魔女「キモメンが、仲間にしてほしそうに勇者を見ている……」(1000)

きっかけは、勇者の仲間選びが原因だった。

この日を境に、ある男が勇者の周りによく出没をした。

仲介者「旅の仲間は、どんな人が良い?」

勇者「俺と同じくらいの若い人限定で」

仲介者「ええ、了解したわ」

キモメン「……」

後に、勇者の仲間に選ばれなかったキモメンは、幾度もなく勇者の前に出没。

そのキモメンの事を完全に無視し、勇者達は魔王との最終決戦に備えたのだった。

~王都・酒場~

勇者「……」モグモグッ

戦士「……」モグモグッ

魔法使い「……」モグモグッ

僧侶「……」モグモグッ

キモメン「……」ジーーッ

盗賊「……」モグモグッ

武闘家「……」モグモグッ

賞金稼ぎ「……」モグモグッ

商人「……」モグモグッ

キモメン「……」ジーーッ

魔女「……?」チラッ

魔女「ねぇ、勇者。なんか変な人がいるけど……」

魔女「あのまま、放置しといていいの?……」

勇者「ああ、まあな」

魔女「けど、ずっと勇者の事を見つめてるやよ……」

魔女「あのキモイおじさん、一体何なのよ?……」

勇者「さぁ、何も解らないな」

戦士「ああ、そっか。お前は知らなかったんだったな」

戦士「あのおっさん。俺と勇者が知り合った時から、ずっとつけてくるんだ」

魔女「!?」

戦士「おまけに、チビでデブでハゲで不細工だ」

戦士「俺達の様な成人したばっかの若いパーティに入ろうとしている自体、おかしいんだよ」

盗賊「ああ、そうだな」

魔女「でも、何でまた?……」

魔女「せめて、話だけでも聞いといてあげたら?……」

勇者「その必要もない!」

魔女「……」

盗賊「それに、あいつ何を聞いてもずっと黙ったままだ」

盗賊「魔法使いが色々な言語を試してみたが、どれもかしこも通じなかったんだよ」

魔女「じゃあ、それが原因なの?」

魔女「なんか、勇者の周りには最初の頃に沢山いた女の子達が消えたのは」

勇者「ああ、あいつの所為で俺のハーレムが完全に崩壊した!」

勇者「皆、気味悪がって俺のパーティから抜けたんだよ!」

魔女「……」

キモメン「……」ジーーッ

勇者「とりあえず、お前も注意しとけ!」

勇者「俺は、お前にまで逃げられたくない!」

魔女「……勇者」

魔女「けど、私はただ単に師匠からのお使いでここに来ただけだし……」

魔女「だから、私も勇者の仲間になるのはちょっと無理かな」

勇者「!?」ガーーン

戦士「まぁ、当然の結果だわな……」

戦士「あんなのに付き纏われていたら、たとえ俺が女でも逃げ出すよ……」

魔女「……ごめん」

戦士「それに、あいつは大賢者様曰く勇者キラーだ」

戦士「あいつが流した噂が原因で、過去に何人もの勇者がそれに苦しめられているらしい」

魔女「え?」

僧侶「戦士。その話は止めといた方が」

僧侶「その話を、魔女の前でするのはどうかと思います」

戦士「けどなぁ……」

武闘家「戦士。お前の気持ちも解らなくはない」

武闘家「所詮、あいつは自分自身を仲間に選ばなかった勇者の事を逆恨みしているだけの暗根な男」

武闘家「人と人での会話がろくに出来ず、紙に書いた他人の悪口を町から町へとばら蒔くのが大好きなだけだ」

魔女「でも、それが原因で何人もの勇者が過去に被害に遭ってるんでしょ?」

魔女「だったら、何であいつは捕まんないのよ?」

武闘家「さぁ、解らんな」

勇者「逆に、俺が聞きてぇよ……」

戦士「ああ、そうだな……」

魔女「……」

魔法使い「まぁ、お前は何も知らない方が良い」

魔法使い「帰ったら、師匠によろしく言っといてくれ」

魔女「ええ、了解したわ」

勇者「魔女。俺は、お前にまで逃げられたくない!」

勇者「お前にまで逃げられたら、また伯父さんや従兄弟達の様になってしまう!」

魔女「え?」

戦士「勇者。もうその辺で止めとけ!」

戦士「魔女が困ってるだろ!」

勇者「だが……」

戦士「お前の先祖や親類、あいつの所為で死んだんだろ?」

戦士「時には、“味方殺し”だとか“腰抜け野郎”とか言われてた!」

戦士「だから、今のお前はあいつの流す悪評に打ち勝つ様にしないと駄目なはずだ!」

勇者「すまん、戦士。俺が間違ってた」

勇者「魔女も、食事が済んだらもう帰っても良い」

魔女「……ええ、了解したわ」

勇者「それと、食事が終わればすぐに町を出るぞ!」

勇者「今の俺達には、あいつに構っている程の時間はない!」

勇者の仲間達「おう!」

魔女「じゃあ、私はもうこれで失礼させて貰うわ」

魔女「ここに、私の分のお代を置いてくわね」

スッ、ジャラジャラ……

勇者「魔女。気を付けてな」

勇者「大魔導師様にお会いしたら、後もう少しで終わると伝えといてくれ」

魔女「ええ、またね」ニッコリ

スッ、ムクッ……

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

勇者「はぁ……」ガクッ

勇者の仲間達「……」

キモメン「……」ジーーッ

戦士「とりあえず、後で娼館に行くぞ」

戦士「今のお前は魔女にも逃げられたんだ」

戦士「だから、好きなだけ娼婦抱いといても良いぞ」

勇者「ああ、了解した……」

スッ、ゴクゴクゴクッ……

キモメン「……」ジーーッ

本日分、終了。

勇者一行がむやみに人を殺せば問題になるので、それはちょっと無理です。

~王都・酒場前~

魔女(なんか、悪い事をしちゃったかな?……)

魔女(勇者には悪いけど、あんなのが一緒だったから……)

魔女(そりゃあ、私だって勇者と共に旅に出たいわよ……)

魔女(けど、あんなのが一緒にいたらなぁ……)

魔女(はぁ……)

魔女(でも、何で勇者はそこまで恨まれているの?……)

魔女(あいつ、一体なんなのよ?……)

魔女(勇者。本当に大丈夫かしら?……)

魔女(なんか、かなり不安になってきたわ……)

魔女(一応、師匠にも報告をしといた方が良いのかしら?……)クルッ

「あら?」

「魔女。そこで何してるの?」

「店、入るのなら入ったら?」

魔女「え?」クルッ

女僧侶「魔女。入らないの?」

女僧侶「そこにいたら、通行の邪魔になると思うけど」

魔女「ええ、そうね……」ソソッ

女僧侶「それで、どうかしたの?」

女僧侶「魔女が、こっちに来るのも珍しいわね」

魔女「実は、今さっきまで勇者と会っていたのよ」

魔女「そしたら、勇者の事を付き纏う変な人と遭遇しちゃって」

女僧侶「ああ、そうなんだ……」

魔女「どうしたら良い?」

女僧侶「あの人、まだ諦めてなかったんだ……」

女僧侶「大賢者様曰く、120年くらい前からずっとあの調子らしいんだけど……」

魔女「!?」ガーーン

女僧侶「まぁ、そう言う事だから魔女もあの人には関わらない方が良いわよ……」

女僧侶「前に勇者と一緒にいた女の子達全てが、勇者との関係を悪くしちゃったし……」

女僧侶「だから、魔女も勇者とも距離を置いた方が良いわよ……」

魔女「……そう。そうなの」

魔女「あの人、そんな前から歴代の勇者に付き纏ってたんだ……」

女僧侶「……ええ、そうね」

魔女「私、勇者の事をなんとかしてあげたい……」

魔女「一体、誰に言えばなんとかして貰えるのかな?……」

女僧侶「さぁ、私にも分からないわ……」

「だったら、大魔導師様にでも相談してみたらどうだ?」

「そうすれば、すぐにも解決すると思うぞ」

魔女「え?」クルッ

女僧侶「あっ、女騎士達……」

女騎士「よう、魔女。久し振りだな」

女騎士「今日は、大魔導師様の使いか何かか?」

魔女「ええ、そんな所よ」

魔女「女騎士達はどうしたのよ?」

女騎士「私達は、勇者がこっちに戻ってきてるって聞いて、少し様子を見に来た」

女騎士「そしたら、勇者は留守だったらしくてな」

女騎士「仕方なく、私達はどこかで昼食を取ろうと王都の中を徘徊」

女騎士「それで、お前達とこうして出会った訳だ」

魔女「それなら、勇者は今私達がいる店の中にいるわよ」

魔女「私、勇者と今さっきまで一緒だったから」

女騎士「おおっ、そうなのか!」

女僧侶「けど、勇者の背後にはあいつがいるみたいよ」

女僧侶「あのおじさん。未だに勇者の後を付け回してるみたいだから」

女騎士「……何?」

武闘家妹「ねぇ、女騎士。どうするの?」

武闘家妹「勇者と会ってくの?」

女騎士「ああ、勿論だとも!」

武闘家妹「だったら、私も行くわ!」

武闘家妹「せめて、魔王城に向かう前に兄さんの顔も見ときたいから!」

女騎士「ああ、そうだったな!」

スッ、ガチャ……

カランカラン……

勇者「む?」

女騎士「おおっ、勇者。良い所に!」

女騎士「私、今日はお前の事を探してたんだぞ!」ニッコリ

勇者「……女騎士」ピカァ

武闘家「勇者。早く出てくれ」

武闘家「どうやら、俺の妹もいる様だ」

勇者「ああ、すまん」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

クルッ、ピタタタタタタタタッ……

武闘家妹「兄さん。やっと会えた!」

武闘家妹「もう、何で帰ってるなら帰ってるって、連絡をしてくれなかったのよ!」ギロッ

武闘家「ああ、すまんすまん……」ビクッ

女僧侶「勇者様。お久し振りです」

女僧侶「勇者様のお元気そうなお姿を見て、私安心致しましたわ」ニッコリ

勇者「……女僧侶」ウルッ

商人「勇者。ここでは人が多い」

商人「どこか、ゆっくりと話せる場所に移ろう」

賞金稼ぎ「だったら、あそこでもう良いじゃねぇか」

賞金稼ぎ「あそこで娼婦でも抱きながら、ゆっくりと今後の話でもしようぜ」

勇者「ああ、了解した」

魔女「……え?」

女僧侶「では、そろそろ向かいましょうか?」ニコニコ

女僧侶「私が、上に掛け合って一部屋貸しきりにさせて頂きます」ニコニコ

賞金稼ぎ「おおっ、そりゃあ有り難いわ」

女僧侶「勇者様。後で、私が嫌と言う程とお相手の方をさせて頂きます!」ニコニコ

女僧侶「さぁ、早く参りましょう!」ニコニコ

勇者「ああ、了解した」スッ、フキフキ……

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

キモメン「……」ヌッ

スッ、バタン……

魔女(本当に、これで良かったのかしら?……)

魔女(と言うか、娼館の中で作戦会議って、かなり斬新だわね……)

本日の分、終了。

~王都・娼館前~

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

魔女(ここが、娼館か……)

魔女(勇者達、本当にここに入ったんだ……)

キモメン「……」ジーーッ

武闘家妹「あっ、魔女。何してたの?」

武闘家妹「もう皆、入ってるよ」

魔女「ごめん」

武闘家妹「後、後ろの人は入れなくて良いんで!」

武闘家妹「魔女。早くこっちに来て!」

男性店員達「ああ、了解した」

スッ、ガチャ……

男性店員「どうぞ」

男性店員「さぁ、早く!」

男性店員2「……」ジーーッ

キモメン「ちっ……」

武闘家妹「……」ニヤッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スッ、バタン……

男性店員「……」

男性店員2「……」

キモメン「……」

~娼館・1F食堂~

魔女(ふぅん。ここが娼館かぁ……)

魔女(なんか、思ってたのと全然違うわね……)

女僧侶「マスター。XX教会の者です」ニコニコ

女僧侶「少しの間、一室を貸し切りにしたいのですが」ニコニコ

店主「ええ、構いませんよ」ニッコリ

女騎士「おいっ、なんかあっさりしてるな」

女騎士「普通なら、そのまま断ると思うんだが」

店主「いえいえ、そんな事はございません」ニコニコ

店主「ここ、実はXX教会が運営しているお店でして、以前から教会関係者の方が多いんですよ」ニコニコ

女騎士「!?」ガーーン

魔女「そうだったの!?」ガーーン

女僧侶「まぁ、表立っては言えませんけどね」ニコニコ

女僧侶「じゃなきゃ、王都にいる娼婦全てが追い出されてますよ」ニコニコ

店主「ええ、そうですね」ニコニコ

女僧侶「ですから、勇者様達は何もご心配はございません」ニコニコ

女僧侶「ここなら、あのお方も入り込めないでしょうね」ニコニコ

魔女「あっ……」ビクッ

魔女(なんか、私見ちゃいけないものを見た様な……)

魔女(あれ、明らかにレ〇プされた後の様な人達が倒れてんだけど……)

娼婦達「……」グッタリ

女僧侶「マスター。あそこでふて寝している人達を、すぐに片付けて下さい」ニコニコ

女僧侶「今から、勇者様との大事な作戦会議がありますから」ニコニコ

店主「はい、ただいま」ニコニコ

武闘家妹「兄さん。ここ相変わらずの盛況振りだね」

武闘家妹「私、ここには久し振りに来たんだけど」

武闘家妹「やっぱり、エルフの里からレンタル移籍して貰ったハーフエルフの娼婦って、かなり人気なのね」

武闘家妹「あのまま、誰のか全く分からない赤ちゃんを、また産まされちゃうのかな?」

武闘家「ああ、そうだろうな」

魔女「!?」ガーーン

店主「とりあえず、そこの武闘家兄妹も手伝ってくれ」

店主「この分だと、すぐにまた新しいお客さんが来てしまうから」

武闘家妹「はい」

武闘家「行くか」

店主「勇者様。暫しお待ちを」

店主「今2Fの個室を、清掃していますので」ニッコリ

戦士「勇者。どうかしたか?」

戦士「何か、気になる事でもあるのか?」

勇者「ああ、ちょっとこの壁に貼られた紙が気になってな」

勇者「つい先日、エルフの里が北大陸全域を制圧した」

勇者「おまけに、今後はエルフ王国を名乗るらしい」

戦士「へぇ……」

魔女「ああ、その紙なら私も見たわ」

魔女「ウチの師匠、かなり驚いていたから」

勇者「え?」クルッ

魔女「なんか、ウチの師匠は若い頃に出会ったエルフに特別な思い入れがあるらしくってね」

魔女「今でも、旅先でエルフを見掛けては誰かの事を必死に探してるみたい」

勇者「へぇ……」

戦士「けど、その紙がどうしたんだよ?」

戦士「エルフが北大陸を制圧したぐらいで、何が問題なんだ?」

魔女「ええ、そうね」

賞金稼ぎ「お前、それが何を意味するか分からないのか?」

賞金稼ぎ「北大陸に住む全ての人間まで、エルフによって皆殺しにされたんだぞ!」

戦士達「!?」ガーーン

僧侶「それに、皆殺しにされたのは人間達だけではありません」

僧侶「北大陸に住む全てのモンスターも対象となっていたのです」

戦士「なら、人間に多少の犠牲が出るのも仕方ねぇだろ」

戦士「エルフは、昔から永世中立だ」

戦士「魔王軍に制圧されるくらいなら、エルフに制圧された方がよくねぇか?」

僧侶「……戦士」

賞金稼ぎ「お前、本当に頭悪いなぁ……」

賞金稼ぎ「エルフの里は、自らの欲に狩られて北大陸を武力で制圧したんだ!」

賞金稼ぎ「その際に、何の罪もない大勢の人間達ですら、ただ一方的に虐殺!」

賞金稼ぎ「その上、エルフは魔王軍とも何らかの同盟を結んでた!」

賞金稼ぎ「そうじゃなきゃ、今俺達のいる中央大陸以外が全て制圧されてる訳ねぇだろ!」

戦士「何!?」

僧侶「だから、今のエルフはかなり危険なんです!」

僧侶「下手したら、魔王軍以上に厄介な相手になるかもしれません!」

僧侶「過去に、エルフ達は長年対立をしていたはずの氏族を全て纏めました!」

僧侶「その結果、北大陸に住む人間達は一人残らず全滅!」

僧侶「それと同時期に、南大陸の方では魔王軍が大規模な侵攻をして、全ての地帯を制圧していたそうです!」

戦士「……」

賞金稼ぎ「まぁ、そう言うこった」

賞金稼ぎ「少しは、自分の頭の悪さを自覚したか?」

戦士「ああ、まあな……」

賞金稼ぎ「勇者。エルフはどうする?」

賞金稼ぎ「お前は、エルフとも戦を始めるのか?」

勇者「は? する訳ねぇよ」

賞金稼ぎ「じゃあ、俺達は魔王軍との戦いに集中しようか」

賞金稼ぎ「今、魔王軍の連中はどの辺りにいるんだ?」

魔女「確か、師匠が言うには南大陸のどこかにある魔王城にまで全て撤退した」

魔女「そこで、勇者を上手く討ち取ろうと企んでんじゃない?」

賞金稼ぎ「へぇ……」

魔法使い「相変わらず、師匠はどこから情報を得てくんだか……」

店主「勇者様。清掃の方が完了致しました」

店主「これより、お部屋にまでご案内します」

勇者「ああ、すまない」

女僧侶「では、行きましょうか?」

勇者「皆、行くぞ」

勇者の仲間達「おう」

店主「皆さん。足元にだけは注意して下さいね」

店主「すぐそこに、階段がございます」

店主「それと角度が急ですので、どうかお気をつけて」

勇者「ああ、了解した」

クルッ、スタスタスタッ……

ギシギシギシッ、ギシギシギシッ……

本日の分、終了。

~娼館・2F個室~

しばらくしてーー

勇者「よしっ、これより作戦会議を始める」

勇者「本日は、よく集まってくれた」

勇者「皆の協力のおかげで、後は魔王城を攻略するだけだ」

勇者「本当に、皆には感謝している」

勇者「では、現在の魔王軍の状況を確認しようか?」

勇者「女騎士。魔王軍は今現在どの位置にいる?」

女騎士「知らん」

勇者「なら、魔王軍の現有兵力は?」

勇者「それについての情報は入ってはいないのか?」

女騎士「ああ、まあな」

魔女「じゃあ、勇者達のレベルは今いくつぐらいなの?」

魔女「勇者達は、それなりにレベルは上がってるんでしょ?」

勇者「ああ、まあな」

戦士「現在、俺達8人のレベルは65」

戦士「だが、連戦続きで武器や防具がボロボロになっちまったよ」

魔女「ああ、そうなんだ……」

勇者「なら、女騎士達のレベルは?」

勇者「そこの所も、一応聞いておきたい」

女騎士「今現在、ここにいる女全員のレベルは5だ」

女騎士「この分じゃ、とても勇者達の力にはなれないな」

勇者「……」

勇者の仲間達「……」ザワザワッ

勇者「では、次に行こう」

勇者「商人。今現在のアイテムの保有量は?」

勇者「俺達、すぐにも出発は出来るのか?」

商人「残念だが、それは無理だ」

商人「ここ最近、回復剤と携帯食の在庫が品薄状態みたいでな」

勇者「……」

戦士「じゃあ、武器や防具の方も駄目なのか?」

戦士「いくら何でも、武器や防具ぐらいは手に入るだろう?」

商人「すまん。それ自体も無理な状態だ」

商人「ここ最近、南大陸にモンスター狩りをする連中が増えててな」

商人「そいつらが、各地で武器や防具等を買い漁ってる」

商人「少なくとも、一月くらいはずっとこの状態らしい」

勇者「はぁ、武器も防具も品薄かぁ……」

勇者「その上、回復剤も携帯食も品薄ときたか……」

勇者「これ、本当にすぐ行けるのか?……」

勇者「もたもたしてたら、魔王軍に完全撤退されちまうぞ……」

女騎士「そう言われてもなぁ」

武闘家妹「実際、魔王軍との戦争状態なんだから仕方ないでしょう」

戦士「けど、すぐに行かなきゃ魔王に逃げられるぞ!」

戦士「せっかく、俺達は苦労して四天王を撃破したんだからな!」

魔女「じゃあ、何であんた達は引き返してきたのよ?」

魔女「ここじゃなく、連合軍の拠点に行けば良かったじゃない?」

魔女「まさか、連合軍の拠点はもう既に壊滅したとか?」

魔女「それとも、ろくに満足な補給が受けれなかったから、ここまで引き返した訳?」

勇者「魔女。今回ばかりは仕方ないんだ」

勇者「南大陸に上陸をした連合軍は、負傷者がかなり多かったからな」

魔女「でも、少しくらい連合軍も融通をしてくれたって良いでしょ?」

魔女「わざわざ、勇者一行がこうして引き返してこなくても」

魔女「勇者。あんたそれぐらい考えときなさいよね」

魔女「実際、ここに戻ってくるなら、一人か二人で良かったでしょうが」

戦士「まぁ、今のお前の意見も最もだ」

戦士「俺だって、あの場からは引き返したくはなかった」

戦士「けどな、ろくに補給も出来ずに武器や防具も完全にボロボロ」

戦士「おまけに、連合軍ですら負傷者が多数出ている状態だ」

戦士「そこへ、俺達が連合軍に補給を要請しても、確実に無理だ」

戦士「それで仕方なく、俺達は南大陸からの撤退を余儀なくされたんだ」

魔女「なら、今足りない物はなんなのよ?」

魔女「私達の今の手持ちじゃ、大した物にもならないわよ」

魔法使い「魔女。お前、回復剤はいくつある?」

魔法使い「出来れば、回復量の多い奴が欲しいんだが」

魔女「ええ、ちょっと待ってね」

スッ、ガサゴソッ……

女騎士「じゃあ、私達のも出してやるか」

女騎士「少しは、勇者達の足しにはなるだろう」

勇者「おおっ、すまん」

女騎士「武闘家妹、お前も出してやれ」

女騎士「下手したら、お前の兄とはここで今生の別れになるかもしれんからな」

武闘家妹「うん」

魔女「ごめん、勇者。これだけしかない……」

魔女「これだけなら、どれぐらいの足しになる……」つ回復剤(小)

勇者「……」

女騎士「私も、魔女と同じだ」

女騎士「なんたって、これだけでも十分な量だからな」つ回復剤(小)

勇者の仲間達「……」

武闘家「妹、今度はお前だ」

武闘家「出来れば、お前くらいはまともな回復剤を出してほしい」

武闘家妹「ごめん。私、思えば回復剤すら持ってなかった」

武闘家妹「だって、ここ最近は僧侶に回復して貰ってたし」

女僧侶「ええ、そうでしたね」

武闘家「……」ガクッ

商人「はぁ、俺一回実家帰るわ……」

商人「親に頼んで、勇者一行に回復剤とかを優先的に回して貰える様に頼んでくる……」

賞金稼ぎ「じゃあ、俺も……」

僧侶「女僧侶。上に掛け合って回復剤等を手に入れる事は出来ませんか?」

僧侶「教会の方なら、最低限の物資が残っているはずでしょう」

勇者「どうなんだ? 女僧侶」

女僧侶「残念ですが、もうそれも既にありません」

女僧侶「教会に保管してあった回復剤等は、全て連合軍拠点に輸送した後ですから」

勇者一行「!?」ガーーン

女僧侶「ですから、教会の方にも在庫はありません」

女僧侶「てっきり、私達は連合軍拠点で補給してるとばかり思ってましたから」

魔女「ええ、そうね」

戦士「勇者。俺達、色々と失敗したな……」

戦士「こんな事なら、無理にでも連合軍拠点で補給しとくんだった……」

勇者「ああ、そうだな……」

盗賊「俺、あの時無理にでも盗んどければ良かったなぁ……」

盗賊「あの山積みになった物資、根こそぎ奪い取れば良かったか……」

勇者「今となっては、もうそれですら無理だろうけど……」

魔女「とりあえず、私達の持ってる回復剤を置いてくね……」

魔女「私達の持ってる回復剤、多分ないよりはマシだと思うからさ……」

勇者「ああ、すまん」

スッ、コトッ、コトッ……

魔女「それで、他に必要な物は?」

魔女「もしあるんなら、私達も今から走り回ってくるけど」

魔法使い「だったら、魔女は師匠を連れてきてくれ」

魔法使い「多分、どうせ師匠の事だから、どこかで女でも抱いてる頃だと思うんだけど」

魔女「ごめん。今、師匠は入院してる」

魔女「何か、師匠の体に生えている檜の棒が調子悪いらしくって」

魔女「だから、今はそっちの治療に専念したいんだって」

魔法使い「ふざけんなーーーーーーーーっ!!」ダン

勇者「じゃあ、大賢者様は?」

勇者「大賢者様は、今どこにいんだよ?」

魔女「え? 大賢者様はつい先日から連合軍拠点に向かったけど」

魔女「勇者達、まさか道中に会わなかったとか?」

魔女「大賢者様、大魔導師様の代わりに補給物資満載の輸送隊と共に勇者達の援軍として向かったのに」

勇者「ふざけんなーーーーーーーーっ!!」ダン

女騎士「はぁ、お前ら本当に情けないな……」

女騎士「そんなんで、よく魔王軍と戦っていたな……」

勇者一行「……」

女騎士「お前ら、本当に何してる?」

女騎士「ここでのんびりしてる暇があったら、今すぐ大賢者様の後を追え」

魔女「ええ、そうね」

女僧侶「まぁ、今回ばかりは仕方ありませんよ」

女僧侶「勇者様達は、今まで極限の状態で戦っておられたのですから」

女僧侶「勇者様。今夜は、ここでご宿泊なされては如何ですか?」

女僧侶「私、勇者様の為に一肌脱いで差し上げますので」ニッコリ

勇者「……」ピクッ

戦士「良かったな。勇者」

魔女「でも、女僧侶は大丈夫なの?」

魔女「仮にも、女僧侶は神に仕える身なのに」

女僧侶「ええ、私は大丈夫ですよ」ニコニコ

女僧侶「実際、勇者に抱かれるのは私ではありませんから」ニコニコ

勇者「え?」

魔女「じゃあ、誰が抱かれるのよ?」

女僧侶「誰って? それはここにいらっしゃる娼婦達ですよ」ニコニコ

女僧侶「何の為に、私がここの一室を貸し切りにしたと思われたのですか?」ニコニコ

女僧侶「私、勇者様ではなく神に身も心も捧げております」ニコニコ

女僧侶「ですから、私は勇者様に抱かれる訳にはいきません」ニコニコ

女僧侶「それについては、今の貴女達も私と同じ気持ちなのですよね?」ニコニコ

女僧侶「ここでもし仮に勇者様達に抱かれたら、一生私達は結婚出来ませんからね!」ニコニコ

トントン、トントン……

女僧侶「はい」

スッ、ガチャ……

店主「失礼致します」

店主「女僧侶様。勇者様達がご宿泊なされるのでしたら、すぐにご用意致しますが」ニッコリ

女僧侶「ええ、お願い致します」ニッコリ

勇者「いや、ちょっと勝手に話を進められても……」

勇者「俺達、まだここに泊まると言った訳じゃないんだが……」

女僧侶「では、勇者様は路銀の方をいくらお持ちですか?」ニコニコ

女僧侶「ここにご宿泊して頂けるなら、教会の方で費用をお出し出来ますが」ニコニコ

勇者「はい。宜しくお願いします」

勇者の仲間達「……勇者」

女僧侶「では、早速手配の方をお願い致します」ニコニコ

女僧侶「皆さん。それで宜しいですね?」ニコニコ

勇者一行「はい」

魔女「ああ、私は師匠の元に帰らせて貰うわ」

魔女「ここには、師匠からのお使いで来ただけだから」

女僧侶「はい。かしこまりました」ニコニコ

女騎士「じゃあ、私らも帰らせて貰う」

女騎士「またさっきの酒場に行くから、魔女達も付き合え」

魔女「ええ、構わないわ」

女僧侶「私も、構いませんよ」ニコニコ

武闘家妹「じゃあ、もう行こうか?」

女僧侶「ええ、そうですね」ニコニコ

戦士「勇者。俺も少し出てくる」

戦士「今は、少しでも物資が必要だからな」

勇者「ああ、頼む」

僧侶「では、勇者パーティの皆さんは、夕食の時間までは自由行動と言う事で」

僧侶「僕も、教会の方に顔を出してきます」

勇者「ああ、良いぞ」

店主「では、女僧侶様達はこちらへ」

店主「今から、またのご来店をお待ちしております」ニッコリ

女僧侶「はい。かしこまりましたわ」ニコニコ

武闘家妹「兄さん。また後でね」

武闘家妹「出掛けるなら出掛けるって、ちゃんと伝えてから行ってね」

武闘家「ああ、分かってるよ」

魔女「……」ムクッ

女騎士「……」ムクッ

女僧侶「……」ムクッ

武闘家妹「……」ムクッ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

勇者「他の奴等も、行って良いぞ」

勇者「皆、夕食の時間までには戻ってきてくれよな?」

賞金稼ぎ「ああ、了解した」ムクッ

戦士「また後でな」ムクッ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

本日分、終了。

支援ありがとうございます。

~王都・娼館前~

スッ、ガチャ……

男性店員「……ん?」クルッ

魔女「……」キョロキョロ

男性店員「おいっ、何してんだ?」

男性店員「あのキモメンなら、ついさっき引き返したぞ」

魔女「あっ、そうなんですか……」

魔女「てっきり、まだその辺にいると思ってたんで……」

男性店員「はははっ、さすがにそりゃねぇよ」

男性店員「あいつ、自分より強い者には相手しねぇからな」

魔女「へぇ……」

武闘家妹「……」ヌッ

男性店員「さぁ、早く出ろよ」

男性店員「早く出ねぇと、あいつが来ちまうだろ」

魔女「は~~い」

男性店員「まぁ、あいつの事は俺達に任せろ」

男性店員「だから、さっさと用が済んだら出るんだな」

魔女「皆、早く出てきて」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スッ、バタン……

女騎士「じゃあ、これから酒場に行くぞ」

女騎士「今の私は、早く昼食を取りたいからな」

魔女「はいはい」

武闘家妹「けど、予想外に勇者一行がボロボロだったとはね」

武闘家妹「皆、それを知ったらどうするのかな?」

女騎士「武闘家妹。あまり、それを外で話すな」

女騎士「他の奴等に聞かれたら、それこそ無駄な混乱を生む事になる」

女騎士「魔女。後で、大魔導師様にお会いしたら、こう伝えてくれ!」

女騎士「娼館通いも、いい加減にしてくれとな!」

魔女「ええ、了解したわ」

魔女「私の方で、師匠の方は〆とく」

魔女「でも、実子である魔導師様の言葉もあまり聞き入れてはくれないからね」

魔女「一体、誰の言葉なら師匠は耳を貸してくれるのかな?」

女騎士「う~~む」

武闘家妹「かなり、難しいよね」

女僧侶「とりあえず、もうその話は止めにしませんか?」

女僧侶「ここにいても、何の解決にもなりませんし」

女僧侶「大魔導師様の事に関しましては、もうこの際ですから神に祈りましょう」

女僧侶「それ以外に、今の私達には打つ手がありません」

女僧侶「あの方の女好きに関しては、もう本当にどうしようもありませんからね」

女騎士「ああ、そうだな」

男性店員「ははっ、さすがにそれは言えてるな」ニヤニヤ

男性店員「あの爺さん。それが原因で入院してんだから」ニヤニヤ

男性店員「とりあえず、そこの女僧侶さん達もさっさと帰りな」ニヤニヤ

男性店員「ここにいたら、あんたらも娼婦と勘違いされてしまう」ニヤニヤ

男性店員「まぁ、別に俺はそれでも構わんが」ニヤニヤ

男性店員「あんたらが望むのなら、ここで娼婦になるのも良いかもしれんぞ」ニヤニヤ

女僧侶「もう。それは女の子に対する侮辱ですよ!」

女僧侶「男性店員さん。この私が、娼婦になるとでもお思いですか?」ギロッ

男性店員「まぁ、あんたは確実にそんな玉じゃない」ニヤニヤ

男性店員「けどな、娼婦になるにもそれなりに事情がある」ニヤニヤ

男性店員「だから、あんたらもさっさと帰りな」ニヤニヤ

男性店員「ここにいたら、無理にでも犯して娼婦にまで転落させてしまいそうだから」ニヤニヤ

女僧侶「皆さん。もう行きましょうか」ムカムカッ

女僧侶「私、まだ綺麗な体でいたいので!」ムカムカッ

女僧侶「ほらっ、さっさと行くわよ!」ムカムカッ

女僧侶「今の私、本当に気分が悪いから!」ムカムカッ

女騎士「あ、ああ……」

男性店員「またのご来店を、心よりお待ちしておりま~~す!」ニヤニヤ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

男性店員達「……」

女騎士「とりあえず、女僧侶を追いかけるぞ」

女騎士「あいつ、ついさっきまでの口調と態度はどこに行ったんだか……」

武闘家妹「うん。そうだね……」

魔女「まぁ、誰だってあんな事を言われたら気分悪くするわよ……」

魔女「私も、よく話の最中に噛んじゃうから……」

魔女「ほらっ、私達ももう行くわよ」

魔女「また、女僧侶に文句言われたくはないからね」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

~連合軍拠点・司令部~

密偵「報告。大賢者様率いる輸送隊が到着!」

密偵「補給物資を満載し、更には援軍として召喚兵1万も到着致しました!」

密偵「今現在、大賢者様率いる召喚兵隊が速やかに陣を構築!」

密偵「大賢者様曰く、負傷した味方を後方に下げ、今後は我々が前線に出るとの事です!」

将軍「おおっ、やっときたか!」ピカァ

参謀「将軍。やりましたな!」ニヤニヤ

参謀「これで、戦がしやすくなる!」ニヤニヤ

参謀「皆、ようやく国に帰れるぞ!」ニヤニヤ

参謀「負傷した兵士達は、優先的に国に返すんだ!」ニヤニヤ

貴族達「おーーーーーーーーっ!」ウルウルッ

貴族達「やっと、国に帰れるんだ!」ウルウルッ

貴族A「でも、何で最初から召喚兵を出さなかったんだ?」

貴族A「召喚兵さえ出していれば、こんなにも死傷者を出さずに済んだのに!」

貴族B「それを言ったら、元も子もないだろ!」

貴族B「召喚兵を使用すると言う案は、魔王軍との決戦前に全て却下されただろうが!」

貴族A「しかし!」

参謀「……」

将軍「貴族A。そなたの言いたい事も分かる!」

将軍「皆、大賢者の言う召喚兵など半信半疑だった!」

将軍「今更、終わった事を言い合っても意味はない!」

将軍「今するべき事は、一刻も早く魔王を倒す事だ!」

将軍「そうであろう?」

貴族達「……」シーーン

将軍「参謀。大賢者をすぐここに!」

将軍「早速、今後の部隊運用についてを協議する!」

将軍「皆、今回の戦の指揮官は私だ!」

将軍「今はまだ、私からの命令に従って貰う!」

貴族A「くっ……」

参謀「他に、意見が有る者はおるか?」

貴族C「将軍。勇者は、どこに行ったのですか?」

貴族C「ここ数日、勇者一行の姿を見てはおりませんが」

将軍「勇者は、つい数日前から大魔導師様の元に向かっている!」

将軍「大魔導師様は、魔王城の場所を特定された!」

将軍「魔王戦に必要な武器や武具等を整える為に、一度本国にまで撤退した様だ」

貴族達「……」ザワザワッ

貴族C「では、後もう少しで戦が終わると考えて良いのですね?」

貴族C「残念だが、私の戦役期間はもう終わった!」

貴族C「ここで、私の率いる部隊は帰らせて頂く!」

貴族D「なら、私の率いる部隊もだ!」

将軍「ああ、構わんぞ!」

貴族A「じゃあ、私も帰らせて貰う!」

参謀「では、本国に帰還する者は名乗り出てくれ!」

参謀「これまで、本当にご苦労だった!」

参謀「貴殿らと共に戦えた事を、私は誇りに思う!」

参謀「後の事は、我々に任せて貴殿らはもう本国に帰国して貰っても構わない!」

貴族達「おーーーーーーーーっ!」ザワザワッ

将軍「皆、本当にこれまでご苦労だった!」

貴族B「将軍。将軍はどうなされるおつもりか?」

貴族B「将軍は、このままここで戦われるおつもりか?」

将軍「ああ、そうだ!」

貴族B「でしたら、私の率いる部隊はここに残らせて貰う!」

貴族B「まだ、私の率いる部隊には余力がある!」

貴族B「このまま、ここで戦わせてほしい!」

将軍「うむ、構わんぞ。貴族B」

将軍「今後も、全ての国の民達の為に戦ってくれ!」

将軍「他に、貴族Bの様に残る者はおるか!」

将軍「もしいないのなら、速やかにこの拠点から出られよ!」

参謀「……」ジーーッ

貴族達「……」ザワザワッ

貴族A「ふん。誰も言いたくないわな!」

貴族A「自分から好き好んで、こんな所で死にたいと言う奴は!」

貴族A「では、私達は先に帰らせて貰う!」

貴族A「将軍。貴殿のその地位も、この戦が終われば解かれるんだ!」

貴族A「精々、死なない様にだけは注意しとくんだな!」

将軍「ああ、ご忠告。感謝する!」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

貴族達「……」

貴族C「将軍。どうか、お気を付けて!」

貴族C「本国にて、吉報をお待ち申しております!」

将軍「うむ。ご苦労!」

クルッ、ゾロゾロゾロッ……

ゾロゾロゾロッ、ゾロゾロゾロッ……

将軍「……」

参謀「……」

貴族B「……」

伝令兵「……」

将軍「……」

参謀「……」

貴族B「……」

伝令兵「……」

将軍「はぁ……」ガクッ

参謀「弱りましたね……」

貴族B「ふん。腰抜け共めが……」

貴族B「こんなんだから、いつまで経っても魔王が倒せぬのだ……」

貴族B「将軍。出来るだけ早く、体勢を整えないと!」

貴族B「大賢者が寄越した援軍だけで、本当に足りると思うのですか?」

将軍「いや、無理だな!」

将軍「明らかに、兵力の差が有り過ぎる!」

将軍「だが、我々に勝機がないとは言えない!」

将軍「その為に、我々は勇者一行を魔王城にまで差し向けるのだ!」

将軍「所詮、勇者など一代限りの使い捨ての駒でしかない!」

将軍「勇者さえ魔王城に送り込めれば、我らの勝利が確定したも同然だ!」

参謀「ええ、そうですね!」

貴族B「……」

将軍「参謀。現在の兵力は?」

将軍「今、この場にいる全員でどれだけの兵がいる?」

参謀「残念ですが、あまり兵は多くありません!」

参謀「私や将軍の兵達も、もうすぐ戦役期間が切れてしまいます!」

参謀「ここは、新たに兵を招集すべきでは?」

参謀「戦う気のない彼らを呼び戻す事だけは、絶対にしないでおきましょう!」

「なら、ここは私の出番ですかな?」

「その為に、私はここに来たのですから」

将軍「む?」ハッ

参謀「何者だ?」ハッ

大賢者「……」ヌッ

将軍「おおっ、大賢者殿か!」

大賢者「将軍。兵の事なら心配なさるな!」

大賢者「それに、新たに兵を招集する必要すらない!」

大賢者「それで、現在の戦況は?」

大賢者「今、魔王軍の状態はどうなっている?」

将軍「参謀」

参謀「はっ、それについては私が説明致します」

参謀「大賢者殿。この地図をご覧下さい」

参謀「この机の上に置かれた地図は、南大陸の地図でございます」

参謀「今現在、魔王軍は魔王城にまで撤退」

参謀「ですが、魔王城の正確な位置が特定できず、無駄に死傷者が増すばかりの状態です」

大賢者「ふむ、どれどれ……」

スタスタスタッ、ピタッ……

大賢者「……」

大賢者「……」

大賢者「……」

大賢者「ほう……」ニヤリ

将軍「大賢者殿、どうなされた?」

将軍「まさか、もう魔王城の位置が分かったのですかな?」

大賢者「ああ、そのまさかだよ」

大賢者「己れ魔王め、上手い事城を隠しておったな?」

将軍「……?」

参謀「それで、魔王城は一体どこに?」

参謀「我々は、南大陸を探せるだけ探した」

参謀「一体、どこに魔王城があると言うのですかな?」

大賢者「将軍。そなた、湖の中は探したか?」

大賢者「さすがに、湖の中は探しとらんだろう」

将軍「!?」

大賢者「奴等は、湖の中に魔王城を隠した」

大賢者「今まで、幾度もなく歴代の勇者達に撃ち取られてきたからな」

大賢者「奴等も、上手く魔王城を隠しておったよ」

将軍「大賢者殿。それは誠ですかな?」

将軍「いくらなんでも、それは無理が有り過ぎると思うのだか……」

将軍「では仮に、奴等が大賢者殿の言う通りに湖から来たとする」

将軍「いくら何でも、完全武装したまま水中にずっと居続けるのは、かなり無理があると思いますが」

参謀「ええ、そうですね」

貴族B「私も、将軍に同感です」

大賢者「なら、特殊な魔法を用いていたとするならばどうだ?」

大賢者「湖と言うのは、ただの魔界との通過点」

大賢者「魔王は、湖を魔界からの潜入地点として利用し、大勢の兵を送り込んできた」

大賢者「湖には、予め何らかの仕掛けをしておいたのだろう」

大賢者「魔王程の力の持ち主なら、大規模で特殊な転移魔法等を使えても全くおかしくはない」

将軍「ふむ。確かに」

参謀「では、大賢者様は湖の方の捜索をお願い致します」

参謀「我々は、ここ当分の間はすぐに動けませんので」

大賢者「ああ、了解した」

貴族B「将軍。補給物資はどう致しますか?」

貴族B「撤退する部隊には、ある程度の水や食糧を配布しなければ」

将軍「おおっ、それも忘れておった」

参謀「将軍。その件については私が担当させて頂きます」

参謀「大賢者殿、少しお付き合い願いませんかな」

大賢者「ああ、構いませぬ」

参謀「伝令兵。至急、帰国される諸侯に連絡を」

参謀「大賢者様より、道中に必要な補給物資を分けるとな」

伝令兵「はっ、しかと承りました!」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

将軍(さて、大賢者の用意した召喚兵がどこまで持つか……)

