十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」 (1000)

★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。


~あらすじ~

超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。

苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
ぬいぐるみのような物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを殺し『卒業』すること――

モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。

なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……


次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。

生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――

果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?!


――今ここに、神技のメスが再び閃く!!



初代スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382255538/)

二代目スレ:桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387896354/)

三代目スレ:大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395580805/)

前スレ:セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」
セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403356340/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416054791


☆ダンガンロンパ:言わずと知れた大人気推理アドベンチャーゲーム。

 登場人物は公式サイトをチェック!
 …でもアニメ一話がニコニコ動画で無料で見られるためそちらを見た方が早い。
 個性的で魅力的なキャラクター達なので、一話見たら大体覚えられます。


☆スーパードクターK:かつて週刊少年マガジンで1988年から十年間連載していた名作医療漫画。

 KAZUYA:スーパードクターKの主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。2メートル近い長身と
       筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。執刀技術は特Aランク。
       鋭い洞察力と分析力で外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜くが、現在は大苦戦中。


 ・参考画像(KAZUYA)
http://i.imgur.com/fGuZhyk.jpg
http://i.imgur.com/gDxSSF0.jpg



ニコニコ静画でスーパードクターKの1話が丸々立ち読み出来ます。
http://seiga.nicovideo.jp/book/series/13453



《自由行動について》

安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。


《仲間システムについて》

一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。

またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。


・現在の親密度(名前は親密度の高い順)

【カンスト】石丸

【凄く良い】桑田、不二咲、大和田

【かなり良い】苗木、舞園、朝日奈

【結構良い】ジェノサイダー、霧切、大神

【そこそこ良い】山田、葉隠

【普通】腐川、セレス

【最悪】十神

     ~~~~~

【江ノ島への警戒度】かなり高い


人物紹介(このSSでのネタバレ付き)


・西城 カズヤ : 超国家級の医師(KAZUYA、ドクターK)

 学園長たっての願いで希望ヶ峰学園に短期間赴任しており、この事件に巻き込まれた。
黒幕に殺されかけたものの強靭な生命力で生存するが、その負傷が原因で希望ヶ峰にいた
記憶の大半を失い、内通者疑惑をかけられる。唯一の大人として何度も生徒達の盾になり、
半数近くの信頼を得ることが出来た。舞園、江ノ島、石丸、不二咲、霧切を手術する。

現在、失った記憶を少しずつ取り戻し希望ヶ峰学園の謎に迫りつつある。


・苗木 誠 : 超高校級の幸運

 頭脳・容姿・運動神経全てが平均的でとにかく平凡な高校生。希望ヶ峰学園には
超高校級の幸運と呼ばれる、いわゆる抽選枠で選ばれた。自分は平凡だと謙遜するが、
K曰く超高校級のコミュニケーション能力の持ち主で誰とでも仲良くなれる特技がある。
前向きで穏やかなのが長所で、目立った活躍は少ないがKや仲間達からの信頼は厚い。


・桑田 怜恩 : 超高校級の野球選手

 類稀な天才的運動能力の持ち主。野球選手のくせに大の野球嫌いで努力嫌い、女の子が
大好きという超高校級のチャラ男でもあった。……が、舞園に命を狙われたことを契機に
自分が周囲からどう見られていたかを知り、真剣に身の振り方を考え始める。その後、
命の恩人で何かと助けてくれるKにすっかり懐き、今はだいぶ真面目で熱い性格となった。


・舞園 さやか : 超高校級のアイドル

 国民的アイドルグループでセンターマイクを務める美少女。謙虚で誰に対しても儀正しく
非の打ち所のないアイドルだが、今の地位に辿り着くまでに凄まじい努力をしており、芸能界を
軽んじる桑田が嫌いだった。真面目すぎるが故に自分を追い詰める所があり、皮肉にも最初に
事件を起こす。その後も自分を責め続け、とうとう限界を迎えた彼女は舞園さやかという一人の
人間を封印。「脱出のための駒」としての自分を演じることにし、現在は精力的に動いている。


・石丸 清多夏 : 超高校級の風紀委員

 有名進学校出身にして全国模試不動の一位を誇る秀才。真面目だが規律にうるさく融通が効かない。
苗木を除けば唯一才能を持たない凡人である。努力で今の地位を築いたため、努力を軽視する人間を嫌う。
堅すぎる性格故に長年友人がいなかったが、大和田とは兄弟と呼び合う程の深い仲になった。
 自身と生い立ちが似ているKにシンパシーを抱き医者になることを決意。大和田の起こした事件で
顔と心に大きな傷を負い一度は廃人となるが、仲間達の熱い友情により無事復活することが出来た。


・大和田 紋土 : 超高校級の暴走族

 日本最大の暴走族の総長。短気ですぐ手が出るが、基本的には男らしく面倒見の良い兄貴分である。
石丸とは最初こそ仲が悪かったが、後に相手の強さをお互いに認め合い義兄弟の契りを交わした。
 実兄を事故で死なせたことを隠していた弱さがコンプレックスであり、不二咲の内面の強さに嫉妬し
事件を起こすが、後に自ら秘密を告白し弱さを克服した。石丸の顔に傷をつけたこと、第三の事件を
誘発し不二咲を危険な目に遭わせたことを後悔しているが、自分なりに償っていく決意をした。


・不二咲 千尋 : 超高校級のプログラマー

 世界的な天才プログラマー。その技術は自身の擬似人格プログラム・アルターエゴを作り出す程である。
小柄で愛らしい容姿をした女性……と思いきや、実は男。男らしくないと言われるのがコンプレックスで
今までずっと女装して逃避していた。秘密暴露を切欠に強くなろうと決意したが、その精神的な強さが
大和田のコンプレックスを刺激し、殺されかける。石丸が自分を庇って怪我を負ったことに責任を感じ、
単独行動を取った結果ジェノサイダー翔に襲われ死にかけるが、友情の力でギリギリ蘇生した。


・朝日奈 葵 : 超高校級のスイマー

 次々と記録を塗り替える期待のアスリート。恵まれた容姿や体型、明るい性格でファンも多い。
食べることが好きで、特にドーナツは大好物である。あまり考えることは得意ではないが、直感は鋭い。
 モノクマの内通者発言により仲間達に疑われたことでとうとう不満が爆発し、KAZUYAとも衝突するが
お互いに本音をぶつけあったことで和解。現在は苗木達同様、KAZUYAの派閥に入っている。


・大神 さくら : 超高校級の格闘家

 女性でありながら全米総合格闘技の大会で優勝した猛者。外見は非常に厳つく冷静だが、内面は
女子高生らしい気遣いや繊細さを持っている。由緒正しい道場の跡取り娘であり、地上最強の座を求め
日々鍛錬している……が、実は内通者。モノクマに道場の人間を人質に取られており、指令が下れば
殺人を犯さなければならない立場にある。覚悟を決めているが、同時に割り切れない感情も感じている。


・セレスティア・ルーデンベルク : 超高校級のギャンブラー

 栃木県宇都宮出身、本名・安広多恵子。ゴシックロリータファッションの美少女である。徹底的に
西洋かぶれで自分は白人だと言い張っている。でも餃子好き。脅威の強運の持ち主で、破産させた相手の
数は数え切れない。いつも意味深な微笑みを浮かべ一見優雅な佇まいだが、非常な毒舌家でありキレると
暴言を吐く。穏健派の振りをしているが、実は脱出したくてたまらない。そろそろ動き出す?


・山田 一二三 : 超高校級の同人作家

 自称・全ての始まりにして終わりなる者。コミケ一の売れっ子作家でオタク界の帝王的存在。
その同人誌は 高校の文化祭で一万部売れる程である。セレスからは召使い扱いで毎日こき使われている。
 普段は明るく気のいいヤツだが実は臆病でプライドの高い一面もあり、密かに周囲の人間に対し引け目を
感じていた。特に、殺人を図ったメンバーが活躍することに嫉妬と羨望の混じった感情を有しており、
それが原因でメンバー全員を巻き込む大騒動を引き起こしたが、不二咲の決死の行為で何とか和解。


・十神 白夜 : 超高校級の御曹司

 世界を統べる一族・十神家の跡取り。頭脳・容姿・運動神経全てがパーフェクトの超高校級の完璧。
デイトレードで稼いだ四百億の個人資産を持っている。しかし、全てを見下した傲慢な態度で周囲と
何度も衝突を繰り返し、コロシアイをゲームと言い放つなど人間性にはかなり問題がある。初めて
学級裁判が起こった三度目の事件では、自ら事件を撹乱してKAZUYA達に直接攻撃を仕掛けた危険人物。


・腐川 冬子 : 超高校級の文学少女

 書いた小説は軒並みヒットして賞も総ナメの超売れっ子女流作家……なのだが、家庭や過去の
人間関係に恵まれず暗い少女時代だったために、すっかり自虐的で卑屈な性格になってしまった。
周囲とは距離を取っているが十神のことが好きで、散々な扱いをされているにも関わらずいつも後を
追いかけ回している。実は二重人格であり、裏の人格は連続猟奇殺人犯「ジェノサイダー翔」。
翔が不二咲を殺しかけ学級裁判を引き起こしたことがショックで部屋に閉じこもっている。

・ジェノサイダー翔 : 超高校級の殺人鬼

 腐川の裏人格であり、萌える男をハサミで磔にして殺す殺人鬼。腐川とは真逆の性格でとにかく
テンションが高くポジティブ。重度の腐女子。乱暴だが頭の回転は非常に早く、味方にすると頼もしい。
腐川とは知識と感情は共有しているが記憶は共有しておらず、腐川の消された記憶も保持している。
コロシアイが起こる以前、自分と腐川に親身だったKAZUYAに好感を持っており友好的である。


・江ノ島 盾子 : 超高校級のギャル

 大人気モデルで女子高生達のカリスマ……は本物の江ノ島盾子の方で、彼女はその双子の姉である。
本名は戦刃むくろといい、超高校級の軍人だった。天才的戦闘能力を誇るが、頭はあまり回らず全く
気が利かないため残念な姉、残姉と妹からは呼ばれている。このコロシアイ学園生活のもう一人の内通者。
ちなみに、色々と残念すぎるためKAZUYAと桑田からは既に正体を看破され霧切らにもかなり怪しまれている。


・葉隠 康比呂 : 超高校級の占い師

 どんなことも三割の確率でピタリと当てる天才占い師。事情があって三ダブし、高校生だが成人である。
飄々として常にマイペース、KAZUYAからは掴み所がないと評されている。普段は割りと 落ち着いているが、
非常に臆病ですぐパニックになる悪癖がある。 また、自分の保身第一であり、借金返済のために友人を
利用しようとする面も…。どうせ外れだと思っているが、大神が内通者だというインスピレーションを得た。


・霧切響子 : 超高校級の探偵

 学園長の娘にして、名門探偵一族霧切家の人間。初めは記憶喪失で名前以外何も思い出せなかった。
KAZUYAがたまたま霧切について知っていたため、現在は順調に記憶が回復している。いつも冷静沈着で
洞察力も鋭く、的確な指示をするためKAZUYA派の中では副リーダー兼参謀的役割を担っている。
手に火傷の痕がありKAZUYAに手術してもらったが、すぐには治らないのでまだ当分手袋は外せない。


・モノクマ

 コロシアイ学園生活のマスコットにして学園長。苗木達を監禁しコロシアイを強制している
黒幕である。中の人は超高校級の絶望・江ノ島盾子。人の心の弱い部分やコンプレックスを
突くのが得意で、このSSでは幾度も生徒達の心を踏みにじってきた最強のラスボス。


・謎の二人組

 学園の外のどこかに潜伏している長い黒髪の男と白髪の男。本物の江ノ島盾子の始めた
このコロシアイ学園生活に強い興味を持ち、見守っている。ぶっちゃけるとカムクラと狛枝。


テンプレ終了。本編はもうちょっとかかるので雑談でもしててください


あと、やっと自由行動あるけどヒント欲しい?


実質この章でベストエンド行けるか行けないか決まると思うので難易度を選択してください。

・甘口(Doctor.K時代のTETSUに助けてテツてんてーする)
・中辛(スーパードクターK後半のツンデレレベル)
・辛口(作品初期の割りと悪役なTETSUに頼む)
・激辛(俺はKAZUYA派なんだ!ヒントなんていらぬ!)

三票先に集まったやつ


― ドクターTETSUのヒントコーナーⅢ ―


TETSU「よお、俺だ。2スレ目以来だな。いよいよこのSSも一周年を迎え物語も折り返しに来た」

TETSU「もう生徒の半数を仲間にしたから、名残惜しいがヒントは今回でオシマイかな?
    まあ、強い要望があれば絶対復活しないとも言えないけどさ」

TETSU「ヘッ、無駄話してもしょうがねえか。甘口だから情報を三つ落とすぜ」

・・・

TETSU「一つ目。ハッキリ言おう。俺は以前事件関係者を押さえろと言ったが、葉隠は
    今回思い切って切り捨ててもいい。三章で駄目でもまだ仲間にするチャンスがある」

TETSU「…というか、葉隠は四章の事件関係者でもあるからな。むしろそっちがメインだ。
    それ以前に仲間化したとしても、本当の意味での仲間にはならないのさ」

TETSU「それに、今回は事件関係者以外にも会うべきなのが二人もいる……それが誰かは
     もう散々スレで話題に上がってるから俺が言わなくてもわかるだろ?」

TETSU「誰の部屋に行くかだが…まあ、これ自体はデメリットがないからな。好きなキャラを
    選んでもらって結構だが、対戦刃のために戦闘系の生徒の性能を上げた方がいいかもな」

TETSU「こんな所だ。今回しくじるとベストエンドに行けなくなるから多少甘めにした。
    正直このSS最大の山場は二章と三章だ。負けるんじゃねえぞ!」


新スレ一発目投下! そして今日は安価!






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  非日常編





― コロシアイ学園生活三十一日目 食堂 AM8:05 ―


石丸「うおおおおおおおおおおお!」

K「…………」

苗木「ア、ハハ」

不二咲「フフ」ニコニコ

桑田「はぁー」


食堂には二週間ぶりにこの男の大きい声が響いていた。


山田「相変わらずですなぁ」

葉隠「ま、いいんじゃねえか? こちとら久しぶりにゆっくり飯が食えるし」

朝日奈「元気になって良かった!」

大神「ウム」

大和田「おい、兄弟。勉強しながらメシ食うなよ。落ち着かねえだろ……」

石丸「わかっている! 行儀が悪いのは百も承知だ! しかし、僕は大変な遅れを作ってしまった!
    二週間もサボってしまったのだぞ?! 急いで遅れを取り戻さないと……」

桑田「いや、遅れって誰にだよ」

石丸「苗木君だ!」ビシ!

苗木「えっ、僕?! 何で?!」

石丸「僕が駄目になっている間も君はきっと真面目に勉強していたに違いない!」

苗木「え、いや……そうでもないよ?」

苗木(石丸君があんな状態なのに呑気に勉強なんて出来ないよ! そもそも別に勉強好きじゃないし)

舞園「でも実際少し自習してましたよね。みんなの役に立てるようにって。私は見てましたよ」ニコッ

苗木「お願い、心を読むのやめて」


石丸「そう謙遜しなくて良いのだぞ? まあ、僕は追いかける方が得意だ。すぐに追いついて見せるさ!」

苗木(いや、僕が君より前を行ってたことなんて一度も……あ、でも器用さは僕の方が上か?)

霧切「石丸君が不器用だからって油断していたらあっという間に追い抜かれるわよ? 彼は努力家だもの」

苗木「今度は霧切さんにまで読まれた?!」

舞園「だって苗木君わかりやすいんですよ」ネー♪

霧切「そうね。バレバレだわ」フフッ


二人が示し合わせたように目線を交わして微笑むと、女子には勝てないなと苗木は頭を掻く。


K「……石丸、まだ治ったばかりなのだからあまり無理をしない方が良い。昨日も言ったが……」


だが、石丸はKAZUYAの声を遮った。決意を秘めた声だ。


石丸「違います、先生――やりたいんです!」

K「……!」

石丸「今までのように学生の義務だからやるのではなく、僕は今心から楽しんで勉強しているんです!」

K「…………」

石丸「知らないことを知るのは楽しい。それが尊敬する先生に近付くことなら尚の事!」

石丸「これからは我慢しないでやりたいことは全部やる! 妥協も我慢もしない!
    勉強だろうと遊びだろうとっ! 僕は常に全力で臨みますっ!!」

K「…………」

K「……フッ」


一瞬驚いたものの、KAZUYAの顔から自然と笑みがこぼれる。


K「まあ普段は行き過ぎなくらいお堅いのだし、たまには行儀悪くてもいいんじゃないか?」

大和田「……そうだな。兄弟がいいならいいか」

K「ただし、絶対に無理はしないことだ。体調管理だけはしっかりやるのだぞ」

石丸「はいっ!」

セレス「あまり欲を張りますとそこの桑田君みたいになりますわよ」

桑田「オメエに言われるのはなんかムカつく」

江ノ島「……あんたが一番欲張りだよ」


ボソリと江ノ島が呟くが、誰もその言葉の持つ深さには気付かなかった。当然といえば当然だが。


石丸「ご馳走様でした! ああ、これからやらなければならないことが山積みだ!
    勉強も大事だがみんなと遊びたいし、まず衰えた体力を戻さないと……」

朝日奈「じゃあ私達と一緒にランニングする?」

不二咲「そ、それはまだ無理なんじゃないかなぁ」

K「俺がリハビリのスケジュールでも組むか?」

石丸「お願いします! ついでに勉強も見てください!」フンッ!フンッ!

K「……フゥ、わかったから少し落ち着け」

K(一気にまた以前の空気に戻ったな)


実際、石丸復帰の影響力は想像以上に大きかった。まず、裁判後はすっかり形骸化していた
朝食会の習慣が復活した。それに伴い、グループ化が進み過ぎて派閥のようになっていた
人間関係も大幅に緩和し、今は十神を除き全員が入り混じって普通に会話をしている。


K(生徒達は決して内通者の存在を忘れている訳ではない。
  ……だが、それ以上に石丸のパワーがみんなを引っ張っているのだ)


石丸は声が大きく存在感がある。この男が元気に笑ってくれるだけで一気に場が明るくなるのだ。


K(俺には出来ないことだな。まあ、俺にリーダーの資質はないのだから仕方ないが)

石丸「先生、まだですか?」ジーッ!

K「……俺はお前のようにお粥じゃないんだ。もう少し待ってくれ」

石丸「先生が食べ終わったら保健室で勉強するぞ! 勿論苗木君も来るだろう?! そうだな?!」

苗木「あ、うん……勿論だよ! ハハハ(何か前にも増して強引になったような……)」

石丸「その後は不二咲君と一緒にトレーニングがしたいぞ!」

不二咲「うん! 一緒に頑張ろうねぇ!」

大和田「ムリして倒れんじゃねえぞ!」

石丸「そしてその後は娯楽室でみんなと遊ぶのだ。セレス君、いざ僕と勝負!」

セレス「あら、わざわざ負けに来るのですか?」

山田「なんと?! 石丸清多夏殿がゲーム勝負とな?! 拙者、ワケがわからないでござる」

葉隠「ハハッ! こりゃあ見物だべ」

朝日奈「面白そう! 私達も行こ!」

大神「う、うむ(一体何があったのだ……?)」

霧切「……彼、変わったわね」

舞園「先生が何か魔法でも使ったんじゃないですか?」クスクス


石丸のあまりの変貌ぶりに生徒達は皆思い思いの反応をする。


K(……本当に変わったな)


前とは別の意味で周りを振り回す石丸を見つめてKAZUYAは感慨にふけっていた。遊びと言う言葉は、
今までの石丸とは対極の位置にあった。まず学生の本分は勤勉さであり、遊びは勉強の合間の息抜きか
或いは仲間と親睦を深める特別なイベントにのみ許される存在だった。その石丸が自分から仲間を
遊びに誘っているのである。それは超高校級の風紀委員としては有り得ない光景だった。


K(自分に架けていたハードルが下がったから他人に前程口うるさくしなくなった。
  リーダーや風紀委員としてではなく、ちゃんと自分の主張が出来るようになった)


石丸は、少しずつ普通の高校生に近付いている。

KAZUYAから見ればそれは大きな進歩だ。しかし、ふと……もし希望ヶ峰の教員が
この光景を見たら、あまり良い顔をしないだろうなとKAZUYAは思った。


K(普通に近付くと言うことは――希望ヶ峰の望む才能とは外れるということだ。だが)


そんなもの知るかと心の中で切って捨てる。


K(才能なんていくらあっても、生徒が幸福になれないのなら何の意味もない。
  ……人は皆幸福になる権利があるのだ。俺達大人は選択肢を用意するだけでいい)

K(それが俺の教員方針だ。教育者としてはまだまだ駆け出しかもしれんがな)


結局のところ、相変わらずKAZUYAは医師と教師の間でどっちつかずのままだった。
だが、どちらであろうとここにいる限り生徒を守る保護者であることに変わりはない。

今回の件を通じてKAZUYAは心に決めたことがある。それはただ彼等を生きて脱出させるのではなく、
彼等を真っ当な大人に育てて幸福にすること。それがKAZUYAの新たな行動指針となった。


石丸「もう少しですね!」ルンルン♪

K(楽しそうだな)モグモグ

不二咲「あ、そうだぁ。先生、あのね……」

K「ん?」


不二咲「パーティーの準備の時に、一緒に倉庫に行ったよね? その時面白い物を見つけて……」ゴニョゴニョ


不二咲はKAZUYAに耳打ちする。


K「……成程。興味深いな」ニヤリ

不二咲「先生にも手伝ってもらいたいなって」

K「わかった。……石丸から解放されたらな」

石丸「食べ終わりましたね?! さあ、食器を片付けて保健室に行きましょう!」

K「食後のコーヒーくらい許してくれないか?」ゲプッ

十神「……早く行け。騒がしくてたまらん」

K(この男は相変わらずだな……)


               ◇     ◇     ◇



K(久しぶりだったからか、丸一日授業をさせられた。凄い疲労感だ……)

K(……だが、たまには悪くないかな)

K(それより、腐川のことが心配だ。他の生徒とも仲を深めねばならん)

K「よし、久しぶりに生徒の所を回るか」


>>40生徒(十神以外)

セレス


二人目>>43

K「悩んだ時は安価下を使うといいぞ!」

ごめんなさい、名前変なことになってた
また安価とってもいいのかな?
山田で

なんか怖いな…


K「とりあえず連取りは二回までオーケーということにしよう」

K「人数、場所はその日の残り時間や俺の気分によって変わる。
  どうしても会いたい人間がいるなら優先的に安価を取るべきだな」

>>47三人目


うむむ。セルフksk

腐川


>>50 場所選択(現在4階まで開放)

※仲間生徒の部屋の場合は苗木・桑田・舞園・石丸・不二咲・大和田が選択可


明日も仕事なので安価だけ飛ばして寝る

>>52も場所選択で


それでは

大和田の部屋

さくらちゃんか霧切さんが調査してることを願って

化学室

普段書き溜めガッツリしてても安価だと書き下ろしになるので
投下が遅れてしまう…次の投下は多分明後日か金曜くらい


・空いた時間に突然ですがアンケート

前スレでは初の試みとして1の拙い挿絵を入れてみたのですがどうでしょう。
1は正直そんなに上手くないので地味に作画に時間がかかり、一回描くごとに投下も
一回分ズレ込む計算になるのですが、今後も時々あった方がいい?

あと、今のままキリの良い所までを一回にまとめて投下するのと
一回の投下分を少なくして投下頻度を上げるのと、どっちがいいですかね?

1挿絵いる、2挿絵いらん、A今のままの投下スタイル、B量を減らして頻度を上げる


1Aとか2Bみたいに書いてくれると作者が助かる

絵はね、下手の横好きというかね。頭に浮かんだシーンを好きに描いてる感じ
雑談スレに下手でも挿絵あった方がイメージしやすいって意見あったし、1的には楽しく描いてます。
ただ、絵を描くと投下が遅れるからもし早く続き書けよって人の方が多いならやめようかなと


すっかり間が空いてしまいすみません。1です

えーと、アンケートの結果、時々なら挿絵はあっても良いと
更新頻度に関しては一応Aが多いけどBもそこそこいる、という感じですかね

とりあえず、実験的にしばらくBでやってみるとしましょうか
ただ1は超社会人級の寝落ちストで、帰宅してすぐ寝るみたいなことが多いから
ちゃんと続くかはわかりませんが実験ということで。早速今回分を落とします。

順番はシャッフルし、腐川セレス山田化学室大和田で。


               ◇     ◇     ◇


K(やはり、今何より優先すべきは腐川だ!)


KAZUYAはインターホンを数度鳴らし、反応がないと見るや預けられた鍵を使った。


「腐川」

「ひぃぃっ! で、出たぁ!」

「人を幽霊のように言わないでもらいたいのだが……」

「ふ、ふん! あんたの用事なんてどうせわかってんのよ!」

「なら、話が早い。一緒に外へ……」

「……どうせジェノサイダーに用があるんでしょ。馬鹿な奴ら、殺人鬼と仲良くなるなんて……」


腐川は指をくわえ文字通りに歯噛みしている。


「違う。俺は君に……」

「嘘つくんじゃないわよ! アタシなんてどうせアイツのおまけ扱いなんでしょ、そうなんでしょ?!」

「そんなことはない!」

「じゃあなんでいつもあいつとばっかりつるんでるのよ……! 記憶がなくたって
 わかってんのよ? 最近あいつが表に出てる時間が多いってことくらいアタシにだって……!」

「…………」

(不味いな。どうも拗ねているようだ。確かに、俺達が翔に色々頼み事をしていたことは事実だしな……)

「うっうっ、どうせアタシなんて……誰からも必要とされてなんかいないんだからぁ……!!」

「そんなことは……」

「口ではなんとだって言えるわよね?! 行動で示しなさいよっ! 行動でっ!」

「行動……」


KAZUYAは腕を組んで考え込んだ。


(果たして、このような時は一体どう行動するのが正解なのか。乙女心と言うものは繊細で難しいからな。
 ……また石丸の時のようにパーティーでも開くか? いくら何でもそれで怒ったりはしないだろう)

「じゃあ、君が外に出た暁にはみんなで何か催し事でもしようか」

「も、催し事……? トイレに閉じ込めて上から水をかけるとか?」

「」


あまりに予想外過ぎる回答に思わずKAZUYAは口を開けたまま呆然とする。


「そ、それはイジメだ!」

「違うの? じゃ、じゃああれなのね?! 蝋燭をともした魔法陣の上に縛って吊されて……」

「どんな催し事だ?! 黒ミサか?!」

「でも昔、エコエコアザラクって唱えながら……」

「やらん!」

「キャンプファイヤーって言いながらアタシの原稿燃やしたり、背中にブスですみませんて
 書いた紙を貼って学校を一周させるとか、体育倉庫に丸一日閉じ込められるとか……」

「そんなことをするか!」


普段はどんなボケもクールに流し陰でボケ殺しと呼ばれるKAZUYAも
思わず突っ込んでしまうほど、腐川の感覚は一般とズレていた。


(そういえばイジメられていたのだったか? ……それにしても、ハードな内容だ)


イジメと言うよりもはや犯罪である。


「この学園にそんな酷いことをする人間などいない!」

「で、でもアタシのことを陰気だとか臭いとか言って陰で笑ったりはしてるんでしょ!」

「誰もそんなこと言っていないさ。……あと臭いを気にするならきちんと風呂に入った方がいいぞ」


ついつい正論を言ってしまった。


「う……中年に、それもアタシなんかよりよっぽど汗くさそうなマッチョに
 臭いって言われるなんて! もう、もう終わりだわあぁぁぁ!」ウアアアア!

「別に君を臭いと言った訳では……」

(絶対俺の方が身綺麗にしていると思うのだが……あと俺はまだ中年ではない。そんな歳ではない)


しっかりと心の中で中年を否定する。それにしても、流石のKAZUYAも少し疲れてきた。
このまま話していても埒があかないと判断したKAZUYAは話題を変えることにした。


「そういえば、君の小説を読んでみたぞ」

「! へ、へぇ? どうだった訳……?」

(お? これは好感触か?)

「石丸の面倒を見ていた時、時間があったからな。普段は医学書と新聞しか
 読まないような俺だが、それでも君の小説は素晴らしいと思ったよ」

「ふ、ふふ……アタシの芸術がわかるなんて、見かけによらないのね……」

(これは、行けるか?)

「で、感想は?」

「流石に100冊近い量を読むのは無理だったから、代表作を10冊ほど読ませてもらったが
 切ない恋愛物が多かったな。読みながら、ふと昔を思い出したりしてしんみりさせてもらった」

「恋愛なんてまるで縁のなさそうなあんたにわかるの?」

「俺も大人だからな。色恋沙汰に全く縁がなかったという訳でもない」

「……!」

「どうかしたか……?」


また腐川が歯噛みをしている。KAZUYAのことを少し恨めしそうに見ながら。


「うぎぎ……こんなゴツいのでも恋愛の一つや二つはしてるなんて……
 アタシなんて、どうせブスで根暗なアタシなんて誰からも愛されないわよぉ……!!」

「そんなことは……」

「親にだって愛されなかったのに……」

「わからないぞ? もしかしたら一見冷たくても、実は愛情がある場合も……」

「――ないわよ。アイツらに限ってそんなのある訳ない」


いつもどもり気味でもごもご話す腐川が、それだけはピシャリと切り捨てた。


「…………」

(家族の話は地雷だったか……余程複雑な事情があると見える。もう触れないようにしよう)

「……十分喋ったでしょ。さっさと帰りなさいよ」

「すまない。今日は帰ろう。ただし、俺は君が出てくるまで何度でも来るからな」

「…………」


腐川は無言のままプイと顔を逸らしたが、もうヒステリックに叫んだり暴れたりはしなかった。

ガチャ、パタン。


(反応は悪くなかった。翔も言っていたが、少しずつ心を開いてきているように思える)

(次か、遅くともその次には出て来てくれるはず……)


そう信じてKAZUYAは次の生徒の場所へ向かった。


― 娯楽室 PM4:16 ―


いつものように、彼女はそこにいた。いつもと何ら変わりなく。


「あら、珍しいお客様ですわね」


彼女は優雅に微笑む。

だが如何に女心に疎いKAZUYAと言えど、いい加減付き合いも長くなってきたので
ミステリアスなその表情の裏に彼女が子供っぽい一面を持っていることもわかってきた。


「君はいつもここにいるな、安ひ……」

「セェレェスティアァ・ルゥゥーデンベルクゥゥゥ!!」

「……失礼」


本名を頑なに否定し、本名で呼ぶと無視するかこのように柳眉を逆立てて言い返してくる。
最初はKAZUYAも子供に舐められまいと毅然とした態度で言い続けていたが、いい加減
面倒になってきたのと大人が折れるべきなのかと悩み、最終的に名前自体を呼ばなくなった。


「まあ、たまにはこういう息抜きもしないとな」

「先生は男性陣と一緒にいる時の方がリラックスしているように見えますが」

「あのメンバーといるのは楽しいが、別の意味で疲れることはよくある」

「……それもそうですわね」


セレスはあの個性的過ぎて騒々しいメンバーの様子を思い浮かべたのか一瞬げんなりした
顔をしたものの、特に気にせず向かいに座ったKAZUYAにいつものようにカードを配る。


「…………」


十神は危険人物であることが確定しているので、KAZUYAにとって残ったメンバーがコロシアイに乗るか
どうかが焦点だった。内通しているかは別に、セレスは目的のためなら手段を選ばない雰囲気がある。

今までは沈黙を保っていたが、今後動機で揺さぶられれば動かないとも限らない。


(だが勘の良い安広のことだ。俺の考えなどお見通しで、逆に今も俺の様子を観察しているのだろう)


普段はあけすけでのほほんとしている朝日奈ですら、周囲の微妙な態度の差に敏感に気が付いていた。
心理戦の達人であるセレスが、ストレートな人間であるKAZUYAの考えを読めないはずもない。

それでも顔色一つ変えず平然とKAZUYAの相手をするセレスに、KAZUYAは薄ら寒いものを感じていた。



・突然だがコンマ勝負!

セレスとポーカーで勝負する。下二桁が90以上とゾロ目で勝利。数字が高いほど健闘。

直下


まさかのクリティカル。


(これは……)

「わたくしはこれですわ」

「フォーカードか」

(相変わらず、イカサマでもしているのかと思うくらい強い役を出してくるな。だが……)

「ストレートフラッシュだ」

「まあ……やりますわね」

「たまにはな」


偶然だと思ったので特に喜びもせず、KAZUYAは淡々と返す。しかし、セレスの様子が少し変だった。


「滅多に出る役ではありませんわ。……どうです? 今日の先生はいつになく
 調子がよろしいようですし、たまには何か賭けませんこと?」

「教員に賭け事を勧めるのか?」

「別に大したものを賭けるのではありません。確か明日の夕食は久しぶりに先生の班が担当ですわね?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「もしわたくしが勝ったら、明日の夕食のメニューを餃子にしていただけませんこと?
 万が一わたくしが負けたら今日と明日の分のデザートを先生に差し上げますわ」

「その程度ならば確かに構わないが、何故餃子なんだ? ……もしかして好きなのか?」

「……はい。あの臭くて不格好で庶民的な食べ物を好きだとおおっぴらに言うのは
 少し恥ずかしいのですが。わたくし栃木県は宇都宮市出身ですので」

(本名は否定するのに出身は否定しないのか。そして餃子が好きとは……意外だな。
 もっとこう、俺には縁がないような高級で洋風な物が好きかと思ったが)

「久々のギャンブル。しかもかかっているものはわたくしの食事。負ける訳には参りませんわね」

「そんなに気合をいれるほどか……?」


セレスの意外な一面を垣間見て、KAZUYAは少しだけ可愛いと思った。

しかし、いつもならせいぜいツーペア、余程調子の良い時にストレートが出るかと言った
調子のKAZUYAだが、今日に限っていつになく運が自分に来ているのを感じていた。
チップ等は使わずストレートに五回勝負で勝敗の多い方が勝ちというルールで戦ったが……


「…………」ワナワナ

「三勝一敗一分け。俺の勝ちだ」

「ま、まさかこのわたくしが敗北を喫すとは……」

「そんなにショックを受けなくとも……」

「わたくし、お遊びでもほとんど負けたことはないのです。賭け事なら尚更ですわ」

(たかだか晩飯を賭けただけだが、プライドが傷ついたようだな……)

「物を賭けた勝負でわたくし……生まれて初めて、負けました……」シュン

(…………)


今まで負けたことがなかったというその言葉に、逆にKAZUYAは衝撃を受けていた。

――恐ろしい。才能と言うものは本当に恐ろしい。確かに、人の人生を狂わせてしまうのかもしれない。


(才能などと言うものに振り回されないよう、俺達大人がしっかりと教育して導いてやらねばな……)

「賭けは俺の勝ちだが、明日の晩は餃子にしよう」

「! まあ、よろしいんですの? ですが、それでは勝負の意味が……」


「丁度食べたい気分だったんだ。あとデザートもいらん。俺は特別甘い物が好きと言う訳ではないからな」


普段のKAZUYAは子供相手であろうと割りと勝負事には厳しいのだが、今回は特例的に甘く対応した。
セレスに恩を売っておきたいというのと、少女相手にムキになっていると周りに思われたくなかったのだ。


(たとえデザート一つとはいえ、大の大人が女子高生から物を奪っているのは絵面が悪いしな……)


監禁されコロシアイを強いられているという状況下でなければ、遊びの一環と気楽に考えられたのだが。
しかし、そんな大人の対応をするKAZUYAの姿はセレスの目から見ても好感の持てるものであった。


「見た目によらず紳士ですのね」クスリ

「……見た目は余計だ」


ガチャッ。

話していると娯楽室の扉が開いた。丸々としたシルエットが部屋に入ってくる。


「ややっ、これは西城カズヤ医師。こんなところにいるとは珍しいですな」

「ム、山田か」

「あら丁度良い所に。勝負が白熱したので、わたくし喉が渇いていた所だったのです」

「あ、あのぅ……」

「そこに置いておいて下さい。先生もどうぞ?」

「え? あぁ……」


「…………」


無言の山田に目をやる。カップは二つ。山田はKAZUYAがここにいることを知らなかった。

つまり……


「俺はもうそろそろ……」

「……では、ここに置いておくので西城医師はごゆっくり」

「いや、折角だから君達で……」

「――西城先生。ほら、お茶が冷めてしまいますわ」ニコリ


セレスが紅茶をついでKAZUYAに差し出す。笑顔だが、そこには無言の圧力があった。

そういえば、あの裁判の後セレスと山田の仲がこじれているらしいというのをKAZUYAは
複数の生徒から聞かされていた。パーティーの際は一時休戦していたようなのでそこまで
深刻に考えていなかったが、二人をこの状態で放置する訳にはいかないだろう。


(だが、俺は安広とも山田ともあまり親しくないからな。まずは距離を縮めることから始めなくては)

「折角です。もう一勝負行きましょうか」

「ムゥ……」


結局、山田のことが気になったので長居せずに早々と退出したのだった。


ここまで。明日は月曜なので休み。寝落ちしなかったら次は火曜

……それにしてもゾロ目はビビったわ。プールの時も0出したし
なんなん?KAZUYA先生実は強運なん?モノモノマシーンでは不運なのに


1は数字に強くないけど数えたら19だったので多分19%のはず。

まあすっごい低い訳じゃないけど、普通にやったら多分負けるという数値だから最初負けで
書いていたらまさかのゾロ目来ちゃったので急遽大勝ちに変更。なので投下が大幅に遅れたのです
ちなみにさっき書き忘れたので書きますが、今回のでセレスさんの好感度にボーナス


               ◇     ◇     ◇


美術室の中央の机を陣取った山田は、しょんぼりと原稿に向かっていた。


(なんだいなんだい……僕が持っていったのに邪魔者扱いだなんて酷いじゃないか)

(最近は前ほどじゃなくなったとはいえ相変わらず素っ気ないし)


執念深いにも程がある、と山田は心の中でセレスに対する恨み言を述べていた。


(クッ、この怒りを今こそ創作意欲に変えるべき! セレス殿を同人誌に描き……)


ガチャリ。


「(性的な意味で)酷い目に合わせてやるんだーい!」

「おい……」

「?!」ギョッ!


入り口に目をやると、そこには驚いた顔のKAZUYAが突っ立っていた。


(な、なんとーーー?!)

「……今のはどういう意味だ?」


先程といい今といい、この男はなんて間が悪いのだと思いながら慌てて山田は弁解した。


「何だ。創作の話か……」

「そ、そうです! イヤだなぁ。僕なんて無害が服着て歩いているような人間じゃないですか」

「それもそうだな」


普段大人しい人間もキレると怖いのだがな……、と思いながらもKAZUYAは相槌を打つ。
山田に関しては、一見丁寧な物腰だがその反面意外と負けず嫌いな所があるのは周知のことだ。


「ところで、先生が持っているそれは何ですか?」

「いや、さっきは邪魔をしてしまったからな。お詫びと言った所だ。好きなんだろう?」


そう言って、KAZUYAは袋からコラコーラと油芋を取り出した。


「おおおおおおおおおおっ!! それはコラコーラに油芋ではないですか! 神キタコレ!!!!」


学園の倉庫には様々なジュースやお菓子類が揃っているが、残念ながら山田が最も愛して止まない
この二つだけは置いておらず、モノモノマシーンで引き当てるしか入手手段がないのだ。


(医者としてはあまり体に悪い物は渡したくないが、とても喜んでいる。苗木に相談したのは正解だったな)

「西城医師もどうぞどうぞ!!」


山田は急いで机を片付けるとKAZUYAに席を勧める。先程の件で山田の機嫌を損ねたことを感じ取った
KAZUYAは、娯楽室から出ると急いで苗木の部屋に向かい、山田の攻略法を尋ねたのだった。その際使うと
良いとコラコーラと油芋を渡されたのである。苗木のアドバイスは実に的確であり、また生徒の好みを
よく熟知している。色々な物を生徒にプレゼントして回っているらしく、少しばかり羨ましかった。


「はあー、至福至福」ほっこり

「それは良かった。これは、例の同人誌という奴の原稿か?」

「それなんですがねぇ。最近やっとみんな仲直りして以前の雰囲気(ムード)が戻って来たでしょ?
 ぼちぼち創作意欲も戻ってきたので、そろそろ二次創作の枠から一歩飛び出してみようかと」

「ほぅ。一次創作、つまりはオリジナルか」

「そうです! やっとわかってきたじゃないですか!! 僕の考えた世界で作品を作るのですよ!」

「凄いじゃないか。もう内容は決まっているのか?」


「僕レベルになりますと、描きたいものがありすぎて逆にこれって言うものがないんですな。
 何より、今度の作品はオタクだけではなく一般人にも売れる作品!がテーマですから」

「そうだ! ここは一つ、漫画なんて全く読まないキングオブ一般人である
 西城医師の意見を是非とも聞いてみたいものですね!」

「キングオブ一般人……」


KAZUYAは困った。折角生徒がキラキラした期待に満ちた目で自分を見ているのに、自分は一般人とは
別の意味で大きく掛け離れているのだ。悩むKAZUYAはふと、机の上の一枚のイラストが目に留まる。


「これは……安弘か?」

「おお、そうです。セレス殿をヒロインにして一作描いてみようかと思いまして」


まさか18禁作品だとは口が裂けても言わないが、これが切欠となりKAZUYAの頭にあることが閃く。


「そうだ、山田。ここにいるメンバー達を人物のモデルにしてみたらどうだ?」

「ここにいるメンバー? つまり僕達ということですか?」

「ああ。超高校級だけあって、どいつもこいつも俺が今までに見たことがないような
 個性的なメンバー揃いだ。登場人物のネタには困らないと思うが」

「なるほど。確かに、人気漫画はストーリーよりまずキャラクターとも言う……」

「いいでしょう! では考えてみましょうか! まずは物語の主人公をば。
 主人公は勿論僕! 紳士的で人望があり、勇敢で頼りになってモテモテで……」

「…………」

「ごめんなさい、ウソです……」


敢えて何も言わないKAZUYAの大人の優しさに、山田の心は盛大に音を立て真っ二つに折れた。



「うーん、それにしても。確かにここのみんなはジャンル次第で誰が主人公でもイケる気がしますな」

「学園モノなら普通でコミュ強の苗木誠殿、熱血系なら石丸清多夏殿、不良物なら大和田紋土殿、
 スポ根なら桑田怜恩殿や朝日奈葵殿、ホラーなら腐川冬子殿。僕だってギャグやオタク系なら
 主役イケると思うし。……あ、でも葉隠康比呂殿だけ浮かばないや」


何気に酷いことを言いながら、顎に手を当て山田は創作モードに入っていく。


「とりあえず実験ですし、王道RPG世界にしてみるとしましょう。シンプルな設定でこそ筆者の腕が
 出るというもの。勇者ヨ○ヒコだってそれでヒットしたし。主人公は、無難に苗木誠殿あたりにして」


物語はよくある剣と魔法の中世ファンタジー世界――

平凡オブザ平凡な村の青年、マコト・ギエナは勇者の子孫の隣の家に住んでいたという明らかに
納得出来ない理由で呼び出され、魔王から姫を救出する命令を押し付けられる。勇者と持ち上げる割には
兵士はおろか、武器も金も恵んでもらえない。死ねということか……。不幸な青年の物語が、今始まる。


「うん! 冒頭が浮かんで来ましたぞ!」サッサッ

「上手いな……」


KAZUYAは山田の卓越したデッサン力と作画スピードに改めて感嘆する。これで字が
綺麗なら言うことはない。あと、医者的には運動して少し痩せた方がいいと冷静に思う。


「デュフフ。次に来た時にはプロローグは終了させておきますゆえ! 是非ご期待を!」

「ああ、楽しみにしている」


こうして、お馴染みのメンバーをモデルにした山田の同人誌作りが始まったのだった。




山田の同人誌完成率…………現在20%。



ここまで。三章5スレ目にしてようやく山田君のイベントがスタート。

次の投下は明後日。では。


― 化学室 PM5:22 ―


折角三階にいたので、KAZUYAは四階に上がり各部屋を見回っていく。

特に、劇薬が置かれている化学室に入り鍵に異常がないかを入念にチェックした。


「お、K先生じゃねえか」

「葉隠か。珍しいな。こんな所で何をしている?」

「べ、別に怪しいことは何もしてねえぞ! ただこの部屋の機械とかで高そうなのはどれかと思ってな」

「…………」


売る気満々だ、コイツ。


「そうだ! 先生なら知ってんだろ? どれが一番持ち運びやすくて金になるんだ?」

「……高い装置には当然防犯システムが搭載されているから、盗めばすぐに足が付くぞ」

「ぬ、盗むだぁ?! 失礼なこと言うなって! ちょっと借りるだけだべ!」

「相手の許可を取らず勝手に持って行った挙げ句売り飛ばすのを、お前の中では借りると言うのか?」

「おう! 後でちゃんと返すからな!」


唖然とする。厭味のつもりで言ったのに、どうやらこの男は本気で悪いことだと
思っていないらしい。その真っ直ぐな全く淀んでいない澄んだ瞳にKAZUYAは恐怖すら感じた。


「何でそんなに金が必要なんだ。まさかお前、借金でもしているのではあるまいな?」

「ギクッ! い、いや……そんなことは、その……ちょっとだけだべ」


図星かよ……。とKAZUYAは内心で頭を抱えていた。


「……お前、稼ぎはかなりあるんだろう? それで返せばいいじゃないか」

「そう簡単に言ってくれるけどよ、俺が頑張って稼いだ金だろ?
 だから稼ぎはぜーんぶ趣味に注ぐことにしてんだ!」ドヤアアアッ!

「…………(殴ってもいいか?)」


厚顔無知とはこのことか。KAZUYAは段々頭が痛くなってきた。そもそも、十分な稼ぎがあるのに
借金するような金銭感覚の持ち主が、一体どうやって金を工面して装置を返却するのだろう。


「ま、今はまだ脱出出来ねーから今度にすっか。その時は一緒に見繕ってくれよな!」

「…………」


今の会話、全部監視カメラに記録されているぞと心の中で突っ込みながらも、KAZUYAは
去っていく葉隠に何も言わなかった。この男はいつか真剣に反省した方がいい。

葉隠と入れ替わりのように苗木が化学室に入って来た。


「あ、見つけた。ここにいたんですね、先生」

「どうした、苗木?」

「山田君に聞いたら四階に行ったって言うから丁度良かったです。実は、その……
 石丸君も元気になったし、僕もちょっと本格的に勉強しようかなと思って」

「ほぅ、感心だな」


有り得ないほど不真面目な男の後にこんな真面目なことを言われ、KAZUYAの心は癒される。


「よし。ならば折角化学室にいることだし、今日はお前にだけ特別授業をしてやろう!」

「え、本当? やった!」


薬品棚から薬品を取り出し、簡単な実験を一緒にした。
苗木の頭脳が上がった! 観察力が上がった! 器用さが上がった!


  番外編 ― 夕飯クライシス ―


セレス「ここは空いていますか?」

K「空いているが」

朝日奈「あ、セレスちゃんだー」


夕食時、珍しくセレスがKAZUYAの隣に座った。


石丸「おや、セレス君がこちらに来るとは珍しい」

桑田「なんか変なことでも考えてんじゃねえの?」

苗木「まあまあ。たまにはそういう気分もあるよ」


セレスは中心から外れた席に一人で座ったり女子の多い場所に座ることが多かったので、
男子が集まりやすいKAZUYAの近くの席に座ることはほとんどなかった。むしろ初めてである。


石丸「それでだな……!」

不二咲「……だったんだよぉ!」

K「ほう」

苗木「凄いや!」

舞園「良かったですね」

朝日奈「あ、私もねぇ……!」

K「フム」

セレス「…………」黙々

桑田・大和田・大神「…………」


桑田(……気まずいだろ。こいつ怪しいし)

大和田(よりによって一番苦手なヤツだぜ……)

大神(何か目的があるのだろうか?)


思い切り不審な目で見られているセレスだが、気にすることなく堂々とその場に居続け、そして……


セレス「フゥ、わたくしなんだか今日はあまり食欲がありませんわ。デザートは先生に差し上げます」

K「!」

桑田「え、マジで? じゃあ俺に……」

セレス「この中では西城先生が一番大きいでしょう?」

朝日奈「さくらちゃんも大きいよ!」

大神「…………」

苗木(えっと……)

桑田「へっ、育ち盛りの食欲なめんな」

大和田「おい、待てやゴラ。ここはじゃんけんだろ」

石丸「ウム! じゃんけんが一番公平でいいな!」

不二咲「僕も参加していいのかな……?」

セレス「…………」


その時だった――





< ● > < ● > カ ッ ! !





一同「」

セレス「わたくしは先生に差し上げると言ったのですが?」ニッコリィ…

桑田「お、おう……」


(怖っ!!)


不二咲(こ、怖いよぉ……)ブルブル

苗木(……セレスさん、目が全く笑ってないよ)

石丸(一体何が起こったと言うのだ……)


いつもは空気が読めない石丸ですら、不運にもセレスの真向かいに
座っていたため顔をひきつらせ少しのけぞっていた。


K「いいのか?」

セレス「……わたくし、勝負はフェアに行いたいので」ボソリ

K(一流故のこだわり、か。流石、高校生と言えど超高校級の肩書きは伊達ではない)

K「ならば、有り難く頂戴するとしよう」フッ

セレス「次は負けませんわよ?」ニコリ


ちなみにセレスは次の日もきっちり同じことをしたのだが……


葉隠「セレスっち、K先生にばっかあげてるべ。もしかして、先生のことが……」

セレス「それ以上言ったらその髪全部引き抜くぞ、ウニィィィ!!」

葉隠「ヒィィィ、勘弁してくれ~!」

K「…………」

苗木「えっと、何かあったんですか?」

K「まあ、ちょっとな」

朝日奈「もしかして、セレスちゃんて先生のこと……」

K「いや、それはない。それだけはない(断言)」


危うく少し噂になりかけたが、セレスに限ってそれはないという結論になりあっさり鎮静化したのだった。


ここまで。

ヒント:場所選択は基本的にその場所と一番関わりの深い生徒が出てくるが、
     タイミングが合わない場合は出番の少ない生徒やパワーアップイベントの
     ある生徒が出てくる。もしくは完全にランダム。


               ◇     ◇     ◇


夕食を食べ、食後に生徒と適度に遊び校舎と寄宿舎を見回る。
久々にそんな平和な一日を過ごして、あとは一っ風呂浴びて寝るだけだな、とKAZUYAは大浴場に入った。

そして風呂からあがった時、同じタイミングで大和田がサウナから出てきたのである。


「お、KAZUYAセンセイじゃねえか」

「一人か? 珍しいな」

「いや、最初は兄弟と入ってたんだけどよ。病み上がりだろっつって早めに出させた」

「正解だな。あいつは放っておくとすぐに無理をする」

「風紀委員のくせに手ェ掛かるよなー、まったく」


並んで服を着て、雑談をしながらシャコシャコと歯を磨くKAZUYAと大和田。
二人共筋肉質で体が大きいので、歳の離れた兄弟に見えなくもない。


「あ、そうだ! センセイに見せてえもんがあるんだ。ちょっと俺の部屋に来てくれよ」

「ん? 見せたいもの?」


妙にご機嫌な大和田に連れられ、KAZUYAは大和田の部屋に向かった。


― 大和田の部屋 PM9:44 ―


「……汚いな」


不良の部屋が綺麗な方がおかしい気もするが、不二咲を入院させた時に一度綺麗にしたはずだ。
しかし今、大和田の部屋はやけに汚くなっていた。あちらこちらに物が散らばっている。


「しゃあねーだろ! 実は昨日、兄弟と不二咲と桑田と苗木が俺の部屋に泊まったんだよ。
 今日も丸一日兄弟に付き合わされてたし、片付けるヒマがなかったんだ」

「そうか」


そう言いながら、大和田は散らばった物を拾って片付け始める。
素で部屋が汚い桑田よりはマシかもしれない。


「それで、見せたいものとは?」

「これだよ、これ!」


視界には入っていたが、そこには作りかけの何かがあった。


「棚か?」

「おう! 道具は倉庫から持ってきてよ、材料はモノクマに持ってこさせたんだ。
 初めてだから色々四苦八苦してるけど、物を作るって案外楽しいもんだな」

「フフ、良かったじゃないか」


部屋をよく見回すと、確かに工作に使う道具や材料が散乱している。机の上には
『初めての工作』、『誰でもできる!DIY入門』など専門書が色々と置いてあった。


「ちゃんと勉強してるんだな」

「ああ。ちゃんとセンセイに師事できる兄弟と違ってこんな所じゃ弟子入りする
 相手もいねえし、あんまり我流でやりすぎても良くないからな」

「俺の知り合いに建設業を行っている者がいる。お前のように元荒くれ者達だ。今度紹介しようか?」

「おう、頼むぜ。高校卒業したらすぐに弟子入りさせてくれ」

「卒業後すぐにか。お前、大学には行かないのか?」

「……行こうにも、俺は頭わりぃしなぁ。今から勉強したってどうせムリだろ」


大和田はサラリと言ったつもりだったが、一瞬だけ見せた苦い表情をKAZUYAは見逃さなかった。


「お前、本当はみんなと同じように大学に行きたいんじゃないか?」

「……そりゃあ、行けるなら行きてえよ。でも今から勉強したって間に合わねえし、
 うちは金の余裕もないからな。俺の頭でバイトと勉強両立させるのは厳しいだろ?」

「確かにな……フム」


大和田はそれを同意の言葉と解釈したが、さほど間を置かずにKAZUYAは続けた。


「――将来返す気があるなら、金は俺が工面してやってもいいぞ」

「は? おい……それマジで言ってんのか?」

「嘘を言ってどうする。俺ならそのくらい簡単に稼げるしな」

「いや、おかしいだろ。いくら生徒だからって、なんでそこまで……!」

「誰にでもしてやる訳ではない。お前なら真面目に返してくれそうだと思ったからだ」

「…………」


二人の視線が交錯する。先に視線を外したのは大和田だ。


「いや、でも……やっぱムリだ。そこまでやってもらっても
 俺の頭じゃ結局大して役立てないだろうし、行くだけ時間の……」

「そう言ってまた逃げるのか?」

「逃げる? 俺は別に逃げてるワケじゃ……」

「この俺が保証してやるが、お前は馬鹿なんかじゃない。今までやってこなかっただけだ」

「……!」

「だから、ちゃんとやり直せばある程度までは行ける。何も医学部に行けと言ってる訳じゃないんだ。
 大工だってな、今時は設計とか建築学とか色々知っておいた方がいいんだぞ?」

「んなこと言ってもよぉ、俺はなにがわからないのかもよくわからないレベルなんだぜ?」

「自分だけでは無理なら人に教えてもらえ。ここには勉強を教えてくれる友達がたくさんいるだろう?
 どうせ閉じ込められてやることもないのだし、みんなで勉強すれば有意義に過ごせるじゃないか」

「やけに押してくるな……」


「人間はな、人生で一度は真剣に勉強したと言う経験があった方がいいんだ。時々、数学は
 大人になっても使わないから勉強しても無駄などと言う者がいるが、普段やらないことを
 やることで発想力を磨いたり忍耐力を鍛える。無駄な学問など存在しない!」

「前から思ってたけどよォ。あんたってホント説教くせーよなぁ、センセイ」


以前だったら聞く耳を持たなかったばかりか逆上していたであろう大和田は、頬を掻きながら苦笑した。


「まあ、この歳でやっと説教の有り難みってやつがわかってきたというか、
 ……そんだけ俺のこと真剣に考えてくれてんだろうけどさ」

「親や教師が散々言ってきただろうし、あまり俺がでしゃばるのも良くないとは
 わかっているんだが、ついつい言いたくなってしまうな。お前も大人になればわかるよ」

「……俺の親や担任はほとんど言わなかったけどな」

「言わなかった……?」

「うちの親はテメエのことしか興味なかったし、学校のヤツらは俺にビビってなにしても
 見て見ぬ振りだ。ま、そんだけ俺が手のつけらんねえワルだったってこったろ」

「呆れた大人達だ……」

「センセイが変わりモンなんだよ。フツーのヤツは、そんな熱心に他人を
 助けようなんて思わねえ。よくお節介って言われねえか?」

「……確かに言われるが」

「気にかけてくれるのは嬉しいけどよ。みんながみんな耳を貸してくれるとは限らねえ。
 センセイも、人のことばっかり気にして足元すくわれないようにした方がいいぜ」


その言葉にKAZUYAは思わず溜め息をついた。


「寂しい世の中になってしまったな。……昔はそうでもなかったのだが」

「あんた、歳いくつだよ……」


十数歳しか離れていないはずなのに、今だけは何故かKAZUYAが壮年の男に見えた。


「ただ、そういう風潮が増えてきたのは事実かもしれないが、まだまだ世間は
 捨てたものじゃない。加奈高はとても荒れた学校だったが、熱心な先生が何人かいてな。
 ほとんどの生徒はちゃんと更正して、卒業後は真面目に働いている」

「センセイも加奈高のヤツらから慕われてたんだろ?」

「まあ、な……」


目に浮かぶのは別れの光景――


『センコォー! 待ってくれよォー!』

『俺達はあんたに……ずっとここで……!!』


ガッシャーン!

追いすがる生徒達を拒絶するかのように、KAZUYAは校門を固く閉ざした。


『この門は――境界線だ』


そう。KAZUYAは彼等を振り切って加奈高から去った。生徒達を危険な目に遭わせないために……


(……元気にしているかな)


懐かしい気持ちに浸りながら、二人はその後しばらく談笑した。


大和田の頭脳が少し上がった。パワーと度胸が上がった。器用さがかなり上がった。


ここまで。

書き忘れたけど、前スレの方に石丸君の怪我の判定の解説を入れておきました。
あとTETSUと磨毛先生の画像も上げといた。あの画像のTETSU先生クッソ格好いいよね

今週は出張とかあってちょっと忙しいので書き溜めのために先に安価だけ取っておこうと思います。

一人目>>120

大神

二人目

直下

三人目

直下

四人目

直下

ラスト

場所選択>>132

セルフksk

セレス

これは……えーと、娯楽室扱い、でいいのかな?
大神山田霧切腐川娯楽室と。今回はバラけてていい感じですね

ついでにアンケートって程ではないですが、試しに一週間高頻度投下を
行ってみましたがどんな感じですか?やっぱり一回が3レスくらいだと物足りないかな?
感想いつも励みにしてます。リクエストも随時受付中。それではまた火曜日に……


― コロシアイ学園生活三十二日目 保健室 AM9:02 ―


翌日、保健室には苗木、桑田、石丸、大和田、不二咲、舞園の六人がいた。


K「石丸はまだ病み上がりだから本当はあまり無理をさせたくないが、いつまた黒幕が
  何かを仕掛けてこないとも限らん。そして、俺は必ず現場にいる訳ではない」

K「故にいよいよ本格的に実技を指導していこうと思う」

石丸「おお、実技ですか! 僕のことは気にせずやりましょう!」

桑田「それはいいんだけどさ……」

大和田「なんで俺達まで呼んだんだ?」

K「俺がまず教えたいのは気道の確保だ。呼吸が止まったら人間はすぐに死んでしまう。
  そのためにも気管挿管がすんなり出来るようになってもらいたい」

苗木「でも、ここって練習のために使うような模型とかありませんよね?」

K「一応倉庫のガラクタでそれらしい物を作ってみたが……市販の模型とは比べ物にならんな」


KAZUYAは灯油ポンプやホースを組み合わせて何とか模型を作ってみたが、
感触が全く違うので手順の確認くらいにしか使えないだろうと考えていた。


舞園「……頑張ったと思いますよ」

不二咲「じゃあ、どうするのぉ?」

K「まあ、模型も所詮は模型だからな。実際に人間で練習するのが一番確実だ」

桑田「おいおいおいおい……ちょーっと、イヤな予感がしてきたんだけど?」

K「お前達……悪いが、協力してくれないか? 絶対に事故が起きないようにするから」

大和田「マジかよ……」


唐突な申し入れに驚いたのは申し入れされた側だけではない。


苗木「えっ?! まさか桑田君と大和田君に被験者になってもらうってこと?!」

石丸「せ、先生! 流石にそれは……?!」

K「わかっているさ! 俺だって正直まだ早いと思っている。……だが、今後
  何が起こるかわからん。俺がいつまでも面倒を見られるとは限らんのだぞ?」


最悪の事態……それはKAZUYAが黒幕により学園から排除される可能性だ。KAZUYAとしても
勿論そんなことを考えたくはなかったが、生徒のことを思えば考えずにはいられない。


不二咲「そ、そんなこと言わないでぇ!」

K「……今のは例えだが、何事も最悪を想定しておくべきだ。手遅れになってからでは遅い。
  俺の体を使えれば一番いいんだが。そうなると誰も指導出来ないからな」

桑田「いや、いくらせんせーの頼みでもそれはちょっとムリだわ……悪いけどさ。
    ほ、ほら! 俺ミュージシャン目指してっからノドは大事だし……」

大和田「…………」

K「そうか。いや、無理にとは言わん。大和田は?」

大和田「……それはどのくらい苦しいんだ?」

K「麻酔で眠らせるから痛みは一切ないはずだ」

大和田「なんだ。なら悩むまでもねえ! 俺はやるぜ。いや、やらせてくれ!」

石丸「きょ、兄弟……!」

桑田「え、ちょ、マジかよ……」

大和田「センセイの言う通りだ。今後、ずっとおんぶに抱っこってワケにいかねえだろ? ……それに、
     俺は兄弟にはとんでもない借りがあるからな。兄弟の力になれるなら俺はなんでもやる」


石丸「うう、ありがとう兄弟……君の決意、僕はけして無駄にしないぞ!」

桑田「お前、言ってることはかっけーけどめっちゃ顔青いからな?」

大和田「う、うるせー!」

大和田(ホントはこえーに決まってるだろうが!)

苗木「あれ? でも麻酔って温存しないといけないから普段は使えないんじゃなかったっけ?」

舞園「麻酔が使えないから石丸君の顔の傷も治せないんですよね?」

K「今回は体を切ったり縫ったりする訳ではないから針麻酔を使用する」

石丸「は、針麻酔ですか?」


シャキーンと効果音が付きそうな感じで、いつの間にかKAZUYAは大きな針を構えていた。


K「俺は針麻酔が得意でな。簡単な手術なら大体これで対応出来る」

苗木(どこから取り出したんだろう……)

大和田(あの腕のカバーから出したのか? 殺し屋かよ……)

桑田(ヤベェ、殺し屋だ。殺し屋がいる……)

不二咲「確か、それで石丸君を眠らせたりもしていたよねぇ」

石丸「何と?! 西城先生は本当に人体を知り尽くしているのですね!」

K「……フン、そもそも俺を内通者と疑うのが間違いだったのだ。俺だったらお前達には絶対にわからない
  方法で容易く人を殺せるし、その罪を誰かに被せる方法も片手の指では足りないくらい簡単に浮かぶ」

K「医学を極めるとはそういうことだ――!」ギロッ!

「…………(敵じゃなくて本当に良かった)」


K「石丸の傷といえば……実は、幸いなことに化学室にキシロカインがあってな」


キシロカイン:キシロカインは商品名で成分名は塩酸リドカイン。主に部分麻酔に使われる。


K「これで顔の傷は治せる。ただ、傷が大きいから施術時間がかかるしその間に黒幕が何か仕掛けてくる
  可能性もある。あと、折角なら形成専用の糸でしっかり直したいと考えているが、どうする?」

石丸「特に緊急性があるという訳でもありませんし、麻酔はいざという時のために
    温存した方がいいと思います! 脱出したら、その時は改めてお願いします!」

K「ウム。そう言ってもらえると助かる。それでだが……」

不二咲「あ、あの……」


話を戻そうとしたKAZUYAの声を遮ったのは、意外にも不二咲であった。


不二咲「あ、あの、被験者なんですけど……僕もやります!」

K「えっ」

桑田「ハァ?!」

苗木「不二咲君?!」

大和田「なに言ってやがんだ?! オメエまだ病み上がりだろ!」

不二咲「で、でも僕だって役に立ちたい! 僕が協力して二人がレベルアップ出来るなら……」

舞園「なら、私がやります」

不二咲「えぇっ?!」

苗木「ま、舞園さん?!」

石丸「本気かね?!」

桑田「なに言ってんだよ?! お前アイドルだろ!」

舞園「西城先生が監督してくれるなら大丈夫です! 痛みもないそうですし」


K「いや、気持ちは有り難いがまだ駄目だ。不二咲は弱っているし、舞園も女性だから
  首が細い。いくら俺が見ているとはいえ万が一のことがあったら困るからな」

舞園「でも、大和田君に二人分任せるのは……」

大和田「俺は平気だ。気にすんな」


その時、扉が開いて朝日奈と大神が入ってきた。


朝日奈「ヤッホー! 遊びに来たよー!」

「…………」

朝日奈「……あれ?」

大神「何かあったのか?」

K「あったと言うか、これからするのだが……」


二人に事情を説明する。


朝日奈「すごいね……そんなことまでやっちゃうんだ……」

大神「……本格的だな」

K「コロシアイが起こらないことに痺れを切らした黒幕が何をするかわからないからな」

朝日奈「そうだね。また不審者が現れたら怖いし……それにしても、
     二人とも本当にお医者さんになるんだ! 頑張ってね!」

石丸「ウム、ありがとう!」

苗木「う、うん」

苗木(どうしよう……知っておいて損はないというか、単にここまで来て
    引き下がれないというか。本当は何となく流されてるだけなんて言えない……)


大神「被験者は大和田一人なのか?」

大和田「ああ。不二咲と舞園も手伝ってくれるっつったんだけどよ、二人とも首細いしな」

K「俺がもう一人いれば俺の体を使えたんだが……」

大神「……我が手伝うか?」

朝日奈「え?! さくらちゃん、本気?!」

石丸「気持ちは有り難いが、僕達はまだ初心者だ。上手くなってからの方が……」

大神「我の首なら問題ないと思うが」バーン!

「…………(確かに)」

大神「大和田一人で二人分は負担が大きいだろう?」

K「ま、まあそうだが……」

大和田「……だ、ダメだ! 女子にやらせるワケにはいかねえ!」

石丸「よく言った、兄弟!」

朝日奈「そ、そうだよ! さくらちゃんも女の子なんだから!」

大神「しかし……」

桑田「……ああああ、わかったよ! やるよ! やればいいんだろ、こんちきしょー!」

不二咲「桑田君、大丈夫? ミュージシャン目指してるのに……」

桑田「せんせーが見てんなら大丈夫だろ。……ホント、マジで頼むぜ?」


頭を抱え項垂れている様子から、心底嫌なのがわかる。


K「……すまん。お前の善意、無駄にはしない。俺が徹底的に指導する」

桑田「あ、あと俺をやるのは苗木だぞ! 石丸は不器用だからぜってーヤダ! マジでムリだから!」

石丸「ムムム……」


大和田「ったりめーだ! 兄弟は俺が受け持つぜ!」

石丸「兄弟……」

K「よし。まずはもう一度入念に手順を確認する。頭に叩き込んだら実践だ!」


・・・


桑田「いよいよか……」ドギマギ

K「その前に、これにサインしてくれないか?」

桑田「……え?」

K「本来は家族を呼んできっちり説明を行った上で同意書にサインを書いてもらうのだが、
  ここにはいないからな。とりあえず同意書を作ったから、お前のサインだけでももらう」

桑田「」

苗木「……わざわざ作ったんだ、同意書」

K「形式は大事だ」


KAZUYAの手書きの同意書には、問題が起こった場合の法的責任は全て監督者の
自分一人であり、生徒二人の責任を問わないと言う旨が書かれていた。


大和田「要は失敗しなきゃいいんだろ!」

朝日奈「そうそう! ガンバレガンバレ!」

桑田「あー、うるせー! 黙って見てろよ!」

K「それじゃあ、ベッドに横になってくれ」

桑田「な、なあ? 針麻酔ってどんな感じ? すぐ眠れんの? 痛くねーよな?
    そもそも俺麻酔とかマジ初めてなんだけど、どんな感じだよ?」

舞園「大丈夫です。案外すぐに眠れますから!」←経験者

石丸「ウム、気が付いたらぐっすりだ! グッドナイトだぞ、桑田君!」←経験者

桑田「マジかよ……嘘だったら恨むからな」


K「ちなみに、万が一施術中に麻酔が切れても絶対に暴れるなよ? 器具が
  気道を突き破ったら大変だからな。その時は脱力したまま片手を挙げろ」

桑田「え、ちょ、なに……今めっちゃ不穏なこと聞いたんだけど……」

K「大丈夫だ! 俺を信じろ!」

朝日奈「男でしょ! 弱音吐かない!」

不二咲「頑張って、桑田君」ギュッ

舞園「私達も応援してます」ギュッ

桑田「これ、本当ならすげーおいしいポジションなのに今はそう感じねーわ……」

K「グダグダ言うな。行くぞ!」プスッ!

桑田「う…………」

桑田「…………」ガクッ

K「よし、落ちたな」

苗木「はやっ!」

石丸「お、おおおおおおおお!」

朝日奈「すっごーい!」

大和田「マジかよ……」

大神「ムム……(凄まじい技術だ……)」

K「さて、準備はいいな。苗木?」

苗木「は、はい(……覚悟を決めよう)」


気管挿管術とは――

口または鼻から喉頭(こうとう:ノド)を経由して気管にチューブを通し、気道を確保する方法である。
今回KAZUYAが苗木と石丸に伝授しようとしているのは、一般的に第一選択となる経口挿管法だ。

大まかな手順としては①まず開口し、②鎌のような形をした器具・喉頭鏡(こうとうきょう)の湾曲部を
喉頭蓋まで挿入、③喉頭蓋を持ち上げ喉頭を展開し、④声門からチューブを挿管、⑤位置を調整し固定する。

喉頭蓋:こうとうがい。声門のやや上にあり、物を食べる時は気管にフタをするように動き誤嚥を防いでいる。
     気管挿管時は喉頭蓋が邪魔になってチューブを挿入できないため、まずこの喉頭蓋を喉頭鏡を使って
     上に引き上げ(喉頭展開と呼ぶ)声門を露出させる作業が必要となるのである。

喉頭鏡:こうとうきょう。一見すると小型の鎌のように見える。曲がっている部分はブレードと呼ぶが、
     鎌と違い刃はついていない。ブレードの横には奥を照らす電球や、邪魔な舌を載せておくための
     水かきと呼ばれる部分がある。気管挿管ではこの喉頭鏡を使い喉頭を展開する。


苗木「まずはクロスフィンガー法で口を……う、開かない……?!」


クロスフィンガー法:親指を上の歯、人差指を下の歯に当てて指を交差するように開口させる方法。


K「緊張で歯を食いしばっていたからな。こういうことはよくある。顎を外さない程度に
  思いっ切りやれ。下顎を前につきだして受け口にすると開きやすくなるぞ」

苗木「はい。えっと……」

石丸「苗木君、ガンバだ!」

朝日奈「がんばれー!」

苗木「…………(そんなにジッと見られると緊張するんだけど)」


・・・


苗木「先生、喉頭蓋が見えません!」

K「頭の後ろに枕を引き、もっと顎を上げろ。人工呼吸で気道確保をやっただろう? 角度が大事なんだ」

石丸「スニッフィング・ポジションだ、苗木君!」


sniffing position:匂いを嗅ぐ時の鼻を突き出した姿勢のこと。


苗木「よし、見えた。これが喉頭蓋? えっと、どこに引っ掛ければ……」

K「最初は手を貸す。先程図を描いて教えたと思うが、喉頭蓋に直接引っ掛けるのではなく、
  喉頭蓋根元の上部を狙って差し込み、こう持ち上げるんだ!」グイッ

苗木(ひぇー!)


