【咲ーSaki-】照「多治比さんを滅茶苦茶にしたい」 (35)


菫「は?」

照「多治比さんを滅茶苦茶にしたい」

菫「さっきの『は?』は聞き返したわけじゃなく『聞かなかったことにしてやるから黙れ』の意味だったんだが…」

照「というわけで、多治比さんをスカウトして来ようと思います」

菫「させるか!」ガシッ

照「あうっ!?放して菫!私は松庵女学園に行かないといけない!」

菫「さっきの話を聞いて許可する馬鹿がどこに居る!?」

照「邪な目的ではない!話をちゃんと聞いてほしい!」

菫「邪悪そのものの願望を吐露しておいて何を言うかこのバカは!」

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バタン


誠子「おはようござーー【照に馬乗りになってる菫が視界に入る】ーー失礼しました」クルッ

菫「まて亦野!この馬鹿を止めるのを手伝え!」

誠子「え?止める?」

照「誠子、菫が邪魔する!助けて!」

誠子(宮永先輩が襲われてるんだと思った…)

菫「これで二対一だ、逃げられると思うな」

照「大丈夫、きっと話せばわかってもらえるはず」

誠子(超どうでもいい面倒事の予感しかしない)


菫「で、なんだったっけ?」

照「多治比さんを滅茶苦茶にしたい」

誠子「あ、これダメですね、弘世先輩が正しいです」

菫「分かってくれたか」

誠子「多分千人居たら千人がこの時点で同じ判断をすると思います」


照「最後まで話を聞いてほしい、最後まで聞けばきっとわかってもらえる」

誠子「この結論を支持するような理論があるなら聞いてみたいですけど…」

菫「時間の無駄だと断言していい、過去の経験からして絶対ろくでもないことだ」

誠子「ですよね」

照「過去に百回失敗しても、今回は百一回目の正直で成功するかもしれない」


菫「はあ…分かった分かった、一応聞くだけ聞いてやる」

照「さすが菫、話がわかる」

誠子「で、なんで多治比さんを?」

照「まずはこれを見てほしい」

菫「…地区大会の映像?」

誠子「全国配信されてるやつですね、これがなにか?」

照「そろそろ来る。三秒後」


(阿知賀編6巻60ページ参照)


