学園長「ようこそ、王立魔導学園へ」 アメフト選手「またかよ……」 (515)


  「なぁ……エディ」

  「こりゃ、どういうことだ?」


エディ「オレに聞くなよ、トム」

エディ「こっちだって聞きたいぐらいだぜ」

エディ「だろ? ジム」


ジム「ハンッ、俺は気にしちゃいないよ」

ジム「なっちまったことをウジウジ考えるほど」

ジム「テメェみたいに、身長も肝っ玉も小さくないんでな」


エディ「あんだと?」

エディ「元はといえばお前のせいじゃねぇか!」


ジム「なんだぁ? 俺が悪いってのかよ」


エディ「ああ! そうだね」

エディ「オメェの謹慎処分を取り消してやろうと、校舎の掃除を手伝ってやったのに」

エディ「また、訳の分からねぇ世界に飛ばされちまったんだからな!」


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ジム「お前らが勝手にやった事じゃねぇか」

ジム「俺から手伝ってくれなんて頼んでねぇよ」


エディ「なにっ! この……!」


トム「止めろ、エディ」


エディ「でも! トム」


トム「いいから、止めとけ」

トム「そいつを殴ったところで何の解決にもならねぇ」


エディ「チッ……分かったよ」

エディ「ジム、今日のところはトムに免じて許してやるからな」


ジム「フンッ、テメェの勝手な思い過ごしだ」

ジム「殴られるいわれはないね」


トム「ジェームズ、お前もだ」

トム「それ以上ちょっかいを出すな」


ジム「はいはい、分かってますって」


学園長「さて、話し合いは終わったのかね?」


トム「ああ」

トム「悪かったな、見苦しいところを見せちまって」


学園長「いや、混乱するのもムリもない」

学園長「なんせ、お主たちを呼び出したのはワシらじゃからな」


ジム「ほれ見ろ、俺の所為じゃねぇ」

ジム「やっぱりお前の思い過ごしじゃねぇか」


エディ「うるせぇ! 黙ってろ」

エディ「それより爺さん」

エディ「どういう意味なんだよ? それ」


学園長「……どこから話していいのやら」

学園長「まず、お主たちを呼んでしまったのは事故じゃ」


エディ「事故?」

エディ「なんだそりゃ」


学園長「うむ……1から説明すると長くなるのじゃが」

学園長「お主たち、魔法というものは知っておるかの?」


トム「魔法ねぇ……」

トム「ちょっと前の俺ならバカにするだろうけど」

トム「生憎と、よく知ってるぜ」


学園長「おお! それなら話は早い」

学園長「簡単にいえば、今回の事件は魔法の失敗じゃ」

学園長「とある生徒達が魔導実験に失敗しおってな」

学園長「あろうことか、異世界との穴を開けてしまったのじゃ」


トム「それで、運悪くその穴に俺達が落っこちまったと」

トム「全く……勘弁してほしいぜ」


学園長「本当に申し訳ない、校長のワシから謝ろう」


ジム「で、俺達は帰れるのかよ」

ジム「出来んならさっさと帰してくれ」

ジム「俺はともかく、そこの2人は早くしねぇとホームシックになっちまうんでな」


学園長「すまないが、すぐには難しそうじゃ」


トム「何か問題でもあるのか?」


学園長「魔法というのは理論と呪文があってはじめて成立するものなのじゃ」

学園長「ところが、その生徒達は焦って適当な呪文を唱えたみたいでな」

学園長「一体どんな呪文を唱えて、どうして穴が開いてしまったのかも分からんのじゃよ」


エディ「じゃあ、オレ達は戻れないってのか!?」


学園長「今すぐには無理じゃ」

学園長「じゃが、ワシらも責任を持ってお主らを元の世界に戻すように努力する」

学園長「それで許してはくれないかね」


トム「まぁ……すぐに帰れないってなら仕方ない」

トム「でも、アンタらが何とかしてる間、俺達はどうすりゃいいんだ?」

トム「まさか、そこら辺で野宿でもしろってことはないよな」


学園長「それは、もちろんそうじゃが」

学園長「ちと問題があってな……」


ジム「何だ? 肝っ玉の小せぇヤツは受け入れられねぇってか」


エディ「テメェ……」


ジム「冗談だ、冗談」

ジム「少しからかっただけじゃねぇか」

ジム「そんな顔するなよ、エディ」


エディ「いい加減にしねぇと、マジでぶん殴るからな」


トム「……それで、問題ってなんだ?」


学園長「今回の件、一部の者を除いて内密にしておるのじゃ」

学園長「当事者もお主らがこの学園に来たことを知らない」

学園長「じゃから、いきなりお主たちを学園に置くのはマズイのじゃよ」


エディ「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」

エディ「ホントに野宿でもしろってか?」


学園長「そう言ってるわけではない」

学園長「確かに、いきなりお主らを学園に置くとこはできない」

学園長「じゃが……お主らが学園にいる理由があれば話は別じゃ」


学園長「それで、丁度いいことに」

学園長「今、この学園は用務員を探しておってな」


トム「用務員を雇ったって名目で俺達をかくまうってのか?」


学園長「その通りじゃ」

学園長「ワシとしても悪い話じゃないと思うんじゃが、どうする?」


トム「……選択肢はあってないようなもんだと思うが」

トム「どうする? お前ら」


エディ「オレは賛成だぜ!」

エディ「ロクな説明もされずに変なとこへ飛ばされるよりは、よっぽどマシぜ」


トム「お前は?」


ジム「俺はどうだっていいぜ」

ジム「ホームシックになって泣きわめくなんてこともないしな」


トム「なら、決まりだな」

トム「よろしく頼む」


学園長「よろしい」

学園長「今日からお主らは正式にこの学園の職員じゃ」

学園長「くれぐれも、自分たちの素性は内密にな」

学園長「異世界から来たなんて知れたら大事じゃ」


トム「分かってる」

トム「俺も面倒事は避けたい」


学園長「良い心がけじゃ」

学園長「それでは、部屋へ案内する前に紹介したい者がおる」

学園長「マーガレット」


家政婦長「はい、学園長先生」


学園長「こちらは、マーガレット」

学園長「この学園の家政婦長で、表向きにはお主らの上司じゃ」

学園長「彼女にはすべて話してある」

学園長「分からないことがあったら彼女に聞けば間違いない」


家政婦長「初めまして」

家政婦長「家政婦長のマーガレットと申します」


トム「俺はトーマス」

トム「トムでいい」


エディ「オレはエドワードだ」

エディ「エディって呼んでくれ」

エディ「そんで、このムカつく顔してるがジェームズ」


ジム「お前が言うか?」

ジム「テメェの方がよっぽどムカつく顔だぜ」


エディ「なんだと? この木偶の棒が!」


ジム「俺が木偶の棒なら、お前は木偶の箸だな」


エディ「チクショウ、バカにしやがって!」


トム「……お前ら」

トム「イチャつくのは勝手だが、やるなら俺の居ないとこでやってくれ」

トム「いい加減に見飽きてきた」


家政婦長「あら? 私は見てて楽しいですよ」

家政婦長「ここでは男同士のケンカなんて滅多におきませんし」

家政婦長「言い争いなんて、ほとんど見たことありませんから」


トム「そりゃ、結構」

トム「これから楽しい毎日を送れそうだな」


家政婦長「それは期待しておきますね」


トム「……あ、ああ」


学園長「では、マーガレット」

学園長「彼らを部屋へ案内してやっとくれ」

学園長「ついでに、ここのルールについてもな」


家政婦長「かしこまりました」

家政婦長「では皆さん、こちらへ」


トム「…」

トム(全く……また変なところに飛ばされちまった)

トム(今度は無事に帰れんのか?)


<魔導学園 職員寮>


家政婦長「ここが職員が寝泊まりしている職員寮です」

家政婦長「外から通勤している先生もいますが」

家政婦長「ほとんどはこの学園内で生活しています」


トム「アンタもここに住んでるのか?」


家政婦長「いえ、私は学生寮の方に」

家政婦長「女性の職員は部屋数の関係上、ここに入りきらないのです」

家政婦長「ですから、教師でもない限り学生寮で寝泊まりしています」


ジム「俺達は学生寮じゃなくて良いのか?」

ジム「アンタらにとっては、外からやってきた厄介者だろ」


家政婦長「そもそも男性ですから」

家政婦長「学生寮に入れるという選択肢はありませんよ」

家政婦長「皆さんに使ってもらう部屋も元は倉庫ですし」

家政婦長「全く問題はありません」


エディ「ちょっと待てよ」

エディ「男だから寮に入れないってのは、どうなってんだ?」

エディ「何か問題でもあんのかよ」


家政婦長「ええ、大問題です」

家政婦長「学生寮には女性しか居ませんから」

家政婦長「あなた方を入れるのは風紀の問題上あり得ません」


ジム「女しかいない?」

ジム「俺達はアマゾネスの集落にでも飛ばされちまったのかよ」


家政婦長「そういうことではありません」

家政婦長「この学校は圧倒的に女子生徒が多く、女性職員も多いので」

家政婦長「基本的に男性はこの教員寮、女性は学生寮に別れて住んでいるんです」

家政婦長「とはいっても、女性の方が数が多いので教員寮にも女性の教師がいますが」

家政婦長「原則、学生寮は男子禁制です」


トム「要するに、男子寮と女子寮に分かれいて」

トム「俺達が住むのは男子寮の方だと」


家政婦長「そうなりますね」


エディ「マジかよ……」

エディ「男子寮とか聞いてないぜ」


ジム「どうした、お嬢ちゃん」

ジム「むさ苦しい男との共同生活は耐えられないってか?」


エディ「うるせぇ!」

エディ「オレの通ってた学校の寮は汚ねぇし、ボロいしで」

エディ「何も良いことなんか無かったんだよ!」


トム「落ち着け、エディ」

トム「俺達が行くのは学生の寮じゃない」

トム「教師も出入りしてるなら、それなりにキレイかもしれねぇぜ?」


エディ「ほ、ホントか!? それ!」


家政婦長「え、ええ……」

家政婦長「女性の教師も出入りしてますし、私達も掃除をしてますから」

家政婦長「あなたが思っているほど汚れてないと思います」


エディ「よしゃあ!」

エディ「もう、あんなブタ小屋で寝泊まりはゴメンだぜ」


ジム「まるで、今のテメェの部屋がキレイだって言ってるみたいだな」

ジム「お前の部屋じゃあ、そのブタ小屋以下なんじゃねぇのか?」


エディ「ケッ……言ってろ」

エディ「これでも部屋はキレイに使う方なんだ」

エディ「オレの部屋を見てビックリするんじゃねぇぞ」


家政婦長「ですが、そうとは言っても」

家政婦長「男性の共同生活については知らないので確証はありませんが」


トム「知ったら幻滅するぞ」

トム「俺達の部室でさえ、ゴミ屋敷同然だからな」


家政婦長「それは……聞かなかったことにしておきます」

家政婦長「では、部屋まで案内します」

家政婦長「付いて来て下さい」


<職員寮 倉庫>


家政婦長「ここが、皆さんの部屋になります」


エディ「おいおい……倉庫だとは聞いてたけど」

エディ「こりゃ、あんまりじゃねぇか」

エディ「イスだが棚だかが転がって、ホコリまみれ」

エディ「おまけに部屋の隅にはクモの巣が貼ってやがる」

エディ「こんなところで、一体どうやって生活しろってんだよ」


家政婦長「残念ながら、他の部屋はすべて埋まっていまして」

家政婦長「辛うじてこの部屋だけ空いてたぐらいですから」


エディ「って、事は……」


家政婦長「掃除して使ってもらうしかありませんね」

家政婦長「今はこんな状況ですが、間取りは他の部屋と一緒なので」

家政婦長「キレイにすれば見違えるようになると思います」


エディ「……マジかよ」

エディ「出来る気がしねぇぜ」


家政婦長「こんなことで根を上げていると、明日から大変ですよ?」

家政婦長「学園はこの部屋なんて目じゃないぐらいに広いですから」


エディ「うへぇ……先が思いやられる」


ジム「良かったじゃねぇか、エディ」

ジム「俺の分まで掃除するほどキレイ好きなんだろ?」

ジム「当分、掃除する場所には困らないぜ」


トム「お前もだろ、ジェームズ」

トム「学校でバカやるたびに掃除させられて」

トム「俺はよっぽどの掃除好きだと思ってたけどな」


ジム「ハンッ、教師どもが勝手に言ったことだ」

ジム「俺は掃除なんて好きでも何でもないね」


トム「さぁ、どうだかな」


家政婦長「あの……そろそろ話を進めたいのですが」


エディ「ああ、悪い」

エディ「続きを話してくれ」


家政婦長「掃除用具は向かいの倉庫にあるので好きに使ってください」

家政婦長「それと、使えない家具やゴミは一階のゴミ捨て場へ」

家政婦長「使える家具は向かいの倉庫にお願いします」

家政婦長「ランプや寝具などは後で私が持ってきます」

家政婦長「では、頑張ってください」

家政婦長「自分たちの寝る場所を作るのが今日のあなた達の仕事です」


トム「聞いたな、お前ら」

トム「さっさと終わらせて、とっと寝るぞ」


エディ「マジでやるのかよ」

エディ「……勘弁してくれって」


トム「俺達の部室を掃除するよりマシだ」

トム「それとも、野宿がしたいってのか?」


エディ「分かってるって、トム」

エディ「ちょっとボヤいただけだ」


ジム「まぁ、精々頑張れよ」

ジム「俺は外の様子でも……」


トム「何言ってやがる、お前もやるんだよ」

トム「さもなきゃバラしてまわるぞ?」

トム「お前が本気でヒーローなりたがったってた、ってな」


ジム「……チッ、分かったよ」

ジム「やりゃあ良いんだろ?」


エディ「そうだぜ、ジム」

エディ「最初から素直にそう言っておきゃあいいんだよ」


家政婦長「では、私は他の仕事があるので」

家政婦長「これで失礼します」

家政婦長「また様子を見に来ますので」

家政婦長「分からないことがあればその時に聞いてください」


トム「分かった」

トム「よし、ちゃちゃっと始めるぞ」

一応、続編

王様「そなたが伝説の勇者か……」アメフト選手「…」
王様「そなたが伝説の勇者か……」 アメフト選手「…」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395463816/)

登場人物の紹介とかはWikiに載せておく
キャラが分からなくなったら、覗いてみることをオススメする


<魔導学園 グラウンド>


家政婦長「ここが今日のあなた達の仕事場です」


エディ「仕事場って……」

エディ「オレにはだだっ広い広場にしか見えねぇけど」

エディ「一体、何をすりゃいいんだよ」


家政婦長「もちろん掃除ですよ」

家政婦長「用務員の仕事の基本です」


エディ「でもよ」

エディ「もっとこう……何か無いのかよ」

エディ「これじゃあ、ジムの野郎の社会奉仕活動と一緒だぜ」


ジム「良いじゃねぇか」

ジム「得意だろ? 掃除は」

ジム「なんたって、俺に付き合って毎回やってるからな」


エディ「ケッ……お前が問題を起こすからだろ」

エディ「オレだって、好きで掃除になんか付き合うかよ」


トム「そのくらいにしておけ、エディ」

トム「ソイツに問題を起こすなって方が無茶だ」


エディ「分かってるよ」

エディ「で、マーガレットだっけ」

エディ「掃除って、一体どこからどこまでやりゃいいんだ?」


家政婦長「とりあえずは、見えるところ全部ですかね」

家政婦長「掃除用具はあそこの小屋にあるので、それを使ってください」

家政婦長「ゴミは校舎裏の集積場にある程度分別して捨ててください」


トム「本気で言ってるのか?」

トム「いくらなんでも、今日一日じゃ終わりそうにないぞ」


家政婦長「いえ、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」

家政婦長「私も一日で終わるとは思ってないので」

家政婦長「ただ……あんまり時間がかかると困ってしまいますが」


トム「だったら、心配いらないな」

トム「どこかの誰かのお陰で掃除は慣れてるからな」


家政婦長「それでは……ああ!」

家政婦長「大事なことを言い忘れてました」

家政婦長「外で授業をやっているときは気を付けてくださいね」

家政婦長「今日は外での授業は無いみたいですが」

家政婦長「日によっては剣や魔法を使う授業もあるので、十分に注意してください」


トム「ああ、分かった」

トム「俺達も命は惜しいからな」

トム「下手な手出しはしないでおく」


家政婦長「では、私はこれで……」

家政婦長「また昼に様子を見に来ますので、それまで」


エディ「行っちまったか」

エディ「……にしても、剣に魔法ねぇ」

エディ「本格的に異世界に来ちまったみたいだ」


トム「勇者やら魔王やら言われないだけマシだ」

トム「あんな体験は二度とゴメンだからな」


ジム「俺は面白かったぜ?」

ジム「上から下まで、国中の奴が全員俺に頭を下げる」

ジム「見せてやりたかったぜ、その光景をな」


トム「よせ、そんなの見せられたらお前を殴ってる」

トム「ただでさえムカつく顔してるからな」


ジム「なら、やるか?」

ジム「アンタに負けるほど弱くはねぇぜ、キャプテン」


トム「……くだらねぇ」

トム「さっさと仕事をするぞ」

トム「早くしないと日が暮れちまう」


-数時間後-


  「ねぇ、アレ……」

        「ホントだ、いるいる」

    「でも、誰かしら?」



エディ「な、なぁ……トム」

エディ「俺達、さっきから見られてねぇか?」


トム「『見られてねぇか?』じゃなくて、見られてんだよ」

トム「その証拠に……」



   「あ!」
       
        「目が合った」
    
    「ほ、ほら……」


     スタスタスタスタ



トム「目を合わせたとたんに逃げやがる」


エディ「……朝はこんなことなかったよな」

エディ「一体、何がどうなってんだよ」


トム「そんなこと俺に聞くな」


エディ「他に聞けそうな奴がいねぇんだよ」

エディ「ジムの野郎は……」


ジム「……何だよ、チビクロサンボ」

ジム「俺の顔に何か付いてるってのかよ」


エディ「んだと! 唐変木が」

エディ「妙な視線を不思議に思ってただけじゃねぇか!」


ジム「ハンッ、テメェの思い過ごしだろ」

ジム「んなことでいちいち俺に話しかけるな」


エディ「あんだと!」


トム「やめとけ、エディ」


トム「コイツにつっかかっても何も出ない」

トム「返って面倒臭くなるだけだ」


エディ「でもなぁ……」


トム「アイツの性格は知ってるだろ?」

トム「どうせ……やりたくもない仕事をやらされた上に、周りにジロジロ見られるのが気に食わないだけだ」

トム「まだ真面目に仕事をやってるんだ、放っておけ」


エディ「……分かったよ」


  「皆さん、どうですか?」


トム「ん? アンタは……」

トム「どうかしたのか? マーガレット」


家政婦長「お昼になったので、呼びに来ました」

家政婦長「仕事はいったん止めにして休憩にしましょう」


エディ「それよりよ」

エディ「さっきから妙に視線を感じんだけど」

エディ「なんか心当たりはねぇのか?」

エディ「ほら、オレ達が違う世界から来たのがバレちまったとか」


家政婦長「それはありませんよ」

家政婦長「私を含めて、関係者には箝口令が敷かれていますから」


トム「理由は分かるか?」

トム「こんな調子じゃ、ウチの問題児がまた騒ぎを起こしちまう」


家政婦長「おそらく……物珍しいからでしょう」

家政婦長「現在、学園の生徒はほとんどが女子生徒です」

家政婦長「一度入学すれば、滅多なことがなければ学園の外へは出ません」

家政婦長「ですから、見慣れない同年代の男性が気になるのでしょう」


トム「全く……勘弁してほしいね」

トム「見世物小屋のフリークじゃねぇんだから」


家政婦長「まぁ、すぐに収まりますよ」

家政婦長「しばらくは続くでしょうが……」

家政婦長「ガマンしてもらうしかありませんね」


トム「さて……アイツにそんな堪え性があるかね」

トム「ま、考えても始まらないか」

トム「さっさと片付けて、昼にしようぜ」


-翌日-


ジム「クソッ!」

ジム「やってられっか! こんなこと!!」


エディ「もう参っちまったのかよ?」

エディ「昨日の今日だぜ」

エディ「いくらなんでも早すぎんだろ」


ジム「うるせぇ!」

ジム「こっちはマジメに仕事してるってのに、ジロジロ見やがって」

ジム「いい加減にやってられっかよ!」


エディ「昨日説明しただろ?」

エディ「もう少ししたら、収まるって」


ジム「そんなの待ってられっか!」

ジム「もういい! 俺は降りる」

ジム「掃除でも何でも、後は勝手にやってろ!」


エディ「おい! 待てって」

エディ「どこ行くんだよ!? おい!」


トム「はぁ……」

トム「やっぱり、こうなっちまったか」


エディ「どうすんだよ、アレ」


トム「放っとけ」


エディ「良いのかよ? それで」

エディ「すぐには戻って来ないぜ、アイツ」


トム「じゃあ、連れ戻して説得でもするか?」


エディ「そりゃ……ムリだな」

エディ「アイツが話を聞くとは思えねぇ」


トム「……ああ」

トム「素直に人の話を聞くような奴だったら、ここまで苦労しねぇ」

トム「ここは放っておくのが一番だ」

トム「そのうち頭を冷やして帰ってくる」


エディ「ホントか?」


トム「ああ、俺を信じろ」


-数分後-


トム(……まだ半分もいかねぇ)

トム(今日中に終わるのか? コレ)

トム「エディ、そっちはどうだ?」


エディ「…」


トム「おい、エディ」

トム「どうかしたか?」


エディ「いや……なんか聞こえねぇか?」


トム「あ? 何を……」


   キャー!!

        ワァー!!


トム「…」


エディ「なぁ、今のって……」


トム「ジェームズの野郎が向かった方向だな」


エディ「……トム」

エディ「オレ、何かすっげえイヤな予感がすんだけど」


トム「奇遇だな……」

トム「俺もだ」


エディ「で、どうするよ?」


トム「わざわざ聞くことか?」


エディ「ほら、もしかしたら違うこと考えてるかもしれねぇだろ?」


トム「それなら、望み薄だな」

トム「行く以外の選択肢が思いつかねぇ」


エディ「だよなぁ……」


<魔導学園 運動場>


ジム「オラオラ、どうした!?」

ジム「どこからでもかかってこいよ!」


剣術講師「くっ……」


ジム「へッ、そっちが来ないってなら」

ジム「俺の方から行くぜ」


  キンッ キンッ   

    カンッ


剣術講師「ぐわっ…」ガクッ


ジム「フンッ、口ほどにもねぇ」

ジム「こんな奴に教わってちゃ、上手くなるもんもならねぇぜ」


トム「おい! ジェームズ」

トム「何してんだ!?」


ジム「何って……見て分からねぇのか?」

ジム「コイツが腑抜けた剣術を教えてたからな」

ジム「俺が鍛え直してやってたんだ」


エディ「何言ってやがる!?」

エディ「仕事を放り出したと思ったら、こんなことしやがって」

エディ「脳みそ足りてねぇんじゃねぇのか!」


ジム「何だ? 文句でもあんのかよ」


エディ「ああ! 大アリだね」

エディ「テメェの尻拭いさせられるこっちの身にもなりやがれ!」


ジム「だったらかかってこいよ」

ジム「いい加減、退屈してんだ」

ジム「俺に勝ったら、言うことを聞いてやってもいいぜ」


エディ「くっそ……勝手なこと言いやがって」


トム「ダメだ、エディ」

トム「アイツの挑発に乗るんじゃねぇ」


エディ「でも、トム!」


トム「分かってる」

トム「だが、あのバカはケンカにはめっぽう強い」

トム「剣術勝負なんていったら尚更だ」


エディ「そりゃ、そうだけどよ」

エディ「このまま放っといて良いわけねぇだろ」


トム「だけどな……」


ジム「ビビっちまったのか? トム」

ジム「このままじゃ俺の不戦勝だぜ」


トム「…」


  「その勝負、私に預けてくれないだろうか?」


ジム「何だ? テメェは」


  「この学園の生徒会長をしている」

  「ナターシャ・シャルパンティエだ」


ジム「その生徒会長サマが何だって?」


生徒会長「私が代わりにお前の相手をする」

生徒会長「君に勝ったら、言うことを聞いてもらえるのだろう?」


トム「ちょっと待て」

トム「助けようとしてくれるのは良く分かったが、アイツの実力は口だけじゃない」

トム「悪いこと言わねぇから、下がってろ」


生徒会長「大丈夫だ」

生徒会長「彼が強いことぐらいは、私にも分かってる」

生徒会長「だから、全力で相手をする」


ジム「面白れェじゃねぇか」

ジム「乗ってやるよ、その勝負」

ジム「ほら、剣はコイツのを使いな」


剣術教師「」


生徒会長「いや、それには及ばない」

生徒会長「剣なら自分のモノがあるからな」ジャキ


エディ「お、おい!」

エディ「それホンモンじゃねぇか!?」

エディ「シャレにならねぇよ」


生徒会長「私も本気を出さないと負けてしまいそうなのでな」

生徒会長「訓練用の木刀とではハンデができてしまうが、許してほしい」

生徒会長「真っ向勝負すれば、力で押し負けてしまうだろうからな」 


ジム「いいぜ」

ジム「それぐらいハンデがあった方が面白いからな」


トム「ジェームズ、いい加減にしろ!」

トム「これ以上、事を大きくするんじゃねぇ」


ジム「勝負する気のない奴は口出すんじゃねぇよ」

ジム「これは俺とアイツの勝負だ」

ジム「テメェはそこでケガ人の子守りでもしてろ」


トム「おい! ジェームズ」


ジム「さぁ、行くぜ」

ジム「覚悟はいいな?」


生徒会長「その前に、君の名前を教えてほしい」

生徒会長「これから戦う者の名前ぐらい知っておきたいからな」


ジム「俺はジム……」

ジム「ジェームズだ」


生徒会長「いい名前だ」

生徒会長「では、行くぞ! ジェームズ」


-数十分後-


ジム「ぐっ……」ガクッ


生徒会長「勝負あったな」

生徒会長「接戦だったが、私の勝ちだ」


ジム「ふざけんじゃねぇ!」

ジム「俺はまだ……うっ」


エディ「お、おい! 大丈夫かよ!?」

エディ「血が出てるじゃねぇか!」


ジム「……タダのかすり傷だ」

ジム「わめくんじゃねぇ」


生徒会長「浅くだが、腕を切らせてもらった」

生徒会長「しばらくは剣を振ることはできないだろう」

生徒会長「私もそんなことはしたくなかったが」

生徒会長「そうでもしないと、負けを認めてくれそうにないからな」


ジム「…っ」


生徒会長「では、約束通り」

生徒会長「私の言うことを聞いてもらおうか」


ジム「フンッ、何でも言いやがれ」


生徒会長「なら、今すぐここから立ち去り」

生徒会長「2度と学園内で騒ぎを起こさないでほしい」


ジム「チッ……分かったよ」

ジム「行くぜ、エディ」


エディ「おい! どこ行くんだよ」

エディ「ケガの手当てはどうすんだって」


ジム「こんなもんツバ付けときゃ直る」

ジム「いいから行くぞ」 


エディ「だから、待てって!」


トム(……行っちまったか)

トム(まぁ、あの様子なら……とりあえずは大丈夫だろ)


トム(だが……それより問題は)

トム「おい、ちょっと待ってくれ」


生徒会長「どうした? まだ私に何か用があるのか」


トム「ナターシャだっけか」

トム「手間かけせさせちまったな、あのバカを止めるのに」


生徒会長「気にしないでくれ」

生徒会長「私も彼にケガを負わせてしまったからな」

生徒会長「済まなかったと伝えておいてくれ」


トム「それは任せとけ」

トム「ただ、ひとつだけ忠告したくてな」


生徒会長「忠告? 何だそれは」


トム「アイツは負けず嫌いでな」

トム「チームプレイで負けるのはともかく、個人プレーで負けるのは絶対に許さねぇ」

トム「セイフティに止められたりした日には、意地でもタッチエンドを決めようとする」


生徒会長「つまり、どういうことだ?」


トム「アイツはアンタに仕返しに来る」

トム「自分が勝つまで、何度もな」


生徒会長「なら、気を付けなくてはいけないな」


トム「鬱陶しく思わねぇのか?」


生徒会長「この学園で私とやり合うことのできる人間は居ないからな」

生徒会長「正直……少し嬉しいんだ」

生徒会長「久々に楽しめそうだと思って」


トム「なら、俺から言うことは何もない」

トム「是非とも、あのバカが騒ぎを起こさなくなるまで懲らしめてほしいね」


生徒会長「出来るか分からないが、善処しよう」

生徒会長「では、私はこれで」

生徒会長「この授業の後始末をしなければならないからな」


トム「ああ……」

トム(全く、余計な問題を起こしやがって)

トム(マーガレットになんて説明すりゃあいいんだよ)

トム(……先が思いやられるぜ)


<魔導学園 中庭>


ジム「グランドの次は、無駄に広い中庭」

ジム「あのマーガレットとかいう女」

ジム「怪我が治ったと分かったら、好き勝手に使いやがって」


トム「あんだけの騒ぎを起こしてお咎めなしってのに、随分な口の利き方じゃねぇか」

トム「そんな愚痴を言うヒマがあったら手を動かせ」

トム「タダでさえ、ケガで休んでたんだからよ」


エディ「そうだぜ」

エディ「大事にならなかったから良かったけど」

エディ「オメェが休んでた間は、オレ達が仕事してんだからな」

エディ「ちっとは感謝しやがれ」


ジム「うるせぇ」

ジム「俺だって好きで怪我したワケじゃねぇんだ」

ジム「あの女が容赦なく切りつけるのが悪りぃんだよ」


トム「そもそもの原因はお前だろ」

トム「少しはマシになったと思ったら、すぐコレだ」

トム「これに懲りたら、無暗やたらとケンカを吹っ掛けるようなマネは止めるんだな」


ジム「そんな心配されなくても、しばらくはしねぇよ」

ジム「約束は約束だからな」


エディ「珍しいこともあるもんだぜ」

エディ「お前の口からそんな言葉出るなんてな」


ジム「ハンッ、俺だって約束ぐらいは守る」

ジム「ただし……あの女を負かすまでだけどな」


トム「お前が誰とケンカしようが関係ねぇが」

トム「面倒事は起こすなよ」

トム「テメェの尻拭いをさせられるのはコリゴリだ」


ジム「フンッ、お前らには手を出させねぇよ」

ジム「アイツとはタイマンでケリを付けるからな」


  「あの、ちょっと」


エディ「ん? 誰だ」

エディ「オレ達になんか用でもあんのか」


  「ああ……うん」

  「僕はヨハン・V・レーヴェンガルト」

  「この学園の男子クラスの生徒だ」


トム「男子生徒ねぇ」

トム「居るとは聞いてたが、会うのは初めてだな」


ジム「で、ゲルマン野郎が何の用だ」

ジム「俺達は忙しんだ」

ジム「用がないなら、とっとと帰れ」


エディ「良く言うぜ」

エディ「さっきまで愚痴ってたクセによ」


生徒「お願いだ」

生徒「力を貸してほしい」

生徒「もう君達にしか頼れないんだ」


トム「何なんだ? 一体」


生徒「今度の学内試合に参加してほしい」

生徒「このままじゃ、参加すらできないんだ」


エディ「学内試合? 参加できない?」

エディ「なに言ってんだ」


トム「面倒事なら間にあってる」

トム「他を当たってくれ」


生徒「待ってくれ!」ガシッ


トム「言っただろ、面倒事はゴメンだ」

トム「用事なら他を当たってくれ」


生徒「これじゃあ、叔父さんに合わせる顔がないんだ」

生徒「お願いだから話だけでも」


エディ「トム、どうすんだ?」

エディ「簡単には帰ってくれそうにないぜ」


トム「はぁ……仕方ねぇな」

トム「話だけは聞いてやる」

トム「だから、腕を離せ」


生徒「ありがとう!」

生徒「やっぱり、僕の見込んだ通りだ」


トム(……ったく、また面倒くさいことに)

トム(勘弁してほしいぜ)


-数分後-


トム「……話は分かった」

トム「今度の学内試合とかいうのに出て、自分の活躍をアピールしたい」

トム「さもなきゃ、親との約束でこの学校から追い出されちまう」

トム「だが、試合のメンバーは3人1組」

トム「数少ない男どもは端っから戦う気がゼロで、協力してくれそうにもない」

トム「このまま試合に出れないなんてことになったら」

トム「口添えをしてくれた叔父に合わせる顔がなくなる」

トム「どうしようもなくなって、頼みを聞いてくれそうな俺達に話しかけたと」


生徒「だから、お願だ」

生徒「僕に力を貸してくれ」

生徒「まだ、この学園を離れたくないんだ」


エディ「まぁ……同情はするけどよ」

エディ「オレ達は教師でもなけりゃ、生徒でもないんだぜ」

エディ「その試合に出るなんて無理じゃねぇのか?」


生徒「そ、そんな……」


トム「残念だが、本当だ」

トム「俺達以外の奴を見つけて参加するんだな」

トム「別に男に拘らなくても、メンバーぐらい見つかるだろ」


生徒「……ムリだよ」

生徒「僕ら男子クラスは、1クラスしかない上に」

生徒「魔法もろくに使えない落ちこぼれ集団だと思われてるんだ」

生徒「学内試合は成績にも影響するから、男子と組もうとする女子はいない」

生徒「いるとしても生徒会長のナターシャさんぐらいさ」

生徒「ま、迷惑がかかるからそんなこと頼めないけど」

生徒「じゃあ……僕は帰るよ」

生徒「クラスの男子も説得すれば、どうにかなるかもしれないし」


ジム「おい! ちょっと待て」

ジム「今なんて言った?」


生徒「え? もう帰るって」


ジム「違う、その前だ」

ジム「生徒会長がどうとか言ってたな」


生徒「ああ……うん」

生徒「会長なら協力してくれるかもしれないって」


ジム「ってことは、アイツも出るのか?」

ジム「その学内試合とかいうのに」


生徒「もちろん、去年の優勝したのは会長のチームだし」

生徒「出場しないはずないと思うけど」


ジム「へぇ、そうかい」


トム「ジェームズ、お前まさか……」


ジム「よし、乗った」

ジム「ヨハンとか言ったな」

ジム「お前のチームメンバー、俺達がなってやるよ」


生徒「でも、君達の話じゃ……」


エディ「そうだぜ、ジム」

エディ「オレ達は生徒じゃねぇんだ」

エディ「試合なんて出れねぇよ」


ジム「だったら出れるようにするまでだ」

ジム「行くぞ! お前ら」


エディ「おい! 行くってどこに」


ジム「決まってる」

ジム「ここで一番偉い奴のとこだ」

ジム「ほら、行くぞ」


エディ「あ、おい!」


エディ「仕事はどうすんだよ!?」


ジム「そんなもん後回しだ」

ジム「そこらへんの奴にやらせとけ」


エディ「おい、待てって!」


トム「はぁ……」

トム(うすうす感づいていたが……)

トム(……やっぱりこうなっちまったか)


生徒「これは一体……」

生徒「何がどうなって」


トム「アイツを野放しにしておくと後々面倒だ」

トム「俺達も行くぞ」


<職員寮 3人の部屋>


トム「……にしても」

トム「こんな無茶苦茶な要求を通しちまうとはな」

トム「正直、アイツを舐めてた」


エディ「ま、丸く収まってから良かったと思うぜ」

エディ「あの野郎の事だから、もっと大事になってもおかしく無かったからな」

エディ「爺さんもふたつ返事でOK出してたし」

エディ「なにより、こいつが退学させられなくて良かったじゃねぇか」


生徒「まだ決まった訳じゃないけど」

生徒「ありがとう、君達のお陰だ」

生徒「改めてお礼を言うよ。トーマス君、エドワード君」


トム「……感謝してくれるのは結構だが」

トム「1つ言いたいことがある」


生徒「何? トーマス君」


トム「その気持ち悪い呼び方をやめろ」

トム「俺はトム、こいつはエディ」

トム「そんでもって、アイツはジムかジェームズだ」


生徒「でも、それは……」


トム「いいから、言う通りにしろ」

トム「でないと付き合ってやらねぇぞ」

トム「その学内試合とやらに」


生徒「わ、分かったよ」

生徒「これでいいんだろ、トム」


トム「ああ、それと……」

トム「礼ならジェームズのヤツに言っとけ」

トム「俺達は仕方なく付き合ってるだけだ」


生徒「けど……何処にいるの?」

生徒「この部屋には見当たらないけど」


トム「おい、エディ」

トム「ジェームズの野郎はどこへ行った?」


エディ「倉庫から木刀かなんか引っ張り出して、どっか行っちまったぜ」

エディ「どっかで振り回してんじゃねぇの?」

エディ「この前やられたのが相当悔しかったみてぇだし」


トム「ったく……好き勝手に行動しやがって」

トム「第一、まだケガが完治してねぇんだろ」

トム「傷口が開いたりしたらどうするつもりなんだ」


エディ「アイツだってそこまでバカじゃねぇだろ」

エディ「オレらが言っても、素直に聞くようなヤツじゃねぇし」

エディ「放っとくのが一番だぜ」


トム「俺だって……出来るならそうしたい」

トム「だが、これからやるのはフットボールの試合じゃなくて」

トム「学内試合とか言う良く分からねぇ代物だ」

トム「おまけに魔法なんて厄介なモンもある」

トム「ある程度の作戦を練らなきゃ、勝てるもんも勝てねぇんだよ」


エディ「まぁ……確かにな」

エディ「ジムの野郎も負け越してるし」

エディ「簡単に勝てたら、世話ねぇよな」


トム「そういうことだ」

トム「分かったら、とっと探しに行くぞ」

トム「アイツ抜きじゃ、作戦なんて立てられねぇからな」


-数時間後-


生徒「ルールは大体こんな感じかな」


エディ「へぇ、案外普通じゃねぇか」

エディ「魔法なんて言うから、身構えてたけど」

エディ「基本はカラテみたいなもんじゃねぇか」

エディ「それなら俺達でも何とかなりそうだな」


トム「だが、魔導学園なんて言うんだ」

トム「魔法を使ってこないはずがない」

トム「そうだろ? ヨハン」


生徒「むしろ魔法を主体にして戦う人の方が多いよ」

生徒「ルール的には防御リングのシールドを削りにくい魔法は不利だけど」

生徒「遠距離でも近距離でも戦えるし、高位の呪文になると2、3発でシールドがなくなるしね」


ジム「ハンッ、魔法なんて関係ねぇな」

ジム「剣なら1回でも当てりゃあ勝ちなんだろ?」

ジム「だったら、魔法を撃たれる前に攻撃しちまえばいいんだよ」


生徒「そんな無茶苦茶な」

生徒「確かに、シールドは直接攻撃で無くなるようになってるし」

生徒「実際に会長みたいに剣を主体にしてる人もいなくはないけど」

生徒「あれは最低限の魔法を使えることを前提にしてるから」

生徒「いくら君でも……」


ジム「アイツに出来て俺にできねぇハズねぇ」

ジム「それとも、テメェは俺にはムリだって言いたいのか?」


生徒「そ、それは……」


トム「そこら辺にしておけ、ジェームズ」

トム「ヨハン、この際言っておくが」

トム「俺達は魔法なんて使えないし、使えるようになる見込みもねぇ」

トム「だから、ある意味ではそいつの言ってる戦法は一番理に適ってる」


生徒「でも、魔法が使えないなんて」

生徒「一体どうしたら」


トム「そいつをどうにかするのが俺達の仕事だ」

トム「お前だって、そのために来たんだろ?」


生徒「それでも、いくらなんでも魔法なしは」


トム「もちろん、魔法が使えないってのが大きなハンデなのは分かってる」

トム「だが、スピードとパワーじゃこっちの方が上だ」

トム「それに……この程度の戦いは朝メシ前だろ? 勇者様」


ジム「ハンッ……俺はあの女を倒すだけだ」

ジム「負けた借りはキッチリ返さなきゃいけねぇからな」

ジム「もっとも、その邪魔をするってなら容赦はしねぇが」


エディ「いつになくやる気じゃねぇか」

エディ「普段の試合でもそれぐらいの気概を見せろってんだよ」


ジム「怖いなら逃げても良いんだぜ?」

ジム「テメェが居なくたってどうにでもなるからな」


エディ「……そこまで言うならやってやるよ」

エディ「テメェこそ、大口叩いてやられるんじゃねぇぞ?」


ジム「フンッ、そんなつもりは端っからねぇよ」


トム「ほら、こいつ等はやる気みたいだぜ?」

トム「お前はどうするんだ」


生徒「僕は……僕だってやってやる!」

生徒「こんなところで学校をやめるなんてイヤだ」


トム「そう来なくちゃな」

トム「なら、試合まで特訓だ」

トム「オメェら、根を上げるんじゃねぇぞ」


<コロシアム 控室>


トム「さて……次は準々決勝か」

トム「思ったほど苦労はしなかった」

トム「正直、拍子抜けだな」


生徒「はは……余裕だね」

生徒「僕なんか、いつ負けるか気が気じゃなかったのに」


トム「ん? 意外だな」

トム「作戦通りに淡々と魔法を撃ってるから」

トム「てっきり、負けるなんて考えが吹っ飛んじまってたと思ってたが」


生徒「確かに、ジムの剣技は凄かったし」

生徒「エディのキックだって百発百中だった」

生徒「でも、元はといえば僕自身の戦いだから」

生徒「自分の精一杯を尽くしただけだよ」


トム「そういう素直な奴は好きだぜ」

トム「なんせ、ウチのチームには独断専行にマイペースと」

トム「扱いに困るヤツらばかりだからな」

トム「お前だって、ジェームズのヤツを見てれば分かるだろ?」


生徒「……苦労してるんだね」


トム「ま、もう慣れちまったけどな」

トム「それより……」


エディ「おい! トム」

エディ「決まったぜ、次の対戦相手が」


トム「どうだった?」


エディ「やっぱりだ」

エディ「ナターシャ率いる生徒会チーム」

エディ「前回の優勝チームが相手だぜ」


トム「だろうな」

トム「よっぽどの事がない限り、そうなるよな」

トム「で、ジェームズの野郎は?」

トム「一緒に試合の結果を見に行ったんじゃなかったのか」


エディ「結果が出たとたんにどっか行っちまったぜ」

エディ「大方、対戦相手にケンカでも売りに行ってんだろ」


トム「全く……どこまでも自分に忠実なヤツだ」

トム「ここまでくると、逆に尊敬できる」

トム「だが、こうなってくるとアイツが作戦通りに動くとは思えないな」


エディ「まぁ……今度の相手にやり返すために参加したみたいなもんだしな」

エディ「オレ達なんかお構いなしに、1人であの会長さんとやり合おうとするぜ?」


トム「なら、仕方ないな」

トム「次の試合には俺が出る」

トム「エディ、悪いがベンチで待機してくれ」


エディ「待機って……んなことできんのかよ」

エディ「3人1チームなんだろ? これ」


生徒「ルール上は大丈夫なはず」

生徒「予備メンバーを登録しておけば、試合前の入れ替えは自由だから」


エディ「なら、いいんだけどよ」

エディ「作戦はどうすんだ?」

エディ「オレがいないんじゃ今までのは使えねぇぞ」


トム「俺がその場で指示を出す」

トム「どうせアイツは作戦なんか聞かねぇんだ」

トム「だったら、作戦を立てるだけ無駄だ」

トム「もはや作戦なんていえる代物じゃねぇが」

トム「現状じゃ、これが一番勝率が高い作戦だ」


エディ「まぁ、他にどうしようもねぇよな」

エディ「ジムの野郎がどう動くのか分からねぇ限り」


トム「そういことだ」

トム「分かったか? ヨハン」


生徒「あ、ああ……」


エディ「どうしたんだよ? 気の抜けた返事なんかして」

エディ「なんか納得できねぇとこでもあったか?」


生徒「いや、そういうわけじゃないんだ」

生徒「ただ……会長相手に本当に勝てるのか、って思って」

生徒「ジムだって、一度負けてるからさ」


トム「さぁ? そんなことは俺達には分からねぇ」

トム「俺達が勝つかもしれねぇし、そうじゃないかもしねぇ」

トム「だが……その勝つ確率ってのを少しでも大きくするために俺達は作戦を練ったり、戦略を考えたりするんだ」


トム「だから、負けるなんて考えは捨てろ」

トム「じゃなきゃ、今度の相手には勝てねぇ」


生徒「そうか……そうだね」

生徒「気持ちで負けたら、そこでお終いだよな」

生徒「折角、ここまで来たんだ」

生徒「こんなところで負けてられない」



  「そろそろ試合の時間です」

  「参加する選手は入場ゲートに移動してください」



トム「……お呼び出しがかかったみたいだな」

トム「エディ、あのバカを連れてこい」

トム「アイツのせいで失格になんてアホらしいからな」


<コロシアム>


  「魔導学園内総合技術対抗試合、準々決勝のチームを紹介します」

  「Aコーナーはナターシャ・シャルパンティエ率いるグリーンチーム」

  「メンバーはナターシャ選手、クロエ選手、アルベルト選手となります」



生徒会長「…」 副会長「…」 書記「…」



  「対して、Bコーナーはヨハン・V・レーヴェンガルト率いるイエローチーム」

  「メンバーはヨハン選手、ジェームズ選手、トーマス選手となります」



生徒「…」 ジム「…」 トム「…」



  「両者、それぞれの位置についてください」


生徒会長「約束は守ってくれているようだな、ジェームズ」


ジム「ここで俺が勝てばそれも終わりだ」


生徒会長「なら、勝たなくてはいけないな」


ジム「フンッ、言ってろ」



書記「こんなところでお前と会うなんてな、ヨハン」


生徒「やっぱり君が出てきたな、アル」


書記「ああ、男同士で試合が出来るなんて滅多にないからな」

書記「この試合、会長のためにも勝たせてもらうぞ」


生徒「望むところだ」



副会長「ええっと……クロエです」

副会長「その……よろしくお願いします」


トム「ああ」


  「では、試合を開始します」

  「用意……」


      ドンッ


ジム「はあッ!」ダッ


副会長「!?」 書記「はや……!」


     カンッ


生徒会長「…っ!」


書記「か、会長!」


生徒会長「大丈夫だ、気にするな」


ジム「ヘッ……やるな」

ジム「普通の奴は受け止められないんだがな」


生徒会長「それは、どうも」


トム(あの野郎……やっぱり突っ込んでったか)

トム「おい! ヨハン」

トム「相手がジェームズに気を取られてる今がチャンスだ」

トム「あっちのヤツを相手しろ」

トム「俺はもう1人を引き付ける」


ヨハン「分かった」


トム「深追いはするなよ」

トム「無理だと思ったら俺のところへ帰ってこい」


ヨハン「…」コクリ


生徒会長「はあっ!」ヒュッ


ジム「!」スカッ

ジム「……危ねぇじゃねぇか」ブンッ


生徒会長「くっ……」カンッ

生徒会長「……君も人の事は言えないだろ」


書記「会長! 今、助けます」


生徒「させるか」

生徒「ライトニングウェイブ!」


書記「なっ……! ぐおっ」



副会長「アルベルト君!?」


トム「おい! こっちだ」

トム「お前の相手は俺がしてやる」


副会長「…!?」


トム(挑発したはいいが……どうする?)

トム(相手の魔法は、防御リングとやらで防げるらしいが)

トム(食らいまくると場外に転送されて負けになっちまうし)

トム(なにより、俺はこんな木刀で魔法使い相手に戦えるほど器用じゃねぇ)

トム(ここは……)


副会長「アイスピラー!」


トム「避けるしかねぇな」

トム「よっ……はっ!」スッ サッ


副会長「……っ!」

副会長「アイスハリケーン!」


   ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


トム(マジかよ……)

トム(あんなもんどうやって避けろってんだ)

トム「クソッ……ぬわっ」


副会長「まだまだ!」

副会長「アイス……」


  「ライトニングパルス!」


    ピカッ


副会長「きゃっ!」


生徒「大丈夫! トム」


トム「悪い、助かった」

トム「もう1人はどうした?」


生徒「それが……」


書記「やってくれたな! ヨハン」


生徒「手に負えなくなっちゃって」


トム「よし、分かった」

トム「サイドチェンジだ」

トム「俺があいつの相手をする、お前はそこの奴を頼む」


ジム「てりゃぁ!」ブンッ


生徒会長「…!」サッ


ジム「やぁ!」ヒュッ


生徒会長「くっ!」カンッ


ジム「オラッ! どうした」

ジム「やっぱりハンデがねぇと俺に勝てないってか」ギリギリ


生徒会長「……かもしれないな」ギリギリ

生徒会長「だが、これはチーム戦だ!」


     ガンッ


ジム「なっ!」ヨロッ


生徒会長「アクアバレット!」


生徒「ライトニ……!?」

生徒「うわっ!」ビチャ


副会長「アイスインパクト!」


    パキンッ


生徒「うわぁあああ!!」シュン



  「イエローチーム、ヨハン選手のダウン」

  「グリーンチームの先制です」



ジム「チッ……やりやがったな」

ジム「だったら……」


  カンッ コンッ カツッ


生徒会長「くっ、早い……!」


ジム「オラァッ!!」


     カキンッ


生徒会長「なにっ……」


書記「食らえ」

書記「ファイアーボールッ!」


トム「……ッ」サッ

トム(クソ……バカの1つ覚えみたいに火の玉撃ちやがって)

トム(これじゃあ、アイツに近づけやしねぇ)

トム(ヨハンがやられちまったからな)

トム(どうにか俺が……)


ジム「オラァア!!」ダッ


書記「何っ!?」


トム「お前! アイツは……」


ジム「黙ってろ」

ジム「コイツは俺がやる」


書記「クソッ! ファイ……」


ジム「遅せぇ!」ブンッ


   パキンッ


書記「ぬわっ……」シュン



  「グリーンチーム、アルベルト選手のダウン」

  「イエローチーム追いつきました」



ジム「よし、次は……」


生徒会長「はっ!」ヒュッ


ジム「なっ…!?」


   カンッ


トム「……危ねぇじゃねぇか」

トム「いきなり突っ込んでくるなんて」

トム「タックルして良いのはボールを持ってるヤツだけだぜ?」


生徒会長「……完全に仕留めたと思ったんだが」

生徒会長「さすがはジェームズの仲間だな」


トム「お褒めに預かり光栄だね」

トム「だが、アイツの仲間だから凄いってのは気に入らねぇな!」ドンッ


生徒会長「!?」ヨロッ


ジム「退け、トム」

ジム「オラッ!」ブンッ


  カァンッ 
       パキッ


ジム「ぐっ……」シュン


生徒会長「……相打ちか」シュン



  「ナターシャ選手、ジェームズ選手、共にダウン」

  「両チームとも最後の1人となりました」



副会長「ナターシャさん!?」


トム(1対1……数だけ見りゃ互角だ)

トム(だが、相手には魔法がある)

トム(こうなったら、玉砕覚悟で特攻するしかねぇ!)ダッ

トム「行くぞ!」


副会長「アイスピラー!」


トム「当たるかよ!」スッ サッ


副会長「ア、アイスハリケーン!」


   ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


トム(関係ねぇ、突っ切る)

トム「うぉぉおおお!!」ダダダダ



副会長「そ、そんな……」


トム(……抜けた!)

トム(ここまで来ればこっちのもんだ)


副会長「…っ!」


トム「行くぜ!」

トム「オラッ……」


副会長「ギガアイスクラッシュ!!」


トム「なっ!?」

トム(まだ隠し玉が……)

トム(ダメだ! 目の前が真っ白になって)


トム「うおぉぁああああ!!」


<学園本棟 救護室>


トム「う、うっ……」


エディ「ん?」


トム「ここは……?」


エディ「おお、トム!」

エディ「目ェ覚めたのか!」

エディ「大丈夫か? どこも痛くねぇか?」


トム「……耳元でピーピー騒ぐな」

トム「頭に響く」


エディ「おう、大丈夫みたいだな」

エディ「心配したぜ」


トム「で、これはどうなったんだ?」

トム「どうして俺はベッドなんかで寝てんだ」


エディ「覚えてねぇか? 最後に魔法食らってたろ」

エディ「実はアレ、結構な大魔法らしくてよ」

エディ「魔法自体はシールドが防いでだらしいが、ちっと刺激が強すぎたみたいで」

エディ「ぶっ倒れちまったから、この救護室に運んできたわけよ」


トム「そうか……」

トム「悪かったな、手間かけさせて」

トム「一応聞いてとくが、試合の結果は?」


エディ「それは、その……負けちまった」

エディ「でも、結構な評判だったぜ!」

エディ「去年の優勝チームを最後まで追い詰めたってんだからよ」


トム「下手な慰めはよせ、返ってみじめになる」

トム「で、他の2人は?」

トム「一緒じゃないのか」


エディ「ヨハンの奴は親父さんに報告しに行ったぜ」

エディ「ジムの野郎は知らねぇ」

エディ「また、どっかで不貞腐れてんじゃねぇか?」

エディ「結局はナターシャに負けちまったし」


トム「また変に捻くれないで欲しいね」

トム「当分アイツの無茶に突き合わされるのは勘弁だ」


エディ「全くだぜ」

エディ「次、何か言いだしたら……ん?」


   コン コン


家政婦長「失礼します」


エディ「お、マーガレットじゃねぇか」

エディ「アンタもトムの見舞いか?」


家政婦長「ええ」

家政婦長「伝言を頼まれたので、そのついでに」


トム「伝言? 誰からだ」


家政婦長「あなたの対戦相手のクロエさんと学園長先生からです」


エディ「学園長って……あの爺さんだよな」

エディ「オレ達なんかマズイことしちまったか?」


家政婦長「いえ、私は言付けを預かっただけなので、詳しいことは……」

家政婦長「それで、どちらから聞きますか?」


トム「……そうだな」

トム「対戦相手の方から頼む」

トム「爺さんのは覚悟が要りそうだからな」


家政婦長「そうですか、では」


  『気絶させてしまって申し訳ありません』

  『試合時間が押しているので見舞いに行けませんがお大事に』


家政婦長「……とのことです」


トム「負かした相手の心配をするなんて随分と余裕だな」

トム「俺の心配をするぐらいなら、次の試合のことを考えりゃあいいのに」


家政婦長「クロエさんに伝えておきましょうか?」


トム「いいのか?」


家政婦長「どうせ表彰式の準備でコロシアムに行きますから」


トム「じゃあ、頼んだ」


エディ「で、爺さんからの伝言ってのは?」


家政婦長「学園長先生からは……」

家政婦長「話をしたいから3人で自分の執務室まで来るように、と」


エディ「あの爺さんがねぇ……」

エディ「悪い話じゃなけりゃいいけど」


トム「そればっかりは聞いてみないと分からねぇな」

トム「じゃあ、ありがとうな」

トム「伝言は確かに受け取ったぜ」


家政婦長「それと……コレをどうぞ」


トム「何だ? それは」


家政婦長「魔法への抵抗力を高める薬です」

家政婦長「どこまで効果があるかは分かりませんが、今回みたいに気絶することは無くなるはずです」

家政婦長「人数分あるので、良かったら飲んでください」


エディ「魔法の薬? 爺さんに届けろって言われたのか」


家政婦長「いえ、私個人の差し入れです」

家政婦長「魔法を使う学園では入用でしょうから」


トム「なら、ありがたく貰っとくよ」

トム「魔法を食らってぶっ倒れるのはこれが最後にしたいからな」


家政婦長「それは結構です」



   「婦長、まだですか?」

   「そろそろ行かないと遅れてしまいます」


家政婦長「では、仕事がありますので」

家政婦長「私はこれで」


エディ「……で、トム」

エディ「本気で飲むつもりか?」

エディ「明らかに怪しい色してるぜ、それ」


トム「俺は他人の厚意を無碍にしない主義なんでな」

トム「行くぞ……ゴク、ゴク」

トム「…」


エディ「……おい、大丈夫かよ?」

エディ「今まで見たことねぇぐらいに渋い顔してんぞ」


トム「……大丈夫だ」

トム「むしろ、最高の気分だね」


エディ「だったら、オレは……」


トム「…」


エディ「わ、分かったって!」

エディ「飲むから! オレも飲むから、そんな目で見んなよ」


<学園本棟 学園長室>


学園長「おお、来とくれたか」

学園長「待っておったぞ」


トム「遅れて悪かったな」

トム「どっかの誰かを探すのに時間がかかっちまった」


ジム「ケッ……」


学園長「試合は惜しかったの」

学園長「あと少しで勝てそうじゃったのに」


トム「負けは負けだ、惜しいもクソもない」

トム「それより、話って何なんだ?」

トム「わざわざ俺達を呼ぶあたり、ただの世間話ってわけじゃないんだろ」


学園長「そうじゃな」

学園長「お主らは回りくどいのは好きじゃないみたいだしのう」

学園長「でも、素直に聞いてくれるか……」


エディ「そういうのが回りくどいって言うんだよ」

エディ「言うなら言うで、さっさとしやがれ」


学園長「では、単刀直入に言わせてもらうとしよう」

学園長「お主たち……講師になるつもりはないか?」


エディ「あ? 講師」


トム「どういう意味だ、そりゃ」


学園長「そのまんまの意味じゃよ」

学園長「この学園の講師になる気はないと聞いておるんじゃ」


トム「どういう風の吹き回しだ」

トム「確かに、俺達がここに居るためには仕事が必要だってのは分かってるが」

トム「それは雑用係で充分だろ?」

トム「それとも……そいつも用務員の仕事の1つだって言うのか?」


学園長「ふむ……やはり、いきなり話しても聞いとくれんか」


エディ「そりゃそうだぜ」

エディ「訳も分からねぇまま『はい、そうですか』なんて言えるかよ」

エディ「頼むんだったら、理由ぐらい教えろってんだ」


学園長「理由か……」

学園長「お主らはどうしてこの学園に来たか、覚えとらんか?」


トム「実験の失敗だが事故だが知らんが」

トム「どっかのバカが異世界に穴を開けて、それに俺達が落ちちまったせいだろ?」

トム「そいつがどうかしたのかよ」


学園長「……実を言うとじゃな」

学園長「お主らが来てから、学園内で実験の失敗や魔法の事故が頻発するようになったのじゃ」

学園長「それが王都のお役人たちの目に留まったみたいでの」

学園長「学園の教師の大半が、王都に連れ出されたり、退職してしまったのじゃ」

学園長「その所為で学園は未曽有の人手不足でな」

学園長「猫の手でも借りたい状況なのじゃ」


トム「で、俺達にその穴埋めをしろってワケか」


学園長「早い話がそういうわけじゃ」

学園長「どうかね? やってはくれないかね」


ジム「ハンッ、くだらねぇな」

ジム「俺はテメェらの尻拭いをするほど暇じゃねぇ」

ジム「講師なら他の奴をあたりな」


学園長「むう、これだけでは押しが足りんか」

学園長「あまり無理強いはしたくなかったんじゃが……」

学園長「そこのお主」


ジム「何だ? 用がねぇなら帰るぞ」


学園長「いつだったか、ウチの剣術の講師を剣で負かしたじゃろう?」


ジム「ああ、あくびが出るような剣だったんでな」

ジム「それがどうしたってんだよ」


学園長「彼はアレを最後に田舎へ帰ってしまったんじゃ」

学園長「自分の剣に随分な自信があったじゃが、心がすっかり折れてしまったらしくての」

学園長「おかげで……今、学園には剣術の講師がいない状況なんじゃよ」


ジム「……それがなんだ」

ジム「あの野郎が勝手に辞めただけじゃねぇか」


エディ「おい! ジム」

エディ「オメェの所為で辞めちまったようなもんだろ?」

エディ「少しは責任ってもんを感じたらどうなんだよ」


ジム「チッ……分かったよ」

ジム「やってやるよ」

ジム「そうすりゃあ、文句ないんだろ」


学園長「おお! 聞きわけが良くて助かったわい」

学園長「これなら、奥の手は使わなくて済みそうじゃ」


トム「おい……奥の手ってのはなんだ?」

トム「まだ、何か脅し文句を持ってたのか」


学園長「いや、大したことじゃないんじゃが……」

学園長「お主たち、学園の対抗試合に出して欲しいと言っておったじゃろ?」


トム「ああ……どっかのバカのせいでな」

トム「で、それが何かに関係あるのか?」


学園長「アレは生徒同士の試合であってな」

学園長「本来なら、学園の関係者でも生徒以外は参加はできないものなんじゃ」

学園長「じゃが、それにも例外があって」

学園長「生徒以外でも教師の見習いや新任講師なら参加できるのじゃ」

学園長「だから……」


トム「俺達をこの学園の講師として試合に参加させた、か」

トム「……最初から俺達を講師にするつもりだったんだな」


学園長「最初は書類だけ書き換えようかと思っておったんじゃが」

学園長「試合でお主らの力量を見てしまっての」

学園長「是非とも手元に置いておきたくなったのじゃ」


トム「ったく……いけ好かねぇ爺さんだ」

トム「いいぜ、やってやるよ」

トム「ここまでされたら逃げられねぇしな」


学園長「うむ、よろしく頼むぞ」


エディ「でも、オレ達は何をすりゃあいいんだよ?」

エディ「魔法なんてからっきしだぜ」

エディ「そんなんで、何を教えりゃいいんだって」


学園長「大丈夫じゃ、魔法を教える教師はなんとか足りとる」

学園長「お主らにやってもらいたいのは、男子クラスの担任じゃ」

学園長「今までは交代制で回してたんじゃが、数が足りなくなってしもうてな」

学園長「あそこなら人数も少ないし、何とでもなるじゃろう」


トム「で、具体的には何をすりゃいいんだ?」

トム「アルファベットの書き取りから始めりゃいいのか」


学園長「お主らの好きにしていい」

学園長「必要な授業は他の教師が受け持つからの」

学園長「お主らは空いた時間に、好きなことを教えていればいいのじゃ」

学園長「どこのクラスもそういう制度にしているからの」


トム「へぇ、そうかい」

トム「そりゃあ、楽しそうだな」


学園長「では、これで話は終わりじゃ」

学園長「細かい話は……」


トム「待て、最後に聞きたいことがある」


学園長「何じゃ?」


トム「ヨハンは……俺達と一緒に試合に出ていたヤツはどうなった?」

トム「アイツが退学になるってなら、この話は無かったことにしてもらうぞ」


学園長「それなら、安心せい」

学園長「彼の退学は無かったことになった」

学園長「まぁ、彼自身が辞めるつもりは無かったのは知っておったからの」

学園長「元から退学など聞き入れるつもりなぞ無かったわ」


トム「それを聞いて安心したぜ」


学園長「他に質問はないな?」

学園長「健闘を祈っておるぞ」


<魔導学園 廊下>


エディ「なぁ、トム」

エディ「ホントにここで合ってんのか?」

エディ「他のクラスの教室とはえらい離れてるぜ」


トム「爺さんに言われた通りにやってきたんだ、間違いはないだろ」

トム「ま、学生寮が男子禁制とか言ってたからな」

トム「教室ぐらい分けててもおかしくないんじゃねぇか?」


エディ「なんか……」

エディ「今更になってイヤになってきたぜ」

エディ「こんなところに追いやられてるヤツらの相手をしなくちゃいけねぇんだろ?」

エディ「考えただけでも、頭が痛くなるぜ」


トム「俺達のチームも大概だろ?」

トム「ヨハンみたいな奴もいるんだ」

トム「そうそう、おかしなヤツはいねぇだろ」


エディ「……そうだといいけどな」


ジム「おい、何くっちゃべってんだよ」

ジム「入るならさっさとしろ」


トム「心配されなくても、今から入るとこだ」

トム「行くぞ」


   ガラ ガラッ


<魔導学園 男子クラス>


エディ「……中は意外と普通なんだな」

エディ「正直、もっと酷いありさまだと思ってたぜ」


トム「俺達の部室じゃねぇんだ」

トム「それなりにキレイにしてるだろ」


生徒「!?」 書記「!」


書記「お前らは……!」


生徒「ト、トム!?」

生徒「エディにジムも!」


トム「よお、ヨハン」

トム「それと……誰だ?」


書記「俺だ! アルベルトだ」

書記「学内試合で戦っただろ!?」


ジム「ああ……あの火吹き野郎か」

ジム「弱すぎて印象に残ってなかったぜ」


書記「何だと! この……」


生徒「ア、アル! 落ち着いて」

生徒「こんなところで魔法なんか撃ったら大変なことになるよ」


トム「そうだ、止めとけ」

トム「コイツを消し炭にして面白い事なんか何もない」


書記「……分かったよ」


  「ヨハン、彼らと知り合いみたいだけど」

  「どこの誰なんだ?」


生徒「ほら、前に話しただろ?」

生徒「学内試合で助っ人を頼んだって」

生徒「それがあの3人なんだ」


  「ああ、彼らが……」


トム「何だ? お前は」


  「俺はこのクラスで学級委員をしているハインリヒだ」

  「ヘンリーでいい」


トム「俺はトーマス」

トム「こいつらは、エドワードにジェームズだ」


学級委員「よろしく」

学級委員「それで……どうしてここに?」

学級委員「何か用事でもあるのか」


エディ「聞いてねぇのか? オレ達の事」


書記「お前達のことなんて聞いてないね」

書記「知ってるのは、新しい担任が入ることぐらいだ」


エディ「なんだ、聞いてんじゃねぇか」

エディ「オレ達がその担任だぜ」


書記「は?」


エディ「だから、今日からオレ達が……」


トム「このクラスの担任だ」


書記「なっ!?」 生徒「本当に!?」


生徒「……そうっだのか」

生徒「それで、このクラスに」


トム「俺もこうなるとは思ってなかった」

トム(異世界の事は適当にぼかして話したけど)

トム(通じたみたいだな)


生徒「ゴメン……僕を手伝ったばっかりに」

生徒「こんなクラスへ飛ばされて」


エディ「気にすんなって」

エディ「女ばっかのクラスなんて居心地が悪くて仕方ねぇからな」

エディ「オレはこっちで良かったと思ってるぜ」


  「僕は女性の方が良かったね」

  「新しい担任と聞いて期待してたのに」

  「むさ苦しい男ばかり3人なんて、ガッカリにもほどがある」


エディ「なんだ? お前」

エディ「ケンカ売ってんのか?」


  「男の担任でも、もっと上品な人を期待してたのに」

  「これじゃあ、まるでダメだ」

  「特に1番右の君」

  「口が悪けりゃ、顔も悪い、おまけに背が小さいと来てる」

  「とても人前に出せる代物じゃないね」


エディ「んだと? このブロンド野郎が」

エディ「それが初対面の人間に向かって言うことこか?」

エディ「今すぐ、その減らず口を利けなくしてやろうか! ああ!?」


ジム「クックックッ……こりゃ傑作だ」

ジム「人前に出せる人間じゃない……」

ジム「テメェとは気が合いそうだぜ」


  「そんな風に思われるとは心外だね」

  「君は、顔は良いけど……それだけだ」

  「ガラの悪そうなオーラがにじみ出てるし、何より教養が無さそうだ」

  「そんなんで僕を同列に扱わないでくれ」


ジム「テメェ……」

ジム「サシミにされてぇみてぇだな」

ジム「いいぜ、立派な活け造りにしてやるよ」ジャキ


トム「おい! バカ」

トム「剣なんか抜くんじゃねぇ!」

トム「仮にもこいつは生徒だぞ!?」


ジム「邪魔するんじゃねぇ」

ジム「こいつには体で教えてやらねぇと気がすまねぇんだ」


エディ「そうだぜ、トム」

エディ「これから長いこと一緒に過ごすんだ」

エディ「愛のある教育ってのやってしてやらねぇとな」


  「はぁ……うるさいな」

  「少しは静かにするってことが出来ないのか」


ジム「何だ? テメェは」

ジム「俺達はこのブロンド野郎に話があるんだ、外野は黙ってろ」


  「アンタらの声がうるさくて集中できないんだ」

  「ケンカをするなら外でやってくれ」


  「何を言ってるんだよ?」

  「ケンカなんて野蛮なこと、僕がするはずないじゃないか」

  「これはタダの話し合いさ」


  「何が『タダの話し合い』だよ」

  「人のことを挑発しておいてさ」

  「確かにソイツらは、口も悪いし、ガラも悪い」

  「おまけに、簡単に挑発に乗るバカだ」
  

エディ「おい! 待ちやがれ」

エディ「今……」


  「でも、こんな奴でも担任だっていうなら黙ってろよ」  

  「そんなんだから、女子からも煙たがられるんだ」

  「みんな陰でお前の事こう言ってるぞ」

  「空気の読めない勘違いウィリアムって」


  「……そんなこと言っていいのかい? ポール」

  「僕は知ってるんだぞ」

  「君が1コ下の女子にご執心だって」


  「!?」


  「遠巻きに眺めてるだけみたいだけど」

  「教えてあげた方が良いかな?」

  「……変質者が君を見てるって」


  「お、お前……」


ジム「おい! テメェら」

ジム「散々ケンカを売っておいて、無視するんじゃねぇ!」

ジム「表へ出ろ! そこで決着を付けてやる」


エディ「ジム、久々に名案だぜ」

エディ「コイツらとはキッチリ話し合いをしなくちゃならねぇからな」


  「……そうだね」

  「こんなところでじゃ、話し合いなんてできそうにない」


  「ああ、自分の教室がメチャクチャになるのは嫌だ」


ジム「よし、こっちだ」

ジム「付いてこい」


トム「なぁ、ヨハン」

トム「……アイツらもこのクラスの生徒なのか?」


生徒「ああ、うん」

生徒「ブロンドの方がウィル……ウィリアムで」

生徒「眼鏡をかけてる方がポール」

生徒「2人ともこのクラスの生徒だよ」


トム「アレを相手しなくちゃいけねぇのか」

トム「……頭が痛くなってきた」


学級委員「いや、彼らはまだマシな方さ」

学級委員「このクラスにはもっと凄いのがいるんだ」


書記「ああ……下手に逆らえない偏屈中の偏屈がな」


トム「何だ? それは」


書記「王子様だ」


トム「あ?」


<職員寮 廊下>


トム「で、そいつは本当に王子様なんだな?」


学級委員「まぁ、王子とは言っても側室の子供で王位継承権は4番目」

学級委員「世継ぎも殆ど決まっているから、王様にはなれないだろうけどな」

学級委員「それでも、王族には変わらないから」

学級委員「教師も下手に扱えないんだ」


トム「それで引きこもりとは、いい度胸だ」

トム「引きずり出してやる」


書記「止めとけよ」

書記「どうせムダだし、そんなことしたらお前らのクビが飛ぶぞ」


生徒「そうだよ、トム」

生徒「先生達だって、王子を外へ出そうとしないんだから」

生徒「下手なことしたら君が危ない」


トム「なら、望むところだ」

トム「俺だって、なりたくて講師になったんじゃねぇんだ」

トム「向こうからクビにしてくれるんなら、願ったりかなったりだぜ」


生徒「でも、トム」

生徒「そんなこと言ったって……」


トム「心配すんなよ、ヨハン」

トム「多少の事じゃ俺達はどうにもならねぇ」


書記「おい、着いたぞ」

書記「ここがアイツの部屋だ」


学級委員「早速、呼び出してみよう」


   コン コン コン コン


学級委員「俺です、ハインリヒです」

学級委員「王子、扉を開けてもらえませんか?」


扉「…」


トム「おい、反応がないぞ」

トム「本当にこの部屋にいるのか?」


生徒「何時もこうだ」

生徒「1日中部屋に閉じこもって」

生徒「食事を運ぶとき以外は、誰も部屋に入れようとしない」


書記「だから、言っただろ?」

書記「偏屈中の偏屈だって」


トム「筋金入りの引きこもりってわけか」

トム「面白い……やってやるよ」

トム「ヘンリー、そこを退け」

トム「俺が代わりにやる」


学級委員「いや……でも」


トム「いいから、俺に任せとけって」


学級委員「そこまで言うなら、ほら」


トム「よし」 


   ガン ガン ガン ガン


トム「おい! いるのか?」

トム「いるなら返事をしやがれ」

トム「十秒以内に返事をしねぇと、このドアぶち破るぞ」


生徒「ト、トム?!」

生徒「何を言って……」


トム「10」


生徒「それはさすがにマズイって!」

生徒「ほら、また来ればいいからさ!」


トム「7……」


学級委員「ヨハンの言うとおりだ、トーマス」

学級委員「いくらなんでも、それは……」


トム「あー、うるせぇ!」

トム「カウントを忘れちまったじゃねぇか」

トム「もういい……警告はしたんだ、ぶち破ってやる」


生徒「いや、だから!」


トム「アルベルト」

トム「そいつらを抑えてろ、近づかれると迷惑だ」


書記「ああ、任せとけ」


学級委員「アル、お前!」


書記「いや、いい機会だし」

書記「手伝う分には問題ないだろ?」


トム「おし、行くぞ!」

トム「うりゃぁ!!」ガンッ  


   バキッ  バタンッ



<職員寮 王子の部屋>


トム「ここが王子様の部屋ねぇ」

トム「最上階の角部屋とは、いいとこ住んでんじゃねぇか」

トム「俺達の部屋と交換してほしいぐらいだ」


  「だ、誰だ!?」


トム「アンタがカールとかいう王子か」


王子「お前は誰だ!」

王子「誰の許可があってこんなことをした!?」


トム「許可?」

トム「んなもん、俺が許可したに決まってるじゃねぇか」

トム「ほら、外へ出るぞ」

トム「こんなとこに引きこもってると腐っちまう」


王子「こんなことをしてタダで済むと思ってるのか?」


トム「なんだ? 俺のクビを切るってか」

トム「だったら、やってみろ」

トム「望むところだ」


王子「なっ……」


学級委員「トーマス、止めるんだ」

学級委員「それ以上はマズイ」


生徒「そうだよ、トム」


王子「アルベルト! ヨハン!」

王子「これをどうにかしろ!」

王子「コイツは一体、何者なんだ」


生徒「ええっと……何て言ったらいいか」

生徒「とにかく、トムは僕らの新しい担任で……」


トム「引きこもりがいるって言うから、来てやった」

トム「不登校は見過ごせねぇからな」


王子「こんな奴が担任?」

王子「そんなバカな……」


書記「残念ながら本当ですよ」

書記「俺達だって、今日初めて知ったんだから」


王子「お前、名前は?」


トム「随分と偉そうな態度じゃねぇか」

トム「こういう時は自分から名のるのが礼儀ってもんだろ?」


王子「……ボクが誰だか分からないのか?」

王子「その気になれば、お前なんてどうにでもできるんだぞ」


トム「王子様だって言うんだろ? 笑わせるぜ」

トム「権力とかいう悪趣味なモンを振りかざして」

トム「思い通りにならないと駄々をこねるガキにしか見えねぇよ」


王子「なんだと!」

王子「この……」


学級委員「王子!? 何を」


王子「うるさい! 黙れ」

王子「コイツにはボクの手で分からせてやる!」


トム「おっと……そうはいかないぜ」

トム「ヨハン、その剣をこっちに放り投げろ」


生徒「あ……えっと」

生徒「済みません、王子」ポイッ


王子「!?」


トム「おう、悪いな」ガシッ


王子「ヨハン! どうしてだ」

王子「どうしてそんな奴に手を貸した」


生徒「それは……」


トム「ヨハンを責めてやるなよ」

トム「コイツだって、アンタを人斬りになんかさせたくないんだ」

トム「仮にもクラスメイトだろ?」

トム「もう少し仲良くしてやったらどうなんだ」


王子「うるさい! 黙れ」

王子「お前なんか剣が無くても!」


トム「止めとけよ」

トム「取っ組み合いのケンカじゃ、俺に勝てねぇんだから」


王子「黙れ!」

王子「お前の言うことなんか信じられるか」


トム「はぁ……仕方ねぇな」

トム「そんなに勝負したいってなら、乗ってやる」

トム「ただし、条件があるがな」


王子「……条件だと? 何だそれは」


トム「ケンカは無しだ」

トム「ちょっとしたゲームで勝敗を決める」


王子「ゲーム?」

王子「何だ、それは」


トム「俺がボールを持って逃げ回る」

トム「お前がそのボールを奪えたら、お前の勝ち」

トム「逃げ切ったら、俺の勝ち」

トム「簡単だろ?」


王子「何をバカな……」


トム「いいのか? そんなこと言って」

トム「俺はどっちでも良いんだけどな」

トム「取っ組み合いのケンカよりは、よっぽど勝機があると思うぜ?」


王子「……いいだろう」

王子「その勝負、受けてやる」

王子「ただし、ボクが勝ったら」

王子「二度とボクの前に現れるな」


トム「いいぜ、引きこもってようが何しようが自由にしやがれ」

トム「だが……俺が勝ったら」

トム「毎日教室へ来て授業を受けてもらう、いいな?」


王子「いいだろう」

王子「精々、捕まらないように逃げ回るんだな」


トム「ああ……そうさせてもらう」


<魔導学園 グラウンド>


王子「うおぉぉぉぉ!!」


   ダダダダダダ


トム「よっと」サッ


王子「やぁああ!!」


トム「ほら、こっちだ」スッ


王子「はぁ……はぁ……」


トム「いい加減、諦めたらどうだ?」

トム「もう、何時間もこのままだぜ」


王子「……うるさい!」

王子「お前に……勝つまで、やって……やる」


トム「そうかい」

トム「だったら、諦めてもらうしかないな」


王子「諦める……もんか」


トム「行くぜ」

トム「歯ァ食いしばれよ!」

    
   ドンッ


王子「ぐあっ……」ドサッ


学級委員「王子、もう辞めましょう」

学級委員「彼に勝つのは無理だ」


王子「う、うるさい」

王子「こんなやつに……負けるもんか」


トム「ほう、良い根性してんじゃねぇか」

トム「もっとナヨナヨした奴だと思ってたけどな」

トム「見直したぜ」


王子「そんなこと言って……同情を誘ってもムダだぞ」

王子「ボクは勝つまでやるからな」


トム「いいぜ、かかってこいよ」


王子「うおぉぉぉぉお!!」


   ダダダダダダ


トム「やるな」ガシッ

トム「だが、まだまだだな」


    ドンッ


王子「ぐわっ…」ドサッ

王子「がっ……ゲホッ、ゲホッ」


生徒「それ以上は無理ですって」

生徒「ほら、いったん休憩しよう」

生徒「いいだろ? トム」


トム「ま、それで勝てるっていうならな」


王子「……るさい」

王子「ボクは、勝つまで……」


  「トーマス!」

  「こんな所に居たんだな、探したぞ」


トム「ん? アンタは」


書記「会長に副会長!?」

書記「どうしてこんなところに」


生徒会長「アルベルト、お前もここに居たのか」 


書記「は、はい」

書記「一応……クラス行事みたいなものなので」


生徒会長「クラス行事?」


書記「えっと、それは……」


副会長「あ!」

副会長「君、大丈夫?」


王子「!?」

王子「な、なんだ?」


副会長「そんなに汚れて、何があったの?」 


王子「いや……ボクは」


副会長「ここ擦りむいてるじゃない」

副会長「見せてみて」


王子「な、何を……」


副会長「いいから、ほら」

副会長「そういうのは放って置くのが一番よくないんだから」


王子「だから、何を」


トム「……どうなってんだ? これ」


生徒会長「彼女の悪い癖だ」

生徒会長「ケガしている人を見ると誰かれ構わず世話をやく」

生徒会長「それで厄介ごとを引き受けても平気な顔してるからな」

生徒会長「博愛主義なのか、何も考えてないのか」

生徒会長「まぁ、そこがクロエの良い部分でもあるんだがな」


トム「手当たり次第にケンカを売るよりはよっぽどマシだ」

トム「そいつのお陰で、とんだ迷惑を被ってるからな」


生徒会長「……苦労してるんだな」

生徒会長「それで、クロエが手当てしているのは誰だ?」

生徒会長「初めて見たが……お前の知り合いか?」


トム「知らないのか?」

トム「6人しかいない男子クラスの一員だろ」


生徒会長「6人?」

生徒会長「私が知ってるのは5人だけだが……」

生徒会長「記憶違いをしてたのか?」


トム(おい、ヨハン)

トム(どうなってんだ? これは)


生徒(……王子の事は僕らしか知らないんだ)

生徒(入学してから引きこもりっぱなしだから、王子を見たことがある人が少ないし)

生徒(本当のことを言っても、質の悪い噂ぐらいにしか思われない)

生徒(だから、僕達以外の女子生徒は王子の事を知らないんだよ)


生徒会長「どうした?」

生徒会長「何かマズイことを聞いてしまったか?」


トム「いや、何でもねぇ」

トム「ちょっと確認したいことがあっただけだ」


生徒会長「で、彼の正体は?」

生徒会長「やはり、そっちのクラスの1人なのか」


トム「ああ……アイツは正真正銘、俺のクラスの6人目だ」

トム「ずっと引きこもってたらしくてな」

トム「さっき部屋から引きずり出してきたところだ」


生徒会長「そんな生徒がいたとは」

生徒会長「会長になっても知らないことはまだまだあるな」


トム「話は戻るが……」

トム「アンタは何しに来たんだ?」

トム「俺達の事を探してるみたいだったが」


生徒会長「運動場の方が騒がしいと生徒が騒いでいてな」

生徒会長「先生方は手が離せないということで、私達が確認しに行ったのだ」

生徒会長「そしたら、ジェームズ達4人が……」


トム「……もういい、分かった」

トム「アイツらのケンカを止めてくれって言いたいんだろ?」


生徒会長「私もあの乱闘の中に割って入ることは出来ないからな」

生徒会長「済まないが、力を貸してくれ」


トム「こっちこそ、迷惑をかけて悪い」

トム「あのバカどもは責任をもって俺達が何とかする」

トム「いいな? お前達


生徒「まぁ、放っとくのマズイしね」


書記「もちろん行くさ」

書記「会長の頼みだ、断るはずがない」


学級委員「しかし……」

学級委員「アレはどうするんだ?」



王子「痛っ……」


副会長「それぐらい、ガマンしなきゃ」

副会長「男の子のでしょ?」


王子「それは……そうだけど」


副会長「だったら、泣き言を言わないの」


王子「あ、ああ」


トム「……放っとけ」

トム「引きこもりにはいいクスリだろ」


生徒「確かに……王子がこの学園で女子と話すなんて初めてだろうし」

生徒「これで、少しは外へ出るようになって欲しいね」

生徒「ご飯を届けるのに、いちいち階段を上るのは大変だからさ」


トム「アイツの飯、お前らが運んでたのか?」


学級委員「ああ、当番制でな」

学級委員「休日以外は毎日日替わりで運んでる」


トム「そいつは難儀なこった」

トム「よく今まで続けられたな」


学級委員「半分日課みたいなもんだから」


書記「行くなら、さっさとしよう」

書記「会長も待ってるんだ」

書記「これ以上放っておくわけにも行かない」


トム「分かってるって」

トム「ほら、行こうぜ」


王子「なぁ……どうして、手当てなんか」

王子「お前には関係ないだろ?」


副会長「理由なんてないよ」

副会長「ケガしてるのをみたから、手当てしてるだけ」

副会長「君にはそういうことはないの?」


王子「ボクは……」


副会長「まぁ、無理しなくていいよ」

副会長「こんなこと言っても、理解してれる人はあんまりいないし」


王子「……お前の名前は?」


副会長「クロエ」

副会長「君はの名前は?」


王子「…」


副会長「アレ、言いたくない?」

副会長「だったら、無理しなくても」


王子「いや……ボクは」

王子「ボクの名前はカールだ」


<魔導学園 グラウンド>


生徒「はぁっ!」ダダダダ

  
    ボスッ


トム「よし、いいタックルだ」

トム「なかなか様になってきたじゃねぇか」

トム「ウチのチームの連中にも見せてやりたいぜ」


生徒「……うん」


トム「どうした? 気のない返事なんかして」

トム「何か気に食わないことでもあったか」


生徒「そういう訳じゃないけど」

生徒「トムたちが来て、1ヶ月」

生徒「なんか……僕は何をやってるんだろうって考えちゃって」


トム「フットボールの練習が嫌になっちまったのか?」

トム「だったら、ジェームズの野郎に剣技でも教えて貰ったらどうだ」

トム「今はアルベルトの奴に付きっきりみたいだが、1人増えるぐらいどうってことないだろ」


生徒「……それは遠慮しておくよ」

生徒「折角、アルが『会長の代わりなら自分が相手をする』って言ってくれたしね」


トム「なら、どうしたんだ?」

トム「イヤに憂鬱なことを言って」


生徒「何というか……最近は先生の急用とかで授業はめっきり減って」

生徒「魔法を使ってるより、フットボールの練習やってる時間が長いしさ」

生徒「しつこかった父さんからの手紙も、あの試合から全く音沙汰がないし」

生徒「魔法を学ぶために残ったのに何やってるんだろう、って」


トム「そうか……」


生徒「もちろん、トムたちの練習がつまらないってわけじゃないんだ」

生徒「引きこもってた王子とも普通に話せるようになったし」

生徒「でも、本当にここへ残って良かったのかって思ってさ」


トム「さぁ? そんなことは俺には分からない」

トム「ただ……お前のここに残りたいって気持ちは本物だったと思うぜ」

トム「見ず知らずの俺達に助けを求めて、過程はどうであれジェームズの野郎を動かしたんだ」

トム「生半可な気持ちで出来ることじゃない、そう思わないか?」


生徒「うん、まぁ……」


トム「だったら、その時の自分を信じてやれ」

トム「考え直すのは、それからでも遅くはないだろ?」


生徒「そうだね」

生徒「折角ここに居られるようになったんだ、もう少し考えてみるよ」


エディ「おーい、トム!」


トム「ん、どうした? 練習中だろ」

トム「ヘンリーの奴にでも振られたか」


学級委員「そういう訳じゃない」

学級委員「人探しを頼まれたんだ」

学級委員「お前達、王子を見てないか?」


生徒「王子? こっちには来てないけど」


トム「また、部屋にこもってるんじゃないのか?」

トム「アイツのことだ、外の明かりが眩しくなったんだろ」


生徒「でも、急に引きこもりに戻るなんて……」

生徒「この1ヶ月は毎日部屋から出てたんだよ?」


エディ「そうだぜ、トム」

エディ「部屋ならとっくにオレ達が探したんだ」

エディ「そこにいないっていうからお前のとこまで来たんだよ」


トム「じゃあ、何処だ?」

トム「アイツがジェームズのところに行くとは思えねぇし」

トム「俺達のところ以外となると……」


  「あの! もしかしたら」

  「召喚の洞窟かもしれません」


トム「アンタは……」


ブロンド「これは、これは……」

ブロンド「生徒会の副会長、クロエ嬢ではありませんか」


副会長「えっと……君は?」


ブロンド「彼らのクラスメイトのウィリアムだ」

ブロンド「ウィルと呼んでくれ」


エディ「テメェ……どこから湧いてきたんだよ」

エディ「練習に参加しねぇってなら大人しくしてろ」

エディ「あのメガネ野郎だって、そうしてんだから」


ブロンド「悪いけど、君みたいなガサツな人間の相手をしてる暇はないんだ」

ブロンド「さぁ、クロエ」

ブロンド「この僕に理由を話してくれ」


エディ「コイツ……バカにしやがって」


トム「止めろ、エディ」

トム「こんなとこでケンカしても体力の無駄だ」


ブロンド「そうさ、エディ」

ブロンド「ケンカなんて野蛮なもの」

ブロンド「レディに見せるわけにはいかないだろ?」


トム「ウィリアム……お前もだ」

トム「今すぐ、そのむせ返るような甘ったるい口調をやめろ」

トム「これ以上聞かされたら、お前をタコ殴りにしちまう」


ブロンド「しょうがない、分かったよ」

ブロンド「君の脅しは本物だろうからね」


副会長「その、済みません」

副会長「私が口を出したばっかりに……」


トム「気にするな」

トム「それより、どうしてコイツらと一緒にいるんだ?」


副会長「それは……」


学級委員「王子を探してたのは彼女なんだ」

学級委員「俺たちは彼女に頼まれて、王子探しを手伝ってただけだ」


トム「どうしたって、そんなことを?」

トム「何か問題でもあったのか」


副会長「ええっと……」

副会長「実は私、おばあちゃんの形見の懐中時計を失くしちゃって」

副会長「それを探してる時にカール君に会って、説明したら」


  『懐中時計? それぐらいボクが見つけてやるさ』


副会長「って、言われて」

副会長「悪いって断ったんですけど……」


  『心配するな、ボクに任せろ』

  『それで、どこで失くしたのか分かるか?』


副会長「それで……校舎は探したから、後は外かもしれないって答えたら」


  『よし、ボクが探して来てやる』


副会長「……って探しに行っちゃって」

副会長「やっぱり断ろうと思って、みんなに探してもらってたけど」

副会長「グラウンドも運動場も何処を探しても見つからないんです」


副会長「でも、この前の事件を思い出して……」


トム「この前の事件?」


学級委員「グラウンドの爆発騒ぎじゃないか?」

学級委員「魔法に失敗して、校庭と洞窟を結ぶ穴が開いたとか」


エディ「まさか、その洞窟ってのが……」


副会長「はい……それが召喚の洞窟です」


生徒「た、大変だよ! トム」

生徒「あそこは召喚に失敗したモンスターやクリ―チャーの巣になってる」

生徒「ちょうど1ヶ月前の事件だから、王子は知らないんだ」


トム「全く……世話の焼ける奴だ」

トム「よし、お前ら」

トム「今からアイツを探しに行くぞ、いいな?」


生徒「もちろん」


エディ「まぁ、放っとく訳にもいかねぇしな」


トム「お前らは?」


学級委員「仮にも王子だからな」

学級委員「見捨てるわけにはいかない」


ブロンド「レディの頼みとあったら断るわけにはいかないさ」

ブロンド「彼にはちゃんと戻ってきてもらわないと」

ブロンド「女性の涙は見たくないからね」


トム「なら、決定だな」


副会長「私も行きます!」

副会長「こんなことになったのは私が原因だから」

副会長「私が行かないと」


ブロンド「ダメだよ、クロエ」

ブロンド「君を危険な目に合わせるわけにはいかない」

ブロンド「王子だってそう思ってるはずだ」

ブロンド「彼は僕が必ず連れ戻すから、ここで待っていてくれないかい?」


副会長「でも……」


トム「そいつの言う通りだ」

トム「言い方は全くもってカンにさわるが、言ってることは正しい」

トム「だから、ここで待っててくれ」

トム「アンタだって、格好つけたクセに迷子になってる姿なんか見られたくねぇだろ?」


副会長「それでも……」


エディ「安心しろって」

エディ「アイツはオレ達が絶対に見つけてやるからさ」


副会長「……分かった」

副会長「カール君をお願いします」


トム「ああ、任せておけ」


<召喚の洞窟>


エディ「ここが召喚の洞窟ねぇ……」

エディ「暗くて、ジメジメして、正に洞窟って感じだな」


学級委員「ここは元々学園の地下にあった洞窟を再利用してるだけだからな」

学級委員「補修も最低限のものしかしてないし」

学級委員「一番奥に何があるか、まだ分かってない」


エディ「いいのかよ……そんなもんを使ってて」

エディ「それに、モンスターやクリ―チャーの巣とか言ってたな」

エディ「ありゃどういう意味なんだよ?」


生徒「言葉通りの意味だよ」

生徒「ここは、一昔前に流行ってた召喚魔法の実験場で」

生徒「呼び出したモンスターがここに住みついてるんだ」


トム「召喚魔法ねぇ……」

トム「名前からして大方の想像がつく」

トム「どうせ、モンスターだかなんだかを呼び出したはいいが」

トム「元に返せなくなってここに放置したんだろ」


生徒「まぁ……大体はそんな感じかな」

生徒「それで、召喚魔法は危険すぎる魔法ってことで禁術になって」

生徒「その実験場だったこの洞窟は閉鎖されたんだ」


トム「ところが、魔法の失敗だかで大穴があいちまって」

トム「何も知らない王子様が迷い込んじまったってワケか」

トム「全く……迷惑な話だぜ」


ブロンド「仕方ないさ」

ブロンド「魔法の失敗は誰にでもある」

ブロンド「今回はたまたま運が悪かっただけさ」


エディ「そういう割りには多すぎねぇか?」

エディ「こっちに来てから、そこかしこで魔法が失敗してるぜ」

エディ「ひょっとして、誰かがワザとやってるなんてことはねぇのか?」


ブロンド「そ、そんなことは……」


学級委員「ない……とは言い切れないけど」

学級委員「そんなことをして誰が得をするんだ?」

学級委員「一連の騒動のせいで教師の数は足りてないみたいだし」

学級委員「授業が出来なくなる分、学生や教師にとって良いことはないだろう」


エディ「そりゃ……お前」

エディ「おい、トム」

エディ「何かねぇか? 事故を起こして得するような理由がよ」


トム「自分で言い出した癖に、俺に振るんじゃねぇよ」


エディ「そんなこと言わずにさぁ」


トム「しょうがねぇな」

トム「そうだな……」

トム「ただの嫌がらせってのはどうだ?」


学級委員「嫌がらせ?」

学級委員「それはどういう意味だ」


トム「誰にも良いことはない、みたいなことを言ってたが」

トム「中には居ると思うぜ?」

トム「教師たちが困ってるのを見るのが楽しい、なんて捻くれた奴が」

トム「そんなやつが問題を起こして1人で楽しんでるってなら」

トム「そいつ自身は得するだろ?」


学級委員「確かに……」


トム「ま、そんな妄想劇を繰り広げたところで何も出ない」

トム「さっさと進んで……」


    ゴォォオオン  

   「うぁあああ!!」


生徒「これって!?」


トム「話は後だ! 行くぞ!!」


<召喚の洞窟 窪んだ広場>


王子「くっ……来るなぁ!!」


  「…」ポヨン ポヨン



生徒「王子!?」


エディ「何だよ!? あのゼリーみたいなヤツ!」


学級委員「プリンだ!」


エディ「何なんだよ!? そりゃ」

エディ「アイツを襲おうってのか!?」


ブロンド「説明は後だ!」

ブロンド「とにかく、王子を助けないと」


王子「や、やめろ……」

王子「こっちに来るんじゃない!」


  「…」ポヨン ポヨン



生徒「王子!」



王子「ヨ、ヨハン?!」

王子「助けに来てくれたのか!?」


  「…」ポヨン ポヨン



生徒「そうだ!」

生徒「だから、早くこっちに!」



  「…」ポヨン ポヨン


王子「ム、ムリだ!」

王子「化け物に道を塞がれてて……」

王子「コイツはボクを食べるつもりなんだ!」


生徒「そんな……」

生徒「トム! どうしよう!?」


トム「どうするもこうするも、助け出すしかねぇだろ」

トム「俺とエディで奴の注意をひきつける」

トム「その間に、お前ら3人でアイツを引きずってこい」


生徒「わ、分かった」


学級委員「ああ」


ブロンド「まかせてくれ」


トム「よし、エディ」

トム「俺が適当に石ころを投げる」

トム「自慢のシュートをあのゼリー野郎に叩き込んでやれ」


エディ「おし、任せとけ!」


トム「じゃ、行くぜ」

トム「作戦開始だ!」


  「…」ポヨン ポヨン


王子「ひっ……」

王子「は、はやく」

王子「早く助けてくれ!」



トム「ほら、エディ」ポイッ


エディ「食らえっ!!」バシッ


  「…」ボスッ ボテッ


エディ「命中! ……って、おい!」

エディ「弾かれちまったぞ!?」



  「…」ポヨン ポヨン


王子「お、おい! 何してるんだ」

王子「全然効いてないぞ!?」


トム「んなこと見りゃ分かる!」

トム「大人しく助けられるのを待ってろ!」



王子「うるさい! ボクに……」


 「…」ポヨン ポヨン


王子「ヒッ……来るな!」

王子「お願いだから、早く!」



エディ「どうすんだよ! トム」

エディ「これじゃあ、ヨハン達も近づけねぇぜ!?」


トム「いいから、やるしかねぇ」

トム「アイツが反応するまで続けるぞ!」

トム「ほらッ」ポイ ポイ ポイ ポイッ


エディ「やっ! ハッ、ほっ……たあッ!」


   バシッ ガシッ ドンッ バシッ


   「…」ボスッ ボスッ ボテッ ボヨォン

   「…」ポヨ ズズズズズ


エディ「あの野郎がこっちを向いたぜ!」


トム「よし! 今だ」

トム「ヨハン! そいつをこっちに連れてこい」



生徒「王子! こっちだ」


王子「わ、分かった!」


学級委員「さぁ、はやく!」


ブロンド「僕らの後ろに」



  「…」ポヨン ポヨン

  「…」ポヨン ポヨン ポヨン ポヨン


エディ「トム!」


トム「走れ!」

トム「一気に出口まで……」


  ボヨォォォォオオン

   ドシィイン


  「…」ポヨン ポヨン


エディ「ア、アイツ……!?」


トム「……飛びやがった」


エディ「そんなのアリかよ」


生徒「どうしよう!?」

生徒「これじゃあ、出口まで行けない」


トム「回れ右だ!」

トム「アイツから逃げるぞ」


王子「もうムリだ」

王子「出口を塞がれたんだ、逃げ場なんて……」


トム「黙ってろ!」

トム「死にたくなかったら走れ」


  「…」ポヨン ポヨン


  「…」ポヨン ポヨン


エディ「クソ、まだ追ってきやがる」

エディ「何なんだよ!? アイツは!」


学級委員「アイツはプリン」

学級委員「召喚魔法に失敗したときに出てくる失敗作だ」


トム「失敗作? その割には随分とデカくて速いな」

トム「あんなもんがポンポン呼び出されたら堪ったもんじゃないぞ」


ブロンド「多分、アレはプリンの集合体さ」

ブロンド「一体一体は弱くても、何匹も集まって合体したおかげで」

ブロンド「あんな化け物ができあがったんだ」


トム「ここの大ボスって訳か」

トム「面倒な奴に目を付けられたぜ」


生徒「でも、どうして2人はそんなことを?」

生徒「召喚魔法なんて習ったこと無いはずなのに」


エディ「んなことより、あのバケモンをどうにかする方法はねぇのかよ?」

エディ「文字通りのデスレースなんてシャレにならねぇぜ」


トム「何か弱点とかはねぇのか?

トム「アンタらお得意の魔法とかで」

トム「蹴り付けたボールが跳ね返されたんじゃ、俺達はお手上げだ」


学級委員「プリンの弱点は決まった属性の魔法だ」

学級委員「弱点に極端に弱く、苦手な魔法を当てれば溶けてなくなる」

学級委員「だが、それ以外の攻撃はほとんど効果はない」


トム「決まった属性?」

トム「何だ、それは」


ブロンド「プリンの色で分かるんだ」

ブロンド「黄色なら土、赤なら氷属性……みたいにね」

ブロンド「アイツの色は青色だから炎属性の魔法が有効さ」


王子「…」


トム「で、炎の魔法を使えるヤツは?」

トム「いるなら、さっさと魔法をぶつけてやってくれ」


生徒「ゴメン、僕は使えない」


ブロンド「僕も」

ブロンド「炎なんて物騒な魔法は使えないね」


エディ「ダメじゃねぇか」

エディ「これならアルベルトの奴を連れてくるんだったぜ」

エディ「確か、アイツも炎の魔法を使ってたろ?」


学級委員「いや、待ってくれ」

学級委員「俺達の中にも炎使いはいる」


ブロンド「ヘンリー、それは……」


学級委員「でも、こうするしか」


エディ「どうしたんだよ、おい!」

エディ「炎使いがいるって話だろ」

エディ「オメェがそうなのか? ヘンリー」


学級委員「いや……王子だ」


エディ「おい! 本当かよ」

エディ「お前、炎の魔法が使えんのか!?」


王子「……ああ」


エディ「おし、やったぜ!」

エディ「さっそくアイツにお見舞いしてやれよ!」


王子「……ムリだ」

王子「ボクにはできない」


トム「あ? どういうことだ」

トム「お前は炎を使えるんだろ?」


王子「だから、ムリなんだ」

王子「魔法なんて……ボクには使えない」


エディ「おいおい、そりゃどういう意味だよ?」

エディ「魔法の学校に通ってるってなら、魔法ぐらい使えるだろ」


王子「…」


エディ「ほら、お前の魔法でさ」

エディ「あのプリンとかいうゼリー野郎を追っ払っちまえよ」


王子「だから、ムリなんだよ!」

王子「ボクには魔法なんて使えない」

王子「魔法でアイツを倒すなんてできないんだ」


生徒「王子、まさか」

生徒「君が引きこもってた理由って……」


王子「そうさ、魔法を使えないからだよ」

王子「どんなに頑張っても、マッチ程度の炎しか起こせない」

王子「こんなので魔導学園にいるのもバカみたいだ」


エディ「じゃあ、なんだってこんなとこに居んだよ?」


王子「ボクだって……」

王子「こんな居心地の悪いところは、すぐにでもいなくなりたかった」

王子「でも、王都に帰るわけにもいかない」

王子「母さんが居なくなって、王都に居場所の無くなったボクにはこの学園以外なかったんだ」


生徒「王子……」


ブロンド「マズイ、行き止まりだ!」

ブロンド「これ以上逃げられない」


エディ「クソッ、どうにかならねぇのかよ!」



  「…」ポヨン ポヨン



王子「さぁ、恨むなら恨めよ」

王子「ボクの所為でこんなところまで来て、あんな化け物に殺されるんだ」

王子「その方がお前達も気が楽だろ」


トム「悪いが、遠慮させてもらう」

トム「バカやった仲間の尻拭いをするたびに、いちいち恨んでたりしたらキリがねぇ」

トム「それに、俺は魔法の使えない王子様の身の上話を聞きに来たんじゃない」

トム「他人の落し物のために、こんなことまでやって来た大バカ野郎を連れ戻しに来たんだ」


王子「な、何を……」


トム「その膨らんだポケット」

トム「一体何が入ってる?」


王子「これは……」


トム「見つけたんだろ? 懐中時計」


王子「…」


トム「だったら、届けてやらねぇとな」

トム「そのためにわざわざこんなことろまで来たんだ」


王子「でも……無理だ」

王子「そこは行き止まりだし、アイツを倒すなんて」


トム「そんな事はお前が決めることじゃねぇ」

トム「やってみてから決まるもんだ」

トム「エディ、ウィリアム! お前ら2人でそいつの足を止めろ」

トム「その間に俺達でどうにかする」


エディ「おうよ! 任せろ」

エディ「行くぞ、ブロンド野郎」


ブロンド「その呼び方は気に食わないけど」

ブロンド「しょうがない、任されたよ」


  「…」ポヨン ポヨン



トム「さて……これで少しが時間が稼げたな」


生徒「でも、どうしよう」

生徒「このままじゃ、僕たち……」


トム「言われなくても分かってる」


トム「おい、アンタ」

トム「さっき、マッチの火がどうとか言ってたが」

トム「それぐらいの火は起こせるのか?」


王子「起こせる……けど、無理だ」

王子「ボクにはアレを倒すぐらいの炎を起こす魔力なんて……」


トム「なら、魔力とやらがあれば出来るんだな?」


王子「でも……ボクにそんな魔力なんて」


トム「だったら、他の奴から借りればいい」

トム「おい、2人とも」

トム「コイツに魔力を貸せるか?」


生徒「出来るかどうか分からない」

生徒「でも……」


学級委員「やるだけやってみる」

学級委員「それしかないんだろ?」


トム「どうだ? アンタの方は」

トム「腹は決まったか?」


王子「ボクは……」

王子「ボクにはそんなこと」


トム「やるか、やらないかを聞いてんだ」

トム「YESかNOで答えろ」


王子「…」


トム「お前が出来ないってなら、別の手を考えるまでだ」

トム「難しく考える必要はねぇ」

トム「で、どうする?」


王子「……失敗しても知らないぞ」


トム「上等だ」

トム「さっさと準備にかかるぞ」


エディ「食らえ!」バシッ


  「…」ボスッ ボテッ


ブロンド「ブレスウィング!」


  ヒョォォォォオオ


  「…」ボヨォン ボヨォン

  「…」ポヨン ポヨン


ブロンド「ダメだ」

ブロンド「まるで効いてない」


エディ「トム! そろそろ限界だ」

エディ「これ以上はもたねぇぜ」



トム「向こうもそろそろ限界みたいだな」

トム「お前ら、準備はできたか?」


学級委員「ああ」


生徒「いつでも大丈夫」


トム「よし、合図は俺がする」

トム「お前達の全力を叩き込んやれ」


王子「あ、ああ」



  「…」ポヨン ポヨン

  「…」ポヨン ポヨン ポヨン ポヨン


エディ「トム! さっきのだ」

エディ「アイツ飛ぶつもりだ!」


ブロンド「はやく! 魔法を」



トム「お前ら、そこを離れろ!」

トム「今だ! やれ」


王子「ファイア……ブレス!」


   ゴォォォオオオオオオ


   ポヨン ポヨン ポヨン ポヨン

   ボヨォォォォオオン


エディ「クソッ! 飛んで避けやがった」


ブロンド「させるか!」

ブロンド「サイクロン!」


   ゴォォォオオオオオ


     「…!」


   ジュゥゥゥゥウウウウ


<グラウンド 洞窟への穴の前>


エディ「あー、クソ……」

エディ「変なにおいがするぜ」

エディ「あのゼリー野郎、燃えるならもっとマシなにおいを出しやがれってんだ」


生徒「でも、良かったじゃないか」

生徒「無事に帰ってこれたんだし」


学級委員「そうだ」

学級委員「あの状況で、無事に帰ってこれただけでも十分だ」


エディ「まぁ、確かにな」

エディ「一時はホントにダメかと思ったぜ、特に最後のヤツ」


ブロンド「僕の機転のお陰で助かったんだ」

ブロンド「感謝してくれても良いんだよ」


エディ「元はといえば、そこの王子様の魔法だろ?」

エディ「オメェが威張るなってんだ」

エディ「な、トム」


トム「まぁな」

トム「お前は良くやったぜ、王子様」

トム「さ、その時計を届けてこいよ」

トム「アイツも待ってるからな」


王子「でも、お前達は?」


トム「頼まれたのは、お前を見つけるところまでだからな」

トム「帰って風呂にでも入ってる」


王子「あ、ああ……」


トム「どうした? 早く行けよ」

トム「ここまで来たら、俺達の付き添いなんかいらねぇだろ?」


王子「いや……その」

王子「……悪い、ボクの所為で」


トム「そんなこと誰も気にしちゃいない」

トム「じゃなきゃ、助けに行こうなんて考えないからな」


王子「ほ、本当か?」


生徒「まぁ……色々あったけど」

生徒「王子が無事だったし、良かったと思うよ」


ブロンド「クロエとの約束も果たせたし」

ブロンド「僕はこれで満足さ」


王子「お前達……」


トム「ほら、早く行って来いよ」

トム「アイツもお前を待ってるぞ、王子様」


王子「……カールだ」

王子「ボクの名前はカールだ」


トム「……そうかい」

トム「じゃあ行って来い、カール」


王子「ああ、行ってくる」


<魔導学園 グラウンド>


トム「よう、ヨハン」


生徒「ああ、トム」

生徒「おはよう」


ジム「なんだ、お前とヘンリーの2人しかいねぇのか」

ジム「アルの奴はどこ行った?」


学級委員「生徒会の仕事でもあるんじゃないのか?」

学級委員「最近はずっとお前に付き合ってただろ」


ジム「チッ……アイツが居ねぇと張り合いがねぇな」

ジム「俺の相手は誰がするんだよ」


学級委員「俺が相手をするか?」

学級委員「これでも、剣にはそれなりの自信があるんだ」


ジム「そいつは面白れェ」

ジム「だったら、付き合ってもらうぜ」

ジム「途中で泣き言を言っても知らねぇからな」


エディ「おい、待てよ」

エディ「そいつまで居なくなったら」

エディ「どうやって練習しろってんだよ?」


ジム「んなもん、適当にやっとけ」

ジム「どうせ試合なんかしねぇんだ」

ジム「マジメにやったところで、無駄だ」

ジム「ほら、行くぜ」


エディ「あ、テメェ!」


生徒「止めときなって、エディ」

生徒「ああなったら、他人の言うことを聞くとは思えないよ」


トム「そうだぜ、エディ」

トム「アイツの相手をしなくて済む分、俺達は恵まれてる」

トム「ヘンリーの奴に感謝しなくちゃな」


エディ「けど、3人だぜ?」

エディ「これじゃあ、パス回しぐらいしかできねぇじゃねぇか」

エディ「大体、後の3人はどこにいるんだよ」

エディ「アイツらが居れば、もう少しマシな練習が出来るのによ」


トム「カールのヤツは休みだ」

トム「俺が休むように言っておいた」

トム「魔力の使い過ぎだったか、今日になって急に疲れが出たらしい」

トム「ま、無理して倒れられちゃ困るからな」


生徒「ポールはいつも通りだよ」

生徒「『フットボールの練習なんてくだらないことはしない』とか言って」

生徒「また、図書館で本でも読んでるんじゃないかな?」


エディ「じゃあ、ウィルのヤツは?」

エディ「アイツは別に疲れたって感じもなかったし、練習には顔を出してただろ」

エディ「なんで居ねぇんだよ?」


生徒「いや……そんなこと僕に聞かれても」

生徒「第一、ウィルがいないなんて今に始まった事じゃないし」

生徒「またどこかで、女子にちょっかいでも出してるんじゃない?」


エディ「……ったく、しょうがねぇ野郎だぜ」

エディ「そんなんで良く、オレのことをあーだこーだ言えたもんだな」

エディ「そう思わねぇか? トム」


トム「お前の意見は良く分かったが」

トム「俺に愚痴ったところで何も始まらない」

トム「とにかく、さっさと練習を始めるぞ」

トム「アイツらがサボってようが何しようが、俺達はやることやるだけだ」


エディ「へいへい、分かりましたって」

エディ「じゃあ始めようぜ、ヨハン」


生徒「ああ」


-数時間後-


トム「よし、休憩にするぞ」

トム「エディ、ジェームズ達を呼んで来い」


エディ「どうしてオレが?」

エディ「アイツらの間に入るなんてイヤだぜ」


生徒「だったら、僕が行こうか?」

生徒「僕ならジムも絡んでこないだろうし」


エディ「いや、まぁ……そうだけどよ」


トム「で、どうすんだ?」

トム「俺としてはどっちでも良いんだがな」


エディ「ケッ……しょうがねぇな」

エディ「オレが行ってくるよ」

エディ「次はお前だからな、トム」


トム「ああ、分かってる」

トム「頼んだぜ、エディ」


生徒「なんだ……僕が行ってもよかったのに」

生徒「どうしたんだろう? エディ」


トム「なんだかんだ言って、他人に迷惑をかけるのが苦手な奴だからな」

トム「お前に仕事を押し付けたくなかったんだろ」


生徒「へぇ……」


トム「覚えておいて損はないぜ」

トム「面倒事を押し付ける時に便利だからな」


生徒「あはは……」

生徒「機会があれば使わせてもらうよ」


トム「さて、昼飯は……」


  「トム! ヨハン!!」


トム「ん? アレは……」


生徒「ウィル?」

生徒「どうしたんだろう? あんなに慌てて」


ブロンド「助けてくれ! お願いだ!!」

ブロンド「ポールが……ポールが大変なんだ!?」


生徒「ど、どうしたの!?」


ブロンド「ポールが、ポールを助けてくれ!」

ブロンド「僕の……僕のせいだ!」

ブロンド「僕があんなことをしたから」


トム「おい、どうしたんだ?」

トム「ポールに何があったのか」


ブロンド「そんなつもりじゃなかったんだ」

ブロンド「まさか……人がいるなんて」

ブロンド「僕は、僕は……」


トム「しっかりしろ!」

トム「一体、何があったんだ?」


エディ「おい、トム」

エディ「呼んできたぜ……って、おい!」

エディ「こりゃあ、一体何があったんだよ!?」


ジム「やるじゃねぇか、トム」

ジム「このムカつくブロンド野郎にベソかかせるなんて」

ジム「なかなか出来ることじゃねぇぜ」


トム「黙ってろ」

トム「今は取り込み中だ」


学級委員「ウィル、お前……」


ブロンド「ヘンリー!」

ブロンド「どうすれば……僕はどうしたらいいんだ!?」


トム「いいから落ち着け」

トム「どこで、何があった」

トム「どうして俺達のところへ来た?」


ブロンド「むこうの……」

ブロンド「図書館で火事があって」

ブロンド「それで、ポールが……」

ブロンド「アルに助けを呼ぶように言われて」


生徒「火事!? ポールが!」


エディ「一体全体、何がどうなってんだよ!?」


トム「考えるのは後だ!」

トム「とにかく行くぞ」


学級委員「図書館は校舎の北側だ」

学級委員「ウィルは俺が見てる」

学級委員「早くポールのところへ行ってやってくれ」


トム「悪い、頼んだ」


<魔導学園 炎に包まれた図書館>


  ゴォォォオオオオ


エディ「なんだよアレ!?」

エディ「ホントに燃えてやがる!」


生徒「あの中にポールが!?」

生徒「だったら……」



  「放せ! 放せよ」


  「やめろ! 暴れるなッ」



生徒「アレは!」


トム「ポールにアルベルト……」

トム「一体どうなってやがんだ」


ジム「うだうだ考えるのは後だ」

ジム「詳しい話はアイツらから聞きゃいい」

ジム「行くぜ!」


メガネ「メアリー! メアリーッ!!」

メガネ「メアリーが中に!?」


書記「やめろ! ポール」

書記「この中に飛び込むなんて無理だ!」


ジム「おい! アル」

ジム「こいつは、一体どうなってんだ?」


書記「ジムに、みんな!」

書記「来てくれたのか!?」


トム「そんなことより、これは?」

トム「どうして、お前がポールを羽交い絞めにしてんだ?」


書記「どうしたも何も……」


メガネ「放せ!」

メガネ「メアリーが中にいるんだ!!」


書記「さっきからこの調子で」

書記「放って置いたら自分から火に飛び込むぐらいの状態なんだ」


メガネ「クソッ! 放せ」


書記「……とにかく、コイツを止めるを手伝ってくれ!」


トム「ジェームズ」


ジム「仕方ねぇな」

ジム「ほらよ」ガシッ


メガネ「止めろ!」

メガネ「僕は、僕が行かなきゃいけないんだ!!」


ジム「うるせぇ、すこしは大人くしてろ」


生徒「でも、どうしてこんなことに」

生徒「何か理由を知らないの?」


書記「それが……図書館から逃げ遅れた生徒が居て」

書記「それがポールの知り合いみたいなんだ」


エディ「で、そいつが『メアリー』って事かよ」


メガネ「アイツは僕のたった1人の家族なんだ!」

メガネ「だから、こんなところで……」

メガネ「放せ! 放してくれ!!」


生徒「トム、どうしよう!?」

生徒「このままじゃ……」


トム「分かってる」

トム「ヨハン、誰でもいいから助けを呼んで来い」

トム「これは俺達だけじゃ手に負えない」


生徒「わ、分かった!」


トム「エディ、カーテンでも布団でも何でもいい」

トム「とにかくデカい布を濡らしてここへ持ってこい」


エディ「トム、お前……」


トム「いいから早くしろ!」


エディ「デカい布なら何でもいいんだな?」


トム「ああ」


エディ「だったら、任せとけ」


書記「お前、一体何をする気なんだ?」


トム「そんなの決まってる」

トム「助け出すんだよ、そのメアリーとかいう奴を」


メガネ「どうしてだ!?」

メガネ「お前達には関係ないはず!」

メガネ「これは僕の問題だ!」


トム「じゃあ、なんだ?」

トム「着の身着のままで炎の中に突っ込むってのか?」


メガネ「当たり前だ!」

メガネ「アイツを助けるためなら、それぐらい!」


ジム「やめとけよ」

ジム「オメェみてぇな奴が火の中に突っ込んでみろ」

ジム「10秒でこんがり丸焼きだぜ」


メガネ「それでもいい!」

メガネ「何もしない……何もできないよりはマシだ」

メガネ「だから、放せ!」

メガネ「放してくれよ……」


トム「バカな奴だな」

トム「仮にメアリーとかいうのを助けられても、お前が黒焦げになったら意味がないだろ?」

トム「こういう時こそ周りを頼るんだよ」

トム「何でも自分1人で解決できると思うんじゃねぇ」


メガネ「それは……」


エディ「トム! 持ってきたぜ」

エディ「急いでたから、こんなもんしかなかったけどな」


トム「良くやった、これでも十分だ」

トム「お前達はそこでポールの事を見てろ」

トム「俺がメアリーを助けに行く」


書記「おい、助けに行くって」

書記「まさか……」


トム「そうさ、俺が炎の中に突っ込む」

トム「他に方法があるか?」


書記「でも、この炎じゃ……」


トム「そのために防火布を用意したんだ」


ジム「トム、お前で大丈夫か?」

ジム「俺が行ってやってもいいんだぜ」


トム「お前に任せる方が心配だ」

トム「大人しくそこでポールを見張ってろ」


ジム「はいはい、分かりましたって」


エディ「トム、気を付けろよ」

エディ「危なくなったら、すぐに戻ってくるんだぜ?」


トム「ああ、それじゃあ……」


メガネ「待ってくれ!」


トム「なんだ? まだ何かあるのか」


メガネ「メアリーは栗毛……ブリュネットで」

メガネ「いつも奥の魔導書のところにいる」


トム「ああ、了解した」

トム「じゃあ、行ってくる!」ダッ


   ゴォォォオオオオ


<図書館 燃え盛る炎の中>


   ゴォオオオオ


トム「…ッ」

トム(クソッ……そこかしこから炎が噴き出してる)

トム(これじゃあ、防火布があっても長くはもたねぇぞ)


   バチ バチ バチ

    ガタァン


トム(……本棚が崩れてきてやがる)

トム(早くしねぇと帰り道が無くなっちまうな)


   ゴォオオオオ


トム「おい! 何処だ、何処にいる」

トム「居るなら返事をしろ!」



    ガタァン
 
   ゴォォオオオオオ


トム(……っ、熱ぃ)

トム(何処だ! 何処にいる!?)

トム「メアリー! 何処だ!!」


  「……っ、ひっ……」

   ゴォオオオオオオ


トム(この声は……)

トム「メアリー! そこにいるのか!?」

トム「おい! 返事をしろ」


  「だ、だれ!? 誰かいるの!?」


トム「助けに来た!」

トム「待ってろ、今……」


   ゴォォオオオオオ

   「きゃあっ!」

     ガタァン


トム「おい! 大丈夫か!?」

トム「返事をしろ!」


  「……ひっく、……っ」

   ゴォォオオオオオ


トム(取りあえず、大丈夫みたいだが……)

トム(崩れた本棚が邪魔して向こうへ行けねぇ)

トム(他に回り道は無いのか?)


     ガタァン
 
   ゴォォオオオオオ



トム(……ぐずぐず考えてる時間はねぇな)

トム「そこで待ってろ! 今助けに行く」

トム「動くんじゃねぇぞ!」


  「……っく…っ…」

   ゴォオオオオオオ
  

トム(こうなったら最後の手段だ)

トム「おい! 聞こえるか!?」

トム「今から本棚を倒して道を作る!」

トム「お前はそこでじっとしてろ」

トム「いいか? 絶対に動くんじゃないぞ!」

  
    バチ バチ バチ

  ゴォオオオオ  ガタァン



トム「行くぞ!」

トム「3! 2! 1……」

トム「うぉぉおおお!!!」ダダダダダ


   ガァンッ バキバキバキ

    ドシィィイイン


トム「ぐっ……」ヨロヨロ

トム(……クソッ、破片が刺さった)

トム(プロテクターなしでタックルなんてするもんじゃねぇな)

トム(だが、そんなことより……)


   バチ バチ バチ

    ガタァン


トム「アンタがメアリーだな?」


栗毛「そう、だけど……」

栗毛「どうして」


トム「んなことは、どうでもいい」

トム「さっさと帰るぞ」

トム「ほら、コレを被っとけ」バサッ


栗毛「これは……」


トム「火除けだ」

トム「無いよりはマシだろ」


栗毛「でも、あなたは……」

栗毛「それに……そのケガ」


トム「だだのかすり傷だ」  

トム「それより、ここから逃げるぞ」

 
  バチ バチ バチ

    ガタァン
 

トム「このままじゃ、2人とも生き埋めになっちまう」

トム「歩けるか?」


栗毛「え、えっと……」


トム「無理なら、俺に負ぶされ」

トム「イヤかも知れねぇが、文句は言ってられないだろ?」

トム「ほら」


栗毛「…」コクリ


トム「よし」

 
  ゴォォオオオオオ

   バチ バチ バチ


トム(クソ……)

トム(もう、ここまで火が回ってきやがった)

トム「一気に駆け抜ける」

トム「振り落とされるんじゃねぇぞ」


栗毛「は、はい!」


トム「行くぞ!」


トム「ハァ…ハァ……」

トム(……っ、本棚が崩れて元の道が塞がってやがる)


栗毛「あ、あの!」


トム「大丈夫だ!」

トム「右に行くぞ」ダダッ


   ボォオオオオ


トム(さっきはあそこを通ってきた)

トム(こっから右に行くと……)

トム(クソッ……何処へ行けば良いんだよ)


栗毛「火、火がこっちに!」


   ゴォォォォオオオ


トム「……分かってる」

トム「掴まってろ!」ダダッ



   ゴォォオオオオ  

    ガシアャン


トム「くっ……ゲホッ、ゲホッ」

トム(だいぶ煙を吸っちまった、早くしねぇと窒息しちまう)

トム(俺が倒れたら、コイツもまとめてお陀仏だ)


栗毛「あの! 左です」

栗毛「そこを左に曲がってすぐに右に行けば!」


トム「左だな!」

トム「分かった!」ダダッ


   バチ バチ バチ

    ガシャァン


トム(まずは左に曲がって)ダダッ


   ボォオオオオ


トム(次を右に曲がれば……)ダダッ


栗毛「み、見えました!」

栗毛「出口です!」


トム(よし!)

