一夏「こんな世界だったから、俺は呼ばれたのかもな」 (654)

したらばで書いていたのを落としてしまったので、こちらでやります。
ごめんなさい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413291304

こっちの世界に来て…………もうどれぐらいだ…………

時間は何も解決してくれやしない………分かってる。分かってるんだ、そんな事は……………

何やってんだろ、俺………これじゃあ…………

これじゃあまるで…………ただの死に損ないじゃないか…………

でも、どうすればいいんだよ…………俺は、どうすれば『ここ』から抜け出せるんだ…………?

何でだよ…………何で、俺が……………

俺が………俺が一体何をしたって言うんだよ………畜生……………


もういい


もう疲れた………

もう何も感じないでいよう…………

何かを思い出すのも忘れよう…………

その方が…………ずっと、ずっと楽だ…………

その方が………俺は…………生きていけるんだ………

その方がいい………そうだ、『それ』でいいんだ。『そう』でいいんだ…………

その方が………………

千冬「織斑……貴様ァァッ……!!」ドボォッッ

一夏「カッッ………ゲホッゴホッ……ゴボッ……!!」ドサッ

山田「シャルロットさん、早くこっちへ」

シャル「はいぃ………ううっ………」グスッ

千冬「いい加減にしろよ。いつになったら反省、という言葉を覚えるのだ?貴様は」

一夏「ッハァッ ……ハァッハァッ……」

千冬「………おい、織斑、貴様は何故近頃抵抗しなくなったんだ?」グイッ

一夏「…………」

千冬「聞こえなかったのか?」

一夏「聞こえ……て……ます………」

千冬「ならば質問に答えろ」

千冬「何故逃げもしなければ抵抗もしない?お前らしくもないな?」

一夏「……………」

千冬「まあいい、貴様の事だ………せいぜい企むがいい」パッ

千冬「また『あのような事』があれば今度こそ、お前を息の根を止めてやる……覚えておけ」

カツカツカツカツ………

一夏「は……はは………殺してやる、か………」ボソッ


セシリア「フン、私が出るまでもないようでしたね」スタスタ


箒「………」ヂキンッ クルッ スタスタ……


ラウラ「…………」

一夏「うぐっ………!!」グググッ

一夏「…………」フラッ……ヨロヨロ

一夏「ハァ……ハァ……」フラフラ

一夏(千冬姉……本当に殺しにかかってきてるなぁ)

一夏(まだこっちに来た時は……強めに殴る程度で済んでたのに………)

一夏(駄目だ………さっきのが思ってる以上に……応えてる)

一夏(意識が……朦朧とする………)

一夏「ハァ………ハァ………ッハァッ、ハァ………」グラッフラフラ

鈴「邪魔よ、糞野郎」ドンッ

一夏「うあっ………」バタッ

鈴「ふんっ………いい様ね、そのついでにとっととおっ死ね、クズが」ペッ

一夏「………」ベチャ

スタスタスタ…………

一夏「…………」

一夏「は……ははは………ぐッッ……!」グググッ

ヒソヒソヒソ……

一夏(何だよ……こんな俺なんか見て………何だって言うんだよ………見ての通りだよ)

一夏(でも………これでも……まだマシな方だよな………)

一夏(こうなるべきなのは、こっちの世界の俺だよな………)

一夏(こればっかりは言っても仕方ないな)

一夏(頼むから……この先箒とセシリアだけはいないでくれよ………)

フラフラ

一夏「ゲホッゴホッゴホゴホッ!!」

~校舎裏~

一夏「痛いなぁ………千冬姉のパンチ………」フラフラ

一夏「口からもって、どこから血が出てるんだ……これ………」ゴシゴシ

一夏「ああ、やっと………やっとここまでこれた………」

一夏「これで、ようやく一人になれる………誰も………いない」フラフラ

一夏「………ハッ………ハハハッ………」ドサッ

一夏「そういえば………鈴の唾拭かないと………」

一夏「それにしても…………傑作だよな、このままじゃ俺は千冬姉に殺されるのか………ハハハッ」

一夏「ハハハハッ、おっかしいな何だよこれゲホッガボッ……うッッ!!」ゴプッ

ボタボタボタボタ………

一夏「うぅっ!!」ビチャビチャ

一夏「ッハァッ……ハァ………ハァ……畜生………何だよ、何だって血なんか吐いてんだよ………畜生………」

一夏「畜生………このままじゃ………でも………ゲホッゴホッ」

ザッザッザッ………

一夏「………ラウラ………ごめん、今日は出来そうにない………」

ラウラ「…………」

ラウラ「またしても、こっぴどくやられたようだな」

一夏「ああ………入り口で……ばったり会っただけでこれだよ………」

ラウラ「抵抗すればいい。なのに何故しない?」

一夏「無理だよ…………俺がそんな事出来るように見えるか?」

ラウラ「しかし……教官の一撃だけでそうはならんだろ?」

一夏「千冬姉だから、だよ」

ラウラ「フン…………相変わらず強情な奴だ」フキフキ

一夏「何してるんだよ………いいって……ラウラのハンカチが血で汚れるから………」

ラウラ「それがどうした。軍にいた頃はよくあった事だ………それに」


ラウラ「私は、お前が大切だからな」


一夏「ラウラ………」

ラウラ「それにな………んっ」

一夏「んぐっ!?」

ラウラ「んんっ………!はぅ……ちゅ……んん……」ギュッ

ラウラ「ぷはっ!………愛してるから……お前の血でも飲める」

一夏「…………」

ああ、そうか。

やっぱり『そう』なのか、ラウラ。

そんなに………寂しかったのか………

それとも、辛かったのか………

あいつのせいで………

こっちの俺のせいで…………ラウラは………

こんな風に………こうなった…………なってしまったのか………

ラウラ「さあ、ここなら誰も来ない………私とお前、二人っきりでいられる…………」

ラウラ「私を愛してくれ……一夏………」ギュッ

光の消えた虚ろな目で、ラウラが俺を見る。

ラウラ「一夏………」ニコッ

俺はもう、それに慣れてしまっていた。

初めは嫌悪感や恐怖すら感じた。

でも、自分の中で何かがゆっくりと麻痺していったように、何も感じなくなっていた。

一夏「ああ、いいよ」

そして、貪るように俺からの愛を求めるラウラに、俺はされるがままになる。

弄ばれて、感じたくもない快楽を得るだけなのに。

それでも、俺は抵抗する事も出来ないし………しない。

いつもよりおとなしいラウラを抱き締めた。

しばらくして、ラウラが急に俺から離れた。

一夏「ラウラ……どうしたんだ?」

ラウラ「も……もうやめてくれ………私が……私が愚かだった…………」フルフル

一夏「…………」

ラウラ「やめてくれ……そんな顔をしないでくれ………私は…………私はそんな一夏が見たいんじゃない!!」

一夏「何言ってるんだよ、ラウラが俺を愛してるから、俺もラウラをーー」

ラウラ「もういい!もう……いいんだ………そんな嘘の言葉を聞きたいんじゃない!!もうこれ以上………そんな…………」

ラウラ「死んでいくような一夏を見て………いられない…………」グスッ

ラウラ「だから………私のワガママの為にッ………これ以上傷つかないでくれ!!」

一夏「…………」

ラウラ「嫌なんだ…………ひっく………ううっ………一夏ぁ…………」ポロ……ポロ……

ラウラ「嫌なのだろ?………別世界の私が、向こうの世界と同じ顔で、同じ声で……擦り寄ってくるのが………」

一夏「…………」

ラウラ「自分の欲望を満たす為だけに………玩具にされるのが……………」

ラウラ「なのに私は………私はお前の優しさに………弱みにつけ込んで強要した…………」

ラウラ「こんな事したって………私の過去が戻るわけではないのに…………」ポロポロ

一夏「…………」

ギュッ

ラウラ「い、一夏………?」グスッ

一夏「大丈夫、ラウラの為なら平気さ。それよりも続きをーー」

ラウラ「ッ……!!」

ラウラ「やめろと言っているだろ!!」バッ

一夏「ラウラ………待ってくれよ、ラウラ」

ラウラ「く……来るな………」

一夏「俺は全然平気だから、ちょっと血が出るくらいだから、大丈夫だって」フラフラ

一夏「だからさ………おいで、ラウラ」

ラウラ「やッ、やめろ!!来るな!!私のそばに近寄るな!!」

一夏「………」ピタッ

一夏「…………何だよ………今さら俺にどうしろって言うんだよ………」

ラウラ「!!」

一夏「あの鏡さえ…………元の世界に戻れる鏡さえあれば、俺は元いた世界に帰れたのに………」

一夏「それをラウラが壊したんだ」

ラウラ「ち、違う!………私は!!」

一夏「違わなくない!!…………お前が、俺に愛して欲しいから割ったんだろ?」

一夏「俺の逃げ道をなくして、自分だけを見て欲しいから、そうなるようにしたんだろ」

一夏「こっちの世界の俺を愛したから」

一夏「だからそれと同じ顔、声、体をした俺を捕まえた」

一夏「今度は、絶対に捨てられないように、自分から逃さないようにして」

ラウラ「違う………違うんだ………」フルフル

一夏「分かってる。結局のところお前が欲しかったのは『それだけ』だったんだろ?」

ラウラ「違う!!違うんだ!!私はお前をーー」

一夏「分かってるよ。お前が『そう』望んだんだから、俺はそれに応えてるんだよ」

一夏「ラウラ………ラウラ…………うっ!!」ゴボッ

バシャッ……ボタボタボタ………

一夏「ハァッ……ハァ………ハァ………ッハアッ…ハァ………」

ラウラ「い、一夏………」

一夏「待ってくれよ……逃げないでくれよ………ラウラ…………」

ラウラ「ごめんなさい………」

一夏「ラウラの気が済むまで………何度でも………いっぱい愛し合おう…………だから」

ラウラ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

一夏「相変わらずちょっと馬鹿だよな………ラウラは………謝る必要なんかないのに…………」

一夏「俺にはもう………お前しかいないんだ…………」

ラウラ「やめてくれ!!もう聞きたくない!!」

一夏「だからさ……」


一夏「愛してるよ、ラウラ」


ラウラ「黙れえぇぇぇッッ!!!」

バシンッ

一夏「………!!」

ラウラ「ハァ……ハァ………ハァ……ハァ………」

一夏「な…………んで………?」

一夏「何でだよ!?俺はお前の言われた通りにやってるだけなのにさ!!」ガシッ

ラウラ「ひッ……は、離せッ!!」バッ

一夏「逃げるなよ!!どうしてだよ!!?なあ!!ラウーーううっ!!」ゴプッ

ラウラ「ハァ………ハァ…………ッ!!」ダッ

タッタッタッタッタッ…………

一夏「待ってくれ………行かないでくれよ………」

一夏「俺には、ラウラしかいないのに………待ってくれよ………」

一夏「俺を………俺を、この世界で………一人ぼっちにしないでくれ………」

次の日から、ラウラは俺を遠ざけるようになった。

理由は分からない。けど、確かに俺を見る目は変わっていた。

俺を見ると、何故か哀しげな顔をして、逃げるようにどこかへ行ってしまう。

変わったのはそれだけだった。




後は何も変わらなかった。

ただ理不尽に殴られて、蔑まれて、怯えられ、遠ざけられる。

ただそれが、前よりも増えていっただけ。

前よりも多く、何もしていないのに俺は罰を受けた。

本当なら、あいつが受けるはずの。

あいつが残したツケを、俺が身代わりに。

でも、そんな事考えても無駄なのは分かってる。

ただただ時間だけが過ぎていく。

俺はこの世界で、本当に一人ぼっちになってしまっていた。

俺にはもう何もない。

これ以上、悪くなる事もないんだろうな。

どうしてこうなってしまったんだろう。

同じようにここまで。
誤字脱字や、不自然なセリフを手直ししつ、前回の続きに追いつきます。
ご愛読の頂いてる方々、もう一度最初からお付き合いください。

初めて読む方に配慮が足りませんでした。申し訳ありません。

一夏「もう朝か…歯でも磨こう」
http://ssmatomesokuho.com/thread/read?id=10360

作者の方はこれで終わり、と言われたのですが。そこに自分なりの解釈や独自設定、色々な要素を足しながら書いていました。
投稿を再開します。

昼休みなのに俺は、知らず知らずの内に屋上に来ていた。

まるで、砂漠を彷徨う旅人がオアシスを求めるように。

そう、ここなら誰もいないし、来ない。

ここには監視カメラもない。

今は、俺がたった一人いるだけ。

一人ぼっちでいるだけ。

一夏「……………」

部分展開で呼び出した雪片をゆっくりと喉へと向けた。

震える両手を無理矢理動かして、刃先が首に当たる。

首の表面に、焼けるような痛みがした。

一夏「ぐっ………」

けど、それももうすぐなくなる。

そう思えばこんな痛みなんてどうって事はなかった。

大きく息を吸って、吐く。

何度も、何度も繰り返して、心を静める。



一思いに、死ぬ為に。


一夏「………!!」


息を吸い込み、腕に力を込めた。


首に当たる刃を、思いっきり引いた。




はずだった。

首に当てた刃は、一切動いちゃいなかった。

一夏「は………?」

何が起こったのか理解できなかった。

けど、すぐにその理由が分かった。

死ぬ事への恐怖が、俺の麻痺した心よりも勝っていたからだ。

ギリッッ……

一夏「なん……だよ………みっともない………何なんだよ!!糞ッ!!」

雪片を地面へと投げ捨てた。

やり場のない怒りだけが、こみ上げてくる。

一夏「死にたいんじゃないのかよ!!死んで楽になろうって思ってたんじゃないのかよ!!」

一夏「満足に生きられもしないのに………ロクに死ねもしないのかよ!!!」

一夏「何でだよ………何で………死ねないんだよ………」

一夏「俺なんか………生きてる意味………ないのに………」

一夏「こんな事ならいっそ…………死んだ方がいい…………そうに決まってる………」

一夏「散々皆から死ねって言われてるのに…………」

一夏「逃げれ…………ないのか…………俺はずっと…………ずっとこのままで…………」

一夏「この世界に………一人で………俺がいた世界には帰れない…………」

一夏「もう二度と……皆に会えないまま………ひとりぼっちで生きて………ひとりぼっちで………死んでいくのか………」

一夏「嫌だ………」

一夏「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッッ!!」

一夏「嫌だ……でも………俺には………何も…………畜生」

一夏「畜生!!ちく………しょ………う………」グラッ

一夏「ハァ………ハァ……ハァッハァ………」

一夏「駄目だ……立って………られ………ない………ハァ………ハァ………」

一夏「ッハアッ………ハァ………ゲボッゴホッ………ガホッ………」

ポタ………ポタポタ…………

一夏「カッ………ッハアッ………ハァ………ハァ………ハァ………ハァ……ううっ!!」ゴプッ

バシャッ………ボタボタボタボタ

一夏「ハァッ………ハァ……ハァ……ッハアッ………ハァ………だ……め……だ………」ポタポタ……

一夏(前よりも……血が多くなってる…………日に日にか………)

一夏(これなら………もう少しで………俺は楽になれるんだ…………)

一夏(酷い様だよな………これが今の俺にはお似合いなんだろうな………)

一夏(そう考えると、息が苦しいのも、血の味しかしないのも嫌じゃない)

一夏「うっ………あぁ……」

バタッ

一夏(………力が入らない………相当………きてるんだな…………もう立ち上げれない………)

一夏(このまま……誰にも知られずに死ねれば……いいのにな…………)

一夏「ゲホッゴホッ………ゴホッゴホッゲホッ………」

一夏「はぁ……向こうは………どうなってるんだ………」

一夏「皆は………どうして…………」

一夏「……………」

一夏「気にするだけ………無駄か………馬鹿だよな…………」

一夏「本当……馬鹿………だよ……な…………」

一夏「こ………ん……な…………こと…………」

見えていた青空が、ゆっくりと遠ざかっていく。

空だけじゃない。風が、音が、光が、自分の感覚でさえも。

何もかもが、遠ざかっていくように思えた。

そして、空が黒に変わっていく。

音はもう聞こえない、風ももうない。

俺はこのまま暗闇に落ちていくのかもしれない。

激しく、そして深く、俺は落ちていく。

今まで見えていたものは、もうすぐ見えなくなる。

きっと、俺をこの世界に繋いでいた何かが切れたんだ。

もう、何も感じられない。

ほんのわずかな光が見えるだけ。

けど、それだけじゃなかった。


誰かが、何かが俺を呼んでいる。


何故かそれだけが、そうはっきりと分かった。


その瞬間、俺の周りは炎に包まれた。

何処で、一体何が燃えているのかは分からない。

これが本当の炎なのかも分からない。

それでも俺は落ちていく。

果てしない炎の中へ。


そして、その中で見えたものがあった。


名もない亡霊が呼びつづけている。


そう感じた。

目を開くと、真っ白な空が見えた。

何故また、俺は何かを見ているのか不思議に思いながら起き上がり、目に見えるものを探した。

ここは、どこを見ても真っ白だった。

一夏「何にも……ないな」

だが、見えているものは何となく海のようにも、空のようにも見えた。

どこか無機質な白い空間が、見渡す限りどこまでも広がっていた。

俺は多分、その空間の真ん中のような所に俺はいた。

もしかすると、俺はあの炎の底に辿り着いてしまったのかもしれない。

ここが地獄なのか。

少なくとも、こんなところが天国ではないはず。

そんな風に思えた。

俺はふと、後ろを振り返った。

そこには、あの少女がいた。

?「この姿で会うのは久しぶりだね。一夏」ニコッ

一夏「福音事件の時の………女の子………」

あの時と全く変わらない姿で、女の子はそこにいた。

?「女の子じゃないよ、僕の名前は白式」

白式「ほら、一夏専用のISだよ」

一夏「白式?………あっ!」

俺の右腕にあった、待機状態の白式がなかった。

白式「ね?これで信じてくれた?」

一夏「あ、ああ………」

白式「そして、ここは僕が作り出した仮想空間」

白式「一夏は今、屋上でぐっすり寝てるよ」

一夏「……………」

一夏(俺は……本当に寝ているのか…………?)

白式「あのねあのね、僕ね。一夏とお話がしたいな、って思ったからね。頑張ってお話が出来るようになったんだ」

一夏「そう、か…………」

白式「前までは一緒にいるだけだったけど、これでいつでも一夏とお話が出来るんだよ」

一夏「一緒に……いたのか………」

白式「うん、そうだよ。だからね………一夏が辛いのも知ってるんだよ…………」

一夏「…………」

白式「一夏の体はね………もうボロボロなんだ………」

白式「僕だって、頑張って治してるのに………それも追いつかないくらい酷いんだ………」

白式「こうやって話しているのはね、治すのに力を使ってるからなんだよ」

一夏「治す……?」

一夏(まさか………俺は………本当に死にかけた………のか?)

一夏(そうなら俺は………)

白式「一夏?」

一夏「………いいよ、治さなくて」

白式「え?」

一夏「治さなくていい。ほっといてくれ」

白式「だ、ダメだよ……そんな事したら一夏が………死んじゃうんだよ?」

一夏「それよりさ、聞いていいか?」

白式「う、うん、どうしたの?」

一夏「何で俺はお前と話しているんだ?」

白式「一夏?………何言ってるの………?」

一夏「白式はISだろ?なのに何でこうして俺と話せるんだ?」

白式「…………」

一夏「あ、そうか。頑張って話せるようになったって言ってたよな」

一夏「そうだよな?」

白式「うん………」

一夏「ごめん……白式………もうかなりの間………まともに人と話してないからこんな調子でさ」

一夏「とっくに色々おかしくなってるんだよ」

一夏「この調子じゃ、せっかく頑張ってくれたのも無駄になるかもしれない」

一夏「ごめんな、白式………俺はもう………駄目なんだよ………」

白式「そんな事言わないで………やっと………やっと一夏とお話出来るのに…………そんな悲しい事言わないで………」

一夏「ごめん………本当にごめん…………」

一夏「何で俺………こうなっちゃったんだろうな…………」

一夏「何でこう出来ちゃったんだろうな…………自分でもおかしいのは分かってるのに………」

一夏「でもさ、それも後ちょっとで終わるからさ。安心してくれ」

白式「やだ!!一夏が死んだら嫌なの!!死んで欲しくない!!」

白式「一夏だって死ぬのは嫌なんでしょ?!」

一夏「俺は…………俺はもう死にたいんだよ」

白式「なら何でさっき死ななかったの?!」

一夏「!!」

一夏「あれは…………体が勝手にやったんだ………俺じゃ………ないんだッ………」

一夏「俺じゃない!!」

白式「そんなの嘘だよ!僕には分かるもん!!」

白式「本当は一夏がこのままじゃ死んでも死に切れない、って思ってるのも!!」

白式「自分が何をしたんだろって考えた時に、みんなを『殺してやりたい』って思ってるのも知ってるんだもん!!」

一夏「違う!!俺は………俺はあぁぁぁぁッ!!」

白式「違わなくないよ!!一番殺してやりたいのはこの世界の一夏なんでしょ?!

一夏「ッ……!!」

白式「そう出来きるのなら、この世界の誰でも殺せるんでしょ?!!」

白式「箒でも!セシリアでも!鈴でも!シャルでも!ラウラでも!千冬お姉ちゃんでも!!」

白式「全員殺しても飽き足りないんでしょ!!」

一夏「………」

白式「でもね、一夏はね…………優しいからそんな事したくないって………ううっ…………知ってるんだもん…………」グスッ

白式「一夏は………そうやってぇ………全部一人で背負い込むんだもん……………」ポロ……ポロ………

白式「一夏はね……みんなに優しいんだもん…………僕を大切にしてくれるんだもん………僕ね、それが嬉しかったんだよ………」ポロポロポロ

白式「そんな一夏が大好きなんだよ」

白式「なのに……なのに死ぬなんて……言わないで………ひっく………一夏にはまだ、生きていて欲しいって………ひぐっ………思ってるんだもん…………」

白式「ISだけどね………生きていて欲しいって…………思ってるんだもん…………」ボロ…ボロ……

白式「だからね…………いつだって僕がそばにいるんだもん…………一夏は一人なんかじゃないんだって…………」ボロ……ボロ………

白式「お願いだから……死にたいなんて言わないで…………」

一夏「白式……ありがとう」

ギュッ

白式「ひっく………うううっ………あああああっ……一夏ぁ…………うああああぁぁぁぁっ…………嫌だよぉぉ………死なないで…………」ボロボロボロボロ

一夏「ああ、分かったよ」

一夏「俺は死なない」

一夏「約束する」

胸元で泣きじゃくる白式の頭をそっと撫でた。

白式「うん………うん!」

白式は、涙も拭かずにとても嬉しそうに笑ってくれた。

こんな笑顔を見たのは久しぶりだった。

この世界に、俺に笑顔を見せてくれる人などいなかったから。

そして、俺は無意識の内に白式を強く抱き締めていた。

白式「一夏?」

一夏「ごめん………今だけ………今だけ、こうさせてくれないか?」

白式「うん………いいよ」

白式は、もっと俺に抱きついてきた。

一夏「ありがとう………ありがとう、白式」

白式「どういたしまして」

嫌な顔一つ見せずに、白式は俺の胸で笑う。

抱き締めた白式は、とても暖かかった。

俺は、これをなくしていたのかもしれない。

人としての、大切なものを。

俺にはもう二度と触れられない、って思っていた。

それを、今は感じられる。

この温もりが、誰かの暖かみが。

ただただ愛おしかった。

今だけは、この温もりを感じていたかった。

それでも、俺の麻痺した心は涙を流さない

白式「はぁ……これじゃあどっちが励まされてるのか分からないや………」

一夏「そうだよな、白式ばっかり泣いてさ」ナデナデ

白式「むうっ………誰のせいだと思ってるのさー」ムスッ

一夏「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだ。俺も………相当参ってるみたいでさ」

白式「………僕がもっと早くこうしていれば………一夏も『そう』はならなかったのかな…………」

一夏「そうかもな。もしそうだったら………さっきよりもっとマシな話が出来たかも…………」

白式「でもでも!これからいっぱいいーっぱいお話しよ!ね?」

一夏「うん、でも…………愚痴ばっかりになりそうだよな…………」

白式「あ………うん、そうだよね………」

一夏「でも、俺頑張るよ………それこそ、白式が泣かないようにさ」

一夏「せっかく俺の為に頑張ってくれたんだから、俺もそれに答えなくちゃな」

白式「………期待してもいい?」

一夏「ああ、いいよ」

一夏「そういえばさ………あのち………もう一人いた白騎士はいないのか?」キョロキョロ

白式「白騎士はね………一夏に会いたくないんだって」

一夏「会いたくない?」

白式「うん、確か………犬畜生にも劣る輩に成り下がった者に興味はない、って言ってたよ」

一夏「ハハハ………厳しいな………犬畜生以下なんて」

白式「でもね、白騎士も僕と同じぐらい一夏の事を思ってるんだよ」

一夏「もしかして…………千冬姉、だからか?」

白式「うん、白騎士は千冬お姉ちゃんの残留思念………みたいなものだからね、いつも一夏の事を心配してるんだよ」

一夏「…………やっぱり、変わらないんだよな………千冬姉は…………千冬姉なんだよな………」

白式「でもね!僕の方がもっと一夏を心配してるんだよ!!」

一夏「はいはい分かったよ」

白式「もー本当にそう思ってる?」

一夏「思ってるって」


「私は貴様なんぞの姉になった覚えはない」

白式「あっ!白騎士だ!」

一夏「えっ?」

白式が走って行った先、そこにはISを展開した千冬姉によく似た人がいた。

ただ、俺が知っていた事と違っていたのはその姿。

装甲が展開していて、そこから深紅のまばゆい光が溢れ出していた。

それは血走るように、髪や肌にまでも現れていた。

白騎士「どうした白式、今日はいつにも増して甘えてくるのう」

白騎士と呼ばれる千冬姉は、自分の元に駆け寄ってきた白式を軽々と抱き上げた。

白式「別にいいでしょー私の勝手なんだからー」スリスリ

白騎士「これ、じっとせぬか」

くすぐったそうにしながらも優しく白式を撫でる白騎士は、俺が小さい頃に見ていた千冬姉そのものだった。

まるで、子供が母親に甘えているかのような微笑ましい光景だった。

白式を撫でる白騎士がこっちを見た。

白騎士「成程、幾分か面構えが変わった………これも白式の賜物かのう」

白式「そうだよー僕のおかげなんだよ。だからね『もういい』でしょ?」

白騎士「否、其れと此れとは全くの別物。此奴には『まだ』足りておらぬ。故に、まだ『その時』ではない」

白式「そんなぁ………」

一夏「ちょ、ちょっと待ってくれ、一体何の話をしてるんだ?俺に足りてないってどう言う事だよ?それに、何で白騎士なのに赤くなってるんだ?」

白騎士「喧しい、一編に申すな。全ては事を追って話す」

一夏「………」

白騎士「そうじゃな、まずは………私が何者かは知っておるな」

一夏「千冬姉が使ってた白騎士……なんだろ?」

白騎士「然り、私はかつての操縦者である織斑千冬より生まれし白騎士、とも呼べようか」

白騎士「しかし、私は白騎士事件の後、IS委員会へと譲り渡された」

白騎士「そこで私は解体され、暴き尽くされ、世に私の模造と呼べる物たちが生まれた」

白騎士「本当なら『そう』成っているはずだった」

一夏「はずだった?」

白騎士「千冬を元に生まれた私は、例え核を解体されようとも、新しくISに組み込まれ、初期化されたようとも、核の奥底で眠っておった」

白騎士「そもそも私は千冬の闘争心を取り込み、具現化したようなもの」

白騎士「あれ程の奴だったなら、私が容易く消えもしなかったのは納得がゆく」

白騎士「其れ故の運命の悪戯か、それとも単なる偶然が招いた沙汰か………私は貴様の白式の核として生まれ変わった」

一夏「それで福音事件の時に………白式と一緒に俺の前に現れたのか」

白騎士「発言したのはあの時からだ。それまで私は白式にすら知られずに眠っておった」

白騎士「言い様を変えれば、私はお前に叩き起こされたのだ。全く、迷惑千万な話よな」

一夏「そうなのか………ごめん、って言った方がいいのかな………」

白騎士「詫びなどいらぬわ。発現したところで、少したりとも貴様に力を貸してはおらぬ」

一夏「そうなのか?」

白式「そうだよ、いーっつも白騎士は見てるだけなんだよ」

一夏「私が手を下すまでもない、って事か」

白騎士「だがな、ただ見ておっただけの私がこの有様となったのは、発現した事によるものだ」

一夏「…………」

白騎士「お前の憎悪、怨嗟、狂気、憤怒、殺意。お前が此方の世界に来てから抱いたあらゆる負の感情を私が引き受けた」

一夏「俺の……負の感情を………?」

白騎士「そうだ『お前の』感情を、だ。貴様は感ずる事すら止めたつもりだったのだろうが、それが裏目に出た。

白騎士「お前の意思とは関係なく、日に日にそれは強くなっていった」

白騎士「余程お前は殺してやりたいのだな」

白騎士「此方のお前を、大切な仲間でさえも、たった一人の姉でさえもな」

一夏「…………」

白騎士「おかげで私の体は戦いを欲し、疼き続け、血が騒ぎ立てる」

白騎士「それ静める為に、私はのたうち回るしかない」

白騎士「だがな。それでも私は、幾度となくお前の意識を奪い取り狂気の沙汰を………皆殺しにしてやろうと目論んだ」

白騎士「正気を失いかけた時、私は刀を腹に突き立てた」

白騎士「よって、私は辛うじて正気を保った」

一夏「そんな………」

白騎士「それだけではない。白式を襲った事もあった」

白式「すごく怖かった………白騎士が、僕の知ってる白騎士じゃなくなったのかと思ったもん…………」

白騎士「全ては私の不甲斐なさが招いた事だ。すまなかった………」

白式「僕だって白騎士を傷つけちゃったもん………ごめんね」

一夏「そんな………そこまで!!」

白騎士「そこまで、だと?『そう』しなければ白式が『こう』なっておったのだぞ?」

一夏「………!!」

白騎士「幼い白式に、私のような真似が出来たと思うのか」

白騎士「お前の負の感情を受け止め、それでも尚、己でいる事が出来たと思うのか」

白騎士「狂気へと陥りかけようとも、それを止める為に刀を腹に突き立てられると思うのか」

一夏「……………」

白騎士「その答は否だ」

白騎士「もし『そう』なっていたのならば、私は白式を殺す事を止むを得んかった」

一夏「…………」

白騎士「お前を責めておるのではない。お前が『そう』ならずにいようとしたが故の事だ。致し方あるまい」

一夏「でも………俺のせいで………白騎士は………」

白騎士「愚か者、そう思うのならばお前の巷を変えぬか」

一夏「……………」

白騎士「白式、降りよ」

白式「う、うん………」ストッ

白騎士「だがな、それでも貴様には『足りて』おらぬのだ。それが足りぬが故に貴様はその通りだ」

白騎士「何とも情けない様よ。今の貴様は犬畜生にも劣る」

白騎士「それでも貴様は『そう』ある事を是とした」

白騎士「彼方の世界の千冬が、貴様の大切な仲間たちが、今の貴様の様を見れば失望させられる」

一夏「……………」

白騎士「貴様、恥ずかしゅうないのか」

白騎士「その様で恥ずかしゅうないのか。千冬や、仲間達に」

一夏「!!」

白騎士「欲しくはないか、貴様が奪われたもの全てが」

白騎士「這うて悔いて死ぬか、奔って夢見て死ぬか」

白騎士「貴様が決めろ。貴様が、貴様の意思で、貴様の死に様を決めろ」

一夏「…………」

白騎士「決めろ!!」

一夏「恥ずかしく………ないわけないだろ………このままでいいわけないに決まってるだろ!!」

白騎士「…………」ニイッ

一夏「でも………俺は…………」

白騎士「俺は何ぞ?言うてみろ」

一夏「俺は闘えない!!」

白騎士「………は?」

一夏「例え、世界が違っていたとしても、仲間は仲間なんだ!!」

一夏「箒も!セシリアも!鈴も!シャルも!ラウラも!千冬姉だって!!」

一夏「皆は皆なんだ!!傷つける事なんて俺には出来ない!!」

白騎士「貴様……このッ……犬畜生が…………」ギリッ……

ガリッ……ギリィッッ

白騎士「この犬畜生風情がァ!!」ガッッ

一夏「うっ……!!」

グッ……グググッ………

白騎士「好きに抜かせ」

白騎士「それで、今の貴様に一体何が出来る」

一夏「…………」

白騎士「………ハン、そうかそうか。成程、成程のう」

白騎士「怖ろしいか。貴様の知っている者たちが、貴様に刃を向ける事が。いやそれとも……単なる臆病だったかのう」

一夏「…………」

白騎士「貴様はあの頃と何も変わってはおらんのだ。所詮は千冬に護られていなければ何も見えず、何も成せぬ糞餓鬼だ」

白式「白騎士!………言い過ぎだよ………」

白騎士「言い過ぎではない、此奴にはこれでも生温い」

白式「でも………」

白騎士「童のように怯えておれば、誰かが救うてくれると思うたか?残念だったのう、此方の世界に貴様を救うてくれるような奴などおらぬ」

白騎士「貴様は敵ぞ。討ち倒すべき敵そのものぞ」

白騎士「哀れよのう、無様よのう、元の世界に戻る為には否が応でも、仲間にですら手に掛けねばならぬ」

一夏(………?)

白騎士「くっくっくっ………何とも皮肉な話よな。全ては貴様の意にそぐわぬようになっておる」

一夏「……………のか?」

白騎士「ん?何か申したか?」

一夏「元の世界に戻れる方法があるのか?」

白騎士「…………」パッ

白式「えぇぇぇっ!!?そんな方法あるの?!僕聞いてないよ白騎士!!」

白騎士「聞かれなかったからのう………しても、口が滑ってしもたか………」

一夏「教えてくれ!帰れる方法があるのか?!」ガシッ

白騎士「物は試しにと………やってみねば、分からぬがな」

一夏「それでも俺には充分だ!教えてくれ!!」

白騎士「喧しい。全て事を追って話すと申したろう」

一夏「それは俺に足りないものと関係あるのか?!」

白騎士「そうじゃな………あると言えばある。しかし、ないと言えばない」

一夏「どっちなんだよ!」

白騎士「つくづく呆れる。聞けばそう何事も説うてくれると思うなよ」

白騎士「まずは、お前自身で見つけよ」

白騎士「いや、見つける………というのも少々違うやもしれんな」

白騎士「まあ良い、私が手を貸すのは『それ』からとなる」

一夏「それを見つければ、力を貸してくれるのか!?」

白騎士「無論、『そう』なればの話だがのう」

一夏「…………分かったよ」

白騎士「ハン………そうだ、お前はそれでいい」

白騎士「承知したのなら、さっさと起きろ。また要らぬ疑いを掛けられてしまうぞ?」

一夏「そうだ!今は昼休みだったんだ!!急がないとまずい!!」

一夏「白式!!」

白式「えーっと、えーっと………ちょっと待ってね………始めてだからちゃんと戻せるかな………」

一夏「喚べたんだから戻せるって!だから早く!!」

白式「ええーい!ままよ!!」カッ

一夏「うわっ!?」

白式「あ……出来た」

白騎士「全く、騒がしゅうて眠れもせんな」

白式「白騎士は本当、素直じゃないよね」

白騎士「素直じゃない?私がか?」

白式「何だかんだで一夏を心配してるんだもんねー」

白騎士「はて、一体何の事か分からぬな」

白式「とぼけないでよー犬畜生以下とか言ってたのに結局は一夏をその気にさせようとしてたんでしょ?」

白騎士「………どうかな」

白式「帰れる方法知ってたり、力を貸してあげるーなんて言って、やっぱり千冬お姉ちゃんみたいに一夏をしっ」モガッ

白式「むーっむーっ!!」バタバタ!

白騎士「うむ………口は災いの元、とはよう言うたものだ………ぬかったな」

白式「うぐぐぐぅ…………へも、ひろひしほほぐがひればらいひょうふらよね!!」

白騎士「それは分からぬぞ。全ては、彼奴次第よ」パッ

白式「うわわっと……僕だって頑張るもん!!」

白騎士「今の私の力では、下手を打てば取り返しのつかん事に成ってしまう」

白騎士「決して………時を見誤ってはならぬのだ」

白式「一夏の為にも?」

白騎士「…………私は眠る。お前は彼奴を見ていてやれ」クルッ スタスタ……

白式「うん、お休みー白騎士」カッ

白騎士「ああ」

スタ……スタ……スタ………

白騎士「くっはっは………はははははっ!!はっはっはっはっはっ!!!」

白騎士「嗚呼……待ち遠しい、飢えるのう」

白騎士「その時よ、早よう来い」

白騎士「狂瀾怒濤の戦…………何奴も此奴も彼奴の生み出した狂乱の中で刃を交え、討ち倒し、討ち倒される」

白騎士「その応酬の一瞬に一瞬に命を賭け戦う」

白騎士「そして人はその中で鬼と成り、化け物と成る」

白騎士「それぞ、彼奴が『そう』成る時…………」

白騎士「それが、唯一の理ぞ」

白騎士「嗚呼………早よう来い………」ニイィッ

~屋上~

一夏「…………」パチッ

一夏「俺………ちゃんと………戻ってこれてるよな………?」キョロキョロ

一夏「時間は………まだある。はぁ……良かった」

白式「そんなに僕が信用ならない?!」ズイッ

一夏「うわあっ!?」

白式「そんなに驚かなくてもいいでしょーまったくー」

一夏「普通に驚くよ!何でここにいるんだ!?」

白式「進化した僕に、具現化ぐらい訳ないんだよ!しかも、一夏以外に僕の姿は見えない!」

一夏「は、はあ……そうなのか……」

白式「もちろんみんなに見えるようにもなれるよ!でもそうすると………色々まずいでしょ?」

一夏「やめてくれ…………ただでさえ酷い俺の評判に、ロリコンが追加される」

白式「ふっふーん、だからそうならないように一夏以外には見えないのだ!」

一夏「頼むから……人前で見えるようにならないでくれ………言われのない事で鳥兜の飲ませ時にはなりたくない」

白式「とり?………よく分からないけど、分かった」

一夏「気が重いな………あ」スクッ

白式「どうしたの?」

一夏「体が……軽い」

白式「でしょでしょ!」

一夏「よし、これなら何とかなりそうだ」

白式「それじゃあ教室にレッツゴー!」ピョーン ガシッ

一夏「お、おい、乗るなよ……ってあれ?以外と軽いな」

白式「実体化しててしてないみたいなものだからねーすっごく軽いよー」

一夏「そうなのか、便利なんだな」

白式「ほらほら、早くしないと遅れるよー」

一夏「はいはい、分かってるって、行くぞ」

白式「おー!」

白式(これで赤椿や甲龍にブルーティアーズ、ラファールにレーゲンともお話出来る♪)

白式「ぼーくらはみんな、いーきているー♪」

白式「いきーているから歌うんだー♪」

一夏(嬉しそうだな、白式)

一夏(でも、早く何とかしないと………)

一夏(いくら白騎士が千冬姉みたいでも、いつまで保つのか分からない)

一夏(俺の胸ぐらを掴んだ時だって、目が血走ってた)

一夏(白騎士は……それを抑えてた…………)

一夏(もし、もし白騎士が暴走すれば………白式も危ないし、皆も危ない)

一夏(『そう』なる前に向こうの世界に帰らないと)

一夏(その為には俺は………闘う)

一夏(闘うしかない)

一夏(………この世界を、敵に回しても)

~教室~

先生「えーここでこう思っくそグイィッッと行くとな、えげつない旋回出来んねん。あーでもこれはあんま真似せん方がええなー終いに内臓口から出る」

生徒「先生ーそれ実際にやったんですかー?」

先生「経験者が語らなどないすんねんなー空で二三回やって昼飯撒き散らしたったわ。まあ昼飯言うてもそん時はもんじゃ焼きになっててんけどな」


一夏(闘う、とは言ったけども………)

白式「ひなぼっこー」ヌクヌク

一夏(その前に俺は何をするべきなんだろうな………俺に足りないもの探しもあるしな)

白式「転がってーそしてスラスタァァァウィーング!」ピョン

一夏(…………)

白式「やっほーい!」キューンキューン

一夏(考えがまとまらない。白式が気になって仕方ない)

白式「おっ!」スタッ

白式「ハアァァァァァ………」

ズバァァァァァ……

一夏『こら、変な事するなよ』

白式「変じゃないよ!必殺技だよ!」

ボシュウゥゥゥ……

白式「あ……」

一夏『刀の俺に素手の必殺技あっても意味ないよ。それより、あんまり派手な事しちゃ駄目だぞ』

白式「えーいいじゃん、一夏にしか見えないし分からないんだからー」ブーブー

一夏『俺は分かるから気になって仕方ないんだ。頼むからもう少し静かに、授業に集中出来ないから』

白式「はーい……」

一夏(そんなに落ち込まないでくれよ………)

一夏(はしゃぎたい気持ちは分からなくもないけど、今は授業中だから、そこは休みの人の机だから)

白式「そうだ!」スタッ

白式「Don't be back 時空を越えー♪」トテトテ

箒「……………」

箒(………何だあの白い少女は)

白式「疼きだーしーた Red energy♪」トテトテ

箒(あれだけ騒いでいるのに誰も気づかないのか?)

箒(机の上で妙な動きをしていたが………)

箒(それにさっき一夏がどうとか言っていたな………何者だ?)

白式「“恐れ”ーをすーべてー焼き尽くせー♪」トテトテ

箒(こっちに来ているな………)

箒(丁度いい、とりあえず様子見だ)

白式「えへへー久しぶりだね、赤椿ー」

白式「あ、そうだった……全然久しぶりじゃないや………」

箒(私ではなく、赤椿だと?)

箒(それに………久しぶりじゃない?)

白式「早く赤椿も進化しないかなー僕みたいにー」ピトッ

箒(こいつは何を言っているんだ………)

白式「ほうほう………へーなるほどね、やっぱりこっちの赤椿はまだなんだ」

箒(何を訳の分からん事を言っている………)

白式「……………」

箒(急に黙ったな…………どうしたんだ?)

白式「そっか………『そう』だったんだね」

白式「箒も、ラウラと同じ………似た思いをしたんだね………」

箒「!!?」

白式「ん?」

箒(しまった………気付かれたか?)

白式「僕が見えてるのー?」ジイィィィィ

箒「…………」カリカリ

白式「おーい、ねえねえ、ねえってばー聞こえてますかー?」フリフリ

箒「……………」

白式「あ、そっか。もしかしたらだけど、可能性はあるんだよね。本当にどうかは分からないけど」

箒(もういいから早くどこかにいってくれ………)

白式「んー………さっきのを一夏が見たらどう思うのかな…………」

白式「やっぱり、こっちの一夏を余計に殺したがるよね」

箒「!?」

箒(こっちの一夏だと?それに、殺したがるだと………?)

箒(馬鹿な…………いや、もうすでにおかしい事だらけだ。今さら馬鹿も何もない)

白式「それじゃあ次いってみよー!おー!」トテトテ

箒(行ったか………肝が冷える)

箒(あいつは赤椿に何をしたんだ?赤椿から何かを知ったような口振りだったが…………)

チリーン………

箒(私が………ラウラと同じ………似た思いをした………?)

箒「……………………」

箒「…………」チラッ

白式「Anybody never can stop meー♪」トコトコ

箒(何だ………あいつが一体何だと言うのだ…………)

箒(何故あいつは………こうも私の心をざわつかせるんだ…………)

箒「…………………」

ギリッ……

白式「ん?今のって………気のせいかな」

白式「震えだーした Red energy♪」トコトコ

セシリア「…………」カリカリ

白式「あっ、そうか………ブルーティアーズは違うのか………」

白式「よくよく考えたら、僕は博士の特別製だから具現化出来るのかな?」

白式「別に気にする事じゃないよね」

白式「でもね、ちゃんと見せてもらうよ」


ーーーーー


白式「潜ーんでる本能ー♪」トコトコ

ラウラ「…………」

白式「うーん、何となく落ち着かない感じだね、ラウラ」

白式「言っても仕方ないか、見せてね」

ーーーーー


白式「生きる証にー魅せられー♪」トテトテ

シャル「…………」

白式「………かなり怯えてるね」

白式「ふむふむ、これは………ちょっとやり過ぎるかもね………」

白式「良い意味でも、悪い意味でも」

白式「とりあえず、見せてもらうよ」スッ


ーーーーー

~二組~

白式「確か二組だったよね………」キョロキョロ

白式「おっ、いたいた」トコトコトコ

鈴「…………」

白式「へー案外真面目に授業聞いてるんだねー」

白式「とにかく、これで最後だね」

白式「ただいまー」トコトコ

一夏『おかえり、さっきから何してたんだ?』

一夏『箒の机に行ったり、移動して歌ってると思ったら一人言言って、最後は教室から出ていったけど』

白式「内緒内緒のお話だよー」

一夏『ふーん、内緒のお話か………』チラッ

白式「一夏も授業に集中出来たでしょ?」

一夏『んー……まあ、色々捗った………かな、うん』

白式「悪だくみ?」

一夏『そうかもなぁ………全員を敵にした場合とか考えてたよ』

白式「どうするの?」

一夏『とにかく暴れて………さぱっと負ける』

白式「あらら……」


箒「…………」


キーンコーンカーンコーン

先生「はい今日はここまで!教科書しもて、とっとと帰るなりなんなりしいやっ!!」

ガラッ

一夏『行くぞ、白式』

白式「いつもの校舎裏ー?」

一夏『そうだ。ほら、速く行くぞ』

白式「えーもっと他の場所がいいー」ブーブー

一夏『他にお前と遊べる場所がない。我慢してくれ』

白式「うん、分かった!我慢する!」ピョーン ガシッ

白式「レッツゴー!」

一夏『おう』ガラッ

~寮~

箒(あの少女は一夏にくっ付いて行った。それも、校舎裏がどうとか言っていたな………)

箒(確かに、あそこなら滅多な事では人は来ない)

スーッ チャキッ

箒(ならそこで何を企んでいる………あの少女を利用して、私やセシリア、ラウラやシャルロットのISを探り、一体何を考えている?)

箒(今度はISを利用するつもりか?そうやって欲望の赴くままに人を………)

カタカタカタ………

箒(あの人の物を利用してまで………お前は………?)

ヒュンッ ヂキンッ

箒(そうか、そうならば。もしお前が『そう』ならば)

箒(姉さんに代わり、千冬さんに代わり、この明宵で素っ首叩き斬ってやろう)

箒(それが………幼馴染である私からの、せめてもの餞だと思え)


ガチャ バタン

箒「…………」スタスタスタ

鷹月「おろろ?どしたの篠ノ之さん、またそんな物騒なモンを二本も持ち出して」

箒「少し……野暮用が出来てな」

鷹月「あ、そうなんだ〜……で?誰かと果たし合いでもするの?」

箒「いや、そんな大した事ではない」

鷹月「流血沙汰とかだったらやめてよねー見る方はたまったもんじゃないからさ~」

箒「善処する」

鷹月「やっぱりね、うん、目がマジだもん。ちなみに、本気って書いてマジの方ね」

箒「…………」

鷹月「それとさ、篠ノ之さん」

鷹月「何かを確かめたいけど、自分の中でまだ踏ん切りが付いてないような顔してるよ」

箒「!!」

箒「私は………そんな顔をしていたか?」

鷹月「私と篠ノ之さんの仲だし、後押しぐらいならするよ?」

鷹月「ただし、間違えてお尻の方を押しちゃうかもしれないけどねーハハハッ!」ワッキャワッキャ

箒「よくそんなに分かるな………私ならきっと分からない」

鷹月「分かっちゃう」ニッ

鷹月「それに………女のカンってやつは、以外と馬鹿に出来ないよ」

鷹月「篠ノ之さん、何かとんでもない事でも起こすつもりでしょ?」

箒「…………」

鷹月「ま、いっかー私は首突っ込む気なんか一切ないからさ~」フニャ

鷹月「それじゃあ篠ノ之箒殿、一世一代の戦、良き報せを持って参れるよう頑張ってね~!」ポンッ

鷹月「ハッハッハ~武者働きせいよ~猛々しき女武者篠ノ之箒!ニャハハハハハ!」スタスタスタ


ハーハッハッハッハー

セイシュンダカラッテタイガイニシナサイヨー…………

箒「………ありがとう、鷹月さん」

箒「………行くか」


スタスタスタスタ………


箒(鷹月さんは、何をしでかすか分からない私の背中を、それでも押してくれた)

箒(なら、私はそれに応えねばならない)

箒(待っていろ一夏………いや)

箒(織斑一夏………!!)

箒(私は、必ずやお前を………)

鈴「ふーん………なんか面白い事になりそうね」

鈴(にしても、刀二本持ってどこで何するつもりよ、あの箒って女は)

鈴(あたしが言えた義理じゃないけど危なっかしい女ね。飢えた獣か、鉄砲玉か………)

鈴「…………………」

鈴(あいつも…………幼馴染、だったわね………)

鈴(あたしと同じ幼馴染………一夏の一人目の幼馴染………)

鈴(そうか………私と似た………)

鈴(まさか!………あの女ぁ………!!)

ギリッッ

鈴(そうはさせないわよ………!)

鈴(あのクズを殺るのはあたしなんだから!!)

鈴(あたしには………それだけの理由がある、道理がある。誰にも邪魔なんかさせない)

鈴(………あの女があんなもん持って行くぐらいだから、よっぽど人が来ない所に行くのよね)

鈴(丁度いいじゃない。隙を見て横からあいつの首掻っ攫ってやる!!)

~校舎裏~

白式「僕らはみんな、いーきているー♪生きーているから歌うんだー♪」

白式「僕らはみんな、いーきているー♪生きーているから悲しいんだー♪」

白式「てーのひらをー太陽にーすかしてみーれーばー♪」

白式「まーっかーに流れるー僕のちぃーしーおーっ♪」

一夏「生きている、か…………」ボソッ

白式「何か言った?」

一夏「白式は歌うのが好きなんだなって」

白式「うんっ、歌うのってとっても楽しいんだもん!こんなの、ただのISだったらずっと出来なかったんだよ!」ニコッ

一夏「よし、じゃあ俺も歌おうかな」

白式「本当!?じゃあーー」

白式「!!」バッ

一夏「どうしたんだ?」

白式「来る……赤椿が………」

白式「箒が……来る………!!」

一夏「!?」

白式「まずいよ……もうすぐそこまで来てるよ!」

一夏「箒が?………何で…………どうして………」

一夏「まさか………いや、そうなのか?もしかすると箒は…………俺を………」

白式「ちょっと待って、この音って………」

一夏「なら………俺は…………」

白式「この音からして………箒は刀持ってるよ!!しかも二本も!!」

一夏「白式」

白式「ひとまずは逃げようよ!」

一夏「俺は、ここで箒を迎え討つ」

白式「馬鹿なの!?もしくはアホなの!?それとも頭パァなの!?この後に及んで何言ってんの!?」

白式「迎え討つとか言ってる場合じゃないんだよ!?」

一夏「もしも………もしも箒が、箒なら…………」

白式「箒なら?」

一夏「そうだよな、箒が本当に『そう』なら」

一夏「遅かれ早かれ、俺は箒とこうなるはずだったんだ」

一夏「だから俺は………逃げない」

一夏「逃げる訳にはいかない」

一夏「お前は待機状態でいてくれ」

白式「えっ………で、でも………」

一夏「それと、今から俺のする事を黙って見ていてくれ」

一夏「絶対に俺の邪魔をするな」

一夏「いいな?」

白式「駄目だよ……だって箒は………二本も刀を持ってるんだよ?」

一夏「俺は……疑うよりも、信じてみたいんだ」

一夏「例えそれが、ほんのわずかな可能性だったとしても」

一夏「だから俺を………俺を信じろ。白式」

白式「ええっ………うう………」オロオロ

一夏「……………」

白式「分かったよ!黙って見てればいいんでしょーもー!!」

白式「何があっても僕は知らないよ!首が飛んじゃっても僕は知らないよーだ!!」

カッ

一夏「……………」

一夏「絶対に、俺の邪魔はするなよ」

今日はここまで。



ザッザッザッザ………ザッ


一夏「珍しいな、箒がこんな所に来るなんて………どうしたんだ?」

箒「………」

一夏「確かそれ………代々伝わる名刀だったよな?竜牙刀と緋宵、どっちも親父さんから受け継いだ」

箒「…………」ザッザッザッザ

一夏「そんな神妙な顔してどうしたんだよ?」

箒「……………」ザッザッ ピタッ

一夏「やっぱり『そう』だよな。俺はもうどうするかは決めた」

一夏「箒はどうするんだ?」

箒「…………」ヒュッ

一夏「…………」パシッ

一夏「ハハハ………箒らしいっちゃ、箒らしいよな……」

箒「抜け………私も、丸腰の奴は斬れん」

一夏「そうか………武士の情け、だな」スーッ


ヒュンッ チャキッ


箒「……………」

一夏「これでいいか?」

箒「………お前の遺言として聞く」

箒「お前は何を企んでいる」

一夏「企む?………俺が?」

箒「とぼけても無駄だ。私は見た、聞いた」

箒「お前が妙な少女を使い、私やセシリア、ラウラやシャルロットのISから何かを探っていたのをな」

一夏「………寝耳に水だよ」

箒「とことん白を切るつもりか………なら、お前の顔色が突然良くなり、咳き込まなくなったのは何故だ?」

一夏「へえ、よく分かるな………少し気持ちの持ち方を変えたんだ。俺はもっと強く成りたい、って」

箒「…………」

一夏「確かに顔色は良くゴホッゴホッ……ゲホッ………カホッ」

一夏「ハァ………咳は良くなってないんだ」グイッ

箒「………!?」

一夏「多分、さっきまでは出なかっただけだったんだよ」

箒(馬鹿な………こんな事が……あるはずがない…………)

一夏「驚くよな、俺も治ったと思ったんだけどな」

箒「……………」

一夏「で?聞きたい事はそれだけか?」

箒「あの少女は………お前と話していたあの少女は何者だ」

一夏「あれも驚くよな。あんな見た目だけど白式なんだよ、具現化出来るようになったんだってさ」

箒「……………」

一夏「それで?お前はわざわざ俺とそんな世間話をする為にここに来たんじゃないよな?」

箒「ああ、そうだ………」

一夏「一体どうするつもりでここに来たんだ?」

箒「………お前はもう、とっくに分かっているんだろ?」

一夏「もしかしたら、そうかもな」

一夏「けど、俺が何を言っても……お前は信じないだろ」

箒「…………当然だ」

一夏「なら、答えは……刀に聞くしかないな」

箒「望むところだ」

箒「……………」スッ

一夏「……………」チャキッ



ザッザッザッザ………



箒「……………」

一夏「……………」カタカタカタ…


ザッザッザッザ


箒「……………」

一夏「……………」


ザッザッザッザッザッ



ヂキッ


ザリッッ



箒「ハアァァッッ!!」ヒュッ



一夏「……………」ニイィッ



ヒュボッッ



一夏「………ッッ!!」グッッ



ピタッ


箒「……………」

一夏「……………」

箒「……………」ヒュンッ


スーッ………チンッ


一夏「どうして、刀を止めたんだ?もう少しいけば……俺の首を刎ねれたのに」

箒「分かったんだ。お前は………こちらの一夏ではない」

箒「ただそれだけだ」

一夏「……………」

箒「逆に聞こうか、どうしてお前は何もしなかった?」

一夏「……………」

一夏「俺は信じたんだ。可能性を………箒を」

一夏「ただ………それだけだよ」

箒「私が刀を止めねばどうするつもりだった」

一夏「その時はその時、大人しく獄門首にでもなるつもりだった」

一夏「けど……箒なら止める、それが分かってたから」

箒「はぁ………つまり私はまんまと嵌められた、という訳か」

一夏「いつから俺が、こっちの世界の俺じゃないって疑い始めた?」

箒「あの少女が私の周りをチョロチョロした辺りからだ」

一夏「箒には見えてたのか?」

箒「どうやらそのようだ」

箒「けどな、違うとハッキリと分かったのはお前が刀を抜いた時だ」

一夏「刀を抜いただけで分かったのか?」

箒「抜き方から構えるまでが全く違う。あいつは鍛練を怠っていたからな」

箒「お前のような研ぎ澄まされた動きは出来ないし、一瞬放った殺気も飛ばせない………」

箒(自分の刀を止めようとしない)

一夏「……………」

箒「まさに、ものが違うのだろうな。あいつと……お前では………」

一夏「本当………箒らしいっちゃ、箒らしいよな………」

箒「そう、なのか……こんな方法でしか………分からなかったのだがな…………」

一夏「いいよ、箒はやっぱり箒なんだって、分かったから」


カッ

箒「うわッ……何だ!?」

白式「一夏の馬鹿ー!!このッ………大馬鹿一夏ぁーッ!!」ポカポカポカポカ

一夏「白式……ちゃんと見ててくれたんだな………最後まで」

白式「こっちは本当に死んじゃうかと思ったんだよ!!本気で刀避けようとしなかったでしょ!!」ポカポカポカポカ

一夏「…………」

白式「白騎士に帰れる方法聞くんじゃなかったの?!足りないものを見つけなくちゃいけないんじゃなかったの?!」ポカポカポカポカ

白式「せっかく助かったのに!!死なないって約束破るつもりだったんでしょ!!!」

白式「生きるんじゃなかったの?!向こうの世界に帰るんじゃ………なかったの………」

ポカ…ポカ…ポカ……

一夏「白式………ごめん」

白式「もうこんな危ない真似しないでよ………死んでもいいなんて………ううぅっ………思わないで………ひぐっ………」グスッ

白式「ううぅぅああぁぁああ………一夏ぁぁぁあああ…………」ポロポロポロ

一夏「ごめん………ごめん、白式」ギュッ

白式「うああぁぁぁ………馬鹿ああぁぁあああ………あほぉぉぉ………馬鹿一夏あぁぁあぁぁぁ………」ボロボロボロボロ

一夏「……………」ナデナデ

箒(そうか………これが………)

箒(向こうの一夏は………こんなに優しい顔をするのだな…………)

箒(それを私は………私は何も知ろうとせず、分かろうともせずに………力で傷めつける事しかしてこなかった………)

箒(一夏は何も抵抗しなかった………)

箒(いや、抵抗する気などなかったんだ)

箒(それをいい事に私達は…………私は………憂さ晴らしとして………さらに一夏を傷めつけた…………)

箒(私の方がよっぽど馬鹿ではないか………それも、馬鹿で足りぬ大馬鹿だ…………)

箒(それでも一夏は………私を………こんな私でさえ信じてくれた)

箒(こんな一夏が………あんな奴と………こっちの一夏と同じ訳がないじゃないか………)

箒(それなのに私は………あまつさえ、その首を斬り落とそうとさえした………)

箒(私は………私は…………)




白式「…………」スースー

箒「ようやく泣き止んだと思ったら、今度は寝てしまったな」

一夏「子ども、みたいなものだから仕方ないさ」

箒「こんな子どもが………あの白式とはとても思えないな………」

一夏「だよなぁ」

箒「なあ………この子の言っていた事は本当なのか?」

一夏「言っていた事?」

箒「お前が死ぬ気だったとか、生き返ったとか、向こうの世界に帰るとか………」

一夏「ああ、そうだよ」

箒「…………」

一夏「生き返った、だけは初耳だけどな」

箒「…………」

一夏「自分でも、何とも言えないんだよ」

一夏「満足に自殺も出来ないし、誰かに殺してもらってまで死にたい訳じゃない」

一夏「何より気に入らない………気に入らないんだよ…………そんなのじゃ」

箒「…………」

一夏「もう、自分でも何がしたいのか分からなくなってるんだ」

一夏「どう死にたいんだろうな、俺は………」

箒「…………」

一夏「ごめんごめん、こんな話……されても困るよな………」

箒「……………いや、困らない」

箒「聞かせてくれ。お前が、ここに来てからの全てを」

箒「私は………そうせねばならない」

箒「お前の為にも」


それから俺は全てを話した。

ここに来た時の戸惑いとか、皆が怖いと思った事とか。


でも、ラウラとの事は言わなかった。これだけは、俺とラウラの問題だから。


そして、理不尽に殴られる辛さ、皆が俺をゴミを見るような目で見る辛さ、以上なまでに誰からも怯えられる辛さ、一人ぼっちの辛さ。

その中で、俺が心身共に衰弱していって、挙句の果てには自分の中の何かが麻痺して狂い、血を吐くようになった事も話した。

それを話す事自体、俺にとって何の事はなかった。

俺自身、別に今さらそれに何かある訳でもなく『ただそう思ってた』

その程度の事にしか思えてなかった。


何故か、不思議と実感がないだけだった。


けど、話が進んでいく内に箒は、少しずつ哀しそうな顔をしていった。

こんな俺が見るに耐えなかったんだろう。


話しが終わると箒は、ずっと謝っていた。


ごめんなさい……私のせいで………ごめんなさい。

と何度も何度も俺に言っていた。


最後には、すがりつくように泣き崩れた。

それからは、ずっと泣いていた。

俺はそれを黙って見ているしか出来なかった。


それでも、箒はずっと泣いていた。


まともに泣けもしない俺の代わりみたいに。


それから、泣き止むまでにしばらくかかった。

目を真っ赤にした箒は戸惑っていた。

俺にかける言葉が、一向に出てこなかったみたいだった。


多分、俺にどう接すればいいのか分からなかったんだろう。


今すぐじゃなくてもいい、ゆっくり考えてくれ。


そう言って、白式を抱きかかえてここを後にした。

もしかしたら、後ろで箒が何かを言おうとしていたのかもしれない。

でも、振り返る事はしなかった。

そんな事、する気にもならなかった。


ザッザッザッザッ……

白式「う……うん?………一夏……あれ……箒は………?」

一夏「おはよう、って言っても今は夕方だけどな」

白式「………一夏……生きてる………?」

一夏「まだ生きてるよ、変な事言うんだなぁ………」

白式「うーん………降ろして」ゴシゴシ

一夏「はい」ストッ

白式「んっ……んんーっ」ノビー

白式「よし………で、箒はどこ?」

一夏「箒なら帰ったよ」

白式「ええっ!何で!?」

一夏「色々考えたいんだってさ」

白式「一夏………話したの?」

一夏「ああ、話したよ」

白式「そっか……でも、大丈夫だよね。箒ならきっと………」

白式「ん?」バッ

白式「…………」

一夏「どうした?」

白式「甲龍が……鈴がいる………ほら、あの茂みの向こう」

一夏「………箒について来てたのか?」

白式「そうだよね、流石に刀持って歩いてたら不思議がるよね…………どうする?」

一夏「放っておこう、今は現実を受け止めるのに必死だろうから」

白式「箒もそうだったの?」

一夏「ああ、そうだったよ」

白式「うーん………それはそれ、これはこれって言葉の通りにいかないものなんだね………」

一夏「そうだな………」

白式「あれ?………やっぱり、この位置から逆算すると………」

白式「レーゲンも………ラウラもいたみたい」

一夏「ラウラか………会うのはその………気まずいと言うか何と言うかその………」

白式「その?」

一夏「合わせる顔がない、あんな風に怯えられたんだし」

白式「………でも、今日に限った事じゃなかったよ?」

ラウラ「やっぱりラウラも………ラウラなりに考えていたんだし…………過去の事もあるから………」

一夏「そうか………」

白式「放っておくの?」

一夏「ああ、そうするよ」

一夏「今は、そうした方がいいからな」

白式「……………」


ザッザッザッザッ……

一夏「白式、そろそろステルスモードになってくれ」

白式「そうだね、そろそろ人がいそうだもんね」

白式「………これでよし、行こ」トテトテ

一夏「はぁ……今日はもう晩飯なしで寝るかな………色々と疲れた」

白式「そりゃあ、あんな状況になれば誰でもそうなると思うよ」

一夏「そうだよなぁ………」

白式「でも、晩ご飯なしは駄目だと思うよ」

一夏「そうだよなぁ………」

白式「腹が減っては戦は出来ぬ、って言うでしょ」

一夏「そうだよなぁ………」

白式「………返事がちょっとぞんざいなんじゃないかなぁ?」

一夏「そうかなぁ………」

白式「だーかーらー!!」ブンブンブン

ガシッ

白式「うう~っ!このこのこの~!!」スカスカスカ

一夏(にしても………鈴やラウラはどう出るんだろうな)

一夏(でも俺には………信じる事しか出来ない)

一夏(でも、一つずつ、少しずつでも現状を変えていけば、必ず活路は見出せる)

一夏(そうであろうとすれば、必ずそうなれる)

一夏(まずはそうしてみよう)

一夏(いい言葉だよなぁ………)

一夏(………これ、誰が言ってたんだっけ?)

