【ごちうさ】ハッピーの素はあんこ【あんこ×ティッピー】 (84)

・心がぴょんぴょんしなくても責任は取りません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1411643119

「あわわわわ」
「・・・」
あんこがジリジリと距離を詰めてくるが、ティッピーは既に部屋の隅に追い詰められ、もはや震える事しか出来なかった。

何故こんな事になったのか?

話は少し前に遡る。

その日ティッピーはチノとココアと共に買い物に出ていた。
そこで甘兎庵の娘「千夜」とバッタリ会ってしまい、そのまま二人は千夜と共に甘兎庵へと場所を移すこととなった。
ティッピーはこの時点で既に嫌な予感がしており………案の定それは的中した。

店に入り程なくしてティッピーはまた甘兎庵の看板うさぎであるあんこに追い掛け回されるハメとなったのだ。

「あらあら。あんこったらティッピーが来てくれたからってあんなにはしゃいじゃって。」

「本当にあんこはティッピーのことが大好きなんだね」

千夜は活発に動き回る自分のペットが嬉しいのか
ココアは二羽のウサギがじゃれあってるようにしか見えないのか
笑顔で見守るだけだった。

「(チノ助けてくれ!!)」
孫娘であるチノへ助け舟を求め視線を送るも

「(頑張ってください。おじいちゃんならきっと大丈夫です)」
そんな意思を感じさせる根拠のないガッツポーズを返すだけであった・・・。

「(ノオオオオオ)」
「・・・」
やがて二羽は店内から居住区へと姿を消していった。

「あっ、ティッピーたちお家にあがっていっちゃったけど大丈夫かな」

「本当ね。ちょっと様子を見に行ってくるわ。」

「すいません千夜さん。」


――そして
「(フンフンフン)」
「や、やめるんじゃっ」

どこをどう逃げ回ったのか、宇治松家の一室でついにティッピーはあんこに追い詰められてしまっていた。
そして今あんこはティッピーの体中を鼻息を荒くしながら嗅ぎまわっていた。

「く、来るな。離れろ」
「わしはこう見えても中身は男なんじゃぞ?」
「(フンフンフンハッハッハッ)」
「ひいっ!?」

必死の抵抗も空しく、あんこに覆いかぶさられる形でバックを取られてしまうティッピー。
その瞬間、ティッピーの頭の中は一瞬真っ白となった。

……だがそのとき

「二人ともこんな所に居たのね……あら?」

絶体絶命のティッピーの前に現われたのは千夜であった。

――助かった――

ティッピーはまさに地獄に仏、九死に一生を得た気分となった―――かに思えたが。

「あんこ、貴方……ついにティッピーへ思いが通じたのね」
「あんなにシャイで恥かしがり屋くんだったのに……頑張ったわね」
「!?」

今まさに交尾をしようとしてるあんこを見て千夜は口元を押さえ目を潤ませながらあんこを見つめる。
……そして

「そうよね、初めてなのに誰かに見られたら恥かしいわよね?」
「私はココアちゃんたちの所へ戻るから……頑張るのよ!!」

「え、ちょっ」

ティッピーが思わず千夜に向い話しかけようとするよりも早く、部屋の扉は閉じられてしまった。
そして足早にそこから離れていく千夜の足音が聞こえていく。

一瞬の静寂の後、ティッピーに衝撃が走る。
あとにはあんこの荒い息使いと腰を振る音のみが部屋に響いた。

「あれ?千夜ちゃんあんこたちは?」
「うふふ。内緒。」

そんな少女たちの会話が、もはや放心状態となったティッピーの耳に酷く残酷に響いた。

少女たちが談笑している所へあんこが戻ってくる。
そして店内中心に設置されている台座の上へとぴょんと飛び乗るのであった。

「あ、あんこが戻ってきたよ」
ココアは嬉しそうにあんこのために残しておいた甘味を持ってあんこを撫でに行く。

「ティッピーの姿が見えませんがどうしたのでしょうか?」
一緒だったはずのティッピーの姿が見えぬことに若干心配そうな顔でチノが千夜に問いかける。

「うふふ。チノちゃん、実はその事なんだけどね」
「はい?」

千夜はいつになく嬉しそうだった。
そして少し勿体つけてから――先ほどの出来事をチノへと教えた。

ダダダダダッ!!

「おじいちゃんっ!!」

チノは話が終るや否やすぐさま駆け出し、ティッピーとあんこが居たという部屋へと駆け込んだ。
いつものチノからは考えられない行動だったため、千夜もココアもびっくりとしていた。

「お、おぉチノか・・・」

そこには放心状態で燃え尽きた様子のティッピーが小さくうずくまっていた。

「……ええと…その…大丈夫……ですか?」

色々と気まずいのかチノの声はぎこちない。

「……わしなら大丈夫じゃよ」
「人生長いと色々なこともあるものじゃなぁ」

そう孫を心配させまいと気丈に振舞うも、内心はついさっきの出来事を認めたくない気持ちに支配されていた。

「なあチノ」
「はい」
気まずい沈黙を破ったのはティッピーであった。

「もし……わしが出産をしても………お前はわしを「おじいちゃん」と呼んでくれるのじゃろうか?」
「そんなの……もちろんです」
チノは小さくかぶりをふり、笑顔でそう応えるのであった。

チノに抱えられ店内へと戻ったティッピーにココアがいきなり抱きついてきた。
そして興奮気味にティッピーをモフモフしだした。
どうやらココアも千夜から事情を聞いたのであろう。

その後の事はよく覚えていない。

ただ千夜の自室へ移動後もココアと千夜は常時興奮気味に今後についての話をしており、時折それに相槌を打つチノの声だけが聞こえた。

千夜たちが今後について話し合ってる際に、ティッピーとあんこは今後のためにも一緒の部屋で過ごさせようという案が出たが、流石にこれはチノが珍しく強く反対したため却下されティッピーはほっと胸を撫で下ろす。
ただしあんこはそんなティッピーの事などお構い無しに、チノの膝の上に乗るティッピーの周りをぴょんぴょんと跳ね回っては体を摺り寄せてはにおいを嗅いでいた。
ティッピーはその間ただただ体を小さく丸め、早く時が過ぎるのを待つだけであった。

それから約2週間が経った。

最近ティッピーは出産を控えた雌ウサギの行動を本人も無意識に取るようになってしまっていた。
やはりティッピーは妊娠してしまっていたらしい。

しかしそんなティッピーを毎日「まだかな?まだかな?」とわくわくしながら笑顔で見守るココアとは対照的にチノの心中は複雑であった……。

「……本当に最近ティッピーの奴は以前みたいな落ち着きがなくなったな」

ティッピーはあれから更に落ち着き無くそわそわしては、時折カウンター内の片隅に巣作りをし、そしてそれを破壊という行為を繰り返していた。
他にもチノが頭に乗せてもすぐに飛び降りてしまうなど、常にどこか気が立っている様であり、そんなティッピーを若干心配そうにリゼは見ていた。

そんな日々が続いたある日

その日はタカヒロが不在でいつもより店を早くに閉めることになっていた。
そんな中、ココアがあることを切り出した。

「ねえ。チノちゃん、リゼちゃん。」
「今日の夕方、みんなで千夜ちゃんの家に遊びに行こうよ」

「なんだ唐突に?」
「まぁこの後は特に予定も無いから構わないが」

「私も特に用事は無いのですが……その…」
チノは相変わらず精神面が不安定なティッピーをチラりと見る。

それに気付いたのかココアはここぞとばかりに

「ならティッピーも連れて行こうよ」
「お父さんのあんこも居るし、ティッピーもきっと喜ぶよ!!」
「うん。そうするべきだよ!!」
そう目を輝かせながら、いつも以上に強引に迫ってくる。
なんとしてもチノとティッピーをセットで連れて行きたいというのがその態度から丸わかりである。