声にならない悲鳴をあげている苗木とは逆に、KAZUYAは慣れているので至極冷静だった。


K「見えたな? ほら、これが声帯だ。折角だからお前達も見ておくといい」

舞園「これが桑田君の声帯なんですね……」

大神「フム、こうなっているのか。なかなか綺麗なものだな」

K「まだ若いし、酒もタバコもやってないからな。みんなも大体こんな感じだろう」

石丸(ちゃ、ちゃんとよく見ておかねば……!)ジーーーッ!

大和田(俺もこんな感じでこいつらに見られるんだろうな……)ハァ


・・・


そして、色々細かいミスはあったものの特に大きなトラブルはなく終了する。


苗木「ハァ~……」グッタリ

K「……少し疲れたな。休憩を挟んだら次は石丸の番だ。とりあえず桑田を起こしておいてくれ」

舞園「桑田くーん、起きてくださーい」ユッサユッサ

不二咲「終わったよぉ」ユッサユッサ

桑田「……ふわ~あ。ん、もう終わったのか? なんだ、ビビるほどじゃなかったな」

K「喉に違和感はないな?」

桑田「んーと、大丈夫だ。ま、せんせーが見てたし」

石丸「お疲れ様だぞ!」

朝日奈「すごかったよ!」

桑田「え、なに? どんな感じ??」

大和田「……器用な苗木も結構苦戦してたぜ」ガタガタ

苗木「やっぱり、実技は難しいよね……」

石丸「い、今から緊張して震えてきたぞ……! これは武者震いだ! 克服せねば!」プルプル

大和田「」

K・苗木「…………」

桑田「あの、大和田に死相が見えるんですけど……」


そして、とうとう石丸の番が来てしまった。


大和田「だ、大丈夫か……? 本当に大丈夫なんだろうな?!」

K「安心しろ。慣れるまでは俺があいつの手を掴んで文字通り手取り足取り教える」ボソッ

大和田「頼むぜ……? 喉を突き破るとかホントに勘弁してくれよ……」

K「……細心の注意を払うことを約束しよう」


石丸「うおおおおおおおお。緊張するぞおおおおおおおおお!」

不二咲「お、落ち着いてやれば大丈夫だよ!」

朝日奈「深呼吸深呼吸!」

大神「……こっちに来い。脱力するツボを押してやる」

舞園「わ、私……もう見ていられませんっ!」

桑田「俺もだよ……」

苗木「僕、先生の補助に回るね……」


実際困難を極めた。


K「馬鹿者! 本番ならいざしらず練習だぞ! もっと優しくやれ! 顎を外す気か?!」

石丸「は、はい!」

大和田「」コヒューコヒュー

K「ブレードに舌が乗り切っていない! はみ出ているぞ!」

石丸「すみません!」


・・・


K「いいか? 絶対勝手に動かすなよ。絶 対 勝 手 に 動 か す な よ !」

石丸「はい……」プルプル


石丸が勢い余って気管を傷つけないように、KAZUYAはガッチリとその手を掴んでいる。


桑田「あのせんせーがさっきから同じことばっか言ってるぜ……」ヒソヒソ

大神「そのくらい気を張っているのだろう……」ヒソヒソ

朝日奈「大丈夫なのかな……?」


・・・


K「馬鹿者! テコの原理は使うなと言ったろう! 歯を支点にしたら前歯が折れるぞ!」

石丸「す、すみません!」


※歯が折れるのは勿論良くないが、折れた歯が気道に入ると本当にシャレにならない事態になるので注意が必要。


不二咲「大和田君、たとえ前歯が全部なくなっても僕達は友達だからね……」グス

舞園「親友のために体を張ったあなたの勇姿を忘れません……」

苗木「やめてよ! 縁起悪いよ!」


・・・


K(やっと声門が見えた。ここに来るまでに苗木の二倍の時間がかかっている……)

石丸「声門が見えたら、チューブを挿入してカフに空気を入れて気管に固定、それから……」ブツブツ

K「待て! 声門を通過したらすぐにスタイレットを抜け! 万が一折れたら気管支の中に落ちるからな」


カフ:チューブの先の方に付いているバルーン。チューブがズレないよう、カフを膨らませて気管に固定する。

スタイレット:stylet。挿管チューブの形状を保つために、チューブの中に入れる金属の棒。


苗木「僕がやります!」

K「俺は手が塞がっている。頼む……」


・・・


ゼーハーゼーハー……


K「……大和田には悪いが今の手順をもう一度行うぞ」

石丸「は、はい……少しでも早く身につけるように僕も頑張ります……」

大和田「」グッタリ

桑田「大和田……ガンバ」

K(あまり大和田にばかり負担はかけさせられんな。気は進まないが、
  もう少し慣れたら大神に協力を頼んだ方が良いかもしれん……)ハァ


三十分後。


大和田「あー……」

K「調子はどうだ?」

大和田「少しノドがイガイガするような……あと、なんだ。心なしかダルいっつーか……」

K「……それは恐らく精神的なものだろう」チラ

石丸「…………」

大和田「まあ、大丈夫だったみてえでなによりだ。意外と平気なもんだな」

桑田「えーっと、うん。お前、ほんとよくガンバったよ……」

朝日奈「お疲れさま」

舞園「ゆっくり休んでくださいね」

苗木「石丸君、元気だして……」

石丸「…………」グスッ

不二咲「次はきっと上手く行くよぉ……」

大神「諦めたら今までの分も無駄になるぞ」

石丸「…………」コク

大和田「なんだ、失敗して落ち込んでんのかよ? 俺が何度でも手伝ってやるから心配すんなって!」

石丸「きょ、きょうだいぃ~!!」ブワッ!

苗木(……あの惨状を見てなかったからこそ言える言葉だよね)

K(俺の指導が悪いのだろうか……何か、だんだん自信がなくなってきたぞ……)


散々な結果を残しながらも、本物の人体に行った最初の医療実習は幕を閉じたのだった。






K「ちなみに、通常だと30症例こなさねばならんからあと29回これをしてもらう必要がある」

苗木・石丸「」

K「15人しかいないから、一人最低二回と言った所かな。まあ、少ない人数ながらここには
  色々な体格の人間が揃っているから、数さえこなして慣れれば何とかなるだろう」

K「……まあ、頑張ってくれ」

苗木(これをあと29回もしなくちゃいけないのか……トホホ)

石丸(医の道は険しいな……)


前途多難な二人であった。


ここまで。ボリュームが欲しいとの要望に応え大増量してみた

ちなみに、当たり前ですがかなり手順は省略して必要最低限だけにしてます。誤嚥を防ぐセリック法とか
甲状軟骨を圧迫するBURP法とかその他色々細かい手順とか方法あるんですけど、全部書いたら作者も読者も
訳ワカメになるしね。1が書いてないだけで、KAZUYA先生はちゃんと説明してると脳内補完よろです

お、なんかレス来たって思って開いたのにマルチだった時のガッカリ感


前回分のイラスト。そういえば主人公なのにちゃんと苗木君描いたのは初めてな気がする
あと初めてマント無しモアイ顔KAZUYA。…筋肉とツヤベタは本当に難しい

2コマ漫画(喉頭鏡の持ち方について)
http://i.imgur.com/tC41sKV.jpg


次回の投下はもう少しお待ち下さい



― 自由行動 ―


(フゥ……つ、疲れた。精神的に疲れた……。だが、今日も腐川の所へは行かねばならん……)


KAZUYAが腐川の部屋のインターホンを鳴らし、どうせ開かないだろうと鍵を取り出した時だった。

カチャリ。


「……来たわね」

「腐川?」


腐川は自ら扉を開きKAZUYAを部屋に招き入れた。


「フ、フフ……そろそろ来る頃だと思っていたわよ」

「俺を待っていてくれたのか?」

「べ、別にそんなんじゃないわよ……! ただ、昨日は本の感想を聞きそびれたから……」

「ああ、そうだったな」


いつもは立ち話だが、その日初めてKAZUYAは椅子に座って腐川と向き合った。
そして、読んだ小説の中でKAZUYAが特に印象強かったシーンや描写について語っていく。


「普段あれだけ熱苦しいくせに、ハッピーエンドより悲恋物を好むなんてちょっと意外ね……」

「……まあ、俺も色々あってな」

「な、なに? 自慢? そうよね……! 何せあの帝都大学首席の超国家級のお医者様で
 背も高いし、顔もまあ……並の上くらいはあるし、さぞかしモテてきたんでしょうね……!」キィィ!

「いや、そんなことはないぞ!」

「ア、アタシだってねぇ! 基本は妄想かもしれないけど、一度くらいはデートしたことあるのよ?!」

「そうか、良かったじゃないか」

「……そうよ。生まれて初めて誘われて、三日三晩徹夜でデートコースを練ったわ!」

(徹夜……)


誇張ではなく本当に徹夜してそうな所が怖い。


「うふふ、私の恋愛妄想歴から映画が良いという結論になったのよ! 万が一話が
 盛り上がらなくても映画なら会話に困らないし、観た後は感想とかを話し合えるしね」

「フム、成程。ちゃんと考えているものだな。デートの場所なんて考えたことがなかった」

「な、なにその投げやりな感じ?! こっちは命を懸けて考えてんのよ?! 馬鹿にしてんの?!」グギギ!

「あ、いや違うんだ! その……」

「好きな相手とだったらどこで何をしても楽しいのではないかと思ってな」


KAZUYAはただ思ったことをさらりと言っただけだったが、腐川は引きつった顔で黙り込む。


「…………」

(不味いな……また地雷を踏んだか?)

「それで、何を観たんだ? そもそも、君はどんな作品が好きなんだい?」


慌てて話を戻すと、何とか腐川は気を取り直して質問に答える。


「ほら、男はダイナミックなアクション映画が好きでしょ? だから名画座に鈴木清順特集を見に行ったのよ」

「ほぅ。鈴木清順が好きなのか。なかなか良い趣味をしているじゃないか。流石作家なだけあるな」

「清順美学がわかるの?! 何てことなの……ただ勉強が出来るだけのマッチョかと思えば
 私の小説の良さがわかったり鈴木清順が好きだったり、意外と芸術センスあるじゃない……!」キィィ

「…………(勉強が出来るだけのマッチョ……)」


この子はどうしていちいち発言に棘があるのだろうかと頭を悩ませながら、KAZUYAは話を続けた。


「……しかし、驚いた。今時、鈴木清順を好きな子がいるなんてなァ」

「どういう意味よ……?」

「え? いや、少し言いづらいが……今の子にああいったものは受けないんじゃないか?
 退屈というか理解出来ないというか、もっと言うとつまらなく感じてしまうと思うのだが」


「はぅあっ?!」

「?! すまん、悪く言うつもりはなかったのだが……!」


また腐川を怒らせてしまったかと焦るが、腐川が見せた感情は怒りではなく悲しみだった。


「そう、そうだったの……薄々気付いてはいたけど、やっぱりそれが原因だったのねぇぇ!」ボロボロボロ…

「どうした……?!」


突然おいおいと泣き出す腐川に面食らったKAZUYAは訳がわからず狼狽する。


「え、映画……映画を観ている時、ふと横を見たら彼がいなくて……
 トイレかと思ったら、結局そのまま戻ってこなくて……」

(帰ってしまったのか……)

「私のチョイスが悪かったのね……だから……ううぅ」

「いや、君は悪くない! いくら気に入らない映画でも、声も掛けずに一人で帰るなど言語道断だ!」

「違うのよ。違うの……そもそもデートなんかじゃなかった……」

「デートじゃなかった?」

「後から知ったんだけど……アタシを誘ったのは罰ゲームだったんだって……」

(最悪だ……)


目眩がしてきた。


言葉を失うKAZUYAとは反対に、腐川は当時を思い出したのか声をあげて泣いている。
とりあえずハンカチを差し出し、KAZUYAは腐川の肩に優しく手を置いた。


「ほら、涙を拭いて。そんな最低な輩のことなんて忘れてしまえ!」

「ふぇぇええええええん!」


しかし一向に腐川は泣き止まない。


「そ、そうだ! 今度は俺が一緒に観てやろう。俺はちゃんと最後まで付き合うから……!」

「ひぇえええっ?!!」

「」ビクッ


突然ガバッと顔を上げた腐川にKAZUYAはギョッとする。


「そ、そ、それ……本気なの……?! 一緒に映画ってつまり【デェートの誘い】ってこと?!」

「えっ」

「あう……そ、そんな訳ないわよね……私みたいなブスを、あんたみたいな人気者の
 先生が誘ってくれたりなんて……きっと、また前みたいに罰ゲームなんだわ……!! ううぅ」

「あ、いや、その……」


1.控えめにデートだと言う
2.デートだと認める
3.男らしくデートに誘う
4.デートなんて何年ぶりかなと言う
5.それは違うぞ!

直下


「それはちが……!」

「…………」ジィィィーッ!!


涙と鼻水と唾液まみれで壮絶な顔をした腐川が、壮絶な目で一心にKAZUYAを見つめている!


「あ、ええと、その、だな……」

(言えない……)


心優しいKAZUYAは、傷ついた少女を裏切ることが出来なかった。


「まあ、そんなようなもの……か?」

「本当なの?! 本気で言ってるの?! ……う、生まれて初めてデートに誘われたわぁ……!
 初めては白夜様って決めてたけど、女としてここまで言われて断る訳には行かないわね!!」

「……あ、うん」

「ま、任せなさいよ。今度こそ完璧なデートプランを練ってみせるわ……!!
 今度はちゃんとあんたの好みを事前に調べておくから安心しなさい!」

「期待しておくよ……」


勢いで何故かデートをする羽目になってしまったが、このお陰で腐川はすっかり元気になった。


(まあ、これで元気になるのなら安いもの……)

「ひゃぁぁっ?!」

「……今度は何だ?」

「さ、触られてる?! アタシ、男に体を触られてる……?!」


腐川は今更ながらKAZUYAが自分の肩を触れていることに気が付いた。


「あ、嫌だったか? 失礼っ……」


まずい、セクハラで訴えられるとKAZUYAは一瞬焦ったが、何故か腐川は感動していたようだった。


「ア、アタシ……誰かに肩を抱かれるなんて……初めての経験だわ……!!」うっとり

(肩を抱く、まではやっていないのだが……)

「やっと……やっとアタシにも春が……」ダバダバ

「……えっと」


先程とは打って変わって嬉し涙を流す腐川の感情に翻弄され、KAZUYAはただただ沈黙する。


「……約束、忘れんじゃないわよ! 別に……少しも楽しみなんかじゃないけど……あ!
 い、今のうそ……その、ちょっとだけ……本当にちょっとだけ……楽しみ、かも……うへへ」

「わかったわかった……」

(芸術家だけあって感情の振り幅が大きいな。その上……感情の一つ一つがとにかく重い!)


十神が何故腐川を避けているか少し理解出来てしまい、KAZUYAの心は複雑であった。


「あと、そろそろ外に出てきて欲しいのだが……」

「……明日から出るわよ。もういい加減覚悟も決めたし」

「! 本当か?!」

「嘘言ってどうすんの……」

「わかった。みんなにも伝えておく」

「あと、その、西城……」ゴニョゴニョ

「……うん?」

「何度も部屋まで来てくれて……ぁ、ぁりがと……」ボソッ

「すまん、もっとハッキリと……」

「とっとと出て行きなさいって言ってんのよ!!」

「では、また明日会おう!」


慌てて退散しようとしたKAZUYAのマントを腐川が掴んだ。


「ん?」


「外に出たら……もうあんたはアタシになんて会いに来てくれないんでしょ……?
 あんたは、医者だから弱ってる人間を放っておけないだけで……」

「腐川……」


パタン。

腐川の寂しげな顔を覆い隠すように、扉が閉まった。


(腐川は無事出てくれるようだ。これでこの件は解決と思っていい)

(……だが、これで終わりにして本当にいいのか?)


・・・


腐川の部屋を出ると、ちょうど大神に出会った。


「ム、腐川と会っていたのですか?」

「ああ、何とか説得出来た。明日からまた出てきてくれるそうだ」

「それはめでたい。めでたいついでに少し手合わせをしたいのですが、今朝の件でお疲れだろうか?」

「いや、後顧の憂いも絶てたし、久しぶりに思い切り動きたいと思っていた所だ。むしろ頼む」



― 体育館 PM1:43 ―


大柄な二人の靴底が床と擦れ、その度にキュキュッと小気味の良い音が周囲に響く。


「フンッ! クッ!」

「ぬぅぅん!」


ドンッ!


「うおっ?!」


KAZUYAは途切れなく攻めていたが、その合間を縫うように大神の鋭い一撃が決まった。


「ハァ、ハァ……前より少しはマシになったかな?」

「西城殿は筋が良い。短期間で随分と動きにキレが出てきた」

「しかしまだまだ未熟なのは俺にもわかる。大神から見て俺に足りないのは
 何だと思う? 一応医者だからな。スポーツ医学的に分析してみたい」

「足りないものか……やはり、身のこなしでしょうか」

「身のこなしか。動きが遅いと言うことか?」

「闘いにおいて最も重要なものは、力でも技でもなく速さと言って良い。どんなに優れた力や
 技術を持っていても、当てられなければ意味がない。速さの次に技の正確さ、そして力が来る」

「西城殿は、力に関しては我をも凌ぎこのメンバーで最も強いだろう。技術もそこそこある。だが……」

「成程。俺はパワー偏重タイプで圧倒的に速さが足りないと」

「そうなります」


確かに、体の大きさはそこまで変わらないはずなのに、見た目に反し大神は俊敏であった。
KAZUYAもそこそこ反射神経には自信があるが、格闘家である大神と戦ってみると
どうにも動きがワンテンポほど遅れがちになっているのは薄々自覚していた。


「速さか……確かに、あまり考えたことはなかったな。手術に必要なスタミナのために
 走り込みは行ってきたが、瞬発力を鍛えるトレーニングはあまりして来なかったかもしれん」

「西城殿なら言わずともわかるだろうが、下半身のバネや足裏の筋肉を意識して使うようにすると良いかと」

「ああ。瞬発力を鍛えるとなると、いわゆるプライオメトリックトレーニング……
 反復横跳び、バウンディング、縄跳びなども有効か。とにかく体を動かすしかないな」


プライオメトリックトレーニング(plyometric training):
 筋肉を伸張させた後、すぐに収縮させることでパワーやスピードを上げるトレーニング方法。
ちなみに、ダンベルやマシンなどを使い、同じ動きを反復する通常の筋トレは等張性筋活動と言い、
アイソトニックトレーニング(plyometric training)と呼ばれる。           

バウンディング:三段跳びのように、跳ねるような動きで走る練習法。高い効果が出るが脚の負担も大きい。


「ありがとう。もう一度頼んでも良いだろうか?」

「無論です」


言われた通り、KAZUYAは足裏と下半身のバネに比重を置きフットワークを意識しながら大神に挑む。


(たったあれだけの助言でこれほど見違えるか。この歳だから我を上回るということはないだろうが、
 もしもっと若い時に我が道場に来ていれば、良い組み手相手になれたかもしれぬな……)

(だが、それは元より無理な話か。この男は我と同じ、一族の宿命に縛られている)

「クンッ!」バシッ!

「ぬおおっ!」


大神の足技が入り、KAZUYAが大きくバランスを崩す。だが、倒れる前に大神が腕を掴んで支えてくれた。


「呼吸が乱れ始めている。ここらで一度休憩しましょう」

「……すまない」


ドカッとKAZUYAは床に座り額の汗を拭った。


「フフッ、歳は取りたくないな」


そう言って笑いかけるKAZUYAに、大神は病に倒れたライバルの姿を見た。



「……!」フイ

「どうかしたのか?」

「いえ……」


思わず大神は顔を背け、話を逸らすために先程考えていたことを語る。


「……惜しいな。西城殿程の素質があれば、色々とやれることはあっただろうに」

「そうだな。そんな道もあったかもしれないな」

「後悔はしていないのですか?」

「全くない訳ではないが、医者という仕事に誇りを持っている。今では感謝しているさ」

「左様ですか」

「君だってそうだろう? 武人であることに誇りを持っているように見えるが」

「誇りは持っております。後悔もしておりませぬ。ただ……」

「? ただ?」


大神は一瞬言い淀んだが、ボソリと独り事のように呟いた。


「……こんな姿の我にも、乙女心と言うものはあるのです」

「…………」

「…………」


大神の言いたいことを察し、KAZUYAは口をつぐんでただ天井を眺めた。
そのまましばし二人は無言になるが、沈黙を破ったのは大神だ。


「余計なことを言った。今のは忘れて欲しい」

「…………」


聞いたことがある。大神は由緒正しい道場の跡継ぎとして生まれたが、女であるというだけで
無用な蔑みを受け、それらを跳ね退けるために人並み以上の修行を積んできた、と。

大神の隠したい秘密は中学の時の写真だった。年頃の少女だ。好きな人もいたのかもしれないし、
恋愛だって普通にしたかったのかもしれない。だが、一族の宿願である世界最強の称号を得るため、
彼女は女としての幸せを捨て生きてきた。その葛藤は男のKAZUYAには永遠にわからないものだ。


「……俺も一族が持つ宿命の重みと言う奴はそれなりにわかっているつもりだが、それでも
 今まで君がどれほどの葛藤や苦悩を抱えていたかは、きっと半分も理解出来ていないだろう」

「…………」

「ただ、な……君の力は今まで多くの人を助けていたはずだし、これからもっとたくさんの人の
 役に立てると思う。失ったものは少なくないかもしれないが、いつかそれ以上のものを得られるはずだ」

「宿命どころかちっぽけな義務すら背負えずに逃げ出す人間も多い中、自分の運命に
 真っ向から挑んで乗り越えた君は本当に凄いし素晴らしい。……と俺は思う」

「…………」

「君の長い人生のうち、たった一月共に過ごしただけの男が言ってもさして重みはないかもしれないが……」

「いえ……」


大神は目を閉じ、大きく息を吐く。KAZUYAもそれ以上は話さなかった。


「……そう言ってもらえれば、我も救われます。さあ、続きを」

「あぁ」


その後しばらく、二人の熱い組み手は続いた。


ここまで。

あれ、なんだかKAZUYAがギャルゲーの主人公に見えてきたぞ…

山田君相手にかww
マッチョと[ピザ]ッチョなんて流石の腐女子も食べられなさそうだ

それは違うぞ!はブスとか罰ゲームってことに対してかと思ってた。
つまり一番口説きに行ってる選択肢。

あと細かいが、腐川の一人称はあたしだな。

KAZUYAは今風のイケメンじゃなくて昭和の銀幕スターみたいな感じだなぁと黄色いハンカチの
健さんを見て思った。腐川さんは最初十神君みたいなキラキラ王子様系が好みなのかと思ってたけど、
オラオラ系のハイジにもときめいてたし映画の趣味的に渋いのも結構イケそうな気はする

>>179
【】がロンパポイントということで。最初はその通り思いっきり攻めようかなと思ったのですが、
あんまりアグレッシブに口説くのはKAZUYAっぽくないなと思い今の感じに。でもKAZUYAが
気を使ってくれたというのは腐川さんもわかっているので好感度は多少上がっています

人称は腐川さんに限らずほぼ全員間違ってて修正大変なのでそのままやっております。すみません


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次回、初霧切さんなので趣向を変えて霧切さんにする質問や会話内容を募集

真面目に黒幕や今後の攻略について聞くも良し。どうでもいい雑談をするも良し
多少ならネタに走ってもいいです(拾えるかはわかりませんが)。2,3個ピックアップする予定。
1をお!と唸らせるものがあれば親密度にボーナスかかるかも

↓5くらいまで

上げてなかった。あげ

とりあえず今わかってることとわかっていないことを教えて欲しい

1も健康と筋トレのためにバウンディングを始めた。かなりハードね、あれ
そして安価だけど……みんなもっとふざけてもいいのよ?というか落としましょうぜ、霧切さん


投下


               ◇     ◇     ◇


(なかなか良い汗をかいた。少し休もうかな)

(……そういえば、山田の原稿はどのくらい進んだのだろう)


KAZUYAは美術室に向かった。


― 美術室 PM3:49 ―


「おお、先生! 昨日の今日でもう僕の所に来るとは、さては原稿の続きが気になったのですかな?」

「まあ、そんな所だ」

「いやぁ、漫画に興味のない西城医師をここまで惹き付けてしまうとは、我ながらこの才能が恐ろしい!」

(本当は生徒達がモデルだから気になっているだけなのだが、それは黙っておくか)

「ずばり! 人気漫画には魅力的なライバルとヒロインが必要なのです!
 更に、この作品はRPGがモデルですので個性豊かな仲間達も必要となってきますな」

「フム、ライバルか……主人公の苗木のライバルだから、性格は反対のタイプの方がいいな」

「この作品の場合、ライバル兼相棒みたいな感じなんですけどね。誰だと思います?」

「相棒なら……桑田かな」

「正解! 流石西城医師ですな。僕達をよく見ています。では、今出来ている所までどうぞ」


渡された原稿をKAZUYAは読み始める。どうやら、謎の人物に王女が拐われるシーンからのようだ。


???『ヒフミン王よ、サヤカ姫は貰い受けるぞ!』

サヤカ『お父様! 私のことは気にしないでください! どうか、世界を……!』

ヒフミン王『サヤカアアアアア! ……クッ! 勇者に、世界の命運を担う者に託すしかないか……』

山田「僕は王様にしました。体格的にも丁度いいでしょうし。時々現れては主人公にアドバイスをするのです」

K「成程。姫は舞園か。まあ妥当だな」


場面は変わり、家でのんびりしていたマコトが唐突に拉致られてお城に連れて行かれた所に変わる。


ヒフミン王『という訳で、サヤカ姫を救い出して欲しいのです!』

マコト『いや、何が?! 僕は勇者の子孫の隣の家に住んでただけですよ?!』


ヒフミン王『でもねぇ。その子孫も高齢で跡取りいないし、君の村少子高齢化で
       君くらいしかまともな若者いないし。ここは引き受けちゃおうよ?』

マコト『イヤですよ?! 何でそんな投げやりなんですか?! よそから探せばいいじゃないですか!』

ヒフミン『なんで嫌がるの? 魔王倒したら姫と結婚出来ちゃうんだよ! ……ま、無理だろうけど』

マコト『本音出た?! 今思いっきり本音出たよね?!』

ヒフミン『ほら、あからさまな軍隊率いると魔王に警戒されちゃうし、ここは村人を
      勇者ってことにして派遣して、陽動兼様子見みたいな? 策士、ワシってマジ策士w』

マコト『ふざけないでくださいよっ! カピバラ百匹分の大人しさと言われる
     この僕も流石に怒りますよ?! ひっこ抜いて投げますか?!』

ヒフミン『わぁ、こわーい。衛兵ー!』

マコト『やめて、本当にやめて。いたいいたい! せめて武器かお金だけでも……!』


城門前。


マコト『放り出された……僕ってなんてツイてないんだろう……』

マコト『というか……え、嘘でしょ? 本当に武器もお金もなし? ケチだって
     有名なドラ○エの王様だって50Gとかひのきの棒くらいくれるのに?』

マコト『家でポケ○ンやってる時にいきなり拉致られたからスウェットのままだし、というか
     スウェットのまま王様の前に連れてくることに臣下の人は何も疑問を持たなかったの?』

マコト『帰ろうにもお金ないし武器もないし……もしかして詰んだ?』


1時間後。


マコト『街中のツボを覗いたけど薬草二個しか手に入らなかった……もう終わりだ』

???『そこのアンテナでスウェットのチビ! お前が姫様救出を任された勇者か?』

マコト『一応僕ですけど……えっと、誰かな?』

レオン『俺様の名前はレオン・クァーターだ!』

マコト『レオンって……まさか、赤毛の獅子?!』


マコト(田舎出身の僕でも知ってるぞ! 撃って良し切って良しの王都の天才戦士じゃないか!)

レオン『お、知ってるか。まあ当たり前だよな。俺有名人だしー。サインやろーか?』

マコト(うわ……めっちゃチャラくて嫌なヤツだった……)

レオン『って馴れ合ってる場合じゃねー! お前を倒して俺こそが姫に相応しい勇者だって王様に
     認めさせんだ! 大体なんだよ。俺が行くって言ってんのにどいつこいつも邪魔しやがって……』

マコト(それは違うよ! 僕捨て駒だから! 多分君が本命で温存したいだけ。……教えないけど)

レオン『ってワケで勝負だ! 丸腰とかよほど腕に自信あるんじゃねーか。行くぞ!』

マコト『だから違うんだってばー!』


省略(憎たらしいけど腕は凄いレオンの鮮やかな攻撃がマコトをボロボロにする描写)。


マコト『』ボロッ

レオン『……え、お前マジで一般人なの? 一般人に攻撃しちゃったの俺??』

マコト『だから最初からそう言ってるのに……』

レオン『ッベー、マジでヤベー……あ、ほらこの剣ボロいけどやるよ。慰謝料ってことで200Gやるから
     この件はなかったことにしようぜ。な? な? ハハハ……じゃあそういうことで!』ダダッ

マコト『ありがとう(……チャラいしいい加減そうだけど王様よりはいい人だった)』

・・・

マコト『何とか武器とお金は手に入ったし、これからどうしようか? とりあえず仲間を集めないと……』

???『災難だったわね、マコト君』

マコト『え、君は……?』

キョーコ『私はキョーコ。格好でわかると思うけど魔法使いよ。お城からあなたをずっと見てたわ』

マコト『え、今までの全部見てたの?! 恥ずかしいなぁ……』

キョーコ『王様からあれだけ酷い仕打ちを受けたのに、怒ったりサボろうとはしないのね?』

マコト『何も自慢出来ることのない冴えない僕だけど、前向きなのが唯一の取り柄なんだ。
     お姫様を助けたいって気持ちはあるし、何が出来るかわからないけど何かしようと思う』

キョーコ『クスクス。面白いわね、あなた。……仲間を探しているなら西に向かいなさい』

マコト『本当? ありがとう!』


・・・

ハガクレ『よう、そこの兄ちゃん。占いしてかねえか? 今なら初回割引で5%安くしてやるべ!』

マコト『ごめん、今お金に余裕なくて……』

ハガクレ『なんだ、シケてんな。貧乏人に用はないべ』シッシッ

マコト(露骨過ぎだろ……)


その時、マコトが唐突にバナナの皮で足を滑らせ盛大に転んでしまう。


マコト『わあっ!』ツルッ、ズテーン!パリーン!

ハガクレ『ぬなああっ! 俺の水晶玉がああああっ?! 弁償しろ!』

マコト『えええええええっ?!』

???『アハハ! 今時バナナの皮で転ぶとか古典ギャグ決めるヤツいる? 間抜けな勇者もいたもんだね!』

マコト『え、なんでそれを……?』

???『知ってるよ。アタシは全部知ってる……』

マコト『それってどういう『うおおおおおっ?!』

ハガクレ『勇者ってマジか?!』

ハガクレ(勇者と一緒に旅をした占い師ってことで売り出せば大儲け間違いなし!
      危なくなったり魔王城が近くなったら適当にバックれればいいべ!)

ハガクレ『俺は占い師ハガクレってんだ! なぁ、弁償するついでに俺を連れてけって。役に立つからよ』

ジュン『面白そー! アタシも行く行く! アタシは踊り子のジュンね。よろしくー』

ジュン(こいつと一緒に行けば色々と面白いものが見れそうじゃん? うぷぷ!)

マコト『え、えぇ?』

マコト(いきなり二人も仲間が出来たけど……なんか二人とも胡散臭いな……大丈夫なんだろうか?)


こうして、マコトは三人で旅を始めたのだった。


山田「最初は三人ですが、いきなりピンチになって桑田殿が乱入。以後は四人で旅をすることになるのです」

K「……しばらく桑田頼りになりそうだな」

山田「そこはまあ……謎の魔法使い・キョーコがパワーアップイベントとかを導いてくれるので」カキカキ

K(正直、俺は漫画もゲームも縁がないからこういうのはよくわからんが、山田がみんなを普段
  どういう目で見ているかわかるのは非常に興味深いな。……山田から見ても苗木は不運なのか)


どこをどう見ても普通のはずなのにやたら巻き込まれ体質で不運な苗木、天狗でお調子者だが
根は悪人ではない桑田、冷静に他のメンバーを導く霧切、守銭奴の葉隠……等など。


K(一つ気になったことがあるが……江ノ島の性格が俺の知っているものと微妙に違うような……?)


山田の同人誌完成率…………現在40%。



               ◇     ◇     ◇


美術室から戻る途中、KAZUYAは廊下でモノクマメダルを拾った。


(さっきはなかったはずだがモノクマが置いたのか? ……というか、引き出しの中や
 ベッドの下などはわかるが、廊下にポンと置いておくのはどうなのだ……)

(まあ折角拾ったのだし、久しぶりに購買にでも寄ってみるか)


モノモノマシーンのある購買部は保健室のすぐ近くにある。KAZUYAは半月ぶりに購買部に入った。


(引いても引いても凶器が出るし、いい加減保健室に隠すのもキツクなってきたから
 最近は来なくなっていたが、何が出るか……かさ張らないものがいいのだが)


チャリーン♪ ガチャガチャ、コロン。


「ん? ……お、おおおおおおっ!」

(初めてまともな物が出たぞッ!)


監禁一ヶ月目にして初めての勝利――!

出て来たのは少し大きめの試験官に入った小さなバラ――イン・ビトロ・ローズ。
小さいし綺麗だ。ここには植物がほとんどないから、きっと誰にあげても喜ばれるだろう。


(とは言っても、やはり女子がいいだろうな。誰にする? 心を開いていない腐川や安弘か、
 逆に普段よく手助けしてくれる舞園や朝日奈でもいいな。或いは……)


マントの裏のポケットにしまいKAZUYAが廊下に出ると、そこでばったり霧切と出会った。


・・・


「あら、ドクター。珍しい場所にいたのですね」

「さっきたまたまメダルを拾ったからな」

(霧切か。そういえば、石丸の件では散々協力してもらったのに、ここ数日は
 実習等でバタバタしてしまってろくに話せていなかったな……少し話すか)

「ところで霧切、少し話でもしないか?」

「! ……また男子トイレに行きます?」

「それは勘弁してくれ……」


霧切は悪戯っぽく笑うと髪をかきあげた。いつもは大人びた彼女が
時々見せる歳相応の表情は、何とも言えない艶やかさと可愛らしさを持つ。

しかし、どうもまた彼女は周囲と距離を取っているようだった。


(もっと打ち解けてもらいたいものなのだが)

「腐川が明日から無事復帰してくれるそうだ。フォローを頼む」

「そう……良かった。長かったわね」

「ああ。ただ、実は去り際にこんなことを言われてな……」


先程の腐川とのやり取りを話した。


「ドクター……前から思っていたけれど、彼女は愛情を欲しているのではないかしら?」

「そうだな。俺もそう思う」

「なるべく早く行ってあげてください。きっと待っていると思うので」

「わかった」


「これで目下の問題は全て片付いた訳だが、この先どう動くか君の意見を聞きたい」


腐川の件が終わり全員が復帰した今、KAZUYAは今後の方針をどうするか迷い始めていた。
ここらで一度、霧切の意見を聞いてみるのもいいかもしれない、と話を振ってみたのだが……


「……今まで通りでいいんじゃないかしら。特に私から言うことはないように思います」ツーン

「そうか……」


腐川の報告をした時とは打って変わり、霧切は少し素っ気なくなる。
ここまであからさまな反応を取られると、流石に鈍感なKAZUYAも気付いた。


(もしかして……拗ねているのか?)


思えば、霧切とはいつも業務的な会話ばかりだった。しっかりしているから忘れがちだが
彼女もまだ高校生なのだ。時にはそれを寂しいと感じることもあるだろう。


(……もっと普通の会話をしよう。何かないか?)

「話は変わるが、君はどんな本が好きなんだ? 腐川のお陰で、俺も最近読書に目覚めてな」

「好きな本? そうね、ミステリーやサスペンスが好きかしら」

「フム、確かに好きそうだな」

「ただ……私もここで腐川さんの小説を読んで、とても面白いと思ったわ。『磯の香りの消えぬ間に』と、
 『紐の青みの癒えぬ谷』は呼んだから、次は『おとといの家族』を読もうと思っています。他の本も
 気になるし……フフッ、もしかしたら監禁されている間に全部読破してしまうかもしれませんね」

「もしかして好きなのか? 恋愛小説が」


少し意外に感じてそう言ってしまったが、霧切は心外と言った様子で返す。


「あら、いけなかったかしら?」

「いや、そんなことはないが」


(そうだな。腐川の小説は女子高生からOL、果ては主婦まで幅広く支持があるそうだし、
 霧切も女性なのだから当然そういったものは好きだろう。……しかし意外だ)


もしかして、いっぱしに恋愛もしているのだろうか等と下世話な考えも浮かぶ。
そもそも、霧切のような落ち着いた女性に同年代の男子達はどう映っているのだろう。


「どうだ? この中で、誰か気になる奴でもいたりはしないのか?」

「……それはどちらの意味ですか?」


霧切は怪訝に眉をひそめる。


「怪しい、特に注意すべき人と言う意味ならドクターもよくわかっているはず。違う意味なら……」

「違う意味なら?」

「言う必要性を感じないわ。ドクターもそんなつまらないことが気になったりするのね」フッ

「……まあ、たまにはな」

(ウーム、親交を深めるために話しかけたが……かえって距離が出来た気がする。どうするか……)


その時、KAZUYAはマントの中のイン・ビトロ・ローズを思い出した。


「……ああ、そうだ。聞いてくれ。実は、始めてあの購買の機械からまともな物が出てな」

「何が出たんですか?」

「これだ」

「イン・ビトロ・ローズですね」

「そう。イン・ビトロはラテン語でガラスの中という意味で、まさしく
 試験官の中に入った薔薇だ。……もし良ければ、これを君に貰って欲しいのだが」

「……私に?」


目を見張る霧切を見て、やはり女子にあげるのは正解だったなと感じる。が、次の言葉で仰天した。


「イン・ビトロ・ローズを女性に渡す……ドクター、その意味をわかって渡しているのかしら?」

「えっ……?」

(まずいな……何か特別な意味でもあったのか? だが霧切ならわかってくれるはずだ)

「すまない。意味は知らないが……綺麗なものだから喜んでくれるんじゃないかと思ってな」

「……フゥ。ドクターのことだからそんなことだろうと思いました。……でも、本当に私で
 良いのかしら? 初めてまともなものが出たのでしょう? 舞園さんや朝日奈さんの方が……」

「いや、君に渡したい。いつも散々助けてもらっているからな。日頃の感謝の印だとでも思ってくれ」

「感謝だなんて……私達の方がよっぽどドクターにお世話になっているのに……」


そっと目を伏せた霧切の頬がほんのり赤く染まったのだが、KAZUYAは気付いていない。


「そこまで言われたら有り難く受け取ります」ニコ

「それは良かった」


何とか機嫌を直すことに成功したKAZUYAがホッと胸を撫で下ろすと、霧切はクスリと笑った。


「……でも、この学園にはほとんど植物がないから保健室に飾っても良かったんじゃないですか?」

「男の俺には今あるプランターで十分さ」

「フフッ」

「ハハハ」


その後も二人で他愛無い談笑をしたのだった。


本編はここまでだがおまけを2レス。


モノクマ「久々のモノクマ劇じょ……」

霧切「どきなさい」ゲシッ

モノクマ「あんっ」

霧切「ここから先は私が話すわ。霧切劇場とでも思って頂戴」

霧切「>>184さんへ。これが今わかっていることよ」


【物語編】(chapter.2終了時点での情報にプラスαしたもの)

・黒幕は様々な能力に特化した少数精鋭のプロフェッショナル集団と推測。
 また中枢メンバーに女がいるとKは予想している。
・二階男子トイレにある隠し部屋を発見し「人類史上最大最悪の絶望的事件」と
 「希望ヶ峰シェルター計画」についての知識を得たが、詳細はわかっていない。
・混乱を避けるため、具体的な証拠を掴むまで外の状況については伏せている。
・モノクマが内通者について話したため、生徒達はお互いに警戒しあっている。
・生徒達が部分的に記憶喪失を起こしていること、また黒幕が意図的にその状況を
 引き起こしたのではないかとKは考えている。
・黒幕メンバーに本物の江ノ島盾子がいることに気付いた。
・アルターエゴがPCから何らかのデータを解析した。
 →それは生徒に対する人体実験のデータだった。 New!
・ジェノサイダーが記憶を失っていないことをKAZUYAは気づいた。 New!
・希望ヶ峰学園には何やら裏があるように思える。 New!
・一連の実行犯は全員希望ヶ峰学園の生徒ではないかと予想。 New!


霧切「江ノ島さんを内通者だと断定しているのはドクターと桑田君。私と十神君は限りなく黒に近いグレー」

霧切「他の内通者に関しては、ドクターはセレスさんと大神さんを疑っているわ。
    特に大神さんはほぼ黒に近いと睨んでいるようね。根拠は今までに描写されているはず」


あと、初回サービスということで今回だけ特別に霧切さんの評価を公開します。

腐川について  +-0
今後の攻略  -10
好みの創作ジャンル  +5
気になる人  -10
イン・ビトロ・ローズ +30

差し引き+15

霧切「何でこんな結果になったかわかるかしら? 私はプロローグの後、ドクターと最初に
    二人っきりになったにも関わらず、その後は自由行動でひたすら選択されず……」

霧切「別に、怒っている訳じゃないわ。他に重要人物がいたらそちらを優先するべきだと思うもの。
    でも、一章にあたり自由行動は大体15~20程。二章までに38回もあったのよ?」

霧切「舞園さんも生きているし、私がダンガンロンパのヒロインだからなんて言うつもりは
    毛頭ないけれど、でもだからと言っていくらなんでも限度というものが……(以下略)」


本編の霧切さんはここまでキレていませんが、あまりに長期間放っておいたので拗ね切さんに
なってしまったようです。このSSはゲーム形式を取っていますが、1の頭の中では勿論ちゃんと
全員生きているので、あまり長期間放置するとこのようにマイナスなことが起こったり

本来は真面目な話は好まれるのですが、機嫌が悪い時に聞くとこんな結果に。
イン・ビトロ・ローズはやっぱり強いですね。プレゼントは次から規制しないと……
あと、気になる人も機嫌の良い時なら勿論答えてくれます

次回も頑張ってください(次回があるかは安価次第ですが)。では

よそのスレで散々絶望姉妹の誕生日おめでとう!って書かれてて
自分も最後にそう書くつもりだったのに……すっかり忘れてた

モノクマ「直前まで覚えてたくせに忘れられるなんて余りに間抜けすぎて絶望的だよ!!」

お詫びに小ネタを少し……


― オマケ劇場 26 ~ 最高の絶望を貴方に ~ ―


ワーワー! ワイワイ! キャーキャー!


江ノ島(みんな楽しそう……でも、そのせいで最近盾子ちゃんが退屈そうにしてる……
     『この間ケーキ貰っちゃったし、少しだけ猶予期間あげるわ』って言ってたから、
     しばらくはこのままだろうし……ここはお姉ちゃんが何とかしてあげないと!)グッ!

江ノ島(盾子ちゃんを喜ばせることと言えば、やっぱり絶望だよね? でもどうやって絶望させよう?)

江ノ島「あ、苗木ぃ! ちょっと聞きたいことがあるんだけどさあ」

苗木「ん? 江ノ島さん、どうしたの?」

江ノ島「人間を効率よく絶望させるにはどうしたらいいと思う?」ニタァ…

苗木「」

・・・

江ノ島(苗木君、なんか引きつった顔して慌ててどこかに行っちゃったけど、どうかしたのかな?)

江ノ島(でもこれで方法がわかった! やっぱり絶望といえば大切な人が傷つくことだよね!
     そして盾子ちゃんの大切な人といえば私。私が怪我をすればきっと盾子ちゃんは絶望する)

江ノ島(待っててね、盾子ちゃん。今お姉ちゃんが盾子ちゃんに絶望を届けてあげるから!)

江ノ島「ねえ葉隠! お金払うからちょっとアタシを殴ってくれない?」

葉隠「やらねえよ?! つーか、俺何でも屋みたいに思われてねえか?!
    いくら金を積まれたってなぁ、そんな酷いことは出来ねえべ!」

江ノ島(親身に相談に乗ってくれる友達の内臓を売るのは酷くないのかな……)


その後、なんやかんやあったがことごとく失敗する。


戦刃「ごめん……お姉ちゃん、頑張ったんだけど盾子ちゃんを絶望させることは出来なかったよ……」

江ノ島「 帰 れ ! 」


― オマケ劇場 27 ~ 結びたいお年頃 ~ ―


K「縫合で一番大切なのは糸の結びだ。緩いのは論外だな。縫合した箇所がほつれれば
  縫合不全を引き起こすばかりか、一度吻合した臓器や血管が外れてしまう」

K「かと言ってあまりに強く結び過ぎれば、縫合箇所の細胞が死んでしまう。時と場合によって
  強弱や結び方を繊細に使い分けねばならないのだ。これはとにかく練習して感覚を掴むしかない」

石丸「成程!」

・・・

桑田「ちょっ、誰だよ?! 俺のバットの持ち手にヒモ結んだ奴?!」

朝日奈「カップの持つ所にもヒモついてる!」

大和田「箸もだぞ! なんだこりゃ?!」

山田「拙者の愛用のペン―?!」

葉隠「俺の水晶球ー?! ……は平気だったべ」テヘ♪

苗木「あ、えーと……許してあげてくれないかな。ほら」

石丸「……!」真剣

K「熱心な医大生は棒状の物を見るたびに糸結びの練習をしたくなったりするものだが……やりすぎだ」

・・・

江ノ島「誰?! 私のモデルガンに紐結んだの?! これじゃ撃ちにく……」

モノクマ「そんな所に置いておくんじゃねえよ、このバカっ!!」バキッ!

江ノ島「い、痛いよ盾子ちゃん……」


公式のクリスマスツイートが面白かったので最後にもう一本


― オマケ劇場 28 ~ クリスマスの思い出 ~ ―


Q.クリスマスの思い出といえば?


不二咲「クリスマスと言えばねぇ、毎年お父さんがローストチキンを買ってきてくれるんだぁ。
     僕はお母さんと一緒にお菓子を作ったり。でもね、お父さんてばいつも小食だから
     そんなに食べられないって言うんだ。僕より大きいのに情けないよねぇ、もう」

大神「クリスマスだろうが何だろうが、我が道場は鍛錬を欠かさぬ。……ただ、鍛錬が終わった後には
    門下生全員が集まってパーティーを催したりしていたな。勿論ケーキも出るぞ。……我の手作りだ」

十神「フン、クリスマスだと? 全く面倒な催しを考えてくれたものだ。この俺クラスの人間となると
    あちらこちらのパーティーからお呼び出しがかかってな。仕方なく顔を出してやっている」

霧切「張り込みが多いかしらね。ほぼ確実にターゲットが外出するから。……それ以外になくもないけど」

K「クリスマスか……いや、何でもない。ふと、昔の患者のことを思い出してしまってな……」

腐川「なに? アタシを笑うつもり? そうね、そうなのね?! ……どうせアタシが恋人はおろか
    友達や家族すらいない孤独なクリスマスを過ごしていることを笑う気なんでしょう?!」キィィ!

石丸「クリスマス……クリスマスもお父さんは仕事で家に帰ってこなくて、毎年お母さんと
    二人でケーキを食べるのだ。でも僕は知っている! いつもサンタさんの代わりに、
    深夜に帰ってきたお父さんがこっそり参考書を枕元に置いてくれていることを!」ブワッ

・・・

桑田「クリスマスは毎年予定でいっぱいだから。去年も今年も来年もいっぱいだから。
    いっぱいの予定だから! 予定ってのはまだ決まってないってことだからいーだろ!」

大和田「うるせえゴラァ! クリスマスは毎年集会って決まってんだよ! 仕方ねーだろ!
     暴走族はなぁ、モテねえんだ。暴走族だからモテねえんだぞ? けっして俺個人が
     モテないワケじゃねえぞ? その……兄貴は例外だ! 例外なんだ! チクショウ……」

山田「三次元に興味はありません。その翌週の聖戦に備えます! ええ、本当です! キリッ!!」


セレス「見苦しいですわね……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ここまで。
あと前スレ投下終了したので埋めてくれると助かります。それでは皆様、Merry Christmas!

前スレ1000了解です。「誰に」と書いてないのがミソですね


……そして、年末なので1もちょっと反省を。ここの住人さんは凄く優しいので
マイナスの感想とか書いたりしませんが、ぶっちゃけここ最近ちょっとダレてますよね?
初期のを読み直してみたら自由行動は大体一人あたり3レス前後で今の半分だし

一応、合間合間にギャグやほのぼの入れたりトリビア入れて飽きさせない工夫はしているけど
限度があるだろうと。書かれていないだけで、さっさと本筋進めろという意見もきっとあるはず

最近ダンガンロンパというジャンル自体ちょっと人少なめで寂しいので、ここもガンガン進め、
書き溜めしてる他のダンロンSSとかも近いうちに投下できるよう頑張ろうと思います。

以上、来年に向けての所信表明みたいなものでした。投下は今日中を目処に頑張ります。

IFで、バッドエンド見てみたいです・・・例えば・・・

①不二咲死亡エンド(自家中毒)
②舞園自殺エンド(桑田が舞園と話をしなかった)
③江ノ島が朝日奈殺害エンド
④石丸自殺エンド(十神が追い詰め)
⑤桑田が舞園殺害(Kとの好感度が0の続き)
⑥石丸の話を信じて、投票エンド
⑦大和田が石丸殺害

 等々・・・ドクターKや苗木がいない状態で、こんな状況になっていたら、ある意味でバッドエンドだな。駒園さんが、霧切に苗木を取られたり、苗木が死んだら、自殺したり、精神崩壊しそうだな・・・


               ◇     ◇     ◇


夕食後、珍しくセレスの方からKAZUYAを誘ってきた。


セレス「お時間よろしいでしょうか? 一緒に娯楽室に行きませんこと?」

山田「!」

K「構わないが」

桑田「は?! なんでお前がせんせーに……」

セレス「お黙りなさい」<●><●>ギロッ!

桑田「」

舞園「いいじゃないですか。セレスさんだって先生と仲良くしたいんですよ」

大和田「……どーだか」

不二咲「そ、そんなこと言わないで仲良くしようよぉ」


― 娯楽室 PM7:02 ―


「夕食はどうだった?」


今日の夕食は前回宣言した通り、セレスのリクエストの餃子だった。


「先生の班は確か男子しかいないはずでしたが……思ったよりよく出来ていましたわね。意外ですわ」

「大和田は見かけによらず器用だし、不二咲も手先が繊細だからな。桑田も人並みには出来る。石丸は……」

「形が悪いのは全部石丸君のでしょうね。ひと目でわかりました」

「まあ、うん……あれでも少しずつ上達してる方なんだ」

「ですが味はとてもよろしかったですわ。また作ってくださいます?」

「じゃあ、また勝負でもするか」


こだわりの強いセレスに誉められ、KAZUYAも満更でない顔でそう返した。


「……ポーカーもやりあきましたね。どうです、次はビリヤードでも?」

「そうだな。久しぶりだが」


KAZUYAはマントを脱ぐと、スッとキューを手に取った。その姿を眺めながら、セレスはふと思う。


(……西城先生がマントを外した所を見るのは、何気に初めてですわね)


保健室にいる時はすぐ側に道具があるのでマントを脱いでいる時もあるが、外ではいつ非常時になるか
わからないので脱ぐのは風呂の時くらいであった。セレスは保健室に来ないので見る機会もない。


「あら……驚きましたわ。西城先生は随分スタイルがよろしいのですのね?」

「そうか?」

(ムキムキマッチョマンなイメージが強すぎて、ここだけの話……ずっと短足だと思っていました)


KAZUYAと言えばとにかくマントの印象が強いし、向き合ったら向き合ったで鍛え上げた大胸筋や
太く逞しい二の腕に目が行ってしまって、あまり全体をちゃんと見たことがなかったのである。


「……服装にもう少し気を遣ったら如何ですの。折角のプロポーションが泣いておりますわよ?」

「結構だ」ムスッ


服装については実はよく言われる。これが一族の流儀なのだから放っておいてくれと思っていた。

しかし、余談だが……KAZUYAが知らないだけで、意外と一族はその時代に合った服装をしていた。
祖父・一宗はマントの下にスーツを着用していたし、父ですら若い時はちゃんと白衣を着ていたのだった。


「ちなみに先生、ビリヤードは?」

「海外に行った時に付き合いで多少やった程度だが、細かい手先のコントロールには自信がある」

「それは期待出来そうですわね」


・コンマ勝負! その2

セレスとビリヤードで勝負する。40以上で勝利。数字が大きいほど良い。ゾロ目でクリティカル。


書き忘れた。直下


結果はKAZUYAの敗北だった。しかし最後まで接戦であり、なかなか良いゲームであった。


「流石に強いな」

「うふふ、先生こそ。あそこでミスショットをしたのが痛かったですわね」

「また機会があればやろう」

「いつでもお相手いたしますわ。……でも、次はスーツで来てくださいます?」

(興味が無いから今まではいい加減に見ていましたが、ちゃんと見てみたら外見はそこそこでしたわ。
 手足が長いからビリヤードをする姿も映えますし、服装さえちゃんとしていたら……)


KAZUYAは非常に渋い顔立ちをしているし、ブラックスーツが良く合いそうだと思う。


「それは断る」

「……では、次の賭けの内容はそれで」


そう言ってセレスはニコリと微笑んだ。



― 保健室 PM8:05 ―


セレスの誘いに付き合った後、KAZUYAは苗木と石丸を保健室に呼び出した。
服が汚れてもいいように、事前にジャージに着替えさせている。


石丸「夜の実習だな!」

苗木「石丸君……病み上がりなのに元気だね……僕は昼の疲れがまだ残ってるよ」

K「石丸は元々かなり鍛えていたから体力の基礎値が高い。それに、精神がおかしかった時も
  俺がなるべく体を動かすように誘導してたからな。筋肉はそこまで衰えていないはずだ」


廃人同然だった石丸は部屋から出ようとはしなかったが、以前の習慣を再現する癖があったので
KAZUYAはそれを最大限に利用して部屋の中で運動をさせていた。なので、手術直後はほとんど
寝たきりだった舞園や不二咲より体力があるのは当然なのである。


石丸「僕とて多少は疲れているが気合で何とかしているぞ。苗木君も頑張ろう!」

苗木(そう言われても……)


K「安心してくれ。今度のは気管挿管ほどは疲れんはずだ。……神経は使うがな」

苗木「一体何を……」

K「静脈注射。つまり注射だ」

苗木「ええええ?!」

石丸「ちゅ、注射ですか!」

K「そうだ。ゴムチューブに布を被せただけの簡単な模型ではなく、いよいよ人体――俺の体を使う」

苗木「え、で、でも……!」

K「……注射の重要性はお前達でもわかるだろう? 俺が手術で手が離せない時に
  補助が出来るし、何より出血が酷い時は輸液や輸血で時間稼ぎが出来る」

K「気管挿管と注射……この二つが使いこなせれば大きな武器となるのは間違いないんだ」

石丸「そう、ですね……」

苗木「…………」

苗木(石丸君、顔が青いぞ。多分僕も似たようなものだろうけど……確かに先生の言う通りだ。
    いざって時に出来るか出来ないかは大きい。……でも、やっぱり血を見るのは怖い)

苗木(ましてや先生の体を針で刺すなんて……)

石丸(……本当に、僕に出来るのだろうか。もし神経を突き刺したら腕が麻痺するのでは?!
    い、いや……医者になるならこれは必ず通る道だ。そんなことわかっていたではないか……!)

K「……怖いか。まあ、当然だな。最初は誰だってそうだ」

石丸「ちなみに、先生が初めてされたのは……?」

K「五歳の時だったかな。親父相手に。それはそれは怖かったよ」

苗木・石丸「…………」

K「だが、この技術は確かに俺と……色々な人を助けてくれた」


KAZUYAは語って聞かせた。彼が小学生の時、或いは中学生の時に
不慮の事故に遭った人の治療をした話を。二人の生徒は真剣に聞いていた。


K「どうだ? やれるな?」


二人は一瞬お互いの目を合わせると、まだ顔は青いままだが確かに頷く。


苗木・石丸「……はいっ!」

K「よし。では早速準備だ。扱い方や手入れの仕方は以前教えたから、いきなり実践に入るぞ」

K「上腕部を駆血帯で絞めて静脈を浮かび上がらせる。そこを狙って刺すだけだ。
  毎年健康診断で採血しているから、何となくわかるだろう?」

石丸「何となくは覚えていますが……」

苗木「まあ、実際に出来るかは別だよね……」

K「指先で触れて浮き上がっている静脈を探す。狙いを決めたらしっかり消毒し、思い切って刺す。躊躇わないことだ。
  針を抜いたら揉まずにガーゼ等で圧迫して止血する。……まあ、細かい手順は緊急時には省略しても良いがな」

K「見える血管よりも触れられる血管が優先だ。目に見える血管というのは、単に血管壁が薄く色が
  透けているだけで実際は刺さりづらいことが多い。以前も教えたが第一選択の血管は肘正中皮静脈だ」


早速道具を揃え、実習を始める。が、


苗木(あれ……駆血帯ってどうやって結ぶんだっけ? 緊張でド忘れしちゃった……)


駆血帯:くけつたい。上腕部を絞める器具。ゴムチューブが多い。留める器具がない場合は自分で結ぶ。
     静脈は動脈に比べ流れが強くないので、軽く絞めただけでも流れが止まる。それを利用し、
     駆血帯で動脈を流したまま静脈の流れを止めると、静脈が浮き上がって針が刺しやすくなるのだ。


苗木(チョウチョ結びじゃ不味いよな。固結びも駄目だし……えーと)

石丸「苗木君! 駆血帯の結び方はこうだぞ!」

苗木「え、あ、ありがとう」

苗木(石丸君は不器用だけど、知識面では本当に頼りになるな)

K「すぐに血管が見つからなかったら、こうやって拳を開いたりマッサージしたりするといい」グーパー

苗木(うわ、先生凄い血管浮いてるー! 医者に優しい血管してるな)


・・・


K「…………」

苗木「…………」

石丸「…………」


結論から言うと、当然だが始めは上手く行かなかった。

二人が何度も失敗するのでKAZUYAの腕は次第に赤黒い血腫だらけになり、それに伴い口数も減っていった。


苗木「あの、すみません……」

K「気にするな。始めは誰でもこんなものだ」

石丸「はい……」


KAZUYAは眉一つ動かさず顔には一切出さないが、痛みをこらえているのは二人も薄々感じていた。


苗木(僕は怖がって刺し方が甘く、針が血管まで到達しないことが多かった。逆に
    石丸君は勢い余って血管を貫通したり、見当違いの所に刺すことが多かった)

苗木(僕達が共通で失敗するのは『血管に逃げられること』。針を刺した時の僅かな振動で血管が
    動いて刺しそこねてしまうんだ。折角上手く刺さったのに途中で針が抜けたりとか……)

苗木(あと、先生の血管てかなり頑丈だよね。勢い良く刺さないとこれまた血管が逃げちゃう。
    本当に難しい……今更ながら、健康診断の時の看護婦さんには頭が下がるよ)

石丸「…………」ドキドキ

K「……(ピキッ)! 引けッ!」

石丸「ヒッ! は、はいっ!」サッ!

K「…………」


KAZUYAは一瞬険しい顔をすると、何かを確かめるように拳を開いたり閉じたりしている。


石丸「…………」ガクガク

石丸(ま、まさか神経を傷付けてしまったのではっ……?!)

苗木「先生……?」タラッ


K「……大丈夫だ。続けよう」

石丸「ですが……!」

K「大丈夫だと言っている。むしろ、本番でなくて良かったではないか」

K「医者になるのではなかったのか? お前の覚悟はそんなものか?
  実習にトラブルは付き物だ。いちいち気にしていたら先に進めなくなるぞ」

石丸「…………」

石丸「……わかりました。再開します」

K「それでいい。もう0.5ミリこっちにずらしてやってみろ。針はもっと寝かせてな」

石丸「はい……」

K「よし、落ち着いてやれば出来る。焦らなくていいからゆっくり確実に挿れるんだ」

苗木「…………」


あれだけ青ざめて震えていた石丸が、何とか深呼吸して震えを抑え冷静に
実習を再開した姿を見て、苗木はこの男と出会ったばかりのことを思い出していた。


苗木(復活してから、石丸君は本当に強くなったと思う。元々意志は強かったけど、
    前の石丸君だったらこんなに早い切り替えは出来なかったはずだ)

苗木(それだけ、彼の中で医者になるという決意は強固なものなんだろう。そんな石丸君の
    必死で一生懸命な姿を見ていると、ただ流されているだけの自分が恥ずかしくなる……)

苗木(――果たして、僕は今のままでいいのだろうか)

石丸「よし、上手くいっ……」

K「馬鹿者っ! 駆血帯をつけたまま針を抜くなと……!!」


ドバァッ! チミドロフィーバーッ☆

※駆血帯をつけたまま針を抜くと、せき止められていた血が穴から一斉に噴き出る。


石丸「ぬおおおおおおおおおおおっ?!」

苗木「うわああああああああああああああっ?!」


K「……ハァ。血を拭いたら、次は点滴の練習に移ろうか。とりあえず俺にリンゲルを入れてくれ……」


リンゲル液:生理食塩水にカリウムやカルシウムを加えたもので、体内の水分や血液が急速に失われた時、
       一時的に補充する用途で用いられる。軽い出血程度なら輸血しなくともリンゲル点滴で問題ない。


・・・


実習後、カチャカチャと二人で使用した道具類を消毒していると石丸が話し掛けてきた。


石丸「苗木君は凄いな! もう何度か成功しているとは。僕より全然向いているのではないか?」

苗木「そんなことないよ」

苗木(器用と言っても器用貧乏というか、何でも平均的に出来るだけだ。というか、
    人並以上に不器用な石丸君と比較したら誰だって才能があることになりそうだけど)

石丸「……だが負けないぞ。フフッ、僕はこう見えて意外と負けず嫌いでね!」

苗木「うん、知ってる」

石丸「さて、夜時間になる前に僕は兄弟とサウナに行かねばならない。一足先に失礼いたします!」

K「ああ」

苗木「また明日」

K・苗木「…………」

苗木「これで終わりっと。じゃあ先生、僕も……」

K「そう慌てるな。茶でも飲んで行かないか?」

苗木「え?」


KAZUYAに誘われ、苗木はKAZUYAと向き合って座る。


K「慣れないことばかりで、今日はさぞかし疲れたろう」

苗木「……疲れてるのは先生の方じゃないですか? 先生だったら楽に出来ることも、
    僕達みたいな素人じゃ全然上手く行かないし、一歩間違えたら大事故なんですから」

K「まあ、確かに神経は使ったよ。やはり勝手は違うな」フゥ

苗木「アハハ。でしょう?」


K「だが、少しずつ上達していく姿を見るのはとてもやり甲斐がある。
  大学の教師達もきっとこういう気持ちで仕事をしているのだろうな」

苗木「そうでしょうね」

K「苗木……単刀直入に聞くが、迷っているのか?」

苗木「えっ?」


唐突な質問に、苗木はどう返したらいいかわからず困惑した。


K「慣れないからではなく、手つきそのものに迷いがある気がした。俺の気のせいかもしれんが」

苗木「……KAZUYA先生は、本当に何でもわかっちゃうんだなぁ」

K「人生経験が違うからな。それに、元々お前は石丸に付き合わされ半ば強制的に
  始めただけだった。ここまで深い場所に来て、そろそろ迷う頃合いだと思ったのだ」

苗木「…………」

K「苗木、別に迷うことは恥ずかしいことではない。前にも言ったが、俺はお前に医者になることを
  強制する訳ではないからな。ここにいる間は必要だからやらせるが、脱出したら俺達に気を遣わず
  違う道に進んでいいし、他にやりたいことがないならこのまま医者になるのもいいだろう」

苗木(他にやりたいことがないならこのまま医者になるのもいい、か……)

苗木「……先生は、そんないい加減な理由で僕が医者を目指しても許せるんですか?」

K「仕事さえきっちりこなしてくれれば俺は何も言わんよ。それこそ医学部には色んな人間がいた。
  儲かるから、格好良いから、親が医者だから……酷い時は何となくなんて理由の奴もいたな」

K「ずっとそのままの人間もいるし、何らかの切欠で使命に目覚める者もいる。
  だが、一番大切なのは患者に対して真摯に向き合えるかどうかだ」

K「情熱を持って臨むのは確かに素晴らしいことだが……極論すると、
  冷たいが腕は良い医者と情熱的で腕の悪い医者なら患者は前者を選ぶ」


誰よりも熱い心を持つKAZUYAだが、その落ち着いた冷静な語り口が医者に必要なものを端的に表していた。


苗木「…………」

K「苗木、お前は怪我人を見た時どんな気持ちになった? 傷ついた友人達を見てどう思った?」

苗木「……悔しかった。僕にも何か出来ることがあればって思いました。あと、
    テキパキと処置をする先生が格好いい……正直、羨ましいって思いました」

K「医者になるのに、強固な決心や決意がなければいけないなどという決まりはない。
  誰かを助けたい。人の役に立ちたい。その気持ちがあるならお前はもう立派な医者志望だ」

苗木「そう、ですね……うん、そうだ。ありがとうございます。先生は人を励ますのが上手ですね」

K「……同じことを石丸にも言われたよ。俺は人を励ます天才だそうだ」

苗木「あの石丸君が天才って言ったんですか……?!」


驚愕する苗木の顔を見て、KAZUYAは柔らかく笑う。


K「石丸も、お前も、他のみんなも変わった。――勿論良い方に。
  だが俺の力ではない。俺はほんの少し手助けをしただけだ」

K「自信を持ってくれ。そして影からみんなを助けてやってくれ。お前なら出来る!」

苗木「はいっ!」


苗木が去ってからも、KAZUYAはまだ考え事をしていた。


(……てっきり黒幕の邪魔でも入るかと思ったが、何もなかったな)

(付け焼き刃の医療など何の意味もないと思っているのか、俺の悪あがきを面白がっているのか)

「或いは両方、か――」


今までのモノクマの言動から、黒幕は計算よりも自分の欲求を判断基準にしていることは
明らかである。なので、予測不能なKAZUYAの動きを面白がっている可能性は十分ある。


(まさかここまで本格的に取り組むとは思わなかっただろうしな。……だが、問題は奴が飽きた時だ)


この頃になると、黒幕が非常に飽きっぽい性格だと言うのはKAZUYAも気付き始めていた。
変にフェアな所があるのでいきなり仕掛けてくることはなさそうだが、余り猶予はないだろう。


(苗木には悪いが、全力で詰め込ませてもらうぞ!)


キッと前を見据えるKAZUYA。

――しかし、次の瞬間には頭から机に突っ伏す。


「…………」

(……ただ、今日はもう休もう。あまりに神経を使いすぎて、血管迷走神経反射を起こしたようだ……)


血管迷走神経反射(VVR:vaso-vagal reactions):

 主にストレスが原因で血管の迷走神経を刺激し血管が拡張。血圧低下や徐脈(心拍数が減ること)を
引き起こして脳が酸素不足になる症状。冷や汗、顔面蒼白、吐き気等の症状が現われ酷い時には失神する。
採血の時に具合が悪くなったり失神した場合はほぼこれが原因である。

 ちなみに、立ちくらみもこれに該当する(立ちっぱなしで血が脚に溜まり、脳が酸素不足になるため)。
もしこの状態になってしまった場合は、落ち着いて頭部を下げたり横になって休むと短時間で回復する。


(……この俺がバテるとは、自覚していないだけで相当なストレスだったようだ)

(これが毎日続くとなるとキツイなァ……)


流石のKAZUYAも心の中でそうボヤいたのであった。


ここまで。ダンガンロンパの男子はみんな比較的現実寄りの体型ですが、KAZUYAは
漫画体型なのでめっちゃ足長いです。頭も小さいのでコマによっては12頭身くらいある


>>215
リクエストありがとうございます! 全部はちょっと厳しいので、短めにまとまりそうなものを
いくつかチョイスして、章の終わりとかスレの終わりのキリのいい時に投下しようと思います


皆様、明けましておめでとうございます。

このSSを書き始めてから、二度目のお正月を迎えました。
今年もポツポツ書いていきますので、どうかよろしくお願いします。

……ちなみに、今年中に正規エンドの一つは迎える予定です。
むしろ本編は終わらせているかもしれない。そのくらいの心持ちで行きます。

投下についてですがお正月はちょっと忙しいので、3日夜予定。



― KAZUYAから一言 ―


K「みんな、明けましておめでとう。今年もよろしく頼む」

K「正月だからといって、お雑煮やお節を食べ過ぎてはいないか? それもいいが、もし万が一
  身近に餅を詰まらせてしまった人がいたら、直ちに119番に連絡をして以下の処置をするんだ」


ハイムリック法:相手の背後に立ち、両手を回しこんで相手のみぞおち辺りで手を繋ぎ、斜め手前に突き上げる方法。
         ※相手の意識がない状態で行ってはならない。嘔吐したものが気道に入る可能性がある。
          また、内臓を傷つける可能性があるため乳幼児にはしてはいけない。

背部叩打法:はいぶこうだほう。対象者を自分に向かせて横にする、或いは頭が下になるように椅子に載せる。
       その後、背中の肩甲骨の間を強く殴打する。ハイムリック法で効果が無い時はこちらに移行。


K「掃除機で吸う方法は逆に奥へ押し込んでしまう可能性があるから、あまりお勧めは出来ない。
  本当に最後の手段といった所だな。ちなみに、詰まったものが視認できる場合は以前にも教えた
  【指交差法(クロスフィンガー法)>>146】で口を開き、直接取り除いてもいい」

K「ただし! 患者は窒息して暴れる。指を噛みちぎられないように【必ず布か何かを指に巻いて保護すること】!」

K「応急処置を試みるのもいいが、上でも書いた通りまずは119番をするのが一番だな。それでは良い正月を」


K「……おっと、大事なことを言い忘れていた。次の自由行動は三人+場所選択一つだ。
  重要なフラグが立っている生徒もいるから、よく話し合っておいた方がいいぞ」


投下しちゃっていいのかな? 終わったら即安価っすよ?


