穂乃果「寝たふりしてると海未ちゃんが髪のにおいをかいでくる」 (158)


――合宿1日目 夜 消灯後


…バリ…ボリ…


海未「この音は……」


…ボリ、バリ…


海未「まさかっ!」


ガバッ!






穂乃果「あっ」バリボリ



海未「なにをやっているんですかあなたはっ!」


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海未「なんで布団の中で煎餅なんて食べてるんですか!」ばっ!

穂乃果「あーっ! 穂乃果のおせんべいさん!」


海未「消灯後に!!」

海未「しかも他所様の布団の中で!!」



穂乃果「だっておなかへったんだもん!」

海未「どんな客ですかっ!!」


穂乃果「穂乃果のおせんべいさん……」シュン


海未「常識がなさすぎますっ!!」



海未「くっ……私がいながら……」

海未「どうしてこんな子に育ってしまったのでしょう……っ!」プルプル




穂乃果「海未ちゃん、まあまあ」どうどう


海未「あなたを叱っているのですっ!」

海未「いい歳なんですからいい加減もっとちゃんとしなさいっ!!」


――1時間後 布団の中


穂乃果(やっぱりおなかすいたなぁ)

穂乃果(もう海未ちゃん寝たよね? 寝付きいいし)

穂乃果(いまこそ「寝静まったら食べ直す」作戦を……)



海未「――穂乃果、もう寝ましたか?」

海未「まさか『寝静まったら食べなおそう』とか考えてるんじゃないでしょうね?」



穂乃果(ば、ばれてるっ!?)

穂乃果(また海未ちゃんに怒られる)ドキドキ


穂乃果(……寝たふりしてやり過ごそう)ドキドキ



海未「……」



穂乃果「ぐー、ぐー」

海未「……」



海未「……」もぞもぞ





海未「……」ずいっ

穂乃果(ち、近づいてきたっ!?)


穂乃果「ぐー、ぐー」ドキドキ

海未「……」じーっ



穂乃果(なんか近くでじっと見られてる気がする……)

穂乃果「ん……むぅ」


ごろんっ


穂乃果(思わず寝返りして逃げちゃった)ドキドキ

穂乃果(お、起きてるのばれたかな?)ドキドキ



海未「まったく、穂乃果は……」

海未「いつまでたっても子供なんですから……」


穂乃果(後ろから、海未ちゃんの呼吸が、近く……)ドキドキ

穂乃果(ていうか、触れそうなくらい……)


海未「…………」すっ


ぴとっ








海未「…………すぅ」すん


穂乃果(――っ!?)


海未「…………」すんすん


穂乃果(あ、あれっ?)


海未「……っ」

穂乃果(なにかな、これ)ドキドキ




海未「……」すんすん


穂乃果(髪のにおいを嗅がれてる――――)



海未『――穂乃果っ! あなた髪ちゃんと洗ってないでしょう!』

海未『――もっとちゃんとしなさい! あなたは最低です!』ばしーん!



穂乃果(――――みたいな展開?)ドキドキ


海未「……」すんすん


穂乃果(――穂乃果だって髪くらいちゃんと洗ってるよぉ……)


海未「……っ///」


海未「~~~~っ!」ぱっ!

海未「い、いけませんっ」そそくさ



穂乃果(離れてった……無罪ほーめん?)

穂乃果(穂乃果、海未ちゃんに嫌われてるのかなぁ)

穂乃果(悲しいなぁ……)シクシク

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

海未『……』つーっ


穂乃果『あっ! そこはっ!』


海未『穂乃果さん。このホコリはなんですの?』ぱらぱら


穂乃果『い、いまから掃除しようと……っ』あせあせ


海未『掃除ひとつもろくにできないのですか!』

海未『ずっと私がそばにいながらっ! どうしてこんな子に育ってしまったのでしょう!』

海未『もっとちゃんとしなさいっ!』


がしっ!


穂乃果『うわーん! はなしてー!』ばたばた

海未『おしりをだしなさい!』


穂乃果『ごめんなさいいいいい』びえーん!