「……いえ……それはその逆効果かと…」
そう小さく呟いたがココアには聞こえなかったようで、なお連れて行くことを勧めてくる。

ただでさえティッピーがこうなっている原因の居る甘兎庵へ連れて行くのを出来れば避けたかった。
だが、こんなに嬉しそうなココアに対してそれを言うことは憚られ結局言えずにいた。
かといって今のティッピーを一人にするのは心配である。

そんな困り果てたチノを察したのかリゼが

「落ち着けココア。チノが困ってるだろ」

まずココアを制止する。
続けて

「なあチノ。確かに今のコイツを外に連れて行くのが心配なのはわかるが、それでもたまには気分転換としてはいいんじゃないか?」
「最近はずっと家に篭りっきりだろ?」

チノとココアの両方の気持ちを汲んだ上で、ココアのように押し付けるのではなく説得をする。
無論彼女なりにティッピーとチノを心配しており、事の顛末を詳しく知らないリゼはこれがいい気晴らしになればとも思っていた。

そしてチノの頭に軽く手を置いてから
「それに私も一緒に行ってやるからココアがこれ以上暴走したら任せておけ」
そう胸を叩いていった。

「酷いよっ!リゼちゃん!!」

リゼの説得の甲斐もあり、チノはココアの誘いを承諾した。
ティッピーはやはり最後まで抵抗していたが、現実問題として現在のあんことの関係とお腹の子の事もある。
その事については千夜たちとしっかりと話をつける必要があるとチノにも言われ渋々ながら承諾をした。

甘兎庵への道中

「ところでココアさん」

「なに?チノちゃん。」

「一体、甘兎庵で何が待ってるんですか?」

「え?一体なんのことかな~?」

「そんな白々しい事を言っても無駄です。ココアさんはすぐに表情に出てしまうんですから。」

「えへへ。まだ内緒。でもきっとチノちゃんもティッピーも喜んでくれるよ」

そんな道中の会話をチノの頭の上で聞きながらティッピーは嫌な予感しかしなかった。

そして……それはまたしても的中してしまった…。

パンッ!!パンッ!!パンッ!!

「おめでとう!!ティッピー、あんこ!!」

甘兎庵へ到着してすぐにココアは店の入り口前でチノたちへ「ちょっと待っててね」と言い残し一人店内へと消えた。
程なくしてチノたちは店内から戻ってきたココアに千夜の部屋へと誘導され、そして扉を開けると同時に―――。

パーティクラッカーのけたたましい音が四方から部屋へと入ったチノとティッピーを襲う。
そこにはクラッカーを手に持つ千夜、頭をあんこに齧られながらもクラッカーを持っているシャロが居り、背後を振り返るとリゼの手にも同じ物が握られていた。
さらに室内を見渡すと、そこは綺麗に飾り付けられ、何かのお祝いの様な料理も用意されていた。

どう?ビックリした?」
「千夜ちゃんと相談してね、やっぱり赤ちゃんが産まれる前にあんことティッピーの結婚式はやっておこうって事にしたんだよ」
「それでティッピーとチノちゃんをビックリさせようと秘密に準備してたんだ」

満面の笑顔でチノへこのサプライズを打ち明けるココア。
彼女はきっとチノたちが喜んでくれると信じて疑っていないのであろう。

「……そうだったんですか」
ココアの明るい声に対して返事をするチノの声のトーンはいつもより低く、何かを堪えるようであった。
ティッピーの気持ちを考えれば当然なのかもしれない。

「リゼさんはこの事を知っていたのですか?」
「ごめんなチノ。私もココアに黙ってるように頼まれてて」
背後で若干申し訳なさそうな顔をしながらリゼも協力していた事を打ち明ける。

「全く大変だったのよ?」
「千夜ったら準備中ずっと何時に無い位のハイテンションだったし……でも、まぁおめでとう、あんこ。」
「これを期に私を襲うのも止めてくれるとありがたいんだけどね」
腕にぶら下がった状態のあんこに向かいながらしみじみとシャロが祝福の言葉を送っている。

そんなやり取りを当のチノとティッピーはどこか上の空で聞いていた。

彼女たちは何も知らないのだ。
ここで彼女たちを責める事は出来ない。
それにもしティッピーがただのペットであれば、あるいは自分もココアたち同様に素直に喜んでいたかもしれない。
そう考えるとチノは何も言う事は出来なかった。
そして彼女たちの幸せそうな笑顔に対して

