千早「私たちは、インフェルノスターズ!」 (192)


 1. 響「自分たちの、インフェルノスターズ」
 響「自分たちの、インフェルノスターズ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363010814/)
 2. 真美「進めっ、インフェルノスターズ!」
 真美「進めっ、インフェルノスターズ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364826599/)
 3. 雪歩「私と、インフェルノスターズ」
 雪歩「私と、インフェルノスターズ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390925925/)

 以上のスレの続きになります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412866892


春香『もしもし、響ちゃん。フェルノス、本戦出場なんだよね! おめでとうっ』

響「ありがとな、春香! その言葉、千早たちにも言ってあげてよ」

春香『もちろん! それでねっ、この前みたいに大きなケーキを――』

 電話の向こうで、自分のことのように喜んでくれている春香。
 自分はその声を聞きながら、フェルノスの控室に向かっていた。

春香『――って感じで! みんな、喜んでくれるかな』

響「うんっ、絶対喜ぶと思う! ありがとっ」


春香『私、すっごく嬉しいんだ。みんながどんどん、トップアイドルへの階段を登っていること』

響「自分も感じてるよ。もう、何も言わなくても良いのかな、って時々思う」

春香『それはダメだよ! 響ちゃんのアドバイスが、みんなの実力を発揮させたんだと思うし』

 春香は強い口調で言った。自分が常々不安に感じていることを一掃するような声だ。
 完成形に近づいていくチームの中で、段々と必要でなくなること……誰だって怖いようなこと。
 
春香『プロデューサーの役割って、それぐらい重要だって感じるから』

響「……うん。そうだよな」

 自分はプロデューサーだ。迷っていても仕方ない。


春香『……あ、みんなのステージ見なきゃ! 小鳥さーん、パソコン貸してくださーい!』

響「パソコン?」

 そういえば今日の予選はインターネットで録画配信されるんだっけ、と思いだした。
 トップアイドルになれる『ほんの一握り』を決めるための2次予選……。
 自分もフェアリーとして出場するときに感じたことだけれど、世間の注目度はかなり高い。

春香『今から始まるんだ~、2次予選の放送』

響「そういえば、そうだったね。自分が言うのもなんだけど、楽しみにしててね!」

春香『フェルノスは何を歌ったの?』


響「ん、秘密」

春香『えー! それじゃあ、今から楽しみに見てるね!』

響「うん。じゃあね、春香!」

春香『頑張ってね、プロデューサーさん♪』

 電話をポケットにしまって、一息。
 それにしても、今回の曲選はかなり良かったかな、と思う。


 楽曲の選択を間違えて落選したユニットも、資料によれば何件かあるみたいだし――。
 今回はアップテンポな曲を選ぶユニットが多い中で、バラードを選んだウチが耳を捉えたのかも。

響「……よし!」

 楽屋のドアを2回ノックして、思い切り開ける。
 いの一番にかけようと思っていた言葉をそのまま、3人に聞いてもらう。

響「本戦出場おめでとう、みんな! 勝負はこれからだ!」


 着替えを終えていた3人は、自信に満ちた微笑みを返してくれた。
 自分に自信の無かった雪歩だって、亜美と自分を比べていた真美だって。変わったよなぁ。
 そうだ。全部全部、動いている。プラスの方向へ――。

真美「もちろんだよ、ひびきん!」

雪歩「一気にトップまで、突っ走ろうね」

千早「1ヶ月後まで、気は抜けないわね」

響「安心したぞ。全力出していこう!」


 「インフェルノスターズ」。
 心の奥から燃える強さを武器に、自分たちはもっと輝いていく。

 2次予選を通過して、本戦に出場する16ユニットのうちのひとつに、名を連ねた。


 □

千早「FO(U)R YOU 始まる幸せはどこだって、みんなといるからナレルの――」

 今日は千早単独の仕事に付き添っていた。番組ディレクターと今後の方針を話し合う予定があったのと、
 後は普段中々見られないソロの千早を見てみたいという思いもあった。

D「響ちゃん、どうも」

響「お疲れ様です!」

D「最近の千早ちゃん、すごいね。前よりも伸び伸びとしているし、『歌姫』って言葉がよく似合う」


 歌番組の収録中、副調整室。たくさんあるモニターには様々な角度から千早が映し出される。
 明るい表情で歌う千早を見ると、昔みんなにつっけんどんな態度を取っていた彼女を思い出す。
 本当に、千早も変わった。なにより、アイドルユニットのリーダーとしての自覚が芽生えているように思える。

響「千早は歌に一切妥協しませんからね。じ……私も、誇りに思ってます」

D「アイドル特集で呼ぶのが申し訳ないぐらいだね、一流のアーティストなのに」

響「いえいえ、千早はうちの事務所のアイドルですから。こういう企画に呼んでいただけて嬉しいです」

 自分がアイドルだった時にはタメ口で話しかけていたディレクターさんも、
 プロデューサーとなってしまえばお得意様の仕事相手。敬語を使うことにやっと慣れてきたかな、と思う。

D「正直オフレコだけど……他のアイドルとは歌のレベルが違うよ。多分、比べちゃいけないんだろうね」


 他のアイドルより、千早は歌に対して真剣に向き合っていると思う。
 本人の技術と魂がうまく交差し合った結果が、今の如月千早の歌なのかもしれない。

D「あ……あと響ちゃん、これなんだけどさ」

響「えっ?」

 ディレクターさんは丸まったルーズリーフのようなものを取り出した。
 なんだろう、授業中にこっそり渡す手紙……にしては大きいし、ぐちゃぐちゃだ。

D「これ、千早ちゃんがゴミ箱に捨ててたんだ。様子がおかしかったから拾ってみたら……」


響「……!」

 ディレクターさんが目の前で広げた紙には、趣味の悪い赤色で書かれた文字。

響「『弟殺し』……って」

D「ほら、昔彼女が週刊誌にこの件で有る事無い事、書かれたじゃない。まだ響ちゃんがアイドルだったとき」

響「また、脅迫されてる……?」


D「やっぱり知らなかったか……。千早ちゃんは少し元気が無かったけれど、響ちゃんは普通にしていたから」

 聞いていないと思ってさ、とディレクターさんは言う。
 『弟殺し』……千早が一番言われたくない、いわれのないもの。

 また961プロが妨害を始めたのか? アイドルクラシックの前だし、充分……。
 でも、黒井社長はもう妨害活動はしないと約束してくれた。安易に疑ってしまうのは良くない。

響「……本人に聞いてみます」

D「……もしかしたらさ、響ちゃんには言いたくなかったのかも」


響「え?」

D「いや、勝手な推測ね。千早ちゃんが何か思うところがあって、言わなかったのかもしれない」

響「……どう、なんですかね」

 何か思うところ――ってなんだろう。千早はこの脅迫めいた紙を、自分に隠さなきゃいけない理由があったのか?
 今は頭に血が上っているけれど、きっと冷静に考えれば見えてくる……。

D「もし良かったら、千早ちゃんと話してみてよ」

響「はい……」

 あんまり、その後の話し合いに身が入らなかった。
 千早が歌い終わると、スタジオに居る他のアイドルや観客が大きな拍手で彼女を褒める。
 でも自分の胸騒ぎは止まらなかった。ものすごく嫌な予感が、肌を這っていた。


 ――

千早「お疲れ様、響」

響「あのっ、千早!」

千早「え、どうしたの?」

 収録が終わって、スタジオの隅っこで千早が自分に声をかけてきた。
 話したいことがあると伝えると、千早は楽屋に戻ったあとにしましょうと提案してきた。

 ……そりゃそうだ。クールダウンしなきゃいけない。


千早「なんだか慌ただしいわね」

響「そ、そうかな? あはは……」

千早「ええ。……ジュースを買っても良いかしら?」

響「うん、分かった」

 自販機コーナーの前で千早は立ち止まる。
 自分は財布から小銭を取り出して、千早に渡した。
 千早の財布は楽屋に置いてあるから、一旦お金を貸すということ。


響「なんか、悪いな。本当は自分とか事務所が負担すべきなのに」

千早「別に良いの。事務所にはとてもお世話になっているから、せめて飲み物代ぐらいは」

 他のアイドルが飲み物を買うときは大抵事務所負担だったり、時としてプロデューサーの負担だったりする。
 でも千早は頑なに自分で支払うと言っている。彼女なりの気遣いだろう。

