【安価】提督「苦労と笑顔の絶えない提督ライフです」 (589)

・安価あり。

・独自設定あり。

・シリアス、ギャグ、イチャラブ。何でもあり。

・運や安価次第で、艦娘だろうと提督だろうと民間人だろうと死にます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1411746239

【プロローグ】



硝煙の匂いが漂う海洋に六人の娘が立っていた。

背丈、武装、違いこそあるが全員が年端もいかない少女だ。

一人は涙を流し、一人は歯を食いしばり、“それら”を見つめる。

誰一人、笑顔は存在しない。


「目標、補足。射程距離はどうだ。追いつけるか?」

「燃料も弾薬も十全」


頭に流れ出す男の声に、少女達は淡々と返事を返す。


「よろしい。作戦はブリーフィングでも伝えた通り簡素なものだ。俺の号令に従い、敵を撃破せよ」


そして、遥か遠く。

黒い点の群れがこちらから離れようと海上をひた走っている。

逃げろ、逃げろ。あれに追いつかれたら終わりだ。

考えている暇があるなら、脚を動かせ。

怒号が飛び交う点達が、必死の形相で逃げていた。


「誰一人生かして還すなよ。蒼き清浄なる海を取り戻す為に」


男の声が、開戦の合図を告げる。


「開戦だ」


数分後、海洋上に血と残骸が散華した。

「おはようございます、司令官さん」

太陽の光が差し込む私室。

柔らかな声を目覚まし代わりにして起き上がる優男――提督と一人の艦娘がまったりと過ごしていた。


「うん、電もおはよう」


戦場に身を置く彼らにとって、安らぎある時間は貴重だ。

ましてや提督は艦娘達の心のケアを十全に行わなくてはならない。

このような時ぐらい、彼女達にはのびのびとしてもらいたい。

そんな気持ちから、提督は艦娘との交流を戦場以外でも続けている。

日常では優しくて、戦場でも頼りになる存在。

それが、彼の傘下にいる艦娘達の提督に対しての評価だった。


「さてと、とりあえず朝食に行くか」

「はいっ、なのです!」


だから、彼女達は提督を慕っている。

尊敬以上の恋慕の情を彼に持っている。

ある娘はストレートに。ある娘は回りくどく。

ある娘はツンデレ気味に。ある娘は気付かれないように。

無くてはならない存在として、彼女達は提督を重く見ていた。

提督。

海軍の中でも艦隊指揮を司るプロフェッショナル。

そして、この世界の海を支配している化け物を駆逐する軍人である。

艦娘という少女を操ることで、超常の存在である化け物とやっとのことで渡り合えるのだ。

それが一般の人間が抱く認識だ。


「んーと、今日は何を食べようか」

「電はA定食にしますっ」

「んじゃ、俺はB定食かな」


もっとも、艦娘を操ると簡単に言っているが、実際は非常に繊細かつ至難の業なのである。

幾人もの思考を束ね、的確な思考を艦娘の頭に流し込むことができる能力を持つ者がなれる才能ありきの仕事だ。

更には、艦娘のメンタルケア、通常業務といった事をこなさなければならない為、相当に厳しい仕事内容である。

それでも、成り手が一向に減らないのは見目麗しい艦娘に対して、邪な思いを持つ者が多いからなのか。


「あっ、すいません」

「ったく、何ぶつかってきてんだよ」

「ホント、いつもへこへこしてて気持ち悪言ったらありゃしない」

「あんな野郎の下で働いてる奴等は不憫でしかたねーな」

「……すいませんでした」


そして、提督の中でも当然に序列が存在する。

艦娘に嫌われている、出撃や演習の勝率が悪いといったお荷物的存在な提督も中にはいるのだ。

今、艦娘達にへこへこしている提督はその中でも最低最悪と言っていいぐらいに評判が悪い。

能力のなさとうだつのあがらない性格。それらは艦娘達の苛立ちを加速させる。


「……はぁ」

「どうした?」

「いえ、何でもありません」


彼女が一瞬だけ何とも言えない表情を見せたのは気のせいだろうか。

提督は気になって問いかけたが、電は何も言わずに黙りこむ。

彼女もあの無能提督のことを嫌っているのだろうか。

提督はそこまで嫌悪感を持っていないのでわからないが、艦娘にとっては違うのだろうか。

幾つもの疑問が浮かんだが、結局解決には至らず。

ただ、ほんの少し悲哀の情を顔に見せた電が気になったが、今となっては知る由もない。

そのまま、食事へと向かう電の背中を見つめるしかできなかった提督は、両の掌を握りしめる。

もっと深く踏み込んでおけばよかったという後悔を胸にしまい込み、その場から手を伸ばす。

まだ、掴めない右手を前に、前に。








「おはようございます、提督」

「今日はちゃんと起きれたんですね」


食堂に着いた提督達は見知った顔を見つける。

澄ました顔と優しげな顔が同時にこちらへと向く。

加賀と鳳翔の空母コンビがしとやかに朝食を取っていた。


「そりゃ、俺だってたまにはちゃん起きるさ」

「まあ、提督のことだから電に起こしてもらったのでしょうけど」

「おい!」

「あはは……」


見事にバレバレだった。正直、この二人を前にして隠し通せるとは思っていなかったからいいけれども。

もっとポーカーフェイスを鍛えるべきかと提督が熟考した所で、後ろから抱きついてくる艦娘がいた。


「……朝っぱらから抱きついてくるのはやめろ、愛宕」

「あら~、これもスキンシップの一環なんだけどダメなの?」

「時と場所を選べと言ってるんだ」

「……」

「か、加賀さん? 落ち着きましょう?」

「ふぇぇ……おっかないのです」


加賀は鋭い目を更に尖らせながら、愛宕を無言で睨みつける。

ギラギラとした視線とほんわかした視線が交わり、火花を散らす。

間に挟まれた提督としては勘弁願いたい所だが、とてもじゃないが口には出せない。

ぎゅっと込められる力が強まり、視線の鋭さも切れ味抜群で絶好調だ。

こうなってはもう考えうる解決法は一つしか無い。

     

「何をやっていらっしゃるのですか」

「……ばっかみたい」


第三者の介入による有耶無耶である。

真顔二人組を目にしたのか、加賀と愛宕も落ち着きを取り戻す。

さすがの二人も、年下二名の前で醜態を晒す程プライドを捨てていない。


「それで、またバッカらしいやり取り? よく飽きないわね」

「興味が無いのでどうでもいいですが、仕事には私情を持ち込まないでください」


曙に不知火。特に曙については、最近艦隊に編入されたばかりであまり懐いていない。

できることなら、皆仲良くがモットーの提督としては心苦しくもあるが仕方がないことだろう。

愛想が悪いことで有名なこの二人を手懐けるのは至難の業だ。

不知火にあたっては、真顔で此方側が照れるようなことを言ってくるから困りモノだ。

幾ら、艦娘との付き合いがうまい提督でも誰とでも即座に仲良くなることはできないので、扱いには慎重を要さざるを得なかった。

もっとも、彼女達は何だかんだで仕事には真面目なので大助かりなのだが。


「助かったよ、不知火、曙」

「それはどうも」

「……ふん」


口調こそ冷たいが、こうして助けてくれる。

それだけで提督には十分だった。







食事もそこそこにして。

提督と艦娘六人は執務室でブリーフィングを行っていた。

本日の作戦任務である海域攻略の最終調整である。

限りなく不確かな戦場で少しでも最悪を避ける為にも、考えの摺り合わせは欠かしてはならない。

いつもはおちゃらけている提督も、艦娘達も、油断が死を招くということが痛い程にわかっているから、作戦会議中は真剣に意見を交わし合う。

提督の艦隊は練度こそそこまで高くないが、チームワークといった面では水準よりも高く位置していた。

練度の高低差を、皆で埋めて戦う。それは、仲良しこよしが好きなこの艦隊にはピッタリの戦術だった。


「今攻略している海域はそこまでの難易度じゃない。今のお前達なら十分にやれるレベルだ」

「提督がそう言うのなら間違いはないのでしょうけど。万が一のことがあります、武装、弾薬、燃料、ボーキサイトは惜しみなく使うべきかと」

「そのつもりだ。資材をケチってお前らが怪我でもしたら、俺も辛いからな」


出撃をするにも演習をするにも、軍内では手柄が高い軍人程優遇される。

困った時に便宜を図ってくれたり、資材の補給を優先して持って来させたり。

だが、この提督はそんな事情を度外視に、艦娘達の身を案じていた。

怪我すること無く、全員無事に帰ってきて欲しい。

誰かを犠牲に生き残るとか、そんなのは御免だ。


……甘いと言われようが、この娘達と一緒にいたいんだ。俺は。


どこの艦隊も大抵は同じことを思っているはずだ。

艦娘は兵器じゃない、元は血の通った一人の人間なのだから。

だから、彼女達の身を大切にするのは提督の義務だ。決して、何かの為だけに見捨てていい存在ではない。


「そういう訳だ。午後には出撃、今日中に海域の攻略を決めるぞ」

↓2

出撃前にコミュニケーションする艦娘を選んで下さい。


1電

2愛宕

3加賀

4鳳翔

5曙

6不知火






 


「よっ曙。何してんだ」


出撃前の空き時間を利用し、ブラブラと鎮守府内を回っていると見覚えのある後ろ姿を見つけ、提督は声をかける。

曙。最近になって編入されてきた新人の艦娘である彼女に対しては、人一倍気を使っている。


「何か用?」


釣り上がった目に、苦い顔つき。明らかに嫌われているのが見て取れる。

艦娘は、兵器でもない一人の少女だ。少なくとも、提督はそう感じていた。

だから、彼女達と仲良くなろうと柔和な態度を崩さずに接しているのだ。

それが、戦場に送り込む提督の義務と信じて。


「用がないなら話しかけちゃ駄目かな?」

「別にいいけど。生憎と、これから戦場に行くっていうのに無駄話はしたくないのよ」


ふん、と鼻を鳴らしそっぽを向く曙はどこか悲しげに表情を歪めていた。

深海の化物達を相手に、命を懸けて戦うことはどれほどのストレスだろうか。

司令室から司令を送るだけの提督が、安易に突っついていい話ではない。


「や、曙はこれが初めての実戦だろ? 緊張しているかと思ってさ」

「そんなことないわよ。緊張なんてしていたら、すぐに死んじゃうもの。それに、」

「それに?」

「…………練度の低い私の代わりなんて幾らでもいるじゃない」


暗く淀んだ目から発せられる想いは、黒く粘ついていた。

代わりがいる。死んでも、また作りなおせばいい。

一部の提督からしたら、レベル一の艦娘なんて取るに足らない塵のような存在だろう。

近代化改修か、解体か。どちらの方法を取っても、戦うことを目的とした艦娘の本意に背くものであることは避けられぬ事実だ。

「曙、それは違うよ」


だが、自分だけは違う。そんな悲しいことを、艦娘達に感じさせることはしない。

非効率的だとか軍人として甘ったるいとか言われても構わない。

彼女達だって人間だ。血の通った一人の少女なのだ。

断じて冷たい兵器なんかではない。


「俺は君のことを、一人の女の子として見ている。代わりなんていない、大切な仲間の一員だ」

「………………あっそっ」

「まあ、まだ信用されないのは仕方ないけれど。戦いを経ていく内に、認めさせる。誰一人欠けることなく、平和を迎えることを」


理想でもいいじゃないか、誰だって綺麗事の方が心地いいだろう?

艦娘達と接してきた最初こそ戸惑っているが、今では迷うこと無く言い切れる。

彼女達の心を解すのは、提督の使命だと。


「ま、期待しないでいるわ。そういうことを言う人って、大抵中身が伴っていないから」


ひらひらと手を振り去っていく曙の背中が遠ざかっていく。

これから武装を装着し、戦場に向かうのだ。

だが、曙は一人じゃない。電に愛宕、加賀に鳳翔、不知火がいる。

仲間がいるのだ。彼女の頑なになった思いをきっと溶かしてくれるだろう。

そして、それを全面的にサポートするのが――自分の仕事だ。

生きて、乗り切る。それらを果たす為にも、こんな所で躓いてはいられない。


「俺も頑張らなくちゃ、な」


彼女達の心は、絶対に護り切ってみせる。




【曙の感情度が上がりました】

綺麗な海だった。曇り一つない蒼空の下、艦娘達は海を駆け抜ける。

艦装一つを身につけ、鉄火場を潜り抜けた彼女達は百戦錬磨の戦士だ。

負けるはずがない、こんな所で終わってなるものか。

想いの色は千差万別であるが、方向性は一致している。

全員無事に闘いを切り抜ける。ただそれだけを頭に入れ、彼女達は海原の上を疾走るのだ。

迫り来る深海の化け物共相手に一歩も譲ることなく、弾丸を放ち続けていた。


「■■■■!!!!」


異形の化け物も艦娘を相手に取って一歩も譲らない。

聞き取れない声にならない叫びは、どんな想いを込めているのか。


……それは、望郷か。それとも、忘れてしまった感情の残りカスか。


何の意味もない感傷だ、戦闘中に考えるべきことではないと艦娘達は結論付ける。

相手は容赦なき化け物、それ以上でもそれ以下でもない。


「索敵、終わりました」


索敵が終了した。どうやら、相手は軽巡と駆逐型が入り乱れた艦隊のようだ。

楽勝の任務だ、夜戦に至るまでもない。

戦意高翌揚した艦娘達は、先手必勝とばかりに動き始めた。

咆哮一閃。砲撃が、海を裂く。

グチャグチャのミンチ肉のようになった深海の化物達が、悲鳴を上げる。

破裂した肉片を全身に浴びながら、艦娘達は海上を疾走する。

肉迫。仲間が殺られ狼狽えた化物達の隙間を縫って、背後へと回った。

振り返る暇も与えない。零距離射撃による一撃必殺を敢行し、また一匹海の藻屑へと変えていく。

劣勢を感じ取ったのか、残った三体も撤退の意を示し合わせ、戦場から離れようとするが、

「逃す訳ないでしょ」

三対六。戦力差を前に、逃げることはかなわなかった。

硝煙弾雨が、化物へと降り注ぐ。

穴あきチーズのように欠損していく身体に、絶叫を上げながら――深海の化物達は沈んでいった。

↓3




1 このまま帰還する。




2 先へ進む。

       









「だから言ったじゃない、代わりなんて幾らでもいるって」










     

始まりは軽い炸裂音だった。

脳みその欠片、綺麗な赤の液体、爛れた肌色の皮、原型をとどめていない鼻骨。

全部ひっくるめて――コンマ一秒の刹那で無くなった。

簡単なことだ、サルでも分かる。

愛宕の頭が、吹っ飛んだ。それだけのことだった。


「あ、あっ」


力を無くした身体はゆっくりとバランスを崩していく。垂直から平行へ、水平線と一体になっていった。

糸の切れた操り人形の如く、無様に崩れ落ちる愛宕に対して、彼女達は言葉を掛けることすらできない。

呆然と立ち尽くすだけ、何も想えないし伝える瞬間すら与えられないこの世界はいつだって――残酷だ。


「――――っ」


次いで砲撃の餌食になったのは加賀だった。

他の艦娘は何も動けなかった中、加賀だけは即座に“敵”へ矢を向けた。

どんな理由があって“仲間”であった彼女が愛宕を殺したかは知らないが、自分達に砲口を向けるなら容赦はしない。

殺さねば殺られる。弓を握る手に力を込めて、引き絞る。


「射殺せ、航空」

「遅い」


瞬間の出来事だった。“敵”の砲口から放たれた砲弾が、携えていた航空機ごと貫いた。

爆散した航空機にグチャグチャとなった右手。

自分のものとは思えないグロテスクな惨状に、加賀は一瞬であったが動きを止める。


「遅いのよ、アンタ」


それが致命的な隙だと終ぞ気付かずに。

次いで飛んで来た砲弾を顔面で受け、加賀は血飛沫を上げながら、沈んでいく。

     

「……ッ、こんな所で!」

「死ぬのよ、アンタは」


そして、身体を翻し次の獲物へと飛び込んでいく。

加賀の左横にいた不知火は強く海上を踏みしめ加速した。曙も拳を構え、繰り出される砲口を瞬く間に受け流していく。

殺気が現れた拳撃など、読むに容易い。目を血走らせ、わなわなと頬を震わせてる不知火を見ていると、滑稽にさえ感じる。

戦場にて感情任せに動いたら死ぬぞと習わなかったのか。いつもは無愛想な癖に、この部隊に愛情でも抱いていたのだろうか。

心は熱く燃え滾ろうとも、身体は冷静に対処せよ。提督が教えてくれた戦の教えを胸に、曙は海面を蹴り飛ばし、疾走を始める。

触れ合う度に燃える熱さと痺れが身体に満たしていく。戦場の高揚感が、場を包む。


「……拙いですね」


不知火は舌打ちと共に、これ以上受け流され続けると疲労で腕が動かなくなると判断。一旦距離を離そうとバックステップを取るが、そうは簡単には逃さない。

せっかくの好機、今を逃さずしていつ敵を屠るのか。拳と拳が噛み合いながら、鍔迫り合う。


「不知火さん!」


正気に戻ったのか、鳳翔が弓に航空機を携えてこちらに向けていた。

あくまで向けたままなのは、隙を突いてうまく自分だけを射抜こうとしているのだろう。

無論、そのまま撃てば、不知火ごと殺してしまうことを危惧しているといった考えがあるから、ある意味正しいとは思う。


「ホント、バカばっか」


だが、兵器として見たら愚策だ。自分達は替えの聞く存在なのに、何を惜しんでいるのか。

練度が高く、経験豊富な艦娘を共倒れに落とすならまだしも、不知火は弱い新兵のような存在だ。

ここで喪失しても、痛い損害とはならないのに躊躇しているのは情が深い鳳翔らしいといえば、らしいのだが。

そんな小賢しい戦法を取る余裕もない癖に、彼女達は未だ自分達に選択権があると思っていた。

なりふりを構える状況だと腑抜けている敵に、曙は冷笑する。

     

「焦れったい」


そもそもの話、練度の低い不知火なんて“いつでも”殺せる立場にいるというのに。

それを知らずに悠長な策を取った鳳翔は、その時点で負けていた。


「不知火ちゃん!?」


構えの合間を縫って突き出された連装砲の矛先が、不知火の腹を貫いた。

ごぼり、と汚い呻き声が上がる。

不知火は突き刺さった連装砲を抜き取り、何とか離脱しようと脚を動かすが、曙の力が強いせいか思うように動かせない。

握り締めた拳の力も徐々に落ちている。拳撃を休むことなく放ち続けた影響だろう、疲れによる硬直も始まっていた。


「ぶっ散れ」


不知火の阿鼻叫喚と共に撃ち放たれた砲弾は、彼女の肉体を完膚なきまでに破砕した。

腰から上が花火のように破裂する光景に対して、曙は気持ち悪いとも綺麗だとも感じない。

慣れた光景だ、別段に感慨を持つものでもない。

いつもと違うのは、殺す対象が深海の化物共から仲間だった艦娘に変わっただけ。

些細な違いだ、気に病む必要性は感じられない。


「あ、ぁあっ」

もはや、鳳翔に戦意など残されていなかった。

眼前で繰り広げられている地獄を直視できず、その場に崩れ落ちる。

顔に飛び散った肉塊を汚らわしそうに拭い、曙は不知火が背負っていた連装砲の残骸を鳳翔に向けて投げつけた。

弾丸の如き勢いで迫る鉄塊を、鳳翔は防ぐことすら敵わない。

鉄塊は深々と胸に食い込み、吹き出した血のぬるりとした感触を感じる前に膝から崩れ落ちる。

海面に大きく背中を打ち付けた鳳翔が、最後に見たのは――無表情で砲口を向ける曙の姿。

やめて。短い言葉すら言えず、彼女の身体は海の底に沈んでいった。

       

「後は、貴方だけ。疾くと死んでちょうだい」


残り、一人。炸裂音の元にいた彼女に対し、二人は憎しみの視線を向ける。

ここで、漸くか残る二人も状況を把握したのか我を取り戻す。


「あ、曙ちゃん……?」


突然の凶行に及んだ彼女――曙を前に、電は悲痛な視線を送った。

どうして、と。仲間を無造作に屠った少女に問いかけた言葉は悲しみに濡れている。

きっと何か理由があるはずだと、電だけは武器を構えなかった。

敵艦船を落とすことでさえ、心を痛める彼女が、仲間に対して武器を向けれる訳がない。

それだけ、彼女が優しく慈愛に満ちた少女だということなのだろう。

もっとも、曙にとってそんなことは“どうでもよかった”。

目を見開き、手をこちらへと伸ばした少女の優しさを完膚なきまでに穿つ。


「呆けてんじゃないわよ」


砲弾――装填。そして、着弾。電の言葉に耳を傾けることすら、しなかった。

まるで、耳が聞こえないかの如く無視をした。

聞いても、意味は無い。どうせ殺すのだから。

これから死ぬ奴の言葉なんて、ただの重りになるだけだ。

頭部に穴を開けて、脳髄が吹き出した死にかけにトドメを刺す。

特段に仲良くもない少女に情なんて持ち合わせていないからか、沈む最後の瞬間まで――何の感慨も湧かなかった。










「――無事に終わったか?」

「ああ。報告によると全員始末したらしい。艦娘全員を殺したんだ、あの提督も立場的には死んだようなもんだな」


暗闇の部屋で、電話越しで話す男が一人。

そして、電話の向こうには若い女性の声。

その様は闇に溶けた暗殺者の如く。淡々と、事後報告をする姿に感傷は全く見受けられなかった。


「それにしても、あいつは提督の中でも比較的良心的な存在なのに、残念だ」

「まあね。落とした理由なんて派閥の争いだしね。彼は艦娘第一の戦略で私達の派閥にとって邪魔だった、それだけさ」


くつくつと笑う彼女に、男は辟易しながらも報告を続けた。

彼女はいつだって人を小馬鹿にした様な態度を取る。有能ではあるし、見てくれもいいのにもったいない。


「君も知っているはずだ。昔の彼女達ならともかく、艦娘となった今の彼女達は人間じゃないね」

「普通の人間から見たら、な」

「艦娘はただの武器だよ。使い勝手のいい意志持ちの武器。それ以上でも、それ以下でもない」

「武器は大事に扱えって士官学校時代に習ったんだけどな」

「おいおい、君がそんなお利口な生徒な訳がない。それは長い付き合いの私がよ~~く知っている」
 

笑いが止み、吐き捨てられた声には憎しみが込められている。

ふんだんに、底の見えない沼の如く。どこまでも沈んでいきそうな錯覚さえ覚えてしまう。

   

「あの娘達を見て何とも思わないのか。笑顔を、泣き顔を、ぬくもりを……護りたいと願わんのかって言われたりしなかったかい?」

「ああ、聞いたよ。耳が腐る程な」

「だろうね。全く、どうも最近の提督は武器に情を持ち過ぎというかなんというか」


一拍。空白を置いてからの言葉には、侮蔑と失望が湧き出していた。

彼が抱いた優しさを下らない、と彼女は言った。心の底から艦娘を“武器”としてみている彼女にとっては理解できないことなのだろう。

男の方も彼女までとはいかないが、艦娘に情を抱き過ぎる最近の提督達には辟易していた。

かといって、彼女達は温もりを求めている。年頃の少女らしい思いも夢も希望も中身に詰まっている彼女達の扱いは慎重にならざるをえない。

邪険に扱うのも、戦場で響くので割りかし対応も考えてはいるが、“彼”自身甘ったるい情は全く抱いていないそ、そんな情を向けてくれるともうぬぼれはなかった。


「ああ――願う訳、ないだろう。どいつもこいつも、情で揺らいで目的がすり替わってやがる」

「戦争だから、か?」

「それもある。だが、私達の目的は昔も今も一つ。蒼き清浄なる海を化け物共から取り戻すことだろうが。
 理想で人は動かせても、世界は動かせない。甘さで人は救えても、世界は救えない」


いつだって、いつの世の中であっても。正義と理想だけで人は生きていけない。

綺麗事が心地よくとも、それだけでは他者の暴虐を防ぐことなんてできやしないのだから。


「武器第一の綺麗事に浸かり過ぎて頭が蕩けてしまってる奴等がこれからも増えていくだろうな」

「そりゃ、見目麗しい艦娘達を見て、心を揺らがせない奴等は殆どいないからな。こういうのを何て言うんだっけ?
 ああ、そうそう。可愛いは正義! だったかな」

「茶化すな、舌を引きぬくぞ。ともかく、練度の高い艦娘はいいが、中途半端な艦娘にまで情を注ぐ必要はない。
 ただでさえ、私達は追い詰められているのだから。一刻も早く、海上の自由を奪還しなければならん」


狭い陸地に追いやられた人間は、今では輸送にすら護衛をかけることしなくてはならない。

今ではまだ生活水準も最悪とまではなってないが、このままだと自分達の生活すら脅かされてしまうだろう。

各国とのパイプラインを繋ぐことすら至難の業となりつつある世界で、後ろを振り返る余裕などない。


「戦争だ、私達は戦争をやっているんだ。武器に対して情を抱いて、敵を討つのを躊躇う。そんな軍人など必要ない」

「とは言うが、汚れ仕事専門の俺達が言える立場じゃないな。たまには光の射す海で戦いたいもんだ」

「くははっ、そんなこと一ミリも思っていない癖に」


表舞台で悠々と戦果を披露できる提督を羨んだことは全くない。

そう言い切るには少し迷いがある。

彼も人間なのだから、少しの自己承認欲求は持っている。

だが、それを上回る程の狂気で抑えをしているだけなのだ。

    

「提督も、艦娘も替えがきく」

「はっ、じゃあ俺も替えがきくってことかい?」

「さぁね。今はまだ、使い捨てるつもりはないけど」

「ハッ、簡単に死んでたまるかよ。俺は最後まで生き残ってやるさ。アンタの描く夢が潰える瞬間まで」

「そいつは楽しみだ」


くつくつと笑い声を上げる“彼”は、止まらない。

否、止められないのだ。

戦場を常に渡り歩いている“彼”に止まるという言葉は存在しない。

少しでも踏み外せば死んでしまう地雷原、自分自身でさえも信じれない孤独な世界。

躊躇えば死ぬ、踏み越えたくば惑わされるな。暗示をかけるが如く、“彼”はひたむきに走り続けている。


……全ての罪罰は、我にあり。阿鼻叫喚、屍山血河の絶望の中で――――笑え。


司令である“彼”の殺意が、世界を塗り替えていく。

彼女達を最後まで最優のまま使い切り、この戦争を終わらせる。

艦娘達が殺すのではない、自分こそが引き金を引いて殺すのだ。

その重みを忘れないように。“彼”は強く胸の奥に戒めを刻む。



「使い物にならなくなったら、いつでも潰してやるからな?」

「こっちこそ、アンタに利用価値がなくなったら掌返してやるよ」

「ハッ、死んでくれるなよ、クソ提督」

「上等だ、クソ上司。んじゃ、最後にいつもの言葉で末尾を締めさせていただこう」


戦場で味わう刹那の快楽、喪失が生み出した憎しみを胸に、“彼”はこれからも戦うだろう。

全ては“願い”の為に。

電話口から聞こえる乾いた笑い声をBGMに“彼”は凄絶に頬を釣り上げて宣言する。


「第四十九特殊任務艦隊、貴方様のご依頼を完遂致しました」


――互いが信じる正義の為に、海を征く。




【プロローグ 了】

プロローグが終わりました。今回は書き溜め殆どでしたので、更新もスパスパですが、次回からは遅くなります。
こんな空気ですが、イチャラブもギャグもあるのでご安心下さい。
安価次第でどんどこキャラも増えていきます。

ちなみに、安価分岐は以下の通りです。

・最初の安価は、特殊任務艦隊一人目の選択肢。二回目の安価は残りメンツが死ぬか死なないかの選択肢でした。


ちなみに人がいれば、次回の更新で出てくる艦娘(今回死んだ娘も選べます)を選びたいのですが、いますかね。

いないようなので、安価は次回に回しますかね。
それなりに書き溜めしたらまた更新します。

普通にいたので、安価だけちゃちゃーっとしますか。

次回登場する艦娘をどうぞ。

↓234

次回登場キャラ三人は青葉、明石、夕張になりました。
今後も読まれて不備が見つかったらご指導ご鞭撻、よろしくです。

後、小ネタ的な書き込みは拾ったり、たまに安価で募集するかもなので、普通に書き込んで頂いてオッケーだったりします。
気軽にほんわかいきましょう。

ちょろっと時間が生まれたのでとっとこ投下していきます。
安価もあるので、まあ気晴らしにどうぞ。

    
「クソ提督、お茶」

「お茶ぐらい自分で淹れろ、ガキ」


太陽が登り、新しい朝がやってくる。

朝。大抵の人間は起き、各々仕事に向かうなり学業に専念するなどといったやるべきことを行動に移す時間だ。

それは日夜、海上で血煙を浴び、砲火を潜り抜ける艦娘達や最良の選択肢を取るべく頭を廻す提督もその例に漏れない。

できれば一年中布団にでも入って、何をするでもない時間を過ごしたいものだが、軍人故に諦めの境地に至った。


「少しは労って欲しいのよ、それぐらい察しなさい」

「誠意は高給で証明している」

「乙女心をわかってないわね。私が欲しいのは――アンタの愛よ」

「嘘をつくならもっとうまい嘘をつけ」

「そこは、嘘でも乗っておきなさいよ」


とある雑多な執務室に、二人の男女がぐったりとした表情で机の書類を処理していた。

先日の任務で疲れた身体を癒す暇もなく、書類の山を崩すことに専念していた曙が目尻を上げ抗議する。

ペンを動かす手はそのままに、罵詈雑言をぶつくさという雰囲気は正直、重い。

軍人だから戦っているだけでいいなんて虫のいい話はなく、当然書類業務をしなければならない。

特に、他とは違い、あまり表に出来ない任務を遂行している手前、他の部署に業務を委託なんてこともできるはずもなかった。

故に、第四十九特殊任務艦隊の司令である“彼”――提督と艦娘が共同で行うのだ。

      

「どう考えてもこの職場、ブラック過ぎない?」

「ああ、やってることがブラックだからな。必然、業務もブラックになる」

「福利厚生はどこに逃げたのかしらね」

「地獄の一丁目だよ。そろそろ俺達にもお呼びがかかるんじゃないか?」

「お生憎様、裁く罪が多過ぎて地獄の閻魔大王に追い返されちゃうわ」


デスクワークで疲れたのか、曙は背伸びをしたり首を回したりと見るからに気怠そうに溜息を吐いていた。

“彼”も腐ったゴミのような目つきでお茶を飲んで机に突っ伏している。

手鏡で自分の顔を見てみると、頬は痩せこけ、目の下にはクマができていた。

うわぁ、と思わず声に出してしまう有り様だ。

一応、男として最低限の身だしなみぐらいは整えておきたいとは常日頃考えてはいるが、如何せん出会いのない職場だ。

あっても、お互いに派閥、年齢といった違いもある。障害は多く、険しい道程である。


「……はぁ、出会いもときめきもあったもんじゃない」

「選り取りみどりなのに高望みしてるから悪いのよ。経歴問わず、能力で集められたのが鎮守府でしょう?
 捜せば、老若男女選び放題じゃない。ほら、盛りのついた猫みたいに行って来なさいよ」

「馬鹿野郎。大抵は艦娘達に惚の字な提督共が俺に見向きもするかよ」

「言えてる。アンタ、本当に普通だもんね」


加えて、大抵の提督は自分の艦娘達にとことん惚れ込んでいる。

見てくれが良く、性格もいい自分に尽くしてくれる存在を是とするのはある種当然のことだ。

      

「お前も見てくれはいいし、その強気な性格も人によってはご褒美みたいなもんなんだがな」

「アンタにとってはどうなの?」

「ご想像にお任せだな。できるならば、足の引っ張り合いとも無縁な後腐れない関係を望みたい所だが」

「…………」

「おいやめろ、そんな熱のこもった目で見るのは」

「……ばっかじゃないの、この自意識過剰。勘違い甚だしいんだけれど」


溜息もそこそこに、二人は再び視線を机へと戻し、作業を再開する。

本来ならこんな書類業務なんて投げ捨てたい。

そして、温泉にでも入ってゆっくり盃を傾けたい所だが、そうは問屋が卸さない。

突如、鳴り響く電話が、“彼”の目じりを歪ませる。

ああ、取りたくない。きっと厄介事だ。

それは長年の経験から察知される第六感か。それとも、疲れ切った身体の悲鳴か。

どちらにせよ、“彼”に選択肢はない。

あるはずもないのだ。


コンマ↓3

00~49 シリアス
 
50~99 イチャラブ







  
「……ねぇ」

「何だ」

「もしもの話ね。私が、クソ提督のことを――好きだって言ったらどうする?」


突然の言葉に、“彼”は目を丸くする。

よもや、曙の口からそんなふんわりとした思いが吐き出されるとは。

普段なら笑い飛ばして、お前みたいな跳ねっ返りは嫌いだよと答える所である。

そう、普段ならば。


「……むぅ」


ほんの少し。観察眼に優れる“彼”でさえも見逃すかもしれない僅かな感情の機微が曙から感じられた。

頬をちょっと膨らませ、目を逸らしている彼女の姿はまるで生きた人間ではないか。

兵器であるというのに。容易く人を殺せる力を持っているというのに。

これでは、歳相応の女の子だ。ちょっと気になる人に対して一歩を踏み出せない可愛らしい女の子と錯覚してしまう。

くつくつと、“彼”は笑った。薄く、軽く、バレないように。

艦娘に熱を入れる提督の気持ちがわかる気がする。確かに、これは心地良い。

チョコレートのように甘く蕩け、麻薬のような常備性を兼ね備えたかのような少女達。


……揺らぐな。


揺らいだら、いけない。一人の少女として曙を扱うな。

彼の中に含まれた理性がそう告げる。

   
「おいおい。もしもの話をしても仕方がないだろう? その言葉はお前が本当に愛せる奴が出た時に言えばいい」


明確に否定をするでもなく、肯定するでもなくお茶を濁す。

情けないとは思わない。ここで、特有の娘と仲良くなるのは艦隊指揮に関わる。

情を抱き過ぎると、感情のブレーキが壊れてしまう。

理性で抑えれる限りは親交を深めてもいいとは“彼”も考えて入るが、踏み込み過ぎはよろしくない。

曙にとっても、“彼”にとっても。

喪失が生み出す感情の暴走はきっと、果てない闇を生み出すことになるだろう。


「ま、アンタならそう言うと思ったわ」

「残念なのか? そりゃ失敬な言葉を言ったな」

「そうじゃないわよ。別にアンタのことなんて何とも思っていないんだから!」

「そんなテンプレートみたいなセリフを言われたら勘違いしてしまうぜ?」

「嘘ばっかり。表面だけの言葉で女の子を口説こうなんて浅はかよ」


曙はふんと鼻を鳴らし、それまで座っていた椅子から立ち上がる。

だが、思いの外長時間座っていたからなのか、足が痺れて態勢を崩してしまう。

揺れる視界、平衡感覚が回転する。

このまま顔から転ぶのは勘弁だと何とか、体制を立て直そうとするが、思うように両足は動かない。

手は突然のことにフリーズしている。八方塞がりでジ・エンドだ。

   

「~~~~~っ! …………あれっ」

「何やってんだよ、頭が花畑になってんのか」


地面と熱いキスをを交わす前に、曙をふんわりとした感触が包む。

視界は白。見上げると、眉を顰めた“彼”の姿が入ってくる。


「あ、ありがと……」

「どういたしまして。お前が素直に礼を言うなんて明日は嵐かね。
 というか、いきなり倒れそうになるから、びっくりしたぞ」


肩を竦め、笑う“彼”はいつも通りだ。

それとは対称的に今の曙はまるで町娘であるかのようにぷるぷると震えている。

徐々に落ち着きを取り戻した頭は、瞬時に理解した。

今の現状を客観的に見ると――とても恥ずかしいということに。

転ぶ曙を抑えようとしたのか、“彼”の両手は曙の背中に回されており、その力も強い。

言うなれば、ぎゅっと恋人みたいに抱きしめられているのだ。


「クククク、クソていときゅっ!」

「噛んでるぞ、おい。何だ、一端の乙女みたいな反応しやがって」

「いっひゃい……! 乙女よ、乙女! 一応、私はまだ歳相応なんだから!」

「まあ確かに。顔が真っ赤で涙目のお前は傍から見ると可愛らしい女の子だな」


ニヤリと笑う“彼”はイタズラ心が湧いたのか抱きしめる力を更に強めてくる。

これでは離れる事ができないではないか。


「ば、ばかっ! ばか――――っ!」

「はいはい、イタズラがすぎましたよーっと」


男特有の力強さと臭いが曙から離れていく。

思っていたよかしつこくなかったせいか、少しだけ物足りなさを感じたがそれは気の迷いだろう。


「これぐらいでどうにかできると思わないでよねっ」

「思ってもいないし、こんなのちょっとした戯れだろうが。特段、残るもんでもあるまい」


表情を変えずにあっさりと言い捨てた“彼”の顔は変わらず小馬鹿にしたような笑顔だった。

できることならば、もっと抱きしめていても良いと思った所で、曙は相当に毒されていると気づく。


「もうっ、知らないわよ!」

「はいはい、ご機嫌斜めなお嬢様にご無礼をはたらいて申し訳なく思いますよ」


恥ずかしさを収める為に、そっぽを向いて“彼”の顔を見ないよう努めている曙は気づかない。

これが、先日の任務を重く背負いかけている曙が普段通りを取り戻す口八丁だということに。


――これで、彼女の肩の荷が下りて、任務遂行の意欲も上がればいいが。


そんな、“彼”の小さな思いは無論のこと曙に届くことなんて無い。








「…………まさか、工廠の資材搬入の手伝いとはな」

「私達のことをただの便利屋だと思ってるんじゃない?」

「その可能性は大いにあるな。工廠の妖精が出払っていて人員が足りないんだ、てへっ☆ だってよ。
 馬鹿にしてるのか、全く」


言い渡された任務はこの前とは百八十度は正反対なものだった。

資材搬入、出払っている妖精の代わりに指示など多種多様に手助けしろとのことだ。

簡素に言ってしまえば、工廠の手伝いである。

いつから自分達は雑用係になったのだと文句の一つでも付けたい所だが、これも立派な仕事だ。


「ともかく、戦場よりは気が楽だろう?」

「まーね。ちゃっちゃっと終わらせて帰りましょう。
 あーあ、休みがないってのも高給取りの辛い所よね」


ふんふかふーんと鼻歌を交えながら歩く曙は、いつもよりは上機嫌に見える。

硝煙弾雨が激しい戦場よかよっぽど楽だからか。

それとも、“彼”と一緒にいれるからか。


……ま、それは自惚れが過ぎるな。


前世からの因縁、一目惚れといった激情、運命の王子様とお姫様。

そんなロマン溢れるもので繋がっているならば、どんなに良かったことか。

一緒に歩み、笑い、泣き、生きていく。

健やかなる時も病める時も、永久の愛を誓えるだけの感情の蓄積があれば――きっと、満足に至っただろう。

   

……だが、無意味だ。俺は人間で曙は兵器だ。


事実、“彼”は使い捨てなくてはいけない時が来たら、躊躇なく曙を切り捨てるつもりだ。

それは曙も同じである。互いを繋いでいるのは利害だけ。

一人で戦うには辛く拙いから手を伸ばしあってるだけの共存関係。

歪で醜悪だと、自嘲した。


「なぁ、曙」


内に秘めた情で繋がっているなんてありえないとさえ断じている。


「何よ」




↓安価3


1「お前、鼻歌ヘッタクソだな」

2「休気が乗らないなら、執務室で待機しているか?」

3「………………うわ」

    
「お前、鼻歌ヘッタクソだな」

「…………うっさいわね」


踏んでしまった地雷は、少しばかり根が深かった。

目に見えて曙の態度が不機嫌になっている。

よもや、この程度のからかいで機嫌が悪くなるとは“彼”も思わなかったのか。


「そこまで言うんだからさ、今度教えてよ」

「俺が?」

「そっ。偉そうに言うんだから当然、私よりはうまいんでしょ?」


提示された条件は、“彼”にとってそこまで重いものではないが、面倒くさいと感じることだった。

鼻歌を教えるなんて、まるで教師みたいだ。

未来ある子供に物事を教える立場じゃない自分が、笑えてくるではないか、

だが、ここで断ると後が怖い。

煩く、纏わり付いてくる曙の姿が容易に浮かぶ。


「わかったよ。今度な。この任務が“終わった”後、だ」

「約束だからね、破ったら承知しないんだから」

「はいはい、わかりましたよっと」


本来ならこのような約束事はしない。

もしも、任務で殉職でもしてしまったら――淀みが残ってしまう。

だが、今回はそんなに厳しくもない任務ということで“彼”も少し緩んでいた。

曙が死ぬことなんて無いと高を括っていたのだ。



【曙、死亡フラグ+1】







     

「ようこそお越しくださいました! 私がこの工廠の責任者である明石です、以後お見知りおきを」

「そして、アシスタントの夕張ですっ」


工作艦、明石。軽巡洋艦、夕張。

二人の艦娘達はニコニコ笑顔で決めポーズまで取って歓迎の意志を示してくれた。

初対面だからと気を使ってくれたのだろうか。無駄にきゃぴきゃぴとした雰囲気を出している。

“彼”自身、暗いよりかはやりやすいとは思っているがここまでやれとは言ってない。

親しみを感じやすいのはいいが、これでは逆効果だ。

異様なまでのフレンドリーさが怪しさ倍増で、お近づきになりたくないとさえ感じてしまう。


……変身ヒーローみたいなポーズはちょっと。


隣にいる曙も頬を引きつらせて脚が後ろへと向いている。

こういう馴れ馴れしいのはあまり得意ではないのか、顔つきも先程と比べて渋い。


「……わざわざお出迎、感謝します。第“五十”部隊、任務によりただ今馳せ参じました」


一応、第四十九特殊任務艦隊は秘匿部隊だ。大っぴらにその名を掲げて動き回るのは得策ではない。

それ故か、上司が仮の名義である第五十部隊としての外面をくれたのだ。

こうして騙していることに良心の呵責はないのかと考えたことはあるが、今更だった。

こんな任務に就いている時点で、そんな心はとっくに捨て去っている。

営業スマイル的なものも自画自賛できるぐらいにはお手のものだ。

せめて、外向きだけでも流麗かつ艶美な振る舞いを。

色々な方面でも役に立つことであるが故に、“彼”はその辺りの外面を整える心は持ち合わせていた。


   

「お固いですねぇ。気楽にいきましょう、気楽に。それとも、日夜の進撃で疲れているんですかね。
 よろしければ、修理しますか?」

「結構です。変な武装でも付け加えられたら困るので」


初対面の艦娘達に自分の身を預ける程信用している訳でもないし、当然だ。

それ以前に、くひひと笑っている彼女達を信用しろという方が難しい。


「あらら、振られちゃいましたね」

「も、もしかして……狙いは私だったり!?」


勝手に盛り上がっている彼女達を尻目に、自分達のテンションはだだ下がりだ。

これが研究畑の人間か、と目を薄くする。

しかし、相手のペースのままにしておくのはいただけない。

どうにかして、会話の主導権を握らなければ。




↓3


1「ああ、すいません。貴方の美しさに恐れ慄いているのです。申し訳ない、明石さん。どうか貴方の華奢な手に傅かせてもらいたい。
 それでは、これからのことについて話しましょうか」

2「ええ、夕張さん。是非ともその麗しき唇、私だけのものにしたいのですが。この後、個室でゆっくりとお話でもどうでしょうか?」

平日+時間も深夜になりそうなので、ここで締めです。お付き合い、ありがとうございました。
反応だの合いの手だのヒャッハー言いながら読んでます、頑張ります。
イチャラブでほんわか進めていきましょう。


・残り安価の内容ではこのように分岐していました。


2「気が乗らないなら、執務室で待機しているか?」 →曙ちゃんが帰って、艦隊メンツ二人目が登場(安価指定)。

3「………………うわ」→うーぴょん登場。


1「ああ、すいません。貴方の美しさに恐れ慄いているのです。申し訳ない、明石さん。どうか貴方の華奢な手に傅かせてもらいたい。
 それでは、これからのことについて話しましょうか」 →明石さんと仲良くなる分岐。


・あのプロローグ提督はどうなったの?

死なないにしても、死ぬにしてもどちらにせよ碌な目にはあいません。
お察し下さい。


思い出を壊されようとも舞が一番好きです。
某死にゲーと違って、このスレはほんわかふもふもなノリでやっていくのでご安心下さい。
ちょびっと時間があるので更新します。

       

「ええ、夕張さん。是非ともその麗しき唇、私だけのものにしたいのですが。この後、個室でゆっくりとお話でもどうでしょうか?」

「…………ふへ?」


まさか、そう来るとは思ってもいなかったのか。

目をぱちくりとさせながら夕張はきょとんとした表情を浮かべていた。

柔和な笑みを浮かべ、嫋やかな手をそっと握り締める。

徐々に紅潮していく頬からして、それなりに効果はあったらしい。


「ちょ、そういうことはですねぇ!」

「おや、この程度の瑣末な言葉は聞き慣れていると思いましたが、これは失敬」


無論、心から思っている言葉ではなく、遊びだ。ちょっとした先制攻撃のようなものだ。

これからも嫌がらせ半分、興味半分といった所で接していくとしよう。


「…………ふん」


だが、連れの少女には大層にご不満だったらしい。

通常よりも幾倍も目が釣り上がり、地団駄と足にも落ち着きがない。

殺気とさえ称せる不穏な空気が彼女の周りを彷徨いている。

加えて、曙の舌打ちがさっきから耳障りだ。一端の娘らしく嫉妬でもしているのだろうか。

ぎちぎちと歯ぎしりをしながら睨んでいるが、無視だ。突っ込んだら、野犬の如く噛み付かれてしまう。


……馬鹿らしい考えだな。


普段の曙が見せる態度からしてそれだけはありえない。

あの態度が好みの男性に取るものとは“彼”は思えなかった。

傲岸不遜、常に刺々しい曙ではあるが、好きな人の前ではきっとそれなりにしおらしくなるだろう。

まあ、気にするだけ損だ。彼女の恋愛事情に口を挟む程、自分達は馴れ合っている訳でもないのだから。


「では、ここから先は、口と口で交流しましょうか。たっぷりと、ね」

「はぁ……それじゃあ、私がご指名のようなので、引き受けます。後はお願い、明石」

「了解しましたっ。それじゃあ、曙さん、行きましょうか」

「…………チッ」


何故だか知らないが、さっきよりも圧力が増していると感じたのは気のせいだと“彼”は無理矢理に結論づけた。









場所を応接室に移して“彼”と夕張は互いに立ちっぱなしで話していた。

応接室というだけあって、ふかふかそうなソファーもあったが、座る気にはなれない。

座っていいですよと言われたが、とある理由から拒否。

依然として、立ったままで彼女と向き合っている。


「さてと。お戯れはここまでにして。それじゃ、そろそろ本題といきましょうか」


彼女の笑みが三日月に釣り上がる前に、“彼”は腰に下げていた無薬莢型の自動拳銃を抜き放つ。

銃口の先にいるのは夕張の背後。カーテンの後ろに潜む何か。


「あらら、何をやっているんです?」

「ほざけ。さっきから気配丸出しで控えさせてる奴を出してから言えよ」


思い返すと、出会った瞬間から胡散臭い奴等だった。

無駄に高いテンション。馴れ馴れしくも媚びてくる態度。

こんな冴えない奴に媚びを売ることは基本的にありえない。一目惚れとか言うでもなし、“彼”の疑心は彼女達と話すに連れて強まっていく。

そして、その疑心が確信に変わったのは此方を値踏みしている気配だった。

最初は単なる偶然かもしれないと考えたが、偶然にしてはおかしい。

出てくるなら堂々としていればいいものを、わざわざ隠れているものだから怪しさも満点だ。


「ありゃりゃ、バレちゃいましたか」


カーテンの裾から出てきたのは、人懐っこい笑みを浮かべた一人の艦娘だった。

年の頃は高校生、ボサボサの髪を後ろで束ねた快活そうな少女だ。

むふふと笑いながら現れた彼女――青葉はゆっくりと此方へと歩み寄り、瞬間――駆け出した。

勢い良く跳躍してきた青葉は、刹那の間を開けずに一足一刀の間合いへと踏み込んでいく。

対する“彼”も黙っている訳もなく、拳銃のトリガーを躊躇なく引き、殺しにかかる。


「遅いっ」


だが、青葉は真っ直ぐに突き進む弾丸を、安々と躱す。それどころか反撃として、横薙ぎの足刀を一閃。

ガードした“彼”の腕と衝突する。その勢いのままに体を捻らせながら青葉は飛び上がり、空を踏む。

舞った空から、流星が降りてくる。“彼”の頭部めがけて圧砕の蹴撃を突き刺そうと足を伸ばす。


……これを受けたら、拙い。


そう察知したのか、“彼”も地面を蹴り、がら空きの前へと疾走。

躱された蹴撃は地面を蹴ることに留まり、両者は膠着状態に移る。

      

「むっ、青葉と互角に渡り合えるとは中々ですねぇ」

「……挨拶がわりに蹴りかかってくるなんて、躾のなっていない番犬を飼っているんですね」

「わざわざ一人になるような隙を見せるから悪いんですよぉ。一人でも十分に対処できるってことですか?」

「ご想像にお任せします」


本来なら、曙もこの場に連れてこればよかったのだが、今の精神状態ではとてもじゃないが側に置けない。

敵対するものならば、即座に撃滅してしまうのではないかと“彼”が危惧してしまうぐらいに、機嫌が悪い。

加えて、問答無用に襲いかかってきても自分なら何とかやり過ごせるだけの力量は持っている。

拉致監禁とあらば、残りの部隊メンバーがどうにか救出するなりと何らかの行動を起こすだろう。


……それに、この程度で死ぬならそこまでの器だったっていうだけだ。


窮地を一人で乗り越えられない程度の野郎は死骸を晒して朽ち果ててしまえばいい。


「まあ、戯れはこの程度にしておきましょうか」


クスクスと小さな笑い声を上げて、夕張は青葉に対して手を下げる。


「どうしても知りたくなりましてね。第四十九特殊任務艦隊を指揮する立場の人が、どれだけできるのか」

「試されるのは慣れてるから怒りませんが、次はありませんよ。一々、対応していては面倒なもので」

「肝に銘じておきます」

「ということで、貴方の目には適いましたか?」

「ええ、それはもう」


とりあえず、無傷でこの場を切り抜けられたことに感謝し、“彼”はソファーへ座る。

立っている必要はないと判断したのか、夕張と青葉も同じく。


「わざわざ隣に座る必要はないと思うんですが、青葉さん」

「いえいえ、青葉のことはお気になさらず。どうぞ、いないものと考えて下さいなっ」

「……ぬふふっ」


どうやら、この馴れ馴れしさは素であるらしい。

もっとも、それが相手を油断する術という可能性は否定出来ないので、“彼”も警戒を崩さない。

これからが本番だ。のんべんだらりとした任務など、自分達に舞い込んでくるはずがないのだから。

      

「それで、工廠への資材搬入の手伝いと聞いてやってきたんだが……本当の所はなんだ?」

「いえいえ、資材搬入の手伝いですよ? 言葉の通りに。ただですね」

「――他の直轄地である資材調達の島からこっそりと奪い取る。そんな所でしょう」


浮かび上がった言葉はなんてことのない予測にも至らない確信だった。

他の鎮守府の縄張りで資材を奪い取り、搬入する。無論、内地から送られる資材もあるが、それだけでは心許ない。

故に、各鎮守府は各鎮守府が独占できる資材調達の島を持っているのだ。外部からも恒久的に資材調達ができるように。

海域への出撃がどの業務よりも優先されているのはその為である。

先日の任務で殺した提督も、資材の重要性を理解していたからこそ焦りがあったのだろう。


「資材の貯蓄もバカになりませんからね。ただでさえ、出撃回数が増えてきているというのに資材はジリ貧ですよ、もう」

「だから、他の鎮守府からこっそりと奪ってしまおうって考えつくのはどうかと思いますけどね」

「あはは、こういうのってバレなきゃ罪に問われないんですよ、バレなきゃ」


ニコニコ顔でそう答える夕張に、“彼”は戦慄する。

よもや、ここまでアグレッシブに軍規を破ろうとしているとは。

だが、言葉を変えれば、そこまでしなくてはならない程に資材が足りないということになる。

“彼”も知る通り、各鎮守府には一定の資材が常に補給され、それらを使って建造や近代化改修を行っている。

当然、艦娘達の修復にも資材が投入されるので、様々な方面で欠かすことの出来ないピースとして扱われているのだ。


「事の次第はわかりました。それで――私“個人”に入る見返りは?」

「へ?」

「私、その任務を受けるとは一度も言っておりませんが」

「あらら、一応これってそちらの上司さんに頼んだ」

「ははは、おかしなことを言う。“俺”はこう言ってるんだ。今後ともよろしくしたいからテメェの悪どい企み事に一枚噛ませろってな」


これはチャンスだ。上手く乗り切れば、工廠の副責任者と個人的な間柄でも懇意になれる。

ドックに建造枠、それらを優先してもらえる可能性を秘めているのだから逃す手はない。

絞れるだけ絞りたい。徹底して彼女の旨味を味わい尽くす。

リスクもあるが、それを狙うだけのリターンはある。

     

「おおぅ、やはり来ましたねぇ! 青葉、脅迫って初めて見ましたよぅ!」

「青葉、ちょっと黙っててね」

「ういさーっ!」


大っぴらな戦闘ではないものの相当に危険な任務だ。

相手側に捕まれば間違いなく拷問の末に命果てることになるだろう。


「潜入して資材を奪い取るんです、それなりの手数と準備。資材調達を抜かりなく行える手筈は済んでいることが前提条件です」

「ええ、その辺りは――」

↓3



1全く考えていませんでしたー、テヘッ☆

2私も同行するのでご安心を!

3青葉が同行するのでバッチリです!

      

「青葉が同行するのでバッチリです!」

「はいはーい! 青葉、頑張っちゃいま――――すっ!」


正直、不安しかなかった。このお気楽艦娘は本当に頼りになるのだろうか。

武力という意味では軽巡よりも強く頼りになると考えているが、頭の面ではどう考えても夕張の方が頼りになる気がしてならない。

今回のような真向から戦う任務でない限りは、頭脳派と称される艦娘を指揮したかった。

“彼”としては、締めるとこはきちんと締めていそうな夕張の同行を望んでいたが、そうもいかないらしい。


「それなら安心ですよね? 曙ちゃん一人に行かせる訳ないですってばぁ」

「一人で行かせる訳ないだろうが。曙も連れて行くが、」


ニコニコ顔で答える夕張に対し、“彼”は表情を崩さずに思考を重ねていく。


……食えない女だ。


彼女も“彼”と同様に表情を全く歪めない。

人懐っこい笑顔で、こちらを取り込もうと口八丁で繰り出してくる。

脳筋気味の提督や艦娘達とは違ってやりにくい部類だ。


「まあ、いい。だが、曙と青葉だけでまともに資材を運搬できるのか?」

「その点に関してはまあ、何とかします。ドラム缶ガン積みで行ったり来たりだったりとか」

「人員を増やすっていうのは?」

「無理でしょう。私達、工廠組でこのことを知っているのは私と青葉だけなんで」

「それでよくもまあ、こんなだいそれたことを企てたな……」

「ふへへ……乙女には色々と理由があるんですよ。とりあえず、鎮守府の為とかではないですね」

鎮守府の為ではない。その一言で、“彼”の夕張に対しての好感度はそれなりに上がった。

誰かを護りたい、救けたい、そんな言葉で自分を犠牲にする奴よかよっぽど好感が持てる。

軍人は正義の味方じゃない。各々、自分の願いに基づいた正義を掲げて海を進んでいるのだから、当然だ。


「それで、返答はどうなんです? この任務、受けていただきますか?」

「……条件を幾つか付ける。それで、いいか?」

「ええ、私ができることならばなんなりと。あ、でもでもっ! 資材くれーってのは駄目ですよ!」


資材以外なら大抵はオッケーサインとは、どこまでも自分の開発に夢中な夕張に“彼”は苦笑する。

よほど、開発業務が好きなのだろう、それを円滑に行いたいが為に他の鎮守府から資材を奪うことを厭わない。

大義に殉じる奴よりも私欲に濡れる奴は扱いやすく、狡猾だ。

決して食われぬことのないようにしなければならない。

だが、食われぬ内はうまくやっていける。仲の良い“友人”という訳だ。

ひとまず、条件に付け加えたのは三つ。

一つ目はドックの優先権。もしも、任務で急を要する場合には役に立つだろう。

二つ目は開発、建造のサポート。こればっかりは“彼”ができる分野ではないので夕張には色々と手伝ってもらうことにしよう。

そして、三つ目は――。

↓4


1「役に立たなかったら――容赦なく切り捨ててやる」

2「夕張の夕張メロンを揉む権利をくれ」

3自由安価

     

「夕張の夕張メロンを揉む権利をくれ」

「――――――えっ?」

「聞こえなかったのか。ならもう一度言おう。夕張の夕張メロンを揉む権利をくれ」


あまりにもあからさまかつ真っ直ぐな言葉に、フリーズしてしまったのか。

夕張はまばたきすらせずにわなわなと唇を震わせていた。

徐々に紅葉色へと染まっていく頬。あわあわと言葉にならない唇。

耳まで届いた赤を振り払おうとしたのか、頭を振るが一向に色は落ちなかった。


「ちょ、ちょ、にゃにゅをいってりゅんですきゃ!」

「……いや、落ち着き無さ過ぎだろ。もしや、麗しの艦娘様はそちらの方面は未体験かな?」


ニヤリと笑う“彼”は悪代官のようで。

くつくつと上げた笑い声は、思っていたよりも淀みが混じっていた。


……まあ、冗談なんだけどな。提督なしの工廠艦娘はそちらの経験は未体験らしいな。


もっとも、これも演技なのかもしれないな、と軽く考えたがどう見ても本気の態度だ。

どちらにせよ、彼女の身体なんてどうでもいいと考えている“彼”からするとからかいの域を出ない。


「ともかく、引き受けようじゃないか、その任務。条件のこと、忘れるなよ」


まあ、この程度の条件など後から幾らでも反故にできる。

二つ目まではともかく、三つ目は特段に重く言ってもいないのだから大丈夫と判断。

夕張も三つ目に限っては、後に冗談と気づくだろう。

初な女の子でもあるまいし、そこまで重く考えてはいないと結論づけて、“彼”は会話を打ち切った。


――さてと、リスクを少しでも減らすべく動きましょうかね。


笑う。嗤う。何処とも知れぬ誰かを礎に、彼らは嗤う。

個人的な思惑が交わせながら、自分が望む結末を手繰り寄せるべく、奔走する。

その過程で誰が死のうが、誰が苦悩しようが、知ったことではなかった。

大切なのは自分だ。自分を大切に出来ない者が、何かを成せるはずもない。

夜も深くなってきたので、今日はここまでにします。
そろそろ二人目の艦隊メンバーも出さないといけませんね。
ゆるゆるでほんのりとした空気でいきましょう。

明石安価を選ぶと、明石さんと仲良くなるポジションって感じでした。
ちなみにフラグ数値が加算されるにつれて不可避イベント的な何かになります。
更新を始めるその前に、安価をしたいのですが人はいますかね。


そういえば、前回の安価分岐はこんな感じでした。

1全く考えていませんでしたー、テヘッ☆ ……切り捨てフラグ+1

2私も同行するのでご安心を! ……夕張フラグ+1

「役に立たなかったら――容赦なく切り捨ててやる」 ……切り捨てフラグ+1

人がいるので安価を取ります。

敵側にいる艦娘↓2
四十九所属の艦娘↓3

敵艦娘、味方艦娘は今回の任務で出る予定なので、どうぞごゆるりと砲弾をぶちかまして下さい。
では通常更新に移ります。








計画実行前日。

執務室にて、“彼”と曙、そして夕張に青葉が集い計画の最終確認を行っていた。


「全く、泥棒の片棒をかつぐなんてね」

「にはははっ、まあ任務なんでしかたないですねぇ~」


資材を貯めた直轄の島と言っても、鎮守府からの距離は様々だ。

攻略海域の途中にある打ち捨てられた港だったり、果ての何処とも知れぬ島だったり。

千差万別に振り分けられた島を近場の鎮守府が管理しているといった仕組みだ。

本来なら、見回りの艦娘だったり、駐在する軍人をそれなりに配置しているはずと、予想する。

深海棲艦が資材の産出される島をいつ襲撃するかわかったものではない。

故に、襲撃に対しての備えはあって損はないと“彼”は考えていた。


「まあ、ゆるゆるな警備を抜けるだけなら余裕なんだけれど」


だが、上層部は深海棲艦にそこまでの知謀をする頭はないと判断し、薄い警備しか配置していないはずである。

それ以前に、資材の直轄地全てに人材を満遍なく配置できる程、余裕がある訳でもないので一概に上層部が無能という訳ではない。

もっとも、各鎮守府が独自で私兵を送り込み、防備を強化している可能性はあるので油断は禁物だ。

警備が薄いことがコモンセンスとして広まっているとはいえ、例外は必ず存在する。

夕張を信用していないということもあるが、不確定要素はつきものだ。

その為のバックアップはしているとはいえ、“彼”にも読めない事態が巻き起こるかもしれない。

可能性を考え出したらキリがないが、戦場で過信をすると――痛い目にあう。


「資材搬入となれば、一手間掛けないといけないわね」


ただ敵を殺すだけならば、簡単だ。見敵必殺、目に映るモノ全てを砲撃にて焼き払えばいい。

だが、今回は違う。資材搬入を優先した任務である以上、敵を殺すことにかまけていてはいけない。

最優先事項は資材の奪取。それ以外は全て瑣末の事に入れられる。

    

「ねぇ、青葉。アンタには何か策がある訳? さっきから媚びたような笑みしか浮かべてないけど、まともに考えているんでしょうね?」

「ふへ?」

ここで、曙が青葉へと視線を移す。

一応、彼女も実行部隊の一員なので、何か名案を思い付いているのかもしれない。

他の人間の意見を聞いて、少しでも改良できるならそれに越したことはないとは思っているが、青葉がまともな意見を出すとは思えなかった。

常にニコニコ、いつでもどこでも這いよりますと言わんばかりな彼女を、曙は好まなかった。

加えて、“彼”に対して馴れ馴れしいし、ボディタッチも多い。

そいつは私のものだ、と声を荒らげて言いそうになったが、何とか踏みとどまる。

ここでムキになったら誤解されてしまう。そういう感情なんて持ち合わせていないのに、まるで恋する乙女のような扱いを受けてしまう。

故に、彼女の振る舞いに対しては見て見ぬフリを続けてきたが、さすがに我慢の限界だ。

こうして、曙が真面目に策を考えている間も彼女は“彼”にべったりと張り付いているのだから。


「というか、アンタくっつき過ぎじゃない? 見ているこっちはいい迷惑なんだけど」

「えぇ~、そうですかぁ~? むしろぉ、見せつけてるんですけどねぇ、くひひっ。青葉、この人に興味津々なんでっ」


また一つ、曙の額に青筋が増えていく。青葉が言葉を発する度に、貧乏揺すりの激しさも増していく。

さすがにこれ以上怒らせたらまずい。

ただでさえ、曙は短気で発奮したら手に負えない問題児なのに、本気でブチ切れたら何が起こるかわからない。

何とか話題を転換しようと、“彼”は青葉を無理矢理引き剥がし、冷静な表情を作る。

ここで鼻の下を伸ばしたり、赤面したりなどは厳禁だ。

もっとも、はなっからそういう情を抱くことはないだろうが、一応は注意しておかなくてはならない。



「……青葉は離れろ。それと、曙は落ち着け。身体をくっつけてきたことぐらいで心を乱すな」

「はぁっ!? 別に、乱れてなんかないわよ! ただ、クソ提督がデレデレ」

「してないだろ。この鉄面皮を見て、同じことが言えるのか?」

「うっ……うるさいうるさいうるさい!」


艦娘はちょっとのことで精神を崩したりと扱いに困る兵器だ。

何故かは知らないが、誰かと触れ合っていたり、特別な関係になったりなどといった欲がある。

もっとも、生体兵器――もとい、元は人間であるからそれもまた、必然なのかもしれないが。


……まぁ、生体兵器だ。感情がないのも考えものではあるし、その辺りを上手く操るのは俺の役目だ。


既存の機械染みた兵器にも利点はあるが、所詮は予めシミュレートされた自動装置みたいなものだ。

怪物に予想など通用はしない。

何もかもを踏み越えてくる奴ら相手には臨機応変に対応しなくては、勝ち目がないことを“彼”は知っている。

艦娘達が重宝される理由はその部分で優れているからであろう。

艦娘達は経験と能力から算出して、最良の選択肢を選ぶべく行動を取る。

経験が何にも代えがたい武器になり、戦いを経ることに強さを増していく。

育てれば育てる程、使えるようになる彼女達はまるで人間の兵士ではないか。

傑作だな、と“彼”は感じた。

しかし、同時に戯言だ、と感じる自分もいる。

そんなことを考える暇があるなら、もっと有用性の高いことに思考を張り巡らせるべきだ。


「ちょっと、聞いてる! ねぇ!!!!」


閑話休題。

今は目の前にいるじゃじゃ馬娘に対して、反応してやらなくてはならない。

↓3


1曙をなだめる。

2夕張さん助けてください。

3あえて、青葉に対応する。

    

「青葉、同じ艦娘なんだから何とかしろ」

「ふぇぇ!? そこで、青葉ですかぁ!?」


自分で対応するのも疲れるので、青葉に丸投げしてしまおう。

“彼”としては、あの状態の曙に対して真正面から受け止めるのはさすがに辛い。


「何よ……クソ提督はそいつの肩を持つ訳? それとも、……そいつがお気に入りになったの?」

「どうしてそうなる。こいつとは何もない」

「そんな……! 青葉、司令官さんとの熱い時間を未だに忘れられないのに!」


その発言は曙のイライラを更に増幅させたのか、ただでさえ赤い曙の顔がより濃い紅色に染まっていく。


「わ、わ、わっ私を放置しておいてそ、そんなことしてたの!?」

「してないから。熱くもないし、お前が想像してることなんて全くないから」


影でぬひひといやらしい笑みを浮かべる青葉は依然とからかう素振りをしていた。

拙い。やはり、こいつに任せたのは失敗だった、と“彼”は顔を顰めため息をつく。

曙はああ見えて嫉妬心が強い。それに、独占欲もある。

口では減らず口を叩いておきながら、その実――誰よりも手を伸ばしたがりなのだから。

      

「ともかくとしてだ。結局、青葉は何か案があるのか」


今はこうして無理矢理に抑えつけるしかない。

会議解散後が怖いが、それもまた提督の宿命と割り切ろう。

問題の先送りはあまり好きではないが、ここで停滞するよりはマシだ。


「ん~、案というにはちょっと……ただ、これでいいんじゃないかなって方針なら」

「方針とは?」

「ええ、いたってシンプルですよぅ」


凄絶な笑みを見せながら、彼女は囁いた。


「めんどくさいことをされる前に、全員――鏖にしてしまえばいい」


彼女が何の気なしに放った言葉は、鮮烈だった。

言葉の通り、生きて還す者は存在しない――即ち、全てを屍に帰ること。

それは、とことんまでに力押しで自分の持つ強さに自信がある重巡洋艦だからこそ言える言葉だった。


「曙ちゃんと青葉、それにもう一人ぐらい追加で入れたら余裕なんじゃないんですかねぇ」

「はぁ、そんな余裕は」

「そこは司令官さんがどうにかしてくれるってやつですよっ」


しかし、案としてはそこまで悪くはないと“彼”は考えている。

不意打ちで数人を屠るとすると、残るは動揺で総崩れになる可能性も高い。

犠牲になる艦娘達や兵には何の罪もないが、これもまた任務。

運が悪かったということで打ち切らせてもらう。

ただ、やはり案としてはスマートではない。

殺すことに抵抗感はないが、無闇な殺生は後々に影響を及ぼすこともあるが故に慎重に事を運ばなくてはならない。

   

「まあ、解りやすくていいが、如何せん理由付けがな?」

「そんなの、深海棲艦が襲ってきて全滅しました~でいいじゃないですか。青葉達のやったことは全部あいつらに擦り付けちゃえばいいんです」

「ハッ、豪胆だな。よくもまあ強気なことが言えるもんだ」

「でも、そうした方が都合がいいですし。死体とかは海に流しちゃえばいいんですよ。憐れにも、抵抗を続けた兵士達はみぃ~んなご愁傷様ってことで一つ、ね」


目を細め、口を三日月形にしてけらけらと嗤う青葉を見て、やや大きめに息を吐く。

愛らしい笑みに、軽い口調。一目見るに、人懐っこい犬と思いきや、その実は狼だ。

それは前世である記憶からか、それとも今の青葉が形成しているものかは定かではないが、戦闘に関しては何処までも貪欲だ。

強さこそ正義。勝利を得るまで諦めない不屈の精神。

彼女もまた、兵器だと自覚させられる。


「曙は何かあるか」


だが、兵器としては曙も負けてはいない。

気性の荒さといった不安定要素もあるが、大抵の任務はきちんとこなす有望株だ。

奇襲だったとはいえ、先日の任務でも艦娘達五人を無傷で屠ることができたのだから。


    

「……私は、なるべく戦闘を避けて資材確保を目指すのがいい」

「それを論じるからには、当然見つかった時のデメリット、対処も考えているんだろう?」

「ええ。そういう状況に陥った時は殺す。四の五の言ってられる余裕なんてないもの」


だが、それでいて自分の力を過信しない所が曙の良い部分でもある。

自分の力をひけらかすこともせずに、淡々と任務をこなす。

口にこそ出さないが、その点では曙は優秀と言っていい。

戦場で抱いた過信が原因で死んでしまった人間を“彼”は知っている。

自分の身の丈にあった戦い方をすることを第一としている以上、曙は“彼”にとって使える手駒だ。


「ただ、ねぇ。青葉の言う通り、全員殺すっていうのも悪くはないとは思う。痕跡を完全に消すって意味では最適ね」


今、練り上げられている案も冷静に見据えているなるべく隠れながら資材をぶんどる形で動くという訳だ。

幾ら重巡洋艦が味方についているとはいえ、油断は禁物。

出来る限りは無血で進みたいが、無理であろう。

それならば、いっその事――皆殺し。

戦いを避けながら目的地にまで進む案だ。


「さてと、それじゃあどうするか」


↓1~3


1青葉の案を採用する。

2曙の案を採用する。

3いや、もっと何かあるはずだ。(自由安価)


      

「………………青葉のプランで行く」

「わっほ~い! さっすが、司令官っ! わかってますねぇ!」


視界には、手を叩いて喜びを顔にみなぎらせる青葉と、自分の案が採用されなかったのが腹立たしいのかむすっと膨れている曙の両極端の表情が映る。

片や、目が嬉しくてたまらないというようにキラキラ光るのに対し、もう片方はどす黒く淀んだ沼のような輝きを見せている。

会議終了後のフォローが更に必要になったことに、“彼”は肩を竦めて苦笑した。


「大丈夫なんですか?」

「まあ、重巡洋艦がいるんだ。何とかなるだろう。それに」

「それに?」

「こいつもいるからな。曙、頼りにしているからな」

「…………」

「むくれるな。お前の案とて状況が違えば採用に至っていたんだ。気を悪くすることはない」

「……むくれてないし」


どうやら、傷は思っていたよりも深いらしい。

ぷっくりと膨れている頬を見る限り、間宮のアイス券数枚と一緒に買物に行くぐらいのことは必要だろう。


「それじゃあ、後は細部を詰めて解散としよう。明日は血で血を洗う戦だ、見敵必殺でいくぞ」

「了解っ。久しぶりに大暴れできそうでいいですねぇ。青葉、思わずイッちゃいそうです!」

「……こんなのと一緒に掃討任務だなんて。憂鬱だわ」

「殺すのもいいですけど、ちゃんと任務もおねがいしますね?」


明日には、殺伐とした戦場で砲撃を交わし合うというのに何と和やかなことか。

華やぐ彼女達の笑顔を見て、“彼”は薄く笑みを浮かべる。

それは、任務の絶対的な成功を信じているからなのか。

それとも、自由気儘に生きる艦娘達を操っている高揚感か。

唯一つ、確かなことは――“彼”は取捨選択が出来る男だ。

リスクとリターンを分析し、自分が勝てるように戦場をメイキングすることを得意とした策士でもある。

場面においては、道化の仮面を被ることも平然とする“彼”の内面は未だ見えず。

今はただ、喧騒の中で曖昧に。









「お呼びですか、しれぇ」

「ああ。任務から帰還して早々悪いな」

「いえ。奇跡の名を背負うこの雪風、しれぇに全てを捧げる所存です」

「宜しい。それで、大体の流れは把握してるな?」

「はい。しれぇから聞いた通り、頭に入っています」

「ならば、お前の役目はわかるはずだ。いつもと同じことをやればいい。曙達が目立つ隙間を上手く突け。できるな?」

「当然っ。しれぇの命ならば、雪風はやってみせましょう」

「頼もしい言葉だ。ならば、その言葉の通り、俺に暁の勝利を齎せ」

「しれぇのお心のままに。雪風は一陣の風となりて、戰場を駆け抜けましょう」

「ああ。その愚直さこそ、俺の武器に相応しい。存分に幸運の刃を振り翳せ。何を犠牲にしてでも、目的は達しろ。
 その代価として、お前の奇跡、引き金、在り様、俺が全てを背負おう。迷うなよ、任務は――」

「――必ず果たします。徹頭徹尾、しれぇの為だけに動きますっ。だから、帰ったらご褒美おねがいしますねっ」

「……あぁ」

夜も深くなりつつあるのでここまで。次回は誰かが確実に死ぬでしょうが、ほんわかふわふわいきましょう。
安価分岐は察しの通りキャラ好感度分岐です。曙ちゃん、涙目。死ぬヴィジョンがぼんぼこ浮かぶ。


ちなみに、お分かりの通り、大和型と“真正面”から戦ったら青葉か曙は死にます。
どうやって懐柔するか、回避するか、それとも撃破するかをよく考えて次回の安価を取ることを薦めます。
安価次第で誰が死ぬか死なないかは決まるので、計画的にどうぞ。

ほんわかふわふわな更新の時間です。








夜闇が一層深くなる丑三つ時に、二人の艦娘が海上を駆け抜けていた。

片や藍色の髪を翻し、片や薄紫色のボサボサ髪を風になびかせながら。

気分は上々。体調もバッチリ。武装も十全。

これから始まるのは殲滅戦だ、一片の油断も隙もあってはならない。

誰一人として生かさない。想いも後悔も知ったことか。

そんな漆黒の意志を胸に、彼女達は海上を突き進む。


「はぁ、スマートじゃないわね」

「まあまあ。やることは簡単なんですから」

「言ってくれるわね。口先だけじゃないことを祈ってるわ。足を引っ張るようなら捨て置くから」

「ええ、こちらもそのつもりなので」


互いにニヤリと笑い、彼女達は戦火の狼煙を起こすべく目的の島へと直走る。

任務遂行の過程で邪魔となる全てを砲火の渦で焼き尽くす覚悟を携えて。








吹雪と白雪は、いつものように呑気に会話しながら定例の哨戒任務に就いていた。

変わらぬ日々、隣にいる友人。頼りになる先輩の艦娘達。敬愛する司令官。

満ち足りた世界だった。何にも不足はなく、艦娘である自分達にも差別など無く対応してくれる提督はとても優しくて。


――ずっと、こんな日々が続けばいいのに。


過ぎたる願いだと、吹雪は思う。けれど、そう願ってしまう程に今が楽しくて仕方がなかった。


「吹雪ちゃん、どうしたの?」

「ううん、何でも。ただ、白雪ちゃんがいてよかったな~って」

「ぇ!?」


他の艦娘達の台頭により、戦場に出ることは今では殆どない。

けれど、司令官は自分達を決して疎かにすることなく、きっちりと部下として扱ってくれた。

哨戒任務という形で司令官の力になれる。自分達が少しでも働けるように苦慮してくれたのだろう。

甘い人だと思った。本来であれば、吹雪達はお役目御免で済むはずなのに、決して手を振り解こうとしない。

だが、そんな人だからこそ自分達はずっと付いていこうと決心した。


「司令官が私達を一緒に、って頼み込んでくれたおかげだね」

「うん。司令官には感謝してもしきれないよ」


当の本人はこんな閑職しか与えることが出来ないと嘆いていたが、とんでもない。

二人共、感謝こそすれど恨みはしていなかった。

海域攻略だけに専念していれば、軍内での立場も高くなるのに、自分達に時間や労力を裂いて活用する。

困ったような笑顔で、彼は言ってくれるのだ。

『君達も、僕の大切な艦娘だ』、と。

こんなことを言われてしまったら、自分達は敵わないではないか

今も変わらぬ好意を抱いて、敬愛しているのだから。

     

「哨戒任務とはいっても、大事なお仕事だもんね。頑張ろうっ」

「うん!」


そんな司令官の信頼に応えるべく、二人の艦娘は業務に戻る。

時には、無駄口を叩きながらお喋りをすることもあるが、概ね業務態度は真面目だ。

深海棲艦の気配を感じたら即座に島へと連絡し、増援を求めなくてはならない。

気を引き締めて取り組もうと白雪に声をかけようとしたその時。


「すいませ~~~ん!!!」


前方から二つの塊がゆっくりと姿を現すのを見て、二人は武装を構えるが、警戒心は上がらなかった。

この脳天気な声は同じく艦娘である青葉の声だ。横にもう一人小柄な少女が疲れた顔で付随している。

曙。自分達と同じく駆逐艦のカテゴリーに入っている女の子だ。気難しい所もあるが、話せば分かるといった評判だ。

徐々に露わになる姿を見て、自分達の予想が間違っていなかったことを確認し、武装を解く。

何か困ったことに遭遇したのか、彼女達の顔には陰りがあった。


……それなら、助けなくちゃ。


司令官が自分達にしてくれたように、今度は吹雪達が助けになろう。

救われた分だけ、救っていく。

それは綺麗で、甘くて、酔ってしまうぐらいに温かな心の意志。

例え、人間という枠組みから逸脱しようとも忘れない輝きの雫だ。

      

「大丈夫ですか?」

「え、ええっ」

「何かお困りのようですけど……戦闘中にはぐれてしまったりとかです?」

「まあ、そんなところですねぇ~。ところで、貴方方は?」

「ああ、申し遅れましたっ。私達、この先にある島の防衛に当たっている者です。
 現在は哨戒任務中でして」

「それで、貴方達を見つけたの」


相手を落ち着かせる笑顔も欠かさずに、吹雪達は言葉を続けていく。

冷静に、ゆっくりと。誠意を持って、相手の言い分を聞きなさい。

司令官が自分達に教えてくれたことだ。

順序良く丁寧に話せば、コミュニケーションも円滑になる。


「ほうほう、それは都合がいいですねぇ」

「…………そう、ね」

「へ? 何がです?」

「ややっ、すぐにわかりますよ」


ニカッと歯を見せて“嗤う”青葉に対して、吹雪がその理由を問いかける前に。


「こういうことですよ、うひひっ」


瞬間、黒一色だった世界に赤が灯る。目には呆然と佇む白雪の姿が見えた。

何をそんなに驚いているのだろう。

そんな間の抜けた声は、どうしてだか知らないが言葉にできない。

おかしい。口の中に溜まった血溜まりもそうだが、ふと下を見ると、脇腹から小さな砲口が突き出ていた。

果実を潰す音が耳に入るのと同時に、ぼとぼとと脇腹から赤黒い肉の破片が零れ落ちた。

意識を向ける暇すら無い。理解よりも先に困惑があった。

思考回路が働かない、何故、と考える頭すら空白だ。

ここに深海棲艦はいないのに、どうして。

      

「が、あっあが、ああっ! あぁぁああ、ごほっ、げはっぁああっ! あ、ぁああっ!」

「ふ、ふっ、吹雪ちゃんっ!!?!?!?!」

「煩いですよぉ。あぁ、連絡とかしたらすぐに殺しますんで、やめといた方がいいですよんっ」

「死んじゃう、吹雪ちゃん死んじゃうよぉ!!! やめて、もうやめてよ!!! これ以上、やめてぇぇええっ!」

「何を言ってんのよ。死なないわよ、この程度じゃ。私達は兵器よ? ちょっと、脇腹が抉られたぐらいで動作不良を起こす柔なものじゃないでしょ。
 それと、こいつが無様に死ぬのを見たくなければいい加減黙って頂戴」

「ひぅっ……!」


湧き出した疑問に答える声はなく、事態は淡々と進んでいく。

曙に脅され何も出来ずにふるふると身体を震わせる白雪とは裏腹に、依然と変わらぬ表情を貼り付けた彼女達の動作は理に適っていた。

その表情はまるで、深海棲艦のようで怖い。

何とか、現状を打破しようと、吹雪は体を捩らせて突き出された砲口を抜こうとするが、一向に抜き取られない。

それどころか、突き刺した青葉はニコニコと砲口を廻すせいか、激痛が迸っている。

叫び声は勝手に吹き出した。目からは涙が溢れ、垂れ流れている鼻水と混ざり合い、見れた顔じゃない。


「やめ、やめてよっ! あ、貴方達、一体……!」

「あ、ああがっっぁああああああ! あ、あっ、い、ひゃい、いたいよぉ、いた、いっ、いた、い、いたい」


がくんと崩れ落ちそうな身体は無理矢理引き上げられ、へたりこむことすら許されなかった。

永続的に生じる苦痛によって朦朧とした意識は、世界を歪ませる。

自分が何を信じていたのか。そして、何を誇りとしていたのか。

長い時を懸けて培い、築いた想いすらも、漆黒の意志は霞ませる。


「さぁてと、どっちが主導権を握ってるかはっきりと示した所で、交渉といきましょうか、白雪ちゃん? 吹雪ちゃん救けたいんなら言う事を聞いてもらうよん」

「え……?」

「とりあえず、持ってる情報、全部ぶちまけなさい。そうしたら、吹雪とアンタは楽にしてあげる」


そして、差し伸べられたのは悪魔の選択。

白雪は苦境に陥った。

目の前の吹雪を救けるには、自分の持つ情報を洗いざらい吐かなければならない。

それが何を意味するのか、平和ボケしていた白雪でも知っている。

死にかけの友人を護る為に、仲間を裏切ること。

白雪の両目に絶望が浮かび上がる。


「あぁ、嘘をつくのはやめておいた方がいいわよ? ある程度は貴方達のこと――知ってるから。
 食い違った情報が出る度に、こいつの身体が吹き飛ぶわよ? 指一本ずつ無くしていく辛さと痛み、友達に味あわせたいなら別だけど」

「だめ、だめだよっ……しらゆひぎゃぁあああっ! い、あっ、いたい、ぁいいっっっっっ!」

「はいはい、人質は黙ってて下さいね~。余計なことを喋ると、も~っとぐりぐりしちゃいますよ?」


逃げの一手として考えていた嘘を言って誤魔化すことも通じない。

詰んでいる。どう足掻いても、行き止まりが前に広がっていた。

白雪は呼吸を乱し、膝をつく。

今、自分に迫られている選択の重さに耐え切れぬのか、目も虚ろで焦点が定まっていない。

赤く滲んだ世界が、白雪を徐々に絶望の片隅へと追い詰めていく。

      

「や、もう、いや」


白雪を構成していた“正義”が音を立てて崩れ落ちているのが見て取れる。

今此処で優先するべきは、軍人としての責務か。

それとも、白雪個人が抱く気持ちか。

悲鳴と涙が渦巻く悪夢の中で、白雪には何もわからなかった。


「――――ます……」

「聞こえません。はっきり言って下さいな」

「ぃ、言い、ます……! 全部、言いましゅっ! 私が持ってる情報、ぜんびゅいいますからぁ!
 これ以上、吹雪ちゃんにひどいこと、しないでぇっ!」


唯一つだけ確かなことは、吹雪と自分はここで選択肢を間違えると死んでしまう。

それも、悍ましい苦痛の中で艦娘としての尊厳すら奪われていくのだ。

彼女達は顔色を変えずにやってのけるだろう。吹雪に暴虐の限りを尽くした後は、自分へと矛先を変えるに違いない。

考えるだけでも怖気が立つ。両目から滴り落ちる雫の量が増していく。

雫を零さないように空を見上げても、世界は変わらない。

見上げた空に――堕ちて行く。何処までも真っ黒で、底の見えない絶望へと少女達は堕ちて行く。


「その言葉に偽りはない?」

「はひっ、はいっ! だから、だからぁ!」

「わかったわ。じゃあ、アンタ達が持っている情報、速やかに話しなさい。何度も言うようだけど、嘘をついたら――」

「つきません……つきませんから、吹雪ちゃんを速く解放して」


ぽつぽつと。白雪は枯れ果てた声を絞るように、持ち得た情報を二人へと売り渡す。

嘘など交えれる訳がなかった。ちょっとでも彼女達の意にそぐわないことをすれば、吹雪がどうなることか。

その末路を思う、意地っ張りな心は泡沫となって消えてしまう。

勇気など持てるはずもなく。

白雪は操られるがままに口を動かす他なかった。



↓3



1吹雪を先に殺す。


2白雪を先に殺す。


       

「それじゃあ、約束通り――楽にしてあげるわ」


その言葉の意味を理解する前に、吹雪の頬に血の飛沫が飛び散った。

破裂した頭。力無く倒れていく身体。赤と青が混ざり合う海面上。


「ぁ……」


もはや、立つ力も残されていないのか。海面にうつ伏せになったの白雪が、潮水に飲まれていく。

手を伸ばす。半分程、水に埋まった彼女の身体を抱き寄せようと必死に手を――。


――そんな手、とっくになくなっているのに。


気づいた時には、伸ばした右手首がなかった。余計な動作と取られ、抉られたのだろう。

肉と骨の断面が見えた薄汚れたタンパク質の棒が見えることから勝手に理解させられる。


「あは、ははっ。はははははっ、いひぃい、はははっ、ひゃ、はははは、あはははっ!!!!」


可笑しくもないのに笑ってしまう。片腕を無くしながらも、痛みは感じなかった。

余りにも可笑しすぎて、世界が狂い過ぎて――涙が止まらない。

辺り一面に広がる壮絶な大爆笑が、青葉達の耳に突き刺さる。


「あらら、壊れちゃいましたねぇ。ちょっと黙ってて下さいなっと」


もう片方の脇腹を軽く抉った。盛り上がった肉片がぼとぼとと海面に落ち、白のセーラー服を朱に染め上げるも、笑い声は止まらない。

耳を引き千切り、吹雪の口に放り込んだ。放り込まれた肉は極上の女の子から出来たご馳走だ。

筆舌に尽くし難い味が、口内で暴れ出す。

コリコリとした食感と生臭さが、を更なる高みへと押し上げる。

吐いた。食べたものすべてを吐き出す勢いで口の中を洗浄した。

だが、血と嘔吐物を出しながらも、声は止まらない。

これでは埒があかないと判断したのか、青葉が腹部を思いっ切り殴り飛ばした。

壊れた笑みを浮かべた吹雪の意識が無理矢理に閉ざされる。

       

「さってと、こいつを黙らせた所でどうすんのよ。相手には戦艦級……それも、大和がいるのよ」

「そうですねぇ、これは予想外でした。資材とは別に何か大切なモノを護っているんじゃないですか?」

「可能性としてはあるけど……あくまで、私達の任務は資材奪取。それ以外は全て捨て置くべきものよ」

「わかってますってば。ともかく、大和さんをどうやって殺すか。それとも、懐柔するか。はたまた、戦闘を回避するか」

「はぁ、考えただけでも頭が痛くなるわね」


まさか、戦艦の中でもトップクラスに強い大和が守備に就いているなんて。

が言うにはちょっとした休息代わりの任務とは言っていたがどこまで本当のことやら。


「まあ、守備兵はそこまでいないみたいだし、肝心の提督様も海域攻略の為に不在。上手くやればどうにでもなるわ」

「そうですねっ。それよりも、この娘どうします? トドメ、さしておきます?」

「いいや。人質として使えるでしょうし、このままね。武装も外したことだし、使えなくなったら殺せば済むだけ。
 でも、油断したら駄目よ。死に際で追い詰められた奴って何をするかわかんないから慎重に、いい?」

「了解っ。しかし、全くの無表情でこんな悪どいことをやる曙ちゃんは怖いですねぇ~」


ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた青葉に対して、素っ気なく答える曙の表情は変わらず不満気だった。

今しがた行ったことについても、何の狂いも後悔もないといった風だ。


「別に、任務遂行だからやってるだけ。それ以上でもそれ以下でもない。アンタの方こそどうなのよ?
 随分とお楽しみだったじゃない」

「楽しくてやってる訳じゃないですよぉ~。こうして、ニッコリ笑ってやった方が相手も動揺しますし。
 それに、こぉんな汚れ仕事をやる覚悟も無しに軍属になってないんで」


全ては任務遂行の為。こうした方が効率的だから。

長ったらしい理由など存在しない。

殺らねば、こちらが殺られるのだ。

迷いは自分の首を絞め、後悔は足に重りを付ける。

だから、何も想わないし留めない。

彼女達は運が悪かった。この瞬間、哨戒任務に就いていた不運を呪う他ないのだ。


「それじゃ、いい加減行きましょうか。生きのいい人質ちゃんもいますしっ」

「人質がいるから相手は攻撃してこない。そんな油断は禁物だからね。私達ごと殺しにかかってくる可能性だってあるんだから」

「いんや、それはないですよぉ。向こうの司令官さんの人柄を考えると、甘ったるいチョコレートみたいな関係を築いているっぽいんで」






「――――だったら、やることは簡単ね」






↓2~4


1吹雪を人質に大和を真っ先に討つ。

2吹雪や守備兵を利用して、大和を撹乱する。

3自由安価(安価を取ったらその中で再安価)

深夜になりかけかつ疲れてきたのでここまでです。
ここからが本当の(内蔵が飛び出て)ほんわか(軽くなった身体が)ふわふわ展開。
次回更新の時もまったりいきましょう。



・白雪を残すと、お察しの通り抵抗されていました。人質なし+小破状態で死亡率アップルートです

ちょろっと、時間がぽっかり開いたので更新します。
ほんわかやっていきましょう。

    







「余計なことをしたら、この娘がどうなるか。それぐらいは理解できるでしょう、愛しの大和先輩?」

「貴方に先輩と呼ばれる筋合いはありません……ッ! 恥を知りなさい! 艦娘足る者、人質とは卑怯也! 
 そのような下衆な行為に身を染めて、許されると思わないで下さい!」

「別に許しが欲しくてやってる訳じゃないからどうとでも言えばいいわ。それと、怖い顔はやめた方がいいんじゃない?
 吹雪ちゃんが泣いちゃうわよ? 艦娘同士、仲良くしましょうよ。ねぇ?」


荒れた大地。散乱するガラスの破片に、穴が開いた建物。

二人の艦娘が対峙した時間は、ほんの一分にも満たない。

数秒前、突如轟音が鳴り響いた。

突然の急襲に驚き、吹雪達と共に資材受け取り任務に来ていた大和は焦りの顔を見せる。

深海棲艦がやってきたのか。ならば、戰場に立つのは戦艦である大和の役目である。

配備されていた守備兵、艦娘に援軍の要請を頼み、大和は一人で砲撃の元へと飛び出した。

仲間に危害を加えるものは容赦なく討つ。そう、心に決めて。

だが、予想は外れ、聞こえてきたはいつもと同じく憎まれ口を叩く滑らかな声。

曙。生意気な態度とは裏腹に仕事に対しては真面目な娘と評判な味方の艦娘“だった”。

そして、その手には自分のことを真っ直ぐに慕ってくれる後輩が抱き寄せられている。


「……要求は何ですか?」

「それを問う前に武装を捨てなさい。話にならないわ。和平を申し込むのに、武装してちゃあ、ね」


この身は誰かを護る為に在り、与えられた誓いは不屈の炎と成りて胸に宿っている。

それが、大和型戦艦一番艦である大和の生き様だ。

守護こそが誉れ。正義の心は壊れない。

誰よりも強く、誰よりも憧れの眼差しを受ける存在であるからこそ――仲間を護ることには人一倍敏感になっている。

そんな彼女だからこそ、仲間達にも慕われ、大和自身もその情を返すことを信条としてきたのだ。

力を持つ者が、弱き者達を護る。それが、戦艦である誇り。


     

「……ッ」


悔いていた。大和は心の底から彼女達を哨戒任務に送り出したことを気に病んでいた。

いつもは前線で戦うことしか頭に入れず、細かなことを全て提督任せにしていたのがいけなかったのか?

考えもしなかった可能性。起こってしまった事実。資材調達に赴くだけの簡素な任務。そして、それを鵜呑みにした気の緩み。

それら全てが大和の後悔をグチャグチャに掻き立てる。

相手の手の内にはまだ大切な後輩が残っていた。

セーラー服の端々には変色してしまった赤がべっとりと塗りこまれており、起こった悲劇を嫌でも想起させる。

ここにはいない白雪のことも気がかりだが、今は吹雪だ。眼前で囚われている少女の救出を急がなければならない。

意識が飛んでいるのか、ぐったりとした顔色は見ているだけで不憫な気持ちにさせられる。

何故こうなる可能性を想定しなかったのか。何度も懊悩と懺悔を繰り返す。


「さぁて、どうぞ勇気ある投降を、戦艦さん?」


状況は最悪。切り札は依然と相手の中に取り込まれたまま。

助けなければと強く思い焦がれるも、打破する方法は見つからず。

大和は詰んでいた。仲間の一人ぐらい切り捨てればいいといった判断が出来ず、立ち尽くす他なかった。


……見捨てることなんて、できない。


彼女は砲口を向けこそすれど、引き金を引かなかった。

強大な力故に手加減が難しい大和は、器用に敵だけを撃ち抜く真似を出来ない。

誰よりも仲間を重んじ、正しき心を持つ大和だからこそ――通用する手段である。

もしも。無闇に周りの人間を傷つけ、大和を追い詰めることを重点的にしていれば、彼女は狂っていただろう。

眼前の敵を殺すだけの狂戦士と成りて暴虐の嵐を振りまいていたに違いない。

      

「武装を捨てなきゃ人質は死ぬわよ」

「誤魔化されません。そういう貴方も人質がいなくなれば不利なはず。だから、そうやって私を煽っている。
 それに、逃げた守備兵の皆さんが今頃鎮守府に連絡を取っているでしょう。
 このままだと、不信を抱いた鎮守府が援軍を寄越すかもしれないから急かしている。そうじゃないんですか?」

「さぁね? 逃した人達が“無事”なら通用するわね。ぶ・じ・ならね」

「何処までも卑劣な真似を……! 逃した人達をどうしたか、答えなさい!」

「それは私の管轄外だもの、知らぬ存ぜぬだわ。それよりも、いい加減早くしてくれない? 
 このままだと、せっかくの護った人達が浮かばれないわよ」


彼女からすると、自分はそれ程までに警戒されているということだろう。

戦艦というカテゴリーに入れられた艦娘達の中でも一際に輝く大和型。

その一番艦を、彼女は人質という切り札で何とか留めているに過ぎない。

もしも、真正面から当たったら――誰かが死ぬ。

生き残るにしても、軽くはない傷を負うことになる。

選ばなければならない。

彼女と自分、逃がした人達。誰一人喪うことのない結末を手繰り寄せる為にも。


「膠着状態は大いに結構だけれど。その代わり、大事な人達がどんどん死んじゃうかもね」

「黙りなさい……!! 私は誰一人取り零しません! 吹雪ちゃん含めて、全員護り切る!」

「あっ、そう。それじゃあ要求をさっさと聞いてちょうだい。要求は――」7


↓2~4(大事な選択肢です)



1武装解除と人質解放の交換要求。

2大和の自刃を要求。


      

「――武装解除。代わりにこっちは人質を解放する」

「本当ですか?」

「ええ。嘘はつかない。私もこのままは好かない。これじゃあ西部劇のガンマンね。
 どっちが先に敵を撃つか。それに尽きるなんてねぇ」


皮肉げに嗤う曙の姿には嘲りが多分に込められていた。

戦艦と一対一でやることに酔っているのか、それとも恐怖で頭がおかしくなってしまったのか。

どちらにせよ、正気を失わぬよう、必死に自分を留めているかのように見える。

もっとも、そんなことを気にしている余裕はない。

今の状況は切迫している。こうしている内にも逃した人達が危難にあっているかもしれないのだ。

それを考えている時間すら惜しい大和は懸けるしかなかった。

乗るか、それとも乗らないか。

結論なんてとっくに決まっている。


「……わかりました」

「懸命な判断、嬉しいわ。それじゃあ、武装解除と同時にこの娘をそっちに蹴り上げるから、ちゃぁんと“受け止めなさいよ”?
 そうじゃないと、その娘――ショックで死んじゃうかもしれないし」

「言われなくてもそうします。……では」


彼女は人質を解放した瞬間、砲口をこちらに向けてくるだろう。

自分は吹雪を受け止め、更には砲撃を避け、武装を即座に展開しなければならない。

正直、キツイ。一つの動作でも間違えたら自分は死ぬ。

だが、全てを成功させたら――勝てる。


「それじゃあ、一、二、三でいくわよ。何なら一緒に斉唱でもする?」

「ええ、小細工を弄すこともないように乗らせていただきます」


救ける。絶対に救ける。

か弱き少女を護り、大和の誇りを此処に証明する。


「一」

「二」

「三!」




コンマ判定↓3


00~89 セーフ
90~99 アウト


      

互いの行動は迅速だった。

蹴飛ばされた吹雪を受け止め、真っ直ぐに方向を後ろに転換。

曙は砲口こそ向けてはいるが、まさか逃げるとは思っていなかったのか一拍だけ引き金を引くのが遅れた。


……吹雪ちゃんを抱えた今、戦うのは不利。ならば、退却して態勢を立て直します!


それは、焦りの中で見つけた大和の合理的な判断だった。

吹雪を護りながら戦うのもありだとは思うが、無理は禁物。

流れ弾が彼女に当たりでもしたら悔やんでも悔やみきれない。

故に、撤退。曙と距離を置き、逃した兵士に吹雪を預けてから戦えばいい。

そうと決まれば、行動に移すのみ。

強靭な肉体から生み出されたスピードで曙が呆然とした一拍の間に距離を稼ぐ。

後ろをちらりと振り向くと、彼女は追ってきてはいるが、距離が遠い。

初速で開いた距離が効いているのだろう。


……どうにかしてまかないと。


だが、それを考えるには早計が過ぎる。

今はただ逃げなければ。

足を動かすことに集中するべく、大和は疾走る。

そうして、曙の砲撃を避けながら動いている最中。胸に抱き寄せた少女が目を覚ます。


「あ、……ぁ、だ、ぁれ?」

「大丈夫! 吹雪ちゃん!? 私です! 大和です、今助けに来ましたよ!!」

「ひ、は、あははっ、いた、いの、いたい、いたい、いひゃ、ひゃはっ」

「落ち着いて! 今すぐ安全な場所に避難させるからもうちょっとだけ我慢して!」


此処で、大和はふと違和感を抱く。何か、ベタッとした感触が肌に伝わってくる。

ふと、吹雪を見ると頭部や腹部に白くてベタベタしたものが大量に張り付いていたのだ。

まるでこねくり回した紙粘土のようなそれはドロっとした感触だった。どうしてだかわからないが、その物体が奇妙に思えたのは大和だけじゃないはずだ。

髪の毛に絡みついたそれは、無臭ではあったがとても嫌な予感を感じさせる。

そして、視界の先にいる曙がニタリと笑った瞬間――世界は景色をガラリと変えた。








三半規管は突如響いた爆音によって塞がれ、弾け飛んだ世界は――焔に包まれた。

数秒間、意識は世界から切り離され、戻った時には一面が赤に濡れている。

漸く、目を開けたはいいが、視界は炎の残骸が薄っすらと見えるだけ。

焼け焦げた地面と肉の焼ける匂いは、地獄と表せるだろう。


……立ち上がらないと。


頭部から流れ出した血が額を覆っているがそんなことは関係ない。

今は、立ち上がり吹雪を護らなければ。

大切で愛おしい後輩を今度こそ。

だが、意志とは関係なしに負ったダメージは思いの外大きかったらしい。

まるで力が入らず、自分の体はまるで他人と思うぐらいに言う事を聞いてくれない。

肝心な時に動けない自分の情けなさに乾いた笑いが思わず口から漏れ出した。


「は、あはっ、う、ごけっ……!」


そんなの、知った事か。

大和は目を大きく見開き咆哮。

辺りを震わせる大きな声で強く己を鼓舞する。

諦めろ、と言う神様を握り捨て、炎の祝福を踏み越えて。

大和は再び立ち上がろうと空を見上げ――顔から崩れ落ちる。

おかしい、何故立ち上がれない。

心中に湧き上がった疑問符は、大和の頭を混乱させた。

そして、すぐにその疑問は解決される。


「足が、なくなっちゃってる」


ふと、後ろをちらりと見ると、右足の付け根から先が消失していた。

傷口からは砕けた骨が飛び出し、肉の断面はこげてしまったのか黒ずんでいる。

加えて、残りの部位も悲惨な有り様だった。

焼け爛れた顔、爆風で裂かれた肘。吹き飛んだ指。

何もかもが終わってしまった中で、大和は――諦めなかった。

     

「吹雪、ちゃんを、護らないと」


もうすぐ死にゆく自分に残された最後の誓い。

仲間を護る。爆発の瞬間、抱きしめたからまだ無事なはず。

大和は、閉ざされかかった視界を頼りに匍匐前進で這いずり始めた。

炎を掻き分け、自分の足だった残骸を見つけても諦めずに這いずって。

少しずつではあったが、前へと進もうと身体を捩らせながら進んでいった。

土が擦れる度に身体が震える。風が吹く度に熱が発症し、意識を揺らめかせる。

最初は継続的に吐かれていた息も、段々と断続的な辛さを交えた吐息に変わっていく。

それでも、大和は泣き言一つ言わずに這いずった。

身体の大部分を焼かれながらも、不屈の意志だけで前を向く。


「今、行くから。待って、てね」


口の中に滲んだ砂の味も、吹き出した血の味も後僅か。

吹雪の無事を確認できたら、それで終わる。

曙も自分がこのような有り様であっても生きているとは思っていまい。

“曙から放たれた魚雷による爆発”から吹雪を護りきったとは予想にもしていまい。


「負けるな、大和ッ……!」


はち切れそうな心を無理矢理に繋げて、大和は再び這いずり回る。

吹雪の無事を一心に願い、死の間際まで身体を動かした。

          

「あ、れは……?」


そして、その思いが届いたのか。人の形をした影を視界に捉えた。

大和の顔にほんの些細な程度だが、明るさが戻った。吹雪だ。きっと爆発に驚いて再び気絶してしまったのだろう。

そう思えたら、後は行動に移すのみ。

最後の力を振り絞って、大和は黒ずんだ影へと近づいていく。

後、百センチ。腕の裂傷から流れだした血が固まった。

後、八十センチ。足の断面に土が入り込んで気持ち悪い。

後、六十センチ。無くした片方の耳に刻まれた火傷が疼く。

後、四十センチ。辛いことも楽しいこともたくさんあった。そんな、鎮守府での生活が走馬灯のように流れてくる。

後、二十センチ。いつも頭を撫でて褒めてくれる提督の笑顔が最後に過った。

後、十センチ。思い出を振り切って、歯を食いしばって這いずることに集中する。


「――――――――――あぁ」


後、零センチ。影の元へと身体は届いた。

これで、後は無事を確認して曙からその身体を隠すだけ。

ただ、それだけであるはずなのに。


「あ、ぁ、ああっ」


そこにあったのは最悪だった。

原型のない頭部。かろうじて残った顎は、中身が抉れて赤とピンクが混ざり合った肉がはっきりと見える。

首元から下もぼろぼろだった。焦げたセーラー服はもはや布切れの体裁も成していない。

だが、足元は残った部位の中でも綺麗な部類だった。辛うじてではあるが、足と呼べる肉塊が引っ付いているからだ。


……気づくな、気づいたらもう何も残せない。


大和は頭の中で鳴り響いた警鐘を無視するも、一度湧いた想いは断ち切れるものではなかった。

ゆっくりと。まるで腫れ物を触るかのようにそっと。影に見えた“何かの死体”に目を凝らす。

微かに残った白のソックス。提督に買ってもらったんですと喜んで見せてきた学生靴。

それは――――吹雪が履いていたものだ。

影の正体が吹雪だった死体なのだと知ってしまったら。

大方、あのドロッとしたものはプラスチック爆薬であった認識してしまったら。

人質を解放したのは、“人間爆弾”となった吹雪を大和に抱えさせる為の曙の策略だと気づいてしまったら。

結局、自分は何一つ護ることができなかったと察してしまったら。

後は、ただ受け入れるしかなかった。

       
 
「ごめんな、さい」


大和の中で堪えていた何かが、壊れた。

喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。

最後に見た世界は、大和の根源を塗り替えた。

狂った、狂いきった先にある虚無に至った彼女の表情には、何もなかった。

もはや、涙も枯れ果て声を上げることすら敵わない。


「まもれなくてごめんなさい、すくえなくてごめんなさい、がんばってしまってごめんなさい」


自分はどうしたら護れたのか。それすらわからぬまま、大和は謝罪を繰り返す。


「ぶざまにいきてしまってごめんなさい、みとめてほしいとねがってしまってごめんなさい、あいしてほしいとねだってごめんなさい」


万感の思いでやり遂げた行為に対して、返ってきたのは――とびきりの絶望だった。

そして、最後は絶望に身を委ね、動かなくなった。

終ぞの時まで、護り切れなかったことを懊悩して。

大和型戦艦一番艦、大和は狂ったように謝罪の言葉を呟いた。


「ふぶき、ごめんなさい、しらゆき、ごめんなさい、むさし、ごめんなさい、ていとく、ごめんなさい」





















「うまれてきて、ごめんなさい」






           

一区切りがついた所なのでここまで。
後は、流れ作業的な話で今回の任務は終わります。
割と選択肢、コンマ甘めでもっとシビアにしとけや!的な思いもあるかと思います。
まあ、序盤ぐらいはゆるほわでいきましょう。序盤ぐらいは。



・前回の安価で2を選び、周りから始末していた場合、追い詰められた大和が特攻を仕掛けていました。
 選んだ安価では死体を見せびらかしていない結果、大和は冷静さをギリギリで保っています。


・今日の安価その一。自刃を選んでいた場合、当然自刃なんてしません。
 死んだら、終わりです。


・今日の安価その二。曙ちゃん死亡フラグ安価。
 現状は+1、最初の死亡フラグ安価だったのでコンマ判定も甘めです。
 今後はシビアになる可能性もあります。

ゆるっとのんびり更新します。

・ちなみに、大和と曙が知り合いかは特に考えていませんでした。
 まあ後々に響くフラグのつもりはないので、このままフェードアウトの予定です。

・曙死亡、大和生存だったりが起こったら蜥蜴の尻尾切りよろしくで雪風ちゃんが後始末をしてました。
 陰鬱とした雰囲気で次回に続く!ですね。雪風ちゃんがニコニコ顔でしれぇ連呼です。









後の始末は些細なものだった。

別動の青葉が逃げてきた兵士達を殺し、曙が大和を始末する。

こんな時の為、持ってきていた時限信管とプラスチック爆弾が功を奏した。

人間爆弾。気持ちのいいものではないが、戦いに甘さは必要ない。

相手を殺し、自分が生き残ることだけを考えていればいい。

どうせ血で汚れきった両手なのだから、これ以上恐れる必要があろうか。


「感傷よね、考えたって意味はないのに」


自分達は兵器だ。戦場で生き残るべく考えこそすれど、余計な情を持ち合わせるのは禁物だ。

生き残った者が勝者でそれ以外は敗者。惑う必要なんて無い。


……わかってる。


それでも惑い、苦悩するのは自分の弱い所なのだろう。

艦娘になっても失われない人間性が、強く締め付けられた気がした。

そもそも、艦娘の素材は生きた人間だから当然である。

適性のある女の子が記憶、顔、頭といった全てを捨てて生まれ変わる生体兵器なのだから。

故に、誰がどの娘だったかなんて見分けがつきもしないぐらいに、同じなのだ。

曙も、青葉も、大和も、吹雪も。元はどこにでもいる人間だったのだから。

      

「人権もあったもんじゃないわね」


当然、深海の化物共を駆逐する為とはいえ、その有り様はあまりにも非人道的過ぎるものだ。

批判は多く、内地でぬくぬくと暮らしている人権家達は廃止を主張していた。

だが、現状、艦娘がいなければ世界はたちまち滅びる危険性を秘めている。

正体不明の敵がいつ陸上まで這い上がってくるかわからないのに、何を呑気にしてられようか。

加えて、海上の交通は以前とは比べ物にならないぐらいに激減し、制海権は風前の灯となった。

艦娘の護衛なしでは渡れない蒼き海。かといって、空に全てを頼るには――世界は大き過ぎた。


「結局、誰かが犠牲になるしか無い。どう足掻いても変えられないものは変えられない」


理不尽がまかり通るこの世界は、残酷だ。されど、受け入れて進んでいくしかない。

己に降りかかった業も飲み込み、前へ。

踏み潰した彼女の叫びは確かに受け止めた。ごめんなさいと最後まで謝り続けた彼女の憤怒は胸に刻んだ。

死者の嘆きなど重りになるだけとわかっていながらも、曙は抱えてしまう。


「……要らないもの、なのよね」


余計な想いは、いつか自分を苦しめる。

それをわかっていながらも、曙は捨て切れなかった。



――――

一区切りしたので、合間の間章的な何かを書きます。


↓2
今まで出てきた艦娘の誰か

↓4
ネタ内容

    

「そういえば、司令官」

「何だ」

「司令官ってこんな任務してて友達いるんですかぁ?」


とある一日の昼下がり。

仕事をサボって遊びに来た青葉を適当にもてなしている最中のことだった。

友達。それはありきたりな言葉であり、大抵の人間は大なり小なり持っているものだ。


「どうしてそんなことを聞く」

「や、単純に気になったんで」

「教えないと言ったら」

「あることないこと曙ちゃんに言いつけます」


満面の笑みで告げる青葉の目はギラギラと輝いており、半端なことで煙にまくことを許さないと言外に表している。


「曙はやめろ、洒落にならない。まあ、その程度の事なら別に言ってもいいんだがな。
 一応、知り合いと呼べる仲の奴はいるぞ。こういう業務をやっているから孤独を貫いていると思ったら大間違いだ」

「というと?」

「なるべく目立たないように、ある程度の付き合いはしているってことだ。
 知り合いの輪を広げるでもなく、孤独を貫くでもなく」

「ふんふむ。てっきり、曙ちゃんにべったりと思ってました」

「それはない。第一、好きでもない奴にべったりとか気色悪いだろ」


その言葉は本心から告げられたものだ。

提督と艦娘。人間と兵器。

両者には埋められない深い隔たりが存在する。

提督の中には、艦娘を人間と同じく扱っている人間もいるが、“彼”はそこまで至っていない。

曙も同じことを思っているだろう。

自分のことなど、取るに足らない上官、もといクソ提督、と。










     

「……はぁ、曙ちゃんの前途は多難ですねぇ」

「バカか。兵器に年齢を重ねるのはおかしなこともしれんが、あの年代の女の子なんて恋に恋してるようなもんだろ」

「うっは、セメント対応ですねー」

「意識してない奴にデレデレするかよ、阿呆」

「ぷっぷくぷー、面白くなーいー、司令官ー」


返した答えがお気に召さなかったのか、青葉は“彼”へとよしかかってくる。

正直、暑苦しい。加えて、“彼”は椅子に座っているので大変に鬱陶しく感じた。

立ち上がりも出来ない状況に眉を顰め、青葉を無理矢理に引きはがず。


「そもそも、司令官の艦娘って何人いるんですか。誰か一人ぐらい見初めてもおかしくないと思います!」

「そんな訳あるか。兵器に欲情する人間はいねぇよ」

「その言葉、他の提督さん達が聞いたら怒り狂いますよん」


彼が指揮を執る第四十九特殊任務艦隊に所属する艦娘は勢揃いすることはあまりない。

総勢六人といった少人数、各人与えられた任務を遂行する為に別行動をしていることが多いことから艦娘同士の絡みもそれ程でもない。

故に修羅場的な経験とは無縁である。少なくとも、“彼”が見ている時はありえない。


「ということで、私とエッチしましょう!」

「脈絡もないし、する訳ないし、兵器に欲情しねぇって言ってんだろ!」


   

“彼”の素っ頓狂な叫びを聞いても、青葉の舌なめずりは止まらない。

にゅふふと笑いながら顔を赤く染め上げた青葉は贔屓目なしに言っても、扇情的だ。

だが、それは普通の女の子だった場合だ。

軽い態度と言動が特徴のこの少女もれっきとした艦娘である。


「だって~、司令官って何だかんだでかっこいいですし~」

「媚びても何も出ないぞ」

「ややっ、割と本気で思ってますってば。程よい距離感でいじれるんで重宝してますよぉ~」

「俺はお前の玩具じゃない」

「嫌よ嫌よも好きのうちって言葉知らないんですか?」

「嫌だよ、言葉の通り嫌だからな」


劣情を抱く以前の問題だ。イマイチ信用ならない彼女を優しく抱きとめるなど、何処ぞの王子様でもあるまいしありえない。


「はーっ、ガード固いですねぇ。そんなんだと人間関係も上手く構築できませんよ」

「外面はいいから十分だ」

「もっと、愛が欲しいんです! 私達は愛されたいんです!」

「お前、俺の指揮下じゃないだろ。必要性を感じないね」

「…………夕張さんに対してはおっぱいモミモミを条件付けた癖に」

「あれは戯言染みたからかいだ。深い意味は無い」


実際、夕張の胸は揉める質量もないぐらいに薄い。

何処ぞのまな板軽空母を想起させる貧しさだ。

言うなれば、金を払う価値のないおっぱい。

ノーオッパイ・ノーライフ。

薄胸これくしょん。

そんな言葉を論えてしまうぐらいに、彼女は貧しかった。



   

「むむむ、その口ぶりからすると女性関連も潔白みたいですね……つまらない男性は女性から好かれませんよ」

「生憎と、お前達から好かれようって思ってないからな」

「その割には冷血な態度を取ってませんね。私に対しても、やっさしーですもんねー」

「ビジネスライクって言葉を知らんのか」


ああ言えばこう言う。まさしく、青葉にピッタリの言葉だ。

何かしら返さないと更に煩くなることから、“彼”は青葉のことを嫌いとまではいかないが苦手の部類に入れていた。


「全くもう。そんなんだと曙ちゃん達に嫌われちゃいますってば。もっと笑顔でいかないと」

「笑顔を作ることは得意だぞ」

「…………」

「そんな苦虫を噛み締めた顔をするなよ」


本当に、面倒臭い。

普通の艦娘でもここまで積極的ではないというのに。


「ともかく、人間関係は至ってシンプル。以上だ」

「ぶーぶー万年童貞ー」

「…………」

「あ、すいません調子乗りすぎましたってそこは怒るんですね」


思わず冷たい目線を送ってしまったが悪くない。

男としてのプライドがかかっている問題なのだ、仕方ないと無理矢理に割り切った。

そもそもの話、“彼”は――。



「ということで、エッチしましょう!!!!!」

「だから、しねぇって言ってんだろ!!!!!!」






――――End

もう深夜入りかけなので、ここまで。

青葉は口が回るキャラだから書きやすいですね。
これからもゆるふわっとなコメディ染みたスレでやっていきたいと思っています。
読む人達が安らげる展開が待っているので、ニコニコっと行きましょう。

人がいるならば、次回登場枠の艦娘安価をしますが大丈夫ですかね。

潜水艦勢はイムヤが一番かわいいってみんな知ってるから。

好きな娘をどうぞ。死ぬ可能性を考えてお選び下さい。
↓2(特殊艦隊枠)
↓34

特殊艦隊枠(味方)……島風。
??枠……武蔵、大鳳。

になりました。

ちなみに、特殊艦隊枠はラブコメフラグを立てやすいチョロイン枠です。
それと青葉呼びたい、攻略したいという人は、
味方枠の誰かを殺せば一定の好感度を持つ艦娘が補充枠になるので、バンバン殺しましょう!

では、安価を取ったので、本当の本当にここまでです。
もう仇討ちフラグが立ちまくっている艦娘が一人いますけど、ふんわかな展開を目指していきましょう。

忙しい時でも一週間に一回ぐらいは更新するのがふんわかポリシーです。
ちょろっと更新します。






   

「ねぇ、クソ提督」

「何だ、クソ艦娘」

「どうしてこいつらがいる訳」


ほんのりと朝の肌寒さが残る執務室。

普段は曙と“彼”の二人きりの空間に、異物が二つ存在する。


一人はニコニコと“彼”の懐に乗っかっている艦娘。

もう一人はソファーに寝転びながらファッション雑誌を読み耽っている艦娘。

どちらも自由気儘に振舞っていて、寛いでいる。


「どうしてって、こいつらお前の同僚だし」

「そーうでーすっ」

「雪風がしれぇをお護りしますっ!」

「…………むぅ」


駆逐艦、島風。駆逐艦、雪風。

どちらも同じカテゴリーの駆逐艦であるが、自分よりも能力が上だ。

それ故か、劣等感を感じている曙はあまり仲良くしていない。

そんな想いからか、どうしてもこの二人の前では顔もいつもより強張ってしまう。


「ともかく、最低限の波長を合わせるぐらいはしとけよ」

「あのね、それぐらいできなきゃアンタの部下でいれないわよ」

「でないと、提督の指揮についていけないしー」

「雪風は万全です!」


だが、それらを理由に自分のわがままを押し通そうとする馬鹿ではない。

三人全員が自分の分際を弁えている。

“彼”が目的を果たす為なら手段も選ばず、他者の排斥をすることも理解している。

その上で、彼女達は“彼”の下が最良と判断したのだ。

       


「ともかくだ、今は任務についてないから俺の手元にいる」

「…………」

「その沈黙はなんだよ」

「それぐらい気づきなさいよ、バカッ」

「むむっ、しれぇにバカとは何事ですか!」

「……うるさーい」


こうなってしまっては手がつけられない。

艦娘といえども、中身は一端の少女だ。

ただ脳みそと肉と骨が詰まった塊じゃない。使いこなすには彼女達の感情の機微に注意して扱わなければならない。

だが、“彼”には曙が不満気な表情を浮かべる理由が全く読めなかった。

環境だって今までと違うことといえば任務を終えた雪風と島風が執務室でたむろっている程度。

給料だってケチること無く、きちんと与え武装の整備も欠かしていない。

某パパラッチ重巡洋艦がからかいにくることこそあれど、他には何も変化がないというのに。


……わっかんねーよ。


現状の解決策は不明。戦略なら幾らでも回せるし、普通の女なら改善点を思いつくのに、如何せん相手は艦娘だ。

普通の女の子が抱える悩みと思ってはならない。

その内では砕かれた前世の記憶が渦巻き、底無し沼のように深く淀んだ思いが残っている。

だからこそ、現状の打開に相応しき策を丁寧に構築する。

そして、“彼”が下した結論は――。



↓3


1生理だ!!!

2疲れているんだな、そっとしておこう。

3いいや、俺に恋しちゃってるな、このツンデレガール。




……生理、か。


女性特有の現象である生理。自分は男だからわからないが、到底考えもつかないぐらいに辛いものなのだろう。

考えれば、生理があるから子供が産めるということだ。それだけで尊いと“彼”は感じている。

とてつもない痛みに不安定な衝動。

普段はつんけんとしている曙が更に尖った態度になるのも生理から来ていると確信した。


……俺にはわからん領域だから下手に突っ込めないな。


周期的なものでもあるが、一応は女性というカテゴリーに入る艦娘にも生理はあるのだろう。

だが、女性にしか分かち合えないものに“彼”は無粋に突っ込むつもりはなかった。

このように情緒不安定な状態も無理は無いと判断し、受け入れる。

ならば、男である自分ができることは見守りつつも身を案じる言葉をささやかに投げかけるだけだ。

替えの下着やケアはこっそりと支給を多めにしておこう。

それができる男、もとい気配りのできる上司というものだ。


「曙」

「な、何よ」

「いいか、無理はするなよ。体調が優れないなら、きちんと休め」


心なしか顔が赤くなっているが、これもまた生理が関係していると予測する。

生理、恐るべし。任務外では少しの間、労りの心をもって接しとこうと“彼”は秘かに決意を固めた。

   

「しれぇは曙ちゃんに甘すぎます!」

「もっと私にもその甘さ分けろー、横暴だぞー」


そして、そんな“彼”の悲壮な決意を無視し、好き勝手に喋る二人の艦娘はまた別の意味で頭を悩ませる。

天真爛漫、我が道を征く。構わなければ煩いし、曙のように大人しくならない。

どちらもキラキラとした目で自分を見つめてくるがいい加減にして欲しい。

その目を小さい女の子が好きな提督にでも向けてやれば、思う存分に構ってもらえるというのに。


「あー、はいはい。今度な、今度分けるから」

「じゃあ、今度私とデートしてねー」

「雪風は間宮アイスをしれぇと食べることを所望します!」

「ちょ、ちょっと!! 自分の分際を弁えなさいよ!!!」


もっとも、上っ面だけを見ている提督がこの跳ねっ返り三人娘の目に敵うかは別問題だ。

その点、自分は任務に従ってくれる程度には好意を持たれているのは僥倖と言う他ない。

自惚れるな、事実だけを見ろ。

惚れた腫れたで慌てる優男でもあるまい。彼女達が自分を慕うのはしっかりと弁えのラインを引ける上司だからこそなのだ。

ともかく、今はこの三人娘を黙らせる。

仕事と割り切って、“彼”は喧騒の輪へと無理矢理入り込んでいった。








「自力航行不能な艦娘の雷撃処分、ねぇ」


聞かされた任務は、これ以上にない程に自分達らしいものだと曙は苦笑する。

大破により動けなくなった艦娘の処分。言葉にすると簡素なものだ。

そこに至るまでに聞かされた話を“彼”らは振り返る。


「要するに、無茶な進撃で動けなくなった足手まといを処分ってこと?」

「正確には沈んだ艦娘達の仇討ちに躍起になった一部艦娘達の暴走だな。
 提督のお酒を無視して繰り返し進撃していれば、艦娘は疲労に絡め取られるさ」

「はー、その提督さんも大変だねー。窘められないって言ったら戦艦級じゃないの?」

「そうだ。何て言ったって暴走している艦娘の筆頭に武蔵がいるからな」


武蔵。この前沈めた大和の妹に当たる艦娘だ。

調べてみると、あの大和と武蔵は一緒の艦隊で切磋琢磨しあっていた仲らしい。

当然、姉妹だからか関係も良好。提督とも円満だったと聞いた。


「まあ、武蔵のことは置いておこう。それよりも、今は雷撃処分の話だ」

「雪風としましては、その大破した艦娘は速く処分しないとマズいんですよね」

「そうなるな。もし、敵に囚われたりでもしたら厄介だ。秘匿情報が漏れる可能性がある」

「うっわ、御愁傷様ー、まーでも自分の限界を見極められないそいつが悪いよー、ねーっ連装砲ちゃん」


港に帰ることすらできない傷ついた兵器に価値はない。

“彼”個人としては、別に捨て置けばいいとも思うが、もしも深海棲艦に捕まりでもしたら大変だ。

拷問による情報漏洩。裏切りは自分達にも被害を広げていく。

馬鹿らしいと、“彼”は皮肉げに笑う。

だが、肝はここからだ。


「筋書きはこうだ。“不幸なことに”、俺達が辿り着く前には深海棲艦が牙を剥き襲いかかっていた。
 それを見た俺達は、急いで救助に向かうも敢え無く間に合わず。
 艦娘の暴走が悲しい犠牲を生んでしまったお涙頂戴の話さ」

「――――表向きは、ね」



    

「それで、その哀れな犠牲者ちゃんは誰なのー?」

「あァ、そうだな。その哀れな犠牲者の名前は――――」










「――――最上だ」









自然と、曙の顔から生気が無くなった。

忌々しき過去。救えなかった命。血に染まった鉄屑。

滅びの赤に沈められた世界、生死の境を綱渡りする興奮に咆哮する人間達。

暴発し、散華していく人間だったもの。

再び曙に巡り廻るのは、かつてと同じ――排除。

初めて仲間を沈めた、記憶。

切りがいいとこなので今日はここまでにします。
短い+安価も少なくて申し訳ない。うーぴょんの顔に免じて許して下さい。
忙しい中でも一週間に一回は更新するので優しさを忘れずにゆるーくいきましょう。

おつおつ
この>>1、死亡フラグをマスク掛けてして積み重ねてたのか…突然死しそうでマジ怖い
武蔵さんはやっぱバーサーカーモードか…会話ができそうにないな、大鳳がどんな立ち位置かまだ見えないのも怖い

???「しれぇー、しれぇー!しれぇってばー!聞いt」
提督「スニーキング中に大声出すな、戯け」

週末なのでさらさらと更新します。



【行き先を指定して下さい――残二回】※割と今後の展開に関係します。


↓3



1間宮喫茶店

2工廠

3執務室

4展望台

5資材置き場

6高台

7訓練場








作戦前の一時。

“彼”は資材置き場に来ていた。

これから出撃するであろう三人娘の為に資材の補充をしに自らやってきたのだ。


「あら、四十九のとこの提督じゃない」

「ああ、お前か。横領メロン」

「そのアダ名はやめてよね……」


出迎えてくれたのはこの前の任務で知り合いになった夕張だった。

この前とは装いを変えて、セーラー服の上に白衣を羽織り、メガネをかけている。

知的な科学者アピールでもしているのか、と“彼”は溜息を付く。


「それで、わざわざ此処に来たってことは資材の補充でしょ?」

「話が速くて助かる」


この前の一件から、夕張は“彼”に対して色々と便宜を図ってくれている。

開発やドック入りといったことは勿論のこと、このような資材補充でも優先して行ってくれる彼女の存在はありがたい。

後々の事を考えても、任務を受けたかいがあったというものだ。


「それはそれとして、だ」

「まだ何かあるの? もしかして、青葉のこと?」

「それは本人に言う。お前の夕張メロンを揉むことについてだ」

「ひうっ……! ま、まだ覚えてたの!?」

「当たり前だ、一度取り決めた協定を忘れる馬鹿が何処にいる」

「此処にいて欲しかったんだけどなぁ……」


何故だか知らないが、それらの条件に加えて夕張の夕張メロンを揉む権利もゲットしてしまった。

“彼”としてはジョークのつもりだったが、彼女は本気にしてしまいそれからはずっとよそよそしい態度を取られ続けている。



「そ、それで? 出撃前にも、もっ、私のを揉みに来たの?」


必死に取り繕ってはいるが、慌てているのは一目瞭然だ。

言葉は途切れ途切れ、顔は赤面し真っ赤に熟れた夕張メロンのようである。


……揉む程大きくないだろ。


もっとも、彼女の胸は貧相で揉むに値しないおっぱいだ。

金を払う価値すら無いまな板。それが、夕張のメロンの成れの果てである。

こんな揉む価値もないおっぱいの権利など、“彼”は願い下げだ。

はっきりと言おう。ジョークのつもりだった、と。

だが、一方でこのままでいいのかという思いもある。

確かに揉む価値はないけれど、どうせタダなのだ。揉んでしまえばいいと考える自分が心の隅にいることも否定はできない。

どうすればいい。

思考の末に彼が選んだ答えは――。


↓3


1「そうだ、お前の夕張メロンを味わい尽くしてやる」

2「……いや、別にいいです」

3自由安価

   

「そうだ、お前の夕張メロンを味わい尽くしてやる」

「や、やややや、やっぱりぃぃぃ!!」


他意はない。出来心だけだった。

何となくこのままで終わってしまってはからかうネタも減るし、もしもの時は恐喝にも使える。

更に、こっそりと映像にでも取って、好色な提督にでも売り渡せばそれなりの資金を手に入れられると“彼”は判断した。

とはいっても、横領や他者の排斥を割かし素でやってのける夕張だが、こういう女性的な部分は意外にも純情だ。

提督をかどわかして、売春行為をやっていてもおかしくはないと思っていたが、ここまで初だとは。

演技の可能性も捨て切れないが、そんな演技を自分に対してした所で意味は無いだろう。


「そこまで顔を真赤にしたら自分が生娘だと言っているようなもんだぞ」

「ひゃうっ、ちょ、いきな、やんっ!」


軽く撫でながら優しく掴むだけでもこの反応なのだ。

本当の本当に生娘なのかもしれない。

ふにふにと手の中で転がし、先っぽを押す。

そして、時には強く。

その単純なルーチンワークでさえ、夕張は媚声をあげてふるふる震えてしまうのだ。

     

「んっ! も、もっと、いじるの!? やっ、やめッ!? っひぃんん! 
 え、指だけでこんな、気持ちいいとか聞いてっ……!? そ、それ以上はっ!」

「……感度が良すぎないか」

「だ、だってぇっ、きもちいいんだっひっ、ぅううんっ!
 もう、こういう、のっあぁ、ひぃ、はじめてにゃ、にゃうあっだかっ、らぁ……っ」


正直、ここまで乱れるとは“彼”は予想にもしていなかった。

麗しき艦娘の外見なのだ、自分の知らぬ所で色々ととっかえひっかえしてるものだとばかりに思っていた。

ちなみに、曙達にはやったこともないので分からないが、同様に考えている。


「き、きもちいいよォ……っ! こう、ぁんっ、やってぇいじられるの!
 だめぇ、とまら、にゃぁいんっ! かるきゅ、いじられるだけにゃにょにぃっ! い、いっちゃ、うよぉ!」


これは、ヤバイ。冷や汗がダラダラと滴り落ちるぐらいにヤバイ。

冷静になって振り返ると、何をやっているんだと言わざるをえない。

女性を色欲で落とすのは特段に拒否感はないが、艦娘に関しては別だ。

何せ、兵器だ。こんななりではあるが、戦争の起点となる艦娘に対して――。


「やぁ、んっ、いっちゃ、いっひゃう……!」


――戯れとはいっても、一般的な女性を落とすかのように扱っていたという事実が“彼”にのしかかる。





    

「あ、アホか……俺は」


一瞬で、“彼”は現実へと舞い戻る。

艦娘の色香をその身で味わい、思わず息を呑む。

鋼の如き精神で律している自分でさえ何となく夢中になってしまいそうになったのだ。

これでは並大抵の提督では話にならないだろう。


「……んっ」


吸い付くように触れていた両手を夕張の胸から勢い良く引き剥がす。

その勢いに夕張はぺたんとその場に崩れ落ちるが、心配している余裕が今の“彼”にはなかった。

ついついその場のノリでやってしまったが、もう遅い。

淫美に蕩けた瞳に、紅潮した頬と口から漏れ出した唾液。

そして、下腹部から漏れ出した臭いが彼女もまた牝だということを嫌でも証明している。

縋るように見上げた両目が訴えているのだ。

まだ満足していない、と。

その目を見て“彼”は確信した。このまま流されては危険である。


「……悪い。調子に乗り過ぎた。後で、詫びの菓子折りでも持っていく」


早口に呟いて、“彼”は足早に去っていく。

このままここに居ると再び流されてしまいそうだ。

そんな不安を無理矢理に押し潰し、背を向ける。

夕張の瞳に宿った情欲の炎に終ぞ気づかずに――。



【夕張フラグ+2】



【曙死亡フラグチェック】

↓2
ゾロ目を出さなければセーフ。


セーフだったので覗き見による精神不安定状態にはなりません。



【行き先を指定して下さい――残一回】※割と今後の展開に関係します。


↓3



1間宮喫茶店

2工廠

3執務室

4展望台

5高台

6訓練場

7もういい。作戦の最終確認に移ろう。

    

「……どうしたんですか、司令官。顔が真っ青ですよぉ」


夕張との接触から逃げるように立ち去った“彼”はいつの間にかに工廠に来てしまったらしい。

目の前には珍しく心配したような顔をした青葉が駆け寄ってきていた。


「あぁ、お前か」

「お前かってなんですかそのぞんざいな扱いはぁ!」

「悪い、親しき中にも礼儀あり、だな。すまない」

「い、いえ……司令官にしてはいやに素直ですねぇ」


口を釣り上げて、ニヤニヤと笑う青葉に対しても、今は何もする気が起きなかった。

ともかく、来てしまったのだから考えていた要件を済ましておくことにしようと“彼”は割り切っていく。


「たまには素直になることもあるさ。ともかく、色々と入り用で来たんだ。
 前回と同じく、今回もまた危険な任務でね」

「危険な任務っていつものことじゃないですか」


前回の任務に帯同した青葉からすると、自分達はよっぽどの死にたがりに見えるらしい。

  

「否定はしないよ。ともかく、前回と同じく戦艦を相手取る可能性がある。
 できることならば、避けたい。だが、もしも――」

「――鉢合わせた場合、ですね。心配性も突き詰めると落とし穴に~ってなりますが、戦艦相手でしたら十全にしたい。
 まあ、わかりますけど。この前の大和さんとの戦いは紙一重でしたし」


戦艦の恐ろしさを肌で感じた青葉だからこそ、理解してくれるのは幸いだ。

それだからか、このような急な訪問でも丁寧に対応してくれる。


「とりあえず、殲滅戦なんですか。それとも、陽動を主とした逃走戦なんですか?」

「これ以上は情報漏洩だ。詳しくは言えない」

「ちぇー、面白く無いですねぇ」


顔を渋く顰め、そっぽを向く青葉に対して“彼”は薄く笑った。

この投げやりな態度のおかげで幾分か普段の調子が戻ってくる。

思いの外、青葉との会話は自分にとって日常じみたものに定着していたらしい。



↓3


1「ありがとう、青葉」

2「面白くなくて結構」

3 自由安価


    

「青葉っぱいを揉ませてくれ青葉」

「はい、喜んでー!」

「わーい、ってアホか。突っ込めよ。何ナチュラルに差し出してるんだよ」


ニコニコ顔を崩さずに胸を差し出してくる青葉に“彼”は重い息を吐くしかなかった。

夕張といい青葉といい自分の外見に無頓着が過ぎるのではないか。

試すように繰り出した言葉にも平然と乗ってくるのは如何なものかと悩む他ない。


「それにしても、乗っかかるのな。こういう下ネタにも」

「あはは、司令官のことですから冗談だってわかりますし。まあ、他の人に言ったら本気にしちゃいそうですけどね」

「……そうだな」


事実、先程経験した行為は全く持って勢いだけだった。

そこに恋愛感情などあるはずもなく、ただの戯れ。

それだけだったはずなのに。


「艦娘っていうのは依存しやすいんですよ。特にそういう方面では、ね」

「はぁ、曙達が余り気にしない質だからかどうも鈍いな、俺は」


ちょっとの弾みで本気になってしまう。

彼女達も元は人間だからか。それとも、艦娘に改造されたことでより愛情を求めるようになったからなのか。

   

「まあ、青葉としましては司令官なら大歓迎ですけどねー。他の人達と違って」

「今更媚びても何も出ないぞ」

「嫌ですねー、本音ですよぅ、ほ・ん・ね・っ」

「胡散臭いなぁ、そうやって純情気取ってる奴に限って腹に隠してるもんがあるんだ」


青葉や夕張に関しては大体半分程度の信用しか持ち合わせていない。

信頼という意味では彼女達は十全だが、その中身までとなると信じ切れなかった。

もっとも、それぐらいの警戒心でないと生き延びることなんてできない。

誰が敵で誰か味方か。信じ過ぎず、かといって疑い過ぎず。

その中間を“彼”は上手く位置を取っている。


「…………まあ、司令官とはこれから先もいい仲でいたいんですけど」

「お互いの邪魔にならない限りは、大丈夫だろう」

「へへっ、そういうドライなとこも素敵ですよぉ」

「茶化すな。……それよりも、装備については頼むぞ」

「了解しましたよーっと。いざとなれば戦闘できるブツは用意しておきますよ」


だから、これでいい。

この触れ合わないけれども、離れてもいない距離感で十分だ。

情を抱きすぎると、何かあったら助けようと思ってしまうから。

「それはともかくとして青葉っぱいは本当に揉まなくて」

「はいはい、いつか揉む揉む」

「そんなぞんざいなぁ!?」


【青葉フラグ+1】


【曙と出会わなかったことにより死亡フラグが+1されます】

曙の個別ケアをしようとしないのは死んでほしいからですかねぇ……。
今日はここまでにします。次回、任務前最終編です。
毎回レスありがとうございます、励みになります。
その御礼といってはしょぼいものですが、色々と今回のまとめを下に貼っつけたので今後の参考程度に。


・選ばれなかった行動安価。

1間宮喫茶店 →雪風との親密度UP(前回の更新にあった間宮アイスがヒント)
3執務室 →島風との親密度UP(前回の更新でだらけていたことがヒント……?)
4展望台 →曙ちゃんを鼓舞。(一人でいそうな場所その一)
5高台 →曙ちゃんを鼓舞。(一人でいそうな場所その二)
6訓練場→太鳳+武蔵と遭遇。色々と小細工安価。
7もういい。作戦の最終確認に移ろう。 →戦闘遭遇安価を甘くするつもりでした。

・選ばれなかった夕張さん安価

2「……いや、別にいいです」 →フラグ変動なし。

・選ばれなかった青葉安価

1「ありがとう、青葉」 →おっぱいネタなしのフラグUP
2「面白くなくて結構」 →フラグ変動なし。

・現在の目に見えてわかるフラグ値

曙……死亡フラグ+2

夕張……フラグ+2(このフラグは愛憎どっちにも転ぶからただのフラグ数値です)

青葉……フラグ+1(このフラグは愛憎どっちにも転ぶからただのフラグ数値です)

他メンツは特に無色透明なのでありません。打ち所が悪ければ死ぬ程度です。










「現在の最上は深海の襲撃によって武蔵達とも離れ離れ。
 始末するなら、今だ。迅速に行え。武蔵達が再度の出撃をする前に」

「りょーかーいっ。もし見られちゃったら」

「潔く死ね」

「わかりましたっ!」

「いやいや、死んだら駄目でしょー」

「しれぇの為なら、雪風は火の中水の中ですよっ!?」


任務決行にあたって注意すべき点を簡潔にまとめ、三人へと伝える。

軽口憎まれ口などじゃじゃ馬勢揃いではあるが、任務に対しては真面目だ。

自分にできることを理解している。無茶はすれど、無謀は絶対にしない。


「……冗談だ。お前達にはまだまだ動いてもらわなきゃいけない。簡単に死んでもらっては困る」


それにしても頭を悩ませるのは雪風だ。

今放った雪風の言葉に迷いはなかった。さすがに言葉の通りに沈むことはないだろうが、思い切りが良すぎる。

まるで、盲目的に尻尾を振る犬のようだ。“彼”としては依存体質も程々にして欲しいと考えているが、中々に解決はしない。

      

「見つからないように殺れ。絶対条件だ、これを怠ると怒りで我を失った武蔵艦隊と激突することになるぞ」

「はいはーい。でも、どうやって?」

「本来であるなら陽動。だが、それでは危険だ。深海とは違い、排除対象外である内側の人間の前で目立ちたくはない」

「えー、そいつらも全員殺しちゃえばよくないー?」

「我を失った戦艦を奸計なしで破ることができるのか? この前のケースは万全の策と準備、それと偶然だ。
 傲るなよ、島風。俺はお前を評価しているからこそ言っている。こんな所で足元を掬われて、お前を失いたくはないからな」

「ぶーぶーっ、そういうこと言われたら素直に提督の言うことを聞きたくなるじゃんー」


前回の任務では皆殺しという手段を取ったが、今回みたいなケースの場合、できるだけ戦闘は避けたい。

武蔵の他にも誰がいるかも調べる余裕がない現状――行き当たりばったりの戦闘は危険過ぎる。

故に、速度も速く、応用性がある駆逐三人娘の出番という訳だ。


……しかし、どうも引っかかる。


“彼”は一方で考えた。

この任務はどこか作為染みたものがある。

航行不能の艦娘を雷撃処分。確かに、理には適っている。

相手に鹵獲されでもしたら厄介ではあるし、動けぬ兵が原因で戦意が落ちていくならその前に切り落とす。

任務の正当性について、わかってはいるが、どうもきな臭い。

危険度が高過ぎるのだ。もしも、武蔵率いる艦隊と運悪く鉢合わせしてしまったらどうするのか。


「重要なのは最上が握っている鎮守府の情報。最上自身にはそこまで価値はない」


それを顧みれば、殺すという選択肢も間違ってはいなかった。

救出への手間、深海棲艦の急襲。そして、大破している艦娘を庇いながらの戦。

着眼してみると、デメリットはそれなりに多い。任務を遂行するにあたって、相当の実力が必要だということも理解できる。


      

……だが、 別に助けてしまっても構わんはずだ。


幾ら自分達が後ろめたい任務を主としているとはいえ、救出任務だって出来る力量は持っている。

邪魔をするなら殺す気概はあるが、何も無差別殺人がしたい訳ではない。

救うことによって生まれるメリットが有るなら、“彼”はそちらの選択肢を優先する。

今回のケースを想定すると、もし無事救出が成功したら、最上の上官である提督にも恩を売ることになる。

何らかの手札にも成り得るカードを一枚新たに加えられる、それは“彼”からすると願ってもないものだった。


……今までは従順に従っていたが、そろそろ独自に動くべきなのか。


提督として現場で任務をこなす“彼”と魑魅魍魎が跋扈するという噂が立ち込める権力闘争の中で生き残り続ける上司。

どちらかが崩れれば、今のポジションは危ういものとなってしまうぐらいには薄氷の上にある。

だからこそ、お互いの分野には踏み込まず判断も全部任せていたのだが。


「アイツがいるから俺は何も考えなくてもいい。ただ与えられた任務をこなすだけでいい。それは思考放棄、だな。
 自分で物事を考えられん」


今の思考が分岐点だということはわかっている。

救うか、救わざるか。

全責任をもって、自分が決めねばならないのだ。



↓2~4(メガテンでいうロウルート、カオスルート、ニュートラルルートの選択ぐらいには重要です)


1最上を救ける。

2任務通り、始末する。

3任務情報の再確認。







   


「それで、結局どうするの?」


海上を駆け抜ける三人の艦娘達は各々作戦の最終確認を復唱していた。

数分前、悩ましい顔をしていた“彼”の言葉はいつもとは違い、歯切れが悪かった。

それなりに長い付き合いである三人にとって、“彼”が即決しないというのは相当に珍しい光景だ。

そんな貴重な表情を見れた島風はにへにへと笑い、雪風が纏うオーラもいつにも増して煌きが強い。

曙も表情にこそ出さないが、ちょっとした昂揚感が体に巡っている。


「破壊、じゃなくて救出。いつもと違って血生臭くないのは大助かりだけど」

「にひひっ、そんなこと言ってぇ~。本当は殺したくないからじゃないのぉ?」

「……否定はしない。けれど、任務には従うからどうってことない」

「ひゅー、さすが曙ちゃん。公私混同はしてなーいっ」


仲間同士だからといって遠慮はしない。使えないなら容赦なく切り捨てる。

彼女達の関係に甘さはなかった。

だからこそ、相手が気にしていることだろうが言葉に出せるのだ。

   

「でもでも、これでいいんでしょうか? 一応、任務上では沈めろって命じられているのに」

「んー、私としては無駄弾を使わなくていいし楽でいいなーって思うんだけど」

「……出会い頭、いきなり沈めるっていうよりは穏便ね」


ともかくとして、彼女達に与えられた任務は雷撃処分の前に一度救出をすることだ。

余り、慣れた任務ではないがきっちりと遂行してみせる。


「それと、武蔵達とかち合ったらどうする?」

「……げー、あの型物ブチギレ戦艦さんとは会いたくなーい」

「彼女達よりも先に見つけなければ、雪風達の任務は台無しですね」

「はぁ、さっさと捜索に取り掛かりましょう。はぐれた位置からしてこの辺りの島に流れ着いてるんじゃない?
 馬鹿みたいに海上で的になってるなんて、アホなことはしないでしょうし」


重くのしかかった責任を背負い、三人は最上を探す。


↓3


01~70……最上と先に遭遇。
71~99……武蔵達と先に遭遇。
ゾロ目だと……?

















「……ッ」


それは、遥か遠くに位置しようともわかる強烈な殺気だった。

壊して解して粉々に。

目に映るモノ全てを砲火で沈めかねない狂気が滲み出している。


「これは、雷撃処分の任務だったら死んでたかもねぇ」


ボソリと呟いた島風の言葉も海風に消えていく。

それ程までに、最強の戦艦は恐ろしいのだ。

拙い。曙達は、最悪の可能性を想起する。

真正面から当たったら跡形もなく崩れ落ちると確信し、退散。

それができたらどれだけ気が休まるか。


「でも、雪風達も同じです。譲れぬモノがあるなら、無理矢理奪い取るしかない」

「……戦うの? アッチはきっと駆逐艦の弱小部隊じゃないわよ」

「単独に分散するのは?」

「見つかって各個撃破でもされたら終わりじゃない。まあ、いきなり襲い掛かってこないならそれでいいんだけど。
 ……クソ提督にも最悪の可能性をいつでも想定しろって言われてるし」


だが、現実は厳しくも、武蔵達との遭遇が先に来てしまった。

逃げることはできない。疚しいことでも抱えてると思われ、ぶち殺される。

     

「じゃあ、こうしない? 二人はアイツらと交渉。上手く、引き伸ばすの。
 残り一人は最上を探して救出ってことで」

「でも、そんなに都合良くいきますか?」

「都合良くいかないと、死ぬのは私達よ」

「いっそのこと、武蔵達を奇襲はー」

「絶対にない!! 死にに行くようなものよ!!」


侃々諤々。残された僅かな時間を使い、曙達は迫り来る脅威に対して思考を重ねていく。

相手は少なくとも最強の戦艦が一人。そして、他にも数人腕利きの艦娘がいる可能性だってある。

慢心したままで突っ込んだら、此方が痛い目をみるだろう。


「結局、どうすんのー? 連装砲ちゃんも早くしろーって怒ってるよぅー」

「……連装砲ちゃんが喋る訳ないでしょ」

「こ、こういう時こそしれぇに連絡すべきでは?」

「それもありかなぁ。むー、困ったねぇ」



↓2~4

1二人交渉、一人は最上救出。

2提督に連絡。

3自由安価。

PCの前で突っ伏してました、このまま続けたら色々とミスしそうなのでここまでにします。
次回、324~326のどれかで決めます。
ちなみに、任務成功か、失敗かはこの先の展開が変わるぐらいには重要です。
そして、最上救出は既に与えられた任務を捻じ曲げてるということを念頭に置いといて下さい。

生きてました。
身辺整理+夜のお仕事のコンボで精神肉体どっちも辛い。
とりあえず、ちょこちょこ書いた短編でお茶を濁させて下さい、マジすんません。

          





たった一人だけの世界は、思いの外綺麗だった。






 ◇  ◇  ◇






見上げた空は何処までも広く、青かった。

叶うなら、この空の向こうまで飛んでいきたいとさえ思ってしまう。

頬を撫でる風、澄んだ大地の臭い。

それは生の実感を感じさせるには十分な欠片が詰まっている。

だが、今ここにいる海はそんな優しくて綺麗なものをいとも簡単に奪い去る狂気の戦場だ。

殺し合い、雷撃処分、埋伏の毒。最後のターゲットを始末するまで帰れない黒い任務。

培ってきた常識も、築いた信頼もぶち壊しにする悪夢が、現実を蝕んでいく。

それでも、曙は抗うことをやめなかった。

「いつかはきっと」といった甘く蕩けた言葉を退廃した世界でも声を大にして叫ぶのだ。

夢や理想、想いこそが尊ばれる王道の御伽話を未来は信じている。

抱いたモノは簡素なれど、愚直だった。絶対に喪いたくないと願った輝きだった。

客観的な第三者視点、生存本能といった阻害要因を前にしても、曲げれぬ絆が今も胸で煌めいている。

それは、残酷な現実に身を浸しても、変わらないはずだった。

生き残りたい、死にたくない、綺麗な理想に殉じたい。

けれど、世界の一部はそれを許さない。

埋められない溝の隔たりがあることが、人と艦娘の繋がりを阻害する。


      

――救いたかっただけなのに。


曙にもまだ過去の残滓を捨て切れずに、理想と夢を追い続けていた頃があった。

今度こそと空と海と大地に誓い、真っ直ぐに立ち向かおうとする気概が溢れている刹那は、まだ忘れられない。

だが、その願いは叶わない。正義の味方といった王道のヒーローに、彼女は相応しくなかった。

絶望。淘汰。崩壊。

口が悪く、仲間とも衝突をしてばかりだった曙に対して、良い眼つきで見る人達はいないことは自明の理だ。

意地っ張りで、負けず嫌いな彼女はそれでもと足掻き、悶え苦しみながらもそのままで貫こうとしたが――受け入れられることは終ぞなかった。

そもそも、それもまた当然の話だ。自分に好意を向けてくれる艦娘と口を開けば暴言ばかりの艦娘。

どちらが好まれるかなんて、わかりきった答えだ。

けれど、自分を曲げるといったことだけはどうしてもできなかった。

せめて、この思いだけは誰にも譲らない。不退転の想いを胸に、曙は歩き続ける。

凝り固まった決意に囚われた彼女は、振り返る気力が湧かない程、視界を失っていた。

現実は苦く、恐怖感を煽り、熱を帯びた頬が痛い。

一日。十日。一ヶ月。月日が経つに連れて、彼女の傍からは人がいなくなっていった。

仲良く笑い合っていたはずの仲間達も今ではもういない。大方見捨てられたのか、それとも悪影響を与えるとされて遠ざけられたのか。

もっとも、曙はどちらでも構わない。

戦果よりも“媚び”た女の子を愛しく思った提督は、微温い場所に留まり続けるだろう。

未来よりも、現在の慣れ合いを選んだ彼女達は、永劫甘ったるい環境で遊んでいるのだろう。

違う。そんなものを曙は望んでいない。

彼女が欲しいのは勝利だ。暁の水平線に勝利を刻むべく、一緒に突き進んでくれる戦友こそが、彼女に好感を抱かせるのだ。

足掻いて、否定する。正義で救えぬものを救い、今度こそ、輝かしい戦果をこの手で勝ち取ることが、曙の誉れ。


――それでも、伸ばした手は空を切る。


曙は最後まで他者を真正面から見なかった。

当然だ、彼女は精一杯の虚勢で自分を隠す癖があり、口調も悪い。

故に、誰も寄り付かないし、誰も彼女を顧みない。

その様は、お前には何も掴めないと言われてるかと錯覚してしまう。

どれだけ想いを突き詰めようとも、所詮は他人。という願いは簡単に霞んでいく。

数多くいる仲間達とたった一人の“彼女”。同じ艦娘とはいえ、普通の人間である提督ががどちらを優先するかは決まりきっていた。

それを考えると、乾いた笑い声が口から漏れ出した。

何が出来た? 過ぎた理想を抱いて、意地を張って――意味はあったのか?

陥った自問自答に、曙はほんの少しだけ迷った。

小さな綻びであったけれど、一瞬だけ思慮してしまう。


諦めてしまえ、と。

甘えに揺らいでしまえ、と。

違えた道を無理に貫こうとしなくてもいいではないか。ほんの少しだけ、“妥協”を覚えたら、今の苦境も解決だ。

簡素で冴えたやり方はこんなにも頭をすっきりさせる。

回り道よりも近道の方が楽なのは自明の理だ。ならば、さっさと諦めて許しを乞え。

間違っているのは自分でした、と。

それが、生き残るに最適な選択肢である。


「――嫌だ。そんなの、許せない」


けれど、曙が引いた境界線はその選択肢を通さない。

理屈ではわかっているし、今の自分が抱いているのが未練がましい感情論だということも承知の上だ。

戦艦級の力がない曙が、誰かを救けるなんて痴がましい。けれど、それでもなお伸ばしたい手があるから。

艦娘として。そして、一人の少女として。

どうしようもなく、曙は愚直に過ぎたのだ。

前世で叶えられなかった後悔がある。

少しでも後悔を払拭すべく近前へと踏み出した勇気がある。

いつか夢見た自分の望みが叶う時まで、戦うのが――曙の全てだ。


「どうせなら、最後まで。私が死ぬまで、走ってみるのも悪くはないわ」


結局の所、曙はどこまでも前世に拘って、捨て去れないだけだった。

それは仲間から白い目で見られ、提督からぞんざいに、信を強く置いていることからも読みとれる。

彼女が意地を張り続ける理由など、知れたことだ。

前世で果たせなかった宿縁を――今度こそ貫きたい。

きっと、その結末は誰にもわからない。

最後まで抗って、戦って、その果てで見つかるものが、正しいのか。

それでも、曙は選んでしまう。納得できる選択肢を。

諦めるよりも貫くことを良しとした決意を、誇る。

既に孤立した状況であり、彼女の謳う理念には罅が生まれているにも関わらず。

見果て夢を、少女は追い続ける。


「うん、諦めるなんてらしくないよね」

「そうだな。思ってたよかしっかりとした奴で安心したよ」


そして、少女はこの日――“彼”に出会う。


「やあ。君が噂の跳ねっ返りか?」


これが、曙と“彼”の始まり。

第四十九特殊任務艦隊が形成されるちょっと前の出来事だった。

とりあえず、色々と落ち着いたら通常更新に戻ります。
このスレ使い切るぐらいにはきちんと終わらせたいなって考えているので。
どうぞ、ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。

前回までのあらすじ。
最上雷撃処分任務が救出任務へと変え、曙達は出撃する。
だが、順調だった任務に陰りが生まれる。
最強の戦艦との遭遇。はちきれんばかりの殺気を浴びた曙達はどうするのか。

のんびり短くですが更新します。

豪胆な態度。苛烈な戦意。口先だけではない技量の程。

味方にすると、これ以上に頼もしい存在はいないだろう。

だが、裏を返すと――彼女が敵に回ると仮定するならばどうなるか。

考えるだけでも怖気が走る。

だが、この武蔵と相対して生半可なモノで対処はできない。

緻密に練った戦略も力でねじ伏せられる可能性に、怯え、惑う。


(ああ、もう……ッ! 想定はしていたけどここまでだなんて!)


鋭く尖った瞳に今にも火が吹き出しそうな憤怒の形相。

これ以上奪わせてなるものか。深い悔恨が、彼女を見るもの全てを壊す狂戦士へと昇華させている。

思いの丈を滾らせた表情が、纏った武装の矛先が、三人に突き刺さる。


――敵対するなら、葬る。


下手に軽口でも口にしたら即座に敵意の砲弾が穿たれるだろう。

加えて、彼女の横にいるのは装甲空母の大鳳だ。

その名の通り、堅強な装甲に加えて高い対空性と火力を誇る空母の中でも有数の彼女が付いているのは運が無い。

彼女は武蔵と違って沈着な表情を浮かべ、武装を解いている。

怒りで我を失っていないということだろう。

あくまで予測ではあるが、自分達と同じ考え――話し合いで済ませたいのかもしれない。



(けれど、話し合いで済む訳?)


数では優っている、経験は此方の方が上かもしれない。万が一の可能性に賭けて仕掛けてみるか?

曙達はその判断を即座に断ち切った。無茶はすれど、無謀はしない。

相手は戦艦に装甲空母、勇み足で踏み越えられる柔な相手ではないのだから。

そんなアドバンテージを軽々と上回る性能を持つ彼女達に対して真正面から挑むなど考えなしにも程がある。

少しのミスが全滅に繋がるのだ、油断も慢心も許されない。


「問おう、貴様らはどっちだ」


敵か、味方か。圧力の伴った言葉には、嘘を断ち切る意志の炎が灯っている。

選ばなくてはならない。此処で、自分達が取る最善を示さなければならないのだ。



↓3

1交渉。
2撤退。
3協力。武蔵達と協力して最上を探す。



「味方よ」

「口では何とでも言える」


当然、その一言では信用は買えなかった。

武蔵の言葉通り、口では何とでも言えるのだ。

虚実を張り巡らし、裏で動く部隊に所属している彼女達は息を吸って吐くかのように嘘をつく。

任務遂行の為ならば、何でもやる。殺せるなら殺し尽くし、協力できるなら誰であろうと協力する。

自分達には此処しか無い。この部隊だけが、居場所であり存在意義なのだ。

ならば、こんな所で死ぬ訳にはいかないし、下手な争い事はよろしくない。

故に、同盟の締結を。敵意に満ちた視線を浴びても揺るがぬ瞳を真っ直ぐに。


「ハッ、カハッ、この武蔵を前にして震えぬとはなァ。
 貴様ら、まさか自分達が絶対に死なんとでも思っているのか? 問答無用にこっちは殺せるんだぜ?」


だが、その真っ直ぐな想いを叩き折るかのような武蔵の言葉に三人は艦装を纏い、矛先を武蔵へと向ける。




「雪風達に戦う意志はありません。そちらに争う意志がない限りは」

「でーもー、そっちがマジなら私達も黙ってられないっていいますかー」

「駆逐艦が固まった所で、勝てるとでも?」

「確かに。“私達だけ”では勝てないでしょうね」


怪訝な表情を浮かべる武蔵が、彼女達の言を戯言と一蹴し、武装を曙達へと向けようとしたその時。


「そこまでです、武蔵」

「大鳳、貴様……あちらへと与するのか」


静観していた大鳳が鋭い視線を武蔵へと送りつつ、爆撃機を旋回させていた。

通常ならば、曙達に与しない彼女ではあるが、何を想ったのか武蔵と反目しあっている。


「正直に言うと、今の貴方に味方はできません。
 仲間が死に、最上も行方不明だというのに……映るもの全てに噛み付く狂犬ですか?
 冷静さが欠けています、自重して下さい」

「ほざけっ! 疚しい所があるからこいつらも武装を解かないんだろうが!」

「それは貴方が威圧したからでしょう? あんな態度を取っているのにも関わらず好意的になるなどありえません」

「いけしゃあしゃあと口が回る。仲間が死に、冷静な態度を崩さん貴様はなんだ? それでも、艦娘か!」

「その感情の暴走が原因で最上が傷つき、今も何処かで彷徨っているのでしょう?
 よくもまあ、そんなことが言えますね。貴方の無鉄砲さが周りへと迷惑をかけているのがわかりませんか?
 姉である彼女が死んだことに関しては心中を察しますが、それを理由に他者へ八つ当たりするのはやめて下さい」


売り言葉に買い言葉。互いの認識が食い違っているのか、曙達を放置して彼女達は言い争いを始めてしまった。

仲間に重みを置き過ぎて暴走している武蔵、対照的に冷静な判断を保ち続ける大鳳。

両者の溝はもはや修復不可能なまで深まりかけていた。


↓3

コンマ判定。

00~49……武蔵、単独で離脱。
51~99……武蔵、冷静さを取り戻す。
ゾロ目……???

夜も深まって参りましたので今日はここまで。
のんびりほんわか、ゆるっとした更新速度でお送りします。
仕事なんてやめてスレ更新だけしていたい。

ちなみに、ゾロ目ではブチギレプッツンで戦闘になっていました。
基本的に姉が死んで情緒不安定なのでキレやすいキャラ設定ですが、普段は武人の如くどっしりとした姉貴だって思ってる。

あけましておめでとうございます。
相変わらず、リアルは切迫してますが更新してないとやってられないので更新します。
アニメは誰が死ぬのか、死なないのか楽しみですね。








「それで、付き合いきれんって去っていった武蔵を追わなくていいの?」


緊迫した空気が幾分か緩んだ水面で、曙は溜息を吐きながら呟いた。

視線の先にいるのは沈痛な面持ちで眉を顰めている大鳳だ。

怒りを露わにして決裂を告げた武蔵と違い、彼女は何かを思う素振りを見せた。


「私は狂犬の飼い主ではないので。今回のケースは少なくとも、出会い頭で殺意を振りまく武蔵に非があります」

「私の連装砲ちゃんが怯えてたもん。困っちゃうよねっ」


憤怒の情を隠さず砲口を向けられた時間は僅かではあったが、とてもじゃないが生きた心地がしなかった。

至近距離では自慢の早さも殆ど意味を成さない上に、火力も戦艦の方が圧倒的に上だ。


「この件に関しては後に正式に謝罪をさせていただきます」

「そうして頂戴。一歩間違えたら戦闘だったわ……。
 武蔵とまともにぶつかって生き残れるって思える程、私達は強くないのよ」


肩をすくめて曙は刺のある口調で言葉を返すが、大鳳は口を閉ざす。

先に仕掛けようとしたのは大鳳側であり、曙達それに対応しただけなのだ。

このままありのままを報告されて困るのは大鳳である。

ならば、今の内に出来る限りの謝罪を取って、相手側の態度の軟化を願う他ない。

もっとも、これが曙達ならば口封じにこっそりと轟沈を狙うなどといった手を使うが、生憎と大鳳の提督はそのような下衆な行為をよしとしない。

そのような真っ直ぐな提督の下で鍛錬を重ねたからこそ、彼女達は歪んでいなかった。

      

「普段はあのような方ではないんですけどね。知っての通り、彼女の姉である大和が死んでから情緒不安定なんですよ」


そして、武蔵が抱く激情もあくまで姉が理不尽に殺されたからこそ生まれるモノだ。

形がどうであれ――彼女は正しき怒りを持ち合わせていた。

きっと、それは曙達が忘れたモノであり、どこかへと置いてきた不要な思いだった。


(下らない、本当に下らないわ)


もっとも、今更そのようなモノを取り戻そうとはさらさら思っていない。

あくまで自分達は“彼”の刃であり、所有物だ。

余計な感傷で“彼”を困らせるなどもってのほかである。

だから、大鳳の言ってることを自分の中に滞らせることはしない。


「まあ、いいわ。とりあえず、今は最上を探しましょう」

「もしかして、貴方達の任務は」

「そういうこと。こっちにもお鉢が回ってきたって訳」


大切なのは過程ではなく結果だ。

“彼”が命じるなら、同じ艦娘を屠ることも躊躇なく行ってみせよう。

もしも、最上が既に死んでいるならば。

敵の手に堕ち、此方へと牙を剥くならば。


(殺すだけよ。関係ない、私達には全ッ然ね)


容赦なく、切り落とす。

「それじゃ、探しましょうか。何処かの島で潜んでいるといいわね」


一先ず、状況は窮地を脱した。

この場にいる誰もがそう思い、後は最上を探すだけだと考えてしまった。

此処は海原。深海のバケモノと鎬を削り、常に危険を感じ取らなければ命を落とす戦場だ。

油断など、一瞬でもしてはならない地獄の釜で、彼女達はほんの少し――気を抜いた。


↓3 コンマ判定


00~20…最上発見
21~80…何も発見せず。(次コンマ判定に移る)
81~99…最上の死体。
ゾロ目…■■

「…………見つからないわね」

「そんな簡単に見つかったら私達に及びがかからないじゃん。バーカバーカ」

「うっさいわねっ、わかってるわよそれぐらい!」


ぶつくさと文句を言いながらも、最上捜索を行う彼女達の空気はさほど悪くはならなかった。

対立の原因である武蔵がいないからなのか、それとも空気を読んで軽口の勢いがいつもより大人しめだからなのか。

どちらにせよ、予期せぬ四人の艦隊に陰りは見られなかった。



↓3 コンマ判定


00~30…最上発見
31~60…何も発見せず。(次コンマ判定に移る)
61~89…最上の死体
90~99+ゾロ目…■■



「最上ッ!」

「…………たい、ほう」


枯れた声を何とか振り絞り手を伸ばした彼女の身体はボロボロの雑巾のようだった。

小さな島の海岸で蹲っていた彼女を発見できたの幸運に感謝である。


「大丈夫、とは言い難いですね。救援にきました、港へと帰還しますよ」

「ははっ、もう死ぬかもなぁって、思ってたけど、案外死なない、もんだ、ね」

「バカなこと言わないで下さい、いいから行きますよ。状況は一刻を争います。
 貴方の傷も早く処置をしなければなりません」


最上へと駆け寄った大鳳は彼女の身体を背負い、今直ぐにでも発艦しそうな勢いだ。

よほど心配していたのだろう、大鳳の頬には大粒の涙が零れ落ちている。

そんな感動的な場面ではあるが、曙はイマイチその気分に乗れないでいた。


(うーん、案外わかりやすいとこにいたわね。海岸なんて深海のバケモノが見つけやすい場所じゃない)


深海棲艦は知能のないバケモノではない。

言葉こそ交わせないが、彼女達にも戦略、陣形を整える程度の知能はある。

こんな目についた所にいる敵を安々と見逃し、放置しておく下策をするだろうか。


(せめて木の影にでも潜れるとかしなかった訳? これじゃあまるで――)






――釣餌じゃない。






その結論に気づいた瞬間、曙の行動は迅速だった。


「――――ッ! ヤバイ、ヤバイっての! ちょっと、アンタ達、急いで此処を離れるわよ!」

「は、はい……そのつもりですが」

「うっさい、こうやって言葉を交わしてる時間すら惜しいのよ! 早く此処から逃げないと」

「……もう遅いみたいだよぉ」

「幸運艦なのに、不幸です、ううっ」


だが、その判断は遅かった。

視界の先――海の向こうに見える黒の点々が蒼を塗り潰す。

禍々しいバケモノが水底から這い上がり、牙を尖らせている。

撒き散らされた罠、果ての見えぬ数。

それら全てをひっくるめて、“絶望”と呼べるものだろう。

手が震える、足に力が入らない、顔つきが自然と強張っていく。

思わず乾いた笑いが漏れ出てしまう程に、見事に嵌められたのだ。

そして、よりにもよって戦力である武蔵がいないこの瞬間に、襲撃を受けるのは相当に“運”を持っていない。


「……最悪」


今こそ、正面場の時。

切り捨てるか、切り捨てないか。

選択を強いられる瞬間が、喉元までせり上がっていた。

夜闇も深まって来たのでここまでにします。
正月はゆっくり出来て幸せですね、ずっとこんな時間が続けばいいのに。


選択肢分岐もとい展開分岐。


・最上死体発見

大量の深海の死体と武蔵(コンマで正気+死亡判定)遭遇。
任務にこそ失敗するも、五体満足で帰れる確率が高い。


・ゾロ目。

大量の深海+武蔵(正気喪失)+最上は敵に鹵獲。
誰か死にます。

艦これアニメ、朝潮ちゃん可愛くて吐血しました。
朝潮ちゃんと一緒に暮らしたいだけの人生でした。
更新します。

    

(普通ならここで置いていくのが道理よね)


溜息をつきながら、曙は顔を苦くする。

餌に釣られた間抜けを一気に殲滅しようと、深海の化け物達は、一斉に姿を現した。

戦意は高揚しており、牙から漏れ出した息は今にも自分達を食い散らそうと涎にまみれている。


(クソ提督は『判断は君達に任せる、責任は俺が受け持つ』って言うし)


この危機的状況で、曙達は真っ先に“彼”へと連絡を取った。

とてもではないが、自分達の判断だけでは乗り切れるとは思えなかったからだ。

しかし、“彼”は自分達を助ける言葉など与えてはくれなかった。


(ま、わかっていたけれど。そういう甘えを許さないとこは嫌いじゃないわ)


当然だ。実際に戦場にいない“彼”が幾ら策を練っても、それは机上の空論だ。

戦場にいる自分達が下す判断と幾らかの齟齬が生まれ、命を落とす可能性だってあるのだから。

加えて、曙ははなっから“彼”を頼ろうとしていた甘えがあった。

そんな緩みを持っていては、この先もやっていけないだろう。

      

「そんで、どうする訳ー? このままじゃジリ貧なんだけどー」

「優先すべきものを間違ったら、即轟沈ですねっ」


口では軽く言ってるが、現状は緊迫している。

装甲空母が同行しているとはいえ、此方は大破している艦娘を背負っている立場だ。

先程袂を分かった武蔵がいれば話は別だったが、いないものに期待していても仕方がなかった。

今ある手札で乗り切らなくては、未来はない。

背後を見ると、不安気な表情を浮かべた大鳳と息も絶え絶えの最上が視界に入る。

ここで見捨てていけば、彼女達は必ず死ぬ。

無様に死骸を晒すか、それとも敵の慰みモノになるか。

どちらにせよ、結末は見えている。

わかりきったことを考えた所で何も変わらないのは曙自身よく理解しているのだから。


(…………最初の任務で命じられた通り、此処で最上を処分する。
 そして、私達は強行突破して脱出。選択肢の一つに挙げられるくらい、冴えたやり方よね)


それならば、いっそのこと自分達の手で始末をつける。

余計な重りは此処に捨てていこう。そして、先へと進むのは自分達だけ。

実に合理的な判断だ。パーフェクトな正解とはならないが、限りなく近い。

元々の任務が雷撃処分だったのだ、特段に気にする必要性は見受けられない。

護りながら海路を強行突破するよりはよっぽど現実的だ。

        

(大鳳はそれを認めないでしょうけど。そうなったら、諸共殺してしまえばいいだけ)


雷撃処分する艦娘が一人増えたことぐらい、十分誤差の範囲内である。

そう、自分に“言い聞かせて”。

まだ、戻れるとでも思っていたのか。

やり直せるとでも期待していたのか。


(あいつらはもう固まっている)


雪風は進むことを決めている。

島風は戻ることを諦めている。

ならば、自分はどうだろうか。どちらにも振りきれない中途半端なまま、立ち止まり続けるのか。


(……こんなことで悩んでちゃ、あのクソ提督に笑われるかもしれないわね)


「私は――――」

↓2~4

1全員で窮地を乗り越える。

2大鳳達を始末して、自分達だけで戦う。

ゾロ目で……?

     

「――――ったく、私もヤキが回ったのかしら」


頭を掻きむしりながら曙は言葉を吐き捨てる。

何かを決意し、それに殉ずる覚悟を決めた顔だ。

雪風達もその顔を見て、溜息をつく。


「やっぱり、ねぇ。曙ちゃんは割り切れない娘だもんねぇ」


粘ついた笑みを浮かべながら島風は侮蔑的な視線を曙に向ける。


「悪い?」

「いいやぁ? 別にいいんじゃないの? 他人が悩んで選んだ結論に冷水を掛ける程、私野暮じゃないもーん」


島風からすると、どうでも良かったのだろう。

助けようが助けまいが、所詮は他人。

気に留める重みなど彼女達には抱いていない。


「もっとも、その選択で曙ちゃんが死んじゃっても仕方ないかなーって」

「……はっ、死ぬ訳ないっつーの」

「どうだか~。ま、私は死にそうになったら一人で逃げるけどね?」

「協調もへったくれもないわね」

「そりゃ、そうじゃん。一番大切なのは自分、二番目は連装砲ちゃん、三番目辺りに提督が来るかな?」

「雪風はしれぇが一番です!」

「いや、べつにそこで張りあわなくてもいいから……」


この三人に協調性といったものは存在しない。

必要だから手を貸す。自分が生き残るには、こいつらが不可欠だから。

ただそれだけのか細い理由で、手を取り合って前を向く。

      
   
「さてと、大鳳」


「……ええ、わかっています。前線は私が出ます」

「この中で一番頑強なのは知っての通りだし、壁役――任せたわよ」

「ええ、任されました」


最初は不安気に目を細めていた大鳳も、曙達の戦意に充てられて戦意を取り戻す。

こんな所で死んでたまるか。最上が大破した状況で頼りになるのは彼女達、そして自分だけなのだ。

ここで気張らなくていつ気張る。

本来持ち合わせていた強い責任感が、大鳳の瞳に意志を宿す。


「それじゃそこの死体寸前さんは私が運ぶよ~。ちゃんと護ってね~」


そして、声を上げることすら億劫になっているのか、弱り切った最上を島風が強引に背負い上げた。

一刻も早く此処から脱出して入渠させなければ、死んでしまう。

何かあれば、囮の弾除けとしてぶん投げてしまえばいい。

そんな打算も込めてではあったが、反論する者は誰もいなかった。

この中で一番島風が速さに自信があるのは周知の事実だ。

賛成こそすれど、反論する余裕なんて無い現状では、受け入れざるを得ない。

     

「それじゃあ、一時の艦隊編成だけど、背中……任せたわ」

「ええ」

「りょーかーい」

「……はい」


そして、曙達は深海の化け物が犇めく海原へと飛び込んでいく。

虚空揺らがす砲弾をスレスレの所で躱しつつ、砲撃。

この動作を動きながら行うのは並大抵の訓練では身につかない。

それだけの修羅場を潜り抜けた証だ。

殉職といった形で水底へと沈む艦娘が多い中、生き残る実力を備えているからこそ戦場に立ち続けられる。


「右斜め45度が空いたッ! 其処を突き進むわよ!」

「待って下さい! フェイクです、潜水艦がいます!」

「~~~~~! バッカじゃないの、多勢に無勢過ぎる! 大鳳ッ、一番敵が薄そうなとこ、索敵お願い!」

「言われなくてもッ!」


大鳳の指先から索敵機が数機飛び上がり、隠れた伏兵を見破り脱出の最短ルートを導き出す。

当然、その間も迫る敵艦船の砲撃を躱しながら、爆撃機で反撃といった並行作業を行っている。

         

「最新鋭の装甲空母の本当の戦い、見せてあげる!」


崩れ落ちていく敵艦船を尻目に大鳳は高揚している戦意を艦載機へと練り上げる。

高速召喚。磨き抜かれた経験と戦意が織りなす高等技術を大鳳は惜しげも無く使う。

死んでたまるか、絶対に最上達には砲弾を届かせない。あの歪みきった化け物達に、自分達は屈さない。

沸騰した意志が艦載機として顕現されていく。


「無念を以って、仇なす全てを貫けッ! 生まれ落ちろ、流星!!! 」


周りの空気を飲み込みながら姿を現した艦載機。

独特のフォルムが特徴の先進的な艦上攻撃機――流星が此処に顕現する。

操ってる大鳳自身、熱さで蕩けそうな程に、“彼らの無念”は残滓として強く刻まれていた。

放たれた流星は、その名の通り流れる星を想起させる速度だ。

流星は海面を縦横無尽に飛び回りながら、敵艦船へと迫る。

一撃。たったそれだけでも当たってしまえば、その肉は欠片も残さない。


「ったく、装甲空母なだけあって強いわね!」
「道を切り開きます! 殿は私が務めるので皆さんは先に!」

言葉を返すよりも前に、曙達は加速していた。

彼女が作ってくれた道を全速力で駆け抜ける。

無駄口をたたく余裕など無い。

今は一秒でも早く、この窮地を踏み越えるのが第一条件だ。

       

「よし、この調子で脱出――――――!」


刹那、爆炎の中から突き出された砲口を曙は見つけた。

砲口は島風達に向いている。大鳳の放った攻撃で仕留め切れなかった深海棲艦が最後の力を振り絞っている姿が見て取れた。

言葉を発する暇はなかった。今彼女達に叫んだ所で遅すぎる。

放たれる砲弾は、文字通りの一撃必殺だ。彼女の勘がそう告げている。

躱す間もなく、彼女達は直撃を受け、轟沈するだろう。

任務失敗。決死の活路が無駄になる。


……そんなの、認めてたまるか!


考えた瞬間、身体は勝手に動いていた。

ごきり、と掌を鳴らしながら、曙はその身を加速させ間合いに入った。

驚く島風の顔が目に映る。だが、今は気にしている余裕など無い。

穿たれるは頭部狙いの一直線。

それが繰り出される前に、曙は掌底を島風にぶち込ん射線から逸らす。

ここまでの動作で、限界だった。

発射された砲弾を避ける時間は残されていない。


(あぁ、私――死ぬんだ)


例え、どんな災難辛苦に巻き込まれようとも、倒れない。それが、“彼”の部下としての勤めだ。

しかし、そうはならなかった。

歯を食いしばり過ぎたのか、口の中にたまった血反吐を吐き捨てて、彼女は死の間際まで、拳を握る。

せめて、最後ぐらいは立派に散りたい。

結局、生き残ったもの勝ちだ。そんな理屈、曙は御免だと叫び散らしたいが、否定すらできない。

力が抜けた身体は弛み、膝が屈しかけている。

ああ、悲しい程に行き止まりだ。“彼”との約束も、絶対に死んでたまるかという決意も、水底へと沈んでいく。

自分の不甲斐なさに涙が出そうだ。満足な人生じゃなかった、クソッタレと叫べるものなら叫びたい。


「クソ提督」


けれど。“彼”は自分が死んだ程度じゃ止まらない。

いつか平和な海を取り戻すと誓ってくれたのだ。その誓いは“彼”が死なない限りは守られる。

そう考えると、まだ笑える。

不敵に笑って、立ち続けることも出来た。

もっとも、自分が平和な海を見れないことが悔しくないといえば嘘になるが、仕方がない。


「後、お願いね」


まあ、これも一つの結末と納得して、曙は目を閉じた。

最後に、はにかむように笑って、彼女は爆炎の中に――――沈む。


                          |   |
                          | 道 |
                          | を |
                          | | |
                          | | |
                          | | |
                          | | |
                          | | |
         何の肉塊も残さずに        | | |     沈んでいく。
                          | | |
                          | | |
                          | | |
                          | | |
                          | 退 |
                          | け |
                          | ! |






此処に、褐色の彼女が現れない限り。

だが、奇跡は起こり得るのだ。

今日はここまで。
安価範囲内に、コンマゾロ目が出たので武蔵さんが救援に来ました。
これで後は事後処理的な何かを持って、もがみん救出編は終了です。
ちなみに、ゾロ目がなければ武蔵はやってこない+普通に死亡回避安価だったり脱出安価で割とハードでした。



・見捨てる√

もがみんという足手纏いを潰したので死亡回避安価が緩くなる。

彼女達の死体を囮に使って逃げるが選択肢に入ってイージーモード。

後々、武蔵と拗れるが口八丁で何とかしましょう安価。




忙しいながらも、何とか暇を作って艦これアニメ見てますが、曙ちゃんまだですかねぇ……。

更新します。


「……図らずも、助かったわ」


勇猛果敢に敵を屠る武蔵に彼女達が出る幕はなかった。

敵は全滅、味方に被害はなし。

そんな見え透いた結果だけが残っていた。


「まさか、散々に啖呵を吐き捨てておいてUターンなんて、ね。
 カッコ悪いったらありゃしないわ、恥知らずなのねぇ、む・さ・し・さん」

「ハッ、そのカッコ悪い戦艦サマに助けられたお前はどうなんだ?」

「そりゃあカッコ悪いを通り越してクソッタレね」

「その割には堂々としてるがな」

「生憎と、プライドがないもんで」


皮肉げに笑う曙と仏頂面でそっぽを向く武蔵。


「…………最上を救ってくれた礼だ、気にしなくていい」

「それこそ筋違いよ。任務だから助けた。それ以上でもそれ以下でもない」


結局の所、彼女達の関係が修繕されたなどといった甘い妄想は存在しなかった。

任務であるが故に助けた。

そこから先に進もうとも下がろうとも考えちゃいないのだ。

「……ともかく、任務も終えたことだし、帰還しましょう。幾ら窮地を脱したとはいえ、このままここに留まるのは危険かと」

「さんせーい、私疲れちゃったから休みたい~」


不穏な空気を感じ取ったのか、大鳳が曙達のやり取りを遮り、島風達もそれに付随して無理矢理に会話を打ち切らせた。

関係修復よりも、今は最上だ。重傷を負った彼女をいつまでも放置している訳にもいかず、曙達も矛を収める。


「基地に着いたら、此度のことについて、改めてお礼をさせていただきますね」

「だから、そこまでしなくてもいいっての。さっきも言ったでしょう? 任務だから助けた。
 アンタ達が感謝すべきは任務を命じた上官様よ」

「それでもですよ。礼を失くしては後の禍根に繋がります」

「…………アンタもそこのデカブツと似て堅物ねぇ」


溜息を付きながら、曙は手近にいる誰かと言葉を交わし始めた。


↓2

1武蔵

2最上

3大鳳

4島風

5雪風

「つまらん意地を張る同士、仲良く親交を深めないか」

「…………」

「そんな苦虫を噛み潰して飲み込んだ顔をするな」


何故、この褐色巨乳筋肉バカと話すことにしてしまったのだろう。

他のメンツが気を使ってくれたからなのか、距離もちょうどいい具合にセッティングされている。

後で、雪風と島風は闇討ちしよう。曙は心中で彼女達にファックサインをぶつけながら、視線を武蔵に向けた。


「仲良く、ね。別に同じ部隊でもないんだし、必要以上に慣れ合うつもりはないわね」

「同感だ。しかし、これからはそうではないかもしれない。何か大規模な作戦で一緒になるかもしれんだろ?」

「どうだか。私程度の練度じゃあ、名声高き武蔵様と肩を並べるなんてできないわ」


曙は皮肉げに笑い、侮蔑の視線をぶつける。

下らない、と言いかけた口を閉じた。

自分達のような日陰者が、大規模な作戦に参加などまずありえないだろう。


「本当にそう思うか?」

「ええ。そもそも練度以前の問題ね。駆逐艦は肉壁みたいなものでしょう? 悪いけど、自分から死ににいく趣味はないの」


自分の力量では英雄にはなれない。

精々なれて、勇敢に死んだ肉壁その他大勢的なものだろう。

     

「無謀な夢は見ないことにしてるのよ、私は」


曙はそれ以上、口を開くことはなかった。

武蔵の在り方は眩しすぎる。誰もが羨む王道だ。

自分がその道に加わることができれば、どれだけ輝かしいか。

わかっているからこそ、曙は自らその道を否定する。

血塗れの両手は、許さない。

いつかは受けるだろう報いに裁かれるまでは、何も始まらない。

“彼”は言った。

お前の罪は総て、俺が背負う、と。

そんなこと、させてなるものか。

自分の罪は自分のものだ。その重みで“彼”を潰してはならない。


「……最上を助けたのにか」


聞こえない。


「島風達を庇って、その身が果てることを厭わなかったのにか」


何も、聞こえない。


「私はお前のこと、戦艦にも怯まず、仲間を護るいい戦友になれそうだと思っているんだがな」


それは、無理だ。

だって、曙は――彼女が怒り狂う原因となった姉を殺しているのだから。

いつかは終わる関係に、希望などない。

否、あってはならないのだ、そんな破綻した関係は。

     


↓  3 コ ン マ 判 定


00~50夕張
51~90青葉
91~99???
ゾロ目■■

「さてと、弁明を聞こうか」


とある部屋に、二人。

どちらの表情にも笑顔が張り付いている。

しかし、纏う空気には全く気の緩みが見受けられなかった。


「勝手な任務の変更。これを、どう論ずるか」

「ハッ、簡単さ。生かした方が役に立つ。これ以上に簡素な論理があるか?」


淀みなく返した声の男――“彼”は悪びれもせずに笑う。


「確かに、アンタ達に従わなかったのは問題だ。
 しかし、それ以上の利益を得れると判断し、独自で行動した俺の判断は間違っていないと思うがねぇ」

「本当にそう思うか?」

「ああ、何なら神に誓ってもいい」

「信じてもいない神に誓った所で何にもならんだろ」


呆れ気味に言葉を返した女――“彼女”はタバコを吹かしながら苦笑した。

「ともかく、死に損ないを助けてメリットがあるか?」

「恩が売れるだろ? 提督サマが泣いてお礼を言ってくれたぜ。ありがとう、ありがとうってな」

「はははっ、君はいつから真っ当な提督になったんだい。そんな言葉で心が動く純真さを持ち合わせていないだろうに」

「まァね。だが、後々役に立つだろ。恩を売ったんだぜ? もしも困った時があったとして、此方の頼みは快く聞いてくれそうだ。
 加えて、あいつらの心証もよくなったはずだ。これから隠密をするとしても、格段にしやすさが増すと考えるんだが」

「ふっ、ははっ、確かにその通りだ。うん、理には適っている」

からからと笑う“彼女”の顔からはいつのまにかに怒気が霧散していた。


……乗り切れたのか。


とりあえずは、納得させられるだけの理由だったのか。

いずれにせよ、このまま説得できたまま詰問が終わってよかった。

            








「だが、正しい道理が常に通るとは限らんよなァ????」




          




        
       
  

瞬間。“彼女”が頬を釣り上げ笑ったのと同時に、冷や汗が頬から垂れ落ちた。


「うんうん、お前の言い分はわかる。間違っていない、正しい、後々の事を考えるとそのほうがいいかもしれない」

「なら、文句は……!」

「あるさ。それじゃあ“面白くない”」


先程と変わらずケラケラと嗤う“彼女”に少し押されているのか、浮かべる表情に陰りが生まれた。


「お前は仲間と手を取り合って前に進む王道にいつから肩まで浸かったんだ? あァ、嘆かわしいよ。
 そういうモノはゴミ箱に捨てなきゃ、だろ?」

「おいおいトチ狂ったのかよ。上司なんだ、しっかりリターンの多い選択肢を支持して貰わなきゃ部下はついていけないぜ?」

「ああ、無論だ。だからこそ、はっきり言おう。お前が口走った論理は――面白みが成さすぎる。
 そんな安定確定の選択肢を選んだ所で上には辿りつけないぞ」


タバコを指でくるくると回して、“彼女”は言葉を紡ぐ。

様になっているのが腹立たしい。ちょっとの威圧でこうも雰囲気を変えられるとは思っていなかった“彼”は渋くなった表情を無理矢理取り繕う。


「殺してしまえばよかったのだよ。そうしたら、そいつの艦隊はボロボロで勝手に自壊していく。
 私達は上に登り詰める為に戦っているんだ。むしろ、敵は中にいると考えろ」

「とはいえ、何にでも噛み付くのはどうかと思うんですが」

「噛み付いたら勝手に死んでくれるんだ、その方が都合がいい。精強な艦隊サマ達には内側から食い潰して、弱った所を深海棲艦が殺してくれる」


どうあっても、変えられない。こうなってしまっては幾ら正しい主張をしようが、何も覆ることはない。


「ま、いいさ。次から注意してくれれば。普通なら任務を勝手に変更したとなると処分を下さなくてはならんからな」

「それはどうも」

ただ口頭で注意さどマシな最悪だ。

罪には罰を。下手すると“陸”に飛んで情報を探れと言われるかもしれなかったのだから。


「だが、それじゃあ気が緩むだろうからな。私がお前の為にプレゼントを用意したぞ」


そう、思っていた。


「ああ、遠慮することはない。インテリアにするか、サッカーボールの代わりにしたり、用途は多種多彩だぞ」


渡された箱が血で濡れてた所で、大体の察しはついていた。


「もしも、命令に背くことがあれば――――次は、お前の艦娘がこうなるかもなァ」


開けない、という選択肢など存在しなかった。開けなくてはならない。

“彼女”の前で、表情を変えずに。冷静に、心を氷にして。


「だから、頼むぞ。私に引き金を引かせるな。命令に異を唱えたければ、私を納得させてからだ」


箱を開ける。其処には、異臭を放ち、赤に染まったボールのような『何か』が入っていた。

綺麗だった緑色の髪はくすみ、目玉はぐちゅぐちゅに潰れてペースト状になっている。

耳は削ぎ落とされたのかもはや跡形も無い。ピンク色の肉跡が痛々しさをそそる。

鼻など、何度も鈍器で叩かれたのかへしゃげてまっ平らだ。

ここまでするのか、と。“彼”は戦慄する。

所詮はちょっと言葉を交わし、軟派な振る舞いでからかっただけの艦娘だ。

命令違反の代償は、小さい。むしろ、これでよかったのだ。

だが、そう言い切れないのはどこか心の奥底に残った人間らしさなのか。

顔には決して出さず、笑顔を貼り付けて“彼”は一瞬だけ――彼女のこれるだけならば、想定していた最悪よりはよっぽとを想った。

それが、今の“彼”にできる精一杯の手向けだった。

ただ口頭で注意されるだけならば、想定していた最悪よりはよっぽどマシだ。

罪には罰を。下手すると“陸”に飛んで情報を探れと言われるかもしれなかったのだから。


「だが、それじゃあ気が緩むだろうからな。私がお前の為にプレゼントを用意したぞ」


そう、思っていた。


「ああ、遠慮することはない。インテリアにするか、サッカーボールの代わりにしたり、用途は多種多彩だぞ」


渡された箱が血で濡れてた所で、大体の察しはついていた。


「もしも、命令に背くことがあれば――――次は、お前の艦娘がこうなるかもなァ」


開けない、という選択肢など存在しなかった。開けなくてはならない。

“彼女”の前で、表情を変えずに。冷静に、心を氷にして。


「だから、頼むぞ。私に引き金を引かせるな。命令に異を唱えたければ、私を納得させてからだ」


箱を開ける。其処には、異臭を放ち、赤に染まったボールのような『何か』が入っていた。

綺麗だった緑色の髪はくすみ、目玉はぐちゅぐちゅに潰れてペースト状になっている。

耳は削ぎ落とされたのかもはや跡形も無い。ピンク色の肉跡が痛々しさをそそる。

鼻など、何度も鈍器で叩かれたのかへしゃげてまっ平らだ。

ここまでするのか、と。“彼”は戦慄する。

所詮はちょっと言葉を交わし、軟派な振る舞いでからかっただけの艦娘だ。

命令違反の代償は、小さい。むしろ、これでよかったのだ。

だが、そう言い切れないのはどこか心の奥底に残った人間らしさなのか。

顔には決して出さず、笑顔を貼り付けて“彼”は一瞬だけ――彼女のことを想った。

それが、今の“彼”にできる精一杯の手向けだった。

           








もはや原形が残っていない夕張の生首は、何も語らないし何も許さない。









二時になるので今日はここまでとします。
>>310 のフラグ回収です。この選択肢で三番を選んでいたら夕張は死なずにすみました。
残念ですが、これもまた運命ですね。

では、次話の登場艦娘安価をしたいのですが、よろしいでしょうか。

では、安価を取りたいと思います。頑張って、どうぞ。



↓3(味方)

↓4(味方)

↓5(???)


うーん、この駆逐を揃えた部隊。
間違いなく、奇襲と速さとロリで敵を殺してる。

安価結果は

↓3(味方) 天津風

↓4(味方) 秋月

↓5(???)朝潮

に決定しました。

今までの展開はマイルドでしたが、そろそろ辛さを増やしてもいいかもしれませんね。
ではまた、次の安価もふるってご参加下さい。

それと、???は敵とは限りません。

最近、怖い艦これ安価スレが増えてますが、当スレは明るく楽しいがモットーです。
皆でハッピーなほのぼのふんわりスレなのでご了承下さい。
更新します。


世界はきっと、どうしようもなく終わっているのだろう。

夢を見ては打ち砕かれ、明日に希望を望めば、絶望がやってくる。

けれど、けれど。

人々は未だに縋っている。

どうか、助けて下さい、と。


「……何度も言うが、慈善事業じゃないんだぞ、提督ってモンは」

「後生です、後生ですから!」


眼前でへたり込んでいる少女もそれらと同じく、懇願している。

震える手を伸ばし、“彼”へと問いかけた。


「牛缶買って下さい!!」

「買わねぇよ! というか、牛缶落とした程度でこの世の終わりみたいな顔をしてんじゃねぇよ!!」


両目をうるうるとさせながら、少女――秋月は地面に転がっている牛缶を前に蹲っていた。

何故こうなったのか。一言で掻い摘めば、牛缶を食べようと浮かれて手が滑ってひっくり返した。

ただそれだけのことだ。


「……久しぶりに帰ってきたのに、本当に騒がしいわね」


呆れ眼でこちらを見つけるもう一人の少女――天津風もゲンナリとした表情でこちらを見ている。

彼女達二人は、つい先日まで別の任務をこなしていたがこの度任務を終わらせて漸く艦隊に合流出来たのだ。

両者共に、駆逐艦の中でも性能は抜群であり、“彼”としても心強いが――。



↓3

1こんなことがあろうかと牛缶のスペアを用意していた!
2天津風にパシらせる。
3我関せずの曙のせいにする。
4雪風ならなんとかしてくれる。
5島風が上手く誤魔化してくれる。

      

「まあそんなことがあろうかと――」


溜息をつきながら、“彼”は備え付けの冷蔵庫から銀色に煌めく缶詰を取り出した。

ラベルにはでかでかと牛缶と書かれてある。

秋月が持ってきたのとは違うが、これもまた立派な牛缶だ。


「司令……ッ!」


うるうるとした眼でこちらに駆け寄ってくる秋月を見て、ニッコリと笑う。

よほど嬉しいのか、その目からは小さな水滴が垂れ落ちている。

そこまで嬉しいのか、とドン引きするが、まあ食に対しては旺盛な秋月だから仕方がない。


「欲しいか?」

「はい!」

「どうしても?」

「はい!!!」

「でーもー、これは俺の物なんだよなぁ」


“彼”はぺりぺりと缶詰の蓋を開けて、割り箸を懐から取り出した。

そして、パキリ、と音を立てて割れた2つの棒を手に持ち、牛缶へと突き刺していく。

それを見て、表情を一転して曇らせる秋月。ムンクの叫びのような直視できない顔つきで、口をわなわなと震わせている。

天津風は呆れた視線を向け、曙は転がっている牛缶の残骸を片付け、雪風はふんふんかふーんと牛缶の臭いを嗅ぎ、島風は連装砲ちゃんと遊んでいる。

誰一人として、秋月をフォローしようとする艦娘はいなかった。

       

「用意しているとはいってもなぁ、あげるとは一言も言ってないぞ」

「し、し、司令……! 何故、そのようなご無体なことをするのですか!
 私と司令の信頼関係はその程度のものだったんですか!!!」

「いや、だってなぁ……元々、お前が牛缶を落とすのが悪いんだし」

「酷いです……! そんなことをする人だとは割と思っていましたが!」

「…………酷い言われようね、あなた」


何故かは知らないが、天津風にまで非難の視線が向けられている。

おかしい、こんなことは許されない。

眉を顰め、“彼”は突き刺した割り箸を動かそうにも彼女達の視線が手の動きを緩慢にさせる。

たかが牛缶、されど牛缶。食べ物の恨みは恐ろしいと言わんばかりに、彼女達はじっと見つめている。

ここで食べてしまうのは容易い。だが、失った信頼は二度と取り戻せない。

しかし、“彼”とてこの牛缶を楽しみにしていたのだ。

簡単に上げると言っても、中々に納得がいかない。


↓3


1秋月にあげる。

2二人で分け合う。

3自由安価


      

「はぁ……」


“彼”は溜息を吐きながら、懐からもう一本割り箸を取り出した。


「仕方ない、一緒に食べようか」

「さすがは司令! 信じていました!!!」

「安い信用だなぁ、おい」


秋月の双眸に光が舞い戻る。爛々と輝く瞳と釣り上がった口が、彼女の機嫌が最高潮だと告げている。

いわゆるキラ付けというものだ。

艦娘のテンションで幾らでも変わるこのキラキラは付いていると戦闘その他諸々に影響が出る。

それは事務仕事だったり、艦隊決戦であったり。

様々な方面で役に立つキラキラがこんな簡単な事で付くのは秋月が単純な性格だからなのか。


「……ふんっ」

「ずるーい、ずるーい! 私と連装砲ちゃんも食べたいー!」


一方で気に入らないと全身で表している艦娘もいるのだが。

もっとも、これも見慣れた光景であり、特段に気にするものではない。

彼女達も分別のある娘達だ。不平不満を述べたからといって事態が変わるなんて事を考えてはいないだろう。


「はぐはぐっ、司令と二人で缶詰を突きあって食べるのもいいですね!!」


ともかく、今は牛缶一つで秋月の機嫌がよくなりキラキラが付いたことを良しとすべきだ。

      

「ねぇ、あなた」
    

そして、満足感のまま牛缶をつつき終え、一服をしている時。

それまで、全く天津風がつかつかとにじり寄ってきた。

ムスッとした表情を隠さず、口もへの字に曲がっている。

何か彼女を怒らせるようなことをしただろうか。

“彼”は先程の秋月とのやり取りを思い浮かべるが、特には天津風の気に障ることはしていないはずだ。


「ふと思ったのだけれど、私がいない間――食事はどうしたの?
 缶詰が常備されているってことは、まさか出来合いのものを食べていたんじゃなくて?」


“彼”はずいっと身体を寄せてきた彼女の視線に耐え切れず、そっと目をそらす。


「何故そんなことを聞く? 何を食おうと俺の勝手だが?」

「んもう! そういうことだから駄目なのよ! いい、あなたは私の提督なの。
 健康管理も仕事の内! いつも料理を作ってあげてる私がいないからってぐーたらしていたんでしょう!?」

「ちゃんと食堂に行ってたし、ほんとほんと」

「へぇ~、私達みたいな爪弾き者の提督さんがわざわざ行くのかしら? 他の輝かしい提督勢揃いの食堂に」


ピキピキとこめかみに青筋を立ててがなりたてる天津風に対して、“彼”は何も言い返せなかった。

確かに、彼女が言ってることは事実である。

後ろめたい部隊である自負も多少はあるが、あそこはキラキラとした提督ばかりで“彼”としては居心地が悪い。

誰もが艦娘のことを想い、一人の女の子として扱っている提督達。

そんな中に、艦娘など兵器に過ぎないと感じている“彼”が言っても気分がすぐれないだけだ。

お偉い方との会食であったり、どうしても外せない集まりがあるならばまだしも、自由に食事を取ることが推奨されている現状、わざわざ食堂に行く必要性は見受けられない。

故に、彼はお湯ポットや缶詰を執務室に置き、カップラーメンや缶詰で食事を済ませる事が多い。

……天津風がいなければの話だが。

    

「さあ、どうなの?」

ここは正直に答えるべきか。それとも、曖昧に笑って誤魔化すか。

ともかく、何らかの返答をしなければ天津風はひきさがってくれないだろう。


↓3

1正直に打ち明ける。
2曖昧に笑って誤魔化す。
3自由安価(例、外部の食事処に行ってる)
4天津風達がいない間、実は曙達が作っていた。

入浴もとい入渠してくるのでいったん中断します。
一見、普通のラブコメ安価連発に見えますが、内面でフラグが生まれているのでご了承下さい。

ちょっとだけ再開します。

      

「……カップ麺と缶詰で過ごしてた」

「ほら、やっぱり。私がいないと駄目なんだから」

「返す言葉もない」


結局、“彼”は正直に打ち明けることにした。

このまま曖昧にごまかすことも考えたが、後先を考えると最初から打ち明けていた方が天津風の態度も軟化するだろう。

そんな打算的意味合いもあったが、当の天津風は正直に吐いたことに対して、一抹の不安が払拭されたようだ。


「いつだってあなたは勝手なのよね。大体の理由は察してあげるけど、それならそれで幾らでも対策は立てられたはずよ」


腰に手を当ててぐちぐちと小言を呟く天津風は、まるで世話焼きの女房である。

もっとも、ケッコンカッコカリもしてないのだが、そのことを指摘しても火に油を注ぐだけなので口は閉ざしておく。

加えて、他の艦娘達も見ている前でそんなうかつな事を口走ると、袋叩きにされる。


「…………バーカ」


こそっと罵倒をしてくる曙のように、表面上こそ嫌っている風を装っている娘であっても、内面は恋愛感情でぐにゃぐにゃなのかもしれない。

普通の女の子とは不思議と空想で出来ている。

兵器として運用されている彼女達も、見てくれと中身に灯った感情は女の子そのものだ。


「なぁ、天津風」

「なによ、反論なら聞かないわよ。今度という今度こそ私が付きっきりで矯正してやるんだから」

「それだけは勘弁してくれ。色々と視線が痛いし、曙達が怖い」

「ちょっと、怖いってどういうことよ!」

「……そういうことだよ」


このように、一端の女の子らしく嫉妬のような感情まで向けてくるのだ、何が地雷かわかったものではない。

       

「ともかく! 私が戻ってきたからにはあなたの食生活もといその他諸々はしゃきっとさせるから」

「秋月もお手伝いします!」

「いや、ノーセンキューだから。曙はその辺融通が効いたのになぁ」


ちらりと、曙を見て助けを求めるも相も変わらず、そっぽを向かれてしまう。

助ける気はさらさらないようだ、嘆かわしい。

顔を真っ赤に染めて、ぶるぶると震えるのは頼られ慣れてないからだろうか。

どちらにせよ、曙は使いものにならない。

雪風達も家事関連に関しては疎いので、言い訳に使えなかった。

彼女達に任せるぐらいなら、自分でやった方がマシである。


「さぁ! 早速今日から始めるわよ!」

「えいえい、おーですね!」


くるくると頭を回しても、現状を脱却する冴えたやり方など思いつくはずもなく。


「もうどうにでもしてくれ」


“彼”は投げやり気味に言葉を投げつける他なかった。

今日はここまでにします。

そういえば、みなさん大好きな夕張メロンさんですが、死んだはいいけれど、肝心の拷問シーンを書かないのはいかんでしょって思われているでしょう。
なので書きますが、一人だけは寂しいと思うので誰か付け加えます。


登場艦娘安価↓3


登場艦娘……龍田。

まあ、ここで出た方が後々苦しまなくて済む可能性もあります。
続いて、拷問する側か、される側コンマです。

↓3
奇数ならされて、偶数ならする側。

アレ?
無効にされたのか俺の安価は?

>>498
普通に見間違えてました、本当ごめんなさい、許して下さい何でもしますから!

登場艦娘……青葉

拷問する側といった形で進みます。

今回の本編に関わる安価でもあるので取らせていただきました。

本当の本当に今日はここまで。
できれば、次は早く更新したいですね。

年度末辛い、辛い。
早く更新(大嘘)。
スレオチ防止の書き込みなんで、明日更新します。

提督業に就いて朝潮ちゃんに養われたい。
更新します

      
眺めた空が、堕ちてくる。

自分の中にある原初の風景は、モノクロで色褪せていた。

色一つない世界。空の蒼も大地の茶色も大切な人の笑顔も無い現は彼女にとって何の価値もなかった。

所詮は造られた存在だ。

無意味に無価値に粗雑乱造された見てくれだけの兵器。

何かを求める方がおかしいのかもしれない。

ならば、最初から諦めておいた方が気が楽だ。

この世は総じて、お姫様を閉じ込める鳥籠であり、自分はそのお姫様。

きっと、彼女は永遠に其処から出られないのだろう。

夢を見ること無く、何かに希望を持つこと無く。

手を伸ばそうが、目を凝らそうが、何も変わらない。

彼女は茫洋とした意識を正常に戻し、来たるべく死に身体を傾ける。

流れ出す無機質な声。着任を命じられた誰かの声。

この世界にいる艦娘の中も特段に目立ちもしない彼女にとって――どうでもいいことだった。

使い捨てにされるだけであって、すぐにでも戦場に送り込まれる。

死んでしまえば、無価値だ。ただの屍肉の塊、何を想おうとも答えは返ってこない。

      

「艦娘は掃いて捨てる程存在する換えの聞く兵器。其処に何を見い出せというのでしょうか。
 夢も希望もありやしない、戦場の誉れを得ることすら難しいというのに」


ふと見上げると、眺めた空の雲が晴れていた。

快晴だ。雲一つない青空が真上に広がっている。

手を伸ばした先に広がる青は、際限なくどこまでも続いていた。

それは通常ならば綺麗と評せるものだし、素晴らしい景色と賞賛されるだろう。

その空に焦がれて飛び交う飛行機のように、彼女も自由になれたならば少しは違った風に見えたのかもしれない。

他の青と比べように無いくらい輝いているその空に、目を輝かせたのかもしれない。


「今更、生を受けて――何がしたいのでしょうか」


天高く登った太陽が燦々とした日光を振り下ろしている。

まるで、馬鹿にされているかのようだ。

煩わしさもあったのか、彼女は強い日光に思わず瞼を閉じ、顔を顰めてしまう。

輝く太陽は眩しく、自分のような根暗で惨めな兵器にはとてもじゃないが迷惑そのものでしか無い。

ほんのりと浮かぶ汗は、人間が生じるものと同じだ。

そう、同じなのだ。兵器として生まれ変わっても、変わらないものもある。

そして、変わらざるを得なかったものがある。



「…………戯言ですね」


くすんだ輝きを放つ艦娘としての自分が、此処に一つ。

粉々に砕け散った【朝潮になる前の自分】が、此処に一つ。

世界は海色であり、泡沫の如く脆く、儚い。

人間として生きるよりも、兵器として生きることを選んだ自分が、今更何を願えばいい。

空っぽでがらんどうの中身は、何も詰まっていなかった。

人として生きる必要な喜怒哀楽が、徹底的に欠けている。

笑ってみる、怒ってみる、泣いてみる。声を上げ、口を釣り上げ、眉毛を顰め、人間がやるように。

なんて滑稽なのだろうか。

兵器が人間の真似事など――――正気の沙汰ではない。

一瞬でも、人間を気取ろうとしていた自分の可笑しさが、バカらしくなってくる。


「戯言、全部はその二言で片付きます。そう、思いませんか?」


困ったように笑いかけた先には物言わぬ躯と成り果てた肉塊が目を見開いたまま倒れている。

どくどくと流れ出した血は、地面を赤く染め、大きな沼を作っている。

汚らわしい赤が蒼を侵食していく。

     

「……答えなど返ってくるはずもないのに」


投げやりにぶつけた言葉を最後に、朝潮はゆっくりと天高く手を伸ばした。

気だるげに、諦観に満ちた青空に絶望して――海色をその双眸に映す。

握り締められたもう片方の手をひらひらと動かし、屈託なく嗤った。


「そう、ですよね……死人は言葉を振らない」


壊れて砕け散った輝きが再び蘇ることは、ない。

それは艦娘とい兵器を痛いぐらいに知っている朝潮だからこそ、感じたことだった。

瞳の奥には諦観が渦巻き、消えてしまった想いがこびりついている。


「誰も救われないのがこの世界な、夢を見ることすら叶わぬ世界ならば」


終わらせた迷いの続きが、彼女を兵器と繋ぎ止めている。

生とは選択であり、後悔だ。いつだって選んで、捨てて、後悔をして、折り合いをつけて前に進むのが人生だ。

こうしておけばよかった、ああしたら失敗しなかったなんて捨て台詞を口癖に、頭の中に灰色の靄をかけてしまう。


「何もかも、完膚無きまでに壊して、壊して、最後に――」


汚れてしまった右手が、日光を浴びて付着していた赤を明るく照らす。

青い空へと、夢が終わる最果てへと。

    

――みんな、なくなってしまえばいいのに。


その言葉は、ほんの少しの“歓喜”を乗せて、耳に溶けていった。

何故だろうか。一瞬だけ、微かにこんなはずじゃなかった未来が見えた気がした。

愛され、認められ、求められる幸せな夢。


「うまれてきて、ごめんなさい。うまれてきて、ごめんなさい」


けれど、それはただの夢だ。

夢を見るには、朝潮は聡明で現実を見過ぎていた。


「みとめて、っておもって、ごめんなさい」


もう戻れない昨日を、朝潮は懐かしみ――。

    













「あなたの生活は今日から改善よ!」


その言葉通り、天津風は“彼”のお世話に勤しんでいた。

それはもう、今までの堕落した私生活を全部改善すると言わんばかりにヤル気に満ち溢れていた。

曙達のドン引きな表情などオール無視、甲斐甲斐しく“彼”が立派な提督に見えるように家事雑務執務の全てを掌握し、的確に裁き続けている。

そして、現在。陽の光が落ち、彼女は買い物に出ている。

無論、横には荷物係として駆りだされた“彼”も一緒だ。


「……なぁ」

「なに」

「晩御飯なんてカップ麺で良くない?」

「はったおすわよ、あなた」


“彼”からすると、食事など栄養が取れれば十分であり、手軽にできるカップ麺はそれこそ神の如き存在である。

手作りなんてしゃらくせぇ、時間の無駄だぁ!と豪語するぐらい、食生活は固まっているのだ。

    

「やっぱり曙達は駄目ね、あなたを放置しすぎ」

「過干渉じゃないからな。そもそも、あいつらもジャンクフード大好きだし」

「頭が痛くなるわね……」


苦い表情を浮かべた彼女は、ぶつぶつと後でシメるだの物騒な言葉を呟いているが聞かなかったことにした。

今の天津風に反論などしたら、ローキックでもされかねない。

怒った天津風はコワイ。何処ぞの正妻艦娘など目じゃないくらいに、恐ろしいのだ。

だから、今の“彼”が言うべきことは――。




↓3

1「ありがとう、天津風」

2「お前の手料理よりカップ麺の方が美味しいし」

3「自由安価」

      

「ありがとう、天津飯」

「………………」

ちょっとした小粋なジョークのつもりだった。

なのに、彼女の顔は般若を想起させる禍々しさを醸しだしている。

正直、見ていられないレベルだ。

    
「ありがとう、天津飯」


ますます、表情が歪んだ。

ぷるぷると震えた彼女の顔はオレンジ色を通り越してとっくにレッドラインだ。

今更、ちょっとしたからかいの範疇とは言い出せない。


「………………怒ったわ」

「それを自分の口で言うのか」

「うっさいわね! あなたねぇ、人の名前でからかうのはやめなさいって言ってるでしょ!」

「でも、天津飯だぞ? 気功砲撃てちゃうぞ?」


そう、天津飯はどどん波に気功砲といった多種多様な技を使える戦士だ。

更には、ヤムチャとフュージョンしてヤム飯にもなれる。

強さのインフレにこそ置いていかれたが、昔は孫悟空と互角に戦えた強敵だった。


「撃ちたくないわよ! もうっ、あなたはいつもそうやって馬鹿にして!」


ぷんすこと怒る彼女の目尻には涙が溜まっていた。

口喧嘩には弱いのか、天津風は打たれ弱い。

    

「知らないっ!」

「おい待てって、前を見ずに歩くと――」


言葉の末尾を言い終える前に、天津風は可愛らしい悲鳴を上げて尻餅をついていた。


「――人とぶつかるぞ」

「遅いわよ、馬鹿っ!」


どうやら、忠告は遅かったようだ。

天津風は溜息をつきながら起き上がり、ぶつかった小柄な少女に手を伸ばす。


「大丈夫、怪我はない……って朝潮じゃない」

「どうもご無沙汰しています」


眼前にいる小柄な少女はどうやら、同じ艦娘である朝潮だったらしい。

加えて、互いに知った仲なのか、天津風も表情を緩くしている。


「こんな所でどうしたのよ。提督のお使い?」

「ええ、そんな所です」


無表情に言葉を紡ぐ朝潮の手には大きな手提げ袋が掛けられている。

可愛らしいクマのプリントがされたものだ。


↓3コンマ

偶数なら中身が飛び出ている。奇数なら飛び出ていない。

「そう、怪我がなくてよかったわ」

「おい、天津は……天津風。知り合いか」

「ええ、それなりに話す仲ね」

「これは、とんだご無礼を。挨拶がまだでした、どうか御許しを」


漸く、こちらに気づいたのか朝潮はキリッとした顔で敬礼をする。

朝潮型駆逐艦の中でも特段に礼儀正しい彼女だ、提督を差し置いて天津風と話していたことを申し訳なく思っているのだろう。


「別に気にしなくていいよ。それよりも、お使いなんだろう。早く行きなよ」

「ありがとうございます。では、朝潮はこれにて失礼します」


最後に深々と頭を下げて、朝潮は小走りで夕闇の向こうへと走っていった。

生真面目さがウリなだけあって、彼女は提督の命令に忠実だ。

ちょっとしたことでも、律儀にこなそうとする分、型物と思われがちだが、あれはあれで提督としては助かるのである。


「相変わらず堅いわね」

「あの堅さがいいんだろ」


“彼”の艦隊にいる艦娘達は任務にこそ真面目ではあるが、それ以外では割とフランクだ。

天津風でさえ、自分に対してはズケズケと物事を口に出す。

    

「名前を間違えても怒らなさそうだし」

「…………」

「ごめんなさい、その鋭い目つきはやめて」


どうやら、天津飯呼ばわりは相当に許せなかったようだ。

再び彼女の顔が赤く染まっていく。


「ホント、どうしてこんな人の下にいるのやら」

「……それしか道がなかったからだろう」


結局、彼女もまた爪弾きにされた艦娘だ。

そもそもこんな汚れ仕事をやる艦隊にまともな艦娘がいるはずもなく。


「ま、だからといって不遇にするつもりはないけれど」

「そうね。今更後悔した所で始まらないし。もっとも、私は雪風や島風みたいに狂ってないけど」


雪風は“彼”に盲目的なまでに従い、島風は“彼”に何もかもを預けきっている。

どうしようもなく、狂った彼女達はもはや“彼”なしでは生きていけないだろう。


「――――あぁ」


自分はまだまとも。

それが、どれだけの信憑性の薄さなのかわからずに。

ただ、“彼”は曖昧に笑った。


もしも、あの時袋に入っていたものに気づいていたら結末は変わったのかもしれない。

天津風と朝潮と“彼”。

誰も彼も救えてハッピーエンドが待っていたかもしれない。



――――数日後。

分割されて丁寧に積み上げられている、もう動かない朝潮が発見された。

目を見開いて、怯えるような諦めているような悲しい表情のままで時が止まっていた。

あの時見たことがある表情だった。




デレマスのアニメを見るのでここまでにします。
ちなみに、コンマが偶数なら死亡確定になりませんでした。
サブなので一発で死にます。

更新します。

    
「それで、世話焼きな天津風は何を作るんだ?」

「焼き魚とほうれん草のお浸し、大根の味噌汁」

「純和食だな。さすが健康志向」


鎮守府に務める提督は各自、夜通し執務を行えるように執務室を多種多様に改造している。

温泉だったり、砂浜の床だったり、ベッドを置いたり、バーカウンターを置いたり。

いわば、艦娘と提督が過ごす憩いの場といった一面も存在する。


「……なぁ」

「なぁに? 嫌いなものがあってもちゃんと食べなきゃダメよ」


ある程度、資産があれば自由に内装をデザインできるのは提督の男心をくすぐる。

その例えに漏れず、“彼”も心が踊り色々と面白ギミック満載な執務室に改造しようとしたが、曙達に止められてしまった。

遊び心がわからない艦娘達であると文句を言っても、彼女達のドス黒い眼光にはさすがに後退り。

結局、簡素な部屋のまま、ある程度の寛ぎが可能となるソファーとテーブルを置くだけだった。

とは言っても、“彼”が居住している場所は別にある。

執務室をどこぞのラブホテルと勘違いしている提督もいるが、“彼”からするとどうだっていい。

自分の欲求が満たせないなら長居する必要もないと言わんばかりに、“彼”は外部に居住地を設けている。

執務室とは別に所有するプライベートな空間。それは、心を落ち着かせ、安らぎを与えるものであり。

    

「嫌いなものはない。ただ、食事なんてカップ麺で」

「張っ倒すわよ」

「艦装を付けてないお前に負けるとは思わないけどな」

「持ってるフライパンぶん投げるけど」

「やめろ。それ、高級フライパンなんだ」


断じて、このように艦娘と話す空間ではないはずだ。

のんべんだらり。正直言って、この空間は甘ったるいにも程がある。

“彼”は朝潮との邂逅の後、自宅へと戻ってきたが、その後ろを当然のように天津風はついてくる。

まるで、通い妻のように。恋する乙女のように。

彼女は『誰かに尽くす事こそが至上の幸せ』だと言わんばかりに。


↓3


1「というか、帰れ」

2「愛してる天津風。嘘だけど」

3「今日のご飯は天津飯がいいでござる」

  
「愛してる天津風。嘘だけど」

「知ってるわ。あなたの目が私を向いてないことくらい」


くるりと振り向いた彼女の黄金瞳は、爛々と輝いている。

透き通るような煌めきが灯った彼女の瞳は綺麗だ。

思わず見惚れてしまう、なんてジョークを何度口にしたか。


「でも、いいの! 私はあなたに尽くせるだけで、幸せなんだし」


気持ち悪い。言葉にこそ出さないが、“彼”は思った。

信頼、献身、愛。それらを無償で投げつけてくることの何と悍ましいことか。

対価もなしに、彼女は尽くしてくれる。

用意するのは地獄のような戦場と仲間殺しの称号だけなのに。

彼女は、嗤うのだ! 楽しく、妖精と舞い踊るかのように。


    
「…………わざわざ外泊許可までもらって。後で曙達が煩いぞ」

「別にいいじゃない。言わせておけば。それに、あの子達は料理できないでしょ」

「そういう問題か?」

「そういう問題よ」


小気味いいリズムを奏でる音をバックミュージックに、“彼”は料理を続ける天津風の恍惚とした表情を覚めた目で見つめ続けた。

本当に、彼女は自分に尽くしてくれている。

その姿はまるで人間であるかのように。

戯言だ。兵器はどこまでいっても兵器であって、人間とは違う。

“彼”と天津風は同じ空間にいるが、その実――決定的にズレているものがある。

認識も、情も、戦う理由も、何もかもが噛み合っているようで噛み合っていない。


――どんなに彼女が恋い焦がれても、成就することはない。


“彼”も天津風も、利用し利用されるだけの関係に過ぎないのだから。

誰でも良かった。使える艦娘なら、尽くせる人であるなら。

それ以上でもそれ以下でもない乾いた関係だ。

きっと、そうであってほしいと願う。

全てが偶然で出来上がったものに重みなんてないのだから。

己のエゴを貫く過程で犠牲は必ず生まれる。

深海の化け物達を殺し尽くすのに、どれだけの資材がいる?

深海の化け物達のいない世界を創る為に、どれだけの艦娘達が死ぬ?

太陽が沈み、空の色が橙色から黒へと変わる中、“彼”は呆けていた頭を無理矢理に動かして考える。

この戦争に設けられた期限はない。

タイムリミットは自分が死ぬまで、勝利条件は殲滅以外定められてない。

無造作に投げ捨てられていた雑誌には深海との協調を謳う文字が踊っている。

精巧に作られている言葉も、戦場では何の意味もないというのに。

     
「大丈夫よ、あなたの敵は私がみぃ~んな、殺すからっ♪」


そう、敵は殺さなくてはならない。

無意味に無価値に、死ねばいい。その屍の世界こそが、この世の楽園なのだから。


「その言葉通り、お前は殺してくれるのか?」

「勿論っ」

「深海の畜生共が命乞いをしたら?」

「殺すわよ? あなたが殺せと言うならね」

「その引き金は誰の為にある?」

「私――天津風の総ては、あなたに委ねている」


盲目的なまでに献身の態度を取る天津風に一抹の不安を抱きつつも、“彼”は少しだけ頬を釣り上げる。

一々、プライベートに首を突っ込んでくるのはどうかと思っているが、それもまた愛嬌で済まそう。

逆に言うと、“彼のお世話をさせる”という餌を与えることで、彼女は従順な狗となってくれるのだ。

安い代償だ、甘んじて受け入れよう。


「そうか。ならば――」


そして、もう一段階。


「その敵が、味方である人間、艦娘であっても躊躇なく殺れるな?」




↓3(後の展開が変わります)


1「殺れるわっ。だって、あなたが喜んでくれるもの、ふふっ」

2「…………」


    
「…………」


瞬間、天津風の表情が曇る。

それは、最後に残された境界線なのか。

任務である。これは必要なことだ。

自分自身で暗示をかけることで、何とか保っている状態の彼女は、未だ奈落の底まで堕ちてはいないということか。


「そうだな、お前がそう思うならまだその迷いは持っておけ」


笑わせてくれる。迷いなど戦場には不必要だ。

必要なのは殺意。唯一無二の殺意と弾丸があればいい。

見せかけの殺意など武器にはならない。当然、中途半端なままでは生き残れるとは思わないし、殺意の定まらない艦娘など邪魔なだけだ。

仲間を殺そうが、身体を売ろうが、構わない。

自分の出す命令こそが至上の誉れと陶酔する艦娘こそが兵器なのだ。

暁の水平線に勝利を刻め――なんてカッコつけはいらない。

敵は、深海の畜生たちだけではない。

内側にも根強く存在する甘ったるい戦場でぬくぬくしてる提督達。

艦娘を愛玩しているだけならば、いるだけ無駄だ。

   
「まだ、早すぎたようだ。気にするな」

「うん……」


大丈夫きっと出来る――なんてカッコつけてもただの気休めである。

雪風みたいに、とことん割りきってくれたら助かるのだが、さすがにその領域にはまだ天津風は至らないようだ。

もっとも、いつまでも停滞したままなら、雪風に拳銃でも持たせて天津風を始末すればいいだけだ。

トリガーに指をかけ、軽く引く。

誰にでも理解できる簡単な動作で、人は死ぬ。

現実から目を背けたままの艦娘に目を開かせろ。

敵など、外側だけではないのだと。


   
「天津風はよくやってくれているよ」


結局、誰が相手でも手を血で染めれるか染めれないか。

ただ、それだけだ。

この先、天津風が生き残りたいなら、その両手は必ず血で汚れるだろう。

提督の命令でやったことだから自分は綺麗なままだ。

そんな理屈が通用するはずもない。殺したのは天津風であって、“彼”じゃない。

必然、どんなに“彼”が責任を引き受けようとも、殺したことには変わりがなく。


――その時、壊れるか。それとも壊れないか。


どれだけ逃げようとも、目を背けようとも、近い将来、天津風は理解するだろう。

戦わなければ生き残れない。

弱さと強さがごちゃ混ぜになった頭では、いつか死ぬことを。


「だから、天津風――」


↓3


1「君の想いも、躊躇も、俺が全部引き受けるよ」

2 無理矢理唇を奪う。

3 自由安価

    
「二人で全てを背負っていこう」


従うしかないと、怯えを見せた彼女の心を解きほぐすように優しく言葉をかける。

何かを得るにはそれ相応の代償がいる。

なればこそ、今は、彼女の弱った態度を補強していき、信頼を深めることが最善。

倫理観、偏愛、正義、夢、純白。

この戦争は、後生大事に持っていたはずの想いも破砕する狂気の沙汰。

誰が死のうが生きようが終わらない悪夢の中、どちらかが死に絶えるまで続く泥沼状態。

屍の山を築き、頂きで嗤うのはまだまだ先だろう。

自分はどちら側? 屍か。それとも、嗤う者か。

自問自答しても、答えなど無い。答えはこの先の自分達が成す不確定な未来が孕んでいる。


「あなた……っ!」


だから、今はこのぬるま湯に君を置こう。

蕩けた少女のまま、天津風の世界を壊さないでいてやろう。

だが、いつかはそれも終わりを迎え、選ばなくちゃいけない時は――問う。

生、か。死、か。

悦楽の情を与えてやるかはそれ次第だ。

人殺しの烙印を焼かれて尚、殺人を許容できない天津風の弱さはいつか自分の色へと塗り潰してみせよう。

元は白く純白であった彼女の想いも、総ては“彼”だけのものにする為に。



――ああ、苦労と笑顔の絶えない提督ライフだ。


     
優しき提督の仮面を貼り付けて、“彼”は再び、雌伏する。

今日はここまでにします。
スレタイ回収していて、すごく打ち切りっぽい締めですが、続きます。

ちなみに、展開変更は天津風の死亡フラグだったり、依存からの病み進化だったり、色々です。
今の所は綺麗に地雷を回避されましたので、平常運転でお送りすることになります。

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