白式「僕を無視して考え込むなー!!」

スカッスカスカッスカッ

白式「馬鹿!アホ!間抜け!ウスラトンカチおたんこなすのダイコーン!!」ブンブンブン

今日はここまで。
応援と紅椿修正の指摘ありがとうございます。以後気を付けます。

>>116 修正

ラウラ「やっぱりラウラも………ラウラなりに考えていたんだし…………過去の事もあるから………」

白式「やっぱりラウラも………ラウラなりに考えていたんだし…………過去の事もあるから………」


何もかもが燃えている。

見渡す限りが火の海で、その中に見慣れた建物。

そう、IS学園の校舎が燃えている。

それだけじゃない。

怯えた表情のままだったり、深く斬られていたり、体の一部がなかったり、真っ二つになっていたり、血にまみれた生徒達や教師達が転がっている。

ISを展開していた人は、それ以上に酷い死に方だった。

それも全部、火の海に飲み込まれていく。

まるで、地獄のような光景。

俺は訳も分からないまま、とにかく走った。

この地獄の中で皆が、まだ生きているのなら助ける為に。

名前を呼びながら、悪い予感が当たらないように祈りながら、ひたすら炎の中を走った。


見えてきた先で、皆が死んでいた。

箒も、セシリアも、鈴も、シャルも、ラウラも、千冬姉も。

その光景を見て、俺は動けなかった。

ただ呆然とそこに立ちつくして、皆の死体を眺めているだけしか出来なかった。

皆の死体はISを展開したままで、見てきたどの死体よりも無惨に、血まみれで倒れていた。

そして、千冬姉の胸に突き立てられている一本の刀。

それは、俺がよく知っている刀に似ていた。


そう、あれは俺が持っているはずの雪片弐式だった。


その瞬間、目の前が、俺の周り全部が炎に包まれた。

炎が徐々に、俺の体を燃やしていく。

炎の中で、もがき苦しむ俺の耳に声が聞こえてきた。

その声は、俺の名前を呼んでいた。

炎の中で、それの正体を確かようとする。

それはまるで、亡霊のようだった。

けどそれは、確かに笑っていた。

どこか俺を嘲笑ってるようにも見えた。

それが、ゆっくりと俺に近づいてきた。

俺に手を伸ばしてくる。

そして首を掴まれたその時、ようやくそれの正体が分かった。

その正体は織斑一夏………俺そのものだった。

俺は無意識の内に、その首を掴み返した。

けど目の前の俺は、それが愉快で愉快でたまらないように笑っていた。

まるで、バケモノみたいに。

狂ったように、笑っていた。

一夏「ッハァッ!!………ハァッ……ハァッ…….ハァッ………」

息を整えながら辺りを見回した。

俺のいるここは、明かりを消した、俺に与えられた部屋のベッドの上だった。

何も壊れてもいなくて、何も燃えてもいなかった。


あの炎はなかった。


あの俺もいなかった。


一夏「今のは……!?」

いつの間にか突き出していた右手を下げた。

首を締め付けられる感触は、まだ残っている。

あいつの首を掴んだ右手からは、血が出ていた。

かなりの力で握ったのか、爪が深く食い込んでいた。

一夏「夢………だったのか………」

ゆっくりとベッドに倒れこんだ。

遠くに飛んでいた布団を手繰り寄せ、潜り込むようにして寝ようとした。

けど、寝心地とかの問題じゃなくて、ただ眠れなくて何度も寝返りをうつ。

「どうした、何やら浮かぬ顔をしておるのう」

後ろから聞こえてきた声は、千冬姉によく似ていた。

けど、千冬姉じゃない事はすぐに分かった。

一夏『白騎士………』

白騎士「黙って寝ておれよ、変に怪しまれとうないのならな」

この部屋には至る所に監視カメラが仕掛けられている。

その全部がそう簡単に見つけられないようにカモフラージュされている。

始めは抵抗があった。けど、今となっては特に気にする程の物でもない。

一夏『あ、ああ………』

白騎士「すまぬな、白式ならば気の利いた事の一つでも言えたのかもしれん」

その言葉の後に、白騎士が俺の頭を優しく撫でた。

白騎士「しかしのう、子供はとっくに寝ておる刻、わざわざ起こしてやる訳にもいかんのでな」

どこか手慣れた手つきで、白騎士は俺の頭を撫でている。

一夏『ありがとう………白騎士』

白騎士「礼には及ばん。この程度ならばな」

一夏『今の俺には………それだけで充分だよ』

白騎士「どうにも私にはな………お前が焦っておるように見える。あれからもう三日とたっておるからかのう」

一夏『そうかもな…………早く箒や鈴に、俺は俺なんだって、こっちの俺なんかじゃない』

一夏『そう分かってもらいたいから………焦っているのかもしれない…………』

白騎士「あの小娘共が、お前の思うところの小娘共ならば、自ずとそう成ろう」

白騎士「お前はそれを信ずるのだろ?」

一夏『俺には……そうする事しか出来ないからと………そう信じたいから』

白騎士「うむ、良い心意気ぞ」

一夏『………白騎士、今は大丈夫なのか?』

白騎士「無論、お前に心配されるまでもない」

一夏『そうか………』

白騎士「そう言うお前はどうだ?先程何やら魘されておったが?」

一夏『夢を………悪い夢を………見てた』

白騎士「そうか、それでこうなったと」

白騎士が、俺の右手に触れると痛みが引いていった。

握っても痛くない。傷口も塞がっていた。

一夏『傷が……一瞬で………』

白騎士「驚いたか、治癒の力は元来私が有するものだ」

一夏『白式だけのものじゃないんだな』

白騎士「然り、これでお前もゆっくりと眠れよう」

一夏『………手を貸さないんじゃなかったのか?』

白騎士「是非もなし、としか言えんな。私には千冬の情があるからのう」

一夏『千冬姉、か…………』

白騎士「……………」

一夏『どうすればいいんだろ………』

白騎士「此方のお前でも引き摺り出せば、流石の彼奴も納得しようぞ」

一夏『言うのは簡単だけど実際はなぁ………』

白騎士「お前がせねばならんからのう。せいぜい気張る事じゃ」

白騎士「それよりも、さっさと眠らんか」

一夏『………話し出したのは………白騎士じゃなかったっけ』

白騎士「喧しい。実体化してやろうか」

一夏『ごめん、それだけはやめてくれ』

白騎士「撫でるというのも疲れるものでな。お前も白式で分からんでもなかろう」

一夏『………確かに』

白騎士「ならば早う寝ろ」

一夏『分かったよ………お休み』

白騎士「ああ………」

白騎士(げに恐ろしきは人そのもの、とはよう言うたものよな)

白騎士(此奴の魂、いや………本能、とでも言おうか)

白騎士(もしも今の此奴が血迷うてしまえば、此奴はこの世のものとは思えん程に恐ろしいものと成り果てる)

白騎士(その本質が何であろうと………私に『そう』成った此奴を抑えきれるかどうか………)

白騎士(否、他のものが他のものを自由にしようなどとは………おこがましい)

白騎士(それは違える事の叶わぬ唯一の理)

白騎士(此奴自身は死にたいと思うておった)

白騎士(しかし、それ以上に生きようとする此奴もおる)

白騎士(奇妙なものよ………)

白騎士(…………そうか………やはりそうなのか。流石は、あの千冬の弟………)

白騎士(此奴ですら………私を凌駕し得ると………!?)

白騎士(例えそうであろうと…………今は眠れ、お前が狂うてしまわぬように)

白騎士(せめてこの今だけは、私がお前の姐の代わりとなってやる故な)




一夏「……zzzZZZ………zzzZZZ………」スースー

白騎士「眠ったか………」

白騎士「さて、征くか」スクッ

白騎士「………世話の焼ける弟を寝かしつけたついでに戯れようか」

白騎士「ここの守りが如何程のものか見てやろう」

白騎士「……………」

白騎士「この学園には格納庫があり、そこにはISとその武器がある」

白騎士「それを少々頂戴しようかのう」

白騎士「………来るべき、その時の為にな」ニイィッ

~翌日 校舎裏~

白式「BABY~♪そんなアンタ等にオ~ミソ~レ♪」

一夏「…………」

白式「どうしたの?なんか元気ないね」

一夏「ちょっと考え事をさ………」

白式「ふーん」ピトッ

白式「ほうほう……ふむ…………」

一夏「?」

白式「なるほどねー夢が気になってるんだ」

一夏「ああ、妙に現実味があったから………正夢にならないかな………とか思えてさ」

白式「あれ?おかしいな………」

一夏「どうしたんだ?」

白式「一夏の見た夢が分からない」

一夏「白騎士が………そうしたのかな」

白式「白騎士が?………何で?」

一夏「昨日の夜、うなされていた俺を心配して現れたんだ。多分その間に色々と…………」

白式「へーそうなんだーやっぱり白騎士は素直じゃないね」

一夏「寝ている子供を起こす訳にはいかない、って言ってさ。俺が眠れるまで傍にいてくれたんだ」

白式「白騎士ったら………僕は子供じゃないもん」ムスッ

一夏「もしかしたら、夢の内容が内容だったから………白式には見れないようしたのかな…………」

白式「どんなのだったの?」

一夏「悪い夢だったよ………本当に、身震いするぐらい怖かった…………それに…………」

白式「………それに?」

一夏「俺がいたんだ。まるで………化け物みたいな俺が」

白式「…………」

一夏「多分俺が………この通りにならなかったら………ああなってたんじゃないかって…………」

白式「一夏………」

一夏「あの夢の通りに…………なってたんじゃないかって思うと………怖いんだ」

一夏「俺は………いつでも『そう』なってしまえるんじゃないかって…………」

一夏「大切な皆を………この手で…………」

白式「………」ギュッ

一夏「白式………」

白式「…………」フルフル

白式「違うよ。一夏はバケモノなんかにならないよ」

白式「僕の知ってる一夏はそんな弱くなんかない」

白式「いつだって皆に優しくて、いつだって強くなりたいと思ってる」

白式「だからね、化け物になんかならないよ」

一夏「…………なんか、情けないところを見せたかな………」

白式「今さら、じゃないかな?」

一夏「そうだよなぁ………前の自殺願望に比べれば………こんな夢の話なんてかわいいものだよな」

一夏「怖い夢を見た、ってだけだもんな」

白式「うんうん、そうだよね」

白式「というか、そもそも僕にはそれがどれぐらい怖いものなのか、それが分からないから、どうしようもないんだよね」

一夏「………知らない方がいいと思う。白騎士が見せないようにしたぐらいだしな」

白式「なんか………僕だけ仲間外れ………」ムスッ

一夏「そんなに怒らないでくれよ」ナデナデ

白式「別に……怒ってなんかないもん」

一夏「もし………もし白式が、本当にあの夢を見たいのなら………白騎士に頼んでみせてもらってくれ」

一夏「多少の覚悟はいると思うから」

白式「無理」

一夏「えぇぇ……」

白式「だって、白騎士は絶対見せてくれないに決まってるもん。千冬お姉ちゃんとほぼ同じ思考してるんだよ?」

一夏「あ、そういえば………それは確かに無理だな」

白式「完全に詰み、だね………」

一夏「……………」

白式「うーん………どうしようかなぁ…………」

白式「おっ!」

一夏「?」

白式「箒が来たよ!」

一夏「箒が……」

白式「足取りが悪いなぁ………まだクヨクヨしてるのかな」

白式「僕ちょっと迎えに行ってくるね」タタタタタッ

一夏「ああ、行ってやってくれ」

白式「ほらほら、早く早く!」グイグイ

箒「ま、待てというのに………おい、引っ張るな………」

白式「一夏、お待たせー」

一夏「御苦労さん、白式」

箒「一夏………」

一夏「箒………気持ちの整理の方は………ついたのか?」

箒「あ、ああ………おかげさまでな」

一夏「そうか………本当に時間かかったな」

箒「し、仕方ないだろう………」

白式(なんだかまどろっこしいなー)

箒「ただでさえ私は………そういうのが………苦手で昔からお前に…………」ゴニョゴニョ

一夏「え?なんだって?」

箒「ええい、そんな事はどうだっていい!この際だからハッキリと言わせてもらう!」

白式(おおっ、急にシャキッとしたね。確かクラス対抗の時にもこんな事あったよね)

箒「私は!この世界で!最後までお前と一緒にいる!!」ビシッ

箒「…………こんな私だが………せめて、それぐらいの事はさせて欲しい」

箒「同情や罪滅ぼしなんかじゃない………ただ純粋に、そう思ったんだ…………」

箒「だから、お前も私にいらぬ気づかいは無用だ!」

箒「いいな!!」

一夏「……………」

箒「………いいな?!」

白式「ちょっと一夏、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるよ」チョンチョン

箒「うう………」カアァァ

一夏「あ、ああ………あまりに大胆過ぎて度肝を抜かれちゃってさ」

箒「う、うるさいッ!………本当に恥ずかしかったんだぞ!!」

白式「すごい………紅椿みたいになってる」

一夏「本当だな、真っ赤っかだな」

箒「うるさい!馬鹿!アホ!大アホ馬鹿者!!こんな事なら来なければ良かった!!」プイッ

一夏「ごめんごめん、そう拗ねないでくれよ」

箒「ふんっ………せっかくの人の気持ちを馬鹿にするお前が悪い」ツーン

一夏「それでも、それを無下にはしてないよ」

箒「…………」

一夏「大変だったよな………あれを全部受け止めて………ここに来るのは」

一夏「かなり勇気がいる事だったと思う。俺なら出来るかどうか分からないぐらい」

一夏「でも、それでも箒は………来てくれた。全部を受け止めて、会いに来てくれた」

一夏「だから、言わせてくれ」

一夏「箒…………来てくれてありがとう」

白式「僕からも言わせてもらうよ」

白式「………ありがとうね、箒」

箒「私を………許してくれるのか………?」

一夏「…………」

白式「何で?」

箒「だって私は………一度はお前を………直前で辞めたとはいえ殺そうとしたのだぞ………?」

一夏「……………」

箒「なのに………なのにお前は……昔の一夏のように、私に優しく接してくれる………」

一夏「……………」

箒「私は昔からこんなだから………まともに謝る事もせずに………意地ばかり張ってそのまま…………」

箒「嫌ではないか?こんな………こんな乱暴で素直ではない女は…………」

箒「でも………こんな私でも………」

一夏「…………はぁ」

箒「ッ………」ビクッ

一夏「本当、箒らしいっちゃ箒らしいよな………」

箒「や、やっぱり………嫌だろう………私なんかでは………」

一夏「…………」スッ

箒「ッ!」ビクッ


ポンッ ナデナデ


箒「え………」

一夏「嫌じゃない。素直になったからさっき俺と一緒にいてやる、って言ったんじゃないか」

一夏「箒の性格はよく知ってるからさ、向こうの世界の箒とは少し違うと思うけど、もう慣れてるよ」

一夏「そんな事も全部ひっくるめて始めて、人と人との小さい関係は成り立ってると思う」

一夏「だからさ、許す事だって何の事はない。俺にとっては簡単な事だよ」

一夏「こんな私なんか、なんて言わないでくれ」

箒「一夏………」

白式「やっぱり箒はどの世界でも変わらないんだね。頑固なのか素直なのか分かんないや」ヒョコッ

箒「白式………」

白式「僕だって、箒が好きだから許しちゃうんだよ」ニコッ

箒「………ありがとう」グスッ

一夏「礼を言わなきゃならないのはこっちなんだけどな………」ナデナデ

白式「それにさ………被ってるんだよね……….」

一夏「?」

箒「被ってる……?」ゴシゴシ

白式「さっき台詞……僕とほとんど同じ事言ってるんだけど」

箒「………そんな事言われても」

一夏「じゃあ、箒と白式は似たもの同士って事だな」

白式「………うん、そうかもね」

箒「似たもの……同士………」

一夏「こうやって撫でられるのが好きなのもそっくりだからな」

白式「うんうん、そうだね♪」

箒「そ、そんな事はない!」

一夏「そうか………なら、やめよっか」ピタッ

箒「えっ……」

一夏「ん?」

箒「いや………その………」

白式「んっん~?そんな事はないんだよねぇ?何で残念がってるの~?」ニヤニヤ

箒「うるさい………」ギュッ

一夏「お、おい、どうしたんだ?急に抱きついたりなんかして」

白式「ふっふっふ~♪」

箒「………撫でろ」

一夏「え?」

箒「撫でろ………大アホ馬鹿め…………」ギュウッ

白式「ほうほう………これがいわゆるデレ、ってやつだね」ニヤニヤ

箒「…………」ガッシリ

一夏「しょうがないなぁ箒は………」ナデナデ

箒「………」ギュッ

白式「じゃあ僕も♪」

白騎士『盛っとる場合ではないぞ』

白式『ややっ、白騎士だ。急にどうしたの?』

一夏『おお、どうしたんだ?』

箒「ちっ!?」モガッ

白騎士『お前はしばらく黙っておれ、よいな』

箒「………」コクコクコクコク

白騎士『そう怯えてくれるな。後にしかと訳を話してやる故な』

一夏『で、どうしたんだ?白騎士がいきなり現れる程の事なのか?』

白式『あ、もしかして………』

白騎士『此奴だけでなく、鈴もそこまで来ておるぞ』パッ

白式『やっぱりそうだよねーあの辺にいるよ』

一夏『やっぱり……そうだよな…………』

箒「…………」

白騎士『そこでのう………私が一役買うてやろう』

白式『さっきので味を占めたの?』

白騎士『くっくっくっ………此奴の驚いた顔が何ともおかしゅうてな。あの小娘はどのように驚いてみせてくれるかのう』

白式『そういう所が、千冬お姉ちゃんそっくりなんだよね』

白騎士『千冬の戯れ好きにも、ほとほと困りものよな』

一夏『…………………』

一夏(白騎士………まさか………まさか限界が…………?)

一夏(俺には『そう』見える………気を紛らわせようとしているみたいに…………)


鈴「何よ………いきなり黙り込んでんじゃないわよ」

鈴(三人揃ってどこ見てんのよ、気味悪いわね………)

鈴(白式と一夏は誰もいない方を見て何してんのよ)

鈴(箒って女は黙ったまんまだし…………)

鈴「………………」

鈴(………何が………一緒にいてやる、よ………)

鈴(あたしだって…………けど、あたしは…………あいつに……………)

鈴(あの一夏は………あたしでも信じてくれてるの………?)

鈴(あたしも箒と………いや、それよりも酷い事いっぱいしたけど…………それでも一夏は…………信じてくれるの?)

鈴(あたしは………一夏を信じきれるの………?)

鈴(でも………あたしは…………)

鈴「…………………」

鈴「どう……すれば………いいのよ」

鈴「………!」

鈴「白式がこっちを見た?あたしがいるのバレた?」

鈴「いや………そんなはずは…………」


「ここで何をしている。凰」


鈴「へ!!?は、はいー!!ちょ、ちょっと野暮用がありましてですね織斑先生!!」ビクッ

千冬?「………ふん、丁度いい。手伝え」

鈴「な、何をですか?」

千冬?「詳しい事は後で説明する、とりあえず来い」ガシッ

鈴「え?」

千冬?「くっくっくっ………」

鈴「そ、そそそそ、そっちは駄目です~!!あ、あたしはそっちには~!!」ズルズルズルー

千冬?「喧しい。来いと言っとろうが」

鈴「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!離してくださいぃぃぃぃぃ~!!」ズルズルズルー

一夏「………連れてに来たみたいだな」

白式「うわーすごい暴れてるね。進むってそんなに千冬お姉ちゃん苦手だったっけ?」

一夏「さあ?」

箒「何者だ?あの鈴という奴は」

一夏「えーっと、あっちの世界じゃ箒が四年生で転校して、入れ替わりで鈴が入ってきて。そこから家庭事情で国に帰るまでの四年間一緒につるんでた悪友というか…………」

一夏「変な言い方だけど、セカンド幼馴染って立場かな」

箒「私と入れ替わりで、か………」

一夏「俺がいた世界ではそうだけど、こっちはそうだったのか?」

箒「ああ、確かに私は四年生で転校を余儀無くされた」

一夏「……………」

一夏(そして、六年ぶりに再開してこの通り、か…………)

一夏「…………」グッ……

箒「一夏……どうした?」

一夏「………何でもないよ、箒」

白式「鈴が来たよー」

鈴「やだあぁぁぁぁぁ!!離してえぇぇぇぇ~!!お願いしますうぅぅぅぅううう〜!!」ズルズルズル

千冬?「ほれ、連れて来たぞ」グイッ

一夏「お疲れ白騎士………にしても、ものの見事に千冬姉だな」

箒「すごい………」

白騎士「姿形を変化させるなど、造作も無い事よ」

鈴「はあ!?白騎士!?馬っ鹿じゃないの?!!頭どうかしてんじゃないのあんたら!!」

白騎士「可愛げのない小娘よのう全く………ま、慄く面は見物じゃったがの」

カッ

鈴「うわ!」

白騎士「ならば鈴よ、これで文句はあるまいな?」

鈴「な……何よあんた………千冬さん?」

白騎士「否、我こそは白騎士………と言っても、お前は信じぬのだろうがな」

鈴「当たり前よ!馬鹿言ってんじゃないわよ!!白騎士なんてもんがあんたな訳ないでしょうが!!」

白騎士「喧しい。手前がどう思おうがどうでもよい」

白騎士「私は眠る。後はお前等でどうにかせい」

一夏「え………訳の説明は………?」

カッ

一夏「是非もなし、か………」

鈴「うわっ!………消えた?」

一夏「よう、相変わらずだよな、鈴は………って、俺はこっちの世界の人間じゃないからこんな言い方は変か」

鈴「…………」

一夏「なあ………黙ってても、何もないぞ」

一夏「箒は自分自身の意志で、全身全霊で俺に向かってきた。もしも俺が、こっちの俺だったなら、その手でくびり殺す為に」

一夏「けど、違うと分かった。そしてあれを聞いて、自分で必死に考えて、今日自分の思いを伝えて、こうして今ここにいる」

一夏「お前はどうするんだ」

一夏「それが答えれないのなら帰ってくれてもいい。その事を俺は攻めもしない、別に何とも思わない」

鈴「……………」

一夏「ただ、俺はそう長くはこうしていられない。それだけは覚えていてくれ」

一夏「………出来る事なら、鈴も斬りたくない」

鈴「…………」グッ

箒「一夏、お前………まさか…………」

クイックイッ

箒「………白式」

白式「…………」フルフル

箒「………」コクン

一夏「…………」

一夏「けど俺は………お前を………鈴を信じる」

一夏「箒の時もそうしたように、俺は時間の許す限り………お前を、鈴を信じて待つよ」

一夏「………行くぞ、白式」クルッ

鈴「待って……」グイッ

一夏「…………」

鈴「ふざけないでよ、自分の言いたい事だけ言ってハイ、さようならはないでしょ………」

鈴「お願いだから、あたしにも……あたしにも言いたい事………言わせてよ」

一夏「鈴………」

鈴「あたしね、あんたなんか大っっ嫌い………だった」

一夏「…………」

鈴「けどね………あんたは、こっちの一夏じゃない………」

鈴「知ってる?………あんたが名前を呼ぶ時………それだけで違うんだって」

一夏「名前だけで………」

鈴「あんたは………昔の一夏みたいに………どこか懐かしくて、暖かい呼び方で………あたしを呼んでくれてるの………」

鈴「それに比べてあたしは………名前なんかも呼びたくなくて………見る度に、目障りだってあんたを傷付けて…………」

鈴「今まであたし………あんたにいっぱい酷い事した………全部自分勝手で、何も見ようとしなかった…………何も分かろうとしなかった」

鈴「でもね………それでもね…………そんなあたしでも………あんたはずっと、信じていてくれてたんでしょ………?」

一夏「ああ………きっと俺は………鈴だから、鈴だったから…………俺は信じれていたんだ」

一夏「それはこれまでも『そう』だったように、これからも『そう』なんだと思う」

一夏「俺は鈴を………鈴を信じるよ」

鈴「………何よ………馬鹿………何でそんな馬鹿みたいに………正面からあたしに向かってくるのよ…………向かってこれるのよ………」

鈴「けどあたしは………今まで何も出来なかった。あんたの顔見る事すら出来なくて…………ずっと逃げてばかりで…………」

鈴「ほんと………これじゃあたしの方が馬鹿じゃない…………大馬鹿もいいとこよッ…………」

一夏「…………」

鈴「こんな………こんなあたしでも…………あんたは信じてくれる」

鈴「だからね………あたしもね………箒みたいにいかないだろうけどね………」

鈴「あんたと………一夏と一緒にいたい………いさせて」

一夏「……………」

鈴「今までの事は忘れて、とは言わないから………気に入らないなら殴ってくれてもいいから…………何回でも謝るから…………」

鈴「お願い………一夏………」

一夏「鈴……」

ギュッ

鈴「い、一夏………?」

一夏「もういい………もういいよ。これ以上自分を責めるのはやめてくれ」

鈴「でも………それじゃあ………」

一夏「俺は今までの事、怒ってなんかいない。だって、それはこっちの世界の俺が『そう』されるだけの事をしたからだろ?」

鈴「…………」

一夏「それに俺は、気に入らないから鈴を殴ろうなんて事もしたくないし、気に入らないなんて思わない」

一夏「むしろさ、俺が逆にお願いしたいぐらいだよ。一緒にいてください、って」

鈴「…………」ギュッ

一夏「………今までが悪かったのなら、これからを良くしていこう」

一夏「そうすれば………鈴が自分を責めないで生きていける」

一夏「そんな鈴には似合わない顔をしなくて済むからさ」


鈴は唇を噛み締めて、俺にもっと強く抱きついてきた。

鈴「ごめんね………ごめんね、一夏………」

そう言う鈴の顔は見えなかった。

けどその声は、その小さな肩は、確かに震えていた。

堪えきれていない涙声に、嗚咽が混じっていた。

いつもの鈴なら、絶対に見せるはずのない姿。

それを見せたくなかったのか、ずっと顔をうずめていた。

そこからは、箒と同じでずっと謝っていた。

ずっと、泣いていた。

俺はまた、黙ってそれを見ているだけだった。

自分はどうすればいいのか、分からなかった。

もしかすると、俺が『こう』なる前なら分かっていたのかもしれない。

泣きつく鈴に何か出来たのかもれない。

歯痒くて、苛立たしかった。

俺は言葉の一つでもかけられるはずなのに。

そうする事も出来ない自分が。




白式「鈴………ずっと泣いてるね」

箒「ああ……そう、だな………」

白式「箒もそうだったよね」

箒「え………い、いや………あれは………ん?」

白式「別にそんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うけど」

箒「待て……何故私が泣いていたのを知っている」

白式「そりゃあ……僕はISだからね」

箒「………答えになってないぞ」ジトッ

白式「えーっとね………こうやって紅椿が教えてくれたんだ」ピトッ

箒「これだけで?紅椿が?」

白式「同じISだから色々出来るんだよー」

箒「便利なものなのだな………」

白式「うん、少なくとも人間みたいに意思疎通の失敗とかはないかな」

白式「例えば、一夏がため息をついてる訳を聞いてそれがどんなもので、どんな風に感じているか分かる?」

箒「いや、それは無理な話だ。せいぜい察する事しか出来ない………」

白式「人間同士ならそうだよね。けど、僕と紅椿だったとしたら全部分かっちゃうんだ」

箒「しかし………それでは自分が分からなくならないのか?」

白式「確かに言われてみれば………でも、不思議とそうはならないんだよね、何でだろう?」

箒「姉さんの………向こうの姉さんの意志が、関係しているのだろうか………」

白式「多分ね………他者の意志を尊重し、そして自らの意志を信じること」

白式「僕達に………『そう』であって欲しいんじゃないかな………」

白式「だから僕達は、互いの思いや意志を理解し合えるんだと思う…………僕の希望的観測も入ってるんだけどね」

箒「それでも、羨ましいよ………」

箒「私達は………『そう』ある事がとても難しいから………」

白式「色々大変なんだね、人は」

箒「そうだな………一緒にいるにしても、もどかしい事だらけだ」

箒「参ってしまいそうだ………まったく」

白式「それでも、そうだとしても………箒は、一夏と一緒にいるんだよね?」

箒「ああ、武士に二言はない」

白式「………ありがとう、箒」ムギュ

箒「ど、どうした……急に抱きついてくるなんて………」

白式「僕、嬉しいんだ…………やっとこの世界で、一夏といてくれる人がいたから…………」

白式「箒が、一夏の信じる箒だったから」ニコッ

箒「とっ、当然だ!………私はあいつのファースト幼馴染だからな!」

白式「えへへ………それにね」

箒「それに?」

白式「箒はおっぱい大きいし、抱きついてて安心するんだもん」スリスリ

箒「こら………や、やめろっ………くすぐったい………」

白式「やーだよ」モミモミモミ

箒「んっ………そっ……んなっ……ところ………姉さんに似なくてっ………いいっ………」ギュウゥッ

白式「むーっ!!むーっ!!」ジタバタ

箒「はぁ……はぁ……反省したか?」ギュウゥゥゥ

白式「む………ぐぐぐうぅ………した!!」

箒「よろしい」パッ

白式「けほっ………はぁ~死ぬかと思った」

箒「全く………抱きつくだけならまだしも、胸を揉むのは許さん」

白式「えー」ブーブー

箒「駄目と言ったら駄目だ」

白式「はーい」

白式「でも抱きつくだけならいいんでしょー?」ムギュ

箒「まあ……抱きつくだけならな」

白式「今は鈴が一夏を独り占めしてるからね、僕が一夏に抱きつけないもん」

箒「…………そういう事か」

白式「箒だってそうでしょ?」

箒「……………」

白式「ねえねえ、そうなんでしょ?」

箒「…………否定はしない」

白式「うんうん、そうだよね」

箒「独り占め出来るのなら、そうしたいがな………」

白式「ええぇ………何で開き直ってるの………?」

箒「少しずつでも、素直な自分にになってみようと思ってな」

白式「へぇー…………ハッ!?」

白式「さっきのは一夏にしちゃ駄目だよ!!?」

一夏「やっぱり似たもの同士だよなぁ………あの二人」ナデナデ

鈴「あ……あのさ、一夏………」グスッ

一夏「どうしたんだ?」ナデナデ

鈴「あたしにも………変な気づかい………いらないから」

一夏「…………」

鈴「向こうのあたしがどんなのかは知らないけど、ここにいるあたしはあたしだから…………」

鈴「だからあたしも、一夏を………あんたを向こうの一夏として、ちゃんと受け入れるから」ギュッ

一夏「ああ………分かった」

一夏「鈴、これからよろしくな」

鈴「こっちこそ……よろしく」

白式「僕もよろしくね、鈴」ニュッ

鈴「!?」ビクッ

箒「私もな」

鈴「い、いきなり出てくんじゃないわよ………ビックリした………」

白式「まあまあそう言わずに……ね?」

鈴「………うん」ギュッ

白式「あー………えーっと…………」

箒「…………いつまでくっ付いているつもりだ?」

鈴「もう少しぐらいいいでしょ………あんただって、さっきくっ付いてたんだから」

箒「ま……まあ……そうだが………」

白式「だよね」ニヤニヤ

一夏「あの………俺としてはそろそろ晩飯を………」

鈴「何よ」

一夏「い、いや………そろそろ暗くなる時間だから、寮に戻った方がいいんじゃないかなーって………」

鈴「…………」

白式「お腹すいたでしょ?」

箒「その前に、千冬さん………白騎士について聞かせてくれ」

鈴「あ、あたしも聞きたい!」

一夏「白式、白騎士を呼んでくれ」

白式「はいはーい………あれ?」

一夏「?」

白式「ご、ごめんね~………白騎士寝ちゃってるから今は無理かな……」

一夏「…………」

箒「訳を話すと言っていたのにな……」

鈴「そういうところも、案外千冬さんに似てるのかもね」

一夏「………かもな」

白式「ごめんね、白騎士の話はまた今度ね」

鈴「寝てるんなら仕方ないわね」ササッ

鈴「で?この後ーー」


グウゥゥゥゥゥ……


一夏「あ……」

白式「僕じゃないよ」

鈴「…………」

一夏「だからそう言ったのに………」

箒「あれだけ泣けば………腹も減るだろう」

白式「泣くのって、結構疲れるよね」

箒「そうだな」

鈴「ふん、これも元気な証拠よ」グウゥー

一夏「だよな」グウゥー

一夏「まだちょっと早いけど鈴、箒、俺の順で戻ろうか」

箒「………そうするか」

鈴「あたしは別に一緒でもいいけど」

一夏「そう言わないでくれ、変な噂がたったら面倒だろ?」

鈴「…………そうだけど」

一夏「そんな顔しなくても、明日も俺はここにいるよ」

鈴「………分かった」コクン

鈴「じゃあ……またね、一夏」クルッ ザッザッザッザッ

一夏「またな、鈴」

白式「また明日ー」フリフリ

箒「次は私の番だな」

一夏「そうだな」

箒「…………」

箒「なあ…………」

一夏「ん?どうした?」

箒「いや、何でもない………また明日、ここで」クルッ

一夏「ああ、待ってるよ」

箒「ではな、一夏」ザッザッザッザッ

一夏「またな、箒」

白式「またねー」フリフリ

一夏「また明日、か………」

白式「いらぬ気づかいは無用だ、って言われてたのに………いいの?」

一夏「箒や鈴はこっちで生きる人間だ………だから、これでいいんだよ……………」

一夏「俺が向こうに帰った後の事を考えるとな」

白式「………それがいらない気づかいなんじゃないの?」

一夏「………そう、かもな………」

白式「世話焼きもほどほどにね」

一夏「分かったよ…………さて、俺も晩飯にするか」

白式「あー………そういえば今日は全然遊べなかったや………」

一夏「今日遊べなかった分、明日は箒や鈴が遊んでくれるさ」ナデナデ

白式「うん!」ニコッ

~鈴の部屋~

バタン

鈴「……ただいま」

ティナ「おかえりー……ってどうしたのその目!?」

鈴「え、何か……変?」

ティナ「すごい真っ赤だって!」

鈴「あ………あー……結構泣いちゃったから…………」

ティナ「泣いたって……何かあったの?」

鈴「えーっと、その……なんと言うかその………」

ティナ「…………」

鈴「泣かされた訳じゃないのよ!あ、あたしが勝手に泣き出しただけだから!!」

ティナ「な~んだぁ……良かった~」ホッ

鈴「あの………今日は色々とね………誤解を解いてきたのよ」

ティナ「へー誤解をね」

鈴「あの………ティナには悪いんだけど……あんまり詮索しないでくれるとありがたいんだけど………」

ティナ「……………」

鈴「お願い………」

ティナ「……………いいよ、私は詮索しない。でもね」

ティナ「話せるようになったら、真っ先に私に教えてよ?」

鈴「ティナ………」

ティナ「そうしなきゃ、一生許さないんだからね」プクー

鈴「ありがとうね、ティナ………それと、ごめんね」

ティナ「でも、仕方ないでしょ?鈴が話したくないんだから」

鈴「うん………持つべきものは友、ね」

ティナ「嬉しい事言ってくれるじゃない、このこの」グイグイ

鈴「ちょ、押さないでよ」

ティナ「さて、鈴も帰ってきた事だし、夜ご飯食べに行きましょ」

鈴「そうね、あたしもお腹すいてたから」

ティナ「それじゃあ、行きましょ」ガチャ

~箒の部屋~

ガチャ

箒「…………鷹月さん?」ソロ~

箒「は、いない……か」

鷹月「ところがぎっちょん!」ヌッ

箒「うわあぁ!?」ビクッ

鷹月「かっかっかっ!箒さんもまだまだ甘いようですなぁ!」

箒「お、驚かさないでくれ………」

鷹月「で?あれからどうだったの?結果は?」ズイッ

箒「え、えーっと………私はちゃんと伝えるべき事を伝えて、相手はそれにーー」

スッ

鷹月「何も………言うなっつうのこの!」ニパー

箒「えっ?でも………鷹月さんはーー」

鷹月「おおっと、みんなまで言うなよみんなまで言うなよ、こっちにゃあちゃ~んっと分かっちゃうんだからねぇ!」

鷹月「いやぁ~もうねっ、なんかこうして憑き物が落ちたみたいな顔で帰ってきただけでこっちはもう感無量!なーんかいったりなんかしちゃったりしてね!」

箒「私が………?」

鷹月「それに………ほんの少しだけ、泣いたでしょ?」

箒「!!」

鷹月「言ったでしょ言ったでしょ~こっちは分かっちゃうんだってね~」

箒「敵わないな……鷹月さんには」

鷹月「おーおーその先は言うなよその先は言うなよ、言うなっ、言うなよ~こっちには分かってるんだからね~」

鷹月「篠ノ之さんが、勇気を出してきた事もね」

鷹月「なら、それに外野の私がとやかく口挟むのは野暮でしょ?」

箒「鷹月さん………」

鷹月「私は応援ぐらいしか出来ないけど………篠ノ之さんのルームメイトだから」ニコッ

箒「ありがとう……」

鷹月「どういたしまして、このぐらいしか出来ないけどね」

箒「いや、充分すぎるよ」

鷹月「そんなに畏まらなくても全部女のカン、だからね」

箒「でも、意外と馬鹿に出来ないのだろ?」

鷹月「あらら、こりゃ一本取られたね」ガチャ

鷹月「じゃあ、先に食堂に行って待ってるね」

箒「分かった」

バタン

箒「さて………少し」

箒「ん?」ピタッ

箒(ベッドの上に紙袋……鷹月さんか?)

箒「………」ヒョイッ

〈篠ノ之箒、必ず読むべし〉

箒(ボールペンで書いたのか?にしては筆のようにも見えるが………)ガサガサ

【女の性感帯 これであの子を絶頂に】

箒「………え?」

箒「え?これって私がこれ………ええぇぇっ!!?」

箒「どういう事だ!!分かってると言いながらとんでもない勘違いをしているではないか!!」

箒「今すぐに訂正に」ポロッ

箒「何か落ちた……?」

〈かかったなアホが!!本命は机の上だったのだ!!〉

箒「………でもこれは……」ペラッ

箒「………白紙だ………何も書かれていない。表紙だけか………」パタン

箒「わざわざこの為に作ったのか………これ」

箒「これか………」

〈語るに及ばず〉

ガサガサ

箒「料理本………」ペラッ

ペラッペラッペラッ

箒(素朴な料理ばかり本だ………それも、一品ずつ作り方の書かれた本………)

ペラッペラッペラッペラッペラッ

箒「栞………何か書いてある」


〈本読んでるけど、晩飯はいらなかったりなんかするの?〉


箒「……………」

箒「これは………世話焼き、なんだよな?」

今日はここまで。

~食堂~

鷹月「よおよお、よお、よ………よお?」

箒「…………」

鷹月「あーご機嫌斜め四十五度だったりなんかしちゃう?」

箒「………別に」

鷹月「すまないね、突然便所の中でキョロキョロしてんじゃねーよ的な事をやりたい衝動に駆られちゃって」

鷹月「まーとりあえず、ご苦労さんさん、七拍子」

箒「何で鷹月さんは料理本をくれたんだ?」

鷹月「ただ一冊、それだけでよい。例え一冊であろうと、読み込む事で相応の知識を得る事が出来るのだから」

箒「詩人?しかも答えになってない」ジトー

鷹月「正直に白状しますと、女のカンとしか言いようがござーませんのです」

ティナ「鈴はいつもラーメンね」

鈴「美味しいでしょ?」

ティナ「確かにそうだけど………偏食は駄目よ、お肌に悪いんだからね」

鈴「ホイコーローとかチンジャオロースとかも食べてるから大丈夫よ」

ティナ「それだけこのツヤとハリ………羨ましい」プニプニ

鈴「食って運動すればいいのよ、って何でつついてるの」

ティナ「いいなーって思って」

鈴「太極拳でもやったら?」

ティナ「教えてくれるの?」

鈴「やだ、あたしは太極拳やってないもん」

ティナ「え?そうなの?」

鈴「人を見た目で判断しちゃ駄目よ、特に中国人皆が語尾がアルで太極拳やってると思ったら大違いよ?」

ティナ「どうもすいませんでした」

鈴「あ」

ティナ「あ?」

箒「………」

鷹月「あっ………」

ティナ「えっ………」

箒「奇遇だな、鈴」

鈴「そうね、かなりの奇遇ね、箒」

箒「同席してもかまわないか?」

鈴「いいわよ」

箒「すまないな」

鷹月「…………」

ティナ「あなたは座らないの?」

鷹月「ええ、私は結構ですよ」

鷹月「よろしければ、私と二人きりで夕食でもいかがでしょうか。麗しのお嬢さん」ピシッ

箒「………」

ティナ「えっ?」

鷹月「ごめんねー篠ノ之さんがそっちの鈴さんに用があるみたいだからさ、突然悪いね」ゴニョゴニョ

ティナ「な、なるほど……」ゴニョゴニョ

鈴「?」

ティナ「コホン………慎んで、お受けいたします」

鷹月「では、参りましょうか」

ティナ「ええ、そうしましょう」

鈴「!」

ティナ「私はこの面白い人と食べるから、鈴は篠ノ之さんとごゆっくり」フリフリ

箒「…………なるほどな」

鷹月「流石は篠ノ之さん。ま、そういう事だからさ~じゃあね~」フリフリ

鷹月「ホントにごめんね、鈴さんと一緒に食べてたの邪魔して」カツカツカツ

ティナ「ううん、気にしてないよ」カツカツカツ

鷹月「いやー物分かりのいい人で助かった助かった」

ティナ「あなたも相当の物分かりの良さだけどね」

鷹月「まーそうでもないと人間なんざやってられんから」

鷹月「そんで裏から全てを操る方がいいのだーフハハハハ!」

ティナ「ふふふ……本当、面白いね」

鷹月「御褒め頂き、光栄の極み」ヒュパッ

ティナ「そういえば、名前をまだ聞いてなかったね」

鷹月「そうだったそうだった。私は鷹月っていうの、よろしく」

ティナ「私はティナ、よろしく」

鷹月「ときめくお名前です」

鷹月「ティナティナよろしくねーこれから先、色々とお付き合いする事が増えるかもしれないからさ~」ニヘラー

鷹月「あの二人が理由で」

ティナ「……確かにそうかもね」

鷹月「ま、二人でちち………んっんん、篠ノ之さんはノーマルだから安心してね」

ティナ「?…….そういうあなたは?」

鷹月「アブノーマルですが」キリッ

ティナ「えっ」

鷹月「って言ったらどうする?」

ティナ「もう………ビックリした………」

鷹月「ふざけずにはいられない性分でねー………ん?」

ティナ「どうかしたの?」

鷹月「あんな人………いたっけ」

ティナ「どの人?」

鷹月「もう向こうに行っちゃったから見えない」

鈴「人のルームメイト奪って食う訳じゃないわよね?あんたの隣の女」

箒「それはないと思う………多分」

鈴「食われてたら食われてたではり倒してやるだけだけどね」

鈴「ま、ちゃっちゃと本題に入るわね」

箒「そうしてくれ」

鈴「一夏の事で話があるんでしょ?」

箒「ああ………知っていてもらわねばならない事があるから、お前に話にきた」

鈴「…………」

箒「一夏は、私達が思っている以上に『おそろしいもの』だという事をな」

鈴「おそろしいもの………?」

箒「私と一夏の果たし合いは見ていたな?」

鈴「勝手だけど、全部見させてもらったわよ」

箒「やはりそうか…………なら話は早い。お前には………あの時一夏がどう見えていた?」

鈴「どうって………言われても………」


「箒の考えてる通りだよ」


鈴「ッ!?」バッ

箒「!!…………貴様………何者だ」

白式「そんな怖い顔しなくてもいいのに………僕だよ、白式だよ」

箒「え、あ……言われてみれば………そうだな、確かに白式だな」

鈴「そうね………制服着てるから、ちょっと分かりにくかったけど」

白式「ふっふっふ~ちゃんと変装したからね。これで誰から見てもIS学園の生徒でしょ?」

鈴「はぁ………もービックリさせんじゃないわよ」

白式「ごめんね、思ったより割り込むタイミング悪かったみたいだね」

箒「お前だけなのか?」キョロキョロ

白式「うん、一夏は食べ終わって部屋にいったよ」

箒「そうか………」

鈴「ふん………馬鹿………」

白式(そうじゃないと困るからね、色々と)

白式「僕でよければ約束通り、白騎士について話すよ」

箒「本当か!?」

白式「白騎士が寝ぼすけだからね」

鈴「是非ともお願いしたいわね」

白式「んーと、まずは………」

~IS学園 敷地内~

スコール「あなたのアテが外れたわね、オータム」コツコツ

オータム「外れだァ?大外れもいいとこだ。けどよ、そのおかげで俺達は大助かりだ」コツコツ

マドカ「…………」コツコツ

スコール「所詮この時は、ひとときの純朴の時でしかない………今はそれに浸らせてあげましょう」

オータム「またチャックなんたらってバンドか?」

スコール「さあ?今回は私の、かも知れないわよ?」クスッ

オータム「ま、とにかくだ。前時代の戦争を否定しておきながら、皆で仲良くスポーツマンシップに乗っ取って~とはとんだ茶番だぜ」

オータム「世の中に、バカってもの程単純明解、起承転結、一部始終がハッキリしているモンはねぇ。お前もそう思わねぇか?」

オータム「マドカちゃんよお」

マドカ「どうでもいい」

オータム「おーおーツレねえガキだこと」

スコール「バカはどうハッキリしているのかしら」

オータム「ああ、簡単だ。おっ死んじまうんだよ。あの手この手で踊るだけ踊らされた挙句にな」

スコール「…………」

マドカ「スコール、オータム。警備が来た」

オータム「お、やっとIS学園の先生方にお会い出来んのか」

スコール「本当ね………数は二人、私が行くわ」

オータム「チッ、麻酔かよ」

スコール「後の楽しみを減らしたくないでしょ?」

オータム「まあ……そうだな」

マドカ「カバーには私が」

教師A「こちらブラボー、異常なし」ピッ コツコツコツ

教師B「ふあ~ぁぁあっ、ねむっ………日本での哨戒は暇なも………あ?」コツコツコツ

キュパッキュパンッ

教師B「ッ!!」バッ ズザザザー

教師A「しまっ……た………」ドサッ

教師B「クソ、どっからだ………しかも麻酔とはね、おまけに一発で仕留める腕」ガサガサ

教師B「いくら私等がボケっちまったにしても………」ゴソッ

キュパッ

教師B「ッッ………舐められた……もの………」ドサッ

スタッ

スコール「………」チャキッ

スコール「クリア」

オータム「伊達に軍人じゃねぇな、ここの先生方は」ゴソゴソ

マドカ「………」ゴソゴソ

スコール「そうだとしても、計画に修正はないわ」

オータム「はいはい、俺とマドカはネタ作り諸々に偽装工作、その後派手に暴れろ、だろ?」ゴソゴソ

マドカ「オータム、カードキーは胸元」ピラッ

オータム「おお、でかした」ムニュムニュ

オータム「にしてもよォ、スコール。ピーターパンかなんかのつもりか?わざわざ誘拐相手に攫われてください、なんてよ」

スコール「ジャック・クリスピン曰く、『人生を有意義にする一番の武器は礼儀だ』」

オータム「礼儀、ねェ………こちとら久しく拝んでねぇや、何せ戦争やってばっかなモンでな」

スコール「でも………そうだとしても、戦争にもルールはあるわ………必要最低限の、ね」

オータム「…………」

スコール「それと………ジャック・クリスピンはこうも言っているわよ?」

スコール「死んでるみたいに、生きたくはない」

オータム「なら俺は戦争する事をオススメするぜ。そうすれば、人は弱肉強食の上に生きている、ってコトを実感できるからな」

スコール「オータム、女が皆………あなたと同じだとは限らないのよ………」

マドカ「今回の織斑一夏誘拐の理由はそれ?」

スコール「………ええ、そうよ。今回の仕事には私情を挟んでいる。けど、上との利害は一致したから問題ないわ」

オータム「俺は巻き添えはゴメンだぜ。同じ傭兵でも、死ぬのは二束三文の駄賃で事足りてるからよ」

マドカ「オータム、私もスコールと同様に、今回の作戦に私情を挟んでる」

オータム「あァ?」

スコール「……………」

マドカ「しかし、何も問題ない」

マドカ「私は、必ず目的を………達成する」

オータム「おやおや、今日はえらく上機嫌だなマドカちゃん」

マドカ「上機嫌?私が?」

オータム「今日に限った話じゃねえよなァ?近頃新しいオモチャを貰ったそうだな………それも、得体の知れねぇとびっきりのをな」

スコール「ジャック・クリスピン曰く」スッ

カシュッ ジジジ……ピンッ

スコール「最高のライブをすれば衣装はついてくる」

オータム「………なるほどな、そいつは一理あるぜ」

マドカ「衣装?スコール、私にはあなたの意図が理解出来ない」

スコール「フー………私はねマドカ、あなたの実力を認めているのよ」

スコール「例えあなたが、何であろうとね」

オータム「残念ながら俺は認めざるを得ない、ってところだがな。こいつに関しては」

マドカ「スコール、作戦中の喫煙は控えて」

スコール「………もう少しだけよ」

オータム「こいつ……タバコの話しやがって………人の話聞いてんのかァ?」

オータム「ついでに聞くけどよスコール、何でいつもマッチ使ってんだ?」

スコール「家が貧乏だったのよ………だから、昔から慣れ親しんだものが一番性に合うの」

オータム「なあ、スコールさんよォ………テメェはそうしてるとつくづく『傭兵』じゃねぇな」

スコール「!!」

マドカ「?」

スコール「………いいえ、私はただの傭兵よ………その辺にいるような、普通のね」

オータム「ま、いいさ。マッチ売りの少女が傭兵になった経緯よりも、仲良くお手て繋いであの世行きになるかどうかだ」

スコール「私も、伊達に傭兵やっていないわ」ポトッ

マドカ「もういい?」

スコール「ええ、行きましょう」グリッ

オータム「行くぞ、マドカ」

マドカ「了解」

~食堂~

白式「………一応は、こんなところかな」

白式「何か質問ある?」

箒「…………」

鈴「先生ー」シュビッ

白式「はい、鈴ちゃん」

鈴「先生はセカンドシフトは終わってるんですかー?」

白式「いい質問だね、福音事件の時に終わったよ」

鈴「チッ……」

白式「何で舌打ち!?」

鈴「ジョーク、ジョーク、イッツチャイニーズジョーク」

白式「いや……ジョーク言う人の顔してなかったよね……?」

鈴「だって白式って元々高性能機体でしょ?それがセカンドシフトなんてしたら………ねえ?」

箒「ふん、例えセカンドシフトしようと赤椿の敵ではない」

鈴「しまった……第四世代持ちに聞いたのがそもそもの間違い………」

白式「白騎士については何かないの?」

鈴「…………」

箒「…………」

白式「あれ?どうしたの?」

鈴「い、いや………あるにはあるんだけど……その前に、ね………」

箒「自分の非をより痛感していてな………」

白式「一度は生死の境い目さまよったからね、一夏は」

箒「なあ、白式。教えてくれ、私が刀を抜こうとした時………一夏は本当に死にたがっていただけだったのか?」

白式「そんな藪から棒に………」

鈴「自信満々に話に割り込んどいてそれはないんじゃないの?」

箒「お前なら一夏の考えていた事が分かるはずだ。教えてくれ」

鈴「あたしも、そこんところは詳しく聞きたいわねえ、白式」

白式「………箒の考えてる通りだよ」

鈴「嘘ね、正直に物を言う時の顔してないわよ」

白式「……………」

箒「どうなんだ」

鈴「まさかとは思うけど………殺そうとしてた訳じゃないわよね?」

白式「…………」

白式「何も、分からないんだ………」

白式「箒が歩き始めて………一夏がもしかしたら読みが外れていて、このまま殺されるとしても、それでもいい………って思ったその次には………」

白式「僕は何も分からなくなっちゃったんだ………急に何もかも真っ暗になっちゃって………」

白式「気がついたら………箒の刀が一夏の首元にあって………」

白式「それと、どこか残念がってる一夏しか…………僕にはそれしか分からなかったんだ………」

鈴「それも………白騎士が関係してるんじゃないの?」

白式「…………」フルフル

箒「………鈴、お前は何か分からなかったのか?」

鈴「一夏は………あの時振ろうとした刀を止めた………残念だけど、あたしに分かるのはそれぐらい」

箒「確かにあの時一夏は刀を止めた………もし、あのまま刀を振っていれば………」


箒「私は刀を抜く事すら出来ずに、命を落としていたかもしれない………」


鈴「あんたの実力はよくよく知ってるけど、まさか向こうの一夏が………それを上回るなんてね………」

箒「私も………驕っていた訳ではないが………圧倒的な差に驚いたよ」

白式「…………」

白式(一夏との圧倒的な差?)

白式(おかしい………一夏と箒の実力はそう変わらなかったのに…………だからと言ってこっちの箒の腕が劣っている訳でもないよね)

箒(そもそも一夏は殺気なんて飛ばせない………刀を抜く前に斬り殺すなんて考える事はしない…………何かがおかしい)

白式(それに………一閃二断の構えをとっていた一夏が、箒を『斬り殺そう』とした?そんな事なんて一切考えていなかったのに?)

白式(なのに何で、わざわざ『自分で』刀を止めた?)

白式(じゃあ何で箒を『殺そうとした』の?)

白式(…………僕の知らない、未知の何かが………僕の知らないところで、何かおそろしい事が起きようとしている)

白式「………………」

白式(それにしても………)


ラウラ「……………」


白式(箒と鈴は気付いてないけど僕には分かるんだよね、最初から二人の様子を伺ってるって)

白式(ラウラはずっとバレてないと思ってるみたいだけど………)

白式(一応盗聴器反応はないから、指向性マイクでも使ってるのかな?)

白式(それに……)


セシリア「いえ、何でもありませんわ」チラッ


白式(なんでセシリアまで?友達連れて食べてるとはいえこっち見過ぎだよ、そろそろバレるよ?)

