雪歩(私、明日から、どんな顔して真ちゃんと会えばいいんだろ……) (64)

雪歩「あ~、真ちゃんだ~」

ボクがやって来るなり、ふらふらとした足取りながらもいきなり雪歩が抱きついてくる。
その途端に雪歩の体から漂う、いつもの雪歩のいい匂い……じゃない。
うわあ、すっごいお酒臭い。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416144355

雪歩「ん~、真ちゃんいい匂いがする~」スンスン

あの、雪歩、さん。

その、抱きついたまま、首筋の匂い、そんなに熱心に、嗅がないで。
くすぐったいし恥ずかしいしで何かすごくいけないことしてる感じが。

響「うわっ、うわぁ……何かやらしいぞ……」

千早「我那覇さん、見ちゃダメ」

響「ねぇねぇ、千早ぁ。自分も千早の匂い、嗅いでいい?」スンスン

千早「ちょっ!我那覇さんやめて!汗臭いから!」

響「そんなことないさー、いい匂いするぞ」

響、どさくさに紛れておっ始めない。
千早、すっごい嬉しそうに言っても説得力ない。

律子「……あんたら皆何やってんのよ」

美希「律子もいい匂いするの」スンスン

律子「律子"さん"ね」

美希「律子さん、すっごい いい匂いなの」

律子、怒るところ違う。
美希、はまぁ普段からこんな感じか……。

小鳥「Oh...Heaven...」ドクドクドクドク

事務員、理想を抱いて(鼻血の海に)溺死しろ。
何だこの混沌とした空間……はっ!?

雪歩「真ちゃぁん……」

小鳥さんの方を向いていたらいきなり頭を掴まれて、目の前の雪歩の方を無理矢理向かされた。

雪歩「私が目の前にいるのに、他の女の人を見てちゃやだぁ……」ウルウル

真「は、はいっ」

思わず敬語になってしまいました。

雪歩、ボクは決めたよ。
この先何があっても君にお酒は飲ませない。

間違ってそこらの男の人にこんなことしちゃったら大変なことになっちゃうよ。

真「ていうか律子ぉ!何これ!?電話で雪歩が大変って呼び出されてみたら何でこんなことになってるの!?」

雪歩「真ちゃんがかわいすぎて雪歩はいつも大変ですぅ~」

真「ほら!ほら!絶対おかしい!ボクの雪歩はいつもはこんなんじゃない!」

律子「どさくさに紛れて雪歩の所有権を主張してんじゃないわよ」

雪歩「真ちゃんの菊地雪歩で~す」スリスリ

やばいやばいやばい何がやばいって理性がやばい。

律子「ほら雪歩も一旦離れる、説明ができないから」グイッ

雪歩「あぅ~真ちゃ~んたーすーけーてー」

あっ……って何残念がってるんだよボクは!

