小野田「強虫ペダル・IH編」(130)

※小野田「強虫ペダル」の続きに当たります。
 前スレ:小野田「強虫ペダル」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1410175262/)

 ワリと不定期更新。
 自転車談義は荒れる元なのであまりカッカせずによろ。間違ってたらお叱り下さい。


・箱根学園自転車部部室


真波「…………」


 ガチャッ


福富「む………帰ってきていたのか、真波」

荒北「おォ、ソーホクの偵察どうだった?」

東堂「スゴかったろ、巻ちゃんの登り」

真波「あの…………先輩方」


 普段から笑みを絶やさぬ真波が、珍しく色の消えた表情で告げた。


真波「僕ら、インハイ勝てないかもしれません」

福富「」

荒北「」

東堂「」


・伊豆サイクルスポーツセンター(CSC)

 時は総北高校の合宿三日目の早朝に遡るッ!!

 初夏の早朝。林に囲まれたCSCの空気は深々と澄み渡っていた。


真波「う~~偵察偵察」


 今 偵察を求めて伊豆CSCに訪れている少年は箱根学園・自転車部に所属するごく一般的な男の子。

 強いて違うところをあげるとすれば坂を上ると嬉しくなっちまうってことかナ……名前は真波山岳。

 そんなわけでCSCに潜入したのだ。

 ふと見ると薄靄の中に緩やかなれど美しく稜線を描く傾斜があったのだ。

 『ウホッ! イイ坂……!』と思ったかは定かではないが、真波は偵察も忘れて今日も今日とてクライムを始めた。

 そんな時だ。



 ヌスーマレターカコヲサガシツーヅケテー



真波「ん? なんだろう? ………歌声?」


 オレハーサマヨウーミシラヌーマチヲー


真波(なんだッ………この全身が粟立ち、むせ返るようなプレッシャーは……!?)ゾゾゾゾッ


 振り返った先、それはいた。


小野田「炎の臭い染みついて………」クルクルクル


 早朝の伊豆CSCで~



小野田「む せ る」ニタァ



 化け物と~



真波「」



 出会ったー。(CV:森本レオ)


 『妖怪ペダル回し』小野田坂道の朝は早い。

 彼の一日は坂を上ることに始まり、坂を上ることに終わる。

 物心つき、自転車と言うものを知ってから欠かさず続けて来た、日課にも似た修行。

 オタク趣味に目覚めた後、最終的にたどり着いたのは、聖地(アキバ)であった。

 ささやかな小遣いを握りしめ、聖地アキバへ向かって感謝を込めて、唄を歌い、ペダルを回す。

 歌った曲数は数万曲にも上り、回したペダルの数に至ってはもはや数えきれない。

 ただひたすらにそれを繰り返すだけの日々が続く中、ある時、異変に気付く。


 ―――――自宅からアキバを往復しても、日が暮れていない。


 代わりに、アキバで遊行する時間が増えた。



真波「」


 真波は、この少年を知っている。二日前に、車酔いでダウンしていたところをボトルを渡して助けた少年であった。


小野田「おや。君は確か真波君…………」

真波「や、やぁ、二日ぶりだね、えっと………」

小野田「先日はドリンクをありがとう。無様なところをお見せしてしまったね。車はちょっと苦手なんだよ………自分で回せない車輪というのはどうも、ね」

真波(こ、これが、先日の彼と、ど、同一人物だっていうのか………ロードバイクに乗っただけでこれほどまでに雰囲気が変わるのか………!?)


 こち亀の本田のような男である。


小野田「あの時はいっぱいいっぱいだったから本当に助かったよ。ところでそのバイク…………LOOK595だね? 素晴らしい名車だよ」

真波「あ、う、うん! 分かるかい?」

小野田「もちろん(高級バイクだ)」ニコリ


 ロードバイクはメーカーごとに値段の差はあれど、入れ込めば総じて金がかかるものである。

 その中でもフランス生まれのカーボンの老舗LOOKのバイクは特に金のかかるバイクである。それも頭おかしいレベルで。詳細を書くとスレが半分埋まる上に恐ろしく荒れるため割愛。

 少なくともいち高校生が小遣いやバイトでどうこうできる範疇を遥かに超えている。


 真波の運命の歯車が狂いだしたのは、この瞬間であった。

 妖怪は人の心が分からない。

 だが妖怪は、人が金持ちかどうかは理解する。

 そしてそれをどのように己の利益と愉悦につなぐか、それを考えることに長じていた。


小野田(真波山岳とか言ったな…………後で調べさせるか。二日前のことを思い出してみると、なかなか面白いことも言っていた)クククククク


真波「君のバイクはとんでもなくいいものだね」

小野田「分かるかい」

真波「BMC・SLR-01マイヨジョーヌ・イエロー………エヴァンスモデル。世界限定141台。日本には7台しか輸入されなかった超レアモノだ」

小野田「ふふ、ホイールとハブはゴキソのスーパークライマー(※1)さ」

真波(ガチ装備だよオイ………)ゴクリ



(※1)目ん玉飛び出るぐらいお高い。この二つの合計金額だけで入門用のロードバイクなら十台は買えるというキ○ガイ価格。


真波「す、凄いね」アセアセ

小野田「なぁに、貰いものさ」フフフ

真波「も、貰い物………?(フレーム・コンポ・ホイール・ハブの総額で300万は軽くトぶんだけどそれ)」

小野田「練習で使い潰すけどね。いくら高性能だろうがなんだろうが、使わなければ意味はない」

真波「そ、そうかい」

小野田「そしてまた貰う」

真波「」


 妖怪にとって奪うことは貰うことと同義であった。

 チャリネット巻島の経済力はかなりのものである。

 絞りつくすっ……カラッカラのっ……砂になるまでっ……!!

 出ろォ、もう一滴。


真波「し、しかし驚いたよ。君が総北高校の自転車部だったなんて」

小野田「今日ここへ来たのは偵察かい? 箱根学園は素晴らしい走りをする選手ばかりだと聞いているよ」

真波「そ、そんなところかな。総北にはとても面白い登りをする人がいるって聞いて、それで」

小野田「成程(巻島か。面白い登りといえばヤツだな)」


巻島『ゼヒュー、ゼヒュー、ゼヒュー………』フラフラ

小野田『巻島先輩はすごいなぁ。ピークスパイダー(笑)。ぼくにはとてもできない』クルクルクルクル

巻島『ハァハァ、ゲッ、ガフッ………ッハァ………』ゼェゼェ

小野田『巻島先輩はかっこいいなぁ。そんな無駄にバイクを左右に振って。ぼくにはとてもできない』クルクルクルクル

巻島(も、もうイヤッショ………これで何十回目だ、坂登るの………コイツ、常にケツに張り付いて………ただただオレを褒めて………)ビクビク

小野田『本当に巻島さんはすごいなあ。僕なんてついていくだけで精いっぱいだー(棒)』クルクルクルクル

巻島(怖いよぉ………)ポロポロ

小野田『巻島さァん…………ちょっと、僕これが欲しいなぁー。えっ、買ってくれる!?(驚愕) すごいなー、あこがれちゃうなー』ニコニコ

巻島(うっ、ううっ、ふぐっ、えぐっ………)ポロポロ


小野田「ク、クククク……(ああ、確かに面白い登りをする奴はいる。道化という意味で)」


真波「ど、どうしたの?(笑い顔コエェ)」ビクビク

小野田「いや、なに………君ほどの乗り手を偵察に回すとは、箱根学園というのは本当に層が厚い。喰らいがいの………もとい、挑みがいのあるチームだと思ったら、ついね」

真波「…………そ、そう。君もインハイ出るの?」

小野田「出ないとでも?」ニタァ

真波「ですよねー(彼が補欠とかだったらどんだけ化け物まみれだって話だよ総北。うわぁー、心底帰りてぇー)」

小野田「坂が好きかい?」クルクル

真波「え、あ……う、うん。好きだよ。君も?」

小野田「僕の住処さ、上り坂は」

真波「―――――」


 ひょっとしたらそれは小野田一流の冗談なのかもしれなかった。しかし、真波にはとても笑えなかった。

 過言はない。驕りではない。

 先ほどの小野田の走りは尋常なるものではないと感じていた。

 超高速のハイケイデンスにして、パワーロスのない完璧なペダリングは、往年のアームストロングを彷彿とさせるほどにスムーズで、滑るように坂道を上ってきた。

 機材の違いなど、些細なことだ。元より最高性能を発揮するバイクであろうと、乗り手がヘボであれば入門用バイクに乗っても大差はない。


 ――――この子は、強い。

 小野田から得体のしれない恐怖を感じてはいたが、真波の心中にあるものはそれだけではない。

 クライマーとして彼と競ってみたいという欲求がふつふつと湧き上がってきた。


小野田「成程。君も坂が好きという言葉に偽りはないようだね」ニコリ


 真波の視線からそれを感じ取る妖怪。


小野田「ひと勝負………するかい? あの坂の上の建物まで」

真波「ッ――――――望む、ところだよ」

小野田(かかった)ニヤァ


 今日一番の悪鬼スマイルが炸裂した。


小野田「まあ、ただ勝負するというのもなんだ、味気ない………フフ、一つ賭けをしよう」

真波「賭け?」

小野田「真波くんが勝ったら、僕は君にもらったボトルを返そう。このバイクも君にあげる」


真波「えっ、そ、そんな。それにボトルはもうキミのもんだし、そんな高価なバイク………」アセアセ

小野田「僕が勝ったら―――――君の大切にしているものを、一つ貰うことにする」

真波「オレが大切にしているもの………? このバイクはダメだよ、あげられない」

小野田「フフ、そんな大層な物じゃあないよ。君が勝てばなんの問題もないことだ。走る前から負ける気かい?」

真波「む」カチン


 あからさまな挑発であったが、真波の勝負魂に火をつける一言であった。


真波「分かった。その条件でいいよ。それじゃ―――――」

小野田「尋常に」

真波「勝負だッ!!」ギュオンッ

小野田「―――――!」



 先行したのは真波。

 この後、真波は坂に住む妖怪の恐ろしさを知ることとなる。

※短いけど今日はこんなもん。

 また書き溜めたら投下します。

 怒れる友人の御霊を鎮めねばならぬため、彼の満足するSSを書かねばならぬ………全ては死にたくないがため。


真波(激坂含めつづら折り約一キロ。しょっぱなから仕掛けていく!)