千早「さ、戻りましょう」

響「うん」


 楽屋に戻って千早が着替えだすのを見て、なんとなく話を振ってみる。

響「……千早、さ。最近何か困っていることとか無いか?」

千早「特にはないけれど……どうかしたの?」

響「ううん、それなら良いんだ」

 千早は平然と衣装を脱いで、私服のシャツを手に持っている。
 喋るタイミングが掴めない。千早に「元気が無さそうに見えた」と言う前に、先を越されてしまった。


千早「今日の歌、どうだった?」

響「……うん、声も良く出てたな。ディレクターさんに褒められたよ」

千早「あら、嬉しいわね。私自身も、今日はかなり手応えがあったの」

 普段と変わらない笑顔を見せる千早に、自分は安心したんだ……と、思う。
 何も変わらない。何事もない……という、大きく間違った判断。


 ――

千早「……あ、鞄」

響「え?」

 千早が着替え終わって、そろそろ事務所に帰ろうとタクシーを呼んだ頃。
 彼女の鞄が楽屋に無いことを思い出した。

響「そういえば、スタジオに置いてあったんだっけ」

千早「スタジオ横の荷物置き場に置いたままだったわ。ごめんなさい、取りに行ってくる」

響「待って! 自分が行くよ」


千早「大丈夫よ」

 その「大丈夫よ」が全然大丈夫そうに見えなくて、自分はディレクターさんの話と
 『弟殺し』と書かれた紙のことを思い出した。もしかして、鞄に何かあるのか。

響「千早はちょっと待ってて。青の手持ち鞄だよね」

千早「え、ええ……」

響「すぐ戻ってくるからさ!」


 スタジオは無人だった。セットもそのまま、観客はもう帰っている。
 副調整室に繋がる扉には鍵がかかっていたけれど、荷物置き場への扉は開いた。

響「……良かった、残ってた」

 春香と一緒に買い物に出かけて、選んでもらったらしい鞄。
 もしこれを紛失していたら……と思うと背筋が寒くなる。

響「さて、と」


 鞄を持ちあげると、どこからかパラパラと大量の紙が落ちる。
 ところどころがちぎれた紙は床に広がった。

響「え……なんだ、これ」

 一枚を拾い上げてみる。見慣れた五線譜に、自分も馴染みのある歌詞。

響「もしかして……」


 それはいつかの定例ライブ前、千早が駆け足で会場にやってきたときにも鞄に入っていた――。

響「……『約束』の歌詞カードじゃないか、これ」

 どうして、こんなバラバラに破かれて……。
 千早が何よりも大切にしていたものを、誰がいったい。

千早「……響?」

響「っ、ちは……!」


 振り返ると、走ってきたのは体全体で呼吸をする千早が立っている。
 床に散らばった歌詞カードを拾い上げると、一言呟いた。

千早「……やり過ぎだわ」

響「ねえ千早、これは誰がやったの? どういうことなんだよ」

千早「……ごめんなさい。響には秘密にしようと思っていたの」

 千早は歌詞カードの欠片を一枚ずつ拾い集めると、背中を震わせて泣いた。
 状況の分からない自分には、彼女の背中をさすることしか出来なくて――。

一旦ここまで投下します。ありがとうございます。

乙です

乙でした

また懐かしい

響誕生日に続編開始とは乙!


ずっと待ってた

久々のインフェルノスターズだ!…まだ1年も経ってないんだな

まだか…

捕手


 ■

千早「……少し前から、こういった嫌がらせは受けていたわ」

響「どうして自分に言ってくれなかったの」

千早「心配されたくなかったから……ごめんなさい」

 千早は右の手のひらで左の肘を覆った。
 一緒に楽屋に戻って、落ち着きはじめた千早から聞いた話を頭の中で整理する。


 ――どうして自分は、気づけなかったんだろう。

千早「……破られていた楽譜はコピーだったから、不幸中の幸いね」

響「そうなの……?」

 頷くと、千早は上着の横に置かれていた大きめのポーチを手にとった。
 ファスナーを開けて、中から何かを取り出す。

響「あ……」

千早「本当に大切なモノは、ここに入れているの。お財布もね」


 財布という単語で思い出したのか、千早はあっと声を上げて、さっきのジュース代を渡した。
 本当に律儀だと思う。だからこそ……自分に、例のことを言わなかったんだろうか。

千早「……本当に、気にしていないのよ。昔のことは、自分のなかで決着が付いているから」

響「でも……あんまりだよ。犯人に一言いわないと、気が済まない」

千早「犯人が誰なのか、私も分からないけれど……きっと、本戦までの嫌がらせよ。すぐに終わるわ」

響「……っ」


 力なく千早は微笑んだ。
 彼女を助けてあげられない自分が、ひどく無力に思える。いや、実際に無力なんだと思う。
 プロデューサーって、もっとアイドルに寄り添って、助ける立場のはずなのに……。

響「ごめん、ごめんな千早」

千早「……気にしないで」

 千早の消え入りそうな声は、気にしないで良いようには聞こえなかった。
 もしかしたら、お節介かもしれないけれど。なんとかして、千早を助けたい。


 ――

 事務所に戻ると、プロデューサーに声をかけられた。
 プロデューサーがデスクにいるの、すごく久しぶりに見たぞ。

P「響。今日の夜、空いてるかな」

響「うん、どうかしたの?」

P「いや、良かったら飯でもどうかなって思ってさ」

 プロデューサーは少し照れる。
 ……デスクに大量の書類が重なっているのに、そんな調子の良いこと言ってる場合なのか、これ。


響「良いよ。せっかくだし」

P「分かった、それじゃあすぐに終わらせるから。待っててくれ」

 かちゃかちゃとキーボードを叩く音、ぴよ子が自分のためにお茶を淹れてくれる音。
 千早が立ち上がる音、真が出ているワイドショーを映すテレビの音。

千早「じゃあ、また明日」

響「うん……気をつけて」

 普段は気にしないような音に、やけに敏感になる。どうしてだろう?


 てっきりファミレスにでも連れてってくれるのかと思ったら、都心の高級フレンチレストランだった。
 まるで、何かのお祝い事でもするような豪華なお店。緊張して肩に力が入る。

響「ねえ、プロデューサー。これ、もしかして特別な食事会?」

P「いや、特にそういう訳じゃない。俺から響へのお詫びを兼ねてはいるけどな」

響「お詫び……って? 自分、何かプロデューサーに詫びを入れられるようなことされたっけ」

P「まあまあ、話は席に座ってからにしよう。すみません――」


 バーとレストランを組み合わせたような店内からは高層ビルが見える。
 こ、これが噂のギロッポン……?

P「……ごめんな、響」

響「え……?」

P「CDを取り違えた件。本当に迷惑をかけたな」

響「ああ……そんなこと気にしないでよ。お互い様だぞ」


 フェルノスの新曲を、フェアリーが勘違いして自分たちの新曲だと思って歌った一件。
 曲を譲ってくれた黒井社長にもこってり絞られたことを思い出す。

P「フェアリーの面倒を見きれなくて、それが結果的に……みんなを巻き込んでしまった」

響「プロデューサーが忙しいのは分かってるから。でも、現状の説明ぐらいして欲しいぞ」

 やよいは、プロデューサーはフェアリーの準備をしていると言ったし。
 美希は、ハニーは真クンのプロデュースで忙しいと言っていた。

P「ああ、ちゃんと見直すことにした」

 担当しているアイドルに正しく情報が伝わっていないのはヤバイ……って教えてくれたのはプロデューサーだった。
 そのプロデューサーが文字通り、ヤバイ状況にあったんだ。


P「……だから今日は、響に心労をかけたお詫びと、気づかせてくれたお礼」

響「……うん」

 こんな普通のスーツで着てしまって良いのかな、このお店。
 プロデューサーは慣れているみたいだけれど、自分はテーブルマナーには疎かった。

P「別に気にしなくていいぞ、響。お偉いさんと食べてるわけじゃないんだから」

響「そ、そうだよね」


 赤ワインとオレンジジュースの入ったグラスが目の前に置かれて、店員が去っていく。
 数秒の間のあと、自分は口を開いた。

響「……ねえ、プロデューサー」

P「ん?」

響「ちょっと、嫌なことがあったんだ。……聞いてくれる?」

P「ああ、もちろん。俺は響のプロデューサーだからな」

響「もう違うでしょ」


P「今は違っても、俺は響のことを良く知ってるよ。話してみろ」

響「……うん、ありがとう」

 自分がアイドルだったときから何も変わっていない、優しいプロデューサーの瞳。
 全て吐き出してしまいたくなるほどに、委ねたくなる低い声が心地よかった。

響「千早の楽譜がさ、誰かに破られてたんだ。本人に聞いてみたら、少し前から妨害まがいのことをされてる、って」

P「妨害?」

響「うん」


P「961プロか?」

響「いや、違う。黒井社長はもうしないって約束してくれたし……多分」

P「……ふむ、まあ961なら楽譜を破る、なんて目立つことはしないな」

 腕を組んで何かを考えだしたプロデューサーに、自分は心の中の些細な疑問を聞いてもらいたくなった。
 気がついた時には、「ねぇ」と声をかけていて。

響「プロデューサー。……信頼って、どう築いていくのかな」


 自分、その答えが分からないんだ……と続ける。
 プロデューサーはしばらく悩むかと思ったけれど、予想していたよりだいぶ早く、ものの数秒で返した。

P「そんなの、響と俺が一緒にやってた時のことを思い出せばいいだろ」

響「へっ?」

P「俺たち、信頼を築こうとしてプロデューサーとアイドルの関係になったか?」

響「……いや」


P「響は不安なのかもしれないけれど、信頼されてなかったらユニットのプロデューサーなんかできないよ」

響「……そう、かな」

 身を乗り出したプロデューサーは、自分の頭に手をやった。
 あ……懐かしい。仕事がすごくうまくいくと、いつもこうしてくれたっけ。

P「千早は自分で悩みを抱え込むタイプだから、もっと積極的に話したり、見たりすることが大事なんじゃないかな」

響「……積極的に」


P「そう。信頼されてないわけじゃない。真美みたいに千早はアピールが出来ないだけだよ」

響「そっか……アピール」

P「響と千早は昔から、すごく良い仲間だと思うよ。遊びにも出かけていたろ」

響「うん」

P「……じゃあ、響。自分が千早だとして、考えてみてくれ」


 えっ?