律子「話が終わったらまた真にひっついていいから少しの間我慢しなさい」

雪歩「いいんですかぁ!?やった~!」

あの、ボクの意見は。

律子「簡単に言うと、小鳥さんが仕事終わってから飲もうと思って冷蔵庫に入れてたお酒を雪歩が間違えて飲んだ、以上」

真「仕事場の冷蔵庫にお酒を入れない!」

律子「本当に真の言う通りだわ。わかってます?」

小鳥「はい、あの、律子さん、これ、私、脚が」

律子「ご自分でわざわざ職場にまで持ってきてるんですから本望でしょう?理想(同人誌)を抱いて溺死してください」

あれって確か(石じゃなくて本だけど)石抱とかいう……律子、やっぱりおっかないなあ。

律子「で、まぁ雪歩が酔って大変だったからね。真を呼ぶしかないでしょう?あんたが雪歩の担当だし」

真「いやまぁ何か色々言いたいことはあるけど、電話口でいきなり『雪歩が大変だから早く!』って言われたら来るしかないよね……他ならぬ雪歩のことだし」

千早「真は私だったら来てくれないのね……寂しいわ」

響「ち、千早……。自分が!自分が、千早が困ってたらすぐ千早のとこ行くぞ!ねっ!?」

千早「我那覇さん……。でも、我那覇さんのところは動物達がいるから離れられないし、私が我那覇さんのおうちに行くわ」

響「おお、そうか!流石だな千早、その方が助かるぞ!」

千早「だから今度、合鍵を持ってきて私によこしてね」

響「うん、わかったぞ!」

響、ちょろすぎ。
ていうか、ちはひびはすぐ人を出汁にしていちゃつかない。

美希「あのね律子……」

律子「美希が困ってたらすぐ行くわよ。今更確認しなくてもいいから」

美希「律子~大好きなの~」ベタベタ

律子「律子"さん"つってんでしょうが、怒るわよ」

だから怒るところはそこじゃないでしょ。

真「ってあれ、そういえば雪歩が大人しい……」

雪歩「んぅ……」

寝てるし、思いっきり寝てるし。

真「雪歩、起きて。送っていくから、帰るよ」

雪歩「ん~」

真「ほら、もう遅いんだから。」

雪歩「んん~」

参ったなあ。まぁ雪歩は軽いから、最悪おぶって帰ればいいか。

と思って雪歩に触れたら、腕を掴まれた。

雪歩「もぉ~!真ちゃん何でわからないかなぁ!私はもうぷんぷんですよ!」

頬を膨らませて雪歩が怒る。
何だこのかわいい生き物、あざとい。

雪歩「女の子の眠りを覚ますには一つしかないでしょ!?」

えっ、待って、ひょっとして、それは。

雪歩「真ちゃんがちゅーしてくれなきゃ、帰らない!」

小鳥「ぴよぉぉぉぉ!」ブシャァァァ

その瞬間、鼻血を噴き出した事務員以外の時が、確かに止まった。

雪歩は今なんて言った?
ちゅー?
ちゅーって、あれですか?

キス?

ベーゼ?

接吻?

のことですよね?



……まじですか?

真「いや、雪歩、流石にそれは」

雪歩「……真ちゃんは、私のこと、嫌いなんだ……ひぅ、ひっく、う、うぅ~」

真「いやいやいやいや!そんなわけないだろ!ボクが雪歩のこと嫌いだなんて絶対ない!あり得ない!」

雪歩「でも、嫌いではないだけなんだもんね……真ちゃんにとって私はその他大勢で……」

真「それも違う!雪歩はボクにとってはすっごい大切な人だもん!」

雪歩「……じゃあ、好き?」

真「大好き!ボク、雪歩のこと大好きだから!」

雪歩「じゃあ、それを証明してみせてね?言葉じゃなくて、行為で」ニッコリ

真「」

うわぁ、ずりぃ。ずっりぃ。これは反則だよ。お前は悪魔か。

雪歩「うふふっ」

訂正、こんなにかわいいから小悪魔で。

真「いや、あのですね、雪歩さん。ボクとしても、その、吝かではないんですが、先程から言ってるようにもうシンデレラはベッドで寝る時間ですし、ね?」

雪歩「やだ~!真ちゃんがちゅーしてくれないと帰らな~い!」

雪歩、君本当にこんな子じゃなかったよね?

律子「いつまでうだうだやってんのよ、私も帰りたいしさっさと済ませちゃいなさいよ」

ボクに味方はいない。知ってた。

真「簡単に言うけど律子はできるの!?」

律子「んっ」チュッ

美希「えへへへへ~」

小鳥「げへへ……うへへへへ……」ドクドク

響「うわぁ、美希、いいなぁ……」

千早「ん、じゃあ我那覇さん、ちょっと目を瞑って」

響「え、ええっ!?いや、美希はほっぺにだったし目を瞑る必要は……!」

千早「目、瞑って?」

響「う、うん……」ドキドキ

千早「んっ」チュッ

響「あ、あれ?ほっぺ、に?」

千早「ふふっ、口にされると思って期待した?」

響「う、うがー!これなら目を瞑る必要なかったじゃないかー!本当に口にされると思ったぞ……!」

千早「口には我那覇さんが背伸びして私にして欲しいから、おあずけね」

響「ななな、何言ってるんだ!千早のバカぁ!」ポカポカ

千早「うふふふふふふ」

小鳥「ぐへへへへへへ」ドクドク

お前ら正気か。
というか千早も、そんな子じゃなかったでしょ……。

律子「ほら、早くしなさいよ」

小鳥「そうよ!早く!さぁ早く!ハリーハリーハリー!」

真「…………」

雪歩「……」ワクワク

ええい、もうヤケだ。

真「んっ」チュッ

小鳥「我が生涯に一片の悔いなし」ブシュウ バタン

うわうわうわうわうわっ。
何これ、雪歩のほっぺた、すっごいやわらかい。
うわ~絶対今ボク顔真っ赤だよ。

でも、これで雪歩も満足しただろうし今日はさっさと帰「違う」……はい?

