とある科学の禁書目録 a certain scientific index - unweaving the rainbow - 2 (28)

落ちてたので立てました。

★前スレ

 とある科学の禁書目録 a certain scientific index - UNWEAVING THE RAINBOW - - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399455356/)

★あらすじ

 「学園都市レベル5の御坂美琴は、ある日純白の修道服を身につけた自称シスター、インデックスと出会う。
  曰く、『魔術師』なるものに狙われているとか。半信半疑というより無信全疑の中、
  魔術師との交戦を経て、魔術なるものの正体に迫っていく。
  一方で、失踪したインデックスを巡った戦闘行為が、学園都市と魔術師勢力の間で繰り広げられていた。
  単身、事件の真相に迫る美琴。科学と魔術が交差するとき、物語はうんたら」

★キャスト

 御坂美琴
 インデックス
 白井黒子
 初春飾利
 ステイル=マグヌス
 神裂火織
 ローラ=スチュアート
 アレイスター=クロウリー
 上条当麻
 雷神トール
 垣根帝督
 土御門元春 etc.....


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412081544


 外は夕暮れがため息をついていた。
時折聞こえる銃声と、何かの叫び声は、あまりに現実離れしていてうまく解読することができなかった。
 私たちは施設の一室に場所を移した。とにかく今日は、覚えることが多いなと思った。


「お嬢様には刺激が強すぎだな」

「早く始めてよ」


 疲労と焦りで感情のコントロールがうまくできていないのが自分でもわかった。
口調がどこか荒くなっている。


「垣根帝督たちが来るまではもう少しかかる。その間に説明する。まず禁書目録についてだ」


 土御門元春と名乗った男はまるで子供がいたずらの会議をするみたいに、軽快に語った。
 その態度も相当にイライラした。


「窓のないビルに監禁されている。まあ、大体察しているだろ」

「あの子の価値」

「ただ問題はもう少しややこしい。オレがこうしてアンタの前に立っているのも、
 複雑に絡み合った組織を出し抜くための苦肉の策だ。
 そこらへんはわかるだろ」


 ステイル=マグヌスに神裂がどうなったのかを聞き出すのが先だと思ったが、やめた。
 事態が切迫していて、優先順位が高いものを無意識にしていた。
 このとき私は垣根帝督と、雷神トールはどちらが勝っても構わないと本気で思っていた。
 どちらが死んでも、またどちらが生き残っても、やることは変わらない。
 ほんの少しだけ、方法が変わるだけだ。



「学園都市は独立と解放を望んでいる」

「待って。じゃあ、本当にこの街は戦争を始めようとしてるってこと?
 日本っていう国の、単なる一都市が?」

「アンタのいう戦争ってのがどのレベルかはわからんが、そういうことだ。
 禁書目録に備え付けられたセキュリティについては、
 もっと別の方法で解除するストーリーが組み立てられていた。
 だが、アンタが『こちら側』に関わってきたせいで、プロットが変わった」


 訳が分からない。未来予知でもできる人間がいるのか。


「アレイスターは未来予知なんかできはしない。カオス理論は知っているだろ。
 ツリーダイアグラムは天気予報まではできるが、
 複雑に絡み合った人間関係や、生み出される観念の予測はまだできない。
 だが、『今』をある一定の程度、高い精度でなら知ることができる。
 ツリーダイアグラムから小数点以下のレベルで、
 学園都市のありとあらゆる情報が集まってくる。
 精度が高ければ、近未来については予測、推測が可能。
 それに対するストーリーラインの修正もな」


「私があの子と出会ったことで未来が変わった?」

「正確には魔術を知った瞬間から。で、今回の主役はアンタになった。
 ところが困ったことに、アンタには禁書目録は救出することができない」
 
「どうしてそう言い切れるの」

「貴様が科学側の人間だからだ」


 ステイルの語気が荒くなっていた。初めて会ったときと同じ。
燃えるような瞳に、覚悟の炎が揺れている。



「ホテルで話したときに貴様は言ったな。
 『ある意味では科学のほうが魔術的、宗教的。
  魔術のほうが科学的、理論的』だと。
 要約するとそういうことだ。
 貴様ら科学者は、魔術を受け入れるには科学を信仰しすぎている。
 あの子を助けようとしても、死ぬだけだ」