P「千早はどうして、響に伝えなかったんだと思う? その妨害のことを」

 千早の気持ちになって、考えてみる。
 初めてユニットのリーダーを任されて、いよいよアイドルクラシックが近づいていて……。
 そんな時に起きてしまった嫌がらせを、相談しない理由。

響「……わからない。千早は、心配かけたくないって言ってくれたけど」

P「ああ、それが全てだと思う。雪歩から話を聞いたけど、
 オーディションで他のアイドルに喧嘩をふっかけられたんだって?」

響「う、うん」

 ――響が初めてのプロデュースで大変なのが分かるから、心配をかけたくなかったんだよ。
 プロデューサーが、千早の気持ちを代弁してくれた。


 ……千早なりの、気遣いだったんだ。
 それを自分は、信頼されてないとか、不安だとか……もっと重く、余計に考えてしまった。

P「響。響は、どうしたい?」

 顔を上げて、プロデューサーの目を見る。
 自分は、みんなに気遣ってもらうんじゃなくて、やっぱり――。

響「自分は……もっと、頼ってもらいたいと思う」


P「答え、出たじゃないか。……”嫌なこと”は消化できたか?」

響「うん、はっきり。……ありがと、プロデューサー」

P「それなら良かった。悩むことも色々あるけれど……そんな時はいつでも、俺を頼ってくれ」

響「えへへ、もちろん。頼りにしてるぞ!」

 そのうち前菜がテーブルに並び始めて、自分とプロデューサーはご飯の話で盛り上がった。
 ……自分がアイドルじゃなくなっても、プロデューサーはちゃんと、今まで通りに相談に乗ってくれる。
 それがなんだか、たまらなくうれしくて、心強かった。

ここまで投下します。保守ありがとうございます。

おつ



 ■

響「千早」

千早「え?」

 プロデューサーと食事をした次の朝、事務所で雑誌を読んでいた千早に声をかけてみる。
 昨日、プロデューサーと話して決心した。

響「ちょっと、話したいことがあるんだ。良いかな?」

千早「ええ……仕事の話?」


響「半分正解って所かな」

千早「じゃあ、半分は違っているのね」

 千早は雑誌のページを閉じると、そのまま雑誌をテーブルの上に置いた。
 それを合図にして、自分はこの数日間、千早に言えなかったことを伝えた。

響「すごく……お節介かもしれないんだけどさ」

千早「え?」


響「やっぱり自分、千早があんな嫌がらせを受けてるの、我慢できないよ」

 千早は俯いて口をつぐんだ。本人が触れてほしくないといったことに言及するのは、すごく失礼なことだと思う。
 でも……これは千早がひとりで抱えることじゃない。これは、多分。

響「これはさ、千早だけの問題じゃなくて。自分や、春香だったり……765プロ全体の、問題だと思う」

千早「どうして、全体の問題なの?」

響「誰かが悩んでいたら全員で悩むのが、765プロだから」


 765プロの考え方……というものに溶け込むまで、自分と貴音はしばらく時間を要した。
 961プロとは全く違っていて、あまりにも優しかったから。

千早「……でも」

響「それにさ、自分にとって千早は……プロデューサーとか、アイドルとかそういう前に。親友なんだ」

 千早は顔を上げた。今まで見せたことがないような表情をしている。
 目を丸くする千早を、自分は初めて見た。


響「親友が悩んでいるなら、助けたいんだ。一緒に考えて、答えを出したいんだ。
  お節介なことは、迷惑なことは分かってる。分かってるけど……少しだけ、力になりたい」

 ダメかな、と自分が言うと、千早は浅く俯いた。
 数秒の間のあと、千早は顔を上げて柔らかく微笑む。

千早「ほんと、春香と一緒ね。お節介さん」

響「ん……自分、765プロの考え方がすっかり染み付いちゃって」


千早「素敵なことだと思う。私は、そんなみんなが大好きだから」

 そのときに見た千早の笑顔は、宣材の写真より何倍も美しくて。
 思わず、見惚れてしまうぐらいだった。

千早「……私は、どうすればいいかしら」

響「……ありがとう。千早には、少し協力してもらいたいんだ」

 千早に嫌がらせをしているヤツに、その理由を聞きたい。
 その思いで、自分は詳しい話を聞いた。


 ――――
 ――

「アイドル対抗歌合戦、続いてはインフェルノスターズ――」

 今日は、歌に自信を持つアイドルが大勢集まる番組の収録。
 自分たち以外にも、アイドルクラシック本戦に出場を決めているユニットが何組か出ている。

 自分はフェルノスの仕事の様子を見ることなく、スタジオを後にしていた。


 ◇

真美『――ゆきぴょん、こっちこっち』

雪歩『こ、こんな感じかな?』

 番組収録の少し前。ミーティングを終わらせた後、4人で楽屋に少しの細工をする。
 仕掛けに必要なモノを、真美の鞄から取り出して。
 千早の鞄は、雪歩と真美の鞄の隣に、さり気なく置いておく。

千早『……本当にうまくいくかしら』


真美『大丈夫だよ千早お姉ちゃん! 真美たちが歌ってる間に、ひびきんが何とかしてくれるってぇ』

響『なんとかって……まあ、なんとかしたいけどさ』

雪歩『響ちゃんも言っていたけど、私たちは犯人さんに一言、伝えたいだけだもんね』

響『うん……こんなに悪質な嫌がらせ、本当は事務所が分かれば抗議するところだけど』

 千早から借りた鞄から楽譜を抜いて……コピーした楽譜を仕込む。


千早『おおごとにはしないで欲しいの。私は、それだけで良いから』

響『分かってる。ちょっと釘を差してやるだけ』

真美『……これでよし、っと。鞄以外の千早お姉ちゃんの私物は隠したし、バッチシ!』

雪歩『もし犯人さんがここに来たら、鞄めがけて一直線ってこと?』

響『そういうこと。で、楽譜を抜き取ったら仕掛けが作動するんだ』


 誰だか分からない犯人に接触するには、これぐらいしないと。
 そう言いながら”仕掛け”を準備する真美と、それを手伝う雪歩は、不思議とどこか楽しそうだった。

響『良し。……みんな、一旦集まって』

 千早に頼られることが嬉しい、雪歩はそう言っていたけれど……。
 真美は、イタズラの仕掛けが楽しい、ってのもあるかもしれない。

響『円陣を組もう。――――3人とも、精一杯暴れてくるんだぞ!』


真美『もちろんっ! ひびきんと同じくらい暴れるかんねっ』

雪歩『一瞬でも気は抜けないから……アイドルクラシックに向けて!』

千早『届けましょう、私たちの歌を!』

 久しぶりに円陣を組んだら、ハートが燃えてきた気がした。

 ◇


 自分は楽屋の外でこっそりと待機をする。
 正面の自販機コーナーでジュースを買うふりをしながら、様子をうかがっている。

 いまはフェルノスの収録中で……アイドル同士のトークコーナーを後に撮影することを考えると、
 フェルノス以外のアイドルは全員フリーということになる。

響「……っ」

 もし犯人がアイドルや、そのマネージャーなら。
 この時間を利用して、嫌がらせをしてくるはずだ。


 ……こちらに、ひとりでゆっくり歩いてくる誰かがいる。
 人影は吸い込まれていくように、フェルノスの楽屋へと入っていく。

響「誰だろう」

 ちらっと見えたのは、青くて長い髪。
 ……なんとなく、背格好は千早に似ている。


響「……いやいや」

 ……いや、千早だったら自分がここに居ることを知っている。
 それに、忘れ物を取りに来たのだったら、自分に声をかけるだろう。

 ”誰か”が楽屋に入りドアを閉め、自分はそこにゆっくりと近づいていった。


 ピーッ、ピーッ……というけたたましい音が、楽屋の中から鳴り響いた。
 ……それが合図だ! 自分は思い切りドアを開ける。

響「何をしてるんだ!」

「あ――っ」

 千早の鞄に入っていた、楽譜の挟まったクリアファイルを手にしていたのは女性。
 確か、こだまプロの……?


響「『新幹少女』のひかり!」

ひかり「……邪魔よ!」

響「わっ」

 そうだ、いつかのアイドル大運動会のときに、やよいに酷いことを吐いた……。
 確かアイドルクラシックにも出場する『新幹少女』、そのリーダー。

 自分を押して楽屋を出た彼女を追いかけないと、逃げられてしまう!


 あまり広くはないテレビ局の廊下、すぐに追いつける。
 そう思って走り出すと、思った以上に自分の身体が重いことに気づいた。

ひかり「アンタしつこいわよ!」

響「っ……うるさい! お前こそ、千早にあんな酷い嫌がらせ……しつこいぞ」

ひかり「仕方ないでしょっ、邪魔だったんだから」

響「だからって……っ、はあっ、ぁっ」


 最近は忘れつつあった、自分の病気のこと。
 激しく動いてはいけないんだ。こんな風に走りながら喋ったりなんかしたら……。

「ひびきんっ!」

 身体の力が全部抜けて、廊下に倒れこむ――寸前、自分は誰かに抱きかかえられた。

 心配そうに自分を見つめる……亜美? じゃあ、ひかりの腕を掴んでいるのは……あずさ、さん?
 ……自分の視界に入ってきた、このやれやれ顔は?