将軍(予想外に、数多くの諸侯が帰国の途についてしまったが……)

将軍(これについては、もう仕方ないだろう……)

将軍(本当に、全世界の存亡を掛けた戦いの最中なのにも関わらず、戦役期間の短さがここで仇となってしまったか……)

将軍(はぁ……)

本日の分、終了。

~魔王城・執務室~

魔王「……」カキカキ

魔王「……」カキカキ

魔王「……」カキカキ

魔王「……」カキカキ

側近「……」ジーーッ

魔王「……」カキカキ

魔王「……」カキカキ

魔王「……」カキカキ

魔王「……」カキカキ

魔王「ふぅ……」スッ

側近「やっと、書き終わりましたね」

魔王「側近。もうこれで良いか?」

魔王「私は、今すぐ暖かいベッドの上に寝転がりたいのだが」

側近「ええ、構いませんよ」

魔王「それと、戦役期間をもう少し延ばせられないものか?」

魔王「さすがに、毎回こうやって軍務契約書を書かされる私の身にもなってくれ」

側近「……」

魔王「側近。私の話を聞いておるか?」

魔王「私は、もう少し長く戦役期間を延ばせと言っておるのだ」

魔王「さすがに、60日は短すぎるぞ」

魔王「遠征をする場合なら、最低でも一年くらいは欲しいものだ」

側近「ですが、今の我々には資金や物資の数にも限りがございます」

側近「御先代様がお亡くなりになられてから、まだ78年しか経っていないのですよ」

魔王「それでも、年60日しか貴族や騎士達が軍役奉仕をしない習慣的義務だけでも、今すぐなんとかしてほしいものだ!」

魔王「何なのだ? この南大陸での負けっぷりは!」

魔王「せっかく、南大陸を制圧したと言うのに、連合軍にすぐさま押し戻された!」

魔王「これでは、私の苦労も全て水の泡となるだろう!」

魔王「分かってるのか?」ギロッ

側近「はい」

魔王「はぁ……」

魔王「本当に、もう最悪だわ……」

魔王「こんな事なら、あ奴の言う通りに召喚兵を投入しておけば良かった……」ガクッ

側近「ですが、今の我々にはそれを上手く扱えるかについては、まだ未知数です」

側近「元々、召喚兵はあの方が産み出した謎多き存在」

側近「あの方自身ですら、その原理等をよく理解しておられない様ですからね」

魔王「でも、私はあ奴の言う事を信じたかったぞ……」

魔王「あ奴の言う召喚兵は、とても奇天烈な存在……」

魔王「だが、私は話を聞いている内に考えが変わった……」

魔王「どう考えても、魔獣以外を召喚出来るとは思ってもみなかったからな……」

魔王「それに加えて、戦場で死んだ人間の体を使う?……」

魔王「誰がどう考えても、そんな物を使えば大惨事になるのが明らかでないか……」

側近「確かに、召喚兵は奇天烈な存在です!」

側近「ですが、それを検討をする価値だけはあります!」

側近「何故なら、今の我々には兵がろくにおりません!」

側近「戦役期間が終われば、さっさと魔界にまで帰還してしまいました!」

側近「陛下。ここは、リスクを承知で召喚兵を投入しては如何ですか?」

側近「聞く所によりますと、人間側はもう既に召喚兵を実戦に投入しておるのですよ!」

魔王「側近。その噂なら私も聞いた事がある」

魔王「本当に、人間達は召喚兵を実戦に投入しておるのか?」ムクッ

側近「はい。それも100年以上も前に」

側近「何でも、あの方の師二人が召喚兵を実戦に投入していたとか」

側近「ですが、その二人ももう既にこの世にはおりません」

側近「あの方の手によって、召喚兵自体は闇に葬られた様です」

魔王「なら、人間達はもう既に召喚兵を投入している可能性があるな」

魔王「そう考えれば、今回の戦の負けっぷりにも納得が行く」

魔王「だが、よくもまぁあんな危険極まりない物を実戦に出しておるな」

魔王「召喚兵を呼び出すのに必要な物が、人間の死体だと知られたらかなり大事になるぞ」

側近「ええ、確かに」

スッ、ゴクゴクゴクッ……

側近「では、召喚兵を我らも検討をすると言う事で」

側近「それで宜しいですか? 陛下」

魔王「ああ、もうそれで構わん」

魔王「おかげで、ここ最近はよく眠れておらぬわ」

スッ、ポンポン……

魔王「ほれ」サッ

側近「陛下。まだこの契約書には印鑑が押されてはおりませぬが」

側近「それを押して頂かなければ、私はこれを受け取る事が出来ませぬ」

魔王「なら、今からそなたが押してくれ……」

魔王「私はもう、そなたが掛けた超人モードが切れたみたいだ……」イラッ

側近「……陛下」

魔王「側近。二度も言わせるな!」イライラ

魔王「私は、もうこれ以上執務をしたくないのだ!」イライラ

魔王「今度から、そなたが契約をしといてくれ!」イライラ

魔王「所詮、たかが傭兵達であろう!」イライラ

魔王「金さえ払えば、戦に出てくれる!」イライラ

魔王「けどな、せめてもう少しくらい戦役期間を延長して欲しいものだ!」イライラ

側近「陛下。駄々を捏ねられても困ります!」

側近「陛下は、今は御先代様に誓ったではありませんか!」

側近「いずれ、立派な魔王となってみせる!」

側近「今のままでは、立派な魔王にすらなれておりませぬぞ!」ギロッ

魔王「もう、ほっといてくれ……」グスン

側近「……陛下」

魔王「確かに、私はあの時に父上の霊に向かってそう誓った……」ウルッ

魔王「だが、考えていたのとかなり現実は違ってた……」ウルウルッ

魔王「魔王になったからには、色々と好きに出来るんだなぁと思っていたら、そうも行きません!」ウルウルッ

魔王「私、まだ成人したばっかなのに!」ウルウルッ

魔王「それにも関わらず、年若い娘に物凄く地味なデスクワークの押し付け!」ウルウルッ

魔王「挙げ句の果てには、単なる貴族の中の筆頭でしかないって何なのよ!?」ウルウルッ

側近「陛下。なりませぬぞ。そのお言葉遣い!」

側近「仮にも、陛下は魔界の全貴族を代表する存在なのですよ!」

魔王「なら、私じゃなくて叔父上を選挙で指名してほしかった!」ポロポロッ

魔王「叔父上も叔父上で、長年に渡って甘い物を食べ過ぎた所為で不治の病を発症?」ポロポロッ

魔王「どうせ、私は単なる代表で領主間の仲裁や戦の際の総司令官を期待されているだけの存在ですよ!」ポロポロッ

魔王「自分の持ってる領地の中ぐらいしか、絶対的な権力を振るえないのですからね!」ポロポロッ

側近「陛下。お気持ちだけはよく分かります!」

側近「ですが、その契約書に判を押して頂かないと!」

魔王「もう嫌だ~~~~っ!」ポロポロッ

側近「陛下。それ全てに判を押して頂ければ、もう休まれて結構です!」

側近「ここ最近、私は陛下を酷使し過ぎました!」

側近「ですから、早く契約書に判を押してほしいのですが!」ギリッ

魔王「だから、もう側近が押してよ~~~~っ!」ポロポロッ

魔王「私の腕、もうパンパンよ!」ポロポロッ

魔王「と言うか、あんた絶対鬼でしょ!?」ポロポロッ

魔王「不眠不休で食事抜きで、無理矢理この私に一ヶ月も連続で執務させるなんて、絶対にあんた鬼過ぎるわよ!」ポロポロッ

側近「陛下!」ギリギリッ

魔王「うわああああああああ~~~~~~~~ん!!」ポロポロッ

トントン、トントン……

スッ、ガチャ……

守備隊長「もっ、申し上げます!」ペコッ

側近「何だ!? この忙しい時に!?」クルッ

守備隊長「陛下。急報です!」

守備隊長「連合軍陣地に、敵増援が現れました!」

側近「何!? 敵増援が現れた!?」

側近「どこの誰だ!? その指揮官は!?」

守備隊長「はっ、恐れながら申し上げます!」

守備隊長「連合軍は、大賢者を投入してきた模様!」

守備隊長「大賢者率いる召喚兵隊およそ1万が、もう既に連合軍陣地付近にて陣を設営!」

守備隊長「連合軍陣地に潜入している密偵より、急報が入りました!」

側近「くっ、敵は思ったより早く召喚兵を出してきたか……」

側近「まさか、あの大賢者を増援として送り込むとはな……」

側近「守備隊長。全軍に対して厳戒体制を発令!」

側近「魔界全域に、連合軍襲来の可能性大の警報を出すんだ!」

守備隊長「はっ!」

魔王「ううっ、ぐすん……」ポロポロッ

側近「陛下。今の報告をお聞きになっておりましたか?」クルッ

側近「いつまで、陛下はそうやって駄々を捏ねられておられるのですか?」

側近「今のままでは、立派な魔王にはなれませぬぞ!」

側近「陛下も、早くそのみっともない顔をするのをお止め下さいませ!」

守備隊長「……」ハッ

魔王「ううっ、ぐすっ……」ポロポロッ

側近「陛下。陛下、何をなされているのです!」イライラ

側近「早く、その山の様な契約書に判をお押し下さい!」イライラ

側近「陛下が押さなければ、一体誰が押すのです?」イライラ

側近「陛下が今の態度を改めなければ、魔界100万の民達が陛下の失態が原因で命を落とす事になるのですよ!」イライラ

魔王「ううっ、ぐすん……」ポロポロッ

守備隊長「……陛下」

側近「はぁ、陛下にも困ったものだ……」イライラ

側近「さすがに、不眠不休の中無理矢理食事抜きで一ヶ月連続での執務はやり過ぎたか……」イライラ

側近「ああ、今は亡き御先代様。申し訳ございませぬ……」イライラ

側近「姫君様は、御先代様とのお約束をお破りになられるみたいです……」イライラ

守備隊長「いや、貴殿……」

魔王「ううっ、ぐすん……」ポロポロッ

守備隊長「側近殿。貴殿は、陛下を酷使し過ぎなのでは?」

守備隊長「貴殿の所為で、陛下の精神が完全に崩壊しておるが」

側近「こうでもしないと、陛下が執務も怠られる!」イライラ

側近「ただでさえ、陛下はまだまだお若い!」イライラ

側近「今の内に、過酷な執務を経験しとかないといけないのだ!」イライラ

魔王「鬼~~~~~~~~っ!……」ポロポロッ

側近「陛下。早く判を押して下さい!」イライラ

側近「でなければ、更にもう一ヶ月追加致しますぞ!」イライラ

魔王「!?」ガーーン

側近「さぁ、早く判を押して下さい!」イライラ

側近「でなければ、本当にそうしますぞ」スッ

魔王「いやああああああああーーーーーーーーっ!?」バッ

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

守備隊長「……陛下」

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

側近「そう。それで宜しいのです!」ニッコリ

側近「守備隊長。何をもたもたしておる!」

側近「早く、魔界全域に警報を出さぬか!」クルッ

守備隊長「え? ああ、ああ……」

側近「守備隊長。陛下が判を押し終えたら、私は各傭兵隊長に契約書を送付する!」

側近「後で、貴殿も取りに来られよ!」

側近「貴殿にも、戦役の際には戦って貰わなくては困るからな!」ニッコリ

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

守備隊長「……陛下。おいたわしや」

側近「いや、まだこれは軽い方だぞ!」ギロッ

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

スッ、ポンポン……

守備隊長「……」ペコッ

スッ、バタン……

本日の分、終了。

支援ありがとうございます。

~教会付属病院・中庭~

大魔導師「意外じゃな。そなたとここで会うなんて」

大魔導師「今日は、一体どうしたのじゃ?」

エルフ魔女「お久し振りです。師匠」

エルフ魔女「相変わらず、女癖の悪さは治らないんですね」ニッコリ

大魔導師「ああ、まあな」ニッコリ

大魔導師「それで、今日はどうしたのじゃ?」

大魔導師「つい先日、エルフの里が北大陸全域を制圧したと聞いたが」

大魔導師「どうせ、そなたの事じゃから、今回の件にも関わっておるのじゃろ?」

大魔導師「相変わらず、そなたは過去に囚われて生きていくのかのぅ?」

エルフ魔女「はい」

大魔導師「うむ、そうか……」

エルフ魔女「師匠。今回私がここに来たのは、ただ単に師匠の顔を見たかったからです(エルフ語)」

エルフ魔女「あれから、もう101年の歳月が経つのですね(エルフ語)」

エルフ魔女「師匠の知る私は、ずっと自身の置かれた劣悪な環境を良くしようと戦っていました(エルフ語)」

エルフ魔女「時には国を滅ぼし、私の生まれ故郷を飢餓の島とする(エルフ語)」

エルフ魔女「私や私の仲間が味わった過去の仕打ちを、逆に数多くの人間達に味合わせて差し上げました(エルフ語)」

エルフ魔女「今回の北大陸全域を制圧をしたのも、全て私による策略と言う訳です(エルフ語)」

大魔導師「なら、今後そなたはどうするつもりじゃ?(エルフ語)」

大魔導師「まさか、次はエルフの里の為に自身の命を捧げるのか?(エルフ語)」

大魔導師「出来れば、そなたにもうこれ以上過ちを繰り返してほしくない!(エルフ語)」

大魔導師「今の儂は、本気でそう思っておる!(エルフ語)」

大魔導師「今のままでは、次はそなたの身が危ういのじゃぞ?(エルフ語)」

大魔導師「頼む、エルフ魔女よ。もうこれ以上は止めてくれ!(エルフ語)」

エルフ魔女「残念ですが、もう既に手遅れです!(エルフ語)」

エルフ魔女「私、もう何年もから女神様に『やりすぎだ!』と言う警告を受けましたから!(エルフ語)」ニッコリ

大魔導師「!?」ガーーン

エルフ魔女「それに、ここ最近は人間の数が増え過ぎてますよね?(エルフ語)」ニコニコ

エルフ魔女「今の私は、あの時と違って純粋なエルフです!(エルフ語)」ニコニコ

エルフ魔女「ですから、自然環境に害をなす人間達を排除するのも、私達エルフの大事なお役目の一つなのですよ!(エルフ語)」ニコニコ

大魔導師「では、今回の北大陸制圧もその為か?(エルフ語)」

大魔導師「いくら、そなたが大義を掲げたとしても、誰が納得をするのじゃ?(エルフ語)」

エルフ魔女「残念ですが、女神様は納得をなさいました!(エルフ語)」ニコニコ

エルフ魔女「女神様も、ここ最近は人間達の振る舞いに心を痛めております!(エルフ語)」ニコニコ

エルフ魔女「ですから、私に女神様は使命を与えました!(エルフ語)」ニコニコ

エルフ魔女「今の私は、その女神様より与えられた使命を全うしているだけです!(エルフ語)」ニコニコ

大魔導師「エルフ魔女。そなた変わったな……(エルフ語)」

大魔導師「エルフに転生する前のそなたは、エルフさえも憎んでいたのに……(エルフ語)」

大魔導師「では、何故ここに来たのじゃ?……(エルフ語)」

大魔導師「儂は、この手でそなたの事を再び殺すかもしれないのじゃぞ……(エルフ語)」ギロッ

スッ、チャキッ……

エルフ魔女「……」ニコニコ

「大魔導師。そこまでにしなさい!(エルフ語)」

「彼女を殺す事は、神に対する反逆でもあります!(エルフ語)」

大魔導師「何!?」クルッ

エルフ魔女「……」ニコニコ

シュン、シュタッ……

大魔導師「……そ、そなたは?」

赤竜娘「大魔導師。初めまして(エルフ語)」

赤竜娘「私の名は、赤竜娘(エルフ語)」

赤竜娘「神に仕えているレッド・ドラゴンです(エルフ語)」ニッコリ

大魔導師「!?」

赤竜娘「ですから、むやみに彼女の事を殺さないで頂けますか?(エルフ語)」ニコニコ

赤竜娘「彼女には、まだまだやって頂く事がありますので!(エルフ語)」ニコニコ

大魔導師「エルフ魔女。どう言う事じゃ?」

大魔導師「何故、彼女がそなたの事を庇う?」

大魔導師「儂には、何がなんだかさっぱりじゃ」

大魔導師「一体、そなたは儂の知らない所で何をしておるんじゃ?」

エルフ魔女「……」ニコニコ

赤竜娘「……」ニコニコ

大魔導師「そうか。何も話してはくれぬのか……」

大魔導師「そなた、今の自分自身の置かれている立場を、ちゃんと理解しておるのか?……」

エルフ魔女「はい」ニコニコ

大魔導師「なら、そなたはそなたの道を歩まれよ……」

大魔導師「今更、儂の様な年寄りが何を言っても聞き入れてはくれんか……」

大魔導師「本当に、そなたは会う度に不憫じゃのぅ……」シュン

スタスタスタッ、ピタッ……

スッ、ムギュッ……

エルフ魔女「師匠。そんな落ち込んだ顔をしないで下さい」

エルフ魔女「師匠がそんな顔をしてしまうと、私まで悲しくなってしまいます」

大魔導師「じゃあ、今すぐそなたがしている事を全てを止めてくれ!」

大魔導師「そうしてくれれば、今の儂の病も快報に向かうじゃろう!」チラッ

エルフ魔女「師匠。さすがに、それは無理だと思います!」

エルフ魔女「師匠が入院したのは、ただ単に師匠の持つ檜の棒の調子が悪かったからでしょうが!」ニッコリ

大魔導師「……」

エルフ魔女「それに、私が師匠とこうして会うのは今日が最後です!」ニコニコ

エルフ魔女「どうか、師匠もお元気で!」ニコニコ

大魔導師「ーーーーーーーーっ!?」ガーーン

大魔導師「……エルフ魔女。それは誠か?」

大魔導師「本当に、そなたとはもう二度と会えぬのか?」

エルフ魔女「はい。私、師匠に出会えて本当に幸せでした!」ニコニコ

エルフ魔女「私、未だに師匠との思い出だけは、よく夢に出るんですよ!」ニコニコ

エルフ魔女「ですから、師匠もお元気で!」ニコニコ

エルフ魔女「特に、女遊びだけはほどほどにしといて下さいよね!」ニコニコ

赤竜娘「では、もう行きましょうか?(エルフ語)」

赤竜娘「次は、エルフの国ですよ(エルフ語)」

赤竜娘「さっ、私の体に掴まって下さい(エルフ語)」

赤竜娘「私の体に掴まれば、すぐにエルフの里に向かえますからね(エルフ語)」

エルフ魔女「ええ、了解したわ(エルフ語)」

スッ、ソソッ……

大魔導師「エルフ魔女。もう行くのか?……」

大魔導師「何故、そなたはいつもそうなんじゃ?……」

大魔導師「いつもいつも、そなたは自ら波風を立てたがる!」

大魔導師「今回の件も、何故そなたの胸の内だけで留めてくれなかったのじゃ?」

エルフ魔女「……」

赤竜娘「さっ、行きますよ」グイッ

大魔導師「エルフ魔女。どうか、これだけは覚えておいてくれ!」

大魔導師「そなたが今やっている事全てに、大義はない!」

大魔導師「そなたが今やっている事は、ただの一方的な虐殺じゃ!」

大魔導師「いつか再び、痛い目に見るぞ!」

エルフ魔女「……」

赤竜娘「……」スッ

大魔導師「エルフ魔女。どうか気を付けてな!」

大魔導師「儂が転生する前の事については、全て儂同様に転生した儂の息子である魔導師より聞いておる!」

大魔導師「エルフ魔女。いつか、再びそなたは痛い目を見るぞ!」

大魔導師「神は、そなたが考えている程甘くはない!」

大魔導師「そなたが、再び無惨な姿にならぬ事を儂は祈っとるぞ!」

エルフ魔女「……はい。しかと承りました」ウルッ

スッ、シュン……

シューーーーーーーーッ、シュン……

大魔導師「……」

大魔導師「……」

大魔導師「……」

魔導師「……」ヌッ

大魔導師「エルフ魔女……」

大魔導師「そなたは、また過酷な運命を背負わされておるのか……」

大魔導師「本当に、何でまたあの娘だけが……」

大魔導師「神もまた、本当に残酷な事をするのぅ……」ウルウルッ

大魔導師「ううっ、ぐすっ……」ポロポロッ

魔導師「……親父」

~王都・酒場の~

女騎士「……」モグモグッ

女僧侶「……」モグモグッ

武闘家妹「……」モグモグッ

ドクンーー

魔女「ーーーーーーーーっ!?」ビクッ

魔女「おっ、おえっ……」プルプル

魔女「ううっ、えぐっ……」プルプル

女僧侶「ま、魔女!?」ハッ

女騎士「この症状は、まさか!?……」ポトッ

武闘家妹「だ、大丈夫!?……」ビクッ

魔女「……」プルプル

魔女(なんか、私のお腹辺りから変な感じが……)プルプル

魔女(一体、何なのよ? これ?……)プルプル

魔女(私、少し食べ過ぎたかしら?……)プルプル

魔女(多分、そうだと思うんだけど……)プルプル

シュピン……

魔女「!?」ビクッ

『魔女。今どこにいる?』

『早く、親父の元に戻って来んか!』

魔女「ま、魔導師様!?」プルプル

女騎士「……魔女?」

『魔女。私の問いに答えよ!』

『さっさと、親父から頼まれた品を持って来んか!』

女騎士「魔女。どうかしたか?……」

女騎士「どうしたんだ? そんな青い顔して……」

魔女「……え?」プルプル

女騎士「お前、もしかして体調でも悪いのか?……」

女騎士「まぁ、あんな場所にいたら嫌でもそうなるわな……」

魔女「ええ、まあね……」ピタッ

『てめぇ、さっさと応答せいや!』

『まさか、魔法通信すら出来んのか?』

魔女「え、ああ……」

『てめぇ、親父から一体何を習ってた?』

『今さっきまでの親父、エルフ王国からの刺客に襲われてたんだぞ!』

魔女「!?」ガーーン

魔女「いや、そんな事を急に私に言われても……」サスサス

魔女「私、師匠には夜に使える寝技くらいしか教わってないのに……」サスサス

『ーーーーーーーーっ!?』ガーーン

魔女「ねぇ、女僧侶。後で病院に行くの手伝ってくれる?」

魔女「なんか、ウチの師匠が出張サービスで来ていたエルフの娼婦に食べられちゃったみたい……」

女僧侶「ええ、別に良いけど……」ウルッ

武闘家妹「ねぇ、魔女。あなたさっきから何言ってるの?」

武闘家妹「何、いきなり訳の解らない事を言っているのよ?」

魔女「ごめん。今、魔導師様から魔法通信が来てる」

魔女「私、師匠には夜に使える寝技くらいしか教わってなかったし」

魔女「師匠の檜の棒の調子が悪いのも、ある意味で私の所為かもしれないからね」

武闘家妹「ああ、そうだったんだ……」

女騎士「けど、別にあの爺さんがどうなろうと、今の私達には関係ねぇじゃねぇか」

女騎士「あの爺さん。わざわざ、出張サービス使ってエルフの娼婦を抱いてたんだろ?」

女騎士「大賢者様と比べたら、本当に月とすっぽん!」

女騎士「いや、魔王と蟻ぐらいの戦力差があると思うんだがな」

女僧侶「ええ、そうですね」

魔女「うん。確かに」

『てめぇ、とりあえずさっさと来いや!』

『じゃねぇと、親父の体に生えてる檜の棒を切除する!』

『後、お前の大事にしてる私物も全て焼やすぞ!』

『それが嫌なら、さっさと親父が転院した王都の病院に来い!』

魔女「はっ、はい!」ビクッ

スッ、ムクッ……

魔女「ごめん。私、もう行かなきゃ!」ビクビクッ

魔女「じゃないと、私が魔導師様に殺される!」ビクビクッ

女騎士「そ、そうなのか?……」

魔女「と、とりあえず、これ私の分ね……」ビクビクッ

魔女「早く帰らなきゃ、私、魔導師にも犯されるから!……」ビクビクッ

スッ、ジャラジャラ……

女騎士「魔女。気をつけてな」

女騎士「あの魔導師様。やけに血管浮き出てると思うから」

女騎士「何かあったら、すぐに私達を呼べ!」

女騎士「私達が、すぐに駆けつけてやるからよ!」ニッコリ

魔女「うん。本当にごめんね!」ペコッ

武闘家妹「うん。行ってらっしゃい!」ニッコリ

女僧侶「ちなみに、次はいつ来れます?」

女僧侶「もし宜しければ、私にお教え願いたいのですが」ニッコリ

魔女「た、多分、当分無理かも……」ビクビクッ

魔女「なんか、魔導師様がそう簡単に返してくれなさそうな雰囲気が漂っているし……」ビクビクッ

魔女「そ、それじゃあ、また今度ね……」ビクビクッ

魔女「次は、必ず皆とゆっくりと過ごせる時間を取ってくるからね……」ビクビクッ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

女騎士「……」ウルッ

女僧侶「……」ウルッ

武闘家妹「本当に、魔女も可哀想に……」

武闘家妹「あんな師匠に弟子入りしちゃったから、予想外に可哀想な事になってしまってたんだね……」ウルッ

その後、私の記憶がそこで途切れた。

いや、私自身がその後の事を思い出したくもないだけかもしれない。

次に私が目を覚ましたのは、それから一ヶ月も先の話。

私が目を覚ました時には、完全に泣き崩れている女騎士達の姿があり、何がなんだか全く分からないでいた。

私は、あの後どんな目に遭ったのだろうか?

まさか、私は望まない妊娠でもしていたのだろうか?

確かに、私は師匠に抱かれていた。

師匠の望む形で、師匠にされるがまま師匠の欲望の捌け口になってはいたが。

まさか、本当にそれが原因?

皆、それが原因でやけに私の事を気遣ってくれているの?

そう言えば、師匠の顔が大きく膨れ上がっていた様な。

薄れ行く意識の中で、血塗られた師匠と鬼の様な形相をした魔導師様の姿を見た様な。

結局、私は何があったかについてを何も聞けず、皆が私の顔をとても不憫そうに見てくる。

私だけが、あの日何があったかについての記憶が完全にないまま、勇者達は再び魔王城に向けて出発。

その際に、王都の民達が装備一式を全て新調したばかりの勇者一行を見送っていて……

私は、女騎士達と共に再び魔王城へと向かう勇者達の姿を、ただただ遠くから見送るだけであったのだった。

本日の分、終了。

~魔王城・魔王の寝室~

一ヶ月後ーー

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

側近「はぁ……」

守備隊長「側近殿、どうなさいますか?」

側近「どうするって? 陛下を起こす他ないだろう」

側近「それ以外に、何があるって言うのだ?」

守備隊長「まぁ、確かに」

側近「陛下は、魔界を代表する大切な存在なのだ!」

側近「この様な大事な時に、暢気に陛下がお休みになられているなど、下の者に対して示しがつかん!」

守備隊長「……」

側近「陛下。もう朝ですぞ!」

側近「早く、起きて下さいませ!」ユサユサ

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

側近「陛下。もう朝ですぞ!」

側近「早く、お目覚めになって下さい!」ユサユサ

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

守備隊長「側近殿。まだ、陛下はお休みになられていた方が良いのでは?……」

守備隊長「朝早くから、陛下も貴殿の顔を見たくはないだろう……」

魔王「ZZZZz、ZZZZz……」

側近「残念だが、今日はそうも言えない!」

側近「密偵からの報告によれば、勇者一行が南大陸へと向かった!」

側近「しかも、全ての準備を万端にしてな!」

守備隊長「なら、陛下にはお気の毒だが起きて頂こう」

守備隊長「このまま行けば、本当に魔界始まって以来の最大の危機でもある」

守備隊長「陛下。私のご無礼、どうかお許し下さい!」

守備隊長「今の私、心を鬼にして陛下を起こす所存にございます!」

スッ、スラァン……

スッ、スチャ……

側近「ほう。貴殿、陛下を起こすのに剣を抜くか」

側近「自身が今なされている意味を、貴殿はお分かりか?」

守備隊長「ええ、今の私は貴殿に言われなくても理解している!」

守備隊長「普通なら、今の私は決して許される訳はない!」

守備隊長「これも、陛下の為なのだ!」

魔王「……」パチッ

スッ、ムクッ……

魔王「ふああああ~~~~ん」

側近「ん?」クルッ

守備隊長「陛下。おはようございます」ペコッ

守備隊長「今日もまた、一段とお美しいですね」ニッコリ

魔王「うむ。お早う」スッ、ゴシゴシッ

魔王「それで、何故貴様は剣を抜いている?」

魔王「まさか、この私の寝首を取るつもりだったのか?」チラッ

守備隊長「いいえ、滅相もございません!」

守備隊長「私は、陛下を常日頃から酷使する不届き者を、これから退治して差し上げようとしていたまでです!」

魔王「うむ。そうか」

スッ、カシャン……

側近「陛下。お早うございます」

側近「早速ですが、執務室にまでお向かい下さい!」

魔王「絶対に嫌だ!」

側近「陛下。緊急事態です!」

側近「勇者一行が、この魔王城に迫りつつあるのですよ!」

魔王「何!?」

魔王「側近。何があった!?」

魔王「せっかくの私の休暇は、どこに行ったのだ!?」ギロッ

側近「陛下。残念ながら、休暇はもう終わりです!」

側近「至急、執務室にまでお向かい下さい!」

魔王「また、私を酷使するつもりなのか!?」ガーーン

側近「はい!」ニッコリ

魔王「守備隊長。貴様、しくじったな!」

魔王「何故、私が目を覚ます前にこ奴を始末しなかった?」ギロッ

魔王「今の私は、本当に最悪な目覚めだぞ!」

魔王「と言うか貴様ら、今の私の実年齢をちゃんと把握してるのか?」

守備隊長「はい!」

側近「陛下は、今年で178歳になられます!」

魔王「じゃあ、少しは私にも配慮してくれ!」ギリギリッ

魔王「ここ最近、やけに白髪が増えたのだぞ!」ギリギリッ

側近「陛下。今は、そんな事を言っている場合ではありません!」ギリギリッ

側近「連合軍は、魔王城に迫りつつあるのですよ!」ギリギリッ

魔王「そんな事は、分かっとる!」ギリギリッ

側近「じゃあ、さっさと着替え済ませて執務室に向かえや! この小娘が!」ギリギリッ

魔王「ああ!? そんなの嫌に決まってるだろ!?」ギリギリッ

魔王「私、貴様の所為でまともな休みを貰ってないのだぞ!」ギリギリッ

魔王「ああ、何で貴様はいつもそうなんだ!?」ギリギリッ

魔王「勇者一行がここに来ようにも、魔王城の正確な位置を特定出来ていない!」ギリギリッ

魔王「勇者の相手など、適当に傭兵達にでも戦わせておけ!」ギリギリッ

側近「ふざけるな!」ギリギリッ

守備隊長「陛下。恐れながら申し上げます!」

守備隊長「連合軍は、大賢者を通して魔王城の正確な位置を特定しております!」

魔王「!?」クルッ

守備隊長「今現在、魔界全域から続々と多数の兵が終結!」

守備隊長「陛下の代理を務める側近殿の指示の元、もう既に迎撃体制を整えております!」

魔王「なら、最初からそう言えーーーーーーーーっ!」ギリギリッ

側近「陛下。早々にご支度の程を!」ギリギリッ

側近「陛下がご命令を下さなければ、一体誰が全軍に命令を出すのです!」ギリギリッ

側近「陛下。魔王軍の総司令官は、陛下にあらせられます!」ギリギリッ

側近「ですから早急に身支度を整え、速やかに全軍に対しご命令をお出し下さいませ!」ギリギリッ

魔王「ああ、了解した!」ギリギリッ

守備隊長(はぁ、やっと物事が前に進んだよ……)

魔王「とりあえず、着替えたいから貴様ら出ろ!」

魔王「後、先にトイレや食事も済まさせてくれ!」

側近「陛下。残念ですが、お時間の方が!」

側近「陛下には、このまま執務室にて執務にあたって頂きます!」

魔王「ふざけるな!」ギロッ

側近「ふざけてるのは貴様だ! この小娘!」ギロッ

魔王「守備隊長。貴様はどっちの味方をする?」

魔王「私か、それともあ奴なのか?」ギロッ

守備隊長「え、ああ……」ビクッ

側近「守備隊長。遠慮なさるな!」

側近「陛下には、心を鬼にして接しなければ惰眠を貪る!」ギロッ

守備隊長「……」タジタジッ

側近「守備隊長。なんとか言え」

側近「私か陛下か、どっちの味方をするのだ?」ズイッ

魔王「守備隊長」ズイッ

側近「さぁ、どっちなんだ?」

魔王「さっさと言え。この能無しが!」

守備隊長「はっ、はい……」

守備隊長「と、とりあえず、私は陛下の味方をさせて頂きます……」タジタジッ

守備隊長「ここ最近の陛下は、かなり窶れられた……」タジタジッ

守備隊長「せっかくのお美しい容姿が、全て台無しになってしまってますぞ……」タジタジッ

魔王「よしっ!」グッ

側近「守備隊長。貴殿には失望したぞ」

側近「何故、私の味方をしてくれぬのだ?」ギロッ

魔王「とにかく、そなたらは早くここを出よ」

魔王「私は、すぐに着替えて執務室に行く」

魔王「側近。全軍には、勇者を見つけ次第迎撃せよ!」

魔王「絶対に、城にも魔界にも入れるな!」

側近「はっ!」ビシッ

守備隊長「失礼致しました!」ビシッ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スッ、ガチャ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スッ、バタン……

魔王「ふぅ……」

魔王(しかし、勇者達にも困ったわね……)

魔王(あれから、一ヶ月も先伸ばしにするなんて……)

魔王(本当に、早く勇者には死んで欲しいものだわ……)

魔王(私の在任中に、一体何人の勇者を殺したかしら?……)

スッ、トポポポポポポポッ……

スッ、ゴクゴクゴクッ……

魔王(はぁ……)

魔王(いっそ、このまま勇者に討たれ様かな?……)

魔王(そしたら、あの口煩い爺さんから解放されちゃうし……)

魔王(父上。よくも、こんな仕事を好き好んでやっていたわね……)

魔王(だから、私も父上みたいに選挙で選ばれちゃったのかしら?……)

スッ、パサッ……

~連合軍拠点・司令部~

伝令兵長「報告。大魔導師様、魔導師様の両名がご到着!」

伝令兵長「召喚兵1万1千名を率いて、ただ今ご到着されました!」

大賢者「おおっ、ついに来たか!」

賢者「して、大魔導師様達は?」

賢者「大魔導師様達は、陣の設営に掛かられておるのか?」

伝令兵長「はっ、今現在、大魔導師様達は陣を設営中にございます!」

伝令兵長「ですが、大魔導師様は召喚兵およそ1万名の他に、仕出し女を始めとする民間人らしき人影も多数雇用!」

伝令兵長「何やら、それが原因で魔導師様とお揉めになられていたご様子!」

伝令兵長「魔導師様曰く、少しばかり司令部に顔を出すのが遅れるとの事です!」

賢者「ああ……」

大賢者「あ奴、本当に愚かな男よ……」

伝令兵長「大賢者様。如何なさいますか?」

伝令兵長「大魔導師様達を、すぐにお連れ致しましょうか?」

大賢者「いや、まだ魔導師の好きな様にいたぶらせておけ!」

大賢者「あ奴、まだ懲りてないのか!?」イラッ

大賢者「あ奴の所為で、数多くの女達が犠牲になった!」イライラッ

大賢者「だから、あのエルフ魔女にすら愛想尽かされるのだ!」イライラッ

賢者「確かに、それは言えてますね!」

賢者「大魔導師様は転生をしても尚、女遊びだけは止められませんでしたから!」

賢者「さすがのエルフ魔女も、大魔導師様には愛想が尽きます!」

賢者「つい最近もまた、年若い娘に“夜に使える寝技”しか教えていなかった様ですから!」

大賢者「あの大馬鹿者めがーーーーーーーーっ!!」ブチッ

伝令兵長「……」

賢者「とにかく、魔導師が来ただけでも良い知らせです!」

賢者「魔導師がいなければ、大魔導師様の兵は死兵も同然!」

賢者「今回の戦には、またもやあのエルフ魔女が関わっております!」

賢者「今度こそ、我々はエルフ魔女を亡き者にしましょう!」

賢者「でなければ、我々が魔王軍とエルフ軍に挟み撃ちにされてしまいます!」

大賢者「まぁ、確かにそうなのだが!」イライラッ

賢者「大賢者様。もうエルフ魔女に対する慈悲も情けもお捨て下さい!」

賢者「彼女は、もう魔王そのものなのです!」

賢者「いくら、エルフの国が大義を掲げようが、今エルフの国がしているのはただの一方的な虐殺!」

賢者「大賢者様も、その事についてをよくお分かりでしょう?」

賢者「ここは、もうエルフ魔女に対して情けを掛けるべきではありません!」

賢者「彼女は、あろうことか魔王とも手を組んだのですから!」

大賢者「賢者。そなたの言いたい事も分かる!」イライラッ

大賢者「あの娘のしている事は、ただの一方的な虐殺だ!」イライラッ

大賢者「だがな、私はあの娘に慈悲も情けも捨てる事は出来ない!」イライラッ

大賢者「あの娘は、今でも私の大事な教え子だ!」イライラッ

大賢者「あの娘がいなければ、今の私はなかった!」イライラッ

賢者「しかし!」

大賢者「聞け。賢者よ!」イライラッ

大賢者「そなたも魔導師も、あの娘の良い所を何も見ようとはしていない!」イライラッ

大賢者「あの娘のおかげで、どれだけの人達が救われた?」イライラッ

大賢者「時には、あの娘のおかげで日々の生活が豊かになった!」イライラッ

大賢者「常日頃から飢えに苦しんでいた民達が、あの娘に救われた過去の事例もあるのだぞ!」イライラッ

大賢者「そなたも、実際にその現場を目撃していたではないか!」イライラッ

賢者「ですが、もうそれも過去の話です!」

賢者「今のあの娘は、人間全ての敵なのですよ!」

賢者「大賢者様、大賢者はお忘れですか?」

賢者「大賢者様と大魔導師様が、再びこの世に転生なされる前の世界の事を!」

賢者「ハーフエルフから純粋種のエルフに転生した後、あの娘は世界中の人間達に対して宣戦布告を行いました!」

賢者「人間とエルフの戦の際に、一体どれだけの数の人間達があの娘の所為で犠牲になった事か!」

大賢者「賢者。我が弟子よ!」イライラッ

大賢者「それでも私にとっては、あの娘もまた大事な弟子の一人だ!」イライラッ

大賢者「あの娘に過ぎたる力を持たせてしまった事には、この私にも責任がある!」イライラッ

大賢者「だから、今の私はここで兵の指揮をとっておるのだ!」イライラッ

大賢者「今は、そなたとここで言い争っている場合ではない!」イライラッ

賢者「やはり、貴方はまだあの娘に毒されてしまっている!」ギロッ

大賢者「賢者。何度も言わせるな!」イライラッ

大賢者「今我々の最優先事項は、魔王を討つ事だ!」イライラッ

大賢者「あの娘の問題より先に、早期に魔王を討たなければならない!」イライラッ

大賢者「魔王と同盟したあの娘の事は、今は後にしておけ!」イライラッ

大賢者「今の我々は、眼前にいる敵を打ち倒さなければならないのだ!」イライラッ

大賢者「もうこれ以上、そなたの口からあの娘を誹謗中傷する事を許さぬぞ!」ギロッ

賢者「はい。大賢者様にご忠告なされなくとも、よく理解してます……」プルプル

賢者「ですが、私の心が未だにあの娘の所為で安らげていないのもまた事実なのです!……」プルプル

賢者「大賢者。少し、今までの私は言葉が過ぎていた様ですね……」プルプル

賢者「どうか、この私めの非礼をお許し下さい……」プルプル

賢者「今後は、大賢者様の前であの娘の事を口にする事はないですので……」プルプル

大賢者「うむ。了解した……」イライラッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタタッ……

将軍「大賢者殿。どうなされた?」

将軍「何やら、外の方にまで貴殿の怒声が聞こえていたぞ」

参謀「一体、お二人で何を話されていたのです?」

参謀「何やら、エルフ魔女と言う名前がちらほら聞こえましたが」

大賢者「いや、何も問題はありませぬ」

大賢者「お二方は、何も心配をする必要はない」ニッコリ

参謀「いや、私個人としてはかなり気になります」

参謀「そのエルフ魔女とか言う人物は、一体何者なのです?」ジトッ

大賢者「……」

参謀「大賢者殿?」

賢者「参謀殿。何も問題はありませぬ」

賢者「少し、私と大賢者様は大魔導師様の女癖の悪さについてで、言い争っておりまして」

賢者「ですから、何も心配はいりませぬ」

賢者「ささっ、今後の部隊運用についてを協議致しましょう」

将軍「……」

参謀「なら、魔王と同盟を結んでいたと言うのは、一体どう言う事ですかな?」ギロッ

賢者「それは、私個人の物の例えです」

賢者「昔、大魔導師様のお手付きになった女が、やけを起こしておりました」

賢者「その娘は、あろうことか魔王と同盟を組んでやると、大魔導師様を脅しました」

賢者「その結果、大魔導師様はその娘に刺されて重傷を負ってしまい……」

賢者「それが原因で、私と大魔導師様は言い争っていたのです」

大賢者「うむ。そうであったな」

参謀「将軍。今のお話をお聞きになって、どう思いましたか?」

参謀「明らかに、このお二方は何かを我々に隠している様に思えたのですが」チラッ

将軍「私も、参謀と同じ気持ちだ」

将軍「一体、そなたらは何を隠しておる?」

大賢者「お二方。本当に、何も心配はいらない!」

大賢者「その娘の事につきましては、あくまで個人的な問題でして!」

参謀「だが、そのエルフ魔女の所為で数多くの民達が犠牲になっておるのだろう?」

参謀「その事については、どう弁解するのです?」

大賢者「それにつきましても、もう既に過去の話です!」

大賢者「今は、眼前にいる魔王軍を全て撃破する事が最優先事項!」

大賢者「いずれ、お二方にも詳しいお話を致します!」

大賢者「ですが、今は魔王を討つのを最優先にしなければ!」

将軍「参謀。この二人を牢に入れろ!」

将軍「ここはこの二人を牢に入れて、この二人からじっくりと話を聞いた方が良さそうだな!」

参謀「ええ、そうですね!」

大賢者「いや、それには及ばん!」

大賢者「貴殿らにも、いずれその娘の事を話させて頂く!」

将軍「とても、信用が出来ないが」

大賢者「将軍。大丈夫だ!」

大賢者「どうか、我々の事を信用してくれ!」

大賢者「でなければ、今後行われる魔王軍との戦いが圧倒的に不利となる!」

大賢者「我々がいなければ、全世界の民達がすぐにでも虐殺されてしまうのだぞ!」

将軍「……」

参謀「如何致しますか?」

将軍「では、包み隠さず話して頂けるのですかな?」

将軍「そのエルフ魔女と言うのは、大賢者殿とは一体どう言う関係なのです?」

将軍「聞く所によりますと、そのエルフ魔女と言うのは大賢者殿の教え子だとか?」

将軍「ハーフエルフから純粋種のエルフへの転生?」

将軍「その様な話、今まで一度も聞いた事がない!」

将軍「貴殿らは、一体何を隠しておるのだ?」

大賢者「ともかく、その話についてはまた別の機会に!」

大賢者「何度も、我々に同じ事を言わせないで頂きたい!」

参謀「なら、仕方ありませんね」

参謀「後日、その話について詳しくお聞き致します!」

参謀「少しでも、お二方が不審な態度や素振り等をお見になれば、それなりの処分を覚悟して頂きたい!」ギロッ

大賢者「うむ。了解した」

将軍「参謀。そろそろ軍議始めるか」

将軍「まだ、大魔導師殿達はお着きになっていない様だが」

将軍「大賢者殿。貴殿はとても良い弟子を持たれましたな」

将軍「貴殿があそこまで庇うとは、余程良い女だったのでしょう?」

将軍「人間、誰にでも過ちはあるもの!」

将軍「よもや大賢者殿ともあろう方が、過去にそんな大それた過ちをしていたとは意外ですな!」ニヤリ

大賢者(ふん。好きなだけ、私を愚弄しとけ!)

大賢者(後で、こ奴等は死ぬのだからな!)

大賢者(まぁ、事が露見する前に、陣内にいる者達の記憶から今回の事だけを消しておくか……)

大賢者(所詮、こ奴等ではエルフ魔女を倒す事は出来ない!)

大賢者(この私ですら、あの娘の事を殺せるかどうかが分からぬのだからな……)

賢者「……」スッ

シュピン……

賢者『大賢者様。後の事は、この私が』

賢者『彼らの記憶を、私の方で消しておきます』

大賢者『ああ、了解した』

賢者『それと、大魔導師様達は如何致しますか?』

賢者『まだ、こちらには顔をお出しにはなっておりませんが』

大賢者『まだ、放っとけ』

大賢者『とにかく、なるべく早くにあ奴等の記憶の中から、あの娘の事に関する事だけを消しておくのだ!』

大賢者『そうしておかなければ、いつか必ず我々の方にも追求が及ぶ!』

大賢者『良いか? これは我々の保身の為だけではない!』

大賢者『全世界の民達の平和の為でもあるのだからな!』

大賢者『しかと、心得ておけ!』

賢者『はっ!』スッ

本日の分、終了。

~王都・中央広場~

魔女「……」

女騎士「……」

女僧侶「……」

武闘家妹「……」

魔女(う~~ん。困ったわね……)

魔女「……」

女騎士「……」

女僧侶「……」

武闘家妹「……」

魔女(何で、皆黙ったままなのよ?……)

スッ、ゴクゴクゴクッ……

魔女「ねぇ、何で今日は皆黙ったままなの?……」

魔女「私、何かしちゃったかしら?……」

女僧侶「ううん。何も……」

魔女「なら、何で今日は皆が黙ったままなのよ?……」

魔女「ついさっき、勇者を見送ってた時もそんな感じだったし……」

女僧侶「ああ、ちょっとね……」

女騎士「魔女。お前、もう体調は大丈夫なのか?」

女騎士「まだ、入院しといた方が良いんじゃないか?」

武闘家妹「うん。そうだね」

魔女「いや、私もう大丈夫だから」

魔女「伊達に、その辺については師匠に鍛えられてないわよ」

女騎士「けどな……」

魔女「もう、そんな顔をしないで」

魔女「私は、本当に大丈夫だから」

女騎士「……」ウルッ

武闘家妹「でも、魔女はあんなクソジジイの為にその身を……」

武闘家妹「私、絶対に耐えきれない!……」

武闘家妹「あんな酷い仕打ち、よく魔女に出来たわね!……」ウルッ

女騎士「ああ、そうだな……」

女騎士「お前、本当によく耐えていたよ!……」ウルッ

女騎士「同じ女として、あそこまで誰かに殺意を抱いたのは初めてだった!」ウルウルッ

女騎士「私、場合によっては騎士身分を捨てるぞ!」ウルウルッ

女騎士「せっかく、適当に功績を上げて女戦士から鞍替えしたが、あのクソジジイだけは絶対に許さん!」ポロポロッ

女騎士「いつか必ず、お前の仇だけは取ってやる!」ポロポロッ

魔女「いや、私死んでないから……」

魔女「勝手に、私抜きで盛り上がらないでくれる?……」

魔女「師匠との関係は、もう既に終わったみたいだから……」

魔女「だから、皆はもう師匠との事については関わらないでくれる?……」

女騎士「は?」ギロッ

武闘家妹「あんな酷い仕打ちをされてて、まだ師匠呼ばわりするの!?」ギロッ

女騎士「魔女。お前、まだ大丈夫じゃないみたいだな……」ポロポロッ

女騎士「己れあのクソジジイ、魔女を未だに洗脳していたか!……」ポロポロッ

魔女「いや、だから……」

武闘家妹「安心して、魔女。いつか必ず報いを受けさせる!」ポロポロッ

武闘家妹「ほら、私昔から肉体言語は得意でしょ?」ポロポロッ

武闘家妹「だから、魔女は何も心配はしないで良いよ!」ニッコリ

女僧侶「とりあえず、魔女は何も心配はしなくても宜しくてよ!」

女僧侶「全て、私達に任せてくれたら構わないから!」ニッコリ

魔女「……女僧侶」

女僧侶「私、つい最近よく神に祈ってるの!」ニコニコ

女僧侶「結局、私は神に祈るだけしか出来ない!」ニコニコ

女僧侶「だから、あのクソジジイにはいずれ必ず罰を受けて貰うからね!」ニコニコ

スッ、ムギュッ……

魔女「あっ……」

女僧侶「……」ニコニコ

魔女「……女僧侶?」

女僧侶「神よ。どうか、彼女をお守り下さい!」

女僧侶「今の彼女は、本当に哀れな存在ですから!」ギューーッ

魔女「いや、皆私の話を聞いてくれる?」

魔女「だから、本当に大丈夫なんて?」

武闘家妹「でも」ポロポロッ

魔女「じゃあ、何があったか教えてくれる?」

魔女「私、あの日どんな目に遭っていたの?」

武闘家妹「そっ、それは……」ポロポロッ

女騎士「魔女。お前、何も覚えてないのか?」ポロポロッ

女騎士「あれだけ、あのクソジジイに酷い事をされてたのに?」ポロポロッ

魔女「うん」

女騎士(なら、魔女が妊娠してた事は気付かれてないな……)スッ、パサッ

女騎士(魔女の奴、流産までしてしまってたからな……)スッ、フキフキ

魔女「……」

魔女「ねぇ、女僧侶。私、もしかして出来ちゃってた?」

魔女「私、まさか師匠の赤ちゃん出来ちゃってたの?」

魔女以外「!?」ビクッ

魔女「そうか。それで皆が泣いてるんだ……」

魔女「そりゃあ、私は夜に使える寝技しか教わってなかったし……」

魔女「女僧侶達がそうなるのも、無理はないんだよね?……」ウルッ

武闘家妹「でも、私は何も知らないよ……」ポロポロッ

武闘家妹「私はただ、魔女が病院のベットの上に寝かされているのを見ただけだから……」ポロポロッ

魔女「本当に?」チラッ

武闘家妹「うん。それについては、全部本当の事だよ……」ポロポロッ

武闘家妹「私達、魔導師様からは何も聞かされてないの……」ポロポロッ

魔女「ふ~~ん……」ジトッ

魔女「じゃあ、私のお腹の部分にあった違和感は何?」

魔女「あの時の私、本当に妊娠してたんじゃないの?」

魔女以外「!?」ビクッ

魔女「だから、女騎士達は何も話してはくれない」

魔女「まだ、私に色々と隠してる事があるよね?」

魔女「一体、皆は何を隠しているのかな?」

女僧侶「魔女。もうその話は止めましょ!」

女僧侶「世の中には、別に思い出さなくても良い事があるの!」ニッコリ

魔女「……」

女僧侶「人は、どんなに辛いことがあっても乗り越えていける!」ニコニコ

女僧侶「たとえ、それがあのクソジジイに酷い事をされ続けていてもね!」ニコニコ

魔女「いや、だから……」

女騎士「魔女。今日はもうその話は止めにしないか?」

女騎士「私達、ついさっき礼拝を終えたばかりだろ?」

女騎士「今後、私達三人は魔女の側にいる!」

女騎士「これについては、司教様からの許可も貰った!」

女騎士「だから、魔女は何も心配はしなくても良い!」

武闘家妹「うん。そうだね……」ポロポロッ

魔女「でも、私そろそろ戻らなきゃ……」

魔女「私、女騎士達と違って王都に住んでないんだけど……」

女僧侶「それについても、ちゃんとしてあるから!」ニコニコ

女僧侶「だから、魔女は本日から王都にまでお引っ越し!」ニコニコ

女僧侶「もう既に、それも済ませてあるわよ!」ニコニコ

女僧侶「元々、魔女の実家は自由民なんだし、農奴とかと違って自由に転居出来ちゃうからね!」ニコニコ

魔女「なんか、勝手に私の知らない所で話が進んでしまっている……」

魔女「私、普段から女僧侶達が所属している教会からは、あまり良い印象を持たれてない魔女なんですけど……」

女僧侶「でも、それを認めたのは教会なのよ!」ニコニコ

女僧侶「魔女は魔女でも、悪魔と契約さえしなければ良いんだし!」ニコニコ

女僧侶「教会でも、実際に魔法が使える人はかなりいるわ!」ニコニコ

女僧侶「だから、魔女は何も心配しなくても良いのよ!」ニコニコ

女騎士「まぁ、そう言う事だ!」

女騎士「お前は、本当に何も心配はしなくて良いぞ!」

女騎士「とりあえず、お前の新居にまで案内してやる!」

女騎士「さぁ、そろそろ行こうか!」

女騎士「ここにいても、ただ単に寒いだけだからな!」ニッコリ

女僧侶「ええ、そうですね」ニコニコ

魔女「じゃあ、何もここに集まんなくても……」

魔女「私達、本当に馬鹿みたいじゃん……」

女騎士「ああ、まあな……」

女僧侶「どの道、教会に行く道が混雑してるんだから仕方ないでしょ?」

女僧侶「皆、この時間帯は教会に行っちゃってるし」

女僧侶「私達が単なる馬鹿じゃないのは、確かな事よ」

スッ、ソソッ……

女僧侶「……」ムクッ

女騎士「……」ムクッ

武闘家妹「……」ムクッ

魔女「はぁ……」ムクッ

武闘家妹「……」スッ、フキフキ

女騎士「では、今から魔女の新居に向かうぞ」

女騎士「さぁ、魔女は私について来い」

魔女「はいはい」

女騎士「にしては、ここも結構空いてきたな」

女騎士「ついさっきまで、人が多かったのに」

魔女「ええ、そうね」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

キモメン「……」ヌッ

キモメン「……」キョロキョロ

キモメン「……」キョロキョロ

キモメン「はぁ……」ガクッ

キモメン(くそっ、肝心な時に寝過ごした……)

キモメン(どうやら、勇者はもう出立してしまった後か……)

キモメン(なら、仕方ない。この町にも勇者の悪評を撒こう……)

キモメン(皆、俺を仲間にしないのが悪いんだ……)

キモメン(全ては、俺を仲間にしなかった勇者が悪いんだからな!)

スッ、ドサッ……

キモメン(けど、あの四人は置いてかれたか……)

キモメン(なんか、魔女に関しては入院していたみたいだが……)

キモメン(ついさっきの話、上手く利用出来るな……)

キモメン(勇者ともあろう者が、年若い娘を犯して流産させた……)

キモメン(これはこれで、良いネタになる)

スッ、パカッ……

キモメン(では、ビラを撒くとするか……)

キモメン(今回は、少しネタが古いんだか……)

キモメン(勇者XXX。娼館で豪遊……)

キモメン(代金は、全て教会持ち……)

キモメン(う~~ん。少し、ネタが古かったがな……)

スッ、ドサッ……

キモメン「……」ブツブツ

キモメン「……」ブツブツ

キモメン「……」ブツブツ

キモメン「……」ブツブツ

キモメン「はっ!」ブォン

ビラの山「……」ピカァ

キモメン(ふふふっ、俺はこれで撤退だな……)

キモメン(周囲には、ミサに出席した民達くらいしかいないからな……)

キモメン(さて、そろそろビラが飛んで行くな……)

キモメン(ちゃんと、町中に飛んでくれよ……)ニヤリ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

ビラの山「……」

ビラの山「……」

ビラの山「……」

ビラの山「……」

ヒューーーーーーーーッ、ピラピラピラピラッ……

ヒューーーーーーーーッ、ピラピラピラピラッ……

本日の分、終了。

~王都・魔女の自宅前~

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ……

魔女「ここが、私の新居?」

魔女「と言うか、何で町外れにある娼婦達の寮の近くにあるの?」

魔女「これ、遠回しに私に娼婦になれって事よね?」

魔女「とうとう、今の私は女騎士達にも裏切られたのかしら?」クルッ

女僧侶「いいえ」

女騎士「すまん。今空いてるのが、ここしかなかったんだ」

魔女「じゃあ、他の場所が良かったなぁ……」

魔女「これ、一体どう言う嫌がらせなの?……」ウルッ

女騎士「すまん、魔女」ペコッ

女僧侶「ちなみに、私達の自宅もこの近くですよ」

女僧侶「ですから、何も心配はしないで下さい」ニッコリ

魔女「……」ウルウルッ

スッ、ガチャ……

店主姪「行ってらっしゃい」

店主「ああ、行ってくる」

スッ、バタン……

店主「ん?」ハッ

魔女「あっ……」ウルウルッ

店主「おやっ、珍しいですね」

店主「今日は、どうなされたんです?」ニッコリ

店主「ここ、あまりいらっしゃらない方が宜しいですよ」ニコニコ

店主「ここは、娼婦達の寮がありますから」ニコニコ

魔女「!?」ガーーン

女騎士「ああ、ちょっとな……」

店主「まさか、昨日引っ越されてきたのは、貴女なのですか?……」

店主「貴女とこうしてお会いするのは、一ヶ月振りでしたね……」

魔女「……」ポロポロッ

店主「女僧侶様。もう少し、まともな場所を紹介出来なかったのですか?」

店主「ここ、以前から治安悪いですよ」

店主「店が開いていない時とか、しょっちゅう集団レ〇プ事件が起きてしまうんですが」

魔女「あの、今の話は本当なんですか?……」ポロポロッ

魔女「まさかとは思いますけど、私、娼婦にまで身落ちしたりしませんよね?……」ポロポロッ

店主「え?」

魔女「確かに、私は師匠には好き放題されてましたけど……」ポロポロッ

魔女「私のお腹には、気がついたら師匠の赤ちゃんが出来てしまってたみたいですけど……」ポロポロッ

店主「あの、魔女さん?」

魔女「私、このまま娼婦になった方が良いのかな?……」ポロポロッ

魔女「と言うかもう既に、私はもう娼婦にまで身落ち確定なんだよね?……」ポロポロッ

魔女「あははっ、もう私は娼婦確定なんだ……」ポロポロッ

魔女「だから、女僧侶達がやたらと私に気を遣ってくれていた訳が、ようやく分かった様な気がするよ……」ポロポロッ

女僧侶「いや、違うんだけど……」

女騎士「魔女。それについては、お前の勘違いだ!」

魔女「じゃあ、何でここなの?……」ポロポロッ

魔女「私、娼婦にまで身落ちしたんじゃないの?……」ポロポロッ

女騎士「いや、今のお前は娼婦にまで身落ちしてない!」

女騎士「偶々、ここしか空きがなかっただけなんだ!」

魔女「嘘だ!」ポロポロッ

女騎士「違う。私達を信じてくれ!」

武闘家妹「魔女。本当に大丈夫だから!」

武闘家妹「その証拠に、名前も職業もそのままでしょ?」

魔女「けど、私は女騎士達に裏切られた!」ポロポロッ

魔女「私の事、ただの汚れた女だとそう思ってたんでしょ?」ポロポロッ

女騎士「違う!」

武闘家妹「魔女。誤解だから!」

女僧侶「魔女。私がそんな事を認めると思う?」

女僧侶「私がそんな事を認めるくらいなら、あのまま魔女を死なせてあげたわよ!」

魔女「なら、私今すぐ田舎に帰る!」ポロポロッ

魔女「ここで更に汚されるくらいなら、私は田舎に帰るわよ!」ポロポロッ

女僧侶「何ですって!?」

武闘家妹「魔女。それだけは駄目!」

女騎士「魔女。良いから落ち着け!」

女騎士「ここの方が、まだ橋の下よりは遥かにマシだ!」

魔女「!?」ガーーン

女騎士「お前の生まれ故郷の村は、もう既に廃墟だ!」

女騎士「幸い、お前の家だけは無事だった!」

女騎士「けどな、あそこはもう既にモンスターの支配圏に入ってたんだよ!」

魔女「じゃあ、私は娼婦にならなくても良いの?……」ポロポロッ

魔女「私、娼婦にならなくても良いんだよね?……」ポロポロッ

女騎士「ああ、当たり前だ!」

女騎士「こっちこそ、誤解させてすまなかった!」ペコッ

武闘家妹「ごめん!」ペコッ

女僧侶「ごめんなさい!」ペコッ

魔女「はぁ、良かった……」ポロポロッ

魔女「私、娼婦にならなくても良かったんだ……」ポロポロッ

魔女「こっちこそ、変に誤解してごめんなさい……」ポロポロッ

魔女「ほら、私、師匠に裏切られたばかりだから……」ポロポロッ

魔女「だから、私は皆の事を大いに誤解しちゃってたみたい……」ポロポロッ

娼婦達「……」ザワザワ

店主「あの、さっきから何の話をされてるんですか?」

店主「ついさっきから、かなり近所迷惑なんですけど」

店主「ああ、ウチの娘達まで外に出てきた」

店主「皆さんでお話をされるのでしたら、中でして貰えませんか?」

女騎士「ああ、すまんすまん」

女騎士「以後、気を付けさせて貰う」

店主「それで、魔女さんはどうなさいますか?」

店主「もしお時間の方に余裕があるなら、ウチの店にお出になられても宜しいのですよ」

魔女「え?」ポロポロッ

店主「ああ、今のは冗談ですよ」

店主「せっかくの良い機会でしたから、魔女さんが良ければウチの娼婦になって貰いたかったんですけどね」

魔女「は、はぁ……」ポロポロッ

娼婦A「マスター。早速、新人の勧誘ですか?」

娼婦A「そろそろ私、産休がほしいんですけど!」

店主「ああ、君はそろそろ構わんよ!」ニッコリ

魔女「!?」ガーーン

娼婦B「マスター。早く新人を入れて下さい!」

娼婦B「レンタル移籍してた子達、もう既に期間が終わって帰っちゃったじゃないですか!」

店主「ああ、今ちょっと勧誘してるから、もう少し我慢してね!」ニコニコ

店主「いずれ、彼女達が抜けた穴は埋めてあげるから!」ニコニコ

店主「ちなみに、王都の娼婦が妊娠した場合には、そのまま出産しなくてはなりません!」ニコニコ

店主「たとえ、娼婦が子供を生んだとしても、教会が生活の面倒を見て下さっております!」ニコニコ

店主「今は、国からも援助が出てますからね!」ニコニコ

店主「ですから、魔女さんもウチの店でお出になる場合には、どうかご安心下さい!」ニコニコ

女僧侶「あの、勝手に私の友人を勧誘しないで頂けますか?」

女僧侶「この子は、別にそう言った理由でここに転居してきた訳ではないんですけど」ギロッ

店主「ですから、ちょっとジョークですよ」ニコニコ

店主「ほらっ、今流行りの娼館ジョーク」ニコニコ

店主「やだな、女僧侶様も本気にしないで下さい」ニコニコ

店主「そんな事したら、私が司教様からクビを言い渡されてしまいますから」ニコニコ

魔女「とりあえず、お金に余裕がない時はお願い致します……」ポロポロッ

魔女「私、一度お腹に出来ちゃってたみたいですから……」ポロポロッ

店主「おおっ、そうですか!」ピカァ

女僧侶「魔女!?」

魔女「ですから、今後とも宜しくお願い致します……」ポロポロッ

魔女「多分、まだ私のお腹の中にいると思うんで……」ポロポロッ

女騎士「魔女。早まった真似をするな!」

女騎士「今のお前は、妊娠なんかしてないから!」

女騎士「それに、今のお前がそんな風になる必要なんかない!」

女騎士「だから、早まった真似をするな!」

武闘家妹「うん。そうだよ!」

女僧侶「魔女。気を確かに!」

魔女「ごめん。今の私はお金ないし……」ポロポロッ

魔女「もうこれ以上、女騎士達には迷惑を掛けたくないから……」ポロポロッ

女僧侶「……魔女」

魔女「それに、私はもう既に汚れてるよ……」ポロポロッ

魔女「皆みたいな、綺麗な体じゃないんだよ……」ポロポロッ

娼婦達「……」ウルッ

女僧侶「魔女。大丈夫だから!」

女僧侶「お金の方なら、私達がなんとかしてあげるから!」

女僧侶「だから、少しは自分を大切にしなさい!」

女僧侶「今の魔女は、あのクソジジイの所為で頭をおかしくされているだけなんだから!」

武闘家妹「うん。そうだよ!」

店主「は? クソジジイ?……」

魔女「けど、大丈夫なの?……」ポロポロッ

魔女「私、結構お金掛かる方なんだけど……」ポロポロッ

女騎士「それについても、何も心配はするな!」

女騎士「私らが上に話をつけている!」

女騎士「だから、お前も自分自身を大切にしろ!」

女騎士「全て、私達に任せておけ!」ニッコリ

店主「ちなみに、そのクソジジイって誰の事なんです?」

店主「もしかして、あの女好きで有名な大魔導師様とか言いませんよね?」

魔女「え? そうですけど……」ポロポロッ

女僧侶「それが何か?」ギロッ

店主「じゃあ、貴女も大魔導師様による被害者だったんですか……」

店主「こりゃあ、かなり大事になってきたな……」

魔女「あの、今のどう言う事なんですか?……」ポロポロッ

魔女「ウチの師匠、何かしてたんですか?……」ポロポロッ

店主「いえね、ウチの娼婦達は元々は別の町から来た子達なんです」

店主「何でも、昔は魔法使いを目指していたとか」

店主「気がついたら、何故か夜に使える寝技しか覚えさせられてなくって」

店主「それで、魔法使いになるのを諦めた子達が多いんです」

女騎士「おい、今の話は本当か!?」

女騎士「あのクソジジイ、あの時私が切り殺しとけば良かった!」

店主「ええ、そうですね……」コクン

魔女「とりあえず、私はお店にも出ます……」スッ、パサッ

魔女「女騎士達が何を言おうと、私はお店に出ますんで!」スッ、フキフキ

店主「はい、かしこまりました!」ニッコリ

女僧侶「ちょっと、何勝手にOKしてるの!?」

女僧侶「やっぱり、まだ入院しといた方が良かったわよ!?」

魔女「いや、私はもう大丈夫だから!」

魔女「なんか急に、物凄く久し振りに男の人の太くて固いアレを舐めたくなっただけだから!」

魔女「だから、何も心配しないで!」ニッコリ

女騎士「あのクソジジイーーーーーーーーっ!」ブチッ

娼婦A「じゃあ、後で歓迎会やろうよ!」

娼婦A「お店が終わったら、皆で歓迎会しない?」

店主「おっ、良いね!」

娼婦B「ああ、やっと新人が一人増えた……」

娼婦B「ここ最近、ほぼ集団レ〇プに近かったしなぁ……」

魔女「はい。ありがとうございます。先輩達!」ニコニコ

女騎士「すまん。ちょっと急用が入った」

女騎士「後の事は、二人に任せておく」

女僧侶「ええ、別に構わないけど……」

女騎士(魔女。必ず、お前の事を解放してやる!)

女騎士(だから、私のレベルや地位が上がるまでは、まだもう少し我慢しといてくれ!)ウルッ

魔女「ん?」ハッ

魔女「あれ、女騎士もう帰るの?」

魔女「やっぱり、私みたいな汚れた体の子は嫌い?」ウルッ

女騎士「違う。ちょっと急用が入っただけだ!」

魔女「じゃあ、早めに女騎士も用事を済ませてきてね……」

魔女「じゃないと私、お腹大きくしたまま無数の男達に集団レ〇プされてるからね……」

女騎士「ああ、了解した!」ウルッ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

キモメン「……」ヌッ

キモメン(なんか、予想外に勇者の女達が酷い目に遭ってた……)

キモメン(これも、次のビラに書き足しとこ……)

キモメン「……」スッ、カキカキ

本日の分、終了。

~南大陸・廃教会~

ヒュルヒュルヒュルヒュル、ヒュルヒュルヒュルヒュル……

ヒュルヒュルヒュルヒュル、ヒュルヒュルヒュルヒュル……

スタッ、スタッ、スタッ、スタッ……

スタッ、スタッ、スタッ、スタッ……

勇者一行「……」

勇者「皆、全員いるか?」

勇者「あいつは、近くにいないよな?」クルッ

魔法使い「ああ、大丈夫だ!」

僧侶「多分、ここは廃棄された教会ですね」

僧侶「南大陸では、魔王軍の進行が激しかったですから」

勇者「ああ、そうみたいだな」キョロキョロ

戦士「けど、現在地はどこなんだよ?」

戦士「ここ、本当に地図には載ってるんだよな?」

僧侶「はい」

勇者「魔法使い。探索魔法で周囲を確認してくれ」

勇者「皆、まだ動くなよ」

魔法使い「おう」

魔法使い「……」スッ

魔法使い「……」ブツブツ

魔法使い「……」ブツブツ

魔法使い「はっ!」ブワッ

魔法使い「……」キョロキョロ

魔法使い「……」キョロキョロ

魔法使い「勇者。ここは連合軍拠点の近くだ」

魔法使い「このまま、連合軍拠点に向かうのか?」

勇者「いや、いい」

魔法使い「じゃあ、このまま俺達は魔王城に向かうんだな?」

魔法使い「周囲には、モンスターの姿すらなし!」

魔法使い「と言うか、どうやったらここまで派手に出来るんだよ?」

勇者「さぁな、俺が知るかよ」

勇者「皆、これから直で魔王城に向かうぞ」

勇者「魔法使い。魔王城の正確な位置は分かってるな?」

勇者「大賢者様が、どの湖が魔王城に繋がっているか特定出来てんだよな?」

魔法使い「ああ、大陸中部にあるバカデカイ湖だ!」

勇者「よしっ!」ニヤリ

勇者「じゃあ、皆行くぞ!」

勇者「魔法使いは、探索魔法をそのまま!」

勇者「隊列は、二列に並んで出発!」

勇者「皆、決して油断するな!」

勇者「たとえ探索魔法で捉えきれていなくても、転移魔法さえ使えばいつでも奇襲が出来るんだからな!」

勇者の仲間達「おーーーーーーーーっ!」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

勇者一行「……」

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

勇者一行「……」

~魔王城・城門前~

守備隊長「整列!」

守備隊長「魔王陛下に、敬礼!」ビシッ

守備兵達「……」ビシッ

魔王「……」

側近「……」

魔王(これが、私の今いる魔王城の守備兵達……)

魔王(まぁ、100名規模に増員出来ただけでもまだマシか……)

守備隊長「諸君。これより、陛下からの有り難いお言葉がある!」

守備隊長「皆、心して聞く様に!」

側近「……」チラッ

魔王「……」コクン

魔王「諸君。これより我々は、勇者一行との戦闘態勢に入る!」

魔王「勇者一行との戦闘の最中、諸君らの中からは多数の死傷者が出る事であろう!」

魔王「だがしかし、我々は逃げる事もそう簡単に死ぬ事すらも許されない!」

魔王「何故なら、我々が負ければ魔界100万の民達が、皆すぐに不幸になる!」

魔界「勇者一行は、まだ年若く殺戮の限りを尽くす!」

魔界「魔界100万の民達が、勇者一行によって老若男女を問わず全て虐殺をされてしまうからだ!」

魔王「諸君らの中にも、愛する家族がいるだろう?」

魔王「私は、今でも先代の魔王であった亡き父上の事を思い出す!」

魔王「私の父は、当時の勇者と戦い破れ去った!」

魔王「今回、我々が戦うのはその親類!」

魔王「私の父が破れた勇者は、“味方殺しの勇者”と呼ばれていた!」

魔王「今回の勇者は、“キモメンに付き纏われた勇者”と呼ばれている!」

魔王「諸君。必ずや我々の手で勇者一行を討ち滅ぼそう!」

魔王「我々のこの手で、勇者一行を一人残らず血祭りにあげよう!」

魔王「皆、ここが正念場だ!」

魔王「絶対に生きて、愛する家族の元に帰るのだ!」

守備兵達「おーーーーーーーーっ!」スッ

魔王「諸君らの働きを、私は大いに期待しておる!」

側近「諸君。くれぐれも油断せぬ様にな!」

側近「勇者一行は、かなり手強い!」

側近「勇者一行を討ち取った者には、陛下から特別に褒美を与えられる!」

側近「更には、諸君らの働き次第では皆が騎士として取り立てられるであろう!」

側近「晴れて騎士となった暁には、諸君らは最低でも村一つ程の所領も与えられるのだ!」

守備兵達「おーーーーーーーーっ!」ザワザワッ

側近「ただし、諸君らの働き次第では、それも変わるかもしれないがな!」

側近「たとえ騎士に取り立てられなくても、歴史には名を残せる!」

側近「皆、決して油断するな!」

側近「諸君らは、魔界が誇る精鋭部隊!」

側近「絶対に、魔王様には指一本も触れさせるな!」

守備兵達「おーーーーーーーーっ!」ザワザワッ

魔王「では、後の事は頼むぞ。守備隊長!」

魔王「私は、次の現場に向かわなくてはならん!」

魔王「側近。もう行くぞ!」

魔王「今の私には、あまり時間がないのだからな!」

守備隊長「はっ!」

側近「御意のままに!」

守備隊長「整列!」

守備隊長「魔王様に敬礼!」ビシッ

守備兵達「……」ビシッ

側近「では、陛下はこちらへ」

側近「次の現場にまで、私がご案内致します」

魔王「ああ、了解した」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

守備隊長(陛下。我々が、必ず陛下の事をお守り致します!)

守備隊長(ですから、どうかご安心下さい!)

守備隊長「……」スッ

守備兵達「……」スッ

~王都・大通り~

ヒューーーーーーーーッ、ピラピラピラピラッ……

ヒューーーーーーーーッ、ピラピラピラピラッ……

「ん? 何だこの紙?」

「おいっ、なんか飛んで来たぞ!」

女騎士(おやっ、これは?……)

「何々、勇者XXXが娼館で豪遊?……」

「しかも、全て教会持ち?……」

「おいっ、何だよそれ?」

女騎士「!?」ガーーン

女騎士「ま、まさか!?」

女騎士「……」キョロキョロ

「おいっ、この紙に書かれた事は事実なのか!?」

「勇者の野郎、魔王退治をサボってこんな事をしてやがった!」

「何ーーーーっ!?」

「こりゃあ、かなり厄介な事になってきたな……」

「勇者の野郎が魔王討伐をサボって、こんな事をしていたなんて……」

「ええ、そうね……」

「けど、勇者も立派な男だぜ」

「男なら、一度ぐらいは豪遊したくなるじゃないか」

「だが、いつ魔王軍に攻め滅ぼされるか分からねぇ時にこのザマだ!」

「一体、勇者の任命基準って何なんだよ!?」

女騎士「……」キョロキョロ

女騎士「……」キョロキョロ

「おいっ、何してんだ? 女騎士」

「例の魔女さんの見舞いとやらは、もう済んだのか?」

女騎士「ん? 誰だ?……」クルッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

騎士「よう!」

女騎士「何だ。どこぞの平騎士か」

女騎士「少し、人を探してるんだ?」

女騎士「丁度良い。お前も今から私に付き合え!」

女騎士「どうせ、お前も暇なんだろ? 騎士」

騎士「いや、俺も暇じゃねぇよ……」

騎士「これから、平原のモンスター退治に行かなくちゃなんねぇから……」

女騎士「その割には、お前一人でか?」

女騎士「お前の主君は、かなり酷な事をするんだな」

騎士「ああ、マジで俺の主君は鬼なんだよ……」

騎士「ついこの間も、回復剤(小)一つ渡されただけで、トロルと戦わされてた……」

騎士「その所為か、今仕えている所は俺しか騎士がいなくてな……」

騎士「他の奴等は、俺を残して全員あの世に行きやがったよ……」ウルッ

女騎士「じゃあ、お前主君変えろよ」

女騎士「このままじゃ、まともに暮らしていけねぇぞ」

騎士「それが出来たら、苦労しねぇよ……」

騎士「先輩も先輩で、俺なんか庇って戦死してしまった……」

騎士「今でも、その先輩が夢に出てくるんだ……」

騎士「せめて、お前だけでも生きてくれってな……」ウルウルッ

女騎士「ああ、それは済まなかった」

女騎士「お前も、色々と苦労してんだな」

女騎士「所で、チビでデブでハゲで不細工な男を見なかったか?」

女騎士「そいつ、今さっきからこの辺で変なビラを撒いてんだが」

騎士「ん? 変なビラ?……」

女騎士「ああ、今その辺に散らばってるだろ?」

ヒューーーーーーーーッ、ピラピラピラピラッ……

ヒューーーーーーーーッ、ピラピラピラピラッ……

騎士「……」スッ

女騎士「……」スッ

騎士「何々、勇者XXXが娼館で豪遊……」

騎士「あいつ、マジで何やってんだよ?……」

女騎士「まぁ、そう言う事だ」

女騎士「今の私は、それでその男の事を探してる」

女騎士「そいつ、以前から勇者の悪評ばかり流しまくっててな」

女騎士「それで、勇者はかなり迷惑をしてるらしい」

騎士「へぇ、そうなのか……」

スッ、クシャクシャ……

騎士「とりあえず、俺はもう行くな」

騎士「お前と違って、俺も暇じゃねぇからな」

女騎士「ああ、すまなかった」

騎士「後、その男に関しては何も知らん」

騎士「じゃあ、俺は失礼させて貰う」

女騎士「ああ、気を付けてな」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

女騎士「……」

スッ、クシャクシャ……

女騎士(あいつ、一体何を考えている?……)

女騎士(これも、司教様にも報告しておくか……)

女騎士(ともかく、私も先を急ぐか……)

女騎士(今日は、やけに大通りが混雑しているな……)

女騎士(私も、早く自身の地位とレベルを上げなければ……)

女騎士(じゃないと、魔女が不憫だからな……)

