ルカ・ブライト「トンカツを作るぞ!!!」(35)

─ 皇都ルルノイエ ─

ルカ「ふはははははは!」

ルカ「貴様の計略であの老いぼれもついに消え去った!」

ルカ「いよいよ都市同盟のブタどもを滅する時がきたのだ!!!」

ジョウイ「……はい」

ルカ「──というわけで」

ルカ「トンカツを作るぞ!!!」

ジョウイ「!?」

ジョウイ「ルカ様、な、なぜ、トンカツを……?」

ルカ「フン……貴様も鈍い男だ。決まっているだろう」

ルカ「都市同盟の連中は薄汚いブタに過ぎん!」

ルカ「ゆえに、戦の前に兵たちにブタを振るまい、喰らわせることで」

ルカ「兵たちの士気を高めるのだ!」

ルカ「ブタを喰らった将兵は獣となり、瞬く間に都市同盟を蹂躙することだろう!」

ルカ「ふははははははははははは!!!」

ジョウイ(なんだか理にかなってるような気がしてくるから不思議だ……)

─ 豚小屋 ─

ルカ「フン……ブタどもがキィキィないていやがる」

ルカ「ブタは死ね!」

ザシュッ!

ルカ「死ね!!!」

ズバァッ!

ルカ「死ね!!!!!」

ザンッ!

ルカ「よし……材料はこのぐらいでいいだろう」

ジョウイ(全て一太刀で仕留めている……なんて剣さばきだ)

ジョウイ(ボクにもこの強さがあれば──)

─ キッチン ─

ルカ「適当な量のブタ肉を用意して、と……」ドサッ

ルカ「まず、赤身と脂肪をつないでいる筋にところどころ包丁を入れる!」ザクッザクッ

ジョウイ「なぜそのようなことを?」

ルカ「こうしておかねば揚げた時に筋が縮んでしまうからだ!」ザクッザクッ

ルカ「筋が縮むと肉がうねり、熱が均一に通りにくくなり、まずくなる!」ザクッザクッ

ジョウイ「そういうことですか……」

ルカ「よし、これぐらいでよかろう」

ルカ「次は肉を叩く!」ドンッドンッ

ルカ「外側に押し広げるようにな! そうすれば肉が柔らかくなる!」ドンッドンッ

ジョウイ「なるほど……」

ルカ「柔らかくなったら、広がった肉を元の形に戻す!」ペタペタ…

ルカ「そして、このブタに塩コショウだ!」パッパッ…

ルカ「ふははははははは!!!」パッパッ…

ジョウイ(口調とは裏腹に、なんて繊細な手つきなんだ……!)

ルカ「いよいよ揚げる準備にかかる!」

ルカ「ブタに小麦粉をまぶす! 全体に薄く、ムラのないようにな!」パッパッ…

ルカ「おっと、余分な粉を落とすことも忘れるな!」

ジョウイ「はい!」

ルカ「同時に溶きほぐした卵と──」カチャカチャ…

ルカ「パン粉も用意しておく! 戦いも料理も素早さが肝心だからな!」ササッ

ルカ「終わったらブタの両面を卵に浸し、さらにパン粉をまぶす!」

ルカ「さぁ、いよいよこの薄汚いブタを灼熱地獄に落とす時がきたぞ!!!」

ジョウイ「…………」ゴクッ

ルカ「まず油を熱する!」

ルカ「温度は……おおよそ170℃といったところだ!」

ジョウイ「器具を使って測るのですか?」

ルカ「フン……そんな必要はない!」

ルカ「パン粉を入れてみて、泡立って散るぐらいになったら頃合いとみてよかろう!」

ジョウイ「分かりました!」

ルカ「汚らわしいブタめ! この灼熱地獄で、その身を浄化されるがよいわ!!!」

ルカ「ブタどもなど油に叩き落としてやりたいところだが──」

ルカ「鍋に入れる時は静かに入れるのがコツだ!」ソーッ…

ジュワァァァァァ…

ルカ「表面が固まるまでしばらくこのままにしておき……」

ルカ「パン粉がカリッとなってきたらひっくり返す!」

ルカ「キツネ色になるまで、じっくりとだ! 時間にして3~4分といったところだ!」

ジョウイ「なるほど」

ルカ「頃合いになったらブタを引き上げ、油を切る!」ササッ

ルカ「これでトンカツの出来上がりだ!!!」

ルカ「出来上がったトンカツを切り分け──」サクッサクッ

ジョウイ「なんの変哲もない包丁ですが、すごい切れ味ですね」

ルカ「剣は銘などなくとも斬れればよい! 包丁も同じことだ!」サクッサクッ

ルカ「さらにあらかじめ用意しておいたキャベツの千切りを盛りつければ……」モサッ

ジョウイ(い、いつの間に……)

