「何やってんだ、俺」 アイドルマスター (24)

「何やってんだ、俺」

今日は大事な仕事だというのに、俺は朝から寝坊した自分を情けなく思っていた

俺は音楽操作に関する仕事に勤めている

アイドルのライブ中、様々な曲を流したりするが、その音の管理などが、俺の主な仕事

今日は夕方からアイドルのライブがあり、俺に仕事が回ってきたわけだが、朝から寝坊して気合が足りない自分を思い、ため息がでる

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俺は支度を済ませると、今日の仕事場に向かう

…今日のライブは765プロと961プロか

チラシを見ながら俺は呟く

アイドルに関しては、何も知らないど素人なんだが、こういう仕事に勤めていると数々のアイドル達を目の当たりにする

今日はいいアイドル達だな、とか、まだまだ新米だな…と、音を操作しながら、それなりに俺も考えたりする


それも、一つの楽しみだ

今日はどんなアイドル達なんだろうな

俺は今日の仕事場用に用意してあるテントに入る

「おう、おはよう」

挨拶する時に、俺は勢い余ってテントの鉄に頭をぶつけた

…何やってんだ、俺

「おはようございます!」

俺の担当で働いている仕事仲間が、俺に挨拶を返す

「音の確認始めるぞ」

俺は自分の持ち場につくと、機械に手を入れた

………

こういう仕事をしていると楽しいものだな

やっぱり俺は音が好きなんだろう

そんなことを考えながら、俺は音の確認をする

テント内で小さく音を流し、それがステージまで繋がるか確認を…

その時、ふとある曲で手が止まった

「この曲はなんだ?」

「いいですよね、この曲…眠り姫ですよ」

近くにいた仲間が答える

「俺…765プロのファンなんですよ!」

「そうか…」

同じ仕事仲間がファンとは、少し興味深いな

俺は一通り音の確認を済ませると、時間を確認する

…もう、昼か

「午後はステージに音を繋げるぞ」

俺は昼飯用に持ってきたカップラーメンを取り出し、お湯を沸かす

「あっ……ちち…」

そのお湯を注ぐ時に、勢い余って手にお湯がかかってしまった

…何やってんだ、俺

昼飯を済ませた俺は、いよいよステージに音を繋げる作業に移る

「ちょっとこっちを手伝ってくれ」

俺は近くにいた仲間に呼びかけたりして、順調に作業を進める

…その途中で、声がかかった

「すいませーん…音が出ないんですけど」

「よーし……今向かう」

途中、ステージ側から声が入り、俺はそっちの方に足を運ぶ

こういうちょっとしたトラブルは手慣れたもんだ

長いこと仕事をやってきたから言えることだが

「この機械が少しおかしいんですけど…」

「…ふむ」

まだまだ新米には難しいか

そんなことを考えながら、俺はおかしいと言われている機械を、しゃがみ込んで調べる

なるほど……ここが少しずれてるから音が出ないんだな

俺は黙々と作業を続け、修理する

音の関係の仕事に勤めていて、こういうことは手慣れたもんだ

朝から寝坊したりするが、仕事に関しては、それなりに意識してるつもりだからな


「…よし、大丈夫だ」


俺は作業を終え、顔を上げる

「っ……と」

立ち上がる時に頭をぶつけた

…そういえば、今、狭い隙間に顔をうずくめて作業をしているんだったな

何やってんだ…俺

俺は頭を下げる新米を背景に、元居たテントに足を戻す

「あ…向こう終わりましたか?」