「そうだったんですか。皆さんティッピーのためにありがとうございます。」

気付けばチノは笑顔でそう感謝の言葉を送っていた。

「(おじいちゃんごめんなさい)」

そう心の中ではティッピーに対して申し訳ない気持ちを抱えながら。

「ほら、ちゃんとステージも用意したんだよ!」
「と言っても有り合わせの物で作った簡単な物だけどね」

ココアの隣には店のテーブルと思われる物の上に真っ白なシーツを敷き簡素な飾りつけがされたステージがあった

「私と千夜ちゃんで用意したんだ」
「「ねー」」

そう手を取り合ってはしゃぐココアと千夜を前に、もはやチノは何も言うことが出来なかった。
ティッピーを頭から下ろし、しっかりと向き合い、チノは残酷ながらも

「おじいちゃん」

「なんじゃ……」

既に未だかつてない程に重いオーラを放つティッピーに対して

「もう……諦めてください…」

そう言うしかなかった……。

「・・・」

ティッピーはそのまま沈黙し、その身に纏う重いオーラは更に増したように感じた。

「私はおじいちゃんが子供を産んでも、今まで通りおじいちゃんとして接しますから」

「……チノ。ありがとう。わしも男じゃ腹を括ろう……だから」
「……だから、もう泣くんじゃない」

いつの間にかチノの大きな瞳からは涙がボロボロと零れていた。

「……はい」

その後、ティッピーに顔を埋めていたチノが顔をあげるとそこには自分を心配そうに覗き込むリゼとココアの顔があった。

どうやら様子がおかしいことに気付き心配をしてくれていたようだ。

目を軽く擦ってから

「いいえ、何でもありません。」
「ありがとうございます。ココアさん、千夜さん。ティッピーのためにこんな用意をしてくれて」

そうハッキリと伝えた。

「えへへ。良かったー。チノちゃんも喜んでくれて。」

ココアが頬を掻きながら照れくさそうにしている。

「それじゃあ、早速始めましょう」

チノたちが落ち着いたのを見計らい、いつの間にかシャロから引き剥がし、蝶ネクタイでのおめかしまでさせたあんこを抱えながら千夜が笑顔で式の決行を告げた。

「そうだね」
「それじゃあ、ティッピーもこれを」

そう言いながらココアがチノの腕の中のティッピーにもヴェールでおめかしをし、そしてチノの手を取り台の前へと移動する。

「じゃあチノちゃん。ティッピーをココへ」

チノは言われるがままティッピーを式台の中心へと降ろし、ココアと共にその場を離れる。

「ほら、あんこ。晴れ舞台よ。頑張って!!」
「・・・」

あんこも千夜の腕から台の上へと降ろされ、トコトコとティッピーのいる中心へと歩き始める。

そしてティッピーの目の前に立った瞬間――

「ノオオオオオ」
「(チノにはああ言ったが、それとこれとは話が別じゃああああ)」

ティッピーは雄叫びを上げながらあんこを突き飛ばし、台から飛び降りると同時に全力で部屋から飛び出していった。

「・・・」

だがあんこもすぐさま起き上がり駆け出す。
ティッピーの逃げた方向へと。

「えっ?ティッピー!?あんこ!?」

「あらあらティッピーも意外と恥ずかしがり屋さんだったのね」

予想外の展開に驚きを隠せないココアと、口に手を当てながら「やっぱりお似合いの二人だ」とますます嬉しくなる千夜。

「きっと皆が居る前じゃ恥ずかしくなったのよ」

「そっかーもうビックリしちゃったよ。」

「そんなこと言ってないで追いかけるぞ。行くぞシャロ」

「は、はい」

相変わらずマイペースなココアと千夜をよそにリゼが二羽の後を追うため部屋を出て行き、その後をシャロとチノも追う

「(おじいちゃん)」

「ノオオオオオ」
甘兎庵から飛び出したティッピーは普段からは想像出来ないピードで道を駆け抜けていた。
その脳裏にはこれまでの恐怖、そして約2週間前のあの忌まわしい出来事がぐるぐると駆け巡っていた。

「・・・」
だがその後にあんこはそんなティッピーの気持ちなどお構い無しにピタリとくっ付いてきており、振り切ることが出来ない。
そしてジリジリと距離を詰め、このままではいつもの様に捕まってしまうのも時間の問題だろう。

そう思われた瞬間

――ドンッ――

ティッピーは何かにぶつかり跳ね飛ばされ、そのまま後方へとコロコロと転がってしまうがスグにあんこによって受止めらる。
あんこはティッピーを捕まえる事が出来て嬉しいのかすぐさまいつもの様にのしかかり求愛行動を取ってきた。

ティッピーはそんな絶望に支配されながらも一体何にぶつかったのかと顔を上げるとそこには……自分の数倍の大きさの犬が居た。
どうやらこの犬の横腹に体当たりを決めてしまったようだ。

衝撃で転んでいた犬の方も起き上がり、低い唸り声をあげながら、ゆっくりとティッピーたちの居る方へと振り向く。
その表情からは完全に敵意を剥き出しだということがわかった。

「(チノ……わしはもうダメかもしれん)」
「ハート」

逃げようにもあんこに覆いかぶさられ動くことも出来ない状態でティッピーは己の死を覚悟していた。

一部訂正

「(チノ……わしはもうダメかもしれん)」
「♥♥♥」

逃げようにもあんこに覆いかぶさられ動くことも出来ない状態でティッピーは己の死を覚悟していた。

ドンッ!!

犬の体当たりを食らいティッピーはのしかかっていたあんこと共に跳ね飛ばされゴロゴロと転がってゆく。
ようやく転がるのが止まり犬の方を向き直ると、犬は唸り声を鳴らしながらジリジリと近づいてきていた。

「グルルルルッ」

「あわわわわ」

「・・・」

詰め寄ってくる犬に対し、怯えながら後ずさるティッピーに対してあんこは落ち着いていた。
先ほどまで状況を全く理解していない状態であったが、今のあんこは甘兎庵で看板うさぎをしている時と同様に微動だにしない置物状態となっていた。

「(こやつ、こんな状態でこの落ち着き……まさか何か?)」

ティッピーは初めてあんこを頼もしく思え、見直しかけていた。
――だが……そう思ったのも束の間

――ダッ――

「なあ!?」

あんこは犬とティッピーに背を向け、そしてティッピーを置き去りに駆け出して行った。
まさに脱兎である。
唖然とするティッピーの方を振り返る事もなく、あんこの姿はどんどん小さくなってゆき、やがて完全に視界から消えてしまった……。


あんこの行動に愕然としてるティッピーをよそに、背後からは怒りの収まらぬ犬が迫って来ていた……。

「ハァハァ。ティッピーたちドコに行っちゃったんだろう?」

「完全に見失っちゃたわね」

「まったく、千夜とココアがもたもたしてるからよ」

ティッピーたちを追いかけてきたものの、途中で見失ってしまっていた。
息切れを起こしバテている千夜たちとは対照的にリゼとチノは辺りを見回しているが、ティッピーたちの姿は影も形も見えなかった。

「(おじいちゃん……)」

チノの心配は増すばかりであった。

「この辺には居ないみたいだな……」

「そうですね。今度はこっちを探してみましょ……ッ!」

リゼへ返事をしながら、既に次に探す道への曲がり角へと移動していたチノが道側に向き直った瞬間、腹部に何かがぶつかり思わずよろめいてしまう。

「な、なんですか?」

何かがぶつかってきた方を向くと、そこにはあんこがいた。
どうやらチノの姿を確認したあんこが飛び付いてきたらしい。

「あんこ!?」
「皆さん。こっちにあんこが居ました!!」

チノの呼びかけに周囲を見回していた皆が集ってくる。

「え?チノちゃん、あんこが居たの?」

まっさきに反応し駆け寄ってきたのはココアであった。

「よかったー。心配したんだよ?」
「ほら、帰って結婚式の続きを……って、あんこ!?」

あんこを抱きかかえるために近づくも、あんこはくるり背を向け再び来た方向へと駆け出してしまう。

「え?ドコへ行くの?」

「とりあえず今度こそ捕まえるぞ」

驚くココアたちにそう言いながら、リゼもすぐさま駆け出す。
そしてその後をチノとココアが追い、やや遅れてから千夜とシャロも後を追い始める。

普段の置物の姿からは想像も出来ないスピードであんこは駆けていた。

「あいつドコへ行く気なんだ?」

「ハァハァ…それに……ティッピーの姿が無いのも気になります…」

リゼは平然とついていけてるが、チノとココアはかなり苦しそうである。
そして既に千夜はシャロに手を引かれる形で辛うじてという有様であった。

そんな少女たちを気にする様子も無く、あんこはひたすら道を駆け抜けていたが、急にピタリと急停止をする。

「うわっと、なんだ?どうした?」

そのためリゼは危うくあんこを蹴り飛ばしてしまう所だった。

「こ、ここに何かあるの?」

必死に呼吸を整えながらココアがあんこに問いかけるも、あんこはココアを無視しトコトコと歩きながら犬のように地面を嗅ぎ周りだした。
そして千夜とシャロが遅れて追いつくのとほぼ同時に、再び勢いよく駆け出すのであった。

「やっぱりティッピーに何かあったのか?」

「そうだね。あんなあんこ始めてだもん」

「(おじいちゃん)」

あんこが地面を嗅ぎまわってる間、姿の見えないティッピーといつもと様子の違うあんこからリゼたちはそう推察していた。
流石にココアも事態の異常さを察したのか、先ほどまでの能天気っぷりは影を潜めていた。
そしてチノの不安がますます増すばかりの中、背後から千夜の呼ぶ声が聞こえてきた。

「み、みんな~やっと追いついた~」

千夜の安堵の声が聞こえるのとほぼ同時に

――ダッ

あんこは再び突然駆け出した。

そして再びあんこの後を追う一同

だが、今度はすぐに目的地がわかった。

走り出し路地裏へ曲がってすぐに、ティッピーが視界に入ってきたからである。

そこには今まさに野犬に飛び掛られる寸前のティッピーが居たからであった。

「ティッピー!!」

「クソッ、間に合わないか?」

叫ぶチノと助けようにも距離的に間に合わないかもしれないと思うリゼ。

まさに絶体絶命――その時あんこは……!?