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

本日の分、終了。

~王都・魔女の自宅~

魔女「へぇ、ちゃんと私の荷物が全部ある」

魔女「これ、運ぶの大変だったでしょ?」クルッ

女僧侶「うん。まあね」ニッコリ

魔女「私の田舎、本当にモンスターの支配圏に入っちゃったの?」

魔女「その割には、なんか綺麗すぎてない?」

女僧侶「まぁ、それについては頑張ったわ」ニコニコ

女僧侶「私達、転移魔法と転送魔法を交互に使ってたから」ニコニコ

女僧侶「だから、魔女は何も心配する必要なんかないわ」ニコニコ

女僧侶「ついさっきみたいに、わざわざ魔女が汚れに行く事なんてないのよ」ニコニコ

武闘家妹「うん。そうだね」ニコニコ

魔女「けど……」

女僧侶「魔女。何度も言わせないで!」

女僧侶「本当に、魔女は大丈夫なんだから!」

魔女「じゃあ、あの日何があったか教えて!」

魔女「それさえ教えてくれたら、私はもう何も言わない!」

女僧侶「……魔女」

武闘家妹「ごめん。それは、私達の口からはとても言いにくい……」

魔女「なら、私はこのまま汚れるわ」

魔女「私はもう、そう言う運命みたいだから」

女僧侶「魔女!」ギロッ

魔女「それが嫌なら、早く教えて!」

魔女「一体、女僧侶達は何を隠してるの?」ギロッ

女僧侶「……」ギリギリッ

武闘家妹「魔女。本当に、私達は何も知らないの!」

武闘家妹「私達が見たのは、病院のベットで眠ってた魔女の姿しか見てないから!」

魔女「本当に?」

武闘家妹「うん。それについては、本当の事だよ!」

武闘家妹「魔女がいなくなった後も、私達はまだ酒場で食事してたから!」

魔女「……」

女僧侶「魔女。一体、何が気に入らないの?」

女僧侶「ここ以外なら、すぐにでも手配出来るわよ!」

魔女「私、やっぱり妊娠してたんじゃないかな?」

魔女「あの時のお腹の違和感は、その証拠だと思うの」

女僧侶「……」

武闘家妹「それで?」

魔女「だから、今の武闘家妹達が何も言えないのも無理はないわね」

魔女「だって、私は師匠にレ〇プされた挙げ句に望まない妊娠までしちゃってたから」

魔女「おまけに、私以外の被害者達が多数いて」

魔女「いくら師匠としてた時は、全く逆らえなかった」

魔女「師匠は、魔法か魔術のどちらかの方法で私の体を自由に何度も操り、自身の欲求を満たしてた」

魔女「私と言う肉〇器を、師匠は私を娼婦にする事によって完成させたのよ」

武闘家妹「じゃあ、あのクソジジイは本当に最低だね!」

武闘家妹「魔女は、どうしてまだあんなクソジジイの事を師匠呼ばわりするの?」

魔女「多分、それも師匠の所為だと思う」

魔女「師匠は、人間だろうがエルフだろうが関係なく、美人なら手を出してた」

魔女「それに、師匠は実生活はともかく魔導師としては、かなり有能な人だからね」

魔女「たとえ、師匠が不祥事を起こしたとしても、それを罰する人すらなかなかいないのが現実なのよ」

女僧侶「なら、そのクソジジイをなんとかすれば良いのね?」

女僧侶「それさえ出来れば、魔女はあのクソジジイから解放されるの?」

魔女「うん」

女僧侶「だったら、私達の方でも出来る限り考えましょ」

女僧侶「と言っても、今の私達のレベルじゃまだ無理か」

武闘家妹「うん。そうだね」

魔女「とりあえず、適当にモンスター退治でもしてレベル上げる?」

魔女「そう言えば、二人は今レベルはどれくらいなの?」

武闘家妹「ごめん。まだレベル5」

武闘家妹「女騎士も女僧侶も、私とまだ同じだよ」

魔女「ああ……」

女僧侶「何か文句ある?」

魔女「いや、私の寝てた間にレベル上げでもしてたのかなぁって……」

魔女「そんなレベルじゃ、とても私の師匠に勝てないんだけど」

女僧侶「は?」ギロッ

魔女「……」ビクッ

武闘家妹「一体、どれぐらいのレベルなの?」

魔女「確か、レベル150だったはず」

女僧侶「ちょっと、何よそれ!?」

女僧侶「明らかに、上限突破してんじゃないの!?」

武闘家妹「……」

魔女「ごめん。これに関してはマジな話……」

魔女「大賢者様ですら、師匠と同じレベルだから……」

女僧侶「そんな!?」ガーーン

武闘家妹「じゃあ、どうやってあのクソジジイを倒すのよ!?」

武闘家妹「大賢者様だけじゃ、とても無理な状態じゃない!?」

魔女「うん。だから、不可能に近い……」

魔女「おまけに、師匠も大賢者様も神から優遇された転生者……」

魔女「だから、上限突破すら神に認められてる……」

魔女「私の知る限りじゃ、師匠と互角にやり合えるのは、大賢者様くらいな訳」

武闘家妹「じゃあ、魔女はずっとこのままなの!?」

武闘家妹「あのクソジジイが死なない限り、魔女はずっとこのままなの!?」

魔女「うん」

武闘家妹「あのクソジジイ、本当に最低だね!?」

武闘家妹「一体、何であんなのが神に優遇された挙げ句に、転生すらしちゃってるのさ!?」

魔女「うん。本当にどうしてだろうね……」

「いや、まだ方法はありますよ」

「宜しければ、この私が手を貸しましょうか?」

魔女「え?」ハッ

武闘家妹「誰?」クルッ

女僧侶「……」キョロキョロ

シュン、シュタッ……

魔女「あっ、貴女は確か師匠の……」

魔女「と言うか、私より貴女の方が遥かに酷い目に遭っている様な」

エルフ魔女「ええ、そうですね」

女僧侶「魔女。こちらの方は?」

女僧侶「この方は、どう見ても純粋なエルフなのよね?」

魔女「うん。そうだけど」

エルフ魔女「久し振りね。魔女」

エルフ魔女「こうして、貴女と会うのは二度目だったわね」ニッコリ

魔女「ええ、お久し振りです」ニッコリ

エルフ魔女「師匠。相変わらず、ああなんだ……」

エルフ魔女「ついこの間、師匠が入院したって聞いたから、一応はお見舞いの方に行っといたんだけど……」

魔女「ああ、そうだったんですか」

魔女「それで、その方法って何なんです?」

魔女「エルフ魔女さんは、師匠に勝つ方法をご存じなんですか?」

エルフ魔女「ええ、まあね」

女僧侶「でしたら、今すぐそれをお教え下さい!」

女僧侶「じゃないと、世界中の罪無き女性達が被害に遭ってしまいます!」

武闘家妹「うん。そうだね!」

エルフ魔女「ただ単に、この私が師匠を殺せば良いだけですよ!」

エルフ魔女「私、こう見えても転生者ですから!」ニッコリ

魔女「!?」ガーーン

女僧侶「でしたら、今レベルの方はおいくつ何ですか?」

女僧侶「今の貴女様のレベルを、どうかお教え下さい!」

武闘家妹「……」ゴクリ

エルフ魔女「なんか、かなりがっついてきたわね……」

エルフ魔女「まぁ、大切な友人が娼婦にまで堕ちようとしてたら仕方ないか……」

エルフ魔女「ちなみに、今の私のレベルは1000です」

エルフ魔女「私、実は六回も転生をしてしまってましてね」

エルフ魔女「私の母も、私と全く同じレベルです」

エルフ魔女「ですから、師匠の事なんて簡単に殺せちゃうと言う訳なんですよ」ニッコリ

魔女「いや、それあり得ないでしょ……」

魔女「いくら、貴女が転生者でもレベル1000なんて不可能なんですから……」

女僧侶&武闘家妹「あっ……」ハッ

魔女「私、普通はレベル100ぐらいしか無理だと思いますよ」

魔女「数少ない転生者ですら、レベル150が限界なんですから」

女僧侶&武闘家妹(いや、この方ならあり得る……)ガクガクッ

女僧侶「あの、失礼ですが、何回転生をなされましたっけ?……」ガクガクッ

女僧侶「私の記憶が正しければ、貴女はかなり危険な存在なのでは?……」ガクガクッ

魔女「え?」

エルフ魔女「はい。私はかなり危険な存在ですよ!」ニコニコ

エルフ魔女「さすがに、神に仕える身の方達なら、すぐに私の正体がバレてしまったと言う訳ですね?」ニコニコ

女僧侶「ええ、まぁ……」ガクガクッ

魔女「ど、どうしたのよ? 女僧侶達……」

魔女「急に、そんなガクガクと震えちゃって……」

女僧侶&武闘家妹「……」ガクガクッ

魔女「この人、そんなに凄い人なの?……」

魔女「まさか、教会指定の重要人物だったとか?……」

女僧侶「ええ、まさに違う意味でそれに近いお方よ……」ガクガクッ

エルフ魔女「それで、どう致しますか?」ニコニコ

エルフ魔女「私の方で、師匠をなんとかして差し上げましょうか?」ニコニコ

女僧侶「はっ、はい。お願い致します……」ガクガクッ

エルフ魔女「じゃあ、私はもうこれで!」ニコニコ

エルフ魔女「私が今日ここにいた事、絶対に誰にも話さないで下さいね!」ニコニコ

女僧侶「はっ、はい!」ガクガクッ

エルフ魔女「……」スッ

プシューーーーッ、プシューーーーッ……

プシューーーーッ、プシューーーーッ……

プシューーーーッ、プシューーーーッ……

プシューーーーッ、プシューーーーッ……

シューーーーーーーーッ、シュン……

魔女「……」

女僧侶「……」ガクガクッ

武闘家妹「……」ガクガクッ

魔女「ふぅ……」

女僧侶「……」ガクガクッ

武闘家妹「……」ガクガクッ

魔女(とりあえず、師匠の方は片付いた……)

魔女(これで、私は本当に娼婦にならずに済んだかも……)

魔女(けど、今さっきいた人は何だったんだろうか?……)

魔女(あの二人が本気で怯えている程、凄い人だったんだろうか?……)

女僧侶「……」ガクガクッ

武闘家妹「……」ガクガクッ

魔女(まぁ、別にそれも良いか……)

魔女(何か良く分からないけど、師匠を倒せるならそれで良いか……)

魔女(後で、女騎士にもちゃんと伝えとかないと……)

魔女(なんか、女騎士は女騎士で何かしちゃってるみたいだし……)

魔女(これで、少しは女騎士の方の重みも取れちゃうかもね……)

魔女「うふふっ……」ニヤリ

本日の分、終了。

支援ありがとうございます。

~南大陸・廃墟の町~

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

勇者一行「……」

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

勇者「皆、ちゃんとついて来てるか?……」ザッザッザッ

勇者「ここ、かなり不気味なんだが……」ザッザッザッ

戦士「ああ、そうだな……」ザッザッザッ

魔法使い「勇者。まだ、モンスターの反応はない……」ザッザッザッ

魔法使い「普通なら、アンデットの一匹や二匹がいてもおかしくないんだが……」ザッザッザッ

僧侶「ええ、そうですね……」ザッザッザッ

商人「勇者。本当に何があったんだ?……」ザッザッザッ

商人「ここ、やけに死体の数が多いんだが……」ザッザッザッ

商人「そもそも、ここを通る必要なんかねぇだろ……」ザッザッザッ

商人「早く、ここから抜け出そうぜ……」ザッザッザッ

戦士「ああ、そうだな……」ザッザッザッ

勇者「商人。まだ少し我慢しろ……」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「けどよ、ここかなり不気味だぜ……」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「これ、一回誰かが身ぐるみを這い出やがる……」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「特に、俺や盗賊みたいな連中が……」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「これ、もう明らかにヤバそうな雰囲気が漂って来てるんだが……」ザッザッザッ

盗賊「ああ、そうだな……」ザッザッザッ

武闘家「本当に、この道で合ってるのかよ?……」ザッザッザッ

勇者「とにかく、この町もそんなには大きくはねぇだろ……」ザッザッザッ

勇者「大体、10haぐらいの面積じゃねぇか?……」ザッザッザッ

戦士「ん? そうか?……」ザッザッザッ

勇者「王都でも、100haぐらいだぜ……」ザッザッザッ

勇者「だから、この町もそんなには大きくねぇだろうよ……」ザッザッザッ

戦士「いや、王都と比べるなよ……」ザッザッザッ……

商人「まぁ、大体はそれぐらいだろうな……」ザッザッザッ

商人「俺の実家のある町も、大体はそれぐらいの大きさだわ……」ザッザッザッ

商人「にしては、本当に勿体ねぇ……」ザッザッザッ

商人「この辺に落ちてる物資、かなり勿体ねぇよ……」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「ああ、そうだな……」ザッザッザッ

盗賊「さすがにそれ奪ったら、俺達が確実に呪われそうだな……」ザッザッザッ

勇者「はぁ、お前ら欲出てるぞ……」ザッザッザッ

勇者「まぁ、これも一種の職業病かもしれねぇけど……」ザッザッザッ

勇者「けどな、俺はお前らと違ってあんな血生臭いものは欲しくねぇよ……」ザッザッザッ

勇者「たとえ、この辺に伝説の剣が落ちてたとしても、俺は拾いたくねぇな……」ザッザッザッ

戦士「ああ、そうだな……」ザッザッザッ

盗賊「ふん。所詮、俺らはならず者だよ……」ザッザッザッ

商人「だが、お前にも欲があるだろ?」ザッザッザッ

商人「ほらっ、その辺に落ちてる宝箱とか」ザッザッザッ

商人「あれ、開けてみたらお宝が出てきたりしてな」ザッザッザッ

商人「いや、なんかお前はビビりみたいだから、開けたくもねぇか」ザッザッザッ

勇者「ああ、まあな」ザッザッザッ

勇者「俺も、死んだ伯父さん達みたいにはなりたくもねぇからな」ザッザッザッ

魔法使い「おいっ、お前ら静かにしろよ……」ザッザッザッ

魔法使い「お前らが騒ぐと、アンデットが現れるぞ……」ザッザッザッ

僧侶「……」ザッザッザッ

魔法使い「なんか、さっきから僧侶の顔色が優れねぇんだが……」ザッザッザッ

魔法使い「俺の探索魔法にも、何らかの反応が出ちまってんだが……」ザッザッザッ

勇者「何? どこからの反応だ?」ザッザッザッ

魔法使い「ああ、反応はこの町の外だ……」ザッザッザッ

魔法使い「そこに、かなり大型のモンスターの反応がある……」ザッザッザッ

魔法使い「これ、明らかにヤバそうだぞ……」ザッザッザッ

魔法使い「勇者。ここは、引き返した方が懸命だぜ……」ザッザッザッ

僧侶「ええ、そうですね……」ザッザッザッ

戦士「どうするんだ? 勇者」ザッザッザッ

勇者「まずは、敵の確認だな」ザッザッザッ

勇者「敵の姿を見てから、どうするか考えよう」ザッザッザッ

勇者「場合によっては、魔王軍が俺達に気づいた」ザッザッザッ

勇者「早速、魔王軍が四天王クラスでも送り込んできたんじゃねぇか?」ザッザッザッ

戦士「ああ、そっか」ザッザッザッ

魔法使い「その可能性もあるな……」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「じゃあ、俺達もそのまま戦闘だな!」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「早速、新調したばかりの装備を試させて貰うか!」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「勇者。先陣は俺に任せろ!」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「敵を確認次第、俺が切り殺してやる!」ザッザッザッ

戦士「じゃあ、俺も行くぞ!」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「おう。援護してくれ!」ザッザッザッ

勇者「おいっ、お前ら勝手に話を進めるな!」ザッザッザッ

勇者「まずは、敵の姿を確認してからだ!」ザッザッザッ

勇者「特に、戦士も賞金稼ぎもただの革鎧だろ!」ザッザッザッ

勇者「元々、お前らが軽い方が良いってそれにしたんだから、勝手に突っ走るな!」ザッザッザッ

戦士「へいへい」ザッザッザッ

賞金稼ぎ「そりゃあ、悪うございましたね」ザッザッザッ

商人「けど、それを言ったら俺達はただの布の服だぜ」ザッザッザッ

商人「俺も僧侶も魔法使いも武闘家も、ただの布の服なんだし」ザッザッザッ

商人「まぁ、勇者は無難に鎖帷子にしてるみたいだが」ザッザッザッ

商人「それ、実は衝撃と弓には弱いからな」ザッザッザッ

商人「まぁ、他の防具が良いなら、すぐに取りに行ってやるがよ」ザッザッザッ

勇者「……」ザッザッザッ

魔法使い「ん? 敵の反応が強くなってきた……」ザッザッザッ

魔法使い「おいおい、こりゃあマジでヤバイレベルのドラゴンだぜ……」ザッザッザッ

勇者「!?」ピタッ

勇者の仲間達「……」ピタッ

魔法使い「勇者。マジで引き返そう……」

魔法使い「これ、下手したら今の俺らじゃ絶対に敵わねぇレベルだぞ……」

勇者「おいっ、今の本当か?……」クルッ

勇者「一応、敵の顔だけでも見とかねぇか……」

魔法使い「勇者。すぐに引き返そう!」

魔法使い「頼む。一旦、連合軍拠点に戻って皆の防具の変更をさせてくれ!」

勇者「……魔法使い」

魔法使い「勇者!」

戦士「勇者。どうするんだ?」

戦士「引き返すか? 引き返さねぇのか?」

戦士「魔法使いの顔、だんだん青くなってきてるぞ……」

戦士「これ、実はかなりヤバイんじゃね?……」

魔法使い「……」ガクガクッ

僧侶「……」ガクガクッ

勇者「おいっ、お前ら大丈夫か?……」

勇者「一応、偵察だけでもしとかねぇか……」

魔法使い「勇者、すまん。今回ばかりは俺無理だわ……」ガクガクッ

魔法使い「明らかに、あれは上限突破してやがる……」ガクガクッ

勇者「!?」ガーーン

戦士「ま、まじかよ!?……」ガーーン

僧侶「勇者、お願いです。今すぐ引き返して下さい!」ガクガクッ

僧侶「あれは、確実に神からの使いです!」ガクガクッ

僧侶「神の使いは、最大1000までレベルが上がるんです!」ガクガクッ

僧侶「今、我々の近くにいるドラゴンにだけは、決して戦わないで下さい!」ガクガクッ

勇者「……」

戦士「さぁ、どうするんだ? 勇者」

勇者「でも、一応は確認するしかねぇだろ!」

勇者「俺達は、神に選ばれし勇者一行なんだからな!」

僧侶「ですが!」ガクガクッ

勇者「僧侶、魔法使い。大丈夫だ!」

勇者「相手は、ただの神の使い!」

勇者「勿論、俺達は戦闘すらしない!」

戦士「じゃあ、勇者の言う通りにしてみるか」

戦士「神の使いなら、俺達の味方かもしれねぇだろ?」

魔法使い「けどな……」ガクガクッ

勇者「はぁ、お前らここに置いてくぞ……」

勇者「それが嫌なら、お前らもついて来い……」

魔法使い「おっ、鬼だ……」ガクガクッ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

魔法使い「……」ガクガクッ

僧侶「……」ガクガクッ

「ほらっ、お前ら置いてくぞ!」

「それが嫌なら、さっさと来い!」

「僧侶、魔法使い。早く来い!」

「マジで、そこに置いてくぞ!」

魔法使い「……」ガクガクッ

僧侶「……」ガクガクッ

武闘家「さぁ、二人とも早く行くぞ!」

武闘家「早く二人とも歩くんだ!」

魔法使い「仕方ない。俺達も行くぞ……」ガクガクッ

魔法使い「じゃねぇと、俺らはアンデットの餌になりそうだからな……」ガクガクッ

僧侶「は、はい……」ガクガクッ

魔法使い「ちくしょう。勇者、後でぶん殴ってやる……」ガクガクッ

魔法使い「後で何かあっても、絶対に知らねぇからな……」ガクガクッ

僧侶「ええ、そうですね……」ガクガクッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

魔法使い「……」ザッザッザッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

僧侶「……」ザッザッザッ

勇者「おっ、ちゃんと来てるな」

勇者「結局、二人は歩けるんじゃねぇか」

勇者「と言うか、もうすぐ出口が見えてきたから早く来い」

勇者「なんか、出口前に変な女がいる」

勇者「とても、お前らが言う様なドラゴンなんていねぇんだけど」

魔法使い「!?」ピタッ

勇者「なぁ、魔法使い。お前ちゃんと感知してたのか?」

勇者「一体、どこにドラゴンがいるんだよ?」

魔法使い「……」ガクガクッ

勇者「魔法使い。俺の話を聞いてるか?」

勇者「僧侶も魔法使いも、何また足を止めてやがるんだ?」

僧侶「……」ガクガクッ

魔法使い「ゆ、勇者。逃げろ……」ガクガクッ

魔法使い「そいつが、俺が感知したドラゴンなんだが……」ガクガクッ

勇者「……は?」クルッ

戦士「冗談だろ?」

盗賊「どこをどう見ても、女僧侶と同じ服装をした女じゃねぇか」

盗賊「一体、あれのどこがドラゴンなんだよ?」

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

勇者「おっ、なんかこっちに来たぞ」

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

魔法使い「き、来た……」ガクガクッ

赤竜娘「失礼ですが、勇者一行の方達ですね?」ザッザッザッ

赤竜娘「私の名は赤竜娘。神からの命令で、貴殿方を魔王城にまでお連れ致します」ザッザッザッ

勇者一行「!?」

赤竜娘「ですから、どうぞ私の背中にお乗り下さい」ザッザッザッ

赤竜娘「ああ、少し変態をするのに時間が掛かりますが、それでも宜しいでしょうか?」ピタッ

勇者「え? ああ、はい。どうぞ……」

赤竜娘「では、少し移動致しましょうか?」ニッコリ

赤竜娘「ここでは、少し狭いですので」ニコニコ

勇者「はっ、はい……」ガクガクッ

赤竜娘「皆さん、私についてきて下さい」ニコニコ

赤竜娘「平原に出たら、私の本来の姿をお見せ致しますので」ニコニコ

勇者一行「はっ、はい……」ガクガクッ

クルッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

勇者「皆、あの人に続け……」ガクガクッ

勇者「今の俺達には、拒否権がないみたいだからな……」ガクガクッ

魔法使い「だから、言ったのに……」ガクガクッ

~南大陸・廃墟の町の前~

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

赤竜娘「……」ピタッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

勇者一行「……」ピタッ

赤竜娘「……」スッ

赤竜娘「……」フワッ

赤竜娘「……」フワワッ

赤竜娘「……」フワワッ

勇者一行「……」ガクガクッ

赤竜娘「……」スッ

シュン、シューーーーーーーーッ……

シューーーーーーーーッ、シューーーーーーーーッ……

シューーーーーーーーッ、シューーーーーーーーッ……

シューーーーーーーーッ、シュン……

赤竜娘(竜)「ふぅ……」バサバサッ

勇者一行「!?」ガクガクッ

赤竜娘(竜)「……」バサバサッ

赤竜娘(竜)「……」バサバサッ

スッ、ドシーーーーン……

勇者一行「ーーーーっ!?」ビクッ

赤竜娘(竜)「……」

勇者一行「……」ガクガクッ

赤竜娘(竜)「では、私の背中にお乗り下さい」

赤竜娘(竜)「後、私の背中にお乗りになる際には足元に注意して下さいね」クルッ

勇者一行「……」ガクガクッ

赤竜娘(竜)「勇者XXX。早くお乗り下さい」

赤竜娘(竜)「私は、貴殿方の敵ではないですので」

勇者「あ、ああ……」ガクガクッ

勇者「全員。あの竜の背中に乗れ……」ガクガクッ

勇者「さぁ、行くぞ……」ガクガクッ

戦士「ま、まじかよ……」ガクガクッ

勇者「皆、早くあの竜の背中に乗るんだ……」ガクガクッ

勇者「じゃねぇと、俺達はあの竜の餌になっちまうぞ……」ガクガクッ

魔法使い「ああ、そうだな……」ガクガクッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

魔法使い「……」ガクガクッ

武闘家「おい。早く行けよ……」ガクガクッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

「魔法使い、僧侶。早く乗れ!」

魔法使い「あ、ああ……」ガクガクッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

魔法使い「ちっ、ちくしょう……」ガクガクッ

僧侶「……」ガクガクッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

スッ、ヨジヨジッ……

「よしっ、全員乗ったぞ」

赤竜娘(竜)「ええ、そうみたいですね」

赤竜娘(竜)「では、これより魔王城に向かいます」

赤竜娘(竜)「なるべく、ゆっくりとした速度で飛びますので、どうかご安心の程を」

勇者「あ、ああ……」ガクガクッ

赤竜娘(竜)「ああ、それと絶対に私の背中から落ちないで下さいね」

赤竜娘(竜)「もし仮に、貴殿方一人でも落ちた場合には、もう二度とお仲間の方達とは会えなくなってしまいますからね」

勇者「りょ、了解した……」ガクガクッ

スッ、バサバサッ……

バザバサバサッ、バザバサバサッ……

勇者一行「!?」ガクガクッ

バザバサバサッ、バザバサバサッ……

バザバサバサッ、バザバサバサッ……

ビュン、キーーーーーーーーン……

~南大陸・連合軍拠点上空~

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

勇者一行「ーーーーーーーーっ!?」ガクガクッ

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

勇者一行「ーーーーーーーーっ!?」ガクガクッ

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

赤竜娘(竜)「♪~♪~♪」キーーーーーーーーン

~連合軍拠点・司令部~

伝令兵「報告。勇者一行が魔王城に向かいました!」

伝令兵「今現在、勇者一行は神の使いであるレッド・ドラゴンに乗り、我が軍の拠点上空を通過!」

伝令兵「その様子を、大勢の兵達が目撃をしております!」

伝令兵「如何致しますか?」

大賢者「う~~む」

賢者「大賢者様。もう宜しいのでは?」

賢者「勇者一行が、神の使いであるレッド・ドラゴンに乗り、魔王城に向かったと公表すべきではないでしょうか?」

大賢者「そうだな。他の諸侯や騎士達にも、そう伝えておけ」

大賢者「もう既に、あの娘の事に関しては手を打った!」

大賢者「伝令兵。全軍に対し、勇者がたった今魔王城に乗り込んだとそう伝えてくれ!」

伝令兵「はっ!」

本日の分、終了。

~魔王城・中庭~

その日の夕方ーー

魔王「……」テキパキ

魔王「……」テキパキ

魔王「……」テキパキ

魔王「……」テキパキ

魔王「……」テキパキ

魔王「……」テキパキ

魔王「……」テキパキ

魔王「……」テキパキ

魔王「ふぅ、終わった……」スッ

側近「おや、早かったですね……」

魔王「側近。これで良いか?」

魔王「何も、わざわざこんな仕掛けを発動させる必要すらないのだが」

魔王「これでは、魔王城の位置が完全にバレるぞ」

魔王「貴様は、この城を敵の目に晒したいのか?」

側近「ええ、そうでございます」

側近「そうでなければ、わざわざ魔王様にその仕掛けを発動させて頂くまでもありませんよ」

魔王「だが、今のこの城の守りは僅か100名だけだぞ?」

魔王「本当に、100名だけでこの城を守りきる事が出来るのか?」

側近「はい。出来ます!」ニッコリ

魔王「貴様。一体、何を考えておる?」

魔王「どうせまた、あ奴からの入れ知恵だろうがな」

側近「……」ニコニコ

側近「陛下。この城の守りにつきましては、どうかこの私めにお任せ下さい!」ニコニコ

側近「私が責任をもって、この城を守り抜いてみせまする!」ニコニコ

側近「何故なら、今の私めには秘策がございます!」ニコニコ

側近「その秘策さえ用いれば、逆に勇者一行ですら返り討ちにしてくれましょう!」ニコニコ

魔王「ほう」

魔王(こいつ、それだけの自信があると言う訳か……)

魔王「では、私は何をすれば良い?」

魔王「こうやって、この城を敵の目に晒す以外に何をすれば良いのだ?」

側近「陛下は私めが万が一しくじった時の為に、魔王の間で待機していて下さい!」ニコニコ

側近「必ずや、私達だけで勇者一行を返り討ちにしてみせまする!」ニコニコ

側近「陛下。陛下は、何もご心配には及びませんよ!」ニコニコ

側近「全て、私めに任せておけば良いのですから!」ニコニコ

魔王「なんか、貴様気持ち悪いぞ……」

魔王「普段の血も涙もないクソジジィっぶりは、一体どこに行ったのやら……」

魔王「まぁ、そろそろ城が敵の目の前に晒される」

魔王「それと、お付きの者達は皆避難させてあるか?」

魔王「ここには、戦える者以外は必要ないからな」

側近「はい。もう既に、戦えない者達は避難済みにございます」ニコニコ

スッ、グラッ……

グラグラグラッ、グラグラグラッ……

魔王「おっ……」

側近「どうやら、仕掛けが発動した様ですな」

側近「これで、この城は敵の目の前に現れる事でしょう」

魔王「ふむ。そうか」

~南大陸・巨大湖(水上)~

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……

シュン、ザバアアアアアアアア--------ッ……

ザバアアアアアアアアッ、ザバアアアアアアアアッ……

ザバアアアアアアアアッ、ザバアアアアアアアア……

ザバアアアアアアアアッ、ザバアアアアアアアアッ……

ザバアアアアアアアアッ、ザバアアアアアアアア……

ジャバジャバジャバジャバッ……

ジャバジャバジャバジャバッ……

ジャバジャバジャバジャバッ……

ジャバジャバジャバジャバッ……

~魔王城・中庭~

側近「陛下。人間界に移動致しました」

側近「後は、勇者一行を待つだけです」

魔王「うむ。そうか」

側近「あの方からの知らせによりますと、赤竜娘が勇者一行をここにまで誘導するとか」

側近「大体、早くても本日の夕方ぐらいにはここに到着致します」

魔王「そうか。もうすぐだな」

魔王「私は、人間界に来るのはこれで三度目だが、この大陸の自然は美しい」

側近「……」

魔王「本当に、人間達はエゴな生き物よのぅ」

魔王「こんなにも美しい自然を、自らの手で破壊しているのだからな!」

側近「ええ、そうですね」

魔王「側近。後の事はそなたに任す!」

魔王「そなたも、悔いの様に戦え!」

側近「はっ!」

魔王「後、四天王達はどうしたのだ?」

魔王「ここ最近、あ奴等の顔すら見てはいないが」

側近「いえ、私は何も知りませぬが」

魔王「なら、あ奴等はこの大事な時に何をしているのだ?」

魔王「もしや、魔界の方の警備だろうか?」

魔王「元々、四天王と言っても実態は私の支配下にない領主達だ」

魔王「あ奴等は、いつも勝手に個々に動きよる」

魔王「いずれは、私の指揮命令系統に入る四天王がほしいくらいだ」

魔王「そうすれば、この南大陸ぐらい楽にすぐ手に入れれる」

側近「陛下。今は、まだ耐える時期ですぞ!」

側近「いくら陛下が何人もの勇者を倒したとしても、魔界の民達はすぐには陛下の事をお認めにはなりません!」

側近「魔界の民達は、陛下がお若い限りは魔界全体にも及ぶ絶対的な権力を握る事は反対なのです!」

側近「過去に魔界では、経験が浅い者が王となった為に、数多くの死傷者を出してしまいました!」

側近「その教訓から、魔界の王に就任した者には、すぐにも絶対的な権力を与えられないのです!」

魔王「……」

側近「陛下。ここは、まだ堪え忍んで頂きたい!」

側近「あの方ですら、劣悪な環境下に置かれながらも、必死で耐え抜いたのです!」

側近「私は、御先代様よりよく申し付けられておりました!」

側近「“いずれ、魔王に選出される我が娘の事を頼む!”」

側近「“あの馬鹿娘には色々と手を焼かされる事になると思うが、容赦なくそなたに扱いて貰いたい!”と、そう私は御先代様より申し付けられておりました!」

魔王「おいっ!?」クルッ

側近「陛下。それでは、次の執務に入りましょう」

側近「まだ、私が思ってたよりも長くお時間の空きがございます」

側近「ささっ、執務室にまでお向かい下さい」

側近「勇者一行がここに到着致しますのは、本日の夕方になりますので」ニッコリ

魔王「絶対に嫌だ!」

側近「さっさと執務室に行かんか! この小娘が!」ギロッ

魔王「貴様。少しくらい、私に休ませろ!」

魔王「ここの使用人達ですら一度も経験した事のない、超過密スケジュールだぞ!」

魔王「私、まだまだ若いもん!」

魔王「まだまだ色んな所に行って、子供みたいに皆で遊びたいもん!」ギロッ

側近「陛下ーーーーーーーーっ!」ギリッ

魔王「うるさーーーーーーーーい!」ギリッ

側近「陛下。早急に、執務室にて次の執務におとり掛かり下さい!」

側近「せっかく、私が良いお話をして締めたのです!」

側近「ですから、早急に溜まりに溜まった書類に目を通して下さい!」

魔王「ふざけるなーーーーーーーーっ!!」ダッ

側近「だから、御先代はこの私に陛下の事を扱いてくれてと頼んだんだろうがーーーーーーーーっ!!」ダッ

魔王「ーーーーーーーーっ!?」ガーーン

スッ、ガシッ……

ジタバタッ、ジタバタッ……

魔王「離せ、離せ!」ジタバタッ

側近「陛下。いくら逃げても、私は追いかけまするぞ!」ギューーッ

側近「さぁ、早く溜まりに溜まった書類に目を通して下さい!」ギューーッ

魔王「いやああああああああーーーーーーーーっ!?」ジタバタッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

守備隊長「ああ……」

魔王「側近。早く離せ!」ジタバタッ

魔王「私は、まだ遊びたい盛りなんだーーーーーーーーっ!!」ジタバタッ

守備隊長「……陛下」

守備隊長「報告。魔王城の移転完了!」

守備隊長「全ての設備、資材、人員等にも以上はありません!」

側近「うむ。そうか……」ギューーッ

守備隊長「ちなみに、貴殿は何をされておるのです?……」

守備隊長「やけに、陛下が貴殿の腕の中でもがかれておるが……」

魔王「離せーーーーーーーーっ!!」ジタバタッ

側近「ああん!? 陛下がまた駄々を捏ねてるから対処してるだけだ!」ギューーッ

側近「それ以外に、一体何がある!?」ギューーッ

魔王「ヘルプ・ミーーーーーーーーッ!!」ジタバタッ

側近「陛下。そんなんだから、民達がついてこないのです!」ギューーッ

側近「魔界の王権を再び強化したいのなら、陛下が民達に認められる様にならなければならないのですよ!」ギューーッ

魔王「ーーーーーーーーっ!?」ガーーン

側近「陛下。何度も私は申し上げますが、ここはまだ耐え忍んで頂きたい!」ギューーッ

側近「ここで、陛下がお逃げになる様では絶対的な権力を握る事等、夢のまた夢です!」ギューーッ

側近「ですから、まだ時間の方がございますから、そのまま執務室へ!」ギューーッ

側近「溜まりに溜まった書類が、陛下の事を心待にしております!」ギューーッ

側近「全ては、陛下のその怠慢癖が招いた結果なのですよ!」ギューーッ

魔王「いやああああああああーーーーーーーーっ!?」ジタバタッ

守備隊長(はぁ、陛下にも困ったものだ……)

守備隊長(確かに側近殿の言う通り、陛下のあの怠け癖にも問題がある……)

守備隊長(だが、側近殿も側近殿で容赦しないからな……)

守備隊長(御先代様も、陛下には大層手を焼かされていただろう……)

側近「……」ギューーッ

魔王「このっ、このっ……」ジタバタッ

守備隊長「では、私はこれで」

守備隊長「何かありましたら、すぐにご報告致します」

側近「うむ。了解した」ギューーッ

守備隊長「陛下。私はこれにて失礼致します」

守備隊長「お戯れもの程も、程ほどにお願い致します」ペコッ

魔王「ーーーーーーーーっ!?」ガーーン

魔王「ちょっと、あんた私を助けてよ!」

魔王「守備隊長。あんた、どこ行くの?」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

魔王「守備隊長。お願い、待って!」

魔王「そんな味のある背中をしながら、私の前から消えないで!」ウルッ

側近「陛下。もう諦めて下さい!」ギューーッ

側近「もう時期、勇者一行がここに到着を致します!」ギューーッ

側近「ですから、陛下も早急に執務室へとお向かい下さい!」ギューーッ

側近「一体、陛下はいつまでそうやって駄々を捏ねられておられるのですか!?」ギューーッ

魔王「いやああああああああーーーーーーーーっ!?」ジタバタッ

キラーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

ドピューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

ドピューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

魔王「!?」ピタッ

側近(くっ、もう来たか!?……)ハッ

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

ドピューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

ドピューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

魔王「なっ、何あれ?……」

魔王「側近、今なんかここを物凄い勢いで通り過ぎて行ったけど……」クルッ

側近「多分、今のが勇者一行でしょうな……」

側近「相変わらず、陛下は悪運だけはお強いですな……」

魔王「!?」ピカァ

側近「陛下。何もそんな嬉しそうな顔をなされても無駄ですぞ!」

側近「たとえ、勇者一行を陛下が返り討ちにしたとしても、溜まりに溜まった書類の山の決済は全て陛下がなさらなければなりませんからな!」ニッコリ

魔王「鬼ーーーーーーーーっ!?」ガーーン

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

守備副長「報告。勇者一行と思しき飛行物体が、当城の上空を通過致しました!」

守備副長「今現在、その飛行物体は当城の上空を何度も旋回!」

守備副長「いずれ、付近の陸地に着陸する模様!」

守備副長「守備隊長より、全隊に警戒態勢が発令されました!」

守備副長「側近殿、如何致しますか?」

守備副長「至急、兵を派遣して偵察を致しましょうか?」

側近「いや、まだ兵を勇者一行には近づけるな!」ギューーッ

側近「陛下はまだ、溜まりに溜まった書類の決済が終えられていない!」ギューーッ

側近「それと、守備隊長には“合図があるまで攻撃を控えよ!”」ギューーッ

側近「そう、しかと守備隊長に申しておけ!」ギューーッ

守備副長「はっ、しかと承りました!」

守備副長「それでは、私は失礼致します!」

守備副長「陛下。どうか、お戯れも程ほどに!」

守備副長「あまり、側近殿のお手を煩わせてはなりませぬぞ!」

側近「ああ、了解した」ギューーッ

魔王「以後、気を付けさせて貰う(棒)」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

魔王「……」

側近「……」ギューーッ

魔王「……」ウルッ

側近「……?」ギューーッ

魔王「……側近。戯れも終わりだ」ウルウルッ

魔王「そろそろ、勇者がここに来る」ウルウルッ

魔王「私は、まだそなたの言う通り民達に認められてはいない様だな……」ウルウルッ

魔王「さぁ、行くぞ……」ウルウルッ

側近「……はっ!」バッ

魔王「……」スッ、フキフキ

側近(ようやく、陛下も分かって頂けたか……)

側近(自身ではなく、この私に指示を仰がれたら致し方ないか……)

側近(陛下。まだまだ道は遠いですぞ……)

側近(あの方ですら、自身を認めて貰うまでに100年を要したのですから……)チラッ

魔王「……」ウルウルッ

側近「……」

魔王「側近、もう行くぞ……」ウルウルッ

魔王「ここにいても、何も変わらぬ……」ウルウルッ

魔王「父上、どうか再び私の事をお守り下さい……」ウルウルッ

魔王「私はまだ、死にたくはないですから……」ウルウルッ

側近「……陛下」

魔王「……」ウルウルッ

~南大陸・巨大湖(陸地)~

その頃ーー

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

キーーーーーーーーン、キーーーーーーーーン……

ヒューーーーーーーーッ、ヒューーーーーーーーッ……

ヒューーーーーーーーッ、ヒューーーーーーーーッ……

ジャバババババババッ、ジャバババババババッ……

ジャバババババババッ、ジャバババババババッ……

ジャバババババババッ、ジャバババババババッ……

ジャバババババババッ、ジャバババババババッ……

スッ、ズドーーーーーーーーン……

ズザザザザザザザッ、ズザザザザザザザッ……

ズザザザザザザザッ、ズザザザザザザザッ……

キキィーーーーーーーーッ、キキィーーーーーーーーッ……

キキィーーーーーーーーッ、キキィーーーーーーーーッ……

スッ、スタッ……

赤竜娘(竜)「ふぅ……」

勇者一行「……」グラッ

ドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサッ……

赤竜娘(竜)「皆さん。着きましたよ」

赤竜娘(竜)「ちゃんと、生きてますか?」クルッ

勇者一行「……」

赤竜娘(竜)「ああ、完全に意識すら飛んでますね……」

赤竜娘(竜)「まぁ、多分大丈夫でしょうけど……」

勇者一行「……」

赤竜娘(竜)「では、私はもう帰らせて頂きますね」

赤竜娘(竜)「私の役目は、もうここまでですので」

勇者一行「……」

赤竜娘(竜)「勇者XXX。どうかお気をつけて!」

赤竜娘(竜)「貴方が死んだら、この世界の人間達が確実に不幸になるのですからね!」

赤竜娘(竜)「それでは!」

数時間後ーー

勇者「……」

戦士「……」

魔法使い「……」

僧侶の死体「……」

武闘家「……」

盗賊「……」

賞金稼ぎ「……」

商人の死体「……」

勇者「……」パチッ

スッ、ムクッ……

キョロキョロ、キョロキョロ……

勇者「皆、無事か?……」

勇者「皆、勝手に死んだりはしてねぇよな?……」

僧侶の死体「……」

勇者「おいおいっ、マジかよ……」

勇者「俺、蘇生魔法は使えねぇのに……」

魔法使い「……」パチッ

スッ、ムクッ……

魔法使い「こ、ここは?……」

勇者「おおっ、魔法使い無事だったか?……」

勇者「良かった。生きてるのが俺だけじゃなくて……」ウルッ

魔法使い「ああ、そうか……」クルッ

魔法使い「……」キョロキョロ

魔法使い「とりあえず、死んだ奴等は俺が蘇生魔法掛けるわ……」

魔法使い「僧侶の奴、完全にショック死してやがる……」

勇者「ああ、そうか……」

魔法使い「本当に、お前は困ったリーダーだぜ……」

魔法使い「今回ばかりは、さすがに付いていけねぇと思ったぞ……」

勇者「ああ、すまんかった……」

魔法使い「だから、勇者はその辺で休んどけ……」

魔法使い「俺は、適当に他の奴等に蘇生魔法を掛けといてやる……」

魔法使い「本当に、次からは気を付けてくれよ……」

魔法使い「じゃねぇと、あいつみたいにお前の悪評とかばら撒くからな……」

勇者「ああ、すまんかった……」

魔法使い「はぁ……」ポリポリ

勇者達は、魔王城に辿り着いた。

多少のしこりが残りながらも、大事を取って翌朝に攻め込む事にした勇者達。

その一方で、魔王城では今日もまた年若い魔王の泣き叫ぶ声と、年老いた側近の怒声が響き渡っていく。

勇者達はそんな事を知る由もなく、明日への戦いに向けて万全な準備を整えていった。

私は、勇者達が羨ましかった。

私もまた、あのキモメンさえいなかったら、勇者と共に魔王討伐に向かいたかった。

けれど、今の私の体は完全に師匠によって汚されてしまった後。

師匠のあまりにも身勝手な欲望により、私の運命は大きく狂わされてしまう。

翌朝、私はとあるビラを拾ってしまった。

そのビラを拾った瞬間、思わず我が目を疑ってしまっていた。

偶々、昨夜は私同様に被害に遭っていた先輩達と飲んでいた帰り。

まるで、そのビラが雨の様に多数町中に降り注いでいく。

その後、勇者の評判が一気に下がった。

勇者は、私を汚した加害者に仕立てあげられていた。

後に、このビラと全く同じ物が世界中の村や町等にすぐさま拡散されてしまい……

勇者はそんな事さえ知らず、仲間達と共に魔王城へと突入をしていったのだった。

本日の分、終了。

支援ありがとうございます。

~南大陸・巨大湖(陸地)~

翌朝ーー

勇者「あれが、魔王城か……」

勇者「本当に、湖に浮かんでやがる……」

戦士「これ、絶対船が必要になるぞ……」

戦士「と言うか、その辺に船とか残ってねぇのかな?」

勇者「いや、それ無理だろ……」

勇者「このまま、泳いで行くしかないな……」

戦士「!?」ガーーン

盗賊「第一、船なんかどこにもねぇだろ……」

盗賊「これ、マジで泳がなきゃいけなくなるんじゃねぇか?……」

戦士「うわっ、それ最悪だわ……」

盗賊「けど、この中に泳げる奴はいるのか?」

盗賊「俺、一度も泳いだ事ねぇんだけど」

戦士「ああ、俺も」

賞金稼ぎ「俺も、泳ぎは苦手なんだ」

賞金稼ぎ「まさかとは思うが、全員泳げねぇとか?」

勇者一行「……」コクン

賞金稼ぎ「は? そりゃあねぇだろ?」

賞金稼ぎ「じゃあ、どうやって魔王城にまで突入するんだよ?」

商人「勇者。俺、今から船買ってくるわ!」

商人「誰か、俺と一緒についてきてくれ!」

武闘家「じゃあ、俺も行こう!」

勇者「ああ、頼む!」

魔法使い「ああ、ちょっと待ってくれ!」

魔法使い「一回、俺に魔法を試させてくれないか?」

勇者「ん?」クルッ

魔法使い「実は、大賢者様からもしもの時に使えと渡されてた奴があるんだ!」

魔法使い「それを、今から使わさせて貰いたい!」

勇者「ああ、良いぞ!」

魔法使い「……」スッ

ガサガサガサッ、ガサガサガサッ……

魔法使い「おっ、合った合った!」

スッ、ヌポッ……

魔法使い「ほれ!」ポイッ

スッ、チャポン……

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

勇者「おいっ、何か出て来たけど……」

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

勇者「おいっ、本当に大丈夫なのか?……」

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

プシューーーーーーーーッ、プシューーーーーーーーッ……

シュン、ザバアアアアアアアアッ……

ハンザコグ船「……」

勇者「おおっ、船が出てきた!?」

勇者「と言うか、どうやったんだよ!?」クルッ

魔法使い「これは、単なる召喚術の一種さ」

魔法使い「大賢者様曰く、持ち運びに不便な船に特殊な術式を掛けといた」

魔法使い「後は、実際に必要な時だけに俺が渡されていた同じく特殊な術式が掛かったこの瓶のコルクを抜くだけ」

魔法使い「それを水の中に投げれば、こうやって船が別の場所から転送されてくる訳だ」

武闘家「けど、これはこれでデカ過ぎるだろ」

武闘家「俺達だけで、本当にこれ使えるのか?」

勇者「ああ、そう言えば……」

魔法使い「まぁ、それについても大丈夫だ」

魔法使い「後は、俺が船員を出せば良いんだからな」

勇者「へぇ……」

盗賊「とりあえず、船は確保出来た」

盗賊「試しに、この船に乗ってみようぜ」

勇者「おおっ、良いな。それ」

魔法使い「じゃあ、先に勇者達は乗っといてくれ」

魔法使い「俺は、早速船員を出しておくから」

勇者「ああ、了解した」

ヒュン、ブラブラブラッ……

勇者「ん? ロープ」

魔法使い「皆、それを使って登っといてくれ」

魔法使い「まだ、少し時間が掛かるからな」

勇者「ああ、了解した」

スッ、ヨジヨジヨジッ……

スッ、ヨジヨジヨジッ……

シュピン……

魔法使い(ん? どこからかの通信……)

魔法使い(その船は、魔王城に直通だ……)

魔法使い(わざわざ、そこで船員を出す必要はない……)

魔法使い(早く乗れ、だと?……)

魔法使い「……」キョロキョロ

魔法使い(とりあえず、俺も船に乗るとするか……)

魔法使い(どうやら、大賢者様がその辺についても考慮されていたみたいだし……)

魔法使い(まぁ、元々は数十名程度で乗れる船だからな……)

魔法使い(すぐそこの魔王城に行くだけなら、俺達だけでも十分か……)

スッ、ヨジヨジヨジッ……

スッ、ヨジヨジヨジッ……

~巨大湖(水上)・ハンザコグ船内~

十数分後ーー

勇者「おおっ、これが船内か!」

勇者「これ、かなり良いな!」

魔法使い「そりゃあ、大賢者様が用意された船だぞ」

魔法使い「だから、何も問題はねぇよ」

勇者「それで、いつ出発するんだ?」

勇者「出来れば、今すぐ出発してほしいんだが」

魔法使い「ああ、ちょっと待ってな」

「勇者殿、ご心配なく!」

「これより、出航致しますので!」

勇者「おおっ、そうなのか!」

魔法使い(ん? 今どこからか声が……)クルッ

魔法使い(ついさっきの魔法通信の奴か……)

魔法使い(一体、どこに隠れてやがる?……)

魔法使い(何故、俺達の前に姿を見せない……)

魔法使い「……」キョロキョロ

魔法使い「……」キョロキョロ

「魔法使い殿、何をしているのです」

「まだ、あれを出してはおりませぬぞ」

魔法使い「まっ、まさか!?」

勇者「ん?」クルッ

魔法使い「……」スッ

ガサガサガサッ、ガサガサガサッ……

スッ、ヌポッ……

スッ、コロンコロン……

プシューーーーッ、プシューーーーッ……

プシューーーーッ、プシューーーーッ……

プシューーーーッ、プシューーーーッ……

シュン、シュタタタタタッ……

召喚船長「ふぅ、やっと出れた……」

召喚船長「魔法使い殿、出来れば早く実体化してほしかったですな」

魔法使い「ああ、すまなかった……」

召喚船長「では、早速船を出しましょう!」

召喚船長「総員、持ち場につけ!」

召喚船員達「はっ!」

ダダダダダダダダッ、ダダダダダダダダッ……

ダダダダダダダダッ、ダダダダダダダダッ……

勇者「……」

魔法使い「……」

「なっ、何だ!?」

「うわっ、何か沢山来た!?」

「ちょっと、あんたらそこ邪魔だ!」

「帆、揚げられねぇだろうが!」

「す、すいません!」

「おいっ、そこの舵に手を触れるな!」

「それ折れたら、旋回出来ねぇぞ!」

「はいーーーーっ!」

勇者「なんか、勝手に出てきたな……」

勇者「あれも、大賢者様から渡されてたのか?……」

魔法使い「ああ、まあな……」

勇者「ちなみに、お前は出来ねぇのか?」

勇者「もし出来るのなら、今後それを使ってほしいんだが」チラッ

魔法使い「すまん。まだ、それについては教わっていないんだ」

ダダダダダダダダッ、ダダダダダダダダッ……

ダダダダダダダダッ、ダダダダダダダダッ……

「おいっ、てめぇら邪魔だ!」

「そこ退きやがれ!」

「船長。後もう少しです!」

「目的地は、どこになるのですか?」

召喚船長「諸君。我々の目的地は、すぐそこの魔王城だ!」

召喚船長「これより、我らは魔王城に向かう!」

召喚船長「皆、勇者様のお役に立てる事を光栄に思え!」

召喚船長「我らは今、いずれ語り継がれていく勇者様の伝承の一部となったのだからな!」

「おーーーーーーーーっ!」

勇者「……//」カアアァ

召喚船長「勇者殿。ささっ、船員達に対して何か一言を!」

召喚船長「勇者殿からのお言葉を頂ければ、ますます船員達の士気も上がる事でしょう!」

勇者「え?//」カアアァ

魔法使い「ほらっ、何か言ってやれ!」クイクイッ

勇者「今日で、魔王も終わりだ!//」カアアァ

勇者「勝利は、我らの手の中にある!//」カアアァ

召喚船長「皆、聞いたな?」

召喚船長「勝利は、もう既に我らの手の中にある!」

召喚船長「進め。XXXX号よ!」

召喚船長「さぁ、早く出航をするのだ!」

召喚船長「全ての人間達の平和の為に!」

「おーーーーーーーーっ!」

ゾロゾロゾロッ、ゾロゾロゾロッ……

ゾロゾロゾロッ、ピタッ……

戦士「なんか、急に賑やかになったな……」

戦士「お前、いつ船員を出したんだよ……」

魔法使い「ああ、ついさっきだ」

戦士「そうか……」

魔法使い「とりあえず、まだ出航まで時間がある」

魔法使い「だから、お前らは邪魔にならない様にそこで待機しておけ」

戦士「ああ、了解した……」

賞金稼ぎ「お前、あいつら出すなら先に言えよ……」

賞金稼ぎ「おかげで、こっちが怒鳴られたんだからな……」

魔法使い「ああ、すまんかった……」

勇者(まぁ、色々とあったが船は手に入れた……)

勇者(後は、出航をするだけか……)クルッ

勇者(待ってろ。魔王XXXX……)

勇者(今日で、お前も終わりだ……)

勇者(お前を倒せば、全世界の民達が全て平和に暮らせるのだからな!)ギロッ

魔王城「……」

魔法使い(あいつ、本当に大丈夫か?……)

魔法使い(ついさっきから、魔王城を睨み付けているが……)

魔法使い(まぁ、後もう少しで出航だ……)

魔法使い(結局、勇者に関する悪評はなかなか消えない……)

魔法使い(それを考えたら、ああなるのも無理はないわな……)

勇者「……」ジーーッ

魔法使い(とにかく、大賢者様には連絡をしとこう)

魔法使い(師匠と違って、本当に大賢者様は役に立つ)

魔法使い(俺も、魔女の様に弟子入りする人を間違えたな)

魔法使い(出来る事なら、時間だけでも戻してぇよ……)

魔法使い「……」スッ

魔法使い「……」ブツブツ

本日の分、終了。

~魔王城・魔王の間~

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」

スッ、ゴクゴクゴクッ……

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」

トントン、トントン……

魔王「誰だ?」ムクッ

スッ、ガチャ……

側近「陛下。ご報告致します!」

側近「勇者一行が現れました!」

側近「今現在、勇者一行はハンザコグ船らしき物を一隻用意!」

側近「推定兵力は、およそ数十名と思われます!」

魔王「!?」

側近「陛下。いよいよ、勇者との戦いが始まりますな!」

側近「陛下は、そのままの装いで宜しいのですかな?」

魔王「ああ、大丈夫だ」

魔王「もう既に、装いも替えといた」

魔王「しかし、鎖帷子とは便利な物だな」

魔王「少し肩に来るが、女の私でも着用出来るからな」

側近「陛下。本当に、鎖帷子で宜しかったのですか?」

側近「今は、鎖帷子以外にも板金鎧もございますが」

魔王「別に、私はあんな物を着る必要はない!」

魔王「それは、男が鎖帷子の上に着込むものだろ?」

魔王「私は、ただの年若い女だ!」

魔王「そんな物着込んだら、私の肩が潰れるだろうが!」

側近「陛下。それだけでは、少し防御が薄いかと!」

側近「やはり、板金鎧もその上に着用して頂きたい!」

魔王「貴様、板金鎧の重量分かってんのか?」

魔王「板金鎧の重量は、30Kgもあるのだぞ!」

魔王「そんなの着てたら、重すぎて戦えんわ!」

魔王「貴様、それ分かって言ってるのか?」ギロッ

側近「はい。ですから、私は陛下にも着用をして頂きたい!」

側近「私は、今は亡き御先代様より陛下の事を託されております!」

側近「陛下。今のままでは示しが付きませぬぞ!」

側近「陛下は、魔界を代表する王なのですから!」

魔王「くどい!」イラッ

側近「……」

魔王「側近。他に言いたい事はあるか?」

魔王「勇者は、後どれぐらいでここに着くのだ?」

側近「大体、早くても数十分から数時間かと」

側近「まだ、我々は正確な情報を得てはおりません」

側近「それに、連合軍の動きも気になります!」

魔王「あっ、そう言えば……」

側近「陛下。もう一つ、ご報告致します!」

側近「連合軍は、未だに拠点から出てはきません!」

魔王「は?」

側近「何故か、連合軍は一度も拠点から出てこないのです!」

側近「特に理由もなく、ずっと拠点に隠りっきりの様です!」

魔王「……」

側近「陛下。如何致しますか?」

側近「連合軍に対して、何らかの動きがあった様に思いますが」

魔王「どうせ、向こうもウチと同じじゃないのか?」

魔王「軍役期間に入ったから、戦の準備をして連合軍拠点にまで出向く」

魔王「だが、召集された騎士や貴族達は戦をするのがめんどくさいから、ずっと拠点に篭りっきり」

魔王「なんとなく、そんな感じがしてきたんだが」

側近「陛下。それでしたら、代わりに武装させた傭兵を戦地に送り出せば良いだけです!」

側近「連合軍拠点には、大賢者に大魔導師までおりまするぞ!」

側近「これは、絶対に何かございます!」

側近「連合軍拠点には、まだ無傷の約二万五千の兵力がおりますからな!」

魔王「う~~む」

スッ、パタン……

側近「陛下。ここは、予定を変更して援軍をお呼びしましょうか?」

側近「一応、今の私にその宛がございますが」

魔王「まぁ、その辺についてはそなたに任せる!」

魔王「今の私は、あ奴から借りたままの書物を読まなければならないからな!」クイクイッ

書物の山「……」

側近「……」

側近「陛下。そんなにお暇でしたら、これより新たな書類の決済を始めましょうか?」

側近「今の陛下は、そうのんびりと書物をお読みになっているお暇はないのですが」

魔王「側近。それだけは嫌だ!」

魔王「たまには、ゆっくり書物くらい読ましてくれ!」ウルッ

側近「……」ジーーッ

魔王「……」ウルウルッ

側近「陛下。その様なお顔をされても困ります!」

側近「なるべく、お早めに魔界から届いた書類に目を通してほしいのですが!」

魔王「だから、あの量はいくら何でも異常だって!」ウルウルッ

魔王「あれ、絶対私関係ない書類とか入ってるよね?」ウルウルッ

側近「いいえ!」

魔王「絶対、嘘だ!」ウルウルッ

魔王「とにかく、援軍を呼べるのなら今すぐ呼べ!」

魔王「さすがに、ここの守備兵100名だけでは絶対に無理だろ!」

側近「ですが、世の中には守備兵が僅か6名しかいなかった城もございます」

側近「大体、多くても30名から40名」

側近「守備兵を置くにも、それなりの予算が必要となりますからな」

側近「これだけの守備兵を用意出来ただけでも、陛下はまだ運が良い方ですよ!」

魔王「だが、いくら何でも兵が少なすぎる!」

魔王「今の私は、そんなに評判が悪いのか?」

側近「はい!」

魔王「!?」ガーーン

側近「それにつきましては、本当に陛下の自業自得です!」

側近「常日頃から、惰眠を貪っているからこんな事になるのですぞ!」

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ピタッ、カシャン……

護衛隊長「陛下。お久しゅうございます!」

護衛隊長「護衛隊長XXXX、ただ今参上致しました!」

魔王「おおっ、そなたは!?」ピカァ

護衛隊長「陛下。本当に、お久しゅうございます!」

護衛隊長「少し、お顔色が悪い様ですが……」

魔王「ああ、これについては今そこにいるクソジジイのお陰だ!」

魔王「せっかく、私は母上譲りの美貌を受け継いだと言うのに!」

魔王「ここ最近、まともな食事や睡眠すらろくに取らされていない!」

魔王「本当に、そなたの顔を見ただけでも安らぎが訪れたわ!」

側近「護衛隊長。ご苦労だった」

側近「予定とは違ったが、貴殿には陛下の護衛をして貰う」

魔王「!?」ピカァ

側近「護衛隊長。くれぐれも気を付けてな!」

側近「相変わらず、陛下は惰眠を貪っている!」

側近「こんな事なら、まだ大公殿下の方が遥かにマシだった!」

護衛隊長「貴殿。それはちと言い過ぎかと」

護衛隊長「確かに、大公殿下は魔王としての素質は、陛下よりも遥かに上だった!」

護衛隊長「しかし、大公殿下は不治の病に侵されてしまったからには、そうも行かない!」

護衛隊長「それさえなければ、陛下の美貌は常に保たれたままであった!」

護衛隊長「魔界での貴殿、かなり評判が悪いぞ!」

護衛隊長「あれだけお美しかった陛下が、見る影もなく無惨なお姿になられたと、魔界では大論争が巻き起こっておるのだぞ!」ギロッ

側近「だが、それも致し方なかった!」

側近「陛下が、最初から怠け癖さえ出さなければ、こんな事にはならなかったのだ!」

側近「貴殿らは、執務中の陛下の事を知らぬからそんな事が言える!」

側近「魔界に避難した使用人達にも聞いてみろ!」

側近「普段、陛下がどれだけ職務怠慢かが、すぐに明らかになるわ!」ギロッ

護衛隊長「何をーーーーーーーーっ!?」ギロッ

魔王「貴様ら、少し黙れ!」

魔王「ここは、王の御前でもあるぞ!」キリッ

側近「だったら、普段から真面目に王らしく政務執り行えや! この小娘が!」ギロッ

側近「私は、陛下の側に仕え出してから胃腸を悪くしたのだぞ!」

側近「それに、陛下の怠け癖が原因でいつもいつも他の者から催促されているのが、この私なんだ!」

側近「少しは、余命短い老人を労れや!」ブチッ

魔王「は? 貴様が余命短い?」

魔王「まだ、貴様は600歳過ぎたばかりだろ?」

魔王「護衛隊長。そなたの兵力は如何程だ?」

魔王「一体、いくら兵を連れてきてるのだ?」

護衛隊長「はっ、ここの守備隊と同数でございます!」

魔王「うむ。そうか」

魔王「側近。他に援軍は?」

魔王「他に、援軍は来ないのか?」

側近「はっ、私がご用意致したのはこれだけです!」

側近「ですが、この城を守るには十分な数が揃っております!」

側近「あまり、兵を多く用意し過ぎるとすぐに兵糧が尽きます!」

側近「勇者一行のみを相手するなら、これだけでも十分な兵力だと思いますが!」

魔王「そうか。援軍はこれだけか……」

魔王「これも、私の人徳の無さが招いた結果かもしれないな……」ガクッ

側近「陛下。あまりそうお気を落とされても」

側近「そもそも、数百人単位で動く戦の方が珍しいですぞ!」

側近「今は亡き御先代でも、戦で千名を召集出来れば上出来でした!」

側近「ですから、陛下はそうお気を落とされる必要はないのです!」

魔王「とりあえず、少し一人にしてくれ……」

魔王「私の方でも、今からあ奴の方に連絡を取ってみる……」

魔王「結局、私はあ奴が提案した召喚兵に頼る事になるのか……」

魔王「最初から、あ奴の言う通りにしておれば……」

側近「……」

護衛隊長「……陛下」

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ピタッ、カシャン……

守備隊長「報告。勇者一行が動きました!」

守備隊長「勇者一行は、船を使ってこちらに上陸する様です!」

魔王「何?」ハッ

側近「守備隊長。至急、迎撃の用意を!」

側近「勇者一行に対して、大量の矢を浴びせるのだ!」

守備隊長「はっ!」

護衛隊長「でしたら、我々も加勢させて頂く!」

護衛隊長「我々の保有している炸裂矢の威力を、とくとご覧あれ!」ムクッ

守備隊長「おおっ、了解した!」

側近「では、行って参ります!」

側近「何かございましたら、すぐにご報告致しますので!」

魔王「うむ、行って参れ!」

護衛隊長「陛下。すぐに我々は戻ります!」

護衛隊長「少しの間ですが、どうかご容赦を!」

魔王「ああ、了解した!」

クルッ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

スッ、バタン……

魔王「ふぅ……」

魔王(何故か、守備隊の装備が大幅に強化されてた……)

魔王(普段は、ただの革鎧の癖に……)

本日の分、終了。

支援ありがとうございます。

~巨大湖(水上)・ハンザコグ船内~

ヒューーーーーーーーッ、パタパタパタパタッ……

スーーーーーーーーッ、スーーーーーーーーッ……

ヒューーーーーーーーッ、パタパタパタパタッ……

スーーーーーーーーッ、スーーーーーーーーッ……

勇者「なんか、船の速度が速くないか?……」

召喚船員「おいっ、速度速えぞ!」

召喚船員「もう少し、速度落とせ!」

魔法使い「はい!」

召喚船長「魔法使い殿、風が強すぎだ!」

召喚船長「風魔法を一時止めるんだ!」

魔法使い(何で、俺まで……)スッ

召喚船員2「船長。もう少しで到着します!」

召喚船員2「ですが、このまま行くとかなり危険ですよ!」

召喚船長「ああ、分かっとる!」

召喚船員3「船長。ここはもう敵陣です!」

召喚船長3「城壁に、多数の人影らしき物が見えます!」

召喚船長「何!?」

勇者「魔法使い。シールドを緊急展開!」

勇者「船全体に、シールドを張るんだ!」

魔法使い「ああ、ちょっと待ってくれ!」スッ

戦士「勇者。あまり顔を出すな!」

戦士「弓兵に狙われたらどうすんだ!」

勇者「しかし!」

召喚船員2「船長。上陸地点まで後もう少しです!」

召喚船員2「このままだと、乗り上げてしまいますよ!」

召喚船長「船尾。舵を右に回せ!」

召喚船長「魔法使い殿、早く風を弱めんか!」

魔法使い「ああもう、皆一気に言うな!」

勇者「早くしろ!」

魔法使い「ああ、もう間に合わねぇよ!」

魔法使い「先に発動するのが風からだ!」

勇者「何ーーーーーーーーっ!?」

賞金稼ぎ「てめぇ、先にシールドから発動させろよ!」

賞金稼ぎ「敵が矢を放ってきたら、どうすんだ!」ギロッ

魔法使い「うるさああああああああーーーーーーーーい!」ブワッ

~魔王城・城壁~

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ピタタタタタタタッ、ピタタタタタタタッ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ピタタタタタタタッ、ピタタタタタタタッ……

守備弓兵達「……」

守備副長「弓兵、射撃用意!」

守備副長「合図があるまで、待機せよ!」

スッ、ササササササササッ……

ササササササササッ、ササササササササッ……

守備副長(隊長。早く戻ってきてくれ!)

守備副長(このままでは、勇者に上陸されてしまう!)

守備副長(隊長。まだ掛かるか?)

守備副長(すぐ戻って来てくれると良いのだが)

守備副長(もしや、また陛下が駄々を捏ねられていたとか?)

守備副長(それならそれで、かなり最悪だな……)

守備副長(はぁ……)

守備弓兵達「……」ギギギッ

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

守備副長「ん?」クルッ

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ピタタタタタタタッ、ピタタタタタタタッ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ピタタタタタタタッ、ピタタタタタタタッ……

守備副長(何故、護衛隊の連中までこっち来てるんだ?)

守備副長「おいっ、何で護衛隊までこっち来てるんだ?」

守備副長「陛下の守りが、手薄になってるぞ!」

護衛副長「貴殿に言われなくとも、そんな事は分かってる!」

護衛副長「我々は、隊長命令でここに来たんだ?」

守備副長「何?」

護衛弓兵達「……」

守備副長「貴殿。それは誠か?」

守備副長「そちらの隊長は、何故ここに兵を送った?」

守備副長「ここは、我らだけで十分だ!」

守備副長「貴殿らは、早く持ち場に戻れ!」

護衛副長「無理だ!」

守備副長「何故なんだ!?」

護衛副長「守備副長。これは陛下からの命令でもある!」

護衛副長「つい先程、陛下がお一人でいたいとそうおっしゃられたからだ!」

護衛副長「それをお聞きになった側近殿は、すぐに我が隊に下令!」

護衛副長「至急、護衛隊は守備隊の援護をしろ!」

護衛副長「『護衛隊自慢の炸裂矢を勇者一行に浴びせよ!』と、そう指示を出されたのだ!」

守備副長「ちっ……」

護衛副長「だから、貴殿は文句を言うな!」

護衛副長「これは、陛下からの命令でもある!」

護衛副長「して、勇者一行の現在地は?」

護衛副長「今、どの辺りにいるのだ?」

守備副長「魔術師A!」

魔術師A「はっ、後もう少しで勇者一行は上陸致します!」

守備副長「では、早速その炸裂矢とやらを頼む……」

守備副長「貴殿がそう言うなら、また陛下が駄々を捏ねられたか……」

護衛副長「いや、今回は陛下は悪くない!」

護衛副長「陛下は、『炸裂矢を用いて勇者一行の船を撃沈しろ!』と、そう我が隊は解釈したのだ!」

守備副長「そ、そうか……」

守備副長(こいつ、本当に大丈夫なのか?……)

護衛副長「魔術師A。現在地は?」

護衛副長「勇者一行の姿は、視認出来るか?」

魔術師A「ええ、視認出来ます!」

魔術師A「勇者一行は速度を緩め、浅瀬付近から上陸致します!」

護衛副長「うむ。そうか」

守備副長「そろそろ、迎撃しないとな」クルッ

護衛副長「護衛弓兵、炸裂矢用意!」

護衛副長「合図を出したら、炸裂矢を放て!」

護衛弓兵達「はっ!」

スッ、ササササササササッ……

ササササササササッ、ササササササササッ……

護衛弓兵達「……」ギギギッ

魔術師A「副長。勇者一行が浅瀬に入りました!」

魔術師A「船がゆっくりと旋回し、減速していきます!」

守備副長「守備弓兵、待機そのまま!」

射撃副長「合図が出るまで、そのまま待機せよ!」

守備弓兵達「……」ギギギッ

守備副長(くっ、合図はまだか!)

守備副長「魔術師B。合図は出たか?」

守備副長「まだ、出ないのか?」

魔術師B「はい!」

守備副長「全く、隊長は何をしてるんだ!?」

守備副長「敵が、もうすぐそこまで来てんだぞ!」

護衛副長「落ち着け!」

シュピン……

魔術師B「副長。隊長より合図が出ました!」

魔術師B「隊長達は、南門にいます!」

守備副長「よしっ、守備弓兵。射撃開始!」

守備副長「護衛弓兵。まだもう少し待て!」

スッ、スパパパパパパパッ……

~巨大湖(水上)・ハンザコグ船内~

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

勇者「うわっ!?」サッ

勇者の仲間達「ギャーーーーッ!?」ササッ

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

勇者「み、皆、無事かーーーーーーーーっ!?」

商人「うっ、うぐぅ……」ガクッ

勇者「しょっ、商人!?」ガーーン

ヒューーーーーーーーッ、ヒューーーーーーーーッ……

ヒューーーーーーーーッ、ヒューーーーーーーーッ……

チュドドドドドドドーーーーーーーーン……

バリン、グラグラグラッ……

ザバアアアアッ、ザバアアアアッ……

勇者「!?」ガクガクッ

ヒューーーーーーーーッ、ヒューーーーーーーーッ……

ヒューーーーーーーーッ、ヒューーーーーーーーッ……

チュドドドドドドドーーーーーーーーン……

バキッ、バキバキバキッ……

ザバアアアアッ、ザバアアアアッ……

勇者「ふっ、船がーーーーーーーーっ!?」ガクガクッ

~魔王城・城壁~

守備副長「おおっ、凄い威力だ!」

守備副長「さすがの勇者も、海の藻屑だな!」

護衛副長「護衛弓兵、大爆裂弾用意!」

護衛副長「勇者一行の乗る船に向けて、すぐに放て!」

守備副長「む? まだ射るのか?」クルッ

護衛副長「ええ、まだ射る必要はあるかと!」

護衛副長「相手は、あの勇者一行だ!」

護衛副長「だから、貴殿の部隊にも援護射撃を頼む!」

守備副長「ああ、良かろう!」

守備副長「魔術師A、生体反応は?」クルッ

守備副長「勇者一行は、まだ生きているか?」

魔術師A「はい。まだ生体反応はあります!」

魔術師A「勇者自身は、まだ息があります!」

守備副長「よしっ、守備弓兵。射撃再開!」クルッ

守備副長「今度こそ、勇者一行を仕留めよ!」

スッ、ササササササササッ……

ササササササササッ、ササササササササッ……

スッ、スパパパパパパパッ……

スパパパパパパパッ、スパパパパパパパッ……

スッ、スパパパパパパパッ……

スパパパパパパパッ、スパパパパパパパッ……

守備副長「……」ジーーッ

守備副長(頼む。これで倒れてくれ!)ジーーッ

~巨大湖(水上)・ハンザコグ船内~

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

カカカカカカカカッ、カカカカカカカカッ……

勇者「ひいいいいいいいいーーーーーーーーっ!?」ガクガクッ

商人の死体「……」

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

シュシュシュシュシュシュシュシュッ……

カカカカカカカカッ、カカカカカカカカッ……

勇者「も、もう止めてくれーーーーーーーーっ!?」ガクガクッ

魔法使い「ゆ、ゆうしゃ……」ノソノソッ

ハンザコグ船(中破)「……」ジューーッ

魔法使い「勇者。これはもう無理だ……」

魔法使い「一度、撤退しよう……」

勇者「だ、だが……」ガクガクッ

魔法使い「勇者。このままじゃ、皆殺られる……」

魔法使い「俺の張ったシールドが、すぐに破壊された……」

勇者「くっ、くそーーーーーーーーっ!?」ガクガクッ

戦士「ゆ、ゆうしゃ……」ノソノソッ

戦士「そうりょが、そりうりょが……」ノソノソッ

勇者「!?」クルッ

戦士「そりうりょが、てきにやられた……」ノソノソッ

戦士「はやく、にげよう……」ノソノソッ

勇者「うわああああああああーーーーーーーーっ!?」ガクガクッ

ヒューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

ヒューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

チュドドドドドドドッ、チュドドドドドドドーーーーーーーー--------ン!

ザバアアアアアアアアッ、ザバアアアアアアアアッッ……

フワッ、ズザーーーーーーーーッ……

勇者「!?」ドサッ

ヒューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

ヒューーーーーーーーーーーーーーーーッ……

チュドドドドドドドッ、チュドドドドドドドーーーーーーーー--------ン!……

ハンザコグ船(大破)「……」ボキッ

ザバアアアアアアアアッ、ザバアアアアアアアアッッ……

勇者「いやああああああああーーーーーーーーっ!?」ジャボ--ン

~魔王城・城壁~

守備副長「ふん。口程にもない!」

守備副長「これで、魔界も安泰だな!」

守備副長「ここの湖は、水深が深い!」

守備副長「鎧を着けたままだと、確実に沈むからな!」

護衛副長「ああ、確かに!」

魔術師A「……」ジーーッ

守備副長「魔術師A。生体反応は?」

守備副長「船自体は、沈没をし始めた様だが」

魔術師A「はい。まだ勇者一行の息はあります!」

魔術師A「ですが、ここの水深は深いです!」

魔術師A「すぐに、勇者一行は息絶えるでしょう!」

守備副長「うむ。了解した!」

護衛副長「魔術師B。隊長に報告!」

護衛副長「勇者一行を迎撃した!」

護衛副長「勇者一行の生死は不明!」

護衛副長「至急、勇者一行の引き上げ作業を要請する!」

魔術師B「はっ!」

守備副長「む?」クルッ

護衛副長「守備副長。まだ、勇者一行は生きている可能性がある!」

護衛副長「貴殿は気付かれていたか? あの船の出所を?」クルッ

守備副長「ああ、あの船の出所は連合軍から支給された物だろう」

守備副長「今現在、連合軍側には動きなし」

守備副長「連合軍側には、大賢者達がいる」

守備副長「これは、私の勘だが勇者一行は単なる使い捨ての駒にされたのではないか?」

護衛副長「やはり、貴殿もそう考えていたか」

護衛副長「明らかに、勇者一行にしてはお粗末すぎる!」

護衛副長「魔術師A。勇者一行の沈没ポイントを注視しろ!」

護衛副長「勇者一行の事だ、まだ奥の手を隠し持ってるはずだ!」

魔術師A「はっ!」

守備副長(やけに、気合い入ってるなぁ……)

シュピン……

魔術師B「護衛副長。隊長からの返信です!」

魔術師B「引き続き、警戒を続けろ!」

魔術師B「これより、勇者一行の生存確認を行う!」

魔術師B「以上、通信終わり!」

護衛副長「うむ。了解した!」

~魔王城・南門前~

スッ、ガチャ……

ギギィーーーーーーーーッ、ギギィーーーーーーーーッ……

ダン、カシャン……

側近「……」スッ

守備兵達「……」ダッ

ジャラジャラジャラジャラッ、ジャラジャラジャラジャラッ……

ジャラジャラジャラジャラッ、ジャラジャラジャラジャラッ……

ジャラジャラジャラジャラッ、ジャラジャラジャラジャラッ……

ジャラジャラジャラジャラッ、ジャラジャラジャラジャラッ……

側近「……」ジーーッ

ハンザコグ船(沈没中)「……」ブクブクッ

側近「ほう。上手くやりおったな」

側近「これで、魔界も安泰だ」

側近「守備隊長。そなたはどう見る?」

側近「これで、戦は終わりだと思うか?」

守備隊長「いえ、まだこれからです!」

側近「うむ。そうだな!」

側近「護衛隊長。ご苦労だった!」

側近「そなた達は、弓兵を除いて城に戻ってくれ!」

側近「守備隊長。早速、勇者を引き上げるぞ!」

側近「ここの湖の水深は、かなり深い!」

側近「早く引き上げなければ、魚の餌となってしまうからな!」

各隊長達「はっ!」

護衛隊長「では、私はこれにて失礼致します!」

護衛隊長「側近殿、守備隊長殿、後の事を頼みますぞ!」

守備隊長「うむ。了解した」ビシッ

護衛隊長「……」ビシッ

クルッ、ジャラジャラジャラジャラッ……

ジャラジャラジャラジャラッ、ジャラジャラジャラジャラッ……

守備隊長(ふぅ、ようやく行きおった……)

守備隊長(さすがは、大公殿下の護衛を務め上げた男……)

守備隊長(本当に、見事な戦いだった……)

守備隊長(だが、勇者がこれぐらいで死ぬとは思わん……)

守備隊長(絶対に、まだ何か隠しておる……)

沈没地点「……」シューーッ

側近「守備隊長。まだ油断するな!」

側近「勇者は、必ず何か隠し玉を持っている!」

側近「奴等の背後には、大賢者達がいるぞ!」

側近「勇者一行が破れた後も、必ずあの大賢者なら何か備えているはずだ!」

守備隊長「はっ!」

魔術師達「……」

側近「魔術師C。勇者の状況は?」

側近「勇者は、まだ息はあるか?」

魔術師C「ええ、まだ勇者には息があります!」

魔術師C「やはり、勇者一行は何か隠し玉があるみたいです!」

側近「何っ!?」

守備隊長「何なのだ? それは?」

魔術師C「はっ、恐れながら報告致します!」

魔術師C「たった今、勇者一行が何らかの魔法を発動致しました!」

魔術師C「勇者一行は、そのままどこかへと転移!」

魔術師C「もう既に、沈没地点から移動致しました!」

側近「くっ……」

守備隊長「己れ! 勇者め!」

側近「守備隊長。兵をすぐに下げろ!」

側近「またいずれ、勇者がここに来る!」

側近「護衛隊長にも、至急その事を報告!」

側近「陛下には、私からご報告致す!」

側近「さぁ、急げ!」

守備隊長「はっ!」

守備隊長「守備隊、捜索活動を中止!」

守備隊長「勇者は、もう既に離脱した!」

守備隊長「至急、城に戻れ!」

守備兵達「!?」ハッ

守備隊長「繰り返す。勇者は沈没地点から離脱した!」

守備隊長「至急、城に戻れ!」

側近「では、我らも戻るぞ!」

側近「守備隊長。全隊を通常配置に戻せ!」

側近「魔術師達は、隊長及び副長の側に付いておく事!」

側近「良いな?」

守備隊長「はっ!」

魔術師達「……」ビシッ

~連合軍拠点・勇者専用緊急離脱地点~

ヒュルヒュルヒュルヒュルッ、ヒュルヒュルヒュルヒュルッ……

ヒュルヒュルヒュルヒュルッ、ヒュルヒュルヒュルヒュルッ……

シュン、ドサドサドサドサッ……

ドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサッ……

勇者一行「……」

勇者「……」

戦士「……」

魔法使い「……」

賞金稼ぎ「……」

武闘家「……」

死体の山「……」

スタタタタタッ、スタタタタタッ……

スタタタタタッ、スタタタタタッ……

ピタタタッ、ピタタタッ……

大賢者「勇者!」

勇者「……」

大賢者「くっ……」

大賢者「賢者。大至急、蘇生と回復魔法を!」

大賢者「魔導師、そなたもだ!」

賢者&魔導師「はっ!」

将軍「くそっ、勇者がやられた!」

将軍「それ程、魔王は強敵と言う訳か!」

賢者&魔導師「……」ブツブツ

大魔導師「将軍。予定変更じゃ!」

大魔導師「我々も、魔王城に向けて兵を出す!」

大魔導師「大賢者、良いな?」

大魔導師「ここは、将軍達の兵だけで大丈夫じゃろう!」

大賢者「うむ、了解した!」

賢者&魔導師「はっ!」ブワッ

参謀「では、早速魔王城へ!」

参謀「ここの守備は、我らにお任せあれ!」

大魔導師「おおっ、了解した!」

大賢者「賢者、魔導師。そなたらもここを守備!」

大賢者「勇者の事、そなたらに託したぞ!」

賢者&魔導師「はっ!」シューーッ

本日の分、終了。

~連合軍拠点・救護所~

その日の夜ーー

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」

女僧侶「……」ブツブツ

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」

女僧侶「……」ブツブツ

勇者「……」パチッ

スッ、ムクッ……

勇者「ここは、どこだ?……」

勇者「皆は、どうなったんだ?……」

女僧侶「!?」ムクッ

賢者「勇者。気が付いたか?」

賢者「ここは、連合軍拠点の救護所だ」

勇者「賢者様……」

スッ、ムギュッ……

勇者「あっ……」

女僧侶「……」ウルッ

賢者「勇者。今日はもう休んでも良い」

賢者「君は、本当によく戦ってくれたよ」

魔導師「ああ、そうだな」

勇者「賢者様。俺の仲間達は?……」

勇者「戦士達は、無事なんですか?……」

賢者「ああ、戦士達は無事だ」

賢者「だが、すぐには戦える状態じゃない」

賢者「だから、彼らは王都のXX教会付属病院に移送した」

賢者「唯一、まだ戦える状態だったのは君ぐらいなものだ」

勇者「じゃあ、魔王軍の動きは?……」

勇者「魔王軍は、今どうなっているんです?……」

魔導師「安心しろ。今、親父達が魔王城に兵を出してる」

魔導師「魔王軍は、まだ魔王城の中だ」

魔導師「推定兵力は、およそ数百」

魔導師「さすがの魔王軍も、すぐに捻り潰されるだろう」

賢者「勇者。君はもう休め」

賢者「女僧侶。勇者の事を頼む」

女僧侶「……はい」ポロポロッ

魔導師「じゃあ、俺達はもう行くな」

魔導師「後は、若い二人だけで好きにしとけ」

勇者「はい……」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

勇者「女僧侶。少し、トイレに行きたい……」

勇者「今から、トイレにまで案内してくれ」

女僧侶「はい。かしこまりました……」ポロポロッ

勇者「……」スッ、ナデナデ

~魔王城・魔王の執務室~

トントン、トントン……

スッ、ガチャ……

側近「失礼致します」

側近「陛下。エルフ魔女様がお見えになられました」

魔王「通せ!」

側近「……」スッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

魔王「おおっ……」ピカァ

エルフ魔女「陛下。お久しゅうございます」

エルフ魔女「夜分遅くに、誠に申し訳ございません」ペコッ

魔王「うむ。構わんぞ!」

魔王「側近、少し二人だけで話がしたい!」

側近「はっ!」

魔王「エルフ魔女。ささっ、こちらへ」ニッコリ

魔王「早う、あれを渡してくれ」ニコニコ

エルフ魔女「はい」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

エルフ魔女「陛下。こちらが、陛下のお求めになられていた品です!」スッ

エルフ魔女「どうぞ、お受け取り下さい!」ニッコリ

エルフ魔女「……」スッ

魔王「こ、これが……」スッ

側近「では、ごゆっくり」

側近「お帰りの際は、私に一声お掛け下さいませ」

スッ、バタン……

エルフ魔女「……」

魔王「……」プルプル

エルフ魔女「早く開けなさいよ……」

魔王「ああ、ごめんごめん……」

魔王「何せ、これを使うのが初めてだったから……」

エルフ魔女「はぁ、あんた本当に酷い顔ね……」

エルフ魔女「前に会った時より、かなり白髪とかも増えてない?……」

魔王「うん、まあね……」ウルッ

スッ、ヌポッ……

魔王「それで、これを飲めば良いのよね?……」プルプル

魔王「これを飲んだら、本当に若返るの?……」プルプル

エルフ魔女「ええ、そうよ」

魔王「父上、私はついにやりました!」プルプル

魔王「これで少しは、父上に顔向けが出来ます!」プルプル

エルフ魔女「はぁ、あんた本当に大袈裟なんだから……」

スッ、ゴクゴクッ……

ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……

魔王「ふぅ……」

エルフ魔女「……」

ドクンーー

魔王「!?」ビクッ

ドクン、ドクンーー

魔王「ーーっ!?」

ドクン、ドクン、ドクンーー

魔王「ーーーーっ!?」

スッ、ドサッ……

魔王「ううっ、ぐううううっ……」プルプル

ポワーーーーン、ポワーーーーン……

ポワーーーーン、ポワーーーーン……

ポワーーーーン、ポワーーーーン……

ポワーーーーン、ポワーーーーン……

シューーーーーーーーッ、シュン……

魔王「……」ピクピクッ

エルフ魔女「どうやら、成功したみたいね」

エルフ魔女「もう、起きても大丈夫よ」

魔王「……」ピクピクッ

エルフ魔女「ああ、これはこれで休ませなきゃ……」

エルフ魔女「この子、ここ最近無理が祟ってたからなぁ……」

魔王「……」ピクピクッ

エルフ魔女「ほらっ、起きて!」

エルフ魔女「今起きたら、側近殿が特別休暇をくれるわよ!」

魔王「!?」ハッ

エルフ魔女「あっ、起きた起きた」

エルフ魔女「さぁ、今の自分自身をすぐそこの鏡で見てごらんなさい」

魔王「ええ、了解したわ……」スッ、ムクッ

魔王「……」キョロキョロ

魔王「……」キョロキョロ

エルフ魔女「ほらっ、右よ……」

魔王「あっ……」クルッ

魔王「……」

魔王「ーーーーーーーーっ!?」ピカァ

魔王「エルフ魔女。これ凄いわ!」キラキラ

魔王「本当に、若返ってるじゃないの!」クルッ

エルフ魔女「ええ、そうね」ニッコリ

魔王「やった、やったやった!」キラキラ

魔王「今の私、勇者倒した時より遥かに嬉しいわ!」キラキラ

エルフ魔女「ああ、そりゃあ良かったわね……」

魔王「とりあえず、お代いくら?」キラキラ

魔王「今なら、最低でも村一つはあげれるけど?」キラキラ

エルフ魔女「ああ、別に良いわよ」

エルフ魔女「私、もう向こうでもう既に爵位も土地も貰ってるから」

魔王「えっ!? そうなの!?」

魔王「エルフ魔女。貴女、いつの間にそこまで出世したのよ!?」

エルフ魔女「実は、これもこれまでの功績によって……」

エルフ魔女「私、つい先日の北大陸制覇に貢献したから……」

魔王「あっ、そうだったっけ?」

エルフ魔女「だから、ウチの女王陛下がくれるって……」

エルフ魔女「まぁ、そのお陰でウチの母が大層ご立腹だったんだけど……」

魔王「ああ、貴女は昔からやり過ぎる所があるからね……」

エルフ魔女「とにかく、用件は終わったわ」

エルフ魔女「あんたも、これで頑張れる?」

魔王「うん。多分、大丈夫だと思う」

魔王「ついでにさぁ、あのクソジジィもなんとかしてくれない?」

エルフ魔女「ええ~~っ……」

魔王「お願い!」ペコッ

エルフ魔女「あんた、それ駄目でしょ!」

エルフ魔女「あの人いなかったら、誰が側近してくれるのよ?」

魔王「私、貴女を今から側近に迎え入れたい!」

魔王「その方が、すぐに南大陸とか再制圧出来ちゃうから!」ニッコリ

エルフ魔女「あんたねぇ……」

魔王「もう、何で駄目なのよ……」ウルッ

トントン、トントン……

スッ、ガチャ……

側近「陛下。追加の書類をお持ち致しました」

側近「ささっ、これにすぐ目を通して下さい!」つ書類の山

魔王「!?」ガーーン

エルフ魔女「はぁ、本当に口は災いの元ね……」

側近「陛下。まだお時間の方は掛かりますかな?」

側近「いくら、陛下が成人した直後のお姿に戻られましても、各所から届いた書類の量は変わりませぬ!」

魔王「鬼ーーーーーーーーっ!?」ウルッ

エルフ魔女「じゃあ、私はもうこれで!」

エルフ魔女「また今度、同じ薬を持ってきてあげるからさ!」ニッコリ

側近「はい。お気を付けて!」ニッコリ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

魔王「ううっ、ぐすっ……」ポロポロッ

魔王「ううっ、ううううっ……」ポロポロッ

側近「はぁ……」

スッ、バタン……

側近「陛下。早く書類に目を通して下さい」

側近「せっかくのお美しい顔が台無しですぞ」ニッコリ

魔王「……」ポロポロッ

側近「陛下。早く始めますぞ!」ニコニコ

側近「たとえ、勇者一行を撃退したとしても、陛下には陛下の職務がございますからな!」つ書類の山

魔王「いやああああああああーーーーーーーーっ!?」ポロポロッ

~連合軍拠点・司令部~

参謀「将軍。如何なさいますか?」

参謀「大賢者と大魔導師が、消息を絶ちましたが」

将軍「……」

参謀「将軍。本当に、彼らは信用出来るのですか?」

参謀「いくら、二万の兵を有するとは言え、あの勇者をいとも簡単に撃退した魔王軍の力は侮れませんぞ!」

将軍「参謀。それについてはよく分かってる」

将軍「だが、今は彼らに頼る他ない」

参謀「しかし!」

将軍「参謀。例の所属不明部隊の動きは?」

将軍「今、どの辺りにいるのかね?」

参謀「そ、それが……」

将軍「参謀。早く答えよ!」

将軍「今はもう、我々しか兵を出せる者はいないのだ!」

参謀「……」

将軍「参謀。早く答えんか!」

将軍「所属不明の部隊は、今どこにいる?」

参謀「……ここです」スッ

将軍「……」

参謀「……」

将軍「なっ!?」ハッ

参謀「……如何致しますか?」

将軍「参謀。大至急、賢者と魔導師を呼べ!」

将軍「敵が、もうすぐそこまで迫ってきてる!」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

将軍「む?」ハッ

賢者「将軍。お呼びですか?」

賢者「勇者でしたら、つい先程目を覚ましましたが」

参謀「うむ。丁度良い所に来てくれました」クルッ

将軍「賢者。よく来てくれた」

将軍「何故、例の所属不明部隊の現在地を知らせなかった?」

将軍「私は今、心臓が止まりそうになったぞ!」

将軍「何故、ここまで接近されていたのにも関わらず、我々にその事を知らせなかった!」ギロッ

賢者「申し訳ございませぬ」ペコッ

将軍「貴様ら、一体どう言うつもりなんだ?」ダン

賢者「将軍。これについては、弁解の余地はございませぬ」

賢者「我らは、大賢者様からのご命令に従っていたまでです」

将軍「ほう?」

賢者「今現在、大賢者様と大魔導師様がその所属不明の部隊と交戦しております」

賢者「ですから、何もご心配はございません!」

賢者「すぐに、大賢者様達が殲滅致しますので!」

参謀「では、そなた達は大賢者達からの命令に従っただけと?」

参謀「嘘をつくなら、もう少しマシな嘘をつけ!」

将軍「うむ、同感だな!」

参謀「それに、例の所属不明部隊は一体どこの所属なのです?」

参謀「いい加減、我らにもその情報を出して頂きたい!」

賢者「……仕方ありませんね」

魔導師「将軍。その所属不明の部隊はエルフ王国の所属だ!」

魔導師「親父達は今、ダークエルフの部隊と交戦してる!」

将軍「何!?」

魔導師「将軍。敵はダークエルフだけではないぞ!」

魔導師「地上からはハーフエルフ、海上からはエルフとハイエルフの部隊とも親父達は交戦しているのだ!」

将軍「何だと!?」

参謀「なら、もっと早くに話して頂きたかった!」

参謀「推定兵力は、一体どれだけなのです!」

賢者「今現在、大賢者様達と交戦している部隊は、ダークエルフの軍勢1万」

賢者「残りのエルフ達も、恐らくそれと同数でしょう」

参謀「ーーーーっ!?」ガーーン

将軍「敵も、かなりの大軍ではないか!?」ガーーン

賢者「将軍。将軍は、かつて“カーネル”と呼ばれた一人のハーフエルフをご存じてすか?」

賢者「今、大賢者様達が戦っている敵の司令官は、その“カーネル”」

賢者「彼女は今、エルフ王国でエルフ女侯爵と名乗っております」

賢者「つい先日起きた北大陸制圧に関しても、その“カーネル”が関わっているのです!」

将軍「ううっ……」クラッ

参謀「将軍!」スッ、ガシッ

賢者「ですから、将軍達は何もご心配はありません!」

賢者「カーネルの事は、我らだけの手で決着を付けますので!」

将軍「……」ウルッ

魔導師「まぁ、そう言う事だ」

魔導師「あんたらは、この件に関しては絶対に関わらない方が良い!」

参謀「くっ……」ギロッ

賢者「では、私達はこれで」

賢者「どうか、吉報をお待ち下さいませ」

魔導師「後、国に帰りたいなら早く国に帰りな!」

魔導師「じゃねぇと、あんたらもすぐに巻き込まれるからよう!」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

将軍「参謀。大至急撤退の準備を……」

将軍「少しでも、多くの兵を連れて帰るのだ……」

参謀「はっ!」

将軍「己れ、大賢者め……」

将軍「大魔導師共々、生きて祖国の地は踏ませぬからな……」

参謀「はい。誠にその通りでございます!」

参謀「ですが、本当に大丈夫なのですか?」

参謀「相手は、あのカーネルなのですよ!」

将軍「ともかく、大至急諸侯達にも連絡を!」

将軍「でなければ、我らも確実に殲滅される!」

将軍「参謀。とにかく急げ!」

将軍「生きて必ず、ここから逃げるのだ!」

参謀「はっ、了解致しました!」

参謀「大至急、手配して参ります!」

参謀「ですが、勇者はどう致しますか?」

参謀「勇者はまだ、戦える状態みたいですが」

将軍「ああ、そう言えば……」

参謀「如何致しましょう?」

「将軍。撤退をなさるのでしたら、お急ぎになられた方が宜しいかと」

「別に、勇者はここに放置しておいても宜しいではありませんか」

将軍「うむ。そうだな」

参謀「ええ、そうですね」

将軍&参謀「え?」ハッ

赤竜娘「……」ヌッ

赤竜娘「将軍。今ならまだ間に合いますよ」

赤竜娘「彼女も、貴殿方の事を巻き込むつもりはない様です」

赤竜娘「ですので、どうかお早めに陣払いを」

赤竜娘「そうすれば、貴殿方は生きて祖国の地を踏む事が出来ますからね!」

将軍「ああ、了解した……」ホッ

参謀「貴方様がそうおっしゃるのなら、なんとかなりそうですね……」ホッ

スタタタタタッ、スタタタタタッ……

スタタタタタッ、ピタッ……

密偵「報告。大賢者及び大魔導師隊が壊滅!」

密偵「敵がもうすぐそこまで迫ってきております!」

将軍「何!?」

参謀「どう言う事だ!?」

密偵「今現在、賢者隊及び魔導師隊が敵部隊を迎撃!」

密偵「ですが、敵の数が多くかなり劣勢の様です!」

密偵「将軍。差し出がましい様ですが、今すぐご撤退を!」

密偵「でなければ、我らまで犬死にです!」

将軍「くっ……」

参謀「己れ、賢者達め!」ギリギリッ

将軍「参謀。急げ!」

将軍「我らは、まだ死ぬ訳にはいかん!」

将軍「赤竜娘様。ご忠告感謝する!」

将軍「貴女様も、どうかお気を付けて!」ビシッ

赤竜娘「はい。お気を付けて!」

参謀「では、参りましょう!」

クルッ、スタタタタタッ……

スタタタタタッ、スタタタタタッ……

赤竜娘「密偵、貴女は引き続き将軍達についていきなさい」

赤竜娘「その方が、彼女のお役に立てますからね」

密偵「はっ!」ビシッ

クルッ、スタタタタタッ……

勇者達は、魔王城への突入に失敗した。

それと同時期に、エルフ王国が連合軍に対して多方面から攻撃を開始した。

これを受け、師匠と大賢者様は大いに驚愕。

お二人のお顔が、とても青くなっていたのが未だに印象的である。

それもそのはず、敵の指揮官はかつての自分達の教え子。

その教え子が、師匠達に容赦なく牙を向く。

普通の精神であったら、さすがにそれに耐えられる訳がない。

それでもなお、師匠達は敵の軍勢に向かって勇敢に立ち向かっていった。

だが、それもすぐに終わってしまった。

敵の指揮官は、余程腕のある教え子であった様だ。

私としては、もう師匠が死のうが生きよう関係がない。

何故なら、私はもう既に娼婦にまで堕ちてしまってたからだ。

その後、女僧侶曰く、連合軍拠点は将軍達が撤退してすぐに陥落した。

運良く勇者と共に敵に捕らえられていた女僧侶は、生きて私達の元に戻ってきた。

おまけに、何故か敵の指揮官からは師匠の生首を手渡され……

それを「この私に渡してほしい!」と言われたらしく、女僧侶はそれをこの私に手渡した後、暫く大事を取って入院する事にしたのだった。

本日の分、終了。

~魔王城・魔王の間~

数日後ーー

スッ、ガチャ……

側近「失礼致します」

側近「陛下。勇者をお連れ致しました!」

魔王「うむ、通せ!」

側近「……」スッ

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ピタタタタタッ……

勇者「……」

魔王「ほう。こ奴が勇者か」

魔王「まだ、年若い青年ではないか」

側近「ええ、その様ですね」

魔王「勇者。お初にお目に掛かる」

魔王「我が名は、XXXX」

魔王「貴様らが魔王と呼ぶ憎き存在だ」

魔王「さて、早速本題に入るとするか」

魔王「側近。あれを」

魔王「今回もまた、以前と同じ様にしたい」

勇者「……?」ギロッ

魔王「側近。私の話を聞いておるか?」

魔王「他の者達も異存ないな?」

側近「はっ、しかと承りました!」

側近「守備隊長。勇者の装備をここに!」

守備隊長「はっ!」

勇者「……?」

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ピタッ……

守備隊長「勇者。今から貴様の縄を解く!」

守備隊長「その後、陛下と一騎討ちをせよ!」

勇者「!?」クルッ

魔王「勇者。私と一騎討ちだ!」

魔王「それに勝てたら、我々は南大陸をそなたに譲ろう!」

勇者「……どう言う意味だ?」クルッ

魔王「勇者。聞く所によると、貴様はかなり苦労してる様だな」

魔王「行く先々で、世にも気持ち悪い男に付き纏われている」

魔王「その男は、過去に何人もの勇者達の悪評を撒き散らしてきた」

魔王「だから、私を殺して少しでもその汚名を晴らさぬか?」

勇者「……」

魔王「不服そうだな」

勇者「ああ、不服だよ……」

勇者「敵であるお前にまで、同情なんかされたくもない……」

勇者「だが、お前の出した条件は魅力的だ……」

勇者「俺が勝てば、南大陸はこの俺が頂く事にする……」

魔王「ふふふっ……」ニヤリ

側近「では、早速始めましょうか」

勇者「後、あのキモメンの事もなんとかしてくれないか?」

勇者「あいつ、また何か俺の悪評を流しているみたいだから」

魔王「ああ、それに関しては私の方も聞いてる」

魔王「何でも、仲間の女性をレ〇プした挙げ句に孕ませたとか」

魔王「それに加えて、その女性は娼婦にまで堕ちた」

魔王「泣き叫ぶ友人達の声にすら一切耳も貸さず、人が変わったかの様に無数の男達に今も抱かれている様だ」

魔王「勇者。これに関しては事実か?」

魔王「早く訂正せねば、すぐに真実となってしまうぞ!」

勇者「ああ、そうだな……」

勇者「貴様を倒して、早くその噂を訂正しないと……」

勇者「だが、ここ最近はあいつすら見ない……」

勇者「さすがに、つい先日の戦いに巻き込まれて死んでくれていたら、物凄く嬉しいんだが……」

側近「残念ですが、彼はまだ生きております」

側近「今も彼は、貴方の悪い噂を紙に書いて」

勇者「くっ……」

側近「それを、今は中央大陸全土に撒き散らしておりますぞ!」

側近「まるで、貴方は78年前に戦死なされた“味方殺しの勇者”の様ですな!」

勇者「なん……だと……!?」

魔王「守備隊長。早く、縄を解いてやれ!」

魔王「でないと、この場で私は勇者をすぐに殺す事になる!」

魔王「勇者。早くするぞ!」

魔王「世界の平和は、貴様の手に掛かっているのだからな!」

勇者「ああ、了解した!」

スチャ、スラァン……

スッ、ギリギリッ……

ギリギリッ、ギリギリッ……

パサッ、パサッ……

勇者「ふぅ……」

守備副長「勇者。受け取れ」

守備副長「貴様の武器と防具だ」

スッ、スチャ……

カチャカチャカチャ、カチャカチャカチャ……

スッ、カチャカチャカチャ……

カチャカチャカチャ、カチャカチャカチャ……

スッ、カチャ、カチャ……

勇者「……準備出来たぞ」

側近「では、私が審判を致します」

側近「皆、陛下達から離れよ」

守備隊長「はっ!」

クルッ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

勇者「……」キョロキョロ

魔王「勇者。剣を抜け!」

魔王「これより、勇者と魔王による一騎討ちを始める!」

魔王「ここ最近、私はかなりストレスが溜まっていた!」

魔王「おかげで、こっちは心身共にズタボロだったからな!」

スチャ、スラァン……

スチャ、スラァン……

側近「皆の者、一切手出しはするなよ!」

側近「これは、陛下たっての希望でもある!」

側近「万が一、この場で陛下がお亡くなりになったとしても、誰一人として手出しするな!」

側近「勇者の事を、生きてそのまま祖国にまで返してやれ!」

守備兵達「はっ!」

勇者「ほう……」

魔王「勇者。安心しろ!」

魔王「歴代の勇者も、こうして一騎討ちをしてきた!」

魔王「私の父は、こうして亡くなられた!」

魔王「本当に、良い死に顔をしていたよ!」

勇者「……」スチャ

魔王「側近!」スチャ

側近「では、始め!」

側近「陛下。ご健闘をお祈り致しますぞ!」

魔王「ああ、了解した!」

勇者「行くぞ、魔王!」

魔王「……」ダッ

勇者「……」ダッ

キン、キンキン……

キンキン、キンキン……

キーーーーーーーーン……

魔王「ほう……」ギリギリッ

勇者「くっ、やるな……」ギリギリッ

シュン、バーーーーーーーーン……

勇者「とりゃあ!」ブン

魔王「はっ!」キン

勇者「たあっ!」ブン

魔王「甘いわ!」キン

側近「……」

守備兵達(あの陛下が、珍しく真面目に政務してる……)

魔王「とうっ!」ブン

勇者「はっ!」キン

魔王「甘い!」ブン

勇者「くっ!」キン

側近「……」

守備兵達(普段も、あれぐらい真面目にしてくれたら良いのに……)

勇者(こいつ、かなり強いな……)

勇者(さすがは、魔王と名乗るだけあるか……)

勇者(そりゃあ、余裕で一騎討ちなんてするわな……)

勇者(普通なら、その辺の雑魚とかに任しとけば良いのに……)

魔王「……」ジリジリッ

勇者「……」ソソソッ

魔王「勇者。逃げるだけか?」

魔王「早く私を倒さねば、貴様の悪評が更に追加されるぞ!」

勇者「ちくしょ~~~~っ!」ダッ

キンキン、キンキン……

キンキン、キンキン……

勇者「くっ……」ギリギリッ

魔王「勇者。貴様の腕はその程度か?」ギリギリッ

魔王「その程度で、よく私の事を殺そうとしていたな」ギリギリッ

勇者「……」ギリギリッ

魔王「勇者。早く私の事を殺せ!」ギリギリッ

魔王「でなければ、ますます人間達が更なる不幸に見回れるぞ!」ギリギリッ

勇者「……」ギリギリッ

側近(いかん。陛下が死にたがってる……)

側近(ここ最近、ろくに休みすら与えていなかったからな……)

側近(まさか、陛下は死ぬ気なのか?……)

側近(いや、出来ればそうあってほしくない……)

魔王「……」ギリギリッ

守備副長(今日の陛下、やけに生き生きしてるなぁ……)

守備隊長「側近殿、大丈夫なのですか?」

守備隊長「陛下は、やけに生き生きしておりますが」チラッ

側近「なぁに、陛下なら大丈夫だ」

側近「今の陛下は、ただ日々のストレスを発散されているだけだ」

守備隊長「しかし!」ギロッ

守備副長「隊長!」

側近「つい昨日、陛下は大公殿下のお見舞いに行かれた」

側近「その後に、陛下は今は亡き御先代様の王墓にまで行かれ、今現在の綺麗に整えられたお姿を披露された」

側近「今の陛下は、勇者と戦えて大変満足している!」

側近「皆、何も心配はいらない!」

魔王「……」ブン

勇者「……」キン

魔王「勇者。早く私を殺せ!」ブンブン

魔王「早く、私の魔王としての職務から解放させろ!」ブンブン

勇者「……」サッサッ

魔王「勇者。早くせぬか!」ブンブン

魔王「貴様が私を殺さなければ、一体誰が私を殺すのだ?」ブンブン

勇者(いや、そんな事を言われても……)サッサッ

守備隊長「側近殿、今の発言は問題ではないか?」

守備隊長「貴殿はやはり、陛下の事を酷使し過ぎなのでは?」クルッ

側近「いや、何も問題はない!」

側近「あれはただ、陛下の職務怠慢が招いた結果なのだ!」

守備隊長「しかし!」

側近「何か問題でも?」ギロッ

勇者「魔王。早く倒れろ!」ブンブン

勇者「そんなに強いから、俺がお前を殺せねぇんだろうが!」ブンブン

魔王「……」サッ

勇者「魔王。早く死ねよ!」ブンブン

勇者「じゃないと、俺の悪評が更に増えちまう!」ブンブン

魔王「……」サッサッ

勇者「てめぇ、避けるな!」ブンブン

勇者「てめぇは、死にたいんじゃないのか?」ブンブン

勇者「ついさっきから、てめぇの言葉と行動が一致してねぇよ!」ブンブン

勇者「だから、早く俺に斬られろや!」ブンブン

魔王「……は?」サッサッ

魔王「そう簡単にやられるかーーーーっ!」サッサッ

勇者「魔王。早く死ね!」ブンブン

勇者「世界の平和の為に死ね!」ブンブン

勇者「そうすれば、世界に平和が訪れる!」ブンブン

勇者「皆、お前みたいな奴がいるから、こんな事になるんだ!」ブンブン

魔王「何をーーーーっ!?」サッサッ

勇者「いい加減、避けるなぁーーーーっ!」ブンブン

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キーーーーーーーーン……

魔王「勇者。そろそろ終わりだ!」ギリギリッ

魔王「貴様と戦えて、私は嬉しかったぞ!」ギリギリッ

勇者「……?」ギリギリッ

シュン、バン……

魔王「とりゃあ!」ブン

勇者「しまった!」キン

魔王「はっ!」ブン

勇者「うわっ!」キン

フラッ、ドサッ……

魔王「勇者。勝負あったか?……」

魔王「貴様は、まだ剣を持てるか?……」

勇者「ああ、まあな……」

魔王「なら、早く剣を持て……」

魔王「さぁ、今から続きをするぞ……」

勇者「ああ、了解した……」スッ、ムクッ

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

側近「む?」クルッ

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ピタタタタタッ、ピタタタタタッ……

魔王叔父「うむ。間に合ったか」

魔王叔父「なんとか、まだあの娘を死なせずにいたな」

魔王叔父「護衛隊長。よく知らせてくれた!」

魔王叔父「でなければ、私はあの娘の葬儀に出なくてはならなかったぞ!」

護衛隊長「はっ、恐れ入ります!」

側近(何故、殿下がここに?)

魔王叔父「側近。戦況は?」

魔王叔父「今、どちらが有利なのだ?」

側近「はっ、今現在、陛下の方が優勢にございます!」

側近「ご連絡を頂ければ、こちらからお迎えに上がりましたのに!」

魔王叔父「まぁ、良いではないか」ニッコリ

側近「殿下にもしもの事があれば、魔界の一大事ですぞ!」ギロッ

魔王叔父「はははっ、そなたは相変わらずじゃな!」ニコニコ

魔王叔父「そう言った所があるから、そなたを側近にして良かった!」ニコニコ

魔王叔父「今は亡き兄上も、あの娘同様によく怠けていた!」ニコニコ

魔王叔父「だがな、魔王となったからにはそうも行かない!」ニコニコ

魔王叔父「そんな兄上の事を立派な魔王にしたのは、そなたの兄だったからな!」ニコニコ

側近「……」

魔王叔父「それで、あの子の容姿はどうやって戻った?」ニコニコ

魔王叔父「私が聞いたのは、エルフ王国から仕入れた秘薬によるものと聞いていたが」ニコニコ

側近「はい。それに関しては相違ございません!」

側近「陛下は、エルフ王国におりますエルフ女子爵より、その秘薬を入手致しました!」

側近「それを入手してすぐ、陛下はその場で試飲!」

側近「その秘薬の効果はかなり強力で、陛下の心身を完全に成人直後のお姿にまで若返らせた様です!」

魔王叔父「ほう、そうであったか!」ニコニコ

魔王叔父「通りで、あの南大陸侵攻作戦が上手く行った訳か!」ニコニコ

魔王叔父「まぁ、つい先日までの容姿と比べたら遥かにマシだろ!」ニコニコ

魔王叔父「私なんか、思わず何度もあの娘の容姿を確認したぞ!」ニコニコ

魔王叔父「ついうっかり、あの娘が死んで私の元に別れの挨拶をしに来たと勘違いしてしまった!

魔王叔父「おかげで、あの娘からは強烈なビンタをお見舞いされたがな!」ニコニコ

側近「殿下。本日の御用向きは、陛下への援軍と言う事で宜しいですかな?」

側近「次回からは、無断で病室を抜け出されるのは控えて頂きたい!」ギロッ

魔王叔父「まぁ、そう難いことを言うな」ニコニコ

魔王叔父「せっかく、私の後ろに四天王すら待機しているのだし」ニコニコ

魔王叔父「どっちかと言うと、私の方が現職の魔王っぽいな!」ニコニコ

魔王叔父「今後、私は大魔王とでも名乗ろうかのぅ!」ニコニコ

魔王「とりゃあ!」ブン

勇者「うわっ!」キン

魔王「ふん、甘いわ!」ブン

勇者「なっ!?」キン

フラッ、ドサッ……

魔王叔父「おっ、あの娘が勝った様じゃな!」ニコニコ

魔王「はぁ、はぁ、はぁ……」

魔王「はぁ、はぁ、はぁ……」

勇者「はぁ、はぁ、はぁ……」

勇者「はぁ、はぁ、はぁ……」

魔王「……」スッ

勇者「くっ……」プイッ

魔王「勇者。ご苦労だった!」スッ

魔王「貴様の事を私は生涯忘れぬ!」スチャ

勇者「くそーーーーっ……」ウルッ

魔王「勇者。どうか安らかに眠れ!」

魔王「私の剣は、鎖帷子をも突き刺す事が出来る!」シュッ

勇者「ーーーーっ!?」グサッ

スッ、ズボッ……

勇者「うぐう、うぐううううううううっ……」モゾモゾッ

勇者「うぐう、うぐううううううううっ……」モゾモゾッ

勇者「うぐう、うぐううううううううっ……」モゾモゾッ

勇者「うぐう、うぐううううううううっ……」モゾモゾッ

勇者「うっ……」ガクッ

魔王「はぁ、はぁ、はぁ……」

パチパチパチパチッ、パチパチパチパチッ……

魔王「ん?」ハッ

パチパチパチパチッ、パチパチパチパチッ……

魔王叔父「姪よ。よくやってくれた!」ニコニコ

魔王叔父「それでこそ、我が兄の娘だ!」ニコニコ

魔王「……えっ!? 叔父上!?」

魔王「叔父上。どうしてここに!?」

魔王「と言うか、出歩いてても大丈夫なのですか!?」

魔王叔父「まぁ、ちょっとダイエットを兼ねた運動にな」ニコニコ

魔王叔父「ここ最近、医師から運動をする様に指導されたからだ」ニコニコ

魔王「は、はぁ……」

勇者の死体「……」ポタポタッ

魔王叔父「ただ、本当は、屋敷に戻って甘い物を食いたかったんだがなぁ……」

魔王叔父「ウチの娘が、すぐに気づいて全て取り上げるのだ……」ウルッ

魔王叔父「ここ最近、私はやけにストレスが溜まっとる!」ウルウルッ

魔王叔父「おまけに、歩く時ですら足が痛くなってきた!」ウルウルッ

魔王「……叔父上」

魔王(そりゃあ、あんだけ食べてたら取り上げられるのも無理はないでしょう……)スッ、カシャン

魔王叔父「姪よ。話が変わるが、明日から私は大魔王を名乗ろうと思う!」

魔王叔父「そして、世界の全てを甘い物だらけにするのだ!」

魔王(いや、それは……)

魔王叔父「だから、そなたもそれに協力をしてくれ!」

魔王叔父「全ては、この私を不治の病にした食生活が悪い!」

魔王叔父「自分でも分かっとったが、これだけはどうしても止められないのだ!」

魔王「だったら、早く病室に戻って下さい!」

魔王「と言うか、ただ単に60種類のハーブを混ぜ合わせた飲み薬を、そのまま飲んで寝てるだけでしょうが!」

魔王叔父「だが、私の場合はそれだけでは無理だ!」

魔王叔父「本当に、地獄の様な味気のない料理ばかりを私の妻や医師等に食べさせられる!」

魔王「とにかく、叔父上は今すぐ病室に戻って下さい!」

魔王「今度、エルフ王国に住む友人に頼んで、その病に効く秘薬はないか問い合わせてみますので!」

魔王叔父「む? それは誠か?」

魔王叔父「そなたの事を信じて、本当に大丈夫なのだな?」

魔王「はい!」

魔王叔父「だったら、私は病室に帰る!」

魔王叔父「そなたも、その友人とやらに感謝しとくのだぞ!」ニッコリ

魔王「はい。叔父上!」ニッコリ

側近「陛下。お疲れさまです!」

側近「後の事は、この私にお任せ下さい!」

側近「ささっ、陛下はすぐに執務室へ!」

側近「この度の戦に掛かった諸経費等の決済を、早く済まさなくてはなりませんからな!」

魔王「ええーーーーっ!?」ガーーン

魔王叔父「せめて、祝い酒ぐらいは飲みたいのだが!?」ガーーン

側近「殿下。それは、なりませぬぞ!」

側近「特に、殿下は飲酒すらもまた固く禁じられておられるではないですか!」

魔王叔父「いや、別に良いではないか……」

側近「何か、この私からの進言に問題でも?……」ギロッ

側近「私は、殿下のお体を大切に思っているのです!」ジーーッ

魔王叔父「いや、そんな本気で睨み付けなくても……」

側近「では、各四天王方もお引き取りを!」

側近「護衛隊長は、殿下を至急病室にまでお送り下さい!」

護衛隊長「うむ。了解した!」

魔王叔父「姪よ。本当にすまぬ!」

魔王叔父「兄上が亡くなった後、あ奴の事も一緒に葬っとけば良かった!」ペコッ

魔王「はい。全くもってその通りでございます!」ウルッ

護衛隊長「では、そろそろ参りましょうか」

護衛隊長「ここにいても、息が詰まるだけですぞ」

魔王「ああ、そうだな……」

魔王叔父「姪よ。また私の見舞いに来ておくれ……」

魔王叔父「今度は、絶対に甘い物を食ってやる!」ウルッ

魔王「はい。叔父上……」ウルウルッ

護衛隊長「殿下。もう行きますぞ」

護衛隊長「そうしなければ、また奥方様が」

魔王叔父「ああ、分かってる分かってる」

魔王叔父「あ奴、ここ最近は本当に口うるさいからなぁ」

クルッ、ジャラジャラシャラジャラ……

ジャラジャラシャラジャラ、ジャラジャラシャラジャラ……

魔王(案外、今回の勇者は弱かったな……)

魔王(前に戦った勇者は、まだ強かったのに……)

魔王(う~~ん。ここ最近の私は、かなり運動不足ねぇ……)

魔王(久し振りに戦闘とかしちゃってたから、すぐ息が上がっちゃってた……)

スッ、ヌポッ……

スッ、ゴクゴクゴクッ……

魔王(とりあえず、この勇者は解放してあげるか……)

魔王(なんか、やけにあの女僧侶に抱きつかれてたし……)

魔王(まぁ、死体さえ送れば勝手に向こうで蘇生してくれるし……)

魔王(もしかしたら、またこの勇者と戦えるかもしれないからね……)

魔王「……」チラッ

勇者の死体「……」ポタポタッ

本日の分、終了。

~教会付属病院・病室~

武闘家妹「女僧侶。大丈夫?」

武闘家妹「まだ、ここで休んどく?」

女僧侶「……うん」

武闘家妹「勇者。本当に大丈夫なのかな?」

武闘家妹「あの時は、女僧侶だけが解放されたんだよね?」

女僧侶「ええ、そうよ……」

女僧侶「あの時会ったあの人が、その場にはいたからね……」

武闘家妹「……そう」

女僧侶「だから、私は助かったのかな?……」

女僧侶「勇者様、どこか遠くへと連れてかれたみたいだから……」

武闘家妹「うん。そうみたいだね……」

女騎士「けど、私はその話を魔女からは聞いてはいないぞ……」

女騎士「一体、あそこで何があったんだよ?……」

女僧侶「……」

女騎士「お前、本当にあれで良かったのか?……」

女騎士「結果はどうあれ、あのクソジジイが死んだのは間違いないが……」

女僧侶「……うん」

武闘家妹「でも、あれはあれで良かったと思うよ……」

武闘家妹「一体、どれだけの人達が不幸になっていたと思うの?……」

女騎士「だがな、魔女はもう完全に娼婦にまで堕ちてしまった……」

女騎士「結局、今の私達には何も出来ていない……」

女騎士「たった一人の友人ですら、ろくに救う事すら出来ずにいるんだからな……」ウルッ

武闘家妹「うん。そうだね……」

女僧侶「とりあえず、今は魔女をなんとかしないとね……」

女僧侶「魔女は、今日もまた店に出てるの?……」

女騎士「ああ、そうだ……」

女僧侶「魔女。貴女、本当にどうしちゃったの?……」

女僧侶「あんな事を躊躇いもなくする魔女なんて、私の知ってる魔女じゃない……」ウルッ

女騎士「ああ、そうだな……」ウルッ

武闘家妹「じゃあ、今の私達に出来る事は?……」

武闘家妹「魔女。また、それが原因で望まない妊娠をしちゃうよ……」

女騎士「……」ウルウルッ

女僧侶「結局、今の私達には祈る事しか出来ないのね……」ウルウルッ

女僧侶「ああ、神よ。どうか、魔女をお救い下さい!」グッ

女騎士「ううっ、ぐすっ……」ポロポロッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

僧侶「女僧侶。具合の方はどうですか?」

僧侶「僕達は今、診察の帰りに寄ってみたんですが」

女僧侶「ううん。全然……」

武闘家妹「僧侶。戦士達の具合はどう?」クルッ

僧侶「戦士達は、まだ眠っています」

僧侶「僕と商人が、すぐに目を覚ましたのですが」

武闘家妹「そう。兄さんはまだなんだ……」

武闘家妹「兄さんも、早く目を覚ませば良いのに……」ガクッ

僧侶「ええ、そうですね……」

商人「すまねぇ、武闘家妹……」

女騎士「でも、お前らは本当によく生きてたよな?……」ポロポロッ

女騎士「魔王城へ突入した時、本当にヤバかったんだろ?……」ポロポロッ

商人「うっ、今のお前泣き顔凄いぞ……」

商人「お前のそこまで悲しんでる顔、今日初めて見たんだが……」ソソッ

女騎士「うるさい……」ポロポロッ

武闘家妹「それで、どうだったの?……」

僧侶「実は、あの時の突入はかなり危なかったです!」

僧侶「僕が覚えている限りでは、敵の攻撃によって魔法使いの張ったシールドが、すぐに破かれてしまったんです!」

女騎士「!?」ガーーン

僧侶「その後、敵の放った矢がかなり強力でした!」

僧侶「僕と商人は、それを受けてすぐ一度戦死してしまった訳なんです!」

武闘家妹「……そう、そうだったんだ」

女騎士「じゃあ、その後の事に関しては?……」ポロポロッ

女騎士「お前達、その後勇者がどうなったか何も知らないのか?……」ポロポロッ

僧侶「ええ、本当に僕達は何も知りません」

商人「俺達が目を覚ました時には、ここの病院のベットの上だったからな」

僧侶「ええ、そうですね」

商人「そっちは、何か聞いてないのか?」

女騎士「残念だが、私達が知ってるのは、勇者達が突入に失敗したと言う事だ……」ポロポロッ

女騎士「私達は、その知らせを聞いてすぐ連合軍拠点にまで飛んだ……」ポロポロッ

女騎士「そこで、お前達をここに移送する手伝いをし、女僧侶は勇者の側に付いていた……」ポロポロッ

女騎士「その日の夜、勇者が連合軍拠点の中で目を覚ましていたのは、女僧侶がこの目で確認をしている……」ポロポロッ

商人「……そうか」

僧侶「勇者達は、かなり危ない状況だったんですね……」

商人「なら、勇者はどこに行ったんだ?」

商人「聞く所によると、連合軍拠点が陥落をしたそうだが」

女僧侶「ええ、そうよ……」

僧侶「勇者。場合によっては、もう既に敵の手に……」

僧侶「恐らく、勇者は大魔導師様同様敵の手に落ちたのでしょう……」

商人「くっ、勇者……」ガクッ

女僧侶「商人の言う通り、連合軍拠点は陥落をしたわ……」

女僧侶「勇者様、せめて私だけでも逃がそうと敵の指揮官と交渉をしてた……」

商人「何?」ムクッ

女僧侶「私達が敵に捕らえられた時、まだ大賢者様達も生きていたの……」

女僧侶「けど、何故か大魔導師様だけが容赦なくその場で殺されちゃってね……」

女僧侶「私はその大魔導師様の生首をすぐに手渡され、私はすぐに王都にまで転送をされたわ……」

武闘家妹「まぁ、それに関しては自業自得でしょ!」

武闘家妹「だって、あのクソジジイは魔女に酷い事してたもん!」

僧侶「武闘家妹。そう言う事を大声で言ってはいけません!」

僧侶「それに関しては、皆そう思っているのですから!」

武闘家妹「うん。そうね!」ニッコリ

女騎士「だが、魔女が未だに報われてないぞ……」ポロポロッ

商人「まぁ、それに関しては、もうどうしようもないな……」

商人「あいつ、教会側からも良い印象を持たれてなかったからな……」

武闘家妹「だからと言って、あの仕打ちはないでしょ?」

武闘家妹「本当に、上も何を考えてんだか!」

僧侶「静かに!」ギロッ

武闘家妹「……は~~い」

商人「とりあえず、勇者の方はどうするか?」

商人「今動けるのは、俺達しかいねぇからな」

僧侶「ええ、そうですね」

女騎士「なら、私は教会の方に顔を出してくる……」ポロポロッ

女騎士「そろそろ、何か教会の方にも情報が入ってるはずだ……」ポロポロッ

女騎士「教会側からも、騎士の派遣をしていたみたいだし……」ポロポロッ

商人「じゃあ、教会側はお前達に任せる」

商人「俺達は、ここに入院してる奴等から事情を聞いてくるからよ」

武闘家妹「うん。お願いね」

僧侶「女騎士。そろそろ、泣き止んだらどうです?」

僧侶「貴女がそこまでなるとは、余程魔女の件がショックだったみたいですね」

女騎士「ああ、まあな……」ポロポロッ

女騎士「それじゃあ、私はもう行くな……」ポロポロッ

女騎士「武闘家妹。魔女の様子も見てくるから……」ポロポロッ

武闘家妹「いや、それ私が行くし……」

女僧侶「二人とも、どうか気を付けてね……」

女僧侶「私、女騎士達まで娼婦になっちゃったら、確実に身投げするから……」ニッコリ

武闘家妹「だ、大丈夫だって……」

商人「女騎士、武闘家妹。何か分かったらすぐに知らせてくれ!」

商人「俺達の方でも、出来るだけ多く情報を仕入れてみる!」

商人「結局、俺達は本当に何も出来なかった……」

商人「せっかくの回復役が真っ先に死んだら、勇者達ですら苦戦するからな……」

僧侶「ええ、そうでしたね……」

武闘家妹「うん。分かったわ」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

武闘家妹「……」

女騎士「……」

女僧侶「はぁ……」

スッ、ゴクゴクゴクッ……

女僧侶「結局、私には祈る事しか出来ないのね……」

女僧侶「こんな事になるんだったら、あの時勇者様と旅をしてれば良かったわ……」

女騎士「ああ、そうだな……」ポロポロッ

武闘家妹「うん。そうだね……」

スッ、ゴクゴクゴクッ……

女僧侶「ふぅ……」

~王都・魔女の自宅~

グツグツグツグツ、グツグツグツグツ……

グツグツグツグツ、グツグツグツグツ……

魔女「……」ニヤニヤ

グツグツグツグツ、グツグツグツグツ……

グツグツグツグツ、グツグツグツグツ……

トントン、トントン……

魔女「はい。どなた?」クルッ

「魔女君、いるかな?」

「私は、XX教会の者なんだけど」

魔女「はい。少々お待ちくださいませ」

スタスタスタッ、ピタッ……

スッ、ガチャ……

魔女「はい。どうか致しましたか?」

司祭「おっ、いる様だね」

助祭「ええ、本当に良かったですね」

魔女「……?」

助祭「……」つ大魔導師の生首

司祭「君、早速で悪いんだけど、これは君の方で預かってくれる?」

司祭「これに関しては、我々の方でも受け取る事が出来ないんだ」

魔女「ああ、そうなんですか……」

司祭「だから、君にはこの生首を預かって貰うよ」

司祭「これ、かなり貴重な素材だからね」

司祭「だから、君に預かって貰いたいんだ」ニッコリ

魔女「はい。かしこまりました……」

魔女「本当に、師匠はかなり迷惑な存在ですね……」チラッ

大魔導師の生首「……」

司祭「まぁ、そう言ってあげるな」

司祭「一応、君の師匠だった人なんだし」

助祭「ええ、そうですね……」

助祭「……」スッ

魔女「……」スッ

魔女「……」ジーーッ

大魔導師の生首「……」

司祭「では、私達はこれで」

司祭「後、ちゃんとこれに関する手当ては出るからね」ニッコリ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