「そんなの、わかんないでしょ。
 アンタだって、最初はローラとかいう女の戯言を信じて」

「戯言じゃない。あれはセキュリティを安全に作動させるための方便だ。
 裏も取ってある。
 ……ローラ=スチュアートは僕らを最初から生かしておく予定だった。
 貴様を止める一手のために。
 あの子の『首輪』を外せば、貴様もあの子も死ぬ」


 だからそれをなんとかして解除しようとしてたんじゃないのか。
無謀なのはわかっているが、同意してくれたのはアンタじゃないのか。
 私は喉まで出た言葉を抑えてステイルを睨みつけた。
土御門が間に入って静止しなければ、怒鳴りつけていたかもしれない。


「できない。オレとアレイスターの見立てでは、その役目はある男が担うはずだった。
 だが、それももう無理だ」

「どうして」

「気付かれた。あの子の頭にある、『原典』を狙う連中に」


 原典。それが? 核兵器レベルの国家戦力?


「こうなっちまったらもうどうしようもない。
 禁書目録のセキュリティを解除した瞬間に、
 もっとおぞましい連中が学園都市に攻め込んでくる。
 雷神トールは単純な戦闘能力だけなら世界で五指には入るだろう実力者だが、
 あれは特例だ。
 魔術界には頭のイカれた連中なんざ腐る程いる。この街の科学者と同じくらいに」


「じゃあどうするの。放っておくの?」


 土御門が付け足そうとするのを、ステイルが静止する。そして、少しの間私を見つめて口を開いた。


「貴様があの子を救いたいと、本気で思っているのはよくわかった。
 僕がこの街で出会った数少ない人間のうち、
 最も高尚な倫理で動いていたのも貴様だ。
 勝算のない戦いで失う必要はない」

「勝算なんて、あるのかどうか最初からわかんない。
 そんな軽い言葉で、ごまかさないでよ!」


 私はとうとう掴み掛かった。止めるものは誰もいなかった。
ホテルのときとは構図が逆転していた。関係も。立場も。


「諦めるっての? もうこの街では戦闘が始まってる。
 垣根帝督の言葉を借りるのなんてまっぴらだけど、もう引き返せないのよ。
 そんな権利はとっくに放棄してるの」

「じゃあどうするんだ。
 貴様が今から数時間のうちに魔術数百年の歴史を解体して、
 あの子の原典をどうにかする方法を思いつくまで待てというのか。
 どうやって? 方法は?
 失敗するかしないか、その見積もりだって立てられやしない」

「最初からそうよ。でも、こんなのおかしい。だって……」

「アンタはわかってないんだ。何も。
 それでもしがみつくのは、エゴだって言ってるんだ」


 寸でのところで、弱気な言葉が頭をよぎってしまった。
 インデックスは首輪に飼いならされているのではなくて、守られているんじゃないか?
 私だけが、解き放とうとしてるだけで。首輪をつけていたほうが、あの子のため?



「あの子の記憶はこれからも定期的に消去されて、
 アンタたちはその度にあの子に恨まれる」

「仕方がない。仕方を教えてくれるのか?
 傲慢だ。歪んだ正義感だ」


 ステイルは私に向けてというより、自問自答しているように見えた。


「あの子は本気で死のうと覚悟していたのよ。
 記憶を消すってそんなに単純なこと? その度にあの子は死ぬ。
 何回も、何十回でも何百回でも殺される。
 それでも繰り返すの。そんなの、ただ生きてるだけじゃない」


 私はこのとき、不覚にも何か大きな力に願っていた。
 その力に、神だとか、仏だとか、そういう名前をつけたがる人たちもいるだろう。
 だけどそこまで頭が廻らないくらい、願っていた。助けて。
 答えなんかない。外側に力を求めている人には、いつだって救いはこないのだ。
 内側から引きずり出すしかない。
それは、とんでもないパワーを要するし、犠牲も払うんだろうけど、
 とにかく私の中にあるすべてのタンスの中身を片っ端から剥奪するしかないのだ。
 脳内の回路をフル回転させて引き出す。何を犠牲にしてでも、引き出す。


「それなら」


 口が勝手に動いた。


「私はアンタたちの敵でいい。信じたものを取り戻す。
 私のやり方で」

「……だから言っただろ、ステイル。
 土台無理な話だぜい。バックグラウンドが違いすぎる。
 時間だ」

 
 油断していた。土御門元春の言葉を聞き終わるや否や、私は拘束されていた。
四方八方からワイヤーに似た形状の拘束具が飛び出す。
 うまく能力が発動できない。何か仕掛けが……。



