【オリジナル】soar (47)


?「……」カチャカチャ

男「あとどれくらいで終わりそうだい?」

?「これで、もうおわりです。はい」カポッ

男「なんだって?」

?「ふかしてください」

男「本当だ、直っている……こんなへんぴなフロートに、君みたいな腕利きのFS整備工がいるだなんてな。もったいない」

?「おじさんがすごいんだよ。色々おしえてもらったんだ」

男「はは、じゃあそのおじさんによろしく頼むよ。ほれ」チン

?「あれ。おかねは、最初にもらった」

男「心付け。とっときな」

?「……。うん」

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?「ゲーンさん。おわりました」

ゲーン「……おォ」カチャカチャ

?「なにをしてるんですか」

ゲーン「入り用じゃよ。FS機関の増設じゃ」カチャカチャ

?「それは、セミアーマー型?」

ゲーン「そうじゃ。ほれ、動くかの……」ギュオオオン

ゲーン「動いた動いた。どうじゃ、キオ」

キオ「……」

ゲーン「まあ、お前はあまり格好良さに興味はなさそうじゃしな……」

キオ「すごい、とは思う。おじさん」

ゲーン「ありがとよ」


ゲーン「んじゃ、ちょっと昼寝でもしてるかねえ。客が来たら起きる」

キオ「じゃあ、かいだし、行きます」

ゲーン「あれ、いいのかい。ワシが行くぞ」

キオ「休んでください。あと、お金……」

ゲーン「んじゃ、キオに頼もうかねえ。気を付けて行くんだよ」チャリン

キオ「はい」


ここは空の世界。

彼らは、多数の浮島の上で暮らしていた。

そこには、空間を持ち上げたが如くに雨が降り、空想の世界であるかのように岩が揺らぐ。

ひとつの核の周りに浮かぶ、人、大地、雲、営み。

キオ「行ってきます!」タッ

彼らは自分たちの事を空の民と呼んだ。





少年は岩を飛び降りる。

その手甲には奇妙な鉤爪。その懐には奇妙な銃火器。

打ち出された銃弾は実体を持たず、光の渦を伴って、何やら空間に滞留した。

キオ「やっ」パシュ

そこに鉤爪を打ち出し、光の渦に引っ掛けると、鉤爪のあいだに張られた実線がビィンと伸びる。

宙空を落下する少年の身体は制御を得て、振り子のように進んでいった。


キオ「……」

キオ「うん」

キオ「かいだし、おわり」

キオ「……」

キオ「わすれてた」

キオ「ネジ、ネジ。買わなくちゃ」

…………。

キオ「うん」

キオ「本当に、おわり」

キオ「帰る」パシュ


悪ガキ「うおっ!」


キオ「あ」

キオ「ごめん」

悪ガキ「あー、いつものだー!」

ガキB「まーだその古臭いフライトユニット使ってんの?」

ガキC「ダッサー!」


ガキA「なあなあ、俺たちお金貸してほしーんだよなー」

ガキB「おい、でもこいつ買い物終わってるぜ。つまんねーの」ガサガサ

ガキC「うわ、ほんとだ。またガラクタパーツばっかり買ってる」

キオ「かえして」

ガキA「いらねーよバーカ!」ポイ


ガシャン!


キオ「そんなことしたら、こわれちゃうよ」ガサゴソ

ガキC「あーあーみっともねー!」

ガキB「空に捨ててやれば良かったのに!」

ガキA「おまえ、それやってこの前、スフィアの警備員さんに怒られただろ!」


ガキA「ん? こいつのポケット……」

スッ

キオ「あっ」

ガキB「カネだー!」

ガキC「隠してやがった! ぼっしゅー!」




男『はは、じゃあそのおじさんによろしく頼むよ。ほれ』




キオ「ダメ……それ、おじさんにっ」

ガキA「んー?? あのシワクチャジジィがなんだってぇ~ん?」クネクネ

ガキB「はははは! ちょーウケルー!」

ガキC「パース!」

キオ「かえしてっ」バッ

ガキA「ヘイ、パース!」ポイ

ガキB「バーカ!」

ガキC「おれらのフロート戻ったら、アイス買おうぜ!」

キオ「ダメだよっ」バッ



ガキC「というわけでぼっしゅー! デデッデデッ、デュ~ン!」

ガキA「ははは、じゃーなー!」

ガキB「どーせそのフライトユニットじゃ追いつけねーっての! バーカバーカバーカ!」


キオ「もってかれちゃった」

キオ「ごめんなさい」



?「……」

?「かわいそう」

執事「お嬢様。如何なされましたか」

?「あのお兄様、かわいそうですの」

執事「ええ」

?「お母様に、おくれると伝えてくださいまし」

執事「……」

?「じいや。めいれいですの」

執事「お怪我はなさいませぬよう」

?「近くだから、ひとりでも帰れますわ。ありがとう」





?「ゆきますの」ドギュン!


キオ「……」

少年は、打ちひしがれた様子で再び帰路を見据える。と、視界の端に何やら黒いものが横切り……

?「ごきげんよう、お兄様」



ギュオオッ!!!



黒い夜に奔る、白い流れ星があるなら、彼女はさながら、白い雲を突き破る黒き流れ星のようであった。

キオ「え」

流れ星はまだまだ速度を上げ、3人の子供に向かい急接近していく。

身体を水平近くまで寝かせて飛行する彼女の推進力は、どうやら足から出ているようだった。


?「そこまで、ですの」ギッ!

ガキA「な、なんだ」

ガキB(かわいい……スカートがどっさりしててヒラヒラの……お嬢様?)

ガキC「なになに? 俺たちに用なの?」


ついに追い付き、彼女は先回りするようにして3人の子供を見据えた。
彼女の足の推進力はホバリングが出来ないようで、上下動を繰り返しながら彼らを見据える。

ヒュオオ……

キオ「あ……」

ようやく残り香が追い付く。
高貴な、良い花の香りがした。





?「先ほど、あのお兄様から奪った硬貨……返していただきますの」

ガキA「こうか……」

ガキB「?」

ガキC「あっ、カネじゃね?」

?「はい。おとなしく返していただければ、なにもしませんわ」

ガキA「はあ? 返すわけねーだろ、バーカ! あれはアイツが勝手にくれたんだよ!」

ガキC「てか、こいつの方がカネ持ってそうじゃん!」

ガキB「お家がスゴそうだから、あとでこわいことになるかもしんないよ……君、だれなの?」





?「失礼いたしました……初めまして、わたくしはスピカ・グエレスティと申しますの」

ここまで


ガキC「グエレスティ、って、確か、オレのフロートの……」

スピカ「いご、お見知りおきを」



ガキA「ふん、どーしても返してほしいってんなら、空戦で勝負だ!」

ガキA「おまえらもいっしょだからな!」

ガキB「え、いいの?」

スピカ「かまいませんわ。3対1でもないと、あっというまに終わってしまいますの」



キオ「……」

執事「……」

キオ「あの子は」

執事「……手出しすると、子供扱いをするなと仰るもので」

キオ「……」カチャカチャカチャカチャ

執事「旧式のものでよろしいのですか?」

キオ「うん」ギュン




キオ「待って」

ガキA「ああ?」

スピカ「お兄様」


キオ「ぼくにいじわるするのはいいよ」

キオ「でもぼくのせいで、誰かがいじわるされるのは、ダメ」


スピカ「まあ……」

ガキB「ひゅーっ! なんだよコイツの事好きなのかー?」

キオ「……」

ガキC「お、おれ、親に呼ばれてたんだった。じゃーな」ギュン!

ガキA「あっ、おい!」

スピカ「では、2対2の空戦と参りますの」


キオ「……」ブラーン

スピカ「お兄様……わたくしのためにありがとうございます」

キオ「ううん」



スピカ「ところでお兄様、空戦の経験はありますの?」

スピカ(お兄様のフライトユニットは電磁ワイヤーを用いたロッド型……充電式のようですし、高速戦闘と長期戦はニガテですわね)

キオ「だいじょうぶ」

キオ(この子のフライトユニットは、とても珍しいフットバンプ型。機動力やレスポンスとひきかえに、姿勢制御がものすごく難しくて怪我もしやすい、上級者向けのユニット……)



スピカ「分かりましたの。わたくしはスピカ・グエレスティ。スピカと呼んでください、お兄様」

キオ「……スピカ」

スピカ「はいですの!」





ガキA「おまえどっち狙う?」

ガキB「いつものひょろいガキの方」
ガキB(あんなカワイイ子に気に入られて……あいつのクセに)

ガキA「じゃあおれ女の方な~。いくら金持ちだからって、女だ女! よゆーよゆー!」
ガキA(勝ったらたんまりカネもらおーっと)

ガキB「おれら強すぎるからって、あんまりボコボコにするなよー?」

ガキA「こないだ新しく買ってもらったホバーユニットなんだ、あんなオンボロに負けるわけないだろっ」


フロート……浮島より、いくぶん高度を上げてにらみ合う4人。
勝ち負けの基準として相手にぶつけるための木の棒を構えると、スピカが声を上げた。

スピカ「では、木のぼうを一回カラダに当てられたら負けですの!」

天候は晴れ、雲量はごくわずか。視界は大変良好である。

スピカ「はじめっ!」




ガキA「女! いくぞ!」

腰を一周するように推進力を設置することで、安定した挙動が期待できるホバー型のフライトユニット。

スピカ「あなたが相手してくださいますの?」ギュン!

ガキA「うりゃ!」ブン!

ガキA「おりゃ!」ブン!

ガキA「でぇりゃ!」ビュンビュン!

スピカ「遅すぎますの」タンッ、タンッ

子供が強く棒を振り回しても、自動で姿勢を制御するため、体勢は崩れない。
一見すると近寄りがたく見えた。

ガキA「逃げ回ってばっかいるんじゃねーよ!」


ガキB「キモいんだよおまえ!」ギュオッ!

キオ「……」グイッ

もう一方の子供は、肩を大きく固定するバーニア型のフライトユニットを装着していた。
旋回性に欠ける以外は高い水準でまとまっている、ホバー型に次いでポピュラーなフライトユニットである。

ガキB「ほらっ、ノロマっ!」ブン!

キオ「……」ギュン

どことなくノンビリとした円運動で、スピードのある強襲を何度も回避している少年。
ただ、その身体の動きとは裏腹に、付属の銃火器から鉤爪の滞留点を様々な場所に射出し、右手から出るワイヤーの数を2本3本4本5本と増やしていく。

ガキB「ああ、ウザっ」

キオ「……」ブラーン

ガキB「っ、この!」ギュオッ!




ガキA「ほら、早くしねーとあっちが負けるぞ?」ブンブン

スピカ「近寄られるのが怖くてチャンバラしてる人に言われたくないですの」ギュン

スピカ(でも、なかなかスキを見せないですわ)

ガキA「しょーがねーなー……あははっ、ほれー!」ズルン

スピカ「ひっ!? ズ、ズボン! 下ろさないでくださいましっ……!」

ガキA「ほれほれほれほれー! おちんぽさまのお通りじゃー!」ブルンブルン

スピカ「い、いやぁ!」
スピカ(か、顔を背けたせいでバランスがっ)グルンッ

ガキA「今だっ、当たれええ!」ブン!


子供は木の棒を振らず、バランスを崩した少女に投げ付けた。
咄嗟に足から推力を吹かすも、足が引っ張られて大回転するばかり。

スピカ(あ、当たる……!)



パシン!



キオ「……なげたら、ダメ」シュルル

スピカ「!」

キオ「顔にあたったら、あぶない」パシッ

投げた棒は少年が伸ばしたワイヤーにかかり、器用に絡め取られると手元に収まった。

キオ「返すよ」ポイ

ガキA「うおっ!」パシッ

キオ「あと、パンツはいた方が……。さむいよ」

ガキA「う、うるせえ!///」スチャ



キオ「だいじょうぶ?」

スピカ「ご、ごめんなさいお兄様……! 助けていただいて」ボシュッ

キオ「いいよ」

スピカ「今度こそ、わたくしに任せてくださいまし!」ドギュン!


ガキB「くっそー、おれを置いてくなー!!」ギュオオオ

キオ「ごめん、もう充電がないんだ」グンッ

キオ(均衡点操作、3軸円運動、2軸自由関数制御、慣性誘引……方向修正……切り離しっ)グイン! ギュン!ギュン! シュパッ、ギュルルルッ…パシュン!

ガキB「な、な、え……?」


少年の身体が超次元的な曲線運動を描き、子供の上空に舞い上がる。
渦中の子供は、あれよあれよと周囲を回り、視界からワイヤー共々消えた少年の行方をまったく捉えられていない。

まるで空を翻すように、少年の身体は自在に逆光を背負う。

パシュン!パシュン!

ガキB「右か! いや左、え……?」



バシーン!!



ガキB「いでええ!!」

スリングショットのように猛スピードで発射された少年は、弾道の中でしっかり子供の頭を打ち据えた。

キオ「……」

ガキB「く、くっそぉ……それ! そのワイヤーズルイぞ!」

キオ「……ぼく、ノロマじゃないもん」


いでええ……

スピカ「あら……お兄様が勝ったようですわ?」

ガキA「おい! おまえ負けてんなよ!?」

スピカ「では」ドギュン!



スピカ(右足っ)ダン!
ガキA「こっちか!」

スピカ(左足っ)ダン!
ガキA「くっ、」

スピカ(思いっきり、下っ!)ダン!
ガキA「今だっ!」スカッ

ガキA「…………あれ、どこ?」

ドキュゥン!!

スピカ「取りましたわ」



スパーン!!



ガキA「!??@☆〒*!%?…」

スピカ「ヘンタイさんにはオシオキですの」

相手の死角……真下から繰り出した渾身の振り上げは、身体の中心に的中した。

スピカ「ちょっと失礼。……ふふ、コインは返していただきますわ」


ガキA「く、くそ! 覚えてろよ!!」

ガキB「おい、スピカ! また来るからな!」

スピカ「はぁ。もう結構ですの」

ガキA「うるせえ! キンタマ大好き女! バーカバーカ!!」ギュン

ガキB「え゛? なにそれ……」ギュオッ



スピカ「……なんどでも潰してやるですの」



…………。

キオ「たすけてくれて、ありがとう」

スピカ「こちらこそ。助けるつもりでいたのに、助けられてしまいましたの」

スピカ「お兄様のお名前、おうかがいしてもよろしいですか?」

キオ「キオ。みょうじは、ないんだって」

スピカ「キオお兄様、ですのね。ステキなお名前ですわ」

キオ「……よびづらそう。キオでいいよ」

スピカ「そ、それはいけませんの」


スピカ「で、では。もしお兄様がよろしければ、その、キ、キオ兄さまとお呼びしても、良いですか……?///」

キオ「うん。いいよ、スピカ」

スピカ「!! ありがとうですの、キオにいさまー!」ギュッ

キオ「???」


キオ「ごめんね、スピカ。もうかえらなくちゃ」

スピカ「もっとキオ兄さまとおはなししたかったですけど、わたくしも時間ですの」

スピカ「キオ兄さま。また、ここで会えますか?」

キオ「かいだし、いつあるか、わからない」

スピカ「そうですの……」

キオ「……」

スピカ「……」

キオ「あした、くる」

スピカ「えっ?」

キオ「スピカが、かなしそうな顔した」

スピカ「キオ兄さま、ありがとうございます」



キオ「また、おひる食べたら行くから」

スピカ「はいですの! また、またおはなししましょう!」

ここまで

あれの動きは、海腹川背的なものをイメージすれば良いんだろうか?


翌日

ゲーン「昨日はよく寝れたかい?」

キオ「ん……」

ゲーン「眠そうじゃな。どれ、ちっとおじさんに見してみぃ」

キオ「い、いいよ」

ゲーン「はーん。さては……つべこべ言わずに見せてみんしゃい!」

キオ「はい……」

…………。

ゲーン「やっぱりな。昨日空戦やったろ? それも、充電ギリギリまで。違うかい?」

キオ「はい。ごめんなさい」

ゲーン「まったく。無理の効くものではないんじゃ。それがおかしくなった時、ワシにできることも限りがある」

キオ「ごめんなさい」

ゲーン「まあ、いいんじゃよ。お前は滅多に戦おうとはせんし、それなりの理由があったんじゃろ?」

キオ「……うん」

ゲーン「なら、感情の乏しいお前にとっては、良いことじゃな!」

キオ「……いつも、ありがとう。ゲーンさん」

ゲーン「愛いやつめ。さあ、今日も仕事、仕事じゃ!」

>>25
動画見てきた
だいたいあってる


キオ「時間はかかるけど、これなら直りそう。1時間半ください」

男「おお、ここでもダメなくらいだったら本当にどうしようかと思ってたんだよ! 娘のお気に入りでね……」

キオ「先にお代、いいですか」

男「ふふ、分かった分かった。いつも世話になってるよ、ありがとね」

キオ「うん。ありがとう」カチャカチャ…

…………。

キオ「っ」ピタ

キオ「ゲーンさん。いいですか」

ゲーン「どれ。ああ、回路が外圧のせいでへこんで、それでめちゃくちゃに溶けておるな……」

キオ「どうしよう」

ゲーン「う~む……。とりあえず預かるから、一旦ワシに任せるんじゃ。これは……ジャンクからバーニア肩横部のICを持ってきて組み込むのがベターじゃな」

ゲーン「たしかMGC180WS系に使えるそうなのがあったはずじゃろ。好きに分解してええ」

キオ「ありがとう、探してくるね」

男「手間をかけてるみたいで悪いね。無理なら無理でも怒らないから、大丈夫だよ?」

キオ「いえ。おじさんなら、絶対直してくれます」

ゲーン「ははは、ちと頑張るかの……」カチャカチャ チュイイイン


ゲーン「ふう。これでとりあえず元通りとはいかないまでも、動くはずじゃ」

キオ「動かしてみて」

男「……。うおっ!? 前より出力もレスポンスも上がってるじゃないか!」

ゲーン「かっかっか、だから言ったろう。元通りにはならんと」

男「いやあ、助かった。娘にも、もう壊さないよう良く言っておくよ」

ゲーン「なに。またおかしくなってもメンテぐらいだったらタダでやってやるわい。それはどうせもう、ワシにしか直せんじゃろう」

男「ホント、いつもありがとう! お世話様!」ギュオン




ゲーン「さて、飯にするか……ん? なんじゃキオ、ソワソワして」

キオ「あの……」


…………。

ゲーン「なっはっはっは、いいぞいいぞ、こいつァめでたい!」

キオ「……?」

ゲーン「色恋どころか、笑顔にも疎かったお前さんに、昨日こないな縁があったとは知らなんだ!」

ゲーン「良いぞ、行ってこい。店は気にするな、おじさんが見といてやるから」

キオ「ありがとう」カチャカチャ

ゲーン「帰ってきたら、酒のつまみに土産話でもしてくれや!」

キオ「行ってきますっ」パシュ





ゲーン「……手甲も電磁銃も、2つ消えておる」

ゲーン「バッテリーパックもない」

ゲーン「普通なら安心するのじゃろうが、不安じゃなぁ」

ゲーン「無理はするなよ、キオ」


キオ「……」スタッ

スピカ「あっ!」

キオ「もう来てたんだ」

スピカ「キオ兄さまーっ!」タッタッタッ



スピカ「ごきげんよう」フワリ

キオ「ごきげん、よう?」

執事「お嬢様、そちらの方は、昨日の?」

スピカ「そう、キオ兄さまですわ。昨日わたくしのことを助けてくれた、ステキな方ですの」

執事「ふむ」

スピカ「じいや! よけいなおせわをしたら、ただじゃ済ましませんわよ!」

執事「……あまり、はしゃぎ過ぎませぬよう」

スピカ「うるさい人さえいなければ、ゆっくりおはなしをするだけですの」


…………。

スピカ「あら……FS修理工を?」

キオ「うん」

スピカ「キオ兄さまのフライトユニットにはFS機関がないから、てっきり、その、畑でもたがやしてるのかと」

キオ「ちがうんだ」



キオ「FS機関をつかうと、どうしてもきゅうげきな出力をえられないし、外からのしょうげきによわくなる」

キオ「それに、このロッド型のフライトユニット。この、銃とあわせてわからないことが多いんだ」

スピカ「かいぞうできない、ということですの?」

キオ「外部とりつけしかできない。そうすると、ロッド型だとじゃまになっちゃう」

スピカ「へえ……。キオ兄さま、フライトユニットがお好きですのね!」

キオ「?」

スピカ「きのう空戦をしていた時も、いまFS機関のはなしをしていた時も、いっしゅん、いい顔をしていましたわ」

キオ「いい顔?」

スピカ「……」


ザアァァ……


スピカ「ここは、風がいいばしょですわね……」

キオ「うん」

スピカ「ぶらさげてる足のしたは、すぐに空。それでも、わたくしは怖くなくなってしまいましたの」

キオ「とべるからね」

スピカ「ええ。とぶのは気持ちいいですわ」

スピカ「でも、勝手にとびだしてしまいそうな自分がいることが、ちょっと怖いのです」


スピカ「ときどき、このまま、どこまでもとびだしたくなってしまう時がありますの」

スピカ「空のおわりまで」

スピカ「でも、あんまりとおくへ行ったら、お腹がへってしんでしまうのです」



スピカ「わたくしはお父様がはたらいているおかげで、ごはんが食べれますの」

スピカ「キオ兄さまは、ちゃんとはたらいていて、すごいですの」

キオ「ぼくも、ゲーンさんがいないと生きていけないよ」

スピカ「そうかもしれないですけど、そんなことないですの」

スピカ「きのうのコインみたいなものも……わたくしはいっぱい見てますけれど、自信を持ってくださいまし」


スピカ「ところで、キオ兄さまの工房はどのフロートにございますの?」



キオ「E-14だよ。ゴミ捨て場みたいなフロート。まわり誰もすんでないから、たてものがあればそれだと思う」

スピカ「ふふ。では、よろしければ今度おじゃましますの」

キオ「ぼくが行くよ?」

スピカ「いいのです。わたくしも、FS機関がすきですから。見せてくださいまし?」

キオ「うん。おじさんに言っておくね」

ここまで


キオ「そのフライトユニット、フットバンプ型なんだね」

スピカ「これですの? ええ、ふだんからこれで生活してますの」

キオ「フラフラしない?」

スピカ「風のつよい日はあぶないですわ。でも、わたくしはロッド型をつかうキオ兄さまの方がすごいと思いますの」

スピカ「ふつうロッド型と言えば、長いぼう型なのに、キオ兄さまのはワイヤー式。しかも、そのふしぎな銃からでる弾のおかけで、どこにでも引っかけられます」



キオ「これは、それぞれ動力電磁線(エレキワイヤー)、帯磁制御砲(エレキシューター)って呼ぶんだ」

スピカ「きょうは……2組持ってますのね」

キオ「またくるって、いってたから。これなら、にげきれる」

スピカ「わたくしよりお強いのですから、返りうちにしてしまえばいいのに。キオ兄さまは、あまり戦いはお好きではないですの?」

キオ「……」コク




スピカ「では……わたくしと一曲、おどってくださいませんか?」


…………。

キオ「……」ブラーン

スピカ「ふふふ、両手でぶらさがってるとなにか、かわいいですわね」

キオ「……」パシュ

スピカ「ああ、別にやめてしまわなくても……」




スピカ「では、身体にぼうが当たるまでお手合わせください。キオ兄さま、どうか本気できてくださいまし」

キオ「いいの?」

スピカ「もちろんですとも。手を抜いたら、わたくしが勝ってしまいますわよ?」

キオ「……うん」

スピカ「さあ、ゆきますわ!」ドギュン!




キオ(応答せよ。応答せよ)

キオ(……の起動を要請する)

キオ(危険度D。起動の必要性無し)

キオ(分析を破棄する。権限を制御……使用する)






キオ(sol.mi 起動する)


キオ「」バシュバシュバシュバシュ

スピカ「えあっ!」ビュン

キオ「」バシュバシュバシュバシュ

スピカ「まずは両手にワイヤーが4本、ですわね。追いかけますの……!」ダン!



キオ(戦術プランA提示)

キオ(戦術プランB提示)

キオ(戦術プランC提示)

キオ(戦術プランD…)



キオ(以上プラン統合……完了。「多重考察連動システム」駆動開始)

キオ(最終目標点、物質αの生物αに対する物理接触)

キオ(考察介入。条件追加せよ、物質αは常時Key.O腕部により制御されるものとする)

キオ(考察を認める。プランC・D・J修正。提示する)


キオ(超自由三次座標制御、電磁線最適配置)パシュン パシュン

スピカ「! それはさせませんの!」バシッ

キオ(結果照合、予測事象74。予測枝、再構築)




スピカ「わたくしがワイヤーにかこまれなければ、キオ兄さまの動きはよめますの」ドカン!

キオ(……最適解候補、確定。実行開始)ギュン!




少年と少女は同時に動き始めた。
少女が足が震えるギリギリのバランス感覚で爆進するのに対し、少年は長いワイヤーを用いた円運動を開始する。

スピカ「……っ、にがしませんのよ!」ドン!ドン!ドン!

キオ(予測修正。最終結果までの事象を短縮する……!)パシュ、ギュルルルル…

円運動の後ろから機動力で追いつこうとする少女に対し、少年はあらかじめ配置してあった電磁滞留点にワイヤーをかけ、伸ばす。
それをタイミング良く縮めて引くと、円運動がどんどん加速した。これを何度も乗り換え、少年の円運動はますます大きく、速くなっていく。

もはや振り回されているようにしか見えない速度で、少年はまだ辺りに磁力の場を設置していった。

スピカ「まだ、まだ速く……!? まけませんのおおお!」ドン!ドン!ドン!ドン!

キオ(運動エネルギー、予測点到達。予測追加。生物αの軌道、一時領域から脱出不能)ギュルルルルルルルルッ!!



グルルルルルルッ!!


高速度の円運動、その半径が一挙に縮められる時、凄まじいまでの遠心力と引き換えに、角速度を十数倍にも乗算する。


キオ(三次座標制御から相対極座標制御に切り替え、戦略プランに基づき戦場を最適化)バンバンバン パシュパシュパシュ


スピカ「あっ!!? キオ兄さま、今の、うでは大丈夫ですの!?」ドギュッ…!

スピカ(うぐ、足、いたっ……!)

スピカ「わたくしすぐには、止まれないですの……っ!」ギギッ…


しゅるるるる……

スピカ(! しまったですの、ここは、ワイヤーが!)

キオ(電磁屈折点通過予定……確定)ギュンギュンギュン…

スピカ「させませんの!」スカッ

カク、カク、カク……ビシッ!

スピカ(!? ワイヤーが、折れ曲がって……!)

キオ(最適解、実行……)ギュルルルル…!



遺伝子構造のような二条螺旋、その中心に少女は囚われた。
加速の勢いを全く失っていない少年から、もはや逃れる術も無い。




キオ「不可避」

ここまで

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