僕「やはり爽やかな目覚めは朝日を浴びる事に限る」 (46)

この二階の部屋は日差しが良く入る為、僕は毎朝早くに目が覚める。
産まれてからずっとこの家に住んでる為に身体は馴れている。
寧ろ日差しで目が覚まされなければ一日中身体の調子が悪いとさえ感じる。
この前の修学旅行なんて最悪だった。
一切日差しが入って来ないし、目覚ましのアラームが彼方此方から鳴ってうるさかった。
要するに僕は日差しありきで生きている様だ。


しかし、それも数か月前までの僕の話。

今は下着が僕を起こしてくれる。

あっという間だった。
隣の大きな駐車場が潰れて、マンションが建つまでは。それも大型マンション。周りの住民は反対していたが、それを何かしらの権力で押し切って作り上げてしまい、もう住民は諦めて出来上がったマンションを見上げてはため息をこぼしていた。

僕はそれ以上に最悪な気分だった。
待てど暮らせど日差しが入ってこない。
一日中だ、一日中。
僕は高校を早々と卒業して早く一人暮らしが出来る様になりたいと切に願った。
それまでには後一年半はかかる。
言わばあとそれだけは目覚の日差しが浴びれないもいうことだ。
深い溜め息がこぼれた。

そんな生活が何日か過ぎて日曜日。
騒がしいトラックの音などに目が覚めてしまった。
僕の部屋は二箇所に窓がある。
一つはベッド脇の所。ここに日差しが入ってきていたのだ。
そして、もう一つは小さいけど道路側にある。丁度顔だけが出せる小さな窓だ。
そこから外を覗き込んだ。
どうやら、マンションに引っ越してくる人がいるようだ。引っ越し業者のトラックか止まっている。

また厄介者が来たな、と僕は顔を引っ込めて再びベッドに寝転んだ。

隣の部屋がガヤガヤと言い出して二度寝も出来ない。しかし、ふと思った。 
僕の隣の部屋は物置部屋になっているから誰もいないはず。
いや、待てよ。ガヤガヤなってるのは其方ではない。
ガバッと勢いよく身体を起こして恐る恐る窓にかかってあるモスグリーンのカーテンを開けた。

「あっ、それはこっちにお願いします」

僕は目を疑った。
何故この部屋に越してきたんだ。あの女め。

隣のマンションが建って、日差しが入って来ないことに嫌気をさしていた。
それに加えて、僕の部屋の窓と隣のマンションの部屋が密着し過ぎている。
簡単に言えば僕の部屋の窓から、隣のマンションのベランダに入ることは、家の一階のトイレに行くよりも容易いと言う事だ。


これ以上厄介はごめんだと思い、取り敢えず下見に来る方々に嫌な思いをさせてお引き取りしてもらおうと試行錯誤を繰り返していた。
時には幽霊に扮してベランダから顔をだしたり、イニシャルGを大量にばらまいたりして。
その中の一人に、この女がいた。

見た目は黒髪ロングで白い肌が際だつ。
下見の時は赤いニットに白いスカート。今日白いTシャツとデニムと言う軽装だった。

あの時も散々喚いていた癖に何故この部屋にしたんだ。
僕はこみ上げてくる感情に名前を付けた。
怒り、と。

その日一日がかりで引っ越し作業は済んだ様だ。
僕は時折カーテンの隙間から隣を観ていた。
幸いこの女はまだベランダにカーテンをセットしていない為、部屋の中の行動は丸わかりだった。


積み上がった段ボールの一つ一つを解放して、あるべき場所に置いていく。
丁寧に丁寧に片づけをしている。時にサボることもしているが、事は全て順調に進んでいる。

夜中にさしかかる頃ある程度片付いたようだ。
まだ目にわかるほど段ボールは残っているものの急いてやるべきことではないようである。

僕はハッとした。
何故一日中監視しているんだ、と。
これは俗に言う変態ではないのか。
しかし、この日差しが無くなった今怒りを何処にぶつけるべきか悩んだ挙げ句の行動だ。
何も変態的な意味合いでない。これは言わば復讐だ。
僕はそう決めて見続ける。

数日後気付けばベランダには洗濯機がセットされていた。
部屋の中でないのか、なんということだ。
騒音に悩まされるでないか。
僕が学校に行ってる間に済ませてくれていたら、それはいいが夜中にでもされたら腹立たしい。
よし、そうなればガツンと言ってやる。
僕は意気揚々と夜中に鳴る事を待った。
しかし、鳴ったのは朝だった。


今まで日差しで目が覚めていた時刻とほぼ同じ時刻に洗濯機が鳴り出す。
僕は苛立ちが倍に膨れ上がった。
日差しもなければ騒音しかない。
もう夜中でなかろうが、ここは文句を言ってやる。
僕はガツンと言ってやるべく、モスグリーンのカーテンを開けて見た。

すると、そこにはピンクのレースが付いたパンティを干す女がいた。
笑顔で女は「おはようございます」と言った。
僕は思わず「おはようございます」と返していた。

「すいません、朝早くから。迷惑ですよね」
女は上目遣いで言う。手には違う色の下着を持っていた。
「い、いえ、すいません。驚かせてしまって」
僕の勢いはその下着の勢力により抑えられていた。

「仕事の関係上この時間しか洗濯機回せないんです、すいません」
頭を下げる女。首もとが緩めのTシャツを着ている為、その隙間から女の谷間はおろか乳房まで見えている。
僕はこみ上げてくる感情に名前を付けた。
エロい、と。


その一連の流れの中で僕は渋々朝早くの洗濯を許した。
毎朝決まった時間に洗濯はされ、毎朝決まった場所にそれらは干された。
勿論女が身につけている下着類も一緒にだ。

そうして冒頭に話したとおり、日差しのかわりに僕は下着に起こされている。

女は僕より5歳上の22歳だそうだ。
彼氏は居なくて、仕事は事務をしているそうだ。
そして相変わらずカーテンを買っていない。
僕はカーテンの隙間から彼女の生態を覗きたい放題だった。

スレンダーな身体に、遠慮がちについた胸。
うっすらと茂った下の毛すらも手に取るほど目に見える。
僕は夜な夜な持て余した性欲を、この女で発散していた。

しかし、それは長続きしなくなった。
刺激が足りなくなったのだ。

そこで思いついたのが、干されてる下着だ。
朝早くに干して、取り込むのは何と明くる日の朝。言わば一日中干しているわけである。
僕はその周期を把握した上で、実行に移したのだ。
簡単だ、実行と言っても。

手を伸ばせば下着は意図もたやすく手に入るのだから。
今日は白いレースのパンティ。
匂いを嗅ぐ。
思わずむせ込んでしまった。
なんともアンモニア臭が強かったのだ。
しかし、これも全てあの女のだと思うと何とも言えがたい心境になった

ことを済ませて、洗濯物は元に戻した。
これは素晴らしい。
何という復讐だ、これ以上に僕の復讐に打って付けのやり方はない。
僕はどうやら日差しを浴びなくなった為感覚が麻痺してしまったようだ。

白いレースのパンティ、ピンク、黒、パープル、ときには柄物も。
僕は日に日に変わるその下着に、ありのままの自分を打ち出していた。

そんな快適な性活が続くにつれて警戒心は緩むに緩んでしまっていた。

その夜僕は、もう一段階上の行動を移そうと思ったのだ。
ベランダで、あの女の間近で抜いてやろうと思ったのだ。

女が帰宅したことを確認し、その時を待ち続ける。
女が風呂に行く時を狙うのだ。
カーテンが無い分今はまだ女が部屋に居ないときにやる。
そして、その時が来た。
女は下着を手にして部屋を後にした。


今だと、僕は手早くカーテンを開けて窓から身を乗り出した。
簡単に不法侵入に成功し、目の前の下着に手をする。相変わらずアンモニア臭がキツい。
ああ、この香りを嗅ぐと無意識に下半身が疼く。早くしよう。ん、待て。何故か今日は下着が二つもある。
そうなれば一つは息子に被せて、もう一つは顔に装着しよう。
そう決まれば後は行動あるのみである。
ああ、そうだ。ああ、そうだ。
これだ。間違いない。

無我夢中でしごき、無我夢中で嗅いだ。
字の如しの無我夢中だった。
だから気付かなかった。

女が此方を見ている事を。

「あら、お一人でお盛んだこと」

上下真っ黒の下着姿で僕を見下ろす。
僕は情けない格好で何も言えず口をパクパクとさせるだけである。

「ふふーん、最近精子臭いと思ってたんだ」

「君のだったんだね」

「ほら、手が休んでるよ」

「シコシコしなきゃじゃないの?」

女は淡々と語る。
もう僕は終わりだと悟っていた。
何も言い逃れ出来ない。

「あっ、私がスッキリさせてあげようか?」

「こんな臭いパンティで毎日毎日抜いてけれてたもんね」 

「感謝の意を込めてスッキリさせてア・ゲ・ル」

僕の心は淡い期待が嫌悪感を遮り光を放ちだした。
そんなAVみたいな、そんな同人誌みたいな展開があるなんて。

女は僕をゆっくりと手招き部屋に入れた。
ガサガサとリビングにはビニールシートが敷いていた。
ああ、引っ越して間もないからな。なんて考えていた。

その場に座るよう指示され、僕は言われるがままに。
そして、女は僕のそそり立つソレに近付き手を翳す。
ああ、早く。ああ、早く。

僕は無意識に口から言葉を出していた。

「早く、してください……」

女は不適に笑い、そして優しい手付きだった様子から一変して強くそれを握る。

「さあさあ、スッキリさせてあげるわね」

僕は股間の握られる激しい痛みに悶絶しながらも、やはり期待に胸を高ませていた。

甘かった。

「一瞬でスッキリさせてあげる」

そう言って女の左手に光る何かを僕は目にした。
何か、こう鋭利な輝きを。

肉が切れる音を初めて聞いた。
いや、微かにだ。
僕の叫び声でかき消されていたから。

女の手には先ほどまで僕の股間にあったぶつがある。
色も真っ赤にしている。
反対の手には、それも真っ赤に染まった刃物がある。
ポタポタと滴は落ちている。

僕は口から泡を吹き、床を転げ回る。

「ほーら、スッキリしたでしょ」

女は高らかに笑い。
僕はのたうち回る。
頭には間抜けにも女の下着をつけて。

意識は次第になくなる。

カチッ、ジーッ。

そうして定期的になる映写機の前に手足を縛れて椅子に座らされていた。

股間は赤く滲むも、痛みは不思議となくなっていた。

映写機には女性用の下着が淡々と映し出されていた。

「それほど好きなら一生見てたらいいわ」

女の声が聞こえた。

朝日が眩しい。

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