伊織「全く、成長しなさいよ少しは」

響「い……伊織? なんで、ここに」

伊織「今日の番組、竜宮小町も出るの。千早たちの二つ前に収録してたのよ」

 小走りの律子が、こだまプロのマネージャーを連れてくる。
 いまの状況を自分でもまだ理解できていなかった。

亜美「真美からさっき連絡が来たんだよ、この話の」


 自分はゆっくり、身体を起こした。
 心配してくれる伊織に、平気だと返す。

伊織「無茶するんだから」

響「あはは……でも、許せなくてさ。千早にあんなにひどいことをするなんて」

亜美「ひびきんは自分に厳しくて他人に甘い、テンケーテキなタイプですからなあ」

伊織「あら、響は結構自分にも甘いと思うけれど? この間もプリンを」

響「わー、わー! それはダメ!」


 じゃれていると、伊織がすっと立ち上がった。
 自分に向けて、右手を差し出してくる。

伊織「ほら、立って」

 久々に感じた、伊織らしい気遣いが心地よくて。
 手をとって立ち上がったとき、大きな勇気をもらえたような気がした。


 ……フェルノスの楽屋に戻って、ひかりと話をする。
 立ち会ってくれるのは、律子とあずささんだ。

 自分が、どうしてこういうことをしたのかと聞いてみると、ひかりは渋々答えた。

ひかり「……邪魔、だったの。アンタたちだけじゃない、765プロ全体がね」

律子「全体?」

ひかり「だって、3ユニットも出場するのよ。出られる数は限られているのに」


響「それは……」

 フェアリーは元々、961プロに所属していた時代から出場している。
 竜宮小町だって、実力で出場権を勝ち取った。

 その二組は去年善戦したからこそ、優先参加権……アドバンテージをもらえた。

あずさ「でも、新幹少女は本戦に出られるのよね? 出られなくて腹が立った、なら分かるのだけれど」

ひかり「……出るからこそ、よ。脅威は少ないほうが良いもの」

 今年、なんとか出場権をもらえたフェルノスを『脅威』と認識している。
 確かに、千早の圧倒的な歌唱力はユニット結成前から知れ渡ってはいたけれど……。
 だからって、たったひとりを標的にするだなんて、そんなのは卑怯だ。


ひかり「元アイドルがプロデューサーになって、アイドルの最高レベルコンテストに出るなんて馬鹿げてる」

響「う……」

ひかり「如月千早はユニットを組まないってメディアで公言していたのに、それはさっぱり嘘みたいだし」

律子「……それは」

ひかり「私たちは真面目に優勝したいと思ってる。一時の気の迷いで結成されたところには負けたくないの」

 ひかりの言うことは、一見正しいようにも思えた。
 でも、何かが違う。喉に魚の小骨が引っかかったような気持ち悪さを、律子が解消してくれた。


律子「貴方、響がプロデューサーに転身するまでどれだけ勉強を重ねたか、知っている?」

ひかり「え……」

律子「千早がユニットに適応するために、どれだけ努力しているか知っている?」

ひかり「……っ」

律子「優勝したいのは、どこも一緒よ。自分たちだけ努力しているだなんて考えるのはやめなさい」


 ――結局ひかりは、その後謝罪をしてくれた。
 自分は「ここまで来たんだから、お互いに正々堂々やろう」と返して笑ってみる。

 もうすぐフェルノスの収録が終われば、千早にも会いに行く……なんて。

 そこに至るまではかなり時間を要したけれど、ひかりの考えていたことを聞けて良かった。そう思う。

亜美「そんでー? ひびきん」


 自分はまだ疲れが残っている身体を休めるために、竜宮小町の楽屋にお邪魔していた。
 スーツのジャケットを脱いで、畳の上に横になる。

響「うん?」

亜美「どうしてひびきんは、楽屋の外にいるのにクリアファイルを抜き取ったって分かったの?」

伊織「ああ、私も気になってたのよ」

 千早の鞄の中に入っている楽譜を破く犯人のために、真美と雪歩が準備した特別な仕掛けだった。


響「ああ、簡単だぞ。犯人は必ず楽譜を抜き取ると思ってさ、楽譜を入れたクリアファイルを用意したんだ」

伊織「ええ」

響「そんで、鞄の底に防犯ブザーを仕掛けておいたの」

亜美「ランドセルに付けるアレ?」

響「そうそう、それ。2分経つと音が消えるタイプにしたんだ」


伊織「……それでどうして分かるのよ?」

響「ああ、いや。クリアファイルの底と、防犯ブザーのピンを紐で結んでたんだ」

亜美「……あ、この間テレビでやってたヤツだ」

響「やっぱりテレビの受け売りだったんだなぁ。
  ……犯人がクリアファイルを持つと、ピンが抜けてブザーが鳴るって仕組みだ」

亜美「そういえば真美、チョ→目ぇキラキラさせてた気がする……」


響「ま、そういうこと。手荒なことはしたくなかったから、これでも充分譲歩したんだぞ」

伊織「突然驚くでしょうね、それをやられたら……亜美、事務所でそのイタズラは禁止よ」

亜美「えー! 亜美も仕掛けてみたいよぅ」

響「あはは……程々にね、亜美」

亜美「やったー! ひびきんからお許し!」

伊織「んなっ」


 久しぶりに触れた竜宮小町の空気は、どこか重く引き締まっている印象だった。
 アイドルクラシックを控えて、本気で動き出しているだろうし。

 ……もし、フェアリーじゃなく竜宮小町と対戦することになったら、どうなるんだ?

 このバランスが良いチームに勝てるのか。いや……とりあえず今は、考えるのはやめにしておこう。

響「……ふう」

 フェルノスの収録を見に行くために、自分は再び立ち上がった。

ここまで一旦投下します。ありがとうございます。

>>89
こちらこそ、ありがとう

来てた
乙ー

保守

まだー?


 スタジオの入口前に行くと、そこにひかりが立っているのが見えた。
 扉が開いて、千早たちが出てくるのを待っているんだろうか。

響「よっ」

ひかり「……」

 なんだかとても警戒されている気がする……ひかりは身体を遠ざけた。

響「……ごめんって、防犯ブザーはやりすぎた。もう何にもしないよ」

ひかり「……それなら」


 無人の廊下、扉から正面の壁に寄りかかって話をする。
 ひかりと話していると、彼女が本当に新幹少女というユニットを好いていることが伝わってきた。

ひかり「だからやっぱり、あなた達は脅威だわ」

響「大丈夫。同じくらいのレベルだから、本戦に残ってるんだ」

ひかり「……ねえ、聞いても良い?」

響「ん、どうした」


ひかり「貴女はどうしてプロデューサーになったの」

 ――元アイドルがプロデューサーになって、アイドルの最高レベルコンテストに出るなんて馬鹿げてる。
 ひかりが言っていたことを思い出す。

響「あー……自分さ、ダンスとか踊れない体になっちゃったんだ。知ってる?」

ひかり「ええ。引退のとき、番組を見ていたから」

 最後の挨拶をした生っすか、曲を歌うこともダンスを踊ることもなかった。
 だってあの時の自分にはもう無理だったんだ。


響「それで……フェアリーが解散しかけて。メンバーが引退したからな、当たり前」

ひかり「どうなったの?」

響「自分、解散を止めたかったんだ。でもどうすることも出来ないから……すごく悩んで。
  そんなとき社長が、プロデューサーになってみればって声をかけてくれたの」

ひかり「その体でもプロデューサーが務まるの?」

響「一応ね。今でも走ったりするとすぐ気持ち悪くなるし、控えめに歌っても酸欠で倒れかける」

 カラオケだって行けやしないよ、と頭をかいた。
 ただ、もしこれから車の免許を取ったとして、数時間程度の運転なら問題はないし。挨拶回りならなんとかなる。


ひかり「……そこまで重かったなんて」

響「まあ、大丈夫だよ。今だってこうしてる」

 スーツのポケットに手を入れてみた。
 ひかりは千早の鞄に手を入れていた頃と比べると、だいぶ悲しそうな表情。

響「自分がフェアリーのプロデューサーになれば、美希と貴音は活動を続けてくれるんじゃないかって思ったんだ」

ひかり「フェアリーの?」

響「そうしたら、今まで通りフェアリーは3人でしょ」

 役割は違うけど。


ひかり「……でも」

響「ま、今のプロデューサーや律子に『それはできない』って言われてさ。
  あたりまえだよね……ちょっと前までアイドルだったヤツに、売れっ子を引き渡せるわけがない」

