幼女「おっちゃん、くっ殺せってなんだ?」オーク「んー?」 (111)

幼女「おっちゃんおっちゃん、答えてくれよ」

オーク「突然ヒトを捕まえておいて何聞いてんだよ嬢ちゃん」

幼女「おっちゃんなら知ってそうな顔してたから」

オーク「そりゃどんな顔だよ。んーっとな……くっ殺せか。なんなんだろうな」

幼女「何だ、知らないのか」

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オーク「くっ殺せか。ニュアンス的にはなんか殺すより強そうな表現だな」

幼女「おお!私もそう思っていたところだ!」

オーク「ひょっとしたら相手をとっちめる時に使うのかもな」

幼女「うおー!くっ殺すぞー!」

オーク「ま、嬢ちゃんみたいな子が使っちゃいけない言葉だな」

幼女「うん、殺すって言葉は物騒だもんな」

オーク「間違っても変な輩に『くっ、殺せ!』なんて言うんじゃないぞ?おっちゃんとの約束だ」

幼女「んーあれ?まぁいいか。おう、分かったぞおっちゃん」

オーク「よしよし、いい子だ」ナデナデ

幼女「そんなデカい手で撫でるな」

幼女「おっちゃんおっちゃん、それよりさ」

オーク「ん?まだ何かあんのか?」

幼女「お金くれ」

オーク「……お、おう?」

幼女「大人は子供に恵んでやるもんだ、さぁ」

オーク「いきなりヒトに集るのはどうかと思うぞ」

幼女「掴みは上々だと思ったのだがな」

幼女「私は隣町からお遣いに来た、帰りの馬車の代金まで使い切ってしまったのだ」

オーク「そりゃ自己責任だ。いくら子供と言えど行動には責任が付きまとう」

幼女「院長先生が余ったお金は好きに使っていいと言われたんだ」

オーク「お遣いの範囲内でだろう」

幼女「……」

オーク「……」

幼女「フッ、世知辛いな」

オーク「何を悟ったようなことを」

幼女「分かった、追剥でも何でもして今日を凌ぐとしよう」

オーク「やめなさい、返り討ちに会うのが目に見えてるから」

幼女「返り討ちに会うとどうなるんだ?」

オーク「んー……」

幼女「……くっ殺せー!」

オーク「嬢ちゃん、ホントは意味わかってないか?」

幼女「さぁな」

オーク「ハァ……自分の馬車を待たせてるから、隣町までくらいなら俺が連れてってやるよ。帰り道だしな」

幼女「おー、その言葉を待っていた」

オーク「てめぇこの野郎」

幼女「くっ殺せー、くっ殺せー」テトテト

オーク「口ずさむのはやめなさい、変な子だと思われるぞ。大体どこでそんな言葉を覚えるんだ今時の子は……」

幼女「道端に落ちていた如何わしい本に描いてあったぞ」

オーク「嬢ちゃん、確信犯って言葉知ってるか?」

幼女「おっちゃん、それは間違った意味だぞ。それが本当に正しいと思い込んでいる人の事を確信犯と言うんだ。しかも宗教用語だ」

オーク「うん、これが間違った意味って知ってるなら俺の言いたいことは理解してるな?」

幼女「しまった」

幼女「お、馬車が見えてきたな。やけにデカいな」

オーク「まぁ俺が乗るからこのくらい大きくないとな。オイ、帰りに隣町に寄ってくれ。野暮用が出来た」

幼女「おー、専属っぽい馬車引きに命令してる。おっちゃんひょっとしたらお偉いさんなのか」

オーク「まぁこれは……そうだな、会社の借り物だ」

幼女「何だ、課長クラス辺りでストップしてるのに目下の者にはやたら尊大な態度で接してその実会社と言う枠組みの中の物を使って堂々と踏ん反り返っているクチのヒトだったか」

