駅員「俺が勤めてる駅には変わり者しかいない」(86)

プロローグ「業務開始」



─ 事務室 ─

駅長「おはよう、諸君ッッッ!」

女後輩「おはようございます!」

駅員「ふぁぁ……。おはよ──」

駅長「コラァッ! 挨拶しながらアクビする奴があるかッ!」

駅長「キサマを枕木にしてやろうかッッッ!」

駅員「す、すんませんっ! しないで下さいっ!」

駅長「では気を取り直して、我が駅のルールを確認する」

駅長「客どもには、最高の交通をお届けせよッッッ!」

女後輩「客どもには最高の交通をお届けするッス!」

駅員「客どもには最高の交通をお届けしま~す!」

駅長「悪しき客は血祭りに上げよッッッ!」

女後輩「悪しき客は血祭りに上げるッス!」

駅員「悪しき客は血祭りに上げまぁ~す!」

駅長「以上ッッッ!」

駅員「あのぉ~、いつもいつも思ってるんですけど」

駅員「客を血祭りに上げるってやっぱマズイんじゃないですか?」

駅員「一応、ほら法律とか刑法とかあるじゃないですか……」

駅長「愚問ッ!」

駅長「我が駅では、このワシがルールだ!」

駅長「法律や憲法、条例、その他諸々など、クソ喰らえッッッ!」

駅員「失礼しました……」

駅員「ま、駅長に血祭りに上げられてるのっていつも俺ですしね」ハハ…

駅長「それはキサマがいつもいつもたるんどるからだッ!」

ボゴォッ!

駅員「あが、が……」ピクピク…

女後輩「大丈夫ッスか、先輩!?」

駅員「大丈夫じゃねえよ。朝からいてぇなぁ……」ムクッ

駅員「ったく、お前といい、駅長といい」

駅員「なぁ~んで、この駅には変わり者しかいないんだか……」

女後輩「いやぁ~、駅長にいつもいつもあんだけボコられてるのに」

女後輩「ちっとも反省しない先輩も、相当変わり者ッスよ」

駅員「そうかぁ? ま、いいや。とっとと仕事に入るぞ」スタスタ…

女後輩(あとすっごい丈夫だし……)





プロローグ おわり

ケース1「路線案内」



─ 切符売り場 ─

老婆「お兄さん、お兄さん」

駅員「なんだい、おばあちゃん」

老婆「この駅から××駅まで行くには、どうやって行けばいいんだい?」

駅員(××駅? たしかこの路線のどっかで別の路線に乗り換えるんだったよな)

駅員(えぇ~と、どこで乗り換えるんだっけ? やっべ、忘れた……)

駅員「ちょっと待っててね。すぐスマホで調べるから」

老婆「すまないねぇ」

駅員「んん?」

駅員「路線案内のサイトってこれじゃねえの? なぜか地図が出てきやがった!」

駅員「ううんっと……一度戻って、と……」

駅員「なんでウィキペディアが出てくんだよ! 違うって! 戻る戻る!」

駅員「あ~……今度はやたら重いページに引っかかりやがった!」

老婆「……お兄さん」

老婆「もしかして、ここを開くと路線案内のサイトが出てくるんじゃないかい?」

駅員「えぇ~、んなわけ──」

駅員「あ、ホントだ! すごい! やるぅ!」

老婆「なるほど、××駅まではこう行くんだねぇ」

駅員「やるなぁ、おばあちゃん!」

老婆「そのサイトをブックマークしておけば、あとで困らずに済むよ」

駅員「おお~、そうするそうする! ありがとな、おばあちゃん!」

老婆「いやいや、いいんだよ」





ケース1 おわり

ケース2「改札トラブル」



─ 改札口 ─

バタンッ! ピンポーンッ!

会社員「ん?」

駅員「どうしました?」

会社員「いや……定期券をこうやってかざしてるのに、改札が閉じちゃうんだよ」

駅員「ホントですか!? どれどれ……」スッ…

バタンッ! ピンポーンッ!

会社員「ね?」

駅員「ホントだ……。たしかにこの駅からの定期券なのに……」

駅員「よぉ~し……」

バタンッ! ピンポーンッ!

バタンッ! ピンポーンッ!

バタンッ! ピンポーンッ!

バタンッ! ピンポーンッ!

駅員「…………」ビキビキッ

会社員「いや……今日のところはお金チャージするか、切符買うから──」

駅員「諦めるな! 俺が意地でも開けてやる!」

会社員「は、はいっ!」

駅員「こうなったら力ずくで……!」グググッ…

会社員「なにもそこまで……」

女後輩「なにやってるんスか、先輩!」

駅員「おお、お前も手伝え!」

女後輩「手伝え、じゃないッスよ!」

女後輩「ちゃんとここに“定期の期限切れ”って出てるじゃないッスか!」

駅員「なにィ!?」

会社員「あ、ホントだ……」

駅員「──ったく、人騒がせな!」

駅員「お客さぁ~ん、定期券に有効期限があることは常識でしょうに!」ガミガミ…

会社員「すみませんでした……」

駅員「改札機! お前ももっと分かりやすく俺たちに伝えろ!」ガミガミ…

改札機「…………」

駅員「お前も気づくのが遅すぎる! それでも駅の従業員か!?」ガミガミ…

女後輩「面目ないッス!」

駅員「どいつもこいつも朝の忙しい時から足を引っぱりやがって……」ブツブツ…

駅長「一番足を引っぱってるのは……キサマだッッッ!」ヌッ…

駅員「ゲ!?」

ドゴォッ!



会社員「ものすごい吹っ飛んでったけど、彼大丈夫なの?」

女後輩「いつものことッス!」

改札機「ザマア」





ケース2 おわり

ケース3「駆け込み乗車」



─ プラットホーム ─

学生「やっべ、電車来てやがる!」タタタッ

駅員「駆け込み乗車は危険ですからおやめ下さい!」

学生「よっしゃ間に合った!」ダンッ

プシュー…… バタン……

駅員「あのクソガキ……! いつもいつも駆け込み乗車しやがって……!」ビキ…

駅員「こうなったら……!」

次の日──

学生「今日も間に合ってみせる!」タタタッ

駅員「駆け込み乗車は危険ですからおやめ下さい!」バッ

学生「うわっ!? 通せんぼすんじゃねえよ!」

駅員「ここを通りたきゃ……俺を抜いてみな」クイックイッ

学生「おもしれぇ! フェイントでかわしてやる!」バババババッ

駅員「ふん、そんなんじゃ到底俺は抜けないぜ」バババババッ

学生「バ、バカな!? 残像が見えるほどのディフェンス!?」バババババッ

学生「くっ、くそぉ~っ!」バババババッ

駅員「ヘイヘイ! どうした、どうした? 電車が出ちまうぜ!?」バババババッ

学生「高校時代サッカーで全国まで行ったこの俺が……!」バババババッ

駅員「俺だって青春18きっぷで全国行ったことあるぜ!」バババババッ

学生「ちくしょう……抜けない~!」バババババッ

駅員「そんなに抜きたきゃいい店紹介してやろうか?」バババババッ

学生「え、いいの!?」バババババッ

駅員「おう、学生時代いかがわしい店めぐりしまくったからな!」バババババッ

駅長「キサマら……なにをしておる」ヌッ…

駅員「ゲ!?」ビクッ

学生「ひゃっ!?」ビクッ

駅長「他の客のジャマだ……消え失せいッッッ!」

ドゴォッ! ベキィッ! ボゴォッ! ズガァッ! ドボォッ!



駅員「ね……? だからいったれしょ……?」ピクピク…

駅員「駆け込み、乗車は……危険らって……」ピクピク…

学生「はひ……。もう、二度としましぇん……」ピクピク…





ケース3 おわり

ケース4「立ち食いそば」



─ 立ち食いそば屋 ─

客A「…………」ズゾゾゾゾッ

客B「…………」ズズズズ…

客C「…………」ズル…ズル…

駅員「…………」ズゾゾッゾゾッ

客D「…………」チュルチュル…

客E「…………」ズゾゾゾッ

客A「…………」ズゾゾッ

客B「…………」ズズッ…

客C「…………」ズル…ズル…

駅員「…………」ズゾゾゾッゾゾッ

客D「…………」チュルチュル…

客E「…………」ズゾゾーッ

客A「っぷはぁっ! うまい!」

客B「ごちそうさまでした!」

客C「やっぱこの駅の立ち食いそばは絶品だわ!」

駅員「まったくだ!」

客D「…………」チュルチュル…

客E「ごっそさん!」

駅長「仕事をサボって食べるそばは美味いか?」ヌウッ…

駅員「そりゃもう最高に決まってるっしょ! ──ゲ!?」

駅長「…………」パキポキ…

駅員「え、駅長……」

駅長「なんだ」

駅員「せ、せめて……腹はやめて下さい! ……せっかくのそばを吐きたくないんで」

駅長「……よかろうッッッ!」

ズドォッ!



