続"女「私は貴方が嫌いだけれどね」"(301)

男「サンタさんになにか願う?」

女「貴方が普通になることかしら」

男「またまたー。僕はとっても普通な高校生だよ」

女「貴方が普通なら世界中の人が狂人ね」

男「つまり普通なのは僕と女さんだけになる、と」

女「貴方に同類だと思われていたなんて心外だわ。首を吊りなさい」

男「どれぐらい締めたらいいかな?」

女「……貴方の潔さは絶句ものね」

とても嬉しいことがあったのと、
かねてよりクリスマスssを書きたかったのと合わせて、
この二人の続きを書きたいと思う。

元々ssvipだったんだが、最近あっちは二次ばかりだもんで
オリssを置くのは申し訳なかったからこっちにした。

クリスマスまでには完結する。予定じゃなくて、確実に。

前作
男「好きです」女「私は貴方が嫌いだけれどね」


男「僕はサンタさんにね」

女「聞いてないわ」

男「女さんが素直になれるようにって願うつもりなんだ」

女「……貴方の妄想を私に押し付けないで」

男「素直な女さん……素敵だなあ」

女「妄想に浸るのは深夜の自室に留めておいてくれないかしら」

男「でもそうやってチクチク言うから素直さが映えるんだよね。ただ素直なだけってのも考えものか……んー」

女「あら、おかしいわね。会話をしている気がしないわ」スッ

男「ごめんごめん。もうしないからその彫刻刀を下ろしてよ、って高校生にもなって彫刻刀持ち歩くのはどうかと思うよ」

女「護身用よ。貴方用の」

男「僕じゃない用もあるの?」

女「催涙スプレーとスタンガンと防犯ブザーがあるわ」

男「物騒な鞄だね」

男「そんな女さんに質問なんだけど、クリスマスの予定は? 家族と過ごしたりするの?」

女「両親は仕事柄クリスマスが多忙だから、特にないわね。毎年26日にクリスマスケーキを食べるぐらいよ」

男「ご両親のお仕事って?」

女「居酒屋を経営してるわ」

男「それはすっごく意外だね。女さんと居酒屋が結びつかないよ」

女「そうかしら。たまにウエイトレスならしているのだけれど」

男「女さんの……割烹着姿!」

女「え、ええ、それがどうかしたの?」

男「今度飲みに行こう!」

女「成人しても入店拒否するわ」

男「話を戻すね」

女「相変わらずめげないわね」

男「女さん、僕とクリスマスイヴに遊びませんか?」

女「……嫌」

男「!?」ガーン

女「あら、断られるとは微塵も予想してなかったって顔ね」

男「そんなつもりは……いや、そうだったのかな。なんだかんだで女さんは誘ったら必ず受けてくれてたから、慢心してたのかもしれない」

女「必ずってことはないでしょう」

男「必ず、だよ。といっても女さんを遊びに誘ったことはまだ三回しかなかったけど」

女「ちょ、ちょっと」

男「うん?」

女「なに泣いてるのよ」

男「……え?」ポロポロ

男「う、うわっ、ほんとだ、涙が勝手に……あっ、見ないでよ女さん」スッ

女「貴方が恥じるなんて珍しいこともあるのね」

男「これでも僕は女さんに弱々しいところを見せたことはないよ」グスッ

女「あら……そうだった、かしら」

男「あー、くそ。失敗した。なんだか気分が凹んじゃったから、今日は先に帰るね」

女「……き、気にすることないじゃない。涙ぐらい」

男「……」

男「女さん。これでも僕は男だよ。男は男らしくなんて時代錯誤なことは言わないけど、好きな子にはカッコつけてたいんだ。そこは譲れない」

女「そう。貴方がそう決意しているのなら、私が口出しすることはないわね」

男「うん」

女「……へえ、そうなの。いや、そうよね。当たり前のことね」

男「どうかしたの? 女さん」

女「私は勘違いしていたわ。てっきり貴方は万能だと買い被っていたわ」

男「女さんのためならシャープペンにだってなるよ」

女「そんな学生の常備アイテムになるよりも先に、ここぞというところで人の心を読み違えないようにすることね」

男「女さん?」

女「かつてここまで苛立ったことはないわ。身勝手と批判されようと怒りをあらわにする他無いの。ごめんなさいね」

男「別に構わないけど……どうしたの?ほんと」

女「私は今の貴方がとても嫌い。さよなら」スタスタ

男「……え?」

男「ちょ、ちょっと待ってよ女さん」スタスタ

女「待たないわ、即刻消えて」スタスタ

男「ぐっ、ポジティブになれないほど毒舌に辛辣さが含まれてる……」

女「本心だもの」

男「ごめん。謝るから」

女「謝らなくていいわ。そっとしておいて。その内に機嫌も治るでしょう」

男「で、でも……」

女「これが理不尽な怒りだということくらい私でも解っているの。だから今は放っておいて。これ以上私は、自分のことも貴方のことも嫌いになりたくない」スタスタ

男「あ……う……どうしよう」

男「なにかが女さんの癇に障ったんだろうけど、なにが原因だったんだろう」

男「ああ、もう、くそ。僕が女さんの機嫌を損ねるなんて……上手くバランスは調整してたはずなのに……」

男「どうしよう、クリスマスまで二週間もないのに」

男「マズいな……僕じゃわからない」

ストーカー「本当に解らないんですか?」ヌッ

男「ストーカーくん! 今日もやっぱり憑いていたんだね!」

ストーカー「妙な変換をされた気がしますがいいでしょう。甘んじて受け入れます。付き人ならぬ、憑き人であると」

男「僕も大概だけど君も突き抜けてるよね」

ストーカー「それにしても男くんにはガッカリです。女さんの本心も解らず傷つけてしまうなんて。ちょっと一刺しさせてください」

男「僕の人生にエンドロールが流れてしまいそうだから一刺しは勘弁していただくとして、え、傷つけたの? 僕」

ストーカー「傷ついたから怒っていたのでしょう、女さんは。それに頬の強張りが普段より3mは強まってました」

男「その見解は流石ストーカーくんとしか言いようがないね。にしても、傷ついたから怒るって、そうなのかな?」

ストーカー「大抵の人は悲しいから怒るじゃないですか。ましてやあの感情表現が絶望的な女さんですよ?」

男「悲しいから怒る、か……」

ストーカー「裏切られた時に怒るかもしれません。けれど本来は怒りよりも悲しみが勝るでしょう?」

男「人による気がするけどなあ」

ストーカー「僕に言わせれば、そこで怒り続ける人は自分の気持ちに鈍感なだけです。純粋な怒りなんて滅多に存在しない。そう思います。さて、解りましたか?」

男「うん? 女さんのこと? それでも解らないよ。女さんを護ることはしても傷つけようだなんて思ったことないから」

ストーカー「はあ、しょうがない人ですね。これは貸しですよ」

ストーカー「要はこういうことです。男くん、君は独善的なんですよ」

男「……ほんとに?」

ストーカー「そこで気を取り乱さない辺り好感が持てますが、本当です。好意というのは対象が存在する以上相対的な代物です。君はあまりにも相手を蔑ろにし過ぎたんです」

男「……女さんのため、女さんのためと思ってたことが裏目に出てる、ってこと?」

ストーカー「いえ、それ自体は多分、悔しいですが女さんは不快に思っていないでしょう。問題は常に相手を考えていなかったということで」

男「そんなつもりは……なかったんだけども」

ストーカー「では聞きますけど、男くんは自分の好意をもし自分にされた場合を想定したことがありますか?」

男「――っ」

ストーカー「つまりはそういうことなんですよ」

ストーカー「涙を見られたくない。カッコつけていたい。そう思うのが普通だとしても、それを女さんが男くんにしたらどんな気持ちになりますか?」

男「あ……」

ストーカー「悲しくないですか? 苦しくないですか? 苦しんでいる時があったとしても、君の力は必要ないと宣言されてしまったら」

男「僕は……なんてことを……」

ストーカー「格好をつける、それ自体に問題はありません。けれど知られてしまってはダメなんです。伝えてしまうのは幼稚なんです。まったく……気が緩んでるんじゃないですか?」

男「……どうすればいいのかな、僕は」

ストーカー「そんなことは自分で考えてください。少なくとも、コミュ障の極地点である僕に聞かないで下さい」

男「君は充分コミュ障を脱出してるんじゃないかな。僕とこんなに話せてるんだし」

ストーカー「それは第一に、女さんが好きだという共通の軸を持っているからです」

男「女さんの話題が尽きることはないよね」

ストーカー「そうですね。朝から晩まで語り続けたこともありましたね。もしも」

男「もしも女さんが深海魚だったらどの魚に似てるか、とか楽しかったよね」

ストーカー「僕はもしも女さんが宇宙人だったらどんな姿かの方が楽しかったですね」

男「最終的に食虫植物を模した氷結植物になった話か」

ストーカー「思い出話はこの程度にしておいて、話を戻しましょう」

男「基本的に僕達の会話は脱線してばかりだ」

ストーカー「それは男くんに責任があります」

ストーカー「第二に、仮に今回の君の立場が僕だったとしたら、とてもじゃありませんが立ってられません」

男「それは……コミュ障と関係があるの?」

ストーカー「あります、あるんです、そうなんです。だからコミュ障なんです。些細なことも大きなこともひっくるめて絶大な事件になってしまうから、コミュ障なんです」

ストーカー「まあそもそも、そこまでの事件にたどり着くコミュニケーション能力がありませんけどね」

男「……それはストーカーくんの悪いところだよ。一度決めつけたら考えを改められないっていうのは」

男「ストーカーくん。それはコミュ障じゃなくて、君が純粋なだけだ」

ストーカー「……吐き気がするほど真っ直ぐに人を見て綺麗な言葉をかけないで下さい。君のそういうところは、嫌いです」

男「ははっ、ストーカーくんも女さんと一緒で素直になれない子なんだね」

ストーカー「無駄にホモフラグが立つので僕にツンデレ属性を与えないでください」

男「ともかくありがとう。どうすればいいのかまだ解らないけど、考えてみるよ」

ストーカー「君ならどうとでもなんとかしてしまうのでしょうね。少し羨ましいです」

男「……君は……いや、なんでもない。本当にありがとう! それじゃ!」

ストーカー「」ヒラヒラ

男(君は現状が辛くないの? なんて)

男(……きっと僕だけは彼に聞いちゃいけない。危なかった)

■翌日

男「女さんっ」ハァ ハァ

女「なにかしら。まだ近くに寄ってこないでほしいのだけれど」

男「ごめん!」

女「話を聞いてなかったの? それとも鼓膜が破れたの? 急いで病院へ行ってらっしゃいな、脳外科の方へね」

男「僕が悩んだ時、苦しんだ時、悲しんだ時、辛かった時、女さんに相談する許可がほしいんだ!」

女「……そう。貴方なりに考えてきたというわけね」

男「ごめん、傷つけるつもりはなかったんだ……」

女「傷つく? 私が? そこまで自意識過剰だとまるで道化よ」

男「いまのは忘れてください」

男(プライドの高い女さんにいまの失言だったなあ)

女「相談する許可ね……三十点」

男「うっ……手厳しい」

女「私はこれでも貴方との関係は良好だと思っているの。それなのに許可? 
  貴方は友人に許可を求めるの? 私をなんだと考えてるのかしら」

男「でも、それこそ自意識過剰な気がして、さ?」

女「貴方の売りは馬鹿みたいに愚直なところじゃないの? 
  どうしてそう中途半端なことを言うのよ」

男「ごめん」

女「……お願い、そっとしておいて。今はどれだけ話しても猛毒しか吐けないわ。
  貴方を責めたいわけじゃないの」

男「う、ん……」ショボン

女「……」ハア

女「クリスマスイヴ、だったわね」

男「……え?」

女「集合時間や場所はメールで連絡してちょうだい。それまでは一人にしておいて」

男「お、女さん……」

女「当日に百点満点の答えを用意しておきなさい。さよなら」

男「……」

男「……」バチンッ

男「よし! 頑張りどころだ!」

今日はここまで。
次の更新日がいつかは知らんが、そんなに間は置かない。
なにせクリスマスまでもう……え? 六日? え? え?

……。
……。

クリスマスまでに終わる。これは確実、絶対。だってそういう話だもの。

こっちじゃメール欄にsaga入れる必要ないよ

■自室

女「駄目だわ。本の内容がさっぱり頭に入らない」ゴロン

女「……」

女「どうしてこうなるのかしら」

女(酷い言葉じゃない。あんなこと言われて平気なはずがない。平気な振りをしているけれど……)

女(それに甘えて罵倒して。何様なのよ、私は)

女(素直に、か……)

女(どうすれば素直になれるの? サンタにお願いでもしてみる?)

女「馬鹿馬鹿しいわね」フッ

女(歪曲し続けたこの性格が素直になんて……操られない限り、無理なのよ)

女「ん? 操る?」

女「……そういえばお母さんが妙な本を買っていたわね」

女「……試してみようかしら」

■自室

男「百点満点の解答か……どうすればいいんだろう」

男「クリスマスイヴのデートプランはもう考えてあるからいいけど」

男「はあ……どうすればいいのかな? 聞いてる?」

男友「……ぷぷっ。この漫画面白いな」

男「ゆ う 人?」

男友「ったく、なんだよいいとこだってのに」

男「今日は相談に乗ってくれるって話だよね?」

男友「のろけ話なんか聞きたくねえよ。それよりav観ようぜ!」

男「何が悲しくて男二人でav鑑賞しなくちゃならないんだ……」

男友「そもそもあの変わり者の女さんがなにを求めてるかなんて解るはずないだろ」

男「女さんはあれでも常識人だよ。コミュ障だけど」

男友「口調が全て上からになる障害か? 社会じゃ通用しねえぞ」

男「それはそれで友人が何様発言だね」

男友「ともかくよ、av観ようぜ」

男「そればかりだね。ったく……女さんが求めてる言葉、か」

男「ん?」

男「なにか閃きそうだぞ……」

男「友人、さっき僕はなんて言ったっけ?」

男友「健忘症か? 僕はエロエロ魔人だお、つってたろ」

男「金属バットで健忘症になりたいならそう言ってよ」ニコッ

男友「冗談だ。コミュ障だっつってたな」

男「その前」

男友「あー……あーみえて常識人、ってとこか?」

男「そう! それ! そうだ、なにを思い違いしてたんだろう。女さんは別に変人じゃないんだ」

男友「そうか? 三百六十度変人だけどな」

男「常識人だよ。だから、そうだ。きっとこれが百点満点の解答に違いない!」

男友「解決したみたいでよかったな。さあ、avの時間だ」ゴゴゴゴゴゴ

男「その前に友人との付き合い方を考えさせてくれないかな」



差出人:男くん

宛先:女

件名:クリスマスイヴに関して

本文:
午後一時に○×駅中央口の庭園広場金時計でお待ちしてます。


女「……メールだと途端に素っ気なくなるのは一種のテクニックなのかしら」



差出人:lovely 女さん

宛先:男

件名:クリスマスイヴに関して

本文:
遅刻したら拷問するわよ。覚悟していらっしゃい。


男「遅刻するつもりは毛頭ないけど、まさか僕の人生がかかってくるとは……手に汗が滲むね」ジワリ

■x'mas eve

男「十二時到着、と。うん、一時間前に着けたな」

男「過去二回と同じなら女さんは十分前に来るだろうから、少しのんびりしていようっと」

男「……ん?」

男「……んん!?」

男「あれ!? 女さんもう来てる!? あれどう見ても女さんだよね……は、早いな。どうしたんだろう」

男「っていけない。早く行かなくちゃ」タッタッタッ

男「女さん、ごめん、もう来てたんだね。待たせちゃったかな」


女「」クルッ キラキラキラ

男(な、なんだかすっごい笑顔だ!)

短いけどここまで。

前作覚えててくれた人がいるみたいで嬉しいよ、ありがとう。
>>23さん。
そういえばそうだったwありがとう。


クリスマスが近いから勢い強めて書いていく。
といっても、長くなる予定はないんだけども。

お前が来てくれて嬉しいよ
前作読んだが良かったぞ、頑張ってくれ支援

女「貴方こそ早いじゃない。まだ一時間前よ?」

男「遅刻はしたくないからね」

女「拷問なんてしないわよ?」

男「それもそうだけど、万が一にも女さんを待たせたくなかったから。でも待たせちゃったね、ごめん」

女「私はただ今日がとても楽しみで、逸る気持ちを抑えられなかっただけ。気にすることないわ」

男「……え、いまなんて?」

女「今日がとても楽しみだと言っているの。聞こえないの?」

男「いや、え? え?」

女「聞こえないなら仕方ないわね」グッ

女「今日をとても楽しみにしていたの」ボソッ

男「//」ドキドキ ドキドキ

男(なんだか女さん、凄く可愛いぞ!?)

女「それで先ずはどうするのかしら」

男「う、うん、先ずはお昼ご飯を食べに行こう。近くに静かな喫茶店があるから」

女「行きましょう」

男「……」ジーッ

女「どうかした? 普段よりも三割増で視線が熱いわ」

男「今日の女さんは普段よりも五割増で可愛いな、と思ってさ」

女「可愛い?」キョトン

女「ふふ、嬉しいわ。ありがと」ニコッ

男(こ、この人は誰なんだ!?)

■喫茶店

女「雰囲気の柔らかい素敵な喫茶店ね。貴方、こういう場所は探してるの?」

男「うん。落ち着ける場所が好きだからね。たまにぶらっと散策してるよ」

女「一人で?」

男「そうだね。友人いるでしょ? あいつはこういう散策、あまり興味がないみたいでさ」

女「ふうん。どうして誘ってくれないの?」

男「うん、それは女さんに紹介したいから――って、え!? なんて!?」

女「だから、どうして誘ってくれないの? 私もこういう場所を散策するのは好きなのに」

男(おかしい。やっぱり妙だ。
  いつもの女さんなら誘われたいという雰囲気を殺して誘わせるか、
  "一人で散策なんて寂しい男ね。今度からは私が付き添ってあげるわ、首に縄つけて"
  ぐらいのこと言うはずなのに!)