オーク「……嬢ちゃんほど尊大じゃないな俺は」

幼女「なぁに、褒めるな」

オーク「オイ、やっぱり直接城に帰るぞ。すぐに馬を走らせろ」

幼女「正直すまなかった」

オーク「素直でよろしい」

パカラッパカラッ


幼女「おおう、快適だ。揺れも少なく椅子はフカフカ。これは金をかけているな」

オーク「別に特別いい物じゃないがな。嬢ちゃんにはちょいと大きすぎるけどな」

幼女「……」

オーク「……」

幼女「このままここに棲みたい」コロン

オーク「ああ、町に到着してゴネてもすぐに降ろすから安心しろ」

幼女「そう言わずに、何なら出世払いでこの馬車を買い取ってもいいんだぞ?」

オーク「出世払いほど潔い詐欺の手段はないな」

幼女「……」

オーク「……」

幼女「……」ウトウト

幼女「……ムグァ!」ハッ

オーク「寝てもいいぞ、まだ少しかかるんだ」

幼女「眠った私に何をする気だ、エロ同人のように!」

オーク「使い方若干違うな。そして今ここで降ろすぞ」

幼女「申し訳ないとは思っている」

オーク「この変わり身の早さよ」

幼女「……」スヤァ

オーク「……寝ちまったな」

オーク「おーい運転手、次の町に孤児院はいくつある?」

オーク「え?何でかって?ああ、さっき院長先生とか言ってたからな」

オーク「病院かもしれない?ンな子供を一人で遣いに出す訳ねぇだろ」

オーク「それに、あんまり裕福な所じゃないのかもな。この程度の馬車に喜ぶくらいだ」

オーク「……おう、一つ知ってるのか?……なるほど、教会と兼用か。じゃあそこまで頼むわ」

幼女「むにゃむにゃ……」

――――――
―――



オーク「おう、元気してたか嬢ちゃん」

幼女「おお、誰だおっちゃん」

オーク「……」ピタッ

幼女「嘘だ、その面忘れる訳も無かろう」

オーク「大人気なく怒るところだったぜ」

幼女「子供の発言を毎度真に受けていたら精神持ちませんぜ」

オーク「おおよそお前の発言がどうも子供らしくないからこうなってはいるんだけどな」

幼女「前はありがとな、何も伝えてないのに家まで送ってくれて」

オーク「寝てたからな、起こすのも悪いし俺の足りねぇ頭をフル回転させて場所を割り出したのさ」

幼女「そういう人ほど頭はいいって聞くぞ」

オーク「へっ、褒めるなよ」

幼女「おだててすぐに調子に乗るヒトは御しやすいとも言うぞ」

オーク「オイ」

オーク「……ボロッちい孤児院だな」

幼女「このご時世どこからも金は回してもらえないんだ、私たち親無しの子供は辛いもんだ」

オーク「……すまねぇ」

幼女「おっちゃんが謝ることじゃないよ。まぁほんの気持ちだけ寄付でもしてくれたら嬉しいなって」

オーク「それを口に出しちゃあ台無しってもんだ」

幼女「って、院長先生が言っていた」

オーク「急転換でヒトに擦り付けるのはやめなさい」

幼女「それよりおっちゃん何しに来たんだ?」

オーク「別に何も。嬢ちゃんが元気してるかどうか見に来ただけだ」

幼女「ペドか」

オーク「洒落にならんからやめろ」

幼女「くっ殺せー!」

オーク「もういいから」

幼女「あっちで院長先生と話している二人組のねーちゃんって誰だ?おっちゃんの子供か?」

オーク「俺の子供があんなに可愛い面になるわきゃねぇだろ。お偉いさんだ、二人とも俺の上司だ。片方はまぁ娘みたいなもんだけど」

幼女「年下の上司。これほど心苦しい言葉は無い」

オーク「だからその手の言葉はどこから学ぶんだよ」

幼女「院長先生の部屋の教科書類に混ざって隠してあるちょいと危ない本からだ」

オーク「おーい院長先生ー、この娘人様の部屋に勝手に入り込んでますよー」

幼女「おい、やめろ」

幼女「ゲンコツされた、虐待孤児院だ……」プルプル

オーク「愛の拳だ、叱ってくれる相手がいるだけありがたいと思え」

幼女「何故こんな幼気な子供を陥れるような事をするのだ。悪いのは部屋に鍵もかけず見つけやすい場所に変なもの隠してる院長先生だろう」

オーク「人の部屋に無断で侵入して物色する奴が一番悪い。それに俺は男の味方だ、尊厳を尊重する」

幼女「院長先生男性用の牧師服着て帽子で髪隠してるから分かりにくいけど女だぞ。金が無いからまともな服も無い」

オーク「なん……だと……!?」

幼女「あと私が見た本は俗にいうびーえるとかいうやつだ」

オーク「なんと」

幼女「オーク同士が絡み合ってた」

オーク「レベル高ぇな」

オーク「ん?ちょっと悪い、呼ばれちまった」

幼女「おう行ってこい、出来るだけ寄付金を回してもらえるように交渉してくれい」

オーク「お前、何でその話知ってるんだよ……」

幼女「やぶさかだったな。言ってみただけだったのだが」

オーク「カマかけやがったなテメェ」

幼女「なに、口を滑らせる方が悪いのだ」

オーク「クッ、言い返せん」

幼女「はっはっは」

幼女「おっちゃんおっちゃん」

オーク「何だよ嬢ちゃん」

幼女「今日はありがとな、中々実のある話が出来たよ」

オーク「お前何様だよ……」

幼女「実は某国のお姫様だ」

オーク「凄ェ!」

幼女「嘘だ」

オーク「知ってた」

幼女「ホントに寄付とかしてくれるとは思ってなかったからな、嬉しいよ。みんなもありがとって言ってた」

オーク「まだ正式にどれだけ寄付するか決まったわけじゃねぇけどな。ま、出来るだけ多く回してもらえるようにはしてみるよ」

幼女「おっちゃんいいヒトなんだな」

オーク「この程度でいいヒト扱いなら、世界中誰だっていいヒトになれるな」

幼女「それもそうだな」

オーク「それじゃあもう帰るな。最近は冷えるようになった、風邪ひくなよ」

幼女「おう、バカは風邪ひかないからな。私もおっちゃんも安心だ」

オーク「うん、それは余計なお世話だな」

――――――
―――



幼女「また遊びに来たのかおっちゃん」

オーク「おう、来てやったぜ嬢ちゃん」

幼女「悪いが院長先生は出かけている。まぁそこにかけてくれ、いま温かいココアでも……」

オーク「悪いな、そんなことまで」

幼女「淹れてくれ」

オーク「だと思ったよ」

幼女「今日はあのねーちゃん二人組はいないのか?」

オーク「何かと忙しい身だからな、他の国や貴族から引っ張りだこなんだよ」

幼女「お偉いさんなんだな、すごく」

オーク「まぁねぇ」

幼女「で、その反面おっちゃんは暇と」

オーク「うっせぇ」

幼女「おっちゃんおっちゃん」

オーク「んー?」

幼女「おっちゃんって結婚してるのか?」

オーク「唐突に痛い事を聞いてくるなお前」

幼女「独身貴族万歳ってやつか」

オーク「失礼大爆発してるな」

幼女「いい人とかいないのか?」

オーク「グイグイ攻めるな。ま、そういう人はいないな。それに、今は仕事も忙しいしそんな気にもならん」

幼女「こんなところで子供相手に喋っておいてよく言う」

オーク「やめて、そう言われると結婚できない言い訳しているみたいで空しくなるから」

幼女「もしおっちゃんがよければ私が将来的に嫁になってやってもいいぞ。贅沢させてくれるのならな」

オーク「いりません。嬢ちゃんが結婚出来る歳になった時は俺は普通にお爺ちゃんに片足突っ込みます」

幼女「私は構わんぞ」

オーク「別の要因でいりません」

幼女「チッ、金は持ってそうだと思ったのだがな」

オーク「下心しかないのな」

幼女「それじゃあ私を孤児院から引き取る権利をやろう。ほら、私のような子供なら欲しいだろう?」

オーク「余計にいりません。そしてお前はなんでそう自信に満ち溢れているんだ」

幼女「これでも女を磨いているのだ。一家に一人置いておいても困らんぞ」

オーク「ハハ、言うねぇ。だが、俺の所には子供が沢山いるんだ。残念だが引き取れるほど余裕はないな」

幼女「結婚していないのに子供とは……後ろめたい過去でもあるのか?」

オーク「そういう話に持っていきたいの?なぁ?」

幼女「そっちの方が面白いからな」

オーク「戦争孤児だよ。住んでいた町も無くなって行く場所もないし、一度関わっちまったんだ。最後まで面倒見てやるって約束した」

幼女「ふぅん、どんな子だ?」

オーク「嬢ちゃんと同じくらいかねぇ。リザードマンとエルフの子、それにどこから来たか分からないハーフエルフの赤ん坊だ」

幼女「より取り見取りだな」

オーク「どういうこった……ま、みんないい子だよ。ちょいとヤンチャだけどな」

幼女「前来ていたねーちゃんのうちの一人も娘とか言ってたな。上司なのに」

オーク「金髪のキリッとした方な、死んだ友人の娘だ。死ぬ前に面倒見てくれって頼まれたんだよ」

幼女「青白い髪のジト目のねーちゃんは?」

オーク「ありゃあ……他の連中の母親みたいなもんさね」

幼女「ほほう、あの人と夫婦関係にあるという事か」

オーク「そんな仲じゃないうえにンなこと言ったら多分本気で殺されるからやめて」

幼女「父母であって夫婦ではないか。中々に複雑な家族だな」

オーク「まぁここに一人竜の爺さんがいて、それを加えて家族って感じだな……っと、別にそんなこと聞いてなかったな」

幼女「私は羨ましいぞ、そういうの」

オーク「……失言だったか」

幼女「いや、いいよ。今より小さいころに両親がいなくなって、気が付いたときには既にこの孤児院に居たのだ」

幼女「院長先生や他のみんなと仲良くやっている、家族とも言える。しかし、入れ替わりも激しいしどこか余所余所しさもある。私は本当の家族を知らない」

オーク「俺ン家だって本当の家族じゃねぇよ」

幼女「おっちゃん、すごく優しい顔になってたぞ。もうそれは本当の家族って証拠だ」

オーク「……そっか」

幼女「いいなぁ、おっちゃんみたいな父親が欲しいなぁ。ひいては旦那さん」

オーク「飛躍したなオイ」

幼女「将来性を見極めて同年代と一緒になるよりかは金持ちのオジサマに声をかけた方が建設的だからな」

オーク「現実的で頼もしいな。詐欺師にならんように願っているよ」

幼女「なぁに、今に見ていろ。億万長者になって逆におっちゃんを買い取ってやる」

オーク「……俺今そんな話してたっけ?」

幼女「おっと、院長先生が帰ってきたな」

オーク「ん、それじゃあちょいと小難しい話をするから席を外してもらえるか?」

幼女「おお、私は出来るだけフカフカなベッドで寝たいからそこんとこよろしくな。あといっぱい美味しいもの食べたいし、孤児院を出る兄や姉たちの就職先をだな」

オーク「強請るな強請るな……ま、そこんとこは任せときな。目処がついたから期待してな」

幼女「……うん!」

オーク「それじゃあ……」

幼女「またな、おっちゃん!」

