勇者と魔王とミュータント (194)

――魔界、魔王城、地下実験施設。

ごぽごぽごぽ……。

魔王「どうだ?」

側近「魔王様、このようなところまで。経過は順調のようです」

魔王「そうか」

側近「あと数週間後には、無事完成するでしょう。
   成長速度も著しく早いです」

側近「しかし、この培養液の中の生物は、魔族と言っていいのでしょうか……?」

魔王「一応、余の娘であるからな。我が魔力核の一部を埋め込んであるのだ。
   分類としては魔族になるのであろう」

側近「ですが……」

魔王「わかっている。知性種でも本能種でもない。
   いずれにも分類されない、新たな存在だ」

魔王「培養液の中にいるこの幼生体でさえ、
   魔力の波導は並みの魔族をゆうに超えている」

側近「そして膂力、知力もおそらくは……」

魔王「ああ。膂力は本能種を凌駕し、知力も知性種の及ばぬところまで成長する素養があろうな」

魔王「そして、魔力も。余を超えるだろう」

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側近「魔王様をも、ですか」

魔王「素晴らしい素体だよ」

魔王「改めて言う必要もないと思うが、余は魔翌力以外取り柄がないからな。
   こと戦闘に関しては、お前よりも格下だ。膂力も並み程度しかない。
   魔翌力で余に勝るであろう我が娘が誕生したら、我が余も玉座から降りねばならぬな」

側近「何をおっしゃっておられるのですか。魔王様は」

魔王「はっはっは。よい、事実だからな」

魔王「生き物は遺伝子に縛られる。魔族も人間も、その運命からは逃れられない。
   ……この世界には、人間も魔族をも超越した存在が必要なのだ」

側近「私は、はっきり申し上げて恐ろしいです。この生物が」

魔王「恐ろしい、か」

側近「も、申し訳ありません。魔王様の娘様に」

魔王「いや、それが正しい感情だろう。
   余も、どのように成長するか楽しみであると同時に、末恐ろしさを感じるよ」

魔王「だが、それ以上に楽しみだ。このミュータントの完成はな」

側近「……」

ごぽごぽごぽ……。

…………
……

――人間界、中央国、玉座の間。

勇者「いよいよ動かれるのですか、魔王討伐へ」

王「ああ。諸国の元首たちとの意見もようやくまとまったよ」

王「最後まで渋っていた西国の王も、直近の事情を鑑みた結果、首を縦に振ったさ」

勇者「あの一つの町が全滅したという」

王「それもたった一体の魔族によってらしい。
  生き残った者の証言によると、だ」

勇者「たった一体の…」

王「ここより遥か東方に魔界と人間界をつなぐ門があると聞く。
  実際魔族は東方より襲来するため、西国へ行くには我が国を通過せねばならぬ」

王「魔族の群れならば、西国と隣接している我が国でせき止められるのだがな。
  単独の仕業となると、警戒網も掻い潜られてしまう。
  現在も単独の魔族による被害は西国を除いて各国内で散発しているからな」

勇者「行動から考えると知性種でしょうか」

王「どうだろうな。魔王直属の軍、それもトップクラス魔族であればあり得るだろうが。
  魔界からもっとも離れた辺境である西国を軍のトップが、わざわざ単独で攻めるとは考えにくい。
  町一つを滅ぼす程度では、魔族にとってのメリットも特にないことだ」

王「基本的に知性種には、本能種ほどの膂力も魔力もない。
  被害の規模を考えると本能種であろう」

王「もちろんお主が言ったように、本能種にしては、行動がかなり不可解だ。
  群れを成さず、単独で、しかも我が国を掻い潜り西国へと攻め入る」

勇者「……不自然極まりない」

王「だが、これにより西国の王は首を縦に振らざるを得なくなったわけだ」

王「そもそも、西国が討伐軍への参加を躊躇っていたのは、
  魔族を必要以上に刺激しない方がいいという観点からだったからな」

王「必要以上に刺激して、自国が襲撃されることを恐れていたのであろう」

勇者「『西国は、魔物の存在しない一番安全な国』という謳い文句が崩れたわけですからね」

王「そうだ。一番安全な国ゆえに、他国ほどの強力な軍も存在しない。
  よって攻め入られた今、単独で自国を守ることも難しい。
  しかし、ここで防衛策を打ち出さなければ、国民からの不信感は増す一方というわけだ」

勇者「そこで、共立魔族討伐軍への参加を決めたわけですか」

王「ああ。軍備にそれほど国費を割かない分、西国は農業と工業が国からの支援で盛んに行われているからな」

王「西国には魔族からの襲撃に備え防衛軍を常駐させる代わりに、補給支援を行ってもらうつもりだ」

勇者「なるほど」

王「今回の討伐軍の結成で一番ネックになっていた部分が補給線の確保だったからな。
  西国には悪いが、渡りに船としか言いようがない」

勇者「軍の司令はどなたが?」

王「共立魔王討伐軍は建前上、我が国、南国、北国、西国、この4か国の共同参画による軍となっているため、
  各国の元首はある程度、軍に対して進言することができる。そして重要な決定も4か国による協議で決められる。
  しかし最終的な作戦指揮権、指令権は我が持つこととなった」

王「理由は二つ。一つは指揮系統が複数存在した場合、軍に混乱をきたすため。
  もちろん我が死亡した場合は、順次指揮権は移動するがな。
  もう一つは、魔族との戦いに一番我が国が慣れているためだ」

勇者「東国が滅ぼされてから、中央国が魔族との戦いを一手に引き受けていましたからね」

王「ああ。もちろん北国も南国も魔族の被害はあっただろう。
  だが、広大な国土を持つ我が国が最も攻め入られるのは自然の理ともいえよう」

王「参謀本部も我が国に設置される。人事権もある程度であれば融通が利く」

王「そこで勇者。お前には斥候についてもらおうと考えている」

勇者「斥候、ですか」

王「軍より先陣を切り、敵の情報を得て、軍へと伝える偵察。
  そして、偶発的接触をも含めての魔族との戦闘。
  この二つが主な任務となる」

王「もちろん、危険な任務だ。もっとも危険な任務の一つと言っていい。
  だが、勇者にしか頼めぬのだ」

勇者「わかってます。魔力耐性の強いものでなければ、
   偶発的な戦闘での不意の攻撃で全滅してしまいかねないですから」

勇者「全属性に耐性のある体質は、俺しかいませんからね」

王「そういうことだ。事前準備さえできれば、対抗できる魔法師、僧侶、賢者を配備できる。
  もちろん、戦闘に特化した騎士や戦士もな」

王「そして斥候以上に重要な任務」

勇者「魔王討伐、ですね」

王「ああ。勇者の血をひくものでなければ、魔王の結界は破れぬ」

王「これほど過剰な任務もすまないと思っている。
  斥候と最終討伐という、両任務のこれ以上ない矛盾もわかって上で頼む」

勇者「ええ、大丈夫です。斥候で偵察さえして来れば、あとはお任せしていいんでしょう?」

王「当然だ。そなたの道は討伐軍が必ず切り開く」

勇者「ははっ、さすがに魔族の大群と戦闘した後に魔王との連戦は勘弁願いたいです」

勇者「ですが、任されたからにはやりますよ。
   ここまで期待されれば勇者冥利に尽きるってもんです」

王「すまぬ」

勇者「そこは、任せた、って言ってくださいよ」

王「……うむ、任せたぞ」

勇者「ええ」

王「勇者よ、この場において斥候部隊隊長及び魔王討伐の任、我が名において命ずる」

勇者「はっ。謹んで拝命いたします」

王「資金はなんなりと申すがよい。金に糸目はつけぬ」

勇者「助かります」

王「まだしばらくは、討伐軍結成に向けて準備をしなければならぬ。
  その間勇者は自由にしていて構わぬぞ」

勇者「では、俺も出撃に向けて準備しますよ」

王「ほう」

勇者「まずは、斥候部隊を組むために人探しをします」

王「あてはあるのか?」

勇者「ええ、何人かは。斥候も機動力の関係上少数精鋭のほうがいいと思いますしね。
   心当たりを当たってみますよ」

勇者「この部隊の人事は俺に任せてもらって構わないですか?」

王「ああ、もちろんだ。斥候部隊の全権は勇者に渡そう。
  それと、もちろんこちらでも何名か斥候部隊の候補は用意しているが」

勇者「や、人が集められなかったときにお願いします」

王「うむ」

王「本来ならば、戦力として申し分のない近衛騎士団団長を共につけてやりたいところだが」

勇者「やめてください。後続の軍の士気を高められる人物なんて、そういないんですから。
   『後続の軍が機能しなくて魔王までたどり着けませんでした』、じゃ話になりません。
   あの人のカリスマは軍全体に使うべきです。そういう貴重な人材は、適所に充ててください」

王「すまぬな」

勇者「その代りと言ってはなんですが、オカネください」

王「おお、わかった。申すがよい」

勇者「カネで動いてくれるのは、こういう時には信頼できますからね」

王「出立の際に渡そう、城門前で受け取ってくれ」

勇者「ありがとうございます」

…………
……


――城下町。

がやがやがや。

勇者「さてと」

勇者「(王様によると、兵士の一般公募もするらしいからな。
   勅命が出されるまでまだ時間もあるだろうけど、優秀な傭兵は今のうちに斥候部隊に囲っておきたい)」

勇者「(傭兵は信頼が第一の家業だ。優秀な傭兵ほどカネさえ渡せばまっとうに仕事してくれるだろうし。
   あと作戦指揮にも、忠実だろうしな)」

勇者「(ただ、そういう傭兵ほどたけぇんだよなぁ……しかたないけどさ。
   資金に糸目はつけないとは言われても、節約できるところは節約したい)」

勇者「(ってことでまずは酒場――といいたいところだが)」

勇者「最初にあいつのところ、いっておくか」

……

――城下町から離れた民家。

勇者「おーい」 コンコン

勇者「……」コンコン

勇者「……」コンコン

勇者「……」コンコン

勇者「……」ガンガン

勇者「でーてーこーいーよー!」 ガンガンガンガン

バンッ!

???「うっさい!! 実験中!!」

勇者「やっぱいるじゃねぇか。さっさと出ろよ、まほーつかい」

錬金術師「あたしは魔法使いじゃなくて錬金術師!」

勇者「ああ、そうだっけ物知り博士」

錬金術師「れ・ん・き・ん・じゅ・つ・し!」

勇者「わかったわかった、錬金術師な。そんなこえー顔で睨むなって」

錬金術師「あんたがわざと間違えるからでしょが!
     ……んで、何か用? さっきも言ったけど実験中で忙しいんだよね」

勇者「ああ、そうだそうだ。共立魔王討伐軍の話は知ってるか?」

錬金術師「まあ、話程度なら。魔王軍と今度一戦交えるって」

勇者「それでな、俺が斥候部隊任されることになった。
   もちろん魔王討伐もだけど」

錬金術師「斥候? なんでまた。
     それに魔王討伐って…そっか。勇者の血を引いてるんだものね」

勇者「まあな。400年前の勇者だから眉唾もんだと俺も思っていたんだけどよ」

錬金術師「聖剣が反応しちゃったから仕方ないね……」

勇者「いやー、あんときはガキだったからさすがの俺もビビったわ」

錬金術師「よく考えると、あんたが勇者じゃなかったら
     王城の宝物庫に侵入したなんていくら子供でも死刑にされててもおかしくなかったわよね」

勇者「まあ、子供に侵入される宝物庫もどうかと思うけど」

錬金術師「子供しか通れないちっさい穴だったしねぇ」

勇者「しみじみしてる場合じゃねぇや。
   ま、そういうわけでさ。魔王の討伐に行ってくるから」

錬金術師「それをあたしに言いに来たわけ?
     ……ま、無事に帰ってきなさいよ。応援してるから」

勇者「は? なにいってんの。錬金術師もくるんだよ」

錬金術師「……は?」

勇者「いやいや。お前だってふつーに戦闘できるだろ?
   この間だって魔物相手に」

錬金術師「あ、アレは、作ったモノの実験してただけだって!」

勇者「ただの実験でゴブリン10体を相手にしますかね?」

錬金術師「毒煙だから、効果と範囲を調べたかったの!」

勇者「万が一ってことで、護衛頼まれたけど、必要なかったな。
   毒煙から逃れた襲い掛かってくるゴブリンを華麗に回避して、顔面になにかの液体ぶちまけてただろ」

錬金術師「じ、実験をするものとしてと、当然の心得なのっ!」

勇者「で、あの液体は?」

錬金術師「ぎ、疑似溶解液よ……植物系の魔族の出す溶解液を薬液で再現したの」

勇者「それが効く魔族は?」

錬金術師「ゴブリンのような亜人、ウェアウルフのような獣人、あとはマンドレイクのような植物系のには効くわね。
     ただその中でも強化骨格や特殊皮膚を持つ者には効かなかったから、大型の昆虫型や龍族は皮膚が強靭で効かないと思う」

勇者「ほうほう」

錬金術師「もちろん龍族なんかには試してないからわからないんだけど。
     わからないといえば幻獣族もそうだし、アンデッド系も実験してみたいってのはあるのよね。
     耐性なんか種族ごとにもちろん違うでしょうし、その差異も調べてみたいし」

錬金術師「龍族の関しては龍の鱗で編まれた鎧か何かで試してもいいんだけどなにぶん高いし……
     それに生きた龍族に使うのと龍鱗だけだと、帯びている魔力も桁違いでしょうから参考にならない気もするし。
     やっぱりできれば生きている龍族に試してみたいのよね」

錬金術師「でも、そのレベルになるとさすがにあたし一人じゃきついというか、
     そもそもこんなところまで幻獣族やアンデット系がくることが……はっ」

勇者「一緒に来れば、そいつら相手に試せますぜ。お嬢さん」

錬金術師「うっ……そ、そんなニヤついた顔で言われても説得力ないわっ」

勇者「しかも今なら斥候部隊という護衛付き」

錬金術師「うっ、うっ……うーむむむむ」

勇者「しかも薬液薬剤、素材資材が買い放題。なんといっても国からの支援があるからね。
   王様も資金には糸目つけないってさ」

錬金術師「う、うぐぐぐぐ……」

錬金術師「そ、そそ、そん、そんな、もので、あ、あたしを釣ろうなんて……」

勇者「ま、そういう冗談はともかくとして」
   
錬金術師「冗談なの!?」

勇者「錬金術師の力を見込んでお願いなんだ。
   お前のその知識と戦闘能力が欲しい。もちろん危ない任務になる。なんといっても魔王討伐だ。
   必ず守ってやるとは言えない。だけど一緒に戦力になってくれ」

錬金術師「……」

勇者「頼む。お前の力が必要なんだ」

錬金術師「……」

勇者「……」

錬金術師「…………はあ。わかったわよ」

勇者「ありがとな、錬金術師」

錬金術師「ふう。それなら思う存分実験させてもらうわよ」

勇者「わかったわかった」

錬金術師「あと資材購入も」

勇者「……わかったよ」

……

こんな感じのをだらだら書いていきます

――城下町、酒場。

錬金術師「これから集めるぅ!?」

勇者「耳元で大きい声出すなよ」

錬金術師「出すわよ! さっきアンタ護衛に斥候"部隊"がついてるって!」

勇者「斥候部隊(俺一人)」

錬金術師「さ、さきが思いやられる……」

勇者「ま、契約内容は事前に確認しましょうってな」

錬金術師「こういうのって普通国から派兵されたりするもんじゃないの?」

勇者「国王様から打診はあったけどな。断った」

錬金術師「はぁ!?」

勇者「そういきり立つなって。ちゃんと理由あるんだから」

錬金術師「理由?」

勇者「そ。理由は3つ。
   一つは、斥候へ引き抜くことによって後続の軍の戦力弱化の懸念。
   もう一つは、討伐軍兵士では、忠を尽くす場所が俺たちとは違う」

錬金術師「斥候に引き抜いた程度で軍が弱体化するわけ?」

勇者「ぶっちゃけ本来斥候ってのは替えが効くような奴がやるわけよ。
   後退際のしんがり程度じゃないけど、致死率が高い」

勇者「そんなところにほいほい強い兵士を派兵させるわけにもいかない。
   だけど今回は別だ。斥候の成否によって戦況がかなり変わってくる」

勇者「だから国王様も、練度の高い兵士を候補に挙げているはずだ」

勇者「そして今回は4か国共立の軍だ。
  そこから練度の高い兵士を引き抜いたらどうなる?」

錬金術師「ただでさえ保つことが難しい全体の士気が低下する恐れがあるわけね」

勇者「ああ、心強い兵士が同じ部隊にいるといないのとでは、他の兵士の士気も違うだろう。
   斥候は成功しましたが、後続が続きませんでした、じゃ話にならないからな」

勇者「実際、近衛兵団団長をつけようと思ったとか言われたよ。
   もちろんお断りしたけどよ」

錬金術師「なんとまあ。あの英雄さんをねぇ」

勇者「あの人の勇名は他国にも轟くからな。俺以上の勇者だよあの人は。
   そんな人に斥候やってもらうわけにはいかないだろ?」

錬金術師「まあねぇ……って、それだとあたしは死んでいいみたいじゃない」

勇者「ちげぇよ。お前を信頼しているんだって。
   戦力としても、参謀としても」

錬金術師「むぅ…(悪い気はしない…)」

勇者「だから、独自で集めたいんだ」

錬金術師「で、2つ目の忠を尽くす場所が違うってどういうことよ」

勇者「討伐軍は連合軍だろ? 魔王討伐という大目的があって、
   国王様が指令権を持っていても各国の兵士が忠を尽くすのは各国の王たちにだ」

勇者「そんな連中が他国の王に致死率が高いとわかっている斥候に任命されて
   やる気になると思うか?」

錬金術師「ああ、なるほどね……」

勇者「表面上は従ってくれるだろうが、士気は上げにくいわ命令しづらいわで
   部隊として機能しにくくなることが目に見えている」

勇者「中央国からの派兵なら、俺をある程度知ってくれている人もいるだろうし
   部隊としてもそこそこ完成度の高いものになるだろうけど」

錬金術師「なんでそうしないわけ?」

勇者「さっきも言ったけど、その場合練度の高い兵士が出てくる。
   そうなってくると自国の軍が弱体化するわけだから国王様の軍での発言権が弱まるだろう?
   できるだけ自国の兵士が幅を利かせてた方がやりやすいんだよ」

錬金術師「ふーむ」

勇者「斥候部隊に関してはできれば、俺か任務か金に忠を尽くしてくれる奴がほしい」

錬金術師「……なにいってんのアンタ」

勇者「いやいや、実際錬金術師は俺だったから引き受けてくれたわけだろう?」

錬金術師「ま、まあね。い、いや! お金よ! お金のため!」

勇者「……まあ、どっちでもいいや」

錬金術師「お金!」

勇者「あーはいはい」

勇者「ま、つまり俺という個人を信頼してくれる人か
   任務という正義の御旗のもとに集えるクソ真面目な奴か
   報酬の代わりに結果をしっかり残せる人間がいいってわけだ」

勇者「この斥候部隊は遊撃も兼ねているからな。
   フットワークが軽いほうがいい」

錬金術師「で、最後の一つは?」

勇者「俺の気分」

錬金術師「は?」

勇者「いやー憧れてたんだよねー。自分でパーティ組んで旅に出るって」

錬金術師「遊びじゃないのよ! これは!」

勇者「わかってるわかってるって。言い方が悪かったな。
   俺の理想の部隊をくみ上げるためだよ」

勇者「遊撃も兼ねてるってさっきいったろ? 奇襲ができるなら奇襲もする。
   腕の立つ歩兵はもちろん騎兵や飛兵弓兵、医術師なんかもほしいな」

勇者「つまり俺が理想としている動きやすい部隊を作りたいわけよ」

勇者「王国兵士だと歩兵ばっかになりそうだったからね」

錬金術師「魔法師や退魔兵は?」

勇者「退魔兵は俺が兼任できるし、魔法師はお前が兼任できるだろ?」

錬金術師「だからあたしは魔法使いじゃないってば」

勇者「でも疑似魔法つかえるんだろ?」

錬金術師「疑似魔法でもないの。あたしがしてるのは疑似的に魔法を再現してるだけ。
     魔力素材を使っていてもやってることは完全完璧に物理現象100%」

錬金術師「炎とか雷とか氷とか出せるには出せるけど、魔法攻撃じゃなくて物理攻撃に分類される」

錬金術師「魔法師と違って道具がなければ何もできないし、休んでもまた使えるようにもならない。
     打ち切ったらそこで終わり。自分で言うのもなんだけど使い勝手悪いわよ」

錬金術師「それに魔法ならあんたも使えるんでしょ? 仮にも勇者だし」

勇者「うーん使えるけど、種類も少ないし燃費が異常に悪いんだよな。
   1日に撃ててせいぜい3発くらい」

錬金術師「それだと恒常戦力に数えるのは無理そうね」

勇者「ま、切り札のうちのひとつだ」

勇者「んじゃ、一応魔法師も考えておくかね」

錬金術師「とりあえず最低限ほしいのは?」

勇者「騎兵と飛兵と医術師だな」

錬金術師「医術師は言わずもがなでわかるけど、なんで騎兵と飛兵?」

勇者「あくまで斥候が主な任務だから。早馬がないと話にならないだろ?」

錬金術師「ああ、伝令役ってことね」

勇者「そゆこと」

錬金術師「んーとりあえず傭兵ギルドから探してみる?」

勇者「そうだな」

勇者「マスター、ども」

マスター「あら、いらっしゃい。珍しいわね」

勇者「魔王軍と一戦交えることになってね」

マスター「ええ。聴いているわ。募兵も順次傭兵ギルドに通達するって」

勇者「そんで斥候部隊を任されることになってさ。
   傭兵ギルドから個人から雇える騎兵と飛兵を紹介してほしいんだけど」

マスター「騎兵はともかく、飛兵はいるかどうかわからないわよ?」

勇者「え、マジ?」

マスター「ペガサスライダーにしてもドラゴンライダーにしても
     幻獣族、龍族を飼い馴らす希少人材だからね」

マスター「その飛兵を個別で貸し出してくれる傭兵部隊はまずいないでしょうし。
     有能な飛兵は大体大きな傭兵部隊が囲っちゃっているから、雇おうとするなら部隊丸ごとになるわ」

勇者「……部隊丸ごとって小隊?」

マスター「最低中隊ね」

勇者「わお、いきなり壁にぶちあたった……」

錬金術師「ねぇ、中隊って何人くらいなの?」

勇者「ん? ああ。そうか。そういうのわからんよな」

マスター「すごーく大ざっぱにいうと、100人以上かな」

錬金術師「ひゃく!? うえええっ!?」

勇者「大体10人くらいで分隊っていうんだが。
   それが二つ以上くっついて小隊」

マスター「大体50人前後ね」

勇者「その小隊がさらに二つ以上くっついて中隊だ」

錬金術師「それって行軍してたらすんごい目だたない?」

勇者「ああ目立つな。隠密偵察には向かないし、威力偵察しかできなくなる。
   当然致死率も上がる。何より兵の士気が傭兵隊長依存になってくる。
   そうなると、討伐軍から引き抜いてきたのと変わらんことになっちまう」

錬金術師「だから個人で探していたわけね」

勇者「ああ。それに理想は分隊以上小隊未満ってところ。
   機動力を削らず、それでいて戦力を保持できて、隠密偵察までこなせる」

勇者「思ったよりハードル高いぞこれ……」

マスター「とりあえず騎兵だけでも探してみる?」

勇者「……お願いします」

錬金術師「傭兵ギルドに登録していない傭兵を雇うことはできないの?
     それなら個人で活動しているかもしれないじゃない」

勇者「できなくはないが、難しいな」

錬金術師「なんで?」

勇者「ギルドに登録してないってことは、こっちからの連絡手段がないし、
   そもそもギルドに登録しないメリットがほとんどないんだよ。
   ギルドに登録しておくメリットはわかるだろ?」

錬金術師「う、うん。優先的に仕事を回してもらえるとか傭兵部隊に誘ってもらえるとかでしょ?」

勇者「そう。それに依頼側も傭兵部隊に個別に依頼するよりも、ギルドが一括管理してくれる方が楽だしな」

勇者「つまり割の良かったり実入りのいい案件は全部ギルド所属の傭兵部隊がかっさらって行っちまう。
   そこから余ったものだけが、ギルドに所属していないものにも依頼開示がされてフリーの傭兵に回されるわけだ」

錬金術師「余ったものって?」

勇者「やべぇ案件か、割のあわねぇ案件とかだな。
   たとえば、飛龍討伐とか希少魔法素材の採取とか」

勇者「飛龍討伐は、大隊クラスでいって成功率は半分程度だし
   希少魔法素材の採取は報酬の割にやばいモンスターの縄張りだったりするしな。
   シングルなら十二分な報酬だが、部隊で行くには実入りが少なすぎる案件ってわけだ」

錬金術師「ふぅん……じゃあ、なんで登録しない傭兵が存在するのよ」

勇者「そりゃその人の自由だからな。縛られるのが嫌いって人もいるだろうし、
   すでに個人のお抱え傭兵になっている奴もいるだろうし」

勇者「あとはブラックリストに入れられてギルドから追い出されたような奴とかもな」

錬金術師「傭兵世界も複雑なのねぇ」

マスター「募集手続きはしておいたわ」

勇者「ありがとうございます」

マスター「魔王討伐斥候部隊。依頼人勇者。募集人員は騎兵と飛兵、報酬は応相談。
      明日の朝一で各酒場に早馬を出すからここに来るのは早くても3日はかかるわ」

錬金術師「そもそも見つかるかわからないですしね」

マスター「さっきも言ったけど騎兵は見つかるでしょうけど、飛兵は難しいでしょうね」

勇者「あーこんな事だったら、近衛兵団団長囲ってくればよかったかなぁぁぁ」

錬金術師「ムリに決まってるでしょ。世界最強の飛兵とも言われてるんでしょあの人。
      そんな人が討伐軍に従軍しなくてどうするの」

勇者「世界に3人しかいないドラゴンマスターの称号をもつ英雄だからなぁ」

勇者「ま、嘆いていてもしょうがねぇ。果報は寝て待つか」

マスター「あなたたち暇なの?」

勇者「とりあえず他のメンバーも探しつつといったところだけど。
   時間はあるっちゃありますよ」

マスター「それならひとつ依頼を受けてもらえないかしら?」

勇者「依頼?」

マスター「そう、依頼。依頼人は私」

中断
思ったよりミュータントがでてくるまで時間かかりそうでふぐぐ

――旧東国、廃城前。

ヒュオオオオオ――……。

勇者「魔族の急襲から30年だったか。さすがに荒廃している」

錬金術師「あたしらが生まれた時にはもう東国はなくなってたしね」

勇者「本当にここにいるのか……?」

錬金術師「でもマスターが言うには、ここを根城にしてるって」

―――――

マスター『手紙をね、届けてほしいの』

勇者『手紙?』

マスター『ええ。私の兄に。
      報酬は必要経費を除いて500Gと今回の募兵依頼手数料の免除でどうかしら』

錬金術師『手紙を届けるだけにしてはずいぶん太っ腹ね』

マスター『場所が場所だから』

勇者『危険なんですか?』

マスター『それがね、旧東国の王城なの』

―――――

錬金術師「そりゃこんなところ普通の配達人は来られないわよねぇ……」

勇者「しかし、こんなところに好き好んでくるなんて、相当な変わり者だな。
   マスターのお兄様は」

錬金術師「もともと人が住んでた土地だから、それほど強力な魔物もいないけど。
     それでも本能種がちらほら見えるわね」

勇者「道中も、何回か襲われたな。本能種は下級でも強いから厄介だよ」

錬金術師「でも知性種が統率しない分、マシね」

勇者「本能種は生命力も強いからな。
   魔族が生息するのに適さないような、もともと人が住んでいた土地にも住み着きやがる」

錬金術師「知性種が統率していないのは知性種はこんなところに住み着きたくないってわけね」

勇者「……」

錬金術師「どしたの勇者?」

勇者「あ、いや。なんでもない」

錬金術師「しっかし、ホントものの見事にボロ城ねぇ」

錬金術師「んで、マスターのお兄さんは本能種の生態調査のためにここにいると……」

錬金術師「……いいたかないけど、マスターのお兄さんってマゾ気質なの?」

勇者「さあな。ご家庭のご事情に深入りするのはやめておこう」

錬金術師「それもそうね。さっさと終わらせましょ」

――旧東国、廃城、城内。

勇者「ほっ」 ザシュッ

ゴブリン「GIYAAAA!!」

錬金術師「ほいっ」 ビシャッ

ツインヴァイパー「JYUUUUU!!」

勇者「ふう、やっぱ城内にも魔族いるなー」

錬金術師「ギルドからの依頼じゃなければこんなところ来ないでしょうし。
       魔族がはびこるのも仕方ないわ」

錬金術師「そういえば、依頼を受けられたってことはあんたも傭兵ギルドに登録してたわけ?」

勇者「そんなわけねぇって……なんも知らないのな。
   あんまり実験ばっかりしてて世俗から離れるなよ」

錬金術師「う、うるっさいわねぇ」

勇者「俺が登録してたのは冒険者ギルドのほうだよ」

錬金術師「冒険者ギルド?」

勇者「新たに発見された土地とか未踏の土地とかに調査しにいったりするの。大体は国からの依頼だな。
   俺は一つの拠点に根を下ろして活動してたけど、ほとんどのやつは各地を放浪するからな。
   そのついでに旅人や商人の道中の護衛とか、荷物とどけたりするのさ」

勇者「今回の依頼はその一環」

錬金術師「へぇ、意外とやることしっかりやってんのねぇ」

勇者「人聞き悪いからその言い方はやめてくれ……。
   商人でも農民でもなければ、ほとんどのやつは各ギルドに登録して生計立ててんの」

勇者「お前が特別なだけだよ」

錬金術師「ふっふっふー」

勇者「魔法鉱物から純金を生み出すなんて反則技を見つけやがって…」

錬金術師「金の価値が暴落しちゃうから、これは完全に秘匿技術だからねん。
       これからも発表する気ないし。発表したら助かる人と同じくらい困る人出てきそうだしね。
       だけどせっかくの発見なんだからあたしの生活を助けるくらいには使っていいでしょ?」

勇者「変なところで常識あるよな……」

勇者「!」

大型ゴブリン「GYAOOOOOOOO!!」

錬金術師「え?」

勇者「伏せろッ!!」

錬金術師「わわっ!」 バッ

勇者「飛べ、真空の刃ッ!!」

ヒュオン――ザシュンッ!!

大型ゴブリン「GA……G…g…」

どさっ。

勇者「あ、あぶねぇー」

錬金術師「ご、ごめん。油断してた」

勇者「いや、俺も悪い。話に夢中で警戒を完全に忘れてた」

錬金術師「あの、あ、ありがと」

勇者「いいっていいって。
   さっさと依頼終わらせて来よう」

錬金術師「そ、そうね」

――城内、最上階。

勇者「あと調べてない場所は最上階だけだな」

錬金術師「本当にいるのかしら」

勇者「さあ、そればっかりは何とも」

錬金術師「……ねえ勇者。さっきの技って魔法?」

勇者「いいや。あれはただの剣術だよ。つまりスキルだな」

勇者「剣圧を刃に見立てて吹っ飛ばしただけ。
   練習すりゃ誰でもできるようになるもんだよ」

錬金術師「できないわよ普通……」

勇者「そうか?」

錬金術師「なんだかんだで、アンタもしっかり勇者なのね」

勇者「しっかり勇者ってなんだよ…」

錬金術師「にしても低級とはいえ、そこそこ強力なモンスターがいるわね。
     さっきの大型ゴブリンもそうだし」

錬金術師「マスターのお兄さんは無事なのかしら」

勇者「流石に自分の実力をわかったうえできてるって」

錬金術師「それならいいけど……」

ダダダダダ……!

錬金術師「なんかものすごい勢いで向こうから走ってくる人が見えるけど?
     でも、マスターのお兄さんじゃないみたいね」

勇者「しかも大量の魔族ひきつれてな」

錬金術師「逃げてるように見えてるんですけど」

勇者「逃げているんだろうな」

錬金術師「もおおおお!」

???「うお、こんなとこに人間!? ってお前らも逃げろ逃げろ!」

屍犬「GRURURURURU!」

勇者「屍犬? なんでアンデット系がこんなところに」

???「あいつらダメだ! 物理攻撃なんか効きやしねぇ」

錬金術師「(ずいぶんおっきな弓背負ってるわね……?)」

勇者「一応俺は退魔の心得ありますから。攻撃は通りますけど」

???「マジか!」

錬金術師「それに逃げろっても、囲まれちゃったし」

屍犬「GURURU……」

???「……わりぃ。俺のせいだな」

勇者「や、大丈夫す。結局遭遇したでしょうし」

勇者「ただアンデット系は肉体損傷がダメージにならんからなぁ。
   退魔攻撃で肉体を溶かすか」

錬金術師「再生できないほど木端微塵にするか、ね」

???「! くるぞっ!」

屍犬「GAAAAAAA!!」

勇者「おおぉぉおぉおっ!!」

ザシュンッ!!

屍犬「GYAN!」

ジュゥウウゥウ……――。

???「おおお……切り口が溶けてやがる」

錬金術師「あー! 屋内じゃなければやり様もあるんだけど!」

屍犬「GURURURU……GYAU! GYAU!」

屍犬の集団が一斉に錬金術師に襲い掛かる!

錬金術師「って! 多い多い!」

勇者「くっ!(間に合わねぇ!)」

???「どいてろ、嬢ちゃん!」

複数の矢を巨弓にあてがい引き絞る!

ヒュン――ドドドッ!

屍犬「GYAAN!!」

勇者「(おお、水平拡散射法の使い手か)」 ザンッ!

屍犬「GURURURURURU……」

???「だー! 吹っ飛ばすことはできてもこいつら死なねぇ!」

勇者「錬金術師! 聖水の錬金材料は!」

錬金術師「あ、あるけど、この群れじゃ量が足りない!」

勇者「直接ぶっかけるんじゃあな。
   だけど、何本か矢先に染み込ませる分くらいならいけるだろ?」

勇者「うおっと!」 ザシュン!

錬金術師「! なるほどね!」

勇者「弓使いさん! 今からあなたの攻撃を屍犬に通るようにします!
   俺は前方の屍犬を潰しますから、錬金術師の護衛頼みます!」

???「ああ、攻撃が通るようになるなら願ってもねえ!
     それに嬢ちゃんは任せとけ! 言われなくてもそうする!」

錬金術師「これとこれとこれを混ぜて……」 カチャカチャ

屍犬「GURURURU……」

ヒュン……ドッ!

屍犬「GYAN!!」

???「射っても射っても手ごたえがないのはつらいぜ」

錬金術師「あとは、この液体を少し熱すれば終わりね。
     火石と火炎手甲をつけて……」

錬金術師「火炎錬金!」 パチン!

ボウッ!

???「うお、指ぱっちんで火がついた!」

錬金術師「……よし! 透明度も問題なし!
     できたわよ、聖水!」 

錬金術師「さ、これを矢先につければ屍犬にも攻撃が通るわ!」

???「準備したいのはやまやまだがよ、くっ!」 ドシュッ!

錬金術師「つける暇なさそうね……」

錬金術師「任せて、交代しましょう。あたしが食い止めますから」

???「嬢ちゃんが!? 大丈夫かよ!」ドシュッ!

勇者「大丈夫ですよ、そいつ強いですから」 ザシュッ!

???「わかった、下がるぞ!」

錬金術師「アンデット系……うふふ。
     試したいことがいっぱいあるのよね~」

勇者「悪い顔してるぞ」

???「本当に大丈夫か?」

屍犬「GURRRRR!」

錬金術師「まずは……疑似溶解液から!」

ビシャッ!

屍犬「GAAAAAA!」

錬金術師「うひー! 表面皮膚は溶けるけどぜーんぜん効いてない!」

錬金術師「やっぱアンデット系は痛覚ないから足止めにもならないか」

錬金術師「じゃあ、次! 火炎手甲を使って……火炎錬金!」パチンッ!

炎が槍のかたちへと形成されてゆく!

錬金術師「炎槍投擲!」

ヒュオン! ジュゥウウゥウッ!!

屍犬「GIAAAAAA!!」

錬金術師「やっぱ傷つけるだけできいてないー!」

台本形式の戦闘描写難しすぎやしませんかね…

屍犬「GYAU! GYAU! GYAU!」

錬金術師「んー、貫通はしたんだけど再生されちゃうかぁ」

錬金術師「肉体はもう死んでるから火傷しても意味ないし。
      やっぱ物理攻撃でアンデット系倒すには木端微塵にしないとダメみたい」

錬金術師「ま、まだ試したいことあるし、都合いいわね。
      んじゃ、次は雷電手甲で……」

???「またせたな、嬢ちゃん。おかげで即席の破魔矢の完成だ」

錬金術師「むー……」

???「なんでむくれた顔してるんだ……」

勇者「実験はまた今度にしとけ! 今は確実にこの場を切り抜けることを考えろ!」 ザシュン!

錬金術師「あたしだって、そこまで分別のない女じゃないわよ。
      じゃあ任せましたよ、弓使いさん」

???「ああ、任せとけ!」

屍犬「GAAAAAAAAAAAAA!!」

ヒュオン――ドドドドドッ!!

屍犬「GYAAAAAAAA……GAA…ga…g…」 ジュウウウゥウゥ

錬金術師「すっごぉ。5体も同時に」

???「矢が突き刺さった部分が融けてやがる。
    即席なのに、この聖水の効果すげぇな」

ヒュン――ドドドッ!

屍犬「GYAUN……!」

???「群れで行動してても所詮本能種だな。考えられた動きじゃねぇ。
     並んで突っ込んでくるなら、俺にとっては鴨射ちと変わらんぜ」

ヒュンヒュンヒュン! ドドドッ!