海未『おしりぺんぺんですっ!』


ばしーん!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――合宿2日目 早朝



希「――それで、なんの相談なん?」


海未「実は、その」

海未「これは、私がよく知っている人の話なんですが」


希「……海未ちゃんがよく知ってる人の話な、うん」


海未「その人は、その、あの」

海未「密かに、友達に10年片想いしているのですが」


希「……うん、海未ちゃんがよく知ってる人の話な」

希「うん、うん」


海未「最近、抑えが効かないといいますか」

海未「もう……心が、殺しきれない……ようで」

海未「っ……」プルプル


希「う、うん」


海未「自分の意思で、身体が制御できない、といいますか」

海未「どうして……っ」ジワッ

海未「……いままで、こんなはずでは」ポロポロ

海未「なかった、のですが」グスッ



希「……」

希「んー」


希「いまの、本当に『海未ちゃんがよく知ってる人』の話なん?」


海未「えっ?」

希「うちはね、話を聞いてて……」



希「……海未ちゃんはそのひとのこと、全然分かってないって思ったよ」



海未「どういう意味ですか?」

希「もっとそのひとのこと、まっすぐ見つめてあげたらどうかな」

希「『心を殺しきれない』だなんて、ずいぶんとそのひとに対して厳しいみたいだけど……」



希「もっと、そのひとのハートを大事にしてあげたらいいんじゃないかなー」


海未「……」ぽつーん


海未(どういう意味だったのでしょうか?)

海未(ハート?)


海未(私に足りないもの……)

海未(澱みのない、水のように澄み切った、気高い心……)



海未「……」

海未「今日の練習も、気合を入れていきましょう」ぼそっ


海未(身体がいうことを聞かないのは、きっと)

海未(私の心が邪念にとらわれているせいですね)



海未(……鍛え直しです)キッ!


――練習中


~~♪


穂乃果(なんだか嫌な夢見たなぁ)タンタンタン


…クルッ!


海未「――穂乃果っ! ターンがワンテンポ遅いです!」

海未「何度言ったらわかるんですかっ!」


穂乃果(あぅぅ……海未ちゃん穂乃果に厳しすぎるよぉ……)シュン

穂乃果(やっぱり穂乃果のことキライなんだ……)グスッ


海未「もっと練習に集中しなさい! 注意散漫ですよ!」

穂乃果「ごめん……」ズキズキ


穂乃果「ちょっと休憩しようよー、足いたいよー」

海未「だらしないですっ! もう音を上げたのですか!?」

海未「身体が怠けてるからすぐにそうなるのです!」


穂乃果(特訓、特訓……鬼コーチだなぁ)

穂乃果(太もものこのあたりが痛いよー)サスサス…

さすさす



海未「……」チラチラ


――夜 消灯後


穂乃果(足痛くて眠れないなぁ……)

穂乃果(もう寝てるだろうし、おせんべいでも――)モゾモゾ




海未「――穂乃果、もう寝ましたか?」ぼそっ



穂乃果(げっ、海未ちゃんまだ起きてた……)

穂乃果(もう……海未ちゃんは邪魔ばっかり)



穂乃果「ぐ、ぐー、ぐー」

海未「……」ずいずい


穂乃果(また背後から近づいてくる……)


穂乃果(たぬき寝入りを疑われてる?)ドキ


穂乃果「ぐー、ぐー」


海未「寝てますよね……」

海未「ほんとうに、まったく穂乃果は……」

海未「こんな無防備で……」スッ



穂乃果(ん? 穂乃果のふともも、さわられて……)

海未「……」スリスリ



穂乃果(あ、あれ……痛いところ、撫でられてる……)ドキドキ

すりすり


穂乃果(――なんか、気持ちいい)ぷわぷわ

海未「……」スリスリ


ふわっ










海未「……ぁ」スン


海未(ち、違いますっ! 今日はそんなつもりじゃ……っ!///)


ドクンドクンドクン!


海未「ぅ……///」


ドクンドクンドクン!



穂乃果(ん――――?)

海未「……」プルプル


ぴとっ





海未「……っ」スンスン



穂乃果(あっ、またやってる)

穂乃果(髪に顔を埋められるのけっこう恥ずかしいんだけどなぁ///)


海未「……ぁ……」くんくん



すりすり


穂乃果(う、うぅ……///)モジモジ

穂乃果(撫でられるの、きもちいぃけど……っ)ドキドキ

穂乃果(なんか手つきが、妙に優しいというか、なんというか……っ)



海未「ぅ……ぁ……」すっ


海未(だ、駄目です)

ぷるぷる

海未(手が、身体が、勝手に――っ!)



――きゅっ



穂乃果(っ!?)


穂乃果(な、なんか、これっ、もしかして――)

穂乃果(――抱き、しめ――)



海未「ぅ……」


――ぎゅぅぅっ





穂乃果(いったい何なのっ? 安眠妨害っ?)ドキドキ

穂乃果(穂乃果を寝苦しくさせようっていう意地悪なのっ?)