ひかり「でも、それじゃああなた達は……」

響「いや……だから自分、美希と貴音に言ったんだ。『自分はフェアリーを超えるユニットを作る!』って」

ひかり「フェアリーを超えるユニット……」

 それが自分たちの、インフェルノスターズ。


響「『そのユニットがフェアリーを超えるまで待ってて欲しい』って、わがままを言ったの」

 あのときは、何を伝えれば良いのかも分からなくて。
 ふたりの気持ちを考えずに、最低なことを口走ってしまった。
 倒されてくれ――って言ってるのと同じだ。

響「それで、『じゃあそのユニットが自分たちを倒したら解散する』って言われたの。猶予が出来たんだ」

 すごく自分勝手だった。美希も貴音も、プロデューサーも、みんなを巻き込んで。
 ふたりは、倒されるために待つなんて格好良い……なんておどけてくれたけれど。


 自分は一所懸命にプロデュースの勉強を重ねた。お試しで真美を1週間で鍛えあげたりもした。

響「それで、プロデューサーになってさ。いざユニットを組むってなったときに選んだメンバーが、フェルノス」

ひかり「……なるほどね」

響「でも、フェアリーを倒すために選んだってわけじゃない。総合力を見て、最高のユニットにしようと思って選んだんだ」

ひかり「最高って、どういう基準よ」


響「やっぱり、歌にビジュアルにダンス……全部で勝負できるアイドルかな。フェアリーも総合力が目立つチームだからさ、そうしないと勝てないって思ったんだ」

 妖精の恐ろしさは、自分で一番良く知っている。
 そのユニットを超えるためにアイドルを育て上げなくちゃいけない。

響「自分にはゼロから育て上げる力は、まだ無くてさ。だから、ある程度勝負できるメンバーを選んで」

ひかり「……フェアリーを倒したらどうするのよ」

響「ん、続けるよ。ふたりより良いパフォーマンスが出来るかは、みんな次第だから……倒せるとは、まだ思ってない」


ひかり「その割には、すごい自信があるように見えるわ」

響「あはは」

 見透かされたな、と思った。
 でも、いまは純粋にみんなを頂点へ連れて行きたい。その気持ちは本物だった。

ひかり「……私たちも、あなた達と対戦することになれば全力で挑まないとね」

響「うん。楽しみにしてるぞ」


 それから数分後にスタジオの重いドアが開いて、スタッフさんが何人も外へ出ていく。
 自分はひかりに声をかけて、中へ入った。

 衣装を着たひかりとスーツの自分が並んでいると、まるで営業に来たような気分になる。

千早「あ……」

 ディレクターとカメラの後ろで立ち話をしていた千早が、こちらに気がついた。
 ちょっと来て、と呼ぶと、千早は何か言いたげな表情をして近づいた。


ひかり「……ごめんなさい。私、貴女に酷いことを」

 ひかりが深々と頭を下げると、千早は頭を上げて、と言った。

千早「私こそ、きっと気に障ることをしてしまったのよね。ごめんなさい」

ひかり「い、いやっ、そういうわけじゃ」

 申し訳なかったということを言うと、ひかりはもう一度頭を下げた。
 真美と雪歩が小走りでこちらに向かっているのが目に入る。


 どうしてあなたがそういうことをしたかは分からないけれど、と前置きした千早は、微笑んで続けた。

千早「深くは聞かないことにするわ」

ひかり「……ありがとう」

千早「新幹少女、アイドルクラシックに出場するのよね」

ひかり「え、ええ」

千早「お互いに頑張りましょう」


 千早が右手を差し出すのを、来たばかりの真美が「おっ、仲直りのシルシだね」と茶化す。
 ひかりが少々恥ずかしそうに、千早の手を――。

「何してるの、ひかり」

ひかり「え……?」

 ちょうど自分の真後ろから聞こえた声に振り返ると、
 そこにはきらびやかな衣装を着て不安そうな表情を浮かべている、新幹少女の他のメンバーが立っている。

 黒髪ツインテールのつばめは、勢い良くひかりの腕を掴んだ。


ひかり「ちょ、ちょっと」

つばめ「なによ、765プロに何かされたの?」

雪歩「あの……っ、落ち着いて」

つばめ「……! 集団で何をしてたのよ」

響「ねえ、一度話を」

 ああ、そういえばつばめは思い込みが激しいタイプだってどこかで見たような気がする。
 週刊誌のインタビューだったかな、まさかそんな情報が役に立つだなんて。

つばめ「アンタたち、もしかして961プロみたいに、私たち新幹少女に妨害しようとしてたんじゃ……!」


のぞみ「ぼ、妨害っ!? 765プロが!?」

 後ろに立っていたのぞみが大きな声を出すと、周りのスタッフが一斉にこっちを見る。

響「違うっ、そんなことはしてない!」

つばめ「じゃあ何をしてたっていうのよ、大勢でひとりを寄ってたかって!」

 ざわつき始めるスタジオの空気は最悪だ。
 確かに、4人でひかりを取り囲んでいるようにも見えなくはない、けれど。

 千早も、雪歩も、真美も……ひかりも、全員がつばめに気圧されて何も言えなかった。


つばめ「大丈夫、ひかり」

ひかり「つばめ、一回落ち着いて」

つばめ「落ち着けるわけないでしょっ!? 何をされてたの……」

 つばめがひかりの手を引いて、彼女の身体を自分たちから遠ざけた。

つばめ「……あ、アンタ」

響「へっ?」


 自分を見たつばめは、「元アイドルの我那覇響じゃない」と言った。
 きっと、今はプロデューサーの、とも含まれている。

響「そ……そうだけど」

つばめ「何か姑息な手段を使って、出し抜けを狙ったんじゃないの? 大したことも出来ないくせに!」

千早「そんなこと――」

つばめ「アンタ、昔961プロに居たわよね……その時に小汚い売り出し方でも盗んできたんじゃない!?」

 ヒステリックに叫ぶつばめの声が、ふっと途切れた。


 パン、という乾いた音が思い切り聞こえていた。
 状況を把握するのに、時間はかからない。

真美「ひびきんのことを悪く言うなっ!」

 真美の手のひらとつばめの頬がほのかに赤くなっている。

つばめ「な……によ、どうして殴るの!? こん……のっ!」

 取っ組み合うふたりを、自分たちだけでなくスタッフさんと一緒に止めることになった。
 その場に居た人たちにはつばめの勘違いだったと説明できたけれど、白い目は完全に拭いきれなかった。


 ――

 765プロの社長室のソファにかけて、机の上に広がる数枚の紙を見る。
 それは高木社長や黒井社長がなんとか差し止めてくれた、掲載予定だった雑誌の記事だった。

 『衝撃!! 765プロ新ユニット・インフェルノスターズvsこだまプロ・新幹少女』だの、
 『元アイドルにはまとめられない……個性派揃いの3人とは』だの、面白おかしく脚色したものが並んでいる。

律子「……正直、これが載らなくて良かったと思ったわ」

響「……うん」


 ネットに流出した噂話はもう止められないけれど、と律子はメガネをかけ直す。
 自分の正面に座る社長とプロデューサー、隣に座る律子。

 緊急社員会議が開かれるまでの事態になってしまった。

P「正直、ネットの噂は本当に噂程度しかないよ。
 そこから憶測でウェブにニュース記事を書くライターがいたりしても、気にするな」

響「大丈夫かな……新幹少女にも迷惑がかかっちゃうのは避けたいんだ」

社長「まっ、我那覇君たちは何も悪いことなどしていないんだ。堂々と構えていれば良いんじゃないかね」


律子「そういう問題じゃありません……。やっぱり、インフェルノスターズのイメージは下がります」

P「アイドルクラシックを控えていて、いまはそういう話題がホットになってきているから……」

響「ごめん……これで、竜宮小町やフェアリーにまで迷惑をかけちゃったら、自分」

 あの騒動が大きく発展して、765プロに関わるゴシップになってしまったら。
 そう考えると、どうしても社長やみんなの顔を見られない。

社長「心配はいらないさ。善澤がたまたま、君たちの記事を書いてくれるかもしれないからね」


響「へ……?」

P「後は、イメージアップのためにはミニライブをするのが一番かな。
 ただ、今回の一件を知っている人が『露骨にイメージアップしようとしてる!』って思っちゃうかもしれないし」

律子「……それなら、新幹少女の3人を『生っすか!?』にゲストで呼ぶ、っていうのはどうですか?」

 律子の提案に顔を上げる。プロデューサーや社長も驚いていた。
 今まであの番組には、他の事務所のアイドルを呼んだことはなくて。

社長「なるほど、同じ番組に出て共演させれば……多少の不仲説は改善するかな」


P「向こうも本戦前で、露出を増やしたいところでしょうし」

律子「よし、アプローチかけてみましょう」

響「あ……みんな、ありがとう」

 律子は自分の頭をぽんぽん、と撫でてくれた。
 自分のミスなのにみんなに動いてもらうことが情けなくて、でもたまらなく嬉しい。

律子「そのかわり、もし私や竜宮小町がやらかしちゃった時は響に助けてもらうわよ」


響「じ、自分に?」

律子「ええ。貴女はもう充分、プロデューサーをやれてるんだし」

 初めて、律子にプロデューサーとして認めてもらったような気がした。
 自分は担当アイドルもロクに守れなくて、他のプロデューサーに助けてもらってしまうようなダメな新人だけれど。
 ……いつまでもそんなふうな気分じゃ、やっていられない。

響「……うん、約束しよう!」

 そしてプロデューサーの掛け声で、自分たちはこだまプロやテレビ局に走ることになった。


 □

真美「あっ!」

雪歩「どうしたの、真美ちゃん?」

 アイドルの3人には変装してもらって、テレビ局まで電車で移動する。
 そろそろ免許が取れる年齢になるし、教習所に通うことも考えなきゃ。

 真美はスマホの画面を見て驚いていて、雪歩はそれを気にかけていた。


真美「これ……アイドルクラシック出場ユニットの好感度ランキング」

千早「ランキング? ……これは、上がってるの?」

雪歩「上がってるよ、千早ちゃん! 矢印が上を向いているし……あれから8位に下がっちゃってたのに」

 新幹少女の3人と共演した「生っすか!?」から1日が経って、
 ネット上での声を集めたサイトでは早くも効果が出ているようだった。

真美「ひびきんも見てみて! すごいっしょ」


響「わ……本当だ、5位になってる」

真美「新幹少女も6位になってるし、これはなかなかキョーイのライバルですなぁ」

雪歩「負けてられないね、私たちも」

千早「……ええ。今日は番組の収録が終わったら、早速スタジオに行きましょう」

 持ち直してくれた。提案してくれた律子や動いてくれたみんな、そして番組を成功させてくれたアイドルのみんな。
 765プロが一体となって協力してくれた結果が、今になっているんだ。

響「……よーし! 今日は自分もびしっといくからね」


真美「ホント? ひびきんの『びしっ』ってあんまり怖くないけど」

響「ええっ」

雪歩「わ、私は結構びくびくして受けてるけど……」

千早「びくびくしてたらダメだと思うけれど」

 みんなの会話もどこかやわらかくて、安心できる。
 もうアイドルクラシックまで時間はないけれど、焦りはあまり無かった。


 当日にならないと、どのアイドルと対戦するかは発表されない。
 まずはノーシードの8ユニットが4ユニットに、そしてそこからは前回大会の上位ユニットと対戦することになる。
 そこを勝って4チームに絞られて、準決勝と決勝戦。
 自分たち――特に千早――は、最初から4曲分をきっちりやることしか考えていない。

響「レッスンまでバテないようにね」

 三者三様の返事が心地よかった。
 きらめくステージに進む準備は、もうちょっとで万全になる!