勇者「戦力が揃ったところで、一気に叩くぞ!」

???「おう!」

……


錬金術師「ふー、なんとか切り抜けたわね」

勇者「二人とも怪我をしてないか?」

錬金術師「いっさいね。ていうか、最後の方あたし攻撃に参加してなかったし」

???「俺も怪我はないぜ」

???「にしても、すげーな。お嬢ちゃん。本当にあの短時間で聖水を作り上げちまうなんて」

錬金術師「別に分量知っていて、火があれば誰でもできます。
      それにあたしはお嬢ちゃんじゃなくて錬金術師」

勇者「そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は勇者です。
   こいつが錬金術師」

錬金術師「どーもー」

猟師「あー、そんなかしこまらなくていいって。
   俺は、猟師だ」

勇者「ハンターなんですか? アーチャーや傭兵じゃなくて?」

猟師「一応な。それに俺は弓専門でもない」

勇者「そうなんですか」
   
猟師「あとその『ですます』口調やめてくれ。
   背筋がゾワゾワする」

勇者「……ああ、わかった」

錬金術師「ええ、その方があたしも気が楽だからそうするわ」

勇者「でも、あの水平拡散射法……本当に猟師?
   完全に対人用の、しかも1対多を戦い抜くための技術だと思うんだけど」

猟師「おいおい、ちゃんと野兎なんか狩って生活の糧にしてるぜ。
   もちろん狩猟ギルドにも登録してある。ほれ、ギルド登録証だ」

勇者「……間違いなく本物だ」

錬金術師「猟師にもギルドがあるの?」

勇者「ああ。主な目的は猟師による乱獲を防ぐためだな。狩猟場の管理なんかをギルドが一括して行ってるんだ。
   ギルドに登録しないと狩猟が許可されてないエリアがあったりするから大抵の猟師はこれに登録する」

勇者「あとは、農村に現れる害獣や魔物の処理なんかも猟師ギルドに依頼がいくことも多い」

錬金術師「へぇ…」

勇者「ただ……このあたりに狩猟用の動物がいるかといわれると」

錬金術師「そもそも、ここ城内だしね」

猟師「ま、お前さんが思ってるように猟師だけじゃ生活ができなくてね。
   気は乗らんが、傭兵ギルドにも一緒に登録してある」

猟師「今回は、傭兵ギルドのほうの仕事でね」

勇者「なるほど。それであの技術か……」

猟師「別にあの技は殺人術なんかじゃねぇよ。
   巨大なエモノなんかを一撃で仕留めるときになんか重宝するしな」

錬金術師「ところで、あなたはなんでこんなところに?
     傭兵ギルドの仕事って、なにしてるの」

猟師「うお! そうだった! 急いで戻らねぇと!」

勇者「戻る?」

猟師「ああ、今回の仕事は学者センセイの護衛だったんだけどよ。
   旧東国跡地だから低級本能種程度だろうとたかくくってたら、屍犬の群れに遭遇して」

錬金術師「学者センセイ……? それって!」

猟師「しかたねぇから学者センセイを安全そうな部屋に押し込めて
   屍犬の群れを俺一人で引きつけたんだが…」

錬金術師「攻撃が効かなくて逃げてたってわけね」

猟師「ああ、マジでお前らにあわなかったらヤバかったかもしれん。
   改めて礼を言うよ。ありがとな」

猟師「しっかし、なんでこんなところにアンデット系がいたんだ。
   奴らが好きそうな死臭なんて、もうここには残っていないだろうに。
   わかってりゃ聖水の一つや二つ用意してきたんだがなぁ」

勇者「(たしかに、少し不可解なんだよな)」

猟師「ま、もう過ぎたことだ。今はそんなことどうでもいい。
   俺は早く学者センセイのところに戻らないと」

錬金術師「ねえ、勇者!」

勇者「わかってる」

勇者「俺たちも、その先生のところに連れて行ってくれないか?」

猟師「うん? 別に構わんが、どうしてだ?」

勇者「俺たちが捜しているのもたぶん、その人なんだ。
   ある人から手紙を渡すように依頼されている」

猟師「ほう」

錬金術師「依頼人によると、ここに来ている学者だっていうから」

猟師「なるほど。じゃ、学者センセイで決まりだな。
   ここに他の学者なんていないからよ」

勇者「案内を頼めるか?」

猟師「もちろんだ。その代り急ぐぜ」

錬金術師「ええ」

遅々としてミュータントは登場せず…

――廃城、寝室の間、前廊下。

猟師「ここだ、ここだ」

錬金術師「王族たちの寝室かしら?」

勇者「みたいだな」

猟師「ここだけ内側から鍵かけられたからな。入ってもらってたんだ。
   おーい、センセー! もう出てきても大丈夫だぞー!」 ドンドン

しぃん。

錬金術師「でて、こないみたいだけど?」

猟師「おっかしいなぁ。ちゃんと中の安全確認してるから
   屍犬に喰われてるってことはないと思うんだが」

錬金術師「縁起でもないこと言わないの!」

勇者「そうだぞ。縁起でもない。
   喰われてたら、依頼失敗で履歴にバツがつく。
   そしたらもう仕事も回ってこなくなるかもしれないな」

猟師「そりゃ困る」

錬金術師「そういうことじゃないわよ…」

勇者「ま、冗談はこれくらいにしといてどういうことだ?」

猟師「あのセンセイも、結界札は持ってたみたいだから
   アンデットはともかく、ここ程度の魔族にやられてるってことはないと思うが」

錬金術師「結界札って、教会支給の?」

猟師「ああ、低級程度の魔族なら寄せ付けない聖なる加護を受けた札だとよ。
   寝る時もテントに丹念に張ってたぜ」

錬金術師「教会支給のものってことは、たぶん旅人用ね。
     それじゃ、効力はせいぜい3日ってとこ。
     あなたたちいつからここに?」

猟師「3日前の昼ってとこだな」

錬金術師「……そろそろ効力きれちゃうわよ。それ」

猟師「……マジ?」

錬金術師「嘘なんてついてどうするの」

勇者「まずいんじゃねぇの、それ?」

猟師「……」

勇者「……」

錬金術師「……」

猟師「せ、センセェェェェ! いたら返事しろォォォォ!!」 ドンドンドンドン!

バンッ!

猟師「うごっ!」

???「ちょっと静かにしてください! 余計に怖がるでしょう!」

勇者「思いっきり鼻打ったな」

錬金術師「打ったわね」

猟師「せ、センセェ……生きてたかぁ、っつつ……」

学者「猟師くん、もう少し静かにお願いします」

学者「? どうしたんですか? 鼻なんてさすって」

猟師「なんでもないから気にしなくていいですわ……」

学者「それに、君たちは?」

勇者「えーと、中央国城下町酒場のマスターから依頼を受けてきました」

学者「妹から?」

錬金術師「あなたへの手紙の配達依頼です、どうぞ」

学者「ええ、ありがとう。
   こんなところまで、わざわざ申し訳ないですね」

勇者「ここに受領のサインお願いします」

学者「はい」 サラサラ

勇者「どもっす」

学者「こんなところにまで、手紙なんてどうしたのでしょう」

錬金術師「これで依頼達成ね」

勇者「んじゃ、俺たちも戻りますか」

猟師「おう、じゃあな」

錬金術師「先生、マスターになにか言伝があるなら預かりますけど」

学者「いえ。特には。元気でやっているとだけお願いします」

勇者「はあ、わかりました」

学者「ああ、いえ。すみません。ひとつだけ。
   帰ったら魔族用のエサを用意しておいてもらうようにお願いしてもらっていいですか?」

勇者「いいですけど、どういう……」

学者「それがですね――」

だだだだだだっ!

???「みゅぅううぅうっ!!」

がばっ!

勇者「うわっ! ちょ! なんだこれ! 前が見えねぇ!」

???「みゅうぅうう!! みゅう! みゅうぅうう!!」

勇者「もがっ! もがむが!」

錬金術師「……なにこれ? 勇者の顔に幼女が抱きついているんですけど。
     人間じゃないみたいだけど」

猟師「ああ、幼女が抱き付いてるな」

学者「おやおや、ずいぶん元気になりましたね」

勇者「みえねぇ! 前が見えねぇ!」

???「みゅうっ! みゅみゅう!」

猟師「なんですか、これ」

学者「僕にもさっぱりです。
   先ほど猟師くんに部屋に押し込まれたときに、見つけまして」

学者「いや、僕の方が見つかったのほうが正しいですかね。
   しかし、僕の方が先に彼女を見つけたということは表現としては……」

錬金術師「や、どっちでもいいデス」

学者「ああ、すみません。
   どうやら彼女は、新種……でしょうか。
   とにかくこの付近にはいない種族のようです」

学者「以前の報告にありませんでしたし、僕自身彼女と同種族をみたこともありません。
   もちろん僕の知識不足によるただの見落としの線もあります」

猟師「俺も、時々旧東国までは狩りにくるが、みたことねェな」

錬金術師「あたしも知らないわね」

学者「もしかしたら、なにかしらの亜種や突然変異ということも考えられます。
   ただ、僕たちの知る魔族は魔族全体からすればほんの一握りでしょうし。
   僕たちにとって新種でも魔界に行けば彼女のような種族はごまんといるのかもしれません」

学者「今の僕には新種なのか、亜種なのか、突然変異なのか。この場で断定することはできませんね」

???「みゅうぅう! みゅ! みゅみゅみゅう!」

勇者「もが、むが! いい、から! ちょ、こいつ! 離れろ!」

猟師「しっかし、変な奴だな。人間を見ても襲うわけでもなく、じゃれついてくるだけとは。
   しかもこんなに楽しそうに」

学者「はは。実は先ほどまで、すごく怯えていたんですがね。
   僕と出会った時も、すぐに物陰に隠れてしまいまして、じっとこちらを観察してきていましたよ」

錬金術師「本能種、じゃないわよね?」

学者「どちらかといえば、知性種かと。僕の言葉をすこし認識していた素振りもありましたし。
   さきほどようやく、僕に近づいてきてくれていたんですよ。
   その矢先に、猟師くんがドアを荒っぽくたたくものですから……」

錬金術師「ああ、それで、静かにしろって言ってたんですね」

猟師「だが知性種にしちゃ、ずいぶん人懐っこいぜ」

学者「ええ、そこが不思議なんです。
   知性種は明確に人間と魔族を区別しますからね。
   基本的に幼いからと言って、人になつくことは、まずあり得ないのですが……」

猟師「知り合いの魔物使いも、本能種しか手懐けることできないとか言ってたぞ」

学者「謎は深まり、興味は刺激されるばかりです」

錬金術師「ぷぷっ。よかったじゃない、勇者。
     史上初知性種を手懐けた人として歴史に名が残るわよ」

勇者「むが、そんなこと、もご、いいから、もが、早くとってくれぇ!」

???「みゅうっ! みゅぅう! みゅう! みゅ!」

錬金術師「はいはーい、ちょっとだけ離れてあげましょうね~」

???「みゅっ!? みゅみゅみゅみゅ!!」バタバタバタ

錬金術師「あ、ちょ! 暴れないでよっ」

勇者「ぷは、やっととれた」

???「みゅうみゅうみゅうみゅうっ!」

勇者「……幼女? 額にみじけー角がついてんな」

学者「亜人のなにかに属するのだと思うのですが、さっぱりです」

勇者「ヴァンパイア、じゃないですよね? 肌は人間に近いみたいですし」

学者「ええ。一応、僕らの知っているヴァンパイアは雄でも雌でも、
   すべて血の気の引いたような真っ白い肌が特徴ですからね」

学者「突然変異種ならお手上げですが」

???「みゅう! みゅう!」ブンブンブン

錬金術師「首を振っているように見えるんだけど?」

勇者「俺らの言葉が分かるのか……?」

学者「ええ。そのような素振りをいくつか見せていますよ」

学者「額の角から、ゴブリンやオーガに属するものかと思ったのですが」

錬金術師「ゴブリンもオーガも本能種ですよね?」

学者「ええ、ですからこのようなことにはならないと思うのです」

猟師「ていうか、なんで服着てるんだこいつ」

学者「それもわかりません。
   確かに知性種の一部は衣服を纏う習慣があるようですが」

勇者「こいつに紡糸の技術があるようには思えんしなぁ」

錬金術師「案外、この城のものかもしれないわよ?」

勇者「無事にあったとしても30年も前のものだぞ。さすがにぼろきれになってるって」

錬金術師「わからないじゃない。王族の召し物よ、きっと耐久に優れたいい生地でも使ってるのよ」

勇者「そりゃ保存状態が、いいときに限ってだろう……
   このありさまだぞ?」

錬金術師「う、でもそれ以外、説明がつかないじゃない」

???「みゅうっ! みゅう!」 ガリッ!

錬金術師「あたっ! いったぁ! 噛んだわよ、この子!」

たたたたっ。

???「みゅうみゅうみゅう!」ピト

勇者「どわ! また俺かよ! 足下にくっつくな! 動きにくい!」

学者「おやおや、懐いてしまったようですね」

勇者「なんでだ……」

またのんびり書いていきます

学者「ふむ。君……えーと、名前は?」

勇者「え? 勇者ですけど」

学者「! 君が……
   勇者くん、その子預かってもらえませんか」

勇者「ええっ、な、なんでですか!」

学者「先ほど、エサを用意しておいてくれといったのはその子を連れて帰ろうかと思っていたからなんですが」

学者「みると、どうやら勇者くんから離れる気はないみたいですし」

???「みゅう! みゅう!」

学者「かと言って、これほどまで珍しい魔族を見つけておきながら
   そのまま置き去りにするのは僕の学者精神が許しません」

学者「ですから、勇者くんに預かっていてもらっておいて、
   時々でいいので僕の所へみせに来てもらえませんか?」

勇者「こ、困りますよ! 俺もこれから出兵の準備はじめないといけないんですから」

学者「出兵……ああ、魔王討伐の」

勇者「ええ。その斥候を任されているんです。だから――」

学者「斥候、なるほど。でしたら、その出兵までの間で構いません。
   まだ、勇者くんの出番まではしばらくは時間があるでしょうから」

勇者「なんでそんなこと?」

学者「実をいうとですね。僕がここにいるのはそれに関係しているんです」

勇者「え……!」

学者「実はこの調査も国務の一貫でして。
   話していいかわからないですが……まあ、僕は軍人じゃないのでいいでしょう。
   守秘義務も…特に話すなとも言われてませんしね」

学者「どうやら、国王様は、最初の進軍を旧東国に設定するようです。
   ずばり、目的は旧東国の奪還。ここら辺一帯の魔族の掃討戦になるでしょう」

錬金術師「それで魔族の生態調査をしていたんですか」

学者「ええ。先ほどの手紙も、帰還してレポートを迅速に提出せよとのことでした」

勇者「旧東国をベースキャンプにするつもりってことか……
   たしかに中央国国内で陣営を構えるよりは、国民への被害は少なそうだな」

学者「勇者くんの任務は斥候でしたよね?」

勇者「え、ええ」

学者「軍のことに関してはそれほど詳しくはないですが、
   この奪還作戦に際しての事前調査を今行っているので、斥候はおそらく必要ないでしょう。
   おそらく状況確認の早馬程度のはず」

学者「それに、連合軍ですから調練にも時間がかかるでしょう。
   早くてもひと月、遅ければ3か月程度はかかると僕は読んでいますが」

勇者「まあ、でしょうね。調練以外にも事前の作戦指導もありますし」

学者「勇者くんの出番はそのあと。
   旧東国が奪還されたと知れれば魔王軍も軍編成をし、全面衝突といったところですよね」

勇者「まあ、たぶん。俺もまだ詳しい作戦を聞かされていないのでなんとも言えないですけど」

学者「ですから勇者くんの出撃まではタイムラグがある。
   その間だけでいいのです。お願いします」

???「みゅみゅう! みゅうみゅう!」

学者「彼女も懐いていることですしね」

勇者「うーむむむ……」

学者「もちろん、彼女にかかる費用はすべて僕が支払います。
   それとは別に報酬も支払います」

学者「斥候の任務に差し支えない程度でいいんです。
   3日……いえ、1週間に1度僕の所へ彼女を連れてきてくれるだけで結構です」

学者「どうか、お願いします」

勇者「わ、ちょ、そんな頭なんて下げないで下さいよ!」

錬金術師「別にいいんじゃなーい?」

勇者「お前、他人事だと思ってなぁ……」

???「みゅうみゅみゅみゅう!」ヨジヨジ

???「みゅう!」グイッ!

勇者「いだだっ! よじ登ってくるな! 髪引っ張るな!」

学者「どうか」

勇者「うぐぐぐぐ」

学者「……」

勇者「わかりましたよ! わかりました! 頭あげてください!」

学者「ありがとうございます」

???「みゅう! みゅう!」

学者「ふふ、その子も喜んでいるみたいですね」

勇者「まったく、手紙を届けに来ただけのつもりが…」

勇者「特別なことはしなくていいんですよね?」

学者「ええ。時々僕の所へ連れてきてくれるだけで結構です」

勇者「ベビーシッターの勇者とか前代未聞だ……」

錬金術師「あら、あたしは戦争なんて血なまぐさいことよりはいいと思うわよ?
     ベビーシッター勇者、ぷふっ」

勇者「てめっ、笑いながら言われても説得力ないんだよ!」

学者「とりあえず、名前を付けてみてはいかがでしょう。
   きっと愛着もわきますよ」

猟師「名前ねェ……ゲレゲレとか?」

錬金術師「却下。全然かわいくない」

猟師「嬢ちゃん、怖え顔で睨むなって…」

???「みゅうっ! みゅうっ!」

勇者「んー、ミューでいいんじゃねぇの? みゅうみゅう鳴いてるし」

錬金術師「そんな安直な」

ミュー「みゅう! みゅ! みゅう!」

猟師「でも喜んでるみたいだぜ?」

学者「なるほど、勇者くんはこれを突然変異種としてみたわけですか。
   突然変異種、またの名をミュータント。なかなかセンスのある名前だと思います」

錬金術師「や、そんな深い考えないデス」

勇者「じゃ、ミューってことで。しばらくの間だが、よろしくな」

ミュー「みゅうっ!」

猟師「とりあえず街に戻ろうぜ。やることは終いだろ?
   またアンデットどもが出てくるかもしれねェ」

学者「ええ。そうしましょう」

ミューが仲間になった!