 軽快なダンシング(立ちこぎ)で、坂道を滑るように登っていく真波。

 いっそ優雅ですらあるその走りに、後ろにつく小野田は、改めて真波の確かな経験とセンスを感じ取っていた。


小野田(ギアの歯数と両足の動きから察するに、最初からほぼ全開の速度か………成程。激坂を含むコースとはいえ、精々が一キロ程度の距離。ペース配分は不要と判断したか)


 シッティングのまま、五メートルほどの距離を置いて追従する小野田は、その後姿を見ながら考える。


小野田(フム、五メートルの差を置いたまま、真波君のリズムが安定した。どれ、試してみるか)


 妖怪の両脚が回転数を上げ、加速する。

 しかし、彼我の距離は縮まらない。小野田の仕掛ける動きを即座に察知した真波もまた、僅かにケイデンスを上げていた。


小野田(ほう………速いな。速い男だ、真波山岳。立ち上がりの反応、ペダリングスキル、ライン取り、ダンシングのフォーム、全てパーフェクトだ。戦術眼も悪くない。読めたよ、君の狙いが)


 勘違いしている者がいるが、自転車競技は最高速度どうこうで勝敗が決まるスポーツではない。

 レースにおける最重要課題はペース配分と、駆け引き。


 今回は短距離レース、それも純粋なクライムバトルのため、ペース配分への配慮は不要。ド素人ならば勝手にスタミナ切れで自滅するだろうが、この真波山岳においてそれはない。となると駆け引きだけが重要になる。

 小野田が速度を上げたとき、真波も合わせて速度を上げ、距離感を維持した。これの意味するところは、つまり――――。


真波(このまま、この距離を維持する!)

小野田(成程………こちらが速度を上げれば合わせて向こうも加速、落とせば一気に差を広げる腹積もりか。このままの距離を維持したまま、ゴールを獲ろうという算段だ。実にシンプルだ)


 小野田が距離を詰めようとすれば離す。緩めればすぐに置き去りにして千切る。

 仮に追いつかれたとしても先行者の特権であるブロックがある。こちらのリズムを崩し、疲弊させ、ラスト200メートルを切ったところで全力ダンシング。勝者は真波山岳だ。

 疲弊した後続者はそれについていくことが敵わず、力尽きる。王道の戦略であった。


小野田(………素晴らしい。楽しい! こんなにも楽しいロードレースは初めてだ。真波山岳、君をカテゴリA以上のクライマーと認識する)


 真波の判断は正しい。

 ただし――――人間を相手にした場合ならば、という枕詞が付く。


小野田(では教育してやろう―――――妖怪ペダル回しがいかなる者であるかを)


 この妖怪は、前に誰かが走っていると張り付こうとする性質を持つ。


 そういう化け物だ。


小野田「すごいや、速いね、真波君!」ハァハァ

真波(彼も速い。けど、オレについてくるのがやっとって感じだ)


 小野田の様子にしばし気勢を緩める真波。

 つづら折りのカーブに差し掛かったため一時視線を前へと戻す。

 その瞬間の事であった。



小野田「……………ケイデンス、プラス30」ギャルルルルルッ

真波「!?」


 僅か一秒弱の出来事であった。

 真波が振り返った先、タイヤ間距離僅か十センチの位置に、小野田のロードバイクが走っている。


真波「ッ!?(く、くっつかれた!? 嘘でしょ!? ちょっと目を離しただけで?!)」

小野田(真波君、敗因は三つある。一つ目、僕はこの三日間で、このコースを熟知している。一方で、君はこのコースが初見であること。僕はもう目をつむってもこのコースを走り切れるが、君はそうじゃない。前を見ないと走れない)


真波「ック!!(ッ、彼の呼吸が戻ってる! ブラフ!? クソ、こんな使い古された手でッ!)」クンッ

小野田(フム、左右に振って揺さぶりをかけようとしているな。だが)クイクイッ

真波「ッ………!!(こっちのライン取りが、ことごとく読まれてる!? なんで!?)」

小野田「なんでって顔をしてるね? どうしたんだい、真波君―――――笑えよ」ニィィ

真波「うッ………!?(だ、ダメだ。ヘタに大きくフェイント取ったら、すぐ抜き去られる!! うかつだった!!)」

小野田(敗因その二。君のクライマーとしての才は抜群だ。ほぼ無意識で最適のコースを選択する。このコースはほぼ初見だろうに畏れ入る。だが、完璧だから、実に読み易い)

真波「はあっ………はあっ………」チラッ、チラッ

小野田(先頭を行く者は、誰も抜かなくても良いという特権を有するが、変わりに一つの恐怖を強いられる。抜き去られるかもしれないという恐怖だ)

真波「ッ!?(なんで、なんで!? どうして!?)」

小野田(もう気づいたか。やはり天才だよ君は。ウチのデクどもとはケタが違う)クックック


 真波は内心で焦っていた。

 真波がどんなフェイントをかけても、緩急をつけても、小野田は機敏に察知する。十センチというタイヤ間距離が一切縮まることも広がることもないのだ。

 僅か数回のやり取りではあったが、暖簾に腕押しな小野田の対応に、真波は小野田の実力を見誤っていたことを察したのである。


小野田(才能におぼれたか、真波山岳)


真波(はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………何で、オレ、こんな、呼吸が、乱れて、るんだ?)ハァハァ

小野田(それは後ろにベッタリ張り付かれていることへの焦りと、いつ僕が仕掛けるかわからない恐怖による疲労だよ。何より、坂道ではいささか効果が薄いが、僕は君を風よけにしている。同じペースでも体力が温存できるのは当然の事)

真波(どうして、どうして、こんなっ………知らないっ、こんな疲れ、オレは知らないッ………)フゥフゥ

小野田(ボクシングでは空振りが最も体力を消耗すると言う。今までの君は何度僕にフェイントを仕掛けた? 何度空振った? 今までは相手がハマッて勝てて来たんだろう。まだ隠し玉はいくつかあるかい? それを出せるタイミングではないと見たが)フフフフ

真波(く、くそ、風が………風さえ、追い風さえ、吹いてくれれば………)ゼェゼェ

小野田(残り二百メートルか………じゃあ、そろそろ終わりにしよう)クルクルクルクルクル


 更に小野田のケイデンスが三十回転上がる。

 激烈たる回転の上昇に比例し、バイクの速度が殺人的に加速する。


真波「ッ!(来たッ!! ここを抑えて、オレが先行――――!?)」

小野田「ククク………(動きたいよな? でもできない。どうしてだと思う?)」ニヤァ

真波「ッ!?(う、嘘だ、ろ………まだ一キロと走ってないのに、どうして、足が、足が、震えて………)」

小野田(君の足は売り切れかかっている。君の焦りと動揺に付け込ませてもらった。張り付いている間、少しずつ君のリズムを崩していたことに、気づいていなかったのかい?)ギュルギュルギュルギュル

真波「っああ!?」


小野田「抜いたよ、真波君―――――勝負だ」クルクルクルクル

真波「っっっつああああああああああああああ!!!」ギュゥンッ


 喰らいつかんと、真波も意地でペダルを回す。だが、距離が縮まらない。じわじわと離されていく。


真波「―――――ッ」


 初めて小野田を背後からその視界に収めた真波は、悟る。

 ――――バイクコントロールが、尋常じゃない。

 路肩の排水路の溝すら滑るように走り抜けるほどのバイクコントロール。

 最も重要となるのは、その目だ。

 どこをどう走るかを瞬時に判断し、通るべきコースを速やかに手足へと伝達・実行させる悪魔じみた技能。

 その技術を突き詰め、極めた果てにあるのが小野田坂道が妖怪たる由縁。

 妖怪の武器は、おぞましいほどに速いペダリングスキルのみに非ず。

 妖怪には、人間の友達がいない。

 身の回りには人間ばかり。心許せるのは同じ妖怪である母のみであった。


 妖怪とて寂しさは感じる。小野田坂道は、人間の友達が欲しかった。

 故に、人を観察した。

 オタク趣味を共有できる友が欲しい。鬼の泣き事めいた渇望ゆえか、小野田は自然と他人によく目を配った。誰が何をしてるとか、誰が怒ってる、喜んでる、といった感情の移り行きを、熱心に観察した。

 いつか、僕も人間になれるのではないかと、そう願ってのことだった。

 いつの日か―――――妖怪は人間観察を呼吸のように行うようになっていた。

 相手の視線の動きから内心を推し量り、その耳は相手の呼吸音から心臓の鼓動までもを聞き分け、嗅覚は汗のにおいをかぎ取り、体調の良し悪しや感情の推移をも察知する。

 妖怪の持つ味覚を除いた五感は、その全てが『観察』に用いられていた。

 ペダルを回す両足の筋肉の僅かな硬直から、真波の焦りを。

 呼吸音からは、当惑と疲労感を。

 ホンの僅かな頭部や指先の動きが、仕掛けるタイミングを。

 全て、小野田に筒抜けであった。

 いわゆる『神の目』と呼ばれる、絶対知覚技能が、小野田には備わっていたのである。


 そして彼は――――周囲から敬遠された。ますます人外離れしたスキルを身に着けた彼は、人間にとってはもう単なる化け物であった。


 まるで心を読んだかのような小野田の言動に、周囲が気味悪がるのは当然であり、オタクじゃなくてもお近づきになりたくない人として認定されてしまったのである。


小野田(まさか、こんなところで僕の忌々しいスキルが役立つ日が来るとはね)フッ


 内心複雑な気分であったが、そんなわけで真波の動きは手に取るように理解していた。


小野田(さて、真波山岳―――――君の敗因その三だ)

小野田「楽しいなァ!? 真波くゥン!? 自転車は! 坂道は!! 本当に楽しい!!」クルクルクルクル

真波「っ、あっ、ぐぅううううう!!」

小野田「いいぞ! まだあきらめてないって顔だ! 君は自転車への愛がある……才能がある……しかし、僕には勝てない。何故ならば」

真波「っがあああああああああああ!!」グルグルグルグル


小野田「凌辱がないでしょッッッ!!!」ギャルギャルギャルギャルギャルッ


真波「………ッ!?」


 尋常ならざるケイデンス。斜度20%はあろうかという激坂において、およそ160回転。人間業ではなかった。見る見るうちに、真波を千切っていく。


小野田(君の最大の敗因は、僕の実力を見誤ったこと―――――これに尽きる。初見の相手に先行するのは、必ずしも良い結果に繋がるとは限らんのだよ。後ろを行く者は――――前を行く者をじっくりと観察できるんだから………)ニタァァア

