高槻やよい「暖めてあげるからそばにいて」 (74)


やよい『収録終わりましたー!』ウッウー!


P『よく頑張ったな、やよい』ナデナデ


やよい『えへへ、プロデューサーの手、あったかくてきもちいいです!』テレテレ


やよい『でもこうしたら、一緒に……』ギュゥ


やよい『心もぽかぽかーってしますね!』


P『おっと、やよいもあったかいなぁ』ハハ…


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プロデューサー。


あれから、もう三年が経つんですね。


プロデューサー。


私の、大好きな人。


でも、今度、結婚してしまいます。


お相手は、全国縦断ドームライブを最後に、引退を決めた、美希さん。


ふたりは、ずっとお付き合いしていたのを隠してて、


私も、ついこの前、“あのふたりが”って知って、びっくりしました。


でもでも、長い間、美希さんが頂点で輝いていたのも、


ちょっと納得できたかなーって。


「ねぇ、ハニー。今日のミキは、今まで、一番綺麗でしょ?」


「ああ、綺麗だよ、美希。すごく綺麗だ」


私が、もっと背が高かったら。


私が、もっと素直になれていたら。


私が、もっと近くにいたら。



私が、もっとすごいアイドルだったら。


プロデューサーの隣にいたのは、私だったのかな?



結局、誰にも言えなかった。


私だけが知っている、私の想い。



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P『うおお、寒いぞ、この季節は……』ブルブル


やよい『プロデューサー、それじゃあ、手を出してください』


P『ん?ハイタッチか』


やよい『違いますよぅ。こうするんですっ』ギュッ


やよい『こうすれば、あったかいですよ!』


P『ああ、なるほど。あったかいな』


事務所まで手を繋いで帰った時も。


きっともう、プロデューサーは美希さんと付き合っていたんですね。


私、ちょっと失礼なことしちゃったかも。



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結婚式の招待状を、プロデューサーに渡されました。


私は、ちゃんと笑顔で受け取れてたかな。


プロデューサー……


これからも、そばにいてください。


私を支えてくれたその手を、


私の頭をなでてくれた、その手を、


私が、いつでも暖めてあげるから……


分かってる。


そんなことは、言えない。


言えないから、こうなっちゃったのも。


分かってる。全部分かってる……



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P「おはよう、やよい」


私は朝早く事務所に行く。


始めは、お掃除をするためだったけど。


いつからか、プロデューサーに会えるのを楽しみにして。


P「いつもありがとな、やよい」


やよい「いえいえ!」


私以外のアイドルは、誰も知らない時間。


私だけの時間。


やよい「今日は寒いですねー」ギュッ


P「そうだな。風邪引かないようにしないとな」ヨシヨシ


私が唯一、プロデューサーに甘えられる時間。



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P『やよいは…長女だったっけ?』


やよい『はい!だからいつも、誰かに頼ったり、できなかったです』


P『そうか。まあ、俺には甘えてくれよな』


P『年齢的には兄貴みたいなものだし』


やよい『プロデューサーが、私の……?』


やよい『じゃあ、一度だけ……お、お兄ちゃんって呼んでも?』


P『ああ、いいよ』


やよい『よ、よーし……』


やよい『ぉ、お兄ちゃん……』///


P『なんだ、やよい?』


やよい『え、わ……!私どうしよ~!』///


P『今日はよくがんばったな。ごほうびに……』ナデナデ


やよい『あ、あぅ……』テレテレ


P『いいこいいこ』


やよい『え、えへへ、ありがと……お兄ちゃん』///



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やよい「美希さんの、全国縦断ドームライブ、大成功でしたね」