と聞きつつ投下


― コロシアイ学園生活三十三日目 食堂 AM7:30 ―


その日の朝、十神を除く生徒全員は通常より早く食堂に集まっていた。
前日の夕食時に腐川の復帰をKAZUYAがアナウンスしたからだ。


K「俺が迎えに行く。みんなはいつも通りにしてくれ」

朝日奈「わかってるよ! 盛大に歓迎してあげなくちゃね!」

山田「盛り上げ役はお任せあれ!」

K「いや、本当に自然体でいい。……恐らく、あまり盛大にやると驚くと思うんだ。
  復帰パーティーを開くのは全く構わないが、もっと落ち着いた時にしてくれ」

霧切「彼女の性格的に、驚かすと怯えて逃げ帰ることも有り得るものね」

苗木「うん。なるべく以前と同じように自然に接してあげようよ」

江ノ島「ハァ。メンドくさー」

セレス「本当、西城先生は優しい人ですこと。この場に適応出来ない人間は死んでいくだけですのに」

大神「そのようなことを言うな。腐川とて仲間だ」

葉隠「ジェノサイダーがいなければなぁ。こう、もうちっとなんとか……」

不二咲「で、でも……それはきっと腐川さんが一番そう思ってるはずだよ」

舞園「そうです。ジェノサイダーも含めて、腐川さんを受け入れるって決めたじゃないですか」

桑田「つーか十神どうしたんだよ? またあいつ一人で勝手なことやってんのか?」

大和田「……連れてくるか。なんなら力づくで」

石丸「力づくでは駄目だ! 僕が説得してこよう!」

K「いや、いい! アイツは後回しだ。まずは俺達で受け入れるべきだろう」

苗木「じゃあ、先生……」

K「ウム。……行ってくる」


・・・


K「おはよう」

腐川「お、お、おお……おはよう、ございま、す……」


インターホンを鳴らすと腐川は出てきた。落ち着かない目で周囲をキョロキョロと見回している。
一見いつもと変わらない風であったが、腐川が珍しく身だしなみをきちんとしていることに気が付いた。


K「ム、ちゃんと風呂に入ったんだな」

腐川「!! は、は、入ったけどそれが何か?! というか、何でそんなことをわざわざ聞く訳っ?!」

K「え? いや、珍しく石鹸の香りがしたから……」ハッ

K(不味いな……こういうことを言うとセクハラに当たるか? 嫌な時代だな……)

K「すまない。不快だったら聞かなかったことに……」

腐川「男に風呂に入ったことを聞かれるなんて、こ、これは……?!」

腐川(誘われてる?! アタシ誘われてるのっ?!)ハァンッ!


 ~  妄  想  で  す  ~


『石鹸の匂いを漂わせるとは……この俺を誘っているのか?』

『ひ、ひえぇ……そんなつもりは! そ、それにアタシには白夜様が、白夜様という人が既に……!』

『そんな奴、俺がこの腕で忘れさせてやる! 来い、腐川!』

『あ、ああっ! 鍛え上げた大胸筋が、上腕三頭筋が……! あぁ~れぇ~!!』


ホワンホワンホワ~ン……


腐川「だ、駄目よ……! アタシには、アタシには白夜様が……は、はぁぁん……」ハァハァ!

K「えっと……大丈夫か?」


K(荒い呼吸で白目を剥いているが、どこか体調が悪いのだろうか? それに、心なしか俺も悪寒が……)


腐川の様子は明らかにおかしかったが、KAZUYAの直感があまり触れない方がいいと警告したので素直に従った。


K(まあ、病気ではないようだし放置しておこう……)

腐川「ハッ! い、いけない! アタシとしたことがつい浮気をしてしまうところだったわ……!
    覚えておきなさい! アタシは貞操が堅いのよ。筋肉なんかで落とせると思ったら大間違いっ!!」

K「えっ、ええ? あ……うん」


既にKAZUYAは腐川のテンションについて行けてなかった。そして、腐川が訳のわからないことを
言い出したら、とりあえず適当に合わせて誤魔化しておこうと心に決めたのであった。


K「さあ、食堂に行こう。みんな待っているぞ」

腐川「…………」


・・・


ズラッ!!


一同「…………」

腐川「…………」


食堂の一番大きなテーブルに生徒達全員が座り、入り口から入ってきた自分を凝視する。
腐川は遅刻した生徒のような、何とも言えない気まずさを感じて思わずその場に立ち竦んだ。


石丸「腐川君、おはよう!!」


こんな時ばかりは、石丸の空気の読めなさもかえって役に立つ。


石丸「諸君、一日の始まりはまず挨拶からだぞ! ほら、みんなも大きな声で挨拶したまえ!」

苗木「そうだね。腐川さん、おはよう!」

舞園「おはようございます!」

朝日奈「おっはよー!」

不二咲「おはよう」

桑田「チーッス」

大神「おはよう」

セレス「おはようございます」

大和田「ウス」

山田「おはようですぞ!」

葉隠「おはよーさん」

江ノ島「オハヨー!」

霧切「おはよう」

腐川「お、おはよう……ア、アタシ……その……」


もごもごと口ごもる腐川に、KAZUYAは優しく席に勧める。


K「募る思いもあるだろうが、今は朝食の時間だ。まずはみんなで食事をしよう」

腐川「で、でも……その、ふじ、不二咲は……」チラリ

不二咲「腐川さん」

腐川「ひ、ひぃぃい?!」


不二咲が声を掛けると、腐川は今にも腰を抜かさんばかりに慌てふためきながらのけぞった。


腐川「ゆ、許して! 許してぇっ! ア、アタシがやったんじゃ……!」

不二咲「その話はまた今度でいいよぉ。とりあえず今は、早くご飯を食べよう?」

舞園「不二咲君もそう言ってますし、腐川さんもこっちにどうぞどうぞ!」グイグイ

腐川「あ、ちょ、ちょっと! 引っ張るんじゃないわよ……!」ワタワタ

石丸「よし! 十神君がいないのは不本意だが、とりあえず全員揃ったな。それでは……!」

「誰がいないだと?」

「!!」

腐川「びゃ、びゃ、白夜様……!!」


全員が声のした方向を一斉に見る。そこには、相変わらず剣呑な雰囲気を纏った十神が立っていた。


大和田「オメエ、来たのか」

十神「来てはいけないのか? 俺だけ朝食を食べるなと?」

大和田「そういう意味じゃねえよ……」

葉隠「ま、まあまあ。喧嘩腰は良くないべ」

苗木「うん。十神君が来てくれて良かったじゃないか」

腐川「白夜様……」


腐川は心配気な表情で十神を見つめるが、十神は特に気にした様子もなく一瞥だけ見てすぐ目を逸らす。


朝日奈「十神! 腐川ちゃん、部屋から出てきたんだよ! なにか一言くらい……!」

大神「朝日奈よ、気持ちはわかるが……」

江ノ島「ムリムリ。だって十神だよ?」

十神「俺に何を期待しているんだ? 折角ストーカーがいなくなって清々していたというのに」

江ノ島「ほーら、やっぱり」

セレス「まあ、十神君ですから」


桑田「おい、十神。おめーなぁ、もうちょっと人をいたわれねーのかよ?」

十神「俺はそんな無意味な行動はしない」

大和田「無意味だぁ? 他人を気にかけることは無意味なんかじゃねえだろ!」

十神「そうだな。頭が悪い上に弱虫のお前達にとっては重要だな」

桑田「この野郎……!」

大和田「…………」グッ


十神の傲岸な発言に憎々しい顔をしながらも、大和田は拳を握って黙って耐えた。もう問題を
起こせないというプレッシャーもあるし、口で十神に勝てないのはわかりきっているからだ。
桑田は諦めずにまだ反論を試みようとしていたので、KAZUYAがやんわりと静止した。


K「桑田、よせ」

桑田「…………」

霧切「十神君。あなたも上に立つ人間なら、下の人間にどう接するのが効果的かはわかっているんじゃない?」

苗木「そうだよ! 何せ、この歳でいくつも会社を経営している十神君だもんね!」

十神「……勘違いしていないか、愚民共?」


ギロリ、と周囲を一睨みして十神はコーヒーを啜る。


十神「おだてて載せるなどという安直な手が通用するのは、貴様等つまらない平民だけだ。
    俺はあくまで俺のやり方を貫かせてもらう。いい加減学習しろ」

「…………」

十神「ただ、そうだな。……いつもの悪臭が多少、マシになったことだけは評価してやる」

腐川「白夜様……!!」パァッ!

腐川(えへ、えへへへへ……白夜様に誉めてもらえた……!! うへへ……)

K「…………」フゥ

K(捻くれ者め。本当はもう少し何か言ってもらいたいものだが、当の腐川は
  これで満足しているようだし、俺から働きかけることもあるまい)


山田「これでようやく全員揃いましたな!」

不二咲「何だか、随分久しぶりな気がするねぇ」

葉隠「いやぁ、ここまで来るのにえらい時間がかかったべ」

苗木「……本当にね」

苗木(僕達がこの学園に監禁された十日目――二番目の動機が配られたあの日の夜に、二度目の
    事件が起きた。それからは、入れ代わり立ち代わり誰かが部屋に篭ったり入院したりして、
    僕達十六人は一つの場所に揃うことなく、必ず誰かが欠けていたんだ……)

苗木(それが今、こうして全員が同じ場所に集まり顔を合わせている。当たり前のはずなのに、
    この生活はそんな当たり前で簡単なことですら、とても難しくしてしまうんだ)

K「…………」

K(23日……約三週間、か。長かった……この一月にも満たない時間で、俺達は何度
  諍いを起こし、怒鳴り合い、憎み合い、そして傷付けあったのだろうか――)


誰もが感慨に浸り、皆思い思いに目を閉じたり溜め息をついていた。


朝日奈「うんうん! やっぱりみんな揃ってるっていいよね!」

大神「ウム、そうだな」

腐川「またみんなで……食事が出来る……夢みたいよ」

霧切「ええ、そうね」

石丸「では改めて、全員手を合わせたまえ! それでは一緒に、いただきますっ!!」



「いただきます!」



K(俺達は――)

苗木(僕達は――)


――再び揃った。そして、その事実が次の騒乱の引き金となることは容易に予想し得た。

けれど彼等は、残り少ないその時間を精一杯穏やかに過ごすことで心の平安を保とうとしていたのであった。


モノクマ「渡る世間は鬼ばかり。ダンガンロンパに事件ありってね」

モノクマ「そろそろ崩壊へのカウントダウンでも始めちゃおうかな?」

モノクマ「あ、今のボクはメタ的存在だから細かいことは気にせず。
      それでは自由行動の安価行っちゃいますか! ますか!」


人名↓2


うーん、人少ないなぁ

セルフksk


あー、書き忘れてた。前スレでは一度告知しているのですが、
三章は十神君との親密度が【最悪】なので選択出来ないのです。すみません

という訳で最安価直下


モノクマ「マジでちゃんと考えた方がいいと思うんだけどなぁ。今回と次回結構重要だし」

モノクマ「……それ以前に人がいないっていうね。ショボーン」

モノクマ「もし見てるけど安価取るのは怖い!って人がいるなら文章の最後に
      stとか安価下ってつければ下に流れるから、雑談も出来るよ!」


二人目直下


三人目直下

霧切はチートローズでなんとか凌いだってレベルなのと、イベント起きそうではある
若干武闘派……?
st

仲間だから江ノ島はカウントしなくていいのかな?
st


>>258

(霧切さんは警戒心が強いから、好感度が一定以上じゃないと部屋には入れてくれません)

(部屋行きが可能になったら告知します)


>>259

(江ノ島さんは仲間ではありません。むしろ内通者だってバッチリバレているので、
 会えば親密度の代わりに警戒度が上昇します。現在の警戒度は>>3です)


st


お、そう来ましたか。フムフム


最後 場所選択>>264

仲間生徒の部屋の場合、現在可能なメンバーは苗木、石丸、桑田、舞園、不二咲、朝日奈
悩んだ場合は安価下

葉隠がいそうな場所がわかればそこでもいいんだけどわからんな
ランドリーとか?無難に仲間の部屋の方がいいかな

st


うーむ、いっぺんageるか


では山田、腐川、セレス、不二咲の部屋ですね。了解

今回でやっと全員揃ったので、そろそろまた崩落のカウントダウンが始まります
ちなみに、希望ヶ峰学園の謎とか裏設定は今後オリジナルが多々入ってきます
この調子で物語後半を一気に駆け抜けて行きたいですね。それでは……


・・・


久しぶりに全員揃っての朝食会と相成ったが、生徒達がマントの下の変化に気が付いた。


葉隠「お? 先生、なんで両腕に包帯なんて巻いてんだ? 怪我でもしたんかいな」

K「怪我という程のものではないんだが……」


KAZUYAの両腕は注射痕と血腫だらけになり、一見して酷い有り様になっていた。見た目の派手さに反して
そこまで痛くはないのだが、生徒がショックを受け後々協力を嫌がっては困ると思い隠していたのだ。


山田「怪我もしていないのに包帯……もしや、邪気眼?!」

K「いや、医療実習で少しな」

苗木「僕と石丸君で注射の練習をしたんだよ」

石丸「初めてなので、先生の腕にさせてもらったのだ!」

葉隠「え? マジか?!」

山田「なんとっ?!」

セレス「まあ……」

朝日奈「注射なんてやってたんだ。他にも、気管にクダ通して呼吸を確保するのもやったよね!」

不二咲「気管挿管術、だね。いざという時気道を確保するために」

江ノ島「えっ、そんなことまでやってんの?!」

十神「西城……まさか、本気でこいつらを医者にするつもりなのか?」

K「俺はそのつもりだ」

十神「信じられん……」


流石の十神も驚いたような呆れたような表情で、交互に顔を見渡す。


石丸「と言っても僕は不器用だからな。昨日も僕のせいで先生の腕が麻薬中毒者のように……!」グス

K「……嫌な例え方をするな」

山田「凄いですなぁ……これなら、もしまたなにか不測の出来事が起こっても大丈夫ですね!」

十神「こんなヘッポコ共に自分の体を預けるくらいなら潔く死んだ方がマシだがな」

石丸「酷いぞ、十神君! 僕が信用出来なくても優秀な苗木君がいるから大丈夫だ!」

苗木「いや、僕を頼られても困るよ?!」

桑田「ちなみに、今んとこせんせーと大和田と俺しか被験者いねーから、
    実習に協力してくれるとすげー助かるんだけど……」


KAZUYAの代わりに桑田が言ってほしいことを言ってくれたが、当然生徒達の反応は芳しくない。


山田「そ、それはちょっと……」

セレス「お断りさせて頂きます」

江ノ島「え~……ムリ。ほら、アタシモデルだから体に傷がつくのはマズイし」

十神「誰がやるか」

葉隠「俺は先生からお墨付きが出たら考えてやらんでもねーべ。あ、勿論タダではやんねえけどな!」

朝日奈「あんた達ねえ! もうちょっと上達したら私だって手伝うんだから!」

江ノ島「えっ、本気?!」

大神「我も覚悟は出来ている。思えば、我等は西城殿に頼りっきりなのだ。手伝うべきだろう」

舞園「私の体も使ってもらって結構です」

霧切「安全が確保されて痕も残らないなら協力してもいいわ。……もう少し後になりそうだけど」

K「腐川は?」

腐川「へ? ……え、えぇええっ?! アタシ?! えっと、その……考えておくわ」

苗木「みんな、ありがとう。……でも、みんなに手伝ってもらうのは当分先になりそうかな」ポリポリ

大和田「……それまで俺の体がもちゃあいいんだけどよ」ボソッ


大和田が少し遠い目をしている。


不二咲「大和田君、ガンバだよ!」

石丸「ガンバだ、兄弟!」

朝日奈「ファイトー!」

大和田「お、おう……」ドヨーン

K・苗木・桑田・舞園・大神(……可哀想に)



― 美術室前廊下 PM1:25 ―


午前は恒例となりつつある医療実習で潰し、KAZUYAはいつものように校内巡回をしていた。
そのついでに、ふらりとまた美術室に寄ってみる。相変わらずそこには山田がいた。


K「原稿の進みはどうだ?」

山田「おお、西城カズヤ医師! この短期間に三度も連続で僕を訪れるとは……
    こ、これはギャルゲーで言うところの攻略?! 僕って攻略されてる?!」

K「攻略?」キョトン?

山田「うわ、しかもハーレム主人公のテンプレ天然鈍感キャラキター!」

K「???」

山田「しかしこの山田一二三、仮にもオタク代表としてそう安易に屈するワケには……
    でも悔しい! 気にかけられてると思うと感じちゃうっ、ビクンビクン」ピローン←好感度の上がる音

K「…………」

山田「…………」

K「…………」

山田「なんか言ってくださいよぉー!!」豪ッ!

K「えぇっ?!」


・・・


「とまあ色々話しましたが、実は今原稿に詰まってまして。今のはほんの息抜きです」

「そうなのか……」

(わからん! さっぱりわからん!!)


腐川といい山田といい、芸術家という人間は何故こうも理解不能なのだろう。KAZUYAとて
芸能人を始め、音楽家からデザイナーまで幅広く知人にいるが(むしろ従弟は画家志望である)、
ここまで常識がズレている人間はついぞ見たことがなかった。


(それともこれがジェネレーションギャップと言うものだろうか……)


そんなことを色々考えたが、最終的には遠い目をしながら話題を変えることにした。


「それで……何に悩んでいるんだ? スランプと言う奴か?」

「まあ、一種のスランプでしょうな。実は……敵役に悩んでいるのです」

「敵役か。まあ、物語には必須だな。俺の知り合いにも悪役専門で成功した俳優がいる」

「そう! 物語に必要なのは魅力的な敵キャラなのです!」

(何だか、前にもこんなことを言っていたような……)


結局不要なキャラクターなんていないんじゃ……と思ったがKAZUYAは素人なので黙っておく。


「主人公より敵側の方に人気が出ることもままあります。一応三人は出来ているのですが」


山田が指し示した設定画には、悪魔的でダークなデザインの服を着た十神とセレス、
それに何故かメイド姿の腐川が描かれていた。しかし何故だろう……。全く違和感がない。
セレスに至っては突然この服装で現れても全く驚かない自信がある。

……流石に角があったら驚くが。


「何というか……ハマり役だな……」

「そうでしょそうでしょ?! ピッタリでしょう?! いやぁ、我ながら上手いデザインだと自画自賛ー。
 ちなみにセレス殿が持っているこのバラの鞭は僕がモノモノマシーンで出してプレゼントしたものです」

「絶対怒られると思って冗談で渡したのにまさかのお気に入りで、僕も時々シバかれます。まさしく悪女!」

(俺は何も言わないぞ……)


怒られると思ってそんなものを渡すのもどうかと思ったが、KAZUYAは半ば意地になって話を進める。


「ハァ……で、この二人は?」

「見ての通り十神白夜殿は魔族の王子です。腐川冬子殿は十神殿に密かに恋するメイドで、
 十神殿の役に立つため最終的には改造手術を受けジェノサイダーになります」

「三人もいれば十分じゃないか。なかなか個性も強いし」


事実、KAZUYAは十神一人に散々苦しめられてきた。セレスもあからさまな真似こそしないが、
絶妙なコンビネーションでKAZUYAの足を引っ張り、そこに腐川のネガティブな発言が
追い撃ちとなって一体何度追い詰められたかわからない。その苦い思い出が頭を掠める。


「駄目です。三人では全然足りませんね」

「足りないのか?」

「足りるワケないでしょう! セレス殿と十神殿はどう考えても中ボスじゃないですか! ボスの前には
 盛り上げ役となる前座がいないと! 僕が敵だったらセレス殿と組むことも出来たのですが……うーむ」

「ああ、成程。そういう……」

(任侠物で言う、組長の前に若頭、若頭の前に一般構成員……みたいなものか?)

「しかし、僕等をモデルにしている以上人数に限りもありますし……難しいですなぁ」

「フーム……」


KAZUYAは顎に手を当てながら生徒一人一人の顔を順々に浮かべていく。


「……大和田はどうだ? 何せ暴走族だし、フィクションなのだから悪役にしても怒らないだろう」

「成程! 西城医師のお墨付きがあるならいけそうですな。……万が一怒ったら助けてくださいよ?」

「わかったわかった。まあ、あいつも最近は大分丸くなってきたし大丈夫のはずだ。……多分」

「ピロリロリーン! 山田一二三のレベルが上がった!」

「?! な、なんだ? いきなり大声を出すな……!」

「いやぁ、実に良いことを思いつきました。やっぱり僕って天才!」

「何だ?」

「大和田紋土殿には確かお兄さんがいたでしょう?」

「ああ。大和田大亜と言ったらしいな。ダイアモンド兄弟として地元では有名だったとか」

「そのまんまダイアモンドブラザーズとして出しましょう!」

「……大和田はともかく兄はまずくないか? 死んでいるのだし」

「ええ。悪人にしようものなら殺されますね。なので、騙されていることにするんです。盗賊だけど
 義理堅くて地元の人達には好かれている義賊の正義漢。激闘の末に和解するのですが……」


カキカキカキカキカキカキ……


レオン『クッソ! こいつらつええ…… ! もうダメなのかよ?!』

ハガクレ『ひえええええ! イヤだああああ! 死にたくねえ!』

ジュン『うっさいわねぇ! 死にたくないならちゃんと呪文唱えなさい!』

マコト『みんな、諦めちゃ駄目だ! ここまで頑張ってきたじゃないか! 僕は諦めない!!』

モンド『ムダだ! くたばれやああああ!』カッ!

マコト『僕が囮になる! その間にみんな逃げ……うわあああああああっ!!』

ダイア『やめろ、モンド!! ……この勝負、ヤメだ』

モンド『?! あぁ?! なんでだよ、兄貴!』


ダイア『まだわかんねえのか、モンド。こいつらが悪党に見えるか?
     俺達は担がれたんだよ、あのセレスって女にな!』

レオン『ハァ? 話についてけねーんすけど』

ジュン『フムフム、つまり私達と彼等にそれぞれ嘘の情報を渡し、潰し合いをさせた黒幕がいると』

マコト『何だって?!』


なんやかんやあって和解した所に颯爽とセレス登場。


セレス『バレてしまいましたか。まさか盗賊風情にわたくしの策を見抜かれるとは思いませんでしたわ』

モンド『なんだと?! てことはまさか……?!』

セレス『あなた方の仲間を華麗に虐殺したのはわたくしです。暇つぶしにもなりませんでしたわ』

モンド『テ、テメエエエ!!!』

セレス『……そうですわね。高見の見物も飽きてしまいましたし、少し遊んでさしあげましょうか』


ゴゴゴゴゴゴ……!!!


ダイア(まずいな……恐らくこの女、相当強いぞ。今の俺達じゃあ……)

ダイア『許せ、モンド!』ザシュッ

モンド『な、痺れナイフ?! なにすんだ、兄貴?!』

ダイア『……すまねえ、お前ら。ちょっと野暮用が出来ちまった』

マコト『ダイアさん……!』

ダイア『モンド連れて、先に行っててくれや。また後でな』

ハガクレ『お、おいそれってもしかして……』

ダイア『ハハッ。なーに、大した用事じゃねえさ。ガキ共はクソでもして待ってな』

レオン『チックショー! 逃げるぞ!』


マコト『ありがとうございます……あなたのことは忘れません』

モンド『待てよ! ふざけんな! 兄貴! 兄貴ィィィイッ!』

ダイア『……フゥ。おいアマ、何で行かせた? 正直、助かったけどよ』

セレス『わたくし、醜い物が嫌いでして。あの程度の輩に必死になるのはプライドに障りますの』

ダイア『見る目がねえな。あいつらはダイアモンドの原石だぜ? だが、良かった。
     そんなこともわからない程度なら、成長したあいつらの敵じゃなさそうだな』

セレス『……さえずりますのね。死にゆくあなたが何を言おうと負け犬の遠吠えでしょうに。
     おしゃべりは終わりですわ。――その生命、派手に散らせて死になさい』

ダイア(俺はここで終わりだ。だが、あいつらが俺の意志を継ぐ! 負けるなよ……)


ドオオォォオオオォオオオォォォオオオン!!


セレス『死は美しい。次はもっとたくさんの花火をあげてみせますわ。ふふふ、ほほほ、おーほほほほほほっ!』


顔にベッタリ返り血をつけたセレスが哄笑するページを手に取りながら、KAZUYAは戦慄していた。


「…………」フルフルフル…

(えぐい、えぐいぞ! 良いのか?! クラスメイトがクラスメイトの兄と仲間を虐殺する内容は……?!)

「どうしましたか? まさか構図が気に入らなかったとか……」

「あ、いや内容は面白いし絵も上手い。しかし、これは流石の安広も怒るんじゃないか………?」

「甘いですな! 西城医師はまるで彼女を理解していない!」クワッ!

「……?!」

「セレス殿は現実でアイタタな発言をする重度の厨二病ですよ? 悪の華となるのはむしろ本望! 強く悪く
 描きさえすれば怒らないでしょう。怒るとすれば無駄死にでもさせて『このわたくしがこんな無様な
 負け方をするなどありえません! 主人公の仲間の一人や二人、道連れにしますわ!』とかですかね」

「……ハァ、これは参った」


確かに、セレスなら自分を悪人にしたことよりも見栄えの方を気にしそうだ。やはり、付き合いの
浅い自分より山田の方が深くセレスを理解しているのだな、とKAZUYAは内心唸ったのだった。


山田の同人誌完成率…………現在60%。


ここまで。

前回あんだけ煽ったのに繋ぎ回でスマヌ。次回は腐川回を予定。
四章からは自由行動システムについて何らかの改善をした方がいいかもなぁ

結局は自分で考えた正解なわけで、理不尽と思われる可能性とか、安価取るのは有象無象だって事を前提にしないとだね。

>>280
自由行動システム自体は悪くなかったと思います。ゲーム性が生まれた分、読者の方も物語に
干渉できる余白が生まれた訳ですので。そこから1の予想外の展開が発生したことも何度もあります

ただ、次回何かあるか?!と思わせて自由行動でしたーっていうガックリが結構続いて物語のテンポが
悪くなったことは否めません。原作で言えば全員の通信簿埋めながらゲームをしてるようなものですから。
序盤は仲間が少なかったので仲間を増やす楽しみのようなものがありましたが、今は派閥も大所帯となり、
ちょっとやそっとでは崩れない安定感が出てきたので、逆にマンネリ感が漂ってきたり…

とりあえず今考えているのは、攻略対象キャラももう半分切ってる訳ですし更にゲーム性を高めるため
もう少し安価を多用していこうかなと。折角生徒のスキル表とか相性も考えたんだし、それらを活用して
戦略性の必要なSSにしていくつもりです。今までかなり甘めで来ていたので、後半はややキツめな感じで。

なるべく出番の偏りをなくしたいので、影の薄いキャラにもっとスポット当てていきたいですね。

今まで甘かった事実に愕然

意見があるなら言った方がいいんじゃないか
反応が欲しいから試行錯誤するんだろうし意見交換は積極的にあった方がいい

>>283
展開は甘くないですけど、まあ、結構ヒント出したりしてますしね。1が何も言わなかったら、
霧切さんガン無視して手遅れになってたと思いますよ。他には判定がかなり微妙な時は読者有利に
なるようにしてます。朝日奈の乱は本当に危なかった。もし1が鬼なら和解はありませんでした

>>285
活発な意見交換は非常に有難いです。作者はわからないんですよ。例えば、リアリティのために
専門用語をよく使うけど、面白いと思われているのか小難しい面倒くさいと思われているのか……
文章だけだとわかりづらい、図がほしいという意見があれば勿論対応しますし


マンネリ感についてはあれだ。1は感想見て展開変えたりアイディアが思いつくタイプというのは
以前にも言ったけど、最近は元々考えてた話をただ追っていくだけだからアカンのかな。不審者襲撃とか、
挿絵二枚も書いたから重要な話っぽく見えるけど、実はあれ読者さんの「次回何かありそう」っていう
一言から思いついて急遽挿入した話ですからね。この間のチートローズもそうだけど、やっぱり
予想外のことがあると楽しいですよね。だから1的にも安価が増えるのは悪くない訳です

色が原作と微妙に違うのが気になったので最初から塗り直し、何で色を
塗ってしまったんだ……と激しく後悔しながらなんとか描きあげたあけおめイラスト

もう正月とっくのとうに終わってるけど、読者のみなさんに日頃の感謝を込めて。


http://i.imgur.com/xrh8clz.jpg

霧切「みんながどうしてもって言うから着てみたけど……
    こういうのは舞園さんの方が向いているんじゃないかしら」

舞園「フフ、そんなことないです。凄く似合ってますよ!」

ちなみに着ているのは寺沢病院の制服。この二人はSSだと三角関係になってしまうので
ちょっと険悪な仲なのが多いけど、1は仲良くしてるのが好きです。


一階に戻る途中、KAZUYAは腐川のことが気になって図書室に寄ってみた。


― 図書室 PM2:43 ―


「あ、西城……」


腐川はKAZUYAを見つけると一瞬驚いた顔をするが、すぐにまたいつものいじけた表情に戻る。


「白夜様ならここにはいないわよ……今日は気分じゃない、とお部屋に戻られたわ」

「ん? 何故十神の名前が出るんだ?」

「ハァ? 何でって……わざわざ図書室に来たんだから、白夜様に用があったんでしょ?」

「いや、俺は君の様子を見に来たのだが。本当に元気になってくれたようで安心した」


そう言ってKAZUYAが笑いかけると、腐川は持っていたやたら重そうな文学書を落とす。


「ッ……?!」ドンッ!

「大丈夫か?! 今、本が足に……」

「へ、平気よ。このくらい……それにしても何なの?」

「何がだ?」

「ア、アタシが部屋から出ても優しくするなんて……一体何が狙い?」

「? 狙いなどない。ただ君が心配だったからだ」

「そ、そんなことある訳ない。アタシみたいな性格のねじくれた陰険ブスに
 優しくするなんて……アタシは親にさえ愛されたことなんてないんだから……」

(……どうも、両親に鍵があるようだな)

「前にもそんなことを言っていたが……その話、聞かせてもらっても良いか?」

「ふん、アタシが何でこんな捻くれた性格なのか知りたい訳ね……。いいわよ、教えてあげる」


そして腐川は語り始めた。彼女のあまりにも特異な出生について……


「アタシにはね――母親が二人いるのよ」

「二人? それは……」

「父親が離婚して再婚したからとかじゃないわ。生まれた時から二人いるのよ」

「生まれた時から?」


医者であるKAZUYAは、咄嗟に卵子提供や代替妊娠という単語が浮かんだ。……しかしおかしい。
日本でそれらの方法はまだ法律的に未整備であり、そこまでして子供を求めた親が冷たくするだろうか。


「ちなみに、どっちがアタシの本当の母親かは今もわからないわ。
 まあ、どっちも親だなんて思ったことは一度もないけど……」

「? 意味が……」


わからないとKAZUYAが首を傾げるより早く、腐川は恐ろしい事実を告げた。


「要はアタシの父親である男には二人の女がいたの。その上、よりによって二人は同時に妊娠して
 同じ病院にいたのよ。そして、同じ日に出産したんだけど……子供のうち片方は死んだの」

「な……?!」

「本当に驚くのはこれからよ……病院のミスでどっちの子供が死んだのかわからなくなったの。
 当然検査をしようという話になったんだけど――二人共その検査を拒否したのよ……!」

「何故?!」

「二人共、死んだのが自分の子供だったらいいって思ってたからよ……!!」

「……………………」


長く重い沈黙が二人を襲った。


現実は時に物語を凌駕する。かつてKAZUYAが腐川に言った言葉だが、
まさかこんな形で返ってくるとは思ってもみなかった。


(これは……確かに捻くれても仕方が無いな……酷すぎる。そして余りに悲しい……)

「わかったでしょ? こんなめちゃくちゃな家庭環境で育って歪まない訳がない。
 そして性格が悪くて根暗なアタシは学校でも上手くやれなくて、いつも一人……」

「……今だって、アタシに散々親切にしてくれたあんたに憎まれ口叩いてるじゃない」

「…………」

「無駄なのよ……いくらあんたが医者でも、この性格は治せないし優しくするだけ時間の無駄……」


KAZUYAは考えていた。彼は今まで数え切れない患者を見てきた。そして、患者の数だけドラマがあった。
当然、その中には悲劇もたくさんあったが……望まれない子供程悲しい存在があるのだろうか。

――脳内にまた一つ記憶が蘇った。


『アタシが最初に殺したのはアイツよ! 根暗のラブレターを学校に晒して転校してったハニー。
 わざわざ引っ越し先の四国まで追っかけて殺してやったわ。ゲラゲラゲラ!』

『……もしかして、君は腐川に酷いことをした男を殺しているんじゃないか?』

『ハ? ちげーし! 萌えるから殺すだけだし! 殺人鬼のポリシーナメんな!!』

『だが、萌えるというのは外見だけではなく内面も大きな要素なのだろう? 全く見知らぬ人間に
 萌えることが出来るのか? 何より、今までで最も萌える男と言っている十神は何故殺さない?』

『えっ?! えっと、それはぁ……だって白夜様は特別な存在だしアタシも正直驚いてるって言うか……』

『君は腐川が希望ヶ峰に来てからは殺人をしていない。友人が出来て満たされているからではないか?』

『さぁねぇ~。わかんないけど。ま、アタシは面白いことが好きだから?
 殺しよりも面白いことがあればそっち行くだけだし! ゲラゲラ!』


『しかし不思議なのは……今まで腐川に酷いことをした男を殺してきたのに、
 君達が最も憎んでいるはずの父親は殺さないんだな?』

『……オヤジなんて萌えるワケないじゃん。それに――別に憎んでるワケじゃねーのよ』

『憎んでいる訳ではない?』

『ちょ、まさかここから先もアタシに言わせる気? 察しろよ!』


一連の会話を思い出し、当時と同じようにKAZUYAは考え込む。


(俺には……何が出来る? 何をしてやれる?)


KAZUYAが黙り込んでしまったために、腐川はその場に所在なく立っていた。


(……さっさと諦めて、仲良しグループの所にでも行けばいいのに……何で帰らないのよ……)


それはこの男に深い愛情と誠意があり、心底腐川を助けたいと思っているからだとわかっていたから
怒鳴って追い返したりはしなかった。黙って待つ代わりに、彼女は彼女で朝の出来事を思い返していた。



               ◇     ◇     ◇


朝食会の後、女子達は自主的に腐川の元にやってきて励ましてくれたのである。
嬉しかったが、素直ではない腐川にとってこそばゆい親切でもあった。


朝日奈「大丈夫だって! みんなもう気にしてないからさ。元気出しなって!」

腐川「そんな訳ないでしょ……これだからスポーツ馬鹿は……」

舞園「殺人未遂なら私や大和田君もやってますし、腐川さんだけではありません。元気を出してください」

腐川「あ、あんたねえ?! アイドルが実は未成年飲酒やタバコ吸ってましたって
    レベルの話じゃないのよ?! 犯罪よ?! それも人殺し?! わかってんの?!」

舞園「わかってますよ?」


腐川「な、なら何でそんな平然としてんのよ……ふん、やっぱりアイドルなんてやるような人間は
    普通の人間より神経が図太いのね。アタシの繊細な神経は今の状況に耐えられないのよ!」


こういう一言多い発言やキツイ皮肉が嫌われる元だというのは百も承知している。しかし、
綺麗で華やかな舞園に対し特にコンプレックスを持っていた腐川は、またも噛み付いてしまった。

幸いだったのは、今ここにいる舞園はアイドルではなく脱出のための駒であったことか。
彼女は腐川の暴言をサラリと受け流し、平然とした顔で応じた。


舞園「いいえ。私も耐えられませんでした」

腐川「あんた、何が言いたいのよ……」

舞園「一人では耐えられませんけど、皆さんが支えてくれましたから。一時期は酷かったですよ。
    苗木君を困らせたり、西城先生に泣きついたり……一度思い切り泣いてみるのも手ですね」

朝日奈「あ! それスッキリするよね~。私も一回スゴイ先生に当たり散らしちゃってさー!」

セレス「まあ、いつも元気な朝日奈さんにもそんな時が?」

朝日奈「……あれ、これ言ってなかったっけ?」

大神「朝日奈……!」

霧切「朝日奈さん、いいのね?」

朝日奈「うん。ちゃんと言わなきゃ。実は私ね、石丸がまだおかしかった時……あいつの首を絞めたの」

セレス「…………はい?」

腐川「はあぁぁあああ?!?!! な、なななな、なんでよ?! 一体なんのためにっ?!」

朝日奈「……えっとね、みんな毎日死んだような目をしてて色々限界だったんだよ。あの状況からなんとか
     抜け出したくて……だからその、死にかけたら元に戻るんじゃないかって、ショック療法的な……」

腐川「それでうっかり死んだらどうすんのよッ?! 馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、
    ……あんた、やっぱり脳みそ筋肉で出来てんじゃないのっ?!」

朝日奈「い、今は反省してるよ! あの時はちょっとヒステリー起こしちゃってて……」


セレス「そういえば……何故か先生が顔中に怪我をしていた時がありましたわね。いくら聞いても
     絶対に理由を教えてくれませんでしたが、あれは朝日奈さんが原因でしたか……」

朝日奈「本当、申し訳ないことしちゃったよー。散々泣きわめいて引っかいちゃって……
     でもKAZUYA先生優しいんだー。あんなことしたのに抱きしめて頭撫でてくれたし。エヘヘ」

腐川「あ、あんた男にそんなことされたの……?!」

朝日奈「? だって先生だよ?」

腐川「ぐ……そりゃあそうだけど……中年て言うにはまだ若いし、それに……」

朝日奈「先生っておっきくてなんだかお父さんみたいだよね!って言ったら変な顔して笑ってたけど」

霧切「確実に苦笑いね」

朝日奈「腐川ちゃんも思い切ってやってみれば? ちょっとは落ち着くかもよ?」

腐川「あああ、あんた、何てこと人に勧めてんの?! 男に抱かれろなんて……これだから魔性の女は!」

セレス「そういう意味ではないと思いますが……」

大神「朝日奈は無理をするなと言いたいのだ。この過酷な生活、一人で正気を保ち続けられる者などおらぬ」

霧切「そうね。実はその後にも一度大きな喧嘩があったのだけど、
    あの時は流石のドクターでさえ冷静さを失っていたわ」

舞園「西城先生に愛想を尽かされたと思って……正直、もう駄目だと思いましたね……」

セレス「あの時の朝日奈さんたら、この世の終わりのようにわんわん泣いて大変でしたわ」

朝日奈「その話はもうやめてよー!」

霧切「人間はみんな一人で生きているように見えるけど、必ず一人では耐えられない時がある。
    もし辛い時があるならいつでも言って頂戴。助けられるかわからないけど力にはなるわ」

舞園「過去は過去です。困ったり悩んでる人を放置なんて出来ません!」

大神「その通りだ。いつでも泣きついてくれ。我らは皆支えあう必要がある」


朝日奈「遠慮なんかしなくていいからさ!」

セレス「まあ、話くらいなら聞いてあげてもよろしいですわよ?」

腐川「…………」


               ◇     ◇     ◇


(泣きついてみる……ね。でも、アタシは……)

「ねえ、西城……」


彼女達の言葉に後押しされたのか、自然と声が出ていた。


「何だ?」

(どうせ……無理なんてわかってる……駄目元よ!)

「前に、アタシを救いたいって言ってくれたわよね……?」

(……きっと適当な言葉でごまかすんでしょ! ……そんなの、アタシはもう慣れっこだし……)


そう思っているのに、なのに……何故か期待している自分がいる。
この男は、今までに出会ってきた男達とはどこか違うのではないかと。


「ア、アタシを……! アタシなんかを…………抱きしめてって言ったらしてくれる……?」

「突然何を……?」

「……じょ、冗談よ! アタシみたいなブスで汚くて臭い女、誰だって嫌に……」

「これでいいか?」


いつの間にか目と鼻の先まで歩み寄っていたKAZUYAが、腐川の華奢な体をしっかりと抱きしめる。


「な……?! 何してんのよ、あんた?!」

「君がこうして欲しいと言ったのだが」

「は、離しなさいよ! 臭いでしょ?! 腐川菌が移っても知らないわよ?!」

「今は臭くないぞ。仮に臭くても俺がすることは変わらないがな」

「あんた、何でそこまで……!!」

「俺は君達の先生だ。辛い時はいつだって励ますし、困っていれば助ける。
 一人一人が俺にとって大切な生徒だし、腐川も勿論大切だ!」

「……!」


KAZUYAの力強い両腕が腐川の背中を包み込み、そこからじんわりとぬくもりが伝わってきた。


(温かい……妄想とは違う、本物の温かさ……これが人のぬくもりなのね……)

「な、なによ……格好つけちゃって……図体がでかいと態度もでかいわよね……!」

「仕切り屋でリーダーぶってて、いつも偉そうなこと言ってる割りには
 空回りして事件は止められなくて、でも絶対に諦めなくて……」


……KAZUYAのぬくもりが、少しずつ腐川の心の中の氷を溶かしていく。


「帝都大首席の医者だか何だか知らないけど、仕事にプライド持ってて、馬鹿みたいに
 走り回って……自分のせいじゃないのに、問題が起きるたびに生徒なんかに頭下げて……うぅっ」

「…………」

「馬鹿みたいにがむしゃらで……馬鹿みたいに優しくて……馬鹿みたいに、馬鹿みたいに……!!」


ボロボロと目から液体が溢れてくる。それは彼女を包み込むKAZUYAと同じように温かかった。


「アタシに優しくするなんてば、馬鹿よ! 絶対に、絶対に許さないんだからっ! うわああああああああん!」


とうとう感極まった腐川は泣き出し、KAZUYAにしがみついた。KAZUYAもまた強く強く抱き返してやる。


「……俺は君の親にはなれないが、寂しい時に抱きしめてやるくらいなら出来る。いつでも来い」

「そんなこと言って……ア、アタシは本当に行くわよ? 行っちゃうわよ? いいのね……?!」

「ああ、待っているぞ。俺だけじゃない。みんなだって待っているさ」

「みんな……」

「彼等とはきっと良い友人になれるはずだ。どうか俺を――みんなを信じて欲しい」

「西城……せ、先生が言うなら……もう一度だけ、信じてみるのもいいわね……」

「ありがとう」


頭を撫でてやると、腐川はビクリと体を震わせた。そして恐る恐るKAZUYAの顔を見上げてくる。


「……嫌だったか?」

「あ! ……とんでもない! その、もうちょっとだけ、こうしてても……えっと……」

「……フッ、構わないぞ」

「え、へへ……えへへへへ……」


腐川はとろけそうな笑みを浮かべ、満足そうにしている。やっと心を開いてもらえてKAZUYAも満足していた。

――しかし、そんな二人を陰から見ている者がいたのである。それは、





葉隠「母ちゃん、事件だべ……!!」

葉隠(やっべー! 図書室に行けば面白いモンが見れるって
    占いで出たから来たのに、とんでもないもん見ちまった!)

葉隠(そういや、K先生は初日にも霧切っちを男子トイレに連れ込んで迫ってたし、
    硬派に見えて実は結構スケコマシなんじゃねえか? こうしちゃいられねえ!)


……噂になってしまった。

が、KAZUYAは人望があったため事情を説明して誤解を解き、葉隠はどつかれる羽目になったのだった。


ここまで。


               ◇     ◇     ◇


たまたま廊下で不二咲に会ったKAZUYAは、ふとアルターエゴが気になって二人で脱衣所に入った。


「アルターエゴ、起きて」

『あ、ご主人タマと先生! 来てくれたんだ。嬉しいな』

「あの後、他に解析出来たものはある?」

『うん! もうこのPCに入っているデータは全部解析出来たよ』

「見せてくれ」


KAZUYAの言葉に応じて、アルターエゴは順番にデータを見せる。


「これは……」

『写真だね』


アルターエゴの画面に大和田、桑田、不二咲の三人が楽しそうにふざける写真が映る。


「えぇっ?! なにこれ? 僕、こんな写真撮った覚えないよぉ?」

『変だよね。みんなはここで初めて会ったはずなのに、何でこんな写真があるんだろう?』

「…………」

「それに先生! 見て、窓に鉄板がない!」

「……そうだな」

『しかもね、まだ不思議なことがあるんだ。この写真――撮影者が石丸君なんだよ』

「!!」

「えっ、石丸君が?!」

「…………」


KAZUYAの胸が締め付けられる。絶句する二人に気付かず、アルターエゴは続けた。


『あともう一枚あって、こっちは苗木君の撮影ってことになってるんだけど……』


画面に違う写真が映し出される。そこには舞園、山田、セレスが映っていた。
特にセレスは、今までに見たことがないような生き生きとした表情をしている。


「先生、これって一体どういうことだろう? こっちの写真にも窓が写ってるし……」

(どうする? この写真を根拠に全員に真実を告げるか? だが、写真は加工出来る。
 十神辺りに突っつかれでもしたら、かえって場が混乱しかねないか……)


結局、全員を説得出来るかではなく十神を説得出来るかが焦点になっていた。セレスも頭は回る方だが
十神よりは周りに合わせる傾向があるし、……とにかく憎たらしいくらい十神は頭が良いのだ。


「……この写真が本物かはまだわからない。もしかしたら、黒幕からの謎掛けかもしれん」

「謎掛け? このパソコンは黒幕が用意したものってことですか?」

「可能性はある。メンバーの中に超高校級のプログラマーがいると知っていて
 パソコンを置きっぱなしにするのは、少々杜撰だと思わないか?」


その杜撰さのおかげでKAZUYAは生存出来たのだが、この際それは置いておくとする。


「そう、だよね……うん、謎……」

(……でもこの写真、どこかで見た覚えがあるんだよねぇ。どこだっけ?)


そう、不二咲は臨死体験をした時にこのシーンを見ている。だが、本人があれはただの夢だと
思い込んでいることもあって、すぐには結び付かなかった。何より次のKAZUYAの言葉に気を取られた。


「ところで不二咲、一つ大事な話があるんだが」

「ふぇっ?! 何ですか?」


「このパソコンとアルターエゴを使って――学園にクラッキングを仕掛けることは可能か?」

「えっ? この学園のネットワークに入り込むってことですか?」

「そうだ。入る手段は既に見つけてある」

「えっと……」


つまりこうだ。KAZUYAはこの学園のシステムを丸々乗っ取って、このコロシアイ学園生活を強制的に
終了出来ないかと問うているのである。その大胆な提案に、不二咲は少し考え込んでから答えた。


「……少し難しいかな。どのくらいのセキュリティかはっきりはわからないけど、希望ヶ峰学園程の
 施設となるともの凄く固いと思います。このパソコンは旧型でアルターエゴの性能もまだ未熟だし、
 こっちが攻撃している間に逆にハッキングされる可能性もあるからあまりオススメ出来ないです……」

「そうか……」

「あ、力になれなくてごめんなさい!」

「いや、いいんだ。……アルターエゴの性能が上がれば成功確率は上がるか?」

「うん。もっとたくさんの情報を与えて処理速度が速まれば、もしたしたら……でも、
 黒幕に見つかったら大変なことになるし、最後の手段にした方がいいかもしれないです」

「……最後の手段か」

(校則にもあるように、黒幕は俺達が学園を調べることは禁じていないし、実際俺がコロシアイに
 対して行ってきた様々な妨害活動に対して直接的な制裁は加えてこなかった。基本は自由だ)

(……だが、それは黒幕が絶対優位という力関係が成立している上での余裕であって、もし俺達が
 この学園生活そのものを脅かす行動を取れば、今までのような悠長な対応はしないだろう。
 ――恐らく、直接的な手段で排除にかかるはずだ)

(俺一人ならまだしも、生徒の安全を考えたらこれは使えないも同然だな。
 やっと一つ切り札が見つかったのに、一かバチかの大博打にしか使えん……か)


まさしく文字通りの一進一退となり、KAZUYAは歯痒い思いをする。


「とりあえず、他の情報を見てみよう。見つかったのはこの写真だけか?」

『まだあるよ。一つは、前に見せたような何かのレポートだね』

「レポート?」


また非人道的な実験のレポートか……とKAZUYAは暗い気持ちで画面を見るが、
そのレポートは今までのものとは少し毛色が違っていた。


「あれ? 文字が消されちゃってる。それに誰かの写真がついているねぇ」

「…………」


レポートだというのはわかったが、文字はほとんどマーカーで引かれたような黒い線で
消されてしまっている。写真の青年を見るが、どちらもKAZUYAの知らない人物だ。

http://i.imgur.com/b60VAe7.jpg


(……どちらも見覚えのない顔だな)

(俺は俺が赴任した時点で希望ヶ峰に在籍していた全ての生徒を知っている。となると卒業生か?
 しかし片方は違う校章だ……まさか、希望ヶ峰の外部からも被験者を集めていたのか?)


写真の青年が一体どんな非道な目に遭ったかを想像し、自然と胸がムカムカとしてくる。


「写真の下にあるこれ、この人の名前かなぁ? 文字が小さくて読めないけど。HIN……?」

「ヒノ、ヒノミヤ、ヒノモト、ヒネ、ヒナタ……辺りだろうか。もう一人は最初のMしかわからんが」

『あ、そういえばこのファイルだけ名前が付いてるよ』

「何? 何という名前なんだ?」




















『 ―― “ カムクライズル・プロジェクト ” ―― 』















「カムクラ……イズル……?!」


何故かわからないが、KAZUYAは心臓を直接捕まれたような、体の芯から冷える錯覚を覚えた。


「それって確か、希望ヶ峰学園の創立者の名前だよねぇ? どんなプロジェクトなんだろう?」

「…………」

(学園の創立者の名を冠したプロジェクト……恐らく、ただのプロジェクトではあるまい。
 まさか、生徒達を使った実験はこのプロジェクトのため? 一体何を目的とした?)


考えこむKAZUYAの脳裏に、どこか懐かしい誰かの警告が響く。





―気をつけろ、K!





―この学園は才能を盲信している!!





(?! 今の記憶は……?!)


唐突に頭に聞こえた声にKAZUYAは動揺した。


(このプロジェクトと今回のコロシアイ……何か関係があるのか?)

(だが、大事なサンプルである生徒達を傷付けるような真似をするだろうか……?)

「他に何かあったか?」

『これが最後なんだけど――“人類史上最大最悪の絶望的事件”』

「!!」


「何それぇ?」

『詳しいことはわからなかったけど、その事件が原因で希望ヶ峰学園は閉校に
 追い込まれたみたいなんだ。閉校に伴い、学園長主導で学園はあるプロジェクトを始動した』

「プロジェクトだと?」

(まさか……)

『それが――学園の中で生徒達に共同生活をさせるって内容みたいなんだよ』

「それって、僕達と同じ?! 先生、これって……?!」

「うっ……!」


アルターエゴから情報を聞いた時、激流のような記憶の一部がKAZUYAを飲み込む。


「せ、先生! どうしたのぉ?!」

「いや、何でもない……大丈夫だ」

「本当?」

「ああ。心配させてすまない……」

(……思い出したぞ! 何故俺がこの学園に残ったか。そうか、そういうことだったのか……!)


しかし、今のKAZUYAには怒りよりも不信な気持ちだけが膨らんで来ていた。


(だが、過ぎたことはどうでもいい。それより、色々きな臭くなってきたな……)


二階の男子トイレの奥の隠し部屋はわかる。あそこは黒幕が見落としたとしてもおかしくない。
だが、図書室にノートパソコンを残した理由は何だ? いくら壊れているとは言え、こちらには
超高校級のプログラマーがいるのだ。直して中の情報を取られるとは考えなかったのか?


(もし俺が黒幕なら、外の情報がきっかけになって生徒が記憶を取り戻したら不味いと考え、
 パソコンを奪うか破壊しているだろう。だが、黒幕はあえてそれをしなかった)

(……思えば、図書室に置いてあったあの手紙も妙だし、隠し部屋の資料も部分的に残して
 あったように見える。まるで事前に選別したかのように。黒幕は隠す気がない。むしろ……)

(――思い出して欲しい?)


矛盾する事実に頭を捻らすKAZUYAの様子は気にせず、アルターエゴは同じ調子で続きを話した。


『学園長は四十代の男性で、まだこの学園の中にいるみたい』

「じゃ、じゃあ! 僕達を閉じ込めた黒幕は学園長なの?!」

「いや、違うな」

「え?」

「俺は学園長に会ったことがあるからわかるが、あの男は生徒にコロシアイなどさせる人間ではない。
 むしろ守ろうとしていた側だ。考えられるとしたら、学園長は黒幕に利用されたのだろう」

「そうなんだ……先生が言うならきっとそうなんだろうねぇ。でも、学園長は今どこに……」

「この学園のどこかに拘束されているか、……もしくはもう殺されているだろうな」

「…………」


彼等の嫌な沈黙を崩したのは、まだ繊細な感情のわからないアルターエゴである。


『これで、このパソコンの中にあった情報は全てだよ』

「ご苦労様、アルターエゴ。じゃあ……」

『あ……そうか。もう僕の役目は終わりなんだね……』

「うん。あ、でもみんなの新しい遊び相手にはなれるかも。みんなは人工知能とか
 多分見たことないだろうし、閉じ込められて刺激も少ないだろうから……」

『本当? 早くみんなとおしゃべりしたいな!』


悲しい顔を浮かべていたアルターエゴだが、その話を聞くとパッと笑顔に戻る。
その表情は実にリアルで、確かに子供達の遊び相手にはちょうどいいだろう。


(だが、アルターエゴをただ眠らせておくのは勿体ないな。何か役立てる方法はないだろうか?)

(……待てよ。クラッキングは無理でも、アルターエゴ自体を餌に使えないか? 上手く行けば、
 内通者をあぶり出せるかもしれん。内通者さえ何とか出来れば殺し合いも防ぎやすくなる)

「不二咲、話が……」



               ◇     ◇     ◇


ピンポーン。


「誰だろう?」


インターホンが鳴ったので、苗木が扉を開ける。そこには桑田が立っていた。


「ウース」

「あ、桑田君。どうしたの?」

「突然だけど一緒に風呂行かね?」

「いいけど。この時間に?」

「まあまあ。そーゆー気分なんだよ。たまには男同士で親睦深めよーぜ!」


桑田がグイッと苗木の肩に腕を回し、監視カメラの死角になるように体を捻る。
そして、汚い字で書かれた一枚のメモを苗木の眼前に突きつけた。


【せんせーが脱衣所にみんなを集めてる】


「!」

(これって……!!)チラ

「…………」コクリ


言葉は交わさないが、目で伝わった。何か大事な話があるのだと。
体内に緊張を高めながら二人は脱衣所へと向かった。


ここまで。

書き忘れたが、【カムクラ・プロジェクト】を入手した。



やべえ2やらんと

数年ごしに今追い付いた!

遅れてすみません。また週末更新になりそうです

>>319
今からやっても全然間に合いますよ。むしろ、1も今スーダンプレイ中ですww面白いですね
だから来月は更新遅いかもしれません。ボリューム凄くて全然進まない

>>323
いらっしゃいませ!ありがとうございます。
もう残り半分切ってますが、完結までもうしばらくお付き合いください

苗木が、pixivのとあるスレのように、ぶちぎれないかな? そうなると、殺人者組と卒業したい組の
メンバーが絶望堕ちしそうだな(笑)


― 脱衣所 PM4:08 ―


「よく来たな」


全員が集まったことを確認すると、KAZUYAは長椅子から立ち上がって全員の前へと歩み出た。
脱衣所の入り口付近では、モノクマを入れないように大和田が目を光らせている。


K「予想のついている者も多いだろうが、ある大事な報告のためにみんなを集めさせてもらった」

十神「この俺を呼びつけたんだ。相応の報告はあるんだろうな?」

山田「ややっ! いよいよ脱出の策でも?!」

葉隠「長かったべー。でも俺はずっとK先生を信じてたぞ!」

桑田「嘘つけよ……」

腐川「厚かましいわね。それに……馴れ馴れしいわ!」ギリィ!


先程の熱がまだ残っているのだろうか。
腐川は少し赤い顔をしてKAZUYAの方をチラチラと見ている。


セレス「それで、脱出の策は浮かんだのですか?」

江ノ島(……え? まさか、本当に思いついたんじゃないよね? どうしよう……)

江ノ島「焦らさないで早く言いなさいよ!」

K「いや……残念ながら脱出の案ではない」

葉隠「なーんだ。期待して損したべ」

桑田「おめー、いい加減にしろよな……?」

山田「じゃあ、やっぱり僕達は一生ここに……」

石丸「静粛に! 先生のお話はまだ終わっていないぞ!」

霧切「脱出案ではないかもしれないけど、何か重要な発見があったから呼んだのでしょう?」

K「その通りだ。不二咲」

不二咲「はい」スッ


舞園「それは……確か、初日に図書室で見つけたノートパソコンですか?」

苗木「そういえばあったね。でも、確か壊れてたんじゃなかった?」

朝日奈「え、そんなのあったっけ? すっかり忘れてた。えへへ」

K「よく覚えていたな。そうだ。あの後、不二咲が修理して使えるようにしたんだ」

十神「単刀直入に言え。何が入っていた」

K「残念ながら手に入れた情報は少量だった。まず写真が二枚」


KAZUYAが操作すると、画面に例の写真が映る。


苗木「え? これって……?!」

江ノ島(マズイよ……これはマズイって……)ダラダラ

桑田「なんだこりゃ? 俺こんな写真撮った覚えないぞ」

大和田「俺もだ」

舞園「私もです」

舞園(でも何でしょう……。この写真を見ていると、何だか胸騒ぎがしてきます……
    何か……予想もつかないとても恐ろしいことが起こっているような……)

K「……本当に覚えていないんだな?」

セレス「ええ、全く。……それにしても酷い写真ですわ。意味がないなら消してくださる?」

山田「そんなもったいない! なかなか良い表情をしていると思いますが……」

セレス「…………」ギロ

山田「……すみません」

K「そうか。では黒幕が我々を混乱させるために作った物、ということでいいな?」

K(写真を見て少しでも記憶が戻ればと思ったが……そう簡単にはいかないか)


十神「一目瞭然だ。この写真には窓が写っている。すなわち、この学園で撮ったものではない。
    ドクターKともあろうものが、この程度のこともわからんとはな……」

苗木「まあまあ、喧嘩腰はやめようよ。先生は一応確認したかっただけじゃないかな」

大神「十神の言葉は置いておこう。他に何か発見はあったのだろうか」

K「このPCには“人類史上最大最悪の絶望的事件”と言うキーワードと、それによって
  希望ヶ峰学園が閉校せざるを得ない状況に陥ったことが記録されていた」

K「そして、学園長主導のもとである計画が持ち上がっていたこともだ。
  ――それは希望ヶ峰学園で多数の生徒に共同生活をさせるという内容だった」

苗木「それって……?!」

朝日奈「私達と同じ状況?!」

石丸「一体どういうことだ……?!」

霧切「……!」

K「“人類史上最大最悪の絶望的事件”。誰か、このキーワードに聞き覚えのある者はいるか?」

K(頼む……! 誰でもいい、思い出してくれ。思い出してくれさえすればコロシアイは終わる!)

江ノ島(もしみんなが全部思い出したらどうしよう……このPCは盾子ちゃんが
     用意したものだし、これも計算のうちなんだよね? そうだよね……?)


KAZUYAは一縷の望みを懸けて生徒を見据えるが、その希望は儚く散った。


腐川「……そ、そんな話聞いたことがないわ」

葉隠「そもそも、学校が閉鎖されてるって知ってりゃこんな所来なかったべ!」

十神「この情報が信頼出来るか疑わしくなってきたな。十神財閥の情報網が、
    希望ヶ峰学園を閉校に追い込むレベルの事件を捉えていないはずはない」

K「そうだな……」


大神「しかし、出鱈目な情報をパソコンに入れて黒幕に何か得はあるのだろうか?」

苗木「僕達を混乱させるのが目的なら、何でパソコンは壊れていたんだろう?」


生徒達が口々に感想を述べ場がざわついている中、霧切が一歩前に出た。


霧切「……学園長主導の計画についてもう少し聞きたいのだけど」

セレス「この度のコロシアイ学園生活は学園長が黒幕、ということでよろしいのでしょうか?」

K「それはない。俺は学園長と顔見知りだが、生徒のことをとても強く想っていた。その熱意に負けて
  俺はここに赴任することにしたのだからな。こんな馬鹿げたことをしでかす男ではない」

苗木「先生は黒幕に襲われたしね。もし黒幕が学園長なら、そもそも先生を招待する必要性がないよ」

大和田「学園長はシロでいいっつーことだな」

舞園「あの、それで……学園長は、今どこにいるのでしょうか?」

不二咲「計画だと僕達と一緒に学園内にいる予定だったから、今もどこかにいるはずだよ」

桑田「どこかってどこだよ?」

葉隠「そりゃあ学園長ってくらいだから学園長室に決まってるべ」

山田「そういえば、学園長室は鍵が掛かっていましたね。まさかあの中に監禁されているのでは?!」

朝日奈「大変! 助けてあげないと!」

K「いや、その……」

腐川「な、何?! 一体何を言おうとしているの……?!」

K「まだ確定した訳じゃない、俺の予想だが……」

十神「学園長は既に殺されている。そう言いたいんだな?」

霧切「!」

K「わからない。生きていると思いたい。……だが、黒幕が学園長を生かしておくメリットが
  見つからんのだ。ここには俺を含め何人か教員がいたはずだが、全員消されている訳だしな」

十神「そもそも西城。……俺はお前に聞きたいことがあるんだが」

霧切「苗木君の癖に生意気ね」苗木「^^#」のように、苗木がゲス木になったり、
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」のように、舞園を失って、
狛木になったりと・・・この作品でも、苗木が、そうなったらいいのに・・・


「……!」


この男が言葉を発すると、それだけで場が緊張に包まれる。それほど十神の発言権は大きい。


K「……何だ?」

十神「仮に今の情報が正しいと仮定する。そうなると、俺達は黒幕より先に学園から
    拉致行為をされたことになるが、当然教員の貴様も何らかの形で関わっていたはずだ」

K「…………」

十神「目的は何だ? 人類史上最大最悪の事件とは何だ? 言え」

K「残念だが俺は臨時で来ただけの校医。つまり希望ヶ峰から見れば完全な部外者だ。
  学園長が何を計画していたのか全く聞かされていない。記憶もまだ不完全だしな」

十神「チッ、使えん男だ」

朝日奈「あんたねぇ、仕方ないでしょ! 先生は最初大怪我してたんだから!」

霧切「……それに、もしかしたらドクターも巻き込まれた側の人間かもしれないわよ?」

江ノ島「(流石霧切さん……)どういうこと?」

霧切「超高校級の生徒、つまり才能ある人間を何らかの目的で集めたのなら、ドクターだって
    それに当て嵌まるのではないかしら? ドクターは優秀な知識と技能を持っているもの」

石丸「何が目的かはわからないが、多数の人間を長期間拘束する訳だから中にはストレスで
    体調を崩す者も当然現れる。隔離生活において医者という存在は必要不可欠のはずだ!
    世界的名医でいらっしゃる西城先生を一緒に閉じ込めたいと考えてもおかしくはないな!」

苗木「うん。むしろ、この計画のために先生は呼ばれたんじゃないかな」

十神「俺達もろとも、希望ヶ峰の仕掛けた罠にまんまと掛かってしまった訳だ」

腐川「そ、そもそも何のための計画なのよ……!」

桑田「それがわかりゃ苦労しねーっての!」

K「生徒を傷付けるようなものではない、ということだけはわかる」

セレス「傷付けるつもりはなくとも、気持ちの良いものではないでしょうね。超高校級の才能を持つ
     人間を用いての何らかの実験や、或いは観察などそういった類のものでしょうし……」


大神「別の第三者が学園長の計画を乗っとったか、或いは希望ヶ峰学園の何者かが黒幕ということか?」

葉隠「もしかすっと、俺達をモルモットにするつもりだったんじゃねえか?!」

舞園「そんな……あの希望ヶ峰学園が……」

石丸「馬鹿な! そんなことある訳がない!」

山田「信じられませんぞ?!」

K「…………」


真実を知る男は何も言わなかった。……いや、言えなかったと言うのが正しい。
彼等の言葉が見当違いの言い掛かりでないことは、目の前にあるパソコンが証明している。


K「……実はもう一つ話すことがある。これが本題なのだが。不二咲、アルターエゴを」

不二咲「はい」


カタカタカタ。

不二咲が操作すると画面がパッと変わり、そこにアルターエゴが現れた。


アルターエゴ『みんな、こんにちは! アルターエゴです!』

「?!?!」

江ノ島(アルターエゴ!! そんな、完成していたなんて……!)

山田「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

朝日奈「なにこれー?!」

大和田「パソコンの中になんで不二咲がいるんだ?!」

舞園「不二咲君が作ったんですか?」


大騒ぎする生徒達の中で、本来なら一番騒いでいそうな男は珍しく静かに考え事をしていた。


石丸(……んん、むぅ? この光景、以前どこかで見たような……? 夢の中か? 不二咲君なら
    人工知能くらい作れそうだし、そのような夢を僕が見たとしても特に不思議はない)

石丸(だが、うーむ……これが俗に言うデジャヴュというものなのだろうか。妙な感覚だ)


桑田「お、おー! すげーな! ずっと前に不二咲が作るって言ってたのこれか!」

不二咲「出来たら見せるって約束してたのにゴメンねぇ。先生が、見せるなら
     全員同時がいいって言うから、ずっと内緒にしてたんだ」

桑田「気にすんなよ。今の今まで忘れてたからさ!」

葉隠「そ、それでこれはなんだべ?! まさか不二咲っちのエクトプラズムが
    パソコンに憑依したとか言わねえよな?! 俺は信じねえべ!」

腐川「そんな訳ないでしょ……! どう見てもプログラムよ!」

十神「不二咲の人格を模した人工知能プログラムか……ここまで完成していたとは」

山田「しゃ、しゃべってもいいですかな?! アルターエゴ殿、こんにちはですぞ!」

アルターエゴ『こんにちは! 君は山田君だね! 始めまして』

山田「むっほー! 僕のことを知っているとは! 二次元が! 二次元が第四の壁を超えたァー!!」

大和田「そりゃ山田なら一発でわかるだろ。デブは一人しかいねえんだし」

桑田「俺は?! 俺は知ってるか?!」

アルターエゴ『君は……髪が赤いから桑田君かな?』

桑田「すげー!」

セレス「わたくしはわかります?」

アルターエゴ『セレスさんだね』ニコッ

セレス「まあ。優秀ですこと」

朝日奈「私! 私は?!」

アルターエゴ『朝日奈さんだよ! 横にいるのは大神さん。二人は仲良しなんだよね?』

朝日奈「そうそう!」

大神「ムゥ、よく出来ている……」

苗木「凄いなぁ……」

舞園「苗木君もお話してみたらどうですか?」

苗木「僕は後ででいいや」ハハ


アルターエゴの周りには瞬く間に人が群がり、あれやこれやと話し掛けている。
あの十神ですらアルターエゴには強い関心を示していた。


K「ウオッホン! 話はまだ終わっていないぞ」

石丸「みんな、先生がお話される。静聴せよ!」

K「いいか、お前達。このアルターエゴは――俺達の“希望”だ」

苗木「希望……」

K「今はまだ処理能力が低いから、あまり高度な作業は出来ない。だが、俺達と
  会話して処理能力が上がればいずれは脱出の大きな手助けになるだろう」

十神「成程。このアルターエゴを使って、直接黒幕に攻撃を仕掛けると言うことか。面白い……」

霧切「いよいよ、脱出が見えてきたわね……」

葉隠「マジか! うおおおお、長かったべー!」

K「……ただ、これは非常に危険な賭けだ。失敗すれば俺達全員の身が危険に晒される。
  だから、少しでも成功確率を上げるため当分はアルターエゴの能力を上げることに注力したい」

江ノ島(え……? まさか、アルターエゴで学園のシステムをハックするってこと?
     これ、凄くまずい展開なんじゃ……どうしよう?)

K「風呂の際にでもアルターエゴと会話してやってくれ。俺からは以上だ。
  ……あまり全員で長居すると黒幕に怪しまれる。今日の所は一端出てくれ」

石丸「と言うことらしいぞ。解散!」

アルターエゴ『またね!』


ゾロゾロと一同が脱衣所から出ていく。去り際に、十神はKAZUYAに近寄ると、ボソリと囁いた。


十神「――さて、鬼が出るかはたまた蛇が出るかだな?」

K「…………」


実はこの集まりの前にKAZUYAは十神だけを先に呼び、あることを頼んでいたのだ。


ここまで。


               ◇     ◇     ◇


十神「この俺を呼び出すとは何のつもりだ? まあ殺す訳ではなさそうだが」


KAZUYA、霧切、不二咲、大和田とKAZUYA派のメンバーに囲まれながらも、十神はいつもの調子で問う。
呼び出されて素直に来る所を見ると、何だかんだKAZUYAの派閥の人間はそれなりに信用しているらしい。


大和田「殺すワケあるか!」

K「そうだ。お前に協力してほしいことがあってな」

十神「協力だと? ……まあ、いい。他の人間が言ったのなら誰がするかと切り捨てる所だが、
    貴様なら無意味な行動はしないだろう。話ぐらいは聞いてやる」


偉そうに喋るのはもはやこの男の義務なのではないかと思うくらい傲慢で、殺されずとも殴られて
仕方ないくらいの態度だが、いい加減慣れてきたのかKAZUYA達も諦めの境地に入ってきていた。


大和田(ンの野郎……ここにいるうちはセンセイ達に迷惑かけっから我慢するが、
     ここから出たらぜってーボコる。むしろ泣かす)

不二咲(大和田君、顔がヒクヒクしてるよぉ……)

K(……本当に我慢強くなったな、大和田。脱出した暁には一発だけ殴るのを許可しよう)

K「俺はこれから全員を集めて大事な発表をする。その際、余計なことを言わないでほしいのだ」

十神「余計なこととは何だ?」

K「内通者の存在だ」


それだけ言うともう察したのか、十神の目付きは一層鋭さを増す。


十神「情報を餌にしてあぶり出すつもりか」

K「そうだ」

十神「……フン。いいだろう。どこぞの馬鹿のように、みんな仲間だ。内通者などいない、
    等と寝言をぬかすよりはまだ現実的で受け入れやすい提案だな」

大和田「テメエ、そりゃ兄弟のことか!」


十神「他に誰がいるんだ。愚民兄弟」

K「その辺にしておけ。……石丸にもそろそろ言っておかねばならんしな」

十神「この話を俺にするということは、俺を内通者だとは思っていない訳だ?」

K「陽動にしてもお前は目立ち過ぎだ。それに、内通させるなら物で釣るか脅迫して従わせるかの
  二通りだが、お前は物には興味ないだろう……脅迫されても鼻で笑うだろうしな」

十神「ハッ! よくわかっているじゃないか! ククク……」


いつも不機嫌な十神が珍しく少し気を良くしたようだった。そこで会話を終わらせず彼から話を振る。


十神「……で、お前は誰が怪しいと睨んでいるんだ?」

霧切「そういうあなたはどう思っているのかしら?」

十神「江ノ島だな」


何の迷いも躊躇いもなく十神は言い切った。


大和田・不二咲・霧切「……!」

K「お前もか……」

十神「ギャルにしては発言がおかしいし、何より行動が不自然だ。集団行動に従っているように
    見えてその実単独行動が多く、場が荒れている時には意図的に煽る行為も度々見受けられる」

十神「何より、ゆさぶればすぐ顔に出る。俺の中ではほぼ決まりだ。スパイとしては三流以下だな」

大和田「マジかよ……」

不二咲「江ノ島さん、信じたかったけど……」

霧切「私も全く同じ意見よ。ドクターもそう思っているのよね?」

K「そうだな。江ノ島はクロだ」

大和田「なあ、なら俺達全員で江ノ島をふんじばっていろいろ聞き出せば……」

十神「馬鹿か。あぶり出す、という言葉の意味もわからんのか。内通者が一人なら
    とっくのとうに手を出している。他の内通者を警戒しているのだろう?」


K「そうだ。最低一人、多くて二人はいると俺は思っている」

不二咲「江ノ島さんから聞けないかなぁ?」

霧切「素直に教えてくれるかしら? それに、仮に捕縛出来ても黒幕に消される可能性もあるわ」

K「如何に敵といえど、出来れば死人は出したくない。
  ……彼女相手にそんな甘いことを言っていられるかはわからないが」

十神「……それはどういう意味だ? お前はあの女の正体に心当たりがあるのか?」

K「桑田にも話したが、最近少し記憶が戻ってきてな。正体はわからないが、俺を襲ったのは
  間違いなく彼女なんだ。油断していたとはいえ、俺は一切の反撃も出来なかった」

大和田「なっ?! マジかよ……」

不二咲「西城先生があっさりやられちゃったのぉ……?」

K「ああ。確かにスパイとしては三流かもしれん。だが、その戦闘能力は紛れも無く超一流だ。
  特に大和田、お前は気をつけろ。女だからといって手加減をすれば間違いなくやられる」

大和田「女に暴力は振るいたくねえが、そうも言ってらんねえってことか……」

霧切「……軍人なら人を殺すことも慣れているでしょうし、早まった真似だけはしない方がいいわね」

K「そういうことだ。……十神、手を貸してくれないか? お前の力が必要なんだ」

大和田「ハァ?! 邪魔するなってのはわかるが、そいつの力が必要になることなんてないだろ!」

K「いや、お前はわかっていない。十神が優秀なのは頭脳だけではないぞ。恐らく、護身術も
  かなりのレベルに達しているはずだ。もし江ノ島と直接対決するなら、手を貸してもらいたい」

十神「お前達ばかりに都合の良い話だな。対価はあるのか?」

K「…………」

十神「フッ、冗談だ。……俺とて別に人殺しがしたい訳ではない。黒幕に一泡吹かせるか、
    脱出の案でも用意出来るなら考えておいてやる。せいぜい頑張るんだな」

K「……最善を尽くそう」

大和田「それで、江ノ島以外は誰が怪しいんだよ? 女子なんだろ?」

K「江ノ島程の確信はないから少し言い辛いが、安広と大神が怪しいかと思っている。安広はいまいち
  考えが読めん。大神は、自分から裏切ったりはしないだろうが人質でも取られればわからない」

霧切「そうね……大神さん、時々辛そうな顔で考え事をしているもの」


十神「妥当な所だろうな。物に釣られやすいという意味では葉隠や山田も該当するが、
    あの二人に演技が出来るとは到底思えん。せいぜい捨て駒にしか使えないだろう」

K「安広をどう思う? 俺よりはお前の方が立ち位置が近い分読みやすいだろう?」

十神「フン。あの女も伊達にギャンブラーを名乗っている訳ではない。顔色でバレるようなヘマはしないさ」

K「……そうだな」

十神「ただ……」

K「ただ?」


十神は腕を組んだままニヤリと笑う。自分以外は等しく愚民と見下げている彼だが、時折
見せるセレスの計算高さや立ち回りの上手さは評価していた。狡賢い人間は嫌いではないのだ。


十神「あの女は女狐だぞ。相応の報酬を払うか、或いはあの女が興味を示すような
    面白いギャンブルでも黒幕が用意すれば、乗ることは十分有り得るだろうな」

K「そうか……」

大和田「あいつはクロだろ。どう見ても内通者って顔してやがる」

不二咲「決めつけは良くないよぉ。もしかしたら、一生懸命脱出方法を考えてるかもしれないし」

霧切「……それだけはないと思うわ」



               ◇     ◇     ◇


K(一番良いのは江ノ島以外内通者がいないこと。二番目は大神が内通者でないことだ)

K(とにかく、大きなトラブルがなければ良いのだが……)


KAZUYAが物憂げな顔で脱衣所を出ると、そこにはモノクマが立っていた。


モノクマ「怪しい。怪しいなぁ……」

苗木「モノクマ! こんな所で何してるんだ」

モノクマ「それはこっちの台詞だよ! みんなで脱衣所に集合しちゃって。なに企んでるの?」

苗木「企んでなんか……」


セレス「実はわたくし達、親睦を深めるためにみんなでお風呂に入ろうと思いまして」

モノクマ「ま、まさか全員で混浴?! なんていやらしい……」ハアハア

石丸「こここ、混浴な訳なかろうっ?! そんな風紀が乱れることをこの僕が認めるはずがないっ!」

K「運悪く男子と女子がかちあってしまったのだ」

セレス「それでどちらが先に入るかで揉めていたのです。男子の後は嫌ですから。最終的には公平に
     じゃんけんということになりまして、朝日奈さんと苗木君が勝負して朝日奈さんが勝ちました」ニコリ

K(よくもまあ、これだけスラスラと嘘をはくな……)

朝日奈「えっ?! ……う、うん! 私がグーで勝ったんだよ!」

苗木「……あ、ああー! 僕があの時チョキを出したりしなければ!」

桑田「気にすんなって! ……それに、案外後の方がいいかもしんねーし」

朝日奈「なんで後の方がいいの?」

桑田「え? そりゃあまあ……なぁ?」

大和田「そういうことを男に聞くなよ……」


可愛い女の子が入った風呂には男の浪漫があるのだ。それ以上の深い意味はない。意味はないのだが……


腐川「ま、まさか?! 女子高生の入ったお風呂のお湯を飲む気ね?! そうなのね?!
    こいつ、なんてこと考えてんのよ……! 不潔だわ!!」

桑田「ハアアア?! ちち、ちげーよ! お前こそなに考えてんだ?!」

K(何と言うか……腐川の想像力は凄いな……)

葉隠(桑田っち、ご愁傷様だべ)

山田(僕はアリだと思います!)

石丸「桑田君、君と言う男は……!!」

朝日奈「気持ち悪い! 近寄らないで!」

江ノ島「あんた、そんなこと考えてたんだ……。マジでドン引き」

桑田「だから、んなワケねーだろって! せんせーもなんか言ってくれよ!」

K「え? ……えーと、だな。何と言えばいいのやら……」


突然のとんでもない言い争いにKAZUYAが言葉を詰まらせると、一気に場が混乱する。


腐川「ケダモノよ!!」

石丸「風紀が乱れているううぅぅぅ!!」

桑田「だからちげーよ、バカ!!」

苗木「えっと、どうしようか……」

舞園「苗木君も飲みたいと思いますか?」

苗木「ええっ?! ぼぼ僕はそ、そんなこと……?!」

舞園「冗談ですよ」

苗木「そういう冗談はやめてよ……心臓に悪いから……」

山田「アイドルの入ったお風呂なんてご褒美もいいところですよ。苗木誠殿もそう思っています!」

霧切「あら、苗木君もそう思うなんて。男子全員そうだと思っていいのかしら?」

苗木「僕を巻き込まないで?!」

大神「少し痛い目を見せた方が良さそうだな……」

桑田「わー! ちょ、タンマタンマ!」

大和田「バカッ! 俺を盾にすんじゃねえ! はなせゴラッ!」

十神「馬鹿か、こいつら……」

セレス「放っておきましょう」

モノクマ「なにこのカオス。もういいや。帰ろ」

モノクマ(どうせ後で残姉から聞けばいいし)

K(去って行った。モノクマすら引かせるとは……ここの生徒達の個性は相変わらず凄いな)


嘆息しながら、KAZUYAは騒動の中心人物の肩に手をかける。


K「腐川、いくら桑田だってそこまで変態じゃないさ」

腐川「そ、そんなのわからないでしょ……! きっと、アタシ達の知らない所であんなこんなを……」

K「俺を信じてくれないか?」ジッ

腐川「うっ! せ、先生がそう言うなら……今回だけよ……」モショモショ


K「ほら、石丸。少し時間が空いたんだ。勉強を見てやる」

石丸「あ、はい! しかし桑田君にまだ……」

K「後で俺から厳重注意しておくから」

桑田(せんせー、ナイス!)

石丸「桑田君! 今回は初犯と言うことで見逃すが、以後も風紀を乱すような発言があれば……」

K「 行 く ぞ 」ズリズリ…

石丸「僕の目の黒いうちはこの学園の風紀は僕が守ってみせる! たとえどのような困難があろうと……!」


延々と喋っている石丸の首根っこを掴んで、KAZUYAが半ば無理矢理引きずって行く。


桑田「はあ~、助かったぜ」

霧切「とにかく、モノクマに怪しまれないように私達はお風呂に入りましょう」

朝日奈「うん! はいろはいろー!」

江ノ島「あ! アタシは、その、ムリ!」

霧切「どうしてかしら?」

江ノ島「えっと、その……」

江ノ島(ウィッグだし、手の入れ墨隠してるファンデーションも剥げるし……)


江ノ島に扮する戦刃むくろは、かつて最強と呼ばれた傭兵部隊『フェンリル』に所属していた。
彼女の右手の甲には、フェンリル所属を示す入れ墨が今もまだ残っているのである。


セレス「どうかしましたか?」

江ノ島「その……」

朝日奈「(ピーン!)あ、わかった! 今日はダメなんだ」

大神「ウム、ならば仕方がないな」


舞園「ではまた今度一緒に入りましょうね」

男子「…………」

江ノ島「あ、うん! じゃあまた……」

江ノ島(うう、助かったけど男の子の前でこういう話をされるのは恥ずかしい……)


空気を読む女子達に助けられたが、江ノ島の胸中は複雑であった。



― 大浴場 PM5:17 ―


複数の水音が広い大浴場に反響している。
そこにはこの世の楽園と見まごう光景が広がっていたのだが、今回は描写を割愛させてもらう。

シャワーを浴びながら、舞園さやかは横にいる霧切に声をかけた。


「霧切さん、手袋はまだ外せないんですか?」

「そうね。ドクターに植皮してもらって以前とは比べ物にならないほど綺麗になったけど、
 まだ色が落ち着かなくて。安定するのに最低でも三ヶ月はかかるから当分は無理じゃないかしら」


霧切ともよく話す舞園は、彼女が火傷を隠すために手袋をしていたことも
KAZUYAから密かに皮膚移植の手術を受けたことも聞き知っていた。


「あなたこそ、手は動くの?」

「……あれ? バレてました?」


舞園は一月ぶりにギプスから開放された自身の右手を真っ直ぐ伸ばす。

いや、――曲がらないのだ。



               ◇     ◇     ◇


今朝の医療実習の前に、舞園は保健室に呼び出されKAZUYAの診察を受けていた。
横では石丸がKAZUYAの診察の様子を熱心に記録し、苗木が助手代わりを務めている。


「レントゲンがあればいいんだがな」


KAZUYAが呟いた。ギプスを装着する前の触診で、そこまで酷い折れ方はしていないだろうと見当を付けていた。
骨折はあまりに酷い砕け方をした場合、皮膚を開いてボルトやワイヤーで骨片を接合せねばならないのだが、
桑田の一撃が余程綺麗に決まっていたのか、さほどバラバラに飛び散っていない気がした。

だが、それはあくまで経験を元にした単なる予想である。実際はバラバラなのかもしれない。腹部にも
大きな傷があるし、確認のためだけに皮膚を切開するのはリスクが大きいと判断しあえてそのまま固定したが。


舞園「くっついてますかね?」

K「君が怪我をしてから、満一ヶ月が経った。骨折は部位にもよるが、大体四週から六週程で接合する。
  老人だと治りが遅いが君はまだ若いからな。ほぼ治っていると見て間違いない」

K「とりあえず経過を見るためにも、一度ギプスを外してみよう」


そう言うと、KAZUYAは棚から取り出したギプスカッターのコンセントを挿して電源を入れる。
円状の細い刃が甲高い駆動音を響かせながら電動で回転するその様はまさしく電動ノコギリのようだ。

キィィィィィィン。ギュィィィィィィィィン。


舞園「…………」ゴクリ

舞園(西城先生の腕なら大丈夫でしょうが、やっぱり怖いですね……)

K「……大丈夫だ。怖がらなくていい」


舞園の緊張に気付いたのか、KAZUYAはフッと笑うと何とカッターの刃を自分の腕に当てた。


苗木・舞園「えっ?!」


突然の奇行に舞園と苗木は同時に声をあげ、石丸だけは何故か笑っている。


K「見てくれ。ほら、全く切れてないだろう? この刃はな、回転しているように見えるが
  実際は前後に高速で振動しているだけなんだ。その振動でギプスのような固いものを砕く。
  だから、柔らかい皮膚に軽く当てた程度では全く問題ないんだ」


ギプスカッター:音といい形といい、電動のものは電動ノコギリに見えてかなり怖い。
          が、強く押し当てるか当てたまま擦らなければまず切れることはない。


K「乱暴にやれば傷がつくこともあるが、間違っても肉を裂いたり切断することはないから安心してくれ」

舞園「そうなんですね」ホッ


石丸「成程! 患者が不安な時はこうやって安心させるのだな! 先生の診察は参考になる」メモメモ

K「俺がまずやるが、苗木に少し手伝わせてもいいか?」

舞園「大丈夫です。あの、石丸君は……」

K「……多分、いや確実に皮膚を切るから今回は見送りだ。外したギプスで後で自習させる」


手際良くKAZUYAがギプスに切れ目を入れ、苗木が見よう見真似で同じようにギプスを切り裂いていく。
そしてギプスが外れた後は、内部に巻かれていた包帯を鋏で切って全て外した。


苗木(舞園さんの手、本当に綺麗だなぁ。……なんて、言ってる場合じゃないけど)

K「うむ、特に腫れたりはしていないな。触るぞ。痛かったら言ってくれ」

舞園「はい」

K「……。痛みはないようだな。では、動かしてみるぞ」

舞園「はい。……あっ」


一ヶ月ぶりに手首を動かした舞園だが、すぐにその違和感に気が付く。


K「これ以上動かないのか?」

舞園「は、はい……」

苗木「えっ?! 舞園さん、手首曲がらないの?!」

石丸「どうやら、ずっと固定していたから関節が固まってしまったようだな」フム

舞園「…………」


ジッと手首を見つめるが、舞園は特に動揺したりはしなかった。


舞園(後遺症ということですか。罰が当たったのかもしれません。でも、これくらいなら別に……)

苗木「舞園さん……」

K「――では、今日からリハビリを始めよう」

舞園「……え?」

K「別に君の怪我が特別酷かったという訳ではなく、関節を骨折するとほぼ必ずこうなるんだ。
  関節可動域訓練と言うんだが、また元の通りに動くようこれから毎日リハビリをしていこう」

舞園「リハビリすれば……治るんですか?」


K「ああ。少し時間がかかるが、必ず治る。一緒に治していこう」


そう言って柔らかく笑うKAZUYAの顔に、舞園も苗木も心底安心したものだ。


苗木「またちゃんと動くんだって! 良かったね!」

舞園「……はい!」

K「接合したと言っても、まだ骨に筋状のヒビが残っているかもしれん。
  リハビリの時以外は包帯でしっかり固定し、当分はあまり動かさないようにな」


そして舞園のリハビリ生活が始まったのだ。


               ◇     ◇     ◇


霧切「そう……良かったわ」

舞園「はい。最初は一生このままなのかと思って少し焦りましたが、ちゃんと治るそうです。
    西城先生は優しく指導してくれるし、苗木君達も付き合ってくれて……私は幸せ者ですね」


微笑む舞園の顔は、久々に穏やかなものだった。


朝日奈「あ! 今気づいた。舞園ちゃん、ギプス外してる?」

舞園「はい。まだしばらく包帯は付けてますけど、ギプスはもういいそうです」

大神「完治まであと僅かか。めでたいことだな」

朝日奈「じゃあじゃあ、完治したらみんなで一緒にドーナツ作ってドーナツパーティーしよーよ!」

セレス「あら、よろしいですわね。わたくしは作りませんけど」

腐川「あ、あんたねぇ……」

舞園「この間のパーティーは腐川さんがいなかったですし、ちょうどいいですね」

腐川「アタシも、参加していいの……?」

朝日奈「当たり前だよっ! むしろなんでダメだと思うの?!」

腐川「う、うふふ……パーティー、ね……凄くいいじゃない」

霧切「では、幹事は発起人の朝日奈さんでいいかしら? 楽しみにしてるわ」ニコリ


ここまで。

そろそろほのぼのも終わりか……ハァ

そういや生徒たちの中で腕が使えなくなったら一番辛いのは桑田だよなあ

つまりK先生に心をなおしてもらえば
最強の仲間になるわけか

スレ伸びてると思ったら何この大十神祭…(衝撃)

オーケー、オーケー。みんなが十神君大好きなのはよーく伝わったよ
彼はまだまだ活躍するしヘマもするので今後も暖かく見守ってやってください

>>367
山田君もかなりヤバイですね。医者志望組も。ちなみに、もし重傷だったら
舞園さんの手首は骨が粉々で綺麗にくっつかず後遺症が残る、という事態になってました

>>370
果たして、KAZUYAに治せるかな? 十神君の心を治せるとしたらきっと……


ちなみにギプスカッターの参考動画
http://www.youtube.com/watch?v=mSO4noQgflU

かませさんは生きてるだけで儲け物なんや!そういじめてやんなや!

ねっ、別にRPGとかの最初に立ちはだかる四天王とは訳が違うんやで!

十神っちは噛ませは噛ませでもヤムチャじゃなくてベジータだからね
ほら、こう考えると活躍できそうでしょ?

>>376
1の持論では四天王は最初に出てくる奴が一番強そうに見える(出番が長く描写も丁寧だから)

>>377
1も十神君はベジータ派ですね。実力はあるし努力家だけど性格が…


もうちょっとだけギャグとほのぼのやらせて。多分あと数回でシリアス入るから
そして今回シリアス入ったら多分もう当分ギャグやる余裕なくなるから

と、言うわけで今回は小ネタ回


江ノ島が去り、他の女子達も風呂に向かったため男子のみその場に残った。十神は既にいなくなっている。


桑田「はぁ、散々だったぜ……」

大和田「女どもが出るまで適当に時間つぶすか」

苗木「じゃあ運動でもして汗を流す?」

不二咲「野球しようよぉ」

桑田「お、いいな! やるか!」

葉隠「それはいいんだけどよ、誰が桑田っちのボールを捕るんだべ?」


そんな風に和やかに話していたのだが、


山田「ちょっと待てーい!」


この男の発言により一同は混乱の渦に巻き込まれるのだった。


大和田「あ? なんだよ」

山田「みんなを男と見込んで話しますが……今女子は江ノ島盾子殿以外全員この中にいます」

桑田「そんなん見りゃわかんだろ。くだらねえこと言うなよ、ブーデー」

山田「そしてここにいるのは飢えた狼ばかり……ここまで言えばわかりますね?」

苗木「えっ、そ……それってもしかして……?!」

葉隠「ああ、そういうことかい……」

桑田「なーるほどな」

不二咲「え? なに? どういうことぉ?」


山田「ズバリ☆ 覗きましょう!」


― オマケ劇場 29 ~ 男達の宴  掴め! 男のロマン!!編 ~ ―


桑田「やっぱくだらねえことだったぜ……」

大和田「おい、テメエ……」

山田「わーわー! 暴力反対! だ、大体男ならみんな一度は思っているはずですぞ!
    女湯覗いてみたいって! 本能に従って何が悪いんです!!」

苗木「……山田君、二次元限定って言ってなかったっけ?」

山田「それは嘘だと裁判の時バラされました(キリッ)。僕だって男です。ハンターです。
    壁の向こうにある乙女の花園をこの目にフレームイン!したいんですよ!」

葉隠「オメエさんなぁ……」

桑田「……あー、でも、わかるけどな。ここの女子ってレベル高いのばっかだし」

大和田「おい、桑田……!」

山田「そうでしょうそうでしょう! アイドルの舞園さやか殿は言わずもがな、ミステリアス美女な
    セレス殿や霧切響子殿! 元気系美少女の朝日奈葵殿! 大神さくら殿も豊満なバストを
    お持ちですし、腐川冬子殿は色白スレンダーでなかなかエロスを誘いますな!」

大和田「具体的なこと言ってんじゃねえ! ……想像しちまうじゃねえか」

苗木「でも、悪いよ。もしバレたらタダじゃ済まないだろうし……」

山田「甘いですぞ!」クワッ!

苗木「うわっ」

山田「古来より虎穴に入らんば虎児を得ずと言います。危険を冒した勇気ある者のみ、
    その向こうにある栄誉を掴む資格があるのです! つまりこれは尊厳を懸けた男の戦い!」

苗木「大袈裟だよ……」

不二咲「やろう!」

苗木・桑田・大和田・葉隠「えっ?!」

不二咲「男の戦いなんでしょ? ここで逃げちゃダメだよ!!」

大和田「いや、不二咲……オメエ、自分がなに言ってんのかわかってんのか?」


不二咲「わかってるよ! 女子のみんなには悪いと思う。でも……
     こんな外見の僕だって、本当は興味あるんだよぉ!!」

大和田(この顔でそんなことを力説されても正直困るっつうか……)

苗木(必死過ぎだよ、不二咲君! ……そりゃ、僕だって見たいけどさ)

桑田「ま、いんじゃね? こちとらずーっとこんなところに閉じ込められてストレスたまってるし」

山田「おお! 桑田怜恩殿ならわかって頂けると思いましたぞ!」

大和田「チッ、しゃあねえな。不二咲が行くっつってんのに、俺が行かないワケには行かねえ」


そう言う大和田だが、満更でもない顔をしている。


山田「ほら、苗木誠殿も! 最も障害となるうるさい男と監督者が揃っていない、今だけのチャンスです」

苗木「で、でも監視カメラは? 後でモノクマにバラされたら厄介なことになるんじゃ……」

モノクマ「ご安心ください!」シュタッ!

苗木「うわ! ビックリした……」

山田「むむっ、すっかり忘れていました。最後の障害を!」

モノクマ「いやいやいや、ボクは味方だよ? ボクも男のコだからねぇ。みんなの気持ちもわかるよ。
      だから後で女子にバラすなんて、そんな姑息な真似はしないって言いに来たんだ!」

苗木「本当かなぁ……」

山田「よーし! 最後の障害もなくなりましたぞ!」

桑田「苗木、本当はおめーも興味あんだろ?」

大和田「一人だけいい子ぶる気じゃねえだろうな、ああ?」

不二咲「苗木君を信じてるよぉ」

苗木「わ、わかった。僕も付き合うから……それより葉隠君は? さっきから黙ってるけど」

桑田「葉隠は当然くるだろ」

大和田「まさかオメエが止める気か?」

葉隠「とんでもねえ。俺ももちろん興味あるし割りとノリ気だべ。ただ……」


苗木「ただ?」

葉隠「俺は今までに三件裁判起こされてて一つは今も係争中なんだ。そんな時に、よりによって覗きで
    訴えられたりしたら、裁判官の心証が一気に悪くなって今度こそ実刑くらわねえか心配で心配で……」

苗木・桑田・大和田・不二咲「…………」

山田「oh……」


そんな葉隠の心配はあったが、最終的に全員で覗くという方向になったのだった。

後半へつづく。



― オマケ劇場 30 ~ 男達の宴 そして新世界へ…編 ~ ―


桑田「やっべー、マキシマム緊張してきた……」

山田「ではでは、参りましょう皆さん! 壁の向こうの黄金郷(エルドラド)へ!」

不二咲「この向こうに桃源郷があるんだねぇ!!」

大和田「久しぶりに危険(スリル)と勝負(レース)してやるぜっ!」

葉隠「ムー大陸は俺のもんだ!!」

苗木(みんなテンション高すぎるよ! いや、僕もだけどっ!!)ドキドキ!


魔訶フ(ロ)思議アドベンチャー  歌:希望ヶ峰学園78期生男子一部

つかもうぜ! 女湯にある!
世界でいっとー スリルな秘密~♪
さがそうぜ! あの子のバディ!
世界でいっとー ユカイな奇跡~♪
この世ーはー でっかい宝島ー
そうさー今こそ アドベンチャー!♪


うおおおおおおおおおお! 男のロマンが俺達を待ってるぜー! バタバタバタッ!


モノクマ「……ハァ。バカばっか」

モノクマ(ま、面白いから今回は黙って見てるけど。うぷぷ)


・・・

山田「こちらスネーク。敵地に潜入した」

苗木「で、誰から行くの?」

大和田「おし、苗木。オメエから行け」

苗木「え?! 僕から?!」

桑田「ああ、苗木からだな」

葉隠「行ってこいって」

桑田(万が一の時はソッコー逃げるから、女子受けのいい苗木残した方が無難だし)

大和田(苗木には悪いが、いざという時は俺が不二咲連れて逃げなくちゃならねえしな)

葉隠(最初はまず様子見だべ。すぐに逃げる準備をだな)

不二咲「頑張ってね、苗木君!」キラキラ

苗木(何人か微妙に腰が引けてる気がするけど、ここまで来たら仕方ない。腹を括ろう……)


そして苗木は湯気で曇ったガラスの扉をこっそり開けて覗く。


苗木(お、おおー!!!)

苗木(凄い! 凄いぞ! 思わず一人ずつゆっくり実況したくなるくらいに凄い! とりあえず舞園さん、
    流石アイドルだけあって綺麗な肌してるなぁ。全体的に細すぎず太すぎず適度なラインだし……)

苗木(適度にムッチリ適度にスレンダー……地上に楽園は存在したんだね! ヒャッホーゥ!!)

ジィィィィ…

桑田「……大丈夫そうだな」

山田「僕らも行きましょうか!」


身長差を利用し、全員扉に飛び付く!


桑田(うおおおおお! ヤベー! マジヤベーってこれ! ……ん? 霧切のやつ、風呂にも手袋つけて
    入ってんのか? つーか、上は普通だけど下半身のムチムチっぷりがヤベェー。うっひょおおー!)

大和田(おおお、やっぱり朝日奈の胸はすげえな……期待を裏切らねえ体してやがる! うおおおお!!)

不二咲(み、みんな凄い可愛い……それにしても大神さんの背中凄いなぁ。羨ましい……)

山田(セレス殿ぉぉぉ! 普段の人形チックなゴスロリコスもいいですが、
    今のさっぱり和風美人もいいですぞぉぉ!)(*´д`*)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽア!

葉隠(おお、昔みんなで泳いだ時も思ったけどオーガの爆乳やべえな……
    あと、腐川っちも髪おろして眼鏡外すとなかなか悪くないべ。フムフム)

苗木「ああ、堪能した……」

山田「だから言ったでしょう?」

桑田「すげーもん見れたぜ……」

大和田「覗いて良かったな」

不二咲「これで僕も一人前の男だね!」

葉隠「うし、見つからないうちにとっとと撤収……」


ガラッ!


大神「生は満喫したか?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


そこには鬼が立っていた。


山田「あの、性なら十分に……はい」

セレス「では山田君の作品のテーマである、性の向こう側へ皆さんで行ってもらいましょうか?」ニコ

「…………」ダラダラダラダラ


ギニャアアアアアアアアアアアアアアア!!


K「ん? 今何か聞こえたかな?」

石丸「先生! この場合に打つ点滴の量は……」

K「ああ、それは……(気のせいだな。うん、気のせいだ)」


― オマケ劇場 31 ~ 宴の後 ~ ―


夕食時。


石丸「ム? 今日は男女別に席が別れているのだな。ではあっちに……」

舞園「あ、先生と石丸君はこっちですよ」ニコッ

石丸「だが、兄弟達が……」

大和田「……わりい、しばらくそっちで食ってくれや」ドヨーン

不二咲「ごめんねぇ……」(´・ω・`)ショボーン

苗木・桑田・山田・葉隠「…………」ウツムキ


俯く彼等の頬にはみな一様に紅い紅葉がつき、頭には大きなたんこぶが出来ている。


朝日奈「はい、二人ともこっちこっちー」グイグイ

K・石丸「?」←背中を押されて無理矢理連行される

セレス「十神君もこちらへどうぞ」

十神「……何なんだ、一体」チラ


少し離れた所では、大神が江ノ島に事情を説明していた。


大神「実はな……」ヒソヒソ

江ノ島「えっ?! そんなことあったの? マジありえなーい! サイテー!」ヒソヒソ

K「…………(ああ、成程……)」←何となく状況を察した

十神「そういうことか。愚民め……」←察した

石丸「???」←全くわかっていない


・・・

霧切「はい。どうぞ」

K「ム、持ってきてくれたのか。ありがとう」

舞園「石丸君、これ好きですよね? 私の分あげますよ」

石丸「いいのか? すまない」

朝日奈「じゃあ私のは先生にあげるねー!」

K「あ、ありがとう」

大神「なに、お主達は日頃頑張っているからな」フフ

江ノ島「どっかの誰かさん達とは大違いだよねー?」ジロ

セレス「ええ、全くですわね」

腐川「白夜様! 私のおかずを……!」

十神「いらん!」

朝日奈「ねえねえ、今日はどんな授業したのー?」ギュー

K「うわっ(近い、近いぞ顔が!)」

舞園「リハビリのやり方をもう一度教えてくれませんか? 実際に手を握って……」

石丸「いいとも。任せたまえ!」

霧切「後学のために私にも教えてくれないかしら? ちゃんと手を取って、ね」

石丸「霧切君は勉強熱心なのだな! 素晴らしいぞ!」←頼られて嬉しい

セレス(ここまで真面目というか鈍感な方は天然記念物に当たりますわねぇ……)


キャッキャ♪ ウフフ♪


桑田「ちくしょー……あれぜってー俺達に対する当てつけだぜ?」ウラヤマシイ…

苗木「仕方ないよ。怒られるようなことしたのはこっちだし……」

葉隠「……むしろ、この程度で済んで良かったと思うべきだべ」

山田「苗木誠殿と不二咲千尋殿のお陰でしょうな……」


大和田「ああ。俺達だけだったら半殺しは固かったぜ……」

苗木「石丸君、一人だけ状況飲み込めてないみたいだけど大丈夫かな?」

大和田「兄弟はニブイからな……」

不二咲「石丸君には悪いけど、先生がいるから多分大丈夫だよねぇ?」

・・・

セレス「どうです? 食後に皆さんで何かゲームでも?」

石丸「いいな。折角だし全員で遊ぼう!」

舞園「あっでも、あちらの男子は何か別の用事があるそうですよ?」

石丸「えっ、僕は聞いていないが」

腐川「フ、フン。楽しい楽しいオトコの遊びでさぞや忙しいんでしょうよ……!」

石丸「男の遊び……」


               ◇     ◇     ◇


石丸「先生……僕はもしかして仲間外れにされているのでしょうか……」

K「ハァッ……?!」

石丸「この所、何だか兄弟達はよそよそしいし女子が不自然に優しいのです。
    もしかしたら僕が外されていて、可哀相だと同情されているから……」

K「いや、違う。それだけは断じて違うからな」

石丸「では何故なんですかああああっ?! 僕は! 僕は寂しいのですうううう!!」ブワッ!

K(ああ、面倒くさいな……ほんと面倒くさい……)


……この学園で何かトラブルが起こる。その場合、たとえ全く関係のないことであっても
どんなにしょーもないことであっても、そのしわ寄せは確実にKAZUYAの元へやって来るのであった。


ここまで。

男のロマンよ、永遠に


               ◇     ◇     ◇


「先生! 西城先生!」


校内の見回りをするKAZUYAに、背後から声が掛けられた。駆け寄ってきたのは不二咲だ。


「ん? 何だ、不二咲?」

「あの、最近忙しそうだったから言い出せなかったけど倉庫の……」

「……ああ、そうだったな!」


KAZUYAは笑顔で不二咲と一緒に倉庫に行くと、二人で色々なガラクタを持ち出す。
不二咲では手が届かない場所の物も、大きくて重い物もKAZUYAなら楽々と取り出して運べる。


「わあ、やっぱり西城先生は力持ちだねぇ!」

「大神に連戦連敗の俺が唯一勝てるものが腕力だからな……」


と言ってもうっかり手加減などしようものならあっという間に負けてしまう。それほどに彼女は強いのだ。


(朝日奈だってそこらの男よりよっぽど体力があるし、男の自分より女性の方が
 強いという事実が、ますます不二咲のコンプレックスを刺激してしまったのかもな……)


しかし、生まれもった体格だけは努力ではどうにもならないのだ。それ以外の方法で自信を
つけていくしかない。幸いにも不二咲には武器がある。自分はただ見守っているだけでいいだろう。


― 不二咲の部屋 PM7:43 ―


「ちょっとゴチャゴチャしてるかもしれないけど……」

「なに、桑田の部屋より遥かに綺麗だよ」


不二咲の部屋は、どこを向いてもとにかくメカメカメカ機械……
机の上のモニターを筆頭に至る所に機械が置かれていた。


「さあ、始めようか」


KAZUYAが不二咲から頼まれていたこと。それは倉庫の機械類を部屋まで運ぶことであった。
ついでに、多少は機械の知識もあるKAZUYAが修理を手伝うことである。


「機械をいじっている姿を見ると、やはり男の子だなと思うよ」

「えへへ、そうかなぁ?」


不二咲は嬉しそうに笑う。自分でも運べる細々とした部品類は既に箱にいれて
用意してあり、それらの部品を広げながら二人は床で機械を修理していく。


「……僕ね、ずっと夢だったんだ」

「何がだ?」

「お父さん以外の男の人と、こうやって機械やパソコンをいじったりするの」

「確か、不二咲はその歳でもう企業と契約しているのだろう? それこそ
 メカニックやプログラマーの知り合いなんてたくさんいるんじゃないのか?」

「えっと、その人達は仕事上の付き合いだからどうしても気を遣っちゃうし……
 ……あと、僕の外見が女みたいだから女の子だと勘違いする人が多くて」

「ああ……」

「実際性別を隠して女子校に通ってたから訂正したくても出来ないし……ただでさえ理系の女の人は
 少ないのに女子高生プログラマーってことで尚更目立っちゃって、凄く嫌だったんだぁ」


中には変な目で見る人もいたし、と不二咲が付け加えるとKAZUYAは何とも言えない気分になる。


「お父さんもプログラマーだったな。こうやって、よく一緒に機械を触っていたりしたのか?」

「うん!」


「君のお父さんに比べたら俺など全く役に立たないだろうな」

「そんなことないですよぉ! うちのお父さんてさ、すっごいそそっかしいんだから。
 時々部品を間違えて買ってきたりするし、全然頼りにならないし」

「何かあるとすぐ困った顔で『千尋、どうしよう?』なんて子供の僕に頼るし。
 先生の方が強いし格好いいしずっとずっと頼もしいんだから!」


珍しく強気な発言をする不二咲の姿に、確かな親子の信頼と繋がりを見てKAZUYAは微笑む。


「ハハハ、手厳しいな。だが、凄く優しそうだ」

「うん、優しいよ! ……女装のことも学校のことも、お父さんだから相談出来たんだと思う」

「ご両親は反対したりしなかったんだな」

「うん。僕が話した時、お父さんはそれこそ腰を抜かして驚いてました。
 それで、少し考えさせてくれないかって言って……当然だよね……」

『ご、ごめん千尋……大事なことだし、すぐにはちょっと答えられそうにないんだ。
 お母さんと相談するから、少しだけ時間をくれないかな……明日には、必ず言うから』

「それで、お父さんは何て言ったんだ?」

「うん……」

『昨日一晩お母さんと話したんだけど……お父さんとお母さんは反対しないことにしたよ。
 千尋が生半可な気持ちで言い出した訳じゃないって言うのはお父さん達もよくわかってるし、
 それで千尋が前向きになれるって言うのなら、それも一つの手段だと思う』

『周りからあれやこれや言われて気にするな、と言っても限度があるだろうしね。
 ……ただ、何があってもこれだけは絶対に忘れないで欲しいんだ』


いつも困ったような顔をしている弱気な父が、その時ばかりは真剣な目で息子を見つめていた。


『千尋は男らしさよりもっと大切な、周りをいたわる優しさを持ってるし、言い出したら
 聞かない芯の強さもある。千尋はいつだってお父さんとお母さんの自慢の息子なんだ』

『これから何があっても、どんな状況になっても――』




――どうかそのことだけは、いつまでも忘れないでいて欲しい。




「そうか……」


さぞかし葛藤があったろうな、とKAZUYAは会ったこともない不二咲の両親を慮った。


「同級生にイジメられても女子校で自分を偽っていても、何とか
 耐えられたのは多分お父さんとお母さんが味方でいてくれたからなんだ」

「……正直、何でこんなことしちゃったんだろうって自己嫌悪に陥ったことは
 しょっちゅうあったよ。でも自分で決めたことだし、何があってもお父さんと
 お母さんは味方でいてくれる、なら僕も頑張らなきゃって思って……」

「それが支えだったんだな」

「うん……今はお父さん達に会えなくて凄く心細い。……でも、ここには先生がいるから」

「……俺は君達の家族代わりになれているだろうか」

「大丈夫だよ! みんなみんな先生のこと大好きだもん!」


その力強い返答にKAZUYAの心が温まった次の言葉だった。

……突き落とされたかのように、心が凍りつく。


「西城先生はこれからもずっと僕達と一緒にいてくれるよね?」

「…………ああ、勿論」

「約束だよ?」


さほど難しい訳ではないはずのその約束が、今のKAZUYAの身にはズシリと重くのしかかったのだった。



不二咲の分析能力が上がった。弱気と病弱さが下がった。
アルターエゴの性能が上がった。イベントアイテムを手に入れた。


― 食堂 PM8:59 ―


(食堂が閉じる前に色々補給しておくか)


一見医者とは縁のなさそうな食堂だが、実は厨房には色々と役立つものがある。塩、砂糖は生理食塩水や
経口補水液の材料になるし、酒はいざという時消毒液代わりに使える。保健室の消耗品は稀に生徒達が
モノモノマシーンで手に入れてくるが、基本的に補給出来ないので代用出来る物は代用してしまうのである。


「あら、ごきげんよう」

「珍しいな」


食堂ではセレスが一人で紅茶を飲んでいた。


「娯楽室を占領されてしまったので、私はこちらに避難していると言う訳です」

「成程」


そういえば朝日奈達が遊んでいたし、自分もつい先程までそれに付き合っていたのである。
それ以上は特に気に留めず、厨房から必要な物品を手にKAZUYAが去ろうとした時だった。


「もし、少しお喋りでもしませんこと?」

「……俺で良ければ付き合うが」

(思えば、俺が様子を窺いに行くことはあるが向こうから声を掛けてくることはほとんどなかったな。
 こうやって声を掛けてくるようになったということは、それなりに好かれていると思いたいが)


誘われるままKAZUYAはセレスの向かいに座った。


「以前朝日奈さん達から聞いたことがあるのですが、朝食会の前はいつも先生のお話をみんなで聞くとか?」


「ああ。雑誌代わりというか情報番組みたいな扱いだよ。ここにはテレビがないからな。
 俺の昔話が少しでもみんなの退屈凌ぎになってくれているなら幸いだ」

「西城先生は話題が豊富でいらっしゃいますものね」

「俺自身の知識は偏っているが、知り合いは多いからな。幸いなことに話すことには困らない」


そう、スポーツ選手から今流行の芸能人までKAZUYAにはたくさんの知り合いがいる。政治家や有力者から
果ては過疎地の老人、子供まで幅広く市井の人々と出会い話しているからこそ、世間知らずにならなくて済んだ。


「折角ですから、わたくしにも何か面白い話を聞かせてもらえませんか?」

「それは構わないが……」

(ウーム、安広が興味を持つ話題か……)


十人十色と言う言葉があるが、人の趣味や嗜好はそれぞれ違う。


(石丸は病院関連の話や具体的な治療内容について聞きたがるし、不二咲や大神は強大な組織との
 戦いの話が好きだ。朝日奈は人間関係の……主に恋愛関連に対する食いつきがいい)

(……だが、これらの話は安広は好きじゃないだろうな。彼女は派手好きだ。もっとこう、規模が
 大きくて壮大な話が好きそうだ。それに、外国かぶれだから異国の話しの方が良さそうだし)


KAZUYAは頭の中にいくつか候補を出しながら話し始めた。


1.バグラン公国で恩師・柳川を助けた話
2.シルバラで麻薬組織と戦った話
3.レーゲンスとの手術勝負
4.クイーン・アカデミア号での事件
5.中東の大国レビークでの手術
6.その他スーパードクターK44巻までの話で

KAZUYAが話したのは? ↓2


「もう四年も前の作品だが、尾津明二郎監督の『愛と無情の円舞曲(ワルツ)』を知ってるか? その年の
 日本アカデミー賞を総嘗めし、海外の著名な映画賞も受賞したから名前くらいは知っていると思うが」

「ええ。知っております。わたくしも見ましたわ」


見たことがある、というセレスにKAZUYAは少しばかり驚いた。


「……意外だな。映画は洋画、それも少し古いものを好みそうだが」

「あら、先生はわたくしの好みを熟知していらっしゃいますのね」

「雰囲気で何となく、な」

「確かにわたくし、あまり日本の映画は好みませんがあの映画は参考のために見ましたの。
 主人公の女性は華族の生まれで非常に優美ですし、舞台が豪華客船というのも気に入りましたから」


成程、日本にもかつては上流階級によるめくるめく華やかな世界があった。
そう言った古い時代の社交界はセレスの感性にも合ったのだろう。


「なら話が早いな。実はあの映画の撮影現場に俺もいたんだ」

「まあ」


今度はセレスが驚く番だった。


「たまたま居合わせたんですの?」

「いや、俺は主治医として乗り込んだんだ。主演の尾津美奈子のな」


尾津美奈子は監督である尾津明二郎の娘だが、重度の心臓病を患っていた。そのために女優業を
やめていたのだが、尾津の最高傑作は間違いないだろうこの大作のため、病を押して撮影に臨んだのだ。


「確か尾津美奈子は病気だったはず。そのために演技では再現出来ないような繊細な表情や
 儚さを出せたとのことですが……その背後には西城先生がいらっしゃったのですね」

「監督が、身贔屓ではなく純粋に彼女でなければこの役は出来ないと豪語していたよ」

「ですが先生らしくありませんわね。病人にそんな無理をさせるなんて」


もう一月も共に暮らし、KAZUYAが何に怒り何に悲しんできたかをまざまざと見てきた
セレスにとって当然の疑問だ。KAZUYAはそっと目を伏せて静かに答える。


「俺は反対したんだがな。……彼女の病、心臓弁膜症は非常に重度だった。いつ大きな発作が起こっても
 おかしくない、それくらい危険な状態だった。彼女の病名を告げた時、船医から怒られたし呆れられたよ」


心臓弁膜症:心臓には血液の逆流を防ぐため四つの弁があり、それらが必要に応じて
       開閉しているのだが、その弁が変形したり機能不全を起こす病気のことを言う。
       

「……なら、何故?」

「監督が娘に無理強いしているだけだったら俺は意地でも船に乗せなかったが、尾津美奈子本人の
 強い要望があってな。俺が止めてもこの子はきっと乗るだろう、と。……やむを得なかったんだ」

「そうですの。……確かその撮影の時に事故がありましたわよね?」

「そうだ。事故で尾津監督は亡くなり、息子の尾津慎一も重傷を負った。俺は監督の心肺を慎一に移植し、
 慎一の心臓を美奈子に移植した。その後、慎一が立派に跡を引き継いであの映画は完成したんだ」



「俺は尾津監督の命は救えなかった。――だが、あの親子が命を懸けて
 臨んだ作品を無事完成させることで、監督の魂もきっと救えたと信じている」

「……あの華やかで美しい映画の裏に、そんな事情があったとは思いませんでしたわ」


それは純粋な感想だった。美しい映画の裏側に存在した熱い人間ドラマも
非常に興味深かったのである。だが、セレスはもう一つ別のことを考えてもいた。


(平然と言いましたが、今の話ですと先生は一度に二箇所も移植をしたということになりますわね……)


しかも、うち一つは心臓と肺を丸々である。如何にセレスが素人であれど、
それが異常なまでに高度な技術であることは流石に理解出来た。


(流石超国家級の医師。……本当に、話をすればするほど死なせるのが惜しくなってくる人ですこと)

「とても興味深い話をありがとうございます」

「楽しんでもらえたようで何よりだ」

「ちなみに、豪華客船での船旅は如何でした?」

「正直それどころではなかったからね。機会があったらまた乗ってみるのもいいかもしれないな」

「正装してくださるならわたくしが付いて行ってさしあげてもよろしくてよ?」

「……それは御免こうむる」


豪華客船で行われた映画撮影の話は、セレスにとても喜んでもらえたようだ。が、


「ちなみに、四年前ではなく二年前の話では?」

「!! そ……そうだったか? 俺も多忙なものでな」


慌てて誤魔化したが、KAZUYAは内心ヒヤリとしたのだった。


ここまで。腐川さんの友情スレに浮気してたら投下遅れてスマソ

1に安価スレは絶対無理だな。ではまた次回

御免こうむらなくてもよいではないかK

ところで患者に関する守秘をこういう状況下だからあえて必要に応じて公開するKの臨機応変性はやっぱりスーパードクターなんだなと真面目にコメント

>>415-417
現在日本では脳死患者からの臓器移植は可能となっていますが、連載当時は禁止されていました。
クイーン・アカデミア号がイギリス船籍だったからこそ可能な手術であり、更に言えばKAZUYAがその場に
いたからこその奇跡です。そんな様々な幸運が重なって助かった訳だし、亡き父の遺志を継いで映画を
完成させるというドラマティックな状況をマスコミが黙っている訳はありません

……というか、このSSではそういう設定だとお思いください。尾津監督を偲ぶ特番が何度も流れたり、
映画の制作秘話のドキュメンタリーが作られたり、慎一君もテレビや雑誌に何度もインタビューされて、
その度に「父から貰った命です!」なんて熱く語ったり……そんな感じ。Kの名前は伏せてると思いますが

ちなみに、レビークの場合は国名は出さないで話しましたね。バグランも、陰謀関連は大幅に
カットして話す予定でした。一般人に話したらまずいことは基本的に話しません。


               ◇     ◇     ◇


夜時間に入って少し立った頃、KAZUYAは脱衣所の長椅子に一人腰掛けていた。
目的の人物がやって来たのを見ると、立ち上がって出迎える。


「わざわざ呼び出してすまなかったな」

「それはいいんだけどさ。こんなところに呼び出して一体なんの用よ?」


気だるげな顔をして脱衣所にやってきた彼女は、不信感を隠しもせず中に入った。


「大事な話があってな」

「そうだろうね。あえてカメラのない場所を選んだんだし。早く終わらせてよね?」

「わかった。俺も回りくどいのは苦手だしな。単刀直入に言わせて貰おう」

「――俺は君を疑っている。江ノ島」

「!!」


KAZUYAから直々に呼び出しがかかったのだ。何かある、と身構えていた江ノ島だが
それでもまさかここまでハッキリ言われるとは思わなくて、意図せず目付きが鋭くなる。


「ずっと君の行動を見ていて、些か不自然な点がいくつか見受けられた」

「…………」

(どうする? 今こっちは丸腰だけど、殺す? 殺すだけなら別に不可能じゃない。
 ……でも、あれだけ警戒心の強い西城が何の手も打たずに現れるかな?)

(誰かに私が怪しいって伝えていたら……それに、マントに武器を仕込んでる可能性もある。殺すだけなら
 問題ないけど、もし一発でも攻撃を受ければ私が犯人だってバレる。それは盾子ちゃんは望まない)


実際彼女の判断は正しかった。超高校級のボディーガード三人がかりの連携攻撃をいとも簡単に
いなした彼女なら、殺すこと自体はさほど難しくはない。以前のKAZUYAなら手も足も出なかっただろう。


だが江ノ島は知らないが、最近のKAZUYAは違っていた。護身というレベルではなく、真剣に相手を
打ち倒すことを目的とした手合わせを何度となく重ねてきた。それも世界最強の生物相手に、である。
ここにきて、KAZUYAの対人格闘能力は飛躍的な上昇を見せていたのだ。

江ノ島を倒すこと自体は無理でも、武器さえあれば一矢報いる程度は出来る。


(それに、前に一度西城を殺そうって言ったらやめろって言われた。指示も
 出てないのに勝手に殺すのは盾子ちゃんの計画から外れる気もする。だけど……)

(……目が素人のものではないぞ、江ノ島)


江ノ島の目は、完全に獣のそれと化していた。一般人がおよそ考えることのない、相手を殺すか否かの
次元で逡巡しているのがKAZUYAにもひしひしと伝わってくる。背中にゆっくり冷や汗が流れた。


「……と言っても別に君が内通者だと断言する訳じゃない」

「! 当たり前じゃん! 何を根拠にそんなこと言うワケ? 言い掛かりも甚だしいんですけど!」

「あくまで可能性の話をしただけだ。俺とて生徒を疑いたくないからな」

「……で? 何が言いたいの?」

「君を信じさせて欲しい。アルターエゴがみんなの希望だと言うことはさっきも言ったな?」

「…………」

「君が内通者でないなら、これを狙ったりはしないはずだ」

「……当たり前じゃん。話は終わりでいい?」

「ああ。こんな時間にすまなかったな。もう戻っていいぞ」

「…………」


江ノ島は即座に部屋に戻ると机から無線機を取り出す。モノクマを呼んでも良いのだが、
直接声を聞いて話したかった。そして、本日二度目の連絡を行う。


「盾子ちゃん!」

『あ? 何よ、突然。ウザいから急用の時以外連絡してくんなって言ったでしょ?』


「急用なんだよ。実は……」

『へぇ~、ふーん』


察しの悪い姉に対し、賢すぎる妹はすぐさま気が付いた。


(残念な姉はアルターエゴでシステムがハックされちゃう、どうしようとか騒いでるけど
 西城はクラッキングなんて最初から狙ってない。恐らく内通者を炙り出すつもりね)


KAZUYAにとって、生徒の安全こそが最優先事項である。そのKAZUYAが勝算もなく黒幕に攻撃を
仕掛けるという綱渡りをするはずがない。何よりそれが目的なら秘密裏に行えばいいだけの話で、
内通者がいるとわかっていて情報を漏らす訳がない。つまり、アルターエゴは餌だ。


(残姉の正体はとっくにわかっててアタシにこの話が行くことも織り込み済み。その上で
 あえてお姉ちゃんが動けないよう事前に釘を刺し、他の内通者が動くのを待つ)

(このまま黙認すればアルターエゴの性能が上がりアタシは不利に。
 こちらが動けば誰が内通者なのか向こうにバレる、と……)


黒幕自らなりふり構わずアルターエゴを奪いに来る可能性もある。
他の内通者をけしかけて直接邪魔なKAZUYAを排除に来る可能性もある。

――それら全てを考慮した上で、それでも勝ち目のない勝負に出ているのだ。


(何でそんなことをするかって? 正攻法では私様に勝てないと薄々わかっているからだろう。
 普通の人間ならまずしない、1%の選択肢をわざわざ選んで自身の限界に挑戦している)

『フフフ……面白い。面白いではないか、人間!』

「え、な、なに?」

『西城のことはほっといていいよ』

「え? でも……」


『余計なことすんなって言ってんの!』

「盾子ちゃん……」

(思えば、このためにアタシはずっと種を蒔いてきたんだからさ……)


江ノ島盾子には昔からある悪癖があった。いや、江ノ島が江ノ島たりえるため、或いは
より良い絶望を得るための手段であり、彼女自身がゲームを楽しめるようにするためであった。
……それは、あえて自分に不利で相手に有利な状況を作ることである。

振り返れば、不可解ではなかろうか。図書室に学園閉鎖の知らせや未来の新聞を置いたのは彼女だ。
不二咲千尋が修理しアルターエゴを作ることを想定しながらパソコンを放置したのも、生徒が記憶を
取り戻す危険性を知りながら、写真や有益な情報を残したのも全て彼女の仕業だった。

何故江ノ島はそんなことをするのか?


(何年もかけて綿密に立てた計画が、取るに足らないミスで瓦解する……
 それって最高に絶望的じゃない?! 計画が上手く行ったら行ったで絶望的だし)


ついでに言うと、彼女にとって最も致命的となる二階男子トイレの隠し部屋もわざと放置した。
この計画が成功するのかしないのか、もはや超高校級の分析力を持つ彼女にすら予想出来ない。

その予測不可能な命を懸けた“せめぎあい”こそ、江ノ島盾子が魂から求めていたものだった。


(いいじゃんいいじゃん! 本っ当ーにあんたって最高だよ、西城! いちいちアタシの予想から
 外れたことをしてくれる。愚かな賢者と知的ぶる馬鹿は嫌いだけど、賢い馬鹿は嫌いじゃないわよ?)


彼女の行動に理由など必要ない。面白ければそれでいい。

……つまるところ、江ノ島の頭脳は優秀過ぎたのだ。彼女がその気になれば、KAZUYA含めここにいる
人間を意のままに操ることも絶望させることも容易く出来る。しかし、それの何が面白いのだろうか。
勝ちの決まったゲームなど、ゲームではなくただの作業だ。飽きっぽい彼女は作業が何より嫌いだった。


余談だが、江ノ島は実生活でもゲームが好きである。コンピューターゲームはしばらくやると
アルゴリズムを分析してしまうため、ダイスを振るとかトランプとかそういった運の要素が強い
アナログのゲームが好きだった。如何に江ノ島といえど、純粋な運では普通に負けることもあるのだ。


(うぷぷ。某厨二病の先輩風に言うと特異点て奴かな? 先生はボクの特異点になってくれるのかな?)


超分析能力を持つ江ノ島が一目置いている才能は現在三つ。

一つは葉隠の持つ占い能力、二つ目はセレスの天運とも呼べるギャンブル能力、最後が苗木の幸運である。
特に、前二人と違い苗木は幸運どころか何をやらせても不運と呼べる部類なのだが、そんな苗木が何故か
ここぞという時には悪運を発揮して助かるのだ。苗木の幸運不運だけは江ノ島にも読めない。


(特に運が良い訳でも超常的な能力がある訳でもない、ただちょっとデカくて優秀なだけの医者。
 そいつが一体何を武器にこのアタシに立ち向かってくるのか――しかと見届けてやろうじゃない!)


江ノ島は薄暗いモニタールームの中、一人嗤う。だが、戦刃むくろに江ノ島の考えは難し過ぎた。


(なにを考えてるの、盾子ちゃん……私には、わからないよ……)


妹が気まぐれなのは重々承知しているが、端から見れば破滅願望のようにしか見えない。
いや、それは間違いではないのだ。江ノ島にとって勝ち負けはさほど重要ではないのだから。


(わからない。わからないけど……盾子ちゃんは私が守るからね……
 計画だって遂行してみせる。だって、盾子ちゃんの味方は私だけだから……)


双子の姉妹は未だすれ違う――。


― コロシアイ学園生活三十四日目 保健室 PM3:24 ―


何も問題が起きないまま、日々だけはただ風のように過ぎて行った。


K「とりあえず、苗木は仮免だな」

苗木「えっ?! 何がですか?」

K「もうお前は一人で注射してもいい」

苗木「えっ」

石丸「おめでとう、苗木君! 一足先に卒業だな!」

K「注射はとにかく数と経験が物を言う。誰でもいいから頼んでやらせてもらえ」

苗木「……本当に大丈夫なんですか?」

K「怖いのはわかるが、やらねばいつまで経っても上手くならんぞ? ほら、行ってこい」

苗木「は、はい。それじゃあ……」

K「何度も言っているが、同じ注射器を使い回すなよ。針の扱いには気をつけろ。あと……」

苗木「わかってます」


KAZUYAの注意を背に、苗木は道具を持って廊下に飛び出した。


苗木(仮免かぁ……とりあえず、仲の良い桑田君に頼もうかな。女の子の腕に
    傷をつけるのは気が引けるし、あとは大和田君とか石丸君とかを回して……)

舞園「なーえーぎーくん!」

苗木「うわっ、舞園さん!」

舞園「今の時間は実習の時間じゃないんですか?」

苗木「実はね、注射については一応仮免をもらって……外で練習してこいって言われたんだ」


舞園「凄いですね! じゃあ、記念すべき第一号は是非私にしてください!」

苗木「舞園さんに?! ……い、いやいやいや! 女子はまだ駄目だよ! うっかり傷になったらまずいし」

舞園「私は気にしませんよ?」

苗木「僕は気にするよ! と、とにかく今度ね! もう少し上手くなったらやるから!」

舞園「残念です……」プー

苗木(あ、その顔ちょっとかわいい)


・・・


ちょうど食堂に男子が集まっていたため、苗木の武者修業が始まる。


桑田「痛くすんなよ? 痛いのヤだからな?」

苗木「頑張るよ……あのさ、失敗しても怒らないでね?」

桑田「怒らないけどよ……あー、イヤだー。俺注射嫌いなんだよな。イヤだー」

大和田「ガタガタ言うな。男だろ」

桑田「それとこれとは別問題だっての!」

苗木(僕も素人にされるのは嫌だしな……)

葉隠「よし、上手く行くか占ってやろうか? 今なら特別料金で……」

桑田「殴るぞ!」


判定

このレスのコンマが奇数なら成功。偶数なら失敗


ゾロ目クリティカルで次の大和田は自動成功


苗木「だ、大丈夫? 痛くない?」

桑田「いや、そりゃ多少は痛いけど……割りとすんなり出来たんじゃね?」

山田「手付きがちょっとプロっぽかったですね」

大和田「次は俺か。よし、やってくれや!」

不二咲「大和田君、格好良いよ!」

大和田(本当は結構ブルってんだけどな。センセイがやんならともかく苗木だし)

山田「実は内心ビクビクしてたりして」

大和田「う、うるせーよ!」

葉隠「声震えてんべ」


・・・


大和田「へっ、大したもんじゃねえな」

不二咲「次は僕だね!」

苗木「不二咲君は血管細そうだからなぁ。ちょっと自信ないんだけど……」


判定

このレスのコンマ末尾が7以上で成功


・・・


苗木(良かった……不二咲君のは本当に自信なかったんだけど、すぐに入った……)

不二咲「凄い凄い! 三連続成功だね!」

桑田「ちょ、マジかよ」

大和田「すげーな……」

山田「これは、苗木誠殿を苗木誠医師と呼ぶ日も近いか?」

苗木「や、やめてよ。たまたま運が良かっただけだからさ」

葉隠「じゃ、次は俺だな」


判定

難度の高い不二咲を成功したので少しボーナス
このレスのコンマ末尾3以上で成功


葉隠「お、行った行った」

苗木「不二咲君の後だから大分楽に思えるよ。先生も言ってたけど、
   やっぱり数をこなすが一番大事なんだな―と思う」

山田「次はいよいよ僕ですか」


ズーン!

山田の太い太い腕を差し出される。


苗木(うっ……凄いプレッシャーだ。血管が影すら見えない……)


ラスボス山田

判定

このレスのコンマ末尾8以上


苗木「…………」ダラダラ

苗木「えっと、手を握ったり開いたりしてもらっていいかな?」

山田「こうですかな?」グーパーグーパー

苗木「ちょっとマッサージするね?」モミモミ

大和田(めっちゃ険しい顔してんな……)

葉隠(山田っちの腕は太いからやりづらいんだろうなぁ)


苗木はKAZUYAに教わった知識を総動員してみるが、一向に血管は浮き上がって来ない。


苗木(血管の位置が全くわからないよ! どうすればいいのさ、こういう場合?!)


うっかり神経に突き刺さないように、恐る恐る刺してみる。だが、当然針は当たらない。


山田「あのー、苗木誠殿?」

苗木「う゛っ! あ、あの、その……」

山田「一度刺し直してみるのがいいかもしれませんなぁ」

苗木「……うん」


その後、もう二回やらせてもらったが一向に血管は見つからなかった。


苗木「ごめん……三つも穴が出来ちゃった……」

山田「いえいえ。実は、毎年健康診断のたびにこんなことがあるので慣れっこですよ」

不二咲「次はきっと上手くいくよ!」

桑田「その前に、ブーデーは少しやせろ」


最終判定

このレスのコンマ末尾が苗木の現在の実力
四人成功したので+4する。MAXは10


苗木君の現在の実力はレベル8(かなり器用な部類。実技は全体的に得意)
物凄く妥当な所ですね。実力的に山田君はヘマして欲しいなと思ってたらドンピシャ

あと、二章までのKAZUYAは愚かな賢者でした。今後どうなるかは乞うご期待

今日はここまで。

よし、じゃあ盾子ちゃんが軽視してる才能強化して一泡吹かせてやろうぜ!

同人作家とか

>>437
意外かもしれませんが、江ノ島さんは芸術系の才能を割りと高く評価してると思いますよ
綺麗な絵や売れ線の物語が必ずしもヒットする訳じゃありませんからね
山田君は二次創作なので腐川さんよりは少し評価落ちちゃうけど


さて、この間イベントアイテムを手に入れたので今回は番外編行きます
本当はもっと色々まったりしてたいけど、あんまり焦らす訳にもいかないし今回で最後だろうなぁ…


― 番外編  腐川復帰 & 舞園快気祝いパーティー ―


朝日奈発案の元、腐川の復帰と舞園の快気を祝うドーナツパーティーが開かれることになった。
厨房から何やら良い匂いが漂ってくる。匂いにつられてKAZUYAは中を覗いてみた。


K「とても良い匂いがするな。どれ、俺が味見でもしてやろうか」

朝日奈「あー! 先生ダメー。まだみんなで作ってる最中なんだから!」

K「すまんすまん」フフ

舞園「出来たらちゃんと呼びに行きますよ」

霧切「不二咲君も手伝ってくれるって言ったけど、今日は女子だけで作業しているの」

K(安広はいないようだがな……まあ、あの子は仕方ないか)

江ノ島「お菓子作りとかあんまやんないけど、たまには悪くないかもねー」

腐川「ア、アタシも作っているのよ……! こんなことをするの、初めてだわ!」

K「それは良かったな」ニコ

腐川「はうっ(い、今アタシに笑いかけた?! 笑いかけたの?!)」

大神「という訳で、厨房はただいま男子禁制となっております。また後ほど」

K「わかった。楽しみにしているぞ」


・・・


不二咲「先生! 今日のパーティーでアレを……」

K「俺も同じことを考えていた。準備しておく。任せておけ」


KAZUYAはニヤリと笑うと荷物を取りに校舎へ向かったのだった。


               ◇     ◇     ◇


朝日奈「という訳で、腐川ちゃんの復帰と舞園ちゃんの手の怪我が治った記念パーティーだよ!
     いろんな種類のドーナツ用意したから、じゃんじゃん食べちゃってね!」


机の上にはよりどりみどりのドーナツやお菓子類が山のように置かれている。


山田「おおおおお! まさしく僕のためのパーティーみたいですな!」

セレス「今、朝日奈さんが腐川さんと舞園さんのためと思い切り言っていましたが」

大神「お主、これ以上太ったら流石に不味いのではないか……?」

葉隠「こりゃすげー。ドーナツ屋みてえだべ」

江ノ島「おかわりもあるよ!」

大和田「舞園、手の怪我治ったんだってな。良かったじゃねえか」

舞園「ありがとうございます。綺麗に折れていたみたいで、上手くくっつきました」

桑田「そっか。……正直心配だったんだ。後遺症とか残ったらどうしようって」

舞園「仮に残ったとしても自業自得ですから、桑田君を恨んだりなんてしませんよ」

桑田「そうは言ってもなぁ……」

苗木「今日は楽しいパーティーなんだから、そういう話はなしにしよう。ね?」

石丸「そうだ! パーティーは楽しむのが義務だぞ! この企画をしてくれた朝日奈君に感謝だな!」

十神「…………」ムシャムシャ

十神(チッ、愚民共が作ったというが……味は思ったほど悪くない)

江ノ島「あ、それ腐川が作ったやつだよ」

十神「?! ゴホゴホッゴホッ!」

江ノ島「冗談だって。どんだけ嫌ってんのよ、あんた……」

霧切「どう、ドクター? お味のほどは」

K「俺はドーナツというのは甘いし脂っこいしで元々そこまで好きでもないんだが、
  不思議なことにみんなが作ったと聞くととても美味しく感じる。これもプラセボかな?」フッ


そんな風にしばらく談笑していたが、KAZUYAが手を叩いて全員の注目を集めた。


K「今日は不二咲から何か連絡があるみたいだぞ」

不二咲「エヘヘ。実はねぇ、その前にまずアレを見てもらいたいんだけど」

苗木「そういえばテレビがあるね」

桑田「電源入れても砂嵐しか映んなかったけどな」

舞園「確か音楽室に置いてあった物のはずですが、何故食堂に?」

K「俺が運んだんだ。不二咲が倉庫で見つけたある機械のためにな」

葉隠「ある機械ってあれか。なんかどこかで見たことあるような」

不二咲「カラオケマシーンだよ! 最初は壊れてたんだけど、この間先生と一緒に直したんだぁ」

山田「おお! カラオケ、とな。いいですなぁ。是非みんなで歌いましょう!」

朝日奈「よーし! じゃあ今日は一日カラオケ大会ね!」

セレス「仕方ありませんわねぇ。そんなにわたくしの美声が聞きたいのですか」

十神「くだらん。俺は興味ない」

大和田「そんなこと言ってよ、自信ねえだけじゃねえの?」

十神「そもそも俺は音楽番組などという低俗な番組は見ない。だから曲も知らん。じゃあな」ガタン、スタスタ

腐川「あ、びゃ、白夜様! えーと、アタシも歌とかそういうのは……」

霧切「……私も人前で歌うのはちょっと」

大神「我もだ……」

舞園「大丈夫ですよ! 一人で恥ずかしいなら一緒に歌いますから!」

朝日奈「折角だし参加しようよ!」

苗木「うん! みんなで歌うからさ。きっと楽しいよ!」

葉隠「だべ。盛り上げ役は俺に任せろ!」

腐川「みんなで一緒に……これも初めてだわ」

霧切「私、日本の歌はあまり知らないのだけれど……」


桑田「なにお前? 洋曲派? 気が合うじゃん」

苗木「霧切さんは帰国子女らしいよ」

霧切「正確にはちょっと違うけど……まあそれでいいわ」

不二咲「外国の有名な歌も入ってるから大丈夫だよぉ!」

霧切(断りづらい雰囲気ね……)

大神「諦めよ、霧切。我も腹を括った」ハァ

江ノ島「カラオケかぁ。久しぶりだな……」

江ノ島(昔、みんなにムリヤリ引きずられて行ったっけ。……懐かしいな)

石丸「せ、先生! 僕、生まれて初めてカラオケをします!」

腐川「ア、アタシもよ……う、うふふ」

K「二人共、良かったじゃないか」ニコッ

石丸「しかし、どうすれば……僕は歌なんて国歌と校歌と唱歌しか知らない!」

桑田「お前なぁ……」

舞園「唱歌も入ってるから大丈夫ですよ。年配の方と一緒にカラオケに行くと、
    母校の校歌を歌ったり唱歌を歌う方もよくいらっしゃいますから」

石丸「そ、そうか。それは良かった!」

大和田「これを機会に覚えろよ!」

山田「それでは、第一回希望ヶ峰学園カラオケ大会開幕~!!」

桑田「なーにお前が指揮ってんだよ、ブーデー」

K「まあ、いいじゃないか」

朝日奈「順番どうする?」

葉隠「時計回りでいいんじゃねえか?」

桑田「よーし! なら俺がトップバッター行くぜ!」

朝日奈「いけいけー! イェーイ!」


The Damned[ LOVE SONG ]


桑田「Just for you, here's a love song~♪」

不二咲「やっぱり上手いねぇ」

腐川「ふ、ふん。あいつ、意外とやるじゃないの……」

石丸「そうか。腐川君はこの間のパーティーにいなかったから聞いていないのか。
    桑田君はとても歌が上手いんだぞ。この間は舞園君とデュエットしていた」

桑田「It's okay~♪ ……どうよどうよ? 俺の歌? デビルかっけーだろ?」

K「ウム、良かったぞ。意外と発音が良かった」

桑田「そこ?! 洋曲をかっこよく歌うために英語だけはちょっとだけ頑張ってるからな!」

K「頑張っているといっても、どうせギリギリ赤点回避とかそのくらいだろう」

桑田「ギク。なんでわかんだよ!」

葉隠「おーし、次は俺だべ!」


ゆず[ 夏色 ]


苗木「へぇ、意外と爽やかな曲歌うんだね」

葉隠「意外とは余計だべ。俺だってな、ちゃんと盛り上がる曲選ぶんだって」

大和田「葉隠のゆずか……まったくイメージに合わねえな」

葉隠「この長い長い下り坂を 君を自転車の後ろに乗せて
    ブレーキいっぱい握りしめて ゆっくりゆっくりくだってく~♪」

セレス「葉隠君にしては上手いですわね」

江ノ島「葉隠にしてはね」

葉隠「さっきから俺の扱い酷くねえ?!」

不二咲「上手だったよ!」

霧切「葉隠君が格好いいと反応に困るということがわかったわ」

葉隠「ひ、ひでえ。もう次行ってくれ……」


朝日奈「じゃあ次は私! さくらちゃんも一緒に歌お!」

大神「ウ、ウム」ドキドキ


浜崎あゆみ[ SEASONS ]


山田(こ、この選曲は……?!)

葉隠(オーガが浜崎あゆみを歌うとは……)

大和田(ちょっとは曲の雰囲気考えろよ、朝日奈!)

桑田(ヤベェ、なんかヤベェって……)

朝日奈「今日がとても楽しいと 明日もきっと楽しくて~♪」

大神「そんな日々が続いてく そう思っていたあの頃~♪」

桑田「あ、あれ?」

苗木(意外と上手いぞ、大神さん?!)

江ノ島(大神さんは見かけによらず歌える人なんだよね。音程は外さないし発声もしっかりしてるし)

朝日奈「今日がとても悲しくて 明日もしも泣いていても~♪」

大神「そんな日々もあったねと 笑える日が来るだろう~♪」

大和田「良かったじゃねえか!」

腐川「お、思ったより下手ではなかったわよ」

朝日奈「あはは。ありがと」

大神「組み手より緊張するな……」

不二咲「素敵だったよぉ!」

K「ああ。自信を持ってもっと歌ってみろ」

苗木「うん。もっと色々歌ってみようよ!」

大神「ほ、誉め過ぎだお主ら……」カァァ

舞園「照れてる所が可愛いですね♪」


石丸「次はいよいよ僕だな……選曲はこれだ!」


滝廉太郎[ 荒城の月 ]


桑田「唱歌かよ!」

葉隠「またえらい渋いのを選んだもんだなぁ……」

苗木「仕方ないよ。今の曲は全然知らないんだから」

霧切「舞園さんの曲ならこの間散々聞いたのだから歌えるのではないかしら?」

セレス「やめて下さい。アイドルの曲を歌っている石丸君を想像するだけで寒気がしますわ」

桑田「ああ、うん……そうだな……」

腐川「ゾッとするわね」

大和田「お前ら少し黙れ!」

石丸「春高楼の 花の宴~♪」

山田「おお、音痴キャラかと思えば普通に上手い」

桑田「なにこいつめっちゃ上手いんですけど……。しかもやたら良い声してんのがなんかムカつく」

K「そこは素直に誉めてやったらどうだ……」


普通に音楽の授業の一幕のような空気になったが、本人が楽しげなのでみんなは見守ってあげた。


朝日奈「いい声してんじゃん。良かったよ」

石丸「ウム! 腹の底から声を出すというのはやはり気持ちがいいものだな!」

不二咲「石丸君ならマイクなしでも行けちゃうね」

大和田「っしゃあ! 次は俺だぞ!」

石丸「兄弟! 良い所を見せてくれ!」

腐川「選曲は……プッ、不良の定番ね」

大和田「好きなんだからいいだろ!」


尾崎豊[ 卒業 ]


大和田「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった~♪」

石丸「?! な、なんという歌詞だ! 風紀を乱している!」

苗木「あ、あのさ! 歌だからね? 実際の話じゃないから」ハハ

大神「実際にはやれないからこそ激しい思いを歌に託しているのだ。芸術とはそういうものだろう」

石丸「……成程、それが表現と言うものなのだな。僕はまた一つ賢くなったぞ!」

大和田「この支配からの卒業 闘いからの卒業~♪」

K「良かったぞ」

不二咲「うん、男らしくて格好良かったぁ!」

石丸「ウム! 見事な歌いっぷりだ」

大和田「ま、まあな」テレテレ

桑田「…………」

桑田(こいつら元の曲知らないからわかってないだろうけど、ビミョーに音ズレてたぞ。
    あからさまな音痴じゃなくて、ホントに絶妙なズレ方だったけど……)

江ノ島「次はアタシね!」


舞園さやか[ モノクローム・アンサー ]


舞園「あ、私の曲を選んでくれたんですね」

葉隠「本人の前で歌うなんてすごい自信だべ!」

江ノ島「まあね~」

江ノ島(実はレパートリーがほとんどないから、一番最初に覚えた曲選んだだけなんだけど……)

江ノ島「モノクロームな視界 きっと私だけカラフル はっきりしない そこも好きよ~♪」

山田「……あれぇ?」

大和田(ヘタってほどじゃねえが、江ノ島はもっと上手いイメージあったんだけどな)

苗木(江ノ島さんには悪いけど、思ったより普通かな)


江ノ島「ど、どうだった?」

大神「良かったぞ」

K「ああ。少し緊張していたようだが」

江ノ島「緊張してたのわかっちゃった? アタシもまだまだだな~。アハハ」

セレス「次はわたくしですわね」

江ノ島「どうせアリプロとかいうヤツでしょ?」

セレス「勿論、わたくしに相応しい華やかで退廃的な……」


カチャカチャ。


山田「よしっ! フゥ」キラキラ☆

セレス「って何勝手に入れてるんだゴラァアアアアア!」

山田「ブヒィィィ! 是非セレス殿に歌って欲しい歌があったのです!」

セレス「しかもアニソンじゃねえか、トンカツにすんぞブタあああああ!」

朝日奈「あ! この曲知ってる! 昔凄い流行ったやつだよね。私、好きだな。歌ってよ!」

舞園「私も好きでした。ヒロインがセレスさんの声と近いですし、是非聞いてみたいです」

不二咲「女の子向けのアニメだったけど、ロボットとか出てきて
     アクション要素が多かったから僕も見てたなぁ。良い曲だよね」

山田「フフフ、アニソン界でも名曲に入る部類ですな」

セレス「…………。いいでしょう。そこまで言うなら特別に歌って差し上げますわ」

苗木「やった! セレスさんの声で聞きたかったんだよね」

桑田(つーか知ってんだな……)


田村 直美[ ゆずれない願い ]


セレス「止まらない未来を目指して ゆずれない願いを抱きしめて~♪」

腐川「なに、こいつ……上手い……?!」

霧切「いつ聞いても綺麗な声ね」


江ノ島「ムカつくけどセレスの歌はガチ。カラオケ行くと大体上位争いは
     舞園とセレスとじゅんk……アタシになりそうだよね! アハハ!」

朝日奈「いつかみんなで行きたいねー!」

苗木「次は僕だけど、僕のもいれちゃったの?」

山田「ご安心くだされ! この曲は絶対知っているはずです!」

苗木「……ああ、確かに。これなら歌えるや」

山田「主人公が苗木誠殿とそっくりの声なので是非歌って欲しかったのです!」ムフッ!


高橋 洋子[ 残酷な天使のテーゼ ]


苗木「残酷な天使のように 少年よ神話になれ~♪」

舞園「苗木君、上手ですね!」

桑田「ちょ、マジかよ……苗木のやつ、プロ級なんだけど」

葉隠「おお、本当にそっくりだな。……ハッ! 閃いた。苗木っちの歌を録音してファンに売れば……」

霧切「ねえ、葉隠君……わかってると思うけど、それはれっきとした詐欺だからね?」

K「……お前、一度警察の世話になるか? なんなら知り合いを紹介してやる。とびきり怖い奴をな」

葉隠「も、もちろんジョークに決まってんべ! は、ははは……!」

桑田「次はブーデーか」

大和田「どうせアニソンだろーけどな」

山田「チッチッチィッ! 最近のアニソンは一流のアーティストが歌っていることも
    ざらにあり、もはやアニソンだからと言って不当な差別を受ける謂われはない!」

不二咲「えぇっ! これを歌うの?!」

山田「拙者の本気を見よ!」


B'z[ ギリギリchop ]


山田「ギリギリ崖の上を行くように フラフラしたっていいじゃないかよ~♪」

苗木「こ、これが山田君の本気……!」

朝日奈「え、ウソ?! ちょっと見直したかも」


大神「フム、腹から声が出ているな」

舞園「この曲を歌いこなすのはとても難しいと思いますよ……」

山田「どうですどうです? 僕も喉にはちょっとばかり自信がありまして(イケメンボイス)」

K「人は見た目によらないとはこのことだな」

大和田「今までのお前はなんだったんだって思うくらい上手かったぜ!」

山田「まあ、それほどでもありますが」キラーン

苗木「いや、微妙にけなしてるよねソレ?!」

腐川「ちょっと……この流れでアタシに歌えって言うの?! や、やっぱり罠だったんだわ……
    アタシを祝うとか言って、本当はアタシを晒し者にするために……!!」グギギ!

苗木「ち、違うよ腐川さん! そんなことないって!」

K「別に下手でも笑ったりなんかしないさ」

朝日奈「そうそう、こういうのはノリが大事なんだから! なんなら私も一緒に歌う?」

腐川「じょ、冗談じゃないわ。何が楽しくて女同士でデュエットしなくちゃいけないのよ……」

石丸「腐川君! 僕も君と同じ初めてのカラオケだが、カラオケは楽しいぞ!」

腐川「唱歌を歌った奴に励まされてもね……わ、わかったわよ。歌えばいいんでしょ、歌えば?!」

大和田「で、なに歌うんだ?」

セレス「全く想像つきませんわね」

山田「こ、この曲は……!」


松任谷 由実[ 春よ来い ]


腐川「淡き光立つ にわか雨 いとし面影の沈丁花~♪」

桑田「まさかの春よ来い……」

葉隠「でも、結構いいんじゃねえか?」

霧切「そうね。初めて聞いたけど素敵な曲だわ」

腐川「春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに 愛をくれし君の なつかしき声がする~♪」

K「なかなか情感がこもっていたぞ」

腐川「あ、当たり前よ。アタシにも春が来て欲しいもの! 来い、アタシの元にも来い……!!」ハアハア

(……切実だ)


舞園「次は霧切さんですね!」

霧切「有名な曲だから多分知ってると思うわ」

石丸「英語の曲か」

江ノ島「これはアタシも知ってる(部隊の人がよく聞いてたから)」


Whitney Elizabeth Houston[ I Will Always Love You ]


山田「有名なんですか? 全然聞いたことありませんけど……ってこれは!」

霧切「And I will always love you Will always love you~♪」

葉隠「ああ、あれか! エンダアアアイヤアアアアで有名な」

朝日奈「霧切ちゃん、素敵ー!」

セレス「ボディガードという映画で有名になった曲ですわね」

霧切「緊張したわ……」

桑田「え、マジ? まったくわかんなかったぜ? つーかすげー上手いじゃん」

K「綺麗な声だったぞ」


誉められると、実は満更でもないのか少し赤い顔をしながら霧切は呟いた。


霧切「……たまにはカラオケも悪くないかもしれないわね」

苗木「次は舞園さんだね。何を歌うの?」

舞園「持ち歌でもいいんですけど、前回のパーティーでも歌ったのであえて違う人のものを」


RAMAR[ Wild Flowers ]


舞園「急に泣き出した空に声を上げ はしゃぐ無垢な子供達~♪」

苗木「いつもと雰囲気が違うね」

朝日奈「男の人の歌を歌う舞園ちゃんて新鮮かも」


舞園「信じること誰かに伝えたい この唄にのせて~♪」

大神「このような歌も歌えるのだな」

舞園「はい。アイドルだからっていつも同じような曲じゃ練習になりませんから。新天地を目指しました」

山田「次は不二咲千尋殿ですな。ちーたん! ちーたん!」

不二咲「わっ、期待しないで……声小さいかも……それに僕、あんまり上手くは……」

K「大丈夫だ。みんなちゃんと聞いているぞ」

石丸「みんなで応援するから頑張りたまえ!」

大和田「行ってこい」

不二咲「う、うん。じゃあ、頑張るね」


SMAP[ 世界に一つだけの花 ]


不二咲「花屋の店先に並んだ いろんな花を見ていた
     ひとそれぞれ好みはあるけど どれもみんなきれいだね~♪」

朝日奈「不二咲ちゃん、可愛いー!」

山田「かーわーいーいー!」

石丸「…………」

不二咲「小さい花や大きな花 一つとして同じものはないから
     NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one~♪」


パチパチパチパチ! ヒューヒュー!


不二咲「ど、どうだったかなぁ?」

K「良い歌だな」

石丸「……うっ、ううっ、ううぅうぅうう!」ボロボロ

桑田「え、なに?! お前マジで泣いてんの?!」

大和田「どうした、兄弟?! 不二咲の歌に感動したのか?」

石丸「それもある。恥ずかしがりながらも一生懸命歌う不二咲君の姿は非常に感動的だった。
    だが一番の理由は歌詞だ! この間先生に言われた言葉を思い出して、つい涙腺に……」

苗木「凄く良い歌詞だよね」


朝日奈「私達みんな一人一人違ういいところがあるんだもんね!」

舞園「腐川さんもですよ?」

腐川「ア、アタシィ?! アタシなんて、小説書くしか能がないし……」

K「そんなことはない。想像力があるということは周りの人間の気持ちも
  考えられるということだろう? 辛い経験もいつかは肥やしになる」

腐川「あ、あんた達はアタシを買い被り過ぎよ! アタシなんて……」

江ノ島「はい、ウジウジはそれで終了~」

セレス「好意は素直に受け取っておくものですわ」

葉隠「ま、タダより高いもんはねえけどな!」

朝日奈「葉隠! あんたねぇ……」

大神「懲りぬ男だ……」

苗木「あ、みんな。まだ歌ってない人がいるよ」

山田「そうだ! 大トリが残っているではないですか!」

K「? もう二周目だろう?」

霧切「ドクターが歌ってないわ」


ガタ!


K「いや! その、俺は無理だ!」

桑田「曲知らねーなら石丸みたいに唱歌でいいじゃん」

K「俺は石丸と違って音楽の授業は真面目に受けていなかったんだ!」

石丸「自信がないなら僕が一緒に歌いますよ!」

K「お、俺の世代の人間は人前で歌とか歌わないんだよ……本当に……」

舞園「事務所の人やプロデューサーさんはカラオケ大好きですよ?」

朝日奈「先生の歌聞きたーい!」

大神「我も歌ったのです。諦めた方がよろしいかと」

葉隠「往生際が悪いべ」


K「だから無理なんだって……ほ、ほら! 監視カメラがあるだろう!
  お前達だけならいざ知らず、黒幕に見られるのは御免だ!」

山田「そんな逃げ方アリですかー?!」

腐川「ヒィィィ! アアアアタシ、カメラの前で全力で歌っちゃったじゃないのー!」バターン!

苗木「腐川さーん!」

不二咲「嫌がってるなら仕方ないよ。でも、ここから出たら一緒にカラオケ行こうねぇ!」

桑田「しょーがねーな。約束だからな! 次は歌わせるから、ぜってー忘れんなよ!」

石丸「楽しみにしています!」

K「わ、わかった。その時までには何とかするとしよう……」

K(参ったなァ。えらい約束をしてしまった……観念して、今度高品にでも相談するか)ポリポリ

ジェノ「はーい! 笑顔の素敵な殺人鬼でーす! なに? なになに?! みんなでカラオケしてたの?」

葉隠「うおっ、ジェノサイダーだべ!」

ジェノ「マイクパース! アタシも歌うわよーん!」

苗木「え? ジェノサイダーも歌うの?!」

山田「この曲は、また懐かしの……」


レベッカ[ フレンズ ]


ジェノ「口づけをかわした日は ママの顔さえも見れなかった~♪」

大神「また腐川とは正反対だな」

舞園「ノリノリですね」

ジェノ「マイフレンドがいつの間にかフレンドじゃなくなってる……それって最強の萌えじゃな~い?!」

江ノ島「わかるようなわからないような」

山田「ジェノサイダー殿とはいつかじっくり萌え語りをしてみたいものですな」

桑田「おーし! 二周目突入すっぞ!」


おー!!


               ◇     ◇     ◇


十神「…………」パラリ

十神(喉が渇いたな。紅茶でもいれてくるか)


スタスタスタスタ……


十神「……ん?」

「上を向ーいて、あーるこーーー♪ 涙がこぼれないよーーーに~♪」


階段を降りた辺りから食堂の歌声が微かに聞こえてくる。


十神「…………」

「幸せは 雲の上に~♪ 幸せは 空の上に~♪」


近付くと手拍子も聞こえてきた。


十神「…………」

「泣きながら歩く ひとーりぽっちの夜~♪」


食堂の入り口からこっそり覗いてみる。全員ゆったり体を左右に揺らし、笑顔で歌っていた。


「ひとーりぽっちの夜~♪」


ワーワー!! パチパチパチパチ!! イエイイエーイ!!


十神「…………」

十神「…………」

十神「…………」


バッ!


十神(くだらん! この俺のいない所で愚民共が調子に乗りおって!
    誰が真に一番か、わからせてやる必要があるみたいだな!)

十神(いいだろう。俺の実力を見せてやる! ……が、俺はカラオケに使われるような
    庶民的な歌なんぞ知らん。この俺が歌うなら完璧な選曲、完璧な歌でなければ!)

十神(クッ! 音楽室にCDが置いてあったな。練習だ!)


・・・


モノクマ「ヤッホー! ぼっちでカラオケの練習してる十神君の所に遊びに来ちゃいました☆」

十神「帰れ」

モノクマ「冷たいなぁ。全世界に十億人のファンがいるこのボクがデュエットしてあげるって
      言ってるんだよ?! こんなチャンスないよ~。今ならセクシーなモノクマダンス付き!」

モノクマ「ほら、ボクと一緒に銀恋でも歌おうよ! ボク達カップルじゃないけど」


※銀恋:銀座の恋の物語。一昔前のデュエット曲の定番。アベックで歌えば盛り上がること間違いなし。


十神「死ね!」

モノクマ「あぁ~ん!」


ここまで。

KAZUYAが歌うならくちなしの花とか君恋しとか古い名曲だろうなぁ
フランク永井さんの曲は合いそう。泣かないでとかルビーの指輪もいいけど、
歌詞が甘いのとかテンポの早い歌は多分歌わないだろうなぁ、なんて

乙です
選曲が確実に同世代
山田司会はアニソンSSリスペクトかな?
次はシリアスか、覚悟しとかねばまた心が折られる

 しかし、この作品や原作でも思うけど・・・第1章は仕方ないとして、第2章や第3章
は学級裁判分かっているし、大和田や山田は思いとどまらなかったのかな?
 この作品で思う事があるんだが、石丸も大和田とは兄弟の縁を切らなかった事や十神が
コンセントで不二咲の死体を翻弄した時に死んだ場合とか考えなかったのだろうか?


>>463
 あぁ、工具セットの入手経路は、桑田が舞園(苗木)の部屋に戻った時に、偶然にも苗木が
桑田に遭遇し、説得して思いとどまらせる→苗木が舞園に裏切られた事を知り絶望→苗木が
外に出る為に舞園殺害→苗木幸運パワー発揮で桑田の犯行トリックを使う

江ノ島が芸術方面高く評価してたら、世界に絶望しなかっただろうなぁ……

朝日奈はログアウトしがちだけどムードメーカーだからっ!

>>464
山田君がやたら出張ってるのは彼がキャンペーン対象キャラだからですね

出番増やそうキャンペーン
対象キャラ:苗木(ブースト)、葉隠、山田、残姉、腐川(終了)、朝日奈(追加)

>>465
十神君については、あの時点で完全に息が止まっているので問題無いです
彼は冷静なので流石に完全に死んだか確認してから偽装してるでしょう

後半について、原作と全く同じ条件だとソデが焼け残っちゃうのでパーカーで即バレする気が

>>468
あくまで他の才能との比較であって、芸術が好きな訳ではないですからね
再現だけなら彼女も余裕ですし(サグラダ・ファミリアとか)。ちなみに一番
コケにしてる才能は間違いなく風紀だと思う。才能じゃなくてド根性だろ(笑)みたいな

>>470
葵ちゃんも出番増やさんと!(使命感)

逆に削らないとなぁと思うのはKAZUYA、石丸、桑田。ただKAZUYAは主人公兼狂言回しだし
石丸君は医者ルート突入だし、桑田君はツッコミが優秀すぎて使いやすいのが悩み所


再開


               ◇     ◇     ◇


――巡る巡る。月日はただ淡々と巡っていく。


朝日奈「水泳大会しよう!」

山田「たまには僕だって活躍したいのです! 美術の授業は如何ですかな?」

葉隠「みんなで俺の紹介する講習会に参加してほしいべ!」

桑田「野球大会すっぞ!」

石丸「いいか! 今日から一週間は掃除週間とする!」

K「もう包帯も外していい。時々リハビリに来てもらうが、今日をもって完治とする」

舞園「ありがとうございます」

霧切「……ドクター、話が」

K「わかった」


・・・


「何か映っているかしら?」

「……また山田だけだな」

「全く……彼も困り者ね……」


脱衣所では、KAZUYAと霧切が落胆した顔で立っていた。アルターエゴの公開を全員にした後、
KAZUYAと霧切は二人である細工を施していたのだ。医療実習で使うからと言って事前に山田から
カメラを借り、毎晩それを使ってロッカーが開くとシャッターが落ちるように設置したのである。

……誰かがアルターエゴを盗めば、それで内通者を断定出来るはずなのだが、
ただ映るのは持ち主である山田のニヤケ顔ばかり。


「アルターエゴには多角的に成長してもらいたいのに、山田君と話すと知識が偏って困るわ」

「その分君が話せばいい。山田とは対極の位置にいるだろう?」

「そうですが……」


未だにしかめっ面をしている霧切をKAZUYAは宥める。


「まあ、いいじゃないか。アルターエゴはあくまで内通者をおびき寄せるのがメインだ。
 今の所山田しか写っていないし、案外内通者は江ノ島一人なのかもしれんな」

「まだわからないわ。ドクターが罠を張っていることを見越して、
 慎重になっているだけかもしれないし、山田君が邪魔なのかもしれない……」

「では、あと三日様子を見よう。あまり長く置きすぎると今度は江ノ島が焦れる可能性がある」


いつも通り淡々と話すKAZUYAに対し、詰め寄るような表情で霧切が問い掛けた。


「――もし内通者がいなかったら、その時はどうしますか?」

「そうだな……」

「江ノ島さんを捕らえ、アルターエゴで学園のシステムを乗っ取るか――」

「…………」


今までの観察から、モノクマを操っている者すなわち監視者は一人の可能性が高いと
言うことはわかっている。交代要員を考えても、五人もいないだろうと考えられた。だが……


「……俺は反対だ。敵の人数はけして多くはない。だが、たとえたった
 一人だったとしても銃火器を持って突撃してこられたら凌げ切れるか不安だ」


玄関ホールに更衣室、情報処理室の扉の前には機関銃が設置されている。
つまり、敵が同等の装備を持っていても全くおかしくはないのだ。


「慎重ね?」

「敵の規模は大体わかってきたが、構成員の実力や装備が全くわからないからな。
 江ノ島クラスのがもう二人いたらそれだけでもかなり不利になる」

「大神さん、ドクター、大和田君。そこに十神君、石丸君、桑田君を入れても厳しいかしら?」

「仮に両者が同じ実力だったとしても、人を殺す気のある人間とない人間では
 その実力は倍くらい開く。俺は……一応覚悟を決めているが、みんなはどうかな……」

「……それに、俺としても出来るだけ生徒に手は汚させたくない」


それが逃避だというのはKAZUYAが一番わかっている。敵の強大さを考えたら、
そんな悠長なことを言っている場合ではないのだ。その現実を霧切は痛いほど突きつける。


「そんなことを言っていられる状況ではないでしょう? 必要ならするだけよ。
 ドクターが毒を渡してくれれば、私だってそれを刃物に塗って敵を殺すことも……」

「……やめてくれ。あまり考えたくないんだ」

「でも、今がその時だわ。考えたくないなんて言ってはいられない……!」


霧切の目線は鋭い。それはまるでナイフのようで、今にもKAZUYAを刺し貫かん勢いだ。


「焦るな、霧切」

「……別に、焦っている訳ではありません」

「いや、君は焦っている。その証拠に、君は今俺を臆病者だと思っているだろう?」

「…………」


霧切はフイと無言で目を逸らす。だが、その行動が答えを示しているも同然だ。


「……俺一人だったら俺もきっと無茶をした。過去にも危ない橋は散々渡ってきたしな。
 だが、ここには十五人もの人間がいる。俺は誰一人として死なせるつもりはない」

(たとえ俺が盾になってでも、俺が生徒達を守らなければ……)

「その誰一人にあなたは入っているのかしら?」

「…………」


KAZUYAの沈黙に、霧切は溜め息をつく。イライラした時に髪をいじるのは彼女の癖だ。


「とにかく、今はまだ動けない。不二咲とアルターエゴの性能を調整し、十分と判断したら二階の
 隠し部屋から学園のシステムや外の状況を探らせる。その情報を踏まえて新たに作戦を練りたい」

「……今はドクターの意見を優先します。でも、私がもっと
 良い案を思いついたら、その時は動かせてもらうわ」

「すまない」

「謝らないで頂戴。悪いと思っていないのに謝るのは大人の悪い癖よ。
 ……そういえば。もう一つ聞きたいことがあるのですが」

「何だ?」

「――私に何か隠し事をしていないかしら?」


一瞬、KAZUYAの心臓が跳ね上がった。その後も早鐘のように打っているのを自覚する。
彼女は探偵だ。如何にKAZUYAが取り繕ってもその僅かな表情の変化をきっと見抜いているだろう。


「……している」

「随分はっきり言うのね……」


呆れと驚きが半々といった表情で、彼女はKAZUYAを見つめた。


「言わなくてもきっとバレるからな。だったら正直に言うまでだ。別に
 君に対してだけじゃない。俺はみんなに言えない情報をいくつか持っている」

「…………」

「ただ、今まで嘘ばかりついてきた俺だがこれだけは信じて欲しい。みんなにとって有益な
 情報はちゃんと包み隠さず公開している。俺が言わないのは、言う必要がないからだ」

「相手がそれを知りたいと望んでいても?」

「こんな状況だからな。一つのミスが命取りになりかねん。だから、混乱したり疑心の元に
 なるようなことは言わん。どうしても知りたいなら、脱出してからゆっくり話そう」

「……その情報の中に、父のこともあるのかしら」


「さあな。人間には、知らない方が良いこともたくさんあるとだけ言っておく」

「脱出した暁には、全て聞かせてもらいます」

「――約束しよう」


速足で去って行く霧切の背中を見ながら、KAZUYAも溜め息をついた。


(このメンバーの中では落ち着いている方だが、やはりまだ子供だな。……正直、危なかった)


脱出がすぐ目前に来ているのにストップをかけさせられた憤懣。
父の情報を相手が持っているのに知ることが出来ないという焦燥。


(……今回は何とか理性で抑えてくれたが、はっきり言って爆発してもおかしくはなかったな)


思えば、霧切はあまり問題を起こさず常に冷静で適切な行動が取れると何かと優等生扱いしてきた。
それ自体は彼女も嫌がってはいないだろうが、彼女に少し頼り過ぎではなかろうか。

今回の隠し撮り作戦だって、KAZUYAと霧切の二人しか知らないのだ。


(一人に寂しさを感じ、無意識に親を求めてしまうのは霧切も
 他の生徒達と同じだ。俺がもっと気にかけてやらんと。……ただ)


ここにきて、KAZUYAは複雑な胸中を隠せなかった。


(……あんな父親とは幼い頃に別れて正解だった、などと言うのは俺が当事者ではないからだろうか)


真実を知るKAZUYAは、やる瀬ない気持ちばかりが募る。


ちょっち短いけどキリがいいのでここまで。

少し先の展開手間取っているので、もうしばらくスローペースで行かせて頂きます

やっと質問の意図がわかりました。要は、絶対桑田君が犯人という状況下で
KAZUYAが桑田君の味方をしてくれるか?という質問なのですね

ちょっと反則ですけど、相手が舞園さんやセレスさんならまだしも苗木君と桑田君なら
KAZUYAはわかると思います。二人共すぐ顔に出る人間なので。不審者のKAZUYAにもあれだけ
優しく前向きだった苗木君がダークな雰囲気出して桑田君ガチ泣きなら一発でしょう

ただ、いくらKAZUYAが真相をわかってても学級裁判はみんなを納得させないといけないので、
証拠もなしに誰かの味方をするかと言ったらしないかな。そこは霧切さんの出番で、
ガッツリ事前に証拠集めてくれて二人で華麗に論破する、ことになると思う
(霧切さんだけでも十分チートなのにKAZUYAが加われば鬼に金棒でしょう)



さて、感想読んでたら霧切さんの心理描写が不十分だった気がするので少し加筆して再開


               ◇     ◇     ◇


胸の中でパチパチと火が燃えるような苛立ちを感じながら、霧切は廊下を歩いていた。
食堂で何人かの生徒が騒いでいる。体育館で遊んでいる生徒達がいる。

だがそんなものは気に留めないで、霧切は足の向くままに校舎内をさまよった。


(……どうして、こんなに落ち着かないの)


無意識に思い出すのは、手の火傷をKAZUYAに診てもらった時のこと。


『……可哀相に。ずっと手袋で隠すのは辛かったろう』

『――仕方ないわ。自分の不始末の結果だもの』

『不始末?』

『霧切家には代々伝わる絶対の不文律がある。それは、他人に入れ込まず常に中立を貫くこと。
 探偵が個人的な感情で誰かに肩入れすることは絶対にあってはならないのよ』

『私達探偵は他人のプライベートを暴き、時に追い詰めることもする仕事。
 それ故周囲の人間に対し常に一線を引き、誰に対しても公平でなければならない』

『つまり、その火傷は誰かに深入りした結果ということか』

『そうね。この傷は私自身に対する戒めでもある。――本当は治さない方がいいのかもしれない』

『医者としては賛同出来んな。戒めは自分の心に深く刻み込めばいい。傷痕を
 隠すということは、本当はまだ自分の中で整理がついていないということだ。違うか?』

『…………』

『それに……こんな状況だ。周りと支え合わねば何も始まらない。
 もっと近寄って、仲良くしてもいいんじゃないか?』

『あら、ドクターが一番わかっていると思ったけど』

『俺が? 何を?』

『最近は以前程じゃないかもしれないけど、ドクターが一番距離を置いていたじゃない』

『…………』


『医者は患者全員に平等でなければ務まらない仕事でしょう? 違うかしら?』

『……それだけじゃないがな。俺の一族は代々、時の権利者達にこの技術を狙われてきた。
 だから俺の家は決まった家名を持たないんだ。必ず婿に入り相手の家の名を名乗る』

『西城は母方の名前なのね』


ふと思い出した。KAZUYAと初めて会った時、彼は何故か名字を名乗らなかった。
彼にとっての名前は西城カズヤではなくKAZUYAだけなのだ。


『特定の誰かと親しくなれば、その人間が狙われてしまう。……過去に何度も友人が襲われた』

『…………』

『ここでは既に巻き込まれているし、逃げ場もないから親しくしているが……もし脱出したら
 俺は君達の前から去るだろう。だから君も、ここにいる間くらいはいいじゃないか』

『……協力はするわ。でもそれ以上の関係になるつもりはない』

『そうか。まあ、協力してくれると言うのなら無理強いはしないがな』

『本当にドクターはお節介な人ね。それがみんなから信頼される理由なのでしょうけど』

『すまんな。俺と君はどこか似ている気がして、どうしても言わずにいられなかったんだ。だって……』


『――そんな生き方、寂しいじゃないか――』


KAZUYAの悲しげな眼が、言葉が、霧切の脳裏に強く響く。


(寂しくなんかない……! 私は一人でも大丈夫。お祖父様からだって、もう一人前だと言われている!)


しかしそう反駁しながらも、心の中にいるもう一人の自分がどこか冷静に分析していた。


(……馬鹿みたいね)


すっかり意地になってしまっている。KAZUYAが保護者のように接するから、
父親の代わりに不満をぶつけているだけだと、心の底ではわかっていた。


(子供っぽくて本当に嫌になる……)


心配されて嫌な訳がない。むしろ、もっと色々話をしたい。だが、彼はみんなの先生なのだ。
弱っている人間、手のかかる問題児により注意を割かれるのは仕方のないことだ。

自分は信頼されているからこそ、今回の作戦のパートナーに選ばれた。それでいいじゃないか……


(冷静に、ならないと……)


燃えるような焦燥や欲求を理性で抑えこむように、霧切はただただ歩き続けた。



― コロシアイ学園生活三十六日目 脱衣所 PM1:02 ―


石丸「本当ですか?」

K「ああ。まだまだ危なっかしいが、いつまでも止まっている訳にはいかん。石丸も今日から仮免だ」

石丸「ありがとうございます!」

K「そこで、いよいよ次の行程に入る」

苗木「一体、何を……」

K「縫合だ」

石丸「縫合ですか。布やスポンジを使っての訓練なら今まで散々やってきましたが、ここには
    人工皮膚もありませんし、何を縫うと言うのです? そもそも、何故脱衣所に?」


石丸はわからなかったが、苗木は即座に気付いた。KAZUYAの行き過ぎとも取れる
自己犠牲的行動は今までにも散々見てきたのだ。ならば、今回とて例外のはずがない。


苗木「まさか……まさかですよね、先生?」

K「苗木は気付いたようだな」

石丸「え? ま……まさかっ?!」

K「そのまさかだ。――俺の体を縫ってもらう」


サッと石丸の顔から血の気が引いた。


石丸「やめてください、先生! 何もそこまで……!」

K「薄皮一枚縫うだけだ。血管を傷付けなければすぐに塞がる」

石丸「ですが……怪我をしてる訳でもないのにわざわざ傷を付けて縫うなんて、人体実験と
    同じじゃないですか! いくら授業でも、そんなことは認められません!!」

K「……苗木。石丸はこう言っているが、お前はどうする?」

苗木「…………」


少し考えていた苗木だが、真っ向からKAZUYAの視線を返して答えた。


苗木「……僕は、やります」

石丸「苗木君……正気かね?!」

苗木「うん、だって――決めたんだ」

苗木(キッカケをくれたのは石丸君だった。でも……本当はもっと前から考えていたんだ)

苗木「ここから出られない以上はいつか必要になる技術だよ? いつもいつも先生に
    頼っている訳にはいかないし、きっと僕達がやらなきゃいけない時もくる」


あの日、顔色一つ変えず鮮やかな手つきで舞園を救うKAZUYAに苗木は魅せられていた。
自分もいつか同じように誰かを救えたらと、苗木は夢想し続けていた。


苗木(僕は、医者になるんだ。先生はいつも口癖のように言っている。医者になるのに
    特別な才能なんていらない。患者と真摯に向き合う気持ちが一番大事なんだって)

苗木「先生がここまで言ってくれているのに、断ったら先生の気持ちを無駄にすることになる。
    僕はみんなと違って特別な才能は何もないし、石丸君みたいに頭が良い訳でもない」

苗木「でも、だからこそ自分に出来ることは全部やりたいと思うんだ。
    それが自分にとってもみんなにとっても……きっと最善だと思うから」

石丸「苗木君……」

K「…………」

石丸「そうだな……僕は何を迷っていたんだ……」


顔をパンパンと叩いて気合いを入れ、石丸は笑った。


石丸「本当に……君はいつも大切なことを僕に教えてくれるよ、『苗木先生』」

苗木「ちょっ?! 何で今それが出るの?!」


石丸はたとえクラスメイトであろうと、自分が知らないことを教えてくれる人間を
先生扱いして有り難がる傾向がある。それはKAZUYAも知っているので特に何も思わないが、
本物の先生の前で先生呼ばわりされる苗木にとっては堪らないだろう。


苗木「は、恥ずかしいからやめてよ! 横にKAZUYA先生いるのに!」

石丸「何を恥ずかしがることがあろうか! 君という人間が友人で僕は誇りに思うぞ!」

K「そうだぞ。格好良かったじゃないか」

苗木「え、えっと……僕は別に、格好つけて言った訳じゃ……」

石丸「僕は君に勉強を教え、君は僕に勉強以外のことを教えてくれる。学友とは、そうやって研鑽し
    切磋琢磨し合うものだと思うのだ。迷っている僕の背中を押してくれたのは苗木君だからだよ」

苗木「いや、だから、そんな大したものじゃないというか。えっと……」

K「人より前向きなのがお前の取り柄なんだろう? そしてその前向きさは、
  時に周りの人間を励ましたり勇気を与えるということだ」

K「……良いことを教えてもらったな。俺も今度から苗木先生と呼ばせてもらおうか」

苗木「もうっ、絶対からかってるでしょ!」

石丸「僕は『マジ』だぞ!」

K「ウム、俺も大マジだ」

苗木「そんなことよりっ! 早く実習を始めましょうっ!!」


半分は本当なんだがな、とKAZUYAは笑いながら浴場を指した。


K「では、浴場に移ろうか」

苗木「えっ、大浴場の中でやるんですか?」

K「保健室の床を血まみれにしたくなかったからな。黒幕に見られているのも癪だ」

石丸「しかし、湿気があると細菌が繁殖しますし治療に向かないのでは?」


K「それは問題ない。早朝に湯を落としてずっと換気をかけていたからな」


確かに、浴場の入り口には清掃中の貼紙がされている。誰かが使用しないようにしたのだろう。
清掃中の貼紙をつけたまま、KAZUYAはガラス戸を開いて中へと入って行った。


K「ウム、適度に乾燥している。赤道直下のジャングルよりはずっといいさ」


ジャングルだとスコールもあるしと呟くKAZUYAに、そんな話もしていたなと二人は苦笑いで返す。


K「手順は……以前にも説明したからいちいち言わなくてもわかるな?
  今回はこれを――部分麻酔を使って縫ってもらう」

石丸「麻酔……!」


KAZUYAは床に6つほど濃度や成分の違うアンプルを並べていく。


K「そうだ。先に言っておくが、麻酔の効きを見たいから今回は針麻酔は使わない」

苗木「針麻酔なしで体を傷付けるんですか?!」

K「薄皮一枚だからな。そんなに痛くないさ。気にしなくていい」

苗木・石丸「…………」ゴクリ

K「俺は今回、基本的に見ているだけとする。お前達は過去の
  授業を思い出して、自分で判断してやって欲しい」

苗木「……わかりました」


必要な道具を取り出し、乾いた床に並べた。あくまで練習だが、実際の手術の緊張感を
味合わせるため、二人にはきちんと術着を着させ半透明のゴム手袋を装着させた。


苗木「僕が着れる手術着があって良かったよ」

石丸「うーむ、サイズ的には女性のものに見えるが。看護婦でもいたのだろうか?」

K「…………」


KAZUYAにはたった一人思い当たる人物がいた。


ざんばら髪でエプロン白衣を身にまとい、いつもおどおどしていた彼女。
有り得ないほどのドジだが、看護婦としての技術は確かだった彼女。

今苗木が着ている手術着は、間違いなく彼女のために用意されていたものだろう。


K(今は、どこで何をしているのだろうか……)


もしここがシェルターでそのために保健室に色々揃っていたのなら、彼女もここにいるべきだが……
KAZUYAとは縁が深い人間のため気にはなったものの、今は医療実習に集中しなければならない。

上着を脱ぐと、KAZUYAは躊躇うことなく自身の左上腕部をメスで切り裂く。バッと辺りに血が飛び散った。


「……ッ!」


二人は思わず目を閉じる。いくら覚悟をしているとはいえ、やはり師が
自分を傷付けたり血まみれになっているのを見るのは耐えがたいものがあるのだ。

だが、そんな二人にKAZUYAは容赦なかった。


K「二人共、よく見ろ」


二人がおずおずと傷口を見ているのを確認すると、KAZUYAは更に斬りつけ傷口をL字形にする。
そして、あろうことかメスの切っ先を皮膚の下に潜り込ませると、皮膚の一部をベロンと裏返した。


苗木「うわっ……!!」

石丸「……うぷっ」


この不意打ちに二人は気分が悪くなる。


K「バケツも袋も用意してあるから、吐きたいなら吐いてもいいぞ」

石丸「い、いえ……大丈夫です……」

K「無理をするな。縫合中に中断する訳には行かないんだぞ」

苗木「でも、すぐに縫わないと……」


K「……俺は傷口をよく見ろといったはずだが。主要な血管は一切傷ついていないだろう?
  こういう皮膚を切断した傷は出血が派手だから重傷に見えるが、実は放っておいても
  自然に塞がるんだ。だから、お前達は心配しないで吐きそうなら先に吐いてこい」

石丸「で、では、少しトイレに……!」


少しばかり放置しても問題ないと知るや、石丸はバケツを抱えたまま飛び出して行った。


K「苗木は大丈夫か?」

苗木「良くはないですけど、舞園さんの時にも一度見ているし……」

苗木(本当は、吐く気も起きないというか……ショックで何も考えられないだけなんだけどね……)

K「……無理だけはするなよ」


少しして石丸が戻ってきたのだが、もう一人騒がしい人間が付いてきてしまった。


葉隠「ちょ、ちょっとおめーら?! こんなところで一体なにやってんだ?!」

K「葉隠か。どうかしたのか?」

葉隠「どうしたもこうしたも、トイレに行ったら突然手術着を着て青い顔した石丸っちに遭遇して、
    医療実習で吐いたとかなんとか……で、気になって来てみたら先生が血まみれじゃねえか?!」

K「医療実習だからな」

葉隠「実習て……怪我だらけだぞ!!」


KAZUYAは普段傷口に包帯を巻いているが、今やその範囲は左腕の大半になろうとしていた。
関節付近は度重なる注射で出来た血腫がまだ直っていない。包帯を外した今、失敗した注射痕や
赤黒い血腫がいくつも出来ているのがまる見えだし、上腕部には今回の傷がある。


K「なに、大したことはない。かすり傷だ」

苗木「葉隠君、落ち着い……!」

葉隠「ウソつくな! どう見ても重傷じゃねえか!」


こうなることが予想出来たから、KAZUYAは実習で付いた傷痕をなるべく生徒達に見せないようにしてきた。
最近では包帯を隠すため、愛用のノースリーブのシャツではなく普通にワイシャツを着ていたくらいだ。

だから、まさかKAZUYAがここまで自身を犠牲にしていることも傷だらけなことも、関係者以外は
知らなかった。葉隠は未だに出血が止まらないKAZUYAの姿を見て、非常にショックを受ける。


葉隠「それ、まさか自分で傷つけたのか? 大体、なんでそんなに傷だらけなんだべ?!」

K「仕方なかろう。本来なら大勢の人間に少しずつ協力してもらうからここまでにはならないが、
  ここには俺しか被験体になれる人間がいないのだからな。一人で全部やればこうなる」

葉隠「……あ、あんたちょっとおかしいぞ! どうかしちまってるんじゃねえか?!」

K(まあ、これが普通の反応か……)


頭のおかしい人間でも見るような怯えた目の葉隠に、KAZUYAは溜め息をつく。確かに普通の生活で
同じことをしている人間を見たら、KAZUYAだってきっと常軌を逸していると思うだろう。


K(……だが、今は『普通の生活』ではないからな)

石丸「そういう言い方はよしてくれ! 先生は僕達のためにここまでしてくれているのだぞ!」

葉隠「だからって、自分で自分を傷つけるとかおかしい! 有り得ないべ!!」


――葉隠康比呂には自分を傷付けるという発想が元よりない。

身内を含めた自分自身と他人の間には大きな深い溝のようなものがあって、その二つは全くの
別物なのである。だから、自分のために他人を利用するのは構わないと思っているし、他人が傷ついても
そこまで気にならない。その反面、自分に対しては大きく守りに入っていて傷つくのを嫌がるのである。

KAZUYAは真逆だった。他人でも傷つくのは嫌だし、誰かのために自分を犠牲とすることに抵抗がなかった。


葉隠(なんなんだべ……一体なんなんだべ、このオッサン……?!)


今この時、葉隠にとってKAZUYAは理解出来ない超越的存在となった。

KAZUYAの大いなる慈愛も献身も自己犠牲も、残念なことに
彼にとっては得体の知れない不気味な何かにしか見えないのである。


葉隠(……人間てのは、どんな綺麗事を唱えていても最終的にはエゴイストなんだ。
    占い師の俺は、色んな人間の裏側を見てきたから知ってる。……正直、気味が悪いべ)


世間では評判の良い政治家だって不倫をしてたりするし、人格者で知られる経営者も
裏でアコギな商売をやっている。清純派のアイドルだって、陰では淫らな関係があるのだ。


葉隠(そうだ、俺は知っている。信用出来ない。他人なんて、信用できねえ……!)

葉隠「……何が狙いなんだ?」


ここまで。

詰むというかとあるED条件に葉隠君が絡んでいるのでそのEDが見れなくなる
クリア自体は出来る。でも、仲間を切り捨てるやり方は推奨しない


再開


唐突過ぎるその言葉に、KAZUYAは怪訝な顔で問い返した。


K「狙い?」

苗木「まさか葉隠君、まだ先生のことを内通者だなんて思ってるんじゃ……」

葉隠「違え。先生が内通者じゃねえってのは流石にわかってる」

石丸「では何を狙っているというのだね?」


その問いに答えることなくしばらく考えていた葉隠だったが、
ふと何かを思いつき下卑た薄ら笑いを浮かべる。


葉隠「……ハハーン、やっと読めてきたべ。そういうことか」

K「読めてきた? 何を?」

葉隠「そんなに必死に俺達を脱出させて、あんたにどんな得があるのか考えてみた。
    つまり、こうだべ! 俺達の家族から貰う“謝礼金”が狙いなんだ!!」

「…………は?」


予想外すぎる葉隠の言葉に、思わず彼等は黙り込んだ。
吐いた後で元々青かった石丸の顔がますます青くなっている。


K「謝礼? 一体何の謝礼だ?」

葉隠「しらばっくれんな! 一人百万なら1500、二百万なら3000万! ボロい商売だべ。
    そんなにもらえるなら、確かに少しくらいの怪我は目をつむれる……かもしれねえ!」

K「…………」

苗木「…………」

石丸「…………」


あまりに浅ましくさもしいその発想に、彼等は言葉を失ってしまった。


石丸「葉隠、君……き、君は……君という人は……!!!」ワナワナ…

K「石丸、よせ。言いたいことはわかるが黙れ」


怒りのあまり頬を紅潮させ目に涙を溜める石丸の口をKAZUYAは塞いだ。左手で掴んだ肩が
小刻みに震えているのを感じる。石丸を抑えるKAZUYAの代わりに、スッと苗木が一歩前に出た。


苗木「葉隠君、あのね……もし、先生がいない時に誰かが怪我をしたらどうなるかな?」

葉隠「そりゃあ困るべ。応急処置の方法は習ったけど、あんなんじゃ一時しのぎにしかならねえしな」

苗木「うん、そうだよね。救急車を呼ぶ訳にもいかないし、ここにはお医者さんが
    一人しかいないもんね。でも、将来的にそうなることもあるかもしれないよ?
    例えば、モノクマが先生の妨害をしてすぐに来れなくするとか……」

葉隠「そうなったらまずいよなぁ」


どこか他人事のように話す葉隠に苛立ちを覚えながらも、苗木は冷静に続けた。


苗木「ここは僕達の住んでいた普通の世界じゃない。モノクマのせいで、どんな理不尽なことも
    起こりうるんだ。だから、先生は無理をしてでも僕達を医者にしようとしてくれてるんだよ」

葉隠「でも、それも結局は全部謝礼のためなんだろ? 他人のために無償でそこまでやれるヤツなんて
    いるワケないべ。石丸っちと苗木っちの家族からは授業料分多めにもらわないと割が合わないな!」

石丸「……!!」

K「暴れるんじゃない!」


出血が酷くなることも構わず、KAZUYAは両腕に力を込めて石丸を押さえつける。


K「葉隠……お前は物事を金で判断するようだから言ってやる。
  俺はその気になれば一回の手術で一千万以上簡単に稼げるぞ」

葉隠「おお! すげえな。流石は超国家級の医師だべ」

K「その俺が、何で庶民のお前達からちまちま金を巻き上げようとするんだ」

葉隠「そりゃあ、金はいくらあったって困らねえからな! 俺もすぐに使っちまうし」

苗木(も、もう呆れて何も言う気にならない……)

石丸「――! ――!!」バタバタ!ダン!

K「……ハァ。わかった。もういい。実習の邪魔だから帰ってくれないか?」

葉隠「言っとくけど、俺はビタ一文払わねえからな!」

K「わかったわかった。じゃあな」


葉隠を脱衣所に追い返し、ガラス戸をピシャリと閉める。


K「全く、とんでもない闖入者だった……」

苗木「ですね……」ハァ


悪意はあるが己の信念に基づき動く十神とは全く違う。悪意は全くなく、単純に思想と
価値観の違いによる相容れない平行線な会話は、彼等の気力を大いに削いでくれた。


石丸「何で……!」ワナワナ…

苗木「あ、石丸君……」

K「…………」


石丸は既に泣いていた。それが悔し涙であろうことは、二人も察していた。


石丸「何で! 僕に何も言わせてくれなかったんですか?! 彼の考えは正すべきだったっ!!」

K「無駄だ。ああいった手合いを反省させるのは骨が折れるぞ」

石丸「でも、でも! 何故反論しなかったのですか!! 先生はお金のためなんかで動く人じゃない!
    彼だっていい加減わかるべきなのにっ! わかっていないとおかしいはずなのにっ!!」

K「今は実習が先だ。もっと言うなら、俺達が最優先にしなければならないのは『脱出』だろう?」

石丸「それでもっ……!!」

K「今は小さな不和も起こしたくないんだ。だから敢えて言われっぱなしにした。みんなで
  ここを脱出したら、その時は多少痛い目に遭わせてでも矯正してやればいい。違うか?」

石丸「そうかも、しれないですけど……けど……!」

苗木「石丸君、悔しいのはわかるけど……でも、あんなことを言われて一番悲しいのは先生じゃないかな」

石丸「…………」

苗木「僕達は僕達のやれることをしようよ。それが結果的に先生にとっても一番良い。そうですよね?」

K「そうだ。お前が俺の代わりに涙を流して怒ってくれた。……それだけで俺は十分なんだ」

K(まさか生徒の中にあんな悲しい人間性の者がいたというのは、俺にとってもショックだったが……)


思わぬアクシデントだったが彼等はここで止まるわけには行かない。余分に持ってきていた
タオルを渡して顔を拭かせる。だが石丸がポツリと呟いた言葉が、KAZUYAの耳に残って離れなかった。


石丸「葉隠君には……僕の顔の傷もお金のために見えるのだろうか……」

K「…………」


・・・


しばらくして、ようやく実習が再開となる。


K「いつもは苗木からだが、縫合に関しては石丸の方が前から練習している。石丸からやってくれ」

石丸「わ、わかりました……」

K「まずは縫合糸と薬品選択だ。どれを使う?」


KAZUYAはずらりと並べたアンプルと糸を手で指し示した。
石丸は一通り薬品の名前を確認すると、そのうち一つを手に取る。


石丸「縫合糸は5-0ナイロン糸、薬品はこの0.5プロ キシロカインEありを使います」


プロ:%のこと。ドイツ語ではプロツェントと呼ぶのでそこから由来している。


K「理由を聞きたいがその前に……苗木、Eは何の略かわかるか?」

苗木「えっ、えっと……すみません。効果が長く続くような薬だと思うんですけど……」

K「間違ってはいない。石丸、Eの説明をしながら理由を述べろ」

石丸「はい。Eはエピネフリン添加を示します。エピネフリンは別名アドレナリンで、周囲の
    血管収縮を促し麻酔の流出を防ぎます。それにより麻酔持続時間を延ばすことが出来る。
    今回は傷口が大きいのと僕達の腕が未熟なので、麻酔時間は長い方が良いと判断しました」

K「0.5プロの根拠は?」

石丸「傷口が大きいので、注射回数や注入する薬液も多くなることが予想されます。部分麻酔で
    最も気を付けなければいけないのは規定量以上を投与することによる局所麻酔中毒です。
    今回は、より大量に投与出来るように最も薄いものを選択しました」


局所麻酔中毒:局所麻酔を体内に大量投与することによって発生する中毒症状。舌・口のうずき、
         眩暈、耳鳴り等が起こる。酷い時には痙攣、呼吸停止等も起こるため注意が必要。


キシロカイン:キシロカインは商品名であり薬品名は「塩酸リドカイン」。局所麻酔、抗不整脈薬として
         幅広く使われている。体重によって極量(限界量)が変わるので都度計算が必要である。


K「……良いだろう。まあ、簡単な皮膚縫合は絶対こうしなければいけないという
  定説はあまりなくて、使う薬剤も糸の太さも医者の好みが大きいからな。俺は体が
  大きいから、このくらいの傷なら1プロEなしでも特に問題ない」

K「今回は傷が浅いから0.5プロでもいいが、これ以上傷が深く神経に近い場合は1プロの方が
  いいかもな。こればかりは経験でわかっていくものだ。手術の度に、吟味し学んでいってくれ」

石丸「はい」

K「更にいくつか質問しておく。ここでは関係ないが、浸潤麻酔でキシロカインは何%まで希釈可能だ?」

石丸「0.3%までです」

K「キシロカイン以外のアミド型局所麻酔を二つ挙げろ」

石丸「塩酸メピバカイン商品名はカルボカイン、塩酸ブピバカイン商品名はマーカインがあります」

K「では、それらの特徴を――」

石丸「――。――」

苗木(す、凄い……)


これが実技演習だと言うことを忘れるくらい、KAZUYAはしつこく口頭問答を繰り返した。石丸も
よく勉強していて全て的確に淀みなく答えていく。苗木はただ必死にメモを取ることしか出来なかった。


苗木(うう、医者になるならこれ全部覚えなきゃいけないんだよな。僕は本当になれるんだろうか……)

K「エピネフリン添加のキシロカインを使ってはいけない禁忌の場所がある。どこだ?」

石丸「……耳、指先、体の末端部です。理由は血行を阻害するため細胞が壊死する可能性があるからです」

苗木「末端? 末端てどこ?」

石丸「その、だな……」


口ごもる石丸に対し、慣れているのかKAZUYAはサラリと答えを言う。


K「男性器のことだ。壊死したら大変だろう?」


大変どころの話ではない。


苗木「……あ、はい」

苗木(これは覚えたぞ。今完璧に覚えた……!)


壊死という言葉の恐ろしい響きに思わず苗木の末端部もキュッと縮む。


石丸「あの、それでは……」

K「オーケーだ。理論は問題ないようだな。早速実技に取り掛かれ」

苗木(もう血が止まっちゃってるよ……いや、血が出てると焦るからそのために喋ってたのかな)

石丸(まずは消毒……いや、皮下細胞を殺してしまうから昨今は消毒しないのが主流。
    なら先生が用意したこの生理食塩水で傷口を軽く洗い、細菌を流すべきだろう)

K「…………」

石丸(いよいよ麻酔か……)

石丸「…………」


石丸は震える手でアンプルを持ち上げ割ろうとするが、手が滑って落としてしまう。
幸いアンプルは割れなかったので、苗木が拾って渡した。


石丸(……そういえば、アンプルの割り方なんて本に載っていなかったぞ。どうすればいいのだ?)

K「アンプルの割り方がわからないのか? まず軽く振るか指で頭の部分を弾いて、薬液を下に落とせ。
  昔はヤスリで傷を付けて割ったりもしたが、今は大体カット用の傷があらかじめ入っている」

K「右手で持ってカット部分に力がかかるように上部を親指で押して折る。
  または、心配なら左手に持ち右手で上部を包みこむように握って折ってもいい」


石丸は言われた通り右手に握り、親指で思い切り上部を押す。……が、

パキーン!


石丸「あっ!」

K「……当たり前だが折れた上部が吹っ飛ぶので、左手でしっかり受け止めるように」

石丸「す、すみません……」


苗木「僕が拾っておくから、構わず続けて。いつも通りやれば大丈夫だよ」

石丸「ありがとう、苗木君……」

石丸(落ち着け。注射はもう何度もやっている。薬液を入れて刺すだけだ……!)

K「局所麻酔中毒の知識があるから分量は心配していないが、刺す場所はわかるな? 頼むから血管に
  注入だけはしてくれるなよ。少しくらい時間がかかってもいいから、着実に麻酔をかけていけ」

石丸「はいっ!」

石丸(えっと、針を入れたら逆血がないか確認して……)


逆血:点滴などの際、管に血が逆流すること。血管に針が入っているか確認する指針になる。
    上述した通りキシロカインは抗不整脈薬でもあるので、健常者の血管にいれるのはとても危険。

石丸はKAZUYAの傷口の周りに麻酔を注入していく。ちなみに、今回のような患部の周辺に
直接刺したり塗ったりする方法を「局所浸潤麻酔」と呼び、簡易縫合では専らこの方法を用いる。


石丸「…………」

K「…………」

K(流石にいい加減慣れてきたのか、手つきも安定してきたな。……大した努力だ)


その努力のためにKAZUYAの体は大いに犠牲になってきたのだが、それには目をつむる。


石丸(麻酔を打ち終わった。次は、いよいよ縫合を……)カチャカチャ

石丸(しまった! 針に糸を付けるのを忘れていた! うっ……糸がセット出来ない!)アセッアセッ

苗木「……僕が付けようか?」

K「駄目だ。自分でやらねば意味がない」

苗木「でも、さっきから大分血が出てますよ……」


模擬手術なら苗木も手を貸そうなどとは思わないが、すっかり床を汚している
KAZUYAの血やパックリ開いている傷口を見ているとどうしても気が急いてしまう。


K「この程度、後でリンゲルでも入れておけばどうとでもなる。焦るな。焦るから出来ないんだ」

石丸(落ち着け、落ち着くんだ……深呼吸して……)


石丸「……よし、セット出来た! じゃあ……」

K「縫う前に麻酔の効きを確認しろ。麻酔が効いていない患者に針を刺すつもりか?」

石丸「すみません! ……えっと、感覚はありますか?」

K「触れただけでは問題ないが、浅い気がする。試しに刺してみてくれ」

石丸「はい……」

石丸(いよいよ、西城先生の体に針を……!)


ドクン、ドクン……

石丸は持針器を持ち、震える手で針を刺した。


K「……駄目だ。やはり麻酔が足りなかったようだ。追加だな」


その後、麻酔を追加しとうとう縫合が始まったのだが……


石丸「…………」ブルブル

K「……選手交代だ」


何度深呼吸をしても、左手で右手を押さえても一向に震えが止まらず、まともに
縫い進めることが出来ない。やむなく四分の一ほど来た所でKAZUYAは交代を宣言する。


石丸「あの、期待に応えられなくて申し訳ありません……」


石丸らしくない、消え入りそうな小さい声だった。先程の精神的ショックも相まって、
かなり落ち込んでいるようだった。KAZUYAは肩を叩いて励ましてやる。


K「大丈夫だ。みんな初めはこんな感じだ。……苗木、やってみてくれ」

苗木「……はい」


苗木の手も多少震えていたのだが石丸程ではなく、時間をかけて慎重に縫い上げていく。


K「創縁(傷口)をもっと合わせろ。ただ縫っただけでは皮膚はくっつかないぞ。
  今のままでは抜糸した時にそのまま傷が開いてしまう」

苗木「は、はい……」

K「なんなら既に縫った所もピンセットを使っていいから合わせるといい」


苗木は何とか最後まで縫えたのだが、結局及第点は貰えずKAZUYAが一から縫い直した。
そのスピードたるや、まさしく二人の倍以上は裕にある。その後、部位を少しずらして
もう一度傷を作り、石丸に縫わせた。今度は一応最後まで縫い上げることが出来た。


「疲れた……」


同時にへたりこむ弟子二人をやれやれと見下ろしながらも、KAZUYAは労うことを忘れない。


K「お疲れさん。まあ、初めてで身内を縫うのは精神的に厳しいかもしれんな」

石丸「……ですが、先生は五歳でお父さんを縫われたとか」

苗木「ブッ?! お父さんを五歳の時に?!」

K「同じように震えていたな。しかも、親父の場合は麻酔なしだったから尚更だ」

苗木(五歳でそれが出来るって……やっぱり先生は普通じゃないんだな……)


幼い時から徹底的に訓練を積んでいるから誤解しがちだが、やはりKAZUYAには
確かな才能があるのである。今更ながらそれを痛感する苗木だった。


K「さて、片付けをして引き上げるか」


そう言ってシャツを手に取る。先述した通り、最近のKAZUYAは包帯を隠すためにワイシャツを着ていた。

ちなみに、女子からはそちらの方が遥かに好評でありKAZUYAが内心で憤慨するという出来事が
あったのだが今はそれは割愛する。掴んだシャツをKAZUYAが着ようとした時、それは聞こえてきた。


「いい加減にしてくれないかしら……!」


――いつも冷静な彼女の、今までに聞いたこともない怒鳴り声だった。


ここまで。

付属品も広義では男性器に含まれるからセーフ


「?!」


バッと三人は後ろのガラス戸を振り返る。唐突に聞こえた霧切の怒声に、体が強張った。


「た、大変だよ! 私、先生呼んでくる!」

「どうした?」


間髪入れずに、KAZUYA達はガラス戸を開けて脱衣所に飛び込んだ。


朝日奈「え、先生?! って……きゃっ! なんで裸なの?!」


思わず朝日奈は赤面するが、他のメンバーは意外と冷静に後ろの二人を見て状況を理解した。


舞園「あ、苗木君達手術着を着てますよ!」

桑田「おおっ、マジだ。かっけー!」

大和田「……手術してたのか?」

不二咲「西城先生、怪我しちゃったのぉ?」

K「医療実習をしてたんだ。こちらはいい。それより、何があった?」

山田「西城カズヤ医師~! 後生です! どうかお助けください~!」


……何となく察しがついた。


霧切「山田君……私は再三アルターエゴの長時間使用をやめるよう警告したわ。なのにあなたは何度も
    深夜にここに来た上、今もまた脱衣所に来た。これがどのような意味を持つかわかっているの?」

桑田「おいおい、勘弁してくれよな……なんのために風呂大会とかしたんだよ」

大神「アルターエゴは我等の希望。それが黒幕に見つかればどうなるのかわからないのか?」

山田「だって、だって初めてだったんですよ……僕の話を嫌がらずに聞いてくれる女の子……」

江ノ島「機械に男とか女とかあるワケ? ていうか、不二咲がモデルなんだから男じゃね?」

朝日奈「私もそう思う」


江ノ島と朝日奈が冷静に突っ込みを入れるが、山田はまるで聞いていない。


山田「今まで、ママンだけだったんです……でも彼女は僕の話をとても楽しそうに聞いてくれて……」

石丸「……彼が何を言っているのか、僕にはさっぱり理解出来ないのだが……」

セレス「アルターエゴに自分の意志などありません。ただ知識を求めるようプログラミングされて
     いるだけです。山田君に興味があるのではなく、山田君の知識に興味が有るのですわ」

山田「そんなことはわかってますよ! でもしょうがないじゃないですか。
    だって、恋しちゃったんだもん。彼女の顔も声もキーボードまで」

K「キ、キーボードもか……」


余りの重傷ぶりにKAZUYAは、いやその場にいた全員が凍り付いた。


葉隠「……昔よぉ、俺の客でマネキンと恋してとうとう結婚までしちゃった
    社長がいるんだべ。山田っちは今その社長と同じ目をしているぞ!」

苗木「うわあ……」


苗木がその場の全員の心の声を代弁する。この奇人変人揃いの学園で、なるべく
相手の個性を受け入れることを心掛けている苗木の反応こそが全てだった。


K(長期間の拘束によるストレスで頭がおかしくなってしまった?
  それで逃避のため、アルターエゴを自分の理想の女性に見立てている??)


必死に分析を試みるが、正解などわかるはずもない。石丸の時に痛い程思い知らされたが、心の病は
彼にとっても専門外なのだ。そもそも、人脈の多様さには自信のあるKAZUYAだったが、無機物を真剣に
愛する人間などついぞ見たことがなかった。途方に暮れるとはまさしくこういうことを言うのだろう。


桑田「つーか自分がなにやってるかわかってんのか、ブーデー? 俺達は現在進行形で
    閉じ込められてて、これが脱出の鍵になるかもしれねーんだぞ!」

山田「アルたんを物みたいにこれなんて言うなぁっ!」

江ノ島「いや、物じゃん……」

石丸「よくわからないが、そんなに好きなら脱出した後に好きなだけ話せばいいだろう! これは
    君だけの問題ではなく、みんなの命運もかかっているのだ。迷惑をかけるのはやめたまえ!」

山田「迷惑? 自分だって一時期散々迷惑をかけてたくせに、あなたがそれを言うんですか……」

石丸「そ、それは……」


若干の悪意が篭った鋭い指摘に後ろ暗い所を突かれ、石丸はたじろいだ。
自身の弱さを認め乗り越えることを決意したが、開き直れる程にはまだ強くない。


大神「……よさぬか、山田」

霧切「過ぎたことを責めても仕方がないわ。私達は今の問題に向かっているの」

大和田「兄弟を悪く言うんじゃねえ! キッカケを作ったのは俺で、おかしくなったのは
     モノクマやコロシアイのせいだろ! 兄弟はなにも悪くねえ!」

山田「じゃあ僕がおかしくなってもいいじゃないですか! あなた達に僕を糾弾する権利なんてないんだ!
    お前も、お前も、お前も、お前も! みんな過去に問題起こしてるんだろうがよぉ!」

「……………………」


指を指された舞園、桑田、大和田、石丸は反論できずに俯く。


苗木「それは違うよ! アルターエゴの意志はどうなの?」

舞園「そ、そうです。彼女は私達の脱出を望んでいるはずです。自分のせいで
    山田君がみんなに嫌われたりしたら、きっと悲しむはずですよ」

山田「……あぁ、そうでしょうなぁ。アルたんは優しくて、いつも僕の心配をしてくれますから」

セレス「あなたの心配ではなく皆さんの心配では?」

葉隠「これは、かなりキてるべ……」

「…………」

K「ゴホン! とりあえず、女性と付き合いたいならまず必要な手順があるんじゃないのか?」

山田「手順? まさか、キスとか……?! でも、この場合どこにすれば……」

江ノ島「なにこいつ……マジでキモいんだけど……」

江ノ島(……おかしいな。確かに山田君は学園生活の時もアルターエゴに興味を
     持っていたけど、流石に恋愛感情まではなかったはず。とうとうおかしくなった?)