真波「ッ、クソオオオオオオオオオッ!」



……
………

真波「…………以上が、偵察報告です」

福富「……それほどのクライマーが、総北に入ったか」

荒北「テメェを軽く一蹴たァな。ハッ、ったく面倒臭ェ」

東堂「ッ、そりゃ厄介だ。だがしかぁし! それならオレは安心して巻ちゃんと勝負ができる! 燃えてくるだろ真波! オマエにもついにそういう相手が見つかったんだ!!」

真波「ええ………ですが、今のオレじゃ、彼には………小野田坂道くんには、勝てない。東堂さん、オレを鍛えてください。お願いします」ペコリ

荒北「ッ!(遅刻魔で何考えてんのか分からねえ不思議チャンのコイツが、頭下げただァ?)」

東堂「いいとも!! そうかそうか、総北は万全かッ!! ならばついてこい、真波ッ!! IHに向けて調整のスパートだ!!」

新開「IH前にヘバるなよ、尽八」

東堂「ハッハッハ、心配するな新開よ! さあついてこい真波! 女子人気はこの際置いておくとして、この山神・東堂のスキルをオマエに叩き込んでやろう!!」

真波「ッ、ハイ!!!」


真波(…………)


真波(オレは、負けた。だけど―――――)


………
……



真波『き、君の、名前は………?』ゼェゼェ

小野田『小野田坂道』

真波『小野田………さかみち。ハ、ハハ、ハハハハ! 最っ高の名前じゃないか!!』

小野田『僕もそう思う。…………IHで会おう、真波君。今度は箱根学園のレギュラージャージを着た君と、また山で闘り合いたい』

小野田(尤も、今の君じゃ百回やって百回僕が勝つけれど………枷の外れた君とやりたいものだ。なぁに、すぐだ。すぐに自由にしてあげるよ)

小野田『次は、勝利の栄光を賭けて』

真波『ッ………うん!! 次は、負けないよ!!』


真波「――――ああ、そうだよ。次こそ、絶対にオレが勝つ! 最後の一滴まで絞りつくして、その上でオレが、一センチでも前を行く!!」


 後に『ペダル天狗』と呼ばれる妖怪がまだ人間だった頃の話である。


……
………


・総北高校・自転車部部室


 一方その頃の妖怪ペダル回しはといえば。


小野田「ねえ、鳴子君」

鳴子「」ビクッ

小野田「山、登ろう?」

鳴子「え………?」

小野田「君には登りの才能があるよ! 間違いない。スプリンター鳴子章吉は、今日で死んだ。粉みじんだ。これからの君はオールラウンダー鳴子章吉として生まれ変わる」

鳴子「そ、そう言うてもな。ワイは浪速のスピードマン、鳴子章吉やさかい。直線に生き、直線で死ぬ男や。登りはちょっと」

小野田「ああ、ごめんごめん。そういう意味じゃないんだ」

鳴子「え?」

小野田「拒否権なんざねえんだよ。つべこべ抜かしてねえで登れ。登りができねえなら、てめえは箱根の山ン中で切り捨ててくぞ」

鳴子「」


 拒否すれば殺す。そんな目をしていたという。


 鳴子章吉。インターハイ直前に、まさかのオールラウンダーに転向。

 小野田は惜しげもなくそのペダリングスキルを鳴子に伝授するのであった。


 ~裏門・激坂~


小野田「登りはリズムとカカトの使い方でいくらでも楽になるんだよ。僕らみたいな小柄なのがパワークライムとかすぐに体力使い果たして落ちるだけだろJK。『軽い』と感じるギアで、カカトとペダリングを意識してごらん」

鳴子「ホ、ホンマや……全然違う……(小野田くんってワイと同じ身長なのに二倍にも三倍にもデカく見えるんやけどな)」クルクル

小野田「違う。前傾姿勢になりすぎ。もっと上半身上げて力を抜いて」クルクル

鳴子「こ、こうか?」フラッ

小野田「下を見ない。アゴは引かない。カカトは下げない。遠くを見て。路面の状況を確認。基本基本基本」

鳴子「お、おう(なしてロード歴二ヶ月未満の小野田君に教わっとるんやワイ……)」

小野田「斜度を意識して、リズム良く。僕の動きをトレースするんだ」クルクル

鳴子「お、お、お!?(う、ウソやろ………つ、ついて行ける!? 本気じゃないにせよ、上り坂で小野田くんについて行けとる!!? マジか!?)」クルクル

小野田「でしょ? 重ギアで登る必要なんかない。っていうか重ギアで登るとか馬鹿のやることだよJK。短い坂やレース終盤・ゴール間際ならそれもアリかもしれないけど、レースの序盤中盤で見せるようなもんじゃない。長期的に見ればスタミナと筋力を無駄に消費するだけの無意味な行為だ。スタミナはともかく、疲労した筋肉は早々回復しないんだよ? アホなの? 死ぬの?」

鳴子(アカン。ぐうの音も出んわ。重ギアでブン回すのは後先考えずに済む勝負どころだけ。考えてみれば当たり前やな)

小野田「羽根(笑) 上り坂で重ギアとかwwwwwバカスwwwww天使とかwwwww頭沸いてんじゃねえのwwwww」


 鳴子章吉。インターハイ直前に、まさかのオールラウンダーに転向。

 小野田は惜しげもなくそのペダリングスキルを鳴子に伝授するのであった。


 ~裏門・激坂~


小野田「登りはリズムとカカトの使い方でいくらでも楽になるんだよ。僕らみたいな小柄なのがパワークライムとかすぐに体力使い果たして落ちるだけだろJK。『軽い』と感じるギアで、カカトとペダリングを意識してごらん」

鳴子「ホ、ホンマや……全然違う……(小野田くんってワイと同じ身長なのに二倍にも三倍にもデカく見えるんやけどな)」クルクル

小野田「違う。前傾姿勢になりすぎ。もっと上半身上げて力を抜いて」クルクル

鳴子「こ、こうか?」フラッ

小野田「下を見ない。アゴは引かない。カカトは下げない。遠くを見て。路面の状況を確認。基本基本基本」

鳴子「お、おう(なしてロード歴二ヶ月未満の小野田君に教わっとるんやワイ……)」

小野田「斜度を意識して、リズム良く。僕の動きをトレースするんだ」クルクル

鳴子「お、お、お!?(う、ウソやろ………つ、ついて行ける!? 本気じゃないにせよ、上り坂で小野田くんについて行けとる!!? マジか!?)」クルクル

小野田「でしょ? 重ギアで登る必要なんかない。っていうか重ギアで登るとか馬鹿のやることだよJK。短い坂やレース終盤・ゴール間際ならそれもアリかもしれないけど、レースの序盤中盤で見せるようなもんじゃない。長期的に見ればスタミナと筋力を無駄に消費するだけの無意味な行為だ。スタミナはともかく、疲労した筋肉は早々回復しないんだよ? アホなの? 死ぬの?」

鳴子(アカン。ぐうの音も出んわ。重ギアでブン回すのは後先考えずに済む勝負どころだけ。考えてみれば当たり前やな)

小野田「羽根(笑) 上り坂で重ギアとかwwwwwバカスwwwww天使とかwwwww頭沸いてんじゃねえのwwwww」


鳴子「誰の事言ってるのかわからんけど、よせや! やめぇ!」ギュオンッ

小野田「あ」

鳴子「あ」

小野田「…………僕を、抜いたね?」ゴゴゴゴゴゴ

鳴子「い、いや、こ、これはその、つ、つい」

小野田「……ラブリーチャンスペタンコチャン……ラブリーチャンスペタンコチャン……」キュイイイイイイ

鳴子「う、うわあああああああああああ!!!」ギュオオオオオッ

小野田「お・お・き・く・な・あ・れ♪ 魔法をかけてもー♪」クルクルクルクルクル

鳴子「おっ、おぎゃあああああああああああああああああ」

小野田「タノシイネェ、鳴子クン。サカヲノボルノハ、ホントウニタノシイ」ベッタリ

鳴子「あ、あ゛あっ、あ゛っ、あ゛っ………」

小野田「悲鳴は悲鳴なのー♪ 悲鳴なのだ♪」ニタァ


 ~中略~


鳴子「しかしなんやな。気ィ悪くしたらごめんやけど、こんな小細工一つで登りがこんなにも楽になるとは思わんかったわ」クルクル


小野田「上り坂は経験値がモノを言うらしいけど、基本がなってない人はそこを矯正すれば割とあっという間に上達するもんだよ。鳴子君は元々自主練で登りも頑張っていたみたいだし、下地は出来ていたのさ」ニコリ

鳴子(ッ……あ、あかん。騙されたらアカン。小野田君の得意技の一つ『飴と鞭』……これは飴やッ……調子づかせて後々一気に落としてくる作戦ッ……モノにできんかったら、マジでインハイの山中で棄てていかれるッ……小野田くんはそういう男ッ……悪魔ッ……)ガクブル

小野田「ん? 震えてるけど、ギアと足が売り切れたの? ギアが売り切れて足がプルプルしてきたら最終手段。バイクを左右に振ってみて」クイックイッ

鳴子「え? お、こうか? ………あ、楽に走れるわ………そうか、蛇行すると部分部分が平地に近なるから………」クイクイ

小野田「うん。もちろんロスになるけど、使い方次第で後続の連中を牽制できるし、急な激坂でリズムが崩れることも避けられる。スタミナ切れのときや斜度のドキツい坂は意外とこれでイケるよ。もちろんそうならないのが一番だから、これから斜度の見極め方を覚えてね」クルクル

鳴子「っかぁ……何年自転車のっとんねん、ワイは。そんな基礎的なことさえ疎かにしとったんか」ズーン

小野田「それだけ平地のストレートに情熱をかけてたってことでしょ。ちかたないね」

鳴子「ウチの監督はなにやってるんやろうな」

小野田「鳴子くん、世の中には知らなくてもいいことがある。いいね?」

鳴子「アッハイ」

小野田「さておき、後でフォームのチェックもしようね。おい、メカニック。ちゃんと撮れてんだろうな」

通司「はい………」ズーン

鳴子(寒咲さん……稼ぎ時の休日の昼間っから車回してフォームチェックのためのカメラマンとは……ふ、不憫や)



 役立たずと走るつもりはない、というツンデレなんだか冷徹なんだか分からない名目で、小野田は同級生の指導に当たっているのだった。


小野田「さて、そこの自称経験者(笑)および以心伝心ドン引きホモコンビ」

杉元「」

手嶋「」

青八木「」

小野田「態度を改めるなら指導してやらんでもないが、どうする?」ン?