雪歩「違うでしょ~!眠りを覚ますキスって言ったら口!唇に!するの!」

小鳥「まだだ!まだ終わらんよ!」ムクッ

……何言ってんの、この子。

いや、ボクね、ファーストキス、まだだしね。

ていうか、雪歩は違うの?


……。


…………。


うわ……、うわっ、どうしよう。

もし、雪歩がもう誰かとキスしたことあるって考えたら……


すごく


すごく


嫌な気分に、なっちゃった。

律子「あーもう!はいはい!」

律子の声で、現実に引き戻される。
何だかんだで、こっちの心情をわかって、見かねて助け船を出してくれて、そういうの本当に律子らしい……
律子「ほら、人目があったら真だってやりづらいでしょ。皆、一回事務所の外に出るわよ」
全然わかってねえ。どうした律子。

真「いや、律子、あのさ……」

律子「」グッ

何満面の笑顔でサムズアップしてんだ秋月。

小鳥「いやいや律子さんそんなご無体な!歴史的瞬間に我々は立ち会おうと……「は?」すいませんでした」

真「えっ、ちょっ、待っ、いやっ」

うっそーん。本当に皆出てったし。
千早にも笑顔でサムズアップされたのはちょっとイラッときたしもうなんなのなの?

本当に、ボクと雪歩の二人きりになっちゃったよ。

なんて思いつつ、ふと、

さっきから大人しいなと思って、ボクが覆い被さってしまっている雪歩に目を向けると

雪歩「…………」

さっきまでとは打って変わった、しおらしい表情で、熱っぽく潤んだ瞳で、
真っ直ぐにボクの目を見つめる雪歩が、そこにはいた。



心臓が、高鳴る。

こんな色っぽい雪歩を見たのは初めてだったし、それが自分に向けられたものだというのは正直嬉しかった。

だから、

もう、

色々なつまらない感情なんてどうでもよくなってしまった。

真「……ねぇ、雪歩?」

雪歩「……なに、真ちゃん」

真「ボク、今までキスしたことないんだけど、雪歩は?」

雪歩「ううん、私も、ファーストキスだよ」

完全に、する前提になってるんだね。

真「そっか。……雪歩は、さ、初めてがボクで、嫌じゃないの?ボクでも、いいの?」

雪歩「真ちゃん『でも』いい、わけではないよ」

真「え」

雪歩「私の初めては、真ちゃん『が』、いいの。真ちゃんじゃなきゃ、嫌」

そこでボクの理性は、完全に雪歩に負けた。



真「んっ」
雪歩「んっ、んん……」

雪歩の唇は柔らかくて、
よくわからないけど甘い気がして、
ボクは貪るように雪歩の唇を求めていた。

真「んっ……はぁ……」
雪歩「はっ……んぅ」

静寂の中、ボクと雪歩の荒い呼吸だけが響いて、世界に二人きりになったような錯覚を覚える。

キスなんて今までしたことなくてどうすればいいのかわからないから、
とにかく、歪にでもひたすらにボクの唇を雪歩の唇に触れ合わせる。

真「ゆき、ほぉ……んっ」
雪歩「んぅ……」

雪歩もそれに応えるように、ボクの唇を求めてくれて、何か、頭が、ぼうっと、して、きた。

真「あっ、やぁ……っ ……!?」

えっ、え、今の、ボクの、声?

うわっ、ボクからもあんな声、出るんだ……。

雪歩「……ふふっ、びっくりしてるね」

驚いて身を離すと、雪歩が静かに微笑んだ。

雪歩「でも私は、驚いてないよ?だって、真ちゃんがすごくかわいい女の子だってこと、誰よりも知ってるもん」

息を荒げたまま、口の端からまだ少し涎を垂らしたまま、朱に染まった顔で言う雪歩に、またボクの理性がグラつく。

けど、それ以上に、雪歩と初めてのキスをしたこと、あんな声が出たこと、
雪歩にすごくかわいい女の子だって、それを誰より知ってるって言われたこと、
色んなことが嬉しくて、照れ臭くて、もうまともに雪歩の顔を見ることができなくなっていた。

雪歩「……真ちゃん?」

真「……ちゃんと、キスはしたし、もう遅いから、今日は帰ろ」

雪歩「…………」

雪歩「うん、そうだね」

真「……それと、さ」

雪歩「何?」

真「雪歩に、すごくかわいいって言ってもらえたの………嬉しかった」

そう言って、顔を上げると

雪歩「……そっかぁ」

いつものように、柔かく笑う、大好きな彼女の笑顔があった。


――――――――――――――――――――

勢いよくドアを開けると、そこにいた皆の視線が集まる気配があった、けど

真「雪歩送って帰るから!それじゃ!」

雪歩を背負ったボクは、俯いたまま視線も合わせず、その場を走り去った。

走ったせいだけじゃない。
雪歩を背負ってるからでもない。
けど、ボクの顔は多分今真っ赤っかで、心臓の鼓動もすごいことになっていて、息も荒くて何かとんでもないことになっていた。

真「全部雪歩のせいだよ、もう」

雪歩「…すぅ……すぅ……」

当の雪歩は、背負ってすぐに眠ってしまったみたいだ。
微かな寝息と、温かい体温を感じながら、雪歩の家までの道を歩いていく。

真「なーんかもう、今日は雪歩にやられっぱなしって感じ」

雪歩から、返事はない。

真「人の気も知らないで、すやすや寝ちゃってさー」

ただ、夜道にボクの声だけが響いている。

真「……すやすや寝ちゃってるから、ちょっとだけ、本音を言うね?」

真「最初はね、キスして、って言われてすごく戸惑ったよ。皆、いるし……」

真「それに、『ボクそういえばファーストキスまだじゃん!』って気づいちゃってさー」

真「で、そう気づいたら真っ先に思ったんだよ。『あれ、雪歩はどうなんだろ?』って」

真「女の子同士だとかそういうこと全部、その時は思いつかなくて、本当にそれだけ思っちゃったんだよねー」

真「で、雪歩が他の誰かとキスしたことあるのかも、って思ったら、泣きたいくらい嫌な気持ちになっちゃった」

真「だからあの後、律子が止めてくれた時にほっとしたのは、今思うと、こんなのおかしいとかそんなんじゃなくてさ」

真「もう、誰かが止めてくれなかったら雪歩のこと、友達としては見られないんじゃないかと思ってたんだよね、きっと」

真「それでいよいよどうしようと思ってたらさー、雪歩ってば見たことないような表情してて余計ドキドキするし……」

真「でも、雪歩がそんな表情でボクのこと見てくれて、嬉しかったよ」

真「雪歩もファーストキスはまだだっていうのも嬉しかった」

真「雪歩の初めてはボクがいいって言ってくれたのも、嬉しかった」

真「そして本当に雪歩と初めてのキスをしたのも、すごく、嬉しかったし」

真「ボクのことかわいい女の子って言ってくれたのも、嬉しかった」

真「全部、すごく、すごく、嬉しかった」



真「好きだよ、雪歩」

言いたいこと、全部言っちゃった。

あーもう何でわざわざ口に出して言っちゃうのかなーボクは。

しかも、雪歩は聞いてないのに。いや、聞いてたらこんなこと言えないけど。

真「……へへっ」

さっきよりも顔は熱いし、心臓もドキドキしてるけど、それでも心は軽やかになった。

また明日顔合わせるの、恥ずかしいな。

雪歩は、今日のこと覚えてるのかな?

覚えてても、覚えてなくても、また明日も雪歩に逢える。

それが、嬉しい。

だって君が

真「好きだー……なんてね」












雪歩(どうしよう)






雪歩(心臓が、破裂しそう)





雪歩(私、明日から、どんな顔して真ちゃんと会えばいいんだろ……)

以上でおしまいです。

読んで下さった方、どうもありがとうございました。

ゆきまこは王道だけど個人的に思っているより少ないし、
ちはひびは少ないしみきりつも少ないので誰か書いてくれないかなと思いながらまず自分で書きました。

少しでも良いと思ってくれる方がいたりして影響があったら嬉しいです。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom