後輩「先輩、やっぱりここにいたんですね」 (86)

男「……」

後輩「なんでいっつも、この図書館にいるんですか?」

男「……」

後輩「その本、面白いですか?」

男「……」

後輩「私、小説ってどうも苦手で……あっ、でも先輩のおすすめなら頑張って読みますからね」

男「……」

後輩「……先輩、私退屈ですぅ」

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男「……あのさ」

後輩「なんですか! 先輩の質問ならなんでも答えちゃいますよ!」

男「帰れば?」

後輩「いやいやいや、なんですか、それ? こんな可愛い子が、なんでも教えるって言ってるんですよ? もっと他に聞く事あるじゃないですか」

男「ないから」

後輩「ん? ん? それって、私の事はなんでも知ってるって事ですか? いやぁん、もう先輩のえっちぃ」

男「……」

後輩「無視しないで下さい! 私がバカみたいじゃないですか! ボールを投げたのにスルーされて、自分で拾いに行く辛さを知らないんですか!?」

男「僕にはボールを投げる相手がいないからね」

後輩「私がいるじゃないですか。ほら、この胸にドーンと投げて下さい。……今、私のおっぱいを意識しましたね? このこのぉ」

男「……」

後輩「……いい加減、泣いちゃいますよ?」

男「ご自由に」

後輩「大声で泣いちゃいますよ?」

男「ご勝手に」

後輩「きっと、みんなは先輩の事を悪者扱いしますよ? それでもいいんですか?」

男「いいよ」

後輩「ぶー! つまんないです。なんで先輩は焦ったりしてくれないんですか? ちょっとは可愛いところを私に見せてくれたっていいじゃないですか」

男「僕は可愛くないやつだから」

後輩「ならカッコいいところでも可」

男「可愛いだとかカッコイイだとかは、僕の顔を客観視してから言えば?」

後輩「ん~……メガネをかけた凸凹の多い痩せたお芋みたいですね」

男「ご評価、どうもありがとう」

後輩「私、お芋好きですよ? カレーとか、肉じゃがとか、粉ふき芋とか、あとはグラタンとかも。他にもスイートポテトやポテトチップスもいいですね」

男「そうですか」

後輩「はい! なんなら、明日にでもお芋料理を作って来ましょうか? こう見えても料理は得意なんです」

男「結構です」

後輩「遠慮する事なんてないんですよ?」

男「いらない」

後輩「そうはっきり言われますと、心に来るものが……あっ、すみません。電話がかかって来ちゃったので、少し離れますね」

男「……」

後輩「はーい、私だよ。どうしたの? ……うん、うん。……えっと、今から? う~ん……ちょっと待ってて」

男「……」

後輩「先輩、可愛い後輩から一つご提案があります」

男「絶対に行かない」

後輩「先読みした上に、拒否らないで下さいよ!」

男「どこかに誘われたんだよね? 行けば? むしろ行って下さい、一人で」

後輩「うぅ、敬語の上に、体言止めで一人を強調するなんて……わかりましたよぉ。今回は断れそうもない状況らしいので、行って来ます、一人で……」

男「そうして下さい」

後輩「だがしかしですよ! 今度は一緒に遊びましょうね。大勢が嫌なら、私と二人で遊びましょう!」

男「ムリ、ゼッタイ」

後輩「なんでどっかの標語みたいな言い方で断るんですか! 私はアレですか? 違法ドラッグですか?」

男「こっちから近付かなきゃ無害な分、大麻やらの方が安全だね」

後輩「うわーん! 先輩のバカー! 明日、私が作ったポテトサラダを食べさせてやるからなー!」

男(……いらないって言ったのに。でも、これで今日は静かになるなぁ)

翌日


後輩「ほら先輩、お口を開けて下さい」

男「……なにそれ?」

後輩「マカロニポテトサラダ~海鮮を入れて~です」

男「……なにそれ?」

後輩「お芋とゆで卵と玉ねぎとニンジンとキュウリとマカロニを混ぜたものに、ホタテの貝柱としじみを入れてみたんです。
   その二つはグラタンとかピザにも合うじゃないですか? だから行けると思って」

男「ふーん」

後輩「味付けは塩コショウのみですよ。マヨネーズを使わなかった分、少しヘルシーな仕上がりです。でもですね、思ってた以上にいい感じになりました」

男「そうなんだ」

後輩「味の方はご安心を。ちゃんと味見をしていますし、一番仲のいい友達に褒められましたから。そう言うわけで、あーんして下さい、あーん」

男「なにがそう言うわけなのかは知らないけど、僕は国指定の機関が検査して、ありとあらゆる数値が規定内に収まった物しか食べられないから」

後輩「いやぁ、流石の私でもその嘘は無理があるかと……」

男「……」

後輩「……え? 本当なんですか?」

男「嘘に決まってるじゃん。なんで信じてるの?」

後輩「ぐぬぬ……」

男「なんにしても、僕は食べないから。そもそも図書館は飲食禁止だよ」

後輩「ちょっとくらいなら司書の人たちも見逃してくれ……ないかなぁ?」

男「……」

後輩「あ、あの……先輩はケータイでなにを?」

男「この図書館へ送るためのメールを作成中」

後輩「ちなみに、内容をお伺いしても……?」

男「身長百五十センチ弱くらいで、○○高校の制服を着ており、短い茶色の髪をうなじ辺りでうさぎの尻尾みたいに纏めている子が館内で飲食を――」

後輩「はい、片づけました! 蓋もバッチリ閉めましたし、巾着型のお弁当袋にも入れました! これでノーカン! ノーカン!」

男「……大声で騒いでいます。迷惑なので出禁にして下さい。これでいいね。送信――」

後輩「させません! このケータイは、私が没収します!」

男「……まぁ、もう遅いけど」

後輩「へっ?」

司書「お嬢ちゃんや」

後輩「ひゃい!」

司書「元気なのは結構なんだがね、もうちっと、静かにしては貰えんかねぇ? こんな図書館でも、今も何人かは利用してくれているからね」

後輩「す、すみません! 本当にすみません! もう二度と騒ぎませんし、食べ物も出したりしませんので、どうか出禁だけは……っ!」

司書「はっはっは、今回の件では出禁になどせんよ。ただね、本当に何件も苦情が入ってしまったら、申し訳ないけど……」

後輩「二度とうるさくしないと誓います!」

男(その誓い自体がうるさいんだけどなぁ……)

司書「うんうん、素直でいい子だ」

後輩「えへへ……」

司書「私はこれで失礼するよ。君たちはごゆっくり」

後輩「はい」

男(ゆっくりしなくていいのに)

