梓「マンガと一緒に紅茶が飲みたい」 (45)


梓「まぶしい......」

梓「......朝かぁ」ヨコチラ

律「んぷぅ......」スゥスゥ

梓「......」ァハハ

律「みおぉ......」

梓「......」

梓「......」ハァ

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OL1「最近ハマってるマンガがあってさー」

OL2「えっなになに?」

OL1「『リッアンダンスタンドッツ』って言う人が描いてるやつなんだけど、
今確か持ってるはず......、あ、あった!」バサッ

中野「......」

OL2「あー、それ知ってるー!」

OL1「えっ、ほんと?」

OL2「うん! 昨日だか一昨日に、朝から昼までモッコリテレビで紹介されてたよ!!」

OL1「マジかー!! 私のお気に入りが世間に認知されたのか!!」

OL2「あんたが知ってることなんてみんな知ってるっての」ゲラゲラ

OL1「ぬおぉぉ......それを凡人に言うなんて。直でダメージくるわぁ」ズキュ-ン

OL2「めんごめんご!! ......中野っちはこれ知ってる?」

中野「ぬぁ、あ......私もー、一昨日だかにテレビで見たよ」ァハハ

OL1「ああん! マンガ読んでなさそうな中野ちゃんまで知ってるなんて!! 私、マジ凡人!!」

OL2「ははは、ほらほら元気だして元気だして」ナデナデ

中野「あ、もうそろそろ昼休み終わるよ」

OL1「私、トイレ行ってから行くわー」

OL2「あ、私も」

中野「なら、先に行っとくね」

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ガチャ

梓「ただいまー」

律「......ここで......これが......こうなってて......」ググググ

梓「......なにしてんの?」

律「あ、梓!! いや、このシーンのこいつのポーズがイマイチよくわからなくて、真似してた!!」ググググ

梓「......1人で関節キマりそうなポーズですね」

律「あと少し...あと少しで.....できそうな気が」ゴギッ

律「いったっーー!!!!」

梓「だ、大丈夫!?」トタタタタタ

律「腕がキマっ、キマって動かない!?」

梓「バカか」

律「バカでいいから、はやく外してーー!!? 痛い痛い痛い!!!!」

梓「私には律センパイの存在が痛い」ヨイショ

ゴギュン

律「う"。...っと、取れた......梓ありがとう......」

梓「私がタイミング良く帰ってきたからいいものの、帰りが遅い日だったら終わってましたね」

律「マジだ......良いところに帰って来てくれたよ。あ! 梓おかえり!!」ギュ

梓「ただいまリッアンダンスタンドッツ先生」ギュ

律「はぁ......もうバカな真似はしない。
私のマンガに出てくるやつのポーズは現実では無理だってことがわかった」

梓「律センパイが身体固いだけだって」

律「えっ、そうなの?」

梓「昨日だか一昨日にテレビで『実証!! リッアンダンスタンドッツ先生のマンガに出てくるポーズを再現してみよう!!』ってコーナーで元体操選手の芸人がやってましたもん」

律「そうだった......そんなのするってメール着てた......許可した......見逃した......」

梓「録画してあるから後で観たらいいよ」

律「本当!? ありがと、梓!!」

梓「じゃあ、私、着替えてご飯作りますから」クスッ

律「はぁ、ここのポーズは想像で書こう......」カキカキ

梓「......」ジ-

律「......」カキカキ

梓「......」ジ-

律「......想像でなんとかなった」ガ-ン

梓「あはは、やっぱバカだ」

律「お前は早く着替えて来いっての!!」

梓「はーい。さっきの律、写真撮っとけば良かった」

律「聞こえてるぞ、中野ー!」

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憂「なるほどねぇ」

梓「......」ゴクン

憂「で、その、律さんとの生活になんの問題が?」フ-フ-

梓「問題というか、なんなんだろう」

憂「?」ゴクン

梓「......ここ、私の居場所で良いんだっけ、私ここに居ていいんだっけみたいな......なんていうか」

憂「罪悪感?」

梓「......罪悪感......なの、かな?」

憂「存在の証明が他にないとか?」

梓「消してリライトしてだなんて、ネームの締め切り間近の律センパイじゃあるまいし」

憂「書いてる字が間違いなのわかって、消して修正しようとしてまた同じ間違った字を書いてることってあるよね」

梓「あるあるー! 私もさ、こないだ事務の書類で、
って、今はその話じゃなくてーー!!」バン

憂「今の梓ちゃんのテンションなら律さんに全身全霊あげられるよ。
うーん、ええと。 これまでずっと梓ちゃんの相談に乗ってきた私の立場からすると」

梓「うん?」パクッ


憂「律さんと付き合うために、澪さんに惚れているお姉さんと協力しタッグを組んで、
澪さんの律さんへ、律さんの澪さんへの想いを断ち切って、そこに梓ちゃんとお姉ちゃんが漬け込んだ形でナシ崩し的にカップルを成立させたわけだけれども、
ショーウィンドウで飾られているとても綺麗なナシは実は人の目に触れることのない裏の部分が腐ってましたってことだよね?」

