男「ウホッ!男だらけの世界」(34)

~森~

男「結構奥まで入ったな」

友「な、なあ、もう戻ろうよ。みんな心配してるだろうしさ……」

男「怖じ気づいてんのかよ?」

友「違うよ……。でももう帰った方がいいっていうかさ……」

男「だってまだ獲物とれてないじゃん」

友「帰りに山菜を採って帰ればいいじゃないか」

男「えーっ……」

友「狩りは大人に任せよう?ね?」

男「…………」

友「また遅くなったら怒られるしさ……」

男「……仕方ねえな」

友「よし、ならあっちに行こうよ。僕山菜あるところ教えてもらったから」

男「はいはい」

友「……ちゃんと手伝ってよ?」

男「わかってるって」

友「そんなこと言って前は自分だけ帰ったじゃないか!」

男「いつの話だよ」

友「3ヶ月前!」

男「あー、はいはいそうでしたっけね」

友「そうでしたっけね、じゃないよ!あの時は僕だけでやったんだからな!」

男「わかったって、早く行こうぜ?」

友「……わかったよ」

男「おう、それじゃ出発!」ダダダッ

友「ま、待ってよ!」

男「急がなきゃ日が暮れちまうだろ!」

友「そうだけど!」

男「この調子じゃ女になるのはお前だな!」

友「い、嫌だよそんなの!」

男「ならしっかりしろよ」

友「う、うん」

男「ほら、あわせてやるから急ぐぞ」

友「あ、うん」

~村~

男「ただいまー」

姉「おかえり!遅かったな?」

男「ふ、普通じゃないか?」

友「……獲物をとるんだって森の奥まで……」

男「あっ、おい!」

姉「山菜だけ採ってくればいいって言っただろうが!」ゴン!

