提督「この鎮守府にホモがいる……だと?」 (49)

【艦隊これくしょんSS】です

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 提督の前に立っているのはメモ帳を握りしめ、レコーダーのマイクを差し出し、カメラを構えている青葉だ。

「はい。いるんですか?」

「……青葉、お前何言ってんだ。ホモって……そもそも男が俺一人しかいねえだろ」

「……確かに。でも、青葉はそう聞きましたよ?」

「誰からだよ。ただのデマじゃないのか、それ」

「デマなんですか?」

「誰から聞いたんだ、その話。どうせ、この前、演習でフルボッコにした奴だろ」


「取材源は守ります。こう見えても、青葉は仁義を守りますからね」

「その前に規則守れよ」

「はて……?」

「本気でわからない顔してんじゃねえっ! 勤務時間中の取材は禁止だと言ってるだろ! これで何度目だ!」

「失礼な、これは青葉の任務の一つですよ」

「命令出してる当人の前でさらっと嘘つくんじゃねえ! しまいにゃ、営倉に叩き込むぞ!」

「失礼します」


 ドアが開くと、加賀と赤城が姿を見せた。
 とっさに二人の背後へ駆け出す青葉。

「あ、待て、こら」

「最後に一言お願いします? 本当にホモはいないんですか?」

「ここにホモはいねえよ!!」

「わっかりましたー」

「……ったく、あのヤロー……」

 逃げていく青葉を苦虫をかみつぶしたような顔で見送ると、提督は加賀と赤城に向き直る。

「あの、提督……」

「ああ、すまん、加賀、赤城。お前たちを呼んだのは、艦載機の改修の話でな……」


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 提督との話を終え、空母寮の自室へと向かいながら加賀は考えていた。

(「ここにホモはいねえよ!!」?)
(ホモ……)
(ホモ……?)

「加賀さん」

 考え込みすぎているのか、背後からの赤城の声にも無反応である。

(ホモとは一体……)


「加賀さん?」

(ホモ……)

「加賀さん!」

 赤城の強い口調でようやく加賀は、自分が呼ばれていたことに気づく。

「はっ、あ、はい」

「考え事ですか?」

「すいません。私としたことが」


「いえ、私もたいした用件ではないのに呼び止めてしまって」

「それで、用件とは?」

「先ほどの提督のお話について、一つお伺いしたいことがあります」

「先ほどの、ですか」

「そうです」

「私にわかる範囲であれば」

「では」


 一息置く赤城。

「【ホモ】とは一体なんでしょうか?」

 思わず立ち止まる加賀。

「どうしました、加賀さん?」

「い、いえ」

「私の質問のせいでしょうか?」

「それは……」


 言いよどんでいた加賀だが、赤城の真面目な表情に気づくと意を決して言った。

「実は私も知りません」

「え?」

「【ホモ】という言葉の意味を知らないのです」

「加賀さんもご存じないのですか」

「はい。お恥ずかしい話ですが」

「私も知らないのだから、恥ずかしいと言うことはありませんよ」


 しかし、と言葉を続けながら赤城は考えていた。

 なんだかんだ言いつつも、赤城と加賀は鎮守府に関することならば全てとは言わないまでも相当詳しい。
 海軍に関することも同様だ。
 自分たちがカテゴリーに属していない駆逐艦や戦艦のことも、ある程度は知識として知っている。
 その自分たちが知らないと言うことは、これは海軍とは関係のない言葉ではないのだろうか。
 
「ですが、誰に聞けばわかるのかというと」

「世間知に長けた者……」

 二人は考える。
 いわゆる世間の一般常識であれば、自分たちに欠落していることはよくわかっている。
 色んな意味で自分たちは普通ではないのだから。

「鳳翔さん、でしょうか」


「料理には長けていますし、私たち以上に物知りだとは思いますが、世間一般の知識と言われると……」

「そうですね。考えてみれば鳳翔さんも鎮守府の艦娘には違いないのですから」

「鎮守府にいる艦娘……」

「あ」

 赤城がぽん、と手を叩いた。

「そうです。鎮守府生まれでない艦娘ならば」

 うなずく加賀。


「まるゆさんとあきつ丸さんですね」

「二人は陸軍出身です。私たちにない知識を持っていても不思議はありません」

「では早速」

「はい」

 二人はまるゆとあきつ丸の部屋へと向かう。
 
「これは赤城殿に加賀殿。一体こんな時間に何用でありますか?」

 あきつ丸は二人を快く部屋に招き入れると、茶を振る舞う。


「あいにく、珈琲紅茶などのたぐいは部屋に常備しておりませんが、せめて茶など」

「じつはあきつ丸さんにお聞きしたいことがあって」

「自分に、ですか?」

「ええ。私たちとは違った経歴を持つあきつ丸さんなら知っているかもしれないと」

「……確かに、自分は海軍の皆さんとは異なった経歴の持ち主でありますが」

 居住まいを正すあきつ丸。
 赤城加賀と言えば泣く子も黙る一航戦である。(主に瑞鶴が泣いて、翔鶴が黙る)
 その二人が直接訪ねたいことがあるというのだ。自然と緊張もするというものだろう。


「それでは、単刀直入におたずねしますが」

「はい」

「【ホモ】とはなんですか?」

「あ、衆道のことでありますな」

「しゅどう?」

「男色、念友ともいいますな」

「だんしょく? ねんゆう?」


「もう少し砕けると、昨今ではやおい、なる呼び方もあるとか」

「は、はあ」

 赤城と加賀は顔を見合わせる。

 どうしよう。
 あきつ丸の言うことがさっぱりわからない。

 しゅどうってなんだ。酒道? 隼鷹のことか?
 だんしょく? 談職? 弁士のことか?
 ねんゆう? 燃油? 燃えるのか? それは艦娘としてはとても怖い。
 やおい……伊401こと、しおいの仲間か?


「あのー」

 考えこむ加賀の袖を引く者がいる。
 目を落とすと、そこにはまるゆが。

「もしかして、これですか?」

 その手には空の瓶牛乳。

「牛乳がどうかしたのですか?」

「これ、ホモ牛乳って言うんです」

「ホモ?」

「はい」


 確かに、名前はどんぴしゃりだ。

「普通の牛乳とは違うのですか?」

「それは私にはよくわかりませんが、前によく飲んでいました」

「前に、というと?」

「えーと、私と電さんが、背が伸びると聞いて飲んでいたんですけれど、鳳翔さんにそれは効き目がないって言われて」

「今は、飲んでいないのね?」

「はい。でも、背を伸ばすためじゃないって言って今でも飲み続けている人が」


「それは誰ですか?」

「龍驤さんです」

「そう、ありがとう」

 ホモ牛乳、名前は合っている。
 『ホモがいる』と言うことは、ホモ牛乳を飲んでいると言うことだろうか。
 当てはまるのが一人、という言葉にも符合する。

「加賀さん」

「ええ、龍驤に話を聞きましょう」


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 龍驤は牛乳を飲む。
 それを無駄な努力だと笑う者もいるかもしれない。しかし、少なくとも龍驤の目の前では何も言わない。

 昔、一度だけ、ある軽巡洋艦が尋ねたことがある。

「龍驤さん、それで胸が大きくなるの?」

 龍驤は何も答えなかった。
 しかし、その軽巡娘はさらに続けたのだ。

「効き目、あった?」


 龍驤は何も言わなかったが、周囲の空気は凍った。
 思わず響がヴェールヌイになりかけたくらいに、空気は冷たくなった。

 そして信じられないことが起こった。
 軽巡娘は、さらに言葉を続けたのだ。

「効き目、なかったみたいだね」

 龍驤は静かに答えたという。

「そやな」

 翌日、明石が出所不明の燃料2弾薬4鋼材11を発見したと提督に報告していたが、この件との関係は不明である。


 とにかく、今日も龍驤は日課の牛乳を飲む。
 食前食後に牛乳は欠かさない。

 今日も今日とて牛乳タイム。間宮食堂でご飯を食べた後は、取り置きの牛乳を一気飲み。
 腰に手を当て背筋を伸ばし、右手に掲げた牛乳瓶を口元へ。

 ごっきゅごっきゅごっきゅ

 今日も牛乳は美味しい。
 別に美味しいから飲んでいるわけではないのだが。
 それでも、牛乳は美味しい。
 美味しいのだ。美味しいから飲んでいるのだ。毎食後毎食後、毎食前毎食前。
 美味しくなければこんなに飲み続けることなんで出来るわけがない。美味しいのだ。とにかく美味しいのだ。
 美味しいという理由以外で牛乳を飲むなんて、そんな馬鹿な。
 決して、身体のとある一部分だけを成長させようとかそういう企みはないのだ。ないのだ。ない。


「げふぅ」

 だから今日も牛乳は美味しい。

「美味しいなぁ……」

 ちょっと棒読みなのは気のせい。

「何本飲んでも飽きへんなぁ……」

「いいかしら?」

 食後の牛乳の喉ごしに浸っているところに声がかかる。


「……なんや、加賀……赤城も。どしたん、二人揃って」

「ちょっと、貴方に尋ねたいことがあって」

「ほう? 空母ツートップのお二人がウチに聞きたいこと?」

「聞きたいこと、というか、見せて欲しいものね」

「なんや?」

 龍驤が首を傾げていると、赤城が飲み終わってテーブルに置かれたばかりの牛乳瓶を取り上げる。

「これね」


「瓶がどうかしたんか?」

「ここよ」

 赤城が示したのは牛乳瓶の外側に書かれている文字。

【森○ホモ牛乳】

 そして赤城は、提督と青葉の会話を龍驤に話して聞かせる。

「……ふーん、ホモか……確かに、ここに書いとるなぁ」

「どういう意味なのかしら?」


「へ?」

「これを愛飲している貴方なら知っているのではなくて?」

 加賀の追求に目を白黒させる龍驤。

「む……ん……」

「知らないの?」

「いや、知らないというか……」

「知らないのね」


「推測はしとるよ? 正確にはわからんけど」

「聞かせてもらえるかしら?」

「ホルモン、の略やと、ウチは睨んでる」

「ホルモン!?」

「それも、成長ホルモンや。おそらくは、身体のごく一部に作用する」

「身体のごく一部に……確かに、そんな噂を聞いたことがあるような気が」

「そや。そういうことや」


「待ってください」

 二人の会話に分けて入る赤城。

「だとすると、提督は何故あんなことを……つまり、ホモはいないのかと聞いた青葉さんを叱責し、否定するような……」

「何かのタブーに触れてしまった?」

「タブー?」

 龍驤が何かに気づいたかのように突然テーブルを叩く、

「くっ、そういうことやったんか! 青葉は勘違いしたんや」


 立ち上がり、驚いた様子の加賀と赤城に向き直る。

「ホモがホルモンの略やとしたら、成長ホルモンを持っているように見えて本当は持っていない、ちゅうことや」

「どういうこと? 龍驤さん」

「加賀、この鎮守府で、一番成長ホルモン持ってそうなんは誰や!」

「それは……」

「ちょっと待ちなさい、それって……」

「そや」


 龍驤は握り拳を突き上げる。

「愛宕は偽乳やったんや!! そして、提督はそれを知った上で庇いだてしとるんや!」

「偽乳だとして、それを提督が知っていると言うことは」

「二人は、とっくにそういう関係やったと……」

「……」

「……」

「……」

「お似合いやな、あの二人やったら」


「そうですね。愛宕さんなら提督とお似合いです」

「しかし、他の者に示しがつかないのでは?」

「そやから、隠してるのは正解ちゅうわけやな」

 因みに三人とも、提督に対する恋慕の念はない。

「まあ、そこは別にええんやけどな」

 龍驤はしつこく続けた。


「偽乳はアカン。それはアカン。許されざる所行や。甲子園が大阪にあると勘違いするくらいの所行や」

「実力行使はいけませんよ」

「内輪もめは厳禁です」

「……わかっとるよ」

 龍驤はにやりと笑う。

「せやけど、真実は一つや」

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 ……数日後

「なんだか最近、皆の視線が生暖かいんですけど」

 悩む愛宕の姿があったとか。

以上お粗末様でした




明石が見つけたのは遠征組がうっかりこぼした資材
解体された可哀想な軽巡はいなかった、いいね?

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年02月15日 (水) 14:32:39   ID: -jiBBVIN

いるだろ、艦娘にもホモは

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