菫「ああ、これ、淡がダブリーかけた時のやつか」

誠子「この卓で淡のヤバさに気付いたの多治比さんだけでしたね」

照「真佑子たんprpr」

菫「さて、この時点で多分聞いても無駄だと分かったと思うんだが」

誠子「ですね」

照「みてのとおり、真佑子たんの泣き顔(61ページ参照)が国宝級にかわいい。真佑子たんを泣かせた淡には偉大な発見をたたえてご褒美をあげたい」

菫「これは過去最大級のポンコツかもしれん。インハイが控えてなければ新宿駅に置き去りにするところだ」

誠子「…宮永先輩なら一生出られずのたれ死ぬ可能性がありますね」

照「泣きながら麻雀打つ真佑子たんかわいいよぉ…私の手で泣かせてあげたいよぉ…」ハアハア


菫「で、照がド変態なのが判明したわけだが」

照「あれ?真佑子たんの可愛さが伝わってない?馬鹿な…」

誠子「あれでマジで説得できると思ってたのかこのひと…」

照「あれで説得できないのは予想外…次の手は…」

バタン

淡「テルー!麻雀打とー!」

照「淡…これは使える」キラーン

菫「なんか悪巧みしてるみたいだが、四人居るから麻雀打つぞ」

誠子「ですねー、この話は聞かなかったことに」

照「待って…この対局で二人にもわからせてあげるから」

菫「…何をする気だ?」

照「ただ打つだけだよ…本気でね」

淡「え、マジ?テルー本気で打ってくれるの?やったー!」

照「うん、淡には地区予選の件でご褒美をあげようと思ってたところだし、ちょうどいい」

淡「わーい!タカミーより稼いだかいがあったよー!」


照「…」ギギギギギ

淡「ヒック…グスン…全然勝てない…」ビクビク

菫「お前、こんなの隠してたのか…」

誠子「淡が狙われてるから良いものの、これ私が狙われたら麻雀やめますね」

照「ツモ、16000オール」ギギギギギ

淡「…トビです…」グスン

パシャ

照「さて、これで菫たちも分かって貰えたと思う」

菫「お前が強いのは最初から知ってるぞ?」

照「違う。淡の顔を見てほしい」

誠子「顔、ですか?」

淡「…?」グスン

パシャパシャ、パシャ

照「泣き顔めっちゃかわいい、コモンセンス」

菫「さて、ではインハイに向けて各校の対策を…」

照「無視!?」

誠子「当たり前ですよ」

パシャパシャ

菫「…さっきから何の音だ?」


尭深「すみません、お茶をこぼしてしまいまして」

誠子「ああ、水音は擬音でパシャパシャって表記するもんな」

照「尭深、いくら?」

尭深「一枚100円でどうでしょう?」

照「買った」

菫「おい、語るに落ちたぞそこのバカども、シャッター音だろさっきの!」

尭深「泣き顔めっちゃかわいい、コモンセンス」

菫「お前もか…」


照「尭深、こっち向いて」

尭深「…はい?」クルッ

照「ていっ!」ビンタ

尭深「ふえっ!?」イタイ

照「手ごたえ、あり」

尭深「い、いきなり何するんですか、宮永先輩…」ジワ

誠子「」ズキューン

照「この場を切り抜けるため、我慢して」

尭深「わけがわからないですよぉ…」グスン


誠子「尭深の泣き顔かわいい、コモンセンス」


菫「おいこら亦野!?照、お前まさか…」

照「」ニヤリ

菫「くっ…照の分際で小細工を…」

淡「うわーん!勝てないよー!」ビエー

パシャパシャ

照「尭深、200円で買う」

尭深「承知」

誠子「あ、尭深泣き止んだ…」ザンネン


菫「で、ド変態ども」

照「変態ではない、コモンセンス」

菫「そんな歪んだ常識があってたまるか!」

照「菫だって私に削られたところにとどめ刺して泣かせてる、同志」

菫「結果的に泣かせるのは同じかもしれないが、お前らとは目的が違うんだよ!」

誠子(尭深の泣き顔かわいかったな…)

照「で、我々虎姫は泣き顔を愛でることに特化したチームなわけだけど…」

菫「勝手に変な属性つけるな、攻撃特化だ」

尭深「えっ?」

菫「えっ?」

淡「グスン…ううー…絶対強くなってテルーに勝ってやるんだから…」

照「」ゾクゾク

尭深「」ゾクゾク

誠子「ああ、頑張れよ淡、次期エース」

淡「うん、ありがとセーコ…」グスン

菫「亦野は渋谷以外にたいしてはまともなのか…いや、焼け石に水だが」


照「菫、この淡や尭深の泣き顔を見ても泣き顔の素晴らしさがわからない?」

菫「さっぱりだな」

照「仕方ない、私のとっておきのエピソードを教えてあげよう。写真付きで」

菫「いや、聞きたくない」

照「あれは、寒い冬の日だった…」

菫「語りだしやがった…」

~回想~

咲「お姉ちゃん!」

照「…咲?なんでここに?」

咲「お姉ちゃんとお話ししたくて…勝手に来てごめんね」

照(…これは、冷たくしたら泣き顔が見れるんじゃないか?)ピコーン


そのひらめきは、禁断の果実。
私は、この妹を愛している。
いつでも私の後ろをついて歩いて来たこの子は、とても愛しい存在だ。

それだけに、その泣き顔も、私にとって非常に愛おしい。
両親が離婚した時の泣き顔は、未だに私の夜のオカズのトップを走り続けている。

しかし、あの時は、両親が離れ離れになっても、両親も私も咲が好きだと言っていた。
咲の心に希望があった。

いつか、また仲直りできるかもしれないという、希望。

それを粉々に砕いたら、咲はどんな素敵な泣き顔を浮かべてくれるのか?

想像が止まらない。
泣かせたい。

ダメ、この子は大切な妹。
両親が離れ離れになって、それでも諦められずに私に会いに来たのに、突き放すなんて…

葛藤の結果、私は、咲の言葉への回答を『保留』することにした。


咲「お、お姉ちゃん、怒ってる?勝手に来たから?」

照「…」


歪んだ葛藤に身を投じて苦しむ私の表情は、怒っているようにも見えたかもしれない。


咲「あ、あのね、私、お姉ちゃんとお話ししたくて…」

照「…」


『回答を保留』して、歩きはじめる。
周りから見たら、これはどう見えるだろうか?
咲を『無視』して歩きはじめたように見えるのだろうか?