客D(……いい上司だ)チュルチュル…





ケース4 おわり

ケース5「電車遅延」



─ プラットホーム ─

中年「キミィ~、いったいいつになったら電車が来るのかね?」

女後輩「すみませんッス! すみませんッス!」

中年「謝られるだけじゃ困るんだよ、こっちも! 質問に答えたまえ!」

女後輩「えぇと……まだ未定……ッス!」オロオロ…

中年「未定ィ~? そんないい加減な仕事があるかね、えぇ~?」

女後輩「本当に申し訳ないッス!」ペコペコ…



駅員(ったく、あんなクレーマーオヤジになに手こずってんだ、アイツは)

駅員(どれ……手助けしてやるか)

駅員「まあまあ、ちょいとお客さん」

中年「なんだね、キミは!?」

駅員「いくら怒ったって、遅れてる電車が来るわけじゃないんだし」

駅員「ちょいと待合室でお話しでもしましょうよ」クイッ

駅員「そしたらきっと気も紛れるから、ね?」

中年「まぁ……よかろう」

駅員「じゃあ、ちょいとこっちへ……」スタスタ…



女後輩(先輩……ありがとうッス!)

駅員「よう」スタスタ…

女後輩「あ、先輩! さっきは助かりましたッス!」

駅員「ったく、あんなオッサンに手こずってんじゃねえよ」

女後輩「面目ないッス! ところで、あのお客さんはどうしたッスか?」

駅員「いやぁ~……なんかよく分からないんだけど、しゃべってるうちに」

駅員「今度一緒にカラオケ行くことになっちまった……」

女後輩「スゲェ!」





ケース5 おわり

ケース6「通過列車」



─ プラットホーム ─

駅員「まもなく列車が通過いたします。ご注意ください」



客F「この駅って急行が止まらないのが不便だよな~」

客G「ま、大した駅じゃないし、しょうがないんじゃね」

客F「だな」ハハハ…



駅員「!!!」

駅員「今の言葉、聞き捨てならねえ!」

客F&G「!?」ビクッ

駅員「たしかにこの駅には急行は止まらない……」

駅員「だが、止まらないのなら、止めてしまえばいいじゃない!」

客F「止めてしまえば……って」

客G「ど、どうやって……?」

駅員「簡単だよ。俺が線路に立てばいい!」スタッ

客F&G「ちょっ!」

ゴオォォォォ……!

客F「急行きたあああああ!」

客G「おい、やめろって! 早く上がってこいって! ひかれちまうぞ!」

女後輩「死んじゃうッスよ、先輩!」



駅員「心配すんな……」

駅員「日頃から駅長のパワハラに耐えてる俺なら、電車にひかれたぐらいじゃ死なねえ!」

駅員「……多分」

駅員「これもこの駅に急行列車を止めるため……許せよ!」



女後輩「理解不能ッスよ、先輩ィ!」

─ 急行列車 ─

ガタンゴトン…… ガタンゴトン……

運転士「!」

運転士「なんで線路のど真ん中に人が立ってんだ……? しかも駅員……」

運転士(あれは、自殺だとかそういうツラじゃない……)

運転士(電車にひかれても生還する自信があるってツラだ!)

運転士(そうか、この急行列車をこの駅に止めたい、とか考えてるんだな?)

運転士(残念だったな! オレっちには通用しねえよ!)ポチッ



ピョインッ!