ルカ「完成だ!!!」

ルカ「ふははははははははは!!!」

ジョウイ「おめでとうございます……!」

─ 食堂 ─

シード「……なぁ、クルガン」

クルガン「ん?」

シード「ルカ様が料理を振るまうらしいが、いったいどういう風の吹き回しだ?」

クルガン「さぁな……私にも分からないさ」

レオン「…………」

ジル(兄様……)

ラウド(どんなひどい料理が出てきたとしても、褒めなければ……!)

ルカ「待たせたな」ズイッ

ルカ「貴様も席につけ」

ジョウイ「は、はい」

ルカ「灼熱地獄に堕ちたブタどものなれの果て……トンカツだ」

ルカ「食して己の血肉にするがいい」



シード(トンカツだとぉ!?)

クルガン(これは予想外……!)

レオン(む……)

ジル(お肉はあまり好きではないけれど……)

ラウド(ソースを大量にぶっかけて丸呑みすればなんとか……)ゴクッ

シード「いただきます」サクッ…

クルガン「いただきます」サクッ

レオン「いただきます」サクッ

ジル「いただきます」サクッ

ラウド「いただきます」サクッ

ジョウイ「い、いただきます……」サクッ

シード「うっ、うまいっ! うますぎるっ!」

クルガン「これはすばらしい……。噛むたびに口の中で幸せが生まれるようだ」

レオン「衣はサクサク、肉はやわらか。まさにお手本のようなトンカツ……!」

ジル「兄様にこんな特技があったなんて、知らなかった……」

ラウド「どんなお世辞をいおうかと考えていたが、そんなもの必要ないほど美味い!」

ジョウイ「ニンジンもこのトンカツみたいな味だったら……」



ルカ「ふはははははははははは!!!」

ルカ「あとは兵士どもにもトンカツを振るまい、都市同盟を一気に叩き潰してくれる!」

………………

…………

……

─ 王国軍キャンプ ─

ルカ「なんだと!? 我が軍が手こずっているだと!?」

ジョウイ「はい……」

ルカ「オレ様のトンカツを喰らっておいて、なぜ都市同盟のブタどもに手こずる!?」

ルカ「そうか……分かったぞ!」

ルカ「おそらく、奴らの軍にも凄腕の料理人がいるにちがいない!」

ジョウイ「!?」

ルカ「ならば……まずは料理対決で奴らを叩き潰してくれる!!!」

ルカ「ゆくぞ、ついてこい!」

ジョウイ「わ、私もですか……?」

ルカ「当然だ!!!」

─ 本拠地 ─

ルカ「貴様が都市同盟……いやデュナン軍の料理人ハイ・ヨーだな?」

ハイ・ヨー「そうよー! あなたたち何者よー!」

ルカ「敵の総大将の顔も知らんとは、めでたい奴だ……」

ルカ「オレはハイランド王国皇王ルカ・ブライトだ!」

ルカ「ちなみにこっちはオレの義弟だ」

ジョウイ「ジョウイと申します。お騒がせしてすみません」

ハイ・ヨー「かまわないよー! で、わたしになんの用よー!」

ルカ「貴様と料理対決をしにきた!」

ハイ・ヨー「!」

ハイ・ヨー「なんでよー! わたしとあなた、戦う理由どこにもないよー!」

ルカ「あるさ……。貴様はデュナン軍の、オレはハイランド王国の料理人だ!」

ジョウイ(料理人!?)

ルカ「これ以上の理由はあるまい!!!」

ハイ・ヨー「ううう……どうするよ、リオウさんよー!」

リオウ「勝負だ、ハイ・ヨー!」

ルカ「貴様がデュナン軍のリーダー、リオウか……」

ルカ「ちょうどいい。二人まとめて叩き潰してくれるわ!!!」



ジョウイ「リオウ……。まさか、君とこんな形で戦うことになるとは思わなかったよ」

リオウ「うん……」

フー・タンチェン「皆さま、お待たせしました!」

フー・タンチェン「本日の挑戦者は『ブタは死ね』でおなじみ、皇王ルカ・ブライト!」

フー・タンチェン「はたしてチャンピオンのハイ・ヨーを打ち破れるのか!?」

フー・タンチェン「注目の一戦が今、幕を開けようとしています!」



ハイ・ヨー「まず前菜から作るよー! リオウさんよー!」

リオウ「分かった!」



ルカ「ふはははははは! ブタどもに最高のブタを食わせてやる!!!」ザクザクッ

ジョウイ「え、まさか前菜から……!?」


………………

…………

……

フー・タンチェン「本日の結果は──」



ハイ・ヨー 44点

ルカ・ブライト 30点



フー・タンチェン「チャンピオンの勝利です!」

ルカ「バ、バカな!?」

ジョウイ(やっぱり……)

