エレン「ナイショの話」(190)


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※進撃中卒業後の話――みんな高校生

※基本ほのぼの日常――稀に修羅場も有!?

※エレアニ――イチャイチャ注意

※自由に書く――荒らしは勘弁願いたい


楽しいときも、辛いときも
お前がいつも傍にいて
初めての気持ちを見つけたんだ。
オレの隣にいて欲しい。微笑んでいてほしい。
抑えきれないこの想いを届けにいくよ……。
言葉足らずかもしれない。
それでも…どうか聞いて欲しい――


誰よりも輝くあなたがいて
私の中の新しい気持ちに気付いたよ。
夢を語るあなたの横顔をずっと見ていたい。
いつまでも。
だから…伝えるよ。
正直な私の声を――


Eren side

キーンコーン、カーンコーン――

部活動終了の鐘が鳴り響く。
ああ、今日も終わりか。
いつもながら疲れたな…。


おそらくは、小雨が降っていたであろう。
陽に照らされた銀色の水滴が張り付いている様子を見ながら
そう思った。


部員同士の挨拶もそぞろに、オレは汗を拭き、着替えを済ませ
一足早く部室を後にする。
廊下は走ってはいけない。
それは校則にも載っていることだ。しかし、今は放課後、
注意する人なんているわけがない。


廊下で女子生徒が声を掛けてくるが、
生返事をしつつ、階段を一足飛びで駆け降りる。
くたくたな身体に鞭打って、駆けていく。走る。


やべぇ……。また遅刻だ
あいつ、待ってっかな――。
心の中で呟きつつ、オレはいつもの場所へ向かう速度を速めた。


“いつもの場所”――学校の裏門
特に綺麗な場所だとか、人気のスポットだとか、そういった理由は特にないけれど、
オレと彼女だけのナイショの場所だ。


ナイショ――というのは、
オレ達の関係を誰にも知られたくない
という彼女たっての希望だ。


理由を聞いてみると、
付き合っていることを囃し立てられる事が恥ずかしいらしい。
俯き加減にそう提案する彼女の様子を見て、オレは二つ返事で承諾することにした。
そんな、奥ゆかしいところが可愛いじゃないか。


などと思っているうちに、裏門に到着。
すぐさま目当ての人物を探すために周囲を見回す。
――いた。木陰になっている木に寄り掛かっている。


彼女もオレに気付き、顔をこっちに向けている。
一瞬、嬉しそうな表情を覗かせた。気がする……。
よかった。今日は機嫌が良いみたいだ。
そう思って、思い込みたくて何回も何十回も繰り返したであろう言葉を口にする。

エレン「ごめん!!遅れました!」

謝罪の言葉と共にオレはいつもの通り
頭を垂れる。


「遅い!!」

エレン「ごめんなさい!」

もう一度謝る。
……。
地面に転がっている小石の数を数えるのも飽き始めていたそのとき
お許しが出たのか、顔を上げてという声が聞こえてきた。

「かばん持って」


彼女はかばんをオレに投げるように渡すと、
整えられた太陽のような金色の髪を左右に振りながら、
大股で先に行く……。

エレン「お、おい…」

エレン「ちょっと待てよ!アニ!!」


Annie side
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――チャイムが鳴る5分前

冬が過ぎ去り、春が来て、私の胸の鼓動が歌を歌うように一ヶ月が過ぎた。
にもかかわらず、
私とエレンの関係に大きな進展はない。


それでも、喜びを隠しきれない。
だって、ずっと待ち望んでいたから。
炎のように燃え上がるこの心が通じ合えたから。


春を称える唄が私の胸で鳴り響いている。それは聞こえないかもしれない。
だけど、耳を澄ませば確かに聞こえてくる。
強く、とても強く感じられる――あたり一面春だ。


それにしても遅いなあ。
時間にして、1分と少ししか経ってないはずなのに、
エレンと会う時間の前はいつもそう…。
たった1分が10分にも30分にも感じてしまう。


二人だけで会える時間、一緒にいられる瞬間。
私にとってかけがえのない大切なひととき―
私にはこの時間しか無いのに……。


でも、いいの。
毎日一緒に帰る。それだけの行為で私の心は満たされるから…。


だけど、だけど――
たまには下校時以外に一緒にいたい。
わがままが許されるなら、校内で堂々と会話したり、笑い合ったり、
公認の付き合いをしてみたい。
でも…――そんなこと、叶わないことはわかっている……。


こぼれた花びらがくるくると舞いながら私の目の前に無造作に落ちる。
水気を含んだ花弁が所狭しに敷き詰められ、まるで桃色の絨毯のようだ。
ふと、何を思ったのか。
精一杯背伸びをして一番近い位置にある木の枝を折った。


アニ「…と――ア、ニ」
折った枝で相合傘を描いては恥ずかしさのあまり足で消す。
それでも、再度描いてみる。
そして…消す。
また描いては消す。その繰り返し。


アニ「私、何やってんだろ…」
ふと我に返りながら呟いた。
こんなところ誰かに見られたら、割腹ものだ。
まあ、この場所は人の往来が幸いにして少ないので
私の羞恥に恥らう姿を見られずに済む。


なんてことを考えながら、校舎の裏口をちらちらと見ては大きな溜息一つ。
しかし、人っ子一人、巨人一体も来る気配さえない。
ならした地面に向かって溜息をまた一つ。
次第に苛立ちと悪戯心が芽生えてくる。


機嫌の悪いふりをしてみようか。
それとも――
体調が悪いふりをしてみようか。
彼はどんな反応を示してくれるのか。
想像していたら、楽しくなってきた。


キーンコーン、カーンコーン――
鐘が校舎から鳴り響き、完全下校時刻を告げる。
時間だ。
そして同時に…。
私を現実の世界に引き戻す合図でもある。


きっと、彼はいつものように急ぎ、駆けて来るだろう。
私はそれが嬉しくて、喜ばしくてたまらない。
しかし、その反面もどかしくもある。
――なぜなら
彼はいつもの調子で、申し訳なさそうな顔で言う。
ごめんなさい……と。


ごめんなさい――。
違うの。
そんな言葉が聞きたいわけじゃない。


私はきっと…。
もっと…――


足音が聞こえた気がした。
たったった……と。
リズミカルに、それでいて力強い。


その数秒後、
艶のある黒髪をくしゃくしゃにして、
額に汗を滲ませ、誰かを探すかのように辺りを見回す男が一人現れた。
――私のことを探すエレンがいた。


あっ、来た。
おーい、こっちだよー。
声には出さずに心の中で叫んでみる。
すると……私の心が見透かされたかのように目が合った。
反射的に頬筋が緩み笑顔がこぼれる。
こぼれてしまった。


――と、あぶない、あぶない。
今日の私は機嫌が悪いんだから。
そう自分に言い聞かせ、エレンに気付かれないように下を向いて
深呼吸をする。


うん、大丈夫。
気付かれていない。

エレン「ごめん!!遅れました!」

驚いて下を向いていた顔を起こす。
早くない!?
つい先ほどまで数十メートル先にいたのに
今はもう睫の数を数えられる距離まで接近していた。


睫長っ!!
女の子みたい……。
いや、そうじゃなくて
予想通り…。
聞き慣れた台詞。


だけど、視点を変えてみると
また違った認識をすることができた。
私の中に身が震えるような感覚と少しの罪悪感が生まれた。


アニ「遅い!!」
思いとは裏腹な言葉を口に出す。
大丈夫だよ。私も今来たところだから。
と言いかけた言葉を飲み込む……。

エレン「ごめんなさい!」

更に頭を下げてきた。
今にも土下座しそうな格好で、
深い前屈で礼儀正しく。


この男は本当に素直だ。
とても真っ直ぐで純真だ。
それでいて強い。肉体的にも精神的にも…。
私がいかに矮小な人間だということを思い知らされる。
だけど、あともう少し……。
もう少しだけわがままを許して…。


アニ「もう、いいよ」
あまり長々と情けない格好をさせて誰かに見られたら言い訳が出来ないし、
それに……嫌われたくないからね。


アニ「これ持って」
そう言って、カバンを投げる。
それをエレンは自分のかばんを小脇に抱え、器用にキャッチする。
今日は全教科授業があったから重いよ。
なんて心苦しく思いつつも少し充足感を感じた。


よし、完璧。
私は背を向けて密かに小さなガッツポーズをした。
あとは、速やかにこの場を立ち去り
エレンが追い掛けてくるのを待つだけ。


ずっと長い間、私が追い掛け続けてきたんだから
少しくらい私のことも追いかけてきてよね。
そんなヒロイン願望が強く表に出る。


1歩、2歩と先へ進んでいく。
――そのとき
エレン「ちょっと待てよ!アニ!!」


突如暖かい感触が伝わる。
一瞬、訳がわからなかったが…すぐにその正体に気付く。
エレンが私の手を握ってきたのだった。
彼の手と私の手が触れる。


触れる。
触れ合う――
私がここに存在している。
エレンがここに存在している。
二人で今、この時、この場に一緒にいるという証明。


そんな他愛ない行為ひとつで私の負の感情が全て洗い流されたのだった。
エレンの魔法の手によって…――


―次回予報―

エレン 嘘を付く確率90%
    緊張する確率70%
    神頼みする確率50%
    信者になる確率10%

アニ いらいらする確率60%
   泣き出す確率20%

新しい登場人物が出る確率80%
エレンとアニの関係が発展する確率60%

SSnote行った方がいいよ

こっちに移住したほうがいい
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/subject.cgi/comic/6888/