海未(い、いけません、こんな……穂乃果が寝てる間に……)ぎゅっ

海未(……こんなこと)プルプル

海未(でも……)


海未(抑えが……効きません……っ)すんすん



穂乃果(なんかよくわからないけど穂乃果の心臓がドキドキする……)


海未「だめ……だめ、です……」すっ


なでなで


穂乃果(今度は、頭を撫でられてる……)

穂乃果(あぅ……海未ちゃんに優しく頭なでなでされるの……)

穂乃果(すっごく、心が落ち着く……)



海未「ん……っ!」すんすん

ぎゅううっ


穂乃果(気持ちいぃし……)

穂乃果(なんか、いっか……)


穂乃果「……すぅ、すぅ」


――――

海未「ごめんなさい……」

穂乃果「すぅ……すぅ……」zzz. zzz










海未「穂乃果……ごめん、なさぃ……」グスグス

海未(消えてしまいたい……)


――早朝


海未(私はこれから先、一体どうなってしまうのでしょうか)シュン


海未(どんどん抑えが効かなくなり、いつか穂乃果を無理矢理襲って……)




海未(……駄目ですね、もう……駄目です)じわっ


海未(10年想い続けましたが、私に穂乃果を好きでい続ける資格は――)ぽろぽろ


海未「ひぐ……もぅ、ありません」えぐえぐ





海未「っ…なんで…グスッ…どうして」ぽろぽろ


――朝


海未「……」

穂乃果「あれ? 海未ちゃんなんか元気ないねー?」ひょこっ


海未「……」



穂乃果「どうしたの?」すっ…

海未「放っといてください」ぱしっ!



海未「……ごめんなさい」すたすた




穂乃果「海未ちゃん!? なんか冷たいよっ!」

海未「……」すたすた


――昼


穂乃果「……ってことがあったんだ!」

希(あー、海未ちゃんこじらしちゃったんか)


穂乃果「ひどいよね!」

希(うちも無力やったなぁ。ごめんな海未ちゃん)


穂乃果「ぜったい許さない! 覚えてろ海未ちゃんめっ!」がるるっ

希(『ある悩んでる人についての相談』という形だったし、『力を貸して』と頼まれたわけじゃないけど)

希(……反省しよ)


希「それで、穂乃果ちゃんはどうしたい? 仕返しでもするの?」






穂乃果「穂乃果は海未ちゃんと仲良くなりたい! 希ちゃん力貸して!」

希「もちろん、まかせて」くすくす


――夕方

希「真姫ちゃん」

真姫「なぁに?」


希「この別荘って防音室ある?」

真姫「ピアノルームが防音仕様よ」

希「移動式ベッドある?」

真姫「あるわ」


希「さすがやなぁ」

真姫「でっしょー?」


希「アイマスクある?」

真姫「あるわ」

希「口を縛れる手ぬぐいとかある?」

真姫「あるわ」

希「手錠ある?」

真姫「あるわ」

希「お札と水晶球ある?」

真姫「あるわ」





希「え? あるの?」

真姫「あるわ」

希「よしよし」なでなで

真姫「えっへん」


――夜 別荘(ピアノルーム前)


穂乃果「希ちゃん、ここに来いって言ってたけど」てくてく


『……うちの声が……聞こえますか……』


穂乃果(え? 希ちゃんの声?)ビクッ


『いま……スピリチュアルな力で……あなたの頭に直接……話しかけています……』


穂乃果(話せるの?)

『うん』

穂乃果(穂乃果、どうすればいいのかな)

『とりあえず中はいろっか』


――ピアノルーム(防音)


がちゃ


海未「(んーっ! んーっ!)」ばたばた


穂乃果「うわ……」

穂乃果(海未ちゃんが目隠しされて手足をベッドに縛られてる)


海未「もがもが(誰ですかっ!?)」びくっ


穂乃果(口も……なにこれ)




『仕返しだよん』

穂乃果(なるほど!)わくわく


『まずは近づいて』


穂乃果「……」すたすた


海未「んーっ!(ひっ! 近づいてきます!)」ばたばた

海未「んぐっ(怖いですっ! 助けてください穂乃果!)」じわっ


穂乃果「……」じーっ


『とりあえずほっぺでもつねってあげたら?』


穂乃果「……」むにっ

海未「んんっ!?」びくっ

穂乃果(あ、海未ちゃんのほっぺた思ったより柔らかい///)むにむに


海未「んーっ!(なんですか!? 誰なんですか!?)」びくびく

海未「ひぐっ(寝ている間に私は一体どこに連れ去られて……)」じわわっ


穂乃果(せっかくだから穂乃果のほっぺたをくっつけておこう)


すりすり


海未「っ!?」


ふわっ…


海未「(ん……?)」すんすん

海未「…………///」きゅん


海未「(あれ?)」どきっ


海未「(穂乃果っ!?)」どきどき




穂乃果(あれ? 海未ちゃんおとなしくなった)すりすり

『きっとバレたんやね』


海未「……?///(どうして穂乃果が……?)」どきどき


穂乃果(どうしよう)

『海未ちゃんの胸に、耳を当ててみて』

穂乃果(……?)すっ


ぴとっ


海未「?」きゅんきゅん





どくんどくん


穂乃果(あ……)


『なんかきこえる?』

穂乃果(うん……)ぴと

『口に出して、言ってみて』





穂乃果「……海未ちゃんの胸、すごくどきどきしてる」ぼそっ

海未「っ!?///」かぁぁっ



『もっと、耳を澄ませば……』

『海未ちゃんの心臓の、声が聞こえるはずだよ』


穂乃果「ん……」


どくんどくんどくんっ!


穂乃果(ほんとだ……聞こえる……)



穂乃果「……どくんどくん、ってね」

穂乃果「すごくよろこんでるの、わかるよ」



海未「(え……?)」


穂乃果「ねぇ、海未ちゃん」ぴと

海未「ん、んーっ、んっ?(な、なんですかっ?)」どきどき



穂乃果「海未ちゃんのかわいい心臓がね……」

穂乃果「一生懸命飛び跳ねながら」

穂乃果「穂乃果に『うれしいよ~』って言ってるよ?」


海未「」




『心臓の声、きこえた?』

穂乃果「うん……ちゃんと、聞こえる」


穂乃果「穂乃果も……うれしい///」てれてれ





海未「」


穂乃果「うれしいよぅ……///」どきどき

海未「」


穂乃果「あ、ベッドのぼるね……」よじよじ

穂乃果「……よぃしょ」むぎゅっ

穂乃果「穂乃果、重くないかな?///」てれてれ


海未「」


穂乃果「静かだね。目隠しと口縛ってるのとってあげる」いそいそ


しゅるしゅるっ


穂乃果「おーい海未ちゃん」ぺちぺち

穂乃果「海未ちゃんが大好きな穂乃果だよー」ぺちぺち



海未「」ハッ






海未「――はい? 私が穂乃果のことが好き?」

海未「何の話でしょうか。私の心をあなたが勝手に決めないで下さい」


穂乃果「え?」


海未「確かに……あなたに特別な好意を抱いたことは無いでもありません」

海未「正直に言いますと、確かにそんな時期もありました」




海未(きのうまでの10年間ですが)

『(うわぁ……)』


海未「ですが私はもう、そんなことはやめにしようと心に決めたのです」

海未「私自身の意思で、決めたのです」


穂乃果(あれ? 真剣なときの海未ちゃんのしゃべり方だ)

穂乃果(海未ちゃん、本気なんだ……)


海未「もちろん、知らない仲というわけではありませんから」

海未「これからは適切な距離感で友人関係を続けていけたら、私は嬉しいです」


穂乃果(……海未ちゃん?)


海未「穂乃果、あなたはこらえ性が足りなくて少々子供っぽいところがありますが」

海未「……魅力も、才能も、未来もあります」


穂乃果(海未ちゃんが穂乃果を褒めてる……?)


海未「だからこそ今まで、ついつい厳しく当たってしまったかもしれません」

海未「最後に謝らせて下さい。本当にすみませんでした」


穂乃果「なんで、謝るの?」


海未「そろそろ手足をほどいて頂けませんか?」ぎちぎち


穂乃果「や、やだっ! 何言ってるかわからないよっ!」


海未「……もの分かりの悪い子ですね」

海未「簡単に言うと、今までどおり仲良くしましょうということです」

海未「ほどいてください」


穂乃果「……やだ」


海未「そうですか」ぎちぎち


海未(あまり駆け引きのような真似はしたくないのですが)


海未「……今すぐほどいてくれないなら」

穂乃果「?」


海未「もう宿題教えてあげませんし」

海未「もうお菓子も分けてあげません」


穂乃果「……」


海未(普段なら、これで穂乃果は引くはずです)

海未(……"普段"なら)


海未(でも私にはわかってしまいます。穂乃果のこと……ずっと一緒にいたから……)

海未(ずっと側であなたを見ていた私だから――)


穂乃果「…………」ぷるぷる

穂乃果「……ほどきたく、ない」


穂乃果「今ほどいたら、海未ちゃんどっかに行っちゃう気がするもん」

穂乃果「そんなの嫌だもん」



海未(――わかっていましたが、心に波が立ってしまいます)


海未(……それでも、私は決めたのです)

海未(心の中に穂乃果のための特別な場所を作るのは、もうおしまいにしようと)

海未(そんなことを続けていたら、私はいつか穂乃果を……)


海未「…………」


海未(もう穂乃果は特別ではありません)

海未(嘘じゃない。だから怖くない)

海未(特別な存在ではないからこそ、私にはこの押し問答を終わらせる一太刀がある)


海未(ためらっているのは、ただ……)