 一旦ここまで投下します。
 保守などしていただきありがとうございます。

おつおつ

待ってた。
だが、いいところで……W


『始まりました、アイドルクラシック!』

 そして、本戦がいよいよ始まった。
 交互に1曲ずつパフォーマンスをして、魅力的だった方に審査員が投票。
 前回大会の上位ユニット4つ、予選を勝ち抜いた8ユニット……全12ユニットが、1つに絞られる。

 アイドルたちは全員、個別の控室にいる。


 その控室には液晶テレビが備え付けられていて、全ユニットのパフォーマンスを見られるようになっている。
 これから発表される対戦表を見るために、千早たちも見つめているはずだ。

 自分は、プロデューサーと律子と一緒に、舞台袖で観客の盛り上がりを感じていた。

律子「……大丈夫かしら」

P「不安になってきたな……」

響「2人がそんな風にしてたらどうするんだよ……」

 自分より遥かに経験のあるはずのふたりですら、そわそわとする。
 この『アイドルクラシック』という大会が、どれほどのものかは充分に伝わってきた。


『ここで……大会審査委員長の玲音さんから――』

 名前を呼ばれて立ち上がり、ステージの中央まで歩いてくる女性。
 数年前の大会で完全制覇を成し遂げたオーバーランクアイドル、玲音だ。

律子「彼女が出場していたら、どうだったでしょうか」

P「最初から勝負は決まってるだろうな。観客の心を一瞬で掴んで、それ以外を考えさせなくする」

 自分がアイドルだった頃から、玲音の存在は常に上に居た。
 黒井社長は、フェアリーなら彼女をも超えられると信じていたようだったけれど。


『実は、出場ユニットの皆さんに発表があります。今大会はいままでとは違う、特殊な方式で1位を決める』

 律子とプロデューサーの会話が止まった。同時に、モニターを通じて聞こえる観客のざわめきが大きくなる。
 いままでとは違う特殊な方式――それは、どういうことだ?

『今回は、シード権があまり有利になり過ぎないようにルールを改正しました。
 具体的には、予選を勝ち進んだ8ユニットを2つずつに分け、そこにシード権のある1ユニットを追加。
 つまり、合計3ユニットの組み合わせが4つできることになる』

P「……そういうことか」

響「えっ、どういうこと?」


『3ユニットから選ばれるのは1ユニットだけ。その4ユニットが次大会のシード権を獲得します』

P「例えば……そうだな、インフェルノスターズと『花鳥風月』はノーシードだよな」

響「うん」

P「フェルノス、花鳥風月、竜宮小町の3ユニットで1つの組み合わせが出来ていたとしたら、
 まずはノーシードのフェルノスと花鳥風月が対決する。その勝者が、シード権を持っている竜宮小町と対決だ」

律子「なるほど……あまりシード権が有利にならないように工夫されてますね」


P「実力のあるユニットが穫るからな。シード権があるユニットでも、ノーシードのチームを倒さない限りは準決勝に進めなくなったってことじゃないか」

響「そっか……そういうことか」

 今までは、ノーシードの8ユニットとシード権のある4ユニットは別々のトーナメントだった。
 決勝まで対決しないシステムだったけれど……これなら、早ければ2回戦からもう戦うことになる。

律子「不安だわ……あの娘たち、急な変更に弱いのよ。去年の大会のシステムを叩き込んでいるから」

 律子は不安そうに顎を触った。


『この大会のシード権は、やっと本来の形を取り戻したのかもしれません。
 アイドルの皆さん、準備はできていますか?』

 玲音の後ろにトーナメント表が現れた。発表の30分後には、最初のユニットがパフォーマンスをする。
 トップバッターは遠慮したいぞ……と思いながら、自分はモニターをじっと見つめた。

 ユニット名を隠していた紙が剥がされていく。

響「うえっ」

律子「え?」

 ……トップバッターだ。
 そしてその対戦相手はこの間共演した新幹少女で、残り1組のシード権を持つユニットは――。


千早「2回戦からフェアリーと対戦することになるのね」

 控室に行くと、3人は衣装姿でちんまりとソファに並んで座っていた。
 千早は不安そうな表情、雪歩は泣きそうだ。

響「みんな、大丈夫? 体調悪くなったりしてないか、吐きそうになってるとか……」

雪歩「響ちゃん、ありがとう。……ちょっと怖いなぁ」

真美「平気っしょ! 真美たち、メッチャ練習してきたもん」

雪歩「そっ、そうだよね。私、真ちゃんにもダンス教えてもらったし……」


 真美は一生懸命に場を盛り上げようとしている。
 ……あと15分すれば、ステージに立たなければならない。

真美「千早お姉ちゃんも、ダンスキレキレになったし」

千早「そうね……歌だけじゃなくて、他の部分も成長できたわ」

真美「実は真美だって、しっかり歌えるようになったしね」

 真美がふたりの長所を褒めて、空気が少しおだやかになってきた。

響「みんな、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」


雪歩「えっ?」

響「自分さ、舞台袖にいるよ。ずっと、ずっと見てるから」

 当たり前のことを口走ってしまった。プロデューサーなんだから、袖にいるのは当たり前なのに。
 でも、千早と雪歩と真美は柔らかい表情を見せて、頷いてくれた。

響「もちろん……優勝っていう大きな目標はあるけど、悔いの無いように歌って、踊ってきてね」

 自分の分まで――と、言いかけてやめた。ちょっと重いかな、そういうのは。


千早「ええ」

真美「ひびきん、瞬きしちゃダメだかんね!」

雪歩「精一杯、頑張るから」

 結成した時から、個の力はレベルが高かった3人。
 徐々にそれは形作られていって、彼女たちは『ユニット』になった。

響「よしっ。……じゃあ、行こう!」

 立ち上がって、控室のドアを開ける。ぼんやりと考えていることを突きつけられた気分になった。
 自分は、『プロデューサー』になれているのか?


 □

 舞台袖にはステージの照明と熱気が入りこんできていた。
 自分も含めて……フェルノス全員は新幹少女のパフォーマンスに釘付けだった。

雪歩「す、すごかったね……負けてられないっ、やろう!」

 ひびきんも一緒に、と真美は自分の手を引いた。
 雪歩の手の上に、千早が、真美が……そして自分が、手を重ねていく。

真美「じゃあじゃあ、ここは真美が代表して。せーの、の合図でユニット名を言ってね」

 千早と目が合った。ああ、自信のあるときの笑みだ――安心する。


真美「そんじゃー行くよーっ? ……進めっ!」

「「「「インフェルノスターズ!」」」」

 重ねた手を、おもいっきり空に上げた。

千早「行ってきます」

響「うん……いってらっしゃい」

 大きな大きなステージに向かう3人が、とても頼もしく見える。
 スノーフレークリリパットという、白と青の映える綺麗な衣装を着て――彼女たちは、ステージに立った。


 ♪Little Match Girl

 幼い頃の小さなページ 誰もが夢見てる今も
 大人になれず凍えた日々は 幸せそうに眠ってる

 何も見当たらない 白い息だけが眩しく
 風に吹かれた服を そっと支えて

 冷えた素足で歩いた町並みは
 もう決められた最後(ラストシーン)
 主人公(ヒロイン)は私(あたし)