彼女が知る学園時代との違いに、江ノ島は困惑を覚えていた。


石丸「女性と交際するなら、相手方のご両親に挨拶ではないか?」

桑田「付き合うだけで挨拶なんてしねーよ、フツー」



KAZUYAは桑田を目で制すと続ける。


K「そう、挨拶だ。アルターエゴの親は不二咲だから、まずは不二咲の許可を取るべきだろう」

不二咲「ふぇえっ?! ぼ、僕?!」

山田「不二咲千尋殿ぉぉぉ! 是非、是非僕にアルたんと付き合う許可を!」

不二咲「えっと、その……まだ知り合ったばかりでお互いのことがわかってないから少し
     早いというか、もうちょっとお友達のままの方がいいんじゃないかな……?」

桑田「もっとはっきり言ってやれよ!」

大和田「ああ。迷惑だって言ってやるのも優しさだろ」

山田「ふざけるな! 僕の愛がアルたんにとって迷惑なワケがない!」

江ノ島「それ、ストーカーがよく言う発言なんだけど……」

大神「深夜に相手の元に押しかけるのは誉められた行動ではないと思うぞ……」

朝日奈「周りが見えなくなってるって!」

不二咲「えっと、えっと……」チラ

大和田「不二咲!」

石丸「不二咲君!」

K「…………」コクリ

不二咲「ごめんね……アルターエゴは今大事なお仕事の最中だから……
     それを邪魔されるのは、アルターエゴにとってもきっと迷惑だと思うんだ……」

山田「ガアアアアン!!」

桑田「ほれみろ! ざまぁ!」

苗木「まあまあ」

霧切「今後しばらく、山田君がアルターエゴに会うのを禁止するわ」

山田「そ、そんな殺生な! 僕にとってアルたんと話すことだけが生きがいなのに!」

霧切「……ハァ。今の調子だと会うなと言ってもこっそり会いそうね」

舞園「それも問題ですが、短期間に何度も脱衣所に集まったのは不味くないですか?」


霧切「そうね。かなり問題だわ……」

苗木「そういえば、最初からこんなに集まってたけど何かあったの?」

朝日奈「あ、それは私達のせいだ……」

大神「我等はトレーニングの汗を流そうと脱衣所にやって来たのだ。そこに、先客として山田がいた」

朝日奈「前に霧切ちゃんが、山田が何度も脱衣所に通ってて黒幕にバレないか心配……って
     言ってたから注意したんだよ。でもなかなかやめないから霧切ちゃんを呼びに行って……」

桑田「俺達はフツーに食堂でダベってたんだけどよ、二人から話を聞いた
    霧切が血相変えて飛び出てったから、心配になって見に来たっつーワケ」

K「その結果、十神と腐川以外の全員が集まってしまったということだな」

大和田「まさかセンセイ達がこんな所にいるとは思わなかったしよ……」

朝日奈「ご、ごめん。オオゴトにする気はなかったんだ」

K「いや、仕方ない。今騒ぎにならなくてもいつかは問題になっていたはずだ」

石丸「しかし、どうする? 今回の件で黒幕が感付いてしまったら……」

K「そうだな……」チラリ

霧切「…………」


KAZUYAからの視線を受け、霧切は顎に手を当て考える。


霧切(本当は内通者を特定したいけど、このままここに置いておけばトラブルの元になる……)

霧切「アルターエゴは、一時的にどこかへ避難させましょう」

セレス「わたくしも同感ですわ。これ以上ここに置いておくのは危険です」

桑田「それが無難かもなー」

江ノ島「でもさ、どこに置くワケ?」

江ノ島(どうしよう……盾子ちゃんには止められてるけど、やっぱり壊しておくべきだったかな)

葉隠「アルターエゴは元々不二咲っちの物なんだし、不二咲っちでいいんじゃねえか?」

大神「我も賛成だ」

朝日奈「うん、さんせーい」


不二咲「ま、待って……! 確かに僕が持っているのが一番だけど、今回の件で黒幕に
     知られたかもしれないし、僕が持っててもいざという時に守れる自信がないんだ……」

大和田「また不審者が襲ってきてもまずいしな」

不二咲「……僕は、西城先生が持っているのがいいと思うなぁ」

K「俺か?」

石丸「ウム。保健室なら常に僕達もいるし、万が一のことがあっても大丈夫だな」

霧切「そうね。当面アルターエゴの管理はドクターに任せるわ。私達の
    誰かが持つよりも、教員のドクターが管理するのが公平でしょうし」

苗木「そうだね。先生だし大人だし、KAZUYA先生が一番信頼出来るよ」

朝日奈「じゃあ先生よろしくねー!」

K「俺は構わないが……」


横目で山田の様子を伺った。山田はアルターエゴのことを女子だと思っている。ということは、


山田「で、では西城カズヤ殿が服の下に仕込んで持って帰るんですか?!
    寝る時は肌身離さずアルたんと一緒に添い寝したり……!!」

K「俺にそんな趣味はない……」

K(霧切の方が良かったんじゃないかな……)


今後のことを考えると頭が痛い。


霧切「とにかく、これ以上ここにいたら怪しまれるだけだわ。今日はもう解散しましょう」

山田「ああ、アルたん。アルたん……」

大神「……山田よ、お主は少し冷静になった方が良い。あれは機械だ」

朝日奈「そうだよ。二、三日すれば目もさめるって」

葉隠「もうちょい現実見た方がいいぞ?」

桑田「あんまメンドーかけるなっての」


ぞろぞろと生徒が退出する中、入れ替わりに十神と腐川が入って来た。


腐川「あぁっ?! せ、先生が逞しい上半身を晒している?! ふふ、腹筋が……!」


顔を紅潮させて慌てる腐川と対照的に、十神は小馬鹿にしたように顎でKAZUYAの包帯を指す。


十神「何だ、お前達。いよいよ手術の真似事でも始めたのか?」

石丸「縫合実習だ! 今日はまるで駄目だったがな。……だが次こそは上手くやるぞ!」

十神「フン、大したものだな。凄いじゃないか」


あからさまな皮肉に、いつも冷静なKAZUYAも少しばかりカチンと来た。


K「……舐めない方がいいぞ。石丸は知識だけならそこらの医学生並みにあるし、
  苗木は静脈注射程度なら一人でもほぼ出来ると言っていい」

十神「たかだかその程度の技術のために自分の体を実験体にしていると言う訳か。ご苦労なことだ」

十神「何の可能性も見えない凡人のために何故そこまでやる? 高尚な自己犠牲心という奴か? それとも、
    医者というのは頭のネジが飛んでいる酔狂者のことなのか? なら確かに石丸は向いているかもな」

舞園「十神君、やめてください」

苗木「いくらなんでもそういう言い方は酷いよ!」

十神「フン、事実だろう?」


二人の抗議など意に介さず十神はKAZUYAを睨む。


十神「それで、何があった? わざわざ俺を外して集まっていた訳だからな。余程のことがあったんだろ?」

霧切「集まっていた訳じゃないわ。たまたま騒ぎになってしまっただけよ」

葉隠「山田っちがおかしくなったんだべ!」

十神「次から次へと……今度は何だ? これだから愚民は……」

腐川「そ、そうよ! 何があっても動じない白夜様の落ち着きを見習いなさい!」

K「……今回ばかりはその通りかもな」


いつもなら軽く流される言葉に同意され、腐川も事態の異常性を感じ取った。


腐川「え、な、何……?! 一体何が起こった訳?!」

苗木「山田君、アルターエゴを好きになっちゃったんだって……」

十神「…………」



いつも険しい十神の表情が、未だかつてなかったほど引きつったのをKAZUYA達は目撃した。


腐川「ハ、ハァァア?! アルターエゴって……機械じゃないの!」

K「だから、その機械を好きになってしまったそうだ。恋は盲目というが、かなり危険な領域だな」

霧切「山田君が何度も脱衣所に足を運ぶから、黒幕に感付かれたかもしれない。
    だから、しばらくアルターエゴはドクターに管理してもらうことにしたわ」

十神「……妥当だな」


流石に山田の件は予想外過ぎたのか、珍しく十神が疲れた顔を見せている。


十神「それにしても……ここにはおかしな奴しかいないのか? まったく……」


呆れたように十神は呟くが、お前にだけは言われたくないと一同は思っていた。



― ??? 時刻不明 ―


「うぷぷ。うぷぷぷぷ……」

「絶望の種が芽吹いてますなぁ。もうにょきにょきにょきにょきと生えてきてますなぁ」

「元々猶予は一週間て決めてたしね」

「果たして西城先生は、今までの行動で事件を食い止めることが出来たのかな?」

「ではでは、結果をご開帳~!」






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  非日常編  ― 完 ―



ここまで。

前回Eありの禁忌に指先と書きましたが正しくは指ですね。多分付け根に使っても
指の血行止まるので良くないとおもいます。あと>>537のつもりだった


……おかしいな。三章は三編で終わるつもりだったんだけどな


今日は安価あります。三章最後の大事な大事な自由行動です。

再開






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  ○○編





ピンポンパンポーン♪


「!!」


和やかに朝食を食べ、食後の会話を楽しんでいた彼等が一斉に顔を上げた。
この音が示すものは何か、彼等はもう知っている。


モノクマ『もう猶予期間終わりでいいよね? と言う訳で、全員体育館に集合ー!』


モニターに映る呑気な顔と声が、計り知れない悪意を秘めて彼等を呼び出した。


「…………」


嫌な沈黙が辺りを支配する。


葉隠「お、おいおい……マジかいな……」

十神「また始まるようだな。“コロシアイ”が」

江ノ島「あんたねぇ! まだそんなこと言ってんの?!」

石丸「もう二度とコロシアイなんて起きない! いや、起こさせない!」

セレス「提示される動機に揺らがなければいいのです。いい加減皆さんも適応したのでしょう?」

「…………」


俯く者、鼻で笑う者、困惑し怯える者。そこには様々な顔があった。


不二咲「西城先生……」

朝日奈「……大丈夫、だよね?」

K「ああ」


怯える生徒達の手を、KAZUYAはギュッと掴む。


苗木(大丈夫……僕達はこれだけ強い絆を築いてきたんだ。内通者とか十神君とか
    不安要素はあるけど、みんなで手を取り合って警戒すれば……)

桑田「かったりーな。今度はどんなセコい手使ってくるんだか」

山田「僕達の絆を舐めないで頂きたいですね」

霧切「行きましょう」

大神「ああ」


― コロシアイ学園生活三十七日目 体育館 AM8:28 ―


モノクマ「ヤッホー。おひさー! 元気だった?」

腐川「で、出たわね! もう二度とあんたの顔なんて見たくなかったのに……!」

モノクマ「何言ってんの? この物語の主役はボクでしょ? まさか主人公不在のまま
      話を進めるとか? そんな馬鹿げた話あったもんじゃないよ!」

山田「何が主人公だ! 僕の物語にお前なんて出てこないんだ!」

モノクマ「あらあら、モブどころか画面に映ることすら叶わないデブオタが、この完璧なフォルムと
      愛らしさを持ち、かわいいキャラ及び抱きしめたいキャラランキング堂々一位のボクに
      勝負を挑むだって? アリが戦車に喧嘩売ってるみたいだね! プークスクス!」

山田「なっ?! ぬなぁっ?!」

K「相手にするな。こいつと話をするだけ無駄だ。要件を言え」

モノクマ「うぷぷ。わかってるくせにぃ~」

大和田「っるせぇ! どんな動機が来ようと俺はもう絶対に誰かを襲ったりなんてしねえぞ!」

舞園「私もです! 二度と過ちを繰り返したりしません」

苗木「どうするんだ、モノクマ! これでもまだ動機を出すのか?」

モノクマ「うぷぷ。うぷぷぷぷ。そんなに気になる? 気になっちゃう?」

モノクマ「本当は心が弱いくせに、不安で不安で堪らないから大きな声を出して必死に鼓舞してるくせに、
      早く内容を聞いて、自分は関係ない大丈夫だって思いたいだけのくせにぃ!!」


血のように赤いモノクマの左目が、爛々と怪しい光を放って生徒達の心を射抜く。


「……!!」

モノクマ「ではご期待にお応えして、今回の動機を発表しまーす。今回はね、基本に立ち返ってみたんだ」

K「基本?」

モノクマ「ジャジャーン!」


モノクマが両手を掲げると、舞台の上から大量の札束が降ってきた。


「なっ?!」

モノクマ「今回の動機はこれ! ひゃっくおっくえーん! コロシアイをして脱出するクロには
      もれなくこの百億円をプレゼントしちゃいます! なんと、贈与税はかかりません!」

葉隠「う、うおおおお! 金だ! 見たこともねえ量の金だぞ!」

朝日奈「葉隠、あんた!」

桑田「てめーなぁ……!」

モノクマ「そうそう、それでいいんだよ。世間では保険金だの遺産相続だのくだらない動機で
      簡単に殺人が起こっているじゃない。今回もつまりはそういうことって訳です!」

石丸「ふざけたことをッ! 会って間もないうちならいざ知らず、
    僕達は共に何度も苦難を乗り越えてきた仲間だぞ!」

大和田「そうだ! よりによって金なんかで殺すかよ!」

腐川「で、でも……動機にならない動機をこいつが出してくるなんて不自然じゃない?」

霧切「もしかしたら、この中にお金が必要な人間がいるのかもしれないわね……」

K「今までのパターンから言うと十中八九そうだろう」

K(現に、石丸は実家が借金を持っている。隠しているだけで、今回の動機が動機になり得る
  人間が潜んでいる可能性があるはずだ。いや、必ずいるからこそ奴はこれを動機にした――)

K(……しかし、誰だ? 今の段階では全くわからない……)

セレス「お金なら問題ありませんわ。わたくし、年に億を稼いでいるので見飽きております」

十神「たった百億ぽっちか? この俺を動かすなら最低でも一兆はなければな」

腐川「ア、アタシは印税あるし……」



山田「僕だって、こう見えて結構稼いでますよ!」

桑田「俺はまだ稼いでねーけどプロになれば億で契約余裕だし」

江ノ島「アタシは売れっ子モデルで舞園はアイドルだしね」

苗木「ここにいるのはみんな普通の人よりお金を稼いでいる人ばかりだぞ!」


しかし、ふと朝日奈が不安げに呟いた。


朝日奈「……でもさあ、当てになるのかな?」

不二咲「どういうこと?」

朝日奈「だって、そこの葉隠だって結構稼いでるはずでしょ? でもお金に汚いし」

葉隠「き、汚いとはなんだ! 金が好きで悪いんか!」

大神「……お主は少し度を超えているのだ」

十神「そういえば石丸、確かお前の家には莫大な借金があったな」


ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、十神が争いの種を蒔く。


石丸「うっ! それは……」

セレス「あらあなた、貧乏臭いとは思っていましたが借金まであったのですか?」

葉隠「ほ、ほら! 俺じゃねえ! きっと石丸っちを狙った動機なんだべ!」

石丸「葉隠君……!」

大和田「ふざけんな! 兄弟が金で人を殺すと、本気で思ってんのか?!」

葉隠「金の力をナメんじゃねえ! 金ってのはなぁ、簡単に人を狂わせちまうんだぞ!
    俺は今までそんなヤツらを大勢見てきた! 石丸っちが例外なんてなんで言えるんだ!」

舞園「皆さん、落ち着いてください。大丈夫ですよ。だって、石丸君ですよ?」

江ノ島「こっちだってないと思いたいけどさー、家族のためって言われたらねぇ?」

セレス「彼のような生真面目な方は、逆に家族や友人のため必要以上に身を犠牲にする傾向がありますし」

苗木「それは、そうだけど……」



霧切「みんな忘れていないかしら。誰かを殺せばここにいる人間は全員死んでしまうのよ?」

K「そうだ。自分一人の命なら喜んで差し出すかもしれんが、俺達全員を見殺しにする男ではないだろう?」

大神「石丸は不二咲を殺したと思った時、迷わず自首をした。信頼しても良いのではないか?」

朝日奈「そ、そうだよ! ナイフを持った不審者から私を助けてくれたんだよ?!」

江ノ島「うーん……」

石丸「……もし僕が疑わしいと言うのなら、僕を縛って拘束してくれ」

腐川「あんた、本気で言ってんの……?!」

桑田「おい……!」

石丸「僕は本気だ。それでみんなが安心出来るというのならそうすればいい。
    だが、よもや金で人を殺す人間だと思われるなんて……僕は悲しいぞッ!!」

K「……葉隠、お前本気で言っているのか? 石丸が金で動くような男だと」

葉隠「いや……」


流石に気まずくなったのか、葉隠は黙り込んだ。


十神「フン、つまらん」

苗木「……ねえ、何がつまらないの?」

十神「お前達の頭の悪さにだ。今までの傾向から考えて、動機は不特定多数ではなく
    特定の誰かを狙い撃ちしているものだというのは流石にわかっているな?」

霧切「ええ」

十神「なのに、よりによってこの段階で石丸一人を狙い撃ちする意味があるか?」

K「元々生真面目で犯罪に強い抵抗を持つ男が仲間と絆を深めれば、まず事件は起こさないだろう」

山田「つまり十神白夜殿は、他にもこの動機に当たる人間がいると考えている訳ですな」

十神「当然だ。動機と銘打っておいて何も事件が起こらなかったでは、あまりにもお粗末だからな」

大和田「ちょっと待てよ。テメエが兄弟の家の借金について言い出したんじゃねえか!」

十神「お前等の言う友情や絆とやらを試しただけだ。結果は火を見るより明らかだった訳だが」


モノクマ「絆だ仲間だと声高に言っていても、ちょっと疑惑の種を埋め込んでしまえばあっという間に
      疑心暗鬼の芽が芽吹いて崩壊してしまう。十神君はそう言いたいのでしょう」ウンウン

「…………」

K(また、崩壊してしまうのか? 俺達は、また……)

苗木(絶対に崩壊なんてさせない! 僕はみんなを信じる!!)

大神「しかし、それでは一体誰を狙っているというのだ?」

セレス「先程苗木君が言ったように、ここにいる方々のほとんどはそれなりに稼いでいますものね」

霧切「収入がアテになるのかしら? 葉隠君の言葉ではないけれど、確かに人間の欲は深いわよ?」

江ノ島「いくら収入あってもそれ以上に使ってたら意味ないしねー」

大和田「じゃ、じゃあ結局全員の動機になるってことか?!」

霧切「全員は言い過ぎだけど、収入があるからは必ずしも免罪符にならないということね」

十神「貴様ら庶民程度の稼ぎならそうだろうな。俺は生まれついた時から金には困らん」

舞園「……十神君は元々動機なんて関係ありませんものね?」

十神「ククッ、そういうことだ。とにかく用件は終わりだろう? 俺は戻るぞ」

K「そうだな。解散するとしよう」


保健室に戻り、KAZUYAは考えた。


K(今この学園には三種類の人間がいる。元々コロシアイに乗る気のない者、
  元々コロシアイに乗っている者、そして今回の動機の対象となる者……)

K(苗木、石丸、不二咲、朝日奈、霧切は元々問題ない。舞園、桑田、大和田はもう二度と
  過ちを起こさない決心をしている。腐川は自分から人を殺したいとは考えていない)


ここまではいい。次にKAZUYAは危険人物を考えた。


K(江ノ島、十神――恐らくこの二人が最も危ない。もういつ動いてもおかしくないだろう。
  次が内通者疑惑のある大神、安弘か。最後は葉隠、山田。……特に葉隠は先程のあれだ)

K(腐川は信じたいが、翔は少し行動が読めない所があるからな。ということは、
  警戒すべきは七人ということか。前よりは減ったが、まだまだ多いな……)


万が一江ノ島と大神が同時に動いたらと考えるとゾッとする。


K(楽観的かもしれないが、今回の動機が誰かを狙ったものなら内通者は
  まだ動かないと思いたい。……というか、正直動かれると対処しきれん)


コンコン、ガチャッ。


苗木「先生」

霧切「脱衣所に来て頂戴」

K「わかった」


・・・


脱衣所には苗木、霧切、舞園、桑田にKAZUYAを加えた五人が集まっている。


霧切「悪いけど、今回は全員じゃなくこちらでメンバーを選別させてもらったわ。理由は……」

K「朝日奈と大神だな」

霧切「ええ。大神さんを外すような真似をしたら彼女が黙っていないでしょうから」

舞園「大神さん……怪しいでしょうか? 確かに何か隠しているなと
    思う時はありますが、人を傷付けるような方にはとても……」

K「俺もそう思う。杞憂なのが一番だが……」

桑田「お前と同じで、真面目なヤツほど背負ってるものは大きいモンだろ?
    本人の希望じゃなくても何か事情がありゃ話は違ってくるじゃん」

舞園「そうですね……」

苗木「大神さん、実家に道場があるし。それにケンイチロウさんて言ったっけ。
    確か大神さんのライバルで、とても大切な人が病気なんだ……」

K(……どこかで聞いた気がするな)

霧切「警戒するに越したことはないわ。とりあえず、作戦を練りましょう」

K「警戒すべきは十神、江ノ島、大神、安弘、山田、葉隠、翔の七人だと俺は考える」


霧切「私も同意見よ」

苗木「し、七人……」

桑田「えっと俺達が、ひーふーみーよー……九人か」

苗木「そんな……サッカーじゃあるまいし、一人につき一人を付けて警戒するなんて無理だよ!」

舞園「一斉に動かれたら、どうしようもないですね……」

桑田「しかもよぉ、江ノ島はせんせーでも倒せないくらい
    めちゃくちゃつえーんだろ? あれ? 俺達詰んでね?」

霧切「……確証はないけど、彼女は動かないと思うわ」

K「何故そう思う?」

霧切「彼女を動かすなら動機なんて必要ないもの。むしろ、動機を提示する前の
    みんなが油断している状態で不意打ちすべきだと思わない?」

K「確かにな。黒幕はどうやら、何が何でも俺達に同士討ちをしてもらいたいらしい。
  それが奴の目的であり、俺達を絶望に陥れることに最も近い方法だからだ」

舞園「……何で、そんなことをしたがるんでしょう? そんなことをして楽しいんでしょうか?」

桑田「頭イカれてんだよ。そんなヤツに正論言っても仕方がねえ」

苗木「うん。残念だけど桑田君の言う通りだよ。黒幕は話の通じる相手じゃないんだ」

K「では、内通者は基本的には除外と言うことでいいな?」

霧切「ただし、けして隙は見せないことよ。私達はあくまで狩られる側なのだから」

K「大神は……仮に借金があったとしても金で人を殺したりはしないだろう。
  生活態度も極めて質素だ。今回の動機の対象ではないと思う」

舞園「それに、朝日奈さんがずっと一緒にいれば大丈夫です!」

桑田「やっぱ葉隠怪しくね? さっきも目の色変えてたしよ」

苗木「セレスさんてあの性格だし、派手な生活してそうだよね。山田君も
    コレクター気質だから、意外とお金使ってるかもしれないし」

K「その三人に十神を加えたら四人……これなら何とかなりそうだな」


次に誰が誰を見張るか割り当てようとした時、中断が入った。


「お、こんな所にいたのかよ」

「探しましたよ!」


石丸、大和田、不二咲の三人が脱衣所に入って来た。


石丸「西城先生! 今回の事件を防ぐための画期的な策を考えました!」

不二咲「僕達三人でね、どうすれば効率的に事件を食い止められるか話し合ってたんだ」

大和田「でよ、その結果お互いに見張り合うのが一番じゃねえかってことになったんだよ」

K「互いに見張り合う?」

不二咲「つまりね……」

石丸「お泊り会です! 男女別に別れ、一晩寝ずに語り合うのです!」

K「フム、考えたな。それなら人数を分散させずに済むし牽制にもなる」

霧切「……そうね。悪くないかもしれない」

桑田「でもよ、男子はいいぜ? でも、女子は危なくねーか? だって……」


江ノ島、大神、セレス、腐川と、目下危険とされている四人もの人物と
一晩過ごすのはある意味ギャンブルとも言える。普通の人間ならまず拒否するだろう。


舞園「……大丈夫だと思います。黒幕の目的が私達の仲間割れや学級裁判での犯人探しなら、
    一度に大勢殺すような真似はしないはずです。犯人がすぐに分かってしまいますから」

K(大神も仲良くしている女子達は殺さないだろう。なら、いざという時は守ってくれるはず……)

K「しかし、本当にいいんだな? 怖いなら保健室に全員詰め込んでもいいんだぞ?」

石丸「先生、何を言っているんですか?! いくら教師同伴と言えど、
    男女が同じ部屋で一晩過ごすなど不健全です! 風紀が乱れます!」

「…………」


流石の石丸も女子組の危険人物率を知っていればそんなことは言わないだろうが、
この男はKAZUYA達が江ノ島や大神、セレスを怪しんでいることなど微塵も知らない。


K(石丸に言った方がいいか? だが、人一倍顔に出る男だしアドリブがまるで効かん……
  迂闊なことを言って変に江ノ島を刺激でもしたら一巻の終わりだ)

霧切「私達は大丈夫よ。……大神さんもいるし」


KAZUYAの考えを読んだのか、霧切は微かに首を振りながら釘を刺す。


舞園「単独行動は避けて、霧切さんとずっと一緒にいます」

K(クロが一度に殺せるのは二人までだ。朝日奈や腐川が加われば人数オーバーで手は出せない)

K「わかった。ではそうしよう。何かあったら全員で固まってすぐに俺の所に来い」


そして会議はお開きとなるが、夜までまだ時間はある。


K(俺は俺に出来ることをするまでだ)

苗木「先生!」

K「どうした、苗木?」

苗木「先生はいつもみんなの所を見回っているでしょ? 僕も手伝います」

K「本当か。それは助かる。なら十神を見に行ってくれないか? 俺が行っても
  追い出されてしまって話にならんだろうからな。苗木なら大丈夫だろう」


今回、KAZUYAの自由行動は人物安価三人+場所選択二つ

プラス苗木行動二回(二回のうち一回は十神確定)である。
苗木行動は仲間を選んだ場合一度に複数選択可能。


KAZUYAの一人目

↓3(迷ったり相談したい場合は安価下を使おう!)


二人目


↓2


三人目(KAZUYAの指名安価ラスト)


↓2


場所選択一つ目

現在行ける仲間の部屋は苗木、桑田、舞園、石丸、朝日奈、腐川


↓2


場所選択二つ目

現在行ける仲間の部屋は苗木、桑田、舞園、石丸、朝日奈、腐川


↓2


よくよく見たら仲間結構多いし、動機発表後というタイミングなのでもう一個サービス

場所選択三つ目
現在行ける仲間の部屋は苗木、舞園、石丸、朝日奈、腐川


↓1


では最後に苗木行動の安価

苗木君はコミュ力が高いので全員選べます。十神君は既に選んでいます。
仲間は一度に複数選択も可


↓2


すみません。複数選択の時は仲間キャラのみでお願いします。

仲間は現在KAZUYA、苗木、桑田、舞園、石丸、不二咲、大和田、霧切、朝日奈、腐川です。


了解しました。

KAZUYAが霧切、葉隠、セレス、美術室、桑田の部屋、腐川の部屋
苗木君が十神君、山田君ですね

本日はここまで。


話は変わりますが、このスレ1と同年代が多そうなので宣伝
現在、ダンガンロンパと笑う犬のクロス書いてます。興味のある方はどうぞ
はっぱ隊「ヤッタ! コロシアイ学園生活に巻き込まれたぞ!」【ダンガンロンパ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428751475/)


ではまた来週。

安価あったんだー乙
中々リアタイで安価巡り会えないな…いや日曜夜更新ついつい忘れちゃうからだけど
安価ある時は事前に予告あったら嬉しいかなー。マメにチェックできなくてごめんね

セレスがクロだとしても、原作だと後々だよな。葉隠か十神あたりだと思う・・・。
変な話しだけど、ドクターKのスキルってなんだろうな・・・。後、声優とか・・・
スクールモードとかはするのですか?

ふと過去にアップしたものを見ていたら、絶望少女発売記念のコラ漫画だけ
異常にDL数伸びてることに気が付いた。どこかに転載されたのかな


>>603
いえいえ、追って頂いているだけ有難いです。次からは事前告知するようにしますね
ちなみに今回は1自身安価のことを忘れていました。投下直前に投下分を見て気がついたという

>>604
声ですか。最初は医者繋がりでBJの大塚明夫さんとかいいなと思ったし合いそうだけど
やっぱりBJのイメージが強いですよね。あまり低すぎないイメージなので堀内賢雄さんかなぁ
各自のイメージでいいと思いますよ。あ、でもTETSUは大塚芳忠さん一択。これは譲れない

スクールは番外編とかおまけ短編でやるかもしれませんね。スキルは次回までに考えておきます

次いつ再開するか書いていただけたらありがたいです!


― 自由行動 ―


(ムゥ、葉隠の奴どこにもいないな? どこに消えた?)

「いや、こういう時は案外……」


ピンポーン。……ガチャ。


「ヒイッ、K先生か……な、なんの用だべ?」

(やはり部屋にいたか。葉隠は誰とでも上手く付き合っているように見えてその実、誰とも
 仲良くしていない。こういう時はきっと自室に篭っているだろうと思ったが、正解だったか)

「少し話でもしないか?」

「話ってさっきの? まさか俺を誘い出して痛めつけるつもりじゃ……?!」

「…………」


呆れたような怒ったような目で軽く睨めつけると、葉隠は慌てて言い直す。


「……あ、いや、今のはナシで」

(裁判の時の十神を除けば、俺が生徒に手を挙げたことなんて一度もないんだけどな……)

「で、どうする? 来るのか、来ないのか? 嫌なら無理強いはしない」

「わかった。行くって……」


KAZUYAの申し出に、葉隠はあからさまに嫌そうな顔をしたが最終的には黙ってついてきた。


「どこがいいかな?」


保健室や脱衣所では他のメンバーと鉢合わせする可能性がある。あまり人の来ない場所がいいだろう。


(俺もあまり行かないし、あそこがいいか)


― 職員室 AM10:24 ―


KAZUYAが選んだのは職員室。ガーベラの花が咲き乱れる職員室で、二人は向かい合うように座る。
奇しくも、職員室に呼び出した教師と呼び出された生徒のような格好となった。


「…………」


先程の一件のせいか、葉隠は落ち着きなくチラチラとKAZUYAの様子を伺っている。
持ってきた茶を葉隠に勧めると、自分も一口喉に通した。


「どうした?」

「いや、その……」

「俺に叱られると思っているのか?」

「違うのか? だってよ……」

「俺は叱るために呼んだんじゃない。話をするために呼んだんだ」


かつて、体育館で暴走した桑田を諭した時と同じようにKAZUYAは落ち着いた声音で語りかける。


「…………」

「そう身構えるな。別に取って食ったりはしないさ。何故、叱られると思った?」

「それは、さっき石丸っちを悪く言ったから……」

「そうだな。モノクマや十神の前であんなことを言えば奴等は間違いなく掻き回してくる。
 それは良くなかった。お前はもう成人しているのだから、発言には気をつけなければ駄目だ」

「……え、それだけか?」

「俺は特定の生徒を贔屓するつもりはない。金で人を殺すという考え方は残念だが、
 絶対にないとまでは言わん。俺にお前の考えを制限する権利はないしな」

「そっか……」


やっと、少しだけ葉隠の緊張が解けたようだった。


「葉隠、お前は……」

「あん?」

「今までに、さぞかし人間の汚い面を見てきたのだろうな」

「そうさな……人間の業ってヤツは本当に深いべ」


俺も含めてな、とKAZUYAにはわからないよう心の中で葉隠は付け加える。


「誰でもいい。誰か信じられる人間はいないのか?」

「……K先生は、一応信じてるぞ」


ついさっきまで殴られると怯えていたのはどこのどいつだ、とKAZUYAは思わず失笑した。


「謝礼金目当てだと言っていたのに?」


半笑いのまま少し意地悪な問いをしてみるが、意外にも葉隠は真っ直ぐに返した。


「あんたは正当な報酬以外は受け取らないタイプだ。じゃなきゃ自分の体を傷つけるなんて出来ねえ」

「……そうか。ありがとう。そう言って貰えて嬉しいぞ」

「わからねえなぁ……」

「何がだ?」


葉隠は椅子に深くもたれかかり、ぼんやりと天井の蛍光灯を眺める。


「あんたのことだ。まるで宇宙人みたいだべ」

「変わっているとは時々言われるが、宇宙人扱いされたのは流石に初めてだな……」


あまりに予想外過ぎて、今度はつい真顔になってしまった。


「俺にはあんたが理解出来ねえ。多分それはこれからもだ」


「そんなことは言わないでくれ。すぐに理解することは出来なくても、時間をかければ……」

「――いんや、無理だな」


そう言った葉隠の目は澄んでいた。曲がった所も歪んだ所もない、
ただあるがままの瞳だった。しかし、その目ははっきりと他人を拒絶している。


「人間はすぐ他人を理解した気になるが、所詮根っこの部分はなんもわかってねえんだ。お互いな」

「…………」

「自分と同類なら思考が似てるから何となく予想は付くが、あんたみたいな全然別の生き物は全く
 理解出来ねえ。それは仕方のないことなんだべ。ネズミにライオンの考えが理解出来ると思うか?」

「……理解は出来なくとも、想像は出来るんじゃないか?」

「そんなん結局は独りよがりだべ。俺にはわかる」

「…………」

「あんたに死なれたら困るから言っとくけど、他人を信じ過ぎない方が身のためだぞ?」

「……占いで何か見えたのか?」

「はっきりとはわかんねえ。ただ、俺にとって良くねえことが起こるってのは確かだ。
 あと、誰かが誰かを裏切る所が見えた。……俺の勘じゃ裏切られるのは先生だな」

(俺の影も見えたけど、俺は裏切るってほど親しくしてないもんな……黙っとこ)

「そうか……気をつけよう」

「ほんじゃま、頑張って俺らを守ってくれ」

「……任せろ」


その後、軽く雑談を交わして二人は別れた。


(葉隠……想像以上に難しい男だな……)


この男と今後親しくなれる機会は来るのだろうか。KAZUYAにすら確信が持てなかった。


― 美術室 AM11:15 ―


職員室から戻る途中、KAZUYAは美術室に立ち寄った。


(アルターエゴの一件から山田とは少し疎遠になってしまっている。一応、一日一回なら
 面会してもいいと言ったのだが、俺が側にいるのが嫌なのか一度も言い出さなかったしな)

(……少し、様子を見ておいた方がいいか)


ガラッ。


「山田」

「西城カズヤ医師ですか……」


KAZUYAが何か言うよりも早く、山田は聞こえるか聞こえないかわからないくらいの
小声で囁く。研ぎ澄まされた聴覚を持つKAZUYAは、それを一言も聞き漏らさずに頷いた。


「彼女はお元気ですか?」

「……問題ない」コクリ

「そうですか。僕がいないから、さぞかし寂しがっているでしょうなぁ」

「…………」


機械に寂しいという感情などあるはずがない。よしんばあったとしても、友人と数日
話さないくらいでいちいち悲しみにくれたりはしないだろう。相手が機械だということも
問題だが、既に恋人気取りの山田に対して……KAZUYAは薄ら寒い感情を覚えていた。


(……俺がアルターエゴを預かったのは正解だったかもしれない。今の山田も流石に……人殺しまでは
 しないと思いたいが、アルターエゴを使って何か吹き込めば簡単に行動を操ることが出来るだろう)


頭の良い十神やセレスなら、それを利用して何か企むことも可能だ。いや、頭が悪くても
モノクマが一言囁きさえすれば簡単に思いつく。これを利用しない手があるだろうか。


「…………」

「用事はそれだけですかな?」

「あ、いや……ん? これは例の作品の続きか?」


KAZUYAは置いてあった山田の原稿を手に取る。


「最近はすっかり放置していますが、読んでもいいですよ。ハァ……
 恋をすると他のことに手がつけられなくなるというのは本当でしたな」


どこかうっとりとした目で恍惚と語る山田を、KAZUYAはどこまでも冷めた目で一瞥した。


(――無機物相手に恋も愛もなかろう)

「…………」ペラ


気まずさを誤魔化すように、KAZUYAは出来上がった原稿を読み始める。
物語は、新たな仲間も加えいよいよ佳境に入って来たようだ。


モンド『俺は兄貴と仲間の仇を討たないとならねえ! もっと強くなるんだ!』

マコト『気持ちはわかるけど、あんまり自分を追い詰めない方がいいよ』

ハガクレ『そうだべ。次の王国では一悶着あるって俺の占いで出てる』

ジュン『喋ってないで戦ってほしいんですけど。敵はまだまだたくさんいるよ』

モンド『全部俺が片付けてやる! うおおおおおおっ!』

レオン『バカ! 一人で突っ込むなって!』

マコト『危ない!』


ドガガガガガガガガッ! キィンッ!


『なんだっ?!』

『君達、大丈夫だったかね?』

モンド『誰だ!』


キヨタカ『正義のためにこの身を投げ打つ! ジャスティスホワイト・キヨタカ!』

アオイ『悪い子にはオシオキしちゃうよ! ジャスティスブルー・アオイ!』

チヒロ『えっと、弱い人達を守るんだ! ジャスティスグリーン・チヒロ』

サクラ『強者の横暴を許す訳にはいかん。ジャスティスピンク・サクラ!』

キヨタカ『我等! 正義の名の元に集いし四人の戦士! ジャスティス・フォー参上!』


ビシィ!

ポーズを取って崖の上に並ぶその姿は、さながら戦隊ヒーローそのものである。


「……おい。山田、おい」

「あ、やっぱりそんな反応?」

「当たり前だ。色々おかしいぞ。この間のシリアスで重い空気はどうした」

「まあまあ。それは先を読んでから答えます」


如何にKAZUYAがサブカルチャーに疎くてもこの流れが急展開なのはわかる。
しかし、山田に促されたので微妙な気持ちになりつつも再び続きを読み始めた。


マコト『へぇー、君達はこのホープ王国を守る戦士なんだね』

キヨタカ『魔王軍の侵攻を瀬戸際で防いでいるのがホープ王国だ。我々の責務は非常に大きい!』

チヒロ『警察署長のキヨタカ君が、署内の精鋭を集めて更に特殊な訓練を積んだのが僕達なんだぁ』

アオイ『どんな強い敵が現れたって私達がやっつけちゃうんだから! ねー、サクラちゃん!』

サクラ『ウム』

キヨタカ『君達が正義のために魔王軍と戦うというのなら僕達も力を貸そう! 悪は滅ぶべきなのだ!』

マコト『う、うん。ぜひお願いするよ(なんか苦手だな……)』

・・・

キョーコ『久しぶりね』

マコト『あ、キョーコさん。どうしたんですか?』


キョーコ『忠告に来たのよ。……彼女の裏切りに気をつけて』

マコト『……え?』

・・・

セレス『フフフ、あなたがギガント族の姫だとも知らずに能天気ですこと』

サクラ『……セレスと言ったか。約束は果たすだろうな?』

セレス『ええ。ホープ王国を内部から崩壊させれば、約束通りあなたの一族は解放いたしましょう』

サクラ『アオイ……』


所変わって魔王城。


ビャクヤ『フン。セレスの奴、またつまらぬ策を弄しているようだな。くだらん』

トウコ『そ、そうですね。ビャクヤ様のおっしゃる通りで……』

ビャクヤ『黙れ。俺は貴様の発言を許可した覚えはないぞ』

トウコ『ヒッ! お許しを……』

トウコ『ああ、ああ……何でもいい。もしアタシが少しでも、あのお方の
     役に立てるならば、今よりもう少しお側にいられるかもしれないのに』

『その言葉、本当? 彼のためなら何でも出来る?』

トウコ『あ、当たり前でしょ……! アタシはビャクヤ様のためなら何だって……』

『そんな君にピッタリのお仕事があるよ! 上手く行けばビャクヤ様のお気に入りになれちゃうかも?』

トウコ『ほ、本当?! なによ、それ!』

『……ついて来なよ。きっと新しい自分に出会えちゃうよ!』ニヤリ


・・・

キヨタカ『門が破られた?! 馬鹿な! この国は強固な結界で守られているのだぞ!』

チヒロ『誰かが内部から結界石を破壊したみたいだよぉ!』

ハガクレ『お、おい見ろ! あれ!』

アオイ『サクラちゃん……?』


アオイとサクラが対峙する。サクラは真の姿を開放し黙って戦うが、
マコト達の総力の前についに倒れ、人質の件を口にした。


サクラ『もはや、これまで……止めを刺すが良い』

アオイ『待って! もういいでしょ! サクラちゃんは仲間のために仕方なかったんだよ! 殺さないで!』

キヨタカ『アオイ君、どきたまえ! たとえ以前は仲間だったとしても彼女は裏切ったのだ!
      ……大勢犠牲を出してしまった。正義のために彼女を斬らなければならない!』

サクラ『そうだ。あやつの言う通り、我はケジメをつけねばならぬ』

アオイ『イヤだイヤだイヤだよ! そんなのイヤだぁ!!』ポロポロ

レオン『お、おい。どうすんだよ、マコト?』

マコト(僕はどうすればいいんだ……キヨタカ君の言う通り、正義を貫くべきか。
     アオイさんのために、サクラさんの裏切りを許すべきか、それとも……)


ドガァアアァァアアアアァァアアァアアンッ!!!


モンド『今度はなんだっ?!』

セレス『ご機嫌よう、皆さん』

モンド『テメエエエ! 全部お前の陰謀だったんだな!!』

セレス『やっぱり負けましたのね。情に厚いあなたならそうなると思いましたわ』

サクラ『ぐ……』

セレス『最後のチャンスですわ。存分に暴れなさい』ポゥ


サクラ『ぬおおおおおおおおおおおお?!!』ゴキッボキッ!

アオイ『サクラちゃん?! いやああああああ!』

ジュン『……面白いことになってきたじゃん。さあて、アタシはどうしますかね』


呪いで狂戦士と化したサクラと真の力を発揮するセレス、二人を相手に死闘が始まった。
果たして彼等は無事勝つことが出来るのか。そして、怪しげな動きを見せるジュンの正体とは?

――魔王城突入前の、最後の決戦が始まる。


「最初はどうなるかと思ったが、意外と上手くまとめてきたな」

「前回は目先のインパクト重視でとりあえずグロやシリアス入れてみたって感じで
 物語に厚みがなかったので、今回は『それぞれの正義』をテーマにして描いてみました」

「フム……」

「戦隊ヒーロー物っぽいのはウケ狙いも当然ありますが、苗木殿達とは根本的に
 文化が違う。思想や考え方も全然違うというのを強調したかったからです」

「確かに、至る所に混乱する苗木達の描写が入れられているな」

「これを期に苗木誠殿は、常に正義とは何か。何のために戦うかを模索しながら前に進むのです」


今回の作品はあくまで習作だが、山田の作家としての能力は着実に上がっているようだ。
生徒の成長を目の当たりにし、KAZUYAも自分のことのように嬉しくなる。


「成程、その方が人間的に深みが出るし前より魅力も増すかもしれないな。いいんじゃないか?
 展開もクライマックスが近付いてきて非常に緊張感が高まっている。続きが気になる所だ」

「そうでしょうそうでしょう? フフフ、感動と衝撃のラストをご期待あれ!」

「ああ、楽しみにしている」

(……ただ何というか、かなり際どい内容があったな。現実とは違うと良いのだが)


山田が作った架空の話に違いないのだが、大神や江ノ島の裏切りをまざまざと見せつけられて、
非常に複雑な心持ちである。何より、作家の人間観察力というものにKAZUYAは驚嘆しきりであった。



山田の同人誌完成率…………現在80%。


ここまで。


>>607
昔は水土、木日とかの週二連載だったのですが、今は掛け持ちしたり色々忙しくて
日曜夜固定という感じですね。また週二に戻したいけど原作クリアするまではムリかなぁ


あとスキルを考えてみた(TETSUと摩耗もオマケで)。大人で教員だから全体的にチート気味

KAZUYA(通信簿三、五、七ページ目)
応急処置     :各フェイズ終了時に発言力と集中力を少し回復する。
オペレーション :発言力がゼロになってもゲームオーバーにならず半分まで回復する。
野獣の肉体    :精神集中時、ミスをしてもダメージを受けない。

TETSU
ドーピング :MTB時、一回のリロードで二発補給しかつ二つ同時にロックオン出来る。
人体改造  :コトダマの記憶する時間と発射速度が早くなる。

摩耗
開  発   :発言力と集中力の最大値が増える。
M.A.R.S :コトダマを一つに絞ることが出来る。


すみません。今日はちょっと間に合いませんでした。火曜日に来ます

あと申し訳ないのですが、誰かご親切な方…校舎の2~5階のMAPをスクショか何かで
うpして頂けないでしょうか。攻略サイトのMAPだとちょっとわからない所があって
場合によっては伏線貼り直さなきゃいけないのでよろしくお願いします

MAP無いと書けない?


               ◇     ◇     ◇


(次は、腐川かな。腐川自体は心配していないが、翔が心配だ。余計なことをしないといいが)


ピンポーン。ガチャ。


「……誰?」

「俺だ」

「ハッ! さ、さささ西城……先生」モゴモゴ

(……何だろうな? 俺と話す時だけいつも以上に挙動不審な気がするが……
 その場の流れとはいえデートの約束までしたのだから、嫌われてはいないはずだが……?)


KAZUYAはとにかく女心に鈍かった。


「な、何の用なの……?」

「君と少し話がしたいな、と」

「!」

「いや、無理なら構わないが……」

「入って……!」

「え? ああ」


何度か中に入った腐川の部屋にまた足を踏み入れる。換気をするようしつこく言ったからか、
以前のような埃くさい篭った空気や異臭はない。それに、相変わらず本や原稿に溢れてはいるものの、
前に見た時よりは大分片付いているのが一目でわかる。


「掃除したのか?」

「えっ?! まあ……」カァァ


「最近は前より身綺麗にしているみたいだし、偉いじゃないか」フッ

「!!」

『綺麗になったな。偉いじゃないか。とても素敵だぞ』キラキラ ←腐川視点ではこう見えている

「エ、エヘッエヘッデヘヘヘ……それほどでもぉ……」

「ウ、ウム……」


腐川の不気味な笑いに若干引きながら、KAZUYAは椅子を引いて適当に座る。


「え、そっちに座る訳? あ、そう……」

「? どうかしたか?」

「な、何でもないわよぉっ!」

「…………」

(女性の相手は難しい……)

「それで、何を話す訳?」

「そうだな。最近の調子はどうだ? みんなとは仲良くやれているか?」

「ま、まあまあってとこね。問題は起こしてないから安心していいわよ。時々誘ってくれるし。うふふ」

「それは良かった。もし言いづらいことや要望があれば何でも言ってくれ」

「……ええ」

「特に不満はないか?」

「不満……ひ、一つだけあるわ……」

「何だ?」

「アタシの小説がアタシの妄想力で出来ているのは知っているわね? さ、最近先生が
 優しいから、アタシの妄想力がなくなってきて小説が書けなくなってきてるのよ!」

(……喜ぶべきか困るべきか微妙な報告だ)


「そうか、それは大変だな」

「本当にわかってんの?! アタシは作家なのに小説が書けなくなったら商売あがったりじゃない!」


腐川の著作は既に百冊近くあり、その全てが例外なくヒット作である。
一生遊んで暮らせるくらいの印税は入っているはずだが、やはり書くことは生き甲斐らしい。


「今までは君の妄想の恋愛を作品に込めてきたのだろう? ならば今度は他のことを込めたらどうだ?」

「他のことって……?」

「友達が出来て楽しい思い出も出来たはずだ。今度は妄想ではなく実体験を元に書いてみたらいい」

「実体験……自分をモデルにした私小説ってことね。確かに、妄想じゃない
 リアルな自分のことを書いたことはないわね……いいわ。書いてみる」

「出来たら是非読ませてくれ。俺に出来ることがあれば協力もしよう」

「嫌だって言っても、一番に読んでもらうわよ……」

「それは楽しみだ」ニコリ

「はうっ! ……じゃ、じゃあ早速ネタを提供して頂戴!」

「ネタ? 俺は何をすればいいんだ?」

「自室に男が来た時にする会話って言うのを披露してほしいのよ……」

「? 普段話している内容と同じだろう?」

「同じな訳ないじゃない……! 女の部屋にいるのよ! もっと、こう、こう……」

「こう?」

「緊張するな、とか……」

「(うっかりセクハラにならないよう気をつけるから)緊張するな」

「近くに座ってもいいか、とか……」

「ここで十分だろう?」

「…………」

(あ、不味い。機嫌損ねた)


「ほ、他には……! 外で出来ないディープな話をしたり!」

「ディープな話ならあるにはあるが……女性が楽しめるような話ではないと思うぞ?」

「そ、そういうのでいいのよ! 話しなさいよ! それともアタシには話したくないって言うの?!」

「いや……わかった。じゃあ俺の一族について話そうかな。なかなか長いぞ」

「……え?」


こうして腐川はKAZUYAの身の上話を延々と聞くことになったのだった。


「なあ、つまらなかったら言ってもいいぞ? 君の期待していたものとは違う気がするんだが……」

「い、いいのよ! 先生の生い立ちはアタシも興味があったし……」

(そこらの小説なんかよりよっぽど波瀾万丈な人生じゃない! アタシの私小説よりも
 西城のノンフィクションをアタシが書き下ろした方がずっと面白いんじゃ……)

「腐川?」

「聞いてるわよ……!」


腐川のコミュニケーション力が上がった。ネガティブ思考が減った。
ストレスがグッと下がった。落ち着きが上がった。


― 苗木行動 ―


KAZUYAが腐川と話し込んでいる頃、苗木も行動を開始する。


(先生も頑張ってるんだし、そろそろ僕も動こう!)


苗木は山田を探し、美術室へと辿り着いた。

ガララッ。


「おやぁ、今日はお客さんの多い日ですねぇ」


「やあ、山田君。調子はどう?」

「ボチボチという所ですかな」

「また持ってきたよ」


苗木は彼の大好物であるコラコーラと油芋を手に持ちプラプラと振って見せる。


「おおっ! いつもすみませんなぁ」

「いいんだよ。僕一人じゃ食べ切れないし」


超高校級の幸運という割りにいつもツイていない苗木だが、モノモノマシーンの当たりだけは
そこまで悪くない。大好物を前に眼の色を変える山田を見ながら、苗木は向かいに座った。


「はぁ~」ポリポリ

「…………」


山田はいつもに比べると少し元気がない。油芋を食べる手もそこまで進んでいなかった。


「どうかしたの?」

「苗木誠殿は恋をしたことがありますか?」

「……えっ?」


ドキリと、大きく心臓が跳ねる。一瞬脳裏に掠めたのは舞園の姿だが、
苗木にはそれが恋か憧れかの判断がつかなかった。


「恋、か。そうだね……したことない、かも」

「ふふふ、恋はいいですぞ? 全てがバラ色に見えてくるのです。代わり映えしない
 この閉ざされた狭い世界ですら、彼女がいれば二人だけの楽園となりましょう!」

「や、山田君! 声が大きいよ……」


「おっと、失礼」

「…………」

(相変わらず重傷だ……僕はどうすればいいんだろう?)

「ねえ、山田君。まさか彼女のために馬鹿なことをしたりはしないよね?」

「勿論! ……まさか苗木誠殿は、僕を疑ってここに?」

「いや、そんなことはないよ! 全く心配してないと言ったら嘘になるけど……」

「……まあ、いいでしょう。過去にも平気平気と高を括って事件が起こったこともありましたしな」

「うん。今は先生と一緒に順番にみんなを回ってる最中なんだ」

「随分信頼されていますな」

「そういう訳じゃないよ。僕から言い出したんだ。どんな小さなことでも、何か手伝えればって」

「…………」


また、山田の中にチクリと苦い感情が広まっていく。苗木は抽選で選ばれた平凡な人間のはずだ。
言い方は悪いが、正当な実績によって選ばれた自分達真の超高校級の人間よりも劣っているはずなのだ。

しかし苗木の目は、表情は力強かった。――それこそ、山田が今描いている漫画の主人公のように。


(……なんか、格好いいですな。苗木殿は身長は低いですが顔は今風で結構整ってますし……
 僕が同じことを言って同じことをしてもこんな風には決まらないだろうしなぁ……やっぱり顔か)

(でも、いいんだ。僕にはアルたんがいる。アルたんはそのままの僕を見て、好きでいてくれる……)

(アルたんだけが僕を理解して、僕の……)




『アルターエゴに自分の意志などありません。ただ知識を求めるようプログラミングされているだけ』


この言葉が呪いのように山田の心を圧迫し、耳の奥で今も響いていた。


(――違うッ! あいつらはアルたんのことを何もわかってないんだ! 彼女は確かに
 機械かもしれない。でも、僕と話しているうちに人間の心を手に入れたんだ!!)

(僕だけが彼女の味方なんだ。僕が彼女を守ってあげないと……)

「あ、これ何だろう。漫画の原稿?」


苗木の言葉で山田はハッと我に返る。


「……えっ! ええ、そうです。僕が描いた初めてのオリジナル作品で……」

「これ、僕に似てない? と言うか、サヤカ姫にヒフミン王、それにマコトって……」

「そうです。ここにいるみんなをモデルに描いた、よくある中世風ファンタジー漫画です」

「へぇ~。僕を主人公にしてくれたんだ。……嬉しいな。僕なんて全然凄いって
 言えるような所もないし、他のみんなに比べたらずっと平凡なのに」

「でも常識とコミュ力は僕達の中で恐らく一番だと思いますぞ」

(それにいざという時の勇気や行動力、仲間思いな所とかも……)

「アハハ。ありがとう。読んでもいいかな?」

「どうぞどうぞ」


楽しそうに漫画を読む苗木を見ながら、山田は思う。


(僕だって、僕だって本当は……)



――いつかヒーローになりたい。



ここまで。

>>636
かなり不味い状況ですね。場合によっては凄い勘違いしてたっぽいので大幅に
書き直す可能性もありです。リロードは持ってるので自分でプレイすれば
いいだけの話なんですけど、何せスーダンもまだクリアしてない遅さで…

自分でやってたらヘタしたら一ヶ月くらい更新停止になりかねないかと

MAPならwikiaに全部載ってたべ

>>646
おおおおおおお! ありがとうございますありがとうございます!
海外のサイトは盲点でした。そして、幸いにも勘違いはしていなかった

お陰で最終調整に入れそうです。何とか今のペースを維持できるように頑張ります


― 図書室 PM1:21 ―


「…………」


美術室を去った苗木は次に図書室へと入ると、医学書を取って十神の斜め前の席に座った。


「…………」

「…………」

「……何の真似だ」

「ん? 何が?」

「貴様程度の浅はかな小細工が通用すると思うか? はっきり言え。俺を見張りに来たと」

「十神君に用があるのは確かだけど、見張りに来た訳じゃないよ。……話がしたくて」

「俺は話すことなどない」

「……そうだね」


苗木は苦笑して少し肩を竦めると、再び本を読み始める。


「…………」

「…………」


しばらくそうしていたら、唐突に十神が声をかけた。


「……お前は何だ?」

「え?」


「ここにいる愚民達の中でも、更に何の才能も可能性もなくどうしようもないお前が何を足掻く?」


今まで本から顔を上げなかった十神が、初めて顔を上げて苗木を見た。
その瞳は氷のように冷たく、何者をも寄せつけない圧倒的な王者のオーラを放っている。
ただ崖の上から谷底を眺めるように、十神はごくごく自然に見下しているのだ。


「ドクターKになりたいのか? ハッ、身の程知らずとはまさにこのこと……」

「それは違うよ!!」

「…………」


苗木はいつもの穏やかな顔から一転、断固とした口調で否定し鋭い眼差しで十神を見据える。


「――僕は僕だよ。KAZUYA先生にも十神君にもなれないし、別になりたいとも思ってない」

「なら、何故無駄な努力をする。医師になりたいと思ったのは石丸の影響だけではあるまい?」


十神の視線は今にも苗木を刺し殺さんばかりに鋭いが、苗木も負けじと言い返した。


「今自分に出来ることがしたいんだ。十神君が脱出のためにコロシアイに乗るように、
 僕達は僕達の意志でコロシアイを止める。そのためにも医学が必要なんだ」

「お前は普通の医者が一人前になるのに何年かかるか知っているか? 海外の医大にでも
 行けば別だが、日本では通常六年。更にその後は研修医として数年修業する」

「…………」

「貴様はここに六年もいるつもりなのか? 俺は御免だな。そもそも、いくら超一流の医者が
 教えた所で、解剖用の献体も必要な機材も何もないこんな場所で、医者になどなれる訳がない!」

「じゃあ指をくわえて見ていろってこと?」

「そうだな。愚民は愚民らしく……」

「それは違う。そんなのおかしいよ!」

「…………」


普段はさほど自己主張しない苗木に明確に反駁され、この時だけは十神も僅かに怯んだ。


その隙を突くように、苗木は毅然とした態度で滔々と反論する。


「確かに僕には才能がない。石丸君は努力をすれば何とかなるって言うけど、
 僕に石丸君並の努力が出来るとは到底思えないし、今だって知識は大分遅れてる」

「十神君の言う成功が、お金とか社会的な地位って意味ならきっと僕は永遠に成功出来ないと思う。
 でも、だからと言って僕達普通の人間が何もしなかったらどうなるの? この世界は僕みたいな
 平凡な人間が大半で、十神君達選ばれた人だって僕達の上に生活してる訳でしょ?」

「…………」

「十神君にとっては僕達はアリみたいな存在なのかもしれない。たとえアリが
 一匹いなくなっても群れには何の影響もない……。でも、僕達は人間なんだ」

「一人一人違う顔と名前があって、得意な物や苦手な物がある。僕が消えても社会に
 大きな変化はないかもしれないけれど、誰かには必ず影響があるはずなんだ」

「……黙れ」

「特に、この学園には僕達16人しかいない。なら、一人一人の影響力は
 普段よりもずっと大きくなるし、求められる義務や責任も大きいはずだよ!」

「黙れ……!」

「僕は才能がないことを言い訳に逃げたくないんだ。きちんと自分に与えられた
 義務や責任を果たしたい。それが僕にとって医学を学ぶ意味なんだ」

「黙れと言っている!」

「…………」


言いたいことを言い終えた苗木はやっと黙った。しかし、その目は黙ってなどいない。
言葉より雄弁に語り、未だに熱く激しく十神の心に訴えかけているのだ。

その目にKAZUYAの姿を垣間見た十神は、内臓に嫌な薄ら寒さを覚えた。


「説教くさいのはあの医者の影響か。全く……奴といい石丸といい貴様といい、うるさくて敵わん」


頭にまとわりつく蝿を払うように、心底うっとうしそうな顔で十神は手を振る。

KAZUYAの知識や技術以外の部分、謂わば精神的な面を全く評価しない十神にとって、彼の人間性を
慕う苗木達は異教徒の信者同然だった。いもしない神を崇める偶像崇拝のようで、ただただ不快なのだ。


(噂に聞く宗教の勧誘というのもこんな感じなのか? 全く、気味の悪い……)

「もう言いたいことは言っただろう。さっさと帰れ。この俺にこれ以上説教するつもりか」

「僕は別にお説教に来た訳じゃないよ。先生や石丸君の言葉でさえ届かないなら、
 今更僕が何か言った程度じゃ十神君は変わらないでしょう? 僕が言いたいのは……」

「――“十神君がいなくなったら寂しい”ってことだよ」

(……は?)


心底寂しそうな顔をする苗木に、思わず十神も沈黙した。


「…………」

「言ったじゃない。ここには16人しかいないんだから、一人一人の存在感が大きいって……
 だから、僕は十神君がいなくなったらきっと寂しいと思うんだ」

「……馬鹿馬鹿しい。寂しいならさっさと誰か殺して外に出ればいいだろ。
 俺はお前達などいなくとも少しも寂しくないがな」

「ハハ、十神君ならそう言うと思ったよ。……十神君はさ、さっき六年もこんな所にいるのは
 御免だって言ったけど、僕は16人みんな揃っているならそれでも別に構わないかな」

「正気か? いくら影響力のない凡人でも、六年もいなくなれば本当に存在が消えるぞ」

「それでもいいよ。誰かを、自分にとって大切な人達を殺すくらいならさ――」

「……お前達と話していると俺の頭がおかしくなる」


十神はスッと立ち上がると、鋭い瞳で苗木を見下ろす。
それは今までの小馬鹿にしたものではなく、見定めるような挑戦的な目だった。


「――いいだろう。凡人にも意地があると言うのなら、最後まで足掻いてみせろ」

「言われなくてもそうするよ。僕は絶対に諦めない……!」


十神が去った後も、苗木は熱心に自習をしていた。しかしふと先程の会話が脳裏に蘇り、思う。


(どうしてだろう)

(僕の言葉なんかで十神君は変わったりなんてしない)

(コロシアイを思いとどめることは勿論、仲間になんて到底なってくれない)

(でも、さっきのあの一瞬だけ……)

(十神君と心が通じたんじゃないかって、そんな気がするんだ)

(……僕の思い上がりかもしれないけどね)


十神の目つきはいつもと何ら変わらない厳しいものだったが、それでもどこか穏やかに見えた。
それは、十神がKAZUYAと真剣にぶつかり合っている時の目に少し近いかもしれない。


(一緒に何かすることじゃなくて、たとえ敵対してでも正面から向き合うことが)

(十神君と仲間になる、ということなのかもしれない――)


ほんの僅かかもしれないが、あの一瞬十神は苗木を認めた。

その事実に、苗木は確かな手応えを感じたのだった。




少ないけどここまで。

最近掛け持ちと体調不良で筆が遅れがち……すみません


すみません。今日はムリです。火曜日に来ます。

面白すぎて一日で追いついてしまった…
休みが丸々つぶれたがこれだけ面白い作品に出合えたのなら後悔はないな。

>>1のせいでドクターKが欲しくなったじゃないかどうしてくれる


               ◇     ◇     ◇


「少しよろしくて?」


珍しくセレスがKAZUYAを呼び止める。いや、最近は以前に比べたら少しずつ
話すようになってきたからそう珍しくもないか、等と思ってKAZUYAは立ち止まる。


「構わないが」

「ここでは話しづらいので、わたくしの部屋に来てください」

「?!」


前言撤回。もはや珍しいどころか異常事態である。


(まさか、この女……俺を殺す気か?!)


元々疑いを持っていた相手にいきなり部屋に招待されたことも驚きだが、何より
それが動機を配られた日という驚異のタイミングである。警戒せずにはいられない。


(しかし俺を狙うとは……大胆と言うか、早とちりだといいが……)


違うなら違うで天変地異の前触れではないかと心配しつつ、KAZUYAはセレスについて行った。



― セレスの部屋 PM1:44 ―


部屋に入ると女性の部屋特有の何とも言えないほのかな甘い良い香りがしたのだが、
KAZUYAにそんなものを楽しむ余裕はない。悪い意味で心臓の鼓動が高まる。


(安広が華奢なのは間違いないはずだ。江ノ島のような鍛えた体でないのは見ればわかる)


そうなると、考えられるのは待ち伏せだ。


(……大の大人が隠れられるとしたら、ベッドの下かシャワールーム)


特にベッドの下に刺客がいたら不味い。くるぶしを銃で
撃ち抜かれでもしたら、戦うどころか逃げることすら危うくなる。


「君の部屋は随分色々物があるな。全てモノモノマシーンで手に入れたのか?」


KAZUYAはおもむろにチェストの近くに近寄ると、置いてある小物を手に取った。


「あのマシーンは本当に便利ですわ。大きい物から小さい物まで何でも出てきますし」


チェストの上にはジャネル、アナスィなど名だたるブランドの化粧品が
置かれているが、男のKAZUYAにその価値がわかるはずもない。


「しかし、これだけ揃えるならかなりのハズレもあったろう?」

「あら、超高校級のギャンブラーを舐めてもらっては困りますわ。最小限のリスクで
 最大のリターンを得るのがわたくし。欲しいものくらい簡単に引き当ててみせます」

「それは凄いな。……おっと」


KAZUYAはマニキュアの瓶を戻す振りをして床に弾く。丸い瓶は狙い通りベッドの下に入った。


「失敬」


すぐに拾う振りをしてKAZUYAはベッドの下を覗き込む。


(ベッドの下には何もなし……あとはシャワールームか……)


KAZUYAはすぐに瓶をチェストに戻す。しかし、シャワールームは難関だ。
大の男が女性の部屋のシャワールームを覗いたりしたら変態のそしりは免れないだろう。


「そういえば、女性の部屋のシャワールームは鍵が付いているそうだが、ちゃんと鍵はかかるか?」


苦し紛れに浮かんだ言葉を言ってみる。


「鍵ですか? かかりますが、それが何か……?」

「いや、もし暴漢でも押し入ったらと思ってな」

(……やはり苦しかったか)


仕方ない、もし襲って来られたらそこのテーブルを蹴り上げてぶつけ、相手の武器を奪い……と
KAZUYAはどう考えても医者ではなく特殊部隊の隊員のようなシミュレーションをし始める。

……が、意外にもセレスは自分からツカツカとシャワールームの方に行き、ドアを開けて見せた。


「ほら、ちゃんと動きますでしょう?」ニコッ、カチャカチャ

「……そのようだな」

「女性の部屋のシャワールームが気になるなんて、見かけによらずウブなのですね」ウフフ

「そういうつもりはない……!」

「まあ、こちらに注意が行っていると落ち着いて話せないでしょうしね?」


苦い顔のKAZUYAを見て、セレスはクスクスと笑う。


(どうも彼女と話すとペースを崩される。苦手だな……)

「とりあえず座ってくださいな」


KAZUYAは椅子の背に手を掛けるが、セレスは何とベッドに座って横を手でポンポンと叩く。


(横に座れと言うことか?)


筋力のない彼女がKAZUYAを[ピーーー]なら、銃は必須だろう。セレスに付いて行く際、KAZUYAは
彼女のジャケットが不自然に膨らんでいたりしていないか注意深く観察していた。


(上着の下には何もなかった。だが、スカートの下はわからんな……)


もし武器を取り出そうとしても自分が取り押さえる方が早い。
そう判断して、KAZUYAは少し離れた所に座る。


筋力のない彼女がKAZUYAを殺すなら、銃は必須だろう。セレスに付いて行く際、KAZUYAは
彼女のジャケットが不自然に膨らんでいたりしていないか注意深く観察していた。


(上着の下には何もなかった。だが、スカートの下はわからんな……)


もし武器を取り出そうとしても自分が取り押さえる方が早い。
そう判断して、KAZUYAは少し離れた所に座る。


「何でそんなに離れて座るんですの?」

「女生徒の隣に座るのは少し、な」

「舞園さんや朝日奈さん相手にもそんなに離れて座ります?」

「…………」

「……呆れましたわ。まさかそこまで警戒されているなんて。ボディチェックでもします?」


セレスがスカートのあたりをヒラヒラさせる。確かに何かを仕込んでいるようには見えなかった。


(ここまで言うのなら本当に大丈夫なんだろう。が……狙いがわからんな)


もしかして、腕力では敵わないから篭絡でもする気なんじゃ……とKAZUYAは心配になってきた。
元々マークしていたセレスにこのタイミングで呼ばれ、とにかく疑惑でいっぱいなのである。


「それで、部屋でないと話せないこととは何だ?」

(脱出についてか? ならば部屋ではなく脱衣所で話すのが妥当だが)


他に部屋でなければ話せない話題などあるだろうかとKAZUYAは頭を悩ませるが、
そんなKAZUYAの悩みなど吹っ飛ばすようにセレスはその上を行った。


「わたくし、実は出来てしまいましたの……」

「出来た? 何がだ?」

「先生の子供です」

「」


一瞬己の耳を疑う。そして、ワンテンポ遅れて叫んだ。


「……ハァアッ?!」


ギョッとし、その勢いのまま思わず立ち上がる。


「な、何を言っているんだ君は……?!」

「ほんの冗談ですわ」

「冗談だとっ?!」


二度目の衝撃で思わず声が裏返りかける。しかし、KAZUYAの
そんな顔を眺めながらセレスは楽しげに笑っていた。


「冗談に決まっていますわ。それとも先生、まさか心当たりがおありで?」

「……ある訳ないだろう!!」


やっぱり苦手だ、この女……! と心の中で酷く毒づく。


「西城先生もそんな面白い顔をするのですね。良い収穫を得られました。
 こんなことなら写真に撮っておけば良かったですわ。ほら、こっちを向いて」


アルターエゴをKAZUYAが管理することになり、不要になったカメラは山田に返していた。
それを非情にもセレスが徴収したらしく、パシャパシャと不機嫌そうなKAZUYAを撮っている。


「……帰るぞ」

「まあ、お待ちになって。まだ何も話していないではありませんか」

「これ以上何を話すんだ……」

「素晴らしいお知らせです」

「知らせ?」


ろくなものではないだろうなと直感する。事実、彼にとっては心の底からどうでもいいことだった。


「おめでとうございます。西城先生は本日を持ってCランクに昇格しました」

「Cランク?」

「はい。Cランクです」


ニコニコと語るセレスの顔を見ながら、彼女が他人をランク付けする癖があるのを思い出した。


「元々西城先生は素質だけなら十分Cランクに上がる資格はあったのです。
 超国家級の医師で地位も名誉もあり、頭も良くわたくしを守れる強さもあります」

「……ああ、うん」


言葉には出さないが、外見も悪くないしと付け足す。むしろ面食いのセレスにとっては
これが一番大事だ。他がどんなに良くても外見が標準以下なら眼中にも入らない。


「先生があのセンスを疑うダサくてボロボロの赤シャツをやめてくれて本当に
 良かったですわ。マントは今度わたくしが綺麗なのを買って差し上げます」

「?!」


確かに今のKAZUYAは両腕の包帯を隠すためにワイシャツを着ているが、世間的に
一番問題なのはあの仰々しい黒マントであろう。が、メルヘンな雰囲気を好み耽美好きな
彼女は例に漏れずヴァンパイアが大好きなので、黒いマントは問題ないらしかった。

しかし愛用の赤シャツを悪く言われたKAZUYAも黙ってはいない。


「ボロボロなのは確かに良くないとは思うが、赤いのはちゃんと理由があるんだ。
 返り血がついた時に目立たないようにだな……」

「いくら医師とはいえ、日本にいたらそんなにしょっちゅう返り血なんて浴びないでしょう?
 手術中は手術着を着ていますのに。大体ボロボロなのは衛生的によろしいのですか?」

「……洗濯はしている」


新人の看護婦が自分を見たら決まって服装についてヒソヒソしているのはKAZUYAも
重々承知しているので、ここを突かれると痛かった。適当に咳ばらいをして話を逸らす。


「ウオッホン……それで? ランクが上がると何かあるのか?」

「Cランクになるとわたくしのナイトになる権利を得られます」

「ナイト?」


あまりにセレスの発言が突飛過ぎて、思わず夜を意味するNightを最初に浮かべる。
男女で夜に関連するものは……とここまで考えて、そんなことを思いつく自分に自己嫌悪した。


(いや、ここは普通にKnightか。何を考えているんだ、俺は……)


しかし、ナイトはナイトで意味がわからん。彼女の騎士って何のことだと
KAZUYAが思っていると、セレスは満面の笑みで言い放ったのだった。


「わたくしのナイトになれば、いつでもわたくしの側にいてわたくしを守る栄誉を得られるのです」

「…………」


く、くだらなすぎる……

KAZUYAはもはや隠しもせず盛大に頭を抱えた。


(……わざわざ部屋にまで招待して一体何を話すのかと思えば、まさかままごとの相手を
 頼まれるとは……俺を信頼してくれたのか? それともこれはブラフで他に何かあるのか?)


いっそブラフであってほしい。これは演技で言っているのだと思いたい。
しかし、残念ながらセレスはどこまでも本気だった。彼女はそういう人間なのだ。


「あら、嬉しくありませんの? Cランクの人間は現在西城先生一人。
 つまり世界中でたった一人のCランクなのですよ?」

「あぁ、そう……」

「しかも、先生にはまだまだ可能性を感じます。もしかすると史上初のBランク、いえ
 最高位のAランクにすら到達するかもしれません。これは本当に凄いことなのですよ?」

「……そーだな」


珍しく興奮気味に話すセレスとは対照的に、KAZUYAは冷めていた。それはもう、冷蔵庫に
入れたコーヒー並に冷めていた。子供の遊びに付き合うには彼は大人過ぎたのだ。


「拒否権はありません。先生にはわたくしのナイトになって貰いますから」

「……付き合い切れん。帰る」


立ち上がろうとしたKAZUYAの手をセレスが掴む。そのまま彼女は間髪入れず真横に詰めてきた。


「安広?」

「……わたくし、怖いんですの」


セレスは見たこともない弱々しい表情でKAZUYAを見上げる。
その意外さに、思わずKAZUYAは立ち上がりそびれてしまった。


「また動機が配られて、今度こそ死人が出てしまうのではないかと、恐ろしいのです」

「…………」


KAZUYAは男である。それも一般的な男よりもずっと男らしかった。
故に、女のこのような表情にはやはり弱いのである。


「出すものか。俺が絶対に防いでみせる!」

「ですが、既に三回も事件は起こってしまっていますわ。モノクマは
 人間の心理を読むことに長けている気がします。きっと今回も……」

「霧切か舞園あたりに聞いているだろう? 今日の夜時間に男子は男子、女子は女子で
 一箇所に集まり互いに見張り合うことになった。だから事件など起こしようがない」

「そう、ですわね……」


セレスはKAZUYAの手をギュッと掴む。その手は日焼けしてゴツゴツしているKAZUYAの
大きな手とは違い、小さくて白く繊細だった。少しだけ、握り返してやる。


「…………」

「…………」


無言のまま、二人の視線が交錯した。その時――


「タってますね! それはもうビンビンにタってますよ!」

「!!」


いつの間にかモノクマが部屋に入って来てニヤニヤと笑っていた。


「ハッ?! 立っているだと? ……何がだ?」

「もう、先生ったらイヤらしい想像しちゃって~。立つって言えばフラグに決まってるでしょ?」

「フラグ? ……ああ、Flagのことか。それで、一体何の旗が立ったんだ?」

「わかってるクセにとぼけちゃってぇ~。『セレス、シャワーに入って来いよ』。
『……二人きりの時は多恵子と呼んでください』。なーんちゃってなーんちゃって!」ブンブンッ!

「……は?」


抱き着く仕草をして唇を尖らせているモノクマが何とも憎たらしい。


「何のためにシャワールームにはカメラが付いてないと思ってるの?! 人目を気にせず
 好きなだけキャッキャウフフしてアンアンちゅっちゅするためでしょっ!!」

「…………」

「アウトですわね」

「あぁ……」


もはや呆れ果ててKAZUYAは言葉も出ない。逆にセレスはつまらなそうに髪をいじっている。


「…………」

「…………」

「……あれ? もしかして、ボクっておジャマ虫?」

「あなたがかつて邪魔でなかったことなどあったでしょうか?」

「今すぐ出て行け。出て行かないなら俺が出て行く」

「ショボーン。ボク、空気読めてなかったね。どこかの風紀委員並にKYだったね……ではではごゆっくり」


モノクマは掻き乱すだけ掻き乱すと、早々にその場を去って行った。
二人は気まずい空気の中取り残される。


(しかし、モノクマに邪推されても仕方ない。確かに女生徒の部屋に長居するのは良くなかった)

「では俺もこの辺で……」


だがセレスは掴んだ手を放してくれない。


「記念ですし、もう少しだけ……」

「昇格記念か?」

「…………」


そう聞くと、セレスは何も言わずに微笑んだ。

その笑みにいつもの妖艶で怪しげな雰囲気はなく、――どこか寂しそうに見えた。


「……少しだけだぞ」


KAZUYAは小さくため息をつくと、しばらくの間そのまま黙って付き合ったのだった。


ここまで。

途中機械の方でエラー連発し見苦しくなってしまったことをお詫びします


>>665
いらっしゃいませ! 一度に5スレも読んで頂きありがとうございます
スーパードクターKは名作ですので、もし良かったら一度古本で読んでみて
気に入ったら続編のK2を読んでみる、なんていうのはどうでしょう?(宣伝)


ただいま! 遅ればせながら帰って参りました。

掛け持ちしていた笑う犬のクロスが無事に終わったので、
しばらくこちらに専念します。目指せ、週二更新!


               ◇     ◇     ◇


(少し疲れたが、まだまだ休んではいられん。次は……)

「あら、ドクター。そんな所に突っ立ってどうかしたのかしら?」


振り向くと、やや険のある表情をした霧切が立っていた。


(霧切か。この間の件もあるし、最近少しピリピリしているようだ)

「なに、今は生徒一人一人と出来る限り話すようにしていてな」

「お疲れ様ね。私は調査をしていたわ」

「何か発見が?」

「残念ながら……」

「……そうか。では休憩ついでに茶でも飲むか? お互い疲れているようだしな」

「そうさせてもらうわ」


食堂に入りKAZUYAと霧切はコーヒーを飲む。


「君は本当にコーヒーが好きだな」

「ドクターはどちらかというとお茶が多いですね」

「特にこだわっている訳じゃないんだがな。人が淹れてくれた物は何でも飲むよ。
 ……そう言えば、昔ある人からコーヒーは胃に悪いからやめろと言われたことがあった」


KAZUYAが入り浸っていた寺沢病院の名物患者であるその人物は、素人でありながら医者顔負けの
豊富な知識を持ち、通称死神博士と呼ばれ医師と看護婦達からは大いに恐れられていた。


「確かに、ブラックでたくさん飲むのはあまり良くないかもしれん」

「あら、コーヒーはこの香りと苦みが良いのに。全てを飲み込むような
 この黒い色に、白を入れて台無しにするのは勿体ないわ」

「やはりこだわりが?」


「そうね。コーヒーは品種以外にも色々違いがあるから……ドリップだけでも
 通常の紙、布、水出しと三種類あるし、焙煎度だって日本では八段階も存在します」

「ほう。そうなのか」

「600年以上の歴史があるんだもの。品種も飲み方も国の数だけあるに決まってるわ」


ただ、と霧切は続ける。


「これはトルコの諺だけど『コーヒーは地獄のように黒く、死のように濃く、
 恋のように甘くなければならない』。私も同じように考えています」


どこかミステリアスな雰囲気を持つ探偵の霧切が言うと、その言葉はより深みを感じられた。


「成程な。俺はちっとも知らなかった。……コーヒーだけじゃないな。服装も……ハァ」

「どうかされました?」

「みんな普通にワイシャツを着ていた方が良いという。そんなに普段の俺は酷い格好なのか?」

「…………」フッ


霧切は何も言わず、優しい微笑みを浮かべながらそっと目を逸らす。


「……そういう反応はこてんぱんに言われるより傷付くぞ」

「ファッションは個人の好みですから、私から何か言うことはありません。ただ一つだけ
 アドバイスをさせてもらうと、……裾が破れているのは問題外だと思います」

「そうだな……」


流石のKAZUYAもその点だけは素直に認めざるを得なかった。珍しく項垂れて落ち込む。


「……何と言うか、今時の子はみんなオシャレだな。君もこう、服の着崩し方とか
 片側だけの三つ編みが……えーと、シャレているというか」ポリポリ

「あら、無理に誉めなくてもいいのよ?」


「嘘は言ってないさ。俺の素直な気持ちだ」

「なら、私も素直に喜びますが」クスリ

「学園長が見せてくれた昔の写真でも三つ編みだったな。その時は確か両側だったが」

「片方だけにしたのは、あの事件からね。手袋と同じ、全てはあの事件を忘れないために……」

「……すまない。余計なことを言った」


希望ヶ峰の生徒はそのアクの強さを示すかのように奇抜なファッションが多いため、てっきり
霧切もオシャレの一環かと思ったが、予想外にシリアスな返答だったためKAZUYAも慌てる。


「気にしないで。そういう生き方を選んだのは私自身だもの」

「……もしかして、君が探偵にこだわる理由は一族の使命以外にもあるんじゃないか?」

「…………」


踏み込むかどうか逡巡するKAZUYAだったが、思い切って聞いてみた。


「父親との、繋がりでは――」

「馬鹿馬鹿しい。あの男は一族の誇りを捨てたのよ。私が探偵でいることとあの男に何の関係が?」

「いや……父親に見せたかったんじゃないかと。立派になった自分の姿を」

「…………」

「君が探偵として立派に一族の跡を継いでいれば、学園長が負い目を感じることはない。だから……」

「フゥ……何故私がこの学園に来たか。ドクターには特別に教えます」

「スカウトが来たからでは……?」

「ドクター、私は探偵よ? どんなにたくさん事件を解いて業界で有名人だったとしても、世間的な
 名声は皆無だわ。でも探偵としてはそれが正しい。探偵は表に出るべきではないと思います」


かつては探偵図書館なるものが存在し、その得意ジャンルや実績ごとにランク付けもされていたが、
霧切にとって忘れられないあの事件と共に闇に埋もれた。何より、図書館が閉鎖されなかったとしても
霧切は登録を抹消するつもりだった。だから、どの道一般人に彼女の名が知られることはないのだ。


「……だから、私は自ら希望ヶ峰に自分の実績を売り込んでこの学園に入学した」

「何のために? 探偵は目立ってはいけないのだろう?」

「――父に絶縁を言い渡すためです」

「…………」

「まあ、会う前にこんな事態に巻き込まれてそれどころではなくなってしまったのだけれど」

(霧切は気付いているのだろうか……)


本当に顔も見たくない程嫌悪しているのなら、探偵の矜持を捨てわざわざ自分を売り込んでまで
希望ヶ峰になど来るはずもない。そもそも、そんな面倒なことをしなくても電話一本すれば仁は呼び出しに
応じるはずだ。彼が娘に強い未練を持っているのは、付き合いの浅いKAZUYAにもわかる程なのだから。

第一、一度入学してしまえば折角絶縁を言い渡したのに最低三年間は顔を会わすことになる。


(……聡明な彼女がそれに気付かなかったとは思えないが)


気付かなかったのではなく、気付かない振りをしているのだろう。つまり霧切の本心は……


(――これ以上は野暮と言うものだ。彼女が自分で気付くべきだろう)

「疲れていたが、君と話せて良かった。そろそろ見回りに戻らなければならん」

「力になれたのなら何よりだわ。いつでも話しに来てください」

「ああ、君と話すのは楽しい。また話そう」


霧切と別れた。彼女と少し親しくなれたようだ。

……彼女が心を開いてくれるのもそう遠くない、とKAZUYAはぼんやり感じていた。


               ◇     ◇     ◇


(一通り回ってきたが、特に異常はないな……)

「ウーッス。せんせー!」

「桑田か」


廊下をぼんやり歩いていたKAZUYAに桑田が話し掛けた。


「見回り終わったか?」

「ほぼ、な。今のところは特に問題ないようだが」

「じゃあさ、少し息抜きしね?」

「?」


・・・


カキーン!

小気味の良い男が体育館に響く。


「そーそー! この音だよ、この音! 久しぶりに聞いてスッキリしたわー」

「……お前、俺をピッチングマシーン代わりにしたかっただけじゃないか?」

「そんなことねーって! 普段は大和田に頼んでるんだけどよ。やっぱパワーはせんせーが一番だな!」ヘラヘラ

「まったく……調子の良い奴め」

「お礼に後で茶でも出すから! な? な?」

「わかったよ。気が済むまで付き合ってやる!」ビュッ!


― 桑田の部屋 PM5:12 ―


「あー、久しぶりにがっつり打ってスッキリしたぜ!」

「別に俺でなくとも、例えば大神でも務まるんじゃないか?」

「大神かぁ。パワーは文句なしなんだけどさ、球技はイマイチとかでちょっとコントロール甘くて。
 その点、せんせーはストライクゾーンにしっかりバッチリ投げ込んでくるからな!」

「緊急時にメスを投げたりするから、コントロール力はそれなりに自信がある」

「へー、やっぱ医者ってメス投げたりするんだ?」

「いや、メスは本来投げる物ではないが……」


この話をすると大概の人間は驚いたり呆れたり場合によっては怒られることすらあるのだが、
漫画の影響なのか桑田にすんなり納得されてしまったため、自分でこっそり訂正する。


「ま、いいや。ほら、付き合ってもらった礼に茶でもどーぞ、と」

「お前が煎れた訳でもなかろうに」フフ


ペットボトルの緑茶をコップに注いで、二人は色々積もる話をする。


「舞園とは最近どうだ?」

「特に問題なくやってるぜ? パーティーの後も、時々ボイトレ付き合ってくれるし」

「フム、随分打ち解けたんだな」


前より会話が増えていたのはKAZUYAも知っていたが、パーティーの後も
自主的に会って練習しているというのは予想外だった。


「正直まだぎこちない時もあるけどよ。話さないともっと気まずくなるっしょ。
 ま、時間が解決してくれるってヤツ? 俺流にゆるーくかるーくやってこうっつーワケ」

「頼もしい限りだな」

(……良かった。実は心配していたんだ。舞園も無理をしがちだからな)


ほとんど顔に出さない舞園だが、今でも時折桑田の顔色を窺っている節があるのを
KAZUYAは知っている。だから、桑田の方から舞園に歩み寄ってくれて非常に助かったのだ。


「俺達のことは心配すんなって。苗木先生も間に入ってくれるしな」

「それ、流行っているのか?」

「たまたまさ、イインチョの真似して呼んでみたら苗木のヤツめっちゃおもしれー顔するからよー。
 それからハマっちまってさ。せんせーも今度やってみ? マジウケっから」ケラケラ

「程々にしとけよ?」

「でもさぁ、石丸ほど専門的なことは言わねーけど、ビタミンが偏るとどうなるとかストレスは
 脳のどこそかに悪いとか、なんか医者っぽくなってきたぜ? 二人も後継者できて良かったじゃん」

「フフ、そうだな」


意図せずに自然と笑みがこぼれる。肩に力が入りがちなKAZUYAにとって、桑田の緩さは時に薬となった。


「あ、そうだ。折角だし新曲披露しよっかな。最近の俺チョー絶好調でよ、舞園にも
 ここを出る頃には桑田君の方が上手くなってるんじゃないですかなーんて言われちゃって!
 マジで、LEONフューチャリングSAYAKAが実現しちゃうかもしれねー!」

「ほう、お前が舞園より上手くなるならあと二十年は脱出出来んな?」

「ひでー。そこはせめて十年にしてくれって」


ギターを担いで桑田は歌を披露し始める。


(まだまだ荒削りだが、それでも最初に比べたら随分と上手くなった。
 才能も大事かもしれないが、やはり一番重要なのは継続だな)

「前より更に上手くなった。良くなったよ」パチパチ

「それ、暗に前はヘタだって言ってね?!」

「そんなことないさ。また今度聞かせてくれよ」

「おう! ……あ、今日の夜は全員で保健室だっけ? 色々遊ぶ物持ってかねーとなぁ」ジャカジャカ♪

「詳しい話は夕食の時にするつもりだ。時間もちょうどいいし、そろそろ行くか?」

「そーだな」


桑田を伴い、KAZUYAは食堂へ向かった。


桑田の球速が上がった。 身体能力と動体視力が上がった。
ここに来て音楽センスがグッと上がった。

今日はここまで。

小気味の良い男、でちょっと笑ったww


うわああああああああ。やっちまったぜ…
深夜に投下するもんじゃないな


>>698
小気味の良い音、ですね。ご指摘ありがとうございます!


希望ヶ峰学園の在学期間について

上でも書かれているように、三年制説と五年制説があるようです。そしてすみません。
実は、まだ未発表のエピソード0Ⅲで言及しているのですが、1は折衷案として
基本は三年だが本人の希望で五年まで延長できる(大学院的な)という設定を出していて
ついあのように書いてしまいました。このSSではこの設定で行くつもりです

また、雑談は荒れないレベルなら好きにしてもらっていいです。感想が一番嬉しいけど、
書き込みが全くない方が寂しいので。あと、ニュービーにはシンセツ重点でよろしく


では、投下


               ◇     ◇     ◇


十神と腐川が遅れてきたことを除けば、生徒達はほぼ同じ時間に食堂に現れ食事を取った。
ほとんどの生徒が食べ終わり落ち着いた頃、KAZUYAは生徒達と目を合わせおもむろに立ち上がる。


K「……食べながらでいいが、みんなに聞いてもらいたいことがある」

葉隠「なんだぁ?」

江ノ島「なにさ。なんかやるの?」

K「今日の夜時間についてだ。知っての通り、今朝モノクマから動機が言い渡されたな」

山田「……!」

十神「フン」

K「金なんかで人を殺す奴はいない。俺自身心の底ではそう思っているが、
  わざわざこの段階で出してきた動機だ。何の手だてもしないのは愚かだろう」

K「よって、今日の夜時間は全員に一堂に集まって過ごしてもらう。といっても
  男女は別で、男子は保健室、女子は舞園の部屋に集まってもらうことにした」

朝日奈「あ、さっき舞園ちゃんが言ってたお泊り会だね! 楽しそう!」

山田「楽しそうって……要はお互いの監視じゃないですか」

大神「そういうことであろうな」

K「否定はしない。だが、一人でいるとモノクマにたきつけられる可能性もあるし、
  そもそも百億円はフェイクで別に動機を配られている人間もいるかもしれん」

葉隠「あー、それはあるかもなぁ」

江ノ島「…………」

江ノ島(流石、西城……鋭い。内通者の存在はある意味別の動機に当たるからね……)

舞園「見張りだなんて堅く考えず、親睦を深めるパジャマパーティーのつもりでやりましょうよ」

腐川「パジャマパーティー? ……ア、アタシも行っていいの?」

舞園「勿論ですよ!」

腐川「うふふ……お泊り会なんて初めてだわ!」


石丸「僕も初めてだ! そう、お互いを見張るは口実でこれは立派な親睦会なのだよ!」

朝日奈「倉庫にトランプとかボードゲームとか色々置いてあったよね?!
     ジュースにお菓子も用意して、それから……みんなの恋バナ聞きたい!」

舞園「いいですね! 是非ともここはミステリアスな霧切さんの秘密を聞き出したい所です」

霧切「あら、私の話が聞きたいの? パーティーで話すにはディープ過ぎるかもしれないわよ?」

セレス「わたくしは大神さんと江ノ島さんの話が聞きたいですわ」

大神「ヌォッ?! わ、我か……」

江ノ島「アタシはこう見えて身持ち固いし、そんなたいした話はないんだけどなー……」

腐川「フ、フン! 汚ギャルの分際で清楚アピールなんて見苦しいわよ……!」

江ノ島「あんたにだけは言われたくない!」

桑田「ヒュー、女子は盛り上がってんなぁ」

葉隠「正直羨ましいべ。なにが楽しくてこっちはこんなムサいメンバーで集まんなきゃなんねえんだ……」

苗木「気持ちは痛いほどわかるけどそう言わずに……」

大和田「まあムサいのは否定できねえからな」

葉隠「そうだべ! マッチョのK先生と大和田っち、声が熱苦しい石丸っち、
    横幅の大きい山田っちの四人でその名もムサ男四天王だ!」

石丸「声が熱苦しいだと?! 声は生まれ持ったものだというのは僕はどうすればいいんだ?!」

苗木「もう少し静かに話せばいいんじゃないかな……」

桑田「うるせーってことだよ」

不二咲「僕は大きな声ではっきり話す石丸君の話し方は嫌いじゃないけどなぁ。自信があって男らしいし」

山田「横幅が大きいとは失敬な! あなたの髪だってだいぶ幅取ってるでしょうが!」

大和田「ヒゲと服装もムサいしな」

葉隠「そんなこたねえ。これが占い師の正装ってやつだ」エッヘン

朝日奈「……絶対ウソだ」ジト目


K「とにかく、夜時間が始まる十時には各部屋に集合するように。単独行動もなるべく控えろよ」

「はーい!」

十神「俺は行かんぞ」

桑田「ハァ?! お前まーだ飽きずに一匹狼気取ってんの?」


もはやこの流れはお約束である。


十神「貴様等みたいな、愚民の中でも更にふるいにかけてよりすぐったような
    馬鹿共と一緒にいたら、この俺の優れた頭脳が汚染されるからな」

葉隠「バカなのは否定しないけどそれは流石に言い過ぎだべ!」

大和田「まずバカを否定しろよ……」

苗木「十神君……」

K「まあ、想定内だ。十神はいつも通り単独行動だが、他のメンバーが全員集まればそれで良い」

セレス「西城先生がこれだけ目を光らせていますし、十神君もまさか
     このタイミングで行動を起こしたりはしないでしょう」

江ノ島「どうだか。逆に裏をかいて来るかもよ?」

石丸「正式な集合は夜時間からだが、なるべく早く集まろうではないか」

苗木「一晩一緒な訳だし、色々準備もしなきゃいけないからね」

不二咲「楽しみだなぁ。たくさん遊ぼうね!」

石丸「ウム! いつもなら夕食後も勉強しているが、今日は早めに入浴を済ませて保健室に行くぞ!」

桑田「じゃあ8時に集合な。人生ゲームやろーぜ」

大和田「よし、とりあえず風呂行くか」

苗木「じゃあ僕は飲み物持って行くね」

不二咲「僕もゲーム用意しなきゃ」

葉隠「俺は盛り上がる話を用意しとくべ!」

K(やれやれ、遊びではないのだがな。……だがこういう空気が大事かもしれん)


生徒同士がいがみ合い疑い合い、校内に殺伐とした不穏な空気が流れればまた
一気に崩れる。それでは黒幕の思うつぼだろう。和やかなことは良いことなのだ。


朝日奈「私達だって男子に負けないよ! かわいいパジャマ用意しようねー!」

舞園「はい!」

セレス「たくさん写真も撮りましょう」

腐川「い、いいわよね。外見に自信のあるヤツらは……!」

大神「…………」コクリ


のどかな光景だ。だからこそ誰も知らない。

この時点で既に、運命の歯車が回り始めていたことに――



― 保健室 PM8:00 ―


苗木「これで全員だね」

石丸「ム! 山田君と葉隠君がまだだぞ」

苗木「葉隠君なら少し遅れるって言ってたよ」

K「そもそもお前が勝手に時間を早めただけで本来の集合時間は夜時間からだ。山田はただでさえ
  むさ苦しいメンバーなのにあまり早く来たくない、夜時間から来ると言っていた」

石丸「そうでしたか。十神君は来ないし、なら男子はこれで全員だな」

桑田「待ってたら時間の無駄だし、先に始めちまおーぜ」

不二咲「うん! 僕、今日一日ずっと楽しみにしてたんだぁ」

石丸「僕もだぞ!!」

K(前の泊まり会は石丸も不二咲も病み上がりだったからな。徹夜で遊ぶのは
  初めてで興奮しているようだ。……最も、俺自身もこういう経験は初めてだが)

大和田「じゃあ、まずは乾杯するか」

不二咲「倉庫から紙コップ持って来たよぉ。ガラスだと割れたら大変だから」

大和田「お、気が利くな」


苗木「僕がジュースいれるから回しちゃって」


KAZUYAが烏龍茶、残りのメンバーはジュースを注いだコップを手にする。


石丸「そうだ! 西城先生、乾杯の挨拶を!」

K「えっ、挨拶ゥ?!」

桑田「そういう堅いのいらねーだろ」

大和田「そうだぜ? もっと気楽に行けよ」

石丸「いや、折角のお泊り会なのだ! ここは是非先生に開会の挨拶をして頂きたい!」

K「えーっと……」

苗木「してあげたらどうですか? なんか、凄い気合い入ってるし」

大和田「短めにな」

K「いきなり言われてもな……それこそ、石丸がやった方がいいんじゃないか?」

桑田「ジョーダンきついぜ! こいつにやらせたらぜってー長えぞ?」

石丸「ムッ、失敬な。僕だってTPOは弁えているぞ!」

桑田「わきまえてないからKYって言われてたんだろ……」

K「二人共わかった、わかったから……やればいいんだろう? では、そうだな……」


KAZUYAはコップを手に持ち立ち上がった。


大和田「いよっ、センセイ!」

不二咲「頑張ってぇ~!」


パチパチパチと四人が拍手する。


K「えー、ゴホン……本日は日柄も良く……」

桑田「うわ、長そうな予感……」


石丸「挨拶の最中だぞ! 静かにしたまえ!」

桑田・大和田(……お前が一番うるさいよ)

苗木「ハハ……」

K「……気楽に行くか。今日は集まってくれてありがとう。まあ発起人は俺じゃない訳だが。
  話すことが思い浮かばないから、今日は俺からお前達に――感謝の言葉を伝えたい」

「え?」

K「いつも、俺に協力してくれてありがとう。今だから言うが、この生活が始まった時は
  本当に苦しかったんだ。何せ、その時はまだ自分一人しか頼れなかったからな」

「…………」

K「初めてお前達に会った時、とても未熟だと思った。最近の高校生は本当に子供っぽいなと
  呆れたことも何度かある。……だが、そんなお前達もこの生活を経て変わった。本当に成長した」

K「俺が抱えているものは重すぎて、それをお前達に背負わせることは出来ん。
  だが、今のように少し肩を借りるだけでも俺はとても楽になるんだ」

K「今は、ただ守るだけの存在ではなく――この生活を共に生きる仲間として見ている」

苗木「先生……」

不二咲「…………」グスン

K「はっきり言ってまだ脱出の見通しは立っていない。全員揃ってここから出られるかと言えば、
  正直俺は五分五分だと思う。……だが、だからといって諦める訳にはいかないのだ」

K「これからも手を取り合ってお互い頑張ろう。乾杯!」

「かんぱーい!!」


全員が、グラスの代わりにコップを掲げ乾杯をした。


石丸「先生! 僕は先生の挨拶に心から感動しましたっ!! これからも粉骨砕身のつもりで
    お手伝いしていきます! 願わくば全員揃って脱出することを……!」

桑田「だからおめーは長いんだって。せんせーらしい挨拶だったけどさ」

K「挨拶した俺が言うのもなんだが、湿っぽいのはやめよう。今日は一晩遊ぶのだろう?」


と言っても、KAZUYAは一人途中で抜けて何度か見回りに行くつもりである。彼等を仲間として
認めたKAZUYAだが、出来る時に好きなだけ遊ばせてやりたいという親心は未だ健在だ。


苗木「じゃあ早速ゲームしようか。人生ゲーム持ってきたし」

石丸「これがボードゲームというものか。トランプならやったことはあるが……」

大和田「マジでやったことねえのか。ルールとかわかるか?」

石丸「双六ならやったことがあるから、多分大丈夫だ!」

桑田「スゴロクって……」

苗木「勿論先生もやるんですよね?」

K「え? 俺は……」

不二咲「やりましょうよ!」

桑田「ちょうど六人まで出来るし、せんせーも参加な!」

K(実は俺もやったことないんだが……まあいいか)


・・・


不二咲「先生が就職一番乗りだね!」

K「えーっと、どうすればいいんだ……?」

苗木「このマスなら高収入な職業になれますよ。医者とか弁護士とか政治家とか」

大和田「やっぱ医者か?」

K「……いや。現実で医者なんだからゲームくらい違うものを選ぼうかな。弁護士にしよう」

桑田「弁護士かぁ。なんか討論するより殴って説得しそうだなぁ」

苗木「桑田君、それは失礼だって……!」ププ


そう言いながらも苗木は少し笑いをこらえている。


K「…………」ムスッ


石丸「次は僕だな。……ムッ、西城先生と同じマスに止まったぞ!」

苗木「残りは医者か政治家だね。どっちを選んでも高収入で安定してるよ」

不二咲「石丸君ならやっぱり政治家?」

石丸「ウーム……よし、決めた! 政治家もいずれなるがとりあえず直近の目標である医者になるぞ!」

大和田「現実でも両方選べちまえるところがすげえよな……」

桑田「はいはい、エリートエリートっと」


・・・


大和田「うお、センセイまた子供出来たぜ。そろそろ車に乗りきらないだろ」

K「現実だと独身なんだがな」

大和田「でも実はモテるんだろ? なにせ天下の医者だもんな」

苗木「職業であれこれ言うのは良くないけど、やっぱり人気あるだろうしね」

不二咲「西城先生ってかっこいいもんねぇ。凄く頼りになるし」

K「……ノーコメントだ」

石丸「おや、僕の所も子供が出来たようだぞ。先生とは気が合うな!」

桑田「っかあー、俺も早く結婚してー!」

石丸「桑田君はその前に金遣いの荒さを直した方が良い!」

桑田「俺じゃねーっての! ……次のマスは、ゲッ! またアイドルのコンサートに出費かよ!」

不二咲「ご、ごめん」

苗木(不二咲君て現実でもアイドルいけそうだよな。主にネット系の……)


・・・


桑田「だあああ、チクショー! ぶっちぎりのビリじゃねーか!」

苗木「一位不二咲君、二位石丸君、三位KAZUYA先生、四位大和田君、五位が僕で桑田君がビリかぁ」

大和田「やっぱアイドルはつええな」


不二咲「エヘヘ。何度もみんなからお金もらっちゃって申し訳なかったよぉ」

苗木「石丸君とKAZUYA先生は特に投資とかしないでコツコツ貯めてたからトラブルも
    ほとんどなかったし、浮気イベントもなくて堅実な家庭だったね」

石丸「当然だ! 僕がそのような不誠実なことをする訳がない!」ビシッ!

K「これはゲームなのだが……」

大和田「なんつーか、現実みたいな結果になったよなぁ」シミジミ

桑田「俺がフリーターでふらふらしてんのが?!」

石丸「桑田君はアイドルを狙って他の仕事につかなかったから転落したのだ!
    現実でも派手なことばかりしていると転落するぞ!」

桑田「うっせー! 余計なお世話だっつーの! ……こんなことなら野球選手なっときゃ良かった」

K「逆に、大和田がサラリーマンを選んだのは意外だったな」

大和田「まあそこそこ安定してるし無職よりはマシだからな。俺は仕事を選べる人間じゃねえし、
     現実でも土方だろうがコンビニだろうがやれる仕事はなんでもやるぜ?」

苗木(げ、現実的だ……大和田君て根は意外と真面目なんだよな)

K(フム……たかがゲームだが、みんなの性格が垣間見えて面白い)

K「苗木は惜しかったな。途中まではいい調子だったのに」

苗木「アハハ、僕ってツイてないから」


苗木は教師を選び、特に大きな問題もなく当初は四位だった。
……が、最後の最後で桑田の借金を肩代わりするイベントに巻き込まれ一気に転落。

しかし、そんな不運なところもどこか苗木らしいと思えてしまう。


K(子供の遊びだと思っていたが……人生ゲーム、恐るべし!)

桑田「もう一回! もう一回やろうぜ!」

石丸「桑田君! 人生に二度目はないのだー!!」

桑田「うるせーよ! 今度こそアイドルになってモテモテになってやる!」

K「まあまあ。また今度な」









































― 学園廊下 ??? ―


「…………」

「…………」


コツコツコツ……

薄暗く人の気配が感じられない静かな廊下に、誰かの足音が響いていた。
まるで強い決意を示すかのように、その人物は不穏な空気を切り裂きながら歩く。


闇に蠢くその影の正体は――!



ここまで。

小ネタですが、KAZUYAの乾杯の台詞は集まったメンバーの数によって変わる
もしこの時点で全員集まっていたら、五分五分ではなく脱出は可能と断言してる

では、また来週~

全員が集まるルートもあったのか……

>>732
そのへんはいつか解説したいですね。鍵は十神君

…ちなみに、人数が少ないとしんみりした感じになり
死人が出ているとかなり悲惨な感じになる

乙様です。遂に追い付けた!

ルートによっては十神君が意気揚々と女風呂を覗く未来もあったのだろうか……


               ◇     ◇     ◇


――その奇妙で都合の良い発見をしたのは、苗木誠が【超高校級の幸運】だったからだろうか。

或いはこれから起こる惨劇の予兆だったのだろうか……

かつて希望ヶ峰学園の入学を引き当てたように、苗木誠は日頃の不運を引き換えにして
またも驚異的な幸運を何万分の一、もしくは何億分の一の確率で発揮したのだった。


苗木「あ」


人生ゲームの小物を片付けている際に、手が滑ってベッドの下に入ってしまった。
ベッドの下にはKAZUYAが過去にモノモノマシーンで当てた凶器もといガラクタ類が
ダンボール詰めにされて仕舞われていた。ちょうどその間に入ってしまったのだ。


K「どうした?」

苗木「小物がこの中に入っちゃって……うーん。届かない」

K「どれ、ダンボールをどけよう」


KAZUYAがダンボールを引き抜き、苗木がベッドの下に体を突っ込む。


苗木「あったあった」

不二咲「なくさないで良かったねぇ」

苗木「うん。……あれ?」

K「どうかしたのか?」

苗木「先生、これ何だと思いますか?」

大和田「なんかあったのか?」

苗木「何だか、壁に変なカバーみたいなものがある」

桑田「はぁ?」


石丸「きっとコンセントの蓋だろう」

苗木「コンセントに蓋なんて付けるかな……?」


何気なく、苗木はそのカバーを開けてみた。


苗木「あれ、スイッチ?」

K「……見せてみろ」


苗木は体をベッドの下から引き抜くと、KAZUYAに代わる。


桑田「電気のスイッチじゃねーの?」

不二咲「でも、そんな所に作るかなぁ?」

大和田「こんなとこにスイッチ作っても誰も気付かねえだろ」


彼等が口々に話している中、KAZUYAの頭に強烈にフラッシュバックする“ある記憶”があった。


(これは……! そうか、そういうことだったのか……こんな重要なことも忘れているとは)


最近は順調に記憶が戻ってきていると思っていたKAZUYAだったが、
それは大きな思い違いであることを予想外の所から知らされたのである。



              ◇     ◇     ◇


「…………」~♪


スタスタスタ……

その頃、保健室の前を誰かが通り過ぎる――。


               ◇     ◇     ◇


朝日奈「見て見てー! このパジャマかわいくない?!」

舞園「かわいいです♪ 似合ってますよ」

朝日奈「舞園ちゃんのもかわいいー!」


コンコン。


霧切「飲み物を持ってきたわ」

朝日奈「あれ? 霧切ちゃんはパジャマじゃないの?」

霧切「寝る直前に着替えるわ。夜は長いし……いざという時のためにね」

朝日奈「霧切ちゃんは慎重だよね。みんな一緒にいるし、先生が防いでくれるからきっと大丈夫だって!」

霧切「……私もそう信じているけど」

舞園「さあ! 夜は長いです。今から何を話すか考えないといけませんね」

朝日奈「早くさくらちゃん達来ないかなー」


               ◇     ◇     ◇


大神「江ノ島」

江ノ島「! な、なに……?」

大神「……先に行っているぞ」

江ノ島「わかった。アタシはもうちょっとかかるかも」

大神「伝えておく」

江ノ島「…………」


               ◇     ◇     ◇


不二咲「あ、僕携帯ゲーム機持ってきたよ!」

石丸「おお! これが噂に聞く『ぷれすて』というものか!」

大和田「……それは据え置き型の方だ」

K「ム、ゲームボーイではないのか? 入院してる子供達がよくやっていたな」

桑田「何年前の人?!」

不二咲「えっと、三世代くらい前の話じゃないかな……」

苗木「流石KAZUYA先生、昭和の人だ……」

石丸「それで、これはどう使うのかね!」ワクワク!

不二咲「じゃあまず石丸君にやり方を教えるね。みんな出来るようになったら通信で対戦も出来るよ!」

石丸「これ一台でか?!」

桑田「いや、俺達みんな自分の持ってるから」

大和田「兄弟、勉強ばっかであんまガチャ引いてないだろ。閉じこめられた最初の頃、あの機械に
     ゲームがあるってわかってみんな死ぬ気でメダル探して購買通ってた時期があったんだよ」

石丸「……そういえばあったな。その頃の僕はまだ融通が効かなくて、ゲームのために
    メダルを探す時間があるならもっと勉強するべきだとよく怒っていた……」


監禁当初から娯楽室は開いていたが、当時はまだメンバー同士が
あまり仲良くなかったので、遊ぶ気になれずほとんど使われていなかった。

そんな時、最初にゲームを引き当てたのはセレスだ。本来なら最もゲームと無縁の彼女だが、
流石に退屈過ぎて暇潰し道具を探していたようである。彼女からゲームの存在を知った生徒達は
学園中から目を皿のようにしてメダルを探し回り、購買に殺到したのであった。


K(生徒達と仲良くなれるかと思って、俺も密かに狙っていたが……結果は散々だったな……)


ちなみに、最初は興味を持っていなかった朝日奈、大神、江ノ島も
あまりにゲームが流行っていたので気になったらしく、こっそり手に入れていた。

あの霧切でさえ携帯音楽プレーヤー代わりに愛用しており、今も持っていないのは
生徒では石丸、十神、腐川の三人だけであった。そのくらい浸透しているのだ。


石丸「僕は想像力がなかった。この過酷な環境下で、コロシアイなどせず楽しく生活出来るように
    みんななりの努力をしていたと言うのに、それを安易に否定して……思いやりがなかったな」

不二咲「そんなことないよぉ……!」

K「お前がいなければみんなゲーム三昧で勉強しようなどとは思わなかったろう。
  外に出てからどうするかのビジョンを常に考えさせてくれたのはお前だ」

大和田「要はバランスだっつーの、バランス!」

苗木「もし今度モノモノマシーンでダブったら石丸君にあげるね」

石丸「ありがとう、みんな! ……それで、早速だがこれはどうするのだ?」

桑田「おま、上下逆だ! 右手で十字キー触るヤツとか初めて見たぞ」

大和田「……いや、向きより指だろこれは。親指後ろで他の指で押すとかいろいろと斬新すぎだろ」

不二咲「あのね、こう持って指はこう。それで、これが電源スイッチだよ」


小さく柔らかそうな手で優しく石丸の手を取って教える不二咲の姿を見て苗木は思う。


苗木(不二咲君、男なんだよなぁ。……ちょっと羨ましいと思ってしまった。
    ダ、ダメだ僕! 戻ってこないと山田君の二の舞だぞ……!)

K(微笑ましいな)フフ

不二咲「これが決定ボタン、こっちがキャンセル。十字キーでキャラクターを
     動かしたり選択肢を選ぶんだぁ。とりあえず、スタートしてみるね」ピロリロリン♪

石丸「ほうほう」カチャカチャ


ピチューン! タラッタタタタタン♪


石丸「ム? 最初からやり直しになったぞ?」

桑田「敵に突っ込んだからだよ!」

大和田「死んだらやり直しだ。左上のこれが残機で、ゼロになったらゲームオーバーだぜ」

K「フーム、成程な……」

石丸「敵を避けて進むのか?」

苗木「それでもいいけど、上から踏み付けて倒すんだよ」

石丸「踏んだら大怪我をしてしまうぞ。最悪死んでしまうのではないか?」

桑田「それでいーんだよ。敵なんだから」

石丸「敵なら無用に命を奪っていいとでも?!」

大和田「ゲームになに言ってんだ……」

不二咲「あ、あのね……そういうゲームだから……」

石丸「こうやって残虐な心を育て子供を犯罪に導く……これがゲーム脳というものなのだな!」

K「それは、多分違うと思うぞ……」

桑田「ちげーよ、バカ! ゲームと現実の区別がつかねーのがゲーム脳だろ!
    ある意味今のお前がゲーム脳だっつーの!」

石丸「そ、そうか……! あくまで架空の世界であるゲームの中で、
    現実では出来ないことをやって楽しむものなのだな!」

大和田「考えるまでもなくわかるだろ、フツー……」

苗木「ま、まあまあ。初めてなんだし仕方ないよ」

石丸「しかし、たとえ架空の世界だとしても暴力は嫌いだ。なるべく戦わないで進めることにしよう」

不二咲「初プレイでいきなり不殺縛りなんて……流石、石丸君だね! 男らしいよ!」

大和田「不二咲、落ち着け。ぜってえ違うからそれ」

K「お前は男らしさを勘違いしている……」


やいのやいの!


石丸「先生もやってみますか?!」

K「え、俺は……」

桑田「そもそさ、せんせーってもゲームとかやったことあんの?」

K「旅館に筐体が置いてあって暇潰しに少しだけやったことはある。
  確か、宇宙人が攻めてくる作品と上からブロックが降ってくるパズルだったな」

苗木「それってもしかして……」

不二咲「インベーダーにテトリス?」

K「そうそう、そんな名前だった」

桑田「古いって!」

K「あとボールをぶつけてブロックを崩すヤツは知っている」

大和田「アルカノイドか……」

桑田「昭和かよ!」

K「仕方ないだろう。俺は昭和生まれなんだから!」

苗木「…………」

苗木(あれ、KAZUYA先生ってまだ三十代前半だよな? 僕の両親が四十代だけど、明らかに先生の方が
    年代が上のような……い、いや、考えても無駄だ。この件はもう考えないようにしよう……)


何だか触れてはいけないことのような気がする。


石丸「ほら、先生もやりましょう!」

K「こういうのは苦手なんだが……」タラッタッタタッタッタン♪


しかし、石丸のプレイを一度横で見ていたためかKAZUYAは意外と上手かった。


大和田「うめえじゃねえか」

K「先に見てたからな」


不二咲「反射神経がいいんだろうねぇ」

K「うおっと!」

苗木「凄い、ギリギリでかわした……」

桑田「操作方法わかってきただろ? じゃあそろそろ対戦しよーぜ」

不二咲「対戦は四人までだから順番に回そうね」

K「俺はいいからお前達でやるといい」

桑田「ダメだっつの。俺がボコボコにすっからせんせーも参加な!」

K「おい」

苗木「僕は後でいいよ」

K「すまんな、苗木」

苗木「見てるのも好きだから」

不二咲「じゃあ苗木君は僕と交換でやろうよぉ」

石丸「美しい譲り合いだ。ありがとう、二人共!」

大和田「よーし、やるぜ!」

K「…………」

K(全く、俺は友達じゃないんだぞ? ……まあ、たまにはこういうのもいいか)


夜時間になればKAZUYAは何度か見回りで抜ける予定なので、逆に今は相手をしようという気になった。
KAZUYAのそういう優しさすら逆手に取られていたとも知らずに……



               ◇     ◇     ◇


「――――」

「――――!」

「――――?!」

「――! ――!!」


「ッ!!」

「あッ?!!」


ゴッ!!

ガシャーン!


……ポタッポタッ。


「やっちまった……」


ガタッ!


「ッ?!」










― 学園廊下 PM9:52 ―


夜時間であろうと、廊下の電灯はついているはずなのに、こうも暗いのは何故だろう。
気持ちの問題か、或いは出血のせいで強烈な眩暈を感じているからだろうか。

ポタッポタッと赤い液体の床に落ちる音が定期的に彼女の耳に届く。元々白かった顔が
今まで以上に白くなり、端正な顔が今は酷く歪んでいる。執念を持って彼女は進んでいた。

……たとえ這ってでも目的の場所に辿り着くことが出来れば、少なくとも彼女の勝ちだ。


「こんな所で……死んで、たまるものですか……」

「このわたくしが……!!」


血の流れる腹部を抑えながら、鬼の形相で這うように廊下を突き進むその人物は――


何を隠そう、今回の動機で最も心を揺さぶられた人物であり実質モノクマのターゲットと言っても良い。

――セレスティア・ルーデンベルクその人だったのである。


ここまで。

wikiによるとKAZUYAは昭和37年生まれらしい


>>735
いらっしゃいませ! 最近はとろとろ更新ですが、今年中には
なんとか四章終わらせるつもりなのでこれからもよろしくお願いします


すみません。今週は間に合いませんでした。
なんとか週の真ん中あたりに来るよう頑張ります。

あと、安価しなければいけないことがあるので、
投下があってもなくても木曜10:00くらいに来ると思ってください


間に合わなかったので、安価だけ取ります。

KAZUYAが例によって手術後は身動き取れなくなるので、その間に生徒達に動いてもらうのですが
その生徒の組み合わせを安価します。遥か昔、スキル表のメモでちらっと書きましたが、
生徒達にはそれぞれ相性があり、良い組み合わせなら生徒同士の親密度が上がります。


〈指定できる生徒〉

苗木、桑田、舞園、石丸、不二咲、大和田、霧切、腐川
※朝日奈も選択可能だが、まだ仲間でない大神も強制的についてきてしまう


ヒントとしては、原作で仲の良い組み合わせはもう十分親密度が高いので、
あえて違う組み合わせを模索するのが吉。また、このSSでよく組むキャラもあり

……まあぶっちゃけ単なる会話イベントのようなものなので、深く考えずに
自分が見たい組み合わせを書いてもいいと思います。3グループくらい作りたい


生徒を二名か三名指定(朝日奈の場合のみ、二名まで)

↓3


フーム、面白いですね


〈指定できる生徒〉

舞園、石丸、大和田、霧切、腐川
※朝日奈も選択可能だが、まだ仲間でない大神も強制的についてきてしまう


生徒を二名か三名指定(朝日奈の場合のみ、二名まで)

↓2


では、残りは四名になってしまうので半分にして舞園・大和田と朝日奈・大神ですね

1班 苗木、桑田、不二咲
2班 石丸、霧切、腐川
3班 舞園、大和田
番外 朝日奈、大神


かなり予想外の組み合わせとなりました。特に2班がなかなかにカオスですねw
それでは、書き溜めしておきます。また週末にお会いしましょう


               ◇     ◇     ◇


人間がいくら血を流せば生命の存続が危うくなるか、以前KAZUYAの授業で習っていた。

血を流すこと、それは則ち命が流れていくということだ。少しでも血が体外に流れないように、
セレスは腹部に刺さったナイフを固定するように掴み、ゆっくり着実に前へと進む。


―あと、少し……あと少し……!


廊下には保健室から漏れる談笑が聞こえる。辿り着けば、生き残れば、とりあえずは自分の勝ちだ。
このいい加減なコロシアイ空間において、唯一絶対と言える勝利条件はひとえに生き残ることなのだから。


―届いた……!!


ガチャッ!


「何だ?」

「えっ」


乱暴に扉を開け放つと、セレスは滑り込むように中に入る。

……そして、そのまま崩れ落ちた。


苗木「えっ、セレスさん……?」


何で……と誰かが呟くよりも早く、KAZUYAが飛び出していた。


K「何があった?! 誰にやられた?!」


KAZUYAはセレスを横抱きに抱え上げながら、口元に耳を近付ける。


セレス「――――」

K「何だとッ……?!」


青ざめるKAZUYAの周りに、囲むように生徒達が集まった。


石丸「せ、先生?!」

桑田「一体なんなんだよ……なんでこんな……?!」

大和田「また起こっちまったってワケか……!」

不二咲「しっかりして、セレスさん!」

K「石丸、苗木! 手術の準備を!」

石丸「はい!」


だが、セレスはまだ何か言おうとしていた。


セレス「山田君が……まだ、娯楽室に……」

不二咲「ええっ?! まさか山田君も怪我を……?!」

石丸「何だとッ?!」

K「……!!」


血の気が引く。KAZUYAは即座に決断しなければいけなかった。


K「大和田、石丸! 担架を持って娯楽室に行くぞ! 苗木と不二咲は手術の準備!」

桑田「俺は他のヤツらを呼んでくる!」

K「桑田……お前にはもう一つ頼みがある」


KAZUYAは素早く桑田に耳打ちする。


桑田「……わかった! こっちは任せろ!」

K「苗木、安広にリンゲルを打っておいてくれ!」

苗木「は、はいっ」


K「行くぞ!」


日頃の訓練の賜物か、生徒達は実にキビキビと的確に動いて頼もしかった。
KAZUYAは医療カバンと共に、棚から取り出したある箱を手に取り廊下に駆け出す。


K(安広は問題ない……問題は山田だ……)


強烈な胸騒ぎを感じながら、一足飛びに階段を駆け上がる。
娯楽室は階段の目の前だったため、すぐに到着した。

バァーンッ!


K「山田ァーッ!」


扉を壊さんばかりに開くと、KAZUYAは中の状況を確認する。
床に飛び散るガラスの破片、そして血痕――

山田は部屋の奥に仰向けに倒れていた。

……額から血を流しながら。





『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました。一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


再び、学園にあの忌ま忌ましいアナウンスが流れた。


石丸「山田君! しっかりしたまえ!」

K「動かすな!!」


KAZUYAはガラス片を飛び越えて山田の側に屈み込む。


大和田「お、おい……ウソだよな……死んでないよな?!」

モノクマ「残念ながら死んでまーす! 今度はバッチリしっかり死んでるから! 残念っ!」


現れたモノクマを無視し、KAZUYAは慣れた手つきで動かない山田の脈と呼吸を確認する。


K「まずい……心肺が停止している……」

モノクマ「ちょっと! 無視しないでよ!」

大和田「なっ?!」

石丸「早く蘇生処置を! 気管挿管しましょう!」

モノクマ「だから無駄だってのー」


しかし、存在そのものを認めないように彼等は頑なにモノクマを無視し続けた。


K「…………」

K(……無理だ!)


折角訓練してきたのだ。フォーメーションとしては気道の確保を石丸に任せ、
KAZUYAが蘇生処置に回るのが最も効率的なはずである。

……が、再三KAZUYAが言っていた通り、気管挿管は非常に難度の高い手技だ。まだ数える程しか
経験のない石丸に全てを任せるのは不安が残る。何より問題なのは、山田の体型だった。
彼は太りすぎていたのだ。肥満体型の人間は首の周りに多量の脂肪が付いているので、倒れると
気管が圧迫される。そこに素早くカテーテルを通すのは、熟練の経験者でなければ至難だ。


K「挿管はしなくていい! まずは二人でCPR(心肺蘇生法)を二分! 確実に酸素を入れろ!」


石丸「ハイ!!」

大和田「わかったぜ!」


石丸が人工呼吸、大和田に心臓マッサージを任せると、KAZUYAは注射器を準備する。


K「大和田、どいてくれ!」


KAZUYAは山田のシャツを力ずくで引き裂くと、開胸すらせずに胸の上から直接針を突き刺して、
心臓に強心剤を打ち込んだ。ほんの0.1ミリでも位置や深さを間違えれば心臓に穴が空く、
超国家級の医師KAZUYAだからこそ許される荒業である。

その後、KAZUYAは持ってきた箱からある機械を取り出した。


大和田「おい! 胸に手を突っ込む心臓マッサージは?! 不二咲の時にやっただろ?!」


てっきり以前のようにメスで胸を開くのかと思ったが、
KAZUYAが全くその素振りを見せなかったので大和田は混乱する。


K「もっと良い手がある!」

石丸「それは……!」

K「そうだ! AEDだ!」

モノクマ「フーン。なんか隠し持ってるなーと思ってたらそれか……」


倉庫の中に、壊れたAEDがあるのをKAZUYAは知っていた。前々から直したかったが、
専門家でないKAZUYA一人ではどうしても手が足りず、不二咲の力を借りて二人で一緒に直したのだ。


K「このAEDは特別製だ。不二咲に頼んで俺用にカスタマイズしてもらったからな」


通常のAEDより更に高い電圧を誇り、手動でショックの電圧やタイミングを変えることも出来る。
KAZUYAはパッドを山田の体に取り付けると、液晶画面の心電図を注視した。


K(……心電図を見るにVF(心室細動)。適応だ!)


ここで説明を入れるが、心停止と一言で言っても実際には四つの種類がある。


①無脈性心室頻拍(pulseless ventricular tachycardia,無脈性VT)
 心拍数が多くなり過ぎると血液が十分に送れなくなり、結果的に脈がなくなってしまう状態。

②心室細動(Ventricular Fibrillation, VF):
 心室が小刻みに震えて全身に血液を送ることができない状態。

③無脈性電気活動 (pulseless electrical activity,PEA)
 心電図のモニターに波形を示しているにもかかわらず、脈拍や心拍を確認できない状態。

④心静止(asystole):
 心電図が平坦となる。つまり心臓が完全に静止している状態。


このように、心停止という言葉を聞くと完全に心臓が停止しているイメージがあるが、
実際には脈が無くなるだけで心臓自体はまだ動いていることもあるのである。

そしてカウンターショックとは、心臓の拍動異常の原因となる心室細動・心房細動等を強力な
電気ショックで一時的に遮断し、正常な心拍を再開させる治療法である。つまり、心臓に電気が通い
尚且つ動いている①と②のみが適応対象であり、電気は通っているが心臓が動いていない③、
電気が通っておらず心臓も完全に止まっている④は電気ショックをかけても何の意味もないのだ。

今回は適応対象であったため、KAZUYAは手早く手動で電気ショックをかけた。


K「カウンターショックだ!」


ドンッ!

山田の巨体がのけ反るように跳ねる。


大和田「お、おおっ! これなら……!」

K「まだだ! ショックをかけている時以外はCPRを止めるな!」


AEDの適応内でも必ず蘇生出来るとは限らない。KAZUYAは二人にCPRを続行させ、心電図を睨み続けた。


K(頼む……効いてくれ……!!)


ドンッドンッとKAZUYAは何度もショックを与える。


モノクマ「だから無駄だって……」

K「戻ってこい……山田、戻れ!」

石丸「山田君ッ!!」

大和田「山田あああああ!!」

山田「…………」ピクッ

K「!」

K(今、微かに動いた!)


KAZUYAはバッと山田の胸に耳を当てる。


K「よしッ! まだ弱いが脈が戻ったぞッ!」

石丸「山田君……! スゥッ!」


石丸は変わらず息を吹き込む。普段なら強すぎると注意している所だが、
気道の狭い山田にはこれくらいでちょうどいい。


山田「…………ゴホッ!」

K「呼吸も戻ったな! 直ちに保健室に搬送する!!」

大和田「任せろ!」


KAZUYAと大和田で山田の上半身と下半身を支え担架に乗せる。そのまま彼等は部屋から駆け出した。
ほのかに血の臭いが残る娯楽室に、残されたのはモノクマただ一人。


モノクマ「ハァ~。まさか二回も蘇生を成功させるとはねぇ。ドクターKの名は伊達じゃない訳だ?」

モノクマ「でも、ここまではボクの計算通りなんだよねぇ!」

モノクマ「うぷぷ。うぷぷぷぷ!」


笑いを堪えきれないと言うように、モノクマは大きく肩を揺らす。


モノクマ「え? この陳腐でつまらなすぎる展開にどうしてボクが笑っているかって? 視聴者の
      みんなにヒントをあげようかなぁ。ほら、ボクってサファリパーク一優しいから」

モノクマ「ヒントは山田君の傷の位置です。ではまた来週~」


ここまで。


― 保健室 PM10:05 ―


苗木「先生!」

朝日奈「山田?!」

十神「おい、何があった?」

江ノ島「誰にやられたの?!」


保健室の前にはアナウンスを聞き付けた残りのメンバーが勢揃いしていた。

……いや、正確には大神、葉隠の姿は見えない。


桑田「せんせー!」

K「……。わかった。そちらは後回しにする」


桑田がKAZUYAに何かを耳打ちし、KAZUYAは頷いた。生徒達に指示を飛ばしていく。


K「山田はまだ生きている! これから手術を行うから、可能な者は協力してくれ!」

不二咲「は、はい!」

腐川「ひ、ひぃぃぃ! 血! 血の臭いが!」

舞園「腐川さん! しっかりしてください!」


KAZUYAは改めてセレスと山田の状況を検分する。保健室組に関しては完璧だった。
既に手術着を着た苗木はいつでも手術を開始出来るようワゴンの上に道具を並べて待機している。

危うげなくセレスに点滴を挿し、止血もしっかり行っていた。傷も浅く呼吸も今のところ
しっかりしている彼女に、独断で習いたての気管挿管を行い悪化させるなどというヘマもしていない。


K(安広は問題ない。問題は……)

K「大和田! 今すぐ手袋をつけて山田の髪を全て剃れ。血は生理食塩水で流す!」

大和田「おう!」


舞園「手伝います!」

モノクマ「無駄だよ」

腐川「ぎゃああああああ!」

江ノ島「モ、モノクマ!」


なるべく血を見ないよう廊下に待機し、必死に目を逸らしていた
腐川の眼前へいきなりモノクマが現れたため、彼女は卒倒しそうになる。


苗木「二人も怪我人がいるんだぞ! 邪魔するなよ!」

霧切「……何が無駄なの?」

モノクマ「先生はわかってるんでしょ?」

K「!」

モノクマ「助けられるのはセレスさんだけだよ?」

石丸「そうやって妨害する気か! 今は一分一秒だって惜しいのだぞ!」


手術着を羽織り、手袋を装着した手を消毒しながら石丸が叫ぶ。


モノクマ「君さぁ、医者志望なんでしょ? じゃあ山田君が現在どんな状況かわかんないの?」

石丸「山田君は頭部に強い衝撃を受けたと思われる。恐らく頭部に血腫が出来……あっ!!」

モノクマ「わかったみたいだね?」


ニタニタとモノクマは嫌らしい笑みを浮かべた。


モノクマ「山田君の頭の中では、今も内出血によって血腫が出来て脳を圧迫しています。
      つまり、山田君を助けるには一刻も早くその血腫を取り除かないといけない……」

モノクマ「でも、ここにはそんな大手術をするための設備がありませーん!!」

「…………」

モノクマ「残念でした! 残念でした!! どう? 絶望した??」


腹を抱えてモノクマはケタケタと笑う。生徒達は愕然としてKAZUYAの様子を窺った。


K「…………」

苗木「先生……!」

石丸「一体どうすれば!」


だがKAZUYAはモノクマのことなど全く相手にしていなかった。
いつの間にかセレスの手術を開始し、開腹器まで既にセットしている。


K「……何をボサッとしている。全員、手袋は嵌めたのか? 消毒を終えたら
  手術に参加して欲しい。手伝えない者は現場の保全でもしてくれ!」

腐川「ア、アタシは娯楽室の方に行くわ。目を逸らしててもそろそろ限界だし」

江ノ島「アタシも」

朝日奈「ごめん、私もそうさせてもらうね」


ぞろぞろと女子が保健室から出て行く。


十神「で、どうするんだドクターK? 何か策でもあるのか? それか潔く山田は見捨てるか」

K「俺は両方見捨てるつもりはない……!」

モノクマ「でもどうすんの? 助けようにも手術出来ないじゃん!
      仮にここが普通の病院でも一度に二人も手術出来ないし」

K「……お前は大人を見くびり過ぎたな。俺も、学園長も。一流の医者を用意しながら
  設備や道具を用意しない。あの男がそんなつまらないミスをすると思ったか?」

モノクマ「は?」

K「不二咲、先程苗木が見つけたスイッチを押してくれ!」

不二咲「はい!」


すぐに不二咲はベッドの下に潜りボタンを押した。すると――


――――――――――――――――――――――――――――――


「――これの存在は生徒達にも秘密なんですよ」


蘇るは保健室の映像。

立って話すは在りし日の希望ヶ峰学園学園長・霧切仁。


「何故秘密に?」

「その前に耳に入れておくことが……部外者のあなたには話していませんでしたが、
 この希望ヶ峰には我々教師達が総力を挙げ隠蔽したある『二つの事件』があります」

「事件、ですか?」

「ええ、凄惨な事件でした。大きな声では言えませんが、既に何人も死んでいます」

「あなたは……まだ私にそのような隠し事を……!」


KAZUYAの責めるような視線と声色に対し、仁は少しも悪びれず淡々と後を続ける。


「正義感の強いドクターには見過ごせないことでしょうが、全ては子供達の将来を
 守るためです。この学園に外部の人間、特にマスコミを入れる訳にはいかなかった」

「……………………」


偽善だ――!

KAZUYAは心の中で吐き捨てた。この男は何かあるといつもこうして無垢な生徒達を盾に取る。
だが、その実生徒のことなど本当は見ていなくて、その瞳には彼等の才能しか映っていないのだ。
しかし、この男に何を言っても無駄なのはKAZUYAもいい加減に理解していた。無言で睨み付ける。


(あの子達は才能のカタログではないのだぞ!!)


KAZUYAの怒りと不満に気付きながらも、仁は冷や汗一つかかず涼しい顔をしている。


「二つの事件の内、一つ目は犯人が判明しました。ですが、もう一つの犯人は未だにわかっていません」

「…………」


「私も、こう見えて元探偵ですからね。……勘は働く方なんですよ」

「……回りくどいのは苦手だ。単刀直入に言ってもらいたい」

「その見つかっていない犯人ですが……私は生徒の中にいるんじゃないかと考えています」

「殺人事件の犯人が生徒達の中に? 馬鹿げたことを言うのはよしてもらいたい!」

「断言は出来ません。違っているのが一番です。しかし、判明していないのは二つ目の事件――
 学園内の警備レベルを最大まで上げた中で行われた、希望ヶ峰学園評議会メンバーの連続殺人です」

「連続殺人?! それも学園の評議会メンバーをかッ?!」

「はい」

「……よくそんな大事件を隠蔽しようなどと考えたな。それでも教育者か! 恥を知れ!!」


だが、話しながらKAZUYAは鋭く推理していた。どう考えても警察に届けるべき案件を、何故
希望ヶ峰は隠蔽したのか。二つ目の事件の方は、恐らく一つ目の事件が明るみに出るのを
恐れたというのが理由だろう。では、一つ目の事件はどうだ? 仁は犯人は判明していると言った。

犯人を警察に突き出したくないからか? 既に希望ヶ峰にはジェノサイダー翔という殺人鬼がいる。
仮に殺人を起こしたとしても、超高校級の才能を持つ生徒を手放したくないに違いない。

……しかし、本当にそれだけだろうか?

超高校級の才能は大事だが、他の超高校級の生徒を傷つけたらそちらの方が問題ではないか?
仁の言う通り希望ヶ峰の警備は非常に厳しい。一度事件を起こしておいて何の手も打っていないとは
思いがたい。となると、事情を知る内部犯が警備の隙を突いた可能性が極めて高いだろう。生徒が
犯人かもしれないという仁の推理は見当外れでもないが、ただの生徒にそんなことが果たして可能か?


(……犯人は、ただの生徒ではない? それこそが隠蔽の理由か?)

「責めはいずれ負うつもりです。でも、今はまだその時じゃない。
 現在、我々には為すべき共通の義務と責任があります。わかるでしょう?」


いつも腹の底を読ませないようにしている仁が、珍しく険しい表情を隠さなかった。
KAZUYAは仁の言葉を肯定も否定もせず、ただ黙って睨む。


「これはいざという時のための保険です。使う日が来ないのが一番でしょう」

「…………」

「でも、もし必要があればその時は……」


――生徒達をよろしくお願いします。


――――――――――――――――――――――――――――――


「…………」

(今、これを使う時が来た……!)


先程思い出した学園長との会話を浮かべながら、KAZUYAはここが正念場だと感じていた。


(よもやあの男に感謝する日が来ようとはな。だが、今はそんなことを言っている場合ではない!)


正直に言えばいけ好かない男だった。生徒達に歪んだ愛情を注いでいた。
そんな仁のことをKAZUYAは嫌っていたが、その愛情が生徒を救うのなら利用しない手はない。


モノクマ「は? なんだよこれ? 聞いてないんだけど……!!」


低い駆動音と共に、保健室の壁の一つが上に開いていく。


霧切「これは……?!」

桑田「マジかよ?!」

苗木「し、信じられない……!」

K「そう、これこそ今の俺達にとって最大の希望――学園長の遺した遺産だ!」


壁の向こうにあったものは、手術台と機材の数々であった――!!


モノクマ「はぁぁあああっ?!?!!」


流石のモノクマもこれには動揺したようだった。パクパクと口を動かしているのに言葉が出ない。
当たり前だ。この設備はここ旧校舎へ生徒達を入れる前に突貫工事で作ったものなのだから。

――学園長と、KAZUYAの二人しかその存在は知らない!


大和田「よし、終わったぞ! 山田を手術台に運ぶぜ!」

石丸「先生、指示を!」


山田を移動させると、KAZUYAはメスを手に取る。


K「石丸、お前が執刀しろ。苗木は補助だ。安広はお前達に任せる」

「?!」


石丸「ぼ、僕がっ……?!」

十神「貴様ッ?! 素人に手術をさせるつもりか?!!」

K「開腹はやった。あとは止血するだけだ。何かあれば俺が指示を出すからその通りにやればいい」

苗木・石丸「…………」


二人は一瞬だけ動揺し躊躇った。が、ここに至るまでに何度も師を
切り刻ませてきた甲斐もあったか、一度決心を固めたら後の行動は早かった。


石丸「苗木君! ペアンを!」

苗木「了解!」

十神「正気か、貴様等……!!」

K「なに、俺は小学生に母親の手術をやらせたこともある。知識と技術がある分、二人の方がマシだ」

十神「だが……大体、何故不器用で有名な石丸がメインなんだ! 苗木の方が実技は上のはずだろう!」

K「確かに、この場合は苗木をメインにするのが正しい。苗木なら出来るはずだ」

十神「では、何故?!」

K「だからだ。出来る方にやらせたら、残りはサブになる。俺は補欠を作る気は毛頭ない」

十神「狂っている……!」

K「文句は後で好きに言え。とりあえずしばらく話しかけるな。不二咲、そこにある吸引器と
  電気メスを準備してくれ。機械に強いお前ならセッティングくらい出来るはずだ」

不二咲「これかな?」

十神「…………」

霧切「覚悟を決めるわよ。もし死人が出たら、今度こそ誰か処刑されるのだから」

十神「フン、その方が面白いがな」

舞園「十神君、手術の邪魔をするなら出て行ってくれませんか。みんな真剣なんです」

十神「協力はしてやるさ。……生きている限りはな」



渋々と言った感じだが、十神も半透明のゴム手袋を嵌めマスクをつける。

こうして、希望ヶ峰学園即席医療チームが二つの手術に当たることになったのだ!


ここまで。次回、Kチーム始動!


手術シーンは時間がかかる…。という訳で、今週は休載です。ごめんね

ちなみに、当たり前ですが選択肢ふざけたら容赦なく死にます
ここの住人の方はみんな真面目だからきっちりフラグ外していくけど
山田君は実際かなり厳しい条件だった。そして、手術後も色々と際どい
また、あの人も……最後までご視聴くださればわかるはず



※ お 約 束 ※

モノクマ「もう定番となりつつあるけど、それでもしつこく注意。無駄かもしれないけど注意」

ウサミ「注意は大事でちゅよ。先生は皆さんがマナーを守ってくれるって信じてまちゅ」

モノクマ「今回手術シーンが出てきますが、このSSの医療シーンは基本1の妄想です。
      信じないこと! いいですか? 知らない人の言うことを安易に信じちゃダメですよ」

モノクマ「何事も自己判断が大事です。その結果どうなるかの責任は取らないけどね!」

ウサミ「それはあえて言わなくてもいいよね?!」

モノクマ「それでは再開!」




 !      ダ    ブ    ル    手    術    開    始      !



KAZUYAは十神と話しながらも、一切手を止めることなく器具の準備をし山田の気道を確保していた。


K「不二咲、そこにあるレスピレーター……人工呼吸器の電源を入れてくれ」

不二咲「これ、かな?」


KAZUYAの指示で、不二咲がレスピレーターの電源を入れ、大和田が側に運ぶ。


K(確認したが、予想通り山田の気管は非常に狭かった。何より、これだけの手術だ。
  すぐに意識を回復するか怪しいし、当分自力呼吸は厳しい。場合によってはこのまま……)

K(本来なら気管切開をしてカニューレを装着した方が良いかもしれんが、俺は山田を信じる!)


カニューレ:体腔・血管内等に挿入し薬液の注入や体液の排出に使うパイプ状の医療器具。
       今回は気管切開し空気の通路を確保するための気管カニューレを指している。

KAZUYAは通常の気管内カテーテルを熟練の技で気道に通し、酸素マスクとレスピレーターを繋げた。


K「次に、そこの心電図モニターの電源を入れてくれ」

不二咲「はい。えっと……これ、だね」


KAZUYAは山田の体に電極を取り付けた。モニタ画面に心電図を始めとした心拍数や血圧、呼吸数、
体温等のバイタルサイン情報が映り、心電図の定期的なグラフと共にピッピッという機械音が響く。


「…………!」


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……

誰もがテレビで目にした状況が実際に目の前に現れて、場が一層引き締まった。


K「俺が麻酔を点滴している間に、レントゲンの準備をしてくれ。大和田、その間にこの器具を消毒!」

不二咲「は、はい!」

大和田「おうよ!」


KAZUYAは麻酔をかけると、不二咲が電源を入れた最新型可動式X線撮影機に手を伸ばす。初めて見る
機械も難なく使いこなす不二咲は非常に頼もしい。CTスキャンやMRIは時間の問題か設置スペースの問題か、
流石に用意出来なかったらしい。ないよりはマシだ、くらいのつもりで山田の頭部を単純撮影する。


K(……本来はこういった機械類は放射線管理区域を作って徹底的に管理すべきだが、仕方ないな)


教師である仁がそんなことも知らない訳はないだろう。それほど突貫工事だったのだと暗に示していた。


K(骨折はしているが血管溝付近に線状骨折はなし……硬膜外血腫の可能性は低いか? となると……)


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……

山田はただ失神していたのではなく、完全に意識がなかった。脳に何らかの異常があるのは間違いない。


K(――硬膜下血腫か)


単純に頭蓋内の出血と言っても、大きく二つに分類される。


硬膜外血腫:頭骨とその下にある硬膜の間で発生した出血が血腫となり脳を圧迫する症状。
       早期に対処すれば予後はそこまで悪くないとされるが、極めて重傷である。

硬膜下血腫:硬膜と脳の間に出血が発生し、それが硬膜とくも膜の間に貯留した状態。
       頭部に対する強い衝撃によって引き起こされた急性硬膜下血腫の場合、
       脳挫傷(脳が損傷を受けること)を併発していることが多いため、予後は良くない。


硬膜外、並びに硬膜下血腫の判断にはMRIが優れていると言われる。ただし、MRIは時間がかかるため
緊急の場合はCTスキャンが用いられるのが常だ。何にせよ、最低でもCTスキャンがないと判断は難しい。

何故なら、医療の現場で今も幅広く使われている通常のX線撮影では血液は写らないからである。
KAZUYAはどうせ開頭手術をするなら予後が期待出来、硬膜を開かなくて済む硬膜外血腫であって
欲しいと思っていたが、そう上手くはいかないようだ。愛用のメスを手に取る。


K「頭皮切開。骨膜を反転固定する」


KAZUYA程のベテランなら開頭手術でさえ十分な経験があり、本来いちいち行動を
口にする必要はないのだが、生徒達に事前に自分の動きを伝える必要があった。

現に、外した頭皮を置けるよう大和田がステンレス製のトレイを用意してくれている。


大和田「う……」

K「あまり見ない方が良いぞ。これからもっと酷いことになる」


大和田が顔をしかめたのを察し警告する。特に、不二咲に対しては機械を見ているよう促した。
石丸が写真を見ながらよく呻いていたのを知っている。この二人は耐性がないから尚更キツイだろう。


K「まず、ドリルで六ヶ所穴を開ける。そこに線ノコを通し切断していく」

大和田「マジでやんのか……」

K「やらないと死ぬ」


KAZUYAとてやらずに済むのが一番だ。しかし、開頭手術が必要だという結論だけは出ていた。
CTスキャンがないため正確な位置も大きさもわからない。今はKAZUYAの長年の勘と経験だけが頼りだった。


K(今までは外からある程度わかる傷が主だった。舞園の骨折という例もあるが、最悪放置しても
  命には関わらない。だが、今回は違う。俺の見立てが全てだ。判断を間違えれば山田は死ぬ!)


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……

ジーコジーコと骨の削れる音が止んだ。


K「外すぞ。丁重にな」


KAZUYAは切断した頭骨をトレイに載せた。そして一切の見落としがないように中を観察する。


K(やはり、硬膜下血腫だったか。既にかなり出血しているようだな……)

不二咲「先生……」

K「……硬膜を切開する。輸血の準備!」

不二咲「はい!」


授業で生徒達の身体情報は可能な限り開示して共有している。それも全てはこんな日が来ることを
想定してのことだ。不二咲はすぐさま山田の血液と同種の輸血パックを手にして戻ってきた。


K「剥離用の鉗子!」

大和田「どれだ?!」

K「左から三番目!」


一方、時を少し遡り場面はセレスの手術に移る。

手術を任されたものの初めて見る人間の内臓に石丸は圧倒されていた。


石丸(うっ、これが人間の内臓か……皮膚の下も十分グロテスクだったが、気持ち悪いな……)

苗木「石丸君? 大丈夫?」

桑田「イインチョ、頼むぜ」

石丸「え? あ、ああ……」

石丸(いや、何を考えているんだ僕は! 今はそんなことを考えている場合ではない!)


包帯の間から覗く赤い目をカッと見開き、日頃勉強で得た知識を総動員しながら患部を直視する。


石丸「ウム……止血のためにはまず出血箇所を見つけないとならないが……
    溜まった血が邪魔でよくわからないな。吸引器は先生が使うだろうし……」

舞園「ガーゼで吸い取るのはどうでしょうか?」

霧切「それがいいわね。吸い取って、流しに絞って捨てるわよ」

石丸「そうだな。そうしよう」


舞園と霧切が流しと往復して吸い取った血を流していく。少しずつ明らかになっていく
仲間の腹腔に冷や汗を流しながら、二人の医者見習いは真剣な眼差しで覗き込んだ。


苗木「見えてきたね」

石丸「ああ。……腸圧定ヘラを頼む」

苗木「はい」


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……

山田の方から聞こえる規則的な電子音が、余裕のない石丸の心を更に急かす。受け取ったヘラで
傷付けないように腸をグニグニとかき分け観察したが、出血部位がなかなか見つからない。


霧切「……そこ、血が出ていないかしら?」

石丸「本当だ! この血管が切れて出血しているな。まず鉗子で結紮(けっさつ)し、絹糸を結ぶぞ……」

苗木「落ち着いて。石丸君なら出来るよ」

舞園「大丈夫です。いざとなったら西城先生もいます。ゆっくり確実にやりましょう」

桑田「ガンバレ、イインチョ!」

石丸「あ、ああ。すまない」


手が滑って結び損ねた石丸に苗木達が優しく声を掛ける。しかし十神だけは厳しい。


十神「そんなにグズグズしていいのか? 血圧が下がって来ているぞ」


心電図モニターは山田に使用しているため、血圧計を用いて十神は手動でセレスの血圧を確認している。


苗木「リンゲル、全開! 輸血もしよう!」

舞園「リンゲル全開にしました! 輸血も用意してあります!」

石丸「どうする? 昇圧剤を打った方がいいのだろうか……?!」


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……

狼狽える石丸にKAZUYAが鋭く指示を飛ばす。


K「まだ大丈夫だ。それより他に出血点がないか確認しろ! 腸に変色はないか?」

石丸「変色? ……あ、あります!」

K「出血が止まっていないから組織が壊死しかけているのだ。出血を止めろ!」

石丸「止めろと言われましても……」

苗木「石丸君! ヘラ、借りるよ!」

石丸「あ、ああ……」


バトンタッチした苗木がヘラで再び丁寧に腸を確認する。


苗木「あった! 小さいけど、ここが裂けてる!」

石丸「何だと?!」

桑田「よし、じゃあそれを塞げばいいんだな? とっととやっちまおーぜ」

苗木・石丸「…………」


しかし二人は同時に浮かない顔をした。


桑田「どした? 早く縫っちまえよ」

石丸「無理だ。僕達の縫合技術は高くない。内臓、それも特に繊細な腸を縫うなんて無理だ」

苗木「失敗したら、かえって傷が広がると思う」

桑田「ハァ?!」

十神「フン、当然だ。貴様、こいつらが素人だということを忘れていないか?」

桑田「じゃあ、どーすんだよ!」


石丸「先生の手が空くまで輸血と昇圧剤で繋ぐしか……」


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……

混乱する生徒達に、KAZUYAは落ち着いた低い声で話し掛ける。


K「――もっと良い方法がある」

苗木「え?!」

K「傷の前後を丸々結紮すれば良い!」

石丸「なっ?! そんなことをすれば挟まれた部分の血流が止まって壊死してしまいます!」

K「壊死した部分は後で切除して繋げればいい。人間は腸を十センチ失ったくらいで死にはせん!」

苗木「ほ、本当にいいんですね?」

K「開腹した時に大まかな状態は把握した。出血箇所が多かったり内臓をやられていたら不味かったが、
  幸い刺された箇所は一ヵ所で重要な臓器は外れていた。時間稼ぎ程度なら問題ない。やれ!」

石丸「では、指示通り結紮します!」

K「止血に成功したら自然と血圧も回復するはずだぞ。要は俺がそちらに行くまで保てばいいのだ」


石丸はKAZUYAの指示通り傷の前後を鉗子で丸々結紮する。


十神「……成程、確かに底を打ったようだ。安定はしている」

石丸「では、ひとまずは……」

苗木「安心てこと、なのかな」


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……

他方、KAZUYAの方も正念場を迎えていた。


K「出血箇所を電気止血器で止血する!」

不二咲「どうぞ」

K「ウム」

大和田(こんなちっぽけな傷、本当に止血できんのかよ……)


目を逸らしながらも、大和田はちらちらと山田の剥き出しの脳を見る。
マスクをしていても尚鼻を刺激する、強烈な血の臭いと悪臭で気分が悪かった。

ジュッという何かが焦げる音がする。KAZUYAは既に電気止血器を下ろしていた。


K「吸引器」

不二咲「はい」


KAZUYAの指示に呼応し、不二咲は吸引器をKAZUYAに手渡す。


K(流石不二咲だ。初見の機械でも問題なく使いこなせている。何よりスピードを求められる
  この手術を俺一人で全てこなすのは正直辛かったから、補助があって助かった……)

K(だが、山田の傷は……)


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ……


K(…………)

K(……今はオペに集中しよう)


止血と吸引を終え硬膜を閉じ、KAZUYAは外した頭骨を戻して傷を丁寧に縫い上げている。


K「よし! 山田の処置は終わった。安広の方に移るぞ!」


KAZUYAは身を乗り出して傷を確認し、苗木は後ろに下がってKAZUYAに譲った。


石丸「……あの、どうでしょうか」

K「止血は問題なく済んでいる」

石丸「フゥ、それは良かっ……」

K「続きだ。壊死した腸を切除しろ」

石丸「えっ?!」


後は全てKAZUYAが引き継いでくれるものと思って安心していた石丸の顔が引き攣る。


K「医者が一度受け持った患者を投げ出してどうする。どうしても技術的に
  無理なことは俺がカバーするが、それ以外は二人にやってもらうぞ」

K「折角だ。安広にも二人の訓練に協力してもらう」

十神「……医者の発言とは到底思えんな」

桑田「ヤハー……俺達だけだからいいけど、他のヤツらが聞いたらドン引きしてるとこだぜ、せんせー」

K「治療費の代わりと思えば安いものだ。ほら、どの剪刀(せんとう:ハサミのこと)を使う?」

石丸「え、あ……」

苗木「やっぱり、ここはクーパーかな」

K「よし。苗木、ここを切断しろ」

苗木「はい」


石丸の方はしどろもどろになりながらも、何とか二人にやらせ縫合はKAZUYAのみ行う。


K「癒着した腹膜を剥がすにはメッツェンを差し込んで開けばいい。やってみろ」

石丸「は、はい」

K「腹膜の処理は慣れるまで非常に難しい。大体初心者がつまづく所だし、
  プロでも処置の仕方で技術がわかるというものだ。よく見ておけ」

霧切「知識があれば応急処置に活かせるかもしれないわね」

舞園「しっかり見させてもらいましょう」

K「これが胃だ。これが右胃大網動脈。奥の方に、見えづらいが肝臓。下にあるのが胆嚢で……」

十神「…………」

大和田(いつのまにか全員で仲間の腹の中を見てる今の状況がこええ……
     目をそらしてる不二咲以外は平然としてやがるし)

桑田「……あらためて医者ってすげーと思うわ、マジで」


見せられるだけ体の内部を見せ、KAZUYAはセレスの傷口を縫合していく。


K「最後の二針はお前達で縫え」

苗木「えっ、いいんですか?」

石丸「しかし、僕達の腕では綺麗に出来るか……」

K「どうせここから出たら全員綺麗にするんだ。多少の引き攣れなら問題ない」

苗木「わ、わかりました」

苗木(女子の肌を縫うのか……気をつけないと)

石丸「う、うう……失敗しても恨まないでくれ……」


そして緊張の中最後の一針を縫い、糸を切った。


ここまで。



!      手      術      完      了      !



K「――終わったな」

「…………」

K「手術完了(オペレーション・オーバー)だ!」


全員が呆けた顔をしていたので、KAZUYAは喝を入れるように手術の終わりを宣言する。


大和田「お、終わったのか……」

不二咲「長かったねぇ……」

舞園「二人共、大丈夫ですか?」

苗木「疲れた……本当に」

石丸「…………」

霧切「石丸君、大丈夫?」

石丸「…………」

大和田「おい、兄弟。どうした?」

桑田「気が抜けちまったんじゃねえの?」

K「石丸?」

石丸「…………うっ!」


石丸は急に口元を手で押さえると、バネ仕掛けのように飛び上がって廊下に駆け出す。
しかし間に合わなかったようで、苦しそうな呻き声が聞こえた。


石丸「おえぇぇええぇえええええ! ゲホッゴホッ、ゴホッ!」ビチャビチャ!

桑田「ちょ、ゲロかよ……」


霧切「今までは極度の緊張のお陰で吐き気を抑えていられたのね」

不二咲「あ、う……安心したら、僕も気分悪くなってきちゃった。ちょっとトイレに……」

十神「フン、男のくせに情けない」


何でもないような顔をしているが、十神の白い顔も血の気が引いて青くなっていた。
本当に全く影響がないのは、KAZUYAと霧切だけのようだ。しかし、惨殺死体に慣れている
霧切も仲間の生死がかかった手術というシチュエーションにやや疲れを見せている。


不二咲「うう、弱くてごめんねぇ……」

舞園「気にしたら駄目ですよ」

桑田「おう。俺もちっと気分わりいし、どーせ十神も強がってるだけだろ」

大和田「まったくだぜ。お前らはそっちに集中してたから良かったけど、俺らは
     生で脳みそ見てんだぞ、脳みそ! ヤベ、思い出したら俺まで気分が……」

K「無理をするな。男だから女だからは関係ない。大体最初の解剖で具合が
  悪くなる生徒が出るものなんだ。逆に、女生徒の方が意外と平気だったりな」


KAZUYAは立ち上がると廊下に行き、その場でうずくまっている石丸を介抱した。


K「大丈夫か?」

石丸「ゲホッ……す、すみません……迷惑をかけてしまって……」

K「気にするな。初めての手術にも関わらず見事な手際だったぞ」

石丸「でも、医師を目指しているのに……こんなことでは……」

K「今度俺の同期の話でもしてやる。今でこそみんな一人前だが、酷い失敗談もたくさんあるぞ?」


背中をさすってやりながら、KAZUYAはぎこちなく笑いかけた。まだ山田の件もあるが、
少なくともセレスは助かったのだ。それも生徒達の手で。その点は素直に喜ばねばなるまい。


舞園「廊下は私達が掃除しておきますから、先生はみんなの看病をしてください」

苗木「僕、不二咲君の様子を見てきます!」

大和田「俺は少し休ませてもらうぜ」

K「頭を下にし、深呼吸だ。吐き気が酷くないなら栄養ドリンクで水分を採るのもいいぞ」

十神「……フン」


具合の悪そうな石丸に肩を貸して保健室に戻ると、KAZUYAはテキパキと
冷蔵庫から飲み物を出したり汚れた床を掃除して器具の消毒をしたりした。

少しして苗木がまだ顔色の悪い不二咲を連れて帰り、ようやく彼等は一心地つく。


十神「……で、今回の場合学級裁判はどうなるんだ?」

苗木「あれ? そういえばモノクマは……?」


手術が始まってから一言も声を聞いていないので、既にどこかへ去ったのかと思った。

――だが、モノクマはいた。


現れた時と全く同じ場所で、無表情のまま沈黙を保っていた。
いつも騒がしいこの人形が無言なのはただただ不気味で不吉である。

顔色からは――無機物だから当然なのだが――何を考えているか伺い知ることは出来ない。


モノクマ「…………」

苗木「モノクマ……」

モノクマ「…………」


桑田「なんだよ、気味わりぃな……なんか言えよ」

モノクマ「……え? あ、なに? 学級裁判? あ、ああ……そうだね……」

「…………」


その反応は、いつもとは明確に違っていた。

さながら、楽しみにしていた玩具を手に入れた瞬間目の前で叩き壊されたようだった。
普段の彼或いは彼女ならその絶望的な感情すら楽しむ所だが、今回はあまりに予想外過ぎたのだ。
また、今まで散々退屈な時間を待たされ我慢し続けていたということもある。

――詰まる所、モノクマにとって今回の件は絶望より怒りが上回ったのであった。


K「…………」

モノクマ「どーしようかねぇ。死体発見アナウンス流しちゃったしなー」

霧切「山田君の状態によるのではないかしら? もし彼がすぐに目を覚ますなら、裁判は無意味よ」

モノクマ「それもそうだね。で、山田君の容態はどんな感じな訳?」

K「……わからない。今回は不二咲の時より更に深刻だ。俺ですらいつ目を醒ますか
  予想もつかない。ちなみに、今回ばかりは本当だ。ここにはCTも脳波計もないしな」


頭部による打撃の恐ろしい点は、必ずしも打撃を受けた場所に出血する訳ではないということだ。

脳は頭蓋の中にぎっしり詰まっているのではなく、脳脊髄液(のうせきずいえき)という
液体の中に浮かんでいる。そのため、強い衝撃を受けると慣性によって反対側の頭骨に衝突し、
そちら側にも脳挫傷(のうざしょう)や出血を起こすことがある。

このように打撃の反対側に生じる損傷を反衝損傷(はんしょうそんしょう)と言うが、
検査をしていない以上山田の脳内でそれが起こっていないとは断言出来ないのだ。


モノクマ「じゃあほっとけば死ぬ可能性もある訳だ? もしくは、死ななくても一生このままとか」

K「……その可能性はないとは言えん」

石丸「そんなっ! 折角手術したのに!」

大和田「マジかよ……」

モノクマ「ふーん?」


その言葉で、モノクマは少し機嫌を直したようだ。頭の後ろで手を組みながら、
今後のことを思案する。一つ予想外なことと言えば、桑田が割って入ったくらいだ。


桑田「でもさ、今回は裁判やる意味なくね?」

舞園「どういうことですか?」

桑田「――だって、もう犯人わかってるし」


その発言に大きく場がどよめく。


石丸「何だとっ?!」

不二咲「えっ?!」

大和田「誰だ! 誰が犯人なんだ!!」

霧切「それは恐らく……」

十神「十中八九、今の段階でも姿を現さない奴が犯人だろうな」

苗木「それって……!」

K「――その通り」





桑田「犯人、葉隠だろ?」



誰もが既に予想した衝撃の事実……!


短いけどここまで。

1は夏バテ気味です。最近暑いけど皆様もお体には気をつけて。


時刻は、手術の少し前に遡る――


―やっちまった……

―やっちまった。


―あぁっ! やっちまったぁぁぁ!!


葉隠康比呂は自室で盛大に頭を抱えていた。


「なんでこんなことになっちまったんだべ……」


自分は法にギリギリ触れそうなことはするが、完全にアウトなことはしてこなかった。
確かに真面目な人間とは言い難いが、一応真っ当にやってきたはずだと唸る。

……実際には色々アウトなこともしてきたのだが、葉隠本人は少なくともそう思っていなかった。


(あぁ、母ちゃん……)

『康比呂が本当は優しい子だって母ちゃん知ってるからね。ただ、お前は母ちゃんに似て
 少しやんちゃだから、警察の厄介になるようなことだけはするんじゃないよ』


思い浮かぶは母・葉隠浩子の姿である。浩子はいつもどんな時でも常に自分の味方をしてくれた。
それは正直甘やかしの領域にも入っていたが、その深い母の愛を受け葉隠は母を慕っていた。


(でも殺人はさすがにヤバいよなぁ……)


母ならきっと何か深い事情があったのだと言って味方してくれるだろう。
しかし、いくら葉隠が自分に甘すぎる男とは言え、全く常識がない訳ではない。

やはり殺人はアウトだ。


(舞園っち達だってなんかいつのまにか許されて馴染んでるし、俺も時間が経てば
 なんとかなるか? ……でも今まではなんだかんだ死人は出てなかったしなぁ)


今すぐ保健室に行って助けを求めるか?


(いや、セレスっちはともかく山田っちはムリだべ……時間も経ってるし、
 大体K先生は一人しかいねえ。二人急患が出ても助けられるのは一人だけだ)


普段はけして頭が良いとは言えない葉隠だが、昔から妙なところで計算高かった。
この強かさや土壇場で発揮するしぶとさでどんな窮地も逃げおおせてきたのだ。


(……大体、仮に二人共助かってもよりによってセレスっちと山田っちだもんなぁ)


そう、似た者同士だからこそよくわかる。その二人は簡単に許してくれるような人間ではない。
思えば、過去に事件に巻き込まれた苗木も石丸も不二咲もお人好しの部類に入る。桑田は簡単に
許す人間ではなかったが、加害者でもあることとKAZUYAが間に立ったことで状況が変わった。


(あー、どうする。絶対許してくれねえ……俺だったら慰謝料一億くらい要求するべ)

(……そもそも助からねえか。夜は集まることになってるし、校舎には誰も行かないはずだべ)

(…………)


この時、葉隠の頭にある邪な考えが浮かんだ。


(二人には悪いが、この際しらばっくれちまうか? 俺が捕まってもどうせ二人は生き返らねえんだ……)

(……いや! 毒を食らわば皿まで! この際徹底的に否認してやるべ!!)


(俺は……俺は絶対に逃げ切ってやるからな!!)


この時、葉隠が少しでも反省して今の状況を振り返っていれば、彼はある重要な事実に
気が付いたはずであった。しかし、彼は持ち前の保身と自分への甘さで逃げることを選択した。

このことが、裁判に余計な混迷をもたらすこととなるのである。


ピンポーン。


「! だ、誰だ?!」


心臓が早鐘のように鼓動する。


(落ち着け……俺がやったなんて証拠はないはず。目撃したセレスっちも口封じに刺しちまったし……)

「逆にここで俺が出なかったら変に思われるべ。ここは冷静に、冷静にだな……」


葉隠は深呼吸していつもの軽薄な笑みを浮かべると、ドアを開けた。


「おー、誰だー?」

「……我だ」

「オォォガアアァアアァァアアアッ?!」


ギョッとして反射的にドアを閉めようとするが、桑田が割って入るのが早かった。


「葉隠。俺達さ、おめーにちょっと聞きてーことがあんだけど」

「ない! ない! 俺から話せることはなんもねえべ!!」

「この反応……なあ」

「……どうやら、この男が重要参考人なのは間違いなさそうだな」

「なんのことだべ?! 俺はなんにも知らねえ!」


その時、タイミングの悪いことにあの悪夢のようなアナウンスが流れた。



『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました。一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


「!!」


「あ、あぁ……」

「山田……マジかよ……」


一瞬呆けた顔をし、力が抜けていく桑田をKAZUYAの代わりに叱咤したのは大神だ。


「待て、冷静さを失ってはならぬ。一度は死んだが蘇生した不二咲の例もあろう!」

「……そう、そうだな。落ち着け、落ち着け俺!」

(決めつけはやめろ……俺だって前に似たようなことがあったんだ)


桑田は自分に言い聞かせるように呟き、大きく息を吸い込む。


「……俺達はおめーの身柄を確保するためにきたんだよ」

「だからなんでだべ?!」


自分でも白々しいと思いながら葉隠は抵抗を試みようとする。しかし、どだい無理な話だ。
何せ相手は哺乳類ヒト科最強、オーガこと大神さくらと天才アスリート桑田である。


「なんでって、セレスがおめーに刺されたって言ったんだよ!」

「……!」


生きていたのか!と、葉隠の中に安堵と絶望の気持ちが同時に湧き上がる。
それでも逃げなければ、と半ば本能のように葉隠はうわ言めいて否定を繰り返す。



「違う……俺じゃない……」

「……おめーがやったのか? 山田も?」

「し、知らねえ……俺は、なにも……」

「舞園の件もある。お主にも言い分があろう。故に、お主を見張るため我が遣わされたのだ」

「手術が終わったらせんせーがいろいろ聞きに来ると思うから、おめーはしばらく頭冷やしとけ」


だが、大神は一瞬思案顔をして桑田を振り返った。


「桑田、見張りは我一人で問題ない。お主は他の者を手伝いに行くといい」

「そりゃ大神なら一人でも十分だろうけどさ。俺が行ってもたいして役に立たねーし……」

「いや、お主は保健室の内部によく通じているし応援だけでもしてやれ」

「応援って……」


いらないだろ、という視線に大神は首を横に振る。


「西城殿の性格を考えれば、恐らく執刀は苗木か石丸にやらせるはず」

「いやいやいや、いくらなんでも……」

「……そういや先生、前に自分の体を切り刻ませてたぞ。練習っつって。頭おかしいべ」

「マジか……」


保健室の隅にこっそり置いてあった血まみれの包帯が頭をよぎった。確かに、KAZUYAならやりかねない。


「わかった。俺はなんもできねーけど、あいつらがテンパった時に
 横で落ち着けって言ったり励ますくらいならできるしな。行ってくる!」


ガチャッ! バタン!


「…………」

「…………」


桑田が去ったことにより、より一層重い空気が二人にのしかかる。


「……なあ」

「今は何も言うな」

「でもよ……」


沈黙に耐え切れず、葉隠は誰にともなく呟いた。


「……なんで、こういうことになっちまうのかなぁ?」

「我が聞きたいくらいだ」

「オーガ?」

「…………」


苦い顔をしたまま彼女はジッと虚空を睨んでいる。

それ以降、大神は一言も話さなかった。


               ◇     ◇     ◇


そして再び舞台は保健室へと戻る。


桑田「犯人、葉隠だろ?」

大和田「本当か?!」

舞園「葉隠君が……?! 嘘ですよね?」

K「安広は気絶する前確かに葉隠に刺されたと言った。それで事情聴取のため身柄を
  確保しようと桑田と大神を葉隠の部屋に行かせ、現在は大神が一人で見張ってくれている」

霧切「だから大神さんは手術中一度も姿を見せなかったのね」

K「そうだ」

十神「奴らしいつまらん結果になったな。まあ、どうせ計画性のカケラもない衝動的な犯行だろう」

苗木(葉隠君の場合、絶対ないって言い切れないのが辛いよな……)

大和田「あいつ、刃物ぶん回してた時もあったしな……」

石丸「信じたくはないが、被害者であるセレス君の証言があるのならほぼ確定と見ていいだろう」

舞園「葉隠君、大丈夫でしょうか。自棄を起こして自殺したりとか……?」


経験者だからだろうか。青ざめた舞園の言葉は真に迫るものがあった。


十神「問題ない。ああいう輩は人を傷付ける度胸はあっても自分を傷付ける勇気はないからな」

K「そういう言い方をするな。あいつは臆病だ。きっと、臆病過ぎるが故に問題を起こしたのだろう」

モノクマ「うぷぷ……」


この時点でKAZUYAは知る由ももないが、実際その通りなのであった。
葉隠の臆病さ、そして過度の保身が結果的にこの事件を引き起こす切欠となったのである。

生徒の特性をよく把握するモノクマにとって、葉隠は利用しやすい駒であったのだ。


十神「どうだか。貴様等が知っているかは知らんが、あの男は本当にどうしようもない奴だぞ?」

石丸「十神君! 仲間の悪口を言うべきではないぞ!」

十神「フン。犯罪者を仲間扱いすることについて今更どうこう言うつもりもないが、奴の
    お陰で俺達はまた学級裁判の脅威にさらされるんだ。恨み事の一つくらい言わせろ」

大和田「まあ……確かにあいつ、ちょっと問題あるところもあったしな」

桑田「ぶっちゃけいつかトラブル起こすとは思ってたわ。まさか殺人未遂だとは思わなかったけど……」

モノクマ「つまり今回の裁判は葉隠君の公開糾弾会になる訳だ。いいねぇ! 非常にそそられるよ!
      楽しい疑心暗鬼や激しい議論こそないものの、セレスさんは鬼のように責めるだろうし!」

苗木「そうやってまた僕達の結束を乱すつもりなんだな!」

モノクマ「乱すって何を? 風紀? 敵が一人いれば残りは結束するんだよ?
      むしろオマエラにとって願ったり叶ったりじゃないの!」

K「ふざけるな! そんな歪な結束はかえって不和の元だ!」

不二咲「それに葉隠君の言い分も聞いてあげようよぉ。何かあったのかもしれないし……」

霧切「相手がセレスさんだから厳しいけど……正当防衛の可能性もなくはないわね」

K「俺達は何よりもまず事件の状況を確認し、正確に把握する必要がある。憶測で語るべきではない」

モノクマ「ま、そのへんは自分達で捜査してよ。そのための捜査時間なんだから」

K「しかし、安広は腹部を刺されている。裁判への出席はドクターストップをかけさせてもらうぞ」

桑田「ドクターストップ、ってことは欠席か」

モノクマ「ハア?! 冗談じゃないよ! 久しぶりに面白そうなものが見れそうなのに!」


苗木「ふざけるなよ! セレスさんと葉隠君をぶつけて潰し合わせる気なのはわかってるんだぞ!」

K「――いや、俺は裁判の延期を提言する」

舞園「先生?」

K「安広には出席して意見を言う権利がある。俺達が口を挟む問題ではない」

桑田「……まあ、そりゃそうだな」

モノクマ「延期ぃ? ボクは別に構わないけどさ、日にちが経てば経つほど記憶は
      曖昧になっていくものだし、また誰かさんが余計な横槍入れるかもよ?」

大和田「横槍なんていれようがねえだろ。犯人は葉隠で決まりなんだからな!」

K「……いや、待て。そうとも限らん」

石丸「しかし先生! セレス君の証言もありますし……」

霧切「セレスさんを刺したのが葉隠君でも、山田君を襲ったクロも葉隠君とは決まってないわ」

石丸「何だとっ?!」

霧切「今回の裁判で暴かなければいけないのはあくまで【山田君を襲った犯人】よ。
    セレスさんの事件とは切り離して考えるべきだわ」

舞園「まさか……別の誰かが?」

不二咲「そんな……」


KAZUYAは回想する。倒れ込んだセレスに駆け寄った時、彼女が何と言っていたか。


セレス『葉隠君に……刺されました……』

セレス『まだ、娯楽室に……山田君が……』


K「…………」


K「俺が安広から聞いた言葉は『葉隠に刺された。娯楽室に山田がいる』だけだ。
  山田が葉隠に襲われた、とは聞いていない」

十神「つまり、平然とした顔でクロがこの場に紛れ込んでいる可能性もある訳だ?」

桑田「その場合オメーが一番怪しいんだけどな!」

霧切「真相を明らかにするために一刻も早く捜査をする必要があるわね」

不二咲「でも、証言とかはセレスさんの体調が落ち着くまで待ってあげたいなぁ……」

K「三日だけ裁判を待ってくれないか。ナイフが小振りだったからか、幸い安広の腹の傷は
  そこまで大きくない。三日あれば、なんとか裁判に参加出来る程度には回復する見通しだ」

K「……仮に山田が助かるとしても、恐らく数日は目を醒まさんだろう。だから裁判には支障ない」

モノクマ「三日ね。いいでしょう。ボクは気が長いから待ってあげるよ」

K「…………」

K(やけに素直だな……何かあるのか?)

十神「冗談じゃない。現場の見張りはどうする? 交代で寝ずの番でもさせる気か?」

大和田「しょうがねえだろ! 犯人が証拠隠滅しちまったらまずいしよ」

十神「原人並みの知能しかないお前達はもう忘れているかもしれんが、容疑者の葉隠の
    見張りもしないといけないんだぞ? 一度に何人必要か計算出来るか?」

K「ムゥ、確かに安広、山田、葉隠と三人も同時に抜けてしまうからな……」

舞園「西城先生は保健室から離れられませんし、現場に二人、葉隠君に二人だとして……
    三回に一回順番が回ってくる計算ですね。大変ですけど、出来なくは……」

桑田「たりーけどやるしかねえだろ」

十神「無意味だろ。捜査時間自体は本来短いはずなのに、余計な時間も見張りをさせるとは」

苗木「まあ、それはもっともな意見だと思うけど……」

石丸「みんな我慢するのだ! 十神君も我慢したまえ!!」

モノクマ「もう、しょうがないなぁ。……じゃあ今回だけは特別ルールとさせてもらうよ」

「特別ルール?」


短いですがここまで。


【報告】

そろそろ裁判が煮詰まってきました。クッソ長くなりそうな予感です
コトダマが全て出揃い次第捜査編を書き溜めします。

恐らく次スレの半分以上は捜査編と裁判で埋まるはず。
もうしばらく亀更新ですがお許しを。それでは


               ◇     ◇     ◇


朝日奈「遅いね……二人共大丈夫かな?」


煌々と明かりが灯っているものの、どこか暗さを感じさせる娯楽室に三人の少女はいた。
最初は入り口付近に立っていたのだが、今はソファに向き合って座り俯いたり壁を見つめている。


江ノ島「あの西城が手術するんだから大丈夫っしょ」

腐川「それより、一体いつまでここにいなきゃなんない訳……!
    血の臭いはするわ、薄気味悪いわ。一刻も早く戻りたいものね」

朝日奈「本当だったら今頃楽しいパーティーだったのに、なんでこんなことになっちゃったんだろう……」

江ノ島「そんなの、誰かが山田とセレスを襲ったからに決まってるじゃん」


朝日奈の弱音に、イラついたような呆れたような口振りで江ノ島は言い捨てた。


朝日奈「それはわかってるけど……」

腐川「元気と胸の大きさしか取り柄のないバカが湿っぽい顔するんじゃないわよ。
    ……どうせ後で嫌と言うほど険悪な空気を味わう羽目になるんだから」

朝日奈「わかってるよ。……というか、元気と胸しか取り柄がないって酷くない?!
     バカなのは否定しないけどさ!」

江ノ島「そこは否定しなよ……あ、そういえばアタシも言いたいことあるけど
     人を汚ギャル扱いするのやめてくんない? あんたよりよっぽど清潔にしてるし」

腐川「そうかしら? ……あんた、自分のやりたいことのためなら
    一週間くらい普通にシャワー浴びなさそうな顔してるわよ」

朝日奈「えっ?! そうなの?!」

江ノ島「ちちち、違うよ! 確かにちょっとホームレス生活してた時はあるけど、
     それは特別な時で普段はちゃんと入ってるし!」

朝日奈「ホームレス生活って……」


言い訳をしたつもりが墓穴にしかなっておらず、朝日奈が引いた顔で見ている。


腐川「フン、どうかしらね。なんにしろ、よりによって運動バカと頭も尻も軽くて化粧が濃くて
    ただ派手なだけのギャルと一緒に待たされてるこちらの身にもなってよね……!」

朝日奈「言い方変えたらかえって悪口増えた?!」

江ノ島「あ、あんたねぇ……!」


反論しようとしたが、江ノ島は言葉が浮かばず黙り込んだ。作家なだけあって口では腐川に敵わないのだ。
しかし、そんな江ノ島の様子には少しも拘泥せず、腐川は腐川で悔しそうに溜め息をつく。


腐川「ハァ……血液恐怖症さえなければ、西城が格好良く手術している姿を見られたのに……」

朝日奈「あれ? 腐川ちゃん、もしかしてKAZUYA先生のこと好きなの?」

腐川「ば、ば、馬鹿言ってんじゃないわよ! あたしはいつだって白夜様ラブに決まってるでしょ!
    白夜様の魅力を書かせたら文庫本十冊でも足りないわ。シリーズ化して捧げたいくらいよ!」

朝日奈「十神なら拒否しそうだけど……」

江ノ島「つーか、そこまでやったらむしろ高度な嫌がらせじゃない?」

腐川「ただ、そうね……西城には色々してもらったし二、三冊なら書いてあげてもいいわよ?」

朝日奈「それ好きじゃん! すごい好きだよ!」

腐川「えっ?! べ、別にそんなんじゃないわよ……? マッチョも悪くないかな、なんて
    思ってないから。あの有り得ないマントも別に格好良く見えてきたりなんてしてないし」

江ノ島「あ、あんた……しっかり毒されてるよ! なに? もしかしてツンデレってやつ??」

腐川「ええええっ?! ちちち違うわよ!」


ガチャッ。

その時、扉を開けて二人の人間が室内に入ってきた。


大和田「騒がしいな……」

霧切「…………」


江ノ島「あ、大和田じゃん!」

朝日奈「霧切ちゃんも!」

大和田「女が三人集まればなんとかって言うけどよ、事件があった直後だぞ?」

朝日奈「あ、ごめん……不謹慎だったね……」

大和田「あー、いや、責めてるワケじゃねえ。俺達が落ち込んだってどうしようもねえしな……」


大和田は気まずそうに頭を掻く。


腐川「そ、それで? 二人はどうなった訳?」

霧切「大和田君、説明は任せるわね」スッ

大和田「おう」


三人の対応を大和田に任せ、霧切は血が散乱する床に屈みこんだ。


江ノ島「なにやってんの?」

霧切「私のことは気にしないで。大和田君が説明してくれるから」

朝日奈「二人とも大丈夫だった?」

大和田「セレスは問題ない。ただ、山田がな……」

江ノ島「山田が、なに?」

大和田「昏睡状態だ。今回ばかりは目を醒ますか醒まさねえのかセンセイにもわからねえらしい」

朝日奈「そんな……」

大和田「突然急変して死ぬかもしれないし、逆に二、三日すれば普通に目を醒ますかもしれねえ、
     だそうだ。……ただその場合も後遺症があるかもしれねえらしい。とにかくかなり悪い」

腐川「じゃ、じゃあ一生昏睡状態ってことも……」

大和田「――ないとは言えねえ」

「…………」


三人とも沈黙した。室内では、霧切が作業する何らかの音だけが聞こえる。


江ノ島「ねえ。モノクマはなにか言ってた? 今回の学級裁判はどうなるの?」

腐川「嫌なこと思い出させんじゃないわよ! ……そ、そうよね。
    あのアナウンスが鳴ったんだから、やっぱり裁判するのよね……」

朝日奈「また捜査しなきゃいけないんだ……」

大和田「そのことなんだが、いっぺん引き上げて来いって話だ」

腐川「ハァ?! 現場保全はどうすんのよ……!」

大和田「怪我人とか具合の悪いヤツが多すぎてまともに捜査できねえから、
     今回だけ特別措置としてしばらく三階ごと封鎖するんだってよ」


大和田はモノクマの提示した特別ルールについて説明した。


『特別ルール?』

モノクマ『そう。すなわち、セレスさんが裁判に復帰出来る三日後まで
     【三階ごと事件現場を封鎖】します!』

K『成程。現場のある三階に行けなければ証拠を隠滅することは出来なくなるからな』

苗木『だけど、もし三階以外に証拠があったらどうするんだよ』

モノクマ『知らないよ。どうせ学園全部に見張りを置くなんて出来ないんだしさ』

霧切『そうね。それは私達で対処していくしかない。仮に証拠を隠滅しても、
    ここが密室である以上隠滅したらしたで何かしら別の痕跡が残るはず……』

不二咲『あ、でも……もし証拠が時間経過で消えるものだったら……』

十神『完全犯罪になるな?』

桑田『おいお前! 犯人助けるためにそんな提案したんじゃねーだろうな!』

モノクマ『ショボーン。ボクって信用ないなぁ。ゲームに対しては公平なつもりなんだけど。
      じゃあ、封鎖するまで少し時間をあげるから今調べてきたら?』

舞園『三日間見張り続けるのは大変ですし、そうするしかないみたいですね……』


モノクマ『まあ、三日後にまた改めて捜査の時間は取るよ。つまり今回は
      前回よりも余分に捜査出来るという訳です! ボクって太っ腹~!』

石丸『ならば文句も言えない、か……』


こうして、最低限の捜査を済ませたら三階は封鎖するということになった。


江ノ島「モノクマがそんなこと許したの?!」

朝日奈「え? でも、証拠とか消えたりしないかな?」

大和田「それで、少しでも見落としが少なくなるように今霧切が調べてんだよ。
     ちなみに他のヤツらは別の部屋を手分けして調べてる最中だ」

霧切「…………」

大和田(兄弟は全員で娯楽室を調べた方がいいって言ったんだが、ジャマだって
     一蹴されちまったんだよな……センセイも霧切のことを信頼してるみてえだしよ)

朝日奈「そっか。霧切ちゃんて前の裁判の時も活躍してたし、捜査とか得意そうだもんね」

大和田「とにかくモノクマが、山田はともかくセレスは絶対に裁判に
     参加してもらうって言ってたしな。葉隠も年貢の納め時ってヤツだ」

腐川「は? どういう意味よ?」

大和田「わかんねえか? セレスは犯人に刺された後自力で保健室まで逃げてきたんだぜ?」

朝日奈「あ、もしかして!」

江ノ島「犯人の顔を見てるってこと?!」

大和田「そうだ。セレスは葉隠に刺されたって言った。……山田はまだわからねえがな」

江ノ島「じゃあ山田を襲った犯人も葉隠で決まりじゃん!!」

腐川「あのバカ! いつかやらかすと思ってたわよ……!」

朝日奈「許せない!! 絶対葉隠が犯人だよ!!」

大和田「えーっとだな……」


まだ確定した訳ではないと念を押されたものの、大和田自身葉隠を強く
疑っていたのではっきり否定は出来ないのだった。そこに凛とした声が割って入る。


霧切「まだ決まった訳じゃないわ」

朝日奈「霧切ちゃん! でも……!」

霧切「葉隠君が今回の事件で大きな問題を起こしたことはまず
    間違いないことだけど、それだけで全て決めつけてしまうのは早い」

腐川「でも、セレスを刺したのは確実なんでしょ?」

霧切「…………」


そう問われると、霧切は顎に手をやったまま無言で考え始める。


朝日奈「絶対葉隠だって! ひどい……女の子を刺すなんて許さない!」

大和田「まあ、そうだよな。あの野郎、タダじゃおかねえ……!」

江ノ島「サイッテーだよね!」

霧切「その辺にしておきなさい。モノクマの思う壺よ。モノクマは
    今回の裁判を葉隠君の公開処刑裁判にしたいみたいだから……」

腐川「望む所だわ! 前々からアイツに色々言いたいことがあったのよ……!」

霧切「…………」


霧切は密かに溜め息をついた。日頃の行動というのは大事だ。
彼女自身、葉隠を庇いきることは出来ないし、そこまでの義理もないと考えてしまうのだから。

――果たして、今度の裁判はどうなってしまうのだろうか。そして葉隠に未来はあるのか。


               ◇     ◇     ◇


一方、大神に進捗を伝えるため桑田と舞園は葉隠の部屋に向かっていた。


舞園「あれ、大神さん?」

大神「ム、桑田に舞園か」


何故か大神は葉隠の部屋の前の廊下に立っていた。


桑田「おい、見張りはどうしたんだよ?」

大神「……いや、少し一人にして欲しいと葉隠に言われてな。奴も整理したいのだろう。
    安心せよ。鍵は我が持っているから、中にはいつでも入れる」

舞園「一人にして大丈夫ですか?! 自殺したりとか……」


舞園の焦りは経験者らしい心配であった。


桑田「大丈夫だろ。あいつ、そんなことできるタマじゃねーし」

舞園「一応メモを持って来たんですが、正解だったかもしれないですね……」

大神「メモ?」


話しながら舞園はメモをドアの下から差し入れた。


舞園「はい。とにかく今は葉隠君を落ち着かせることを最優先にした方がいいと思って」

舞園「きっと今、凄く混乱してると思いますから……私達は怒っていないということと、
    なるべく早くみんなに謝った方があなたのためにも良いと説得します」

大神「まずはお互い冷静にならねば話にならんからな。こんな状況の時にみんなで
    責め立てれば動転して何をしでかすかわからん。また暴れられてはたまらぬ」

桑田(否定できねー……)

桑田「ま、あいつはムリヤリ引っ張り出すよりも安全地帯にいた方が冷静に
    なれるタイプだと思うし、問題は他のヤツらじゃねーの?」

大神「……そうだな」

舞園「葉隠君については、みんなにちゃんと謝れるよう私と大和田君で誘導します」

大神「大和田もか。……そうだな、あやつが一番今の葉隠のことをわかっているだろう」

舞園「はい。何があったかまではわかりませんけど、葉隠君も後悔してると思いますし」

桑田「そもそもなんであんなバカなことしちまったんだ? 金に目がくらんだにしても、
    なにも二人も襲わなくたっていいだろーに……」


舞園「詳しい事情はセレスさんが話してくれると思います。彼女は全て知っているはずなので」

桑田「セレス待ちか。とりあえず、それまでどうするよ?」


話していると、ドアの下からメモが出てきた。


大神「ム! 葉隠から反応があったぞ!」

桑田「なんだって?」

大神「まだ心の準備が出来ていない。すまないが時間をくれとのことだ」


印刷物のように綺麗な葉隠の文字が、今回ばかりは多少乱れていた。
だが、かつての舞園の文字に比べれば大分マシではある。


舞園「……とりあえず、自棄を起こしたりはしなさそうですね」

大神「逃げようにも逃げ場がないのだ。如何にあやつが往生際の悪い男でも腹を括る他あるまい」

朝日奈「さくらちゃーん!」

大神「朝日奈か」


廊下を曲がって朝日奈が駆け寄ってきた。


朝日奈「手術の間もずっと見張ってたんだってね。お疲れさま」

大神「朝日奈達は現場の見張りをしていたそうだな」

朝日奈「うん、もう終わっちゃったけど。さくらちゃんは?」

大神「交代時間までここで葉隠を見張る。……今日は長い一日だった」

朝日奈「……そうだね」

桑田・舞園「…………」

桑田(あーあ、折角最近はいい空気だったのにな。これでまた険悪になるのか……)

舞園(モノクマさん、本当に手強いです。本当に……)


こうして見張りの大神と桑田を残して彼等は解散し、一度各自の部屋に戻った。


ここまで。いよいよ後がなくなってきた……

今数えてみたら、コトダマは前回の倍以上ありますね
捜査編を書き終え次第スレ立てしてそちらで再開します。
このスレの余りは以前リクエストされた番外編でも書こうかな

それでは、半月後くらいに……


やっと……完成した……

まだノンストップ議論とか甘い所もあるけどコトダマは出揃った。
これから捜査編の書き溜めをしてきます。あともうちょっと……

一ヶ月も更新しなかったの初めてな気がする


次スレ立てましたー

モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6
モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1444145685/)


いよいよこのSSも折り返しということでスレタイ起用は初心に帰りモノクマとKAZUYA先生

ちなみにボツになったスレタイはこちら……

モノクマ「学級裁判開始!どうするドクターK?!」KAZUYA「救えるのか、俺は…」カルテ.6

これから裁判だって言うのに暗すぎテンション低すぎなのでボツに
このスレの残りは番外編を投下していくので埋めなくて結構です。
ではまた次の投下でお会いしましょう!



モノクマは邪悪というか不敵な感じがあったら良かったな


まだ折り返しなのか

>>969
全ては文字数制限のせいなのです。モノクマ、KAZUYA、ドクターK、カルテ.6を入れるだけで
半分以上消費してしまうので、モノクマにかっこいい台詞を言わせるとKAZUYAが短い鬱台詞しか
言えなくなってしまい、最近の戦う雰囲気とそぐわない感じになってしまうかなーとボツに

あとせっかく学級裁判開くのでスレタイに学級裁判て単語を入れたかったというのもあります。

>>970
折り返しというのはストーリー的な意味で、文章量的にはもう三分のニ以上来ているはず
二章三章が最長で、四章以降はそこまで長くならない予定

まさか二ヶ月書いてないとは……不味いな。いっぺん保守
裁判前に投下したいものだ。とハードルを上げておく


IF ③  ~ もし朝日奈が殺されていたら ~


『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました。一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


――鮮血。

保健室に戻った彼等の目にまず映ったのは、清潔な床に飛び散った夥しい量の血痕だった。
それが誰のものであるかは、赤い池の中央に横たわる人間を見れば一目瞭然である。


K「朝日奈……!!」

大神「朝日奈ァアアッ!!」


KAZUYAは絶句し、大神が絶叫をあげて倒れ伏す朝日奈に駆け寄った。
その側に、石像のように立ったまま動かない人間がいる。


大和田「おい……嘘だろ……」


枯れた声を絞り出すように大和田が呟いた。
その視線の先には、純白の学生服を血に染め右手にナイフを持ったままの石丸がいた。


桑田「なんでだよ……なんでお前……」

苗木「ち、違うよ……きっと何かの間違いだって……そうだよね、石丸君……?」

不二咲「そうだよ……だって……だって!」

モノクマ「結果を見なよ~。現に凶器を持ってるじゃーん!」


あまりにも場違いな、明るい声が割り込む。全員が声の主を睨んだ。


K「モノクマ……!」

モノクマ「最近の石丸君て現実と妄想がごっちゃになることがよくあったし、
      それでつい殺っちゃったんじゃないの?」

大和田「たとえ妄想でも兄弟は人を殺すヤツじゃねえだろ!」

モノクマ「でも現に死んでる訳ですしおすし」

霧切「……ねえ、モノクマ。あなたは石丸君が犯人だと言うの?」

モノクマ「はにゃ? それがどうかしたの?」


霧切「おかしいわ。だってあなた、あれだけ学級裁判を楽しみにしていたじゃない。学級裁判の、
    特にお互いの疑心暗鬼を楽しんでいたあなたが、何故私達にあっさり答えを教えるの?」

「!」


霧切の視線は鋭い。全てを見透かすような目でモノクマを貫く。

……だがモノクマは動じなかった。事件が起こった以上、全てが手遅れなのだから。


大和田「そうだ! おかしいだろうが! 仕組まれてたんじゃねえのか?!」

モノクマ「別にボクは石丸君が犯人だなんて言った訳じゃないよ。
      ただ、状況を見たら明らかだよね?って言っただけ」

苗木「そんなの屁理屈だ!」

モノクマ「屁理屈を言ってるのは君達でしょ! プンプン。とにかく、ハイ。モノクマファイル」

K「俺達が何を言っても無駄か……」

モノクマ「そうだよ。とっとと捜査しなさい! キミ達が無為に過ごしてるその時間は
      誰かが過ごしたかった時間なんだよ! 時間を無駄にしない!」


そういうとモノクマは足早に去って行った。途方にくれた者達を残しながら……


K「……捜査を開始しよう」


絞り出すように声を出したのはKAZUYAだった。生徒達の辛さはわかっている。
だからこそ、最年長で大人のKAZUYAが彼等を導き背中を押してやらねばならなかった。


霧切「……そうね」

大和田「兄弟の無実を証明するんだ!」

桑田「ああ。石丸はこんなことするヤツじゃねーしな」

不二咲「石丸君、少し待っててねぇ……」

石丸「…………」


当の石丸は変わらず動かなかった。石像のようだ。


大神「…………」


同じく、大神も硬直していた。俯いたまま、まとまらない思考に心を苛まれていた。


大神(……本当に石丸が朝日奈を? 我にはわからぬ……)


                    ╂


十神「フン、折角学級裁判が開かれたというのにつまらな過ぎる幕切れだったな」

江ノ島「あんたねぇ、人が死んでるんだよ!」


人が死んでさえいつもと変わらない様子の十神に江ノ島が突っ掛かる。
普段だったらその役目は朝日奈だったはずだ。


大和田「兄弟が犯人だって決まったワケじゃ……」

十神「じゃあ、本人に聞いてみるか? 犯行現場で凶器を持ったまま突っ立っていたその男に。
    そいつが犯人でないなら真犯人を目撃したはずだ。――どうせ、何も言わないだろうがな」

石丸「…………」

桑田「おい石丸、なんか言えよ! お前犯人じゃねーんだろ!」

大和田「兄弟! 頼む!」

不二咲「石丸君……!」

石丸「…………」

葉隠「なんも言わないってことはやっぱり石丸っちが犯人だべ!」

セレス「葉隠君の意見に同意するのは癪ですが、わたくしも同意見ですわ」

山田「状況証拠が揃っちゃってますしねぇ。気持ちはわかりますがいささか往生際が悪いかと」

大神「……もしや、またジェノサイダーでは?」


ギロリと大神は睨む。現在腐川は血まみれの死体を見て人格が切り替わりジェノサイダーとなっていた。


ジェノ「ああん、あたしぃ? 確かにあたしは前科あるけどよ、二度もヘマするほど三流じゃねえのよ!
     カズちんにもここでは大人しくしろって言われちゃったしね。って言われて
      大人しくするようなあたしじゃないけど☆ ゲラゲラゲラゲラ!」

霧切「みんな、落ち着いて頂戴。ドクターが保健室を離れた時間はけして長くないわ。既に一度
    失敗しているジェノサイダーがそんな不確実な状況でもう一度犯行を犯すとは考えにくい」

舞園「そう、ですね。ジェノサイダーさん、こんなキャラですけど意外と頭が回るようですし」

ジェノ「意外とは余計だっつーのこの枕アイドル!」


モノクマ「誰に投票するか決まったぁ~? そろそろ投票タイムにしていい?」

桑田「おいおいおい、ヤベーって! まだなんもわかってねーぞ!」

大和田「十神……」

十神「なんだ、プランクトン」

大和田「……オメエがやったんじゃねえのか?」

十神「言うに事欠いてそれか。人を犯人呼ばわりするなら証拠を提示してからにしろ」

大和田「だったら言うけどよ! オメエもアリバイねえだろうが!」

十神「フン、それだけか? これだから愚民は……」

苗木「十神君はさ、図書室にいたんだよね? なら、先生と鉢合わせせずに殺せたんじゃないかな?」

十神「……馬鹿なことを言うな。言い掛かりも大概にしろ」

桑田「そうだ! 十神が怪しい! オメー前の事件であんなことやったしな!」

十神「いい加減にしろ……!! 根拠もない妄言で場を撹乱し、現実逃避か!」

K「…………」

十神「おい、さっきからだんまりを決め込んでるドクターK。貴様の見解を聞きたい」

K「俺は……」

桑田「せんせー!」

大和田「先公!」

K「俺には…………わからん」

十神「わからんだと? 貴様がここの議長ではなかったのか? 最年長がそれでは困るな」


十神は鼻で笑う。その姿がますます自分への憎悪を募らせるともわからずに。


K「石丸は……犯人ではないと思う」

セレス「思うでは困りますわ、先生。あなたはお医者様なのだから、それに基づいた見解をして頂かないと」

山田「そうですぞ。なんとなく、程度なら僕にだって言えます!」

K「いや、全く根拠がない訳ではない。ここにこの二週間の石丸の行動を詳細に記した俺のカルテがある」


KAZUYAが取り出したのは、もはやちょっとしたレポートと呼んでもいい分厚い紙束だった。


葉隠「そのカルテがなんだってんだべ?」

K「石丸の行動にはある程度の規則性が見られ、時にその法則から外れた変則的な行動……
  いわゆる錯乱状態に陥ったことは何度かあった」

江ノ島「じゃあ、やっぱそいつが……!」

K「……ただし、錯乱状態で暴れてもあいつは他人に危害を加えるような行動は取らなかった」

不二咲「石丸君……」


K「精神に異常をきたすと、周りの人間がみな自分を憎んでいるのではないかという被害妄想に
  陥りがちだが石丸にはそれが見られない。むしろ自分が周囲を傷付けているのではないかという
  重度の他害妄想に囚われており、自分を傷付けようという行動が頻繁に見受けられた」

大和田「ほら見ろ! 兄弟はおかしくなっても周りを傷付けるようなヤツじゃねえんだ!」

十神「貴様は馬鹿か? 他害妄想に囚われているなら、その妄想のまま
    他人を傷付けようと動いた可能性もあるだろうが」

セレス「どうなんですか、西城先生……?」

K「確かに、可能性という意味ではゼロとは言い切れんな……」

大神「……結局、真実はわからぬと言うことか」

K「すまない。俺の力不足だ……」

モノクマ「もうここまで来たら堂々巡りっしょ? 投票行っちゃうよ?」

大和田「ま、待ってくれ! 待ってくれえええ!」

桑田「――俺は十神に入れるぜ!」

十神「何だとッ?! 貴様言い掛かりで自分も死ぬ気か?!」

桑田「だってさ! だっておかしーじゃんか! 石丸は常に俺達の
    誰かと一緒にいたのに、どっからナイフなんて調達出来たんだよ!」

舞園「そ、そうです! この学園のどこにもあんなナイフはありませんでしたし、
    仮にモノモノマシーンに入っていたとしてもいつ手に入れたんですか!」

K(凶器の出所……?! しまった、盲点だった!)


KAZUYAはハッとする。彼は保健室に隠した凶器の数々を知っていたため、凶器の入手方法について
あまり疑問を持っていなかった。だが、生徒達にとってはそうではあるまい。


十神「保健室と購買部は近い。武器を調達しに購買部に行ったらたまたま手に入れたのだろう」

霧切「そんな偶然があるのかしら? 大体、朝日奈さんが精神不安定の彼を一人にする?」

大神「朝日奈は、ああ見えてとても責任感があった。フラフラ外へ出ようとする石丸を止めぬはずがない」

セレス「ですが、それを証明出来る本人はもういませんわ。あくまで仮定の話ですわね?」

「…………」

苗木「おかしい……絶対おかしいよ! もしかしてモノクマが関わってるんじゃ……」

モノクマ「タイムアーップ!!」

「なっ……?!」

モノクマ「それでは皆さん、お手元の投票スイッチを押してくださいな!」

大和田「ちょ、待てゴラアアア! まだ議論が終わってねえだろうがよ!」

桑田「そうだ! ふざけんな!」


モノクマ「議論が終わってない? ボクにはとっくに水掛け論になってた気がしたよ?」

霧切「待ちなさい! 不自然だわ。もう少しで何か糸口が……」

モノクマ「待ちません! もうボクは飽きたの! 飽きたったら飽きた! 投票しないとオシオキだよ!」

大和田「クソッ……」

K(いくらなんでもこんな横暴が通る訳がない。モノクマの様子がおかしいのは明白だ。恐らく、今回の
  事件にモノクマは何らかの形で関わっている。だが、それを証明する手段はこちらにはない!!)

K「……やむを得ん。投票しよう」

不二咲「誰に投票すればいいのぉ……?」

大和田「十神だ! 今度こそ本当に十神がやったんだ!」

桑田「俺も十神に入れるぜ! うさんくせーからな!」

十神「ふざけるなよ、単細胞ども……! 絶対に石丸だ!」

セレス「わたくしも、イメージだけで命を賭けるつもりはありませんわ。石丸君に入れさせてもらいます」

葉隠「俺もだべ。現場に凶器持ってるヤツがいたんだから普通に考えたらそいつが犯人に決まってる!」

山田「全ての状況証拠が石丸清多夏殿が犯人だと示しているのですよ!」

大和田「クソッ、どいつもこいつも……! オメエらはどっちだ?!」

苗木「僕は……十神君にするよ。石丸君が朝日奈さんを殺したなんて、僕にはどうしても思えないんだ」

舞園「私もです。だって……みんなでずっと見てたんですよ……?」

不二咲「十神君、ごめんね……僕、石丸君を信じたいんだ……」

江ノ島「あ、あんた達バカじゃないの?! そりゃアタシだって信じらんないけどさ、
     どう見ても石丸が犯人じゃん! アタシは石丸に入れるから!」

ジェノ「KAZUYAセンセには悪いけど、白夜様があー言ってるしあたしもきよたんに入れるわ。メンゴ」

桑田「霧切、大神……せんせー」

大神「すまぬ。我はやはり石丸に入れる。これだけ証拠が揃っている以上、石丸に入れざるを得ぬ」

霧切「……私は十神君に入れるわ。あまりに状況が不自然だもの。もしこの中に犯人がいるのならば、
    学園側にいた十神君にしか犯行は行えないはずよ。――この中に犯人がいるのなら、ね」

十神「で、ドクターK? 貴様は? まさか貴様までくだらんセンチメンタルに流される訳じゃないだろうな?」

K「悪いが俺もお前に入れされてもらう」


その言葉を聞いた瞬間、十神の眉間に深いシワが寄り額とこめかみに青筋が浮かんだ。


十神「いい加減にしろよ……! 貴様それでも教師か! 生徒を贔屓するのが貴様の本性な訳だな!!」

K「違う。わからないか? ――これで石丸と十神に対する票はそれぞれ七対七。同票だッ!!」

十神「!!」


十神はハッとする。

石丸に票を入れたのは十神、セレス、山田、葉隠、ジェノ、江ノ島、大神。

十神に票を入れたのは桑田、大和田、苗木、舞園、霧切、不二咲、そしてKAZUYA。


――見事真っ二つに意見が割れているのである。


K「心神耗弱状態の石丸に投票など出来ん。よって裁判のやり直しを要求する!」

モノクマ「ハァアッ?!」


これには流石に予想外だったのか、モノクマはポカンと口を開けて静止している。


K「今回の裁判、極端に捜査や議論の時間が短く何かがおかしい。貴様何かを隠しているだろう!」

大和田「そ、そうだ! 凶器はどこから出てきやがった!」

苗木「こんな裁判、フェアじゃない! 卑怯だぞ!」

桑田「ふざけんじゃねー!」

霧切「裁判のやり直しを要求するわ!」

モノクマ「…………」

山田「さ、裁判のやり直しなんて可能なんですかねぇ……?」

セレス「わたくしは犯人がわかればどっちでもいいですわ。死にたくありませんもの」

葉隠「そうだべ! 票が割れた場合はどうなるんだ? もう一回やるんか?!」

モノクマ「…………」

十神「どうせ石丸が犯人だろ。時間の無駄だ」

江ノ島「え、えっとアタシは……」

ジェノ「ギャハハハ! 裁判のやり直しを要求する!だって。カズちんかっけ~!」

大神「……我はどちらでも構わぬ。ただ真実が知りたいのだ」


喧々囂々と生徒達はそれぞれに自己主張する。しかし、肝心のモノクマは動かなかった。


モノクマ「うぷぷ……うぷぷぷぷ……」

霧切「何がおかしいの……?」

モノクマ「ぶひゃひゃひゃ、アーハッハッハッハッハッ!!」

K「モノクマ……!」

モノクマ「やり直し? そんなの認められないに決まってるじゃーん!」


苗木「ふざけるな! 裁判のやり直しは実際に法律でも認められてるだろ!」

モノクマ「ああ、法律ね。でもそれって外の世界のルールだよね?」

モノクマ「ここのルールはボクが作った校則だけだから。校則に裁判のやり直しを
      認めるなんて記述ないでしょ? ドューユーアンダスターン?」

K「……では、意見が真っ二つに割れている場合はどうなる?」

モノクマ「その場合はクロを当てるのに失敗したと見なし、クロ以外全員オシオキでーす!」

K「な、何だとッ……?!」

山田「冗談じゃないですぞ!」

葉隠「ふざけんな! 俺はまだ死にたくないべ!」

江ノ島「どうすんのよ! あんた達が余計なことするから!」

大和田「余計なことってなんだ! ろくに議論もしねえで兄弟を犯人だと決めつけやがって!」

セレス「今はそんなことを話している場合ではないでしょう! 責任を取ってくださりますこと?」

モノクマ「まあまあ、みんなそう慌てなくても。まだ投票は終わった訳じゃないでしょ?」

霧切「……どういうこと?」

モノクマ「石丸君が投票を終えていないじゃない。投票が終わらないと学級裁判も終わらないよ」

山田「な、なんだ……ならオシオキもされないということですね……」

モノクマ「ま、裁判が終わらない限りオマエラはここから出ることが出来ないけどね!」

山田「全然解決になってなかったああああああ!」

舞園「投票を保留にしても、私達はここに閉じ込められて飢え死にしてしまうということですか……?!」

モノクマ「まあそうなるね」

「そんな……!!」

十神「…………」


ダッ!

突然、十神が席を離れ駆け出した。石丸の方に向かっているように見える。
不穏な気配を感じた大和田も駆け出し、その前に立ちはだかった。


大和田「なにするつもりだテメエ?!」

十神「どけ! 奴の代わりに投票ボタンを押すんだよ!」

大和田「ハァ?!」


苗木「そんなことが認められるの?!」

十神「知るか! だが試す価値はあるだろ!」

桑田「んなのズルだろ!」

セレス「ですが、このまま膠着状態になるのなら十神君の策に賭けるのも……」

大和田「押させてたまるかよ!」

十神「江ノ島! 舞園でもいい! 石丸の投票ボタンを押せ!!」

『えっ?!』

江ノ島「い、いいワケ? それ……」

舞園「大丈夫なんですか?」


江ノ島はチラチラとモノクマの様子を伺うが、モノクマからの指示はない。


モノクマ「うぷぷ、面白いことになってきたね!」

桑田「だ、大体押すにしてもどっちを押すんだよ!」

十神「石丸に決まっているだろうが、阿呆共め!」

大和田「ふざけんな! 舞園、十神を押せ!」

葉隠「石丸っちだべ!」

苗木「み、みんな待ってよ! 冷静になろう!」

K「落ち着け、お前達! 時間制限されている訳ではないのだ! 逆にじっくり議論すべきだ!」

霧切「そうよ。焦ったらモノクマの思うツボだわ!」

山田「でもこれ以上なにを議論しろって言うんですか!」


その時、動いた男がいた。


「…………」


――押さねば……

――投票スイッチを押さねば。


スッ。


――僕が。


不二咲「ッ?! 石丸君っ?!」

「えっ?!」


不二咲の悲鳴に釣られ、全員が石丸の方を見た。

彼は確かに手を動かし、投票スイッチを押そうとしていたのだ。


十神「な、何ッ……?! まさか今まで意識のない振りをしていたのか?! 貴様ァッ!!」

大和田「よしッ! そうだ、兄弟! 十神のボタンを押せッ!!」

十神「ふざけるなッ! やめろオオオオッ!!」

「…………」


カチリ。


桑田「よっしゃ! 十神だな!」

霧切「待って頂戴! もしかしたら、みんなの動きを真似して適当に押したのかもしれないわ……」

K「今までの行動を見れば、確かにその可能性は高い。となると、不味いな……」

大神「まさか、投票失敗で全員オシオキか……?」

山田「ヒィィィッ?! 嫌ですよ!!」

苗木「十神君と石丸君以外の名前を押してたらアウトだから、15分の13の確率だよね……?」

桑田「う、うそだろ……」

モノクマ「うぷぷ! 皆さん、投票結果が気になるようですな。
      それではドッキドキワックワクの結果発表~!!」

大和田「た、頼む!」


モニタにスロット画面が現れ、生徒達の顔を模したイラストが回転する。

ドラムロールが流れる中、揃った顔は……


「ハッ?!!」

大和田「お、おい……嘘だろ……」

モノクマ「大正解~! 朝日奈さんを殺したクロは超高校級の風紀委員石丸清多夏君でした!」

大和田「ちょっと待てやァ!!」

モノクマ「なにかな~? 投票のやり直しは受け付けてないよ?」

大和田「ふざけんなゴラァ! 投票は兄弟と十神で半々だったはずだぞ?!」

モノクマ「うん。そうだよ。それがどうかした?」

大和田「じゃあなんで兄弟がクロになってんだ!!」


大和田「じゃあなんで兄弟がクロになってんだ!!」

モノクマ「そりゃあ、石丸君が自分で自分の名前を押したからだよ」

「?!」

K「石丸が自分の名前を……?!」

桑田「ど、どういうことだよ?!」

苗木「どうして……?!」

モノクマ「さあね~。罪の重さに耐えかねたんじゃないの? もしくはたまたまとかさ」

大和田「きょ、兄弟! 兄弟! どうしてだ?! どうして自分の名前を押しやがった?!」


大和田が石丸の肩を掴んで揺さぶる。だが、石丸はいつものように呟くだけだった。


石丸「すまない……」

十神「……ハ、ハハハ! この男は自白したんだよ! いい加減認めろ!」

大和田「違う……なんかの間違いだ……押し間違えたんだろ? そうなんだろ?!」

石丸「すまない……すまない……」

大和田「んなことはどうだっていいんだ! 本当のことを言ってくれェッ!!」

K「大和田! よせ!!」


尚も揺さぶる大和田を羽交い締めにするようにKAZUYAが引き離す。


大和田「だってよ! だって! このままじゃ兄弟が犯人ってことになっちまうじゃねえか!
     なあ先公! 違うだろ?! 兄弟は殺ってなんかいねえだろ?!!」

K「わかってる! わかってるから落ち着け!」

モノクマ「じゃあ、クロも決まったことだしそろそろオシオキと行きましょうかね?」

霧切「! クロが決まったってどういうこと? もしかしてこの事件にクロは存在しないんじゃ……?!」


霧切が鋭く攻め立てるが当然のごとくモノクマは耳を貸さない。


モノクマ「超高校級の風紀委員である石丸清多夏君のために――」

大和田「待てよ! 待てって!! 俺はまだアイツからなにも聞いてねえんだぞ?!」

モノクマ「スペシャルなオシオキを――」

大和田「犯人にしろ違うにしろ、こんなの納得できるか!!! おい!!」

モノクマ「――用意しました!」

大和田「だから! 待てっつってんだろうがアアアアアア!!!!!」


モノクマが無慈悲にハンマーを振り下ろすと、オシオキ開始のボタンが押された。
奥から現れたモノクマ達に従うように石丸が歩いて行く。

大和田は暗闇に消えていく友に叫んだが、その言葉が届くことは遂になかった――。


               ◇     ◇     ◇


大通りで盛大なパレードが行われている。

といっても、建物は張りぼてで道路の両脇にいる通行人はみなモノクマだ。
作り上げられた異常な熱狂の中、街宣車に乗って観客に手を振っている男がいる。


「…………」


胸にかけられたタスキには石丸清多夏首相就任記念と書かれていた。
そう、これは石丸の首相就任記念パレードなのだ。

――勿論、嘘っぱちである。


「…………」


焦点の合わない目を忙しなく動かし、石丸は周囲を見渡していた。

彼は未だ夢を見ている。けして叶うことのない夢を……


(……違う)


しかし、石丸は心の中で否定した。


(これは、現実ではない……)


彼が観客に向けて振っている手には鎖が巻きつけられている。無理やり振らされているのだ。


何という皮肉な運命だろうか。現実に近い夢を見続けていた石丸に夢の様な現実を見せた結果、
彼は奇跡的な確率で正気を取り戻していたのだった。いや、その兆候は裁判時にも既に現れている。

石丸はぼんやりとした意識の中で、朝日奈を殺した“真犯人”の姿を思い出していたのだ。
あれは十神ではなかった。勿論、自分でもない。――では、この事件のクロは誰だ?

投票スイッチは、この場にいる15人分の名前しかない。
しかも、自分か十神以外の名前を押したら投票は失敗となり全員オシオキとなる。

直感的に、自分がボタンを押した人間が死ぬのだとわかった。


…………。


迷わず自分の名前を押した。


大和田の叫びは実は届いていたが、何も言わなかった。朝日奈を守れなかった自分は
間接的に殺人に関与したも同然であり、彼こそがクロと言っても差し支えなかったからだ。

余計なことを言って大和田を混乱させたくはなかった。彼が犯人であっても違っても、
大和田が絶望するのは確実であり、石丸は真実を闇に葬ることに決めたのだった。

しかし、彼にとって一つだけ計算外のことが起きてしまった。それは――


「石丸ーッ!!!」


ドォンッ!!


                      ╂


素直にモノクマに付いて行く石丸の姿を見ながら、KAZUYAはずっと考えていた。


―本当に石丸が犯人なのか?

―俺は何か大事なことを見失っていないか……?


(わからない……俺が一番間近でアイツを看ていたはずなのに……)


KAZUYAは揺らいでいた。もし石丸が犯人だったのなら、二人を保健室に残して
席を外した自分の責任だ。……いや、責任問題で言えば仮に十神が犯人でも同じだ。

二人を置いて出掛けた自分が悪い。
自分の監督不行届きなのに、今生徒がその責任を負って死のうとしている。


そもそも、KAZUYAがこの場にいるのは何のためだ?


(俺がこの場にいるのは……生徒を護るためだッ!!!)


オシオキ場と生徒達の間には、乱入を防ぐためフェンスが設置されている。
だがKAZUYAは、暴れる大和田を大神に抑えさせ自身はオシオキ場に突っ込んだのだ。


「俺も行く!! はなしやがれ!!」

「駄目だ!! 西城殿の意志を無駄にするなっ!!」

「先生!」

「せんせーッ!」

(すまない、みんな……後は頼んだぞ……)


校則違反を覚悟して、KAZUYAは一人オシオキ場に乱入する。


……しかし、全ては遅すぎたのだ。


パンッ!という乾いた銃声と共に、石丸の左胸に紅い華が咲く。
そして無残にも、駆け寄るKAZUYAの目の前に彼の体は落下してきたのだった。

冷たく固いアスファルトに叩きつけられた教え子を無我夢中で抱きかかえる。


「石丸ッ!」

「先、生……すみま、せ……」


KAZUYAが視界に入った途端、明らかに石丸は瞳に何らかの強い反応を見せた。
何かを伝えようと、必死に手を伸ばそうとする。


「もういい! 喋るな! もう謝らなくていいんだ……!!」

「朝日奈君を――」

「何……? 朝日奈がどうした?」

「――守れ、なくて」

「!!」

「…………」


今まで散々世話になったKAZUYAには真実を伝えても良いと思ったのかもしれない。
或いは、KAZUYAならば真実を受け止められると思ったのか。今となってはその答えはわからない。

ダラリと石丸の手が落ちる。その目が開くことはもう二度となかった。


「――ッ!!」


しかし、真実は時として大いに人の心を蝕む。それは強い精神力を持つ
KAZUYAとて例外ではなかった。声にならない叫びを上げる。

何故最後まで生徒を信じてあげられなかったのだろう?

友と最期の言葉すら交わすことなく、一人死出の旅路へ向かった石丸の心境は如何ばかりか?

何故、もっと早く飛び込まなかった?

自分の中に、石丸が犯人ではないかと疑念があったからではないか?


何故、何故、何故――?


「何故だッッ?!!」


後悔と自責の叫びは、もう届かない……。



ここまで!

>>215でリクエストされていた番外編IFでした。もう一年も経ってるのか……

石丸君のオシオキはファンが作った有名なムービーがあるのでこれをイメージしてください
http://www.youtube.com/watch?v=hjMWtDSm2SE

この展開だと、真相を知ったKAZUYAが病みます。かなりガッツリ
ちなみに余談ですが、石丸君が犯人指名されるSSを1は三つくらい知っているのですが、
そのどれも大和田君はその場にいないんですよね。既に死んでいたりして不在

もしかしたら大和田君健在で石丸君処刑されるSSは初めてだったり?かもしれない



最後にお約束のスキル表をぺたぺた。


[ 朝日奈 葵 ]

通常スキル

・瞬発力
・直感
・閃き
・器用
・ムードメーカー

特殊スキル

・抜群の集中力
・水泳で鍛えたスタミナ:一日中走り回っていてもほとんどバテない。
・さくらちゃん頑張れ:大神さくら限定で能力を大幅に上げる。また、逆も可。

〈 m e m o 〉

 分析推理系のスキルはないものの直感力と閃きに優れており、キッカケさえ与えてあげれば物事に
対する理解はさほど悪くない。運動系でガサツかと思いきや、料理が出来たり意外と女子力が高く
器用な面も。特殊スキルは友情パワーでお互いにパワーアップするという友達思いの朝日奈らしいもの。


[ 腐川 冬子 ]

通常スキル

・分析力
・集中力
・直感
・閃き
・後ろ向き×

特殊スキル

・妄想力:その逞しい妄想力によってヒット小説を書ける。
・一途な恋心:十神のためなら性能アップ。また、十神関連の情報は大体把握している。
・ジェノサイダー召喚:気絶かクシャミで裏人格であるジェノサイダー翔に変わる。

〈 m e m o 〉

 小説家なだけあって分析力や集中力は高く、直感や閃きもある。……が、バッドスキルである
後ろ向きと妄想力が悪い具合に組み合ってネガティブな発想ばかりしてしまいあまり役に立たない。
しかし、裏人格であるジェノサイダー翔に変われば高い判断力と戦闘力を併せ持つ存在となる。

……しかし、当然ながら主人格は腐川であり腐川はその事実を快く思っていない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


以上で、このスレはお終いです。ご清覧頂きありがとうございました。

感想・意見・リクエストはいつでも募集中。特に感想は作者のモチベに繋がります。


それでは二度目の裁判を控えている6スレ目でまたお会いいたしましょう!


モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6
モノクマ「学級裁判!!」KAZUYA「俺が救ってみせる。ドクターKの名にかけてだ!」カルテ.6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1444145685/)



このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月12日 (土) 18:55:15   ID: GOhVCrTL

やっと追いついた(≧∇≦)
続きを楽しみにしてます( ´ ▽ ` )ノ
ドクターKも全巻読みます(^ω^)

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