海未(……その一太刀は、私の心も痛めつけるから)


海未(しかしその程度、恐れる理由にはなりません)


海未「穂乃果は強情ですね」

海未(ならば私も、強い心を持ちましょう――)


海未「これが最後の警告です」

海未(心を、強くして)


穂乃果「?」


海未「今すぐこれをほどかないと」

海未(迷いを、ざくりと断ち切って)









海未「私はあなたのこと、嫌いになります」

穂乃果「っ!?」


穂乃果「……」じわっ

穂乃果「いやだよぉ」うるうる

穂乃果「嘘。うそだよね……?」ぽろぽろ



海未(もちろん嘘ではありません。真剣な駆け引きです)

海未(こんなこと、したくなかった――)


海未「――私が悪ふざけでこんなこと言うと思いますか?」




『……』




穂乃果「思わない……」

穂乃果「だって、真剣な時の海未ちゃんだもん」ぐすぐす


海未「なら分かったでしょう。今すぐこれをほどきなさい」


穂乃果「海未ちゃん、本気で嫌だったんだね…ひっぐ…ごめん気づかなくて」

海未(やっと分かってもらえましたか)


穂乃果「ひっく…海未ちゃん…嫌いになるだなんて…えぐ…言わないで」

海未(……心が、ちくちくします)


穂乃果「ごめんね…ぐすっ…いますぐほどくね」ごそごそ



海未(これから私は、穂乃果とどう付き合っていけばいいのでしょう?)

海未(……すぐに部屋に戻って、一晩じっくり考えましょうか)

海未(ゆっくり心の整理をして。いろいろなことにけじめをつけて)


海未(一晩かければ、完全に整理がつくはずです)

海未(特別ではない、元の普通の友達に戻るだけ……)



海未「分かってもらえて良かったです。これで私たちは元通りです」



海未(……"元通り"?)

海未(私にとって特別ではない関係に、元通り……?)


海未(でも元って、いつでしょうか)

海未(10年前?)


穂乃果「えぐ…ひっく…」ごそごそ


海未(10年以上昔……私が生まれてから、穂乃果に心を奪われる前まで)

海未(私はどんな人間だったのでしょうか……私はどんな子供だったのでしょうか)

海未(あれ……)

海未(私は何を思って、何を考えて、どんな風に日々を過ごしていたのでしょうか)

海未(思い出せない……)

海未(穂乃果を好きになる前、私は一体――――)






『――――許せない』


穂乃果(え?)ぴたっ



『海未ちゃん、そんなに痛みつけて――――うち、怒った』



穂乃果(いいんだよ、もう)

穂乃果(希ちゃん、穂乃果は平気だから……)


『うちの言葉なんか最初からなんも聞こえてないやん!』


穂乃果(え? 聞こえてるよ?)


『穂乃果ちゃんの声じゃなきゃ届かないってわかってたけど!』

『"もっと大事にしてあげて"って――――うちだって真剣に頼んだのに!』


穂乃果(なんのこと……?)

穂乃果(はやくほどかないと穂乃果、海未ちゃんに――――)


『だめだよ』

『それをほどいたら、もうその海未ちゃんは帰ってこない』


穂乃果(え?)


海未「どうしたのですか? はやくほどいてください」ぎちぎち



穂乃果(でもほどかないと穂乃果、海未ちゃんに嫌われちゃう!)


『……』


穂乃果(海未ちゃんは本気なんだよ!?)


『海未ちゃんは』

『自分で駆け引きのテーブルにのせたものの重さを、全然分かってない――』



『(……そんな、機械のスイッチをぱちぱち切り替えるみたいに)』

『(好きになったり嫌いになったり……本当にできるものならやってみろって思うけど)』




『――そのことを分からせるまで、許さない』


『穂乃果ちゃん。勝負時を間違えちゃだめだよ』

『いまは引いちゃ駄目。タイミングは、ここだよ』


『海未ちゃんのためにうちを信じて』


穂乃果(どうすればいいの?)



『――――、――――』

『穂乃果ちゃん、海未ちゃんにそう伝えて』


穂乃果(えっ!? でも穂乃果、海未ちゃんにそんなこと言われたら)うるっ

穂乃果(もう、立ち直れない)ぐすぐす


『大丈夫。それで全部、はっきりするから』


穂乃果(……そうだよね)

穂乃果(お情けで友達続けてもらっても悲しいし)

穂乃果(はっきりさせて……すっきりさせなきゃ)ぐすぐす



穂乃果「ねぇ。海未ちゃん」

海未「あの、はやく……」ぎちぎち


穂乃果「それ、ほどいてほしい?」

海未「だからほどいてくれない場合は――――」







穂乃果「『もう二度と穂乃果のことを好きにならない』……って」

穂乃果「……そう言えたら、ほどいてあげる」


海未「は?」


海未("もう二度と穂乃果のことを好きにならない"……?)