――――――
―――



少女「おっちゃんおっちゃん」

オーク「おう、どうした?」

少女「そろそろベッドが古くなってきたのだが」ジリジリ

オーク「カタログ片手ににじり寄るな。まだ使えるだろ今の」

少女「孤児の数も多くなってきて数人で一つのベッドを使っているから狭いのだ」

オーク「ふむ……確かにまぁ困ったもんだな」

少女「魔王様が大体的にこの国のシステムを変えて、景気自体はよくなったのだが」

オーク「孤児院に来る子供がどういう訳か増えてるな」

少女「おっちゃん、どうにかならないのか?」

オーク「どうにもならん、いつの世もヒトの営みは変わり続けるからな」

少女「仕方がないのか」

オーク「仕方がない……とは言いたくないな」

少女「そういえば最近知ったのだが」

オーク「何をだ?」

少女「おっちゃん、魔王軍の総隊長だったんだな」

オーク「今更だな。言わなかったけど」

少女「本格的に金持ちじゃないか。どうだ?そろそろ私は食べごろになったんじゃないか?」フフン

オーク「悪いが食人には興味がないな」

少女「違う、そうじゃない」

少女「軍属になったきっかけとかあるのか?」

オーク「あー、考えたこと無かったなぁ。戦いが好きで、偶然手ごろで強そうなやつを見つけて勝負を挑んでいたら……」

少女「おお、強さを買われてスカウトされたのか」

オーク「大負けしてそのまま奴隷のように扱われて今に至るんだなこれが」

少女「どういうことだ」

オーク「よく一緒に来てる……ほら、青白い髪の奴がいるだろ」

少女「母親とか言われてたあのちっこい娘だな。あの人がどうかしたのか?」

オーク「……魔王様の側近なんだけどな、アイツに負かされた」

少女「お、おう」

オーク「……」

少女「まぁなんだ、上には上がいるもんだ」

オーク「せめて……俺にも魔法が使えたらいい勝負出来てたかもしれないのになぁ……」

少女「ほほう、魔法とな」

オーク「何だ?お前魔法に興味があるのか?」

少女「あるというか使えるぞ」

オーク「ほぉ、その歳で大したもんだ。で、どんな魔法が使えるんだ?」

少女「対象を尿路結石にする魔法」

オーク「……」

少女「対象を尿路結石にする魔法」

オーク「二回も言わなくていいから」

オーク「酷くピンポイントだな」

少女「苦痛を与え失神させる程度には強力だぞ」

オーク「そりゃ大小関わらず強力だが何かがおかしい」

少女「よし、試しに一回使ってみるか」

オーク「やめなさい、やめてください」

少女「ま、冗談なんだけどな」

オーク「うん、薄々そんな気がしてた」

少女「ところでおっちゃん、今日は何しに来たんだ?」

オーク「それを聞くのが遅かったな。今日は院長先生に頼まれてここら一帯の整備だ」

少女「そんなものも魔王軍がやるのか?」

オーク「この町は碌に人の手が入ってないし、何より人手不足だ。魔王様はそういう場所こそ力を入れて開墾しろって言ってるからな」

少女「許可が出たのか。どんな人かは知らんが中々話の分かる魔王様だ」

オーク「以前来ていたあの金髪の娘だぞ」

少女「あー、なんか何年か前に国民の前で啖呵切ってたの思い出した」

オーク「思い切りのいい娘だよ。まったくな」

少女「流石はおっちゃんが自分の娘って豪語するだけの事はあるな。魔王様はワシが育てた」

オーク「言うだけはタダだからな」

少女「バリバリのキャリアウーマンだとも聞くぞ。私とそんなに背が変わらないのによくやるもんだ」

オーク「……ま、今は城から出られないんだけどな」

少女「どうしたんだ?怪我でもしたのか?」

オーク「んにゃ、ちょっと前に結婚してな」

少女「ほう」

オーク「それで子供が出来たんだ」

少女「ほほう!おめでたか!」

オーク「ああ、まだ公には公表してないんだけどな。嬢ちゃんだけにコッソリ教えとくよ。内緒だぞ?」

少女「みんなー」ダダダダ

オーク「まてやゴルァ!!」

少女「ゲンコツは無いだろうゲンコツは」

オーク「愛の鉄拳だ、感謝しろ」

少女「って事はおっちゃんは一周回ってもうお爺ちゃんか」

オーク「爺さん役は他にいるんだがなぁ……年齢的に考えてまぁおかしくも無いのか……な?」

少女「ヒトは歳をとるごとにそのヒトの味わいが出てくる。なに、人生まだまだこれからだ」

オーク「だからお前は何を悟っているんだ」

少女「あ、おっちゃん。見積書出てるぞ」

オーク「いつも悪いな……げっ、孤児院の改修てこんなにするのか……」

少女「別に無理しなくてもいいんだぞ、ここは後回しにして町の整備をしても。院長先生もそう言ってる」

オーク「いんやダメだね!一度関わったら最後まで突き通す!それが俺の流儀だ!ガキ共を待たせるのも悪いしな」

少女「融通利かせるのも大事だぞ」

オーク「お前みたいに強かにはなれねぇからな。まぁ参考にはするよ」

少女「聞かん坊だなぁ」

オーク「お前にだけは言われたくない」

――――――
―――



オーク「……」

少女「おっちゃんおっちゃん」

オーク「ん?ああ、どうした嬢ちゃん」

少女「……今日は帰ってもいいんだぞ?」

オーク「何でさ。仕事で来てるんだ、途中でほっぽって帰る訳にはいかんだろう」

少女「……魔王様の事、聞いたよ」

オーク「……」

少女「亡くなったって」

オーク「……」

少女「おっちゃん」

オーク「何も言うな。言わんでくれ」

少女「泣かないのか?」

オーク「泣けない。俺は泣かない、絶対に」

少女「……他の人たちは」

オーク「息子も娘も……姉が死んだんだ、ずっと泣いてる」

オーク「……側近が一番酷いな。塞ぎ込んで話にならん」

オーク「竜の爺さんはみんなのフォローや魔王軍の運営をなんとか俺とやってるよ。やっぱ大したもんだあのヒトは」

少女「……どうして泣かないんだよ。どうして弱音を吐かないんだよ」

オーク「俺以上に、俺たち以上に辛い人がいるからな。その人が何も言わずに普段通りにしているんだ。泣き言なんて言ってられねぇ」

少女「魔王様の旦那さんか」

オーク「ああ、とても強い人だよ」

少女「どうして魔王様は亡くなったんだ?」

オーク「ハハッ……ストレートに聞くんだな」

少女「それが私だからな。デリカシーが無い質問で悪い」

オーク「構わねぇよ。でもな、ワケあって言えねぇ」

少女「軍事機密ってやつか」

オーク「ああ……いくら仲のいいお前でも、これは話せない」

少女「軍人って面倒くさいな。上に立てば秘密も増えるし、言いたいことも言えなくなるんだから」

オーク「……まぁな。娘のように可愛がっていたんだ、確かに何か言いたい気持ちもある」

少女「でも」

オーク「……」

少女「おっちゃんはおっちゃんだろ?」

オーク「なんだよ……」

少女「ここには誰もいない。私の前ではただのおっちゃんなんだ、だから」

少女「……泣いたっていいじゃん」

オーク「……」

オーク「………………」

少女「うん、それでいいよ。今はそれで……」

オーク「……悪いな、ちょっと泣いたらスッキリした」

少女「私の胸ならいつでも貸してやろう」

オーク「ハハ……その無神経さには助けられるよ」

少女「褒めるなよ」

オーク「……ああ、褒めてるよ」

オーク「すっかり遅くなっちまったな……それじゃあ、そろそろ帰るわ。院長先生によろしくな」

少女「うん……またな、おっちゃん」

――――――
―――



女「おっちゃんおっちゃん」

オーク「ん?どした?」

女「ありがとな!この町も孤児院もなんか知らんが立派になったからな!」

オーク「気にすんな。今の魔王様が自国の発展を優先する人だからな、上手く国内だけでも金が回るようになったんだ」

女「前の魔王様の旦那さんだったな、物作りが好きな人って聞いたぞ。やたらと鍛冶や機械類に力を入れてるんだな」

オーク「ここは土地がだだ余りしてたから、職人の町として利用してもらうんだとさ」

女「うん、どうあれ賑やかになるのはいいことだ。最近孤児も減ってきているしな」

オーク「そうだな」

女「私もいい歳だ、もう就職をしなければならない」

オーク「進路は決まっているのか?」

女「ああ、軍人になろうと思う」

オーク「……人様の考えだ、何も言わんが」

女「オススメはしない、だろ?」

オーク「分かってんなら何で……」

女「おっちゃんみたいになりたいからな」

オーク「俺に?」

女「みんなに慕われて、強い信念をもって、そして誰よりも強く優しくあろうとするおっちゃんみたいにな」

オーク「褒めるなよ、何も出ねぇぞ?」

女「こうやって同じような事を言ったらこの前は飯を奢ってくれたな」

オーク「やっぱりハメられてたか」

オーク「ただ、やっぱり厳しいぞ。普通の生活が出来なくなるんだ、それに戦争も始まるかもしれねぇ。命がいくつあっても足りん」

女「とは言っても、おっちゃんの子供二人も全員軍人になったって聞いたぞ」

オーク「あいつらはなぁ……ある種の才能を持ってるからな。ったく俺の反対を押し切りやがって……」

女「おっちゃんの背中を見て育ったんだ。ずっとその道を行きたいと思ってたんじゃないのか?」

オーク「親の心子知らず、とはよく言ったもんだ。考えがあっての選択だとは思うが、争いとは無縁の場所で生きてほしかったんだけどな」

女「それだけおっちゃんの事が好きなんだよ。そばにいられるんだもん、羨ましいよ」

オーク「一兵でしかも部隊が違うからそんなに一緒にはいられんがな」

女「心の距離の話だ。おっちゃんにはデリケートすぎて通じなかったか、やれやれだ」

オーク「なんかお前に言われるとムカつく」

女「今はまだ勉強中のこの身だが、そのうちおっちゃんの部隊にお世話になるかもな」

オーク「おいおい。俺のところは超が付くほどのエリートだぞ?半端な奴に用はないぜ?」

女「私を半端な女と思うことなかれ、出るところは出てて引っ込むことろは引っ込んでるぞ」

オーク「うん、お前軍人向いてないわ。今からでも進路変更することを勧めるぞ」

女「手厳しいな。いや、私の才能を恐れているのか」

オーク「どうしてお前はそう前向きに生きていけるのかね」

女「褒めるな褒めるな」

オーク「お前ン中ではそうなんだろうな、お前ン中では」

女「……おっちゃん、やっぱ結婚とかは考えてないのか?」

オーク「またその話か。もうそんな歳じゃなくなったからな、諦めてるよ」

女「旬な女が目の前にいるぞ?」

オーク「お前彼氏が出来たって言ってたろ、そういうのやめなさい」

女「おっちゃんの返事次第ですぐに別れられるぞ」