――業務連絡――

突然ですが以降の展開は投票により決めたいと思います。
以下の希望ルートから一つを選択してください。
多数決の3票先取(同一IDの複数投票は無効)とします。


Aルート
その時あんこは、リゼに道を開けるかのように急停止をした

Bルート
その時あんこは……信じられない加速をした

Cルート
リゼ「(くっ。せめて何か打ち出せるモノさえあれば、あの技が使えるのに……)」
あんこはそんなリゼの心を読み取ったかの様に突如リゼの目の前へとジャンプした

投票ありがとうございました。

それではBルート展開で行かせていただきます。

リゼが「間に合わない」と思った瞬間。
目の前を走っていたあんこは信じられない加速をしてみせた。
その姿はまさに一発の砲弾であった。

そしてその勢いで今まさに野犬に飛びつかれるという絶体絶命のティッピーを跳ね飛ばし、その危機から救った。
だがその直後、今までティッピーの居た位置へと代わりに身を置いたあんこは野犬に飛びつかれ、野犬の鋭い牙がその首元に深々と突き立てられた。

「あ、あんこー!!」

ココアの叫びなどお構い無しに、野犬はそのままあんこをぬいぐるみの玩具を与えられ遊びはしゃぐかのようにガシガシと二度三度と盛大に振り回し、その都度その小さな体が大きく宙を振り回され、時に地面に叩きつけられる。
その反動からか野犬は得物を口を離してしまいあんこが地面へ放り投げられるも、野犬はすぐさま再度玩具で遊ぶために歩き出す。
しかし地面を転がったあんこは追いついたリゼの足にぶつかりその回転を止め、寸でのところでリゼがあんこを拾い上げた。
そしてリゼは野犬に対し睨みつけ威嚇をする。
しばらく睨みあった後、野犬はリゼに気圧されたのか数歩あとずさり、そのまま道の端に転がっていたティッピーの事も無視し走り去ってしまった。

「ティッピー、大丈夫ですか?」

犬が通りすぎた直後にチノがティッピーのもとへ駆け寄り拾い上げる。

「(あぁ…チノ……わしはなんとか大丈夫じゃ)」
「(それよりも、あ奴は?)」

振り返るとそこにはリゼの腕の中で目を閉じ動かないあんこと、目に涙が浮かべるココアがいた。

「あんこ。ねえ大丈夫あんこ?」

「オイッ、しっかりしろ」

二人とも必死にあんこに呼びかけるもあんこはピクリとも反応をしない。

「全く千夜はもう少し体を鍛えなさいよ」

「あぁ。やっと追いついた…」
「……!あんこっ!?」

息を切らせながら今頃になりやっと追いついた千夜だったが、リゼの腕の中のあんこの変わり果てた姿を見て驚きのあまり息切れをするのも忘れてしまっていた。
すぐに千夜はリゼに駆け寄りあんこを受け取り、そして必死に呼びかけるもあんこは依然として何の反応も示さなかった。

「あんこ?しっかりして!」

「リゼ先輩、一体何があったんですか?」

シャロが若干取り乱しながら不安そうにリゼに説明を求め駆け寄るが、リゼはチノとティッピーの方に一度視線を向け、シャロの方へと顔を戻してから

「落ち着いてくれシャロ」
「今はあいつらを病院へ連れて行くのが先だ、説明はそこでするから」

「わかりました」と返事をするシャロに対し軽く笑顔を向けてから

「とりあえずお前はチノを連れてきてくれ」

そう言ってから、リゼは今度はいまだ取り乱しながらあんこへ呼びかける千夜とココアたちを落ち着かせるべく声をかけた。

その後

リゼとシャロは先にあんことティッピーを動物病院へと連れて行くために二羽を抱えすぐさま駆け出した。

やがてココアと千夜を落ち着かせるために残っていたチノの元へリゼからの連絡が入り、3人も病院へと向い合流をした。

幸いティッピーは多少擦り傷がある程度で済んでいたため、軽い治療を受け帰宅が許された。
お腹の仔にもこの程度なら影響は無いとのことだ。、

だが、あんこは・・・

あんこも幸い命に別状はないらしいが、しばらくは入院する必要があると言われた。

そのためあんこは病院に預け皆は帰宅することとなったのだが

「ティッピーどうしたんですか?」

チノに抱えられたティッピーが病院の方をジっと見つめていた。

「(あやつはわしを庇って……わしは少しはあやつのことを見直したぞ)」

「そうですか。では、あんこが退院する日にはしっかりとお礼とお祝いをしないといけませんね」

「(うむ。)」

「どうしたのチノちゃん?置いてっちゃうよ~?」

すでに大分先へ行ってしまっていたココアが病院前から動かないチノへ呼びかける。

「すいません。今行きます」

ココアたちの元へ駆け寄ったチノに対し

「ありがとう。あんこの事を心配してくれてたのね」

千夜が笑顔で感謝の言葉をくれた、そしてティッピーを撫でながら「せっかくの結婚式が台無しになっちゃってごめんなさいね」と申し訳無さそうに言う。

「あんこが回復したら退院祝いと一緒にやればいいじゃない」とココアが懸命に明るく振る舞い、リゼとシャロにも同意を求め、二人もそれに相づちを打っていた。

そしてチノへも同意を求めてきたが、チノは若干表情を緊張させながら大きく息を吸い込み、そして――

「ココアさん。千夜さん。その事ですがお話があります」

二人の顔をしっかりと見ながら自身とティッピーの意思を二人に告げた。

あの一件から約2週間が経過した。

途中であんこは無事退院をすることが出来た。
入院中も皆がお見舞いに訪れた際にティッピーの姿を確認するや否や暴れ出すなど、医者を驚かせることが度々あった。
医者が言うには驚異的な回復力だそうである。

しかも退院した際にはティッピーが感謝の言葉を送ろうと近づいた瞬間に以前のように飛びついて求愛行動を取るというオマケ付であった。

もっともその時は、そうなる可能性を予想していたチノが予めリゼに頼んでおいたため、あんこはあっさりと取り押さえられ千夜の用意したキャリーへと収容されてしまったが。

そしてティッピーは無事に元気な3羽の仔ウサギを出産をした。
一羽は毛並みは父親のあんこそっくりで黒く、見た目は母親のティッピーとそっくりであった。
そしてもう二羽は逆にあんこそっくりな姿に、あんこの黒い毛並み部分はティッピーそっくりな綺麗な白い毛並、腹部の白い部分はあんこそっくりに黒々とした毛並であった。

ティッピーも最初は若干抵抗があったようだが、何だかんだで面倒をしっかりと見ており、三羽ともラビットハウスで元気にすくすくと育っていった。

そして更に月日は経ち
ある日の甘兎庵の千夜の自室にて

「(ノオオオオオ)」
「・・・」

目の前ではまた以前のようにあんことティッピーによる追いかけっこが繰り広げられていた。
あんこも今では完全に入院以前の状態へ戻っていた。

仔ウサギたちを抱きかかえながら、その光景を相変わらず微笑ましく見守る千夜とココア。

やがてティッピーが壁際に追い詰められ、あんこがジリジリと距離を詰めてくる。

「(やっぱりこやつは……少しでも見直したわしが馬鹿じゃった…)」

再び覆い被されるかとティッピーの顔が絶望に染まりかけた時

――ヒョイ

あんこの体はチノに抱きかかえられ、そのままチノは千夜の前へと歩いていき、あんこを差し出す。

「千夜さん。あんこの事はしっかりと見ていてくださいとお願いしたはずです」

「あらチノちゃん。ごめんなさいね」

腕の中でもぞもぞとしている黒い仔ウサギを放す。
チビ黒は自由になるやいなや母親の元へとぴょんぴょんと駆けて行ってしまった。
それを見届けてから千夜はチノからあんこを受け取る。

