P「コールドケース」(68)


『アイドル候補生』

 2007年 765プロの萩原雪歩が失踪する

 2005年 5月

 765プロ事務所

 p『みんな、今日は新しい仲間がうちの事務所に来ることになった』

 p『萩原雪歩だ。さぁ、出てきて挨拶してくれ』

 雪歩『うぅ……今日から……ここでお世話になる萩原雪歩ですぅ!』

 p『まぁ、見ての通り雪歩は人見知りだから、みんなからどんどん話しかけてくれると助かる』

 p『え?何でおれがこんなに離れてるかだって?』

 p『実は雪歩、男の人が苦手なんだ』

 雪歩『す、すみません・・・』

 p『気にするな雪歩。これから、少しずつ慣れていこう、な?』

 雪歩『はい・・・プロデューサー・・・』

 p『よーし、早速だが今日は雪歩の歓迎を兼ねて合同でレッスンするからみんな準備してくれ。』

 雪歩『ふぇ~~、いきなりですか!?』


 p『大丈夫だよ、みんなやさしい子達だから。雪歩もきっと馴染めるさ』

 p『俺もいるからさ。』

 雪歩『プロデューサーがそう言うなら、そうなんだと思います!』

 p『ははは、その意気だ。さぁ、雪歩も着替えて来い』

 雪歩『はい!』

 こうして、アイドル候補生として萩原雪歩が765プロに入った。

 だが、2年後、萩原雪歩は突如として姿を消した……

 失踪とみなされ捜索がなされるが、いまだにその安否はわからない……

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 2012年 7月

 ヴァレンズ「ねぇ、如月千早って知ってる?」

 リリー「知ってるも何も、今の時代彼女を知らない人なんていないわよ」

 リリー「まさに、歌姫ね。765プロもここまで来るとは思わなかったわ。」

 ヴァレンズ「この間、ライブに行ったんだ。」

 リリー「千早の?」

 ヴァレンズ「いいや、天海春香」

 リリー「彼女もすごいわよね……バラエティからドラマまで、ほんと何でもこなすわね」

 ?「俺はミキミキがいいと思うがな」

 リリー「ボス・・・」

ボス「たとえプロデューサーとできていようとも、私はかまわん!」

 リリー「わかります。」

 ヴェラ「盛り上がってる所悪いんだが、そのアイドルの一人が今朝、児童公園の池から見つかった」

 ジェフ「萩原雪歩、2007年に失踪。失踪当日はオフで、事務所へ行くと言ったきり帰ってこなかったそうだ」

 ボス「まだ、駆け出しだったが、清楚さでいえば業界一だった」

 ヴァレンズ「そんな子を殺すだなんて・・・」

 リリー「ほんと、酷い事するわ」

 参考op: http://www.youtube.com/watch?v=f0nvaswnsn4


 ***

 ヴェラ「遺体の頭部には、鈍器で何度も殴った跡があった。」

 リリー「悪いファンにでも捕まったのかしら?」

 ヴェラ「そして、体中に無数の痣・・・かなりひどいぞ」

 ヴァレンズ「レイプか?」

 ヴェラ「ちがう。死ぬ直前にできたものだ」

 リリー「つまり、彼女は暴力を受けていたってこと?」

 ヴェラ「そうだ。」

 ヴェラ「遺体の状態が悪くてそこまではわからん。すくなくとも、だいぶやられてるみたいだ」

 ボス「とある掲示板で、765プロには陰湿ないじめがあるという書き込みを見たことがある」

 ヴァレンズ「彼女ほどのかわいさなら、嫉妬されるかもな。」

 リリー「家庭内かもね」

 ボス「いじめと虐待か・・・・よし、リリーとスコッティで両親の所へ行くんだ。」

 ボス「ヴェラとジェフで765プロに話を聞いてこい。」

 **

 萩原家

 母「・・・・・・」

 父「・・・・・・・・」

 リリー「真に残念ですが、娘さんは何者かによって殺害されたようです。」

 父「殺した奴は男なのか?」

 リリー「それはまだ、なんとも・・・・」

 父「だとしたら、どれだけ怖かっただろうに。あの子は男性恐怖症なんだ。」

 父「だから、最初はアイドルになることなんて、反対だった」

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 父『アイドルだって?』

 雪歩『うん……ダメ、かな?』

 父『どうして、そんなものになりたいだなんて・・・』

 雪歩『そんなもんじゃないよ!』

 父『な……雪歩、本当にどうした・・・』

 雪歩『お父さん、私・・・本気だよ』

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 父『結局、あいつの気迫に押されてて了解したが・・・あの時、もっと考えておけば・・・くっ』

 リリー「それでなんですが、検死の結果娘さんは」

 父「頼むから、その検『死』って言い方をやめてくれ……」

 リリー「失礼しました、検査の結果、娘さんは何かしらの暴力行為を受けていた形跡がありました」

 父「暴力だって?」

 ヴァレンズ「何か心当たりはありませんか?」

 母「まさか、私たちがしたとでも・・・」

 父「もし、そのつもりで言っているなら、こちらも出るとこ出ますよ」

 リリー「そういうことを言っているんじゃないんです、萩原さん」

 リリー「普段の娘さんから、なにか変わった様子はありましたか?」

 母「そういえば、普段からレッスンがすごくハードだと漏らしていました」

 リリー「具体的には言っていましたか」

 母「いいえ、でも『鬼軍曹』みたいな人がいるって・・・」

 父「そういえば、一度レッスンを見学したいと言ったら、断られたことがあった。」

 リリー「鬼軍曹とレッスン・・・」

 ヴァレンズ「指導が、行き過ぎたのかもな」

***

 765プロ(大)

 受付嬢「ですから、アポは取ってあるのかと聞いているのですが……」

 ヴェラ「姉ちゃん、これ見てくれ。俺たちは警察だ。」

 ジェフ「萩原雪歩失踪時の担当プロデューサーについて知りたいんだ」

 受付嬢「しかし、アポを取っていない以上あなた方を通すわけには・・・」

 ?「ちょっと待ってください」

受付嬢「キャッ、真様////」

 真(24)「僕があとで、話を通しておくからこの人たちを通してあげて」

 受付嬢「は、はいぃ!」

 ヴェラ「菊地真だ」

 ジェフ「本物だぞ……」

 真「すみません、刑事さん。あ、僕は菊地真っていいます。」

 ヴェラ「殺人課のヴェラとジェフリーズです」

 ジェフ「tvで見るよりずっとかわいい」

 真「あははは、ありがとうございます。」

 真「で、さっき雪歩がどうのうこうのって・・・・」

 ヴェラ「ええ、実は……」

***

 真「そうだったんですか……僕はてっきり、辞めたんだと思ってました」

 ジェフ「そう、聞かされていたんですか?」

 真「はい。うちの事務所は厳しいから珍しい事じゃなかったんで」

 ジェフ「雪歩とは親しかった?」

 真「ええ、よく話していたと思います。」

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雪歩『真ちゃん……ごめんね』

 真『雪歩、今日のレッスンは仕方ないよ』

 真『僕たちは何度も練習してきたけど、雪歩はまだ来たばかりだし・・・』

 雪歩『でもでも、私が何度も失敗しちゃったからパートナーの真ちゃんにペナルティーが……』

 真『腕立て伏せくらいいつもやってるから、平気さ。』

 真『それに、雪歩がドヤされるくらいなら僕が変わりに怒られてやるよ』

 真『雪歩には、怖い思いはさせない。僕がいるから、ね?』

 雪歩『真ちゃん……』

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真『なんだか、雪歩といると気持ちが安らぐような気がして』

 ヴェラ「レッスンはそんなに厳しいのか?」

 真「ええ、かなりね。なんせ『鬼軍曹』がいましたから、いや今もいるか」

 ジェフ「男の先生か何か?」

 真「違います。一応、プロデューサーもしてました。それに、律子は女ですよ」

 ヴェラ「さぞかし、おっかないんだろうな」

 真「律子のせいで辞めて行った候補生は大勢います。」

 真「でも、腕は確かです。残った子たちは皆成功してますから。僕みたいにね」

 ジェフ「アイドルに手をあげたりしたことはありましたか?」

 真「それは、もう毎日。体罰なんか当たり前でしたよ。」

 ジェフ「雪歩も被害に?」

 真「まァ……そうですね」

****

 署

 ボス「『鬼軍曹』がいたってわけか」

 ヴェラ「秋月律子。経歴をしらべてみたら、彼女も一時期アイドルをやっていたみたいで」

 リリー「結構若いころから、プロデューサーしているのね。」

 ヴァレンズ「自分より、売れてる子がいたらそりゃ厳しくもなるな」

 ジェフ「体罰も日常的に行われていたようです。」

 ヴェラ「だったら、なおさら親にはレッスンは見せられないよな」

 ボス「だが、腕は確かだ。彼女がプロデュースしたアイドルは今でもテレビに出てる」

 リリー「呼びますか?」

 ヴァレンズ「忙しくて、無理そう」

 ボス「とにかく、話を聞くんだ。」


 *****

 取調室

 リリー「まさか、来てくれるだなんて、思ってもみませんでした」

 律子(26)「でも、30分だけよ。それ以上は無理ね。煙草吸うわね・・・・フゥー」

 リリー「じゃあ、単刀直入に聞くけど、あなたアイドルにずいぶんと熱のこもった指導をしているみたいね。」

 リリー「体罰もその一環かしらね?」

 律子「そのくらいで弱音を吐くようじゃ、アイドルなんてやっていけませんよ。現実は甘くない。」

 リリー「萩原雪歩はどうだったの?」

 律子「雪歩……」

リリー「もう聞いているんじゃない?雪歩が帰って来たって」

 律子「だからなんだって言うんです。私は何も知らない。」

 リリー「彼女の体から、無数の痣が発見されたわ。これは何かしら暴力を受けていないとできないものよ」

 律子「私がやったって言いたいんですかね」

 リリー「そうじゃなくても、体の痣はどう説明するつもりなのかしら」

 律子「これは私じゃない。よく考えなさい、プロデューサーである私が、アイドルの大切な体に傷をつけるようなマネをするとお思いで?」

 リリー「だったら、この痣は?」

 律子「とにかく、私じゃありません。あるとすれば、きっと他のアイドルね」

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 2005年

 律子『うっかり、レッスン場にジャージを忘れてきてしまうなんて…』

 律子『私もまだまだね……ん?誰か部屋の中にいるわね』

 ***

 春香『ねぇ、雪歩。なんでこんなこともできないのかな?』

 響『そうだぞ、こんなレベルでアイドルなろうだなんて自分たちのこと舐めてるの?』

 雪歩『ごめん……もう一回してみる』

 春香『あのさぁ、ごめんって、それ今日で何回言ったと思ってるの?』

 雪歩『覚えてない……ごめん』

 響『ほら、また言ったぞ。あのな、謝る暇があったらその愚鈍な運動神経どうにかしろよ』

 春香『真だって、困ってるのよ。あなたが間抜けなせいで、毎回律子さんに怒られる』

 響『そもそも、なんで真がお前みたいなのと一緒にいるんだ?自分、不思議で仕方ないぞ』

 春香『どうせ、お金でもあげてるんでしょ?だって、ここに入れたのだって、賄賂でも渡したに決まってるよ!』

 響『ペイオラってやつだな』

 春香『ちょっと違うよ、響ちゃん』

響『ま、いいや。とにかく、雪歩がちゃんとしないとこっちにも迷惑かかるんだよね』

 雪歩『……』

 春香『何黙ってるのさ。ほら、さっさとさっきの続きやるよ。のろまなあんたに付き合ってやっているんだから感謝しなさいよ』

 響『そうだぞ。体が覚えるまでしごいてやるからな~』

 ***

 律子『…………』

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リリー「いじめがあったわけ?」 

 律子『みたいね。』

 律子「まあ、珍しい事じゃないわ」

 リリー「だからって、見過ごしたの?」

 律子「私はただのプロデューサーよ、私が踏み込むところじゃないの」

 律子「いじめられるほうにも問題があるのよ」

****

 リリー「雪歩は天海春香と我那覇響からかなりいびられてたようです」

 ボス「有りうるな」

 ヴァレンズ「やっぱアイドルって裏はそうやってドロドロしてるんだな」

 ヴェラ「でも天海春香って、テレビじゃそんな様子微塵も見せないけどな」

 ジェフ「俺は前から気付いてたけどな。あれはあざとい。」

 ボス「話はできそうか?」

 リリー「律子に聞いたところ、呼び出せる暇はないそうです。」

 リリー「なので、仕事の移動中を狙ってみようと思います。」

 ボス「だとしたら、早く動かないとな。リリーとスコッティは天海春香の所に行ってくれ」

 ボス「ジェフとヴェラで我那覇響だ。」


 ****
 
 ロケ 旅館

 春香(23)『雪歩が見つかったそうですね。』

 リリー「あら、早いのね」

 春香「当り前でしょ。大事な仲間のことだから。」

 ヴァレンズ「レッスンの後に理不尽にしごいてあげるのも仲間の特権ってわけか」

 春香「ちょっと、それどういうこと?」

 ヴァレンズ「ショックだったなぁ。あの天海春香が、いじめなんかに加担するだなんてな」

 春香「は?」

リリー「あなた、我那覇響といっしょになって、雪歩のこといじめてたんでしょ」

 ヴァレンズ「おまけに、体に痣ができるくらい殴っちゃうんだからな」

 春香「何か誤解しているようだけど、私と響ちゃんはいじめなんかしてない。」

 春香「そりゃ、態度が悪かったのは認めるわ。でも、いじめてなんかいないの。」

 春香「むしろ、助けてたのよ」

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律子『はい!今日のレッスンはここまで!各自、家に帰っても復習を忘れないように』

 ?『いや~、見事だね君たちぃ』

 春香(あ、社長だ……)

 律子『社長、どうしたんですか』

 高木『いやぁね、君たちの頑張っている姿を見に来たんだよ、はっはっはっは』

 高木『で、最近入った子はどの子かね』

 律子『雪歩のことですか。なら、あそこに』

 

 雪歩『はぁ・・・・はぁ』


 社長『ほぉ~、彼女かね。なかなか……ティン!と来る子だ』

 社長『やぁ、萩原君。』

 雪歩『あ、社長。こんにちわ。』

 社長『お~、近くで見るとより綺麗に見えるねぇ』

 雪歩『あ、ありがとうございます……』

 社長『しかし、君はまだダンスがうまく踊れていないようだね、ん?』

 社長『うちのレッスンはレベルが高いから、ついていけない子はどんどん辞めていくんだよねぇ』

 社長『でも、君はその一人になるには非常に惜しい……どうだね、私のレッスンを受ける気にならないかね』

 雪歩『え……』

 社長『なぁに、私もちょっと前までは名の知れた敏腕pだったのだよ。』

 社長『その私が直々に、指導をしてあげようってわけだよ、萩原君』

 社長『君も、辞めたくはないだろ、ん?』サワサワ

 雪歩『ひっ……わ、私は……』

 春香(まずい……ここは私が!)

 春香『雪歩、あなた今日のレッスンでだめだめだったみたいだから、先輩の春香さんがみっちりしごいてあげるわ。』

 春香『社長に媚売ってる暇があるなら、練習よ、練習!』

 雪歩『はい!すみません、社長。失礼します!!』タッタッタ

 社長『…………』

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春香『社長の目つき……あれは汚い大人の目だったわ』

 リリー「社長は、アイドルに手を出していたの?」

 春香「どうだろ。でも、雪歩には随分熱くなってたみたいね」

 春香「じゃ、私は次の撮影の準備があるので」

 リリー「今度は社長とはね」

 ヴァレンズ「アイドルと社長……あり得なくはないな。」

 リリー「でも、雪歩は拒否した。」

 ヴァレンズ「『狩り』が成功しなきゃ、後で自分の立場が悪くなるかもしれない」

 リリー「口封じかもね」

 ****

 ロケ 動物園

 響(22)『それは誤解さー。自分たちは雪歩を助けてたんだぞ』

 響「ダンスがレッスンでの成績が悪いと社長に目をつけられるんだ」

 響「雪歩の場合、あれくらい厳しくやらないと危なかったからな。」

 ヴェラ「じゃ、誰か暴力を振るいそうなやつは?」

 響「ここだけの話し、自分たまたま見ちゃったことがあるんだ……」

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 事務所
 

 響『ハム蔵~!どこにいるんだ~!』

 響『目を離すとこれなんだからな……ん?』

 響『こっちの部屋から、声がする』

 ***

 ?『あらあら~、雪歩ちゃん』

 ?『そんなに泣いて、どうしたのかしらまだ私のお話は終わってないんだけど……』

 ??『うぅっぐ・・・・す、すみません・・・』

***

 響『え・・・何これは・・・』

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 響『確かにあの声はあずささんだった。』

 ヴェラ「そんなに怖いようには思えないけどな」

 響「いいや、ああいう人が一番怖い。とにかく、何かあるとすればあずささんかも」

 ジェフ「他には何かありましたか?」

 響「わからない。でも、あのころの事務所はちょっとおかしかったような気がする」

 ジェフ「おかしいって?」

 響「知らないけど、とにかく感じてたんだぞ。よくない雰囲気を……」

****

 取調室

 高木『なぁ、老人は労わるようにって習わなかったのか?』

 高木「こんな、所に呼び出すだなんて。」

 ヴァレンズ「もう分かっているんだろ、5年前に殺された萩原雪歩のことだ」

 高木「懐かしい名前だ。私としても非常に残念だよ。」

 ボス「彼女に拒絶されて?」

 高木「なんだって?」

 ヴァレンズ「あんた、自分のとこの落ちこぼれを喰ってたそうじゃないか。」

 ボス「雪歩にも手を出そうとしたが、彼女は断った。」

 高木「違う……」

ヴァレンズ「鬼軍曹のしごきで弱っている所を狙おうって魂胆だったようだけど、彼女は……」

 高木「本気だったんだ、萩原君は」

 ヴァレンズ「は?」

 高木「萩原君は、候補生の中でも強い心を持っていた。本気で取り組んでいたんだよ。」

 高木「他の子達は私が仕事をちらつかせると簡単に、着いてきた。だが、あの子はそんなのじゃなかった……」

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高木(なんとかして、萩原君に近づきたい……どうすれば……)

 高木『ん?まだレッスン場に誰かいるのか』

 ***

 雪歩『いちっ、にっ、さんっ』

 雪歩『しぃ、ご・・・ろくぅ……』

 春香『ちょっと、雪歩止まってる!』

 響『そうだぞ。もっと、こう早く……』

 雪歩『うんっ、なな・・・はちぃ・・・くっ・・・うぅ』バタッ

 春香『情けないわね。もう、アイドルやめる?それとも……』

 雪歩『やめない!』

雪歩『ひんそーでちんちくりんだけど、私諦めたくないの……』

 雪歩『だから、続けて。今度はさっきより早くするから!』

 ***

 高木『……帰るか』

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高木『プロデューサーをやってた頃を思い出した。あのころはまだ事務所ももってなかったが、』

 高木『やる気はあった。』

 高木「目を覚まさせられたよ。」

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 取調室

 リリー「2時間も遅刻だなんて。」

 あずさ『だって、道がわからなかったんですよ』

 リリー「へぇ、どうやったら署と空港を間違えるのだか」

 あずさ「昔からなの。」

 リリー「そう」

 あずさ「で、雪歩ちゃんのことで呼んだのよね今日って」

 リリー「そう失踪前に、あなたが雪歩を恫喝している所を見たものがいるのよ」

 あずさ「確かに、ちょっと説教してあげたことはあったわね。」

 リリー「説教だけ?他にも普段からしてたんじゃなくて?」

あずさ「何が言いたいわけなのかしら、刑事さん」

 リリー「彼女の体から、無数の痣が発見されたわ。暴力を受けていてできたものよ」

 あずさ「ちょっと待って、さすがにそこまではしないわ。ばれたら面倒だし。」

 あずさ「それに、そんなことがあったなら真ちゃんが黙ってないわよ」

 あずさ「真ちゃんと雪歩ちゃん、あの二人の関係ならなおさらね」

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 あずさ(相変わらず律子さんのレッスンはきついわね……)
 

 雪歩『うぅ……真ちゃん……私……』

 真『雪歩、失敗は誰にだってあるんだから、くよくよしたってしょうがないよ』

 雪歩『でもでも、真ちゃん今日は3回も腕立てやらされてたし……』

 真『あんなの、普段家でやるやつより楽だよ。だから、雪歩は心配しなくていいんだ、ね?』

 雪歩『うん……ありがとう』ギュッ

 真『ちょ・・・ここで抱きつくのはまずいよ、雪歩』

 雪歩『真ちゃん……真ちゃん……』

 
 あずさ(あらあら~)


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 あずさ『確かに、真ちゃんは男の子っぽいし、かっこよかったけど、それだけよ』

 あずさ「でもまさか、女の子と付き合ってるんだなんて思いもしなかったけど」

 リリー「2人は付き合っていたの?」

 あずさ「たぶんね。普段からべったりだから。」

 リリー「みんな知っていたわけね」

 あずさ「そうねぇ、あくまでもみんな憶測でものを言っていたから、詳しい事を知らないはずね」

 リリー「あなたも?」

 あずさ「そうよ。まあ、2人はお似合いだったし、咎めなかったわ律子さん以外わね」

 リリー「律子だけ?」

 あずさ「理由は分からないけど、なんだかいつもより怒ってたわ」

***

 明くる日

 ボス「結局、三浦あずさもシロだったわけか」

 リリー「ええ、暴力に関しても情報なしです。」

 ボス「だが、律子が気になるな。もっと掘りかえせば何か分かるかも知れんぞ」

 リリー「コンタクト取ってみます」

 ヴェラ「みんな大変だぞ、今さっき三浦あずさが車で撥ねられて病院に!」

 リリー「なんですって!?」

***

 st.vip 病院

 医者「幸い、胸が大きかったのでそれがクッションになって大事には至りませんでした」

 医者「しばらく入院すれば、すぐにでも仕事には戻れるでしょう」

 ボス「わかりました、どうも」

 リリー「一命は取り留めたようですね」

 ボス「ああ。目撃者によると、黒のsuvが急に飛び出してきたそうだ。」

 リリー「ただの事故でしょうかそれとも・・・・」

 ボス「わからんな。いま、ヴェラ達がそっちを調べてる。お前は三浦あずさのとろこに行ってくれ」

***

 病室

 リリー「聞いたわよ、胸のおかげで助かったんだって?」

 あずさ「ほんと、人生って何が起こるか分からないわ。」

 リリー「ねぇ、この事故って偶然だと思う?」

 リリー「私思うんだけど、これってあなたが何か重要なことを話そうとしたからじゃないのかなって」

 あずさ「…………」
 
 あずさ「話せないわ。」

 リリー「事務所のため?あなたは仲間の命よりも仕事を選ぶって言うの!」

 リリー「正直に話して。あなた、殺されかけたのよ!」

 あずさ「わかってる。でも、言ったところで今の765プロの力の前じゃあなたたち市警察なんてミジンコも同然よ」

 あずさ「悪いけど、なんだか眠くなってきたわ。きっと、薬のせいね」

 あずさ「だから帰ってくれる、刑事さん」

 リリー「そう…お大事に。」

***

 署内

 ヴェラ「車は現場から、だいぶ離れた所に乗り捨てられてた。」

 ヴェラ「調べると、なんと765プロで使っている車種と一致。」

 リリー「じゃ、車の貸出記録を調べれば……」

 ヴェラ「それが、偶然にもオフィス内で水漏れ事故が起きたらしくてな、記録は見せられないだとさ」

 ヴェラ「でも、座席の位置からして、運転していたのは女性のの可能性が高いそうだ」

 リリー「事務員だけでもだいぶいるのに……」

 ヴェラ「さらに、運転席には煙草が落ちていた」

 リリー「!」

 リリー「今から、ちょっと出てくるわ……」

 ボス「待つんだ、リリー」

 リリー「ボス、車の運転手が分かりました、秋月律子です。いますぐ、話に」

ボス「そのことだが、もう追わなくても良い。」

 リリー「え・・・それはどういう」

 ボス「先日、雪歩の両親から捜査中止の要請があったんだ。」

 ボス「だから、これ以上踏み込むんじゃない、いいな」

 リリー「しかし、これって完全に……」

 ボス「上からもお達しが来ている、これは正式な中止だ。我々のどうにかできる問題ではない」

 リリー「…………」

****

 765プロ 駐車場

 律子「ふぅ……今日は珍しく定時で帰れそうね……」

 リリー「待ってください」

 律子「あなた……何の用かしら?もう、捜査は中止になったんでしょ」

 リリー「ええ、でもまだ真実がわかってない」

 律子「そう、残念だわ。」

 リリー「三浦あずさを轢いた車の運転手は女性だそうよ。」

 律子「……」

リリー「そして、車内には煙草が残っていたわ。たまたま、あなたが以前来た時に吸っていたものといっしょなのよねぇ」

 律子「だから、何?」

 リリー「ミランダ警告って知ってる?」

 律子「ええ、もちろん」

 リリー「なら、教えて。本当のことを」

 律子「はぁ……そうよ、こういう役回りはいつも私」

 律子「なによ、ちょっと資格持ってて頭がいいからって。」

 律子「事務所の経費の二重帳簿だって、社長の女性問題の後始末だって……」

 律子「全部私に回ってくるの!!」

 律子「雪歩の時もそう!!」


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 2007
 
 prrrrr prrrrr

 今日は全体で一日オフだったのでだいぶ遅くまで眠りこけていたようだった、なので電話が鳴ってもしばらく気付かなかった。

 prrrrr prrrr

 律子『はぁい……秋月ですが』

 相手を確認せずに、電話に出る。この時の電話がお偉いさんだったら今の私はいないだろう。

 ?『リっちゃん……』℡

 聞こえてきたのは、真美の声だった。双子は似ているが、私は見た目以外でも判断できる自信はあった。

 律子『真美、どうしたの……きょうはオフのはずでしょ』

 時計を見るともう12時を回っていた。

寝起きなので、若干ぶっきらぼうに答えてしまう。

 真美『あのね……その……』℡ 

 律子『?』

 律子『どうしたのよ、あんたらしくないわよ』

 真美『あの……真美たち、人殺しちゃったんだ』℡

 律子『人?あのねぇ、あんた人殺したぐらいで何言ってん・・・・のよ?』

 聞き間違いだろうか。確か、真美の口からは人、殺しという不穏なワードが飛び出してきたような。

 しかも、『たち』って他にもいるってこと!?

 律子『あんた……いまなんて・・・・』

 真美『だからその……殺しちゃったんだって、人を』℡

 律子『誰を?』

 真美『ゆきぴょんを』℡

 律子『』

 しばらく言葉が出なかった。最初は真美のいたずらかと思ったが、さすがに人の死をネタにはしないだろう。

 そして、何よりも真美の声が真剣そのものだったから。信じざるをえなかった。

 真美『どうしよ……』℡

 律子『ちょ、今どこにいるの?』

 真美『事務所。』

 律子『分かったわ。今から行くから。誰も入れちゃダメよ』

 そう言って、通話を終えると、私は急いで事務所へと向かった。

 ***

 法定速度ぎりぎりですっ飛ばして、事務所にはそうかからないで着いた。

 律子『真美!』ガチャ!

 エレベーターを使わずに階段を駆け上って、その勢いでドアに叩きこまれるようにして入った。

 真美『りっちゃん……』

 亜美『……』

 美希『律子……さん』

 真美の他には、目のハイライトが消えて立ち尽くしている亜美と、額に汗を浮かべている美希がいた。

 そして、その足元にはボロボロになって、口をガムテープで塞がれている雪歩が転がっていた。

律子『雪歩!』

 とっさにそばへと駆け寄った。まだ、息があるかもしれない! 

 律子『雪歩!しっかりしなさい!雪歩!』

 雪歩『うぅ……ん』

 よかった!まだ生きてる!

 律子『もう大丈夫よ、いま救急車呼ぶから・・・』

 ?『待ちたまえ、律子君』

 律子『し、社長……どうしてここに!?』


 美希『誰か呼ばなきゃって思って美希がまず呼んだの……』

 高木『良い判断だったよ、星井君。律子君もいるなら、なお良しだよ』

 律子『社長、この子たちが雪歩をこんな目に……』

 律子『そうでしょ!』

 語気を強めて、3人に問いかける。

 前々から、この3人は陰でコソコソといじめをしていたのは聞いていた。

 でも、現場を実際に抑えられなかったので、どうもできないでいた。

亜美『あ、亜美、こんなにするつもりなんてなかったんだよ!』

 美希『まさか、こんなになるなんて思わなかったの』

 真美『そうだよ!』

 律子『そう、言い訳はもういいわ。警察で聞いてもらえるといいわね』

 亜美『そんな・・・』

 美希『美希、警察だなんてや!』

 真美『ねぇ、まだどうにかなるっしょ、ねえ社長!』

高木『…………もう、君たち3人は帰りなさい。』

 律子『え・・・・それって・・・』

 高木『今日、君たちはここに来ていないし、萩原君にも会わなかった。そうだろ?』

 高木『そして、今日見たことやったことはすべて忘れるんだ。まだアイドルやりたいだろう?』

 律子『社長、何言って……』

 社長『さ、帰るんだ』ギロッ  
 
 社長が今までに見せたことのない顔だった。

 それを見た3人は互いに顔を見合わせて事務所を出て行った。


 ****

 律子『社長!早く救急車を呼ばないと雪歩が……』

 高木『律子君、実は先日、大手番組制作会社のa社長さんからうちの冠番組を作ってくれると言ってくださった』

 a社長の番組製作会社といえばヒット番組を数々手掛けている。どんなに知名度の低いタレントやアイドルが出ても、

 この会社にかかればたちまち有名になってしまうと。

 高木『君も知っての通り、わが765プロはまだまだ発展途上だ。冠番組どころか明日のエキストラの仕事さえままならない状況なんだよ』

高木『そんなときに手を差し伸べてくれたのが、a社長だよ。我々にチャンスをくださった。トップへと登りつめるための。』

 高木『だが、そんなせっかくのチャンスも、この問題が外に漏れれば、水の泡だ。それどころか、私まで今の地位を失う羽目になる。』

 高木『そして、君たちも。今までアイドルだけをやってきた子達がこの先、もう一度0から始めることなんてできるか?』

 高木『四条君なんて、高校すら出てないそうじゃないか。そんな彼女らをまっているものは何だね律子君。』

 律子『そ、それは……』

 高木『考えるだけでも、恐ろしいだろう。君はあの子たちを卑猥な目に会わせたいのか?』

 律子『そ、そんなの絶対に……!』

高木『なら、君が今何をすべきかは分かるか?』

 高木『いっただろ、『それ』が外にばれると非常にまずい。』

 雪歩『……ぅ』

 高木『それは君が始末したまえ。』

 高木『萩原君は今日は誰にも会わなかった。無論、私たちもだ。』

 律子『私に……雪歩を殺せって言うんですか……』

 高木『とどめをさすのかは君の判断に任せるよ。』

 高木『できないなら、今度は君がこうなるかもしれん』

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 参考ed: http://www.youtube.com/watch?v=ddlivwpv89s


 律子『…………』

 律子『これが、真実よ。』

 律子「じゃ、もう行くわ。」

  秋月律子はそう言うと、車に乗り込んで立ち去ってしまった。

 リリー「…………」  
 
 あまりに理不尽な真実に私は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 翌日、萩原雪歩殺人事件の捜査中止が正式に発表された。

 記者会見ではボスが中止に至った経緯を述べていた。両親の要請によるものと。

 ボス「今回の再捜査について、被害者の遺族からの要請により……」


***

 tv「中止にすることを、決定しました……今後の対応については……」

 春香『雪歩…………』

 春香『…………』

 春香「クッキーでも作ろうかな」

***

 律子『さぁ、今日は昨日の復習から始めるわよ!』

 律子『ほら、そこちんたらしてないでさっさと、体形作りなさい!』

 律子「もしも間違ったら……いいえ、間違えても良いから全力で取り組みなさい」

 候補生a(なんか、鬼軍曹やさしくない?)

 b(そうだよね・・・なんかあったのかな?)

 律子「…………」

 雪歩『…………』  
 
 律子「…………」

***

 ヴァレンズ「結局、また未解決の棚に逆戻りってわけか」

 リリー「そうね……これで終わりなのね」

 ヴァレンズ「俺たちのせいじゃない。気にするなよ。」

 リリー「わかってるわよ。こんなとこで、止まってられないもの」

 ボス「リリー、1977年の事件の情報を持っていると言う人物が来ているから、そっちに行ってくれ」

 リリー「はい」

 end

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