ルカ「ふざけるな! このオレ様が貴様ら如きに負けるはずがない!!!」

フー・タンチェン「おっと挑戦者、この結果に納得がいかないもよう!」

フー・タンチェン「では審査員の方々、ルカ・ブライトさんの敗因を一言ずつどうぞ!」

フリック「たしかにトンカツはうまかったんだが、さすがに全部同じってのは……」

ビクトール「がははははっ! おかげで腹がふくれたぜ!」

アップル「もう……食べられません」ウプッ…

シュウ「むしろ、30点もとれたのが奇跡といえるだろう」



<ルカ・ブライトのメニュー>

前菜:とんかつ

メイン:とんかつ

デザート:とんかつ



フー・タンチェン「──だそうです! 当然の結果ですね!」

ハイ・ヨー「トンカツ作る腕は、あなたわたしよりずっと上よー!」

ハイ・ヨー「だけどどんなにおいしいものでも、出すタイミングってものがあるよー」

ルカ「くそぉぉぉぉぉっ!!!」ガクッ

ナナミ「まあまあ、そう落ち込まないで」

ルカ「?」

ナナミ「わたしもあなたが持ってきた材料でトンカツを作ってみたの」

ナナミ「食べてみてっ!」

ルカ「小娘……分かっているのか? オレは貴様らデュナン軍の敵なのだぞ」

ナナミ「うん……。だけど敵に塩を送る、なんていうでしょ?」

ルカ「……いいだろう、食ってやる」スッ…



リオウ「危ない!」

ジョウイ「やめてくれ……食べるのをやめてくれ!」



ルカ「ふはははははは! やめるかよ!!!」モグッ…

ルカ「…………」

ルカ「…………」ブフォッ

ナナミ「ねえ、ねえ、味はどう? おいしいでしょ?」

ルカ(こ、これは……毒……!? それも猛毒……!)

ルカ(手足がシビれ、意識が遠のいてゆく……)

ルカ(この小娘に毒を入れる素振りはなかったはず……! いったいいつ……!?)

ルカ(こ、このオレも、アガレスと同じ死に方をするというのか……!)

ルカ(これがオレの運命だというのかぁっ……!)

ルカ「お、おのれぇ、小娘ぇっ……」ヨロッ…

ルカ「…………!」ゲボッ

ナナミ「え、え、どうしたの? 大丈夫?」

ルカ「聞け、リオウ!」

ルカ「貴様らは料理でオレを殺したが、オレは剣で何千人も貴様らの同胞を殺した!」

ルカ「オレは!!!」

ルカ「オレが想うまま、オレが望むまま!!!!!」

ルカ「邪悪であったぞ!!!!!!!!!!」





ドサッ……

ホウアン「ダメですね……すでに息絶えています」

ナナミ「え、え、え! うそ、うそ、どうしてー!?」

ハイ・ヨー「なんてことよー!」



フリック「ルカ・ブライト……強敵だったな……」

ビクトール「ああ……」

アップル「これもシュウ兄さんの計なのですか?」

シュウ「……そんなわけあるか」



リオウ「…………」

ジョウイ(ルカ・ブライト……)

ジョウイ(その力があれば、全てを守れると思った)

ジョウイ(だけど……それ以上の“力”の前には、あまりにも無力だった……)

ジョウイ(戦いは、もう終わりにしよう……)

ルカ・ブライト 享年27歳
“狂皇子”とも呼ばれた暴君の波乱に満ちた生涯は、こうして幕を閉じた。

しかし、これは──



ナナミ「なにかの間違いよ! リオウ、ジョウイ、わたしのトンカツ食べてみて!」

リオウ「いや……」

ジョウイ「ボクもお腹すいてないから……」

ナナミ「えぇ~っ!?」



後に世界を支配する最凶の大帝国『ナナミ料理帝国』の序章に過ぎなかったことを、
この時はまだ誰も知る由もなかった……。





~ おわり ~

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