京太郎「石戸さん家の霞さんと幼馴染になった話」(157)



※京太郎くんは小学生
※霞さんも小学生
※大体8年前からのスタート
※設定改変多数のため、そういうのが嫌な人はお戻りください


小学校1年から2年に上がる間の春とも冬とも言えない日

俺は鹿児島の霧島市というところに引っ越すことになった

半分くらいは両親の転勤のような理由

もう半分は……自然が豊かで気持ちいんじゃないか。と

なんとも大雑把な理由だった

「霧がないよー?」

「ふふっ、霧に包まれているってわけじゃないからね」

車の中から窓を見て感想を漏らした俺に

お母さんは笑いながらそう答えた

真っ白な吹雪の中みたいなのを想像していた俺にとっては

少し救われた気分で、少し残念な気分で

なんとも言えない気分で外を眺め続けていた


車が止まって直ぐにドアを開け放って外に飛び出す

長野のあの中も同じようなものだったけど

こっちにはそこにはない海の匂いを感じる

長野の自然vs鹿児島の自然

鹿児島が勝ったのはそういう理由である

「ちょっと遊んでくる!」

「い、いいけどあまり遠くに言っちゃダメよ!?」

「解ってるー!」

お母さんに手を振って走り出す

踏んだことのない土、見たことのない人たちと建物

……って

「海どこだよーッ!」

周りにあるのは木、木、木、木、木、木、木、木、木、木!

来る途中に見えた青は空にしかない


「……どこだよ」

長野と同じく森っていうか山の中じゃないか!

すぐ近くにあるって言ったのに

5分くらいで行けるって言ってたのに!

「……どうかしたのですか?」

「えっ?」

「?」

困っているところに声をかけてきたのは

俺も一度悪戯で着させられたことのある巫女服を着た女の子

黒くて長い髪

良く解らないけど……なんかすごく、何も言えなかった


思わずじっと見つめていた俺を見た女の子は

ん? と首をかしげて俺を見つめる

それがなんか凄く恥ずかしく感じて目を逸らす

「な、なんでもねぇよ!」

「それならいいのですが……」

強い言葉で言っちゃったにも関わらず

女の子は怒ったりしないでそう言って歩いていく

「ま、待てよ!」

「はい?」

なんでもないって言ったのに

俺はそのまま行かれるのはなんか嫌で呼び止めた


「あ、あのさ」

「はい」

「う……海って……どうやって行けばいいんだ?」

「海は……歩いていくのなら遠いと思いますけど」

俺のことを見た女の子は困ったようにそう答える

なのにお父さんの嘘つき! なんて思ったのは一瞬で

そっか。と、女の子を見ずに言う

「と、遠いのか」

「はい」

「じ、じゃぁいいや」


「あの……もうよろしいでしょうか? 私、用事があるので」

「用事?」

「はいっ、これから舞のお稽古などがあるんです」

舞の稽古ってへんな着物みたいなの着たり、変な扇子みたいなのを使うやつ……だっけ?