海未「それは、さきほどの私の言葉を言い直しただけではありませんか?」

海未「よく意味がわかりませんが」


穂乃果「とにかく、言えたらほどいてあげるよ」

海未「……?」


海未(よく分かりませんが、まあいいでしょう)

海未(私は、もう二度と穂乃果のことを好きになりません――)



海未「……」すぅぅ

海未「"私は、もう二度と……"」


海未「二度と……二度と……」


ぴたっ








海未「…………っ!?」ぱくぱく


海未(あれ? 声が――――)


穂乃果「海未ちゃん、どうしたの?」


海未(声が――――出ない!?)


海未「…………!」ぱくぱく


海未(なんで、どうして)

海未(私の喉が――――私の身体が――――)




海未(私の身体は、また私を裏切るのですかっ!!)ぱくぱく

穂乃果「……?」


『(裏切ってるのは……海未ちゃんのほうでしょ)』







『(10年間積み重ねた想いを裏切ろうとしてるのは)』

『(――――海未ちゃんのほうでしょ!!)』


穂乃果(海未ちゃん、固まっちゃった)


『反撃開始。穂乃果ちゃん、ファイトだよ』


穂乃果(どうするの?)


『どうせなら仕返しらしく、弱点攻撃にしよっか』

『いま海未ちゃんの弱点を占うから待っててね』

『えーと、カードのお告げは……っと』

『――なるほど』



海未(なんで……! たった一言……っ!)ぱくぱく



『ねぇ穂乃果ちゃん。海未ちゃんはこのままだと穂乃果ちゃんのこと嫌いになるそうだけど』

『どう思う?』


穂乃果「……やだもん」


海未(?)


穂乃果「海未ちゃんに…ぐす…嫌われたくないもん」

穂乃果「海未ちゃんとまた仲良しになりたいもん……!」ぐすぐす





海未(――――っ!)ずきっ!


穂乃果「だから頑張るもん」ぐすぐす

海未(?)


『じゃあうちが仲直りするおまじないを教えてあげる』


『まずはね……海未ちゃんの耳に掛かった髪を、指で優しくかき分けてあげて』


穂乃果(こう?)すっ


くりっ


海未「っ!?///」


穂乃果(あ、海未ちゃんの耳赤い)


『それから穂乃果ちゃんの柔らかい唇で、海未ちゃんの耳たぶをついばむようにはさむ』


穂乃果「……はむはむ」

海未「~~~っ!?///」びくん!


『……そのままゆっくり優しく、耳の輪郭をなぞるように舐めて』


穂乃果(これでいいのかな?)れろ


つーっ…


『上の先っぽまで行ったら、今度は穂乃果ちゃんの唇を……』

『海未ちゃんの耳の穴に、触れるか触れないかくらいまで近づけて……』


穂乃果(?)ぐぐっ



『熱い吐息を、吹きかける』


穂乃果「ふーっ」


海未「あっ!///」ぞくぞくっ





『(穂乃果ちゃん筋がいいから仕込むの楽しいなぁ……)』

『(なんでも出来そう……もっとスピリチュアルなことでも)』


『穂乃果ちゃんは海未ちゃんのこと、どう思ってる?』


穂乃果(大好きだよ!)


『どれくらい好き?』


穂乃果(言葉じゃ表せないくらい!)



『じゃあ、その想いを手のひらに込めてみよっか』


穂乃果(え? どうやるの?)




『目を閉じて、意識を手のひらに集中させて』


穂乃果(手のひらに、意識を……)すっ



『大好きって気持ちを想い描きながら、そのまま深呼吸をするの』



穂乃果(――――)すぅぅっ


穂乃果(――――)はぁぁっ




『そうすると血が集まったみたいに手のひらが熱くならない?』



穂乃果(ほんとだ……)ぽかぽか


穂乃果(手がぽかぽかする)じんじん



『(穂乃果ちゃんの才能は恐ろしいなぁ……)』


海未「……はーっ……はーっ///」うるっ




『十分に熱くなったら、手のひらを海未ちゃんのお腹にあてて』

『お腹の、少し下のあたり』



穂乃果「ん」ぺた



海未(っ!?///)ぴくっ

海未(い、一体何ですかこれはっ!?)ぴりぴり


海未(触れられたところが、じんじんして――――)じんじん



『さっき耳をあてた胸のところには、海未ちゃんの心臓があったけど』

『いま手のひらをあててるお腹のところには、海未ちゃんの子宮があるの』



『だからゆっくりと、小さく円を描くように、愛情をこめて撫でてあげてね』



穂乃果(こんなかんじかな……)すーり、すーり



海未「あぅ♥ な、なにをやって、――――」






穂乃果(あ、よろこんでる)すーりすーり


海未「~~っ!!♥」ぞくぞく


穂乃果「大丈夫だよ海未ちゃん」すーりすーり


穂乃果「海未ちゃんの身体の声、穂乃果にはちゃんと聞こえてるよ」すーりすーり


穂乃果「ここ、撫でられると気持ちいいんだよね?」すーりすーり


穂乃果「我慢しなくていいんだよ?」すりすり



海未「あっ♥ ……んっ♥」



穂乃果「ん。ぎゅって押してあげる」ぎゅっ



『あっダメっ! 海未ちゃんは気持ちいいことに慣れてないから――――』





穂乃果(――え?)ぐりぐり





海未「~~~~~~~~っ!!♥」ビクン


海未「♥」






海未「――っ♥」ビクッ






穂乃果「あっ」あせあせ

穂乃果「……ごめんね? 海未ちゃん大丈夫?」












海未「――はー……っ/// はー……っ///」ひくひく♥


『もう、だめやん』


穂乃果(えへへ、ごめん)


『海未ちゃんの目を見てあげて』


穂乃果(ん)じっ





海未「……はーっ、はーっ///」



穂乃果(こんなにとろけてるのは初めて見るかな……)



『さっき海未ちゃんの心臓の音に、耳をすませたみたいに』

『海未ちゃんの瞳の中に、もっと目を凝らせてみて』


『穂乃果ちゃんなら、きっと見えるよ』




海未「ぅ……ん……///」

穂乃果「……」じぃぃ


穂乃果「――」キィィ



『瞳の中には、何が映ってる?』



穂乃果(穂乃果の、くちびるが映ってる……)じぃぃ


穂乃果(うぅ……なんか///)もじもじ












穂乃果(ちゅーしたい……)


穂乃果「ね、海未ちゃん///」


海未「?」はーっ、はーっ


穂乃果「穂乃果ね、ちゅーしたい」ぼそっ


海未「っ!?」



穂乃果「あっ、違うよ? 縛ってるけど無理矢理したりしないから」あせあせ

穂乃果「もうほどいてあげるね」ごそごそ



しゅるっ……




穂乃果「ほ、ほらね? 嫌ならもう逃げていいからね?///」もじもじ




海未(――逃げましょう。逃げるしかありません。逃げなければ)

海未(そうでなければ私はもう、あと少しで完全に――――)




穂乃果「でもね、嫌じゃないなら」





穂乃果「――――"そのままじっとしてて"……欲しいな」





海未「っ」ぴたっ


海未(か、身体が……っ)


穂乃果(海未ちゃん、固まっちゃった)


『海未ちゃんの身体、海未ちゃんの言うこときかないみたいよ?』


穂乃果(なんでかな?)


『でも本当に嫌だったら、嫌ってくらい言えるはずだと思うよ』


穂乃果(そうだよね)




穂乃果「海未ちゃん。何も言わなかったらちゅーしちゃうから」



海未(はぁっ!? 普通逆ではっ!?)


