れこんでたみたいだし、当然かぁ……」

妹「……えぇ」

友「まぁ、アイツもアイツで、あぁ見えてメンタル強いし、すぐに立ち直るんじゃないかな?」

妹「……」

友「……それに、君がしっかりと励ましてあげれば、大丈夫さ」

妹「……私が、ですか」

友「あぁ。なんだかんだ言って、こういう時は家族の励ましってのが、一番利くもんさ。
  って、いつかのドラマでそんな事言ってるの見た」

妹「……全く、やっぱり先輩の情報はなんか頼りないですねぇ」

友「これでも、ちゃんと信頼できるソースからの情報を厳選して言ってるんだけどなぁ……」

妹「……でも」

友「うん?」

妹「……試してみます。元から、励ますつもりですけど」

友「あぁ、そうしてやってくれ」

妹「はい、ありがとうございます」

友「おっと、俺の帰り道あっちだから、ここでお別れだ」

妹「あ、そうなんですか」

友「あぁ、またね。妹ちゃん」

妹「はい、また今度」

友「おう。俺の方からもアイツに電話でもなんなりして、励ましてみますよ。じゃあねー」

妹「……」

妹「(復讐よりも、先にやることがあるわよね……)」


――

妹「おにい?」コンコン

妹「ねぇ、おにいってば」トントン

妹「……」

妹「ご、ご飯食べたんだね、ちゃんと。食器まで洗って……」

妹「ね、ねぇ、元気だして……って言うのはちょっと無理かもしれないけど」

妹「せめて、部屋から出てみてよ、ね?」

妹「……えっと、あの」

妹「待ってるから、さ……」

妹「あ、ご飯食べてないよね? 今から作るから、待っててね」

妹「……できたら、持ってくるから」

妹「すぐ、作るから!」


――



妹「ただいま、おにい」トントン

妹「明りくらいつけてるよね? それくらいはちゃんとしてよ?」

妹「……えっと、友さんから連絡あった?」

妹「友さんも、すっごく心配してくれてたよ。自分のせいかも、なんて言って……」

妹「その、私も、おにいの事、心配してるからね? 元気になって欲しいって、思ってるから……」

妹「だからその、すぐに出てきてとは言わないけど、早く元気だしてね……」

妹「それに、早く学校行かないと、冬休み補修ばっかりになっちゃうよ?」

妹「……だから、ね?」

妹「……ご飯作ってくる」


――

妹「おにい、いる?」トントン

妹「もう三日だよ? いい加減、元気だしてよ」

妹「先生には一応、風邪だって通してるけど、それもずっとは無理だよ?」

妹「鍵もかけっぱなしだし、部屋の中で窒息する気?」

妹「早く元気になって外出ないと、皆に迷惑掛かっちゃうよ?」

妹「……ごめん、ちょっと言い過ぎたかな」

妹「でも、皆心配してるんだよ? おにいの事、友さんも先生も」

妹「……私も」

妹「……きょ、今日は、鰻なんて手に入れちゃったんだよ!」

妹「おにい知ってた? 鰻の旬が冬だって」

妹「だからこれ食べて、元気だして、ね?」

妹「すぐ、作ってくるから!」


――

妹「……ただいま」

妹「……おにい本当に部屋にいるの?」

妹「鍵は……かけてるのか、じゃあいるんだね」ガチャガチャ

妹「私、今ね、色んな人にあの女の話聞いて回ってるんだ……」

妹「アイツの悪行をばらして、おにいをこんな風にした復讐をする為に」

妹「……ダメ、かな?」

妹「だって……アイツ、許せないよ」

妹「今日もね、少しだけだけど、話聞けたんだけど……」

妹「もっともっと情報を集めて、アイツにひと泡吹かせてやるから……」

妹「だから、早く出て来てね……」

妹「……ご飯、作るね」


――

今回はここまでで
元々駆け足だが、次回で終了したい

妹「……」トントン

妹「……まだ、出て来ないの」

妹「絶対に、復讐するよ、私は」

妹「アイツに打撃を与えられるような情報も、もう少しで手に入れそうなの……」