そう思う俺の頭の中ではお母さんの舞があって

その姿がこの女の子にすり替わって……

「け、見学とかしていいか?」

「見学……ですか? 聞いてみないと解らないですけど……多分、ダメだと思います」


「な、なら行くだけ良いだろ?」

「それは……はい」

「な、なら行こうぜ! 早く!」

変に必死だった

自分でも良く分かんないけど

もう少し話したいとか、一緒にいたいとか、舞を見てみたいとか

なんでか知らないけどそう思った俺は勝手に女の子の隣を歩く

「そういえば、ぼ……俺、須賀京太郎な。よろしく」

いつもみたいに”僕”なんていうのは嫌で強がりな口調のままに俺は挨拶をして

それを気にしない女の子は俺を見ながら答える

「私は石戸霞です。よろしくお願いします。須賀京太郎さん」

それが石戸さん家の霞さんとの出会いだった


出会いが終わったので一旦終わり



小学生の時って変に気になる女子には必ず強がる気がします


「二年生からこっちの学校に転校になった須賀京太郎です」

そんな自己紹介をしたせいで

前はどこに住んでたのかって聞かれたり、それはどんなところだったのかとか

なんでこっちに引っ越してきたのか……なんて

沢山聞かれた俺が机に突っ伏していると

すぐ後ろの女の子に背中をつつかれた

「……?」

「食べる?」

「食べるって……」

差し出された袋に書いてるのはくろ……く……

「こくとう。これでこくとうって読む」

「黒糖……? 美味しいの?」

そんな俺の質問に女の子は「うん」と頷く

それならと一つもらった俺は準備してなかった舌を攻撃した甘さに思わず顔を顰めた


「な、なんだこれ! 甘っ!」

「甘いの嫌い?」

「嫌いじゃないけどこんなの……」

そのまま食べるようなものじゃないだろって思ったけど

目の前の子……自己紹介では確か滝見春って言ってたっけ

その滝見さんはそのまま食べているからそうなのかもしれない

「僕には合わないみたい」

「そう。残念……美味しいのに」

そう言った滝見さんは先生の気配がした途端机の中にそれを隠す

一見真面目っぽいのに悪い子なのかな……この人

「おーい。席に付けー。それじゃぁ――」

帰りの会は先生の短い挨拶と

明日からの連絡とかで簡単に終わって放課後

俺はあの人と出会ってしまった……

意地悪な巫女の霞ちゃんと


「げっ」

「あっ……」

玄関のところでばったりと

帰るのは諦めて教室に戻ろうとしたところで

嘘つき巫女は俺の腕を「待って!」と大声を出しながら掴んだ

変に目立つから正直……うざいと思った

「なんだよ」

「この前のは本当に冗談だったの……ごめんなさい」

嘘つき巫女は俺に対してごめんなさいって言ったけど

お母さんがダメだって言う「見た目だけのごめんなさい」っていうのに見えて

俺はさらにムカついていた


「放せよ」

「っ……ごめんなさい」

嘘つき巫女はそれでもごめんなさいって言った

俺が怒ってるって解ったのか手を離して……また謝る

俺より少し背の高い嘘つき巫女は顔を隠してなかった

「……ごめんなさい」

「……………………」

嘘つき巫女は本当に泣きそうな顔をしてた

俺が悪者みたいに見える……

見えるんじゃなくて悪者なんじゃないか

そう思うと俺までなんだか泣きそうだった

そんな俺たちの間に瞬間移動してきたみたいな手は

見覚えのある袋を持っていた


「なに?」

首をかしげる巫女はその袋を見ながらそんな風に言う

だから俺は「わからないのかよ」って言ってから

「黒糖だよ。黒糖! 甘いんだ!」

って勝ち誇る

泣きそうだったのが無くなって、自然と笑えた俺に向かって

巫女はちょっと黙って笑う

黒糖を持ってる滝見さんも嬉しそうに笑って「流れが変わったね」と呟く

「……ありがとう」

「へへっ、俺は巫女より先に知ってたんだぜ」

「私が教えたのに偉そう」

滝見さんのそんな言葉でみんなが笑う

この前の話は勝手に消えてなくなった

でも、今なら言えるような気がして巫女の髪を引っ張る


「……俺もごめんな。巫女」

巫女は俺がそういうとは思ってなかったのか

驚いたまま見つめてきて、すぐに俺の髪を掴む

「いたっ」

「髪を引っ張られると痛いんです。解りました?」

「このっ!」

謝ったのに!

