モバP「危機が迫っているだって?」 (237)

依田芳乃「はいー、何やら悪しき『気』がぶおーと集まっているのでしてー」

モバP「この事務所にか……!」

芳乃「もっと言うならばー、そなたが育てるアイドルたちにまとわりついておりましてー」

P「何てことだ! その悪い気とやらを放っておくとどうなってしまうんだ?」

芳乃「わたくしにもまだわかりませんがー」

芳乃「カタストロフでしてー」

P「本当に何てことだ!! 一体どうすれば防げる、いや、まずどのアイドルが危ないんだ!?」

芳乃「ほーほー、まずはー」



渋谷凛「おはよう」ガチャ

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P「おぉ、凛か……」

芳乃「渋谷凛がその一人でしてー」

P「おおぉおお凛か!? 凛が!?」ガタッ

凛「きゃっ! なに、何なの?」

芳乃「とてもよくない気の流れがー。なんとー、これは今まで視た中でもなかなかー」

P「見えるのか芳乃!?」

凛「私? 何の話なの……?」

芳乃「暗く黒くまとわりついてー、まるで天をも脅かす」

芳乃「巨大なおはぎのようなー」

凛「いい気分しない!」

P「りりり凛っ、大丈夫か、体に異変はないか!? 健康か辛くないかっ!?」

凛「ちょ、待ってっ、落ち着いてよプロデューサー!」

芳乃「やんややんや」

凛「芳乃もなんか変!」


凛「一度ちゃんと全部説明して!!」

凛「危機が迫ってる……?」

P「ああ、どうやら芳乃が言うには、この事務所のアイドルに悪い気が取り憑いてるらしくてな」

凛「私もそうだってこと?」

P「ああ……」

凛「……その悪い気っていうのは、具体的にどういう悪さをするものなの?」

P「それは」


P「カタストロフ」 芳乃「でしてー」


凛「全然具体的じゃないんだけど……」

凛「そんなんじゃ対策なんて」

P「しかし芳乃にも全てが見えているわけじゃ」

凛「あと芳乃って神道の子でしょ? カタストロフって何?」

P「確かに……どういうことなんだ芳乃?」

芳乃「……むー」

凛「?」

芳乃「わたくしは、みなの言葉を借りただけでしてー」

芳乃「そなたが信じずともー、わたくしは不満も後悔もー」プクー

P「あっ、ちょっと拗ねてる! 凛、芳乃の機嫌が!」

凛「私のせい!?」

芳乃「実は………すねていまして」プクー

凛「いい気分しない!」

P「俺にも責任はある……よしよし、芳乃、いい子だからなー」ナデナデ

芳乃「むふー」

凛(もう何なのこれ……)

芳乃「気の正体を知る方法がないわけではー」

P「わかるのか!?」

凛「最初からそれを……」

芳乃「『気』はまだ定まってはいませんのでー。読み取り、危機の内容を知ることができればー」

凛「未然に防げるんだね……!」

P「しかし読み取ると言ってもな……どうすれば」

芳乃「わたくしが、この身に渋谷凛の『気』を引きつけましょー」

凛「えっ!」

P「そんなことが! というより平気なのか!?」

芳乃「わたくしの力を使えばー。あとはそなたたち次第にてー」

凛「私たち……?」

芳乃「いざ、はらえの儀式をー」スクッ

凛「って、ウソ、もう始めるの!?」



芳乃「むー、むー……ぶおおぉーー……」ゴゴゴゴゴ


P「おお……!」

凛「ほ、本当に……?」


芳乃「むー、む~……ぶおおぉー……」

芳乃「ぶらじるー……」


凛「?」

P「凛、何か感じるのか?」

凛「いや、まだ何も……」


芳乃「ゆでじるー……」

芳乃「ぽじてぃぶー……ちくわぶー……」ゴゴゴゴゴ


凛「というか、ねえ」


芳乃「ななころびー……やおきー……」

芳乃「なまわさびー……はぐきー……」ゴゴゴゴゴ


凛「ちょっと待って、こういう芸人さんいたよね……?」


芳乃「ななななー……ななななー……」


凛「それも結構前の人だよ! 本当に大丈夫なの!?」

芳乃「ぶおおぉーーー」カッ!!

凛「きゃっ!」

P「うわっ、り、凛っ、平気か!」

凛「私は無事だけど、というかほぼ何も感じなかったけど……!」

P「芳乃は!?」


芳乃「むー……」プルプル


P「芳乃!」

芳乃「……言の葉がー、あたまに……流れこんでくるのでしてー……」

凛「それって……」

P「気の正体だ! しかしこの先どうすれば」

芳乃「読みあげ、ますゆえー……そなたたちは、今ここで再現をー……」

凛「さ、再現?」

芳乃「……悪しき気は、悪しき予兆ー……強い心で、打ち勝てばー」

芳乃「それも霧となり、散っていくでしょうー……」

P「やるしかないな凛……!」

凛「え? う、うん」

凛(何を?)

芳乃「……渋谷、凛」

凛「は、はい!」

芳乃「花屋……店番をー……」

凛「え……?」

P「断片的だ、きっと芳乃の言うことを繋げれば文章になるんじゃないか!」

凛「その内容を私たちがここで再現するの……!?」


芳乃「チャラ男ー……」


P・凛「「!!?」」



芳乃「言い寄られー……何度もー……」


P「………」

凛「………」


芳乃「ついにはー……堕ちてー……」


P「………」

凛「………」


芳乃「……まる」


P「……」

凛「……」


凛「ねえこの子本当に芳乃なんだよね!?」

P「わからん、悪い気に侵されて精神が不安定なのかもしれない!!」

凛「その悪い気っていうのも本当にあるんだよね!? 私ちょっと不安に」

P「わからん……ただ一つ言えるのは」


P「凛が近いうちに花屋の店番をしている最中にチャラ男に何度も言い寄られた挙句に堕ちるってことだ……!」


凛「ないよ!! 万に一つも!」

P「本当にそう言い切れるのか……?」

凛「言い切れるって! 私を信じてよプロデューサー!」

P「しかし俺は芳乃のことも信じてやりたい……もし芳乃の告げている内容が本当だとしたら」

凛「それは……いやないよ!」

P「再現すれば悪しき予兆は消え去る……つまり凛を危険から遠ざけるチャンスでも……」

凛「そうだけどさぁ……!」



「ちょっと待ったぁ!!!」

凛「え、誰っ」

P「この声は」


「その儀式――」



棟方愛海「あたしが見届けさせてもらうよ!」



凛(全然心が落ち着かない……!)

凛「ねぇどうして! なんで来たの!?」

凛「純粋になんで!!?」

P「お、落ち着け凛!」

愛海「悪いけど話は全部聞かせてもらったからっ! 要はこれって」

愛海「プロデューサーがチャラ男に扮した凛ちゃんとのイメージプレイ!!」クワッ!

凛「やめて……身も蓋もないよ……」

愛海「うひひひっ、なんかあたし最近そういうの見るのすごい好きでさー!」

凛「変だよ愛海! 元からだけど変だよ!!」

芳乃「むー……やー……」プルプル

P「ダメだ凛、時間がない! このままだと芳乃が! 愛海のことは一旦置いておくんだ!」

凛「くっ……やっぱりそういう感じなんだ……」

P「要はシミュレーション、演技だ! 凛ならどうってことない!」 


凛「わかったから……やればいいんでしょ……うぅ、もぉ……」




『花屋の店番』=渋谷凛
『チャラ男』=P


* * * *




凛「あ、ありがとうございましたー……気をつけてお持ち帰りください」

凛「またのお越しをお待ちしています」


凛「……」フリフリ


凛「……ふぅ、一段落ついたかな」

愛海(イヤイヤながら見事な切り替えっ! さすが凛ちゃん、いいよいいよー!!)


凛(愛海がすごい見てくるから怖い……何でなの)



凛「た、たまの休みだったけど、お店を手伝えてよかったな」

凛「……あとは外に出てるお花を運んで、今日の仕事は終わりかな」

凛「ふふ、なんだか落ち着く感じがして……悪くないね」


凛「アイドルの仕事忙しかったし、たまにはこういうのも……」



P(チャラ男)「っヒョォオオオおおおぉすっげぇエエエ~~(↑↑↑)花いっぱいあんじゃああ゛あ゛~~~ん」クッチャクッチャ


凛「!?」

>>14
訂正

×愛海「プロデューサーがチャラ男に扮した凛ちゃんとのイメージプレイ!!」クワッ!

○愛海「プロデューサーがチャラ男に扮した、凛ちゃんとのイメージプレイ!!」クワッ!

これで大丈夫かな

P「やっべえなここ花いっぱいあんじゃん何、え、花屋? 超ウケんね(笑)」

P「あー………腹減ったわ、歩くのダッッッル」

凛(堂に入りすぎでしょ!!)

P「暇すぎて死ぬから入っとくかーオイ、キテんな俺そういうとこあるな」クッチャクッチャ

凛(クチャクチャやめてよもう!)


P「っチィーッスっつって。うっわ花、花しかねえの花屋って? なぁ???」

凛「い、いらっしゃいませ……」


愛海(むほーっ! まずはプロデューサーのお手並み拝見だね!)

凛(たとえこれがシミュレーションだとしても、こんなのに堕ちるわけないじゃんっ……さっさと終わらせて)


P「お? あれ?」

凛「え……?」

P「ちょ~~~カワイイ子見つけた(笑)」

凛「え、えっ」

P「うっわバチコーン来た。キミ俺のゾーン入っちゃったねー、ね???」

凛「何、ちょっと何ですか!」

愛海(これは……!)

P「あーそんな怒んないでよカワイーな、キミここの店員なん? それとも客? ま、どっちでもいいけど」

P「オレのタイプってことには変わりねえから」

凛「な……」カァアアア


愛海(『プロデュース四十八手』が一つ……“チャラ落とし”!!)


~プロデュース四十八手・チャラ落とし~

あたかも繁華街を歩く浅薄なチャラ男のように振る舞い、アイドルを落とす手法。
「かわいい」を連呼し、聞いてもいない自己主張を繰り返すことでペースを握るのが特徴。
狙った獲物は粘着テープのように離さない。
ちなみに『プロデュース四十八手』は完全なこの場の思いつきであり、
これはあたしのモノローグである。



愛海「プロデューサーのヤツ本気だ……嬢ちゃん、面白いもんが見れるぜ」

芳乃「ほーほー」

愛海「もうゲームは始まってるんだ……!」


凛(いま芳乃が普通だった気がしたんだけど!?)

P「あれ、照れちゃってる系?」

凛「っ、別に照れてないです」

P「ツアァーッ、いいねその眼ギンギンじゃんアガってきたわー! ストラーイクッ!!」

凛「バカにしてるんですか……!」

P「大マジだってぇえ~~~。こんな可愛い子目の前にいるのにジョーダン言うわけないっしょ? だべ?」

凛(何なの……)

P「顔背けちゃって。髪で隠れちゃってんじゃん」スッ

凛「きゃっ、やっ」

P「うっわサッラサラ! こんな綺麗で長ェのにサラッサラとか神がかった鬼かよスッッッゲ!!」 

愛海(凛ちゃんの髪に手を!)

凛「やめっ、いい加減にしてください!」

P「ツアアアーーッ!!」

凛(ほんと何なの、何でこんな……プロデューサー言ってたじゃんっ……)


P『要はシミュレーション、演技だ! 凛ならどうってことない!』 


凛(プロデューサーの方がどうかしてるんだけど!!)

愛海「こうなったチャラ男はしつこいぞ! どうする凛ちゃん!」

P「いや~~ヤバイっしょ、上玉すぎ、目おっきいしクールで超美人、こんなん他にいねえよ」

凛「うぅ……だからっ」

P「マジめっちゃタイプだって俺言ったっけ?」

愛海(ねばっこ~~~い!!)

凛「さわらないでください……近寄らないで……」

P「え? 何て? 聞こえないわ」

スッ

愛海(あっ、凛ちゃんの耳元に――)



P「……火ィつけたのお前だかんな」ボソッ


凛「~~~~っ!!」



愛海(クリーンヒットぉおおお!!! でもクッッッッッッサ!!!!!!)

愛海(クッッッッサ!!!! こっちとしては鼻が曲がりそうなんだけど凛ちゃん顔真っ赤!!)


凛「~~~っ」プシュゥウウウウ


愛海(いや――違う)

愛海「凛ちゃんには『こっち』なんだ……!」

愛海「あたしも前から凛ちゃんは押せば存外ヤレるんじゃないか、イケるんじゃないかって思ってたけど」


凛「フザけないで……いい加減にしてって言ってるでしょ!」バッ

P「っと、ごめんな、もう言わないから」

P「でもさ……俺マジなんだよ」

凛(何でいきなり真剣な顔になって……)カァアアア


愛海「煙に巻き、虚勢を絡め取る……所詮は十五の小娘、背伸びはできても上から押さえつければ……!」

芳乃「それもまたー」

愛海「見事よ!!」カカンッ!

P「………」ジッ

凛「~~~」

凛(ズルいよ、それ……そんな目で見つめないでよ……)

P「ね」

凛「なに……何かあるなら手短にして……」


愛海(凛ちゃん自身、目の前のプロデューサーにチャラ男が乗り移って見えてる……引きずり込まれてる!)


P「んで、店員さんでいいんだっけ?」

凛「近い……」

P「嫌だった? ガム噛んでたからクサくないはずなんだけどな」

凛「そうじゃなくてっ……」

P「じゃあ嫌?」

凛「嫌……とか、そういう問題じゃ、なくて……」


愛海「………」ゴクリ

P「やっべ、俺バカだったわ。エプロン着てんじゃんキミ」

凛「……」

P「見惚れすぎて気づいてなかったわ。やっぱ店員さんだ」

凛「だったら、何なんですか……」

P「名前教えてよ」

凛「あなたには関係ないっ……」

P「えーと店の名前は……渋谷生花店か。じゃあ渋谷さん?」

凛「……」

P「下の名前は? ね、いいじゃん、減るもんじゃないし」

凛「……それは」

P「教えてくんなかったらキスしちゃうよ」

凛「なっ……にを言ってるの!?」カァアアアッ

P「だってサミシイからさ。こっちはこんなに求めてんのに」

凛「何でそんな話に! 非常識です! いきなりやってきて……もう警察呼ぶから!!」

愛海(ここが正念場、凛ちゃん凌げるか!?)


P「ウ、ソ」


凛「え……」

P「ンなことするわけないじゃん、オレら会ったばっかなのに」

凛「……」

P「それともしてほしかった?」

凛「何で、そんな話に……」

P「だってガッカリした顔してるから」

凛「安心しただけです……」

P「さっきからさ、そっちに何かあんの?」

凛「え?」

P「照れて赤くなると斜め下の方見るから」


愛海(あっ……)

凛「―――っ」

P「もしかして癖?」

凛「見てない……から」

P「でも『警察呼ぶ』はヒドいなぁ。オレそんな変人に見える? 渋谷さんのタイプじゃない?」

凛「タイプも何も……」

P「……ん?」
 
凛「そういうの、段階踏まないと……わからないでしょ……」

P「じゃあ段階踏めばいいんだ」

凛「……」

P「またそっち見る」

凛「……」

P「何もないの、わかってんだけどな」


愛海(………)

凛「ある……あるよ……防犯ブザーが」

P「ふうん。それは危ないな。ちゃんと阻止しないと」

グイッ

凛「っあ……」


ギュッ


P「……」

凛「……」



凛「……どうせ」

P「……」


凛「私だけじゃなくて……他のいろんな子にも声かけて、名前聞いて……」

凛「そんな人に、私は……」


P「違うよ」

P「オレ、何度も言ってるじゃん。真剣だって」

凛「……」

P「これでも勇気出して声かけたんだけどな」

凛「……」


P「聞こえない? 俺の心臓の音」


ギュウウウ


凛「……」

P「……」

P「渋谷さん、身体冷えてるね」

凛「……」

P「大変なんだ、花屋の仕事って」


凛「……り……ん」

P「え?」


凛「だか、ら……」




凛「……しぶや……りん……」




愛海(ガバガバやん)

愛海(え、アカンやん、ガバガバやん)

愛海(ヤバない? プロデューサーの繰り広げる世界ヤバない?)

愛海(まぁあたしとしては……うひひ……)



P「凛……渋谷凛か。あれ?」

凛「……」

P「その可愛さで、渋谷……どっかで見たことあるかな」

凛「……別人、だよ」

P「そうだな、きっと別人だ」

P「俺もそう思うことにするよ」

凛「……」


P「じゃあ、どっか行く?」

凛「え……?」

P「だってもう店終わりでしょ?」

凛「……でも」

凛「あなたはお客さんで、私は店員だから」

凛「あなたが帰るまで……仕事は終わらないから……」

P「強情だね……凛ちゃんらしい」


P「でも、俺は客じゃない」ギュウ

凛「……っ」

P「客は店員にこんなことしないし」

P「……店員も、客に向けてそんな顔しないから」


シュルッ


凛「……ぁ」

P「……ほら、エプロン取れちゃった」


P「外行こうよ。もどかしいような、切ない顔してる」


P「俺がその顔、晴らしてやるから」

凛「……お店」

P「もう終わり、だろ?」

P「一時間くらいでいいから。まずはお試しってことでさ」

凛「……」

P「な?」ポンポン


凛「……何かあったら、すぐ帰るから」

P「はは、そんな。何もないって」

P「でもそうだな……もし何かあったら」


P「防犯ブザーでも、探す?」





凛「……ばか」






   <ぶおおおおおおおぉ~~~~~~~




愛海「しゅーーーーーりょーーーーーーー」




凛「………ハッ!?」

愛海「はーい終了でーすハイ終了、おわり、オ・ワ・リでぇーーす」パンパン

凛「ちょ、ちょっと待って!! 違うのっ、今のは違う!」

凛「私っ、ねえもう一度だけ……というか愛海がその合図出すんだ!?」

芳乃「ほら貝を吹いたのはわたくしでしてー」

凛「芳乃! 身体は平気なんだよね……というか割と最初の方から平気だったよね!?」

凛「あぁもうっ、いろいろ言いたいことはあるけど、何よりプロデューサー!?」

P「え?」

凛「どういうことなの! プロデューサー変だったよ! もう別人ってくらいだったじゃん!!」

P「いや、俺は……」


P「悪い気を祓うためには……全力でやらなきゃと思って……」


凛「全力すぎるよ!!」

凛「何なの! 全力でもオカシイよ!」

愛海「まぁまぁ。凛ちゃんまぁまぁ」

P「……」

凛「私……」


凛「……まだやれたから」


愛海「えっ」

凛「いや、だって……終わりって言われなければ、まだ全然……戦えたと思うし……」

P「……」

凛「なんか……悪い『気』に、負けちゃったみたいになってるから……」

芳乃「……」

愛海「いや負けてるからね」

凛「!?」

愛海「これ以上ないくらいのガン負けっぷりだったよ、うん」

凛「そ、そんなことない! 全然!」

愛海「いや、もうアレってあの先はしっぽり……」

凛「し、知らないっ! ていうかそもそも違うから! しっぽりとかじゃない!」

愛海「だって凛ちゃん完全にプロデューサー(チャラ男)になびいてたじゃん、クラッていってたじゃん」

凛「何言ってっ……」カァアアア

愛海「完全にメスの顔してたよ、彼に何か言われたら多分普通に従ってたよ」

愛海「『一時間くらい』とか言ってたけど理由つけて延ばされて凛ちゃんも何だかんだ付き合って」

愛海「楽しさに酔って気づいたらホテルにいてそのままシャッキリポン☆メイクラヴだったろうね」

凛「言葉ってものを選んでよ!!」


芳乃「……」チョイチョイ

愛海「! ……」スタタッ


凛「……?」

ちょっと区切り悪いですが一旦ここまで

ちょっとずつ再開します

愛海「はっ。何か」シュタッ

芳乃「……」ポソポソ

愛海「ふむ……ふむ……」


凛「………」


芳乃「……」ポソッ

愛海「……なるほど、わかりました」

スタタッ


凛「え、どうしたの……?」


愛海「『幸せそうだったのでしてー』だそうです」


凛「二人は何なの!?」

凛「どういう関係で何が狙いなの! 何で芳乃にそんなこと言われなくちゃ……うぅ、違うのにっ」

凛「ねえっ、プロデューサーも何か言ってやってよっ……」

P「芳乃、愛海、俺が知りたいのは一つだけだ。今ので無事に悪い『気』は祓えたのか?」

P「ほら、凛がちょっと……その……」

凛「もう……いっそとどめ刺して……」

芳乃「……」チョイチョイ

愛海「はっ」シュタッ

芳乃「……」ポソポソ


愛海「『もーまんたいでしてー』だそうです」


凛「おかしいでしょ!!」

凛「どの辺りが功を奏したの!? 私にはわからないよ……!」

愛海「『とてもどきどき、のちにきゅんとしましたのでー』だそうです」

芳乃「はふー」

凛「もう全部おかしいっ……始まりから終わりまで全部っ、何だったの今までやってきたこと……」

P「り、凛、とりあえずお前が無事ならそれで」

凛「……」ギロッ

P「うっ」

凛「……見られた」

P「え……?」

凛「プロデューサーに恥ずかしいところ全部みられた……」

P「あ」

凛「すっごいクサい台詞いっぱい聞かされて耳元で囁かれて真剣な目で見つめられて」

愛海(クサいって認識あったんだ……)

凛「でも、それで……強がってた私がフニャフニャになっちゃうとこたくさん見られたっ……」


凛「もうやだ……どうして……」

凛「プロデューサーのせいだ……」


凛「プロデューサーのせいだプロデューサーのせいだプロデューサーのせいだぁ……」ジワァ


愛海(泣いちゃった!!)

P「……凛」

愛海「ほらプロデューサー、何か言ってあげないと!」

P「ああ、その」


P「でも……可愛かったぞ?」


愛海(フォローになってるのそれ!?)


凛「……ばか」カァアアア


愛海(なってた!!!!)

凛「すんっ、ごめんねプロデューサー……プロデューサーは私のこと考えてくれてたんだもんね」

P「いや俺のほうこそ」

凛「ううん……まあ別に、悪くはなかったし……」

凛「勘違いしないでね……私は相手がプロデューサーだから……」

P「凛……」


芳乃「おー、なんと良きかなー。幸せと笑顔をもたらす、心の交わりに祝福をー」

愛海「ブラーボ!! フゥーッ! あたしたちの幸せ運びの旅はまだまだ続くネ!」

芳乃「ねーねーそなたー」クイクイ

P「ん?」

芳乃「これで一歩近づきましてー、みなの幸福にー。ならばこそ、そなたもー」

P「……?」


凛「ねえ……ちょっと待ってくれない?」

愛海「」ビクッ

凛「どうもさっきから話がおかしいんだよね」

凛「私、悪い『気』とやらのことも信じてないし。そもそも愛海が絡んでるのも不自然だし」

愛海「……」ダラダラ

凛「これってさ……最初から茶番だったりしない?」

愛海「や、やー……」

凛「聞かせてほしいんだけど。愛海が仕組んでたりしない?」ズイッ

愛海「まっさかぁ……あははー……」ダラダラダラ

P「待ってくれ、それについては俺も考えてたんだ」

凛「プロデューサー?」

P「そもそも発想が逆なんじゃないか? つまり」


P「……悪い『気』に取り憑かれていたのは、俺の方なんじゃないか……?」

凛「………」

芳乃「………」

愛海「………」


愛海「ごめん、全然違う……」

P「!!?!?」ガーン!


凛(すごい本気トーンだったのに……ちょっとキュンってきたのに)

愛海「えぇとっ、ただプロデューサーにすごい力が眠ってるっていうのは本当だよ!」

愛海「普段はアイドルの子たちに無意識に使ってるのかもしれないけど」

愛海「その力を完全に引き出すことが今回の目的だからね!」

凛「………」

芳乃「………」

愛海「………」



愛海「あ、やっべ」

凛「へえ……アイドルに憑いた悪い気を祓うためじゃないんだ……?」

愛海「う、うっひひひい、もちろんそれも目的でゲスよー?」ダラダラダラ

凛「愛海がそうするように芳乃を仕向けたんでしょ!」

愛海「うわーーん!! やめてよ悪かったよー!」

凛「第一それって何が得なの!? ねえ愛海!」

愛海「どうせ凛ちゃんにはわかりっこないよっ、彼女は……芳乃ちゃんはあたしの神様なんだよ!!!」

凛「なんか怖い……!」

芳乃「……すべては、みなの幸福のためー」

凛「芳乃……?」

芳乃「まずは謝らねばなりませんねー、ごめんなさい……」ペコ

凛「いや……」

芳乃「けれどそれも、致し方なかったことゆえー」

凛「え……」

芳乃「あのお方のお力を高めー、愛の喜びをふりまくことこそー」

芳乃「酒池肉……みなの幸福のためー」

凛「ねえ誰!? 芳乃をこんな風にしたの!! 愛海の影響だけじゃないでしょ!」

P「そういえば聞いたことがある……」

凛「プロデューサー!?」

P「最近、比奈と由里子が何かを芳乃に見せていると」

凛「じゃあそれだよもう!!」

P「なら愛海は」

愛海「あたしは……あたしがアイドルになったのは、かわいい女の子と仲良くなって、ふれあうためだったんだけど」

愛海「でもなんか最近さ……女の子たちがプロデューサーとイチャイチャしてるの見ると、悔しくて胸が痛んで」



愛海「めっちゃ興奮するんだよね……」



凛(何この事務所……)

芳乃「そなたー、あまねく女人を手ごめにすることは、殿方の誉れですのねー?」

P「え゛っ!? いやそれは」

愛海「さすがのあたしも困惑したよっ、だから相談した! そしたら、そんな性癖のあたしを赦してくれたんだよ彼女!」

凛「あぁそう……」

愛海「一生ついていくって決めたんだ……だからあたしはこうして芳乃さまに協力してる」

愛海「ついでにめっちゃ興奮してる……」

凛「何でわざわざ言うの……?」

愛海「あぁんもー!! プロデューサーにはもっといろんな女の子とイチャコラしてもらわなきゃ困るんだよー! あたしも芳乃さまもー!!」

凛「な、まだやる気なの!?」

愛海「ぐひひ、そんなこと言ってぇ、凛ちゃんだって幸せそうだったじゃんかー?」

芳乃「……」ウズウズ

凛「く……」

凛「否定は、しない……よ? でも……」

P「俺は……やってみてもいい気がする」

凛「プロデューサー!?」

凛「まさか本当にそういう願望があるの……?」

P「そうじゃない。それに、俺のすることが皆の幸福になるのかもまだわからない」

愛海「なるよガチでなるよ。だってさっきなんか凛ちゃんトロ目でモガぐウゥッ!?」

凛「……続けて」ギュムッ

P「ただ芳乃の問題設定だけを見れば絶妙だった。危機管理を痛烈に意識できたよ」

P「俺も、きっと凛も」

凛「それは……その」

P「だますようなのは心苦しいが……少し方法を変えて、抜き打ちテストと思えば……邪道だが、こういう緊張感は必要な事でもあるし……」

凛「うん……」

P「あとさっきの予想が外れてヤケになってるっていうのもある……」

凛「しょうもないよ!!!!」

P「すまん、凛の涙は忘れない……でももう引き返せない、俺は今日、鬼になる……!」

凛「恥ずかしいから開き直ってるだけじゃんそれ!」

愛海「なんだかんだ理由つけてるけど自分に隠された危険な一面を目の当たりにしたショックで捨て鉢になってるんだね、可哀想なプロデューサー……」

凛「そこまでわかってるなら止めようよ!」


芳乃「わたくしは、そなたを赦しましょうー」

P「え……?」

芳乃「いえ、そもそも赦すなどとー。そなたのそれは業にあらずー、かがやく個性ですー」

P「芳乃……」

芳乃「ですが、そなた自身が己を認めることも必要なればー」

芳乃「救いの道は、自分を肯定することー。内なる声に耳をー、心のむくままにー」

芳乃「そうして頑張るそなたの姿を、わたくしは尊びましょうー」

P「~~っ」

芳乃「大好きですよー、そなたー」ニコッ

P「ううぅっ……芳乃っ……芳乃ぉっ……!」ポロポロ

芳乃「……よしよしでしてー」ナデナデ


凛「ねえ、これ愛海の時の手口でしょ!?」

愛海「フッ……プロデューサーも『入った』か……」

凛「やめてよ怖いよ……なんで自慢げなの……?」

P「芳乃ぉ、俺っ……」

芳乃「はいー、ここにおりますよー」ナデナデ

凛「……」ムスッ

愛海「アレ? にひひ、嫌いになった? 嫌いになっちゃった?」

凛「……こんなことで」

凛「……嫌いになんてなれないから……ムシャクシャするんじゃん……」



P「よし……俺はやる、やるぞ……頑張って救うんだ、アイドルたちも、ついでに俺自身も……!」

愛海「ヨッシャあああああ!!! ノってきたねプロデューサーそれでこそ漢だよー!!」

芳乃「ともに笑顔のあふれる未来を作りませー」


凛(ああ、どうしてこんなことに……)



・ ・ ・



凛(芳乃はプロデューサーと愛海を)

凛(愛海は芳乃とプロデューサーを)

凛(そして……プロデューサーは芳乃と愛海を)


凛(それぞれがそれぞれを利用し合う謎の状況の中……)




向井拓海「おーっす」ガチャ




凛(次なる犠牲者が)

一旦切ります。だいたいこんな感じで行きます
また夜に投下するかもしれません

凛(どうしよう……拓海さんまで、ダーク芳乃とNTR愛海とタラシプロデューサーの餌食に)

凛(悪い気の方が逃げていくレベルだよもう)


拓海「お、何だよ、珍しい組み合わせじゃねえか。何かおっぱじめんのか」

P「ん? ああ」

愛海「うひひ、大したことじゃないよー、うひひひひ」

拓海「お、おぉ、そうかよ……」


凛(本当は、というか絶対止めた方がいいし止めるべきなんだけど)コソコソ

凛(ただプロデューサーがさっき――)


P『ちょっといいか。さっき言ったように、方法は少し変える』

P『最初から騙すみたいなのはナシだ。危機意識のテストだってことを前もって俺から説明する』

芳乃『賛成なのですー。先までのわたくしは、事を急いておりましたー……その節はまことに』

愛海『えー!? せっかくあたしが徹夜で考えたのにー!』

P『まあ、芳乃がシチュエーションを提起するっていうのは、その方が緊張感は出るかもしれない』

愛海『ガチで揺さぶっていこうよー! アイドルちゃんの不安ちゃんを煽ってちゃんしたいよー!!』ジタバタ

愛海『プロデューサーのバカーっ!』ジタバタ

芳乃『愛海ー』

愛海『アッハイ』

凛(とはいえ……)


拓海「危機意識のテストだァ!?」

P「ああ。アイドルは華やかだが、危険と隣り合わせだ。どこから魔の手が寄ってくるかわからない」

愛海「……スキャンダル、ハラスメント、蹴落とし合い、癒着……」

P「心構えが必要だ。そのための簡単な試験だよ」


凛(やっぱり詐欺集団を見てる感が否めない……!)


拓海「……ヘッ、ンなことでアタシはビビんねえぞ?」

P「やってくれるか」

拓海「おう、上等だッ、受けて立つぜ! ヌルい危機だったらハネ返してやるからな!!」   


凛(なのにどうして……私はここで釘づけになってるの……!?)

拓海「他の奴はどうか知らねえが、アタシはそれなりに修羅場もくぐってきてんだぜ」

拓海「それによ……売られたケンカは買わねェわけにいかねェもんな?」

P「はは……喧嘩ってほどじゃ」

愛海「うひひ、でもタイマンバトルみたいなものかもね~、うひひひひ」


凛(何かあったら止める……危なくなったら……)

凛(それまでは物陰に……私も大概シュミ悪いけど……)コソッ


拓海「んで、具体的に何すんだよ」

P「ああ、まずは拓海の悪い『気』を芳乃に読み取ってもらう」


凛(雲行きが!)

拓海「あ? 悪い『気』?」

P「あっ」

凛(『あっ』じゃないよ!)

P「う、占いみたいなものだ! 芳乃にシチュエーションを決めてもらうんだ! ただの儀式というか」 

拓海「おお……ずいぶん本格的なんだな……?」

凛(もう少し穏当に運ぶつもりだったんじゃ)

拓海「悪い『気』……占いって、当たるのか?」

P「いやもう全く!!」

凛(日和っちゃった!)

拓海「お、オイ、アタシ平気なのかよ……逆にすげえ怪しいぞ……」

愛海「なんかナチュラルに煽ってるよプロデューサー……!」


芳乃「むー……むー…ぶおおぉー」ゴゴゴゴゴ

凛(芳乃……この子も意外と悪戯っ子っていうか遊び好きっていうか)


芳乃「げっつー、あんどー、たーん……」

芳乃「あんどー、りばーすー……」ゴゴゴゴゴ


凛(ここの昔の芸人さんパートどうにかならないの!)

P「そういえば聞いたことがある……」 

凛(プロデューサー!? ひとりでに!)

P「最近、鈴帆と笑美がDVDを芳乃に見せていると」

凛(じゃあそれだよ!)


拓海「………」


凛(でも、拓海さんなら平気かな、修羅場くぐってるって言ってたし)

凛(そうか、私、私の仇を……弔い合戦をしてほしいんだ……死んでないけど)

拓海「……っ」

凛(?)


拓海「……やべぇ……やべえよ……」ドキドキドキ


凛(効いてる!!!!)

拓海「なんだよこれ、マジじゃねえか……占いって……意外と当たるしよ……」ドキドキドキ

凛(拓海さん純心すぎる……ダンディ○野さんなんだよこれ……)

愛海「プロデューサーの前振りと雰囲気が合わさってイイ感じにー!」

拓海「ビ、ビビってねェからな!?」

P「拓海っ、落ち着……うわっ!!」


芳乃「ぶおおおぉーーー」カッ!


拓海「ひゃっ!」

凛(もう『ひゃっ』って言ってる!)

拓海「やっ、なッ、どうなってんだよオイ! 何が起こっ、だいじょっ、大丈夫なのかよぉ……!?」ドキドキ

P「平気だ、あとは芳乃が!」




芳乃「ヒモー……」



P・愛海・凛「「「!!?」」」

拓海「へ……?」


芳乃「寄生されー……活動に……影響をー」


P「……」


芳乃「共倒れー……」


愛海「……」


芳乃「……まる」


凛(……この部分って芳乃の発想なの?)


拓海「な、なんだよ……今の……」

拓海「まさか悪い『気』って……アタシがこうなるってことかよ!?」

P「待て! 確かに今拓海がヒモに寄生されたのちアイドル活動にも影響が出て共倒れするように聞こえたが!」

愛海「ガン煽りィイーー!」

拓海「ねェよ!! ねえからな! ンなことあるわけっ」

P「いやっ、あくまでそうなったことを想定してってだけで……クソぉ、俺の話術!!!」

拓海「どうすれば……これからどうすんだよ!?」

P「俺と拓海でシミュレーションだ! そして意識を高める!!」

愛海「ついでにプロデューサーの力もね!!」

拓海「二人でって……うぅ、やるしかねえのか……」ドキドキ

P「大丈夫だ! 拓海ならどうってことないから!」

凛(多分これも前振りなんだろうな……)



『アイドル』=向井拓海
『ヒモ』=P


* * * *




拓海「ったく、マジでなんなんだよ……毎度毎度ヘンなことにアタシを巻き込みやがってよぉ……」

拓海「アイツがあそこまでマジだってことは、何か意味があるんだろうけどな」


凛(ごめんね拓海さん……そんなにないと思う)

愛海「うっひひょ、今度はどんなのが見れるんだろぉ……!」ジュルル


拓海「フゥ、まあ受けたからには、ガチで気合入れねえとな。危機だろうが何だろうが、ジャマすんならツブすだけだ」

拓海「つっても……」


拓海(アタシ……何すりゃいいんだ?)

拓海(シュミレーション? つーかヒモってなんだよ……ナメられてんのかアタシ?)

拓海(芳乃には悪ィが、なんか冷静に考えるとアホらしくなってきたぞ……)

拓海「なぁオイ、これって」クルッ


愛海「………」

芳乃「………」


拓海(なんで黙ったままなんだよ!! すげえコッチ見て……怖ェよ!!)


拓海(ハッ――いや怖くねぇ怖くねぇ、さっきは微妙にハズいとこ見せちまったような気もするし)

拓海(スパッと決めてサッサと終わらせる!)

拓海(ん? そういやPの奴はどこ行って……)



P(ヒモ)「あっ、拓海~~、待ってたぞおかえり~~~」パタパタ


拓海「……は?」

P「今日も仕事お疲れ様~。いやー、やっぱ拓海がいないと寂しいよ~~、寂しくて死んじゃうよ俺~」

拓海「お、おう、ただい、ま……?」


愛海(さっきのチャラ男と比べると緩やかな滑り出しだね、でも)

凛(なんだろうこの不穏さは……)

P「俺さ、あらためて拓海の大切さを思い知ったよ、今日ずっと考えててさ。拓海あっての俺なんだなーって」

P「拓海のあったかさがいつも俺を癒してくれて、俺は俺でいられるんだ。拓海がいなきゃホントダメだ俺」

P「こんな弱い俺でも拓海のあったかい世界の中にいられてることに感謝しなきゃな……」

P「どうしたの拓海? 何かあった?」


拓海(いやアンタがどうしたんだよ!!)


凛(この意味不明のアドリブ力は変わらず……!)

拓海「さッ、さっきからクセぇことばっか言いやがって! 何なんだよイキナリ! 何だその変わり身!?」

P「拓海? アイドルの仕事で何かあったの?」ズイ

拓海「なんもねぇ! ちょっ、なんかキモチワリィぞ、こっち来んな!」

P「お帰りのハグは?」

拓海「しねぇよ!!」

P「……拓海は相変わらず素直じゃないな」

拓海「っ」

P「俺の前では意地張らなくていいって言ってるでしょ?」

拓海「な……」

P「大変だよな、仕事も家のことも。俺も拓海の荷物になんてなりたくない」

P「だから、俺の前でだけは素直でいてよ。ありのままの……可愛い拓海でいてほしい」

拓海「な、ななッ」カァアアア

P「辛いことあったら俺にぶつけてよ。俺は羽ばたいていく拓海の巣でいたい」

P「拓海の周りが全部敵でも、俺だけは味方でいる。俺だけは拓海のことわかってあげたいから」

P「それが役割だよ、俺の」ニコッ

拓海「~~~っっ」

愛海(おっっっほ!!!)


拓海(かゆい、かゆいぞ……何だこれ、でも……)


拓海(なんでアタシ、こんなに安心して……)トロン…


凛(もうランプが赤い!)

凛(でも私もこんな感じだったのかな……先を見るのが怖くなってきた……)

愛海(攻めてきたね、でもまだ本領じゃない)


拓海(――ってマズいマズい何してんだアタシ、これはタイマン勝負だろ!)

拓海(こんな奴に押されっぱなしでたまるか……つーか仕事? それじゃあ)


拓海「なぁP、アタシはアイドルで……アンタは?」

P「……」

拓海「アンタ……仕事は……?」

P「……」

拓海「……」

P「……」

拓海「……」



P「……腰痛い」



凛(うわぁ……)

拓海「へ? 腰イタいのか?」

P「あ、拓海、お昼ご飯ありがとな。拓海の作るカレー最高だよ、また食べたい、ていうかずっと食べたい」

拓海「お、おう……ずっとってお前、へへ……じゃなくてだなァ!!」

P「どうしたの、落ち着きなって」

拓海「アンタ仕事ねぇのか!? それで女のアタシがアイドルやってて、アンタずっと家にいて……ハァア!?」

凛(拓海さん、それがヒモ!!)

P「腰に響くから大声出さないで」

拓海「フザけんな! もしかしてアンタっ、いやアタシたち毎日こんな感じなのかよ!」

P「そうだけど?」

拓海「ちったぁ恥ずかしがれよ!?」ムキーッ!


愛海「無駄だよアネゴ……ヒモはヒモであることを誇ってるからね……」

凛(そうなんだ……)

P「恥ずかしくなんてない。俺は幸せだよ、拓海といられて」

拓海「だッ、そういうことじゃねぇ……女のアタシに養われて男として」

P「拓海は俺といられて幸せじゃないの?」

拓海「そういうことじゃねえってっ……くぅううその子犬みてえな目ぇやめろォ!」

P「ショックだな……優しくて面倒見のいい拓海が、行き倒れ同然の俺を助けてくれて」

P「それからもずっと何だかんだ世話を焼いてくれて、大事だよ、大切だよって、何度も言葉にし合って」

P「言葉だけじゃなく、心の深いところで確かめ合った……あれは嘘だったの?」

凛(フラれ際のOLみたいなこと言ってる……)

P「拓海……」

拓海「だからなんでそんな寂しそうな顔ぉ……!」ドキドキ

P「って、何言ってるんだろうな俺……疲れた拓海にこんなこと言ったって……最低だ」

拓海「……くぅうう」

拓海「あ、アタシもっ」

P「え?」

拓海「アンタと一緒にいられて悪い気分じゃねえよっ、あぁ、この際だから言っちまうがすげえ嬉しい時だってある!」

P「拓海……」

拓海「でもよ……」


拓海「それと仕事がねえのは別だろ?」


P「……」

拓海「……」

P「……」

拓海「……」



P「……腰痛いからちょっと横になる」



凛(クズだ……)

愛海「クズだ……」

凛(愛海にクズって言われてる!)

拓海「オイィ!? どうせ嘘なんだろそれ!! どう見たって腰が痛いようには見えねえんだよ!」

P「いや腰は痛いよ」

拓海「ウソだ立てオラ! ずーっとそうやってゴロゴロして家に一日中いたんだろ!」

P「そんなことないって」


愛海(でも――そのクズさ加減でジワジワと相手を陥れる……!)


拓海「ついさっきその口でアタシの昼飯食ったっつったじゃねえか!」

P「食べてない」

拓海「食べたっつっただろーがコラァ!! こっち来いやその根性叩き直してやる!」

P「た、拓海、ごめんっ、悪かったよ……拓海に見捨てられたら俺……」

拓海「うっ」

P「拓海……俺、拓海のこと好きなんだよ……」

拓海「ううぅ……」キュンッ


愛海(毒のように、沼のように……そう、それは“ヒモ固め”!!)

また一旦区切ります。明日にでも
思ったより長くなりそう

再開します
シュミレーションは拓海がぎこちなく言ってる感じでお願いします


~プロデュース四十八手・ヒモ固め~

時に仕事疲れの女性を、その唯一の癒しとなって受け止め。
一転して彼女に甘え倒し自身の養分とし、天上と奈落の調べをない交ぜにする。
蛾のように舞い、通り魔のように刺すその様は、
人倫を嗤う悪行か、終末をことほぐ善行か。
もはやプロデュースと何ら関係はない。


愛海「あたしも前からアネゴは押せば存外ヤレるんじゃないか、イケるんじゃないかって思ってたけど」

凛(それさっきも聞いたよ)

芳乃「どきどきなのでしてー……」

凛(そうだね、芳乃もいるんだったね)


拓海「っ、わーった……わかったよ、アタシもちょい感情的になってた」

P「……」

拓海「ここ座るぞ?」

P「……」

拓海「なぁPよ、アタシはお前の事を思って言ってんだぜ? 何もガーガーうるさくしてえから言ってるわけじゃねぇんだ」

凛(お母さんみたいになってる……)

愛海(すっかり入り込んでる)ジュルル

拓海「そうやってダラダラしてたってダメになっちまうだけだぞ? オマエはやりゃあできるんだからよ」

P「拓海が養ってくれるから」

拓海「そうしねェために言ってんだよ!」

P「……」

拓海「……おっ、落ち込むなよ……別に、オマエに頼られるのが嫌ってわけじゃなくて……」


愛海(凛ちゃんの時もそうだった……プロデューサーとヒモがダブって……!)


P「本当に、一日中家にいたわけじゃないんだ」

拓海「ほぉ? じゃあどこに行ってたんだよ」

P「……コンビニとか」

拓海「いい加減ブン殴るぞ……!」

P「ごめん……大好きだからさ拓海」

拓海「いちいちそれ言うのやめろぉ……!」

P「顔すごい赤い」

拓海「怒ってんだよ! 怒ってんだぞ!?」

拓海「ハァ……オマエ、仕事は探してんだよな」

P「探してる探してる」

拓海「ホントだろうな……」

P「たださホラ、そんなすぐに良い仕事が見つかるわけでもないじゃん? やるからには本気で打ち込めるのがいいし」

P「それにさ、今は他にも色々やんなきゃいけないことあるし、なかなかそうサクっとはさ」

P「だからこればっかりは大目に見てほしいんだよね。拓海優しいじゃん?」

拓海「っ、色々だァ? 何だよそれ」

P「いやほら」

P「ミュージシャン」

拓海「……は?」

P「俺ミュージシャンになるから」

拓海「………」


凛(………)

愛海(………)

拓海「………まぁ、夢があんのは良いことだな」

凛(だいぶ絞り出したね……)

P「でっしょー!? 拓海も応援してくれるって前に言ってたじゃん? やっぱ夢追って生きていかないとダメだよね、人として」

拓海「で? そのために色々やってんだろ? 何してんだよ」

P「……」

P「まあ、その……」

拓海「……」


P「ゲームとか、テレビ観たり」



拓海「………」ビキッ!!!



凛(わぁああああああああああああああああああ)

凛(なんでそこ素直に言っちゃうの!?)

愛海「ヒモは意外と正直」

凛(そうなの!?)


拓海「テッ……オマッ……ナメてんだろ……あたしがキレねえと思って好き勝手ェ……ッ」ビキビキビキ

P「違う、拓海は勘違いしてるよ。創作には必要な事なんだよ、インスピレーションは」

拓海「知るかクソがぁッ! インスタントだの何だのナマけてるだけだろうが、アァ!?」

P「拓海ぃ……」

拓海「だあああァッ、それももうアタシには通じねえからな!!」

P「……」

拓海「そういう顔すれば許されると思ってんだろ!? そうやって甘えれば何でもしてもらえるってよ!」 

P「……」

拓海「ムダだぞ……ここでアタシが甘やかしたってオマエのためにならねぇんだ……」

P「……」

拓海「そんな、泣きつくみてえな……寂しそうにすがる目ぇしたってっ……」

P「……」

拓海「そんな……」

拓海「仕事探すくらいで、ヘコたれて……テメェはぁっ……」

P「……」

拓海「……いちいち甘えてきやがってぇ……」

P「……」

P「………」

拓海「………」


P「………」

拓海「ぅ……」


P「………」


拓海「………い」



拓海「……いっしょに探してやるから……な?」



凛(あぁ……拓海さん……)

愛海(これは……)

拓海「だから……元気出せよ……」

P「拓海……!」

拓海「バッ、んな嬉しそうな顔すんな……ばか」


拓海(ううううぅ何でだ、どうしてアタシっ……)

拓海(コイツに頼られるのすげえ嬉しい……弱い所見せられて、甘えられると……)

拓海(アタシが何とかしてやらなきゃって、たまんなくなる……)


P「でも俺、拓海と一緒にいたい……」

拓海「ッ、急に何言って」

P「俺が仕事始めたら、拓海といる時間が減っちゃうよ」

拓海「そんなのアタシだって……ちげぇえ! そういうことじゃねえだろ!!」

拓海(チクショウ何だコイツ可愛いなクソクソクソ)

拓海「とにかく今みてえにダラダラしてちゃダメなんだよッ!」

拓海(アタシまでダメになるクソクソ)

P「……」

P「ごめん、もう俺ウソつけない」

拓海「へ?」

P「一日中家にいたわけじゃないんだ」

拓海「そりゃお前」

P「カラオケに行ってたんだ……練習するために」

拓海「……へ?」

P「腰が痛かったのは、ずっと立ちっぱなしでさ……ハハ、バカだよな俺」

凛(なんか……)

P「カレーも、タッパーに入れて外で食べたんだ、変にごまかしてごめん……」

愛海(すさまじい予感が……!)

拓海「いや、つーか何で」


P「俺、拓海のために歌を作ったんだ」


凛・愛海「「!!?」」

拓海「な……」

P「将来ミュージシャンになる第一歩……愛する拓海に俺から捧げる歌……」

拓海「!!」

凛(ちょっ)

P「拓海のことを想って、拓海のことだけ考えて書いた曲です……」

P「聞いてください、作詞・作曲俺で」



P「――『俺は拓海を傷つけない』」



愛海(おっっっっっっっっほ!!!!!!!!)

凛(ヒィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ)

P「拓海~~拓海~~~俺の~~拓海ぃい~~~っひ(↑↑↑)」

拓海「………」

P「大好きだ、愛してるんだ~~、拓海しか見えない、俺の女神~~~~」


凛(うぁあああああ……どうしてこんなことに……)


P「傷つけあうこともあったけど~~、拓海のおかげで、俺は立ち直れた~~~」


愛海(それ傷つけてるんじゃ……)


P「拓海ぃ~~、MY LOVE……素直になれなくても、ずっとそばにいて~~~」

拓海「……」

P「家庭的で優しい拓海、パスタ作ったお前」

凛(そこカレーじゃないんだ!?)

P「hmm……yeah……」


~(略)~



凛(終わった……)


P「………」

拓海「……」


愛海(大抵の拷問は受けてきたけどこれは新しすぎて)

凛(無駄に歌上手いから腹立ったよ……)

芳乃「……」パチパチパチ


拓海「……」


凛(……でも)

凛(これは私の偏見かもしれないけど)

凛(こういうの……なんか、元ヤンキーの人とかにすごく……)



拓海「~~~~っ」グスッ



凛(効いてる!!!!!)


拓海「ヘッ……んだよ、お前っ……いきなりこんな……」スンッ

P「俺、拓海の歌ってる姿が好きだから」

P「だから俺も、拓海と一緒のラインに立ちたくて……」

拓海「!」

P「伝わったかな、俺の愛情……こんなこと言えるの、拓海だけでさ」

P「俺はずっと一緒にいたいけど、拓海は……嬉しくなかった?」

拓海「……」

拓海「うれしく……ねぇ……」


拓海「わけ、ねえだろっ……このバカ……!」ギュッ


P「わぷっ」

拓海「ホント、子犬みてえな奴だな……シッポ振って追っかけてきやがって」

拓海「どうしようもねえ甘え好きで、アタシがいてやらなきゃダメダメで……」

P「拓海……」

拓海「顔赤いか? 怒ってんだよ……お前の可愛さによぉっ」クシャクシャ

P「っ、でも笑ってる」

拓海「うるせぇ、もうお前の好きにしやがれ……ペットなんだから、アタシが全力で守ってやるから」

拓海「アタシのそばにいろ……」


愛海(あ~~~らあらあらア アラララァ ア アァ)ジュルルル

凛(なんかいい話っぽくなってるけど)


凛(何も解決してないよこれ!!)

P「拓海……」

拓海「……何だ、なんかしてほしいことでもあんのか?」

P「いや、もう叶っちゃったよ」


P「やっと……お帰りのハグできたなって」


拓海「……バーカ、ホントに」



拓海「……しょうがねぇなぁ……オマエは……」




   <ぶおおおおおおおぉ~~~~~~~




愛海「しゅーーーーーりょーーーーーーー」




拓海「――――」

愛海「ハイっ、えー終了ということでございましてね、えー」

拓海「―――」

愛海「わたくしとしてはもう少し見ていたかった所ですけどもホラ貝の方が鳴りましたもんでね、はい」

愛海「これ以上続けても当人への影響も大きかろうと、いうことでねハイ」


拓海「―――」


凛(やば、拓海さん放心状態)



拓海「………うォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!??????」



凛(現実に戻ってきた……)

P「あ、拓海、もう抱き締めなくても」


拓海「うォオオオオオオオオオオオオオ!!??!!?」ブンッ!!!

P「ぐぉおおおおおおおおおお!!!!」ドッゴォオオオオオオオ!!!



拓海「……っあ、ワリっ、その」


凛「拓海さん」ヒョコッ


拓海「うォオオオオオオオオオオオオオ!!??!!?」


芳乃「ぶおおぉーーーー」ブォオー


拓海「うォオオオオオオオオオオオオオ!!??!!?」

P「………」ピクピク

拓海「……」

凛「……」

愛海「……」


拓海「……まさか、凛まで見てるなんてよ……」

凛「ごめんなさい……出るなら早い方がいいと思って」

愛海「えぇ~~? いつでも出てこれたでしょ~~堪能してたくせに~~~??」

凛「ぐっ……ホントにごめんなさい」

拓海「ごほんっ」

拓海「それなんだがよ……その、アタシ……今の……」

拓海「……負けた……よな?」

愛海「惨敗」


拓海「うォオオオオオオオ恥ずかしいィイイイイイイイイイ死にてェエエエエエエエエ!!!!!」


凛「そうなっちゃうよね……」

愛海「まーあそこから挽回は不可能に近いね。もう限りなく愛しいものを見つめる優しげなメスの顔だったし」

拓海「なっ、ハァア!?」プシュウウウウ

愛海「ダダ甘モードに入り、寂しげに寄りつかれればハグをし求められれば与えションボリされればまた甘やかし」

愛海「物や心を問わず捧げ続け、最悪の場合カラダだけでなく金銭にまで魔手は及ぶも」

愛海「奉仕の熱に浮かされ情愛の坩堝にとらわれたアネゴは、身を挺してヒモに寄り添う代わりにアイドルとしての翼を灼かれる」

拓海「オイ……おいぃ……」カァアアア

愛海「共依存の末は共倒れ――かと思いきや、現実はアネゴだけが蜜を吸いつくされ、蜜蜂は次なる養分を求めて」

拓海「やめろやァア!!」カァアアアア

愛海「『顔赤いか? 怒ってんだよ……お前の可愛さによぉっ』(笑)」

凛「追い打ちまで!!」

拓海「殴りてぇエエエ……けど殴れねぇええぇ……」プルプル

芳乃「……」チョイチョイ

愛海「ハッ」シュタッ


愛海「『濃厚でしたー』だそうです」


拓海「どういうことなんだよッ!?」

芳乃「はふー」

拓海「チクショウ……」

P「……っく……拓海、大丈夫か……」ヨロヨロ

拓海「あっ、P! ……すまねぇ、さっきはつい」

P「いいんだ、自分のしたことの報いだ……それに」

P「こう言っちゃ悪いが、すごくすがすがしい気分なんだ」

凛「そりゃあれだけやればね……」

凛(……少しだけ拓海さんがうらやましかったのは秘密)

拓海「アタシこそダメダメだ、クソッ、あんだけタンカ切っといてこのザマかよ、カッコワリィ……」

拓海「まぁでもよP、もしそのケガ仕事に差し支えるようだったら」


拓海「アタシが養ってやるから」


愛海「………」

凛「………」

拓海「……ん?」


拓海「あ」

拓海「ち、ちげぇえええッ!!! いい、今のは、そうっ、守ってやるって意味で!!」カァアアアアア

凛(私以上だった)

愛海「いやいやそれでも十分ですよ姉御フゥーッ!!」

拓海「うるせぇクソぉ!!」

P「拓海……ありがとう」

拓海「おう、疲れたらいつでも甘え……じゃなくてェ!!」

芳乃「よきかなー」ハフー

拓海「うぁあああぁああぁ……」プシュゥウウウウウ


拓海「……チクショウ……テメエら覚えてろ百倍返しだコノヤロォ……アタシは修行するっ……」

拓海「そんでいつか必ずリベンジしてやっからな!! ゼッテェだぞ!!?」ビシィッ

愛海「うひひ、またのお越しを~」

凛「む、無理しないでね……」


拓海「クソォっ、バーカバーカ!! うううううぅバーーーーーーカ!!!」ダッ!


凛(小物化しちゃってる!!)


バタン


凛「………」

愛海「……いやあ、良いことしたなぁ」テカテカ

芳乃「また一つ、幸せがー」

P「拓海のやる気が出たならよかったよ」


凛(コイツら……)



ガチャ


「ねぇ、あの……」


凛「!?」


「今ものすごい勢いで走り去る向井さんとすれ違ったのだけど……」



和久井留美「何かあったのかしら……?」



凛「和久井さん逃げッッ……いやいける!!!!」



・ ・ ・



留美「危機意識のテスト……?」

P「ええ、突然ではありますが、もしその気があるなら」

愛海「うひひひひっ、アネゴもこのおかげでイイ刺激もらったみたいだよーっ! 満足度当社比No1!」

凛「いや私たちしかやらないからこんなの……」

留美「それはいいけれど……向井さんはこうも言っていたわよ」

愛海「へ?」

留美「『愛海はあとで殺す』って」

愛海「!?」

留美「冗談なのでしょうけれど……凛ちゃんもこのテストは受けたの?」

凛「えっ!? いえ、その……」フイッ

留美「! ……そう」

留美「それで、状況設定を芳乃ちゃんが決めるのね」

芳乃「ぶおおぉーーー」ゴゴゴゴゴ

P「はい、それに合わせてシミュレーションを……和久井さんが受けてくれるなら芳乃にこのまま」

留美「そう……向井さんに、凛ちゃんが……」



留美「……なるほど」



凛・愛海「「―――!!」」ゾクゥッ!


凛(私の予感は正しかったみたい……間違いないよ、このラスボス感)

愛海(もう逃げられない、一瞬にして場がコロッセウムに変わった……!)


留美「ねぇP君」

P「は、はい!」

留美「私、こう見えて勝負事は嫌いじゃないの。いえ、むしろ始まったらのめり込んでしまうくらい」

留美「向井さんと凛ちゃんを退けた障壁……とても興味があるわ」

留美「――二人の弔い合戦と行きましょうか」

P「それじゃあ」

留美「ええ。受けるわ、そのテスト。……願わくば芳しい結果が得られることを」

留美「なんて……ふふっ」


凛(す、すごい頼もしい、さっきの弔い合戦が霞むよこの緊張感……!)

愛海(凛ちゃんそれ禁句……!)

凛(ごめん……直接脳内にごめん……!)


留美「上着を脱がせてもらうわね……」スッ

P「っ」


愛海(でも凛ちゃんの言う通りだ……これが大人組の迫力、戦いのステージが一段上がった!)

愛海(やれるのかプロデューサー!?)ジュルルルルルズッゾゾゾゾォオオオオ

芳乃「ですがそれはー、お茶とおせんべいにはかなわないのでしてー……ざんねーん……」ゴゴゴゴ


凛(やってたんだ芸人パート……)


芳乃「ぶおおおぉーーーーー」カッ!


P「……シチュエーションが決まります」

留美「そう……」


愛海(空気がヒリついてる……)ゾゾゾゾッジュルルッポォオ

凛(炎が揺らめいてる、静かな炎が……)



芳乃「よそのプロデューサー……」



P・留美・凛・愛海「「「「!!?」」」」

芳乃「勧誘ー……引き抜きー……」

P「……」

芳乃「信頼関係に、ひびー……」

留美「……」

芳乃「……まる」


留美「……これは?」

P「おそらく別事務所のプロデューサーが留美さんを勧誘し引き抜きにかかった結果、僕たちの信頼関係にヒビが入るということかと」

留美「今までそんなことはなかったし、これからもないと思うわ……けれど」

P「そういうシミュレーションですから」


凛(ガチのやつっぽい……)

留美「じゃあ、私はこれからあなたと、あなたにスカウトされた時のことを再現できるのね」

P「和久井さん」

留美「……冗談よ。テストの相手はP君じゃなくて、別のプロデューサー」

留美「そういうシミュレーションだものね?」

P「……はい」


愛海(この試験で一体何が起きるのか……全く想像もつかない)

愛海「ワクワクさせてくれるじゃん……?」

凛「拓海さんが『あとで殺す』って言ってたけど」

愛海「それはそれじゃん……?」

凛(私もすっかり共犯なんだけどね……)



『アイドル』=和久井留美
『別事務所のプロデューサー』=P


* * * *

今日はこのへんで。やっべ終わんねえ長え
明日には終わらせたいと思います・・・

ID変わってるかもしれませんが1です
再開します



カッ  カッ



留美「………」

P(別P)「あぁ」


P「和久井君、こっちだ」


留美「……」カッ


P「どうぞ座ってくれ」

留美「失礼します」

留美「……手短にお願いできますか、急いでますので」

P「ここのホテルのカフェは気に入っていてね。ゆったりと静かで……コーヒーも上手い」

P「何より美人が多い。今来た客も入れてね」

留美「そうですね、随分と人が多いように見えます」

P「心配は要らない。君が思うような下衆はいないよ」

留美「では、貴方が貴方の都合で部下を張らせている、といったこともないと」

P「……会うのは二人きりでと言ったろう? 何度かこういう話し合いにも使ったことがある」

留美「私の前にも犠牲者がいたのね。私より若い子だったのかしら」

P「……」

留美「それに、もう決まった結論を伝えに来ただけですから」

留美「……それを話し合いと呼びますか?」

P「………」

留美「………」


凛「……」

愛海「……」

凛(何コレ……)

愛海(別ゲーすぎワロタ)


凛(和久井さんの入り方も尋常じゃない……全力で勝負に行ってる、プロだ……)

愛海(このプロデューサーはダンディなカンジ!? いやもう、そんなのすらどうでもいいっ)ダバー



P「……フフ、取り付く島もないな」

留美「わかっていただけて光栄だわ」

P「もっとリラックスしてもらいたいんだがね、そのためのこの場所だ」

留美「貴方がしつこいから私は……」

P「こうしてわざわざ出向いてくれたんだろう? そっちのプロデューサーには伝えたのかな?」

留美「……彼に迷惑はかけられないわ」

P「フフッ、迷惑、か……」

留美「貴方こそ、こんな所で油を売っているような立場なのかしら……こんな私程度に」

P「謙遜はいけない……油を売るとは、婦女相手に整髪油を売っていた様が由来らしいが」

P「その意味で言えば、あながち間違いでもあるまい?」

留美「……言葉遊びがお好きなのね」

P「何か頼むかね」

留美「コーヒーが美味しいのだったかしら」

P「ああ、お勧めだよ」

留美「要らないわ」

P「……言葉遊びが好きなようだね」

留美「貴方ほどじゃないわ」

P「そうか……それでは、君の機嫌が良いうちに本題に入ろう」

P「単刀直入に言うが」

P「私の事務所に来ないか」

留美「……ふふ」

P「む?」

留美「いえ……しつこく私に声をかけて、こんな所にまで呼び出して、それのどこが単刀直入なのかと思って」

P「まだ返事をもらっていなかったからね」

留美「返事なら何度もしたはずよ……ありえないって」

P「それは違う。私の見せ得る限りの誠意を見せ、その上でもらったものが返事だ」

留美「誠意? 独善の間違いでしょう」

P「我々のやることはいつだって独善だよ……最初のうちはね」

留美「……?」

P「だが、誰か一人にでも喜んでもらえたなら、その時点から話は別になる」

留美「何を言いたいのか……」


P「君は美しい」ジッ


留美「―――」

P「聡明で、端麗で……透き通った氷のような美しさだ」

留美「いきなり、何を」

P「私は和久井留美が欲しい。心の底からそう思う。魂を売っても後悔しないほどに」

留美「っ……」カァア


愛海(ヨッシャやっといつものキタァーっ!!!)

凛(存在消えるかと思った)


留美「ようやく、目を合わせたかと思えば……」

P「プロデューサーとしてのテクニックというやつさ。さっきの言葉も世辞じゃない」

留美「せ、世辞かどうかなんて」

P「君が決めることだ」

留美「そう、私が……いえっ、そうであろうとなかろうと関係ないのよ……」

P「隙のある所も可愛らしい。完璧な彫像のようでいながら、その表情でクラリとこちらを魅了する」

P「一瞬の幻惑は、月下に揺らめく青……まさしくミスティックブルーだ」

留美「よくそんな……歯の浮くような台詞を……」

P「褒め言葉として受け取っておくよ」ジッ

留美「っ」フイッ


凛(アレ威力高いんだよね……)


P「そうしてそっぽを向かれると余計に」

留美「……手を出したくなるとでも言うのでしょう? 身勝手な男の理屈よ……」

P「いいや? 朱に色づいた頬がよく見えると思ってね」

留美「~~~!」カァアアッ

愛海(例によってプロデューサーにダンディPがオーバーソウル……!)

愛海(さすがの和久井さんでも揺らいで……!)ダババー

芳乃「……」フキフキ



留美「………」



凛(? あれ、なんか……)


愛海「んごっ、んごガッ」

芳乃「どきどきー……」フキフキフキフキ

P「元々秘書をやっていたそうだね」

留美「……」

P「もはや褒めるまでもない美貌、知性、そして過去に培われた胆力」

P「天は二物も三物も与えるのだよ……『与える側』の人間には。君こそ新時代のアイドルにふさわしい」

留美「……」

P「ただしそれは、正しい補助役がいてこそだ」

P「君のプロデューサー、あの若造では君の魅力は完全には引き出せない」

P「私の下に来なさい……身命を賭して君を守る。そして必ず頂点へと導く」

留美「………」

P「顔を俯かせていては、つぼみを垂れた花のようだな」

P「咲き誇ることなくして萎れるのではあまりに心苦しい」

クイッ


留美「!」

P「こうして上向かせねば」


P「……なあ、留美?」


留美「……~~~っ」


凛(和久井さんが真っ赤になりながらにらみつけてる!)

愛海「あふぉふいは(顎クイだ)! あふぉふい(顎クイ)!!」

芳乃「あらまー……」ドキドキフキフキ

凛(――けど)

P「フフ……どうやら私の『独善』は、『誠意』に変わったようだ」

P「我々ならきっと上手くやれるさ……」


留美「……どうかしら」


凛・愛海「「!!!」」


P「な……」

留美「いえ……どうしてかしら。何故あなたに……そんなことが言えるの?」

P「『何故』? 何故だとっ?」

P「ハッ、君こそどうした! それは私が能力のあるプロデューサーであり、私が君をこうして見出してっ……」

留美「私を見出したのはP君よ、貴方ではない」

P「―――」

P「それ、は……」

留美「あなたがどれだけ優秀なプロデューサーなのかは知らない、興味もない。それは私にとって意味のないこと」

愛海(わぁああっ、わくっ、わく)

留美「貴方は大きな勘違いをしているわ」

凛(うわわ、わ、わくっ……)

留美「トップアイドルになるのが夢なんじゃない……私たちの理想を叶えるのが夢なの」



留美「私にとってのプロデューサーは――この世で彼一人だけよ」



凛・愛海((るーみん!!!!!))


P「なッ、に……!?」

P「る……留美……」

留美「気安く呼ばないでくれるかしら。私を名前で呼んでいい男性も彼だけ……」

留美「もっとも、一度も名前で呼ばれたことなんてないけれどね……ふふっ」

P「ぐ……!」

留美「そろそろ手を離してもらえる?」

留美「花だって、水のやり手くらいは選ぶものよ」


凛(や、やった、これまでにないよ、こんな展開!)

愛海(和久井さんが押し返してるーっ!)


P「……」

留美「話は終わりかしら」

P「……認めん」

留美「……」

P「認めんぞっ、そんな話は……!!」

愛海(負けフラグビンコ立ちのセリフっ……)

P「理解できんな、到底! 何故君ほどの才色優れた女性があの若造に固執する!?」

留美「……」

P「何が君をそこまで繋ぎ止めているのだ!!」

凛(あぁ、そしてこれは)

愛海(地雷、圧倒的地雷っ……)


愛海(和久井クレイモアっ……!)



留美「……なるほど」



P「!?」ゾクゥッ!!

留美「そこまで知りたいのなら、教えてあげましょうか」

P「え……?」

留美「仕方なくよ……ええ、仕方なく。これはあなたがどうしてもと言うから」

留美「私はあなたに脅されて、追いつめられて、仕方なく今からの台詞を吐かされてしまうの……」


凛(全然『仕方なく』って顔してない……!)

愛海(誘導してたんだ、この展開にっ)


留美「私にぽっかり空いた空洞を、埋めてくれたのが彼だった」

P「はっ!? なっ」

留美「……仕事を辞めて途方に暮れていた時、消え入りそうな存在だった私に、彼はおずおずと声をかけてきた」

留美「『手助けできませんか』って。最初は宗教の勧誘か何かかと思ったわ」

留美「けれど違った。何もすることがなかったし私は話を聞いたわ、そしたら」

留美「しまいには『アイドルにならないですか』って……ふふっ、敬虔な信仰者の方が可愛かったわね」

留美「だって彼は……魔法使いだったんですもの」

P「いや、ちょっ」

留美「もちろん最初は断ったわ。でも彼と時間をともにするうちに、このまま身をゆだねてもいいかもって」

凛(一体いつから……? 和久井さんの術計は)

留美「もしかしたら、始めから惹かれていたのかもしれないわね……彼の真っ直ぐな瞳に」

留美「話を聞こうと決めた時から、ずっと」

留美「すべてを認めてくれるような……飾らなくてもいいって言ってくれるような……」

留美「『飾るのは俺がやる』『ずっとそばで見守るから』って……」

P「あ、の……」


留美「……」ジッ


P「っ……」ドキッ

留美「……ふふっ」


凛(……最初からだ)


  留美『……冗談よ。テストの相手はP君じゃなくて、別のプロデューサー』

  留美『そういうシミュレーションだものね?』


凛(私や拓海さんの反応も含めて)

凛(このゲームの本質を一瞬にして理解して、意趣返しを……)

凛(役に入ったうえで、その向こうにいるプロデューサーに――攻め込んでる!)


留美「一緒に寄り添って道を歩いて……私は彼の色に染まったの」

P「う……」

留美「たとえ年が若くても、彼は私にとって最高のプロデューサーよ」


留美「私の心は、彼を迎え入れる部屋になった」

留美「彼のことを考えない日はない。彼のために行動しない私なんて……ありえない」

留美「彼の夢は私の夢……きっとその逆も……」


P「も、もうっ……」

P「これ以上はいい、だからっ」

留美「彼が願うことは何だってするし、彼が望むなら何にだってなれる」

P「やめろ……やめて……」

留美「私……和久井留美は……」

留美「これからも、何があっても……ずっとずっと……彼のそばにいると誓うわ」

留美「アイドルとしても、パートナーとしても……もちろん」


留美「……それ以上の関係でも……ね?」



P「………」カァアアアア



凛・愛海((プロデューサーがデレたーーーー!!!!!))

愛海(本人へのダイレクトアタックゥウーー!! 何この逆攻略!)

凛(私までドキドキしてきた……!)


P「うぅあ……」カァアアア

留美「……ふぅ……仕方のない、本当に仕方のないことだったけど……似合わない真似をしてしまったわね」

P「……」

留美「あら? どうしてかしら」

留美「なぜ『彼』とは一切何の関係もない貴方が頬を赤らめているのかしら……不思議でしょうがないわ」


凛・愛海((るーみん!!!!!))


P「赤くなってなんて……」

留美「真っ赤よ、鏡を貸してあげましょうか」

P「え、あぁ……」

留美「はい、どうぞ」スッ

P「へっ」

留美「この距離なら見えるでしょ? いいのよ、いくらでも見て……」

留美「私の瞳の中に、貴方の顔が映っているはずだから……」


凛・愛海((るーみん!!!!!))


P「ち、ちきゃいっ、なにっ……」

留美「ダメよ、動いては」グッ

P「!!?」

留美「目を逸らさないで。真っ直ぐ私のことを見つめてくれないと、意味がないわ」

留美「さあ、ほら……いいのよ?」

P「にゃにをおおおぉ……!?」


凛(効いてる、すごいくらいに、もしかしてこれって)

凛(このゲーム初めてのクリア――!?)

芳乃「まー……」ドキドキドキ

P「まじゅっ、まじゅいよ和久井しゃぁん!!」

凛(押しに弱すぎでしょ!)

留美「何がまずいの?」

P「だからっ、これもうっ」

留美「もう……何? あ、こら、目を逸らしてはダメと言ったでしょう」クイッ

P「~~~」プシュゥウウウウ

留美「そうよ……いい子ね」

凛(えっ、どうなるの、えっ)

愛海(もう何でもいい、めっちゃ興奮する)ジョバァアアアアア

留美「手で挟んでおくわね」ギュッ

P「!?!?!?」

凛(ま、マッテまってキスしそう、え、キス、ウソ!?)

留美「まさかこんなことになるなんて思わなかったけど……」

凛(ウソだッッ!!! いや待っていくらなんでも)

P「おちちゅいてぇ!!」

愛海(もうこれで終わってもいい、だからありったけを)ジョッバァアアアアアア

留美「これはシミュレーションだから……」スゥッ

凛(そうだよあれはプロデューサーじゃなくてでもあれはプロデューサで、あああぁぁっ)

P「もっ、これ関係なっ」

留美「こんなに早く機会が来るなんて……嬉しい」

凛(設定関係ないよもう!! と、止めなきゃ、止めっ、芳乃!!)

芳乃「………」カァアアア

凛(真っ赤になって顔覆ってる!!)

愛海「クるっ、キちゃうよぉおーーーっ!!」

凛「何が来るの!? ダメだコイツもうっ私が止めっ」ダッ


留美「……ん……P君……」

P「………」


凛「わぁああああああマッテお願い待ってストーーーーーーップ!!!!!!」




「…………ククッ」



凛「………え?」

愛海「!?」


留美「っ?」


「……ククク」


留美「……どうしたの」


P「クックック……」


凛(……プロデューサー、壊れたの?)

P「……わ、和久井君、落ち着きたまえ……れれ、冷静さを、失っているぞ……」

留美「……」


愛海(この期に及んで……)

凛(プロデューサーは万策尽きたんじゃないの?)


P「……フフッ、クックック……いや、可愛いものじゃないか、健気で、純心で」

P「そこまで想ってもらえて、君のプロデューサーもさぞ喜ばしかろうな」

留美「……何かしら?」

P「だが和久井君、私は君の弱みを一つ握っているのだ……!」


凛(え……?)

P「君とプロデューサーの関係は……上手く行っていない!」


留美「………」

凛「………」

愛海「………」


P「『こんな私程度に』と、君はそう言ったな……?」

凛(だいぶ前だよもう)

P「君の求めるものを、君のプロデューサーは与えてくれていない」

留美「……」

P「君は安心したかったのだ。自分は魅力ある、価値ある人間だと確かめたかったのだ」

愛海(土俵際で……このしぶとさ……!)

P「だからこうして私のもとに来た! そして私の口から聞き出せるだけ聞いてやろうと君は振る舞った!!」

P「さらには、私に対して胸中を語ることで自分を肯定しようと……!」

留美「……」

P「つまりこれは……君自身が、逆説的に弱みを晒した格好……!」

P「君が情熱を見せれば見せるほど、それを受けきれない彼との軋轢が露呈していたのだ!」


愛海(しぶといっ……そう、これは……“ジリ貧車”!)



~プロデュース四十八手・ジリ貧車(じりひんぐるま)~

しぶとい。



凛「でも……これってさ」

愛海「……うん」


P「ククッ、フハッハハハ!! 和久井君、君自身が奴とのズレをさらけ出していたのだよ!!」

留美「……」

P「己の寂しさ故の行動……実に愛らしい、私はそれを認めよう」

P「さあ和久井君、来たまえ……私ならば君を……」


留美「………」


P「………へっ」

留美「…………」

P「や……あの」



留美「…………なるほど」



P「」ゾッックゾクゥウウウッ

留美「貴方は……そこまでわかっていたのね……そう……そうなの……」

P「そ、その」

留美「そこまでわかっていて……人を、欲求不満の女みたいに……」

P「ぇえええええええ!? いや、違っ」

留美「どうしてよ……どうして……」

P「わ、和久井さん……!?」


留美「わかってるなら……くれれば……いいじゃない……いつも私が……れだけっ……貴方に……」


P「!!!?!!?」


愛海(帰ってきた和久井クレイモア……)

留美「思い返せば……腹が立ってきたわ……普段あれだけ私が……しても、……してくれないのに……」

凛(こ、これマズいんじゃ)

留美「役に入ったら、ペラペラと甘い台詞を……私の……も考えなさいよ……」

P「ああああの、もう少しはっきり」


留美「ハッキリするのは貴方の方でしょうP君!?」


P「ヒィエエエエエエエエエP君じゃないですぅううううううう!!!」

留美「そうよっ、貴方の言う通りよ! 私は貴方からの返事が欲しいの! ずっとずっと私は待ってるのよ!?」

P「俺そこまで言ってないですぅうううう!!!!」

留美「これまでだって何度もそれとなく話を振ったり誘いをかけたり策を巡らせたりしても貴方はそうやっていつもいつも」

凛(マズイマズイマズイマズイ)

留美「だから私はこうして……こんな真似までしてっ……何が試験よ! 何がシミュレーションよ!?」

P「すいませんでしたぁあああああ!!!!!」

留美「謝ればいいと思ってるのかしら……それで私が貴方に尽くした分に釣り合うとでも……」

留美「誠意を……責任を取ってほしいわ……!!」

凛「ちょ、愛海!」

愛海「あーあーあーうん、これはうん、もう……うん!!!」

P「責任って……どうすれば」

留美「もうここで決めましょう」

P「ぇ」

留美「ハッキリさせましょう? P君は……どうするの?」

P「………」ダラダラダラ

留美「どうしたいの……? 言ってくれれば……私はP君の言う通りにするわ?」

P「…………」ダラダラダラダラ

留美「簡単な事よ……イエスか、ノーか」

P「………ぉ、ぉ、ぉおお……」

留美「さあ、P君……もし決められないのなら」


留美「仕方のない……本当に仕方のないことだけど……」


留美「決められるように……及ばずながら、私なりに頑張って……」



留美「……手、だ、す、け……してあげるわ……」



凛・愛海「「プロデューサァアーーーーーー!!!!」





   <ぶ、ぶおおおおおおおぉ~~~~~~~っ




凛「強制終了になった!!!!!」


芳乃「ぶおぉ、ぶぶ、おおおー、ぶおぉー」アセアセ

凛「しゃべれてないよホラ貝外さないと!」


P「……ぁ……あ……」ヘタリ


留美「………!」ハッ


留美「Pく……」

愛海「……和久井さん」

留美「っ、愛海ちゃん……私は……」

愛海「……」フルフル

留美「………」


凛「……」

愛海「……」


留美「………」


留美「……………………死なせて」


凛・愛海「「早まらないで!!」」


留美「……私としたことが、あんな……激情に駆られて、取り乱して……」

凛「いやもう仕方ないというか、あれはもうプロデューサーが悪いよ……」

愛海「ま、まあ今回ばっかりは……うひ、うひひひ……」

留美「いえ……これは私が招いたことよ。私の方が最初に試験の形を踏み外したんだもの」

留美「本当に、恥ずかしい所を見せてしまったわね……ごめんなさい……」

凛「そんな……」

愛海「和久井さんが謝ることないよー!」


凛(怖かったけど)

愛海(めっちゃ怖かったけど)

芳乃「……」トテトテ

凛「芳乃?」

芳乃「……」スッ

留美「これは、ほら貝? ……これを私に?」

芳乃「……」コク

芳乃「どうかー、お納めくださいー」

凛「なんか勘違いしてない!?」

留美「あ、ありがとう……いただくわね……」


愛海「あ、そっか、試験の方は……」

留美「……」

凛「……」

愛海「ま、まぁそのっ、内容は和久井さんの圧倒的優位だったけどね! 最後がその……」

留美「……」

凛「……」

留美「無効試合にしましょう」

凛「そうですね」

愛海「……ッス」


凛(最後、プロデューサーは反撃を考えるあまり……自分の首を絞めて、和久井さんを逆撫でして……)

愛海(恐るべし和久井モア……)


留美「……これは試験、だったのよね」

凛「和久井さん?」

留美「ないとは思うけれど、ありえないことではない……他のプロデューサーからのスカウト」

留美「もし、最後があんなことになっていなかったら」

留美「あの先は……どうなっていたのかしら……」

凛「……」

愛海「………」


凛(……キスしてたよ)

愛海(……キスしてただろうよ)

留美「P君」スッ

P「……ぁ、和久井、さん……」

留美「まず真っ先に、貴方に謝らなければいけなかったのに……」

留美「色々酷いことも言ってしまったわ……本当にごめんなさい」

P「いえ、俺の方こそ……俺なんて、自分の不出来ぶりを棚上げして、偉そうに」

留美「……いいの。いいのよ」

P「和久井さん……」

留美「それと、見せてはいけないような姿も見せてしまって……」

留美「……忘れてくれる?」

P「え……っと」

留美「……」

P「……」

留美「やっぱり忘れないで」

P「え?」

留美「忘れられたら困るわ」

留美「貴方の瞳の中に映っている私が……あまりに切なげな顔をしてるんだもの」

P「っ……」

留美「ふふ、少し意地悪をしてしまったわね」

P「いえ……」

留美「その代わり、私もP君が反省してる部分については、見逃してあげるから……ね?」

P「はい……」

留美「と言うより、これは……何というか」

P「?」

留美「弱みよ……そう、弱み」

留美「……貴方に握られてしまった弱み」

P「わ、和久井さん、その話はもう」

留美「違うの……そうじゃなくて……」


留美「……れた弱みってやつなの」


P「え……よく聞こえな」

留美「」ペシッ

P「あいたっ!」


留美「……馬鹿」カァア


凛「……」

愛海「……」

留美「……さて。もういい加減遅い時間になってしまったわね」

留美「私はそろそろお暇させてもらうわ。二人も……今日はお疲れ様」

凛「あ、はいっ」

愛海「……ッス」


留美「芳乃ちゃんも……ばいばい」フリフリ

芳乃「でしてー」フリフリ


P「和久井さん」

留美「P君……『また今度』ね」

P「!?」


留美「それじゃあ」


ガチャッ


バタン…

P「………」

愛海「………」

芳乃「………」


凛「……で、どうするの?」

P「……」

凛「まだ続ける気? もう限界なんじゃない?」

P「……そうだな。危険があることだってわかったし……色々考えなくちゃならないことも」

凛「……和久井さんの事とかね」

P「うぐっ」

凛「まあ、それを言い出したら和久井さんだけじゃないけど。拓海さんとのことだってそうだし」

凛「……あと私のことも」ボソッ

愛海「そうだね……ここいらが限界かもしれないね……」


愛海「うん、今日のところはこれくらいにしとこっか」


凛「……は?」

凛「いや、は?」

愛海「一日にそう何人とも絡めないよね、最初はこんなもんだよ、上出来上出来。でもこれから徐々にペースを」

凛「それってこのゲームやめないってことじゃん!!」

愛海「……ふぇ?」

凛「『ふぇ?』じゃないよ! なんで急に可愛いキャラ出してくるの腹立つ!!」

愛海「まぁまぁ。今はまだ最初だから拙い部分もあるかもしれないけど徐々に良くなってくるから、そういう時期だから」

凛「言っておくけど認めてないからね!? 私反対だからね!?」

愛海「ふにゅぅ~~~」ウルウル

凛「くぅうううっ……ねぇ芳乃はどうするの! まさかこれ以上」

芳乃「わたくしは、痛感したのでしてー……己の未熟さをー」

凛「へっ」

芳乃「ならばこそ、さらなる修練のためー、一度とおくの方へー」

凛「どこ行く気なの!? あっ、それってつまり芳乃もやめないってことじゃ」

芳乃「ふにゅー」

凛「可愛いけど! 可愛いけどさ!!」

P「よし、今日は一度解散だ。それぞれ考えを深めてまた持ち寄ろう」

凛「ただの先延ばしだよそれ! プロデューサーそういうとこダメだよ!」

愛海「よーっし、あたしも身体が火照ったままだから、お風呂行って女体浴びてこよーっと」

凛「は、犯罪者が……」

芳乃「わたくしもー、何やら夏に大きなお祭りがあると聞きましたのでー」

凛「こっちはこっちでっ……! というか例のあの二人どこ!? 私言うことあるから!!」

芳乃「凛もおいでー」

凛「え、うん……いや行きたくない! ていうか止める!!」

芳乃「行きたくはないのですかー……」シュン

凛「やっ、あ……だから」

芳乃「……」プクー

凛「それ卑怯だよもおぉ……!」

愛海「じゃあねー、今日はお疲れ様ー」

凛「ああぁアッチの犯罪者が」

芳乃「ねーねー」クイクイ

凛「わかったから! わかったからちょっと待ってお願い!」


P「なんだかんだ仲良くなったよな、お前たち三人も……うんうん」

凛「いや、これそういうんじゃなくてっ……違うからっ……あああぁもうっ!」



凛「いい気分しないーーーっ!!」




                             

                                  おしまい

かなり長くなってしまいましたが読んでくださった方ありがとうございました
人選は完全に趣味です
しばらくしたらHTML依頼出してこようかと思います

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