梓「......グサグサ行くね、いや、むしろグサグサ来るね、親友」シャリシャリ

憂「行ったり来たりナシ崩したりナシ腐らせたりさせてるのは、梓ちゃんとお姉ちゃんなんだけどね」ゴクッ

憂「私の剥いたナシ美味しい?」

梓「うん、とっても」ゴクン

憂「お姉ちゃんと澪さんは結構楽しそうにヤッてるみたいだよ?」

憂「あ、ヤッてる、って、そういうことじゃなくて、上手く付き合ってるみたいだよって意味で」

憂「あ、付き合ってる、って、そんな突き合ってることを暗に言いたいわけじゃなくて、
確かにこないだお姉ちゃんの部屋を片付けたらペニバンが......もがっ」

梓「わかった、わかったから!! 静まれ、憂!!
聞いてるこっちが今度会うときに唯先輩と秋山澪先輩にどんな顔すればいいのかわからなくなってくる!!」

憂「ひぬとぬぬこりんな」モガモガッ

梓「?」

梓 「あ、手で口を塞いだままだった」パッ

憂「笑えばいいと思うよ?」

梓「そんなこと今必死に伝えなくていいよ!?」


憂「ふぅ......空気美味しい。でも、梓ちゃんが今頃になってようやく人間らしく自分のしてきたことに罪悪感を覚えて、
私に相談してくるようになったこと、嬉しく私は思ってるんだからね?」

梓「......まるで人を人でなしみたいに言うね」フ-フ-

憂「だって、人でなしじゃないの? 両想いで上手くいきそうだった律さんと澪さんの仲に割り込みしちゃったんだから」

梓「......」ゴクン

憂「あ、この場合の、上手くいきそう、ってのは絶頂を迎えるっていうエクスタシー的な意味を含むものじゃなくて、
律さんと澪さんが恋人同士になれるかどうかの境目だったっていう意味で」

憂「あ、境目、って言っても女の子特有のワレメのことじゃ」

梓「あぁあああああもうわかったから!! わかったから!! 憂!!! 黙って!!!」

憂「ナシ崩し的に人でなしになった梓ちゃんが今更、罪悪感を覚えても私としてはアドバイスできることはそうだなぁ......」

-----

梓「その状況でシアワセになること、かぁ......」ボケェ......

律「うぅん......」スピ-

律「......あ、」

梓「おっ!?」

律「......あはは、みおぉ、それおっかし......でへへ」スピピピ

梓「......はぁ」

梓「この状況でねぇ......」ウ-ン

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中野「うーん」

OL2「なに? 中野っち、便秘?」

中野「ち、違う!? なんでそうなるの!?」

OL1「自分が便秘だからって人も便秘とは限らないよ?」クスクス

OL2「わ、私も便秘じゃないもん!?」

OL1「はいはい。 あ、中野ちゃん、これ読む?」ガサッ

中野「ん? なに?」

OL1「こないだ言ってた、リッアンダンスタンドッツ先生のマンガ!!
OL2に貸してたんだけど、それ今日帰ってきてさ」

中野「へぇー」

OL2「あきらかに持って帰るのめんどくさいから中野っちに押し付けてるの図」

OL1「な、なんのことやら~!?」ギクッ

OL2「しらばっくれてもムダだぜ? ネタは上がってんだよ、じょーちゃん」ツンツン

OL1「なにキャラだよ」モウ

中野「借りてもいいなら、読みたい、かな」

OL1「そう? じゃあ、これ」ハイ

中野「うん、ありがとう」

OL1「返すのはいつでもいいから」

-----

ガチャ

梓「ただいまー」

律「お、おかえりー! ちょーどよかった。 今できたんだ! 熱いうちに食べようぜ!!」

梓「律センパイが料理......。今月の原稿終わったんだ。おつかれさま」

律「いやー、今月も色々あったけど、なんとかなったわー。
ほら、さっさと着替えて来いよ!」メシメシ

梓「あ、うん、そうする」ガサッ

律「ん? その紙袋なに? 」

梓「あ、これは......ちょっと仕事のやつ持って帰ってきたんだよ。
部屋に置いとくけど触らないでね?」

律「おーけーおーけー!! 前に書類にケチャップかけて怒られたこと、まだ頭が痛みを覚えてるからな。
同じ間違いは繰り返さないりっちゃんだぜ!!」

梓「律センパイ、居間に置いてたらなんでもかんでも汚すんだもん」

律「人を躾がなってないみたいに言うなよ」

梓「はっ」

律「鼻で笑うな!!」

梓「着替えて来るね」

律「......はいよっ」

バタン

梓「はぁ......」ズルズルズルペタン

梓「......素直じゃないなぁ」

ガサッ

梓「リッアンダンスタンドッツのマンガ、律センパイが恥ずかしがるから読んだことないんだよね。部分部分は知ってるんだけどな」

梓「......」ジ--

律「あずさー!!チャーハン冷めるー!!」

梓「はーい!! 今行くから!!」

梓「時間がある時に読もう」

ガチャ

-----

唯「私と澪ちゃんはそういうの、ないね」パクッ

梓「」ゴキュン

唯「今、ちょーシアワセだよぉ?」ムシャムシャ

梓「それはないですよ、唯先輩。ひどい裏切りをみた」


唯「そんなこと言われてもなぁ」ゴクン

唯「はぁ、ここのクッキーやっぱ美味しいねぇ~」ウフフ

梓「それは、同感、......だけどさ」サクッ

唯「でも、りっちゃんもあずにゃんもヤることはヤってるわけでしょ?」モシャモシャ

梓「それはまぁ、はぁ、まぁ、律センパイ、そこら辺は恋愛感情と結びついてるんだかどうなんだかわからないですけど」ゴクン

唯「りっちゃん、バカだから本能と性欲が直結してそうだよね。その点澪ちゃんはもう乙女乙女してて
......あぁ、もう思い出すだけでかわいいよぉぉお」ハァハァ

梓「もう見たまんま、唯先輩も律センパイタイプじゃないですかよ」

唯「むっ、失敬な。私は『恋愛感情:本能:性欲=6:2:4』ぐらいだもん」

梓「8...それトータル12になってるじゃん」

唯「そういうあずにゃんは?」

梓「私は......『7:1:2』......ぐらい」

唯「うわ、リアルー!!」ケラケラ

梓「もう、なんで茶化すんですか!!真面目に答えたのに!!」

唯「あはは、ごめんごめん、怒らないでよ、あずにゃん」ヒ-ヒ-

梓「ヒ-ヒ-ってまだ笑ってる、もう!!」

唯「冗談だから、そんな怒らないでよ、キレにゃん」

梓「人をジバニャンみたいに言わないでください!!」

唯「今流行ってるよねー。うちのとこの幼稚園児も毎日ニャンニャンニャンニャンヨーデルヨーデルうるさいよー」

唯「私は澪ちゃんを毎日ニャンニャンニャンニャンヨーデルヨーデル言わせてるけどねー」

唯「まぁ、何が出てるんだ、って話なんだけどさ、あはは」

梓「はぁ......このペニニャンめ」ボソ

唯「ん? なんか言った、あずにゃん」

梓「いえ、なにも。私たちも使ってみるべきなのかなぁ」ハァ

唯「なにを?」

梓「いえ、こっちの話です」ァハハ

唯「私からのアドバイスとしては、そうだなぁ」

-----

梓「無いものは補え、ねぇ......」

律「なぁ、マジでこれつけてするの?」ビョ-ン

梓「いちおー、kanazonで星がいっぱいのやつ買ったんで。レビュー良くてそれなりに高かったんで」

律「うーん、文句言わないで使えってか。そして、私がつけるのかい」

梓「え、今日は律センパイヤられたい側ですか?」

律「う、いや、そう言われると、こういう体験してみるのもいいかな、とか思ってたりする」

梓「ノリノリかよ」

律「むしろローションでヌルヌルだったりするけどな、今」ヨット

梓「行為は割愛するよ」

律「愛を割るだなんて字面的に不吉だけどな」

梓「いいんです、最後に愛は勝つんですから」

律「うーん、照り焼きチキンが食べたくなってきた」

梓「せめてカツで繋がり持たせてよ!!」

律「......疲れた」グッタリ

梓「どうでした?」グッタリ

律「両手が使えるってレパートリー増えていいね!!」グッ

梓「満足?」

律「梓は?」

梓「......いつもより良かったかなぁーっ......」

梓「なんて」ボソッ

律「なら、まぁ、さもありなんなんじゃね?」

梓「次は律でヤってみよう」

律「......こ、今度な。今日はもう疲れた」

梓「わ、私も今日はなんだか疲れました」

-----

中野「......ふぅ」

OL2「中野っち、なんだかおつかれやね、今日」

中野「ちょっと......寝不足で」

OL1「あ、もしかして徹夜でマンガ読んだとか?」ヒョコ

中野「......そ、そんな感じ!!」ワタワタ

OL2「!」

OL2「ふーん」ニャニャ

OL1「まぁ、返すのは本当にいつでもいいから、ゆっくり読みなよ? 寝不足良くない!!」ムンッ

中野「う、うん! ありがとう。ゆっくりじっくり読むことにするよ」

OL2「中野っち!!」ニャニャ

中野「?」

-----

紬「梓ちゃん、首に絆創膏してるけど、怪我?」

梓「いや、あははー!? なんと言いますか、えっと、季節ハズレの蚊に喰われまして」ワタワタ

紬「そうなんだ。気をつけてね? 最近、色々と病気流行ってるらしいから。
蚊に喰われだけでも一大事だよ?」

梓「はい。気をつけます。ちゃんと蚊取り線香炊きます」ショボン

紬「ふふ。じゃあ、蚊に喰われてなんだかお疲れ気味な梓ちゃんとりっちゃんには蟹でも食べて元気になってもらいましょう!!」ジャ-ン

梓「えっ、蟹!? この蟹どうしたんですか!?」キャアアア

紬「りっちゃんの新刊が3008万部を達成した記念に担当である私からの差し入れでーす!!」

梓「3008万部...!? なんか中途半端な数ですけど律センパイのマンガってそんなに売れてるんですか?」

紬「梓ちゃん、知らないの? りっちゃんのマンガ、今ブームだよ? ブームなうだよ。この蟹でも会社としては感謝足りないくらいだよ?」

梓「全然知りませんでした......」

紬「ネームから背景から何から何まで1人でマンガを描くって大変なんだからね?
月刊誌だって言っても、りっちゃんの頑張りって並大抵のことじゃないし、頑張ったところでブームを起こすマンガなんて描けるわけじゃないんだから」

梓「私、たまに手伝わされてますけど、背景とか資料集めとかベタ塗りとか」

紬「......」

梓「......」

紬「......とにかくりっちゃんはすごいの!!」

梓「はい。律センパイはすごいですね!!」

紬「というわけで、2人でタラバ蟹食べてね?」ニッコリ

梓「はい、そういうことでしたらば、遠慮なくいただきます」

紬「あ、話は変わるけど梓ちゃん」

梓「はい?」

紬「こないだ、りっちゃんが私に相談してきたよ、梓ちゃんのこと」

梓「私のこと......?」

紬「梓ちゃんが唯ちゃんと一緒にりっちゃんと澪ちゃんの間に入ったこと、私は今でも許してませんからね!!」

梓「......はい、わかってます」

紬「でも、私だってそんないつまでも感情的になって現実を見てみないフリなんてしてないの。
唯ちゃんは澪ちゃんとシアワセそうだし、澪ちゃんだって今はもう唯ちゃんとそれはもう仲良く、仲良くしてくれちゃって堪らないの」アアア

梓「は、はぁ......たまらな?」

紬「梓ちゃんも、ただりっちゃんとくっ付いただけじゃなくて、ちゃんと介護...おっと。
面倒みて上手くやってるみたいだし、今はこれはこれでアリな未来だったのかな、って私少し思い始めているのよ?」

梓「......律センパイの介護」

紬「もっと2人で話をしてみたら?」

梓「2人で......」

紬「本音と本心と真実っていうの? そういうの、あきらかにしちゃったら、ギクシャクして戻れないかもしれない。
聞かなきゃよかったって思うこともたくさんある」

紬「どうでもいい人なら、そこでバイバイしちゃえばいいんだけどね。
でもずっと一緒にいたい人ならそれって乗り越えたり飛び越えたり、泳ぎ切ったりとか走り切ったり逃げ切ったりしないと、ね」

-----

梓「それが私からのアドバイス、かぁ......」ファァア

律「......」スヤスヤ

梓「......これまたよく寝ていらっしゃる」ハハハ

律「あ......」

梓「?」

律「......蟹味噌うめぇよ」グフフフ

梓「うん、そうだね、蟹味噌美味しかったね、タラバ蟹最高だったね!」

律「みおぉ......」ニャムニャム

梓「......はぁ」

梓「まあ、いいや。おちこんでても仕方ない。今日は仕事休みだし、借りたマンガでも読もうかな」

梓「借りなくても、探せばこの家にあるんだけどね、借りてきた本全部。
律センパイが恥ずかしがって隠してるけど、さ」

梓「さてと......」ペラッ

-----

中野「......」ボケェ......

OL1「中野ちゃーん、ハロハロ!!」

中野「あ、ハロハロアハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」

OL1「うわっ!? なんか負のオーラ出てるけどどうしたの?」

中野「い、いや、ちょっと、気疲れしちゃって。
あ、これ、借りてた本、ありがとう」ガサ

OL1「えっ、もう読んだの? どうだった?
リッアンダンスタンドッツ先生のマンガ!! ちょー面白かったっしょ!?」

中野「うん......すごく面白かった。 ものすごく考えてることが伝わってきてためになった。
道理で読ませたくなかったはずだって合点がいったっていうか。あはっ、あははははははは」

OL1「よ、よくわからないけど、楽しめたなら良かったよ!!」アハハハハ

OL2「中野っち、ハロー」ヨッ

中野「......あ、ハローハローハロロロロロロロロロ口口口口口口口口」

OL2「!?」

OL2「中野っち、どったの?」ヒソヒソ

OL1「わ、わかんない。さっき絡んだらこんな状態だった。
まるで萎んだ風船に二酸化炭素入れてるみたい」ヒソヒソ

OL2「そのたとえ普通に膨らましてるだけじゃん。てか、中野っちの目、めっちゃ怖いんだけど。
屍鬼の2巻の表紙にそっくり......。やべぇ。ヤられる」ヒソヒソ

OL1「屍鬼......。じゃあ、私、中野ちゃんに対抗して『近ごろわたし気分がいいわ!』のポーズしとくね!!」ヒソヒソ

OL2「全く意味わからんな。全く意味わからんなお前」ヒソヒソ

OL1「どうしたんだろう、中野ちゃん」

中野「ーーーーーーはぁ」

-----

澪「んで、なんで直に律じゃなくて私に話を?」ゴクッ

梓「......自分でもよくわかりません」

澪「『よくわかりません』かぁ。
梓はもっとスマートなやつだと思ってたんだけどなぁ」フム

梓「秋山澪先、......澪先輩って」

澪「ん?」

梓「まだ律センパイが好きですか?」

澪「......」

梓「......」

澪「えっと」

梓「......」ウルッ

澪「何年前の話をしているんだよ、梓は」ハァ

梓「......」グスッ

澪「もう幻滅だ。梓、幻滅するよ。
幻滅が点滅してて頭痛がしてくる。目の前がチカチカするくらいだよ」

梓「すみません......」グスッグスッ

澪「確かに律が好きだったこともあるよ、勿論恋愛感情として。好きな人として。
でも、梓も知ってるだろうけど、私は今は唯が好きなんだ。唯が大好きなんだ」

澪「律のことは今でも好きだよ。色んな人と出会った上で、田井中律って人間の素晴らしさを更に実感したよ。
だけど、勿論恋愛感情はもうない。律は人として好きなんだ、ただそれだけだよ」

梓「毎日ニャンニャンニャンニャンヨーデルヨーデルですもんね」

澪「ん? なんだそれ」

梓「いえ、なんでもないです」


澪「だから、まぁ、そういう疑いはお互いのために良くないし。
これっきりにしてくれ。さ、泣き止めよ」

梓「うぅ、澪先輩。すみません」ヨヨヨ

梓「でも、律センパイが......」グシグシ

澪「まぁ......あの律というか、リッアンダンスタンドッツのマンガを読んだら梓が不安になることくらいわかるよ......うん」

梓「!? 澪先輩、あのマンガ読んでるんですか!?」

澪「唯がさ、新刊出る度にマメに買ってくるんだよ。で、マメに居間に置き忘れていくんだよ。読むだろ。そんなとこに置いてたらば、読むだろ、私は本が好きなんだから、読んじゃうだろ。
あの唯でさえ、私が居間に置き忘れたら日経新聞たまに読むんだぞ!? あの唯がだぞ!? 信じられるか?」

梓「私はその物のいいように澪先輩が唯先輩を本当に好きなのかどうか信じられなくなってきました」

澪「既刊全部読んだ上で言うからな、私がただの自己愛昇天ユニコーンMIX盛りなのだとしたら、思う存分に笑ってくれよ」

梓「いや、もう言わなくてもいいくらい、私、今、澪先輩が言いたいことわかります。わかっちゃいます。
むしろ『どうして澪先輩に相談しに来たのかわからない』とか言ってた自分はただ単に澪先輩が律センパイのマンガを読んでなかったら話が通じないから予防線張ってただけだったんだなって思いますから」

澪「言うぞ?」

梓「お手数をおかけします」

澪「律の、リッアンダンスタンドッツの、マンガのヒロインさ、あれ、私にそっくりだよな」

梓「......」

梓「......はい」ハァ


澪「お前たち上手くいってないのか?」

梓「いやー、表面上は上手くいってると思うんですけどねぇ」

澪「表面上ねぇ。どっからどこまでが2人の表面なのか私にはわからないけど」

梓「律センパイ、寝言言うんです」

澪「?」

梓「......澪って。私の名前なんて一度も呼んでくれない」

澪「......表面下、全く上手くいってないな」

梓「うぅ、うぅ。でも、私......律が好きで......」ボロボロ

澪「どうするんだ?」

梓「どうしましょう?」グスグス

澪「私に聞くなよ」

梓「でも、どうしたらいいか」

澪「......本人に聞くか」ゴソゴソ

梓「?」

澪「.........あ、律? 今どこ? ......家?締め切りは大丈夫なのか?
うん、......なら、大丈夫だな」ピッ

梓「......昨日ネーム終わったので今日は多分ドラクエのレベル上げしてます」グスグス

澪「みたいだな。ピコピコピコピコ後ろで音がした。ってか、律に電話しなくても梓が居たんだった」

澪「じゃ、行くかー」ハァ

-----

ガチャ

梓「た、ただいまー」

律「......... おかえりー」ピコピコピコピコピコピコピ

澪「......」

律「あ、まだ1時間しかしてないからな、さっきゲーム始めたばかりだからな」ピコピコピコピコピコピコピコピコピコ

梓「ゲームは1日2時間って決めてるんです」ヒソヒソヒソヒソ

澪「......」アタマカカエ

澪「おい、律」

律「ん、なに、澪」ピコピコピコピコ

澪「......」

律「って、澪!?」バッ

澪「気づくの遅いな、ってセリフ用意してたけど、意外と気づくの早かったな」

律「え、なんで、澪がここに?
あ、さっきのは部屋に来るから電話かけてきたのか?」シドロモドロ

澪「まぁ、そんな感じだよ」

律「えっと、......んと」チラッ

梓「?」

律「梓と帰ってきたってことは梓に用があるのかな?
それなら私、ちょっと外出て来るけど?」

澪「いや、その必要はない。律と梓と3人で話がしたくて今日は来たんだ」

律「3人で?」?

梓「......」

澪「率直に聞こう、律。お前、私のこと、好きなの?」

律「は!? えっ!?はぁあああ~~!? ばっ、なに言っちゃってんのー? 自意識過剰だろー!?はあっ、はぁーー?」

梓「反応が中学生男子だ」

澪「うん、丸わかりだけど......正直に言えよ、じゃないと話し合いに意味がなくなるから。
今更恥ずかしいとか、そんなこと言うのはやめろよ?」

律「............」

律「......なんでそんなこと聞くの?」

梓「......」

澪「私がお前のマンガを読んだ率直な感想を言ったまでだよ」

律「マンガを......読んだ? 澪、ああいう系のマンガ読むの!? 意外なんだけど!?」

澪「唯が好きなんだよ。唯が好きなものは私だって好きになりたいからな。
読んだよ。で、その感想を読者様が直々に伝えに来てやってるんだ。早く答えろよ」

律「ぐっ......え、......これはマジか。マジなのか?」

梓「マジですよ。律センパイ、答えてよ」

梓「澪先輩のこと、今でもまだ好きなんでしょ?」

律「.........」

律「......好きだよ、澪のこと」

梓「......そっか」

澪「でも、私は律のことそういう風には思ってないから。私は唯が好きだから」

律「もう、わかってるよそんなこと、言われなくても」ハハハ

梓「私のことは?」

律「勿論好きだよ、大好きだ」

澪「......」

梓「でも、律センパイは私より澪先輩の方が好きでしょ?」

律「え、そんなことないけど。両方同じくらい好きだよ」

梓「......えっ?」


律「はぁ。どうしてみんな愛は1人に向けるものだなんて簡単に割り切れるんだ?
私はそこら辺が理解できないよ。
『人には優しくしましょう』って言っておきながら一夫一妻制? 全くわけわかんねーよ。
好きになったもんはもうしょうがねーじゃねわか。
嫌いなピーマンは意地でも食べさせられるのに、好きな人は1人しか作っちゃダメ? なにそれ? どういう理屈なの?
愛はそう簡単には割り切れるもんじゃない。
割愛だなんてできるわけがないんだ」

律「勿論、こんな考え、認められる、わかってもらえるだなんてこれっぽっちも思ってないよ、私だってそんなこと思ってない。
でも、だから、だからこそ、私はマンガに逃げたんだ」

律「マンガの中で私は澪を愛でた。
人一倍愛でた。私のマンガは幸いたくさんの人に読まれて、澪を模したあのヒロインはキャラ投票でも常に1番だ。うん、いいよ、別に。
自分のマンガのヒロインがたくさんの人に愛されるのは見てて気分が良かったし」

律「でも、どんなに熱烈なファンでも、私ほどあの子を好きなやつはいない。
私ほど澪を好きなやつはいない。
澪が私以外の誰かを好きでも別にそれは構わない。
この気持ちで迷惑だってかけない。
そんなことになるようなことは描かない」

梓「......そんな......律センパイ......ひどいよ......」ボロッ

律「でも、同じくらい私は梓が好きだ。こんな私を支えてそばに居てくれる梓が好きだ。
私のことを一番に考えてくれる梓が好きだ。だから、一緒に居る。
一緒に暮らしてる。キスもするしエッチもしてる。
嫌じゃないからだ。
梓とそういうことをするのが嫌じゃないからだ。
むしろ梓とそういうことがしたいから、私は梓と一緒にいるし、これからも一緒にいるなら梓がいいと思ってる。
願ってる」

澪「うーん、しばらく会ってないうちに色々と拗らせてるな、律」


律「うっさい。私のことをそういう風に好きじゃないならもうどっかいけ。
私の前から消えろ。
唯と一緒にシアワセになれ。
でも、たまに2人で顔でも見せに来い。
いや、別にこの家に来るのがいやなら言ってくれれば店でも予約するよ?」

澪「ブレすぎてるだろ、もう少しセリフに一貫性持てよ」

梓「......律センパイ」グスグス

律「なんだよ」

梓「私のこと好きなら、一つお願い事聞いてくれます?」

律「......やだ」

梓「......ひぐっ、ぐすっん、もう、やだ、結局律センパイは澪先輩が一番好きなんじゃん」

律「もうちょっと待ってよ、梓」

梓「うっさい、黙れこの人でなし!! うぇーん」ボロボロ

律「今やってる連載、あと2話で終わらせるから」ポリポリ

梓「......えっ?」

律「さっき言ったろ。『この気持ちで迷惑だってかけない。そんなことになるようなことは描かない』って」

梓「......」スンスン

律「梓が泣いた以上、それはもうこの気持ちが迷惑をかけた証拠だ。
紛れもない事実だ。梓が泣いたんだ。
そんなことになるようなこと、私はもう描けない」

梓「......律センパイ」グスン

律「ただ、えーっと、あと2話は待ってくれ。
昨日描き終わったネームを今から直してどうにかするから!! ムギにもそう話つける」

梓「いきなり、終わらせてムギ先輩納得するの?」


律「納得? ムギが納得するわけないだろ。
あのマンガ一応看板飾ってんだぞ? 商業なめんな、梓」アハハハハハハ

梓「無責任ー!!」うわぁああああああああん

律「お、おい、泣くなよ!?」アワワワワワ

澪「もう、言ってることが無茶苦茶すぎてついていけない......。
てか、私はもう要らないだろ、帰る。今日夕飯当番だし」

律「うん、もういいや、帰れ帰れ。
澪が居ても私の気持ちがザワつくだけだ」シッシッ

澪「イラっとするな、その態度」イラッ

澪「帰る!」

律「おう! じゃあなー!あ、唯にクッキー送ってって頼んどいて!!
こないだの梓が1人で全部食べて私、食べてないんだ高いクッキー 」

澪「直接律が唯に言えばいいだろ!?」

律「まぁ、大目に見てよ?
もう、私はこうでもしないと澪と話するキッカケがないんだから、さ」

澪「......ふん」

バタン

律「ほら、梓、泣き止め。 私はお前が大好きだ。
お前のためなら、澪を模したヒロインの登場するマンガだって捨てられる私になれる 」

梓「うっぐ......律センパイ、でも、ムギ先輩が......ひっぐっ」ボロボロ

律「うーん、ま、大丈夫っしょ。
あのマンガも引き伸ばしに引き伸ばを重ねてここまで来たから、さ。
もう次の新しいマンガも考えてあるし。
そろそろ潮時なんだよ、私もあのマンガも」

