ハルヒ「ここ一週間キョン見ないんだけど何か知らない?」(346)

何だ?またいつにも増して素っ頓狂な事を言い出しやがる。俺はここにいるじゃねえか、おいこらハルヒ、これは何の新しい遊びだ?小学生じゃあるまいし、無視を決め込むのはどうかと思うぜ。

古泉「おそらく急な野暮用でもできたのでしょう。今は彼の帰還を黙って待つのみです。でしょう?長門さん」

長門「」コクリ

みくる「キョン君どこに行ったのかな…」

【第一章】


古泉はともかく長門や朝比奈さんまで?それに一週間だと?つい昨日まで普通に相手してくれていただろうに。

ハルヒ「うーん。下っ端の団員とは言え、五人しかいない中の一人に姿を消されるとまとまる団もまとまらないわ。何か落ち着かない、んー……今日はこれで解散!」

古泉「鶴屋さんに招待された花見大会の件について、そろそろ決めなくてはいけないことがあるのでは」

ハルヒ「そう、sos団団員各々で一発芸の披露を考えてたのに、最も期待できる人材のキョンがいないんじゃ話にならないわ」

そりゃどういう意味だ。確かにこの中でまともに芸なんざできる奴は限られるが、俺なんかよりも無駄に器用な古泉や、お前の方が笑いを誘えそうなもんだが。

ハルヒ「今日はもう帰る。できるだけ私も連絡が取れるよう努力をするけど、古泉君も副団長として無断欠席した団員の行方は必ず捜し出しなさい」

古泉「了解しました」

……っておいおい、この遊びは継続のまま解散するつもか。これがお前の言う面白いことか、らしくないぜハルヒ。少なくともお前はそんなことで娯楽欲求を満たせるような下劣な人間じゃなかったはずだろうが。

古泉「……では、僕らも」

お前も続行か。古泉。

古泉「という訳にもいかないでしょう、やはり僕らだけでもやれるだけのことはやっておかなければいけません」

古泉「朝比奈さん、今から僕がメモに書きまとめる小道具を隣駅のデパートまでご足労願えないでしょうか。芸の方は僕と長門さんの方で任せてはくれませんか」

みくる「わ、私芸なんて考えてるの多分できっこないから……古泉君にお願いしようかな。買い物は任せて下さいっ」

ガチャン

古泉「さて…」

ついに朝比奈さんにも一つの言葉すらかけてもらえずに行かれちまった。

これはどういうことだ、ハルヒの絶対命令だとしたら朝比奈さんが従うのにも納得がいくもんだが、本人のいない前なら小声で謝罪くらいはしてくれるはずだろう。が、それもない。

そもそもハルヒがこんな小学生みたいな遊びで何か満足感を得ようとする気なんざ、まずもって無いだろう。

という事はもしかして本当にこいつらには俺が見えてないのか?今までにない現象だぞ。

古泉「今までにない異常事態です」

今までにないだって?お前は事ある毎にそんな言葉を口走ってないか?いや待て、異常事態って何だ。

古泉「長門さんは見えていますか?」

長門「見える」

見える……状況から察するに俺の事で合ってるんだよな。おお長門、やっぱりお前は流石だ、こういう件に関しては最も信頼できる団員だよ。

古泉「声の方は聞こえますか?」

長門「聞こえる。先ほどから長く独白を続けている」

すまないね。こればかりはどうにも直す気にはなれん。

古泉「彼は何と申していますか」

長門「……」

あ、ああ。そうだな。これは一体どういう事態だって伝えてやってくれ。それも縄張り争いをしている猫が威嚇しているような顔で訴えてるってな。

長門「どういう事態だ、と言っている」

古泉「まあおおよその予想はついていましたが」

予想できてたのならいちいち長門を介さずに直接話せ。

古泉「そういう訳にもいきませんよ。いくら言葉の切り返し方がパターン化されやすい出方で話しても、万が一語弊が生まれた場合その先の会話は全て台無しになってしまいます」

……御託はもう充分だから早く言ってくれ。今までと違って時間遡行だの分裂だのが無い分、今回はまだマシな方だがこれはこれで精神的にくる。ましてや朝比奈さんと言葉を交わせないのは想像を絶するダメージだ。

長門「早く話せ、と」

省略化して肝心の内容だけを抜粋、伝言してくれるその効率的なところがまた頼れる部分だったりするんだぜ長門よ。

古泉「よく聞いて下さい」

さっきから脳内録音されそうな勢いで耳を澄ませてるよ。



古泉「――あなたは先週、お亡くなりになられました」



…………は?




~『涼宮ハルヒの慟哭』~

デパート


みくる「ここのコーナーならありそうかな…」

みくる「あった。後はこれと、これと…」

鶴屋「やー、みくる!」

みくる「わっ、びっくりした……」

鶴屋「んー?何だ案外平気そうな顔してるじゃないのっ。でも無理しないで、苦しくなった時はいつでも相談しなよ」

みくる「……?相談?」

鶴屋「あまり口に出したかないけどさ、キョン君の件…」

みくる「キョン君……?」

鶴屋「……いや、何でもないっさ。ま、また明日ね。ばいばいきーんっ」タタタ

みくる(どこか深刻そうな顔してたけど、どうしたのかな……)

みくる(私、何か心配されるような事したのかな…)

みくる(キョン君の件って……連絡も無しに一週間団の活動を休んでる件?)

みくる(そんな事まで心配してくれなくていいのに)

みくる「あ、買い物…」

みくる「これと、これと…」

みくる「古泉君、注文が多いものだから……全部揃えるのに大変」

みくる「……」


みくる(…………!)


みくる(時間平面に穴の開いた形跡…tpddも使ってないのに)

みくる(どうして…?)

街中


鶴屋(みくるの奴、あんな我慢強かったっけ……?)

鶴屋(何かあったら相談にのってくれる友達として見てくれるだけでいいのに…)

鶴屋(キョン君も不憫な……)

鶴屋(キョン君……?)

鶴屋(キョン…君――)


鶴屋(――――――――)


鶴屋(あれ、私何考えてたんだっけっ)

鶴屋(まあいいかっ、デパートにいるんならきっと買い物のことだっ)

公園


みくる(大)「……」

みくる(大)「ここのところ、この時空へ盛んに遡行してくるけど…」

みくる(大)「今回、私の役目は重そうね」

朝倉「それはそうかもしれないけど、だからと言って情報統合思念体一派まで手を貸すことにはあまり納得がいかないのだけれど」

みくる(大)「今回の件について時間平面が受けたダメージは多大なものです。そして動き出したその原因である涼宮さんの動向を伺うという見解はあなた方と一致しているはず。そのために長門さんはあなたの解放を望みました」

朝倉「自由に活動ができるってことはそうなのかもね。余程の事が起こっているのは分かっているわ」

喜緑「私達の役目はあくまで涼宮ハルヒの観察です。そこをお忘れにならないよう」

みくる(大)「今までなら観察までで済んだかもしれないけれど、あなた達も大きく動かざるを得ない状況になると私は践んでいます」

喜緑「根拠は」

みくる(大)「涼宮さんの力は良くも悪くも涼宮さんの精神状態によって大きく左右されてきました。そして時間を分裂させた時の彼女を見てある得心がいきました」

みくる(大)「神人のエネルギーは著しく低下を見せていました。いえ、正確にはエネルギーの抑制、そしてコントロール」

みくる(大)「彼女は無自覚でありながらその力をコントロールするまでに進化を遂げていました」

みくる(大)「だからこそ」

みくる(大)「精神状態によるエネルギー制御という推測が、あの時点より揺るがざる事実として証明されてしまいました」

みくる(大)「でもそれは、涼宮さんという『爆弾』が実在することに他ならないの」

みくる(大)「涼宮さんでなくても、人間はいつ何時も平常心を保つことなんて出来ません」

みくる(大)「〝今〟はまだ序の口です。これから更なる深刻な事態に見まわれるでしょう」

みくる(大)「そうなるとあなた達、情報統合思念体も何かしらの行動に移るでしょう?」

部室


……おい、毎度毎度のトンデモ現象で追い込まれていく内に俺の耳の聴覚機能は狂っちまったのか。死んだ?俺が?

馬鹿言えよ。現に俺はこうしてここで、この部室で脚笑わせながら無様に大きく口を開いて呼吸もしてるじゃねえか。

霊体だって?冗談じゃねえ。未来人も宇宙人も超能力者も信じてやるが、こればかりはどうしても首を縦に振れやしないぞ。

死んだ、だって?どうして。俺はこの一週間で

長門「落ち着いて」

…………。

長門「取り乱している」

古泉「でしょうね。常人の神経ならばそれが真っ当なリアクションと言えます」

古泉「今、世界は揺らいでます。ここを中心にね。原因は言うまでもなく涼宮さんです。引き金もまた、言うまでもなくあなたの死という事でしょう」

こんな時でも酷く冷静な説明口調、誠に傷み入るぜ古泉。俺の方と言えば怒り心頭を通り越して思考停止状態だがな。

古泉「あなたがお亡くなりになられたのは一週間前のことです。死因は……不運なことに交通事故です。そしてそれは紛れもなく事実で」

ふざけるな!

古泉「……やはり一年以上もの間をこうして付き合っていると分かるものなのですかね、今あなたが声を荒げて私につかみかかったような気がします」

古泉「しかしそれでお分かりになったのではないでしょうか」

……!…………。

古泉「僕に触れられない、そのはずです。今のあなたを言わば霊体と仮定するならば分かりやすいと思います」

俺は…、俺は……

死んだ……っての、か…………?

長門「…」

長門「確認を求めている」

古泉「……ええ。残念ながら」

古泉「あなたはお亡くなりになられました。もうこの世の人間では……ないのです」


死んだ。俺が。交通事故で。一週間前に。

そんな、だって変だろう。昨日まで古泉も長門もいつもと変わりなく俺と話していたよな?

長門「――」ペラペラ

古泉「…」

古泉「今sos団であなたの死を認識しているのは、僕と長門さん、そして一応という意味で含めるならばあなたも合わせ三人になります」

古泉「朝比奈さんはあなたの死を認識していません、僕が認識していられるのは長門さんの力によるものです」

古泉「涼宮さんの及ぼす影響は今こうしている間も広がりつつあります。あなたの死が〝なかった〟ことにされているんです。あなたの死によって影響する人物達の記憶が塗り替えられている状況です」


古泉「しかし世界は記憶の改変だけでスムーズに事は進まないんです。いずれ矛盾が生まれる」

古泉「つまり」

古泉「僕達が現在最も危惧している事態は〝別のあなたがあなたとしてこの世界に存在する〟、これです」

古泉「涼宮さんの世界改変能力は未だ底の計り知れないものです。彼女が望めば、世界はその通りになる――彼女なら必ずあなたの生きる姿をお望みになっているのでしょうが」

古泉「やはり神と疑ってかかるほどの力をもってしても、人間の死は乗り越えられないということなのかもしれません」


どうすりゃいい。

どうすりゃ、いい……だと?

いいも何も。既に死んでるんじゃ、もう全てがどうにもならねえじゃねえか。

いや、まず何故お前ら……正確には長門は俺とコミュニケーションが取れる。

それも能力の内だってのか?霊なんてものが存在するとでもいうのか。


長門「――」ペラペラ

古泉「彼女達情報統合思念体は、生命情報をある種の電波として不可視のものを認識することができます。言うならば霊体とは、人間の意識なのではないでしょうか」


人間の意識だ?

長門「――」ペラペラ

古泉「ええ、そうです。現代科学で未解明の霊体をどうこう言えたものじゃありませんが、僕自身、情報統合思念体の真価も涼宮さん同様に全貌の知れないものなのでどうとも言えません」

どうなんだ、長門。

長門「……あなたの意識は今日含めもう三日もすれば完全に消滅する。あなたに限らず、死んだ人間は例外なくそう」

長門「生命活動の停止から十日後、器を失った精神は霧消するのが常」


ぐうの音も出なかった。

そりゃそうだ、sos団内で絶大な信頼を寄せる長門自身がそう言ってるんだ。

俺は一週間前にこの世を去り、有り難い事にハルヒがそれを悔やみ俺の死の事実を世界から無くそうとした。もちろん無自覚なんだろうな。

俺の周囲の人間は皆、その影響で死の事実を忘れている。長門と古泉を除いて。

そしてその状況はいずれ矛盾を生み、俺が完全にこの世界から消え去った後に『第二の俺』をハルヒが具体化し、何事も無かったかのようにsos団の日常も、俺の家族の日常も続いていく……。

俺が、いなくなった世界で。


はは、マジかよ。

呆気ないなあ、俺の人生は。

いつまでもこうしてsos団の日常、非日常を送っていきたいなんて贅沢は微塵も感じたことがないと言ったら嘘になる。

だがな、せめてそれが叶わなくとも俺の人生はもう少しだけ続いてくれても良かったんじゃねえかな。

中小企業の歯車でもダンボール生活を余儀無くされる浮浪者でも何でもいいさ、何も人生ごといきなり終了なんてのはあまりに理不尽だぜ神様。


古泉「僕たちにしてあげられることは、はっきり言って何もありません」

古泉「こう見えても長門さんも相当悔やんでおられます。せめて自分がその場に居合わせていたら軽自動車から大型トラックまで何でも受け止めるぐらいできたのに、と」

ああ分かってるさ古泉。

もう長門はただの冷静沈着な対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースなんかじゃない。

長門は長門だ、それ以上でもそれ以下でもない。

古泉「先述した通り、あなたの第二の存在の具体化が危惧される現状ですが」

古泉「そんな甘い改変で済めば、今までの苦労も有り得なかったでしょう」


あのな、性格なのかもしれんがその遠回りな説明口調をどうにかしてくれ。

俺は死んでいて、身体を失い、長門によれば今日含めあと三日経てば俺は天に召されちまうんだ。時間が惜しいんだよ。

長門「――」ペラペラ

古泉「はい。これは失敬…」

古泉「早速、閉鎖空間が生まれました。最近の涼宮さんの安定した精神状態による抑制、コントロールが嘘のようにそれはもう派手に神人が暴れに暴れています」

古泉「僕ら機関も当然動き出しています。そしてこれは長門さんの言葉ですが情報統合思念体一派も大きく動き出そうとしています。涼宮さんの能力暴走直前に対する厳戒態勢です、恐らくは…」

大人版朝比奈さんも動き出してるんだろうな。


長門「――」ペラペラ

古泉「ええ、その通りです」

古泉「未来人、宇宙人、超能力者がここにきて勢揃いという訳です。事態は急を要します。涼宮さんは一見あんな調子でしたが」

古泉「あれは塗り替えられた涼宮さんです。自己をも改変し、あなたの死を世界から無かったことにした」

古泉「本来、これまでになく彼女は動揺しています」

古泉「……そして僕は、後にも先にも神たる存在、もとい彼女を静めることが可能な人物は」

古泉「あなたただ一人だけだと思っています」


俺が、ハルヒの暴走を止める。

そういう事か長門。

長門「……」

どうした。何故いつものように頷かないんだ。
ほんの数ミリでもいいんだよ、納得の意を見せてくれよ。

長門「……」

長門「私はあなたを失いたくない」

…………。

古泉「……」

ガチャ

みくる「か、買い物済ませましたあ。重い……」

古泉「これは、お早い到着でしたね」

みくる「店員さんにメモを渡したらテキパキと物を集めてくれましたあ…」

朝比奈さん…。

やっぱり、俺が見えて……。


――バチッ


ん?何だ?


――バチッ バチッ


何だ。何のノイズだ。


――バチッ バチチッ


バチチチチチチッ


ザア――――――


プツン


登下校路


国木田「おはようキョン」

キョン「おう。昨日の体育は散々だったな。おかげで今日の登り坂はいつにも増して脚に響いてならん」

国木田「そうだね…僕も体育はあまり得意な方じゃなかったからクタクタだよ」

谷口「ッハハハ!情けねえなお前ら!少しは身体を鍛えろ身体を!んなことだからいつまで経っても女ができねえんだよ」

キョン「それは何だ。新手の自虐か」

谷口「う、うるせえ!お前らよりは絶世の美女を獲得する努力をしてるんだ。甘く見てる間に、とんでもなく美しい彼女ができても、お前ら醜い嫉妬はよしてくれよ」

キョン「楽しみにしてるよ」

谷口「まあキョンには涼宮のお守りという役目があるから、この先卒業するまでチャンスは巡ってこないだろうよ」

キョン「そいつはどうも」


教室


ハルヒ「おはよ」

キョン「おうハルヒ。どうした、今日は遅刻ギリギリじゃないか」

ハルヒ「それが近くの交差点で交通事故があったのよ。色々あって遅れちゃって……朝からショッキングなものを見ちゃったわ」

キョン「交通事故…ここの近くでか。あまり聞かない話だからおっかないな、改めて信号はしっかり確認して歩行する精神を引き締め直されるね」

ハルヒ「そうね、気をつけなさい。あんたみたいなのでも、我がsos団から一人でも団員が欠けるのはどんな原因でも許されることじゃないわ」

キョン「分かってるよ」


部室


ハルヒ「さあ、そろそろ鶴屋さんが招待してくれた花見大会で我らsos団が披露するとびっきりの芸を考えるわよ!」

キョン「その芸ってのは、驚かすための芸か。笑わせるための芸か」

ハルヒ「そんなものどっちだっていいわ、黒いスーツに身を包んだ如何にもって感じの強面たちの目が思い切り見開かれるくらいのインパクトがあれば、笑わせようが驚かせようがどっちでもいいのよ!」

キョン(驚かすことに関しては長門、笑わせることに関しては古泉がいるから心配はないだろう)

キョン(ちなみに朝比奈さんは癒やし要因な。そして俺は舞台裏での雑用といったところか。もちろんハルヒは指揮役として芸はしないんだろう)


古泉「なら僕から幾つか案があるのですが…」

ハルヒ「はいはいどんどん出して!いえ、もうこの際各々に白紙を渡すから複数、そうね、最低三つの案を用意すること。じゃあ始めっ」

キョン「やれやれ。芸ねえ…」

長門「…」ペラ…ペラ…

キョン(長門は相変わらず読書にふけってるようだし、まあ案なんか出さずともその場その場で俺がテキトーにアドリブで指示を出せば、客の度肝を抜くなんざ容易いから安心だろう)

みくる「ふええ…芸なんて……」

キョン(朝比奈さんは華やかな衣装を纏っていてくれるだけでも充分だと思いますよ)


長門「……」

古泉「――!」

みくる「ッ!」


ハルヒ「ん?皆どうかしたの?何かとてつもなく面白い芸思い付いた?」


長門「…」ペラ…ペラ…

古泉「いえ…何でもありません」

みくる「お、思い付きません…」

ハルヒ「前々から、それこそ映画撮影の時から思ってたけど、我が団員は想像力の欠如が多く見受けられるわ。これはどうにかしないといけないわね、一クリエーターとしては」

キョン「お前はいつからクリエーターになったんだ」





ハルヒ「じゃあ今日はこんなところで解散、翌日は小道具を揃えたりするから経費の用意を忘れないこと。それじゃね」

パタン

キョン「ああ…楽しいか楽しくないか問われたら素直に楽しいと言うしかないが、こりゃ骨だな。芸なんてしたことは…あるがウケた例がない」

古泉「さしずめ小学生時代の修学旅行で披露したネタに誰一人として良い反応をしてくれなかったというところでしょうか」

キョン「お前はいつから人の心を読み取る能力を身に付けた」

古泉「ありがちな話なんで、推測で言ったまでです」


キョン「で、何かあったのか」

古泉「お見通しで」

キョン「あんな分かりやすいリアクションされたら俺でなくとも何かに察するさ。ハルヒといえば聡いが、時たま変な部分で鈍くなるだけだ。それで…あれか、また閉鎖空間か?」

古泉「ええ」

キョン「……、おいおい本当にか。冗談半分だったんだが」

古泉「それよりも…発生した閉鎖空間より気になるのが、涼宮さんです」

古泉「これでも少しは彼女の気のブレ幅なんかを見抜けるようになったつもりでいたのですが……自惚れていたのでしょうか、今回は予兆も予測も皆無でした。あまりに唐突です」


キョン「閉鎖空間の発生はいつだって唐突だったじゃないか」

古泉「唐突は唐突でも、身構えている中での唐突です。閉鎖空間発生は涼宮さんの精神状態に起因しますからね、ある程度姿勢を整えることはできるんです」

キョン「なら今回はどうしたってんだ」

古泉「……」

みくる「こ、こっちも大変ですう…」

キョン「朝比奈さんの方は何が」

みくる「…え、ええと。時間平面にこれまでにない程の負担が。どうして……?tpdd使用の形跡も見られないし、唐突な感じが…」

古泉「…」

みくる「唐突…?気付かなっただけ…?」

古泉「僕もその感覚に近いですね。突然というよりは、前から起きていた事態に今気付かされた感覚がします」


キョン「長門は」

長門「…」

キョン「長門」

長門「……」

長門「現段階では何とも言えない」

古泉「…」

長門「ただ」

古泉「ただ?」

長門「涼宮ハルヒの時空的影響下に置かれてもそれに及ぼされない情報統合思念体にも察知しかねる事態が起きている」

キョン「一万何千回と繰り返したあの夏休みを全て記憶している長門でさえか」

長門「そう」

古泉「どうやら僕らの預かり知らないところで何かが大きく動いてるようです」

古泉「僕は組織と合流させてもらいます」


みくる「わ、私もひとまず帰らせてもらいます…」

長門「…」ガタッ

古泉「ではこれにて」

ガチャン






キョン「……」

キョン(ここは誰にもついて行かないのが利口だろう)

キョン(こういう時に改めて思い知らされるな、この団の中で唯一俺だけが平凡な人間だってことをさ)

キョン(まあいいさ。明日には全て解決して皆戻ってくるだろう、こと長門に関しては何も心配する必要はないはずだ)

キョン(またハルヒの仕業なら…いやそうとしか思えんが、何が引き金になったんだ)

キョン(……今回ばかりは皆目見当も付かないな)

キョン(くそ…せめて推論の一つでも立てさせてくれよ、これじゃまるで役立たずだ)


キョン「……やれやれ」

キョン「部室の鍵を締めて俺は帰らせてもらうとするかね」

キョン「…」

キョン「なんて、言うとでも思ったか。状態じゃない、俺は無能なのは受け入れてやるが役立たずなのはごめんだ、人間様にもできることがあるんだ」




?「――そうでもねえと思うぜ?地球人」




キョン「――」ゾクッ!!

キョン「……いつの間に、背後に」

?「アーアー、すっかり怯えきった顔しちゃってまあ。敵にそんな様子見せ付けちゃ駄目でしょ?諸手挙げて降参してるのと同じことなんだから」


キョン「……お、お前。その片手に握るご大層な日本刀は何に使うつもりだ。家庭科の調理実習にでも使うのか?だが残念だったな、長くて鋭けりゃ良いってもんじゃない。料理ってのは」

?「データにある通り、口だけは減らない地球人のようだ。君の親友である佐々木という人物には及ばないだろうが…」

?「こうしたら黙るかな?」

ズカッ!

キョン「! …………っ」

キョン「首筋スレスレに…わざと逸らしたのか」

キョン「……。部室の壁を傷物にしてもらっちゃ、こちらとしても困るんだが」


?「アー、こりゃすみませんね。じゃあ早いところお遊びは止めにして」

?「計画を滞りなく進めるために、君の命を断ってしまうとしよう」

キョン「……!!」

キョン(何だ、何だ、何だこいつは)

キョン(新たな情報統合思念体の派閥から来た人型インターフェースか?)

キョン(朝倉の時の戦慄も凄かったが、こいつはその比じゃない。殺意を隠そうともしない)

キョン(それよりどうして北高の制服を着てやがる。こいつはここの生徒なのか)


?「ンー、何やら制服に目が言ってるみたいだけど。あは、もしかしてアンタ制服フェチ?」

キョン「……」

?「これは潜伏のための衣装に過ぎない。と言ってもまあ、この具合ならその必要性も皆無だったみたいだけど?」

?「とりあえずアンタの息の根を止めないことには始まんないのよね」

キョン「この女…!」

?「で、そろそろ天に召される準備は整った?神に感謝の言葉は告げた?」

キョン「あいにく神様となら毎日のように顔を突き合わせて話してるんでね、今更感謝の言葉もないさ」


?「涼宮ハルヒか」

キョン「……。やはりハルヒを知っているってことは、未来人か宇宙人か超能力者のどれかってところか」

?「…」

?「少しは賢いみたいだけど、死に間際に私の正体なんか探ってどーするの?」

?「ま、隠してるつもりはないけど情報はなるべく与えない方がいいでしょう」

?「アンタにならともかく、彼女らには」

キョン「何だって?」

――ブオン!!!

キョン「!……空間が塗り替えられて…。この現象」

長門「遅れた」

ガンッ!


?「……とっと…」

?「いきなり空間の情報を書き換えて情報制御空間を構築、おまけに瞬時に攻撃にまで移るたあ流石の情報統合思念体」

?「長門有希」

長門「……」

キョン「な、長門。長門なのか…」

長門「そう」

キョン「本当に…いつもすまんな、迷惑ばかりかけて。この一件が終わったら今度は何か奢るとするよ」

長門「そう簡単に終われそうにない」

?「あら?そう?あなた達の敗北ってことですぐに決着しそうだケド」


ガンッ!!

ズガガガガ…!

?「らァァァァァァァァァ!!!!」

長門「……、」

キョン(見えない壁に阻まれてるみたいに奴の日本刀が長門の直前から進まない…)

バチッ

長門「!」

パアンッ――!!

長門「ぐ…」フラッ

キョン「長門の壁を…ブチ破りやがった」

長門「……、」ストッ

?「どうやらパワー不足のようだけど?アレアレー、どうしたのカナー?」

長門「…」

長門「微弱な妨害電波を確認」


長門「この電波…発信先は」

?「ハ ヤ ク コ ワ レ チ ャ エ ♪」

ガンッガンッガンッガンッ

長門「……ッ」


キョン「あの長門が押されてる…」

キョン「その内あの防御も歯が立たなくなって」

キョン「なっ……て」

キョン「長門が負けるのか?ろくに正体も知らんぽっと出の脇役に、あの長門が」


ガンッガンッガンッガンッ!!

?「アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

長門「……ぐ」


キョン「助太刀しようにも俺には常人以上の腕力もないし、衝撃波が凄まじくて近付けやしねえ…」

キョン「……ハルヒ」

キョン「おいハルヒ、聞いてるか……sos団存亡の危機だ。お前の可愛がる大切な団員の一人が今窮地に立たされてるんだ」

キョン「いつもの無自覚ゴッドパワーでこいつをどうにかしてやってくれ…」

ガンッガンッガンッガンッ

長門「…、……、」
?「……」
?「時間稼ぎか」

キョン「?」





喜緑「――ッ、今!!」
朝倉「…はいはいッ!」

ゴバッ!

キョン「空間に、穴」

キョン「…おいおい何だあのデカい光る球体は、元気玉か何かか?」

みくる(大)「伏せて!!!」

キョン「!!」

ガァンッ――!!!!

ズズズ……



キョン「……っ」

キョン「どうなった。奴は仕留めたのかっ」

喜緑「……逃げられました。視覚、聴覚、嗅覚など存在を察知される情報濃度を極限まで薄くしたつもりだったのですけど。長門さんの出現時から私達の存在に気付いていました」

朝倉「ただ者じゃないわ……嫌ね、ここのところ戦ってばかりで」

キョン「……長門は、長門!」

長門「ここにいる」

キョン「ぶ、無事だったか…」

キョン「……何が起こってるんだ。情報統合思念体の三人に、しかも大人版朝比奈さんまで」

みくる(大)「この空間に入ってこれたのは長門さんのおかげです。……そして先の人物は」

みくる(大)「…」

長門「確認の不完全」

長門「最後の猛撃が無ければ電波の発信先のデータ解析が行えた」

長門「しかし」

喜緑「もう確認するまでもありません。これは」

朝倉「情報統合思念体の敵対勢力『天蓋領域』人型イントルーダー、この時空面での名称情報は『神瑞ミライ』」

キョン「…天蓋領域だって?」

キョン「奴らは何が目的だ。どうして俺を狙うんだ」

長門「涼宮ハルヒの能力暴走を計っている」

キョン「」

喜緑「正確に言えば、もう暴走を始めているのですけれど」

長門「今現在、通称、広域帯宇宙存在なる天蓋領域に対して、私以外のインターフェースを介し情報統合思念体がコンタクトを取ろうと通信している」

朝倉「ここまで強行手段に出られると、向こうも聞く耳は持たないでしょうね」

キョン「?…?」

みくる(大)「簡潔明瞭に言わせてもらいます」

みくる(大)「キョン君、今あなたの命が天蓋領域なる存在に狙われているの」

みくる(大)「そしてその目的は、まだ推測の域を脱していないけれど高確率で涼宮さんの能力暴走」

キョン「ま、待って下さい。俺を亡き者にして、ハルヒの能力を暴走させるまではいい。そこからどうするつもりなんですか」

みくる(大)「そこが最大の疑問です」

長門「朝比奈みくる曰く、現在この時間平面はこれまでにない多大なダメージを受けている」

長門「原因は涼宮ハルヒ。涼宮ハルヒは、あなたを守るべく今この時空を重複改変させている」

キョン「じ、重複改変?」

キョン「それはあの夏休みに体験した一万何千回の時間ループとはまた違う事になっているのか」

長門「そう」

長門「あの場合は一万何千通りのルートが一つの時間平面口を通る形になった。最後に編み出される時間ルートは条件を満たした一つのみ」

喜緑「フラフープってあるでしょ?そこに一本の矢印が通るとします」

喜緑「でもその矢印は、フラフープを通過するだけの条件を満たしていなかった」

喜緑「だからその矢印から分離した矢印が条件を満たすためにまたフラフープをくぐろうとする」

喜緑「あの夏休みの場合はそれが一万何千回と続く状態になっていました」

朝倉「今回はそうね……とても長細い、無色の画用紙を一つの道に見立てて」

朝倉「その一本道に筆で色を塗る。まずは赤」

朝倉「そして涼宮さんは、その上に今度は青を塗り重ねる」

朝倉「同じ時間道に複数の〝事実〟を上乗せして、修正したいところを修正するの」

朝倉「これが今の現象のからくり。修正する部分は、あなたが天蓋領域の手によって命を落とすところ。涼宮さんは無自覚に天蓋領域からあなたを守ろうとしているの。そして今は、たとえ話で言うところの三色目に当たるのよ」

キョン「……なるほど。良いたとえ話のおかげで、何とかこの理解力の無い頭でも現状を把握することができました」

キョン「それで」

キョン「肝心の突破口はあるんですか?俺が……奴らの手に掛けられず、ハルヒの重複改変の必要が無くなるその瞬間はどうしたら訪れるんです」

みくる(大)「……天蓋領域を説得、制圧などの手を使って涼宮さんの能力暴走を食い止めること」

みくる(大)「そしてそれは容易ではありません。今もきっと古泉君ら組織も必死に〝進行〟を食い止めていることでしょう」

キョン「進行……閉鎖空間ですか」

みくる(大)「そうです。もう何度も経験して分かる通り、閉鎖空間にいる神人の様子は涼宮さんの精神状態と密接な関係にあります」

みくる(大)「今、この時間道は一色目の涼宮さんの重複改変によって、キョン君の死を食い止めている状況です」


キョン「……そうか」

キョン「さっきいきなり古泉の様子が急変したのは、この時空のハルヒ自体には何の異常も感じられなかったから閉鎖空間発生に気付くのが遅れたんだ」

キョン「朝比奈さん(小)にも同じことが言える、一色目のハルヒの存在を感じ取ることができない状態で、時間平面の負担を察知するのは困難だったんだ」

キョン「そして長門は…」

長門「天蓋領域察知の遅れ」

キョン「……ん?いや待て、今ここにいる長門が記憶の保たれた一色目の長門だとしたら、あの時に天蓋領域を察知できなかったのはおかしくないか」

長門「私はこの時間道、三色目の存在」

喜緑「私から情報伝達をさせてもらいました」

みくる(大)「ごめんなさい、本当は三人連れて行きたかったけど、tpddによる時間平面の負担を少しでも和らげたかったの。そうでなくても、今の負担度合いはとてつもなく異常だから」

朝倉「長ったらしい説明はここまでで良いでしょう。今は緊急事態、事件の中心にいる彼に与えなければいけない情報はもうここまでで充分」

喜緑「私、朝倉さん、長門さんは情報統合思念体の敵対勢力『天蓋領域』人型イントルーダー『神瑞ミライ』を追います」

みくる(大)「そして私は別の時空に細かく移動しながら、時間平面の小さな亀裂の数々の修復、維持に向かいます」

長門「古泉一樹も閉鎖空間の神人による暴走を食い止めている現状」

キョン「総力戦って訳か…」

キョン「俺に…」

キョン「俺にできる事は何です」

キョン「守ってばかりいられるのは嫌だし、自分の身は自分でどうにかするぐらいはしたい」

キョン「何か攻め手に回るのだって構いません、何しろ聞くところによると防戦一方、向こうの思うつぼな状態じゃないですか」

キョン「ハルヒの重複改変そのものには際限が無かったとして、その影響によるこの時間平面が保たない」

キョン「古泉はこんな事を言ってました」

キョン「閉鎖空間での物理的被害が現実世界に影響を及ぼす事はないが、放置すれば空間が拡大し、最終的には現実世界と入れ替わってしまう」

キョン「つまり、天蓋領域の作戦にまんまとハマってる状況なんですよね」

キョン「時間平面の崩壊が先か、閉鎖空間と現実世界の転換が先か」

キョン「ハルヒの能力暴走――或いは覚醒による〝何か〟が先か」

みくる(大)「先にキョン君が言った通り、今は総力戦」

みくる(大)「手の開いているものがいないの」

みくる(大)「時間平面崩壊、閉鎖空間と現実世界の転換という、二つの武器を使ってまで彼らが私たちを追い込み、涼宮ハルヒさんの能力をどうするかを知るすべはないけれど」

みくる(大)「これだけは確信を持って言えるの、涼宮さんの身が継続的に危うい」

みくる(大)「キョン君、あなたが守って」

キョン「お、俺はそれでもまったく構わないし、あいつが狙われてるってんなら助けてやりたい」

キョン「でも、朝比奈さん。俺はやっぱり一般人なんですよ、どうしようもなく無力だ」

キョン「こんなフィールドを構築したりエネルギー波をかましたり、自力で時間平面を移動したり神人と戦うこともできない」

キョン「それに仮にこの時間道でまた俺が死ぬようなことがあったら、また時間道は新しい色を塗り重ねられる」

キョン「時間平面や閉鎖空間の負担も止まない」

キョン「今回ばかりは…俺は……」

長門「私も同行する」

喜緑「……」

朝倉「!ちょっと…」

長門「彼の言っていることは正しい」

長門「これ以上、時間平面及び閉鎖空間への負担は望ましくないと思われる」

長門「これより二人で涼宮ハルヒを追い、天蓋領域による直接的な攻撃からの防衛を試みる」

みくる(大)「その役目は古泉君の『機関』に一任されているんじゃなかった?」

長門「相手が地球の生命体なら任せられる」

長門「が」

長門「心許ない」

キョン「長門…」

長門「喜緑江美里の情報伝達により、朝倉涼子で言うところの一色目の私の記憶を継承した」

長門「もうあなたを死なせたくはない」

長門「情報制御空間を構築できる範囲にも限度がある、もしもの時に傍についていなければ守り抜ける自信はない」

長門「合意を求める」

朝倉「…どうせ私に決定権はないわ。どうするの?」

喜緑「合意します」

朝倉「だと思った…」

みくる(大)「ではこれより2・2・1に別れて行動しましょう」

みくる(大)「sos団がまた五人で平和に活動を送れるよう」

みくる(大)「検討を祈ります」

【第一章 終】

【第二章】


街中


古泉「補助要員はまだですかッ!」

機関員「それが、天蓋領域人型イントルーダーによる涼宮ハルヒへの強襲の程度が凄まじく、あちらへ人員を割いてしまい……!」

古泉「ここにいるメンバーで凌ぐしか手は無いのですね」

古泉(時間分裂時に佐々木さんと涼宮さんの融合閉鎖空間で現れた、もう一人の涼宮さんの姿は望み薄の可能性にかけ探したものの、とうとう見つかりはしなかった)

古泉(彼女こそが、神人をコントロールする具体化された精神だと思っているのですが)

古泉(三年、いや既に今からは四年前――涼宮さんによる情報爆発、時間断層、閉鎖空間の発生)

古泉(これらにより涼宮さんに目を付けた者は数知れず、しかし厄介な存在に狙われることになった)

古泉(前回の件ではまだいい、藤原某、橘京子、周防九曜による、仮称新sos団らの手はまだ生ぬるかった)

古泉(橘京子らの手は機関で容易くねじ伏せられ、藤原某は涼宮ハルヒという存在を甘く見過ぎていた)

古泉(未だもって恐ろしいのが周防九曜ら天蓋領域)

機関員「危ないッ!!」


古泉「――!」

ガンッ!!

古泉(……ッ、閉鎖空間内でなければ確実に斬られていましたね…)

?「アー、えーと君達ならどうにかなりそうなンで、面倒な輩から逃げてここをヤッちまうことにしましたァ」

古泉「日本刀ですか、またご大層な武器をお持ちで。日本の心をよく分かっていらっしゃる」

?「私は日本人でもなければ、ましてや地球人でもないケド」

古泉「でしょうね…」

古泉(容易く口を割る…程度は知れてるか)

神瑞「ハ ヤ ク カ カ ッ テ キ ナ ヨ」ギロリ

北高付近


みくる「え…え?」(※小)

みくる「そんな」

周防「未来人朝比奈みくる。あなたには何も罪は無い」

周防「むしろ無知であることが、あなたがこの時空にいることでの存在価値」

周防「あなた達未来人の時間平面理論に基づく、過去を書き換えても未来は不変という説は、四年前に涼宮ハルヒの起こした情報爆発、時間断層、閉鎖空間に脅かされている」

周防「朝比奈みくる――あなたの存在価値は、過去に及ぼした影響は未来に影響しないという説を揺るがす、通常あり得ない時間平面上の「改変」が行われる危険性である涼宮ハルヒの観察にある」

周防「つまりあなたに知識が付いてしまうと、その能力による未来改変を利用してしまう可能性が発生する」

みくる「な、な、」

みくる「何なんですかあああ」

周防「今ここであなたの存在を抹消し、さらに未来の朝比奈みくるの出方を窺う」

周防「そしてそれと共に、時間平面への負担増を促す」

周防「もう一度言う」

周防「あなたに罪はない」

周防「……」タタタタッ

みくる「い、いやあああ」

ガンッ――!!

みくる「……ふ、ふぇ?」


長門(大)「…」

周防「長門有希…か」

みくる「な、長門さ……あれ…本当に長門さん……?」

長門(大)「そう」

みくる「?…あ、あれ。何だか」

周防「……情報統合思念体ヒューマノイド・インターフェースには身体的な成長がない」

周防「が、あなたはこの時空の長門有希ではない。それくらいは分かる」

長門(大)「朝比奈みくるに助力を要請された」

みくる「わ、私ですかあ?」

長門(大)「すぐに決着させる」


長門(大)「時間がない」

北高登下校路


キョン「はっ、はっ…」タタタタ

長門「――」ピク

キョン「ど、どうした長門。何かあったのかっ」

長門「この時空の朝比奈みくる及び閉鎖空間にいる古泉一樹が襲われている」

キョン「あ、朝比奈さんに古泉だって?」

キョン「……閉鎖空間にいる古泉ならスーパーマン状態だ、きっとどうにかしてくれる」

キョン「朝比奈さんの方は?」

長門「……」

長門「情報を確認した。それぞれに天蓋領域の人型イントルーダーが派遣されている」

キョン「天蓋領域かっ。となると目的は、時間平面と閉鎖空間の負担増…」

キョン「その情報統合思念体の敵対勢力、天蓋領域とやらの人型イントルーダーを俺は知っているのか」

長門「神瑞ミライと周防九曜」

キョン「……神瑞と周防、」

キョン「神瑞に至ってはさっき俺達から逃げ出したばかりじゃねえか……くそ、適わないなら雑魚から潰そうって魂胆か。底の知れる奴らだよ」

キョン「古泉を甘く見るんじゃねえぞ奴め、返り討ちに会うのが関の山だ」

長門「それには賛同しかねる」

キョン「…!」

長門「天蓋領域を甘くみてはならない」

長門「古泉一樹の元には神瑞ミライ、この時空の朝比奈みくるの元には周防九曜が対応している」

キョン「くそ、手立てはないのか、今からでも助けに」

長門「心配は無用」

長門「私と同型体の情報統合思念体ヒューマノイドインターフェースが護衛の任に回っている」

キョン「同型体だって?」

長門「確定的ではないが、解析情報からするに」

長門「先の朝比奈みくるが連れてきた、未来の私だと思われる」

キョン「み、未来の長門だって!」

キョン「その、やっぱり……三年前に遡った時に思ったんだが」

長門「私達に身体的な成長は有り得ない」

キョン「そっか。そうだよな」

キョン(こんな野蛮な事態だってのに、安堵のあまり何くだらないこと話してるんだ俺…)

長門「それよりも圧倒的に涼宮ハルヒへの危険性が高い」

キョン「何だって?」

長門「能力の器たる涼宮ハルヒ本体に勢力の大半を注ぐのは合理的」

長門「幾度か古泉一樹の同志が助力に向かっているようだが、このままでは保たない」

キョン「そんな…あいつならどうにかするだろ、違うのか?」

長門「肝心なのは涼宮ハルヒの生死ではない」

長門「涼宮ハルヒへ命の危険が及んだ時、あなたの希望する通りに、おそらくこの事態ならば何かしら能力の覚醒が起こる可能性が非常に高い」

キョン「それなら…」

長門「そうなっては駄目」

長門「それを食い止めるためにも、今私とあなたは涼宮ハルヒの元に向かっている」

ハルヒ宅前


キョン「……つ、着いた」ハァハァ

キョン「それにしても時間分裂時にここに一度着ていて良かったな、ハルヒの家なんざ来る機会が滅多に無いもんだから後を追うに追えないところだった」

キョン「と言っても長門がいるならハルヒ宅の在処が分からなくてもどうにかなったんだろうがな」

長門「…」

キョン「登下校路にあいつの姿は見なかった。もう帰っている。そういうことでいいんだよな?気配みたいなものは感じるのか、長門」

長門「感じる」

キョン「やけに静かだ。見たところ天蓋領域らはいないんじゃないか」

長門「…詳細不明。特殊な不可視の三重情報結界が張られている、涼宮ハルヒの能力発生以外の何も読み取れない」

キョン「結界だって?……俺たちはここに入れないのか」

長門「おそらく入れないことは無い。涼宮ハルヒは私達を拒絶しない」

長門「しかし」

長門「…」

キョン「長門でも把握しかねるって訳か」

長門「力不足」

キョン「そんな事ない、お前は充分過ぎるほどの力を備えているさ、少なくとも俺よりは」

長門「一時出方を検討する」

?「それには及ばないわ」

長門「――!」

キョン「!」



キョン「……ハルヒ!」

ハルヒ「お疲れ様。よくここまで来たわね、どうしたの、何か用?」

キョン「おい、お前先に帰宅したんじゃなかったのか。良かった……無事ならそれで」

ハルヒ「はあ?無事って…何言ってるの」

キョン「いや、何でもねえよ……いやいや、何でもなくねえんだ今回ばかりは。詳しい事情は言えんが、お前の身は今とてつもなく危ないんだ」

キョン「早く部屋に籠もってくれないと」

ハルヒ「危ないって…何がよ。何者かが未だかつてない感染後問答無用に即死する超強力ウイルスみたいなものでも空気中に散布したりとか?」

キョン「まあある意味危険性はそんなものだと考えてくれていい、とにかく外は危険だ。取り敢えず家の中に」

ハルヒ「じゃあキョンも寄っておいでよ。せっかくここまで来たんだしさ」

ハルヒ「鶴屋さんの招待してくれた温泉旅行についての」


ズバッ!!


長門「――」

ハルヒ「……か…ッ」



キョン「長門!?」

キョン「おい、何だ、どうしてハルヒを斬る」

長門「離れて」

キョン「離れてったって…」

長門「離れて!」

キョン「!」



ハルヒ「ァァァァァァアアアアアッッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャwmja!??!g.j!wtmjam!!wjmwg.jwmjtg.j???twmag.j」

キョン「は、ハル…ヒ……?」

長門「彼女は涼宮ハルヒではない」


ハルヒ(偽)「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ鹵鶤鵄xj鱸鰮55555鰓鯑鮓魃wvw鬘髫骭.gj.驀騅馼饂飫颯頤韃鞅靦霤霓!!!!」


長門「――!」

長門「情報解析率100%……結論、目標の生存個体、」

長門「涼宮ハルヒ」

キョン「…何?」

長門「…、……、」

長門「彼女は涼宮ハルヒであって涼宮ハルヒではない」


ハルヒ(偽)「∧&-〕‥´! ㌃┃фехнοηψοηヵ◯å≪∃∪↓▲%<】)」

街中


神人『――グ』

神人『――ヴ、ォ、』


古泉(……ッ、神人の様子に変化が。)

神瑞「余所見すんなけん玉野郎がああァァァッ!」ガンッガンッガンッ!!

古泉「ぐ…」


神人『――ォ、ッ、』


神人『ヴォォォアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』ビリビリビリ!


神瑞「!」
古泉「!」


機関員「ぐあっ!?」

古泉「こ…れは……!?」ビリビリビリ

神瑞「…」ビリビリビリ…

神瑞「対情報統合思念体コンタクト用ヒューマノイド・イントルーダー天蓋領域第三個体『涼宮ハルヒ』の能力奪取の成功を確認」

古泉「……何を、」

神瑞「オーオー始まっちまったよお祭りが!さてさて何が起こるのかな何が始まるのかな何が創造されるのかな!!?」


神人『ッガアアアアアア!!!!!!!!』ビリビリビリ!

神瑞「やっちまえよ神人ッ!まずはこの男前をその自慢のでっけえ拳でさぁ!!」

神人『ガッアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』ヒュッ

古泉「――っ」

ドンッ――――!

古泉「」


ガァァンッ!!!!ドドドドドド……


神瑞「いいよいいよ、人の業が生み出したこの地球のゴミを一層し、新たな世界に造り替えてやるんだ!」

神瑞「ビルが壊れる!地面に大穴が空く!衝撃で周りの建築物も丸ごと大破壊!!」

神瑞「破壊の限りを尽くせ神人ッ!!貴様は最高だ!!」


神人『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』

瓦礫の中


古泉「……、」

古泉「っ……、は。ッゲホッ!!ァァあああ」

古泉「ッ、グフッ、は、ふ……」

古泉「はっ、はっ……」

古泉(今度という今度こそは間違いなく死ぬかと……。まさか生存しているとは、僕の能力もまだまだ甘く見れたものではありませんね)

古泉「…、…、」

――対情報統合思念体コンタクト用ヒューマノイド・イントルーダー天蓋領域第三個体『涼宮ハルヒ』の能力奪取の成功を確認

古泉(何が、起きて…いる……)

古泉(まずは…、考える事。それが先決……)

古泉(彼曰く、僕は団内でもそういう役目を担う人物だそうですから)

古泉(……)

古泉(天蓋領域の人型イントルーダーの存在理由は、)

古泉(情報統合思念体とのコンタクトのため…?)

古泉(情報統合思念体と天蓋領域は敵対関係にある)

古泉(天蓋領域の目的は、日本刀女の台詞からするに、やはり涼宮さんの能力にあった)

古泉(とすると、その事態は情報統合思念体の意に反する行為)

古泉(能力の奪取に成功したと言っていた)

古泉(知性の程度がどれほどのものかは知れませんが、彼女はその情報をわざわざ口から漏洩してくれた。あれは裏を欠いているようには思えない)

古泉(となると、能力は本当に敵の手中に…)

古泉(いえ、そもそも、第三個体が涼宮さんとはどういう理屈なのか)

古泉(おそらく第一個体は周防九曜。第二個体は神瑞ミライ)

古泉(そして第三が…涼宮さん……?)

古泉(……どういう展開になっているのか)

古泉「」ズキッ

古泉「が――あ、」

古泉「…………」

古泉(僕も人間だ。あのような攻撃を受けては、もう…)

古泉「……っ、……っ」

古泉(視界が…)

古泉(ここまでか)

古泉(僕が亡き者になれば、機関は、涼宮さんは、sos団は)

古泉(…どう思考を巡らしても悪い展開にしか転ばない)

古泉(sos団は誰一人として欠けてはならない、それは涼宮さんの願望)

古泉(そして僕はその願望を……)

古泉(……、)




古泉「」

北高付近




――ガンッガンッガンッガンッ!!!



長門(大)「……?」

周防「フフフ」


ガガガガガガガガ…!!!


長門(大)「周防九曜個体のエネルギー値が先ほどより急上昇中」

長門(大)「同時に時空震が起ころうとしている……それに伴い閉鎖空間の急速拡大、及びこの星を構築する情報量が莫大に膨れ上がっている」

みくる「こ、れは……もう…うえええ、一体何がどうなってるんですかあああ」

長門(大)「この時点より四年前に起こした涼宮ハルヒの現象に酷似している」

ブウ――ンッ!!


長門(大)「!」

みくる「ふええ?」

周防「!……」


長門(大)「閉鎖空間……。拡大の進行速度が上がっている」

長門(大)「もう既にここにも範囲が及んでしまった」

長門(大)「古泉一樹…」

長門(大)「生命情報は」

周防「――まずはあなたの存在を抹消することから」

ガンッ

長門(大)「……ッ」

みくる「ふええええええ」

周防「朝比奈みくるの無知、無力がここにきて仇となった。あなたは朝比奈みくるを庇いながら私と相手できるほどの能力を持たない」




長門(大)「…、…、」フラ…

周防「朝比奈みくるの気絶を確認。既にゴミも同然。そしてあなたはここで死ぬ」

長門(大)「! ……」

みくる「……」

長門(大)「彼女の無知の維持によって、過剰なこの時空の人間に対する感情移入を防ぐため道具としての役割に徹する。規定事項に支障を及ぼす可能性を無くすため。そしてそれは未来勢力の意図を隠蔽する機能も持つ」

長門(大)「彼女は未来勢力による駒として扱われていた」

長門(大)「が」

長門(大)「彼女は彼女の役目を貫いている」

長門(大)「侮辱は許されない」

周防「急に饒舌…」

周防「情報統合思念体人型インターフェース、精神の自立進化…いえ、退化を遂げたか」

長門(大)「答えは今に出る」


周防「そう。答えはすぐに出る」

周防「――退化、という答えが」


神人『ッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


長門(大)「ッ!?」

――ドオッ!!!!

ズズン……ドドドドド……!!

周防「――」

周防「フフフ」

周防「フフフフフフ」

周防「フフフフフフフフフフフフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

周防「素晴らしい。秀逸、完璧、無敵」

周防「神人の力を前にしては何者も抗うことはできない」

周防「長門有希。対有機生命体コンタクト用人型インターフェース。情報統合思念体」

周防「もう少しだけあなたを、あなた達を知りたかった」

長門(大)「まだ」スッ!

ズンッ――!!

神人『アアアアッ!!グ……ヴォ、ッガ』フラッ……



周防「あの神人にダメージ…」

周防「流石は長門有希」

周防「しかし朝比奈みくるを抱えながらの戦闘には限界がある」

周防「諦めが肝心」


長門(大)「…」

長門(大)「あなたはsos団を分かってはいない」

長門(大)「sos団は何者にも何事にも折れない絶対の力がある、中心には涼宮ハルヒがいる。そして『鍵』が、古泉一樹が朝比奈みくるが、私がいる」

長門(大)「sos団は負けない」

長門(大)「情報構築エネルギーを35%から99%に上昇」

長門(大)「これより情報制御空間を構築し、神人を隔離する」

長門(大)「実行」

パキパキパキパキパキパキ

周防(巨大で強固な情報壁――神人を幽閉する気か)

神人『……ガ、アアア』

パキパキパキパキパキパキ

神人『アアアアア』

パキパキパキパキパキパキ

長門(大)「情報制御空間完成率32%……」

パキパキパキパキパキパキ


長門(大)「情報制御空間完成率48%……」

パキパキパキパキパキパキ

長門(大)「情報制御空間完成率65%……」

パキパキパキパキパキパキ

長門(大)「情報制御空間完成率81%……」

パキパキパキパキパキパキ

長門(大)「情報制御空間完成率94%……」

パキパキパキパキパキパキ…

ハルヒ宅前

ハルヒ(偽)「――――」

キョン「……」

長門「……」

キョン「ハルヒに」

キョン「翼…が」


長門「ここを中心に、この星を構築する情報量の激増、閉鎖空間の急速拡大、時空震による時間平面への強大な負担が起こっている」

長門「この時空より四年前に起こった現象に酷似している」

長門「天蓋領域に涼宮ハルヒの力が渡ってしまったと見られる」


キョン「…、」

キョン「……、」

キョン「………、」

キョン「もう、俺は」

キョン「どう驚けばいいかも分からない混乱状態だ。思考完全停止だ」

キョン「天蓋領域?神の力が奪われた?」

キョン「何がどうなってやがる!」


ハルヒ(偽)「――――」


キョン「ハルヒ……いや、あいつは」

キョン「何か話し掛けていないか。何か訴えてはいないか」

長門「コミュニケーションを計ろうとしている」

長門「神なる存在が、人間であるあなたに対して」

キョン「神…」

キョン「神……」

キョン「はは」

キョン「こりゃ滑稽だ」

キョン「北高の制服に身を包んだ容姿端麗な美少女の風体をした、大きな翼を生やすまさしく天使のようなイメージを沸き起こさせる、神」

キョン「あれが、神だってのか」

キョン「あれが」


ハルヒ(偽)「――――」

長門「このままでは」

キョン「……どうなるんだ」

長門「……」

長門「解析、不能」

長門「時空震、閉鎖空間、情報爆発」

長門「彼女が起こしたそれらは、情報統合思念体が観察指定対象とするきっかけになった」

長門「よって原因、影響、結果」

長門「全ては完全なまでに未知の領域」

長門「一つ言える事は、」

長門「このままでは、この星は、世界は、時間平面は、何もかもを保てなくなる。崩壊する」

長門「そしてそれを阻止する手段は」

長門「皆無と思われる」


キョン「…………」

キョン「…………」



キョン「そっ、か」


キョン「何がどうなってこんな展開に行き着いちまったのか、もはや俺には一ミリだって理解するこた出来ないだろうさ」

キョン「今の俺が思っていることは、ただひとつさ」


キョン「やれやれ、だ」


キョン「ハルヒの消失の件から薄々思ってたんだ」

キョン「sos団の日常、非日常は俺にとって実は何にも得難い最高に大切なものにまで成り上がっちまってたけどさ」

キョン「この時は、いつまでも続かないんだって」

キョン「薄々気付いてたんだ」

キョン「その崩壊がどんな形になるか知るすべもない俺には根拠もなかった」

キョン「だがな、長門」

キョン「何も変わらないでいられるなんて、有り得ないんだよ。それは例えハルヒたる神の力を使ったってできっこないんだろうさ」

キョン「だから今俺は、虚脱感を思い切り込めた溜め息を吐いて」

キョン「やれやれ、って今を受け入れるしかねえんだ」


みくる(大)「そうね、キョン君はそういう人間だものね」

キョン「……朝比奈さんっ」

みくる(大)「ごめんなさい、もう時間平面は支え切れません。こうなれば涼宮さん本体をどうにかするしかないと思ったのだけれど、手遅れみたいね」

長門「手遅れではない」

キョン「まだ手があるのか、長門」

長門「ある」

長門「偽物である涼宮ハルヒ本体を叩く」

キョン「叩くって…そりゃつまり」

長門「生命活動を停止させる。まだ間に合う」


キョン「まだ…間に合う」

長門「そう」キュイーン…


ハルヒ(偽)「――――」


キョン「そんな刃一つでどうにかなるのか…」

長門「なる」

長門「あの両翼に見られる大きさの変化は、力の覚醒までのタイムリミットだと思われる」

長門「覚醒までに超高密度情報切断ナイフで目標である偽涼宮ハルヒ、能力の器を叩く」

キョン「…」

キョン(あいつを叩いて全てが解決するなら、そうした方がいい)

キョン(けど…)


キョン(理屈じゃないんだが、本物のハルヒの身に何かが起こりそうな、そんな気がしてならん)

キョン(しかしこのままじゃ、分かり易く言ってみりゃ世界は終わりだ、後に再生されようが何だろうが今こうして存在してる世界は間違いなく滅亡する)

キョン(どうすりゃ…)

キョン(どうすりゃ……)


ハルヒ(偽)「――――」


――ズズズ…




キョン「! 何だ…」


長門「、下がって」ガバッ
キョン「うおっ」
みくる(大)「ひゃっ」


神人『――ヴォオオオオオオオオオオオオッ!!!!』ドスン!!


キョン「な!!」

キョン「神人じゃねえか!」


長門「これで証明された」

長門「あの器は脆い、覚醒までに手を打てば事は解決する」


神人『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』


キョン「ぐ……そうか、もうここも閉鎖空間に支配されてる、ハルヒの能力が本当に別の奴に移っているのなら神人を召喚してコントロールする事も可能だって訳か」

長門「」スチャ

みくる(大)「長門さん!」

長門「これより神人の破壊に移る」

キョン「……、」


神人『ヴォオオオオオオオオオオオオッ!!!』

長門「」タタタタッ


神人『ァァァアアアアアア!!!』ヒュッ


キョン「長門危ねえ!」


長門「!」タッ!


ドンッ――!!


みくる(大)「回避した…」


長門「」シュッ

グサッ



神人『!! ガァアアアアアアッ!!!!』


長門「動きが素速い。切断は不可能と判断。神人の心臓部より能力による発現構築情報への分解信号を注入し破壊する」

――ドクッ ドクッ

神人『ガァアアアアアアアアアアアア!!!!』


キョン「……ッ、暴れ出しやがった朝比奈さん下がりましょう!」

みくる(大)「はいっ」





キョン「くそ、まるでゴジラを相手にしてるような気分だ。離れても離れても安全な気がしねえ」タタタタ

みくる(大)「物陰に身を…」タタタタ

キョン「……」タタタタ

キョン「…」タタタタ


――偽物である涼宮ハルヒ本体を叩く

――生命活動を停止させる



キョン「…」

キョン「……やっぱり駄目だ」

みくる(大)「え?」

キョン「長門は逞しい、頼れる。長門ならあの神人を突破して偽物ハルヒを見事に消滅できるかもしれない」

キョン「長門なら信じられる」

キョン「だからあのハルヒは偽物、そう長門が言うなら信じたい」

キョン「でも、駄目だ」

キョン「俺は……、駄目だ!」ダッ

みくる(大)「キョン君!」


キョン(ちくしょうちくしょうちくしょう、どうして俺って奴はこうなんだ)タタタタ

キョン(長門が体張って世界を守り抜こうとしてるんだ、それを俺は邪魔しようとしてるんだぞ)タタタタ

キョン(馬鹿だ、それこそ宇宙的スケールでの大馬鹿だ)タタタタ

キョン(けどな、けどな)タタタタ

キョン(勘が言ってんだ、それは駄目だ)タタタタ

キョン(ハルヒに何か起こりそうな気がしてならん)タタタタ

キョン(そこまであいつが大切か、何てこった。俺って奴は世界よりあいつを優先させてるんだぜ)タタタタ


神人『ガァアアアアアアアアアアアア!!!』

神人『ガァアアアアアアアアアアアア!!!』


キョン(! 神人の姿がどんどん薄くなってやがる…)


神人『ガァアアアアアアアアアアアア!!!』

――スウウッ…

長門「やはり即席で呼び出した神人だと再確認した。情報密度が通常の神人の五倍薄い」

神人『ガァアアアアア!!』

神人『ァァアアアッ、』

神人『――ッ』

神人『――』


――スッ


長門「」トッ

長門「……神人の完全消滅を確認、再召喚の前に偽涼宮ハルヒ本体を消す」タタタタッ


長門「――」スチャッ

ハルヒ(偽)「――――」

長門「」タタタタ

長門「」タタタタ

長門「切断を…」タタタタ


長門「」ヒュッ!





キョン「――止めてくれッ、長門!!!!」



長門「!」ピタッ


ハルヒ(偽)「――――」バサッ!


――ドンッ!!!!!!


キョン「うおっ!!?」
長門「!!」


キョン「地震かっ」

長門「……両翼が広がり切ったところを見ると本体の発光からするに覚醒されたと思われる」

長門「時空震が始まった」


ハルヒ(偽)「――――」


ゴゴゴゴゴゴ…


ゴゴゴゴゴゴ…


キョン「……」

キョン「何故破壊を止めたって怒らないのか」

長門「怒らない」

キョン「どうして」

長門「あなたの言葉だから」

キョン「……」



ハルヒ(偽)「――――」


キョン「ここからは…俺の、選択だ」

キョン「すまん。長門、この先は俺が何とかする。責任も持つ。世界もハルヒもどうにかする」

長門「」コクリ


ゴゴゴゴゴゴ…


ハルヒ(偽)「――――」


キョン「ハルヒ…」


北高付近


パキ――


長門(大)「100%」


周防「情報制御空間による神人の幽閉に成功……」

周防「情報統合思念体を甘く見ていた」

長門(大)「残るは周防九曜、あな――」

――ドンッ!!!!!

長門(大)「!」

周防「!」


ゴゴゴゴゴゴ…

長門(大)「……時空震」

周防「……フフフ」

周防「ハハハハハハハハハ」

周防「第三個体の覚醒を確認」

周防「世界は生まれかわる」


長門(大)「……」

長門(大)「」スッ

周防「どこへ行くの」

長門(大)「もうあなたに朝比奈みくるを狙う理由が無くなった。このまま朝比奈みくるを伴い第三個体の方へ向かう」

周防「フフフ。どうぞご自由に」


――グサッ



周防「……ッ」

長門(大)「ただし周防九曜。あなたを抹消してから」

周防「……情報分解信号の注入」

周防「あなたともあろうお方が騙し討ちとは」スウッ――

長門(大)「……」

周防「……それではさようなら」スウッ――


周防「新世界の創造をその目でお楽しみあれ」


スッ――



長門(大)「……周防九曜の完全消滅を確認」


街中


――て

――なさい!

――起きなさいッ!!


古泉「」ガバッ

古泉「……」

古泉「あなたは…」


朝倉「どうも、古泉一樹」



古泉「これは…」

古泉「治癒はあなたが」

朝倉「ええ、まあ」

朝倉「この一帯の神人は全て喜緑さんが片付けてくれました」

古泉「!……」

古泉「一人でですか。大したものです」


――ドンッ!!!!!


古泉「!」
朝倉「!」


古泉「これ…は」

喜緑「時空震が始まりました」スッ

古泉「時空、震…」

朝倉「遅かったようね。もうこの先はどうなるか誰にも検討がつかないわ」


古泉「時空震の発生…四年前の現象……」

朝倉「神人を破壊したとは言え今更でしょうね。既に閉鎖空間は世界の大半を覆い尽くしている、神人の数もそれだけいるのだから近辺の神人を退治したところでもう何も事態は改善されない」

朝倉「ここまで四年前の現象に酷似しているのなら、このまま世界の構築情報量も爆発するでしょう」

喜緑「上はどう判断するのでしょうね」

朝倉「さあ?もうこの際どうでもいいけど」

古泉「……」

古泉「」スッ

朝倉「今更どこに行くの?」

古泉「決まっているでしょう、涼宮さんの元ですよ」


朝倉「それは第三個体の話?本物の話?」

古泉「こと涼宮さんに関して僕に分からないことがある理由はありません」

古泉「ましてや世界の大半が閉鎖空間に覆われているのなら、能力限定の幅が少なく、現在の僕はまさしく長門さんのようなスーパーマンな訳です」

古泉「彼女とその第三個体がほぼ同地点にいることも容易く感知できます」

喜緑「そこへ向かうのね」

古泉「はい。球体に変身して飛んでいけばすぐでしょう」

朝倉「だから、行ってどうするの」

古泉「……さあ、ね」


ハルヒ宅付近


ゴゴゴゴゴゴ…


ハルヒ(偽)「――――」


キョン「……」

キョン「よおハルヒ、聞こえてるか」

キョン「ついにお前が――いや、正確に言えばハルヒじゃないんだろうが、どうせ地獄耳を誇るお前のことだ、ここで言わせてもらうぜ」

キョン「ついにお前が神になっちまったんだ。そりゃあ輝かしい翼を纏って、全身から光を放って、見るからに神って感じの出で立ちでな」

キョン「もう日常も非日常も壊れちまう」

キョン「世界が壊れちまうんだ」


キョン「やったな、ついに神だ。お前が神になっちまった」

キョン「どうだよ。これ以上面白い事なんて、それこそ宇宙中を探してもそうそう見つかりっこないんだぜ」

キョン「でも、いくら面白い事だっていつか飽きちまうだろ」

キョン「だからこそお前もあれをやってはこれをやってと、好奇心の赴くまま次の面白い事をくまなく探し回ったはずだ」

キョン「でも面白い事なんてなかなか見つからなかったろ」

キョン「sos団総出で街中歩き回っても、面白い事は見当たらなかったもんな」


キョン「聞いて驚くんじゃねえぞ、俺はわざわざ探し回らなくたって面白い事は沢山見付かったんだぜ。独り占め精神で誰にも言いはしなかったけどな」

キョン「何が面白いのかって?そうだな、流石に世界崩壊寸前くらいなら暴露してやってもばちは当たらないだろう」

キョン「sos団だよ」

キョン「もうこの際、一切の誇張抜きに本心を口にしてみるぜ」

キョン「これまで生きてきて、俺はsos団以上に面白いものを見たことがない」

キョン「多分、死ぬまで五人全員でいられるなら、一生退屈しのぎに困らない自信があるぜ」

キョン「あそこは紛れもなく、俺にとって最高の居場所だ」


キョン「でもその団も世界丸ごと消滅するみてえだ。いや、消滅なのか再創造なのか、はたまた分裂なのかどうなのか俺の想像力じゃ考えにも及ばないけどな」

キョン「皮肉にもsos団を結成したお前の力が、消滅させちまう」

キョン「でもお前は悪くないよ」

キョン「だって悪いのはお前の力だろ?そこをはき違えるほど俺も馬鹿じゃないさ」

キョン「だから俺はお前の力を憎んでもいるが、反面そうでもなかったりするんだ」


キョン「時々考える」

キョン「ハルヒがいなかったら?」

キョン「ハルヒに力がなかったら?」

キョン「俺はハルヒに力がなかったら、ハルヒをどう見ていた?」

キョン「仮にハルヒに力が無くともsos団全員が集まって、その五人で送る日常は俺にとって大切な居場所になりうるのか?」

キョン「答えはいつも出なかった」

キョン「人間が『if話』をいくら考えたところで、それはあくまでも『if話』に過ぎないんだ」

キョン「……、」

キョン「俺の人生が物語だとして、そして俺自身はその物語の語り手だとするよ」


キョン「ちなみに言っておくぜ、俺は日常に不思議が訪れる、そんなsfな物語が好きなんだ」

キョン「そうしたのなら、さしずめ古泉はストーリーの解説役、朝比奈さんは癒やし要因、長門はキーパーソン」

キョン「そしてお前は、俺の物語の書き手だ」

キョン「お前がいれば、そこには物語が生まれる」

キョン「お前がいれば、その物語は終わらない」

キョン「そうすると俺の語りも終わらない」

キョン「お前がいるから、終わらないんだ」


キョン「だからきっと、お前に力があっても無くても、お前は俺の頁に物語を書き綴ってくれる」

キョン「お前がいれば、きっと俺の空白の頁をうんざりするくらいの活字でいっぱいにしてくれる」

キョン「宇宙人だから、未来人だから、超能力者だから、そういうのは関係ないんだ」

キョン「きっとそこには長門もいて、朝比奈さんもいて、古泉もいる」

キョン「そうさ、そうなんだ」

キョン「それが答えなんだ」

キョン「意味分からないとか言うなよ、理屈になってないとか言うなよ、こういうのは感覚が大事なんだ」

キョン「俺は今を壊したくない」

キョン「お前にいてほしい」


古泉「僕も同意見ですね」


キョン「古泉!」

古泉「僕はここまでの経緯からして、理屈派のポジションに身を置かざるを得ないのですが」

古泉「こういうのは理屈じゃないんですよ、五人でいるから楽しい、それで良いんです」

古泉「そこには能力が無かったら?涼宮さんがいなかったら?そのような〝if〟に介在の余地はありません」

古泉「そして僕はこう断言ができます」

古泉「僕らsos団が揃っていれば、そこは必ず皆にとっての大切な居場所になりうる、とね」


みくる「遅くなりましたああ」


キョン「…朝比奈さん」

みくる「長門さんがすぐそこまで案内してくれました」

みくる「は、話が途中からで上手く状況が飲み込めないんですけど…」

みくる「私も、古泉君の言うとおりsos団は大切な居場所ですっ」

みくる「それは絶対に揺るぎませんっ」

みくる「何というか…いつも大変な思いをさせられてるけど、あそこはとても暖かいんです」

みくる「そしてきっと、涼宮さんもそこにいなければ、妙な寒さを覚えるような、そんな気がします」

みくる「私はsos団が大好きですっ」


長門「……」

長門「帰ってきて」


古泉「」ニコリ

みくる「……」


キョン「…だとよ、ハルヒ」

キョン「俺達はお前を求めてるんだ」

キョン「お前がいなきゃ始まらない」

キョン「お前がいてこそのsos団だ」

キョン「だからさ、こんな大ピンチ、危機的状況、世界崩壊寸前、お前の団長パワーでどうにでもぶっ壊して、さっさと平和な世界に戻したらまた五人で面白い事探そうぜ」

キョン「そうだな。日本ばかりを視野に入れずに、今度は国外へ乗り出してみたらどうだ」

キョン「お前の行動力があれば地球の裏側だって数秒の決断ではいレッツゴーだろ?」

キョン「でもその分、授業に遅れが出ちまったらさ」

キョン「その時はハルヒ、お前の頭脳でちゃちゃっと学力の遅れを取り戻せるようご指導のほど宜しく頼むぜ」


ハルヒ(偽)「――――」


ゴゴゴゴゴゴ…


長門「これがあなたの選択」

キョン「どうだ、無責任だろ。つまり俺がしたかったのは『帰ってきておくれハルヒー』の泣き落としだ」

古泉「あなたらしいです」

キョン「それは誉めてるのか?」

古泉「ええ、もうそれはかなり」

長門「私も古泉一樹と同意見」

キョン「驚いたな…お前もか、長門」

みくる「涼宮さあああん。帰ってきてくださあああああい」

古泉「本格的に泣き落としに入った方もおられるようです」

キョン「そりゃまた朝比奈さんらしくていい。朝比奈さんほどの天使の涙を前にしては、閻魔大王様も地獄から方向転換させて、天国への切符を与えるに違いないさ」


……ゴゴゴゴゴゴ!!


古泉「そろそろ危ないですね……世界も」

長門「」コクリ

みくる「ふええええ」



キョン「…………皆、ちょっと聞いてくれないか」

古泉「ええ、是非とも」

長門「」コクリ

みくる「ふえ?」


キョン「副団長だから古泉の方が適役だとかは関係ない、ハルヒがいないのなら文句を言う奴もいない、今は俺がsos団の団長だ」

キョン「ただし仮だけどな」

キョン「そして最初で最後の団長命令だ」


キョン「この先何がどうなっても、誰もsos団に入ったことを後悔するな」

キョン「そしてもしsos団が何かによってぶっ壊れまったら、たとえその時誰も頼る奴がいなくて独りきりになってしまったとしても」

キョン「その時は、自力で、意地でも、」


キョン「sos団を、取り戻そう」


長門「承知した」

みくる「は、はいっ」

古泉「了解です。出来る事なら何でもしてみせましょう」


ゴゴゴゴゴゴ!!


キョン「じゃあ多分、短い間、お別れだ」

キョン「日常を、取り戻そう」


――――――――――――



?「先輩」

キョン「――――」

?「先輩」

キョン「――――」

?「先輩!」

キョン「うおっ」ガバッ

キョン「ここは…」

キョン「真っ暗闇だ。何も見えやしねえ」

?「先輩」

キョン「!」

キョン「お前……時間分裂時に会った」

キョン「渡橋泰水」

キョン「ハルヒの精神の具体化」

キョン「もう一人のハルヒ」

ヤスミ「――――?」

キョン「おいおい、今更キョトン顔してくれるなよ」

ヤスミ「――――る」

キョン「え?」

ヤスミ「――――る」

キョン「すまん、よく聞こえない」





ヤスミ「私は、ここにいる」

――――――――――――

【第二章 終】

【第三章】


[古泉一樹の憂鬱]

古泉「ここは…」

古泉「……どこでしょう」

ワイワイ

ガヤガヤ

古泉「北高の…教室……」

古泉「時空震は……止んでいる?」

古泉(別の時空?パラレルワールド?それとも元の時空の改変後の世界?)

古泉(まるで今までスケールの大きな夢を見ていたみたいです)

古泉(……妙な眠気を覚える)

古泉(…、……、)コクリ、コクリ

古泉(おっと)

古泉(どうしてか…今寝てしまうと)

古泉(この世界が、全てが、終わってしまいそうな気がします)

キーンコーン……



古泉(放課後…)

古泉(眠気はまだ収まらない)

古泉(僕は何かしなければいけないような気が)

古泉(そしてそれは、誰かによる絶対命令)

古泉(抽象的な義務感なのに、具体的に浮かび上がるイメージ)

古泉(僕は…何をすればいいのでしょう)

古泉(放課後なのだから、部活…)

古泉(――部活?)

古泉(そうだ)

古泉(僕は、sos団の団員)

古泉(部室に向かわなければいけませんね)

部室

コンコン

ハルヒ「どうぞ」

古泉「こんにちは」ガチャ

長門「……」ペラ…ペラ…
みくる「……」トポトポ…
キョン「……」

古泉「……今日は嫌に静かですね」

ハルヒ「そう?いつもこんな感じじゃない」

古泉「そう、でしたか」

キョン「何突っ立ってんだよ、早く座ればいいじゃねえか」

古泉「では…」

みくる「どうぞ」コト

古泉「どうも、いただきます」

古泉「…」

古泉(……違う)

古泉(何か、違う)

古泉(朝比奈さんの煎れる紅茶は……形容し難いのですが、もっとこう温かみの感じられる味だったような気がするのですが)

古泉(長門さんはいつもと変わりない風ですが、ちょっとした質問に対する首肯の一つもなさそうな、周りへ見えない壁を作っているような、そんな無関心が感じられる)

古泉(涼宮さんもおかしい。特に目だ。何でしょう、あの童心や好奇心の消えた暗く乾いた目は)

古泉(そして彼は…)

キョン「……」

古泉(あの無気力な雰囲気はそのままに、すぐにでもここを出てしまいたがっているような、sos団に対する興味関心が完全に失せているような、微かな苛立ちが見て取れる)

古泉(ここは…sos団は)

古泉(このような場所だったでしょうか)


キョン「おいハルヒ」

ハルヒ「何?」

キョン「今日は何をするつもりだ」

ハルヒ「んー」

ハルヒ「別に何も」

ハルヒ「何も、決めてないわ」

キョン「そうか」

古泉「……」

キョン「帰っていいか」

ハルヒ「別に」

古泉「…?」

キョン「じゃあ帰るわ」ガタッ

古泉「ま、待って下さい」

キョン「? どうした古泉」

古泉「涼宮さん、このまま帰らせてよろしいのでしょうか」

ハルヒ「?」

ハルヒ「いつものことじゃない、古泉君も暇だったらさっさと帰っていいわよ。やることないし」

古泉「……そう、ですか」

キョン「じゃあ帰るぞ」

ハルヒ「そ」

キョン「じゃあ帰ろうぜみくる、この前美味しい店見つけたんだよ」

古泉「!」

みくる「本当ですかあ、楽しみです」

古泉「あ、あの」

みくる「はい?」

古泉「か、彼は…あなたを下の名前で呼ぶような仲でしたか。いえ、決して踏み込んだ質問ではないんです。その、一応先輩後輩関係というのもありますし」

ハルヒ「何言ってるの古泉君、先輩とは言え彼女を名字で、しかも、さん付けで呼ぶなんて失礼甚だしいわ。古泉君だって彼女は下の名前で呼ぶでしょ?」

古泉「あ、いえ、僕は…そのような方はいませんが……」

キョン「今日の古泉はどこか妙だな。お前も早く帰るといい。ほら、みくる」

みくる「はあい」

長門「……」ガタッ

古泉「…!」

長門「帰る」

ハルヒ「そ」

古泉「あ、あなたは何故」

長門「二人のわずらわしさに気が立ってきたから」

古泉「!」

キョン「……おい長門、そりゃどういうことだ」

長門「言葉通り」

キョン「思っていることをわざわざ口に出すのは災いの元だぞ」

長門「そう」

キョン「…」

キョン「お前近頃生意気になってきたな」

古泉「!!」

みくる「私もそう思います」

古泉「…、……、」

古泉(これは、この空気は)

古泉(基本的な性格はそのままだ、しかし…)

古泉(仲が、僕達を繋いでいた糸の色が)

古泉(何かが、変わっている)

長門「余計な口を」

みくる「……どういう意味ですか。これでも私はあなたの先輩です」

長門「だから」

キョン「…お前ッ」

古泉「や、止めて下さい!」

キョン「…」

ハルヒ「……へえ」ニヤリ

古泉「ど、どうしたんですか。今日のあなた達はおかしい、この険悪なムードは何です」

キョン「どけって、邪魔だ」

古泉「……あ、」

ガッ

キョン「で、お前はこうだ」

バキッ

長門「…ッ!」ガタンッ



古泉(長門さんを…殴った)

古泉(いえ、あの長門さんも……殴られた)


ハルヒ「ちょっとやりすぎ。すぐ喧嘩するの止めにしてくれない?退部にするわよ。困るでしょ?」

ハルヒ「この学校は部活強制、でもこんな自由奔放にできる場所はここだけ。ここを退部されて大丈夫な訳?」

キョン「…すまん、もうしないよ」

バタン


古泉(二人共…本当に帰ってしまった)

古泉(ここは、いつからこうなってしまったんだ)


長門「……」フラフラ

古泉「な、長門さん。頬が腫れています、僕が手当てをしましょう」

長門「帰宅する」

古泉「そ、そうも言ってられないでしょう」

パンッ!

古泉「……!」

長門「触れないで」

長門「私はあなたが嫌い」

古泉「…………、」


バタン

ハルヒ「あーあ、嫌われちゃったわね」

古泉「……いえ」

ハルヒ「何あからさまに落ち込んでるのよ、いいじゃない。有希と付き合ったって多分つまらないだけよ。デートが図書館とかね。あはは」

古泉「話が、見えないのですが」

ハルヒ「え?古泉君って有希が好きだったんじゃないの?」

古泉「……」

古泉「いえ、僕は彼女に思いを寄せた覚えは」

ハルヒ「へえ、そうだったんだ」

ハルヒ「…」


ハルヒ「ねえ」

古泉「はい」


ハルヒ「」シュルッ


古泉「!?」

ハルヒ「や、やっぱりそういう経験…ないんだ」

古泉「は、早く制服を着て下さい」

ハルヒ「ねえ、古泉君…」シュル…シュルッ

古泉「涼宮さん!」

ハルヒ「……古泉君」

古泉「僕の言うことを聞いて下さい、お願いします」

ハルヒ「ねえ。私のこと、嫌い?私は、私は、ずっと……」

古泉「寄らないで、下さい…。涼宮さん。涼宮さん!」

ハルヒ「……っ」

古泉「涼宮さん、お願いします」

ハルヒ「私の、何がいけないの」

古泉「いけないところなんて何一つありません。涼宮さんはとても魅力的な女性です」

ハルヒ「嘘ばっかり」

古泉「あなたには彼がいるでしょう」

ハルヒ「えっ。……誰よ」

古泉「……」

ハルヒ「いないわよ、そんな人」

古泉「……」

ハルヒ「美男美女、仲良くしましょう。自分で言うのも何だけど似合ってると思うわ」

古泉「…ご遠慮、させてもらいます」

ハルヒ「……そう」

古泉「服を、着て下さい」

ハルヒ「はいはい」


ハルヒ「」シュルシュル


古泉「」ホッ

ハルヒ「あの誘惑に打ち勝てるなんて凄いわ、さすが古泉君ね」

古泉「…」

ハルヒ「堅い顔しないでよ、ちょっとした冗談よ」


古泉「冗談にしては……目が本気に見えましたが」

ハルヒ「…」

ハルヒ「別に」

古泉「……」

古泉「その、あの…」

古泉「すみませんでした」

ハルヒ「…早く帰ってよ、女子の泣き顔を見ていいのは、その人にとって大切な人だけなんだから」

古泉「……失礼します」

公園


古泉「…」

古泉(記憶を、整理しましょう)

古泉(今までのsos団は…)

古泉(sos団は)

古泉(――――!)


――『で、何かあったのか』

――『お見通しで』

――『あんな分かりやすいリアクションされたら俺でなくとも何かに察するさ。ハルヒといえば聡いが、時たま変な部分で鈍くなるだけだ。それで、あれか、また閉鎖空間か?』

――『ええ』

――『……、おいおい本当にか。冗談半分だったんだが』

――『それよりも…発生した閉鎖空間よりも気になるのが涼宮さんです』

――『これでも少しは彼女の気のブレ幅なんかを見抜けるようになったつもりでいたのですが……自惚れていたのでしょうか、今回は予兆も予測も皆無でした。あまりに唐突です』

――『こ…れは……!?』

――『…』

――『対情報統合思念体コンタクト用ヒューマノイド・イントルーダー天蓋領域第三個体『涼宮ハルヒ』の能力奪取の成功を確認』

――『……何を、』

――『オーオー始まっちまったよお祭りが!さてさて何が起こるのかな何が始まるのかな何が創造されるのかな!!?』


――『ッガアアアアアア!!!!!!!!」

――『僕も同意見ですね』


――『古泉!』


――『僕はここまでの経緯からして、理屈派のポジションに身を置かざるを得ないのですが』

――『こういうのは理屈じゃないんですよ、五人でいるから楽しい、それで良いんです』

――『そこには能力が無かったら?涼宮さんがいなかったら?そのような〝if〟に介在の余地はありません』

――『そして僕はこう断言ができます」


――『僕らsos団が揃っていれば、そこは必ず皆にとっての大切な居場所になりうる、とね』

古泉「…………」

古泉(僕は、そうだ)

古泉(ここに来た時、突然の眠気を覚えて)

古泉(途端、記憶が曖昧になり、自分を見失っていた)

古泉(僕は、涼宮さんの能力を奪った天蓋領域である、偽の涼宮さんが滅ぼそうとした世界からここへやって来た)

古泉(ならば、やはりここは別の時空…)

古泉(別の時空……?)

古泉(別世界と表現した方が合点がいく、過去を塗り替えても未来には影響しないという時間平面理論からしても、滅ぼされた世界より未来という事は考えられない)

古泉(過去はより有り得ない、あのようなsos団を僕は知らない)

古泉(となれば、ここは別世界)

古泉(僕は、別世界にきた)

古泉(それを仮定し、それで僕は何をすればいい)

古泉(僕はどうすればいい)

古泉(以前に、彼に聞いた話がある)

古泉(僕は蚊帳の外でしたが、涼宮さん消失の件)

古泉(彼は一度、sos団の存在しない世界を見た)

古泉(これもその現象と同じか)

古泉(それなら、僕もまた鍵を揃える必要がある)

古泉(鍵……)

古泉(形は違えど、確かにあそこにはsos団は全員が紛れもなく存在していた)

古泉(解決策はそこではない)

古泉「…」ウト…ウト…

古泉「……」

古泉「――――」

古泉「!」バッ

古泉「……」

古泉(疲労は無い。しかしこの突発的な眠気は何です)

古泉「…」ウト…ウト

――ブウ……ン…

古泉「!」ガバッ

古泉(視界が、世界が…)

古泉(ブレた)

古泉(やはり疲れているのか)

古泉(…………違う、これは警告だ)

古泉(僕は確かに何かの意味があってここへ来た。そしてその意味を見いだすまでのタイムリミットが〝これ〟、そう推測できる)

古泉(行動に移らなければいけない)

古泉(行動だ、行動に)

古泉(しかし……)


?「ふええええ!」


古泉「!」

みくる「古泉君ですかああああああ!!」ガバッ

古泉「な、えと、あの……お二人でのデートはどうなされたのですか」

みくる「デート?意味が分からないですうう」

古泉「デートの意味が、分からない…」

古泉「……」

みくる「ふええええええええええええ」

古泉(この朝比奈さんは僕の知る朝比奈さんだ)

古泉(感覚がそう訴えている)

古泉(…………、朝比奈さんが同時間平面に二人?)

[朝比奈みくるの憂鬱]

みくる「ここは…」

みくる「……どこでしょう」

ワイワイ

ガヤガヤ

みくる「北高の…教室……」

みくる「時空震は……止んでいる?」

みくる(別の時空?パラレルワールド?それとも元の時空の改変後の世界?)

みくる(まるで今までスケールの大きな夢を見ていたみたいです…)

みくる(とても眠い……、どうしてかな、疲れてもいないのに)

みくる(…、……、)コクリ、コクリ

みくる(わわっ)

みくる(なんでだろう…今寝てしまったら)

みくる(この世界が、全てが、終わってしまいそうな気が…)

キーンコーン……


みくる(放課後…)

みくる(眠気はまだ収まらない)

みくる(私は何かしなければいけないような気が)

みくる(そしてそれは、誰かによる絶対命令)

みくる(抽象的な義務感なのに、具体的に浮かび上がるイメージ)

みくる(私は…何をすればいいんですかあ)

みくる(放課後だから……部活?)

みくる(――部活)

みくる(そうだ)

みくる(私は、sos団の団員)

みくる(部室に行かなきゃ…!)

部室


ガチャ!

みくる「遅くなりましたああ」

ハルヒ「わっ。……そんなに慌ててどうしたのみくるちゃん」

みくる「い、いえ。この時間辺りに来るといつも怒られるから…」

ハルヒ「怒る?いつも?誰がみくるちゃんに怒ってるの?」

みくる「ふえ?いえ、えっと…その……」

ハルヒ「こんなに可愛いみくるちゃんに対して、たかだか遅刻程度で怒気を露わにする程度の知れる馬鹿はsos団から追放してやるわ。ねえ、誰?」

みくる「いえ、何でもないんです……」

ハルヒ「本当に?」

みくる「は、はいっ」

ハルヒ「…ならいいけど」

みくる「じゃ、じゃあ着替えを…」

みくる「……あれ?」

みくる「メイド服が無い…」

ハルヒ「どうしたの、みくるちゃん」

みくる「メイド服がどこにも無いんです」

ハルヒ「メイド服?そんなもの何に使うの?」

みくる「え? その……わ、私が着るんじゃないんですかっ」

ハルヒ「…やっぱり」

ハルヒ「みくるちゃん、誰かに苛められてるのね」





ハルヒ「sos団、緊急会議を始めます」

キョン「いつになく真剣な表情だな、今回はどうしたってんだ」

ハルヒ「我が団員、朝比奈みくるちゃんがこの団内で何者かに苛められていることが発覚しました」

古泉「苛め、ですか」

ハルヒ「そんな事するように見える人、いないんだけどね。よっぽどの演技派と見えるわ。今すぐに暴露しなさい、今ならまだsos団追放だけで事が済むわよ」

長門「……」ペラ…ペラ…

ハルヒ「有希、今は本を読まずに聞いて。重要な事だから」


長門「……」ポン

キョン「まず、いじめられたってのはどんな風にだ。何をされたんだ」

ハルヒ「遅刻をしたら体罰、常日頃よりメイド服を着せようと強制する、毎日お茶を用意さする、と言ったところよ」

みくる「た、体罰とまでは…」

古泉「まさしく団のメイドに仕立て上げようとしている人物がいるという訳ですね」

キョン「確かに朝比奈さんなら似合いそうなもんだが…それはいくらなんでも可哀想な話だ」

ハルヒ「こうして耳を傾けてみると、やっぱりキョンとしか考えられないわ」

キョン「……なっ、俺かよ。どうしてそう決め付ける。そもそも団内の人間に絞る自体、推理の方向を間違えてるんじゃないか、そう犯人が偽装しているだけで」

ハルヒ「団外の人間がわざわざ見も出来ない部活中の時間のみにメイド服を着せたり、飲みもしないのにお茶をつくらせたりすると思う?」

キョン「ま、待てそもそも俺は朝比奈さんのお茶なんて飲んだことがない」

みくる(……え?)

古泉「それは僕とて同じです」

ハルヒ「はあ?何?二人共犯罪者な訳?」

キョン「ちょ、ちょっと落ち着けよハルヒ!」

キョン「そういうお前だって朝比奈さんのお茶を飲んだことないんじゃないのか」

ハルヒ「無いに決まってるじゃない。だから団長に隠れてこそこそと、そんな事をさせてる犯人を探してるんじゃない」

古泉「話を聞く限り矛盾していませんか?朝比奈さんは団員全てに同様の対応をしているとの口ぶりですが。どうせ嘘をつくのならば、むしろ団員に茶煎れなどした覚えはないと言うほうが筋が通ります」

ハルヒ「だから、犯人が口封じもしくは嘘を吐かせようとみくるちゃんを縛ってるんじゃないの。弱みでも握ってさ」

キョン「それは邪推にも程があるぜハルヒ」

ハルヒ「黙りなさい!犯人の立場なら、きっと推理側を間違っているような運びをする筈だわ、よって犯人はキョンと古泉君」

みくる「や、止めてくださあああい!」

ハルヒ「……みくるちゃん」

ハルヒ「どうしてそんなに犯人を庇うの?」

みくる「犯人なんていないんです、今日の私、少しおかしかっただけなんです」

みくる「だからどうか犯人探しなんて止めて下さいっ」

みくる「こんな雰囲気のsos団は嫌ですっ」

ハルヒ「……」

ハルヒ「緊急会議、終わり」

キョン「…」

古泉「…」

長門「……」ペラ…ペラ…




キョン「朝比奈さん、大丈夫ですか」

みくる「大丈夫です…」

古泉「本当に何か悩みがあるのなら、僕でよければ是非相談を」

みくる「本当に、大丈夫です…」


――ま、待てそもそも俺は朝比奈さんのお茶なんて飲んだことがない


みくる(ここは、別の時間平面…?ううん、別の世界?)

みくる(……そう言えばさっきから上手く時間平面の様子を完治できない)

みくる(ここは、どこ?)


ハルヒ「それじゃ、私は帰るわ。部室の鍵よろしくね」

バタン



みくる「……あの、長門さん」

長門「何」

みくる「今この時間平面で何か起こっているような気がするんだけど…何か感じませんか」

長門「私も、その何かを感じてはいる」

長門「しかし違和感のみ」

長門「何も分からない」

キョン「……お、おいおい、ちょっと待ってくれよ。今この時空でまたハルヒが何かやらかしてるってのか」

古泉「…」


古泉「閉鎖空間の発生は見られません」

古泉「が、僕もその上手く言えないのですが、違和感にさいなまれているところです」

みくる「そ、そうだったんですかあ」

キョン「俺には何も感じられないけどな…」

長門「おそらくあなたは鍵だから」

キョン「鍵?」

長門「そう」

長門「鍵には、鍵の役目があるから」

キョン「……」

キョン「長門は時々よく分からない事を言うな」

古泉「今回ばかりは長門さん自身も言っている意味が分からないと思われます」

長門「そう」

キョン「今俺は眼球が転がり落ちそうなくらい驚いたぞ」

コンコン

みくる「誰か来ましたっ。涼宮さん戻ってきたのかなあ」


ガチャ


?「今日は少し用事があって遅れましたあああ」

?「すみませ……」

?「あ、あれ…」


みくる「ふえ…?」

古泉「……!」

長門「…」

キョン「な、そんな馬鹿な」

キョン「有り得ない、そんな事をしたらタイムパラドックスが……いや、そういう問題の前にまずどうして」

キョン「どうしてあなたがここにいるんです、」


キョン「朝比奈さん」


みくる(α)「わ、私が……いる…」

みくる「べ、別の時間平面の私ですかっ」

みくる(α)「いえっ、私はここの…」


ガチャ


みくる(β)「今日は少し用事があって遅れましたあああ」


キョン「」ガタッ

古泉「……!?」

長門「…」


みくる(α)「ふ、ふえええ?」

みくる「どうなってるんですかああああ」

キョン「朝比奈さんが…同じ時間平面に三人。それも、全員が(小)バージョンの」

ガチャ

みくる(γ)「今日は少し用事があって遅れまし……ふえええええええええええ!」

みくる(β)「あなた、誰ですかあああ」

みくる(α)「これは…」

みくる「???」アタフタ


キョン「おい、どうなってやがる!」

古泉「混乱するかにやけるかどちらかにしてください」

キョン「断じてにやけてなどいない、朝比奈さんがいっぱいいるからってにやけてなんかいないからな!」ニヤニヤ


みくる「ふえええええええ」

みくる(α)「ふえええええええ」

みくる(β)「ふえええええええ」

みくる(γ)「ふえええええええ」


キョン「うわああああ」ホワワワン

古泉「『ふえええ』の大合唱ですね、不思議と耳に心地よい」

キョン「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」

古泉「花園より生還してくれて何よりです」


長門「落ち着いて」


みくる「……」

みくる(α)「……」

みくる(β)「……」

みくる(γ)「……」


キョン「おお、さすがに効果てきめんだな」

古泉「彼女、いえ彼女達は長門さんをあまり得意としていない傾向がありますからね」


長門「座って」


みくる「はいっ」ガタ

みくる(α)「はいっ」ガタ

みくる(β)「はいっ」ガタ

みくる(γ)「はいっ」ガタ


キョン「こりゃまたとんでもない現象が起こったもんだな…」

古泉「同感です」


長門「これまでの経緯を」


みくる「えっと…」

みくる(α)「えっと…」

みくる(β)「えっと…」

みくる(γ)「えっと…」


長門「同時に話さないで」

長門「仮称を与える。あなたがオリジナルの朝比奈みくる、あなたが朝比奈みくるα、あなたが朝比奈みくるβ、あなたが朝比奈みくるγ」

長門「まずオリジナルから話を聞かせて」

みくる「はいっ」


キョン「もしかして長門怒ってるのか?」

古泉「そうかもしれません」





みくる(γ)「――、それを終えて、私はこの部室まで急いで来ました」


みくる「……、」

みくる(α)「……、」

みくる(β)「……、」


キョン「おいおい、もう何がどうおかしいのかを一から十まで説明するのは面倒だからこの際割愛させてもらうがな」

キョン「全員が全員、同じ経緯を経てここに来たってのはどういう理屈だ」

キョン「古泉」

古泉「全く、理解できません」

キョン「だろうな」

ガチャ

キョン「また朝比奈さんか!」


ハルヒ「忘れ物を取りにき…たん……だけ、ど」

ハルヒ「…」

ハルヒ「……」

ハルヒ「………」

ハルヒ「…………!」



キョン(まずい!ハルヒがここ一年でぶっちぎりに面白いものを見つけちまった!世が滅びかねないぞ!)


古泉「す、涼宮さん」

長門「」シュバッ!!


ハルヒ「わっ」

ハルヒ「ちょ、ちょっと有希…離してよっ、前が見えないじゃない」

ハルヒ「い、今みくるちゃんがいっぱいいたように見えた気がしたんだけど」

長門「逃げて」


みくる「あ、あわわわ」

みくる(α)「あわわわわわ」

みくる(β)「ふえええ」

みくる(γ)「……!!」


キョン「さすが朝比奈さん!トロい!」

長門「逃げて!」


みくる「ふえええええええ」タタタタッ

みくる(α)「ふえええええええ」タタタタッ

みくる(β)「ふえええええええ」タタタタッ

みくる(γ)「ふえええええええ」タタタタッ


キョン「朝比奈さん達が逃げたぞ!」

古泉「涼宮さんに捕獲させてはいけませんっ、先に僕とあなたで朝比奈さん達を捕まえて別の場所に非難させましょう」

キョン「分かった。通信手段として、お前の携帯を俺の携帯と通話中にしろ」

古泉「了解しました」ピポパ


ハルヒ「離して有希ー」

長門「離さない」


校舎裏


古泉「待って下さい朝比奈さん!」

みくる(β)「ふえええええええ」

古泉「何故僕からも逃げるんです!」

みくる(β)「何だかあなたが古泉君じゃない気がするんですううう」

古泉「何!?」

みくる(β)「もう目の前の出来事が信じられませええええん」

古泉「待って下さい!まずは落ち着いて下さい、話せば分かります、話せば!」

みくる(β)「」シュタタタタタ


古泉「速い……!」


校舎一階


キョン「朝比奈さああああああん!!」

みくる(α)「来ないでええええ」

キョン「俺が、俺が分かりますか朝比奈さんッ!」

みくる(α)「キョン君の皮を被った化け物ですううう」

キョン「何!?」

みくる(α)「もう目の前の出来事が信じられませええええん」

キョン「待って下さい朝比奈さん!話せば分かります、話せば!」

みくる(α)「来ないでええええええ」

キョン(くっ、不幸中の幸いだ。四人の朝比奈さんに固まって逃走されたら校舎は大パニックだ。散らばってくれるのは有り難い)

みくる(α)「ふえええええええ」シュタタタタタ

キョン「こんなに朝比奈さん早かったっか?」ゼイゼイ


校庭


古泉「逃した…」ゼイゼイ

古泉「朝比奈さんどこですかっ」

みくる(γ)「ふえっ」ビクッ

古泉「いた、そこですか!」

みくる(γ)「ふえええええええ」シュタタタタタッ!!!

古泉「何ッ…、朝比奈さん個別で走力に差が生じるのか」

古泉「あの朝比奈さんは先ほどの朝比奈さんより速い」

古泉「仮称で言うところのαか、βか」

古泉「オリジナルか」

みくる(γ)「ふえええええええ」シュタタタタタッ!!!

古泉「……ぐずぐずしていられませんね!」タタタタッ


校舎二階


キョン「逃した…」ゼイゼイ

みくる「ふえっ」ビクッ

キョン「いた!朝比奈さんだ!」

みくる(β)「何とか古泉君から逃げ切った……」ゼイゼイ

キョン「もう一人朝比奈さんが!」

みくる「ふえええっ、どうしてここに来るんですかあああ」

みくる(β)「あなたこそどうしてここにいるんですかあああ」

キョン「朝比奈さん、取り敢えずここから逃げるんです」

みくる「ふえええええええ」タタタタッ
みくる(β)「ふえええええええ」シュタタタタタ

キョン「違う!俺からじゃない、ハルヒのいるこの北高からという意味で……ああ、待って下さい!!」





キョン「はあ、はあ……くそ、俺の体力も落ちたもんだ。朝比奈さん二人捕まえられないなんて」


みくる「ふえええええええ」タタタタッ

みくる(β)「ふえええええええ」シュタタタタタ

タタタタッ

キョン「しまった!朝比奈さんが二手に分かれた!」

キョン「くっ、」

キョン「おい古泉ィ!!」

古泉『聞こえていますよどうしましたかっ』

キョン「俺は校舎二階に逃げた朝比奈さんを追うからお前は一階に逃げた朝比奈さんを追え!」

古泉『僕も今朝比奈さんを追っている最中です、無理です!』


キョン「何っ、どの朝比奈さんだ!」タタタタッ

古泉『おそらく最速の朝比奈さんです!』

キョン「どの朝比奈さんだよ!」タタタタッ

古泉『い、今校舎一階に逃げた模様です、あなたの言うことが本当なら、あなたが追う朝比奈さんとは別の朝比奈さんと朝比奈さんが合流するはずです、そこをまとめて朝比奈さん!!』

キョン「何言ってんだお前!」

キョン「……とにかく任せたぞ古泉!」プツッ

キョン「……はあ、はあ」

キョン「そう言えば長門はまだハルヒを抑えてくれているだろうか」


数時間後、公園付近


みくる「はあ、はあ」

みくる「もう何が何だか分かりませんっ」

みくる「涼宮さんの様子にも少し違和感があったし…」

みくる「キョン君と古泉君も、見た目や中身はそのままなんだけど…どうして偽物だなんて思っちゃうんだろう」

みくる「私が三人も追加されちゃうし…」

みくる「ふえええ」

みくる「もう帰りたくない……」

みくる「きっと、家でも何か変な現象が……」

みくる「あれ…」

みくる「あの公園にいる人……古泉君?」

みくる「あの古泉君…」

みくる「……」

みくる「」タタタタッ

[長門有希の憂鬱]


長門「ここは…」

長門「……」

ワイワイ

ガヤガヤ

長門「北高の教室と確認」

長門「時空震……止んでいる模様」

長門(別の時空、パラレルワールド、元の時空の改変後の世界――様々な見解が挙げられるが解析は不能)

長門(人間で言うところの、今までスケールの大きな夢を見ていたような感覚)


長門(……妙な眠気を覚える)

長門(…、……、)コクリ、コクリ

長門(!)

長門(この私が、眠気)

長門(不思議)

長門(眠ってしまえば……この世界が、全てが、終わってしまいそうな、予感)


キーンコーン……


長門(放課後…)

長門(眠気はまだ収まらない)

長門(私は何かしなければいけないような気が)

長門(そしてそれは、誰かによる絶対命令)

長門(抽象的な義務感、具体的に浮かび上がるイメージ)

長門(私は…何をすればいい)

長門(放課後なのだから、部活…)

長門(――部活)

長門(そう)

長門(私は、sos団の団員)

長門(部室に向かわなければいけない)


部室前


長門(こちら対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長門有希。現状の情報受信を求める)

長門(こちら対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長門有希。現状の情報受信を求める)

長門(……)

長門(こちら対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長門有希。現状の情報受信を求める)

長門(……通信が出来ない)

長門(周辺情報の解析が上手くいかない)

長門(機能不全か)

長門(異変はこの時空か)


長門「」ガチャ


長門「……」

長門「何も、ない」

長門「情報解析」

長門「……」

長門「ここはsos団の部室ではなくなっている」

長門「部室ごと、sos団が消失している」


長門(こちら対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長門有希。現状の情報受信を求める)

長門(こちら対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長門有希。現状の情報受信を求める)


長門(やはり反応はない)


神瑞「アア、無駄よ無駄」


長門「!」ガバッ!


神瑞「アーアー、そう警戒しなさんな。今の私にお前を狙う理由はないんだからさ」

長門「……」

長門「――!」ドクン…

――『……とっと…』

――『いきなり空間の情報を書き換えて情報制御空間を構築、おまけに瞬時に攻撃にまで移るたあ流石の情報統合思念体』


――『長門有希』


――『……』

――『な、長門。長門なのか…』

――『そう』

――『本当に…いつもすまんな、迷惑ばかりかけて。この一件が終わったら今度は何か奢るとするよ』

――『そう簡単に終われそうにない』

――『あら?そう?あなた達の敗北ってことですぐに決着しそうだケド』


――『まあある意味危険性はそんなものだと考えてくれていい、とにかく外は危険だ。取り敢えず家の中に』

――『じゃあキョンも寄っておいでよ。せっかくここまで来たんだしさ』

――『鶴屋さんの招待してくれた温泉旅行についての』

ズバッ!!

――『――』
――『……か…ッ』



――『長門!』

――『おい、何だ、どうしてハルヒを斬る』

――『離れて』

――『離れてったって…』

――『離れて!』

――『!』



――『ァァァァァァアアアアアッッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャwmja!??!g.j!wtmjam!!wjmwg.jwmjtg.j???twmag.j』


――『――』スチャッ


――『――――』


――『』タタタタ

――『』タタタタ

――『切断を…』タタタタ


――『』ヒュッ!





――『――止めてくれッ、長門!!!!』




――『!』ピタッ



――『――――』バサッ!



――ドンッ!!!!!!



――『うおっ!!』
――『!!』


――『地震かっ』

――『……両翼が広がり切った事と本体の発光から見るに覚醒されたと思われる』

――『時空震が始まった』

――『――――』


ゴゴゴゴゴゴ…


長門「……、」

神瑞「記憶の穴が多少は埋まったか、長門有希」

長門「……」

神瑞「オオそうか、あなたはコミュニケーション力においては他の人型インターフェースよりずっと劣っているらしいネ。どうやらこっちが懇切丁寧に説明しなければいけないらしい」

長門「説明を求める」

神瑞「…、」

神瑞「まあイイ、してやるしてやる」

神瑞「私達『天蓋領域』側としても、まさかこんな状況に陥るとは思いもしなかった」

神瑞「さすが涼宮ハルヒってところか」


神瑞「信じられないとは思うが説明してやろう。そして、こういう言葉がある」

長門「何」

神瑞「百聞は一見に如かず、だ」

神瑞「着いてこい、面白いものを見せてやるから」

長門「罠の可能性が否めない」

神瑞「罠?今、私がアンタを貶めて得する要素なんて皆無だ。これは、そう」

神瑞「一つの親切心だよ」

長門「世界が崩壊する寸前、遠距離情報伝達があった」

長門「別の時空より現れた私は、天蓋領域ヒューマノイドイントルーダー周防九曜を抹消した」

長門「正当防衛とは言え私はあなた達に危害を加えた」

神瑞「アーアー、いいよそんなの。今となってはさ。所詮、奴も目的のための駒に過ぎなかったのさ。もちろん、私もね」


北高登下校路


神瑞「着いたよ」

長門「――!」


長門「北高が、もう一つ」


神瑞「探せばもっと沢山あるんじゃない?ま、もっとも私にはそのもう一つある北高は見えないんだけどネ」

長門「理解不能」

神瑞「つまり、だ」

神瑞「世界はぶっ壊れた」

神瑞「第三個体として、能力を除いて一から十まで全てを完璧にコピーした天蓋領域のヒューマノイドイントルーダー『涼宮ハルヒ』、言うなれば偽物の涼宮ハルヒに渡った能力暴走によって」


神瑞「時間平面理論というものがある」

神瑞「時間平面とやらはパラパラマンガみたいなもので、その内の一枚や二枚に落書きを加えたところで、後に影響はされないってやつだネ」

神瑞「今、この世界は――いや、もはや〝世界〟と称する事に疑念が絶えないのだがこの際それは置いておく」

神瑞「この世界は今、その存在一つ一つに宿る〝記憶〟を頼りに構成されている」

神瑞「うん十億って存在の記憶が、個別の世界を生み出し、混沌として一つの世界を成している」


神瑞「そこで時間平面理論だ」

神瑞「この世界は今、様々な時間と空間が一つの時間平面状に無理やりまとめられている状態にある」

神瑞「信じられないだろう?未来なんてさ、それこそ地球消滅するその時まで延々と続くのにさ」

神瑞「その全情報量が、今一つに結集されているのさ」

神瑞「だから同じ建物や人物が複数存在していても何ら不思議ではない」

神瑞「記憶によって構成される世界なので、自分の記憶以外の情報はシャットダウンされているが、これでも世界は今大混乱状態だろう」


神瑞「パラパラマンガのたとえをしたな」

神瑞「一冊の雑誌を、この星の全歴史としてみよう」

神瑞「その雑誌の頁を、全て破り取るんだ」

神瑞「破った各頁を、またさらに細かく破り、それらの紙片をジグソーパズルのように無理やり一つにまとめた世界が今いるここ」

神瑞「私はあなたを知っている」

神瑞「あなたも私を知っている」

神瑞「だから今こうして視覚的に情報をキャッチすることも出来るし、会話も可能な訳」


長門「――今の説明の中から抽出される疑問点、矛盾点が4219通り見付かった」

神瑞「ハハッ、だろうよ」

神瑞「私らがいた時空での存在はうん十億だろうが、これまでに死んだ人間、これから生まれる人間、全歴史情報が原始である過去から未来の終末までが、記憶によって一つに集約されているなんて、いくら何でも話がぶっ飛んでる」

神瑞「けどさあ、そういうぶっ飛んだ事を無自覚にしでかしてきたのが、あなた達の団長様涼宮ハルヒなんでしョ?」

長門「……」


長門「それまでの過程は誰の意志によるものか、とりわけこの点に頭を悩ませる」

神瑞「ウーン、それがさあ。涼宮ハルヒと言っちまえば簡単に片付けられるんだけど」

神瑞「涼宮ハルヒの能力の全貌が解き明かされていない以上は何とも言えないんだわ」

神瑞「能力と意志は別々。これが通常の考え方」

神瑞「もしくは、涼宮ハルヒの能力と意志は一つとして存在していたのか」

神瑞「話は大きく変わってくる」


神瑞「前者の場合なら、この世界は単なる能力の暴走によって引き起こされたもの。この場合は解決策は無いと思っていい」

神瑞「出題者の意思がない問題から答えは生まれない」

神瑞「そして後者の場合だが――」

神瑞「この場合なら、どうにかならない訳でもないだろう」

神瑞「何しろこの仮称〝世界〟は涼宮ハルヒの意志によって創られたものなのだから」

神瑞「そして天蓋領域にとってもそれは残念な展開だ」

神瑞「力と意志が同一に存在していたとすれば、いくら器から能力を引っこ抜いたところで、それはその能力が涼宮ハルヒの元に安置されていないだけの話で私達からすれば何の得にもならない」


神瑞「つまりあの強行手段による能力奪取は、能力を暴走させただけの話で、天蓋領域は涼宮ハルヒの力をモノに出来なかった。出来る筈もなかった。ただの徒労だヨ、とんだお笑い」

長門「その天蓋領域の無意味な強行手段によって、世界は消滅してしまった」

神瑞「消滅じゃあないサ、それに私は後者が濃厚だと思ってる。能力と意志は同一に存在していた、そしてこの状況は涼宮ハルヒの意志によるもの――もしくは、意志には反していたが私達天蓋領域のせいで暴走せざるを得なかった」

神瑞「その場合でも解決策はある、この仮称〝世界〟が何よりの証拠」

神瑞「涼宮ハルヒは最後の最後で足掻いたんだ。完全消滅の道から、どうにかこの状況を作り出すまでに持ちこたえた」


神瑞「世界は修復可能、これが私の持論だ。それぞれの時間平面はあるべき頁に収めることが出来る」

神瑞「その役割を任せた相手が、涼宮ハルヒの何より大切な仲間であるsos団メンバーって訳」

神瑞「驚いた?今世界の命運はあなた達、あの能力を暴走させた時空にいたsos団メンバーに託されている訳」

神瑞「まず四人揃うのも大変なんじゃなイ?何しろ、あなた長門有希という存在すら数百数千といても不思議じゃないからネ」

長門「この状況に対する責任を感じているかを問う」

神瑞「感じてるサ、だから私はこうしてあなたを誘導している。世界修復のためにネ」


長門「言葉には真実味がある」

長門「が、それは私に利用価値を生み出すために思えてならない」

長門「何もかもが元通りになった世界で、あなた達天蓋領域はどうするつもりなのか」

神瑞「ウーン、そう簡単には信じてもらえないかあ」

神瑞「でも仮に私達が何を企んでいようが、それが罠でも、あなた達sos団は世界の修復を求める」

神瑞「必ず、ネ」

長門「……」

長門「具体的な行動手順の説明を求める」

神瑞「そうこなくっちゃあ」


[古泉一樹の憂鬱]

みくる「ふえええええええええ」

古泉「……」

古泉(感覚が訴えている、第六感、そんな曖昧なものに頼ってはいけない)

古泉(この朝比奈さんが、僕が元いた時空の朝比奈さんという裏付けが欲しい)

古泉(まずは何としても、sos団の集合。これが最優先)

古泉(しかし……)

古泉「!」ドクン…


――『この先何がどうなっても、誰もsos団に入ったことを後悔するな』

――『そしてもしsos団が何かによってぶっ壊れまったら、たとえその時誰も頼る奴がいなくて独りきりになってしまったとしても』

――『その時は、自力で、意地でも』

――『sos団を、取り戻そう』


[朝比奈みくるの憂鬱]

みくる「ふえええええ、古泉君……」

みくる「古泉…君――」

みくる「……あっ」ドクン…


――『朝比奈みくる――あなたの存在価値は、過去に及ぼした影響は未来に影響しないという説を揺るがす、通常あり得ない時間平面上の「改変」が行われる危険性である涼宮ハルヒの観察にある』

――『つまりあなたに知識が付いてしまうと、その能力による未来改変を利用してしまう可能性が発生する』

――『な、な、』

――『何なんですかあああ』

――『今ここであなたの存在を抹消し、さらに未来の朝比奈みくるの出方を窺う』

――『そしてそれと共に、時間平面への負担増を促す』


――『遅くなりましたああ』

――『…朝比奈さん』

――『長門さんがすぐそこまで案内してくれました』

――『は、話が途中からで上手く状況が飲み込めないんですけど…』

――『私も、古泉君の言うとおりsos団は大切な居場所ですっ』

――『それは絶対に揺るぎませんっ』

――『何というか…いつも大変な思いをさせられてるけど、あそこはとても暖かいんです』

――『そしてきっと、涼宮さんもそこにいなければ、妙な寒さを覚えるような、そんな気がします』

――『私はsos団が大好きですっ』


――『この先何がどうなっても、誰もsos団に入ったことを後悔するな』

――『そしてもしsos団が何かによってぶっ壊れまったら、たとえその時誰も頼る奴がいなくて独りきりになってしまったとしても』

――『その時は、自力で、意地でも』

――『sos団を、取り戻そう』


[古泉一樹、朝比奈みくるの憂鬱]

古泉「……!」

みくる「……!」

古泉「お互い、記憶の穴をいくらか埋められたようですね」

みくる「は、はいっ。仮団長の絶対命令を思い出しましたあ」

古泉「これはあくまで推測なのですが、この世界は涼宮さんの力によって生み出されたもの」

古泉「そして僕達――あの時空にいたsos団が、このボロボロでデタラメな世界を元に戻さなければならない」

みくる「sos団の日常を取り戻すんですね」

古泉「そうです。そしてそれは誰にも頼ってはいけない」

古泉「この世界はどうやら僕達と同じ姿の存在、あるいは別時空、別世界の僕らが多く存在するようです」


古泉「よって僕らは同時空のsos団メンバーを確認するすべを持たない」

みくる「はいっ」

古泉「しばしのお別れです、手掛かりを掴んで、おそらくは涼宮さんより託された僕達の指名を果たす時です」

みくる「はいっ」

古泉「おまけに仮団長の、最初で最後の、絶対命令もあります。これはどんな手を使ってでも成し遂げなければなりません」

みくる「はいっ」


古泉「――では、」
みくる「――その時まで」


[長門有希の憂鬱]

神瑞「まず、無い情報解析力をフルに使って導き出した答えなんだけど……」

神瑞「あなた達の集合は涼宮ハルヒの求めるところではない、今は個別で果たすべき事を果たすべき」

長門「何故」

神瑞「だってそれは仮団長の命でもあるんでしョ?涼宮ハルヒも各個人、自力で今を打破するべきだと親のような目をしながらあなた達を見守ってるんじゃなイ?」

長門「何故それを知っている」

神瑞「あれ?分からない?今この世界はありとあらゆる記憶で入り乱れてる、天蓋領域の手に掛かればそれを読み取る事なんて造作もない」

長門「肝心の具体的手順は」


神瑞「それね。まず常識的に考えて、全ページを細かくバラバラにされた紙片を繋ぎ合わせて一冊の雑誌を元通りにするなんて、きりがないでしョ?」

神瑞「ましてや世界再構築となれば過去から未来までの全てを修正する必要がある、とするとその雑誌も相当な分厚さを誇っているでしょーヨ」

神瑞「てな訳で、その雑誌を一から作り直せばいい」

神瑞「その雑誌の全データを記憶する者から、データを借りてコピーすればいい。そうすれば世界は再構築される」


長門「そんな者、この世には存在しない」

神瑞「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

長門「……?」

神瑞「そりゃそうだ、普通、一つの星の全歴史を記憶する存在なんている訳がない!」

神瑞「けど、そんな常識的な考えをも吹っ飛ばす存在が唯一あるじゃなイ」

長門「――神、」

神瑞「そうだ!神だ、神なんだよ神!!そんな事をしてのける存在は後にも先にも〝神〟だけなんだヨ!!」


神瑞「分かるか!?私の言いたい事が!対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース長門有希!!」

長門「……この場合において、涼宮ハルヒを該当させるには無理が生じる」

長門「古泉一樹の言葉を借りれば、涼宮ハルヒはあくまで〝神と呼ばざるを得ない力を持つ存在〟という理屈であり、彼女は神たる存在と呼ぶには相応しくない」

神瑞「そうだ!そうだよ!言うなれば彼女は未熟な神、偽の神、神にたどり着いていない神」

長門「――あなた、」

神瑞「そうだ!!」





神瑞「涼 宮 ハ ル ヒ を 真 の 神 に す れ ば い い ! ! ! ! !」


[鍵の憂鬱]

プツッ…

ザー………ピー、

ガガッ…ガガッ……

ザー……


キョン「……」

キョン「!!」


キョン「これは……」

キョン「ここは…」

キョン「どこだ」

キョン「……!そうだ、ヤスミはっ」ガバッ

キョン「いない…」

キョン「何だここは…まるで砂嵐を劇場で観ているような気分だ」

キョン「!」

キョン「自分の身体が…見えない……」


?「ようこそ。スペシャルゲスト」

キョン「誰だ!」ガバッ

?「……」

キョン「お前…まさか」

キョン「神瑞か!」

?「ンーその通りよ。でもあなたがイメージしてる神瑞じゃないかもネ」

キョン「俺のイメージする神瑞じゃない……?何言ってるんだお前、どこからどう見ても神瑞ミライじゃねえか」

?「そうネ。私は神瑞ミライと瓜二つ、同一と言ってもいい作りをされているからネ、見た目だけなら100%同じかもしれなイ」

?「私の名が知りたい?」

キョン「……」


?「――神瑞佳子」


?「神になる存在の鍵ヨ」


キョン「神になる存在の鍵……?へっ、何馬鹿言ってやがる。確かに神もどきとは一年ばかり顔を毎日のようにつきあわせてきたがな、本物の神なんて存在する訳ねえじゃんか」

キョン「佐々木や長門辺りもそのへんについては幾らか言及していたよ」

キョン「神なんてな、あくまでも人間の想像上の存在に過ぎない、そんなものに縋るなんて……」

神瑞(佳)「そう、神は実在しない」

神瑞(佳)「だから、これから創ればいい」

キョン「…………、」

神瑞(佳)「あなたの信じる信じないはどうでもいい」

神瑞(佳)「残念なことにあなたもまた、神を生み出すための鍵ということになっている」

神瑞(佳)「だからここに来てもらった」


キョン「俺も鍵だって?」

神瑞(佳)「本当に理解出来ないの?これだけ分かりやすい構図が整ってるじゃない」

神瑞(佳)「わざわざ分かりやすいネーミングにしてもらったんだからサ、気付いてくれてもいいんじゃなイ」

キョン「ネーミング?気付く?」

キョン「神瑞佳子…」


キョン「……神瑞、カコ」

キョン「神瑞ミライ…」

キョン「そして中心に……ハルヒ、か」


神瑞(佳)「そういう訳」

神瑞(佳)「そしてあなたには、涼宮ハルヒにとある許可を貰っていただきたい」

キョン「許可?」

神瑞(佳)「神様になってクダサーィってね。できるでしょ?あなたの頼みなら彼女も喜んで神様になってくれるヨ」


キョン「は、馬鹿馬鹿しい。やってられるか、俺は帰る」

神瑞(佳)「帰る?それもいいでしょう。でも…」

神瑞(佳)「どこに?」

キョン「決まってるだろ、俺が元いた時空、世界だよ。皆が首を長くして待ってんだ。俺は早く朝比奈さんの淹れてくれる紅茶で喉を潤しながら、古泉とボードゲームでもやって、のんびりとした放課後を過ごしたいんでね」

神瑞(佳)「フーン」

神瑞(佳)「で、どうやって帰るの?」

キョン「……」


キョン「……どうにかするさ、放っておいてくれ」

神瑞(佳)「人がせっかくあなたのいた世界を元通りにしようとしているのに?」

キョン「……、」

キョン「全く分からねえ、お前らが壊した世界だよな?どうしてまた直す必要がある」

神瑞(佳)「神になるため」

キョン「…………、」

神瑞(佳)「能力以外の要素を完全にコピーした第三個体『涼宮ハルヒ』を器として、本物の涼宮ハルヒから奪った能力を入れれば、自覚的に能力を得た〝神〟が生まれる――そう、天蓋領域は信じてやまなかった」

神瑞(佳)「だが結果は失敗。おかげで世界はめちゃくちゃ」


神瑞(佳)「そして天蓋領域は〝神〟を生み出すための手段として、あらかじめ用意していた二つの内のもう一方を切り出した」

神瑞(佳)「涼宮ハルヒ本人、本体を含めた――神の要素達を融合させ、創造する」

神瑞(佳)「ミライの方は気性が荒いから、積極的に戦闘へ参加していたみたいだったけど」

神瑞(佳)「情報統合思念体のおかげで歯止めがかかって助かった。何しろ彼女は損失されては困る」

キョン「長門、か」

神瑞(佳)「いや、喜緑江美里だヨ」


キョン「何?」

神瑞(佳)「ミライは長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子によって一時撤退をしたのに、あろうことか次は古泉一樹の元へ行き再び戦闘へ出た。好き勝手に神人を使ってネ」

キョン「……」

神瑞(佳)「そして負傷した古泉の元へ駆けつけたのが、後を追った喜緑江美里と朝倉涼子。朝倉涼子は古泉一樹の治癒、喜緑江美里は神人の一掃とミライの排除、といったところが役目だったか」

神瑞「喜緑江美里は強い。おかげで身の危険を察知したミライはその場を引いた。ここでようやく大人しくなった」


神瑞(佳)「ま、今はそちらの仲間方と話し込んでるみたいだけど?現段階において彼女の役目は誘導、いい仕事をしてくれているでしょうネ」

キョン「仲間……長門、古泉、朝比奈さんか。ハルヒは…」

神瑞(佳)「現在、涼宮ハルヒは、第三個体の消失により能力を取り戻し、世界を消滅の一歩手前でとどめている役割を果たしている。この多重記憶世界において彼女は実体を持たない」

神瑞(佳)「だから、一度星を修復する必要がある。涼宮ハルヒを完全に取り戻すために」


キョン「だが、世界を修復するためには、お前ら曰わく神を創造するには、まずハルヒが必要になる。どうするつもりだ」

神瑞(佳)「確かに〝神〟として真なる覚醒を果たすためにはそうしなければいけない。けど、星の再構築程度の問題なら涼宮ハルヒの〝能力〟を、以前のように一時譲渡してくれればそれで問題は解決される」

キョン「俺を使ってハルヒの能力を借りて、神瑞ミライと神瑞カコと融合、星を再構築し、ハルヒの実体を取り戻す。そして真に〝神〟として目覚める」

キョン「それがお前ら天蓋領域、最後の目的か」


神瑞(佳)「――ご名答」


キョン「……」

キョン「俺に抗うための力は無いのか」

神瑞(佳)「無いでしョ」

キョン「…俺を、どう利用するつもりだ」

神瑞(佳)「今、涼宮ハルヒは夢を見ている」

キョン「夢?」

神瑞(佳)「そう、夢。あなたは彼女の夢――精神世界に侵入、人の身を捨て神になることへの許し、一時能力の譲渡の許可、この二つを持ってきてほしい」

神瑞(佳)「能力譲渡の許可により世界を再構築、神になってもいいという許可により真の覚醒に辿り着く」

キョン「俺に拒否権は無いのか」

神瑞(佳)「当然」


[涼宮ハルヒの憂鬱]

ハルヒ「う……ん」

キョン「おう、ハルヒ」

ハルヒ「う、うわっ」ビクッ

キョン「あの先生の授業中に爆睡ができる奴なんて、本当お前位だよ。根性据わってるよなあ…」

ハルヒ「…」キョロキョロ

キョン「どうした?何か無くし物でもしたか」

ハルヒ「私……、さっきまで何してたんだっけ」

キョン「? 変なこと聞くな、だからずっと寝てたんだって」

ハルヒ「その前よ」

キョン「その前ったって……普通に授業受けてたろ」

ハルヒ「……そう」


キーンコーン…


キョン「よし、いつも通り部室に行くとするか」

ハルヒ「うん…」

キョン「……何か、今日のお前は覇気がないというか空っぽというか、どうした。限りなく0に近い可能性にかけて一応聞いてみるが、悩みでもあるのか」

ハルヒ「失礼ね!私だって悩みの一つや二つくらいあるわよ」

キョン「ほーう。言ってみろよ」

ハルヒ「それは…」

キョン「…」

ハルヒ「…」

キョン「…」

ハルヒ「…」

キョン「ど、どうしてやたらと俺を見るんだよ」

ハルヒ「……何でもないっ、そもそも乙女がそう簡単に悩みを口に出せる訳ないでしょ!いいえ、そもそも簡単に口に出せる程度の悩みなんか悩みと呼べるものじゃないわっ」


キョン「さては恋患いか」

ハルヒ「!」

キョン「へ?」

ハルヒ「」ガシッ

キョン「ちょ、お前っ、ネクタイ……いつも思うんだがそれ止めてくれ、最近妙に長さが変わってきてるような気が」

ハルヒ「うるさい!団員たるもの放課後のチャイムが耳に入った途端に疾風のごとく部室へと駆け込むくらいの意欲を見せなさいッ!」

ハルヒ「人生は一度きりなの、こんなどうでもいい雑談に花を咲かせてる場合じゃないわ」

キョン「花までは咲かせてないんじゃないかっ、というかそのどうでもいいという点に関してはsos団の活動も…」

ハルヒ「何か言った?」

キョン「何でもないです」


部室


ハルヒ「今年度も不思議探しをするわよ!」

キョン「二年目の不思議探しはこの前したばかりじゃねえか、どうせ見つかりっこないんだから大人しく部室で茶でも」

パコーン!

ハルヒ「そこ!意欲の著しい低下が見られるわっ、修行してきなさい修行!」

キョン「な、何の修行だ…。物を投げるな物を」

古泉「部室に籠もってばかりいては運動不足の元です、気晴らしも兼ねて外へ繰り出してみるのもいいのでは」

キョン「お前はハルヒに対していつも肯定的だよな」

古泉「そんな事ありませんよ」


ハルヒ「みくるちゃん、いいでしょ?」

みくる「はいっ」

ハルヒ「有希!」

長門「了解した」ペラ…ペラ…

ハルヒ「決まりね」

キョン「ま、これがいつものパターンなんだよな…」

古泉「そう陰鬱になる必要はありませんよ、心地いい外の空気を吸いにいくとしましょう」

ハルヒ「じゃあ日曜日、駅前に集合ね。遅れたら罰金だからね!」

キョン「それは俺が払う羽目になるんだろうな」

ハルヒ「あら、じゃあもっと早く来てみればいいじゃない」

キョン「言ったな、俺だって本気を出せば一番乗りだって余裕だぞ」

ハルヒ「面白いわ、やってみればいいじゃない」


日曜日 駅前

キョン「これは誰かの陰謀か。分かったぞ、さてはお前らグルだな?」

ハルヒ「何言ってるの?勘違いも甚だしいわ、じゃあ今日もいつもの喫茶店で計画を練ってからスタートしましょう。もちろんキョンの奢りで」

キョン「へいへい」

古泉「今日はどういったメンバー編成になるんでしょうね」

キョン「まだなった事のない組み合わせってあったか?いちいち意識してないからよく覚えてないな」

みくる「去年を思い出します」

キョン「そうですね」


喫茶店

ハルヒ「……今日はaグループが古泉君、有希、みくるちゃんね」

キョン「今回はハルヒと二人か。脚がどこまで保つのやら」

ハルヒ「そんなに引っ張って行ったりしないから大丈夫よ。私今までそんな事してないでしょ?」

キョン「ネクタイは着々と長さを増しているんだがな」

ハルヒ「扱い方が悪いんじゃないの?じゃあ、今日はこのメンバー編成で行くわよ!」

古泉「了解です」

長門「」ズズー…

みくる「分かりましたっ」

古泉「」ニコニコ

キョン「何見てるんだよ古泉」

古泉「いえ、見てなどいませんよ」


街中


ハルヒ「今日はあんたがどこまで意識的に不思議探しへ貢献しているのか、団長として直に評価のできるいい機会だわ」

キョン「こりゃ参ったな、中途半端はできないな」

ハルヒ「……」トコトコ

キョン「……」トコトコ

ハルヒ「ねえ」

キョン「何だ」

ハルヒ「恋愛感情は病気の一種、そう私はあんたに言ったでしょ?」

キョン「ああ、言ったな」

ハルヒ「じゃあ、キョンはそれについてどう思ってる?」

キョン「どうって…」

キョン「そうだな。俺もそれについては概ね同意だ」


二時間後


ハルヒ「……だいぶ歩いたわ、そろそろ休憩しましょう」

キョン「夏にはまだ到達してないってのに、どうしてこうも暑いんだろうな」

ハルヒ「温暖化に嘆く暇があるのならエコ活動の一つにでも身を投じなさい、私は今とりあえず水分を欲するわ」

キョン「自販機で何か買うか」

ハルヒ「うーん、三人に出くわしたら団長の面目丸つぶれだから別の喫茶店で」

キョン「俺の前では面目つぶしていいのかよ」

ハルヒ「別に気にしないから」

キョン「そうかい」


喫茶店


ハルヒ「はぁー、やっぱりここのアイスラテは最高ね」

キョン「それにしても、今年度も新入部員が入らなくて残念だったな」

ハルヒ「別にいいんじゃないの、中途半端な新人に入団されても困るしね、今がちょうどいいわ」

キョン「で、不思議探しについてだが」

ハルヒ「ん?」

キョン「やっぱりいくら真面目に探したところで見つからねえじゃねえか、これで俺の不真面目さによって見つからないなんて説は取り消しだな」

ハルヒ「そうね、でも簡単に見つかったら不思議の価値も下がるわ。滅多に見付からないからこそ価値があるんじゃない」


キョン「なるほどね」

ハルヒ「そういう事」

キョン「……」

キョン「なあハルヒ」

ハルヒ「何?」

キョン「お前にとって、そんなに不思議は大事なのか」

ハルヒ「何よ、いきなり」

キョン「こんな事に貴重な青春を使ってていいのか、なんて思ったりしないのか。お前は今この瞬間を楽しめてるのか」

ハルヒ「愚問ね」

ハルヒ「私はsos団の結成に後悔の念なんて微塵も感じたことは無いし、こうして五人で不思議を探してる瞬間だって本気で取り組んでる。楽しいに決まってるわ」


キョン「ハルヒ、俺は……とっておきの不思議に一つ心当たりがあるんだ」

ハルヒ「へえ、何よ」

スッ

ハルヒ「!」

ハルヒ「な、な、何なのよッ、手なんか重ねちゃって」

キョン「俺は…」

ハルヒ「……」

キョン「お…れ……は――」

ハルヒ「……」ドキドキ

ハルヒ「…」

ハルヒ「……!」

ハルヒ(手…震えてる)

ハルヒ(これは緊張……じゃない)



ハルヒ(何かに、抵抗しているように見えるのはどうして?)


ハルヒ「…………」

キョン「お…れ――はッ」


ピッ――ガッ

ザザッ―ザッ――


ハルヒ(……え?)


ガガッ…ガッ――

ザザ―――


――『だからきっと、お前に…があっても無くても、お前は俺の頁に物語を書き綴ってくれる』


ハルヒ(え…?キョンの……声?)


――『お前がいれば、きっと俺の空白の頁をうんざりするくらいの活字でいっぱいにしてくれる』

――『………だから、………だから、…………だから、そういうのは関係ないんだ」

――『きっとそこには長門もいて、朝比奈さんもいて、古泉もいる』


ハルヒ(……)


――『そうさ、そうなんだ』

――『それが答えなんだ』


ハルヒ(答え?……何それ意味分かんない)


――『意味分からないとか言うなよ、理屈になってないとか言うなよ、こういうのは感覚が大事なんだ』

――『俺は今を壊したくない』



――『お前にいてほしい』


キョン「俺、は――!」

ハルヒ「わ、私ッ。委ねてもいい……」

キョン「…………何?」

ハルヒ「だから、その、私、あんたに、えっと……つまり、うーんと…………」

ハルヒ「私、」






古泉『止めてください涼宮さんッ!!!!』

ハルヒ「!」

ハルヒ「え?え?古泉君、ど、どこから……」

古泉『そのお方は本人に間違いないですが、行動や言動に裏付けされる意思は彼自身のものではありませんッ!!踏みとどまって下さい!』

ハルヒ「え、な、何を……」


みくる『涼宮さあああああん、思いとどまって下さあああああああい!!』

ハルヒ「み、みくるちゃん……」

長門『今は、違う。待って』

ハルヒ「有希――」

ハルヒ「!!」


ハルヒ(キョンの手の上に、古泉君の手、その上に有希、その上にみくるちゃん――)


ハルヒ(あれ?これ、幻……?)

ハルヒ(皆が、ここに、集まってるような…)

ハルヒ(手の温もりが……)



















神瑞「――涼宮ハルヒィ!!!」


バリーン!!!


店員「なっ!?」

客「うああああ!」

客「な、何だアイツ!」

客「に、日本刀……!」


ハルヒ「えっ、えっ?」

キョン「お前ッ……」

神瑞「sos団を見くびっていたよ。まさか別次元からの干渉を可能にするなんてネ、アンタもアンタで佳子の洗脳に抵抗しちゃうし」

ハルヒ「別次元?干渉?洗脳?」

キョン「おい!お前っ!」

神瑞「もうこうなれば力づくしかないって訳サ」

神瑞「佳子は甘いヨ。それじゃあ神の創造には遠く及ばない」

ハルヒ「か、神……?」


神瑞「神を創造するにはアンタの意志が必要だ。そのためにはこうした遠回りな事をしなければならなかったが――」

神瑞「実体を持たない涼宮ハルヒに干渉する方法を一つ見つけ出した」

キョン「何だってんだ…」

神瑞「覚えてる?アンタ、本当は私達の手に掛けられて」


神瑞「死んでるはずじゃない」


キョン「…………」

神瑞「朝倉涼子曰わく一色目の世界のアンタは交通事故によってその命を落とした――が、その事実は別の事実によって上塗りされ、無くなった事になる」

神瑞「この涼宮ハルヒの精神世界はアンタの精神情報によって入ることができる。涼宮ハルヒが気を許している人物だからだ、普通自分の夢に気に入らない人物を招き入れたくはないでしョ?」

神瑞「多重記憶世界で拾ったんだよ。〝涼宮ハルヒの影響を受けていない一色目の古泉一樹の記憶〟からたどって、あなたの宿り主を失った精神情報をさ」


キョン「…………あ、」



――『……あなたの意識は今日含めもう三日もすれば完全に消滅する。あなたに限らず、死んだ人間は例外なくそう』

――『生命活動の停止から十日後、器を失った精神は霧消するのが常』


神瑞「なるほど。長門有希から多少は聞いているようだ」

神瑞「だが、それを正しくするならば、」

神瑞「人間の精神の〝器〟は、死後十日後に例外なく消滅する――だ」

神瑞「精神情報そのものはいつまでも世を漂うよ、それを人間は幽霊だとか表現するみたいだけどネ」


キョン「…………くっ」

ハルヒ「ねえ、これ……何なの、一体」


神瑞「じゃあ涼宮ハルヒ、私と共に来い。そして融合しろ、世界を創造、支配する神となろうじゃないか」ガッ

ハルヒ「あっ、ちょっと…!」

キョン「待て!ハルヒをどこに連れて行く!!」

神瑞「もうお前に用は無いよ」





神瑞「お疲れ様、今度こそ神は世界に生まれる」

【三章 終】

【最終章】


[sos団の憂鬱]

キョン「――――」

長門「――――」

古泉「――――」

みくる「――――」



キョン「……ん、」

キョン「!」ガバッ

キョン「ここは……部室、か」


キョン「おい起きろ古泉、長門、朝比奈さんも起きて下さい!」ユサユサ


古泉「ん……」

長門「…」

みくる「ううん…」


古泉「!」ガバッ

長門「!」ガバッ

みくる「!」ガバッ

みくる「ここは、部室……ですかあ」

長門「……情報解析能力が回復した、世界が再構築されたと思われる」

古泉「世界が再構築されたという事は――涼宮さんが」

キョン「くそ、こうしてられるか!」

古泉「どこに行くんです!」

キョン「そんなもん知るか!街中走ってりゃハルヒなんてすぐ見つかるさ!」

古泉「この街はおろか、世界中をくまなく探しても見付からない可能性が高いです」

キョン「……、」

古泉「涼宮さんの精神世界へのリンクで、あなたの記憶を少し垣間見ました。そこから分析するに……彼女は、涼宮さんは、神瑞ミライ、神瑞佳子と共に融合し、」

古泉「おそらくは、神に」

キョン「ふざけるな!神なんている訳ねえだろ!」


キョン「くそ…どうする……どうする」

キョン「……今回は、」

古泉「…?」

キョン「今回は、ハルヒ消失の時と違って、俺だけじゃない。ちゃんと、俺の時空の仲間が、お前らが、sos団がいる」

キョン「ついにこの時が来たんじゃねえか、全面戦争だよ」

キョン「俺達sos団の団長を取り戻すために、天蓋領域を、神を、ぶっ潰してやるんだ」

キョン「ハルヒを奪還する」


古泉「……はい」

長門「了解した」

みくる「やりましょうっ」


キョン「長門」

キョン「もちろんこの事態は情報統合思念体にとって都合の良い方向に傾いてはいないよな、協力してくれたりは出来ないのか」

長門「可能と判断する」

キョン「よし、じゃあ…」

長門「しかし」

長門「太刀打ち出来る相手ではない」

古泉「僕も今回の件ばかりは役立ちそうもありませんね。何せ今回のバトルステージは宇宙スケールです。せいぜい僕が活躍出来るスケールは一つの街の中まで、おまけに閉鎖空間は完全に消失しています」

みくる「私も宇宙となるとどうしょうも…」


――――ドンッ!!!


キョン「!」

長門「!」

古泉「!」

みくる「!」

ゴゴゴゴゴゴ…

キョン「おい、これは……また時空震なのか」

みくる「いえっ、時間平面への負担は確かにあるんですけど、時空震とは違った原因だと思いますっ」


古泉「時空震ではない…?」

長門「窓の外――上を見て」

キョン「上?」

バタバタ

古泉「これ……は」

キョン「空の色が…異常だ」

みくる「空が歪んで見えます…」


古泉「彼女達、でしょうね」

キョン「神になった、ハルヒ、神瑞ミライと神瑞佳子の仕業なのか」

古泉「その可能性が高い……いえ、もうそれ以外考えられないでしょうね」

長門「情報統合思念体より通信が入った」

長門「これまでの涼宮ハルヒが起こした現象から想定される情報エネルギー総量の、約1000000倍の数値が観測された。未確認生命体が現在、地球の真上にてエネルギーを発している」

みくる「1000000倍……ですかあ」

キョン「神相手にエネルギー観測が数値化できるならまだ状況はそれだけマシだって事だろ」

古泉「そうですね、あなたにしては素晴らしい頭の回転です」


キョン「こうして考えてみりゃ、どうにもあいつらが世界をまた滅ぼそうとでも企んでるようにしか思えないんだが」

古泉「彼らがこの世界を全修復、再構築した理由は涼宮さんの実体を取り戻して完全に〝神〟として覚醒するためと思われます。つまり」

長門「ここには、もう用済み」

古泉「そういう訳です」

みくる「そ、そんなあああ」

キョン「せっかく直ったと思ったら、多重記憶世界の構築どころか、今度こそ世界は完全にお終い…。んな馬鹿な展開があってたまるか!」


古泉「思えば、今回は多重記憶世界の件を除けば、ほぼ天蓋領域の思うがままにしてやられていますね」

古泉「彼らの目的は〝神〟を創造する事にあった。そのために涼宮さんの力を狙い、この世界に、sos団に目星をつけた」

古泉「そして今、にわかには信じられませんが神が生まれ、そして皮肉なことにその神が世界を滅ぼす」

長門「対抗策としては、涼宮ハルヒの個体を、融合して創られた一つの生命体から分離、取り戻すしかない」

長門「正面から戦って勝てる相手、存在ではない」


キョン「神とやらからハルヒを引っ剥がせばいいんだな」

古泉「理屈は単純ですが、方法がまるで思い浮かびません」

みくる「そ、空の歪みがまた大変なことになってる気がします…」

長門「タイムリミット」

古泉「僕が考えるに、彼女達は手順を終えたが、覚醒するまでにまだいくらかの時間を要すると思うんです」

キョン「まだお休み状態、か」

長門「完全に目覚める前に彼女達を叩く」

古泉「そうなりますね」


キョン「しかしどうすりゃいいんだ、今相手は地球の真上だぞ?今からロケット、宇宙船でも用意するってのか。古泉属する組織、『機関』はそんなものもパッと出せるのか」

古泉「飛行機までならどうとでもなりますが、宇宙船やロケットとなると……。それに、浪費する時間などを考慮するとあまり現実的な策とは言い難いですね」

みくる「ふええええええ」

長門「私がいる」

キョン「長門!」

長門「古泉一樹も朝比奈みくるも優秀。だが、古泉一樹の活躍場面はあまりに限定的、朝比奈みくるら未来人の圧倒的な情報所有量も、この時点では役立つとは言えない」

長門「私しかいない」


古泉「……誠に悔しいですが、そうなりますね。今は情報統合思念体の能力に頼る他ない」

みくる「長門さん、頑張って下さいっ」

キョン「いやいや、頑張るったって…」

長門「私には情報制御空間を構築する力がある」

長門「情報制御空間内ならば、宇宙空間における人間の身体への影響をシャットダウンすることが可能」

長門「神瑞らに近付ける」

キョン「ち、近付くのはいいが……それまでに、そうだな。撃ち落とされたりしないのか」


長門「彼女達は融合を終え、神となり、覚醒までの短い眠りについている」

みくる「で、でも、近付いてどうするんですかあ」

古泉「近付けるのならそれでいいじゃないですか。少なくとも僕らsos団が団長に〝話しかける〟ことはできる」

キョン「また、泣き落としでもするのか」

古泉「そこは、あなた仮団長に任せます」

キョン「もう仮団長は終わったよ」

古泉「いいえ、涼宮さんは未だsos団への帰還を成し遂げてはいません。今の団長は他の誰でもない、あなたですよ」


キョン「俺が……団長」

古泉「では団長様、今から僕達がどう動けばいいのか」

長門「指示を」

みくる「お願いしますっ」

キョン「…………」

キョン「このままボーっとしてりゃ、世界は滅ぶ」

キョン「そうなったら、いくら天下無敵の長門でも、そして当然凡人たる俺含む全人類が、今日を境に歴史を閉ざしちまう」

キョン「つまりそれは死ぬってことだ。人類滅亡、世界滅亡」

キョン「でもそれは面白くねえ」

キョン「あいつだって、面白くないことには猛反対するはずだ」

キョン「――だから、どうせ死ぬなら、なんて捨て鉢の戦いに挑むんじゃなくて、きっと、俺達は、」

キョン「面白いから、神とだって戦ってやるんだ」

キョン「それが、sos団のやり方だ!」





パキ――



長門「……最高密度情報制御空間完成率、100パーセント」

キョン「中は透明な立方体みたいな空間になってるのか」

古泉「これが今から校舎の天井もすり抜けて、宇宙までひとっ飛びという寸法ですね」

長門「そう」

みくる「うわあ、まるでこれから宇宙旅行をする気分ですっ」

キョン「そういえば朝比奈さん。こんな一刻を争う事態に変な質問なんですが…」

みくる「何ですか?」

キョン「朝比奈さんの元いた時間平面では、皆が当然に宇宙旅行ができるようになってたりするんですかね、やっぱり」

みくる「それは…」



みくる「禁則事項ですっ」


宇宙

ドクン…ドクン……


ドクン…ドクン……


ハルヒ(神)「――――」




キョン「ハルヒっ!!!」

古泉「涼宮さんッ!」

みくる「涼宮さあああん」

長門「……」



古泉「本当にエレベーターのようにひとっ飛びでしたね」

キョン「それより見てみろよ……融合なんて言うから、どんな見てくれに仕上がってるのかと思ってたんだが」

キョン「翼に、頭の輪、セーラー服、天使的イメージ要素を付け加えてただけの、まんまハルヒじゃねえか…!」


古泉「人生に一度でも体験できれば、それは間違いなく人類史上初でしょう。僕達は今、神を目の当たりにしています。眠り姫とでも表現したいほどの、見目麗しい涼宮さんの姿をした神をね」

みくる「確かに綺麗ですっ…」

キョン「何せ黙ってりゃモテるタイプの奴だからな」

古泉「さて……」

古泉「どうしますか」

キョン「声は、もう…届かないのか」

古泉「確認のすべを持ちませんので何とも言えません」

みくる「呼びましょう、涼宮さんを」

長門「呼び掛けは現実的ではない。やはり直接的な干渉が必要」


古泉「と、言うと…」

長門「私は今、全情報統合思念体の情報エネルギー総量の99パーセントを任されている。未覚醒の状態ならば直接的に干渉できる可能性は高い」

キョン「奴からハルヒを引っ剥がせる可能性の程度は?」

長門「分からない」

古泉「……」

長門「体有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースとしての姿を一時解く」

古泉「!」

みくる「ふえっ」

キョン「何だって?」


長門「情報制御空間を脱するためにはそうするしかない」


キョン「元には、戻るんだよな」

長門「おそらく」

古泉「今の長門さんの姿を解いた状態を僕達は目視できますか?」

長門「不可能」

みくる「心配です…」

長門「こうするより他ない」

キョン「……」

長門「合意を求める」


キョン「…」

キョン「……、」

キョン「分かったよ」

キョン「合意する」

キョン「でも、必ず帰ってこいよ。それも含めて団長の絶対命令だ」

長門「合意を確認した」

古泉「…」

みくる「…」

長門「なお、この空間は私が姿を解いても崩れることはない。あなた達の安全は保証されている」

長門「安心して」


長門「」ブウ…ン――

長門「」バチンッ!!


みくる「わっ!」

古泉「!!」

キョン「……、消えた」

古泉「これで長門さんは神たる彼女達に干渉ができます」

みくる「長門さん、頑張って…!」


キョン「……」

キョン(帰ってくるよな。長門も、ハルヒも)

キョン(そうさ、sos団に不可能はないんだ)

キョン(例え神が相手だって、俺達にかかれば――)




ハルヒ(神)「――――」


ドクン…ドクン……


ドクン…




ドクン


ハルヒ(神)「――――」


ハルヒ(神)「――――ッ」バチッ…


ハルヒ(神)「――――ァッ」バチッ…バチッ


ハルヒ(神)「」





ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



キョン「ッ!!」

古泉「――!!!」

みくる「!?」



キョン「が…あ――頭が、割れる……ッ」

古泉「意識が…保たない……」

みくる「頭が痛いですううううう」


キョン「慟哭する女神――か…」





ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」




キョン「! 何だ…これっ」

みくる「頭にいっぱい情景が叩き込まれていくようなッ……」

古泉「彼女の悲鳴を通してっ…星の歴史を垣間見ているのかもしれません……」



ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



キョン「どうなって…暴走か、干渉は成功しているのかっ」

古泉「おそらくはっ…干渉に成功したからこそ、彼女達の中で意志と意志がせめぎ合っているので――は」フラッ

古泉「」

キョン「おい古泉ッ!」


みくる「私…も……」フラッ

みくる「」

キョン「朝比奈さんッ!!」

キョン「……ぐっ」

キョン「」



ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」





キョン「……」

キョン「…………あ?」

キョン「古泉?」

キョン「長門?」

キョン「朝比奈さん?」

キョン「……ハルヒ?」

キョン「ここは…公園、か」


キョン「何でだ」

キョン「おい、誰でもいい」

キョン「俺の前に現れてくれよ」

キョン「この際、谷口でも構わん」

キョン「国木田」

キョン「佐々木」

キョン「…………」

キョン「人の気配が、しねえ……」

キョン「まるで」

キョン「この世界に、俺一人だけが取り残されたみたいな、」

キョン「そんな、気が」


キョン「何だ」

キョン「世界は滅んだのか?」

キョン「ここは別世界か」

キョン「改変後の世界か」

キョン「…………!」

キョン「どうしてだ、ゾッとする」

キョン「おい、本当に誰もいないのかよ」


キョン「んな訳ねえだろ、誰かはいるはずだ」

キョン「夜中?近所迷惑?知るかそんなもん」

キョン「」スー…


キョン「お――――――――い!!!!!!!!」

キョン「誰か、いるんだろ―――――ッ!!!」


キョン「」ハァ…ハァ…

キョン「……、」

キョン「…………、」

キョン「おいおいおいおい」


タタタタタタ


キョン「お―――――――いッ!!!!!!」

キョン「誰か、いるんだろ―――――!!!!」

キョン「誰でもいいから出てきてくれ!警察でも構わん!誰か出てきてくれッ!!!」


キョン「」タタタタタタ

キョン「」タタタタタタ

キョン「」タタタタタタ

キョン「」タタタタタタ



キョン「……ハァ、ハァ」

キョン「くそ、」

キョン「朝倉でもいい、周防九曜、藤原でもいい、橘京子でもいいんだ、喜緑さんは、鶴屋さんは、シャミセンは、」

キョン「谷口は、国木田は、佐々木は」

キョン「長門は、古泉は、朝比奈さんは、ハルヒは、」

キョン「皆は……」


キョン「…………どこ、だ」


キョン「くそ…何なんだ」

キョン「これが結末か」

キョン「世界に俺一人が取り残される?」

キョン「そんな、事…」

キョン「……」

キョン「…」


キョン「勘違い男子と思われてもいい」

キョン「思い上がりでもナルシストでも何でもいい」

キョン「俺は、本当に、何となく、」

キョン「ハルヒに……求められてる気がした」

キョン「ハルヒに、その、限りなく0に近い僅かなものかもしれんが、」

キョン「特別な、好意を……抱かれているような、」

キョン「そんな気が、した」

キョン「だからあいつは、もしかしたら、俺だけは…」

キョン「守って、くれた」

キョン「……」

キョン「なんて、な」


キョン「……」

キョン「家に、自宅に、帰ろう」

キョン「なあハルヒ」

キョン「いくらムチャクチャなお前でも……せめて、家族くらいは残してくれてるよな?」

キョン「嫌だぜ、俺だってこう見えても寂しがりやなんだ」

キョン「誰一人いない世界で、朝を迎えて、昼を過ごし、夜を越えるなんて、無理だ」

キョン「動物くらい残してくれたっていいだろう」

キョン「普段あまり面倒見てないが、こんな時くらいは妹の顔も見たい」

キョン「一人は…」

キョン「ごめんだ」タタタタタ


キョン宅


キョン「ただいま」ガチャ

キョン「……」トコトコ

キョン「」ガチャ

カラン…

キョン「……」

キョン「」トコトコ

キョン「」ガチャ

カラン…


キョン「……ッ」

キョン「」タタタタタ

キョン「」キョロキョロ

カラン…

キョン「……!!」

キョン「」タタタタタタ

キョン「」タッタッタッ

キョン「」ガチャ!

カラン…


キョン「……、…………」

キョン「」タタタタタタ!

キョン「」ガラッ!

カラン……





キョン「」


そこは圧倒的なまでの〝無〟だった。


走っても走っても、蟻一匹見付からない。

月明かりに照らされた窓際には、最近妹が新しく買った靴が置いてあった。確かあれは親にねだってどうにかこうにか許しを得た貴重な靴だ。

靴は履いてなんぼだってのに、その靴はまだピカピカ、新品のままだった。使われた形跡が何一つ無かった。

親は確かこう言ったはずだ。
「いつになったら履くの」

妹はこう答えた。
「大切な靴だからまだ履かないもん」


冷蔵庫を開いた。

食べかけの和菓子、飲みかけのジュース、夕食に使うつもりだったのだろうカレーに使う食材、冷凍庫には家族全員分のアイスが入っていた。

知らず、頬を涙が伝った。

温もりは残っているのに、ここには俺以外に誰もいやしないんだ。こんなに食材が入ってるのに、調理してくれる存在もいないのだ。

冷凍庫を締めた。


激しい後悔の波が押し寄せる。今にも飲み込まれそうだった。

冷凍庫なんて開けるんじゃなかった、あそこほど〝家族〟を実感する手段があるか?何故開いたんだ。自分が分からない。

静寂が耳に痛い。

自分の足音が怖い。


物音に、振り返った。

風に揺らめくカーテンが見えた。

人はいない。


改めて、自室の扉を開く。

当然そこには誰もいない。感じられる温もりは長年かけて己が染み付けた、落ちそうにもない生活感の匂い。

ふと、勉強机に視線を移す。

無性に去年の夏休みの課題を漁りたくなった。

案外、それは簡単に見付かった。

sos団の力を借りて終わらせた、夏休みの課題。すっかりプリントやノートの端々が折れ曲がっていた。

手のひらでノートの表面をなぞる。

不思議と、安心を感じた。


ハンガーにかけられた制服が目に入る。

面倒なのであまりクリーニングに出さなかったせいか、部分部分に付着する砂埃が目立った。

部屋の灯りを点ける。

どういう理屈だか、この世界には俺一人だけのはずなのに電気は通っていた。

制服を手に取る。


――気付く。

今、自分が身に付けているものは紛れもなく制服だ。そして自分は二着制服を購入した覚えがない。




「……ここはやっぱり、別世界だ」


街中


タタタタタタ…


キョン「そうだ、いつだって、ヒントはあそこにあったはずだ……!」ゼイゼイ

キョン「北高だ」

キョン「どうして一番にそこへ向かおうとしなかったんだ、俺は」

キョン「……怖かったのかもしれない」

キョン「俺は、もし最後に頼れる〝あの場所〟に何も無かったらと思うと、どうしても行こうとは思えなかったんだ」

キョン「俺は独りじゃない」

キョン「皆がいる」

キョン「独りはゴメンだ」



タタタタタタ

タタ…

ピタッ


キョン「…あれは、」ハァハァ

キョン「……短冊」





キョン「七夕――」


北高前



キョン「……ハァ、ハァ」

キョン「北高…」

キョン「俺の、俺達の、居場所だ」

キョン「校門が閉まってやがる……よじ登るしかねえ」


ヨジヨジ

タッ


キョン「ふう」

キョン「さて、まず向かうべきは…」

キョン「sos団、部室だ」


キョン「皆、待っててくれ」

キョン「古泉」

キョン「朝比奈さん」

キョン「長門」

キョン「ハルヒ」

キョン「今、いくぞ」


部室前


キョン「……」

キョン「この扉を開けば、見慣れたsos団部室の風景が目に飛び込んでくる」

キョン「それを見ちまったら、もう後戻りはできねえ」

キョン「何も無かったら、俺はゲームオーバーだ。諦めるしかない」

キョン「…」ドクン…ドクン…

キョン「ハルヒ――」

キョン「…………、」

キョン「頼むぜっ」


ガチャ







キョン「――――」

キョン「……、」

キョン「無人…」

キョン「…………」

キョン「!」

キョン「この、栞……」




――私はここにいる


?「――来てくれたんですね」


キョン「!!」

キョン「ヤスミ…」

ヤスミ「はい」

キョン「お前、今までどこに行ってたんだ」

ヤスミ「だから、私は、ここにいます」

キョン「……、」

キョン「へっ」

キョン「あまり先輩をからかうんじゃねえ」

ヤスミ「えへへ」


キョン「で、俺は……」

ヤスミ「――――」

キョン「窓の外、校庭を見てください」

キョン「外?」

キョン「」トコトコ


キョン「……!!」





キョン「――ハルヒ」

キョン「それも、中学生の」


キョン「中学生のハルヒ…」

キョン「栞…」

キョン「七夕…」

キョン「……」

キョン「――――!」



ヤスミ「もう、いいですか」

キョン「……ああ」

キョン「もう、充分だよ」

ヤスミ「そうですか」ニコリ


キョン「あのさ、」

ヤスミ「はい?」

キョン「ありがとうな」

ヤスミ「いえいえ、とんでもありません」

キョン「本当、助かったよ」

ヤスミ「そうですか」

キョン「じゃあ、またな」







キョン「――ハルヒ」


ビリビリビリ……!!!


ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」





キョン「――ぐッ」

キョン「戻ってきた途端これか……!」

古泉「」

みくる「」

キョン「古泉、朝比奈さん……」

キョン「今は眠っててくれ、すぐだ」

キョン「すぐに終わる」

キョン「全て、取り戻すんだ」

キョン「ハルヒを」

キョン「sos団を」

キョン「日常を」

キョン「世界を」

キョン「それが、今団長である俺の役目だろ…ッ」


ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」




キョン「……!」

キョン「ハルヒ!」




ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」




キョン「聞け!ハルヒ、俺は!」




ハルヒ(神)「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」




キョン「俺は!!」

















キョン「――ジョン・スミスだ!!!!」


バチンッ!!


ドサッ



キョン「!」

キョン「……長門!」

長門「ん――」

キョン「おい、長門、しっかりしろ」

長門「――――ッ」

長門「……!」

キョン「! 良かった…」

長門「――な、イ」


キョン「何だって?」

長門「危ない…」

キョン「危ない?」

長門「危険……ここを、離れる」

キョン「離れるったって、ハルヒはすぐそこなのに」

長門「涼宮ハルヒが〝能力を自覚した〟」

長門「反動に巻き込まれてはいけない、ここを離れる」

公園


ゴゴゴゴゴゴ……!!!

みくる(大)「また時空震!……長門さん達は涼宮さんへの干渉に成功したの?」

みくる(大)「何……これ」

みくる(大)「空の歪みが、今までで一番酷い状態に……」

みくる(大)「!!!」

みくる(大)「嘘よ、そんな……」

みくる(大)「〝神〟なら何でも可能だとでも言いたいの?」

みくる(大)「なら、これは……あまりにも反則過ぎるわ」


みくる(大)「過去と、未来の時間平面が……」





みくる(大)「消滅していく……!?」

街中

ゴゴゴゴゴゴ……!!!

朝倉「!!」
喜緑「!!」

朝倉「……また、時空震」

喜緑「長門さんから、緊急に通信を受け取りました」

朝倉「どうしたっての?」

喜緑「涼宮さんが能力を自覚しました」

朝倉「!」

朝倉「彼が――やってくれたのね」

喜緑「この世界の構築情報が激減していきます、情報爆発の時とは真逆の現象」

朝倉「時空も狭まってるわ」

喜緑「……」

朝倉「……」


朝倉「とんだ神もいたものね」

北高付近


ゴゴゴゴゴゴ……!!!

長門(大)「――!」ピクッ

長門(大)「情報解析、開始……」

長門(大)「…………、」

長門(大)「涼宮ハルヒの能力自覚を確認」

長門(大)「こうなっては、もうどうしようもないと判断する」

長門(大)「!」

長門(大)「私の元いた時間平面の消失を確認」

長門(大)「もう…帰還は不可能」

長門(大)「涼宮ハルヒ」


長門(大)「――あなたは、何を望む」


北高



ゴゴゴゴゴゴ……!!!



キョン「……」

古泉「……」

みくる「……」

長門「……」

キョン「古泉」

古泉「何でしょう」

キョン「これから世界はどうなる」

古泉「分かりません」

キョン「…」

古泉「推測としては、」

古泉「能力を自覚した涼宮さんが、仮称〝神〟という一つの生命体の中で、神瑞ミライと佳子を相手に争っている状態が現状だと思われます」

古泉「よって、その勝敗の結果にもよりますが、涼宮さんの望んだ世界が創造されるかと。或いは、神瑞二人組の抵抗により涼宮さんの望む100パーセントが構築されず、未完全な世界が生まれるといった具合と思われます」

長門「…………、」


キョン「俺達は何もできないのか」

古泉「何もできないでしょうね」

キョン「俺は、間違った事をしたか。俺は、あいつに、能力を自覚させてはいけなかったか」

古泉「……いえ」

古泉「神瑞二人の、天蓋領域の思うがままになるよりは、はるかに上出来な展開かと」

キョン「上出来、か」

キョン「ハルヒが、能力を自覚して…」

キョン「神の中で〝神〟に目覚めた」

キョン「あいつは何を望む」

キョン「その望みは叶えられるのか」



キョン「世界は、どうなる」

―――――――――――


――俺はジョン・スミスだ!!!!


「……馬鹿、じゃないの」

「あんた、よくも今まで隠してくれてたわね」

「おかげでとんでもない事を自覚しちゃったわ」

「何よ、一番面白いものは私自身だったんじゃない」

「古泉君が超能力者」

「みくるちゃんが未来人」

「有希が宇宙人」

「そんなところだったのかしらね」


「あははははは」

「私は、」

「どうしたいの?」

「どうすれば――」


――『帰ってきて』

――『私はsos団が大好きですっ』

――『僕らsos団が揃っていれば、そこは必ず皆にとっての大切な居場所になりうる、とね』

――『お前にいてほしい』



「……、」

「………、」

「…………、」

「――バカキョン…」


「ねえ、そこのすっとぼけた顔した二人組」




神瑞(ミ)「?」

神瑞(佳)「……、」





「ちょっと邪魔なんだけど」



―――――――――――


――ぞ



――は……ぞ



――お……に



――………こ…る



――……は…い……



――お…は……



――俺は…



――俺は!















――俺はここにいるぞ、ハルヒ!!





























――――今、行く


キーンコーン……



ハルヒ「放課後よ!」ガバッ

キョン「ぬおっ!?」グイッ

ハルヒ「さあ走るわよキョン、もう鶴屋さんの花火大会で披露する芸を完成させなきくちゃいけないまでの時間、あまり無いんだからね!」

キョン「芸の特訓のせいで近頃足腰がとてつもなく痛むんだが…」

ハルヒ「全く、団員たるもの運動不足くらい自分で何とかしておきなさいっ、今日も猛特訓なんだからね!」

キョン「分かった分かっ……だから引っ張るんじゃねえ!」



タタタタタタ


部室


キョン「――ハレ晴レユカイ?」

ハルヒ「そうよ!この振り付けが何だか凄く愉快な感じがしたから、曲名は『ハレ晴レユカイ』で決まり!」

古泉「なかなか愉快なタイトルですね、胸が躍ります」

キョン「そりゃ、実際タイトルに愉快が入ってるし、まんま体張って踊るしな」

みくる「この、振り付け…難しいですうう」

長門「もう覚えた」

みくる「ふえっ!」

みくる「じゃ、じゃあこの部分を……」

長門「」チャッチャッ

みくる「完璧でえええええええええす」

ハルヒ「さすが有希よ!飲み込みが早いわ!」

キョン(何せ〝元〟宇宙人だからな…)





キョン(――あの時、)

キョン(ハルヒは見事、神瑞二人に打ち勝った)

キョン(一時は過去や未来、他の時間平面が消滅したんだそうだが、ハルヒの力であっという間に修復されて、大人版の長門と朝比奈さんは無事に元の時空に帰ることが出来たらしい)

キョン(そしてハルヒが望んだものは〝sos団の日常〟――これだった)

キョン(おかげでハルヒの力がハルヒ自身の力を消しちまって、これで正真正銘の普通――とは言い難い性格だが、まともな人間になれた)

キョン(古泉、朝比奈さん、長門にしても同様だ。情報統合思念体に至っては存在ごと消滅しちまったらしい)


キョン(おそらくは長門の存在維持を脅かす奴らを〝敵〟としてみなしたんだろう、おかげで長門は何に怯えることもなく、普通の少女として、ハルヒの望んだ日常の一部となっている)

キョン(心なしか、最近表情が豊かになってきた気もする。本当に僅かだがな。元同僚とも言える朝倉や喜緑さんとも仲良くやっているらしい。ちなみに朝倉はよく喜緑と口喧嘩をし、その仲裁を取るのが長門なんだそうだ。)


キョン(そして古泉の『機関』だが、これも自然消滅したそうだ。当たり前だな、もう閉鎖空間なんて生まれるはずもないんだからな)

キョン(同じくして、橘京子達の組織も自然消滅したらしい。橘京子は佐々木と宜しくやっているんだとかな、たまに佐々木から連絡が入る。あいつ、最近男が出来たらしいんだ。ああ、橘京子の方だぜ?佐々木は男にうつつを抜かすような奴じゃないだろう)

キョン(ともあれ、これで古泉も普通の爽やか男子になった、って訳だ)


キョン(そして問題の朝比奈さんだ)

キョン(何が問題だって?おいおい忘れてくれるなよ、彼女は未来人であってこの時間平面の人間じゃないんだ)

キョン(だからハルヒはここにとどまるのかどうかの選択を、朝比奈さんに委ねた)

キョン(朝比奈さんは快くここにいる事を選んでくれた。たまに元の時空が恋しくならないのか、優しすぎるために気を使ってるんじゃないか、それが気掛かりだったが、それについてはこの前に真剣に話し合った。彼女は心からここを求めてくれた)

キョン(こうして朝比奈さんも、正真正銘sos団の団員となった訳だ)


キョン(最後は、天蓋領域だ)

キョン(この時間平面に現れた天蓋領域ヒューマノイドイントルーダーの周防九曜は、未来の長門によって抹消されたらしいが、後になんとハルヒが復活させてやったらしい)

キョン(そして天蓋領域を〝無害化〟させ、もう地球人の危害を加えないよう処置を施した。周防九曜は普通の女子高生として日々を送っている)

キョン(これで、宇宙人も、未来人も、超能力者も、天蓋領域も、神も――全て〝日常〟に埋もれて無くなってしまった)




キョン(ハルヒの望んだ世界が、やってきた)


キョン(が、時たま思う)

キョン(さすがに何もかも普通にしてしまったら、ハルヒは退屈するんじゃないか)

キョン(そうは思わせないほど、sos団は毎日毎日積極的に活動に取り組んでる訳だが、あのハルヒだぜ?それで満足するとは到底思えないんだ)

キョン(で、話は入学式直後まで戻る)

キョン(未来人も、宇宙人も、超能力者も現れてくれたが……まだあいつが求めて俺達の前に姿を見せた奴が足りていない)

キョン(そう、異世界人だ)

キョン(俺は、決して退屈だからという訳ではなく、ただ、ほんのちょっとの興味から、その異世界人の登場を心待ちにしている)

キョン(ハルヒはどうだろうか?決まってるさ、望んでいるはずだ)

キョン(でも今のあいつはもう普通の女子。いくら望んだところで、異世界人なんて現れるはずもなく…)


コッコッ



ハルヒ「――ああもう、誰よこんな時に!」

長門「」チャッチャッ

みくる「完璧でえええええええええす」

古泉「はいはい、僕が出ましょう。どなたですか?」

キョン「おいハルヒ、この作詞もうちょっとどうにかならんのか」

ハルヒ「そこは明るさが際立つためにそうしてる訳よ!『ハレ晴レユカイ』の肝と言ってもいい部分だわ!」

キョン「肝ねえ…」


コッコッ


古泉「はいはい、今開けます!」


そこに現れたのは――――












~『涼宮ハルヒの慟哭』~

――end――

おつ

ここ知ってるんなら最初からここでやれボケ

なんで喧嘩腰なんだよ。気持ちはわかるけどw

読み応えがあったよ乙

面白かった

すごく良かったよ

超乙

超乙

超乙でした

乙 みくるが極端にアホっぽいw

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