女「なにを固まってるのよ。そんなに私と遊ぶのは嫌?」

男「嫌じゃない嫌なわけがないよ。寧ろそれが至高の極みですらあるよ」

女「ふふ、大袈裟ね」

男(ええ!? 今のは絶好の突っ込み所だよ!?
  "その程度が至高なら貴方の人生はたかが知れてるわね"って鼻で笑う所だよ!?
  なにがおこってるんだ、いったい……)

男「女さん、体調は平気? 熱とかない?」

女「今日という日のために完璧な健康管理を行ったの。快調よ」

男「そう……無理はしないでね」

女「相変わらず優しいのね、貴方」

男「」ドキドキ

男「料理は美味しかった?」

女「ええ。いい味していたわ」

店員「こちらチョコモダンパフェとストロベリークリームアイスになります」コトン

女「ありがとう」

男(あの女さんが店員さんにきちんとありがとうを言えている……やっぱりおかしい)

女「ふふ、ここはデザートも美味しいわね」

男「うん。こっちのアイスも美味しいよ」

女「本当に美味しそう。一口いいかしら」

男「はい、どうぞ」ススッ

女「」ポカーン

男「お、女さん?」

女「あら、食べさせてくれないの? 残念ね」

男「」ボフッ

男(や、ばい……脳が溶ける……)

女「うん、爽やかな味が気持ちいいわね」

男「そ、そう? よかった」

女「チョコパフェも美味しいわよ。食べる?」

男「いただくよ」

女「あーん」スッ

男「!?」

女「いらないの?」

男「喉から胃が飛び出るほど欲しい!」

女「色々と混ざった表現ね。はい、あーん」スッ

男「あ、あーん」ドキドキ

女「」スッ

男「」スカッ

男「え?」

女「ふふ、時間切れよ」パクッ

男(これは白昼夢なんだろうか)

女「ふう、お腹いっぱいね」

男「それはよかった。さあ次はショッピングに行こう」

女「ショッピング? 構わないけれど、プレゼントをねだる気はないわよ?」

男「プレゼントをねだるのは僕の方だよ、女さん。これから雑貨屋を巡ってプレゼントを買い合おう。高い物は色々とよくないから、千円以内で。どうかな?」

女「素敵な案ね。買い物もできるし後で交換する楽しみもあるし。ちゃんと考えてくれたのね」

男(ベタ褒めだ……後でその分力をつけた恐怖の大王が君臨したりしないよね?)

女「とても可愛い物を選んであげるわ。貴方は犬っころなところがあるから」

男「わんわんっ」

女「よしよし」

男(今のも突っ込みポイントなのに……。いつもなら"輪廻する場所を間違えたんじゃない?"とかくるのに!
 どうしちゃったんだろう……なんか、少し寂しい)

■雑貨屋

女「ちょっとこれ着けてみて」

男「どれどれ」スチャ「似合う? 鼻眼鏡サンタver」

女「お洒落よ」アハハッ

男(女さんが屈託なく笑ってる。楽しそうだなあ。嬉しいなあ)

女「次はこれね」

男「似合う? 強盗マスククリスマス仕様」

女「ええ、とても似合うわ」フフッ

男(楽しそうだし、僕も嬉しいんだけど、なにかが違う。なにかが……)

女「この時期は愛嬌のある商品が増えるわね」

男「なんてったってクリスマスだからね。そうそう、女さんはサンタの雑学はなにか知ってる?」

女「そうね……サンタの由来は、確か貧しい家庭を救った逸話から来てるのよね」

男「そうだね。貧しくて娘を売らなければならなかった家に、煙突から金貨を放り込んで、
  その暖炉に靴下が下げてあってインしたとかいう話があるよね」

女「詳しいのね。サンタファンなの?」

男「うん、ファンだよ。なにせ僕はサンタに会ったことがあるからね」

女「凄いわね。どんな話?」キラキラ

男(……)

男「サンタ協会に公認サンタさんがいてね、昔なにかのイベントで会ったんだ。凄く柔らかい雰囲気の人で、子供ながらに嬉しかったよ」

女「夢があるようなないような、よく解らない協会ね」

男「夢はあるよ。だって、どのみち子供はいつかサンタがいないって知るんだからさ。それまでの夢の補助になる」

女「それもそうね」

男(……まったりとしてるのはいいんだけど……物足りない)

男(僕ってmだったのかな?)

男「ところでなにを買うか決まった?」

女「ええ」

男「それじゃあお互いに知られないためにも、十分間別行動ね。
  十分後に店の入口で待ち合わせとしよう」

女「解ったわ。楽しみにしてなさいね」

男「ストーカー君、いるんでしょ?」

ストーカー「呼び止めないで下さい。男くんの知らない女さんを知ることは大きな優越感なのに」

男「ごめんごめん。でもさ、今日の女さんは……妙じゃない?」

ストーカー「妙というより別人ですね。だからどうって訳じゃないですが」

男「それには同意するよ。女さんが女さんである以上、想いは変わらない」

ストーカー「だったら問題ないじゃないですか」

男「いや、問題はあるよ。いきなり人がここまで劇的に変わってしまうっていうのは、重大なことだから」

ストーカー「愛の力が働いたんじゃないですか?」

男「そんなもので女さんが変わるならとっくに変わってたよ。
  うん、ありがとう。僕の思い過ごしじゃなかったみたいだ」

ストーカー「全く、くだらないことで呼び止めないでくださいよ」シュン

男「……忍者?」

男「お待たせ、女さん」

女「待ってないわ。それよりプレゼントはいつ交換するのかしら」

男「んー、そうだね。帰りに別れる時なんてどうかな?」

女「家に帰るまでがデートなのね。いいわよ」

男「因みにこの後のプランだけど、ある時間までは白紙なんだ。
  自由時間って言うとおかしいけどさ。だから散歩なんてどうかな?
  街はクリスマスでイルミネーションも綺麗だしさ」

女「ほんと、綺麗な街並よね」

男「それじゃあはぐれないように」キュッ

女「ふふ、ありがとう」ギュッ

男(いつもの女さんなら――ああ、でも可愛すぎて意識が朦朧としてきた……)

男(手に触れたのはこれで二度目か。初めて触ったのは不良に拐われて抱きしめた時だもんな)

男(二度目は文化祭で手を取った時)

男(こうして長時間触れるのは初めてになるわけだけど、女さんの手、柔らかいなあ)

女「……」

男「……」

女「……私はね」

男「ん?」

女「こうしてなにも語らずに、心地よさを共有することも好きよ」

男「~~っ」ゾクゾク

男(嬉しすぎて涙出そう……こんなに素直な女さん……ん? 素直?)

男(そうだ。なにが妙って、素直過ぎるんだ。
  普段の女さんなら"好き"と言わずに"嫌いじゃない"って言うはずだもの。
  素直……素直……あっ)

男(そういえばサンタに"女さんが素直になりますように"って願ったんだっけ)

男(それが、叶った?)

男(流石にないか。サンタは現実に存在するからこそ、夢なんだから)

男(じゃあ女さんはどうしてこんなに素直に?)

男(……)

女「あのクレープ屋。クリスマス限定クレープ売ってるわ。食べてみましょう?」

男「うん、いいね」

男(僕が女さんにサンタへの願い事を話したから?)

ここまで。

>>33
やめろよ恥ずかしいだろ照れちまう//

俺のキャラが前と変わりすぎてんのは、猫かぶりをやめたからだw


期待されても完結ぐらいしか約束できねーから、そこんとこよろしく。
では。

もうちょい投下しとく。

男「クレープ美味しいね」

女「そうね。あら」クスクス

男「うん?」

女「真っ白なヒゲ生やしてサンタさんになってるじゃない」

男「ふぉっふぉっふぉ」

女「それじゃあバルタン星人よ」

男「その返しができる女の子って多くなさそうだ」

女「取ってあげる」スッ

男「でも手が汚れちゃうよ」

女「いいのよ、こんなの」パクッ「食べ物なのだから」

男(帰りに隕石が頭に直撃しても文句言えないなこれ……)

男「ん、そろそろいい時間かな」

女「あら、まだなにかあるの? 楽しみだわ」

男「定番だけどさ。マリンパールを見に行こうかな、って。でもかなりの人混みだけど大丈夫

?」

女「マリンパール……クリスマスの一週間前から綺麗な電飾をゲートに施しているあそこね」

男「うん、どう?」

女「一度ぐらいは見てみたいと思っていた場所だわ。行きましょう」

男「よし」

男「うわあ……流石の人混みだね。交通規制されてるのも関係あるんだろうけど」

女「レミングスの行進みたいね」

男「二重の意味で適した喩えだね」

女「一つは死の行進で、もう一つは作為的な行進かしら」

男「さっすが女さん、物知りぃ!」

女「貴方には及ばないわよ」

男(素直、というか。棘が全部抜けてるんだよなあ……んー……)

女「ん」ドンッ

男「大丈夫?」ガシッ

女「平気よ。それにしても奥に行けば行くほど混むわね」

男「道が狭まってるって訳じゃないんだろうにね」

女「腕、失礼するわ」ギュッ

男「!?」

女「鳩が猟銃食らった顔してどうしたの?」

男「それじゃただの違法行為だよ。それに、そんな顔もするさ」

男(女さん自ら腕を組んできたんだから)

女「暖かいし、スペースも節約できるし、一石三鳥ね」

男「あれ? もう一羽は?」

女「さあ、なんでしょうね」フフッ

男(女さんが小悪魔とか僕の天敵過ぎる……抗えない)

男「女さん」

女「なに?」

男「なんだか今日はいつもと違うね」

女「そう? 解る?」

男「僕が知らないのは女さんの未来ぐらいなものだよ」

男(解る? と聞くってことは、意識しているのかな。
  どの道、これは女さんが望んでいること、か)

女「過去は把握しているのね、貴方らしい」

男「前世もね」

女「へえ、どんな前世?」

男(違う……やっぱり違う。なんか、違うんだ。これじゃ駄目なんだ)

男「女さん」

女「なに?」

男「……っ」

男「僕は女さんが好きだよ」

女「耳にタコができてるわ、その台詞」

男「心の底から愛してる」

女「……そう、ありがとう」

男「女さんが恥ずかしがり屋なところも。プライドが高いところも。努力家なところも。
  優しいところも。好きだよ」

女「急にどうしたのよ」

男「もちろん、天邪鬼なところだって好きだよ」

女「……なにが、言いたいのかしら」

男「今日の女さんは素直で、とても素敵だね」

女「でしょう?」フフッ

男「けれど僕はそんな女さんのことは、嫌いだ」

女「……あ、貴方に嫌いだと言われる日が来るなんてね。予想以上に悲しいわ」

男「勘違いしないで、女さん。僕の恋心は冷めてないし、愛も燃えたままだよ。
  だけど、僕が好きなのは女さんなんだよ。いいところも悪いところも、女さんなんだ」

女「私が女よ」

男「違う。なにが起こってるんだか知らないけど、君は女さんじゃないよ。
  女さんがどんな風に変わったって女さんのことが好きだと思ってた。けどそれは違うし、

それじゃ駄目なんだよ」

男「もしも女さんに誰かが乗り移ったりしても愛してしまうことになってしまう。
  そんなことが正解なはずない」

男「だから、二度と言わないけど、だから。
  僕は女さんが嫌いだ」

女「……」

女「……ひどい、わね」

男「……ごめん。でもなにがあったの? これじゃあ別人だよ?」

女「本当に、最低」

男「……ごめん」

女「私は――最低だ」

男「え?」

女「こんなに悲しくなることをずっと言い続けてきたのね。
  一言一言が刃のよう。
  耳にする度に心が裂かれてくわ。
  私はこんなことをずっと貴方に続けて……ぅ……」ポロポロ

男「気にしなくていいよ女さん。僕はmだから」

女「そういう問題じゃないでしょう? 貴方に甘えて言い続けた私が最低なことに変わりはな

いの。ごめんなさい」ポロポロ

男「大丈夫だから。気にしなくていいから。ね?」ギュッ

女「……」ドンッ

女「」ポロポロ ポロポロ

女「ごめんなさいっ」タッタッタッタ

男「しまった……言いすぎちゃった……」

男「って、いけない。追いかけないと――ってうわっ」

ワイワイ ガヤガヤ

男「人が多すぎてっ、進めないっ――女さん! 女さああん!」

ワイワイ ガヤガヤ

男「見失っ、た……?」

男「今日は発信機もつけてないし。そうだ、ストーカーくんは?」

prrrrr pi

ストーカー『死ね』

pi

男「……お怒りだね」


男「ともかく、探さなくちゃ」

男「女さん! 女さああああん!」

と、ここまで。

執筆が進みまくったからこの様子だと明日には完結する模様。
執筆が進みまくったのはこの二人のことが好きな証拠なんだろうか。

ではおやすみ。

俺的には、そこで誰かに襲われるパターンやすぐ見つかるパターンはないかな。

ストーカー本音ww
早くに完結したら番外編でちょっと早い大晦日をやってもいいんだぜ?

>>65
誰かに襲われるネタだけは絶対に使えない2人組だから大丈夫w
すぐには見つかりそうもないからおけ。

>>66
ストーカーくんと男くんは友達である前に女さん大好きだからなあw
番外編?

……それも考慮しての深夜ssを選んだのは内緒。
ほら、ここは完結報告してもオチないから。

あとこれだけ補足。
マリンパールの電飾イベントだが
神戸にあるルミナリエと告示してると思っててくだせえ。

相変わらずの面白さだな、安心して楽しめる。
続きに期待

>>69
褒めてもなにも出ないんだぜ変態さんめ//


そして、執筆終了した。

ラストまで投下する!

男「はあっ……はあっ……くそっ、一緒に歩きたかったなあ、このゲート」

男「綺麗なゲート。こういうの、女さん好きそうだからなあ。意外にメルヘンなところあるし」

男「でもほんと、どこ行っちゃったんだろう……」

男「……」

男「……そうだ!」

男「見つけられないなら、見つかればいいんだ!」

男「となると……よし、あそこだな!」

■ゲート出口 広場

男「よし、時間はまだもう少しあるな」

男「ほんとは女さんと見たかったけど、こうなったらなりふり構ってられないよね」

男「確か……あそこだ。あの時計台」

男「……」

男「……流石に、緊張するな」

男「よくもまあこんなことやる気になるもんだね、僕は。ははっ……足が震えてるよ」

男「……」

男「……」

男「いよっし、やるぞー!」

男「まずは隠れなくちゃね」コソコソ

■午後七時

男(午後七時になると電気が一斉に消えて、この時計台から輝きだす。
  女さんに見つかるならこのタイミングは逃せない!)

ファッ

男(よし、暗くなった。今の内に近づいていて、っと……)ホフクゼンシン

パァァッ

男(……)ドキドキ ドキドキ

男(女さん、聞いてくれるかな)

男(もし居なかったら?)

男(……)ブンブンッ

男(弱気になっちゃダメだ! もし居たらどうする!)

パァァッ

男(よし! 登るぞ!)

シャカシャカシャカ

男(う……凄い人の数……これじゃここからは女さんの姿見つけられないな)

男(警備員が止めに来ないのはラッキーだね。多分、イベントだと勘違いしてるんだろうけど)

男(よし、ぶら下がっててもラチが開かない。やるぞ!)

男「」スゥゥゥゥゥゥゥゥゥー


男「めりいいいいいいいいいいいいいっ! くりすまああああああああああああっす!」


「メリークリスマスっ!」「メリークリスマーッス!」「めりーくりちゅまちゅ!」
「メリクリっ!」「ふぉっふぉっふぉ、メリークリスマス!」

男(反応は上々っと。ここまでは予定通り)



男「みんなああああああああああ! 幸せなクリスマスを過ごしてるかなあああああ!?」


「ったりめーだあ!」「もちろん!」「最高の夜だぜえええ!」「いえーいっ!」


男(さて、勝負はここからだ。女さん! 聞いてください!)

男「僕はね、ついさっき、世界で一番大好きな人に嫌いだって言っちゃったあああああ!」


「アホかー!」「謝ってこい!」「なに言ってんだおまえ!」

男(ほんと、大馬鹿者だよなあ僕は)


男「その人、泣きながら逃げちゃったんだ! だから僕はここにいる!」

ザワザワ ザワザワ

男(反応が薄くなったな……イベントじゃないって気づきはじめたかな?)

男(そんなことどうでもいいんだけどね。僕は)

男(女さんの悲しみがちょっとでも拭えるなら)

男(恥をかこうが捕まろうが嘲笑れようがなんだろうと)

男(女さんのためなら)

男「僕はね! その人のことが本当に好きなんだ!」

男「髪の毛一本から爪の垢まで余すとこなく好きなんだ!」

男(もちろんそれだけじゃないさ。女さんの唾液から女さんの老廃物まで余すとこなく愛せるよ。けど流石に内緒にしておこう)


男「だけどね! 僕が本当に好きな所は、それは! 彼女が!

男「天邪鬼すぎてとっても素直な子だからなんだ!」

男(要はそこに尽きる、よね)

男「可愛いねって言うと『貴方は芋虫でも口説いてれば?』って鼻で笑われたよ!」

男「綺麗だねって言うと『その言葉に重みを付けるために地下3000メートルで重力修行してきなさい』って背中を押されたよ!」

男「好きだよって言うと『私は貴方が嫌いだけれどね』ってばっさり切られたよ!」

男(照れ屋さんなんだよなあ、女さんは)


「ひでえ……」「ままー、恐いよー」
「鬼子じゃ……」「ご褒美じゃないですか」


男(あ、ストーカーくんその辺にいるんだ)

男「だけど! だけどね! 僕はそんな風に言われても彼女が好きなんだ!」

男「大好きなんだ!
  これっぽっちも胸が痛まないんだ! 寧ろ楽しくて笑っちゃうんだ!」

男「だから、無理しなくていいよ! 頑張らなくていいよ! そのままでいいよ!
  そのままの君がっ……」

男(好きだよ? 好きです? 好きでっせ? 好っきゃねん? 好いとんで?
  まあ、なんでもいいか)

男(女さんへの想いに不純物は微塵もないわけだし)

男(僕は、純粋に)


男「――っ好きだああああああああああああああああああああああああ!」

「おおおおおおお!」「かっこいいー!」
「頑張れえええええしょうねえええええん!」


男「ありがとー、ありがとー」

男(ヒーローになった気分。役得だね)

男「聞いてくれたかな、女さん……」

男「こっちからじゃ見えないしなー」

「兄ちゃん、仲直りできるといいな!」

男「頑張るよー僕は!」


「しもっ!」

男「……ん?」

男(誰かが声を張り上げてるようだ。まさか、女さん?
  いやいや、それはないよね。女さんは極度の恥ずかしがり屋さんだし)


「私もっ!!」


男「!?」

男(間違いない、女さんだ!)

男(いる、どこだ、どこ? それに、無理しなくていいんだよ女さん。
  頑張らなくていいんだよ、女さん――いや、違う)

男(そうだね。頑張るべき時は頑張る人だもんね。
  ずっと前からそうだったよね)


男(だから――頑張れ! 頑張れ女さん!)