この前みたいにムカっとした……でも、全然嫌な感じはしなかった

むしろ遊んでいるみたいに楽しくて、巫女も笑っていた

「その巫女って呼ぶのを止めて頂けませんか?」

そんな遊びの最中に

巫女――霞ちゃんはそんなことを言い出す

「じゃぁそっちも名前全部とかその喋り方止めろよ」

だから俺はそう返した。今の話し方は他人みたいで嫌だったから


「私……あまり砕けた話し方は……」

「なら普通でいいよ」

「……それが今なんですが。そうですね。須賀さんとは出来る限り普通にします」

そう言った霞ちゃんは俺を見る

巫女以外の呼び方を期待してるんだって解った

でも、霞ちゃんなんて呼ぶのはまだ勇気がなかった

だからクラスメイトの滝見さんみたいに、石戸さんって呼ぶことにした

「じゃぁよろしく、石戸さん」

「ええ、こちらこそ」

そんな俺たちのことを見る滝見さんは黒糖を齧るだけで暇そうだったけど

これでようやく、石戸さん家の霞さんと仲直りができたと思う

「……須賀くん。上級生だよ」

「えっ?」

驚いて霞ちゃ……霞さ……石戸さんの名札を見ると

確かに二つ上の4年生だった


今日は以上


滝見さん登場と仲直り……あっさりしすぎているけれど
親密になるほど描写と解決までの長さは増えていくと思う


「そんな風には見えないけど」

「見えなくても4年生です。けど」

石戸さんは「ん~」って言いながら俺を見て

何を思ったのか変な顔をしながら続けた

「別に気にしなくて良いですよ。気にされると逆に不安になりますから」

「気にするつもりなんてないし」

「それはそれで困りますけど……」

「どっちだよ」

良いって言ったくせに

解らないなぁ……ほんと

「……もしかしてこの前から元気がなかったのはそういうこと?」

「え?」

「……悪いことをしてしまったのに謝ることもできませんでしたから。会おうと思っていろいろと歩いても会えませんでしたし」


「俺は石戸さんを後ろから見ることはたまにあったぞ」

「なら声をかけてくだされば」

「なんでだよ。嘘つき巫女になんで近づくんだ?」

「うっ……」

石戸さんが立ち止まって

ちょっとだけ俯いたのを見て不味いと思った

「お、おいっ四年生なんだろ!?」

「だからって嫌なこと言われたら悲しいと思う」

「っ……」

また嘘泣きかもしれない

でも、もしそれで何もなくて本当に泣いたらどうしよう


迷って悩んで考えているうちに

石戸さんの目が水の中みたいにゆらゆらと揺れ始めたのに気づいて

頭を掻きながら目を逸らす

見ながらなんて……言えるわけない

「避けてたのは悪かったよ……」

「……………………」

「あーもー泣くなよ! 悪かったって!」

「………………グスッ」

「てりゃっ」

「いたっ!」


今度こそ本当に泣きそうな石戸さんのおでこにびしっとデコピン

お母さんが俺によくやるやつで

やられると痛くて泣きそうだけど何するんだよ! って気持ちが出るから

いつの間にか泣けなくなってるんだよな

「痛い……」

「泣くなよ。俺が悪いことしたみたいじゃないか」

「してたと思う」

「滝見さんは黙っててよ……お願いだから」

それに応えるようにポリッと黒糖をかじった滝見さんは

「それなら先に帰る」

「あ、ちょっと!」

まっすぐ帰っていってしまった


「……こんな状況で置いていくなよ」

「……痛かった」

「泣くのが悪いんだ……年上のくせに」

そっけなく言いつつも

ちょっとだけ赤くなったオデコを抑える石戸さんが横に見えて

自分も悪いことをした気がした。いや、実際にしたんだと思う

巫女って言われるのも嫌がってたのに

嘘つき巫女って言われたらな……

「………………あのさ」

「……………………」

「その……」


上級生であるということを考えなくても

謝るときはやっぱりちゃんと謝るべきだと思った

だから……強がろうとする自分を押さえ込んで

お母さん達に言うようにごめんなさいと言う

「俺……いや、僕も悪かったと思う。嘘つきなんて、ごめん」

「ううん、私こそ……上級生なのにしっかりしてなくて……ごめんなさい」

二人で謝って微妙な空気

だから滝見さんには帰らないで欲しかったんだけどな

………………

……………………

………………………………。

「帰ろう……よ。石戸さん。また、舞が見たいから」


それが僕にとっての精一杯の言葉だった

恥ずかしくなってきそうなほど

微妙な空気のままでいるのも

このまま「先に帰るからな」って放っておくのもなんか嫌で

イヤイヤだらけの僕の頭で考えた気を引く言葉

「……今日は、お稽古はありません」

「……………………え」

「その、曜日が決まっているといいますか、毎週やるにはやるんです。でも他のお稽古もあるので」

「べ、別に絶対見たかったってわけじゃないし! 暇だから見てやろっかなーってだけだったし!」

また謝ってきそうな石戸さんの空気に耐えられなくて

僕はまた強がる自分を引っ張り出す


嘘だよ

本当は見たいと思ったよ

でも、稽古がないなら仕方がない

諦めて一歩先に歩こうとした僕の手を

石戸さんはつかみながら「でも」と呟く

「……自主的なお稽古は、しようかと思ってます」

「じしゅてき?」

「一人だと客観的な意見が貰えないので……出来たら」

よくわからない言葉が何個か出てきたけど

お稽古する

一人だと意見が貰えないから、見て欲しいってことかな?


「………………」

「嫌なら、別に……」

石戸さんの手が離れた瞬間、今度は僕からその手を握って

驚いた表情の石戸さんを一回だけ見る

何してんだろ。なんて考える時間もなくすぐに手を離す

「か、風が……冷たかったから」

「?」

「っ……別に、石戸さんがどうしてもって言うなら、見ても」

「……………………」

石戸さんはちょっとだけ黙って

それなら……って言いながら歩く

「どうしてもです。下手だって言われたの忘れてませんからね」


振り返りながら笑ったその姿を見た僕は

石戸さんに目の目で「須賀さん」と言われるまでの間の記憶がなくなっていた

「……どうかしました?」

「いや、別に」

「そうですか? では……帰りましょうか。遅くなってしまいましたし」

「石戸さんのせいなんだけどな……」

「お詫びにお菓子とお茶もご用意しますよ」

「甘すぎるのは止めてくれよ……」

適当な会話をしながら

さっきのはなんだったんだろうと頭を使う

でもどれだけ考えても解らなかった


色々と考え直しているので時間がかかりそうです
どこまでを描写するか……調整が難しい

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