マルチビュー・艦隊これくしょん (7)

【叢雲の見た世界】
出来ることは全てしたつもりであったが、どうにもならなかった
気づいた時には、全てが終わっていた
もう誰もいなかったし、その道理も無かった


馬鹿みたいねと心の中で毒づく
万が一生まれ変わったとして、絶対に軍人にだけはなるもんですか、
どうせ私も確実に地獄行きでしょうけれど
放ったらかしの炙られていた魚雷が太陽のように光り、瞬間

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【叢雲の見た輝く世界 】
気が付くと、人の形をとって立っていた、混乱しながら辺りを見回すとそこは海の上だった
天気はさっぱりとした快晴だ、見渡す限り雲は一つも、というわけにはいかなかったけれども、それでも遥か水平線上に沸き立つ入道がたった一つで、やはり快晴と呼ぶにふさわしいかろうとは思う
自らの身体を認識し体重を僅かに前へ傾けると、ゆるりと体が滑るように動いた、次の瞬間思い切りひっくり返った
何とも不思議な感覚だった
下に目を凝らすとよく分からない何かの子魚が群れをなして泳いでいる、深さは赤い海苔が底の岩磐にぽつぽつと張り付くのまでもがはっきりと見えるほどの浅い海で、海の色などは、こんなにも綺麗に透き通っていたのかと少しのんびりと眺めていると、
「あのう……」
と、突然後ろから声がした
穏やかでこの海に似つかわしい、優しい声だった
ただし、このような所に人などいるはずもないと思っていたものだから、驚いて飛び跳ねるように勢い良く振り返った
顔の横からなにか黒い影が猛烈な勢いで迫ってきて、がつん。

硬くて重いものをひどく顔の横にぶつけて、口から間抜けな音が吹き出て、世界が反転して、目の前が赤くなったかと思うと吸い込まれるように気を失ってしまった
恥ずかしい話だが、人間が気を失う時というものは頭から血の気が抜けるように冷えていくのだと初めて知った。

【長門の見た不注意な間抜け】
そこは鎮守府の部屋の大きな机、友人から借りた漫画をぺらぺらと流していた
友人は絶賛していたが、ちっとも面白さを感じない
その漫画が面白くないのではなく、読み手の側に問題があるのだと、20巻程まで読み進めたあたりでようやく気づき始めた
問題とすべき点はたくさんあったが、やはり一番はその軟弱で劣悪な態度であるかと思う
漫画家の血の滲むような努力を机にべたりと張り付いたような姿勢で、二時間かそこらで食い散らかしたからだ
心の中で顔も知らない漫画家に謝りながら、もうこれ以上先を読もうとは思えず、奥の事務の机のところにいる提督をぼけっと見る
提督はこくりこくりと夢現で中身も見ていないであろうに許可印をぺたぺたと適当に押していた
仕事ぶりを見られて首を切られても文句は言えないし、擁護できそうもない、それでも首にならないのは然るべき時だけはきちりとしているからなのだろう
彼曰く世渡りとのことだ
毎度いつもそうしてればいいのにと思う
良い所なしの阿呆のように評したけれども、不思議と皆彼を慕っている
曙も霞もたぶん、慕っていると思う
責任感があってきちんとした娘は仕事ぶりを詰ったりもしているが、それは言うところのつんでれというやつだろう
仕事に関しては恐るべき無能だが、人間性といえば良いのだろうか、人の気持ちを汲んで理解してやれる人情深さを彼は備えている
以前このようなことがあった
正月に皆で出かけたのだが、ある一人が財布を落とした、大所帯であったので待たせて探すことも憚られた
大した額ではなかったのだけれども、その時の手持ちの全てであったから、この後何も買うことができないと思うとやはり悲しくなった
皆が買い物に勤しむ中でまごついていたところ、そのような様子から見抜いたのかどうかはわからないが、彼は財布からいくらかを抜き出して渡してくれた
お陰で筆やら正月のかまぼこやらを買うことができた
借りたお金は後で返したが、彼が誰に見せつけることなく皆を思いやっていることを、私は知っている

本当にあの時は助かった。
などと適当に思いを巡らせていると、ノックの音がして、扶桑のやつが入ってきた、後ろに誰かを背負っている
扶桑によると新しい艦娘の仲間かもしれないとのことだった
気を失っているのは扶桑の砲塔に誤って頭をぶつけたからだと、確かにでこに特大のたんこぶができている
提督の判断が期待できないときは秘書官が独断で決定することが半ば不文律となっている
なのでわたしはドックへ連れていき治療してやるように言った
誤って気絶するほど激しく頭をぶつける間抜けがいるのか、扶桑が殴ったのではとも思ったけれど、扶桑がそのようなことをするとも思えず、もう考えるのをやめて私も一眠りすることにした
提督の怠けぶりに毒されたのかも知れない。

【明石の保健室】
「ねえねえ、白い鯛焼きってどう思う?原理主義者は邪道だって反対集会を開かれているらしいけれど、そんなの美味しければなんでもいいと思わない?」
知りませんよそんなの
「そう言えば明石は足が遅いわよね、魚を頭から食べてるでしょ?魚を尻尾から食べると足が早くなるらしいよ」
余計なお世話です
「はん、さては信じてないわね」
反応するのがめんどくさいだけよ
「鰯の頭も信心からって言うでしょう?」
生まれてこの方食べる魚は全て尻尾から食べているけれど、20ノットでないわよ
「ねえ、もう聞いてるの?」
「もう勘弁してよ、いくら暇でも十時間ひっきりなしに話しかけてくるのにはあんまり」
ついに我慢できずに文句を言ってしまった
「そんなに怒らなくても良いじゃん」
「聞くこっちの身にもなってよ、まったく」
瑞鶴は北方海域で大破して帰投していた
地力は目を見張るものがあるのだけれども、如何せん経験が浅い、
今回が初の長期の入渠なのだ
そして慣れていないが故に入渠中の時間の潰し方にも苦労しているようだった
「寝てればいいじゃない」
「動いてないから眠くないわ」
即答だった
思わず溜息を漏れる
瑞鶴のトークマシンガンを私から逸らすために、
一応一通りの策は試してみたのだ
具体的には、本や漫画を与えてみたり、彼女が慕う姉の翔鶴を呼んでみたりした
けれども本やら漫画やらは面白くないとか言ってそれぞれ十分持たずに放り出し、
伝家の宝刀で必殺の秘策かつ頼みの綱であった翔鶴の見舞いも、
翔鶴姉に悪いからなどと宣ってすぐ返しやがった
その気遣いの一割でもこっちに廻せばいいのにと恨めしく思う

機械いじりが得意で工作船として竣工した時には、
前線に出ずに済んで楽な仕事だ、しめしめとも思ったものだけれど、
実際には修理は工廠の妖精に任せきりで、私はというと疲れきって戻ってくる艦娘の肩や手足を揉んでやったり、雑談に付き合ったり愚痴を聞いてあげたりとまるで保健室の先生のような仕事ばかりだ
挙句の果てに不動のアドバンテージだとばかりに思っていた内地勤務の保証さえも、改装の準備だとか言って戦地へ駆り出される
戦闘艦艇に混じって戦場でぽつねんと佇むのはあまりに物悲しい、
私の損傷で撤退なんてことになれば尚更だ
往々にして現実というものは何につけても本当に厳しい

「ねえバケツ使おうよバケツバケツバケツぅー」

寂しいしまた安価の一つや二つやるかもね

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