ここの板は、ちょっとでも気に入らないSSだったら粘着で荒らすカスいるから

>>29
SSNoteの方がマシじゃね?そっちだったらw

エレアニいいね。支援


Eren side
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アニ・レオンハート
太陽に照らされ、眩いばかりの金の髪。
青空をそっくりそのまま閉じ込めたような藍の瞳。
整った顔立ち。しかし、一見すると冷たい印象も与えかねない。
肌の色は透き通るような白でしみ一つない。


制服姿がよく似合っている。
丈の短いスカートはオレから見たら短すぎるような気もするけど
女子にとっては標準値なのだろう。
発育はこの年頃の女子にしては良い方なのかもしれない。
道行く男共の目が彼女の胸に気を取られてしまう程度には…。
そして、それはオレも例外ではない……。


同じクラスになったことは一度もない。
廊下で会ったときは一言、二言話して、さようなら。
そんなただの友達のはずだった。
だけど……。
オレとアニの関係は一変した。
そう――あの日を境に……。


――進撃中卒業式当日

ジリリリリリリリ…――リリリリ―――
けたたましいほどの音が響く。
反射的に腕を伸ばし、近くにある目覚まし時計を止める。
うん、時間…か。
寝ぼけ眼を擦りながらゆっくりと覚醒しきっていない体を起こす。


いつもはもう5分、あと5分を何回か繰り返しているうちにあいつが迎えに来て
おはようと言いながら、およそ女子の力とは思えない力で
布団を引っぺがし、起こしに来るが
今日は特別な日。かねてから計画していたことを実行に移す時だ。


部屋から出て居間へ向かう。

「あら、早いのね。今日は」

朝食の用意をしていた母さんが忙しく動かしていた手を止め
こっちを向いて声を掛けてくる。

エレン「……卒業式だからね」

卒業式をダシに真の目的を誤魔化そうとするが、
母さんは怪訝そうな顔をしてオレの顔を覗き見てきた。


これ以上勘繰られないようにテレビへと視線を移す。
画面は丁度ニュースから占いコーナーに変わったところだった。
占い……かあ。
そんな非現実的みたいなもの別に信じてはいないけど
今日だけは少し肖ってみたい。


そんな心持でテレビの前に座り、画面に集中する。
司会のお姉さんの快活な声で次々と占いの内容を読み上げていくが、
オレの頭には入ってこない。
まず、2位から6位まで――
ない。オレの星座には当てはまらない。
続いて7位から11位――
エレン「………」


残りは12位と1位を残すのみだ。
あれ、もしかして………。
期待と不安が入り混じり、首だけ画面に伸ばしテレビを食い付くように見る。
一言一句聞き漏らさないように今か今かと発表を待っている自分がいた。


ていうか、こんな性格だっけ…オレ。
こんな信憑性のないもの信じて何になる。
まあ、ね。その…あれだ。
卒業式だし……。と自分自身に弁解してみた。
他人が聞いたらどう思うだろうか。


何だそれ!――と鼻で笑われるかもしれない。
しかし、それほどまでに今日は何かに頼りたい気分だった。
何はともあれ、まもなくである……。


1位。
表示された数字が輝き、明るいファンファーレが鳴る。
始めに1という数字を、それから自分の星座を交互に見ては確かめる。
これほどまでに1という数字を嬉しく思った日はなかった。
うん。良い日になりそうだな。
根拠のない自信が胸の奥底で湧き上がるのを感じた。


後ろで画面を見ていた母さんが良かったわねと言う。
なんか含みのある言い方だなあ…と思ったが深く追求はしなかった。
お姉さんが仕事運、金運と内容を述べていく。
そして――恋愛運


――異性に思いを伝えると吉。
気取ったりせずに素直な自分の言葉で接すると
良好な関係を築き、さらなるステップアップのチャンスです――


――つまり
好機は今。
運もオレを後押ししているようだ。
だけど…所詮占い。
されど占い。


うん…。
内容も的を得ていることだし、
今日だけは占いの内容通りに行動してみるか。
もし、今日の計画が成功したら占いというやつを少しは信じよう。
そう心に決め、朝食を済ませ、身支度を整えるため部屋に戻り
ラッキーカラーである赤のTシャツの上に制服を着る。


エレン「少し早いけど、そろそろ行くか」

学校は位置的には家からそう遠くないが歩いていくには時間がかかる。
ましてや、今日に限っては誰にも見つからずに任務を遂行しなければならない。

エレン「よし!」
3年間使ったかばんを肩に掛け、家のドアを開く。
――しかし、ドアを最後まで開くことは出来なかった。


「もう行くの?」

後ろから母さんが不思議そうに尋ねたからだ。
ドアを開くという動作は途中で止まり、体を180度旋回させ
向き合って言う。


エレン「今日は早めに行かないといけない用事があるから……」
一般的な、ごくありふれた言い訳を口にする。

「ミカサも一緒?」

エレン「いや、ミカサには先に行くと伝えてある」

嘘だ。あいつに事前に伝えるとオレがいくら早く家を出ても
待ち伏せし、付いて来る。
まったく、いつまで経っても子ども扱いしやがって。


ふうん。と母さんはこれ以上言及しなかった。

エレン「じゃあ、行ってきます」

「あっ、そうそう…」

「私達も後から行くからね」


了承の返事をして今度こそドアを開け外へ出る。
反抗期だった中1の頃なら、
来るなよ!恥ずかしいだろ――といった辛辣な言葉を並べ母さんを
悲しませていただろう。


しかし、義務教育も終わり
いつまでも子供じみたことを言っているわけにはいかない。
少年から大人への壁を乗り越えて大人の男に近付くんだ。
そう、春からオレは…。
オレたちは――高校生だ。

あいのりの歌に似てる。


ふと気が付けば、アニのことを一挙一動目で追う自分がいた。
クラス替えの度にアニの名前を探している自分がいた。
彼女のことを考えると胸が苦しくて燻ぶってしまう……。
最近では直視したり、目を見て話すこともできない。
スキンシップ――手を握るなんてもってのほかだ。


他の女子には何の躊躇いもなく自然に話せたり、スキンシップできるのに…。
あいつは…彼女だけは、アニに対してだけは……。
こんな不思議な気持ちになるのは初めてだった。
これが恋心だと気付くには少し時間が掛かってしまったけど、
今ならはっきりと言うことができる。――オレの本音を……。


多分。いや、おそらく…
きっと嫌われてはいないはず…。
気持ちを伝えたら友達という関係が壊れてしまうかもしれない。
でも…。
友達以上恋人未満の微妙な関係じゃあ満足できない。


エレン「中途半端は嫌なんだよな…」

ミカサ「何のこと?」

エレン「いや、何でもない」


ミカサ「そう…」

ミカサ「それで話聞いてた?」

エレン「ん?わるい。ぼーっとしていた」

ミカサ「今朝のことだけど――」

エレン「あっ、ほら始まるぞ」

席に戻ったミカサが後で話を聞くから
と声には出さないがそんな表情をした。
オレはわかったよと気怠く視線を返し、式の開始の合図を待った。
ああ、そのうち聞かせてやるよ。
オレの計画が全て成功したらな――


卒業式も終わりを迎え、大勢の生徒が帰路に着く。
ある者は仲間内で話し合いどこへ行こうかなどと相談をしている。
在校生から制服のボタンをねだられたり、写真撮影を所構わず行っていたり
お世話になった先生に挨拶しに行って泣いている生徒もいる。


オレはすれ違う生徒から挨拶されつつ人混みを離れ、一人目的地に向かう。
後輩から一緒に写真を撮らせてくれと頼まれるが、急いでいるからと適当に切り上げ
目的地へ急ぐ。薄情に思われたのかもしれない。
だけど…。
オレにとってはこの後のイベントの方が大事であり、全てだから……。


もういるのかな。
いなかったらどうしようか。
心配になりながらも屋上への階段を一段一段上り
建付けが悪く鍵の掛かっていない片開き扉を開けた。


そして――
そこには手摺に寄りかかり、校門を行き交う人々を眺めながら
物思いに耽っている彼女がいた。
少し改造された制服姿で、そこから覗く生足を交差させ、
金の束を集めたような髪が風に靡き、それを耳に掛けている。
絵になるなぁ。オレは素直にそう感じた。
感じられずにはいられなかった。


後ろから近づくオレにすぐに気付き、アニは振り向いた。
よかった…。
来てくれた……。


エレン「アニ!」

アニ「…エレン」


エレン「ごめん!!」

エレン「オレから呼んだのに遅れて……」

アニ「…別にいいよ」

アニ「制服…」

エレン「ああ、全部持ってかれちまった」

エレン「何が良くてこんなの欲しがるんだろうな」


第二ボタンは卒業式が終了した途端ミカサにすれ違いざまに獲られた。
オレに気付かせないほど鮮やかな手口だった。
誰かに売りつけるのだろうか……。
他のボタンの行方はというと…。
あれよあれよという間に後輩や同年代の女子に持ってかれていった。
そんな訳で今のオレの状態はボタン全開だ。


アニ「わからない?」


アニはなぜ理解できないとでも言いたげに尋ねた。
オレにはやっぱり女心はわからないな……。
一生わかりそうにないかも…。


エレン「うーん……どうだろう」

アニ「…教えてあげようか」

エレン「…たのむ」

アニ「誰でも…誰かの大切な人になりたいってこと…」


誰しもね。
今にも消え入りそうな声で呟くようにアニは言った。
アニもそうなのだろうか……。
もし、その誰かがオレ以外だったら
これから言おうとしている言葉は全て無意味なものになってしまう…。


それでも―
この気持ちを、この想いを伝えずにはいられない。
どこかで聞いた言葉を心の中で唱える…。
勝負を決めるなら今だ!!


エレンイェーガーの人生
一世一代の大勝負
今幕を開ける――
……って、少し大袈裟かな。


アニ「それで…どうしたの」

アニ「私に何か用?」


まずは世間話からしてみようか。
なにしろチャンスは一度きり。
慎重かつ万全を期して望まなければ……。

エレン「知ってるか、アニ」

エレン「巨人の卒業式って中に入りきれないから外でやってるらしいぜ!」

アニ「へぇ…」

エレン「さらに泣き声で校舎の壁に亀裂が入るらしい」

アニ「ふうん……」


エレン「アニは泣かなかったか?」

アニ「…泣いてない」

アニ「ただ、義務教育が終わったなあって感じただけ」

アニ「高校も付属のとこだしね…」

エレン「まあ、そうだよな…」


泣くわけないか……。
あまり感情を出さない、出したがらないアニのことだ。
きっと、ちょっとやそっとのことで他人に涙を見せるはずがないだろう。


アニ「ねえ…」

アニ「そんなことを言うためにここに呼んだの?」

エレン「あ、いや……」


やば。
少し怒ってる…。
そりゃそうだ。わざわざ呼び出した上に世間話って…。
恐らくはアニもこの後、友達と遊ぶ約束とかしていたに違いない。
そんな大切な時間を奪っておいて……。
ふと、頭の片隅にあった今日の占いを思い出す。


――異性に思いを伝えると吉。
気取ったりせずに素直な自分の言葉で接すると
良好な関係を築き、さらなるステップアップのチャンスです――


エレン「うん、そうだな…」

アニ「えっ!?」

エレン「アニ、聞いてくれ」


……………。

………。


アニのことが……。


好き…です――

―――付き合ってください。


やっと搾り出した言葉。
もっと伝えたいことがあるのに…。
何も言えない――
浮かんだフレーズが宙に舞って消えていく。


胸に抱いたこの想いをもっと伝えたいのに……。
何も、…出てこない――


―次回予報―
アニ 返事がOKな確率99% 

ベルトルト 声を張り上げる確率60%
それがアニに届く確率40%

エレン 屋上から叫ぶ確率30%

クリスタ 登場確率 70%
少し黒くなる確率 50%

ミカサ 女子力がアップする確率 70%
女子力=変な能力の確率 40%

乱入者続出確率10%


Annie side
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今日は記念の日。
なんということはない。
ただの卒業式。一行事として執り行われる。
記念すべき日。
私にとって、
世界が変わった日――


エレン・イェーガー。
水も滴るほどのキューティクルの艶のある漆黒の髪。
それに対比した太陽を宿しているかのような瞳。
筋肉のたくましき立派な体つき。しかし、筋骨隆々とまではいかない。
ちょうどよく細く引き締まった今流行りの細マッチョという感じだ。


空気が読めなくて、鈍感で、意地っ張りで、向こう見ずで、バカで、
正義感が強くて、意志が強くて、負けず嫌いで、努力家で、
リーダーシップがあって、優しくて、子供っぽいところがあって、可愛い所もあって、
格闘好き同士で、星座が一緒で、好物が一緒。
そして――私の想い人。
これだけ……。
私がエレンについて知っている情報はこれだけ。


クラスは一度も一緒になったことがない……。
そもそも、ファーストコンタクトは最悪だった。
今じゃあ信じられないかもしれないけど、敵視していた。
些細なことでへそを曲げ、憎しみをただただぶつけていた。


しかし……。
エレンの素直な心に触れ、自分が恥ずかしくなり、同時に次第に惹かれていった。
エレンは覚えてないかもしれないけどね、私の黒歴史。


エレンの巨人に対して憎む気持ちは割合い薄まった。
夢中になれるものが見つかったからかな。
うん、いいことだ。
だけど、
私の恋心は日に日に募っていく一方だった……。


私は…そんなところも含めてエレンが好き。
エレンもたぶん私のこと嫌ってはないはず……。
うん、きっと大丈夫。
少なくとも嫌われてはいないと思う。


ねえ、知ってる――
アニはエレンのことが好きなんだよ……。


――進撃中卒業式当日

「今日の占いは――」
私の一日はいつもここから始まる。
いつも通りの時間に起きて、いつも通りの制服を着て、
いつも通りの時間に家を出る。
それは、さながらルーチンワークのようだった。


今日もまたいつもと代わり映えのしない日常がやってくる。
それが、たとえ卒業式だったとしても私のこの日常が崩れることはないだろう。
そう思っていた。
そう思い込んでいた…。


ただ一つ――
いつもと違っていたのは、私の下駄箱に手紙が入っていたことだった。
しかも……二通。


頭の中に?マークが並んだ。
なんだろ…。
恐る恐る手紙の一枚を手に取り、中身を開く。
――!!
エレンだっ!!


受け取り主を間違えたのではないかと再度確認する。
間違いない――私宛だ。
これは期待してもいいのではないのか。
最近、避けられている気がしていたけど、
もしかして――エレンも私のことを……。


ああ、そうだった。
手紙はもう一枚あったんだった。
うっかりしてた。
もう一枚は…と――


アニ「えっ」
思わず声が漏れてしまった。


頭ん中ぐちゃぐちゃ。
整理しきれない。というかしたくない!
受け止めたくない。
それでも。
かろうじて、我慢して最後まで読んだ。
手紙の内容は――


愛しい君へ
僕はずっと君を見てきたよ。
君が笑った顔も、怒った顔も、悲しんだ顔も僕は見てきた。
だから、僕は君のことを誰よりも知っている。
もし良ければ、卒業式後に実習棟の屋上に来て欲しい。
待ってるから…。
ずっとずっと待ってるから……。
                        BH


読み終わって咄嗟に周囲を見渡す。
今にもこの手紙の送り主が私のことを物陰から覗いている
と思うと身震いを感じた。
何この文面は…。
怖い。怖すぎる。


エレンからの思いもよらないサプライズに気が動転したのか、
あるいは、ストーカー紛いな文面に恐怖を覚えたのか、
「アニ、おはよう」
と、私の少し後方から声を掛けてきた存在に気付かず、
もう一度挨拶されるまで返事をしなかった。


急いでエレンからの手紙を大事に制服のポケットにしまい、
差出人不明のもう一枚の手紙を誰かの下駄箱に押し込んだ。


「どうしたの?慌てた様子だったけど…」

「ううん、何でもない」


声を掛けてきた主は私の友達であり、ライバルでもあるクリスタだった。
ある日好きな男が出来たと言ってダイエットに成功し、
学年一の美少女の名声を欲しいままにしている。
その好きになった男が誰なのか教えることを大分渋っていたけど、
最近こっそりと教えてもらった。


クリスタ「あーあ、これでこの学校ともお別れかあ…」

アニ「…そうだね」

クリスタ「私、高校に入ったらもっとアプローチしようと思うんだ!」

アニ「へえ、…誰に?」

クリスタ「もう!わかってるくせに…」


そう照れたようにはにかむ彼女は同性の私でさえ、
本当に可愛いと思うレベルだ。
男子はこんな子が好きなんだろうな。
おしとやかで物腰も柔らかい女子女子しているこういう子が……。


クリスタ「ねえ、アニ。」

クリスタ「私、負けないから」

アニ「……私も」


…――と言って、
必死に平静を装う。
感づかれてはいけない。
表情にも表してはいけない。
なぜなら――彼女もエレンを狙っているからだ。


エレンは競争率が高い。
モテる、かなりモテる。
当の本人が自覚していないだけに厄介極まりない。
振り回されるこっちの身にもなって欲しい。
そのモテ度は他校からの人気も高く今ではファンクラブまであるほどだ。