魔女「……」ジーーッ

大魔導師の生首「……」

魔女「……」ジーーッ

大魔導師の生首「……」

魔女(これ、本当にどうしよう?……)

魔女(こんなの、私預かりたくもないんだけど……)

魔女(一体、教会側は何を考えてんのよ?……)

魔女(本当に、師匠は死んだ後も誰かに迷惑を掛け続けるんだから……)

大魔導師の生首「……」

魔女「はぁ……」ガクッ

魔女(とりあえず、これは宝箱の中にでも入れときましょ……)

魔女(一応、師匠は教会指定の重要人物みたいだし……)

魔女(私としては、勇者達の行方の方が心配だわ……)

魔女(勇者。貴方は今、一体どこにいるの?……)

大魔導師の生首「……」

スッ、バタン……

魔女(まぁ、何かあったらすぐに連絡が来るでしょ……)

魔女(私、一応はあの方ともコネクションを持っちゃったから……)

魔女(本当に、師匠もいい気味だわ……)

魔女(いつか必ず、師匠は報いを受けると思っていたけど……)

魔女(まさか、こんな形になるとはね……)ニヤリ

大魔導師の生首「……」

~とある城・国王の間~

国王「将軍。ご苦労だった」

国王「本日を持って、そなたの任を解く」

国王「勇者の事に関しては、かなり残念であったが……」

国王「まぁ、これも定めなのかもしれないがな……」

将軍「はっ!」

国王「それで、そなたは今後どうする?」

国王「そなたが望むのなら、それなりの地位を与えるが」

国王「余としては、そなたの功績を高く評価しておる」

国王「だがな、そなたの領地は全て没収させて貰うぞ!」

将軍「!?」

将軍(何故、私だけが?……)

大臣「将軍。不服か?」

大臣「陛下は、貴殿の所領を没収したいとおっしゃってるのだが」

将軍「ですが、何故私だけなのです?」

将軍「それに、あそこは今は亡き父上から与えられた所領ですぞ!」

将軍「貴殿も、その事に関してはよくご存じのはずです」

国王「うむ。駄目か……」

大臣「実は、御先代様がお亡くなりになられる前に、そう命令を出されてな」

大臣「貴殿は、戦で南大陸に居たから何も知らないのも無理はない」

大臣「だから、貴殿には申し訳ないが貴殿の所領を没収させて頂く!」

大臣「これは、今は亡き御先代様からの命令なのだからな!」

将軍「くっ……」ギロッ

国王「本当にすまぬ……」

国王「将軍。受け入れてくれるか?」

国王「これも、この度の戦による結果なのだ」

国王「我々は、魔王軍の前に惨敗した」

国王「その上、勇者ですら行方知れずとなってしまっている」

国王「その事についてを、そなたはよく理解しておるか?」

国王「一体、そなたはどれだけの戦費を浪費したと思っておるのだ?」

将軍「ですが、あれはあれて致し方なく思っております!」

将軍「戦には、常に犠牲は付き物!」

将軍「あの戦で得た物は、我々は何一つありません!」

将軍「それにも関わらず、何故私だけが所領を没収されるのです?」

国王「……」

将軍「兄上!」ギロッ

国王「将軍。我が弟よ……」

国王「これも、致し方ない事なのだ……」

国王「そなたには、地方の政務官として今後は職務に励んで貰う……」

国王「それと同時に、そなたの王位継承権も爵位もなくなった……」

国王「これについては、もう本当に致し方ない事なのだ……」

将軍「ふざけるなーーーーーーーーっ!」ブチッ

大臣「これ、弟よ。何だその振る舞いは?」

大臣「兄上とて、こんな命令を出したくはないのだ!」

大臣「だが、無情にも父上は兄上に対してそう命じられた!」

大臣「少しは、兄上の気持ちを察してほしい!」

将軍「ですが!」

国王「……」

大臣「将軍。それを受け入れたくない気持ちも分かる!」

大臣「だがな、これも命令なのだ!」

将軍「だったら、何故私を呼び戻さなかったのです?」

将軍「私だって、立派な王位継承者です!」

将軍「兄上、何故私だけなのですか?」

将軍「この度の戦の敗因は、私にだけとは思えませぬ!」

国王「では、何故そなたまで召喚兵を用いたのだ?」

国王「召喚兵は、死者を使ったと聞く」

将軍「!?」

大臣「大魔導師も大賢者も、それを承知の上で使用していた!」

大臣「そなたは、それを存じた上で戦に用いていたのか?」

将軍「いいえ!」

国王「将軍、我が弟よ。本当にすまぬ……」

国王「余達は、なんとか父上に思い止まって貰おうと日々努力してきた……」

国王「それに、そなたがそれを用いたと聞いた時には、大層ご立腹であったぞ……」

国王「余も大臣も、そなたがそれを用いた事を理解している……」

国王「だがな、父上は自然の摂理を乱す召喚兵を用いる事は、断固反対だった……」

国王「それが原因で、父上はお亡くなりになられる直前に、余達に対してそう命じられたのだ……」

将軍「では、私はもうただの領民と?」

将軍「今の私は、爵位も所領も持たないただの領民なのですね?」ギロッ

国王「ああ、その通りだ……」

将軍「兄上、いや陛下。これまで、本当にお世話になりました……」

将軍「私は、陛下の元で仕えれた事を誇りに思います……」スッ

国王「待て!」ハッ

大臣「これ、まだ早まるではない!」

大臣「まだ、そなたの希望を聞いておらぬぞ!」

将軍「……何?」ギロッ

国王「将軍、我が弟よ。まだそなたは、爵位も領地も失ってはいない!」

国王「たとえそれを失ったとして、今は亡き父上による遺言を今の余達が受け入れると思っとるのか?」

将軍「……あっ」パッ

大臣「だから、そなたの今後の希望を言え!」

大臣「最初に、兄上はそなたに聞いたぞ。今後どうしたいと?」

大臣「それに、そなたの処遇が確定しているのなら、もう既に通知が行っていたはずだ!」

大臣「父上がそれを無理に出そうとしたが、直前で父上はお亡くなりになられたのだ!」

国王「……」

将軍「……誠なのですか?」

国王「ああ、誠だ!」

国王「だから、そなたの処遇を今から決定する!」

国王「これまで通り、余が治める領地の中で領主をするのも良い!」

国王「そなたは、一番長く南大陸で戦ってきた!」

国王「だから、そなたの希望を述べよ!」

国王「余達は、出来る限りそなたの希望を聞き入れてやるぞ!」ニッコリ

将軍「兄上。私は、今後も同じ地で領主として収まりたいと思います!」

将軍「今後も兄上の臣下として、誠心誠意与えられた職務を全うする所存であります!」

将軍「つい先程までのこの私の振る舞い、どうかお許し下さい!」ペコッ

将軍「私は、危うく自身を見失い掛けておりました!」

国王「うむ。了解した!」ホッ

大臣「相変わらず、そなたは拙速な所があるのぅ」ホッ

大臣「では、XXXXXX公爵!」

大臣「本日付で、そなたの将軍としての任を解く!」

大臣「今後は、これまで通りXXXX地方XXXX郡XXXX町の領主として励め!」

大臣「良いな?」

将軍「はっ、承りました!」

国王「うむ。大義であった」

大臣「ああ、弟よ。後日宴を開いてやる」

大臣「日付については、追って伝える」

大臣「これまでのそなたの働き、本当にご苦労だった!」

大臣「戦に掛かった費用は、こちらで持つ!」

大臣「そなたは、もうゆっくりと休むが良い」

将軍「はっ!」ムクッ

スッ、ガチャ……

伝令兵長「失礼致しまする!」

伝令兵長「陛下。赤竜娘様がお見えです!」

伝令兵長「如何致しますか?」

国王「何? 赤竜娘様がか?」

伝令兵長「はい!」

国王「では、赤竜娘様をここに!」

国王「大臣、将軍。そなたもここにおれ!」

伝令兵長「はっ!」

スッ、バタン……

国王(一体、何故余の元に神の使いが?)

国王(もしや、勇者の行方が分かったのだろうか?)

本日の分、終了。

支援ありがとうございます。

~魔界・転移門~

スッ、ガチャ……

ギギィーーーーーーーーッ、ギギィーーーーーーーーッ……

ギギィーーーーーーーーッ、ギギィーーーーーーーーッ……

ダン、カシャン……

魔王叔父一行「……」

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

魔王従妹「……」ヌッ

魔王叔父「……む?」ピタッ

魔王従妹「お父様。どちらにお出掛けだったのですか?」

魔王従妹「お父様のお見舞いに行ってみたら、病室を抜け出されたと聞きましたが」ニッコリ

魔王叔父「……すまぬ」ペコッ

魔王従妹「全く、これだからお父様は……」

魔王従妹「どうせまたお父様の事ですから、陛下の事が心配になられていたのでしょ?……」ギロッ

魔王叔父「ああ、まあな……」

魔王従妹「それで、陛下のご様子は如何でしたか?」

魔王従妹「何やら、とても見るに堪えなかったお姿が、奇跡的に改善されたとお聞きしましたが?」

魔王叔父「うむ。あの娘は元気にしておったぞ!」

魔王叔父「本日もまた、活きの良い勇者をすぐに始末しとったわ!」ニッコリ

魔王従妹「ちっ……」イラッ

護衛隊長(ああ……)

魔王従妹「でしたら、まだ陛下は魔王の地位に就いていると?……」

魔王従妹「私としては、早く別のお方になって貰いたいのですが……」

魔王叔父「だが、今の魔界にはあの娘以外に成り手がおらん!」

魔王叔父「何故なら、皆が魔王には絶対に成りたがらない!」

魔王叔父「事実、魔王と言っても、単なる魔界における貴族の代表でしかないのだ!」

魔王叔父「だから、皆が魔王にだけは絶対に成りたがらないのだ!」ウルッ

魔王従妹「では、何故あの怠け癖のある陛下が、魔王に就任出来たのです?」

魔王従妹「どちらかと言うと、誰か一人くらいは反対しているはずですが」

魔王叔父「残念な事に、魔王に就任する為には選挙で選ばれる!」

魔王叔父「その時、他の候補者もいたのだが、あの娘がトップ当選を果たしていた!」

魔王叔父「その上、あの娘は文武両道で今は亡き御先代様の仇も討たれた!」

魔王叔父「だから、あの娘は魔王に就任出来たのだ!」

魔王従妹「じゃあ、陛下は今度ずっと魔王でおられると?」

魔王従妹「さすがに、そればっかりは嫌ですわ!」ギロッ

魔王叔父「……」ビクッ

魔王従妹「ねぇ、お父様。それについては、お父様のお力等で何とかならないのですか?」

魔王従妹「私は、陛下が今度も魔王の座に居続ける事に反対です!」

魔王従妹「あの怠け癖のある従姉だけは、絶対に認める訳には行きませんわ!」

魔王叔父「だが、あの娘以外に成り手がおらぬのも、また事実なのだぞ!」

魔王叔父「私としては、別にあの娘の代わりに魔王に就くつもりもない!」

魔王従妹「!?」ガーーン

魔王叔父「私としては、ほぼ毎日の様に甘い物さえ食えていれば、それで良いのだ!」

魔王叔父「兄上がお亡くなりになった後、私を推す声もあったが全て断っておいた!」ニッコリ

魔王従妹「ーーーーっ!?」ガーーン

魔王叔父「だから、そなたもその様な事を申すな!」

魔王叔父「他の者に聞かれたら、いらぬ誤解等を与えてしまう!」

魔王叔父「それに、私はもう既に長くはないのだ!」

魔王叔父「でなければ、私もあの娘の事を推す事もなかっただろう!」

魔王従妹「……」ブチッ

スッ、バシコーーーーーーーーン!

魔王叔父「ぐっ、ぐはっ……!?」

魔王叔父「む、娘、何をする……」

護衛隊長(ああ、やってしまった……)ハッ

魔王従妹「お父様。私、心底お父様の事を見損ないました!」ニッコリ

魔王従妹「あんな年増女にたぶらかされている様でしたら、お父様がせっかくのお誘いをお断りになられるのも無理はないですね!」ニコニコ

クルッ、スタスタスタッ……

護衛隊長「大公殿下。大丈夫ですか?」クルッ

護衛隊長「また、見事にお嬢様からの右ストレートを腹部に受けておられましたが」

魔王叔父「ああ、大丈夫だ……」

火の四天王「貴殿。そう言う事を申すのなら、最初から貴殿が受け止めよ……」

火の四天王「貴殿は、一体何の為に大公殿下の護衛に就いているのだ?……」

水の四天王「ああ、確かに……」

護衛隊長「ですが、相手は大公殿下のご令嬢ですぞ!」

護衛隊長「私如きが、あの白く美しい肌に触れる等、断じて許される訳がない!」

火の四天王「まぁ、確かにそうなのだが……」

地の四天王「だが、私は貴殿の取った行動には些か問題がある様に見える」

地の四天王「現に、大公殿下は心にも深い傷を負った」

地の四天王「これについても、貴殿はどう弁解を致すのだ?」

護衛隊長「ですが、私の様な者が触れるだけでも一大事ですぞ!」

護衛隊長「各四天王方達も存じておるはず!」

護衛隊長「過去に、大公殿下の奥方様の肌に触れた瞬間、何人もの護衛や使用人達がすぐさま処刑された!」

護衛隊長「だから、自然と自身の体が動かなくなってしまったのだ!」

魔王叔父「!?」ガーーン

護衛副長(隊長。お気持ちだけは、痛い程よく分かりまする……)ウルッ

地の四天王「だが、それでも大公殿下の事をお守りするのが正解であった!」

地の四天王「今の貴殿は、護衛失格である!」

地の四天王「私としては、貴殿を大公殿下の側から離しておきたい?」

地の四天王「そうは思わんか? 風の四天王殿」チラッ

風の四天王「ええ、全くもってその通りです」

護衛隊長「殿下は、如何お考えでしょうか?」ギロッ

魔王叔父「……私としては、今回の事を不問としたい」

魔王叔父「護衛隊長。私の妻や娘達の事で、本当に迷惑を掛けた」ペコッ

地の四天王「殿下!?」ガーーン

魔王叔父「とにかく、私が不問と言えば全て不問とするぞ!」

魔王叔父「諸君らも、いらぬ嫌疑を掛けたりをすらな!」

魔王叔父「護衛隊長がいなくなったら、誰も私の護衛をやりたがらないだろ!」ギロッ

地の四天王「はっ、かしこまりました!」

地の四天王「我らは、大公殿下の決定に従います!」

地の四天王「ですが、私達はまだ諦めてはおりませぬぞ!」

地の四天王「いずれ、大公殿下には魔王就任を果たして頂く!」

地の四天王「それだけは、どうか覚えていただきたい!」

魔王叔父「……ああ、了解した」フン

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

護衛副長「……」スッ

護衛兵達「……」ダッ

スッ、ガチャ……

ギギィーーーーーーーーッ、ギギィーーーーーーーーッ……

ギギィーーーーーーーーッ、ギギィーーーーーーーーッ……

ダン、カシャン……

護衛副長「……」

クルッ、ジャラジャラジャラジャラ……

魔王叔父(全く、どいつもこいつも……)ジャラジャラ

魔王叔父(皆、私に魔王就任を打診してくる……)ジャラジャラ

魔王叔父(私としては、本当に甘い物さえ食えていれば、それで良いのだ!……)ジャラジャラ

魔王叔父(何故、そこまで執拗にこの私に魔王就任を打診してくるのだ?……)ジャラジャラ

魔王叔父「……」チラッ

各四天王達「……」ジャラジャラ

魔王叔父(まぁ、全ては自身の欲の為か……)ジャラジャラ

魔王叔父(いずれ、再び魔界の王権は強化される……)ジャラジャラ

魔王叔父(兄上、私はあの娘を押し退けてまで、魔王の座に就くつもりはない!)ジャラジャラ

魔王叔父(私は、兄上がお亡くなりになった時に、あの娘を守るとそう誓いましたからな!)ジャラジャラ

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

ジャラジャラジャラジャラ、ジャラジャラジャラジャラ……

~旧連合軍拠点・船着き場~

半エルフ士官A「陛下。撤収準備完了致しました!」

半エルフ士官A「後は、陛下の号令を待つだけです!」

エルフ魔女「あら、そうなの?」クルッ

半エルフ士官A「陛下。如何なさいますか?」

半エルフ士官A「皆、陛下からの号令をお待ちしております!」

エルフ魔女「じゃあ、そろそろ撤収して頂戴!」

エルフ魔女「本当に、今回もまた急なお願いをしてごめんなさいね!」ニッコリ

半エルフ士官A「いえ、滅相もございません!」

半エルフ士官A「我々は、かつて陛下によって拾われた身!」

半エルフ士官A「陛下からのご命令があれば、いつでも馳せ参じてみせます!」

半エルフ士官達「……」コクン

エルフ魔女「うふふっ、本当に今回もまた有り難うね!」ニコニコ

エルフ魔女「貴方達のおかげで、北大陸が制覇できたわ!」ニコニコ

エルフ魔女「南大陸に関しては、再び魔王軍の支配下に入った!」ニコニコ

エルフ魔女「私達は魔王軍との協定の元、南大陸での戦いに援軍として派遣されてきただけ!」

エルフ魔女「後の事は、全て魔王軍に任せておきなさい!」

半エルフ士官達「はっ!」

エルフ魔女「では、ハーフエルフ傭兵隊は本日を持って戦時編成を解除!」

エルフ魔女「今回の戦に掛かった追加費用に関しては、追ってエルフ王国から支払われる事となる!」

エルフ魔女「皆、本当によくやってくれたわ!」

エルフ魔女「今の貴方達の地位や名誉等があるのは、全て貴方達がこれまで頑張ってきた証!」

エルフ魔女「私は、かつてそのきっかけを作ったに過ぎなかった!」

エルフ魔女「ここまで世界を変える事が出来たのは、全て貴方達のおかげなのよ!」ニッコリ

半エルフ士官B「陛下。相変わらず、貴女様は謙虚なのですね?」

半エルフ士官B「陛下があの時いらっしゃらなかったら、私達は未だに家畜以下の扱いでした!」

半エルフ士官B「皆、陛下の取った行動には、本当に心から感謝しております!」

半エルフ士官B「私達ハーフエルフは、家畜以下ではない!」

半エルフ士官B「それを、世に知らしめたのは誰でもなく陛下ご自身でした!」

半エルフ士官達「……」ウルッ

半エルフ士官A「陛下。私達は一生陛下について参ります!」

半エルフ士官A「たとえ、陛下が純粋なエルフに転生しようとも、それだけは絶対に変わりません!」

半エルフ士官A「我ら、ハーフエルフ女王XXXXXXに忠実な傭兵部隊!」

半エルフ士官A「今後また何かございましたら、いつでもお呼び下さいませ!」ビシッ

エルフ魔女「ええ、了解したわ!」ニコニコ

半エルフ士官達「……」ビシッ

半エルフ士官A「総員、これより撤収する!」

半エルフ士官A「全隊、回れ右!」

半エルフ士官達「……」クルッ

半エルフ士官A「全体、前へ進め!」

半エルフ士官A「船に乗船次第、続々と出港せよ!」

半エルフ士官達「……」ザッザッザッ

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

エルフ魔女「……」

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザッザッザッ、ザッザッザッ……

ザザーーーーン、ザザーーーーン……

~王都・教会敷地内~

ヒュルヒュルヒュルヒュル、ヒュルヒュルヒュルヒュル……

ヒュルヒュルヒュルヒュル、ヒュルヒュルヒュルヒュル……

シュン、ドサッ……

勇者の死体「……」

司祭「!?」ビクッ

助祭「しっ、司祭様……」

助祭「こっ、これは一体……?」

司祭「誰か、誰かおらんか!?」

司祭「早く、こっちに来てくれ!?」

スタタタタタッ、スタタタタタッ……

スタタタタタッ、ピタタタタタッ……

侍祭「司祭様、何なんでかこれは!?」

侍祭「これ、完全に死んでますよ!?」

副助祭「うわっ、本当だ!?」

司祭「とりあえず、早くこれを死体安置所に!」

司祭「そして、早く蘇生魔法を掛けるんだ!」

副助祭「はい。すぐに、準備に取り掛かります!」

司祭「侍祭。至急、司教様にこの事を噛まずに報告!」

司祭「まだ、教会関係者しか知らせるな!」

司祭「さぁ、急げ!」

侍祭「はっ!」

スッ、ガシッ、ガシッ……

スッ、ガシッ、ガシッ……

司祭「よしっ、そのまま運べ!」

司祭「良いか? 慎重に運べよ!」

侍祭達「はい!」

スッ、ガチャ……

副助祭「どうぞ!」

侍祭「遺体一体、これより入ります!」

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

教会関係者「……」ザワザワッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スッ、バタン……

南大陸にある連合軍拠点陥落から数日後。

勇者が、再び王都に戻ってきた。

どうやら、勇者は魔王軍に捕らえられ、そこで魔王と運命的なまでに遭遇。

そのまま、何故か魔王から一騎討ちを挑まれ、その結果、勇者が惨敗して帰ってきたのが事の真相であった。

その後、勇者は再び仲間の待つ教会付属病院に向かった。

勇者としては、再びすぐにでも魔王退治に行きたがった。

だが、運命とは時に残酷なもの。

魔王城へと突入した時の仲間全員が、とても戦える状態ではなかったからだ。

仕方なく、勇者は再び仲間を集める事にした。

今入院している仲間達とは別に、他の人達を仲間にする様だ。

しかし、それを知ったキモメンが再び勇者の前に出現。

今度こそ、勇者の仲間にして貰う為、勇者の周りにやたらと出没をする。

けれど、勇者はそのキモメンの事を仲間にはしなかった。

皆、キモメンの事を気持ち悪がって、勇者からの誘いを次々と断っていった。

後に、勇者は娼婦として活動をしていた私の元を何故か訪問。

強引に有無を言わさず私の腕を引っ張っていき、そのまま私の事を勇者の仲間にしようとしてしまったのだった。

本日の分、終了。

~王都・中央広場~

一週間後ーー

魔女「勇者。どう言うつもりよ?」スタスタスタッ

魔女「急に、私の事を連れ出して!」スタスタスタッ

魔女「私、これから店に出なくちゃいけないの!」スタスタスタッ

魔女「だから、もう私は帰って良い?」スタスタスタッ

魔女「ねぇ、勇者。私の話を聞いてる?」スタスタスタッ

魔女「私、これから仕事なんだけど!」スタスタスタッ

魔女「だから、もういい加減その腕を離して!」スタスタスタッ

魔女「私なんかより、他にも沢山旅の仲間の成り手がいるはずでしょ?」スタスタスタッ

魔女「勇者!」スタスタスタッ

勇者「……」スタスタスタッ

「おっ、勇者様だ」

「今日は、朝から女連れみたいだな」

「そりゃあ、あんなのに付き纏われてたら無理もねぇよ」

「あいつ、ずっと勇者の後を付き纏ってたからな」

「へぇ……」

キモメン「……」スタスタスタッ

「けど、何で今日は女一人なんだ?」

「あれだけ沢山いた勇者の仲間達は、一体どこに行ったんだよ?」

「多分、この間の敗戦が深く響いてるんじゃねぇか?」

「何でも、勇者は魔王城へ突入したのは良いが、魔王に惨敗した」

「だから、今は誰もいないんじゃねぇか?」

キモメン「……」スタスタスタッ

「ああ、そうだったのか……」

「そう言えば、教会がやけに慌ただしかったな……」

「本当に、勇者も気の毒に……」

「あんな奴に付き纏われていなかったら、すぐにも出発出来たのになぁ……」

「ああ、そうだな……」

キモメン「……」スタスタスタッ

「とりあえず、今日はこれくれ」

「なんか、今日はこれが食いたくなってきたから」

「お客さん。お代は10Gだよ」

「ここ最近、魔王戦の影響で不景気だけど、そろそろ値上げしようかなぁ……」

「ああ、親父。そりゃあこっちが困るんだけど……」

キモメン「……」スタスタスタッ

魔女「ねぇ、勇者。今の話は本当なの?」スタスタスタッ

魔女「皆、つい先日行われた魔王戦の事を話してるけど」スタスタスタッ

勇者「……」スタスタスタッ

魔女「勇者。本当に、魔王と一騎討ちして惨敗したの?」スタスタスタッ

魔女「私、その事が未だに信じられないなぁ……」スタスタスタッ

勇者「……」スタスタスタッ

魔女「勇者。私の質問に答えてくれる?」スタスタスタッ

魔女「ついさっきから私、腕痛いんだけど」スタスタスタッ

魔女「それに、またあいつがついて来てるよ」スタスタスタッ

魔女「勇者は、あれをほっといても良いの?」スタスタスタッ

勇者「……」スタスタスタッ

キモメン「……」スタスタスタッ

魔女(はぁ、仕方ない。あれを使うか……)スタスタスタッ

魔女(勇者相手にあれを使うのは、ちょっと可哀想なんだけど……)スタスタスタッ

魔女(一体、勇者は何を考えいるの?……)スタスタスタッ

魔女(私みたいな汚れた女よりは、遥かにマシな人達が多数いるはずなのに……)スタスタスタッ

魔女「……」スッ

勇者「……」スタスタスタッ

魔女(ごめん、勇者。私もう行くね……)スタスタスタッ

魔女(私、もうそろそろ店に出なくちゃいけないから……)スタスタスタッ

魔女(それに、私と勇者は住む世界が違う……)スッ

魔女(一度娼婦に堕ちちゃったら、死ぬまで私は娼婦なんだからね……)ヌポッ

シューーーーーーーーッ、シュン……

勇者「!?」クルッ、ピタッ

勇者「……」

キモメン「……」

勇者「……」

キモメン「……」

勇者「はぁ……」ガクッ

キモメン「……」ニヤリ

勇者「……」

キモメン「……」ニヤニヤ

勇者「……」

キモメン「……」ニヤニヤ

勇者(あいつ、大魔導師様が残した魔法を使いやがった……)

勇者(あれ、俺ですらまだ使えないのに……)

~王都・魔女の自宅前~

ヒュルヒュルヒュルヒュル、ヒュルヒュルヒュルヒュル……

ヒュルヒュルヒュルヒュル、ヒュルヒュルヒュルヒュル……

シュン、シュタッ……

魔女「ふぅ……」

店主姪「あら?」ハッ

店主姪「魔女。貴女、どこに行っていたの?」

店主姪「貴女が来るのが遅いから、少し様子を見にきたんだけど」

魔女「あっ、お早うございます」クルッ

店主姪「それで、どこに行っていたの?」

店主姪「魔女が遅刻するなんて珍しいわね」

魔女「ああ、少し勇者に呼び出されていたもので……」

店主姪「ふうん。そうなの」

店主姪「魔女は、勇者様とも親しかったからねぇ」

店主姪「とりあえず、今からもう店に向かおうか?」

店主姪「私の方から、叔父にも説明とかしてあげるから」ニッコリ

魔女「はい。本当に申し訳ありません」ペコッ

店主「……」ヌッ

店主姪「けど、何でその勇者様が?」

店主姪「勇者様は、魔女に何の用があったのかしら?」

魔女「多分、私を旅の仲間にでもしたかったんじゃないでしょうか?」

魔女「ここ最近、勇者はずっとあのキモメンに付き纏われています」

魔女「だから、勇者は無理に私の腕を引っ張ってったんだと思います」

魔女「前から勇者は、色々と女にはだらしないですからね」

店主「とりあえず、君の事情は分かった」

店主「まぁ、これに関しては勇者様には同情をするんだけど」

魔女「!?」ビクッ

店主姪「あっ、叔父さん……」ハッ

店主「ごめん。ちょっと梯子を立ててくれないか?」

店主「今、ちょっと自宅の屋根の修理をしてるからさ」

スッ、ストン……

店主「おっ、悪いねぇ……」

クルッ、ツカツカツカッ……

ツカツカツカッ、ツカツカツカッ……

ツカツカツカッ、ツカツカツカッ……

ツカツカツカッ、シュタッ……

魔女「マスター。申し訳ありません」

魔女「個人的な都合で遅れてしまって」ペコッ

店主「ああ、良いよ良いよ」

店主「あの勇者様相手なら、仕方ないからさぁ」クルッ

店主姪「それで、何で屋根なんか修理してるの?」

店主姪「そんなの業者に任せたらいいじゃない」

店主「いやぁ、業者に頼みに行ったら今日は無理だった」

店主「なんか、魔王軍襲来に備えて業者自体に召集が掛かってたから」

店主姪「へぇ……」

店主「だから、今日は少し暇になりそうなんだけどね」

店主「この間の南大陸での戦闘の影響で、皆が病院送りになっちゃってるみたいだから」

魔女「ああ、そうだったんですか」

店主姪「じゃあ、今日はどうするの?」

店主姪「このまま、店は開けとくの?」

店主「うん」

店主姪「だったら、魔女は少し私に付き合ってくれる?」

店主姪「娼婦Aが、この間から産休に入っちゃったでしょ?」

店主姪「だから、その世話の手伝いをしてくれないかな?」

魔女「ええ、私は構いませんけど」

魔女「けど、娼婦Aの空いた穴は大丈夫なんですか?」

店主「うん。それ自体は大丈夫だよ」

店主「つい先日、エルフ王国からまたハーフエルフの娼婦の追加派遣が決まったみたいだから」

魔女「ああ、そうなんですか……」

店主姪「じゃあ、今から魔女は私と薬草詰みね」ニッコリ

店主「では、各自解散!」

店主「ああ、店の方にはこっちでその事を伝えといてね」

魔女「はい。かしこまりました」

店主姪「じゃあ、叔父さん。また今度」ニコニコ

店主姪「私達、なるべく早くに戻ってくるからね」ニコニコ

店主「ああ、了解した」ニッコリ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

魔女「……」スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

店主(意外に、魔女君も慣れてきたみたいだな)

店主(この分なら、魔女君もまた他の子達みたいに長続きするだろうけど)

~王都・細い路地~

魔女「……」スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

魔女「……」スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

武闘家妹「あっ」ハッ

魔女「……」スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

魔女「……」スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

武闘家妹「魔女。待って!」ダッ

魔女「え?」ピタッ

店主姪「魔女。どうかしたの?」ピタッ

店主姪「早く行かないと、娼婦Aがもがき苦しむわよ」クルッ

魔女「……」キョロキョロ

店主姪「魔女。もう行くわよ」

店主姪「娼婦A。かなりお腹が出てきちゃったんだから」

魔女「はい。かしこまりました」クルッ

武闘家妹「いや、ちょっと待ってよ!」ワサワサワサッ

武闘家妹「魔女。私ここだから!」ワサワサワサッ

魔女「……」クルッ

武闘家妹「魔女。お願いだから戻ってきて!」ワサワサワサッ

武闘家妹「魔女の事、皆が心配してるんだから!」ワサワサワサッ

スタスタスタッ、ピタッ……

武闘家妹「はぁ、はぁ、はぁ……」

武闘家妹「はぁ、はぁ、はぁ……」

武闘家妹「はぁ、はぁ、はぁ……」

武闘家妹「はぁ、はぁ、はぁ……」

魔女「……武闘家妹」

店主姪「……あらら」

武闘家妹「魔女。何で無視するのよ?……」

武闘家妹「お願いだから、もうあんな店に出るのはもう止めて……」ムクッ

魔女「……」プイッ

店主姪「魔女。どうするの?」

店主姪「貴女の友人は、早くウチの店を止めてほしそうにしているけど」

魔女「ええ、そうみたいですね」

武闘家妹「魔女。お願いだから、もう戻ってきて!」

武闘家妹「皆、本当に魔女の事を心配してるんだから!」ウルッ

魔女「ごめん。私はもう皆の元には戻る気なんかないよ!」

魔女「だって、私はもう皆と違って住む世界が違うから!」ニッコリ

武闘家妹「!?」ガーーン

魔女「さぁ、もう行きましょ」クルッ

スッ、ガシッ……

武闘家妹「行かせない!」ウルウルッ

魔女「あっ……」クルッ

店主姪(この子……)

武闘家妹「魔女。お願いだから、もう止めて!」ウルウルッ

武闘家妹「魔女がどんだけ私達から離れようと、私達は魔女の事を絶対に連れ戻すから!」ウルウルッ

魔女「ごめん。先を急いでるから、その手を離してくれない?」

魔女「私の仲間は、もう今勤めてる店の人達だけなんだから!」ギロッ

武闘家妹「!?」ガーーン

魔女「だから、その手を今すぐ離してくれる?」ジーーッ

魔女「私みたいな汚れた体なんか触るより、武闘家妹は他の綺麗な物を触っていた方が断然良いよ!」ジーーッ

武闘家妹「……」パッ

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

武闘家妹「……」ポロポロッ

武闘家妹「……」ポロポロッ

武闘家妹(魔女。何で私に対して、あんな冷たい目をするの?……)ポロポロッ

武闘家妹(私はただ、魔女の事を心配していただけなのに……)ポロポロッ

武闘家妹(それに、私はもう仲間ではない……)ポロポロッ

武闘家妹(今さっきの魔女、そう明確に発言していたよね……)ポロポロッ

スッ、フキフキフキ……

フキフキフキ、フキフキフキ……

武闘家妹(魔女。本当にどうしちゃったの?……)

武闘家妹(あんなの、私の知ってる魔女じゃないよ……)ウルッ

武闘家妹(魔女。私は絶対に諦めない!)ウルウルッ

武闘家妹(魔女が再び私達の元に戻ってくるまでは、私達は絶対に魔女の事を諦めないからね!)ウルウルッ

女騎士「……」ヌッ

女騎士「はぁ……」ガクッ

女騎士「武闘家妹。大丈夫か?」

女騎士「魔女をまた追うか?」

武闘家妹「うん。大丈夫……」

女騎士「とりあえず、魔女を追うぞ」

女騎士「あいつ、もしかしたら誰かに操られているかもしれない」

武闘家妹「え?」

武闘家妹「それで、魔女の行き先は?」

武闘家妹「魔女は、どっちに向かったの?」

女騎士「ああ、魔女達は今さっき中央広場の方に向かった!」

女騎士「だから、私達も今から追うぞ!」

武闘家妹「うん。分かった」

クルッ、スタスタスタッ……

本日の分、終了。

~王都・中央広場~

店主姪「ねぇ、魔女。本当に良かったの?」スタスタスタッ

店主姪「貴女の友人、本気で泣いてたけど」スタスタスタッ

魔女「ええ、構いませんよ」スタスタスタッ

店主姪「貴女、そんなんじゃ友人なくすわよ」スタスタスタッ

店主姪「せっかく、貴女の帰りを待っている子達がいるんだから」スタスタスタッ

魔女「けど、私とあの子じゃ住む世界が違い過ぎますよ」スタスタスタッ

魔女「私は、ただの評判の悪い魔女で、あの子達は未来ある聖職者」スタスタスタッ

魔女「だから、もうあの子達の事は良いんです」スタスタスタッ

魔女「ですから、早く私達も用事を済ませましょうよ」スタスタスタッ

店主姪「ええ、そうね」スタスタスタッ

勇者「あっ」ハッ

魔女「それで、今日は何を取れば良いんですか?」スタスタスタッ

魔女「薬草って言っても、かなりの種類がありますし」スタスタスタッ

店主姪「うん。今日は娼婦Aに体調に合った薬草が必要かな」スタスタスタッ

店主姪「私は、普段から店には出てないけど、店の女の子達が妊娠してしまった時には、よくお世話をしているからね」スタスタスタッ

魔女「へぇ、そうなんですか?」スタスタスタッ

勇者「……」ダッ

店主姪「後、食料品や日用品とかの購入も必要なのよね」スタスタスタッ

店主姪「一度女の子が妊娠しちゃったら、前と体の調子とかがかなり違ってくるでしょ?」スタスタスタッ

店主姪「それに、ここ最近まで娼婦に関する風当たりも強かったし」スタスタスタッ

店主姪「だから、私みたいな店に出てない人が必要になる訳」スタスタスタッ

魔女「へぇ……」スタスタスタッ

勇者「……」スタスタスタッ

魔女「じゃあ、早めに薬草を摘まないといけませんね」スタスタスタッ

魔女「今私達は、どこに向かってるんですか?」スタスタスタッ

店主姪「今、私達はXXXX平原に向かってるのよ」スタスタスタッ

店主姪「そこは、王都のすぐそこにあるし」スタスタスタッ

店主姪「まぁ、この辺は野盗とかが出ないから大丈夫なんだけど」スタスタスタッ

店主姪「一応、日暮れまでに薬草を摘まなきゃ門が閉まっちゃう訳」スタスタスタッ

魔女(ん? また、誰かにつけられてる……)スタスタスタッ

魔女(今度は、一体誰なのかしら?……)チラッ

勇者「……」スタスタスタッ

魔女(ああ、まだ少し時間が早かったかしら……)スタスタスタッ

魔女(てっきり、勇者はもう諦めたんだと思ってたんだけどなぁ……)スタスタスタッ

勇者「……」スタスタスタッ

魔女(勇者。いい加減に諦めてよ……)スタスタスタッ

魔女(勇者も、人の事を悪く言えないよ……)スタスタスタッ

魔女(ああ、またあのキモメンの姿が目に入っちゃった……)スタスタスタッ

魔女(本当に、あいつもしつこいなぁ……)スタスタスタッ

勇者「……」スタスタスタッ

キモメン「……」スタスタスタッ

魔女(仕方ない。他の手を使うか……)スタスタスタッ

魔女(これだったら、勇者も付き纏わないはず……)スタスタスタッ

魔女(勇者。場合によっては、もう二度と会えないかもしれないけどね……)スタスタスタッ

魔女(師匠が残した魔法が、こんな所で役に立つなんて……)スタスタスタッ

魔女「……」スッ

勇者(今度は、何をするつもりなんだ?)スタスタスタッ

スッ、ヌポッ……

魔女「……」ポイッ

勇者「!?」サッ

キモメン「!?」バシャ

ポワワン、ポワワン……

ポワワン、ポワワン……

勇者(ん? あのキモメンに何か掛かった……)クルッ

勇者(あいつ、一体何を投下したんだ?……)

勇者(多分、あれも大魔導師様が使われていた何らかの魔法……)

勇者(だから、魔女はあいつに投げたのか?……)

キモメン「……?」キョロキョロ

キモメン「……?」キョロキョロ

勇者(と言う事は、魔女は俺を援護してくれたのか?……)

勇者(ここ最近、やけに俺はあのキモメンに付き纏われていたし……)

勇者(あいつ、ああやって誰かを突き放してはいるが、まだ脈はあるな……)

勇者(今の内に、魔女を追うか……)クルッ

ドクンーー

キモメン「!?」ビクッ

キモメン「勇者、覚悟しろ……」スッ

キモメン「全て、お前が悪いんだ!……」スラアン

勇者「え?」クルッ

キモメン「勇者、全てお前が悪いんだ!」

キモメン「お前が、早く俺を選ばなかったから悪いんだ!」ダッ

勇者(うそーーーーーーーーん!?)ガーーン

スッ、スラアン……

ダダダダダダダダッ……

キモメン「てやっ!」ブン

勇者「させるか!」キン

兵士長「!?」ハッ

兵士1「おいっ、お前ら何やってんだ!?」ハッ

キンキン、キンキン……

「おいっ、何か始まったぞ!」

キンキン、キンキン……

「あっ、あれは勇者様じゃねぇか!?」

兵士長「お前ら、早く止めろ!」ダッ

兵士達「……」ダッ

魔女(勇者。悪く思わないでね)スタスタスタッ

魔女(これも、勇者の為なんだから)スタスタスタッ

魔女(私、本当に悪い魔女だもん)スタスタスタッ

魔女(世間からは評判の悪い魔女なんだから)スタスタスタッ

キンキン、キンキン……

兵士長「おいっ、止めんか!」

魔女(勇者。早くそのキモメンを殺しなさい!)スタスタスタッ

魔女(そして、自身の弱点を全て取り除きなさい!)スタスタスタッ

魔女(あいつが、生きていたら勇者の為には絶対にならない!)スタスタスタッ

魔女(これも、勇者の為なんだからね!)スタスタスタッ

キンキン、キンキン……

兵士長「おいっ、早くあの二人を取り押さえろ!」

勇者(くっ、あいつどう言うつもりだ?……)

勇者(何故、俺とあいつをここで戦わせる?……)

