冬休みフレンズ。 (46)

 
 

 なんにもしてなくても、時間は待ってくれない。


 なんにもしてないつもりでも、歩みは止められない。



 隙間の空いた心に木枯らしが吹き抜ける。


 そんな、寒くて短い冬の物語――。

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【親しいからこそ】

祐樹「なー将吾」

将吾「嫌だ」

祐樹「聞く前から!?」

将吾「何かは分からないけど面倒くさいのは間違いないから嫌だ」

祐樹「俺の提案全てが面倒くさいみたいなこと言うなよ!」

将吾「あながち間違ってねーだろ」

祐樹「……電話越しで泣いちゃうぞ」

将吾「そうなったら切るだけだけどな」

祐樹「冷たい! そんな子に育てた覚えなんてありません!」

将吾「…………」

祐樹「あっ、調子乗ってすみませんでした! だから切らないで!」

【なんだかんだで】

祐樹「本題に入るけどさー。将吾って大晦日は予定あるの?」

将吾「寝てる」

祐樹「でしょうね。なら一緒に神社で年越ししない?」

将吾「なんで寒い中そんなめんどくせーことしなきゃならねーんだよ」

祐樹「いいじゃん、青春ぽくて」

将吾「男2人で?」

祐樹「うぐっ。せ、青春ぽい……じゃん」

将吾「……はあ」

祐樹「今のは、仕方ねーな。付き合ってやるよ。と解釈してもいいのかな」

将吾「調子乗ってるとほんとに切るぞ」

祐樹「ごめんなさい」

【やっぱり】

祐樹「あれ?」

一「ん? ああ、なんだ長谷じゃん。何してんの?」

祐樹「コンビニにジュース買いに行ってるとこ。九条は?」

一「ダーツの帰り。色々誘われちゃって忙しいんだよ」

祐樹「ふーん。あ、そうだ。九条って大晦日予定あるのか?」

一「何件かお誘いが入ってるけど?」

祐樹「……女の子から?」

一「ほら、俺ってモテるから」

祐樹(ちょっといらっ)

一「長谷はどうすんの?」

祐樹「さっき将吾誘ったとこ。神社で年越そうぜーって」

一「……男2人で?」

祐樹「いいじゃんか青春ぽくて!」

一旦区切り。

【トリビア?】

一「ま、楽しんでこいよ。俺は家で年越すから」

祐樹「なんで? 誘われてるんじゃないの?」

一「さみーしめんどいじゃん」

祐樹「今年の夏まで北海道にいた人のセリフとは思えないな……」

一「あのな。よく勘違いされるからお前にも教えてやる」

祐樹「なにを?」

一「北海道の冬は寒いのが当たり前だろ? だから家や施設は暖房フル稼働。移動も車。常に暖かい状態を作ってるわけ」

祐樹「へえー」

一「だから思ってるほど寒さに強いわけじゃねーんだよ……」

祐樹「そんなもんなんだ?」

一「俺はもともとこっち出身だから余計かもな。もう雪かきしなくていいと思うと……」

祐樹(なんだろう。この哀愁)

【疑問】

一「ま、そういうことだから」

祐樹「そっか。じゃあまた3学期に」

一「ああ。――あ、そういやよ」

祐樹「ん? なに?」



一「香織は誘ってねーのか?」

祐樹「――え」

一「いや、え。じゃなくてよ。珍しいな、長谷が香織を誘わないなんて」

祐樹「いや、その……。た、たまには家族と一緒にのんびり過ごしたいんじゃないかなって思ってさ……」

一「ふーん? そんなことねーと思うけど……」

祐樹「と、とにかく! また3学期にな! よい年を!」

一「お、おう。……なんだ、アイツ?」

 
 ―――――

 
 
 
 頭まですっぽりと毛布を被っているのに、全然寝付けない。

 普段ならすぐに睡魔が襲ってくるのに、九条の言葉が何度も頭の中で木霊してそれを妨害している。



 香織は誘ってねーのか?