そんな訳で改めて宣戦布告された今日この頃だった。
教室に向かいながら席に着くまで高校に行ったら何するか、
終わってからこの後遊びに行くなど、
他愛ない会話をしているうちに
チャイムが鳴り、式が始まる時間になった。


正直、式なんてどうでもいい。
聞こえてくる型通りの祝辞も
耳にたこができるほど聞いた校歌も周りの雑音さえ、どうでもよかった。


私の頭の中では、朝下駄箱に入っていた手紙のことでいっぱいだった。
ストーカーの方はとりあえず置いといて、
――置いといてはいけないんだと思うけど……。
まあ、BHというイニシャルも誰なのか皆目検討もつかないし
無視しておこう。


一方、エレンからは卒業式後に教室棟の屋上に来てくれ――
という内容だった。
まったく、詳しい内容も書かないでただ来てくれってどうなの。
……行くけどさ。
是非行かせていただきますよ。


そして。
体感的にとても長く長く感じた式も無事終了した。
実際には3時間程度だったのだけど、時計の針がいじわるしているのかと
いうぐらい果てしなく遅く感じた。


解散の時間。
時間というものは決まってはないけど、とりあえずの解散。
私はクラスに残っていた同級生にろくに言葉も交わさず目的の場所へ向かう。
別れの挨拶は必要ない。
なぜなら、ここにいる大多数が同じ学校へ行くからだ。
同じクラスになれるとは限らないけど……。


まあ、別れがあるからこそ出会いがある。
引き立つというものだ。
そんな話を今朝クリスタとしていた。
クリスタは寂しがっていたけど、私的にはそれほどでもない。
――いや、まったく寂しくないというと嘘になるが……。
しかし、なるようになるしかないのだからしょうがない。


この後、ビッグイベントもとい
エレンからの呼び出しの後に、
クリスタたちと出掛ける約束をしている。
クリスタはちょっと用事があるから遅れると言っていたし、
ユミルは面白いことしてから行くとか言っていたし…。
これは、好都合だった。


きっと、エレンは遅れてくるだろう。
後輩からボタンせびられたり、写真を一緒に撮ったり…。
まあ、それはしょうがない。
それよりも警戒するべきは……あの女に捕まることだ。
うまいこと躱してよね、エレン…。


たしか…。
遅れてきても、今来たとこ――とか言うことが、
いい女の返し方とか雑誌で見た気がする。
いや、雑誌だっけ……テレビだっけ。
……。


はあ…。
私って女子力足らないな。
こんなんじゃ…――


ん、待てよ。
こうは考えられないだろうか……。
最近私が馴れ馴れしすぎだから、うざくなって
ここに呼び出し、絶縁宣言されてしまうのではないだろうか…。
いや、エレンなら面と向かってはっきり言うだろうけど。


あるいは――
ミカサと結託し、私を陥れるためにドッキリを仕掛けたのではないか。
うぅ、まずい…。
どんどんマイナスのイメージが膨らんでいく。
どうしようかな…。
行くのやめようかな…。


あれだけ浮かれていた自分が嫌になった。
恋愛脳。恋する乙女というのは自分に都合の良い方に改変してしまいがちで
怖いものしらずで――怖い。
一変して、天国から地獄だ。


でも…。
「エレン……」
そうはいっても、やはり期待せずにはいられない。


エレンからの呼び出しが私にとっていいことでも、悪いことでも関係ない。
私の方から告白してやるんだから……。
恋する乙女は無敵ということを証明してやる。


――異性に思いを伝えると吉。
気取ったりせずに素直な自分の言葉で接すると
良好な関係を築き、さらなるステップアップのチャンスです――


「うん、そうだね。大丈夫――私なら」


今朝の占いの内容を思い出し、一人納得したように呟く。
そういえば…エレンも同じ星座だっけ…。  
見たのかなぁ……。
今日のラッキーカラーである紅の髪留め。
気付いてくれるかな。


もう一度独り言を、かみ締めるように言う。
今度は呟かないではっきりと言葉にする。
覚悟は決まった。
そして、屋上へのドアノブを回す。


ガチャリ。


また後日・・・

荒らし撃退グループ入りませんかー?


やっぱりというか、
案の定誰もいなかった。
いや、――いたことにはいた。
……カップルが。
いいさ、待たせてもらおう。


あれから数分……。
私は屋上から校門付近でたむろしている生徒や下校していく生徒を眺めていた。
楽しそうにはしゃいでいるそんな姿に微笑ましく少し羨ましいと感じると同時に
もの悲しさが込み上げてくる。


「卒業するんだな…」
やっと実感が湧いてきたのか、ついこの先のことを考えてみた。
卒業して、高校生になって――その後は。
とりあえず、……大学かな。
そんな風にセンチメンタルな気分に浸っていると……。


ダダッ、ダダダダ――
と背後から階段を勢いよく駆け上がる足音が聞こえた。
その音が徐々に大きくなる。
そして、勢いそのままドアが開かれる。


振り向くとそこには私のよく見知った男の姿があった。
エレン・イェーガー。
いつもの精悍さとは違う神妙な面持ちで、
しかし嬉しそうにこちらへ近づいてくる。


制服のボタンは全て持ってかれたのか、下に着ている白シャツから
真っ赤な肌着を覗かせている。
そう。
そこには私が恋焦がれている男がいた。


私の名前を呼ぶ。
次に遅れたことへの謝罪を述べる。
別にいいのに……。ただ私が一人ではしゃいじゃって卒業式の後、
一目散に来ただけなのに。


うー。
エレンとこういう風に向かい合うことが随分久し振りなようで緊張する。
声上ずってないかな。
大丈夫かな…。


とか思いながら――周りを見渡し、出入口をチェックする。
ここからだとよく見えないが、人影は恐らくない。
カップルはまだいるが、自分達の世界に入り込んでいるため、
気にしないでいいだろう……キスしてるし。


普段は感情で物言うエレンらしからぬ回りくどく遠まわしに
なかなか本題に入らないもどかしさを感じ、業を煮やしてしまう。
雑談に花を咲かすこともできずに――私は不機嫌な声で言ってしまった。


アニ「そんなことを言うためにここに呼んだの?」


私の不機嫌な態度を察したのか。
エレンは少しの間、思考してから真っ直ぐ私の方を向く。
真っ直ぐに目を見つめて――。
真っ直ぐな瞳で――。


そして。
――エレンは言う。
私に対して。
私だけに…。


アニのことが……。


好き…です――


―――付き合ってください。


アニ「…………え?」


アニって……だれ――。
私って誰だっけ。
ああ。そっか、そっか。
エレンはアニという子が好きなのか。


うん。いや……。
――聞き間違いかな。
今アニのことが好きって…聞こえた気が……。
「…………。」

――アニは私じゃん!!


え。
ええええ。
えええええええええ。


アニ「何よ…」

アニ「何よ、何よ何よ何よ――…」


私のことなんて……。
私のことなんか、何とも思っていないと思っていたのに――。
避けられているとすら思っていたのに。
今さら。そんなこと言われたって。
いや――それよりも……。


応え、答え。
返事。
早く言わなくちゃ。


早く、早く。
素直に――素直に。
正直に……。


アニ「やったーーーーーーーーー!!!」

エレン「―――!?」


はっ――。
しまった……。
素直な気持ちになり過ぎたか。


穴があったら入りたい。いや、穴を掘ってそこに住みたい。
恐る恐るチラっと横目でエレンを見る。
しかし、正面で向かい合っているから覗き見ることが出来ずに、
思いっきりお見合いする形になってしまった。


なんだか困惑しているような混乱しているような
とにかく、エレンのそんな表情を見たのは始めてだった。


エレン「…えっと……つまり…」


えーい。
もういいや……。
言っちまえ!!


アニ「ねえ――私のどんなところが好きなの?」


言えたー!!言ってみたい台詞ベスト3!


エレン「どんなところって…」

エレン「……そうだな」


どうやら――
混乱がとけたようだ…。
エレンはすっきりしたような爽やかな笑顔に少しの照れを浮かべながら答えた。

エレン「アニの全て……かな」

言われたい台詞ベスト3。
んーん……。なんでこんなに私の乙女ポイントを付いてくるのよ。
嬉しいけど。――もっと聞いてみたい。


アニ「…具体的には?」

エレン「具体的には……か」

エレン「…言わないとダメか?」

アニ「うん。聞かせて!――ベスト3まで」

エレン「3つも!?」

アニ「………ないの?」

エレン「いや、――ある」


正面に捉え、私の全身を上から下まで隈なく見ながら。
数秒間、考えて――
エレンは口を開く。

まず1つ目。

エレン「褒めたとき照れる顔が可愛くて好きかな…」

2つ目。

エレン「スタイル抜群だし、足が綺麗 (おっぱい大きい)なところが好き」

ん…。なんだか副音声が聞こえた気がする。
幻聴かな。
まあいいや。……3つ目。


エレン「……オレのことが好きなところが好き」

……あ。

エレン「言葉として表現するのは難しいな……」

エレン「うん。やっぱり全部好きだ!」


もうこれ以上好きにさせないでよね。
私をキュン死させる気…。
まったく。まったくもう――。


でも。
でもね――本当に私でいいの?
エレンは私を選んで後悔しないの……。


アニ「いいの?」

エレン「何のことだ…」

アニ「私、ミカサより料理上手じゃないし、器用でもないし…」

アニ「サシャみたいに大食いじゃないし、人懐っこくないし」

アニ「それに――クリスタより可愛くな――」

エレン「そんなの関係ねえ!!」


エレンはそれ以上聞きたくないという感じに私の劣等感に溢れた告白を遮り、
怒鳴るまではいかないまでも力強く言ってくれた。

エレン「オレはアニが――アニだからこそ…」

エレン「好きになったんだっ!」

なったんだっ――なったんだっ――……。
辺りにエコーが響く。
二人してあまりの気恥ずかしさに顔を背ける。


やばい。
私――今、顔めっちゃ赤い。
エレンの顔見れない。


視線をエレンから外し、気付いたことがある。
どうやら、向こうにいたカップルは帰ったようだ。
でなければこんな話なんて出来るわけがない。


反対の校舎の屋上に人影が見える。
向こうでも意中の男子から呼び出された女子が、学園ラブコメよろしく
告白シーンを演じるのだろうか。
ちょっと見てみたい……。


そうして――お互いの顔が見られない状態が続いた後、
先に口火を切ったのはエレンだった。


エレン「まあ、その…これからよろしくな」

アニ「……これからも…でしょ」

アニ「ありがとう。私を選んでくれて――」

エレン「!?…泣いているのか――アニ」


あれ……?
なんで私泣いているの。
嬉しいはずなのに……次から次へと止め処なく涙が溢れていく。

アニ「い、いや――な、泣いてないから……」

もう…私とエレンとの間には距離がない。
枝垂れかかる様にエレンのその大きな胸に顔をうずめた。
可愛いな、とエレンが耳元で囁いて。


エレン「アニが泣き止むまでこうしてるよ…」

アニ「……う」

エレン「今更だけど…その赤い髪留め似合ってるな」

アニ「あ――りがとう……」

エレン「お前がいるとさ、頑張れる気がするんだよ」


一度は諦めかけた恋。
降って湧いたかのような今回のチャンス。
この男を攻略するためには、攻略本が必要だと思ったほどだった。


時間にして数十分足らず、私はエレンと抱き合う形で肩を借りていた。
エレンのなかは居心地が良く、もうこのままずっと温もりに触れていたかった。
もうちょっと余韻に浸りたかったのに…。
しかし……時間というものは残酷である。
本当に残酷だ……。


なかなか止まらなかった涙も大分収まり、
私はクリスタたちとの約束。エレンはクラスの打ち上げの時間が近づいてきた。
この場所は私専用。
と、心の中でマーキングを行い、ゆっくりとエレンから離れる。


エレン「よし、行くか」

アニ「…うん」


そのとき――
春一番という季節はまだ当分先だが、
屋上ということもあり、突然強い風が私を襲う。
その結果、スカートがめくれあがり、正面にいるエレンからは
丸見えの状態になってしまった。


アニ「み、……見た?」

エレン「何のことだよ」

アニ「心理テストをします」

エレン「…えっ」

アニ「私を見ながら、好きな色を思い浮かべて」


エレン「……青」

アニ「やっぱり見たんじゃない!」

エレン「いや、これは…アニの目が青くて綺麗だなと思って」


ふ、…ふうん。
咄嗟の弁解の言葉としては合格ラインね。
それでも、事実は事実。


アニ「私は嘘を付かないエレンが好きなんだけれどなあ」

エレン「……見ました」

正直だ。
言って、ばつが悪そうに目を逸らして雲ひとつない空を仰いで
子供のように少し拗ねている姿が可愛い。


エレン「ぐっ、嵌められた」

アニ「エレンはわかりやすいからね」


まあ、エレンだけではないけど…。
男はみんなそう。目線でバレバレ。
気付かれないとでも思っているのかな。


アニ「他の女子もおそらく勘付くから…」

アニ「これからは気を付けてよね」

アニ「…か、彼女がいるんだから」

エレン「お、おう…善処する」


こんなやりとりがこれからできると思うと
心から嬉しくて嬉しくてしょうがない。
そうして、この場所――進撃中学校の屋上は私にとって…。
ううん。私達にとって――
特別な場所。ナイショの場所となった。
ちなみに心理テストの答えは――
青 = 好きな人、恋人。


次回で回想が終わります

なかなか忙しいため、進みが遅くて申し訳ないです

ここから先の展開は登場人物も増えてきて賑やかになります
どうぞ、目を通すだけでもよろしくお願いします


Another side
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反対側の校舎屋上――

ま、待っていたよ。

……。

き、きょひは…お日柄もよく…。

………。


とにかく…来てくれて嬉しいよ。

何も喋ってくれないのかい?

そ、そっか。緊張しているんだね。

実は僕もだよ……。


お前には私がアニに見えるのか…。


まったくよお。いつまでも待たせやがって――。

心の準備に時間かけ過ぎだろ。普通こんなに待たされたら帰るぞ。

アニなら来ないぜ。教室を我先に飛び出していったからな。

案外、誰かに呼び出されたりして。――エレンとか……。

なんだ、なんだあ。世界の終わりみたいな顔しやがって。

私がここにいることがそんなに変か…ベルトルト。


ベルトルト「ど、どうして…ユミルが」

ユミル「はあ、お前の手紙が私の下駄箱に入ってたんだよ」

ユミル「何を間違ったのか…お前、アニのことが好きなんじゃなかったのか…」

ベルトルト「…そ、そんな。確かに間違いなく入れたはずなのに……」

ユミル「大方…気味の悪い文章に嫌気が差して他の奴の場所に置いたんだろう」

ユミル「ったく。何で私なんだか…めんどくせえ――」


ベルトルト「あれは……ライナーが…」

ユミル「まあ、どうでもいいけどな」

ユミル「大切な時間を潰されたんだ」

ユミル「それ相応の償いはしてくれるんだろうな!」

ベルトルト「な、…なにをすればいいの?」

ユミル「……そうだな。うん、よし」

ユミル「ふはは…ここからアニへの愛を叫べ!!」

あーあ


ベルトルト「なっ!?」

ユミル「元々ここで告白するつもりだったんだろ」

ユミル「なら、ちょうどいい。手間が省ける」

ベルトルト「でも…」

ユミル「ああ――!」

ベルトルト「いや、でも……」

ユミル「30分も待たせて、人違いだから――はい解散なんていくらなんでも虫が良すぎるんじゃないのか」


ベルトルト「そんな…僕は――」

ユミル「わかった、わかった。私の方から言っとくから安心しとけ」

ユミル「お前が――アニのことをストーカーしているってなあ!」

ベルトルト「な――…」
 
ユミル「それが嫌なら今すぐここから告白しろ」

ユミル「もしかして届くかもなあ…アニはまだ校内にいるはずだし」


ベルトルト「……」

ユミル「ほら――いつでもいいぞ!耳の穴かっぽじってるからよ」


僕は―――、のことが――…きです


ユミル「聞こえねえなあ…はいもう一回」


僕は――ニ、のことが――…きです!


僕は、アニのことが…好きだあああ!!


ユミル「おい!もう出て来ていいぞ!」

ベルトルト「えっ!?……ま…」

クリスタ「えへへ…ごめんね。ベルトルト」

クリスタ「ユミルが面白いものを見せるっていうから隠れて見ていたんだけど……」

クリスタ「あんまり面白くなかったね!!」


一方その頃――


エレン「なぁ、アニ…今なんか聞こえなかったか?」

アニ「犬の遠吠えかな」

エレン「こんな真昼間にか…何か人の声に聞こえたんだけどなあ」

アニ「うーん。じゃあ犬の遠吠えの物真似をした人」

エレン「…適当だなあ」


アニ「そんなことより、もうすぐ職員室だね」

アニ「大丈夫?…一人で。一緒に行こうか…」

エレン「いや、一人でいいよ。お前はミカサか」

アニ「うふふ、そうだね。――それじゃあまたね!」

エレン「ああ、また…」


学校からかなり離れた距離――


ミカサ「ん?」

アルミン「ミカサ、どうかしたの」

ミカサ「…負け犬の遠吠えが聞こえた気がした」

アルミン「ほんと?よく聞こえるね」


ミカサ「耳は良いほう」

ミカサ「それより…エレンはまだ!」

アルミン「エレンならエルヴィン先生に挨拶してくるって言ったじゃないか」

ミカサ「それにしては遅い。少し様子を見てくる」

アルミン「ちょっと待ってよ。積もる話もあるだろうし一人にしてあげようよ」


ミカサ「駄目!待てない…」

アルミン「もう…勘弁してよ」

ミカサ「エレンに変な虫がついたら大変――行ってくる…」

アルミン「あっ、行っちゃった……」

アルミン「…知―らない」


―次回予報―

シーンが学校から切り替わる確率80%

エレン アニとの関係が発展する確率90%
エロンになる確率30%
チーハンが嫌いになる確率2%

アニ ドキドキ!お宅訪問する確率80%
借りてきた猫状態になる確率60%
着せ替え人形にされる確率40%
   引越しする確率5%

エレンの親が登場する確率70%
アニの親が登場する確率60%
ミカサの親が登場する確率50%
アルミンの親が登場する確率40%
ジャンの親が登場する確率10%


Eren side
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帰り道

とまあ……そんなこんなで高校生になっても今もオレとアニはラブラブだ。
二人きりの時間は数少なく、
たまにこうやって一緒に帰るくらいだが、会える時間が待ち遠しく、
そして愛おしく感じる。
いつも待たせている身ではあるが、笑顔でアニは迎えてくれる…。
アニはオレのことが大好きだからな。


アニ「それはエレンでしょ!」

詠まれたっ。
しかも…的を得ている。
ときどき鋭いときあるんだよなあ。
女の勘ってやつか、厄介だ。そういえば母さんも……。
ときに――そろそろ機嫌直ったかな…。


だけど、オレはわかる。
気付いてるかな――
アニは不機嫌なとき、オレをあんた呼びすることを……。
普段は名前で、エレンと呼ぶことを…。


したがって、アニは機嫌の悪いふりをしている。
――証明終了。


エレン「アニちゃん…」

アニ「ちゃん……付け」

エレン「ごめんな。待たせてばっかりで……」

エレン「お詫びに何か言うこと聞くよ…」

アニ「ん?今……何でもするって言ったよね」

エレン「あれ?」


うわあ。
目が爛々と輝いてらっしゃる。
口元もゆるゆるに緩み、さっきまでの仏頂面はどこへやら……。
まあいいさ。貴重なアニの笑顔が見られただけで満足だ。


実は――さっき頭を勢い良く下げすぎて見えちゃったんだよね。
アニの下着。
ピンク……か。それも桜よりうっすら薄い。


故意ではないし、たまたま見えただけであって、
スカートを改造して短すぎるから拝めたのであって……。
オレは悪くない。比率でいえば7:3。
訴訟に発展なんかしたら十分敗訴である。
恐ろしい…。


一瞬の出来事とはいえ――
まだ網膜に焼き付いてるかのように強く印象に残っている。
女子の下着というのは、なぜこんなにも男心をくすぐるのだろうか。
普段見ることが出来ない分、レア度のレートが跳ね上がるのだろうか。
さらに他でもない彼女の下着というのはまた違った幸福感がある。
僥倖である。


その代価だと思えば安いものだ――いや、罪滅ぼし…かな。
アニのことだから…そんな無茶な要求はしないと思うし。
そう考え、次に彼女から発せられる言葉を待っていた。

アニ「じゃあ…」

ごくっ。
思わず、身構える。

アニ「私と……」

………。

アニ「デート…しよ……」

去年深夜に同じSSがあったぞ
一度放置したもんをまたここで書くのかよ


ううん?
聞き間違いじゃあないよな。
付き合い始めてから、なんだかんだお互い時間を取れなくて。
それに――近場だと知り合いに出くわす確率が高いからという理由で
今まで一度も申し出を受け取ってくれなかったんだよなあ……。


イエス。イエス。
カモン。カモン。
なんて……喜んでもいられない。
みっともない。


男の風上にも置けないな。オレは――。
しかし、彼女のほうから自ら誘ってくるとは……。


エレン「それは…無理だ、アニ」

アニ「え、だって今……」

エレン「その願いは聞けない」


目がうるうるしている。
今にも泣き出しそうだ。
普段強気な彼女をもうちょっと苛めてみたい気もするが、
ここはぐっと堪える。


エレン「デートはオレもしたいから…この願いは二人の願望ということになる」

エレン「だから――オレから誘わせて欲しい」

もう体裁も何もない。オレは出来る限りの虚勢を張って言う。

エレン「デートしてください……」

アニ「断る理由なんてないよ…」

涙目になりながらも上目遣いで睨んでくる。
なんだこの生き物は――。
やばい、超可愛い。


エレン「はは、そっか」

アニ「もう!びっくりさせないでよね」

エレン「今度…部活休んで行こうか」

アニ「……できるだけ遠くにね」

エレン「遠くね…、学校サボるか」

アニ「あっそれ。なんかいいかも――」


なんて楽しいデートプランを二人で練りながらいつもの帰り道をいつもよりゆっくり
歩いていく。会話はどんどん弾んでいくが、
それとは反対に二人の帰り道の別れも近づいてきた。
このまま帰ってもいいのだろうか。続きは明日にでも話し合えばいい、わかってる。
だけど……一頻り考える。今日のこと、今朝のこと、そしてアニのこと。


エレン「他には何か願いはないのか?」

アニ「うーん。特には…」

エレン「それじゃあ、今度はオレからのお願いだ」

アニ「ちょっと!話が違――」

エレン「オレの家に来ないか…」


Annie side
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どうしてこうなった。
誰か説明して欲しい。
確か…ついさっきまで私はエレンと楽しくおしゃべりしていたはずなのに…
私の家路とは別の帰り道を歩いている。
そんな訳で…今、私はエレンの家へ向かっている途中だ。


横目でエレンを見る。
心なしか嬉しそうに見えるのは気のせいかな。
髪伸びたなあ。男らしくなっちゃって……。
やだ……私おばちゃんみたい。


エレンはエルヴィン先生からボクシングを紹介されてからというもの、元々の運動神経も相まってか、
覇竹の勢いで瞬く間に全国区にまで名前が知れ渡った。
今では、校内、いや地区内で彼を知らない者はいないというくらいだ。
その為、うかつにデートしようものなら瞬く間に噂が広がり、
二人だけの時間が今より削られてしまう。それは嫌!


ヘアスタイルも変え、某漫画の主人公みたいな綺麗なセンターパートにした。
それがとてもよくしっくりしていて、まるで最初からそのヘアスタイル
であったかのようだった。


歩く。エレンの家は学校からそう遠くないが、雲の上を歩いているかのような錯覚に陥る。
この感覚はあの衝撃的な告白されて以来だった。
訂正。エレンと別れた後の帰り道はいつもこんな感じである。
その間、沢山のことを話し合ったが……あまり多くは覚えてはいない。


エレンの家に到着したのはそれから数十分後だった。
郊外から少し離れ、周辺の住宅を圧倒するかのような存在感があり、
庭は隅々まで手入れが行き届きプールも見える。
まるでお城のようなモダンデザインの豪邸だった。


アニ「ねぇ。エレンの親って何やっているの?」

アニ「ひょっとしてお金持ち…」

恐る恐る聞いてみる。

エレン「…その言い方はあまり好きじゃないな」

アニ「あ…ごめん……」

エレン「気にしなくていい。言ってなかったからな」

エレン「父さんは医者で……母さんは――」


ガチャリ――
言うが早いか。
重厚そうな扉から人が現れた。


出迎えてくれたのは、気品漂う女性だった。
綺麗な女性だなぁ。
第一印象から素直にそう思った。


一目でエレンのお母さんだということがわかる。
艶のある髪、端正な顔立ち、瞳の色。
ただ一つ目元が優しそうなふんわりした印象を受けた。

>>138 「破竹の勢い」じゃないか?
もう少し更新速度が早ければ素直に支援と書けるのだが……

まあ良いか支援


カルラ「おかえり――エレン」

エレン「ああ…」

カルラ「ああ、じゃないでしょ。っと――あら、その娘は…」

アニ「あっはい…。あ、アニ・レオンハートとい、申します」

カルラ「ふふ……いいのよ。そんな緊張しなくても…

カルラ「私がエレンの母親、カルラといいます」


カルラ「アニちゃんね…この娘がエレンの彼女?」

エレン「ん、まあ…」

カルラ「こんなところで立ち話もなんだから中に入りましょう」

エレン「わかったよ…」

と、エレンは何の躊躇もなく豪邸に足を踏み入れようとする。
当たり前か…自分の家なんだから。


カルラ「ストップ!」


エレン「なんだよ…ただいまは明日からするから」

カルラ「それは当然。アニちゃんをエスコートしてあげなさいな」

アニ「い、いえ…私は……」

カルラ「ダメよ。男の子は女の子に優しくしてあげないとね」

エレン「へいへい……。アニ、お手をどうぞ――」

アニ「はい…」


私はエレンの手に自分の手を重ねた。
まるでお城の舞踏会に招待されたかの如く、家の中に通される。


カルラ「二人ともお似合いよ!」

エレン「…あ、ああ」

内装も清潔感溢れ、大理石の床にガラス張りの広々とした玄関。
いや、エントランスが広がっている。
吹き抜けになっていて、そこから自然光が差し込み――明るさを演出している。


エレン「しっかし、何で今朝いきなり彼女連れて来いなんて言ったんだ?」

エレン「彼女がいるなんて一言も言ってないのに……」
カルラ「最近やけに嬉しそうだなぁと感じてピンときちゃった」


こんな可愛い娘だとは思わなかったけど
と言って…。
私の方を見る。


カルラ「うふふ。エレンのことだったら全てまるっとお見通しよ!」

カルラ「後でアニちゃんにも教えてあげるわね」

アニ「あっ…はい。よろしくお願いします…」

エレン「ちょっと!アニまでやめてくれよ…」


>>1です

支援ありがとうございます
更新速度のペースはなるべく努力します


開放感のある白を基調としたリビング。高級そうなソファーにテーブル、
無駄が一切省かれ、洗練されたインテリアが並べられている。
キッチンも色と質感を統一し、モダンテイストな空間が整えられている。


カルラ「どうぞ、自分の家だと思ってくつろいでいいのよ」

アニ「はい……」

促されるまま洗面所で手を洗った私はエレンと共にフカフカなソファーに掛け、
カルラさんは夕食の支度のため、キッチンの方へ移動していった。


カルラ「あっそうそう。アニちゃんの好きな食べ物ってなに?」

エレン「チーハン!」

カルラ「それはあんたでしょ…」

エレン「アニも好きなんだよ、な!」

アニ「うん…」

カルラ「わかったわ。腕によりをかけて作るから楽しみにしていてね」


私も手伝うと申し出たが…疲れているだろうから大丈夫だと言い残して
フリルの付いた小花柄の白いエプロンを掛け、調理に取り掛かる。
エレンはソファーにもたれ掛かり早速うとうとし始める。あんたが私を呼んだんでしょと
文句の一つでも言って頬を抓ってやりたいが堪えて、
カルラさんの料理の手際を間近で見るために台所へ行った。


カルラ「あら、アニちゃん。休んでいてもいいのに…」

アニ「いいえ。ぜひ見学させてください」

カルラ「あら、そう。アニちゃんもよく家でお料理するの?」

アニ「はい。お料理は好きです」

カルラ「女子力高いわねぇ…そんなところにエレンは惚れたのかしらね…」


家庭的な女の子がタイプだという事を聞いて、私はもう少し女の子らしくしようと思った。
まずは……料理の腕を磨いて、服装や仕草も女の子らしく。
容姿に関しては女性らしく出ている所は出ているから大丈夫。
だけど、そんな私でいいの。そんな虚像みたいな私を好きで居続けてくれるの?
普段の私を好きになってくれたのに――


カルラ「でもね…、実はほっとしているのよ。あなたみたいな良い娘があの子の傍に居てくれて」

カルラ「ほら、あの子…巨人――巨人っていつも執着していたでしょ」


カルラ「だから…普通の女の子に興味が無いのだって思っていたの……」

アニ「確かに巨人を憎んでいましたけど、最近はそれも弱まってきて――」

アニ「それに……私が好きで一緒にいるだけです」

カルラ「そう言ってもらえて嬉しいわ。アニちゃんこれからもよろしくね!」

アニ「はい――」


そして――瞬く間にテーブルを埋め尽くす程の料理が完成されていった。
言うまでもなく、チーハン以外の料理もとてもおいしそう。
極めつきはチーハン――これでもかとトロッとしたチーズがかかっていて
鉄板の上で肉が踊っているかのようにじゅうじゅうと音を発している。


匂いだけでご飯が食べられるほどだ。
早く食べたいという衝動を抑えきれない。


カルラ「アニちゃんがエレンを起こしてあげて。絶対喜ぶから」

アニ「わかりました……。エレン!起きて」

エレン「う…ん――ああ。アニか、…可愛いな」

アニ「何言ってんの!寝惚けてる?」

エレン「いや……起きてる起きてる」

カルラ「あら、エレンったらどこでそんなこと覚えたのかしら」

エレン「うわっ!?居たのか…母さん」


いただきます。
三人して手を合わせ合唱する。
なんだか家族になったみたい――うん、家族…。

カルラ「本当美味しそうに食べるわね」

アニ「えっ…あ」

カルラ「いいのよ。私も作りがいがあるわ」

カルラ「たくさん食べてね」


噛むたびにあつあつの肉汁が口の中でたっぷりと溢れてくる。
粗びき挽肉とブレンドされた香辛料が絡み合い、折重なり一つになって…
それら全てをチーズが包み込み、喧嘩することなくお互いの風味を引き出している。
おいしい。これが…これがお母さんの味……。


カルラ「どうしたの?アニちゃん…お腹痛いの」

エレン「大丈夫か…アニ、オレの分少しやろうか」

アニ「ううん……そうじゃないの」

アニ「そうじゃなくて……」


自分でも気がつかないうちに、頬が濡れていた。
発生源を指で添える。
俯いたまま――。

私はあまり自分のことを話さない。
たとえ、友達であっても…。
話したくないというわけではない。話す必要がないと思っているから…。


Eren side
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オレは何も知らなかった。
聞こうともしなかった。考えてみればオレはアニのことを何一つ
わかっていなかったのかもしれない。
彼女のこと――アニ・レオンハートのことを。
一番身近にいたのに……。
そして、アニは静かに語りだした。

アニ「私には……お母さんが…いません」


最初からいなかったわけではない。
アニを産んでから程なくして亡くなったそうだ。
幼い娘を残したまま…。
それゆえ――母親との記憶がない。写真とかでは見たことはあるが、
母親の愛情を知らないまま今日まで父親と二人暮らしで過ごしてきた。


だから、彼女は強くあろうとした。父親に迷惑をかけないように。
誰かに頼ることのないように…。


アニ「だから…だから、初めてだったんです」

アニ「…お、お母さんというものを知らなかった…――」

3人とも食事の手を完全に止め、聞き入っていた。
母さんが席を立ち、ゆっくりとアニの方へ歩み寄った。

カルラ「いいのよ…アニちゃん」

カルラ「これからは私のことお母さんと呼んでも――」

泣きじゃくった。
母さんに抱きついたまま声を上げて――
今まで甘えられなかった分、幼子のように…。


人生の半分位は泣いたかと思う。
その間、母さんは何も言わず、ただアニの想いを受け止めていた。
身体的に精神的にも…。オレには何も出来なかった。
ああ…母は強いな。

カルラ「さ、楽しいお食事の時間を続けましょう」

パン!
と両手を合わせて言った。その声はとても明るく
しんみりしたムードを払拭するかのようだった。
アニはオレと目が合い、思い出したかのように恥ずかしくなり
視線をすぐに逸らした。


カルラ「はい、家族――」

カルラ「今日から私たちは家族よ…」

そう言い、グラスを持ち、改めて乾杯をした。
家族に…。

カルラ「うふふ、娘が出来て嬉しいわ」

カルラ「いつでも遠慮なくこの家に来てもいいのよ」

アニ「お、お母さん…」


いい雰囲気だなあ。
オレの割り込む余地なしって感じだ。
まあ、ここは暖かく見守るのが男ってもんだ。


カルラ「よし!食事終えたら私の部屋に来てね」

アニ「えっ…」

カルラ「い・い・か・ら」

先に行って用意してるね、と部屋の場所を簡単に伝え、
足早に出て行った。
残されたオレとアニは顔を見合わせる。


アニ「ねえ、何で呼ばれたの?」

エレン「んー…オレからはなんとも…」

きっとあれだ。
誰彼構わず誘うあの趣味だ。
いつもなら――興味ないね、とか言いたいところだが
今日は見てみたい気がする。

エレン「ま、食べようか。少し冷めてしまった」

アニ「美味しさは変わらないよ」

エレン「そうだな…美味しい」

アニ「ところで…さっき少し分けるって言ったよね」


エレン「聞いてたのか…」

アニ「うん。男に二言はないんでしょー」

エレン「おし――そのかわり、あーんするからな」

アニ「えっ、じゃあやっぱいいや…」

エレン「ダメだ。はい口開けて」

アニ「ん、あ…――ん」

うう、いざやるとなると…なんかこうくるものがあるな。
目閉じてるし、睫長いし、少し赤くなってるし…。


エレン「うまいか…アニ」

アニ「味が…よく、わからない」

アニ「でも、なんかいいかも……次は私から――ね」

食べ終えて、
私もこのハンバーグを作れるようになるから、
と片付けの途中でくるっと振り向いて言ってきた。
まったく、いちいちかわいいやつだ…。


というわけで、現在二人を待っている状況。
特にやることもなく、ただ時間を浪費している。
しょうがない……宿題でもやっつけるかと立ち上がろうとしたとき、
目の前になぜか先生のような姿をしたアニがいた。


アニ「…コホン、どこかわからないところはないかな?」

眼鏡を掛け、白いブラウスに膝上まである黒いタイトスカート。
典型的な教師の服装。
フォーマル、だがそれがまたいい。
化粧もうっすらとされてあり、色気が増している。


普段は厳しいけど問題を解いたら優しく褒めてくれそうだ。
マンツーマンで放課後にでも勉強を教えて欲しい。


屈むとブラウスから覗く胸の谷間が強調され、授業中集中できそうにないな。
ずっと見ていたら気付かれると思いながらも目を離せないでいる自分がいた。

カルラ「うふふ、どう――どう、エレン?」

エレン「どうって……」

カルラ「感想よ」

カルラ「この胸の谷間の加減が絶妙だと思わない。ガン見してたんじゃない」

気付かれてたー。
ということは……とアニを見やる。
うっすらと耳が赤くなっていることが確認できた。


アニ「あんまり…み、ないで」

清楚な服装で身体の突出した部位を隠すように身をよじり、
甘い吐息を漏らしながら貴重な恥らってる姿に興奮を覚えた。

カルラ「さ、どんどん行くわよ。アニちゃん七変化」

そう言うと、また二人して奥に引っ込み、
次の準備を始め出した。
なんというか…もう友達だな。

オレは目に焼きついたアニの教師姿を思い出しながら、
次は何がくるかと楽しみに待っていた。


そして――
登場したのは、レスラー?


水着に比べ…露出度は決して高くはないが、
身体のラインがくっきりと浮かび上がる。
ん、よく見ると…ヒールっぽいな、ヒールレスラー。
できることなら思いっきりコブラツイストをかけて欲しいかも。


エレン「やっぱり、こーゆー強調した服似合うな」

アニ「…恥ずかしい、変じゃない?」

エレン「変じゃない。いつもぶかぶかな服着てるから男に間違えられるぞ」

カルラ「あんたはいっつも一言余計なのよ!」

カルラ「せっかくのスタイルなんだから見せつけていきなさい!」

カルラ「エレンが嫉妬するくらいにならないとね…」

茶化すように、それでいて半分本気で楽しそうに笑う。


アニ「嫉妬…」

カルラ「エレンの嫉妬姿見たくなあい?」

いやいや…見たくないから。
とアニに眼を向ける。

アニ「見たい……かも」

カルラ「そうよね。次、これなんてどう?」


母さんが言って着て出てきたのが、
普段ならあまり見たくないところである、警察官。


それでも、オレの眼を惹きつける魅力を備えていた。
こんな婦警になら逮捕されてもいいかな、と思えるほどに…。
制服を着崩すことなく凛と着こなしている。
露出はミニスカ要素以外ほとんど皆無だ。さすが母さん分かっている。

カルラ「つかみはバッチリ。そこで決め台詞よ」

アニ「あ、あなたの心を逮捕しちゃうぞ!」


言って、アニは指差ししたまま石のように固まった。
というか古っ、この言葉のチョイス絶対母さんが言わせたに違いない。
硬直を続けるアニをよそに母さんが呑気に言う。

カルラ「一日署長とか似合いそうじゃない」

その後も続いた、メイド、浴衣、巨人等々。
中には宇宙人というものもあった。よくそんな服揃ってるな…。
本人も結構ノリ気で楽しんでいる様子なのでよしとしよう。
いや、オレが一番楽しんでいるかもしれない……。


カルラ「…と、もうこんな時間ね」

カルラ「エレンはどのアニちゃんが一番可愛かった?」

エレン「あー、個人的にはナースかな…」

正直に答える。
事実、アニのナース姿は入院してでも拝む価値があると思った。
純白の白衣に身を包み、さながら現世に舞い降りた天使。
コスプレとは感じられないほど、自然な感じで
とにかく似合っていた。


診察しまーす。と言った瞬間、魅力が8割増し。
ぜひお願いしますと即答しそうになった。

カルラ「お望みとあらば、もっと刺激的な服もあったんだけどねえ」

カルラ「アニちゃんが激しく拒否するものだから、ねえ」

アニ「当たり前です。あんな、あんな…破廉恥な」

一体、どんな服なのかオレの想像力に乏しい頭では検討もつかないが
きっと…オレの想像の斜め上なんだろうな。


カルラ「アニちゃん、疲れたでしょ。お風呂入ってく?」

カルラ「私と入る?――それともエレン」

何なんだその二択は…。

アニ「いえ…もう、遅いので」

カルラ「あら…あらあら、もうこんな時間。楽しいときは過ぎるのも早いわね」

カルラ「そうね。お父さんが帰ってきたら面倒くさくなりそうだから」

カルラ「エレン、アニちゃんを送ってあげなさいな」


言われるまでもなく送るつもりだ。
反論しようとしたが、無駄な討論になるだろうと思い辞めた。
それに、アニがいる前でこれ以上恥をかくわけにはいかない。

エレン「じゃあ、行こうか。後ろ乗ってけよ」

アニ「背中に?」

エレン「なんでだよ!自転車にだよ」

アニ「えー」

カルラ「えー」


母さんまで…。二人して同盟でも組んでるのか。
別れ際、母さんがチーハンを持たせアニに対しいつでも遊びに来てもいいのよ。
とそんな事を言った気がした。

アニ「んー、つかれたー」

エレン「着せ替え人形並みに着替えさせられたからな」

送る道中――
他愛のない話で盛り上がった。
もうすぐ文化祭だ。催しものはなにがいいか。
そんな取り留めのない会話だ。
月に照らされた二つの影が夜道を疾走する。
しかし、決して速度は速くない。風切り音で会話が遮られない程度の速さで
夜道を疾走していった。


アニ「カルラさんってファッションデザイナーだったんだね」

エレン「元だけどな…」

アニ「今度私にも服をデザインしてくれるんだって」

そう興奮気味に話すアニは何だか子供っぽかった。
あまり感情を顔に出さない彼女にとって今日の事は彼女の中の
なにかを変えたようだ。
こういう打ち解けた感を感じられることはこの上のない進歩だと思った。


また明日学校で…と別れを告げ再び家路に着いた。
曲がり角まで進んでからふと後ろを振り返るとアニがまだ家に入らずに手を振り続けていた。
……そんなこんなで。
この日、アニの自宅の住所を始めて知った。


―次回予報―

アニ
気分が曇りのち晴れの確率 60%
寝間着のまま学校へ行く確率40%
ミカサに喧嘩売られる確率20%
そして勝つ確率10%

エレン
登場する確率 30%
ずる休みする確率15%

新キャラが登場する確率 90%
それがサシャの確率70% 芋を食いながらの登場確率20%
女子たちの闘いが始まる確率 60%
ジャンにラブロマンスが生まれる確率 7%
ベルトルトに春が訪れる確率 5%


最近、忙しかったためなかなか更新できませんでした。

また通常運転で再開させてもらいます

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              l l '''''''''''''''''''''''''''''''''''''' ̄l |             |

http://y2u.be/z2qK2lhk9O0


Annie side
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席順はアニメ版進撃中学校参照

「今日エレンいないの?」
誰かが言ったこの言葉で教室がざわついた。

私は自分の席でいつものように頬杖をつき、窓の外を眺めていた。
眺めていた…というのはちょっと違うかな。意識していたわけじゃないし。
どちらかといえば時間を潰していたという表現が正しいかな。
特に今日のような日には…。
とはいえ、私はこの時間が好きだ。窓際の席でひとり黄昏れる
そんなひととき。


クラスメイトの話し声が遥か遠くから聞こえてくるような不思議な感覚。
まるで…身体はちゃんと椅子に座っているのに心はどこか遠くにあるかのようだ。

……つめた。
微小の粒が頬に触れ、ようやく気付いた。
そういえば、天気予報ではこれから雨が降ると言っていた気がする。
朝から空が雨雲に包まれていたのに関わらずすっかり忘れていた。
雨の日はどうしてなのかな。少しセンチメンタルになってしまう。


乙女チック。
そう捉えられたらどんなにいいことか。
ただ、雨の日は嫌なことを思い出してしまう。

窓に当たる雨粒の音が強くなってくる。
私は名残惜しくもあるが風邪を引いたら元も子もないので窓を閉めた。

今日は文化祭の実行委員長決めだ。
特に私には関係のない事柄。傍観者としてこの場にいるだけ。
時間が過ぎ去っていくのをただ黙って待っていればいい。
そういうことは誰か他にやる気のある人に任せればいい。
それでなくても今日はあまりコンディションが良くはないのだから。


多数決。じゃんけん。あみだ。各種ゲーム。
何かを決めるときは大抵これらを行使して物事を進めていく。
絶対的な基準がない状況で誰もが納得できる決め方はまずあり得ないと知りながらも。

私達は、私は…
否応なく従えさせられる。奴隷のごとく。
まるで呪縛のように…。

さて最初は立候補から。
「やりたい人は挙手を――」
先生の声が教室中に響く。
男子一人、女子一人の組み合わせで実行委員は決定される。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月29日 (木) 19:08:52   ID: rn5YPlgY

期待!!このSS楽しみにしてたから再開されてものすごく嬉しい!

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