後輩「うぅ……怒られちゃいました。ケータイはお返しします」

男「あれで怒られた分類に入るのなら、君は本当に幸せな人生を歩んでいるんだと思うよ」

後輩「それはもう、毎日が幸せです」

男「ふーん」

後輩「ただ最近は悲しみに明け暮れる日々……」

男「へぇー」

後輩「もう、先輩のせいなんですよ? いい加減、本を読むのをやめて、私の目を見て話して下さい」

男「話は変わるけど、ここはどこ?」

後輩「図書館ですね」

男「なにするところ?」

後輩「……本を読むところです」

男「僕がなにを言いたいか、わかる?」

後輩「わかりましたよぉ。大人しく私も本を読みますよぉ」

後輩「でもなにを読んだらいいのか……おすすめはありませんか?」

男「『ウォーリーをさがせ』」

後輩「そんな本があるんですね。行方不明になったウォーリーさんを見つける物語かなぁ? まぁいいや、とにかく探してきます」


暫くして


後輩『絵本! 絵本でした! しかも物語じゃない! ウォーリーさんを見つけるだけの本!』

男(一階にいるはずなのに、二階のここまで声が聞こえるなんて……どれだけ騒いでるんだよ、あの子)

後輩『す、すみませんでした!』

男(うん? あぁ、また司書の誰かに怒られてるな。本気で出禁にすればいいのに……)

後輩「また叱られちゃいました……」

男「……」

後輩「先輩のせいですからね」

男「……」

後輩「でも、折角のおすすめなので、やってみます」

男「……」

後輩「……」

男「……」

後輩「……あの、先輩? これ、全ページに赤い丸が書かれているんですけど……?」

男「知ってる」

後輩「ウォーリーさん、その丸の中にいるんですけど……?」

男「それも知ってる」

後輩「もう! なんですかもう! 人がやる気を出したって言うのに、ネタバレってレベルじゃありませんよ、もう!」

司書「……お嬢ちゃん?」

後輩「……本当にごめんなさい」

閉館後



後輩「んー……久しぶりに本を読んだなぁ」

男(今日は閉館まで粘られちゃったよ……この子のケータイが鳴らなかったからなんだけど)

後輩「これからどうします?」

男「……さようなら」

後輩「ノリが悪いなぁ。けど今回はいいでしょう。私もちょっと用事がありますので。ただその前に、はい」

男「なにこれ?」

後輩「館内でも見せたじゃないですか。私手作りのマカロニポテトサラダです。お家で食べてみて下さい」

男「僕、芋嫌いなんだよ」

後輩「へっ? そうだったんですか?」

男「ついでに卵アレルギー持ち」

後輩「マ、マジですか?」

男「わりとマジで」

後輩「マジですか……そうですか……では、今度は卵を使わない料理を作って来ます。他に食べられない食材はありますか?」

男「君の料理」

後輩「酷い!」

男「じゃあ」

後輩「ほ、本当に帰っちゃった……」

翌日


後輩「私、悟りました。私に足りないものは癒しだと」

男「……で?」

後輩「ただ、いきなり癒す存在になろうとしても無理でした。学校で頑張ってみたんですけど、友達に体調が悪いのかって心配されちゃって……」

男「……で?」

後輩「だから考えました。その結果が彼女です」

友「あ、あの……はじめまして、後輩ちゃんの友達の友です」

男「どうも」

後輩「見て下さい、この癒し具合。眺めているだけで心が安らぎませんか?」

男「そうかもね」

後輩「ぐぬぬ……本から一切目を逸らさないまま、適当に相槌を打って……とにかくですね、今日から友ちゃんにも付き合って貰う事にしました」

友「その、よろしくお願いします」

男「……友さん、だっけ?」

友「は、はい」

男「嫌なら嫌ってはっきり言った方がいいよ」

友「そ、そんな事、ありません、よ?」

後輩「いや、そんな同意を求められるように私を見ても……本当は嫌だった?」

友「嫌というわけじゃないよ。後輩ちゃんにはいつも助けて貰ってるから、私に出来る事なら協力してあげたいし」

男「あんまり乗り気じゃないけど、性格上断れず、しかも恩があるから我慢してるんだってさ」

後輩「正直、私もそう聞こえました」

友「ち、違うの。本当に違うからね? 嫌なんかじゃないんだよ? ただ……」

後輩「ただ?」

友「その、癒すって、なにをしたらいいのかわからないから……」

後輩「なぁんだ。それなら簡単だよ。ほら、そこに座って」

友「先輩さんのお隣に?」

後輩「うん」

友「えっと、失礼します」

男「……」

友「次はどうするの?」

後輩「次? 次なんてないけど?」

友「え?」

後輩「どうですか、先輩。友ちゃんが隣にいて癒されません? いい匂いがしません?」

友「に、匂いって……」

後輩「友ちゃん、クラスですごい人気者なんですから。ね? ドキドキするでしょう?」

男「君は僕を癒したいの? 欲情させたいの?」

友「よ、欲情……!?」

後輩「ん~、ムラムラさせる予定はなかったんですが……わかりました。友ちゃんに罪はありませんから、私が責任持って先輩の息子さんの相手をしましょう」

友「後輩ちゃん!」

後輩「あはは、冗談だって。私はまだ処女だよ? もっと自分を大事にするって」

友「しょ!? ダ、ダメだよ、男の人がいる前でそんな事言ったら!」

後輩「気にしない気にしない。先輩、そろそろ私も適当に本を持ってきますね。あっ、友ちゃんは残ってて」

友「えっ? う、うん……」

後輩「読みたい本があるのなら持って来るけど、どうする?」

友「それじゃあ、浅田次郎さんって作家さんが書いた、壬生義士伝の下巻を……」

後輩「アサダジロウさんのミブギシデンの下巻だね。了解」

友「多分、歴史のコーナーにあると思うよ。それと、出来れば文庫本の方がいいかな」

後輩「ブンコ本? ただの本じゃないの?」

友「えっと……」

男「……僕が読んでる本に形や大きさが似ている物」

後輩「へぇ~、そう言う本を文庫本って言うんですね。うん、わかったよ。友ちゃん、ちょっと待っててね。先輩も」

友(……友ちゃん、どうして階段の方に向かって行ったのかなぁ? 一階の本は、子供用の絵本か児童書くらいしかないのに)

男「……」

友「え、えっと……さっきは後輩ちゃんに文庫本の説明をして貰って、ありがとうございます」

男「……」

友「お、お礼を言ってすみません……」

男「……」

友(わ、私はどうしたらいいの……? 黙ってた方がいいのかなぁ?
  でもそれだと私がいる意味がなくなっちゃうだろうし……あっ、先輩さんが読んでる本って……)

友「あ、あの、その小説、お好きなんですか?」

男「目についたから読んでるだけ」

友「わ、私、読んだ事があります!」

男「図書館だよ? あまり大声は出さないでね」

友「す、すみません……」

男「……読んだ事があるから、なに?」

友「いえ、なんでもないです……。よく考えたら、ネタバレをしてしまうところでした。ミステリー小説なのに」

男「……」

友「……」

男「……はぁ」

友「……」

男「話したいのなら好きにすればいいよ。僕はネタバレされても気にしない方だから」

友「そ、そうなんですか?」

男「相槌を打つかどうかは気分次第だけど」

友「ちょっと寂しいけど、我慢します。ところで、どこまで話は進んでいますか?」

男「Aって人が死んで、Bさんの子供が見ていた変な夢が明確になり始めたところ」

友「一番重要なポイントですよ。そこからどんどん伏線を回収して行きます。特に――」



三十分後



友「――という結果になるんですよ」

男(ネタバレはいいって言ったけどさ、この子、最後まで全部話しちゃったよ……)