P「ああ。最後に華々しいエンディングを迎えられてよかったよ」



やよい「……美希さんはどうして、ここで引退することにしたんですか?」


P「美希が、もう満足だって。一生分輝いたから、後は俺のためだけにキラキラするって」


やよい「わー、惚気られちゃいました」///


P「そんなんじゃないって……」


P「まぁ、ずっと頂点に君臨し続けたんだ。俺も十分だと思ったよ」


P「それに、美希の輝きの源が俺である限り、美希に勝てるアイドルは永遠に現れないだろうしな」


やよい「………」


P「わがままな妹のようだった美希も、今じゃすっかりトップアイドルになって」


P「日本中を虜にした。俺も例外じゃなかった」


やよい「…私だけのお兄ちゃんだと、思ってたのになぁ」ポツリ


P「んー?」


P「……やよいにお兄ちゃんなんて呼ばれたこともあったな」


やよい「えへへ、私、ずっとプロデューサーのこと、家族みたいだって思ってたんですよ?」


P「俺もだよ。本当に、765プロは大きな家族みたいだった」


家族なんて


もう、そんな関係になってしまったら、


恋愛なんて、不安定な所には戻れなくなってしまって。


これでいいんだって、


自分に言い聞かせて……


今まで抑えてきたのに。


関係を変えることに、私は臆病で。


美希さんは、変わることを恐れなかった。


ああ、馬鹿だなぁ私。


今になって、どうしてこんなに……



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教会の中はひんやりと涼しく、


外のざわめきとは別世界のように、静まりかえっていました。


どこか浮かない表情のイエス像、仰々しいステンドグラス、天井に描かれた聖人たち。


そこかしこから、「荘厳」とか「重厚」とか「神聖」といった重々しげな空気が漂っています。


(三年かぁ……)