女「私は貴方のことが大ッッッッッ嫌い!」



「「「「えええええええええええ!」」」」


男「はは……はははっ」

男(大好きだよ、女さん)

男(誰にも飾られない、素直な君が大好きだ)

男「」スルスルスル タッタッタッ

男「女さん!」タッタッタッ

女「男くん!」

男「女さああああああん!」ギュゥゥゥ ドゴォッ

男「ぐぼぇっ」

女「どさくさに紛れて抱きつかないでくれる?
  貴方に抱かれるぐらいなら二宮金次郎に抱きついた方が心地いいわ」

男「銅像に嫉妬する日が来るとは思わなかったよ。よし、僕も第二のポチになってくる」

女「既にポチじゃないの」

男「わんわんっ」

女「媚びたウケ狙いには純粋な殺意が沸くわ。どうしても続けたいなら三辺廻って閻魔に閲覧を申込みなさい」

男「女さんが閻魔様だったら舌でも魂でも五臓六腑でも捧げるなあ」

女「今すぐ舌を引っこ抜いて言葉を紡げないようにしてあげたいわ」


男「女さん、おかえりっ」ギュゥゥゥゥ

女「いったいなんの……いえ、そうね」


女「……ただいま」ギュッ

「おおおおおおお!」「よかったよかった」「可愛いカップルさんねえ」

パチパチパチパチ

女「……注目を浴びてとても不快なのだけれど、離してくれるかしら」

男「デジャヴだね、それ。でもダメだよ。今だけは離したくない」

「ふぉっふぉっふぉ。クリスマスの奇跡じゃのう」

女「奇跡……ふふ、とんだ奇跡もあったものね」

男「どうして?」

女「これは貴方が引き起こした純然な努力の結果に過ぎないじゃない。奇跡でもなんでもないわ」

男「そんなことないよ、奇跡はちゃんと起きたよ」

女「そうかしら」

男「うん。女さんがこんなに人が大勢いる前で声を大に叫んだ」

男「それは立派な奇跡……ううん、きっとサンタが女さんに勇気をプレゼントしてくれたんだね」

女「……ふふっ」

女「貴方は、本当に、ずるいわね」

■帰り道

男「へえ、自己催眠かあ。女さんって純粋だから凄く嵌っちゃったんだろうね」

女「どうかしらね。記憶にないわ」

男「あ、忘れたフリしてる?」

女「あーあー、聞こえないわそんな黒い歴史」

男「さて、着いたよ」

女「家まで送ってくれてありがとう。少し上がっていけば? お茶くらい出すわよ」

男「遠慮しておくよ。親御さんとの初対面はいい印象を与えたいしね」

女「気の早い話ね。妄想は」

男「深夜の自室で、でしょ? 妄想じゃなくて、これは計画だよ女さん」

女「……解ってるならそれでいいわ」

男「はい、女さん、プレゼント」

女「え? ああ、忘れていたわ。プレゼント交換しなくちゃね――って……」

男「どうしたの?」

女「あ、あの、これ、本当に渡さなくちゃ駄目かしら」

男「なんで?」

女「これは、そう。私が私じゃない時に選んだ物だから厳密には私の選んだプレゼントじゃ」ゴニョゴニョ

男「ダメだよ」ニコッ

女「うう……」

男「あともう一つ忘れてたよ、女さん」

女「なに?」

男「百点満点の解答」

女「そんな約束もしてたわね。聞かせて貰おうかしら」



男「女さん。結婚を前提にお付き合いしてください」

女「……え?」

男「これ、三ヶ月分なんてレベルには遠く及ばないけど」スッ

女「……指輪? というよりどんな思考回路しているのよ。並列と直列を間違えてもそんな答えはでないでしょう?」

男「んー……僕の弱いところもなんでも見せられる相手として最も適しているのは、恋人だと思っただけだよ」

女「……ふう、暑いわね」パタパタ

男「耳も切れる寒空なんだけどねえ」ハハッ

女「ん」スッ

男「?」

女「指輪。折角買ってくれたのだから、はめなさいよ」

男「喜んで」

女「……サイズがちょっと余ってる。でも抜けるほどじゃない……冬にぞっとさせないでよ」

男「冬にサイズがピッタリじゃ夏に入らなくなっちゃうからね。それぐらいにしといたよ」ニコ

男「それで、返事はもらえるのかな?」

女「……これ」

男「これ、例のプレゼント交換の?」

女「素直だった私が選んだプレゼントだから、私じゃないけれど、私の素直な選別なのよ」

男「うん。うん?」

女「おやすみなさい」スタスタ

男「うん? おやすみー」

■自室

男「んー」

男「結局はぐらかされちゃったのかな?」

男「まあいっか。プレゼントはなんだろうなあ」ワクワク

男「おっ、犬のストラップだ。可愛いね」

ヒラヒラヒラ

男「なんか落ちた? これ、メッセージカード?」

『素直だった私が選んだプレゼントだから~』

男「ははっ、そういうことね」

男「……」ジー

男「これは一生の宝物だ」

男「」ゴロン

男「今日は楽しかったな……でも、ふあ~あ、ちょっと疲れた、や……」

男「」スゥー スゥー

zzz...zzz...



============================
|.。.:*・゚merry-x'mas:*・゚。:.*|
| |
|男くんへ |
| |
| |
| 大好き。 |
| |
============================




fin.

うっぎゃああああ。
ラストのメッセージカードがミスってるじゃないか。

なんか上手くいかない気はしてたんだよなあ。
といっても、修正方法もわからないからいいよもう。

思いの外長くなってしまったのかな。

読んでくれてありがとう。
いいクリスマスを過ごせるといいね。

それと……
前作を読んでくれた人なら、このあとどういう展開に走るか解っていることだろう。
といっても、前作よりはマシな展開にしたつもりではあるから、よければ10レスばかりお付き合いくだせえ。

それでは、蛇足編に移行します。
……飯食ってから。


クリスマスマジックだな
ははは、見てたら鬱になってくるくらい幸せそうでよかった

>>96
僕と契約して一緒に欝になろうよ!

では蛇足編、すたーと。

女「」トボトボ トボトボ


女(最低……私は最低だわ……)

女「」トボトボ ドンッ

「邪魔だっての」
「なにこの子、クリスマスのマリンパール一人で見に来たの? 寂しいねー」
「おい、ほっとけよ」

女「な――っ……ぁ……ごめん、なさい」

「くすくす」
「おら、行くぞ」

女(今ので……良かったのかしら……)

女(傷つかなかった、かしら……)

女(恐い……恐い……人が、恐い……)

女(素直になれたのに)

女(やっと素直に、なれたのに)

女(一日一時間、自己催眠の本)

女(まさかこんなに効き目があるとは思わなかったけど、どうあれ素直になれた)

女(けれど、男くんは喜ばなかった)

女(別人だと射抜いた)

女(自分の力で手に入れなかったから……?)

女(操られでもしない限り……)

女(操られたから、私は私じゃなかった……)

女(素直じゃなくていいの?)

女(けれど素直じゃないとまた傷つけてしまう)

女(大切な人を悲しませてしまう)

女(もう……傷つけるのは嫌……)

女「」トボトボ トボトボ

キラキラキラ

女(凄いゲートね……おとぎの国みたい……)

女(彼は私と一緒にここを歩きたかったのよね……)

女(……私だって)

女(もう終点かしら)

女(綺麗だったけれど、綺麗なだけ)

女(なんの感動もない)

女(彼ならどう想うのだろう)

女(『凄い輝きだね、でも女さんの方が凄く眩しいや』って褒めてくれるのかしら)

女(いつもの私なら……『人を太陽にしないでちょうだい』なんて照れる?)

女(そしたら彼はきっと『僕の想いはとっくに焦げてるよ』って……)

女(ふふ……)

女(男くん……)

女(会いたい……男くん……っ)

自然と足早になっていた。
自分から遠ざかったというのに勝手なものね。
今はこんなにも彼に会いたい。

会いたい、会いたい、会いたい。

けれど恋人の波に呑まれて彼の姿が見つからない。
愛に溢れた地だというのに、奇跡なんて起こるはずもなく。

装飾の煌びやかなゲートを抜けると大きな広場に出た。
人が散らばった隙間を縫って彼の姿を探し続ける。

会いたい、会いたい、会いたい。

けれど彼の髪すら見つけられない。

素直になったことも裏目に出て。
遠ざかったことも裏目に出て。

なんてクリスマスイヴなんだろう。
私はトナカイにぴったりだ。

ピエロの赤鼻が今なら似合う。

途端に辺りが暗くなった。
光の全てが消されてしまった。

恋人たちがざわめいた。
私の不安が重なっていく。

私の悲しみに重みが増していく。
自然と涙が伝った。
這う跡が風に凍えて冷えていく。

数秒も経たない内に、ある一点だけが輝いた。
そこは広場の中心なのか、背の高い時計が設置されていた。

午後七時を示す赤い線。

時計台を中心に、暗闇が流れて吹き飛んだ。
その中でも一際眩い時計台。
誰もが目を離せないでいる。

女「きっと彼はこれを見せようとしていてくれたのね」

ある時間まではと、彼はそう言っていた。
ロマンチストの彼が考えそうなことだ。

きっと私は言葉を失っただろう。
隣に暖かな温もりを感じていたとしたら。

どうして彼が隣にいないのだろう。
自分の行いに酷く後悔を連ねる。

なにかのイベントでも始まるのか、時計台に誰かが登っていた。
背の高い時計の中間に差し当った所で止まったその人は、一拍置いて、叫んだ。

「めりいいいいいいいいいいいいいっ! くりすまああああああああああああっす!」

私は確かに言葉を失った。
その声は、あまりにも私が知る人に酷似していたから。

「メリークリスマスっ!」「メリークリスマーッス!」「めりーくりちゅまちゅ!」
「メリクリっ!」「ふぉっふぉっふぉ、メリークリスマス!」

恋人が、家族が、子供が、老人が。
少年の祝いに熱を持って応えた。

どうして?

「みんなああああああああああ! 幸せなクリスマスを過ごしてるかなあああああ!?」

「ったりめーだあ!」「もちろん!」「最高の夜だぜえええ!」「いえーいっ!」

どうしてなの?

「僕はね、ついさっき、世界で一番大好きな人に嫌いだって言っちゃったあああああ!」

「アホかー!」「謝ってこい!」「なに言ってんだおまえ!」

失笑、苦笑、怒号、声援。
誰もが少年の言葉に耳を傾けていた。

ねえ、男くん。

男「その人、泣きながら逃げちゃったんだ! だから僕はここにいる!」

周りの人達もこれがイベントじゃないことに気づき始めたらしい。
当初の熱はどこへやら。
ざわざわと騒々しさが増していく。

男「僕はね! その人のことが本当に好きなんだ! 髪の毛一本から爪の垢まで余すとこなく好きなんだ!」

恥ずかしくないの?
いいえ、恥ずかしいはず。
彼はそこまで馬鹿じゃない。

男「だけどね! 僕が本当に好きな所は、それは! 彼女が! 天邪鬼すぎてとっても素直な子だからなんだ!」

ただ、純粋なだけだ。
純粋に私のことを想ってくれているだけだ。
だからこんなことだってできる。
どんなことだってしてくれる。

男「可愛いねって言うと『貴方は芋虫でも口説いてれば?』って鼻で笑われたよ!
  綺麗だねって言うと『その言葉に重みを付けるために地下3000メートルで重力修行してきなさい』って背中を押されたよ!
  好きだよって言うと『私は貴方が嫌いだけれどね』ってばっさり切られたよ!」

「ひでえ……」「ままー、恐いよー」「鬼子じゃ……」「ご褒美じゃないですか」

女「……」ポカーン

男「だけど! だけどね! 僕はそんな風に言われても彼女が好きなんだ! 大好きなんだ!
  これっぽっちも胸が痛まないんだ! 寧ろ楽しくて笑っちゃうんだ!
  だから、無理しなくていいよ! 頑張らなくていいよ! そのままでいいよ!
  そのままの君がっ……」

彼が言葉を途切らせたのは、予想の難しくない言葉を叫ぶためなのだろう。
その気持ちに、想いに、私の心が高鳴っていく。

気づけば喧騒が静まり返っていた。
次で締めくくられるであろう言葉に、群衆は耳をひそめて待っている。

胸がぎゅっと苦しくなる。
息をすることを忘れてしまいそうになる。

きっとこの先の人生を含めても。
この時以上の感動は得られないだろう。


男「――っ好きだああああああああああああああああああああああああ!」


自然に頬を伝った涙。
先程とは打って変わって、それはとても暖かい代物だった。

「おおおおおおお!」「かっこいいー!」「頑張れえええええしょうねえええええん!」

初めて告白をされた時よりもずっと多い人の中で。
彼の告白は大絶賛された。

けれど、終わっていない。

彼は言葉を言い切れたことに満足している風でもある。
きっと私に届いた確信があるのだろう。

けれど、終わっていない。

だって、私がなにも、応えていない。
彼の振り絞った勇気に、私はもう、甘えるだけなんて嫌だった。

女「わた、しも……」

言葉は群衆にかき消された。
どうすればこんな人ごみの中で声を張り上げられるのだろう。
恥ずかしい。全身が凍ってしまったかのように恥ずかしい。

女「わたっ、し……」

ここまで自分を情けなく思ったことはない。
素直になりたいと願って、なったはずなのに。

結局はそういう所とは問題が違っている。

私に足りないのは素直さじゃなくて、勇気だ。

息を目一杯吸い込んだ。
肺が膨らんでいくのを感じる中で、ただ一つのことだけを想った。

彼の想いに応えたい。

きっと彼は私のことを考えてくれている。
だからあれだけの勇気を持てたのだ。

ああ、サンタさん。
どうかいらっしゃるなら、お願いします。

私に勇気をください。

女「私もっ!」

予定以上の音量で発声された主張に、恋人たちが私に振り向いた。

女「私もっ!!」

繋がらない。あともう一歩が踏み出せない。
もう一言だけでいいんだ。
あと四文字だけでいいんだ。

嘘偽りのない本心を、彼に伝えたい。
素直な……素直な?

……。
…………。
………………。

『そのままの女さんが好きなんだ』

ふと、彼の声が耳に届いた気がした。
すると心がふっと軽くなって、晴れやかになる。

とても不思議な気分。

なぜか自然と笑みが溢れて、流れるように口が開いた。

女「私は貴方のことが大ッッッッッ嫌い!」

私は、貴方が好いてくれた私でいたい。
貴方が好いてくれた私なら、きっと私も好きになれるから。

「「「「えええええええええええ!」」」」

周囲の人達はあまりにもあまりな言葉に驚いているけれど。
これが私達だものね、男くん。

■自室

女「渡してしまった……渡してしまったわ……」

女「~~っ//」カァー

女「うううううううううっ」バフンバフンバフンッ


女「そういえば男くんはなにをプレゼントに選んでくれたのかしら」

チャリッ

女「あら、これ……」

女「ふふ、可愛いわね」

女「猫のストラップか……」

女「素直だった私、いい判断してるじゃない」

女「……」

女「初めての、お揃い……」

女「~~っ//」バフンバフンバフンッ


fin.

ってなわけで蛇足編もおしまい。


改めて、読んでくれてありがとう!

妹「ごめんなさいっ」男「なにを謝ってるんだ?」妹「被害者にだよ!」
姉「可愛くないわねぇ」女「姉に似たのかしら?」姉「うぅ」シクシク

純愛過ぎる男くんと
天邪鬼過ぎる女さんの
大晦日話、始めます。

気合で今日中に完結させる。
いつも通り、短いお話のつもり。

少し溜まったら都度都度投下するから、
ちょこちょこレスくれるとまじで嬉しい。
一日で完結させるモチベを維持するためにも。

大晦日、僕は例年通り家族四人で年越しを過ごしていた。
大晦日、私は例年通り家族四人で年越しを過ごしていた。

明日は女さんと初詣に行くことになっている。楽しみだな。
明日は男くんと初詣に行くことになっている。困ったわね。

きっと女さんは振袖を着てくるだろうから、開いた口が塞がらないような褒め言葉を用意しておこう。
きっと男くんは三十九度の熱でも来るのでしょうけど、私はといえば未だ両親に隠したままなのだ。

いつも可愛い可愛いばかりじゃ芸がないよね。たまには動きも加えてみようかな?
ただ単に「明日友達と初詣に行くから三人とは行けないの」と言えばいいだけなのだけれど、こうも億劫になってしまうのは引け目があるからなのでしょうね。

ボックスを踏みながら両手を広げて女さんへの愛を語り続ける。うん、撲殺されても文句の言えないキモさだね。
想いを伝え合っているから、友達以上恋人未満。そんな相手とこっそり会います、というのがどうにも気恥ずかしい。

楽しみだなあ。
はあ、憂鬱だわ。

■男の部屋

男「ふんふふーんふふーん」

妹「兄ちゃん、この所やけに上機嫌だね」

男「そうか? まあ、そうなのかもな。明日は想い人とデートだから」

妹「へえ、そうなんだ……はっ!? 兄ちゃん好きな人とかいたの!?」

男「なにをそんなに驚いてるんだ。僕は思春期だぞ? 好きな人ぐらいいるさ」

妹「自分で思春期って言っちゃうのって寒いよ兄ちゃん。ねっねっ、好きな人ってどんな人?」

男「そりゃ物凄く素敵な人さ」

妹「そんな曖昧な表現じゃなくて、もっと具体的にっ。なに、兄ちゃんの想いってもしかしてその程度なの? うわぁ、恋に恋しちゃってるとか引くなー。妹ながら引くなー」

男「後悔するなよ」ニコッ

■□十分後□■

妹「ごめんなさい。そして私は妹として女さんって人に謝りたい、ごめんなさい。最悪な兄でごめんなさい」

男「最悪って……兄に対して躊躇ないなあお前は」

妹「最悪とも言いたくなるよ兄ちゃん! 十分間もどんな人か説明できるなんて想定外だったよ! しかも女さんしか知り得なさそうな個人情報を持ちすぎだよ!」

男「それは大切な友人が色々と教えてくれるんだ」

妹「友達は選ぼう!? そして犯罪は止めよう!?」

男「女さんが嫌がってる様子もないからなあ……止めようがない」

妹「兄ちゃんが好きになるだけあって女さんって人も変人なのかなぁ」

男「いやいや、彼女は一周回って常識人だ。言ったろ? 天邪鬼だって」

妹「天邪鬼は常識人の代名詞じゃないよ兄ちゃん……」

妹「はあ、でも見てみたいなぁ、兄ちゃんが好きになった人だし」

男「いずれ見る機会もあるだろうな」

妹「それはお家に呼んじゃうってこと?」

男「それもそうだけど、結婚式になったら会えるだろ?」

妹「恐い、恐いよ兄ちゃん! 交際もしてない人と結婚の夢を描くのは本気で恐いよ!」

男「確かに夢ではあるけど、案外いけると思うんだよなあ。今のところは良好な関係を築けてるし」

妹「そういう問題じゃないよ兄ちゃん! お願いだから私を犯罪者の妹にしないでね」

男「…………当たり前だろ」ニコッ

妹「え、なにその間! もう手遅れなの!? 私は犯罪者の妹なの!?」

男「そんなことあるわけナイジャマイカ」

妹「うわあ! 兄ちゃんがとてもつまらないことを真顔で言ってるよぉ! うう……女さんになんて謝ればいいんだろう」

男「心配性な妹だなあ」

妹「人生かかってるからね!」

■女の部屋
女「ふあ……もう十時なの? って、なんで姉がここにいるのよ」

姉「いいじゃない」パタパタ

女「振ってる足を止めて今すぐ部屋から出ていきなさい」

姉「冷たいねぇあんた。まったく、誰に似たんだか」

女「少なくとも姉の影響は微塵も受けていないわ」

姉「可愛くないなぁ……よぉし、可愛くしてあげるっ」ガバッ

女「ちょ、ちょっと、いきなり抱きつかないで。それに姉に抱きつかれて可愛くなる異常な性癖は持ち合わせてないわ」

姉「はいはい」ナデナデ

女「や、やっ、やめなっ、うっ、やめなさ……ぃ……」トロン

姉「あんたは昔っから撫でられるのが好きだもんねぇ」

女「黙り……なさぃ……」ウトウト

姉「おっと、折角の大晦日、こんな時間に寝るのは勿体ないって」パッ

女「あ……ごほんっ。まだ寝るつもりはないわ」

姉「もう……すぐきりっと立て直しちゃってさぁ。そんなんじゃ彼氏できないぞぉ?」ウリウリ

女「彼氏なんかいらないわよ」サッ

姉「あれ……? いま目をそらした? そらしたでしょ!」

女「逸してなんかいないわ、ちょっと視界にゴミがあっただけ」

姉「目にじゃくて視界に!?」キョロキョロ

姉「あたしのことか!」ベチン

女「暴力反対よ。頭とはいえ叩かれるのは好きじゃないわ」

姉「こ、言葉の暴力も断固反対だよっ」ウルウル

姉「話を戻すけど、なに、もしかしてあんた、恋人でもいるの?」

女「いないわよそんなもの」

姉「じゃあいい人がいるんだ。そうでしょ、ね? ね?」

女「……?」

姉「とても難しい表情をするのね。いい人、かしら? みたいな」

女「父さんと母さんには内緒にしておいてちょうだいよ」

姉「ふっふっふ、ついに私は妹の弱みを握ったっ」

女「リークしたら姉の秘密を三乗話すわ」

姉「そしてあたしは妹に弱みを握られっぱなし」ショボン

女「姉が毎度毎度嬉々として私になんでもかんでも話すからよ」

姉「自分の素直さが憎いっ」

女「……反面教師という意味では影響を受けているのかもしれないわね」

区切る。

■男の部屋

妹「家ではとても素敵な兄だったんですっ……」ウルウル

男「……なにをしてるんだ?」

妹「マスコミが家に来た時の対応はなにがいいかなぁって」

男「……お前は僕に似たみたいだな」

妹「失敬すぎるよ! お兄ちゃんに似てるなんて自殺者じゃん!」

男「どうしてだろうな、女さんに毒を吐かれるのは堪らなく嬉しいんだけど、お前に言われるとなると軽く殺意が」グリグリ

妹「いたいいたいごーめーんーなーさーいーっ」ウルウル

男「まったく……そもそも、どうしてお前はここにいるんだよ」

妹「だって暇なんだもん。せっかくの大晦日なのに友達と遊んじゃいけないってお父さんは言うしさ」

男「時間を考えろよ。僕だってまだ深夜外出は許可されてないんだぞ?」

妹「えー、でも友達はしてるよ? 深夜外出」

男「あのな、誰かがやっているからってそれが絶対に正しいってことはないんだぞ」

妹「それぐらいわかるよぉ。でなきゃ勧善懲悪ものは勧善懲善になっちゃうじゃん」

男「それはそれで真理なんだろうけど」

男「」カチカチカチ

妹「あっ、お兄ちゃんメール? それ女さんでしょ」

男「うん」

妹「なんて書いてあるのかなぁ」チラッ チラッ

男「見るか?」

妹「あ、あれえ? 私が知る限りじゃ大抵の人が嫌がるんだけど……」

男「見ないのか、じゃあいいな」

妹「みるみるみるー! どれどれー……え……」

妹「に、兄ちゃん! 携帯画面が真っ黒だよ!」

男「液晶が壊れてるみたいな言い方をするなよ。文字で埋め尽くされてるだけだろ?」

妹「これはラブメールなんだよね!? 決して嫌がらせじゃないんだよね!?」

男「なにを言ってるんだ、当たり前だろ?」

妹「お兄ちゃんが恐いよぉ……」ガタガタブルブル

妹「ま、まず最初はどんなことを書いてるの?」

男「どうでもいいけどまずと最初を合わせるな、恥かくぞ。メールの最初と言えばまず定型文だろ。冬の時も深まり肌寒い頃合となっていますが、体を冷やしてはいませんか? って」

妹「意外に常識ある丁寧なメールだった!」

男「寒ければ連絡ください。世界中の毛布を買い占めます、って」

妹「世界中の人をそんな理由で敵にしないで!?」

男「ご希望とあらば僕が温めに行きます」

妹「そこは思いの外普通だね」

男「全裸で」

妹「やっぱり犯罪者だった!」

男「冗談はさておき、冬といえば女さんの美しさが映える季節ですね。もちろん春の桜も真夏の太陽も秋の紅葉も女さんを引き立てるためだけに存在しているようなものですが」

妹「褒め言葉にも限度があるって知らなかったよ兄ちゃん……」

男「冬の寒さ、雪、氷、氷柱、どれも女さんを連想させます」

妹「上げて落とした! それ褒め言葉じゃないよね!?」

男「でもそんな中で女さんはいつでも絶対零度を保つ素敵な人です」

妹「それは人じゃないよ!」

男「ああ、いつか女さんを氷漬けにして鑑賞したいなあ」

妹「発想がサイコパスだよ! 病院行こう!?」

男「これも半分冗談です」

妹「半分本気!? そしてさっきのも半分本気だった!?」

男「送信、っと」

妹「お願いだからお兄ちゃん、実行しないでよ? ね?」

男「当たり前だろ」キリッ

妹「カッコつけるタイミングでもないよ……うぅ」

>>134が間抜けすぎるから訂正させてほしいwww

×男「どうでもいいけどまずと最初を合わせるな、恥かくぞ。メールの最初と言えばまず定型文だろ。
          ↓
○男「どうでもいいけどまずと最初を合わせるな、恥かくぞ。メールと言えばまず定型文だろ。

言った傍からやっちゃってるwwwww

■女の部屋

姉「それでさ、妹ちゃん、その人ってどんな人?」

女「教える必要がないわ」

姉「いいじゃん教えなよぉ。でないと来年の抱負はあんたの秘密を暴くにするよぉ」

女「斜め下から脅迫しないでちょうだい。そう、それは鬱陶しわね」

女「彼は、そうね……一言で表すならストーカーね」

姉「どうしてもっと早く相談してくれなかったの!?」

女「ストーカーなんて普通に生きていれば何度かされてしまうものでしょう?」

姉「残念ながらそれは普通の人生じゃないんじゃないかなぁ。大丈夫なの?」

女「平気よ。彼は最後のラインを保ったストーカーだから」

姉「ストーカーとしてはそうでも人としては越えてること解ってる?」

女「いいじゃない、害しかないけど」

姉「やっぱり警察行こう!?」

姉「いや、ちょっと考えてみよう。妹ちゃんのことだから50%毒舌成分が混ざってるはず」

女「人をバファリン呼ばわりしないでくれるかしら」

姉「優しさは毒ってこと?」

女「やだうまい」

姉「えへへ」

女「豚もおだてりゃ木に登る、という諺があるのだけれどね」

姉「知ってるよぉ! ここで説明する意図も知ってるよぉ!」ウルウル

♪よるは~じこけんおでいそがしい よるは~じこけんおでいそがしんだっ♪

姉「!?」ビクッ

女「あら、噂をすれば彼からメールだわ。ふふ、カメラで盗撮でもされているのかしら」

姉「微笑ましく言うところじゃないって! もっと深刻になろう? そして着信音変えよう!?」

女「なになに」

姉「ねぇねぇお姉ちゃんにも見せてよぉ」

女「人のメールを知りたがるなんて現代っ子に漏れないマナーの無さね」

姉「毒舌じゃなくて正論っ」グッ

女「まあいいでしょう。彼のことだから、私の姉に見られるのは寧ろ悦びでしょうし」

姉「悦びなんだ……お姉ちゃんの心配は深まるばかりだぁ」

女「では読み上げましょう」

『冬の時も深まり肌寒い頃合となっていますが、体を冷やしてはいませんか?』

姉「あれ、なんか思ったより普通……寧ろ真面目?」
女「これは罠ね」
姉「どんな高度なメールなの!?」

『寒ければ連絡ください。世界中の毛布を買い占めます』

姉「突拍子もないこと言い出したよ!?」
女「彼の恐ろしいところはこれを実行する可能性があるということよ」
姉「家にそんな沢山の毛布はいりませんっ」

『ご希望とあらば僕が温めに行きます』

姉「ちょっと臭いけどマシな台詞だねぇ」

『全裸で』

姉「一生家に来ないで欲しいなっ!」
女「流石にこれは冗談みたいよ。次に『冗談はさておき』って続いているわ」
姉「じょ、冗談言うんだね、この子」
女「ええ、多分」
姉「!?」

『冬といえば女さんの美しさが映える季節ですね。もちろん春の桜も真夏の太陽も秋の紅葉も女さんを引き立てるためだけに存在しているようなものですが』

姉「褒め言葉で人殺しってできるのかもしれないね」
女「少なくとも褒め言葉で恐怖を植え付けることはできるでしょうね」

『冬の寒さ、雪、氷、氷柱、どれも女さんを連想させます』

姉「ふう、よかった。観察眼はそれなりに狂ってない子なんだぁ」
女「彼の場合、とことん使う頭が壊れているけれど」

『でもそんな中で女さんはいつでも絶対零度を保つ素敵な人です』

姉「うすらうすら感じてはいたけど……やっぱりmなんだ」
女「いやどちらかというと彼は……」
姉「ん? なになに?」ニヤニヤ
女「その反応が鬱陶しいからチャックするわ、姉の口に」
姉「物理的に準備しないでごめんなさいぃ!」

『ああ、いつか女さんを氷漬けにして鑑賞したいなあ』

姉「犯人はこの子だ!」
女「いつか私もその台詞を本人に言うべき時が来るのでしょうね」

『これも半分冗談です』

姉「半分本気だよこの子! 全裸であんたを氷漬けにしにくるよ!?」
女「それがこのメールのオチだと信じたいところね」

姉「で、妹ちゃん。なんて返信するの?」

女「そうね……『全裸で毛布を買い占めて私の氷像に見蕩れる暇があるのなら、世界中の毛布を買い占められるだけの財力を築く努力をしたら? そしてそのまま借金塗れになって飢えなさい』返信っと」

姉「とても妹ちゃんらしい文面だね……さりげなく不幸への道筋を築くところとか」

女「これで私が全裸の変態に殺されることも無くなったわ。それに、彼のことだから目指すのでしょうね、億万長者」

姉「ピュア過ぎて恐い……普通にメールしてるあんたもちょっと恐い」

区切る。
ちょっと寝てくる。
次投下はいつか知らんが、気合で今日中に終わらす。

ありがと!
再び投下していく。
やっぱり短いからなんとかなりそうだ。

これだけは言っておくと、今回は山もなければオチもないのでご了承くだせ。

■男の部屋

妹「ねえ兄ちゃん、人を好きになるってどんな感じ?」

男「なんだ、お前はまだ好きになったことないのか?」

妹「んー、ない気がする。それっぽいのはあるんだけど、なんか違う気がするんだぁ」

男「人を好きになる感覚なあ……」

妹「私さぁ、終業式の日に告られたんだよね、クラスメイトの男の子に」

男「ほう」

妹「凄い真剣な表情だったんだ。でも、私にはよくわからなくて……」

男「なるほどな。まあ人を好きになる感覚ってのは十人十色だから一概には言えんが……一つだけ共通点がある」

妹「なに?」

男「その人のためならと考えたら、なんだってできる」

男「要するに原動力になるわけだ」

妹「そっか……好きになるって凄いんだねぇ」

男「でもまあお前はまだ中学生だし、色々と失敗してもいいだろうから、その子にはお前なりの考えで応えてあげればいいんじゃないか」

妹「あぁ、そうだ、兄ちゃんってこんな感じだったよ。頼りになるんだよねぇ」ボソッ

男「どうかしたか?」

妹「なんでもないよっ、兄ちゃんっ」

♪半裸で絶叫、海へ、ゴー! 全裸で恐縮、空へ、ゴー!♪

妹「なにその歌!」ビクッ

男「タイトルが君のためなら死ねる、なんだ」

妹「そのタイトルを聞いたあとにこれを聞いたら悲しい気持ちになっちゃうよ!」

男「女さんからだ」

妹「やっぱり」

『全裸で毛布を買い占めて私の氷像に見蕩れる暇があるのなら、世界中の毛布を買い占められるだけの財力を築く努力をしたら? そしてそのまま借金塗れになって飢えなさい』

男「妹よ、わかるか?」

妹「な、なにが?」

男「これが愛だ」

妹「それは違うと断言できちゃう! よ、よぉく見てよ兄ちゃん! 最後のとこ、餓死を希望してるよ!」

男「これは希望してるんじゃなくて懸念してるんだ。莫大な富を得るためには同等のリスクを伴うから慢心しないように頑張ってね、と」

妹「同じメールを見ている気がしないよ兄ちゃん!」

男「そしてさっきの話を覚えてるか?」

妹「さっきの話って……まさかっ」

男「好きな人のためならなんでもできる」

妹「この人布団を買い占めるために富豪になるつもりだ!」

男「勇気を後押ししてくれるなんて素敵な女性だろ?」

妹「兄ちゃん気付いて! そこは火曜サスペンスでお馴染みの断崖絶壁だから!」

妹「やっぱり兄ちゃんが変になったぁ」ウァァアンn

■女の部屋

姉「それであんたはこの子のことどう思ってるの?」

女「好きよ」

姉「なんの照れもなく即答だなんてニヤけちゃうけど……不安だぁ」

女「こんな狂人、好きでもないと許せないじゃない」

姉「狂人を好きになっちゃいけないよ!?」

姉「あれ? でも付き合ってはないんだよね?」

女「そうね。向こうの想いはこの通りだし、つい先日私も想いを伝えたのだけれど、まだ交際には至ってないわね」

姉「付き合わない方がお姉ちゃん的には嬉しいけど……でもどうして? 付き合ったらいいじゃん」

女「これはそんな気軽な問題じゃないのよ……」ズーン

姉「おおっ、妹ちゃんのへこみ顔色珍しいから激写っ」パシャッ

女「あら」ベキッ

姉「一瞬にしてあたしの携帯が廃棄物に!?」

女「ごめんなさいね、目が悪くて気づかなかったわ」

姉「あたしから奪い取って床に置いてそれを踏み抜く視力はあるみたいだけどね!」ウルウル

姉「うぅ、ひどすぎるよぉ」ポロポロ

女「無断で人の顔を撮るのもよっぽど酷いけれどね。ほら、これ」

姉「それ、あたしの携帯っ」

女「さっきのはフェイク。いくら私でもそんなことしないわよ。そもそもその携帯、姉の私物じゃないのだし」

姉「お父さんに携帯料金払っててもらってよかった……」

姉「それでさ妹ちゃんっ」ケロ

女「その立ち直りの速さ、なにかを彷彿とさせるけれど彼とは別物ね。なにせ彼は転びすらしないのだから」

姉「どうして付き合わないの? の問題ってなに?」

女「前々から、というより初対面から彼は私に好きだ好きだと壊れたロボットのように連呼しているわけだけれど」

姉「好意を持っている相手に対する表現じゃないよ?」

女「私は六日前に好きだと伝えたばかりなのよ」

姉「ふむふむ、ってクリスマスイヴじゃん! お姉ちゃんに隠れてそんなことしてたなんて……爆発しろ!」

女「ばぁーん」

姉「強者の余裕が憎らしいっ」ウッ

女「話を戻して、それ以降なにも進展してないの。想いは告げ合ったけどそれだけで、付き合おうなんてまだ言ってないのよ」

姉「なるほど、タイミングを逃しちゃったわけだね」

女「そう」

女「彼のことだからすぐに交際を申し込んでくると思ったらそんなことなくて、寧ろ私が彼に好きだと伝えたことにも触れてこないのよね」

姉「え、それは意外だなぁ。今までの流れだとよりうるさくなりそうなのにねぇ」

女「多分、だけれど。彼は私に言わせようとしているんだわ」

姉「策略家だねぇ、その子」

女「けど私から言えるわけないじゃない?」

姉「あんたはそういうの無理だろうねぇ。好きだって伝えれただけマシだよ」

女「由々しき事態なのよね、これが」

姉「んー、まああれだっ。向こうが言ってこない以上、あんたが頑張るしかないんじゃない? あとふた月もしない内に絶好のイベントがあるわけだし?」

女「絶好のイベント?」

姉「ほらー、二月といえばー」

やっぱり大晦日だから人が少ないのか。
しかしやり遂げよう、決めたことだ。

■□元旦□■

ワイワイ ガヤガヤ

男「おはよう女さん。新年明けましておめでとうございます。来年も宜しくお願いします」

女「おはよう男くん。新年明けましておめでとうございます。来年も宜しくと言わざるをえない風習が辛いわ」

男「ところで女さん、その振袖」スタ スタ スタ スタ「とっても似合ってるね」

女「今日は周りに沢山の警察がいるから不審な行動は慎みなさい」

男「結局考え抜いた末ボックスを踏んでみたけど、これはもう二度とやらないかな」

女「ついでに二度とあんなメールを送ってこないでほしいわね。反応に困るわ」

男「嘘でしょ?」

女「嘘ね」フフッ

男「ああ、そういえば女さん。一つだけ謝っておきたいんだけど、実はこの光景をどこかで妹が見ているんだ」

女「そういえば妹さんがいるのよね。構わないけれど、なにかあったの?」

男「昨日女さんの話をしたらさ、『なんか色々と心配だよ兄ちゃん』って」

女「いじらしい妹さんじゃない。それで言うと、こっちも姉が私達を監視しているはずよ」

男「ああ、未来のお姉さんだね」

女「さりげなく貴方の姉にしないでくれるかしら」

女「どうも『あんたに見る目がなさすぎるからあたしが代わりに判定を下すっ』って」

男「妹思いの素敵なお姉さんだね」

女「そうかしら?」

■□■□■
妹「あの人が女さんかぁ……兄ちゃんには勿体ない美人さんだなぁ」

妹「って兄ちゃん!? なぜいきなり踊りだしてるの!?」

妹「いけないいけない、しっかり見とかなくちゃ」

妹「兄ちゃんが犯罪者にならないように……それと」

妹「兄ちゃんはもしかしたら悪女に騙されてるだけかもしれないんだからっ」

■□■□■

姉「あの子が男くんか……あんなメールを送ってくるような子には見えないんだけどなぁ」

姉「ってええ!? 突然奇行に走ってる!?」

姉「会った傍から飛ばすなぁ……こりゃ間違いなく例の子だわ」

姉「姉として、妹を不幸にしないためにもしっかりと見定めるぞぉ」

姉「……あと、妹ちゃんが変なことしないように見張っておこう」

■□■□■

女「となると今日は視線が多いわね。ストーカー君もいるのでしょう?」

男「どうだろうなぁ、もしかしたら行けないかもって言ってたから。ほら、正月だから」

女「両親と過ごすかもしれないのね」

男「いやネットから離れられないって言ってたよ?」

女「一年の大半がアグレッシブにストーキングだからその方がいいのかしら?」

男「ストーカー君は言動が裏腹だからなぁ……内向的と言いつつストーカーであることに誇りを持っているようだし」

女「切実に彼へ意識改革の本を薦めようかしら」

男「第二の僕が誕生するだけだと思うな」

女「地獄絵図ね」

男「女さん、わたがしだよ。食べる?」

女「貴方は頭の中にわたがしが詰まってるからいいじゃない」

男「確かに女さんを思うといつもふわふわだなあ」

女「すかすかだと言っているのよ。まあ、食べるけど」

男「おじさーん、二つくださーい」

おじさん「あいよっ」スッ

男「はい女さん」

女「ありがとう」ハムッ

男「~~っ」ブルブル

女「なに身悶えてるのよ」

男「女さんが僕の脳を食べてると思うと嬉しくってさ」

女「……わたがしがトラウマになりそうよ」

男「美味しかったねえ女さん」

女「貴方がおかしなことを言わなければもっと満足できたわ」

男「あ、女さん、指にわたがしがついてるよ」

女「あらほんと」

男「取ってあげるよ」

女「ティッシュでも持ってるの? 準備がいいわね、お願いするわ」スッ

男「では失礼して」ペロ チュパッ

女「!?」

男「」ペロ チュッ チュゥゥゥ チュパッ

男「よし、後はティッシュで拭けばベタつかないねっ」

女「直りなさい」

女「今すぐ真冬の石段の上に正座して己の行いを猛省なさい!」

■□■□■

妹「んんぅ……思ったよりも普通だなぁ。なんだかんだいって兄ちゃんも迷惑かけてばっかりってわけじゃないんだなぁ」

妹「おっ、わたがし買ってあげてる。紳士じゃん。あ、そっか。道理で兄ちゃんバイトを始めたわけだ」

妹「美味そうだなぁ、私もあとで食べ――なにやってん兄ちゃん!?」

妹「周りからの注目度とんでもないことになってるよ!?」

妹「そりゃそうだこんな人ごみの中で指舐めてたら見られたい放題だよ!」

妹「いや、でもその前女さんが優雅に手を差し出していた……『駄犬みたいに舐めなさいな、おーっほっほっほ』とか言ってたのかもしれないっ」

妹「と思いきや兄ちゃん正座させられてる! 舐め方だ! 舐め方が甘かったんだ!」

妹「うぅ……兄ちゃんになんてことするんだ女さんめぇっ」ブルブル

通行人「……なにしてんだこの子」

■□■□■

姉「今のところおかしな様子はないなぁ。でもあのメールをしれっと送信するような子だから、言葉で圧迫してる可能性もあるよね」

姉「妹ちゃんに盗聴器でも仕掛けておくんだったなぁ、持ってないけど」

姉「あ、わたがし買ってもらってる。昨日のメールの冒頭でもそうだったけど、弁えてる所はしっかりしてるんだよなぁ」

姉「あたしも後でわたがしたーべよっ――って指フェ○!?」

姉「はっ//」キョロキョロ

姉「ちょっとちょっとどうしてこんな往来の場でそんなことができるのあの子は! 危険水域まで一気に浮上だよぉ!」

姉「と思いきやうちの妹は人目も幅からずに説教を始めている!? 気持ちは解るけどそりゃアウトだよアウトぉぉ!」

通行人「……秘密イベントでも開催されてんのか?」

■□三十分後□■

女「はあ、はあ……貴方のせいで無駄に注目を浴びてしまったじゃない」

男「女さんが説教を始めてからはギャラリーができてたもんね」

女「近所の方の目もあるでしょうに……二度とこんな真似は許さないわよ」

男「わかったよ、ごめんごめん」

女「露ほども悪いと思っていない謝罪ね、まったく」

女「それに貴方にとっても良いことじゃないでしょう? こういったことが私の両親の耳に入れば悪印象よ」

男「それについては算段を立ててるから大丈夫だよ」

女「人の両親を篭絡する算段を立てないでくれる?」

男「半年後には結婚を認めてもらうつもりだからっ」

女「それ以前のことがあるでしょうに……」

男「それ以前って?」シレッ

女「貴方のそういうところ、大嫌い。勘違いしないでちょうだい、これはクリスマスの日に伝えた嫌いとは意味の違う、心底から嫌悪しているという意味だから」

男「うん、つまりクリスマスの時に言ってもらった大嫌いはそういう意味じゃなかったということだね」

女「墓穴を掘ってしまったわ……」

男「さってと、メインイベントだよ女さん。初詣といえば願い事。女さんは神様になにを願う?」

女「そもそも神様には願いことではなくて感謝の意を贈るのが正しいわけだけれど、そうね……」

女「ここの神様は街を発展させて祀られたと云われる福神様だから、うちの店が安定して繁盛するよう願おうかしら」

男「願い事も理屈っぽいのは女さんの特徴だね」

女「どうせ貴方は理屈から遠ざかったような願い事をするつもりなのでしょう?」

男「そんなことないよ。福神様だから……よし、決めた。行こう」スッ

女「……なによその手は」

男「はぐれちゃいけないと思って」

女「それなら首に縄を付けてあげるわ」

男「ちょっと待っててね」ゴソゴソ

女「どんな準備の良さなのよ……しかも伸縮可能なリードじゃないの」

女「仕方がないわね。とても不本意だけれど、こんな人ごみの中一人にされたら溜まったものじゃないわ。服を握ってあげましょう」

男「福神様なだけに、福を握ったんだね」

女「好感度ダウン」

男「あちゃー」

パンッ パンッ

男「」スゥゥゥゥゥゥゥ

女「冗談やってないで普通にしなさい。今日はクリスマスではないのよ」

男「はは、ごめんごめん。慌てた女さんが見たくって」

女「後で覚えてなさい」

女(お店が未来永劫安定して繁盛しますように。それとできることなら、隣にいる男が幸福になりますように)

男(女さんを幸福にできる立派な人間になれるよう努力するので、少しの福を分け与えてください)

パンッ パンッ スッ ペコッ

■□■□■

妹「に、兄ちゃんっ、どこだ? 人が多すぎて見失っちゃったよぉ」

妹「うぅ……よくよく考えてみたら一人でこんな場所、寂しすぎる」

妹「結局女さんが悪女かどうか証拠が掴めなかったし……」

妹「でも諦めないんだからっ! いつか兄ちゃんを悪の手から助けてみせるっ」

■□■□■

姉「んーっ、んーっ」ピョン ピョン

姉「見失った……妹ちゃん、無事だといいけど」

姉「とりあえず、本日の調査結果から見れば――限りなくグレー! あの子は危険な子だぁ」

姉「なんであんな子に惚れてるんだか……妹ちゃんの審美眼が心配だよぉ」

■□■□■

男「女さん、甘酒だって。飲む?」

女「お酒は二十歳からよ」

男「あれはお酒じゃないよ。甘酒には二種類あって、内一種類は微量のアルコールを含むけど、内一種類はアルコールを含まないんだ」

女「あら、そうだったの」

男「そうだよ。それで、基本的にだけどこういう場で配られる甘酒っていうのは、含まない方なんだって。車で来る人もいるし、甘酒は酒じゃないっていう認識の人も多いから、子供に飲ませたりするでしょ?」

女「なるほどね。私に飲ませるために勉強してきたの?」

男「そうだよっ。お酒に酔った女さんが見たいからっ」

女「不純な動機を清々しく教えないでちょうだい。字面が……あら、悪くないわね」

女「どちらにせよ、アルコールを含まないなら酔わないのでしょう? 残念ね」

男「甘酒効果をなめちゃいけないな」

男「どうぞ」スッ

女「ありがとう」チビッ「あぅっ」

女「熱いわね……」

男「ふーふーしてあげよっか?」

女「甘酒を頭からかけられたくないなら黙ってなさい」

男「きっと女さんは飲食物を粗末にしない人だから、かけた甘酒を舐め取ってくれるんだよね? 幸せだなぁ」

女(違う願いにすればよかったわね)ズズー

女「暖かくて美味しいわね」

男「ぽかぽかしてくるでしょ?」

女「ええ」

男「それはアルコールが入ってるからだよ」

男(嘘だけどね)

女「私を謀ったのね――うぅ……」クラクラ

男(いくらなんでも早すぎるよ!?)

男(そうか、女さんって自己暗示であーなっちゃった人だから、催眠に弱いんだ……これは将来が心配だなあ)

女「なんだか足元が覚束ないわ」クラクラ ピト

男「大丈夫?」ガシッ

女「平気、よ……」

男(頬を赤らめた女さん可愛いなあ。それに酔ってるからかちょっと甘えん坊だ)

女「男くん……」ウルッ

男「なーに、女さん」ニコッ

女「……」ウルッ ジー

男(これはもしや……キスのチャンス!?)

男(酔ってるところを利用させてもらうのは申し訳ないけど、据え膳食わぬはなんとやらだし、うんっ、遠慮なく!)

男「」ドキドキ

ソー

男「」ドキドキ

ソー

男「」ドキドキ

女「ふふっ」ベチンッ

男「……あれ?」

女「いくらなんでもそんな簡単に酔うわけないでしょう?」

男「……すっかり騙されちゃった」

女「ふふ、いい夢見れたかしら」

男「夢、夢かあ。うん、いい初夢だったよ」

女「そう。それはよかった。なにせ」

女「初夢は叶うものだそうからね」


fin.

蛇足編


妹「いいなー兄ちゃん恋人できて。あ、恋人じゃないんだっけ」スタスタ ドンッ

妹「うぁっ」スッテン

姉「ごめんねっ、大丈夫?」

妹「は、はいっ、大丈夫で……いたた」

姉「膝擦りむいちゃってるね……絆創膏持ってるから張ってあげるっ」

妹「すみません……」

姉「気にしないで、あたしも余所見してたのが悪いんだから」

妹(なんか、見たことある美人さんだなぁ)

姉(なんか、見たことある可愛い子だなぁ)

姉「はい、できましたっ」

妹「ありがとうございますっ」

姉「いえいえ。あれ? 一人で来たの?」

妹「ええ、事情がありまして……」

姉「あたしも一人で来たのよ。仲間だねぇ」

妹「そうなんですか? じゃあ、その……」

姉「これもなにかの縁だし、初詣していこっか」ニコッ

妹「はいっ」

妹「あっ、わたがし。食べたかったんですよねぇ」

姉「あたしも食べたかったの。気が合うねぇ……あ、名前は?」

妹「妹っていいますっ。えっと」

姉「あたしは姉。よろしくねぇ。この辺りの子、よね?」

妹「そうですよぉ。だからどこかで会ったことがあるかもしれませんねっ」

姉「また今度どこかで会ったらお茶しよっか」

妹「はいっ。ケーキ食べに行きましょうケーキっ」

姉「うん、いいねっ」

妹「姉さんはどうして一人で?」

姉「んー、あたしの妹がね、ちょっと困った子に惚れてるみたいで……心配になっちゃってね」

妹「そうなんですか!? 実はうちも、兄が困った人を好きになってるみたいで、監視しにきたんですよぉ」

姉「なんか親近感沸くねぇ」

妹「ですねぇ」

姉(この子が男くんの妹、ってことはないよねっ。こんなに普通な良い子なんだし)

妹(この人が女さんの姉、ってことはないよねぇ。とっても素敵なお姉さんだしっ)

姉&妹(……すっごい似てるんだけど)


パンッ パンッ

妹(どうか兄が目を覚ましますように。兄が魔の手から救われますようにっ)

姉(どうか妹ちゃんが不幸になりませんように。男くんがまともな人間になりますようにっ)

姉&妹(お願いします……神様っ)

パンッ パンッ

fin

というわけで、終わり。

大晦日のカウントダウンをネタにしたかったけど、考える限りでは無理だった。残念。
皆さん、よいお年を。

今月はバレンタインだ。
リア充は爆発しろ。

先駆けて、ストーカー君のお話を投下しておく。







ストーカー「登校したら下駄箱にチョコが入ってた」

ストーカー「僕の登校時間が八時十分。いつも通り女さんの家で待ち伏せして、朝の爽やかな日差しを受けた女さんを観察して、女さんに近づける半径五メートルの距離を保って女さんと登校した」

ストーカー「つまり僕の下駄箱にチョコを入れた人はそれまでに登校した人に限られる。この八時十分というのは早いわけでも遅いわけでもない、普通の登校時間だ」

ストーカー「メッセージカードには『貴方の大切な人より、愛を込めて』と書いてあるけど、書体に覚えはない」

ストーカー「……だからどうした」

ストーカー「凄いな、名探偵は。簡単に事件を解決しちゃうんだから。僕にはとてもじゃないけど真似できないね」

ストーカー「とりあえず、唯一知っていそうで声をかけられる教師という存在に聞き込みをしてみよう」

ストーカー「どの道生徒と話せるわけがないし」

教師「お? 不審な生徒? なんだそりゃ」

ストーカー「下駄箱付近で見かけませんでしたか?」

教師「んん……おお、そういえば一時間前に中学生がいたな。近くの中学の生徒だ。なんだ、もしかしてお前宛だったのか?」

ストーカー「みたいですね。名無しですけど」

教師「隅に置けないなあ、がっはっは」

ストーカー「どんな中学生でした?」

教師「ちらっと見ただけだったが可愛らしい子だったぞ」

ストーカー「先生、警察に連絡しましょうか?」

教師「冗談にならないからよせ! 十年後が楽しみだということだ!」

ストーカー「そういうことにしておきましょう」

教師「」ワナワナ

ストーカー「さて、中学生か。それなら逆にありえるのかもしれませんね」

ストーカー「なにせ僕がストーカーなのは周知の事実ですし」

ストーカー「少なくともこの学校に僕を好いている人はいません」

ストーカー「ストーカーを好きになる人なんて……女さんぐらいなものでしょう」

ストーカー「僕を好いてくれた子がどんな子なのか気になりますが、かといって女さんへの想いが変わるわけでもないし」

ストーカー「まあ、いいか」

と思っていたのに、教室に入ったら状況がとんでもないことになっていた。

『ストーカーを想う謎の女子!? チョコをプレゼントしたのは誰だ!?』

黒板にでかでかと書かれた文字に明確な悪意が見受けられる。

チョコを取り出すところを見られていたのだろう。

はあ、面倒臭い。

僕は虐められっ子じゃない。
でも、嫌われている。ストーカーだから当たり前だ。

虐める切欠があれば虐める、という程度なのだろう。
これは彼らにとって無自覚の悪意だ。

要は、お祭りなのだ。

生徒「あいつチョコ……」ボソボソ
生徒「まじで? ありえな……」ジロジロ

気にせずに自分の席に就く。
黒板に書かれた記事に教師は突っ込むだろうけど、虐めとは思わないんだろうな。

そういうものだ。
保身が一番。

教師はただの人間なのだから、それが正しい。
受け入れがたいことだけど。

「」スタスタスタスタ

と思っていたのに、予想は裏切られた。

記事を消す一人の人物。

クラス委員長だ。

委員長「……」キョロキョロ

真面目な委員長には許せなかったのか。
辺りを見回して、特になにかを言うわけでもなく。

委員長「……はあ」

溜息を吐いて席に戻る。

生徒「え? もしかして委員長って……」ボソボソ
生徒「バレンタインにカップル成立……」ボソボソ

委員長、なにを考えているのだろう。
こんなことしても誰も喜ばないのに。

委員長が好奇の視線にさらされるだけなのに。

委員長「」ガタッ スタスタスタ

委員長は無言で近づいてきて。

委員長「」ガシッ スタスタスタ

ストーカー「え? え?」ズルズルズル

僕を引きずって教室を出た。
途端にクラスメイトの黄色い声。
喧騒は増えに増えて、鬱陶しい。

階段を登り、屋上前の踊り場。
鍵がかかっていて屋上には出れない。

委員長「……」ジィー

委員長「……はあ」

僕がなにをしたって言うのか。失礼な人だ。

というのも本心だけど、僕はコミュ障だから同時に。

ストーカー(え? え? ぼ、僕にななななんの用????)

委員長「あの、さ」

ストーカー「ひゃいっ」

委員長「……はあ。情けなくないの? 君」

ストーカー「……」

情けない、なんて。
今に始まったことじゃない。

女さんにフられて、ストーキングして。
僕以上に情けない男なんてそういない。

委員長「私は、さ。ああいうの、嫌いなんだよね」

ストーカー「……」

委員長「ああいう、虐め。虐めだよ、あれ。わかってる?」

悪意なき、虐め。
けれど虐められる方はいつだって。
だったかな。

委員長「どうしてなにも言わないの? 冷静ぶってさ、それが格好いいとでも思ってるの?」

ストーカー「……」

委員長「君がどういう人かなんて、そりゃ噂でいっぱい耳にしてるけど、だからって虐められていいってわけじゃないでしょ」

委員長「捕まってもいいとは思うけど、被害者が被害届出してないみたいだし」

ずんと胸の内が締めつけられた。
解っていても、解りたくない。

女さんは被害者で、僕は加害者なんだ。
ストーカーっていうのは犯罪だ。

委員長「……それでいいの?」

ストーカー「……」

なにもかも見透かしたような視線に苛立った。
苛立ったけど口ごもる。

言葉は喉の奥よりもずっと下で足踏みしている。

委員長「……はあ」

委員長の溜息は鈍器だ。
ハンマーで頭をぶち抜かれるかのようだ。

委員長「……なんでこんな奴が学年トップだったの?」

それは切実な話なのか。
僕にはあまり関係がない。

女さんのストーカーを始めて成績はぐっと落ち込んだ。
当たり前だ、勉強に割く時間がない。

委員長は確か、十位以内だったと思う。
何度か話したこともある。

その時の僕はここまで酷くなかった。
ここまで口の閉じた奴じゃなかった。

委員長「……情けない」

堪忍袋というものがあるなら、頭に線があるなら。
ぷつんと切れた。

ストーカー「君になにがわかるって言うんですか?」

委員長「あれ? 話せたんだ」

ストーカー「君になにがわかるって言うんですか!?」

委員長「なんだ、てっきり話せない病気なのかと」

ストーカー「答えてください!」

委員長「なにも、わからない。当たり前でしょ? ろくに会話してないんだから」

ストーカー「だったら僕に構わないでください!」

委員長「」ブツ

委員長「女々しい女々しい、あー女々しい! それでも男!? 格好悪いにもほどがある」

ストーカー「放っておいてくれればいいでhそう! どうせ君には関係ない!」

委員長「大有りよ!」

水掛け論が続くと思った。
僕は怒って、彼女も怒ったら歯止めが利かない。

そこに冷静な対話なんてありえない。
会話のレベルでいうならとても低い。

なにをまくし立てられるのかと思いきや、
委員長はとんでもないことを口にした。

委員長「私の初恋を返してよ!」

ストーカー「………………………………え?」

委員長「あ……っ//」

ストーカー「………………………………は?」

委員長「ち……違う! 今のなし! 死ね!」

凄く理不尽に呪われた。

委員長「あう……ううっ//」

ちょっと可愛い。
女さんの方が数万倍可愛いけど。

人によってコミュ障の理由は違う。
例えば女さんなら、人を傷つけることが恐いから話せない、だ。

例えば僕なら、人から嫌われることが恐くて話せない、だ。

だから、改めて好意を持っていることを示されると。
ふっと心が軽くなる。

ストーカー「あの」

委員長「なに!?」ポロポロ

ストーカー「……僕、ストーカーなんですけど。なんで僕?」

委員長「別にっ、始めっからストーカーだったわけじゃないでしょ!?」

生まれついてのストーカー……やばい、なんか格好いい。

委員長「中学の頃から勉強に自信があったけど、高校にきたら井の中の蛙だったんだって知った。けど、君はその中でも一番で――って! なに言わせるのよ!」

ストーカー「努力してましたから」

委員長「私だって!」

ストーカー「きっと君より努力してましたよ、僕は」

あの頃の僕は気持ち悪かった。
今の僕もストーカーという称号を得て大概気持ち悪いけど。

あの頃の僕はガリ勉が引くほど勉強していた。
勉強しすぎで医者に勉強を止められた。

明らかにオーバーワークだった。
休んだ方が効率がいいことは知っていた。

それでも勉強しなければならなかった。
ただそれだけが、僕の価値だったから。

委員長「……もう、勉強しないの?」

打って変わって委員長はしおらしくなる。
ちょっと可愛い。
女さんの方が数千倍可愛いけど。

ストーカー「勉強が嫌いになったわけじゃないよ」

ただ、勉強以外の価値があると知ったから。


~~~~~
まだ僕がストーカーじゃなかった頃。
春の終わり。
散る間際の桜木の下。

『呼び出してしまってすみません』

女『なにかしら』

『あ、あの、僕……』

産まれて初めての恋。
理由は忘れた。というか、理由なんてなんとでもつけられる。
恋ってそんなものらしい。

産まれて初めての告白。
緊張しないわけがなかった。

『僕、貴方のことが――好きですっ』

『付き合ってください!』

女『嫌』

たった一文字で世界が崩壊した。

『ど、どうして?』

女『嫌なことに理由なんてないわ。強いてあげるなら、一人が好きなのよ、私』

『で、でも、あの』

『僕、これでも、その、学年で一番勉強ができてですね』

やめろ。

『だから、一番凄くてですね』

やめてくれ。

『だから、だから――』

女『悪いけれど、自分の特技をひけらかしすような人は死ねばいいのに、なんて思ってしまうくらいには嫌いなの。貴方、私の半径五m以内に近づかないでちょうだい』クルッ

女『それに、勉強だけがこの世の全てじゃないでしょうに』スタスタスタ

勉強だけがこの世の全てじゃ、ない?

じゃあ僕はなんだって言うんだ。
勉強しか取り柄のない僕は。

無意味?
僕がしてきたことは。

『う……ううっ……』

僕の初恋は痛烈に散った。
そして――強い憎しみを抱いた。

『そこまで言うなら』

『見せてみろよ!』

翌日から僕はストーカーになった。

結局、女さんは勉強以外の価値を持っていた。
沢山のものを持っていた。

知れば知るほどに憧れた。
どんどん好きになっていく自分がいた。

途中から不気味な男が一人増えた。
教室の中で堂々と告白するような馬鹿だった。

しかし女さんの壁を溶かすにはそれくらいの熱が必要だったみたいだ。
そして男くんは僕のいい友達になった。

僕は二人から勉強以外の価値を知った。

~~~~~

ストーカー「だから僕は勉強をする必要をなくしたんです」

委員長「……いや、それ関係ないよ」

ストーカー「……ん?」

委員長「学年一位だったから気になった、っていうのは勿論あるけど、そんな理由で君のこと好きになったんじゃないし」

ストーカー「……え?」

委員長「勉強で関連付けするなら、勉強に対する姿勢にはそりゃ見惚れたけどさ……それ以外のいいとこ、私はいっぱい知ってるし」

照れ隠しなのか委員長は目を伏せる。
ちょっと可愛い。
女さんの方が数百倍可愛いけど。

委員長「例えば、君はマメだよね」

ストーカー「マメ? そうですか?」

委員長「うん。今はそうじゃなくなったけど、前の君はこまめな気配りができてたよ。無意識だったのかな。私よりもよっぽど委員長にお似合いだった」

ストーカー「へえ」

委員長「帰る前に教室の花に水やりしたり、学校帰りに捨て猫見つけたら色々と対処したりしてたでしょ。あ、それは今でもしてるっけ」

ストーカー「してる、けど……なんで知ってるんですか?」

委員長「な、なんだっていいでしょ!?」

ストーカー「いいのかな。なにか凄く大きなことを見逃してる気がするのですけど……」


委員長「例えば、君はなんだかんだで努力家だよね」

ストーカー「勉強に関してはそうですね」

委員長「勉強だけじゃない。女さんをストーキングする姿勢も努力の賜物だよ。あんな朝早くに起きたり、こっそり盗聴器仕掛けたり、並大抵の気持ちじゃできないよ。それに、ネットゲームでもそうだよね。勉強をやめてから始めたみたいだけど、攻略方やアイテムの下準備とか、いつも万全だよね」

ストーカー「ちょ、ちょっと待った! 流石に看過できません。ど、どうして知ってるんですか?」

委員長「なんだっていいでしょ!?」

ストーカー「よくないですよ!?」

委員長「ストーカーが君一人だなんて思わないでよねっ!」

開いた口が塞がらない。

この学校には僕という粘着ストーカーがいて。
ポジティブ過ぎる近距離ストーカーがいて。
ストーカーをストーキングするストーカーがいたのだ。

そんな馬鹿な。

委員長「だいたい君、朝起きるのが早すぎるのよ! 私の肌がぼろぼろになるでしょ!?」

ストーカー「本気で僕に関係ないですよね」

委員長「だって君を朝一番に誰よりも早く見たいじゃない!」

ストーカー「その気持ちは共感できますけど」

委員長「休みの日も基本的に外出するから勉強する時間もないし! お陰で成績落ちたわよ!」

ストーカー「ですよね」

委員長「だから、だからっ――あんな、情けないままで、いないでよお」


うっ。
ちょっと可愛い。
でも女さんの方が数十倍可愛い。

……。

委員長「ねえ、どうすれば前みたいに戻ってくれるの? 私、もうそろそろ疲れたよ」

ストーカー「戻るもなにも、ですね……困ったな」

委員長「あの女が問題なの? だったら私がなんとかするからっ」

ストーカー「なにかしでかしそうなので本気でやめてください。仮にも僕の好きな人ですよ?」

委員長「私じゃ……あの女の代わりにならないの?」ウルッ

涙目で上目遣いは反則だよお、なんて男くんの声が聞こえる。
激しく同意しますよ男くん。反則です。

でも女さんの方が数倍可愛い。

ストーカー「どう足掻いても代わりにはなれません。それはあの人が特殊だからとか、特別だからとかではなくて、委員長は委員長だからです」

委員長「慰めの言葉なんていらない!」

感情の起伏がジェットコースターだ、この人は。

委員長「じゃあこうしよう?」

委員長「次のテスト、私が君に勝ったらストーカーをやめて勉強すること!」

ストーカー「……僕が勝ったら?」

委員長「今の君に負けるなんて考えられないけど、君が負けたら――なんでもいうこと聞いて……あげるよ」ボソッ

ストーカー「」ボフッ

男くんと語り合ったことがある。
異性に言われたい台詞ベスト10。
"なんでも言うこと聞いてあげる"は、第四位にランクインされている。

因みに一位は"お腹空いたぁ、なんか作ってよぉ(女さん限定)"。

でも結局女さんの方が……。

わかった。認めよう。そろそろ無理がある。

ストーカー「わかりました、受けましょう、その勝負」

委員長「ほ、ほんと!? やったあ!」

ストーカー「でも、負けませんよ。本気で勉強しますから」

委員長「私だって本気で勉強するし」

ストーカー「なんでも言うこと聞いてあげる、という確約を後悔させてあげます」

委員長「ち、因みになにを言うつもりなの……?」

ストーカー「なにをされても、文句言えませんよね?」

委員長「~~っ」ゾクゾク

ストーカー「どうかしました?」

委員長「な、なんでもない! 死ね! ド変態!」

ストーカー「また理不尽に呪われてしまいました」

バレンタインデー。
その日、僕はストーカーから普通の男子生徒に戻った。

女さんへの恋心が簡単に冷めたわけではない。
未練ったらしい想いは今も胸中で渦巻いている。

ただ、それでも。
僕は自分以上に自分を知っていてくれる人を無下にできなかった。

目移りしたというのも事実だけど。

ともあれ。
翌月の学年末テストにて、僕は再び学年一位へと返り咲く。
さて、委員長にはなにをお願いしようかな?



fin.


なんかちらほらとあったからストーカーくんの話を書いてみた。
バレンタインデーには男くんと女さんのバレンタインssを投下する。

ではまた。

予定通り投下する。

純愛くんと天邪鬼さんのバレンタインをどうぞ。

(時間かけたからって妙に期待はしないでくれな。いつも通りだから)

男「さあ女さん、今日も未来について語りながら帰ろう」

女「貴方の語る未来というのは妄想が八割を占める創作物のことかしら」

男「未来はいつだって自分の力で切り開くものなんだよ」

女「だからといって私に"ご飯にする? お風呂にする? それともあたし?"を求めないでちょうだい」

男「割烹着姿の女さん……眼福だね」

女「貴方に言うとすれば"湖畔で埋まる? お遍路に行く? それとも魔界?"が正しいけれどね」

男「んー、その選択肢なら湖畔で埋まるしか選べないな」

女「どうして?」

男「女さんに手をかけてもらえるのがそれだけだから」

女「変態」

男「知ってる」

男「ところで女さん、来週ってなんの日だか知ってる?」

女「戦争記念日だったかしら」

男「バレンタインを物騒なイベントに仕立て上げないでよ」

女「恋愛と策略とチョコレート会社の陰謀の三点から間違いであるとは言わせないわ」

男「穿った見方だなあ。とにかく、楽しみにしててね!」

女「女の私がなにを楽しみにすればいいのよ」

男「とびっきり美味しいチョコを作って渡すからだよ」

女「貴方、チョコなんて作れるの?」

男「既にバレンタインに向けて何度か挑戦してみたけど、上手くいってるよ」

女「あらそう」

男「だから楽しみにしててね。なにか注意点とかある?」

女「そうね……甘すぎるチョコは食べられないわ」

男「なるほど、女さんらしいね」

女「……」ポワー

男「どうかしたの?」ニュツ

女「はっ、離れなさいっ」

男「? 変な女さん」

女「……」ドキドキ

□自宅

女「最近の私は妙よ。おかしいわ、病気なのかしら」

女「なんで私が男くんのエプロン姿を想像なんか……」

女「……」ポワー

~~~

男『ふんふんふふーん。女さん喜んでくれるといいなー』グツグツ

男『ここで焦がしたら元も子もないぞ、しっかりと丁寧に扱わなきゃ』グツグツ

男『ふう、なんか熱いな』スッ

男『鼻にチョコついちゃった』スッ ペロッ

男『うん、これぐらいの甘さなら大丈夫かな?』

~~~

女「また私は……うう、どうしたっていうのよ」

女「上手く頭が働かない。どうすればいいの?」

姉「困ったときの姉登場!」

女「この世には神も仏もいないのね」

姉「シカトかと思いきや目線を合わせてきた! それって私の登場が不運だってこと!?」

女「はあ」

姉「溜息一つでノックアウトしそうだよぉ」

姉「それでなにがあったの?」

女「流石に姉といえど話すことを躊躇うわね」

姉「それならそれで構わないよ。でもほんとにいいの?」

女「……たまには姉らしいことも言うのね、姉のくせに」

姉「なんてったってあんたの姉だからねっ!」

女「その割には幼すぎる気もするけれど。話すわ」

女「ここ最近、彼の顔がまともに見れないの」

姉「彼って、例の男くんだよね?」

女「そう。近距離ストーカーの代名詞、男くんよ」

姉「これ以上なく不名誉な代名詞を与えてるけど……その答えは簡単だ」

女「なに?」

姉「恋煩い、っていうんだよ、それ」

女「恋煩い? 私が?」

姉「そうそう。自分の気持ちを自覚したのがいつからか知らないけど、想いを伝えたのはクリスマスでしょ? だんだん気持ちに現実味が帯びてきたんじゃないかな」

女「思いのほか道理の通った文脈で驚いたわ」

姉「恋愛なら任せなさい!」

女「年中恋人を募集してる姉に言われても説得力がないのだけれど」

姉「それは突いちゃ駄目なところだよぉ」

姉「ところでその恋煩い、恋に酔ってるとも言えるけどね」

女「馬鹿馬鹿しい。私が恋に酔うだなんて」

姉「でも初恋だよね?」

女「うっ」

姉「そんなもんだよ初恋って。叶ってるだけ運がいいぐらいなんだし」

女「……どうすればいいのかしら」

姉「その答えも簡単だね」

姉「付き合っちゃえばいい」

女「……無理」

姉「そう言わずに頑張りなさい。初恋で、しかも相手が自分を好きだと知っていたら妄想なんて膨らむばかりだよ。いっそのこと付き合っていちゃいちゃいちゃいちゃしたら妄想が現実になるからその内に落ち着くと思うな」

女「妄想を現実に……っ」ボフンッ

姉「あんたがどんな妄想してるのか知らないけど、子供は作っちゃダメだよ?」

女「そっ、そんなこと考えているわけないでしょう!?」

姉「冗談で言ってるんじゃないんだよ。あんたはまだ高校生で責任なんて取れないんだから」

女「……か、考えてないけど、肝に銘じておくわ」

姉「まあ、その辺りの一線については心配してないけどね。男くんはそういうのきっちりしてそうだし」

女「そうなのよねぇ」ポワーン

姉「……よだれでてるよ」

女「はっ」ジュルッ

姉「おかしな方向に爆発する前に解消しなね? ちょうど来週はバレンタインなんだから、チョコでもあげて交際始めたら?」

女「チョコ、ね」

□自室

女「チョコ、チョコ、チョコチョコチョコ。誰も彼もチョコチョコって、日本人なんだから――といっても和菓子なんて作れないけれど。あげたい気持ちは山々でも、男くんも作るのよね」

女「……」

女「料理は嫌いじゃないけどお菓子作りは向いてないのよね、なぜか……」

女「そう、形。必ずといっていいほど形が歪になる」

女「どうして彼も作ってくるのよ。しかもなに修行してるのよ。手作りチョコが彼よりも下手だなんて渡しづらくて仕方ないじゃない」

女「……でも彼も頑張ってるのよね」

女「ふう。久しぶりにお菓子作りに挑戦してみようかしら。上手くいかないなら、上手くいくまで」

女「とくれば早速材料を買いに行かないと。お菓子作りの本は姉と母ので充分事足りるし」

女「はあ……私がチョコを手作りで渡す日がくるなんて。男くん、泣いて喜ぶでしょうけど……形がどんなに歪でも褒め称えそうなのよね。優しさが辛いわ」

女「男くんのチョコレベルが想像よりも下だといいけれど……彼、器用だし」

女「前途多難ね」

□キッチン

男「ふんふーん」

妹「兄ちゃんまたチョコ作ってんの?」ヒョコ

男「バレンタインまでは毎日作るぞ。食べて感想を聞かせてくれな」

妹「甘い物は好きだからいいけど、体重とニキビが恐いなぁ」

男「それは自分でなんとかしてくれ」

妹「チョコは悪魔の果実だよぉ……ねえ、兄ちゃん。女さんにあげるんだよね?」

男「当たり前だろ? 余ったら友達にもあげるけどな」

妹「それはそれで勘違いされないようにね」

妹(やっぱり兄ちゃん、女さんに惚れたままなんだ。私がなんとかしないと兄ちゃんが魔の手に……っ)

妹(兄ちゃんは前の方がかっこよかったもん! 今はちょっと変態っぽくなっちゃってるし、私が兄ちゃんを元に戻すんだ!)

妹「どうすればいいんだろう……」

男「どうした? 悩み事か?」

妹「ん!? 悩んでないよ!!」

男「解りやすい奴だな。自分で解決できそうになかったらいつでも言うんだぞ」

妹「う、うん!」

妹(兄ちゃんってやっぱ優しいなぁ……へへ)

妹(だから頑張る!)

男「よし、できた。妹、これ食べてみてくれよ」

妹「わーいチョコだーってめっちゃ綺麗!?」

鶴チョコ「惚れちゃいけねえぜ?」

男「味はちょっと苦めにしてあるぞ」

妹「こ、これどうやってるの!? わざわざ削ったりしてるの!?」

男「こういうのやりだすと楽しいよな」

妹(同意を求められても困るよ兄ちゃん……世の女性にここまでのスペックを期待しないで!)

妹(そういえば大晦日に知り合った姉さんが"男が趣味に走るとこだわるんだよねぇ"とか言ってたっけ! こういうことか!)

男「で、味はどうだ?」

妹「う、うん」パクッ

妹「んー、私にはちょっと苦味が強いかなぁ」

男「ならちょうどいいかな。後で母さんと父さんにも食べてもらおう」

妹(このクオリティのチョコを渡される女さん、ちょっと可哀想。私だったら絶対に自分のを渡せなくなっちゃうよぉ)

妹(でも同情なんてしない! 私が魔の手から救ってみせるんだもん!)

□2月10日

女「」ドヨォン

男「おはよう女さん、元気ないけどどうかしたの?」

女「大したことじゃないから気にしなくていいわ。それより貴方、チョコ作りは順調なの?」

男「うん。大分基礎は掴めてきたから、今はデコレーションを模索中だよ」

女「あ、あまり頑張らなくてもいいのよ」

男「そんなことはできないよ。女さんに渡すんだから世界一のチョコを目指したいくらいだ」

女「世界一のチョコだなんてパティシエに失礼よ、自惚れない方がいいわ」

男「だから頑張るよ!」

女(しまった、逆効果じゃない)

女(私といえばまだ形が安定しないってのに。どうして型枠に流すだけのチョコが上手く作れないのよ……呪いなの?)

□2月13日 自宅

女「とうとう前日になってしまった……上手く作れないのに」

女「いっそのこと市販のチョコを買おうかしら。でも、それじゃ彼の気持ちに応えられていないような気がして嫌なのよね」

女「姉に手伝ってもらって……だめよ。それじゃ私の手作りチョコじゃないもの」

女「諦めないわよ。必ず朝までに一つ、作ってみせるわ」

□自宅

男「よし、完成」

男「結局納得のいくものは二つしか作れなかったな。チョコ作りは奥が深いや」

男「女さん、喜んでくれるといいんだけど」

男「……まあ、喜ばなくても僕が勝手にやってることだしね。それを願うのは押し付けがましいってもんだ」

男「ふああ。最近ずっとチョコの勉強してたから寝不足で眠いや。今日は早く寝ようっと」


妹「」ヌッ

妹「ふふ、兄ちゃん、寝たみたいだ」

妹「ここから私のターン! 兄ちゃんを魔の手から救ってみせる!」

妹「頑張るぞー!」

□バレンタインデー

男友「」ソワソワ

男「おはよー友人。なにそわそわしてるのさ」

男友「男子だったら誰でもそわそわするだろ今日は。なんてったってバレンタインだぞ」

男「ふーん、そうなの? あ、これ。チョコあげるよ」

男友「おう、ありがとな――ってえ! どうして今日初めて貰うチョコがお前からなんだよ!」

男「女さんに作ったんだけど作り過ぎたからね。友チョコってやつだよ」

男友「今日俺は男友達からチョコを貰ったと親に言わねばならんのか……」

男「言わなけりゃいいじゃん」

男友「こんな良質なネタを胸に抱えて生きていけるかよ」

男「なにを目的に生きてるんだよ友人は……」

男友「ってすご! このひよこほんとにお前が作ったのか!?」

ひよこチョコ「空を自由に飛びたいなあ」

男「うん。でもそれ失敗作だよ。翼が取れてる」

男友「どんだけ繊細に象ってるんだよ。凄いなお前」

女子a「えっ、これ男くんが作ったの?」
女子b「すごーい、かわいいー」

男「うん。失敗作で良ければまだあるけど、いる?」スッ

女子a「いいの? やったーってすご! これ恐竜!?」
恐竜チョコ「食うか食われるか。それだけだ」
女子b「ちょ、こっちはパンダだよ! かわいいけどすごっ!」
パンダチョコ「食べたら訴えてやるンダー」

女子a「こんなの貰ったら女さんに悪いんじゃない? 大丈夫?」

男「大丈夫だよ。君達に渡したチョコに想いなんて欠片も込めてないから」

女子a「笑顔で恐ろしいことを言うね男くん……」

男「それに女さんにあげるチョコはもっと頑張ったチョコだから、大丈夫」

女子b「これより凄いチョコ……見たいなー」

男「あのチョコを見てもいいのは世界で女さんだけだから、駄目だよ」

女子a「クラスの風物詩となってる男くんの愛情だけど、改めて聞くとぞっとするね」

男「それを受けれいてくれる女さんの懐の深さは神様と遜色ないよねっ」ズズイ

女子b「ど、同意しかねるなー」

女「あら男くん、朝から両手に花を抱えて機嫌が良さそうね」

男「花? 花なんて見当たらないなあ、僕の花は女さんだけだから」

女「彼女たちに謝りなさい」

男「ごめんなさい」

女子a(主従関係!?)

女子b(謝られても困るなー)

男「それで女さん、チョコを作ったから今日の放課後渡すね」

女「好きにしたら?」

女子a「女さんも男くんにチョコ作ったの?」

女(……え!?)

女(女子に絡まれた……丁寧に答えなくちゃいけないわね)

女「作っていませんことよ」

男「」クスッ

女子b「作ってあげればよかったのにー」

女「バレンタインなんて滅べばいいのですわ」

女(結局上手く作れなかった……)

女子a「恋人がいる人の台詞じゃないよねそれ」

女「恋人? 彼は恋人じゃないですわよ?」

女子b「え? 付き合ってないのー?」

女「彼と付き合ったりしたら人生の恥を通り越して末代までの恥ですもの」

女子a「そ、それはちょっと男くんが可哀想だよ! 女さんのために一生懸命チョコ作ってくれてるのに!」

女(な、なにか悪いこと言ったのかしら)

男「はいはい、女さんのことを誤解しないであげてね。照れてるだけだから」

女子b「そっかー。照れ隠しなんだー」

女「貴方が私を目一杯誤解してるようだけれど」

女子a「そう思うと毒舌は愛情の裏返しなのか。女さん可愛いねっ」

女「貴方の目は安売りバーゲンで仕入れた特売品なのかしら? そうでなければ今すぐに眼科に行きなさいな、義眼の方が幾分マシだろうから」

女子a「……」

女(しまった、つい気が緩んで……折角男くんがフォローしてくれたのに)

女子a「今の、毒舌だよね? ってことは、嬉しかったんだ! なんか私も嬉しいっ」

女「……え?」

女子b「いいないいなー、私にも毒舌してよ女さーん」

女「み、見苦しいわね。毒舌を望むなんて貴方は虐げられるのがお似合いの家畜同然じゃない」

女子b「やったーっ」

女(私のキャラが誤認されている気がしてならない)

女子a「そういう理由なら普通にお話できるねっ」

女子b「今度遊びに行こうよー。ねー」

女「そ、それって……」

女(私に友達ができたってこと?)

男「よかったよかった。ようやく女さんに友達ができたようだ」

男「まあ、女さんと友達をするのは前途多難だけどね。毒舌なのか本音なのか見極めなくちゃいけないし」

男「もうすぐhrか。教科書を机に入れておこう」ガンッ

男「ん? 入らない? なにか入れてたっけ」ゴソゴソ

男「……ん?」ヒョイ

男友「お、お前! それ! チョコか!?」

男「赤いラッピングの箱……チョコっぽいね。女さんかな」

女「……あげてないわよ」

男「え?」

女「私はあげてないわ。よかったじゃない。貴方のような人でも誰かに好かれたりするのね」

男「でも僕が好きなのは女さんだけだから関係ないけどね」

女「そういう問題じゃないわ」スタスタ

男「……嬉しいね」クス

女(考えてなかった……彼が誰かに好意を受けるなんて微塵も考えてなかった)

女(いえ、それはあまりにも失礼よね。でも、彼の想いは周知の事実だから、誰もが気味悪がると思っていたのだけれど……)

女「」ポロッ

女「嘘でしょ。なに泣いてるのよ私」

女(……なにこれ。どうなってるの?)

女「……」ズキッ

女(胸が……痛い)

男「それにしても困ったな。貰うわけにもいかないし、かといって捨てるのは失礼だし。正直それでも捨てたいけど、周り巡って女さんの評判が下がりかねないからなあ」

男「……とりあえず開けてみよう」

男「普通のチョコ、だね。うん? メッセージカードか。なになに」

『今日の放課後、校門裏で待ってます』

男「うーん……ほんとに困った」

男「すっぽかすのも嫌だから行くには行くけど、すぐに話終わるかなあ。僕も女さんにチョコ渡さなくちゃいけないのに」

男「面倒くさいなあ」

女「はあ」ヒラッ

女「なにかしら。手紙?」

『今日の放課後に渡したいものがあるので、体育用具倉庫前に来てください。男より』

女「渡すと宣言しておいて尚こういった趣向を練るのはなんとも男くんらしいわね」

女「チョコ、ね……」ガサゴソ

女(形の歪なチョコ。一応持ってきてはいるけれど……渡せそうもないわね)

女「はあ」

□放課後

女「指定された場所に来たはいいけれど、誰もいないじゃない」

ヒュー

女「うっ……まだ肌寒いわね。全く、私を待たせるなんていい度してるわ」

ザッ

女「遅かったわね。待つ時間に貴方を拷問する方法を八通りは考え……え?」クルッ

女「……貴方」

「ふふっ」ドンッ

女「きゃっ」

ガラガラガラ

女「や、やめなさい! こんなこと!」

ガチャ

女「……鍵?」ゾッ

女「出しなさい!!」ドンドンドンッ

男「校門裏。来てみたはいいけど誰もいないな。もう行こうかな」

「手紙、読んでくれたー?」ザッ

男「なんだ、君だったのか。bさん」

女子b「そうだよー」

男「それなら話が早いや。僕の想いは女さんから逸れることがないから諦めてほしいんだ。ごめんね」

女子b「うん、それで?」

男「……?」

女子b「それと私が男くんを好きなことになんの関係があるのー?」

男「想う分には構わないけど、付き合ったりすることはできないよってこと」

女子b「うん、それで?」

男(なんか話が噛み合わないな)

女子b「ねー男くん。私の方が絶対に男くんは大切にしてあげられるよー?」

男「僕は大切にされたくて女さんに求愛してるわけじゃないんだ」

女子b「でも女さんさ、いっつも男くんに酷いことばかり言ってるじゃん。男くんが可哀想だよ」

男「好きに哀れめばいいけど、僕はこれっぽっちも傷ついてないから問題ないよ」

女子b「あんな女に手篭めにされてるのを見たくないんだよー」

男「……今朝友達になってなかったっけ?」

女子b「友達? 私があの女と? ありえないよー」

男「だって遊びに誘ってたじゃんか」

女子b「どんな女か知ろうとしただけだよー。案の定、ムカつく女だったけどねー」

男「ふうん。つまり君は女さんを傷つけるつもりなんだね」ニコッ

女子b「どうだろうねー」ニコッ

女子b「私達ってよく似てると思うんだー。相手のことを気にせずに行動するところとかさー」

男「一緒にしないで欲しいな。仮に女さんに彼氏がいたとしても、僕は君みたいなことをしないよ」

女子b「そうかなー? いないから解らないだけじゃないかなー?」

男「絶対にしない。断言する。だって僕は女さんが大切にしているものを一緒に大切にしてあげたいからね。もちろん、彼氏が女さんと別れたらアプローチするだろうけど」

女子b「偽善的だねー」

男「善人なんかでいられないよ。人を愛するってのはそういうことだから」

女子b「ふふっ……やっぱり似てるよ私達」

男「君と似ていたくなんかない」

男「ところでbさん。君は女さんに――もうなにかした?」

女子b「鋭いこと言うねー。どうしてー?」

男「念のためだよ。用心に越したことはないから」

女子b「私が真実を言うと思ってるのー?」

男「思わない。だけど解ったからいいよ」

女子b「ふふっ、なにをー?」

男「なにをしたのか言わないと、どんな手を使ってでも吐かせるよ」

女子b「女の子に暴力を振るうつもりー? ひどいなー」

男「女の子? そんなのどこにいるんだろう」

女子b「目の前にいるじゃんかー」

男「僕の目には女さん以外、女の子に映らないんだよ。知らなかった?」

女子b「知ってたよー。だって私の目には男くん以外男に映らないんだからー」

女子b「でも、教えるよー。私も殴られたくないしねー。女さんは今ねー」

男「」タッタッタッタッタ

男「女さん」ガンガンガン

女「男くん? 男くんなの?」ガンガンガン

男「今開けるから」ガチャ ガラガラガラ

女「男くん」

男「よかった……怪我とかないみたいで」

女「男くん……っ」

男「もう大丈夫だよ女さん」

女「後ろ!」

男「え?」ドンッ

女子b「そんなに仲良しになりたいなら、一緒に死んじゃったらいいんじゃないかなー」ガラガラガラ ガチャ

男「……お、おい! 出せ! bさん!」ガンガンガン

女子b「まだまだ肌寒いから夜は冷え込むよー。凍死とかしないようにねー」スタスタスタ

男「おい! おーい! 誰かあああああ!」ガンガンガン

□三十分後

男「おかしい……これだけ叫び続けて誰もこないなんて。まだ教師も生徒もいるはずなのに」

女「bさん……友達になれたのに……どうしてなの?」

男「それは……僕のせいみたいだ。ごめん」

女「どういうこと?」

男「彼女は僕を好いているらしくて、女さんを嫌ってるみたいなんだ。だからこうなったのも僕のせいだ。ごめん」

女「そう、なの……ふふっ……結局、私に友達はできないのね」

男「そんなことないよ! 絶対にできる!」

女「もういいのよ。私の性格が治らない限り、友達なんてできっこないわ」

男「治す必要なんて……」

女「ありがとうね。貴方のあの一言のおかげで一時でも幸福な気持ちを味わえたわ」

男「……ごめん」

女「謝らないで。どうしようもないことだもの」

男「まだ誰も来ない。ほんとにどうなってるんだ?」

女「もしかしたら彼女が塞き止めてるのかもしれないわね。死ねばいい、なんて言っていたし」

男「でも人殺しなんて簡単に実行できるのかな」

女「貴方は初めて話した時言っていたわね。高校生男子の愛は深い、と。女子だって同じなんじゃないの?」

男「……そうだ! ストーカーくんに助けてもらえば……ってあれ? それならとっくに助け出されてるはず」

女「どういうわけか知らないけれど、彼は私をストーキングしてないみたいね」

男「携帯で電話すればっ」

女「ここ、圏外なのよ。電波防止の機械でもあるのかしら」

男「……となると最悪今日一日はここに?」

女「凍死はしないと思うけれど……」ブルッ

女「風邪くらいはひきそうね」

男「女さん、とりあえず僕の上着でも着てて」バサッ

女「ありがとう。でも貴方はどうするの?」

男「幸いここは体育用具入れだからね。マットがあるよ」

女「それはあったかそうね。私も入りたいわ」

男「うん」

女「それなら学生服返すわよ」

男「汚れちゃうだろうから着てて。汚れるのは僕だけでいいよ」

女「……ほんとに気が利くわね、貴方。私も貴方のようになりたかったわ」

男「女さんが激しく求愛するの? ちょっと見てみたいけど、笑っちゃうかも」

女「そこを真似るつもりは命に関わってもないから」

□二時間後

男「もう夜になっちゃったね。寒くない?」

女「大丈夫よ。マットがあるから――っくしゅん」

男「マットだけじゃ辛いよね……ねえ女さん。女さんさえ良ければ、一緒のマットに入る?」

女「よからぬことを考えたら男の命と呼ばれる場所を躊躇いなく潰させて貰うけれど、貴方にその覚悟あるのかしら?」

男「大丈夫だよ。将来女さんと子供を作るためにもそんなことはしないから」

女「馬鹿なこといってないでさっさと入りなさいよ」

男「では失礼して」

女(……近い。男くんの体温を感じる)

男(心臓の音がうるさい……ここまで近くて緊張しないわけがないよ)

男「……」モゾ

女「どうかした?」

男「ちょっと姿勢がね」

男(緊張してるせいか体が麻痺してる気がする)モゾッ

       プニッ

女「っ」ビクッ

男「!?」

男「え、えっと……あの……」

女「……なによ」

男「……な、なんでもないかな。ははっ」

女「……」カァァ

男(体が麻痺なんて嘘もいいとこだった……全神経が今は肘に集中している……動かしちゃダメだ動かしちゃダメだ!)

男「そろそろお腹も空いてきたね」

女「そうね……あっ」

男「そうだ。チョコを作ってきたんだ。こんなことなら友人や彼女達にあげるんじゃなかったな」ガサゴソ

女(私もチョコがある……こんなに暗い場所なら)

女「彼女達にもチョコをあげたの?」

男「うん、流れでね。でもそれは失敗作だよ」

女「そう。別にいいけれどね」ズッ

女(まただわ……胸が、痛い)

男「そしてこれが女さん用のチョコだよ、って暗くて見えないか。携帯のライトで照らそう」

女「これ……どれだけ時間をかけたらこんなのが作れるのよ」

男「そんなこと忘れたよ」

女「天使、よね。これ。凄い……翼の線が一本一本描かれてる」

男「そこは一番楽しかったよ。でも頑張ったのはバランスだったな」

女「貴方、芸術の才能でもあるんじゃない?」

男「そこまで褒めてもらうと作った甲斐があるよね」

女(これの後に私のチョコなんて恥ずかしくて出せないじゃない)

女「こっちは……」

男「豹だよ」

女「これも凄く綺麗に作られてるけど……どうして豹なの?」

男「女神の象徴なんだって。女神は猫科の動物を従えている、って知ったからさ」

女「相変わらずキザったらしい行動が好きなのね」

男「なんなら僕は犬じゃなくて猫になろうか? にゃおん、って」

女「言わんとしたいことは十二分に伝わったから脳の作りを人間に戻しなさい」

男「にゃおん」

女「そういえば貴方の脳はわたがしだったわね」

女「これだけの出来を……いえ、完成に到達する時間を想像させられると、流石に毒も吐けそうもないわ。ありがとう」

男「こちらこそ、喜んでくれてありがとう」

女「ここまで素晴らしいと食べるのを躊躇うわね」

男「いくらでも作るからこれは食べてよ。チョコは食べ物なんだからさ」

女「それもそうね。いただくわ」カリッ

女「……美味い。ビターチョコなのね」

男「ほんとはコーヒーもあればいいんだけど、仕方ないな」

女「……そういえば、どう、だったの?」

男「なにが?」

女「チョコ……貰ってたじゃない」

女(……苦しい)

男「ああ、あれもbさんだったんだよ。ちゃんと断ってきたよ。僕は女さんが好きだから、って」

女「そうだったの。でも彼女、こんな無茶なことはしているけれど、本気なのよね?」

男「それは見方が逆な気がするよ。こんな無茶なことをするぐらい、本気なのかもしれない」

女「……そう」

女(どうしよう。どうしたらいいんだろう。こんなに胸が痛いのは、きっとそれのせいなのに)

男「……」

男「たとえね」

男「たとえ世界一の美女が現れても、宇宙一のフェロモンを発する生物が現れても、僕は見向きもしないよ。どんな条件を提示されても、絶対に女さんの傍から離れないよ。まあ、女さんが本気で嫌がったら身を引くかもしれないけどさ」

男「魂って輪廻すると、またいつかの世で出会うんだってね。きっとその度に僕は女さんを好いていたと思うよ。母役だろうと、男友達役だろうと、猫だろうと、草だろうとさ」

女「相変わらずぶれないのね」

男「天変地異が起きてもぶれない自信があるな」

女「貴方限定に天変地異が起きればいいのに」

女(……)

女(クリスマスの時も、今回も、いつだって)

女(……)

女(私にできること……彼のためにしてあげられること)

女(チョコを……)

女(世界に一つだけのチョコを……)

女「……貴方も、チョコ、食べたら?」

男「いいよ僕は。お昼は多めに食べてるし。ほら、男だから」

女「嘘をつかなくてもいいわ。それともなに? 貴方は私が作ったチョコを食べられないというの?」

男「女さんが!? 女さんが! あの女さんが僕にチョコを作ってくれたの!?」

女「耳元で喚き散らさないでっ」キーン

男「驚愕すべきだよ! これは世界中に向けて発信したい大事件だね! 僕の物語に今この瞬間ハッピーエンドの垂れ幕がぶら下がっても文句言えないなあ!」

女「落ち着きなさいな。それに、これが大事件なら、次に起こることはテロになるわ」

男「まだ!? まだあるの!? 幸福に限界はないのか!」

女「うるさい」

男「でもこればかりは!」

女「黙れ」

男「ごめんなさい」

女「形は見なくていいわよ。私にチョコ作りの才能はないの」ガサゴソ

男「静かに待ってるよ」ドキドキ

女「……目を瞑りなさい」

男「……瞑ってもいいけど、なにかのゲームが始まるの?」

女「ゲームね……だとしたら私の勝ちは確定しているわ」

男「凄い自信だね。なにが始まるんだろう」スッ

女「じゃあ、口を開けて。少しでいいから」

男「うん」アーン

女「……」ドキドキ

女「……」ドキドキ

女「……」チュッ

男「!?」

男(!? 気のせいじゃない! 僕は今――女さんにキスされた!?)

女「……」ドキドキ

女「……ん」コロン

男(なにか入って……っ!? チョコ!?)

男(チョコの……口移し!?)ドキドキ

女「……っ」プハッ

女「あ、あ、ありが、たく……た、食べっ、食べなさいっ」

男「……」ポー

男(僕は妄想と現実に区別がつかない痛い奴なのかもしれない)ツネッ

男「痛っ……現実だ」

女「……お、美味しかったかしら」

男「僕は間違いなく世界一のチョコを食べたと自負できるよ!」

女「世界に一つしかないチョコではあるのだろうけれど……それで、美味かったの?」

男「とっても! 旨すぎて気が狂いそうだよ!」

女「既に正気を保っていない調子ね。それで、ね?」

男「まだあるの!?」

女「今のままでは今回のようなことがまた起こるかもしれないわ。だから、貴方、私の……」

男「……」ドキドキ

女「私のっ……」

男「……っ」

女「私の犬になりなさい!」

男「……」

男「喜んで!」

女(大事なところで間違えてしまった……そして喜ばれてしまったわ)

「おい! 男! いるのかー! おーい!」

男「あ、この声、父さんだ」

女「親が探しに来るということを考えていなかったわね」

「おーい! 女ちゃーん! どこだー!」

女「これは私の父ね」

男「初対面がこれか……計画が狂っちゃったなあ」

女「その計画が狂って心から安堵してしまうのはどうなのかしらね」

男「とにかく、助けてもらおうか」

女「それもそうね」

男父「男! なにやっとるんだお前は!」ブオンッ

男「今回の事態は不可抗力だから愛の鞭は避ける!」ヒュッ

女父「うおおおおお大丈夫か女ちゃああああん!」ガシィ

女「お父さん、今すぐ離さないと児童虐待で訴えるわ」

教師「なんでこんなところにいたんだ」

男「先生もいたんですか。どうもです」

教師「そりゃ生徒が二人も行方不明になったらな! で、なにがあったんだ?」

女(bさんのことは隠しておいた方がいいのかしら……)

男「bさんに閉じ込められて出られませんでした」

女「どうしてbさんの名前を出したの? 可哀想じゃない」ボソッ

男「彼女は殺意を向けて実行したからね。万が一のためにも、最低でも転校してもらわないと困るんだよ」ボソッ

女「でもきっと気の迷いで……」

男「気の迷いだろうとなんだろうと女さんを傷つける人に容赦なんてしないよ」

女「でも貴方、不良くんを許してなかったかしら?」

男「? 僕、彼を許したなんて言ったっけ?」

女「だって友達になろうって」

男「彼の心は罪悪感でいっぱいだったようだから。とことん利用させてもらうよ。そのためには身近に置いておかないとね」

女「……貴方、実はかなり冷酷でしょ」

男「僕は大切な者を護るためならなんだってするし、なんにだってなるよ」ニコッ

女「久しぶりに貴方を恐ろしいと思ったわ」ゾッ

女父「……」

男「初めまして、僕、男っていいます!」

女父「……おお」

男「おじさん、凄く若く見えますね! 僕もおじさんみたいな大人になりたいです!」

男父「そういうのは俺のいないところで言わんか」

女父「き、君は、アレか。うちの女ちゃんとは、その、親しいのか」

男「とても親しいです!」

女父「その、つき、付き合ってたり、するのか?」

男「いえ、付き合ってません!」

男(流石にここで"主従関係を結んだばかりです"だなんて馬鹿なことは言わないよ)

女父「そ、そうか。ほっ、良かった」

女「ふふっ……帰りましょう?」

女父「」ズーン

女「またあしたね、男くん」

男父「……お前面白い子に好かれたもんだな」

男「うん。将来結婚するつもり」

男父「そうか。高校生に想ったその気持ちが続く奴なんて稀だが、少なくとも今は本気なんだろう。だから応援してやる。頑張れ」

男「父さん……ちょっとかっこいいじゃんか」

男父「当たり前だ。お母さんが惚れた男だからな」

男「あ、僕って父親似なんだ」

男父「俺の方がかっこいいだろ」

男「んー、そこは似てないなあ」

□翌日 教室

男「おはよう、女さん」

女「おはよう、男くん」

女子b「おはよー」

男「……なんの連絡もいってない、ってことはないよね」

女子b「なんのことかなー?」

男「とぼけなくていいよ……僕たちがここにいる以上、全てがバレてるって解ってるんでしょ?」

女子b「そりゃーねー」

女「ちょうど良かったわ。貴方に言わなければならないことが一つだけあったのよ」

女子b「なにー? 毒女が改まっちゃってさー」

女「……」

女「遊びに誘ってくれて、ありがとう」

女子b「……ふふ」

女子b「どうしたの? 普通の人間らしくしちゃってさー。あんた毒しか吐けない気持ち悪い女でしょ? 吐きなよ、ほらほらー、吐きなよー」

女「吐けないわよ。だって、私の毒は与えるものだから」

女子b「はあ?」

女「だから、貴方に言うのは"大嫌い"。これで充分ね」

女子b「ねーねー」

女子b「あんた、ほんっとーにムカつくから、死んじゃいなよ」ギラッ

女子a「おはよーってえ! ちょ、ちょっと! 登校早々なにナイフなんか構えてんのよ!」

女子b「ん? んー、だってこいつムカつくし」

女子a「だからってなに出してるの! やめなさい!」

男「やめておいたら? 友達が止めてくれてるみたいだし」

女子b「男くんどいて。そいつ殺せない」

男「ストーカー君からそれの元ネタ教えてもらったよ」

女子b「そう、じゃあどいてくれないかなー」

男「無理」ニコッ

女子b「じゃあ死んでー」ニコッ

男「僕は女さんにしか殺されたくないから、それも無理」

女子b「それならさよならー」

グサッ

男「……受け損ねた」ボトボト

女子a「なに冷静にしてんのさっさと保健室行きなよ! 手の平貫通しちゃってんじゃんか!」

女「……大丈夫なの?」

男「痛い痛い痛い痛いとっても痛い」ボタボタ

女子b「……あああ! ああああああああ!」ガタガタガタ

女子a「b!?」

男「よかった。まだ君には良心があったんだね。これなら普通に戻れるよ、きっと」ボタボタ

女子a「だからなんでそんな冷静なの!? 痛いんでしょ!?」

男「痛いよ。だから保健室行ってくる。女さん、付き添いお願い」

女子b「ああああ! ああああああああっ!」ガタガタ

女「……ごめんなさいね」スッ

女「早く保健室に行くわよ。なにゆっくりと歩いてるのよ」

男「痛くてあまり動きたくないんだよ」

女「気がつかなくてごめんなさい。それにしても、こうも貴方の言う通りになるなんてね」

男「想像はできてたから」

男(ほんとは追い込んだんだけど……さ)

~~~

男『もしかしたら彼女は凶器を持って襲ってくるかもしれない』

女『そこまでするかしら?』

男『僕が彼女の名前を出したからね。あの精神状態で追い込まれたら、もうなにをするのか解らないよ』

男『そうなったら、適度に攻撃されるから止めないでね』

女『……本気?』

男『転校するぐらいじゃまだ心配だからさ』

女『……』

女『わかったわ。けれど忘れないでちょうだい。私も貴方に協力したということを』

~~~~~

女「彼女、どうなっちゃうのかしら」

男「遠いところに転校するんじゃないかな。世間体もあるし」

女「悪いことをしたわね」

男「自業自得じゃないかな」

女「彼女じゃなくて貴方よ」

男「どっちにしたって自業自得じゃないかな」

女「それは考えすぎよ」

男「かな? とにかく、早く病院に行かなくちゃ」ボタボタ

女「まずは保健室よ。先生に応急処置してもらいましょう」

翌日からbさんは学校に来なかった。
噂では転校したと聞いたけど、ことがことなだけに捕まったかもしれない。
ともかくこれで安心だ。
女さんに危害が加えられることはないだろうから。

でもbさんには少し悪いことをした。
あのナイフ。

あれはbさんの所持品じゃない。
下駄箱を開けた時に見つけたんだろう。

使用したのは衝動だろう。
つまり原因はナイフを与えた者にある。

だから、僕はbさんに悪いことをしたと思っている。
あのナイフは朝方、僕がこっそり入れておいたのだから。

こうなることを願って。

男「女さん」

女「なに?」

男「好きだよ」

女「なによ今更」

男「なんとなくね」

女「あらそう」

君を護るためならなんだってする。
鬼にも悪魔にもなる。

誰を傷つけたって、自分を傷つけたって。
君を護れるなら。

□数日後

女子a「あの、女さん」

女「……なに?」

女子a(うう)ゾクッ

女子a(恐い恐い恐い! なんでこんな冷たい目で人を見れるの? って……仕方ないのかな)

女子a(男くんが言っていた通りなら、そうなって普通なのかな)

~~~

男『aさん、女さんのこと嫌い?』

女子a『男くんの前で女さんが嫌いだという命知らずっているの?』

男『普通にいるし、別に僕は女さんが嫌われただけでなにかしたりしないよ。敵意を剥きだしにしてたら別だけど』

女子a『そ、そうなんだ。別に嫌いじゃないよ。まだ全然話してないから好きとも言えないけど……』

男『そっか。それならさ、友達になってあげてよ』

女子a『友達?』

男『今回のことで女さん、いよいよ友達を拒否し始めそうだからさ。考えを変えるならすぐがいいんだ』

女子a『bのことで……だよね?』

男『想像してごらんよ。友達がいなかった人が、遊びに誘ってもらえた時の喜びを。それを利用だとか嘘だとかで邪険にされた人の気持ちを』

女子a『……うん。辛いね』

男『無理にとは言わないけどね。女さんはあのとおり、言葉がキツい人だし』

女子a『でも照れてるだけなんでしょ?』

男『照れてるだけかどうかは、連れ添ってみるとその内にわかるよ』

女子a『友達か……ちょっと考えさせてくれるかな』

男『僕は二度とこの話をaさんに持ちかけないから、考えようとそのまま忘れようと好きにしてよ。ただ、こういう話を僕がaさんにしたってことだけは内緒にしてほしいな』

女子a『うん、わかった。それにしても男くんはほんとに女さんが好きなんだねえ』

男『好き? 違うよ、愛してるだけ』

女子a『』ゾワァ

~~~

女子a(考えた末行動してみたわけだけど……恐いって)

女「突っ立ってるだけなら消えてくれないかしら。木偶の棒を鑑賞する趣味はないの」

女子a(毒舌に躊躇いがない! ぐさっと来たわいまの……)

女子a(でも、決めたことだし)

女子a(なにより私は女さんと仲良くなりたいし)

女子a(bの気持ちに気づけなかった私はただの馬鹿だけど)

女子a(馬鹿なり、ね!)

女子a「今週の日曜日遊びに行こうよ!」

女「嫌」

女子a(こんなにはっきりと誘いを断られたの初めて――なんか新鮮っ)

女子a「駅前の喫茶店で一時に待ってるから! ね!」

女「そのまま雨に打たれて肺炎になってしまえばいいのに」

女子a「じゃ、じゃあっ」ウルッ

女「……なに考えてるのよ」

□日曜日

女子a「一時になっちゃった」

女子a「来てくれないのかな、女さん……勝手に誘って断られて待ってるわけだけどさ」

ガッ

女子a「ひっ」

女「ちょ、ちょっと」ハァハァ

女子a「女さん! 来てくれた!」

女「馬鹿じゃないの? 駅前の喫茶店が何店舗あると思ってるのよ。最初南側に行っちゃったじゃない」

女子a「そしてここは北側の喫茶店」

女「そうよ!」ハァハァ

女子a(凄く怒ってる、けど息切れしてる……遅刻しないように急いでくれたのかな? 女さんってこういう子なんだ)

女「それでなにがしたいの貴方」

女子a「買い物して、お茶して、カラオケとか行っちゃう?」

女「遊びのプランを聞いてるんじゃないの。どうして遊びに誘ったりしてるの? と聞いているのだけれど単細胞生物じゃ連想できないのかしら」

女子a(この上なく理不尽に怒られたっ……あ、機嫌が悪いのか。そりゃそうだ)

女子a「そんなの、友達になりたくて、だよ」

女「………………………………はあ?」ギュオッ

女子a「女の子はそんな顔しちゃだめだよっ」

女「般若のお面も笑うような顔をしたくもなるわよ。解ってる? 私は貴方の友達をおかしくさせた原因なのよ?」

女子a「どうしてそんな風に考えるの?」

女「私がいなければあんなことにはならなかったわ」

女子a「……関係ないと思うな」

女「どうかしらね」

女子a「bってさ、普段はゆるーい感じで天然入っててさ、私にあんな素振りちっとも見せない子なんだよ。計算高いのかな? 解らないけど……」

女子a「原因って言うなら、bの一番の友達だった私がなにも気づけなかったのが原因だよ。私があの子の悩みを聞いてあげられたらあんなことにはならなかったと思う」

女「隠した悩みを聞くなんて、無理難題じゃない」

女子a「そうなんだろうけど、そうじゃないかもしれない。だって友達だから。大切だから、力になってあげたかったよ」

女子a「女さんが気に病むことないよ。寧ろごめんね、bが迷惑かけて。男くんにはどれだけ謝っても足りないけど」

女「それこそ貴方のせいじゃ……」

女子a「これじゃ水掛け論だね。責任を被り合うなんてやめて、ぱーっと遊ぼうよ!」

女「……それでいいのかしら」

女子a「――わからないっ」ニコッ

女「……ふふっ。貴方、面白いのね」

女子a「女さんの方が面白いよ」

女「人を笑うなんて最低だわ」

女子a「問答無用で棚に上げたね!?」

女「……こんな私でいいなら、よろしくするわ」

女子a「こちらこそ若輩者ですが」ペコリ

女「ふふっ」

女友「ははっ」

女「ところでカラオケには行かないわよ。私、歌うの嫌いなの」

女友「そうなんだっ、じゃあ予定を変えてカラオケに行こっか!」

女「なにこの会話の通じなさ、既視感を得るわ」

女友「いいじゃん行こうよ。私が楽しくさせてあ、げ、る!」

女「ねえ、貴方。暴力には耐えられる方かしら?」

女友「拳は掌(たなごころ)といってね……」ガタガタ

女「冗談よ。でもカラオケより先に買い物に行きましょう」

女友「なにか欲しいのあるの?」

女「どんなアイテムで貴方を叩こうかじっくり考えるわ」

女友「まずは頭を護る鍋を買いに行こー」

スタスタ ワイワイ
スタスタ ワイワイ


男「めでたしめでたし、だね」

妹「兄ちゃん兄ちゃん! 早くゲーセン行こうよー」

男「わかったから引っ張るなって。全く、口実に誘うんじゃなかったな」

妹「えっへっへ」

妹(兄ちゃんと遊べるなんて珍しいことなんだから、今日はたっぷり堪能するぞー)

妹(それにしても兄ちゃん)ジィー

男「ん? どした?」

妹「な、なんでもありゃせんさ!」

男「あるんだな。まあいいけど」

妹(なんか、顔つき変わった、気がする)

妹(……女さんのお陰?)

妹「」ブー

妹「兄ちゃん、行こう!」グイグイッ

男「おい、引っ張るなって」



fin.

蛇足編

ジリリリリリリ

妹「うるさいよぉ……まだ太陽も寝てるじゃんかぁ……」zzz

妹「はっ」

妹「今日ばかりは苦手な早起きを克服するぞ! なんてたってバレンタイン!」

妹「兄ちゃんを魔の手から救うんだから!」

□男の高校

妹「しめしめ、まだ生徒は少ないみたいだ」

妹「今の間に作戦実行するよっ!」

妹「兄ちゃんの下駄箱に私が作った超特大下剤入りのチョコを入れます」

妹「これを兄ちゃんが食べれば今日一日はトイレに篭ることに!」

妹「そんな姿を見て悪女さんは幻滅!」

妹「うしし、必要悪だよ、兄ちゃんっ」

先生「ん? 君はここの生徒か?」

妹「ひゃいっ!」クルッ ガシャコン

先生「その制服……○○中学の!? こら!」

妹「ごめんなさいいいいいっ」ピューン

妹「はあっ、はあっ」

妹「びっくりしたー。すっごいマッスルティーチャーだったなぁ、恐かったぁ」

妹「でも無事にチョコは入れられたし、後は……うしし。悪い笑みがこぼれちゃうね!」

妹「でも兄ちゃん、ほんと、はやく戻ってよね」

妹「私の大好きな兄ちゃんにさ……」

■□■□■

「ん?」

「これ……チョコ?」

「僕に?」

「勉強しか取り柄のない、僕に?」

「ストーカーばかりしている僕に!?」

「僕にチョコが!?」

「」ドキドキ ドキドキ

「……だ、誰からなんだろう。名無しみたいだけど」

"貴方の大切な人より愛を込めて"

「僕の大切な人なんて女さんしかいないけど、どう考えても違うから……誰?」

「……?」

「……気になりますね」キュピーン

蛇足編2

□喫茶店

女友「そういえばまだ二人は付き合ってないんだっけ?」チュー

女「そうね、付き合ってはいないわ」

女友「付き合って"は"? なんか意味深だねえ」

女「特に深い意味はないわよ。彼が犬になっただけで」

女友「充分深いよ!? 奇想天外カップルって噂されるだけのことはあるわー」

女「そんな噂が出回ってるの? 心外ね」

女友「いやいや、充分に的を射ていると思うよ? 初っ端は男くんの公開告白からの公開失恋に始まり」

女「回想でもすればいいのかしら」

女友「ストーカー宣言の後、なぜかc組の不良くんが警察に捕まり」

女「私はなにもしてないけれどね」

女友「男くんの熱愛アピールにクラスはドン引きしつつ」

女「彼はきっと先祖返りでもしてるのよ。本能で求愛行動してるだけ」

女友「それを受け入れる女さんにもドン引きしつつ」

女「……え?」メガテーン

女友「クリスマスにマリンパールで愛を誓いあったという噂が流れ」

女(やっぱりあれって周知の事実になってるのね……恥ずかしい)

女友「ラストはbちゃんとの大騒動! あ、新ニュースとして主従関係の契約ができたね」

女「改めて聞くとまるで私たちが普通じゃないみたいだわ」

女友「改めなくてもまるではいらないかな」

女「そういえばこの前、なにかの漫画で見たのだけれど」

女「バレンタインデーに女が男にチョコを口移しであげてたの」

女友「口移しで? ありそうだけどないわー」

女「え、あ、ないの、かしら」

女友「ないないありえないよ! そりゃ男の子は喜ぶかもしれないけど、ちょっとやりすぎだよそれ。でもま、漫画だったらそのぐらいでいいのかもね」

女「……仮に現実でやるとなるとどうなのかしら」

女友「んー……痴女?」

女「」ガーン

女友「でもいないって、そんな突拍子もないことする人。いるとしたらよっぽどのお馬鹿さんか、よっぽどの天然さんぐらいじゃないかな」アハハ

女「……」

女「天才と馬鹿は紙一重という言葉があるのだけれど」

女友「どうして擁護するの?」ニヤニヤ

女(なにもバレてないはずなのに見透かされてるようだわ……この子、案外油断ならないわ)

女友「ねえねえ女ちゃん」

女「なに?」

女友「男くんのチョコ、美味しかった?」ニヤニヤ

女「味は貴方が食べたチョコと変わりないそうよ。彼に言わせれば想いで味が変化しているそうだけれど」

女友「へえ、ふうん、はあん」ニヤニヤ

女「えい」グサッ

女友「ぎゃっ」

女「どうかしたの?」シレッ

女友「女ちゃんのからかい方、今度男くんに聞いとこう……」ポロポロ

これにてバレンタイン編終わり。

待っててくれた人、これから読んでくれる人、共にありがとう。

次の投下はまあ多分来月なんだろうけど、特に決めてない。


いつまでもずっと続くわけじゃないから、遠くない未来に終わるだろうけど、
その時までよろしく。

ではまた。

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