─ プラットホーム ─

駅員「バ、バカな……」

駅員「あの急行列車、ジャンプして俺をよけやがった……!」

客F「しかも、なんてスムーズな着地……!」

客G「おそらく、乗客は列車がジャンプしたことにすら気づいてないだろう……!」

女後輩「すげえッス……!」

女後輩(だけど、これからもっとすごいことが先輩に起こりそうッス……)チラッ

駅長「…………」ゴゴゴ…

駅員「ゲ!?」

駅長「オイ、なんでキサマが線路の中にいる?」

駅員「いや、あの、その……。こ、これには深いわけが……」

駅長「もう何もしゃべるな……ワシが不快になる」



ギャアァァァァァ……





ケース6 おわり

ケース7「犯罪者」



─ 事務室 ─

駅員「オラッ、こっちこい!」グイッ

チカン「ううっ……」

女後輩「あれ、先輩も悪い人捕まえたッスか?」

駅員「ああ。このバカ、なにをトチ狂ったか俺のケツさわってきやがった」

チカン「なんで男のケツなんかさわっちまったんだ……。間違えた……」ショボン…

駅員「──って、先輩もってことはお前も?」

女後輩「はいッス!」

女後輩「アタシはアタシの財布を盗もうとしたスリを捕まえたッス!」

駅員「へぇ、お手柄じゃん」

駅員「ちなみにいくらぐらい入ってたんだ?」

女後輩「てへへ、千円札一枚ッス」

スリ「ちくしょう……千円しか入ってない財布のために捕まるなんて……」ショボン…

駅員「ってことはだ」

駅員「俺は男にケツをまさぐられて──」

駅員「お前は千円しか入ってない財布をスラれかけたってわけだ!」

駅員&女後輩「アッハッハッハッハッハッハ!!!」

駅員「なんで、悪い野郎を捕まえてこんなみじめな気持ちにならにゃならねぇんだ!」

女後輩「ホントッス!」

駅員「今日はお前ら二人、血祭りだからな! 覚悟しろよ!」

女後輩「そうッスよ! アタシらをみじめにしたバツッス!」

スリ&チカン「ひいいいいいいいっ!!!」



駅長(ほう、あのボンクラ二人もなかなか成長したではないか)ニヤ…





ケース7 おわり

今回はここまでです

ケース8「撮り鉄」



─ プラットホーム ─

オタク「おぉ~、この駅は穴場だなぁ~」パシャパシャパシャ



駅員「なにやってんだ、アイツ?」

女後輩「撮り鉄ってやつッスよ」

駅員「なんだそりゃ?」

女後輩「電車を撮影するのが好きな鉄道ファンのことッス!」

駅員「ふうん……。でもあんな場所に陣取られてちゃ、ジャマでしょうがねえな」

駅員「お客さん、場所を移動して下さいよ」

オタク「なんでだい?」

駅員「ここじゃジャマなんですよ。電車撮るんなら、もっとはじっこで──」

オタク「ジャマ?」

オタク「ボクはなにも通せんぼしてるわけじゃないし、ジャマになんかなってないよ!」

オタク「ただ写真を撮ってるだけなんだからね!」

オタク「ボクからいわせれば、キミの方がジャマなんだよ!」

駅員「な、なんだとぉ~!?」

駅員(ぐぐ……ナマイキな奴だ! 血祭りに上げちまうか!?)

駅員(いや、そんなことしても、よその駅に移るだけか……それじゃ面白くない)

駅員(だったら……)

次の日──

駅員「…………」パシャパシャパシャ

オタク「な、なにやってんだよ!」

駅員「なにって……電車を撮ってんだよ。俺も撮り鉄になろうかなってさ」パシャパシャパシャ

オタク「なにぃ~!?」

駅員「お、いい写真撮れた」

駅員「これからもいっぱいいい写真撮ろうぜ! な!?」

オタク「う、うん……」

その次の日──

駅員「おいっ、そこのオッサン! ジャマだ、少しずれろ!」シッシッ

駅員「俺が写真撮れねえじゃねえか!」

オタク「…………」



さらに次の日──

老人「あのぉ~、改札はどちらに?」

駅員「あっちにいる女後輩に聞いてくださぁ~い。今、写真撮ってるんで」パシャパシャ…

オタク「…………」

そのまた次の日──

駅員「お、急行きたあああああ!」パシャパシャパシャ

駅員「ベストポジションを研究したかいがあったな! すっげえいいのが撮れた!」

駅員「ほら見てくれよ! 結構いい構図だろ、な!?」

オタク「…………」



女後輩「もう先輩ったら……なにやってるんスか!」ダッ

駅長「待て」

女後輩「駅長!? どうして止めるッスか!?」

駅長「アイツはバカだが……バカなりに演じようとしているのだ」

駅長「反面教師をな」

女後輩「反面教師……ッスか?」

駅長「仮に無理に撮影をやめさせたところで、あのオタクはよその駅に移るだけ」

駅長「だから、ヤツはこの駅でオタクを改心させようとしているのだ」

女後輩「!」

駅長「ここ数日のヤツの怠慢は全てワシがフォローしておる。心配するな」

女後輩「はいッス!」

オタク「す、すみませんでしたっ!」ガバッ

駅員「……ん?」

オタク「アナタを見てたら……ボクも今までずっとこんなことしてたのかなって……」

オタク「これからはボク、もっとわきまえて鉄道を愛します!」

駅員「ジャマだ」

オタク「え?」

駅員「そこにいると、俺がいい写真撮れねえだろうが! どけえっ!」

ゲシッ!

オタク「おぶぅ!?」



駅長「…………」

女後輩「…………」

駅長「オイ」

駅員「だれだ……。俺の撮り鉄人生をジャマしようってのは──ゲ!?」

駅長「どうやらミイラ取りがミイラになったようだな」

駅員「あ、あのう……俺も鉄道を愛でる楽しさに目覚めたっていうか……」

駅長「なら、キサマに最もふさわしい鉄をプレゼントしてやる……鉄拳をなッッッ!」

ドゴォッ!



オタク「30メートルぐらい飛んでいきましたけど……」

女後輩「なぁに、いつものことッス!」





ケース8 おわり

ケース9「傘」



─ 事務所 ─

駅員「雨の日は傘の忘れ物が多いな~。あんだけアナウンスしてるってのに」

女後輩「ホントッスねぇ……」

駅員「ろくに使ってない新品もごろごろあるぜ」

駅員「これかき集めて、次の雨の日にでも売ったら儲かるんじゃねえか?」

女後輩「そんなのダメッスよ! 駅長に殺されちゃうッス!」

駅員「分かってるよ」

駅員「ところで……傘を持ったらやっぱり必殺技したくなっちゃうよな!」スッ…

駅員「アバンストラッシュ!」シュバッ

女後輩「うわっ!」

駅員「牙突!」ブンッ

女後輩「ひっ! 危ないッスよぉ!」

駅員「こうやって口に一本くわえて、三刀流──」ブンッ

ガンッ!

駅長「…………」

駅員「……あ」

駅長「なにをしておる」

駅員「え、えぇとですね……童心にかえって、傘で必殺技を──」

駅員「あ、そうだ! 駅長も子供の頃は傘で必殺技とかやったでしょ……!?」

駅長「むろんだ」

駅員「ど、どんな技を……?」

駅長「円月殺法だッッッ!!!」スゥ…

ズバァッ!

駅員「ぐぼォォォォォ!!!」

女後輩「傘なのにすげぇ威力ッス!」





ケース9 おわり

ケース10「駅構内トイレ」



─ トイレ ─

青年「げぇっ! また『清掃中』かよ~!」

青年「駅員さん、なんかここのトイレって肝心な時に『清掃中』の看板が出てたり」

青年「個室が全部埋まってること多くない?」

駅員「たしかに……」

駅員(今は掃除のおばちゃんがいない時間帯なのに、おかしいよな)

駅員(俺もそのおかげで用を足せず、仕方なく女子トイレに入ったこともあったし)

駅員(こりゃあ事件のニオイがするぜ!)

─ 事務室 ─

駅員「──ってわけだ。お前はどう思う?」

女後輩「そうッスねぇ……もしかしたら、オバケかも! ──なぁ~んて」

駅員「それだ! お前らしからぬ鋭さ!」ビシッ

女後輩「え」

駅員「この駅もとうとうオバケが出るようになったか!」

駅員「よぉ~し、今夜この俺がシッポをつかんでやる!」

女後輩「は、はぁ……」

夜──

─ トイレ ─

駅員「もう終電は終わった……誰もやってくることはない」

駅員「ここにいるのは分かってるんだ」

駅員「出てきやがれぇっ! オバケ!」

ボワァァァ……

花子「なかなか鋭いわね、あなた。わたし、トイレの花子っていうの」

駅員「ふん、ついに花子さんも駅に出張する時代になったか」

駅員「いつもいつも『清掃中』の看板を出したり、個室の鍵を閉めたり」

駅員「トイレでイタズラしてるのはお前だな!?」

花子「そうよ」

駅員「素直に認めるとはいい度胸だ……ここで血祭りに上げてやる! 覚悟しやがれ!」

花子「ちょっと待って」

花子「こんな夜遅くに決闘したって、イマイチ盛り上がらないわ」

花子「場所と時間を改めない?」

駅員「うん……一理ある」

花子「でしょ? ってことで、明日のなるべく駅に人が多い時間に」

花子「女子トイレに入って『私は変態です!』って叫んでちょうだい」

花子「そしたらまた出てきて勝負してあげる」

駅員「いいだろう、勝負は明日だ!」

翌日──

─ 女子トイレ ─

駅員「私は変態です!」

駅員「私は変態です!!」

駅員「私は変態です!!!」

駅員(おかしいな、出てこない)

駅員「私は変態です! どうした、出てきやがれ! 私は変態です!」

キャーキャー! イヤー! ヘンタイヨー!



女後輩「な、なにやってるんスか、先輩!」

駅長「とっととあのバカを女子トイレから引きずりだせいッッッ!」

夜──

─ トイレ ─

駅員「よくもだましやがったな!」

花子「きゃははははっ!」

駅員「お前のせいで、俺は駅長に半殺し……いや10分の9は殺されたんだぞ!」

花子「まさかホントにやるなんて……お兄さんってホントバカね!」

駅員「なんだとぉ……!」ビキビキッ

駅員「このガキ、覚悟しやがれぇっ!」ダッ

花子「こっちだよ~」フワッ

駅員「ぬりゃ!」ブンッ

花子「こっちこっちぃ~」ヒュルルル

駅員「うおおおおおっ!」ダッ

花子「きゃはははっ!」フワッ

駅員「ぬりゃああああっ!」ブンッ

花子「こっちこっち~!」ヒュルルル

駅員「どりゃああああっ!」ダッ

花子「そんなんじゃダメダメ!」フワッ



駅員「なんてすばしっこいガキだ……! 俺も足には自信あるのに……!」ハァハァ…

花子「あ~、面白かった!」

駅員「なんも面白くねえ!」

花子「いっぱい遊んでくれてありがとね、お兄さん」

花子「これでわたし、やっと成仏できそう」

駅員「成仏……?」

花子「わたしね、生きてた時はいじめられっ子でね」

花子「みんなに学校のトイレに閉じ込められた時、どうにか出ようとして頑張ってたら」

花子「滑って頭打って死んじゃったの」

駅員「とんだドジガキだな」

花子「で、幽霊になっちゃって、色んなトイレを転々としてたってわけ」

花子「そしたらこの駅があんまりおかしいから、居ついてたのよ」

駅員「この駅にはおかしい奴ばかりいるからな」

花子「お兄さんは特にね」

駅員「うるせえ!」

花子「じゃあね! 楽しかったよ、お兄さん!」フワッ

駅員「…………」

駅員「待て」

花子「へ?」

駅員「このまま勝ち逃げは許さん!」

駅員「まだ朝までは時間がある……追いかけっこ再開だ!」

花子「ちょ、ちょっと待ってよ、徹夜するつもり!?」

花子「それにわたしは成仏するってのに──」

駅員「んなもん関係あるか! ガキに負けたまま終われるか! 行くぞ!」

駅員「うおおおおおおおおっ!」ダッ

花子「きゃあああああああっ!」

チュン…… チュンチュン……



駅員「ぐぅ……ぐぅ……」

駅長「オイ」

駅員「……むにゃ?」

駅長「こんなところでなにを寝ている」ヌッ…

駅員「ゲ!?」

駅員「ア、アハハ……! 残業してたら眠っちゃったみたいで……!」

駅長「バカめが……とっとと起きて顔を洗ってこいッッッ!」

駅員「は、はいっ!」シャキッ

駅員「ところで、駅長」

駅長「なんだ?」

駅員「この辺に女の子、いませんでした?」

駅長「いるわけなかろう」

駅員「で、ですよね~」

駅員(行っちまったか……。結局、とっつかまえることはできなかったな……)

─ トイレ ─

青年「ひえぇ~! またかよ~!」

駅員「どうしました?」

青年「お腹が痛いのに、『清掃中』の看板が出てるんだけど~!」

駅員「え!?(アイツは消えたはずなのに……)」

駅員(いやこれは──)

駅員「『清掃中じゃありません』!?」

青年「あ、ホントだ! 手書きで“じゃありません”って書いてある!」

青年「紛らわしいなぁ~、もう!」スタタッ

駅員「…………」

駅員(花子め……)

駅員(多少イタズラの手口をぬるくしたようだが、まだこの駅にいるようだな)

駅員(ふっふっふ、面白い!)



駅員(俺たちの戦いはこれからだ!)

花子(わたしたちの戦いはこれからよ、お兄さん!)





ケース10 おわり

ケース11「キヨスク」



─ キヨスク ─

駅員「よぉ、おばちゃん」

おばさん「またサボりかい?」

駅員「へへへ、まぁね。今は客も少ないしさ……」

駅員「そうだな……ガムでももらおうかな。口がさびしいしさ」

おばさん「あいよ!」

駅員「やっぱり疲れた体には糖分が一番だよな~」クチャクチャ…

おばさん「ついでにお茶もどうだい?」

駅員「お、買う買う!」

おばさん「あとお茶にあうおにぎりも」

駅員「俺の好きな具を分かってるね~、おばちゃん」

おばさん「それと週刊誌にも面白い記事があるよ」

駅員「へぇ~、俳優の△△って不倫してたのか!」バサッ…

おばさん「ビールもどうだい?」

駅員「お、いいねぇ~!」

おばさん「ならツマミも必要だねぇ」

駅員「うへへへ、そうこなくっちゃ!」グビグビ…

おばさん「ほら、もう一本」

駅員「ウイ~……最高だぁ……」



女後輩「あ、先輩! こんなところでなにやってるッスか!」

女後輩「駅長が探してたッスよ! カンカンッス!」

駅員「ゲ!? ど、どうしよう!?」

おばさん「ほら、酔い止めとニオイ消し。あと赤ら顔にクリームも塗っておきな」ササッ

駅員「おお、ありがとう、おばちゃん!」

駅員「これなら言い訳さえうまくやれば、一発ブン殴られるぐらいで済むな!」タタタッ



女後輩「アフターケアも万全ッスねぇ、おばちゃん」

おばさん「それが商売繁盛のコツってもんさ」ニカッ





ケース11 おわり

ケース12「ハト」



─ プラットホーム ─

駅員「ったく、ハトがあちこちにフンしていきやがる!」ゴシゴシ…

女後輩「掃除も大変ッスよねぇ……」ゴシゴシ…

駅員「いっそ爆竹かなんかで脅してやろうか」

女後輩「ダメッスよ! そんなことしたらハトが可哀想ッスし、先輩も……」

駅員「駅長にブッ殺されるだろうな……」

駅員(う~ん、アイツに相談してみるか)

夜──

─ トイレ ─

駅員「──ってわけだ。花子、なんかいい知恵はないか?」

花子「そうねえ……」

花子「だったらお兄さんがハトより怖い存在になればいいんじゃない?」

駅員「なるほど! さすが、元イタズラっ子! いや現役か!」

花子「失礼ね! 前よりはずっとマイルドにやってるわよ!」

駅員「悪い悪い」

駅員(怖い存在ね……いっちょやってみるか!)

数日後──

─ プラットホーム ─

駅員「ポッポォーッ!」バッサバッサ…

駅員「ポッポッポォーッ!」バッサバッサ…

駅員「ハトども、とっとと駅からいなくなれぇ~っ!」バッサバッサ…



女後輩「なにやってるんスか、先輩!? 鳥の仮装なんかして……」

駅員「デカイ鳥になりすましてるんだよ! ハトを追い払うためにな!」バッサバッサ…

駅長「なにを遊んでおるか……ッッ!」パキポキ…

駅員「ゲ!?」

子供A「あ、トリさんだ! かわいい~!」

子供B「わぁ~い!」

客H「へぇ~、着ぐるみか。面白いじゃん」

客I「この駅もついにゆるキャラ導入かな?」



駅長「ぬう……ッッ」

駅員「へ、へへへ……。たまにはこういうのもいいもんでしょ?」バッサバッサ…

駅長「まぁ……程々にしておくように」クルッ

駅員(ふぅ、助かった……)

駅員(ようし、ハト追放作戦続行だ!)

一週間後──

駅員「ポッポーッ!」

ハト軍団「ポッポーッ!」バババッ

駅員「ポッ!」

ハト軍団「ポッ!」バッ



女後輩「すっかりハトと友達ッスねぇ、先輩」

駅員「本当は追い払うつもりだったんだがな」

駅員「だけどハト用の便所を作って、そこでするよう訓練したし、結果オーライだ」

女後輩「さっきの整列なんか、まるで軍隊みたいだったッスよ! かっこいいッス!」

駅員「そうかぁ?」

駅員(軍隊か……)

駅員(そうか! こいつらを利用すれば駅長に勝てる!)

駅員「やい、駅長!」バッサバッサ…

駅長「なんだ?」

駅員「今日からこの駅は俺のもんだ!」ビシッ

駅長「ほう……」

駅員「俺のハト軍団がアンタを倒して、俺がこの駅の駅長になる! 勝負だ!」

駅長「面白い……かかってくるがいいッッッ!」ギロッ

駅員「さぁ、行け! 俺のハトども──」クルッ



シ~ン……



駅員「いない!?」

駅長「どうした……来い」ビキメキッ…

駅員「あっ、あははっ! さ、さっきのは冗談でして……」バッサバッサ…

駅長「もはやワシは発車しておる……止まれぬわッッッ!!!」



ギャアァァァァァ……



ハト軍団「ポッポーッ」プリッ

女後輩「お~、ちゃんと先輩のしつけ通り決まったところでフンしてるッスねぇ」

女後輩「えらいえらい。アンタらを見てるとアタシもなごむッス」

女後輩「なんたってハトは平和の象徴ッスからねぇ……」





ケース12 おわり

エピローグ「業務終了」



─ 事務室 ─

駅長「ご苦労だったッ! 本日の業務は終了だッッッ!」

駅員「やったぁ~!」

女後輩「お疲れさまッス!」

駅長「さてと……今日は久々に皆で楽しむとするか」

駅員「へ?」

女後輩「なにをするんスか?」

駅長「ゲームをする」

駅員「ゲ、ゲームってまさか……」

駅長「決まっておろう……『桃太郎電鉄』だッッッ!」

駅員「うおおおおおおおおおおっ!!!」

女後輩「やったぁぁぁぁぁッス!」

駅員「俺たちがやるゲームといったらやっぱこれですよねぇ! あと『電車でGO!』」

駅長「うむ」

駅長「しかし、ワシが持っているバージョンは最大四人用だ」

駅長「できればあと一人欲しいが……」

花子「じゃあわたしも混ざる~っ!」ボウッ…

駅長「ぬわッッッ!!?」

女後輩「わっ! あなた誰ッスか!? 迷子ッスか!?」

駅員「迷子っちゃ迷子だな。迷ってあの世に行き損ねた幽霊だ」

駅長「ゆ、幽霊ッ!?」ビクッ

駅員「この駅に住みついて時折悪さを働いてたみたいです」

駅員「でももう俺がハナシつけといたんで大丈夫ですよ」

花子「よろしく~!」

女後輩「よろしくッス!」

駅長「よ、よろしく……ッッ」オドオド…

女後輩(駅長ってもしかしてオバケ苦手なんじゃ……)

女後輩「それじゃ始めるッスよ!」

花子「わ~いわ~い!」

駅長「キサマらまとめて、ゲーム内で血祭りに上げてくれるわッッッ!」

女後輩「アタシだって負けないッスよ!」

駅員「やれやれ、俺は勝ち負けは気にせず、気楽にやらせてもらうよ」

駅員(──と油断させておいて、絶対に勝ってやる!)

駅員「ったく、この駅は変わり者だらけだぜ!」





エピローグ おわり

以上で完結です

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