鳴子(悪いこと言わんから、プライド棄てや杉元。小野田君はマジモンのバケモンやが、教えるとなればプラスになることしか言わんで、正味な話)

今泉(手嶋さんと青八木さんは頑張れば来年インハイ出れるから(震え声))



 三人は土下座して教えを乞うたそうな。




小野田「あ、今泉君はこれを見てね」

今泉「オレにはDVDか?」ビクビク



小野田「君はなんていうか、なんでもそつなくこなす。流石にジュニアで散々ならしただけあって、どれもこれも不得意ってものがない」

今泉「そ、そうか/////」テレテレ

小野田「基本は全部できてるっぽいから特に僕が教えることはないんだよね。だけど」

今泉「だ、だけど?」ビクッ

小野田「メンタルが豆腐なんだよね、君って。ここぞというところで君自身の性能をスポイルしてる」

今泉「」グサッ

小野田「というわけだから、このDVDを見て感想文を書いてきて。大丈夫、すぐに鋼のメンタルが身につくよ」グッ

今泉「そ、そうか。あ、ありがとうな………どんな内容なんだ?」

小野田「それは見てのお楽しみ。安心して、80年代のホラー映画や『シンドラーのリスト』とか『火垂るの墓』なんかメじゃないから」

今泉「それ全然大丈夫じゃねえよ!! やめろよ!! アレは一度見たら二度と見たくない類の映画だぞ!? 呪いのビデオとかじゃねえよな!?」

小野田「心配しなくてもそれが原因で死ぬことはないよ。死ぬことはないよ」

今泉「なんで二回言った……」

小野田「ただ、死にたくなるだけだよ」

今泉「」


・部活後、今泉宅


今泉(DVD観てみるか………嫌な予感しかしないが、どんな内容だ………あいつのことだから超鬱系のアニメという可能性もあるな)ビクビク


 ウィーン

 ヴンッ


小野田『やぁ、今泉くん』

今泉「!?」


 画面に映ったのは妖怪であった。

 否、妖怪だけに非ず。そこには――――


寒咲『…………』

今泉「ッ、か、かん、ざき………?」

小野田『この子を一目見た瞬間に分かったよ。この子は掛け値なしのドMだってね』

寒咲『っ………////』


小野田『そしてこの子を見る君の目を見て、まるで電撃が走るように瞬間的に理解した………君は、この子に惚れてる』

今泉「ッ………」

小野田『そしてもう一つ、この子を見て分かったことがある―――――この子、僕に惚れてる』ニヤァ

寒咲『っあぅ………////』カァアッ

今泉「」


 今泉は放心していた。正気であったならば、すぐにDVDを停止したことだろう。

 だが遅い。全ては遅すぎたのだ。


小野田『名前は?』

寒咲『かっ、寒咲、幹、です』

小野田『年齢は?』

寒咲『じゅ、十五才、です』

小野田『スリーサイズは?』

寒咲『う、上から…………きゅ、91の、59の、86、です……』

小野田『大きいねぇ。同級生の中でも一番なんじゃない?』

寒咲『は、恥ずかしいよぉ………』

今泉「あ、あ、ああ、あああ………」


 遅すぎたのだ、何もかも。


寒咲『あ、ありま、せん………』

小野田『処女なの?』

寒咲『しょ、処女、です………は、恥ずかしい、です』

小野田『可愛いねぇ。誰かと付き合ったことは?』

寒咲『…………』フルフル

小野田『手をつないだり、キスしたことも?』

寒咲『…………』コクリ

小野田『そうかい。それじゃあこれからそれを全部、僕に捧げてくれるんだね?』

寒咲『はい…………』コクリ

今泉「ッッッ………!?」


 画面が移り変わり、タイトルロゴが表示される。

 『女奴隷KANZAKI~処女喪失編①初めてのチュウから中出し絶頂ア○メ地獄まで~』。

 本当にひどいタイトルである。


小野田『では寒咲幹ちゃんの貴重な処女喪失シーンをご堪能ください』


小野田『初めてーのチュウー♪』チュッ

寒咲『んっ………』チュッ

今泉「あ、あ゛ああ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛っ、あ゛っ」

小野田『幹とチュウー♪』

寒咲『I will give you all my love』ポッ

小野田『発音上手いね幹ちゃん』

今泉「あ゛っ……………」



 もうお分かりであろう。

 ハメ撮りDVDであった。しかも思い人の処女喪失というNTR御用達の代物である。




 今泉は泣いた。


小野田『おっぱい触るよー』

寒咲『んぅ………』ピクッ

小野田『わぁ、すごいね。ずっしり重くて、つきたてのおもちみたいに柔らかいよ……』フニフニ

寒咲『ん、ふ、ふぁっ……あぅ、う、うんっ』ピククッ

小野田『声、押し殺さなくていいよ? 可愛い声だ。もっと聞かせて、ね?』モミモミ

寒咲『は、はいっ………あふっ、あ、ひんっ、あ、はっ………』ハァハァ

今泉「」


 今泉の両目からは、とめどなく涙が零れていた。

 だが観た。

 今泉は、泣きながら勃起していたのだ。


寒咲『今泉くん、観てる………?』

今泉「!?」ギョッ

寒咲『私ね、一目見た時から、小野田君には何かあるってそう思って…………ウェルカムレースで山岳賞を取った時にはもう、好きになっちゃってた』

今泉「」ゲフッ

寒咲『だから私、幸せだよ。大好きな人と結ばれるんだもん…………ヘンかな、私。恥ずかしい姿を撮られちゃうのに、イヤじゃないの。すっごくドキドキしてるの』

今泉「」

寒咲『だ、だから、その………祝福して、くれるよね? 私、幸せだもん。世界で一番、幸せだもん………』

小野田『ハーイ、じゃあスカートからパンツを抜き取ってー。入れるよ、幹ちゃん』

寒咲『う、うん。私の初めて、も、貰ってください…………』

今泉「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………」



……
………


………
……




 全てが終わった時、今泉は号泣していた。




 肝心の本番シーンは音声だけの収録だった。




 映像の最後に『映像付きのDVDが欲しければ、今後僕にお友達料を上納するんだ。いいね? 月額10万円というお得なプランで、今なら毎月2本新作DVDをお届けだ』という小野田の笑いをこらえたような声と共に、画面に振込先の口座が映った。

 まさに外道である。

 今泉は泣いた。

 泣きながらサイフの中身を確認し、コンビニへとひた走るのであった……。

 そして家にDVDが届いた日、今泉は学校にも行かずに部屋に引きこもった。

 泣きながら抜いた。次の日から今泉は、よりストイックに、何物にも揺さぶられぬ強い意志を秘めた瞳で、練習に励んでいったという。

※今日はここまで。我ながらなかなかの出来栄えと自負しており、これならば友人の怒りを鎮めることができると思った私は、喜び勇んでこのおまけSSをメール添付して友人に送りました。

 絶賛の言葉を期待してwktkしながら待つこと三十分。つい先ほど届いた友人からの返信はたったの一行。


『おまえに明日の朝日は拝ませねえ』


 僕はこう返信を返しました。


『おいおい』

『いったいこの僕がなにをしたっていうんだよ。言いがかりはよしてくれ』

『僕は悪くない』

『だって』

『僕は悪くないんだから』

『幹ちゃんと坂道は幸せなセックスをして終了してるじゃあないか。嘘なんてついてない』

『だから』

『――――僕は悪くない』


 おや? こんな夜更けに誰か来たようだ………。


※投下します。本当に殺されるかと思いました。


・IH直前、部室にて

 小野田という破格のクライマーが入部し、IHを迎えることを喜ぶ一方で、三年生三人は浮かぬ顔をしていた。理由は当然、


金城「小野田だ………」

田所「強すぎるのが問題なんだよな実際………坂でアイツに全力で牽かせると巻島以外は誰もついていけねえ。かと言って手ェ抜かせるとおぞましい歌声で『ドナドナ』を歌いだす……呪われるかと思ったマジで」

巻島「ゴキソのホイール使い潰すなッショマジで。オレはアイツの貯金箱かなんかか…………こないだなんか笑顔でカタログ片手にこれ買ってって………LOTUS Sport110を……」ズーン

金城「レギュレーション違反で試合じゃ使えないだろうそれ………なんにしてもだ。あいつが味方でいてくれてこれほど心強いこともない。ないんだが――――」

田所「存在が消えてくれる方がなおいいと思う、そんなバケモンだ」

巻島「味方だろうと隙があれば即千切る。そういう奴ッショ…………」

金城「だがとんでもなく強い」


 一人の選手が突出して強すぎると、チーム内で扱いに困るスポーツはままある。ロードレースもそのひとつであった。

 その選手を生かすためにはアシストが必要だが、アシストにもそれ相応の実力が求められてしまう。

 そんな突出した選手がエースならばまだしも、よりにもよってアシストという立場にあると、もう最悪である。


金城「田所、巻島。心を鬼にしてオーダーを出す。申し訳ないが――――」

田所「分かってる。エースの………小野田のサポートをしろってんだろ。あいつはクライマーに見せかけたオールラウンダーだ。しかもとびっきりの。エディ・メルクスかあいつは」

巻島(ですよね)

金城(それ以外では説明できん)


 小野田の持つ武器はそもそもハイケイデンスクライムだけではない。というか、だけの筈がないのである。

 登りはリズムと脚質、体重の軽さなどの要素が重要とされているが、それを考慮すればなるほど、確かに小野田はクライマーとしては完璧以上の才能を持っていると言えるだろう。

 小柄で軽い体躯、独特な歌を歌ってリズムを刻み、有り余るケイデンスで坂をスイスイ登っていく。時間をかけて作られていく筈のそれを、天性として備えている。ライン取りについてはやや荒があるものの、それを補って余りある絶対的な才能がある。