男「いってえええ!?何すんだこのくそ兄貴!」

姉「残念だったな。今はもう兄じゃなくて姉だ」

男「っつうか告げ口すんなよな……」

友「いずればれちゃうんだし正直に言った方がいいよ。それに嘘はいけないし」

姉「うん、正直でよろしい」

男「ちぇっ」

姉「もうすぐで狩りに連れて行ってもらえるんだから我慢しろよ」

男「だって山菜採りとかつまんねえしさ」

姉「つまんないとかじゃなくて大事な仕事だろうが。それにお前が家を守ることになるかもしれんのだし」

男「は!?俺は絶対に女になんかならねえからな!」

姉「それもどうかわからんだろ」

友「そ、そうだよ」

男「お前が女になれよ。俺がバリバリ稼いでくるからさー」

友「い、嫌だよ……」

姉「ということはお前たちはもう夫婦になる相手を決めているのか?」

男「んー、まあな。なんだかんだで一番馬が合うし」

友「僕もそんな感じです」

姉「そうか、まあ私もそんな感じでつがいの相手を決めたしな」

男「でも長老は夫婦になることは神聖なことであるとかなんやかんやうるさいんだよなー」

姉「まあ、長老の言うこともわからんでもないけどな」

男「そうなのか?」

姉「ああ、つがいの相手は慎重に選ぶべきだぞ?」

友「なんでですか?」

姉「それは家族になるのだし、二人はお互いを支えていくパートナーにもなる。それに……」

友「それに?」

姉「……女になったらわかるさ」

男「なら俺は一生わかんないな!」

姉「女になるのもそこまで悪くはないぞ?」

男「えー、本当かよ」

友「だって女になる時ってすごく痛いんですよね?」

姉「ああ、痛いな」

男「体も細くなって力も落ちるし、胸が膨らむから前より動けなくなったんだろ?」

姉「そうだ」

男「女になりたくねえに決まってんじゃん!」

友「僕も……」

姉「ははは、まあそう思うだろう。私もあんまりなりたくなかったしな」

男「つうか兄貴はなんで女になったんだよ?」

姉「今は姉だと言っているだろう」

友「でも僕も不思議に思いましたよ。狩りだってしっかりこなしてて女になるなんて少しも思わなかったですもん」

姉「まー、いろいろあってな」

男「何があったんだ?」

姉「んー……、お前たち私の夫のことをどう思う?」

男「へたれ」

友「……もうちょっとこう……」

姉「いやいや、その通りだ。私もそのへたれっぷりには困ってるよ」

男「なら、その人が女になればよかったじゃん。弱い方が家を守るもんだろ?」

飯休憩

姉「そうなんだけどな。あいつ、女になるのを嫌がったんだ」

男「なんて言って?」

姉「「痛いのは嫌だ!あと姿が変わるのも怖い!」……だとさ」

男「……へたれだな」

友「……わからないでもないよ」

姉「そうやってどうしてもだだをこねるものだから私が折れたんだ」

男「情けねー」

姉「ははは、まあな」

男「つうかそんなのがつがいの相手で良かったのか?」

姉「まあ、なんだかんだで信頼しているしな。それにそういうダメな所も可愛く思えてな」

友「……そういうものなのかな?」

男「前はだらしないとか言ってたじゃん」

姉「なんだろうな。そういう欠点も合わせて愛しく思えるんだ。女なったからかもな」

男「……へー」

姉「ま、そういうことだ。家を守ることも存外悪くない。妻になるのもな」

友「…………」

「帰ったぞー!」

男「お!」

姉「どうやら狩りから帰ってきたみたいだな。出迎えに行こうか」

友「はい」

男「何を狩ってきたんだろうな?」

友「僕はウサギだったらいいな」

男「俺はイノシシだったらいいなー」

姉「そんなの見ないとわからないだろう。ほら、行くぞ」

男「へーい」



夫「ふう、疲れた」

男「お、へたれ!」

夫「ん?」

姉「…………ふん!」ガッ!

友「あっ……」

男「……いってえええええ!」

友「……余計なこと言わなきゃいいのに」

夫「どうかしたのかい?」

姉「いや、なんでもないさ。お帰り、疲れただろう?」

夫「まあね。でもちゃんと狩りを頑張ってきたよ。ウサギを仕留めた」

姉「ほう、よくやったな」

夫「ま、まあね!」

姉「……顔が赤くなってるぞ?」

夫「いや、これは……」

姉「……ふふふ」

夫「…………!」アセアセ

男「……尻にしかれてるなあ」

友「……そうだね」

ワーワー、ギャーギャー!