オーク「嬢ちゃんみたいなベッピンさん、俺には勿体ねぇよ。それに彼氏がいくらなんでも可哀想すぎるだろそれ」

女「いい人だけどな。私の就職希望とかホント相談に乗ってくれたし」

オーク「へぇ、二人で決めたってのかい」

女「うん、奴のいう事は何の参考にもならなかった。だから無視した」

オーク「ひでぇ」

女「やはり危険な仕事はやめてほしいらしいな」

オーク「当たり前だバカ。で、何やってる奴なんだその彼氏は」

女「町に来たばかりの鍛冶師だ。まだ見習いだがな」

オーク「ああ、このご時世ならまぁ食いっ逸れる事はなさそうだな。安心した」

女「おっちゃんは私のオトンか何かか」

オーク「……そんなもんでいいだろう。もう付き合いも長いんだ」

女「……嬉しいぞ、そう言ってくれて」

オーク「そうかい」

女「そうだおっちゃん、買い物付き合ってくれよ」

オーク「何だ?なんか欲しいのか?」

女「ヒトが買い物と口にすればすぐ集ると思うなよ」

オーク「今まで俺に払わせなかったことが無いだろ」

女「おっちゃんは何だかんだでヒトを甘やかすからな。義に殉ずる男、うんカッコいいぞ」

オーク「それ、悪く言えば財布扱いだろ」

オーク「で、服屋なんかに来ちまったが」

女「おーあったあった、おっちゃんこれだ」

オーク「ほぉ、こりゃ中々利便性のある……鎧だな」

女「ああ、鎧だ」

オーク「……もっとこう、色気ってもんをだな」

女「就職に必要な物なんだ、見ておいて損は無いだろう」

オーク「ちなみに、そんなもんは軍から支給されるから自前で用意する必要は無い」

女「なんと」

オーク「嬢ちゃんだったら……ほれ、こっちの方が似合ってるんじゃないか?」

女「……牧師服か」

オーク「院長先生はまだまだ健在だが、こういう道もあったと思うんだがな。特にお前さんはな」

女「それも考えたのだが、やはりおっちゃんと同じ道を進みたかった」

オーク「ま、いいさ。言って聞くような娘じゃねぇってのは知ってるからな」

女「それよりおっちゃん、見てくれ。際どい水着だ」

オーク「そんなもん持ってくるなよ」

女「すみませーん、コレ着まーす」

オーク「おいおい」

女「おっちゃんが」

オーク「え?なんだって?」

女「すまないな、孤児院の子供たちの服まで買わせてしまって」

オーク「これ経費で落ちるかな……」

女「なに、最悪私が出世払いで倍にして返そう。期待しているがいい」

オーク「詐欺師め、まだいうか」

女「逞しく図々しく生きねばならんからな」

オーク「ハッ、言うねぇ……おっとすまねぇ、電話だ」

女「外そうか?」

オーク「んにゃ、すぐに終わる。もしもし……ああ、分かった、すぐ戻る」

女「二つ返事だな」

オーク「側近からの呼び出しだ。今日はお開きだな。適当に車を捕まえるが、孤児院まで送ろうか?」

女「いいよ、仕事の邪魔は出来ないからな」

オーク「気を付けて帰れよ。またな」

女「おう、またな、おっちゃん!」

――――――
―――



女騎士「おっちゃんおっちゃん、見てくれよ」

オーク「ほう、様になってるじゃねぇか」

女騎士「へへっ、必至こいてその道の勉強をしたからな」

オーク「ああ、よく頑張ったな」

女騎士「家の事情でこの町の在住だが、これで私も立派な魔王軍だ。おっちゃんの部下だ」

オーク「残念な話をすると、ここら辺一帯は軍の管理からほとんど外れてて地方の自治体に任せてるから俺たちとは縁もゆかりもないけどな」

女騎士「しまった」

女騎士「なに、気にすることは無い。この国に捧げた身だ、気持ちだけでも立派な魔王軍の女騎士だ」

オーク「うん、お前がそう思ってるなら別にいいよそれで」

女騎士「そして今このシチュエーションなら言える」

オーク「ん?」

女騎士「くっ殺せ!」

オーク「何一つグッと来ねぇ」

女騎士「だよな」

女騎士「それよりおっちゃん、おっちゃんとこの最後の子供も軍に入ったって聞いたがホントか?」

オーク「あ、ああ……悲しい事にな」

女騎士「みんな完全に意地だな。おっちゃんのことなんも分かっちゃいねぇ」

オーク「自分にブーメランしてるって気付こうな?」

女騎士「しかしおっちゃんの子供は凄いな。3人揃ってもう魔王軍の幹部になったとも聞いたぞ。コネか」

オーク「コネだったらまず側近に弾かれるな」

女騎士「士官になるにはそういうのも必要だと私の所の上司に教えられたぞ」

オーク「確かにそれもあるが、魔王軍は実力主義だ。そこんとこだけは徹底してる」

女騎士「それじゃあ私は神だな」

オーク「ワリィ、よく聞こえなかった」

女騎士「おっちゃん、ちょっと稽古つけてくれよ」

オーク「それはいいが、多分お前と使う武器が違うから戦っても参考にはならんぞ」

女騎士「構うものか、私の華麗な動きを洗練させたいだけだ」

オーク「だからその自身はどこから来るんだよ……よっと」ガチャン

女騎士「厳つい手甲だな、それが得物か」

オーク「ああ、魔王様が作った特注品で世界でたった一つの武器さ。嬢ちゃんはどんなのを使うんだ?」

女騎士「この大鎌を」

オーク「えらく不釣り合いの来ちゃった」

女騎士「この渋さが私のプライドさ」

女騎士「それじゃあよーいどんで始めるぞ」

オーク「おう、どこからでも来やがれ!!」

女騎士「そぉい!!」ブゥン!!