友「どうですか? 面白い話だとは思いませんか?」

男「そうだね」

後輩「ただいま~」

友「おかえりなさい、後輩ちゃん」

後輩「先輩もただいまです」

男「……」

後輩「まーた無視するんですから。まぁ、すぐに離れますけど」

友「どこかに行くの?」

後輩「友ちゃんに頼まれた本がこのフロアにあるって図書館の人に聞いてね。ずっと一階で探してたから、こんなに遅くなっちゃったんだ」

友(やっぱりそうだったんだ……)

後輩「でも今度はばっちり場所を聞いたから、すぐに戻って来れるよ」

友「急がなくてもいいけど……それより、後輩ちゃんの本は?」

後輩「これ」

友「え、絵本……?」

後輩「うん。昨日、ウォーリーを探せって本を探している時に見つけてね。ほら、見てよ。ページを捲ると絵が飛び出して来るんだよ。凄くない?」

友「う、うん……」

友(懐かしいなぁ、飛び出す絵本)

後輩「じゃあ行って来るね」

友「二度手間にさせちゃってごめんね」

後輩「大丈夫だよ、私が言い出したんだから」

友(一応、歴史のコーナーの方に行ったけど、大丈夫かなぁ?)

後輩「あったー!」

友「あっ、見つかったんだ。よかった」

男「……」

友「……」

男「……」

友「……」

友(……あれ? 中々帰って来ない。どうしたんだろう?)

後輩「……ただいまぁ」

友「ど、どうしたの? すごくテンション下がってるけど」

後輩「司書のお爺ちゃんにまた叱られちゃった……」

友「あぁ……あれだけ大声で喜んでたら、仕方ないよね」

後輩「友ちゃんにも聞こえたの? このフロアって言っても、一番奥だったのに」

友「うん、結構はっきり」

友(……うん? 一番奥? 前にこの図書館に来た時は、真ん中くらいだったような……)

後輩「そっかぁ……あっ、これでいいんだよね?」

『武技師伝下巻―浅野五郎』

友(武技師……こんな言葉、初めて見たけど、後輩ちゃんはどこでどうやって間違えちゃったのかなぁ?
  にしてもこの表紙の絵……持ってるだけで恥ずかしいよぉ。なんでこんなに肌色面積が多い女の人のイラストなの?)

後輩「それにしても意外だったなぁ。友ちゃんがそう言う本読むなんて。もっと難しい本ばっかり読んでると思ってた」

友「さ、最近読み始めてね……」

後輩「そっかぁ」

友「う、うん……」

友(これって、流行りのライトノベルって本だよね? 他に読みたい本が溜まってるから手を付けてなかったけど……)

後輩「さて、私も読み始めようっと。……あれ? 友ちゃん、読まないの?」

友「よ、読むよ?」

友(大丈夫。ちょっとエッチな絵があるけど、中身は普通って話だもん。きっと大丈夫……じゃ、じゃあ、表紙を……)

後輩「ど、どうしたの? 開いた瞬間すぐ閉じちゃって」

友「……ううん、なんでもないよ」

友(どうして一ページ目に全裸の女の子の絵が……しかもカラーで……)

後輩「顔が真っ赤だけど、大丈夫? 待ってる間に体の調子が悪くなっちゃった?」

友「……うん、平気だよ。小さな頃の恥ずかしい思い出がフラッシュバックしちゃっただけだから」

後輩「あるある。私もしょっちゅうだよ。その度に大声で叫びたくなるよね」

友「うん」

友(……覚悟を決めなさい、私。よしっ!)

友「」

後輩「と、友ちゃん? 突然、机に突っ伏してどうしたの? 本当に大丈夫?」

友(まさかの七ページ連続だったなんて……)

男「……」

翌日


後輩「昨日、友ちゃんは本当にどうしたんですかね? その話をするとすぐ顔を赤くするんで、結局聞けませんでしたけど」

男「君が持って来る本を間違えたからだよ」

後輩「うぇっ? わ、私、間違えてたんですか?」

男「壬生義士伝って言うのは、新撰組のとある人物を主人公にした歴史物のお堅い小説。君が持って来たのは、肌色満載のファンタジー小説」

後輩「あちゃ~、だからですか。友ちゃん、エッチな事が苦手だから、おかしいと思ってたんですよ。あとでちゃんと謝ります」

男「……ねぇ」

後輩「なんですか? と言うか、今日はよく話してくれますね。すごく嬉しいです。友ちゃん効果かな?」

男「……」

後輩「す、すみません。謝りますから、どうか続きを」

男「……君が座っている席の机には、なんで絵本が山積みになってるの?」

後輩「いやぁ、絵本って読んでみると、これがまた結構面白くて。
   でも、一冊一冊はすぐ読み終わっちゃうじゃないですか? その度に取りに行くのが面倒なので、纏めて持って来ました」

男「小さな子の迷惑にならないようにした方がいいよ」

後輩「その点は問題ありません。受付の人に聞いてみたら、平気だって言われましたから」

男「そっか」

後輩「そうなんです」

翌日


後輩「先輩、今日は土曜日ですよ? 学校はお休みですよ?」

男「だからこうして朝から図書館にいるんだけど?」

後輩「どこかに行きましょうよ。折角一日時間があるんですから」

男「嫌です」

後輩「ぶーぶー」

男「大体、どこに行くつもりなの?」

後輩「どこだっていいんですよぉ。カラオケで歌っても、ボーリングで体を動かしても、ゲームセンターでも、どこでも」

男「財布なんて持ってないよ」

後輩「なら色んなお店を冷やかしに行きましょう。それならお金は必要ありませんから」

男「こんな田舎町のどこで?」

後輩「それは隣街へ……すみません、電車代がかかったので、この案はなしにします」

男「他に案がないのなら、静かにしててね」

後輩「いえいえ、まだあります。公園なんてどうですか? ほら、ここから歩いて十分くらいのところにある○×公園。
   無駄に大きいから、散歩にはうってつけですよ」

男「……わかったよ」

後輩「……えっ!? い、いいんですか?」

男「丁度いい機会だ」

後輩「丁度いい機会? なんの事ですか?」

男「……先に出口で待ってて。僕はこの本を戻して来るから」

後輩「はーい」

公園


後輩「うーん、青空の下だと気持ちいいですね。図書館の空気も好きになりましたけど、やっぱり天気のいい日はお外が一番ですよ」

男「……」

後輩「あそこで小さな子たちがサッカーをしてますよ。あの子たちが大人になった時、みんなプロのサッカー選手になったりしませんかね?」

男「……」

後輩「先輩先輩、あそこの枝の先を見て下さい。リスがいますよ、リス。うわぁ、可愛いなぁ」

男「……」

後輩「……むぅ、図書館を出てから一言も口を聞いてくれなくて、ちょっとご立腹です。すねちゃいますよ?」

男「……ここでいいか」

後輩「なにがですか?」

男「君に話したい事があるんだ」

後輩「話したい事? もしかして、愛の告白ですか!? キャー! 照れちゃいますよ!」

男「……僕は、君が嫌いだ」

後輩「……え?」

男「君だけじゃない。君が連れてきた子も、同級生も、先生も、みんな」

後輩「い、いきなりどうしたんですか……?」

男「僕はね、たった十七年の人生で二回、死にかけているんだよ。両親の手で」

後輩「……」

男「一回目は、小学三年生だった時の七月十八日。夏休みが始まるって事で、生まれて初めて父さんと母さんがご馳走を出してくれた。嬉しかったよ、食べる前までは」

後輩「……食べたあと、どうなったんですか?」

男「苦しさで悶えたよ。汗も涙も鼻水も嘔吐もおしっこも止まらなくなった」

後輩「それって……」

男「僕の両親は、そんな僕を見て笑ってたよ。今でも鮮明に思い出せる。
  おかしいよね、すごく苦しかったのに、苦しみよりも両親の声の方が記憶に残ってるなんて」

後輩「……」

男「でも僕はなんとか助かった。ずっと吐いてたからなのか、両親が盛ったなにかの量が少なかったのかはわからないけどね。
  三日間、痙攣と気絶を繰り返すだけで済んだ」