「も~チノちゃんは神経質すぎだよ。もう赤ちゃんを産んでから大分経ってるんだから、あんこにもティッピーと遊ばせてあげればいいのに」

二匹の仔ウサギをもふもふしながらココアはチノに笑顔で心配しすぎだと言わんばかりに語りかけるが
チノはそれに対して

「いえ、ティッピーの精神衛生上こういう事はしっかりしておかないといけません」
「ウサギはココアさんと違って繊細な生き物なのですから」

そうそっけなく返してしまう。

「ひ、酷いよ~チノちゃん」

チノの発言にショックを受け思わず涙目になってしまうココア。
そのまま「う~」と小さく唸り声をあげながら両腕に抱えるチビ白たちに顔を擦りつけ顔をもぞもぞと動かし始めた。
仔ウサギたちは父親に似てか特に嫌がる様子もなく終始ジッとしていた。

「ココアさんは放っておけば勝手に復活するだろう」と思ったチノは本題を千夜に切り出すことにした。

「それでは千夜さん。あの仔たちの事はよろしくお願いしますね」

先ほどから変わらずココアにもふもふされるがままの二羽を見ながらそう切り出す。

「えぇ。あの仔たちの面倒はうちでちゃんと見るわ。」
「……それで、この子とティッピーの事なのだけれど……やっぱり…その、考えは変わらないのかしら?」

一度腕の中のあんこに視線を落とし、それからチノの背後で仔ウサギにじゃれつかれているティッピーに視線を移し、そして改めてチノの顔を見ながら尋ねる。

「はい。あの時お話した通りです。考えを変える気はありません」

「え~そんな~」
「ティッピーもあんこもあんなに仲良しだし、こんな可愛い子供まで出来たのになんでなの~?」

もの凄く残念そうな顔をしながらココアが食い下がるがチノはココアを無視し意思は変わらないということを告げた。

「そう。わかったわ。ごめんなさい」

目を瞑り、若干残念そうに肩を落とすが

「でも、あんこはティッピーを諦めていないのだから、きっといつか振り向かせてみせるわ!」
「ねっ!あんこ!」

「・・・」

すぐに気を取り直しあんこと向きあい、自分とあんこへ言い聞かせるように宣言をした。
あんこは相変わらず反応をしなかったが、先ほどまでの行動を思えば答えは聞くまでもないだろう。

そう、あの事件の日

チノは千夜とココアに対し、ティッピーはあんこと一緒になる事を望んでいないとハッキリと告げたのであった。

ココアはその話を聞かされてからずっとチノに食い下がってきたが、千夜は予想に反し簡単に応じてくれた。

結果、このティッピーとチノの知らない所でとんとん拍子で進んでいた縁談は破談となり、ココアもリゼとシャロになだめ慰められながら先に帰宅していった。

「ごめんなさいね。チノちゃん、ティッピー。」
「私たちついつい嬉しくて舞い上がっちゃってたみたいで、チノちゃんたちの事を考えずどんどん勝手に話を進めてしまって」

本当に申し訳無さそうな顔をしながらチノとティッピーに対し深々と千夜は頭を下げた。

「頭をあげてください」
「千夜さんもココアさんもティッピーのために良かれと思ってやってくれたんです。その事は本当にありがとうございました」

チノの声に千夜がおずおずと頭をあげる。

チノは微笑みながら

「――ですよね?ティッピー」

そしてチノの問いへティッピーも無言で小さく頷く素振りをして見せた。

「私たちはもう大丈夫ですから、千夜さんも気にしないでください」

「ありがとうチノちゃん」

その後
今後産まれて来る仔についてはまた日を改めてという事で千夜と別れ、チノとティッピーも帰路へとついた。

道中できっと帰ったら酷く落ち込んだココアさんが待っているだろう。

そしてきっとこれからも自分を説得しようとしてくるだろう。

そんな姿が容易に想像できるココアに対し若干苦笑をしながら、それとは別に一体どんな仔が産まれるのか……おじいちゃんには悪いと思いつつもチノも内心楽しみに思っていた。

乙です

まあ、ティッピーの中身がおじいちゃんじゃなければチノも喜んで協力したと思うけどな

>>48
実はまだ終ってないんだ。
紛らわしいところで区切ってすんません。

終ったら時はちゃんと本分とは別で報告のレスは付けときますんで。

「それじゃぁ千夜さん。また」

先程までココアの腕に抱かれていた二羽の仔ウサギは今は千夜の抱える四角いキャリーの中に居た。

「またね千夜ちゃん、あんこ、チビ白たち」
「今度はリゼちゃんも連れて会いに来るからね」

店先で見送りに出てきてくれている千夜に別れの挨拶をするも、ココアはやはり二羽に対して未練があるのか、なかなかキャリーの前から動こうとしなかった。

今後、この二羽は約束どおり千夜とあんこが宇治松家で育てる事となる。
千夜は「本当にどっちもあんこそっくりね」と、この二羽の事を気に入ってくれていた。
ただ、それでも千夜は出来れば一羽はティッピーそっくりの方が良かったようなのだが、これにはティッピーの精神面を考慮してのものもあった。

何故ならティッピーは三羽の面倒をちゃんと見ていたのだが、姿、特に片方は雰囲気まであんこにそっくりなこの二羽へはどこか苦手意識があるらしく、チビ黒に対してよりも距離を取りがちとなっていた。
育児放棄などをするとは思えないが、やはり今後の事を考え、あんこ似の二羽は宇治松家に引き取って貰うことにしたのであった。

そう決まった際には、この二匹を特に可愛がっていたココアが「う~」と不服の声をあげていたが仕方が無い。
千夜の「甘兎庵へ来ればいつでも会えるから」という説得で渋々ながら納得をしてくれた。
先程まで特に念入りに二羽をもふもふしていたのもそのせいであろう。

そして肝心の父親のあんこであるが、あんこも出産後も千夜と共に何度かラビットハウスを訪れ、その度に仔ウサギたちと顔を合わせてはいるものの、毎回反応らしい反応は得られなかった。

仔ウサギたちはこれが自分たちの父親と分かっているのかどうかはわからないが、毎回あんこに擦り寄り臭いをかいだり、体や頭を齧ったりと傍から見れば懐いている様にも見えたが、それでもあんこは相変わらずであった。

思わずチノもティッピーも「本当にこの仔たちが自分の子供だと分かっているのか?」と心配になるくらいであった。

そして現在も千夜の持つキャリーの上にちょこんと鎮座している。

だが、その視線だけはどうにも終始自分へ向けられている気がしてならないと、ティッピーは内心何とも言えぬモノを感じていた。

「ほら、ティッピーとチビ黒もお二人にお別れを」

そう言いながらチノはココアをキャリー前からどかし、ティッピーとチビ黒の収まっているキャリーを千夜のキャリーへと近づける。

チビ黒は兄弟との別れが寂しいのか若干口元を小さく動かしていた。
向かいのチビ白たちは片方が別れるのがわかったのか若干落ち着きの無い様子を見せているものの、もう片方は頭上に鎮座する父親同様に微動だにしなかった。