オーク「ぬわああああ!?何で言い出した本人がルール破ってんだよ!?」

女騎士「情報戦は既に始まっていた!」

オーク「よし!絶対に碌な死に方しないよお前!断言する!」

オーク「よし!そこまで!」

女騎士「い、一打も浴びせられなかった……」

オーク「……」

女騎士「で、おっちゃん。現役の総隊長の目からして私はどうだった」

オーク「お前には向いてない」

女騎士「だよな。やっぱ大鎌はやめるよ、渋すぎた」

オーク「随分安いプライドだったな。でもそういう事じゃなくてだな」

女騎士「戦いに向いてないってんだろ。わかるよそこんとこ」

オーク「分かってんならいい。無茶はすんなよ、嫁入り前なんだから」

女騎士「貰ってくれんの?」

オーク「まさか」

女騎士「軽く汗を流したら喉が渇いたな」

オーク「ほれ、小銭やるから適当に買ってこい」

女騎士「ここは男が行くもんだろ、おっちゃんは気が利かねぇな」

オーク「やけに上司に偉そうな口をきくんだなお前は」

女騎士「だって私んとこ魔王軍関係ないじゃん」

オーク「しまった」

女騎士「分かったなら早く行けぃおっちゃん」

オーク「しょうがねぇなぁもう……」



オーク「……あるぇ?」

女騎士「おっちゃんおっちゃん」グビグビ

オーク「なんだよもう、人に金出させた上に扱き使いやがって」

女騎士「おっちゃんも飲むか?私の飲みかけでいいならやるぞ」

オーク「うん、俺の金だけどな?いいよ、俺はそこら辺の井戸の水でも……って、無いな」

女騎士「そう都合はよくないな」

オーク「そんじゃ悪いが一口くらいくれねぇか?」

女騎士「そんなもんもうねぇよ」

オーク「ちくしょう!」

女騎士「あ」

オーク「どうした?」

女騎士「あったよ!公園の水道水が!」

オーク「でかした!」

女騎士「おっちゃんノリいいな」

――――――
―――



女騎士「おっちゃんおっちゃん」

オーク「……」

女騎士「おっちゃん!!」

オーク「ん?おう、どうした?」

女騎士「らしくないな、小難しい顔をして」

オーク「あぁ、ちょいと悩みの種が大きすぎてな」

女騎士「何だ?相談に乗ってやらんでもないぞ?」

オーク「お前に相談しているようじゃこの悩みがくだらないようなものになっちまいそうだから嫌だ」

女騎士「ひでぇ」

女騎士「そうだ、聞いてくれよおっちゃん」

オーク「どうした?やけに声が浮いているが」

女騎士「結婚が決まったんだ」

オーク「嬢ちゃんか?」

女騎士「おう、他に誰が居るってんだ」

オーク「そうだな、もういい歳だもんな」

女騎士「ホントはおっちゃんと結婚したかったけど付き合ってた彼氏で妥協してやったぞ」

オーク「お願いだから彼氏の前でそれは絶対言わないでね」

女騎士「もう遅い」

オーク「oh...」

オーク「院長先生や孤児院のガキ共にはもう言ったのか?」

女騎士「いや、私の心の上司であり父親でもあるおっちゃんに真っ先に報告したかったんだ」

オーク「そうか、おめっとさん。お前とは随分と親しくなれたもんだな」

女騎士「感動のあまり泣いたりしてくれないのか」

オーク「一番上の娘分の結婚式で先に散々泣きわめいちまったからな」

女騎士「前魔王様か、私も呼んでくれればよかったのに」

オーク「いくら俺と心の親子だといっても、流石にそっちに呼ぶわけにはいかんだろう」

女騎士「まーなー」

オーク「兵職はどうするんだ?」

女騎士「このまま寿退社だな。1年とちょっとやったんだ、向いてないって分かり始めてたから丁度いい」

オーク「1年以上やってようやく気が付いたか……ちょうどいい時期に辞められたな」

女騎士「……なぁ、ホントに始まるのか?」

オーク「ああ、もう猶予が無い。その事で俺もちょいと悩んでいたところだ」

女騎士「嫌だな、戦争なんて」

オーク「ああ、人がたくさん死ぬ」

女騎士「孤児も増えるんだな」

オーク「そうだな」

オーク「お前は家庭に専念しろ。そのうち子供も出来るんだ、今は旦那と生きることを考えろ」

女騎士「うん。でもおっちゃん達の役にも立ちたかったな」

オーク「お前みたいな半端もんはお呼びじゃねぇよ。ただ生き延びて命をつないでくれ、それが俺の願いだ」

女騎士「……そか」

オーク「そんで、兵を辞めちまうならついでに孤児院を次いでやってくれ。ずっと先でもいい、いつか必要になるハズだからな」

女騎士「分かった、約束する。じゃあおっちゃん、もう一つ私と約束してくれ」

オーク「無茶じゃない限りは、な」

女騎士「戦争終わったら、相手国からぶん盗った賠償金をドサッと孤児院の寄付に充ててくれ」

オーク「……ヘヘッ、変わんねぇな、お前も」

女騎士「私は一途だぞ」

オーク「そんじゃ、俺はそろそろ行こうかね」

女騎士「おう、行ってこいおっちゃん」

オーク「悪いな、結婚式は出られそうになくてよ」

女騎士「挙げられるかも分からんような状勢だ、気にすることはないさ」

オーク「……じゃあな、嬢ちゃん」ナデナデ

女騎士「うああ!なぁおっちゃん、その"嬢ちゃん"ってのはもうやめてくれよ。私は立派なレディだぞ!あとそんなでっかい手で撫でるな!」

オーク「おっと、気にしてたのか。こりゃ失礼したな」

オーク「言い直すよ……じゃあな、カトレア。またいつか」

女騎士「やっと名前で呼んでくれたな」

女騎士「……またな、クァルのおっちゃん」



一月に数回
年に十数回会うだけの仲だった

でも、私は確かに彼の背中を見続けた
子供のころからずっと見続けた

彼の子供が羨ましかった、ずっと一緒に居られるから

それでも私は彼を愛した
一人のオークに親愛を抱き続けた

父性を求めていたのか、それとも男性として見ていたのか
曖昧なところはあっただろう、それでも

私は彼を愛し、また彼も私に愛情を注いでくれた



あの後、すぐに戦争が始まった
沢山の命が失われ、沢山の孤児が教会に預けられる事となった

私に出来る事、この子供たちに決して寂しい思いをさせないようにすること

院長先生の助けもあって、旦那と一緒に孤児院を開いた
忙しい日々は続いたが、魔王軍の勝利で戦争も終わり
新しい時代と共に、平和が訪れた

数年経った今、沢山の犠牲の中で生まれた平和が……

――――――
―――



幼女「おい母上、これからどこへ行こうと言うのかね」

母「娘よ、なぜ着いてきたのだ」

幼女「妙にウキウキして外出したからだ、浮気でもされたら家庭崩壊で私が被害を受ける」

母「安心しろ、私にそんなヒトはいない」

幼女「だろうな」

母「ハッ、言いおる」

母「えっと……ふむ、ここで会っているハズなのだが」

幼女「なんだここは、王国の城の付近に用事でもあったのか」

母「参ったな、役所が沢山あって誰に話しかけていいのやら」

幼女「母上、そこにチョロそうなリザードマンがいる、私が声をかけてこよう」テトテト

母「おい、勝手な事を……」

幼女「そこのトカゲ、ちょっと聞きたいのだが」

リザード兵「ああん!?誰がトカゲだって!?……ん?何でこんなとこにガキがいるんだ?」

母「すまない、娘が失礼な事をいった。あまりにもトカゲトカゲしてたのでな」

幼女「仕方ないな」

リザード兵「失礼だと思うならまずは口に出すのやめようか」

母「見たところ軍人のようだが、訪ねたい事がある」

リザード兵「軍人に用事とは穏やかじゃないな、なんだ?」

母「クァルというオークを探している、居場所を知らないか?」

リザード兵「……」

母「ん?どうした?」

リザード兵「アンタ見たところ……シスターか?」

母「女の牧師だ。孤児院を経営している、約束の金を受け取りに来たと伝えてほしいのだが」

リザード兵「ああ、なるほど。わかった、金は後から渡す。ちょっと一緒に来てほしい」

幼女「母上、何だかコイツ胡散臭いぞ」

リザード兵「ガキンチョは黙ってろ!?」

母「いいだろう、今は胡散臭くてもこのヒトに着いていった方がいいだろう」

リザード兵「おい母親、ちょっとはフォローをしてくれ」

母「……」

リザード兵「……」

母「なぁ、一つ聞きたい」

リザード兵「答えられる範囲でなら」

母「何故、お前がその手甲を付けているのだ?」

リザード兵「貰いものだ、気にするな」

母「……そうか」

幼女「どうした母上、さっきと打って変わって顔が沈んでいるぞ」

母「娘よ、気にするな。人には浮き沈みと言うものがあるんだ」

幼女「卑猥だな」

母「卑猥だな」

リザード兵(なんなのこの親子)

