【艦これ】七夜「艦娘?」菊月「暗殺者?」【月姫】 (369)

ーーこれは、鎮守府に訳あって居候する事になった暗殺者の日常

SS投稿初心者です
艦これと月姫のクロスものになります
と言っても艦これの世界に七夜を放り込んだだけのものですが

ほのぼの路線
プロローグ含めて時折地の文があります
ご都合主義
七夜の設定は、MBAAの白レンルート準拠。言わば、一番甘い七夜

以上の点をご留意ください。宜しくお願いします

SSWiki : ss.vip2ch.com

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天気は快晴。穏やかに吹く風が水面を優しく揺らす。
陽光が海面に反射し、キラキラと幻想的な海原。

その洋上を駆ける五人の少女。それとその内の一人が曳航する簡素な筏に、腕を枕にして寝転がる青年。

「索敵機より入電。どうやら敵のおでましのようじゃの」

「姉さん、詳細を」

「ふむ。空母級三隻、戦艦級二隻、それと護衛艦一隻じゃな」

索敵のため、先頭に位置する二人の少女。索敵機からの情報がその少女を通じて全員に行き渡る。

「あちゃー、航空戦力は向こうの方が上っぽいねー」

「気を引き締めないと結構ヤバいかも」

次いでその後を走る二人。日の丸印の鉢巻きを額に結び、艦載機着陸用の飛行甲板を装備している。

「ここ鎮守府からそう離れてない海域なのに……不幸だわ……」

そして、最後尾。筏を曳航する少女がそれに続く。

「敵は既に艦載機を発進させているみたいじゃ」

「向こうもこっちを捉えてるって事だよね、それ」

「扶桑さん、どうしようか?」

「19ちゃんの準備は?」

「完了しています」

「そう」

五人の視線が筏で呑気に寝転がる青年に突き刺さる。

「……ん? やれやれ、全くもって人遣いが荒いな」

「やってくれますか?」

「機嫌を損ねて洋上に放置されても困るからな。ここは俺の舞台ではないが、踊ってやるよ」

扶桑の問いかけに半身だけ起こして肩を竦める青年。気だるげな言葉とは裏腹にニヒルな笑みが表情に刻まれている。

「では、いきますよ!」

了承を得た扶桑は筏を曳航する綱を強く握り締める。
後はハンマー投げの要領で、遠心力を利用し、筏ごと空中へ。敵の居る方へ思いっきり投げ飛ばした。

それはまさしく不運としか言い様がなかった。
気づいた時には、第一次攻撃隊の大半が目標に辿り着くまでに撃墜されていた。

「いやいや、寧ろ幸運だよ。大凶に当たるなんて、中々ある事じゃない」

筏から矢の様に飛び出したその暗殺者は、敵と自分とを結ぶ艦載機を解体しつつ、時折足場にし、再び跳躍する。

繰り返す事三回。彼の通った中空の道。そこに敵艦載機の姿はなく、難を逃れた他の艦載機を愕然とさせる。

「あーあ……出会っちまったか」

敵の艦隊を彼は視認する。艦載機からの報告を受けたのか、空母艦隊は直掩機を頭上に展開している。

それは敵の襲撃から備える立場なら当たり前の行動。だが、その暗殺者の前では、それは一番やってはいけない行動だった。

七夜の血を引く彼の暗殺技能は、天井や壁すらも足場にし、三次元移動を可能とする。
故に、彼の足が活かされない海上において、艦載機という天井を敵は作ってはいけないのである。

「ああ、困ったな。一撃で仕留められないなんて、暗殺者としては下の下。そも、昼の戦闘もどうかと思うが」

結果は散々な物だった。海面に居る敵と空中の艦載機という足場を得た彼は、目にも止まらぬ速さで移動を繰り返し、その都度手に持ったナイフを振るう。

近代兵器を無効化するが故に脅威的であると言われる敵に、そのナイフは通らない。
だが、幾ら致命傷を負わないとしても、斬撃の衝撃自体は受ける。

そして何より、迎撃する事すら能わず、明確な殺意を持って襲ってくるその暗殺者に、恐怖を覚えるなというのが無理な話である。

「……時間切れか」

小さく呟く。そして、足蹴にしている敵の上で、四つ足つける独特な構えを。

其れは、七夜の名を冠する必殺の一閃。

瞬時に敵に接近。その勢いのまま、すれ違い様に斬撃を放つ。敵の体勢を崩すには十分な一撃。

「結局、これか。行きは良い良い、帰りは悪いとはよく言ったものだ」

そして、そのまま離脱。足場のない海上へ。当然、身体は重力に引かれる。

「イクは、ナナヤと泳げて楽しいのね!」

「泳ぐ? 潜水に付き合わされるの間違いだろ?」

海面付近で待ち構えていた19が飛び出すと同時に彼に抱きつき、そのまま海中に引っ張りこむ。
海に沈む前に彼が見たのは、陣形や装備を散々にされた敵が、味方の放った艦載機や砲撃の前に、為す術もなくやられている姿だった。





「第一艦隊が帰投しました」

六人の少女と濡れ鼠となった一人の青年が、鎮守府の艦娘出撃用の港に辿り着く。

「水中遊泳楽しかったのね!」

「黙ってろ」

「うーん、水も滴る良い男って感じだねー。ね、飛龍?」

「惜しくらむは若すぎる事かなー」

「お疲れ様でした、七夜さん。提督への報告は私達が済ませておくので、どうぞ風邪を引く前に身体を暖めてください」

「……いや、俺もジジイに用がある。執務室までご一緒させてもらうさ」

「もう、提督に対してそんな口の利き方ではいけませんよ」

小言を言う扶桑から手渡されたタオルで髪の水分だけでも飛ばしておく。
水が染み込んだ衣服はずっしりとして重いが、気にならない程でもない。

執務室のある建物へと歩き出したそんな一向に迫る影。

「お帰りなーーへぶっ!」

「ちょ、電!? 大丈夫?」

「……我輩の心配もしてくれぬか」

彼なら受け止めてくれるだろうと言う、少女の淡い期待は砕かれる。
彼の死角から飛び出た彼女は、見向きもされずに躱され、勢いあまって一人の少女と衝突した。

「だから、急に飛び出すのはやめろって言ったのに……」

「そうよ。レディは艦隊の帰りを信じて、どっしりと構えておくものよ」

「そういう暁も落ち着きはなかったけどね」

「陽炎姉さんも人の事は言えませんよ」

「しかし、あんさんも避ける事はないやろに」

「電の近づき方が悪い。俺は悪くない」

あれよという間に駆逐艦の娘達に囲まれる七夜。
彼は軽く肩を竦めると、少女達の相手をしながら再び歩き始めた。





時間が経つに連れて増える集団。
その主が駆逐艦と呼ばれる艦種の娘達だったが、戦場での出来事ーー主に七夜の戦闘についてーーを随伴した他の六人に目を輝かせながら尋ねている。

七夜に問いかけても、彼は自分の技法を多くは語らない。
故に、情報の提供は基本的に随伴した艦娘達の役割となっている。

人の身でありながら、敵と同等もしくは圧倒するその戦闘技術は、艦娘達の話題に事欠かない。
しかも、彼が出撃する度に話のネタはその鮮度を改める。帰投する度に少女達に囲まれるのは、日常茶飯事となりつつあった。

「はい、司令室に着きましたので、皆さんはここまでですよ」

重厚な扉を前に扶桑が立ち止まる。第一艦隊以外の少女達は、それぞれが返事をすると解散していった。

「提督、扶桑始め、飛龍、蒼龍、利根、筑摩、伊19……及び、七夜志貴。帰投しました」

「……入りたまえ」

扉の中から聞こえたのは、重みはあるものの年老いた声。
扉を開けて次々と入室する艦娘と暗殺者を軍服に身を包んだ白髪の老人がどっしりと構えて出迎える。

「第一艦隊、敵艦隊を撃滅して帰投しました。こちらの損害は小破にも満たない被害が二人ほど。その他の詳しい事はまた書類にて報告します」

「うむ、ご苦労じゃった。傷ついた者はすぐに入渠するように。他に何もなければ、解散とする。……よし、各自休息を取れ」

一同を見渡し、誰からも意見が出ない事を確認。厳かに宣言すると、室内の雰囲気が和らぐ。

「七夜くん、私達と間宮に行かない?」

「着替えくらいさせてくれよ」

「ああ、そうじゃ。七夜は残ってくれんかの」

「えー……七夜くんの独占はやめてくださいよー、提督」

「儂にそんな趣味はない」

「……あー、飛龍と蒼龍。後で付き合ってやるから」

「約束だからね?」

解放感からか、司令室から六人の少女が談笑しながら出ていく。
残されたのは男二人。

「で、今回の敵はどうじゃった?」

「前回よりも解体し甲斐がありそうだったな」

「ふむ。これは面倒じゃのう。日に日に敵の攻勢が強くなっているわい」

「近くに敵の泊地ができたと考えるのが妥当だろう」

「しかし、上はあまり危機感を持っていないようでな」

「大本営と現場の考えの違いで板挟み、か。ままならんな、アンタも」

「代わるか? 毎日、頭痛との戦いじゃ」

「遠慮しておこう。柄でもないしな」

「儂よりも人望あるから、皆喜ぶと思うぞ?」

「元より根なし草。俺は俺の勝手にやるのが一番性に合っている」

「強情なやつよのう。さて、ならば知恵を貸してくれんか?」

「……いっそ、本土上陸を許して、国民や上層部に脅威を認識させるという手もある。最も、俺では奴等の侵攻を止められないから、ジジイの部下を何人か借りるが」

「よく言うわい。本当は殺せるくせに」

「買い被りが過ぎるな。解体せるなら俺が解体してるさ」

「その割に、お前さんの持っているナイフを、対深海棲艦用に改修するのを拒否してるみたいじゃないか」

「……俺にも俺の都合があるからな」

「そうかいの。本当にままならぬなあ」

「ま、上手く使うのはアンタの役目だ。俺は言われた事をするだけさ」

「……結局、大した案も生まれんの。もう下がってよいぞ」

「決定権はアンタにあるからな。ま、精々失望させないでくれよ」

そう言って七夜は踵を返すと、司令室から出ていった。

ひとまずここまで

次回から暫くはハートフルな展開
敵泊地についてのお話しは大分先になります

七夜の技は本編に登場する度に解説します

ちょっとだけ更新

この七夜は直死の魔眼を持っていません
ですが、やろうと思えば深海棲艦を殺す事はできます

ただ、白レンから女子供は殺すなと言われてるので、殺しません
深海棲艦も見た目は女ですしね。駆逐艦も子供みたいなもんですし。後期型?知らんな

・七夜の影響

菊月「あーあ、出会ってしまったか」

長月「受け取りな、アンタへの手向けの花だ」

睦月「……また始まっちゃったよ」

如月「そっとしておきましょう」

望月「毎日毎日飽きないねえ」

菊月「斬る!」

長月「遅すぎる!」

三日月「きゃぁ! こっちにまで来ないでください!」

卯月「演習場でやればいいのにねー」

弥生「……卯月は分かっていない。七夜の体術は……屋内且つ狭い所の方が活かせる」

皐月(弥生もさりげに染まってるよね……)

長月「仕留めるか」

菊月「まだまだぁ!」

文月「ふ、二人ともその辺にしとこうよぉ」

睦月「本当にどうしたものかなあ、これ」

卯月「諦めるしかないぴょん」

皐月「元々、素質はあったからね。仕方がないよ」

如月「場所を考えてくれたら、それで良いのだけれど」

菊月「極彩と散れ」

長月「斬刑に処す」

弥生「ニヒルな笑み……難しい」

文月「ふええ、弥生の顔が怖いよぉ」

望月「あー、もうホントめんどくせぇ……」

菊月「ぐぅ……っ!」

卯月「あ、終わったぴょん」

長月「救われないよな、お互いさ」

睦月「はいはい。気が済んだのなら解散解散」
 
長月「待て。まだ私の勝利台詞が残っている」

皐月(知らねーよ!)

弥生「吾は面影糸を巣と張る蜘蛛。ーーようこそ、この素晴らしき惨殺空間へ」

三日月(あ、弥生さんもそっち側でしたか……)

菊月「くっ、くくく。言われてしまったな、長月」

長月「……やれやれ、困ったもんだ」

如月(どの口が言うのかしら)

文月「七夜お兄ちゃん、影響力強すぎるよぉ」

睦月「悪い意味で、ね……」

・七夜の影響 その2

不知火「…………」キョロキョロ

不知火「……ごほん」

不知火「理解しましたか? これがーーモノを殺すという事です」ドヤア

黒潮「なにしとるんや、不知火」

不知火「ーーーーっ!!!」

黒潮「ああ、いや。大体理解できるし、みなまで言わんでええで」

不知火「い、いいい、いつから……!」

黒潮「ごほん。辺りからやな」

不知火「そう、ですか……」

黒潮「いやはや、まさか不知火も染まってたとはなー。陽炎型では縁遠い方だと思ってたのに」

不知火「……黒潮の言っている事がよく分かりません」

黒潮「およ、今更シラきるんかー。なるほどなるほど」

不知火「なんですか? 不知火に落ち度でも?」

黒潮「いやいや。じゃあ、ちょっと問題や、これなんて読む?」

『陽炎』

不知火「はあ、自分の姉の名前を読めない訳ないじゃないですか。かげろうです」

黒潮「せやな。じゃあ、次や」

『水月』

不知火「すいげつ。読めて当然です」

黒潮「さすが我が姉やね。次な」

『解体す』

不知火「バラす。決して、かいたいす。ではないです」

黒潮「やだ……カッコいい。けど、この漢字でそんな読み方、どう頑張っても出来ないんやで?」

不知火「あの人が使ってるから使ってるだけでーーはっ!?」

黒潮「ふっふーん? あの不知火が誰かの影響を受けてると?」

不知火「……黒潮」

黒潮「なんや?」

不知火「どうやら貴女は知りすぎてしまったようですね……」ユラァ

黒潮「ちょ、ま、待ちぃや。べ、別に悪いことやあらへんって」

不知火「おや? 何をそんなに怖がっているのですか? ちょっと、頭に衝撃を与えるだけですよ」

黒潮「いやいやいやいや。下手しぃ大切な物までなくしてしまうって。いいから落ち着いて、な?」

不知火「ふ、ふふふ……その六銭、無用と思ってください!」

黒潮「ちょ、ボロが出とる! あ、やめ、そんな……ギャーッ!」

陽炎「…………南無」

ひとまずここまで
漢字にルビを振らなかったミスをぶちこんでいくスタイル

今更ですけど、結構なキャラ崩壊が起こってます。お気をつけください

この子の厨二が見たい等というリクはいつでも受け付けております

それでは、ありがとうございました

うわあ、言われるまで気付かなかった……

「救われないよな、お互いさ」

「マトモじゃないよな、お互いさ」

に脳内補完お願いします

すまぬ……すまぬ……

・七夜の影響 その3

鎮守府内部に存在する屋内演習場。
普段は閑散としているそこは溢れんばかりの活気に包まれていた。

青葉「トトカルチョのご購入はこちらでーす!」

衣笠「はいはーい。演習開始までにはまだ時間があるので、押さないで順番を守ってくださいねー!」

長門「忍者戦隊に間宮のデザート券五枚だ!」

陸奥「あら良いのかしら? 私はふふ怖戦隊の方に五枚よ」

瑞鳳「こんにちはー! 鳳翔さんの店から出前でーす!」 

龍驤「ポップコーンやホットドック、たこ焼きもあるでえ!」

祥鳳「ちゃんと、お飲み物もありますよー!」

赤城「すみません、ここからここまで全部ください」

瑞鶴「赤城さん、ダメです! ここは抑えてください!」

七夜「厄介な事になったな……」

七夜が他の艦娘と演習する際、見学者で演習場が溢れかえり、演習どころではなくなる。
そのために妖精達が急ピッチで造りあげた演習場を囲う空中観客席。

席を埋め尽くす満員の観客席を見上げながら、七夜は一人ごちる。
事の発端はついぞ数十分前に遡る。

~よく分かる回想~

川内「やっぱり、ななやんの魅力と言えば、あの体術だよねえ」

天龍「は? あのナイフ捌きだろ。あれは憧れる」

川内「いやいや、天龍は分かってない」

天龍「お前こそ分かってねえよ」

川内「じゃあ、どちらの技術が上か、確かめてみる?」

天龍「上等だ。場所は屋内演習場でいいな?」

川内「へえ……。いいの?」

天龍「沢山のギャラリーの前で、相手の得意分野を叩き潰す。楽しそうじゃねえか」

川内「……その言葉、後悔しないでよね」

~回想終わり~

提督「レディースアンドレディース」

大淀「確かに観客席にはジェントルメン居ませんけど……」

マイクを握った提督が喋り始めると、観客達が一斉に静まる。

提督「本日は、急遽決まった演習にも関わらず、お集まり頂き恐悦至極」

大淀「なんですか、そのキャラ」

提督「今回の演習、その実況を担当する儂じゃ」

大淀「解説役の大淀です。宜しくお願いします」

提督「そして、ゲストの七夜じゃな。ほれ、なんか喋らんかい」

七夜「……眠い」

提督「……よし! 気を取り直して、両陣営の紹介に移るぞ!」

大淀「了解しました。ーー俊敏さと肉体言語に可愛さを兼ね備えた我らが忍者戦隊! その名も、川内! 神通! 那珂!」

艦娘のコールと共に彼女達に眩い光が当たる。同時に爆発的な歓声が観客達からあがった。

川内「体術には自信があるんだよ」

神通「足癖が悪くなってしまいました……」

那珂「みんなー! 今日は那珂ちゃんを見に来てくれてありがとー!」

三者三様の立ち振舞い。緊張している様子は感じられない。

大淀「それに相対するのは、砲撃を捨て剣技を極めた本当に怖いふふ怖戦隊! 天龍! 龍田! 木曾!」

またも歓声が巻き起こる。
何を隠そうこの六人。七夜の影響を最も色濃く受けている六人である。

天龍「うーっし、楽しい殺し合いを始めるぜー!」

龍田「狙った獲物は逃がさないからぁ~」

木曾「俺に任せろ。一瞬で終わらせてやる」

こちらも自然体。その立ち振舞いは七夜のそれと酷似している。

大淀「両チーム所定の位置への移動をお願いします」

大淀の指示に、両陣営は一定の距離を離して向かい合う。
彼女達の静謐ながらもはっきりとした気迫に観客達も呑まれ、静まりかえる。

提督「それでは、演習ーー開始!」

その静けさを破る提督の一声。
ここに彼女達の譲れない戦いは幕を開けた。

とりあえず、ここまで

コメント欄に七夜多すぎじゃないですかね

川内達は閃走
天龍達は閃鞘

そんな枠組み。見た目で決めました

それと勝敗の結果はコンマの数字が大きい方にします。なので、お付き合いお願いします

↓1 川内・神通・那珂
↓2 天龍・龍田・木曾

天龍「先に仕掛ける。龍田、続いてくれ」

龍田「背中は任せてねぇ~」

木曾「なら、俺は好きにやらせてもらおうか」

彼女達の武器は刀のようなもの。七夜の扱うナイフとは、一回り程の違いがある。
それは振りの大きさや持ち替えの難しさに反映され、決して見逃せない隙を生じさせる。

故に彼女達は、その隙を戦隊という条件で埋める。それは七夜には決して真似の出来ない芸当。

死角さえなくしてしまえば、リーチの長さは偉大な武器となる。

其(そ)は七夜の名を冠する必殺の一撃。

天龍「いくぜぇっ!」

敵に一瞬にして近づき、すれ違いざまに斬撃を放つ。
“閃鞘・七夜”と呼ばれる七夜の血筋に伝わる戦闘技術。天龍は寸分違わず、それを再現した。

川内「へえ、やるじゃん!」

一方、川内型の装備は二本の苦無でしかない。
リーチの差の前に避ける事が出来ないと判断した川内は、苦無で斬撃の軌道を逸らす事により、難を逃れる。

那珂「キャハッ☆ 死んじゃえ、天龍さん」

神通「那珂ちゃん、下がって!」

大振りの一撃は、体勢を立て直すまでに相応の技後硬直が発生する。
そこをすかさず狙う那珂だったが、神通に押し退けられた。

龍田「あらぁ~、勘がいいのね~?」

天龍と同じく接近にかける時間は一瞬。
ただ、違う点が一つ。彼女の攻撃は下から上に。
すれ違い様に飛び上がりつつ、首元を刈り取る二つの閃き。

神通「っ……! まだ、いけますっ!」

斬撃自体は防いだものの衝撃により空中へ吹き飛ぶ神通。
だが、それで体勢が崩れる程、彼女は柔な存在では決してない。

捲られたために背後に居る龍田を確認さると、彼女は空中に居るにも関わらず、重力を無視した足技を。
一文字を書くように横に滑る無茶苦茶な蹴りを放った。

龍田「やるわねぇ~」

だが、届かない。神通に背中を向ける龍田はその蹴りを、見ることもなく自身の得物で受け止める。

木曾「これで一人目だな」

天龍を踏み台に誰よりも上空に飛び上がった木曾が呟く。彼女は中空で半身傾けると刺突の体勢に。
上空から地上に向けて一直線に急降下する彼女の得物は正確に神通を貫いた。

那珂「お互いに、だけどねっ☆」

着地の直前、木曾の胴に那珂の蹴り上げが入る。
重力に従う身体。そこに伝わる衝撃は途方もない威力になり、浮かび上がった身体は抵抗の余力もない。

そんな彼女にも容赦なく。蹴り上げの勢いで飛び上がった那珂は追撃の踵落としを決めた。

提督「実況追い付かんの、これ」

大淀「私も何をどう解説したらいいかわかりません」

提督「そういえば、トトカルチョって本来サッカーの試合の際、どちらのチームが勝つか賭ける時に使われる言葉らしいぞ」

大淀「実況を諦めないでください」

提督「老いぼれの目だと動きを追えんのじゃ」

大淀「助けて七夜さん」

七夜「知らんな」

※彼女達がしているのは演習です。殺し合いではありません

そんな訳で、ここまでです

血染めのアイドル那珂ちゃん
那珂ちゃん今日も可愛い!

閃鞘七夜以外の技名出してないけど、皆さんには技の概要だけで伝わるって信じてます

七夜対艦娘は演習書き上げるまで待ってくださいね

Oh……誤字……

>>40
龍田を確認さると

龍田を確認すると

です。すみません

天龍「ケッ、しつこい奴だ」

川内「それはこっちの台詞だよ」

何度目の交錯か。お互いに言葉を吐き捨てる。

那珂「川内お姉ちゃん、頑張れー」

龍田「そこよー、天龍ちゃん」

四人は既に轟沈判定を受けている。
そのため、ぶつかり合う二人の邪魔にならない様に演習場の隅で声援を送る。

天龍「バラバラになっちまえ!」

踏み込みと同時に刃を振るう。大振りのために生み出した斬撃の数はたったの八。
それでも、一撃一撃が絶大な威力を持つ衝撃波となって川内を襲う。

川内「いいの? そんな大技使って」

斬撃など、彼女には届かない。寧ろ、致命的な隙を生み出すだけとなる。
四つ足ついたと思いきや、天龍の背後へと瞬時に移動した川内は、振り返り様に苦無で斬りかかる。

天龍「あめぇよーーっ!」

誰も居ない場所へ向けて放たれた弧を描く斬撃。
その勢いを殺す事なく、天龍はそのまま身体を半回転させる。
半円の軌道を辿る彼女の武器は、襲いくる川内を薙ぎ払った。

川内「ちょ、無理矢理すぎ!」

焦る川内の声。予期せぬ一撃に体勢が崩れる。

天龍「もらったぁ!」

そこに入る追撃。回転の勢いを足に力込めて殺す。そして、腰を逆に捻る。
利き手にもう片方の手を添えて、横薙ぎに斬りつけ。すかさず、武器を持つ手を入れ換えて刀を返す。

川内「わ、わ……あ、これヤバいかも」

崩れた体勢では力が入らない。
刀を受けた苦無は弾かれて、川内の手から離れていく。

防御を剥がされた川内に、天龍の三撃目は躱せない。
無数の斬撃が川内に直撃し、

ーーその姿が霞のように消え去った。

天龍「なっーー!?」

川内「ここ!」

驚く暇もない。目前の川内が消えると同時に、横合いからの一文字の蹴りが天龍を吹き飛ばす。

川内「次!」

天龍が体勢を立て直すより早く、背後に一瞬で現れた川内が蹴り上げを放つ。

天龍「っ……! ナメるなぁっ!」

防ぐ事は諦める。だが、ダメージを覚悟してしまえば、反撃のチャンスなど無数に存在する。
空中へと吹き飛ばされた天龍だが、咆哮と共に川内の足首を掴み、その手に持つ武器を突き刺す。

天龍「ーー残像!? 上か!」

だが、手応えがない。武器が刺さった川内はまたも霞の如く消えていく。
そして、悟る。彼女は既に川内の術中の中にあると。

川内「っらぁ!」

見上げた先、川内の踵が迫る。
迎撃は間に合わない。そもそも、体勢が悪すぎる。これでは、防御すらままならない。

天龍「くそがぁっ!」

武器を捨てる。苦し紛れでしかないが、直撃するよりマシだろう。
両腕を交差させ、川内の踵落としを受け止める。

そして、そのまま二人して地上に落ちていった。

衝撃で巻き上がる土煙。観衆が固唾を飲んで見守る中、天龍が小さく息を吐いて声をあげる。

天龍「……参った参った。降参だ」

晴れる土煙。川内と天龍は互いに健在である。

川内「いいの?」

天龍「いいもなにも腕が痺れて満足に武器も扱えねえよ」

川内「そっか。……良い勝負だったよ!」

天龍「慰めはいらねえ」

川内「そう?」

天龍「次は最初から全力で来い。分身諸とも叩き潰してやる」

川内「……次戦うときは、私ももっと強くなってるから。簡単にはいかないよ?」

天龍「へっ、上等だぜ」

二人して拳を突き合わせて笑う。

提督「うむ。この勝負、忍者戦隊の勝利じゃ!」

大きな歓声が演習場に響き渡った。

川内「ねえねえ、私の動きどうだった?」

七夜「悪くはなかったな。寧ろ、残像を自由に扱える分、体術面は俺より上かも知れん」

川内「ホント? やったー!」

天龍「オレの動きについての意見ももらっていいか?」

七夜「中々良い太刀筋だったと思うぞ。武器に振り回される事なく的確だった」

天龍「ふふ、やったぜ」

龍田「あらあら、天龍ちゃん、幸せそう」

神通「川内姉さんも嬉しそうです」

那珂「私も混ざりたいー!」

木曾「それは野暮ってもんさ」

こうして、彼女達の演習は幕を閉じた。

よし、リクエスト消化したっぽい!
次は艦娘VS七夜だ

ところで、3が多いってことは、艦娘は艤装がないと普通の少女と変わらないって認識が多いんですかねー

艤装なしでも一般人よりかちょっと強いってイメージが>>1の中ではあったりします

「もういい加減にして」

真っ白の平原。
そこは季節問わずに雪が降る。
見渡す限りの銀世界に、景色に紛れそうな真っ白な少女の苛立ちに満ちた声が響く。

「おやおや、見るからにご乱心のご様子で。何がそんなに気に食わないんだ?」

「あ・な・た・の! せいよ!」

それとそんな空間に明らかにそぐわない、どこかの学校の制服を着た青年。
明らかにミスマッチな二人は、そんな違和感を気にせずに会話を続ける。

「俺がいつご主人様を煩わせたと?」

「いつもよ! いつも! 目を離せば居なくなるし、私の言うこと一つも聞かないし!」

「これでも譲歩はしてるつもりなんだが。……そっちの器量が狭いだけなんじゃないか?」

青年の揶揄に少女の額に青筋が浮かぶ。
しかし、青年は気付かない。

「そもそも、俺は元々好き勝手やって早々に退場するつもりだったんだ。勝手に悪夢として繋ぎ止めたのはそっちだろう? 俺を生かした責任くらい自前で払ってくれ」

「そう……」

「話はそれだけか? なら、俺はまた出かけるとしよう」

ついには少女に背中を向けた青年。
その背後で、青年の無茶苦茶な理論に両肩震わせる少女が居ることに彼は最後まで気づけなかった。

「いいわ、そんなに自由が欲しいならくれてあげる。ーー私の庇護を失う事を後悔するといいわ」

青年が気づいた時には、彼はその領域から叩き出されていた。





そこは海洋に接した陸地。様々な建物が割拠する近代的な敷地。

七夜「ーーやれやれ。乙女心は秋の空ってか。……で? ここはどこだ? というか、アンタは誰だ?」

場所の確認は最低限に。時刻は昼。身を隠す建物への距離も少し遠い。

加賀「……それはこちらの台詞です。前触れもなく現れた貴方は何者ですか」

最も、身を隠すには既に手遅れだが。

七夜「ああ、いや。決して怪しい者ではないんだが」

加賀「不審者は大抵そう言うものです」

七夜「一理ある。だが、そう言うアンタこそーー人間じゃないな?」

加賀「……仰る意味が分かりません」

七夜「ハッ、謀るなよ人外風情が」

嗤う暗殺者。その態度に無表情を装う少女の雰囲気が変わる。

加賀「……さすがに頭にきました」

七夜「それは丁度いい。必要な情報はアンタの身体に直接聞くとしよう」

弓に矢をつがえる。狙いは自身の上空。
相手が人の身であるなら、戦闘機隊は必要ないだろう。

加賀「第一次攻撃隊、発艦してください」

七夜「へえ。面白い能力だな」

放たれた矢が次々と艦攻、艦爆に姿を変えて、空中にて集合を果たす。
それを見上げる青年は、何もせずに笑っている。

加賀「今ならまだ見逃してあげますが?」

七夜「おお、怖い怖い。だが、甘いな」

彼女は知らない。
人間の身でありながら、獣と同じ動きが出来る存在を。
その目の前の青年は、彼女の常識の範疇には居ないということを。

七夜「戦場で情けをかけるなど、笑止千万。その不手際、命散らすには十分な要因になる」

加速に準備は要らない。七夜の体術は、一瞬の接近を可能にする。

加賀「っ……!?」

七夜「ーー蹴り穿つ」

暗殺者に容赦はない。
少女は衝撃に備える間もなく、中空に蹴りあげられる。

七夜「まだまだぁ!」

なんという足技か。
青年は器用に足だけで、少女を地面に投げ飛ばした。

加賀「っあ……!」

地面に背中から叩きつけられた少女は小さく悲鳴をあげる。
その衝撃で矢筒から矢が地面にばらまかれた。

七夜「さて、色々と教えてもらうぞ」

青年はそのまま少女の横に着地する。

加賀「……本当に貴方は、何者ですか」

七夜「さあな。さて、質問が二つある。ここはどこで、お前は何者だ?」

見上げる視線を軽く受け流し、彼は聞きたかった事を口にする。

加賀「……それは言えません」

七夜「そうか。まあ、場所は自分で調べればいいか」

元々期待していなかったのか、青年はあっさり引き下がる。

七夜「どうも、ここにはアンタのお仲間が多いみたいで。今度は口が軽そうな奴に当たってみるとするか」

加賀「……させません」

少女は暫く動けないだろう。そう思っていたが、違った。
身体を動かす事はできなくても、全力を出せばその一部が動いたか。
少女はその手ですぐ横の彼の足首を掴む。

加賀「……貴方はここで私と共に果てて貰います。第一次攻撃隊、攻撃ーー開始」

その力、尋常ではなく。
決して容易く振り払えるものではない。
少女の命令がくだると、二人に大量の爆弾が降り注いだ。

今回はここまでです

イベントに向けて、重巡を懸命に育ててたら遅くなりました。すみません
せめてレベル50辺りまでは育てなきゃ…

不定期更新ですが、のんびりゆっくりお付き合いお願いします





赤城「……あら? 加賀さんの艦載機が何故ここに?」

中空を走る一機の艦載機。
鎮守府を哨戒という名目で散歩していた少女達を発見し、急速に接近する。

艦載機の駆動音に気づいた少女達の内の一人。
艶やかな黒さを持つ長髪の少女が、訝しげな表情浮かべるも、身につけた飛行甲板に艦載機を着陸させる。

そして、その艦載機から降りた妖精の言葉に赤城は表情を強張らせた。

最上「赤城さん? どうかしたの?」

赤城「名取さん、由良さん。鎮守府に残っている駆逐艦の皆さんを自室に避難させてください」

名取「えっ……?」

赤城「侵入者です。只今、加賀さんが交戦中との事」

状況の伝達は簡潔に。事は一刻を争う可能性がある。
赤城の様子に三人の少女の顔色が変わる。

由良「赤城さんはどうするんですか?」

赤城「私は加賀さんの加勢に。艦載機の皆さん、この情報を他の空母の方々にお願いします」

言いながら、弓を構えて矢を次々と放つ。
矢は艦載機に姿を変え、四方八方へ散っていく。

最上「ボクもついていくよ、赤城さん!」

名取「私たちも」

由良「出来ることを」

名取と由良も行動に移る。

赤城「ありがとうございまーーっ!?」

それを見送る余裕は彼女にはない。
最上を伴い駆け始めた瞬間、少女は轟音を聞いた。

赤城「加賀さんっ!」

爆発の起きた場所。そこに彼女の探し人は居た。
爆心地である事を示すクレーターに横たわる加賀。その上空を所在なさげに飛び回る艦載機。
それを視認すると同時に近寄ろうとする赤城の腕を最上が掴んだ。

最上「待って、赤城さん。侵入者の姿が見えない。罠かもしれないよ」

赤城「……虎穴に入らずんば虎児を得ず、です。行かせてください」

最上「……分かった。ボクも警戒しておくから、赤城さんも周囲には気をつけて」

最上の言葉も理解できる。だが、加賀は同じ一航戦の相方。
例え身体が少し煤こけているだけとはいえ、もしかすると見た目では分からない重傷を負って動けないという可能性もある。
ならば、このまま野晒しにしておく訳にもいかない。

七夜「ーー酷い言われようだな」

二人の話が纏まったところで、介入する。

赤城「っ……上!」

声から位置を割り出し、反射的に弓に矢をつがえて向ける。だが、そこには誰も居ない。

七夜「俺は喧嘩をしたい訳じゃない。ただ、知りたいだけだ」

最上「加賀さんをあんな風にしておいて!」

聞こえた声は二人の背後から。素早く反応した最上が振り返りつつ主砲を向ける。

七夜「あれはアイツが勝手になっただけだよ。俺と刺し違えるつもりだったらしくてね」

最上「くそう、ちょこまかとおっ!」

赤城「刺し違えるって、そんな……まさか……」

だが、七夜はその照準の先には居ない。捉えられない速度で動く彼に苛立つ最上とは対照的に赤城の顔が青くなる。

七夜「ああ、勘違いしないでくれ。アイツは生きてるよ。最も、気絶はしているが」

次に青年が現れたのは加賀のすぐ隣。七夜は片膝着くと加賀の首と膝の下に手を入れ、無造作に持ち上げて二人に向けて歩き出す。

赤城「何を……!?」

最上「加賀さんの艦載機は何やってんのさ!」

七夜「いちいち喚くな、鬱陶しい。それにそいつらには、撃ってきたらコイツを解体すと言っている」

彼の動作に一々反応する二人に、露骨に顔をしかめるも歩みは止めない。
当たり前だが、そんな彼に対して最上は主砲を構える。

七夜「……狙うのは別に構わんが、俺だけに当てられるのか?」

最上「ボクを舐めないでよね」

七夜「……ま、なんでもいいか」

銃口よりも恐ろしい物を向けられているというのに態度が変わらない七夜。
まるで、撃たれてからでも避けられると言わんばかりの涼しげな表情に、憤然とした気持ちに駆られる最上だが、必死に抑える。

七夜「さて、取引といこうか。コイツを渡す変わりに俺が知りたい情報を提示しろ」

赤城「……その情報とは?」

一体どのような無理難題を言われるのかと身構える赤城。

七夜「一つ、ここはどこだ? 二つ、お前らは何者だ?」

赤城「……はい?」

それは確かに、ある意味で予期出来なかった質問だった。





七夜「ーーなるほど。ここは軍事施設だったのか」

赤城「そう、ですね」

赤城の説明に納得いったように頷く七夜。
一方の赤城は微妙な表情である。毒気が抜けたと言っても過言ではない。

事実、加賀に目立った外傷はなく、情報を伝えると彼は素直に加賀を預けてくれた。
その時点で、彼女達は争う理由をなくす。

最上「え、本当にボク達の事を知らなかったの?」

意外そうな最上。深海棲艦の登場は日本のみならず、世界を脅かす問題であるにも関わらず、この青年はそれを知らないという。
勿論、それに対抗する手段を持つ艦娘の存在も。

七夜「生憎、自分の事で手一杯な上に、引きこもりに付き合わされてたからな。世界から隔絶されたが故に情報も届かない」

最上「キミが引きこもりじゃないなら、知るチャンスはあったと思うけど」

七夜「言ったろ。自分の事で手一杯で、他に意識を向ける余裕がなかったんだ」

赤城「加賀さんは何故教えなかったのでしょうか?」

七夜「大方、俺を他国の諜報部隊か何かと勘違いしたんだろう。全く、ついてない」

大仰に肩を竦める七夜。加賀が口を閉ざした原因は概ね彼にあるのだが、この場に居る三人がそれに気づける筈もない。

赤城「これからどうするんですか?」

七夜「うん? お尋ね者はお尋ね者らしく、宛のない旅路と洒落こむつもりだが?」

最上「一体、どういう人生送ったらキミみたいに達観出来るのか興味あるんだけど……」

赤城「……あの、宜しければーー」

赤城の言葉は向けられた相手が目の前から消えた事によって途切れる。
次いで、先程まで七夜が居た場所を通過していく弾丸。

金剛「アレが侵入者デスカー。腕が鳴るデース!」

長門「艦隊、この長門に続け。侵入者を撃滅する!」

蒼龍「大丈夫でしたか、赤城さん!」

飛龍「あとは私達に任せて、入渠施設へ!」

止める暇もない。加賀という負傷者を抱える赤城と最上は、あれよと言う間に戦場から追い出される。

最上「うわあ、さすがに戦艦空母勢揃いはやり過ぎでしょ……。赤城さん、どうしようか?」

赤城「提督に事情を説明して、彼女達を止めてもらいましょう」

最上「それは名案。じゃあ、ボクが全速力で行ってくるよ」

赤城「お願いします。……どうか、持ちこたえてくださいね」

走り去った最上を見送り、自身も加賀を連れて入渠施設に。背後で始まった戦闘を尻目に彼女は小さく呟いた。

摩耶と鳥海は結局41までしか育ちませんでした
イベント頑張りましょう

それと、乙コメありがとうございます。励みになります

次回、七夜対戦艦&正規空母
軽空母の出番はないです。すまんな

長門「戦艦部隊は主砲以外の兵装の使用を許可する」

金剛「了解デース!」

陸奥「出撃している娘達の帰る場所がなくなっちゃうから、仕方ないわね」

霧島「乱戦になると味方に当たる可能性もありますから」

七夜「……話は終わったか? このまま何もしないなら、次の瞬きの間にお前達を殺すよ。こっちは退屈なんだ」

飛龍「言ってくれるじゃないの!」

蒼龍「たった一人でどこまで粋がれるのかな?」

翔鶴「それでも、油断せずにいきましょう」

瑞鶴「第一次攻撃隊、順次発艦!」

伊勢「艦載機隊、発艦始め!」

日向「空中集合の後、戦列に加勢する。それまで頼んだぞ」

榛名「はい、お任せください!」

比叡「気合い! 入れて! いきます!」

いくら加賀を退けたとは言え、12対1。
彼女達に慢心が全くなかったかと言えば、それは嘘になるだろう。

加えて、彼女達が陸上で戦う事は滅多にない。その勝手の違いは勢いでどうにかなるものではなかった。
いつものように、相手に向けて主砲を放てば良いという訳ではないのだ。

故に、視界の先に居た筈の青年が、四つ足ついたと思いきや、突如消えてしまったという事実に、彼女達は浮き足立つ。
深海棲艦との戦いに日々を費やす彼女達にとって、七夜の技は俄には信じられないものだった。

七夜「沈めっ!」

前衛を努める戦艦の六人。艦娘の違いを知らない彼は適当に標的を決める。
偶々とは言え、それは運の値が一番低い少女。

陸奥「えっ……きゃぁっ!」

陸奥の目の前に出現した七夜は、彼女の胸ぐらを掴む。そして、勢いのままに身体を捻って背負い投げの要領で、地面に叩きつける。
艤装を身につけていた彼女は、背中にある砲塔から地面に落下したため、尋常ではない痛みが身体を駆け巡る。

長門「陸奥!」

比叡「陸奥さんから離れて!」

榛名「副砲、ってぇーーーっ!」

七夜「ーー言われなくても」

長門の叫びと比叡と榛名が副砲を構えるのは同時だった。
だが、遅い。副砲が火を吹くより早く、彼は陸奥の剥き出しの腹を両足で踏み抜く。そして、その反動で中空へ跳躍。
その眼下を火線が通りすぎていった。

霧島「空中では逃げられませんよ?」

金剛「飛んで火に入る袋の鼠デース!」

翔鶴「戦闘機隊、金剛さん達を援護して!」

瑞鶴「いっけぇっ!」

下から対空機銃の掃射。上からは戦闘機隊の機銃に晒される。

確かに逃げ場のない攻撃。空中に居る存在が普通の人間であるのならば。

霧島「っーー!?」

射線の先から七夜の姿が消える。

金剛「What!? どういう事デスカ!」

彼はただ着地しただけである。地面に吸い込まれるように、一瞬で。

七夜「斬刑に処す」

瑞鶴「まずっーー」

翔鶴「瑞鶴!」

閃くは銀の刃。
放つは無数の斬撃。
瑞鶴を突き飛ばした翔鶴に、それは炸裂する。

瑞鶴「翔鶴姉ぇっ!」

瑞鶴の悲鳴。一方、七夜は楽しそうに嗤う。
視線の先には飛行甲板を半壊させた翔鶴とそれを介抱するように寄り添う瑞鶴。

七夜「……へえ、本当に死なないんだな」

長門「どういう意味だ?」

七夜「俺ではアンタらを殺せないって事さ」

それは、赤城と最上から聞いた事。
彼女達の艤装は命の危機に関わる攻撃を自動的に防御する。

長門「物騒な奴だ。ーーぬんっ!」

七夜「まあ、そうムキになるなよ。どうせ俺の攻撃では死なないんだ。気楽にいこうぜ」

長門の拳を軽やかなバックステップで躱す。その勢いのまま、バック転。
艦載機の放つ爆撃すらも躱しつつ、巻き起こる爆風の勢い利用して、近場の建物の屋根に着地。
太陽を背に、艦娘達を見下ろしながら彼は語る。

七夜「しかし、アレだな。俺が言うのも烏滸がましいが、化物は化物らしく居てもらいたいものだ」

長門「なに……?」

七夜「元は軍艦。人ですらないそれが人の形をとり、人のフリをする。至極滑稽に見えるが……どうだ人外、陸の上は楽しいか?」

蒼龍「……これはさすがに」

飛龍「頭にくるわね」

七夜「俺からすれば、まだ見たこともない深海棲艦の方が好感が持てるな。人非ざるモノとしての矜持がないお前達はーーそれ以下だ」

伊勢「ーー主砲四基八門」

日向「一斉射っーー!」

長門が使用を禁止した戦艦の主砲。それが七夜の居る建物に直撃した。

七夜「ハッ、らしくなったじゃねえか。化物らしく人間の倫理観なんて捨てちまえ」

崩壊する建物。落下する瓦礫を足場に跳躍を繰り返す七夜は、急行下の体勢に入った艦載機を捉える。

蒼龍「五航戦の仇!」

飛龍「そこで朽ち果てろぉっ!」

七夜「それでは足りんな」

艦載機が爆弾を投下するよりも早く彼は他の瓦礫に跳躍する。

霧島「データ通りです!」

金剛「主砲、ファイアーッ!」

瞬間、その足場となる瓦礫が粉微塵に崩壊した。

七夜「……チッ」

比叡「榛名は左を!」

榛名「了解しました!」

舌打ちしつつ他に跳び移れそうな瓦礫を探すも、周囲の瓦礫は比叡と榛名の掃射により消し飛ぶ。

七夜「……これはしてやられたか」

見上げた先では編隊を組んで、一目散に七夜に突っ込んでくる艦載機。
絨毯の様に降り注ぐ爆弾は落下途中の七夜ごと周囲を一掃した。

12人動かすの難しすぎぃ……!

そして、ほのぼのから遥か遠い事になっている

七夜挑発→艦娘逆上→冷静さ欠如→七夜無双っていうシナリオを作った筈なんですがねえ。逆上して我を失う霧島が書けなかった……

イベントは、E3用の駆逐が足りなくて足止め中。ドイツ艦欲しいから頑張らなければ

そんな訳で、また次回

長門「やったか!?」

爆煙吹き荒れる建物があった場所。
艦爆による攻撃で炎上する瓦礫郡。そこを見守る艦娘達に、戦果を伝える偵察機からの報告が入る。

蒼龍「まだ……みたいね」

「……ハハ、ハハハハハーー」

揺らめく炎の中、哄笑が響き渡る。

霧島「あの攻撃を凌ぐなんて!」

飛龍「第二次攻撃隊の要を認む!」

攻撃した艦載機を次々と着艦させながら、空母部隊は長門の指示を仰ぐ。

長門「構わん。準備が出来次第、艦載機を順次発艦させてくれ。私達は時間稼ぎだ!」

「ーーああ、全く。俺とした事が。人の甘さに感化され、腑抜けた魂だと扱き下ろしたが、どうも誤りだったらしい」

比叡「何をグチグチと!」

「認めてやるよ。お前達は、解体す価値がある存在だと」

伊勢「その身体で何が出来るってのさ!」

「確かに腕と足の一本が使い物にならないが、性能には問題ない。まだ戦えるさ」

七夜「さあ、これで終わりだなんて言わないよな? 舞台は幕が上がったばかりなんだ。お互い、存分にーー盛り上がろうじゃないか」

爆撃に対して身体の一部を盾にしたか、片腕片足を覆う制服は爆撃に晒された影響から無惨にも破れている。
至近距離からの爆裂により、そこから覗く身体は火傷を負い、その上で爆弾の破片が幾つか突き刺さっていた。

見るからに痛々しい姿だが、彼は意に介さない。致命傷でないのなら、問題なぞ何もないのだ。
故に、彼の戦闘意欲は衰えておらず、寧ろその目を爛々と輝かせる。

「く、狂ってる……」

頭と半身から血を垂れ流しながらも、壮絶な笑みを浮かべる七夜に対して、誰かがポツリと漏らす。
血に濡れた顔と対照的に、蒼く染まった瞳に見据えられた艦娘達。

その大半の動きが止まった。

七夜「教えてやろう」

半身が無事なら、彼の使える足は二つ。
四つ足つくその体勢は、例え動く足が半分になっても、機動性を遺憾なく発揮する。

長門「っ、皆下がれ!」

長門の声に呪縛から解き放たれかのように彼女達が動き出す。
代わりに前に出た彼女を迎えるのは、残像を伴って襲い来る七夜。

肉薄は一瞬。避ける暇すら与えない。
彼の目には全てが遅く見えている。

七夜「これがーー」

七夜の動きに呼応して、残像も銀の刃を振るう。
彼女に叩き込まれるのは、実に大きい二振りの閃光。

余計な太刀は要らない。七夜の技法は一撃にして必殺。

七夜「ーーモノを殺すということだ」

言葉と同時、長門の艤装が崩壊した。

艤装を解体された艦娘は、ただの少女へと成り果てる。
ちゃんとしたプロセスを踏まない解体の影響か、長門の意識は刈り取られ、地面に倒れこむ。

榛名「長門さん!」

霧島「そんな……バカな事が……」

金剛「Shit! 二航戦、五航戦、至急艦載機を放つデース!」

言いながら、七夜に向けて駆ける金剛。

伊勢「一人では無茶だ!」

日向「……まさか!」

比叡「お姉様、いけません!」

金剛の考えに気づいたのか、比叡が悲鳴をあげる。

金剛「これは誰かがやらねばいけない事なのデス!」

七夜「……飽きないな」

加賀の時と言い、またも刺し違える覚悟で突っ込んでくる存在に彼は小さく呟く。

金剛「Hey。今度は私に付き合ってもらいますネ」

七夜「姉としての威厳か。誇りを抱えて死地に飛び込む勇気は称賛しよう。だが、人の身に慣れすぎたな」

金剛「意味が分かりませんネ。この姿になった以上、人としての生活を送るのは当然デス」

会話が長引けば長引くほど、空母の準備は整う。それを知ってか知らずか、暗殺者は金剛との会話を続ける。

七夜「余計な事を知りすぎたんだよ、お前達は。無知であれば、恐怖に身体が竦むなんて事はなかった。俺の行動に一々驚かなくて済んだ」

金剛「そんな機械みたいな生き方、願い下げネ」

七夜「ハッ、元来が鉄の塊のくせに物言いだけは立派な事だ。こんな奴等に日本の未来が掛かっているなんて、心底笑えるね」

金剛「…………」

七夜「ま、一度負けた戦争。挽回するチャンスが来ただけ幸運とも言えるが。しかも、次は柔くて不甲斐ない搭乗員に頼らず自身の力を存分に発揮できるときたもんだ」

金剛「……りなサイ」

七夜「乗組員同士のいがみ合いもない。油断もない。無能も居ない。どうだ、自由の味は。素晴らしいだろーーっと」

金剛「黙れぇっーー!」

金剛の叫びに呼応して放たれた主砲と副砲。それにより、言葉が遮られる。

七夜「まだ口上の途中だってのに、落ち着きのない」

金剛「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇっ!」

次々と放たれる砲弾。狙いすら無茶苦茶なそれを軽々と躱しつつ、彼は肩を竦める。

七夜「やれやれ。まるで駄々をこねる子供だ」

金剛「お前に何が分かるんデスカ! 私の為に、お国の為に死力を奮って戦う皆の何が! 私と一緒に沈んでいった人達の何が!」

金剛「お前にーー分かるんデスカァッ!」

闇雲な射撃が功を奏したか、砲弾と崩壊する建物の飛び散る瓦礫を避ける七夜を主砲が捉える。

渾身の一撃とも言える砲撃。想いを踏みにじる言葉を吐いた七夜に対して放たれたそれは、

七夜「無為」

一刀の元に斬り伏せられた。

綺麗に分かたれた砲弾は、その場で爆発せずに七夜の背後にて炸裂する。

蒼龍「お待たせ!」

飛龍「艦載機隊、爆撃開始!」

瑞鶴「翔鶴姉の分も私がやるんだから!」

弾を撃ちきり、肩で息をする金剛。
本来の目的などすっかり頭から抜け落ちているのだろう。ただ、憎々しげに七夜を睨み付ける。
一方、七夜は金剛の視線をどこ吹く風と気にした様子もなく、その手に持つナイフをポケットに仕舞う。
艦娘達がその行動を疑問に思った瞬間、

提督「あいやそこまで。艦載機隊は直ちに帰艦。武器を納めよ。これ以上の争乱は儂が許さぬ」

年老いつつも、有無を言わせぬ迫力で提督が介入した。





金剛「どういう事デスカ、テートク!」

霧島「さすがに納得しかねます」

比叡「遂に頭の中までボケ始めたんですか?」

提督「比叡が儂に対して辛辣な件について」

扶桑「私は出撃してたので、状況がよく分かってないのですが……」

霧島「話を逸らさないでください」

金剛「アイツをここに置くなんて正気デスカ!」

提督「……これは既に決めた事なんじゃ。あやつは戦力になる」

霧島「戦力って、ただの人間を海に連れていく気ですか!?」

提督「勿論、海域ではサポートが必須であろうが、最近出没する陸上タイプの新海棲艦。それに対抗するには打ってつけじゃろ」

扶桑「まあ。ただの人間なのに新海棲艦と渡り合えるのですか。それは、お会いしてみたいですね」

提督「今は療養中じゃがな。あやつ、怪我の治療を断りやがったから、赤城と最上に無理矢理連行させたわい」

比叡「……二人とも頭の中がお花畑すぎると思いますよ」

金剛「アイツが素直に言うことを聞くタマとは思えマセン」

提督「……さて、どうじゃろうな」

霧島「決定は覆らないと?」

提督「無論じゃ。鎮守府のトップがコロコロと方針を変えるようでは、部下に示しがつかんからの」

比叡「威厳とか元からなかったですけど」

提督「扶桑や、比叡が儂を苛めるんじゃ」

扶桑「あはは……」

金剛「私は……私は認めないデス!」

霧島「申し訳ありませんが、私も金剛お姉様を支持します」

比叡「私は言わずもがなです。榛名はどうする?」

榛名「榛名は……提督の指示に間違いはないと思っています。金剛お姉様の気持ちは分かりますが、私は提督に従います」

提督「……そうか。まあ、儂も当事者ではないしな。仕方あるまい。だが、いつか解決してくれると信じておるぞ」

金剛「…………」

霧島「……それでは、失礼しました」

比叡「榛名、いくよ」

榛名「あ、はい。それでは、提督と扶桑さん、お疲れ様でした」

扶桑「……良かったのですか?」

提督「良かったも何もこうする他あるまいで」

扶桑「損な生き方ですね」

提督「全くじゃ。今更、余計な気苦労を背負う羽目になるとは思わなんだ」

扶桑「でも、期待はしている、と」

提督「そうじゃな。あやつ、業物とは言え、ただのナイフで艤装を解体したからの」

扶桑「それは、なんというか……凄まじいお方ですね」

提督「お陰で、長門の練度は1に逆戻り。予備の艤装がなければと思うとゾッとするわい」

扶桑「……金剛さんの他に彼に対して良くない印象を持っている方は?」

提督「他に長門型、伊勢型、二航戦に五航戦があの場に居たが、本人に聞かんと分からんの」

扶桑「私なら逃げ出す面子ですけど……」

提督「赤城が言うには、あやつに戦闘意欲はなかったらしいが、一体どこで火がついたのやら」

扶桑「これからどうするんです?」

提督「なるようにしかならんわい。はてさて、あやつの影響が吉と出るか凶と出るか。扶桑よ、もし凶を引いても付き合ってくれるかの?」

扶桑「はい、どこまでもお付き合いします、提督」

過去編とリクエストを同時に消化していくスタイル
七夜がイキイキしてる場面は凄く筆が進みますね。ちょっと悪役にしすぎた気もしますが

E3で燃料が三桁になるまで吹っ飛んだせいで、暇になった提督が居るらしい。でも、初イベントなので楽しい限りです

それでは、また次回。渾作戦をネタに一本書きますかね

入渠施設。
原理はよく分からないが、艦娘の傷や疲れを癒すと言われる液体に浸かる加賀。
他のドックには、出撃で傷ついた艦娘と先の戦闘で怪我をした長門型の二人も収容されている。

蒼龍「正気ですか、加賀さん」

加賀「ええ。赤城さんと話し合って決めました」

飛龍「……どうして、あんな奴の肩を持つんですか?」

そんな加賀をお見舞いに来た二人。
ちょっとした怪我で、大事はないと答える加賀に安堵の息を漏らしたのも束の間、彼女の発言に目を剥く事になる。

加賀「そうね……。恩を仇で返すなんて、私自身が許せないから、かしら?」

飛龍「恩どころか、加賀さんは被害者じゃないですか!」

蒼龍「そうですよ。そんな理由じゃ、納得できません」

声を荒げる飛龍と、静かに怒りを滲ませる蒼龍。表現に違いはあるが、彼女達の根本にある考えは同じなのだろう。

長門「別に騒ぐなとは言わんが、もう少し周りに気を遣うべきだな、二航戦」

陸奥「貴女達、端から見たら怖いわよ? これじゃ、お見舞いに来た他の子達が萎縮しちゃうわ」

そんな二人を諫める助け船。
入渠が終わったのだろう。いつもの服装に身を包む長門型の二人が、加賀の居るドックに姿を見せる。

飛龍「な、長門さん!? 陸奥さんも!」

蒼龍「身体の具合は、もう宜しいんですか?」

長門「私は艤装の解体をされただけで、身体に異常はないからな。陸奥の回復を待っていただけだ」

陸奥「長門ったら、幾ら大丈夫だって言っても聞かないの。ちょっと過保護じゃないかしら?」

長門「ふん、当然だろう。私はお姉ちゃんだからな。手のかかる妹の面倒を見てやる必要がある」

陸奥「あらあら。それを貴女が言うのね」

長門「む。それはどういう意味だ」

陸奥「さあ? そこの三人に聞いてみれば?」

小さく笑いを溢す陸奥に困惑した表情を浮かべる長門。
先程までの険悪な雰囲気、この二人の登場で和らいだのは事実である。

蒼龍「長門さん達は、加賀さんの言葉をどう思います?」

長門「どう……とは?」

陸奥「私達も最初から聞いてた訳じゃないのよ。だから、もう一度説明してくれる?」

飛龍「アイツをこの鎮守府に置くって話です」

若干、棘の抜けた声音。
長門達の忠告もあり、声も少し抑え気味である。

長門「……いいんじゃないか、別に」

陸奥「仲間が増えるのは喜ばしい事じゃない」

加賀「これで、三対二ですね」

饒舌とは言えない加賀にとって、長門と陸奥という味方は有り難い。

蒼龍「お二方は彼に対して、含む物はないんですか?」

長門「うん? まあ確かに、目覚めた時は色々と言いたい事もあったが」

陸奥「私達があれこれ言うと、他の子が不安になるから」

長門「それに、元の練度になるまで演習の相手をしてくれるらしいからな。今からそれが待ち遠しくて仕方ない」

飛龍「長門さん、武人すぎるでしょ……」

陸奥「まあ、ここでただ批判するより、彼の事を理解しようと行動してみるのもいいんじゃない?」

蒼龍「陸奥さんがそこまで言うなら……」

加賀「観察してると意外な一面が見れるかもしれませんよ」

穏やかな笑みを浮かべながら言う加賀に、二航戦の興味が向いた。

飛龍「へぇ。例えばどんな?」

加賀「そうですね……。なら、一つだけ教えましょう。彼は生粋のーーフェミニストです」

加賀の言葉に二人が盛大に驚いたのは言うまでもない。





長門「で、恩の説明はしてくれないのか?」

加賀「やっぱり最初から聞いてたのね。趣味の悪い」

陸奥「まあまあ。どうせ、私達しか聞いてないんだから、話してみなさいよ」

二航戦が立ち去った後、とうの昔に修復を終えていた加賀も衣服を身につけてから施設を出る。
長門型の二人とは施設の外で別れるつもりだったが、彼女達は加賀に聞きたい事があったらしい。

概ね予想は出来ていた為に、溜め息吐きながらも自室に招いた結果、こうして彼女達の好奇の視線に晒されている。

赤城「私も気になります。加賀さんの事だから、彼を鎮守府に置きたいって言ったら反対すると思っていたので、どういった心境の変化があったのか」

言いつつ四人分のお茶を用意する赤城。
彼女と加賀は同室のため、加賀からの連絡を受けて、準備していたのだろう。

加賀「赤城さんまで……。そんな楽しいお話ではありませんよ?」

長門「いやいや、お茶請けにするつもりはない。話だけ聞けばすぐにお暇するさ」

加賀「……仕方ないですね」

もう一度深い溜め息を。呆れた表情浮かべながらも加賀は語りだす。

~回想~

足を掴む腕、躊躇なく踏み抜く。

加賀「くっ……」

たまらず緩む拘束。その機を逃す程、彼は愚鈍ではない。
艦載機は次々と爆撃を開始しているが、驚異的な身体能力を持つ七夜に当たりはしないだろう。

一方、加賀はそれを避ける事は叶わない。これだけの爆撃に晒されれば、間違いなく命を落とす。

加賀「すみません、赤城さん。……先に逝ってーー」

七夜「くだらんな」

それが分かっているが故に諦めと共に目を瞑る。
だが、その台詞は遮られた。次いで、身体が浮遊する感覚。

加賀「なにを……!」

目を開ければ、加賀は無造作に担がれていて。

七夜「喋るな。舌を噛む」

未だ六兎の追撃による衝撃が抜けきらない身体では、抵抗も儚い。
七夜は小さく暴れる加賀を無視し、担ぐ腕を覗いた三本の足を地に着ける。

まるで、水に映った月の如く、そこに元から存在しなかったかの様に、次の瞬間には七夜の姿が掻き消える。

加賀「何故、私を助けたのですか」

艤装を身に付けた加賀を肩に担ぎながら、よくこんな運動性能を発揮するものだ。
そんな驚き表情に出さず、背後の爆撃音を聞きながら、加賀は問う。

七夜「女子供は殺すなって言われ……いや、そういう主義でね。あそこで勝手に死なれても目覚めが悪い」

加賀「本当に何者なのですか……。後、そろそろ下ろしてください」

体勢が悪い。というか、顔が近い。
元より、艦娘になってから関わった異性など提督ただ一人。
しかも、命すら救われている。意識するなというのが無理な話である。

七夜「ん? なんだ、生娘みたいな反応だな」

加賀「……黙りなさい」

紅潮する顔。抗議の声は控えめに。

七夜「へえ……?」

彼の顔は直視出来ないが、声音で分かる。おそらく、底意地の悪い笑みを浮かべている事だろう。

加賀「きゃっ……!」

その悪い予感は現実となる。
地面に下ろされるのかと思ったら違った。変わる体勢に小さくも可愛らしい声が漏れた。

七夜「気分は如何かな、麗しいお嬢さん?」

俗に言うお姫様抱っこ。先程とは違い、相手の視線からの逃げ道がない。

加賀「や、やめ……」

顔の紅潮はもう隠しようがない。両手で顔を塞ぐ事でなんとか視線から逃れようとするが、耳まで真っ赤では意味もなさそうだ。
心臓は先程からうるさいくらいに早鐘を打っている。
頭の中も熱に浮かばされたかのように沸騰している。
彼女の身体に点る危険信号。

七夜「……やりすぎたか」

そうして、限界は訪れる。
このまま意識を繋ぎ続けると不味いと判断した艤装により、加賀の意識は強制的に閉ざされた。

加賀「私の語る恩はそう言う事です」

陸奥「あらあらまあまあ」

長門「……さすがに予想外すぎてなんとも言えん」

赤城「か、かかか加賀さんに……先を越されている……。わ、私の……一航戦の誇り……誇りが……」

加賀が語り終えた時の反応は三者三様。
かたや渋い顔、かたや楽しそうな顔、かたや絶望に暮れた顔。

加賀「赤城さんが言うには、行く宛もないとの事でしたので。彼をここに置くという提案に反対する理由がありません」

長門「なるほどな。まあ、一航戦がそう言うなら、空母組はおそらく問題ないだろう」

加賀「他に問題が? そう言えば、飛龍と蒼龍はどうしてあそこまで言うのかしら」

陸奥「交戦したからよ。私達を含む戦艦八人に二航戦と五航戦で」

長門「最も、私達も早々に気絶したから、詳しい事は分かってないのだが」

赤城「ただ、金剛型の皆さんーー特に金剛さんは彼を良く思っていないみたいで」

加賀「……そう。厄介な問題が残ってそうね」

長門「全くだ。これでいて当の本人は自分勝手だからな」

長門の溜め息は、彼女と陸奥の入渠するドックに、どこからともなく七夜が現れた事に対するもの。
彼は彼女達と幾つかの言葉のやり取りをすると、すぐにまたどこかに消えていった。
その後、息を切らした明石が長門達のドックに駆け込んで来ては、七夜の所在を問い質していたりする。

赤城「二航戦と五航戦の子達にはそれとなく私達が言っておきます」

加賀「赤城さん、蒼龍と飛龍は言わなくても大丈夫よ」

陸奥「そうね。あの子達なら自分で答えを見つけ出せると思うわ」

長門「戦艦組は……今はそっとしておくのが賢明か。少なくとも伊勢型の二人も気持ちの整理が済んでいまい」

赤城「……そちらは任せてしまっても?」

陸奥「問題ないわよ。あの子達の面倒を見るのも、私達の役目だもの」

加賀「二人の手腕に期待しています」

長門「出来る限りはやるさ。……さて、少し長居が過ぎたな。これから先がどうなるか分からんが、私達は変わらん」

陸奥「そうね。悪い子じゃないみたいだし、気楽にいきましょ」

加賀「貴女達が彼と話した内容も気になるけれど」

陸奥「それはまたの機会に、ね。大した事じゃないし」

長門「そういう事だ。ああ、赤城。お茶うまかったぞ。感謝する」

赤城「いえいえ。またいらしてくださいね」

立ち上がる二人を笑って見送る赤城。
加賀は二人の話を聞けなかった事に対して、少しだけ不満そうに眉を下げたが追求はしなかった。

加賀「では、片付けを」

赤城「加賀さん」

二人が部屋から出ていった後、湯飲みの回収を始める加賀を赤城が呼ぶ。

加賀「……どうしました?」

怪訝そうな加賀。そんな彼女を赤城は真剣な面持ちで見据える。

赤城「私、負けませんから」

それが何を指すのか。余程の鈍感でもない限り、理解は出来る。

加賀「ええ。私も負けません」

お互いに小さく笑う。
元より同じ一航戦として、良きライバルではあった。
これからは、競う項目が一つ増えるだけ。

たった、それだけの事である。

片付けに戻った二人は、いつも通り談笑を交えながら作業を進める。
窓から射す夕日。長い長い一日が終わろうとしていた。

これにて過去編後日談終了です

それと、艤装がもたらす効果は、身体能力の向上・命に関わる攻撃の自動防御・自身の砲撃の際に発生する衝撃の緩和。といった物くらいに抑えて起きます

なので、加賀は七夜の顔近いヤバい恥ずかしいって感じで気絶した事にしてください
異性への耐性なかったら、七夜のスキンシップと魅力でイチコロの筈!

どんな艦娘も、やだ……カッコいい……。ってなるでしょ(慢心)

それでは、長々と失礼しました。また次回にでも

・七夜と二航戦

提督「これより、海域攻略の祝杯をあげる。皆、自分の杯を持て!」

宴会の為に設計された大広間。
提督の号令と共に艦娘達は各々自分の頼んだ飲み物が入ったグラスを持つ。

提督「乾杯じゃ!」

「かんぱーい!」

それを見届けた提督がグラスを掲げる。それに応じて、大半の艦娘もグラスを掲げ、近くに居る子のそれに軽く接触させる。

提督「それでは、今回の主役を紹介するぞい」

音頭の勢いで酒を飲み干した後に、一呼吸置いて話を続ける。

提督「第一艦隊旗艦、扶桑!」

扶桑「ふふ、有り難うございます」

西村艦隊の面々と席を一緒にしていた扶桑に対して向けられる拍手。
扶桑は微笑み浮かべて、座ったまま礼を返した。

提督「続いて僚艦、山城!」

山城「姉さまにカッコ悪い所は見せられませんから」

居場所は扶桑の隣。当然と言わんばかりの表情で称賛を受けている。

提督「我らの索敵番長、利根と筑摩!」

利根「うむ。承ろうか」

筑摩「有り難うございます」

提督「今回も大暴れ、夕立に綾波!」

夕立「いえーい! 夕立ってば、今回も頑張ったっぽい!」

綾波「私は出来ることをしたまで……ですから」

提督が名前を挙げる度に宴会場は大きな歓声と拍手に包まれる。

提督「皆、よく頑張ってくれた。素晴らしい功績じゃったぞ」

提督自身も拍手を送った後、彼女達が静かになるのを見計らい、続けて喋り出す。

提督「そしてなんと、今回は新しく仲間になった者も居る。その身は人間じゃが、きっと儂らの助けになってくれる筈じゃ! その名も、七夜志貴!」

提督の大仰な紹介。鎮守府の主力とも呼べる艦隊と、互角に戦った青年の噂は既に艦娘達の間に広まっている。
偶々、彼の姿を見た者も居るが、大半が七夜の姿を知らない。
一体、どんな人間なのか、興味が惹かれた艦娘達は固唾を飲んで七夜の登場を心待ちにする。

提督「……ふむ?」

明石「提督! 七夜君の姿がどこにもありません!」

だが、幾ら待っても七夜は現れない。
その事に提督が首を傾げると同時、七夜の様子を見に行っていた明石が飛び込んできた。

出撃命令が出ていないために、静かな鎮守府の港。
そんな波風穏やかな海をなんともなしに眺める一人の青年が居た。

飛龍「で、いつまでそうしてるつもり?」

七夜「うん? こっそり監視してなくて良かったのか?」

彼が動きを止めてから十数分。痺れを切らした飛龍が、七夜に近付いて話し掛ける。

蒼龍「気づいてたの?」

七夜「気配を消せてないからな。素人でも気づく」

飛龍が飛び出した為に、仕方なく蒼龍も姿を現す。

飛龍「一々、嫌味な奴。……ほら、私も宴会に出たいんだから、戻るわよ」

七夜「ああいう騒がしいのは苦手でね。二人で戻ってくれ」

蒼龍「そういう訳にはいかないの。私達は貴方を監視しているんだから」

七夜「それは自分の意思でだろう? 俺としても、これ以上の厄介事は御免でね。何もする気はないから安心してくれ」

彼女達の視線を背中に受けながら、彼は肩を竦める。

飛龍「それで信用出来たら苦労しないって」

七夜「……それに、俺が居ると空気が悪くなる連中も居るだろうしな」

蒼龍「へえ、意外。そういうの気にするんだ」

七夜「分を弁えているだけだよ。これでも男だからな、可憐な少女の辛辣な視線は結構堪えるのさ」

飛龍「ふふ、何それ」

七夜「ま、そういう事だ。俺は参加しないから、二人は今からでも宴会に行ってくるといい」

どうあっても宴会には参加する気のない七夜。
話は既に平行線。だが、話し掛けた時に比べて、彼女達の険は抜けていた。
彼は二人が思う程、最低な人間ではないらしい。

蒼龍「ねえ、飛龍。私、良いこと考えたんだけど」

飛龍「え、なに? ……ふむふむ、なるほどねー」

となると、彼女達の心の内に湧いて来るのは七夜に対する興味。
彼の人となりを掴むには、もっと会話を交える必要があるだろうか。

そして、妙案思い浮かんだ蒼龍が、まるで悪戯っ子の様な笑み浮かべて、飛龍に耳打ちする。
それを聞いた飛龍も、蒼龍と似たような笑みを浮かべた。

七夜「……どうした?」

二人の様子の違いに気付いた七夜が、怪訝そうに漸く振り向く。

蒼龍「ねえ、七夜君って私達と違って気配を消せるんだよね?」

飛龍「ま、あんな物言いしておいて、出来ませんとは言わせないけど」

七夜「……俺の生業上、必要不可欠な技術だから確かに出来るが」

彼女達の表情に嫌な予感を覚える七夜。
一方、蒼龍と飛龍の思考は単純明快だった。
平行線を辿るだけの両者の意見は、考えてみれば、七夜のスキルという前提がある場合に於いて、共に実現可能な事。

飛龍「私達は君を監視しなければならないが、宴会には参加したい」

蒼龍「君は宴会に参加したくない」

飛龍「なら、酒や食事をここに運んで、私達だけで宴会したらいいじゃない」

彼女達の発言に、嫌な予感が的中してしまったと彼は盛大に溜め息を吐いたのであった。

この後、七夜と二航戦を探していた長門型二人と一航戦の二人を巻き込み、七人で盛り上がったのは、また別の話。

後日談終了と言ったな。あれは嘘だ
今回で終了です

空母攻略組と化した七夜。なお、五航戦の話は全く思い浮かんでない模様

皆さんの温かいコメントに救われてます。納得してくださって有り難うございます

E4突破しました。個人的にはE3のが辛かったです。エリツ怖いエリツ怖い
さーて、E1で飛龍を掘るぞー。そろそろ、南雲機動部隊を編成したいんじゃー

それでは、また次回

・七夜と川内

身体を撫でるそよ風。
幾ら昼とは言え、海から流れてくる潮風は少しばかり肌寒い。
一度、軽く身震いした少女は、ゆっくりとその意識を浮上させる。

川内「んっ……」

どうやら眠っていたらしい。
何故眠っていたのか、前後の記憶が若干怪しいが、すぐに思い出せるだろう。

頭の中で素早くそう切り替えた彼女は、目を開けた瞬間に仰天する。

七夜「よう。お目覚めかな、眠り姫」

川内「ふぇっ!?」

驚きのあまり変な声が漏れた。
視界一杯に広がるのは、小馬鹿にしたような笑み浮かべる暗殺者の顔。
距離が近すぎて、言葉を失ってしまう。

神通「……安心しました」

那珂「いやー、今回ばかりはさすがの那珂ちゃんも焦っちゃったよ」

そんな彼女を現実に引き戻す、二人の妹の声。
安堵の息を漏らしながら、彼女達は川内を見守っていた。

そして、遅れ馳せながら気づく。自分が今、どういう状態なのかを。

身体に伝わる無骨な木の感触。決して、寝心地の良いとは言えないそれは間違いなく鎮守府の適宜な場所に設置されている休憩用のベンチ。
自分はそこに横たわっている。そこまでは問題ない。
だが、後頭部に伝わる感覚は明らかに人の温もり。
極めつけは近すぎる青年との距離。
視界には彼の上半身しか映ってはいない。

それはつまり、彼の下半身。詳しく言えば、その膝を彼女が独占していると言う事に他ならず。

七夜「……まるで信号機だな」

彼女の顔色がころころと変わる様子に七夜が小さく笑う。
だが、真っ赤になった彼女にその軽口に応える余裕はない。

川内「うわわわわ、え、えっと……えっと……」

如何せん心臓に悪すぎた。
目覚めたら、すぐ傍に自分の憧れている人物が居るのだ。慌てるなという方が無理な話である。

川内「そ、そうだ! ーーっぁ!」

それは意味を持たない言葉。
なんとか場繋ぎの為だけに吐かれた言葉と共に彼女は身体を起こそうとし、走る激痛に表情を歪めた。

神通「姉さん!? 大丈夫ですか!」

川内「あー、そっか、私……」

起き上がれなかった結果、頭は再び七夜の膝の上に。
神通に心配要らないとばかりに、片手をひらひらと振りながら思い出す。
何故、自分が眠ってーー否、気絶していたのかを。

川内「私、落ちたんだっけ」

艦娘は艤装を身に付けている限り、海中に沈む事はない。
逆に言えば、高度から落下した場合、艤装を身に付けていると海面に叩きつけられる事になる。

閃走・六兎の追撃である空中に弧を描くサマーソルト。海上にて七夜の技を再現した彼女は、その直後にバランスを崩し、そのまま海面に激突。
沈まない筈の身体が確かに一瞬だけ海中に落ちた所で、彼女の記憶は途切れている。

那珂「ほんっとうにびっくりしたんだからね!」

川内「あはは……面目ない」

神通「二人でドックまで連れて行こうとしたら、そこに七夜さんが通りかかって」

那珂「見たところ大きな外傷もないし、暫く安静にしてたら大丈夫だろうって」

川内「それで、なんで膝枕……?」

那珂の言い分なら、七夜は彼女を診た後に、そのままどこかに行こうとしている気がする。
膝枕など、彼が自ずからするとも思えない。
故に彼女の疑問はそのまま二人の妹に向けられる。

七夜「七夜の技法をほぼ完璧に再現した褒美だとさ」

その答えは上から。

神通「姉さん、ずっと一人で頑張ってましたから」

那珂「これくらいの役得はあってもいいんじゃないかなって」

七夜「だ、そうだ。ま、男の膝枕が良いものとは思わんが」

川内「そんな事! ……ない……よ?」

肩を竦める彼に勢いよく否定するも、自身が凄く恥ずかしい事を口走っていると理解したのか、言葉は尻すぼみになっていく。

七夜「……そうか」

川内「……うん」

七夜「ま、別にさしたる予定もない。快復するまで付き合ってやるさ」

川内「ホント?」

七夜「ああ」

川内「えへへ、やった」

はにかむ川内。それを見下ろす七夜もまた小さな笑みを浮かべる。

七夜「その代わり、体調が万全な時にでも、修行の成果を見せてくれよな」

川内「分かった。楽しみにしててよね!」

神通「……姉さんの艤装だけドックに持っていこうか、那珂ちゃん」

那珂「そうだね。お邪魔虫は退散退散っと」

既に取り外していた川内の艤装。それを抱えた神通と那珂は、その場からそっと離れる。

那珂「…………」

先を歩く神通に続いていた那珂だったが、ふと足を止める。
振り返ると二人が座るベンチがまだ見える距離だった。
丁度、七夜にからかわれでもしたのだろう。川内が笑いながら軽く彼の胸を小突いている。

神通「那珂ちゃん?」

那珂「あ、ごめん。すぐに行くよー」

那珂が足を止めた事に気付いた神通が、彼女に呼び掛ける。
その呼び掛けに一瞬肩を揺らした那珂だったが、神通に振り返った時には既に笑顔を浮かべていた。

神通「どうかしたの?」

那珂「なんでもないよー。強いて言うなら、お姉ちゃんが幸せそうで、私も嬉しい! って事かなー」

神通「……そうね」

いつも通りに振る舞う那珂に、神通もそれ以上は何も聞かない。

那珂「那珂ちゃんは、皆のアイドルなんだから、笑顔でないと……いけないのに……」

歩き出した神通に続きながら、那珂は小さく呟いた。

川内がまだ艦娘やってた頃のお話
既に半ば卒業してる気もします

甘甘にならなくても、せめて甘口になればと書いたけど、これ微糖じゃね?
期待に添えられなかったらすみません。七夜がされる側でいつかリベンジします

白レン枠は決めてないです。登用するかも未定です。白レンを本編に出す可能性もあるので

大鯨と飛龍が欲しいなら、E1より5-2を回した方が良い気がした今日この頃

それでは、また次回。多分、那珂編になるかなー?

・解体のアイドル

夢を見ていた。
それはとりとめのない夢。

アイドルである彼女は、その歌声で他の艦娘に勇気を与える。

アイドルである彼女は、その元気さで人々に幸せを振り撒く。

アイドルである彼女は、その笑顔で見ず知らずの他人を救う。

だが、アイドルである彼女に、手を差し出す者は居なかった。

夢を見ていた。
ふわふわとした感覚。まるで現実味を感じないために、彼女はそれを夢だと断定する。

夢の世界はとても暗かった。
せっかくの夢だと言うのに、こんな時にまで現実を反映しなくていいのに、と。彼女はこの世界を詰まらなく思う。

夢だというのに彼女が幾ら願っても、その世界は変化しない。

こんな無機質な建物に囲まれていると気が滅入ってしまう。
どうせなら、きらびやかなスポットライトを精一杯浴びたいのに。

その願いが届いたのか、彼女に光が当てられる。
彼女の願いとは少し違うが、探照灯もライトには違いない。

眩い光が暗さに慣れた目を焼いた。
夢だというのに、変なところはリアリティがあるものだ。
感心しながらも、視線を細めてそちらを振り向く。

そこには探照灯を照射した状態で、呆然とこちらを見る少女が居た。
だが、すぐに気を取り直したか、彼女は気さくに話し掛けてくる。

彼女は誰だったか。
思い出せない。
一つだけ分かるのは、彼女が自分とどこか似ているという事だけ。

薄い反応を怪訝に感じたか。
彼女が更に近づいてくる。

鬱陶しい。

ああ、一つ思い出した。
私は彼女の事を鬱陶しく思っていたのだと。

夢を見ていた。
そう、これはただの夢。
夢の中くらい、好き勝手に振る舞っても許される。

夢を見ていた。
それは、夢。
とりとめのない夢。
けれど、手に持った苦無は、ずっしりとしていて重かった。

那珂「え、お姉ちゃんが!?」

鎮守府の執務室。那珂の叫び声が響き渡った。

提督「夜間哨戒中に通り魔に襲われたらしい」

七夜「……なるほど。道理で、俺に対する他の奴等の視線がキツい訳だ」

神通「姉さんの容態は?」

扶桑「今は落ち着いてます」

那珂「話は!? 話はできるの!?」

神通「那珂ちゃん、落ち着いて!」

扶桑に掴みかかる勢いの那珂を神通が後ろから抱き止める。

扶桑「まだ眠っているので、今は遠慮してください」

七夜「ドックに居るんじゃないのか?」

提督「あそこはあくまでも、軽傷を治せるだけじゃ。川内の身はこちらで預かっておる」

七夜「へえ、そんな場所もあったのか」

提督「……言っておくが、緊急時以外は立ち入り禁止じゃからな」

七夜「分かった分かった。案ずるなよ、クソジジイ」

那珂「そんな事より、犯人に心当たりは!」

談笑している場合ではないと言うのに、七夜と提督は話を進めない。
那珂は苛立ち紛れに言葉を吐いた。

提督「ない」

扶桑「ですが、艤装を身に付けた川内さんを、あそこまで追い詰めた技量。尋常ではありません」

七夜「で、俺が疑われる、と。参ったね、どうも」

提督「お主の仕業ではないんだな?」

七夜「さあな。提示出来る証拠がない以上、俺も容疑者の内の一人さ。盲信はやめた方が良い」

那珂「ーーふざけるなぁっ!」

神通「あ! 那珂ちゃん!」

神通の拘束から無理矢理抜け出した那珂が、七夜に近づいて胸ぐらを掴む。
ほんの一瞬、七夜の目付きが変わったが、那珂はそれに気付かずに七夜を壁に押し付ける。

那珂「お姉ちゃんは……お姉ちゃんは、アンタを信じてたんだよ!」

七夜「おいおい、いきなり犯人扱いか」

那珂「アンタ以外に、お姉ちゃんに重傷を負わせる事が出来る奴なんて、居る訳ないじゃない!」

神通「那珂ちゃん! 落ち着いて!」

那珂「神通お姉ちゃんはなんでそんなに冷静なの! 犯人なんて考えればすぐに分かる事でしょ!」

神通「いいから! すみません、扶桑さん。那珂ちゃんを拘束するのを手伝ってください!」

扶桑「……提督」

提督「あれは神通一人では手に負えまい。行ってくるがいい」

扶桑「では、行って参りますね」

扶桑と神通により、七夜から引き剥がされた那珂は、そのまま執務室から連れ出されていく。

七夜「……あれは血の匂いか」

提督「ん? なんか言ったかの?」

七夜「いや、なんでもない。……じゃ、俺も行くとしようか」

提督「あまり怪しい動きはするでないぞ?」

七夜「悪いね。その約束は守れない」

軽く笑う七夜と対照的にまさか断られると思ってなかったために大口を開ける提督。
そんな提督が我に返る前に、七夜は執務室から出ていった。





七夜「人の噂というのはすぐに広まるな」

加賀「それだけ大きな事件という事です」

赤城「痛ましい内容ですが、こうして広まる事で、皆が危機感を持つ事にもなりますから」

七夜「明らかに俺を警戒しとけば良い的な雰囲気を感じるが」

蒼龍「それでも、食事は私達と取るんだね」

飛龍「寧ろ、私達が居るから、じゃないかな?」

とある艦娘が経営する食堂。
あの後、執務室を出た七夜はその足で空母寮に。
たまたま部屋に居た一航戦と二航戦を誘ってから朝食に来ていた。

蒼龍「どういう意味?」

飛龍「七夜君が一人で居ると、他の子は七夜君に対して気を張っちゃうからねー」

加賀「中には七夜さんを犯人と思っている子も居る筈。蒼龍はそんな人と一緒の空間で食事を取れる?」

蒼龍「あ、なるほど!」

赤城「他の子達からして見れば、私達四人は七夜さんの監視。気を引き締めていきましょう」

七夜「別に四人も要らんのだが」

赤城が上手く纏めた所で、七夜がぶち壊す。

七夜「それに昼食の時間まで部屋に戻るつもりだしな。俺の部屋に四人は些か窮屈過ぎる」

飛龍「え、部屋に入ってもいいの?」

七夜「正直、ここで解散しても構わないが」

赤城「いえ、また空母寮まで呼びに来て貰うのも気が引けるので。それで、何人までならい部屋に入れますか?」

七夜「そうだな。……二人といったところか」

七夜が呟いた瞬間、四人の空気が変わった。

加賀「……二航戦には遠慮してもらいたいものね」

蒼龍「いやいや。七夜君が寮に来たのを先に見つけたのは私達ですよ?」

飛龍「そうですよ。この権利は私達に譲られるべきです」

赤城「あら、言う様になったわね。最初はあんなに毛嫌いしてたのに」

飛龍「昔は昔です!」

蒼龍「今では私達の方が仲良しなんですから!」

加賀「……頭にきました」

赤城「ふふ、それは慢心が過ぎるというものよ」

七夜「いいから早く決めてくれよ」

先程とは違う意味で注目を集め始める七夜達。
事の発端となる言葉を言った彼は、呆れたように言うものの、七夜そっちのけで白熱する四人のやり取りを、ただ眺めていた。

案外長くなりそうな気配のする那珂編です
夢ネタも捩じ込んでいくスタイル

それと突然ですが、七夜のお部屋訪問を一航戦と二航戦、どちらで見たいかの意見を宜しくお願いしたいのです
内容に違いはありませんので、気楽にお願いします
先に三票入った方が勝ちという事でいきましょうかね


ぱ、パンダ師匠の中身は明記されてないから(震え声)

それでは、また次回

たまには二航戦の事も思い出してあげてください

あと、第七駆逐隊は斜め上すぎるわ!
いつか出します。菊月の出番少なすぎてタイトルとは……。となりつつあるので、そこらへんと一緒に

艦娘の七夜の呼び方は結構適当です。違和感あれば仰ってください

では、一航戦で締め切りますー





じゃんけんの結果、七夜の部屋への入場券を手に入れたのは一航戦の二人だった。

彼の部屋は提督の私室からそう離れていない位置にある。元々は倉庫という役割を持っていたその部屋は、窓がない上に狭い。
一人で過ごすには問題はないが、客を招くにはこの空間は少々息苦しい。

赤城「お邪魔します」

加賀「ちょっと……いえ、かなり物寂しい部屋ね」

七夜「寝る時にしか使わんからな」

部屋に入った二人はその有り様に息を漏らす。
入り口の近く、右手の角の一つにベッドがある。そして、それの対角線上に棚が一つ。おそらく、服の替えでも入っているのだろう。
部屋にあるのは、たったそれだけだった。

赤城「七夜さんらしいとは思いますけど、これでは不便じゃないですか?」

七夜「寧ろ、寝床があるだけ有り難い。最悪、屋根裏や床下で寝るつもりではあったからな」

加賀「選択肢が極端すぎます」

七夜「なに、こちとら居候の身。場所がないなら選り好みはしないさ」

赤城「では、こうしましょう。もし、ここがやむを得ない事情で使えなくなった場合、私達の寮の空き部屋を提供します」

七夜「待て待て」

加賀「選り好みはしないのでしょう?」

七夜「それとこれとは話が別だ」

赤城「大丈夫ですよ。あくまでも、“もし”の話ですから」

加賀「ええ。そう簡単に起きないからこそ、もし起きた時の為に備えているだけです」

赤城「それに、この鎮守府の空気の中、屋根裏や床下に潜まれると余計怪しまれますよ」

七夜「……そう、か?」

何か丸め込まれている様な気もするが、如何せん七夜の常識も、常人のそれとは少しズレている。
どこかがおかしいと感じるも、違和感のある箇所が特定できない。

加賀「これは保険。そう、立場が危うい貴方の部屋が、荒らされる可能性を考慮した保険」

赤城「ですです。なので、今はとりあえず頷いておきましょう」

七夜「あ、ああ……わかった」

二人の迫力に押されたか。
根負けした彼はたじろぎながらも頷いたのであった。

夢を見ていた。
ひたひたと軽い足音響かせながら、視界がフラフラと動く。

相変わらず、現実味が全くない。
夢だから当然なのかもしれないが。

周囲の景色は昨日と全く変わらない。
同じ夢をーーその続きを見るなんて、全くもって面白くない。

自分が好きな歌でも歌おうかと思ったが、夢の中を歩く身体は彼女の言うことを聞かなかった。

宛もなく、足下も覚束なく、ただ歩く。
夢の中でくらい自由に動き回りたいものだが、変な所で現実を反映しているなと彼女は他人事の様に考える。

しかし、今回の夢は楽しくない。
いつまでも代わり映えのしない景色に彼女は辟易する。
せっかくの夢というのに、今回はハズレを引いたらしい。

前回の夢との落差が酷い。
昨日の夢は、彼女の手に掛かって赤い血溜まりに沈んでいく少女がとても憐れで滑稽で、その苦悶の表情に心の底から高揚した。
苦無を振る度に、胸の中が晴れ渡るように澄んでいくのを感じていた。

けれど、一日経てば、また胸中は靄だらけ。
理由はよく分からない。
思い出そうとしても、夢の中では頭は正常に動いてくれない。

考える事が出来ないために仕方なく。いつか答えに辿り着けるだろうと、彼女は夢の中をさ迷い歩く。

「…………さん?」

夢の中で初めて誰かの声を聞いた。
そちらを向くと、そこに居たのは赤い少女と青い少女。

「こん……かん……へ?」

青い少女が言う。
夢の世界の言葉はどうしてこうも聞き取りにくいのか。
煩わしい。

「……さん?」

とても煩わしい。
二人の発する声は、耳障りな雑音にしか聞こえない。

苛々する。
なぜか、この二人を見ていると凄く苛立つ。

「だい…………すか?」

この苛立ちは昨日感じたものに酷似している。
ならば、この二人を解体したら、あの爽快感を得る事が出来るのだろうか。

それは丁度良い。

元より、その口を塞ぎたいと思っていたところだ。

夢を見ていた。
それはとりとめのない夢。
血塗れの少女が謳う殺戮の舞台。
彼女の意思で身体が動いているという事実に、少女はまだ気づかない。

長門「話がある。付き合え」

開口一番。
朝食をとるために食堂に向かっている途中で彼は長門に捕まった。

七夜「で、話とは?」

場所はまたも七夜の自室。
長門の部屋は戦艦寮にあるのだが、その寮には金剛達も住んでいる。
彼を長門の部屋に連れ込むとなると、彼女達が良い顔をする筈もない。

長門「赤城と加賀が通り魔に襲われた」

七夜「……それで?」

長門の言葉に七夜の片眉が跳ねる。だが、表情自体に変化はない。

長門「何か心当たりは?」

七夜「ないな」

長門「昨日、ここに連れ込んだと聞いたが?」

七夜「ハッ、解体すならここで解体してるさ。ここは人目もつかんしな」

長門「……確かにそうだ。なら、これはどうした事なんだ」

軍事施設に何らかの方法で侵入した殺人鬼が居る。
他に思い当たる理由はこれくらいしかない。
しかし、艤装を身に付けた川内や一航戦が、たかだか人間の殺人鬼に遅れを取るとも思えない。
彼女の目の前に居るようなイレギュラーが他に居るなら別だが。

思考だけが先走り、堂々巡りに陥った長門は頭を抱える。

七夜「さあな。ところで、赤城と加賀は?」

長門「重傷だが、命に別状はない」

七夜「……そうか。なら、川内と同じく目覚めたら聞けば良いんじゃないか?」

長門「その間に、被害者が増えるかも知れないんだぞ? これまでは運良く助かってるが、今度こそ命を落とす奴が出るかもしれない」

鎮守府の艦娘達を統括する立場として、この状況は芳しくない。

七夜「なあ、長門」

だが、焦る長門に対して七夜は冷静なまま、彼女の話を遮る。

長門「……なんだ?」

彼の落ち着いた雰囲気に呑まれたか、長門も少しだけ落ち着きを取り戻した。

七夜「今日の夜間哨戒の担当は誰だ?」

長門「私と陸奥だが?」

質問の意図を汲めない長門が首を傾げる。
一方、それは丁度良いと笑う七夜。

七夜「今日一日、俺の傍に居てくれよな」

赤城と加賀は彼に会ったその日に怪我をした。
ただでさえ、川内の事もある。鎮守府での七夜の立場は相当に危うい状態。
だが、彼は自重しない。

七夜「さて、行こうか。まずは飯だ。そのあと、陸奥と合流する」

長門「あ、ああ……」

いつもと変わらない七夜。
元より、人の目を気にする質じゃない。
彼は長門を伴い、部屋を出ていった。

夢を見ていた。
さすがに三度目となると、身体も順応したらしく、昨日までは聞こえなかった潮風や波が揺らぐ音を耳が捉える。

この夢にも慣れたものだ。
少女は一人ごちる。

最初は現実味のなかった夢。
今もそれは変わらない。
彼女の身体は覚束ない足取りで進んでいく。

「止まれ」

凛々しい声を聞いた。
言われた通り、立ち止まる。
いつのまにか伏せていた顔。上げると視線の先に仁王立ちの少女が居た。

「こんな時間に何をしている。通り魔事件が解決するまで、夜間の外出は禁止しているだろう?」

彼女の話はよく分からない。
これは夢。たかが、夢ではないか。

「……うるさいな」

小さな声が漏れた。
声を出せた事に対する驚きよりも、目の前の彼女に対する苛立ちの方が強い。

「……まあ、いい。部屋まで送って行こう」

夢の中ですら、邪魔をするのか。
それはとても、癪に障る。
これが夢の出来事ならば、正義は夢を見ているこちらにある。
ならば、夢のくせに自分の言うことを聞かない彼女は障害にすぎない。

理解してしまえば、簡単な事。
消えろと願って消えないのなら、この手で直々に葬れば良い。

夢を見ていた。
それはいつもと変わらない情景。
無防備に近づいてきた少女に躊躇いもなく振るわれる苦無。

夢を見ていた。
それは、夢。
確かに夢。
紛れもない夢。

「あ……ああ……」

これは決して現実ではない。
現実であってはならない。

認めてはいけない。
認められない。
認めるのは許されない。

けれど、ならば、なぜ振るった苦無は弾かれたのか。
なぜ、夢の世界で上手くいかないのか。
なぜ、斬りつけられた手に明確な痛みがあるのか。

「別に防がなくても良かったのだが」

「……これは俺の領分だよ。長門は哨戒に戻ってくれ」

なぜ、彼の姿がここにあるのか。
震える唇。
身体が急に現実味を帯びる。

「ああ……ああああっ!」

認めない。
認めない。
認めない。

「これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢」

幾ら言い聞かせても、夢は醒めない。

「……ああ、そうか。今日はまだ誰も殺してないから……夢が終わらないんだ」

気づく。
夢はいつも奇妙なまでの爽快感と共に終わっていたと。
ならば、目の前の彼を解体せばきっとこの悪い夢も終わる筈。

「キャハッ。じゃ、殺し合おっか、七夜君☆」

彼女は嗤う。
舞台の上で見せる笑みとは違う心の底からの邪悪な笑み。
だが、七夜が今まで見てきた中で、一番綺麗な笑顔だった。

那珂編はまだ続くんじゃ
ちなみに、二日目夜の一航戦達は七夜の部屋をやむを得ない状況にする途中でした
那珂ちゃんが七夜の寝床を守った!

MUGENにもカッコいい七夜居るから(指摘)
作る人によって性能が滅茶苦茶変わる印象があります

飛龍が出てきて、漸く南雲機動部隊が揃いました。大鯨?僕の艦これにはまだ未実装見たいですね……

それでは、また次回

七夜「……さすがに面倒だな」

那珂の振るう苦無を避け続けながら、七夜は呟く。
確かに一本弾きはしたが、彼女の持っていた苦無はそれだけではなかった。

那珂「那珂ちゃん、一人舞台でつまらないよー!」

七夜「そう言われてもな」

那珂の太ももに装備されている魚雷発射管。その八門全てに苦無が装填されていた。
故に那珂が使える苦無は残り七本。その内の二本が七夜を無作為な軌道で襲っている。

那珂「むー! 私の夢のくせに思い通りにいかないなんて!」

七夜「まあ、そう焦るなよ。夜は長いんだ。最後までちゃんと付き合ってやるさ」

那珂の攻撃は出鱈目。故に武芸に携わる者がその一閃を避ける事は出来ない。
しかし、七夜には全て見極められ、紙一重で回避されている。

焦れた那珂が膨れっ面で放ったのは大振りの一撃。
彼はそれを見逃さない。

閃く刃。
那珂の苦無を弾くと同時に懐に。

七夜「ーー蹴り砕く」

那珂「きゃあっ!」

一文字描く横合いの蹴り。
まともな防御も出来なかった那珂は大きく吹き飛んでいく。

那珂「さっすが……夢でも強いや……」

なんとか体勢だけは崩さなかったものの、身体には鈍い痛みが残っていた。
少しばかり乱れた息で、那珂は感心する。

七夜「いい加減、認めたらどうだ」

那珂「なにを……かな?」

七夜「これが紛れもない現実だと言う事を」

七夜の言葉に那珂の時間が一瞬だけ止まった。

那珂「は、はは。面白い事を言うね」

七夜「自分の姉と一航戦を手に掛けたのはお前だ」

那珂「……違うもん」

七夜「違わない」

那珂「違うもん。違うんだから。絶対に違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」

七夜「……やれやれ」

那珂「そう、これは悪い夢。七夜君さえ倒せば終わる夢。こんな胸糞の悪い夢なんて消えちゃえっ!」

放り投げる苦無は二つ。時間差を置いて真っ直ぐに投擲される。

七夜「お前の身体からは強い血の匂いがする」

那珂「だからなんだって言うのさ!」

渾身の捻りを加えて投げられた苦無。那珂はその勢い利用して、自身も跳躍する。
苦無は容易く叩き落とされが、問題はない。意識がそちらに向けられただけで、充分だ。

少女は一瞬にして七夜の頭上に現れると、彼の首に手を伸ばしーー逆に頭を掴まれた。

那珂「なっ……!」

彼の眼ははっきりと那珂を見据えていた。
元来が七夜の技。それを真似たところで、本物には届きはしない。
それを痛感するも既に手遅れだった。

七夜「調子に乗るなよ、小娘」

初めて感じる七夜の殺気。
それに恐怖を覚える暇もない。
気づいた時には、彼女は頭から地面に叩きつけられていた。

那珂「がぁっ……!」

悲鳴をあげる。
思い切り叩きつけられたせいで、頭が割れそうだ。

七夜「その痛みすら夢と言い張るのか、お前は」

痛みで動けない彼女。絶好の追撃のチャンスではあるが、手を出すことなく見下ろすだけの青年。
どうやら、トドメを刺す気はないらしい。

那珂「…………だって」

顔を伏せる。
認めてしまえば、終わってしまう。
夜な夜な徘徊して、仲間をその手にかける存在が許される訳がない。
それに、理由がもう一つ。

七夜「なんだ、俺を犯人呼ばわりした事を気にしているのか?」

那珂「うぐっ……」

ズバリ言い当てられて、ぐうの音も出ない。

七夜「確かに自分が犯人でしたというオチは陳腐だが、夢という言い訳よりは何倍もマシだ」

那珂「怒って……ないの……?」

おそるおそる顔を上げる。見上げた先で青年は苦笑を浮かべながら肩を竦める。

七夜「慣れてるからな。それに良いストレス発散にもなった」

那珂「なにそれ。私は必死だったのに」

七夜「ああ、確かに良い気迫だった。川内よりも動きにキレがあった。それに……」

差し出された手。それを掴みながら、聞き返す。

那珂「それに?」

七夜「楽しそうだったな、凄く」

那珂「へ…………?」

引っ張りあげられ、立ち上がった瞬間に今度こそ彼女の時間が止まった。

七夜「お前、心底楽しいって表情で俺に打ち込んできてたぞ」

那珂「そ、そんなこと……」

七夜「あるだろ。あんなに生き生きしている那珂を見たのは初めてだ」

那珂「う、うるさいよ!」

顔が紅潮していくのが分かる。
確かに先程までの時間はとても楽しかった。

七夜「ああ、珍しい物を見たついでに言うが、いつもの飾ってる笑顔より、さっき見せてくれた笑顔の方が、俺は好きだったぞ」

那珂「……は? え、や、ちょ、何を!」

七夜「……慌てすぎだろ。あんな顔で笑う那珂が新鮮だったからな。少々、見とれてしまったよ」

だから、不意を打たれて攻撃をひたすら避けるしかなくなったんだが、と。
続けた言葉は耳まで真っ赤にした那珂には届いていない。

那珂「見とれ……七夜君が、私に……ふへぇ」

七夜「だからこそ、勿体ない。本心から笑うお前は、あんなに魅力的なのに、それをいつも押し殺している」

那珂「それは……那珂ちゃんは、皆のアイドルだから。私はいつだって笑ってなきゃいけないの」

七夜「くだらんな。結果的に鬱憤溜め込んで、今回の事件を起こしているんだ。そんなやつに務まるとは思えん」

的確な七夜の言葉が胸に突き刺さる。
頬にあった熱はいつのまにか引いていた。

那珂「それでも……それでも、私の歌で誰かを勇気付けられるのなら、私は続けていたいの!」

アイドルをしていたからこそ起きた出来事。
決して許される事のない惨事。
だが、彼女はそれでも大好きな歌を捨てきれない。

七夜「……全く、困ったお嬢さんだ。一つ約束しろ。俺の前では自分を飾るな。俺はアイドルのお前に興味はない」

その覚悟に青年は諦めたように溜め息を吐いた。

那珂「……それじゃあ!」

七夜「好きにしたら良い。俺の前だけでも、自分を偽る事をしなければまだマシだろう。……万が一、お前が再び暴走したら、また俺が止めてやる」

那珂「ありがとう、七夜君!」

弾けるような笑顔。
彼の言葉は心底嬉しい物だった。

七夜「ま、前途多難だろうがな」

陸奥「そろそろ良いかしら?」

いつの間にそこに居たのか。長門型の二人が、青年と少女を見守るように立っていた。

那珂「……っ!」

七夜「ああ、話は終わったさ」

二人の登場に肩を強張らせる那珂と、二人の存在に元々気づいていた為に動じない七夜。

陸奥「それは何より。じゃあ、那珂ちゃん。お姉さんと一緒に行きましょうか」

那珂「ま、待って!」

陸奥に促される那珂だが、それを遮り七夜の前に。

七夜「うん? まだ何かあるのか?」

見上げる那珂を不思議そうに見返す七夜。
彼女はそんな彼の服の裾を掴み、軽く引き寄せる。

那珂「七夜君、私を止めてくれて有り難う。私を認めてくれて有り難う」

これはアイドルとしてではなく、個人としてのお礼。
飾った自分ではなく、本当の自分が見たいと言ってくれた青年に対する誓い。
その約束は決して破らないと、彼の唇ーーではなく頬に刻む。

那珂「それじゃ、またね、七夜君。次に会った時には、もう遠慮なんてしないから!」

手を振って華麗にターン。
十全の笑みを浮かべた少女は陸奥に連れられて、夜の闇へと消え去った。

七夜「アイツはどうなるんだ?」

二人が消えてから、彼に近づいてきた長門に問いかける。

長門「誰かさんの尽力があるから、始末書の提出だけだろうな」

七夜「……そうか」

その処遇は確実に甘い。
だが、それでいい。
今回の事件は、決して表沙汰になる事はないのだから。

長門「しかし、珍しく協力的だったな。何か変な物でも食べたか?」

七夜「長門の中で、俺の立ち位置がどうなっているのか気になるな」

長門「愉快犯だな。こういう時は攪乱だけして解決に手を貸さない印象がある」

七夜「……無関係ならそれでも良かったんだがな」

那珂の暴走。
その原因の一端は彼にある。
そして、その暴走を他の艦娘が止められなかった要因も彼にある。

七夜「どうも、那珂に良からぬ影響を与えたのは俺らしい」

那珂に力を与えてしまったのは間違いなく七夜である。
そもそも、川内が七夜の技を使えるのならば、その妹である那珂が使えないという道理はない。

長門「そういえば、私達の演習を川内型はよく見に来ていたな」

七夜「まさか、あそこまで完璧に盗まれるとはね。俺としても想定外だよ」

薄ら笑い浮かべる青年の本心は見えない。

長門「……変なところで責任を感じる奴だ」

七夜「実際、俺が居なければ起きなかった事態に思えるからな。それくらいの面倒は見るさ」

長門「褒められたやり方ではなかったが、早急な解決である事に変わりはない。一応、感謝しておこう」

七夜「要らんよ。俺も楽しかったのは事実だ」

長門「そうか? なら、私も夜間哨戒に戻るから、提督にだけ報告しておいてくれ」

事件が解決したとは言え、彼女の為すべき事は変わらない。
寧ろ、相方が減った分、その負担は増加する。
会話を切り上げると長門はその場から去っていった。

七夜「……全く、人使いの荒い事で」

それを見届けた後、誰も居ない空間で、青年は一人苦笑を漏らすのであった。





那珂「うわああああん、お姉ちゃあああん!」

神通「こら! 赤城さん達も居るんだから静かにしなさい!」

川内「ふふ、よしよし。ごめんね、那珂」

重傷患者が運び込まれるドック。
そこには、意識が戻った川内に抱きついて大泣きする那珂とそれを叱咤する神通が居た。

那珂「なんで、お姉ぢゃんが謝るのおおおっ! わだじが、わだじのぜいでっ!」

川内「……斬られた時に分かっちゃったんだ。那珂の技は、彼にとても似ていたから」

神通「姉さん……」

優しく那珂の頭を撫でる。
そんな川内の表情は曇ったまま。

川内「はは、ごめんね。気づいてやれなくて。那珂がどんな気持ちか知らないで、私……無神経だったよね」

那珂「そんな事! そんな事ないよぉっ!」

川内「ううん。私が気づいてあげれば、那珂は……」

神通「それは違います、姉さん」

那珂に襲われた事に対しての恨みや怒りはない。川内にあるのはただひたすらの後悔だけ。
首を振って悲しく笑う少女の言葉を神通が遮った。

川内「神通……?」

神通「もし、那珂ちゃんの気持ちを先に知ってたとして、姉さんは譲りますか?」

神通の言葉に想像を働かせる。
彼の横を楽しそうに歩く那珂と、それを見守るだけの自分。
なるほど、これは那珂の気持ちが痛い程よく分かる。

川内「無理……だね」

我慢はやろうと思えば出来る。
だが、そうすれば今度は自分が壊れてしまうだろう。

神通「だから、姉さんが気づいた所で、那珂ちゃんがその在り様を変えないと、結果は変わらないのです」

神通の言葉はとても分かりやすかった。

川内「じゃあ、私はどうしたらいいの?」

神通「どうもしなくていいです。姉さんはいつも通りで」

川内「それだと、前と変わらないじゃん」

川内の言葉に神通は何も答えない。
ただ、悠然と微笑むだけである。
首を傾げる川内の手、那珂の頭を撫でていた手が突如掴まれた。

那珂「あのね……?」

川内「うん?」

そちらを見ると、決意宿した瞳で彼女を見上げる那珂が居た。
川内の手を両手で包み込むと那珂は意を決したように話し出す。

那珂「お姉ちゃんに酷い事したのは重々承知した上で言うけど、私、七夜君を諦めたくないの。例え、お姉ちゃんと争う事になっても」

那珂にもこんな一面があった事に驚く。
驚きついでに神通の言っていた事を漸く理解する。
確かに自分は何もしなくても良かった。那珂がぶつかってきてくれたのだから。

川内「……いいよ。正々堂々勝負しようか。私も負けたくないから」

笑う。
三女の正直な気持ちに長女が応えない訳にはいかない。

那珂「お姉ちゃん……ありがとー!」

川内「わ、わわっ! こら、急に飛び付いてきたら危ないって!」

そんな川内の対応に感極まったか。
川内の手を離すとそのまま両手広げて彼女に抱きつく。

神通「ふふふ。良かったね、那珂ちゃん」

慌てる川内だが、那珂をちゃんと受け止めた彼女の表情は先程と違って明るい。
そんな二人の様子を神通は微笑みながら見守るのであった。

これにて那珂編終了です
4レスくらいで那珂ちゃん可愛い☆って感じで終わると思っていた時期が私にもありました

影響を受けたというか、元ネタはネタバレなので伏せますが、fateの某三人目のルートですかね

今のところ思い付いているのは天龍編。出だしだけ考えたのが比叡編

ですが、次の話は駆逐艦達と全力で遊ぶ七夜です。
ほのぼの成分が足りない……!

それでは、また次回

・七夜と二人の睦月型

菊月「我が主(しゅ)よ、何をしている?」

七夜「ん? ああ、あまりにも月が綺麗だったからな。それを見ていた」

長月「ふむ、確かに良い月だ。風も穏やかで過ごしやすいな」

埠頭の先にて胡座かいて座る青年。
それを見つけた二人の少女が彼に近づいて話しかける。

七夜「ま、夜が明るくなっても、人の眼が良くなった訳じゃない。子供がこんな時間に夜歩きするもんじゃないよ」

二人に一瞥だけくれて、再び夜空を見上げる七夜。
月見の肴は、波止場に打ち寄せては返す波音と時折吹く潮風くらいなもので、いつも海に出る彼女達が楽しめる物でもないだろう。

長月「子供扱いはしなくていい」

菊月「これでも、我が主より長く生きているからな」

七夜「それは、艦としてだろ。艦娘となって、そんな見た目のお前達を大人と同じには扱えん」

長月「全く、難儀な性格をしている。人間とは程遠い私達を子供扱いするなんて、前代未聞だ」

七夜の言葉に苦笑する長月。
艦娘を人として扱う物好きが司令官以外に居るとは。

菊月「ま、それが我が主の良いところでもあるんだが」

七夜「ところで、その呼び方はなんだ?」

長月「ああ、今更突っ込むのか。最後まで言及しないのかと思ったよ」

菊月「……いけないか? 我が主の在り方や生き様は尊敬出来るのでな。その畏敬の念を込めた呼び方だ」

七夜「……子供はすぐに影響されるんだな」

呆れたように呟く七夜。
その言葉に二人は眉根を寄せた。

菊月「む。子供子供とさっきから口が減らないな、我が主よ」

長月「そこまで子供扱いするには、こちらにも考えがある」

七夜に近づいた二人は、胡座かく膝の上に座る。

七夜「……なんのつもりだ?」

菊月「なに、そんなに子供扱いをしたいなら、子供の振りをするのも吝かではないのだよ」

長月「そういう事だ。子供らしく我儘で振り回してやろう」

そのまま二人して背中を彼の胸に預ける。
ああは言ったが、こういう時だけは子供のような背丈に彼女達は感謝する。
好きな時に存分に甘える事が出来るのだから。

長月「ほら、頭を撫でろ」

菊月「私は腰に腕を回して強く抱き締めろ」

七夜「……やれやれ」

これは一本取られたなと、内心で溜め息吐きながらも、彼は二人が満足するまで付き合うのであった。

タイトルに居るのにメインじゃないとか斬新……ごめんなさい
忘れた頃にちょくちょく出します

ところで、駆逐艦の皆と遊ぼう!という話を前回しましたが、60人近く纏めて動かせる気はしないので、○○型と七夜みたいな感じで細々と
リクエストがあれば仰ってください

それと、ドイツ艦はうちに未実装なので、多分誰も出ません
他の大型建築面子は順次登場します

それでは、また次回

・七夜と暁型

雷「お邪魔するわよ!」

その声と同時、部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

電「もうちょっと遠慮しようよ……」

響「やあ。元気かい?」

暁「ご、ごきげんよう……」

その後ろから続々と、暁型駆逐艦の少女達が姿を現した。

七夜「……新手の奇襲か?」

響「奇襲するなら、わざわざ入り口から来ないよ」

電「でも、この部屋に入るには、この扉しかないのです」

雷「だーっ! 話が進まないから口を閉じなさい!」

ベッドに横になりながら本を読んでいた七夜が、身体を起こしつつ騒がしく入室してきた客人達に視線を向ける。

七夜「で、何か用か?」

雷「え、何も聞いてないの?」

用件伺う七夜に目を丸くする雷。
その後ろでどこか達観した表情の響と電。まるで、この展開は読めていたと言わんばかりである。

七夜「俺の記憶が正しければ、な」

雷「……暁姉?」

そろそろと部屋から退出しようとしていた暁の背中に、雷の怒気孕んだ言葉が投げ掛けられる。

暁「ひっ! ち、違うのよ。昨日、伝えようと探してたんだけど……どこにも見当たらなくて……」

雷「部屋に戻ってきた時に、ばっちり伝えたから心配要らないって言ったわよね……?」

肩を震わせる暁。雷の方を向かずに言葉並べるも、徐々に萎縮していく。

電「だから、今日は朝から様子がおかしかったのですか」

響「……人選ミスだね、これは。私か電が行くべきだったかな」

七夜「で、どういう事なんだ?」

雷と暁のやり取りを眺める二人に問い掛ける。

響「ああ、説明するとだねーー」

雷「捕まらないなら、部屋の前でずっと待ってるとか出来たでしょ!」

暁「嫌よ! 一人で待つなんて寂しいじゃない!」

雷「そんなんで一人前のレディになんてなれるかあああぁっ!」

暁「なによ! じゃあ、付き合ってくれても良かったじゃないの!」

電「ついて行こうとしたら、暁お姉ちゃんが一人で十分って言って断ったのです」

暁「……う」

電「う?」

暁「うるさいわよ、バカあああぁっ!」

雷「ちょ、暁姉ぇっ!?」

妹達に責められ、半泣きの状態で部屋から飛び出していく暁。

電「……どうしよう」

響「頭を冷やす時間を与えるしかないと思うよ」

結局、三人のやり取りが白熱したせいで、響は事情を説明出来ていない。
それに、今すぐ暁を連れ戻しに行ったところで、プライドの高い彼女が自分達の言葉に耳を傾けるとも思えない。

ならば、時間を置くという意味でも事情説明が先だろう。
そう考えた響は、七夜に向き直った。





響「理解出来たかい?」

七夜「大体」

響の言う事を簡単に纏めると、七夜の空いている時間を空母組がほぼ独占してる事に対して、大半の駆逐艦から不平不満が出たという。
そのため、暫くの間、七夜は駆逐艦を順番に、かつ優先して相手をしてやるようにと、七夜に無断で提督が決めたらしい。

七夜「この暫くの間、とは?」

響「私達が満足するまでだな」

響の答えに青年の眉根に皺が寄る。

七夜「……終わりが見えないんだが」

響「なに、そこらの分別はついている。永遠という訳ではないさ」

雷「そうよ! もし大変だったなら、私に頼ってもいいのよ?」

七夜「ふむ。手に負えない時は頼むよ、雷」

暁型のように、一回で四人くらいの相手になるのなら、そこまで煩わしくもないし、苦労もしないか。
それに、せっかくの厚意、無下にする気は更々なく。少し思案した彼は素直に甘える事にする。

雷「まっかせなさい!」

電「あの、私もお手伝いしたいのです」

七夜「それは助かる。駆逐艦の相手は少々苦手でね」

響「へえ? 意外だね」

隙あらば駆逐艦達に囲まれている青年。
なんだかんだで面倒見が良いため、苦手意識を持っているとは思いもよらず、響は目を丸くする。

七夜「そうか? 何を考えてるのかよく分からないんだよな」

響「それは、君が言える事ではないよ」

子供の思考は分からない。そう言い切る彼だが、彼の思考を読める存在こそ、この鎮守府には居ないに等しい。
ジト目投げ掛ける響を七夜は涼しい顔で無視しつつ、雷に視線を向ける。

七夜「で、今日はお前達に付き合えば良いんだな?」

雷「そうね。私が沢山お世話してあげる!」

電「なのです!」

響「ま、宜しく頼むよ」

七夜「じゃ、暁を回収しつつ振り回されるとしようか」

立ち上がる青年。
一日は始まったばかり。
ひとまず、と。彼は先に部屋を出た少女を探しに行くのであった。

勢いで部屋を飛び出した少女。
戻るに戻れなくなった少女が、怒気撒き散らしながら一人歩む。

暁「なによ! 私、悪くないもん!」

歩調は大股。怒りは中々に収まらない。
冷静さを失った代償か、彼女は足下に注意を払えない。

暁「ーーぶべらっ!」

結果、石に躓き、盛大に転んだ。

暁「ぐすっ……。バカ! 雷のバカ! 電のバカ! 響のバカ! 七夜の……バカあああぁっ!」

膝を擦りむいたか、徐々に痛み訴える身体。元より半泣きであった為に、溢れる涙は抑える事が出来なかった。
零れるのは雫だけではなく、胸の中にあったわだかまりも一緒に。

自分が悪いとは理解している。それでも、追い掛ける素振りくらい見せても良いではないか。
今ごろは、四人で仲良くやっていると考えると素直になれない自分に嫌気がさす。
そんな心情を、ただひたすらに吐き出した。

七夜「嬉しいねえ。俺を姉妹艦と同列に扱ってくれるか」

暁「ーー!?」

先程まで気配すらなかった存在。
反射的に顔を上げると、目前には青年が立っていて。

七夜「ほら、迎えに来たぞ」

暁「……な、なんの用よ」

目を逸らす。あれだけ大きく罵倒したのだ。気まずい。

七夜「言わなきゃダメか?」

暁「私の事なんて放っておけば良かったじゃない」

謝らなければという気持ちが逸るが、口は全くもっての天の邪鬼である。

七夜「それは出来ない相談だな」

暁「……なんでよ」

七夜「そんな顔のレディを放っておくなんて、俺には出来ん」

暁「……っ。バカに、してるの?」

七夜「俺は真面目だが。まあいい。話は後にしよう」

暁の性格上、手を差し出しても素直に応じるとは思えない。
故に、七夜の取る行動は一つ。

暁「ちょ、何すんのよ!」

七夜「なに、男として良いところを見せたいだけだよ。だから、黙って担がれてくれ」

暁「この姿勢、恥ずかしすぎるんだけど……!」

暁の言葉は半笑いで流しつつ、足の怪我を一瞥する。

七夜「なら、おんぶにするか?」

暁「……負けた気がするから、このままでいい」

諦めたように七夜の首に手を回す暁。
その顔は真っ赤ではあるが、腹を括りはしたらしい。

七夜「そうか」

三人の待つ場所の前に寄るべき所が出来たなと思案しつつ歩き出す。

暁「……ねえ」

七夜「ん?」

そんな彼の胸に表情見られぬ様に顔押し当てて、少女は呟く。

暁「ごめんなさい。……ありがとう」

七夜「気にするな。好きでやっている事だからな。それに、ネームシップが居ないと始まらないだろう?」

暁「……そうね。全く、いつまでも手のかかる妹達なんだから」

笑う少女に先程までの面影はない。
青年は満足したように小さな笑み浮かべると、歩みを進めた。





雷「で、なんでこうなってるのよ」

響「私に言われてもな……」

電「はわわわわ、暁お姉ちゃん、積極的なのです」

時間も中途半端な為か、人も疎らな食堂。
暁型三姉妹の目の前で、そのやり取りは行われている。

暁「はい、あーん♪」

七夜「……何度も言うが、自分で食べられる」

暁「だーめ。今日一日は、私達が七夜の世話をしてあげるんだから」

七夜「……参ったな」

彼の片膝の上に座る暁。テーブルに乗った料理を彼の口許に運んでいる。
青年は困ったように頭を掻きつつ、周囲に視線を向ける。

彼らを微笑ましく見守る正規空母の面子は見て見ぬ振り。他の数少ない軽巡や重巡の面々も七夜の視線が向くと、そっと苦笑い。
どうも自力でなんとかしないといけないらしい。

七夜「……四人で俺の世話をするなら、このまま暁が独占してたら不味いんじゃないのか?」

仕方ないと溜め息吐きつつ。微苦笑浮かべながら、彼は言う。

雷「そうよ! そもそも、料理を作ったのは私なのよ! その役目は私がやるべきなの!」

響「論点が速攻でズレたな」

暁「だって、私は怪我で動けないもーん。アンタ達は私のお世話でもしてなさい」

電「……ただの擦り傷なのです」

七夜「収拾がつかん」

暁に近づいて突っかかる雷。響と電も止める気はないのか、それを眺めているだけ。
彼が何を言っても変わらない状況に、青年は遂に匙を投げた。

雷「いいわ。そっちがその気なら、私にも考えがあるんだから」

言いながら、七夜の空いている片膝に座る雷。

暁「な、何してんのよ!」

雷「何ってお世話よ、お世話。はい、七夜くん、口を開けて」

七夜「だから、一人で食べられると……」

彼の返事は雷の無言の迫力の前に黙殺される。

響「ふむ。じゃあ、私はここを定位置としようか」

電「なら、私はここなのです♪」

雷と暁がお互いに牽制している間に近づいたのだろう。
テーブルの下を潜ってやってきた響が、七夜の膝の間に座る。それと同時に彼の背中に末妹の重みが乗った。

七夜「やれやれ。振り回されるのも楽じゃないな」

小さく呟く。その口振りとは裏腹に声音はとても優しい物だった。

甘々が書けない事に最近気づいた私です

更新が時たま途切れるのは、筆が止まってるか体調が死んでるかのどちらかです。遅くても一週間以内には更新出来るよう頑張ります

お世話って題材は、書いてみると中々に難しいですね
とりあえず、まだ続きます。ここで終わるのは消化不良なので

(一日の始めからスタートとかもう二度としないぞ☆)

それでは、また次回

雷「お邪魔するわよ!」

その声と同時、扉が勢いよく開かれる。

提督「な、なんじゃ! 新手の奇襲か!? 敵襲か!?」

七夜「……凄い既視感だな」

暁「ふふん。この私のプレパレーションに言葉も出ないようね!」

響「それは、もしかしなくてもプロポーションの事を言っているのか?」

電「お背中、流しにきたのです」

場所は大浴場。
艦娘の入浴時間は、その多さからまちまち。故に鎮守府に二人しか居ない男の入浴は、彼女達と鉢合わせしないために遅くなる。
もっとも、七夜が一人で入っている場合、突撃してくる連中も居るのだが。

提督「モテる男は辛いのぉ、なあ?」

七夜「代わるか? ご老体故に介護は必須だろう?」

提督「ハッハッハッ、言いよるわい。ほれ、さっさと行かんか」

駆逐艦の相手をするように命じた元凶が、彼に向かって手を振る。
青年は観念したのか、四人が待つ場所へ。
彼女達の襲撃を予測していたか、既にタオルは身に付けられている。

雷「ほら、座って座って!」

七夜「それは潜水艦の奴らに借りたのか?」

雷の示した椅子に座りながら、七夜が聞いたのは彼女達が身に纏っている水着について。
それは伊号潜水艦の艦娘達が普段から身に付けている水着と酷似していた。

電「作り方を教えてもらって、皆で作ったのです!」

響「別に借りても良かったんだが、私達には致命的に足りない装甲部分があったからな。断念した」

雷「胸なんて飾りよ!」

暁「そうよそうよ!」

七夜「だとさ、クソジジイ」

提督「うん? そこで、なんで儂に話を振った?」

湯船に浸かりつつ、七夜達を眺めていた提督の肩が揺れる。

七夜「いや、なに。ちょっとした当て付けだよ」

響「そう言えば、司令官は扶桑さんが秘書艦だったね」

七夜の意図を瞬時に汲み取る響。

雷「司令官は胸が大きい女性の方が良いの?」

電「司令官さん……」

提督「う……。あ、後は……若い者達でごゆっくり」

雷と電の視線に耐えられなかったか、そそくさと提督は立ち去っていった。

暁「逃げたわね」

響「ふふ、計算通り」

七夜「ふむ。電、ちょっといいか?」

電「はいなのです」

七夜に近付く電。自身の座る椅子と全く同じもの引き寄せると、それをすぐ前に置き、彼女に背中向けて座るように指示を出す。

電「……七夜さん?」

七夜「なに、お世話になりっぱなしってのも悪いんでな。俺も執事の真似事をしてやろう」

訝しげな電。彼女を最初に選んだのは、自身の言うことを素直に守ってくれるだろうから。
そして、もうひとつ。適度な髪の長さだったから。

暁「あっ、ずるーい!」

電の髪を洗い始めた直後、案の定、暁からは不満の声があがる。

電「わひゃー」

お世話するつもりがされている。彼女達は既に入浴済みなので、髪や身体を洗う必要性は皆無である。
だが、青年の手つきが慣れたものであり、心地も良かったので電はされるがままだった。

暁「次は私! いいでしょ?」

雷「その間に私は背中流してるから、最後で良いわ」

響「じゃあ、私は三番目だね。それまで暇だし、前でも洗おうか」

雷「私の目が黒い内はさせない」

響「黒くないから大丈夫だね」

雷「言葉の綾よ! それくらい分かりなさい!」

七夜「……飽きないな」

電にお湯を被せつつ、彼は呆れたように軽く肩を竦めた。





赤城「七夜さん? いらっしゃいますか?」

夜も深まった頃、七夜に二時間後くらいに部屋に来てくれと言われた一航戦と二航戦が彼の部屋の前に集う。
赤城が代表して、部屋の扉をノックしつつ声を掛ける。

七夜「ああ、入ってくれ」

扉に遮られるとは言え、彼の声は何時にも増して小さい。
それを訝しみながらも、四人は部屋に入り、全てを理解した。

蒼龍「これはこれは……」

飛龍「まあ、一日遊び倒せばそうなるよねー」

柔らかい笑み浮かべる二航戦の視線の先。ベッドに座る七夜の膝を借りて眠る暁と雷。二人の隣で同じく寝息をたてる響と電が居た。

加賀「……彼女達を寮に連れて帰れば良いんですね?」

七夜「そうだな。起こすのは忍びない」

赤城「一人ずつ運ぶのは、いけなかったんですか?」

七夜「無防備なまま置いておく事に気が引けたからな」

彼女達が眠ってから久しいのだろう。彼は暇潰しに読んでいた本を閉じながら言う。

蒼龍「ホント、駆逐の子達には甘いよねえ」

七夜「知らんな」

飛龍「またまたあ。とぼけちゃって」

青年をからかう二航戦。

赤城「こらこら。もう夜も遅いんですし、やるべきことを済ませますよ」

加賀「そうね。話を聞くのはいつでも出来ますから」

そして、一航戦に嗜められる。

七夜「ま、後は頼むよ。使い走りのお礼は後日させてもらうさ」

飛龍「やりました」

加賀「……飛龍?」

飛龍「ひっ……! 冗談ですって、冗談!」

蒼龍「ちょ、飛龍。うるさいよ」

赤城「ほら、手じゃなくて身体を動かしなさい」

赤城の指示により、暁達をそれぞれ抱える。
少し騒がしくはあったが、疲れから熟睡してるのだろう。四人は目を覚ますことなく、ぐっすりと眠り続けている。

赤城「では、七夜さん、今日はお疲れさまでした」

七夜「ああいや、送っていくよ」

赤城の言葉に立ち上がる七夜。
同じ体勢で居た為に、固まりかけている身体の筋肉ほぐしつつ、彼女達を先導する。
青年の長い一日は彼女達を無事に送り届け、漸く幕を閉じた。

無理矢理感が否めない

次は島風ですね。まだ楽そう
問題は第七駆逐隊だ。全く思い浮かばない
陽炎型は分けます。さすがに多すぎる。いや、全員で達磨さんが転んだとかやっても良いけど
まあ、のんびりやっていきましょう

長門と演習する→川内型と青葉が見学していた→やべーの来たけど。と広まる→演習の見学者が増える→演習を見学していた駆逐艦「やだ……カッコいい……」

懐かれたというか憧れた経緯はこんな感じ。文章には多分しないので、ここで補足

それでは、また次回

誤字訂正です

>>173
長月「子供扱いするには」

長月「子供扱いするなら」

>>197
赤城「手じゃなくて身体」

赤城「口じゃなくて身体」

全部睡魔が悪いよ、睡魔が

・島風と七夜

七夜「健康的な生活習慣な事で」

陽光降り注ぐ鎮守府内を歩く青年が一人ごちる。
彼が主に活動していたのは、一夜限りの夢の舞台。少なくとも、太陽煌めく時間にのんびりと出歩く機会は早々ない。

七夜「……しかし、いきなり休みを言い渡されるとは」

駆逐艦達の相手をしろとは命じられたが、さすがに毎日の相手は不可能である。
人数の多さもさることながら、彼女達の要求は様々。それに加え、彼は普段通りの日常を過ごす。
日課となった演習を希望者達と行い、出撃の随伴を頼まれれば断らない。

元より要領は良い方である。彼は大抵の事は人並みにこなす事が出来た。
そもそも、居候の身。やれることはしておかないと気が済まない。
だが、幾らなんでも出来るとは言え、その身体はただの人間である。
限界はあった。

七夜「参ったね。長門はともかく、川内達にも見破られるとは」

動く事は出来る。性能自体もさほど変わってはいない。だが、十全ではないのは確かだ。
朝の演習で、長門達にそれがバレた。隠していた訳ではないが、やたらと心配されたのが印象的だった。

そうして、棚からぼた餅の感覚で今日の休暇を手に入れたのである。

七夜「……暇だな」

そんな訳で、やることがない。
暇潰しの演習も出来ない。
資料室に昼から閉じ籠る気分でもない。
いつもなら騒がしいくらいに寄ってくる駆逐艦達も彼に遠慮しているのか、自室にて大人しくしているのが大半だ。

七夜「……っと、あれは島風か?」

そんな彼の視界の隅、建物の陰になっている場所に一人の少女が居た。
目を凝らすまでもない。その特徴的な衣服が、それを誰か教えてくれる。

島風「うーん、今日はなんだか静かだねー、連装砲ちゃん」

地面に座る少女は、傍らにある縫いぐるみともロボットともつかない、連装砲ちゃんと呼ばれた存在に話しかける。

七夜「そうだな」

島風「おぅっ!? 連装砲ちゃんが喋った!?」

七夜「そうだな」

島風「しかも、男の子の声! 連装砲ちゃんなのに!」

確かに彼女の死角から近づいて、相槌を打ちはした。
しかし、こうも気付かれない物なんだろうか。

七夜「……今日は一体だけなんだな、その連装砲とやらは」

島風「って、なんだ。ななやんだったのか」

彼女独特のペースに付き合う事もない。青年は小さく息を吐くと、島風の前に姿を現す。

七夜「不服か?」

島風「ううん。私も丁度、暇してたとこだから」

七夜「そうか。隣、良いか?」

島風「うん」

島風の許可を得たので、彼女の隣に座る。太陽が出ているとは言え、日陰にあった地面はひんやりとしていた。

島風「珍しいね、一人で居るの」

七夜「明石からのドクターストップだ」

島風「それ、療養してなきゃ怒られるんじゃ……」

七夜「知らん。散歩くらいなら許されるだろ」

島風「ふふ、そうだといいね」

笑う島風の表情には影があった。
いつもの天真爛漫な雰囲気はどこにも感じ取れない。

七夜「島風こそ、一人で居るのは珍しいな」

島風「そうかな? ……そうかもね」

七夜「どうかしたのか?」

島風「んー、ちょっとね」

七夜「そうか」

煮え切らない島風にあっさりと引く七夜。その対応が意外だったのか、彼女は少しだけ目を丸くする。

島風「聞かないの?」

七夜「話したいのか?」

島風「……ななやんってば、意地悪だよね」

七夜「性格が悪いならよく言われる」

島風「ふふ、さいってーだ」

笑う少女は連装砲を腕の中に抱えつつ、隣の青年に身体を傾ける。

島風「私ってさ、元々一人なんだよね」

七夜の肩に頭預けながら、少女は語る。

島風「友達は多い方だとは思うよ、うん。でも、他の駆逐艦の子みたいに姉妹艦ってのが私には居ないんだよね」

島風「普段は誰かと居るから、あまり気にならないんだけど、こんな風に鎮守府が静かだと痛感するんだ」

島風「ああ、私は一人ぼっちなんだ、って」

少女が紡ぐ胸の内。青年は静かに耳を傾けるだけで、何も言わない。

島風「私には、姉妹の絆みたいな強い結び付きがないの。気の置けない関係って言うのかな。それがないんだよ」

島風「他の子に嫌われたら、それでおしまい。けどね、もう誰かの温もりを知ってしまったら、孤独を耐える事は出来ないんだ」

島風「怖いよ。いつか見放される時が来るんじゃないかって思うと。部屋で一人だと、そんな事ばかり考えちゃう」

島風「ねえ、ななやん。私が助けてって言ったら、私を救ってくれる?」

連装砲を抱える腕が少しばかり震える。
心中を吐露したのは、彼が部外者な上に口が堅いから。

七夜「それは無理だな」

一蹴。彼自身、悪夢という庇護を受けていないのに顕現し続けているという不安定さもある。
いつ消えるとも分からない身体なれば、約束は出来ない。

島風「……そっか」

七夜「だが、手助けくらいなら出来るぞ」

島風「手助け?」

少女は頭を預けていた肩から離すと、そのまま青年を見上げる。

七夜「ああ。要は見放されなければ良いんだろう? 最速のお前を切る様な奴は居ないだろうが、それだけなら不安と言うなら俺が自信を付けさせてやる」

小さく口角吊り上げて立ち上がる青年が少女に手を差し出す。

島風「どうやって?」

その手を掴み取りながら、少女は聞き返す。
視線の先で、青年は悪戯げに笑った。

七夜「なに、簡単な話だ。元より最速、それを少々超越するだけさ」

こうして秘密裏に始まった島風の特訓。
その成果が活かされるのは、また先の話。

最速の座を川内達に奪われそうな島風が最速に戻る話

なんかリクエスト来てて、これが嬉しい悲鳴ってやつですね

お品書きとしては
第七駆逐
陽炎型
五航戦
菊月
戦艦組(金剛型除く)
って感じになるかと

五航戦は、話の構成が出来上がってるので投げたいだけです

金剛型は話が進むまで暫く出てきませんのです。すまぬ……すまぬ……

それでは、また次回

・七夜と第七駆逐隊

始まりは漣の一言だった。

漣「七夜さんの着てるそれって学生服ですよね。じゃあ、七夜さんは学生だったんですか?」

第七駆逐隊の四人と待ち合わせに使ったのは食堂。
そこで、青年は一人の少女に質問を投げ掛けられた。

七夜「おそらくな。もっとも、学校に行っていた記憶はないに等しいが」

朧「そうなの?」

七夜「そこらは曖昧でね。ま、気にする事ではないよ」

答える青年の物言いは、はっきりした物ではなかった。

潮「それで良いんでしょうか……」

曙「本人が言ってるなら大丈夫でしょ」

気にはなるが、七夜が気にするなと言う手前、それ以上の追求は憚られる。

朧「で? 漣はどうしてそんな事を聞いたの?」

仕方なしに話題の発案者に話を戻す。
漣は底意地の悪そうな笑みを浮かべると、七夜を除く三人をゆっくりと見回す。

漣「ふっふっふっ。聞きたい? 聞きたい?」

曙「やな予感……」

潮「一応、聞いてみたい……かな?」

額に手を当てる曙と、おずおずと苦笑い浮かべながら切り出す潮。

漣「学校の授業の真似事をしてみたいんだよねー、私」

朧「そんな所だとは思ってた」

漣「ありゃ、バレてましたか」

曙「考え方が単純なのよ」

潮「漣ちゃんにしては、マトモな提案だね」

漣「ちょ、潮ってば酷い!」

七夜「ふむ。今日はそれに付き合えば良いのかな?」

漣を散々扱き下ろしてはいるが、提案自体に反対はしない三人。
その様子を見守っていた七夜が、会話を先へ促す。

朧「異議はないよ」

曙「まあ、どうしてもって言うなら付き合ってあげるわ」

潮「あの、宜しくお願いします……」

漣「やったぜ☆」

話は終わった。
後は、彼女達が満足するまで付き合うだけ。
青年は立ち上がると、教室の手配や準備のために、四人を連れて提督の居る執務室に向かった。

・一時間目

那珂「皆、おっはよー! 一時間目はこの那珂ちゃんが担当するよ!」

七夜「教科は?」

那珂「音楽!」

漣「でっすよねー」

那珂「あ、決して教科書用意するための時間稼ぎとかじゃないからね。本当だよ?」

朧「教科書を一から作ってるんだ」

曙「なんというか……お疲れさまね」

敷波「なんでアタシまで……」

綾波「漣ちゃんが誘ってくれたから、敷波ちゃんも誘ったんだけど……嫌だった?」

敷波「うぐ……。し、仕方ないなあ。綾波がそこまで言うなら、付き合ってあげるよ」

潮「わー、思ってたより大事になっちゃってます……」

教室として宛がわれたのは、使われなくて久しい応接間。
綾波と敷波を加えた七人は部屋に入って驚愕する。
教卓と勉強机が設置され、内装もよくある学校の教室と変わらない。妖精の仕事の早さに、七夜ですら舌を巻いた。

那珂「とりあえず、皆で一緒に歌おうか。生演奏じゃないけど、勘弁してね☆」

笑み浮かべる那珂が取り出したのはラジカセ。彼女の歌が入ったCDをセットする。

那珂「まずは私がお手本を見せるから、皆は頑張って歌詞を覚えて。それでは、聞いてください!」

軽快なリズムで始まる曲。彼女はその旋律に沿って、歌い出す。
その後、歌詞を暗記した少女達も歌い始めるのだが、青年が歌う事だけは最後までなかった。

・二時間目

長良「二時間目の担当は長良と」

五十鈴「五十鈴が担当するわ」

七夜「教科は?」

長良「体育だよ」

漣「知ってました」

屋内演習場。言ってしまえば体育館と変わらないそこに集まった七人の前に、長良と五十鈴が姿を見せる。
長良の相方が川内や神通ではないのは、一時間目の事を考えて遠慮でもしたのだろう。

朧「教科書、まだ間に合ってないんだ」

五十鈴「今、一生懸命作ってるところよ……」

曙「巻き込まれて大変ね……」

長良「まあ、身体動かせるならなんでもいいやって感じで引き受けたんだけどね。じゃ、二人組作ってストレッチだー!」

漣「おいやめろ」

長良の発言に空気が張り詰める。
ストレッチという大義名分があれば、七夜と触れ合っても誰からも文句は言われまい。

敷波「ほら、綾波。チャンス到来だよ」

綾波「ふえっ!? ま、待って! 心の準備が!」

朧「潮、行かなくていいの?」

潮「えーと……行きたいですけど、多分無駄足になりそうなので」

漣「ぼのぼの、早くしないと他の子に取られちゃうよ」

曙「な、ななな何言ってるのよ、漣。あ、ああああたしは別に」

彼女達はお互いに出方を伺う。
確かに七夜とペアになれるのは魅力的だが、敵を悪戯に作るのも得策ではない。

七夜「ああ、俺は一人で大丈夫だから、皆は各自相手を見つけてくれ」

だが、そんな思惑を徒労にする青年の一言。
毒気が抜かれた少女達は、少し呆けた後に各々ストレッチを作業的にこなす。

長良「よーし、ストレッチが終わった子から走り込みだー!」

五十鈴「……空気読みなさいよ、長良姉」

元気溢れるのは担当の長良だけ。五十鈴はなんとも言えない光景に深々と溜め息を吐いた。

・三時間目

鳳翔「三時間目です。皆さん、こんにちは」

綾波「こんにちは!」

七夜「教科は?」

鳳翔「保健です」

漣「えっ……」

曙「副教科ばっかりなんだけど」

漣「そこ!?」

朧「教科書作り、難航してるのかな」

漣「冷静か!」

潮「ほ、保健って……あわわわわ」

漣「あー、潮の普通の反応に癒される……」

敷波「ふ、ふん! くだらないね!」

漣「……」

敷波「なんか言ってよ!」

漣「あー、ツンデレはうちにも一人居るから」

七夜「保健は教科書必須だと思うが」

鳳翔「実技で教えたらいいのです」

七夜「待て、何故近付いてくる」

鳳翔「だって、この中で男性は七夜さんだけじゃないですか」

七夜「……冗談だろ」

鳳翔「大丈夫ですよ、優しくして差し上げますから」

七夜「駆逐艦には刺激的な教育方法だろ、それは」

鳳翔「いずれ知らなければいけない事。遅いか早いかの違いですよ」

七夜「……チッ。酔狂過ぎるな。付き合ってられん」

鳳翔「逃がしません。さあ、出番ですよ、貴女達!」

赤城「一航戦、赤城。ここに推参しました!」

加賀「同じく一航戦、加賀。参上しました」

蒼龍「二航戦、蒼龍。馳せ参じました!」

飛龍「同じく二航戦、飛龍。張り切って参ります!」

七夜「おいおい……」

朧「うわ……」

漣「さすがに引くわ……」

曙「保健を建前にしただけの、いつもの光景じゃない」

潮「こうなってはどうしようもないです」

綾波「授業……」

敷波「……恥ずかしいからなくなるに越したことはないね」

・昼休み

七夜「三時間目が異常に長かった」

朧「お疲れ様」

場所は食堂。五人の空母の魔の手から時間を目一杯使って逃れた青年は、漸く一息つく。

曙「全く、空母連中にも困ったものね」

潮「あはは……」

それぞれが思い思いの食事を取りながら、三時間目の惨状を振り返る。
室内を縦横無尽に逃げ回る七夜に、痺れを切らして艦載機まで取り出した空母達。
それを見た彼も遠慮する事をやめて、懐からナイフを取り出し反撃を開始する。

結果、教室もとい応接間は大惨事となり、修理を担当する妖精達が五人の空母に激怒。
七夜は綾波達の弁明もあって被害者という事になり、無罪放免となった。

敷波「唐揚げ一個もーらいっと!」

綾波「あ! 私の唐揚げが……」

敷波「……しゃーないなー。ほら、返すよ」

綾波「えへへ。有り難う、敷波ちゃん」

二人の世界を作りつつある綾波と敷波を一瞥した後、漣は七夜達に視線を向ける。

漣「しっかし、困りましたねえ。教室が使えないのなら授業の続行は不可。この昼休みの終了と同時に、私達の学校ごっこも終わりという事です」

朧「そうだね。でも、アタシは新鮮で楽しかったよ」

曙「……ま、認めてあげない事はないわね。漣の発案にしては良かったわ」

潮「うん。今度はちゃんと準備して、もっと大勢でやってみたいかな」

眉根を下げる漣を慰めるように労る三人。

綾波「私もとても楽しかったです」

敷波「アタシは別に普通だったけど」

綾波「素直じゃないね、敷波ちゃんは」

敷波「な、なにさあ……」

照れる敷波と微笑む綾波。彼女達も参加出来た事を感謝している。

漣「や、そんな、そこまで言われると私としては恐悦至極なんですが……」

曙「なに感極まってるのよ」

朧「漣のこんな姿、中々見れない」

五人から向けられる好意にあてられたか、目尻に涙浮かべる漣。
滴零れる前にと俯く彼女の頭を曙が小さく笑いながら撫でた。

七夜「漣は一つ勘違いをしている」

潮「勘違い、ですか?」

綺麗に纏まりかけた所をぶち壊す事に定評のある青年。
潮が首を傾げながらも聞き返す。

七夜「ああ。世の中には午前で授業が終わる半ドンという制度がある。つまり、昼休みが終わると学生が自由に羽を伸ばせる放課後という時間がやってくるわけだ」

綾波「放課後……! なんて甘美な響き……」

七夜「ここからが学生生活の醍醐味だ。ほら、飯を食い終わったらジジイに外出許可をとってこい。最後まで、このごっこ遊びに付き合ってやるよ」

七夜の言葉に耳を傾けていた六人。
艦娘の生活は鎮守府内で大抵は事足りる。特に子供の見た目をしている駆逐艦は敷地の外から出る事がないに等しい。

敷波「ななやんは、よく外に行ったりするの?」

七夜「暇を持て余した時くらいにな」

故に彼の先程の言葉はとても魅力的であり、彼女達の目が輝く。
少女達は急いで料理を平らげると執務室に向けて突撃するのであった。

このあと、めちゃくちゃ放課後を楽しんだ

ネタが思い付きさえすれば、第七の子達は動かし易くていいですね
空母が徐々にネタ要因となりつつある

見直すまで、曙と朧の一人称が、私でした
敷波って確かアタシだよなあって見に行った時に気づきました。綾波は私が似合いそうなので、私に。漣も私
人称ミスがあれば、どんどん指摘してください

それでは、また次回。陽炎型、どうしたものか

・七夜と五航戦

「ふざけんじゃないわよ!」

響き渡る怒号に、昼の喧騒が一瞬静まる。通りを歩く人々は、何が起こったのかと顔や視線をそちらに向けた。

翔鶴「瑞鶴! 私は何ともないから落ち着いて!」

瑞鶴「翔鶴姉は黙ってて!」

一人の少女が諫めようとするも、既にもう一人の少女は頭に血が上っているのか、聞く耳を持たない。

「ふざけてるのはそっちだろ」

「確かに避けようとしなかったのは認めるけど、たかだか女一人突き飛ばしたくらいで大袈裟だっての」

「そうそう。こっちは素直に謝ったじゃん。なんでそんな怒ってんのか意味分かんないわ」

二人の少女が対峙するのは五人組の男性。横に広がりながら歩く彼らは、周囲の迷惑そうな視線も何のその。

瑞鶴「こっちは避けようとしたのに、アンタらが更に膨れて翔鶴姉にぶつかってきたから怒ってんのよ!」

「わー、過保護。愛されてるねえ、お姉さん」

「度が過ぎたシスコンとか、マジでウケるんだけど」

「お姉さん、大丈夫ですかー? 立てないなら、僕たちが送っていきますよー?」

けらけらと笑う青年達。
その態度が瑞鶴の気分を逆撫でする。加えて、その内の一人が、地面に横たわる翔鶴に手を伸ばしている。
艤装はない。だが、人間相手なら、生身の彼女でも十分に圧倒出来るだろう。

例え、艦娘の評判が悪くなっても、瑞鶴は姉を守る為なら、その手を汚す事を厭わない。

瑞鶴「このーー!」

拳を握る。楽しみにしていた姉とのデートはこれにてお開き。
公の場で、艤装を身につけずとも力を振るえばどうなるか、誰だって理解出来る。
護るべき対象に危害を加える兵器など、世の中に存在してはいけないのだから。

翔鶴「ダメ、瑞鶴!」

翔鶴の表情に悲壮が宿る。その声を聞きながら、瑞鶴は止まらない。
大好きな姉を、汚い手で触られるのは我慢ならない。

そんな瑞鶴の肩が突然掴まれる。驚く暇もなく、彼女はその場に押し止められ、代わりにその勢いで前に出る存在が一人。

「……なんだお前」

「いやなに、宝石は指紋が付くと価値が下がる。高嶺の花は眺める物であって、手折る物じゃないよ」

翔鶴に伸ばされた手が、その存在によって止められる。
怪訝そうな表情で、そちらに視線を向けると、そこには歪な笑みを浮かべた青年が立っていた。

「なに、知り合い? つーか、意味わかんねえ事言ってんじゃねえよ」

七夜「ああ、理解出来ないのなら無理にしなくていい。俺もお前達には全く興味はない」

掴んだ手は振り払われるが、ただの人間に関心はない彼にとって、気にすることでもない。

「あん? 何なの、コイツ。気障な台詞ばっかで、ナイト気取りのつもりかよ」

「五人相手に粋がるとか、後悔してもしらねーぞ」

七夜「やれやれ。喧嘩早いのが悪いとは言わんが、少しは周囲を確認する癖をつけた方がいいぞ。ここはあくまでも、大通りなんだからな」

七夜の言い回しが独特な為に、青年達に苛立ちが募っていく。
その様子を眺めつつ、七夜は呆れたように息を吐いた。
瞬間、誰かが騒ぎを通報したのだろう。聞こえてくるのはサイレンの音。

「やべえ、サツだ。さすがに警察沙汰は勘弁だわ」

その音に明らかに浮き足立つ五人。大した事はしてないとは言え、国家権力の前には弱いらしい。

七夜「……瑞鶴、走れるか?」

瑞鶴「えっ!? あ、うん」

七夜「さすがに俺も警察の厄介にはなりたくないんでな。事情聴取だけとは言え、時間が取られるのも惜しい」

七夜志貴という戸籍は存在していない。故に警察との関わり合いは避けるべきである。
もっとも、それは艦娘である瑞鶴達も同じではあるが。

瑞鶴「それはそうだけど、翔鶴姉が……」

七夜「俺が担ぐ。問題ないな、翔鶴?」

翔鶴「は、はい! お願いしますね」

足を挫いたらしい翔鶴を背中に乗せる。
重みはあるが、走れない事はない。

瑞鶴「背に腹は変えられないか……。いーい? 翔鶴姉の変なとこ触ったら、許さないからね!」

七夜「肝に銘じておくよ。……ちなみに、変なとこを後学の為にご教授願いたいのだが」

瑞鶴「う、うるさい! いいから早く行くわよ!」

悪戯げな笑み浮かべて問い返す七夜に、頬を紅潮させる瑞鶴。
二人はそこから離れるために走り出した。





七夜「ま、これで大丈夫だろ」

翔鶴「有り難うございます、七夜さん」

騒ぎの場からある程度離れた場所にあった公園。そこのベンチに翔鶴を座らせると、足の応急措置をこなす。

瑞鶴「良い手際ね……」

七夜「これくらい誰でも出来ると思うが」

公園に備え付けてある公衆トイレ。そこの水道水で冷やしたハンカチを患部に。
暫く冷やした後に患部を包帯で圧迫する。
慣れた手付きで黙々と作業する七夜に、瑞鶴が感心した様に呟いた。

瑞鶴「入渠したら治るからね、私達は。それに戦場では応急措置なんてしてる暇ないから」

七夜「万能なのも考えものだな。覚えておいて損はないぞ。軽傷でせっかくの一日がお釈迦になるのは御免だろ?」

艦娘のどんな傷でも癒す施設が生み出しているデメリット。それを知った七夜は肩を竦める。

瑞鶴「そもそも、ポケットから包帯出てくるアンタのが不思議よ。なに? 毎日怪我でもしてるの?」

七夜「こっちに来てからは平和そのものだが、昔は致命傷を負うのが日常茶飯事だったからな。その名残だ」

瑞鶴「致命傷って手遅れじゃない」

七夜「ああ。俺は生きてはいないんだ」

瑞鶴「……ぷっ。真顔で冗談とかやめなさいよね」

吹き出す瑞鶴。七夜の言葉は真実なのだが、それを伝えたところで混乱するだけだろう。

瑞鶴「私達の本気の攻撃を受けながら生き残ったアンタを殺せる奴が居るなら、見てみたいものだわ」

翔鶴「こら、瑞鶴。失礼よ」

笑う瑞鶴は本気で言っている訳ではない。それを分かっているから、翔鶴の言葉も優しいもので、言われた七夜も小さく笑うだけである。

七夜「さて、俺もそろそろ消えるとしようか。翔鶴、あまり足に負荷をかけないようにな」

二人の装い的に姉妹水入らずと言ったところ。
ならば、彼の存在は邪魔だろうか。

翔鶴「はい。本当に有り難うございます」

微笑みながら礼を言う翔鶴。危うげに立ち上がった彼女は律儀にお辞儀する。

七夜「このくらいなんともない。瑞鶴、くれぐれも翔鶴に無理はさせるなよ」

言い残し、その場から離れようとする七夜。

瑞鶴「待ちなさい」

その彼の服の袖を瑞鶴が掴んだ。

七夜「……何か不手際があったか?」

瑞鶴「ち、違うわよ。その……アンタ、この後、何か用があるの?」

七夜「いや? 用事は既に済ませてあるが」

瑞鶴「そ、そう……」

瑞鶴に向き直る七夜。その視線に晒され、彼女の目が泳ぐも言葉だけはなんとか紡いでいく。

瑞鶴「あ、あのね! もし良ければなんだけど……私達と同行してくれない?」

小さく息を吸って意を決する。彼を真っ直ぐに見据え、瑞鶴は一息で言い切った。

瑞鶴「か、勘違いしないでよね。翔鶴姉が足挫いちゃったから、手を貸せる人は多いに越した事がないだけなんだから!」

直後、気恥ずかしさから青年に向けた視線逸らし、言葉を並べ立てる。
七夜は視線を瑞鶴から翔鶴に移す。彼女から返ってきたのは、柔らかい笑顔だけ。

七夜「ふむ。麗しいお嬢さんの誘いは断れんな」

そもそも、翔鶴の事となると瑞鶴は目の色が変わる。監視するという意味では瑞鶴の提案は渡りに船である。

瑞鶴「な、なな……何言ってんのよ!」

七夜「翔鶴、また担いでやろうか?」

七夜の軽口に真っ赤になる瑞鶴を放置し、翔鶴に声を掛ける。

翔鶴「いえ、自分で歩けます。痛みもないですし、七夜さんの適切な処置のお陰ですね」

七夜「そうか。何かあったらすぐに言えよ」

翔鶴「はい♪」

瑞鶴「こら! 私を無視するなあぁぁっ!」

公園内に瑞鶴の声が響き渡った。

Q.陽炎型どこいった?

A.陽炎の艦これwiki見てたら、陽炎とデートしたいってコメントがあった。それを参考に陽炎とデートする七夜でも書くかって思い立った所で気付いた

五航戦の話の構成と被る

そんな訳で、先に五航戦から消化。もうちょい続きます

それでは、また次回

公園から場所は変わって呉服屋。二人が外に出た理由は休暇を楽しむついでに、新しい服が欲しかったからと、移動中に翔鶴から説明された。

七夜「しかし、新しく買うのも和服なんだな」

翔鶴「洋服はどうも慣れなくて……」

苦笑する翔鶴。言いながら繊細な絵が描かれた反物を吟味するように眺めている。

七夜「……自作なのか」

瑞鶴「そうよ。翔鶴姉と鳳翔さんが季節ごとに作ってくれるの」

七夜「他の空母の連中は?」

瑞鶴「えーと……」

問い掛けに露骨に目を逸らす瑞鶴。
それで察したのか、七夜は何も言わずに自身も商品を眺め始めた。

瑞鶴「ちょ、せめて何か言いなさいよ!」

七夜「店内では静かにするのが礼儀だぞ?」

瑞鶴「ぐぬぬ……」

押し黙る瑞鶴を放置して、青年も店の中を見て回る。
鎮守府の外に出ることはあっても、服には無頓着の彼である。物珍しげに展示してある浴衣や反物に視線を向ける。

翔鶴「良ければ、七夜さんの着物もお作りしましょうか?」

七夜「……いいのか?」

翔鶴「はい♪ 別に手間という程でもありませんので」

七夜「生地は俺が選んでも?」

翔鶴「構いませんよ」

翔鶴の提案。厚意を無下にする気は彼にはない。一瞬だけ思案した彼は生地をゆっくりと選び出す。

七夜「……これかな」

翔鶴「これが気に入りました?」

瑞鶴「無地って。もっとよさげなのありそうなのに」

彼の目に止まったのは無地の濃紺の生地。飾り気もなく、ふとした拍子に闇に溶け込みそうな色。その七夜らしい選択に瑞鶴が素直な感想を述べる。

七夜「いや、これが気に入った」

翔鶴「なら、それにしましょう。私達の生地選びはもう少し掛かりそうなので、ちょっと待っていて貰えますか?」

七夜が示した反物を手に取る翔鶴。彼女の腕には他の反物は一つもない。
これは時間が掛かりそうだと判断した彼は助け船を出す。

七夜「ふむ。せっかくの機会だ。俺がお前達の着る服の生地を選んでやろう」

翔鶴「え……?」

七夜の発言が予想外だったか。翔鶴の目が丸くなる。

七夜「なに、服を作ってもらうお礼さ。生地選び、難航しているんだろ?」

翔鶴「ですが……。いえ、そうですね。たまには、良いかもしれません」

一瞬、難色を示す翔鶴だったが、彼が選んだ生地と言えば、一航戦と二航戦からは確実に不満は出ない。
そんな打算をしてしまった事を負い目に感じつつ、七夜の厚意に甘えてみる事に。

瑞鶴「えー。凄く不安なんだけど」

七夜「瑞鶴は裸で寝てろ」

瑞鶴「冗談! 冗談です!」

一方、瑞鶴はきっちりと不満の声をあげ、七夜に一蹴されていた。





七夜「こんなものだろう」

青年の生地選びは予想外な程、無難だった。

瑞鶴「……驚いた。アンタって案外見る目があるのね」

感嘆の息を瑞鶴が漏らす。
青年の行動は迅速かつ正確だった。

七夜「アイツらには世話になってるし、一緒に居る時間も長い。このくらいは訳ないさ」

主に一、二航戦によく絡まれているせいだが、空母寮に連れ込まれる事も多いため、彼は軽空母の面々とも仲が良い。
各々に似合いそうな生地を選ぶ事など、駆逐艦達に付き合う事に比べれば、造作もない。

翔鶴「本当に有り難うございます」

深々と礼をする翔鶴。

七夜「気にするな。俺も完成を楽しみにしている内の一人だからな。安い駄賃だ」

礼など必要ないと片手振る七夜。

翔鶴「いえ、荷物まで持って頂いて……」

彼のもう片方の手には先程買った大量の反物が入った袋があった。

七夜「怪我人に持たせる訳にはいかんだろ」

瑞鶴「やっさしー」

からかう瑞鶴に無言の手刀を振り下ろしつつ、翔鶴と歩調を合わせる七夜。

翔鶴「このお礼は必ず」

七夜「要らんよ。翔鶴は気にしすぎだ」

翔鶴「ですが……」

七夜「金も払ってもらった。俺のために服を作ってもらえる。これが借り。生地を選んだ。足の怪我の処置をした。これが貸し。丁度二つずつ打ち消しあって、お前が気にすることは何もない」

寧ろ、借りを返し切れてないと青年は笑み浮かべる。
しかし、翔鶴の曇った表情は晴れない。彼の言葉には、二人を助けたという事柄が含まれていない。

七夜「ま、どうしてもと言うなら、一つだけ頼まれてくれ」

翔鶴「は、はい!」

七夜「またここに来るときは誘ってくれないか?」

約束はしない方がいい。理解はしているが、翔鶴を納得させる為ならば仕方あるまい。

翔鶴「はい、もちろんです!」

瑞鶴「ちょっと。私を忘れないでよね」

七夜「なんだ、瑞鶴も着いてくるのか?」

まだ心残りはあるのだろうが、それでもこれ以上言っても七夜が迷惑するだけと考えたのだろう。
先程よりか幾分マシな表情で頷く翔鶴。
そして、そんな会話に混じってくる瑞鶴。

瑞鶴「あ、当たり前でしょ! 何か間違いがあったら困るじゃないの!」

七夜「……後学のために、間違いとは何なのかーー」

瑞鶴「言わないわよ!」

からかう七夜に真っ赤な顔で反論を。
そんな二人の様子に、翔鶴も漸く微笑みを浮かべた。

瑞鶴「私はアンタの事を誤解していたのかも知れない」

七夜「藪から棒にどうした」

出店で買ったばかりのクレープを食べながら、瑞鶴が言う。

瑞鶴「赤城さんや加賀さんから、アンタが悪人じゃないってのは何度も聞いた。空母の皆と仲良くしてる姿を見てると、確かにそう思えてくる」

瑞鶴「でも、それはきっと表面上だけの事で、心の中では悪い事を考えているって、そう思ってた」

瑞鶴「そう思わないとーーアンタが悪人じゃないと、翔鶴姉をあの時攻撃された憤りとか、翔鶴姉に庇われた自分の不甲斐なさの行き場がなかったの」

いつのまにかクレープを食べる手は止まっていた。
視線を腰かけた椅子の眼前にあるテーブルに落とし、彼女はぽつぽつと呟く。

瑞鶴「でも、今日一緒に居て分かった。アンタは私達に対して、一欠片の悪意すら持ってないって事が。いつだって、気の向くままに行動してる」

瑞鶴「ん、違うわね。貴方はいつだって、私達の事を考えながら行動している、が正解かな」

七夜本人に聞いた訳ではない。だが、彼を疑っていた瑞鶴は彼の行動をよく調べていた。
その調査によると、七夜が鎮守府の外に居る時は、決まって他の艦娘も出掛けているという事が分かった。

つまり、先程の争いに彼が登場したのも必然であり、用事を終えたという台詞もあながち嘘ではない。
彼は外に出掛けた艦娘を秘密裏に監視している。

七夜「……さて、なんのことやら」

瑞鶴「認めないのなら認めなくてもいい。けど、私が貴方を疑ってたのは事実。同行を頼んだのもそれが理由。だから、その……えと……ごめんなさい!」

それはきっと、業務やら指揮やらで鎮守府から離れられない提督に頼まれた事。
だが、やるかどうかは七夜自身の判断に委ねた事だろう。
そこに彼の優しさが垣間見える。

七夜「謝る必要はない」

瑞鶴「え……?」

七夜「悪意の塊の俺に、謝る必要はないと言った」

意味が分からなくて顔を上げる。気づけば、目前に七夜の顔があった。

瑞鶴「なっ!? な、ななな……!」

驚きのあまり手の中でクレープが弾けた気がした。

七夜「なあ、瑞鶴。俺が何の打算もなく動くと本当に思っているのか?」

瑞鶴「ど、どういう意味よ」

頬に手が添えられる。逃げようとする顔を固定され、視線は彼の瞳に吸い込まれるほかない。
彼に触られた事やら近い顔やらに瑞鶴の体温が上昇していく。

七夜「教えてやろうか、その身体に」

歪んだ笑みを浮かべる青年。頬に添えられた手がゆっくりと瑞鶴の顎に滑る。
彼女は唐突な七夜の行動に反応出来ない。

翔鶴「ーー何をしてらっしゃるんですか?」

瑞鶴「うわあ!? し、翔鶴姉ぇっ!? あ、えと……違うの! 目にゴミが入ったから見てもらってただけで。って、手がドロドロになってるうぅぅぅっ!」

そんな二人に掛けられる声。その存在に気づいていた七夜は、彼女に言われた直後、瑞鶴から手を離し、元の位置ーー瑞鶴の対面の席に深く座り直している。
一方の瑞鶴は弾けるように椅子から飛び上がり、しどろもどろになりつつも、自身の片手の惨状に今さらながら気づく。

瑞鶴「ごめん! 私も化粧室に行ってくるね!」

この場から逃げるには、それは好都合な理由だった。
二人に背を向けて走り出した瑞鶴は、一目散に突き進む。
心臓が先程から痛いくらいに早鐘打つのは、きっと急に走り出したからだと自分に言い聞かせながら。

翔鶴「あらあら。お邪魔でしたか?」

七夜「いや? ベストタイミングだったよ」

先程まで瑞鶴が座っていた席に座る翔鶴。

翔鶴「何のお話を?」

七夜「今まで悪人と疑って悪かったとさ」

翔鶴「あの子ったら……」

七夜の答えに微苦笑を浮かべる。
一つの事をいつまでも引きずるところは、姉である自分とよく似ていた。

七夜「ろくでなしに違いはない。謝る必要なぞ、微塵もないんだがな」

翔鶴「瑞鶴なりのけじめなんですよ。素直に受け取ってくださいな」

七夜「致し方なし。他でもない翔鶴の頼みとあらば、断ることはできんな」

翔鶴「もう。七夜さんは意地悪ですね」

いつものように軽口叩く七夜と頬を軽く膨らませて拗ねる翔鶴。

七夜「後は帰るだけでいいのか?」

せっかくの休暇だと言うのに、呉服屋を出た後は少しばかりうろついただけ。
満喫したとは到底言えない。

翔鶴「ええ。すぐに作業に取り掛かりたいですから」

だが、翔鶴の熱意は既に服作りに向いていた。
ならば、それ以上口を挟む気は彼にはない。

七夜「そうか。なら、帰りもしっかりとエスコートさせて貰うよ」

翔鶴「ふふ。お願いします」

やがて戻ってきた瑞鶴。三人は談笑交わしつつ、鎮守府に帰って行った。

五航戦編おしまい

>>1に呉服屋の知識はありません。一応、調べはしましたが、変な点があったらすみません
なんとなく翔鶴は自分で作ってそうだなって思ったらこんなシナリオになっていました

お次は今度こそ陽炎型。一先ず、初期四人組を消化してから他の子をどうするか考えましょう

それでは、また次回。毎回乙コメ感謝ですー

・七夜と四人の陽炎型

陽炎「デートに行くわよ!」

七夜「……今日の相手はお前らか」

不知火「そうです。時間が惜しいので手早く用意をお願いします」

黒潮「朝っぱらから堪忍な。うちの姉二人がえらい張り切ってもうて」

七夜の部屋の扉が勢いよく開かれる。この展開にも慣れてきたなと胸中で呟きつつ、闖入者に視線を向ける。

雪風「雪風もお供します!」

七夜「四人と一人じゃデートにならんだろ」

陽炎「なによ、不満なの? 五航戦とはデートしたのに?」

七夜の反論にあからさまに不機嫌になる陽炎。勝ち気すぎるのも問題である。

七夜「あれはそういうものじゃないんだが……。まあ、いい」

黒潮「あ、うちは見てるだけでええから。あんさんは三人の相手したってや」

七夜「分かった分かった。とりあえず、部屋から出ていけ。着替えられん」

とりあえず、少女達に見られたままでは準備すらままならない。
七夜は四人を追い払うように手を振りつつ、のんびりと立ち上がった。





七夜「で、最初はどれに乗るんだ?」

陽炎「最初はやっぱりジェットコースターでしょ!」

雪風が偶々福引きで当てたという遊園地の入場券。
丁度、券は四人分だったので、最初は彼女達だけで来るつもりだったらしい。
だが、幾ら駆逐艦の中で大人びている子が多い陽炎型とは言え、見た目は子供と変わらない。

外出許可を提督に求めた際の条件が、保護者として七夜も連れていく事だった。
彼女達に拉致られた青年は自腹で遊園地の門を潜っている。ツイてないとぼやきながら。

雪風「うう、違和感が凄いですうぅぅ」

不知火「慣れなさい。鎮守府の外に出るのにあの格好はいけません」

雪風の衣服は陽炎達と同じ制服。
外出の際はいつも姉妹の制服を借りているのだが、中々慣れるものではないらしい。

黒潮「乗るものは良いとして、どう分かれるかが問題やな」

今から乗るジェットコースターは一つのコースターにつき二人ずつしか乗れない。
故に青年の隣に座れるのは、たったの一人。

雪風「じゃんけんで決めましょう」

不知火「却下」

雪風の提案は一蹴される。

雪風「なんでですかあーっ!」

陽炎「アンタの幸運に勝てる気がしないからよ!」

乗り物の前で三人の口論が繰り広げられる。
案内役の係りの人が困惑した表情で青年に視線を向けた。

七夜「……本人の意向は無視なんだな」

黒潮「あはは……。迷惑かけてすまんなあ……」

このままでは周囲の迷惑となる。青年は気怠そうに呟くと、苦笑する黒潮連れて渦中へ。
七夜の提示した折衷案に、彼女達は渋々頷いた。

・ジェットコースター

陽炎「ふふん。ネームシップだから当然よね」

七夜の隣で勝ち誇った笑み浮かべる陽炎。
アトラクション一つごとに、一人ずつ相手をする。それが七夜の出した案。
順番でまた争わないようにと、一番艦から相手をする事となった。

七夜「あまりはしゃぎすぎるなよ」

陽炎「善処するわ」

動き出すジェットコースター。高度を徐々に上げていく。
その中途で陽炎は気づいた。

陽炎(あれ? 落下の時の勢いで抱きつこうと思ってたんだけど、これ無理じゃないかしら)

陽炎の身体は安全装置でしっかりと固定されている。伸ばす事が出来るのは、精々手が限界である。
しかも、今更繋いでくれ等言えるはずもない上に手を繋ぐ理由もない。

我先にジェットコースターを勧めた人物が、そのアトラクションを恐れるなどないに等しい。完全に自分の行動が裏目となった瞬間だった。

雪風「わあ、とっても高いです!」

黒潮「そらそうやろ」

陽炎の後ろでは、呑気に雪風がはしゃいでいる。

陽炎「仕方ない。こうなったら、私もとことん楽しんでやるんだからっ!」

そんな雪風を見てると、少しだけ朗らかな気分になる。
考えていた事は実行に移せそうにない。ならば、今はこのジェットコースターを心行くまで楽しむのが一番だろうか。

吹っ切れた笑顔浮かべる少女を、青年は隣から静かに見守っていた。

・バイキング

黒潮「絶叫系ばっかやな」

不知火「不知火に何か落ち度でも?」

雪風「これなら横並びでいけますね!」

陽炎「なんで私が一番外側なのよ!」

七夜を中心に、その両脇を不知火と雪風。その外側に黒潮と陽炎という配置。

七夜「調子に乗って落ちても知らんぞ」

黒潮「いや、洒落にならんからそれ」

雪風「雪風が居る限り、そんな心配要りません」

七夜「頼もしい事で」

ゆっくりと左右への振り幅大きくしていく海賊船。
彼らの位置する場所は一番振れ幅の多い端。最終的に、地面に対してほぼ直角となるそこは、絶叫好きには堪らない物だろう。

不知火「わー、怖いですー」

明らかな棒読みで七夜の腕を絡めとる不知火。

陽炎「ちょっ!」

陽炎が何か言いかけるも、風切音のせいで相当な声量でもなければ届きはしないか。

不知火「……ふっ」

そんな陽炎に勝者の笑みを。
どさくさに紛れて雪風も青年にくっついているのだが、視線を交錯させる彼女達は気付かなかった。

・お化け屋敷

黒潮「なんでこうなってもうたんや……」

痛む頭。隣には飄々としている青年。暗闇の中だと言うのに、明らかに背後から突き刺さる複数の視線。

七夜「不服か?」

黒潮「当たり前や!」

青年の問いに抗議の声を。

七夜「あの三人は何を考えているか分からんからな。人の目につきにくい場所は黒潮と居た方が落ち着くんだ」

黒潮「ぐぅっ……。そ、そんなん言われても、うち困るやん……」

天然なのか計算なのか。いつもと同じ調子なので、それを推し量る事はできない。
だが、直球として投げ込まれたそれは少女の鼓動を確かに加速させる。
お化け屋敷が暗くて良かったと、頬を紅く染めた少女は思うのであった。

七夜「しかしまあ、お化け屋敷と言う割りに何の仕掛けもないな。人の気配は感じるんだが」

青年を人力で脅かす事は気配が読まれるために不可能。
至るところに仕掛けられたトラップは、何故か青年が近くを通ると誤作動もしくは停止する。

黒潮「……幸運ってこんな所でも作用するんかいな」

これでは、ただ暗い道を青年と二人で歩いているだけである。
しかし、荒ぶりかけた胸中を穏やかにするなら、うってつけの状況だろう。

黒潮「うし。こんなツマランとこからはさっさとおさらばや。あんさん、走るで!」

呼吸を整える。入ってからそこそこ歩いているので、出口もそう遠くはないだろうか。
なら、もう少しだけこの状況を楽しもう。
少女は青年の手を取ると、出口に向かって駆け出した。

・巨大迷路(ミラー仕様)

雪風「うーん、次はこっちでしょうか」

七夜「試みとしては中々。相手が悪いとしか言いようがないね、これは」

分かれ道に到達するたびに、迷う素振りは見せるものの、彼女の足取りは止まらない。
鏡張りの迷路は、現在地の把握すら理解不能にさせる筈なのだが、雪風には全く通用しなかった。

雪風「あ、開けた所に出ましたよ!」

七夜「ふむ、七択か。ゴールは目前に思えるな」

雪風の示すままに歩いていくと、丸く切り取られた空間に辿り着いた。
中央まで進んでから周囲を見渡す。
彼らの行く手を遮るのは、一定の間隔ごとに設置された扉だった。

七夜「わざわざ、ご苦労な事で」

試しに一つ。その先に人の気配が全くしない扉を開けてみる。
だが、そこには通路も何もなく、ただ扉という名の板が、壁に張り付けられているだけだった。

雪風「全部開けたら良いだけなんですね」

七夜の行動を眺めていた雪風が近場の扉を開ける。

七夜「全部開けるまでもなかったな」

雪風が開いた扉の先には通路が続いていた。
今までの事を考えるのならば、間違いなく正解のルート。
その証拠に通路を少し歩くと出口が見えた。

雪風「雪風、任務完了です!」

七夜「ああ。よくやった」

出口潜り抜けた後、青年に向けて敬礼する少女。
だが、返ってきたのは簡素な称賛のみで。

雪風「あの、御褒美を貰っても……いいですか?」

七夜「……可能な事なら聞くが?」

雪風「そのですね……頭を撫でて欲しいのです!」

その程度の願いなら叶える事は容易い。
青年は少女の頭に手を置くと、優しく撫で始める。
幸せそうに笑う雪風。七夜は彼女が満足するまで、頭を撫で続けた。

その頃、残りの三人は迷路で散々に迷っていた。

・観覧車

陽炎「はー、遊んだ遊んだー!」

雪風「とても楽しかったです」

不知火「良い息抜きになりました」

夕陽を浴びるゴンドラが徐々に高度を上げる。

七夜「ま、有意義ではあったよ」

黒潮「そう言って貰えると助かるわ」

眼下の人波は既に米粒と変わらない大きさになっている。

陽炎「あ、海が見えるわ」

七夜「そう離れてはないからな」

五人で揃って水平線を眺める。
遊園地の位置が鎮守府から近いためか、海原は穏やかで平和そのもの。
深海棲艦と日々戦っているのが、どこか遠い世界の出来事にも思えてくる。

不知火「上から眺める海というのも中々なものですね」

雪風「この平和がいつまでも続きますように」

やがて天頂に差し掛かるゴンドラ。
雪風が両手を組み合わせ、目を閉じながら強く祈る。
それに合わせて、七夜を除く三人も手を合わせて祈り始めた。

七夜「…………」

青年は何も言わない。
第一艦隊の出撃の頻度が増しているという事実を知っていて、何も言わない。
少女達の無垢な祈りを邪魔する程、七夜は酔狂ではなかった。

黒潮「ありがとうな、今日付き合ってくれて」

黒潮が呟く。
祈る事を終えて、七夜に振り向いた少女が彼を見上げる。

七夜「なに、気にする程の物でもない」

陽炎「それでも、よ」

不知火「ええ。良い思い出になりました」

雪風「明日からまた頑張れます!」

四人の少女は笑う。
この一日を艦娘ではなく、ただの女の子として扱ってくれた青年に感謝しつつ。

いつの間にか近づいていた地表。
彼女達の一日が終わりを告げた。

陽炎型初期四人組編はこれにて終了でございます

雪風が思ってたより動かしにくかったぞ……。島風みたいな孤高の少女にした方が良かったかもしれない

さて、残りの陽炎型なんですが、ネタが全く思い浮かびません
四人消化して十人居るってどういう事ですかね。初風とか真面目にどうやって動かせばいいのか分かんないぞ☆

アイデアください(血涙)

では、また次回。三人くらい厨二にしても、構わんのだろう?

・七夜と陽炎型 その二

舞風「鼠と踊れ!」

野分「えっ……」

舞風「秒針を逆しまに誕生を逆しまに世界を逆しまに! 廻って踊って狂い咲けえぇぇぇっ!」

野分「舞……風……?」

秋雲「そういや、野分は来たばっかだから、まだ見たことないんだっけ」

時津風「突然発症するからねー。ちょっとうるさいけど、別に害もないから放置で良いんじゃないかなー」

初風「くっ、鎮まって! 三人目の貴女を解き放つ訳にはいかないの……!」

野分「……もしかして」

秋雲「あ、うん。お察しの通り、初風さんも染まってます」

時津風「そう言う秋雲も、言動には出さないけど、基本的にそっち系統の作品をよく手掛けているよねー。えーと、ダークファンダジーだっけ」

秋雲「まあね。なんというか、ありきたりな作品って、描いてる途中で飽きがくるんだよ。バイオレンスでハートフルな描写をどうしても入れたくなっちゃうの」

時津風「秋雲の作品、違う意味で18禁だもんねー。それでいて艦娘の皆にはウケが良いとか、才能だよー」

七夜「……男のモデルが誰かに酷似しているという点を除けば、俺も手放しで称賛したんだがな」

時津風(ウケが良い理由、そこにもあるんだけどねー)

舞風「あ、師匠! お疲れさま!」

野分「いつもの舞風に戻った」

時津風「いつから居たのー?」

七夜「鼠のくだりから」

初風「最初からじゃない!」

七夜「……お前は何人目の初風だ?」

初風「え? えっと……ひ、一人目……よ?」

野分「なにあれ」

秋雲「中途半端な厨二はアドリブに弱いんだよ」

時津風「恥ずかしいって感情が少しでもあるとねー、演じきれないんだってー」

舞風「ねえねえ、師匠! あたしの口上、どうだった?」

七夜「もう二度と聞きたくない」

舞風「ガーン! そんなあ。一生懸命考えたのにぃ」

秋雲「オリジナルだったの、あれ。凄いどこかで聞き覚えがあったんだけど」

舞風「んー、ついさっき閃いたんだよね。こう、ビビッてきたから言ってみたんだ」

野分「舞風がおかしくなったのかと思いました」

七夜「舞風がおかしいのはいつもの事だ」

初風「私が言うのもなんだけど、舞風も貴方にだけは言われたくないと思うわ」

時津風「でも、否定はしないんだねー」

初風「……そうね」

舞風「皆酷くない!?」

野分「大丈夫。舞風が狂っても、私がずっと味方で居てあげる」

舞風「野分……」

秋雲「狂った舞風に、ずっと味方で居るから、私の傍に戻ってきてと涙ながらに訴える野分。それを嘲笑う七夜さん。……閃いた!」

七夜「またそう言う立ち位置になるんだな、俺」

秋雲「野分の呼び掛けに一瞬だけ正気に戻る舞風。泣きながら野分に告げる。あたしの身体、隅々まで汚されちゃった。ごめんね、野分……」

時津風「完全にトリップしてるねー」

初風「はあ……。また原稿手伝う羽目になりそうね、これは」

舞風「自分が出てくる作品の手伝いって、普通に恥ずかしいんだけど」

七夜「その話題を、秋雲の作品全てに登場している俺に振るのか」

秋雲「毎回毎回、お手伝い感謝してますよ、ええ」

時津風「あ、おかえりー。考えは纏まった?」

秋雲「勿論。製作意欲がメラメラと沸き上がってきてるのさ」

舞風「あー、遂に秋雲に酷い事されちゃうのかー」

秋雲「人聞きの悪い事を言わない!」

初風「でも、酷い事はするのよね?」

秋雲「それが私の作品の色だからね。そこは譲れない」

時津風「そう言えば、駆逐艦が題材になるの初めてだっけー」

野分「そうなんです?」

秋雲「見た目が幼いのばっかだからね。陽炎型と夕雲型がギリギリセーフかな」

七夜「いや、巻雲と清霜は確実にアウトだろ」

初風「寧ろ、夕雲以外無理でしょ」

秋雲「ま、こんな感じで、道を外しても許されるラインが、駆逐艦って分かりにくいのよ。だから、今まで避けてたんだけどねえ」

舞風「陽炎型は身内だから良いか。とかそんなノリなんだろうなー、どうせ」

秋雲「さっすが駆逐艦の犠牲者第一号。よく分かってらっしゃる」

時津風「そして、駆逐艦初の購入者になるんだねー」

秋雲「んー、これって売っていいの? 駆逐艦の子にはまだ早いから売るなって、提督から言われてるんだけど」

七夜「製作過程を手伝ってるから、別に売っても構わんさ。見慣れてるだろうしな」

舞風「え、手伝うのにタダで貰えないの?」

初風「舞風、世の中そんなに甘くないわ」

舞風「あ」

時津風「あ?」

舞風「あんまりだあぁぁぁっ!」

野分「……着任する鎮守府、間違えたかなあ」

やだ、厨二って動かしやすい

初っぱなから、ダークファンダジーとかいう誤字をぶっぱなしてますが、脳内保管お願いします

陽炎型と七夜の絡ませ方のアイデアを募る。という意味だったのですが、言葉足らずで申し訳ありません
……飯マズ磯風のために、北上様プレゼンツの食べ歩きの旅? なるほど……その発想はなかった

残り五人の陽炎型。風、川原、男子高校生……うっ、頭が……

では、また次回。磯風は北上様プレゼンツに放り込んでも良いかもしれない

・七夜と陽炎型 その三

天津風「良い風が吹いてるわね」

浦風「ここ、屋内じゃけえ」

谷風「流れが宜しくないねえ。困った困った」

浜風「では、数字で縛ります」

磯風「む。やるな、浜風。そう簡単にあがらせては貰えんか」

七夜「……パスだ」

浦風「ななやん、まだ一枚も出せとらんの」

谷風「最下位には罰ゲームがあるからなー!」

七夜「初耳なんだが」

浜風「初めて言いましたから」

天津風「誰も出せないなら私がいくわよ」

磯風「甘いな、天津風。それは悪手だ」

谷風「かーっ! 磯風にあがられちまったぜー!」

天津風「くっ……。やらかしたわ!」

七夜「ちなみに罰ゲームは?」

浦風「昼御飯を作る事じゃな」

七夜「…………おい」

浜風「七夜さんの考えている様な事はありませんよ」

谷風「大富豪は運が凄く絡むからな! 仕方ないな!」

天津風「そうよ。磯風が一抜けしたのはただの偶然。いいわね?」

七夜「……まあ、いいさ」





七夜「男で料理が上手いなんてのは、ペンギンが空を飛ぶような物だよ」

磯風「ん。でも、普通に美味しいぞ」

浜風「そうですね。これはもっと誇って良いかと」

天津風「悪くはないわね」

七夜「世辞と受け取っておく」

浦風「自信持ちんさい。基礎はちゃんと抑えとるけえ」

谷風「そうだそうだ。この谷風も太鼓判を押すってんだから、素直に喜ぶべきよ」

七夜「谷風は料理が上手いのか?」

谷風「そりゃもちろん。料理なんてお茶の子さいさい。赤子の手を捻るより容易いね!」

磯風「谷風はこれでいて面倒見が中々良くてな。ノリの良さも相俟って、結構な駆逐艦の子から好かれてるんだぞ」

浦風「お調子者なのが、たまに瑕じゃがな」

谷風「それは言わないお約束ですぜー!」

天津風「料理の腕の話をするなら、浦風が一番かしらね。指示も的確だし」

浦風「いやいや、浜風も相当上手じゃろ」

浜風「浦風には負けますよ。陽炎型の厨房担当は貴女じゃないですか」

七夜「……そう言えば、駆逐艦の大半は、自分達の料理を自前で用意してるよな。間宮が居るってのに」

磯風「間宮は空母と戦艦に食わせる為に、朝早くから大量に仕込みをしていてな。鳳翔が手伝っているとはいえ、それはもう作業量が半端ないんだ」

谷風「それに、出撃や遠征のある子とない子で、飯を食う時間も違うんだな、これが」

浜風「谷風の言う様な、こちらの一方的な都合で、間宮さん達を振り回す訳にはいかないので」

天津風「負担を少しでも軽くするために、自前で料理を用意しようって決めたの」

浦風「駆逐艦は数が多いけんの。うちらのご飯を作る時間がどれ程の物かは分からんが、作業時間は確実に減るじゃろ」

七夜「殊勝な心掛けだな。とある空母の連中に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいに」

磯風「最近では、軽巡の人達も浦風に料理を教わりに来てるんだぞ」

浜風「なんで磯風が誇らしげなんですか」

谷風「空母や戦艦みたいな大喰らいでもないなら、自分で作った方が調節出来て便利なんだよなー」

天津風「軽巡も、そこまで食べる人は居ないわね」

七夜「……ま、あまり間宮に気を遣いすぎるなよ。アイツは無類の料理好きだ。仕事を奪い過ぎるのも、考えものだからな」

浦風「その点は心配無用じゃけん。うちらだって、料理が面倒な時もある」

磯風「間宮の料理を食べたくなる時もある」

谷風「甘味は別腹!」

浜風「やっぱり、間宮さんの腕前には敵いませんから」

七夜「言うまでもなかったか。ーーさて、午後からは何をするんだ?」

谷風「次は夕飯を作るという事を賭けてのバトルかー」

磯風「またトランプで良いんじゃないか?」

浜風「UNOもありますよ」

七夜「また運が絡む遊びか」

天津風「いやなの?」

浦風「大富豪、罰ゲーム関係なしに、ずっと最下位じゃったからな。難色を示すのは当然じゃろ」

七夜「いや、別に構わんよ。札遊びは嫌いじゃない」

谷風「うっし。そうと決まれば夜まで遊び倒すぜー!」

陽炎型編終了です
少ない更新で申し訳ないです

タタリの影響ってどうなんでしょうね。人の噂や恐怖と言った負の感情が形となるのなら、娯楽としてある同人誌はあまり影響がなさそうですが

提督に嫌われたくない!という感情から、全てを拒絶する深海提督が現れたりするのも、話的には面白そうではあります
もっとも、鎮守府全体にその噂が蔓延らないと具現化は難しそうですが

では、また次回。菊月編は書きやすいので、早めにお届けできるといいなあ

・七夜と菊月

闇に支配された鎮守府。その廊下を一人の少女が足音を殺して歩く。
時刻は既に丑三つ時。廊下は電灯が照らしているが、人の活気は微塵も感じ取れない。

静寂に包まれた鎮守府で活動しているのは、夜間哨戒中の艦娘と廊下を歩む少女くらいだろうか。
闇夜の中で、月明かりを反射する彼女の銀髪は目立つ。
寮から鎮守府への道のりを進む間、哨戒中の艦娘が放った夜偵に見つかりかけた時は、背中を冷や汗が伝った。

他の艦娘に見つかれば、確実に説教された上に寮に連れ戻されるだろう。
それは、とても困る。
親友すらも出し抜いたのだ。戦果を挙げずに撤退など、出来る筈もない。

菊月「ーーふう。とりあえず、ここまで来たな」

辿り着いた先は、元々倉庫だった部屋。
今は仮初めの居住区として、一人の青年が使用している。

少女はどこか緊張した面持ちで、扉に手をかける。
ここまで来たら、もう後戻りは出来ない。
極力音をたてずに扉を少し開く。廊下の明かりが部屋の中に射し込むと同時、身体を滑り込ませて扉を閉じる。

菊月(あとは、ベッドに潜り込むだけ。それで任務完了だ)

家具の配置は暗記している。
早まる鼓動を抑えつつ、寝具に向けて一歩踏み出す。
床が軋む音が少女の耳に確かに聞こえた。

七夜「いけない子だ」

呆れたような声は真後ろから。彼女の後ろに音も気配もなく、青年は存在していた。

菊月「ーーーー!?」

あまりの驚きで肩が跳ねる。漏れかけた悲鳴は、青年の手によって無理矢理抑えつけられた。

七夜「誰かと思えば、菊月か。こんな夜更けにどうかしたのか?」

混乱はしている様だが、もう悲鳴をあげる事はないだろう。
そう判断した青年は、彼女の口を解放する。

菊月「……驚いたよ。まだ起きてたのか」

七夜「不穏な気配を感じたからな」

予想外の出来事に、少しばかり乱れた呼吸を整える。その過程で胸中なんとか落ち着かせ、ベッドに腰掛けた青年に視線を向けた。

答える七夜は、いつの間にか抜いていた短刀を片手で弄んでいる。部屋着としている浴衣姿ではあるが、その短刀は肌身離さず持っているのだろう。
部屋への侵入者が部外者であった場合、その人物がどうなるか想像に難くない。

菊月「幼気な駆逐艦を捕まえて、不穏とは言ってくれる」

七夜「違ったか?」

菊月「いいや、違いない。友情より自己の欲求を選んだんだ。生粋のエゴイストの考えが、不穏でない筈がないだろう」

七夜「幼気な駆逐艦にしては、思考に可愛げがないな」

菊月「それはどうだろうか。私の頼みは、一端の少女らしく、可愛い物だと思うが」

幾ら窓がないとは言え、廊下からの明かりが扉の隙間から入ってきている。
暗闇に徐々に慣れてきた事も相俟って、少女の視線が青年の視線と交錯する。

七夜「で、その用件は?」

片頬吊り上げる歪な笑み。
言われる内容がどんなものか、幾つか候補として思い付いているのだろう。
そんな余裕感じさせる表情である。

案の定、菊月の発した願いは、彼の想像の範疇だった。





菊月「聞かないのか?」

青年の背中に問いかける。
先程までベッドの中には居たのだろう。シーツには確かな温もりが残っていた。

七夜「興味がない」

菊月「つれないな。せっかくの同衾だと言うのに、これでは情緒もへったくれもない」

七夜「営業時間外だ。窓口相談なら他を当たれ」

幾ら菊月が矮躯とは言え、そもそもが一人用の寝具。二人が横に並ぶのも精一杯である。

菊月「……そうかい。休息の邪魔をしたな、我が主。だが、ここに残る事だけは許してくれないか?」

少女に背中を向ける青年。
どことなく距離を感じるその態度に、少しばかりの寂しさを覚える。

七夜「今更出ていけとは言わないさ。……別に迷惑な訳でもないしな」

菊月「……ふふっ。それは良かったよ」

笑み溢しつつ、青年との空いた隙間を埋める。

七夜「……おい」

菊月「うん? どうかしたのか?」

七夜「寝返りを打てる程度のスペースが、そっちにはある筈だが?」

菊月「私はそこまで小さくないさ。それに、誰かと引っ付いていると安心出来るんだ」

菊月の言葉に七夜は言葉を飲み込む。
離れろと言えば、彼女は素直に離れるだろう。
だが、それを青年は決して口にはしない。

菊月「これでは子供と言われても仕方ないな」

笑う少女は自嘲気味。
我が儘を言っていると理解はしている。
何も言わない青年に甘えている事も理解している。

菊月「いや、計算して動いている分、子供より質が悪いか」

青年が何も言えない事を知って、振り回していると理解している。

七夜「そうだな」

菊月「なんだ、起きてたのか」

七夜「そう中途半端に引っ付かれては、寝返りも出来んからな」

菊月「なら、いっそこっちを向けば良いのではなかろうか」

七夜「うるせえよ」

菊月「ふっ。私が言えた事ではないが、我が主も中々に意固地だな」

返事はない。寝たのか無視したのか分からないが、どちらでも構わない。
暗闇の中、くっついた部分から確かに青年の温もりを感じた。

それだけで、少女は安心する。
紛れもなく、彼はここに居る。

菊月「ーー夢を見たんだ」

夢と言うには、それはあまりにも現実味を帯びていた。

菊月「夢の中で、見た事もない深海棲艦と我が主が戦っていた」

その結末、語るまでもない。
彼女にとって、その結果が良いものであったのなら、少女はここには来ていないのだから。

菊月「……不安なんだ。いつの日か、我が主が忽然と居なくなりそうで」

七夜「なら、約束だ。お前に別れを告げずに、俺は勝手に消えたりしない」

菊月「それは信じてもいいのか?」

七夜「口約束に過ぎないが、尽力するさ」

菊月「……そうか。なら、今はそれで満足しよう」

七夜「含みがある言い方だな」

菊月「気のせいだろう」

言いながら、姿勢を変える。
青年の背中に、自分の背中を預けつつ、彼女は目を瞑る。

菊月「何があっても私の傍に戻ってくる。くらいの甲斐性は欲しかったな」

小さく口の中で呟いた言葉。
いつか、彼の口から聞けたらいいなと考える頃には、先程までの不安はどこかに消え去っていた。

更新遅くなってすみませんでした!

教えてくれ、五飛。俺は後何回大型建造すれば、ビスマルクに会うことが出来る。MNBは何も答えてくれない

次回から戦艦編。余裕があれば他の艦娘も捩じ込みつつ

それでは、また次回。コメントありがとうございます。励みになります

・七夜と長門型

青年の姿が消える。一瞬で標的の背後に回った彼が見たのは、こちらを的確に捉えている砲身だった。

七夜「チッ……」

舌打ちと同時、砲塔が火を噴いた。
迫る砲弾は如何に演習弾とは言え、直撃すれば相応のダメージを生む。

かと言って、回避は出来ない。無理矢理回避行動に移れば、躱せない事もないだろうが、姿勢は確実に崩れる。
そうなれば、相手の放つ追撃が致命打になりかねない。

七夜「これは下手を打ったか」

元より二対一。しかも、相手はこの鎮守府で、その実力からトップに君臨する長門型。
一度解体された長門の練度は、既に前の時より高まっている。

その上、七夜の手の内は幾度も行われた演習により、二人には筒抜け。
苦笑気味に呟いた青年は、短刀を目前の砲弾に投擲する。

所詮、人の手から投げられた物。
砲身から放たれた砲弾の勢いに勝てる訳もなく、ぶつかり合った衝撃で爆ぜた砲弾が生み出した爆煙と爆風に青年は呑み込まれた。

陸奥「あらあら。私の出番はないの?」

観客からどよめきの声が漏れる。
三人の演習風景は既に娯楽の一つとして、艦娘達に浸透している。
今日も今日とて満員に近い観客席の艦娘達が、固唾を飲んで爆煙が晴れるのを見守っていた。

長門「ーーっ! 陸奥、上だ!」

長門が叫ぶ。それにつられて、陸奥と観客が視線を上げる。
だが、上空にあるのは先の爆風で吹き飛んでいた短刀だけだった。

七夜「寝てろ」

既に青年は短刀を足場に跳躍している。
纏う制服は先の攻撃で少々ボロボロになっているが、動き自体に問題はない。
空中から更なる跳躍を経た着地先は陸奥の目前。

長門「やらせん!」

砲撃では陸奥も巻き添えになる可能性がある。
故に振るわれるのは拳。
ほぼ全力で振り降ろされた拳は、大地に風穴を開けた。

七夜「良い勘をしている」

大振りな一撃だった為に回避は容易い。
長門もそれを分かっていながら、敢えて大振りにしたのだろう。
どうせ小振りであっても、この暗殺者は躱す。
ならば、派手な一撃な方が観客を楽しませる事が出来るのだから。

長門「お前が教えてくれたんだろう? 相手の気配を追うのではなく、殺意を読めと」

七夜「記憶にないな」

長門「言わなくても分かるさ。何度も拳を交えてるからな」

長門の拳を回避した先で、中空から落下してきた短刀を捉える。

七夜「それは困ったな。俺はまだ未熟でね。攻撃の際に、どうしても殺気が生まれてしまうんだ」

陸奥「私には全く分からないんだけど」

七夜「気づいてないのか?」

陸奥「何がよ」

七夜「……お前も成長してるって事だよ」

七夜の言葉に陸奥は首を傾げる。
長門は青年の言葉の意味に気付いているのか、小さく笑った。

七夜「さて、休憩はここまでだ」

長門「ああ。続きといこうか」

短刀構える青年と、砲身を七夜に向ける長門と陸奥。
次の一手を見逃すまいと観客席も静寂に包まれる。

一瞬の硬直の後、彼らは正面から激突した。





長門「勝利というのは最高のスパイスだな」

陸奥「ふふ。いつもよりご飯が美味しいわ」

七夜「……そうかい」

演習を終えて、食堂で昼食を取る三人。

青葉「七夜さんの無敗神話、遂に破れる! お二方、今のお気持ちをどうぞ!」

そこに絡む青葉。
彼女の質問に、長門は少しだけ思案する。

長門「……そうだな。今度は一対一で、やり合ってみたいものだ」

陸奥「一人でどこまで渡り合えるか、確かに興味があるわね」

七夜「勘弁してくれ」

どこまでも武人らしい長門の答えに同調する陸奥。
二人の様子に青年は、盛大に溜め息を吐いた。

青葉「おぉーっと、七夜さんにしては珍しく弱気な発言。十人を相手に完勝した事もあるというのに、どういう事なのか!」

衣笠「こーら、青葉。取材なんて今じゃなくても良いでしょ! 食事の邪魔をしない!」

青葉「あ、ちょ、待って! まだ聞きたい事があぁぁぁ」

青葉の声はその大きさから良く目立つ。
普通に食事をしている艦娘達が、彼女達に注目する程度には。
それを見かねた衣笠が、青葉を無理矢理引き剥がし、どこかへ連れ去っていった。

七夜「まるで嵐だな」

陸奥「とても、青葉らしいけどね」

長門「だがまあ、青葉の言う事も一理ある」

先程の青年の発言が気にかかったのか、食べる手を止めて箸を置く長門。
彼女の瞳に宿るのは、七夜に対する純粋な心配。

七夜「……何度やっても、お前達にはもう勝てないからだよ」

そんな視線を向けられる程、大層な理由ではない。
だが、それを話さなければ、長門は解放してくれないだろう。
青年は諦めたように、言葉を漏らす。

七夜「手の内を明かした暗殺者ほど、対処が簡単な物はない。それに殺意に対する勘の良さもある」

長門「だが、まだやれる筈だ」

七夜「俺の身体がもたんよ。今日ですらギリギリだったんだ。明日からこれ以上の被弾になると考えると、笑えないね」

長門「なら、演習弾を痛みのない物に……!」

陸奥「ーー長門。私達が何を言っても、七夜君の意志は覆らないわ」

長門「くっ……」

食い下がる長門の肩に手を乗せる陸奥。
尚も何か言いたげな長門だったが、陸奥の言葉と七夜の態度に押し黙る。
代わりに置いた箸を再び掴むと、一気に食事を平らげた。

長門「……少し頭を冷やしてくる」

そのまま立ち上がると、食器を返却しつつ食堂を立ち去っていった。

七夜「……悪いな」

陸奥「ん。いいのよ。七夜君の戦い方を知りすぎたのは事実だから。それに、最初に交わした約束は、元の練度までの演習に付き合うって物だったしね」

青年の視線が去り行く長門の背中から陸奥に移る。
言葉足らずな青年にとって、陸奥の仲裁は有り難かった。

陸奥「だから、その演習期間をサービスしてくれた七夜君には、感謝こそすれ糾弾なんて選択肢は有り得ないの」

七夜「俺も楽しかったからな。延長した事に後悔はないよ」

陸奥「それは良かったわ。……長門もね、七夜君の言葉の意味を分かってはいると思うの」

簡単な話だ。
一度解いた問題を再び出題された場合、一体どうなるか。

誰だって理解出来る。
それは容易く正しい解答へ導かれるだろう。

青年の技術が向上しない限り、彼らの演習は、同一の問題を解き続ける作業と変わらない。
そんな演習、やるだけ無駄である。
寧ろ、生温い演習に慣れる事によって、本物の戦場で気が緩む可能性すらある。

陸奥「後は時間が解決してくれると信じているわ。それじゃ、またね。今まで付き合ってくれて、ありがと♪」

食事を終えた陸奥が立ち上がり、七夜にウインク投げ掛けた後、食器を返却する。

七夜「頼れるお姉さんな事で」

お節介で面倒見が良い、長門よりも姉らしい陸奥の背中に向けて、青年は笑み浮かべながら小さく呟いた。

加賀「隣、良いかしら?」

長門「……ああ」

埠頭の先端に腰かける長門。
そんな彼女の背後から、声が掛けられた。

赤城「演習、見てましたよ」

加賀「念願の初勝利。おめでとう」

袴が汚れる事を厭わず、彼女達は長門の隣に座る。

長門「……なんでだろうな」

赤城「はい?」

長門「先程までとは違って、素直に喜べなくなった」

長門の独白は、淡々と続く。
風に当たってから、少しだけ時間が経っている。
冷静さを取り戻した思考は、七夜の言った意味を完全に理解していた。

長門「分かってしまったんだ。あの興奮と臨場感。強者と相見える緊張感を、私は勝利の代わりに喪ったのだと」

赤城「バトルジャンキー……」

加賀「……重症ね」

長門「酷い言い草だな。私を慰めに来たのではないのか?」

長門の思考回路を理解出来なかったか、一航戦の二人が表情を軽く引きつらせる。

加賀「慰め? ……いいえ。私達は貴女と彼の間で、どんな会話があったのかは知らないわ」

赤城「まあ、今の発言でだいたい分かりましたけど」

長門「……ふむ。ならば、他に用があったのか」

二人の発言に眉根寄せて、用件の候補を考える。
おそらく七夜関連であるのは確実だが、青年との絡みは長門よりも空母である一航戦の方が多い。

青年と顔を突き合わせるのは、それこそ演習の時くらいである。
少し考えてみたが、候補らしい候補は思い浮かばなかった。

加賀「ええ。聞きたかった事があるの」

赤城「七夜さんがここを襲撃した日、目覚めた貴女達と何を話したのか」

長門「……そういえばそんな事もあったな。いつか話すと言ったきりだったか」

それは既に、忘却の彼方に置いてきたもの。
だが、昨日の事の様に思い出せる出来事。

加賀「……どうせ忘れているとは思っていたけど、本当に忘れていたのね」

長門「すまんな。毎日が充実しすぎていたんだ」

赤城「まあまあ。話してくれるみたいですし、大人しく静聴しましょうよ」

無表情ながらも、若干の怒気孕む声音。
駆逐艦なら確実に戦きそうな雰囲気だが、ここに居る二人は慣れたもので。
もっとも、その充実した毎日の日課が失われつつあるのだが。

長門「アイツが来たのは、私が目覚めた直後だったな」

それでも過去を思い出すことで、少しでも心の整理がつけばと。
懐かしむ様に目を細めつつ、長門はあの日の事を振り返る。

~回想~

長門「っ、ここは……」

目を開けると見慣れた天井が視界に映った。
身体を包む独特な液体。
ここが入渠施設と把握すると同時、ここに運ばれた経緯を思い出す。

陸奥「あら、漸くお目覚め?」

長門「……陸奥か。身体は大丈夫なのか?」

見たところ、自身に外傷はない。
掠り傷くらいはあったかも知れないが、気絶している間に治ったのだろう。

陸奥「ええ。大した事はないわ。もっとも、安静にしておくようにとは言われたけど」

陸奥の言葉を聞きつつ、ゆっくりと立ち上がる。
艤装を無理矢理もっていかれただけで、身体に異常は見当たらない。
ならば、入渠施設をいつまでも占有しておく訳にはいかないだろう。

備え付けのバスタオルで身体を軽く拭く。
髪の水分も軽く飛ばし、いつもの服を身に付ける。

七夜「よう、お二人さん。気分はどうだ?」

直後、声を掛けられた。

長門「ーーっ!」

陸奥「なっーー!」

身を守る艤装は妖精達が検査中か、ここにはない。
しかも、陸奥に至っては入渠中。身体を腕で掻き抱き庇うのが限界である。

七夜「……ここでヤル気はないよ。それに、俺は話がしたいだけさ」

長門「……信用出来るとでも?」

七夜「してもらうしかないな。暗殺者という手前、契約主の部下とは極力仲良くしたいんだ」

明石に身体を診てもらったのだろう。半身を包帯で白く染め上げた青年が歪に笑う。

長門「契約主……だと?」

七夜「ああ。どうも、お人好しの御仁らしくてな。根無し草の俺を見過ごせないとの事だ」

陸奥「提督は何を考えてるのよ!」

提督の判断に頭を抱える陸奥。長門も何も言いはしないが、胸中穏やかではないらしい。

七夜「憤る気持ちも分かるが、まずは話を聞いてくれると助かるんだが」

長門「……言ってみろ」

陸奥「長門!?」

長門「どうせ、満足に抵抗出来る手段は今の私達にない。なら、ひとまず奴の機嫌を損なわない様に立ち回るしかないだろう」

七夜「それを聞こえる様に言うとは、アンタも大概だよな」

長門「ふん」

七夜「ま、まずは自己紹介だ。俺の名前は七夜志貴。アンタの練度が戻るまで、演習の相手をする道化役さ」

長門「……どういう意味だ?」

七夜「タダ飯食らいは性に合わない。やれる事はないかと聞けば、腕を見込んで頼まれた」

陸奥「演習に託つけて、長門を壊すつもりじゃ……!」

七夜「心配なら二対一でも構わんが」

陸奥「アンタ、私達を舐めてーー」

長門「で、演習の相手を買って出た本心は?」

憤慨する陸奥の言葉を長門が遮った。

七夜「アンタらが、この鎮守府で一番力を持っているから。アンタ達に認められたら、俺の存在に文句を言うやつは減るだろ?」

長門「……なるほどな」

七夜「それが、お人好しに対して出来る、精一杯の恩返しさ。……さて、話は終わりだ。お呼びじゃない存在は潔く消えるとしよう」

言い残し、青年はその場から立ち去る。
出てくるのも突然ではあったが、こうも自分勝手に振る舞う存在は、彼女が相対してきた中では初めて。
強烈な印象を植え付けるには充分だった。

陸奥「アイツと演習するって本気?」

長門「……奴は存外良い奴なのかも知れないぞ、陸奥」

青年の思考。
ただの人間を鎮守府に置くと言った提督が、糾弾されぬように演習にて他の艦娘達に力を見せつける。

長門の練度はあくまでも、おまけに過ぎない。
彼の本懐は、艦娘から雇い主への猜疑を避ける事にある。

長門「次の演習、本気の奴と戦う事になるのか」

それを楽しみにしてしまった時点で、長門の中から、七夜を鎮守府に置くことに対しての反対意見は消え去った。

長門「ふむ。やはり、大した事ではなかったな」

加賀の話と比べると、やはり見劣りするか。
長門はそう話を締め括る。

加賀「いえ。有意義な時間でした」

陸奥「あの時は長門の熱意に負けたのよねー」

赤城「いつの間に!」

陸奥「長門が一人語りをしている途中からよ。ま、長門は最初から、七夜君の考えを見抜いてたからねえ」

長門「何が言いたい?」

陸奥「今回の事も、もう理解してるんでしょ?」

長門「……そうだな」

理解と納得は別。それに、本気の青年と対峙したから分かる。
彼にはまだ余力がある。

陸奥「ダメよ、長門。私達がしてるのは、あくまでも演習。殺し合いじゃないわ」

その思考を読まれたか、厳しい口調で陸奥が言う。
彼の本気は味方に向けて良いものではない。

長門「……全く。私もまだまだだな」

なれば、青年の本気と戦えるように、精進するのみである。
幸い、高みを目指すライバルとして陸奥が居る。
それに、火力こそないが、青年の技を引き継ぐ川内型も居る。

彼との演習が出来なくても、上を目指したいという気力さえあれば、自分はまだ進めるだろう。

長門「丁度良いな、一航戦。私の修行に付き合ってくれ」

武の道を突き進むことで、そこに手が届くのであれば、彼女は決して諦めない。

なんとか年明けるまでに更新出来てほっとしてます

メルブラきたって、マジですか? やったぜ☆

次は先に扶桑型。伊勢型は話の構想が纏まらない

それでは、また次回。皆さん良いお年を

・七夜と扶桑型

扶桑「あら、奇遇ですね」

山城「げっ……」

七夜「出会い頭に随分な挨拶だな、山城」

鎮守府の中にある図書館。
元は資料室に過ぎなかった場所を拡張し、絵本を始め教育本や辞書、娯楽となる小説や漫画を取り揃えた施設。

静かな雰囲気や単に読者を好む者、知識を得る事を喜びとする艦娘達の存在により、無人となる事が殆どない図書館で、戦艦姉妹が青年と鉢合わせする。

山城「せっかく姉様と二人きりだったのに……」

七夜「……そうだな」

愛は盲目とはよく言ったもので。
図書館には静かに本を読む駆逐艦や軽巡、重巡の娘が居るのだが、彼女の視界には映らないらしい。

その視界に自分が映っている事に、どう反応すれば良いのか分からず、七夜はそっとしておくという選択を。

扶桑「七夜さんは、ここで何を?」

七夜「ただのお勉強さ」

扶桑「差し支えなければ見せてもらっても?」

七夜「ああ。構わんよ」

既に小脇に抱えている数冊の資料。
それを彼女達に見せる。
渡された資料に彼女達の表情が少しだけ曇った。

山城「これは、あの戦争の時の……」

扶桑「私達のデータですか」

七夜「ま、そこまで深くは見てないけどな。お前達みたいな例外も居る」

知識として重要なのは、武装の射程距離と船速、艦種ごとの特徴くらいで。
そもそも、人の形となった艦娘に、昔の資料がどこまで役に立つかは不明である。

山城「……例外って」

山城が露骨に顔をしかめる。

七夜「扶桑型は航空戦艦への改装の案は出ていただけだ。航空戦艦のお前達を例外と言わずして、なんと言う?」

扶桑「そうですね……。私達は色々と不安定な艦でしたから」

戦場に居る方が珍しい戦艦。
欠陥戦艦。
戦争当時の彼女達はそう揶揄される。それは苦い記憶でしかないだろう。

七夜「だが、今となっては互いに改二改装済み。火力は長門型に匹敵する上に軽空母並みの航空機を運用すると来たものだ」

山城「厳密に言えば、瑞雲は水上爆撃機よ」

七夜「一介の学生に違いなんて物は分からんよ。調べて初めて空母の艦載機の種類が複数ある事を知った質でね」

こんな世界に放り込まれなければ、興味が欠片すらなかった事。
勉学は好きではない。
だが、自分の知識欲を満たす事は好きだった。

七夜「ついでだ。お前達の性能も教えてもらおうか。生憎、生きた資料に敵う物はないのでね」

山城「……っ」

扶桑「え、ええ……」

まさしくやぶ蛇。
七夜の知識欲は貪欲である。
こうなってしまえば、その欲を満たすまで逃げることは出来ない。

特に歴史的資料が全くない扶桑型改二である。
蜘蛛の巣に引っ掛かった獲物を見るように、歪に笑う七夜の姿に二人の身体を悪寒が走る。

七夜「ああ、それともう一つ」

その前に、と。
ふと思い出した青年は言葉を重ねる。

扶桑「はい?」

七夜「軍事機密を保管している部屋の入室を許可してくれる様に、ジジイに口添えしてくれないか?」

扶桑「……それは」

山城「言った所で許可されないわよ」

図書館の中にある堅く閉ざされた扉。
そこの開放を求める青年の言葉に彼女達は難色を示す。

幾ら鎮守府に欠かせぬ存在になっているとは言え、青年は所詮部外者である。
そこには、今までの大規模な作戦を纏めた報告書の原本や、それこそ艦娘の改装の為の情報もある。