穂乃果「10秒待ってあげる。嫌だったらそれまでに言ってね?」



穂乃果「……10」ぐいっ


穂乃果「9……」


穂乃果「8」ドキドキ


穂乃果「……7」じりじり


穂乃果「ろ、6///」もんもん




海未「ぅ……///」ドキドキ

穂乃果(あぁ、海未ちゃんかわいいなぁ///)ドキドキ



穂乃果「ご、ご――――」

海未「?」



穂乃果「――――ごめんね、穂乃果もう我慢できないや」がしっ









穂乃果「……ん」ちゅ


海未「んむっ!?///」


穂乃果「海未ちゃん好き……///」ちゅっ、ちゅっ


海未「ん~~っ!」


穂乃果「好き……んちゅ……すき……///」はむはむ


海未「ん、はっ……はぁ……」


穂乃果(ふぁぁ、き、気持ちいいっ……///)ちゅっちゅ


海未「はぁっ……はぁっ……」





海未「……はぁ……はぁ……」








海未「…………っん///」チュッ

穂乃果「!」ぴくっ







穂乃果「……♥」ちゅぅぅ


穂乃果「ぷはっ♥」



つーっ……



海未「うぅ……///」ハァハァ




穂乃果「海未ちゃんの身体、もう海未ちゃんの言うことをきかないんだね」

穂乃果「こわいね。きっとおそろしいよね」

穂乃果「どうなっちゃうのかな? いつか穂乃果を無理矢理襲っちゃうのかな?」



海未「っ!」びく


海未「だから止めたかったのに……」じわっ


海未「もう、私には私を…ひっく…止められません」ぐすぐす


海未「…ひっく…穂乃果の、せいですよ」ぽろぽろ






穂乃果「――でも安心して。大丈夫だよ」



海未「え?」ぽろぽろ


穂乃果「海未ちゃんの身体はね、たとえ海未ちゃんの言うことをきかなくなっても」


穂乃果「穂乃果の言葉をちゃんときいてくれるの」


穂乃果「ほんとだよ」



穂乃果「穂乃果はね、海未ちゃんの身体のこと――よく知ってるんだよ」


穂乃果「だから安心して。穂乃果が、海未ちゃんの身体を制御してあげる」


穂乃果「海未ちゃんは安心して穂乃果の言葉に身を委ねていいんだよ」





穂乃果「これから、ずっと――――ずっとだよ」すっ……



ぴとっ



海未(…………)どきどき



穂乃果「すごくどきどきしてるね」くすっ

穂乃果「もう夜も遅いのに、このままじゃ眠れないね」くすくす



穂乃果「海未ちゃんの心臓――――」



どくんどくん、どくんどくん




穂乃果「――――海未ちゃんの、ハート」ぴとっ




どくんどくん、どくんどくん





穂乃果『ねぇ、海未ちゃん。穂乃果の声をきいて?』



どくん



穂乃果『"落ち着いて"――そう、"ゆっくりだよ"』



とくん……とくん……


穂乃果「――ほら、大丈夫でしょ?」





『……一件落着やね』


穂乃果(希ちゃんのおかげだよ。ありがとう!)


『ふふ、あとで真姫ちゃんにも"ありがとう"って言ったげて』


『その防音室の準備とか、手伝ってくれたから。じゃ、そろそろ……』



穂乃果(うん、また明日)



『ん、そこはいい部屋やね』


『いい夢見てね――――』ぷちっ


穂乃果「――――ん」


穂乃果「そっか」






穂乃果「海未ちゃん、このままピアノのとなりで寝ちゃおっか」


穂乃果「ふたりきりのベッドで、穂乃果の声だけが反響する部屋で」


穂乃果「いっしょの夢を見よう」



海未「……」


海未「……あの、私」


穂乃果「何も言わなくていいんだよ」すっ



穂乃果『ねぇ、海未ちゃん。一度しか言わないからよく聞いてね』







穂乃果『――――"おやすみなさい"……大好きだよ』








~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~

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~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――数年後



穂乃果「ふっふふ~ん♪」ぱたぱた


穂乃果「お掃除にお洗濯に……大変だなあ」ぱたぱた


穂乃果「でもちゃんとしないと、海未ちゃんの血圧が上がっちゃう」くすくす


穂乃果「ファイトだよっ!」よいしょ



海未「……」つーっ



穂乃果「あっ! そこはっ!」びくっ

穂乃果「掃除は今始めたばかりで、なんか洗濯機の調子がわるくて」あせあせ

穂乃果「さっきやっと洗濯がおわって――――」


海未「……」






海未「いっしょに、買い物に行きましょうか」


穂乃果「え?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

海未「――これをください」



穂乃果「新しい掃除機と……新しい洗濯機」


穂乃果「ちょっと高いやつだけど、いいの?」


海未「ええ。これから長く使うものですから」



穂乃果「!」ぱぁっ


穂乃果「そうだよねっ!」




海未「ベッドも、もう少し大きいのに買い替えましょうか」


海未「ふたりであの大きさでは、少し――――」






穂乃果「――――ぎゅうぎゅうでいいんだよっ」ぎゅっ!


穂乃果「穂乃果は、あの小さなベッドが好き!」





おわり

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

海未ちゃんとの新婚生活だねっ!
ありがとうぞーみん!
ありがとうきのきー!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月23日 (火) 20:53:40   ID: S8OA3dxp

ことり!ことり!

2 :  SS好きの774さん   2014年09月27日 (土) 16:40:12   ID: Gmpdt51R

真姫ちゃんが糞可愛い、
希ちゃんとの組み合わせは最高

3 :  SS好きの774さん   2014年10月02日 (木) 02:38:20   ID: xuyUsA7u

ことりはいつも不憫だ・・・

4 :  SS好きの774さん   2014年10月02日 (木) 13:09:00   ID: NNZm3h_h

ええやんw

5 :  SS好きの774さん   2014年10月07日 (火) 00:44:15   ID: uYT2BfRe

※3
中途半端に出されて、雑な扱いされるよりかは幾分かマシな気がするけどね。

6 :  SS好きの774さん   2014年11月08日 (土) 10:21:41   ID: s7pxQfiI

くっそ弱気で素直な穂乃果と優しいドS穂乃果はマジでやばい。

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