「なぜこの場で私を殺さないの。知り過ぎたのは自覚してるけど」

「連れて行く。元々そっちが本命だ」


 どういうことだ。言い方では私は計画を邪魔する人間のような扱いだった。
雷神トールも同じことを言っていた。


「アンタはもうただの邪魔者じゃない。台風の真ん中にいるんだ。
 引き返せないって言ったな。その通り。
 放っておけばもっとひどいことがやってくる。
 そいつはもう、人間の力じゃ対抗できやしない。
 そうなる前にケリをつける必要があるんだ」

「答え合わせって言ったはずよ。まだ何かあるっていうの?」

「もう何もない。舗装された道が続いていて、進むだけだ」


_____________

 運送は黒塗りの車だった。囚人になった気分。
 この男、一体どんなツテで学園都市の裏側に入ったんだ。
 ステイルも同席していた。私が睨むと、申し訳なさそうに視線をそらした。
 その態度に余計にイラだつ。
 運転は土御門元春が行っていた。


「ステイルを責めるなよ。アンタのワガママに付き合ってやったんだ。
 恨むならオレにしておけ」

「アンタは何でこの立場に?」

「理由なんて後付けだ。
 弱みを握られてはいるが、今やろうとしてるのはちょっと趣が違う。
 こうなるとは誰も予想しなかったからな」


 私と話している間も、警戒は寸分たりとも怠っていない。
修羅場はかなりくぐり抜けていると踏んだ。



「ローラからの通信は?」

「ないな。神裂がうまくやっているようだ。戦闘が本格化する前に鎮圧できれば上等だが、
 無理だろう。僕も前線に出るべきか」

「必要ない。どの道いま現場でやり合ってる連中はお互いに捨て石だ。
 時間稼ぎにしかならない。
 『原典』を狙っている連中はさらに上から、高見の見物だ。
 『超電磁砲』をアレイスターのところに連れて行く方が先決。
 学園都市やイギリス清教が、オレたちを泳がせてくれるのももう限界だろう。
 すでにこちらが禁書目録をおさめていることもバレてるだろうしな」


 私が事件の中心だというのは、単にインデックスと接触しただけのことだと思っていた。
 だが、話し振りからしてそうではないらしい。私も、あの子と同じく何かの交渉材料にする気か?


「アンタがあの子を学園都市に引き渡したの」


 誰も何も言わなかった。
 車を通してすれ違う学園都市の町並みは、いつもより霞んで見えた。
戦火は、蜃気楼みたいに残酷で、幻想的だった。
 掴もうとすればすり抜けていく、霧のスクリーンに映し出された美しい嘘だった。


「しかし、綺麗な星空だな。朝からずっと動いてるんだろ。
 寝ててもいいんだぜ」

「馬鹿にしないで」

「別に馬鹿にしてない。アンタは勇敢に闘った。
 お嬢様が少し、街の裏側を知って大人になった。
 それでいいじゃないか」


 車は、落ち着いた運転で、戦闘区域を突破していく。
 銃弾の一つや二つ飛んできてもおかしくないと思うのだが、何かこれにも仕掛けが貼ってあるようだ。
 霊装、とステイルたちが呼んでいた仕掛けだろう。もう驚きはしない。


「オレは妹を人質に取られてる。
 だから正義とか大義とかいう言葉の前に、妹がくる。
 そのためだったら何でもするぜ。
 アンタが禁書目録に対して考えてるのと、まあ一緒だ。
 そういう場所で、アンタの正直すぎるその性格が仇になることもあるだろう。
 力なき正義は悪だと言ったやつがいたが、オレはそうは思わない」

「何それ、言い訳?」

「こんな状況だから、伝えられることは限られてくるんだ。
 断片からヒントでももぎ取って、自分で考えろよ、中学生」

 

今日はここまで。


 このとき私はさきほどの出来事が嘘みたいに冷静になっていた。
非日常的な風景に次第に慣れてきていて、自分がやっているのは何かとてつもなく自然な行為かに思えた。


「オレの見立てより、ずっと濁った瞳をしてるな。そんなに世の中退屈か」


 さらにそんな台詞が飛んできて、脳回路をうまくクールダウンさせることができたのだ。


「元々こういう中学生なの。知能指数が高いと、余計なこと考えるから」

「そうか? 本来的にはもっと、快活な女だろ。世界は希望に満ちているなんて言わないが、ヤケにニヒルを気取ってる。
 優等生なのに、なぜだ?」


 ずいぶんヅケヅケと人の私的な部分に関わってくるやつだ。さっきから、私が出会う男はこういう系統の人間ばかり。
人格形成において、早い段階でこの街の薄暗い部分を知った弊害。現実に足がついた正論だから、余計にたちが悪い。


「オレたちは元々こういうやり方でしか生きていけなかった。ステイルだってそうさ。イギリス清教の黒い部分について
 なら、それだけで凄惨なストーリーが書ける」

「別に私が濁ってるならそれでもいい」 


 灰色だった街は、確かに色づいた。それは絵画なんかよりずっと写実に基づいていて、確かにある種の凄味を宿した、
まぎれも無い現実だった。


「でも、こんな街を見たくて走ってるわけじゃない」

「アンタ、このままやってたら自分がどうなるかわかってるのか。闇に飲まれてイカれちまった奴は何人は知ってる。
 それでも走って、仮に禁書目録の笑顔を手に入れたとして、アンタの手が血で汚れてたらそれでもいいのか。
 そんな手じゃ純粋性の象徴は抱きしめられないぜ」 


 痛いところを突かれて黙ってしまった。確かに、あの子は望んでいないだろう。会ったのはほんの数時間だったけど、
優しい子だった。それくらいはわかる。
 黒子や初春さんは今ごろ何をしてるのだろうか。ジャッジメントはさすがに前線には出ていないはずだ。
もっというなら、あの武装した兵士たちの組織図はどうなっているんだろう。
国連軍じゃあるまいし、自衛隊とも違った。さらにいうと超能力者でもなさそうだった。
 食蜂については特に心配していない。あいつならなんとかすり抜けるだろう。




「着いた」


 視線で降りろと合図される。窓のないビル。中に入るのは初めてだ。車から降りると、制服を着た女が立っていた。
見た目は高校生か、中学三年とかそれくらい。瞳は薄暗くて伺えなかった。


「連れてきた。これで文句はないだろう」

「超電磁砲。会うのは初めてね。自己紹介したいところだけど、あいにく時間がないの」


 私は睨んですぐに視線をそらした。多分こいつが案内人か何かだろう。


「オレと超電磁砲だけ送ってくれ。送ったらすぐに街を離れろ。魔術師たちに聞かれても、無視しておけ。
 お前の能力なら学園都市外に出るのも難しくないだろ」

「貴方たちはどうするの」

「運がよけりゃ戻ってくる。ま、バクチみたいなもんだ」


 見渡すとステイルの姿がなかった。挨拶もなし。別に裏切られたとは思わなかった。
私は土御門元春を上目で睨んで、言った。


「さっさと連れて行って。ろくなことは待ってないんでしょ」


 沈黙が肯定を示していた。

____________



 学園都市の中枢が、この窓のないビルであることは誰もが知っていた。
でもそれは、ある種の都市伝説のように、そうだと言われているけど誰も確かめたことはないし、
きっと本当のことを知っている人は噂には近寄らないように設計されていた。
 こうして考えるとどうやったって異常なことだと思うが、事実私はこのときまで、
この物々しい建物に対して特段の感情を備えていなかった。
 日本に台風が、あるいは地震が、そして火山の噴火が当たり前にあるように、
異常はやがて平常になって、私たちをゆっくりと麻酔にかけるように。
 私が通されたのは開けた吹き抜けのような場所だった。


「御坂美琴。序列第三位。電子の海を航海する羊」
 

 聖書の一説みたいな、芝居がかった台詞が届いた。
その人物が学園長アレイスターだということはすぐにわかった。
その印象は儚くて、大声を出したら消えてしまいそうだった。
 お伽噺に出てくる妖精みたいだと思った。


「会話をしよう。君にはその権利がある」

「何でも答えてくれるの? まず聞きたいんだけど、その格好とその状態はギャグなの? 寒いんだけど」


 土御門元春が隣にいて、鼻で笑うのがわかった。


「君はいつもそうだな。啖呵を切るにしても、交渉の一部分として演じている場合と、
 自分自身を環境に定着させようと必死になっている場合がある。今回は後者だ」

「そう言われてもね。もううんざりよ。どうせろくな街じゃないんだろうなって思ってたら、本当にろくでもなかった」


 今度はサンタクロースが鼻で笑って遠くへ飛んでいく風景を思い描いた。 


「私がここに来るまでで、拘束したのは最初だけ。逃げないと思ったの。それとも、ナメてるの?」
「君の科学者としての研究欲のほうが優先すると思ったからだ」


 否定しきれない。私は確かに知りたがっていた。世界の秘密とか、科学と魔術の関係とか。
聞きたいことは山ほどあって、それを聞いた後どうなるかはそのとき考えようと思っていた。
 私はインデックスを助けたい。たしかなことだけれど、同時にそういう、
不思議なものを解体することだって同じくらい興味があった。




「かつて二つの大きな意志があった。私はそういう時代を生きていた」


 学園長アレイスターはすべてを見透かすような瞳をしていた。
恐ろしいくらいの説得力を誇っていて、私は疑問を持つことさえ許されなかった。


「それは批判と創造、保守と革新、疑いと信仰、学問と芸術、より哲学的な言い回しが許容されるのであれば、死と生」

「抽象的すぎてわからないわ」

「前者は常に、『時代的に』正しいのだが、何の役に立つかはわからない。
 後者は救いをもたらすが、多くの場合愚かな間違いだ。
 前者を科学、後者を魔術と人は呼んだ。私はかつて後者の立場で、この世界を解体していた」


 魔術師? 学園長が魔術師? 意外だった。もっと根底からすれ違っている関係だと思っていた。


「偉大なる正義と偉大なる嘘。二つの意志が共存する世界は、それ自体で確かにバランスを保っていた。
 詩人が読んだ歌を解体するのは無粋なことだと信じていた」

「だから、科学者になったの」

「私は魔術師の名を捨てた覚えはない。そうだな、安易な二元論が嫌になっただけだ。
 もっと世界は統一的に解釈するべきだと思い至った」 


 言葉だけが先行していて頭で理解するのが難しかった。それもそうだ。
私はこんな場所にいきなり連れてこられて、この男がいうところの偉大なる正義と偉大なる嘘の真理を示されている。
 気が変にならないほうがおかしい。


「数学について、感性と論理を分別する論文は数えきれないほどあるが、
 こと魔術と科学においてはこの関係がちょうど対称関係にある。
 すなわち、論理をトリガーにして感性にアクセスするのが魔術。
 感性をトリガーにして論理にアクセスするのが科学だ。
 芸術家と科学者の関係に似ている。科学者が魔術師になれないのは、
 理性を持ってしまった芸術家が、本来的に芸術家には戻れないことと同じだ。
 これは脳に多大な負荷をかける」


 ステイルが言っていた、『最悪の場合命を落とす』ってことはそういうことか。
だから私に魔術は解体できないと、最初からわかっていたのか。


「現在のイギリス清教のトップ、ローラ=スチュアートが当時の急進派だった。
 彼女の教義は芸術性と創造に満ちている。私が科学と呼ぶものは、
 世界に秩序をもたらすことと信じてやまなかった。ピカソとアインシュタインといえばわかりやすいか。
 やがて私たちは袖を分かち、身を隠し、独自に世界の解体を行うことにした」

「世界の解体?」

「世界は虹色に包まれている」




 虹色。虹の解体。ニュートンが導きだした公式。超常現象を科学によって分析することの比喩。 


「科学とは、そしてまた魔術とは。
 虹の解体の一様式だ。
 具体的には次元断層にアクセスして高次のエネルギーを抽出する。
 私の理論では魔術もまた同じことをやっている、プロセスが違うだけ」


 私はやはりホテルでの会話を思い出していた。
ステイルが言った、『魔術』の理論は、本質的にやっていることがいわゆる自然科学と同じだという指摘。


「人間の脳は表面的な部分では論理的に作動するように設計されているが、あくまでそれは大脳の外側だけ。
 垣根帝督や一方通行が使っているような能力や、君の超能力も、同じエネルギーについてのアプローチ、
 方法論が違うだけで、本質的には同じことをやっている。
 私の仮説では魔術と科学は等価だ。『UNWEAVENG仮説』。
 あとはそれを受け入れる器があるかないか。
 すべての超常現象は、神秘に満ちた感性と理論の連動性によって支えられている」


 私は思考を整理した。これは垣根帝督が示した理論を受け継いでいる。
アイツの仮説は、たまたまだったとしても正しかったってことか。


「私の目的について、当初は第一位がメインプランだった。第一位はどちらにでもなる、ニュートラルな存在だった。
 多くは彼の脳の構造に依拠している。彼に関しては直感のインスピレーションが、すべからく論理的整合性を瞬時に内包する。
 理屈は後付けでいいわけだ。サヴァン症候群に類似している。
 なぜ思いついたのかはわからないが、ただちに正しい彼の処理能力は、
 メインプランにしておくに都合がよかった。虹を解体するためのプリズムだ」

「プリズム?」

「虹を解析する立体。私は二つの大きな意志を統合するため。科学的で芸術的な、批判的で創造的な何か。
 進化と秩序をもたらす何かを産むためのきっかけ。世界に秩序をもたらすもの。
 




    私はその存在にsystemと名付けた」










「レベル6」

「その通りだ」


 レベル6の通称。


「私はこの二つの意志を、systemと名付けたこの大いなる体系によって統合しようとしていた。
 過去形なのは、君のおかげでようやくそれができそうだからだ。
 プランは修正されたが、これは効率化された、つまり短縮されたという表現のほうが正しいな。
 君の思考パターンは、極めて科学的なもので魔術を受け入れるには科学を信仰しすぎていた。
 だが、もう一つのプリズムと接触することによって、光の反射がねじ曲がった。

         


       それが禁書目録。君たちの出会い」




 嫌な予感がした。こういうときの勘ほどあたるのだ。


「私が」

「そうだ。君はこの街で、誰よりも魔術に『理論的に』触れた。
 急激な押し付けがましいドグマぬきに、ゆっくりと確実に、その種を育てたのだ。アイデアは気付かないうちに脳を浸食する。



 

      今や君がsystemの器になりえる唯一の存在。だからここにいる」


  

 学園都市の頂点を支える7人の能力者と、その先を行く絶対能力者。
完全に不意をつかれた放心する。
 だから私をここに呼んだ? 理論体系を補完するために? インデックスと出会って、ここに至るまでが、
この男のプランに組み込まれていた?


「具体的にはどうなるの。ろくなことにならないなら、結末くらい教えて」

「それは知らない。
 科学者は、生み出すまでが仕事だろ。
 あとをどうするかは、政治家に任せ」


 瞬間、壁が吹っ飛んで、私の目にかろうじて飛び込んできたのは閃光だった。




「意外とモロいんだな。アンダーラインなんて解析しなくてよかったんじゃねえの」

「うるせえ。テメェが言ったことが本当か確かめてる最中だ。
 ……まあ、助けにきたぜ、ってのはちょっと都合がよすぎるな。
 つーわけでアレイスター、一端ここで五分の話といこうじゃねえか」

 
 垣根帝督と雷神トールが突っ立って、私を見下ろしていた。  
あれ? こいつら、自滅してやり合ってたんじゃないのか。



「タイミングでも測ってたのか? 芝居の演出家志望だったか」

「芝居は好きだが、あいにくと脚本はこっちで書いてる最中だ。
 学園都市の人質は『禁書目録』。
 で、こっち側の人質は『LEVEL6<system>』のタマゴになっちまったみこっちゃん。
 核弾頭は向け合ってるから戦争にならねえんだよ。この街にはちょっとばかし過ぎた武器だな」


 不意に体が浮かんで、私は雷神と名乗る男に腰からポーチみたいに下げられた。ムカつく。 
 

「ち、ちょっと」
「交渉材料がこれでようやく対等だ。あ、それと土御門元春の妹もこっちで抑えたからよろしく。
 しかし便利な能力者が多くて助かるな。誘導にはもってこいだね」


 食蜂のことを指しているのがすぐにわかった。
どうしてこの二人がここにいるのか、その経緯はわからなくても、なんとなくやってきたことは理解できる。


「それで私を挑発してるつもりなのか」

「全然。アンタが本気出せるならとっくに手を回してるし、それは別の機会にするだろ?
 ま、ここで俺とアンタで本気でやり合ってもいいが、
 お互い無事じゃ済まねえし、打算なしに怒るにはアンタは歳食い過ぎてるぜ」


 アレイスターはもう何も言わずに微笑んでいた。トールが嬉しそうに私を見た。
初めて会ったときよりもいきいきとした瞳だった。


「だから言っただろ、ろくなことにならねえってな。
 脇役はそこにいたほうがよかったっての。
 残念なことに、今度はアンタもお姫様だ」

「……あとで説明してよ」

「そりゃもちろん。アンタは仲間という名の人質だからな。
 あとは幻想殺しをどうするかだな」


 トールが右手で何かを描くと、粉塵があたりに舞った。
私は穴の開いた壁から除く、星空の瞬きを見ながら、放心状態で宙を舞っていた。


今日はここまで。見てくれてる人ありがとー!

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