後輩「二回、って言いましたね。その時、二人は警察に捕まらなかったんですか?」

男「僕は病院に行ってない。夏休みだから、学校にも行かなくていい。当時の友達が遊びに来ても、体調が悪いからと言って追い返せばいい。
  その状態でどうやって警察が気付くのか、僕も知りたいよ」

後輩「それは、先輩が――」

男「殺されかけた無力で無知な子供が、他の誰よりも傍にいて、誰よりも怖いと思う大人たちを怒らせるような真似が出来ると言うのなら話は別だけど」

後輩「……」

男「二回目は小学四年生になる四月七日の朝。前日から父さんと母さんはどこかに出かけてたんだけど、朝になると帰って来た」

後輩「また、食事に……?」

男「いいや。今度は酔っぱらっていたんだ。嫌な事があったんだろうね、朝まで飲んでたんだと思うよ。
  その状態で帰って早々、殺したいと思うほど嫌いな僕の顔を父さんと母さんは見た」

後輩「……」

男「ろれつが回っていない口で僕を罵倒しながら二人は殴って来たんだ。……ねぇ、僕の顔、不自然なくらい凸凹していると思った事ない?」

後輩「まさか……」

男「生きているのは奇跡だって言われたよ。だからこそ命を大切にして欲しい、って。
  バカにしてるよね、その医者。顔の形を変えられてさ、目も怪我をしてメガネなしじゃほとんどなにも見えない状態にされたって言うのに」

後輩「……こんな言い方は失礼かも知れませんが、どうして先輩は助かったんですか?」

男「僕が住んでいた家の前は、小学校への通学路としてよく使われていたんだ。ほら、横断歩道で黄色い旗を持って誘導してくれる大人がいたでしょ?
  通学の時間だったから、その日の担当の人も近くを通りかかってね、両親の大声を聞いて通報してくれたんだ」

後輩「……先輩は間違ってます」

男「なにが?」

後輩「先輩は助けて貰っているじゃありませんか。お医者さんにも、通報してくれた方にも。なのに、みんなを嫌いになるなんて間違っています」

男「……話には続きがあってね、僕を治療した医者は、影で僕の事をこう言ってたよ。面倒な患者が来た、って」

後輩「めん、どう……?」

男「当時はわからなかったけど、今ならわかるよ。僕はただの患者じゃないんだ。被害者。治療してはい終わり、じゃ済まないんだよ。
  詳しい事は知らないけど、警察やらに報告したりしないといけないじゃないかな? 治療費だってどこから出たのやら。そりゃ面倒だよね」

後輩「で、でも……」

男「退院後、僕は通報してくれた人にお礼を言いに行ったよ。そしたらね、笑顔だった」

後輩「ほら! やっぱり――」

男「子供の僕でもわかるほど、引きつっていたけど。口では心配するような事を言ってくれたよ?
  でも、厄介事に巻き込まれたくなかったんだろうね。実際、すぐ追い返されたよ」

男「そんな経験をしたけど、僕はこの土地を離れたくなかったんだ。大人はみんなおかしいかもしれないけど、学校には友達がいたから。
  だから、近くの施設に入れて貰って、傷が完治してから学校に行ったんだ。久しぶりに会うから、楽しみだったよ」

後輩「もう、いいです。もう……聞きたくありません」

男「友達だと思っていた連中は、僕の事を指を差して笑ったよ。気持ち悪い顔って。虐待なんてされるダサいやつだって」

後輩「お、お願いします……本当に、もう……」

男「ねぇ、誰を信じたらいい? どうやったら他人を信じられる? 毒のせいで、加工されてない生の野菜しか食べられなくなったこの体で。
  事情を知っているやつにさえ笑われながらバカにされるこの顔で。どうやって?」

後輩「それは……」

男「言っておくけど、同情して貰うためにこの話をしたわけじゃないよ。君が考えている事は知らないけど、もう僕の周りにいて欲しくないから話したんだ。
  君の存在が、僕にとって不快でしかないから」

後輩「……」

男「これで僕の話は終わりだよ。じゃあね。二度と君の顔を見ない事を祈ってるよ」

後輩「……」

月曜日


友「あっ、やっぱりこの図書館にいたんですね」

男「……」

友「あ、あの……私の事、覚えていますか? 数日前に後輩ちゃんの紹介でお話させて頂いた、友です」

男「……なに?」

友「い、いえ、大した要件ではないのですが。今日、後輩ちゃんが学校を休んだ事はご存知ですか?」

男「知らない」

友「そうですか……実はですね、昨日――いえ、土曜日の午後くらいから誰とも連絡を取っていないようで、心配しているのですが……」

男「家に直接行けば?」

友「もうすでに。先程、同じクラスの人たちと一緒に行ったのですが、後輩ちゃんのお爺ちゃんに、今はそっとしてやって欲しいと言われちゃいまして」

男「へぇ」

友「……先輩さんは、心配じゃないんですか?」

男「全然」

友「……こちらが勝手に話しに来て置いて、不躾なのは重々承知していますが、本を置いて私を見て下さい。これでも真剣なんです」

男「そこまで言うのなら、一ついい事を教えてあげるよ」

友「いい事……?」

男「僕から事情は全て聞いた。あの子は悪くない。そう言ってあげれば、少しは話が出来るんじゃないかな」

友「……あなたが後輩ちゃんになにかしたんですか?」

男「話をしただけだよ。二度と僕の前に現れないでくれって」

友「っ!」

男「……痛いなぁ。なんで僕が叩かれなくちゃならないんだ?」

友「後輩ちゃんは私の恩人です。その彼女を傷つける人の事なんて、許せません」

男「別に許さなくていいよ。僕には関係ないから」

友「後輩ちゃんは! 後輩ちゃんは、いつも一人だったあなたと友達になりたかっただけなんですよ!」

男「それも僕には関係ない」

友「なんで! なんでわかってあげてくれないんですか! 後輩ちゃんは確かにあなたに迷惑をかけていたかもしれません!
  でも、それは全てあなたと仲良くなりたいためだったんですよ!」

男「わかるわけないよ。ただの他人なんだ」

友「……いい人だと思ったのに」

男「ほら、わかってない。今の僕と君の関係と一緒だよ」

友「あなただって、後輩ちゃんの事をなにも知らない癖に、どうしてそんなに偉そうなんですか」

男「偉そうにしているつもりはないけど、そうだね。あの子の事なんて何も知らないし、知りたいとも思わないよ」

友「……もういいです。失礼します」

男「……」

男(眼鏡が飛ばされちゃったな。どこだろう……)

司書「君の探し物はこれかな?」

男「……どうも」

司書「おや、驚いてはくれないのかな? 本棚の裏で立ち聞きしていた私を批判してくれても構わないんだよ?」

男「あなたは嫌いですが、この場所は好きなので、見逃します」

司書「そうか。……カウンターの裏の事務所には冷蔵庫があってね、氷嚢を作って来よう」

男「不要です。別に血が出たわけでも、骨が砕けたわけでもありませんので」

司書「血が出たり骨が砕けたりしたら、氷嚢程度じゃ応急処置にもならんと思うがね」

男「そうかもしれませんね。幸いな事に、僕は氷嚢と言うものを使う機会が今までになかったもので」

司書「……これはただ暇な老人の戯言だがね、世の中には私も、それに君も会った事がない人がいっぱいいるんだよ」

男「申し訳ありませんが、戯言を覚えていられるほど僕の頭の出来はよくありません」

司書「これは手厳しい」

男「……」

司書「おいぼれの長話に付き合って貰ってすまないね。今日もゆっくりして行きなさい」

 閉館時間になり、男はいつも通り、真っ直ぐ施設へ戻った。

 中では、誰かとすれ違っても、会釈や挨拶をするどころか目線さえ合わす事ない。

 男にとって必要のない行為で、しない事が当たり前だからだ。

 仮にしたとしても無視されるだろうが。

 現に、中学生の少年と少女が前から歩いてきたが、チラチラと男の顔を見ながら笑うだけだった。

 どの部屋にも寄らず、男は自室へ戻る。

 一人部屋だ。

 室内には専用の勉強机どころか、小型とはいえテレビや冷蔵庫、簡単な流し台やガスコンロもある。

 他の子供たちは、大体が四人部屋で、机も足の短いテーブルがあるだけ。

 無論、テレビや冷蔵庫などはない。

 特別扱い。

 そう言えば耳障りは良いが、要するに隔離だ。

 部屋からあまり出て来て欲しくない、施設の職員と子供たちの考えが一致して、今の状況になったのである。

 とはいえ、男としても好都合。

 流石に手洗いと風呂は他の者たちと同じ場所を使わなければならないが、タイミングさえ間違わなければ問題ない。

 最悪、金のかかる銭湯などは難しいが、手洗いは近くのコンビニを利用出来る。

 流し台を使ってタオルを濡らし、体を拭う事だって出来る。

 居心地がいいわけでは決してないが、妥協点としては優れていると言えた。

 学生鞄を机の上に放り、ベッドの上で横になった男は、枕元に固定している縦置き用のケースに眼鏡を入れた。

 ちりちりと痛む頬。

 手を添えると、叩かれてからそれなりに時間が経っているにもかかわらず、掌に体温以上の熱が伝わった。

男(痛いなぁ……)

 今までに受けた痛みに比べれば、大した事ではない。

 死にかけた時は勿論、不機嫌な時の両親に腹を殴られた時や、男を苛めの標的にした同級生に背中を踏まれた時よりずっと弱い。

 最弱と言ってもいい。

 それでも痛い。

 痛いと感じる。

 理不尽な暴力より、不思議なくらい痛みが長引いていた。

 頬に手を添えていた腕を動かし、そのまま顔の上に乗せた。

 視界が遮断され、世界が黒く染まる。

男(明日になれば、消えるはず。早く寝よう)

 そう思うが、一向に眠気は来ない。

 むしろ目が冴えていくような感覚さえ、男にはあった。

 胸のもやもやと腹の底に滲んでいるなにか。

 それらが邪魔だった。

 追い打ちをかけるように、一人の少女の顔が瞼の裏に浮かぶ。

 図書館で見せた、友の表情だ。

 男は友の事なんて名前くらいしか知らない。

 放課後に二回会っただけなのだから当然だろう。

 友が一方的に話した時間を除けば、男と友が言葉を交わしたとはっきり言えるのは十分にも満たないはずである。

 男自身が友に言った通り、正真正銘の他人である事は間違いようもなく、男も僅かな疑いすら抱いていない。

 けれど違和感があった。

 その違和感のせいで眠れず、男は懐かしい感情を覚える。

 ほぼ無意識だった。

 頭の上にあるベッドの板を殴っていた。

 非力と自覚している腕力では、コンマ数ミリもしならせられたかどうかわからない程度で、板は無傷。

 傷ついたのは男の拳の方だ。

 殴られた事は数えられないが、殴った経験などない。

 そんな者が、不十分な体勢とはいえ、全力で殴れば皮の一枚は容易く剥げる。

 人差し指と中指の付け根から手の甲に向かって暖かい液体が伝う。

 顔を覆っていた腕を離し、瞼を開けながら男は眼鏡をケースから取り出して装着。

 痛む拳を見ると、真っ赤な血が二つの筋を作っている。

 その筋は、手の甲の中央辺りで交わり、一つとなった。

 溜め息を漏らす。

 血を零さないように気を付けながら、上半身を起こしてベッドから降りる。

 移動して、机の上にある箱からティッシュを何枚か引き抜き、適当に拭った。

 濃い赤に染まったそれをゴミ箱に捨てると、もう一度ティッシュを手に取り、今度は傷口に押し当てる。

 そのままの状態で、なんとか机の引き出しを開けた。

 三段ある引き出しの内、二段目にはちょっとした傷薬や風邪薬などがある。

 全部自分でやれ、と言われるように渡された物だ。

 それらの中から、大きめの絆創膏を取り出す。

 そして再び一部が赤く染まったティッシュをゴミ箱に入れ、擦り剥いた部分に張り付けた。

男(なんでこんなに――)

 苛ついているんだろう、と思った直後、ノックの音が部屋に響く。

男(職員の誰かか?)

 時々、施設の職員が部屋に訪れる事があった。

 職員たちにとってはどうしても直接伝えなければならない事なのだろうが、男にしてみればただの無駄な時間だ。

 男が書く必要のある書類の時のように、内容を纏めた紙を部屋の前に置いておけばいい。

 その紙に読んだと証明するサインでもなんでも書くから、勝手に回収すれば良いじゃないか。

 常々そう思っている。

 実際に院長に直訴した事もあった。

 けれど院長の判断は現状維持の一点張りで、結局男が諦める事になったのである。

男(面倒だなぁ)

 男は嫌々ドアへ向かう。

 相手に開けさせないためだ。

 どうぞ、などと言えば職員の誰かが部屋に入って来る。

 せっかく得た一人の空間だ。

 例え一時とはいえ、自分がいる時に汚される事を男は容認出来なかった。

 ドアノブを握り、回す。

 男の前にこの部屋を使っていた子供の悪戯かやつあたりかで細かな傷の多いドアが、ゆっくりと開いた。

後輩「こ、こんばんは、です」

 ドアの先にいたのは、後輩だった。

 彼女は気まずそうに体の前で組んでいる両手の掌を擦り合わせている。

 学校に行っていないために当然だが、制服ではなく、水色のジャージを上下に着ていた。

 予想外の人物に、男は一瞬硬直するも、一呼吸で平静を取り戻す。

男「……なんで君がここにいるんだよ」

 意識して今まで以上に低い声で言った。

 不良やチンピラと呼ばれる者たちからすれば、失笑ものの威圧だが、それが男にとっての限界だ。

 嫌う事も嫌われる事にも慣れている男だが、どうにも脅したりする事は不得手だった。

後輩「その……私からもお話がありまして」

男「僕には聞く義務なんてない」

後輩「あります!」

 後輩は断言した。

 今の彼女の目には、公園の時に見せた動揺も困惑もない。

 ただひたすら真っ直ぐ、男を見つめている。

 どこまでも澄んだ双眸で。

 男が初めて見る目だった。

 両親にも、医者にも、友人にも、教師にも、誰からも見た事がなかった。

 だからこそ、怖いと男は思う。

 未知の存在がひたすら恐ろしく感じた。

 後輩に一度たりとも視線を向けなかったために知らなかったが、この目で見られていたかと考えるだけで、鳥肌が立ち、背中に汗が滲むほど。

 けれど同時に魅入ってしまう目でもある。

 自分から視線を逸らす、という考えさえ浮かばないほど。

 どのくらい経っただろうか。

 数秒ほどだろうが、体感的に異様に長く感じられた世界から我を取り戻した男は、自分が半歩ほど下がっていた事に気付く。

 自分より頭一つ以上も小さく、年も下の少女に精神面で負けた。

 その事実が悔しく、男は俯いた。

 力なら誰に劣ってもいい。

 喧嘩ならば小学生に負けても構わなかった。

 肉体的敗北など、男は僅かも勘定に入れていないためだ。

 地面を無様に這う事になっても、自分が正しいと常に思い続けられる意志を失わない限り敗者にはならない。

 そう男は思っていたのだが、たった今、敗北認めてしまった。

 男にとって、公園の便器を舐めさせられた時以上の屈辱だ。

 が、男は自分を戒める。

 ここで大声を挙げて怒鳴るのは簡単だ。

 手をあげる事も同様。

 しかしそんな事をすれば、他の者たちと同類になる。

 それだけは死んでも嫌だった。

後輩「先輩は、自分の言いたい事を一方的に私に言いました。今度は私が言いたい事を先輩に言う番です」

 男の心境など知らない後輩は、失礼します、と断ってから男の横を通り抜け、部屋に入った。

 そのまま部屋の中央に進み、彼女はベッドと椅子へ交互に顔を向ける。

 どちらに座るべきか悩んでいるのだろう。

 だが、後輩はどちらも選ばず、ドア付近にいる男へ振り向き、床に直接正座をした。

後輩「ここに座って下さい」

 パンパン、と後輩は目の前の床を叩いた。

 向かい合って話したいのだろう。

 公園の時と同様に、正面同士で。

 男は考えた末に、ドアを閉めて後輩の要望通り、床の上で胡坐を掻く。

 ここでベッドか椅子を選ぶと逃げたように思えて仕方がなかったのだ。

 もう二度と後輩に後れを取りたくないために、同じ土俵を選んだのである。

男「……で?」

後輩「まぁ、色々言いたい事はありますが、一番最初に謝ります」

 ごめんなさい、と言いながら後輩は頭を下げた。

 床に額を擦り合わせるほどではないが、かなり深くまで腰を曲げている。

 話を促した直後にこの状況だ。

 後輩の行動を理解するのに、僅かながら時間必要とした。

 けれど、行動を理解したからと言って、なにに対する謝罪なのかまでは不可能だった。

 心当たりがないのではなく、逆に多過ぎるためだが。

 数秒後、彼女は頭を上げて口を開く。

後輩「これは先輩にご迷惑をかけてしまったお詫びです。特に、事情も知らずに料理を作った事は反省しています」

男「どうでもいいよ。それより、言いたい事と言うのをさっさと話して欲しい」

後輩「そうですね」

 ゴホン、と後輩はわざとらしい咳を一つ。

 先ほどと変わらない目で男を見据えた。

 やはりと言うべきか、男はこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。

 それでも逃げないと自分で決めた以上、貧弱ながら拳を握り締めて耐えた。

後輩「順番にお話します。まずは私がこの施設を知っていた事についてです」

男「調べたからだろう?」

 後輩はかぶりを振り、否定の意を表した。

後輩「必要ありません。先輩に初めて話しかけた時から、すでに知っていましたので」

 言われて男は気付いた。

 自分が悪い意味で学校内で有名な存在だと言う事に。

 ある程度男の事を知っている人間なら、施設暮らしと言う事も知られているだろう。

 施設そのものも、通っている高校に徒歩で通学出来るのはここしかない。

 なんの接点もなかったにもかかわらず、いきなり話しかけて来た後輩が知らないわけがなかった。

 突然の訪問だったとはいえ、その程度の事も気付けない状態だったと知り、男は逆に冷静になる。

 もうそんな失敗はしない、と思い。

男「つまり君は同情で僕に接触したと、そう言う事だね」

 友も言っていた。

 いつも一人でいた自分と後輩は友達になろうとしていた、と。

 情け以外に理由は考えられなかった。

後輩「先輩の詳しい事情までは知りませんでしたが、そう思われても仕方ありません。ですが、違う、と言わせて下さい」

 短い付き合いだが、ここまで冷静な口調の後輩は初めてだと、男は改めて思う。

 男の知っている彼女は、頭が弱く、無駄に騒いで、慌てて自滅するだけの少女だ。

 どちらが本当に後輩か、判断するだけの材料を男は持っていない。

 ただ、もし話しかけて来た後輩が今の状態だったら――。

 そこまで考えて、男は自ら否定する。

 自分で関わりたくないと思っている者に対して、もしや仮などと言うあり得ない妄想をするなんて馬鹿げている。
 
 そう思って。

後輩「一番の理由は、私の我儘です。どうしても我慢出来ません」

男「なにが?」

後輩「誰かが一人でいる事が嫌なんです。それが自分であろうとも、他人であろうとも。絶対に許せないんです」

 少しずつ、彼女の口調が荒れ始めた。

 元に戻り始めている、と言った方がいいだろうか。

 なんにしても、古びた図書館で男の傍にいた後輩に近付いている。

後輩「……先輩のお話を聞いて、バカな私でも少しは理解したつもりです。だから私は公園でなにも言えませんでした。
   けど考えてみたんです。ずっと考えて、考えて、気付いたら二晩も過ぎていました」

男「……もしかして、学校に来なかったというのは?」

後輩「先輩の事を考えていました」

男「……同級生や、君が連れて来た子がいくら連絡を取ろうとしても繋がらなかったのは?」

後輩「先輩の事を考えていました」

 頭が痛くなり、男は額を押さえる。

 どうしたんですか? と心底不思議そうに首を傾げる今の彼女は、完全に男の知っている後輩だ。

 考えても否定しても突き離しても無意味な存在。

 それが後輩と言う少女なのだと、男はようやく理解する。

男「それで? 考えた結果、どうしたの?」

 彼女に対して、なにかをするという事自体無駄な労力としか思えなくなった。

 気が緩む。

 この瞬間だけ、全てがどうでもいいと思ってしまうほど。

 頑張って伸ばしていた背筋も、普段通り丸くなった。

後輩「言葉で説明しても所詮上っ面と取られかねないでしょう。と言うか、先輩の性格を考慮したら、そう思われると断言出来ます」

 だから、と後輩は言い、着ているジャージのファスナーのスライダーを指で摘んだ。

 瞬時に男の脳裏に最悪の状況が浮かぶ。

 阻止する方法はいくつかあるが、最も安全な方法を選択し、即行動。

 ベッドの一番上に敷いているタオルケットを握り締めた。

後輩「私の体を――わぷっ」

 全てを言わせる暇を与えず、男はタオルケットを後輩へぶん投げた。

 布団であれば難しかったかもしれないが、タオルケット程度の重さならば、いくら木の枝のような腕をしている男と言えど、出来ない事はなかった。

 そして無事に後輩の頭から被らせる事に成功したのだった。

 もっとも、男にとって急激な運動をしてしまったために息は乱れているが。

 目の前で一昔前の幽霊よろしく、白いタオルケットがもぞもぞと動いている。

 少しして、息を吐きながら後輩は顔を出した。

後輩「えへへ、やっぱり先輩は思ってた通りの人でした」

 無邪気な笑み、と言うのは今の彼女の事を言うのだろう。

 裏があるようには見えない、と男でさえ思ってしまうくらいに。

 自分が止める事を前提に服を脱ごうとした行為を叱りたい気持ちが、少なからず男にはある。

 しかしどっと疲れが押し寄せたため、男はなにも言わずベッドに座るとそのまま後ろに倒れた。

 スプリングはないが、マットレスが衝撃を吸収したため、どこも傷めずに男は天井を見つめられた。

後輩「……先輩」

男「なに?」

後輩「先輩が教えてくれたから、私も教えてあげますね。私のおじいちゃんとおばあちゃん、それに友ちゃんしか知らない事を」

男「だからなにを?」

後輩「……実は、私も親から虐待を受けてたんですよ」

 落ち着いた口調だった。

 彼女はすでに過去の事と割り切っているのだろう。

 男のように引きずってはいない、と思えるほど。

 少なくとも声は。

 頭だけ上げて、後輩へ視線を向けた。

 彼女は男ではなく、正面の部屋のドアだけを見つめている。

 とても退屈そうに、酷く虚しそうに。

 男は察した。

 割り切っているわけでも、引きずっていないわけでもない事を。

 抗っているのだと。

 自分とは全く正反対の方法で。

後輩「虐待と言っても、私は先輩ほど酷い目に遭ったわけではありません。痛い思いはしていませんから。簡単に言うなら、育児放棄ってやつですよ」

 育児放棄。

 その言葉だけで男は大凡の事を把握した。

 後輩が料理が得意になった理由も。

 一人が嫌だと言った理由も。

後輩「私、物心がついてから、十歳くらいまで、ずっとお家にいました。それまでは学校にも行っていません。
   家からの出方もわからないほど、バカでしたから」

 あはは、と笑う少女の声に、表情に力なんてなかった。

 それ以上彼女を見ないために、男は再びベッドに後頭部を乗せて、天井を見つめる。

 眼鏡も外した。

 視界が酷くぼやけ、丸い蛍光灯が何十個にも分身しているかのように、男の目には映った。

 ただ耳だけは後輩に傾け続ける。

後輩「お家は小さなアパートです。六畳間一部屋の。お母さんが毎日、お昼にコンビニのおにぎりを二つくれたのは、五歳まででしたね」

 昼に二つ。

 逆に言えば、それ以外の食事はなかったのだろう。

 足りるわけがない。

 男も似た経験した事がある。

 いくら小さな部屋から出なくても、腹はいつでも減るのだ。

 しかも、一ヶ月、もしくは数週間の内、一定の期間だけだった男とは違い、後輩は毎日。

 どれだけの空腹だったか、男でも想像し難い。

後輩「私のお誕生日にですね、お母さんが一冊の本をプレゼントしてくれたんです。料理の本でした」

 それを読みながらこれからは自分で作りなさい。

 後輩が言わなくても、彼女の母親がそんな言葉を口にしたんだろう。

 実際に目の当たりにしていなくとも、その時の光景を容易に思い浮かべられた。

後輩「文字が読めなくても、写真があったので、当時の私でも大まかにはわかりました。だから、脚立を足場にしながら頑張って料理をしてみたんです。
   結局失敗しちゃいましたけどね」

 当然だ。

 母親が料理している姿を見た事がない子供が、文字もろくに読めない子供が、最初からまともな料理を作れるわけがない。

 いくら写真が載っていようが、説明が読めなければ、米を研ぐ、なんて事もわからなかったはずだ。

訂正
×
後輩「文字が読めなくても、写真があったので、当時の私でも大まかにはわかりました。だから、脚立を足場にしながら頑張って料理をしてみたんです。
   結局失敗しちゃいましたけどね」


後輩「文字が読めなくても、写真があったので、当時の私でも大まかにはわかりました。だから、脚立を足場にしながら頑張って料理をしてみたんです。
   本を渡してくれた時にお母さんがコンロとかの使い方を教えてくれたから、張り切って。なにかを教えて貰うなんて初めての事だったので、すごく嬉しくて。
   結局失敗しちゃいましたけどね」

後輩「食材を全部ダメにしちゃってから、お母さんがお家に戻って来たのは一週間後でした。
   それまでは、焦げなかった部分や、使わなかった野菜の切れ端をウサギさんが如く、むしゃむしゃと」

 小学生になる前の味覚など、男はもう思い出せない。

 けれど、生の野菜が辛い事はわかる。

 キャベツやトマト、キュウリのような類の物ならまだいいだろう。

 それが玉ねぎなどのような刺激の強い野菜だったらどうだろうか。

 ニンジンのように硬いものだったら。

 ジャガイモの芽のように毒の成分が含まれているものだったら。

 しかも一日でダメにしたと言う事は、冷蔵庫には何も戻さなかったのだろう。

 最終日には、腐敗した野菜も大なり小なり口にしたはずだ。

 水道水だけでは限度があるのだから。

後輩「次の週から、一度で全部使わずに少しずつ試すようにしました。ほとんど失敗でしたけどね。
   でも、二週目の途中、料理を作っているテレビの番組の事を知りました」

 それからはちょっとずつ食べられる物が作れるようになったんですよ、と後輩は言った。

 テレビや本の写真を見ながら、危険な包丁を使い、重くて熱いフライパンを振るう。

 ある程度年齢を重ねたら誰でも出来る事であるのは確かだ。

 ただし、学校にも通っていない小さな子供がする事でも、出来る事でもない。

 後輩のように、自分の身に危険が迫っていない限りは。

 彼女が軽く口にした、『ちょっとずつ食べられる物』に至るまでの苦労は生半可なものではなかっただろう。

 一週間もろくな食べ物を口にする事が出来ず、空腹で辛い状態なのだから余計だ。

後輩「……料理はですね、私の最初の先生なんです。テレビの料理番組で文字や数字を覚えたんですよ」

 口からこぼれたかのように、後輩は呟いた。

 彼女にとっての救いが、皮肉な事に強要させられた料理。

 男が誰も信じられなくなる直前まで、かつての友を最後の救いと信じて疑わなかった事と同じように。

 ここが自分たちの分岐点だと男は思う。

 今も尚信じている後輩と、完全に見限った自分との今の立場の差なんだろう、と。

後輩「最初にネタバレしちゃいましたけど、十歳まではそんな生活でした。最後の方は美味しいご飯が作れるようになりましたけどね。
   で、私が生まれる前に死んじゃったお父さんの両親である、おじいちゃんとおばあちゃんに引き取られて、私はここにいます」

 以上です、と言って後輩は話を終わらせた。

後輩「話してみると、結構あっけないものですね。先輩のお話を聞いたあとですから、どうしてもしょぼく思えますし」

男「……あぁ、そうか。そう言う事だったんだ」

後輩「なにがですか?」

男「なんでもないよ」

 話を聞き終えて男が真っ先に思い浮かべたのは、友の顔だ。

 あの子の顔を思い出して、どうして寝付けなかったのか、ようやく男は自覚した。

 ただ単純に、純粋に、羨ましかったんだ。

 後輩が近くにいなくとも、彼女のためだけに本気で怒れる友と言う友人がいる事が。

 羨ましい、などと何年も思った事がなかったので、男はわからなくなっていたのだ。

 けれど、思い出したくなかったとすぐに後悔する。

 周囲と自分は違うと思っていた。

 思い込もうとしていた。

 たった十七年しか生きていない子供が。

 反動が凄まじい。

 胸を圧迫するこの感情はすぐにわかった。

 寂しい。

 そう訴えている。

 体が、心が、頭以外のすべての細胞一つ一つが。

男「……話が終わったのなら、帰ってくれ」

 声を絞り出した。

 もう僕を苦しめないでくれ、そう望みながら。

後輩「終わりと言いましたが、実は少し続きがあります」

 男の希望など、最初から聞く気がないと言わんばかりの勢いで、後輩は話す。

 堪らず男は、自分の胸を鷲掴みにした。

 心臓を自ら抉り出そうとしているかのように。

後輩「お婆ちゃんに最低限必要な事を教えて貰ってから、私は初めて学校に行きました。そして気付きました。
   私がどれだけつまらない生活を送っていたかを。知ってから、急に怖くなったんです。あのままだったらどうなっていたんだろう、って」

男「……黙れ」

後輩「いいえ、黙りません。言ったはずです。我儘とわかっていますが、我慢出来ません。私は誰かが一人になる事なんて嫌なんです。絶対に許せません」

男「……」

後輩「先輩、私なんかを信じて欲しいなんて言いません。でも見ていて下さい。私の傍で、私がどんな人間なのか、先輩自身の目で」

男「……帰れ。お願いだから、帰ってくれ……」

 声が震えていた。

 すでに我慢の限界を越えている。

 腕で両目を塞いでも手遅れだった。

 見ないでくれ。

 無言でそう乞う事しか、男には出来なかった。

後輩「……わかりました。でも、私は明日からもあの図書館に行きますからね。覚悟してて下さいよ」

 後輩が廊下に出てドアを閉めた後から、男の部屋は静寂に包まれた。

 少しして、すん、と小さく男の鼻が鳴る。

 両眼を塞いでいる右腕を左手で押すも、溢れ出たモノは止められなかった。

 胸に溜まっていたモノを全て吐き出す勢いで、声を一つも上げずに男は泣き続ける事しか出来なくなっていた。

 右手を怪我したから泣いているんだ、と自分に言い訳をしつつ。

翌日


司書「おや? まだ正午だと言うのに、どうして君はここにいるのかな?」

男「学校で問題が起こったんですよ」

司書「ほう、それはどんな事だい? よければ話して欲しいなぁ」

男「僕をビンタした、フワフワした長い髪の子がいたじゃないですか」

司書「あの子がどうかしたのかい?」

男「いきなり僕の教室に乗り込んできて、すごい勢いで謝り出したんですよ。なんでも、最近僕の周りでちょろちょろしてる子に色々話を聞いたらしくて」

司書「なるほどなるほど。でも、謝るだけなら問題ないと思うんだけどね」

男「『私に出来る事ならなんでもします。あっ、今日もあの場所にいるんですよね? 絶対に行きますから待っていて下さい』
  って、僕に怒鳴ってた時以上の声で言ったんです。教室には僕を含めてほとんどの生徒がいたのに」

司書「思春期の子には魅力的な言葉だよねぇ、なんでもします、って」

男「しかも性質が悪い事に、あの子、全校生徒の中でもかなりの人気者らしいんですよ」

司書「可愛いからね、あの子」

男「チャラいやつらにここの事をしつこく聞かれたので、避難しに来たんです。半日くらいサボっても、僕は痛くも痒くもありませんし」

司書「お疲れ様」

男「本当に。にしても……はぁ、溜め息が止まりませんよ。相方の方でさえ僕のクラスまでは来た事ないのに。
  日頃大人しい子の方が、時に恐ろしい行動力を見せるんだと初めて知りました」

司書「貴重な人生の経験値だよ。大切にしなさい」

男「そうします」

後輩「先輩、やっぱりここにいたんですね」

司書「また君に大切な経験値を稼がせてくれる子が来たようだね」

男「どうでしょうね」

後輩「なんのお話ですか?」

男「なんでもないよ」

司書「さて、私は仕事に戻ろうかな」

男「一年生の分際で授業をサボろうとしてる子を連れて行って下さい。受付でも本の整理でも好きに使っていいので」

後輩「先輩だってここにいるじゃないですか! なんで私だけなんですか!? 私がするんなら、先輩も一緒ですからね!」

司書「遠慮するよ」

後輩「あっさり断られるのもなんだかなぁ……」

司書「はっはっは。それじゃお二人共、ごゆっくり」

男「……で?」

後輩「で? ってなにがですか?」

男「なんで僕を探していのかって聞いたつもり」

後輩「いやぁ、お昼ごはんを一緒に食べようとして友ちゃんと先輩の教室に特攻仕掛けたんですけど、いなかったからここかなぁっと来たわけです」

男「君らは本当に……」

後輩「ちなみに、今日はシンプルにサンドイッチですよ。卵やツナ、照り焼きチキンなどなど、色々ありますからね」

男「僕は食べられないって言ったよね?」

後輩「病は気から。気合と根性で飲み込めばなんとかなるもんですよ。と言うわけで、いかがですか?」

男「……そう言えば、あの子は?」

後輩「あっ、忘れてました。すぐ呼びますので、待ってて下さいね」

男(さて、どこかに避難しようっと。……けど、明日からどうしようかなぁ、学校。まぁ、退屈だけはしないだろうけど)

終わり

読んでくれてありがとう

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月19日 (日) 21:09:58   ID: ekaslh1D

アレルギーの子にあまり食べ物すすめちゃだめよー

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