東郷あい「一日ノーパンで過ごすくらい造作もない」 (46)

P「あいさん、あいさん」

あい「どうした、Pくん」

P「お願いがあるんですけど」

あい「ふむ。私にできることなら、聞こうじゃないか」

P「あの、一日ノーパンで過ごしてもらえませんか」

あい「……そういう仕事がきたのかい?」

P「いえ、個人的な趣味です」

あい「……そうかい」

P「どうでしょう」

あい「いいとも。君も疲れているんだな」

P「えっ、いいんですか! やったぁ!」

あい「明日一日はノーパンで過ごしてやろうじゃないか」

P「ありがとうございます」

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――翌日


P(見たところ、いつもと様子は変わらないが……)

P(スカートだけど、確認するわけにいかないし)


あい「Pくん、今日のスケジュールは?」

P「あっ、はい。雑誌の表紙撮影とインタビューです」

あい「ふむ。午後からは暇になるんだね」

P「そうですね。どうしますか? 直帰でも構いませんが」

あい「それは少々面白味がないな……君は午後の予定はどうなってる?」

P「えーと、事務仕事でもやろうかな、と」

あい「なるほど。じゃあ、私は事務所でのんびりさせてもらうかな」

P「はあ、構いませんよ」

あい「フッ、じゃあ行こうか? 雑誌の撮影はこのままの服だったね」

P「はい。行きましょうか」


 テクテク…


P(……どうやら、昨日のは冗談だと思われたんだな)

P(まあ、半分くらいは冗談だったけど)

P(こう、あわよくば的な……)

あい「Pくん、何をチラチラ見ているんだい」

P「えっ、あー……見てました?」

あい「見てたじゃないか」

P「見てませんよ……」

あい「……しかし、思いの外スースーするな」

P「うぐっ!!」


あい「どうしたPくん」

P「えっ、えっ、あいさん、今、もしかして……」

あい「なんだい」

P「……ノーパン?」

あい「君が言ったことじゃないか」

P「いや、はい……そうですけど、ホントにその、してくれるとは」

あい「フッ、いつも君には世話になっているからな」

P「いや、かっこつけられてもノーパンですから」

あい「……で、楽しいかい? ノーパン」

P「いやぁ、その……そうと分かると、ええ、楽しいです」

あい「そうか。君は変態だね」

P「いやぁ、そんな……」ドキドキ

あい「私の頼りにしてるプロデューサーがこんな変態では、先が思いやられるな……?」

P「ご、ごめんなさい」

あい「いや、責めちゃいないさ」

P「ところで、あいさんはどうですか」

あい「……どうとは?」

P「楽しいですか?」

あい「どう見える」

P「えーと、楽しそうです」

あい「変態め」

P「は、はい、すみません」ドキドキ

あい「まあ、いいんだが、今日は撮影だろう?」

P「そうですけど」

あい「スカートの中が写ったら……と思うとスリル満点だな」

P「あっ! まずいですね……今からキャンセルを」

あい「おいおい、今まで仕事に穴は開けなかっただろう」

P「じゃあ、パンツを買って……」

あい「君の言い出したことじゃないか。もし、何かあったら……頼むよ?」

P「ええー……マジっすか」

あい「マジだ」

P「あいさんもなかなか変態なんじゃ……」

あい「何か言ったかい」

P「いえ何も……」


 ヒュウウ フワッ


P「あ、危ない!」ハッシ

あい「あっ、すまないな。Pくん」

P「いえ、これくらい。……風が出てきましたね」

あい「めくれないように、慎重に行かないとな」

P「そ、そうですね……」



カメラマン「東郷さん、そろそろですよね?」

ライター「そう聞いてましたけど……あっ、来たみたいです」


ヒョコヒョコ ヒョコヒョコ


あい「おはようございます皆さん」

P「どうも、東郷あいの専属プロデューサー、Pです。この度はこのような機会を……」ヒョコヒョコ

カメラマン「あの、挨拶は結構なんですが……えーと、何してるんですか」

ライター「しゃがんだままの姿勢で東郷さんのスカートを摘んで……変態ですか?」

P「来月姉が結婚するんで……裾持ちの練習です」

カメラマン「はあ……あの、撮影の際はどけてくださいね」

P「はい、もちろんです」

ライター「……ていうか、裾持ちって子どもがやるんじゃ」


あい「今日はよろしく」

カメラマン「はい、よろしくお願いします」

ライター「早速ですが、まずはインタビューから。どうぞ、お掛けになってください」

カメラマン「裾持ちさんもどうぞ」

P「はい」

ライター「えー、様々な分野で活躍中の東郷あいさんですが、特に力を入れている分野は……」

あい「何事も全力さ。まあ、強いて挙げれば、撮られることだね」

ライター「なるほど。それは写真? それとも映像ですか?」

あい「好みとしては写真かな」

P「…………そわそわ」

カメラマン「裾持ちさんどうしました」

P「い、いえ……」

カメラマン「具合でも悪いんですか」

P「は、はひぃ、そんなことは……」

あい「…………」スッ

P(あ、足を組み替え……ふわあああ!)ガタガタッ

ライター「うるさっ」

あい「どうしたPくん。トイレなら遠慮なく行って構わないよ?」フッ

P「い、いえ……大丈夫です……ホントに」

ライター「こほん。写真が好みとのことですが、それはどういった理由ですか?」

あい「美しい瞬間を奪い取るようなところかな」

P「いやらしい白パンを剥ぎ取る……?」

ライター「なるほど。刹那の美学ですね」

P「インナーのブラフ……?」

カメラマン「裾持ちさんうるさいですよ」

P「あ、すみません……」



ライター「……と、じゃあ、そろそろ撮影に移りましょう。こちらへどうぞ」

あい「スタジオでは撮らないんだね」

カメラマン「ええ、素の東郷あいさんを、というコンセプトなので」

P「あの、ちょっといいですか」

カメラマン「なんですか裾持ちさん」

P「撮影の際、お願いしたいんですけど、ローアングルから撮るのは絶対やめてください」

カメラマン「ええー、なんでですか」


P「理由は言えません。ただ、こういう風に下から舐めるようなアングルはやめてください」ザッ

カメラマン「わ、分かりました」

P「こういうスカートの中を執拗に追うようなのはやめてください」ザザッ

カメラマン「分かりましたって」

P「この、パンツをファイダーに収めるのだけはやめて……」ザザザザザ

カメラマン「分かりましたから! その悪魔憑きみたいな動きやめてください!」

P「お分かりいただけましたか」

カメラマン「だからそう何度も……」



あい「まあ、いいじゃないかPくん。パンチラくらい」

P「ノーパンチラ……?」


カメラマン「ご要望通り、下からのアングルは撮りませんから……」



カシャッ カシャカシャ



P(さすがに相手もプロ。こちらの注文通り、しかもベストな写真を撮ってくれる)

カメラマン「ふうー。じゃあ、あとは外で何枚か撮って終わりにしましょう」

あい「ああ、よろしく」

P「外か……風が騒がしいな……」

ライター「偶然パンチラが撮れても載せませんから安心してください」

P「いや、ある意味パンチラは絶対撮れないんだって」

カメラマン「何言ってるんですか裾持ちさんは」



カシャカシャ カシャッ カシャッ



P「…………そわそわ」

ライター「あの、スカートばっかり見てるような気がするんですけど」

P「ええ」

ライター「……パンチラ期待してるんですか?」

P「いや、期待してるのはパンチラじゃなくて……って期待してませんよ!」

ライター「裾持ちさんって気持ち悪いですね」

P「……あの、もし風が吹いてスカートがめくれたら」

ライター「いや、だから雑誌には載せませんよ?」

P「全て忘れて山へ逃げてほしいんです」

ライター「重すぎませんか!」

P「それくらいしてもらわないと……」

ライター「あっ、もしかして、あいさんって……」

P「どっきーーーん」

ライター「お、男……だったりして」

P「…………いや、違いますよ」

ライター「……そうですか」



 ビュオオッ

あい「あっ」


 !!


P(なっ、風がっ! このままではスカートが捲れてしまう!)


P(あいさんのあいさんがあいさんになってしまう!)


P(ここからは距離がある……こうなったら!)



P「うおおおっ!」


バチコーーン


ライター「へぶっ」

カメラマン「ぐええっ」



あい「Pくん、何をしているんだ!」


P「ほ、頬にノーパンが……!」


カメラマン「何をわけの分からないことを!」

ライター「君のところからはもう仕事取らないもんね! ふんっ!」


トボトボ


P「すみません。あいさん、俺のせいで……」

あい「謝ることはない」

P「そんな……」

あい「スカートが風でめくれたからだろ」

P「……はい」

あい「フッ、さすがはPくんだ。ありがとう」

P「あ、あいさん……!」ジーン

あい「裾持ちも、なかなか様になってきたみたいだな」


P「……はい!」ヒョコヒョコ

――事務所

P「ただいま戻りました」

ちひろ「おかえりなさい。どうでしたか、撮影は」

P「失敗しちゃいました」

ちひろ「あら、珍しい」

あい「私のせいでね」

P「ち、違いますよ」

ちひろ「ええっ! えっ! はっ!? あいさっ、えっ!? あいさっせい!?」ガタガタッ

P「動揺しすぎなんですけど。というか、すっごい傷ついた……」

あい「よしよし、Pくん」ナデナデ

ちひろ「えっ、マジなんですか?」

P「あ、いえ、その……俺が失敗したんです……あいさんは悪く無いです」

ちひろ「まあ、そうでしょうね」ホッ

P「その安心の仕方も傷ついた……」

あい「よしよし、Pくん」

P「あいさんのおかげで元気戻った」

ちひろ「あいさんも甘やかしすぎですよ」

あい「まあな」

ちひろ「いや、得意になるところじゃないでしょう」

P「頑張って事務仕事やりますから」

ちひろ「あ、はい。じゃ、これよろしくお願いします」

あい「私は向こうで本でも読むかな」

ちひろ「えーと、あいさんは午後は何も」

あい「ないよ。でも、居ていいだろう?」

ちひろ「どうぞどうぞ」


カタカタ… カタカタ…


P(そう言えば疑問だったんだけど)

P(今さらと言えば今さらだ……)

P(あいさんは本当にノーパンなんだろうか)

P(それでもあいさんなら、あいさんならきっとなんとかかんとか)

P(そういう先入観があったから、納得しちゃってたけど)

P(ノーパンでいつも通りあそこまでクールなあいさんでいられるものなのだろうか、いやない)

P(幸か不幸か、今日は一度もあいさんのパンツ事情を確認していない)


P「……………………」ググーッ

ちひろ「……プロデューサーさん、何してるんですか」

P「えっ、いや……尻が痛くて」

ちひろ「そうですか」


P「……………………~~!」ググググーッ


ちひろ「……何してるんですか」

P「えっ、と、その、あいさんの読んでる本は何かなーって」

あい「ニッセンだ」

P「あっ、わざわざどうも……」


あい「気になるかい?」

P「えっ! い、いや別に!」

あい「まあ、婦人服なんて興味ないか」

P「…………婦人服は興味ないッスねぇ」

あい「だろうな」

P「……あるにはありますけど」

ちひろ「プロデューサーさん気持ち悪いですね」


リンゴーン リンゴーン


ちひろ「あ、すみません、お先に失礼します」

P「はーい、気をつけて」

あい「お疲れさま」

ちひろ「ええ、東郷さんこそ。では」


がちゃばたむ



あい「……ふー」

P「僕らもそろそろ上がりますか?」

あい「うん、そうだね。ところでPくん」

P「はい、なんです?」

あい「シュレディンガーの猫を知っているかな?」

P「ええっと、名前だけは」

あい「色々小難しいことはさておいて、あれは批判として提示された思考実験でね」

P「はあ」

あい「観測されない状態では複数の事象が重なりあう……なんてあり得ないというようなね」

P「へえ」


あい「君の考えてることは何となく分かるよ」

P「えっ」

あい「私が本当はパンツを穿いているんじゃないか。そう思っていただろう」

P「ええーと……はい」

あい「フッ、まさか見るわけにもいかないしね……」

P「ええ、その通りです」

あい「これがその答えだよ」スッ

P「えっ? これは……」

あい「では、私はこれにて失敬するよ。またな、Pくん」

 あいさんはそう言って、外へと出ていった。
 彼女が僕に渡したものに目を落として――手をゆっくり開くと、それは黒い薄手の布だった。
 ほんの少し温もったそれを震える手で開く。パンツだ。

 ああ、と俺はため息を漏らした。あいさんのパンツだ。

 あの人は一日ノーパンだったんだ。涙が溢れてきた。
 俺はなんてバカだったんだ。あの人を疑ったりなんかして。

 俺は涙をパンツで拭うと、あいさんを追って外へと走り出た。


 終わり。

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