 その一つがバイクコントロール。ぶっちゃけると排水溝の溝を滑走するほどに研ぎ澄まされている。バランス感覚についても鬼であることは明白であった。

 更にコースラインを滅茶苦茶にとってもおつりがくるほどの馬鹿げたスタミナこそが小野田の妖怪たる由縁の一つと言っても過言ではない。まさに絶句の一言である。

 特に登りでの体力は無尽蔵と呼べるほどで、笑顔で歌いながら登る始末である。どの局面であってもこの異次元の体力は通用する。その気になれば出し惜しむ必要がないからだ。

 小野田が辛そうな顔をするときは人間アピールとしての演技か、相手の心をヘシ折るための準備作業である。釣られた相手は心を折られるだろう。

 抜いた相手が笑顔で、歌いながら、自分を抜いていくのだ。クライマーでなくとも、自転車乗りであればこれ以上の屈辱は皆無と言えるだろう。

 じゃあ平地や下りでのアタック、巡航やスプリントが苦手かといえば、この年代のスプリンターとしては一流と言えるだろう田所や鳴子の本気踏みにべったり張り付いてついていけるのだ。

 何が恐ろしいって、原作の小野田は上記のことを素でやってのけるのである。これがクライマーなどちゃんちゃらおかしいというものである。


田所「ぶっちゃけ、もう小野田一人でいいんじゃねえかな、と何度か頭ン中をよぎったことがある。意味分かんねーよあいつ。カンチェラーラの親戚か何かか」

金城「……ロードレースは独りで走るものではない。アシストとなる人が居なければ、たった一人の「最速」は生まれない………筈、なんだが」

巻島「ロードレースはそういうスポーツじゃねえッショ。ただしカンチェは除く」

田所「分かってんよ……そういうことを考えたくなるぐれえバケモンだってことだ」

金城「俺も正直に言うが、あいつに教えることがほとんどない。ペダリングスキルについてはむしろ学びたいレベルにある」

巻島「オレが言うのもなんだが、なんであのフォームであんだけ速度でるッショ。おかしいッショ……」


 そんな小野田にもお気持ち程度の不安要素はある。経験の不足だ。

 ペース配分をはじめ、ブレーキングやハンドリング、ギアチェンジのテクニックについては、練習の中で培うものだ。

 いかにアキバまでの行程往復90キロをママチャリで走破するマジキチと言えど、単なる移動とロードレースは全く違う。集団における位置取りを始め、駆け引きや攻め時のタイミングなど、集団やプロトン独特の機微というものは口頭や紙面で学ぶのにも限界があるのだ。

 逆を言えば、それを身につけたならば、小野田は妖怪から魔神へクラスアップを果たすということだ。

 だが、恐らく小野田は大して苦労もせずにそれらを身に着けることだろう。

 ただでさえ問答無用で敵の精神を折っていく超攻撃的なスタイル。隙を見せた途端にヒャッハーの限りを尽くして心を蹂躙するその手管はもはや生活の一部であるかの如く手馴れている。

 小野田には駆け引きのテクニックや攻め時のタイミングを見極めるためにもっとも重要な要素である『観察力』と『勝負勘』がある。

 そのドSな性格から生まれた、これもまさに天性のものである。


 そしてここに総北高校IHレギュラーメンバー中、最も『異常性』のある男が誕生したのであった。


 小野田坂道という妖怪は、今もなお貪欲に成長している。事実は小説よりもキチなりとはまさにコイツの存在を指す言葉であった。

 クロモリからフルカーボンバイクであるBMCに乗り換えた後は、もはや手が付けられなくなっていた。


田所「スプリンターと、クライマーの誇りを捨ててでも……エースを勝たせる。エースは一人だけ。残りの五人は、エース一人に全てを託す。そうだよな、巻島」

巻島「クハッ、分かってるッショ。一番早くゴールに到達した者のチーム、ただ1チームのみが勝利を得ることができる。ロードレースってなぁそういうスポーツッショ。だったらオレらは裏方に徹するッショ」

金城「巻島……すまん。すまんな」

田所(何謝ってやがる……一番悔しいのは、おまえだろ金城)

巻島(福富との因縁も、三年間の努力も、何もかも――――キャプテンとして一番頑張ってきたのは、お前ッショ、金城ォ)


小野田「おい、そこのチンカスホモの童貞三人組、さっさと練習行くぞ。シコシコマスこき合うのは僕がIHで優勝するのを見届けてからにしとけ」


金城「」ブチンッ

田所「」ベキンッ

巻島「」ボキンッ


 ペダル回しには人の心が分からない。

 人間ではないからである。

 ペダル回しには年功序列という発想はない。

 妖怪だからである。


・練習後、部室


小野田「…………」ペラッ

鳴子「ふいー、今日もぎょうさん走ったなぁ………ん? 何読んどるんや小野田くん」

小野田「IH出場する他校のめぼしい優勝候補のリスト」ペラッ

鳴子「なんや、みみっちいことすんなや。男は出たとこ勝負! 相手が弱けりゃチギる、強けりゃ燃えるってもんやで!」

小野田「それで負けたときに君は何を言い訳にするんだ? ン? 言ってみ?」

鳴子「…………ナマ言いました。すいません。ご存分にどうぞ」


 小野田にモノ申すなど不可能であった。


寒咲「お、小野田くんっ。頼まれていたもの、持ってきました」

小野田「ありがとう、幹ちゃん。どれ………ふんふん、なるほど」ペラッ


 寒咲が手渡した書類にひとしきり目を通した後、小野田は立ち上がり、部室の外へ向かう。


鳴子「お? なんや小野田くん、上がりか?」

小野田「うん。ちょっと用事が出来てね」

鳴子「ははーん、またアキバやな?」

小野田「ううん、今日はちょっと違うんだよ。箱根まで行くんだ」

鳴子「は、箱根ェ!? 今から!? 何しに!?」


小野田「うん、ちょっとした賭け事の―――――――取り分を、貰いに行くんだ」ニコリ


鳴子「」ゾクッ


 鳴子は後日、こう述懐する。

 ―――――あの時、小野田君は笑ってたんや。子供が蟻を踏みつぶすような、蟻の巣に水を注ぎこんで喜ぶような、そんな、純粋無垢な邪悪の笑みを。


・IH開会式

 そうこうしているうちに、インターハイ初日がやってきた。

 開会式の壇上には昨年優勝校の箱根学園のレギュラーメンバーが六人並んでいる。

 真波は気づいた。

 檀の下から、粘つくような笑みを張り付けて、こちらを見ている眼鏡の小男が一人。


小野田「来たよ、真波くん………」ニタァ

真波「来たんだね………来ちゃったのかよ、坂道くん………」クソッ

福富(アレが真波を負かした男………小野田坂道か)

東堂(ほう、彼が…………地味だな。地味メンだな。三下っていうか、ビジュアル的に微妙すぎ)

新開(確か、小野田とか………)

荒北(ちっせ! ほそっ! あんなんが真波をケチョンケチョンにするほどのタマかァ?)

泉田(アブゥ……)


 この数時間後、彼らの評価は一変することになるのは言うまでもなかった。


 そして、彼らは出会うべくして出会った。


小野田「―――――」

御堂筋「―――――」


 強者が自らと同じ強者に感じるシンパシー。両名ともに、それを互いに感じ取っていた。程なくして、互いが互いの実力をある程度察する。


小野田(こいつ――――僕と同じ)

御堂筋(ザクやない――――専用機……否)

小野田・御堂筋((ニュータイプか))


 互いに互いを、化け物であると認めた。


小野田(幸先がいい。最悪三年間で一人でも見つかれば御の字だと思っていたが、まさか一年目のインターハイで同類を見つけられるなんて。しかも『二人』も! けど、どのみち勝つのは――――)

御堂筋(ククク、ええなァ。とんだイレギュラーやが、正直箱根学園だけじゃあ歯ごたえが足りんと思っていたところに、まさかのニュータイプとは。まぁ、それでも勝つのは――――)


小野田(僕だ)ニタァ

御堂筋(ボクゥや)ニタァ


 妖怪は妖怪を知る。

 己の異常性がなんたるかを理解しているからだ。


 この三日間を荒らしつくす妖怪が二匹………。


真波「あんだけ練習したんだし、もうなるようになれだな」ウン


 否、三匹………。



……
………

※今日はここまで。マジで僕がなにしたっていうんでしょう。

このSSのおかげでゴキソというホイールがあることを知った。
俺が乗ってた時はキシリウムとかジップが決戦ホイールだったが、軽く超えてるなw
ちょっと調べたんだが国内メーカーなのか?

>>60
※親方日の丸の愛知県名古屋市の御器所町が由来だそうです。
 かつてホイール試乗したことがあるんですが、小便チビるくらい気持ちよかったです。なんていうか異次元。剛性高いのにスンゲー乗り心地いい。
 MAVICとかフルクラレーゼロ、カンパもイイものですけど、「ホイール変えたら平均速度が5キロ上がった」とかいう眉唾な都市伝説を現実にするホイールは多分これだけ。
 これ使ってる人には「機材で負けた」と言い訳しても通用するレベルで機材ドーピング指定。

※過分なお言葉です、ありがとうございます。
 弱虫ペダル原作が好きな人には色々許されない内容だと思ってます。
 私みたいな自転車大好き糞虫ペダルが偶然SS書きだったとだけお考えください。

※レーゼロいいですよね、良く回る。硬いけど。>>1も普段履きに使ってます。
 ゴキソはドラクエで例えるならレベル1の勇者に装備された王者の剣レベルに反則。
 FFで例えると初期レベルでエクスカリバー装備。
 メガテンで言えば地母の晩餐を開幕ぶっぱしてくる人修羅。
 レーゼロが暴走状態の王蟲なら、ゴキソはパーフェクト状態の巨神兵。


○中間スプリント賞


 そんなこんなでレース開始。灼熱のインターハイレースのスタートである。


鳴子「三日目もこんな風に三人並んで走れたら…………ええよな、ホンマに」

今泉「落ち込むな。これからスプリント賞獲るんだろうが。目立つんだろ?」

小野田「そうそう、そんな平坦最速なんて僕にとっては歯に詰まったピザのカスほどの価値もないけど、まあガンバンナサイネー。田所さん、鳴子くん。分かってるよね?」

鳴子「えっ」

田所「えっ」


小野田「僕は前を走られるのが死ぬほど嫌いだってこと」ニコリ


田所「」ゾクッ

鳴子(お、小野田君は集団の中とはいえ、他の有象無象に前を走られるこの状況にストレスを感じとる………!!)


 なんか前年度の着順で列が組まれるっぽいので、前年度の成績が悪かった総北は集団の後方を走っているのである。

 先頭はもちろん箱根学園である。


金城「お、怒っているのか、小野田………俺たちが昨年、大した戦績を残せなかったことに………この位置で走らなければならない状況がそこまでイヤか」

小野田「キレてないですよ。僕を切れさせたらそりゃ大したもんですよ。冷静ですよ。マジで」ニタァ

金城(ブチ切れている)

小野田「まあ、そういうワケだからね。頼むね、二人とも?」

鳴子「な、何がや………?」


小野田「さかみち知ってるよ? スプリント賞のグリーンゼッケンを取れば、この集団で先頭を走れるってこと」ニコニコ


田所(誰だコイツに余計なこと教えたのは! おまえか赤頭!?)

鳴子(ちゃいます! ワイやないで!?)


小野田「僕たちは仲間だ。まさかその仲間である僕をこんなクソ量産機どもの中で過ごさせたりはしないよね?」ニコリ


田所「」

鳴子「」


 妖怪に逆らうなど不可能であった。


 そしてロードレースというものを何か根本から勘違いしていると思われる泉田が舐めプめいた先行を許したことが、この勝負の命運を決定づけた。

 もはや結果は見えていた。

 彼の台詞にある言葉を借りるとすれば、一方が先行し、もう一方を牽く。ドラフティングの作用により、後続の人間は低い負荷で同じ速度を維持し、体力を温存できる。単純な計算である。

 鳴子はスプリンターとしての誇りを捨て、田所を牽いた。

 命がかかっているのである。死んだら誇りもクソもないのだ。


泉田「あ、あ、アアアアブ! アブ! アブアブアブアブアブ!!」


 しかしそこは腐っても王者のシングルゼッケンを背負う者。

 舐めプしたことについては若干以上の後悔を残しつつも、先行する二人に懸命に食らいつく。

 だが、そんな必死の筋肉マツゲに対し、二人の視線は冷ややかであった。


鳴子「アブアブやかましいわ………」

田所「実際キモい」

泉田「!?(なっ………ぜ、全開の僕の走りで、お、追いつけないだと!? この二人、並じゃない!!)」


田所「IHに向けてタラタラ調整してたとか言ってたな…………ああ、挑発じゃねえよ。本音さ。そんな悠長なことができるなんて、おまえは本当に幸せ者だよ」

鳴子「この数ヶ月………地獄だった」

泉田「な、なんだと」

鳴子「なぁマツゲくん………ワイらにはおんどれがまるで画用紙で出来てるように見えるわ…………」

田所「オレたちは……オレたちはなぁ……!!!」


小野田『僕は前を走られるのが嫌いだ。つい心を折りたくなってしまう。だがインハイにおいていちいち雑魚共を一匹一匹丁寧にツブす時間はない。これは悪癖だ。克服する必要がある』

鳴子『そ、そうなんか』

田所(ツッコミどころが分からねェ)


小野田『まァ、そんなワケだから、二人には練習に付き合ってもらうよ』

鳴子『えっ?』

田所『ひょっ?』

小野田『決まってるだろう? ウチで平坦最速は鳴子くんと田所さんだ………僕の前を走れ。僕はそこに張り付いて、ひたすら耐える…………そういう訓練だよ』

鳴子『』

田所『』



 それは妖怪にとっては訓練であろうが、二人にとっては地獄の責苦と同義であった。



小野田『だけど、僕は雑魚に前を走られるのが嫌いなんだ……………君たちがあんまり温い走りを見せようものなら』



小野田『うっかり壊しちゃうかも…………?』ウットリ



田所『』

鳴子『』


鳴子「おっ、おっそろしかったわ!! 死ぬかと思ったわ!!」ブワッ

田所「全開で踏もうが何しようがケツに張っつかれることの恐怖がてめえに分かるか泉田ァ!!」ポロポロ

泉田「アブッ!?」

鳴子「ええか!? 全開やぞ!? 最高速度をオッサンと代わる代わる牽いて一時間ブッ通しで維持し続けたんやぞ!? その最速をもってしても振り返るとヤツがおるんや!! しかも歌っとる! たまに煽ってくるんや!! そんなのが自称クライマーや!! ナメとんのか!?」

田所「言っておくが、最高速ってのは時速50キロだ。それを一時間通しで維持だぞ…………」

泉田(その速度を二人で一時間維持とかプロレベル以上じゃないですか!?)

鳴子「なぁにがアブアブや!! おんどれなんぞ小野田君に比べたら、赤ちゃんや!!」

泉田「アブッ!?」

田所「なぁにがアンディとフランクだ!! 欧米か!!」


 もはや二人の口から吐き出されるのは単なる八つ当たりの暴言であった。


鳴子「ワイかて……ワイかてスピードマンからオールラウンダーに転向なんぞ、ホンマはムッチャ嫌やった! やりたかなかったわ!! せやけどなあ!! 怖えんだよアイツメッチャ怖えんだよ妖怪なんだよやらなきゃ殺すって目ェ向けるんだよ!!」

田所「落ち着け赤頭、標準語になってるぞ………すまんな、オレら三年が不甲斐ないばかりに」

鳴子「オッサンを責めとるわけやないで!! あんなの相手にタメ張れんならそりゃ去年優勝した箱根学園はどんだけバケモンやって話や! そんな無茶振りできるかいな!!」

田所「分かるか、分かってくれるか、赤頭………!!」

鳴子「オッサン………!!」


 友情を深め合う二人。美しい青春の一ページであった。


鳴子「けど、蓋を開けて見りゃ、この筋肉マツゲ…………大したことないやないか」

田所「全くだ…………残り300メートル………悪いが鳴子、オレに花を持たせてもらうぜ」

泉田「アブッ?! い、いや、ぼ、僕をお忘れじゃないですか?」

鳴子「フッ、苦楽の楽抜いて苦だけを共にしたワイとオッサンの仲や。三年最後のIHのファーストリザルトの栄、この鳴子章吉が譲りますわ。せやけど、二日目のグリーンゼッケンは譲れんで。そんときは勝負や!!」

泉田「あの」

田所「ヘッ、言うぜ赤頭。とにかくこの泉田千切って、今日の仕事は終わりにしようや!!」

鳴子「おう!!」

泉田「おい」


鳴子「おう!!」

泉田「おい」

 そして激コギ開始する二人。

 見る見るうちに泉田との距離が開いていく。


泉田「あ、あ、アア、ア…………」


 そして泉田は、


泉田「………………………あぶ?」



 考えることをやめた。



……
………

※補足:プロ選手の中で指折りのスプリンターでも、平地最高速度は80キロ前後と言われており、それもゴール直前のスプリントにおける一分かそこらに満たない間の速度である。

 コース全体を通した平均速度はコース距離や高低差によるが、プロはおよそ42~46キロ前後の速度とされる。

 プロが集団組んで平地走っても終盤で60キロ(これもアマチュアから見れば異常だが)、ぶっちゃけ50キロをたった二人で一時間維持とか即プロ入り即エース即大逃げ優勝まったなしのレベル。

 1時間耐久レースでもUCI規制が入った後の平均速度は未だ50キロに達しない。ロードレース仕様のバイクで50キロ維持はもう世界でも通用するレベル。

 それについていく妖怪は文字通り人ではないおぞましい何か。原作でも田所牽いて先頭集団に戻ったりと意味不明であるが、いったいこいつらは何キロで走っているんだろう。

 さておき、さいたまクリテリウム面白かったですネー。サガンは惜しかった。


………
……


モブA「ファーストリザルトは総北か」

モブB「田所と鳴子でワンツーフィニッシュだってよ」

モブC「ハコガクは三位か」

モブA「………」

モブB「………」

モブC「………」

モブABC「まあ、二人送ってりゃそうなるよね」ヘイゼン


福富「」


小野田「何ショック受けてるのこのヒト。当たり前じゃん。露骨に実力差が開いてない限り、多数送った方が有利に決まってるジャン」

金城(言った………言ってしまったな、小野田………この漫画の致命的とまでいえる欠点を………リアリティの欠如を………)ブルブル

小野田「そもそも何をもってイズミダってのが勝てると思ったのか、そこんとこ詳しく聞いてみたいんですけどねワタクシ。インハイに向けて調整? そりゃ結構だよ。でもスプリントって経験がモノを言うんですけど? 全力で競った経験もない人がどうやって勝てるの?」ン?

巻島(おいばかやめろ、それ以上いけないッショ)ガクガク


今泉「すいません、通ります」スイッ

モブA「先頭がハコガクから総北に変わるな」

モブB「まあそういう風潮だしね」プッ

モブC「先行したスプリンターたち吸収するなら無意味な風潮だけどね」プークスクス

今泉(ですよねー)

小野田「おっ、スプリンターたちが戻ってきたな」

泉田「…………」ブツブツ

福富「泉田、ご苦労だった………しばらく後ろで休め」

泉田「…………」ブツブツ

東堂「どうしたのだ、泉田?」

泉田「あ、あ、あ、あ…………」

新開「…………泉田?」


泉田「あぶー」アー


東堂「泉田ァァアアアアア!?」ガビーン


新開「き、君たち、うちの泉田に何してくれたんだい?」

泉田「あーあー。みぎのオッパイー、ひだりのオッパイー、二つ合わせてオッパイがイッパーイ」バブー

新開「もはや原型すら残ってないんだが」

田所「知らねェ」プイッ

新開「せめてこっちを見て言ってくれないか?」

小野田「『オレは強い!』」キリッ

新開「!?」

小野田「『二人か。ならば足りんかもしれんな』」キリッ

福富「………」ピクッ

小野田「『勝負は道の上でしろ』」ドヤァ

福富「………」

小野田「――――盛大なフラグでしたね。負けましたねぇ? 道の上で。勝てませんでしたねぇ? 強いのに。 足りないぃ? 負けといて? プッ、とんだ道化なんですけどこのヒト」ププププ

福富「」イラッ

真波(なんてイヤな野郎だ)イラッ


金城「煽るのはその辺にしておくんだ、小野田(胃が痛いからやめてくれホント)」

小野田「はーい、そうですね金城さん。勝負は道の上で、ですもんね!! 王者のプライド(笑)とかどうでもいいですよね!!」ドヤァ

新開「」ピキピキ

東堂「」イラッ

東堂(お、落ち着くんだ尽八………クールだ、ビィクール………もうじき山だ。そこで巻ちゃんと勝負、勝負ができる。気持ちを切り替えていこう)スーハースーハー




 後に、東堂尽八は述懐する。


 ――――巻ちゃんとの勝負、ですか。ええ、できると思いました。

 ――――むこうの小野田っていうクソメガネは見るからにクライマーでしたし、当然彼がチームを牽いて、巻ちゃんが勝負に出てくるだろうと。

 ――――儚いドリームでしたね。



金城「市街地を抜ければ、そこからは山だ。分かっているな、全員?」

小野田「ええ、もちろん――――当初の予定通り行きましょう」スッ

福富「!!(速度を上げた!? ここで引き離すつもりか、総北――――!!)


小野田「ハイ、散開」

今泉「ああ」バッ

金城「うむ」バッ

田所「おう」バッ

巻島「………ッショ」バッ



福富「…………は?」



モブA「あれ? 道幅が狭くなったところで、総北が道塞ぎにかかって………あー、やられたな」

モブB「そういう戦略かー。まあそういう風潮だし、ちかたないね」

モブC「ってことは山岳賞も総北かー」

福富「――――ど、」

東堂「どういうつもりだ、巻ちゃん!!!」

巻島「………見ての通りッショ。集団の速度をコントロールする。これ以上速くは行かせねェ」


モブA「後方で落車発生だってよ」

モブB「さっきのクランクかー。総北が速度上げる手前ぐらいだったか。狙ってたんだろうなー、総北怖いわー」

モブC「後方で落車が発生したから、当然先頭集団の総北のメンツには影響ないね。当たり前だけどね」

モブD「うん。当たり前だけど言っておかないとね。様式美だからね」

東堂「モブどもうるせェ!! なんでそんなマネをする!! 山だぞ!! 三年最後のクライムだ!! 集団の速度をコントロール!? オレとの勝負はどうなるんだよ!!」

巻島「ンなモン、チームの勝利の前じゃ糞喰らえッショ」

東堂「な…………そ、そこのメガネくんはクライマーなのだろ? そうなのだろ!? だったら彼にチームを牽かせて、オレと勝負しろ!!」

小野田「横からゴメンナサイヨー。えーっと、東堂さんでしたっけ?」

東堂「ッ――――」

小野田「なんで僕がそんなことしなきゃならないんですかね?」

東堂「人の話を聞いていなかったのかオマエは!? オレと巻ちゃんの勝負もとい山岳賞争いのためだよ!!」

小野田「なるほど、山岳賞の。ふーん、へー、ほー」ニヤニヤ

東堂「なんなのだその人をおちょくった小馬鹿にした含み笑いは!!」

小野田「じゃあ、なおさらウチがわざわざそんなことする必要はないですねェー」シャガッ

東堂「」ゾクッ


荒北「東堂ォ!!」

東堂「!? 荒北………」

荒北「何アツくなってんのか知らねえが、落ち着けバァカ!! 総北は戦略としてここで足止めしてんだよ。出られないんじゃあねえ。出る必要がねェーんだ」

東堂「何を………何を言っているのだ、荒北」

荒北「バァカ、頭に血ィ昇ってんじゃねーよ。よく見ろ、総北のメンツをよ――――五人だ。一人足りねえだろ?」

東堂「!? 足りないのは、まさか」

荒北「さっきのスプリント賞争いに参加して、そのまま集団に戻らなかった―――――」

小野田「今頃山の中腹ぐらいに行ってるんじゃないかな――――ウチの鳴子くん………♪」

東堂「ッッッ!??!?」



……
………


小野田『さて、オールラウンダーに転向した鳴子くん。IH初日の君へのオーダーだけど』

金城『………』

鳴子(当然のようにグラサン先輩さしおいて小野田くんがオーダー出しとる………突っ込んではアカンとこやが、突っ込みたい)


小野田『スプリント賞争いに参加した後―――――そのままシレッと逃げカマして。んで、山岳賞獲って。可能ならそのまま初日のトップゴール決めて』

鳴子『え?』

小野田『楽しいぞ? 他のスプリンターどもを押しのけ、クライマーにケツ向けて、ブッチギリの山岳賞を取るのは』

鳴子『…………!』ハッ

小野田『目立つぞ? 山を獲って、そのままゴールまで一等なんて。最高に目立つだろうね。初日は総北が全取りだ。そのうち二つ、つまり三分の二が君の手柄になる』

鳴子『―――――!!』ゾクッ

小野田『勝てるぞ? 全国が注視する大歓声の中で、IH初日最速の男として名が残る。多くの人から称賛を浴びる。誰もが無名の一年、鳴子章吉の名を知る』

鳴子『――――はは、人を乗せるのがうまいわ、小野田くんは』


………
……



福富「ッ………あの、鳴子という一年は、関西でスプリンターとして有名だったが………転向したのか、オールラウンダーに!?」

小野田「えーっ、そんなのチームの機密ですからぁー、話せないかなぁーって」プププ

福富「」イラッ

新開「き、君ね。えっと、小野田くんだったかい? さっきからなにかウチの寿一に恨みでもあるのかい?」


小野田「え? 恨み? 心当たりとかないんですか? 例えば昨年のIHとか」

新開(あっ、言い訳できないわ)

小野田「怖いわー、負けそうになると人の服を掴んで引き摺り倒すんでしょこのヒト。そんな人と一緒に走るのって怖いわー。うかつに前も走れないわー」クカキコカクケ

福富「お、オ、オレは、つ、つよ………」

小野田「そのくせ『オレは強い』とか言っちゃってホントキンモー!! 心が誰よりも弱いからそういうゲスい手段に出るんでしょぉー? そんな人がキャプテンとか、ハコガクって卑怯者の集団の集まりなんだなーって」ニコニコ

福富「お、オ、おオ、おれ、オレは、オレは、おれは………」ブルブル

荒北「福チャン!? てめえふざけんなよこのクソメガネ!!」

小野田「わぁー、ヤンキー崩れだー、こわいよー」ニヨニヨ

真波(く、くそ、やっぱりだ。やっぱりこいつ妖怪だ。ここぞとばかりに人の心を折りに来る!! その眷属(チームメイト)ですら泉田さんをこんなにするほどの化け物………このIH、オレたちは勝てるんだろうか)ズーン

東堂「そんなことより!! 巻ちゃん!! どういうつもりなんだよッ!! オレとの、約束………約束、は………」

巻島「悪ィが、叶わねェッショ。登りの少ない二日目はともかく、三日目にその機会があることを祈れッショ」

東堂「う、あ、ああ………」ポロポロ

小野田「さーて、山の中腹だねー。多分そろそろ出ないとー? 山岳賞は無理としても、初日のトップゴールも無理かなーって坂道思うんだよね」

福富「ッ!」ビクッ

御堂筋「―――――――――――」ニタァァアア


坂道「道幅も広くなってきたし、そろそろ抑えられそうにないから―――――今泉くん」

今泉「おう」

坂道「金城先輩をアシストだ。彼を牽いてゴールに叩き込んで。鳴子くんと合流するも良し、鳴子くんがそのまま一着でゴールするのもよし。判断は君に任せる」

今泉「ああ! 任せろ!!」

金城「行くぞ、今泉!!」


福富「出遅れたッ………荒北、オレたちも出るッ!!」

荒北「ックソメガネェエエッ!! 出遅れたのはこいつのせいだッ! テメ、この借りは返すからヨ!! 覚えておけよコラァッ!!」

小野田「三分ぐらいは覚えてますー」ププププ

小野田「………ふぅん、で? 君も出るんだ――――御堂筋くん」

御堂筋「そら出るで。三日間の完全優勝狙うモンとしちゃ、ここで行かなんだらいつ行くんかって話やろ……石垣くゥん、出るでェ」

石垣「あ、ああ! トップ狙うんだよな!」

御堂筋「そうや。トップを取るボクゥのアシストが君や。しっかり牽きや………オマエはこないんか、ソーホクゥのメガネ、ええーっと」

小野田「小野田坂道だよ、御堂筋翔くん」

御堂筋「覚えたで、小野田………オマエとは二日、三日目で、ヤりあいたいもんやなぁ」ニチャア


小野田「僕と田所さんは、山頂まで巻島さんが牽いてくださいネー。後続のモブ集団は引き連れても良し、置き去りにしても良し。頼みますネー。僕だるいしー」

巻島「クッハ、しょうがねえッショ」

田所(あれ、やっべえぐらい体力温存できてるわ。明日これ絶好調じゃね?)


 こうして熾烈な――――と言っても鳴子が独走状態で山岳賞を獲り、その後ゴールを狙った後のゴール争いについてだが。

 ゴール300メートル手前で、金城・福富が先頭の鳴子を捉える。

 追いつかんとスプリントを掛けるも、鳴子とのスプリント力は互角のため、距離が一切縮まらない。

 そこに飛び込んできたのは京都の妖怪オールラウンダー御堂筋。アウターを封印するとか意味の分からないものは実施していない彼は、おぞましい前傾スタイルからのダンシングで、みるみる鳴子へと追いついていく。

 ゴール30メートル手前で、ついに鳴子と御堂筋、並ぶ。


鳴子「ッ!? 御堂筋ッ、おんどれかあああああああああああ!!!」

御堂筋「ヒィーハァーーーー!! オマエも量産機とはちゃうみたいやなぁ!! マメトサカァッ!!」


 単独大逃げとはいえ、スプリント、山岳で消耗した体力は、下りでかなり回復している鳴子。

 勝負は平坦直線スプリント――――元々スプリンターである鳴子の独壇場であった。


 御堂筋の猛追にも互角の速度で食いついた。

 
御堂筋「――――計算外やな。スプリンターとしてのマメトサカはともかく、オールラウンダーなんて聞いてないわ。スプリント力にしても、ボクゥと互角レベルとは」

鳴子「あったり前や! ワイにはすんげえトモダチがおるねん!! あいつに鍛えられたんなら、こんぐらいはできてナンボやで!!」

御堂筋「キィンッモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」グルグルグル

鳴子「おるぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」グルグルグル


 そしてゴール。

 一着はどちらか―――――まさかの同着である。


 総北の鳴子と、京伏の御堂筋が、初日のファーストリザルトを制した。

 鳴子としては不本意だが、鳴子章吉の名が、御堂筋翔の名と共に全国へ知れ渡ることとなった。


 IH1日目:勝者は総北と京伏。

 誰もが予想だにしてなかった結果に、王者の呼び声高いハコガクは。

 ――――――半数以上が、死んだ瞳でゴールしたという。

 『IH:初日編 完』

※今日はここまでー。

 今度の土曜日は彩湖で試乗会だぜー。楽しみだなー。

※LOOK695エアロライトをメインに。LOOK566もまだまだ現役。

 別にLOOK党というわけではない。単に乗り味が好きなのだ。

 ピナレロ大好き。ドグマは名車ですな。次はドグマF8も購入候補。

 ウィリエールのチェントウノSRも持ってる。

>>100
カンパコンポかよwwwこんな金持ちローディがどうして糞虫ペダルにwww

※金持ちではない! 自分で組める+海外で安く買えるのだ!

