「あ、あの……絢瀬先輩」【ラブライブ!】 (58)

絵里「どうかした?」

「こ、これ!」ズイッ

絵里「え? えっと……手紙?」

絵里(ハート形のシール……もしかしてラブレター…?)

「東條先輩に渡して欲しいんです!」

絵里「……えっ? の、希に?」

「はい! あの…私、勇気が出せなくて…自分じゃ渡せなくて…」

絵里「そ、そう……分かったわ。ちゃんと渡しておくから」

「ありがとうございます!」

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―――――


絵里「…というわけで、はい。確かに渡したわよ」

希「ありがとう。…にしても、珍しいね。いつもは逆やのに」

絵里「逆?」

希「エリち宛のお手紙をウチが代わりに受け取ることは、よくあるやん」

絵里「ああ、そういうこと。…希はそういう手紙もらうのは初めて?」

希「んー……そうやね。言葉で伝えられることはあるけど、こういう形は初めてかも」

絵里(ラブレターの内容を言葉で伝えられるって……こ、告白ってこと?)

絵里(希が告白されたことがあるなんて……何で黙ってたのかしら……いや、別に言う必要もないんだけど…)

希「さて、じゃぁ今日も頑張ってお仕事終えて、はよμ'sの練習に行こ」

絵里「え、えぇ…そうね」

希「?」




絵里(よく考えれば、希は誰にでも優しいし、世話焼きだし、私と違って話しかけやすい雰囲気だし、誰かに好かれてたって不思議ではないのよね…)

絵里「…むしろ、何故今までそんなことに気が付かなかったのかしら…」ハァ

希「え?」

絵里「あ、いや……なんでもないわ。ごめんなさい」

絵里(思わず心の声が…)

希「それにしても、今日は早くにお仕事終わってよかったね。たっぷり練習できるし」

絵里「そうね。…でも、希はどちらかというと穂乃果や凛とサボってる側じゃなかった?」

希「そ、そんなことないよー…?」

絵里「たまには真面目にならないと、いつか海未の雷が落ちてくるわよ」

希「気をつけまーす…」

絵里「……ねぇ、希」

希「ん?」

絵里「………ら」

希「ら?」

絵里「らぶ…れたーって、どう、思う?」

希「え? …青春やなぁって思うけど?」

絵里「そ、そう」

希「うん」

絵里(…何やってるのよ私……希にさっきの手紙のこと聞きたかったのに…)

絵里(何が、ラブレターってどう思う?よ…。唐突に変な質問するから希もちょっと戸惑ってたし…)

希「エリちは?」

絵里「え?」

希「ラブレターって、どう思う?」

絵里「あ、えっと……」

絵里(…この質問って、されると答えに困るわね…)

絵里「………青春だなぁって…」

希「ふふ、やっぱりそうやんね」

絵里「変なこと聞いてごめんなさい…」

希「ううん、全然。エリちがこの手の話するんは珍しいから答えに詰まっただけやから」

希「ひょっとして、ラブレター絡みで何かあった?」

絵里(あなた宛てのさっきのラブレターが気になるの……なんて、言えるわけないわよね…)

絵里「別に大したことじゃないから気にしないで」

希「ならいいけど。エリちは変なとこ真面目さんやから……何かあったらちゃんと相談してな」

絵里「…ええ、ありがとう」


―――――


絵里「希、あなたがこの間受け取った手紙。あれはラブレターだったんでしょ?」

絵里「どんなことが書いてあったの? 差出人は誰? なんて答える気なの?」

絵里「あと、前に告白されたって言ってたけど、それは誰から? もちろんその告白は断ったのよね? まさか付き合ってなんかいないわよね?」

絵里「………って、希に聞いたら、どうなると思う?」

にこ「知らないわよ」

絵里「バッサリね…」

にこ「あんたが珍しく相談があるって言うから何かと思ったら……」

絵里「そ、そんなに呆れた目で見ないでよ……真剣に悩んでるんだから」

にこ「真剣ったって……大体、なんでにこに聞くのよ。希と直接話に行けばいいじゃない」

絵里「いや、だって……嫌われたら嫌だし…」

にこ「あんたって変なとこヘタレてるわね…」

絵里「…にこだって、好きな人に嫌われるのは嫌でしょう?」

にこ「にこは嫌われるようなこと聞いたりしないし」

絵里「……やっぱり、友達なのにしつこく詮索するのは変かしら…」

にこ「まぁ一般的に見れば変でしょうね。ただ、希相手なら平気じゃない?」

絵里「どうして?」

にこ「希ってなんか……あれよ」

絵里「どれ?」

にこ「……Mっぽい」

絵里「……」スス…

にこ「…なんでちょっとヒいてんのよ」

絵里「ごめんなさい…想定外な答えだったから、つい…」

にこ「言っとくけど、変な意味じゃないわよ」

にこ「ほら、希の親って転勤族でしょ。だからずっと転校続きで、友人関係も長続きしなかった」

絵里「前に言ってたわね」

にこ「だから今の環境に対して依存度が強いと思うの」

絵里「依存度?」

にこ「ええ。まぁ依存は言い過ぎかもしれないけど……今を大切にしてるってこと。今の居場所と、あんたを含めた今の友達」

にこ「だから絵里が多少重くても、あいつは逆に喜ぶと思うわよ。エリちが自分に関心持ってくれてるーって」

絵里「お、重いって……失礼ね」

にこ「ラブレター一つでそこまで騒ぐのは十分重いわよ」

絵里「……本当に嫌われないかしら」

にこ「多分大丈夫だってば」

絵里「けど…」

にこ「別にそんなに嫌なら無理にとは言わないわよ。希が誰かに取られてもいいってんなら、ご自由に」

絵里「……」


―――――


絵里「の、希!」

希「ん? あ、エリち。どうしたん?」

絵里「あ、あのね…私、希に話が…」

希「話? …そうや、その前にちょっといい?」

絵里「なに?」

希「えっと………」ガサゴゾ

希「あ、これこれ」スッ

絵里「…手紙?」

希「うん。今朝な、廊下で頼まれてん。エリちに渡してくださいって」

絵里「そう……ありがとう」

絵里(…やけにおしゃれな封筒……なんだか良い香りもするし…これってやっぱり…)

希「やっぱりエリちは人気者やなぁ」

絵里「え?」

希「ラブレター。今月だけでもう何通ももろてるんやろ?」

絵里「…そんなに大した量ではないわ」

希「それでもすごいて。女子校だけでこれやし、エリちが共学に行ってたらもっと人気者やったんやろうね」

絵里「…そんなこと…」

絵里(そんなこと、あるはずない。私が周囲にとけこめるようになったのは、希と出会えたおかげなんだから)

希「ところで、エリちの話って?」

絵里「あ…えっと…」

絵里(この間のラブレターのこと、聞かないと…)

絵里「……」

希「?」

絵里「……希は、どう思う?」

希「なにが?」

絵里「私が…こういう手紙をもらうこと」

希「え?」

絵里「……」

絵里(な、なに言ってるの私……どう思う?って、そんなの……希にどう答えてもらいたいのよ…)

希「えっと……さっきも言ったけど、すごいなぁって思てるよ」

絵里「すごい…」

希「うん、すごい。誇らしい、っていうのもあるかな」

絵里「誇らしい?」

希「えっと、友達がすごいと、自分までなんか誇らしくなるっていうか…」

絵里「ああ…何となく分かるわ」

希「やからエリちが人気あることも誇らしいよ」

絵里「…そう」

希「……エリち、何かあった?」

絵里「え、いや、別に……。…どうして?」

希「この間からなんか元気ないというか、変な感じやったから」

絵里「…なんでもないの。心配かけてごめんね」

希「いや、別にそれはいいんやけど……」



―――――


デハ、シバラクキュウケイニシマス

ワーイ、キュウケイダニャー!


絵里(入学当初、変に気を張って周囲から浮いてしまっていた私を一番気遣って、一番たくさん声をかけてくれたのは、希だった)

絵里(希と出会って、友達になって、徐々にみんなとも打ち解けて、一緒に生徒会に入って、μ’sとして活動して……私の高校生活の思い出には常に希がいた)

絵里「……もうすぐ、高校も卒業しなくちゃいけないのよね…」

にこ「…何よ急に。練習のし過ぎでおかしくなったの?」

絵里「急に感慨に浸りたくなったの」

にこ「はあ……まぁそれは自由だけど……あんた、ひどい顔してるわよ」

絵里「ひどい顔って…失礼ね。悩める乙女の顔って言ってよ」

にこ「呼び方はどうでもいいけど……、どうせまた希のことでしょ?」

絵里「……聞いてくれる?」

にこ「聞くだけならね」

絵里「ありがとう。……希がね、私がモテるのは、誇らしいって」

にこ「……それが?」

絵里「……脈なしってことよね?」

にこ「決めつけなくてもいいでしょ」

絵里「だって、希は私がラブレターもらっても、告白されても…その、嫉妬したりとか…しないってことだし…」

にこ「…別にそういうことではないんじゃない?」

絵里「でも、誇らしいって…」

にこ「誇らしいって言っただけで、妬いてないとは言ってないでしょ」

絵里「それはそうだけど……希がヤキモチなんて、絶対ないでしょ……希は私のこと、そういう意味では好きじゃないんだし…」

にこ「……はぁ…」

絵里「…何よ、その盛大な溜息は…」

にこ「あんたたちって、ほんっとにめんどくさいわね」

絵里「あんた…たち?」

にこ「にこにグチグチ言ってる暇があったら、さっさと希のところに行ってきなさいよ。ほら、あそこにいるわよ」

絵里「希…」チラ


希「わしわしー!」ワシワシッ

凛「にゃあああっ!!」ビクッ

希「んー、凛ちゃんは相変わらずやなぁ」

凛「もー! 希ちゃん急に触るのはやめてよー!」

希「じゃぁ確認とったらいいん?」

凛「よくないよ!」


絵里「……」

にこ「……絵里」

絵里「…なに?」

にこ「まさか凛に嫉妬してたりしないわよね?」

絵里「……まさか」ソラシ

にこ「あんなの、ただじゃれついてるだけじゃない」

絵里「それは分かってるけど……希が楽しそうだから…」

にこ「私といるとき以外は常に暗い顔してて…って、言いたいわけ?」

絵里「そこまでは言わないけど…」

にこ「はぁ…」

絵里「また溜息…」

にこ「もーいいから、ほら、さっさとあいつのとこ行ってきなさいよ」

絵里「わ、分かってるわよ」

絵里(…でも、凛と楽しそうにじゃれてるし、あんまり邪魔したくないのだけど…)チラ

希「!」

絵里(ま、まずい…目があっちゃった……いや、別にまずいことは何もないけど…)

希「エリち、練習お疲れ様ー」テクテク

絵里「の、希も、お疲れ様」

絵里(希の方からこっちに来てくれた…!)

希「ありがとう。いやー、今日も海未ちゃんの指導は厳しいね」

絵里「そ、そうね」

にこ「…あんた、なんでいちいちドもってんのよ」

絵里「好きでどもってるわけじゃないわよ…」

希「あ、にこっちもお疲れさんー」

にこ「はいはい、お疲れさん。じゃ、にこは向こうに移動するから、二人でごゆっくり」

絵里「え、ちょ、ちょっと、にこ…」

絵里(…って、本当に行っちゃったし…)チラ

希「?」

絵里(の、希と二人きり……)

希「にこっち、向こうに何か用でもあったんかな」

絵里「さ、さぁ?」

希「んー…まぁえっか。そういえばエリち、さっきにこっちと何か話してへんかった?」

絵里「え、ええ、まぁ……世間話を少々」

希「エリちとにこっちが世間話……なんかイメージわかへんなぁ…」

絵里「そうかしら? …希の方は、なんだか楽しそうだったわね。…その、凛と、色々」

希「あ、見てたん? いやー、凛ちゃんは相変わらずの触り心地やったよ」

絵里「そう……」

希「……エリち?」

絵里「なに?」

希「やっぱりエリち、なんか元気が…」

穂乃果「絵里ちゃん、希ちゃん、助けて!!」ダキッ

希「ぅわっ!? ほ、穂乃果ちゃん……急に抱きついてきたらビックリするやん…」

穂乃果「だってだって、海未ちゃんが!」

絵里「海未がどうしたの?」

穂乃果「穂乃果だけ後半の練習メニュー倍にするって!」

絵里「それはまた……」

希「何をしでかしたらそんなことに…?」

穂乃果「明日提出の宿題が二つあって、そのノートをうつさせてって頼んだら、穂乃果はたるみすぎですって言われちゃって…」

希「気持ちは分かるけど……それは怒られるやろうね…」



―――――


絵里(今日こそは希に、あのラブレターのことを聞かなくちゃ…)テクテク

絵里(希はいつも私より早くに登校して来てる……きっともう教室にいるはず)

絵里(希に会ったら、まずは挨拶。その後、自然にラブレターの話題を提示して、さりげなく聞きだす……完璧だわ)

絵里(……よし)ガラッ

絵里「のぞ……み?」

絵里(誰かと話して……って、あれってどう見てもにこよね。にこが私より早くに来てるなんて珍しい…)


にこ「大体………、…たは、……ぎんのよ」

希「……んなん………、……ーんやもん」


絵里(距離があるから、声はよく聞き取れないけど……二人の表情くらいは見える)

絵里(……なんで希の頬があんなに赤く染まってるの? にこのほうは、なんか意地悪な顔してるけど…妙に楽しそうだし…)

絵里(一体二人で何の話を……)


希「…? あ、エリち!」

絵里「の、希……おはよう」

希「おはよー」

にこ「絵里、早いわね」

絵里「にここそ、今日はやけに早いじゃない」

にこ「にこはたまたまよ。じゃ、絵里も来たことだし、自分の席に戻るわ」

希「え、いや、にこっち。三人でお話せーへん?」

にこ「お断りします。じゃーね」

希「ああ……もう、にこっちってば…」

絵里「……希」

希「ん?」

絵里「…今、にこと何話してたの?」

希「あー……えっと、世間話、かな」

絵里「…そう」

絵里(普通、あんな顔して世間話したりしないわよ…)



―――――


絵里(希のあの表情……希はにこのことが好き…なのよね)

絵里(まぁ、μ’sが出来る前から二人は仲が良かったみたいだし、にこはぶっきらぼうだけど面倒見がいいし………希が惹かれるのも…分かる…けど……)

絵里(で、でも、にこの方にそんな気はないはずよね……恐らく)

絵里(だとしたら希が報われる可能性は低い……それならいっそ、私が希に告白して……)

絵里「……」

絵里(…告白して、どうするっていうのかしら…)ハァ

希「…エリち、溜息ばっかりついてると、幸せが逃げて行ってしまうよ?」

絵里(誰のせいよ……なんて、言うつもりはないけど…)

希「…やっぱり何か悩み事?」

絵里「…悩み、というほど、大層なものでもないけどね…」

希「ウチで力になれるなら、話聞くけど…」

絵里「……ありがとう」

絵里(希に心配をかけてしまっているのは心苦しいけど……本人に相談出来れば、苦労しないのよね…)ハァ…

希「エリち…」


―――――


絵里「……私、決めたわ」

にこ「何を?」

絵里「希のことを応援する」

にこ「応援?」

絵里「希の恋を応援するってことよ」

にこ「……は? あんた、あいつが誰のこと好きか気付いたの?」

絵里「ええ。私はそこまでニブくないもの」

にこ「あっそ。…ちなみに、応援って一体何する気よ」

絵里「特に決めてはいないけど……まぁ、希が相談してくれたら、全力で応えるつもりよ」

絵里(ただ、協力してほしいって言われたら、ちょっと悩んじゃうけど……いや、絶対無理ね…途中で心が折れるわ…)

にこ「……相談、ね」ハァ

絵里「な、なによ、その溜息」

にこ「いや……あんたってやっぱりニブいわ」

絵里「…どういう意味?」

にこ「別にー」

絵里「別にって……、それより、にこ」

にこ「何よ」

絵里「希のこと泣かせたら、私が許さないから」

にこ「………なんか、頭痛くなってきたわ」

絵里「え……大丈夫? 風邪?」

にこ「あんたたちのせいでしょ…」

絵里「?」


―――
――



絵里(せっかくの日曜日だし、どこかに出かけようかしら…)

絵里(とはいっても、亜里沙は雪穂ちゃんと買い物に行っちゃったし……)

絵里(希……は、ダメよね。諦めるって決めたんだから、学校以外では極力会わないようにしないと、決心が揺らいじゃいそうだし…)

絵里(にこは…さすがに気まずいわね。一年生の子たちは今日三人で遊ぶって言ってたし……そうなると、二年生の誰かを…)


メールダヨ! メールダヨ!


絵里(メール? ……にこから? 珍しいわね…)

絵里(何か用なのかしら………、……え?)



―――――


絵里「……」ソワソワ

絵里(か、髪型、おかしくないわよね……、うん、いつも通りね)

絵里(服も、持っている中で一番気に入ってるやつを選んできたし……身だしなみはバッチリ…な、はず)

絵里(……あとは、来るのを待つだけね)

絵里(…とはいっても、約束の時間まで、あと三十分もあるんだけど。いくらなんでも早く来すぎたわね…)

希「あ、エリちー!」

絵里「の、のののぞみ!」

希「うん、希ちゃんやでー。…ごめん、いきなり声かけたから、ビックリさせちゃったね」

絵里「あ、いや、今のは私が勝手にテンパっただけだから、気にしないで…」

希「ん。それにしてもエリち、随分早いね。ウチのほうが絶対はよ来たと思ったのに」

絵里「あー…今日は、その…適度に、暇だったから」

希「そっか。ウチも今日は何の予定もなかったから、お揃いやね」

絵里「え、ええ。そうね、お揃い」

絵里(…希、いつも通りよね)

絵里(今朝届いたにこのメール……)

にこメール『希がこの間、あんたとデートしたいって言ってたわよ』

絵里(希がそんなこと言うはずないし、十中八九にこの冗談だろうし、そもそも希に好かれているにこに言われたのがちょっと気に入らなくて、抗議のメールを返そうとして…)

絵里(何故かその後すぐに希からメールが届いて……それが、一緒に買い物に行こうって内容だったから、ビックリして思わずオッケーしちゃったんだけど…)

希「じゃぁエリち、早速お店に行こ。この辺りに可愛い小物売ってるとこがあんねん」

絵里「…希。その前に一つ、聞いてもいいかしら?」

希「うん。なに?」

絵里「今日の買い物、私が相手でよかったの?」

希「…どういう意味?」

絵里「いや……その、もっと他に、一緒に行きたい人がいたんじゃないの? その……にこ、とか」

希「にこっち? んー……にこっちと遊ぶんは楽しいけど、今日行くところはあんまりにこっちの好みじゃなさそうなところやから」

絵里「あ、なるほど…」

絵里(だから私なのね…。…そりゃそうよね。希はにこが好きなんだし、私は良くて二番手ってところだろうし…)

希「……それに、最近μ’sの練習とかで忙しくて、あんまり二人で遊ぶ時間がなかったから、ちょっと寂しかったん」

絵里「えっ」

希「…そんなに驚いた顔せんでもいいやん。ウチかて寂しい思うことはあるんよ?」

絵里「いや、だって……」

絵里(希は、あくまで友達と遊べる時間がなくて寂しい、って意味で言ったんだろうけど……)

絵里(それでも私はすごく嬉し……って、そうじゃなくて! 希のことを応援するって決めたんだから、ちゃんと希のことは諦めないといけないのに…)

希「…なんか、最近のエリちは難しい顔してるね」

絵里「…私は元々難しい顔してるわよ」

希「んー………えいっ」クイッ

絵里「……希」

希「ん?」

絵里「何故、私の口角を上げるの?」

希「いや、こうしたら笑ってるように見えるかなぁって」

絵里「口だけ笑ってたって、怖いだけでしょ」

希「それもそうやね」パッ

希「けど、エリちは笑ってた方が可愛いよ」ニコー

絵里「っ……、ど、どうせ、普段の顔は可愛くないわよ」

希「もー、そういう意味で言ったわけやないってば」

絵里「いいから、ほら、さっさとお店に案内してよ」

希「はーい」テクテク

絵里「……」

絵里(な、なによ、今の顔! あの笑顔! 笑った方が可愛いのは希の方でしょ!? あ、いや、でも希が私のこと可愛いって言ってくれた…!)

希「エリちー? 早くこーへんと、おいてくよ?」

絵里「い、今行くわ」

絵里(…希が、にこを好きじゃなければよかったのに…)


―――――


絵里「へぇ……確かに可愛いわね、この雑貨屋さん」

希「やろ? 友達に教えてもろたんよ。おすすめやって」

絵里「ふーん…」

絵里(…あ、このストラップ可愛い)

希「ふふ。これとか、エリちの好みやろ?」

絵里「……なんで分かるの?」

希「そりゃぁウチはスピリチュアルガールやからね」

絵里「それ、便利な言葉ね」

希「やね。…まぁ本当のことを言うなら、エリちのことやから」

絵里「…私のことだから?」

希「うん。この三年間、ずーっとエリちのこと近くで見てきたから。なんでもお見通しなんよ」

絵里「……そ、そう。ま、まぁ、一年生からの付き合いだものね」

希「そうやねー。最初はかったーい顔してたエリちも、今はこんなフニャフニャになったし」

絵里「フニャフニャって…」

希「μ’sのみんなの前ではフニャフニャしてるやん? 優しいお姉ちゃんって感じで」

絵里(ああ、褒めてくれてたのね……なんて分かりにくい…)

絵里「…そうなれたのも、希のおかげよ」

希「ウチは何もしてへんよ」

絵里「そんなことないわ。…少なくとも、私はあなたに感謝してる。希に会えなかったらって思うと、ゾッとするくらい」

希「…それは、なんていうか…光栄やね?」

絵里「なんで疑問形なの?」

希「いやー…なんとなく、かなぁ」

絵里(…耳が赤い…ってことは、照れてるのかしら。いつも飄々としてるけど、意外と体は正直なのね)

絵里「………可愛い」ボソリ

希「え?」

絵里「あっ、い、いや、なんでもないわ」

希「ならいいけど……あ、向こうの方も見てみーひん?」

絵里「ええ、行きましょう」

絵里(思わず本音が出てしまったけど……気を付けないと)



凛「あれ? 絵里ちゃん? 希ちゃん?」

絵里「え? あ…凛?」

希「それに、花陽ちゃんに真姫ちゃんも」

花陽「こんなところで会うなんて奇遇だね」

希「三人で買い物するとは聞いてたけど、まさか一緒のところやとは思わへんかったなぁ」

真姫「…絵里と希は二人で来たの?」

絵里「ええ」

希「ウチの買い物にエリちが付き合ってくれてるんよ」

真姫「ふーん。……もしかして、デートなの?」

絵里「!?」

絵里「ち、ちちち違うわよ! そんなわけないでしょ! ありえないわ!」

花陽「え、絵里ちゃん、そんなに強く否定しなくても」

凛「絵里ちゃんは照れ屋さんだねー」

絵里「べ、別に照れてるわけじゃ…!」

絵里(私とデートなんて、そんなの希が嫌がるに決まって…)

希「ウチもエリちとデートしてるつもりやったんやけどなぁ…」

絵里「えっ!?」グルンッ

真姫「すごい勢いで振り向いたわね…」

凛「ついでにすごい表情してたにゃ…」

希「…でも、ウチじゃエリちとは釣り合わへんもんね」

絵里「そ、そんなわけ…! …大体、釣り合わないのは、私のほうでしょ…」

希「え?」

絵里「え? だって、希には…その、他に、相手が…」

希「相手…?」

絵里「え、えっと…」

絵里(凛たちの前で言っていいものなのかしら…)

真姫「……」

真姫「凛、花陽。私、お腹がすいた」

りんぱな「えっ?」

真姫「今すぐ何か食べたいわ。悪いけど、どこか別のお店に行きましょう」

凛「いいけど…真姫ちゃんがそんなこと言うなんて珍しいね?」

真姫「いいから行くわよ。空腹で倒れそうだから、早く」グイ

凛「わ、分かったから引っ張らないでよー」

真姫「じゃぁ絵里、希、また学校でね」

絵里「え、ええ、また…」

希「ま、また明日」

絵里(真姫、急にどうしたのかしら……朝ごはん食べてなかったとか…?)


―――――

真姫「……この辺でいいかしら」

凛「え? でもこの辺り、食べ物屋さんないよ?」

真姫「…凛、さっきの言葉、本当に信じたのね…」

凛「へ?」

花陽「お腹がすいたっていうのは、真姫ちゃんの嘘だったんだよね」

凛「えっ、なんでそんな変な嘘を?」

真姫「…別に」

凛「別にって……気になるにゃー…」

花陽「まぁまぁ凛ちゃん。…真姫ちゃんには何か事情があるんだよね?」

真姫「ええ」

真姫(…まぁ、にこちゃんに頼まれただけなんだけど)

真姫(三年生だっていうのに、あの二人は本当に手がかかるわね…)


―――――

希「んー……疲れたー…」ノビー

希「ごめんねエリち。今日は一日付き合わせてしもて…」

絵里「気にしないで。私も私の買い物をしたし、どうせ暇だったし」

絵里(…それに、希になら、どれだけ付き合わされたって平気だし……っていうのは、さすがに言えないけど)

希「……そういえば、最初に行ったお店で凛ちゃんたちに会ったやん?」

絵里「ええ」

希「その時、エリちが言ってた『相手』って、結局誰のことやったん?」

絵里「……え?」

希「覚えてへん? ほら、ウチらお互いに釣り合わへんとか言い合ったやん」

絵里「いや、覚えてはいるけど……、……それ、言わなきゃダメ?」

希「ウチは気になるかな」

絵里「……」

絵里(わざわざ私の口から言わせるなんて……自覚がないにしても…酷いわね)

希「……エリち」

絵里「…希は、にこが…好きなんでしょ」

希「……」

絵里「……」

希「……」グニ

絵里「……のふぉみさん」

希「なに?」

絵里「なふぇ、ほほをひっはるほ?」

希「ごめん、なに言ってるか分からへんから放すね」パ

絵里「何故、頬を引っ張ったの?」

希「いや……ちょっとだけ、ムカッとして…」

絵里「ムカッとって……私、そんなに変なこと言った…?」

希「……一つ聞きたいんやけど、ウチがにこっちを好きって情報、どこから聞いたん?」

絵里「誰からって……、別に誰からも聞いてはいないけど…」

希「なら、エリちの推測?」

絵里「…うん」

希「………はぁ」

絵里「な、なんで溜息つくのよ…」

希「だって……ウチとにこっちのどこをどう見たら、そういう推測が出てくるんかが分からんし…」

絵里「だ、だって! 希とにこは付き合いも長いし…しょっちゅうにこにちょっかいかけてるし、よく一緒にいるし……それに、にこは優しくて、良い子だし…」

希「……エリち」

絵里「…なに?」

希「ウチ、今から変なこと言うから」

絵里「変なこと?」

希「お願いやから、黙って聞いてて」

絵里「……分かった」

希「ありがとう。……ウチとにこっちは、確かに付き合いは長いよ。けど、それはエリちかて一緒やん」

希「ちょっかいかけてるのも、友達として仲が良いから。よく一緒にいるのも同じ。…そもそも、エリちと一緒にいるほうが多い気もするけど…」

絵里(…言われてみればそうね…)

希「にこっちが優しくて良い子っていうのも、合ってる。ウチはにこっちのこと好き。けどそれはやっぱり友達としてやから」

希「……ウチが好きなんは、昔からずっと一人だけなんよ」

絵里(……やっぱり、好きな人はいるんじゃない…)

絵里(…でも、今なら……希の好きな人が分からない今なら、せめて私の気持ちを伝えるくらいのことは出来るかもしれない)

絵里「……希」

希「エリち。黙って聞いて」

絵里「けど、私、希に言いたいことが…」

希「エリち」

絵里(……やっぱり、伝えることさえ出来ないのかしら…)

希「ウチは、エリちのことが、好きです」

絵里「……」

絵里「………」

絵里「…………えっ?」

希「…随分、長い間やね」

絵里「だ、だって……え、の、希、今なんて…」

希「…二度も言いたくない」

絵里「…希」

希「っ……ご、ごめんね、いきなりこんなこと言われても迷惑やんな」

希「忘れてもいいから。…えっと、じゃぁ今日はこれで…」

絵里「…待ってよ」グイ

希「…腕掴まれると動けんのやけど」

絵里「待ってほしいんだから、動けなくていいのよ」

希「…ウチ、我慢強いほうやけど、さすがに今は泣きそうなん」

絵里「…泣く必要なんてないわよ。私も希が好きなんだから」

希「……えっ?」

絵里「…好きよ、希。…ずっと言いたかったの」

希「え…いや、でもエリちは…」

絵里「エリちは?」

希「ウチのことなんて……」

絵里「なんて、っていう言い方はやめて。…私が、す、好きになった人は…その……す、素敵な、人、だから…」

希「……」

絵里「……何か言ってよ」

希「いや、恥ずかしいなぁと…」

絵里「わ、私の方が恥ずかしいわよ!」

希「それもそうやね……えっと……、ようするに、エリちもウチと一緒の気持ち…って解釈であってる?」

絵里「ええ。…その、りょ、両想いって、ことよね?」

希「う、うん」

絵里「……」

希「……」

絵里(両想いってことは、付き合うってことでいいのよね? ということは、だ、抱きしめてもいいのよね?)

絵里(……ああでも、そんなこと恥ずかしくて聞けない…!)

希「…エリち」

絵里「は、はいっ」

希「その……こ、これからも、よろしくお願いします」ペコリ

絵里「あ、いえ、こちらこそっ」ペコッ

希「…えへへ、なんかこういうの、照れくさいね」

絵里「そ、そうね。…なんか、熱くなってくるわ」

希「ん。……けど、嬉しい。エリちと同じ気持ち」

絵里「っ……、わ、私も、嬉しいわ。希と一緒で」

絵里(今ならいける……この雰囲気なら、抱きしめられる…)ソロー…

希「エリち」

絵里「な、なにっ!?」サッ

希「じゃぁ今日はここで」

絵里「えっ!?」

希「ど、どうかした?」

絵里「いや、だって…」

絵里(せっかく想いが通じ合ったのに……ハグもなしなんて…)

希「エリち?」

絵里「あ、いや……、……また、明日」

希「うんっ、また明日!」

絵里(……希のテンションがいつにも増して高かった。…あれは、喜んでるってことでいいのよね…?)

絵里(……私、希と付き合うのよね? 両想いなのよね…)


―――――


絵里「というわけで、昨日は幸せをかみしめている間に夜が明けていたわ」

にこ「…だからさっき、あくび連発してたの?」

絵里「ええ。寝てないから」

にこ「…バカなの?」

絵里「心外ね」

にこ「まぁなんにしても、ようやくあんたたちがくっついたみたいで安心したわ」

絵里「…ごめんなさい。にこには色々と迷惑をかけて…」

にこ「今度、何かおごってくれたら許すわ」

絵里「…あなたって本当に良い人ね」

にこ「気持ち悪いからしみじみ言わないで」

絵里「にこにもそのうち、別の形で恩返しするから」

にこ「別の形?」

絵里「たとえば……にこに好きな人が出来た時とか」

にこ「残念。にこにーはアイドルだから恋はしないの」

絵里「もしもってこともあるじゃない」

にこ「ないと思うけどね」

にこ「…あ、そうだ。後で真姫ちゃんにもお礼言っときなさいよ」

絵里「真姫に?」

にこ「昨日、ちょっとだけ協力してもらったのよ」

絵里「……ああ、あのお店で真姫たちと会ったのは偶然じゃなかったのね」

にこ「ええ。適当にあんたたちの気分を上げといてってお願いしたの」

絵里(なるほど。だからあの時、デートなの?なんて、真姫らしくない質問をしてきたのね)

絵里「今度、改めてお礼を言っとくわ」

にこ「そうしてあげて」

絵里「それにしても、よく私たちがあのお店に行くって分かったわね」

にこ「あのお店には絵里好みの雑貨がたくさん置いてあるわよ…って、事前に希に伝えてたから。あいつ単純だしね」

絵里(…希が言ってた友達っていうのは、にこのことだったのね)

絵里「……」

にこ「…なによ、その目は」

絵里「やっぱり二人は仲が良いんだなぁと思って…」

にこ「変なとこで妬かないでよ。こっちが迷惑」

絵里「でも…」

希「あ、エリちー、にこっちー、おはよー」

絵里「希っ! おはよう!」

にこ「おはよ」

希「二人が朝から一緒なんて珍しいね」

にこ「まーね」

絵里「ちょっとにこに用があったから」

希「…用って?」

にこ「希まで変な嫉妬すんのはやめてよ?」

希「し、嫉妬って……嫌やなぁにこっち、ウチがそんなんするわけないやん?」

にこ「どうだかね…」

にこ「とりあえず、にこはバカップルに巻き込まれたくないから、先に学校行ってるわよ」

絵里「え、ちょっと、にこ…」

にこ「じゃ、またあとで」ダッ

希「………行ってしもたね」

絵里「そうね」

希「にこっちに悪いことしたかな…」

絵里「後できちんと謝りましょう」

希「うん」

絵里「……そ、それにしても、二人きりね」

希「え? あ、うん、そうやね」

絵里「…意外と冷めた反応ね」

希「いや、なんか実感なくて…」

絵里(まぁ私もしばらくは実感なかったしね……一晩経って、ようやく実感したけど)

希「……でも、やっぱりすごく嬉しい」

絵里「うん、私も」

絵里「……あ、あの、希」

希「ん?」

絵里「その……わ、私たち、もう両想い、だから、その…」

希「うん」

絵里「……て、てて…手を……つなっ、つなっ…! …な、なんでもないわ」

絵里(やっぱり恥ずかしくて言えない…)

希「……エリち」

絵里「?」

希「エリちさえよかったら…手、つながへん?」

絵里「えっ…い、いいの?」

希「もちろん。じゃぁエリちのお手を拝借ー」ギュ

絵里「っ……、あ、ありがとう」

希「お礼言うのはむしろこっちのほうやん? エリちと手繋げて、ウチ幸せやもん」

絵里「希ぃ…」

絵里(希ってホント女神みたい………そりゃこの間の子だって、希にラブレターを送りたくもなるわよね)ウンウン

絵里「…………って、あぁっ!!」

希「ど、どうしたん?」

絵里「すっかり聞くの忘れてたんだけど……希にずっと聞きたいことがあったの」

希「なぁに?」

絵里「えっと……その、ほら、この間、私が希への手紙を預かったことがあったじゃない」

希「ああ…うん。それがどうかした?」

絵里「…あの手紙、なんて返したの?」

希「へ? 返してへんよ?」

絵里「え? な、なんで?」

希「だってあれ、ファンレターやもん。それに、お返事はいいって、お手紙にも書いてあったし」

絵里「…………ふぁん、れたー?」

希「うん。μ’sのファンの子やったみたい。いつもPVとかライブとか見てくれてるんやて」

絵里「あ……そ、そう……」

絵里(なんだ……ただのファンレターだったのね…)

希「…もしかしてエリち、あれがラブレターやと思ってたん?」

絵里「う……仕方ないじゃない…封筒も可愛い感じだったし、ハートの形のシールまで貼ってあったし…」

希「女の子は可愛いの好きやから、深い意味はなかったんちゃうかな。けど、ラブレターやったとしても返事は分かりきってるやん」

希「ウチが好きなんは、これまでもこれからも、ずっとエリちだけやもん」

絵里「の、希……」

絵里(ああああ可愛い……抱きしめたい……けどここは道端だし…!)

絵里「……私、希と付き合えて幸せ」

希「へ? な、なに急に……、…そりゃ、ウチも幸せやけど…」

絵里(耳真っ赤……可愛い………あ、二人きりになれば抱きしめてもいいのよね)

絵里「……今日は学校休みましょうか」

希「あかんに決まってるやん!?」


―終わり―

短いですが終わりです
お付き合いいただき、ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月20日 (月) 02:00:24   ID: kie9DlAD

ハートのシールが貼ってある封筒?ウッ!頭が・・・

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