ポカンと口を開けたまま、放心したように十字架を見ていた私の背中をつつき、


「やよい、なにやってんのよ。移動しなさい」


伊織ちゃんが急かしました。


カラァーン……カラァーン……♪


ザワザワ……ミキチャンオメデトウ!……ホシイクン、ジツニメデタイ!……ミキミキ~キレイダネ!……



律子「まったく、あんな幸せそうな花嫁見てたら、今日までのゴタゴタも吹っ飛ぶわね」


伊織「人気絶頂で電撃引退からの結婚なんて、ホント、最後まで美希らしかったわ」


律子「どうしてあえて前途を多難にするのかしら」ハァ


やよい「きっと、自信のあらわれじゃないかなって」


やよい「……お二人は、きっとどんな道も進んでいけるって、信じてるんだと思います」


律子「そうかもね。あの二人は……私たちよりも、乗り越えてきたモノが多いから」


律子「だから、お互いに全幅の信頼を置いてるんでしょう」クスッ



伊織「美希の引退は、ちょっと寂しいんじゃないの?律子」


律子「その言葉、そっくりそのままアンタに返す」


「律子!デコちゃーん!見て見て、ミキ、綺麗でしょー!?」


「さんをつけなさい」「デコちゃんいうな」


「あはっ、ごめんなさいなのー!!」キラキラ…


やよい「プロデューサー、ご結婚おめでとうございます!」


やよい「衣装、とーっても似合ってます」


P「ん、ありがとう、やよい」


P「タキシードなんて、柄じゃないんだけどね」


やよい「美希さんと、本当に、家族になっちゃうんですね」


P「あはは、そうだな」


P「美希と結婚するって、3年前の自分に言っても、きっと信じないだろうな」ハハ…


P「やよいも、もう17歳か」


やよい「えへへ、高校二年生ですよ」


やよい「……プロデューサー、覚えてますか?」


やよい「まだ、プロデューサーが私の先生だったころ……」



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―――――

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やよい『プロデューサー……じゃなくて、先生!』


やよい『信じられますか?まだ先ですけど、私、高校一年生になるんですよ』


やよい『なんだか、すごく立派になれる気がします!』


やよい『きっと背もスラーって高くなって……』


P『そんなの、やだなぁ。背の高いやよいなんて、らしくないし』


やよい『ええっ、そうですか~?』


やよい『じゃあ背は今のままでいいかも。あんまり伸びなくても……』



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やよい「結局、私、全然背が伸びてません」エヘヘ


やよい「亜美や真美と、どんどん差が開いて。美希さんとの差も、ちっとも縮まらなくて」


やよい「……私だけが変われなかった」ポツリ


P「……今のやよいは、十分立派になったけどな」


P「こんなに一生懸命で、前向きな女の子は俺は見たことないし、これからも恐らく」


やよい「でも、私にはまだ、お兄ちゃんが、先生が……」


やよい「…プロデューサーが、必要なんですよ……?」


P「ありがとな。でも、やよいにはもう、兄貴も、家庭教師も要らないさ」


P「一人でどこまでも進んでいけるほど、強くなった」


P「高校でだって、まぁまぁ成績は悪くないんだろ?」


やよい「相変わらず、“なんとか方程式”は何に役立つのか分からないですけど……」エヘヘ


P「あはは、“勉強の先生”は本職に任せておくよ」


P「……やよい。俺はお前のプロデューサーだ。これからもずっと」


P「いつかアイドルを引退したって、ずっとだ」ナデナデ


やよい「………ずっと」///


やよい「えへへ、プロデューサーの手、あったかくてきもちいいです…」


やよい「でもこうしたら、一緒に……」ギュゥ


やよい「心もぽかぽかーってしますね!」


P「おっと、やよいもあったかいなぁ」ハハ…


<Pサーン!


やよい「あぅ……」ウツムキ


P「…そろそろ戻らないと。やよい、慌ただしくてすまないな」パッ


やよい「いえ、私こそ、急にすいませんでしたっ!」ガルーン


やよい「プロデューサー!約束ですよっ!」


P「なんだ、やよい?」



やよい「ちゃんと幸せにならないと、めっ!…です!!」ニコッ



だって、私の大好きな人だから――――


私は最後まで、プロデューサーの“特別な何か”にはなれなかった。


本当はずっと分かっていた。


気付かないふりをしていた。


高校生になったら、大人になったら、全部変わるような気がしていた。


プロデューサーはとても優しくて


いつも私の話に合わせて


私の頭をなでてくれるけど


本当は私を見てなんかいない


プロデューサーは、私のずっと……



ずっと向こうにいる美希さんを見ている。



この先もずっと、私を見てくれることはない。



その日、私は、ただただ、14歳に戻ったように泣いた。


やよい「浩三、たまには一緒に寝よー」


浩三「Zzz……」スピー


やよい「ねぇ、明日は何時に起きようか」


やよい「うーん……」


やよい「朝のお掃除はもう、頑張らなくていいもんね……」


…それでも、早起きしちゃうんだろうなぁ


やよい「そっか……もう、朝にぎゅっとしたりとか、ウチでもやしパーティとか、ダメなんだ」


やよい「お仕事とかで、ばったり二人きりになったりしたら」


やよい「変な顔したりしないで、ちゃんと普通にしなきゃね」


やよい「プロデューサーはきっと、何もなかったようにしてくれるから……」


やよい「プロデューサーは優しいから……」


やよい「私も……」ウルッ


やよい「……グスッ…っ…」


やよい「ぷろでゅぅざぁっ……っ…」



喉の奥が熱くなって、情けないけど泣けてきた。



やよい「私の、はじめての好きな人なんだ」



うるんだ視界のなかで、弟の寝顔がぼやけて消えた。



やよい「はじめてできた好きな人なんだ!」



惨めだと笑われても。



私には今、頭をなでてくれたプロデューサーが、この世で一番、尊い。


やよい「ねぇ、浩三、終わっちゃったんだ」ポロポロ



やよい「終わっちゃった」



やよい「終わっちゃった……っ」グスッ



やよい「終わっちゃったよ……っ……」


それでも私は、



明日も明後日もその先も、



プロデューサーが好き。



やっぱりどうしようもなく、プロデューサーのことが好き。




プロデューサーのことがずっと



ずっと好きです



おしまいです。

読んで下さった方々、ありがとうございました。

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