妹「それを学校中で言いふらしてやるんだから……」

妹「もう少し、もう少しなの……」

妹「……今日は、ロールキャベツ作るね」

妹「……待ってて」


――

妹「(今日も、話結局聞けなかったなぁ……)」

妹「(そりゃ、普通に考えたら話してくれないよね……)」

妹「(聞けたとしても、普通に断られたなんてのしか無いし……)」

妹「(逆に、おにいと同じくらい酷い事言われた人も一人は見つけられたけど……話してくれないし)」

妹「(そりゃ、トラウマになるような事ほじくり返すわけだもんね……)」

妹「(でも、もう少しで聞けそうなのよ……)」

妹「(……まだ、洗ってある食器でおにいがいるのはわかるけど)」

妹「(このままじゃ、部屋の中で……じ、自殺なんてっ……)」

妹「(……ううん、考えすぎよ)」

妹「(おにいは、強い。今は、ちょっと落ち込んでるだけ……そう、それだけ)」

妹「(落ち込んでるんなら、私がちゃんと励ましてあげないと)」

妹「(だから、復讐は続ける……)」ガチャッ

妹「ただいま――」



「……おかえり」


妹「……えっ?」

男「……おかえり」

妹「っ……おにい……」

男「……よぉ」

妹「あ、えっと、その……あはっ、ひ、ヒゲ凄い伸びてるよ?」

男「……まぁな」

妹「……やっと……やっと出てきてくれたね……」ブワッ

男「……あぁ」

妹「もしかしたら……このまま、ずっと、おにいに会えなくなるんじゃないかって、思ったんだよ?」ダキッ

男「……すまん」

妹「部屋の中で、死んでたらって……嫌な事考えてっ」

妹「このまま、私一人になっちゃうんじゃないかって……思ったんだよ?」

男「……ごめん」

妹「謝るくらいなら……もっと早く出てきてよ、ばかぁ……」

男「……抱きしめられるのは良いけど、ちょっと苦しいかな」

妹「何よ、その言い草……人を一人にさせて、寂しい思いさせたんだから……」

妹「これくらい、許してよ……」ギュッ

男「……わかった」

妹「……どれくらい、心配したと、思ってるのよぉ」

男「すまなかった」

妹「……もういいわよ。おにいには今日晩御飯作ってあげないから」

男「それは、手厳しいな……じゃあ、俺が作ろう。だから、泣かないでくれ」

妹「当然、よ……」グスッ

妹「でも、もうちょっと、このままでいさせてよ……」

男「……あぁ」



――

男「落ち着いた?」

妹「うん……」グスッ

男「あぁー、ほら、ティッシュ」

妹「ん……ありがと」

男「えっと、その、本当にごめんな?」

妹「それは、もう良いよ……それより、もう大丈夫なの?」

男「……あぁ、そうだな。俺はもう、十分泣かせてもらったよ」

妹「そっか……」

男「それと……」

妹「何?」

男「あんな酷い事言って、本当にすまなかった。お前のせいにするなんて、最低な事して……」

妹「……ううん、いいよ、もう。あの時は、おにいはただ混乱してあんな事を言っただけ……それだけだよ」

男「……そうか……ありがとう、妹」

妹「……ふぅ。なんか、案外もういつも通りで、心配して損しちゃったかな」

男「そうか……」

妹「ほ、ほら。じゃあ、さっさとご飯作ってよ。今まで当番すっぽかした分もやって貰うんだから」

男「……あぁ」

妹「もう、私を一人にしちゃ、嫌だよ……」

男「……わかってる」

妹「ん……じゃあ、それがわかったら、おいしいご飯をお願いするね」

男「……あまり期待はするなよ」

妹「ふふっ、ダーメ。期待しちゃうよ」



――

バッドエンドともっとバッドエンドがあるけど、どうすればいい

妹「復讐はするなっ?」ガチャンッ

男「お、おい。スープ零れる」

妹「うわわっ……っと、危ない……。というか、どういうことよおにい」

男「……だから、復讐なんて事は、しないでほしいんだよ」

妹「ど、どうして? アイツは、おにいにあんな酷い事言ったんだよ?」

男「……それでも、だ」

妹「なんでよっ、アイツは他の人にも酷い事言ってるんだよ!? 懲らしめないと……」

男「……俺もな、考えたんだよ」

妹「えっ」

男「確かに、あの人の言葉に、俺は、その、ボロボロになった。なんであんな酷い事言うのだろうなんて、ずっと考えてたさ」

男「……でもな、思ったんだ。あの人の言う事は、正しいんじゃないかって、さ」

妹「……」

男「シスコン、だなんて俺は思ってない。ただな、あまりにも、俺達はお互いに依存してたんじゃないかって、思うんだよ」

妹「依存……」

男「あぁ、お互いにさ、たった一人しかいない家族だって言って、甘え過ぎてたんだと思う。俺も、お前も」

妹「……」

男「だから、これからはもう少し――」

妹「おにい、まだあの人の事好きなんだね」

男「っ……」

妹「おかしいよ……普通、そこまで言われて好きだなんて……」

男「……もう、好きじゃないよ」

妹「じゃあ、なんでよ」

男「……お前の為だ」

妹「えっ?」

男「俺が、もしお前にもっと干渉しないでいれば、お前に優しくしていなければ、お前が俺を好きになるなんて事、
  無かったんじゃないかって……」

男「俺たちが、お互いに好きになったとしても、結婚は勿論、子供もできない。
  そんな、不毛な関係になるきっかけを、俺達は作りかけてる」

妹「……」

男「俺は、それをあの人に思い知らされたよ。言い方は、まぁ、酷かったが……」

男「その、なんだ……えぇと……」

妹「……」

男「……ゴメン。お前にあんな事言わせてから、こんな事言うのは卑怯かもしれないが、
  俺達はもっと、普通の兄妹になるべきなんだ」

妹「……普通って、何」

男「普通ってのは、あぁーあれだ、何だろうな……えっと」

妹「……」

男「その……」

妹「わかった」

男「……うん?」

妹「つまり、あれでしょ? 学校であんまり会ったりしないようにだとか、必要以上に甘えないだとか」

男「あ、あー、まぁそうだな。そういうことになるかな……」

妹「……じゃあ、そういう風にしてみる。あ、でも、家事の当番制は変えないからね?」

男「お、おう」

妹「(この辺りで、私も変わらないといけないのかな……)」

妹「(私の気持ちは一回ちゃんと伝えて、それに、おにいはそれにちゃんと真摯に向かいあってくれた……)」

妹「(それ以上を望むのは、贅沢……)」

男「……えーと」

妹「さっ、もうこの話はやめ。早く食べないと冷めちゃうよ、というかもう冷めてる」

男「あ、悪い。温め直すよ」

妹「ん、わかった」ズイ

男「……随分乱暴に突き出すね」

妹「いいから温めてよ」

男「……怖いねぇ。すぐやるから、ちょっと待ってろよ」

妹「はーい」


妹「(でもね、復讐は続けるよ……)」



――

今回はここまでで
じ、次回こそ終了……

妹「(ふぅ……やっぱり、今回もダメだったかぁ……)」

妹「(そりゃ誰も話してくれないよね……)」

妹「(……でも、気長にやっていけば……)」

女「あら、妹ちゃんじゃない」

妹「っ……何ですか、私に何か用でも?」

女「用? 特に無いけど。今から放送室行くから。あ、それと、お兄さん、今日は学校に来てるのね」

妹「……えぇ、そうですよ」

女「もうこのまま不登校になるかと思ってたんだけど、それだと私も後味悪いし、良かったわ」

妹「……挑発のつもりなんでしょうけど、もう何も言いませんよ」

女「ふふっ、そう……じゃあ、私もお兄さんの快気祝いでもやってあげましょうか」

妹「結構です。それじゃ、次の授業の移動なので、私戻りますね。さようなら」タタタッ

女「さよなら……ふふっ、ムキになっちゃって……」

女「……準備が終わった日に来るなんて、あの兄妹もあれねぇ」

女「(人の不幸は蜜の味、ってね)」



――

「皆さんこんにちは。今日もお昼の放送の時間がやってまいりました――」



友「ふぅーう、ようやっと昼休みだぞ、起きろ」

男「……起きてるよ」ノソッ

友「……それで、どうよ? 自分フった人が同じ教室にいるのは」

男「……お前ストレート過ぎるだろ、それ」

友「そういう遠慮ができないんでね。それで、もう立ち直ったのか?」

男「……まぁな」

友「俺の励ましのメールのおかげだな」

男「いや、それは違うな」

友「はい出た出た、僕のぞんざいな扱い方。まぁ、それが言えるんなら、もう引き籠る程鬱じゃないみたいだな」

男「おかげさまでな」

友「礼はいらないからまた五百円くれよ」

男「言ってろよ」

友「まぁそれは冗談として……ちゃんと妹ちゃんには、礼くらいはしとけよ? すごく心配してくれたんだろ」

男「……あぁ、そうだな」

友「じゃあ、飯食おうぜ」

男「今日はおかずはやらんからな」

友「許可無くても取るからいいもの」

男「黙れ人でなし」



女「――こんにちは、男君」


男「……」

友「……」

女「あれ、もしかして無視かな?」

友「……え、えっとぉ、女さんは何しにきたんですか? 何かわたくしたちに御用で?」

女「あら、友達に用も無く話しかけちゃ、ダメかしら」

友「い、いやー、そういう訳じゃないんですけどね?」

女「だったら問題無いよね」

友「は、はぁ……(やっぱ怖いわ、この人)」

女「で、私男君に用事があるんだけど」

男「……なんですか」

女「別に、そんな身構えなくてもいいのに。男君にちょっと知らせたい事があってね」

男「知らせたい事?」

女「えぇそう。今日の放送は、聞いておいた方が良いらしいわよ。あなたの妹さんが、cd流してほしいって、放送委員に渡してたから」

男「……は?」

女「じゃ、それだけだから。またね男君」

男「あ、ちょっ、待っ……行っちゃった……」

友「なんだったんだ? あれ」

男「さぁ……一体何の話だ? 放送?」

友「cdっつってたから、あれだろ? リクエストした曲流してくれる企画」

男「……アイツ、そんなこと言ってたかな」

友「うーん……まぁ、もう少ししたら流れるから、聴いてればいいんじゃないか」

男「……そう、だな」



「えー、それでは、今日のbgm一曲目です」


友「おや、早速だぜ」

男「……だな」


「提供してくれたのは……一年三組の妹さんですね。ありがとうございます」


男「……一番目か」

友「……」



「それでは、本日の一曲目、お聞きください」


男「……」

友「……」

「一体どんな気持ちで、兄さんをアンタみたいなアバズレの所に送りだしたと思ってのよ……」

「あんたに告白する前日に、私が先に兄さんに告白したのよ……私が!」


男「……はっ?」

友「なっ……」



「自分でも異常だって、解ってるわよ……肉親に恋愛感情以上のものを抱くなんて、兄さんには迷惑なんだって」

「でもね、兄さんはちゃんと、真正面から私の気持ちを受けとめて、優しく断ってくれたわよ、アンタと違って!」


オイオイナンダヨコノホウソウ ナンダーコレ?


男「おい、おいおい……」

友「なぁ、これって、妹ちゃんの、声だよなぁ?

「……睡眠薬なんて物まで使って、兄さんに気持ちを伝えた私に言う資格は無いかもしれない……」

「でもね、アンタは絶対に許せない……引っかき回すだけ引っかき回して、兄さんをあんなに傷つけて……」

「よく――し、失礼しました! あれ、cd間違えたかな……え、えっと、しばらくお待ちください!」


ブツンッ


男「……」

友「……」


ザワザワ ナンダッタンダイマノ? ヒルドラ?


男「っ……」ガタッ ダッ

友「あっ、おい! 今は行かない方が……行っちまった……」

男「(何だよ、今の……)」

男「(あの声は絶対に妹のものだ……それに、睡眠薬の事も……)」

男「(一体、どういうことだよ!)」


男「はぁはぁ……(ここが、妹のクラスだよな……)」

「あっ、男さん」

男「……なぁ、妹見なかったか?」

「あ、えと、なんか何処かへ……」

男「ど、何処に行った!」

「え、えっと、あっちの方ですけど……すぐ階段を上ってっちゃいました」

男「(放送室か?)わかった、ありがとう」

「あの……」

男「なんだ」

「さ、さっきのって、本当なんですか?」

男「っ……さっきのって?」

「えと、さっきの放送の声、妹ちゃんの声じゃないですか……だから、その……」

男「……ゴメン、ちょっと、行かないといけないから……」ダッ

「あっ……」


男「(妹……どこ行ったんだよ)」



――

男「(放送室付近にはもういなかった……)」

男「(くそ……昼休みが終わる前に話を聞かないと……)」

男「(……あれを流させたのは、おそらく女……)」

男「(気の強いアイツの事だ、問いただしに行くに違いない)」

男「クソッ……」ハァハァ


男「(だめもとで屋上に来てみたが、誰かいるか?)」


ドンッ


「いたっ」

男「うおっ」

女「……ふふっ、タイミングいいなぁ」

男「……どういう意味だよ」

女「さぁね。あっちの方に、妹ちゃんいるから、じゃあね」タタッ

男「な、おい待てよっ!」ダッ

男「(くっ、もう何処に行ったのかわからなくなるなんて……)」

男「クソッ! 妹っ!」ダッ

男「(何処だ……何処にいる……)」

男「(っ……あっちの物影からか……?)」サッ

男「……いたっ、妹っ!」

妹「……」

男「お、おい! 大丈夫か?」

妹「……おにい」

男「お、おい……さっきの、何だったんだ……なぁ」

妹「……ごめんなさい……」

男「な、なんで謝るんだよ」

妹「ごめん、なさい……」グスッ

男「おい……」ピリリリリ

男「……電話?」ピッ

友『おい、妹ちゃんいたか?』

男「あぁいたけど……」

友『……お前ら、呼びだしくらってるぜ』

男「はっ?」

友『……さっきの放送の件だそうだ。教員室にすぐに来い、だと』

男「……」

妹「……私、もうダメだよ……」


――

男「(あの後、俺達は教員室に行った)」

男「(俺は女も関与していると、話すつもりだった)」

男「(が、何故か妹にそれを他人に話すのだけはやめてくれと、何度も懇願された)」

男「(先生への報告も、妹が一人でデタラメを喋り、俺は途中でただ頷く事しかできなかった)」

男「(一体どういう事なのか、アイツは何も話してくれない)」

男「(そして、女にももう関わらないようにと、きつく釘を刺され、追及する事もできなかった)」

男「(何か、他にも握られているのだろうか……)」

男「(……そして、それからというもの、俺達兄妹に対する周囲の当たり方は一変した)」

男「(俺の場合、友が色々と便箋を図ってくれたおかげで、なんとかクラスで孤立する、ということは無かった)」

男「(……妹は日に日に学校に行くのが辛そうになっていた)」

男「(気丈に振る舞って、理由は話してくれないが、恐らく……)」



コンコン


男「……おい、大丈夫か?」

「……」

男「あーと、飯出来てるから」

妹「……」

男「(今度は、アイツの方が引き籠ってしまった)」

妹「……」

男「……冷蔵庫、入れとくから。好きな時に、食べてくれよ」

妹「……」

男「(あの時とは、真逆に……)」

男「……」グッ




――

「……」

「(ん……何だ、手足が動かない)」

「あ、起きちゃった……」

「(この声……アイツか)」

「……ふふっ」

「……おい、何してるんだ」

「貴方が……」

「……」

「貴方があんなメールなんて私に間違えて送らなければ……こんな事にはならなかったんだよ……」

「……」

「あのメールが無ければ、私は貴方に自分の気持ちを伝えないでいられたのよ……。
 あの女に復讐しようだなんて思わなかったのよ……。
 こんな風に、我慢したり……学校に行くのが、こんなに辛くなる事なんて、無かったんだよ……」

「……」

「……だから……」

「お、おい……」

「今から、責任取ってもらうからね――」



「兄さん」

途中からもうどう続けたらいいものか分らなくなってしまって、尾切れトンボ感ハンパないけど、これで終わりです
見て下さった方、有難うございました

無理やりにでも、なんか暗い話を書こうとするもんじゃないね

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