男「この声は……」

姉「あいつらだな」

兄「今回もあんたのせいで本当に大変だったんだからな!?」

狩人「はっはっはっ!」

兄「何笑ってごまかしてんだよ!」

狩人「うるさい奴だのう。別にそのおかげで大物を狩れたんだからよいだろう」

兄「それに毎度付き合わせられる身にもなってみろってんだよおっさん!」

狩人「知らん!」

兄「知らん!の一言で済ませんな!」

姉「……はあ、村に着いたばかりなのに元気だな」

兄「げっ、兄……姉貴」

狩人「おお、元気にしとったか?」

姉「まあな。……それにしてもお前たちは仲がいいのか悪いのか」

飽きた。休む

狩人「別に悪くはないぞ?坊主がつっかかってくるだけで」

兄「どの口でそんなことをほざきやがるんだ!」

狩人「ほう?口がいくつもあるように見えるか?」

兄「そういうこと言ってるんじゃねえよ!」

姉「まあた始まった……」

男「あ、兄貴おかえり」

兄「だからあんたは………ん?おお、ただいま」

男「今日もお疲れ」

友「お疲れ様です」

狩人「おお、坊主共。ちゃんといい子で留守番しとったか?」

男「子供扱いすんな!」

狩人「そういうことはもっと大きくなってから言うといいぞ」

姉「また森の奥の方に入っていたらしいぞ」

兄「まーたお前は…………」

狩人「そういうことしとるうちは子供というんだぞ、坊主」

男「ちぇっ」

狩人「まあわからんでもないがな。わしも昔はやんちゃだったからな」

兄「あんたは現在進行形でやんちゃだろ」

友「でも、止めようって言っても聞いてくれないのは困るよ」

姉「そうだぞ」

男「なんだよみんなしてさあ!じゃあ姉貴とかはどうだったんだよ!」

姉「私か?私はちゃんと大人の言うことを聞き、約束事を破ったこともない」

男「……本当に?」

姉「本当だとも」

男「……兄貴、本当?」

兄「…………えっ?」

姉「……………………おい」

兄「エエ、モチロン。ソンケイデキルアニデシタヨ?」

姉「ほらみろ」

狩人「そうか?なかなかのやんちゃ坊主だっ…………」

姉「……………あわせろよ」ボソッ

狩人「…………だと思ったが気のせいだったわ」

男「ええー、本当かよぉ!」

姉「本当だ。だからお前ももう少し分別をつけろ。大人達に言って狩りに参加させないようにしてもいいんだぞ?」

男「それは嫌だ」

姉「ならもう少し周りを気にして行動しろ」

男「へぇい……」

友「本当にそうしてよね」

男「わかったよ……」

兄「はっはっはっ。これであいつも懲りたかな」

姉「……そうならばいいんだがな。三日もすれば元通りだろう」

兄「……だろうなー」

姉「ところでだな」

兄「なんだよ姉貴?」

姉「いや、二人に話したいんだが」

狩人「わしもか?」

姉「ああ。二人共、いつなったら身を固めるんだ?」

兄「……またその話か」

姉「またとはなんだ。お前ももうそろそろつがいの相手を見つける時期だろう」

兄「そんなこと言われてもさあ。別にいいんじゃん。まだ慌てなくても」

狩人「そうだぞ!独り身でも気にすることは何もない!」

姉「……あなたはもう少し気にしてください」

狩人「そうか?」

姉「独り身で一番年長なのはあなたなんですよ?もう少し危機感を持つべきだと思うんですが」

狩人「一番年長なのは長老だろう?」

姉「あれは妻が亡くなっただけです。あなたのように独り身ではありません」

狩人「そんなこと言われても……なあ?」

兄「だよなあ」

姉「夫婦になりたい相手とか、つがいが欲しいとか思ったことはないのか?」

狩人「いないし、無いのう」

兄「そうだよなー。それにいろいろと面倒くさいし、狩りをしているほうが楽しいよ」

狩人「その通りだな」

姉「……そうか」

兄「まあ姉貴がそんなに考えなくてもいいって。なんとかなるなる」

姉「……それでそのままの状態で今に至る人がお前の隣にいるだろう」

狩人「わっはっはっ!これは痛いところを突かれたな!」

兄「……なんとかなるって。多分」

姉「……そうだといいんだがな」

男「姉貴ー」

姉「ん?どうした?」

男「俺たち獲物の解体とか手伝ってくるよ」

姉「そうか。みんなの邪魔にならないようにな」

友「はい、わかりました」

姉「……さて、私たちもそろそろ仕事をするか」

兄「そうしますかね」

狩人「今夜はごちそうだな。飯が楽しみだ」

休憩。



長老「今回も森の恵みに感謝し、宴を行う!」

男「待ってました!」

友「みっともないからあまりがっつかないでよ?」

男「こういう時にがっつかないでいつがっつくんだっつうの」

長老「それでは様々な命に対して、これからも村の繁栄を願って乾杯!」

「乾杯!」「さあーて、食うぞ!」

男「おっしゃあ!この肉俺の!」

友「ちょっと!?僕の分は!?」

男「向こうから取ってこいよ」

姉「こら、そういうのは良くないぞ。周りの人のこともしっかり考えろ」

男「へーい……」

兄「まったくまだまだお子ちゃまだな」

男「んだとぉ!」

兄「そう言われたくなきゃ考えて動けよ。もう自分で考えられるだろうに」

男「ちぇっ。いっつもガキ扱いするんだからさ。わかったよ、気をつけりゃいいんだろ気をつけりゃ」

兄「そういうこった」

夫「ははは、でも元気でいいんじゃないかな。これから学んでいけば立派になるよ」

姉「あまり甘やかしてくれるなよ?」

夫「そういうつもりじゃないよ。君だって昔はやんちゃだったじゃないか」

姉「なっ…………!」

男「……やっぱり自分だってそうだったじゃん」

姉「こら、お前……!」

夫「でも今は僕の妻としてしっかり支えてくれているだろう?弟くんもこれからだよ」

姉「……そうかもしれんが」

男「……義兄さん結構いろんなこと考えてるんだな」

夫「……えっと、僕はどう思われてたのかな?」

男「へたれ。姉貴からいろいろ聞いたぜ?女になるのを怖がったって」

夫「ちょっと!?」

姉「ふん!これでおあいこだ!」

夫「そうかも知れないけど喋らないでと頼んだだろう!?」

兄「……ったくお熱いこって。見てるこっちも暑くなってくらあ」

友「羨ましいんですか?」

兄「うーん、あれだけ仲がいいとちょびっとな」

男「なら相手探せよ」

兄「面倒くさい」

男「結局それかよ……」

兄「いや、だってな?狩りが面白いもんでそっちばかりに気をとられたら周りがどんどんくっつき始めてな?余っちまったんだよ」

男「つまり?」

兄「狩りが面白いから別にいいや」

友「……そう言って死ぬまで狩りを続けてそう」

兄「まー、それでもいいんじゃねえか?自分がつがい相手見つけて子供作って……なんて想像出来ないしよ」

男「いっつも兄貴が振り回されてるおっちゃんは?」

兄「んー?年もちょいと離れちゃいるが話しやすくて疲れない……いや、振り回されるから疲れるな」

友「でも見てると楽しそうですよ?」

男「うん、そうだよな。なんか年の近い友達って感じ」

兄「だけどあのおっさんが女になって村に閉じこもる姿なんて想像できるか?」

男「……おとなしくしてくれそうにないなぁ」

友「嫌がるだろうなぁ」

兄「だろ?俺も村に閉じこもるなんてまっぴらだからな。女になったら狩りも出来ねえし。つまり俺とおっさんがつがいになるのは有り得ないな」

男「……おっちゃんが無理ならもう相手いないじゃん」

友「……だよね。おじさんに振り回されながらいつまでも狩りを続けるんだろうね」

兄「うるせえよ!ならお前らはどうなんだよ!?」

男「一応俺たちでつがいになる予定だもんなー」

友「ねー」

男「誰かさんと違って売れ残ったりなんてしないんだぜ?」

兄「ちくしょー!」

男「はっはっはっ!勝った!」

友「いったい何に勝ったっていうの……?」

男「わかんないけど兄貴が悔しがってる姿を見るのは楽しい」

兄「くそっ!なんて弟だ!」

今夜はここまで。ノシ

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