律「......恋の、故意な終わり方は鮮やかに決めないとな」ぎゅー

梓「......」グスン

-----

梓「うーん、朝かぁ......」ネムネム

律「もう食べられないよ、ナシ」モゴモゴ

梓「......澪先輩がナシでも剥いてるのかな?」

律「蟹がいい、蟹食べよーよ、あずさぁ......」プフプフ

梓「......」

-----

OL1「ねぇ、見た見た?」

中野「ん?」

OL2「またその話ー? もう何回目だよ」

OL1「いや、まだ何も話してないからね? しかもこの話題は今日が初めてだよ!?」

OL2「はいはい。んで、なに? なんかあった?」

OL1「あったよ!! チョー大事件!!! なんと今日、リッアンダンスタンドッツ先生待望の新連載の第1巻が発売日されましたー!!」パチパチパチパチ

OL2「あ!おまっ、今日の午前中だけ有給とってたのは、もしかしてマンガ買いに言ってたモガッ!?」

OL1「ちよっと、大声出さないでよ、課長に聞こえるでしょ!?」

中野「あははは」

OL2「ぷは。 まぁ、よかったね。リッアンダンスタンドッツ先生、新連載始めてくれて。
前の連載が終わるって決まってからこの2ヶ月間、泣き通しだったし」

OL1「本当にそれ。本当に良かった。
神様ってお腹壊した時に祈るための常套句じゃなくって本当に居るんだなって確信した」

OL2「あんたの中の神様の存在感、トイレットペーパー以下だろ、それ」

OL1「トイレットペーパー無く者はトイレットペーパーに泣くんだからね!」

OL2「はい、はいわかったわかった」

OL1「中野ちゃん、これも読み終わったら貸すけどどう?」

中野「あ、私は大丈夫。買うことにしたから」

OL2「お、中野っちもリッアンダンスタンドッツ先生の話の虜になっちゃった感じ?」

OL1「中野ちゃん! 読んだら感想言い合いっこしようね!! ねっ!! 絶対、約束だから!!」フンフン

中野「あははは......う、うん。そうだね」

課長「中野くーん、ちょっといいかなー」プルプル

OL2「あ、中野っち、ハゲに呼ばれてるよ?」

中野「うん、なんだろ。ちょっと行って来る」タタタタタタタ

OL1「ね、ね!」

OL2「なに? 積極的なネタバレならノーセンキューなんだけど」

OL1「このさ、表紙の子、ヒロインなんだけどさ、あ、これくらいのネタバレならいいよね?」

OL2「それくらいなら、まぁ。これが新しいヒロインかぁ。
また、黒髪なんやね。......うん?これって中野っちに似てない?」


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ガチャ

梓「ただいまー」

律「うわーん夕日沈まないで太陽のバカこんちきしょう頼むから頼むからうわーん!?
締め切りがくるぅううううううううう」カキカキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「......今日は修羅場か」

律「ネームで載るのは嫌だぐすっぐすっ......はっくしゅん!!」カキカキカキカキカキカキカキカキカキ


梓「律センパイ......手伝うよ? できることしかできないけど」

律「マジで!?」パァァアアアアア

梓「うわ、鼻水垂れてるよ、どんだけ余裕ないの?」ハイチ-ン

律「ズルルルルル。......だはー。
いやー、余裕がなくて、自分をごまかすために余裕を演出してたら本当に余裕がなくなった」カキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「......ゲーム何時間したの?」

律「んっん~~♪」カキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「......もう、マジでバカ律なんだから......」

律「うっさいやい!! こちとらストレスも溜まるんでい!!」カキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「そういうところ、ウザいけど可愛くて大好き」

律「......うーん、胸の上の辺りががざわざわする、ざわざわする」カキカキカキカキカキカキカキ

律「あ、唯から届け物が着たぞ。今回は宅配便だった。そこに置いてある」カキカキカキカキカキカキカキカキカキ


梓「あ、本当に。わーい! 唯先輩大好きー!」

律「ちょっと、待って高いクッキー今度こそ私も食べたいんだけど高いクッキー!?」カキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「なら、紅茶淹れてくださいよ、律センパイ」

律「いや、私のこの状況を見てそれ言うのかよ!?
てか、手伝ってくれるんじゃなかったの?」カキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「気が変わった。ゲームやってる人の仕事なんて手伝ってあげませーん」パクッ

律「あ、こら、また、1人で勝手に食べるんじゃない高いクッキー!?」カキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「ほら、早く紅茶淹れて来てよ、律」ガサガサ

律「梓が自分で淹れればいいだろ?
てか、なにその本屋の袋。なんか本買って来たの?」カキカキカキカキカキカキカキカキ

梓「うん、マンガ。売り上げに貢献したんだから読者様に紅茶でも淹れてくれてもいいんじゃないですかね? 私は今から」モグモグ

律「あ、新刊......」

梓「マンガと一緒に紅茶が飲みたい」ゴクン

おわり。

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