 あなたの心(マッチ)で 燃え尽きたいよ
 蕩けるほど 私の眠りにキスして
 枯れてく鼓動 聞きたくないよ
 このまま ネジをはずしたまま

 一度の火遊びでもいいから
 今すぐ抱いて……


「「「ありがとうございました!」」」

 3人の声が揃った。地鳴りのような歓声に身震いしてしまう。
 今まで見てきたどんな練習よりも揃っていて、綺麗な『Little Match Girl』だ。

ひかり「……完璧って感じね」

響「そうだな。自分もそう思ったよ」

 対戦相手……新幹少女のひかりは、ひとり舞台袖に残ってここから、フェルノスのステージを見ていた。
 控室に戻ればマネージャーがうるさいから、と言って。


ひかり「この曲、聞いたことがあったの。結構有名よね」

響「フェルノスを結成する前からあるぞ。元々は、千早と雪歩のデュオが歌ってたんだ」

ひかり「……今まで見聞きした中で、いちばん綺麗だった。どうしてかしら」

響「うーん、なんでだろ」

ひかり「……ねえ、765プロのプロデューサーとして、私達『新幹少女』のパフォーマンスはどうだった?」


 ひかりは腕を組んで、自分をじっと見ている。
 歓声にまじった千早たちの足音を背に、答えた。

響「……すごかったよ。自分たちにはない要素ばっかり、パワフルな曲とダンスだった」

ひかり「そっ。……結果発表、もうすぐよね。控室に戻るわ」

 彼女はじゃあね、と手を振って、控室へ続く階段を降りていった。
 大きなビジョンには、審査員がどちらのユニットに星を贈ったかが表示される。


 全ての星が画面に出終わると、棒グラフへと姿を変えた。
 より高く伸びているグラフは、フェルノスだ。

千早「やった!」

真美「一回戦、突破したね!」

雪歩「うう、良かった……私がセンターだから、ヘマしたらどうしようって、うう」

響「みんな、おめでとう! 特に雪歩、すっごく堂々としてて良かったぞ」

雪歩「ありがとう、響ちゃん」


 プロジェクト・フェアリーが待つ2回戦を待つために、自分たちは控室へと戻ってきた。
 ふと、ドアの前に見慣れた3人が立っていることに気づく。

真美「あっ! はるるん、やよいっち、まこちんじゃーん!」

春香「やっほ、みんな」

 春香、やよい、真。
 765プロでユニットに所属していない3人は、フェアリーと竜宮小町の楽屋を巡って、最後にここに来たらしい。

 ドアを開けて、みんなを控室に迎え入れた。

春香「千早ちゃん、見てたよ。活き活きとしてたね……次も頑張って」

千早「ありがとう、春香。とっても嬉しい」

 春香と特に仲が良い千早は、素のリラックスした笑顔を見せている。


真「雪歩、ダンスバッチリだったね」

雪歩「真ちゃんのおかげだよ、センターだったけどあんまり緊張しなかったし……」

真「すごいよ……本当に。ここまで大きなステージでさ。765プロのファンだけじゃないのに」

雪歩「あ……今になって震えてきた……」

響「真、余計なこと言っちゃダメでしょ!」

 雪歩はダンスの得意な真にコーチを頼んで、苦手な分野を潰そうと頑張っていた。
 その成果が、『Little Match Girl』に出ていた。


やよい「真美はセンター、やるの?」

真美「次の曲でやる予定だよ。相手はミキミキたちだけどね」

やよい「頑張ってね! 私、ずっとずーっと見てるから」

真美「ありがとね、やよいっち。あはは、なんかひびきんみたいなこと言ってる」

 やよいが「優勝したら、真美の好きな食べ物なんでもひとつ作ってあげる!」と言うと、
 真美は飛び跳ねて喜んでいた。何を作ってもらうのか、ちょっと気になる。


響「ねえ、真美。本当にやるの?」

真美「モチのロン! ミキミキもお姫ちんも、きっと超ビックリするよ。ね、ゆきぴょん」

雪歩「うん。……それにね、私も歌いたいんだ」

千早「インフェルノスターズは3人だけじゃない。みんながいて、貴女が居るっていうことを、知ってほしいから」

 3人はまっすぐと前を向いて、燃えていた。
 春香がそれを見て、真とやよいの手をとる。


春香「……じゃあ、行こうか。特等席で見ようよ、フェアリーとフェルノスを」

真「そうだね! 頑張ってね、みんな」

やよい「私、大きな声で応援します!」

千早「ええ……ありがとう、しっかり見守っていてくれると嬉しいわ」

 みんな、本来はオフのはずなのに、応援に来てくれることがたまらなく嬉しかった。


 ★

 2回戦が始まる前、舞台袖に到着する。
 フェアリーの2人とプロデューサーは既に到着している。美希はこちらに気づくと、笑顔で手を振った。
 流石だなぁ、と思う。堂々としている。

響「……よし」

 オレンジの衣装を着たフェルノスの3人が、今回は先攻だった。
 この大会では、先攻がかなり不利とされているけれど……優勝したユニットが先攻、ってことも多い。平気だ。

真美「うあうあー……センター、緊張してきたよ」


雪歩「平気だよ、真美ちゃん。私でも立てたんだもん」

千早「困ったときは、後ろに下がるといいわ。私と雪歩がいるから」

真美「それはメッチャ心強いけど……足、ガクガクしちゃって」

 真美の足は小刻みに震えていた。あの大舞台で、誰かの後ろで踊るのとセンターに行くのとでは、全然違うだろう。

響「真美、手のひらに人って文字を書いてさ、飲み込んでみるんだ。緊張が取れるぞ」

千早「随分と懐かしいわね、そのおまじない」


 せっかくだから、と4人でそれぞれおまじないをする。
 なかなか奇妙な光景だったんじゃないか、と思う。

真美「……うん」

響「緊張、和らいだ?」

真美「ちょっと落ち着いてきた! ありがとね、ひびきん。みんな」

響「ううん。……今回は自分の歌だからな、楽しみにしてるよ」

雪歩「響ちゃんにも、無理しない範囲で良いから歌ってほしいな」


千早「そうね。響と一緒にうたいたい」

響「……うん。一緒に歌おう」

 あの歌がステージで歌われているのを見ると、自分はもしかしたら泣いてしまうかもしれない。
 自分はもうアイドルじゃなくて、だからアイドルだったときのことは忘れたほうが良いのかもしれないけれど……。

『それでは待望の2回戦! いきなり765プロ同士の対決だぁ!』

雪歩「始まっちゃう!」

真美「じゃっ、行ってきます!」


 みんなが、フェルノスの3人が、我那覇響をアイドルでもあるとどこかで認めてくれている。
 もう踊れない自分にとっては、泣きそうなほど嬉しかったんだ。

 自分の歌をうたいたいって選んでくれる。それがどれぐらい幸せなことか。

真美「会場の、兄ちゃーん! 姉ちゃーん! 盛り上がってるー?」

雪歩「これから歌う曲は、私達のプロデューサー……響ちゃんの曲です!」

千早「ご存知の方がいれば、ぜひ一緒に歌いましょう」

 親しんだあのメロディが、流れ始める。


 ♪Brand New Day!

 いつだって微笑んで 歩き出せる仲間となら
 輝いて見つめて 今、始まる It's a Brand New Day!

 Catch Up 見つけましょ 瞳の中にうつる
 Dreamin' その先に ドキドキを感じたいの

 ストレートな思い 止められないの 乙女の熱いハート
 出会えたカモネ 本当の私色(Color) Oh Yeah!

 進め 負けない ここから始まる
 手と手を繋いで走りだす 自分たちの未来は
 負けたり へこんだりしない
 世界が呼んでいるんだから 飛び込んじゃえば たぶん All Right!


 サビのちょっと前から、涙がこぼれ出してちゃんと歌えなかった。
 センターの真美はパワフルで、アイドルだったときの自分にちょっと似ていて……。

美希「響、ハンカチ使う?」

響「あ、ごめ……ありがと」

美希「嬉しいよね。自分の歌を、他の人が大切にしてくれるのって」

響「……うん」

 美希と貴音は、自分の背中をさすってくれていた。


貴音「アイドルの響が歌っているのを見ているようでした。貴女の魂は、しっかりと受け継がれていますね」

響「知らないうちに託してたのかもしれないな。自分の分まで歌って欲しい、って」

貴音「素晴らしきことです。わたくしの、響と共に踊りたいという欲求が、強くなってしまいそうです」

 切なげな表情をする貴音を見ると、胸が締め付けられる。

美希「……さ。ミキたちも負けてられないね」

貴音「ええ。最高のステージには、わたくしたちもそれ以上のもので返さなければなりませんね」


美希「ハニー、行ってくるね」

P「ああ。フェルノスを超えて見せてくれよ!」

 真美たちと入れ替わりに、美希と貴音はステージへと出て行った。
 千早は、自分が手に握っていたハンカチを取ると、自分の目尻を拭いてくれた。

千早「目、真っ赤」

響「あはは……恥ずかしいな。泣いちゃって」


『みんなー! 盛り上がっていくのーっ!』

真美「フェアリーのステージ、始まるね」

千早「ええ。しっかり見ていましょう」

雪歩「あの、プロデューサー。何の曲を歌うんですか?」

P「王道でしっかりと攻めるよ。『オーバーマスター』だ」

 オーバーマスター。フェアリーのデビュー曲で、自分もかつて歌っていた。思い出深い一曲。
 黄色のライトが、ステージを照らす。音楽がゆっくりと流れ始めた。


 美希と貴音の衣装は、黒に金色のラインが入ったドレス。
 その妖艶な雰囲気を打破するダンスが良い。

 衣装と曲調、ダンスのギャップで惹きつけるのは、プロデューサーの得意なやり方だ。

雪歩「綺麗」

 何の非の打ち所もないステージ。自分の知っている、いつも通りのフェアリーだ。


 いつまでも鳴り止まないフェアリーへの拍手。
 美希と貴音は舞台袖に戻って来て、荒れる息を整えていた。

P「お疲れ様、ふたりとも」

美希「ミキ、やり切ったよ。今のミキたちに出来る、最高のパフォーマンスをしたの」

貴音「ええ。とても、楽しい時間でした」

 大きなビジョンに、星が並んでいく。
 フェアリーとフェルノス、ほぼ均等に星が分かれて……今のところはイーブンだ。


 残り一票……玲音の票は、どちらに動く?

 星がすべて並んで、棒グラフが表示された。その差はたったの1ポイントで、

『二回戦突破は――インフェルノスターズ!』

真美「やったー!」

 会場が、ひときわ大きな歓声と拍手に包み込まれた。


響「おめでとう! すごく嬉しいぞ!」

雪歩「やった、やったよぉ」

千早「これで準決勝に進めるのね」

 美希も貴音もプロデューサーも、拍手をしてくれている。
 小躍りしそうなほど喜んでいるみんなを見ながら、自分はフェアリーのことを気にしていた。


 フェルノスのみんなで控室に戻った後、自分はそこを抜けてフェアリーの控室に来ていた。
 プロデューサーが他のユニットを見に行くのは良くないことかもしれないけれど、気になったんだ。

 美希と貴音は椅子に腰掛けていた。

貴音「響。わたくし達のステージに何が足りなかったか、分かりますか?」

響「えっ? 歌は完璧だったし、ダンスもすごかったし、ビジュアルアピールも良かったけど……」

美希「もう、そういうことじゃないの! その辺だったら完璧だったって、ミキも思うな」

貴音「ええ。わたくし達に足りなかったのは……貴女ですよ、響」

 あ、と声が出た。


美希「やっぱり気づいちゃった。今まで、騙し騙しで続けてきたけど……大きな舞台だと、ダメだね」

貴音「響を欠いたことで、フェアリーはいびつな形になってしまいました」

美希「でも、これで悔いはないの。響には悪いけど……ずっと前に言った通り、解散することにしたよ」

響「…………うん。ごめん、ずっとずっと縛ってて」

貴音「縛られてなどいません。わたくしも美希も、自らこの道を選んだのです」


 最後に歌えたのが、デビュー曲のオーバーマスターで良かった……と、
 美希と貴音は口をそろえて言った。自分もそう思う。最後に聞けて、良かった。

美希「フェアリー、楽しかったね。響が戻ってきたら、また一緒にやろうよ」

響「もちろん! ……戻ってこられるか、分からないけど」

貴音「ふふっ。懐かしいですね、こうして語り合い、頂点を目指した時間が」

 765プロではない事務所に居る時から、ずっと一緒にやってきて。
 フェアリーはもう、翼を休める時を迎えてしまったのかもしれない。


美希「……ほーら、ここに居て良いの? プロデューサーさん」

響「あっ」

貴音「千早たちが待っていますよ」

美希「伝えておいてね。ミキと貴音の分まで、頑張って……って」

響「うん……ありがと、伝えておく」

 控室のドアを開けて廊下に出る。
 椅子に座って手を振るふたりに、泣きそうな顔を見られないようにした。


 ☆

『いよいよ準決勝となりました! シード権を持つユニットが既に2ユニットも脱落するなど、今年は大混戦!』

 大混戦という名の通り、シード権のあるプロジェクト・フェアリーとJupiterは既に敗れていた。
 ここまで生き残った4ユニットは、来年のアイドルクラシックへの優先参加権を手にできる。
 多くのアイドルが憧れる、優先参加権。頂点へ道のりをスキップできる魔法のチケット。