「(それじゃあ、お前たち……元気でやるのだぞ?)」
「(時々は様子を見に来てやるからな)」

ティッピーも子供たちへ別れを告げ、そしてチノたちはラビットハウスへと帰っていくのであった。

そして月日は流れ

チビ黒もチノたち可愛がられながら、今ではすっかり大きくなっていた。
性格は人懐っこいが大人しく、チノがよく頭に乗せている。
少し前まではティッピーとセットで乗せていたのだが、成長していくにつれ厳しくなり、ついに先日、首を傷めてしまい断念することとなった。

甘兎庵へ引き取られた二羽もまた立派に成長をしていた。
二羽とも今ではあんことお揃いの王冠が良く似合う姿となっており、片方はあんこと共にいつも台座に鎮座し看板親子うさぎとして客たちを和ませていた。
もう一羽は成長するにつれどんどんやんちゃな性格となり、いつも千夜やシャロを困らせていた。
そして甘兎庵を抜け出しては毎日のようにワイルドギースに首根っこを掴まれて帰ってくる日々であった。

一件仲の良い親子関係に見えるが
親子全員が一堂に会した時、あんこは相変わらず脇目も振らずにティッピーへと特攻をかけるのだが、その際は必ず普段はあんこと共に鎮座しているチビ白があんこを速攻で取り押さえ盛大に噛み付くのであった……。
その無駄の無い動きはリゼすら感服するほどであった。

これに対して千夜は「普段はとっても仲がいいのにねぇ」と大して気にはしてる様子は無く、曰く「やきもちやき屋さん」だそうである。

ある日の昼下がりの公園

「おじいちゃん」

「うん?」

目の前であんこや兄弟たちと戯れるココアたちを見ながら、チノは膝の上のティッピーへと静かに語りかける。

「いっそのこと本当にあんこと結婚してみてはどうですか?」

「それは断る」


END

長々とお付き合いしてくださった皆様ありがとうございます。

これにて終了となります。

とりあえず……投票結果で選ばれたBルートはあの時点じゃ全く書かれておりませんでした。
AとCは半分くらい書き終えてましたが。
やっぱハッピーエンドを希望する人が多いのでしょうかね?

ちなみにこれがハッピーなのかは私にはわかりません(問題発言)

それではこんな駄文まで読んでくださった方に心より感謝の念を。
そして機会があればまたお付き合いください。

ご意見・ご感想・苦情をお待ちしております。

乙をありがとうございます。

>>55で書いた通り>>32で出した分岐点のAとCルートは途中まで書いてあったので
このままにするのも何なので投稿させていただきます。

一応
Aがあんこ・ココア・千夜にとってのハッピーエンド
Cがノーマル?エンドです。

今回は書きあがったCルートをあげさせていただきます。

Cルート

リゼの目の前に突如黒い物体が現われる。

あんこである!!

あんこはリゼの心を読み取ったかのように目の前にジャンプし、そして一瞬目線をリゼへと送る。

リゼはその瞬間にあんこの意図を理解し

「よし」
「いくぞ、あんこ!!」

――そして

「パトリオットサーブ(素手)!!」

打ち出されたあんこはまさに一発の弾丸となり、見事にティッピーへと飛びかかった犬の顔面へとヒットした。
そして犬は大きく吹き飛ばされ、あんこの体もその反動から空へと投げだされる。

「ティッピー」
「もう大丈夫だよ」

ティッピーの元へと駆け寄ったココアがその体を抱き上げる。

リゼは犬が再度向かってこないか警戒をしたが、野犬は起き上がると同時にその場から逃げ出していったため心配は無用であった。

「ティッピー。大丈夫?怪我はしてない?」

「お腹の仔のこともあるし、早く病院へ連れて行きましょう。」

「そうですね。では早く行きましょう」

取り乱すココアに対し、千夜もあたふたしながら病院へ連れて行くように促す。
チノもそれに賛同した。

「ねぇ……ちょっと待ちなさいよ」

千夜の提案通りすぐにでも病院へ駆け出そうとするココアたちを制止したのはシャロであった。

「何?シャロちゃん?今は一刻も早くティッピーを病院に――」

ティッピーとお腹の仔の一大事だというのに何なのだと、ココアはらしくもない苛立ちの混じった声を発する。

「――ところであんこはどこに行ったのよ?」

「え?」

「あら?そういば……」

シャロに言われ皆は若干間の抜けた声をあげながら辺りを見回すが、そこにあんこの姿は見当たらなかった。

先ほど犬に頭から見事な体当たりを決め、そのまま勢いで上空へ投げ出された所までは確認できているのだが………

「あの……あれってもしかして……」

チノがプルプルと震えながら若干上ずった声で空を指差す。

皆がその指差された先へ視線を向け、そして息を飲む。

「カアーッ」

「・・・」

そこにあんこは確かに居た。

その背に漆黒の翼を生やし空を旋回してるあんこが………

………そんな訳はなく物の見事にカラスに体をワシ掴みにされながら宙を舞うあんこがそこには居た。

あんこは事態を把握していないのかと疑うほど全く微動だにしていなかった。

「ち、千夜ちゃん。今度はあんこが大変なことにー!!」

「あらあら。またあんこったら仕方ないわね」

千夜の服を引っ張りながらココアが再度取り乱すも、千夜はさも当たり前の光景を見るような反応しかしなかった。

「ちょっ、何をそんなに落ち着いてる。早く助けないと!!」

リゼもどんどん遠ざかっていくあんこを指差しながら慌てていたが、あんこはそんな彼女たちのことなどお構いなくカラスに捕獲されたまま悠然と空を舞う。
そして程なくしてその姿は完全に少女達の視界の外へと飛び去っていってしまった……。

その後、千夜は「あんこならきっと大丈夫だから、まずはティッピーを病院へ連れて行きましょう」と言ったものの放置することも出来ず
チノ、ココア、シャロは病院へ、リゼと千夜はあんこを追うという事で二手に分かれることとなった。

病院で診察を受けたティッピーは多少擦り傷がある程度で済んでいたため、軽い治療を受け帰宅をする事となった。
お腹の仔にもこの程度なら影響は無いとのことだ。

……だが………あんこはその後もついに見つける事は出来なかった。

そしてサプライズの結婚式も結局これらのドタバタと、新郎役のあんこの行方不明により当然ながら中止となってしまった。

チノもティッピーもこのまま有耶無耶となってしまえばいいのにと内心思ってはいたが、あんこの事もあるので今は黙っておくことにした。

――そして月日は流れ

あれからティッピーは無事に元気な3羽の仔ウサギを出産をした。

一羽は毛並みは父親のあんこそっくりで黒く、見た目は母親のティッピーとそっくりであった。
そしてもう二羽は逆にあんこそっくりな姿に、あんこの黒い毛並み部分はティッピーそっくりな綺麗な白い毛並、腹部をはじめ白い部分はあんこそっくりに黒々とした毛並であった。

ティッピーも最初は若干抵抗があったようだが、何だかんだで面倒をしっかりと見ており、三羽ともラビットハウスで元気にすくすくと育っていった。

そしてココアは仔ウサギたちが人が触れても問題が無い状態になるや否や連日飽きもせずに仔ウサギたちをもふもふしており、最近はそのあまりのもふもふ中毒っぷりにチノとリゼを呆れさせていた。

一方、あんこはというと……未だに行方不明状態であった。

流石にこんな事は初めてなのか千夜も心配をしているらしいのだが……
今現在チノの部屋で「これが貴方たちのパパなんですよ~」とあんこの人形を仔ウサギたちに与え、それと戯れる姿をココアと呑気に眺める姿を見ていると……
本当にあんこを心配しているのか、探す気があるのかには疑問を感じずにはいられなかった。

また、そのため今では甘兎庵店内の台座の上には代理として、現在仔ウサギたちによって齧られているあんこそっくりの人形が置かれていた。
以前、何故かラビットハウスのカウンターに置かれており、ティッピーが怯えるので封印していた物だったのだが、ココアがどこからか引っ張り出してきて千夜に与えたのである。
ちなみに常連のお客さんですら、その人形の前に置かれる探しウサギのチラシを見るまで、それが人形だと気付けた者はいないらしい。

帰り際、千夜を見送るため店の外へ出たチノとココアに対し

「チノちゃん。ココアちゃん。ティッピー。本当にごめんなさいね」
「父親のあんこが居ないせいで、この仔たちを皆に押し付けてしまって」

千夜はそう申し訳無さそうに二人へ頭を下げてきた。

「ううん。そんな事ないよ!」
「ねっ?チノちゃん」

「ええ、気にしないでください」

ココアは二羽のチビ白を両手に抱えながら笑顔で気にしないでという。
そして同意を求められたチノも軽く笑いそれに同意した。

本来なら何羽かは父親の居る宇治松家が引き取るべきなのかもしれないのだが、肝心のあんこも不在であり、三羽ともティッピーにとても懐いているため当面はこのままラビットハウスで育てる事となった。
チノの父親であるタカヒロもその事はあっさりと了承してくれた。
肝心のティッピーも今ではこの新たな子育ては満更でもないようであった。

ただし雰囲気までどことなくあんこそっくり一匹へは若干苦手意識を持っているようであり、それが僅かな不安でもあったが……
ただ、その仔ウサギは特にココアのお気に入りでもあったため恐らく大丈夫であろう。
最近は暇さえあれば常にその仔をもふもふし溺愛してる有様なのだから。

千夜の見送りが済み

「ココアさん。これから夕食の準備です」
「その仔たちは戻してきてください」

チノにそう言われココアも二羽を抱え居住区の奥へと消えていく。

その姿を見送りながらチノは

「本当にココアさんが来てから賑やかになりましたね」

やれやれと、だが、どこか嬉しそうにそう呟いた。


END

以上がCルートへ行った場合でした。

あんこがあの後どうなったか?その後ちゃんと帰ってきたのか?はご想像にお任せします。
あとノーマルと書きましたが……ココアの一人勝ちエンドな気がしてきました。

明日か明後日にはAルートを投稿します。
それで多分今度こそこのスレと話は終了となると思います。

それではもう少しお付き合いいただければ幸いです。


ご意見・ご感想・苦情をお待ちしております。

予定より投稿が遅れてしまい申し訳ありません。

最後のAルートです。

B・Cに比べると………かもしれませんが興味のある方はどうぞ。

リゼがこのままじゃ間に合わない――そう思うのとほぼ同時に、目の前を走るあんこはリゼへ道を空け、そしてそのまま急停止をした。
まるでリゼの心を読み、「これでもっと加速できるだろ?だから早くティッピーを助けろ」と言わんばかりの行動であった。

リゼにそんな事を思う余裕はなかったが、目の前の邪魔な物がなくなり加速出来るのは事実であった。
次の瞬間、リゼは地面を強く踏みしめ、そして一気に地を蹴った。

――だが

リゼが彼らの元へ辿り着くよりも早く、野犬はティッピーへ覆い被さり、鋭い牙をその純白の体へと突き立てた。
そしてそのまま続けて二度三度と噛み付く行為を行った所で、野犬はリゼの飛び蹴りにより盛大に吹き飛ばされる。
ヨロヨロと立ち上がった野犬はそのまま一目散に逃げていってしまった。

野犬が逃げ去ったのを確認し、視線を地面に転がるティッピーへと移す。

そこにはいつの間に追いついたのか、既にあんこが居り、横たわるティッピーをその前足で揺さ振っていた。
リゼはそんなあんこを無視し、すぐさまその場に転がっていたティッピーを抱えあげるも、その白い毛並みは所々滲み出る血で紅く染まっておりピクリとも動かない。

「オイッ!ティッピー!しっかりしろっ!ティッピー!」

その後

チノとココア、そして少し遅れ千夜とシャロが追いつくも、チノはティッピーの惨状を見てショックのあまりその場にへたり込んでしまう。

一刻を争うため、リゼはチノをココアとシャロに任せ、ティッピーを抱き上げてからすぐに自分によじ登り今も肩に乗っかっているあんこを千夜に退かせさせてから、再びすぐに病院へ向い駆け出した。

やがて、その後もずっと青ざめた顔のチノを励ますココア達にリゼから連絡が入り、一同はティッピーを担ぎ込んだ動物病院へと向うのであった。

治療を終えた医師からの宣告は残酷なものであり、助かるかは難しい所だそうである。

その言葉を聞いた直後、チノが無言で崩れ落ち、ココアも泣きじゃくっていた。

シャロもリゼもそんな二人にかける言葉が見つからずただ立ち尽くすことしか出来なかった。

皆の心に暗雲がたちこめる中、あんこは千夜の腕に抱かれながら、ただいつもの無表情な顔でそんな皆をジーっと見つめていた。

――
―――
――――その日も相変わらずあんこは無表情であった。
無表情のまま千夜の腕から降り、そしてトコトコと歩いてゆき……そして――

チュッ♥

パンッパンッパンッ!!

「おめでとーーー!!」

あんこがティッピーにキスをした瞬間、それまで静寂に包まれていた千夜の部屋がけたたましいクラッカーの音、そして皆の祝福の声で包まれる。

あんことティッピーの頭上へ紙吹雪が舞い落ちてくる。

「良かった。本当に良かったわね二人とも」

「うん。うん。」

ココアと千夜が嬉し涙で濡れた目を擦りながら二羽を見つめていた。
二人とも本当に幸せそうであった。

「ほら。チノちゃんもティッピーの事をしっかりとお祝いしてあげなくちゃ!」
「こんなにおめでたい事が続いてるんだから!」

部屋の片隅ではしゃぎあう皆を静かに見つめていたチノに気付いたココアはチノへと手を取りお祝いの中心へと戻っていった。

あの日から二週間が経っていた。

その後、ティッピーは奇跡的な回復をしてみせたのであった。

さらにお腹の仔も若干従来より遅くはなるが、このままなら無事に出産が出来るであろうとの事であり、医者も奇跡としか言いようがないと驚いていた。

そして今日ティッピーは無事に退院を許されたのであった。

「それではお世話になりました」

病院の先生に挨拶をし、チノはティッピーを収容したキャリーを抱きしめながら病院を後にした。

「手続きが思ったより随分早く終ってしまったので、結局ココアさんたちは間に合いませんでしたね」

ココアは千夜とあんこも連れて来ると言い甘兎庵へ向かったので、チノは手続きのため一人先に病院を訪れていたのだが思いのほか早くに済んでしまったのでまだココアたちの姿は無かった。