 九条に言ったのは、ウソ。ほんとは藤宮さんを誘いたかった。

 一緒に年を越して、お詣りして、おみくじを引いて。
 笑い合いながら、今年もよろしくって言って。
 そう、したかった。

 でもダメなんだ。
 ずっと“友達”でいるために、俺はこれ以上目立っちゃいけない。藤宮さんを振り回しちゃいけない。
 だから、誘えなかった。誘わなかった。

 なのに。



「……ちくしょ」

 ほんと女々しいな、俺。

 
 ☆ ☆ ☆



沙希「おやっ?」

将吾「…………」

沙希(桐生くんだ。なんだかすっごく不機嫌そう)

将吾「……はあ」

沙希(あ、デパートに入ってっちゃった。んー……、せっかくだし少しお話したいけど、機嫌わるそうだし……。まあ、いっか)





沙希「追いかけちゃおー」

【その後ろ姿は】

沙希(あっ、いたいた)

将吾「…………」

沙希(カゴをカートにのっけて……。おつかいかなー? あ、野菜コーナーでとまっちゃった)

将吾「…………」

沙希(トマト、タマネギ、ニンジンとー、ジャガイモとリンゴ? ……カレー?)

将吾「…………」

沙希(やっぱりカレーのルーもカゴに入れてる。そっか、桐生くんちは今夜カレーなんだ。いいなー)

将吾「…………」

沙希(……それにしても)

将吾「…………」

沙希(最初は桐生くんがお買い物とかなんか変だなーとか思っちゃったけど)

将吾「…………」

沙希(お仕事がおやすみの日にお買い物を頼まれたお父さんっぽい雰囲気が出てるせいか、違和感がどっかいっちゃったよー)

【ほわほわ】

将吾「……ふう」

沙希(袋に入れるのもすっごくはやい。よくお買い物来てるのかなー?)

将吾「あとは、と」

沙希(およ。あ、あれ? どこいっちゃったんだろ? もう出ちゃった? 追いかけなきゃ……)



将吾「さっきからなにしてんだお前」

沙希「ひゃああああ! ……あ」

将吾「あ、じゃなくて」

沙希「……バレちゃってました?」

将吾「隠れもせずに後ろ着いてきててなに言ってんだよ」

沙希「えー。棚とか壁とかに隠れてたよ?」

将吾「半分以上体が見えてるのは隠れてると言わねえ」

沙希「ほほう。そんなにはみ出しちゃってましたかー」

将吾(やっぱ相手しないほうが正解だったかな……)

【やはり哀愁】

将吾「で、なんか用?」

沙希「たまたま桐生くんを見かけたのでお話したいなーと」

将吾「それで尾行?」

沙希「はい」

将吾「本末転倒してないか、それ」

沙希「そうだねー。お話したいのに気づかれないようにしちゃダメだよねー。てへ」

将吾(対応に困る……)

沙希「あ、でもでも。意外と面白かったよ。探偵さんになったみたいで」

将吾「俺を尾けても面白くないだろ」

沙希「そんなことないよー。お買い物してる桐生くんなんて新鮮だし」

将吾(物好きだな)

沙希「桐生くんってお買い物よく来るの? なんだか手慣れてるみたいだったけど」

将吾「休みの日は姉や妹によく行かされてる」

沙希「えっ」

将吾「今日もカレー食べたいとか言いだした妹のために、寝てるとこ起こされて買い出し中」

沙希「なんかゴメンなさい……」

【思い出】

沙希「大晦日は長谷くんとお出かけかー。いいなー」

将吾「いいか?」

沙希「羨ましいよー。私もお出かけしたかったんだけど、お母さんたちが危ないからダメって」

将吾「お前の場合は確かにそうだな」

沙希「うぐ。あーあ、藍ちゃんと舞子ちゃんが誘ってくれたのになー……」

将吾「間違いなく寒いし、賽銭するにも鐘突くにも人多いから時間かかるし、深夜だから眠いし。これが羨ましいか?」

沙希「……そう言われると行きたくなくなるね」

将吾「だろ?」

沙希「……でもっ! そういうのも含めて大切な思い出になるんだよ!」

将吾「思い出、ねえ」

沙希「そうだよー。来年はみんなで行こうね!」

将吾「気が早すぎるだろ」

沙希「えへへー。予約したからね」

将吾「……気が向いたらな」

沙希「あ、笑った」

将吾「笑ってねーよ」


 ―――――




 帰り道。桐生くんに買ってもらったホットの紅茶をひとくち飲む。
 あったかくて体がぽかぽかして、ちいさな幸せに触れた気分になった。

「ねえ桐生くん」

「んー?」

「来年も、みんなが幸せな1年になればいいね」

 そう言うと、コーヒーを飲む横顔がふっと笑った。本人に言っても否定されるだろうけど。
 優しく、笑った。

 私もつられて笑う。
 紅茶のせいかな? 胸がすっごくぽかぽかする。



 こうして一緒に歩く時間がずっと続けばいいなーなんて思ってたら、携帯がピリリと鳴り始めた。

「もしもーし。あ、藍ちゃん」

『どこいるの!? 一緒に冬休みの課題する約束してたでしょ! 舞子も待ってるよ!』

「あ」

一旦区切り。
毎回更新遅くてごめんなさい!

 
 ☆ ☆ ☆



志穂「ごめんね香織。お買い物付き合わさせちゃって」

香織「いいよ。私も楽しかったから」

志穂「あらそう? でも付き合ってくれたお礼に、今夜は香織の好きな茶碗蒸し作ってあげるね」

香織「ほんと? 楽しみだなー」

志穂「ふふっ。お母さん頑張っちゃう――あら?」

香織「え?」



舞子「か、お、り、ちゃーん!」

香織「わぷっ!?」

舞子「会いたかったよー! このこのー!」

香織「あ、あの? ちょ。く、くるしいよ……」

志穂「あらあら?」

藍「な、なんでいきなり走るのよー? ……ってあれ? 香織ちゃん?」

志穂「お友達?」

香織「え、えっと。どなたですか……?」

舞子「へ?」

藍「え?」

香織「え?」

【母は若し】

香織「ごめんね、忘れちゃって……」

舞子「いいのいいの。忘れんぼさんな香織ちゃんも可愛いし!」

藍「こらこら」

志穂「えっと……?」

香織「あ、紹介するね。お友達の藍ちゃんと舞子ちゃん」

藍「西村藍です」

舞子「芹澤舞子でーす! 香織ちゃんのお姉さんですか?」

志穂「まあ! うふふっ」

香織「お母さんだよー」

藍「え」

舞子「え」

志穂「志穂さんって呼んでくれていいからね。香織がいつもお世話になってます」

舞子「あ、いえいえ……」

藍「こちらこそ……」

志穂「でもお姉さんかー。私もまだまだいけるかしらね。ふふっ」

香織「もう、お母さんてば」

藍(うちのお母さんとは)

舞子(大違いだなー……)

一旦区切り。

【無いなら行こう】

志穂『積もる話もあるだろうから、お母さん先に帰るね。晩ご飯までには帰ってくるのよ』

香織(って言って、お母さん帰っちゃったけど……。ちょっぴり緊張しちゃうなー……)

藍「でもよかった。香織ちゃんに会えて」

香織「そういえば学校以外で2人と会うのは初めて……だよね? 家はこの近くなの?」

舞子「んーん。2人とも緑川だよー」

香織「え? じゃあ今日はお買い物?」

藍「メインはそうなんだけどね」

舞子「香織ちゃんに会えないかなーと思って聖蹟まできたの!」

香織「私に?」

藍「香織ちゃんが聖蹟に住んでるのは沙希に聞いてたから」

舞子「連絡先わからないから直接会わないと話せないからねー……」

【女性版】

舞子「香織ちゃん!」

香織「は、はいっ!?」

舞子「重大な案件が2つあります!」

藍「大げさな……」

香織「な、なにかな?」

舞子「実はー……。あのねー……」

藍「大晦日の夜、一緒に神社に行かない?」

舞子「あ! 私が聞こうとしたのに!」

藍「焦らしすぎなんだもん」

香織「大晦日の夜?」

舞子「そーそー。除夜の鐘鳴らしたりさー!」

藍「よかったら一緒に年越ししよう?」

香織「え、えっと。誘ってくれて嬉しいんだけど……。大晦日は家族でお出かけするの……」

藍「そっか。それじゃあ仕方ないね」

舞子「2人だけで年越しかー……」

藍「言わないの」

香織「ご、ごめんね!」

【類は友を呼ぶ】

藍「ちなみに香織ちゃんはどこの神社に行くの?」

香織「毎年〇〇神社で新年迎えてるから、今年も同じだと思うよ」

舞子「そこなら近いし、私たちもそこにしよ!」

藍「そうしよっか。神社で会ったらよろしくね」

香織「うん、楽しみにしてる。あ、そうだ。まだ用件あるんだよね?」

藍「…………」

舞子「…………」

香織「あ、あれ?」

舞子「あの、ね」

藍「冬休みの課題なんだけど、化学も出てたでしょ?」

香織「う、うん」

藍「実は2人揃って化学が苦手で」

舞子「すっごくピンチなの……」

香織「あはは……」

藍&舞子「だから助けて香織ちゃーん!」

香織(ほんと息ぴったりだなー……)

一旦区切り。

【可愛いは正義】

香織「じゃあいつにしよっか? 私は三が日以外ならいつでも大丈夫だけど」

藍「出来れば年内のほうがいいかな。年明けちゃうと舞子が忙しいから」

香織「そうなの?」

舞子「部活がねー……」

藍「運動部は大変だー」

香織「2人は部活入ってるんだっけ」

舞子「うん、テニス部だよー!」

藍「私は吹奏楽部。冬休みはずっとお休みなんだ」

香織「へー。私は部活してないから、なんだか羨ましいなー」

舞子「香織ちゃんも部活入ったら? 楽しいよ!」

藍「気が向いたらうちの部覗きにきて。歓迎するよ」

香織「ふふ、ありがとう。でも私が入っても迷惑かけちゃうから……」

藍「泣いた!?」

舞子「泣かないで香織ちゃん! でも泣き顔も可愛いッ!」

藍「こら」

 
 ―――――



「でねでねっ! その時の沙希が可愛くって!」

「舞子は甘すぎだってば」

 楽しげに笑う友達につられ、私も笑いを零す。

 去年の私には、こんな輪の中に自分がいられるなんて想像も出来なかっただろう。
 それくらい、大きく変わった1年だった。



 ――ううん。違う。
 “変わった”んじゃなくて、“変えてもらった”んだ。
 1人の大切な友達に。
 その人のおかげで私に友達出来て、こうして笑えている。

 ……その人はどんな冬休みを過ごしているのだろう、と。首に巻いたマフラーを握り締めながら、つい考えてしまう。
 最近あなたの事ばかり考えてしまいます。どうしてなのかな?



「ねえねえ香織ちゃん!」

「え?」

「香織ちゃんのお母さんっていくつなの? 結構若いよね?」

「えっとね、今年で41だよー」

「「よっ!?」」

 
 ☆ ☆ ☆



祐樹「晴れてよかったな」

将吾「寒いのに変わりないけどな」

祐樹「冬なんだから仕方ないって」

将吾「家にいたら寒くねえと思うんだが」

祐樹「せっかく来たんだからそういうの言うのは無し!」

将吾「……はあ」

祐樹「それにしてもやっぱり人多いなー。知り合いいてもわかんないな、これじゃあ」

将吾「先に言っとくけど、はぐれたらほっといて帰るから」

祐樹「相変わらず冷たい! 師走の空気より冷たい!」

将吾「なんなら今すぐ帰ってもいいんだけど」

祐樹「ごめんなさい。あっ、甘酒配ってる! ちょっと待ってて!」

将吾「やれやれ……」

【雑学王?】

祐樹「……はあー、あったかい。やっぱり冬は甘酒だよなー」

将吾「そうか?」

祐樹「風情っていうかさー。焼き芋とおんなじで冬がきたって感じがするじゃん」

将吾「甘酒は夏の季語だけどな」

祐樹「えっ!?」

将吾「もともと夏バテ防止のための飲み物だし」

祐樹「……なんで将吾ってそんな雑学に詳しいの?」

将吾「別に詳しいわけじゃねーけど。テレビかなんかで聞いたのを覚えてただけだ」

祐樹「そうやって博識アピールを……」

将吾「してねー」

祐樹「でもそっか。甘酒って夏の飲み物なんだ……」

将吾「まあ正月の参拝客に振る舞う寺社も多いし、冬の名物でも間違ってないだろ」

一旦区切り。
年内には終わらせられるよう頑張ります…。

【インスタント風情】

祐樹「そういや風情で思い出したんだけど、将吾は年越しそば食べてきた?」

将吾「一応」

祐樹「やっぱ将吾んちも食べるんだ。あれ美味しいよな」

将吾「そうか?」

祐樹「滅多に蕎麦食べないから余計かも。海老天もさくさくしててさー」

将吾「俺の場合家族分作らさせられるから、めんどくて嫌いなんだよ」

祐樹「え、そう?」

将吾「お前は親が作ってくれるんだろ?」

祐樹「ううん。自分の分は自分で作るけど」

将吾「へー。珍しいな、お前が料理なんて」

祐樹「馬鹿にすんな! お湯入れるくらいできるよ!」

将吾「……ん?」

祐樹「へ?」

将吾「……もしかしてそれ、緑のタヌキのパッケージか?」

祐樹「将吾は違うの?」

将吾「風情の意味をもっかい勉強してこい」

【そんなもの】

祐樹「あと3分か。なんかワクワクするなー」

将吾「ただ年が変わるだけだろ」

祐樹「それはそうなんですけど。その瞬間に立ち会えるのが嬉しいっていうか寂しいっていうか……」

将吾「寂しい?」

祐樹「今年は、さ。俺にとってたぶん人生で重要な年だったと思うから……かな」

将吾「……ま、確かにな」

祐樹「だろ? だから寂しかったりもするんだよね」

将吾「そんなお前にいいこと教えてやろうか?」

祐樹「へ? なに?」



将吾「明けましておめでとう」

祐樹「……え?」

将吾「時計見てみろ」

祐樹「……いつの間に」

将吾「年越しなんてそんなもんだ」

【本年も】

祐樹「……なんか大事なものを去年に置いてきた気がする」

将吾「いつまでもうじうじ言ってねーで参拝済ますぞ。早く帰りてーし」

祐樹「ていうか将吾! 気づいてたなら教えてくれよ!」

将吾「なんで」

祐樹「ほら、新しい年を迎えるのに気を引き締めたりいろいろあるだろ!」

将吾「別に」

祐樹「将吾はそうかもしれないけどさ! ああ……、なんか出遅れた気分」

将吾(めんどくせえ)

祐樹「うう……。明けましておめでとう……」

将吾「はいはい」

祐樹「今年もいろいろお願いします」

将吾「しれっと頼る気満々なセリフ言うな」

祐樹「てへっ」

将吾「キモいからやめろ」

 
 ―――――





 賽銭箱の前に立ったのは新年を迎えてしばらく経ってから。
 長蛇の列をゆっくり進む中、横を歩く親友は何度も眠そうに欠伸をしていた。それでもなんだかんだで付き合ってくれる親友の優しさに、改めてお礼が言いたくなって。

「ありがとな」

 前触れも無しに言ったその言葉に、いつも通りのしかめっ面をして「別に」と返してきた。
 たぶん、コイツは今年もこんなんだろう。なんか安心。

「そんなのいいからさっさと願掛けしろよ。それがしたかったんだろ」

 ……ああ、やっぱりコイツは変わりそうにない。人の気持ちを読むとことか。

「……そんなにわかりやすい?」

「さーな」


 改めて。
 事前に用意していた5円玉を木製の賽銭箱に投げ込む。そして手を叩いて――。

「ちがう」

「へ?」

「まずは二礼。その後二拍。作法知らねーと恥かくぞ」

「う、うるさいなー。わかってるよ」

 ……知らなかったけど。
 賽銭にも作法あるんだ。

「絶対、叶えたいんだろ」

 ……ああもう。ほんとにコイツは。

「……さんきゅ」

 再度改めまして。
 賽銭箱に向かって2回頭を下げ、2回手を叩く。
 そして、心の奥から願う。



 いつもなら、新しいゲームが欲しいとか、彼女が欲しいとかいろいろお願いしてるけど。
 
 でも、今年は1つだけ。
 欲張ったりしない。
 だから、神様。お願いします。





 “藤宮さんが、幸せでいられる年になりますように”


 ―――――





 今年はなにを願おうか。
 そんな話をお母さんと話しながら列を進む。
 お母さんが「香織もお年頃だもんね」と言うと繋いでいるお父さんの手がぴくっとした。どうしたんだろう?

 そうこうしているうちに賽銭箱の前に着いて、お父さんから5円玉を受け取る。
 お金を入れ、2度礼をして、2度手を叩き。お願い事。



 “今年も友達と仲良くいれますように”



 ――そう願った時、急に長谷くんの名前が頭に浮かんで。

 なぜ?
 日記を読んで大切な友達なのは知ってる。
 けど、顔も知らないのに、実際どんな人なのかもわからないのに。
 なんで神様に長谷くんのことをお願いしたい自分がいるんだろう?

 ……何度考えてもわからないけど、頭の中に浮かんだことを願わずにはいられなくて。
 もう一度、神様にお願い。





 “長谷くんが、笑顔で過ごせる1年になりますように”

 
 ☆ ☆ ☆



 互いの事を願う2人。



 ――それが同じ場所で、同じ時に祈っていたのは偶然なのか。



 声を出せば届く距離。見知らぬ人達を挟んだその先に、想う人がいると知れたなら。



 ――すぐ近くにいるのに触れ合えない。それが2人の運命なのか。



 参拝を終えた2人は、違う方へと歩き出す。
 願い事を胸に秘め、新たな年を進み出す。



 その先に、互いの願いが叶う未来があるか分からないままに。





 ――さあ、運命の年が、時を刻みだした。





fin.

明けましておめでとうございます。

これにて終わりです。
遅筆な上に拙筆でほんとに申し訳ない限りです……。

今更ですが元ネタは【一週間フレンズ。】となります。
矛盾等も見受けられると思いますが何卒御容赦下さいませ。

もしよければまたお付き合い下さい。でわ。

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