キモメン「……」ジリジリッ

勇者(魔女。お前は、何を企んでいる?……)

勇者(こんなの、何か間違っているだろ?……)

キモメン「はっ!」ダッ

勇者(魔女。俺はお前を諦めない!)スッ

勇者(こんな奴に比べたら、お前の方が遥かにマシだ!)スチャ

勇者「はああああっ!」ブン

キモメン「!?」キン

勇者「お前、早く死ねよ!」

勇者「そして、もう二度と俺の前に姿を現すな!」ギロッ

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キーーーーーーーーン……

勇者「くっ!」ギリギリッ

キモメン「くそっ!」ギリギリッ

シュン、バリーーーーン……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キーーーーーーーーン……

「良いぞ。もっとやれ!」

「勇者様、早くそのキモメンを退治するんだ!」

シュン、バリーーーーン……

勇者(くそっ、こいつ意外に強いな……)

勇者(だが、俺の敵ではないな……)

勇者(ああ、そうか。これが魔女の狙いだったのか……)

勇者(魔女は、俺にこのキモメンの事を斬り殺そうとさせている……)

勇者(だから、あのキモメンに向けて謎の小瓶を投げつけたんだな……)

キモメン「……」

勇者(だが、ここの警備兵が集まってきた……)

勇者(これ以上やると、確実に捕まるな……)

勇者(魔女。お前、投げる場所を間違ってるだろ……)

勇者(出来れば、もっと別の場所で投げてほしかったなぁ……)

勇者(はぁ……)

キモメン「……」ダッ

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キーーーーーーーーン……

勇者「ちっ!」ギリギリッ

キモメン「!?」ギリギリッ

シュン、バリーーーーン……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キンキンキンキン、キンキンキンキン……

キーーーーーーーーン……

勇者(ともかく、今はこのキモメンの方が先だ!)ギリギリッ

勇者(後で必ず、魔女は犯してやるからな!)ギリギリッ

シュン、バリーーーーン……

勇者「はっ!」ブン

キモメン「とうっ!」キン

勇者「これでどうだ?」ブン

キモメン「ちっ!」キン

女騎士「なっ!?」スタスタスタッ

武闘家妹「勇者。何してんの!?」スタスタスタッ

勇者「とりゃあっ!」ブン

キモメン「なっ!」キン

勇者「これでどうだ?」ブン

キモメン「うわっ!?」スパッ

女騎士「おっ……」ピタッ

武闘家妹「勇者……」ピタッ

キモメン「くっ、やるな……」ポタポタッ

キモメン「さすがは、勇者と名乗るだけの事はある……」ポタポタッ

キモメン「だが、もうお前も終わりだ……」ポタポタッ

キモメン「ここの周りをよく見てみろ?……」ポタポタッ

キモメン「もう既に、ここの兵士達が包囲した後なんだぞ!……」ポタポタッ

兵士達「……」ジーーッ

兵士長「勇者殿、もう止めろ!」

兵士長「これ以上、無益な戦いをするな!」

勇者「ちっ……」

兵士長「おいっ、そこのお前大丈夫か?」

兵士長「お前の腕、深く斬られている様だが」

キモメン「ああっ、大丈夫だ……」ポタポタッ

兵士長「勇者殿。これより、貴殿を拘束する!」

兵士長「罪状は、武器を使用した上での傷害!」

兵士長「即刻、両者とも武器を収めて貰いたい!」

兵士長「今の貴殿には、こんな所で油売っていて貰っても困るのだ!」

勇者「……」

キモメン「……」パッ、カシャン……

兵士長「よしっ、そこのキモメンを今すぐ拘束しろ!」

兵士長「キモメン。貴様にも勇者殿に対する武器を使用した上での傷害容疑が掛かっている!」

兵士長「さっ、勇者殿も即刻武器を収めて貰いたい!」

兵士長「相手の男は、もう武器を捨てたのだからな!」

勇者「……」

王都の民達「……」ザワザワッ

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

兵士2「おいっ、お前大丈夫か?……」

兵士2「それっ、かなり傷が深いな……」

兵士3「お前、結構深く斬られてるぞ……」

兵士3「今から、お前を教会付属病院に連れてってやるからな……」

キモメン「ああ、大丈夫だ……」ポタポタッ

キモメン「本当に、迷惑を掛ける……」ポタポタッ

キモメン「勇者。お前ももうこれで終わりだ……」ポタポタッ

キモメン「そんなんだから、自身の大事な女すら娼婦にまで堕としてしまうんだ……」ポタポタッ

勇者「何?」ギロッ

兵士長「どう言う事だ?」

キモメン「皆、よく聞け!」ポタポタッ

キモメン「勇者XXXは、自身の仲間をレ〇プした挙げ句に娼婦にまで堕とした!」ポタポタッ

キモメン「そいつ、本当はそんな事をしたくはなかったのにも関わらず、勇者にそれを強要されてた!」ポタポタッ

キモメン「おまけに、勇者の子供すら無理矢理孕まされていた様だ!」ポタポタッ

兵士長「!?」

王都の民達「なん……だと……!?」ガーーン

キモメン「だから、お前ももう終わりだ!」ポタポタッ

キモメン「その剣には、どうやら毒を塗っていた様だな!」ポタポタッ

キモメン「勇者。先に、俺はあの世で待っているぞ!」ポタポタッ

キモメン「お前は、勇者と言う立場を利用して何の罪もない民達を傷つける極悪人!」ポタポタッ

キモメン「だから、お前も精々苦しめ!」ポタポタッ

キモメン「さらばだ!」ニヤリ

キモメン「ぐっ、ぐはっ……」プルプル

キモメン「げほっ、ごほっ……」プルプル

フラッ、ドサッ……

兵士長「!?」

兵士2「おいっ、大丈夫か!?」

武闘家妹「きゃああああああああーーーーーーーーっ!?」ビクッ

キモメン「……」プルプル

キモメン「……」プルプル

キモメン「……」プルプル

キモメン「……」プルプル

兵士長「くっ……」

兵士2「おいっ、しっかりしろ!」

女騎士「勇者。お前、何て事をしてんだ!?」

女騎士「何も殺す必要なんかないだろ!?」

兵士長「勇者殿。貴殿を、殺人容疑で拘束をする!」

兵士長「いくら、勇者とは言えども殺人は重罪だ!」

兵士長「貴殿には、最高でも斬首及び財産没収が待っている!」

勇者「!?」ガーーン

兵士長「さぁ、武器を捨てて貰おうか?」

兵士長「貴殿には、これより牢に入って貰う!」

兵士長「総員、勇者を拘束しろ!」

兵士長「さぁ、急ぐんだ!」

勇者「くっ……」

兵士達「……」ジリジリッ

勇者(くそっ、魔女に嵌められた!……)

勇者(あいつ、何て事をしてくれたんだ!……)

勇者(魔女、てめぇ絶対恨むぞ!……)

勇者(あいつ、一体何を考えてんだ!?……)

兵士達「……」ジリジリッ

兵士長「さぁ、早く武器を捨てるんだ!」

武闘家妹「勇者。お願い、早く武器を捨てて!」ウルウルッ

武闘家妹「私、勇者がそんな酷い事をしてる姿なんかみたくない!」ウルウルッ

勇者「……武闘家妹」ハッ

武闘家妹「勇者。お願い、武器を捨てて!」ウルウルッ

武闘家妹「今ならまだ間に合う!」ウルウルッ

武闘家妹「お願いだから、もう止めて!」ウルウルッ

女騎士「勇者。私は、お前の事を見損なったぞ!」ウルウルッ

女騎士「何故、お前はモンスター以外の人間を殺すんだ!?」ウルウルッ

女騎士「お前があの時しっかりしてたら、魔女は娼婦にまで堕ちる事はなかった!」ウルウルッ

女騎士「もっと早くに、お前が斬り殺した相手と平和的に解決していれば、こんな事にはならなかったんだ!」ウルウルッ

王都の民達「……」ザワザワッ

キモメン「……」ガクッ

女騎士「勇者。頼むから、もう止めてくれ!」ポロポロッ

女騎士「いくら、そいつの事が鬱陶しかったとは言え、何も殺す事はないだろ!?」ポロポロッ

女騎士「頼む。お願いだから、もう止めてくれ!」ポロポロッ

女騎士「早く私達の知ってる勇者に戻ってくれ! お願いだから!」ポロポロッ

勇者「……女騎士」

キモメンの死体「……」

勇者「……」

女騎士「……」ポロポロッ

武闘家妹「……」ポロポロッ

キモメンの死体「……」

王都の民達「……」ザワザワッ

兵士達「……」ジリジリッ

勇者「……」

女騎士「……」ポロポロッ

武闘家妹「……」ポロポロッ

キモメンの死体「……」

王都の民達「……」ザワザワッ

兵士達「……」ジリジリッ

スッ、カシャン……

スッ、ヌポッ……

兵士長「おっ……」

勇者「兵士長。貴殿からの要求通りに今から降伏をする……」

勇者「俺の武器を預かってくれ……」スッ

兵士長「ああ、了解した……」ホッ

~王都・大通り~

魔女「……」スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

魔女「……」スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

シュピン……

魔女(どうやら、上手く行ったみたいね……)スタスタスタッ

魔女(あのキモメンは、勇者に斬り殺されちゃったみたいだから……)スタスタスタッ

魔女(まぁ、勇者にはちょっと可哀想な事をしちゃったけど……)スタスタスタッ

魔女(さりげなく、勇者の剣には私が毒を塗っといたんだけど……)スタスタスタッ

魔女(少し、派手にし過ぎちゃったかしら?……)スタスタスタッ

店主姪「……」スタスタスタッ

魔女(まぁ、これも全て勇者が悪いんだけどね……)スタスタスタッ

魔女(勇者が、あまりにもしつこいのがいけないんだから……)スタスタスタッ

魔女(だから、勇者はもう二度と私には関わらないでね……)スタスタスタッ

魔女(所詮、私はただの薄汚い魔女……)スタスタスタッ

魔女(元々、勇者達とは住む世界が違うんだからね……)スタスタスタッ

魔女「うふふっ……」ニヤリ

本日の分、終了。

~王都・魔女の自宅前~

その日の夕方ーー

店主姪「魔女、お疲れ様。今日はもう良いわよ」ニコニコ

店主姪「おかげで、色々と助かったわ」ニコニコ

店主姪「今度から、魔女にもこっちを手伝って貰おうかしら?」ニコニコ

店主「うん。そうだね」

店主姪「魔女。明日からエルフ王国から派遣されてきた子達が入るわ」ニコニコ

店主姪「その間は、魔女はこっちの方を手伝って頂戴」ニコニコ

店主姪「貴女、まだ魔法使いとしての習慣が残っているみたいだし」ニコニコ

店主姪「主に、ハーブの調合とかは任せたわよ」ニコニコ

魔女「はい。かしこまりました」

魔女「それでは、私はこれで失礼致します」

「魔女。少し良いかしら?」

「少し、貴女と話がしたいんだけど」

魔女「え?」クルッ

店主「おや?」

姪店主姪「あらら」

女僧侶「……」ヌッ

女僧侶「魔女。久し振りね」

女僧侶「やけに、例の店ではご活躍の様だけど」ニッコリ

魔女「……何しに来たの?」

女僧侶「魔女。それ結構冷たい言い方ね」

女僧侶「私はただ、魔女の事を説得しにきただけよ!」

魔女「そう。じゃあ今すぐ帰って!」

女僧侶「魔女。貴女、本当に大丈夫なの?」

女僧侶「私の知ってる魔女は、そんなんじゃなかった?」

女僧侶「やっぱり、教会側からの魔女に対するこの仕打ちは許せない?」

女僧侶「だから私達三人にまで、そうやって魔女は冷たい対応をしているの?」

魔女「うん!」

女僧侶「……そうだったんだ」ホッ

魔女「だから、私はもう戻るつもりはないかな!」

魔女「私みたいな薄汚い女、女僧侶達には不釣り合いだから!」

魔女「それに、これからの女僧侶達の将来を考えたら、私は邪魔でしかないよ!」

魔女「何故なら、私は魔女でありながら娼婦にまで堕ちた!」

魔女「過去に、それに加えてハーフエルフと言う三重苦だった人もいるみたいだけど!」

魔女「だから、もう女僧侶達も諦めてくれないかな?」ギロッ

女僧侶「残念だけど、私は諦めるつもりはないわ!」

女僧侶「今の魔女は、絶対に誰かによって操られてる!」

女僧侶「私、魔女の事をとても大切な親友だと思っているの!」

女僧侶「いくら、魔女がそれを否定し続けようが、その事実は決して揺るぎすらしないわ!」ギロッ

魔女「……」ビクッ

魔女(いや、そんな事を言われても……)

女僧侶「だから、私は魔女を連れ帰るわ!」

女僧侶「いくら、魔女がそれを拒否しようが絶対に連れ帰る!」

女僧侶「それに、わざわざ女騎士が魔法通信を使って勇者様の事を連絡をしてくれたのに、あの対応は酷くない?」

女僧侶「女騎士達、本気で泣いてたわよ!」

女騎士「人目も憚らず、僧侶達がドン引きしてる目の前で、ずっと長い事あの二人は泣き崩れてたんだから!」

魔女(……ああ、女騎士達には少し冷たくし過ぎたかしら?)

女僧侶「魔女。貴女、本当の所はどうしたいの?」

女僧侶「私は、魔女が娼婦になるのを拒んでいた様に見えたんだけど」

女僧侶「昔から、魔女は本当に優しい性格だったわ」

女僧侶「あんなクソジジイにさえ弟子入りしなければ、魔女はこんな目には遭わなかったと思う」

魔女「でも、それを選んだのは紛れもなく自分自身!」

魔女「私、今では師匠に弟子入りしといて良かったと思ってるの!」

女僧侶「それ、魔女は本気で言ってるの?」

女僧侶「私、魔女が本心を述べている様には思えないんだけど」

女僧侶「後、これは助祭様から聞いた話なんだけど、本当にアレを魔女が保管してるの?」

女僧侶「相変わらず、上は何を考えてるんだが……」

女僧侶「どうして、魔女ばっかりこんな目に遭っちゃうんだろうね?」

魔女「さあね」

店主姪「魔女。貴女どうするの?」

店主姪「せっかく、こうやって貴女の事を連れ戻しに来てくれる友人達がいるのに」

店主姪「今後どうするかについては、魔女が決めて良いのよ」

店主姪「私達は、どこぞの最低最悪な勇者様みたいに強要したりしない」

店主姪「全て、魔女が決めて良いんだから」

店主「うん。そうだね」

女僧侶「魔女。お願いだから、もう戻ってきて!」

女僧侶「上の方には、改めて私達が魔女の処遇の改善についてを掛け合ってみるから!」

女僧侶「だから、魔女ももう変な意地を張らないで!」

女僧侶「魔女の事に関しては、昔から私達がよく知ってるんだから!」

魔女「……」

魔女(相変わらず、女僧侶は重い女みたいだね……)

店主姪「魔女。貴女、本当に良い友人を持ったわ!」

店主姪「普通、ここまでしてくれる人なんて滅多にいないわよ!」

店主姪「それで、魔女はどうしたいの?」

店主姪「私達は、魔女の意思を尊重してるわよ!」

店主「うん!」

女僧侶「魔女」ゴクリ

魔女「残念だけど、私はここに残るわ!」

魔女「ここには、私みたいな不幸な人達が沢山いるから!」

女僧侶「!?」ガーーン

魔女「それに、私がいなくなったら誰が助けてあげるの?」

魔女「ここにいる先輩達は、レ〇プされた挙げ句に娼婦にまで堕とされた人達なんだよ?」ギロッ

女僧侶「そ、それは……」

魔女「だから、私だけここを抜ける訳には行かないわ!」

魔女「私は、ここにいる先輩達を助けないといけない!」

魔女「表向きには、教会側は最低限の生活の保証をしてくれてるけど、その実態は娼婦を監視及び管理しているだけ!」

魔女「おまけに、王都に住む未婚の女性達を保護する為に、常日頃から娼婦が好き放題レ〇プされている事実をどう説明してくれるの?」

魔女「今の私は、師匠のした事以上にその事が許せない!」

魔女「そんな現実を生で見てたら、自分だけここを出る訳には行かないの!」

魔女「だから、もう女僧侶は私の事を諦めてくれる?」

魔女「私と女僧侶は、完全に住む世界が違うんだよ!」

魔女「マスター。私は今後も店の方には出させて頂きます!」クルッ

魔女「ですので、今後も宜しくお願い致します!」ペコッ

店主「ああ、了解した!」ピカァ

店主姪「貴女、そこまでウチの子達の事を考えていてくれていたのね!」ウルッ

女僧侶「魔女。貴女の言い分は分かった」

女僧侶「さすがに、私だってあの現状については哀れに思う」

女僧侶「けど、今の貴女にはまだ助かる見込みがあるわ!」

女僧侶「私自身は、まだ貴女の事を諦めた訳じゃないの!」

魔女「!?」ガーーン

魔女(まだ、諦めてくれないの?……)

女僧侶「魔女。ここに1万Gあるわ!」

女僧侶「これで、当分の生活費は確保出来るわよね?」スッ

魔女「!?」

女僧侶「魔女。あまり私達の事を舐めないでよね?」

女僧侶「これで、魔女の当分の生活費は確保出来た?」

女僧侶「だから、今勤めてる店を即刻辞めてくれるかしら?」ニッコリ

魔女「いや、そんな事を急に言われても……」

魔女「私の話、女僧侶はちゃんと聞いてた?……」

女僧侶「うん!」ニコニコ

魔女「だから、私はここにいる先輩達を助けなくちゃ行けないの!」

魔女「女僧侶。相変わらず、自分勝手な所があるんだから!」ギロッ

女僧侶「それ、魔女が人の事を言えた義理?」ニコニコ

店主姪「とりあえず、それ受け取ったら?」

店主姪「せっかく、わざわざ持ってきてくれたんだし」

店主「魔女君。当分の間は、産休を取った子達の世話をお願い」

店主「本当に、君は良い友人を持ったみたいだね」

魔女「……はい。かしこまりました」ガクッ

女僧侶「やった!」ニコニコ

女僧侶「じゃあ、魔女はこれから私に付き合ってくれる?」ニコニコ

女僧侶「私、魔女を今からある場所に連れて行きたいから?」ニコニコ

魔女「え?」ムクッ

女僧侶「まぁ、着いてきたらすぐに分かるよ」ニコニコ

女僧侶「さっ、早く行こうか?」ニコニコ

魔女「……はぁ、了解したわ」

店主姪「それじゃあ、二人ともお疲れ様」ニコニコ

店主姪「魔女。明日も今日みたいに頼むわよ」ニコニコ

魔女「はい。かしこまりました」

女僧侶「さぁ、魔女。早く行くわよ」ニコニコ

女僧侶「もう皆が、現地で魔女の事を待ってるんだから」ニコニコ

魔女「ああ、やっぱり……」

クルッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

「魔女。お願いだから逃げないでね!」

「もし逃げたら、地獄の果てまで追いかけるから!」

「はいはい……」

店主姪「ああ、行っちゃったわね……」

店主「とりあえず、俺は店の方を見てくる」

店主「姪は、産休を取った子達を頼む」

店主姪「ええ、了解したわ」

店主「やっぱり、魔女君を勧誘して正解だった!」

店主「彼女は、ウチの子達にはない何かを持っていたから!」

店主姪「ええ、そうね!」

~王都・教会前~

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタタッ……

女僧侶「着いたわよ」

魔女「え? 何で教会なの?」

魔女「と言うか、ここで何するの?」

女僧侶「何って、今から勇者様の裁判」

女僧侶「今の勇者様、あのキモメンを殺害した容疑者じゃない」

魔女「あっ、そうだった……」

不審な木箱「……」

女僧侶「とりあえず、今からここに入るわよ」

女僧侶「皆、もう集まってきてるし」

魔女「うん」

女僧侶「後、武闘家妹は早く出てきなさい」

女僧侶「貴女、さっきからそこで何してるのよ?」

魔女「え?」

武闘家妹「ああ、バレてた……」

武闘家妹「魔女がここに来なかったら、このまま私も娼婦にでもなろうかなぁとか思ってたから……」ウルッ

魔女「……」クルッ

スッ、パカッ……

武闘家妹「今の私、ただの捨て犬だもん……」ウルウルッ

武闘家妹「魔女が来なかったら、本当に娼婦になってでも魔女に会いに行っていたから……」ウルウルッ

魔女「いや、それ私が困るから……」

魔女「と言うか、そこまで思い詰められても……」

魔女「もしかして、私の所為?……」

魔女「私の所為で、ここ最近の武闘家妹は捨て犬みたいになっていたのかしら?……」

武闘家妹「うん。そうだよ……」ウルウルッ

女騎士「ああ、全て魔女が変な意地を張ってたのが悪い!」ヌッ

魔女「はぁ、もう悪かったわよ……」

魔女「相変わらず、女騎士達はバカなんだから……」

魔女「一体、どこをどうしたらこんな私みたいな女でも好きになれるの?……」

魔女「私、未だにそれが分からないかな……」ガクッ

武闘家妹「う~~ん」スッ、フキフキ

女僧侶「やっぱり、これは神による巡り合わせなんじゃないかなぁ」ニッコリ

魔女「はぁ、もう分かったわよ……」

魔女「全部、私が悪い事にして良いわよ……」

魔女「それで、ここに入れば良いんだよね?」

魔女「勇者は、もう中にいるの?」

武闘家妹「うん」ヨイショ

女騎士「今回の裁判は、魔王討伐の関係もあって急遽その日の内に行われたんだ」

女僧侶「じゃあ、もう入りましょうか?」

女僧侶「そろそろ、勇者様の判決も出ると思うし」

女僧侶「魔女。お願いだから逃げないでね!」

女僧侶「じゃないと、今度は魔女も裁判に掛けちゃうから!」ニコニコ

魔女「はいはい」

クルッ、スタスタスタッ……

本日の分、終了。

~教会・聖堂~

司祭「それでは、これより勇者XXXに対する罪状認否を行う!」

司祭「被告・勇者XXXは、本日午前9時過ぎ中央広場にてキモメンと呼ばれる下の者の男性を殺害!」

司祭「王都の民達に対して、言い知れぬ恐怖心を与えた!」

司祭「罪状、武器を使用した上での殺人!」

司祭「被告人は、この事実を認めますか?」

勇者「いいえ、私は認めません!」

勇者「今回の事件は、相手側からこの私に対して斬りかかって参りました!」

勇者「私は、正当防衛を主張致します!」

勇者「ですので、武器を使用した上での殺人は認められません!」

司祭「ほう?」

教会関係者「……」ザワザワッ

司祭「では、被告人は正当防衛を主張すると?」

司祭「それを、被告人は証明する手段はあると言うのですか?」

勇者「はい!」

司祭「では、今からそれを証明して頂く!」

司祭「被告人は、それを今から証明して下さい!」

勇者「はい!」

スッ、ガチャ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スタスタスタッ、ピタッ……

女僧侶「あっ、もう始まってるみたいね」

女騎士「ああ、そうだな」

スッ、バタン……

勇者「司祭様。目撃証言の方は、どうなっていますか?」

勇者「現場にいた兵士達が、それをすぐに証明してくれるはずですが」

司祭「今の所、現場に居合わせた兵士達からは、“相手方から斬り掛かってきた”と言う目撃証言があった!」

司祭「だが、被告人は正当防衛を主張する割りには、何故その手続きをしなかった?」

司祭「被告人はその手続きを速やかにしなかった為、この度の裁判は武器を使用した上での殺人となる!」

司祭「被告人の正当防衛が認められる為には、“速やかに行為の一切を公にし、全容解明に至る全ての事をする必要”があったはずだ!」

勇者「いや、そんな事を急に言われましても……」

勇者「具体的に、私は何をすれば良かったのですか?……」

司祭「例えば、犯行現場に十字架を掛ける!」

司祭「道行く人達に、被害者の魂が神によるお慈悲を受けれる様に祈って貰う!」

司祭「それを、被告人は一切しなかった!」

司祭「あろう事か、勇者と言う職業の名を汚した大変許しがたい行為でもある!」

勇者「ですが、あれは相手の方から斬り掛かってきたんですよ?」

勇者「相手の方から斬り掛かってきた為に、自分は応戦したまでです!」

司祭「なら、被告人の剣には何故毒が塗ってあった?」

司祭「被告人から回収した剣には、何らかの毒が塗ってあったが」

勇者「そ、それは……」

魔女(ああ、あの毒ね……)

司祭「司教様、ご来訪の皆さん!」

司祭「私は、今回の事件の被害者が大変哀れに思えます!」

司祭「彼は、まだ死を迎える準備すら出来ていない状態でした!」

司祭「大勢の民衆達の目の前で儚い命を落としたのにも関わらず、被告人は一切その罪を認めない!」

司祭「彼の魂が神によるお慈悲を頂けないと思うと、本当に哀れに思います!」

司教「うむ。そうじゃな!」

「勇者。早く罪を認めろ!」

「神に対して、早く許しを乞え!」

勇者「……」クルッ

「今、勇者が罪を認めないならば、極刑もやむ無し!」

「財産を没収した上で、勇者自身の死刑を望む!」

勇者「なん……だと……!?」

司祭「ご静粛に、ご静粛に!」

司祭「被告人は、早く罪を認めなさい!」

司祭「被告人が罪を認めなければ、一体彼はどうなるのです?」

司祭「そもそも、被告人は何故彼を殺害するに至ったのですか?」

司祭「この際ですから、全て明らかにしなさい!」

司祭「そうでなければ、被告人が主張する正当防衛も認められない!」

勇者「そもそも、事の発端は被害者による付き纏いが原因でした!」

勇者「私は、魔王を討つ度に出る直前に、ある場所で仲間を多数集めました!」

勇者「そのある場所と言うのは、王都にある冒険者登録所!」

勇者「そこで、私は旅に出る為に必要な仲間達を集め、それに溢れた被害者による逆恨み的な行動が全ての始まりなのです!」

司祭「……」

教会関係者達「……」ザワザワッ

司祭「では、何故彼を仲間にしなかったのです?」

司祭「確かに、被害者の容姿には問題があります!」

司祭「ですが、彼は紛れもなく私達と同じ人間でした!」

司祭「その彼に付き纏われていたからと言って、何も殺害する必要はなかったでしょう?」

勇者「しかし!」

司祭「被告人は、容姿だけで人を判断していたのですか?」

勇者「じゃあ、この俺が受けた被害はどうしてくれるんだよ?」

勇者「元はと言えば、勝手に向こうが逆恨みしたのが原因じゃねぇか?」

司祭「だからと言って、被告人が彼を殺害して良いと言う事には絶対にならない!」

司祭「彼だって、一人の人間だ!」

司祭「神の前では、被告人も被害者も同等である!」

勇者「くっ……」

司祭「他に、彼は被告人に何をしてきたのです?」

司祭「ただ単に、被告人の仲間にしてほしかったから、彼はアピールをしていたのでしょ?」

司祭「被告人が、被害者とちゃんと話し合えばこんな事にはならなかった!」

司祭「被告人は、勇者と言う特殊な職業を悪用し、自身の行った事に対する正当性を主張した!」

司祭「神は、被告人の行った行為を決して許すはずがない!」

司祭「被告人は速やかに罪を認め、被害者に対して懺悔する様に私は求める!」

勇者「司祭様。あんた、あのビラに書かれた内容を真に受けてるのか?」

勇者「あのビラに書かれた内容は、全て事実誤認だ!」

勇者「あれは、あいつが全て書いたビラなんだよ!」

勇者「俺は、決して仲間をレ〇プしてないし、娼館で豪遊すらしてない!」

勇者「何故、被害を受けていた俺だけがこうして裁かれるんだ!?」

勇者「本来なら、あいつが今ここで俺の代わりに裁かれるべきだろ!?」ギロッ

司祭「被告人。少し落ち着きなさい!」

司祭「それを彼がやったかについても、被告人は証明出来るのですか?」

勇者「ああ、それについては出来るんだよ!」

勇者「ここに、大賢者様さえ呼んで頂けたらな!」

司祭「ほぅ……」

魔女(そう言えば、大賢者様ってどうなったんだろう?……)

司教「残念じゃが、大賢者殿は亡くなられた!」

司教「それに、賢者殿と魔導師殿もだ!」

勇者「!?」ガーーン

司教「それに、彼がビラを撒いたと主張しておるが、かなり無理があるじゃろ!」

司教「紙は、どこの国でもかなり貴重な品物じゃ!」

司教「あのビラを撒くぐらいなら、直接口で民衆に伝えた方が早かったじゃろうが!」

勇者「ですが、実際にそのビラは大量に町から町へと撒かれているんですよ!」

勇者「その撒いたビラについては、魔法か何かで増やしたんじゃないですか?」

司教「確かに、そのビラが町から町へと大量に撒かれていたのは事実なのじゃ!」

司教「しかし、わざわざそんな回りくどいことをするか?」

司教「町から町へと紙を撒いたとしても、一体誰が読める?」

司教「どこの国でも、実際に字の読み書きが出来るのは、ある特定の身分でなければ出来ないのじゃ!」

司祭「被告人。もう諦めなさい!」

司祭「いくら、被告人が罪を認めたくなくても、神は見ているのです!」

司祭「神は、被告人に対して罪を認めろとおっしゃっております!」

司祭「これまで、神は被告人がしてきた事全てを見てきました!」

司祭「時には、被告人が被害者を殺害する瞬間すらも見ていたのです!」

司教「うむ。そうじゃな!」

勇者「だったら、俺を今から女神様に会わせてくれ!」

勇者「そして、俺は女神様に自身の無実を証明して貰う!」

司祭「は?」

勇者「頼む。俺を女神様に会わせてくれ!」

勇者「もう、今の俺の無実を証明出来るのは、女神様くらいしかいないんだ!」

教会関係者達「……」ザワザワッ

「でしたら、私が神の意思を代弁致します!」

「それでしたら、勇者XXXも文句は無いですよね?」

勇者「え?」

シュン、シュタッ……

赤竜娘「……どうも」

教会関係者達「!?」シーーン

赤竜娘「勇者XXX。またお会いしましたね」

赤竜娘「この度の事につきましては、大変残念に思います」ニッコリ

勇者「はっ、はい……」ビクッ

赤竜娘「神は、貴方に罪を認めろとおっしゃっております!」ニコニコ

赤竜娘「ですから、早急に貴方は全ての罪を認めて下さいね!」ニコニコ

勇者「!?」ガーーン

司教「で、では、勇者XXXは有罪と言う訳で?……」

司教「赤竜娘様。それで宜しいでしょうか?……」

赤竜娘「はい。お願いします!」ニコニコ

司教「判決、勇者XXXを有罪とする!」

司教「刑罰は、XX法に基づき斬首及び財産没収じゃ!」

勇者「うそーーーーーーーーん!?」ガーーン

赤竜娘「それでは、今から私は勇者XXXに与えられた特殊な力を回収致しますね!」ニコニコ

赤竜娘「それを終えたら、彼を処刑して頂いても構いませんから!」ニコニコ

司教「はい。かしこまりました!」

赤竜娘「勇者XXX。神の名の元に、汝に与えし力を全て回収する!」スッ

赤竜娘「はっ!」ブワッ

ギュイーー------ン、ギュイ------ーーン……

魔女(とりあえず、勇者の裁判が終わった……)

魔女(まぁ、大体は予想は付いていたんだけど……)

魔女(やっぱり、あそこで凶暴化の薬を撒いといて良かった……)

魔女(どうやら、私が撒いた事は知られてはいないみたいだし……)ホッ

赤竜娘「ふぅ、終わりました……」スッ

元勇者「……」フラッ、ドサッ

司教「では、これにて解散!」

司教「本日の裁判は、これで終了とする!」

司教「皆の衆、ご苦労だった!」

司教「赤竜娘様。遠いところからわざわざお越し頂き誠に有り難うございます!」ペコッ

教会関係者達「……」ペコッ

赤竜娘「いえいえ、どう致しまして!」ニッコリ

女僧侶「魔女。もう帰るよ」

女僧侶「もう元勇者XXXの裁判は、終わっちゃったから」

女僧侶「とりあえず、今から近くの酒場にまで行かない?」

女僧侶「司教様には、ちゃんと許可を取ってあるから」ニッコリ

魔女「うん。分かった」ニッコリ

スッ、ガチャ……

クルッ、ゾロゾロゾロッ……

ゾロゾロゾロッ、ゾロゾロゾロッ……

赤竜娘「司教。この青年を牢に戻しておいて下さい!」

赤竜娘「この青年には、もう神より与えられた特殊な力等は一切ありません!」

赤竜娘「ですから、死刑執行は一週間後にお願い致しますね!」

司教「はっ、かしこまりました!」

~王都・冒険者登録所~

半月後ーー

スッ、ガチャ……

スタスタスタッ、スタスタスタッ……

スッ、バタン……

仲介人「いらっしゃい!」ニッコリ

新勇者「失礼。本日から勇者の称号を引き継いだ新勇者XXXXだ!」

新勇者「早速だが、旅の仲間を仲介して貰いたい!」

仲介人「はい。ただいま!」ニコニコ

キモメン2「!?」クルッ

キモメン3「!?」クルッ

新勇者「……ん?」ハッ

新勇者「おいっ、そこのキモイ奴等!」

新勇者「お前ら、名前とレベルと職業は?」

新勇者「一体、お前らは何が出来る?」

キモメン2「お、オラ達の事か?」

新勇者「ああ、そうだ!」

キモメン2「!?」ピカァ

キモメン3「オラ達は、XX地方のXXXX郡から来たキモメン兄弟だ!」

キモメン3「職業は戦士で、レベルは50!」

キモメン3「ここには、死んだ実の兄貴(勇者に付き纏ってたキモメン)の墓参りに来てただ!」

キモメン3「その兄貴が生きてたら、かなりの戦力になったんだがな」クルッ

キモメン2「ああ、そうだな」コクン

新勇者「ほう?」

仲介人「勇者様。如何致しますか?」

仲介人「こちらの二人は、かなりの腕の持ち主ですよ!」ニッコリ

新勇者「う~~む」ジーーッ

キモメン2「勇者様、どうかオラ達の事を仲間にしてくだせぇ!」ジーーッ

キモメン2「オラ達、金はたんまり持ってる!」ジーーッ

キモメン2「死んだ兄貴が残してくれた、魔王城までの地図もあるんだ!」ジーーッ

新勇者「ほぅ、それは誠か?」

新勇者「して、その地図はいずこに?」

キモメン3「ほれっ、これだ」スッ

新勇者「すまぬ」スッ

スッ、シュルシュル……

スッ、ピラッ……

新勇者「なっ!? これは、南大陸の地図ではないか……」

新勇者「実際、私はつい先日まで南大陸での戦に出ていた……」

新勇者「この地図は、信用に値する!」

新勇者「よく、これを今まで守り抜いてくれた!」

キモメン3「おおっ、そうなのか!」

キモメン2「良かったなぁ、弟よ!」

新勇者「よしっ、お前らの事を旅の仲間として採用しよう!」

新勇者「これから、長い旅になると思うが宜しく頼む!」

キモメン2「ああ、宜しくだ!」ニッコリ

キモメン3「勇者様。本当に有り難うごぜぇます!」ニッコリ

新勇者「宜しく頼む!」ニッコリ

仲介人「それでは、手続きの方を開始致します」スッ

新勇者「ちなみに、他の奴等は?」

新勇者「他にも、仲間になりそうな奴等はいないのか?」

仲介人「ええ、他の人達はもういません!」カキカキ

仲介人「皆、各自で南大陸の方に渡られましたので!」カキカキ

新勇者「うむ。そうか」

仲介人「はい。どうぞ」スッ

新勇者「そうか。もう出払った後だったか」

新勇者「なら、仕方ないな」スッ

仲介人「誠に申し訳ございません」ペコッ

新勇者「では、キモメン兄弟。もう行くぞ!」

新勇者「早く我々が南大陸に向かわなければ、世界に平和が訪れないのだからな!」

キモメン兄弟「おう!」

~王都・中央広場~

女僧侶「ねぇ、聞いた? 今日、新しい勇者様が出たみたいよ」

女僧侶「前の勇者様が亡くなってからまだ日が浅いのに、もう新しい勇者様が出てきたみたい」

魔女「へぇ……」

女僧侶「まぁ、次の勇者様は大丈夫そうだけどね」

女僧侶「私は、もう勇者様と言う存在は懲り懲りかな」

女僧侶「そう言えば、今日はお休みなの?」

女僧侶「魔女がここで暇そうにしてるなんて、かなり珍しいわね」

魔女「うん。今日は定休日なの」

魔女「だから、私はここで新しい魔法のインスピレーションを得ていた訳」

女僧侶「へぇ……」

魔女「あっ……」

魔女「ねぇ、もしかしてあれが例の勇者様?……」

魔女「今回の勇者様は、かなりゲテモノ好きなのね……」

女僧侶「ええ、そうよ」

魔女「ごめん。私、やっぱああ言うのは無理……」

魔女「なんか、私は絶対に無理かな……」

女僧侶「ああ、やっぱり……」

魔女「けど、他に仲間の成り手はいなかった訳?……」

魔女「私、絶対にあれだけは無理だと思う……」

女僧侶「うん。そうだね……」

魔女「ああ、なんか変な感じになってきた……」

魔女「私の得るはずだったインスピレーションが、何一つ得れなかった……」ガクッ

女僧侶「貴女ねぇ……」

魔女「とにかく、私は場所を変えるわ……」

魔女「女僧侶は、まだ戻らなくても大丈夫なの?……」

女僧侶「うん」

魔女「じゃあ、少しだけ付き合ってくれる?」

魔女「この間の件の埋め合わせ、まだしてなかったから」

女僧侶「ええ、いいよ。そんなの」

魔女「けど、いきなりあんな大金を渡されたら、かなり申し訳ないわよ!」

魔女「私、あの時は本当にどうしようか悩んでたんだから!」

女僧侶「まぁ、あれについては本当に気にしないで!」

女僧侶「あれ、実はエルフ魔女さんから頂いた物だから!」

女僧侶「だから、魔女は気にしないでね!」ニッコリ

魔女「……えっ!?」ガーーン

あれから半月後、私は女僧侶達とは完全に仲直りをしていた。

あれだけ私が冷たく接していたのにも関わらず、女僧侶達はただの大馬鹿。

粘り強く教会側とも交渉を続け、この私とも完全に和解。

私自身は、娼婦寮のすぐ横から引っ越す事が出来たのだった。

だが、私は完全に油断していた。

いやむしろ、女僧侶達の事を侮っていたかもしれない。

今度の私の新居は、本当に女僧侶達が住む寮に近く。

偶々、こっちに休暇で来ていたエルフ魔女さんを交渉の席に着かせて、無理に私を教会関係者の住宅付近に引っ越しをさせていた様だった。

その後、私は普段通りの日常を送っていた。

私は私で、自身が作る魔法薬を今勤めている店に納品していたからだ。

それと同時に、何故かエルフ魔女さんが用意してくれたハーフエルフの娼婦達が、私の勤める店にも多数移籍。

王都の中で、エルフ王国から派遣されてきた多数のハーフエルフ達の顔がちらほら見える。

けれど、私の気持ちは完全に晴れなかった。

私は、前の勇者の事を罠に嵌めていたからだ。

それにも関わらず、誰もその事を一切咎めたりはしない。

逆に、今の私はそれ自体が本気で怖かったりもする。

ねぇ、神様。

私は、どうしたら許して貰えるの?

私は、どうやったら自身の犯した罪を償えば良いの?

やっぱり、神様は私の事を見ているのね……

あの日、私が前の勇者に何をしたかについてを、ちゃんとしっかり見ていたのね……

あの日、私は前の勇者の事を罠に嵌めた。

それが原因で、前の勇者は死ぬ事となった。

本当に、あの時は悪かったわ……

私、あの日の事は貴方にちゃんと謝るから、もう二度と私の夢には出てこないでほしい……

それ加えて、私はあの時の事を本気で後悔する事していた。

それと同時に、私のお腹の中には再び謎の違和感が発生した。

あの時と全く同じ様に、今の私の体は娼婦を続けていた所為で再び妊娠。

何度も何度も、何故か私が元勇者XXXによって火炙りにされる夢を見続けている。

それから暫くして、私は女僧侶と共に酒場へと向かった。

しかし、気がついた時には私は再び教会付属病院のベットの上だった。

そこで、何故か再び泣き崩れてしまっている女僧侶達の姿を私は見てしまい……

どうやら、もう既に私の体は性病に蝕まれていた挙げ句、自身のお腹の中にいた子供は余所見しながら走ってきた子供とぶつかり完全に流産。

もう二度と私は子供すら産めず、今の私の体を蝕む病を完全に治す事も出来ない。

これが、私が神より与えられし天罰だと悟ったのは、それを女僧侶達から涙ながらに伝えられた時だったのだった。

魔女「キモメンが、仲間にしてほしそうに勇者を見ている……」/完

これで、この物語は終わりです。

この物語を読んで頂き、誠にありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月05日 (金) 21:10:37   ID: QDlzbmWm

後書きがムカつくわ駄文のくせに

2 :  SS好きの774さん   2018年05月08日 (火) 02:48:44   ID: 3RVEHHZS

1000年に1度レベルのくそSS

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom