七花「お前誰だ?」ほむら「あなたこそ誰よ」 (28)

ああ、また守れなかった。
誰よりも大事なあの子を。
ああ、また繰り返してしまう。
この時間を。
何が悪いというのだろうか。
分かっている。
きっと運命が悪い。
逆らうことも
抗うことも
覆すこともできない運命。
言ってしまえば運が悪い。

(もう、どうにでもなってしまえ)

そう思う。

(どこか、辛くない、遠い場所で)

遠い時間で。

(ここではないどこかへ)

行ってしまいたい。


時間遡行者、暁美ほむら。
ただひとつの望む未来を掴むために
ひたすらに世界を繰り返す少女。
聞こえはいいが所詮年端もいかない女の子。 
そう、彼女は疲れてしまっていた。
疲弊してしまっていた。

(あの子を・・・・救いたい)

その気持ちとは裏腹に
彼女の体は動かなかった。
壊れかけていた。

ーーーーーーーーーー

「おい」

突然声をかけられる。
その声と揺さぶられるような振動に彼女はついさっきまで自分が寝てしまっていることに気が着いた。

「お前誰だ?」

「あなたこそ誰よ」

ありえない世界は確かに存在する。
交錯し得ない物語は確かに交わる。
希望も未来も見いだせない世界で
確かにその思いは存在する。
自己嫌悪に溺れる彼女と
自己を知らない彼と
自己矛盾を抱える彼女。
三つの魂は不出来な輝きを伴いながら
その世界で関わりを持っていく。
そう、言うなれば
この物語は
鍵のかからない
締まらない物語。

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「へぇ、暁美ほむらか」

「変わった名前だなぁ」

目の前の男女はまじまじと暁美ほむらを見る。
対して暁美ほむらはこの信じ難い状況に驚きを隠せないでいた。

(・・・・なに、ここ?)

(意味がわからないわ・・・・)

困惑する。
自分の名前は暁美ほむら。
自分の大切な人を助けるために
世界を何度も繰り返す少女。
そこはわかっている。

(ならば、ここは・・・・)

思い返し気付く。
あの時自分が何を思ったのかを。

ここではないどこかへ
行ってしまいたい

(・・・・あぁ・・・・!)

ぽろぽろと大粒の涙が暁美ほむらの頬を伝う。
ダメだった。 
彼女を守れなかった。
何より逃げてしまった。
自責の念を抱えながら彼女は目を覆い隠す。

「・・・・七花・・・・そなた、何をした」

「なっ、何もしてないよ!」

目の前の鑢七花と奇策士、とがめはそんな言い合いをしていた。

「落ち着いたか?ほむら」

いきなり呼び捨てにされた事もどうでもいいというふうに暁美ほむらは布を受け取る。

「・・・・ありがとう、とがめ・・・・さん?」

「落ち着いたか?ほむら」

いきなり呼び捨てにされた事もどうでもいいというふうに暁美ほむらは布を受け取る。

「・・・・ありがとう、とがめ・・・・さん?」

確かにさっき聞いた名前を読んでみる。
とがめ
変な名前だ。
やはり彼女は違う世界へ来てしまったらしい。

「にしても、危ないなぁ、あんなところに女の子一人で寝てたらダメだぞ」

そういう上半身裸の男は、鑢七花と言った。

「何があったんだ?一体」

ぐっ、と言葉を飲み込む。
あぁ、話してしまいたい。
どうせ信じてもらえないだろうけど
いっそ全てぶちまけて楽になってしまいたい。
だけどそれはダメだ。
頭がおかしいと思われるに決まっている。

「・・・・何もなかったわ」

「・・・・」

「・・・・」

「そなた、本当に何もしていないのか?」

「してないよ!信じてくれよ、とがめ!」

彼女、暁美ほむらから見る彼らは何故かとても眩しく見えた。

「にしても変な格好だよな」

と、率直な意見を鑢七花は述べる。

「確かにな、そなた、なんでそんな格好をしておる?」

(・・・・変な格好と言われても・・・・)

確かにこの魔法少女の服装は見る人が見れば変なのかもしれないが
それでも少なくとも目の前の二人よりはましなように思えた。

「・・・・ごめんなさい、これしか持ってなくて」

本当は変身を解くこともできるのだが、しかしここが安心できる場所ではない以上それは考えから除外する。

「・・・・ふぅん」

とがめは疑るような目で見てくる。
きっと疑われてるのだろう。
いくら時間を重ねたといえどもこの感覚だけはどうにも耐えられないものだった。

「貴方達は・・・・?」

「わたし達か?」

旅をしている
と、とがめはそう言った。
旅、やはりこの世界は自分のいた世界とは違う。
あの時の一時的な思いがこんな形でかなったなんて何と言うことだろうか。

(・・・・!そうだ!私は!)

自分の目的を思い出す。
そう、暁美ほむらの目的は彼女を助けること。
自分を犠牲にしてでも彼女が死ぬ運命に抗うこと。

「お、おい!走るな!」

「・・・・いたっ!」

とがめがそういった時にはもう遅く、怪我をしていた暁美ほむらは顔面から地面へと突っ伏すように転んでいた。

「ははは、せっかちだなぁ、ほむらは」

と、鑢七花は笑う。
しかし暁美ほむらにはそんな余裕はなかった。 

(・・・・怪我が治っていない・・・・)

あの時の超大型魔女との怪我は治ってはおらず
そして

(ソウルジェムも・・・・)

かなり濁っていた。

「何だそれ?綺麗だな」

ヒョイっと鑢七花はそれを取る。

「あ、ちょ!」

「へー、綺麗なもんだなぁ、なんていう石だ?」

「か、返して!大事なの!」

二人してソウルジェムの取り合いをしていると二人の頭にぱしんっと衝撃が走った。

「こら!ほむら!怪我人は大人しくしていろ!七花も茶々を入れるでない!」

暁美ほむらは面食らったような顔でとがめをみる。

「この辺の薬草だ、少し染みるがこれなら数日で良くなるだろう」

何食わぬ優しさが
些細な優しさが
確かに染み込んだ。

毎日少しずつ更新していきます
見てくれる人はありがとう
それじゃあ

「時に暁美ほむらよ」

えらく芝居がかった様な口調でとがめは質問する。

「そなたは何故あんなところに倒れていたのだ?」

あんなところ
やはりこの世界でも自分の倒れていた場所は怪しい場所だったに違いない。

「・・・・」

「・・・・言えない、もしくは言いたくないと言ったところか」

図星を着かれる。

「ごめんなさい・・・・」

別に謝らなくても良い
そう言って彼女はふいっと後ろを向いてしまった。
彼女は確かに自分に比べて少し大人っぽい。
しかし何故か彼女の背中は見た目よりもずっと小さく見えた。

(・・・・強いなあ・・・・)

耐えているのだろう。
きっと彼女もなにか抱えているのだろう。
そしてそれは言いたくないことなのだろう。

「ご飯にしよう、とがめ」

この数十分のやりとりでわかった事だが鑢七花はとてもマイペースだ。
そして自由奔放。
暁美ほむらとは対照的な人物だった。

「そうだな、ほむら、そなたも食べるだろう?」

「えっ、いや、私は・・・・」

空腹でないわけではない。
わけではないがやはり彼女の目的を考えるとこんなところでゆっくりしているわけには行かないのだ。 

「いいから行こうぜ、腹が減ってるなら食べるべきだ」  

そう言った鑢七花ととがめは笑顔だった。
屈託の無い笑顔。
何時からだろうか。
彼女が笑えなくなってしまったのは。

「ただしその頃にはお前は八つ裂きになってるだろうけどな」

「なんでよ」

こうしてありえない物語は交錯しあいありえない世界は混じり合う。
その世界で暁美ほむらは何を為すのか。
何を見つけるのかはもう少しだけ先の話だ。

待って。
行かないで。
そんな彼女の思いとは裏腹に少女は身を犠牲にしてしまう。
彼女がどんなに奇跡を願っても
そんな奇跡は起こらない。
もうどうして良いかわからない。
少女を救い出すために自分は何をなくしてしまったのだろう。 
何を見つければこの絶望から逃れられるのだろう。
もう友達に戻れなくてもいい。
仲間などいらない。
結果だけを求める時間遡行者、暁美ほむらは自己嫌悪に溺れながらも
その時を繰り返す。
少女を守れる自分になれるまで。 

「大丈夫か?ほむら」

最悪の魔女に敗れ世界を跨いだ彼女はの次の世界は自分も知らない謎の世界だった。
この世界で戻り方も過ごし方も知らない彼女は仕方なく目の前の二人
とがめと鑢七花
と共に旅をしていたのだった。

しかし旅と言ってもあてもなく目的もなくただひたすらに歩くだけなのだが。  
   
「別に何もないわよ」


暁美ほむらがそう言うと鑢七花はうげぇっと苦い顔をする。

「ふふふ、ほむらは本当に七花に厳しいな」

そうかしら
と暁美ほむらは答える。
彼女達と行動を共にして数日が立つが以前暁美ほむらはその心を深く閉ざしているようだった。

「とがめさんたちはどうして旅をしているの?」

「なんだ?唐突に」

とがめは少し怪訝な顔をする。

「別に目的などない、強いて言えば目的を見つけることが目的だな」

と、少ししたり顔でとがめは答えた。

「・・・・それは七花さんも?」

ちっちっちっ、と指を振るとがめ。
その仕草は年下である暁美ほむらから見ても可愛らしいものだった。

「・・・・あいつはな・・・・」

そこでとがめの台詞は途絶えた。
いや、途絶えさせられたと言ったほうが正しいか。

「身ぐるみ置いていきな」

乱入者。
山賊と言った方が正しいのだろうか。
とにかく見た目もみすぼらしくガラガラ声の数人の男たちがいつの間にか彼女達を取り囲んでいた。
 
「七花」

「ああ」

そのやりとりで十分だったのだろう。
彼の纏っているふいんきが変わる。
普段のおっとりとしたものではなくギラつく
そう、まるで刀のようなそんな雰囲気を醸し出す。

「はああっ!」

「七花はな」

あっという間になぎ倒された山賊達を背にとがめは得意げにこう言った。

「虚刀流七代目当主」

聞いたことのない言葉だった。
だが確かに存在するものであるというのは明らかだった。





「さらに言えば私の刀だ」


とりあえずここまで
見てくれる人はありがとう

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