七夜「いや。ジジイなら許可してくれるさ」

事も無げに言う青年。
許可がなければ、どうせ忍び込む。
下手をすると栄倉行きだが、人の気配を読む彼が下手を打つ事はない。

扶桑「……はあ」

彼の真意を読み取ったのか、深々と溜め息を吐く。

山城「面白い物は別にないと思うんだけど」

七夜「言ったろ。ただのお勉強だと。敵の事も知りたいだけだ」

山城「じゃあ、次一緒に出撃する? 沢山、見せてあげるわよ?」

七夜「雑魚に興味はない」

一蹴である。
何度か戦火を交えてはいるが、彼にとって集団の敵を散々に荒らすのは児戯に等しい。
お遊びに興じるくらいなら、文献を読み漁っていた方が建設的だろうか。

扶桑「雑魚って……」

扶桑が苦笑する。
その雑魚と彼女達は、ほぼ毎日戦いを繰り広げているのだが。

七夜「事実だろ。お前達の練度なら、あれくらいじゃ相手にならない。……だからこそ、腑に落ちないのだが」

鎮守府近海に際限なく現れる敵。
それをいつまでも放置する大本営。
おかしな話だ。
まるで、この鎮守府だけが、一夜の夢に囚われた様なーーそんな感覚。

七夜「……まさかな」

いつまでも消えない自分。
思い当たるのは一つの可能性。

扶桑「どうかしましたか?」

七夜「……いいや?」

突如黙りこむ七夜の顔を扶桑が覗きこむ。
その後ろで山城が憮然とした表情を浮かべている。

四つの瞳に射貫かれた青年は、軽く肩を竦めた。

・七夜と伊勢型

伊勢「……」

日向「……」

対面で睨み合う少女が二人。
お互いその手に竹刀を握っている。

伊勢「ーーハァっ!」

踏み込みと同時に竹刀が閃く。
その横合いの一撃、勢いを容易く押し殺せそうにない。
ならば、それを敢えて活かすのも手段の一つとなるか。

日向「フンっ!」

伊勢「おわっ!?」

竹刀の軌道をずらす様に、下から軌跡に触れる。
そのまま軽く弾きつつ、身体を横にずらす。
伊勢の竹刀は日向の顔の横をスレスレで通り過ぎていった。

日向「まだまだ甘いな、伊勢」

そのまま片足を軸に反転。
体勢崩す伊勢が振り返ると同時、喉元に竹刀を突きつけた。

伊勢「……参りました」

伊勢が眉根を下げると同時、屋内演習場に拍手が響いた。

伊勢「うげっ……」

日向「……居たのか」

七夜「ああ。良い見世物だったよ」

伊勢「嫌味にしか聞こえないんだけど」

日向「演習をするだけで、ここが満員になる奴に言われるのはな」

七夜「素直な賞賛なんだが」

青年の姿を確認し、露骨に顔をしかめる伊勢と無表情ながらもどこか不機嫌そうな日向。

伊勢「それで? どうしてここに?」

七夜「ああ。別に用があった訳じゃないんだ。ただ、演習場から打ち合ってる音が聞こえたものでね」

日向「それに釣られたと」

七夜「まあ、そうなるな」

やる気が削がれたのか、二人は竹刀を元あった場所に仕舞う為に移動する。

七夜「剣には詳しいのか?」

伊勢「いいや。私達の剣は完全に我流だよ」

日向「使い道もないからな。帯刀してるとは言え、戦場では基本的に抜く暇もない」

二人の後を着いていく青年。
追い払った所で無駄と知ってる為に、青年の問いに暇潰し感覚で答える。

伊勢「水上爆撃機と主砲の両方を運用しないといけないからねー。刀の出番はないよ」

七夜「それでも帯刀してるのには、理由でもあるのか?」

日向「自害する為さ」

日向の言葉に七夜の歩みが止まった。

七夜「海軍の刀は、装飾品的な意味合いが強いと聞いたが?」

伊勢「へえ。調べたんだ。勤勉だねえ。けど、私達の刀は間違いなく銘刀の部類だよ」

日向「敵に鹵獲されるくらいなら死を選ぶ。暗殺者の君なら、気持ちは分かるだろう?」

竹刀を倉庫に仕舞い終えた二人。
元々、剣道というには型破れな試合。胴着は身に付けておらず、片付けは直ぐ様終了する。

七夜「言いたい事は分かる。だが、矜持がない」

伊勢「矜持……?」

七夜「俺にとっての七ツ夜は商売道具であり、己の誇りを乗せた物だ」

短刀をポケットから取り出すと、片手でその柄を弄ぶ。

日向「何が言いたい?」

七夜「お前達の刀は、切っ先を見失った、ただの世迷い刀に過ぎんよ。自害の為の武器? くだらない。死んだら誰も殺せないじゃないか」

伊勢「役目がないんだから仕方ないじゃない」

七夜「自分を殺すなんて、夢の中だけで十分なんだよ」

日向「……じゃあ、君がこの刀の活かし方を教えてくれ」

伊勢「ちょっと日向!?」

竹刀の代わりに装備した刀。
それを鞘から抜き放ちつつ、青年に向ける。

日向「伊勢はここまで言われて、我慢出来るのか?」

伊勢「それは……。けど、一応仲間だし、それに真剣を向けるなんて……」

日向「誰かを殺す為の刀を学ぶんだ。躊躇いは命取りになる」

七夜「……へえ? 覚悟だけは立派だな」

刃突きつけられても、青年の態度は変わらない。
日向の持っている刀で軽く一突きするだけで、七夜の身体は簡単に貫かれるだろう。
もっとも、既に抜き身の短刀を振るう方がそれよりも速いが。

日向「なに。大和魂ってのに火が付いただけさ。自害よりも玉砕。確かに今の私は腑抜けだった」

伊勢「日向……」

日向「だが、それも今日で終わりだ。あれだけ言ったんだ。鍛練には付き合ってもらうぞ」

七夜「……やれやれ。眠れる獅子を起こしてしまったかね」

口調とは裏腹に後悔はない。
元より、伊勢の剣戟を冷静に見極めた目と肝の大きさは鍛え甲斐がありそうだと思っていたところだ。

伊勢「私もやる」

彼らの熱気にあてられて、負けず嫌いの本性に触れたか。
伊勢がそう言うまで、時間は掛からなかった。

・七夜と大和型

思うに。
それは異常な事ではあったのだろう。

大和「大和型戦艦、一番艦大和。着任致しました」

武蔵「待たせたようだな。大和型二番艦、武蔵。これより貴官の傘下に入る」

大和型を二連続で建造を成功させる。
その確率は一体如何程の物なのか。

提督「御苦労。扶桑、彼女達の案内を頼む」

扶桑「はい」

執務室にて二人を迎える提督。
その指示に従い、扶桑が彼女達を伴い部屋を出ようとする。

大和「その前に一つ宜しいでしょうか?」

それを大和が遮った。

提督「……なんじゃ?」

武蔵「そこに居る青年はーーなんだ?」

その問い掛けに、七夜の顔に歪な笑みが浮かんだ。

七夜「なんだ、とは挨拶だな。俺は何処にでも居る、ただの人間だよ」

一瞬で理解する。
この青年に言葉は通じても、話は通じないと。

大和「……提督。これは私達への試験か何かですか?」

大和の視線が提督に移る。
提督は困ったように頬を掻くだけだった。

提督「そう言う意図はないんじゃが……」

武蔵「こんな殺気を振り撒く奴を、よく隣に置いておけるな」

図太いのか鈍感なのか。
武蔵は小さく溜め息を吐く。
どうも、中々に可笑しな鎮守府に来てしまったらしい。

提督「これ。七夜よ、あまり威圧するでない。彼女達は仲間なんじゃよ」

七夜「いやいや。つい、な」

解体し甲斐がありそうだったから、と。
嗤った青年の雰囲気に、彼女達は気圧される。

扶桑「七夜さん?」

七夜「冗談さ冗談。真に受けないでくれ」

嗜める様な扶桑の視線に、先程までの雰囲気どこへやら。
薄笑いへと表情変える。

大和「貴方、本当に人間なんですか」

七夜「肩書きはな」

武蔵「振る舞いが超然としすぎて居るが」

七夜「鍛えたら誰でも到達出来る領域さ」

嘘は言っていない。
もっとも、七夜一族が滅ぶ事がなければ、自身の技能はもう少し高く、こんな性格破綻者ではなかっただろうが。

提督「七夜とばかり話しても仕方あるまい。一刻も早くこの鎮守府に馴染み、戦力となってくれる事を願っているぞい」

大和「はいっ!」

武蔵「期待は裏切らないさ」

このままでは青年と話すだけで、貴重な時間が過ぎていく。
故に提督がそれを遮ると、大和型の二人は綺麗な敬礼を返す。

それを見てから扶桑に目配せ。
その意図を把握し頷いた扶桑は、彼女達と共に執務室を出ていった。

提督「新入りを威嚇するのはやめて欲しいんじゃが」

それを見送り、提督が息を漏らしつつ呟く。

七夜「なら、俺をここに置かなければ良いだろう?」

提督「よく言うわい。知的好奇心が云々と言って、不意に現れたのは誰じゃったかのう」

七夜「……知らんな」

提督「秋月の腰を抜かし、清霜を半泣きにさせ、長波を敬語にさせたのは、誰じゃったかのう」

七夜「まだ根に持ってるのか。済んだ事に囚われていると、黄泉路に迷うぞ。老い先短い人生で、詰まらぬ事に煩悶を抱くなよ」

畳み掛ける提督に珍しく饒舌に。
負い目には感じているらしい。

提督「あの子らが戦場に出た後、お主の殺気に比べたら、深海棲艦は怖くないと言っていたぞ」

七夜「……そうか」

初戦闘故に幾ら敵が御し易くても、それと比べられるのは反応に困る。

提督「神出鬼没なせいで、陸では常に周囲に気を張らなければいけないが、海だとそれがなくて楽とも聞いた」

七夜「避けられているとは思っていた」

提督「……反省せい」

七夜「善処しよう」

青年が折れた。

提督「後、誰が老い先短いんじゃ? うん?」

ついでに地雷も踏み抜いた。

明けましておめでとうございます

新年初大型建造は扶桑姉様でした
ビスマルクの建造はいつになるのやら

次は金剛型。本当は伊勢型の次にぶちこむつもりだったけど、険悪な金剛をどう絡ませた物か考えてる間に大和型に浮気
まあ、暫く考えましょう

それでは、また次回

・七夜と金剛型

酒保から戦艦寮に向けて、一人の少女が路地を進む。
その腕の中に抱えられているのは、彼女の姉が喜びそうな紅茶の葉が入った缶。

榛名「ふふ。お姉さま、驚くだろうなあ」

金剛が不在等の理由で、どうしても出来ないという日を除き、一日に一度は必ず行われるティータイム。

姉妹の中で誰よりも几帳面な榛名は、お茶の葉やお茶請けのお菓子が少なくなると、こうして自主的に酒保を覗いては、それらを補充する役目を請け負っていた。

榛名「この茶葉で作る紅茶はどんな味がするのかな」

用事があって、執務室へと行った帰り。
寄り道する理由もなかったのだが、なんとなく酒保に寄った。

そこで見つけたのは、今までに見た事のない紅茶の葉で。
つい、衝動的に買ってしまった。

缶に書かれている淹れ方や飲み方。
ほぼ毎日ティータイムを開催しているとは言え、新しい葉から淹れる紅茶の味は想像出来ない。

だが、姉である金剛の淹れる紅茶は美味しい。失敗はないだろう。
故に今日のティータイムも楽しみだと、朗らかな気分で足を進め、

七夜「おや。いつもより雰囲気が愛らしいな、榛名」

会いたくない人間と出会ってしまった。

榛名「……何か御用事でしょうか?」

先程までの浮かれた気分はどこへやら。
足を止めて、青年に向き直る。

七夜「これはまた辛辣で。……いや、相手をしてくれるだけ、まだ幸運と言えるかな?」

彼の言う通り、金剛型の残り三姉妹は七夜を視界に入れても、基本的に居ない存在として扱う。
有り体に言えば、無視する。

榛名「用事がないのであれば、私も帰る途中ですので」

七夜「つれないねえ。俺はこんなにも君達と仲良くしたいって言うのに」

榛名「……どの口が」

彼が姉にした事は到底許せる事ではない。
口調の端々に怒気が宿った。

七夜「怖い怖い。榛名だけは俺の味方だと思っていたんだがな」

榛名「勘違いしないでください。私は貴方がここに居る事を認めただけで、味方になったつもりはありません」

七夜「……ふむ。姉妹の中で一番御し易く見えたが、芯が強くて中々どうして面白い。やはり、人の内面は外からじゃ分からんな」

榛名「バカにしてるんですか?」

七夜「いや、褒めてるんだよ。ああ、褒めついでにもう一つ」

と、そこで言葉を切る青年。
視線は戦艦寮のある方へ。
何を言うつもりだったのだろうと、小首傾げる榛名の耳にその声が届いた。

金剛「榛名ー! 今日のティータイム、始める……ネ……」

離れた位置からこちらに小走りで向かいつつ、榛名に呼び掛ける金剛。
だが、その瞳が榛名の隣に立つ人物を映すと、途端に色を変えた。

金剛「榛名から離れなサイ!」

榛名と七夜の間に割って入る。
その瞳に宿るのは敵意。

七夜「話すのはあの日以来だな、金剛」

金剛「気安く名前を呼ばないで欲しいネ。虫酸が走るヨ」

七夜「嫌われたものだ」

金剛「自分の胸に手を当てたら、原因が分かると思いマス」

剣呑な雰囲気。
榛名はそんな金剛の服の袖を軽く引っ張る。

榛名「あ、あの、お姉さま」

金剛「Oh! それは新商品デスカ?」

榛名「はい。酒保に入荷していたので」

金剛「Yes! せっかくなので、今日はその葉を使いまショウ!」

榛名に向き直る金剛は、七夜の存在を露骨に無視する。
それが、いつもの光景。
青年が何を言っても、取りつく島もない。

故に埋まらない溝はそのまま。
それに難色を示しているのは、提督や他の戦艦組だけでなく、彼自身も同じで。

金剛「善は急げデース! 榛名、さっそく準備に取り掛かるヨ!」

榛名「は、はいっ。お姉さま!」

これからの事を考えて溜め息一つ。
気は向かない。
だが、それを利用しない手立てはない。
都合の良いことに、主催者が目の前に居るのだから。

七夜「そのお茶会、俺も邪魔させてもらおう」

金剛「……は?」

榛名「……え?」

七夜「来るもの拒まずを謳うなら、招かれざる客の席もあるんだろう?」

青年の言葉はいつも唐突で。
金剛と榛名を差し置いて、戦艦寮へと歩む七夜。

榛名「お姉さま、どうするんですか」

金剛「Shit! お前に飲ませる紅茶はねーデス! と言いたい所デスガ……比叡と霧島には我慢して貰うしかないネ」

榛名「私、先に事情を説明してきます!」

青年の横を抜けて榛名が戦艦寮に向けて走り出す。

金剛「このままではティータイムの空気が最悪になってしまうのデス」

自分だけなら我慢すれば良い。
だが、妹達にまで我慢はさせたくない。
ならば、どうするべきなのか。

金剛「今回ばかりは仕方ないネ」

お茶会を開けば、近くを通り掛かった艦娘達が様子を見に来る事はある。
それを利用するしかないだろう。人が増えれば、妹達が青年と関わらなくても済むのだから。

金剛「さて、宣伝に行きまショウ。アイツの事を話に出せば、食いつく娘も多い筈ネ」

それはとても癪に障る。
メインが紅茶から彼に変わるのだから。
だが、背に腹は変えられないのも事実。
金剛は心中で舌打ちすると、走り出した。

お世辞にもお茶会は雰囲気が良いとは言えなかった。

菊月「ふむ。紅茶とは粋な物だな」

七夜「その顔で言われてもな……」

菊月「何を言っている。私は素材そのものの味を楽しみたいだけだ」

青年の存在により、金剛達が嫌悪感を剥き出しにしているという理由が一つ。

七夜「……どうやら、砂糖とミルクを入れすぎたみたいでな。甘ったるくて飲めないから、交換してもらえないだろうか?」

菊月「し、仕方ないな。今回だけだからな!」

那珂「那珂ちゃんも一緒にお茶飲みたーい!」

川内「キッツいねー、これ。……やっぱり、誰にも取られたくないや」

青年目当てでやってきたものの、彼と菊月の間に入り込む余地が見当たらず、それに嫉妬心を露にしている艦娘が複数居るという理由が一つ。

島風「ちょ、赤城さんと加賀さん食べるのはっやーい!」

赤城「美味しいです!」

加賀「これは止まりません」

蒼龍「あの、駆逐艦の子達の分がなくなるので……」

飛龍「食べる事がメインになってるよ……」

お茶請けがすぐになくなる事に不満を持つ艦娘が居るという理由が一つ。

金剛「コラ! 赤城と加賀は自重するネ! ティータイムはあくまでも優雅に振る舞うべきデス!」

比叡「アイツのせいで、お姉様のティータイムが滅茶苦茶に……」

榛名「その本人は我関せず、ですか」

霧島「何のために参加したのやら」

太陽の下で、幾つかのテーブルに分かれてお茶を嗜む。
いつもは金剛達の部屋で行われるのだが、集客をメインとするなら外でした方が効率が良い。

暁「あ! 今日は外なんだ!」

響「хорошо」

雷「私達もお呼ばれしても良いかしら?」

電「なのです」

その効果もあってか、騒ぎや匂いに乗じて他の艦娘がやってくる。

金剛「Yes! 千客万来万人歓迎ネ!」

七夜「なら、紅茶のお代わりを頼む」

比叡「チッ……」

霧島「いつまで居るつもりで?」

彼女達の露骨すぎる態度に、青年の雰囲気が一瞬だけ変わった。

七夜「おいおい。俺を嫌うのは結構だが、それを表に出すのは頂けないな」

彼に言われて気づく。
数人の駆逐艦に怯えた目で見られているという事実に。

榛名「わ、私がそちらのテーブルに伺うので、それまで待っていてください」

そんな空気を払拭する為に、榛名が立ち上がる。
七夜は彼女の言葉を聞くと、大人しく元居た場所に戻っていった。

金剛「Sorryネ、榛名。私は暁達に紅茶を振る舞ってきマース」

比叡「ごめん。反省する」

霧島「私も冷静になります」

榛名「い、いえ。それでは、行って参ります」





榛名「お姉様みたいに美味しくは淹れられないけど、多分大丈夫……と思いたい」

紅茶の入ったティーポットを盆に乗せて運ぶ。
金剛にやり方を教わりはしたものの、専ら一人で何もかも準備する為に、自分で一から淹れたのは久し振りだった。

味が悪かったらどうしよう。
そう思う反面、他の艦娘ならともかく七夜相手なら別に失敗しても良いかなと、心のどこかで考えていた。

菊月「榛名さん」

そんな折、行く手を遮る様に立つ存在に呼び止められた。

榛名「菊月ちゃん?」

菊月「ああ。そうだ。私の為に、時間を少し割いて貰っても良いだろうか?」

榛名「でも……」

青年が紅茶を待っている。
あんなのでも、一応客人だ。
礼は尽くさねばならない。

菊月「その心配なら杞憂だ。我が主は、もうあの場に居ないからな」

榛名「……はい?」

菊月「簡単に言えば、逃げた」

曰く、川内型と空母組が七夜とのティータイムを賭けて争い始めたらしい。
渦中の青年はそれを止めるどころか、関わるのすら面倒と放置して何処かへ去ったとの事で。

榛名「結局、何がしたかったのでしょう?」

お茶会に参加したものの、彼は金剛達と積極的に関わろうとしなかった。
全くもって意図が読めない。

菊月「我が主の目的は榛名さん、貴女だよ」

榛名「……え?」

それは予想外な言葉。

菊月「とりあえず、私はこれを彼から渡す様に言われた」

榛名「……これは?」

菊月「それの名前はハツユキソウ。生憎、込められた意味は知らないがな」

盆に乗せられたのは一輪の白い花。
菊月の言葉が正しいのであれば、彼は自分にこれを渡す為にお茶会に参加したという事になる。

七夜『俺はこんなにも君達と仲良くしたいって言うのに』

彼の言葉が脳裏をよぎる。
果たして歩み寄らなかったのはどっちだったのか。

菊月「ああ、それともう一つ」

七夜『褒めついでにもう一つ』

菊月に青年の姿が被る。
それは彼が言うタイミングを逃した言葉。

菊月「改二改装、おめでとう。だそうだ」

ハツユキソウの花言葉、それは祝福。
七夜らしい粋な褒め方に、榛名は初めて笑みを漏らした。

二週間に一回更新となりつつある
お待たせして申し訳ないです

今週の金曜から冬イベですねー
野分のレベリングしつつ、備蓄しつつ自分のペースで頑張っていきましょう

次は天龍型の話になるかと。最初の方でやるって言って、ずっと放置してたし
それが終われば話を進める事にします
あまり艦娘を出しすぎると話が畳めなくなりそうなので。申し訳ない

それでは、また次回

・七夜と天龍型

それを目にしたのは偶然だった。
人間と艦娘が演習を行う。
そんな意味不明な出来事を偶々見学していただけの事。

噂には聞いていた。
人間の方が、十二の艦娘相手に互角に渡り合ったと言う事を。
だが、信じてはいなかった。

たかが人間なのだ。
兵器である艦娘とは根本的に攻撃面や防御面、身体能力が違う。しかも、演習という事はその身体能力を更に上昇させる艤装を、彼女達は身に付ける事になる。
それは紛れもなく、簡単には覆らない性能の差。

天龍「あれが人間の動きかよ……」

故に驚いた。
演習が始まった瞬間、青年は長門の首に短刀を突き付けていたから。

瞬きの暇すらなかった。
本当に一瞬。
殺されて初めて殺された事に気づく。
それが最高傑作と言われた七夜の当主の血を色濃く継いだ、七夜志貴の性能。

長門の隣に居た陸奥も動く事すら出来ていない。
寧ろ、何が起きたのかすら理解が追い付いていない。
当然だ。冷静に状況を判断出来る見学者ですら考える事を止めたのだ。当事者が混乱するのも分からない事もない。

天龍「……あれが才能って奴なのかね」

彼我の性能差を埋めた物。
彼女は知らない。
持って生まれた才能は確かにある。
だが、その技量をあそこまで高めたのは彼自身の努力に依るものだと。

天龍「ま、オレには関係のない話だ」

しかし、話はそう帰結する。
青年の動きは人間を超越していたが、それだけの事。
水上で自由に動けないのであれば、深海棲艦に対する秘密兵器にはならない。

そもそも、人間の力で太刀打ち出来るのであれば、艦娘の必要性はなくなる。
それはとても困る。
例え、駆逐艦にすら劣る性能だとしても、敵にも味方にも誇れる戦いをしたいし、死ぬのならば戦場で散りたい。

天龍「精々邪魔してくれるなよ、新入り」

言いながら演習場を後にする。
だが、その願いはすぐに打ち砕かれる事になった。

~数日後~

天龍「はあ? オレを前線から下げるってのかよ!」

納得がいかなくて、執務机に思いきり掌を叩きつける。

提督「お前さんでは、ちと力不足じゃ」

だが、目の前の提督は微塵も態度を変えない。

天龍「ふざけんな! 死ぬまでオレに戦わせろよ!」

提督「ならん。お前が沈むと士気が下がる上に他の艦娘達の儂に対する信頼が揺らぐ。一度でも誰かを沈めた提督を、一体誰が信用すると言うんじゃ?」

天龍「それはオレには関係」

提督「ーー何より龍田が悲しむ。儂は女の涙を見るのが嫌いでのぉ。更に言えば、泣くのを我慢して無理矢理取り繕った表情を見るのが一番嫌でな」

姉妹艦の名前を出されて言葉に詰まる。
艦船であった時も、彼女は妹である龍田より先に沈んでいる。

残された者の気持ちは分からない。
だが、想像は出来る。
自分より先に龍田が沈んだら。
それはきっと、身体が引き裂かれるよりも辛い。

天龍「……チッ。仕方ねえ」

提督「すまんの」

天龍「丁度良いから自分を鍛え直す事にするぜ。……ところで、オレの代わりに誰が前線に行くんだ?」

それは興味本位。
ここで言う前線とは第一艦隊の事ではなく、遠征含めて出撃や支援も行う第二から第四艦隊までの事で。
艦隊から一人抜けるのであれば、一人補充されるのが当然である。

提督「そこには山城を抜擢するつもりじゃ」

天龍「はあ? 主力の中の主力じゃねえか。オレの後釜にしては桁が違うだろ」

提督「だから言ったであろう。お前さんでは力不足だと」

天龍「戦艦と比べられるとは、オレの株も上がったもんだ。で? 第一艦隊に空いた一枠には誰が入るんだ?」

力不足と言われたが、少しだけ期待してしまう。

提督「伊号潜水艦の誰か、じゃな」

天龍「……は?」

だが、期待は直ぐ様落胆に変わった。
提督の言葉の意味が分からない。

提督「試しに七夜を海に出してみようと思ってな。行きは筏に乗せて誰かに曳航させれば良いが……」

青年が乗るのはただの筏。
深海棲艦の攻撃で破壊されたり、波に浚われる可能性もある。

提督「だから、潜水艦じゃ。出撃の度にびしょ濡れになるじゃろうが、そこは目を瞑ってもらうしかないの」

笑う提督とは裏腹に、心が冷えていく。
水上を走れない尻拭い、それに駆り出される潜水艦。その潜水艦が山城の居場所を奪い、そして山城が自分の場所を乗っ取った。

天龍「……んだよ、それ」

そんな詰まらない理由で前線から下げられたのか。
力不足等とそれらしい事をーー気にしている性能の事を指摘しておいて。

天龍「気に入らねえ。ああ、気に入らねえ。クソッタレが」

吐き捨てる。

提督「お前さんには悪いと」

天龍「ーーうるせえ!」

言い訳や謝罪は聞かないと提督に背中を向けて歩き出す。
そして、執務室の扉を蹴破る勢いで開けるとそのまま外に飛び出した。





天龍「はあ……」

苛立ち紛れに執務室を出たのは良い。だが、既に下された決定は今更覆りはしない。
波止場にある備え付けのベンチに深く腰掛けると天龍は溜め息を吐いた。

結局、物を言うのは生まれ持った性能。つまり、才能がない者が幾ら努力をした所で、天才には届かない。
既に痛感していた現実ではあるが、持ち前の気の強さで押し殺していた。

潮時だろうか。
そんな考えが頭を過る。
前線では確かに足手まといになりつつある。ここらで身を引くのが仲間の為にもなるし、何より自身のプライドを保つ事が出来る。
寧ろ、よくここまで付いていけた物だと自分を褒め称えたいくらいだ。

天龍「畜生……」

だが、認められない。
認めてしまえば、自分の今までの努力はなんだったのかという話になる。

山城「辛気臭い顔ね」

天龍「……お前に言われたかねーよ」

気付けば隣に山城が立っていた。

山城「生憎、私はこれが普通なの。そう見えたのはアンタの目が腐っているからよ」

天龍「ひでーな、オイ。お互い、元々の艦隊を追われた身じゃねーか。仲良くしようぜ」

山城「私は配属が変わっただけだから。それに彼に実力がなければ、元に戻れるわ。……もっとも、叶う事のない願望でしょうけど」

姉様と離れ離れなんて不幸だわと嘆く少女。
だが、天龍と違ってその表情に不満は窺えない。

天龍「お前は悔しくねーのか?」

山城「悔しい? なんで?」

天龍「なんでって……あんな才能の塊みたいな人間に居場所を奪われて、何も感じないのか?」

山城「……そう言う事。確かに何も知らないとそう見えるのかもね」

山城の表情が憂鬱気な物に変わる。
別に青年の事を想った訳ではなく、単純に説明するのが面倒なだけ。

天龍「……どういう意味だ?」

山城「私も扶桑姉様から聞いただけだから、所々あやふやだけど」

しかし、既に乗り掛かった船。説明する義務はなくとも、義理くらいはある。
そこには天龍の居場所を奪った罪悪感も少しくらいは含まれていたのだろう。

山城「七夜一族って、彼以外の生き残りが居ないみたいなのよ」

そして天龍は識った。
七夜の生い立ちとその強さの在り方を。





天龍「なあ、龍田」

龍田「な~にぃ?」

調べていたら判明した事だが、彼の人生には空白の期間しか存在しない。
一族を滅ぼされてから、七夜がどこで何をして、どうやって生き長らえたのか。
そう言った詳細が全く見つからなかったらしい。

だが、七夜一族がどう言う組織であるかを知っていると想像は出来る。
おそらく、人目のつかない所で自身の技術を磨いていたのではないだろうか、と。

例え、それが全くの見当違いであったとしても、その生き方は参考にはなった。

天龍「もし、オレが剣術だけで生きていくって言ったらどうする?」

龍田「私もそうするだけねえ」

龍田の返事は一瞬の迷いすらない。
それが、とても頼もしく感じた。

天龍「……聞かないのか?」

龍田「ふふっ。天龍ちゃんの考えている事ならお見通しよ~」

天龍「そうかよ」

ならば、皆まで言うまい。

龍田「私達は器用貧乏だから。天龍ちゃんの考え、私は好きよ?」

天龍「……マジでお見通しなんだな」

龍田「分かりやすいのよ」

天龍「じゃあ、今から演習に付き合ってくれねえか? いざと言うときに、身体が鈍ってちゃいけねえしよ」

一つの技術を研鑽し続ければ、ただの人間ですら高みに辿り着く。

確かに才能は少しくらいは必要だろう。
だが、彼が表舞台に出なかった十数年を練磨に使っていたとするならば。
今の青年は、自身が信じた努力の結晶と言う事になる。

それはとても励みになった。

天龍「さて、いっちょ達人クラスまで腕を磨くとするか」

龍田「うふふ。天龍ちゃんったら、楽しそう」

こうして彼女達は、器用貧乏から一転して、尖点特化の新たな道を歩む事になる。

天龍型と言うより天龍編だわ、これ

冬イベ始まりましたね。資源と時間を考えながら、身体を壊さないように頑張りましょう
私はゆーちゃんも好きですが、ろーちゃんの方がもっと好きです。褐色肌って魅力的ですよね。あ、武蔵さんは座っていてください

次から物語が進みます
大鯨掘りつつお話を考えましょう
それでは、また次回

・第一幕

海上を滑る様に駆け抜けるのは六人の少女。
空は曇天で月明かりもなく、既に闇に包まれた海上。少しでも離れてしまえば、お互いの位置すら掴めない。

長月「貧乏くじだな」

単縦陣で駆ける先頭。長月が言葉を漏らす。

如月「そんな事を言っちゃダメよ」

睦月「これも立派な仕事の内の一つだし」

弥生「敵の兵站を潰すのは、大事……です」

敵泊地に送られる補給物資。それを運ぶ敵補給艦の撃沈。
それが彼女達に課せられた任務。

卯月「さっさと終わらせて帰るぴょん」

菊月「そうだな。立ち塞がる敵は薙ぎ払うだけだ」

如何に旧式の駆逐艦と言えど、輸送艦に負ける事はない。
それは確かな少女達の自信。
そこに油断や慢心は一切なかった。

如月「そう言えば、こんな噂を知っているかしら?」

どこかが狂ったとするならば、始まりはこの如月の言葉からで。

睦月「なになにー?」

索敵を繰り返すも敵の反応はなし。いつどこで戦闘に入るか不明な為に、彼女達は気を抜く事が出来ない。このままでは会敵の前に遠からず疲弊してしまうだろう。

だからこそ、そんな張り詰めた空気を一度弛緩させる為に、如月が投じた一石。
少女達が飛び付くのも無理はない。

如月「人のする噂や不安といった負のイメージ。それを具現化してしまう怖い怖い存在が、この世の中には居るんだって」

睦月「きゃーっ!」

長月「……くだらん」

卯月「もしかして、怖いんだぴょん?」

弥生「そう言う卯月……は?」

卯月「うーちゃんに怖いものなんて、ないのでっす!」

途端に姦しくなる行軍。
所詮、如月の言った事はただの噂話。テレビで放送されるホラー映画の様な娯楽と似た様なものである。
故にそれは笑い話にしかならない。

菊月「…………」

一人の少女を除いては。

長月「……菊月?」

菊月「ああ、いや。なんでもないんだ」

如月「……大丈夫?」

菊月「気にするな。問題はない」

どうしてか、笑えなかった。
ここ最近の夢見が良くない事が関係しているのだろう。
如月の言葉をお伽噺として流せなかった。

青年が見たこともない深海棲艦に胸を貫かれている夢を見た。
初めてその夢を見た日は、居ても立ってもいられず、青年の安否を確認しにいったくらいだ。

菊月「不安を具現化、ね」

同じ夢を幾度となく繰り返し見た。
その度に不安が胸中に募る。だが、ずっと青年の傍に居る訳にもいかない。
だから、お守りとして明石に七ツ夜の開発を頼んだ。

菊月「……約束したからな」

それでも、と思わずにはいられない。
もしこの不安が形を為すのならーー

長月「お喋りはここまでのようだな」

睦月「敵艦発見にゃし!」

如月「うふふ。やっと出番ねぇ」

そんな思考を遮る様に、索敵の網に敵が引っ掛かった。
瞬間、緩んでいた空気が張り詰める。

卯月「敵艦隊補足だぴょん! 補給艦が四、護衛艦が二!」

長月「探照灯を照射する。艦隊、私に続け!」

弥生「弥生、砲雷撃戦……開始します」

拭えない不安は確かにあれど、戦闘時に余計な事を考えている暇はない。
幾ら鎮守府近海とは言え、早めに片をつけなければ、夜明けまでに海域の離脱は出来ないのだから。

菊月「……力を貸してくれ、我が主よ」

ポケットにある七ツ夜の柄を一度だけ強く握り締める。
自身の小さな掌では、持て余す大きさのそれは、どこか安心感を覚えて。

菊月「菊月、敵艦隊との交戦を開始する」

少女の雰囲気が変わる。
今は目の前の事に集中するだけ。

大丈夫。きっと数時間後には、皆で笑い合いながら帰投しているだろうから。

少ないですがここまで。話の展開に未だ悩んでますので、次の更新もそこまで早くはならないかと思われます

うちの天龍はレベル8です。香取と練習航海行かせるまである。任務に必須なのが中々に鬼畜

E4は丙で雲龍出るまで掘れば良かったと後悔しつつ。編成任務、天城じゃダメなんですか
まあ、春イベまでお預けです

それでは、また次回。有り難うございました

戦闘はあっさりと終わった。闇夜においての駆逐艦の強さは桁が違う。
敵の補給艦と護衛艦は、数時間も保たずして海の藻屑となった。
にも拘らず、

如月「一時の方向、水中から多数の駆動音!」

卯月「うそぴょん……」

弥生「照明弾、撃ちます!」

彼女達は未だに戦場に居た。
気付いたのは如月の装備したソナーが魚雷の接近する音を捉えてから漸く。
それは霞の様に突如として涌いて出た。

睦月「あわわわわ」

長月「クソッ。陣形を立て直せ! 艦隊、単縦陣!」

戦闘が終了し、一息吐いた瞬間の事だった。
虚を衝かれたのは言うまでもない。探照灯を消す暇もなかった事が更に拍車をかける。

菊月「長月、探照灯の光を落とせ。狙われ続けるぞ」

長月「だが」

浮き足立つ少女達が暗闇の中で個々に回避運動を取った場合、お互いに接触、もしくは艦隊から落伍するかもしれない。
その可能性を考えると、目印となる探照灯は消すに消せない。

睦月「あれは……」

如月「うふふ。……笑うしかないわねえ」

先に弥生の撃った照明弾が爆ぜる。
照らされたその付近。浮かび上がる敵を確認し、彼女達は顔を引き攣らせた。

弥生「レ級……こんな、鎮守府近海に……」

卯月「しかも、なんか真っ黒だぴょん!? これってヤバいかも!」

実際に相対した事はない。レ級の脅威を知る為に提督から資料を渡された事があるだけだ。
だが、目前の敵はその資料に載っていた容姿と酷似している。

自分達と変わらない少女の肢体、特徴的なフード、身体より大きな尻尾とおぼしき物。
違う点はただ一つ。衣服に覆われていない本来ならば白い部分が、まるで墨汁でもぶちまけたかの様に真っ黒である事くらいか。

菊月「長月!」

長月「っ。水上電探を持つ者と二人一組を組め! 協力して魚雷を回避した後、鎮守府に向けて全力離脱!」

強大な敵。
それが戦艦をも越える主砲を持つとなれば、探照灯を照射し続ける事は命取りとなる。

睦月「如月ちゃん!」

如月「ふふっ。宜しくね?」

弥生「……卯月」

卯月「うーちゃんの出番! 頑張るぴょん!」

それが分かっているからこそ、菊月の言葉と共に探照灯を消す。
優秀な姉妹達は自身の号令と共に直ぐ様行動を開始していた。
そして、再び闇の帳下りる海上。目が慣れるより先に、片手に温もりが。

菊月「舞踏の相手が姉妹とは」

長月「それはお互い様だろう?」

菊月「水上のステップは任せる」

長月「水面下のエスコートを頼んだぞ」

すぐ近くに砲弾が落ちたのか、盛大な水飛沫が上がる。
だが、命中していないのであれば気にする必要もない。
今は迫る雷撃を躱す事に専念するだけーー

長月「は……?」

菊月「っ! 長月!」

爆ぜたのは水上を明るく照らす砲弾。
そも、照明弾を敵が使えないという道理はない。
だが、予想外だった為に視界を焼かれてしまい、動きを止めてしまった。

致命的な隙だった。

菊月「ぐあぁぁぁっ!」

長月「き、菊月!?」

繋いでいた手、引っ張られた直後に離される。
長月と入れ替わる様に敵の射線上に出た菊月はレ級の砲撃により装甲を貫かれ、吹き飛んでいく。

長月「菊月!」

回復した視力。魚雷に構わず水上電探を頼りに菊月の方へ駆けようとし、

菊月「来るな」

止められた。

菊月「ふっ。派手に見えたが大した威力ではない。……丁度良い。私が殿を引き受ける。長月は皆を纏めて鎮守府に戻れ」

長月「こんな時に冗談を……」

駆逐艦一人で挑むにはあまりにも無謀な敵。
それは沈む事と相違ない。

菊月「……アイツをここで食い止める必要がある。これ以上、鎮守府に近付けさせる訳にはいかない」

長月「……だが」

菊月「話している時間はない。行け」

既に一刻の猶予もない。
魚雷の回避運動をしなければ、如何に小柄でも命中を許してしまう。

長月「…………。無事に戻ってこいよ」

それでも、何か出来ないかと思案を巡らせ、結局は菊月の想いを尊重する。

菊月「ああ。任せろ」

離脱する長月。その背中に言葉を掛けながら、菊月は自身に迫る雷跡に視線を向けた。

菊月「……身の丈に合わない事をしたな」

逃げ道を塞ぐ様に扇状に広がる魚雷群。
身体は既に先程の砲撃で半ば死に体。沈んでない事が奇跡と思える程度には艤装は損壊している。

菊月「どちらにせよ長月達の全力離脱には追い付けまい。これで良かったんだ」

どうせ足手纏い。
選択の余地などなかった。

菊月「さあ、せめて夜明けまでは付き合って貰うぞ。これが私の最期の舞台だ」

妖精達が艤装の応急修理を完了させると同時、回避運動を開始する。
速力は全力時の半分も出ていない。だが、それが逆に功を奏した。
無理な加速に身体を持っていかれる事もなく、要求通りの減速を含める事により、魚雷の合間を縫うように駆け抜ける。

菊月「貴様と踊るには些か力不足だが……。なに、死を賭すれば届くやもしれん」

レ級の姿は夜を保護色としている為に全くもって視界に映らない。
如何に夜目が良いと言えど、水上電探を装備していない菊月にレ級を見つけ出すのは困難であると言って良い。

それはレ級も同じらしく。次々と放たれる魚雷は統制雷撃ではなく、ひたすらに扇状。
たまに主砲が放たれる音が聞こえるが、その狙いは精彩を欠いている。

主砲の音を頼りに魚雷を撃ち込んではいるが、その効果の程は怪しい。
だが、反撃がある限り、レ級はこの場に留まって菊月と砲戦を交え続けるだろう。

菊月「勝負は夜明けと同時、か」

日が昇ればレ級は艦載機を放つ事が可能になる。
そうなると既に傷ついた菊月は一たまりもない。
逆に言えば、攻撃を避け続ける事が出来れば、太陽を拝めるだろう。

味方の援軍は期待出来ない。
奇跡なんてものは存在しないと、あの戦争で嫌という程分かっている。

それにーー

菊月「私が沈んだ所で代わりは幾らでも居るしな」

自虐的な呟き。
だが、ほんの少しだけ心が軽くなる。
全てを他の艦娘に押し付ける様で申し訳なくなるが、それでも覚悟は出来た。

菊月「菊月、いざーー参る」

夜明けまでは後僅か。
菊月は次発装填が完了した魚雷の数本をその腕に抱える。
そして、レ級の主砲が放たれる音を頼りに、そちらに向けて駆け出した。

ーー瞬間、足下の海面が文字通り口を開いた。

・幕間

伊168「そんな……」

伊168率いる潜水艦隊も鎮守府近海の夜間哨戒を行っていた。
偶々見つけた補給艦。護衛艦が重巡級だった為に補給艦をギリギリまで追尾し、その補給先にも大打撃を与えようと目論んでいた。

伊58「……どうするの?」

だが、補給相手を見て彼女達の表情は絶望に染まる。
我が目を疑い浮上した伊168についで、伊58、伊8、伊401も海面に顔を出す。

伊8「……飛行場姫、ですか」

伊401「真っ黒だけど、あの独特のフォルムは間違いないね」

巨大な泊地で一際存在放つ黒い少女。
その瞳が、こちらを捉えた。

伊168「ヤバッ! 急速潜航!」

思いの外、近付きすぎていたか。
飛行場姫が形容し難い雄叫びをあげると同時、泊地近海の敵全ての視線が突き刺さった。

伊58「ど、どうするでち!?」

それから逃れる様に海中へと潜りながら伊168に問う。猶予は少ないが逃げる前に攻撃すれば何隻か海の藻屑に出来るだろう。

伊8「嫌な予感がします……」

迷っている暇はない。

伊401「囮になろうか?」

伊168「……そうね」

伊58「イムヤっ!?」

伊58の悲痛な声。だが、伊168は動じない。

伊168「私達にはこの情報を持ち帰る義務があるの」

伊8「幾ら伊400型の性能が良くてもそれは……」

そこで初めて伊168は思案する。

伊168「ゴーヤ」

伊58「なんでちか?」

伊168「貴女はこの情報を鎮守府まで届けて」

伊58「イムヤ達は?」

伊168「私とはっちゃんは、しおいと一緒に囮の役目を引き受けるわ」

無線封鎖をしている状況。無線で流せば情報は確かに伝わるだろうが、他の深海棲艦を呼び寄せかねない。

伊8「敵を釘付けにして、鎮守府の主力艦隊が来るまで時間稼ぎする作戦ですね」

だからこそ、一人を先行させて情報を伝達する必要がある。
幸運艦と呼ばれる彼女なら、一人きりであっても、無事に鎮守府まで辿り着けるだろう。

伊401「むふー。三人なら心強いね。燃えてきたよーっ!」

あっけらかんと笑う少女が構えるのは幾多もの魚雷。

伊8「油断は禁物ですよ」

それに続く伊8も懐に仕舞っていた本から魚雷を召喚する。

伊168「潜水艦隊、雷撃の後に各個離散! 敵を散々に撹乱するわ!」

伊58「これが終わったら、皆で間宮でも行くでちね!」

号令と共に敵に向けて撃ち出される大量の魚雷。
その行く末見守る事なく、伊58は反転。他の三人も纏めて攻撃されない様に散らばる。

直後、飛行場姫から放たれた艦爆が彼女達に攻撃を開始した。





伊168「あーっ! 鬱陶しいわね!」

海の様子がおかしかった。
幾ら彼女達が人間に近い容姿をしているとは言え、基本的に海の生物は少女達を襲いはしない。

潜水艦の奏でる駆動音や深海棲艦の持つ独特な威圧感に関係すると言われているが、信憑性は微妙な所である。
そんな海の生物達が、どこからともなく現れて、伊168達に牙を剥いた。

伊8「魚雷にも限りがあるのに……」

如何に潜航中とは言え、対潜警戒されている時点で頭上に意識を向けざるを得ない。
そも、脅威を退ける為には敵の数を減らす必要がある。その役目を担う大事な魚雷を、たかだか鮫や鰐に使う事に対して躊躇いがあった。

伊401「というか、なんで日本の海に鰐が居るの!」

伊168「変異種か何かでしょ!」

伊8「黒光りしているし、目が光っているし……」

一時は離れ離れになっていた少女達だが、海の生物に追われる内に、いつの間にか合流を果たす。

伊401「海上に敵機艦爆! 来るよ!」

伊168「またこのタイミングで……!」

伊8「魚雷装填完了。進路を開きます」

彼女達の前方。三人纏めて飲み込もうと顎を開く巨大な鮫に魚雷が着弾する。

伊401「……やっぱり死体は残らない、か」

爆ぜる魚雷と一緒に黒い靄となって消えていく鮫。
それの横を通り抜けた瞬間、今まで少女達が居た場所で艦爆の投下した爆弾が爆発する。

伊168「このままじゃ……」

生み出された激流に抗う事なく流される。
その先には再び彼女達を狙う漆黒の海中生物。

伊8「やられるのは時間の問題ですね……」

浮上もままならず、小休止すら存在しない。
気力で押し殺しているが、既に無理のある航行で身体は疲弊気味。

これ以上の時間稼ぎは出来そうにない。
だが、今更逃げようにも既に三人は敵の手中にある。

伊401「私が時間を稼ぐから二人は逃げて」

故に確実に誰かを生き残らせる策はそれしかない。

伊168「そんな事……!」

伊401「大丈夫。気にしないで」

全てを理解している健気な少女に、伊168は二の句を告げる事が出来なくなる。
死地に残ると言い張る彼女に投げ掛けるには、言の葉はあまりにも軽すぎた。

伊8「……判断は委ねます」

似たような心境か。苦虫噛み潰した表情を浮かべる伊8。

伊401「あはは、心配しなくても私はちゃんと帰るよ」

それが虚勢である事は誰が見ても明らかで。
その内心震えているであろう彼女を抱き締めたくなる気持ちを戦意に繋げる。
ここで諦める訳にはいかない。

伊168「はっちゃん」

伊8「はい」

絶対に。

伊168「後、何隻倒せる?」

伊8「上手くいけば二隻ですね」

誰も。

伊168「じゃあ、五隻お願いね」

伊8「分かりました」

沈めやしない。

伊401「えっ?」

伊168「全ての魚雷をここで使い果たすわ!」

誰かを犠牲にした勝利は要らない。
自分達にはそれを成し遂げる為の力がある。

伊8「Feuer!」

既に夜は明け始めている。
白く染まりつつある水平線に巨大な水柱が何本も立ち上った。

伊168「逃げるわよ! しおい、露払い頼んだわ!」

伊8「私達では武器がなくて、目の前の怪物に太刀打ち出来ません」

伊401「え!? あ、了解!」

やはり、自分達の挙げた成果には目もくれずに反転。完全に夜が明ける前に海域からの離脱に掛かる。
伊401の手を二人でしっかりと握りながら。

そんな獲物を逃がすまいと襲い来る生物。一瞬だけ呆然としていた伊401だが、直ぐ様立ち並ぶ生物達に魚雷を放つ。
その彼女の表情はどこか嬉しげだった。

・第二幕

七夜「敵の姿が確認出来ない、ね」

提督「そうじゃ。あの子らが嘘を吐くとは思えないんじゃが……」

場所は執務室。
ボロボロになりながらも帰還した少女達から情報を聞くと、すぐに戦闘の起こった座標に提督は連合艦隊を差し向けた。

しかし、結果は空振り。
確かに鎮守府近海を徘徊する深海棲艦は居たが、彼女達の言う漆黒の敵はどこにも居ない。

暫くの間、周囲の警戒と索敵を第一艦隊に続けさせ、第二艦隊には菊月の捜索をさせていたが、いつまで経っても状況が変わらない為に、先程全ての作業を打ち切って、引き上げさせた所だった。

七夜「逃げた……訳ないか。そもそも、漆黒と言うのが引っ掛かるな。イムヤ達の書いた報告レポートはないのか?」

提督「睦月型の子らが書いた物もあるが」

七夜「両方見せてくれ」

提督から手渡された紙束に目を通す。
そこに書かれていた内容を頭に読み込みつつ、疑問を口にする。

七夜「レ級はともかく、飛行場姫には何か思い入れでもあるのか?」

一つの艦隊が一人に濃縮したレ級を恐れる事は理解出来る。
だが、飛行場姫は当時を知らない青年からすれば、恐れる理由がよく分からない。

提督「……出来れば二度と戦いたくない相手じゃな」

七夜「ふむ」

提督がそう言うのなら相当だろう。
もっとも、また戦いたい強敵が居るかどうか怪しいのだが。

提督「それがどうかしたのか?」

七夜「……ジジイはタタリって知ってるか?」

提督「祟り……? 呪いにまつわる話かの?」

七夜「それは一般的な祟りだろ。俺が言っているのは、人の負のイメージや悪い噂等を具現化させる現象としてのタタリさ」

提督「違いがよく分からんのう。老いぼれに理解出来るように話してくれんか」

七夜の言葉は、彼自身の世界の物。
困惑した提督は眉根を下げる。

七夜「なに、簡単な話さ」

そんな提督に向かって青年は口角吊り上げて嗤う。

七夜「飛行場姫やレ級を生み出したのは、アンタら自身という事だよ」





提督「つまり、儂らが深層心理で恐れている事すらも、そのタタリとやらが形にしてしまうと言うのか」

それは、にわかには信じられない事。
だが、艦娘と言った人智を越えた物が存在する世界。
そんな不思議な現象があっても、おかしくはないのかもしれない。

七夜「そうだな。そして、タタリは夜明けと同時に終わる。敵が消えた理由がこれだ」

提督「一夜だけの悪夢、なんじゃな」

七夜「……いや」

タタリの駆動式が未完成であっても、強い想いに反応すれば、それは現象として顕現する。
そして、そのタタリの影響力が最も大きくなるのが満月の夜。
惨劇に相応しい冷酷な月の光が降り注ぐ舞台で、役者達は鮮血を纏い踊る。

七夜「あれはあれで神出鬼没。死徒二十七祖の一角が巻き起こす殺戮の宴はこの程度では終わらんよ」

提督「……なん……じゃと……」

対策をすればする程、その想いに反応して強大になる敵。
その事実は、提督を絶望に染める。

提督「そこまで詳しいのなら、防ぎ方も知っているんじゃろう?」

故に目の前の青年に助けを求める。

七夜「タタリが観測された時点で、その発生は防げない。寧ろ、タタリに巻き込まれたにも拘わらず、犠牲が駆逐艦一人で済んだのは奇跡に近い」

提督「沈んだと考えるにはまだ早計じゃ」

反射的な返答。部下達が諦めない限り、それは認められない。

七夜「心意気は買う。だが、アンタだけはそれに囚われる事は許されない」

提督「じゃが……」

七夜「冷徹になれよ。元よりいつか起こり得る事と覚悟していた事だろう?」

七夜の言葉に少し逡巡した後に溜め息一つ。
感情論で動かない彼の発言は、動揺していた胸中によく響いた。
僅かに冷静さを取り戻した頭が、そんな折にふと思い出す。

提督「お主は辛くないのか? 菊月はお前さんに懐いていたじゃろ?」

七夜「……生憎、生き急ぐ身でね」

提督「立ち止まる処か、振り返る暇もなしとな?」

七夜「理解が早くて助かるよ」

薄ら笑いを貼り付けた表情から真意は読み取れない。
この微妙な距離感、未だ奥底を見せない彼に少しばかりもどかしさを覚える。

七夜「……む。どうやら客人の様だな」

そんな悩みを知ってか知らずか、七夜は扉にへと視線を向けた。

金剛「テートクっ!」

彼の言葉と同時、静寂に包まれていた執務室へと勢いよく飛び込む一つの影。
その後に続く、三人の少女達。

提督「何用じゃ?」

金剛「敵に飛行場姫が現れたと聞きましたネ」

比叡「アレは皆の大敵であり、私達の怨敵です」

榛名「ですので、提督」

霧島「是非とも私達に出撃命令を」

提督「ふむ」

四人の言いたい事は分かる。
だが、今回の事象は今までの様な作戦とは違う。
故に意見を求めようと七夜に視線を向ける。

七夜「言っただろ? 俺は言われた事をするだけで、上手くやるのはアンタの領分さ」

金剛「そうデース! そんなヤツの意見なんて聞く必要すらないデスネ!」

比叡「お姉さまの言う通りです!」

霧島「貴方の出る幕すらありません」

七夜「……やれやれ」

血気盛んな三人と対称的に青年は肩を竦めるだけ。
そんな彼を榛名だけは静かに見つめていた。

投稿量が少なくて申し訳ありません
エタる気は更々ないので遅くても一ヶ月に一回は更新します

四月は余裕が色々とないのがキツいですね。それでは、また次回

夜の闇が落ちた海。
海上を滑る12人の内、前方を走る6人が更に速度を上げた。

鳥海「それでは、行って参ります」

金剛「了解ネー!」

鳥海「三川艦隊、私に続いてください!」

彼女達の役目は散々に暴れて敵の目を惹き付ける事。
ソロモンで実際に活躍した彼女達にとって、まさしくうってつけの役割。

金剛「期待しているネ」

あっという間に闇の中へ姿を消した鳥海達。
後少し時間が経てば、激しい砲雷撃戦が始まるだろう。

比叡「お姉さま、私達も」

隣を駆ける比叡に言われ、後方を振り返る。

金剛「二人とも、準備はOKデスカ?」

武蔵「問題ない」

大和「私達も自分の役割を遂行するだけです」

金剛「Goodな返事デース! 貴女達にも期待してマース!」

声高に言い切った後で速度をあげる。
必然、高速戦艦の四人に速度で追い付けない大和型の二人。だが、問題はない。彼女達には足の遅さを存分に補える射程がある。

大和「武蔵、二人揃っての大一番よ」

武蔵「ああ。待ち望んでいたよ、この時を」

彼女達に搭載された最新鋭の電探が霞の如く現れた敵艦を捕捉する。
それは、ただの個にして一つの艦隊に匹敵する力を持つ存在。
そして、大和と武蔵が全力を出すに値する存在。

大和「第一主砲! 目標、戦艦レ級! 放てぇっ!」

轟音と共に放たれた砲弾が数秒の時を経てレ級に降り注ぐ。
電探頼りの砲撃だった為、効果の程は不明だが、少なくとも被弾はしたのだろう。レ級の行き足が明らかに落ちた。

武蔵「ふっ。敵も私達を所望の様だ」

既に金剛達と大和達の距離はかなり開いている。
にも拘わらず、反撃の砲弾は武蔵の傍に着弾した。
盛大に上がる水飛沫をその身に受けながら、武蔵は獰猛に笑う。

大和「そうね。すぐに終わらせて、金剛さん達の救援に行きましょう」

大和も華やかに笑う。
戦場で必要にされているという事が、そ彼女達にとって嬉しくて仕方がない。
だから、必ず報いてみせる。

大和の砲塔が再び火を噴いた。

霧島「金剛お姉さま」

金剛「Yes! 着いてきてくださいネー!」

大和型の砲弾を放つ轟音は離れていても耳にする事が出来る。
戦いの火蓋が落とされたとほぼ同時、四人の少女は目的地に辿り着く。

比叡「……敵影の中に」

榛名「飛行場姫が居ませんね……」

海に浮かぶ岩場と言っても過言ではない小さな小さな孤島。そこに陣取っている筈の飛行場姫の姿はない。
変わりにそこに立つのはダークグレーのコートを身に纏った一人の人物。

「ふむ……。二夜連続でこの姿は芸が無いな」

明らかに異常だった。
人にしか見えないソレが漆黒の深海棲艦部隊を率いている事が。

金剛「何者デスカ!」

「この身は混沌。善悪問わず呑み干す無限の杯(さかずき)。……即興の口上にしては及第点を貰えると嬉しいが?」

独特な言い回し。
誰かを彷彿とさせる口調。
榛名を除く三人に熱が灯った。

比叡「要は」

霧島「敵という」

金剛「事デスネ」

三人の砲塔が同時にその人物に向く。
まるで八つ当たり。溜まった鬱憤を晴らすには丁度良い的と彼女達は嗤う。

「未だ満月でもないと一つの不安を形にしか出来なくてね。その点、この身体は便利だ。呑み込みさえすれば、幾らでも創れるのだから」

比叡「何を意味の分からない事を!」

叫ぶと同時、対飛行場姫用の三式弾が放たれる。

金剛「比叡に負けてはーー」

榛名「いけません! お姉さま!」

それに続こうとして止められる。

霧島「榛名? どうしたの?」

榛名「正体も分からない敵に、限りある弾を撃つ事は出来ません」

比叡「けど」

「ーーゆけ」

ドスの利いた声が響いた瞬間だった。

金剛「っ! Crow!?」

榛名「お姉さま!」

一直線に闇夜を滑空する鳥。それを烏と考えたのは、その身が漆黒だったからで。
装甲を展開しながら金剛の前に立つ榛名。烏は真正面から榛名に激突し、黒い霞となって消えていった。

榛名「ぅぁ……」

金剛「榛名!」

比叡「どうして! 弾は命中した筈なのに!」

霧島「……いいえ、比叡お姉さま。あちらを」

衝撃に呻く榛名に駆け寄る金剛。焦る比叡。
霧島に言われ、孤島を見ると煙が晴れた先で風船の様に空中に浮かぶ存在が炎上していた。

比叡「浮遊要塞……!」

庇われたと理解し、ほぞを噛む。
しかし、分からない。
先程まで何処にも居なかった浮遊要塞が、どこから現れたのかと。

「中々に良い表情(かお)をする。必死に考え、活路を見出だそうとしている表情だ。その肝の据わりよう、先に見(まみ)えた少女達とは経験に差があるか」

霧島「一つお聞きしても?」

「構わない。艦の依り代と会話出来る機会など、早々巡りあえない故に物珍しさもある」

霧島「昨夜、駆逐艦が一人行方不明になりまして。その子の行方を知らないかと」

「……さて。私は知らんな」

霧島「そうですか」

「話は終わりかね?」

霧島「ええ。貴方にもう用はありません」

再び三式弾が孤島の上で弾け、榴弾か降り注ぐ。

「血の気の多い御仁だ。それでは、先程の疑問の答え合わせといこう」

コートの中から再び出現する浮遊要塞。それらが榴弾を身を呈して防ぐ。

金剛「まるで動くzooネ……」

「さあ。生を謳歌しろ。ここが貴様らの終焉だ」

そして遂に産み落とされる漆黒の飛行場姫。同時に漆黒の深海棲艦部隊も動き出す。

榛名「散りましょう。このままでは良い的です!」

金剛「榛名、私も一緒に行きマース!」

比叡「霧島、行くよ!」

霧島「はい、お姉さま。援護はお任せください!」

言葉少なに二手に。
どちらを狙うかと深海棲艦が固まった隙に主砲を放つ。
だが、黒い霞となった存在は、コートの人物の中に戻り、再び同じ深海棲艦となって現れた。

金剛「……厳しい戦いになりそうデスネ」

だからといって逃げる訳にはいかない。
皆戦っている。一つの戦線が崩壊すれば、他の皆が危ない。
彼女達の肩には八人の命運が掛かっているのだ。

榛名「大丈夫です、お姉さま」

根拠のない前向きな言葉。

金剛「……そうネ」

今はそれを信じるしか他なかった。

タタリmixネロとかいう口調が安定しないキャラが居るらしい
艦これイベントに時間を費やしてた結果、ギリギリの更新に。毎度毎度すみません

余裕のある時にちょくちょく書き溜めしつつ。それでは、また次回

金剛「次から次へと、キリがないネー!」

戦いの幕開けからどれ程の時間が過ぎただろうか。
体感的には数刻。おそらく、実際には然程過ぎてはいないのだろう。

榛名「お姉さま!」

幾ら攻撃しても粉微塵にする端から蘇る。飛行場姫も炎上すらせず、砕かれた部分から即座に修復される。
始めは隙を見つけては攻撃していた金剛達だが、今では弾の無駄と飛行場姫の居る位置から少し距離を取って自衛に専念していた。

だが、彼女達の力の源である艤装。自衛しているとは言え、撃ち漏らし等による攻撃の余波は勿論ある。それが徐々に装甲を蝕み始めていた。

金剛「Shit!」

如何に人の形をしているとは言え、在りし日の艦艇だった時と、ほぼ同じ速度を出せる少女達。だが、この場においてはそれが裏目となる。
すぐに止まれない上に急激な方向転換も出来ない。つまり、駆ける先に敵が現れた場合、自身の兵装を以てして敵を倒さねばならない。

榛名「大丈夫ですか、お姉さま!」

金剛「 No problem……と言いたい所デスガ」

幸いにして敵の強さは平凡と言っていい。そう言える程度には少女達はあの日から成長している。
問題と思われた飛行場姫の攻撃も、その足回りの良さに助けられ、直撃だけはしていない。
その代わり、海中から襲い来る生物や他の深海棲艦相手に砲塔はひっきりなしに火を噴いている。

榛名「……後、何体倒せますか?」

即ち、弾がない。
榛名の問い掛けに金剛は苦笑しながら首を振る。

榛名「比叡お姉さま達は……」

無線封鎖の関係上、あちらの様子は分からない。
だが、継続的に聞こえる砲撃の音から察する事は出来た。

金剛「榛名」

艦載機と烏達による空襲を必要最低限の対空砲火で迎撃し、後は戦艦特有の装甲で弾く。
圧倒的だった耐久力も度重なる被弾で少々心許ない。
追撃とばかりに襲い来る深海棲艦を主砲で牽制しつつ、榛名の隣へと滑る様に移動した金剛が彼女の名を呼んだ。
その瞳に宿る諦観混じった決意。

榛名「嫌です」

言われる事なんて簡単に想像がつく。だからこそ即答した。

金剛「Oh……。姉の最期の我が儘なのヨ」

榛名「それでも、です。お姉さまを残して撤退なんて出来ません」

残弾少ない金剛を囮に出来る訳がない。
意味のある轟沈なら、まだ良い。良くはないが次へと繋がる可能性がある。
だが、ここで沈むのは犬死にでしかない。相手は疲弊せず、こちらは戦力を失うのだから。
寧ろ、金剛が吸収されてしまえば相手の戦力は上がる事になる。

金剛「このままでは全滅してしまうネ」

しかし、金剛の言う事も尤もである。
榛名もそれは理解している。四人全員の残弾が尽きた時、獣達から身を守る術がなくなるという事を。

榛名「金剛お姉さまこそ、比叡お姉さまや霧島を連れて撤退してください」

敵の特性を彼から教わった為に知っていた。故に金剛達に比べて弾に余裕はある。
暫く沈黙を保っていた榛名の主砲が久し振りに火を噴いた。

金剛「榛名……貴女、もしかして……」

爆散する何か。だが、それよりも気になる事があった。
榛名の砲撃する頻度が明らかに少ない事は隣に居たからよく分かっている。

榛名「私達ではアレに勝てない事は話を聞いた段階で知ってました。黙っててごめんなさい、お姉さま。七夜さんから話を聞いたと知れば、お姉さま達は確実に突撃するでしょうから」

金剛「それは……」

否定出来ない。
七夜からお前達では勝てないと言われたら、ムキになっていただろう。それこそ、弾を全て撃ち尽くす程度には。

榛名「だから、ここは私が受け持ちます」

金剛「デスガ……」

勝てないと知りつつ、この場に残る彼女をどうしても放っておけない。
そんな心配すらお見通しか、榛名は笑顔を浮かべる。

榛名「大丈夫ですよ、お姉さま。私は勝てないとは言いましたが、負けるとも言ってませんよ」

金剛「え……?」

榛名「ですので、金剛お姉さまは早く比叡お姉さま達を連れて撤退を。弾が残っている間にお願いします」

それだけ言い残すと榛名は金剛をその場に置いて旋回する。
呆ける金剛を襲おうとする深海棲艦を撃ち払いつつ、一人で敵の中核へと突き進む。

榛名「貴方達の相手は私です!」

太股に装備していた探照灯に意志が伝わる。闇夜を切り裂く白光が海上を照らし出した。

「ほう。たった一人で私に挑むと言うのか。まるで王道。中々に悪くない脚本だ」

進路を塞ぐ深海棲艦や獣達を主砲の火力で無理矢理突破する。
飛行場姫の傍らに立つ人物の支配領域だからだろうか。明らかに肉声では届かない距離でも、愉しげな声が榛名の耳に届いた。

「だが、王道だからこそ覆す価値もある。貴様が散る事で、遺された者の絶望は甘美な香りを加速させ、更なる悲劇の連鎖となる」

榛名に答える余裕はない。
探照灯の効果により、榛名の姿は闇に浮き彫りとなっている。結果、乱雑に放たれていた砲火や空襲が全て集中する様に降り注ぐ。
致命傷となり得る攻撃だけを上手く見切って躱してはいるが、みるみるうちに榛名の損傷は拡大していった。

金剛「ダメ……榛名……」

そんな自殺行為とも呼べる特攻。
後を任された金剛は呆然とそれを見つめるだけで、一歩も動けなかった。

「我は個にして全。全にして個。矜持は買うが、数の優劣に不満は漏らさないでくれたまえ」

絶好の的であるのに金剛を狙わないのは、祖の一人としての誇りか。
生み出した深海棲艦の砲や魚雷管は全て榛名に向いていて。

榛名「っ……きゃぁっ!」

弾着予想から直進は危険と旋回。ついで主砲で牽制しようとし、烏の群れに体勢を崩された。
上空からと水上からの攻撃が同時に火を噴く。

金剛「榛名ぁっ!」

大量に立ち上る水柱が榛名の姿を覆い隠す。
見てられなかった。
足が勝手に前へと進み、

「出口などない。私の中で清濁混在するが良い」

黒い巨大な鰐が顎を開くのを見た。

比叡「そこっ!」

瞬間に弾け飛ぶ。
黒い霞が闇に一瞬にして溶けていく。

霧島「お姉さま、無事ですか!」

比叡「攻勢が弱まったので、とりあえず合流をと」

金剛「榛名が……榛名が……」

荒れていた海上が落ち着きを見せると同時、榛名の居る位置から聞こえる砲撃音。
無事だった事に安堵するも束の間、彼女の艤装から火の手と黒煙が上がっている事に気づく。

比叡「榛名! もう良いから下がって!」

「と、貴様の姉妹は言っているが?」

煌々と揺れる炎。探照灯以上に目立つそれは敵の命中率を更に向上させる。
剥がれかけている装甲。直撃弾をもう一撃耐えられるかどうかすら怪しい。

榛名「……っ、ふぅ……」

「もはや返答する余力もなしか。結局、奮戦虚しく姉妹を逃すという願いも叶わない。是即ち無価値に候」

霧島「私達を逃がす……?」

「そうだ。君達を逃がす為に可憐(いじら)しい彼女は全力で私に挑んでいる。健気で儚くて手折るのが勿体ないくらいだ。ーーさて、この子の断末魔が聞けた時、君達はどの様な音色を奏でてくれるのかね?」

戦艦の放った砲弾が榛名の近くに落ちた。揺れる海面に乗じて距離を詰める重巡級の敵。
炎上しながらも主砲を放ち、一撃で重巡を沈めるも、その影から飛び出してきた駆逐艦には反応出来なかった。

榛名「あ……」

榛名の表情が変わる。
回避しようにも行き足を塞ぐ様に降り注ぐ空襲によって出来そうにない。
時間にして数分から十数分の奮闘。

ーー十分すぎる時間だった。

「……む?」

攻撃する直前だった駆逐艦に、飛来してきた刀が突き刺さる。
横合いからの一撃に、駆逐艦は一瞬にして消し飛んだ。

榛名「はぁ……はぁ……。遅いですよ……」

困惑した様な敵と裏腹に肩で息をしつつも安堵の笑み浮かべる榛名。

「わりぃな。これでも全力で向かってたんだが。燃えてたお陰で見つけやすくて助かった」

いつの間に接近したのか。海面を漂う得物を回収しつつ少女は不敵に笑う。

「新手か。だが、何人来ようと飲み干すまで」

「さて、果たしてそう上手くいくかな?」

構えは我流。左手で柄を握り右手を添える。横流しの持ち方は、まるで逆手に短刀を持つが如く。

天龍「天龍型一番艦、天龍。徹底的に刻んでやるから覚悟しやがれ」

三川艦隊の一番槍。水兵戦に特化した少女は吐き捨てると同時にその気配を消した。

ふぇぇ、タタリの口調が難しすぎるよぉ
金剛のルー語も中々に難しく感じてるので、違和感あったら申し訳ないです

では、また次の機会に

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月13日 (土) 15:19:57   ID: X4F9BZr8

七夜戦隊…MUGENにはいるんだよなぁ

2 :  SS好きの774さん   2015年01月22日 (木) 00:45:49   ID: wVLixZ4N

自分が好きな七夜と艦娘が見れて本当に幸せ早く続きがみたいです!!

3 :  SS好きの774さん   2015年02月02日 (月) 01:08:24   ID: 0ktg4q8a

まってますね!

4 :  SS好きの774さん   2015年02月04日 (水) 19:45:15   ID: z_OHl5sk

七夜いいですね
最高です!

5 :  SS好きの774さん   2015年02月09日 (月) 14:13:27   ID: ottwXYDj

こんな良作を今まで知らなかった事が悔しいな

6 :  SS好きの774さん   2015年02月24日 (火) 15:50:10   ID: ZQktoR8b

続きを待ってます!

7 :  SS好きの774さん   2015年03月12日 (木) 22:00:58   ID: FjuJ05dK

更新待ってます!!

8 :  SS好きの774さん   2015年03月21日 (土) 23:39:03   ID: 4l6OxYfe

おおおお更新きたああああああ

9 :  SS好きの774さん   2015年04月19日 (日) 00:59:25   ID: aeI91SmK

最近更新ないな・・・

10 :  SS好きの774さん   2015年04月19日 (日) 19:46:47   ID: aeI91SmK

気長に待ってます

11 :  SS好きの774さん   2015年12月06日 (日) 00:45:55   ID: cE6AxHom

気楽に待っとります

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