 あと695エアロライトは電デュラ組みなのだぜ

>>102
もしかしてだけど、漫画板の弱虫ペダル本スレにLOOKの画像貼りつけたか?

自分で組めるのいいなあ
タイムとルックで悩んでるんやけど、795といいスカイロンといいキワモノっぽさがスゴイ
695かzxrs買っときゃ良かった

※試乗会行ってきた。F8乗れたのはいいが、コースが不満すぎ。なんだあの短さは

>>101
あとキャプ翼や黒バス読む人がサッカーやバスケが趣味の人もいるように、弱ペダ読んでてロードが趣味なのだ(弱ペダが好きとは言ってない)

>>103
人違いだと思う

>>104
今年はLOOKもTIMEもキワモノなのは間違いなくて手が出ない
昨年モデルの695エアロライトはワイズ志木なら先月時点でまだ取り扱いが多数あったはず
ZXRSは諦めた方がいいと思う
ZXRSカッコいいんだけど、自分で弄る側としてはBBが不満


 一日目の後日談


小野田「やあ、優勝おめでとう、御堂筋くん」ニコリ

御堂筋「小野田かァ………なんや、そんな張り付けたような笑顔みせるなや。ボクに用か?」

小野田「うん。ひとつだけ。―――――ひとつだけ、聞きたいことがあるんだ」

御堂筋「…………言うだけ言うてみ」



小野田「今日のラストスプリントの時、どうして手を抜いたの?」



御堂筋「――――――――んん?」

小野田「トボけなくてもいいよ。君はオールラウンダーとしての能力、登坂力、スプリント力、駆け引き、スタミナ、あらゆる面でウチの鳴子くんを凌駕してる。君が勝てないのは、おかしい」

御堂筋「ク、プ、プププ………やっぱザクやないなァ、オマエ」

小野田「ありがとう。で? どうして? 君なら出し抜いて単独一位も可能だったはずだ」

御堂筋「ええやろ、答えたる………必要なかったからや」

小野田「必要ない?」


御堂筋「勝ちは勝ち。一位は一位や。同着だろうとな………それになァ、小野田くん? キミだってわかっとるやろ?」

小野田「何が?」

御堂筋「プププ、キミこそトボけんでもええんやで……?」

小野田「…………」ニコニコ





御堂筋「IHの初日、二日目における優勝なんぞ、名誉以外には『何の意味もない』ってことぐらい、キミィなら分かるやろ?」

小野田「…………」ニコ…





石垣(ヒッ、ヒィーーーーッ!? 御堂筋くんに労いのタオルを渡そうとやってきたらなんかものすごくヤバい会話しとるぅーーーーーッ!!)ガクガク

金城(同じくぅーーーーーッ!? ヤバいヤバいだろこの会話おいカメラ止めろ)ビクビク


御堂筋「スプリント賞にせよ、山岳賞にせよ同じや。ン? どうなんや?」ニタニタ

小野田「ああ、そうだね。その通りだ―――――――はははは、なんだ。君もなんか勘違いしてるのかと思ってたけど、それこそまさかだったか。流石は御堂筋翔くん」ニィィィイ

御堂筋「誰を値踏みしとるんや? 仮に全日のタイム合計を競う、全選手同時スタートのレースなら、優勝の意味はある。けど、このIHレースでは三日目に最速のタイムを出した者が勝者や。初日と二日目の優勝に、ほとんどイミはない」プププ

小野田「ほとんど、というところが気になるなァ」ニコリ

御堂筋「優勝者とのタイム差による足切りや。仮に今日、二位以下にそのタイム差をつけたなら、その日でレースが終わる。まァ、まず不可能やけどな。クソッタレたルールや」シャガッ

小野田「―――――よろしい。そうだ。そこだ。そこがこのレースの下らなさの全てだ」シャガッ



 小野田の表情から笑みが消える。

 『妖怪・ペダル回し』としての小野田坂道のご尊顔である。

 同じく、御堂筋も無表情だ。

 『恐怖・バッタ人間』としての御堂筋翔のご尊顔である。


石垣(き、キャアアアアアアアアアア!!!?)ジョボボボボ

金城(お、オギャアアアアアアアアア!!!?)ジョボボボボ


 物陰からとはいえ、そのご尊顔を直視してしまった二人はあまりの恐怖にしめやかに失禁せざるを得ない。


小野田「恐らくこのルールを作ったヤツは、ロードレースを駅伝か何かと勘違いしている。ドラフティング効果が高いロードバイクにおいては、初日・二日目に良いタイムを出そうと、三日目に集団で走れば簡単に覆せる」

御堂筋「オマエもワカッとる側か。そうや、その通りや」

小野田「もちろんそのカラクリをきちんと理解しているヤツは、初日・二日目は様子見に徹し、三日目に本気で勝ちを狙いに来るだろう。だがどうしたことか、このIHレースにはそうした戦略的嗜好を悪と見る風潮がある。集団で走ることをコケにした考えがある」

御堂筋「けったいなことや………全くもって下らん風潮や。だが、そいつが厄介や―――――そうした勝ち方をしても、評価されないというのは」

小野田「一方でスプリント賞や山岳賞にブランド的な『名誉』や『称号』といった、『それだけ』の価値を設けることで、選手の競争意欲を高める。本当に下らない。まるでそのようなルールにしなければ、ロードレースがつまらないものであるかのような浅はかなルール設定だ。これを決めた奴は相当頭が悪いと見える」

御堂筋「同感や…………フン、長話になってもうたな。まァ、有意義な会話やったで………この初日の優勝の数億倍はな」プププ

小野田「僕もさ、御堂筋くん。つまらない話に付き合ってくれてありがとう――――三日目を楽しみにしてるよ」ニコニコ


御堂筋「それまでオマエがリタイアせなんだら、相手したるよ。ボクがな」シャガッ

小野田「そっくりそのまま返すよ、御堂筋くん」シャガッ


御堂筋「――――――」

小野田「――――――」


 どちらからともなく視線を切り、二人は歩き出す。

 すれ違った瞬間、両者とも申し合わせたかのように、その表情を悪鬼の如きスマイルに染め上げた。



御堂筋(ハコガクの糞バエなんぞ、もはやどうでもエエ。絶対に殺らなアカンのはハコガクやない、コイツや。コイツをツブして、ボクが勝利の結晶を手にするんや…………)ニチャア

小野田(幹ちゃんに録画させた今日のラストスプリント、手を抜いていたなら恐らく参考にならんだろう。まァいいさ、勝つのは僕だ。君は僕が手ずから始末してやる………)ニタァァアア


 それぞれの思惑を胸に、一日目が終了する。

 激動のIH二日目が、すぐそこに迫っていた。


石垣(なんかいろんな意味でヤバい会話を聞いてしまった)ビクビク

金城(ヤバい、ヤバイヤバイヤバイって………)ガクガク



『一日目の後日談:完』

※っていう妖怪談話だよ。

 妖怪同士の会話はよくわからないなぁ。(すっとぼけ)

 でもきっと弱ペダの楽屋裏があったとしたらきっとこんな感じ。

 あーだるいわー、意味もなくスプリントしてもうたわー。ホンマだるいわー、みたいな。

 あー名誉以外なんの価値もないクライムしちゃったよぉ、ホント意味ないわー、みたいな。


※キャプ翼や黒バス、テニプリを例に挙げてみようか

 あれを読んで「サッカー、バスケ、テニスを馬鹿にしてる」と本気で言う人は見たことがない。本気で憤っている人がいるとしたら相当大人げない人だと思う。

 そもそも上記の漫画はロードバイクと比べると一般への認知度が高く、作中では物理法則とか根こそぎブッ千切ってるわけで、明らかにフィクションであると子供でも一読してわかる。(テニプリ最初期はまあともかく)

 きっと作者としても超次元サッカー(バスケ、テニス)として書いてるだろうし、笑って許さないとちょっと大人げない。

 が、弱虫ペダルはというとロード関係者や少しかじったことのある人からすると「ハァ?」な理論をさもロードレースの常識であるかのように作中で語る。否、騙る。

 ルールについても上記投下内容のような矛盾点が多く、作者の都合で現実を捻じ曲げたものをさもリアルであるかのように書いている。

 まじめにロードバイクやってる人ほど弱ペダの内容は癇に障るんじゃあないだろうか。私は「ひょっとしてこの作者はギャグで言っているのか?」と連載当初から毎週判断に困っている。

 で、個人的にはいっそ「これはロードレース『風』の漫画だ」と作中で大規模に物理法則なりなんなりでブッ千切ってほしいところなわけです。

 ロードバイクで相手を追い抜くだけで人が「ぐわああああ」ってフッ飛んだり、気絶してなおペダル回しつづけて王者として君臨する跡部様がいたり、鳴子くんにウンコの放出によって加速とかして欲しいわけだよ。(むしろそれ私が書きたいよ) 

 まぁ、そんな感じなので「無知な売れない糞漫画家が糞理論を必死にホザいてるよwww」なお寒い空気が漂うこの漫画、ワリと私は好きである。

 そうです、ここはアンチスレじゃないんです。むしろ好意的に受け止めてネタとして扱っているだけなのです。

 けどいざ書いてみたら書きにくいんだよ!! 弱ペダはどっちつかずなんだよ!! 翼が生えるぐらいじゃインパクトが弱いんだよ!!

 何がスリーピングクライムだよスリーピング脱糞しろよオラァ「オレの排便は音がない!(キリッ」とか言えよメッチャ笑うから。

 「これがロケットマン(意味深)鳴子の、脱糞ロケットや!(ドヤァ」とか叫んで脱糞加速しろよ超面白いから。「ちーんーこー!」って言いながら走れよ肉弾列車。(意味深)

 ラスボスは浦安鉄筋家族の国会議員な。彼が脱糞加速するだけで軽く町の一区画が汚染される。後ろを走っているヤツは即リタイア。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月22日 (日) 20:47:19   ID: zjbZdKXQ

2 :  SS好きの774さん   2016年01月11日 (月) 11:22:28   ID: 9dmqLkVT

おちんちーん

3 :  SS好きの774さん   2017年05月07日 (日) 01:21:50   ID: oIZU81pv

やばい

4 :  SS好きの774さん   2018年03月03日 (土) 21:34:34   ID: NztjomM1

かっつんとなつお

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