テントに戻ると、そこにいた仲間が俺に声をかける

「ああ…今から音を流すぞ」

俺は持ち場につくと、コンピューターで入力を始め、音を流した

……

?~~~~

よし、大丈夫そうだな

俺は音楽を止め、全員にOKサインを出す

……それと同時に遠くからアイドル達がやってくるのが目に見えた

あれが、仲間が言ってた765プロか…

別の方から961プロの人達も来るのが見える

「……ふんっ」

今日は少し興味深いな

俺は小さく気合を入れた

………………

時が経つと共に会場に客が集まり、周りが賑やかになり始めた頃、

俺は仕事仲間を全員集め、流れや曲の順番の確認など、最終確認をする

「765プロのことなら、俺に任せてください」

曲の順番はばっちりですよ、と言う仲間に俺は頷く

まったく……いつもより気合入れおって

「じゃあ、そこはお前が………」

そうやって話をしている時に、それぞれの事務所のプロデューサーから挨拶が来た

「765プロです…今日はよろしくお願いします」

「ふんっ……黒井だ」

「あっ…どうも」

私は二人に挨拶を返す

…なるほど、こうやって見ると…ここの事務所はそれぞれオーラがあるな

私は二人の姿を交互に見る

「では…俺はこれで」

「ふんっ」

自分の持ち場に歩いていく二人を見て、俺は腕に力が入る

なんだ……、今日のアイドル達は面白いかもしれないぞ

「よーし、そろそろ始まるぞ…お前達も持ち場につけ」

「はい…!」

うきうきしながら歩いていく仲間や、

目の前の事に真剣になっている新米を見て、俺はその場に1人残り、ライブに向けて最終確認を始める


……ライブは楽しみだが、仕事は別だ

ミスが無いようにしないとな

俺は念入りにミスが無いかチェックをする

……よし、いいな


………

………………


そうして、確認を終えた時だった





「キミ………ちょっと」



図太く低い声が、俺の後ろで響くのが聞こえた

…この声は…さっきの

「はい……あぁっ」


後ろを振り返ると、そこにはさっき挨拶に来た961プロの人が立っていた

……何か言い忘れたことでも?

いやでも、アイドル事務所のプロデューサーが俺にわざわざ言いに来ることなんて…そうそうない

何か用が……

それに、なにかさっきと様子が…

俺の前に立っていた男は、真面目な顔で言う


「頼みがあるんだがねぇ……」

そう言う男の口元が、にやりと歪む

なんだ……この凄いオーラは

さっきはここまで感じなかったんだが

俺は少し不気味に感じながらも、聞く

「はい……なん、でしょう」

「なに…簡単なことさ」

男は、圧倒した空気を纏いながら俺に、こう言った


………


「私の所のライブが終わった後の、如月千早……そこで音を止めてくれればいい」





「………えっ」


俺には、目の前の人物の言っていることが分からなかった

今からライブが始まるという時に、一体何を…


「…ふんっ、プログラムを見てみるがいい」

そういって男は、俺の横に歩み寄って来る

「最初に我が事務所のアイドル達のライブがあるだろう…如月千早はその次だ、この時に音が出ないようにすればいいのだよ」

男は、そう言ってコンピューターを指差す

「……えぇ」

俺はその指を差されたコンピューターを眺め、その曲名を追う

「……これは…」

その曲名は、俺と仕事仲間で話していた時のもの……眠り姫だった

なんだ……今、何が起きてるんだ

音を止める……?

「その……つまり、どういう意味ですか?」

男は俺の顔を見ると、きっぱりと言い放つ


「そのままの意味なんだが……アクシデントに見せかけるのだよ」

「アクシ……デント…」


「キミは黙って私の言うことを聞けばいい…アクシデントに見せかけて765プロにそれを伝え、曲を飛ばせ」

男は、答える暇も与えないような口ぶりで、話を進めてくる

「じょ…冗談はやめてください…何故そんなことを…」

「ふむ…」

すると男は、落ちついた口ぶりになり、言った


「…私を誰だと思っている」

「961プロのプロデューサー……私の事務所の名前くらいは知っているだろう?」

「私くらいの事務所になると、間違ってもライブに失敗は許されない……キミくらいになれば、話の重さも分かると思うが」

そう、男は言う

アイドルのことはよく分からないが…

アイドル事務所にとって、ライブはこれ以上にないほど重要なものだろう

俺は、何か裏がありそうな話に耳を傾けた


「それと…この曲と何の関係が…」

「ふんっ…」

男は真面目な顔で、こう…話す


「如月千早を知ってるか?」

「如月……この曲を歌うアイドルのことでしょうか」

「…そうだ」

「実はこの如月千早には黒い噂がある」

「……弟をわざと見殺しにした、という話があり…最近問題になってるのだが…」

俺は男の言ってることに、耳を疑った

「み……見殺し?」

「そんなアイドルが同じステージに立つということは、私達も困る…分かるな?」

「………っ」

こんな時に嘘をついたりはしないはずだ

この男の言ってる、アイドルが問題になっているという話は…本当のことなんだろう

……でも、さっき挨拶の時に顔を合わせた765プロさんを見る限り…とてもそんな悪い事務所には思えない

それに……一方的な都合でアクシデントなんて起こすわけには…

…男は、両手を広げ、言う

「ふんっ…ただとは言わん…キミにはそれなりの額をやろう」


その男の目からは、かなりの額を感じた

「音を止めたところで、キミには何の問題もかかることはない…心配するな」

「寧ろ…私に断った方が今後、キミがどうなるか分からんがな…ククッ」

……何てものに遭遇してしまったんだ、俺は

これは…明らかにこの男も怪しいじゃないか

でも…従えば、かなりの額が手に入る

これほど権力がありそうな人に断れば、何をされるか…

俺は…

「ですが…」

「………」

黙っていた男は、私に背を向けて、歩いていく

「もう時間はない…急いだ方がいいぞ」

そう言って、笑い声と共に男は去って行った

長年この仕事をやってきていろいろなトラブルにあってきたが、

こんなことは初めてだ…

それに、こんな大事な仕事で嘘を付くなど…

俺は、765プロのテントを開け、さっき挨拶に来た人を呼んだ


「あの…765プロさん」

「…はい……あっ…さっきの」

その人は、見覚えのあるという顔をした後、俺の顔を見て、真面目な顔になる

「…どうかしたんですか?」

「それが…ちょっと問題が」

俺の言うことに、その人はシワを寄せる

…俺は今何をしようと

「楽曲データに不具合がでまして…」

「えっ…」

「楽曲データに不具合!?」

目を丸くさせ、素で驚く765プロのプロデューサーに、俺は目を合わせられず、声が小さくなる

「すみません…なんでこうなったのか…」

奥で不安そうに俺を見つめるアイドル達の視線が、とても痛い

何やってんだ…俺

何がそれなりには仕事に意識がある…だ

俺の意識とは…こんなものだったのか?


「時間もないですから…このままだと、飛ばす方向になると思いますが…」

「え!?…ちょっと待ってください!」

必死で俺を止めるその人に、俺も必死になる

「いやあの……今から全体のプログラムを組み直せないので…」


「あぁ…じゃあこれを」

その時、俺はそのプロデューサーから渡されたものに、言葉を失った

………

「音源は持って来てますから、これで対処してください!」

手に持っているCDが入ったパック

これじゃあ楽曲データに不具合という嘘も通せないな…

………

俺は、自分の嘘の下手さを実感した

「あぁ…はい、一応やってみますが…」


だが…幸い音の管理をするのは俺だ

間に合わないということにすれば…

その時、俺は信じられない言葉を聞いた

「俺もいきます!」

……えぇ…?



「じゃあ急ぎましょう」

そう言って俺についてくるプロデューサーに、俺は精一杯の反抗をする

ここで対処できるって言ったら終わりだ

……だが…

「あぁ…でも、間に合うかどうか」

「この音源をなんとかしてデータに組み込めばできるはずです!」

そう言って、プロデューサーは必死に俺に訴える

………

こんなに必死になるようなプロデューサーがいる事務所に

本当にあの男の言うようなアイドルがいるのだろうか

俺はテントに走りながら考えた

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