錬金術師「もし、ミューが凶暴な奴なら、先生やられてたわね」

猟師「いうな、考えないようにしてたんだから……」

………
……

――魔王城、玉座の間。

側近「よろしかったのですか? 姫殿下を人間界などに」

魔王「大丈夫だ。今、魔族としての『らしさ』はほぼもっていない。
   害を及ぼさぬ限り、いたずらに狩られるということもなかろう」

魔王「もし生命の危機に陥ることがあれば、魔力核が覚醒する。
   魔力核が覚醒すれば、なにも、問題はない」

側近「そもそも非覚醒状態でも姫殿下の魔力は、すさまじいですからね……」

魔王「おかげで魔力の波導を遮断する衣を着せざるを得なかったわけだが」

側近「急激な成長にも耐えうるように、形状適合型の魔界植物の繊維をつかっていますからね。
   激しい戦闘でもしない限り、しばらくは隠し通せるでしょう」

魔王「一見、無害な魔族に見える。うまくいけば、魔物使いなどという者に拾われる。
   そうでなくとも、擬態性能も成長すれば自ずと自覚し、溶け込んでいくようになるだろう。
   その代り、魔族としての魔力の波長を感じぬゆえに、本能種に狙われるかもしれぬ」

側近「襲われたとしてもあの地帯の本能種であれば、姫殿下の歯牙にもかからぬでしょうが」

魔王「それに問題はそちらではない。問題は…」

側近「人間界への適合、ですか」

魔王「ああ。あの身体はあらゆる環境において適応できる。
   ただ環境に適合できても、人間社会に溶け込むことは少し難しいかもしれぬからな」

側近「しかし今の姫殿下では、人間社会に溶け込んでしまった場合、
   人間の思想に染まるのではないのですか……?」

魔王「それが必要なのだ。そのために、人間界へと送った。
   魔族としての固定観念がないものでなければできないことだ。
   人間が何を考え、何をするのかを我々魔族は知らねばならぬ」

魔王「どのような結論が出ようとも、お互いこの身刻まれた運命を直視せねばならんのだ。
   魔族も、人間もな」

側近「魔王様……」

ようやくミュータント。

………
……


――夜、中央国、城下町、酒場。

がやがやがや…。

勇者「マスター、これ。授受証明書です」

マスター「確かに」

錬金術師「というかせっかくならマスターのお兄さんも一緒に来ればよかったのに」

勇者「しかたねぇさ。調査報告書を早急にだせってことらしいからな」

マスター「ふふ、兄は仕事人間だから」

錬金術師「ま、仕事は達成したし、問題はないんだけど……」

錬金術師「なんでアナタが、ここにいるのよ」

猟師「冷たいこと言うなよ嬢ちゃん。俺も依頼報告しにきたんだからよ」

錬金術師「ああ、そういえば護衛依頼受けてたんだったわね」

猟師「そういうことだ。この書類よろしくな、姐さん」

マスター「ええ、受領したわ」

マスター「……ところで。
     その子どうしたの?」

ミュー「みゅう!」

勇者「あー……ちょっとマスターのお兄さんにベビーシッター頼まれまして」

マスター「え、あ、兄の子供!?」

錬金術師「誤解を招くようないいかなやめなさいよ……。
     マスターが柄にもなくびっくりしてるじゃない」

勇者「どうやら新種の魔族みたいでね。
   マスターのお兄さんは観察してみたいようなんだけども、俺になついてしまって。
   それで代わりにこいつの世話をすることになったってとこっす」

マスター「な、なるほどね。驚いたわ。
     ……魔族ならどうして服とつば広の帽子を?」

勇者「服はもともと見つけた時から着ていたんだけど。
   帽子はこいつ、額に角があるんで目立たないようにさっき買ったんだ。
   おとなしい魔族といえ、こんな街中にいれば嫌悪する人もいるんだろうし」

マスター「確かに、賢明な判断かもね」

ミュー「みゅみゅみゅうっ!」

マスター「ふふ、それにしても、かわいらしいわ」

ミュー「みゅ~!」

ぐぅ~。

ミュー「みゅぅぅ……」

マスター「おなか、空いたの?」

ミュー「みゅう!」

勇者「飯にするかぁ。って、こいつ何食うんだ?」

錬金術師「とりあえず、あたしたちと同じものでも食べさせてみる?」

猟師「魔物のエサかなんかでいいんじゃねェのか」

マスター「生憎ここに魔族用のエサはおいてないわね。
     魔物使いさんたちは基本的にここにまでは、魔族は連れてこないから」

錬金術師「そりゃそうですよね…」

ミュー「みゅー……」

マスター「ちょっと待っててね」

……


マスター「これ、どうかしら?」

勇者「オムレツ?」

ミュー「すんすん……はむ。みゅう! みゅう!」

マスター「ふふ、食べられるみたいね。よかった。これくらいなら作ってあげるわよ」

猟師「うーっし、そんなら仕事も終わったことだし。
   どうだ、勇者。一緒に飲まねェか? そいつの飯も兼ねてよ」

勇者「や、俺は酒はやらないんだ」

猟師「いいじゃねェか。酒を飲めない歳ってわけでもないだろ?」

勇者「下戸なんだよ。ミルクでいいなら付き合う」

猟師「お、いいね。そういう頭の柔らかいやつは好きだぜ」

猟師「嬢ちゃんも、どうだ?」

錬金術師「今から帰って作るのも面倒だしね。
     たまには外食もいいでしょ」

猟師「おーし! 酒だ酒だ!
   姐さん、あっこのテーブル借りるぜ。
   酒とーあと適当になんかつまめるもん頼む」

マスター「ええ。錬金術師ちゃんはどうする? 何か飲む?」

錬金術師「あたしもミルクで」

マスター「わかったわ。じゃあ、先に飲み物だけ持っていっておいて。
     食べるものはあとで持っていくわ」

……

猟師「ほれ、お疲れさん。乾杯だ」

かこん。

勇者「ミルクってのもかっこつかねぇけどな」

猟師「いいんだよ。こういうのは酒を飲むんじゃなくて雰囲気を呑むもんだ」

錬金術師「雰囲気を呑むねぇ…」

ミュー「みゅう!」くぴくぴ

猟師「にしても器用な魔族だな。手でコップをもって飲む魔族なんざ初めてだ」

錬金術師「ていうか、ミルクでよかったのかしら。おなか壊したりしない?」

猟師「わからねェ。魔族が何食って飲むかなんて気にしないからな」

勇者「ヒト型の知性種ならこんなかんじで食事するんだろうけど。
   そもそも知性種の食事風景とかみたことないからわからん」

錬金術師「本能種は動物よろしく食い荒らすだけだしねー」

猟師「まさか護衛任務でこんな土産ができるとは」

錬金術師「そういえば、なんであなたが護衛してたの?」

猟師「うん? なんでって、いっただろ。
   学者先生が国務でその護衛依頼がギルドに回ってきたからだって」

錬金術師「普通そういうのって国から派遣された護衛がつくもんじゃないの?
     国務なんだし」

猟師「いや、むこうでギルド登録証みせただろ?」

錬金術師「え? どういうこと?」

猟師「…おい、勇者。嬢ちゃん大丈夫か?」

勇者「悪い。こいつ引きこもりで世間のことに疎いんだ」

猟師「そうか……大変なんだな、嬢ちゃんも」

錬金術師「あ、憐れんだ目で見るないでよっ! 
     それに引きこもりじゃないからっ!」

勇者「いいか、ギルドと国ってのは持ちつ持たれつの関係だ。
   国営ってわけじゃないが、ギルドの運営には国からカネもでるし、
   今回みたいにギルドが国からの依頼を直接受けることもある」

勇者「ただ、誰にでも国からの依頼が回されるわけじゃない。
   ある程度実績を重ねて、かつ信頼のおける人にしかギルドは依頼公開をしないわけだ」

猟師「そこで関係するのがギルドランクだ。
   依頼を忠実にこなしていくと、より多くの依頼を受けることができるように格上げをしてくれるってわけだな」

勇者「このギルドランクによっては国境をそのギルド登録証を見せるだけで通過できたりもする。
   意外とバカにできなんだ」

錬金術師「依頼をこなしていくだけでいいの? それだと、悪い輩も混じりそうだけど」

猟師「もちろんランクアップに際して、簡単な諮問審査もあるぞ。
   山賊まがいの傭兵稼業をしてるやつはここで引っかかる」

猟師「ちなみに、俺のランクはシルバーだ。依頼自体はブロンズランクから受けられたんだがな」

錬金術師「……それって、すごいの?」

勇者「上から二番目だな。ほとんどの依頼を受けられる」

錬金術師「へぇ」

猟師「どうだ、見直したか?」

錬金術師「残念ながら、ピンとこないのよねぇ」

猟師「……マジか」

勇者「引きこもりだからな」

錬金術師「ひきこもりゆーな!」

勇者「ちなみに、ギルド登録証のランクは下から、
   ホワイト、ブルー、レッド、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド……あとは例外のプリズムだな」

猟師「ギルド証の枠淵の装飾は、本物の銀を使ってるんだぜ。
   ゴールドともなると、そら煌びやかだ。すげェだろ?」

錬金術師「ふーん」

猟師「あれ!? 驚かないのか?」

錬金術師「別に、金くらいねぇ…」

勇者「(こいつ、金なら錬金できるしなー…)」

猟師「勇者、嬢ちゃんをしっかり教育しといたほうがいいぞ。
   モノの価値がわかってない。いつか悪い男にだまされる」

錬金術師「うっさい!」

……


マスター「はい、おまたせ」

猟師「おう、姐さん。待ってたぜ」

勇者「やけに料理の量が多いんだけど……」

マスター「この子がどれくらい食べるかわからなかったから」

ミュー「みゅう! みゅ!」

マスター「ふふ、好きなだけ食べてね。
     お代は兄につけておくから」

猟師「よーやく、飯だ飯だ」

錬金術師「いただきまー……ん?」

猟師「今日の糧へ、感謝を。
   明日の我が身へ、誓いを。
   すべての命へ、祝福を」

勇者「食前の祈りなんて殊勝だな」

錬金術師「でも、今の教会のやつじゃないわよね?
     教会のは、天にまします我らが神よーってやつだし」

猟師「ん? ああ。そりゃな。猟師特有のもんだ」

猟師「俺ら猟師は特に、他の命に生かされている。
   だから、糧となるものに感謝を捧げ、我が身へ生かすことを誓い、
   命が他の命へとつながることを祝福するのさ」

勇者「ほお」

猟師「いっても、俺は博愛主義者じゃねェし、無暗な殺生をどうたらともいう気はねェ。
   耳元で蚊がとんでりゃ潰すし、襲ってくる奴らには容赦しねェしな」

猟師「ただ、それは他の動物もそうだ。
   不愉快なら排除しようとするし、縄張りを犯してくるなら当たり前のように叩き潰す。
   それが自然の摂理ってもんだろう」

猟師「だけど俺たち人間は、他の命ってもんを認識できる。
   他の命に生かされていることを知ることができる」

猟師「だから、祈りをささげるのさ。
   他の命に生かされていることを忘れないためにな」

すべてモンハンのせい

猟師「はっきり言っちまえば猟師連中の自己満足にすぎないんだがな。
   他の動物からすればただ理不尽に殺されることに変わらんわけだ」

猟師「だからってわけじゃないが、俺は動物に殺されるなら仕方ないと思っている。
   俺の命がほかの糧になるなら猟師としては本望だ」

猟師「もちろん死にたがりってわけじゃないからな?」

錬金術師「わかってるわよ。
     でも、ちょっと特徴的かもね」

ミュー「みゅう?」

猟師「おっと、飯どきにガキに聞かせるような話じゃなかったな。
   目の前に飯があるんだ。冷めないうちに喰うのが礼儀ってやつだな」

錬金術師「ええ、いただきましょう。感謝をこめてね」

猟師「ははっ、そうだな」

……


ミュー「みゅみゅみゅう」ぱくぱく

猟師「よーくうなこいつ。姐さんが用意したモンほとんど消えちまうぞ」

錬金術師「身体の割にはよく食べるわねぇ」

勇者「人間と体構造が違うのは当然として、食欲は魔族ってこんなもんなのかな。
   身体維持の燃費も違うだろうしなぁ。なかなか興味深い」

錬金術師「勇者、なんかマスターのお兄さんみたいな顔してるわよ」

勇者「……ま、考えるのは俺の仕事じゃないか」

猟師「そういやよ、今更だがお前さんたちの関係ってなんなんだ?
   恋人か?」

錬金術師「こ、恋人なんかじゃ――」

勇者「幼馴染なんだ。同じ孤児院で育った」

猟師「……孤児?」

勇者「わかりやすいように少し丁寧に話そうか。
   18年前に一度魔界遠征があったのは知っているか?」

猟師「ああ、俺もガキだったからそこまではっきり覚えているわけじゃねェが。
   旧東国から逃げ延びた者を中心に組んだ報復戦だったが大敗走を喫したってやつだろ?」

勇者「それだ。中央国と南国が旧東国から逃げ延びた人々を主立ってかくまっていたわけだが
   兵士の多くは中央国になだれ込んできた」

勇者「魔族にとっては人間の戦争協定なんて関係ないからな。
   軍人だろうが民間人だろうがお構いなしに虐殺された」

勇者「だからだろう。旧東国が滅ぼされてから12年たっても魔族に対する憎しみは消えなかった。
   いや、時間が経つにつれて憎しみが増大されていってしまったのだろうな」

勇者「それに12年たったことで、旧東国の人間もある程度中央国での発言権を持つようになったため
   その報復戦が、計画されてしまったんだ」

猟師「まァ……旧東国の国民感情を考えると無下に断りにくいかもなァ」

錬金術師「たしか、国王様ご自身はかなり消極的だったのよね」

勇者「そうだな。戦力差を考えても、勝算はかなり薄い。目的自体も『魔族への復讐』以外にない。
   もし勝ったとしても、特段となにか利益をもたらすわけでもなかったからな」

勇者「だけど、その報復戦を計画した高官――こいつは中央国の人間だが。
   そいつが『旧東国の兵士を中心に部隊を組む』といった提案をしたんだ」

勇者「旧東国の兵士は魔族に対する怨嗟に満ちていて、判断力が鈍っていたのかもしれない。
   この提案に対して旧東国の兵士は諸手を挙げて賛同した。捨て駒にすると言われているようなものなのにな」

猟師「ふぅむ」

勇者「魔族への報復戦に対して、旧東国の兵士の熱気は加熱する一方で、
   なかなか決断を下さない国王様に業を煮やしてか、半分暴動じみたことも起きだした。
   そこで国王様は仕方なく、報復戦に乗り出すことにしたんだ」

勇者「もちろん、旧東国の兵士だけでは戦力が十全といえるわけもない。
   そこで、いくつか中央国からも派兵をすることになった」

勇者「その中の一人の兵士が俺の親父だったわけだ」

勇者「だが報復戦の結果は知ってのとおり、大惨敗だ。
   魔界に到達することもなく、魔界につながってると言われている極東の孤島にもたどり着けずの敗走。
   報復どころか待っていたのは、大量の死者を出しながら魔族に追われながらの逃亡劇」

猟師「それってェのは、つまり……お前の親父さんは」

勇者「ああ、最後の最後、敗走戦のなかで戦死したよ。
   不幸なことに剣の腕は評価されていたみたいでな。とある中隊の隊長を任されていた。
   敗北が決定して、撤退する際のしんがりを俺の親父が率いる中隊が務めたらしい」

勇者「結果中隊は全滅。中央国に帰還できたのは、たった2人。
   片腕をなくしながらボロボロになった親父と、その親父が守った中隊最年少の少年兵士」

猟師「……! それは」

勇者「親父は、そのあと間もおかずこと切れたそうだ」

勇者「母さんも、その知らせを聞いた後心労と過労で倒れてな。
   そのまま帰らぬ人となったよ」

勇者「それで孤児院に引き取られたってわけだ。
   そこで出会ったのがこいつなんだ」

錬金術師「あたしは、勇者みたいな劇的な理由はないんだけどね」

錬金術師「生まれた時からずっと孤児院にいたし。
     なんか孤児院の前に捨てられてたんだってさ」

猟師「そうか……なんか悪ィこときいちまったな」

勇者「はは。そんなことないさ。
   俺は親父を誇りに思っているし。孤児院は孤児院で楽しかったからな。
   母さんを助けられなかったのは、悔しいけどな」

錬金術師「そうね。あたしも孤児院に悪い思い出はないわ。
     院長先生もいい人だったし、きっとアナタが思っているよりは孤児院って皮相的なイメージとは違うわよ」

猟師「ああ、お前らの話し方を見ていればなんとなくわかる」

勇者「んで、ある日、俺が勇者の血をひいてるってことが分かってからは
   国営の擁護施設に移されて剣術の指南や戦闘に関する修行をしてもらったりしてたんだが。
   数年前に冒険者のギルドに登録してからは、無事独り立ちして生計立てたりしているわけだ」

錬金術師「あたしも、勇者が孤児院を出るときに、一緒に施設に誘ってくれて。ついて行ったんだ。
     そこで勇者が剣術を教えてもらっている間に、学問を教えてもらってね。
     その知識を生かして今は錬金術師として暮らしてるのよ」

猟師「ってェことは、勇者の剣術は宮廷剣術ってわけか?」

勇者「いや、宮廷剣術じゃない。俺の剣の師匠は俗世が嫌いでな。人里離れたところに住んでいたんだが。
   国王様が頼み倒して出向してきてもらっていたらしい」

猟師「そうだろうな。見た感じ、完全に戦闘特化のモンだったからな。
   相手を威圧する荒々しさを持ちながら、確実に正確に相手を仕留めることだけを考えた動きだった」

猟師「剣筋の綺麗さだとか、礼節を重んじるだとか、相手の動きに合わせるだとか、そういうもんじゃねェ。
   ただ一直線に命を刈り取る攻撃って印象だ」

勇者「ああ……修行中何度殺されるかと思ったか……」

錬金術師「勇者、顔真っ青よ?」

猟師「手ェ、震えてんぞ」

勇者「思い出したら具合悪くなってきた……」

錬金術師「吐く前に、トイレいってきたら?」

勇者「そうする……」

錬金術師「まったく」

猟師「……」

猟師「なあ、あいつが勇者ってことは親父さんも勇者の血を引いていたのか」

錬金術師「うん? 違うわよ。
     勇者から聞いた話だけど、勇者のお父様はただの一般人。
     お母様のほうが勇者の血を引いていたみたい」

錬金術師「兵士になる人は必ず聖剣を握らされるらしいからね。
     お父様は反応しなかったみたいよ」

錬金術師「お母様が勇者の血を引いてるだろうってことも、
     勇者が聖痕を浮かび上がらせたからわかったようなものだしね。
     確認する前に、亡くなっちゃっているから」

猟師「……そうか」

錬金術師「それに勇者曰く、どうも勇者の力は男じゃないと発動しないとか。
     伝承にそう書かれているんだってさ。
     だからもし、勇者のお母様が聖剣を握っていてもわからなかったでしょうね」

猟師「勇者ってもの複雑なんだな」

錬金術師「まったくよ。勇者なんてわからなければよかったのに」

錬金術師「あいつが勇者ってわかっちゃったから魔王討伐なんて任されるし。
     それに加えて斥候部隊? だっけ。そんなのもさせられるみたいだし。
     それにあたしも巻き込まれるしさ」

猟師「斥候部隊?」

錬金術師「ええ。魔王討伐軍のね。
     あたしはその勇者の部隊の巻き込まれ1号ってわけ。
     今度魔王討伐軍本隊の募兵もあるみたいよ、興味があるなら応募してみたら?」

勇者「あー……結局気持ち悪くなっただけで吐けなかった」

錬金術師「あら、お帰り」

猟師「おう。勇者。決めたぞ」

勇者「どした」

猟師「俺も、お前のとこの斥候部隊に混ぜてくれ」

勇者「おおう、いきなりどうした。錬金術師が話したのか?」

錬金術師「ええ、ついさっき」

勇者「……今日の戦闘をみる限り戦力的には問題はないが。
   斥候だぞ? 死ぬ可能性も決して低くない。その代り報酬は弾むけどな。
   金以外で魔王討伐軍に参加したいだけなら、本隊のほうがいいと思うぜ?」

猟師「いや。ぶっちゃけ魔王討伐はさして興味はねェ。
   俺が死ぬことがあれば、それは自然の摂理だ。怖ェが、受け入れられる。
   金もあれば困らないが、現状生活に困窮してるわけでもねェしな」

猟師「俺が興味があるのはお前らだよ。
   特に、勇者」

勇者「俺? 悪いが俺は異性愛者なんでな。
   同性愛的なアレならお断りだ」

猟師「ちげェよ! なんでそうなる!?」

猟師「俺は単純にお前がどこまで勇者になれるか見てみたいんだよ。
   お前の親父さんがまごうことなく勇者だったように」

勇者「……それだけか?」

猟師「ああ。それだけ――強いて言うなら、そうだな。
   お前との連携、悪くなかった。共闘も面白そうってところだ」

勇者「くくっ、そうか……猟師、お前。馬鹿なんだな」

猟師「なにをぅ!?」

勇者「だが、俺がほしいのはそんな馬鹿だ。
   こちらこそ、よろしく頼む。心強い弓兵がいてくれるのは助かる」

猟師「ああ、よろしくな」

錬金術師「やれやれ、変な部隊になりそうね……」

勇者と猟師の間で固い握手が結ばれた…。

猟師が仲間になった!

猟師「さて、話もまとまったところで飯を……」

ミュー「けぷぅ」

猟師「って、なんもねェ!?」

錬金術師「ミューが食べちゃったの? どんな胃袋よ……」

勇者「やっぱり魔族ってこえぇな」

――新たな仲間を加えて、夜は更けていく……。

とりあえずこんなところで

――翌朝、中央国、城下町。

錬金術師「……それで、なんであたしは今日も呼び出されてるわけ?」

ミュー「みゅうっ!」

勇者「もうパーティ組んだんだから、一蓮托生だろう?」

錬金術師「せっかく資金あるんだから、出撃までにできる限り実験して
     経過をまとめておきたいんだけど」

勇者「まだ時間あるから、安心しろって」

錬金術師「それに一蓮托生とか言っておいて、猟師がいないんですケド」

勇者「ああ、あいつは……」

――――

猟師『今日は猟師のほうの仕事があるんでね、悪いが一緒に行けねェ』

――――

勇者「だとよ。だから今日は猟師はいねぇ」

錬金術師「じゃあ、あたしもいいじゃない」

勇者「ミューの相手は俺一人じゃ無理だ……。
   何していいかわかんねぇ。相手をしてやってくれ」

錬金術師「帰った後なにかあったの?」

勇者「ああ、寝かせようとした俺のベッドに潜り込んできてよ」

錬金術師「……アンタ、変なことしてないでしょうね?」

勇者「してねぇよ! ロリコンじゃねぇし、そもそもコイツ魔族だろ!
   ……ミューは一見小奇麗だけど、結局は野生の魔族だから汚れもついてるだろうし。
   一遍湯浴みさせようとしたんだよ」

錬金術師「してるじゃない、変なこと」

勇者「やましい気持ちは微塵もねぇって!
   ……それで、服を脱がせようとしたら思いっきり抵抗されて」

錬金術師「そりゃ、女の子の服を無理やり脱がせようとしたら、嫌がられるに決まってるでしょうよ」

ミュー「みゅう! みゅう!」

錬金術師「そうよねー、ミュー」

勇者「女の子ってなぁ…。
   ま、幸い夜行性じゃなかったのはよかったよ。
   すぐ寝てくれた、俺のベッドをしっかり占領してだけど」

錬金術師「なぁに? だから寝不足ってわけ?」

勇者「いや、そんなことはないぞ。
   剣の修業期間中はぶっ倒れるまでやって起きたら即稽古だったからな。
   下が硬いところで寝るのは慣れてるし」

勇者「ギルドの仕事で野宿もざらだしな。
   風雨がしのげる壁と天井があれば十分だ」

錬金術師「……案外タフな生活してるのねぇ」

勇者「寝るには寝られたんだが……。
   ただ早朝には、みゅうみゅう鳴きながら、俺の髪引っ張って叩き起こされるし、
   常にこんな感じで引っ付いてくるし。俺だけじゃ相手は無理だ……」

錬金術師「勇者にベビーシッターは荷が重いわね」

勇者「魔王討伐よりも無理難題かもしれん」

錬金術師「って。そんな話をするためにこんな朝早くから呼び出したわけじゃないでしょ?」

勇者「あ、ああ。もちろんな。ちょっと南国まで脚を運ぼうかと。
   その移動の道中、一緒にミューの相手をしてくれ」

錬金術師「南国ぅ? なんでまた」

勇者「まだ傭兵がここに集まるまでは時間かかるだろうしな。
   マスターは早くて3日とは言ってたけど、まあそんなうまい話はないだろうし。
   1週間くらいはかかるんじゃねぇかな。その間にほかのメンバーをそろえたいんだ」

錬金術師「南国っていうと、魔法師?」

勇者「正解」

錬金術師「確かに南国は魔法大国だからね。優秀な魔法師は揃っているでしょうけど」

勇者「共立魔王討伐軍召集が発布されたら大半のやつは、
   そっちに士官ないし募兵のほうへいっちまうだろ?
   その前に引き入れておかないと」

錬金術師「でも魔法師がそんな話に乗ってくるかしら」

勇者「まあ……なあ」

錬金術師「あの人ら、プライドが高いことで有名よ?」

勇者「魔法を使えるだけでもエリートだからな。
   不遜になるのも仕方がない」

錬金術師「それに、疑似魔法使ってるように見えるみたいで
     あたしは魔法師から目の敵にされてるから」

勇者「ああ……魔法は魔法師だけの聖域みたいに考えてるからなぁ。
   そういや、宮廷に学士として残らなかったのも、そんな理由だっけか」

錬金術師「そんなところ。
     正直あたし自身がなにか言われても全然問題ないんだけど
     師事した先生たちが悪く言われて肩身が狭くなるのは心苦しいからね」

勇者「まさか先生たちも、教え子がこんな風になるとは思わんだろう」

錬金術師「こんな風って……」

勇者「だが、言わなきゃわからんわけだし、南国にお前のこと知ってる人なんかいないだろうし。
   変に警戒もされないだろ」

錬金術師「それもそうね。ま、いいわ。あたしも魔法鉱物の補充に行きたかったしね。
     ちょうどいい機会だと思っておくことにする」

錬金術師「それに勇者が交渉してくれるんでしょ? 部隊への勧誘は」

勇者「ああ。もち」

錬金術師「んじゃ、あたしはミューのお世話とお買い物でもしてましょうかね~」

勇者「それを頼みたかったんだ。
   俺が魔法師と交渉をしている間に、ミューの世話を頼む」

錬金術師「ええ。わかったわ」

錬金術師「……でも、どうせ手分けするなら、
     あたしが医術師でも探したほうが効率よくない?」

勇者「医術師か。そっちは猟師のほうに頼んでる。
   あいつ、どうも北国のほうへ行ったみたいでな。
   条件をクリアしたやつがいたら連れてきてくれって言っておいた」

錬金術師「北国か、医術先進国だしね。
     医術師になるなら一度は北国に留学しろともいわれるレベルよね」

錬金術師「でも、条件って? あの忠が尽くすとかどうとかってこと?」

勇者「それもそうなんだけど。ただ俺がその場にいないから、
   最終的な判断は俺が会ってからになるけどな」

勇者「それに加えて、医術の腕が確かかどうか確認してもらうことと
   猟師が気に入った奴を連れてきてくれって言っておいた」

錬金術師「なによそれ……」

勇者「フィーリングは大事だぞ?」

錬金術師「大事はいいけど、昨日知り合ったばかりの人間にそんなこと任せて大丈夫なの?」

勇者「んー、まあ。大丈夫だと思うぞ」

錬金術師「それもフィーリング?」

勇者「フィーリングもそうだけど。
   それ以上に、あいつ……たぶんだけど元々王宮に仕えてたやつだと思う。
   だから、信頼していいんじゃねぇかな」

錬金術師「え、えっ!?」

勇者「猟師が使ってた弓術あるだろ?」

錬金術師「あの、5本の矢を同時に射った技のこと?」

勇者「そうそう。あれ、水平拡散射法っつうんだが。
   水平拡散射法は、中央国の王国騎士、とりわけ上級弓術士が使う独特な射法なんだ」

錬金術師「へぇ。あんなすごい技使えるのが何人もいるんだ」

勇者「いやぁ、何人もはいない。あの射法は相当難しい技術らしくてな。
   その証拠にまず他国には、秘匿技術でないにもかかわらず、この射法ができるやつがいねぇ。
   ちゃんと技術を習得した人に師事しなければ撃てない。見よう見真似では、無理だな」

勇者「俺も王宮で剣の修業をしているときにいっぺん見せてもらっただけなんだが。
   俺の目の前で射ってくれた人も3本が限界だった」

錬金術師「じゃあ、5本って」

勇者「相当な腕前の弓術士だ。
   もしかしたら最上位クラスの弓の使い手……かもしれん」

錬金術師「猟師からそんな感じは受けなかったけど……。
     それに王宮に仕えていた騎士なら、なんで今猟師なんてやってるのよ。
     もっと別の稼ぎのいい仕事もあったでしょうに」

勇者「さぁな。あいつから話すまでは聞く気はないからな。
   一生わからんかもしれん」

勇者「だが、見る人が見れば一発で身元がわかっちまうような
   あの技を、惜しげもなく見ず知らずの俺たちの前で見せてくれた。
   その上で、仲間になってくれたんだ」

勇者「だからきかれなきゃ話さないってスタンスなだけで
   身分を偽ってるわけでも、隠しているわけでもないだろうな」

勇者「だから、医術師の人選もしっかりやってくれると思う」

錬金術師「ま、勇者がそういうなら、あたしは何も言わないわ。
     部隊の隊長はアンタだしね」

勇者「医術師はパーティの命綱だからな。
   それを適当に選んだら猟師自身も死に直結することになるし。
   魔族側のスパイでもない限り、まともな人を選んでくると思うぞ」

錬金術師「……なぜか知らないけど、そこはかとない不安を覚えたわ」

勇者「今は、そこを心配してもしかたない。
   もしダメなら俺が直接人選しに行くさ。
   俺たちが今すべきことは、魔法師を引き入れること」

錬金術師「そうね。じゃあ、さっそく行きましょう」

勇者「ここから南国の王都にまず向かう。
   南国の国王に挨拶をして、南国の魔法師を部隊に入れることを承諾してもらって
   その許可状をいただかないと」

錬金術師「南国の王都ね。ここからだと、馬車で2日あればつくかしら」

勇者「大体そんなところだな。今から出て2日後の夜には宿につけるとは思う。
   馬車は、街のはずれに待機してもらっているように昨日のうちに頼んでおいた」

錬金術師「ん。準備に抜かりはないわね」

勇者「1週間後にはここに戻ってきて傭兵の集まり具合を見ないといけない。
   マスターには、万が一傭兵が早めに来た場合は待機してもらうように伝えたし、
   傭兵たちの滞在費に充てるように資金をいくらか渡したから大丈夫だとは思うが……」

勇者「せっかく集まってもらって、あまり待たせるのも悪いし。
   もし飛兵がいて、長く待たされたからってへそ曲げられても困るしな」

錬金術師「ってことは、往きかえりで最低でも4日は使うから、
     南国に滞在できるのはせいぜい2日ってところね」
     
錬金術師「3日間滞在してギリギリまで粘ってたらこっちに戻ってくるのが夜になるし。
     夜遅くに傭兵たちと面会するわけにもいかないでしょう?」

勇者「まあな。だけど2日かぁ……」

錬金術師「うーん、思ったよりタイトな日程になりそうね」

勇者「俺らが馬に乗っていけば、もう少し早く着くんだろうけど」

錬金術師「乗馬はできるけど、長距離移動はあたしできないわよ」

勇者「だよなぁ。んなら、少しでも急がないとな」

錬金術師「ええ」

………

――道中、馬車の中。

錬金術師「わかってたけど、この移動の時間がもどかしいわね」

勇者「仕方ない。これが今の俺たちの最高速度なんだ」

ミュー「みゅうっみゅう!」

勇者「ミューも馬車珍しいみたいで楽しんでるし、いい機会だよ」

錬金術師「普通の旅行ならいいけど……」

御者「おや、旦那さま方、旅行じゃないんですかい?
   南国の国境までなんて言うからてっきりマリンリゾートへの観光かと思ったんですが」

錬金術師「あら、ごめんなさい。うるさかった?」

御者「いえいえ。あっしこそ口出しして申し訳ねぇ。
   ただ聞こえてきたのと、どうしても移動中は退屈でして。
   ついつい、口が出ちまうんでさぁ」

勇者「マリンリゾートじゃなくて、王都に用事があるんだ」

御者「ほお。てっきりご家族で旅行かと。
   お子さんもつれてるみたいですし」

錬金術師「ぶっ! あ、あたしたちは家族じゃないってば!」

御者「そうなんですかい? てっきりご夫婦かと」

勇者「……旅の仲間です。こいつはベビーシッター頼まれまして。
   それで知人から預かってるだけなんです」

御者「へぇ。そうだったんですかい。
   こりゃ込み入ったことをお聞きして」

勇者「や、大丈夫す」

勇者「(露骨にうろたえすぎだ馬鹿! 変に疑われたらどうすんだ)」

錬金術師「(わ、悪かったわよ!)」

御者「日が落ちる頃には国境の関所にはつけると思うんで。
   国境付近には宿屋が充実してるんで、困るこたぁないと思いやすが。
   ちいせぇお子さんがいるんで少し急ぎまさぁ」

勇者「ああ、そうしてもらえると助かります」

……


錬金術師「街道も整備されていて、馬車の旅もそこそこ快適ね」

勇者「ああ、魔族もここらにはいないしな。
   のんびりくつろいでいけるよ」

錬金術師「南国もこんな感じで進んでいけるといいわねぇ」

御者「魔族のほうは問題ないと思いますがね。
   どうやら、南国のほうでは少し盗賊ないし山賊がでるって噂でして」

錬金術師「盗賊?」

御者「ええ。国境を越えた先。王都へ続く山中に出るって話でさぁ」

錬金術師「治安があまり良くないのかしら」

御者「王都や、デカい街、あとはマリンリゾートなんかは
   かなりしっかり警備されていて問題ないみたいですがね」

勇者「少し外れると、ってことか」

御者「ええ。ですから南国に入ってからは少し警戒した方が賢明ですぜ」

勇者「ふぅむ」

錬金術師「ありがとね、御者さん」

御者「いえいえ。もうすぐ国境に着きやすんで、もうしばらく辛抱してくだせぇ」

勇者「とりあえずは、着いたら宿探しだな」

ミュー「くーくー……」

錬金術師「あら、ミューも寝ちゃったわね」

勇者「移動だけでも疲れるからな。快適に寝られるところを探そう」

御者「よろしければ、あっしの知り合いの宿を紹介しやすぜ。
   値もそこそこで、清潔と快適さが売りの宿でして。
   小さなお子さんがいても安心して眠れるでしょう」

勇者「助かります」

御者「へへ、あっしにも紹介でマージンが入るんでね」

錬金術師「まったく商売上手ねぇ……」

今日中にもう一回投稿したい(願望)

………
……


――中央国、南国国境付近、夜。

御者「では、あっしはここで。この宿が知り合いの宿でございまさぁ。
   今、3名様ぶん部屋とってもらいやしたので」

勇者「ありがとうございます。
   これ、運賃です」

御者「へへ、毎度。それでは」

ぱからぱからぱから……。

錬金術師「御者さん、いっちゃったけどこれから中央国の城下町まで戻るのかしら」

勇者「んなわけねぇって。こーゆーとこには御者用の宿舎があるの」

錬金術師「なるほどねぇ」

勇者「宿もとってもらったし、さっさと今日は寝ちまおう」

錬金術師「そうね。外観は綺麗そうだし、部屋もそれなりに期待できるかしら」

――宿。

勇者「ふいー」

ミュー「みゅぅ」

錬金術師「あ、の、ねぇ」

錬金術師「なんで全員同室なのよ!」

勇者「しかたないだろー、他の部屋もいっぱいみたいだし。
   それでもちゃんとベッドも3つあるわけだし。
   別に同じベッドで寝ろって言われてるわけじゃねぇんだから」

錬金術師「(いびきとか寝言とか……もしもしてたら、って考えると…!
     聞かれたら恥ずかしいの!)」

錬金術師「乙女心わかれバカ!」

勇者「わけわからん中傷はさすがに傷つくぞ?」

錬金術師「うっさい!」

勇者「とりあえず、さっさと湯浴みしてこい。
   その間にミューを寝かしつけておくから」

ミュー「みゅぅぅ」

錬金術師「……わかったわよ」

ばたん。

勇者「よーし、ミュー。寝ような」

ミュー「みゅ」

――浴場。

ちゃぽん。

錬金術師「ふー……やっぱりお風呂はどこで入っても気持ちいいわね」

錬金術師「(それにしても当たりね。結構、繁盛してるみたいだし。
     お部屋もお風呂も手入れも行き届いてるみたいだし)」

錬金術師「……」

錬金術師「(これが普通の旅行なら、いうことないんだけどな)」

錬金術師「(普通に旅して、普通にマリンリゾートなんかいっちゃって。
      何の憂いもなく楽しんじゃって……)」

錬金術師「(死が隣り合わせの魔王討伐……本当はすっごく怖い。
      できるなら行きたくない。
      勇者と一緒にいられるならってついてきたけれど)」

錬金術師「(勇者と一緒にいるために強くなった。勇者と一緒にいるために勉強した)」

錬金術師「(だから一緒に今もいられる。だから頼ってもらえる)」

錬金術師「……」

錬金術師「(だけど普通に旅ができたら、どんなによかっただろう)」

錬金術師「(勇者が勇者じゃなくて、あたしも錬金術師なんかじゃなくただの町娘で)」
     
錬金術師「(でも、勇者が勇者じゃなかったら、こんなことにはなってなくて……)」

錬金術師「はあ……喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないや」

錬金術師「それでも、あたしは――」

……

また地味に書いてく予定

――翌日、中央国南国国境。

勇者「んー、よく寝たし体力もばっちりだ」

ミュー「みゅうっ!」

錬金術師「ふあ……」

勇者「なんだ、寝られなかったのか?」

錬金術師「あたしは、もともと夜型なのよ。
     実験してるとどうしてもね」

錬金術師「それに、環境が変わると寝つきが悪いっていうか」

勇者「子供かよ…」

錬金術師「(それに緊張してたし)」

勇者「どした。顔になんかついてるか?」

錬金術師「なーんでもない。
     さ、早く国境抜けちゃいましょ」

勇者「お、おう。そうだな」

――国境、関所。

国境警備兵「次」

勇者「よろしく」

錬金術師「なんかやけに混んでるわね。
     1時間も待たされたし」

勇者「だなぁ」

国境警備兵「旅券は?」

勇者「えーと、はい、これ。2人分」

国境警備兵「……! これは、中央国の勇者殿」

勇者「ええ」

国境警備兵「身分証明は問題ない。後ろの二人は?」

勇者「俺の連れでして。
   これ中央国国王陛下の勅命書」

国境警備兵「みせてもらおう。ふむ……なるほど。
      同行人も勇者殿同様の扱いをするようにと」

国境警備兵「わかった。問題なかろう。
      だが、決まりなので荷物確認を」

勇者「ういっす」

錬金術師「壊さないでよ~」

国境警備兵「ふむ、剣以外に何か武器は?」

勇者「特に」

国境警備兵「……お連れの方のこれは?」

錬金術師「ただの手甲。賊に襲われたらパンチするようのね」

国境警備兵「こんなに幾つも……武闘家? そうは見えないが」

錬金術師「武闘家じゃないわ。ただの護身用」

国境警備兵「……」

国境警備兵「勇者殿、もし出くわしたなら護ってお上げなされ。
      こんなものでは身も守れますまい」

勇者「え、ええ……(錬金術師のやつ、てきとーなことぺらぺらとよくもまあ)」

錬金術師「失礼ねぇ」

国境警備兵「いや、すまない。
      だが、まあ。ただの小手のようだし入国には問題ないだろう。
      そちらの子は?」

勇者「友人の子でね。預かっているんだ」

ミュー「みゅう!」

国境警備兵「みゅう?」

勇者「あ、あはは。変な声出すのに最近ハマってて」

国境警備兵「確かにそれくらいの年ごろは変なことに夢中になるからな」

錬金術師「ははは」

ミュー「みゅう! みゅう!」

国境警備兵「では、お時間を取らせた。
      よい旅を」

勇者「どもっすー」

国境警備兵「ああ、そうだ。
      王都へ向かわれるのならお気をつけなされ」

勇者「山中にでるとかいう賊ですか?」

国境警備兵「どうにも神出鬼没で警備を強化しているのだがな。
      なかなかつかまらんのだ」

国境警備兵「それに明日は魔法師の魔法大会が王都で行われる。
      みな浮き足立っていて、旅人も国民も危機意識が多少緩んでいるのでな。
      おそらくこの機に乗じて出没するであろうと網を張っているが……」

錬金術師「へぇ、魔法大会! それでこんなに混んでいるのね」

勇者「(魔法大会か、都合がいい)」

国境警備兵「南国における年に1度の一大イベントだからな。
      他国からの入国者も多い。とにかく、ご用心を」

勇者「わかりました。ご忠告ども」

……

――南国、王都へ向かう馬車の中。

勇者「賊ねぇ……」

錬金術師「これから山中に入っていくけど襲われないといいわね」

勇者「御者のほうで護衛雇って、馬車と並走してるみたいだし。
   そう手出しはしてこないだろ」

錬金術師「たしかに、襲って怪我でもしたら襲い損だしね」

勇者「よほどの馬鹿じゃない限り、護衛付の馬車なんざ襲わんだろう」

錬金術師「襲うなら無警戒で単独行動の旅人ってところね」

勇者「あとは荷馬車は実入りがいいだろうからな。
   そこらへんだろう」

錬金術師「もし襲ってきたら、ご愁傷さまってところかしら。
     まさか勇者が乗っているとは思わないだろうしねぇ」

勇者「一応警戒しとくけど。
   ま、俺はそんな賊よりも、魔法大会のほうが興味あるな」

錬金術師「王都には魔法師サマが溢れているんでしょうねぇ」

勇者「大会観戦して、良さそうな奴がいたらスカウトだな。
   技量を見せてもらう手間が省けてよかったよ」

錬金術師「魔法大会かぁ。噂だけは知ってたけど見るのは初めて」

勇者「俺もだよ。警備兵の人もいってたけど年に1度だからな。
   狙っていかなきゃなかなか見る機会もないだろうさ」

錬金術師「じゃあ勇者は今回のコレ狙っていたわけ?」

勇者「や、偶然。だって国王様に斥候部隊任命されたの一昨日だぜ?」

錬金術師「グーゼン……もし魔法大会なかったらどうするつもりだったのよ」

勇者「そんときは、南国の国王様に謁見して相談するつもりだった」

錬金術師「半分以上無計画じゃない……」

勇者「しかたないだろ? 南国につてなんかないんだから。
   あるのは国王様の勅命書の効力だけ」

錬金術師「大丈夫かしら……この斥候部隊」

………
……


――南国、王都、夜。

勇者「やー、着いた着いた」

錬金術師「何事もなく着いてよかったわね。てっきり賊が襲ってくると思ったけど」

勇者「そんなホイホイ襲われてたまるかよ……」

ミュー「みゅぅぅ」

勇者「ミューも連日の馬車移動で少し疲れがたまってるみたいだな」

ミュー「みゅみゅ」

勇者「腹減ったのか?」

ミュー「みゅう」

錬金術師「それならまずは宿探しね。
     そこに併設されている食事処でご飯かしら」

勇者「どうも明日の魔法大会に向けて露店が出てるみたいだな。
   晩飯がてら食べ歩くってのは?」

錬金術師「さんせっ。せっかく南国に来たんだし、どうせなら楽しまないとね~」

ミュー「みゅう?」

勇者「ミュー、ここに並んでるお店で飯にしような」

ミュー「みゅう! みゅう!」

錬金術師「うふふ、これも遠征費用としてお金でるのよね?」

勇者「いいけど……あんまり、はしゃぐなよ。
   国王様は、資金に糸目はつけないとは言ってたけどな…」

錬金術師「ミュー。好きなもの食べていいって」

ミュー「みゅ!」

勇者「そっちはそっちで、マスターのお兄さんが泣くぞ…。
   ミュー思いのほか大食なんだから」

……

――翌日、南国、王都。

錬金術師「うう……胃もたれする……」

勇者「あたりめーだ。どんだけ食ったんだよ」

錬金術師「ミューにつられてつい」

ミュー「みゅうっ!」

勇者「反面ミューはいっぱい食べて元気そうだな」

錬金術師「やっぱり魔族って怖いわぁ」

勇者「じゃ、俺は南国の王に謁見してくるから。
   てきとーにミューと休んでてくれ」

錬金術師「わかった。お昼ごろに酒場で落ち合いましょ」

勇者「オーケイ。んじゃ、いったん解散で。
   くれぐれもミューが魔族ってばれないようにな。
   面倒な騒ぎはごめんだ」

ミュー「みゅ?」

勇者「ちょっとだけ錬金術師と一緒にいてくれ」

ミュー「みゅう……」

勇者「だーいじょうぶ。すぐに戻ってくるし、
   ちゃんと錬金術師が面倒見てくれるから」

ミュー「……みゅ」

勇者「よし、いい子だ」

錬金術師「うえっぷ、胃が」

勇者「むしろこっちがこんなんで、大丈夫か……?」

錬金術師「そこの薬屋で胃薬買ってくる…」

勇者「お、おう」

錬金術師「いこ、ミュー」

ミュー「みゅ」

勇者「あーあーふらふらしてら」

勇者「……行ったか」

勇者「さてと。南国の国王様の所へ行きますかね」

――南国、謁見の間。

勇者「(さすが中央国国王陛下の勅命書。
   あっさりここまで通してもらえたな)」

勇者「(ま、4国合同の共立軍だから南国の王が
   あっさり協力するのも当たり前なんだけど)」

勇者「しかし、それよりも……」

勇者「ひえぇ、なんとまあ煌びやかな」

勇者「(中央国とはえらい違いだ。
   国王陛下は、質実剛健がモットーだし、
   こういうところでも各国の特色って反映されるんだなー)」

ギィィィ……バタン。

南王「お待たせいたしました」

勇者「いえ。お忙しいところ申し訳ございません。
   私如きのために、お時間をお作りいただきありがとうございます。
   南の女王陛下」

勇者「(うっは、噂には聞いてたけどすっげー美人。
   世界の美人の三指に入るってのもあながち間違いじゃないかもなー)」

南王「勇者殿。そのような挨拶は不要です。
   あなたは共立魔王討伐軍の要にて最重要の切り札ですから。
   儀礼的な挨拶はすべて省き、端的に御用を申し付けていただいて構いません」

南王「あなたの申し出には、最重要項目として受けるように
   国王間の協定でさだめられておりますので」

勇者「ああ、そうなんですか?」

南王「ええ。ですから無駄な時間はできるだけなくしましょう」

勇者「それでは、不躾ながらさっそくお願いがございます。
   私が斥候の任についていることはご存知かと思われますが、
   その斥候部隊へ、貴国の魔法師を加入させる許可いただきたく存じます」

南王「我が国の魔法師を?」

勇者「はい。貴国の魔法師の技量は、大陸一と名高い。
   斥候を確実なものにするために我が部隊へぜひとも」

南王「引き抜き……というわけですか」

勇者「言い方を悪くすればそうなります。
   しかし、高い技量を持つ魔法師の存在は部隊の生存率を大きく引き上げます」

勇者「ぜひ許可を」

南王「ふむ……よいでしょう。
   魔王討伐のためならば元より断る理由もありません」

勇者「ありがとうございます」

南王「ですが、条件が二つ」

勇者「条件、ですか?」

南王「ええ。一つは、魔法大会の優勝者は引き抜きの許可はできません」

勇者「理由をお聞きしても?」

南王「今魔法大会の優勝者は我が国の魔法師の象徴として、1年間君臨することになっております。
   ですから、すでに魔法師の優勝者を招いて行われる催し物も恒例として計画がされている」

勇者「なるほど。穴をあけることができないというわけですね」

南王「民の憧れを民の近くへみせることで、民は希望を持つ。
   その希望がまた魔法国として南国を強固なものにしていく。
   ですから優勝者は民の近くにおらねばならないのです」

南王「南国の治世のために必要なもの……。
   よって、魔法大会の優勝者の引き抜きは許可できません」

勇者「はい、かしこまりました」

南王「そしてもうひとつ。
   魔法師長の引き抜きも許可できません」

南王「彼は、本隊……とりわけ南国軍を統括する将軍の座についてもらう予定です」

南王「ですから、そちらも許可できません」

勇者「ええ、わかりました」

南王「それと。我が国の魔法騎士を引き抜く場合には、
   必ず魔法師長の許可を得てからにしてください」

南王「最終決定権は中央国国王様がお持ちなっていても、
   軍編成の相談は各国の将軍級と相談なさるはずです。
   そのために、彼も軍の編成を考えているとのこと」

南王「彼の意に沿わない場合、魔法騎士の引き抜きはお諦めを」

勇者「……そちらもわかりました」

南王「わたくしの出す条件はそれだけです。
   あとは勇者殿のお好きなようにしていただいて構いません」

勇者「ありがとうございます」

南王「それでは、許可証をしたためましょう。
   しばらくお待ちください」

とりあえずこんなところで

――南国、城中。

勇者「ふいー」

勇者「(条件もそれほど厳しいものじゃない。
   魔法師も見つけられそうかな)」

勇者「(もともと南国の魔法騎士から引き抜きするつもりはないし)」

勇者「(だけど一応、魔法師長のところへ挨拶へ行ってくるかな)」

……


――南国、城中、魔法師長執務室。

魔法師長「ふむ。話は分かった」

魔法師長「だが、そう簡単に首を縦に振るわけにはいかないことを了承しておいてほしい」

勇者「ええ、わかっております」

魔法師長「基本的に手練れの者は本隊へ従軍をと考えている。
     かといって、貴殿に未熟な者を預けることも叶わぬ」

魔法師長「もし力なきものが貴殿の部隊に追従することになれば、
     本人が命を落とすだけでなく、部隊そのものまで危険にさらしかねない」

勇者「そして斥候が任務をしくじれば、本隊まで危険にさらされる、ってわけですね」

魔法師長「その通りだ。
     貴殿には改めて言う必要もなかったようだな」

勇者「元より、貴国の魔法騎士諸氏の引き抜きは
   魔法師長殿が仰ったことを想定して考えておりませんでしたから」

勇者「(それに南国の魔法騎士が斥候に入ってきても、きっと士気上がらないだろうからなー)」

魔法師長「できれば、戦闘にも長けた優秀な腕の者を紹介してやりたいのだが。
     生憎、魔法騎士を除くと思い当たらんのだ。あとは研究者気質の者ばかりでな」

勇者「はは、お気持ちだけで十分です。
   最初から挨拶だけするつもりでしたし」

勇者「では、自分はこれで。お時間いただきありがとうございます」

魔法師長「ああ、良き者がみつかるように祈っているよ」

――南国、王都、城下。

がやがや…。

勇者「(さーてと、挨拶も終わったし。
   まだ昼まで時間あるな)」

勇者「(ちょろっと、魔法大会の会場でも下見してくるかね。
   たしか昼過ぎに開会だったはずだ)」

勇者「どっかに立て看板は……あったあった」

勇者「(なになに、場所は王城からちょっと離れたとこだな)」

勇者「(んー、ミューもいることだし馬車でも手配しとくかぁ。
   辻馬車は街はずれに確かあったな。ちと遠いが歩くかね)」

すたすた。

勇者「(うーむ。思ったより費用がかさむなー。
   俺と錬金術師二人なら徒歩でもいいんだが。
   ミューを露骨に連れ歩きまわるとバレる可能性あるし)」

勇者「(割と資金潤沢にもらったから遠慮なく使ってるけど、
   これ補充してもらわないと、早めに底をつくかもしれんなぁ)」

勇者「(節約しようと誓いは立てたけど守れそうにないな……)」

勇者「……ごめん、国王様」

どんっ。

???「あたた……」

勇者「わ、わりぃ! 考え事して歩いてて前に注意払ってなかった!
   ほれ、手ぇつかまって」

???「あ、ありがとうございます。
    ボクも本読んでいて、前を見ていませんでしたから。すみません」

勇者「(ああ、この本……魔法師かこの子)」

???「魔法大会のことで頭がいっぱいで……すみません」

勇者「何度も謝らなくていいって。俺が悪かった。
   ……魔法大会ってことは、エントリーしてるのかい」

???「え? ええ。サモナーの部門で」

勇者「へぇ! 君、召喚士なのか!
   まだ若いのにすごいな」

召喚士「い、いえ! それしか適性がなかっただけなんです。
    全然すごいもんじゃないですよ……。他の魔法は使えませんし……。
    どちらかというとエレメントの部門で出たかったんですけど」

勇者「ああ、ウィザード志望だったんだ」

召喚士「ええ。エレメントの魔法は生活とも密接に関係してますからね。
    より人々の暮らしが豊かになるような魔法師になりたかったんです。
    けど……」

勇者「いやいや。サモナーも十分すぎるほど立派だ。確かに戦闘向けの適正だが。
   サモナーは百人に一人くらいしか適性は発現しないっていうじゃないか」

召喚士「あはは、ありがとうございます」

勇者「でも珍しい。普通、基礎訓練のときにエレメント系全般を学んで、
   何年か訓練を積んだのちに適性があるものだけが
   サモナーかウィザードか選ぶことができるって感じだろう?」

召喚士「はは、そうですね。
    でもボクはエレメントの適性がまったくなくて……こんなこと普通ありえないらしいんですけど。
    それで落ち込んでいた時に家族に物は試しといって強引にほかの魔法をやらされて」

勇者「たまたま召喚士としての適性が発見されたのか。
   へぇ、なにがどう転ぶかわからないな」

召喚士「全くです。幸い自分の身体の中にある魔力の潮流と大気中の魔素を感じ取る力はありましたし、
    魔力の放出まではしっかりできたので、魔法師としての最低限の素質はあったみたいですけどね。
    その後に本来あるべき適性や才能はなかったみたいです、はは」

召喚士「でも、今はこうやって魔法師をやっていられる。だから家族には感謝しているんです」

???「おーい、なにしてるの! ついてきてないと思ったら!
    いくよー!」

召喚士「うーん! 今いくよー!
    あ……ごほごほっ。姉上ー!」

勇者「そんなむせて大丈夫か?」

召喚士「あ、あはは、急に大声出したらむせちゃいました」

勇者「ねーちゃんか?」

召喚士「ええ。姉弟で魔法大会に出場するんです」

勇者「魔法師の家系ってわけか」

召喚士「ええ、そんなところですね。
    母も父も、もちろん姉上も、優秀な魔法師なんですよ」

勇者「そうか。なら、その姉上に頑張ってくれって伝えといてくれ。
   俺も見に行くから、魔法大会。一市井が応援してるってな」

召喚士「ふふ、ありがとうございます。
    では!」

勇者「ああ」

たったったった……。

勇者「魔法大会か、楽しみになってきたな」

……


――王都、酒場。

錬金術師「お待たせ」

ミュー「みゅう!」

勇者「おう、飯は頼んでおいたぞ」

錬金術師「さっすが。気が利くわねぇ」

勇者「んで、飯食ったら、魔法大会の会場に移動な。
   辻馬車も用意したからそれに乗ってく」

錬金術師「ん。わかったわ」

勇者「顔色よくなったな」

錬金術師「んふふふ~まぁねぇ~」

勇者「薬しっかり効いたみたいだな」

錬金術師「それもあるんだけど……じゃーん!」

ごろごろごろ。

勇者「うわ、なんだこの量の鉱石」

錬金術師「さすが魔法大国。魔法石のおっきい鉱脈持ってる国は違うわねぇ。
     中央国じゃ考えられないほど値が安いのよ。思わずこんなに買っちゃった」

錬金術師「それにねー、希少魔法鉱石も売っててね。
     南国といえどちょぉっと値が張ったけど買っちゃったぁ、うふふ」

勇者「それで機嫌がいいわけね……」

錬金術師「それと魔法薬に魔法植物もいっぱい買えたし満足満足」

勇者「いっ! その鉱石以外も買ったのか!」

錬金術師「うふふ。それにオカネは遠征費から出るし~。
     ホントもう最高の旅よねぇ」

勇者「あくまで目的は魔法師探しだからな……」

錬金術師「わかってるって」

錬金術師「とりあえずもう魔法薬と魔法植物は宿に預けてあるから、
     あとでこの鉱石も預けに行ってくるわね」

勇者「お、おう……いいけど、帰りどうすんだ。
   馬車がかなり手狭になるぞ……」

錬金術師「荷馬車、オ・ネ・ガ・イ」

勇者「はあ……自分のカネじゃないと思って」

錬金術師「なによー、いいって言ったのはそっちでしょー」

勇者「わかってるって。そういう契約だからそこは渋らないさ」

錬金術師「ふふ、アリガト」

勇者「……」

勇者「(でもやっぱり国王様ごめん……)」

……


――そのころ、中央国では。

王「へっきし!」

大臣「おや。お風邪でも引かれましたかな?」

王「いや、少し南方からカネに関する怖気がしただけだ」ブルル

大臣「……ずいぶん具体的な怖気ですな」

……


勇者「おし、腹ごしらえしたらいくぞ。魔法大会」

錬金術師「おー!」

ミュー「みゅー!」

地味に地味にやってく

次の魔法大会のパンフレットに関しては本編にあまり関係がないので読み飛ばしてもらって構いません。

――魔法大会会場。

がやがやがや……。

錬金術師「うひゃー、すごいわねぇ」

勇者「南国の一大イベントだからな」

錬金術師「それにこの建物も……すごいとしか言いようがないわ。
     円形の建物なんて初めて見たわ」

勇者「ああ、コロッセウムっていうらしい。
   魔法師の研鑽のためだけにつくられた技量を競うための円形闘技場だ」

勇者「建築も一流の魔法師の魔法と一流の建築士の設計によってされているらしい」

錬金術師「はー、とんでもないわね」

勇者「とりあえず、観戦チケットでも買いに行くか」


――魔法大会会場、観戦券売り場。

錬金術師「わかっていたけど、すっごい混んでるわねぇ」

勇者「そろそろ開会式も始まるってのにな」

錬金術師「……今から並んだら開会式に間に合わないじゃない」

勇者「いいんだよ、俺らの目的は魔法師探しなんだから。
   観光じゃないんだぞ」

錬金術師「むう……せっかくなら初めから見たかった」

勇者「また来年でもいいだろ、ほれ。並ぶぞ」

錬金術師「はあ、まるっと開会式は見られないわね」

『皆様。ようこそ、お集まりいただきました』

勇者「お、始まったみたいだ」

錬金術師「うわ、拡声魔法でここまで聞こえてくるのね」

『まず大会委員長、魔法師長のお言葉を賜りたいと存じます……』

勇者「ああ、魔法師長ってこんなとこにもでてくるのか」

錬金術師「なに、知り合い?」

勇者「んや、挨拶に行ってきただけ」

『この世界は魔法なしでは成り立たず、その魔法を極めることこそが……』

錬金術師「退屈そうな挨拶してるわねぇ」

勇者「しっ、結構あの人の崇拝者も多いんだからな。
   あの人に心酔して魔法騎士を目指す人もいるくらいだ」

錬金術師「魔法至上主義者で有名だしねー。
     同じような魔法至上主義者には、たまらないんでしょ」

勇者「仕方ないだろ? この国では魔法の価値観が他と比べて頭一つ飛び出てるんだから」

錬金術師「まあね。ほーんとあたしはこの国に生まれなくてよかったわー」


勇者「まあ、錬金術師は目の敵にされそうな感はあるな」

錬金術師「されそう、じゃなくてされてるのよ」

『この大会では、年齢も性別も身分も国籍も関係ない。
 求められるものはただ一つ、魔法の力のみである。
 存分に貴殿らの研鑽の結果を忌憚なく発揮してほしく思う』

おおぉおぉおおおおおおぉおおぉお!!

錬金術師「熱気がこっちにまで伝わってきそうね」

ミュー「みゅぅ」

錬金術師「ミューもいい加減退屈そうね」

勇者「お、そろそろ俺らの番だぞ」

『最後に、女王陛下から開会宣言を賜りたく存じます』

『これより、第129回南国魔法大会を開会します……』

わー! わー!

受付「はーい、次の人ー」

勇者「はいはい、3枚お願いします」

受付「自由席しか余ってないですけど、いいですか?」

勇者「ああ、大丈夫です」

受付「……もっというと立ち見になると思いますけど」

錬金術師「そんなに混んでるの?」

受付「ええ、毎年当日発券の方は座れないことが多いですから」

勇者「ああ、全然かまわないですよ」

受付「じゃあ、これ。観戦券です。入場口でみせてくださいね」

勇者「りょーかい」

受付「それと、魔法大会のパンフレットです。どうぞ」

錬金術師「ありがとねー」

勇者「パンフレットまであるのか。えーと、なになに……」

――――――

――魔法大会パンフレット――

魔法を知らない方もこれで安心! これさえ読めば魔法大会が100倍楽しくなる!

【TIPS1 魔法について】

●この世界の魔法とは
 人や魔族の発する魔力が大気中や水中の魔素に干渉して起こる現象の総称が魔法である。
 魔素はあらゆる魔法現象へ変遷する、万能のエレメントであり文字通り"魔法の素"となっている。
 魔力は魔素をどのように変遷させるかを決定する要因であり、魔力のみでは魔法を発生させることはできない。

●物理的な現象と魔法現象の違い
 たとえば魔法で起こした炎には必ず魔素が含まれ、通常の方法で起こした火には魔素が含まれない。
 よって、その現象の魔素の有無によって魔法か否かの判断が可能となる。

●魔法の分類
 『純粋魔法』と『疑似魔法』の二つに分けることができる。
 純粋魔法は、人や魔族が直接魔素へ関与し起こす魔法に対し、
 疑似魔法は主に物体に魔力を閉じ込め、それを呼び出すことで魔法現象を起こすことを指す。

ex:魔法書など。

●純粋魔法
 使用者本人の魔力を使用するため、使用者は魔法を使えば使うほど疲弊していく。
 休息をとることにより魔力は回復することができるため、回数制限は存在しない。
 しかしながら、一度に使用することができる魔法の回数は、当然使用者本人の体力に依存するため、上限が存在する。

●疑似魔法
 使用者本人の魔力を消費しないので、その物体に閉じ込めた魔力が枯渇するまで使用可能である。
 主にエレメントの属性を封じているものが多い。
 なお、1度切れた魔力は再注入しない限り復活しないため、使用回数に限度がある点に注意をしなければならない。

※今魔法大会は、純粋魔法のみを対象としており、疑似魔法は対象としていない。

●純粋魔法は、さらに以下の3種に分類することができる。

 非精霊魔法……精霊の力を使わず、魔力と魔素をもって行う魔法。
       ex:基礎的なエレメント系魔法など

 精霊行使魔法……精霊の力をもって、魔法の効果を底上げした魔法。
         また特定の精霊を用いることによって、召喚獣を従わせることができる。
         ex:応用エレメント魔法、召喚魔法など。

 精霊契約魔法……一部の魔法師が使えるのみで、いまだに理論的体系はまだ整っていないため、詳細は不明。
         しかし、精霊行使魔法よりも強力な魔法が使用可能になる。
        
●精霊とは
 専属的な属性を持つ魔素の無意識集合体を精霊と呼ぶ。
 火、水、雷などの特定の属性へのみ変遷を行う特殊な魔素が、一定数集合したものを精霊と呼んでいる。

【TIPS2 魔法師について】

●魔法師とは
 一定以上の魔法を専修し、各国家の試験において認められた上で、各魔法機関へ登録された魔法使用者のことを指す。
 魔法を使用できるが魔法師として登録されていないものは、魔法師ではなく一般的に魔法使い、メイジと呼ばれる。

 魔法師の試験においては、年齢制限はなく、技量のみが求められる。
 なお試験合格の最年少記録は、現魔法師長のもつ8歳である。

●魔法師は、細分化すると以下に分類することができる。

 ウィザード……エレメント系(炎、雷、水、氷、土、風)を主に行使する魔法師を指す。
        万能型であり、もっとも応用が利く魔法師のタイプである。
        魔法師の数もウィザードが最も多い。

 サモナー……召喚士とも呼ばれる。
       肉体を魔法で構築し、特定の意志を持たせる創造召喚、
       もしくは精霊を介した契約により幻獣などを呼び出す転移召喚により、召喚獣を行使する魔法師を指す。
       召喚士の数は非常に少なく、魔法師100人に1人に適性が発現する程度ともいわれる。

 エクソシスト……聖属性を用いて魔族を滅する魔法師を指す。退魔師とも呼ばれる。
         その他のエレメント系の属性を使用を封じる代わりに、聖属性を宿すことができるようになる。
         戦闘に特化した僧兵がこれに属する。

 ヒーラー……聖属性を治癒力へ変換特化した魔法師。
       治癒魔法は外傷などをたちどころに直すことができるが、非常に使用者本人に負担がかかる魔法である。
       教会所属の魔法師に多い。

 ソーサラー……呪術を主に行使する魔法師を指す。呪詛師とも呼ばれる。
        呪いと呼ばれる魔法を得意とし、そのうちの一つに魔封の技を習得しているため、物体に魔法を封じる疑似魔法を生み出した魔法師でもある。

 パラディン……魔法騎士を指す。上記のいずれかの魔法師が高いレベルで剣術や槍術を習得している。
        我が南国における軍事力の根幹を成している重要な職でもある。

●魔法師の持つ杖について
 魔法師のもつワンドやステッキは、世界樹の枝から作られているものが多い。
 世界樹の枝には魔力を増幅する効果があるため、魔法の効力が底上げされる。

 中にはヒーラーやエクソシストがエレメント系の疑似魔法を使用するために
 各エレメント属性が封じられた杖を持つこともある。

【TIPS3 魔法大会について】

 魔法大会は、魔法師だけのものでなく、魔法使いや国外諸氏も参加することができる。
 各部門ごとに、所定のルールの元、進行する。

 各部門ごとの詳細は各ページを参照。

目次

はじめに【TIPS】…2p

メイジ部門…4p

ウィザード部門…6p

サモナー部門…8p

エクソシスト部門…10p

ヒーラー部門…12p

ソーサラー部門…14p

パラディン部門…16p


――――――

錬金術師「……なんか知ってることしか書いてないわね」

勇者「まあ、魔法にあまり縁のない人たちも見に来るだろうから、その人たち用のもんなんだろ」

錬金術師「たしかに、各地から選手も観客も集まってくるからそうなんでしょうけどね。
     名目的には南国の魔法大会だけど、実質的には世界大会だしね~」

勇者「(女王様曰く、優勝者は南国に象徴として君臨するらしいけど……
   他国の人間が優勝するとは思ってないのな)」

勇者「……やれやれ」

錬金術師「?」

がやがやがや……。

勇者「また混んできたな」

ミュー「みゅぅぅ…」

錬金術師「ミューもなんか人ごみ苦手そうだし、ちょっと人の少ない場所に移動しましょ」

勇者「ああ」


――魔法闘技場。

勇者「ここらへんなら人が少ないな」

錬金術師「ここって」

勇者「選手の入場口だな」

錬金術師「あー、だからか。もう大体選手も入場しちゃってるから
     選手待ちの人も少ないわけね」

???「なんでですか!」

???「あ、姉上」

錬金術師「とおもったら、なんか騒がしいわね」

勇者「あれは……」


選手受付「ですから、ウィザード部門に剣の持ち込みは禁止です」

魔法剣士「私は魔法剣士なんだから剣がないと意味がないんです!」

選手受付「ウィザード部門で持ち込めるものは杖だけなので、そういわれましても」

魔法剣士「さっき剣を持ち込んでた人いたじゃないですか!」

選手受付「あれは、パラディン部門の方ですから」

魔法剣士「じゃあ、私もいまからパラディン部門に変えてください!」

選手受付「む、無茶言わないで下さいよ。
     そもそもパラディン部門は魔法騎士様専門の部門ですし……」

魔法剣士「むむむむ」

選手受付「に、睨まれてもなにもできませんからねっ」

召喚士「姉上、それくらいにしましょう……この方はあくまで受付がお仕事なんですから」

魔法剣士「いまから杖だけ持ち込んでも勝てないって……お父様とお母様になんていえば……」

召喚士「姉上……」

勇者「よ、街でぶつかった召喚士くんじゃないか。どうしたんだ」

召喚士「あなたは、先ほどの」

魔法剣士「召喚士、誰?」

勇者「ああ、自己紹介が遅れました。勇者と申します」

召喚士「そういえば、そうですね。ボクは召喚士です。
    ほら、ボクたちを応援してくれるって言った街でぶつかった人です」

魔法剣士「ああ、あなたが。私はこのコの姉の魔法剣士です。
     偶然ってあるものなんですね。そちらは……?」

錬金術師「あたしは、錬金術師。一緒に魔法大会の観戦にきた連れってところ」

勇者「で、どうしたんだ。もめてたみたいだけど」

召喚士「ああ、それが……姉上が大会規定に引っかかってしまって入場できないんです」

錬金術師「大会規定?」

魔法剣士「ウィザードの部門には剣は持ち込めないんですって!」

錬金術師「魔法だけじゃダメなんですか? 魔法剣士なんですよね?」

魔法剣士「違うんです。私は"魔法""剣士"じゃなくて魔法剣の使い手なんです」

勇者「魔法剣? はじめて聞きますけど」

召喚士「ええ、姉上のオリジナルですからね」

錬金術師「魔法を使う剣士じゃなくて、魔法剣をつかう剣士ってこと?」

魔法剣士「ふっふっふー、そうなのです。
     魔法剣というオリジナルにしてオンリーワンが私の持ち味なんです!」

魔法剣士「だからこの剣がないとどうにも……
     特注品で魔法剣に耐えられるようになっているんです」

選手受付「どうするんですか? そろそろ試合はじまっちゃいますよ」

魔法剣士「うううう!」

勇者「とりあえず、杖でやれるところまでやってみればいいんじゃないですか?」

錬金術師「そーですよ、でないことには始まらないわけですし。
     試合がどんな結果になっても、棄権よりは悔いが残らないと思いますよ」

魔法剣士「……わかりました。とりあえず杖で出てみます。
     召喚士、予備の杖貸してくれる?」

召喚士「ええ、もちろんです」

魔法剣士「はあ、どこまでできるもんやら」

選手受付「そろそろ締め切っちゃいますよー」

勇者「じゃあ、俺たちは観客席で見てますから。頑張ってください」

召喚士「ありがとうございます」

錬金術師「頑張ってね」

魔法剣士「さ、やるからには気張りますか!」


――初戦終了後。

魔法剣士「うっうっうっ……」

勇者「なんといえばいいのやら……」

錬金術師「最後の最後まで押してたんだけどねぇ……」

……


――魔法大会、ウィザード部門、初戦(回想)。

司会『さー、はじまっちゃいました、はじまっちゃいましたよ!
   魔・法・大・会、ウィザード部門☆』

司会『進行は、このみんなのアイドル、司会ちゃんが担当しちゃうゾ☆』

司会『ウィザード部門の試合は、3ステージで同時進行しまーす☆』

司会『ウィザード部門のルールはシンプル!
   魔法を使って相手の杖を破壊するか、戦闘不能に追い込めば勝ちでーす☆
   体術や武術をつかって相手を負かしても反則負けになっちゃうからチューイチューイ!』

司会『もちろん殺しちゃったら負けだし、降参しても負けだから気を付けてねっ☆』

司会『でも、怪我はいっぱいしても大丈夫だゾ☆
   今日はとーっても優秀なヒーラーがいっぱいいるからね!
   腕や足の一本くらいもがれてもたちどころに治っちゃうからっ☆』

司会『さー、最初の選手入場ですっ! はりきっていってみよー!』

おおぉおおぉおおぉおおぉ!!

魔法剣士『ふー(大丈夫、気持ちは落ち着いてる)』

魔法剣士『ただ対戦相手が……』

???『どうぞ、お手柔らかに。お嬢さん』

魔法剣士『お嬢さん、ですか(魔法師長の息子とか……ついてない……)』

司会『さーいきなり注目の試合の始まりですっ!
   第3ステージでは、なんとなんと! あの魔法師長サマのご子息が戦いますっ!』

息子『ふふ』

魔法剣士『はあ……』

司会『どんな試合になるのやら☆
   空砲が鳴りましたら、試合開始です!』

パァン!

司会『試合、開始ぃ!』

息子『お互い、全力を尽くそう』

魔法剣士『(私は全力をだせないっつーの)』

魔法剣士『でも、ま。狙い通り……』

息子『うん?』

魔法剣士『油断してくれたよね!』

ヒュンッ!

息子『な、消え――』

魔法剣士『はぁああぁあぁっ!!』

ドオォォン!!

息子『うごぉぉおぉっ!』

司会『おーっと! 魔法剣士選手!
   驚異的なスピードで息子選手の背後に回ったかと思いきや、息子選手を掌打で打ち上げたー!』

司会『しかし、これで倒しても魔法剣士選手の勝利にはなりません!』

魔法剣士『わかって……ますよ! 灼熱よ、炎球となりて敵を討て!
     ファイアーボール!』

息子『ぐうぅう! 卑怯な!
   風壁よ! 我が身を守る盾となれ! ウィンドウォール!』

ボゥ……ドォオンッ!

魔法剣士『ちぃ! 仕留めたと思ったのに!
     戦いに卑怯も何もないんですよーだ!』

息子『なるほど、一理ある。
   しかしこのまま落下したのでは、狙い撃ちだ……ならば!
   暴風よ! 刃となりて敵を裂け! ウィンドカッター!』

魔法剣士『上空から風刃の雨……!』

魔法剣士『(避ける? いや、それだとせっかく上空に打ち上げたアドバンテージが消える!)』

魔法剣士『なら、やることは一つ』

魔法剣士『灼熱よ! 炎槍となりて天を穿て!
     フレイムジャベリン!』

ド……ォオオォオン!!

司会『不可視の風刃と巨大な炎柱が空中で激突ぅ☆』

司会『ちなみにぃ、魔法師同士では、魔素が見えるらしいので風刃も不可視ではないそうですヨ☆』

息子『さすがに、避けるという悪手はしないか』

息子『デル・ウィンド!』

ヒュゥウウン――フワッ。

司会『風のクッションを利用して無事に軟着陸!』

息子『(彼女は……)』

ヒュオ――。

息子『そこか!』

ゴシャン!

息子『土人形!? 囮か!』

魔法剣士『残念、そっちはハズレ! 風弾、ウインドバレットぉ!』

息子『ぐ、土壁! アースウォール!』

ボゴォッ!

息子『くっ(何とかしのげたが……)』

魔法剣士『その隙が命取り!』

ドォオンッ!!

息子『ぐあぁあっ!』

司会『再び息子選手宙に舞うー!
   またしても体術だぞー☆ だからそれで勝っても意味がなーい!』

魔法剣士『わかってます! これで決める!
     炎風よ! 熱波となりて包み込め! ヒートウェイブ!』

息子『再び背後を取られようとは……氷風よ、嵐となりて舞い踊れ!
   ブリザードストーム!』

ドドドドドドドドドォオオォ!!

司会『でましたー! ウィザード部門ならでは! 他の部門では見ることができない大技だー☆
   複合エレメント魔法!! 片や火と風のエレメント! 片や氷と風のエレメント!
   相反する属性が空中で激しくぶつかり合うー!』

おおおおおー!!

息子『ふはは……! 勝負を仕掛けたようだが、これも凌いだぞ!』

魔法剣士『ざーんねん。それも囮ですよ』

息子『なっ、いつの間に空中へ――』

魔法剣士『私の本命は、これです! 
     炎よ、剣に纏いて敵を斬れ! フレイムソー……』

息子『(避けられん! やられるっ!)』

ボッ!

魔法剣士『あ』

息子『……は?』

司会『おーっと! いきなり魔法剣士選手の杖が、炎に包まれ消し炭となったぁ!』

司会『ここでけっちゃぁあぁく!! 息子選手、なんという早業でしょう☆
   空中へと飛び上がっ魔法剣士選手の杖だけを見事破壊しましたぁ!』

スタッ。
スタッ。

魔法剣士『……』

息子『……』

司会『第3ステージ1回戦は、大本命のとおり息子選手の勝利でーす☆』

……


魔法剣士「しくしくしくしく」

勇者「勝負に勝って試合に負けたって感じだな」

魔法剣士「すっかり剣で戦ってるつもりになってたんですー! うえええん」

錬金術師「ま、まあ。実質勝ってたようなもんだし? よかったんじゃない?」

魔法剣士「よくないですっ! しくしくしくしく」

召喚士「あ、姉上、あれは事故ですから気にしなくても」

魔法剣士「結果だけ見れば、1回戦落ちの最悪の結果なんだからぁ。
      それに召喚士はちゃっかり1回戦勝ってるしぃ」

召喚士「それは、運が良かっただけで……」

またあとで書く

oh、脱字
>>153
>空中へと飛び上がっ魔法

空中へと飛び上がった魔法剣士

アナウンス『サモナー部門、第2試合を間もなく開始します』

召喚士「あ、そろそろ次の試合が始まってしまいますね」

魔法剣士「しくしく……いってらっしゃい、私は応援席から見てるからねしくしく」

召喚士「わ、わかりました」

たったった……。


――魔法大会、応援席。

錬金術師「ウィザードのステージは3つもあるのに、サモナーはひとつなのね」

勇者「パンフレットにも書いてあったけど、サモナーの適性を持つ者は少ないからな」

錬金術師「それに比例して、出場者も少なくなるってわけね」

魔法剣士「召喚士ー! がんばってー!」

錬金術師「なんかすっかり元気になったわね」

魔法剣士「応援するのにしょげててもしょうがないですからー」

魔法剣士「心の中は土砂降りですけどねー、へ、へへ……」

勇者「こりゃ重症だ」

……

実況「さあ、サモナー部門は引き続きわたくしが司会兼実況を務めさせていただきます」

実況「両者入場です!」

召喚士「うう(やっぱり緊張するなぁ)」

精悍な青年「うっし、ガキに興味はねえし
      2回戦もちゃっちゃと勝つか!」

魔法剣士『召喚士いけー! そんなやつぎったぎたにしろー!!』

召喚士「あ、姉上……」

実況「この2回戦からご覧になる方々もいらっしゃるかと思われます。
   改めてルールを説明しましょう」

実況「双方、召喚獣を召喚し、戦闘を行います。
   召喚獣は、魔法師の方々が召喚可能な限り何度召喚してもらっても構いません」

実況「選手が次の召喚を行えない場合、降参をした場合、召喚獣がサモナーを直接攻撃してしまった場合。
   以上のいずれかが起これば試合を終了いたします!」

実況「もちろん、サモナー本人の召喚魔法以外の加勢は禁止となっております」

青年「できれば、早めに降参してくれると助かるんだがね」

召喚士「……しませんよ」

青年「ふう、やれやれ」

実況「準備はいいですか?
   空砲ののちに、試合開始です!」

パァン!

青年「行くぞ、少年。負けても恨むなよ」

青年「我、汝を創造する者なり。精霊の鼓動よ、彼の肉体を動かしたまえ。
   血盟に従い、汝、焦熱の業火より、今ここにその姿を顕現せよ」

ボコボコボコボコ……

青年「召喚、火精――サラマンダー!!」

ゴォオウ!!

サラマンダー「CORRRRRRR!!」

青年「さあ、小手調べと行こうか」

実況「まずは青年選手、サラマンダーを創造召喚しましたァ!!」

召喚士「ふー」

召喚士「我、汝を創造する者なり。大地に満ちる精霊よ、彼の肉体に宿りたまえ。
    盟約をもって汝を従える。大地を穿ち、我が眼前に現れよ!」

ゴゴゴゴゴ……!

召喚士「召喚、狼神――フェンリル!!」

ドォン!!

フェンリル「VOOOOOOOOOOO!!」

実況「こちらはなんと、あのフェンリルの召喚だー!!」

実況「創造召喚の強さは、いかに精密な命令機構を与えることができるかということと
   如何に魔力を注ぐことができたかで決定されます!」

実況「これは、召喚士選手! 素晴らしい召喚!
   その顔のあどけなさからは想像できない素晴らしい才能です!」

青年「お、おいおい、いきなりそんな大物召喚して大丈夫かい?」

召喚士「い、行きますよ」

フェンリル「VORRRRRRRR!!」

青年「え、ちょ、まっ」

……


魔法剣士「……」

錬金術師「へぇ、これが召喚魔法なんだ」

魔法剣士「もしかして初めて見るんですか?」

錬金術師「ええ、知識としては知っていたんだけど。
     見るのは初めて」

魔法剣士「弟は、召喚のスペシャリストですからね。
     見応えはあると思いますよ」

勇者「お互いに創造召喚かー。
   召喚時に命令機構を与えて動かす、いわゆるセミオートだよな。
   お、さっそく相手のサラマンダーを1回目の撃破だ」

錬金術師「彼の創造召喚はオリジナル?」

魔法剣士「さすがに、まだそこまでは。
     先人の開発したひな型に沿ったものしか、できないと思いますよ」

勇者「エレメント魔法も、基本ひな型に沿ったものばっかりだしなー。
   召喚魔法も、そこは変わらんか」

魔法剣士「自分で作るより安定してますからねー」

錬金術師「でもフェンリルって、あたし知らないんだけど……」

魔法剣士「あ、それは、最近魔法師長さまが開発したものですから。
     他国の方はまだ、なじみがないかもしれません」

魔法剣士「フェンリルは、疾さと攻撃力を両立した創造召喚だそうです。
     その代り、物理的な攻撃だけだそうで。
     ほら、よくあるじゃないですか。召喚獣が使う魔法。あれが使えないんです」

勇者「だけど、あれだけ強力な召喚じゃすぐ消えるんじゃ。
   強いものほど、魔力の消費が激しくなって召喚継続時間も短くなるんだろう?」

魔法剣士「あ、それも大丈夫です。
     どうやら、魔力も魔素もかなりの低コストで召喚できるっていう
     戦闘重視の召喚獣なんですよ、フェンリルは」

錬金術師「魔法を使えなくする制限を入れたからってところかしら」

錬金術師「あ、2体目のサラマンダー倒したわね。
     そんな召喚獣開発するなんて、魔法師長ってすごいのねー」

魔法剣士「魔法師長さまはすごいですよ。
     既成概念に囚われず新しい魔法を次々と生み出しますし
     まだまだ魔法師としての底が見えないんです」

勇者「信奉者がいるのには、それなりの理由があるってわけか」

……


青年「くっ、なんということだ……」

フェンリル「VORRRRRR!!」

青年「(こ、こうなっては仕方がない、アレをやるしか。
   だ、だがしかし)」

青年「や、やるじゃないか、少年」

召喚士「……」

青年「だが、い、今からする召喚を見た後でも遅くない。
   降参するんだ」

召喚士「……?」

青年「い、いいか! 絶対降参するんだぞ!」

青年「わ、我、汝を呼ぶものなり。汝、我と契約せしものなり。
   悠久へ響く嘶きを携え、この大地に巨牙を突き立てよ。
   我、汝が身を此処へ手繰る」

青年「転移召喚、魔眼の蛇――バジリスク!」

ぞる…ぞるり……。

バジリスク「……」

実況「な、な、なな、なー! なんと、転移召喚で姿を現したのは、
   ばば、バジリスクー!! な、なんと恐ろしい姿をしているのでしょう!」

ざわざわざわざわ……。

実況「観客の皆様、ご安心ください!
   召喚獣ですから、召喚士の意のままにあやつれます!
   野生では危険な種ですが、召喚獣なら安心してください!」

青年「さ、さあ! 少年! 降参するんだ! 早く!」

召喚士「しませんよ、ボクは最後までたたか――」

バジリスク「GYARAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

召喚士「ぐっ!? み、耳が……!」

実況「と、とんでもない咆哮です!」

青年「は、はやく! 眼が、魔眼が開いてしまう!」

召喚士「な、なにを……」

バジリスク「GYARAAAAA!!」

すう……。

青年「あ、あ…!」

実況「おや? 閉じていた眼がひ――」

カチン。

召喚士「(実況さんが、い、石に……! これが石化の魔眼!)」

ざわざわざわざわ……

青年「う……ご……や、やはり俺の魔力では、せ、制御しきれ……ぐぐ……!」

バジリスク「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

ガギィン!!

召喚士「(か、観客席にまで、魔眼が!)」

青年「うおおおっ! ま、魔力が吸われる……!
   わ、悪いな少年。俺は一足先に逃げる!
   俺の魔力が切れるまで待っててくれ!」

だだだだだだっ!

召喚士「な、なにをしているんですか!」

ガギィン!!

きゃあああああああああ!!
   うわああああああああああ!!!

召喚士「このままだと被害が拡大してしまう……!
    ボクが食い止めるしか……くっ、フェンリル!」

……


魔法師長「ちっ、契約不全のまま召喚しおったな」

ばたばたばたばた!

大会運営委員「ま、魔法師長様! さ、サモナー部門で……!」

魔法師長「わかっておる。あのステージを土壁で囲め。
     魔眼をこれ以上、振りまかせるな」

大会運営委員「な、中の選手は、いかがしましょう」

魔法師長「土壁で囲めたといったのだ。
     他に指示は何もない。お前は手遅れになってこれ以上被害を増やしたいのか?」

大会運営委員「は、はっ! かしこまりました!」

魔法師長「神聖な大会を……まったく。
     私は女王陛下の護衛でここを動けん。バジリスクの対応はわかるな?」

大会運営委員「はい!」

魔法師長「わかっているならよい」

魔法師長「石化した者は、解呪するようにヒーラーと呪詛師を集めておけ」

魔法師長「ここには結界を張っておく。現場対応は任せるぞ」

大会運営委員「はっ!」

……


勇者「これは、バジリスクの石化の呪い……!」

錬金術師「あいつ、とんでもないもの召喚したわね。
     これ、制御できてないでしょ」

魔法剣士「しょ、召喚士!!」

ばたばたばたばた!

錬金術師「ほら、トラブル処理班がすっとんできた」

勇者「ステージを囲んでどうするつもりだ?」

処理班『土壁、アースウォール!!』

ガコン、ガコン、ガコン、ガコン!

魔法剣士「な!? 土壁でステージを囲んだ!?
     ま、まだステージには召喚士が!」

勇者「ち、被害を最小限にするために、召喚士くんを見捨てるつもりか」

錬金術師「たしかに、石化は手順を踏めば解呪できるし、
     石化したものにバジリスクは興味を示さないけど、こんなのって」

勇者「ああ、万が一石化して壊されたら、そこでおしまいだ。
   バジリスクは、あそこから出るために暴れるだろうしな」

魔法剣士「そ、そんなの……!
     い、いやあああああ!! 召喚士ぃ!!」

勇者「よし、乗り込むぞ。壁乗り越えるぞ」

錬金術師「ま、当然よね」

魔法剣士「……!」

……

バジリスク「GYAARAAAAAAA!!」

フェンリル「VORRRRRRRR!!」

召喚士「くっ(眼を見たらだめだ)」

召喚士「(だけどみないと毒牙と尾の薙ぎ払いで致命傷をもらってしまう……!)」

召喚士「(フェンリルの維持はまだ大丈夫だけど……
    バジリスク相手じゃ決定打がない)」

ギィン!

バジリスク「GYARAAAAA!!」

召喚士「ふぇ、フェンリルまで石に……」

召喚士「(石……そうか、あれなら……!)」

バジリスク「GYARAAAA……」

召喚士「う、あ……(でも、召喚している暇なんか)」

――ヒュウゥウウゥン

勇者「こっちにもエサはあるぜ、バジリスク!」

ザンッ!!

バジリスク「GYAAAARAAAAAA!!」

勇者「くっそ、かてぇ! 鱗を剥いだだけだ!
   バジリスクめ、噂通り斬撃に対して耐性が強すぎる!」

召喚士「あ、あなたは……!」

ヒュウン――すたっ。

錬金術師「召喚士くん、大丈夫?」

魔法剣士「召喚士っ!」

召喚士「あ、姉上たちも、どうして」

勇者「知り合った人を見捨てられるほど、メンタル強くないんでね」

勇者「まあ、助けにきたはいいけど、斬撃が通らないんじゃあ
   ちょっと苦労しそうだ」

錬金術師「バジリスクの鱗は固いからね~。
     強力な力でぶん殴るのが、一番手っ取り早いかな。
     魔法耐性も高いって噂だしね」

魔法剣士「じゃ、じゃあ私たちなにもできないじゃないですか!」

勇者「まー、逃げますかね。幸い速さは、こっちのが上みたいだし」

錬金術師「それ、アンタと魔法剣士さんだけだから」

勇者「や、無理に戦う必要はないって言いたいだけよ」

魔法剣士「ど、どうして、お二人はそんな余裕なんですか!」

バジリスク「GYAAAAROOROOORO!!」

魔法剣士「きたぁ!?」

錬金術師「眼を潰すことがまず先決ね」

錬金術師「あたしの発明品の実験台にでもなってもらおうかしら。
     皆は眼を閉じてて!」

召喚士「この状況でですか!?」

勇者「ダイジョブ、ダイジョブ」

召喚士「は、はいぃ!」

スチャ……。

錬金術師「このメガネがないとあたしも眼をやっちゃうからね。
     くらいなさい、裂光石!!」

カッ!!

バジリスク「GYRRRRRAAAAAAAAAA!?」

勇者「くあー、相変わらず眼ぇ閉じてても眩しいなそれ」

魔法剣士「な、なにが起こったの……?」

召喚士「あ、姉上! ば、バジリスクの眼が、閉じてる!」

錬金術師「ふっふっふー、どう? あたしの発明品の威力は。
     畜光石と火石を一定量で配合すると、瞬間的にものすごい光を発するの」

錬金術師「イメージとしては光の爆発って感じ。
     基本的には魔族の視覚を一定時間奪うためなんだけど。
     人が目の前でこれを見ちゃうと失明する可能性もあると思う」

勇者「その光をバジリスクの目の前で炸裂させたわけだ。
   えげつないな……」

錬金術師「今は生き残ることが、最重要でしょー。倫理も何も言ってられないんだから。
     それにバジリスクならいずれ視力回復しちゃうから悠長なこと言ってられないわよ」

勇者「わかってるって」

錬金術師「さて、じゃあ逃げましょうか」

バジリスク「GYARRRRRRRRRR!!」

ドゴォン!!

勇者「……わお、のた打ち回りながら、土壁をぶち壊したぞ」

魔法剣士「こ、このまま私たちが逃げたら、他の人までも……!」

勇者「んー、俺たちは召喚士くんさえ救出すれば、
   あとは大会運営に任せていいと思うけど。
   流石にある程度のトラブルは想定しているだろうし」

召喚士「う……は、はい。あの、でも……」

勇者「どうした、召喚士くん」

召喚士「お、お願いです。できる限り被害を最小限に抑えたいんです。
    だから、だから……」

勇者「バジリスクを仕留めたいと」

召喚士「あぅ、は、はい」

勇者「いっても、斬撃通りにくいからなぁ……
   時間かければできないこともないだろうけど」

召喚士「ぼ、ボクが召喚します! バジリスクに対抗できる召喚獣を!
    で、ですから……」

勇者「時間稼ぎをってことかい?」

召喚士「は、はい」

勇者「んー……」

勇者「ふふ、いいぜ、その心意気買った」

錬金術師「みんなのために戦うなんて勇者っぽくていいんじゃない?」

勇者「よっしゃ、そんじゃ行きますかね。
   魔法剣士も、頼む」

魔法剣士「わ、私もぉ!?」

勇者「試合であんだけ、動けるならダイジョーブ、ダイジョーブ」

勇者「それに今なら存分に、魔法剣使えるぜ?
   フラストレーションたまってるだろ?」

魔法剣士「くうう、わ、わかりましたよ!
     弟が頑張っているのに、私が頑張らないわけにはいかないです!」

勇者「眼は見えていないだろうが、ヘビだからな。
   熱感知してくるぞ、気をつけろ」

魔法剣士「りょーかいです!」

勇者「さあ、いくぜ! バジリスク!」

バジリスク「GYAAROOOOOOO!!!」

勇者「左右に展開! 挟撃する!
   的を一つに絞らせるな!」

魔法剣士「風よ、剣に纏いて我が身を運べ。
     疾風剣!」

ヒュオオォオオ!! ザザンッ!

魔法剣士「いったぁ!? 固すぎじゃないですか、これ!?」

勇者「あんまり無茶に攻撃しなくていいからなー」

魔法剣士「やるからには、姉として少しはいいとこみせたいんですっ」

またあとで

バジリスク「GYARRRRRRAAAAA!!」

勇者「尾の薙ぎ払いが来るぞ!」

ブォン!!

バジリスク「GYAAARAAAA……」

魔法剣士「そのスピードじゃ、今の私は捕まえられませんよーだ」

ヒュウオォオオオ!!

勇者「お」

錬金術師「ほえー、すっごい速さ。まさに風のごとしって感じね」

召喚士「この地へ満ちる精霊よ。我が問いかけに応えたまえ。
    汝、大地を肉体とせん。汝、精霊を魂とせん」

勇者「詠唱が始まったか」

ブォン!!

勇者「っとと。やっぱピット器官もってるか、正確に攻撃してきやがるな」

魔法剣士「はぁああぁっ!」

ガギィン!!

魔法剣士「く~! 本当に斬撃が通らないっ!」

魔法剣士「なら!」

魔法剣士「イカズチよ! 蒼雷となりて降り注げ!
     サンダーフォース!」

ピシャァン!!

勇者「うお、すっげぇ稲妻」

バジリスク「GA……GA……」

魔法剣士「効い――」

バジリスク「GYAAARAAAAAAA!!」

魔法剣士「てなーい!!」

勇者「魔法耐性も高いって話だが、アレくらってぴんぴんしてるのか」

魔法剣士「くっそー、どうしましょう。勇者さん」

勇者「ふーむ、でも魔法の中じゃ雷はまだ効くみたいだな。
   んじゃ、ちょっと真似させてもらうぜ、魔法剣士」

魔法剣士「はい?」

勇者「俺も、一応魔法使えるからな。
   俺の魔法はぜーんぶオリジナルだから、魔法剣士みたいなのは参考になるよ」

魔法剣士「え、え?」

勇者「あ、ちなみに今からやるのは絶対に真似するなよ。
   俺にしかできないから」

勇者「魔力よ。黒雷へと変わり、我へと纏う黒衣となれ」

ババ……バヂ…バヂヂヂイィ!!

魔法剣士「く、黒い雷!?
     な、なんですか、そ、そんなもの見たことが」

勇者「だから、俺のオリジナルだって。
   ていうかこんな感じのしかできないし、こんな感じにしかならないんだよな」

魔法剣士「か、雷を纏って痛くないんですか!?
     なんでその剣もあなたも無事なんですか!?」

勇者「めっちゃ痛い。俺も剣も全魔法耐性があるから無理やりやってるだけ」

勇者「そんでな、無理やり身体を動かす! 借りるぜ、魔法剣!」

勇者「我流魔法剣――刺突雷迅!」

ババババヂヂィ!! バヂィ!

バジリスク「GARYA――」

ザッ――ドォオォオン!!

魔法剣士「観客席側の壁まで突きで弾き飛ばした……!?
     み、みえなかった」

シュウウゥウ。

勇者「ってっぇー! やっぱ見よう見まねじゃ無理だ!
   もうこれやらん!」

魔法剣士「た、倒したんですか!?」

勇者「いや、手ごたえ的に吹っ飛ばしただだけだと思う。刺さった感触もないし。
   やっぱり剣じゃあいつ倒しきるのは骨が折れるな」

バジリスク「GYARRARAAA……GYAAAAAAAAAARRRR!!!」

魔法剣士「あれだけの技を喰って、まだ……」

勇者「流石、特別指定危険種だな。だが、ま。
   俺たちの仕事はここまでだ」

魔法剣士「え?」

勇者「ほれ、召喚士くんが」

召喚士「……我が、魔力の呼び声に答え、今ここに現界せよ」

召喚士「地の大精霊――ノーム!」

ポゥン。

ノーム「はっはぁい!」

勇者「これは……精霊契約魔法!?」

魔法剣士「……!!」

錬金術師「小人族? でも浮いてるってことは、亜人種じゃない……?」

召喚士「久しぶりだね、ノーム」

ノーム「ほんとだよーっ! ぜーんぜん呼んでくれないんだからっ」

召喚士「ごめんごめん、修行してたから。
    なかなか遊んであげられる時間がなくて」

ノーム「また、遊んでくれないと拗ねちゃうんだからなっ!」

召喚士「ふふ、うん、ごめんね」

ノーム「それで、今回はどうしたの?」

召喚士「あのバジリスクを止めてほしい」

バジリスク「GRYYAYYAYAAA!!」

ノーム「あーらら、怒ってるね」

召喚士「僕の召喚じゃ、石にされちゃってどうしようもできないんだ」

ノーム「はははっ! それだけでいいの? まっかせて!」

ぴょん、ぴょんぴょーん。

ノーム「ねね、どうしたんだい? そんなに怒って」

バジリスク「GAARYAAAAAA!!!」

錬金術師「危ないっ!」

ブォン! 

ひょいっ。

勇者「あっさり避けてるな……」

ノーム「なるほどなるほど。
    いきなりわけのわからないところに呼び出されたと」

ブォン! ブォン!

ひょいっ、ひょいっ。

ノーム「それで、わけもわからないまま閉じ込められたと」

バジリスク「GRAYAYAYAAAAAA!!」

すぅ。

魔法剣士「ば、バジリスクの眼が、また!」

ノーム「あははっ! 僕に君の魔眼は効かないよ!
    なんてったって、これでも地の大精霊だからね」

魔法剣士「え、え!?」

バジリスク「GRAYAYAAA」

ノーム「ふむふむ、君は戻れればそれでいいんだ?」

ノーム「それならお安い御用さ! 僕が送り返してあげるっ!」

ノーム「ちょっと失礼、おでこ触らせてね……。
    ふむふむ、場所はここだね」

ノーム「ほいさ!」

ギュゥウイン。

勇者「(他人の召喚魔法に対して、魔力を持って割り込み、召喚主を書き換え、召喚権限を奪取。
    それに加え詠唱もなしに、転移魔法陣を展開させた、か)」

勇者「化け物すぎるな……」

バジリスク「CYURAAA」

ノーム「バイバーイっ! 傷はおまけで治しておいたよ」

ぽちゃん。

ぴょん、ぴょんぴょーん。

ノーム「これでよかったのかな?」

召喚士「うん、ありがとう」

ノーム「今度は、こういうことじゃなくて、遊んでよっ」

召喚士「うん、わかった」

ノーム「じゃねっ!」

ポゥン。

勇者「……」

魔法剣士「……」

錬金術師「……」

魔法剣士「終わった……の?」

勇者「ああ、完全にバジリスクの魔力の波長はこの場から消えた」

錬金術師「ひとまず、終了ね」

召喚士「よ、よか――」

ふらっ……どさっ。

魔法剣士「召喚士!?」

勇者「召喚士くん!」

たったったった!

勇者「ひどい汗だ……」

錬金術師「急いで医務室へ!」

……

またあとで

>>182
>魔法剣士「観客席側の壁まで突きで弾き飛ばした……!?
     み、みえなかった」

見えているので、見えなかったは、みないことにしてくだしあ

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