『765プロ対決はどんどん加速していくのかッ!? 前回大会決勝出場、竜宮小町! 対、新進気鋭! インフェルノスターズ!』

千早「し、新進気鋭……」

雪歩「すごく注目される紹介、だね」


 トップアイドルはこの4ユニットの中から選ばれる。だからこそのプレッシャーだった。

あずさ「うふふ、よろしくね」

亜美「楽しくやろうねっ」

伊織「千早! ……リーダーとして言わせてもらうわ。相手がアンタたちでも、手を抜くつもりはない」

千早「ええ、もちろん。私達も全力で挑むわ」

 フェルノスが頂点を掴むには、竜宮小町を倒さなければならない。
 同じ事務所に居るからこそ、お互いに相手のことを良く知っている。


 先攻――準決勝のトップバッターも、フェルノスだ。
 流れ星をそのまま身にまとったような衣装で、円を作って顔を合わせた。

千早「……ここまで来たなら、やっぱり狙いたい。あのトロフィーを」

真美「そうだね。トップアイドルは亜美にも渡したくないし!」

雪歩「最高のパフォーマンス、見せようね」

響「みんなが笑顔で舞台袖に帰ってくるのを、自分は待ってるぞ」

 今日重ねた3回目の手は、皆震えている。
 でも、表情には自信があふれている。きっと、大丈夫だ。

雪歩「進めっ!」


「「「「インフェルノスターズっ!」」」」

 どこまで突っ走っていけるかは分からないけど……。
 今の自分にできるのは、みんなを信じて横から応援することだけだ!

響「――いってらっしゃい!」

「「「いってきます!」」」

 熱気も歓声もさっきとは段違いな、日が沈み始めた野外ステージ。
 特別な雰囲気の中、音楽が流れ始める。


 ♪CHANGE!!!!

 CHANGIN' MY WORLD!! 変わる世界輝け
 CHANGIN' MY WORLD!! 私の世界 私のモノ CHANGE!!

 きらめくSTAGE イベント・グラビア・CM
 TVでSHOW TIME♪ 始まり続くSTORY
 何度NGでも どんなライバルだって
 負けないでTRY AGAIN 立ち上がるSTREET

 ENCOREはないLIVE 一度のLIVE
 進め!! どこまでも SHOW MUST GO ON☆
 3・2・1

 CHANGIN' MY WORLD!! 変わらない夢描いて
 CHANGIN' 今を!! 好きに自由に 変えるREADY!!
 CHANGIN' 前を!! 新しい未来追いかけながら
 私らしい私でもっともっと DREAM COMES TRUE


 曲の一番最後、両手を前に突き出すポーズ……千早たちの息が切れていることは、ここから見ても分かるのに。
 それでも腕は、身体は、ピクリとも動かない。懸命に支えている。

千早「ありがとうございました!」

雪歩「ありがとうございました……!」

真美「ありがとうございましたーっ!」

 いままでで一番大きな割れるような歓声に包まれて、3人は笑顔で戻ってくる。
 肩で息をしている……それほどまでに、全力でやり切ったんだ。


響「お疲れ様、最高のステージだった!」

 千早、真美、雪歩……3人が微笑む。
 勝手に身体が動いて、みんなを抱きしめてしまった。

雪歩「やり切った、よね。私達」

千早「ええ。……思い切り歌ったわ」

真美「サイッコーに楽しいね!」


 竜宮小町の声が、歌が聴こえ始める。
 『七彩ボタン』に合わせて、観客が合いの手を入れていた。

響「……すごい、竜宮小町も完璧だな」

 立ち位置から、踊りも狂いがない。
 さすが前回大会の2位……さっきのフェルノスのステージを見れば負けるはずがないと思ったけれど。

千早「跳ねるように踊るわね……」

 かろやかなステップ、ノリやすい音楽。
 律子からもまだまだ学ぶことが多い、と感じるステージだ。


 竜宮小町のパフォーマンスが終わって、フェルノスの3人がステージへと戻る。
 準決勝からは、アイドルも発表の場に立ち会うことになっていた。

『準決勝第1チーム、765プロ対決の結果が出ました!』

 手を組んで祈っている雪歩の姿と、目をつむっている伊織の姿が印象に残る。
 誰がどのユニットに投票したかは、ここから非公開になる。

『では、発表します。決勝に勝ち進むのは――』

 そして、2本の棒グラフが表示されて……。
 司会者によってユニット名が発表された瞬間、会場をすさまじい熱気と歓声が囲った。


 ――――
 ――

真美「綺麗だねえ……」

 事務所の仮眠スペース。テーブルの上に置かれたアイドルクラシック優勝のトロフィーが輝いている。
 ソファには千早と真美が並んで座っていて、真美はトロフィーに顔を近づけてまじまじと見ていた。

千早「そうね……トップアイドルの証だもの」

 自分と雪歩は、千早たちの対面側のソファに座っている。


雪歩「響ちゃん。トロフィー、端っこに置いておくね」

響「あ、自分が動かしておくよ。ミーティングのときにジャマだし」

 トロフィーの台座を持って、慎重にテーブルの端へと置き直した。
 アイドルクラシック優勝――竜宮小町。ユニット名が刻まれている。

 パン、と手を一度叩いた。


響「さっ、ミーティング始めるぞ」

 くつろいでいた3人がぴっ、と背筋を伸ばす。
 普段はテレビの横にあるソファでするけれど、今日はそこで美希が寝ているから仮眠スペースに来ていた。

響「えっと……まず自分のことなんだけど、免許取ったんだ」

真美「えっ、そうなの!?」

 雪歩が、さっき初めて車で送り迎えしてもらったんだよ、と付け加える。
 試しに雪歩の家に行って、そこから事務所まで車を運転してきたんだ。


響「大会の少し前から教習所には通ってたんだ。病院でも、長距離じゃないなら平気って言われてさ」

千早「良かったわ。これからは響の運転で移動するのね」

響「そういうこと」

 ずっとみんなには電車で移動してもらったり、タクシーに乗ってもらっていた。
 自分が運転できれば、だいぶ負担が減ることになる。病気で諦めていたいろいろなことに、ちょっとずつ挑戦しよう。

真美「いいなあ、真美も早くひびきんのカーチェイスを見たいよぅ」

響「いやいや、事務所のワゴンだし……」


 さて、本題だ。

響「で――本題なんだけどさ。アイドルクラシックからもうじき2ヶ月経つよね」

千早「ええ」

響「実は、本戦に出た数ユニットを集めて、アイドルの音楽祭みたいなのをやりたいって話が来てるんだ」

雪歩「音楽祭?」

響「うん。ステージは……アレほどじゃないけど、テレビ局内の特設野外ステージ」


 準決勝、最高のパフォーマンスをしても負けてしまったことで、しばらくみんなの士気は下がっていた。
 でもしょうがない、実力では竜宮小町が上だったということ。事実、竜宮はそのまま優勝したわけだし。

響「ここに出るっていうの、どうかな?」

真美「真美は良いと思うよ! 竜宮が出るならリベンジしたいし」

雪歩「そうだねっ。それに楽しそう」

千早「もう一度レッスンし直さないとね」

響「了解。じゃあ、このお仕事は受けることにして……っと」


 千早たちはリベンジに燃えている。
 次のアイドルクラシック――シード権を持っているから、そこでこそ優勝すると。
 それまでに自分は、もっともっとフェルノスのみんなを鍛えあげなきゃいけないな、と思った。

響「それじゃ、今日はこの後『Song on the wave』の収録があるから、準備してね」

千早「分かったわ」

真美「りょーかい!」

雪歩「はーいっ」

 今日の予定を書くホワイトボードに、「フェルノス:収録」と書き込んだ。念願の出演だ。
 その下には、春香と真とやよいのユニット、『パーフェクトサン』の予定や美希、貴音の予定も書き込んである。


 三者三様の返事。
 次のステージに向けて、どうプロデュースしていこうか?
 みんなの素敵な個性を活かしたいし、統一感のある曲や振り付けも良いなぁ。

 インフェルノスターズというユニットは、無限の可能性を秘めている。
 まだまだ成長過程にあって……だから、優勝はまだ早いのかもしれない。

 さらに高みを目指せば、優勝――トップアイドルも、きっと見えてくる。
 自分もそのために、プロデューサーとして一人前にならないと……だなぁ。

雪歩「響ちゃん?」


響「あ、ごめんごめん! 今行くから」

 フェアリーを超えるユニットを作る、っていう目標は達成した。
 だから、次のプロデュース目標を定めることにしよう。

 トロフィーを元の位置……テーブルの中央に戻して、覗きこんでみる。
 誰にも聞かれないようにそっと小さくつぶやいて、思い切り笑ってみせた。

響「……次の大会のトロフィーには、『インフェルノスターズ』って書いてある。きっとね!」

Go to next produce!!■


 これにて完結となります。2年も経ってしまいましたが、ご支援いただいたおかげで完結させることができました。
 お読みいただき、本当にありがとうございました。お疲れ様でした。

乙!

乙。
続編はいつかね?

乙!
フェアリー戦でひびきんの曲とかそら泣くわ

おつおつ!

乙!

おつ!
待った甲斐があったよ!

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