白式(ブルーティアーズを部分展開して本格的に盗聴してるし)

白式(ラウラは前々からこんな調子だったけどセシリアは………多分、箒の行動に勘付いたみたいだね)

白式(様子見してるだけか、それとも一夏に疑惑を持っているのか………)

白式(ラウラはラウラで………どうすればいいか分からなくなっちゃってるみたいだしなぁ………ちょっとまどろっこしいけども…………)

白式(シャルの方は一人ぼっちでいるし………こっちに関心どころか恐怖心しかない)

白式(色々と前途多難だなぁもう…………先が長過ぎるよ………)

白式「と、とにかく!僕に言えるのは…………ここから先はどう転ぶかは分からないって事かな」

白式「ふとした事で、一夏が暴走しちゃうかもしれないし」

白式「もしかすると、打開策がなくてこのまま帰れず終いになっちゃうかもしれない」

白式「でも、どう転んでも一夏にとって結果は思わしくないんじゃないかな?今、この場合なら特にね」

箒「…………」

鈴「…………」

白式「あくまで可能性の話だからね?他に何かあるかもしれないし、帰れないって決まった訳じゃないよ」

鈴「分かってるわよ………そんな事………」

箒「分かってはいるんだ。だがな………」

鈴「そうだ!束博士なら、自由に行ったり来たりするぐらいの物作れるんじゃない?」

鈴「連絡つかない?」

箒「私もそう考えたのだが………駄目だった。何度かけても留守電ばかり………」

鈴「福音の時来たのは何だったのよ………」

箒「さあな………あの人の気まぐれは物凄く激しいからな」

白式「何とか話せれば興味持ってくれるんじゃないかな?別世界の一夏がいる、なんて結構食い付くと思うよ」

箒「ただいま天地がひっくり返るよりももーっと凄いミラクルな大発明してまーす、とあの人は留守電で言っていた」

箒「一体何ヶ月、いや………下手すれば何年先になるんだろうな」

鈴「自由奔放過ぎよ………あっ、だから未だに逃亡生活してんのね」

箒「しかしな、例えあの人でも、時空を越えるなんて事は不可能かもしれない」

鈴「その時はその時よ、他の方法でも探すしかないわね」

白式「…………」

白式(二人とも………まさかね?………いや、そんなはずはないと思うけど………)

白式(今日の夜にでもこっそり見ておこう。それと、セシリアもラウラも)

白式(とりあえず、シャルかラウラかに接触しようかな…………)

白式「……………」チラッ


セシリア「!?」ビクッ


白式「はぁ………」

鈴「何よ白式、何でため息なんかついてんのよ」

白式「気にしないで、ちょっとだけ考え事が行き詰まっただけだから」

箒「あまり根を詰めるのも良くないぞ、休める時にはちゃんと休めよ」

白式「いや、休むも何も……今は待機状態だから疲れないんだよ」

鈴「へーすごいわね」

箒「便利なものだな………」

白式「それじゃあ、僕はこの辺でお暇させてもらうよ」スクッ

箒「そうか……一夏によろしくな」

鈴「明日の昼、酢豚持っていくって伝えといて」

白式「分かったーまた明日~」フリフリ

箒「またな」

鈴「頼んだわよー」

鈴「………ねえ、箒………あんたは本当に…………このまま一夏が向こうに帰ってもいいの?」

箒「馬鹿な事を言うな………一夏がそれでいいのなら………私は………それでいい」

鈴「あたしはね………一夏がこのまま帰れなくてもいい。むしろ………ずっとこっちの世界にいて欲しいって思ってる」

鈴「あんただって………そうなんでしょ」

箒「ああ、そうだ………だが、一夏は………それを望んでいない…………」

鈴「そんな事…………分かってるわよ…………あたしだってそうよ、一夏に帰ってなんか欲しくない…………」

箒「私も………お前と同じだ」

箒「一夏の為にと思いながらも、姉さんに電話が繋がらない事に喜んでいる自分がいる………頼んだとしても、向こうに帰れる絶対的な保証がない事に賭けている…………」

箒「私は………どうすべきなのか分からないんだ」

鈴「ねえ、箒………こうしてるとさ、あたし達って似たもの同士よね………色んな意味で」

箒「そう………だな、確かにそっくりだ」クスッ

鈴「ふふっ……あたしはそんなにキリッとした顔付きじゃないけどね」

箒「私だって、お前みたいにおぼこくはないぞ?」

シャル「…………」モグモグ

シャル「あんまり、美味しくない………」

シャル「……………」ジワァ

シャル「ッ………」ゴシゴシ

シャル「何でこんな…………」グスッ

白式「やあ、始めましてデュノアさん」ヒョコ

シャル「えっ……は、始めまして……」ビクッ

白式「前、座ってもいい?」

シャル「ど、どうぞ………」

白式「ありがと」ガタン

シャル「あの………ぼ……私に、何か用ですか………?」ビクビク

白式「う~ん、用って程の事じゃないんだけど………ただ単にお話がしたい、ってだけじゃだめかな?」ニコッ

シャル「ッ……」

シャル「……………」

シャル「よ……よろしく、お願いします………」ペコリ

白式「こっちこそ、よろしくね」ペコッ

白式「それと、敬語じゃなくていいよ」

シャル「始めて見る顔だったから………転校生なの?」

白式「ううん、僕は前からずっといたよ」

白式「僕の名前はシキシロ、よろしく」

シャル「か、変わった………名前だね」

白式「そうでしょ~………ん?」

白式「…………」

シャル「どうかしたの……?」

白式「ううん、何でもない」

白式(近くに不明なIS反応が二つ、離れた場所にもう一つ………その内の一つは僕や紅椿と同じ反応…………?)

白式(束博士が学園に来たのかな?でも、それなら真っ先に箒のところに来るはず)

白式(一夏や千冬お姉ちゃんの方に向かっている訳でもないし、何より確認された機体反応が二人組の方?)

白式(侵入者にしては妙だね。ISを使って学園の警備に引っかからないようにしたのか、他も上手くかいくぐったのか)

白式(やっぱり狙いは一夏かな、世界に一人しかいないんだし)

白式(でも、そんな奴等が何で僕や紅椿と同じISを?)

白式(博士の単なる気まぐれにしては度が過ぎると思うけど………やりかねないんだよね)

白式(さて、どうしようかな~………二人組は移動中、離れた一人に動きはなし)

白式(二人組は建物内に侵入しているからそっちから先に当たろうか)

白式(一人の方が何が目的なのかよく分からないから、特に用心しておこう)

白式(それにしても、一難去ってまた一難だなぁ………)

~女子寮~

オータム「…………」コトッ パチッ

オータム「おいマドカちゃんよお、俺達はちゃんと消えてんだろうな?」

マドカ「問題ない。監視システムは既に掌握済み、私達はどこにいようと映らない」コトッ パチッ

オータム「そうかいそうかい、奴さん方からすればまさに“亡霊の仕事”って訳だ」

スコール『オータム、マドカ、こちらの爆弾設置は終了したわ』

オータム「そうか、俺達はこれから格納庫や重要施設付近に移動する。目標との接触はもう少し待て、俺達の爆弾の設置が終わり次第で連絡する」

スコール『分かったわ』

オータム「ふう………さて」スクッ

オータム「行くぞ、哨戒の奴等が気付く前に終わらせるそ」

マドカ「了解」




スコール「It is the end of all hope」

スコール「To lose the child, the faith」

スコール「To end all the innocence」

スコール「To be someone like me」

スコール「This is the birth of all hope」

スコール「To have what I onle had」

スコール「This life unforgiven」

スコール「It will end with a birth………」

スコール「No will to wake for this morn」

スコール「To see another black rose born」

スコール「Deathbed is slowly covered with snow………」

スコール「Angels. they fell first but I`m still here」

スコール「Alone as they are drawing near」

スコール「In heaven my masterpiece will finally be sung………」

~格納庫~

キュパパンッ ドサドサッ

オータム「ここにも二人、か」

オータム「さてと………」グイッ ズルズル

オータム「マドカ、他に見張りはいねぇか?」

マドカ「いない」

オータム「オーケー、俺は向こうにセットしてくる。お前はこの辺りをやれ」

マドカ「了解」

タッタッタッタッ………

マドカ「…………」ゴソッ

コトッ パチッ

マドカ「………」

マドカ「フフフフ……….フフフ、ついに来た」


長かった………

冷たい人口子宮の中で生み出されてあえいでいく数年………

ほんとに長かった………

エムと名付けられ、兵器として作り上げられる、まるで蟲毒のような地獄での生活。

その全てが………苦しみの連続だった。

多くの仲間達が、兄弟達が死んでいった………

叫び、吠え、呪い、のたうち………

人としての自由と己が存在を求め、夢見て死んでいった同胞たち。


しかし、それら全てが報われるときが来た。


待っていて、千冬お姉ちゃん。

やっと、あなたに会える。


私達の存在が、決して無駄ではなかったという証の為に。


待っていて、一夏お兄ちゃん。

そして私は、ようやく私に成る。




オータム「こいつで終わりか」コトッ

パチッ ピピピッ

オータム「こちらオータム、仕込みは終わった」

スコール『流石ねオータム。マドカ、あなたは?』

マドカ『既に』

スコール『それは重畳』

オータム「ここまでは全部順調だ。俺達は各自待機してタイミングは………スコール、テメェに任せる」

スコール『ええ、そうさせてもらうわ』

マドカ『スコール、学園側が気付くのも最早時間の問題、目標との接触は迅速に』

スコール『大丈夫、分かっているわ』

スコール『ジャック・クリスピン曰く、「時間を守れば身を守る」よ』

オータム「なら俺曰く、『グッドラック』だ。OVER」ピッ

オータム「ケッ、この調子じゃあ先行き不安だ。最悪の場合、俺一人でもオサラバするか」

オータム(にしてもバカかアイツら、たかがクソガキ一人に随分と必死じゃねぇかよ)

オータム(スコールの考えている事は大体分かる。恐らくブリーフィングの時に情かなんかでも湧いたんだろうな、相変わらずお優しい事だ)

オータム(だがあのマドカが一夏ってガキに固執する理由が分からねえな)

オータム(大将が言うには、マドカはあの織斑千冬の完全なるクローン。そしてあらゆる状況においても確実に目標を達成する事が出来るパーフェクトソルジャーとして作り上げられた)

オータム(なら、そんなヤツがどうして織斑一夏に異常なまでに固執する?どうして絶対であるハズの与えられた作戦にわざわざ私情を挟む?)

オータム(反乱でも考えてんのか?………いや、アイツにそんな事は出来やしねぇ。アイツの体には大将達が監視も兼ねてナノマシンが入れてある)


オータム(逆らおうものならボタン一つでボンッだ)


オータム(それはアイツだって重々承知のハズ。それを知った上でアイツは本作戦に私情とやらを挟み込みやがった)

オータム(分からねぇな、アイツの目的も、行動原理も、上からお許しが出た理由も、全く以て分からねえし皆目見当もつかねえな)

オータム(作戦の要であるスコールのジャマはしねぇだろうな。アイツはあくまで任務遂行を優先する、そういうヤツだ)

オータム(バカ共が揃いも揃ってコソコソと………全く、そんなんだからコッチは息が詰まりそうなんだよ)


ガンッ


オータム「………バカ共が」

~一夏の部屋~

一夏(白式遅いなぁ………話、弾んでるのかな………)

一夏(よっぽど楽しいんだろうな。箒や鈴と話すのが)

一夏「…………」

一夏(今はまだ箒に鈴の二人だけだ………けど、まだセシリア、ラウラ、シャルもいる)

一夏(ほんの少しずつだけど………俺の巷は変わってきているんだよな)

一夏(この調子なら、これ以上白騎士に負担をかける事もない。白式が白騎士に襲われる事もない)

一夏(後は………俺が…………)

一夏(でも……まだこのままなら………時間が無駄に流れていくだけだ…………)

一夏「……………」ゴロッ

ピッ

一夏(少し早いけど………寝よう)


ヒュウゥゥゥ………

一夏(あれ?窓なんか開けてたかな………?)

一夏「!?」ガバッ

「こんばんわ、織斑一夏くん。こんな素敵な夜に早寝はもったいないわよ」

一夏「誰だ………」

スコール「ピーターパン、かしらね………それも、夢の国から来た」

スコール「どう?今から月夜の下でデートと洒落てみないかしら」

一夏「…………」

一夏(この人………侵入者なのに何で見つかってないんだ?それに……ここには監視カメラがあるのに堂々と入ってきた………?)

スコール「大丈夫よ、誰も私達を見てはいないし、見えもしない」

一夏「…………」チラッ

一夏(この言い方からすると………監視カメラには映ってないのか?)

一夏(なら、学園自体が気付かないハッキングされてる………部屋の鍵はオートロック、逃げ道は………ない)

スコール「安心して、危害を加えるつもりなんかないわ。ただ話がしたいだけよ」

スコール「ついて来て」クイッ

一夏「………ああ」




コツコツコツ……カツン

オータム「そうね………この辺でいいかしら」

一夏「あんたは一体………何なんだ」

オータム「私の名前はスコール・ミュゼール、ファントムタスクからの依頼であなたを連れ去りに来た」

一夏「ファントム、タスク………?」ジリッ

一夏(クラス対抗戦の侵入者も、この人の言うファントムタスクなのか?………今回この人も一人だけな訳がない。味方がまだどこかにいるはず………)

スコール「そう身構えなくてもいいわ。ファントムタスクはただのクライアント、そして私はただの傭兵」


スコール「まだ敵でもないあなたを殺す気なんてないわ」


一夏「なら俺から白式を奪いに来たのか?」

スコール「当たりよ、半分はね」

一夏「半分?」

スコール「ええ、そうよ。半分は」

スコール「クライアントの目的はあなたのIS、白式を入手する事よ………世界でたった一人、女にしか動かせないハズのISを動かせる存在のデータをね」

スコール「クライアントが何故そのデータを欲しがるか、入手したそのデータをこの先どう使うかは私も知らないわ………所詮は私も、ただの雇われ、という事かしらね」

一夏「…………」

スコール「もう分かるでしょ?クライアントはあくまで白式が欲しいだけ。あなた自身を、そこまで重要としていないわ」

スコール「けどね、私自身の目的はあなたを、ここから連れ出す事よ………そこにクライアントも、傭兵も、ISも、何も関係などない」

スコール「私が、私自身の意思で決めた」

一夏「!!」

スコール「ただそれだけよ」

スコール「だから私はここにいて、あなたに語りかけている。人としての尊厳を踏み躙られて、それでも生きているあなたを、自由にする為に」

一夏「尊厳………自由………俺が………?」

スコール「ここに来る前に、あなたの事を色々と調べさせてもらったわ。もちろん、学園内での生活状況もね」

スコール「あなたはまるで………歌の通り、死んでいるみたいに生きている」

スコール「私には『そう』としか言い様がなかったわ」

スコール「本当、酷い扱いよね………あなたはここで何をしてしまったの……?一体何をしたの………?」

一夏「……………」

一夏「俺は………俺はここで何もしちゃいないんだ………まだ何も………出来ちゃいないんだ………」

一夏「俺には………何も……出来なかったんだ…………」

スコール「…………なるほど」

スコール「どうやら、嘘は言ってないみたいね」

一夏「!………分かるんですか?!」

スコール「ええ、私には分かる。何故なら私は………あなたに同族意識のようなものを抱いているから」

一夏「同族、意識………」

スコール「私には分かる………あなたと私は同じ匂いがする同じもの」

スコール「いえ、正確にはもうすぐ私と同じになるもの、と言ったところかしら」

一夏「俺とあなたが………同じ………?」

スコール「そうよ、あなたはもうすぐ、あなたにとって『大切な何か』を失う事になる………『そうなって』しまうのよ」

一夏「…………」

スコール「一切の救いも、慈悲もなく、無惨にね………」

スコール「その時まで………そう長くはないわ。『それ』はもうすぐそこまで来ているのかも知れない…………」

スコール「今こうして、あなたの眼を見ているからだけじゃない。もっと他の………あなたの何かから、そう感じるのよ」

スコール「それに…………あなた自身も、分かっているんでしょ?」


スコール「自分が今のままだと『どう』なってしまうのか」


一夏「…………」

スコール「もしそうなら………あなたが本当に『それ』が分かっているのなら…………『そう』なってしまわない為にも、私と一緒に来て」

一夏「それが………あんたが白式だけじゃなく俺を連れていく理由なのか………?」

スコール「ええ……そうよ」

一夏「そんな事の為に………俺を…………」

スコール「仕事に自分勝手な感情を挟むなんて傭兵としては以ての外」

スコール「でも、このままではあなたは『そう』なってしまう………」

スコール「私は………私はあなたに『そう』なって欲しくないの」

スコール「私の様な、人間にはね………」

一夏「………………」

スコール「フ………フフ……フフフッ…………ダメよね………」

スコール「こんなだから………いつも詰めが甘い、って言われるのよね………本当、ダメな女よね………」

一夏「……………」

スコール「ごめんなさいね、見ず知らずの女にいきなりこんな事言われても………戸惑ってしまうわよね」

一夏「……………一つだけ、聞いてもいいですか」

スコール「何かしら?」

一夏「例え、あなたと一緒にここから抜け出したからと言って…………俺は本当に『それ』を防ぐ事が出来ますか?」

スコール「………ええ、少なくとも…………今よりは、備える事は出来るわ」

一夏「俺には………そう思えないんです」

スコール「…………」

一夏「怖いんです………俺は『そう』してしまったら………自分が自分でなくなってしまいそうで………」

一夏「それはきっと、やっては駄目なんだって思うんです」

一夏「だから俺はそれは出来ないんです。それだけは、絶対に」

一夏「それに………」

スコール「それに?」

一夏「俺が『それ』から逃げ切れるわけがないんだろ?」

スコール「………!!」

スコール(雰囲気が変わった……?それも………さっきまでとは全くの別人………)

一夏「やっぱり、『そう』なんだよな………だったら俺は逃げない。逃げ切れないのなら、こっちから向かっていってやる」

一夏「俺は必ず『それ』に打ち勝ってみせる」

スコール「そう………そういう事なのね」

スコール「フ、フフフッ………どうやらあなたは………私の同類ではなかったようね」

スコール「あなたは、私とは全く別の………私の成る事が出来たかもしれない可能性そのもの、なのかもしれないわね………」

一夏「俺も………俺もあなたの事を誤解していました」

スコール「誤解……?」

スコール(今度は元に戻った……?一体どういう事なの………心があまりに不安定な状態にあるとでもいうの………?)

スコール(この子自身は気付いていないみたいね………それほど………ここでの生活は辛かったのかしら………)

スコール(今にも壊れてしまいそうじゃない…………)

一夏「俺はあなたを一概に敵だと決めつけていました………実際、モンド・グロッソの時に俺を連れ去った奴等と同じだとばかり」

スコール「組織の人間、という意味では同じよ」

一夏「それでも、あなたは違ったんです………あなたは他人を思いやれる優しさを持った人だと思うんです」

一夏「何であなたの様な人が傭兵なんかやっているのかは分かりません」

スコール「………よく言われるわ」

一夏「普通に俺を連れ去るだけなら簡単ですよね?」

スコール「ええ、自分でもこれが手間のかかるやり方だとは思うわ」

一夏「でもあなたは『そう』しなかった」

スコール「ジャック・クリスピン曰く、人生を有意義にする一番の武器は礼儀だ」

一夏「ジャック……?」

スコール「かの有名なロックミュージシャンの言葉よ。話を続けて頂戴」

一夏「……その言葉の通り、あなたは俺を強引に連れ去る様な事はしなかった」

一夏「俺は………こっちに来てから始めてあなたに出会いました」

一夏「もっと違う形で、もっと速くあなたと出会えていれば………こんな事にはならなかったんだと思います………」

スコール「フフッ、そうね………もう少し、ロマンチックな出会いもあったかもしれないわね」

スコール「こんな形の出会い方よりも、ね」

一夏「そう、ですね………」

スコール「………その言い方だと、もう決心はついているんでしょ?」

一夏「はい、俺は………あなたと一緒にはいけません」

一夏「あなたの気持ちはとても嬉しかったです………赤の他人の俺の事なのに………自分の事以上に考えてくれて…………」

スコール「…………」

一夏「でも、俺は………ここに残ります」

一夏「出来る事なら………あなたとは戦いたくありません………どうかこのまま引いて下さい。お願いします」

スコール「人に言う割には、あなたもなかなかのものよね」

一夏「お願いします。スコールさん」

スコール「………ごめんなさい。それは出来ないの、私も傭兵として仕事を請け負った身」

一夏「そんな………」

スコール「嫌でもあなたには来てもらうわ。例え、どんな手を使ってでもね………」スッ

カチッ

一夏「何を………?」


ジジジッ フッ………


一夏「明かりが消えた……!?」

スコール「送電施設を破壊したわ。もうすぐ予備電源に切り替わるでしょうけどね」

スコール「ここから学園の機能が完全に回復するまでの間に、あなたには私と一緒に来てもらうわ」

一夏「…………」

スコール「もし断るのなら、IS学園の生徒達に危害が及ぶ事になるわ」

一夏「!?」

スコール「寮のあちこちに、さっき起爆させた爆弾よりも威力の高い爆弾を仕掛けておいたの。もちろん、あなたに会う前にね」

スコール「そして今、私はその起爆スイッチを持っているわ」

スコール「言うなれば、IS学園の生徒達の命はあなたの行動に委ねられてるの」

スコール「もし私が爆弾を起爆させた場合、多くの死者が出てしまうわ」

スコール「学園は誰も私達の侵入に気が付いてはいない。そんな状況で誰が寮のあちこちに仕掛けられた爆弾を解除するの?」

スコール「今現在、夕食を終えたほとんどの生徒が寮内にいるわ。そして、その多くの生徒達が爆弾の存在に気付く事は万に一つもない」

スコール「恐らく、起爆すればほとんどの生徒が助かる見込みはないでしょうね………」

一夏「そんな………あなたは………そんな事をするような人じゃないでしょう?!」

スコール「ええ、私も出来る事ならこんな事はしたくない………あなたに『そう』させて欲しくない」

スコール「安心して、ファントムタスクでのあなたの待遇は極力交渉するわ………」

スコール「クライアントも、あなたが協力の姿勢を見せれば悪い様にはしないでしょう」

一夏「…………」

スコール「だから、私に連れ去らわれて………このスイッチを、押させないで」

一夏「でも………俺は…………」

スコール「お願いよ」

一夏「やめてくださいよ…………そんな言い方はないでしょう………そんな言い方されたら………抵抗も拒否も出来ないじゃないですか!」

スコール「…………」

一夏「ずるいですよ、スコールさん………そうやって…………そうやって強引に連れ去ろうとせずに俺に来させようなんて……….」

スコール「ごめんなさいね………ずるい女で」

一夏「でも、『そう』やって自分に嘘をついてまでそんな事して………あなたはそれでいいんですか!?」

一夏「そんな生き方で満足しているんですか?!」

スコール「………私は………満足なんかしていないわ………むしろ、今の生き方を呪っている程よ」

一夏「だったら!」

スコール「それでも!!私は!!」

一夏「!!」

スコール「そうよ…………今となっては………何もかも手遅れなの…………私の分からない内に………『こう』なってたのよ………」

ギリッッ……

スコール「『こう』出来ていたのよ!!」

スコール「哀れな女でしょう?!最早こんなッ………こんな空しい生き方でしか生きられなくなってしまったのよ!!」

スコール「私にはもうどうしようもないのよ!どれだけ抗ったところで救いも!慈悲も!神ですらも………この世界にありはしなかった!!」

一夏「だからといって誰かを傷付けるですか!?殺すんですか!?あなたは!!」

スコール「ええそうよ!私はね………私は『そう』する事でしか、生きている実感を掴めなくなってしまったのよ!!」

スコール「私には『そう』する事しか残されていないのよ!!」

一夏「どうして『それ』が自分すら殺している事なんだって気付かないんですか?!」

スコール「!!」

一夏「そんな事も分からなくなってしまったんですか?!あなたは!!」

スコール「いいえ、私はただの亡霊よ!死んでいるハズの亡霊を殺す事など出来ないわ!!」

一夏「そんな屁理屈が………!」

スコール「通らなければならないのよ!そうでなければ………浮かばれないの、不幸が許してはくれないのよ!!」

一夏「そうやって!!あなたはそうやってこの先、ずっと自分を殺し続けて生きてくつもりなんですか?!」

スコール「ッ………!!」

一夏「分かっているんでしょ!?あなたはそんな生き方を望んでいないんだって!!」

スコール「…………」

一夏「あなたは俺を見て言いましたよね?死んでいるみたいに生きているだけ、と」

スコール「ええ……確かにそう言ったわ」

一夏「なのに………なのにあなたの方が!死んでいるみたいに生きているだけじゃないですか!!」

スコール「!!」


一夏「『そう』なる事を一番拒絶しているあなたが………一番『そう』なってしまっているじゃないですか!!」


スコール「ッ…………」

一夏「あなたの心は、そんな事を望んでいないんでしょ!?なら、それに従って生きてください!!」

一夏「信じてください!自分の心を!」

一夏「感じる心を、なくさないでください!!」

スコール「……………」

一夏「スコールさん!!」

スコール「……………」

スコール「死んでるみたいに、生きたくはない、という事ね………」

一夏「えっ?」

スコール「フ……フフ………フフフフ………フフフッ、素敵ね………これが………私が成れなかった………」

一夏「スコールさん………」

スコール「けどね、言ったでしょ?もう何もかも手遅れだって」スッ

一夏「!!」

スコール「そう………それは全ての希望の果て」

一夏「こ、このッ……!!」

スコール「ーーを失い。純朴の時も終わり、私の様な人間になる」

一夏「分からず屋ーッッ!!」ダッ

スコール「…………」ガシッ

グンッ

一夏「うッ!?」グルッ

ズダァンッ

一夏「カッ………ハァッ……!!」

スコール「これは全ての希望の始まり」

一夏「や……やめ………ろ………」

スコール「かつてを、取り戻すのだから」

一夏「畜生………」


カチッ


スコール「………?」

スコール「起爆しない………?」

一夏「………!!」


「爆弾は起爆しないよ」


カキンカランカラン……


スコール「これは……!」

白式「寮に仕掛けられた爆弾の信管だよ、僕が全部解除して抜いておいたんだ」

一夏「白式!!」

白式「遅れてごめんね一夏、存外数が多かったから苦戦しちゃって」

スコール「白式………?」

一夏「おかげで助かったよ………それより、何で爆弾の事を?」

白式「未確認ISがいたから追跡してたら見つけたんだよ」

一夏「これで………皆が危険に晒されない」

白式「え、やっぱり起爆させるつもりだったの?」

一夏「ああ………そうらしい」

白式「解除しておいて正解だったね」

スコール「……………」

スコール(白式?この子が?………ありえないわ。もし白式なら、織斑一夏のISとして右腕に待機状態でいるハズ)

スコール(私が接触した時は待機状態だった。今もそう、白式自体に変化はないわ)

スコール(服装はIS学園の物みたいね………なら、たまたま名前が同じだけの………いえ、それも違うわね)

スコール(もしそうなら、私達の侵入の察知と、仕掛けられた爆弾の解除をやってのけた説明がつかないわ)

スコール「どうやら、あなたはISであるはずの白式のようね」

白式「うん、そうだよ。でも、どっちかっていうと………立体映像に近いかな?」

スコール「アテが外れたわ………とんだ誤算よ、こんな切り札があったなんてね」

白式「お気の毒様だね、なら素直に引いた方がいいと思うよ」

スコール「それは出来ない相談ね。計画はあなた達には止められない」

一夏「なら俺を殺してでも、白式を奪うんですか」

スコール「このままだと、そうせざるを得なくなるわ。最悪の場合、その右腕を引きちぎってでも白式はもらっていくわ」

一夏「こっちだって、そう簡単にやられない」

スコール「いいわ、そうこなくっちゃ、そうでなくちゃ………面白くないわ」

白式『一夏、今すぐ戦える人のところまで逃げた方がいいよ』

一夏『どうしてなんだ?』

白式『あの女の人の分を含めた三機あったISの反応が一つないんだ。それも、僕と同じ反応したISだけが』

一夏『白式と同じ反応のISが!?』

白式『だから早く!』

スコール「内緒話は終わったかしら?」

一夏「………ああ、終わったよ」

白式「一応ね」

スコール「そう………なら」


カッ


スコール「私に見せて。あなたの力を………私がなれなかった可能性の………果てをね」シャパッ

一夏「白式」

白式「うん」


カッ


一夏「ああ、やってやるさ」チャキッ

スコール「証明してみせて、あなた達の信じる、人間の可能性というものを」

スコール「そして、私を倒してみせなさい」

一夏「言われなくとも………!!」

白式『くれぐれも慎重にね、まだ相手の武器も分かってないんだから』

一夏『ああ、まずは小手調べだな』


ヒュボッッ


一夏「ッ!!」ギャリィンッ

ヒュルル……ジャキッ

スコール「どうしたの?威勢がいいのはもう終わり?」

一夏「鞭………いや、尾!?」

白式『フレイルみたいだからさらに厄介だね……あの先にも仕掛けがあるみたいだし』

スコール「………」チャキッ


チュイィィィィ………


白式『レールガン!!』

一夏「させるかぁ!!」ドッッ

一夏(懐に潜り込めば俺の間合い……あの鞭は使えない!)

スコール「…………」ヒュボッ

一夏「させるか!雪羅!」チュドドドドンッ

スコール「………?」ギュルッ

ズドドドドンッ

一夏(雪羅防いだ……!?)

白式『狙われてるよ!!』

ジャキッ

一夏「しまった!!」グンッ


チュゴオォンッッッ


一夏「ぐあァァッッ………!!」

ドッゴオォォォン

一夏「ぐッッ………ハァッハァッ………」

スコール「どう?ドイツが開発したレールカノン、ブリッツを遥かに上回るハイパーレールガンは」

一夏「ぐッッ………最……悪だ………」

スコール「それは良かったわね」ニイッ

白式『一夏……大丈夫?』

一夏『何とか………これじゃあ、小手調べとか言ってる場合じゃないな』

白式『でもどうするの?レールガンよりもあの鞭を何とかしないと………』

一夏『どうするもこうするも………いつも通りだ』

白式『うん、一夏ならそう言うと思った』

一夏『イグニッションと零落白夜で押し切る』

白式『馬鹿の一つ覚えだね』

一夏『馬鹿でいいさ、俺はもう迷わない』

一夏『迷っている間に誰かが傷付くのなら、俺は可能性を信じて戦う』

一夏『大切なものを守る為に』

スコール(…………やはり、白式は私達のデータにない進化を遂げている)

スコール(左腕の武装は荷電粒子砲、背中のスラスターは倍、ISのコアのみによるスタンドアローンも可能………)

スコール(恐らく、報告になかった機能はこれだけではない)

スコール(まだ他に何かある、と仮定した方が賢明)

スコール(しかし、戦法は情報通り。新武装の荷電粒子砲を使うよりも、近距離戦をメインとしている)

スコール(スピードは予想以上。零落白夜の存在を考慮すれば、懐に潜り込まれないよう中距離を保ちつつ戦うのが最も安全)

スコール(後は、イグニッション・ブーストがどれほどのものなのか)

スコール(ハイパーレールガンも、ギリギリで直撃を外したのも予想外)

スコール(またも予想を上回るようならば…………けど、何も問題はない)

スコール(何も、問題はない)

スコール「ソリッド・フレア……」シャガッ

一夏「来い!」

ズドドドドンッ

一夏「イグニッション!!」ギュンッ


ズバンッ……ブワアァッッ


スコール「ソリッド・フレアを突破した……」バッ

一夏「はあぁぁぁっっ!!」チャキッ

スコール「でも」ギュルッ

ヒュボッッ……ガキイィンッ

スコール「……鉤爪?」

一夏「もらった!!」ヒュッ

ズバッッ

スコール「ッ……!!」

         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれはISのSSを読んでいたと思ったら
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        いつのまにか一夏がバナージになっていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    催眠術だとか超スピードだとか

   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


チュイィィィィ……

一夏「まだだぁ!!」ギュンッ

スコール「………」ズバッッ

一夏「そこッッ!!」ギュンッ


ゾンッッ バチバチバチッ


スコール「レールガンが………!」バッ

ボッゴオォォォンッ

スコール「爆煙など、目くらましにもならないわ」ブワァッ

スコール(動きが予想よりも速い。それに、イグニッション・ブーストを使える間隔も短い)

一夏「はあぁぁッ!!」

スコール「………そこよ」



ヒュボッ ガッキイィ……ン


一夏「くッッ………うおぉぉぉああッッ!!」ギュンッ

スコール「プロミネンス・コート……」シャガッ


ズドッ……バリバリバリバリバリバリ


一夏「ぐッッ……があぁぁぁッ………こんな……….こんなバリアなんかッッ………!!」バチバチバチ

スコール「無駄よ………焼け焦げるだけよ」カッ ジャキッ

一夏「真ん中からッ……ブッた斬ってやる!!!」ゴオォォォッッ

スコール「………!?」

一夏「零落白夜!!」


ズッ……ゾッガアァァンッッ


スコール「ぐあぁぁっ……!!」

一夏「ハァ………ハァ……ハァッハァ……どうだ!!」

スコール「フフッ、やるわね……けど」ヒュッ

一夏「ずあぁぁッ!!」ガキンッ

ガキンッ ガキンッ ガキンッ ガキンッ

ギュルンッ

一夏「!?」

スコール「目に頼り過ぎよ」グイッ

一夏「うおっ……!」

ガシッ

一夏「くあッ………は……な……せッ………」ガスッ ガッ ガスッ

スコール「本気で私を斬らなかったのは失敗よ……さっきので腕の一本でも斬り落としておけば良かったわね」グググッ

一夏(クソ、息が出来ない………身動きもとれない………!)

スコール「捕まえたわ。これで素早くは動き回れないでしょう」

スコール「ソリッド・フレア……」

シャガッ

一夏「ッ……ッ………うッ………があぁッ!!」ギュンッ


ゴスッッ


スコール「ッ………頭突きッ……!?」グラァッ

シュルッ

一夏「ッハアァァッッ!!」ヒュボッ


ゾンッッ


スコール「………気持ち良くなってきた」ジャキッ

ドガガガガガガガガッ

一夏「クソッ………ハァッ………ハァ……ハァ……ハァ……」


ガカカカカカカカカアァ……ン

スコール「………防いだようね」

一夏「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

スコール「さっきので随分とお疲れのようね、肩で息をしているじゃない」

一夏「ハァ……ハァッハァ……ハァ………」

白式『一夏!無茶し過ぎだよ!』

一夏『手を抜いて……勝てる相手じゃないだろ………』

スコール「フッ……フフフッ………フフフフフ、アッハッハッハッハ!」

一夏「ハァ……ハァ………何だ?」

スコール「フフフッ……どうやら、所詮はその程度だったのね。あなたの信じる可能性というものは」

スコール「これが?こんなものが?フフフッ………まるでお話にならない。とんだ茶番よ」ヒュボッ


ズドドドドドドンッ


一夏「なっ……!!」

白式『逃げて!!』


ズドドドドドドドッッ

一夏「ぐあぁぁぁッッ!!!」

白式『一夏!!』


ヒュッ ギュルンッ


スコール「どうしたの?少しソリッド・フレアの撃ち方を変えただけよ?それだけでその様?」ギチッ

一夏「グッ……あぁッ………何だ………さっき、とはッ………まるで違う………」ギチギチギチ

スコール「あなた御自慢の零落白夜はどうしたの?さっきみたいに私を、斬り裂いて」


ギチギチギチギチギチギチギチッ


一夏「ッ………ッ………ッッ!!」ミシ……ミシミシミシッ

スコール「あなたお得意のイグニッション・ブーストも封じてあるわ。もう頭突きもなしよ」

一夏「畜生ッ……が………!!」ミシミシミシ

ギチギチギチギチギチギチギチッ

一夏「ぐぅッ……かッ………ぁあッッ………ッッ………」

スコール「あなたとの勝負、楽しかったわ。ほんの短い間だったけども、とてもね」


シャガッ


白式『まずいよ!!アレをこの距離で食らったら……….!!』

一夏「くッ……そ………!!」グググッ

スコール「言ったでしょ?全ての希望の果て、とね」

スコール「気分はどう?………自分の何もかもを台無しにされる気分は?不公平な暴力の連続に翻弄される気分は?」

スコール「それによって無意味に、無価値に命を落とす気分は?」

スコール「今なら分かるでしょ?自分なんてものはとても小さく、世界があまりに大きく、それでいて残酷だという事が」

スコール「魂がもがき、苦しみ。血を流しているのに、他人がいとも容易く踏み躙るという事が」

一夏「………す……るな………」

スコール「何か言った?」

一夏「あんた……なんかと………俺をッッ………一緒にするなって………言ったんだッ………!!」

スコール「そう……言いたい事はそれだけ?」

白式『一夏!!何とかならないの!?』

一夏『なるならとっくにそうしてるよ!!そう言う白式はどうなんだ!?』

白式『全身締め付けられてて無理だよ!!スラスターも動かせないんだ!!』

一夏『クソッ……打つ手なしか………!!』


キイィィィン……


スコール「さようなら」


一夏「畜生が………!!」


白式『絶対防御最大出力!!頭部一転集中で展開!!』



「そうはさせない」


ヒュッ………ズガンッッ


一夏「!!?………ちふ……いや………違う!!こいつは………!?」


白式『僕と同じ機体反応………!!』


スコール「ッッ!?……どうして……あなたがここに………!!?」


シュルッ


白式『今だよ!!逃げて!!』

一夏「ああ!!」ギュンッ

スコール「しまった……!!」


「アッハハハ!そう!それでいい!!」


スコール「あなた……一体どういうつもりなの………私の邪魔をするなんて」



スコール「マドカ」


一夏「マドカ……!?」

白式『千冬お姉ちゃんと……同じ顔してる』


マドカ「私言ったよね?私も、スコールと同じで私情を挟んでるって」ニイィッ


スコール「けどこれは重大な越命行為よ。ましてや、目標である織斑一夏を助けるなんて」

マドカ「でも、スコールにとられちゃうのを黙って見ていられない」

スコール「あなたに下された命令は偽装及び破壊工作。そしてオータムと共に陽動の為の戦闘行為を行う事よ」

スコール「織斑一夏の殺害と白式の奪取はあなたの仕事ではないわ。今すぐオータムのところへ戻り、戦闘を再開しなさい」

マドカ「それで?それが何か問題?」

スコール「…………あなた、命令を放棄するつもり」

マドカ「放棄などしていない。そんな事より」クルッ

一夏「…………」

マドカ「始めまして、やっと会えて嬉しい。私の名前はマドカ」ペコッ

一夏「マドカ………?」

マドカ「そう、私はマドカ」

一夏「ええっと……マドカ………俺を………助けてくれたのか……?それともーー」


マドカ「あなたを、生かせるのは私だけ」


ニイィッ


マドカ「あなたを、殺せるのも」

今日はここまで。

~上空~

オータム「こんなモンかァ?IS学園の先生ってのはよォ!!」ブンッ

先生「じゃかぁしゃあボケェ!!」

ガキィンッ

先生「人を舐めくさんのも大概にせぇや!!」

オータム「ハッハァ!いいぜ、もっと来な!!」

先生「ほんならコレやるわ!!」バカッ


ギュボボボボボボボォッ


オータム「ヘッ、ミサイルか………ファング!!」

オータム「コイツはオマケだ!」チュドドドドドッ


ドドドドドドドオォォン………


先生「あの数のミサイルをビットとライフルで墜としよったか………!!」

オータム「ハッ!第二でここまでやるとはな!!」

先生「そらおおきに、ワレもなかなかやで!」

先生(クソッ、哨戒組はどないしてん……迎撃組ももうウチだけやぞ………それにしてもあいつの機体、ビット以外にもな~んかあんねんな)

先生(いや、それが分からんから困ってんねんけどな。多分対多数用の武装なんやろな………ウチ一人には全っ然使わんし。そもそも全然見えへんかったし)

先生(せやけどどないしたもんやろな、見栄張っとるけども正直エネルギーももう限界やでなぁ)

先生(なんぼ何でも生徒に頼んのはちょっとなぁ………ウチかて意地あるし、何より生徒にあんま危ない事さしたらアカンし)

先生(最近のオカンはホンマ何や言うてもぉ~やかましぃて敵わんさかいな)

先生(しゃあないかー千冬に頼んで山田とか援護に回してもらうか)

先生『あー応援頼めますー?哨戒組のアホ二人と出来れば山田お願いしますーすんまへんな』

先生「ふうーっ………すまんのぉ、侵入者のアンタ」

オータム「あ?」

『脚部 腰部残弾なし パージします』


バカンッ……フシュウゥゥゥ


先生「ちょ~っとだけ付きおうてもらうで」コキコキッ

ガシッ……ブォンッ

先生「こっからは、ウチとのチャンバラごっこや」


ジャカンッ


オータム「………ハッ、今頃斧でくるか!面白ェ!!」

ジャキンッ

オータム「やっぱり戦争は白兵でねぇとなァ!!」

先生「ハン、どっちゃでもドンパチやろがい!!」

オータム「ならさっさとおっ始めようぜ!テメェのお仲間も呼んでなァ!!」

~IS学園本部~

山田「では織斑先生、後はお願いします」

千冬「分かりました。山田先生にお二人とも、くれぐれもお気を付けて」

山田「ええ、もちろんです」

山田「お二人共、いけますか?」

教師A「無論だ」

教師B「右に同じく、リベンジさせてもらわにゃあね」

山田「麻酔がまだ完全には抜けていないのであまり無茶はなさらないように」

教師A「IS学園の教師という身でありながら面目ない……」

教師B「不意打ちだから仕方ねぇでしょうに、あんなのノーカンだよ、ノーカン。相っ変わらずの堅物だこと」

教師A「お前は気楽過ぎる」

教師B「言うじゃないの堅物ちゃん。でも、そんなお気楽ちゃんに遅れをとったのはどこの誰だったんかな?ん?」

教師A「……………」

教師B「ま、そこんとこらも色々と含めてツケを払ってもらわにゃあね」

教師A「確かに、随分と私達を舐めてくれたからな」

先生『夫婦漫才はええから早よ来てもらえますぅ?!終いにウチも墜とされんぞアホ!!』

教師A「誰がアホだ」

教師B「はいはい分かってますよーもうすぐ行ってやっから、もうちと気張っとれや」

先生『ちゃんと武装してから来ぃや!絶対やで!!』

教師A「お前は戦いに集中していろ」

先生『おうよ!!』

教師B「山田ちゃん山田ちゃん、ハイパワーライフルとガトリング、どっちでいく?」

山田「どっちも……じゃ駄目ですかね?」エヘヘ

教師B「んーまさに対艦巨砲主義ここに極まれり!」

教師B「………ってあれ?それなら私、いらんのと違う?」

教師A「それは私が困る」

山田「ですって」

教師B「嬉しい事言ってくれるねぇ、全く~」

千冬「…………」

「織斑先生、私達は以前待機でしょうか」

千冬「ああ、例え生徒会長とその精鋭達といえど学生は学生だ。安易に迎撃には向かわせられん」

楯無「援護ならよろしいのでは?」

千冬「援護なら山田先生がいる」

楯無「左様で………ならば私達は最後の『切り札』という事になりますか」

千冬「そうだ、我々教員は専用機を持たない。第二世代ラファールとお前達の第三世代専用機とでは天と地程の差がある」

楯無「ご謙遜を」

千冬「いや、謙遜ではない。不甲斐無い話だが………私達はお前達だけが、最後の頼みだ」

楯無「その大役、謹んで御受けいたしましょう」

千冬「万が一の事態に備えて一年生達も待機させてある」

楯無「………必要ないのでは?私を中心とした精鋭達です」


楯無「一年生達の出る幕はありません」


千冬「傲慢は綻びを生むぞ。それに………言っただろう?万が一の事態に備えて、だとな」

楯無「それを重々承知の上で、です」

楯無「それに私自身、傲っている訳ではありません」

千冬「ならどういう訳だ」

楯無「私は、私の大切な妹を、戦いの中に奔らせる様な真似はしたくはないのです」

千冬「…………」

楯無「それも、今回のような敵ならば尚更………そうならぬ様にしたいのです」

千冬「………………」

楯無「ISを使わせている時点で言えた事ではないのでしょう………」

楯無「しかし、これは姉として………我が妹の意思の尊重であり、せめてもの労わりの気持ちでもあるのです」

千冬「………………」

ジャバッ

楯無「ふむ………少しばかり自分語りが過ぎてしまったようで」パタパタ

楯無「ともあれ、私達はたった今より出撃致します。あの侵入者以外にも戦闘を行っている者がいるとなれば、それを見捨てる訳にはいきませぬ」

千冬「………頼んだぞ」

楯無「ええ、お任せください」

~別室~

鈴「箒、このままだとマズくない?」

箒「そうだな………私達も戦わねばならん事になるな」

鈴「こうやってモニター見てる限りだと………一年生で勝てそうな相手じゃないけどね」

箒「やってみねば分からんだろう」

鈴「それに加えて、一夏がいないんだけどどう思う?」ボソボソ

箒「部屋でのんきに寝ている訳ではないだろう。恐らく別の侵入者に鉢合わせたかそれとも………」ボソボソ

鈴「それとも?」

箒「…………まさかな」

鈴「………」イラッ

グニーッ

鈴「なに急に黙ってんのよ、このっ」グイッグイッ

箒「は、はなひぇっ……ひゃめろっ……!」ジタバタ

鈴「とにかく、生徒会長率いる精鋭部隊ならまだしも、あたし達一年生が狩り出されたらマズいんじゃない?」

箒「攻撃、防御、連携、戦術………全てにおいて各々の実力不足が目立つからな………同然だろう」ヒリヒリ

鈴「頼りになるのはせいぜいあんたの赤椿ぐらいかしらね」

箒「しかし私はまだ………赤椿の性能をほとんど引き出せていないぞ」サスリサスリ

鈴「はぁ………こりゃ本っ当にマズいわね」ガクッ

箒「付け焼き刃でも連携が取れれば何とかなりそうだが……何とかならんものか」

鈴「一体この部屋のどこの誰の惨状を見てもの言ってんのよ」

鈴「一応全員モニター見てるけどバラッバラでしょうがコレ」

箒「むう………」

鈴「セシリアはあんたとの事があるのかピリピリしてるし、ラウラは来た時に逆戻りしてるし、完全にワンマンプレイヤーズでしょ」

箒「シャルロットはあの事件以来及び腰になっていて………」

箒「簪は唯一私達のしがらみを持たないが………即席の連携がとれるかどうか………」

鈴「かと言ってあたしは衝撃砲と長期戦向きという事しか、取り柄がない訳だけどね」

箒「私が先陣を切って押しの戦いをしたとしても、それで勝てる程敵も甘くはないだろうな」

鈴「あーあ、生徒会長とか先生達に頑張ってもらうしかないわねー」ブーラブーラ

箒「いっそ白旗でも上げるか?」

鈴「残念、あたしのハンカチは縞模様入ってるから無理」ヒラヒラ

箒「私のも入ってるんだ」ヒラッ

鈴「はぁ……何よそれ」ゴソゴソ

箒「残った手は………一夏、か………」ゴソゴソ

鈴「あの白式のセカンド・シフトした性能………見物ね」

箒「あいつなら、もう既に戦ってるやも知れないな」

鈴「そうじゃなかったら、ここにいない訳がないわよね?」

箒「……確かに、早く援護に向かってやらねばな………」

鈴「そうね………」



シャル「…………」

シャル(シキシロさん、途中でどこかに行っちゃったけど………ちゃんと避難出来てるのかな………)

シャル(不思議な人だったな………今度はもっと、話せるかな………これが終わったらすぐ会えるかな…………)


簪「…………」ピッ ピピピピッ

簪(ここをそのまま直結すれば処理速度は上がるけど………多分ピーキーに仕上がるけどそこは慣れるしかない………)

簪(私だってやれる………お姉ちゃんに頼ってばかりじゃない…………)


セシリア「…………」

セシリア(箒さんの隣にいるのはたしか……….二組のクラス代表、中国代表候補生凰鈴音さん、ですわね………)

セシリア(何故あの二人に接点が………いえ、今は侵入者の迎撃の方を優先すべきですわ…………)


ラウラ「…………」

~上空~

先生「どおりゃあぁぁッ!!」ブォンッ

オータム「ずあぁッッ!!」ブンッ


ガッキイィィィン……


オータム「ぐッ……うおぉぉぉおお………」

オータム(コイツ……何つー馬鹿力してやがる………!!)

先生「だらあぁぁぁッ!!」

オータム「けどなァ!!」

ギャリイィンッ

先生「なっ!?斧を流しよったか……!!」

オータム「甘いな!!」ガスッ

先生「しもたッ………斧が!!」ポロッ

オータム「ちょいさァ!!」ブォンッ



チュドンッ


オータム「うッ……何だ!?」ボゴオォンッ

先生「このビームは……やっとか!」

ドガルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

オータム「クソッタレが!!………何だァ、こりゃあガトリングだけの量じゃあッ……!?」

オータム(この弾幕の中を突っ込んできやがる奴が………速い!!)


ゴオォォォォォ………ォォォッッ


教師A「………もらったぞ」ジャキンッ

オータム「ファング!!」

教師A「遅かったな」ズンッッ


カチッ ドゴンッッ


オータム「パイルッ………バンッ………!!」


ヒュンッ…….ヒュンヒュヒュンッ

教師A「さっきのビットか」バッ

教師B「そりゃ大変、ちと私に任せてもらおうか」


チュドドドドドンッ


教師A「………外したか」

教師B「チッ、すばしっこいったらありゃしない」

教師A「エネルギーを無駄にするな」

教師B「追っ払えただけ良しとしろやい。おかげで助かったんでしょうに」

教師A「それについては感謝する」

先生「お前等ぁ………危機一髪や!」

教師B「いやはや全く………もうちと遅くても良かったんでねぇか?」

教師A「ここは引き継ぐ、お前は補給に行ってこい」

先生「そうしたいんは山々やねんけどそうもいかんねんな~コレが」

先生「山田ー!下に落っとるウチの斧拾てもらえへん?」

山田『ごめんなさい、私はまだ動けません』

先生「ああー、せやったせやった。自分今おっぱいトーチカやもんな」

教師A「口を開く前に自分で行け」

先生「はいはい、行ったついでに向こうの山田の乳でも揉んでくるわ」ギューン

山田『ええっ!?』

教師A「…………」

教師B「さってと、アンタにゃあ貯まったツケでも払ってもらおうかな?」

オータム「テメェ等……哨戒してた奴等か?」

教師A「その通りだ」

オータム「ハハハハッ!麻酔で正解だったぜ!面白くなってきやがった!!」

教師A「そうか、それは良かったな」

教師A「なら、これでも笑えるか」ドッッ

オータム「おっと」ヒョイッ

……ドゴンッッ

オータム「おいおい、そう焦んなよ」

教師A「………かわしたか」

オータム「お楽しみはまだまだこれからだぜ?」

教師A「面白い……撃ち貫いてやる」

教師B「…………」ジャキッ


ヒュパッ


教師B「………?」バッ


ザカンッ


教師B「あらら?脚部損壊?」

オータム「…………」ニヤッ



ドガルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル


オータム「チッ、またかよ!」

教師A「山田?移動は……アイツがガトリングを片方持ってるのか」

教師B「にしても、見えないから厄介極まりない……どうしてやろっかねぇ」

ガルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

先生「すまんすまん、忘れとったわ。そいつ対多数用の武装持っとるで」ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

山田「それは先に言っておかないと駄目じゃないですか!」ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

先生「いや、まさか武器弾かれると思わんかったんや………堪忍やで」ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル


ガルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル


教師A「突っ込む」ドッッ

教師B「ま、用は奴さんの攻撃が当たらない所から攻撃すればいいって訳でしょ?」チュドドドンッ

オータム「クソッタレ!これじゃあ袋叩きじゃねえか!!」チュドドドド

オータム「ファング!!」

オータム『スコール!!マドカ!!』

オータム『おいテメェ等!さっさと援護に来やがれ!!流石に俺一人じゃ無理がある!!』

マドカ「スコール、あなたはオータムと共に学園側の迎撃に当たって」

スコール「それは私の獲物よ。大人しく渡すとでも思うの?」ジャキッ

マドカ「そういう約束なの、織斑一夏だけは……私の獲物だとね」

スコール「約束?」

マドカ「スコールと同じ、私も上に頼んだ」

スコール「私は聞いていないわ。そんな事」

マドカ「聴いていなくて当然、私が出撃直前に頼んだ事」

スコール「何ですって……?」

オータム『聞いてのかァ!?どっちでもいい!!さっさとに来やがれってんだクソバカが!!』

マドカ「スコール、速く」

スコール「…………」

マドカ「これは正式な命令、スコールに拒否権はない」



サアァァァァァァ………


一夏「……!?」

白式『急にどうしたんだろ?でもこれ人為的な霧だよね』

スコール「霧?こんな時間に?」

マドカ「おかしい、立ち込めるにしては速すぎる」

スコール「悠長な事言ってられないわね、このままだと視界が悪化して見失うわ」

一夏(この霧に乗じれば……)


『織斑くん、イグニッション・ブーストで上に飛んで』


一夏『えっ?』

『早く!』

一夏『わ、分かりました!』


ギュンッッ


スコール「しまった!」

マドカ「上?」


深く立ち込めた霧を抜けた先、IS学園の空高くにその人はいた。

その人は俺の姿を確認すると、ゆっくりと右腕を上げた。


「清き熱情(クリア・パッション)」


その声と共に指を鳴らした。


さっきまで霧だったものが突然爆炎に変わった。

耳をつんざくような爆音がした。

強烈な衝撃波と爆風が下から襲ってきた。

その威力は凄まじく、爆心地近くの木々はへし折れ、電灯や建物には少なからずとも被害が出ていた。


もしも、俺があの中にいたら……そう考えると背筋が凍るような思いがした。


これでスコールさんやマドカは………大ダメージを追っただろう。

そう思いながら、今度は巻き上がる爆煙の中心を見下ろした。

楯無「………怪我はない?織斑一夏くん」

一夏「は、はい……何とか」

楯無「ならすぐにここを離れるわ」

一夏「はい………あの………」

楯無「あ、そうだ」ヒュッ


チャキッ


一夏「ッ………」

楯無「この先、妙な真似をすれば八つ裂きにする、これだけは言っておくから」

一夏「しませんよ………」

楯無「よろしい、着いてきて」

一夏「…………」

楯無『こちら楯無、目標の確保に成功しました』

千冬『こちら本部、御苦労だった』

楯無『これより本隊と合流し、目標の護衛と侵入者の撃滅へと移行します』

千冬『了解した』

楯無『それと、織斑一夏の機体がセカンド・シフトを完了していました』

千冬『…………』

楯無『恐らくシルバリオ・ゴスペルのように、操縦者の危険を感じとった機体が独自に進化したようです』

楯無『やはり侵入者達は織斑一夏を殺害し、白式を奪うつもりだったのでしょう』

千冬『………くれぐれも、奴等の思い通りにはさせるな』

楯無『心得ております』

白式『生きた心地がしなかったね』

一夏『ああ、全くだ』

白式『マドカって言ってたけど………何者なんだろうね?千冬お姉ちゃんのクローン………なのかな?』

一夏『そうかもな………でも、千冬姉のクローンだとしても、あんなのは千冬姉とは別物だ』

白式『あなたを殺せるのは私だけ、だもんね。その為に味方の邪魔もしてたしね』

一夏『それを逆手取れば同士討ちも狙えそうだ。俺を生かそうとするんだからな』

白式『流石にマドカが一夏と同じ機体を持っていたとしても、スコールさんには勝てないと思うよ』

一夏『それを言ったら俺達もだろ………』

白式『うん………さっきのあの人、一夏と話してた時とはまるで別人だったね』

一夏『何が………あの人をあそこまで………』

白式『きっと、戦う事が楽しくて仕方ないんだろうね………僕にそれは分からないけど…………』

一夏『命が掛かっていれば、尚更か………』

一夏『俺は………そんな事、したくないのに…………』

白式『……………』

精鋭『会長、目標を確保したのか』

楯無『ええ、教員方の戦況は?』

精鋭『現在は専用ユニットを装備した教員の活躍により我々が優勢。だが未確認侵入者が加勢したなら不明』

楯無『ふむ、こちらの守備の方は?』

精鋭『二年生並びに三年生の専用機持ちを緊急招集し教員の援護に回した。私達は全員ISを展開し、会長の指示を待っている』

楯無『見事な手前、流石ね………一年生は』

精鋭『織斑一夏を覗いた全員が本部の別室で待機。現状を維持しつつ、侵入者を撃滅出来れば、出撃命令は下されない』

楯無『あら、私の考えはお見通しってこと?』

精鋭『会長が簪の事を大切に思っているのは知っている』

楯無『阿呆な姉よ、妹の事になると少々冷静さを欠いてしまうような、ね』

精鋭『家族を愛さない者などいない。それこそ、家族を愛さない者こそ本当の阿呆だ』

楯無『うんうん、私は良い仲間に恵まれたわね♪』

精鋭『会長、私達に指示を』

楯無『ええ、喜んでそうさせてもらうわ』




楯無「改めて皆が今回の招集に応じ、私の指揮下に入ってくれた事を感謝する」

楯無「侵入者達の狙いは織斑一夏の殺害と彼の所持するIS、白式の奪取にある」

楯無「知っての通り彼は世界で唯一ISを動かせる男性であり、恐らく奴等の母体組織はそこに目を付け、機体及びそのデータを奪おうとしている」

楯無「奴等の目論みは分からない。だがそれは今以上に、ISの生みの親であり、無念にも宇宙開発の夢を断たれた篠ノ之束博士に対する………更なる冒涜行為に値するであろうと私は読んでいる」

楯無「そして奴等はあろう事か我々の学園を我が物顔で踏み荒らし、我々と同じ学び舎に通う生徒を襲い、あまつさえ殺そうとした」

楯無「例え、その殺されそうになった生徒が誰であったとしてもだ」

楯無「私は、我々は、奴等のその行為を許す訳にはいかない」

楯無「我々は、我々のIS学園を舐めた奴等に、それ相応の報いをくれてやらねばならない」


「「「「「「了解」」」」」」」


楯無「よろしい。ならば全機、作戦開始」

一夏『すごい……一瞬で周りに防御陣形が………』

白式『僕達とは比べ物にならないぐらい統率だね。やっぱりこれが年季の差なのかな~』

一夏『俺達一年生なんかヒヨッコもいいとこなんだろうな』

楯無「さてと、織斑一夏くん。侵入者二人の機体特徴を教えてもらおうかしら」

一夏「一人は金色の機体に尾のような特殊武装を持っていて、火球のような攻撃、全面に展開するバリア、後は銃火器を持っていました」

楯無「腕は立つ方だった?」

一夏「はい………それもかなり」

楯無「成る程成る程………もう一人は?」

一夏「黒い機体に二刀で………俺の機体に似ています。それ以外と、操縦者の実力は分かりません」

楯無「うん………まあ、それでも、全く分からないよりはマシよ」

一夏「あまり役に立てなくてすいません………」

楯無「ある意味充分よ」

楯無「あ、そういえば………いきなり現れて自己紹介がまだだったわね」

楯無「私は更識楯無、IS学園生徒会の生徒会長よ」

一夏「生徒会長、ですか……」

楯無「そうよ、君の方は結構有名だから自己紹介はいらないわ。自分でもつくづく知ってると思うけど」

一夏「……………」

楯無「あらあら黙っちゃった。もしかして禁句か何かだったかしら?」

一夏「別に…………」

楯無「ふ~ん……」

一夏「……………」

楯無「……………」

楯無「ふむ、巷の噂ってものは………案外当てにならないものなのかしらねぇ」

一夏「……………」

楯無「さっきの応答からしても、君は噂に聞いてたよりずっと違うのよ。猫被ってるって可能性も考慮出来るけど」

一夏「…………….」

楯無「否定もしなければ肯定もしないと来たか………黙ってるだけじゃ、分からない事もあるのよ?」

千冬『聞こえるか楯無!戦況が変わった!今すぐ精鋭達を率いて教員方の援護に回れ!』

楯無『落ち着いてください。一体何があったのですか?』

千冬『あ、ああ……交戦中の侵入者に増援だ。それによって二年、三年の専用機持ちの大半が墜とされた』

楯無『増援………数は?』

千冬『一人だ』

楯無『たったの………一人ですか?………たったの一人に、大半もとられたのですか?』

千冬『そうだ。たかが一人加わっただけで、形勢が奴等に傾けられてしまった』

楯無『敵はそれ程腕の立つ者………分かりました。精鋭達を率い、早急に援護に向かいます』

千冬『頼んだぞ』

楯無「精鋭、織斑くんをお願い」

精鋭「了解。読みが外れたのか」

楯無「そんなところかしらね。まさかこっちじゃなくてあっちに行くとはね………」

精鋭「敵はこちらより上手だ。このままでは私達は負ける」

楯無「心配しなくても分かっているわ。あなたの方は一人で大丈夫かしら?」

精鋭「問題ない」

楯無「織斑くん、エスコートはこの人に引き継ぐわ」

一夏「よろしくお願いします……….」

精鋭「あまり畏まらなくていい。私に敬語は必要ない」

楯無「とは言うものの、無理な話だと思うわよ?」

精鋭「そうかもしれない」

楯無「それじゃあ、頼んだわよ」

精鋭「了解した」

〜上空〜


ガルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル


山田「当たらない……!」

オータム「御自慢のガトリングは既に見切ったんだよォ!」

ガチンッ シュウゥゥゥン……

山田「弾切れ!!」ブンッ

オータム「おいおい、ヒスでも起こしたか?」ヒョイッ

オータム「頂きだなァ!」ブオンッ

山田「いいえ、まだ弾はあります!」ガコンッ

オータム「今度は肩かよ!?」

ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

オータム「弾バラ撒くのもいい加減にしろってんだ!戦艦かテメェは!!」


「もらったぞ!!」チャキッ

オータム「こっちがなァ!!」ズドッ

「しまったネットか!?……う、動けないッ……!!」

オータム「蜘蛛の糸だよ!ファング!」


ズガガガガガガッ


「きゃあぁぁぁっ!!」

オータム「チッ、数ばかり増えやがーー」


チュドンッ


オータム「てッ………またアイツか!」

「今だ!畳み掛けろ!!」

ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

オータム「ハッ、面白ぇ!!」ジャキンッ


「エネルギーが………すみません、お先に………!」

先生「ようやった、充分や!」

教師A「後は任せろ」

スコール「フフフッ、ヴァンピーアレーザー………素晴らしい出来栄えね」ジャキッ

教師A「奴等はあの武装で私達のエネルギーを吸収しているのか……」

教師B「さしずめ生徒達は奴さん方の補給先って事かね全く、ちと余所見してたけど」

先生「余裕綽々やなぁ?ほんならこっちにもビーム当てんかい」

教師B「そりゃお互い様でしょうが」

教師A「残りの生徒をもう一人に回せ、コイツは私達でどうにかするぞ」

スコール「…………」

先生「お前等はリロードしとけ、ウチがやっといたるさかい!!」

ドッッ

先生「だらあぁぁぁッ!!」ブォンッ

スコール「少し遅いわね」

ヒュッ

先生「かわされてもうたか………けどなぁッッ!!」


グンッッ


スコール「ッ!?」


ゾガンッッ


スコール「ぐッ………あの速度で急旋回……!?」

先生「ウチかて必死のパッチやねんぞ………舐めんなや、クソボケが」

スコール「フフフッ、やるじゃない………今のは効いたわ」

先生「ほんならぁ!!」ドッッ

スコール「フフフッ」ヒュボッ

ガキィンッ ガキィンッ ガキィンッ ガキィンッ ガキィンッ

先生「だぁらぁぁッ!!」ブォンッ

スコール「ハッ!!」ギュルッ

先生「今や!!」バッ

ドッッ

スコール「後ろから……!」

教師A「喰らえ」ジャキッ

スコール(速い……!!)


ズンッ ドゴンッッドゴンッッドゴンッッドゴンッッドゴンッッドゴンッッ


先生「これはオマケや!!」ブォンッ

スコール「がッ………はぁッ………くッッ!!」

先生「はぁ!?六発全部腹にもろてんのにまだ動けんのか!?」

スコール「残念………だった……わね………」

教師A「かなり効いたようだな」

スコール「けどもう……あなた達の………エネルギーは少ないはずよ」

教師A「…………」

スコール「図星の………ようね。特にそっちのはあなたは……消費が一番激しい」

先生「そらあんだけ動いたら誰でもそやろがボケ」

スコール「フフフ……おっと」


チュドンッ


教師B「私を忘れてもらっちゃあ困るね」

スコール「あなた一人で、私をどうにか出来ると思っているの?」

教師B「うるせえダボが、やってみなきゃあ分からんだろうによ」

スコール「あなた、そんなに余裕でいていいの?」

教師B「はあ?」

先生「ぼけっとすんな!!」


ヒュカンッ


教師B「ッ……あの攻撃ッッ………!」

教師A「!!」


バチチチッ………ボゴオォォンッ


教師B「ええい、やりやがったなクソッタレ!」

オータム「ハハハハッ!戦場で気を抜くからそうなんだよォ!」

教師B「あちゃー………こりゃフィストファイトでもすっかね……」

教師A「…………」

オータム「こっからはタッグマッチと洒落込もうぜ、先生方よォ!!」

先生「何やあいつ、テンション高いな~ほとんど病気やないかい」

教師B「ケッ、馬鹿につける薬なんざねえよ」

オータム「バカはテメェ等だろうが!」


ヒュパッ


教師B「くるぞ!」バッ

先生「アレか!?」バッ

教師A「…………」

先生「アホ!よけろや!!」


ギャッッ


教師A「くッッ………!!」ギギギギギ

オータム「!?」

スコール「へえ………やるじゃない。アラクネの糸を掴んだのね」

オータム「テメェ……とうとうイカれたか!?」

教師A「お前達よりはまともなつもりだ」グイッ

オータム「う……おッ……!」ズンッ


ドゴンッッドゴンッッドゴンッッ


スコール「その辺で終わりよ」


ヒュボッ


教師A「ぐはあぁぁぁ!!」

オータム「かッ………ゲホッ……あぁぁぁ……ゲホッゴホッ、た、助かったぜ」

スコール「なかなか面白いわね。ここの先生達は」

オータム「全くだ……まさかアラクネの糸を掴むバカとはな………アイツ等、面白ぇバカだぜ」

スコール「ええ、とてもいいバカね」

スコール「さて………狙われてるわね」

オータム「このウジャウジャ湧いてやがるクソガキ共の事か?」


ジャキジャキジャキジャキンッ


スコール「そうね、この数なら余計に………それと、少数だけど増援も来ているわ」

オータム「ケッ、結局どっかのバカのせいで殲滅戦になっちまったなァ」

スコール「ごめんなさいね。でも………あなたもこっちの方が楽しいでしょ?」

オータム「ハハハハ!そりゃ大肯定だ!」

スコール「殺し合いじゃないのが惜しいわね」

オータム「ンな事、俺の知った事かよ、俺は戦えりゃあそれでいいんだよ!」

スコール「フフフフッ………これなら、補給にも困らないわ」

オータム「行くぜ!!」ドッッ

スコール「フフッ……」ドッッ

教師B「何やってんだよこの馬鹿!」

先生「無茶しくさりよってお前はホンマに……アホ!」

教師A「アホでいい………これで……分かっただろ………奴の見えない攻撃の正体が」

教師B「ああ、おかげさんでバッチシとねえ」

先生「掴んで火花出とったとこを見ると………ワイヤーに何やらかんやら、っちゅうとこやろな」

教師A「しかも、それ自体にそこまで攻撃力はない………狙うのは武器や装甲の切断しやすい箇所ばかりだ」

教師B「あの背中の足から出てんだろうね。ビームとかも出てんだけどさ」

先生「ほんで?見えへん攻撃のタネ明かしはええけどや………こっからどないすんねな」

教師B「見栄切っちまったからにゃあもう引けねえわな」

先生「それやったらお前……往生しまっせ」

教師A「往生でも何でも、残った私達が全面に押し出て仕留めるしかない」

先生「あのエネルギー吸収するやつ貸してくれたら何とかなんのにな」

教師B「ところがどっこい。そうはいかぬイカの足ってねえ~全く」

教師B「と、に、か、く、山田ちゃんと生徒達が頑張ってくれちゃってんだからあ、私達もさっさと突撃するよ」

先生「せっかちなやっちゃな~ちょっとぐらい休んだかて怒らへんて」

教師A「そのちょっとが、私達の命取りになる」

先生「お前はド真面目過ぎや。もうちょっとこう~……アホんなってみ?」

教師A「あれは……山田か」

先生「無視せんでや」

教師B「何キョロキョロしてんだ?」

教師A「………何か地面から引っ張り出したぞ」

先生「コンテナとちゃうか?えらい横に長いで、って………何やアレ、どえらいデカさやで」

教師B「スナイパーライフル?あの見た目からしてヤバイんでない?リボルビング機構してるし」

教師A「あれがハイパワーライフルか………まさか、本当にあったとはな…………」

先生「名前だけなら知っとったけど………アホとちゃうか、あんなん埋めとくて」

教師B「全っ然使わねぇやと思ったら埋めてたんか。本当の緊急用だから」


ドガガガガガガガガガガガ

スコール「プロミネンス・コート」シャガッ

「バリアか……しかし、こうも囲まれていては手の出し様もあるまい!」
「このまま押し切るのよー!」
「かかれー!」

オータム「洒落臭え真似してんじゃねぇ!!」ブンッ

「突っ込んで来たか!」
「させないんだから!」ガキィンッ

オータム「邪魔すんじゃねぇ!!」ガスッ

「ぐはッ……蹴りッ……!?」

オータム「今度はそっちだ!ファング!!」

「全機、散開して!」
「撃て撃て撃ちまくれー!!」
「ビットだけじゃなく、本体からの攻撃にも注意しなきゃねっ」
「よっしゃあ、叩き潰したる!!」



ズッドオォォォォッッ


スコール「あああああぁぁぁ!!!」

オータム「砲撃か!?スコール!!」ガシッ

「今だ!」

オータム「舐めんなァ!!」ジャキッ ヒュパッ


チュドドドドドドドドド


「背中の足が厄介だ……!」


ヒュカンッ


「武器がッ……これじゃあ切り込めないわ!」

スコール「ぐッッ……はあぁッ……何がぁ………一体……何処から………」

オータム「おい大丈夫か!?」

スコール「大……丈夫……よ」

オータム「取りあえず撃て!アラクネだけじゃ無理だ!!」

スコール「分……かっ……たわ」

スコール「どうやら……最悪の………タイミングで……増援が………来たわね」

オータム「チィッ……!」

「会長!」
「会長が来てくれたわ!」
「よっしゃあぁぁ!!」
「待ってました!」

楯無「皆、御苦労だったわね。後もう一踏ん張りよ」

「はい!」
「こん戦い、勝てん戦いではなかね!」
「みんなー気張れやー!」

スコール「オータム……もう放してもいいわよ」

オータム「お、おう……」パッ


楯無「全機、攻撃止め」


オータム「あァ?」

スコール「…………」

楯無『教員の皆さん、戦闘不能者及び戦線復帰可能な者を連れ、補給を御受けください』

教師A『了解した』

教師B『面目ない、ちっと行ってすぐ帰ってくらあ』

先生『すまん生徒会長、すぐ戻るさかいな』

山田『私はここから援護射撃を続けます。簡易補給しましたから』



オータム『スコール、お前を撃った奴を見つけた』

スコール『あれが………困ったわね、私達の射程圏外よ』

オータム『しかも口径は戦艦のと変わらねえ…………ゴールデン・ドーンのエネルギーもかなり消費しちまったんだろ?』

スコール『ええ、けどプロミネンスコートのおかげで体の方は何とか無事よ。右半心が痛むのと少しの装甲ぐらいで済んだわ』

オータム『スコール、ハイパーレールガンはどうした。アレなら一発であのバカみてぇな代物ブッ壊せるだろ』

スコール『真っ二つにされたわ。織斑一夏にね』

オータム『チッ、ならクソガキ共を盾にしながら戦うしかねぇな』

楯無「始めまして、とでも言うべきでしょうか。侵入者の御二方」

オータム「わざわざお話する為に攻撃を止めるとはな………随分と余裕じゃねぇか、クソガキ」

スコール「待ちなさい、オータム………いずれにせよ、結末は同じよ」

オータム「………ケッ、わーったよ」

楯無「さて、御二方に問います。まだ抵抗をなさるおつもりですか?」

スコール「抵抗?私達が?」

楯無「ええ、そうです、抵抗です。既にあなた方の目的は暴露され、我々はそれを阻止する策を取っております」

オータム「結構じゃねぇか、色々と手間が省けてな」

楯無「ですので、これ以上は無駄だと申しているのです」

オータム「無駄だァ?バカが、俺は仕事で戦いに来たんだよ。そんなくだらねぇ事、俺の知った事かよ」

楯無「その言葉、現状を理解しての発言と受け取りましょう」

スコール「残念だけど、この人は『こういう』人なのよ。傭兵という金の為に人を殺し………銃を取る事に大義も意味もなく」

スコール「二束三文のはした金で充分事足りてしまうね」

オータム「そうだよ。二束三文のクソ駄賃が命を賭けるに足りちまい。二束三文でブッ殺したりブッ殺されたり、しかも誰に言われたワケでもなく好き好んでやるんだよ」

オータム「戦場での二束三文の方が自分の命や、他人の命より重い」

オータム「ウチの家系は代々割とそーいうホントに人間のクズの家系だったんだよ」

オータム「ハハハ……そんな家系の中でも俺は………最低最悪のクズだよ」

スコール「フフフッ、聞いての通り………こんなところよ」

楯無「困った事になりましたね。このままでは話し合いにならない」

スコール「それと私からも一つ、訂正をさせてもらおうかしら」

楯無「訂正とは?」

スコール「私達は『抵抗』などしてるつもりはないわ。これはただの宣戦布告でもあり、一方的に行われる攻撃の………ほんの些細な事でしかないのよ」

楯無「これが、この惨状が、まだほんの些細な事だと。あなたはそう仰るのか」

スコール「ええ、そうよ。それに何か問題でも?」

楯無「如何せん、あなた方とは話が通じないようです」

スコール「女が皆、自分と同じだと思ったら大間違いよ」

千冬『楯無、ここからは私が話そう』

楯無「………お願いします」

オータム「生徒会長の次は、織斑千冬……ブリュンヒルデ様のおでましか」

スコール「…………」

スコール「あなたが………織斑千冬………どうしてかしら、ブリーフィングで見たのとは全くの別物ね」

オータム「流石のブリュンヒルデも、刀を手離しちまえば普通の人間ってワケだ」

千冬『それがどうした。そんな事は問題ではない。私は貴様等の雇い主の目的が知りたいだけだ』

スコール「知らないわ。少なくとも、私はね」

オータム「悪ィな、聞いた事もねえな」

千冬『………所詮は貴様等も傭兵、という事か』

スコール「そうね………専属契約は結んではいるけど、クライアントから組織の目的を聞かされた事はないわ」

オータム「というかよ、俺達にはその辺の事が分からねぇんだよ。そんな事が俺達に必要なのか?」

千冬『貴様等………』

スコール「こういう事よ。話し合いの余地なんてない」

スコール「もう一つ教えてあげるわ、ジャック・クリスピン曰く」


スコール「評論家が名曲を作った事はない。せっせと作っているのは迷惑と野暮だけだ」

千冬『は……?』

オータム「なるほどな………つまりは、だ。テメェは『すっこんでろ』って事だ。ブリュンヒルデ様」

スコール「それとね……気に食わない………気に食わないのよ、あなたは」

千冬『私と貴様は初対面のハズだが』

スコール「あなたが『織斑一夏の姉』だから………かしらね?」

千冬『…………』

オータム「おいおいスコール、ハイパーレールガンの恨みかァ?」

スコール「さあ?」

オータム「それとも………私情か」

スコール「フフフフ……そうかもしれないわね。けど今となっては、彼は私の敵よ」

千冬『……………』

スコール「どうしたの、織斑千冬。まるで受け入れ難い現実を突き付けられている様な顔をしているわよ?」

千冬『…………貴様の見間違いだ』

スコール「おかしいわね。何故あなたがそんな顔をしているのかしら?あなたに、そんな顔をする資格があるのかしら?」

スコール「けど、その顔………あなたの弟、織斑一夏と同じよ」

千冬『………撃て、山田先生』

山田『えっ?あ、はいッ、はい!』

スコール「流石は、たった二人だけの家族…………そっくりよ。あなた達が理不尽に虐げてきた………あなたの弟にね」

千冬『撃て!!』


ズドオォォォォッッ


山田『ッ!?かわされたッ!!?』

スコール「来るのが分かっていれば、当たりはしないわ」

楯無「全機、侵入者を撃滅せよ!!」


オォォォォオオオオッッッ


オータム「その言葉、待ってたぜ!!」ドッッ

スコール「楽しませてもらおうかしら」ドッッ

楯無「更識楯無、参る!!」ドッッ

~目標地点付近~

精鋭「織斑一夏、警戒を強めろ」

一夏「銃声………何かあったんですか?」

精鋭「向こうで侵入者の一人が確認されていない。陽動作戦が継続されている」

一夏「………あいつだ」

精鋭「知っているのか?」

一夏「白式に似た黒い機体で、二刀の奴です」

精鋭「確かに、機体特徴は会長の報告と一致している。そいつで間違いない」

一夏「俺を狙って………あいつは………」

精鋭「心配するな。念の為、会長が増援を要請した。一年生の専用機持ち達や、私が、お前を守る」

一夏「……………」

精鋭「どうした。何か気掛かりでもあるのか」

一夏「いえ………そんなのじゃないんです。ただ………」

精鋭「お前の事なら、私は気にしていない。会長が既にそうした様に、私もそうした」

一夏「…………」

精鋭「お前の今までの行いは許し難い。しかし、その命が危険に晒されている今、そんな事をとやかく言っている場合ではない」

精鋭「それは分かるな」

一夏「はい……」

精鋭「分かっているならいい。例えお前がどんな奴であろうと私は、私に与えられた務めを全うする」

精鋭「ただそれだけだ」

一夏「…………」

精鋭「少し話が過ぎたようだ。一年生との合流地点まで急ぐ。いつ侵入者が襲ってくるか分からない」

一夏「はい」

精鋭「…………」

精鋭(慣れない事は……するものではないな)

白式『とってもいい人だね。精鋭さん』

一夏『ああ………』

白式『こんな大変な状況じゃなかったら、一夏の話を聞いてくれたかな?』

一夏『さあな………どう……なんだろうな………』

白式『一夏、大丈夫?』

一夏『悪い夢を見てるのに、目が覚めない気分だよ………早く終わってくれ………こんな事…………』

白式『一夏………大丈夫、大丈夫だよ、僕がそばいるから』

白式『僕だけじゃないよ、箒や鈴だっているんだ………一夏は一人ぼっちじゃない、この前までとは違うんだよ』

一夏『そうだよな………ありがとう白式………ごめん、今は弱音吐いてる場合じゃないよな』

白式『そうだよ、皆で協力してこのピンチを乗り切らないとね』

一夏『皆で、か………』



「やっと見つけた………一夏お兄ちゃん」


一夏「この声はッ!?」チャキッ

白式『マドカ!!』

精鋭「織斑先生………いや、違う。下がれ」

マドカ「誰だ貴様は………私と一夏の間を邪魔するな。それは私の獲物だ」

精鋭「素直に引き下がると思うな」ジャキッ

マドカ「ならば死ね!!」ドッッ

一夏「危ない!!」

白式『ダメだよ!間に合わない!』


ガキィンッ


マドカ「!?」

精鋭「その程度か」


グググググッ……


マドカ「ッ……ばッ……馬鹿なッ………!」

精鋭「どうした。この程度で私を倒せると思うな」


ガチガチガチガチッ ギャリギャリィィィッ


マドカ「この……私が、押されているとでも言うの!?」

精鋭「…………」キュイィィィ

マドカ「ッ……!!」バッ


チュドォンッ………ドッゴオォォォォン


マドカ「何て威力………」

精鋭「あまり避けられると困る。私のカノンは威力が大きい、出来るだけ被害を増やしたくない」

マドカ「私の邪魔は………許さない!!」ドッッ

一夏「させない!!」ガキィンッ

精鋭「…………」ヒュッ


ガスッッ


一夏「ぐあッ………精鋭さん……何を………!?」

精鋭「…………」

マドカ「蹴り飛ばした……?」

精鋭「下がっていろと、私は言った」

一夏「でも……あいつは!」

精鋭「手を出すな。お前が戦えば、こいつの思い通りだ」

一夏「ッ………分かりました」

マドカ「ねえ、お姉さん。ずっと私の邪魔をするつもり?」

精鋭「…………」キュイィィィ

マドカ「ならあなたから殺してあげる!!」ドッッ


チュドォンッ チュドォンッ チュドォンッ


マドカ「がッッ……ぐあッ……こッ………このッ!!」

精鋭「来い」ジャコンッ

マドカ「死ねえぇぇ!!」チャキッ



ドッバアァンッ


マドカ「拡散砲!?うわっ!!」

精鋭「判断を誤ったな」ガシッ


ミシミシミシミシミシミシィッ


マドカ「頭がッ………は、離せッ………貴様ァッ……!!」ギギギギギギ

精鋭「弱いぞ」グッ


ゴスンッ ガスッ バキッ ゴスッッ


精鋭「選んだ相手が悪かったな」


ドガッ ドスッ バキィッッ ドゴッ ガスンッッ


マドカ「カッ……ハッ………ゲボッ………」

精鋭「捻り潰してやる」ドッッ

マドカ「くッ……地面にッ………やめッ………!!」



ドッゴオォォッ


マドカ「ぐあぁぁぁッッ!!」

精鋭「まだだ」ジャキッ


ゴキャッ ゴギッ ゴッッ ゴキッッ


一夏「武器で………あそこまで………」

白式『えげつないよね………ただ殴ってるだけなのに』


ゴガッ ゴスンッ ゴキィッッ ゴスッッ ゴギャッッ ゴギィッッ


精鋭「どうした、この出来損ないめが」



ガシッ


マドカ「黙れぇ………!!」

精鋭「まだ動けたとはな」

マドカ「ダァマレェェェェェッッ!!」ブンッ

精鋭「ッ………なんてパワーだ」

マドカ「よくもッ………よくもよくもよくもよくも!!私を!!この私を!!出来損ないだと言ったな!!」

精鋭「癪に障ったか。だが」

マドカ「絶対に許さないッ………許すものか!殺してやるッ!殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスーッッ!!」チャキッ


ゴオォォォッッ


精鋭「あのエネルギー量、奴のワンオフアビリティーか」キュイィィィ

白式『あれはまさか………零落白夜だよ!!』

一夏「やらせるか!!」ゴオォォォッッ

マドカ「コロス!!絶対……コロスッッ!!」ギュンッッ


一夏「やめろぉぉぉぉッッ!!!」ギュンッッ


ズギャッッ


精鋭「織斑一夏!何を!?」

マドカ「ッ………ジャマしないで!!お兄ちゃん!!」


バチバチバチバチバチッ


一夏「退くもんか!!お前なんかに……この人を殺させない!!」

マドカ「うるさいうるさいうるさい!!今はそいつを殺すの!!」


バチバチッ………バリバリバリバリィッ


マドカ「だからァァァ!!」

一夏(自分の刀を俺の刀に滑らせて……この軌道は!!)

白式『避けて!!一夏!!』



ザシュッッ


一夏「ぐッッ……あぁぁぁぁあああ!!!」

精鋭「織斑一夏!!」ジャキッ

チュドォンッ

マドカ「チィッ……鬱陶しい奴!!」

チュドォンッ チュドォンッ チュドォンッ

精鋭「まだ動けるか!?」

一夏「はいッ………まだ………戦えますッ………」ボタボタボタ……

精鋭「無理をするな、片目をやられていてはどうしようもない」

一夏「そう……ですけどッ………俺は………」

精鋭「それに……もう私達だけではない」



チュゴォンッ バババババババババッ


マドカ「増援か!」ギュンッ


ラウラ「速い……デュノア、弾幕は頼んだ」チュゴォンッ

シャル「う、うん……!」バババババババババッ


マドカ「撃ってるだけで当たると………そこか!」

鈴「うおりゃあぁぁ!!」ブンッ

マドカ「そんなもの!!」ガキィンッ

鈴「遅い!!」


ガシッ


マドカ「こいつ何をッ……離せ!!」

鈴「捕まえた!箒!!」

箒「任せろ!」

マドカ「篠ノ之箒!!お前、邪魔!!」ガスッ

鈴「痛ッ……やったわね!龍砲!!」ジャカッ

ズドドドンッ

マドカ「ぐっ……うおぉぉぉッ………!」

鈴「今よ!!」

箒「空裂!!天月!!」


ズドドドドドドドドドドッ


マドカ「クソッ……流石は第四世代……!!」

箒「でやあぁぁぁッ!!」

マドカ「はあぁぁぁッ!!」

ガキィンッ ガチガチガチッ

箒「簪!!」

簪「はい!!」

マドカ「次から次へとうるさいハエ共が!!」

セシリア「ブルーティアーズ!」

ピチュンッ ピチュンピチュンッ

シャル「当たって……!」バババッ バババッ バババッ

ラウラ「…………」チュゴォンッ チュゴォンッ

マドカ「どいつもこいつも私の邪魔ばかり………!!まずは小五月蝿い奴から黙らせる!!」ギュンッッ

セシリア「イグニッションブースト!?」


ガキィンッ………


セシリア「ッ………何故あなたが!?」

箒「間に合ったようだな………」ガチガチガチッ

マドカ「ええい……忌々しい奴が!!」

セシリア「あなたなどに助けられなくとも、私は!」

箒「文句なら後でいくらでも聞く!今はこいつを倒す事だけを考えろ!」

セシリア「言われなくとも分かっておりますわ!」




一夏「皆が………戦ってッ………」

精鋭「体勢が安定していない。私に掴まれ」スッ

一夏「俺……も……いかなッ……くちゃ………」グググッ

精鋭「やめろ、今のお前では足手まといだ」ガシッ

精鋭「それに、痛みで話す事すらままならない状態で戦闘など無理だ」

一夏「…………」

精鋭『一年生、撤退が完了するまでの間時間を稼いでくれ。撤退が完了次第、私も戦闘に参加する』


『『『『『『了解!』』』』』』


精鋭「行くぞ、肩を貸そう」グイッ

一夏「はい………」

一夏『白式……俺の傷は………どうだ………』

白式『それが………目の奥の神経にまでズタズタで………治癒に全エネルギーを回しても………六時間はかかるんだ』

一夏『何だよ………それじゃあ………間に合わないじゃないか………』

白式『エネルギーを補給し続ければ………その半分以下の時間で治るんだけど………』

一夏『それなら………このまま戦う………しかないな』

白式『だッ、駄目だよ!血がいっぱい出てるんだよ!遠近感もおかしくなってるんだよ!』

一夏『心配しなくても………俺は死なないって、約束しただろ………』

白式『そうだけど………マドカは一夏を………』

一夏『皆が………危ないんだ………あいつに………皆を殺させる訳にはいかないんだ………』

白式『……………』

一夏『俺は皆を守りたいんだ………だから、その為の力を………俺に貸してくれ………』

一夏『それに、あいつだけは………俺が倒さなくちゃいけないんだ………俺が………俺だから』

一夏『俺が征かなくちゃいけないんだ』

白式『…………死にに行くんじゃないよね?』

一夏『ああ、そうだ………だから、俺を信じてくれ、白式』

白式『僕はいつだって一夏を信じてるよ』

一夏『そうだったな……なら、征こう』

白式『うん!』




簪「あ、あの……ボーデヴィッヒさん、デュノアさん………しばらくの間後ろにいさせてもらっても………」

ラウラ「…………」チュゴォンッ

シャル「どうしたの……どこかやられたの……?」

簪「いえ……ちょっと大技を使おうと思って………」

ラウラ「私は構わない。後ろにいろ」

簪「はい!」


『山嵐展開 打鉄弐式殲滅形態』


簪「……………」ピピピピピ


『各部システムリンク問題なし、信管はランダムに設定、全弾発射完了と同時に余剰パーツを排除』


ピピピピピピピピピピッ


『山嵐展開完了、操縦者による目標のロックオンを開始してください』


簪「…………」

セシリア「そこですわ!」

鈴「あたしも!」

ピチュチュチュンッ ドンッドンッドンッ

マドカ「それで撃ってるつもり?!撃つのならもっと狙わなきゃあ!」ギュンッッ

鈴「セシリア!!」


ザンッッ


セシリア「きゃあぁぁぁ!!」

鈴「こいつ……!!」

マドカ「アハハ!それで代表候補生なの?!」

箒「でやあぁぁぁ!!」

マドカ「それで隙を突いたつもりか?!」


ギュンッッ


箒「かわされたか……!!」

マドカ「こっちこっち~♪」

箒「ふざけるな!!」

鈴「うおりゃあぁぁ!!」ブンッ

マドカ「蒼天牙月の軌道は知っている!」バッ

鈴「チッ………なら!」ジャカッ


ズドドドドンッ


マドカ「馬鹿ね!」


ギュンッッ


鈴「どうかな!!」バッ

ザカンッッ

鈴「ッッ………よりによってぇ!!」ドッッ

マドカ「!!」


ガシッ


マドカ「掴まった!?」

鈴「あたしの一番嫌いなやられ方を!!」

鈴「あのクズと同じ事してんじゃないわよ!!このばったもんが!!」

マドカ「あのクズ?ばったもん?私の知った事か!!」

鈴「だったら知れってのよ!!」


ザガンッ


マドカ「ぐはッ……何だ!?」

鈴「おらぁぁ!!」ゴスンッ

マドカ「ッ………こいつ………何をッ………」グラァッ

鈴「ふんっ、下調べしてるなら、これは知らなくて当然よね」パシッ

マドカ「………そうか、あの龍砲は私じゃなくて、蒼天牙月軌道を変える為………」

鈴「どうやら全員の弱点をお勉強してきたみたいね。けど箒の紅椿だけは、正式なデータや戦闘記録がないから本番勝負みたいだけど?」

マドカ「アハハハッ、だったらどうなの?」

鈴「どうって?……決まってるでしょ」


簪『どいて!!鈴さん!!』


鈴「!!」バッ

マドカ「何だ……?」


バガシャッ ボボボボボボボボボボボボボボッ


マドカ「この攻撃は………更識簪の山嵐………あそこか」


ギュンッッ


鈴「ミサイルに突っ込んだ!?」

簪「けど、この数のミサイルはかわせない!!」

マドカ「…………」ギュンッッ


ズドドドドドドドドドドドド


鈴「これで………はあッ!?」

箒「馬鹿な……あのミサイルの数だぞ!?」

セシリア「これでは私達には追えませんわ………」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


簪「ミサイル同士の隙間をすり抜けて振り切っているの!?」

シャル「あんな動き方すれば………体が保たないのに………」

ラウラ「来るぞ!!」


カッ

シャル「ここは私が………!」チャキッ

マドカ「シャルロット・デュノア、戦法はミラージュ・デ・デザート………だが」ギュルッ


ガスンッ


シャル「うわッ………!」

マドカ「ペースを崩してしまえば、それは無効化される」

シャル「私を踏み台にッ………ラウラさん!!」

ラウラ「任せろ」バッ

マドカ「ラウラ・ボーデヴィッヒ、最大の武器であるAIC」


ギュンッッ


ラウラ「消えただと………!?」

マドカ「発動と同時に認識範囲外に逃れてしまえば、これも無効化される」

簪「こっちに……!?」チャキッ

ラウラ「後ろか!?簪!!」

簪「はあぁぁッ!」ヒュボッ


ギュンッッ


簪「そこ!!」ヒュンッ


ガシッ


簪「掴まれた!?」

マドカ「ヴァンピーアレーザー」ジャキッ

簪「しまっ……!!」

シャル「簪さん!!」ドッッ

ラウラ「今助ける!!」ドッッ

簪「エネルギーが……ごめんなさい………離脱します!」

マドカ「あなたは後でちゃんと殺してあげる。その前に………」チャキッ

ラウラ「私が先行する!!」

シャル「うん!」

マドカ「貴様といこうか」

ラウラ「はあぁぁぁ!!」ヒュッ

マドカ「遅い」スッ スススッ

ラウラ「当たらない………シャルロット!」グルッ

シャル「任せて」ジャカッ

マドカ「入れ替わったか………だがな!」


ガキィンッ ズドドンッ

シャル「くっ………!」ガチガチガチ

マドカ「この距離でショットガンは使いにくいでしょ?」ガチガチガチ


ゴオォォォッッ


シャル「これって………まさか!!」バッ

ラウラ「させるものか!!」ドッッ


ギュンッッ


ラウラ「しまっ……逃げろ!!シャルロット!!」

シャル「あ……ああっ………イヤッ………あの人と同じ………」ガタガタガタ

ラウラ「シャルロット!?」



ズドドドドドドドドドドッ


マドカ「チッ………忌々しい」バッ

ラウラ「レーザー攻撃………篠ノ之か!!」

鈴「あたしもいるわよ!!」

セシリア「遅れましたわ!!」

箒「弾幕を張るぞ!シャルロットを後退させる!!」


ズドンドンドンドンッ ピチュチュチュンッ


マドカ「涙ぐましい光景だな………」


ギュンッッ


箒「そこか!」ガキィンッ

マドカ「けどね、それも無駄なの」



ギャリギャリギャリィィィッ


箒「刃を滑らせた!?」

ザンッ

マドカ「貴様は後だ、篠ノ之箒」グルッ

ガスッ

箒「ぐはッ……シャルロット!!」

シャル「いッ……いや………いやッッ!!」


ギュンッッ


マドカ「零落白夜」


ゴオォォォッッ


シャル「こ、来ないで………やめて………もう乱暴しないで………」ガタガタガタ

マドカ「死ね」

箒「間に合ってくれ………!!」ドッッ



ズギャッッ バチバチバチィッ


箒「!?」

マドカ「来ると思ったよ。織斑一夏」

一夏「今の内に下がれ!!速く!!」バチバチバチ

シャル「ひッ!!……どうして……何で………また………また私に!!」


ジャキッ


マドカ「へえ………面白い」

一夏「違う!!聞いてくれ!!」

シャル「嫌ッ!!こっちに来ないで!!」カチッ

バババババババババババババッ

一夏「やめてくれ!違うんだ!!俺は!!」

シャル「君のせいで私は!!僕は!!こんな目に!!」

一夏「!!」



シャル「君さえ……君さえいなければ!!私は!!私は『こう』ならなかったのに!!」


一夏「!!」


バババババババババババババッ


シャル「全部ッ!!全部君のせいなんだ!!だからッ!!」


一夏「やめてくれ…………」

箒「やめろ!!シャルロット!!」ガシッ

ラウラ「今はそんな事をしている場合ではない!!」ガシッ

シャル「は、離してッ!!止めないで!!篠ノ之さん!!ボーデヴィッヒさん!!」

一夏「シャル………そんな………」

箒「ラウラ、シャルロットと共に一旦引いてくれ」

ラウラ「了解した………」

シャル「やめてッ………離してよ!!」

一夏「ラウラ………シャル………シャルロットを、頼む」

ラウラ「あ、ああ………任せろ」

マドカ「アッハッハッハッ!………助けた礼が鉛弾とはな」

マドカ「可哀想なお兄ちゃん」

一夏「勝手な事を言うな!お前に………お前に何が分かるって言うんだ!!」

マドカ「怖い怖い、あんまり怒ると血がなくなっちゃうよ?」

一夏「それがどうした。その前に俺は………お前を倒す」


ポタッ……ポタッ……ポタッ……


箒「一夏………お前目が………!」

白式『心配ご無用だよ、僕がついてるからね』

箒『白式……』

白式『センサーを片目に集中させたから視界は変わらないし、傷の痛みを一時的に抑えてるよ』

箒『だが………そんな状態で戦い続ければ………』

白式『うん………でもね、一夏はともかく僕は潮時を見誤らないよ』

白式『一夏、聞いてたでしょ?箒が心配してるんだから短時間で倒さないと駄目だよ?』

一夏『ああ、分かってるよ………』

白式『シャルの事なら仕方ないよ………だって………』

一夏『そうだよな、あれで当然なんだよな…………こっちの俺に……酷い目に合わされたんだからな………』

白式『……………』

一夏『今はあいつを倒す事だけを考えるよう………あいつに対抗出来るのは俺だけだからな』

白式『うん………スペックはほとんど同じ。後は………操縦者の腕次第、だね』

一夏『そうだな………会長さんや精鋭さんには少し悪い事をしたな、戦うなって言われてたのに』

白式『ついでに精鋭さんのエネルギーも無理矢理奪っちゃったからね』

一夏『こいつを倒した後で、こっぴどく怒られに行こうか』

白式『うん!』

マドカ「内緒話は終わった?」

一夏「ああ、待たせたみたいだな」

マドカ「伝えといてあげる。残したい言葉があればの話だけど」

一夏「…………」チャキッ

鈴「箒ー!」

セシリア「箒さん!」

箒「二人とも……遅いぞ!」

マドカ「…………」ギリッッ

一夏「鈴………セシリア………」

鈴「自分の機体性能考えてから言いなさいよ」

箒「そ、そうだったな………すまない」

セシリア「それよりも一夏さん……目を……」

鈴「ッ………そうね………あんな状態で戦わせる訳にはいかないわね」

鈴「それに………一夏を殺すのはあたしよ。あたしにはそれだけの理由と、道理があるんだから」

箒「いいや、私だ。私が一夏の素っ首叩き落としてくれる。それが幼馴染みとしての、せめてもの餞だ」

セシリア「私だって………私だってこの方には大きな借りがありますわ。それを償ってもらうまで、みすみす見殺しにする気はありませんくてよ」

一夏「皆………」

箒「満場一致だな………私達は、貴様に一夏を譲る気などない」

マドカ「あっそう………で?それが何か問題?」

セシリア「人を侮辱するのもいい加減にーー」モガッ

鈴「はいストップ」グイッ

セシリア「むぐっ……んんっ!んーんっ!」ジタバタ

鈴「何で相手のどツボにはまる真似すんのよ。代表候補生なんだからそれぐらい分かるでしょ」パッ

セシリア「ぷはっ………普通に止めてください!」

鈴「はいはい、庶民的で悪かったわね」

箒「行くぞ!私に続け!!」ドッッ

鈴「行くわよ!!」ドッッ

セシリア「ええ!!」ジャキッ

マドカ「来い」チャキッ


ガッキイィィィィ………ンッ


マドカ「!?」


箒「ッ………何をする!?一夏!!」


一夏「…………」


ガチガチガチガチッ


鈴「あんた………この状況分かってんでしょうね?!」

セシリア「どうして箒さんの攻撃を!?」



ガキィンッ


箒「ッ………一夏………お前………」


一夏「こいつを倒すのは俺だ!!」


箒「!!」ビクッ

一夏「倒していいのは俺だけだ!!こいつは、こいつだけは!!俺が倒す!!」


一夏「誰にも邪魔はさせない!!誰にも渡さない!!誰にも!!誰にもだ!!」


鈴「ッ………箒………大丈夫?」

箒「あ、ああ………少し気押されてしまっただけだ」

セシリア「無理もありませんわ………私も………そうですから」

鈴「流石に………あたしもビビっちゃったわ」

パンッパンッパンッパンッ………

一夏「拍手………何のつもりだ、マドカ」


マドカ「間違いない。お前は………お前こそが、私の御敵だ………私の宿敵だ」


マドカ「今のお前は強い。だが………それでも私は、お前と決着を付けなければならない」

一夏『白式』

白式『うん!』

一夏「行くぞ!!」

マドカ「来い……!」


ギュンッッ


一夏「うおぉぉぉぉッ!!」

マドカ「はあぁぁぁッ!!」


ガキィンッ


マドカ「………」バッ

クルッ チャキッ

一夏「逆手持ち………けど!!」


ガキンッガキンッガキンッ

一夏「はあッ!!」

マドカ「…………」


ギャリンッ………


一夏「無駄だ!!」ヒュボッ

マドカ(あの体勢から刀を返した!?)


ゾンッッ


マドカ「ぐあッ………くッ!!」


ガキィンッ ガチガチガチガチッ


一夏「同じ手が通じると思うな!」

マドカ「…………」バッ


ギュンッッ


一夏「でやあぁぁぁッ!!」

マドカ「………」ヒュバッ

一夏「………!!」スカッ

一夏(刀の上を!?水平斬りを待っていたのか!)

マドカ「…………」ガスッ ガスンッ

一夏「蹴りッ………ッ!!」

マドカ「…………」チャキッ


ザンッッ


一夏「うおぉぉぉお………おおッッ!!」

ガキィンッ

マドカ「…………」ヒュッ

一夏(この攻撃は誘い!本命この次!!)


ギュンッッ


マドカ「かわされた……!?」ヒュヒュンッ

一夏「ぜあッ!!」ヒュボッ



ゾンッッ


マドカ「ぐッッ………私の武器を………!!」

一夏「手元を狙うも剣術の一つ、言わば小手先の技、だけどな」

マドカ「小手先?………それがどうした。まだ武器の一つを無くしただけだ、まだ負けてなどいない」

一夏「ああ、いいぜ。もっと来いよ」スッ


白式『アレをやるんだね』

一夏『ああ、あいつに……目に物見せてやる』


マドカ(腰を落として刀を下げた………武術における技、というやつか。私とは相性が悪い………)


マドカ「だが!!」

一夏「……………」チャキッ


マドカがイグニッション・ブーストで加速し、高速で一夏へと迫る。

一夏は、下段の構えを崩さないまま、微動だにせず迎え討った。

マドカが唸るような声と共に、真っ直ぐ切っ先が一夏の胸元へと突き出された。

雪片を握る手に力が込められる。

それと同時に、一夏は胸の奥で湧き上がるものを感じていた。

一夏は獣のように叫び、迫る切っ先を逆袈裟斬りで弾き上げた。

渾身の突きを崩されたマドカが、大きく仰け反った。

重く、腰の入った斬撃が、マドカに大きな隙を生み出した。

その生み出された一瞬の間に、一夏は上段の構えをとっていた。


長い間、一夏は刀すら握っていなかった。

だが、身体はその動きを、寸分の狂いもなくとった。


マドカがそれを認識した時には、もう遅かった。


渾身の力で振り下ろされた雪片が、マドカを斬り倒した。


それは、千冬が己の手で編み出し、一夏が幼い頃に命の重さを扱う事と共に教わった二閃一断そのものだった。

マドカ「馬鹿なッ………何故だッ………何故ただの雪片弍式……だけで………これだけの………ダメージをッ………!?」

一夏「これが剣術だ」

マドカ「おッ………おのれッ!!織斑………一夏………!!」

一夏「お前は俺を殺す………命を奪う、そう言っていたな」

マドカ「そうだ………私は………お前から………奪い取る……為に………!!」

一夏「だけどこれは………お前に奪う事なんか出来ない………俺が信じるものの一つだ」

マドカ「信じるもの………だと……?それが一体………何になる………」


一夏「俺はただ………信じる事を、信じてる。単純にそれだけだ」


一夏「俺は『そう』あろうとするから、強くいられるんだ。お前なんかよりも、ずっと……ずーっとな」


マドカ「信じるものなどない」


マドカ「信じる必要も………この世に、信じるものなど………」

一夏「…………」

マドカ「織斑一夏………お前には………そんなお前には決して分かるまい」

マドカ「己の存在、信念、誇り、夢、意思………己の命すらも持たぬ………無様な私達の事などな」

一夏「お前が………誰かに作られた存在だとしても!!俺は………俺はお前を倒す!!」

マドカ「私は……必ず………お前を殺す」

~上空~

スコール「この感じ………一体何が………?」

オータム「アァ?何か言ったか?!」

「今だ!」ヒュッ

オータム「テメェに言ったんじゃねぇよ!!」ザカンッッ

「ぐはあぁッ!!」

オータム「オイ!余所見してんな!!」

スコール「………助かるわ。今度は……あなたが気を付けた方がいいわね」

オータム「ご忠告痛み入るぜ!」ジャキッ


ドガガガガガガガガガガガガ


「何て奴、六人がかりでも互角とは………」
「ええい、全く。このままじゃ埒が空かないわ」
「会長が片方を抑えてくれているのに………情けない」

オータム「ほら、さっさと来な、クソガキ共」クイックイッ

スコール(何が一体何処から………とても嫌な感じがするわ………予感?………いや、これはそんなものなどでは…………ない)

スコール(これから起こるのは希望の始まりか、絶望の始まりか………それがどちらなのかは、神のみぞ知るといったところかしら…………)

スコール(……………………)

スコール(私には………計り知れない未知の何かが…………起ころうとしているのね………)


スコール(そう………このままでは『おそろしい事』になる)


スコール(そしてこの………胸の奥がざわつくような感じは一体………?)

スコール(恐怖?それとも………歓喜?そのどちらでもないとすれば…………?)

スコール(……………………)

スコール(分からない………何が起ころうとしているの?誰が………それを………?)

スコール(………この状況でそんな事は言っていられないわ)

スコール(そうよ、私には………『こう』する事しか残されていないのよ)

楯無「戦いの最中に余所見とは随分と余裕のようで」バッ


サアァァァァァァァ………


スコール「………見えなくしてしまってもいいのかしら。あそこで防衛対象自らが戦っているのよ?」

楯無「ならばあなたを倒し、助けるまで!」

ヒュボッ

スコール「おっと………いくら霧を作り出そうとも、攻撃は見えているのよ?」

楯無「はあッッ!!」ヒュボッ


ガキィンッガキィンッガキィンッ


スコール「フフッ………どうやら、何か企んでいるようね」

ジャカッ

楯無(来た………!)

スコール「ソリッド・フレア」


ズドドドドドドオォォォッ


楯無「貫く!!」ドッッ



ギャリッッ


楯無「読まれていたッ!?」

スコール「フフフ……流石は、IS学園最強の称号を持つだけの事はあるわね」

ギチギチギチギチギチギチ

楯無(蒼流旋をとられるとは………なら次の手は………)

スコール「あえて霧を作ったのは爆発させる為ではなく、ソリッド・フレアの威力を弱め、蒼流旋だけでも突き破れるようにする為だったのね」

楯無「そうです!」ガコンッ


ギュルッ


楯無「くッ………」バッ

スコール「それも、読んでいたわ」

楯無「どうやらあなたとは………つくづく相性が悪いようです」

スコール「それはお互い様よ」


「会長!!」

オータム「おらよォ!!」ブオンッ

楯無「こいつ………!!」バッ

オータム「隙だらけだぜ?生徒会長さんよォ!!」


ヒュパッ


楯無「何!?」ギュルッ


ギギギギギギギギギギィッ


楯無「ぐッッ………しまった………これでは身動きが………!!」ギギギギギギ

オータム「ハハハッ!気に入ってくれたようだな、アラクネの糸をよォ!」

楯無「ッ………しくじったか………!!」ギギギギギギギ

オータム「霧がアダになったな。邪魔するガキ共は、同士討ちをビビって大人しくしてるぜ」

スコール「人の獲物を横取りとは感心しないわね、オータム」

オータム「テメェのワガママに付き合ってやってんだ。これでお互い様だろうが」

楯無『砲撃を山田先生!!目標霧中央!!』



ズドオォォォォッッ


スコール「この攻撃は………山田真耶………闇雲に撃ちはじめたのかしら」

オータム「バカかよ…………いや、違うな………俺達を狙ってやがんのか………それともーー」

楯無『左45!上4!』


ズドオォォォォッッ


オータム「なっ………アイツ!!」

楯無「良し!!」ブチブチィッ


ドッッ


オータム「………やられた。アラクネの糸から逃げやがった」

スコール「オータム、すぐに霧から抜けるわよ」ジャキッ

オータム「おう、言われなくてもそのつもりだぜ」



ドッッ


楯無「掛かれー!!」


ズドドドドドドドドドドドドドッ


スコール「見事に囲まれているわね」ドガガガガガガガ

オータム「それによ、アイツらもいるぜ」チュドドドドドッ

「ビットを狙うぞ!」
「はいな!」
「囲んでしまえばこちらのもの!!」
「貴様達は墜とす!」

教師A「絶対に陣を崩すな!動き回って撹乱しろ!」

教師B「ああ!しゃらくせぇ!!全弾くれてやれ!!」

先生「撃ち終わったもんはウチに続け!!」

オータム「奴等は俺がやる!!ファング!!」

スコール「私は敵陣を」ジャカッ


楯無「防御の者は前へ!!」

先生「射撃部隊はビットや!!」


ズドドドドドドドドドドドオォォォッ


「うわあぁぁぁぁ!!」
「機体がやられた!!戦闘継続不可能!!」
「エネルギーのほとんどをとられた!!離脱する!!」
「無理するな!一旦下がるぞ!!」
「これじゃあ陣がボロボロじゃない!!
「残った者で陣を立て直せ!!早く!!」

楯無「馬鹿な……たったの一撃で………私達の半分以上をとるとは………!!」

スコール「なし崩しに行くわよ」

オータム「おうよ!!」

先生「どらあぁぁぁぁぁ!!」ドッッ

オータム「!!」


ガッッキィンッ


オータム「ッッ………テメェ等の相手は俺がしてやるよ!!」

先生「お前等ええ加減にせぇよ!!クソボケが!!しばき回すですまさへんぞ!!」

スコール「その威勢も、いつまでもつかしら?」ヒュボッ

教師B「そりゃこっちの台詞だこんボケェ」


チュドンッ


教師A「まだだ!!」ドゴンッッ

スコール「押し返された………やるわね」バッ

楯無「ぜやあッ!!」ヒュボッ


ゾンッッ


スコール「ッ………かわし損ねた………!?」

楯無「…………」チャキッ

スコール「なるほど………最早形振り構っていられないようね」

楯無「これ以上、生徒達や教員方を傷付けるというのなら………私は、あなた達を許さない」


ジャパッ ガコンッッ………フシュウゥゥゥゥゥ


スコール「水が………赤く変わって………そう、あなたも全力を出すという事ね」

楯無「麗しきクリースナヤ………発動」

スコール「美しいわね………自ら意思で翼を広げ、血のような赤を纏う今のあなたは」

楯無「更識楯無、推して参る!!」

スコール「面白い。なら見せてみて、あなたの………その力を」

オータム「おーおー、ついにおっ始めやがったか、あのバカは」

先生『全員聞こえるかーまだ戦えるもんは一定の距離を保ちつつ援護、どっかやられてもうたんなら素直に引いとけ、無理して来られても邪魔や』

教師A「あの女………何者だ?更識を本気にさせるとは………」

教師B「何でぇ、ああ来りゃあ私達はロクな手出しも出来やしねぇでねえかいよ」

先生「ああいう奴昔クラスにおったわ~普段大人しいねんけど不意に怖っ、ってなる奴」

オータム「おいおい………やる気あんのか?テメェ等」

教師A「無論だ」

教師B「あんたにゃあ悪いけど、コイツだけだわ」

先生「ほんならお前は屁でもこいとけや、その間にウチ等が終わらしとくわ」

教師A「私達にもプライド、というものはある」ジャキッ

先生「せやせや、若いもんに任してばっかりやと………アカンでなあ」ジャカンッ

教師B『山田ちゃ〜ん………こうなっちまったからにゃあ、瞬き禁止だ』ジャキッ

山田『次こそ当てます………必ず!!』

オータム「御託はもう充分だ!!さっさとかかって来いよ!!」

~目標地点付近~

箒「………」

鈴「二人が戦い始めてから………もうかなり立つわよ」

箒「分かっている………分かってはいるんだ………しかし………」

箒「私には……見ている事しか出来ないんだ………情けない………共に戦う事も、隣りに立つ事すらも………出来ないんだ………」

ググッ………

セシリア「…………」

鈴「それは………あたしも同じよ………でも、このままじゃ一夏は………」

箒「馬鹿を言え。そんな事………あるはずがない!」

箒「お前は一夏が死にに行ったとでも言うのか!?あいつが………あいつがそんな事をする様な奴だと思っているのか!?」

鈴「違うわよ!!一夏の傷を見たでしょ?!一夏は………一夏は血が止まってもいないのに、ああやって必死に戦い続けてるのよ!?」

鈴「まるであたし達を守ろうとしてるみたいに!!あいつに向かって行ったじゃない!!」

箒「!!」

セシリア「ッ!!」

鈴「あたしの知ってる一夏なら、そうする事なんか全然躊躇わない!!そうでしょ?!」

鈴「箒!!」

箒「…………」

セシリア「お、落ち着いてください………鈴さん」

鈴「ええい、これが落ち着いてなんかいられるかっての!このまま黙って指加えて見てるなんて真っ平よ!!」

箒「鈴………お前………」

セシリア「あの二人の間に割って入ってどうしようと言うのです!?」

鈴「うっさい!あたしは行くわ!止めたって無駄よ!!」

箒「待て、鈴」

鈴「何よ!?」

箒「無理をするな、そんな状態で何が出来る」

鈴「そんな状態?言ってくれるじゃない!あたしは今すぐにあのばったもんをブッ飛ばしてやりたいのよ!!」



箒「手が震えていて何が出来る………そんなお前一人で、一体何が出来るというんだ」


鈴「ッ………う、うっさい!」バッ

鈴「一夏が死ぬって考えたら………それだけで怖くなったのよ!!文句ある!!?」

箒「文句などない………それに………」

スッ

箒「私も………同じなんだ」


カタカタカタカタ………


鈴「!!」

箒「やはりお前と私は似ているな、私も………一夏が死ぬと思ったら途端、怖くなってしまって…………」

鈴「箒………」

箒「今の私も、お前も、怯えて戦う事など出来ない………だが、二人でなら、恐れすら物とせずに戦える」

箒「私は『そう』信じる。お前を、自分自身を信じて戦えると………信じる」

鈴「箒………オッケー、あたしもあんたとなら、やれる気がするわ」

箒「お前と私で………一夏を助けるぞ」スッ

鈴「任せなさい」


キンッ


セシリア「お待ちを!二人とも………一夏さんの言っていた事を忘れましたの?」

箒「どけ、私の知った事ではない」

セシリア「しかし!!」

鈴「しかしもかかしも、へったくれもないのよ。あんたねぇ………こんな時だけ一夏の言う事聞くわけ?」

セシリア「で、ですが………一夏さんは………」

鈴「一夏さんは?何よ?え?」

セシリア「……………」

箒「もういいだろ………行くぞ、鈴」グイッ

鈴「ちょっ、ちょっと………話はまだ………」

箒「今のこいつに何を言っても無駄だ。少し前の私達みたいに………勇気が出ないようだからな」

セシリア「ッ………」

箒「行くぞ!!」ドッッ

鈴「やあぁぁってやるわよ!!」ドッッ

セシリア「待って………ください………」

セシリア「私は………どうすれば………何をすれば…………箒さん………鈴さん………」


キイィィーンッ


ラウラ「遅れてすまない………どうした?どこかやられたのか?」

セシリア「違いますの………これは私が………私が何も………信じられなかったばかりに………」

ラウラ「……………」

セシリア「私は………私には………何を信じればいいのか………分からなくて………信じるだけの勇気も………ないのですわ………」ツー


ポタッ……ポタッ………


ラウラ「セシリア………お前………泣いて………」

セシリア「何故………どうして………私はこんな………こんなにも弱い女に………なってしまったのでしょう………」ポロポロ……

セシリア「みっともない………これでは………死んだお母様に………合わせる顔がありません………なのに………なのに私は!!」

セシリア「ううぅっ………私は………ひぐっ………私は………うううっ………」ボロボロ

ラウラ「信じる、勇気………」



マドカ「…………」ゴオォォォッッ

一夏「はあぁぁぁッッ!!」ゴオォォォッッ


ギャンッッ


一夏「うおぉぉぉぉおおおお!!」バチバチバチバチ

マドカ「!?」

マドカ(やられるッ……!!)

一夏「うッ……あぁ……!!」グラァッ

マドカ「………!!」バリバリィッ

一夏「しまっ………!!」


ドスッッ………バキバキバキィッ


一夏「うおぉぉおおお………あぁぁッッ!!」

ザンッッ

マドカ「ぐはッ………!!」

一夏「ハァ……ハァ……クソッ………雪羅が………もう……限界か………」ボタボタ……

白式『一夏!これ以上の戦闘は危険だよ、速く下がって!!』

一夏『まだだ………まだ俺は……こいつを倒してない………』

白式『今のコンディションじゃイグニッション・ブーストもそう何回も使えないよ!?片手で雪片が振れるの!?』

一夏『ここで俺が下がれば皆が危ないんだ!!こいつは顔色一つかえずに零落白夜で人を斬り殺そうとするんだぞ!!』

白式『でも!!目の次は左腕から血が出てるんだよ!?』

一夏『そんな事は俺が一番分かってる!!』

白式『出血だって酷いのに………このままじゃ……….一夏が死んじゃうんだよ………』

一夏『…………』

白式『俺は死なないって………約束したのに………』

一夏『白式………分かったよ。次で決める。必ずな』

マドカ「どうした、織斑一夏」

一夏「ハァ……ハァ……ガッ……ッハァ………」

マドカ「ボロボロだな。もう限界か?」

マドカ「ここまでに血を流しすぎたな。さらには動きも鈍り出した、腕もやられて使えない」

一夏「それがどうした……まだ腕が一本使えなくなっただけだろ」


チャキッ


一夏「腕の一本で俺を倒したと思うな!!俺の命には届いていない!!俺はまだ生きているぞ!!」

一夏「俺はここにいるぞ!!マドカ!!」

マドカ「………!!」

一夏「倒すんだろ?!殺すんだろ?!だったら速くかかって来い!!」

一夏「能書き垂れてないでかかって来いよ!!」

マドカ「望み通りに………ッ!!」バッ


ズドドドドドドドドドドッ


一夏「このレーザーは………箒!どうして来た!!」

箒「お前がいつも一人で行ってしまうからだ!!」

鈴「あたしもいるわよ!」

ブンッ

一夏「鈴!!」

マドカ「…………」ギャリンッ


パシッ………


鈴「ねえ、あんた………手負いの奴に全力でかかるとか恥ずかしくないの?」

マドカ「いけないか、私のルールは私が決める」

箒「宿敵と認めた相手なら、それ相応の戦いをしろ!!」

マドカ「私に指図をするな………!!」

一夏「無駄だ……こいつは………そんな話が………通じるような奴じゃない………下がってろ………」

箒「待て!一夏!!」

鈴「あんた死ぬ気!?」

一夏「違う!!………俺は………あいつを倒す………マドカを、倒す!!」


一夏「倒さなきゃいけないんだ!!」


鈴「あんな女と戦って何になるのよ?!」

一夏「今しかないんだ!!後でやっても仕方ないんだ!!」

一夏「だ…….か……ら………」グラァッ

マドカ「やはりな………」

箒「馬鹿者!!血が止まっていないのに叫ぶな!!」ガシッ

一夏「ハァ……ハァ……ハァ……わ………るいな………ッハァ……ハァ………」ポタポタポタ

鈴「馬鹿!!これじゃあ本当に死ぬわよ!!?」

マドカ「………………」

一夏「ハァ……ハァ……ハァッ……ハァ……」

白式『箒!!鈴!!今すぐエネルギーを僕に回して!!』

鈴『い、今すぐったって……コア同士のシンクロが………』

白式『僕に触れるだけでいいから速く!!』

鈴『う、うん………はい』スッ

箒『こ……これでいいのか?』スッ


キィィ………ン


白式『………良し、これでエネルギーを治癒に使える』

鈴『えっ?もう終わったの?』

箒『まだほとんど何もしていないぞ………』

白式『進化した僕にエネルギー共有ぐらいは造作も無いんだよ』

白式(本当は、先に二人のコアに接触してあったからなんだけどね)

白式(絶対に言えないんだけどね。言ったら二人とも怒るよね)

一夏「…………」グググッ

箒「い、一夏!?」

一夏「もう………大丈夫だ………下がってろ………」

鈴「何言ってんのよ!それじゃあ………あたし達が来た意味がないでしょ!」

箒「お前一人で行かせるものか!!」

一夏「………やっぱり………そうだよな………」


スッ


一夏『白式』

白式『うん……分かった』


キィィィィイ………ン


箒「機体が落ちている!?私達のエネルギーを奪ったのか……!!このッ………この大馬鹿者が!!」

鈴「後悔しても知らないわよ!!こぉんの馬鹿一夏!!」

一夏「箒……鈴………ごめん………」

マドカ「懸命な判断ではなかったな。味方のエネルギーを奪い取るとはな」

一夏「何とでも……言え……」

マドカ「だが、これで邪魔者は消えた」

一夏「ああ………そうだ………俺達の戦いも………終わりにする………」

チャキッ

マドカ「いいや、まだだ。どちらが本物か決めるのはこれからだ」


マドカ「お前と私のどちらが強いか」


マドカ「強さで生き抜いてきた私と、強くあろうとするお前のどちらが強いか」


マドカ「強い者が勝つ」


一夏「………お前が………千冬姉から作られていたとしても………お前は俺に変われはしない…………」


一夏「お前は………俺には成れない」


マドカ「私は織斑千冬から作られた。そしてお前はその血を分けた弟だ」

マドカ「しかし、強いのは私だ」



マドカ「本物はこの私だ……!!」


言葉が終わったと同時に、マドカはイグニッション・ブーストで加速した。

一夏は、静かに刀を下段へと下げた。

マドカが袈裟斬りを放つ。だが、一夏はその斬撃をくぐり抜け、懐へと踏む込んだ。

そして、マドカの刀が一夏の頭上を通り過ぎ、雪片弍式がマドカの腹部を撫で切った。

わずかに怯んだマドカは、急旋回して回し蹴りを繰り出した。

一夏はそれを弾こうとしたが、一発目が振り始めた雪片弍式の鍔を押し退け、続いた二発目が一夏の頭部を捉えた。

大きく蹴り飛ばされた一夏は、意識をハッキリさせるのと同時に、マドカの斬撃を防いだ。


そして、白と黒の刀が打ち合う。


一回、二回、三回と、激しい刀の応酬が何度も起こる。

だが、片腕で雪片を振っている一夏と徐々に押され始めた。

一夏の腕や目からは、血が再び流れ出し、抑えられていた激痛が戻ってきていた。

それは紅椿や甲龍から奪ったエネルギーが、まだ充分な治癒に使われていなかったからだ。


一夏「があああぁぁぁぁッッ!!」

振り下ろした雪片弍式が、マドカを力任せに弾き飛ばした。

だが、すぐさまマドカは一夏へ斬りかかった。

互いの刀が、互いの目の前で鍔迫り合いを起こした。


マドカ「お前だ私だ!!」


一夏「お前と俺を!!一緒にするな!!」


マドカ「私はお前だ!!私とお前は同じだ!!同じものだ!!」


一夏「俺は!!お前みたいには………ならない!!」


血の流れる左手で無理矢理雪片を掴み、マドカの刀を弾き上げ、横一閃に薙いだ。


マドカ「ぐッ……ううッ………おのれぇッ………!!」


マドカは、腹部を抑えながら唸り、息を吸う。

白式『もう駄目だよ一夏!!これ以上は死んじゃうよ!!』

一夏は、左腕の焼けるような痛みに耐えながら、肩で大きく息をする。

そして、薄れ出した意識を痛みで繋ぎ止める最中、ただ目の前の敵を倒す事だけを考えていた。


白式『僕の声が聞こえてる!!?ねえ、聞こえてるなら返事してよ!!』


もはや一夏はいつ意識を失ってもおかしくはない、何故まだ戦えているのか不思議なぐらい、ほとんど奇跡に近い状態だった。


その時だった。


呼びかけていた白式の声が途切れ、零落白夜が発動した。


一夏はゆっくりと、二閃一段の構えをとった。


目前のマドカを見据えるその顔は、どこか笑っているようにも見えた。


マドカは静かに刀を構え、零落白夜を発動した。


二人の機体が眩い光を放つ。

刀身から溢れ出るエネルギーが、刃を形作った。


わずかな間をおいて、マドカが加速する。


マドカの刀が、一夏の心臓めがけて真っ直ぐ突き出される。

それを一夏は、再び逆袈裟斬りが弾いた。

だがそれは、左腕を怪我している人間が繰り出したものとは思えない速さだった。

しかしマドカは、さっきとは違い、全く体勢を崩さなかった。

むしろ、逆にそれを利用して回転し、一瞬の間に刀を構え直した。


それと同時に、一夏は零落白夜を発動したまま、雪片弍式を振り上げていた。


一夏は、マドカが突きを繰り出すよりも圧倒的に速く、何の躊躇もなく、雪片弍式をマドカへと振り下ろした。




はずだった。


突然、雪片弍式がマドカの首元で止まった。


そして、次の瞬間。


マドカの刀が、一夏の胸を貫いた。

今日はここまで。

一夏「ガフッ………う………あ………ああ………」ゴボッ

ボタボタボタボタ……

マドカ「私の勝ちだ」

一夏「ま………だ………だ………」


ガシッ


マドカ「!?」

一夏「お……れは…………まだ………な……に………も………」

グググッ……

マドカ「無駄だ。いくら足掻いたところで何も覆りはしない。お前は負け、私が勝った」

マドカ「それがこの戦いの結果だ。それ以上も、それ以下もない」

一夏「こ……ん……な……と………こ……ろ……で………俺……は………」

マドカ「そう……これで私はお前に成った」

マドカ「そして、お前は私に成ったのだ………」

マドカ「私達、エムシリーズと同じものにな」ニイィッ

一夏「お……れ……は…………」


一夏の胸から刀が勢いよく引き抜かれた。

傷口からは多くの血が流れ出し、反射的に動いた左手が、マドカの目の前で虚しく空を切った。

そして、一夏は右手に雪片弍式を握りしめたまま、一夏は落ちていく。

それをマドカは、表情一つ変えずに見ていた。

だが、その表情とは裏腹にマドカには引っかかっている事があった。


何故、織斑一夏は零落白夜を発動したまま攻撃しないのか。


何故いつも、自分に雪片弍式が当たる前に解除してしまうのか。


最後の瞬間も、あのまま刀を振り下ろしていれば勝てたのに、何故それを止めたのか。


マドカは、理解出来ないでいた。


また………『これ』だった。

見えていた空が、吹いていた風が、聞こえていた音が、感じていた光や自分の感覚も……目の前にいたマドカも………

何もかもが………遠ざかっていく………

今度こそ俺は………このまま暗闇に落ちてしまうのかもしれない………

今だって………激しく、深く、俺は落ちている。


俺とこの世界を繋いでいた何かが切れたんだ。


俺は、心の中ではずっと『これ』を待ち望んでいたんだろう。


俺は生きる。俺は死なない。


そうやって、無理矢理自分に言い聞かせていただけだったんだ。

結局は、全部出まかせの嘘だったんだ。

誰にも言わずに、一人で、ずっと………

もう、それだけしか分からない。

けど………もう何も思わないし………もう何も感じられない………

今まで見えていたものも………もう………すぐ見えなくなる………

今まで………感じていたものも………


誰かが、何かが………俺を………呼んでいる…………

誰なんだ………どうして………何が………俺を…………

何で……俺を………呼ぶんだ………


もう………手遅れなのに………


聞いた………事の………ある………声だ………

けど…………誰か………分からない………

また………燃えてる………今度は………本当に………燃えてる………

あの夢のような………出来事を………俺が………引き起こした………しまった………のか………

俺が…….大人しくして……いれば……こんな事……には………ならなかったの………かもしれない………


皆を………俺が………死なせて………


もう………気に……するだけ……無駄………か…………

ば……か………だよ………な…………

ほ……ん……と……馬鹿………だよ………な………

お……れは……死……ぬ………のに……………




ち……く………しょ………う…………




上空にいるマドカは、一夏が地に落ちるのを見届けた。

何故か、織斑一夏が絶命するのを自分の目で確かめるまで、目が離せなかった。

地面に叩きつけられ、立ち上がる事のない織斑一夏の姿を見て、思わず安堵していた。


そして、自分の体が震えている事に気付いた。


もちろんそれは、織斑一夏を殺した喜びに震えているものではなかった。

マドカは、恐怖を感じていたのだ。

マドカ「この私が……織斑一夏に恐怖、だと………?」

必死に体の震えを抑える。

それは、今まで多くの同胞達を殺し、殺さなければ殺される。

そんな世界で生きてきたマドカにとってありえない事だった。

マドカ「馬鹿な………何故こんなものッ…………止まれ………!!」

だが、そんなマドカですら、最後の一撃繰り出す時に見えた一夏が。

その斬撃が止まらなければ、本当に自分は殺されていた事に恐怖していた。

それは紛れもないもない事実だった。


何を恐れる事がある………私は勝った………


そうだ、強いのは私の方だったのだ。


長かった………ほんとに長かった………

多くの仲間達が、兄弟達が、この一瞬から始まる時の為だけに死んでいった………

叫び、吠え、呪い、のたうち………

人としての自由と、己が存在を求め夢見死んでいった同胞たち。

互いに殺し合わされ、死んでいった同胞たちの存在が、その死が………決して無駄ではなかったのだと。

その証の為に私は戦い、織斑一夏を殺し、それをここに生み出した。


何もかもが報われた。


そうだとも。全ての苦しみも、犠牲も、闘争も………こうなる為のものだったのだからな。


だが何故?何故私が織斑一夏を恐れている?


そんな馬鹿な事………あるはずがない!!

そう、私はついに成った。

作られたものではなく、本物の織斑マドカとしての存在を得た。

私は、私達の望んだ事を、成し遂げた。


ただ、それだけだ。


それだけだ………!!

マドカ『こちらマドカ、スコール、応答を』

スコール『こちらスコール、大人しく獲物を譲る気にでもなったのかしら?』

マドカ『目標を仕留めた。白式の回収はそちらに任せる』

スコール『………生憎、手が離せないのよ』

マドカ『オータム』

オータム『ざっけんじゃねぇクソバカが!!俺の方が手が離せねぇんだよ七対一だぞ!!』

スコール『そういう事よ、白式の回収は自分でやる事ね』

オータム『どうせ手ェ空いてんだろ!!』

マドカ『いや、私もこれから数人を相手にしなければならない』

マドカ『私の機体特性を考慮すれば、全員の殲滅には時間がかかる。よって、どちらか手の空いた方に白式の回収を頼みたい』

スコール『………仕方ないわ、私が行く』

マドカ『頼んだ。私は………』

マドカ「こいつらの相手をする」バッ

ズドドドドドドドドドッ

箒「この速さでかわされた!?」

マドカ「そして後ろ」バッ

ズドドドンッ

鈴「こいつッ………さっきまでは手を抜いたのね……!!」

マドカ「…………」ジャキッ

鈴「こいつ……!」バッ

箒「させるか!」チャキッ

マドカ「………」ギュルッ

箒(私の刀の上を!?しまっーー)


ゴスッ ガスンッッ


箒「ぐあッ………!!」

鈴「箒!!」

鈴「やったわね!」ズドドンッ

マドカ「………」バッ


チュゴンッ


マドカ「ッ………ラウラ・ボーデヴィッヒが!!」

ラウラ「掠っただけか………ならば」チュゴンッ

マドカ「………」バッ

ラウラ「篠ノ之は正面!凰は上を!私達で三次元攻撃を仕掛けるぞ!!」

箒「あ……ああ!分かった!!」ドッッ

鈴「任せなさい!!」ドッッ

マドカ「鬱陶しい奴等が!!」

ラウラ「点ではなく面の攻撃で攻めろ!!」チュゴォンッ

ラウラ「ッ………!!」


ラウラ(一夏!?やられたのか……!!)


箒「どうした!?遅れているぞ!!」

ラウラ「私の事はいい!敵に意識を集中しろ!!でないとやられるぞ!!」

箒「分かっている!!」

ラウラ(助けなければ………!!だが今こいつに背を向ければ殺される………どうすれば!!?)

~緊急補給地点~

セシリア「私が援護に向かいます。デュノアさんをお願いします」

精鋭「いや、私が行く。オルコット、お前がデュノアを」

セシリア「いえ………私には無理です」

精鋭「…………」

シャル「セ、セシリアさん……ほ、本当に………行くの………?」

セシリア「ええ、今の私に………」


グッ……


セシリア「あなたを支えるだけの事が出来るとは………思えませんから………」

ドッッ

精鋭「おい待て!せめて私のカノンを!!」

精鋭「………ええい、どいつもこいつも人の言う事を聞かぬ者ばっかりだ!」

シャル「ご、ごめんなさいッ………わ、私が………不甲斐ないから………」ビクッ

精鋭「いや違う、悪いのは私達だ。お前の事を考えなかったばかりに………すまない」ギュッ

シャル「精鋭さん………?」

精鋭「こうすれば……少しは落ち着くか」

シャル「は、はい………ありがとう………ございます………」

精鋭(しかし、今回の事は私のミス)

精鋭(別行動時にせめてもう一人、護衛を増やしていれば………この様な事態には陥らなかった)

精鋭(いや、過ぎた事を言ってもしようがない。私が今すべき事はそんな事ではない)

精鋭(果たして一年生五人がかりで奴が倒せるかどうか………第四世代がいるとはいえ、操縦者が未熟ではその力を発揮出来ない)

精鋭(代表候補生だとしてもまだまだ経験の少ない者ばかり……….)

精鋭『そちらに援護に回れる者はいないか』

『やられた組に無茶言わないでよ……悪いけど、こっちもこっちでいっぱいいっぱいなのよ』

精鋭『そうか………無理を言ってすまなかった』

『………とりあえず、そっちに回れる奴がいないか探してみるから。行ったところでボロボロだけど』

精鋭『恩に着る』

『あたいとあんたの仲でしょ?いいって事よ』ピッ

精鋭(これで後は………織斑一夏がさえ残っていれば………時間はかかるが、勝機はある)

精鋭(頼んだぞ、一年生)

~上空~

教師B「んあ?……お、おい!こりゃあちぃとマズイんでねぇか?」

教師A「何がだ」ガコンッ

教師B「私達の気づかねぇ内に、防衛目標の方へと誘導されてたんだよ!」

教師A「何……?」

山田『本当です!戦闘開始地点からかなり離れています!』

教師B「それみろ!言ったろうが!」

先生『お前等さっさと戦わんかぁぁぁあああいッッ!!』

山田『は、はいぃぃ!!』

教師B「でっけぇ声出さねぇでも分かってるっての!こちとら放熱時間いんだよ!」チュドンッドンッ

教師A「交代だ。私が前に出る!」

先生「頼むで!」

山田『更識さん、聞いてましたか?』

オータム『スコール、アイツ等ようやく気付いたぜ』

スコール『そう……案外遅かったわね』

オータム『これでアイツ等は織斑一夏の方に「守り」を固める』

スコール『相変わらず見事なものね。伊達に傭兵を生業にしてはいない、という事ね』

オータム『見事?ちょっと考えりゃ分かるコトだろ』


オータム『攻めるよりも守る方がムズカシい、ってよ』


スコール『そうね……攻撃ならばどこからでも、こちらの好きな時に、自由に戦える』

オータム『けどよ、守りは自由に攻撃してくる敵よりも上の、圧倒的な戦力がいるんだよ』

スコール『フフフッ、戦いで後手に回れば負けね………ここから一気に敵陣を崩して連携を削ぐわよ』

オータム『こんな付け焼き刃の連携プレイなんざ、すぐに蹴散らしてやるぜ』

オータム『それよりもスコール、交戦中の余所見はよくねぇな?』

オータム『それはわざわざ戦場まで来た射殺志願者のバカがやる事だぜ?』

スコール『そうかもしれないわね。けど私は、敵から目を離してはいないわ』


ガキィンッ

楯無「またも………しくじったか」

スコール「気付いていなかったかしら?」

スコール「あなた達は、この戦いが始まってからずっと、私達の思い通りにされていたのよ?」

楯無「…………」

スコール「さて、IS学園生徒会長更識楯無、ISのエネルギーは後どれぐらいかしら?」

楯無「くだらぬ問答など……無用!!」ドッッ

ギャリィンッ

楯無「………はあッ!」ヒュボッッ

スコール「フフフ………動揺しているようね。表には出さず、それでいて味方には悟られないようにね」ギュルッ

ガキィンッ

楯無(今だ!!)ボッッ


ザンッッ


スコール「ぐッ………味な真似を」

楯無「これ以上、進ませはしないわ!!」

~目標地点付近~

ザンッ

ラウラ「ぐはッ……!」

マドカ「墜ちろ」ギュンッッ


ガスッッ


鈴「このッ!!」

マドカ「………」


ギュンッッ


鈴「またッ……箒!!」

箒「そこだ!!」


ガキィンッ


マドカ「ッ………!」ガチガチガチ

箒「今度こそとったぞ!!」ググググッ

マドカ(こいつ……この距離でレーザーを撃つ気か………だが)


ギャリィン


箒「しまっ……!!」

箒(迂闊だった!こいつは刃を滑らせるのを得意としていたのに!!)

マドカ「………」バッ

ピチュンピチュンピチュンッ

マドカ「ビット攻撃………セシリア・オルコットか」


ギュンッッ


セシリア「来た……!」

セシリア(速い……しかし、この距離なら落ち着いて狙えるだけの時間はありますわ!)

鈴「セシリア!援護するわ!」ズドドドドドッ

マドカ「…………」バッ

セシリア「ブルーティアーズ!!」

ピチュチュチュチュンッ ズドドドンッ

マドカ「………!!」

マドカ(ビットを扱いながら狙っているだと!?撃てたのではないはずだ!!)


チュドンッ


マドカ「ッ………数が多過ぎる……!」

箒「奴のシールドエネルギーにも限りがある!畳み掛けるぞ!!」

マドカ(あれは………ラウラ・ボーデヴィッヒか、織斑一夏の元へと向かっている………白式を奪われぬようにする気か)

マドカ「…………」ギュンッッ

箒「逃がさん!!」




ラウラ「おい一夏!!返事をしてくれ!!一夏!!」

ラウラ「駄目だ……意識がない………出血も酷い……….どこから止めればッ……ッ!?」

ラウラ「心臓をやられてたのか!?医療班はどうした!!何故来ない!!」

ラウラ「い、いや!!………今は出血を止めなければ………!!」

グググッ

ラウラ「…………!!」

ラウラ「だ、駄目だ……出血箇所が多い………血が………血が止まらない!!どうすれば!!?」

ラウラ(これでは私の唾液に含まれているナノマシンでも傷を塞げない………)

ラウラ(このままでは一夏が………一夏が死んでしまう………!!)

ラウラ「ッ………死ぬな!!一夏!!私はまだお前に何も言っていない!!」

ラウラ「言えていないんだ!!篠ノ之箒や、凰鈴音のように自分の言葉で!!自分の意思で!!」

ラウラ「死なないでくれ!!悪いのは私だったんだ!!お前を弄んだ私だったんだ!!」

ラウラ「だから死ぬな!!死なないでくれ!!」


ラウラ「生きろ!!」


ラウラ「一夏!!」

ラウラ「!!」バッ


バシュウウゥゥゥゥッ


マドカ「フン、外したか………」ジャキッ

箒「でやあぁぁぁぁ!!」


ラウラ「あいつか………あいつなのか………あいつが、一夏を………!!」

スクッ………

ラウラ「あいつのせいで………一夏は………命を!!」


ドッッ


ラウラ「許さない!!絶対に………絶対にッ!!」

マドカ「ラウラ・ボーデヴィッヒ………機体スペックが上がっている!?」

ラウラ「喰らえぇぇぇッッ!!」チャキッ

マドカ「だが、そんな武装と」ヒュッ


ガッキィィィンッ


ラウラ「ッ………ッッ………しまッ!!」


ズバッッ


マドカ「冷静さを欠いた攻撃など無駄だ」ガスッ

ラウラ「ぐッッ………うあぁぁぁ………この!!」

箒「ラウラ!一人で先走るな!!」ズドドドドドッ

鈴「何一人で熱くなってんのよ!」ガシッ

セシリア「落ち着いてくださいまし!」ガシッ

ラウラ「離せッ……離せ!!あいつは………あいつは一夏を殺したんだぞ!!」

ラウラ「その目で見てみろ!!一夏はあそこだ!!」

鈴「馬鹿言わないでよ!!アレがそう簡単にくたばるようなッ………ッ!!」

セシリア「そ……そんな………!!」

箒「二人共どうした!?何がッ………!!」

マドカ「遅かったな、ようやく気付いたのか」

マドカ「だが気付いたところで、もう既に手遅れだ」

箒「ラウラ………ラウラ!!お前は見ていたんだろ!!傷はどうだったんだ!?」ガシッ

鈴「そうよ!!まだ助かるの!?どうなのよ!!」

ラウラ「ッ…………」

箒「助かるのか!?なあ!!どうなんだ!!?」

セシリア「ラウラさん!!」

ラウラ「………」フルフル

箒「そんなッ………うッ、嘘だ!!嘘だと言ってくれ!!ラウラ!!」

ラウラ「………致命傷だったんだ…………私が気付いた時にはもう………一夏は…………!!」

鈴「う、嘘よね?……こんな事って……ない……わよ………こんな………こんな!!」

ラウラ「嘘では………ないんだッ………!!」

セシリア「そんな………あんまりですわ………自分の言いたい事ばかり………言ったまま………死ぬなんて………」グスッ

箒「………」グッッ……

マドカ「何故だ。お前達は織斑一夏を蔑み、忌み嫌っていたハズだ」

マドカ「それが何故、今になってその死を悲しむ。お前達にとって織斑一夏の存在は良いものではなかった」

箒「黙れ………」

マドカ「お前達が嘆く理由など、どこにもない」

箒「黙れえぇぇぇぇッッ!!」



その時だった。


突然マドカが後ろから飛来したエネルギーの塊に吹き飛ばされた。


マドカ「ぐッ……ああッ………何だ!!?」

それが飛んできた方向を見た時、マドカは言葉を失った。

しかしそれは、箒達も同じだった。


全員の視線の先には、一夏がいた。


体の傷は、全て跡形もなく消えていた。

わずかに俯いたまま、右腕を突き出し、立っていた。


そしてゆっくりと腕を降ろした。

マドカ「織斑、一夏…………どうしてお前が生きている?!お前は死んだんだぞ!!?」

マドカは箒達など鼻にもかけず、一夏へと向かった。

むしろ、箒達は驚きのあまり何も出来なかった。


一夏は俯いたまま、マドカを見る事もなく動かない。


マドカ「ダメじゃないか!!死んだ奴は!!黙って死んでいなければ!!」

零落白夜を発動したマドカは、一夏へと斬りかかった。


だが、それを一夏は掴んで止めた。


驚愕するマドカを一夏は、人間とは思えないような力で殴り飛ばした。

マドカの体は一瞬の間に、遥か後ろにあった建物に激突し、瓦礫に埋れてしまった。



そして、白式の装甲全てが展開を始め、全身から深紅のまばゆい光が溢れ出した。


一夏が、空に向かって獣の様に吠えた。


その声は、地響きのように大きく響いた。


左目の傷はなく、両目とも真っ赤に染まっていた。



それだけではなかった。


ラウラ「こ、これは……光………?」

鈴「何よこれ……何でこれが一夏の方に流れていくのよ!?」

セシリア「一体何が………私達に何が起きていますの………!?」

箒「私達の……紅い、光………?」



シャル「何っ………これ………?」

精鋭「何故デュノアの機体から光が………私のエネルギーが回復していく………?」



山田「これは………光?どうして私の機体だけからこんなものが………他の人からは出ていません………」

山田「それに、この光の行く先は………?」



深紅の光が、まるで何かの意思を持っているかのように、白式の放つ光の元へと集まった。


巨大な真紅の光が渦を巻き、一夏を覆った。


その膨大なエネルギー量に、ISだけはエネルギーを回復し、他のあらゆる機器は破壊された。


その光全てを、白式は取り込んだ。

そして白式は、より一層赤さを増した光を放つ。

しかしそれは装甲だけでなく、血走るように一夏の髪や肌にまでも現れた。


それを、ただ見ていただけの箒達は動けなかった。

自分達の機体や、一夏の機体に何が起こったのか分からずに、何も出来ないでいた。


一夏は、ゆっくりと遠くのマドカを見据え、笑みを浮かべた。


次の瞬間、一夏が消えた。




教師B「真っ赤な光………それも、織斑一夏のいる方角へ向かった………?」

教師A「あのとてつもないエネルギー量………この学園の設備全てがあてられる程のエネルギーが何故………」

楯無「何をしようとしているの………織斑一夏くん………」

オータム「オイオイ………何がどうなってやがるんだ?島中の電力がイカれてやがるぜ」

スコール「あの建物が壊れたのも気になるけど………その後叫んだ織斑一夏の声も尋常じゃなかったわね…………」

オータム「スコール、こいつは俺のカンだがかなりヤバイぜ。とっとと引くか、それとも………」

スコール「そうね………一時休戦、もしもの場合は共同戦線といかないかしら、更識楯無」

楯無「それは私達と利害が一致した、と受け取ってもよろしいのかしら?」

オータム「テメェのその脳ミソ使ったらどうだ?この非常事態に、俺達が戦ってる場合じゃねぇだろ」

楯無「ならばあなた達は私の指揮下に入ってもらう事になるわ。それに異論はない?」

スコール「悪いけど、背中は信頼出来る仲間にしか預けられないのよ」

オータム「昔ならともかく、今はその方が一番性に会ってるんでな」


一瞬の間に建物を突き破った一夏は、マドカをグランドの地面に叩きつけた。

そこから馬乗りの形になり、雪片弐式を握ったままの腕を振り上げた。

マドカ「がはッ……ゲボッ………やッ…………やめッ………」

もはやマドカは戦闘不能状態だった。

建物と地面に叩きつけられた時の衝撃で、身体中から血が流れ出ていた。


一夏は、拳を振り下ろした。


鈍い音がして、マドカがさらに血を吐いた。

次は左の拳を振り下ろした。

そして右、左、と交互に、何度も何度も拳を振り下ろす。


叫ぶように笑いながら、一夏はマドカを殴り続けた。


マドカは殴られる毎に血を吐き、呻き声すらも出なくなり、意識があるかどうかすら分からなかった。

しかし一夏は殴る事をやめなかった。

逆に殴る力をさらに込めていた。

それはもはや、マドカの生死など考えてすらいないようだった。



一夏は殴るのを止め、マドカの頭を掴み上げた。


マドカのISが徐々に解除されていき、光になったそれを白式が吸収していく。

そして完全にISが解除され、無防備な状態のマドカへ一夏は再び拳を向けた。


その時、上空から無数の火球が一夏へ降り注いだ。


一夏はマドカを投げ捨てると、火球へと突っ込み、一撃で全て叩き潰した。

巻き起こる爆炎の中から、上空のスコールへと一瞬で距離を詰め、拳を食らわせた。

誰もがその一瞬の出来事に、反応しきれていなかった。

オータム「ッッ!?……やりやがったな!!」

反射的に銃を構えたオータム視界から一夏が消え、後ろから地面へと蹴落とされた

教師Aが蹴りの隙を突いて、パイルバンカーを喰らわせようとした。

だが、それを一夏は正面からパイルバンカーごと破壊して殴り飛ばした。

教師B「このバケモンが!!」

教師Aが動いたのと同時にビームライフルを最大出力で撃ち続けていたが、全て当たっていなかった。

教師B「山田!!」

一夏が、教師Bの目の前から消える。

だが、すぐ前に現れ、左手を水平に突き出していた。

教師B「はッ……あ?」

左手が開いて、潰れた金属の塊が落ちていった。

教師B「ハイパワーライフルを素手で!!?」

山田『そんな………ありえません!!』

先生「ハッ!オモロイやないけ!!」

両刃斧を振りかぶり、教師Bの援護を受けながら一夏へ突撃する。

繰り出された渾身の一撃を、一夏は容易く斧もろとも砕き、叩き落とした。


そして一夏が山田の方見た瞬間、ゴールデン・ドーンの尾が巻きつき、ビームと銃弾の集中砲火が襲った。


スコール「どう……やら……私の危惧していたそれを…………超えてしまった………ようね」

オータム「な……んて………ヤロウだ……ようやく………捕まえたんだ………絶対に……離すんじゃねぇぞ………!!」

教師A「今……なら………あの速さで………動けない……私達も加勢するぞ………」


巻きついた尾の先が、一夏に突き付けるように火球を作り出した。


だが、尾を千切って伸びた左腕が、火球を握り潰した。


攻撃をしかけようとしていた教員達の足が止まる。


そして、尾全てを引きちぎった一夏は一瞬でスコールを掴み、遠く離れていった。


オータム「スコール!!クソッタレが……!!」ドッッ

教師A「待……て………一人………ではッ………ぐッッ………」

楯無「そのダメージでは無理です。私が追います!!」ドッッ

教師A「頼ん……だぞ………!」

先生「行くで………あの………どつかれとった………奴も………拾て………下がんで………」

教師B「戻ってくんなら援軍連れてこいよ!!」ドッッ


スコールを掴んだ一夏は、通常ではありえない速度で校舎に叩きつけ、破壊していった。

校舎を貫くと、今度は地面に向かって投げ捨て、急降下して殴りつけ、すぐさま首元を掴み上げた。


スコールは両手にアサルトライフルを呼び出し、一夏の顔に全弾撃ち込んだ。


しかし、それが効いている様子は全くなく、逆に首を締め上げる力が増しただけだった。


スコール「そ……う………こ……れ……が…………あなた……の………持つ………可能性………だった………のね………」

スコールの言葉に一夏は答えもせず、笑いながら締め上げるだけだった。

スコールはアサルトライフルを捨て、もはや抵抗すらしなかった。


マドカと同様に、ゴールデン・ドーンの解除が始まった。


少しずつ光となっていき、白式がそれを取り込んでいく。


その間も、首を締め上げる力が緩む事などなかった。



遠退いていく意識の中で、スコールは自分の過去を思い出していた。

それは、今まで自分が忘れてしまっていた事、忘れようとした事だったと理解した時、ある事に気付いた。

自分が今思い出せているは、走馬灯だからだと。


スコール「そう……そうだった……のね………」


スコールの口から、小さな笑みがこぼれた。

スコール「織斑……一夏………あなたは……私の…………」


次の瞬間、一夏の背中にオータムが取り付き、八本のアームとファングで左腕を集中攻撃した。

それでも、一夏は微動だにしなかった。

オータム「死なせねえ!!もう誰も!!俺の仲間は死なせねえ!!」

呼び出した大剣を、渾身の力で振り下ろし、スコールが左腕から離れた。


落ちていくスコールを、オータムを追っていた楯無が受け止めた。


オータムはファングでの一斉攻撃と同時に大剣で斬りかかった。

だが、襲いかかるファングをよけもせず、一夏は大剣を掴んで砕いた。

そして、オータムの頭を掴み、地面へと叩き落とした。

地面に叩きつけられたオータムは、痛みを堪えながらアームビームで応戦した。

そのビームが到達する前に、オータムは上空から一瞬の目の前に現れた一夏に蹴り飛ばされた。

地面を抉りながら吹き飛び、土埃が舞い上がった。


オータムは口から血を吐き、もはや体のどこが痛いのか分からない程の激痛と、意識が遠退いていくのを感じていた。


しかし、それでもまだ、必死で立ち上がろうとする。


舞い上がった土埃から一夏が現れた。

オータムは残った力で、わずかに動く背中のアームとファングで応戦しようとした。


だが一夏はアームを全て力任せに引き千切り、飛び交うファングも全て破壊して投げ捨てた。


そして、笑いながらオータムを殴り初めた。


もはやオータムに、抵抗する力など残されていなかった。

息絶えた獲物を食らう様に、一夏は動けないオータムの頭を掴み上げた。



スコールをキャッチした楯無は、彼女を安全な所へと移動させていた。

スコール「待っ……て……あ……な………た………じゃ………ない………」

薄れいく意識の中で、アラクネを取り込まれていくオータムと、光を取り込む一夏へと手を伸ばし、静かに気を失った。

楯無「ちょっと!………一応、脈はあるわね………」

楯無は医療班の待機している場所へと急いだ。

これ以上被害を出さない為に、一刻も早く、織斑一夏を止めなければならない。


しかし、あの人外の強さの前に、自分の強さが通じないとしても、守るべきものの為に、自分は行かなければならない。


その思いが、彼女の胸の中にあったからだ。


何なんだよ。オレの人生………こんなので終わりかよ。

これじゃあただのバカじゃねぇか……バカみてぇに必死こいて、仲間を守る為に死ぬとかよ。

誰かを守るなんて………俺のガラじゃねぇんだよ…………

何が誰もしなせねぇ、だ………それで自分が死んでたんじゃあ笑い話にもなりゃしねぇ………

戦場じゃ強い奴が、弱い奴を殺す。

ただそれだけなのによ………そんな奴を救おうとするバカも………散々見てきたのによ………

それも全部割り切ってきた………今までも『そう』やってきたんじゃねぇか………なのに………

なのに………今更何なんだよ………何だってんだよ………

これも………あのクソバカの……せいじゃ………ねえか………


これ………だから………バカは………


潮時って………モンを………知らねえ………から………困る………んだよ…………

ツイて………ねぇ……な………仲間を………かばって………死ぬ………な……ん………て……よ………

本当……バ……カ………だよ……な………



突如飛来した青い斬撃が、一夏の胴体を直撃し、大きく吹き飛ばした。


素早く体勢を立て直した一夏は、敵を認識するよりも前に、視界を覆い尽くす程の青い炎に襲われた。

絶え間無く飛来する無数の炎に一夏は身動きすらとれなくなり、徐々に押され出した。

?「かーなーり痛いけどごめんねっ!」


その声の主は、イグニッション・ブーストを遥かに超える速さで一夏との距離を詰め、横一閃を喰らわせた。

そして、目にも留まらぬ速さで一夏へ剣撃を叩き込んだ。

?「これで終わりーっ!」

天高く刀を掲げ、怯んだ一夏へと振り下ろした。

しかし、それは一夏に止められたが、同時に二発蹴りを放ち、すぐさま距離を置いた。

?「おかしいね………超超振動派の攻撃を喰らったのに傷一つすらない………何で?」

声の主は手に持った刀と一夏を見比べ、首を傾げた。


だが次の瞬間、一夏の拳を受け止める事になった。


?「ぐぬぬぬっ……人の話はちゃんと最後まで聞かないと………」


突然一夏が消え、後ろから迫っていた楯無を攻撃した。


楯無「なんてッ………力なの……!!」

全く見えなかった一夏の拳を、楯無は何とか槍と水のベールで止めた。

だがそれでも、その全てを受け止めきれてはいなかった。


一夏は次の拳構えるより先に、後ろから切り倒された。


?「はあぁぁぁ~………誰かは知らないけど、私の邪魔しないでよね〜全く」

一夏を切りつけた女は、露骨に不機嫌な態度で言った。

楯無「篠ノ之博士!?………何故あなたがここに?!」

楯無の目の前にいるのは、ISの生みの親であり、黒い紅椿を展開した篠ノ之束だった。

束「はいはいはいはい、イチイチそういうのはいいからさ。とりあえず、すっこんでてくれないかな?」

あからさまな苛立ちを見せながら、束は楯無の首元に刀を突き付けた。

楯無「御言葉ですが、私はここで引き下がる訳にはいきません。私には、守らねばならない人達に加え………大切な妹が、あの学園にいるのです」

それに少しも臆する事なく、楯無は答えた。

束「あっそ………まあ………私の攻撃に気を付けてくれるなら問題ないけどね」


束は刀を構え、やや押されながらも一夏の拳を受け止めた。

束「ぐうぅぅッッ……………いっ……くん…….?ねえ!いっくんなの!?」

それに答えもせず、一夏は束を殴り飛ばした。

箒「姉さん!」ガシッ

束「箒ちゃん………ねえ、あれはどういう事なの!?何でいっくんがあんな事になってるの!?」

箒「お、落ち着いてください………それは………分からないんです………」

束「暴走……?あり得ない………そんな事、ある筈がないよ…………」

箒「姉さん、その機体………」

束「うん、箒ちゃんと御揃いだよっ♪紅椿のプロトタイプで、名前はオルタナティブ!」



楯無「一斉攻撃!目標は織斑一夏!!」

戦線復帰した学園のIS全てによる集中砲火が始まった。

どの機体も一夏に接近を試みる事はせず、遠距離、中距離からの射撃に徹していた。


ありとあらゆる攻撃が、一夏の逃げ場をなくし、確実に命中していく。

ビットが飛び交い、弾丸やビーム、レーザーが絶え間無く被弾し続けた。

全員が機体の出力を全開にして、エネルギー消費の事など考えていなかった。

通常なら使えないはずの武器さえ持ち出していた。


だがそれでも、一夏をわずかに怯ませるだけだった。


そして、ハイパワーライフルが頭部へ直撃した。


真耶「やった!?」

しかし、一夏はそれらを意に介さず、一瞬で弾幕の中を駆け抜け、陣の中へと現れた。


誰もが驚き慄くよりも速く、瞬く間に一人、二人と一夏に墜とされていった。


その中で統率を保ちつつ行った反撃も空しく、間も無く陣は食い散らかされたように崩壊した。

散り散りになったISは、一夏にとって格好の獲物であるように墜とされていく。


楯無「これ以上、やらせはしないわ!!」

ミストルテインの槍が発動し、蒼流旋の切っ先へ、ミステリアス・レイディの纏う紅く染まった水全てが集まった。

楯無は全てをこの一撃に掛け、一夏を倒そうとしている。

束「私も行くよ!!危ないから箒ちゃんは下がってて!!」

それを理解した束は、刀身から青い炎を迸らせた。

箒「姉さん!………悔しいが、私では………!」

一夏に太刀打ち出来ない、そう言い切るよりも先に、箒はまだやられていない人達の元へと向かった。



真っ赤な槍と、青い刀が一夏の左右から迫った。

それは二人の最強の一撃、普通なら当たれば無事では済まない事は明確だった。


しかし、今の一夏は普通とはかけ離れて過ぎていた。


一夏は何の事はなしに、蒼流旋を掴み、束の刀に拳をぶつけて止めた。


そして束の青い炎と、楯無の真っ赤な水が白式に取り込まれいった。


楯無「ばッ、馬鹿なッ!!?」

束「不可能だよ!!こんな事!!」

目の前の存在に驚愕を隠せない二人が見たのは、嬉しそうに笑う一夏だった。


次の瞬間、一夏は蒼流旋を破壊し、楯無に一撃を食らわせた。


その次には、束の斬撃を刀ごと砕き、首元を掴んで地面へと叩き落とした。

束「こ……こんなものッ………私は………私は認めない!!消えろ!!」

首を締め上げられながらも、束は手元に何かの装置を呼び出し、スイッチを押した。



束「な……ん……で………何も………起こら………ないのッ………!?」


束は抵抗しながら何度もスイッチを押したが、何も起こりはしなかった。


一夏が右の拳を振り上げたその時、一夏の体にワイヤーが巻きついた。

ラウラ「もういい………もういいだろ!!」

ゆっくりと後ろへ振り向いた一夏へ、ラウラが右手を突き出し、AICが発動する。

楯無「セック……ヴァベック………!!」

そこに間髪入れず、楯無がワンオフ・アビリティーである超広範囲指定型空間拘束結界を、一夏一人の空間にまで絞って発動した。

それにより、一夏の動きが止まった。


セシリア「箒さん、今の内に篠ノ之博士を!!」

箒「そうさせてもらう!!」

ブルーティアーズ全機の攻撃が一夏の左腕へと命中し、天月と空烈で切りつけると同時にレーザーを放った。

一夏の手から離れた束を、箒が連れて一夏から距離を置いた。

束「ど……どう……しよう………箒ちゃん………いっくんは………いっくんはもう………」


束「人の手には………負えない………ものに………なっちゃった………」


箒「な、何を言って……ッ!?」



AICとセックヴァベックが発動している中で、一夏はワイヤーブレードを全て引き千切った。


そして、一歩ずつ、地面を砕きながらラウラへと歩き出した。

楯無「こ……こ……まで……しても……止め………られ……ないの………!!?」

箒「そんな………ラウラ!!」

箒はすぐさまラウラの元まで飛んだ。

箒「今の内に逃げるぞ!!」

ラウラ「一体何処へ逃げるというんだ!?『こう』なってしまっては、何処へ逃げても同じだ!!」

ラウラ「このまま一夏を放っておけば、いずれ全てを破壊するぞ!!」

箒「しかし……!」

鈴「箒!ラウラ!何やってんのよ!!」

セシリア「速く逃げてくださいまし!!」

鈴とセシリアも、箒と同様にラウラを逃がしに来た。

束「箒ちゃん………駄目………!!」

楯無「速く……逃……げ……て……もう…………保たない…………!!」


ゆっくりと、着実に一夏は四人へと迫る。


ラウラ「い……一夏…………そんなに憎かったのか!!私達が!!私達のいるこの世界が!!」

三人を振り払い、ラウラは一夏へ叫んだ。

ラウラ「だからお前は………お前は『そう』成ってまで!!この世界の全てに復讐しているのだろう!!」

ラウラ「だがな!!そんな事をすれば本当にお前は報われるのか!!?お前は本当にそれでいいのか!!?」

箒「無駄だ!!今の一夏は何かを聞く耳すら持っていないのだぞ!!」

ラウラ「邪魔するな!!私達が!!一夏をあそこまで追い詰めたのだぞ!!」


ラウラ「あのケダモノを産み出し、『こう』なるまで育てたのは私達だ!!」


ラウラ「信じる事をしなかった私達の心だ!!」


その言葉に、三人は返す言葉が見つからず、何も言えなかった。

その間にも、一夏の歩みが止まる事などなかった。



一夏が、四人の目の前に迫った。


箒「一夏………もうやめてくれ!!」

鈴「もういいでしょ!!一夏!!」

セシリア「おやめください!!一夏さん!!」

ラウラ「一夏!!」


一夏が右の拳を振り上げた。



その時だった。



突然、一夏の動きが止まった。


手に持った雪片弍式を自分の腹へと突き刺した。

口から血を吐き出し、膝を付いた。


展開していた装甲が元に戻り、深紅の光も消えた。


そして、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。

今日はここまで。

~隔離棟~

バシュンッ

山田「…………」

千冬「お疲れ様です。どうでしたか」

千冬「彼女の様子は」

山田「他の二人に比べて特に異常な点もなく、非常に落ち着いた精神状態で、後遺症なども見受けられませんでした」

山田「いえ、むしろ……….」

千冬「むしろ……何でしょう?」

山田「良好過ぎる、と言うべきでしょうか…………」

山田「まるで彼女だけが、何らかの意思によって助かってしまったかのように………」

千冬「…………」

山田「それにもう一つ、不思議な事に彼女は雇い主であるファントム・タスクの所在地を含めた洗いざらいを自供しました」

千冬「その情報が罠である可能性は」

山田「彼女はこうも言ってました………自分はもう疲れてしまったんだと」

千冬「いくら戦いに身を投じていても、彼女とてただの人………全て捨てて降りるつもりか」

山田「そのようです。ですが、ただの人というよりは………その………」

千冬「その?」

山田「何と言えばいいのでしょうか………彼女は……何処にでもいるただ普通の女、と言うべきでしょうか………」

千冬「普通の女……ですか?」

山田「はい……彼女はあれだけの腕と、その経歴を持ちながら…………あまりにそれに不釣合い思えてしまうんです」

山田「争い事を好む様な人とは思えませんし………こうしていれば、ただ普通の生活を送っていた様な………そんな気がしてならないんです…………」

山田「何が私にそう思わせるのかよく分かりませんが………私にはそう思えてならないんです」

千冬「確かに………戦闘時とは別人のようですね………」

千冬「しかし、私には今の彼女が普通の女、というよりは………狂人の『それ』に近いものにも見えます」

千冬「ああして………何処かを眺めながら、何かを口ずさんでいるだけの彼女が………」

山田「戦う事でしか、生の充足を得られない………そんな悲しい生き方しか出来ない人なのでしょうか」

千冬「さあ……それは彼女にしか分からない事です」


千冬「一体何が、そうも簡単に人を変えてしまうのか………私には到底……理解出来ませんから…………」クルッ


カツッカツッカツッ………


山田「……………」

山田「本当に……そうなんですか………?」

~IS学園地下~

ピッ……ピピピピピッ……ピピピッ

束「ふむふむ……ふ~むふむふむ………うん?……うん……う~ん……うん………」ピピッ

ガタッッ

束「面『黒』い!!」

束「これぞまさに、未知との遭遇!!何たる僥倖、数奇、運命!!否、科学者としての宿命そのもの!!素敵だよ、素晴らしいよ!!」

束「常人がISを扱う為に設けたリミッターを全て取っ払い、オーバースペックな天月と空烈のプロトタイプを装備した束さん専用ISオルタナティブすら凄まじく凌駕した白式!!」

束「装甲の展開、瞬時に傷を癒す驚異的な治癒力。私ですら生み出すに至らなかったその膨大なエネルギーの吸収、取り込んだエネルギーは機体から放出または蓄積され、さらには他のISすらも同じエネルギーに変換し吸収する事が可能」

束「そして、そのエネルギーがいっくんの体内を駆け巡る事によって、ISやその操縦者に対してあれだけの破壊力を………」

束「いや、もしかするとあれはエネルギーとの同化?自らをエネルギー体に変換した、という事なのかな?………」

束「もはや『人』という一つの概念を超越した?」

束「そう考えるといっくんが理性を失ったのも納得がいくよね………進化とは常に闘争の先にあるもの」

束「白式の爆発的な進化に伴い、操縦者であるいっくんの『本能』とも呼べる部分を増長させた結果、理性を失うまでに至った」

束「なるほどなるほど………これがISの極限進化?」

束「………いや、違う…………私が思うにこれは一つの進化のまた異なった形なんだ………だからまだ………今のままでは辿り着く事の出来ない何かがある…………」

束「恐らく、あの暴走は本来あるべき進化の………ほんの通過点にしか過ぎない!!」

束「つまりは!!進化とは無限の可能性そのもの!!」

束「ふいーテンション上がったら疲れちゃった」ストン

束「さてさて~続いてのお題はこちらっ、ポチッとな」ピッ


ラウラ『一夏……そんなに憎かったのか!!私達が!!私達のいるこの世界が!!』

ラウラ『だからお前は………「そう」成ってまで!!この世界の 全てに復讐しているのだろう!!』

ラウラ『だがな!!そんな事をすれば本当にお前は報われるのか!!?お前は本当にそれでいいのか!!?』

箒『無駄だ!!今の一夏は何かを聞く耳すら持っていないのだぞ!!』

ラウラ『邪魔するな!!私達が、一夏をあそこまで追い詰めたのだぞ!!』

ラウラ『あのケダモノを産み出し、「こう」なるまで育てたのは私達だ!!』

ラウラ『信じる事をしなかった私達の心だ!!』


ピッ


束「このラウラ・ボーデヴィッヒ少佐殿の口振り、いやぁ〜実に実にこの束さんの興味を大いにたっぷりそそっちゃってくれるねっ」ピッ


ラウラ『あのケダモノを産み出し、「こう」なるまで育てたのは私達だ!!』

ラウラ『信じる事をしなかった私達の心だ!!』


束「……………」

束「面黒い………これだから、人間の心は分からない」ニイィッ


真っ暗だ………何も……見えない………

体が……重い………ここは何処なんだ…………

何か……聞こえる…………


誰かが……泣いてる………?


何処だ………何処で………誰が………泣いてるんだ………

どうして……泣いているんだ………

聞いた事のある……声…………それも……一人じゃない…………

けど…………誰なんだ…………一体何処にいるんだ………


誰か……灯りを…………灯りをくれ………


体が……痛い…………

俺は……行かなくちゃ…………いけないんだ………皆を……………


み…….ん……な……….を…………



ガバッ


一夏「ハァ……ハァ……ハァ…………」

一夏「さっきのは…………夢、だった………?」

一夏「!!」

一夏「腕が……!!それに……目も見える!!」

一夏「胸の傷も………ない…………」

一夏「でも、この傷は………?」


バシュンッ


?「気が付きましたか?」

一夏「……………」

?「………?」コツッコツッコツッ

?「気分はどうです?どこか体に異常は?」スーッ

一夏「!!」バッ

?「そう身構えなくとも結構です………自分の言っている事が分かりますか?」

一夏「ここは………それに、その眼帯は………」

?「どうやら、貴方も大丈夫なようですね」

一夏「大丈夫……?」

?「質問に御答えします」

?「まず、ここは篠ノ之博士御自らIS学園に建設なさった隔離室であり」

?「貴方と貴方のIS、白式を篠ノ之博士の監視下においておく為の物です」

一夏「俺と……白式を………」

一夏「いや、それよりも………どうして俺は生きているんですか?俺は心臓を貫かれたはずなのに何で………こうして…………」

?「成る程………胸を貫かれたところまでしか記憶がない、と」

一夏「…………」

?「貴方が何故、零落白夜で目を潰され、腕を落とされかけ、出血多量に加え心臓を貫かれてもまだ生きているのか」

?「それは自分達も同じく、不思議でなりません」

?「しかしそれはいずれ、篠ノ之博士が解明されるでしょう…………ですので、そう時間はかからないかと思われます」

?「そして自分は、ドイツ軍IS運用特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長を務めます」


クラリッサ「クラリッサ・ハルフォーフ大尉であります。我等が隊長の御身の危機と知り、部隊を率いてIS学園に馳せ参じました」ビシッ


クラリッサ「いささか御挨拶が遅れました、織斑一夏殿」

一夏「あなたが……クラリッサさん………」

クラリッサ「自分を御存知なのですか?」

一夏「はい、ラウラがよく連絡をとっていたので………それで………」

クラリッサ「…………」

クラリッサ「ええ、そうです」

クラリッサ「隊長へIS学園入学を押し通したのは自分や隊員達です。いつ何時であろうと、我々は隊長の学園生活をサポートしてまいりました」

クラリッサ「あわよくば、我等総出でIS学園へ出動する事も考えておりましたが………」

クラリッサ「それがまさか………こんな形でIS学園を訪れる事になろうとは、よもや思ってもいませんでした」

一夏「…………」

クラリッサ「しかし、得るものもありました」

クラリッサ「隊長と、その婿殿に御会い出来た事です」ニコッ

一夏「婿……嫁、じゃなくて………ですか?」

クラリッサ「嫁は女性である隊長で、その婿殿は男性である貴方です。御間違えのないように」

一夏「は、はあ……その………すいません………」

クラリッサ「いえ、三日も眠っていた方を捲くし立てた自分にも非はあります」

一夏「三日?俺は………三日も寝続けていたんですか?」

クラリッサ「正確には三日と半日ですが………まるで死んだ様に眠っていました」

一夏「…………」

クラリッサ「よろしければ、リンゴでも剥きましょうか?」

一夏「はい………お願いします」

クラリッサ「それでは」シャキンッ

サクッサクサク ショリショリ……

一夏(軍服着た人が軍用ナイフでリンゴを……中々変な光景だ………)


ショリショリ……サクッ

一夏(綺麗なウサギ剥き……練習したのかな…………)

クラリッサ「言い忘れていましたが、貴方の事は隊長からよく聞かされました………どうぞ」

一夏「ありがとうございます。ラウラは………何て言っていましたか…………」


ピタッ


クラリッサ「自分は………今でも鮮明に、全てを覚えています。あの光景を、あの時の………ラウラを」コトッ

サクサクッ……サクサクサク……

クラリッサ「私は、一夏に出会えたおかげで変われたんだ。人に作られたただの兵器から、クラリッサ達の言う恋する乙女に」

クラリッサ「こんな私でも、人としての幸せを手に入れる事が出来た事が嬉しい」

クラリッサ「初めてなんだ。私の中に、こんな感情があるなんて………だから、私は一夏と共に生きていたい」

クラリッサ「それが私の夢だ」

クラリッサ「そう涙声で通信された時の隊長は、自分が初めて見た時とは全く以て別人でした」

一夏「…………」

一夏(そうか……だからラウラは………俺にあそこまで執着したんだ………だから………あそこまで…………)

クラリッサ「我々は歓喜に打ち震え、思わず涙を流しました」

一夏「…………」

クラリッサ「下された命令を疑う事もせず、ただ従順に従い、冷たく感情に乏しい心を持ち、まるで機械人形の様に生きていた………」

クラリッサ「そう生きる事を余儀無くされ、抗おうにも抗えず………そこに自らの意思も無く、ただ粛々とその運命を受け入れ、心も無く涙も無く生きるだけ」

クラリッサ「そんな隊長に、自分達が出来た事は………一時の間それを忘れる事だけでした」

クラリッサ「だがそれも所詮はただの時間稼ぎ………次第に隊員達や自分との間には蟠りが生まれ………状況は悪くなる一方でした…………」


クラリッサ「しかし、そんな時ラウラは貴方に出会い。変わられました」


クラリッサ「あのドイツの冷氷とまで恐れられ、今まで決して誰にも見せず、生きる事への絶望を抱えていた隊長が………こんなにも変わられたのだと」

クラリッサ「恋の力とは恐ろしくも、とても素晴らしいものだと……我々は思い知らされました」

一夏「…………」

クラリッサ「そう、人としての生を送る事すら出来なかった隊長を、貴方が、年端も行かぬ少女に変えたのです」

クラリッサ「分かりますか。貴方は、我々がどんなに切望して止まなかった事を見事、成し遂げられたのです」

クラリッサ「貴方はたった一人の少女を救い。生きる希望と、無垢な笑顔を与えたのです」


グッ………


クラリッサ「貴方は………」


ザクッッ


一夏「!!」


ヒョイ


クラリッサ「………失礼しました。いささか手元が狂いました」

クラリッサ「食べ物で遊ぶな、という日本の言葉の通り………リンゴで本物そっくりのウサギ作るのはいけないようです」

一夏「そう……ですね………」

クラリッサ「なかなか細部まで出来ていたのですが………惜しい事をしました」

スクッ

クラリッサ「しばらくの間、リンゴを食べながら御待ちください」

クラリッサ「三日前、貴方の身に何が起こり、何をしたのかを御見せします」

コツッコツッコツッ……ピッ バシュンッ

一夏「…………」

一夏(クラリッサさん………突然どうしたのかな………)


一夏(白式はどう思う?見てただろ?)


一夏(………………)

一夏(………白式?)

一夏(おーい、聞こえてるかー?)

一夏(寝てる……のか?………いや、白騎士じゃあるまいし………時間的にも起きているはず………だよな)

一夏(……………)

一夏(まさか………)


グッ……


一夏(来い………白式…………)


一夏(………!!)

一夏(反応が………ない………!?)

一夏(今まで……こんな事なかったのに………)

~IS学園地下室~

バシュンッ

クラリッサ「失礼します。連絡の通り、事件のプロファイルを受け取りに参りました」ビシッ

束「やあやあやあ、待ってたよ。クラリッサ・ハルフォーフ大尉殿」

クラリッサ「自分を?……何か御用でしょうか」

束「御用もな・に・も〜………束さん的にはもうちーちゃんと並んで興味深いんだよーん♪」

クラリッサ「千冬と………自分が、ですか?」

束「またまた~そうやって謙遜しちゃって~………心当たりはあるんでしょ?」

クラリッサ「いえ、自分には全く心当たりはありません」

束「第二回モンド・グロッソ大会総合優勝第二位、ドイツ代表クラリッサ・ハルフォーフ………またの名を、アルトアイゼン・リーゼ」

クラリッサ「…………」

束「ドイツのブリュンヒルデ、ジークフリートの再来、とまで恐れられたのに?」

クラリッサ「今の自分は、シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長クラリッサ・ハルフォーフであります」

クラリッサ「それ以上でも、それ以下でもありません」

束「へえ……じゃあ自分の意思で、そうなる事を望んだんだ………」

束「でも不思議だよね~ちーちゃんと互角に渡り合う腕を持つ君が、わざわざドイツ代表を辞退してまで、一介の軍人に戻るなんてさ」

クラリッサ「無礼を承知で申し上げますが、自分には成すべきを成す義務があります」

クラリッサ「軍人として、一人の人として」

束「固いなぁ~もう、モンド・グロッソ出場も辞退しようとしたって本当?」

クラリッサ「はい、自分はただの軍人、あのような場には似つかわしくないと思い辞退しようとしたのですが………」

クラリッサ「上層部がどうしてもと言うので……それで………不本意ながら……出場しました」

束「ふ~ん……それであの成績かあ………」

クラリッサ「他の出場者達には、申し訳ない事をしたと思っております」

束「じゃあさじゃあさ、君を『その気にさせて戦わせたら』どうなるんだろうね?ねっ?」ズイッ

クラリッサ「そ、それは……過大評価が過ぎます」

束「そうだね、例えば…………」


束「『この世界を滅ぼす悪魔』と………戦わせるとかさ」ニイィッ

束「どうかな?……クラリッサ」

クラリッサ「………それは………何かの御冗談でしょうか」


束「いくら心地の良い御題目を並べていても、結局のところ君の本当の望みは『それ』でしょ?」


束「君はそういう人間の目をしているよ。そして、私はその目をした人物をもう一人知っている」

クラリッサ「……………」

束「ここは私の為だけの部屋。私しか聞いてないし、見てもいない………何も隠す必要なんかないよ?」

クラリッサ「……………」

クラリッサ「………流石はあの千冬の友、全て御見通しだったとは………まさに上の上です」

束「やっぱり『そう』だと思ったよ。そこで………君にはとっておきの負け戦に出てもらう」

束「その結末がどちらに転ぼうと、君にとって『それ』は失うものしかない」

束「だがもし悪い方に転べば、君や君が妹の様に慕っているラウラちゃんや、黒ウサギの隊員達も、誰も彼もが皆殺しにされ、この世界は滅びる」


束「君にはある?多くを守る為に『一つを犠牲にする勇気』が」


束「もしくは………それ以上のものを犠牲にする勇気が」

クラリッサ「私の命一つで成し遂げられる事があるのならば、迷う事はありません」

束「即決即断だね。本当に………それでいいの?」


クラリッサ「………人は泣きながら生まれてくる。これはどうしようもない事だ」

クラリッサ「だが、死ぬ時に泣くか笑うかは本人次第」

束「ふふふ、本当………素敵だよ………」

クラリッサ「光栄であります」

束「よしっ!それじゃあ束さんは世界の命運を握る戦いに備えるとしよっかな~」

クラリッサ「では、自分はこれで」

束「はい、これ、言ってたプロファイルね」スッ

クラリッサ「感謝します」

束「そ・れ・と、君のISを改修したいんだけどいいかな~?」ピコピコッ

クラリッサ「折角の御誘いは嬉しいのですが……丁重に御断りさせて頂きます」

束「えー見るだけでも見てってよー束さんの考えたシュヴァルツ・ヴァルドをさー」ブーブー

クラリッサ「黒い森、ですか………しかし、自分にはシュヴァルツェア・ツヴァイクがあります」

束「えー木を隠すなら森の中、枝を隠すのも森の中、第二から一気に第四にまで性能を底上げしようと思ったのに~」

クラリッサ「申し訳ありません………しかし自分はこの機体でしか戦えません」

束「いくら暮桜に近い機体とはいえ………剣と盾だけの………かなりのキワモノだよ?」

クラリッサ「だからこそ自分は………アルトアイゼンと呼ばれているのだと、自負しております」

束「ぷっ……くくくっ………はははっ………はーはっはっはっはっはっ!!」

束「本当に面白いよ。何故君が『古い鉄』よりも『古の鉄の巨人』と怖れられるのか、少し分かった気がするよ」

クラリッサ「恐縮です」

束「それじゃあ、後は追い追い説明するねっ」

クラリッサ「了解しました。では」コツッコツッ

クラリッサ「失礼しました」ビシッ

バシュンッ

束「ばいば~い………んークラリッサ・ハルフォーフ大尉、私の予想以上だったね、まさに上の上です、なーんてねっ♪」

束「本当はラウラちゃんの方が良かったんだけど………どう考えてもクラリッサが許しはしないだろうね」

ピッ

束「……………」

束「ここまでは全て順調、全く以て順調だ………」

束「後は………可能性と言う名の一つの意思が、この私の小さな手の平の上に乗せていられる程のものかどうか………」

束「彼は何故、あれ程の力を手に入れる事が出来たんだろう………そして、彼は未だにその力が何なのかを理解していない」


束「可能性に選ばれた人間、という事なのかな………彼は」


束「私に……あの力さえあれば…………」

〜廊下〜

コツッコツッコツッ ピタッ

クラリッサ「御疲れ様です。千冬教官」ビシッ

千冬「その呼び方はやめろ言っただろ………で、どうしたんだクラリッサ、こんな所で」

クラリッサ「篠ノ之博士より、事件のプロファイルを受け取っておりました」

千冬「………見せるのか、織斑に」

クラリッサ「はい、手は手でしか洗えない、得ようと思ったらまずは与えよ、という言葉があります」

クラリッサ「教官殿も、織斑一夏について知っておくべき事があるかと思います」

千冬「いや、束からの報告は既に聞いてある………それよりも、ラウラはどうだった?」

クラリッサ「隊長は………隊長は深く、思い悩んでおられます」

千冬「…………」

クラリッサ「織斑一夏の暴走を招いたのは自分のせいなんだと、御自分を責めてばかり………」

グッ……

クラリッサ「余程悔しいのでしょう………分かってはいたが、それを止められなかった自分が………」

千冬「…………」

千冬「いくら悔やんだところで、結局は『そう』なってしまった後の事だ。今更どうしようもない、変えようがない」

千冬「今となっては………気付いていたのに何も出来なかった………自分の弱さを呪う事しか出来ないのだからな………」

千冬「そうさ、愚かな事だ。速く割り切ってしまえばいいものを………」

クラリッサ「………」ピクッ

千冬「なのにそれをいつまでも………いつまでも引きずっていて一体何になるというんだ」

千冬「………あいつの事だ。今回の事もラウラを弄んでいただけに違いない」


ズダンッッ


クラリッサ「例え貴様とて………今の発言は聞き捨てならんぞ」


ギリッッ………


クラリッサ「今すぐその発言を撤回してもらおうか………千冬!!」

千冬「撤回するも何も………それが事実だ」

クラリッサ「ふざけた事を言うな、貴様が一体事の何を知っている」

クラリッサ「まるで全てを分かっているかの様な口振りをしているが………貴様は何も分かっていない」

クラリッサ「たった一人残された肉親の事ですらもな………!!」

千冬「馬鹿な事を言うな、あいつの事なら嫌という程私は聞かされている」

クラリッサ「なら何故織斑一夏はこれだけの事を起こした。何故貴様はそれを止められなかった」

千冬「それは……………」

クラリッサ「どうした、答えてみろ。それで私やこの学園の者達全てを納得させてみろ」

千冬「……………」

クラリッサ「何も答えぬつもりか………貴様それでも………!!」


ギリッッ


クラリッサ「フン………もういい」

クラリッサ「しばらく合わぬ間に随分と腑抜けてしまったな………今の貴様は下の下、いやそれ以下だ」

クラリッサ「貴様はもう、私の知っている織斑千冬ではない」

クラリッサ「失礼する。これ以上ここにいても、時間の無駄だ」

コツッコツッコツッ……

千冬「そんな私に………一体何が出来た………」

~特設隔離室~

バシュンッ

クラリッサ「いささか遅くなりました………どうかしましたか」

一夏「白式が………俺のISが動かないんです………」

クラリッサ「ええ、自分は既に存じております」

一夏「知っているんですか?!」

コツッコツッコツッコツンッ

クラリッサ「それも含めた全てを、今から貴方に御教えします………まずはこちらの映像を」

ピッ

一夏「これは………俺がマドカにやられた時の………」

クラリッサ「これは篠ノ之博士御自ら全ての映像を繋ぎ合わせ、個人の会話部分などを除いた事件のプロファイルです」

クラリッサ「事の発端は、今見ているこれだったようです」

~IS学園地下~

バシュンッ

千冬「失礼するぞ」

束「んー?おやっ、ちーちゃん何だか浮かない顔してるけど大丈夫?」

千冬「そんな顔をした覚えはないが」

束「まー理由の予想はつくけどね。今度いっくんが暴走した時の止め方、とかでしょ?」

千冬「まあ………そんなところだ。お前なら何とか出来ると思ってな」

束「結論から言おう、それ無理。流石の束さんも匙を投げちゃう」

千冬「………お前の機体はどうしたんだ」

束「あー………いっくんとの接触時間が長かったせいか、機体のほとんどを『とられちゃって』反応もしなくてね~参っちゃうよ」

束「というか、そもそも私のオルタナティブで倒せないのなら、現存するISで暴走したいっくんを倒す事は不可能だよ」

千冬「なら暴走する前に仕留めるしかないか………」

束「実際はそれが出来るかどうかも怪しいところなんだけどね」

束「はあ、それにしても………オルタナティブ………ちゃんと復元出来るかなぁ………」グテー

千冬「珍しいな、お前がそこまで固執するとはな」

束「すーるーよー!!だってあれは……あれは~!!せっかくに箒ちゃんとお揃いだったのにぃ~!!」ジタバタジタバタ

千冬「そんなに特別な物だったのか?名の通り代替品ではないのか?」


ピタッ


束「ちっちっち~相変わらずロマンってものを何も分かっちゃあいないね、ちーちゃんは」

束「いい?あれは束さんが作った第四世代ISのプロトタイプ………つまりは試作機なんだよ?」トントン

束「で、それを元に、かーなーりっ性能を落とし、武器の高すぎる破壊力の問題も刀を二つに分ける事で解決したのが赤椿であって」

千冬「なるほどな。つまり機体そのものが零落白夜の様な代物、という事か」

束「しっかぁ~り、全てにおいて試作的であり、心赴くままに性能を追求した結果それはそれはもう桁外れた性能でして」

千冬「だろうな、お前の流れ弾が一番甚大な被害を出したからな」

束「とどのつまりは、想定されうるあらゆる戦闘パターンにおいてたった一機でも、絶対勝利をもたらす力を与えられた機体なのだ!!」

千冬「はあ………一体それのどこが『代替品』なんだ………」

束「代替品だけど、代替品じゃない、束さん流の皮肉ってやつだよっ♪」

束「で、結局のところ倒すなんてのは無理な話。バットも持たずに野球をやるようなものだからね」

千冬「他に手はいくらでもある」

束「それはどうかな~?ISなら絶対効くはずの自壊プログラムも効かなかったしぃ~?」カチカチ

千冬「お、おい………そんな危険な物を軽々しく押すな」

束「あ、そうかそうか、これが巷の噂でよく言われてる………『挫折』ってやつなんだね!」ポイッ

千冬「おっと」パシッ

束「何にせよ、手の読めない間に、こっちから手を打つなんてのは全く以てナンセンス、まるでお話にならない」


ピッ


束「現状は………ご覧の有様だからね」

千冬「………白式は未だに動かないのか」

束「どうやらそうらしいよ。ただ単に眠っているだけなら私も嬉しいんだけどね」

千冬「…………」

束「けど、実際は私でも何も分からないから困るんだよ」

束「もしかすると白式は急激な機体進化と、暴走時の膨大なエネルギーに耐え切れず、事実上死んでしまった………もしくはそれに近い状態か…………」

束「それとも、外部から取り込んだエネルギーを自分と同一化させる事を行う為に………一切の機能を停止させているだけなのか………」

束「はたもたその取り込んだ膨大なエネルギーを持ってして………来るべき何かの為に、更なる進化を遂げようと………眠りについているだけなのか………」

束「その答えが予想される幾千幾万の答えのいずれにせよ。今この時でさえも、私ですら理解するに至らない………未知の何かが起ころうとしているんだよ」

束「そして私は、それをこの目で見てみたい………例え、また一つ何かを犠牲にする事になったとしてもね」


束「進化という、可能性を信じて」


千冬「また………失いたいのか………」

束「失う?違うよ、私は『犠牲』にしたんだよ」

束「私の場合、その『犠牲にした一つ』が…………私が思っていたよりもずっと、ずーっと大きくて………私の周りにあった何もかもだった、ってだけ………」

千冬「だからこそだ。お前の失ってしまったものは………まだ取り戻せるんじゃないのか?」

千冬「私と違って………本当に失ってしまった訳ではない………だから、今からでも遅くはない筈だ」

束「だから私は、その犠牲を無駄にしてしまわぬように、私の信じた道を征くんだ」

千冬「……………」

束「どこまでも、どこまでも………」

束「おっと、辛気臭い話になっちゃったから話を戻すよ」

千冬「……………」

束「それでそれで、束さん的にはちーちゃんの意見も聞きたいなーっ」

千冬「あの暴走で機体が死んでしまったのなら………最後の行動の説明がつかない」

束「あれは………コアが暴走を止める為の行動だったんじゃない?少なくとも、私には『そう』見えたよ?」

千冬「そうか………しかし私は辺りは何とも言えない。あの事件の当事者とは言い難いからな」

束「夜明けまであの地下室に缶詰めだったもんね」

千冬「ああ……私が知っているのは終わった後の事だけだ」

束「ノンノン、お楽しみはまだまだこれから、このショウを最後まで見れるだけマシだよっ」

千冬「…………」

束「そうでしょ?」

束「あの二人に比べたらさ」

千冬「いいや………あの二人は『あれ』である意味幸せなのかもしれないぞ」

千冬「これからの事を考えたらな」

~特設隔離室~

一夏「そんな………これじゃあ俺は………」

クラリッサ「余程受け入れ難いようですが、これは全て事実です」

一夏「嘘だ………こんな………こんな事…………」

クラリッサ「あの時、確かに零落白夜に心臓を貫かれ死亡した筈の貴方は、白式の暴走と共に蘇生し」

クラリッサ「学園施設を破壊し、侵入者三名とIS学園教員生徒の大多数に加え、更識楯無、篠ノ之博士を倒し」

クラリッサ「その機体を取り込みました」


クラリッサ「そして白式と貴方が得たその力は、この世界を守る『神』にも成れれば、破滅へと導く『悪魔』にも成れるもの」


クラリッサ「まさに上の上たる力です………しかし、それも扱いきれぬのなら下の下以下」

一夏「…………」

クラリッサ「御自分の置かれた状況が理解出来ましたか?」

クラリッサ「織斑一夏殿」

一夏「神………悪魔………俺が………」

クラリッサ「黙っていても、何も変わりはしません」

一夏「それじゃあ………俺にどうしろって…………言うんですか………」

クラリッサ「どうしろと、ですか。成程………どうにも難しいところです」

一夏「こんなもの………俺は欲しくもなかったのに…………」

クラリッサ「要る、要らないの問題ではありません。少し冷静に考えれば分かる事です」


ヒュッ


クラリッサ「しかし、今は自分の指示に従ってもらいます」ジャカッ

一夏「!!」


ゴリッ……


クラリッサ「まずは自分が、いつでも貴方の喉元を掻き切るか、頭部を撃ち抜く事が出来る事を頭に入れておいてもらいます」

一夏「ッ………」

クラリッサ「貴方はまだ、あの事件の全てを見た訳ではありません」

クラリッサ「着いて来てください」

~隔離棟 廊下~

クラリッサ「ここはあの事件での負傷者達を収容している場所です」

一夏「あの人は………確かスコールさんの仲間の………」

クラリッサ「彼女はオータム、という呼び名で呼ばれていたそうです」

クラリッサ「そして彼女は………一種の仮死状態にあります」

一夏「!!」

クラリッサ「打てる手は全て打ったのですが………彼女は、未だに目を覚ましません」

一夏「そんなッ………!!」


グッ……


クラリッサ「……………」

クラリッサ「深刻なのは彼女だけではありません」

一夏「……………」


コツッコツッコツッコツンッ

「「御疲れ様です」」ビシッ

クラリッサ「楽にしていい。マドカの様子はどうだ」

「はい、それが………依然、変わりありません」
「ずっとあの調子です………」

一夏「マドカ………無事、なのか………?」

クラリッサ「マドカは目覚めてから心身不安を訴えて続けています。これも恐らく白式の暴走が起因していると思われます」

一夏「心身不安………」

クラリッサ「そうです………中に入っても大丈夫か?」

「はい、私達も同行しますがよろしいでしょうか?」

クラリッサ「構わない」

「では、どうぞ」ピッ

バシュンッ

クラリッサ「貴方もです。自分の起こした惨状を、しかとその目で確かめてもらいます」

一夏「…………」

マドカ「ああ………いやだ……出してくれぇ……ここは地獄だ………!!」

マドカ「助けてくれッ、出してくれぇ……!!私は………僕は……俺は!!………生きたまま地獄に落とされた………!!」

マドカ「奴が………バケモノが来る………奴が………違う!!」

マドカ「違う違う違う違う違う違う違うッ!!………私じゃないッ………俺じゃない!!」

一夏「マ、マドカ………」

クラリッサ「話しかけても駄目です。自分の殻に閉じ籠ってしまっています」

マドカ「違う!!俺じゃない!!俺じゃないッ………俺じゃないぃぃ!!」

ピーッピーッピーッ

一夏「何だ!?」

クラリッサ「部屋を出ます。こちらへ」

「捕虜がまた暴れ出した。至急、応援を頼む!」
「私はこっち!!お前はそっちを抑えろ!!」
「大人しく寝ててよね!!」
「何てッ……馬鹿力なの……!!」

マドカ「俺じゃないぃぃッッ………俺じゃないぃぃぃいいいい!!」

クラリッサ「危ないところでした。彼女は極度の心身不安からか、度々あの様な事を叫びながら暴れるのです」

一夏「…………」

クラリッサ「どうかしましたか、大丈夫ですか」

一夏「何なんだよ…………一体何なんだよ!!」


バキャッッ


クラリッサ「………!!」スッ

クラリッサ(一瞬だが右腕に装甲が………白式は動かない筈だ…………)

一夏「何でなんだよ………俺はただ………戦って………何かを取り戻そうとしてただけなのに………」

一夏「なのに何で………どうして俺が………畜生………」ガクッ

クラリッサ「成る程、そういう事でしたか」

グイッッ

一夏「ぐっ………」

クラリッサ「ここで悲観するのは貴方の勝手です。しかし、まだ何も終わってなどおりません」

クラリッサ「着いて来てもらいます」


バシュンッ

クラリッサ「失礼します」ビシッ

スコール「And my wound it cuts so deep………どうかしたのかしら、ハルフォーフ」

一夏「スコールさん……生きて……!!」

スコール「ええ、運良くね………」

クラリッサ(私が受けた傷も深い、か………考え過ぎか)

スコール「それで………死に損ねた私にトドメでも刺しにきたのかしら、あなた達は」

クラリッサ「いいえ、捕虜を殺すなど以ての外です」

スコール「傭兵………PMCはあくまで民間企業、国家に属する兵士ではないわ………よって、ジュネーヴ条約は適応外よ」

クラリッサ「戦争にも、ルールはあります」

スコール「フフフッ、冗談よ………そんな怖い顔をしなくてもいいのよ」

クラリッサ「自分には、どうもそうは思えなかったのです」

スコール「そうね………あなたにはもう、話す事はないわ」

クラリッサ「そのようです。しかし、自分になくとも彼にはある筈です」

一夏「…………」

クラリッサ「侵入者三名の中で唯一の生き残りであると言える貴方と、敵として刃を交えた彼には」

スコール「………あなたこそ、彼に話す事があるんじゃないかしら」

クラリッサ「話を逸らさないで頂きたい」

スコール「図星のようね」

クラリッサ「今の彼に、自分が話すべき事はありません。話すべきなのは貴方です」

スコール「……………」

クラリッサ「自分が邪魔でしたら、この部屋から出て行きますが」

スコール「好きにしてくれて結構よ」

クラリッサ「では、失礼します。存分に御話し下さい」コツッコツッ

ピッ バシュンッ

スコール「存分に、ね………もうほとんど話してあるようなものよ」

スコール「ごめんなさいね、あなたを放っておいて」

一夏「別に気にしてません………それより、本当に大丈夫なんですか?」

スコール「ええ、大丈夫よ。ボディの方も新調出来たから」

一夏「新調……?」

スコール「ああ、そうだったわね………どこから話そうかしら………」

スコール「そうね、まずは………オータム、眠っていた彼女の話でもいいかしら?」

一夏「はい………」

スコール「彼女はね、代々傭兵の家系に生まれたのよ。しかも父親は生まれる前に死んでいて……….もちろん、雇われて行った戦場でね」

スコール「そして自分を産んだ母親も、父親の後を追うように死に、祖父母も彼女が10歳にもならない内に他界」

スコール「見寄りのなかったオータムは施設に預けられた。そして、普通の少女として生きていた筈の彼女は、知らず知らずの間に傭兵になっていた」

スコール「でも、不思議と傭兵という生き方が、自分に馴染んでいる事を感じてたそうよ」

スコール「血は争えないもの、父親や祖父を知る者からはそう言われながら、自分もそれに納得しながら。生業として世界中の戦場に出向いていたそうよ」

スコール「そしてある日、オータムの部隊は彼女一人を残して全滅した」

スコール「それでもオータムは、ワンマンアーミーとして、戦場に出向く事をやめなかった………やめられなかった」

スコール「この世は弱肉強食、強い奴が弱い奴を殺して生き残る。だから戦場で死ぬ奴は、ただそういう奴だっただけ、それをわざわざ救おうなんてバカのやる事だ」

スコール「深く酒に酔ったオータムは………そう自分に言い聞かせていたわ………そうやって割り切る事で、自分が今まで通り生きていけるようにね」

スコール「私に合うまで、幾多の戦場に出向き、二束三文の金の為に人を撃ち殺してきた彼女でも………仲間が死んだ哀しみだけは忘れる事が出来なかったのよ」

スコール「地面に横たわった仲間が、ゆっくりと冷たくなっていく様が………倒れた仲間の元へ駆け寄り、撃ち殺されていった様もね………」

スコール「オータムは私と組むまで、部隊を作る事なく生きていたのよ………また同じように、大切な仲間達を失いたくなかったから、そうならないように生きていたのよ」

一夏「…………」

スコール「でも彼女は、仲間の私を助ける為に、暴走したあなたに立ち向かったが為にあの通りよ」

一夏「……知ってます………」

スコール「別にあなたを責めている訳じゃないわ………彼女も無我夢中だったのよ。今までに遭遇した事のない敵を前にしていたから余計にね」

一夏「………憎くないんですか」

スコール「憎い?何故かしら?」

一夏「だって俺は………オータムさんの仇、なんですよ………」

スコール「フフッ………優しいのね、あなたは」

スコール「あなたを憎んでなどいないわ。全て彼女の言葉通りに、彼女自身がなってしまった………ただそれだけよ」

一夏「…………」

スコール「あなたは『IS』の戦いをしていたけど、私達は『銃』の戦いをしていた」

スコール「あの日、私達は戦争をしていたのよ。戦う意味を作り、敵と味方に別れ、殺し殺され、死んで死なされるのは当たり前の事」

スコール「それを知っていて、自ら望んで起こしたのなら、私にあなたを責める道理などないわ」

一夏「スコールさんも知っているんでしょ………あの人は………死んだも同然なんですよ………」

スコール「何もかもは、私があの時あなたを殺さなかったから、こうなってしまったのよ………」


スコール「それこそ、オータム言うバカな理由でね」


一夏「…………」

スコール「そんな顔してなくても、まだ死んだと決まった訳ではないんでしょ?植物状態なら、まだ助かる見込みはあるわ」

一夏「………」グッ……

スコール「私もね、今のオータムみたいに……植物状態だった事が………あった……のよ………」

スコール「少し……古い話になるけど、聞いてくれるかしら」

一夏「………はい」

スコール「昔……あるところに、一人の少女がいました」

スコール「その少女は普通の家庭に生まれ………幸せな生活を送りながら、普通に育った少女でした」

スコール「やがて少女は、素敵な恋をして………結婚し………家庭を持ち………女としての幸せも手にいれた『普通の女』でした」

一夏「…………」

スコール「そんな幸せなある日、家族全員で乗っていた車に大型トラックがぶつかりました」

スコール「女の両親や夫は即死、不幸にも生き残った女は植物状態に加え、さらにはお腹の中の赤ん坊も失ってしまいました」

スコール「三年の月日が経ち、女はある医療機関で目覚めた………しかし、目覚めたところで女には何も残されていなかった」

スコール「女に突きつけられたのは………実験番号と、自分が誰なのかすら分からない現実、機械に作り変えられ自分の体だけ」

スコール「女は何故かも分からない怒りに身を任せ………自分を目覚めさせた施設の人間を皆殺しにした」

スコール「施設を抜け出し、当てもなく彷徨うだけの女はふと、自分の家に帰らなければならない事を思いついた」

スコール「そして、ほんのわずかな記憶を頼りに………自分の家があったであろう場所に帰り着いた」

スコール「けれど、そこにはただ………幸せそうに笑う家族達が住んでいただけ………記憶で見たものなど一つもない」

スコール「その時、女は壊れ、狂ってしまった………」

スコール「再び当てもなく彷徨うだけの女は、傭兵達に拾われ、そういう生き方がある事を知った」

スコール「そうして女は傭兵として戦場から戦場へと渡り歩き、その機械の体を使い戦場を跋扈し、敵を殺し、味方すらも死へと追いやった」

スコール「いつしか女は死神や亡霊と忌み嫌われるようになった」

スコール「生気をまるで感じない人間が、戦場にいる時だけは、何かに取り憑かれたような笑みを浮かべていたから、だそうよ」

スコール「そんな噂を聞き付けたファントム・タスクが、専属契約を申し込んできた」

スコール「それがオータムと組んだキッカケだったかしら………案外いいコンビだったのよ?」

一夏「…………」

スコール「こんなところかしらね、こんな話………あまり人に………した事がなくて………」

一夏「スコールさん……?」

スコール「気にしないで………まだ少し……新しい体に………慣れてないだけよ」

スコール「サイボーグと言えば………聞こえは良い様に聞こえるけれど……実際は自分の体じゃないから………不憫なところもあるのよ」

スコール「腕一つ変えるだけで………専門の技術者に……付きっきりで………微調整を……繰り返さないと…………いけないのよ」

~監視室~

クラリッサ(私の時と話が違うな……貧しい家庭に生まれ優しい両親に育てられたが、警官だった父親は殉職、母親は幼くして病死)

クラリッサ(引き取られた親戚達には両親の遺産を食い荒らされ、暴力を振るわれ、家を転々とした挙句に施設に預けられた)

クラリッサ(そこからは人の良い性格に付け込まれ、友や周りの人間達に何度も騙され、裏切られながらも必死で生き続け)

クラリッサ(幼き頃に憧れた父親の背中を追い、人々を守る警官になり、同僚と結婚して家庭を持った)

クラリッサ(しかし、数年も立たぬ間に夫は凶悪事件を追い惨殺され殉職。その哀しみを乗り越え、気丈にも犯人を追うが、同じように殺され殉職した)

クラリッサ(回収された遺体は、残った生体部分を使いサイボーグとして蘇生された。だがしばらくして計画そのものが揉み消され、彼女は証拠隠滅の為に命を狙われた)

クラリッサ(施設から逃げ出した彼女は、逃げ続け、追っ手と交戦しながらも、少しずつ記憶を取り戻し)

クラリッサ(逃亡中に辿り着いた、自分のものかどうかも分からない曖昧な記憶で見た家には何もなかった)

クラリッサ(その後は虐殺を繰り返し………後は、いささかはあるものの特に目立った相違点はないが………)

クラリッサ(過去の記憶が錯綜しているようだな………本人も気付いている様子はない)

クラリッサ(織斑一夏に話した過去ですらも、真実であるかどうか分からないのか………)

クラリッサ(一体何が、彼女をここまで狂わせた………今となっては、それを知る事は出来ないが……….)

クラリッサ(これが………狂った者に残された末路か………)

クラリッサ「……………」

「お、お姉様?顔が怖いです……」

クラリッサ「気にするな、いささか考え事をしていてな」

「彼女の事ですか?」

クラリッサ「いや、事件から三日と立つがどの国も未だに部隊を派遣して来ない………」

クラリッサ「このままでは当初の予定を大幅に変更せざるを得ない………それだけは何としても避けたい」

「速く行きたいです……秋葉原………」
「全く、どいつもこいつも無能な臆病者ばっかりなんだから」

クラリッサ「そう言ってやるな、我等があまりに速過ぎただけだ」

「そうです!何と言っても隊長の危機でしたからっ!」
「お姉様が一番鬼気迫る勢いでしたけどね」

クラリッサ「私が先陣を切らないでどうする。他ならぬラウラの事なら尚更な」




オータム「一度に色々話し過ぎたかしら………長くて退屈だったでしょ?」

一夏「そんな事ありません………無理して話してもらったのに………」

オータム「無理して、ね………」

一夏「……….」

オータム「何故かしら………そんな顔をした誰かを………私は知っているわ………」

オータム「遠い、遠い………昔に………いつか………何処かで会ったような………そんな気がするわ」

一夏「…………」

オータム「どうかしたの?何故あなたはそんな顔をしているの?」

一夏「…………」

一夏「俺は………この世界から抜け出したくて………必死でやったんです。でも………」

グッ……

スコール「そう………でもーー.」


バシュンッ

束「はろはろーお二人さん、みんなのアイドル束さんの登場だよーいえーいっ」

クラリッサ「失礼します」ビシッ

一夏「束さん、クラリッサさん………どうして」

束「連絡があったからね。なんと!この束さんの調整にまーだ誤差があったってねっ」

束「ねっ?ねー?そうでしょ?」

クラリッサ「はい、そうです」

スコール「………呼ぶ手間が省けて助かったわ」

束「うむうむ、礼には及ばんよ。束さんも全身義体の調整なんて初めてだったからね」

束「私がするからには、どれも完璧でなくてはならない。だからアフターサービスも充実してるよ、ぶいぶいっ♪」

スコール「自分の感覚で調整された時は流石に驚いたわ」

束「むうっ……それをまだ言うか~!服ひん剥いちゃうぞ~!うが~!」

クラリッサ「一夏殿、自分達は退室しましょう」

一夏「え、あ、はい………」スクッ

クラリッサ「こちらへ………ではーー」

スコール「待って」

クラリッサ「………何でしょうか」

一夏「…………」

スコール「ジャック・クリスピン曰く」


スコール「目の前の楽譜を演奏しろ。自由はそれからだ」


一夏「演奏……自由………」

クラリッサ「よろしいでしょうか」

スコール「ええ………もういいわ」

クラリッサ「失礼しました」


ピッ バシュンッ

スコール「…………」

束「ねえ、君のその眼は一体何を見てるのかな?過去?未来?それとも…….今?」

スコール「私はね……悪い夢を見ているのよ………」

スコール「ただ静かに、続いている夢だけを」

束「止まない雨はない、覚めない悪夢なんてないんだよ」

スコール「フフフッ、あなたってそんな事を言う人だったのね」

束「意外?」

スコール「少しね」

束「ま、天才だって結局は人間なんだよ。どこまでいっても、血も涙もあるんだからね」ピッ

スコール「そのようね……」シュルッ

束「それじゃあ、繋ぐよ」

スコール「んっ……」

束「システムオールグリーンっと、さ~てまずはどこがおかしい?」コキコキッ

スコール「バランサーと、全体的に出力が弱いように感じるわ」

束「あい~♪ご飯までには終わらせるよっ」

~特設隔離室~


『ジャック・クリスピンに一致する検索結果はありません』


クラリッサ(………存在しない人物………ならあの言葉は一体…………)

クラリッサ「………」ピッ

クラリッサ「一夏殿、彼女の言っていたジャック・クリスピン……という人物を御存知でしょうか」

一夏「かの有名なロックミュージャン、って言ってましたけど………」

クラリッサ「成る程……ロックミュージャンでしたか………言っていた言葉は歌詞か何かなのでしょうか………」

バシュンッ

「し、失礼しますっ。織斑一夏の昼食をお持ちしました」ビシッ

クラリッサ「御苦労、テーブルに置いて下がれ」

「了解」コツッコツッ

コトッ

「どうぞ………」チラッ

一夏「………俺の顔に何かありますか?」

「い、いえっ……何でもありません!」

クラリッサ「………」


「そ、それでは……失礼しました」ビシッ

ピッ バシュンッ

一夏「………やっぱり、俺って物珍しいんですか………?」

クラリッサ「部下が気を悪くさせたようで……申し訳ありません」

クラリッサ『何をしている。任務中だぞ』

『申し訳ありません。お姉様……し、しかし!』

一夏「そんな……別に気にしてませんよ」

クラリッサ『私とて気持ちは同じだ………だが、今はまだ耐える時だ』

『分かりました……』

クラリッサ「千冬教官の弟という事もあって、部下達も貴方に興味があるのです」

一夏「そう、ですか………」

クラリッサ「そうです。何せ貴方や隊長とそう年が変わらないのですから」

一夏「あの……ラウラや………他の四人は何処にいるんですか………?」

クラリッサ「…………」

一夏「途中で見た学園の人達の病室にはいませんでしたから………それで………気になって…………」

クラリッサ「束博士が何処かに連れていってしまいました。何でも、興味深い研究対象だから、と言っていましたが」

クラリッサ「隊長、篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノアの五名は白式の暴走の原因となったと思われる人物です」

クラリッサ「それはラウラ自身が自供しました」

クラリッサ「ですので、束博士が一体どんな方法で、貴方の暴走の原因を見つけるのかは自分は一切聞かされておりません」

クラリッサ「その詳細を御話しする事は出来ません」

一夏「…………」

一夏(そんな………束さんは俺や千冬姉、箒以外の人には一切関心を持たない………)

一夏(白式の暴走を知る為なら何をするか分からない………箒でも止めきれないかもしれない………)

一夏(何とかしたいけど………俺には束さんに全てを話す機会すらない…………)

一夏(それに………さっきから頭の中がぐちゃぐちゃで………分からない事だらけなんだ………)

一夏(何で………俺に何が起こってるんだ………)

一夏(暴走の原因も………俺は知っているはずなのに………分からないんだ…………)

一夏(今の俺には………何も出来ないのか…………)

~隔離棟~

「マドカさんのお昼ご飯よ~」
「お疲れ様、はい」ピッ

バシュンッ

「ありがと~失礼するわね〜」コツッコツッ

マドカ「あぁぁ………来るな………」

「あら~?駄目よ~ご飯はちゃんと食べないと~」コトッ

マドカ「うぅぅ……あいつが………怖いのが来る………」

「誰も来させないから大丈夫よ~それじゃあ、こっちは下げるわね~」コツッコツッコツッ


ピッ


ガシャーン


「あら?何かしら~?」

マドカ「………」

「あら………今すぐベットに戻りなさいね〜………でないとーー」ジャカッ


マドカ「奴は何処だ」

~特設隔離室~

『お姉様!マドカが脱走しました!』

クラリッサ『何!?』ピクッ

一夏「……?」

『麻酔弾での捕獲を試みたのですが逃げられました!』

一夏「どうかしたんですか……クラリッサさん」

クラリッサ「少し、御待ち下さい」ゴソッ

シャパッ チキッ

一夏(銃の弾を………何かあったのか………?)

『被害者も数名出ており、奴は何処だと言っていましたので織斑一夏を狙っているかと思われます』

クラリッサ『逃げた方向は分かるか』

『そちらに向かっています。私達もすぐ護衛に回ります』

クラリッサ『分かった。くれぐれも無理はするな』

『了解』

クラリッサ(どういう事だ………篠ノ之博士は何をしている………学園の全システムを握っているのは彼女のはずだ)

クラリッサ「一夏殿、緊急事態です。マドカが脱走しこちらに向かっています」

一夏「マドカが!?」

クラリッサ「はい、目的は貴方との事です」

一夏「何で……」

クラリッサ「…………」

クラリッサ「貴方も既に理解しているはずです。マドカを狂ってしまったのは、あの戦いで貴方が暴走したからだと」

一夏「………」

クラリッサ「これも、貴方のその力が招いた事です」

一夏「ッ………そんな事………分かってますよ………」

クラリッサ「それに彼女達は戦争、殺し合いを望んでいました。しかし貴方はそれをISの戦いで向かい討ちました」

クラリッサ「しかし戦いとは元来命を奪う合うもの。だからこそ人は無用な争いを避け、互いに生きてきました」

クラリッサ「そしてISはーー」

『お姉様!今すぐその場からお逃げください!』

クラリッサ「何ッ………話は後です。今はここから逃げます!」

~隔離棟~

スコール「慌ただしいようだけど何かあったのかしら」

「マドカが脱走し暴れているのです」

スコール「そう……私なら止められるのだけど………どうかしら?」

「あなたは気にせず昼食を食べていてください」

スコール「ツレないわね………」

「これ以上、仕事を増やされると困ります」

スコール「そう……なら………ごめん……なさいね………」

カチャンッ

「どうかしましたか?」

スコール「調整した………影響……で……少し……ね………」

「だ、大丈夫ですか?気分が優れないのなら………」コツッコツッ

サスサスサス

スコール「た……す……かる………わ………」


ガシッ


「ッ!?何をッ……息がッ………ッ………」ググググッ

スコール「ありがとう」グッッ

「きッ……貴様……だま………しッ……た……な………」

ドサッ

スコール「………」ニイィッ




クラリッサ「…………」スッ

バッ チャキッ

クラリッサ「………こちらです」

一夏「は、はい……」

コツッコツッコツッコツッ

クラリッサ(手当り次第に探しているというのは厄介なものだ………監視システムさえ使えぬのなら尚更…………)

クラリッサ(しかし、たかが一人にこうも苦しめられるとは………狂人とは侮れんか…………)


タッタッタッ


クラリッサ「………」ジャカッ

「「お姉様~!」」タッタッタッ

クラリッサ「お前達か………」

「先程の指示通り、篠ノ之博士の部屋までのルートを確保しましたっ」
「我々が先導致します」

クラリッサ「助かった………頼んだぞ」


タッタッタッタッ………

一夏「あの、クラリッサさん………指示通りって」

クラリッサ「ナノマシン通信です。自分達しか聞こえませんが、最低限の事は話しますので御安心を」トントン

「この角を曲がれば後は地下に続くエレベーターです!」

クラリッサ「よし、急ぐぞ」

『だ、駄目ですお姉様!マドカが現れました!!』
『弾が当たらッ………』

クラリッサ「おいどうした!!返事をしろ!!」

「まさか……全滅!?」
「返事して!!ねえ!!」
『逃げ……て………くだ……さい………』


ドサッ……


クラリッサ「来るぞ!!」



マドカ「見つけたぞ!!」


「嗅ぎつけたか……!!」
「お逃げください!ここは我等が引き受けます!!」

バンバンバンバンバンッ

クラリッサ「こちらです!」ダッ

一夏「は、はい!」

マドカ「逃がすかあぁぁぁッ!!」ダッッ

「弾をよけてるッ!!?」バンバンバンッ

ガスッッ

「ばッ、バケーー」

マドカ「があぁぁぁぁぁ!!」

ゴスッッ………ドサッ

マドカ「逃がさない………あいつだけはぁ………!!」


タッタッタッ

一夏「ッ……マドカが来ました!!」

クラリッサ「もう来たのか!?……速く外へ!!」


バシュ……ギギギギギィ………


一夏「ドアを止めた!?」

クラリッサ「今の内です!!」ダッ

一夏「はい……!!」ダッ

マドカ「待て……!!逃がさない………絶対に………!!」ボタボタボタ

クラリッサ(完治していないあの体でここまで動けるのか………私のISでは殺してしまう……だが弾が当たらんとなれば………)

ギギギギギィッ……バギッ

マドカ「ごの……悪魔が….……貴様は存在してはならない………絶対に消してやる!!」ボタボタボタ……

一夏「あ、悪魔………俺が……ッ!!」


ドンッ


クラリッサ「!!?」

マドカ「ッッ………待てッ……!!」グラァッ



ドンッドンッドンッ


マドカ「ぐあぁぁッッ………!!」ドサッ

クラリッサ「何故貴様がここに!!?」

一夏「スコールさん!?」


スコール「…………」


ザッザッザッ……


マドカ「ぐッ……あぉッ………待てッ……待てぇッッ……!!」

ズリッズリッ……

スコール「マドカ……」

マドカ「殺してやる……絶対に殺す……殺すッ………殺す!!殺すッッ!!」ズリッズリッ


ギュッ……


スコール「もういい……もういいのよ」

マドカ「はッ……離してッ……スコール!!私はあいつを殺さなきゃ………殺さないとダメなの………!!」

スコール「大丈夫、大丈夫よ………あなたは処分されないわ」

マドカ「でもッ……あいつを殺さないと………失敗作の私が殺されるの!!」


マドカ「嫌なの!!死にたくないの!!」


スコール「大丈夫よ、怖くない……怖くないわ」

マドカ「嫌ッ………スコール………だって………私は………!!」

スコール「私がそばにいるわ………あなたを守るわ………だから、大丈夫よ………」

ソッ……

マドカ「スコール………私……とっても寒いの……それに………体が動かないの………」

スコール「こんなにボロボロなって…………辛かったでしょ………?」

マドカ「痛いよ………怖いよ………私………死んじゃうの………?」

マドカ「ねえ……スコール………何処にいるの……スコールが見えないよ…………!!」

ギュッ

スコール「大丈夫よ………私があなたを守ってあげるから……大丈夫………だから………」スッ


ドンッ


スコール「…………」

クラリッサ「貴様!!」ジャカッ

一夏「マドカ!!」ダッ

クラリッサ「一夏殿!?」

スコール「………」

一夏「おい、マドカ!!マドカ!!」グイッ

スコール「死んでいるわ………出来るだけ………苦しまないようにはしたから………」

一夏「何でッ……何でこんな事をしたんですか!!」

スコール「それじゃあ他にどうすれば良かったの………この子はどうすれば救われたの………」

一夏「だからってこんな事しなくても!!」

スコール「一度狂ってしまったものはね。もう二度と、元に戻る事はないのよ」

スコール「マドカも……オータムも………そして……………」

スコール「それに私はね、三日前のあの瞬間をずっと待っていたの………きっと、私はあの一瞬の為だけに生きていたのよ」

一夏「何を言って……!!」

スコール「そのままの意味よ。分かるでしょ?」

一夏「俺には分かりません!!分かりたくもありません!!」

クラリッサ「…………」シャパッ

ドンッ

クラリッサ「ッ……弾を……!!」

スコール「余計な手出しはなしよ。ハルフォーフ」

クラリッサ「…………」

スコール「そこで大人しく見ていてもらうわ」

クラリッサ(残りは一発………義体に通常の麻酔では効果は望めない………)

クラリッサ(今、ハーゼで動ける数名は負傷者の手当てを行っている。同じく警備に当たっていた学園側も同じ………不覚をとったな………)



ポツ……ポツ……ザアァァァァ……


一夏「もうやめてください………こんな事をしたって……何も………何も戻ってきませんよ!!」

スコール「それでもいいの………私はね、あの頃に戻りたい訳じゃないの………」

スコール「こうして降り出した雨が……ずっと止まないままで…………」

スコール「私の全てを流し尽くしたのに………それでもまだ…………私に降り注いで…………」

スコール「だからもう………終わりにするのよ」スッ

一夏「駄目です!!スコールさん!!」

スコール「私が演奏すべき楽譜はもう存在していない………けれど、あなたにはそれがある…………そうでしょ?」

一夏「そうかも……しれません………けど!!」


スコール「ならそれを演奏してみせなさい!あなたはまだ、大切なものを失ってはいないはずよ!!」


一夏「!!」

スコール「戦いなさい!!他人に決められた戦いではなく、自分自身の意思で!!自由を勝ち取りなさい!!」

スコール「守るべきものがあるのなら!!奪われた全てを取り戻すその時まで!!」



ザアァァァァァァァァ………


一夏「俺が………演奏すべき楽譜………」

スコール「ええ、そうよ………私は暴走したあなたに殺されかけたあの時に、全てを見た」

スコール「だから、あなたは生きなさい……….自分の意思で」


千冬「クラリッサ!!」


スコール「………思ったより遅かったわね。織斑千冬」

クラリッサ「貴様………今まで何をしていた!?」

千冬「そこにいるスコールを追っていた!!ッ………マドカもか!!?」

クラリッサ「マドカもだと!?どういう事だ説明しろ!!」

一夏「!!」

スコール「…………」



スコール「簡単な事よ。私はここに来る前にオータムを殺したのよ」


一夏「!!」

クラリッサ「よくも自分の仲間にそんな真似が出来るな!!」

スコール「言ったでしょ?オータムとは……長い付き合いだとね」

スコール「俺にもしもの事があったら、お前が俺を殺してくれ………そう頼まれていたのよ」

千冬「そしてその次はマドカ、最後は自分か!!」

スコール「ええ、そうよ………ハルフォーフ、あなたは聞いていたはずよ、あの歌をね」

クラリッサ「私が……聞いた歌………それがどうした!!」

スコール「あの歌の続きにはこうあるの………Turn off the light and let me pull the plug………とね」

クラリッサ「明かりを消し長らえた命を消させて、だと……ふざけるな!!」

スコール「私はね『死んでいるみたいに生きたくはない』のよ」

クラリッサ「オータムやマドカは助かったはずだ!!それを貴様の一存で命を奪うなど許されるはずがない!!」

スコール「許す?何を今更、私が今までに一体何人殺したと思っているの?」

スコール「それに比べれば二人なんて、数の内にも入らないわ」

クラリッサ「私は貴様を許さない!!人の生きる時間を奪う貴様を!!」

クラリッサ「その目で見ろ!!貴様が殺したマドカを!!死というものがどんなものかを!!」

スコール「道理や義理の問題じゃないのよ。分かるでしょ………」

クラリッサ「貴様ッ……!!」ギリッッ

スコール「それに織斑千冬、無粋な真似はしないでもらおうかしら……スナイパーに連絡をとる、などね」

スコール「この雨でとても狙撃が出来るとは思えないけど……あの山田真耶なら可能でしょう?」

千冬「…………」

スコール「残念だったわね。全てお見通しよ」

クラリッサ(ISで右腕だけでも切り落とすか………いや、奴が二丁持っていれば終わりだ………)

千冬(山田先生はまだポイントにすら着いていない………)


千冬(しかしこの雨の中で隠すように突き付けた銃だけを撃ち落とせるか………!?)


クラリッサ(どうすればいい………奴を殺さずに捉えるにはどうすれば………!!)

スコール「フッ……フフフッ………アッハハハハ………ハハハハハハハハ!!」

千冬「何がおかしい?!」

スコール「これが私にはお似合いなのよ………惨めに生き延びて………何もかも忘れて………惨めに死ぬ………」

スコール「これがおかしくなかったら一体何がおかしいと言うの?」

一夏「嘘だ!!本当にあなたの心はそんな事、思ってないはずだ!!」

一夏「そうなんでしょ!?」

スコール「ッ………」

スコール「フフッ……最後の最後まで………あなたは…………」

一夏「スコールさん!!」

スコール「ごめんなさい。けど………駄目なの………もう遅いのよ。遅すぎたのよ………」

一夏「それでも!!止めなきゃ駄目なんだ!!」


カッ


スコール「!!?」

一夏「どうしたんだ……やめろッ………言う事を聞けッ………白式!!」

千冬「白式が起動した……何故だ!?」

クラリッサ「まずいぞ!!制御しきれていない!!」

一夏「ううッ……どうしたんだ………やめろッ………言う事を聞け………白式……!!」

スコール「ねえ……こんな話を知っているかしら」

一夏「スコール……さん……?駄目ッ……です………離れてッ……!!」

スコール「とある精神病院に二人の患者がいた……ある晩、二人はこんな所にはいられないとそこから脱走する事を決めた」

スコール「それで屋上に登ってみると、狭い隙間のすぐ向こうが隣の建物で……さらに向こうには、月光に照らされた夜の街が広がっていた……自由の世界が」

スコール「そして、一人目は難なく跳んで、隣の建物に移った。だが、もう一人はどうしても跳べなかった……」

スコール「落ちるのが怖かったから」

スコール「その時、一人目がこう言った……俺は懐中電灯を持っている。この光で橋を架けてやるから、歩いて渡ってこい」

スコール「だけど、二人目は首を横に振って……こう怒鳴り返した」

スコール「お前は俺がそこまでイカれてると思っているのか………」

スコール「どうせ、途中でスイッチを切るつもりだろ、とね」

一夏「速くッ……離れてください………!!」

スコール「フフフッ………本当、おかしいでしょ……この話………」

一夏「何を……言ってッ………うあッ………!!」


バカンッッ


クラリッサ「装甲が開いた!?……まさか!!」

千冬「束!!」

スコール「私はこれでいいの………最後まで……聞いてくれてありがとう………」

一夏「スコールさん………やッ、やめッ……!!」

千冬「クラリッサ!!」

クラリッサ「分かった!!」カッ


ドンッ………バシャ



一夏「あ……ああっ………あああッ………!!」


ザアァァァァァァァァ…………


千冬「山田先生!!救護班を!!」

束「ご期待通りに只今さんーーえっ、ちょっ、ちょっと待ってよ、引っ張んないでも歩けるから」

クラリッサ「こちらへ!!貴方の力が必要なのです!!」


何で……どうしてこんな事に………

どうしてこうなったんだよ………何で………こんな事…………

俺の………せいだ………俺のせいなんだ………俺が……これを………

俺の力が………これを引き起こした…………

死んだんだ………マドカも………スコールさんも………おかしくなって………

それだけじゃない………学園の人も………大勢………俺が傷付けた…………

この……力が………!!

教えてくれ!!俺はこれをどうすればいいんだよ!!

聞こえているんだろ!!なあ!!答えてくれよ!!


白式!!白騎士!!


答えて………くれ………どっちでもいいから………答えてくれよ………

俺は………また一人なんだ………誰もいなくなったんだ………箒も、鈴もいない…………

誰も俺のそばにいない………

千冬姉も………束さんも………クラリッサさんも………

白式………白騎士………声を聞かせてくれよ………

お前達は………俺を一人にしないんじゃなかったのか………


俺のそばにいてくれるんじゃなかったのか!!?


俺を………俺を一人にしないでくれ!!

今日はここまで。


また……真っ暗だ………でも…………

何だ……これ………

今回は違うッ……寒い…………

それに胸が………苦しいッ………ううッ………

体が動かない………何も分からないッ…………

誰かッ……誰かいないのか………!

やめろッ……何かが俺の中に………流れ込んでくるッ………!!


見捨てないで………


見……捨てる………?

お前は誰なんだ!?何で俺にそんな事を?!

何処にいるんだ!?俺には分からないんだ!!


そばにいて………待って………いかないで………


教えてくれ!!お前は何なんだ!!?


一人にしないで………


どういう事なんだ!!?俺にどうしろって言うんだ!!

なぜ?何故?何で?どうして?ナゼ?何か悪い事をした?今まで一体何の為に?これで何もかも終わり?こんな事で終わり?これからどう生きろと言うの?どうすればいいの?全部無駄だったの?無意味な事だったの?なんでこんな目にあわなくちゃいけないの?今まで何の為に?これがその結果なの?こんな終わりなの?所詮はこんなものだったの?嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助けて嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ復讐してやる嫌だ嫌だ嫌だこれで終わりなんて嫌だこんな事認めない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてこんな事望んでなかったのに誰のせいでこうなったの?こう出来たの?悪いのは? 誰のせいで?こんな事に………


全部お前のせいだ。


お前のせいでこうなったんだ。


ゆるさない……許さないユルサナイゆるさない許さないユルサナイゆるさない許さないユルサナイゆるさないユルサナイゆるさないユルサナイゆるさないユルサナイ許さないゆるさないユルサナユルサナイ許さないゆるさないユルサナイ許さないゆるさない許さないユルサナイ許さないゆるさないユルサナイゆるさない許さない許さないユルサナイゆるさないユルサナイ許さないゆるさない許さないユルサナイゆるさない許さないユルサナイゆるさない許さないユルサナイゆるさないユルサナイゆるさないユルサナイユルサナイ許さないゆるさない許さないユルサナイ許さないゆるさないユルサナイ許さないユルサナイゆるさない許さないユルサナイゆるさない許さないユルサナイゆるさないユルサナイゆるさないユルサナイ許さないゆるさない許さないユルサナイ許さないゆるさないユルサナイゆるさない許さない許さないユルサナイゆるさないユルサナイ許さないゆるさない許さないユルサナイ


ゆるさない………


よくも裏切ったなどうしてそんな事を聞きたくないやめて酷い事しないであいつ等と同じ様に捨てるのか初めから弄んでいただけでこの人でなし人の気持ちを踏みにじって来ないで貴様などに惚れた私が愚かだった全てが嘘だったのか愛していると仰ったのもよくも平気でこんな真似を私が何をしたのこの外道がお前はそんな男ではなかった何があなたをそこまでどうしてそうなっちゃったのよこんな事して何の意味になるの例えどんな理由があろうとなそうやって笑っていろいつか必ず報いを受ける時が来ますわ後悔させてやる君さえいなければ貴様を許さないお前だけは許さない消えなさいお前は存在してはいけない汚らわしい許さないからこのクズが君なんかいなければいいのに貴様に生きる資格などないゴミがお前の存在自体が鬱陶しいどんな理由があろうと外道の極みです何があろうと絶対に許してやるもんかこの世界から消えてよ血も涙もない人でなし


外道が……貴様こそ『悪魔』だ!!

一夏「ッ!!」


ガバッ


一夏「ハァ……ハァ……ッハァ……ハァ………」

一夏「ううぅッ………何なんだ……これ………」

一夏「人でなし………悪魔………!?お……れ………がッ…………」

バシュンッ

束「赤い靴~はーいてた~おーんなーのこ~♪おやっ?」ピコピコ

一夏「た……ば………ね……さん………」

束「何たる僥倖………って、うずくまってるけど大丈夫?」

一夏「頭が……割れるように……痛い………」

束「おっかしいなー鎮静剤は副作用のないタイプだったんだけどなー」

一夏「…………」

束「あ、そうだ。ちょっとごめんね」グイッ

一夏「何……するん……ですか…………」

ピピッ

束「白式自体に変化はなし、か………」

束「イスってどこだったかなー……あ、あったあった」ストッ

束「さて、何か聞きたい事はあるかな?」

一夏「俺……あれから………どうなったんですか………」

束「完全に暴走する一歩手前で気絶したんだよ。今回は体の方が保たなかったみたい」

一夏「俺は………また………」

束「大変だったんだよ?暴走の影響で身体のあちこちがボロボロの血まみれ」

束「白式からのエネルギーのせいで体内組織が焼き尽くされる手前で止まったから、治療にはかなり手間取っちゃってね」

一夏「………」

束「まあ、でも………命が助かって良かったよ………生きているって、きっと楽しい事だからさ」

一夏「ッ………生きていたって………何もないんですよ………」

ギリッッ

一夏「なのに何で!!……俺が………俺だけが………生き残ったんですかッ………!!」

束「彼女が、スコールが『そう』望んだから」

束「それに、君が生きる事を望んでいるのは彼女だけじゃない。この世界にはまだいるんだよ」

一夏「何処にいるって言うんですか!?いたとしても、俺はまた傷付けてしまう!!」

一夏「束さんも知ってるんでしょ!?」

一夏「俺のせいでマドカは狂った!!スコールさんは死んだ!!皆いなくなった!!」

束「同じ様に戦った私や楯無ちゃんは全然狂ってないよ?むしろ元気だけど?」

一夏「でも!!俺は!!」


ツーッ………


一夏「ッ………何なんだよ……何で泣いてるんだよ!!何も哀しくなんかないだろ!!」ポタ…ポタ…

束「ねえ、何で泣いているの?哀しいの?悔しいの?それとも………怒っているの?」

一夏「それが分からないんですよ!!………自分は今悲しいのか………怒っているのか……分からなくて………ただ胸が苦しくてッ…………」


ギリッッ


一夏「俺のものかも分からない感情でいっぱいなんですよ!!」

一夏「あの出来事の前からそうだ……あの時だって頭の中がグチャグチャだったのに………なのに……今はもっと………!!」

一夏「俺はこんな事……望んでなかったのに!!何で……なんで俺ばっかりが……こんな目に………」ポロポロ

束「………」

一夏「畜生………何なんだよ………何で泣いてるんだよ!!」ポロポロ


ソッ……


一夏「束さん……?」ポロポロ

束「ねえ……赤い靴のお話を知っているかな?」

一夏「赤い……靴………?」

束「両親を亡くした女の子が、恵まれた家に引き取られ、引き取ってくれたおばさんに内緒で赤い靴を買うんだ」

束「それから女の子は赤い靴を履いてお祈りに行くようになったんだ。もちろん、それは戒律上やってはいけない事なんだ」

束「分かっていながらもそれを続け、挙げ句の果てにはおばさんが死の床に伏している時でさえ、赤い靴を履いて舞踏会に出かけた」

束「すると不思議な事に、女の子が履いていた赤い靴が勝手に踊り出したんだ」

束「そう、女の子は死ぬまで踊り続ける呪いをかけられたんだ」

束「踊りは止まらず、その靴を脱ぐ事も出来ず、昼も夜も踊り続け、ついにはおばさんも死んでしまい、そのお葬式にすら出席出来ず、女の子は心も体も弱っていった」

束「そしてその呪いから逃げる為に……首切り役人に両足首を切り落としてもらったんだ」

束「すると、両足と一緒に切り離された赤い靴は、女の子を置いて踊りながら遠くへ行ってしまった………」

束「女の子は心を入れ替え不自由な体でも、教会のボランティアに励む毎日を送った」

束「そしてある日、天使より自分の罪が許された事を告げられ、天に召された」

束「私はこの話が大っ嫌いなんだ………だって、全然面白くないし、ハッピーエンドには程遠い」

束「そして何より……私は運命に踊らされるって言うのが嫌い」

一夏「………その話が……今の俺に何の関係が………あるんですか………!」

束「あると言えばある、けどないと言えばない………ただ単に彼女の真似とかだったらどうする?怒る?」

一夏「それ……どころじゃ………ないんですよ!!」

束「そうみたいだね。怒っているようで悲しくて泣いてるから、愛憎って感じ?」

一夏「もう出ていってください!!俺を一人にしてくださいよ!!」

束「そんなに辛いの?一体何が、君をそこまで追い詰めているの?」

一夏「何が分かるんですか………束さんに俺の何が分かるんですか!!」


束「分からないよ」


束「………人はそう簡単に他人の事が分かるようには出来てないからね」

束「それに、私は私……だからこうして私なりに分かろうとしているんだよ」

一夏「…………」

束「どうしたの?黙っていても、何も変わりはしないよ?」

束「怖い?大切なものすら傷付けてしまう程の力が、得てしまったその力が」


束「力に溺れた醜い化け物になる事が」


一夏「………」

束「目の前の楽譜を演奏しろ。自由はそれからだ………そうスコールに言われてたね」

束「その意味はね………成すべき事に力を尽くせば、自ずと道は拓ける、そう言いたかったんだよ」

一夏「やりましたよ………やったんですよ!!必死に!!」

一夏「でもッ………その結果が……これなんですよ………!!」

一夏「このままじゃ俺は……本当に戦うだけの化け物に………なるんですよ………!!」

一夏「今こうしている間にも……そうなろうとしているんですよ!!」

束「そうやって泣き言垂れて、何かのせいにして、自分は逃げるの」

一夏「だって………もし、また暴走したら………今度こそ俺は………」

束「そっか………じゃあ、もう逃げちゃおっか」

一夏「………」

束「でもね、一度逃げたら死ぬまで逃げ続けなきゃならないんだよ」

束「例え世界の果てまで逃げても………何処までいったとしても、逃げた過去はずっと追いかけてくる」

束「血へど吐いて、泣いて、それでも走り続けて逃げれなくなったら、その次には惨めに地面を這いずり回らなくちゃいけなくなるんだよ」

束「それでも、過去は見逃してなんかくれないから、まだ逃げ続けなくちゃいけないんだよ?」


束「その覚悟が君にはある?」

一夏「さっきから何が言いたいんですか………赤い靴だとか……スコールさんとか………逃げるとか………」


ギリッッ…….


一夏「俺にどうしろって言うんですか!!?」

束「好きにすればいいよ」

一夏「そうやって屁理屈ばかり並べて……!!」

束「屁理屈じゃないよ。私は一種のアンチテーゼを提出しているに過ぎない………」


束「それに……分かっていたよね?『ISは刀とは比べものにならないもの』って」


束「そこまで泣き言垂れるって事は、まさか『そんな事』も理解せずにISを使っていたのかな?」


バシュンッ


クラリッサ「失礼します。やはりここでしたか、篠ノ之博士」ビシッ

束「やっはろーどうしたの?顔が怖いよ?」クルッ

コツッコツッコツッ

クラリッサ「その理由は、御自分の胸に聞いて頂きます」グイッッ

一夏「!!」

束「あっれー?何かこれすごいデシャヴだね~詳しく言うならばあの事件の時かな~」

クラリッサ「………話したい事があります。場所を変えましょう」パッ

束「はーい、話って何だろうな~わくわくっ」

クラリッサ「それと、一夏殿。彼女の事は残念でした」

一夏「………」

クラリッサ「しかしあれは彼女が、彼女自身の意思で決めた最後、今となっては誰にも止められなかった事です」

クラリッサ「その点も踏まえて、今一度考え直してみてはいかがでしょうか」

クラリッサ「自分が一体何を成すべきなのかを」

束「何を信じ、何を信じないのか………」

束「私も、素敵な答えを待ってるよっ♪」

コツッコツッコツッ ピッ

クラリッサ「では、失礼しました」ビシッ

束「ふふふっ、そういう事だから……ばいば~いっ!」フリフリ

バシュンッ

一夏「それでも……止めたかったんですよ……俺は………俺は…………」

一夏(俺の……成すべき事………)


一夏(俺が……信じたもの………?)


一夏(俺は……何を信じて……マドカやスコールさんと………戦ったんだ………)

一夏(何の為に……あんなになってまで………立ち向かって………傷付いて………死んで…………)


一夏(敵と戦う為………?)


一夏(何で………確かに俺は………知っているはずなのに………分からない………思い出せない…………)

一夏(俺は……何を思って……戦っていたんだ…………)

一夏(何で分からないんだよ……じゃあ何で………こんなに苦しいんだよ!!)

一夏(俺は……俺は………違う……違う!!こんなもの………俺のじゃない!!やめろ!!)

一夏(違う!!俺は裏切られてなんかいない!!これは俺じゃない!!)

一夏(俺じゃない!!)

一夏(俺の中に入ってくるな!!俺はこんな事なんか思っちゃいない!!思ってもなかった!!)

一夏(何も悲しくない!!俺は誰を憎めば良かったんだよ!!)

一夏(憎めば何か変わったのか!!?)


一夏(そうすれば元の世界に帰れたのかよ!!)

~IS学園地下室~

束「まあまあ落ち着いて、どうどうどーう」

クラリッサ「御自分のなさった事が分かっているのですか?!貴方の気まぐれが多くの負傷者を出し、三名の死者まで出したのです!!」

束「正確に言うなら死者は一名じゃない?」

クラリッサ「貴方の御協力さえあれば!!この様な事態には陥らなかったと言っているのです!!」

千冬「落ち着けクラリッサ、腹立たしいのは分かるが………この天才にそんな事は通じない」

クラリッサ「今回の一件で我が隊は甚大な被害を蒙った!!それでいて黙っていられる程、私はお人好しではない!!」

束「それは束さん特製ナノマシンで万事解決したでしょ~幸いにも骨の数本で済んだから一日で治ったし~」

クラリッサ「それについては………感謝しています………しかし!!」

束「し・か・も♪情報をリークしたおかげで、君達の望み通り各国もようやく重い腰を上げたからね」

束「そこで!シュバルツェ・ハーゼには束さんから慰安旅行をプ〜レゼーント~」パフパフパフ~

束「じゃじゃじゃじゃーんっ!ドイツ政府からの正式な承認だよ~どうぞ♪」ピラッ

クラリッサ「!!」スッ

クラリッサ「確かに、これはドイツ政府の物………」

束「驚いた?束さんにとってその辺の政府の承認を得るなんてのは赤子の手を捻るよりも容易い事なのだー!」

千冬「今回はどんな脅しを掛けたんだ?」

束「失礼な、流石にこの非常事態でそんな野暮ったい真似はしてないよ。私ウソつかないっ」フンスッ

千冬「さて、どうだかな………」

束「でも、ラウラちゃんと君がそれに参加出来ないのは悪いと思うよ。そこはゴメンね」

クラリッサ「いえ……それは構いません………」

束「良かったらさ、考え直してみる?」


束「私の口車にまんまと乗せられるのか。それとも、乗せられないのか」


千冬「…………」

束「ラウラちゃんの為を思うのならね」

クラリッサ「…………」


グッ……


クラリッサ「それでも、私は………後には引けぬのです」

千冬「…………」

束「よろしい………ちーちゃんにも色々と手伝ってもらーうよ♪」

千冬「束………一つだけ、聞こうか」

束「んー?」

千冬「お前がスコールの脱走を手助けしたな」

束「私が?………はて?何の為に?」

千冬「とぼけるな」

束「え~そんな事言われたって寝耳に水だよ」

千冬「隔離棟と特設隔離室を含むIS学園の全システムを使えば、逃走中のスコールとマドカを捕まえるなど造作もない事だ」

千冬「だが、お前はその全システムを握っておきながら何もしなかった」

束「理由はそれだけ?」

千冬「それに加え、お前はあの事件の直前にスコールの義体を調整していたな」

束「いやーまさか巷の技術があれほどまで進歩しているとはねー束さんもビックリ」

束「ほんのちょ~っといじっただけであそこまで動けるとは………最新鋭の義体も舐めちゃいけないね」

束「んー………まあ、義体のチョイスミスは私の責任かな」


千冬「なら白式の起動はどうだ。あの事件を仕組んだ狙いはそれだろ?」


クラリッサ「何!?」

千冬「なあ?そうだろ、束」

束「…………」

束「ふむ………流石はちーちゃん、私の考えなんて分かっちゃうんだね………」

千冬「あそこで二度目の暴走が起きていればどうするつもりだった」

束「完全に暴走する前に首を落としてた。そうすれば、いくら進化したISと言えど理論上は動けない」

クラリッサ「しかし!………今の白式に、我々と同じ理論が通じるとは思えません」

束「通じるよ。例えどれだけ人智を超えた力を持ったとしても、所詮はそれを扱えるのは『人間』でしかない………」

束「そう、『それ』こそが……ISの最大の弱点でもある」

クラリッサ「弱点?」

束「これはあくまで私の理論、気にしないで~」

束「しっ、かっ、しっ………色々と謎が残ったまんまなんだよね」

クラリッサ「謎……ですか?」

千冬「スコールの行動か」

束「違うよ、マドカちゃんはファントムなんたらに監視用ナノマシン、もしくはそれに類する物を体内に入れられていたはず」

束「でも、私の検査の時点ではナノマシンと思われるものは体内に一つもなかった」

千冬「恐らく、スコールの義体に発生していた機能不全と同じものだろう」

クラリッサ「暴走した白式との接触が原因と考えるのが妥当でしょう」

束「結局のところ皆仲良くおっ死んじゃったから分からないんだけどねー実に残念至極だーけどっ」

クラリッサ「………」

千冬「………お前としては、スコールが素直に全て話したのが予想外だったか」

束「うん、でもその理由もすぐ分かったけどね」

千冬「自分はもう、疲れてしまった……そう言っていたな………」

束「人はね、壊れた心を守る為に………その痛みを忘れる為に狂うんだよ」

束「彼女は『そう』でありたかったのに、『そう』ある事が出来なくなった………その守った心のせいでね」

クラリッサ「皮肉な話です……それでいて、哀しくもあります………」

千冬「…………」

束「だからこそ、彼女は三流傭兵としではなく、一人の女として死んでいった」


束「最後まで、運命に翻弄され続ける事を選んだんだよ」


千冬「だが奴は………自らの最後を自分で決め、自分で終わらせた」

クラリッサ「それも、織斑一夏に願いを託して」

千冬「分からないな、何故奴がそんな事をした………そんな事をする程なのか………」

クラリッサ「………」

束「きっと………誰かと一緒にいたかったんだよ」

クラリッサ「何か御存知なのですか、篠ノ之博士」

千冬「確か………お前は奴との接触時間が一番長かったな」

束「買い被り過ぎだよ………ましてや、この私だよ?」

千冬「……そうだったな………」

クラリッサ「………」

束「過去の事象が何を意味していたにせよ、今の私達に残された時間は少ない………そうでしょ?」

クラリッサ「その通りです。あの一件で眠っていた白式が目覚めました」

束「そして、操縦者の意思を無視してその力を発現させている」


ピッ


千冬「何だ………これは……一体何が起きている」

束「白式は間違いなく活動している。私達には待機状態に見えていたとしても」


束「確実に、操縦者を蝕むように、その力を覚醒させつつある」


クラリッサ「それが、彼の心身不安の原因ですか」

束「多分ね………感情が錯綜するのも何かの一端かもね」

千冬「感情の錯綜………そんな事が今までにあったのか?」

束「ない。正直に言って、是非ともその原因を知りたいね」

千冬「………これ以上、事態を悪化させる気か」

束「これ以上?とっくの昔に事態は最悪なんだよ、これ以上悪くなる事なんかない………」

束「良くする事は……出来るけどね」

千冬「そう言って、お前は自分の手を汚さずに世界を滅ぼすのか」

千冬「お前が………くだらないと言ったものを消し去る為に」

クラリッサ「………」

束「違うよ、全てはこの世界を守る為でもあり…………私の守りたいものの為なんだよ」

クラリッサ「しかし、千冬の言う通り貴方のなさる事はいささか危険過ぎます」

束「確かに、今回の一件は危険な賭けだったし、ここまで事態を変化させるとは思ってなかった」

クラリッサ「同じような事を、再び行う気ですか」

束「他にやる人がいないからね………それにね、誰もが望んだ時が来るんだよ」


束「全てを終わらせる時がね」

~特設病室~

教師B「コレもーらいっと」ヒョイ

先生「何しよんじゃッ………ッ~!!」

教師B「怪我人が無茶しちゃいかんぞ、あちこち折れてんだろ?」モグモグ

先生「ッッ~!!誰の……せいやと……思と………うおぉぉお………」ボフッ

教師A「お前達、静かにしろ。周りの迷惑だ」グルグル

教師B「うえッ!?お前ッ……何でこの密閉空間で納豆食ってんだ!?」

教師A「許可は得ている………それに」グルグル

教師B「それに?」

教師A「私は納豆が好きだ」

教師B「知るか!なら私の許可も得ろってんだよ!」

教師A「それにしても、お前は見事に軽傷で済んだな。分相応の活躍だったからか、それとも運が良かったのか」モグモグ

教師B「運が良かったんだよ。人に借りたビームライフル撃ち過ぎてぶっ壊しそうだったんだぞ?」

教師A「私は機体諸共壊されたがな」

教師B「けどよう、楯無と篠ノ之博士の全力を簡単に止めやがったぁ奴に、私達みたいな第二が太刀打ち出来るかってんだ」

教師A「確かにそうだ………だが、あの時は状況が状況だった。そこまで冷静な判断が出来る者はいなかった」

教師B「ああいう時、冷静さを失った奴が負けだっつうのによ………全く」

教師A「そういう事だ………私もまだまだ未熟だな」

教師B「ま、お前も私もよう、今回の事は良い教訓になったって訳よ」

先生「せやなぁ」ユラァ

ガシッ

教訓B「ん?えっ……あっ………ちょっ………」ジタバタ

先生「人のもんは盗ったらアカンて、オカンに言われんかったんかぁ?ああ?」ギリギリギリ

教師B「イダダダダダ!!待て待て待て!!決まってるって!!」

先生「食いもんの怨みは……おっかないねんぞ」ギリギリギリ

教師A「良かったな。これで良い教訓が二つになった」

教師B「たッ……助けろぉッ………!!」

教師A「しかしその教訓を忘れるのが人間だ。しばらく忘れないように教えといてやれ」

先生「相方から許可は出たさかいなぁ……」ニタァ

教師B「ギブギブギブギブギブギブ!!肋骨なくなっちゃうからやめてぇ!!」


ギャアァァァァァーッッ

楯無「またやってるわね」パチッ

精鋭「放っておくといい」パチッ

楯無「そうしましょ………ふむ、難しいところに打つわねっと」パチッ

精鋭「………」パチッ

楯無「飛車取り、と見せかけて………王手」パチッ

精鋭「いつもらしくない攻め手だ」

楯無「あら、別にそんな事ないわよ?」パタパタ

精鋭「暴走した織斑一夏に勝つ事は不可能、これは篠ノ之博士も言っていた」

楯無「それは散々聞かされたわ。あなたも分かるでしょ?

楯無「そういう問題じゃないのよ」

精鋭「矜恃か」

楯無「そうね……まあ………そんなところかしら………」

虚「二人とも、お茶が入りました」

本音「どうぞどうぞ~」

楯無「ありがと」

精鋭「私は自分のベットで飲む」スクッ

楯無「私達と飲むのは嫌?」

精鋭「私も、一人っきりがいい時もある」スタスタスタ

本音「こぼしちゃ駄目だよ~」フリフリ

虚「会長、彼女の気持ちは分からないでもないでしょう?」

楯無「無論よ………」スッ

楯無「ふむ、相変わらず見事な手前ね」

虚「感謝の極み」

本音「お姉ちゃんの紅茶は世界一ぃ~♪」コクコク

虚「本音ちゃん、あんまりお菓子食べちゃ駄目よ」

本音「だいじょうぶ、だいじょうぶっ、うまうま~♪」モグモグ

楯無「本音ちゃん、私にもくれない?」

本音「わかった~はい、あーん」サッ

楯無「あーんっ……うん、紅茶に合うわね♪」モグモグ

虚「満足に動けぬというのも、不便なものですね」

楯無「本当、何年ぶりかしらね……こんな大きな怪我…………体を起こすにしても一苦労よ」

虚「しかし同じ様にナノマシンで治療していた篠ノ之博士は半日とかからず完治していましたが………」

本音「??」キョトン

楯無「常人には不可能な方法で治した、って言ってたわ」

楯無「でも、私には頼りになるお手伝いさん達がいるからそんな事しなくてもいいわ」ナデナデ

本音「えへへ、ほめられちゃった~♪」

虚「お嬢様にお仕えするのが、私達の務めですから」

本音「ですから!」フンスッ

楯無「お嬢様はなしよ」

虚「失礼しました」

本音「失礼しました~」

本音「そういえばー……おりむ~はどうなったのかな~?」

楯無「一夏くん?さあね……篠ノ之博士に聞いても答えてくれなかったわ」

本音「むむむむ……」

楯無「何がむむむむ、なの?」

虚「何か気になる事があるの?」

本音「おりむ~はおりむ~なんだけどね、何だか最近おりむ~じゃない気がしててね~おりむ~なのに」

虚「織斑一夏が……織斑一夏じゃない?」

楯無「奇遇ね、私もそんな気がしてたわ」

虚「どういう事ですか?」

楯無「そういう事よ………理由はないのに、妙な確信だけがある……」

本音「女のカン?」

楯無「女のカン………確かにそうかも」

虚「興味深い話です」

楯無「けど、篠ノ之博士は彼について知る事を許さないでしょうね」

虚「何故ですか?」

楯無「本気で止められたのよ。あの篠ノ之博士に、ね………」

虚「なるほど………触らぬ神に祟りなし、ですね」

本音「!」ピコーンッ

楯無「この有様じゃあ力づくで、って訳にもいかないから………はあ………」

虚「今は治す事だけを考えてください」

本音「………」コソコソ

楯無「この先何が起ころうと寝てなきゃならないなんてね…………更識楯無、一生の不覚だわ」

虚「しかし、何かあれば真っ先に飛び出すつもりでしょう?」

楯無「…………」

虚「お見通しですよ」

楯無「はあ………昔っから堪え性がないって言われてるのに………まだ直ってなかったわ」

本音「じゃじゃ~んっ、簪ちゃんだよ~!」

簪「お、お姉ちゃん………お見舞いに……きたよ………」モジモジ

楯無「いらっしゃッ………」バタッ

簪「大丈夫………?」オロオロ

楯無「あ、あはは………だ……大丈夫よ。ちょっと痛む………だけだから」

本音「痛いの痛いの~とんでけ~っ!」

虚「こら、あまり強くしちゃ駄目ですからね」

楯無「もう怪我は治ったの?」

簪「うん………私はお姉ちゃんみたいに……戦ってなかった……から………そんなに酷く……なかった………」

楯無「私みたいにならなくていいの………いつも言ってるでしょ?

楯無「あなたは、あなたのなりたいようになればいいの」

簪「うん……」

楯無「でも良かったわ」ギュッ

簪「お、お姉ちゃん………?」

楯無「大切な妹を守れただけでも、これだけの怪我をした甲斐があったもの」

簪「はっ……恥ずかしいよ………二人が見てる……….」

楯無「いいじゃない………今だけ………こうさせて」ギュッ

簪「えっ………う……うん……いいよ」

本音「いいなー簪ちゃん………お姉ちゃ~ん私も~」

虚「いいわよ、ほら」ギュッ

本音「えへへっ♪」スリスリ

虚「よしよし」ナデナデ

虚(お嬢様、良かったですね)ニコッ

~食堂~

鷹月「おー……おかえんなさぁい」

箒「ああ、ただいま」

ティナ「おかえり!怪我とかなかった?大丈夫だった?」

鈴「うん、全然平気よ」

ティナ「良かった……侵入者と戦ったって聞いたから私もう心配で心配で………」

鈴「そんな大げさな………あたしも伊達に代表候補生やってないわよ」

鷹月「そう言ってやらないでよ~避難してからティナティナずっとそわそわしっぱなしだったんだからさ~」

ティナ「むうっ……そういう鷹月も、でしょ?」

鷹月「………い、いやぁ……べ、べべべ、べっつうにぃ~そんな事なかったけどなぁ~?」

箒「どんな感じだった?」

鈴「あたしも聞きたい」

ティナ「顔はいつもどおりなんだけどね」

鷹月「こんにゃろ揉みしだいてやろうか」ガバッ

ティナ「えっ……やめっ……んんっ……」

鷹月「こ、これはッ……素晴らしいッッ!!」モミモミ

鈴「人のルームメイトにーー」

鷹月「あ、後ろにラウラちゃんみーっけ」モミモミ

鈴「そんな子供騙しに引っかかると思ってんの!」

ティナ「り……んっ………あっ……だっ……だめっ……」

鷹月「ない乳は揉めぬ、って言葉知ってるか?」モミモミ

鈴「そんなことわざある訳ないでしょ!」

箒「そこまでだ」ビシッ

鷹月「ありがとうございます!!」バタッ

ティナ「はぁ……はぁ……た……助かった……」

鈴「全く、白昼堂々と何してんのよ」

鷹月「何ってオメェ……ナニに決まってんだろ」

鈴「何でそんなに誇らしげなのよ………」

箒「頼むから変な誤解を招くような事はやめてくれ」

ラウラ「………」

箒「色々と申し訳ない。せっかく来てくれたのに」

ラウラ「いや……大丈夫だ………理解は持ち合わせている」

鈴「あ……本当にいたんだ………」

鷹月「だーから言ったでしょ?」

ティナ「なら私の胸を揉まなくても良かったでしょ!」

鷹月「そりゃ無理だ、因果応報ってやつでさぁ」

鈴「誤解されてるのはいいの?」

鷹月「別に」

鈴「そ、そうなの………そういうとこ強いのね」

ティナ「え、えーっと……ラウラ・ボーデヴィッヒさん、だよね?」

ラウラ「そうだ」

ティナ「篠ノ之さんや鈴に用?」

ラウラ「ああ、話がある」

鷹月「人の印象って第一印象で決まるらしいけど………私、大丈夫かな?」

箒「さあ………どうだろうな」

鈴「いや、もうアウトでしょ」

ティナ「私は鈴のルームメイトのティナ、よろしく」

ラウラ「知っての通りラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む」

鷹月「私は鷹月だよーん、ハッピーうれピーよろピくねー」

ラウラ「鷹月か……よろしく頼む」

鷹月「ラウラちゃん、さあご一緒に~ハッピーうれピーよろピくね~」

ラウラ「は、ハッピー……うれピー…………」

鈴「ラウラ、やらなくてもいいから」

ラウラ「そ、そうか………やらなくてもいいのか………」

ティナ「変な事教えるのはやめなさい」

鷹月「もーあと少しだったのに」プクー

箒「その………いつもこんな調子だから………」

ラウラ「賑やかでいいと思うぞ」

鈴「賑やか過ぎるのも困りものだけどね」

箒「……そうだな、全くだ」

鷹月「っちゅうか、いつの間にラウラちゃんと友達になったんだ?」

箒「この前の一件の時に意気投合してな」

ラウラ「あ、ああ………」

ティナ「ふ~ん、なるほどね……」

鈴「まあ、まだ後二人いるんだけどね」

ティナ「えっ、まだいるの?」

鷹月「おいおい~上手い事友達増えていってんじゃあないの全く~このこの~」

箒「私も色々あってな」

鷹月「健全な方の友達だよね?」ボソッ

箒「………他に何がある」

鷹月「OKブラザー、とりあえずその拳はしまっとこうぜ。もっと文化的に、ラブ&ピースいこう、な?」

鷹月「さてと、そろそろ私達は撤収しようか」

ティナ「その方がいいかもだからね」

ラウラ「別に私は構わないぞ」

鷹月「いや、そういう訳にもいかないから」

ティナ「私達は………信じて待つって決めたから」

鷹月「そういう事だから………じゃあ、アオフ、ヴィーダーゼーエン」シュビッ

ティナ「じゃあね~」フリフリ


スタスタスタ……


箒「信じて待つ、か………」

鈴「よく分からない奴ね。鷹月って」

箒「そうか?」

ラウラ「私達の気を紛らわせる為にあんな行動をとったのだろう………」

鈴「まさか……ねえ?」

箒「もしかすると、そうかもしれないな………」

箒「シャルロットとセシリアを連れてくる」スクッ

鈴「そうだ、何か食べる?今ならついでに買って来るけど」

ラウラ「いや、いい………あまり腹は空いてないんだ」

鈴「そっか、なら私もいいや…………」

鈴「って、あれ?セシリアじゃない」

セシリア「あら、お二人だけでして?」

鈴「箒もいるわよ。丁度あんたと入れ違いになったけど」

ラウラ「これで一人、呼ぶ手間が省けたな」

セシリア「なら後はデュノアさんだけですわね」

鈴「大丈夫かしらね……デュノア」

ラウラ「私達以上に………受けていた傷は深いからな」

鈴「はあ………あたしも呼びに行けば良かった……どうも待つのは性に合わないのよね」

セシリア「あの……私とて未だに半信半疑なのですが…………」

鈴「いきなり別人だってだけ言われて、昨日の今日で信じろってのは………無理な話よね」

ラウラ「確かに……私やお前、箒のように確証を得ているなら問題はないがな………」

セシリア「そう……ですわね………」




シャル「………」キョロキョロ

シャル(シキシロさん……何処にいるの………?)

箒「シャルロット………誰か探しているのか?」

シャル「う、うん……ちょっとね………」ビクッ

箒「私も手伝うよ」

シャル「ありがとう……篠ノ之さん………」

箒「箒でいい……その呼ばれ方はむず痒い」

シャル「あ……その……ご、ごめん………箒」

箒「謝るのもなくていい……どんな人なんだ?」

シャル「えっと……活発で幼い感じで……ボーデヴィッヒさんみたいな珍しい髪の色してた………」

箒「身長はこれぐらいか?」

シャル「うん……それぐらいだったと………思う」

箒「………まさかな」

シャル「?」

箒「名前は分かるか?」

シャル「シキシロさん……って言ってた………」

箒「シキシロ?……シキシロ…………」

箒(シキシロ……シロシキ?まさか………白式か?……シャルロットとも接触していたのか…………)

箒(姉さんが言うには白式は機能停止状態………ここには来ない…………シャルロットに何て言えばいい………)

シャル「知ってるの?」

箒「あ、ああ…………あいつは突然現れたのか?」

シャル「うん……突然現れて………少しだけお話しして………またねって………」

シャル「でも……それだけだったけど………嬉しかった………」

シャル「今まで私に話しかけてくれる人なんて…………一人もいなかったから………」

箒「…………」

シャル「あ……その………シキシロさんだけじゃなくて…………箒達も話しかけてくれて…………嬉しかった」

箒「今まで……何もしなかったがな…………」

シャル「そ、それでもだよ………話しかけてくれたから……ね?」

箒「そう、だな……なら良かったよ………」

箒「…………」

シャル「ど、どうかしたの……?」

箒「実を言うと………シキシロが何故来ないのか………私は知ってるんだ」

シャル「!」

箒「それを含めた事を、向こうで話そうと思う………だが、姉さんの説明とはかけ離れているし、私の主観も入っている」

シャル「………」

箒「もしかするとシャルロットには辛い話になるかもしれない………姉さんのした話以上に………」

箒「お前が………一夏から受けた事は私も知っている………」


箒「それで……お前が苦しんでいた事も………」


シャル「ッ……」

箒「それでも、お前が聞きたいというのなら………着いて来てくれ」

シャル「…………」

シャル「うん……分かった」




箒「すまない、遅くなった………先に来ていたのか、セシリア」

セシリア「ええ、丁度あなたと入れ違いでしたわ」

シャル「………」

ラウラ「これで、全員揃ったな」

鈴「あんた………もういいの?」

シャル「………まだ……決めれてない………」

ラウラ「だがお前は決める為に来たのだろ」

シャル「……うん」

鈴「ならいいじゃない。セシリアも同じなんだし」

セシリア「確かにそうですが…………」

箒「考える時間があまりなかったのだから………それをとやかく言っても仕方ない」

セシリア「はい………」

ラウラ「私は……その時間が長かっただけだがな………」ボソッ

鈴「…………」

箒「ラウラ………私が言おうか?」

ラウラ「いや、私が言う…………」

ラウラ「これは、私が言わねばならない事だ」

シャル「………」

ラウラ「今の一夏は『別世界の一夏』であって、私達の知る『あの』一夏ではない………これは知っているな」

シャル「うん……」

セシリア「ええ」

ラウラ「一夏はある朝、部屋の鏡に吸い込まれ『あの』一夏と入れ替わったんだ…………それも、もう随分と前の話だ」

ラウラ「私達の見ていた一夏が大人しくしていたのは、私達を欺く為ではない。こちらの一夏の様な真似をする気がなかったのと………」

ラウラ「私達を………恐れていたからだ」

ラウラ「事あるごとに暴力を振るい、憎み、蔑み、理不尽に虐げる………向こうの私達とはまるで別人の私達を」

ラウラ「だが一夏は私達からどんな仕打ちを受けようと………決して誰も憎まなかった………そんな事が出来る奴ではなかったからだ………」

ラウラ「私は………その優しさにつけ込み、一夏にすがり付き………あまつさえ、元の世界に………帰れなくしたんだ…………」

グッ……

箒「…………」

ラウラ「これではこちらの一夏と何も変わらない………そう分かっていてもやめられなかった…………」

ラウラ「それがただ一夏を苦しめているだけだとは分かっていた」

ラウラ「だが、私のもとから離れて欲しくなかった………私だけを、見ていて欲しかった」


ラウラ「私の事『だけ』を愛して欲しかった………」


ラウラ「そして………一時のわずかな自己満足と、それに伴った罪悪感だけが募った………」

ラウラ「そして最後には………自分勝手な理由で………一夏を遠ざけ………突き放した」

ラウラ「俺にはもう、お前しかいない………そう血を吐きながら言う一夏から………私は逃げた………」

ラウラ「弱かった……自分の心を………守りたかったが為にッ…………」

鈴「………」

ラウラ「全ては……私の愚かな思いが招いた事なんだ………」

ラウラ「その為に一夏は苦しみ続けた………私はそれを知りながらも……何も出来なかった………しようともしなかった………」

ラウラ「そうやって………私は一夏から逃げ続けたんだ………こんな事態になるまでずっと、ずっと……….」

ラウラ「だから……一夏がああ成ってしまったのは…………私のせいなんだ」

ラウラ「何が『私達』だ………一夏を憎しみで狂わせたのは『私』だ」


ラウラ「あのケダモノを作ったのは私だ」


箒「…………」

ラウラ「馬鹿な女だろ?」

ラウラ「自分が傷付くのが怖かったから逃げたのに………勝手に罪悪感に苛まれて…………」

ラウラ「そ……その結果が………この………有り様だ…………このっ……通りだ」グスッ

ラウラ「馬鹿で………足りぬ大馬鹿に加えて……ううっ………半端者とは……な…………こっ……滑稽だろ……?」ポロ…ポロ……

ラウラ「こ……こんなっ……ひっく……哀れな女………」ポロポロ

シャル「………」

セシリア「ラウラさん……」

ラウラ「ひぐっ………ううぅっ………」ボロボロボロ

ソッ……

ラウラ「ほ…….う……き………?」ボロボロ

箒「もういい……もういいんだ、ラウラ…………そんなに自分を責めるな」フルフル

ラウラ「だが………私は……私はッ………!!」ボロボロボロ



シャル「ボーデヴィッヒさんだけのせいじゃないよ…………私だって……一夏に酷い事したから………」


ラウラ「デュノア………」グスン

シャル「私ね、いつも一夏の事を怖がってばかりで………でも、それじゃ駄目なんだって………思ってすらなかったんだ………」

シャル「周りの人達の事だって………こんな私にどう接すればいいのか分からなかっただけなのかもしれないのに………意味もなく怖がってた………」

シャル「皆が私を遠ざけてる気がして………何で私ばっかりがこんな目に………って思ってて………一人で泣いてた………」

シャル「だから………一夏が入れ替わった事なんか全然分からなかった………まともに見る事も出来なかった」

シャル「それどころか目の前に立たれだけで…………思い出して……怖くなって………足が竦んで………」

鈴「でも………それはーー」

シャル「仕方なくない事なんだよ………私ね、この四日の間に考えたんだ」

シャル「それで一夏がどれだけ辛い思いをしたか、って………」

シャル「私が少し悲鳴を上げただけで、一夏は織斑先生や皆から暴力を振るわれてた」

シャル「それを私は助けようともしなくて………一夏が辛い思いをしているのも知らずに………自分だけ嫌な事から逃げてばっかり…………」

シャル「だけど………一夏は違った………」

シャル「あの時だって………一夏はこんな私を助けてくれたんだ………あんな大怪我してたのに………」

シャル「自分が一番痛くて辛いはずなのに………今すぐにでも逃げ出したいはずに………」

シャル「あんな状態で戦える訳ないのに無理矢理戦って………ただ怯えるだけの私を守ろうとしてくれた………」

シャル「ちょっと考えたら分かる事だよね………」


シャル「こっちの世界の一夏なら『そんな事』なんか絶対にしないから」


シャル「目の前にいる一夏は……私達の知ってる一夏じゃない、って…………分かる事………だったのに………」

箒「………」

シャル「なのに私は………一夏を撃った………」

シャル「酷い事もたくさん言った………君さえいなければなんて…………全部君のせいなんだって…………」

シャル「多分………ボーデヴィッヒさんや箒が止めてくれなかったら…………本当に一夏を………殺そうとしてた………」

ポロ…ポロ………

シャル「馬鹿……だよ………全部一夏の……せいなんて………そんな訳ない…………何も悪くないのに………」ポロポロ

シャル「一夏がああなっちゃったのは……私のせい………」ポロポロ

セシリア「しかしーー」

箒「待て……まだ話の途中だ」ボソボソ

セシリア「わ、分かりました……」ボソボソ



シャル「だから……逃げ続けるのはもうやめるって……決めたんだ………… 」


グッ………


シャル「一夏からも………自分からも………」


ラウラ「………」

シャル「そうしないと……このままじゃ……自分が自分じゃ………なくなっていく………ような………気がして………」グスッ

シャル「そ、そっちの……方が……もっと………怖いから………」ポロ…ポロ……

シャル「ううぅっ………うぐっ………ひっぐ………だからッ………」ポロポロ

ラウラ「シャルロット……お前は強いな」

シャル「そんな事……ないよ………私なんか………」ポロポロ

鈴「ううん、あたし達なんて………あんたに比べればたかが知れてるから」

セシリア「確かに………敵いませんわね」

箒「まったくだ」

シャル「み……みんな………」グスッ

箒「セシリア……お前はどうだ?」

セシリア「私は………」

箒「………」

セシリア「…………」


グッ


セシリア「私はもう、迷いません」


鈴「という事は……」

セシリア「私も皆さんに同じですわ」ニコッ

鈴「よっしゃ!」

箒「そうか……それは良かった」

ラウラ「大丈夫なのか?お前はーー」

セシリア「ええ、もう大丈夫ですわ」

セシリア「………お二人の後ではしまりがないと思いますが………」

シャル「?」

セシリア「所詮私など、ボーデヴィッヒさんやデュノアさんに比べれば………たわいもありませんわ」

セシリア「ましてや幼馴染みである篠ノ之さんや凰さん程、一夏さんと深い仲だったという訳でもありません」

セシリア「言ってしまえば、私だけが皆さんよりも一夏さんとの関わりが薄い存在です」

箒「………」

セシリア「しかし、だからと言って私だけ、黙って指を加えて見ているだけにはいきません………」

セシリア「それで………私のした事がなかった事にはなりはしません………」

セシリア「あの時、私も一夏さんに救われた身………このまま何もしないのは無礼極まります…………」


セシリア「そして何より、そんな事は私からお断りです」


セシリア「何の罪もないあちらの一夏さんを傷付けたのは私も同じ………」

セシリア「皆さんよりも幼稚で………くだらない……….自分勝手な理由で、ですわ………」

ラウラ「…………」

セシリア「その大きな借りを返す為に、私は皆さんと行動を共にすると………決めたのです」

セシリア「ですので………私にも、一夏さんの為に何か出来ないでしょうか」

箒「分かった………これからどうすべきなのかを含めた全てを話そう」

セシリア「是非お願いしますわ」

鈴「っていうか、本当ならまだラウラの話の途中なんだけどね」

ラウラ「すまない………私が勝手に一人で泣き出して…………」

鈴「あ……いや……ち、違うって……別に責めてる訳じゃないから」

セシリア「ボーデヴィッヒさんにも………思うところがあったのですから、仕方のない事だと思いますわ」

シャル「ね、ねえ、箒……シキシロさんは何で来ないの?」

鈴「シキシロ?………あっ!」

ラウラ「……なるほどな」

箒「気付いたか、鈴、ラウラ」

シャル「?」

セシリア「シキシロ………入れ替えると………シロシキ、ですわ」

箒「そういう事だ」

シャル「!!」

シャル「それじゃあシキシロさんは一夏の白式だったの!?」

箒「そうだ。一夏の白式が実体化した姿だ」

シャル「実体化……そんな事が出来るんだ………」

セシリア「……………」

鈴「それに加えて、あたし達のISと違ってちゃんと人格まであるのよ」

シャル「そうなんだ…………でも……今考えると……シロシキを入れ替えてシキシロって……分かりやすいよね………」

ラウラ「確かにな、だがあの性格だ………咄嗟に考えたらそのままだったのだろう」

セシリア「あの性格?」

ラウラ「…………」

鈴「あれ?あんたって白式に会ってた?」

ラウラ「…………」

鈴「おーい、ラウラ・ボーデヴィッヒ~」チョンチョン

箒「何故白式の性格を知っているんだ?」

ラウラ「…………お前が、一夏を問い詰めに言った時から、私は盗聴していたからだ」

箒「何ッ!?」

鈴「………考える事は皆同じってわけね、あたしも箒の後付けて盗み聞きしてたから」

箒「………そうだな」

鈴「おかげで散々だったけどね……」

ラウラ「そ、そういえば……そうだったな………」

セシリア「あの………私も……事件直前の食堂での会話を盗聴していました………」

ラウラ「それは私もだ」

鈴「えっ、そうだったの……通りでリアクションが薄いはずよ………」

シャル「み……皆………盗み聞きは良くない……よ?」

鈴「はーい……」

セシリア「反論の余地もありませんわ……」

ラウラ「申し訳ない……」

箒「…………」

箒(ラウラにも泣いているところを見られていたのか………恥ずかしくなってきた………)

鈴(箒だけだと思ってたのに………ラウラにも見られてた…………)

ラウラ(私にも……二人のような勇気があれば………こんな事にはならなかったのかもしれないな…………)

セシリア(やはり……皆さんに遅れを取っていますわね…………ただでさえ、理由が薄いというのに………)

シャル(やっぱり盗聴するものなのかな………私もした方が良かったのかな…………)

箒「と言う事はつまり………シャルロット以外は白騎士の事を知っているのか」

セシリア「ですわね」

ラウラ「そうなるな」

シャル「え……ええ?………白騎士って……?」

箒「分かりやすく言うと、一夏の白式には二つのコアがあるんだ。一つは新しく作った白式のコア」

鈴「二つ目は十年前に現れた白騎士のコアよ。当時の姿のまんま実体化出来たりするのと………一番大事な役割があったのよ」

シャル「役割?」

ラウラ「一夏の『負の感情』を『抑制』する事」

セシリア「白式が暴走してしまわないように、でしたわね」

シャル「で、でも………!」

箒「ああ、白式は暴走してしまった」

鈴「けど白騎士は今まで何度も一夏を乗っ取って暴れようとしたのを止めていたのよね」

ラウラ「止めきれなくなったのだろう………」

ラウラ「それ程、抑え込んでいた負の感情が強くなり過ぎたのかもしれない…………」

箒「ラウラの言った通り………一夏は憎んでいたんだ………」


箒「私達や、この世界を」

~IS学園地下室~

束「嘘の自分も過去も消~えて~なくな~る~♪」ピピピピッ

バシュンッ

クロエ「ただいま戻りました」

束「always~探してた~♪おっ!おかえり~クーちゃん♪」

クロエ「御命令通り、学園のIS及びその操縦者達へのナノマシン投与が終了しました」

束「うむ、これで少しはちーちゃんの腹の虫も収まるかな。よーくやったー褒めて使わすぞ~よ~しよしよし」ワシャワシャ

クロエ「差し出がましいようですが、何故あえて障害を増やすのですか」クシャクシャ

束「煩わしい、そう思わせる為だよ」

束「大人達の役割はね、子どもの前に立ち塞がる事なんだよ。それこそ、煩わしいくらいにね」

クロエ「そうですか」

束「そうだよ♪」

クロエ「して、今しがた何をしておられたのですか?」


束「勝手に登った演壇で躍る道化気取りには、ご退場願おうと思ってね」


束「その為の準備だよ」

クロエ「いよいよ、ですか」

束「うん、今までは鼻にもかけず『見逃しておいてあげてた』けど………流石に『おいた』が過ぎたからね~」


束「自分が一体何処の誰に喧嘩を売ったのか、目に物見せてあげないとね」


ギリッッ……


クロエ「ッ………!!」ビクッ

束「だからさ………クーちゃんにも色々頼む事になるけどいい?」ニコッ

クロエ「はい……構い………ません………」

束「んー?どうかしたのー?」

クロエ「い、いえッ……何でもありません………」

束「あ、そうだ!えーっと……ちょ~っとだけ待ってね」ガサゴソ

クロエ「…………」

クロエ(やはり箒様を傷付けられた事が、そんなにも腹立たしいのですか………)

束「はい、これ預かってた黒鍵ね」

クロエ「ありがとうございます」

束「ファントム何とかをワールド・パージでやっちゃって。機体そのものから変更したけど使用に関しては変化ないから」

クロエ「IS委員会についてはいかがいたしましょうか」

束「無視していいよ」

束「それに委員会は今頃、初のIS連合軍を動かすのに手間取ってるから、その間に好きなだけ暴れてもいいよ」

クロエ「了解しました」

束「ごめんね、本当なら私が潰してあげたいんだけど、私には大切な役割があるから」


束「泣きべそかいてる二人の頭を、優しく撫でる役割がね」


クロエ「構いません。それは私には不可能な事です」

束「うん……そうだね………」

束「後これもお願いね」ヒュッ

クロエ「………」パシッ

クロエ「これは………」

束「箒ちゃん達のISだよ………ちゃんと返してあげてね」

クロエ「了解。それでは、任務へと向かいます」

束「いってらっしゃい」フリフリ

~廊下~

コツッコツッコツッ

千冬「…………!」

千冬(地下から誰か上がってくる?こんな時間に一体誰が………)


ピーン ガラガラガラッ


千冬「お前は………」

クロエ「こんばんは」ペコリ

千冬「束に用がある」

クロエ「申し訳ございません。束様は今、誰ともお会いになられません」

千冬「そこをどけ、直接話をつける」

クロエ「私がどいたところで無意味です」

千冬「私だとしてもか」

クロエ「はい、その通りです」

クロエ「それに今日はもう、休まれてはいかがでしょうか。連日の事件の後処理でさぞかしお疲れの様子ですが」

千冬「……………」

クロエ「それでは、私には任務がありますので、これで失礼致します」ペコリ

千冬「待て、何処に行く……任務とは何だ」

クロエ「あなたに話す義理はありません」


コツンコツンコツン………

千冬「………」

ギリッ

千冬(言って聞かぬとは分かっていたが………本当にこうなるとはな………)


コツッコツッコツッコツッ


千冬「………」スッ

千冬『山田先生、聞こえますか』

山田『はい、聞こえていますが………何故この秘匿通信を?』

千冬『こちらの動きを束に悟られない為です』

山田『篠ノ野博士に、ですか?』

千冬『そうです。束が不穏な動きを見せていますので………教員方は後どれくらいで動けそうですか』

山田『説明によると明日には完治するそうですが………もし、体内にナノマシンが残るようなら作戦には参加出来ないと思います』

千冬『そうですか………最悪の場合、私と山田先生を含めた数人で……束を止めなければなりません………』

山田『難しい話ですね………相手が相手ですので』

千冬『そちらのハーゼに何か変わった動きはありましたか』

山田『いえ、特に変わった動きは見られません。予定通り明日の午後からは全員で秋葉原出かけるとの事です』

千冬『………分かりました。監視はもう結構です、付き合わせてしまってすいません』

山田『いえいえ、それと………篠ノ之さん達は帰って来ました?』

千冬『無事に帰ってきましたが………何故ですか?』

山田『いえ、別に大した事ではないんです………副担任とはいえやっぱり自分の持った生徒達の事は気になるので………それでです』

山田『とにかく、全員無事で帰ってきてくれて良かったです………いなくなった時は何事かと思いましたから』

千冬『そうですね……私もホッとしています』

山田『出来る事なら………このまま何事もなく終わって欲しいです…………』

千冬『…………』

山田『織斑先生は篠ノ之博士と友達なんですよね?でしたら、何とか説得したり出来ませんか?』

千冬『なるならとっくにそうしています』

山田『す、すいません…………そう……ですよね………浅はかな発言でした………』

千冬『………』

山田『すいません織斑先生、私はこれから格納庫に用があるので通信を終了します』

千冬『分かりました。長時間の監視、お疲れ様でした』


ピッ


千冬「私だって………そう思っているよ………」

~食堂~

箒「それで、今に至る訳だ………」

シャル「………」

箒「薄々気付いてはいたんだ………一夏は時々……別人のようになる時があった………私が刀を向けた時もそうだった………」

箒「一夏自身はそれに気付いている様子はなかった。だが私は………それを知りながらも言わなかった………言えなかった………」


箒「その時の一夏が………とても『おそろしい』と思えたから…………」


箒「今思えば、あれが白式の暴走の前触れだったのかもしれない」

ラウラ「…………」

箒「あの戦いの時だって………鈴は一夏が私達を守ろうとしている、と言った」

鈴「あたしにはそう見えてたのよ………一夏が、あたしの知ってる一夏だったから…………」

鈴「でもあんたは………その時『一夏が死にに行ったとでも言うのか』………そう言ったよね」

箒「ああ………あの時私には……一夏が『戦いを求めている』ようにも見えた………それも、殺し合いを………」

鈴「こいつを倒すのは俺だ、って言ってたのは…………白騎士が『抑えきれていなかった』から………あんなに…………」

セシリア「思い出すだけでもゾッとしますわ………あの時の一夏さん…………」

箒「私に勇気があれば………もっと速くに一夏のそばにいていれば…………こんな事にはならなかったのかもしれない……………」

鈴「…………」

箒「私が…………」



「お話の途中、失礼します」


ラウラ「ッ……お前は!!」

クロエ「お久しぶりーーいえ、この表現は適切ではありませんね。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

セシリア「ラウラさんと……同じ顔!?」

鈴「何者よ……あんた………」

シャル「ドイツ軍の人………?」

ラウラ「何故お前がここにいる!?」

箒「落ち着け、ラウラ………姉さんが連れて来たんだ………」

ラウラ「そ……そうなのか………」

クロエ「そうです。そして私は、束様の命令によりここに来ました」

箒「姉さんが?………何の用だ?」

クロエ「箒様と、そのご友人のISの返却です」スッ

箒「!!」

鈴「あたしの甲龍!………はあ~やっと帰ってきた~」

セシリア「やはり自分のISがないと落ち着きませんわね」

シャル「う、うん……そうだね………いつも大事に持ってるものだから………」

ラウラ「………」スッ

クロエ「…………」

クロエ「それでは、私はこれでーー」

箒「待て!………姉さんは何か……言っていたか」

クロエ「ちゃんと返してあげてね、それだけで他には何も言われませんでした」

箒「…………」

クロエ「よろしいですか」

箒「ああ………もういい」

クロエ「失礼しました」スッ

コツンコツンコツン………

ラウラ「…………」

鈴「う~ん、特に変わった感じは……しないわね」

シャル「何もいじってないんじゃないかな………」

セシリア「そうですわね……篠ノ之さんの紅椿ならまだしも………私達のISに手を付けるでしょうか」

ラウラ「何もしていない、そう考えるのが妥当だな」

鈴「何よ、箒と仲良くしているお礼にパワーアップぐらいしてくれてると思っただけよ」

箒「私のISにも何かしてある気配はない………」

ラウラ「微調整したかっただけなのかもしれないな………それか何かの新機能を搭載したか」

シャル「私達はそのついで……だったりするのかな………?」

鈴「何か新機能ある?」

箒「いや、多分……そんなものはない」

セシリア「でしたら何故、篠ノ之博士は『私達』と『私達のIS』をわざわざ集められたのでしょう………腑に落ちませんわ」

シャル「ほ……箒は紅椿があるからだけど………私達は鼻にもかけられてなかった………よね?」

ラウラ「福音事件の時はそうだったな。私達に微塵の興味すら無かった」

セシリア「ですから、先日まで篠ノ之さんと一緒にあの何処かも分からない場所で過ごさせたのが腑に落ちないのですわ………」

箒「私達をあそこにいさせた間に………一夏に何かをした…………のかもしれないな…………」

箒「白式の暴走を調べる為に」

鈴「いやいや、まさかそんな………」

箒「そのまさかを平気でするのが姉さんだ」

鈴「…………」

シャル「もしかして私達は………その何かをするのに邪魔だったから………ISも取り上げて………一夏に会いに行けないようにして…………」

セシリア「その何かを行った、と」

シャル「だからIS学園じゃない何処かに、連れていったんじゃないかな…………」

ラウラ「…………」

ラウラ「なあ……篠ノ之博士は………本当にお前の話を信じたのか?ちゃんと全て聞いてくれたのか?」

箒「ああ、聞いてくれた、信じてくれたんだ………姉さんだって血も涙もある『同じ人間』だ………きっと分かってくれたんだ」

ラウラ「本当に『そう』なのか?私にはどうしてもそうは思えない………むしろ、あしらわれているようにしか思えない…………」

箒「もし………『そう』じゃないのだとしたら………私は姉さんを許さない」

ラウラ「………なら何故、私達は…………一夏から遠ざけられたんだ」

箒「信じたからこそだ。だからこうやって私達を一夏から遠ざけたんだ………」


箒「暴走の引き金となった私達を………」


セシリア「私達が………また一夏さんを暴走させてしまうと………そう仰るのですか」

箒「その可能性がある、そう言っていた…………次に暴走すれば誰にも止められない事は………ISを作った姉さんが一番理解しているはずだ」

セシリア「………」

シャルロット「私達のISを返したのは………一夏に会いに行ってもいい、って事なのかな………?」

箒「さあ………もはや何が起ころうと、絶対に私達が一夏に会えなくしたから…………ISを返したのかもな…………」

ラウラ「…………」

鈴「じゃあどうすんの?このまま大人しく自分の部屋に帰って、博士が一夏に何かするのが全部終わるまで寝っ転がってる?」

箒「そうだな………それもありかもしれないな」


箒「所詮私達は、向こうの私達の代わりにはなれないのだからな」

シャル「駄目だよ……!」

箒「分かっている……本気ではない」

ラウラ「本当にそうか?私には…….少しも冗談のつもりには見えなかったぞ」

箒「………」

鈴「箒の言う事も一理あるわ。やってらんないわよ………あたし達に対してなんかこう……煮え切らないから……それがもどかしくて…………」

鈴「あたし達は、あたし達なのに………変に気を使わせちゃってるような気がして…………」

箒「結局……私達が勝手に一夏のそばにいれたと………思っていただけだったのかもしれないな………」


箒「私達は、あいつのそばにいけなかったんだ」


鈴「そうかもね………はぁ………」

セシリア「…………」

シャル「ふ………二人とも……」

ラウラ「それでも、お前達は一夏のそばにいようとしたのだろ…………私とは……違ってな………」

箒「そうだが………」

鈴「だから何だって言うのよ……結果はこの様よ………」

シャル「え……えっと………」

セシリア「…………」グッ



ダンッッ


セシリア「いい加減にしてくださいまし!!いつまで愚痴や自責や後悔ばかり口にして落ち込むつもりですの!!」


セシリア「今すべき事はそんな事ではないはずです!!」


セシリア「それに!!この私やデュノアさんを放ったらかしにしないでください!!」

セシリア「ええそうですわ!!私達はあなた方と違ってあちらの一夏さんの事など全く知りませんでした!!知ろうともしてませんでしたわ!!」

セシリア「ですが私達は!!自分の意思を伝えた上で、こうしてここにいるのです!!」

セシリア「それではあまりに身勝手ではありませんか!!」

シャル「セシリアさん……お、落ち着いて………」

セシリア「いいえ、デュノアさん!!ここで黙ってはなりません!!負い目があるのは私達も同じですのよ!!」

シャル「う、うんっ……そうだよね」

セシリア「そういう事ですわ!!分かりましたか!!」ビシッ

鈴「セシリア……」

箒「そう……だったな……すまない…….…」

ラウラ「情けないところを見せたな………」

セシリア「全く、これだから下々の人は………やはり、私のように優秀で気高いエリートの手助けがないといけませんのね」

鈴「ふんっ、庶民的で悪かったわね」

ラウラ「優秀で気高いか………戦闘中に突然泣き崩れた奴の台詞とは思えないな」

シャル「そうなの?」

セシリア「なっ………ち、ちちち、違いますわ!泣いてなんかいませんわ!」

ラウラ「じゃあ、あれは何だったんだ?」

セシリア「あ……あれはですね………その……えっと………」

箒「やっぱり泣いたのか?」

セシリア「………!」

セシリア「そう!ちょっと目にゴミが入っただけですわ!」

鈴「なにそれ」ズルッ

シャル「あ、あはは……分かりやすい誤魔化し方だね……」

鈴「ねえねえ、ラウラ。あたしだけでいいから聞かせて」

箒「待て、私も聞きたい」

ラウラ「いいぞ、あれは丁度お前達がーー」

セシリア「とーにーかーく!!」

セシリア「今は私の事よりも、これからどうするかを話すべきではありませんくて?!」

セシリア「ここには四人の代表候補生と、篠ノ之博士の妹がいますのよ?………全く何も出来ないという訳ではないはずです」

箒「ISも帰ってきた事だ………強行突破するか」

シャル「な……生身の人を相手に………ISは……駄目なんじゃない………?」

箒「そうも言ってられないだろ」

シャル「で、でも………」

セシリア「学園にも、まだISはありますわ」

シャル「………」

ラウラ「だが動ける数は少ない………一応、対人戦も想定しておい方がいい」

鈴「あたしは全然いけるわよ?ISが駄目でも徒手空拳で戦えるように鍛えてたから」

シャル「私はその………スパイだったから………」

ラウラ「私はISが出来る前からの軍人だ」

セシリア「私だって、対人訓練ぐらいは受けてますわ!」

鈴「でもあんた近接戦とかてんで駄目よね?」

セシリア「そ、それは……そうですが………」

ラウラ「ハンドガンでの射撃は出来るか?」

セシリア「ええ、ハンドガンと言わず銃ならばその種類を問いませんわ」

鈴「その口ぶり………ラウラ、あんた部屋に銃でも隠し持ってるの?」

ラウラ「いや、入学時にきょ……織斑先生に没収された」

セシリア「では………」ジィー

シャル「ち、違うよ……!スパイだから持ってたけど………私も没収されたからもうないよ!」

箒「私はISの相手に回る。対人戦は得意ではない」

鈴「じゃあISはセシリアと箒とあたし、対人戦はシャルロットとラウラね」

セシリア「分かりました………」

鈴「その方がいいでしょ?ラウラ」

ラウラ「対人戦は出来るのではなかったのか?」

鈴「具合を見て加勢するから、最初の内は本職に譲るってだけよ」

箒「そうか………なるほどな」

セシリア「どういう事ですの?」

鈴「目には目を、歯には歯を、ってやつよ」

箒「さっき見かけたのだが、今この学園の警備を行っているのは学園の教員とラウラと同じ眼帯をした部隊だった」

セシリア「その部隊の警備なら突破出来る、と」

ラウラ「そういう事だ………それに」

シャル「それに?」

ラウラ「私の部隊が相手ならば、現隊長である私が隊員達に負ける事はない」

箒「頼もしい限りだな」

セシリア「負ける訳にはいきませんものね」

シャル「あ、あの!それなら………ボーデヴィッヒさんが通してくれって……頼めばいいんじゃ………ないのかな?」

セシリア「そんな事が可能なのですか?」

ラウラ「いや、恐らく不可能だ。私がいくら頼んだところで通しはしないだろう」

シャル「や……やっぱり………そうだよね…………」

セシリア「やはり強行突破しかありませんか………」

ラウラ「だが………もしかすると………….」

鈴「もしかすると?」

ラウラ「………話せば通してくれるかも………しれない奴がいる。あくまで可能性がある、と言うだけだが………」

箒「それでも、確かめてみるだけの価値はある」

鈴「そうね、すんなり一夏に会いにいけるんだもの」

ラウラ「そう、だな…………」

シャル「ど、どうかしたの……?」

ラウラ「いや………大した事ではない………気にするな」

鈴「その人には連絡つかないの?」

ラウラ「任務中は私的通信を一切しないんだ………だから……何度かけても駄目だった…………」

セシリア「とても厳格な方なのですね………」

シャル「でも……いい人なんだよね?訳を話せばきっと分かってくれるよね?」

箒「ラウラ……どうなんだ?」

ラウラ「………明日、直接会って話してみる………」

~特設隔離室~

一夏「…………」

バシュンッ

束「やっほーご機嫌いかがかな、少年。夜ご飯だよ~♪」

一夏「…………」

束「あれ?おーい、聞こえますかー?」

束「ま、いいや。とりあえず置いとくからちゃんと食べないと駄目だよ?」カタン

一夏「いきなり来て………何なんですか……答えなら………まだ……出てませんよ………」

束「うん、そうだよね………知ってた」

束「たかがほんの数時間悩むだけで答えなんて………出ないよね」

一夏「…………」

束「だってさ、そんな簡単に答えが出るものなら………そこまで迷って、考えて、苦しんで…………悩む事なんかないよね?」

一夏「…………」

束「きっと君は……今まで素直過ぎたんだよ」

束「ほんの偶然か何かでISが動かせるって分かって、周りの言われるがままにIS学園に入って………」

束「クラス代表になったり、襲撃されたから戦ったり、ちーちゃんの偽物と戦ったり、福音事件に巻き込まれたり、訳の分からない連中と戦ったり………」

束「もっと悩めばいいんだよ。誰だって『そう』なんだから」

束「何かに悩んで、悩んでばっかりで………それでも生きて、やっと答えを見つけて………でもまた何かで悩んで…………」

束「そうやって生きてる内に、いつの間にか強くなってる………人間ってそんなものなんだよ」

束「誰かの意思に流されてするんじゃなくて、自分の意思で何かをするからね」

一夏「…………」

束「だけどね、それでもね………時々選択を迫られる時があるんだよ」

束「どうしたらいいのか分からないぐらい………難しい選択、辛い選択を………」

束「犠牲にする勇気が必要な選択をね」

束「これも誰だって『そう』なんだよ………あのちーちゃんだって、死んじゃったスコールだって、今生きてるクラリッサだって、私だってそう」

束「ただ君の場合は『今がその時』なんだよ………これはどうしようもない事なんだと思う」

一夏「…………」

束「でもね、例え頭の中がグチャグチャでも、片目左腕をやられて血が出ていても、どれだけ逃げ出したくても」


束「それはやらなくちゃいけない事なんだよ」


束「だから………ね?」

一夏「…………」

一夏「束さん………少しだけ………箒達に会わせてもらえませんか………」

束「んー?何で?」

一夏「会いたくなったんです………今まで平気だったのに…………急に……寂しくなった、みたいな気がするんです………」

束「それはこの前言っていた誰のものかも分からない感情?」

一夏「それでもいいんです………さっきまで俺は………誰でもいいから殺してやりたい程…………」

一夏「何かが憎くてしかたなかったんです………」

束「………」

一夏「でもそれが終わったら…………急に胸に穴が空いた……みたいな感じがして………虚しくて…………」

一夏「だから………少しだけでいいんです………会わせてください……」

束「…………」

グッ……

一夏「お願いします……束さん………」

束「…………」

一夏「束さん……」

束「………」

束「無理………会わせられない」

一夏「何で……」

束「暴走した時、戦っていた私や楯無ちゃんを『無視して』箒ちゃん達を『狙った』よね?」

束「理性を失っていたのに、箒ちゃん達を狙った………ちゃんと見てたよね?………箒ちゃん達の怯えた姿を」

一夏「ちッ、違うッ!!……違う………違うんです……あれは………俺じゃない…………」

一夏「俺じゃないんです!!」

束「いつ暴走するか分からない、そんな状態で箒ちゃん達と接触して………もしも何かの弾みで暴走してしまったら………」

束「間違いなく箒ちゃん達が死んじゃうんだよ」

一夏「そんな………」

束「だから、その可能性が否定出来ない以上、箒ちゃん達と会わせる訳にはいかない」クルッ

一夏「待って…….ください……束さん!」

束「許してとは言わない………けど私にも、大切なものがあるから」

ピッ

束「分かって……それを守りたいからこうするんだって………」

バシュンッ

一夏「そんな………束さん……待ってください…………」

一夏「俺はただ…………皆に会いたいだけなのに………何で…………」

一夏「何で!!」バキッ

バリーンッ

一夏「何で……何でこうなったんだよ!!俺が何をしたって言うんだよ!!」

一夏「何もしてない!!しなかったッ…………俺には何も出来なかったんだよッ……!!」

一夏「なのにッ……なのに何で!!こんな事になったんだよ!!」

一夏「畜生………畜生!!何なんだよッ………俺が一体……何をしたんだよ!!」ガスッ

ガシャーンッ

一夏「俺は何もしていない!!したのは全部あいつなんだ!!」

一夏「俺じゃない!!俺じゃないんだ!!」

一夏「なのにこれ以上俺をどうしようって言うんだよ!!だったらせめて俺が何をしたかったのか教えてくれよ!!」

一夏「俺のしてた事は正しかったのか!!?間違っていたのか!!?」

一夏「教えてくれよ!!」


一夏「俺はッ……俺は今まで何をやっていたんだぁぁぁぁぁ!!」


バシュンッ

「お、おおお、落ち着いてください」
「無駄よ、力付くでいくしかないわ」
「くっ……何て馬鹿力……!」
「全員で押さえて!!」

一夏「やめろ!!離せッ……離せ!!」

一夏「もう嫌だ!!こんなの俺は望んでなかったのに!!何で!!」

一夏「誰か俺を助けてくれ!!」

一夏「俺をこんな世界でーー」


バンッ


一夏「ひ……と………り…….に…………」グラァッ

ドサッ………

クラリッサ「………」

「お姉様!?」
「と、どうしてこちらに?」
「それにこれって……」

クラリッサ「束博士がいると聞いて来たら………麻酔弾が一発余っていたのでな」

「今の内よ。ほら、壊れたそっちのやつ拾って」
「はい……にしても、派手に暴れましたね……マドカよりも………」
「これ見てよ……綺麗に砕けてる……」
「火事場の何とか力、ですね………」

クラリッサ「………後は頼んだぞ」

「「「「了解」」」」

ピッ バシュンッ

「お姉様は篠ノ之博士に何の用があるんでしょうか」
「私も気になります……」
「こら、二人とも手を休めない」
「そっち持って、私はこっち持つから」
「はーい」
「私、拭くもの持ってきますっ」

~廊下~

束「やあやあやあ、丁度私も探してたんだよ~」

クラリッサ「そうでしたか、それは自分も同じです」

束「奇遇だね。で?探した理由は?」

クラリッサ「明日、ついに決行なさるのですか」

束「うん、時間がないかもしれないからね」

クラリッサ「ハーゼに休暇を与えてくださったのはその為ですか」

束「その前に、生徒達諸々の避難誘導とかもやってもらうけどね………休暇はその後」

クラリッサ「成る程……私の考えなど、とうの昔に御見通しでしたか………」

束「同じ人間だからね。ある程度は分かっちゃうんだよ」

クラリッサ「なら、千冬についてはどうですか」

束「………勝手に『こんな事』するのは悪いとは思ってるよ…………でも、やっぱり『今のまま』じゃ………悲しいから………」

クラリッサ「…………」

束「でも大丈夫、ちーちゃんならきっと大丈夫だよ」

束「だから君は、戦うだけでいい」

クラリッサ「…………」


束「君の思うがままにね」

今日はここまで。
相変わらず束さんがよく喋ってます。主人公が喋らなくなって、周りが喋ります。
次の投稿は地の文があるかもしれません。

クラリッサ「それにしても………私に直接会って話がしたいとはな………」

ラウラ「私が頼れる者は……数少ないからな」

クラリッサ「…………」

クラリッサ「変わったな、ラウラ」

ラウラ「………そう、だな…………」

クラリッサ「ここに来る前なら、こんな事は出来なかった」

クラリッサ「これなら、私達が入学を推し進めた甲斐もあったというものだ」

ラウラ「………確かに……私は変わった………変わってしまった」

ラウラ「………自分で思っている以上に、弱くなった………身も、心も…………」

ラウラ「クラリッサに勝てた………あの時よりもずっと………ずっと弱くなってしまった………」

ラウラ「怖いんだ………このままでは私は………何も成せなくなって………しまいそうで…………」

グッ……

クラリッサ「私にはそうは思えん。いやむしろ、それでいい」

クラリッサ「誰だろうと『そう』だ。恐怖を知らない者などいない」

ラウラ「…………」

クラリッサ「そんな顔をしなくても大丈夫だ。お前なら大丈夫だ、私や皆がそうだと知っている」

俯くラウラの頭を、クラリッサはそっと撫でた。

クラリッサ「お前には、恐怖に打ち勝つ強さがある」

ラウラ「クラリッサにも……怖いものはあるのか?」

クラリッサ「私はたくさんあるぞ。自室を燃やされる事や期間限定品が売り切れる事。それにハーゼの誰かが死ぬ事、二度と戦えなくなる事………数え出したらきりがない」

ラウラ「そ、そうか………」

クラリッサ「以外か?」

ラウラ「ああ……かなり、驚いたよ………」

クラリッサ「心外だな………私とて、木の股から産まれた訳ではない」

少し照れたように、ラウラから視線をそらしたクラリッサは微笑んだ。

クラリッサ「いや、こんな事なら私は『そう』産まれてきていた方が、良かったのかもしれないな」

優しい微笑みが消え、クラリッサは冷たくどこか哀しげな顔をした。

ラウラはそんなクラリッサから視線をそらした。

前まではこんな事はなかった。

だが今は、そんな彼女を見ていられなかった。

ラウラ「………姉の様なクラリッサの事………私は何も知らない…………」

クラリッサ「私が………お前の姉………?」


わずかに戸惑ったクラリッサは、すぐさまラウラに背を見せるように立ち上がった。

クラリッサ「時間だ。お前は避難しろ」

ラウラ「待て!……お前一人で何をする気なんだ?」


クラリッサ「織斑一夏を、白式を、倒す」


クラリッサ「それに私一人ではない。篠ノ之博士もいる」

ラウラ「駄目だ!お前と一夏が戦うなんて!」

クラリッサ「このまま彼を放っておけば、いずれこの世界を滅ぼす悪魔に成り果てる」

ラウラ「ッ……そんなッ………今度こそ暴走してしまうかもしれないんだぞ!?」

クラリッサ「今しかない。彼が『そう』成ってしまう前の、ただ『今がその時だ』」

クラリッサ「それに彼は二度目の暴走時、何らかの要因で機体に殺されかけた。今度暴走したのなら、彼は白式に殺されるだろう」

ラウラ「だが……そんな保証はない………無謀だ…………」

クラリッサ「確かにこれは無謀な賭けだ。今の私達に勝算や勝機は………万に一つもありはしないのかもしれない」

ラウラ「他の奴に………任せられないのか………?」

クラリッサ「もしそうならば、篠ノ之博士はとっくにそうしているはずだ」

ラウラ「ッ………」

クラリッサ「もしもここで私がやらなければ、全てを失う事になってしまう」

ラウラ「………」

クラリッサ「だが私はそれは出来ない。それだけは、決して」

ザッザッザッ

ラウラ「待ってくれ………行くな……行かないでくれ………」

クラリッサ「………」ザッザッザッ


ラウラ「行くな!!クラリッサ!!」


ザッザッザッザッ……


ラウラ「ッ………クラリッサ………!!」

歩いていたクラリッサが止まった。

クラリッサ「………お前をこの学園に入れて正解だったと思う…………ドイツにいた頃、お前は私に似てきてしまっていたからな」

空を見上げて言ったその言葉には、どこか感嘆のようなものが含まれていた。

ラウラ「何を言ってるんだ……それじゃあまるで………死にに行くようじゃないか!!」

クラリッサ「お前はもう、分かっているのだろ?………私は、織斑一夏と戦ってみたくなったんだ」

わずかに振り向いたクラリッサは、哀しそうに笑った。

クラリッサ「だからな……お前は…………」

おもむろに眼帯を外したクラリッサは振り返り、金色の瞳でラウラを睨みつけた。

クラリッサ「私の様には成るな」

クラリッサ「くだらん御題目を並べてまで、仲間や成すべき義務すらも放棄する様な女には」


クラリッサ「戦いの為に全てを捨てる様な、こんな哀れな女にはな」


ラウラは何も言えなかった。

それどころか、睨みつけるクラリッサを見る事すら出来なかった。

クラリッサが、本人の言った通りだった事は知っていた。

一夏と戦う理由も、絶対に止められない事も、既に分かってしまっていた。

それでも、クラリッサを止めたかった、止まって欲しかった。

小さな肩を震わせ、わすがに嗚咽がもれるラウラをしばらく見つめたクラリッサは振り返った。

そして一度も振り向く事なく、淡々としつつも、どこか浮かれている様な足取りで歩いて行った。

一人残されたラウラは、己の無力さを噛み締めていた。

ラウラ「止められなかった………止めなければ………いけなかったのにッ…………」

ラウラ「一夏と……クラリッサを………戦わせてしまった………!!」

ガンッ………

ラウラ「私のせいだ………私が『こう』させてしまったんだ………」

ラウラ「もしも………もしもどちらかが死んでしまったら………」

ラウラ「私が……殺したんだッ………!!」

グッ………

ラウラ「必ず止める………止めなければならない………私が………」

ラウラ「どんな事をしてでも……必ず………!!」


ザッザッザッザッ

クラリッサ「ふふっ……まさか、この私が姉とはな」

クラリッサ「何一つ、満足に教える事も出来なかったこの私が、か………」


「あら~?何一人でニヤニヤしてるのかしら~クラリッサ~」


クラリッサ「中尉ッ!?それに……お前達!!」

「水臭いわよ、クラリッサ。私とあんたの仲じゃない」
「え、えへへ……来ちゃいました」
「お尻……痛い………」
「お姉様、長話し過ぎですよっ」
「私達だって話したかったんですからねーっ!」
「お姉様のいけず!私達に内緒で~!!」
「お姉様だけずる~い!」

オオー!!ソウダソウダー!!ズルイゾー!!

「行き遅れ~!!」
「そんなんだから彼氏も出来ないんだー!!」
「大馬鹿お姉様ー!!」

ワイワイガヤガヤ

中尉「うふふ〜馬鹿クラリッサ〜」

クラリッサ「何をしている!!お前達も避難しろ言ったはずだ!!」

少尉「一人で格好付けようたって、そうはいかないわよ」

クラリッサ「お前までそんな事を言うのか!!お前達には、ラウラを連れていってくれと頼んだはずだ!!」

中尉「あら~?おかしいわね~私達はその頼みに了解した、とは一言も言ってなかったわよ~?」

少尉「そうよ。つくづくこうなるだろうとは思ってたもの」

中尉「それに~……私達は『ハーゼの皆』で秋葉原に行きたいのよ~?クラリッサとラウラちゃんが欠けてたら話にならないわ~」

少尉「そうでしょ?」


ソウダソウダー!!


中尉「そ~いう事よ~クラリッサ~」ニコッ

少尉「ラウラと秋葉原行きたい〜、とか言ってたのはあんたでしょうが」

クラリッサ「お前達………」

「あのね〜お姉様~『ここは俺に任せて先に脱出しろ!』とか格好良くやりたかったんでしょうけど、そうはいきませんからね」
「現実はアニメみたいにはいかないもんです!!」

クラリッサ「全く……軍人としては下の下だぞ、貴様等」

「それ言うならお姉様だってそうじゃないですかー!」
「避難誘導が終わったから休暇に入ってます!今の私達は軍人ではありません!」
「お姉様に付き従うただの私兵です!」
「ハーゼは一蓮托生ですぜ!!」

中尉「うふふ~懐かしいわね~私達はいつでも、勝手に突っ走るクラリッサに着いて行ってたものね~」

少尉「それは今も変わらないわよ。一緒に走ってたラウラが、隊長になろうともね」

「そうです!!だから!!」
「私達も連れて行ってください!!」
「私達だって戦えるんです!!」
「何せお姉様仕込みですからね!!」

クラリッサ「だが、上の上だ………いいだろう、ならば」

クラリッサ「総員、傾注!!」

ザンッッ

クラリッサ「我々はこれより、篠ノ之博士の指揮の元、防衛作戦を行う」

クラリッサ「これは軍、政府。そして、IS委員会の命令によって行う作戦ではない」

クラリッサ「この世界を守る為に、我々が、篠ノ之博士の意思に従い独自に行う作戦である」

クラリッサ「この作戦にどんな意味があるのか、何故この作戦を行うのか、それは篠ノ之博士にしか分からない」

クラリッサ「もしかすると、篠ノ之博士は白式を暴走させ、絶たれた夢の無念を晴らそうとしているのかもしれない」

クラリッサ「だが、私は彼女を信じたい。一人の大人として、一人の人として」

クラリッサ「そらを飛ぶ、と言う人の未来を託したISが、人の未来を否定するものに成って欲しくはないと」

クラリッサ「誰よりも『そう』願っているのは彼女だと」

クラリッサ「人を思う気持ちを持った彼女が、この世界を滅ぼす悪魔を作り出すはずがない」

クラリッサ「私は、その可能性を信じたい。いや、彼女が『そう』であると信じる」

クラリッサ「そして、篠ノ之博士の言った『この世界を守る為』の作戦を、今この時より発動する」

クラリッサ「作戦を説明する」




ザッザッザッ………

ラウラ「………」

箒「どうだった?」

ラウラ「………」フルフル

箒「そうか………」

鈴「あんたの部隊も戻って来てた訳だし、やっぱり強行突破するしかないわね」

ラウラ「そうだな………最早こうなってしまっては、そうするしかない」

セシリア「一夏さんについて何か聞けまして?」

ラウラ「一夏は戦えない状態にある、暴走すれば死ぬかもしれない、一夏を巡って学園側と衝突が起きる」

ラウラ「私の部下が一夏が戦う、と言ったところだ」

シャル「たったの一人で戦うの………?」

ラウラ「ああ……たったの一人で、だ」

セシリア「もしかしてその方は………アルトアイゼン・リーゼですか」

ラウラ「そうだ」

セシリア「やはり、ですか………」

シャル「そ、そんな………」

鈴「まさかとは思ってたけど本当にあんたの部下だったとはね………」

箒「アルトアイゼン・リーゼ?何者なんだ?」

ラウラ「第一回、第二回のモンド・グロッソ大会で、織斑教官と互角に渡りあった程の腕を持っている」

箒「千冬さんと……!?そんな人が一夏と戦うのか!?」

ラウラ「だから止めるんだ。何としても、どんな手を使ってでも止めなければならないんだ」

ラウラ「必ずな」

箒「………」

ラウラ「それに一夏は………誰か俺を助けてくれ、そう言っていたそうだ」

シャル「じゃあ、今の一夏は……一人ぼっちなんだ………」

箒「行こう………一夏に待ってもらってではなく。今度こそ私達が、私達の意思で、一夏に思いを伝えるんだ」


箒「一夏のそばに、寄り添う為に」


ラウラ「ああ、そうしよう」

鈴「そうね、一人ぼっちは寂しいから」

シャル「うん、私達が一夏を助けないと……!」

セシリア「今度は、私達が一夏さんをお守りする番ですわ」

箒「行くぞ!!」


キィンッ………


箒「ッ………起動しないッ!?どうしたんだ赤椿!!」

鈴「何でこんな時に………動けってのよ!!このポンコツ!!」

シャル「今朝は動いてたのに……何で………!!?」

セシリア「まさか篠ノ之博士はこの為に私達のISを………!」

ラウラ「何かがISの動きに干渉している………やられた………そういう事だったんだ。だからISを返したんだ」

鈴「最先悪いわね!もう!」

箒「仕方ない………本来の作戦に切り替えるぞ」

シャル「け、結局………こうなっちゃったね………」

セシリア「はあ……ですわね……」

箒「やる事は変わらない。ただ武器が変わっただけだ」


真っ暗な空間に俺はいた。

何もない所に、一人ポツンと立っていた。

一夏「何だここ……俺はどうなって………」

突然、後ろから何かが俺の体に巻きついた。

一夏「何だ!?ワイヤーブレード………ラウラの………」

振り向く時に、一瞬体の動きが止まった気がした。

後ろには、右手を突き出したラウラがいた。

一夏「どうしたんだよ?何でこんなーー」

ラウラ「このッ……化け物め!!」

一夏「!!」

箒「逃げろラウラ!!殺されるぞ!!」

一夏「箒?それに……殺されるってどういう事なんだよ?!」

体に巻きついていたワイヤーブレードが、少し動いただけで千切れた。

ラウラ「AICが効かない!!?」

箒「今の内に逃げるぞ!!」

ラウラ「一体何処へ逃げるというんだ!?こうなってしまっては、何処へ逃げても同じだ!!」

ラウラ「このまま一夏を放っておけば、いずれ全てを破壊するぞ!!」

一夏「ちッ、違う!!俺はそんな事しない!!」

箒「しかし……!!」

ラウラ「あの化け物を野放しにする訳にはいかない!!」

一夏「違う!!違うんだ!!聞いてくれ!!」

鈴「箒!ラウラ!何やってんのよ!!」

セシリア「速く逃げてくださいまし!!」

鈴「こんな化け物に敵う訳ないでしょ!!逃げるのよ!!」

セシリア「このままでは殺されてしまいますわ!!」

一夏「鈴……セシリア………!!」

突然後ろから、胸を刀で貫かれた。

一夏「う……あぁッ………束さん!!」

俺が振り向いたのと同時に、束さんは後ろへと飛び退いた。

胸の傷口は、一瞬で治ってしまった。

束「こッ……こんなもの!!私は認めない!!消えろ!!」

一夏「束さん……違うんです!!俺は!!」


ガシッ


一夏「ッ!?」バッ

マドカ「ごの……悪魔が….……貴様は……存在してはならない………絶対に消してやる!!」ボタボタボタ

マドカ「消してやる!!」

一夏「マ、マドカッ……!?やめてくれ!!」バッ


ドスッ……


スコール「フフフッ……ゲホッ……ありがとう………」ツー

一夏「スコールさん!?」

スコール「私を、殺してくれて」ニコッ

スコール「私はこれでいいの………最後まで……聞いてくれてありがとう………」

ボタボタボタボタ………

一夏「あ……あああッ……….あああぁぁぁぁ!!」

虚ろな目をしたスコールが、血塗れの手で一夏の頬を撫で、ゆっくりと崩れ落ちた。

一夏「スコールさん!!スコールさんッ!!」


ザカンッッ


一夏「うあッ……!!」

オータム「死なせねえ!!もう誰も!!俺の仲間は死なせねえ!!」

大剣を構えたオータムが、一夏に突進した。

一夏「来ないでください!!俺をーー」

その時、無意識に体が動いた。

右手の雪片弐式が、オータムの胸に突き刺さった。

オータム「やりッ……やがっ………たな…………!!」

一夏「ち、違うんです!!これは……これは!!」


千冬「何故だ……一夏………」ボタボタボタ……


一夏「ちッ、千冬姉!!?」

千冬「よくも……私を………!!」

血を吐きながら、千冬は一夏を掴んだ。

千冬「この……ばけ…も……の……が………」

そう言って、千冬は血を吐いて力尽きた。

一夏「違うッ!!俺じゃない!!」

体を伝う生温かい血、千冬からゆっくりと滴り落ちて、一夏の体を染めていった。

箒「よくも千冬さんを!!」

束「ちーちゃんの仇!!」

一夏「違う!!これは違うんだ!!違う違う違う違う違うッ!!俺じゃないッ………俺じゃないんだぁぁぁぁぁ!!」

その時、一夏の後ろから光の線が通り過ぎた。

目の前に迫っていた箒と束が、無数の刀で串刺しになった。


白騎士「否………お前だ、私だ」


一夏「白騎士ッ!!?」

突き刺さった刀が炎へと変わり、箒と束の体が炎に包まれた。

それだけではなかった。

白騎士を除いた全てが、炎に包まれた

燃え盛る炎、全てを燃やし、声にならない悲鳴をあげながら誰かが燃える。

一夏「箒!!束さん!!皆!!」

白騎士「どうした?何を拒む。お前は『この有様』を望んでおったのだろう?」


白騎士「この世界の全てを、灼き尽くす事をな」


歪な笑みを浮かべる白騎士。その目はこの状況が本当に楽しくてたまらない、そんな目だった。

一夏「い、嫌だ!!俺はこんな事は望んでなかった!!ここは地獄だ!!俺は生きたまま地獄に落とされたんだ!!」

一夏「誰かッ……誰か助けてくれ!!出してくれ!!」

その声は燃え盛る炎の音に掻き消された。

白騎士「そう、ここは地獄ぞ」


白騎士「お前が作り出す地獄ぞ」

一夏「うわあぁぁぁぁぁッッ!!」

カバッ

一夏「ハァ……ハァ………ッハァ………」

一夏「畜生………何なんだよ………」

一夏「夢……だったのか………?けど………俺は……ばッ……化け物にッ………」

一夏「夢じゃ……なくなる………あれが夢じゃなくなる………!!」

一夏「あれを……あの地獄を!!俺が………!!」

一夏「……紙………?」

ペラッ

一夏「矢印………部屋のドアが空いてる……!?」

ヒタヒタ……

一夏「誰もいない………何で………誰か!」


バシュンッ


一夏「ドアが!?……クソッ………駄目だ……開かない」

一夏「進めっていうのか………でも………何処に行けばいいんだ…………」

ヒタヒタヒタ………

一夏「誰が……何の為に………こんな事を………」

>>602

修正

カバッ→ガバッ


ヒタヒタヒタ………

一夏「静か過ぎる………本当に誰もいないのか…………?」

一夏「どこにも人がいない………空っぽの部屋ばかり………」

一夏「隔離棟はとっくに抜けた………ここは学園内のはずなのに………」


シューッ ガコンッ


一夏「隔壁まで………戻るなって事なのか…………」

一夏「誰がこんな事を……俺を何処に行かせたいんだ………そこで何を…………」


ガンッッ


一夏「何なんだよ………何があるっていうんだよ………今の俺に何をさせようっていうんだよ…………」

一夏「これ以上苦しめっていうのか………いや違う……違う、もしかすると…………」

一夏「俺は……殺されるのか………?」

一夏「まさか……そんなはずない………そんなはずない………よな…………」

ヒタヒタヒタ……

一夏「ッ………!!」ダッ

タッタッタッ………

一夏「そんなはずない!!あるはずがない!!」

一夏「誰か!!いないのか!!いるなら返事してくれ!!」


タッタッタッ………

一夏「アリーナ……頼む……誰でもいい………誰かいてくれ………!」


ザッ……


一夏「…………」

一夏「いる訳………ないか…………」

一夏「ははは……皆逃げたんだ………」

一夏「俺が……また………暴走するから………」


シューッ ガコンッ


一夏「誰が……何で………ここで俺に何をさせたいんだ………?」

一夏「こんな所に俺を来させて………一体何をしようっていうんだよ………何もないじゃないか…………」

一夏「いや………違う……このままじゃ………なくなるんだろうな」

一夏「俺が………」


重い金属音が一夏の上、それも少し高い位置からした。

振り向いた一夏はその音の正体が、黒いISを展開し、ガトリングガンを構えていた誰かだったのを一瞬見た。

そして、激しい銃弾の嵐が一夏を襲った。

一夏「白式がッ……!!?」

その中で何故か、自分の意思とは関係なく白式が展開していた。

だが、全身が鉛のように重く感じられ、一切の機能が作動しなかった。

舞い上がった土煙が一夏の姿を隠し、銃撃が止んだ。


その次の瞬間、黒い塊が一夏の目の前を通り過ぎ、刃が首を捉えていた。


弾き飛ばされた一夏は黒い塊が消えた方向を見た。

だが、今度は左から首を斬られ、土煙に消えた。

それを捕まえようと、後を追ったが土煙に遮られる。

次の攻撃に備えようとした一夏は、ある事に気づいた。

雪片弐式が、喚び出せなかった。

一夏「何でなんだよ!何でこんな時にッ………」

困惑の次に頭をよぎったのは、あの夢の光景。

千冬に突き刺さった雪片弐式と、串刺しになった箒と束だった。


混乱した一夏は、真上からの袈裟斬り、そして逆袈裟斬りを喰らった。

一夏「ッ………うあッッ………」

体勢を整える間もなく、一夏はタックルで押し飛ばされ、アリーナの壁面に叩きつけられた。

土煙から飛び出してきたものを紙一重でかわすと、その正体が分かった。

高熱を放つ剣、黄金の瞳、黒いISを展開した人物は

一夏「クラリッサさん!!?」

そう、それは間違いなくクラリッサだった。

だがそれに答える事なく、クラリッサはアリーナの壁面もろとも一夏の首を切りつけた。

一夏「がッッ………やッ……やめてください!!俺は戦いたくーー」

返しの一撃、さらに水平斬り、重い縦斬りとクラリッサは繰り出した。

一夏「クラリッサさんッ……クラリッサさん!!」

それを一夏は何とか腕部装甲で防ぐ。

だがその次には斬り上げに腕を弾き上げられ、無防備になった一夏の顎をクラリッサの膝蹴りが命中した。

さらに、クラリッサは右腕から放ったワイヤーアンカーで、一夏に電撃を喰らわせた。


一夏「うあッッ……あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

身体中の神経が焼き切れるような痛みが走り、一夏の意識が遠のく。

クラリッサはワイヤーで一夏を引き寄せ、胴体を横一閃に薙いだ。

一夏は地面に崩れ落ちた。

振り向いたクラリッサが、一夏の元へと歩き出した。

一夏「がッッ……あぁッ………かはッ………」

一夏は麻痺した体で必死に逃げようとした。

だが、電撃により立ち上がるどころか、這いずる事すらままならなかった。

クラリッサは再び盾に付いたガトリングガンを撃った。

引き金から指を離さず、一歩ずつクラリッサは一夏に迫り、静かに剣を構えた。

そして、剣を振り下ろした。

何度も何度も一夏に剣を振り下ろしたが、一夏に傷一つ負わせる事が出来なかった。

クラリッサは剣を捨て、一夏の首を掴みあげた。

一夏「あがッ………ぐッッ………ッ………!!」

息を吸おうと一夏はもがく。

一夏「ク……ラ……リッサ……さ………ん………!!」

首を締める力は増していく。

クラリッサは、まるで一切の感情がなくなったように無表情だった。

だが、一夏を見据えるその黄金の瞳には、抑えきれていない激情があった。


少しずつ、一夏の意識が遠のいていく。

抵抗も出来ず、完全に意識を失った次の瞬間。


突然、一夏がクラリッサの腕を掴んだ。


クラリッサは身の毛がよだつような恐怖を感じた。

それは彼女の本能的な部分が、何かとてつもない危険を察知したからだった。

何故ならその時、一夏が嬉しそうに笑っているのが見えたからだ。


暴走時の映像にあったのと同じ、あの顔で笑う一夏が。


すぐさまクラリッサはガトリングガンを撃ち込み、怯んだ一夏に蹴りを喰らわせて飛び退いた。

足元にある剣を拾い上げ、構える。


一夏は俯いたまま動かない。


クラリッサの頬を冷や汗が伝い、構えた剣と盾がわすがに震える。

崩れ落ちるように膝を付いた一夏が、突然苦しそうに咳き込んだ。

一夏「ゲホッゴホッゲホッ……ハァ……ハァ……ッハァッ………俺は……何を………」


一瞬で間合いを詰めたクラリッサの剣を、一夏は受け止めた。

一夏「ッッ………やめて下さいクラリッサさん!!俺は戦いたくないんです!!」

クラリッサ「これは戦いだ、戦争だ。お前と私の戦争だ」

剣に力が込められ、一夏が押され始める。

一夏「どうしてこんな事を!!」

クラリッサ「理屈で消せるものではない」

一夏は弾き飛ばされたが、次のクラリッサの縦斬りを受け止めた。

一夏「俺達が戦うなんてーー」

クラリッサ「私はただ、戦うだけだ」

一夏「駄目です!!」

クラリッサ「ならばどうする。その力で私を止めるか」


クラリッサ「それとも、私を殺すか」


その言葉に一夏が動揺したのを、クラリッサは見逃さなかった。

腹に蹴りを二発入れ、縦斬りを一夏に喰らわせた。

一夏は拳を地面にぶつけて後退を無理やり止めた。

クラリッサ「立て。立って戦え。織斑一夏」

クラリッサが、ガトリングガンを撃ちながら突進する。

クラリッサ「来い……来い………来い!!」

銃声の中でクラリッサが叫ぶ。

クラリッサ「戦え!!そして証明してみせろ!!お前の力を!!」

それはどこか、獣の咆哮に似ていた。

~管理室~

束「闘え……闘え………」

束「そして、もっと私を笑顔にしてよ」

バシュンッ

千冬「そこまでだ!束!」

束「やあ、ちーちゃん」クルッ

千冬「お前の気まぐれを、これ以上看過する訳にはいかない」

束「ならどうする?今すぐ学園の電力を停止させる?それとも、ISで二人を止める?」

千冬「…………」

束「どちらも出来ないよね。この学園のシステムを握っているのは私、復旧作業の時にちょっとやそっとじゃ破壊出来ないよう作り変えたのも私」

束「さらにはステルス衛星を使ったアンチインフィニットストラトスシステムにより、現在私が指定していないISは使えない」

千冬「まんまと一杯食わされたと言う訳か………連合軍もこちらには来ていない」

束「私は『重い腰を上げた』とは言ったけど、何も『この学園に来る』とは一言も言ってなかったよ?」

束「それに連合軍は今頃ISが使えなくて、世界各国に点在するファントム・タスクの『残り物』の武力制圧に手間取ってる頃だよ」

束「その根幹と呼べる部分は既に『潰し終えてる』から」

千冬「何……?」

束「そうでしょ?」

束「クーちゃん」


クロエ「はい、その通りです」


ドサドサッ………


千冬「なッ……いつの間に!?」

クロエ「彼女達には、少し眠って頂きました」

束「これで、ちーちゃんに打てる手立ては全てなくなった。いわゆるチェックメイトってやつだよ」

千冬「………初めから、こうするつもりだったのか………」

千冬「何故だ……暴走した白式の恐怖を一番知っているはずの、お前が………」

束「うぷぷぷ~っ、この私が恐怖だって?そんな訳ないじゃんっ、私ってば楽しくていつも以上に笑顔になってるでしょ~?ほら見て~♪」スッ


カタカタカタ……


束「ね?」

千冬「こんな事は今すぐやめろ。手遅れになる前に、クラリッサを止めろ」

束「止めないよ。止めたら本当に手遅れになるからね」

束「それに………ちーちゃんなら分かるでしょ?今のクラリッサは誰にも止められないって」

千冬「………」

束「仕方ないよね。普段は部隊思いな『優しい顔のクラリッサ』もいるのに、戦いを望む『怖い顔のクラリッサ』もいるんだよ、いちゃうんだよ」

束「でも、そのどっちもクラリッサなんだから、仕方ないんだよ」

千冬「だからと言ってそれを利用していいはずがない!!」

束「なら、ちーちゃんがあそこで戦えた?」

千冬「ッ………!!」

束「無理だよね。もしちーちゃんにそんな事が出来ていたなら、今頃『こうなって』なかったもんね………」

千冬「…………」


ギリッッ………


千冬「何故だ………何故……お前は……分からないんだ………そこまで知っていて何故、分かろうとしないんだ………」

束「分からない?私が?」

千冬「お前は………本当に世界を滅ぼす気なのか?!一夏の手を使って!!」

束「何で?」

千冬「お前のしようとしている事はそういう事だ!!許される事ではない!!」

束「それはどうかな?もしかしたら、とても哀しくて、でも『そうあるべき』事の為かもしれないよ?」


束「可能性を、信じているだけかも
しれないよ?」


千冬「そんな事、私の知ったことか!!お前のくだらん言葉遊びに付き合っている暇はない!!」

クロエ「………」

束「クーちゃんは下がってて」

千冬「お前を止める!!どんな手を、使ってでも!!」チャキッ

束「私のやることは誰にも邪魔させない」スッ


パチンッ


千冬「はぁッ………がッ………!?」グラァッ

千冬(何だ!?体が動かないッ……それに視界が………!!)

束「例えちーちゃんでも、私を止めることはできない」

カランカラン………

千冬「ううぅッ………ゲホッ………束………何を………」

千冬(頭が……ボーッとする……視界が…………チカチカする………それに……体が……重い…………)

束「残念だけど、ちーちゃんの役割は『今はここまで』だよ」

千冬「や……め……ろ………」

ソッ………

束「今までずっと、どんなに辛くても、泣きたくても一人で頑張ってきてたよね。だから少しだけ、今だけは休んじゃおうよ、ね?」


束「目が覚めた時には、全部終わるから」


千冬「わ……た………し………は………」ガクッ

束「…………」ハシッ

ギュッ………

束「お休み………ちーちゃん」

束「…………」スッ

束「さて、白式はどうなってる?」

クロエ「あの一瞬以降、目に見えた変化はありません。それよりも、このままではクラリッサ大尉が危険なのでは?」

束「クラリッサは、クラリッサに出来るだけの無理をしてるだけだよ」

束「そう、斯くして役者は全員演壇へと登り、愛憎と悲劇が幕を開ける…………しかしだからこそ、このショウはとってもとっても素敵で面白い」

クロエ「好き者ですね」

束「だってそうでしょ?」


束「このショウは二度と見る事の出来ない、今日限りの、とっても『素敵なショウ』なんだから」ニイィッ


クロエ「近頃どこか浮かれていらしたのは、そういう事でしたか」

束「科学者として、未知のものと対峙している時程面白いものはない。これは私が生まれ持ってしまった性、どうの仕様もない」

束「だから私はここで『こう』している。例えこれが………どんな結果になるとしても、どんなに抗ったとしても私は『それ』には逆らえないから」

クロエ「………」

束「それにね、私は『もういちど教えてほしい』んだよ」


束「可能性を、終わらない未来を」

クロエ「度し難い、全く以て度し難い方です。貴方は」

束「何を今更、言うのが二十年程遅かったね」

クロエ「世界を滅ぼしてまで、知りたいことなのですか?」

束「そこまでしないと、そうまでしないと、分からないことだから」

クロエ「狂っていますね。いえ、私も貴方のことは言えないのでしょう」

束「そう思う?正常と異常の境界線なんて誰に引ける?ふとした『きっかけ』で入れ替わらないって、誰に言える?」

束「もうすぐ分かるよ。一体何が狂ってしまっていたのか」

クロエ「そして貴方は『それ』を終わらせる為に、ここにいる」

束「うん。それとね、一つだけクーちゃんの言葉を否定させてもらうよ」


束「この世界は、滅びたりなんかしない」


クロエ「何故『そう』言えるのです」

束「とっておきの『切り札』がある。白式と言う名の『鬼札』に対抗出来るだけのね」

クロエ「なら何故使わないのです」

束「使うこと自体は簡単だよ。けど、私が使っても何の意味はないし、間違いなく世界を滅ぼす」


束「だから私は託した」


盾を使った突進を一夏に食らわせたクラリッサは、間髪いれずに斬りかかった。

右、左、と次々に繰り出される重い斬撃を一夏は何とか防ぐ。

クラリッサの剣は、千冬と戦った時から全く衰えていない。

むしろ、今はそれ以上の腕になっていた。

だが、一夏は気付いていないのかクラリッサの斬撃を確実に腕部装甲に当ててきている。

クラリッサは戦いが進む程に、白式が一夏の身体能力を向上させているように思えてならなかった。

クラリッサの口から笑みがこぼれる。

フェイントを混ぜた斬撃で一夏の腕を弾くと、ガトリングガンを構えると見せかけ、クラリッサは渾身の斬撃を繰り出した。

それを一夏は辛うじて防ぎ、大きく後退した。

クラリッサ「ハッ!反射神経はいいようだな。だが、これはよけられるか!!」

そう言うと、クラリッサは空へと飛び、剣を一夏の顔へと投擲した。

一夏は投擲された剣を弾いた時、ワイヤーアンカーが体を捉えている事に気付いた。

一夏「ッ!?しまった!!」

クラリッサ「目の良さが命取りだ!!」

一夏の体に電撃が走った。


次の瞬間、電撃を取り込んだ白式から放たれた赤い稲妻が、ワイヤーアンカーを伝い出した。


クラリッサ「何ッ!?」

急いでワイヤーアンカーを切り離すと、爆発と共に強烈な放電が起きた。

クラリッサ「遊びが過ぎたようだな」

そう言うと、盾に付いていた残弾の少ないガトリングガンをパージした。

一夏「こんな事をしていては駄目です!!このままじゃ白式が!!」

クラリッサ「知った事か。それに……言ったはずだ。戦いとは、元来命を奪い合うものだとな」

クラリッサ「これは、武器がただISになっただけのこと。まだ分からんのか」

加速したクラリッサの剣を、一夏は無理矢理掴んだ。

一夏「俺は殺し合いなんてしたくないんです!!」

クラリッサ「ならば覚えておけ。世の中には、手段の為なら目的を選ばない、どうしようもない者がいる事をな」

盾での殴打、逆袈裟斬りを一夏に喰らわせた。

よろめいた一夏は、クラリッサの両腕を掴み、力任せに壁まで押していった。

一夏「そんなッ………おかしいですよ!!クラリッサさん!!」

一夏「命を奪う事を嫌っていたのに、何でそんなに嬉しそうなんですか!!スコールさんに言った言葉は嘘だったんですか?!」

クラリッサ「嘘ではない。だが、戦いとなれば話は別だ」

そう冷淡な口調で言い、クラリッサは頭突きを数発放ち、さらに一夏の首元を薙いだ。

弾き飛ばされた一夏は地面を転がる。

クラリッサは、起き上がろうとする一夏の背中を踏みつけ、剣を突き立てた。

その時、白式のスラスターが作動し、クラリッサを押し飛ばした。


一夏は強く唇を噛み締め、アリーナの地面に拳を叩きつけた。

一夏「やるしか……ないのか………!!」

もしも暴走したら……。そんな不安と、夢の光景が何度も一夏の頭をよぎる。

握った拳が震える。

今の自分は、何が原因で暴走するのか分からない事を一夏は理解していた。

現にクラリッサに首を締められて意識を失った後、脱出していたのは暴走のおかげ。

そう考えると、このまま戦えば暴走してしまう気がしてならなかったーーそう成ると分かっていた。

クラリッサの言う、悪魔に成る事が。

本能のままに戦うだけの、化け物に成る事が。

しかし、クラリッサは戦いを止めてはくれない。

今の一夏は身体中が重く満足に動けない、雪片弐式は使えない、白式もほとんど機能していない。

そして、クラリッサの実力は遥かに上であり、攻撃に一切の躊躇いがない。

千冬を超える圧倒的な威圧感と、剣の腕。

勝てるはずがない。

逃げれるはずもない。


戦わない訳にはいかない。


一夏はゆっくりと立ち上がり、拳を構えた。

だが、体の震えはまだ止まってはいなかった。

己を鼓舞する叫びと共に、一夏はクラリッサに突進した。

右の拳がクラリッサの頬を捉え、振り抜かれる。

吹き飛んだクラリッサが体勢を立て直し、笑う。

クラリッサ「そうだ!それでいい!!」

一夏「俺は………悪魔じゃない!!」

~女子寮~

タッタッタッタッ………

箒(見張りに手間取ってしまった………急がねば……早く、一夏の元へ!!)

ガチャッ バタンッ

箒(クローゼットの中にーー)


「探してるのはこれかな?」


箒「たッ、鷹月さん!?」

鷹月「ほら、持っていきなよ」ヒュッ

箒「どうしてここに!?避難しろと言われてたはずだ!!」パシッ

鷹月「篠ノ之さんがまたとんでもない事しでかす気がしてならなかったからさ」ブーラブーラ


鷹月「それの後押ししようと思って」


箒「鷹月さん………」

鷹月「全く、青春だからって大概にした方がいいよ?」

箒「そういう鷹月さんこそ」

鷹月「ま、そうっちゃそうだけどさ。幸い、篠ノ之さんには心強い味方もいるみたいだし大丈夫かな」スクッ

鷹月「なんか急いでるみたいだし、細かい事は抜きで。とりあえずほら、出てった出てった」グイグイ

箒「わ、分かった」


バタンッ

鷹月「私はその辺の人捕まえて避難するから大丈夫、心配しないで」

箒「ああ………ありがとう、鷹月さん」

鷹月「いいよ、私には……こんな事しか出来ないから」

箒「いや、それでも………私には充分過ぎる」クルッ

鷹月「それじゃあ篠ノ之さん、討ち入り、頑張ってね」


ポンッ


箒「ああ!!」ダッ


タッタッタッタッ………


鷹月「武者働きせいよ~猛々しき女武者篠ノ之箒~」

鷹月「さて、私は避難しないと……」ダッ

ラウラ「………」ザッザッザッ

「あれ?隊長!?眼帯まで外して何してるんですか!」
「生徒には避難命令が出てたのですよ!?」

ラウラ「ここを通せ」

「ッ……駄目です!例え隊長と言えどきッ、聞けませんっ」
「し……篠ノ之博士の、命令で……か、彼を隔離室から出す訳にはーー」

ラウラ「ここを通せと言ってるんだ!!」

「ひッ……」
「お、お静かに願いますッ……!」ジャカッ

ラウラ「ほう……その銃で撃つというのか?」

ラウラ「この私を!!」

「ちッ、違いますッ!これは……その………」

ラウラ「私は死など恐れてはいない!!夢を捨てたあの日から、私は死んだも同然なのだからな!!」

ラウラ「だがな、一夏を救う為ならばこの命、投げ打つ覚悟など既に出来ている!!」ガシッ

グイッッ

「ッ……何を……!?」

ラウラ「さあ撃て!!」

「たッ、隊長……!!?」
「お、おおお、お止めください!!」

ラウラ「どうした貴様、怖気付いたか!!それでも誇り高きドイツ軍人か!!」

ラウラ「いいか、よく狙え!!そして撃て!!一発で眉間を撃ち抜かないと今度は貴様等が死ぬ事になるぞ!!」

ググググッ……

ラウラ「何を躊躇っている?!はやく撃ってみろ!!この私を!!」


「ッ……ッッ………!!」ガチガチガチッ
「た、隊長ぉ………」

ドゴッッ……ドサドサッ

ラウラ「…………」


ザッ……


シャル「ボ、ボーデヴィッヒさん………」

セシリア「…………」

ラウラ「…………」

ラウラ「なんだ、もう来ていたのか」

鈴「丁度来たのよね。そうよね、箒」

箒「あ、ああ……ついさっき………来たところだ」

ラウラ「そうか……セシリア、シャルロット、言っていた銃だ」ヒュッ

セシリア「あ、ありがとうございます………」パシッ

シャル「うん………ありがとう」パシッ

ラウラ「どうしたんだ?」

シャル「いや……その………」

セシリア「…………」

鈴「あんた………さっきの本気?」

箒「…………」

ラウラ「日本には、敵を欺くにはまず味方から、ということわざあるだろ?」

セシリア「そうでしたか……」

シャル「良かった………私はてっきり………」

鈴「欺いてどうすんのよ………まあ、そうならいいけど………」

箒「いや………」

ラウラ「何だ?」

箒「………何でもない。アリーナと隔離室、どちらに行くんだ?」

ラウラ「隔離室だ。恐らく警備は厚いだろう」

鈴「ふんっ、上等よ」

箒「セシリアとシャルロットは援護、私と鈴とラウラが切り込む」

セシリア「了解ですわ!」

シャルロット「わ、分かった!」




鈴「どりゃあぁぁぁぁ!!」ガスッッ

「ぐはッ……!」ドサッ

鈴「ハァ……ハァ……急いでんのよ次!!」クイックイッ

「ちょこまかと……飛んだり跳ねたり!」ジャカッ

ラウラ「こっちだ」ガシッ ガッッ

ズダンッッ

鈴「ナイス!」

ラウラ「気を抜くな」バッ

「すみません、隊長!まずはあなたから!」ジャカッ

シャル「………」ドンッ

「うおッ……やるな!」シャキンッ

セシリア「そこ!」ドンッ

「当たらん!!」スッ

箒「はあッ!!」ヒュボッ

「ショウグン!?しまっーー」

パキイィィン……

箒「ぜぇあぁぁッ!!」


ドゴッッ………ドサッ

「この……!」シャキンッ

シャル「………」ドンッ

「無駄だ!」キンッ

シャル「弾いた!?」

箒「私に任せろ!!」カキンッ

「やるな………ショウグン!」

セシリア「今度こそ!!」ドンッ

「なッ……にぃッ!?」
「うわッ……」
「はあッ!?どこから!?」

セシリア「今です!!」

鈴「おりゃあぁぁぁ!!」ゴスッッ

箒「でぇぇいッ!!」ドゴッッ

ラウラ「………」ガスッ ドゴッッ


ドサドサドサッ………


鈴「ハァ……ハァ……ハァ………」

箒「ふう………やはり狭いな」ヂキンッ

セシリア「そうですわね……ここは跳弾の危険性もありますからなおさら」シャパッ

シャル「まさか……ナイフで弾丸を弾くなんてね……」シャパッ

鈴「全力でやらないと……かわされるから……キツいわね」

セシリア「ええ、一瞬たりとも気が抜けませんわ」

箒「将軍………」

ラウラ「セシリア、シャルロット、来たぞ」

セシリア「はい!」

シャルロット「任せて……!」

ドンッドンッドンッドンッ

ラウラ「………」ダッ

箒「切り込む!」ダッ

「冷静に対処しろ!」
「隊長はともかく片方は長物持ちだ!」
「壁に追い詰めろ!!」シャキンッ

カキィンッ

「おらぁ!どうしたどうした!!」ググググッ

箒「なッ……こいつッ………!!」ギギギギッ

「…………」ヒュバッ トンッ

ラウラ「しまッ……!!」ガシッ

ググググッ……

「隊長が捕まった。今よ!」
「「「了解!!」」」

セシリア「ラウラさん!!」


「隊長の顔……穴が空く……いいの………?」グイッ

ラウラ「あと……少しなのに………!!」

セシリア「小賢しい真似を………!!」

「悪いと思いますが今は!!」
「そうも言ってられませんので!!」

シャル「オルコットさん!」ドドンッ

キキンッ

シャル「なら!」ヒュッ

「遅いです!」ガシッ グイッ

シャル「うあッ……」

鈴「うおりゃあぁぁぁ!!」

「後ろッ………」ドゴッッ ドサッ

鈴「せやッ!!」バシンッ

「くうッ………まだです!」ガッッ

鈴「痛ッ………この……!!」

シャル「ごめんなさい!」ガシッ グイッッ

「ッ……ッッ………!!」ジタバタ

鈴「ラウラ!!」


「意外……回り込んだ……」ググググッ

ラウラ「このッ……!!」グッ

「効かない………」バシッ
「無駄な事を」キンッキンッキンッ

セシリア「どうすれば………!」

鈴「当たって!」ヒュバババッ

「ナイフなど投げても無駄だ」キキキキンッ

箒「どうかな」

「貴様ッ!?カハッ……」ドゴッッ

ドサッ

箒「篠ノ之流を……舐めるなよ」

「困った……このままじゃ………抜かれる………」ググググッ

ラウラ「ぁ……ぁぁぁあああッ!!」ブンッ

「………」クルクルッ スタッ

箒「はあぁぁぁッ!!」ヂキンッ ヒュボッッ

「イアイ……速い………初めて見た……」スッ

箒「かわしたッ!?うあッ……」ゴスッ

「ちょっと痛い……ごめんなさい………」

シャル「箒!!」

鈴「シィィィッッ!!」ギュルッッ

ゴキッッ………ガシッ

鈴「うッ、嘘でしょ!?思いっきり蹴ったのに!!」

「ジャッキー……ブルース……?凄い……今度ーー」バッ

ドンッ

「教えて……ね……」スタッ

シャル「オルコットさん!?駄目だよ、当たっちゃう!!」

セシリア「いいえ、当たりはしませんわ」ドンッドンッドンッ

「当たらない……遅い………」スススッ

ラウラ「これならどうだ!!」ダッ

鈴「あたしも!!」ギュルッッ

「合体技…….?」スカッ

ラウラ「………」ヒュンッ ヒュヒュヒュッ

「………」スッ スススッ

ズダンッッ

鈴「もう一丁ぉぉぉぉ!!」ギュルッッ

ゴキィッッ

ラウラ「はあッッ!!」グイッッ



ズダァンッッ


ラウラ「………」

セシリア「倒せ……ましたの……?」

ラウラ「ああ………久しぶりだと苦戦するな………」

鈴「ハァ……ハァ……いつから………ドイツ軍は……ハァッ………サーカスになったのよ………」

ラウラ「大丈夫か?」

鈴「ハァ…….あたし……よりも………ハァ……箒が………」

箒「私なら大丈夫だ……少し小突かれただけだ」

鈴「あっそ……あ、後ちょっとだけ……待って………」

箒「無理するな」

セシリア「隔離室も、もうそこですわね」

ラウラ「まさか壁に距離まで書いてあるとはな……束博士のする事は分からないな」

シャル「うん………それと、トラップがあるかもしれないから気を付けないとね………」

箒「…………」

鈴「よしっ、復活!もう大丈夫!」

ラウラ「急ごう、学園側が後ろから来ているかもしれない」



中尉「あら~ラウラちゃん。久しぶりね~後ろはお友達かしら~?」


シャル「!?」ジャカッ

セシリア「いつの間に!?」ジャカッ

ラウラ「中尉!!」

鈴「中尉?この人が?」

中尉「そうよ~はじめまして~ラウラちゃんと仲良くしてくれてありがとう~」ニコニコ

シャル「ど、どういたしまして………?」

セシリア「デュノアさん、銃を構えながら言う事ではありませんわ」

箒「囮、だったか………」

中尉「その通りよ~篠ノ之箒ちゃん、クラリッサはもう戦っているわ~」

ラウラ「………」

中尉「織斑一夏はまだ隔離室にいる、そう思ったでしょ〜?」

セシリア「私達は……随分と遠回りをしてしまったのですね」

鈴「それにしても、なんというかこう………調子狂うわね」

箒「油断するな、飄々としている様に見えるだけだぞ」

シャル「この人も………何か凄いのかな……?」

鈴「もう何が来ても驚かないわよ」

中尉「そうね~こうして見ると~クラリッサがニヤニヤしてたのも分かる気がするわ~」

ラウラ「クラリッサが……?」

中尉「そうよ~ラウラちゃん変わったもの~前よりもずっと、とってもとーっても素敵になったわよ~」

中尉「本当、学園に行かせて正解だったわ~」


ドンッ


セシリア「きゃっ!」

シャル「うわッ……!」

鈴「早撃ちッ!?」

箒「大丈夫か二人とも!?」


タンッ


ラウラ「ッ!?」ジャカッ

ゴリッ……

中尉「うふふ~流石ね~」

ラウラ「……そっちこそ」

箒「ラウラ!!」

ラウラ「手を出すな!!私がやる!!」

中尉「あら~頼もしいわね~」ニコニコ

鈴「………セシリア、シャルロット、後ろ」

セシリア「増援、ですわね」

シャル「マズイよ………」

ラウラ「頼む、このまま………一夏の所まで通してくれないか………私もこれ以上、お前達を傷つけたくない」

中尉「それは私やクラリッサ、そして隊の皆がどんな思いでこんな事をしているのか、分かった上での発言かしら~?」

中尉「それに~たったの五人で、私達や先生方、篠ノ之博士にクラリッサを相手にするつもりかしら~?」

ラウラ「………お前はもう、とっくに分かっているんだろ?」

中尉「そうね~………もしかしたら、そうかもしれないわね~」

中尉「けど~敵の私が何を言ったところで、ラウラちゃんは信じないと思うわ~」

ラウラ「…………当然だ」

中尉「なら答えは……銃に聞くしかないわね~」

ラウラ「………望むところだ」



グッ………


ラウラ「…………」

中尉「………」ニコニコ


グググッ………


ラウラ「…………」

中尉「…………」ニコニコ


バッ ドンドンドンッ


箒「どこを撃って……!?」


サササササッ


中尉「なかなかどうして~IS学園の先生方はやるわね~」

ラウラ「やはり来たか………!!」

鈴「今度は先生達!?」

セシリア「そのようですわね………」

シャル「え、えーっと……じゃあ後ろの人達は味方、なのかな………?」


ジャキジャキジャキジャキッ

「また……会った……ブルース……」
「今度こそ私達!」
「黒の双子の実力を見せる時!」

鈴「さっきのあいつ等!!」

箒「ほとんど復活したのか……」

シャル「武器まで変わってるよ………」

セシリア「どうやら、私達の時は手を抜いていたようですね………」

中尉「ここからは私達に任せなさ~い。全員、先生方に一斉射撃よ~」

ドガガガガガガガガッ

中尉「案内は少尉に任せるわ~早く王子様のところへ行きなさいね〜」

ギュッ ナデナデ

中尉「行ってらっしゃい、ラウラちゃん」ニコッ

ラウラ「中尉………恩に着る!!」ダッ

少尉「ほら、あんた達も行くわよ!!チンタラしてんじゃあないわよッ!!」ダッ

シャル「は、はい……!!」ダッ

セシリア「お願いします」ダッ

鈴「もうちょっと普通に言えないのかしら」ダッ

箒「文句言っていると置いてかれるぞ」ダッ


タッタッタッタッタッ………

少尉「アリーナまでのルートは第一、第三分隊が確保してくれてるわ。後は……せいぜい弾に当たらないよう祈る事ね」

ラウラ「助かる」

少尉「礼ならクラリッサに言いなさい。こうなる事を予想して、私達を篠ノ之博士の命令に背かせたんだから」

少尉「もっとも、そのクラリッサは今、アリーナで一夏くんと戦ってるけど」

ラウラ「………」

箒「姉さんとクラリッサさんは一体、何がしたいんだ………何の為にーー」

ガシッ

箒「ひぃッ!?何をする!!」バッ

「素人はお黙りッ!!あんたなんかに、クラリッサの複雑な胸の内は分からないわ!!」

箒「分からないと言おうとしたんだ!!私は!!」

シャル「ほ、箒……落ち着いて、お尻掴まれたからって怒り過ぎだよ………」

セシリア「器用な方ですね……あんな走り方でよく並走出来ますわね………」

鈴「ラウラの部隊って、何かしらの特殊技能を持った奴を集めた部隊なのかしら………あの人も鞭持ってるし」

少尉「全く、ラウラのお供があんた達みたいな素人女ばかりじゃ不安よッ!!じぇんっじぇんっ期待出来ないッ!!」

箒「何だと!?」

シャル「やめてぇ……少尉さんも煽らないで………」

鈴「ま、いっか」


『少尉、急いで戻ってきてください。学園側も必死の攻勢に出ました』

少尉『後ちょっとだけ頑張りなさい。もうすぐ着くから』

『了解』

ラウラ「どうしたんだ?」

少尉「第一分隊が大変なのよ。案内役で私が抜けたから、早く戻ってやらないと死人が出るわ」

ラウラ「…………」

セシリア「激戦区なのですか……」

少尉「ええ、学生が混じってるから相手にし難くてね。恐らく向こうはそれを狙ってやってるんでしょうけどね。全く………」

箒「形振り構ってられない、という事か………」

少尉「ムッキイィィィィーッ!!何よ!!この学園はどうなってんのよ!!どーいう教育してんのよもう!!無法地帯も大概にしなさいよッ!!」

少尉「学生はISで空飛び回っていればいいのよッ!!」

箒「………全くだ」

シャル「私達も……あんまり人の事は言えないんじゃないかな………?」

セシリア「手加減されていたとはいえ、一応交戦はしましたものね」

ラウラ「………急ぐぞ」

少尉「さーて、ここからは戦場よ!!しっかりと私のお尻に着いて来なさーい!!」


一夏の右腕と、クラリッサの左腕が交差し、一夏の顏を拳と盾が捉えた。

よろめきながらも一夏は、クラリッサの剣を蹴落とした。

クラリッサは驚愕と共に、口元に笑みを浮かべた。

クラリッサ「楽しませてくれる……!!」

一夏「はあぁぁぁぁッッ!!」

今度は二人の拳がぶつかり合い、互いに押し返されたが、次の一夏の拳がクラリッサを殴り飛ばした。

一瞬で体勢を立て直したクラリッサが放つ膝蹴りを一夏は止めたが、続く二発の踵落としは防げなかった。

地面を転がり、立ち上がった一夏にクラリッサは拳を喰らわせる。

そして再び背中を踏み付け、今度はスラスターを掴み、力任せに引き裂いて投げ捨てる。

クラリッサ「この程度か!!」

一夏「まだッ……だあぁぁぁッッ!!」

一夏はクラリッサの蹴りをかわして足元から脱出し、残ったスラスターを吹かして無理矢理ハイキックを放った。

よろめいたクラリッサは、ガードごと一夏に殴り飛ばされた。

だが、次の一夏の拳をかわし、激しいラッシュ、肘打ちを腹に放った。

そして、崩れそうになった一夏を渾身の拳で殴り飛ばした。


一夏は血を吐きながら、必死で息を吸おうとする。

だが、クラリッサに喰らった攻撃のせいで息が出来ない。

クラリッサは口元の血を拭うと、おもむろに蹴落とされた剣を拾った。

そして、加速しようとした時、驚くべきものを見た。

斬撃でひび割れた装甲、引き裂かれたスラスターを深紅の光が再構成していたのだ。

しかし、一夏はそれに気付いている様子はない。白式を見るどころかクラリッサを必死の形相で睨みつけていた。

クラリッサ「どうした!!私はまだここに立っているぞ!!まだここにいるぞ!!織斑一夏!!」

一夏は息を吸うのもままならない状況で、どうすれば勝てるのか、それだけを考えていたからだ。

そして、まだ一つだけ使っていないものがある事を思い出した。

クラリッサ「私を倒すのだろ!!ならば早くかかって来い!!死に物狂いでかかって来い!!」

一夏は修復されたスラスターを吹かし、イグニッション・ブーストでクラリッサに突進する。

クラリッサはそれを真正面から斬り倒した。

再びイグニッション・ブーストで加速してきた一夏の拳を剣で弾き返し、水平斬り、袈裟斬りを喰らわせる。

そして、剣を上段に構えた。

一夏「があぁぁぁぁぁッッ!!」

イグニッション・ブーストを遥かに越えた速度で、一夏が加速した。

クラリッサはそれに微動だにせず、逆に一夏に向かって踏み込んだ。



上段の構えから、雄叫びとともに放たれた凄まじい一撃が、一夏を叩き切った。


一夏は大きく弾き飛ばされた。

その胸に深く入った傷から、血が流れ出ている。

流れ出る血の恐怖、傷の痛みに耐えながら、一夏は立ち上がろうとする。

クラリッサは地面を砕きながら、一歩一歩一夏へと迫る。

クラリッサ「怯えろ!!竦めぇ!!ISの性能を生かせぬまま死んでゆけ!!」

その姿に一夏は思わず後ずさっていた。

最早一夏に、クラリッサに対抗する手立てはなかった。

雪片弐式はない、肉弾戦で勝てなければ、全力で行ったイグニッション・ブーストを全て見切られ、絶対防御すらなくなった。

そうして生まれた心の隙が、クラリッサの気迫に完全に圧倒されたのだ。

一夏「ハァッ……ぐッッ………ま……だ……だッ………まだ……終ってない………!!」

だが、それでもまだ、立ち上がろうとする。

地面に拳を叩きつけ、それを支えにする。

胸から流れる血が増そうとも、全身に力を込める。


一夏の目の前に迫ったクラリッサが、頭上に剣を構えていた。

それに一夏が気付いた時には、剣は振り降ろされ始めていた。

一夏が無我夢中で逃げようとしたその時だった。


一夏が、クラリッサの目の前から消えた。


空を切った剣が地面に突き刺さり、クラリッサはとっさに後ろを見た。

クラリッサ「暴走か………!!?」

一夏「何だ……今の………もしかしてーーううッ!!」

口から大量の血を吐き、一夏が膝をついた。

白式の超高速移動に、体が付いていけなかったのだ。

一夏「ガホッゲホッ………ゴボッ………ガハッ……!!」

地面を真っ赤に染めても、血が止まらない。

しかし、クラリッサは容赦無く袈裟斬りを放つ。

一夏は辛うじてそれを防いだが、その次の斬撃を喰らい、刃を掴んだが膝蹴りで蹴り飛ばされた。

クラリッサは手を止め、地面を転がり、血まみれになりながらも立ち上がろうとする一夏を見ていた。

クラリッサ「これが末路か………」

それは感情を押し殺している様な声だった。

握った剣が、震えていた。

クラリッサ「だが、これで終わりだ」

立ち上がった一夏は首元狙ったクラリッサの剣を受け止めた。

クラリッサ「まだ……動けたとはな」

一夏「もう………もうやめてください………!!これ以上は……….本当にッ………!!」

クラリッサ「私は言ったはずだ。ラウラからよく聞かされた、とな」

一夏「ッ……!!」

クラリッサ「私は全て知っている。この学園で、ラウラに何があったのかを………!!」

クラリッサの口元が、醜く歪む。

剣を押す力が増し、一夏の首元が超高熱に焼かれる。

クラリッサ「分かるか。理屈では消せんのだ。これは………『そんなこと』で消してしまえる程のものではない………こんな事でも………」

悲しげな目をしたクラリッサは、唇を噛み締めた。

クラリッサ「消せないんだ!!だから私はッ………こうやって戦うしかないんだ!!」


その時だった。


突然、白式から深紅の光が放たれた。

今日はここまで。
色々と詰め込み過ぎでごちゃごちゃしてます。稚拙な地の文だったり、キャラが多過ぎたり、台詞回しだったりで。
次の投稿も地の文があります。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月18日 (木) 02:40:35   ID: j6EIp_am

続き期待です

2 :  SS好きの774さん   2015年06月30日 (火) 06:11:21   ID: 5pT60fdt

続き読みたい。

3 :  SS好きの774さん   2017年02月04日 (土) 08:12:18   ID: vjP3e_E0

早く更新してくれ

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