母「それで、こんな殺風景な場所に連れて来てどうしようというのだ」

リザード兵「この景色を殺風景と言うのなら、眼科へ行け」

母「そこらの石には何もない、骸が埋まっているだけだろう。ならば何もないのと同義だ」

リザード兵「おおよそ牧師の発言とは思えんな……確かに魂はそこには無い、残された者への慰めにしかならん物だが」

幼女「墓だな」

母「……」

リザード兵「着いた、ここだ」

幼女「おお、でっかい石だな。色んな人の名前が掘られてるぞ」

リザード兵「合同墓所。そして、戦争で散っていった兵士たちの慰霊碑だ」

母「ッ!!」

リザード兵「……俺の父親な、墓なんざ要らねぇから、部下や兵士たちと一緒に骨を埋めてくれって生前から言っていてな」

リザード兵「アンタの探している人は……この中で眠っている」

母「……」

母「おかしいと思ったよ」

幼女「……母上?」

母「何年も連絡が無くて、忘れたころに時間差で"俺の子供に頼れ"なんて手紙なんぞ送ってきて」

リザード兵「何も特別な事じゃない。人はこの世に生を受け、何かを成し終え地に還る……父さんはお前に"それ"を残したんだろう」

母「……墓は、残された者を慰めるために在ると言ったな」

リザード兵「ああ、俺はそう教えられた」

母「……おっちゃんおっちゃん、聞いてくれ。あの後な、色々前倒しにして式を挙げたんだ」

母「あんまり大きくは出来なかったが、相手の両親と孤児院のみんなで、あの教会で」

母「ハプニングもあったが中々充実していたぞ、おっちゃんも見に来てくれればよかったのに」

母「それでな、そのあとすぐに妊娠してるってわかったんだ。結構経ってたから出来ちゃった結婚とかいうやつだ」

母「離婚率が高いらしいな、これは。でも仲睦まじくやってるぞ。あんまり当てにならんな、そういう話は」


幼女「今後の事は知らんがな」

リザード兵「はい、お前はちょっとおじさんと一緒に来ような」

幼女「うおおおお!人さらいめ!!その手を放せ!!」

母「戦争中は苦労したぞ。開いた孤児院に子供が来過ぎてもう大変で」

母「それでも毎日おっちゃんの無事を祈ってた。曲がりなりにもこんな姿をしているんだ、神に頼んだってバチは当たらんだろう」

母「前以上に子供の世話をして、おっちゃんが私を想ってくれていたように、あの子供たちを想って」

母「娘も成長して、私と同じ道を進むと言ってくれた。やっぱり親の背中を見て育つんだな、嬉しかったぞ」

母「おっちゃんは……自分の子供が全員軍に入って複雑だったみたいだけどな。でもおっちゃんの気持ち、今ならわかるよ」

母「おっちゃんが泣いたあの日の事も……今こうして、ここにいるだけで、失ったものの大きさが私にもわかる」

母「……」

母「……もっとたくさん話したいことあったのに……時間が経つと忙しさで忘れるもんなんだな」

母「何度だって語り掛けてやる」

母「返事が無くったって、おっちゃんが返事してくれるまで、何度でもここに来てやる」

母「……なぁ、お金なんていらないからさ……おっちゃん……」

母「一度でいいから、最後でもいいから……あの大きな手で私を撫でてくれよ……」

幼女「母上……泣いているのか」

母「……泣いてない!」

幼女「目、真っ赤だぞ」

母「うっさい!」

リザード兵「金を渡す前に、アンタに渡しておきたいものがる」

母「……何だ、これは」

リザード兵「俺の父親の形見だ、俺はいつも左手に着けてるから、右手用のは必要ない」

母「壊れた手甲……」

リザード兵「父さんが最後に身に着けていたもんだ」

母「これはッ……受け取れない。お前が持っておくべきだ」

リザード兵「もうこっちで保管しておいても捨てられるだけだ。持って行ってくれ」

母「……分かった」


幼女「んあ?」

リザード兵「話はよく聞いてるよ。俺はアンタの……兄貴に当たるのかな」

母「こんな気持ち悪い兄など私にはいらないな」

リザード兵「ひでぇ」

母「……また来てもいいかな」

リザード兵「ああ、何度だって来い。忘れないでいてやってくれ、クァルという男が生きていたことを」

母「勿論だ、返事があるまで何度も来るつもりだからな」

リザード兵「……冗談だよな?ねぇ?顔がマジだぞ?」

母「おい、娘よ。そろそろ行くぞ、この後金を受け取りに行かねばならん」

リザード兵「さっきの自分の言葉を思い出そうか」

母「……?おーい、どこへ行ったー?」

リザード兵「ここはそう広くは無いからそこらにはいるだろ……ほら」

幼女「うーむ……」

母「あまり心配させるな、さぁ行くぞ」

幼女「おう、母上」

――――――
―――


母「金の受け取りも終わった、わざわざ王国軍から飛竜を手配してくれるとは」

幼女「快適な空の旅だったな。あのリザードマン、中々の金持ちと見た」

母「今の総隊長らしいな、そりゃ金は持っているだろう」

幼女「ふん、私の婿候補に加えてやらんことも無い」

母「尊大だな」

幼女「器が大きいと言ってもらいたい」

幼女「そうだ母上、あの墓場で妙な言葉を耳にしたぞ」

母「なんだ?死者の声でも聞こえたか。これは将来有望なシャーマンになれるな」

幼女「母上に伝えろと言われた気がしたのでな、心して聞くがいい」

幼女「……」

幼女「くっ殺せー」

母「ッ!」

幼女「意味はよく分からんが、とても優しい声で言われたので内心焦ったぞ……母上?」

母「はは……ハハハ!」

母「世の中不思議だな。娘が知りもしないような言葉を発したというのに、なぜこうも私は喜んでいるのか」

幼女「母上……何故泣きながら笑うのだ?私はへんな事を言ったか?」

母「ああ、飛び切り変な言葉だ」ナデナデ

幼女「あうう……」



母(おっちゃん。おっちゃんの意思や思いは、色んな形で未来に繋がっているぞ)

母(帰ってこない返事を待って、ずっと慰霊碑の前で語ってやろうと思ったのに……返事を返すなんて卑怯だぞ)

母(私はこれからこの子達を、この子たちの未来を守っていくよ。おっちゃんがそうしてくれたように)


母「……またな、おっちゃん!」




幼女「おっちゃん、くっ殺せってなんだ?」オーク「んー?」
終わり

終わった
並行して色々書くより3,4時間でコレ書けるならどれか一つとっとと仕上げた方がいいな

もしお付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作
http://blog.livedoor.jp/innocentmuseum/

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