【艦これ】「提督、榛名は……榛名は大丈夫ですよ」 (104)

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更新速度は週一程度を予定

地の文あり
シリアスあり
キャラ崩壊している可能性あり
轟沈ネタを含みます

至らぬ点ばかりだと思いますが、完結はさせたいと思います。何卒宜しくお願いします

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「くっ、まさか待ち伏せされてたとはな」

日が沈んでしまえば闇に支配される海原。その海面を仰々しい装備に身を包んだ少女達が滑走する。

「どうりで道中の敵があっけなかった訳ね。連戦連勝で調子づいた私達を懐まで誘き寄せ、大軍で囲って逃げ道を塞ぎつつ叩く。なんともまあ、古典的だわ」

「その古典的に、私達はまんまとしてやられた訳だが」

「うるさいわよ、長門! 黙って走りなさい。追い付かれてしまうわ!」

海原を全速力で走る少女達の数人は衣服が損傷し、一人に至ってはその自慢の飛行甲板が破壊されている。

「比叡さん、もう私を置いていってください。せめて、囮にくらいは……!」

「幾ら赤城さんのお願いでも、それは聞けません! 私達は誰一人欠ける事なく帰るんですよ!」

「ですが、このままではいずれ……!」

比叡と言う少女の肩を借りている赤城と呼ばれた少女はそこで言葉を飲み込む。
敵の包囲を無理矢理抜けたため、ここに居る者で無傷の者は居らず、且つ全員が疲弊している。
そのうえ、大破している赤城や、そもそもの速力が低速な長門が居るこの艦隊、敵に追い付かれるのは時間の問題である事は、ここに居る皆が分かっていた。

「そうだな、追い付かれる。追い付かれてしまえば、戦闘になるのは避けられない」

「問題が、戦闘になったら私達は孤立無援の状態で、次々と到着するであろう敵主力と戦わなければいけないって事なのよ」

先ほどツインテールの少女に長門と呼ばれた少女が、赤城が飲み込んだ言葉を引き継ぐ。そして、更にその言葉をツインテールの少女が繋いだ。
状況は絶望的。しかし、今の彼女達に出来るのは懸命に走る事くらいだけである。たとえ傷ついても全員で帰る。どんなに無様でも、生にしがみつく事を諦めるな。そんな提督の教えを信じて。

「っ……! 敵の反応よ!」

索敵能力に秀でたツインテールの少女の表情に緊張が走る。

「もう追い付かれちゃったかー。思ってたより早くてキツいわー、ホント」

「いいえ、北上。反応は後ろからじゃないわ」

夜間の命をかけた逃亡のプレッシャーからか、額に浮かぶ汗を服の袖で拭いつつも北上と呼ばれた少女は、あえて普段通りの口調で弱音を吐く。その言葉に先頭を走っていた少女が頭を振って立ち止まる。

「五十鈴さん、それはもしかして……」

「ええ、榛名。どうやら伏兵みたいね。前方に熱源反応よ。そして、厄介な事に、この反応は潜水艦だと思うわ」

先頭を走る五十鈴と呼ばれた少女が立ち止まったために、全員の足が止まる。その五十鈴に駆け寄る比叡と同じ衣装に身を包んだ少女。その榛名と呼ばれた少女にやれやれと軽く肩を竦めながら五十鈴は答えた。

「よりにもよって潜水艦か。しかも今は夜と来たもんだ」

「ええ、対潜装備は誰もなし。そもそも、潜水艦に攻撃できるのが私と北上だけ」

「でも、やるしかないですよ。ここで立ち止まっていても、いずれ追い付かれて全滅です。それなら、榛名は前だけを向きます!」

悲壮な雰囲気を吹き飛ばすように、榛名は声を張り上げる。それに感化されたのか、全員の顔つきが変わった。

「そうだねー。私もまだまだやりたい事があるし、ここで沈んでなんかいられないよ!」

「榛名が気合いを入れてるのに、姉である私が腑抜ける訳にはいかないですね……!」

「……そうね。じゃ、行くわよ、皆。私と北上は潜水艦の無力化を優先。トドメを刺す必要はないわ。戦艦の皆は赤城の護衛をお願い。私達は誰も沈まないんだから!」

五十鈴の言葉と同時に再び駆け出した六人は、潜水艦が待ち受ける海峡へ突入した。

ー鎮守府sideー

「夕張、回線はまだ繋がらないのか!」

「申し訳ありません、提督。敵の妨害が強すぎて上手く……」

「くっ……。いや、すまない。夕張、落ち着いて作業を続けてくれ」

「はい!」

提督と呼ばれた海軍の軍服に身を包んだ青年が表情を歪ませる。出撃させた第一艦隊と突如連絡が取れなくなったのだが、その回線の回復が上手くいかず、焦りだけが募っていく。

「気持ちはわかるけど落ち着いて、ご主人。この状況で貴方が焦ると、指揮に影響が出るし、私達も冷静さを失ってしまう」

「漣……」

部屋の扉が開き、入室してきたのは漣と呼ばれた少女。彼女は提督の様子を一瞥した後、小さく息を吐きつつ言葉を投げ掛ける。

「ほら、根を詰めすぎよ、ご主人。大方の命令は出したんだから、ちょっと頭を冷やしてきなさいな」

「だが……。……ああ、そうだな。少し、落ち着くために夜風に当たってくるよ」

「それがいいよ、ご主人。細やかな作業は私達がやっておくから」

「すまない。なにかあったら呼んでくれ」

「別に良いって。それに休むのも仕事の内なんでしょ。後の事は気にせず行った行った」

半ば漣に追い出されるように、提督が部屋を出ていく。それを見送った後で、部屋の扉を閉め、その扉に背中を預けながら盛大に溜め息を吐く漣。そして、顔を上げると、こちらを見ている夕張と視線がぶつかった。

「どうかしたんですか、夕張さん?」

「え? あ……いやー、よくあの状態の提督を説き伏せたなあ、なんて」

「ああ、そういうことですか。まあ、付き合いが長いから、ご主人の事はだいたい分かるんですよ」

苦笑を浮かべながら作業を再開する夕張に、漣はにべもなく答える。

「さすが初期艦。提督の事ならお見通しなのね」

「……それでも、彼の気持ちの在処だけは、見抜けなかったんですけどね」

「え?」

「いえ、ただの独り言ですよ。さて、夕張さんのお手伝いとして明石さんをお呼びしてます。頑張ってくださいね」

誰に聞かせるまでもなく呟いた独り言。訝しげな夕張に追及される前にと漣は事を進める。同時にノックされる部屋の扉。それを開けて明石を招き入れつつ、漣はここに居ない彼を想って一人ごちる。

「 大丈夫、今まで貴方の指揮に間違いはなかった。今回もきっと上手くいきますよ」

ー第一艦隊sideー

「三時の方向、複数の熱源反応! 北上、迎撃を!」

「くぅー、さっきからキツい指示ばっかしてくる……ねっ、と!」

敵潜水艦から放たれる魚雷と北上から放たれた魚雷がぶつかり合い盛大な爆発を起こす。その余波で生まれた水飛沫と荒波が少女達の身体を濡らすが、それを彼女達が気に止める余裕はない。

「幾ら長門型の装甲とはいえ至近距離の雷撃は中々に堪えるな……」

「すみません、長門さん。私のせいで……」

「ん? いやいや、仲間を守るのは当然の事だよ。だから、謝るよりも違う言葉のが嬉しいかな」

「ですが……。いえ、ありがとうございます、長門さん」

五十鈴と北上が奮戦してるとは言え、魚雷は全て迎撃出来ている訳ではない。その撃ち漏らしーー的確に赤城を狙うソレーーを長門は一人で全て肩代わりしている。
故にまだ余裕を見せてはいるものの、長門の衣装の損傷は目に見えて大きい物となっていた。

「すみません、長門さん。私まで庇ってもらって」

「構わんさ、比叡。庇う相手が一人増えたところで、このビッグセブンになんら問題はない。だから、お前は赤城に気を向けてやってくれ」

「私にも潜水艦への攻撃が……せめて、魚雷の迎撃ができたらいいのに……!」

長門、比叡、赤城達の前を先導という目的で疾走する榛名だが、五十鈴や北上のように潜水艦と戦えない事がとてももどかしく歯痒かった。

「駄目よ、榛名。ここは私達の戦場で、貴女はその三人を導く役目があるんだから」

「五十鈴っちの言う通りだねー。この海域は貴女達さえ抜けてしまえば、あとはどうにでもなるんだから」

榛名の心情は五十鈴と北上もよく理解できる。だからこそ、次々と放たれる敵の魚雷を片端から迎撃しながら、彼女達は榛名に言い放つ。

「はい……はい! すみません、弱気になってました。榛名はもう大丈夫です!」

二人の言葉の端々から感じ取れる叱咤。それに鼓舞された榛名は自分の両頬を叩いて気合いを入れ直す。その効果か、彼女の纏う雰囲気が変わった。

「●●■■▲ーー!」

その榛名の雰囲気に気圧されたか、敵方の潜水艦が一瞬たじろぐ。その瞬間、敵の攻勢は確かに止まった。
疲弊しているとは言え、伊達に何度も戦場に出ていない五十鈴達が、そんな隙を見逃す筈もなく、彼女達はその海域の離脱のため、全速力で駆け出した。

「あの海域を抜けられたか……」

「そうね。けど、パーティはまだ始まったばかりみたいよ」

「もう、五十鈴っちー、そういう冗談やめてよー」

幾ら人間離れをした性能を少女達が持っていたとしても、海域の最深部からの息を休める暇もない全力離脱は彼女達の体力を容赦なく奪っていく。
そして、先の潜水艦との戦いで、五十鈴と北上も損傷し、六人の内で、外傷が見当たらないのは唯一榛名だけとなっていた。

「ここは榛名がやります! 皆さんは私が沈めさせません!」

「長門さん、赤城さんをお願いします。ここは私も、気合い入れて、行きます!」

「一時の方向に敵艦隊確認。五十鈴には丸見えなんだから!」

前方から感じる更なる伏兵に無事に帰還できるのだろうかという不安が鎌首をもたげる。それを追い払うために、彼女達は声を張り上げる。
心だけは何があっても負けてはいけないと分かっているから。

「主砲、砲撃開ーー」

「ーー榛名、待った!」

敵の艦隊が射程に入ったために砲撃の準備をしていた榛名を五十鈴が止める。やる気満々であったがために、五十鈴のその不可解な介入に訝しげな視線が向けられる。
そんな彼女の視線を軽く受け流しつつ、五十鈴は笑顔を浮かべる。

「私達はなんとか勝てたみたいよ」

五十鈴以外の五人が、その表情に疑問符を浮かべると同時にソレは起こった。

「第一支援部隊! 全砲門ファイアー!」

敵の伏兵が背後から砲撃されてなすすべもなく沈んでいく。

「あれは、味方の援軍……!?」

「嘘……。だって、まだここは敵地のど真ん中なのに……幾らなんでも早すぎます!」

目の前で掃討されていく敵。それで漸く状況を理解した五人ではあるが、目の前の光景を中々飲み込めない。比叡と赤城が信じられないと言わんばかりに目を見開きながら言う。

「ふっふー、それはこの川内さんが教えてしんぜよう」

いつのまに近づいたのか、六人の側に探照灯を持った川内がやってきていた。

「お姉ちゃん、手短にね」

「那珂ちゃんが説明しようかー?」

更にその川内の後ろから、川内の姉妹である神通と那珂も姿を現す。

「いやいや、ここはこの私に任せて。ええっとですねー、この行軍には深い事情があるのですよ」

「提督の事だから、私達の出撃の後で、心配になって支援艦隊を出したとかそんなところでしょ」

「…………」

「あー、言われちゃったねー、お姉ちゃん。ドンマイだよ!」

勿体ぶる川内。それを両断する五十鈴。先に言われ二の句も告げれず、意味もなく口だけを動かすもやがて項垂れる川内。それを笑顔で慰める那珂とその光景に微笑む神通。

「ヘーイ、二人とも無事でよかったネー!」

「金剛お姉さま、援軍ありがとうございます!」

「お姉さま、助かりました。正直、結構キツかったです」

「あら、比叡姉様が弱音を。珍しいのでデータに残しておきましょう」

「霧島!? 一体いつからそこに……ってそのデータをこちらに渡しなさい!」

敵を倒し終わったのだろう。旗艦として指示を出していた金剛と霧島も合流する。

「いきなり賑やかになったな」

「そうですね。でも、嫌いじゃないです、こういうの」

「やれやれ……。ここは一応戦場なんだし、続きは帰ってからにして欲しいんだがな。ほら、北上も自分で動いてくれよ」

「やだー、もう動きたくないー。木曾っち、私を運んでー」

長門と赤城が苦笑を浮かべ、北上が木曾にべったりとくっつく。
この瞬間に限り、ここは確かに平和だった。

勿論、そんな平和、長続きする筈もないのだが。

「……っ! 総員、戦闘体勢よ!」

五十鈴の号令に、弛緩していた空気が一気に張りつめる。

「敵の高速艦に追い付かれたわ。今から離脱しても間に合わない」

「ふむ。どうやら、潜水艦相手に時間をかけすぎたみたいだな」

「ノー! せっかく合流できたと言うのに、休む暇もないのネー!」

冷静に状況を分析する五十鈴。それを聞いて長門と金剛がぼやきながらも水平線に視線を向ける。

「夜戦、していいの!?」

「背後から撃たれるくらいなら、ここで迎撃した方がいいとは思うけど……」

「那珂ちゃんは沈まないから、ここで戦っても全然オーケーだよ!」

それに続いて川内型の三姉妹も長門達の横に並び立ちつつ、接敵に備えながらいつでも攻撃ができるように構える。

「向こうは向こうで大丈夫そうか? なら、北上、比叡、榛名、霧島。俺達は赤城を守りながら撤退だ。鎮守府に帰投するぞ」

「すみません、皆さん。この借りは必ずお返しします……」

「もう。謝りすぎですよ、赤城さん。それに貸しだなんて思ってもいませんから、気にしないでください。それじゃ、榛名、霧島、先導宜しくね」

「お任せくださいな、比叡お姉さま。さ、榛名、行きますよ」

「…………」

赤城を庇うために陣形を組む五人。しかし、榛名がそれに加わらない。悲痛な表情で、海原に視線を落としている。

「んー、どうした榛名っちー?」

「……ダメです」

「ダメって、何が?」

「ここで戦うと、幾ら敵の戦艦級が低速と言えども、追い付かれてしまいます! そうなっては、ここに残る皆さんの全滅すら有り得ます。だから、戦ってはいけません!」

「…………」

それでも、誰かが言わねばならない。皆が目を背けている可能性を指摘してやらねばならない。その役目は第一艦隊の旗艦である榛名自身の役目であると、彼女は腹を括る。
そんな榛名の言葉に、一同は黙りこむ。しかし、その沈黙も長くは続かず、長門が意を決したように口を開いた。


「……覚悟の上だ。と言ったら榛名はどうするんだ?」

「え……?」

それは榛名には予想外すぎる答え。先ほどまで、全員で無事に帰ると声を大にしていた長門からの想定外の言葉。

「長門、黙りなさい」

「いや、言わねばコイツは引き下がらないよ。控えめに見えて、頑固な所があるからな」

長門の言葉に反応したのは、榛名だけではない。確かにここに居る全員が長門に視線を向けているが、榛名とそれ以外では視線に籠められた意味が違う。

「それでも、よ。約束したでしょう?」

「しかしだな……。はあ、仕方ない。榛名、今のは忘れてくれ」

そんな視線に充てられた挙げ句、五十鈴から直接止められる。長門は深い溜め息を吐くと、苦笑を浮かべた。

「え? 榛名には、何がなんだか……」

「気にするな。さて、話を戻すが、逃げる事もできず、戦う事も許されない私達は、どうしたらいいんだ?」

話題の渦中に居るはずなのに、明らかにおいてけぼりな榛名。その戸惑いを知ってか知らずか、長門は彼女に問いかける。

「それは……」

「私は低速だからな。私が居るとどうしても行軍が遅くなる。私自身、撤退を半ば諦めているのも事実。ならば、ここで囮になるのも吝かではないのだが」

言葉に困った榛名に長門は畳み掛ける。だがそれは、おそらく一番言ってはいけない言葉だったのだろう。

「そんな勝手、榛名が許しませんよ」

「ふむ。なら、私は何をするのは許されているんだ?」

笑顔を浮かべ、長門の提案を一蹴する。その提案は確かに悪くない。一人の犠牲が必要となる、という点を除けば。
榛名は、ここに居る全員に沈んで欲しくはない。となれば、選択肢はたった一つしか残っていない訳で。

「それは勿論、無事に鎮守府に帰る事ですよ。なので、長門さんはどうかこのまま帰投してください。勿論、皆さんもです。ここは榛名が、敵を引き付ける囮になります」

「ダメよ」

「却下だ」

「許しませんネー」

この反応は分かりきっていた事だった。そして、この三人の説得が一番難しい事も榛名は理解していた。

「五十鈴さん、長門さん、金剛お姉さま。榛名の勝手だとは分かってますが、押し問答している時間もないので、認めていただきます」

「そんなバカな事、認められる訳ないでしょ」

「このままだと皆さんが沈んでしまうかもしれないんですよ!」

「榛名、私達は沈まないデース! だから、何も心配しなくていいのデース!」

このままでは埒があかない。実際、ここでこう話をしている時間はあまりない。かといって無理矢理行こうものなら、この三人は確実に付いてくるだろう。

「いいえ、皆さんにはなんとしても鎮守府に帰ってもらいます」

故に、榛名が我を通すには、ここで論破する以外に方法はなく。彼女は覚悟を決める。

「私以外の第一艦隊の皆さんは、連戦で既にボロボロです。そんな人達を囮に置いても、到底責務を果たせるとは思えません」

「それに、私達は撤退している最中に伏兵から襲撃を受けました。ここから先も、それがないとは言えません」

「そのため、支援艦隊の皆さんには、既に満身創痍の第一艦隊の護衛をお願いしたいのです」

榛名の言う通り、第一艦隊の損傷は激しい。六人のうち、今も戦えるのは榛名と比叡くらいだろう。だが、支援艦隊の方は全員が無傷に近い。

「……なら……それなら! せめて私だけでも、榛名と一緒に残りマース!」

だからこそ、金剛みたいな優しさを持つ少女が名乗りをあげるのは不思議でもなんでもない。しかし、その金剛の言葉に榛名は首を振ると優しく諭す。

「金剛お姉さま、それは出来ない相談です。最近着任したお姉さまでは、私の動きに……ついてこれませんから」

言うべきか否か。ほんの一瞬の躊躇いの後に告げられた言葉に、金剛の表情が固まる。そんな姉の表情を直視する事ができず、榛名は視線を逸らす。

「榛名、貴女言って良い事と悪いことが……!」

「やめなさい、霧島」

そんな榛名に詰め寄る霧島とそれを止める比叡。

「ごめんなさい。でも、これは事実ですから。この中で練度が一番高いのは、この榛名です」

「貴女、何を言ってるのか分かってるの? ここに一人で残るって事は、死ぬって事なのよ!? 練度が一番高い貴女が、その役を買って出る必要なんて……ないのよ……」

「大丈夫ですよ、五十鈴さん。それに練度が一番高いからこそ、です。この中で囮になって、生き残れる可能性が一番高いのは、間違いなく私だと思います」

「それに長門さんと違って、高速艦ですから、私。一人だとこの足を存分に活かす事も出来ます。適当に敵を足止めしたら、この夜の闇に紛れて、早々に離脱するので心配なさらないでください」

次に詰め寄った五十鈴だが、榛名の意思は変わらない。それどころか、金剛を傷つけてしまったという負い目もあって、更に頑なになっている。


「バカね……。本当にバカよ、榛名。貴女抜きで帰還しても、意味なんてないのよ」

「それでも、です。五十鈴さん、第一艦隊の旗艦を……皆さんをお願いしますね」

「嫌よ。任務が終わるまで旗艦は貴女なんだから。旗艦を譲りたいのなら、ちゃんと帰ってきなさい」

「……はい!」

説得はやるだけ無駄。榛名の雰囲気から、それを感じ取った五十鈴は、彼女なりに榛名に気合いを入れる。

「私と違って高速、か。言いたい放題言ってくれる」

「すみません、長門さん」

「いや、いいんだよ、別に。私は榛名の心意気を評価しているしな。だから、これは餞別だ」

五十鈴と交代で近づいてくるのは長門。彼女は彼女でその両手に持っている色々な物品を榛名に押し付ける。

「これは、五十鈴さんの電探。それに川内さんの探照灯も。46㎝三連装砲まで……!」

「逃げる際に邪魔なら捨てていい。五十鈴は貸してあげるだけだから、ちゃんと返しなさいよって言っていたがな」

「何から何まで、ありがとうございます」

律儀に礼を言う榛名にヒラヒラと手を振る長門。その二人の周囲は、遂に接敵したのか、俄然慌ただしくなる。

「重すぎる役目を押し付けるんだ、これでも足りないくらいさ。少ないながらも燃料と弾薬もある。だからさ、榛名」

「はい?」

「ーー死ぬなよ」

「はい! 榛名は大丈夫です!」

榛名が勢いよく返事をしたと同時に、金剛達が放った主砲が、敵との間の海原を盛大に割る。派手にあがった水飛沫を目眩ましにして、榛名達は行動を開始した。

今回はここまで
また書き溜めて、一気に投下します

ボス戦とかで敗北した場合、撤退戦とかあっても良いと思います。そんなノリで書いてます

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