咲「お、お姉ちゃん…?なんで答えてくれないの?」

照「…」


咲は、立ち止まったままだ。
久しぶりに会った姉に無視されて、ショックもあるだろう。
なにより、拒絶されて追いかけることが出来るほど強い子じゃない。

尭深はちゃんと撮っているだろうか?
そればかりが気になる。

私は、咲が見えなくなるまで歩き続けた。


咲「お姉ちゃん…どうして…」グスン

~回想終わり~


照「これがその時の写真。尭深は最高の仕事をしてくれた」

尭深「」ドヤ

菫「恐ろしく業の深い真似してるなお前…ダークサイドのオーラ出してるぞ妹さん。ほら、この写真とか、なんか黒い霧みたいなの出てる」

照「ちなみに、咲は私より麻雀が強かった。たまに咲が出すオーラで停電とか起きるぐらい」

菫「化け物じゃないか!?お前ホントにただじゃ済まんぞ!?てゆうか咲って言ったか?宮永咲ってアレだろ!?県予選であの天江衣に数え役満ぶち当てたやつだろ!?」

照「きっと私と麻雀を通して話をしたいとか思って団体戦に出て来たんだね。咲に泣かされる淡も見れて一石二鳥」

菫「清々しいほどのド畜生だなお前!」

照「最初はお小遣いを毟られて泣くのを観賞し、勝ち始めたから勝っても怒るようにして泣き顔を観賞してたら毎回プラマイゼロとかやり始めた。咲は天才」

菫「毎回プラマイゼロ!?え、しかも照相手に?もう勝ち目ないだろそれ!?」

照「そんな天才が涙目になってる姿とか最高だと思いませんか?」

尭深「そそられますね」

淡「それはいいね」

菫「しれっと一人増えたぞ、どうすんだこれ…」


照「で、それはさておき、多治比さんを滅茶苦茶にしたい」

菫「最初に戻りやがった…」

照「西東京大会、淡が出てないとはいえ個人二位、二年生にして私に次ぐ順位につけて来た天才。チームの勝敗を一身に背負い、一年生の時から松庵女学院を引っ張り続ける不動のエース」

尭深「あの清楚な出で立ち、泣き顔の美しさ…まさに至高の泣き顔…」

淡「あの決勝で感じた胸の高鳴りはこれだったんだね…」

誠子「あ、私は尭深にしか興味ないんで」

菫「それはそれで問題だが、まあ、もうそれどころじゃないからいいや」

誠子「で、どうしますこれ?」

菫「…どうしたものかな?」


照「では、松庵女学院へ出発!」

淡・尭深「おおー!」


真佑子「…というわけで、宮永さんこそ私の理想の人だと思うの!」

モブA「…あんた、しゃべらなきゃ美人なのにね」タメイキ

モブB「せいぜいチャンピオンに幻滅されないようにね」

モブC「先輩に憧れて麻雀部に入ったんですけどねえ…」

モブD「いや、地区予選で大星にやられるまではここまでひどくなかったんだけど…真佑子…あたしの親友はどこへ…」

真佑子「というわけで、白糸台に行ってきます!」

モブs「「「「いってらっしゃい」」」」


真佑子「たのもー!!」

バンッ

菫「…なんでこのタイミングで来るんだ」

誠子「むしろ何しに来たんだ多治比?」

真佑子「宮永さんいますか?」

菫「お前に会いに松庵に行ったが、用件はなんだ?練習試合なら個人代表同士は打てないぞ」

真佑子「それがですね…」

菫「あ、いや、言わなくていい。照と同じにおいがする」

真佑子「宮永さんと同じにおい!?素敵ですねそれ!」

誠子「…あれ、こいつこんなキャラだったっけ?」


真佑子「で、実はですね…同性でこんなの変かもしれませんけど、宮永さんに恋をしてしまいまして…」

菫「言わんでいいと言ってるだろうが!」


真佑子「きっかけは大星さんと打ったあの決勝戦でした…」

菫「おい、亦野、耳栓ないか?」

誠子「残念ながらないですね」


真佑子「あのダブリーをかける前のプレッシャー、絶望的な力の差…あれが癖になってしまって…」ポッ

菫「ああ、やっぱりか。方向は違うが、こいつも照の同類だ」

真佑子「でも、あの時は不意打ちだったからあれですけど、多分もう一度やったら大星さんとはいい勝負になってしまうと思うんですよ。私、強いので」

菫「サラッと淡に喧嘩売ったな」

真佑子「でも、宮永さんなら、私なんか蹴散らしていつでも絶望的な力の差を見せつけてくれると思うんですよ」

菫「アラフォーでも追っかけてろ変態が」


真佑子「というわけで、宮永さんはどこですか!?」ドンッ


菫「松庵に行ったと最初に言っただろうが!」

誠子「話を聞かないとこまでそっくりですね」

真佑子「えっ?松庵に?…もしかして、私に会うため?もしかして両想い!?」

菫「…盛大にすれ違っているだろうが、両想いだな」

真佑子「では、私は帰りますね!失礼しました」

バタン

菫「…亦野、塩まいとけ」

誠子「了解」


真佑子「」ゾクッ

真佑子(居る…うちの部室に…圧倒的な力を持った『何か』が…)

真佑子「ただいま…」

ガラッ

照「…」ギギギギギ

淡「…」ゴゴゴゴゴ

尭深「…」カメラ構える

モブs「「「「」」」」ガタガタガタッ


真佑子「ひうっ!?」ビクッ

照「待ってたよ、真佑子たん…」ギギギギギ

淡「いい顔で泣いてね…」ゴゴゴゴゴ

尭深「その涙目、良いですよ…」パシャパシャ

真佑子(…この絶望感、たまらない…やっぱり、宮永さんこそ私の理想の…)カタカタ

照「いい表情だよ…」ゴッ

真佑子「ひいいっ!?」ビクン

尭深(涙目が映える最高のアングル…捉えた!)パシャパシャ

淡「これはご飯三杯はいけるよ…」じゅるり

ーー

誠子「あれほっといて良かったんですか?」

菫「ドMとドSでWINーWINの関係だろ、ほっとけ」

誠子「まあ、そうなんですけど…」


咲「ツモ、国士無双」

優希「ひいっ!?」カタカタ

和「さ、咲さん、最近随分と調子がいいですね…」ビクビク

久「優希が怯えるから、やりすぎないようにね。ほら、優希、交代よ」

優希「ぶ、部長…」グスン

咲「…私、今なら、麻雀を通してお姉ちゃんと分かり合える気がするんですよ。なんでお姉ちゃんが私に冷たかったのかも、全部分かる気がする…」

まこ「そらよかった、が、優希をいじめるのは勘弁してほしいの」

咲「すみません、ちょっと抑えが利かなくて…」


きっかけは、長野県大会の決勝戦。
私に負けて涙を流す衣ちゃんを見て、私の体に電流のような何かが駆け抜けた。

次の日、優希ちゃんが泣くまで、麻雀で徹底的にいたぶって、泣かせた。
そして、優希ちゃんの涙を見た時、それがなにか確信した。


泣き顔めっちゃかわいい、コモンセンス。


人類なら誰でも抱く自然な気持ち、私はそれに目覚めた。

と、同時に、すべてを悟った。

お姉ちゃんが何故賭け麻雀を提案したのか。
後で勝ち分を分け合えばいいだけなのに、何故私が勝つと怒ったのか。
何故プラマイゼロを始めてからもたまに理不尽な言いがかりで泣かされたのか。
何故私が麻雀を嫌いになってから積極的に麻雀に誘うようになったのか。

何故、会いに行ったとき冷たかったのか。

全て、理解した。


そして、私は一つの想いを胸に抱いて、インターハイを勝ち抜いていく。


ーー

照(ヤバイ、松実さんと園城寺さん、めっちゃそそる…)

玄(みんなの点棒…また一杯取られちゃった…)グスン

怜(…ごめんな竜華、もう一回だけ無茶するわ…)

照(それにしても、新道寺の先鋒…二回戦でもあれだけボッコボコにしたのに涙をにじませることすらしない…なんか去年の荒川さんを思い出す)

ーー

咲(この場面で安手で終わらせたら、姉帯さん泣くかな?なんかすごい本気っぽいオーラ出してるし…)

豊音(いくよー!三つ目の力、大安!)ゴゴゴ


咲「ツモ、400、800」

豊音「え?」

豊音「みんなのインターハイが…」ジワッ

咲(キターーーーー!大柄で泣き顔とか絶対見れなそうな姉帯さんの泣き顔いただきましたーーーー!)

ーー

『大星さん、そこはもう、あなたのテリトリーじゃない』

淡「うそ…そんな…」


照(高鴨穏乃…マジGJ!淡の泣き顔ゲット!)

尭美(くっ、先鋒戦の松実さんと園城寺さんのせいでメモリーカードの容量が足りない!予備カードも憧×セラの貴重な瞬間で使い切ってしまった…!)

淡「次は…次は100回倒すもん!」グスン

ーー


歪んだ欲望を抱えた姉妹は、勝利によって相手を泣かせることが出来るインターハイという機会でその欲望を解放した。
類まれな力を持った彼女達が、むき出しの欲望の赴くままに対戦相手を蹂躙する。

あるものは誓いを断ち切られ、あるものは頂への道を閉ざされ、あるものは歪んだ欲望を力ある彼女らに託し、あるものは純粋に姉妹の勝利を称えた。

団体戦と個人戦、いずれもこの姉妹が中心となって物語が進んでいく。

第71回全国高等学校麻雀選手権大会、その最後を締めくくるのは、個人戦決勝。


それは必然。

それは運命。

それは、彼女たちの意志。


頂点に手をかけるところまで来た妹を泣かせたい姉。
頂点として多くのものを背負う姉を泣かせたい妹。


歪んだ欲望の赴くままにすべての相手を喰らいつくした彼女たちは、互いを最後の獲物として認識し、喰らいあった。


お互い以外、何も目に入らない。
誰も彼女たちを止められない。
それが荒川憩であろうと、辻垣内智葉であろうと、彼女たちの眼中にはなく、彼女たちの勝負に手出しは出来ない。
ただ、嵐のような暴食の宴が終わるまで、安全牌を切り続けることしか出来なかった。
半荘数回を終えれば、どちらかが喰われ、その泣き顔を勝者に捧げることになる。


同卓したものにとっては永遠とも思われた勝負は、実際には一時間ほどで決着した。


勝敗を分けたのは、どちらがより飢えていたか、だろうか。
一度も姉の泣き顔を見たことがない妹と、歪んだ欲望に駆られて事あるごとに妹を泣かせてきた姉。
『泣かせたい』という思いの強さは、比較にならなかった。


インターハイ個人戦終了後、都内某所


照「あ、あの、咲さん?」

咲「なにかなお姉ちゃん?」

照「あの…許して下さい」

咲「お姉ちゃんが私が満足するまで泣き顔を見せてくれたら許してあげるよ。いままで私を泣かせた分に、利子をつけて返してもらおうかな」

照「」

尭深「あの宮永先輩の泣き顔…これは貴重」

真佑子「妹さんの方が圧倒的な力を持ってますよね…ごめんなさい照さん、私、強い人が好きなんです…」

咲「真佑子さんも、お姉ちゃんと一緒にカタカタさせてあげますからね」ニコッ

真佑子「」ゾクゾクッ


恭子「おいこら!うち関係ないやろ!縄ほどけや!」

咲「いや、末原さんはこの場に居るこっち側全員のリクエストなので」

郁乃「泣き顔めっちゃかわいい、コモンセンス」

恭子「なに教え子売っとんねんこのクソ代行があああああああ!!!!」


玄「…もう諦めたのです、どうせ私はこういう役なのです」レイプ目

初美「霞ちゃん、たすけてですよー」

霞「ごめんねはっちゃん、はっちゃんの泣き顔が可愛すぎるのが悪いのよ?」

咲「では、始めますね。渋谷さん、沢村さん、カメラお任せします」

尭深・智紀「「任された」」


ゴゴゴゴゴゴゴ


「「「「「ひいいいいいっ!!??」」」」」」


数日後


菫「…あの馬鹿はどこに行った?」

誠子「知りません、知りたくもないです」

菫「気持ちは分かるが、放置しても何かやらかすからな…」

バタン

照「菫!すごいことに気付いた!」

菫「…言わんでいい、嫌な予感しかしないから黙れ」

照「大阪の個人代表の荒川さんってめっちゃ笑顔が似合うと思うんだけど…」

菫「黙れと言ってるだろうが!」

照「その笑顔を涙で歪ませたら最高だと思うんだよね!荒川さんを滅茶苦茶にしたい!」

菫「一人でやってろおおおおおお!!!!!!」




以下、おまけ


咲「…迷った…ここ、どこ?」ウルウル


?(『あの』咲の涙目…これは好事家垂涎のショット!)

?(先輩、バレたらまたアレですよ?カメラは私に任せてください)

?(咲さん…もっといじめて下さい…)

?(ねえテル?なんでマユコがここにいるの?)

?(咲のことを最も把握しているのは真佑子、今日の迷子も真佑子が予知した)

?(迷子の咲さんの放つオーラが最高なんです…)ビクンビクン

?(予知とかホント滅茶苦茶やらかすねマユコ…)

?(おお…咲が尿意を感じている!最高の泣き顔ktkr!)

?(ああっ!プレッシャーが倍増して!)ビクビクッ!

?(マユコ、黙ってれば美人なのに…)


久保「池田アアアアア!」

華菜「ひいっ!?」

久保「てめえ、なんだあの腑抜けた7萬はああああ!?」

華菜「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」ウエーン

久保「てめえ、去年も似たようなことしてやがったよなあ?またうちの看板に泥塗る気か、ああ!?」

華菜「ごめんなさいごめんなさい…」グスン

久保「謝っても取られた点棒は帰って来ねえんだよおおおお!!!」ヒュン

華菜「ひいいいいっ!?」ビエエー

ベシッ

久保「…何の真似だ、福路?」

美穂子「華菜のミスは指導した私のミスです。罰は私が受けます」

久保「ちっ、福路に免じて許してやる。次はちゃんと打てよ」

華菜「は、はい…」

美穂子「大丈夫、華菜?」

華菜「は、はい、大丈夫ですし」パアア


久保貴子と福路美穂子は同好の士である。

彼女たちが好むもの、それは、泣き顔。
ただし、福路美穂子は恐怖で泣く顔を好み、久保貴子は感動での泣き顔を好む。

彼女たちの利害は一致した。

貴子が部員を恐怖で泣かせ、美穂子がそれを止めて助け、部員たちの二つの泣き顔を堪能する。
部員たちは美穂子を慈愛にあふれた天使のように思っているが、実際には彼女たちに苦痛を強いているのは福路美穂子その人である。

今回も、貴子と美穂子による台本のある芝居だった。

貴子は、一番のお気に入りである池田華菜の闘牌の些細なミスも見逃さず、難癖をつける。
といっても、そこは流石に名門風越でかつてエースを務めて顧問として戻って来た久保貴子、指導自体は的確なものである。
池田の粗い闘牌に、彼女の目に留まるミスがないはずはなく、その気になればいつでもこの芝居を実行できるのだ。

ただ、華菜の泣き顔は福路美穂子のお気に入りでもある。

撮影班である文堂星夏がシャッターを切ったあと速やかに止めなければ、美穂子はそのまま見入ってしまう。
なので、福路美穂子の欲求をある程度満たすために、『機嫌の悪い日』を演出して何人かを泣かせなければ華菜の泣き顔を見られない。
これは久保貴子と福路美穂子の共通の悩みであった。


貴子「これは…流石だな、安心しきってる。最高の泣き顔だぞ美穂子」

美穂子「貴子さんも素晴らしい『指導』でした、最高の泣き顔ですよ…」

星夏「私の撮影技術も少しは褒めてくださいよ」

貴子「ああ、よくやった。しかし、やはり華菜は最高だな…」

美穂子「ええ、あれほどの逸材に出会えたことを神に感謝したいですね」

貴子「お前が卒業したら普通の指導に戻すからな。泣き顔には違いないが、私はやっぱり何かを成し遂げた時の嬉し泣きが一番好きだ」

美穂子「ええ、構いませんよ。大学に行けば体育会系の厳しいサークルがたくさんありますから…華菜がついてきてくれれば最高ですね」

星夏「美穂子さんも下衆いですよね。裏でこんなことしておきながらみんなの前では聖母気取りですし」

美穂子「あれは貴子さんのためですから。素晴らしい泣き顔を見せてくれるみんなへの感謝も多分にありますが」

プルルルル

貴子「はい、久保です…ああ、赤坂さん、どうしたんですか?は?『デコに落書きされる瞬間の怯える教え子がめっちゃかわいい』?まあ、確かに聞く限りではそそるものがありますけど…」


透華「衣、新しいオモチャを連れて来ましたわ」

?「今度のは金剛不壊に出来てる?」

一「」ゾワッ


衣「それは衣の莫逆の友となるかーーー」

ゴゴゴゴゴ


ーー贄か供御となるか


一「」ガタガタガタッ


透華(スカウトして正解でしたわね…いい泣き顔ですわ、国広一…)


智紀「透華」

透華「あら、智紀?どうしましたの?」

智紀「あの男女は何のために雇ったの?」

透華「純粋に衣の遊び相手ですわ。私だって、泣き顔の良さだけで人を雇うわけじゃありません」

智紀「で、本音は?」

透華「ああいうのこそ、たまに見せる涙が最高のカタルシスを産んでくれるのではないかという試みですわ」

智紀「安心した、それでこそ透華」


トテトテ


衣「とーかー、お使い行って来たぞー」

透華「えらいですわよ衣」ナデナデ

衣「えへへー」

智紀「衣はお使いが出来る良い子」ナデナデ

衣「えへへ、お使いをしたら褒めてもらった。衣は嬉しいっ!」


透華(仕込みは万全ですわ、次のお使いで、仕掛けます)

智紀(承知した。カメラの手入れは万全)


衣「今日は卵とビン入りのお醤油を買ったぞ。早く帰ってとーかに褒めてもらうぞ」タッタッタ

?「廊下を走っちゃダメっすよ?廊下じゃないっすけどね」アシバライ

衣「ふえ?」ステン

ガシャーン!ベチャ!


衣「…お、お使いで買った卵が…お醤油のビンも…」グスン

智紀(東横さん、ナイス!衣が走り出したところに完璧なタイミングで足払い!本人は足払いに気付いていない!)パシャパシャ

衣「こ、衣が走って転んだから…うわーーーん!!!!」

智紀(ガン泣き!牌に愛された子とか言われてる全国区の魔物がガン泣き!最高!)パシャパシャ

衣「びえええーーー!とーかー!ごべんなざいいいーーー!」

智紀(ころたんかわえええええ!!!!)パシャパシャ


衣「よく来たな、姫松高校の猛者たちよ」

郁乃「来ましたよ~」

恭子「あの、代行?今更ですけど、洋榎と由子は?」

郁乃「三年は引退しとるんやから~、来るわけないやろ~」

恭子「あの…私、呼ばれましたよね?しかも交通費支給で」


照「末原さんなしじゃ、私が来た意味がない」

咲「まさか、長野に来て私たちがいないとか思ったわけじゃないよね?」

智紀「赤坂監督を交えた四人で特打ち…スポンサーは透華」

恭子「あ…ああ…いや、嫌や…」カタカタ

照「沢村さんは良い腕をしている。安心して任せられる」

咲「末原さん…末原さん…」ゾクゾク


衣「さて、名門姫松とやらは衣をどれだけ楽しませてくれるのやら…」ゴゴゴ

漫「ひいいいい!?こ、これ主将とか辻垣内よりヤバいやつやろ!?」

絹「お、お姉ちゃん…助けて…」グスッ

純「おーい、やりすぎんなよ衣」

衣「保証は出来んな。衣は昨日お使いを失敗してイライラしているのだ」

一「うわ、理不尽。ご愁傷様」

もうちょい書ける気がして投下しないで置いといたんですが、他の書き始めたし、このネタでこれ以上出てこないのでここまでです。

なんか浮かんだらまた書きます。

HTML化依頼出しました。何か浮かんだら別スレの中に盛ることにします。

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