トム(ここさえ抜ければ……)


  ゴォォォォオオオ

   ドシィイン


栗毛「きゃあっ!」


トム「くっ……」

トム「……大丈夫か?」


栗毛「はい、でも……」

栗毛「……出口が本棚で塞がれて」


トム「クソッ! こんなもの」

トム「フンッ……!」ガシッ

トム(……っ、動かねぇ)


栗毛「ごめんなさい、私のせいで」

栗毛「あなたまで巻き込んじゃって」


トム「……ッ! 黙ってろ」

トム「そんなくだらねぇこと言ってる暇があったら」

トム「ここから生きて帰る方法でも考えてろ」


栗毛「でも……これじゃあ」


トム「俺は諦めねぇ……」

トム「こんなところで死んでたまるか」

トム「うぉおおお!!」


    ガガガ ガンッ


トム「ハァ…ハァ……」

トム(クソッ、やっぱりダメなのか?)


  「トム! そこにいんのか!?」


トム「エ、エディ?」

トム「エディなのか!?」


エディ「他に誰が居るってんだよ」

エディ「煙でも吸ってバカになっちまったのか?」


トム「……いいや」

トム「幻覚だったらどうしようか、ってな」


  「フンッ、死ぬ間際でこんな奴の幻覚なんて見たくないね」


トム「ジェームズ、お前もいるのか?」


ジム「お前1人じゃ、心配だったからな」

ジム「様子を見に来てやったんだよ」


トム「そりゃ、結構だ」


エディ「ほら、トムも手伝えよ」

エディ「この本棚どかして、さっさとこんなとこから退散しようぜ」


トム「ああ」


ジム「じゃあ、行くぜ」

ジム「3、2、1……」


  ガコッ ズ ズ ズ

    ドシィン


トム「よし、やったな」


ジム「肩を貸してやる」

ジム「さっさと逃げるぞ」


トム「ああ……悪い」


栗毛「あ、あの!」


エディ「心配すんなよ、しっかりオレが運んでやるって」

エディ「ほら、掴まりな」


栗毛「は、はい」


ジム「オラ、とっとと出るぞ」

   
   ゴォォオオオオ  

  ガシアャン  ガタァン



<魔導学園 炎に包まれる図書館の前>
  

エディ「おし、脱出だ」

エディ「大丈夫か? お前ら」


トム「ああ、何とかな」


栗毛「はい……ありがとうございます」


エディ「いいってことよ」

エディ「礼を言うならそこにいるトムと……」


メガネ「メアリー!」


栗毛「に、兄さん!?」

栗毛「どうしてここに……」
  

メガネ「あ、足を怪我してるじゃないか!」

メガネ「大丈夫なのか!?」


栗毛「えっと……その」


メガネ「痛いのか!? 苦しいのか!?」ガシッ


栗毛「そ、それは……」


ジム「おい、せっかく助けてやったんだ」

ジム「テメェが怪我させてどうする」

ジム「何とか言うヒマがあったら、さっさと救護室にでも連れてけ」


メガネ「そ、そうだったな」

メガネ「さぁ、一緒に救護室に行こう」

メガネ「ヨハン、手伝ってくれ」


生徒「あ、ああ」


エディ「に、兄さんって……」

エディ「アイツ、妹がいたのかよ」


書記「あのポールに妹がねぇ」

書記「この前ウィルが言ってったのは、あの子のことだったのか?」


トム「まぁ、いいじゃねぇか」

トム「自分の家族をいちいち紹介する必要もないだろ」


エディ「そりゃあ……そうなんだけどよ」


  「トーマス! 無事だったか」


トム「アンタは……ナターシャか」

トム「どうしてここに?」


生徒会長「ヨハンに呼ばれてな」

生徒会長「お前から助けを呼ぶように言われたと」

生徒会長「しかし、炎の中に飛び込んだと聞いたときは驚いたぞ」

生徒会長「まさか……そんなことをするとは思わなかったからな」


トム「残念ながら、他に方法を思いつかなくてな」

トム「こうするのが一番だった」


生徒会長「全く……学内試合の時といい」

生徒会長「君達はよく無茶をする」

生徒会長「まぁ、何はともあれ無事で良かった」

生徒会長「あとの始末は私達がする」

生徒会長「君もさっきの彼女と一緒に救護室へ行くといい」


トム「ああ、そうさせて……」

トム(……っ! 急に視界が)

トム(クソ、さっきのダメージが今頃……)


エディ「おい、どうした? トム」


トム「いや……なんでも」

トム「な…い……」ガクッ


生徒会長「なっ!」


エディ「おい! トム!?」


<学園本棟 救護室>


トム「うっ……」


家政婦長「お目覚めになりましたか?」


トム「……アンタは」

トム「俺はどうして……」


家政婦長「図書館から出てきた後に気絶してしまったので」

家政婦長「皆さんがここまで運んできたのです」


トム「……メアリーと他の奴らは?」


家政婦長「彼女は別室にいます」

家政婦長「足のキズが思ったよりも酷かったようで、完治するまでは面会制限だそうです」

家政婦長「他の皆さんは図書館の後始末を手伝ってもらってます」

家政婦長「本当は私達の仕事なのですが……」

家政婦長「何分、人手不足なので」


トム「アンタは向こうにいなくていいのか?」


家政婦長「ええ、別の仕事があったので」


トム「別の仕事?」


家政婦長「あなたの手当てですよ」

家政婦長「校医はもう1人の方の治療に手一杯だったので、私が代わりに」

家政婦長「ほら、自分に巻いてある包帯が見えませんか?」


トム「ああ、これか……」

トム「悪いな、手間かけさせて」


家政婦長「いえ、気にしないでください」

家政婦長「でも、無茶もほどほどにしてくださいよ?」

家政婦長「そろそろ王都の生誕祭で、私もこんなことは出来なくなりますから」


トム「生誕祭?」

トム「なんだ、それは」


家政婦長「簡単にいえば、王様の誕生日のお祭りです」

家政婦長「毎年、その間の3日は休日になって、王都で盛大なパーティーが開かれるんです」


トム「それで、その誕生祭とやらとアンタの仕事と」

トム「どう関係があるんだ?」


家政婦長「誕生祭のパーティーには先生方も顔を出さなければならないので」

家政婦長「その間、この学園の管理は私に任されるのです」

家政婦長「ですから……」


トム「俺に構ってる暇はない、って訳か」


家政婦長「まぁ、そんなところです」


トム「分かったよ」

トム「俺としても、こんな場所に何度も世話になる予定は無いからな」

トム「せいぜい迷惑がかからないように気を付けさせてもらう」


   コン コン


家政婦長「おや? 誰か来たみたいですね」

家政婦長「では、私はこれで……」


トム「ああ、世話になったな」


トム「で、何処のどいつだ?」


  「僕だ、ポールだ」


トム「そうか、入っていいぜ」


メガネ「……失礼する」


トム「それで、何の用だ?」

トム「このタイミングだ」

トム「見舞いってワケじゃないんだろ」


メガネ「それは……その」

メガネ「お礼を言いたくてな」


トム「お礼? お前が俺に?」

トム「どうして、また」


メガネ「そんなこと決まってる」

メガネ「僕のためにメアリーを助けに行ってくれた」

メガネ「そのお礼だ」


トム「お前、何か勘違いしてないか?」


メガネ「えっ?」


トム「俺はお前のために火の中に飛び込んだわけじゃない」

トム「ウィリアムにお前を助けるよう言われたから、やっただけだ」


メガネ「でも、アレは……」


トム「お前のためにやった様にしか見えなかった?」

トム「そいつは違うな」

トム「あそこで俺が行かなかったら、お前が行ってただろ?」

トム「だから、お前の代わりに行ったんだ」

トム「お前に死なれちゃ、約束を破っちまうからな」


メガネ「約束って……そんな」

メガネ「だって、ウィルとお前は赤の他人だろ?」


トム「いいや、仲間だ」

トム「アイツはどう思ってるかしらねぇが、俺は仲間だと思ってる」

トム「仲間は見捨てない、それが俺のポリシーだ」


メガネ「それだけであんなことが出来るかよ」

メガネ「自分の命がかかってるんだぞ?」


トム「簡単なこった」

トム「お前だって、妹のために炎に飛び込もうとしただろ?」

トム「俺はそれをお前達……仲間のためにやっただけだ」


メガネ「お前達?」

メガネ「それって……」


トム「なんだ? 自分は入ってないと思ってたのか」


メガネ「……練習になんて顔を出してないし」

メガネ「そもそも、あまり話してない」

メガネ「それでどうして……」


トム「練習に顔を出さないぐらいで仲間から外さねぇよ」

トム「そんなこといったら、ジェームズの野郎なんか仲間外れを通り越して敵になっちまう」

トム「もちろん、口数だって関係ない」

トム「お前以上に口をきかない奴もウチのチームにいるからな」


メガネ「でも……」


トム「なんだ? そんなに仲間外れにされてぇのか」


メガネ「いや、そういう訳じゃ」


トム「だったら、黙ってろ」

トム「お前は俺達の仲間で、チームメイトだ」

トム「文句があるなら、今ここで仲間を辞めるか、練習に顔を出せ」

トム「話はそれから聞いてやる、いいな?」


メガネ「あ、ああ……」


トム「分かったなら、とっとと出てけ」

トム「これ以上くだらない話を聞かされたら傷口が開いてきちまう」


メガネ「わ、分かった」タタタタ


   ガチャ バタン


トム(ヨハンといい、カールといい……手間のかかる奴らだ)

トム(こんな調子じゃ、俺の体の方が持たねぇ)

トム(ま、これで一応ケガ人になったからな)

トム(ここにいる間はしっかり療養させてもらうか)   


<学園本棟 救護室>


エディ「おい! 起きろ」

エディ「起きろってんだよ、トム!」


トム「うっ……ん?」


エディ「おお! 起きたか」


トム「なんだよ、エディ」

トム「こんな朝っぱらから……」


エディ「そいつが、トム」

エディ「大変なことになっちまったんだって!」


トム「あ? どうした」

トム「カールの野郎がまた引きこもっちまったのか?」


王子「失礼な!」

王子「ボクはちゃんとここに居るぞ」


トム「じゃあ、ポールの奴が練習に来なくなったか」


メガネ「うるさいな」

メガネ「アレから練習には顔を出してるぞ」


トム「なら、ジェームズの野郎の暴走か?」


エディ「おお! そうだ」

エディ「あの野郎が剣を振り回して大変なんだよ!」


トム「だったら、アルベルトの奴かナターシャにどうにかしてもらえ」

トム「凶器をぶん回すバカには俺じゃ役不足だ」


エディ「でもよぉ……」


トム「ほら、分かったら出てけ」

トム「今は療養中なんだ」

トム「折角の休みをそんな奴のために使いたくねぇ」


エディ「そんなこと言わねぇで、頼むって」

エディ「お前ぐらいしかどうにかできそうな奴が居ねぇんだよ」


メガネ「僕からも頼む」

メガネ「このまま放っておく訳にもいかないんだ」


トム「ったく……仕方ねぇな」

トム「一体何があったんだよ?」


王子「キメラが出たんだ」


トム「あ? キメラ」


メガネ「動物を魔法で融合させて作ったモンスターだ」


トム「モンスターって……」

トム「あのゼリー野郎みたいなヤツか?」


エディ「そんなもんじゃねぇって」

エディ「羽が生えたライオンが3倍ぐらいデカくなったバケモンだ」


トム「何でそんなもんが出てくんだよ……」


メガネ「ウチの教師の1人が研究で作ってたんだ」

メガネ「最強の生き物を造り出すとかいって」


トム「……で、そのキメラがどうしたって?」


王子「職員寮の方に出て来たんだだ」

王子「檻から逃げ出したみたいで、学園中大パニックだ」


トム「職員寮?」

トム「だったら、気にすることねぇじゃねぇか」

トム「そんな騒ぎなら、さすがに教師が出てくるだろ」


エディ「そいつが……化け物がもう1匹現れちまってみたいでよ」


メガネ「学園にいる先生じゃ、1匹を相手にするのが精一杯らしい」

メガネ「学園長は王都へ行ったまま帰ってこないし」

メガネ「キメラを作った本人も、出張で留守にしてるみたいだから」


トム「つまり……」

トム「化け物が1匹フリーになってるから」

トム「そいつを俺にどうにかしろって言いたいのか?」


エディ「いや、そういうワケじゃねぇんだけど」

エディ「ジムの野郎が化け物退治に乗り気でよ」

エディ「このまま放っといたら、1人で殴り込みに行っちまいそうなんだよ」


トム「全く……あの野郎は」

トム「ヒーローごっこは終わりにしたんじゃなかったのかよ」


エディ「あのバカがそう簡単に諦めると思うか?」


トム「……仕方ない、放って置くわけにもいかねぇからな」

トム「アイツのとこへ案内してくれ」


<学園本棟 外廊下>


ジム「……いい加減にそこを退きやがれ」

ジム「さもなきゃ、テメェでも叩っ斬るぞ」


書記「断る」

書記「アンタ1人で行かせられるかよ」


ジム「なら、仕方ねぇな」

ジム「剣を抜けよ」

ジム「それで決着を付けてやる」


書記「望むところだ」

書記「そっちが負けたら、大人しく引いてもらうからな」


ジム「それはこっちのセリフだ」

ジム「オメェこそ、怪我して泣いても知らねぇぜ?」


書記「なら、試してみればいい」

書記「泣いて謝るのはお前かもしれないけどな」


ジム「ヘッ……いい度胸だ」

ジム「だったら……」


トム「待て、そこまでだ」


ジム「なんだよ? トム」

ジム「今、いいとこなんだ」

ジム「邪魔すんじゃねぇ」


トム「知るか」

トム「この騒ぎの中でケンカしてるバカを止めて何がおかしい」


エディ「そうだぜ、ジム」

エディ「あんな化け物に1人で勝負するなんて」

エディ「幾らなんでも無茶苦茶だぜ」


ジム「ハンッ……テメェの知った事かよ」

ジム「あれぐらい、俺1人でどうにでもなる」


メガネ「でも、相手はキメラだ」

メガネ「教師が手こずるような化け物を1人で相手をするなんて無理だ」


ジム「無理かどうかは俺が決める」

ジム「テメェは黙ってろ」


メガネ「だけど……」


王子「止めとけよ」

王子「ボク達の話なんて、まるで聞いちゃいないぞ」


ジム「そっちの王子様の言う通りだ」

ジム「分かったら、そこを退きやがれ」


書記「嫌だね」

書記「お前が引くまで俺はここを退かない」

書記「会長にも、お前がヘンな事をしないように見張れと言われてるんだ」


ジム「口を開けば、会長、会長と……」

ジム「いい加減に鬱陶しいんだよ」

ジム「その口、二度と利けなくしてやってもいいんだぞ?」ジャキッ


エディ「おい! そんなもん出すんじゃねぇ」

エディ「んなことしても何にもなんねぇって!」


ジム「少なくとも俺の気は晴れるんだ」

ジム「さぁ、どうすんだ? アルベルト」


書記「それは……」


トム「待て」

トム「そっから先は俺に任せろ」


書記「トム、何を……?」


トム「いいから」


書記「……分かったよ」


ジム「で、何だよ? トム」

ジム「お前まで俺の邪魔しようってのか?」


トム「だったら、どうする?」


ジム「フッ……力ずくでも退かしてやるよ」


トム「ここには5人いるんだぜ?」

トム「いくら元勇者様でも、5人相手はキツイんじゃないのか?」


ジム「関係ねぇな」

ジム「オメェらが邪魔するってなら、俺はそれを退けるだけだ」

ジム「分かったら、とっととどきやがれ」


トム(やっぱり、コイツを止めるのは無理か……)

トム「なら、仕方ないな」

トム「お望み通り、ここを退いてやるよ」


書記「お、おい!」

書記「それじゃあ……」


トム「ただし、条件がある」


ジム「条件? なんだそりゃ」

ジム「泣いて土下座でもすればいいのか?」


トム「お前がそんな事するような奴なら、こんなに苦労してねぇよ」


ジム「じゃあ、何だって言うんだよ?」


トム「化け物退治なら、俺達も付いていく」

トム「それが条件だ」


エディ「げっ……!」


王子「なっ!?」


ジム「ほう……面白れェじゃねぇか」

ジム「いいぜ、のんでやるよ。その条件」


メガネ「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

メガネ「トム! それはどういう意味だ」


トム「どういうも、なにも……そのままの意味じゃねぇか」

トム「コイツを止められないから俺達も付いていく」

トム「簡単だろ?」


王子「いや、簡単って……」


書記「おい、トム」

書記「俺はお前がジムを止めると思ったから、代わってやったんだぞ」

書記「それで一緒に行くって、どういう事だよ?」


トム「そんなこと分かり切ってる」

トム「話し合いで解決できそうにないから、代わりの案を出しただけだ」

トム「コイツが話を聞かないってのは、お前も分かってるだろ?」


書記「でも、これは!」


エディ「ほら、落ち着けって!」

エディ「トムだって、考えなしにこんなこと言わねぇって」

エディ「理由だけでも聞くだけ聞いてみようぜ、な?」


書記「……分かった」

書記「俺が納得する理由を話してみてくれよ」

書記「そしたら、その提案も考えてやる」


トム「まず、1つ目は」

トム「ここでコイツを止めても、俺達もコイツも怪我するってことだ」

トム「どこの酔狂な奴が持たせたが知らんが、このバカは本物の剣を持ってる」

トム「そんなのを無理矢理押さえつけてみろ」

トム「怪我する奴が居るに決まってる」


書記「まぁ、たしかに……」


トム「次に、コイツを1人で行かせたところで化け物を倒せる保証がない」

トム「仮に倒せたとしても、相手は未知のモンスターだ」

トム「どんなケガするか分かったもんじゃねぇ」


ジム「なんだ? 俺が負けるとでも思ってんのか」


ジム「なんだ? 俺が負けるとでも思ってんのか」


エディ「前に負けたことがあるじゃねぇか」

エディ「都合よく忘れちまったのかよ」


ジム「……アレはまぐれだ」

ジム「次は負けねぇよ」


トム「とにかく、俺としてもチームメイトを失うのは嫌なんでな」

トム「ソロプレイはナシだ」

トム「分かったな?」


ジム「フンッ……分かったよ」


王子「それで、結局ボク達が一緒に行くメリットは何?」

王子「何人で行こうが、怪我するときはするぞ」


トム「でも、人数が多い方が大ケガする確率は減る」

トム「コイツを邪魔しようが、見逃がそうが、怪我するってなら」

トム「全員でアイツを倒しちまう方が、まだ怪我しないですむ確率は高いだろ?」

トム「だったら、しっかりと作戦を立てて集団で挑む方が良い」


トム「ま、無理に来いとは言わねぇけど」

トム「どうする? お前ら」


エディ「オレが行かねぇって言っても、勝手に行くんだろ?」

エディ「だったら、付いてってやるよ」

エディ「こんなとこでビビってもしょうがねぇからな」


メガネ「僕も行く」

メガネ「メアリーだっているんだ」

メガネ「このままキメラを放って置くわけにはいかない」


トム「お前達は?」


書記「俺は……」


ジム「ビビっちまったんなら、来なくていいんだぜ」

ジム「難なら、大事な会長さんに手助けしてもらうか?」


書記「……俺も行く」

書記「会長にはコイツを見張れって言われたんだ」

書記「コイツが行くっていうなら、俺も行く」


王子「お、おい! ボクを置いてくな」

王子「ボクだって、やるときはやってやる」


トム「よし、決まりだな」

トム「俺達全員でキメラとかいう化け物を倒す」

トム「それでいいな?」


ジム「ああ、俺は良いぜ」


書記「俺達もな」


トム「なら、行動開始」

トム「……と行きたいが」

トム「後の3人はどうした?」

トム「化け物相手なら、頭数が多い方が良いんだが」


王子「ヨハンは父親に呼ばれたとかで、王都に帰ってる」

王子「誕生祭が終わるまでは帰ってこないってさ」


トム「残りの2人は?」


メガネ「朝から姿を見てない」

メガネ「こういう時は直ぐには戻って来ないから」

メガネ「探しに行くだけ無駄だと思う」


トム「そうか」


ジム「あんな奴らいなくたって、問題ねぇよ」

ジム「俺だけでもキメラの1匹や2匹どうってことねぇんだ」

ジム「こんだけ群れてりゃ、負けるはずねぇ」

ジム「そうだろ? エディ」


エディ「オメェこそ」

エディ「大口叩いて、あっさりやられるんじゃねぇぞ?」

エディ「尻拭いするのはオレ達なんだからな」


ジム「ハンッ……言ってろ」


トム「とりあえず、その化け物の見えるところまで行くぞ」

トム「作戦を考えるのはそれからだ」


<学園本棟 屋上>



   「グルガァオッ!!」



トム「アイツがキメラねぇ」

トム「こりゃまた……随分なデカブツだな」


エディ「だから言ったろ? ヤバいって」


ジム「相手にとって不足なしだ」

ジム「あれぐらいデカくなきゃ、やる気になれねぇよ」


書記「そんなバカなこと言ってるから、会長に目をつけられるんだ」

書記「アンタを見張るように言われた俺のことも考えろ」


ジム「俺がいつ、お前に子守りを頼んだんだよ?」

ジム「俺は俺のしたいようにする、テメェにとやかく言われる筋合いはねぇ」


書記「俺だって、お前の事なんか放っておきたい」

書記「でも、あの人に頼まれたんだから仕方ない」

書記「それが分かったら、少しは大人しくしてろ」


ジム「そんなに嫌なら断ればいいじゃねぇか」

ジム「あの女に言われて渋々やってるだけだろ?」

ジム「だったら、俺なんか放って好きなことをやりゃあいいじゃねぇか」


書記「そんなこと出来るか」

書記「お前を放って置いたら、会長に迷惑がかかる」


ジム「じゃあ、何だ?」

ジム「アイツに迷惑を掛けたくないから、嫌な仕事でも引き受けるってのか」


書記「…」


ジム「ケッ、あんな口うるさいだけの女の何処が良いんだか」


書記「なんだと?」

書記「お前、会長をバカにする気か!?」


ジム「なんだ? おっ始めようってのか」

ジム「いいぜ、試合前のウォーミングアップだ」

ジム「そのケンカ、買ってやるよ」


王子「やめろよ、2人とも」

王子「ケンカなら、さっきので充分だろ?」


メガネ「そうだ、これからキメラと戦うんだ」

メガネ「ケンカするなら後にしろよ」


書記「……分かったよ」

書記「ジム、さっきの言葉を覚えてろよ」

書記「後悔させてやるからな」


ジム「そりゃ、楽しみだ」

ジム「オメェこそ、泣きべそかいても知らねぇからな」


トム「そこら辺にしておけ、2人とも」

トム「さっさとあの化け物をどうにかする方法を考えるぞ」


ジム「そんなの簡単だぜ、トム」

ジム「俺が1人でアイツの前へ出ればいい」

ジム「それで終わりさ」


トム「そいつは却下だ」

トム「さっきも言ったように、お前がケガする可能性が高いってのと」

トム「万が一にも成功したときに、お前が図に乗るのが気に入らねぇ」


ジム「そうかい」

ジム「だったら、作戦でもなんでも考えな」

ジム「俺は反対しないぜ」


トム「そいつは助かるな」

トム「このメンツで、一番うるさいのはお前だろうからな」


エディ「そんでよ、トム」

エディ「何か良い考えはあんのか?」

エディ「正直、オレにはあの化け物を倒す方法なんてなんも思いつかないぜ」


トム「フットボールと同じだ」

トム「ランが駄目ならパス、近接攻撃がムリなら遠距離攻撃」

トム「折角、魔導学園とやらにいるんだ」

トム「魔法とやらを使わせてもらおうぜ」


エディ「おお! そうだったぜ」

エディ「コイツら、魔法を使えるんだったな」

エディ「試しに一発、あの野郎に撃ってみてくれよ」


メガネ「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

メガネ「僕らの魔法がどこまでキメラに通用するか分からないし」

メガネ「遠距離攻撃っていったって、魔法にも射程がある」

メガネ「この距離から魔法を浴びせるなんて無理だ」


エディ「そういや……そうだったな」

エディ「カールなんて、マッチぐらいの火しか出せねぇとか言ってたし」


王子「うるさいな」

王子「ボクだって、あれから魔法の練習をしたんだ」

王子「今なら炎の球ぐらい出せる」


エディ「ホントかよ?」

エディ「魔法なんて使えねぇ、みたいなことを言ってたじゃねぇか」


王子「そ、それは……」


書記「魔法を使えなかったのは、ただの思い込みだったんだよ」

書記「魔力の扱いが絶望的に下手だったから気付かなかった」

書記「練習を手伝ってやった俺が言うんだ、間違いない」


王子「おい! アルベルト」


エディ「へぇ……わがまま王子がそんなことをねぇ」

エディ「人間、変わろうと思えば変われるもんなんだな」


王子「う、うるさい!」

王子「それより、トム」

王子「ポールの言ってた事はどうするんだ」

王子「ボク達じゃ、アイツに襲われない距離で魔法なんか当てられないぞ?」


トム「そんなの簡単だ」

トム「アイツに襲われない場所から狙えばいい」

トム「アウトレンジが無理なら、インファイトしかないだろ?」


メガネ「でも、どうやって?」

メガネ「それも出来ないから苦労してるんだろ」


トム「いや、出来る」

トム「お前ら、アイツが何処にいるか分かるか?」


ジム「そんなもん、見りゃ分かる」

ジム「目の前のグラウンドだ」


トム「じゃあ、俺達の下に見えるのは?」


書記「下って……中庭の事か?」


トム「そうだ」

トム「で、その中庭はどうなってる?」


エディ「どうなってるって……」

エディ「樹とか花とか生えてるぜ、手入れは行き届いてねぇみたいだけどな」


トム「そっちじゃねぇ、その周りだよ」


メガネ「周り? 周りは建物に囲まれて……」

メガネ「そうか! そういう事か」


トム「分かったみたいだな」


王子「どういうことなんだよ、トム」

王子「もったいぶった言い方しないで、はやく教えてくれ」


トム「あの化け物をそこの中庭におびき出す」

トム「丁度いいことに、そこはグランドにつながる面以外は建物に面してる」

トム「だから……」


メガネ「キメラを中庭に閉じ込めることが出来れば」

メガネ「屋根の上から魔法で攻撃できる」


トム「そういうこった」


エディ「けど、1ヶ所開いてんだろ?」

エディ「そこはどうすんだよ」

エディ「閉じ込めようったって、塞ぐのは無理だぜ」


ジム「要はアイツをそこの中庭から出さなきゃ良いんだろ?」

ジム「だったら、俺が出てけば問題ない」

ジム「俺があの化け物が逃げないようすれば、万事解決だ」


エディ「……こんなこと言ってるけど、どうすんだ?」

エディ「何かいい方法は無いのかよ」


トム「悪いな、エディ」

トム「今回ばかりはそいつの案が正しそうだ」

トム「化け物の足止めは、誰かが逃げ出さないように立ち回るしかねぇ」


エディ「でも、さっきは反対してたじゃねぇか」


トム「それはコイツ1人で行かせるのに反対って意味だ」

トム「俺達も付いてくんなら、問題ねぇ」


エディ「オレ達って……」

エディ「オレも行くことになってんのか?」


ジム「なんだ? 臆病風に吹かれちまったか」

ジム「ま、チキン野郎ならしょうがねぇな」

ジム「見た目通りの肝っ玉だったってことだ」


エディ「んだと!? バカにしやがって」

エディ「いいぜ! 俺も行ってやるよ」

エディ「こんな能無し野郎を、トム1人に任せるわけにはいかねぇからな」


トム「じゃあ、作戦決定だな」

トム「俺達3人はあの化け物をそこの中庭におびき寄せて、閉じ込める」

トム「残りの奴らはここで魔法を撃ちまくる、いいな?」


メガネ「魔法を撃つタイミングは?」

メガネ「万一、お前達に当たったらどうするんだ」


トム「最初の合図は俺がする」

トム「後は、そっちの判断に任せる」

トム「……そこのバカがムカつくからってワザと当てるなよ?」


書記「そんな闇討ちみたいな事はしない」

書記「決着を付けるなら、正面から一騎打ちだ」


ジム「勇ましいのは結構だが、後で後悔すんじゃねぇぞ?」


書記「それはこっちのセリフだ」


トム「よし、作戦開始だ」

トム「行くぞ!」


<魔導学園 グラウンド>


   「グルルルルルル」


エディ「なぁ、トム」

エディ「ここまで来たのはいいけどよ」

エディ「こっからどうやってアイツを中庭まで運んでくんだよ」

エディ「まさか……バカ正直に正面から突っ込むつもりじゃねぇよな?」


トム「何のためにボールをこんなに持ってきたと思ってんだ」

トム「アイツにぶつけて、注意を引きつけるためだろ?」

トム「ほら、ジェームズ」

トム「この袋を持ってろ」


ジム「どうして俺がボール持ちなんてしなくちゃなんねぇんだ」

ジム「こういうのはダニーの仕事だろ?」


トム「生憎と、ここにアイツはいないんでな」

トム「それにボール運びはランニングバックの仕事だろ」

トム「剣ばっかり握ってて、忘れちまったか?」


ジム「ケッ……分かったよ、やってる」

ジム「その代り、向こうに付いたら好きにやらせてもらうからな」


トム「ああ、好きにしろ」

トム「怪我しない程度に援護してやる」



   「グルガァオッ!!」



エディ「おい! トム」

エディ「あの野郎、こっちを向きやがったぞ!?」


トム「丁度いい、近づく手間が省けた」

トム「エディ、俺がボールを渡す」

トム「お前はとにかくアイツに向かってボールを蹴りまくれ」


エディ「おうよ!」


トム「ジェームズ、俺達は化け物に集中する」

トム「道順は任せたぞ」


ジム「ああ、途中で迷子になるんじゃねぇぞ」


トム「お前こそ」



  「グァアアアアア!!」



トム「さぁ、来たぜ」

トム「行くぞ! 2人とも」


<魔導学園 中庭>


トム「エディ!」ポイッ


エディ「とりゃ!」バシッ



   「グギャアアアア!!」ガンッ



エディ「怒ってる、怒ってる」

エディ「そのうち頭の血管が切れて死んじまうんじゃねぇか?」


トム「そうなってくれたら、楽でいいんだが……」



   「グォオオオオオ!!!」



トム「あんまり期待しない方が良いみたいだぞ?」ポイッ


エディ「……ったく、手のかかるバケモンだぜ」バシッ


 
   「グゴォオオオ!!」ガンッ



ジム「じゃ、そろそろ俺の出番だな」

ジム「いい加減、ボール運びも飽きてきたんだ」

ジム「好きにさせてもらうぜ?」


トム「まぁ、待てよ」

トム「アイツらの魔法をお見舞いしてやってからでも遅くはないだろ?」

トム「じゃなきゃ、作戦を立てた意味が無くなっちまう」


ジム「フッ……そうかい」

ジム「『反対しない』って言っちまったからな」

ジム「合図でも何でもして、さっさと魔法を食らわせてやれ」


トム「残念ながら、そういう訳には行かないな」

トム「まだアイツをおびき寄せただけで、完全に閉じ込めたわけじゃない」

トム「このまま魔法を撃ってグラウンドにでも逃げられたら……」



   「グガァアアアア!!」ダダダダダ


エディ「トム! 突っ込んでくるぜ」


トム「くっ……右に避けろ!」



    ズガァアアアン



エディ「イテテ……」

エディ「おい、大丈夫か? 2人とも」


トム「ああ、何とかな」


ジム「アレぐらいじゃ、やられねぇよ」


    「グッ……」


トム「しかし……派手にやってくれたな」

トム「頭から校舎に突っ込むとは」

トム「だが、これでアイツの後ろに回り込む必要が無くなった」

トム「今のうちにグラウンドの方へ移動するぞ」



   「グ…グググ……」

   ガラ ガラ ガラ ガラ


エディ「なっ……アイツ」

エディ「もう動けんのかよ!?」


トム「流石に馬鹿デカい図体してるだけはあんな」

トム「ジェームズ、ボールを寄こせ」

トム「アイツらに合図を送る」


ジム「ほらよ」ポイッ

ジム「アイツらの魔法がどこまで役に立つか分かねぇけどな」


トム「前にバケモンを1匹倒してんだ」

トム「それなりに効くだろ、っと!」ブンッ


  
   「ググ…グルガァ……」


    ズゴゴゴゴゴゴゴゴ


   「ギャアアアア!!!」



エディ「おお……凄ぇや」

エディ「ありゃ、やっちまったんじゃねぇか?」


ジム「フンッ、ここの教師連中が苦戦してんだ」

ジム「あんなんじゃヤラれねぇよ」

ジム「やっぱり、俺が出張らなくちゃぁな!」ダッ


エディ「あ、おい!」



   「グ、ガガガ……」


ジム「食らえッ!」ヒュッ


     ザシュッ


   「グギャアア!!」



トム「……やっぱり、こうなっちまったか」


エディ「どうすんだよ?」

エディ「ありゃ、言っても聞かないぜ」


トム「仕方ねぇ、死なない程度に援護する」

トム「行くぞ、エディ」


   「ガァッ!!」ブンッ


ジム「遅せぇ!」サッ ブンッ


   「ギャア!!」サクッ


ジム「チッ……浅い」


   「グォオオオオ!!」ダダダダダ


ジム「なっ……!」



トム「エディ」ポイッ


エディ「おらよ……っと!」バシッ



   「グガッ!?」ガンッ


ジム「オラァ!!」ブンッ


      ズシャ

   「グォオオオオ!!」


ジム「もう一発!」ヒュッ


      スパッ

    「ギャアアア!!」


    ズゴゴゴゴゴゴゴゴ


   「グギャアアアア!!!」
   


エディ「よお、ジム」

エディ「危なかったじゃねぇか」

エディ「1人で大丈夫だって、どの口が言うんだ?」


ジム「ケッ、余計なことしやがって」

ジム「アレぐらいなら余裕で避けられた」


エディ「ホントかよ?」

エディ「結構マズそうな顔してたぜ、お前」


ジム「テメェの目が節穴なだけだ」

ジム「俺はそんな顔してねぇよ」

ジム「それに、アイツの行動は見切った」

ジム「次は確実に仕留めてやる」


トム「出来るのか?」


ジム「あんなんでも生き物には変わりねぇ」

ジム「目玉を一突きすりゃあ、お終いだ」


トム「なら、それに賭けるしかないみたいだな」



    ズババババババ

   「ギャアアア!!」


    ゴォオオオオオオオ

   「グゴォオオオオ!!」


トム「肝心の魔法は大して効いてねぇみたいだし」

トム「時間をかけ過ぎたら、上の奴らが息切れしちまう」

トム「速攻で決める」


ジム「で、どうすんだ?」


トム「俺とエディでアイツの注意をひきつける」

トム「その間に、お前はアイツを仕留めろ」

トム「ボールの数だって少ねぇんだ、次はないぞ」


ジム「俺はヘマしねぇよ」

ジム「忠告なら、そこの小さいのにするんだな」ダッ


エディ「あの野郎……好き放題言いやがって」

エディ「オレがミスするかってんだ」

エディ「やってやろうぜ! トム」


トム「ああ、もちろんだ」


     ボォオオオオ


    「グォオオ!!!」


ジム「後ろだ! バケ猫野郎」ブンッ


       ザクッ

    「グギャアア……!」ブンッ



エディ「させるかよ!」バシッ



    「ガッァ!」ガンッ

   「グオォオオオオ!!!」



トム「もう一発だ」


エディ「あいよ!」バシッ



     「ガアッ!」スカッ


     ズガガガガガ

   「ギャアアアアア!!」


    ゴォオオオオオオオ

    「グ、グググ……」



トム「今だ!」

トム「行け! ジェームズ」



ジム「言われなくても」

ジム「おりゃあああ!!」ダダダダダ

ジム「オラァ!」


      ズブッシャ


   「ギャアアアアア……!!」

  
ジム「よし、もういっ……」


   「グォオオオオ!!!」


     ブンッブンッ


ジム「なっ……うおっ!?」


    ガンッ ドサッ


ジム「」



トム「!?」 エディ「ジム!?」



   「グォオオオオオオ!!」シュタッ



エディ「なっ!?」

エディ「アイツ……飛んで」


トム「……っ」

トム(クソ、俺はどうすれば……)



   「ブレスウィンド!」


        「フレアインパクト!」

  「ブリザード!」


     ズガガガガガガガガ


   「グギャアアアアア!!!」



トム「こ、こいつは……」


  「遅れて申し訳ありません」


エディ「マ、マーガレット!?」

エディ「どうなってんだよ? こりゃ」


家政婦長「もう1匹のキメラは先生方の協力で撃退しました」

家政婦長「残りはあそこにいるのだけです」

家政婦長「後は先生方に任せて、私と一緒に避難しましょう」


トム「言いたいことは色々とあるが……」

トム「アンタのおかげで助かった」

トム「もう少し遅かったら、2人まとめてあの世行きだったからな」


家政婦長「済みません」

家政婦長「本当なら、このような被害が出るまでに抑えるべきだったのでしょうが」

家政婦長「先生方の魔法も中々効かなかったもので」


トム「まぁ、いいさ」

トム「俺達は死なずに済んだんだからな」

トム「それより……」



ジム「」



トム「あそこでノビてる奴を回収しなくちゃな」


<魔導学園 男子クラス>


メガネ「……よっと」コロッ


トム「2と3で、5だな」

トム「5マス進められるぞ」


メガネ「ああ」コッ コッ コッ コッ コッ

メガネ「これで大丈夫か?」


トム「いや、そこは敵の駒があるから進めない」

トム「行けるのはここまでだ」


メガネ「……難しいな」


トム「そのうち慣れる」

トム「バックギャモンなんて、数をこなしてナンボだ」

トム「お前らがやってる魔法と一緒でな」


メガネ「そういうもんか」


王子「ほら、ウィル」


ブロンド「え?」


王子「次はお前の番だぞ」


ブロンド「あ、ああ……そうだったね」


メガネ「どうしたんだ? ウィル」

メガネ「あの火事の一件以来、元気がないけど」

メガネ「何かあったのか?」


ブロンド「いやぁ……そんなこと」


エディ「なんだぁ? 練習が出来ないのがそんなに寂しいのかよ」

エディ「顔出すだけ出して練習なんてしなかったくせに」

エディ「いざ、バケモンに荒らされてグラウンドが使えないってなると」

エディ「やっぱり気になるもんなのか?」


ブロンド「……まぁね」

ブロンド「君達のボール遊びを見るのは僕の日課になってるから」

ブロンド「無くなると、それはそれで悲しんだよ」


ジム「その辺にしとけよ、エディ」

ジム「後ろがつかえてんだ」

ジム「さっさとサイコロを振らせろ」


エディ「んだよ、自分は参加してねぇくせに」

エディ「やらねぇんなら、黙って見てろってんだ」


ジム「俺はテメェみたいにノロくねぇからな」

ジム「鈍くせぇのは見ててイライラすんだよ」

ジム「ムダ話してる暇があったら、さっさと進めろってんだ」


エディ「誰が鈍くさいって?」

エディ「テメェこそ、負けたくねぇから参加してねぇんじゃねぇのか」


ジム「……言うじゃねぇか」

ジム「だったらやってやるよ」

ジム「ボロボロに負けて泣きべそかくんじゃねぇぞ?」


エディ「それはオレのセリフだ、能無し野郎」

エディ「そっちこそ、大口たたいたことを後悔させてやるぜ」


ジム「望むところだ」

ジム「おい、ブロンド野郎」

ジム「俺と代わりやがれ」


ブロンド「はぁ、仕方な……」


  「おい! お前達」


王子「ん? アルベルト」

王子「どうしたんだよ?」


書記「大変だ! 聞いてくれ」


ジム「なんだ?」

ジム「また、俺の様子でも見てくるように言われたのか」


書記「そうじゃない」

書記「騎士団が来たんだ!」


トム「あ?」


ブロンド「!?」


メガネ「そ、それは本当なのか?」


書記「ああ、それだけじゃない」

書記「ヘンリーの奴が居たんだ」

書記「騎士団の隊長みたいなのと一緒に」


メガネ「えっ……」


ブロンド「へ、ヘンリーが!?」

ブロンド「見間違いじゃないのか?」


書記「間違いない」

書記「この目で見てる」


ブロンド「ヘンリーは……」

ブロンド「騎士団は、今どこに!」


書記「正門のところだ」

書記「なんだか揉めてるみたいだった」


ブロンド「……分かった」

ブロンド「ありがとう」ダッ


エディ「あ、おい!」

エディ「どこ行くんだよ」


ジム「何だったんだ? アレは」


トム「それより、アルベルト」

トム「ヘンリーがどうとか言ってたが……」

トム「アイツが騎士団と一緒に居るのがそんなにマズイのか?」


書記「マズイも何も……」


メガネ「大問題だ」

メガネ「ここの生徒が騎士団と一緒に行動するなんて」


トム「どういうことだ?」

トム「騎士団って警察みたいなもんだろ」

トム「どうして、そいつらと行動するのが問題になるんだよ」


メガネ「説明すると長くなるけど……」


王子「要するに、仲が悪いんだよ」

王子「この学園と王国の騎士団は」


エディ「あん? そりゃどういうことだ」


メガネ「お互い、嫌い合ってることだな」


トム「そりゃまた、どうして?」


王子「ほら、魔法って便利だろ?」

王子「火を起こたり、水を出せたり、呪文ひとつでなんでもできる」


エディ「まぁ……確かにな」

エディ「俺たちだって散々目の前で見てきたし」

エディ「けど、それとこれと何の関係があんだよ」


王子「騎士団はそれが気に食わないみたいなんだよ」

王子「自分たちは努力して剣の腕を磨いてるのに魔法なんてものを簡単に使いやがって、って」

王子「ボクに言わせれば、魔法だって練習ナシで使えるものでもないのに」

王子「何バカなことを言ってるんだ、って話になるけど」


書記「ま、そんなこんなでお互いの仲は最悪で」

書記「昔は騎士団が学園に圧力をかけてきたこともあったぐらいなんだ」


トム「それで、そんな憎らしい騎士団がいきなり学園に来てた上に」

トム「ヘンリーの奴も一緒にいたんで」

トム「俺達のところに飛んできたって訳か」


書記「ああ、そうだ」

書記「全く……なんだってこんな日に」

書記「今日は生誕祭の最終日だぞ」


メガネ「多分、ワザとだな」

メガネ「今日ばっかりは教師もみんないなくなるし」

メガネ「その方が騎士団もやり易いんだろ」


ジム「へぇ……騎士団ねぇ」

ジム「トム、あのブロンド野郎がどうするか分からねぇ」

ジム「俺たちも様子を見に行ってやろうぜ」


トム「お前からそんな言葉が出るなんてな」

トム「明日は槍でも降るんじゃねか?」


ジム「だったら、賭けるか?」

ジム「俺は降らない方に賭けるがな」


トム「……その話はまた今度だ」

トム「とにかく、ヘンリーのことは俺も気になる」

トム「行ってみるぞ」


<魔導学園 正門>


ブロンド「ヘンリー! どういうつもりなんだ」


学級委員「どうしたも何も……見ての通りだ」

学級委員「お前だって分かってるだろ? ウィル」


ブロンド「でも、どうして!?」



ジム「やってるやってる」

ジム「キザったらしいブロンド野郎が、あんなに騒ぐなんてな」

ジム「珍しいこともあるもんだ」


エディ「……んなことより、周りを見てみろよ」

エディ「剣やら鎧やら着込んだ連中が一杯いる上に」

エディ「隊長っぽい奴がマーガレットの前にいるぜ」

エディ「ウィルの野郎、話し合いの真っ最中に突撃しちまったんじゃねぇのか?」


書記「ああ、多分」

書記「俺が見たときにも、何か揉めてる感じだったからな」


エディ「マジかよ」

エディ「もう少し考えて行動してほしいぜ」


王子「で、見てるだけでいいの?」

王子「あのまま放っておくのもマズいと思うぞ」


トム「……そうだな」

トム「気は進まないが、行くぞ」

トム「下手なことしないうちに回収だ」



家政婦長「落ち着いて下さい」

家政婦長「まだ話し合いの最中ですよ?」


ブロンド「待ってください」

ブロンド「これは僕とヘンリーの問題なんです」


家政婦長「その前に学園の問題でもあります」

家政婦長「あなた個人の問題は分かりませんが」

家政婦長「代理とはいえ、学園を任されている身です」

家政婦長「話し合いの邪魔をするなら、引き取ってもらいますよ?」


ブロンド「でも……」


トム「そうだぜ」

トム「その辺にしておけよ、ウィリアム」


ブロンド「トム! みんな」

ブロンド「どうして?」


メガネ「僕らも気になったからな」

メガネ「飛び出してったお前も」

メガネ「騎士団に肩入れしてるらしいヘンリーのことも」


学級委員「…」


  「ハインリヒ、コイツらは何だ?」


トム「そういうアンタは?」

トム「マントなんかつけて、隊長のつもりか」


  「その通りだ」

  「私はキメラ脱走事故調査分遣隊隊長、アドルフ・ディッテンベルガーだ」


エディ「キメラ脱走事故……なんだそりゃ?」

エディ「ここで何かすんのかよ」


家政婦長「彼らの目的は、先日のキメラ脱走事件の調査みたいです」

家政婦長「騎士団の方で許可が下りたから、学園内に入れろとうるさいのです」


隊長「ここで飼われていたキメラが脱走したのは重大な過失だ」

隊長「このまま放っておいては、自分たちの過失を闇に葬られてしまうかもしれない」

隊長「だから、我々が調査し、その結果を持ち帰る必要がある」

隊長「早くここを通せ、捜索許可なら出ている」


家政婦長「この学園は王都のどの組織にも属さない独立組織です」

家政婦長「騎士団発行の許可証であなた方を立ち入らせる訳には行きません」

家政婦長「捜索をするなら、軍政官付けの許可証に大臣以上の署名が必要になります」

家政婦長「それに……今日は王都の生誕祭ですよ」

家政婦長「あなた方は王都の警備に当たらなくてもよろしいのですか?」


隊長「我々の任務について、部外者にとやかく言われる筋合いはない」

隊長「大臣の署名ならちゃんとある、よく見てみろ」


家政婦長「騎士団発行の許可証である以上、信用できません」

家政婦長「仮に本物だとしても、大臣に確認する必要があります」

家政婦長「今日のところはお引き取り下さい」


隊長「ええい、黙れ!」

隊長「団長よりここの調査を命ぜられたのだ」

隊長「私とて、ここを引くわけには行かない」

隊長「ハインリヒ、コイツをどうにかしろ」


学級委員「家政婦長、そこを通してくれませんか?」

学級委員「あなたが退かないと」

学級委員「こっちも強硬手段に出ざるを得ないんです」


家政婦長「強硬手段というと……?」


学級委員「こういうことです」ジャキ


エディ「なっ!?」 トム「お前!」


ブロンド「やめろ! ヘンリー」


家政婦長「……学園の生徒が職員に危害を加えても騎士団には関係ない」

家政婦長「そういうことですか」


隊長「危害を加えらえたくなければ、大人しく引き下がれ」


王子「待てよ! ヘンリー」

王子「どうして、騎士団の言いなりになってるんだよ?」


書記「そうだ!」

書記「お前は俺たちのクラスメイトだろ!?」


学級委員「…」


書記「おい! 何とか言ったらどうなんだ」

書記「さもなきゃ……」


隊長「待て、彼は我々の案内人だ」

隊長「邪魔をするというのなら、相応の罰を受けてもらうぞ」


書記「ぐっ……」


隊長「さぁ、学園長代理」

隊長「そこを通してもらっても良いな?」


家政婦長「…っ」


ジム「おい、アルベルト」

ジム「そんな奴の挑発に乗んのか?」


書記「そうは言っても……」


ジム「そんなんで怖気づいてるから、いつまでも俺に勝てねぇんだよ」

ジム「おい、ヘンリー」

ジム「覚悟は出来てんだろうな」ジャキ


隊長「なに……」


トム「おい、バカ!」

トム「この状況で、なに仕出かす気だ」


ジム「アイツの性根を叩き直してやるんだよ」

ジム「飼い犬よろしく尻尾を振りやがって」

ジム「俺たちに剣を向けたことを後悔させてやる」


エディ「待てって! ジム」

エディ「後ろにいる鎧連中が目に入らねぇのかよ!?」


ジム「知るか、あんな奴ら」

ジム「やってきたら返り討ちにしてやる」


王子「いや、返り討ちって……」


ブロンド「ダメだ! 彼らに手を出しちゃいけない」

ブロンド「そうなったら……」


ジム「ごちゃごちゃうるせぇな」

ジム「テメェだって、ヘンリーの野郎と揉めてたじゃねぇか」

ジム「だったら、ここですっぱり決着がつく方がいいだろ」


ブロンド「でも、それは……」


ジム「ほら、ヘンリー」

ジム「テメェの腐った根性を叩き直してやるよ」

ジム「行くぞ! アル」


書記「あ……ああ!」ジャキ


ブロンド「待つんだ! 2人とも」


学級委員「…っ」


隊長「総員、かかれ!」

隊長「騎士団への攻撃だ」

隊長「直ちに無力化し、全員拘束せよ」


  ガシャ ガシャ ガシャ

      ダダダダダダダ

   カンッ  キンッ


エディ「おいおいおいおい! どうすんだよ!?」

エディ「アイツらは戦闘モードに入っちまったし、後ろの連中は門を破ろうとしてやがんぞ!」


トム「マーガレット、アンタは逃げろ」

トム「ここは俺たちが時間を稼ぐ」


家政婦長「しかし、それでは……」


トム「アンタまで捕まったら、奴らのやりたい放題だ」

トム「俺達はどうにかする」

トム「だから、早く逃げろ」


家政婦長「……分かりました」

家政婦長「健闘を祈ってます」


王子「ト、トム!」

王子「時間を稼ぐってどうするつもりなんだよ!?」


トム「決まってる」

トム「こうなったら、破れかぶれだ」

トム「全力で抵抗する」


メガネ「ほ、本気なのか?」


トム「じゃあ、黙って捕まるか?」


メガネ「いや、それは……」


    ガァアアアン


エディ「トム! 門がぶっ壊れた」


トム「行くぞ!」

トム「うぉおおおお!!」

  
     ダダダダダダ



<魔導学園 懲罰房>


王子「で、捕まったワケだけど……」

王子「ここはどこだ?」

王子「ボクはこんなところ知らないぞ」


エディ「知らねぇのかよ」

エディ「仮にもオメェ、ここの生徒だろ?」


王子「知らないものは知らないんだよ」

王子「お前だって分かってるだろ?」

王子「ボクが引きもこりだったってこと」

王子「コロシアムの存在だって、この前初めて知ったんだ」


エディ「そういや……そうだったな」

エディ「悪ぃ、色々あってすっかり忘れてたぜ」


王子「いいよ、別に」

王子「もう気にしてないから」


王子「それより、お前こそ知らないのかよ」

王子「学園を見て周った時間はそっちの方が長いだろ」


エディ「こりゃ多分、懲罰房だな」

エディ「確か……グラウンドの端の端にあって」

エディ「掃除するかもしれないからって、マーガレットに教わったっけ」

エディ「まさか、中身がこんなことになってるとは思わなかったぜ」


トム「ああ、全くだ」

トム「窓らしきもんは1つもなし」

トム「ぶ厚い石壁のせいで外の雑音も聞こえない」

トム「おまけに、出口の扉はカギ付きの鋼鉄製ときてる」

トム「ここで死んだら密室殺人の完成だな」


メガネ「……冗談が言えるぐらい余裕があるのは分かったけど」

メガネ「これからどうするんだ?」

メガネ「目隠しされたままこんなところまで連れてこられて、ジム達3人ともはぐれた」

メガネ「あれから学園がどうなったかも気になるし」

メガネ「とにかく、こんなところで油を売ってる場合じゃない」


トム「それぐらいは俺にも分かってる」

トム「でも、他にどうしろってんだ?」

トム「都合よく秘密の入り口が見つかったり、誰かが助けに来てくれたりするのか?」


メガネ「ほら、家政婦長を逃がしただろ?」

メガネ「あの人が助けに来てくれれば……」


トム「それなら望み薄だな」

トム「俺たちを閉じ込めるのに学園の施設を使ってるんだ」

トム「当然、騎士団の奴らは学園に侵入してきてる」

トム「そうなってくると相手は戦闘のプロ、教師のいない学園を乗っ取るぐらい朝飯前だ」

トム「いくらマーガレットでも籠城戦に持ち込むのがやっとだろうな」


メガネ「でも……そうと決まったわけじゃないんだろ」

メガネ「だったら、誰かが助けに来てくれることを信じる」

メガネ「そうでもしてないと、こんなところでじっとしてられない」


エディ「そうだぜ、トム」

エディ「こんな場所で辛気臭ぇこと考えても仕方ねぇよ」

エディ「するんだったら、もっと楽しい話にしようぜ」


エディ「ほら、今は確か……」

エディ「生誕祭とかいったお祭りなんだろ?」


トム「そういや、そんな話もあったな」

トム「そんな素振りがなさ過ぎて忘れてた」

トム「お前らは祝ったりしないのかよ?」


王子「お祭りったって、王都のお祭りなんだよ」

王子「王都じゃパレードとかパーティーとかやってるけど」

王子「こんな片田舎にある学園には関係ない」

王子「まぁ、飾り付けぐらいはしてるけど」


トム「それでも、教師は顔出しに行かなきゃならないんだろ」

トム「その間、お前らはどうしてるんだよ」

トム「どっかに出かけたりとかしねぇのか?」


メガネ「基本的には学園にいる」

メガネ「中途半端に長い休みだから、誰もどこかに行こうとか思わないんだ」


エディ「けど、ヨハンの奴は王都にいんだろ?」

エディ「親父に呼び出されたとかで」


王子「アイツの父親は軍政官で、結構な力のある貴族なんだ」

王子「だから、貴族どうしの顔見せも兼ねて呼ばれたと思う」

王子「生誕祭中は国中の貴族が王都に集まるからな」


エディ「へぇー……貴族の世界も大変だな」

エディ「親に呼ばれてパーティーなんて、オレには絶対無理だぜ」


王子「心配なんかいらない」

王子「お前なんかをパーティーに誘う奴はいないさ」


エディ「ケッ、黙ってろ」

エディ「パーティーなんかこっちから……」



   ガチャ  バァン


  「トム! みんな!!」


王子「お前……!」


メガネ「ヨハン!?」

メガネ「どうしてここに!」


生徒「話は後だ!」

生徒「いいから早く逃げよう!」

生徒「ジム達が稼いでくれる時間にも限界がある」



    ガタンッ

  「おい! そっちに逃げたぞ!」

    「黙れ!」  カンッ
               「ぬわぁ!?」

   「向こうだ! 追えッ!」
  

    カンッ   ドカッ



トム「どうする? エディ」

トム「パーティーのお誘いみたいだぜ」


エディ「コレがパーティーねぇ……」

エディ「どうせなら、ケーキとか出てくるやつに参加したかったぜ」


トム「だったら、尚更ここから出なくちゃいけないな」

トム「こんなとこに居ちゃあ、一生お目にかかれないぜ」


エディ「分かってるって」


トム「ヨハン、道は分かってるんだろ?」


生徒「ああ、大丈夫」


トム「よし、逃げるぞ」


<魔導学園 男子クラス>


エディ「ふぅ……やっとここまで来れた」

エディ「あの連中、学園のそこかしこに居やがって」

エディ「ここまで来るのに随分時間がかかっちまったぜ」


メガネ「まぁ、良かったじゃないか」

メガネ「取りあえずは、あそこから逃げ出せたんだから」


王子「それより、ヨハン」

王子「どうしてここに来たんだよ?」

王子「隠れるならもっといい場所があるだろ」

王子「ほら、前にが迷い込んだ洞窟とかさ」


生徒「ジム達とここで落ち合うことにしてるんだ」

生徒「ここなら間違えることはないし、騎士団の警備も薄いだろうからね」


トム「で、ヨハン」

トム「どうしてお前がここにいるんだ?」

トム「俺の聞いた話じゃ、お前は王都とやらにいるんじゃなかったのか」


生徒「……父さんへの報告書を盗み見したんだ」

生徒「『騎士団が学園を占領して、生徒たちが捕まってる』ってね」

生徒「それで、ここまで飛んできたんだ」

生徒「王都から飛び出して来たから、すっかり日も暮れちゃったけどね」


エディ「飛び出したって……大丈夫なのかよ?」

エディ「仮にも親父に呼び出されてたんだろ」

エディ「また、退学騒ぎになっちまうんじゃねぇか」


生徒「分からない……」

生徒「けど、やっぱり僕はこの学校が好きなんだ」

生徒「だから、じっとしてなんていられなかった」

生徒「それに……確かめたいこともあったから」


王子「確かめたいこと?」

王子「何だよ、それ」


生徒「僕がここへ来るきっかけになった報告書」

生徒「そこに書いてあった名前が……」


  「僕のものだった、って言うんだろ?」


メガネ「ウィル!」

メガネ「ジムにアルも」


エディ「オメェらも逃げられたみてぇだな」

エディ「あんな騒ぎを起こした割には、意外と早かったじゃねぇか」


ジム「ハンッ、あんな奴らが数人かかってきた程度で捕まるかよ」


書記「ま、こっちには地の利もあるからな」

書記「さんざん迷わせて、袋小路に閉じ込めてきた」


トム「お前らが無事に逃げられたのは良かった」

トム「だが、ウィリアム」

トム「さっきのはどういう意味だ」

トム「どうして、ヨハンが見たの報告書にお前の名前が載ってたんだ?」


ブロンド「考えるまでもないさ」

ブロンド「あの報告書は僕が書いたんだから」


生徒「どういうことだよ!?」

生徒「どうして君が父さんに」


ブロンド「それは……その」


メガネ「お願いだ、教えてくれ」

メガネ「騎士団が来た理由も、ヘンリーがああなった理由も」

メガネ「全部知ってるんだろ」


ブロンド「…」


ジム「おいおい、はぐらかそうなんて考えてねぇよな?」

ジム「力ずくで吐かせてやってもいいんだぜ」


トム「状況を考えろ、ジェームズ」

トム「今はこいつに拷問まがいのことをしている場合じゃない」


ジム「チッ……分かってるよ」

ジム「ただの冗談だよ、冗談」


トム「ウィリアム、無理に話せとは言わない」

トム「だが、お前は俺たちの仲間だ」

トム「お前が困ってるなら力を貸す」

トム「たとえ、お前が本当のことを話そうが話さまいがな」


ブロンド「はぁ……」

ブロンド「やっぱり、君たちに黙ってるのは無理みたいだな」

ブロンド「分かった……全部話すよ」

ブロンド「僕がここにいる理由も、僕らの任務のことも」


ジム「そいつは結構だな」

ジム「じゃあ、まずはテメェの正体について話してもらおうか」

ジム「ここまで来て、ただの生徒でしたってことはねぇんだろ?」


ブロンド「ああ……」

ブロンド「僕とヘンリーは純粋な学園の生徒じゃない」

ブロンド「……騎士団の人間なんだ」


メガネ「なっ……!」

メガネ「どういうことだよ!? それは!」


ブロンド「僕達の任務は学園の調査と観察……」

ブロンド「早い話が騎士団のスパイなんだ」


エディ「スパイって、アレか?」

エディ「MI6やらKGBやらの……」


ブロンド「いまいち意味が分からないが」

ブロンド「君たちの考えて貰ってるもので間違いはないはずだ」


生徒「でも、スパイって」

生徒「どうして君が、そんなこと……」


ブロンド「それを話したら長くなるけど……」

ブロンド「僕とヘンリーは、君たちみたいに魔法を習いにここへ来たんじゃない」

ブロンド「騎士団の命令でここの内情を探るためにいるんだ」


生徒「そんな……」


王子「けど、なんでスパイなんかを」

王子「いくら魔法が気に食わないっていったって、ここは学校じゃないか」

王子「王都に居場所がなくなったボクが送り込まれるぐらいだし」

王子「そんなことまでする必要はないと思うぞ」


ブロンド「僕らはカウンターなんだ」

ブロンド「騎士団内の軍政官派への」


エディ「おい、軍政官って……」


生徒「父さん?」

生徒「どういうことだよ、ウィル」

生徒「何でここで父さんの名前が出てくるんだよ」


ブロンド「……騎士団も一枚岩じゃないんだ」

ブロンド「魔法使いに寛容な軍政官派、魔法を一切認めない騎士団長派」

ブロンド「2つの派閥が互いに争っているのさ」

ブロンド「その亀裂は表には表れていないけど……」

ブロンド「僕らみたいなスパイが送り込まれるほどには深くなっているんだ」


書記「おい、話がおかしい」

書記「その口調だとお前は騎士団長派なんだろ?」

書記「じゃあ、どうしてヨハンの父さんに報告書を送った」

書記「そもそも、お前は魔法を使えるだろ」

書記「どうしてそんな奴が魔法を認めないとかいうグループにいるんだよ」


ブロンド「…」


ジム「どうした? 話せないのかよ」

ジム「出来ねぇって言うなら、無理に話さなくてもいいぜ」

ジム「ウチのキャプテン殿はどっちでも良いみだいだからな」


ブロンド「いや……話させてもらうよ」

ブロンド「今更やめるってのも、恰好がつかないからね」

ブロンド「アル、君の質問に答えると」

ブロンド「僕は裏切ったのさ、団長派を」


書記「……!?」


トム「そいつは……どうしてだ?」

トム「魔法が使えるようになって冷遇でもされたのか?」


ブロンド「それもある……」

ブロンド「けど、そうじゃない」


トム「じゃあ、なんだ」

トム「ヘンリーの奴とでもケンカしたか?


ブロンド「簡単なことさ、ここでの任務に疲れたんだよ」

ブロンド「人を騙して友人のふりをして」

ブロンド「あまつさえ、その家族を殺しかけた」

ブロンド「そんなことを続けるのは無理だと思った」

ブロンド「だから、前々から連絡を取っていた軍政官殿の下についたんだ」


メガネ「待ってくれ」

メガネ「お前の友人って言うのは、僕たちのことなんだろ?」

メガネ「なら、いつお前が僕らの家族を傷つけようとしたって言うんだ」

メガネ「僕はそんなこと知らないぞ」


ブロンド「いや、ポール」

ブロンド「君はよく知ってるはずだ」

ブロンド「なんたって、君の妹を焼き殺しかけたんだから」


メガネ「メアリーを……焼き……」

メガネ「ま、まさか!?」


ブロンド「そうさ、あの火事は僕が起こしたんだ」


メガネ「お前ッ!」ダッ


トム「おい! やめろ」

トム「エディ!」


エディ「お、おう!」ガシッ


メガネ「クソ、離せ!」

メガネ「こいつが……こいつのせいで!」


トム「いいから、落ち着け」

トム「お前の気持ちも分からなくはない」

トム「だが、もう終わったことだ」

トム「今はこいつをぶん殴るよりやることがあるだろ」


エディ「そうだぜ、ポール」

エディ「終わったら好きにしていいけどよ」

エディ「まだ、話の途中だろ?」


メガネ「……っ、分かった」

メガネ「お前たちの言うとおり、ここは大人しくここしておく」

メガネ「でも、ウィル」

メガネ「どうしてそんなことをした?」

メガネ「答えによっては、ただじゃ済まさないぞ」


ブロンド「命令さ……」

ブロンド「誰もいない図書館に火をつけて騒ぎを起こせってね」

ブロンド「僕らの任務は調査と観察とは言ったけど、そんなのは最初だけさ」

ブロンド「今じゃ、名実ともに工作員だ」


生徒「工作員って、何時から……」

生徒「ずっと一緒にいたけど、そんなそぶり見せなかったじゃないか?」


ブロンド「もちろん、見られないように行動したってのもある」

ブロンド「でも……実際に行動を始めたのは結構最近なんだ」

ブロンド「ほら、前にかなり大きな実験の事故があったろ?」


書記「ああ……あったな」

書記「確か、学内試合の前だったか」

書記「そいつが何かに関係してるのか?」


ブロンド「その事件を報告した結果……禁止された召喚魔法の実験じゃないかって話になってね」

ブロンド「そうだとしたら、騎士団にとっては学園に付け入るチャンスなんだ」

ブロンド「だから、事故調査の名目で騎士団が学園に入れるようにする」

ブロンド「そのためにいろいろな事故を起こしてた」

ブロンド「ここ最近、学園内で発生していた事故は殆ど僕らの仕業さ」


王子「なら、あのキメラも……」


ブロンド「ああ、アレもそうさ」

ブロンド「まぁ……僕は火事の一件以来、そういうことから手を引いていたからね」

ブロンド「実際にキメラを逃がしたのはヘンリー1人だ」


トム「で、あの化け物を口実に」

トム「騎士団連中が押しかけてきた、と」

トム「ウィリアム、お前は知ってたのか?」


ブロンド「いいや……僕は何も知らなかった」

ブロンド「まさか、生誕祭の日にやってくるなんてね」

ブロンド「ヘンリーも僕が軍政官派と通じていることを分かってたみたいだ」

ブロンド「それが無かったら、こんなことにはならなかったのに」


ジム「ハッ……終わったことでウジウジ悩んでても仕方ねぇよ」

ジム「ヘンリーの野郎が騎士団とかいうのを侵入させたんだろ?」

ジム「だったら、返り討ちにしちまえばいいじゃねぇか」

ジム「俺は逃げ出す気なんて、サラサラねぇからな」


ブロンド「何を言って……」


トム「そいつの言うとおりだ」

トム「ここがなくなったら困るからな」

トム「全力で抵抗させてもらう」


エディ「オレ達が帰らねぇとフットボールの試合もできねぇしな」

エディ「騎士団に攻め込まれて帰れませんでした、なんて……」

エディ「シャレにもならねぇよ」


ブロンド「でも、相手は騎士団だ」

ブロンド「今度は牢屋送りじゃ済まなくなるかもしれない」

ブロンド「それに、これは僕の問題だ」

ブロンド「解決するなら、僕一人でやる」

ブロンド「だから……」


王子「お前たちは逃げろ、とでも言うのかよ?」

王子「そんなのは許さないぞ」

王子「やっと、ここも楽しくなってきたんだ」

王子「今更ここを捨てて逃げろなんて話は聞けないね」


メガネ「僕も逃げるつもりはないぞ、ウィル」

メガネ「ここで逃げたら、メアリーの通う学校がなくなるからな」

メガネ「悪いが、騎士団には出て行ってもらう」


書記「俺もだ」

書記「会長にジムの奴を見張れって言われてるからな」

書記「こいつが行くなら、俺も行かないと」

書記「職務放棄になるからな」


ブロンド「君たち……」


生徒「ウィル、僕も行くよ」

生徒「トムたちを助けに行くとき言ってただろ? 力を貸してくれって」

生徒「だから、今度は僕の番だ」

生徒「学園を取り戻して、ヘンリーを連れ戻すのに力を貸してくれないか?」


ブロンド「……分かった」

ブロンド「みんなで騎士団を追い払おう」

ブロンド「そして、ヘンリーも連れ戻そう」


トム「そうと決まったら、作戦会議だ」

トム「さすがに、二度も捕まるのはゴメンだからな」


<学園本棟 屋上>


トム「……アレが騎士団か」

トム「結構な数がいるな」


ブロンド「これでもだいぶ少ない方さ」

ブロンド「今回は調査のための特別隊だから100人程度で収まってるけど」

ブロンド「本気で侵攻作戦をするつもりなら、数千人規模の部隊が導入されるからね」


エディ「うへぇー……あんなのが数千人かよ」

エディ「軽く映画が作れるぜ」


ジム「フンッ、最近の映画はみんなCGだ」

ジム「そんなバカみてぇにエキストラを雇っちゃいねぇよ」


エディ「んだよ! 感想を言っただけだろ」

エディ「なんでテメェにダメだしされなきゃいけねぇんだよ」


生徒「ほら、2人とも」

生徒「今は僕らで言い争いをしてる暇はないだろ」

生徒「どうにか、騎士団を追い払う方法を考えないと」


王子「でも、どうするんだよ?」

王子「敵は少なくとも百人はいるんだろ」

王子「さすがにボクらだけじゃ太刀打ちできない」

王子「下手したら、また捕まって牢屋に逆戻りだ」


メガネ「……確かに」

メガネ「家政婦長は首尾よく逃げ出して、職員寮に立てこもってるみたいだけど」

メガネ「アレじゃあ防戦一方だ」

メガネ「仮に、僕たちと合流できたとしても物量で押し負ける」


トム「なら、こっちも物量に頼ればいいだけだ」

トム「アルベルト、ここの全校生徒は何人いる?」


書記「教員を除いて300人ぐらいだったはずだが……」


トム「そんだけいれば十分だ」


トム「それで、ここの奴らはみんな講堂に居るんだよな?」


ブロンド「ああ……生徒はみんな講堂に捕えられてる」

ブロンド「でも、乗り込もうって考えは捨てた方がいい」

ブロンド「いくら中隊規模でも、監視が無いなんてことはない」

ブロンド「この人数で突破するのは無理だ」


トム「誰も正面切って突入するなんて言ってねぇよ」

トム「こういう時こそ、潜入任務だ」

トム「お前の得意技だろ? ウィリアム」


ブロンド「そうは言っても……」

ブロンド「講堂への入り口は正面玄関だけで、見張りだって付いてる」

ブロンド「校舎から屋根伝いに行こうにも、建物同士が離れすぎていて無理」

ブロンド「もちろん、秘密の入り口なんてモノもない」

ブロンド「これでどうすればいいのさ?」


トム「いや、そんなもん探さなくても十分だ」

トム「アレを見てみろ」


生徒「アレ?」

生徒「あれってお祭りで良く見る……」

生徒「そうか! 分かったぞ」

生徒「アレを伝って行動まで行くんだろ?」


トム「そうさ」

トム「アレなら監視の兵士にばれずに侵入できる」

トム「こんな夜中に、あんな場所を凝視する奴もいねぇだろ」


エディ「全く、今日が生誕祭とかいうお祭りで助かったぜ」

エディ「ご丁寧に旗付きロープなんてもんで装飾してくれてたんだからな」

エディ「誰だが知らんがお祭り好きの奴に感謝だぜ」


ジム「で、どいつがそんな綱渡りをすんだよ?」

ジム「俺は嫌だぜ」

ジム「そんな曲芸師みたいなマネは」


トム「安心しろ、お前ら全員を連れて行くつもりはねぇよ」

トム「あの旗付きロープだって装飾の一部だ」

トム「バカみたいに全員掴まったら、途中で縄が切れちまう」


王子「じゃあ、残ったのはどうすればいいんだよ?」

王子「ここで大人しくしてろって言うのか」


トム「いや、事態が事態だからな」

トム「しっかり働いてもらうぜ」


書記「で、具体的には?」


トム「ここにいる奴らを3班に分ける」

トム「俺と講堂へ行く、潜入班」

トム「潜入班の合図で見張りに切り込む、陽動班」

トム「反撃後の拠点を作る、拠点班だ」


エディ「拠点? んなもん作ってどうすんだよ」

エディ「籠城すんのは悪手だろ」

エディ「マーガレットのこともあるし」


トム「別に籠城戦をするような拠点じゃねぇ」

トム「そもそも、そんなもの短期間じゃ作れない」

トム「ただの野戦病院みたいなもんだ」

トム「どっちにしろ、ケガ人を運ぶ場所は必要だろ?」


エディ「でも、拠点なんてどこに作るんだよ?」

エディ「中途半端な場所じゃ、ケガ人だっておちおち寝てらんねぇぜ」


メガネ「それなら、救護室を使えばいい」

メガネ「あそこなら薬もあるし、なりよりベッドがある」

メガネ「通路もバリケードをすれば問題ないだろうから」

メガネ「1日ぐらいはやり過ごせるはずだ」


トム「なら、拠点はお前に任せた」

トム「他の奴にやらせるより、お前が自分でやった方がいいだろ」


メガネ「ああ、任された」


ジム「おい、俺は……」


トム「陽動班だって言うんだろ?」


ジム「ほう、分かってるじゃねぇか」

ジム「昼間に散々やられたんだ」

ジム「その分をキッチリ返させてもらうぜ」


書記「俺も行く」

書記「アンタから目を離すわけにはいかない」


ジム「ちゃんと付いてこれんのか?」


書記「お前こそ、昼間の二の舞にはなるなよ」


ブロンド「2人が行くなら、僕も行かないとね」

ブロンド「残った中で剣を扱えるのは、僕ぐらいだろうから」


トム「よし、陽動班は決まりだな」

トム「突入の合図は……」


生徒「僕がするよ」

生徒「炎とか風より、雷の方が分かりやすいだろ?」


トム「なら、ヨハンも潜入組だな」

トム「後の奴らは……」


王子「待て、ボクも講堂へ行く」


エディ「おいおい……」

エディ「そりゃ、どういうことだよ? カール」

エディ「オレ達以外でオメェを知ってんのは、ナターシャかクロエぐらいだろ」

エディ「そんな奴がどうして、また」


王子「どうだっていいだろ……そんなこと」

王子「行きたいから行きたいって言っただけだ」

王子「それに、口の悪いお前が行くよりは」

王子「ボクの方がまだマシさ」


エディ「ったく……口が悪いのはどっちだよ」

エディ「ま、お前が行きたいってなら好きにしろ」

エディ「余ったオレはポールと一緒に拠点を作ってるからよ」


トム「待てよ、エディ」

トム「せっかく拠点班になったんだ」

トム「俺が仕事をくれてやる」


エディ「仕事?」

エディ「なんだよ、そりゃ」


トム「ほら、学内試合で使った防御リングだかバリアグラフだかあったろ?」

トム「アレを拠点に運んでくれ」


エディ「でも、どうしたってそんなモンを」


トム「アレでも一応、物理攻撃を防げんだ」

トム「何も無いよりはあった方がマシだろ?」


エディ「まぁな」

エディ「じゃ、有りっ丈のリングをデリバリーしてやるぜ」

エディ「多い分には文句はねぇだろ?」


トム「ああ、そうだな」

トム「それじゃあ、班分けも決まったとこで……」

トム「作戦開始だ」


<講堂 屋根の上>


トム「……よっと」

トム「ほら、捕まれ」


生徒「ああ、ありがとう」


トム「お前もだ」


王子「あ、ああ」


生徒「それで、講堂の上には着いたは良いけど」

生徒「どうやって中に入る?」

生徒「ここからじゃ、建物の横に回り込むのは難しいよ」


トム「まぁな」

トム「俺だって、屋根の縁にぶら下がりながら窓をぶち破るなんて芸当は出来ねぇ」

トム「他の手を考えるしかないな」


王子「なぁ、ここからは無理なのか?」

王子「中だって見えてるし」

王子「ガラスを割ればすぐに入れるぞ」


生徒「確かに……天窓からなら侵入は楽だけど」

生徒「そこから飛び降りるわけにはいかないよ」

生徒「せめて、ロープでもあれば良いんだけど」


トム「それなら問題ない」

トム「今、俺達が伝ってきたのがある」

トム「魔法かなんかを使って、向こう側を焼き切っちまえば問題なしだ」


生徒「でも、それって……」


トム「なに、俺達3人が掴まっても大丈夫だったんだ」

トム「そうそう切れはしねぇよ」

トム「どの道、他に手はなさそうなんだ」

トム「考えてる暇があったら、さっさと作業に移るぞ」


<講堂 ステージ上>


     「ねぇ、私たちどうなっちゃうんですか?」


 「アレは何!? 騎士団ってどういうこと!」

           「男子クラスの生徒が捕まったって本当なんですか!?」


   「会長、何か知らないんですか?」

         「一体、何があったの!?」
 


生徒会長「みんな! 落ち着いてくれ」

生徒会長「取りあえず、ここにいれば大丈夫だ!」

生徒会長「明日になれば先生方も帰ってくる」

生徒会長「それまでの辛抱だ」



   「そんなこと言ったって……」

        「先生たちが戻ってこなかったら?」
 
  「嫌ッ! 私達どうなっちゃうの!?」



生徒会長「大丈夫だ! 私が付いている」

生徒会長「生徒会長として、皆に危害が加わるような事態にはしない」


  「ちょっと……いいですか?」


生徒会長「どうした? クロエ」


副会長「もう、みんな限界です」

副会長「閉じ込められてから6時間以上たってます」

副会長「このままだと、いつ不満が爆発するか……」


生徒会長「そんなことは私にも分かってる」

生徒会長「しかし、どうしようもない」

生徒会長「実際に何が起こっているのか、私にも分からないのだ」


副会長「それでも、何か策を見つけないと……」

副会長「ナターシャさんだけじゃ、みんなを抑えられきれないですよ」


生徒会長「だが、そうは言っても……」



  「会長! どうしたんですか!?」

       「何か分かったんですか!? 教えてください!」


  「あなた! 何か隠してたりしないでしょうね!」



生徒会長「皆、落ち着いてくれ!」

生徒会長「私もみんなと一緒で……」



       ガシャン

    シュル シュル ストッ


    「きゃっ!! 何?」

  「な、何!? これ!」

      「騎士団が攻めてきたの!?」



生徒会長「ロープから離れろ!!」



    「は、はい!」

  「ほら、下がって!」

     「な、何! どうしたの!?」
     


生徒会長「誰だ! 姿を現せ」

生徒会長「ここに何の用だ!?」


  「随分と他人行儀な挨拶だな、会長さん」


生徒会長「お前……トム!?」


  「ボク達だって居る」

  「見逃さないでほしいね」


  「まぁ、しょうがないよ」

  「こういうのはトムの方が絵になるし」


副会長「ヨハン君に、カール君まで……」



  「どういうこと!? どうしてアイツらが」

        「なんで、上からやってきたのよ!」
 

    「そんなこと分からないよ!」  

   「ねぇ、男子は捕まったんじゃなかったの!?」



トム「これは、また……」

トム「大変なことになってるみたいだな?」


生徒会長「ああ、いきなりここに閉じ込められて」

生徒会長「外で何が起こっているかも分からなかったからな」

生徒会長「皆の不満を抑えきれなくなっていたところだ」


トム「だったら、丁度いい」

トム「俺がその不満を解消させてやる」


生徒会長「不満を解消?」

生徒会長「何を言って……」


トム「おい、お前ら!」



   「な、何? いきなり」

     「私たちに言ってるの?」

  「え、でも……」



トム「外で何が起こってるか知りたいんだろ?」



    「そんなの当り前じゃん!」

      「閉じ込められる理由ぐらい知りたいわよ」

   「そう言うアンタは知ってるの?」   



トム「もちろん知ってる」

トム「そいつを伝えるために、ここまでやって来たんだ」



     「じゃあ、早く教えてよ!」

   「理由、知ってるんでしょ!?」



トム「ああ……教えてやる」

トム「お前たちをここに閉じ込めた騎士団はな」

トム「この学園を潰すためにやってきたんだよ!」



    「えっ……」

        「何それ、どういうこと?」
 

      「そ、そんなの……」


トム(よし……いい感じに動揺してるな)

トム(後は適当に扇動して、外の奴らと戦って貰うだけ)

トム(まぁ、緊急事態だ)

トム(多少の脚色は許されるだろ)


-数分後-


トム「分かったか?」

トム「これがお前たちの知りたがってた理由だ」

 

    「……学園と騎士団の仲がそこまで悪くなってたなんて」

  「ここを滅ぼすって、嘘でしょ」


      「嫌だよ、そんなの」        

           「まさか、家政婦の人たちが来ないのも」
  
      「変なこと言わないでよ!」



生徒(大丈夫なの?)

生徒(こんな嘘ついちゃって)


トム(煽るならこれぐらい大げさにした方がいい)

トム(それに、間違ってはいないからな)

トム(バレたらバレたで『気が動転してた』とか言っておけば大丈夫だ)


王子(……悪知恵が働くというか)

王子(お前が敵じゃなくて良かったよ)


生徒会長「……トーマス」

生徒会長「今の話は本当なのか?」


トム「多少脚色したが、嘘はついてない」

トム「学園は調査隊とやらに占拠されて、マーガレットは籠城してるらしい」

トム「俺達は外の騎士団を何とかするためにここへ来た」

トム「要は戦力補充だな」


生徒会長「そういうことなら協力しよう」

生徒会長「私としても、騎士団に我が物顔でここを占領されるのは気に食わない」

生徒会長「それに……生徒をここに閉じ込めておくのも限界だろうからな」

生徒会長「ただ、彼女たちを動かすのは大変だぞ?」


トム「任せとけ」

トム「そういうのは得意だ」



       「ねぇ、私たちはどうなっちゃうの?」

  「そうよ! こうなったらどうすればいいのよ!?」


    「会長! どうにかならないんですか!?」


トム「そんなの簡単だ」

トム「追い返せばいいんだよ」

トム「俺達の手でな」



   「お、追い返すって……」

        「そんなの無理だよ」


  「そうよ、アンタたちだって捕まってたじゃない!」



トム「確かにな」

トム「さすがに5人程度じゃ、100人は相手にならなかった」

トム「だが……ここには何人いる?」

トム「ざっとこの講堂が埋まる程度には人がいるんだ」

トム「それが一斉に蜂起したら、どうだ?」

トム「騎士団相手にも十分戦えるんじゃねぇのか」



  「そんなこと言っても……無理なものは無理よ」

    「そうだよ、私たちが騎士団になんてかなうはずがないもん」


 「そんなの、危ないだけじゃない!?」


   「バカなことを言ってる暇があったら、他のことを考えてよ!」



トム「……これでもこっちは大真面目なんだがな」

トム「逆に聞くが」

トム「アンタらには他に何か考えがあるのか?」

トム「揃いもそろって俺の案に反対するってことは」

トム「当然あるんだろ? とっておきの案が」



 「こ、ここで待ってれば先生たちが来てくれるはず!」

      「そうよ! わざわざそんな危ないことしなくても」


    「じっとしてれば、身の危険はないって……」


トム「じゃあ、ここが無くなったって良いって言うんだな?」



  「そ、そんなこと!」

    「私たちは……危なくないようにって」



トム「危なくないように?」

トム「俺に言わせれば、この状況も十分危ない状況だと思うね」

トム「アンタらがここに閉じこもってる理由はなんだ?」

トム「他でもない、外の騎士団連中に言われたからだろ」

トム「確かにそいつらの言うとおり、ここで待ってれば危険はないかもしれない」

トム「けどな……アイツらが約束を守るなんて断言できるか?」

トム「お前たちの安全なんて、奴らのさじ加減でどうとでもなる」

トム「こんな状況を本当に安全だって言えるのか?」


 
      「そ、それは……」

  「なら、どうすればいいって言うの!?」

    
    「そんなこと言ったら、私たち……」



トム「だから、戦うんだよ」

トム「徹底抗戦で奴らを追い出す」

トム「その方が手っ取り早いだろ?」



  「で、でも! そんなことしたら……」

     「本当に殺されちゃうかもしれない!」


 「ここにいても危ないなら、抵抗なんかしたらもっと危ないじゃない!?」



トム「それなら大丈夫だ」

トム「奴らに殴り掛かった俺たちがこうして生きてる」

トム「反抗したところで、牢屋にぶち込まれる程度で済む」

トム「ジェームズの野郎が無事なんだ、よっぽどのことがない限り大丈夫だろ」

トム「だから、頼む」

トム「お前らの力を貸してくれ」



    「そ、そんなのアンタの予測でしかないんでしょ!?」

  「そうよ、そんなの信じられない!」   


    「大体、今までの話だってホントかどうか怪しいし……」   


            「やっぱり、ここにいた方が安全だよ!」 

     「私たちを騙して何かするつもりかもしてない」     


トム「…」

トム(さて……どうするか)

トム(野郎だったら、適当に発破をかけとけば乗り気になるんだが)

トム(女は扱いづらいな)


  「あの! 私は信じます」


生徒「君は、ポールの……」


  「ど、どうして? メアリー」

  「なんでこんな奴の言うことを」


栗毛「私、この人は嘘をつくような人じゃないと思う」

栗毛「火事に遭った私を助けてくれたとき」

栗毛「この人は1人で助けに来てくれた」

栗毛「そんな人が、私たちに力を貸してくれなんて……」

栗毛「本当に私たちの力が必要なときなんだと思う」

栗毛「だから、私は信じるよ」

栗毛「この人を信じて力を貸そうと思う」


  
    「そんな……どうするの?」

       「私に聞かないでよ!」


     「会長! 会長はどうなんですか!?」


  「こいつのことを信じるんですか?」



生徒会長「ああ、私も信じる」

生徒会長「試合とはいえ、一度は剣を交えた仲だ」

生徒会長「彼が私たちを騙そうと嘘を付いているのか、そうでないのかぐらい分かる」

生徒会長「だから、私も戦う」

生徒会長「この学園を守るためにな!」



     「か、会長まで……」

  「どうしたらいいのよ、私たち」


       「戦うって……騎士団とでしょ? そんなの」


    「だ、だから! どうするって……」



トム「だか……」


王子「いい加減にしろよ!」


生徒「カ、カール……」


王子「さっきから聞いてれば、『どうするの』とか『どうしたらいい』とか」

王子「何一つ自分で考えようとしないじゃないか!」

王子「そのクセ、文句ばっかり言って」

王子「お前たちは一体何がしたんだよ?」



  「何って、それは……」

     「そっちこそ、適当なこと言ってるだけじゃないの?」


  「そうよ、私たちの何が分かるっていうの!?」



王子「分からないさ、お前たちのことなんて」

王子「でも……本当に選択肢がない状況なら分かる」

王子「ボクは王子だ、それも妾の子供のな」

王子「だから、何度もそんな状況に追い込まれた」

王子「母さんが居なくなったボクは、王宮の奴らに色々なところへ飛ばされた」

王子「この学園だってそのひとつだ」

王子「魔法もロクに使えないのに厄介払いさ」


副会長「カ、カール君……あなた」


 
   「王子って……嘘」

       「アレって、噂じゃなかったの」
        
    「でも、そう言ってるし……」



王子「今はそんなこと重要じゃない!」

王子「お前達は自分の意志でここに入ったしたんだろ?」

王子「なら、ここで黙ってるだけでいいのかよ」



     「それは……」

   「そういうわけじゃ……」



王子「お前たちが学んでる魔法は何のためにあるんだ」

王子「炎を出したり、風を起こしたりして、遊ぶためなのか?」

王子「違うだろ? こんな時のために立ち上がるためのものだろ」

王子「だったらやってみろよ!」

王子「ここはボクたちの居場所だろ? 少なくともボクはそう思ってる」

王子「だから、ボクは戦う」

王子「この場所を守るために」

  

     ガタンッ


  「さっきから何の……!?」

  「お前達、何者だ!」ジャキ



トム「チッ……バレちまったか」

トム「ヨハン!」


生徒「分かってる!」

生徒「サンダー……」


  「ロックシュート!」ビュンッ 


    ガンッ


  「がっ……」ガシャ



王子「これは……」



   「しょうがないでしょ! 体が勝手に動いたんだから」

                
               「さすがに……あそこまで言われたら」


 「ほら、言われっぱなしってのも……」

      「まぁ、アンタらが見つかった時点でアウトだったし」


     「取りあえず、今回は協力してあげる!」 



    ガタンッ


  「おい! 何だ」

  「何が起きやがった?」



生徒「ジ、ジム!?」


トム「今ので、入ってきたのか」


  「うぐっ……お前は」


ジム「うるせぇ」

ジム「そこで寝てやがれ」ガンッ


  「がっ……」ドサッ



生徒会長「さぁ! 行くぞ」

生徒会長「みんな、私の後に続け!」

生徒会長「学園を騎士団の手から取り戻すぞ!!」



    「は、はい!!」

        「ちょっと! 置いてかないでって」

  「あ、待ってください!!」

     
             「え、何? どうなってるの?」
    
      「良いから一緒に来るの!」


    ダダダダダダダダ



王子「ほら、行くぞ! クロエ」


副会長「え……でも」


王子「いいから、ボクに付いてこい」


副会長「うん!」


    タッタッタッタッタッ



ジム「ハッ……そういうことかよ」

ジム「抜け駆けは許さねぇぜ」

ジム「テメェら、みんな纏めて付いてこい!」

ジム「騎士団どもに殴り込みに行くぞ!!」


書記「待てよ、ジム」

書記「そんないきなり……」


ジム「黙ってろ!」

ジム「いいから、お前も付いてこい!」


書記「だから、待てって!」


ブロンド「2人とも、作戦は……」


   ドドドドドドドドドド



生徒「トム、これは……」


トム「……どいつもこいつも好き勝手に動きやがって」

トム「これじゃ、陽動作戦が形無しじゃねぇか」


生徒「で、どうしよう?」


トム「決まってるだろ」

トム「行くんだよ、俺たちも」

トム「反撃作戦の始まりだ」


<学園本棟 救護室>


   ガチャ


トム「どうだ?」

トム「こっちの状況は」


エディ「お世辞にもいいとは言えねぇよ」

エディ「ほら……アレを見てみろ」



  「うう……痛い」


王子「ちょっと、待ってろ」

王子「クロエ!」


副会長「今、手が離せないの」

副会長「こっちに連れてきて」


王子「分かった」

王子「ほら、肩を貸せよ」


  「……うん」


エディ「どうにもケガ人が多くてよ」

エディ「カール達が手当はしてるけど、手が足りなくなっちまっててな」

エディ「そろそろベッドが埋まっちまうぜ」


トム「そうか」


生徒「そういえば、ポールは?」

生徒「ここには居ないの?」

生徒「エディと一緒だったでしょ」


エディ「さぁ? メアリーが心配だとかで飛び出しちまったぜ」

エディ「ま、アイツのことだから大丈夫だとは思うんだがよ」

エディ「こんな状況じゃ、どこ行ったかも分からねぇぜ」


トム「今の戦況は分かるか?」

トム「ここが一杯になるってことは、ケガ人自体はもっと沢山いるんだろ」


エディ「そいつは……」


  「僕から話すよ」


生徒「ウィル!」

生徒「ジム達と一緒じゃなかったのか?」


ブロンド「途中で抜けてきたよ」

ブロンド「このままじゃ、勝機は薄そうだったからね」


トム「……と、言うと」


ブロンド「騎士団が盛り返してきてるのさ」

ブロンド「最初こそ、混乱して指示系統が乱れたけど」

ブロンド「さすがに相手は戦闘のプロだ、こっちの動きに対処しつつある」

ブロンド「それに……向こうにはヘンリーもいる」

ブロンド「多分、僕らが反撃に出ることも読んでたんだと思う」


エディ「つーことは……」


トム「そろそろ決着を付けないとマズイってことか」


ブロンド「……ああ」

ブロンド「今はまだ、敵の混乱と物量で押しているけど」

ブロンド「それも時間の問題さ」

ブロンド「いくら魔法を使えても、戦闘力は騎士団には適わない」

ブロンド「主力のジムかナターシャのどっちかが崩れたら……」


生徒「じゃあ、どうすれば」

生徒「ここまで来たのに負けるなんて……」

生徒「何か方法は無いの? ウィル」


ブロンド「僕らが潰れる前に敵の指揮官を叩く」

ブロンド「命令がなくなれば、騎士団は行動不能になる」

ブロンド「そこで降伏を呼びかければ僕らの勝ちさ」

ブロンド「でも、1つだけ問題がある」

ブロンド「それは……」


トム「その指揮官まで近づく手段がないって言うんだろ?」


ブロンド「そうさ」

ブロンド「騎士団の指令所はグラウンドの真ん中にあって」

ブロンド「あそこに近づくには護衛をどうにかしなくちゃいけない」


エディ「でもよ、今なら手薄なんじゃねぇのか?」

エディ「騎士団の連中も混乱してんだろ」


ブロンド「確かに……今は手薄さ」

ブロンド「でも、攻略にもたつけば」

ブロンド「それだけ前線の兵士が集まってくる」

ブロンド「僕たちだけで、騎士団との直接戦闘に勝てるとは思えない」


エディ「……他に手はねぇのかよ?」

エディ「わざわざ真正面から向かってかなくても」

エディ「遠くから魔法で狙い撃つとか、空を飛んで襲い掛かるとか」

エディ「なんなら、秘密の地下道を通ってくとかよぉ」


生徒「でも、エディ」

生徒「そんな……」

生徒「いや……待てよ」

生徒「ウィル! 敵の指令所がどこにあるって言った?」


ブロンド「グラウンドだ」

ブロンド「あの隊長の専門は野戦なんだ」

ブロンド「だから、戦闘中の指令所は平地に作る」


生徒「だったら……あるじゃないか!」

生徒「僕たちしか知らない秘密の地下道が」

生徒「アレを使えば、僕らに勝機がある」


ブロンド「ア、アレ?」

ブロンド「ヨハン、君は何を言って……」


トム「そうか……分かったぜ」

トム「アレを使うってことだな」

トム「確かに、アレなら護衛に気づかれずに指令所とやらに近づけそうだ」


エディ「おい! アレって何だよ」

エディ「オレらを置いてけぼりにするなって!」


トム「簡単だ」

トム「どこかの王子様が迷い込んだ穴を使うんだよ」

トム「俺たちしか知らない、秘密の地下道としてな」


<召喚の洞窟>


エディ「はぁ……また、ここかよ」

エディ「この前は何度も道に迷いかけたし」

エディ「訳分かんねぇモンスターに追いかけられたり」

エディ「いい思い出なんてこれっぽっちもねぇぜ」


トム「文句言うなよ」

トム「難なら、1人でグラウンドを突っ切ってもいいんだぜ?」

トム「上手くいくかは知らねぇけどな」


エディ「また、あの化け物が出てきたらどうすんだよ」

エディ「アルベルトの奴はジムと一緒だし」

エディ「カールの奴はおいてきちまったじゃねぇか」

エディ「炎の魔法しか効かないってなら、どうしようもないぜ?」


生徒「それなら、ほら」

生徒「防御リングも持ってきたし」

生徒「いざとなったら転送で脱出できるよ」


エディ「でもなぁ……」

エディ「そうそう何度も逃げ出すわけにもいかねぇだろ?」

エディ「オレ達がもたついたら、それだけ勝ちが遠くなるわけだし」


ブロンド「そう、転送は最終手段さ」

ブロンド「ただでさえ、閉鎖されていた洞窟の入り口を破ってここまで来たんだ」

ブロンド「時間をかければかけるほど、発見されるリスクが増える」

ブロンド「本当に危ない時以外には使えないね」


トム「何にせよ、こんなとこはさっさと抜けちまうのが一番だ」

トム「そもそも化け物に遇わなきゃ」

トム「何の問題もないからな」


生徒「そうだよ、エディ」

生徒「今はそんなことを心配してる暇はないんだ」

生徒「一刻も早くここを抜けて、敵の指揮官をどうにかしないと」

生徒「このまま負けるなんて嫌だろ?」


エディ「そりゃ、もちろん」

エディ「じゃなきゃ……何のためにワザワザ拠点まで作って、ここの奴らを焚きつけたのか分からねぇよ」


トム「なら、無駄口叩いてないでさっさと行くぞ」

トム「こんなところでモタついてるだけバカだ」


エディ「ハイハイ、分かってますって」


<召喚の洞窟 窪んだ広場>


エディ「ん? ここは……」


生徒「確か……カールがモンスターに襲われてた場所だ」

生徒「あの時は気づかなかったけど」

生徒「意外と入り口に近い場所だったんだね」


トム「そろそろ、出口が近いってことか」


エディ「よし、ここまで来たら化け物なんか関係ねぇ」

エディ「後はグラウンドの穴まで突っ走るだけだ」

エディ「何だよ、脅かしやがって」

エディ「ビビってたオレがバカみたいだぜ」


トム「そうだな」

トム「さっさと出口を見つけて」

トム「敵の指揮官に目にもの見せてやる」


  「さぁ? どうだろうな」



エディ「なっ! オメェ……」



  「ここでお前達を止めたら、それでおしまいだ」



生徒「どうして、ここに」



  「本当に、ここを通り抜けられると思っているのか?」



ブロンド「ヘンリー!!」

  

学級委員「この俺を倒してな」


ブロンド「……どうしてだ」

ブロンド「どうして、お前がここにいる」


学級委員「忘れたのか?」

学級委員「俺だって、お前達と一緒にこの洞窟へ来た」

学級委員「ここが侵入ルートになることぐらいお見通しだ」


トム「その割には護衛はつけてねぇみたいじゃねぇか」

トム「俺達ぐらい、お前1人で十分ってか?」


学級委員「……アンタ達と騎士団は関係ない」

学級委員「こうなったのは俺個人の問題だ、俺が決着をつける」

学級委員「お前にとってはこの方が都合がいいだろ?」


トム「まぁな……」

トム「大人数やモンスターを相手にするよりはよっぽど楽だ」

トム「最も、アンタが簡単に退いてくれればの話だがな」


学級委員「それなら、期待しない方がいい」

学級委員「ワザワザこんな場所で待ってたんだ」

学級委員「本気でやらせてもらう」


生徒「でも! どうしてだよ!?」

生徒「君だって、この学園の生徒だったろ!」

生徒「それが……どうして」


学級委員「そんなのはタダの方便に過ぎない」

学級委員「お前だって聞いてるはずだ」

学級委員「そこの裏切り者と一緒にいるんだからな」


ブロンド「…っ」


エディ「裏切り者はお前の方じゃねぇか、ヘンリー」

エディ「オレ達に隠れてコソコソとスパイなんかしやがって」

エディ「そんなにあの生活が嫌だったって言うのかよ」


学級委員「そんなことはどうでもいい……」

学級委員「今の俺は騎士団の人間で、お前達の敵だ」

学級委員「この先へ行きたいなら俺を倒してから行け」


トム「……譲るつもりは無いみたいだな」

トム「いいぜ、相手になってやるよ」


生徒「ト、トム!? 何言いだすんだよ!」

生徒「ヘンリーは仲間だろ?」

生徒「戦うって、そんな……」


トム「もう、話し合いでどうこう出来る状況じゃない」

トム「こいつをどうにかできなきゃ、俺達の負けは決まる」

トム「エディ、準備は良いか?」


エディ「ああ……」

エディ「気は乗らねぇけど、しょうがねぇ」

エディ「ちゃちゃっと終わらせちまおうぜ」


生徒「エディまで!」


学級委員「覚悟はできたみたいだな」

学級委員「なら……」


ブロンド「待ってくれ!」


エディ「どうしたんだよ、ウィル」

エディ「お前だって分かってんだろ」

エディ「話し合いで解決なんて甘っちょろいこと言ってられねぇって」


ブロンド「ああ……もちろん」

ブロンド「でも、そうじゃないんだ」

ブロンド「2人とも、ここは僕にやらせてくれないか?」


生徒「ウィル、まさか……」


ブロンド「これは僕の問題でもあるんだ」

ブロンド「だから、僕が決着を付ける」

ブロンド「いいだろ? ヘンリー」


学級委員「俺は構わない」

学級委員「でも、そっちはどうなんだ?」


ブロンド「ゴメン、3人とも」

ブロンド「都合の良いことを言ってるのは分かってるつもりさ」

ブロンド「でも、ここでやらなきゃ絶対に後悔する」

ブロンド「……そんな気がするんだ」


生徒「君は……」


トム「分かった、好きにしろ」

トム「ただし……ヤバくなったら、何時でも割って入るからな」


ブロンド「……済まない」

ブロンド「行くぞ、ハインリヒ!」ジャキ


学級委員「かかってこい! ウィリアム」チャキ


学級委員「はっ!」ヒュッ


ブロンド「…!」


    カンッ


ブロンド「やっ!」ブンッ


学級委員「遅い」サッ

学級委員「ほっ、はぁっ!」ヒュ ヒュッ


ブロンド「…っ」


   カンッ キンッ


ブロンド「やぁッ!」ブンッ


    ガキンッ


学級委員「くっ……」ギリギリ

学級委員「流石にやるな、ウィル」


ブロンド「ヘンリー……」


学級委員「どうした?」

学級委員「仕掛けてこないのか」


ブロンド「……今からでも遅くない」

ブロンド「考え直すつもりはないのか?」

ブロンド「そこは君のいるべき場所じゃない」


学級委員「…」ドンッ


ブロンド「ぐっ……」


学級委員「……お前から来ないなら、俺から行く」

学級委員「そんな弱腰じゃ俺には勝てないぞ! ウィル」


ブロンド「…っ、ヘンリー」


学級委員「はぁ!」ヒュッ


    カンッ


学級委員「とぅ!」ヒュ


     キンッ


学級委員「やぁっ!」ブンッ


    ガキンッ


ブロンド「うわっ!!」カンッ



生徒「ウィル!?」



ブロンド「大丈夫だ、ヨハン」

ブロンド「これぐらい大したことないさ」


生徒「けど……」



ブロンド「いいから、そこで見ててくれ」

ブロンド「これは……僕がどうにかしなくちゃいけないんだ」



生徒「それでも!」


トム「それぐらいにしておけ、ヨハン」


生徒「でも、トム」

生徒「このままじゃ……」


トム「アイツにはまだ余裕がある」

トム「それに……」


エディ「サシの勝負だ」

エディ「アイツだって、邪魔して欲しくはねぇはずだぜ?」


トム「そういうことだ」

トム「だから、そこで見守ってろ」

トム「それがアイツの望みだ」


生徒「……分かった」

生徒「ウィル! 僕はもう口を出さない」

生徒「けど、その代りに絶対負けるなよ!」

生徒「勝ってヘンリーを……学園を取り戻すんだ」



ブロンド「ああ……もちろん」

ブロンド「分かってるさ」


学級委員「…」


ブロンド「……待たせたね」

ブロンド「さぁ、続きをしようじゃないか」チャキ


学級委員「ウィリアム……」カチャ

学級委員「いつまで仲間ごっこを続ける気だ? 」


ブロンド「何を……」


学級委員「忘れたのか? 」

学級委員「この学園に仲間なんていない」

学級委員「いるとしたら、同業の俺だけだ」

学級委員「そう言ってたよな? ウィル」


ブロンド「そんなのは昔の話だ」

ブロンド「今はもう、同じクラスの仲間だ」

ブロンド「現に裏切り者の僕を受け入れてくれた」

ブロンド「だから! 君も……」


学級委員「黙れ!」

学級委員「そいつらと俺は、仲間になんてなれない」

学級委員「お前だってそうだ、ウィル」


ブロンド「違う! 僕は……」

ブロンド「僕らは同じクラスのクラスメイトじゃないか!?」


学級委員「見かけはそうなってるつもりかも知れない」

学級委員「でも……俺達は騎士団のスパイだ」

学級委員「騎士団を捨てない限り」

学級委員「どこまで行っても、学園の敵」

学級委員「本当の意味で仲間になるなんて……」

学級委員「出来ないんだよ!」ブンッ


    カンッ


ブロンド「…っ」


学級委員「どうだ!? ウィル」

学級委員「答えてみろよ!」ヒュッ


    キンッ


ブロンド「そんなこと……」


学級委員「なんだって?」


ブロンド「そんなこと分かってる!」ブンッ 


   キンッ  ガキンッ


学級委員「なに……」ヨロッ


ブロンド「そうさ! 僕だって君と同じさ」

ブロンド「ここのみんなを騙して、騎士団に情報を流してた」

ブロンド「でも……それでも!」

ブロンド「騎士団のやり方は間違ってる」

ブロンド「そうは思わなかったのか!?」


学級委員「……俺だって」

学級委員「俺だって、こんな任務が正しいとは思ってるわけない!」

学級委員「でも、俺達の任務に『なぜ』はない」

学級委員「お前もよく知ってるはずだろ!?」


ブロンド「だけど!」

ブロンド「それが分かってるなら、変われるはずだ」

ブロンド「行こう! 僕らと一緒に」


学級委員「どの口が言うんだ! ウィル」

学級委員「一体、お前のどこが変わった!?」

学級委員「ただ単に仕える飼い主を変えて、満足してるだけだ」

学級委員「結局は、何も変わってないんだよ!」ヒュンッ


    キンッ


ブロンド「……!」


学級委員「はぁ! やっ!」


   カンッ  キンッ


ブロンド「…っ」


学級委員「ふんっ!」ブンッ


    ガキンッ


ブロンド「…っ」


学級委員「もらった!」ヒュッ



エディ「なっ!?」


生徒「ウィル!」



  「エアロシュート!」


    ゴォオッ


学級委員「何っ!?」


ブロンド「はは……悪いね」

ブロンド「僕だって、やられる訳には行かないからね」


学級委員「ウィル……お前!」


ブロンド「……確かに君の言うとおりだ」

ブロンド「僕は君を裏切って、勝手に変わった気になってらしい」

ブロンド「だから……」ポイッ


   カラン カラン


ブロンド「ここで変わってみせる」


学級委員「……剣は騎士の誇り」

学級委員「それは上の人間だけじゃない」

学級委員「俺達、一兵卒も同じだ」

学級委員「それを捨てるということは……」


ブロンド「そうさ」

ブロンド「今の僕には騎士の誇りなんていらない」

ブロンド「あるのはただ……学園を守りたいって気持ちだけだ」

ブロンド「だから……」


学級委員「分かった」

学級委員「……これで心置きなくやれる」

学級委員「お前はもう騎士団でも何でもない!」

学級委員「行くぞ! 裏切り者」ダッ


ブロンド「来い! ヘンリー」

ブロンド「君の目を覚まさせてやる!」


-数十分後-


ブロンド「はぁ……はぁ……」


学級委員「…っ、どうした?」

学級委員「息が……上がってるぞ」


ブロンド「それは、君も……同じだろ?」


学級委員「そう、かもな」


ブロンド「ヘンリー」


学級委員「……何だ? ウィル」


ブロンド「そろそろ……決着を付けよう」

ブロンド「こんな調子じゃ、いつまで経っても…終わらない」


学級委員「……そうだな」

学級委員「次に、膝をついた方が負け」

学級委員「これでどうだ?」


ブロンド「負けても、文句は言うなよ?」


学級委員「それはこっちのセリフだ」

学級委員「行くぞ!」ダダッ


ブロンド「エアロシュート!」


    ゴォオッ


学級委員「そうそう何度も喰らうつもりはない!」サッ

学級委員「はぁッ!」ヒュッ


ブロンド「!」サッ

ブロンド「ブレスウィンド!」


  ゴォオオオオオオオ


学級委員「ぐっ……」ザシュ ザシュ


ブロンド「まだまだ!」

ブロンド「サイク……」


学級委員「うぉおおおおお!!!」ヒュッ カッ ブゥン


ブロンド「なっ!」

ブロンド「クソッ……」サッ スッ スカッ


学級委員「おりゃぁッ!!」ヒュッ


    シュパッ


ブロンド「うっ……」


学級委員「貰った!」


ブロンド「ウィンド……カッター!」


   シュン シュン 


学級委員「なっ……!?」


    サクッ サクッ


学級委員「ぐはっ……」

学級委員「く、そ……」スチャ


ブロンド「君の方が先に膝をついた」

ブロンド「僕の勝ちだよ」


学級委員「……ああ、そうだな」

学級委員「お前の勝ちだよ、ウィル」

学級委員「何もかもな……」


ブロンド「ヘンリー……」


学級委員「結局、俺はな」

学級委員「自分の居場所が欲しかっただけなんだ」

学級委員「だから……騎士として騎士団の命令に従ってきた」

学級委員「それがどんな命令でも、従ってさえいれば自分の居場所はなくならないと思ってた」

学級委員「冷静に考えればそんなことはないのに……馬鹿だよな」


ブロンド「でも、どうして……」

ブロンド「何でそんなに自分の居場所に拘ったんだよ?」

ブロンド「君は君、それ以外の何物でもないじゃないか」


学級委員「……誰かがそれを言ってくれれば良かったんだけどな」

学級委員「俺にはそう言ってくれる仲間も、家族も居なかったんだ」

学級委員「だから、俺にとっては騎士団が全てだった」

学級委員「今、お前の前にいるのだってそうだ」

学級委員「命令されたから来た、ただそれだけさ」

学級委員「だから……」


  「だから、どうした?」

  
ブロンド「……トム」


トム「『俺のことは放って先に行け』とでも言うつもりか?」

トム「だったら、今すぐその口を閉じろ」

トム「俺達はそんな下らないことを聞きたいんじゃない」


学級委員「だが……」


トム「お前の過去なんてどうでもいい」

トム「そんなに喋りたいなら、壁にでも向かって話してろ」


学級委員「なっ……」


トム「分かったら、さっさと行くぞ」

トム「こんな洞窟に長居してる時間はないんだ」


学級委員「行くって……何処に?」

学級委員「俺には行く場所なんて、もう」


トム「決まってるだろ」

トム「この先に居るアドルフとかいう隊長のとこだ」

トム「外のことを考えると、早いとこケリをつけないといけないからな」


エディ「ほら、さっさと立てよ」

エディ「その傷だって、大した傷じゃねぇんだろ?」


学級委員「ま、待て!」


トム「なんだ? 文句でもあるのか」


学級委員「どうしてだ!?」

学級委員「どうしてそんなことが言える!」

学級委員「俺は、ずっとお前達を裏切ってたんだぞ」


トム「そんなの決まってる」

トム「お前が俺の仲間だからだ」


学級委員「でも!」


トム「何考えてんのか知らんが、お前は俺たちの仲間だ」

トム「誰にも文句は言わせねぇ」

トム「たとえ、それがお前自身でもな」


学級委員「…」


生徒「そうだよ、ヘンリー」

生徒「君にも色々あるかもしてない」

生徒「でも、僕らが過ごした時間は嘘じゃないだろ?」

生徒「だから、一緒に行こう」


学級委員「……ヨハン」


エディ「後でジムの野郎に突っかかれるかも知れねぇけどな」

エディ「まぁ、お前の剣の腕なら大丈夫だろ」

エディ「何かあったら、逆に返り討ちにしてやれ」

エディ「その方がアイツのためだぜ」


学級委員「エディ……」


ブロンド「どうする? ヘンリー」

ブロンド「君の居場所はとっくに出来上がってるみたいだけど」


学級委員「全く……今までのが馬鹿みたいだ」

学級委員「あんなに欲しかった自分の居場所が」

学級委員「捨てるはずのところに出来てたなんてな」


トム「で、どうするんだ?」

トム「来るのか、来ないのか」


学級委員「……行くさ」

学級委員「やっと見つけた俺の居場所だ」

学級委員「そう簡単には壊させない」


トム「なら、良かった」

トム「来ないって言うなら、引きずってでも連れて行くつもりだったからな」


学級委員「はは……」

学級委員「お互い、苦労せずに済んで良かったな」


トム「そうだな」


学級委員「でも……俺が折れなかったら?」

学級委員「俺が騎士団の命令を守り続けたら、どうしたんだ」

学級委員「俺を倒して、先に行くつもりだったのか?」


トム「その時は、その命令を忘れるまで殴ってやるよ」

トム「一度仲間と認めた奴は何があっても見捨てない」

トム「それが俺のポリシーだからな」


学級委員「そうか……」


トム「それに、お前1人でここに居たってことは」

トム「どのみち負けるつもりだったんだろ?」

トム「だったら、そんな仮定はするだけ無駄だ」


学級委員「……かもしれないな」


トム「さぁ、行くぞ」

トム「出口は直ぐそこだ」


<グラウンド 洞窟への穴>


生徒「……見えた」

生徒「あのテントが騎士団の指令所だね?」


学級委員「ああ」

学級委員「あの中に調査隊の隊長がいる」

学級委員「隊長を抑えれば、学園への攻撃は止まるはずだ」


ブロンド「問題は護衛の数だけど」

ブロンド「何人いるか分かるかい?」


エディ「そうだな……」

エディ「1人、2人……いや、3人だ」

エディ「暗くてよく分からねぇけど、他に人影は見えないぜ?」


ブロンド「……戦闘中の前線基地にしては護衛が少ない」

ブロンド「ヘンリー、どう思う?」

ブロンド「向こう側にいたなら、指令所の状況も分かってるんじゃないか?」


学級委員「安心しろ」

学級委員「エディが言うなら護衛は3人、それっきりだ」

学級委員「隊長は学園を舐めきってるからな」

学級委員「まさか、自分を直接狙ってくるとは思ってない」


トム「舞台は整ってるって訳か」

トム「敵の大将が用心深い奴じゃなくて助かった」


生徒「でも、トム」

生徒「これからどうする?」

生徒「いくら今の警備が手薄だとは言っても」

生徒「増援を呼ばれたりしたら、僕らに勝ち目はないよ?」


トム「だったら、呼ばれる前にケリを付ける」

トム「エディ、距離は分かるか?」


エディ「オレの目測だと……」

エディ「ざっと、40ヤードってところだな」


トム「届くか?」


エディ「任せとけって」

エディ「こっちに来てから、キメラやらプリンやらとんだ化け物を相手にしてんだ」

エディ「40ヤードぐらいは余裕で飛ばしてやるぜ」


トム「……キックは問題なしか」

トム「ヨハン、こっから向こうまで走って何秒かかる?」


生徒「え?」


トム「大体でいい」


生徒「5秒……いや、6秒ぐらい?」


トム「そうか、分かった」


生徒「でも、トム」

生徒「どうしてこんなことを……」

生徒「何か作戦でも考えてるの?」


トム「まぁ、そんなところだ」

トム「今から作戦を伝える」

トム「スピード勝負だ、忘れねぇように頭ん中に叩き込んでおけ」


<グラウンド 指令基地>


衛兵A「ふぁーあ……」


衛兵B「おい、気を抜くなよ」

衛兵B「戦闘中だぞ? 一応」


衛兵A「んなこと言ったって」

衛兵A「どうせ、ここには誰も来ないって」


衛兵B「そうは言ってもなぁ」

衛兵B「ここで何か……痛ッ」カンッ

衛兵B「誰だよ……石なんか飛ばした奴は」


衛兵A「さぁ? この辺りには誰もいないはずだぞ」


衛兵B「まぁ……大方、どっかの流れ弾だろ」

衛兵B「石を飛ばす魔法ってのも……」


     カァンッ


衛兵A「大丈夫か? 酷い音がしたぞ」


衛兵B「心配ない、兜に石が当たっただけだ」

衛兵B「ちょっと見てくる」


衛兵A「おう、気を付けてな」

 
    ザク ザク ザク ザク     

  
衛兵A「……にしても、魔法で飛び石ねぇ」

衛兵A「前線と指令所は結構離れてるはずなんだけどな」

衛兵A「ここまで飛んでくるもんなのか?」



   「なっ、何をする!!」

   「うわぁあああ!」



衛兵A「!」

衛兵A「なんだ!?」


衛兵C「おい! どうした」

衛兵C「今の声は何だ!?」


衛兵A「分からない!」

衛兵A「もう1人が様子を見に……!?」


衛兵C「敵襲だ!」

衛兵C「お前は……」



   「かかれッ!」


衛兵A「!」

衛兵A「今のは!」


生徒「うぉぉおおおおお!!」


   ダダダダダダダダ


衛兵A「何……!」   


生徒「はぁッ!」


   ドンッ


衛兵A「がっ……」バタッ



衛兵C「これは!」


トム「おいおい……」

トム「余所見してる暇はないぜ?」


衛兵C「なっ……」


トム「ウラッ!!」


   ゴンッ


衛兵C「ぐはッ」ドンッ


生徒「……よっと」カチャ


衛兵A「くっ……何を」

衛兵A「離せ!!」


生徒「わっ!?」バッ


衛兵A「よし……!」



ブロンド「ブレスウィンド!」


   ゴォオオオオオ


衛兵A「…っ!」


ブロンド「ヨハン!」


生徒「分かってる!」

生徒「サンダーボルト!」


   ビ ビ ビ ビ ビ ビ ビ

     パキンッ


衛兵A「これは……」シュン


衛兵C「なっ!?」

衛兵C「消えた……だと」


トム「安心しろ」

トム「直ぐにアンタも同じ所へ送ってやる」カチャ


衛兵C「何を言って……」


トム「ヘンリー!」ガバッ


学級委員「任せろ」


衛兵C「!」


学級委員「はッ!」ブンッ


   パキンッ


衛兵C「ぐわっ……」シュン


トム「よし……片付いたな」

トム「お前ら、ケガは無いか?」


生徒「ああ、だけど……」

生徒「本当にアレで良かったの?」

生徒「防御リングを使ってコロシアムまで転送したけど」

生徒「向こうがどうなってるか分からないよ?」


トム「相手はそれなりに戦闘経験があるんだ」

トム「こうでもしなきゃ、俺達に勝ち目はない」


生徒「それは、そうだけど」


トム「要はさっさと勝負を決めちまえば良いんだよ」

トム「そうすれば……」


    ガサッ


トム「なっ……!」


生徒「トム!」


  「……貰った」


    ヒュッ


学級委員「させるか!」


   カッ キンッ


  「くっ……」



ブロンド「無事か!? トム!」


トム「ああ……なんとか」

トム「残念だったな、隊長さん」


隊長「……ハインリヒ」

隊長「これは、どういうことだ?」


学級委員「…」


隊長「何故、私に刃を向けた」

隊長「命令だ! 言え」


学級委員「それは……」



エディ「そんなの、テメェに愛想を付かしたからに決まってんだろ」

エディ「騎士団さんよぉ!」バンッ


   ガァンッ


隊長「……っ!」


エディ「トム! 今だ」


トム「ああ!」

トム「行くぞ!」ダッ


隊長「…っ」ヒュッ


トム(なっ、剣を振ってきやがった!?)

トム「避けきれ……」


生徒「サンダーボルト!」 ブロンド「ウィンドボール」


   ビビビビビビ      ゴォオオオオオ



トム「ぬおっ…」フワッ


隊長「がっ!?」バチバチ



生徒「トム! 大丈夫!?」


トム「……もう少しマシな助け方は無かったのかよ?」

トム「下手すりゃ、全身ムチ打ちになるとこだったぜ」


ブロンド「ゴメンよ」

ブロンド「他に方法が思いつかなかったんだ」


トム「まぁ、串刺しにされるよりはよっぽどマシだ」

トム「助かったぜ、2人とも」


隊長「ぐっ……」ガタッ


学級委員「隊長、降伏してください」

学級委員「多勢に無勢です」

学級委員「幾らあなたでも勝ち目はありません」


隊長「ハインリヒ! お前」

隊長「学園に組するとは何事だ」

隊長「貴様まで軍政官にたぶかされたのか?」


学級委員「俺は……俺は気づいたんです」

学級委員「ここに自分が探してたものがあるって」

学級委員「だから、もう……騎士団とか学園とかは関係ない」

学級委員「自分の場所を守るために戦ってるんです」

学級委員「だから……」


隊長「黙れ! 裏切り者め」

隊長「いくら私の直属の部下でないとはいえ」

隊長「お前の行為は立派な背信行為だ」

隊長「今、この場で切り捨ててくれる!」ジャキ


トム「させるかよ!」

トム「エディ!」


エディ「分かってる」

エディ「喰らいやがれ!」バシッ


    ガンッ


隊長「ぐっ…」


トム「ヨハン!」


生徒「ライトニングパルス!」


  ビビビビビビビビビ


隊長「うぐっ!」



ブロンド「ウィンドカッター!」


   シュン シュン


隊長「なっ、がぁッ」サクッ サクッ


ブロンド「今だ! ヘンリー」


学級委員「やぁっ!」ヒュッ


    カキンッ


隊長「……ッ!」


学級委員「はぁッ!!」ブンッ


    キンッ

  カンッ  カラン カラン


隊長「クソ……」ガクッ


トム「今だ! かかれ」

トム「アイツを生け捕りに……」


   ドドドドドドドド


トム「……何だ? この音は」


生徒「!」

生徒「ア、アレは……」


エディ「や、やべぇぜ! トム」

エディ「騎士団連中が戻ってきやがった」

エディ「20人は居るぞ!」


隊長「……どうやら間に合ったようだな」


トム「お前……」

トム「何か仕掛けてやがったのか」


隊長「ああ、最初に悲鳴が聞こえた時点でな」

隊長「伝令をやったのだ」

隊長「職員寮を囲っている兵を戻すようにと」

隊長「何の策もなしに敵に斬りかかるほど、私も愚かではない」


学級委員「なら、さっきのアレは……」


隊長「半分は演技だ」

隊長「お前がそこにいる時点で、裏切ったことは見て取れたからな」


ブロンド「こうなったら……」

ブロンド「隊長を人質に取ってここに立てこもる」

ブロンド「そうすれば!」


学級委員「無駄だ、ウィル」

学級委員「この状況で自分たちの作戦を話したってことは」

学級委員「隊長には人質の価値がない」

学級委員「いざとなったら、隊長を殺してでも俺達を抑えに来る」


隊長「正解だ、ハインリヒ」

隊長「そこの裏切り者とは違って」

隊長「騎士団の考え方が染みついているみたいだな」


学級委員「…っ」


生徒「なら、どうすればいいんだ!?」

生徒「何かいい考えは無いの! トム」


トム「今、考えてる!」

トム「ちょっと待ってろ」


生徒「でも! もう直ぐそこまで」


トム「分かってる!」

トム「だから、少し待ってろ」



  「……随分とお困りの様子だな、キャプテン」



トム「なっ、お前……」


エディ「ジム!? 何でテメェがここに」

エディ「他のところで戦ってたんじゃ無かったのかよ!?」


ジム「ああ、パッとしねぇ奴らと戦ってたぜ」

ジム「コロシアムの方でな」


生徒「コロシアム……ってことは!」


ジム「そうだ、テメェらが送った敵が湧いてきやがってな」

ジム「そいつらを話の聞いてここまで飛んできたって訳だ」

ジム「もちろん、話を聞いた奴らはボコボコにしてやったがな」


ブロンド「でも、いくら君が来たところで状況は覆せない」

ブロンド「敵は20人で、こっちは6人だ」

ブロンド「この人数比で、敵の得意な野戦だなんて」

ブロンド「勝てるわけがない」


ジム「ハンッ……」

ジム「いつ、俺が1人で来てるなんて言った?」

ジム「敵の大将を叩くっていうんだ」

ジム「当然……」



         「アクアジェット!」
                 ゴゴゴゴゴ
  「何だ!? これは!」                    

       「ライトニングボルト!」
      「アイスパルス!」  ヒュォ

           「うぎゃあああ!!」 
 
     「フレアボム!」              
                             ビビビビビビビビ

              「ファイアーストーム」

            
ゴォオオオオオ     
                       「クソォッ!!」


     「はぁ!」    
                     カキンッ

            「ロックフォール!」

         ズガガガガガ



ジム「全員連れてくるだろ」


隊長「なんだと……」


エディ「全く……オメェって奴は」

エディ「来るのが遅ぇんだよ」


ジム「わめくなよ、エディ」

ジム「ヒーローは遅れてやってくるもんだぜ?」


トム「今度はギリギリだが……」

トム「遅刻しなかったな」


ジム「俺がいつ遅刻したってんだよ」


トム「胸に手を当てて良く考えてみろ」

トム「1回や2回じゃないはずだぜ?」


ジム「ハッ、んなこと言ってる暇があったら」

ジム「さっさとそいつを締め上げて、外の奴らを黙らせるぞ」


ジム「さもなきゃ……」



書記「おい! ジム」

書記「押されてるぞ!」


メガネ「僕を無理やり連れてきたんだ」

メガネ「お前も働け!」



ジム「外野がうるさいからな」


トム「騒ぎの元凶がよく言うぜ」


ジム「勝手にわめいてるだけだ」


トム「まぁ、いいさ」

トム「行くぞ! お前ら」


<魔導学園 職員寮>


   ガンッ ガンッ

     ガチャ 


トム「よう、マーガレット」

トム「無事だったか?」


家政婦長「あなた達!」

家政婦長「どうしてここに?」


ジム「放っておいたら、何時まで経っても閉じこもってそうだからな」

ジム「会いに来てやったんだよ」


家政婦長「しかし、外にはまだ……」


生徒「それなら心配いらないですよ」

生徒「外の騎士団は何とかしました」


家政婦長「何とかした?」

家政婦長「どういうことですか」


エディ「どうしたも、そのまんまの意味だぜ」

エディ「敵の大将は捕えたし、他の奴やも無力化した」

エディ「要するに……」


トム「俺達の勝利だ」


エディ「あ、おい!」

エディ「オレのセリフを奪うなって」


王子「良いだろ、それぐらい」

王子「そんなセリフなら直ぐに次の機会が来るだろ」


家政婦長「私たちの勝利?」

家政婦長「それは、一体……」


学級委員「本当です」

学級委員「俺が保証します」


家政婦長「あなたは……」

家政婦長「どうして彼らと一緒に」

家政婦長「騎士団についたのではなかったのですか?」


学級委員「俺は……やっと分かったんです」

学級委員「自分の居場所はこの学園にあると」

学級委員「あなたに剣を向けておいて、こんなこと言うのは許されないと思ってます」

学級委員「でも、お願いします」

学級委員「どうか……俺をここから追い出さないで下さい」


家政婦長「…」


ブロンド「僕からもお願いします」

ブロンド「確かに騎士団の人間だったかもしれないけど」

ブロンド「もう、立派な学園の生徒です」

ブロンド「裏切っていうなら僕だって同罪だ」

ブロンド「だから……」


家政婦長「もう結構です」


ブロンド「でも!」


家政婦長「おふたりの言いたいことは分かりました」

家政婦長「ですが、私にはあなた達をどうにかする権限はありません」

家政婦長「生徒の処分は生活指導の先生に一任されています」


生徒「生活指導の先生って」

生徒「今は王都に言ってるんじゃ……」


家政婦長「そうです」

家政婦長「そして、私はこの事態の収拾で忙しくなります」

家政婦長「ですから……」


トム「報告してるヒマはない、と」

トム「随分と回りくどい言い方だな?」


家政婦長「下手なことを言ってクビになりたくはありませんから」


トム「……良く言うぜ」


トム「良かったな、ヘンリー」

トム「ここにいても良いみたいだぞ?」


学級委員「……ありがとうございます」

学級委員「この恩は必ずどこかで」


家政婦長「そんなことはいいです」

家政婦長「それより、さっき『騎士団に勝った』と言いましたね」

家政婦長「本当なんですか?」


書記「はい、一応は」

書記「相当危なかったですけど」

書記「こいつらのお蔭でなんとか」


家政婦長「……そうですか」


     バタンッ


  「大変だ! お前たち」


メガネ「カール!?」

メガネ「どうしたんだ、そんなに慌ててて」


王子「援軍だ」

王子「援軍が来る!」


ジム「おいおい、頭でもぶつけちまったのかよ」

ジム「騎士団の奴らはイモムシにして体育館に放り込んであるじゃねぇか」

ジム「テメェだって、敵の大将に縄をかけただろ」

ジム「こんな状況で心配するようなもんがあるのかよ?」


王子「だから、言ってたんだよ」


  『私たちをとらえて安心ているようだが、甘いな』

  『じきに王都からの援軍が来る、そうすれば学園は終わりだ』


王子「……って、その隊長が」


ジム「フンッ、どうせハッタリだ」

ジム「捕まったのが悔しくて喚いてるだけだろ」


学級委員「でも……あの人は騎士団の中でも実力派だ」

学級委員「そんなハッタリをかますとは思えない」


エディ「そりゃあ、お前の憶測だろ」

エディ「アイツだってハッタリをかます時があるかも知れねぇじゃねぇか」


家政婦長「ですが、嘘でなかったらどうします?」

家政婦長「王都からの援軍です」

家政婦長「幾らここにいる兵士を倒せたからと言って、援軍が来てしまっては意味がありません」

家政婦長「こんどこそ完膚なきまでにやられてしまいます」


ブロンド「そんなバカな」

ブロンド「援軍をよこすなんてあり得ないよ」

ブロンド「今は王城で舞踏会をしてるような時間だ」

ブロンド「そんな状況で騎士団を動かすなんて……」

ブロンド「団長はともかく、軍政官殿が許すはずがないさ」


学級委員「いや……待て!」

学級委員「あるかもしれない」


ブロンド「何を言ってるのさ、ヘンリー」

ブロンド「騎士団の内情なら君もよく知ってるだろ?」


学級委員「よく考えてみろ、ウィル」

学級委員「隊長達は調査隊の名目でこの学園に来ていたんだ」

学級委員「もし、その部隊からの連絡が途絶えた」

学級委員「もしくは学園と戦争状態に入ったという連絡が入ったら」


ブロンド「!」

ブロンド「……大義名分ができる」

ブロンド「そうなったら……」


家政婦長「王都から派兵されても、おかしく無いでしょうね」


生徒「でも、まだ決まったわけじゃないでしょ?」

生徒「父さんだっているんだ」

生徒「学園に攻め込むってなったら、許可を出すはずがないよ」


家政婦長「いえ、騎士団が動き出すのは十分あり得ます」

家政婦長「今日は誕生祭の最終日」

家政婦長「王城で舞踏会も開かれています」

家政婦長「そうなると、軍政官の統制が行き届いてない可能性があります」


生徒「舞踏会って……まさか」


書記「おい、どういうことだ」

書記「分かるか? ポール」


メガネ「いや、さっぱり」

メガネ「僕は貴族じゃないからな」


生徒「王城の舞踏会にはある程度の地位がないと参加できないんだ」

生徒「特に誕生祭の舞踏会なんか、並みの貴族じゃ参加できない」

生徒「裏を返せば、地位のある貴族はみんな出席しなくちゃならない」

生徒「僕の父さんも軍政官である前に貴族だ」

生徒「舞踏会を欠席するわけには行かなくなる」


家政婦長「そうです、軍政官も舞踏会に参加しなけばなりません」

家政婦長「当然、その間は騎士団の指揮など執れません」

家政婦長「ですから、今の王都で騎士団を指揮しているのは……」


トム「魔法嫌いの騎士団長ってわけか」


家政婦長「そうなるでしょうね」


書記「なぁ、ヘンリー」

書記「援軍が来るとして」

書記「そいつは、どれくらいになるんだ?」

書記「今まで俺達が相手にしたのと同じくらいで来るのか」


学級委員「いや……」

学級委員「今度のは味方部隊を救出する援軍、正規の戦闘部隊だ」

学級委員「最低でも、あの5倍の兵力は来る」


メガネ「5倍だって!?」


エディ「おいおいおい……」

エディ「それって、めちゃくちゃヤバくねぇか?」

エディ「100人だかであんなに苦労したのに、そんなのが後500人も来るのかよ」

エディ「今度こそ勝ち目がねぇぜ」


ジム「そうなったら、また追い返しちまえば良いだけだ」

ジム「100、500も大して変わんねぇよ」


ブロンド「幾らなんでも無茶だ」

ブロンド「次に来るのは、本職の戦闘部隊の可能性が高い」

ブロンド「まともに訓練もしてないここの生徒じゃ相手ものならないさ」


ジム「じゃあ、どうすんだよ」

ジム「黙ってやられるのを待ってろってか?」

ジム「そんなの俺は認めねぇぞ」


ブロンド「そ、それは……」


家政婦長「あります」

家政婦長「この状況を解決する方法が、1つだけ」


トム「そいつは?」


家政婦長「私に着いて来てください」

家政婦長「そこで説明します」


<学園本棟 地下実験施設>


エディ「何だよ、ここ」

エディ「分かるか? オメェら」


メガネ「いや……分からない」

メガネ「僕もこんなところがあるなんて初めて知った」


ブロンド「僕にも分からない」

ブロンド「学園の中は隅々まで探索したつもりだったけど」

ブロンド「こんな場所が隠されていたなんて」


家政婦長「それもそうでしょう」

家政婦長「ここは表で出来ない魔法の実験を行う、実験施設です」

家政婦長「一般生徒はおろか」

家政婦長「教職員の中でも限られた人間しか立ち入りを許されていない場所です」


生徒「そんな場所がこの学園にあったなんて」

生徒「でも、こんなところでどうするんですか?」

生徒「まさか……ここに閉じこもってやり過ごすとか」


家政婦長「それが出来たら良かったのかもしれませんが」

家政婦長「立ち入り禁止とはいえ、要塞ではありません」

家政婦長「発見されるまでの時間は稼げるかもしれないでしょうが」

家政婦長「外部からの侵入を完全に防ぐの不可能でしょう」


書記「なら、どうしてここへ」

書記「騎士団を追い払える秘密兵器か何かがあるんですか?」


家政婦長「残念ながら、そんなものはありません」

家政婦長「ですが……」


    ガチャ ギィイッ


家政婦長「ひょっとしたら、それ以上のモノかもしれません」


王子「何だ? どこにあるんだ」

王子「何も見えないぞ」


トム「魔法の兵器以上のモノねぇ……」

トム「地面に落書きが描いてあるだけの部屋にしか見えねぇが」

トム「俺の目がどうかしちまったのか?」


家政婦長「いえ、あなたの目は正常です」

家政婦長「この部屋にはそれ以上のものはありません」


ジム「で、その落書きが何なんだよ」

ジム「まさか、そいつを見せるために俺達を呼んだんじゃねぇだろうな?」


家政婦長「その地面に描いてあるラクガキが重要なのです」

家政婦長「皆さん、これが何か分かりますか?」


学級委員「これは……」

学級委員「魔法陣?」


エディ「あ? 魔方陣だって?」

エディ「いきなり何だよ」

エディ「こんなとこまで来て、数学の講義かよ」


メガネ「違う、そっちじゃない」

メガネ「魔法に使う図形のことだ」

メガネ「効果を安定化させたり、大きな魔力を使う魔法を発動させるときに使うんだ」


エディ「はーん……」

エディ「それで、どうしてこんなもんを見せたんだよ」

エディ「そいつを使って何か魔法でも発動させんのか?」


家政婦長「はい、その通りです」

家政婦長「これはある魔法を発動させるための魔法陣で」

家政婦長「それを使えば、この状況をどうにかできるかもしれません」


トム「で、その魔法ってのは?」

トム「こんだけ大掛かりにやるってことは、それなりのモンなんだろ」


家政婦長「転移の魔術です」


書記「て、転移の魔術だって!?」


エディ「どうしたんだよ? 血相かえて」

エディ「この世界なら、瞬間移動の魔法ぐらい普通にあんだろ?」

エディ「あの防御リングとかいうのもあったしな」


学級委員「何を言ってるんだ、エディ」

学級委員「アレは学園内の、決められた場所に飛ばされるだけだ」

学級委員「世の中には魔法でもどうしようもないことぐらい幾らでもある」

学級委員「長距離の、それも好きな場所への瞬間移動なんてものはその代表だ」

学級委員「もし、本当に存在するとしたら」

学級委員「騎士団に攻め込まれても文句なんか言えないんだぞ」


エディ「マ、マジかよ……」

エディ「どうしてそんなもんがここに」

エディ「嘘じゃねェんだよな? マーガレット」


家政婦長「……ええ、本当です」

家政婦長「だから、このような場所で研究に行っているです」


生徒「で、でも……どうやって」

生徒「どうやって、そんな魔法を完成させたんだですか?」


家政婦長「それなら……」

家政婦長「彼らに聞いた方が早いかもしれませんね」


トム(……俺達に聞く?)


生徒「そうなの? エディ」


エディ「いや、オレは知らねぇぜ! んなこと」

エディ「適当なことを言ってんじゃねぇよ」


家政婦長「……そうですか」

家政婦長「学園長先生から聞いてませんでしたか」

家政婦長「ですが、私も詳しく話すことはできません」

家政婦長「何せ……予想もしてない事故のおかげで完成した魔法ですから」


トム(事故……そうか)

トム(これが爺さんの言ってた、元の世界に戻す努力ってことか)


エディ「おい、何だよ! そりゃ」

エディ「俺は……」


ジム「そのぐらいにしておけよ、能無し野郎」


エディ「なんだと! ジム」


ジム「今は、ここが残るかどうかって瀬戸際だ」

ジム「テメェの下らねぇ好奇心を満たすために割く時間はねぇ」

ジム「そんなことも分からねぇのか?」


エディ「ぐっ……そいつは」


ブロンド「エディ、ジムの言うとおりさ」

ブロンド「転移の魔術について気になるのは分かるけど」

ブロンド「今、それはおいておこう」


エディ「ケッ……悪かったよ」

エディ「それより、マーガレット」

エディ「その転移の魔法とやらでどうすんだよ?」

エディ「オレ達をどっかに飛ばすって言うのか」


家政婦長「ええ……その通りです」

家政婦長「まだ試作段階なので、行ったら戻ってこれませんが」

家政婦長「一方通行でも、ある程度指定した場所までは飛ばすことできます」

家政婦長「この魔法を使って王都まで転移すれば……」


トム「援軍を阻止できるかも知れないってことか」


ジム「フンッ……面白れぇ、乗ってやるよ」


エディ「本気かよ?」


ジム「俺はここで迎え撃つってのも悪くはねぇけどな」

ジム「それじゃあ、勝てねぇって言うんだろ?」

ジム「だったら、行くしかねぇじゃねぇか」


エディ「ったく……しょうがねぇな」

エディ「付き合ってやるよ」

エディ「ここで行かなかったら、後でからかわれちまうだろうからな」


ジム「よく分かってるじゃねぇか」

ジム「能無し野郎にも、考える脳はあるってか?」


エディ「ヘッ、うるせぇ」


トム「他には?」


学級委員「俺も行く」

学級委員「元は俺が引き起こした問題だ」

学級委員「自分の手で決着を付ける」


ブロンド「だったら、僕も行くよ」

ブロンド「散々偉そうなこと言ったくせに」

ブロンド「ヘンリーだけ行かせる訳にもいかないだろ?」


学級委員「後悔しても知らないぞ」


ブロンド「それなら、もう十分し終わったさ」


生徒「僕も行かせてくれ」

生徒「僕は力にならないかもしれないけど」

生徒「父さんなら、団長を止めくれるはず」

生徒「だから……」


メガネ「待てよ、ヨハン」

メガネ「お前が何も出来ないなんてこと言うな」

メガネ「僕が行きづらくなるだろ」


生徒「……ポール」


メガネ「正直言って、僕はお前より役に立たない」

メガネ「それこそ、ただの足手まといになるかもしれない」

メガネ「でも、そんなことは関係ない」

メガネ「仲間が行くなら、着いていく」

メガネ「それが仲間ってもんじゃないのか?」


生徒「そうか……そうだね、ポール」

生徒「トム、僕も行く」

生徒「なんて言っても付いていくよ」


トム「ああ、分かったよ」

トム「……で、これで全部か?」

トム「カール、アルベルト、お前たちはどうする?」


書記「そうだな、俺は……」


王子「……ボクは行く」


書記「お、おい! カール」

書記「本気か?」

書記「だって、お前は……」


王子「そんなの、もう関係ない」

王子「今のボクは学園の生徒の1人だ」

王子「自分の居場所を守るために行く、それだけだ」


書記「……カール」


王子「それに、王子が居れば大抵のことは大丈夫だろ?」

王子「折角の身分なんだ、ここで使わないでどうするんだよ」


書記「はは……そうか」

書記「だったら、俺も行かない訳にはいかないな」

書記「ここで残ったら、会長に怒られそうだ」


トム「何だ、結局全員行くのか」

トム「聞いただけ無駄だったぜ」


家政婦長「そうでも無いと思いますよ?」

家政婦長「流されて行くの自分の意志で行くのは大違いですから」


トム「そう言ってもらえると助かるね」


家政婦長「いえ、思ったことを言ったまでです」


トム「さぁ、行くぜ」

トム「目的地は王都、目標は援軍の阻止」

トム「出来なきゃ帰る場所がなくなる」

トム「テメェらの意地を見せてやれ!」


   「おおっ!!」


<王城 第3倉庫>


   ドンッ  ガンッ  

     バキッ  

    ガシャァァン


トム「いつつ……」

トム「おい、お前ら無事か?」


生徒「うん……何とか」


メガネ「そこら辺の物にぶつかったせいで、全身が痛いけど」

メガネ「それ以外は特に何もない」

メガネ「みんな無事だ」


トム「そいつは良かった」

トム「テレポートなんて大業な魔法だ」

トム「失敗して異次元に飛ばされちまう、ってなんてこともありえるからな」


ブロンド「おかしな冗談はやめてくれよ、トム」

ブロンド「この状況じゃ、シャレにならない」


書記「ゴホッ、ゴホッ……」

書記「今ので埃が舞い上がって酷いアリサマだ」

書記「そんなことはいいから、さっさとここを出よう」


エディ「ああ、全くだぜ」

エディ「こんなところに居たら、オレ達の肺がダメになっちまう」


学級委員「ここから出ることには賛成だ」

学級委員「でも、ここが何処か分かるか?」

学級委員「場所も分からず飛び出すのは危険だぞ」


トム「マーガレットも正確な場所は指定できないって言ってたからな」

トム「王都のどっかだとは思うんだが」

トム「この場所を知ってる奴は居ないのか?」


王子「トム……この倉庫」

王子「見たことがある」


エディ「見たことあるって」

エディ「本当か! カール」


王子「おぼろげだけど確かに覚えてる」

王子「昔、ボクがまだ王都にいた頃」

王子「城の中を探索して迷い込んだ……それがこの倉庫だったはずだ」


生徒「……ってことは」


王子「そうさ」

王子「ここは城の中だ、間違いない」


学級委員「王城の中か……」

学級委員「これは厄介な場所に飛ばされたな」

学級委員「少しでも騒ぎを起こしたら、騎士団が飛んでくるぞ」


ジム「ハッ、返って好都合だ」

ジム「向こうの方からやって来てくれるってなら」

ジム「こっちから出向いてやる手間が省ける」


メガネ「何言ってるんだ」

メガネ「僕たちは騎士団と戦いに来たんじゃない、援軍を阻止しに来たんだ」

メガネ「ここで騒ぎを起こしてどうする」


ジム「どうせ騒ぎを起こすんだろ?」

ジム「だったら、早い方がいいじゃねぇか」

ジム「さっさとしねぇと学園の方が先に落とされちまう」


エディ「ジム、オメェなぁ」

エディ「今の……」


トム「いや、待て」

トム「意外といい案かもしれない」


生徒「ト、トム!?」


トム「確かに……俺たちの目的は騎士団と戦うことじゃない」

トム「でも、騎士団長とやらがやる気なんだ」

トム「学園からやってきたとバレたら、いざこざがあるに決まってる」

トム「なら、こっちの有利な場所で仕掛けば良い」

トム「そうすれば話し合いもやり易くなるだろ?」


ブロンド「でも、僕らに有利な場所って?」

ブロンド「今の僕たちにとって、ここは敵地のド真ん中みたいなものだ」

ブロンド「とてもそんな場所があるとは思えないけど」


トム「いいや、あるぜ」

トム「今日限りのとっておきの舞台が」


ブロンド「まさか……!」


トム「そうだ、舞踏会に乗り込む」


生徒「舞踏会って、そんな無茶苦茶な」


トム「今更、無茶苦茶もなにも無い」

トム「人ごみの中なら奴らも下手に手出ししてこないはず」

トム「最悪、人質でも何でも取って騎士団の連中を釘づけにできる」

トム「どうせ騒ぎを起こすんだ」

トム「こうなったら派手にかましてやる」


ジム「面白れェ、気に入った」

ジム「貴族サマの舞踏会とやらを拝見しに行くぞ」


書記「そんな偉そうなことを言って」

書記「大体、舞踏会がどこでやってるのか知ってるのか?」


ジム「そんなの行けば分かる」

ジム「いちいち口出しするんじゃねぇ」


書記「なんだと? 俺はな……」


王子「止めろよ、2人とも」

王子「舞踏会は大ホールでやってるはずだ」

王子「ボクが案内する」


エディ「だとよ、アル」

エディ「それでもそいつを止めんのか?」


書記「いや、止めとく」

書記「言っても、どうせ無駄だ」


ジム「分かれば良いんだよ」

ジム「さぁ、行くぜ」

ジム「案内しろ、カール」


王子「あ、ああ……任せろ」


<王城 大ホール>


   バンッ  ガタンッ



    「な、なに?」
    
       「凄い音、何かしら?」
  
 「何者かが扉を蹴りやぶったみたいですな」


    「王の御前でそんなことをするなんて、どこの野蛮人だ?」



ジム「これが貴族の舞踏会ねぇ……」

ジム「映画やら本屋らと同じで、面白くもなんともねぇな」


書記「この状況で、良くそんなことが言えるな」

書記「もう、後には引けないんだぞ」


ジム「だったら、上手くやりゃいいんだよ」

ジム「テメェは最初から負けるつもりか?」


書記「だから、俺は……」


エディ「無駄話はそれぐらいにしろよ」

エディ「やるとこやって、さっさと帰ろうぜ」



      「しかし、アレはなんだ?」

   「今夜の出し物か何かでしょうか」
        
              「いや、そんな話は聞いてないぞ」

     「なら、アレは一体……」  

   
 「もし、私を狙ってきたのなら一大事だ」

      「では、私たちはどうすればいいのだ?」



ブロンド「で、どうするのさ?」

ブロンド「このままだと、僕らはただの侵入者だ」

ブロンド「そのうち衛兵につまみ出されるよ?」


      ガシャ ガシャ ガシャ ガシャ


宮廷兵A「…」 宮廷兵B「…」 宮廷兵C「…」 宮廷兵D「…」


ブロンド「ほら、言わんこっちゃない」


トム「……手厚い歓迎だな」

トム「こいつが貴族の挨拶ってわけか」


ジム「フッ、俺が相手をしてやるよ」

ジム「かかってきな」


宮廷兵A「侵入者の分際で偉そうに」

宮廷兵A「いいだろう……望み通りに相手になってやる」


ジム「そうこなくちゃな」


宮廷兵C「俺も加勢する」

宮廷兵C「行くぞ!」


ジム「さて、踊りの時間だ」

ジム「行くぜ! アル」


書記「バカ、勝手に話を進めるな!」 


ジム「なっちまったもんは仕方ねぇ」

ジム「お前も手伝え」


メガネ「おい、どうするんだ!?」

メガネ「団長が来る前に捕まったら、元も子もないぞ」


トム「ああ、分かってる」

トム(だからといって、どうするか……)


王子「待て! お前達」

王子「誰に刃を向けているのか分かってるか?」

王子「ボクは王族だぞ」


宮廷兵B「お前が王子だと?」

宮廷兵B「下手な脅しは止せ」

宮廷兵B「我々を惑わすつもりなら覚悟はできてるな」


王子「なら、これを見ろ!」


宮廷兵D「なっ! それは」



  「アレは王家の紋章?」


       「どういうことだ? タダの賊ではないのか」

   「紋章が奪われたという話は聞いてないぞ」



王子「どうだ? これなら文句はないだろ」


宮廷兵A「まさか、本当に王族だというのか?」


宮廷兵D「隊長……これは」


宮廷兵A「分かっている!」

宮廷兵A「しかし、嘘の可能性も……」


王子「信じられないって言うなら、確かめればいい」

王子「王様でも大臣でも、好きに呼んでみろ」


宮廷兵A「くっ……」


  「先ほどから手こずりおって」

  「さっさと、取り押さえぬか」  


宮廷兵B「だ、大臣様!?」

宮廷兵B「ここは私たちにお任せください」


大臣「信じられぬわ」

大臣「賊ごとき躊躇しおって」

大臣「侯爵、いや……軍政官」

大臣「このようなことが続けば、その職を辞してもらうぞ」


軍政官「…」


エディ「おい! 軍政官って」

エディ「まさか……」


生徒「父さん! そこにいるの!?」

生徒「僕だ、ヨハンだ!!」

生徒「返事をしてくれ! 父さん」


軍政官「ヨ、ヨハン!?」

軍政官「どうしてそこに!」

軍政官「勝手に抜け出して、どこへ行っていたのだ!?」


生徒「勝手に抜け出したのは謝る」

生徒「でも、今はそんなことを言ってる状況じゃないんだ!」

生徒「聞いてくれ!」

生徒「僕たちがここへ来たのは……」


大臣「お主たちがここへ来た理由など知りたくないわ」

大臣「たとえ侯爵の子息であろうと容赦はせぬぞ」

大臣「そのような薄汚いネズミどもを連れてきおって」


エディ「誰が薄汚いネズミだって!?」

エディ「ケンカ売ってんのか! ハゲじじい」


大臣「見かけに違わず、口も悪いか」

大臣「見ていて不愉快だ」


大臣「衛兵! こやつらをひっ捕らえろ」


宮廷兵A「し、しかし……」


大臣「いいから、やれ!」

大臣「代わりにお前たちのクビを飛ばしてもいいのだぞ」


王子「待て! 大臣」

王子「ヨハンの話の邪魔をするな!」

王子「父上が許しても、ボクは許さないぞ」


大臣「なに! お前は……」


王子「お前が学園に追いやった、カールだ」

王子「忘れたとは言わせないぞ!」


大臣「まさか、カール様は部屋に引きこもっていたはず」

大臣「こんなところに顔を出すなんて」

大臣「これは一体……どういうことだ?」


王子「お前たちが学園に追いやった、カールだ」

王子「忘れたとは言わせないぞ!」


大臣「まさか、カール様は部屋に引きこもっていたはず」

大臣「こんなところに顔を出すなんて」

大臣「これは一体……どういうことだ?」


書記「そんなの簡単だ」

書記「もう、こいつはアンタの知ってる引きこもりじゃない」

書記「アンタの知らないところで、仲間と居場所を見つけた」

書記「それだけだ!」


王子「アル、お前……」


大臣「ええい、うるさい!」

大臣「カール様がこんなところに来るはずがない」

大臣「そいつはタダの偽物だ」

大臣「やれ! 衛兵ども」


宮廷兵D「隊長……」


宮廷兵A「やるしかない」

宮廷兵A「かかれッ!」


   キンッ
         カキンッ

 
     カンッ   

    
宮廷兵C「何!? 防がれた?」    


ジム「ヘッ……やらせねぇよ」


書記「俺達を舐めるな」


学級委員「ああ、全くだ」



軍政官「アレは団長派のスパイ」

軍政官「どうしてここに」

軍政官「奴は今……」


ブロンド「もう、ヘンリーは敵でもスパイでもありません」

ブロンド「今はただの学園の生徒です」


軍政官「ウィリアム!」

軍政官「お前……学園に居たのではなかったのか?」


ブロンド「戻ってきたんです、学園を守るために」

ブロンド「今、学園には……」

 
     バンッ  ガタンッ


   ガシャ ガシャ ガシャ ガシャ

    ガシャ ガシャ ガシャ


軍政官「何だ? 何事だ」


メガネ「みんな! 来たぞ」

メガネ「騎士団がやってきた」


エディ「うひゃー……スゲェ数だぜ」

エディ「あっという間に囲まれちまった」


宮廷兵A「援軍か?」


宮廷兵B「いや、待て」

宮廷兵B「あの甲冑は……団長の直動隊だ」



トム「団長の直動隊か」

トム「結構な大物が釣れたな」


エディ「で、どうすんだ?」

エディ「この数相手に戦っても勝ち目はなさそうだぜ」


トム「んなこと分かってる」

トム「取りあえず、敵の大将を引っ張り出してだな」


メガネ「いや、その必要はないみたいだぞ」



  「騎士団長の名において命ずる」

  「今すぐ武器を捨て、投降しろ」



トム「……ひと手間はぶけたみたいだな」

トム「幸先が良くて、安心したぜ」


大臣「おお! よく来てくれた、騎士団長」

大臣「さっそく、そこの賊めらを捕まえてくれ」


団長「はっ、承知しました」


軍政官「待て! 騎士団長」

軍政官「大臣、これは……」

軍政官「あなたが彼らを呼んだのか?」


大臣「そうだとも」

大臣「ここにいる兵では力不足のようだからな」

大臣「私が使いをよこしたのだ」


軍政官「なっ……」

軍政官「それでは私の立場が」


大臣「今更、何だというのだ」

大臣「そなたの息子は賊と共謀して、舞踏会に侵入した」

大臣「立派な反逆罪ではないか!」


軍政官「だか、これには……」


大臣「この件は後で会議にかける」

大臣「それまで、進退を考えておくように」

大臣「では……」


ジム「おい!」

ジム「さっきからゴチャゴチャうるせぇんだよ」

ジム「何だ? 内輪で会話しやがって」

ジム「俺達には眼中にないってか?」


エディ「ああ、全くだぜ!」

エディ「舞踏会の侵入者が目の前にいるってのに」

エディ「オレらを無視して権力争いとか」

エディ「だから、政治家って奴はキライなんだよ!」


大臣「黙れ! 賊の分際で」

大臣「私に意見するというのか?」


トム「ああ、その通りさ」

トム「じゃなきゃ、ここまで来た意味がねぇからな」

トム「ヨハン! 教えてやれ」

トム「俺達がどこから来て、何をしに来たのかを」


軍政官「どういうことなんだ? ヨハン」

軍政官「さっきのウィリアムの話といい……」

軍政官「学園で何かあったとでもいうのか?」


生徒「そうなんだよ! 父さん」

生徒「このままだと、学園が危ないんだ」



     「学園が危ない?」


          「アレは……学園の生徒なのか?」

   「そういえば、侯爵の子息はあそこの生徒であったな」



軍政官「どういうことだ?」

軍政官「学園は、今……」


大臣「侯爵! 賊の言い分に耳を傾けるな」

大臣「そやつは、そそのかされておるだけだ」

大臣「騎士団長!」


団長「了解しました」

団長「行け! 奴らをひっ捕らえろ」



  「はっ!」ダダッ


学級委員「させるか!」ヒュッ


   カンッ  
       キンッ


ブロンド「ブレスウィンド!」

 
    ゴォオオオオオオ


 「ぬわっ!?」 「うわぁああ!!」



団長「な、なに……」

団長「お前達!」


学級委員「ご無沙汰してます、団長」


ブロンド「さて、何ヶ月ぶりですかね?」


団長「そこの裏切り者はともかく……」

団長「ハインリヒ! 何故そこに居る?」

団長「お前はアドルフと共に学園での任務に就いているはずだぞ」


学級委員「それなら、終わりましたよ」

学級委員「俺達……学園側の勝利で」


団長「学園側の勝利?」

団長「まさか……」

団長「お前まで裏切ったと言うのか、ハインリヒ!」


ブロンド「裏切ったもなにも」

ブロンド「ヘンリーは最初から学園の生徒です」

ブロンド「あなたがそう仕向けたんですよ、団長」


団長「くっ……軍政官の犬が」

団長「総員! かかれッ」



トム「エディ!」

トム「奴らの兜だ」ポイッ


エディ「おう、喰らえッ!」バシッ


   「ぐわっ……」ガンッ



ジム「行くぜ! アル」ヒュッ


書記「言われなくても!」ブンッ


   カンッ  
       ガキッ


 「くっ……」 「チッ…」


メガネ「ロックフォール!」 


    ズゴゴゴゴゴゴ


王子「ファイヤー……ブレス!」


    ゴォオオオオオオ



団長「くそ、魔法使い風情が……」


トム「ここじゃあ、隊列は組めねぇ」

トム「複数ならともかく」

トム「1対1なら負けないぜ?」


団長「チッ……」


メガネ「ヨハン、続きを早く!」

メガネ「僕らのことを話して、騎士団を止めてもらうんだ」


生徒「ああ、分かった!」


生徒「父さん、聞いてくれ!」

生徒「今、学園に騎士団が向かってる」

生徒「僕らが倒した調査隊の増援だ」

生徒「騎士団は……団長はこのまま学園を攻め落とすつもりなんだ!」



   「学園を攻め落とすですって?」

      「まさか、そんなこと……」


   「しかし……良い噂は聞いてないぞ」

          「今朝早く、騎士団の部隊が出動していたそうじゃないか」



軍政官「ヨハン、それは本当なのか?」


生徒「学園を占領した騎士団の団長から聞き出したんだ」

生徒「間違いないよ」


軍政官「団長、どういうことだ?」

軍政官「私が聞いているのは学園に対する調査隊の件だけだ」

軍政官「騎士団の派兵など聞いていない」


団長「…」


軍政官「答えろ、騎士団長」

軍政官「騎士団長の一存で決められるものではない」

軍政官「最低でも私以上の許可が必要であるはずだ」

軍政官「もし、独断専行であるというなら……」


大臣「待て! 侯爵」

大臣「今の話、本当に信じるつもりであるのか?」


軍政官「信じるも何も……本当であったらどうするのですか」

軍政官「私だけでは済まない」

軍政官「王国の信用問題に発展する」


大臣「しかし!」

大臣「そやつらの話の根拠はなんだ?」

大臣「ただの証言だけではないか」


軍政官「……大臣」

軍政官「何故、そこまで強情に」

軍政官「まさか、貴方は……」


大臣「ええい、黙っておれ!」

大臣「とにかく信用ならん」

大臣「その話が本当だというなら、証拠を持ってこい!」



ジム「あ? 証拠だと」

ジム「この期に及んで、往生際が悪い奴だな」

ジム「んなもんオメェの……」


トム「おい、止せ」


ジム「止めんじゃねぇよ、トム」

ジム「ここでやらずにドコでやんだよ」

ジム「それとも、あのハゲの言いなりになれってのか?」


トム「いいから、下手に刺激するな」

トム「忘れてるかも知れねぇが、ここは敵の本陣みたいなもんだ」

トム「下手を打ったら俺達の方がやられる」

トム「ボロを出すまで粘るぞ」


エディ「でも、どうすんだよ?」

エディ(大声じゃ言えねぇけど……)

エディ(証拠なんて、何も持ってねぇぞ)

エディ(ここで引いたら負けちまうし……)

エディ(お手上げじゃねぇか)


トム(だから、ハッタリをかますんだよ)

トム(向こうも動揺してるみたいだからな)

トム(折角の舞踏会だ、ギャラリーを味方に付けるぞ)


ジム(なら、好きにしやがれ)

ジム(お前の作戦が上手くいくかどうか知らねぇが)

ジム(ダメだったら俺がどうにかしてやる)


トム(全く……よく言うぜ)


大臣「どうしたのだ」

大臣「さっきから、コソコソと話をしおって」

大臣「やはり……でっち上げの話だったという訳か?」


トム「いいや、証拠ならちゃんとあるぜ」

トム「とっておきのがな」


大臣「なっ……なら、さっさと出すがいい!」

大臣「今更無かったなどという嘘は通用せんぞ!?」


トム「本当に出しても良いんだな?」

トム「さっきから、アンタの態度」

トム「いかにも出して欲しくないってオーラを醸し出してるぜ?」


大臣「そ、そんなことは!」


トム「案外、アンタかも知れないな」

トム「ヨハンの親父さんが言ってた『騎士団を派兵する書類にサインした大臣』ってのは」

トム「だから、そんなに慌ててるんじゃないか?」


大臣「…っ」


トム「そうだったら、大変だな」

トム「この国の政府がどうなってるか分からねぇが」

トム「何の罪もない学園に攻撃命令を出したんだ」

トム「アンタの立場は……」


団長「黙れ! 学園の回し者めが」

団長「それ以上、大臣閣下を愚弄することは私が許さんぞ」


トム「良いのか? 割って入って」

トム「自分が関わってるって言ってるようなもんだぞ」


団長「……貴様の望みは何だ?」

団長「王城の舞踏会にまで入り込んで、私たちを辱めに来たのか」


トム「そんな下らないことをするために」

トム「ワザワザこんなとことまで来ねぇよ」

トム「俺達の望みはただひとつ……」


学級委員「今すぐ学園へ送った兵を連れ戻す」

学級委員「それだけですよ、団長」


団長「……裏切り者の分際で」

団長「良く言えたものだな、ハインリヒ」


ブロンド「裏切り者はそっちの方だ!」

ブロンド「罪のない人を危険にさらすような任務を命じて……」

ブロンド「あなたこそ、僕らの志を裏切ったんだ!」


団長「裏切った? 私が」


学級委員「ああ、そうだ」

学級委員「俺達はただ……拠り所が欲しかったんだ」

学級委員「誇りのために戦うことでも、誰かが居てくれる居場所でも、何でも良かった」

学級委員「だが、お前は俺達をスパイに仕立て上げた」

学級委員「誇りも居場所もない、孤独な工作員に」

学級委員「だから……俺達は今、お前の前に立っている」


団長「そうか、そういうことか……」

団長「お前達にとって、私の命令などその程度のものだったのか」

団長「ククク……」

団長「あはははははは!!」


メガネ「ど、どうしたんだ?」

メガネ「いきなり笑い出したりして」


書記「まだ、何か隠し玉を持っているのか?」


生徒「分からない……けど」

生徒「用心に越したことはない」


王子「……っ、来るなら来い!」



団長「はぁ……」


トム「どうした? 団長さん」

トム「部下にこっ酷く振られて、壊れちまったか」


団長「いや……おかしいのだよ」

団長「完璧に教育したはずの2人に、こんなことを言われる日が来るなんて」

団長「そんなことは思ってもみなかった」

団長「これもお前のせいなのか?」


トム「さぁ? 俺は何もしてないぜ」

トム「勝手にアンタと縁を切っただけだ」

トム「もっとも……俺はアンタの下につきたいとは思わないがな」


団長「……まぁいい」

団長「お前、名は何という?」


トム「トム……トーマスだ」


団長「なら、トーマス」

団長「お前に決闘を申し込む!」


トム「なっ!?」


大臣「何を言っておるのだ!? 騎士団長」

大臣「賊相手にそんなことをする必要は無い!」


団長「ご心配なく、大臣」

団長「私が負けるとお思いなのですか?」


大臣「いや……そんなことは」


団長「では、そこでご鑑賞ください」

団長「どうする? トーマス」

団長「私が勝てばお前達を拘束するが」

団長「お前が勝ったら、騎士団は引き上げる」

団長「悪い条件ではないだろう?」


トム(……こいつは予想外だ)

トム(まさか……決闘なんてもんを申し込んで来るとはな)

トム(だが、断ろうにも……)



    「騎士団長が決闘だと?」


            「これは見ものだな」
  「本気なのか?」

      「やはり、相手はただの野蛮人ではなかったのでしょうか」


    「ふむ、私は団長の方へ賭けましょう」

           「なら、わたくしはもう1人のほうへ」


トム(とてもそんなこと言い出せる雰囲気じゃねぇ)

トム(ここに来て、舞踏会に乗り込んだのが裏目に出たか)

トム(それともコイツ、これを狙って……)


団長「さて、どうする?」

団長「断ってくれても構わないのだが」


トム「……分かった」

トム「その勝負、乗ってやる」

トム「ただし……約束は守ってもらうぞ」


団長「もちろんだ」

団長「さて、お前の剣は……」


ジム「トム」ポイッ


トム「!」ガシッ

トム「こいつは……」


ジム「俺の剣だ」

ジム「そいつを使え」


トム「……どういう風の吹き回しだ?」

トム「お前ならもっと食って掛かると思ったんだがな」


ジム「フンッ……テメェが指名されたんだ」

ジム「俺の出る幕じゃねェ」

ジム「ただ、俺の剣を使うんだ」

ジム「間違っても負けんじゃねぇぞ」


トム「そんなこと……」

トム「言われなくても分かってる」


団長「……準備が出来たようだな」

団長「行くぞ! トーマス」ジャキ


トム「ああ、かかってきな!」シャキンッ


-数分後-


団長「ほっ! はぁッ!」ヒュ ヒュン


トム「!?」


  カンッ
      キンッ


トム「…っ」

トム(分かってはいたが……)

トム(さすがに、騎士団長なだけあって強い)


団長「初めの威勢はどうした?」

団長「これでは勝負にならんぞ」


トム「さぁ? どうだかな」

トム「そういうアンタも、俺を倒せてないぜ?」

トム(……奴のペースに乗せられたら負ける)

トム(ここは隙を見て一気に攻める!)


団長「口だけは回るようだな」

団長「いいだろう……速攻で終わらせてやる」

団長「はぁ!」ヒュッ


トム「くっ……」サッ


   スカッ


団長「やッ! とおッ!!」


  キンッ

      カキンッ


トム「チッ……」


団長「ふんッ!!」ブンッ


   ガキンッ


トム「ぐっ……」ギリギリ


トム「おらっ!!」ドンッ


    ガンッ


団長「……ぬっ」


トム(今だ!!)

トム「はぁッ!」ヒュッ


団長「!」

団長「はぁあああっ」ブンッ


トム「なっ……」

トム(剣を振ってきやがった!?)

トム(間に合え!)


   カキンッ


団長「やぁあああ!!」ブゥン


トム「うぐっ……」

トム「ぬわぁああ!?」


    ガンッ

   ガシャーン


トム「うぐっ……」

トム(……頭を打った、視界がグラつく)



生徒「トム!」


エディ「おい! 大丈夫かよ」

エディ「ケガはねぇか!?」



トム「……心配するな」

トム「少し、吹き飛ばされただけだ」

トム(クソ……結構ダメージがデカい)

トム(早めにケリを着けねぇと……)


団長「……今のは危なかったぞ」

団長「一瞬だが、背筋が凍った」


トム「その割には……余裕そうだな」

トム(どうする? 正面からじゃ奴には適わない)

トム(最低でも横から……出来れば、背後から攻撃したい)


団長「そうでなくては勝てないからな」

団長「相手に自分の不調を気取らせない」

団長「それが一級の兵士の条件だ」


トム「……そうかい」

トム「だったら、アンタは一級だな」

トム(どうにか注意をそらせられれば……ん?)

トム(アレは……)


団長「そういうお前も」

団長「頭を打ち付けた割には、随分と平気そうだな」


トム「ラフプレーはフットボールじゃ日常茶飯事だからな」

トム「いちいち大事にしてられない」

トム(俺が捨てた剣の鞘……)

トム(これは、使えるかもしれないな)


団長「なら、遠慮はいらないな」

団長「行くぞ!」ダッ


トム(……来た!)


団長「やぁッ!」ブンッ


トム「!」サッ


団長「逃すか!」ヒュッ


  カキンッ


トム(まずはコイツをやりすごして……)


トム「とりゃ!」ヒュッ


  キンッ


団長「くっ…」


トム(アレが落ちてるところまで行く!)ダダッ


団長「待て!」ダダッ


トム(よし、ここまで来れば……)

トム「ほら! こっちだぜ」


団長「……ちょこまかとすばしっこい奴め」

団長「逃げてばかりでは勝負はつかないぞ!」


トム「面白いことを言うな」

トム「俺が何の策もなしに、ただ逃げ回ってただけだと思ってるのか?」


団長「……どういうことだ?」


トム「周りをよく見てみろよ」

トム「さっきと違ってるはずだぜ?」


団長「バカなことを……」

団長「何も変わってないではないか!」


トム「もっと良く見てみろよ」

トム「足元にあるソレはなんだ?」


団長「……っ」ジロリ


   ポイッ


団長「!?」

団長「…っ!」ブンッ


  カンッ バキッ


団長「……鞘だと?」


トム「貰った!」ブンッ


団長「!」


  カンッ 
      ガキンッ

    カンッ  

  カラン カラン



トム「クソッ……」


団長「惜しかったな」

団長「私でなければやられていただろう」

団長「約束通り、拘束させてもらうぞ」


    パチ パチ パチ パチ


エディ「は、拍手だって?」

エディ「トムがやられたってのに冗談じゃねぇ!」

エディ「一体、どこのどいつだよ!?」


  「おや、拍手では満足できないかな?」


ジム「ふざけてんじゃねぇよ」

ジム「俺達はな……」


大臣「やめろ! この方を何方と心得る」

大臣「この王国の国王であるぞ」

大臣「いくら賊でも、そのような物言いは許されぬ!」


エディ「国王って……」

エディ「アンタ! 王様なのか!?」


王様「いかにも、私がこの国の王だ」


団長「陛下、お下がりください」

団長「ここは危険です」


王様「騎士団長、もう演技は良い」

王様「先ほどの剣舞で私は満足した」

王様「そなたらも元の職務に戻るがいい」


王子「父上、何を言ってるんだ!」

王子「演技って……どういう事なんだよ?」


王様「どういう事と言われてもな」

王様「これは……」


  「全部、演技ということじゃ」


エディ「なっ……アンタは!?」


書記「学園長! どうして!?」


学園長「どうてもこうしても……」

学園長「ワシも貴族じゃ、ここにおってもおかしくは無いじゃろう?」


ブロンド「そういうことじゃ無い」

ブロンド「今のはどういう意味なんですか!?」


学園長「どういう意味と聞かれるとなぁ……」

学園長「ワシらでこの出し物を企画して、実行した」

学園長「そういうことじゃ無かったかのう?」


ジム「そういうことだと?」

ジム「テメェは……」


トム「ああ! 忘れてた」

トム「そうだったな! 爺さん」


エディ「おい! トム」

エディ「なに言って…!」


トム(いいから、黙って話合わせとけ)

トム(下手に本当のこと言うより)

トム(演技だったってとこにしちまうほうが良い)


エディ(だけどよ!)


トム(なら、この状況をどうする?)

トム(黙って牢に入れられるつもりか)


ジム「チッ……分かったよ」

ジム「テメェの好きにしな」


王様「何か問題でもあったかね?」

王様「そこで揉めているようだが」


トム「いいや、なんでもない」

トム「ちょいと聞かれたくない話をしてただけだ」


王様「そうか……それなら良いのだが」

王様「この後はどうするつもりだ?」

王様「良ければ、このまま舞踏会を楽しんでもらって欲しいが」


トム「悪いが、遠慮させてもらう」

トム「俺達もそうそう暇じゃないんでね」

トム「ほら、帰るぞ! お前ら」



ブロンド「もう……何がなんだか」


学級委員「取りあえず、行くぞ」

学級委員「ここはアイツに従っておく方が得策だ」


書記「あのジム達が納得したんだ」

書記「それなりの理由もあるだろ」


ブロンド「まぁ……そうだね」

ブロンド「帰ろう、僕たちの学園へ」


王様「カール、お前も行くのか?」


王子「はい……」

王子「ボクも学園の生徒だから」


王様「そうか、安心したぞ」

王様「向こうでも上手くやっているようでな」


王子「……行くぞ! ポール」

王子「学園に帰るんだ!」


メガネ「待ってくれ」

メガネ「まだ、話が……」


王子「いいから! 着いてこい」


メガネ「あ、ちょっと」

メガネ「待てよ! おい」


生徒「ゴメン、父さん」

生徒「もう行かなきゃ」


軍政官「……そうか」


生徒「色々と勝手なことをして、悪いとは思ってる」

生徒「でも、あのままだったら学園は無くなっていた」

生徒「だから、僕らは立ち上がったんだ」

生徒「それだけは分かって欲しい」


軍政官「…」


生徒「僕のことは好きにしてもいい」

生徒「退学でも何でも、受け入れるよ」

生徒「でも、その代りに……」

生徒「学園だけは守ってほしい」

生徒「あそこは僕だけじゃない……皆の居場所でもあるから」


軍政官「……ヨハン」


生徒「それじゃあ!」


トム「爺さん、後は任せたぜ」


学園長「任せておけ」

学園長「元からそのつもりじゃ」


ジム「折角、俺達が場を温めてやったんだ」

ジム「しくじるんじゃねぇぞ?」


学園長「分かっておる」

学園長「おぬしこそ、下手なことをするんじゃないぞ?」


エディ「全くもってその通りだ」

エディ「ほら、行くぞ! ジム」

エディ「オメェが居座るとロクなことがねぇんだよ」


ジム「ハッ、言ってろ」


トム「無駄口たたいてないで帰るぞ」

トム「これ以上ここに居ても邪魔になるだけだ」

トム「向こうも派手にやっちまったからな」

トム「ささっと帰って、後片付けの手伝いだ」


<学園本棟 学園長室>


エディ「で、アレからどうなったんだよ?」

エディ「もう帰るってのに何の音沙汰もねぇし」

エディ「このままじゃ、帰るに帰れねぇぜ」


学園長「そういえば話とらんかったの」

学園長「ワシも忙しくて、話すのをすっかり忘れておった」


トム「その様子じゃ、色々とあったみたいだな」

トム「俺達を呼び出したのだって」

トム「最後にお別れの挨拶を、ってわけじゃないんだろ?」


学園長「ああ、その通りじゃ」

学園長「お主たちが帰る前に」

学園長「どうしてもやらなきゃならないことがあってな」


ジム「だったら、早く済ませろ」

ジム「ワザワザ帰る前に呼ばれてやったんだ」

ジム「無駄話に割いてる時間はねぇ」


エディ「んなこと言ったって、どうせ暇だろ?」

エディ「帰りの転移魔法陣だったか……」

エディ「そいつの準備ができるまで、時間がかかるって話だしよ」


ジム「爺さんの話の方が長くなったら意味ねぇよ」

ジム「俺はこんなところに長居するつもりはねぇからな」


学園長「では、手短に済ませようかの」

学園長「もとからそこまで時間をかけるつもりもなかったのじゃが」


トム「それで、俺達を呼び出したのは?」

トム「まさか……ただの気まぐれって訳じゃないだろ」


学園長「では、単刀直入に言おう」

学園長「お前たち3人、本日をもって講師の任を解く」


エディ「任を解くって……」

エディ「クビって事か?」


学園長「ああ……そうじゃ」


トム「なんだ?」

トム「舞踏会に乗り込んだ責任でも取れってことか」


学園長「ま、そんなところじゃな」

学園長「あれから一週間」

学園長「表向きにはただの出し物で終わったんじゃが、裏の方はそうも行かなくての」

学園長「騎士団では団長の力が弱まったり、あの大臣に事実上の更迭処分が下りたり」

学園長「王都の方では大荒れじゃったんじゃ」


ジム「そいつと俺達と何の関係があんだよ?」

ジム「奴らが勝手にやったことだろ」


学園長「それはそうなんじゃがな……」

学園長「あのハゲ大臣が最後にかみついたんじゃよ」

学園長「『幾ら出し物とはいえ不法侵入には変わりない、ヤツらにも処分を』とな」

学園長「全く、自分は独断で騎士団の許可証に署名しておったくせに」


トム「で、俺達をクビに……か」

トム「しかし、良くそれだけで済んだな」

トム「こんだけデカい騒ぎを起こしたんだ」

トム「牢獄にぶち込まれてもおかしくないってのに」


学園長「まぁ、今回の件は表向きには舞踏会の出し物じゃからな」

学園長「あまり大きな処罰は下せないんじゃ」

学園長「大臣が更迭されたのも、あやつが隠してきた汚職が原因じゃったしの」


ジム「フンッ、そんなこと知らねぇな」

ジム「ここに戻ってくるつもりはねぇんだ」

ジム「今更、俺達の職なんてどうでもいいね」


学園長「そう言ってもらえると助かるの」

学園長「学園を守ってくれたというのに、にこんな仕打ちはしたくなったんじゃが」


エディ「いいって、爺さんが謝ることじゃねぇよ」

エディ「いきなり『クビだ』って言われて驚いたけどよ」

エディ「なっちまったもんは、しょうがねぇだろ?」


トム「そうさ」

トム「問答無用で牢屋にぶち込まれなかっただけマシだ」

トム「初めから、元の世界へ帰るつもりだったからな」

トム「俺達のこと気にするぐらいなら、学園のことでも考えてろ」


学園長「そうか……」


ジム「話はこれで終わりか?」

ジム「だったら、行くぜ」

ジム「アンタの話を長々と聞いていられるほど」

ジム「俺達も暇じゃないんだ」


トム「アンタも聞いてると思うが」

トム「どこかの物好きが見送りをしてくれるみたいだからな」

トム「主役が遅刻しちゃ悪いだろ?」


学園長「そうじゃな、これで終わりにしよう」

学園長「トーマス、エドワード、ジェームズ……」

学園長「ワシらの勝手で呼び出したにもかかわらず」

学園長「この学園を救ってくれて、本当にありがとう」

学園長「おぬしたちは学園のヒーローじゃ」


エディ「オレ達がヒーローねぇ……」

エディ「そう言われると、なんだかムズ痒いぜ」


ジム「ハッ……この程度で照れてるなよ」

ジム「そんなんじゃ本物にはなれねぇな」


トム「何だ? まだ諦めてなかったのか」

トム「勇者は廃業したんだろ?」


ジム「……試合の話だ」

ジム「こんなんでムズ痒がってたら、スター選手になれねぇって言ってんだよ」


エディ「ホントかよ?」


トム「ま、そういうことにしておいてやろうぜ」

トム「ほじくり返すと色々面倒だ」


エディ「……ったく、自分から振ったくせに」

エディ「まぁ、分かったよ」

エディ「そういうことにしておくぜ」


トム「それじゃあな、爺さん」

トム「なんだかんだで楽しかったぜ」


学園長「ああ、元気でな」

学園長「気が向いたら、何時でも戻ってくるのじゃ」

学園長「全校をあげて歓迎するぞ」


トム「そいつはありがたいが」

トム「次は事故なんて起こすんじゃねぇぞ」

トム「こんなのは、もう懲りゴリだからな」


学園長「分かっておる」

学園長「今後は学生の実験にも注意を払うつもりじゃ」


ジム「ほら、行くぜ」

ジム「後がつかえてんだ、さっさとしろ」


トム「はいはい……分かってますって」

トム「じゃ、またな」


学園長「うむ、次に会う時までさよならじゃ」


<魔導学園 グラウンド>


トム「よう、待たせたな」


生徒「トム! みんな」

生徒「学園長先生の用事はもういいの?」


ジム「しょうもねぇことだったからな」

ジム「早めに切り上げてきた」


メガネ「早めに切り上げたって……」

メガネ「仮にも最後の挨拶みたいなもんだろ」

メガネ「それで良いのかよ?」


エディ「良いんだよ、それで」

エディ「死にに行く訳じゃねぇんだ」

エディ「しんみりしたって、しょうがねぇだろ?」


メガネ「確かにそうだけどなぁ……」


書記「やめとけよ、ポール」

書記「お前だって分かってるだろ?」

書記「コイツらにそういうのを求めるだけムダだ」


ジム「良く分かってんじゃねぇか」

ジム「さすがに俺が鍛えただけあるな」


書記「何が鍛えただ」

書記「暇つぶしの道具に使ってただけだろ?」


ジム「だが、俺と張り合えるぐらいには強くなったんだ」

ジム「十分鍛えられただろ」


書記「……そうだな」

書記「その点では感謝してる」

書記「ありがとうな、ジム」


ジム「なら、他の奴に負けんじゃねぇぞ」

ジム「テメェがやられたら、俺の評価まで下がっちまう」


書記「ああ、善処しとく」


トム「それで、魔法陣とやらの準備はできたのか?」

トム「マーガレットに『戻ってくるころには終わってる』って聞いたんだが」


生徒「ああ、それなら……」


家政婦長「たった今、終わりましたよ」

家政婦長「皆さんの協力もあって、予定より早く終わらせたつもりでしたが……」

家政婦長「どうやら、遅れてしまったようですね」


トム「いや、俺達も今来たところだ」

トム「ちょうど良いところへ来た」

トム「早速、案内してくれ」

トム「他の奴らも、向こうにいるんだろ?」


家政婦長「そうですが……その前にこれを」


エディ「あん?」

エディ「何だ……こりゃ」

エディ「バッジか何かか?」


家政婦長「学園の職員証です」

家政婦長「渡しそびれてしましそうなので、今渡しておきます」


ジム「職員証?」

ジム「俺達はクビになったんじゃなかったのかよ」


家政婦長「確かに、講師では無くなってしまいましたが」

家政婦長「用務員としての契約はまだ生きてるはずです」

家政婦長「口約束なので、実際のところはどうか分かりませんが」

家政婦長「私としては、あなた達は用務員のままです」

家政婦長「ですから、それをあなた達がここにいた証拠として差し上げます」


トム「そういうことなら、ありがたく貰っておくぜ」

トム「アレだけ働いて無報酬ってのも、癪だからな」


家政婦長「職員証が報酬というのもおかしな話ですが」

家政婦長「満足してくれたようで結構です」


エディ「満足ってよりは……妥協だけどな」


家政婦長「なら、今度はもっと良いものを用意しておかなければなりませんね」


トム「ああ、期待してるぜ」


家政婦長「それでは、魔法陣のところまで案内します」

家政婦長「付いてきてください」


<グラウンド 魔法陣の前>


トム「こいつが転移の魔法陣ねぇ……」

トム「やっぱり、地面の落書きにしか見えねぇな」


ブロンド「そんなことないさ」

ブロンド「あの落書きみたいなのが重要なんだ」

ブロンド「アレが1つでも欠けたら、発動しない」

ブロンド「そうだったよな? ヘンリー」


学級委員「……俺に聞かれてもな」

学級委員「正直言って、魔法はからっきしなんだ」

学級委員「聞くなら他のにしてくれ」


エディ「からっきしって、お前……」

エディ「魔法使えなかったのかよ?」


学級委員「元はスパイとして入学したからな」

学級委員「剣術はともかく、魔術は全くやってこなかったんだ」


トム「じゃあ、これからどうすんだ?」

トム「魔法が使えないってなら」

トム「例の団長の影響力も弱まったらしいし」

トム「騎士団にでも戻るのか?」


学級委員「いいや、俺はここに残る」

学級委員「今まで真面目にやってこなかっただけだからな」

学級委員「俺にも魔法の素質が眠ってるかもしてない」


トム「このままキャンパスライフを送るってことか」


学級委員「ああ、俺はここで普通の生徒として暮らす」

学級委員「騎士団とは完全に縁が切れたからな」

学級委員「そっちのことはウィルに任せるさ」


ジム「あ? どういうことだ」

ジム「2人仲良く騎士団から足を洗ったんじゃなかったのかよ」


ブロンド「いや、僕は騎士団に戻るんだ」

ブロンド「今の状況じゃ、また今回みたいなことが起こらないとも限らないからね」

ブロンド「牽制役として僕が騎士団に残る」

ブロンド「2人で話し合って、そう決めたんだ」

ブロンド「もちろん、軍政官殿の了解は取ってあるさ」


エディ「……オメェが牽制役ねぇ」

エディ「大丈夫なのかよ」

エディ「オレ達と初めて会った時の調子でやったら、確実に敵が出来るぜ?」


ブロンド「アレはただの演技さ」

ブロンド「僕がスパイだってバレないための」

ブロンド「ほら、軽薄な奴がスパイをやってるなんて思わないだろ?」


エディ「じゃあ、何でまだそんな口調なんだよ?」

エディ「隠す必要がねぇなら、元に戻しちまえばいいじゃねぇか」


ブロンド「いや……それが」

ブロンド「役をやってる時間が長すぎて、口調を戻せなくなったんだ」

ブロンド「ほら、元の口調に戻すとな……」

ブロンド「妙な感じがするだろ?」


エディ「あ、ああ……」


ブロンド「ま、気にしても始まらないからね」

ブロンド「気長にやってくさ」

ブロンド「この口調もそれなりに気に入ってるし」

ブロンド「戻らなかったら潔く諦めるよ」


エディ「まぁ……頑張れよ」

エディ「応援するからな」


ブロンド「ああ、ありがとう」


ジム「話が終わったんなら、早くしろ」

ジム「俺は待たされるのが嫌いなんだ」

ジム「与太話をする暇があるなら、魔法陣とやらをとっとと動かせ」


王子「一応、最後の見送りだろ?」

王子「もっと別れを惜しむとかないのかよ」


ジム「そうやって、過去を振り返ってどうこうするのは嫌いなんだよ」

ジム「そんなことするぐらいなら、帰ってからの予定でも立ててた方が百倍マシだ」


王子「やっぱり、ボクらとは感性が違うな」

王子「初めから不思議な奴らだと思ってたけど」

王子「まさか……違う世界から迷い込んできてたなんて」


エディ「なんだ?」

エディ「まだ、信じられないってか」


王子「いや、納得したよ」

王子「ひきこもりの……仮にも王族の部屋のドアを破ぶって中に押し入るなんて」

王子「普通ならマネできないからな」

王子「むしろ安心した」


エディ「で、これからお前はどうすんだよ」

エディ「オレ達は帰っちまうけど、また引きこもりに逆戻りか?」


王子「そんなことはしない」

王子「外に出てから、随分経ったし」

王子「ヘンリーと一緒さ」

王子「ちゃんと普通の学生生活を送るよ」

王子「当分はこの学園から動けないだろうしね」


トム「そいつは朗報だ」

トム「晴れて、引きこもりが1人いなくなったんだ」

トム「俺達の教育の賜物だな」


王子「ああ……それで、その」


エディ「どうしたんだ? 急に歯切れが悪くなって」

エディ「腹でも痛くなったのか」


王子「いや、そうじゃなくて」


エディ「どうしたんだ? 急に歯切れが悪くなって」

エディ「腹でも痛くなったのか」


王子「いや、そうじゃなくて」


副会長「ほら、カール君」

副会長「ここで言わないでどうするの?」

副会長「もう、会えないかもしれないんだよ」


王子「分かってるけど……」


ジム「なんだってんだ?」

ジム「しょうもねぇことなら、後にしてもらうぞ」


副会長「そうじゃないんです」

副会長「彼は……」


王子「待ってくれ、そこから先は自分で言う」


王子「その……3人とも、ありがとうな!」

王子「お前たちがいなかったら、今頃なにしてたか分からない」

王子「クロエや、男子クラス以外の人と知り合えたのお前たちのおかげだ」

王子「本当に……ありがとう」


トム「お前からそんな言葉が出るなんてな」

トム「アンタの入れ知恵か?」


副会長「そんなことないです」

副会長「私は手伝ってくれって言われただけで」

副会長「全部、カール君自身の言葉です」


トム「こいつがねぇ……」

トム「人間、やれば出来るもんなんだな」


王子「何だよ」

王子「ボクは礼も言えない人間だと思ってたのか?」


トム「ま、多少はな」

トム「それでも、お前の言葉はちゃんと受け取ったぜ」


トム「後はしっかりやれよ」

トム「そこのガールフレンドと一緒にな」


副会長「ガールフレンドって、そんな……」


王子「ボク達はそんなんじゃないぞ!」


トム「なんだ……違ったのか」

トム「でも、そこの王子様の手綱を握れるのはアンタぐらいだからな」

トム「しっかり頼むぜ」


副会長「は、はい!」

副会長「カール君のことは任せてください」

副会長「何かあったら、私がどうにかします」


エディ「そりゃ頼もしいねぇ」

エディ「おい、カール」

エディ「クロエに迷惑かけるんじゃねぇぞ」


王子「分かってるさ」

王子「王族でも何でもない、タダの生徒」

王子「そう思って生活していくつもりだ」


ジム「良い心がけだな」

ジム「忘れて威張り散らすんじゃねぇぞ」


王子「……分かってる」

王子「ボクからはこれぐらいだ」

王子「ほら、次は誰だ?」


メガネ「僕らが行こう」

メガネ「いいかい? メアリー」


栗毛「はい」


メガネ「3人とも……世話になったな」

メガネ「キメラ事件といい、騎士団襲撃事件といい」

メガネ「僕らだけだったら、今頃どうなってたか分からない」

メガネ「でも、やっぱり一番は例の火事だ」

メガネ「お前達がいなかったら、僕かメアリーのどっちかが命を落としてたかもしれない」

メガネ「本当にありがとう」


栗毛「私からも、ありがとうございます」

栗毛「本当はもっと早く言うべきだんだけど」

栗毛「なかなか言える機会がなくて」

栗毛「こんな直前になって、済みません」


トム「そんなことか」

トム「ポールには前に言ったはずだが」

トム「俺は仲間ためにやっただけだ、気にすることじゃねぇよ」


栗毛「でも、私は男子クラスじゃないし」

栗毛「そもそも……これだけじゃ気がすみません」


トム「家族だって仲間みたいなもんだ」

トム「見捨て泣かれたりでもしたら堪ったもんじゃないからな」

トム「それに……アンタから何かを貰おうなんて思ってない」

トム「貸しなら、全部まとめてポールの奴に請求するつもりだからな」


メガネ「なっ!」

メガネ「そんな話聞いてないぞ!?」


トム「当り前だ、今言ったからな」


栗毛「でも、貸しなんてどうやって……」

栗毛「向こうへ行っちゃったら、返しようがないじゃないですか」


トム「……そうだな」

トム「次にここへ来たときにでも返してもらうか」

トム「その方が見返りが期待できそうだからな」

トム「どう思う? エディ」


エディ「まぁ、良いんじゃねぇのか?」

エディ「今ここで何かしろっても無理だろうしよ」


メガネ「ちょ……ちょっと待ってくれ」

メガネ「また戻ってくるつもりなのか?」


トム「なんだ、迷惑か?」

トム「俺達が帰ってくると」


メガネ「いや、そんなことは無いんだ」

メガネ「ただ……もう二度と会えないものだと思ってからな」

メガネ「戻ってくるっていうのに驚いてただけだ」


トム「ま、俺にもここへ戻ってこられる保証はねぇけどな」

トム「先のことを約束するのも悪くないだろ?」

トム「逆に、戻って来れないなんて証明はねぇんだから」


メガネ「そうか……そうだな」

メガネ「またいつか会えるよな」


ジム「ああ、なるかもな」

ジム「俺はそんなつもりはサラサラねぇけど」


メガネ「その時は期待しててくれ」

メガネ「世話になった分、メアリーと一緒に最高の持て成しをするよ」


栗毛「兄さんと2人で待ってます」

栗毛「だから、気が向いたらでいいので」

栗毛「必ず戻ってきてくださいね」


トム「そうか……なら、戻ってこなくちゃな」

トム「アンタらの持て成し、楽しみにしてるぜ」


メガネ「ああ、任せとけ」


トム「さて、次は……」



  「おーい! まだ居るか?」



ジム「あ? この声は……」


書記「会長!? どこ行ってたんですか?」

書記「最後の挨拶も半分以上終わってますよ」


生徒会長「いや、悪いな」

生徒会長「これを取りに行っていて、少し遅れた」


エディ「なんだ? そりゃ」

エディ「剣みたいに見えるけど」


生徒会長「ああ、そうだ」

生徒会長「これは私の剣だ」

生徒会長「この前の襲撃で今まで使っていたのが折れてしまったからな」

生徒会長「鍛えなおしてもらっていて」

生徒会長「それが、今さっき届いたんだ」


ジム「テメェの剣だと?」

ジム「なんでこんな時にそんなもんを取りに」

ジム「そんなに俺達を見送りたくないってか?」


生徒会長「いや、そうじゃない」

生徒会長「私の家には古くから家訓があってな」

生徒会長「そこに『実力を認めた者同士、剣を交換して再戦を誓う』というものがあるんだ」

生徒会長「だから……」


ジム「テメェの剣と、俺のを交換しろって言うのか?」


生徒会長「平たく言えばそうだな」

生徒会長「私も頭から信じてるわけではないが」

生徒会長「たまには、こういうのも悪くないだろう?」


ジム「フンッ……くだらなねぇな」

ジム「そんなことしたって、会えるかどうかは分からねぇ」

ジム「やるだけムダってもんだ」


生徒会長「そうか……」

生徒会長「やっぱり、こう言われてしまったか」


エディ「おい、何言ってんだよ!」

エディ「剣まで用意してもらってったてのに」

エディ「そりゃねぇだろ!? ジム!」


ジム「落ち着けよ、エディ」

ジム「『やらない』なんて一言も言ってねぇよ」

ジム「俺は意味がねぇ、って言ってるだけだ」


書記「どっちも似たようなものだろ」

書記「やるなら、さっさとしろよ」

書記「待たされるのは嫌いなんだろ?」


ジム「チッ……仕方ねぇな、ほら」スッ


書記「さぁ、会長も」


生徒会長「あ、ああ……」


ジム「…」ガシッ


書記「どうだ? 会長の剣の感触は」

書記「お前が使ってるのとは比べ物にならないだろ」


ジム「剣なんて、どれも一緒だ」

ジム「刃が付いてて柄があれば、みんな剣だ」


書記「そんなことあるか」

書記「お前には分からないかも知れないけど、色々と違いがあるんだ」

書記「ほら、お前も早くしろよ」


ジム「ああ……ほらよ」ポイッ


生徒会長「!」


書記「なっ!?」ガシッ


ジム「じゃ、俺は帰るぜ」

ジム「やることやったからな」


書記「お、おい! ちょっと待て」

書記「どうして俺に!?」

書記「交換したのは会長とだろ!」


ジム「そいつはお前に預ける」


書記「いや、預けるって……」


ジム「ナターシャ」

ジム「俺の剣が欲しかったら、そいつと戦って勝て」

ジム「アルに勝てねぇようじゃ」

ジム「俺の相手になんてならねぇだろうからな」


書記「お、おい!」

書記「俺はそんなこと……」


生徒会長「ああ、分かった」

生徒会長「お前の剣はアルベルトから頂くとしよう」


書記「そんな、会長まで」


生徒会長「だが、忘れていないか?」

生徒会長「私は一度お前に勝ってるんだ」

生徒会長「アルベルトでは相手にならないかも知れないぞ」


ジム「あのときはブランクがあったからな」

ジム「今の俺なら不覚は取らねぇよ」

ジム「それに、アルの野郎も軟な鍛え方はしてねぇ」

ジム「泣きを見るのはテメェの方かもしてねぇぜ?」


生徒会長「それは油断してられないな」

生徒会長「でも、私だってこのままでいるつもりは無い」

生徒会長「次に会うときはお互いに全力で勝負だ」


ジム「ああ、それじゃあな」


エディ「あ、おい!」

エディ「ちょっと待てって……」


トム「止めとけ、もう行っちまったよ」


エディ「全く……どこまでも勝手な奴だぜ」

エディ「最後ぐらい、静かにしてろってんだ」


書記「ま、無理だろ」

書記「俺達の言ったことを素直に聞くようなヤツじゃないからな」


生徒「でも、良かったの?」

生徒「あのまま見送っちゃって」

生徒「何か言いたいことがあったんじゃない」


書記「言ったところで、適当にあしらわれてお終しまいさ」

書記「だったら、言わなくても同じだろ?」


生徒「でも……」


書記「良いんだよ、俺達はこれで」

書記「ほら、最後はお前だぜ」

書記「バシッと決めて来いよ」


生徒「あ、ああ……そうだね」

生徒「ええっと、何を話せばいいのか」


トム「そんなもん、なんでもいいさ」

トム「この前の襲撃のことだとか、フットボールの練習のことだとか」

トム「何にも語らずに終わらせるってもアリだな」


生徒「……それは流石に」

生徒「でも、こうして振り返ってみると……色々あったね」

生徒「学内試合のときは、こんなことになるとは思ってなかったよ」

生徒「あの頃は自分の退学を止めようと、なりふり構っていられなかったから」


エディ「そういや、アレはどうなったんだよ?」

エディ「あんときは退学だ何だって揉めてたみたいだけど」

エディ「結局、解決したのか?」


生徒「それなら、もう大丈夫だ」

生徒「父さんとも話して、この学園に居られるようなったよ」

生徒「反対してた理由ってのも、騎士団のスパイとかを心配してただけみたいだし」

生徒「今ならそんな心配いらないだろうからだってさ」


トム「そんな理由で退学にしようとしてたのか」

トム「お前の親父も、なかなかに強硬だな」


生徒「それだけ騎士団のムードが良くなかったみたいだから」

生徒「ウィルが父さんの派閥に寝返ってからは、そんなことをしなくても良くなってきたけど」

生徒「それまでは、色々と気をまわしてたみたいなんだ」


トム「それは大変だな」

トム「偉くなっても、政治家にだけはなりたくないぜ」


生徒「そんなに身構える必要はないよ」

生徒「面倒なら、誰かに押し付けちゃえばいいんだ」

生徒「父さんだって、1人で全部の仕事をやってるわけじゃないしね」


トム「そうか、そいつは名案だな」


生徒「でも、政治家か……」

生徒「君たちの世界にも政治はあるんだね」


エディ「そりゃ、もちろん」

エディ「じゃなきゃオレ達暮らしていけねぇぜ」


生徒「……ってことは」

生徒「僕たちの世界と君たちの世界、意外と近いのかもしれないね」


トム「こっちには魔法なんて便利なものはねぇが」

トム「それ以外は似たり寄ったりかもな」


生徒「なら、僕らがトムたちの世界に迷い込むこともあるのかな?」


トム「その時は俺達が案内してやる」

トム「近所にうまいホットドックスタンドがあるんだ」

トム「そこに連れてってやるよ」


生徒「良く分からないけど、面白そうだね」

生徒「そっちの世界へ行ったときは宜しくたのむよ」


エディ「おう、任せとけって」

エディ「ジムの野郎も引っ張り出して、町中を案内してるぜ」


生徒「それで……何て言ったらいいか分からないけど」

生徒「とにかく、色々とありがとう」

生徒「もっと言いたいこともあったはずだけど、これしか思いつかないや」


トム「こっちこそ」

トム「お前たちのおかげで退屈せずに済んだ」

トム「何もないよりは、少しぐらいトラブルがあった方が良いからな」

トム「もっとも……最後のヤツは、二度とはゴメンだが」


生徒「はは、そうだね」


家政婦長「……済みません、そろそろ時間です」

家政婦長「転移に必要な魔力が少なくなってきました」

家政婦長「このままでは転移で出来なくなってしまいます」


トム「そうか……」

トム「なら、行かなきゃならないな」


エディ「ああ、置いてけぼりは勘弁だかんな」

エディ「モタモタしてらんねぇぜ」


トム「それじゃあ、またな」

トム「色々と楽しかったぜ」


生徒「ああ、こっちこそ」


家政婦長「仕事がなくなったら、いつでも戻ってきてください」

家政婦長「人手はいくらあっても困りませんから」

家政婦長「私の権限で即日採用です」


トム「そいつは助かるな」

トム「職にあぶれたら頼らせてもらうぜ」

トム「それじゃ、あばよ」

_____
___


スティン「聞いたぜ、トム」

スティン「昨日は大変だったみたいだな」

スティン「またヘンな世界に飛ばされたんだって?」


トム「ああ……おかげで時間感覚が狂いっぱなしだ」

トム「向こうじゃ何ヶ月も経ってるのに、こっちじゃ一晩」

トム「悪い夢を長々と見させられた感じだ」


スティン「それで、どうだ?」

スティン「久々に会ったチームの感想は」

スティン「やっぱり、違うもんなのか?」


トム「そうだな……」チラリ


ジム「オラ、立てよ」

ジム「休んでる暇はねぇぞ」


ダニー「む、無理だって、ジム」

ダニー「おれ、フェンシングなんてやったことないんだから」


ジム「だったら、今から覚えろ」

ジム「オメェ以外に良い奴が居ねぇんだよ」


ダニー「でも!」


ジム「良いから黙って付き合え」

ジム「嫌なら、また追っかけっこでもするか?」


ダニー「うぐっ……」

ダニー「お、覚えてろよ!」


ジム「ハンッ、望むところだ」


マイク「……チェック」


ハリー「チェックだな」


エディ「おいおい、どうしたんだよ」

エディ「2人そろって勝負しねぇのかよ」

エディ「男なら一発やってみろって」


マイク「そう言われても……」

マイク「そっちに良い手が来てるんだろ?」

マイク「だったら、勝負するだけバカじゃないか」


ハリー「お前は顔に出易いからな」

ハリー「カードが配られば、大体分かる」


エディ「……チクショウ、もう一勝負だ!」

エディ「オレが勝つまでやめねぇからな」


グレッグ「ぐがぁああアアア!!」

グレッグ「ピーーィナァアッツ!」ダダダダダ


デイブ「っ……やめろ!」ガシッ


グレッグ「ハナせェ!!」ジタバタ


RB「ふぅ……危ない危ない」

RB「助かったよ、デイブ」


デイブ「RB、お前が原因か」


RB「お昼のピーナッツバターサンドを食べてただけで」

RB「そこにグレッグが通りかかっただけさ」

RB「まさか、それぐらいで反応するとは思わないだろ?」


グレッグ「ぐぉおおお!!」ジタバタ


デイブ「くっ…!」


RB「じゃあ、しばらくそうしててよ」

RB「アレを持ってくるからさ」


エルフ「ねぇ、ケン」

エルフ「教えてほしいことがあるんだけど」


ケン「ちょっと待ってよ、フィール」

ケン「僕はこれから練習で……」


エルフ「はぁ……やっぱり、ダメよね」

エルフ「ケンにばっかり迷惑をかけられないものね」

エルフ「ここは自分で……」


ケン「い、いや! いいんだよ、フィール」

ケン「僕が悪かった」

ケン「僕にできることなら何でも聞いてよ」


エルフ「でも……」


ケン「ほら、君の面倒を見るのは僕の仕事だし」

ケン「ここでやらなきゃ男がすたるだろ?」


エルフ「本当!? ありがとう」

エルフ「大好きよ、ケン」


ケン「えっ! いや、その……」


トム「指導のやりがいがありそうで……」

トム「ワクワクするね」


スティン「苦労性だな……お前も」


トム「全く、どいつもこいつも」

トム「練習する気がまるでねぇな」


スティン「ま、今に始まったことじゃないだろ」

スティン「全員グランドに集合してるだけでも十分マシだぜ?」

スティン「ちょっと前は、人集めから始めてたからな」


トム「じゃ……そろそろ、始めるか」

トム「スティン、向こうの方を頼む」

トム「俺はあっちの方をまわる」


スティン「はいよ、任せときな」


トム「お前ら! いい加減にしろ」

トム「練習を始めるぞ!」


おしまい

大きなミスを発見した

>>392
王子「良いだろ、それぐらい」

王子「そんなセリフなら直ぐに次の機会が来るだろ」



メガネ「良いだろ、それぐらい」

メガネ「そんなセリフなら直ぐに次の機会が来るだろ」

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