「今回は災難でしたね。でも無事で……助かって本当に良かったです。」
「おじいちゃん」

ココアたちを待つ間、久しぶりに祖父との会話をしようとキャリー内のティッピーへ対し、普段の彼女からは考えられないくらいの勢いでこの二週間のことを話し続けた。

「・・・」

「おじいちゃん?」

チノはここで異変に気付いた。
ティッピーがおじいちゃんが一度も一言も喋らない事に。

そしてその姿をまじまじと見つめると、その姿はティッピーそのものなのだが何かが違う。
……雰囲気が今までと違う。

「……この感じ………ティッピーがおじいちゃんになる前の感じ?」

チノは嫌な予感がし必死にティッピーへ語りかける

「おじいちゃん?何とか言ってください」

「・・・」

だが、目の前のティッピーは小さくかぶりを振るだけで、一言も言葉は返してはくれなかった。

「―――」

チノが絶句し目の前が真っ暗になっていくのと、ココアたちのチノを呼ぶ明るい声が聞こえたのはほぼ同時であった。

それから先のことはチノの頭には殆ど入ってこなかった。

ココアと千夜がいつの間にかキャリーを持っており、ティッピーへ笑顔でお祝いの言葉を送っていた。

「あんこったらガラにも無く照れちゃって」

あんこがキャリーの柵越しにティッピーと対面していた。

チノの意識が次にハッキリした時は甘兎庵でティッピーの退院祝いをするからとココアに手を引かれていた。

時折ココアと千夜の楽しそうな話し声が聞こえてくるもののチノは上の空であった。

――そして

「それじゃあ、ティッピーの退院祝いとあんことの結婚式を始めるわね」

「流石に前みたいにちゃんとした準備は出来なかったけど出産前には出来てよかったね、ティッピー」

盛大なクラッカーと歓声でチノの頭が次第にハッキリとしていった。

――ああ、やっぱりアレはもう「おじいちゃん」ではないのだ

あんこに迫られ、キスをされ、そして今ではあんなに体をもぞもぞと擦りつけているあんこに対してもされるがままの、いくら病み上がりとはいえ、ろくに反応を示さないティッピーを見ながらチノは理解をした。

――もう、おじいちゃんは……「居ない」……のだと。

それから数日後。

ティッピーは無事に元気な3羽の仔ウサギを出産することが出来た。

一羽は毛並みは父親のあんこそっくりで黒く、見た目は母親のティッピーとそっくりであった。
そしてもう二羽は逆にあんこそっくりな姿に、あんこの黒い毛並み部分はティッピーそっくりな綺麗な白い毛並、腹部をはじめ白い部分はあんこそっくりに黒々とした毛並であった。

三羽とも母親のティッピーと共にラビットハウスで元気にすくすくと育っていった。

時々千夜はあんこを連れ様子を見に来ていた。
その都度あんこはティッピーにじゃれつき、ティッピーも以前の様には逃げることもなく、傍から見れば仲の良い夫婦の様相を見せていた。

そして更に約一月半ほどが経ち、今日は三羽の内の一羽である黒い仔ウサギが父親の居る甘兎庵へと引き取られる日が来た。

「それじゃあ、この子は私たちが責任を持って育てるわね」

「はい。よろしくお願いします。千夜さん」

チノからチビ黒を受け取りながら千夜は笑顔でそう言った。

「それじゃあね。今度みんなで一緒に遊びに行くから」

ティッピーを頭に乗せ、両手に二羽の仔ウサギたちを抱えながら、ココアも無邪気な笑顔でそれを見送った。

「急に寂しくなっちゃたね」

「そうですね」

その日の仕事もいつも通りに終わり、チノの部屋でティッピーとそれにじゃれついているチビ白たちを眺めながらココアが漏らし、チノもそれに相槌を打つ。
ティッピーもチビ白たちもチビ黒が居なくなったことをあまり気に止めている様には見られず、いつも通りである。

「ココアさん。今日はもう休みたいので……すみませんが自分の部屋へ戻ってくれますか?」

いつもより大分早い時間なのと、まだ仔ウサギたちを見ていたいとココアは少し不満そうな顔をしたが、すぐに「うん。わかったよ」と言いながら部屋を出る準備を始めた。
そして持ち込んでいた私物を片付けている際に、足元に来たチビ白の片割れをひょいっと抱えティッピーの前へ降ろしながら「あの仔には今度のお休みにでも、みんなで一緒に会いに行こうね」と嬉しそうに笑いかけていた。

「それじゃあ、お休みチノちゃん」
「ティッピーとチビ白たちもまた明日ね」

笑顔で挨拶をしココアがチノの部屋を後にする。

部屋が静寂に包まれる。

視線をティッピーたちの下へ落すと、二羽のチビ白たちは遊び疲れたのか、いつの間にかティッピーの横で静かな寝息をたてておりティッピーもそれを静かに見守っていた。

「……おじいちゃん。」

チノはティッピーに向かい小さく呟く。

だがティッピーは以前のように言葉を返してはこない。

わずかにチノの方を見ても、すぐに視線を仔ウサギたちへと戻してしまう。

ティッピーはただのウサギへと戻ってしまったままであった。

もうチノへ語りかける事も、チノへ言葉を返す事もないのである。

今思えば「ティッピー」が本来なら死んでもおかしくない怪我から無事快復出来たのも、子を無事に産むことが出来たのも「彼」のおかげなのかもしれない。

こうなったのは「彼」の意思だったのか、それとも新たに産まれようとするモノの執着や力だったのか……それは誰にもわからない。

「…おじいちゃん……おじいちゃん。」

部屋にはチノのすすり泣く声だけがその後も小さく響いた。

「…全く……本当に最後まで勝手な奴だったな……親父は。」

親子だからなのか、同じ頃タカヒロもまたカウンターでそんな事をふと漏らしていた。

―エピローグ―

それから月日は過ぎ

甘兎庵へ引き取られたチビ黒は今ではあんこと共に台座に座り、看板親子うさぎとして客たちを和ませていた。

チビ白らもチノが思わず嫉妬してまうほどココアに可愛がられながら成長し、その人懐っこさも有り今ではラビットハウスを訪れる客たちにも可愛がられていた。

ただの兎になってしまったティッピーもまた我が子とともに平穏な時間を過ごしていた。

そして今日はティッピーとチビ白たちはチノたちに連れられて甘兎庵へと訪れていた。

久しぶりに夫婦親子で水入らずの時を過ごせる日なのである。

あんこはティッピーを確認するや否や子供たちの前にもかかわらず以前と変わらず飛び掛り求愛をするが、ティッピーはもう以前のように逃げたりはしなかった。

子供たちもその周りで久しぶりの再会を喜んでるのかじゃれあっている。

隣の部屋ではココアが今にもモフモフしたいと暴走しそうになりながらそれを眺め、チノがハラハラしながら更にそんなココアを見張っていた。

千夜も「あんなに人見知りで恥ずかしがり屋くんだったあんこがあんなに立派になって」と、まるで母親の様に微笑ましく見つめていた。

「……さようなら。おじいちゃん」

「ん?何か言った?チノちゃん」

「いいえ。なんでもありません」

優しい日差しが彼らを包み込む。

これからも平穏な時間だけがゆっくりと過ぎていくのであろう。



END

ハッピー?

ええハッピーですとも。
あんこが。ココアが。千夜が。

幸せと不幸は等価値なんだ。
誰もかれもが幸せになんてなれないんだよ。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

ご意見・ご感想・苦情をお待ちしております。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月10日 (金) 15:14:41   ID: 2kTkQpW9

これってタグにごちうさとか付いてないけど基準ってなんなんだ?

2 :  SS好きの774さん   2014年10月10日 (金) 15:15:51   ID: 2kTkQpW9

カテゴリか

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom