提督「ケッコンカッコジコ」 (65)

ラバウル基地の艦娘たちは、とある話題で色めき立っていた。

兵器として生まれた彼女たちでも、年相応の娘として興味津々に語り合うことは別段珍しいことではないが――


木曾「提督、ついに手に入れたんだってよ」

摩耶「へぇー、やっとか」


武闘派と呼ばれる彼女たちも関心を向けるその出来事。


168「……司令官」

金剛「テートクゥ……」


提督LOVE勢であるならば、尚更見逃せない、その出来事。

乙女としても、戦力増強的な意味でも、見逃せないその出来事とは――


漣「ご主人さまも、ついに指輪を……ねぇ」


――ケッコンカッコカリ、である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1411051073

響「……で」

電「司令官さんは、誰を選ぶのでしょうか……!!」

金剛「それは勿論、このワタ――」

摩耶「まだLv65だろ、アンタ」

金剛「ウグッ……!!」

比叡「お姉様が乙女にあるまじき顔を……」


ケッコンカッコカリに必要な最低条件として、練度が限界まで高められていること。

その現実を突き付けられては、金剛も沈むしかない。


木曾「漣、お前わかんないか? 一番最初の秘書艦だろ」

漣「んー……まぁ、順当にいったら大鳳さんでは? 練度高いですし」

摩耶「ケッコンカッコカリの目的考えたら、やっぱそうだよなぁ」

168「司令官……」


スマホでひたすら愛しの男の写真を眺める168のレベルも48。

ケッコンカッコカリの条件は満たしていない。


漣「ま、ご主人さまはムッツリですから。何考えてるのかわからんとですよ」

木曾「そうだなぁ……」

雷「大鳳さんが、Lv98で一番近いのよね」

響「でも長門も負けてないよ。大鳳に次いでレベルが高い」

漣「加賀さんも『ここは譲れません』ですし」


提督を慕う艦娘は多い。

が、ケッコンカッコカリの条件を満たすとなると、その数は限られる。


168「最近は、秘書艦もしめ出して一人で物思いに耽ってるのよ……」


168がスマホの画面に映すのは、机に頬杖をついて物憂げな表情を浮かべる提督の顔。

ならばお前はどこでそれを撮ったのかと聞きたくなる気持ちを、木曾はグッと堪えた。


木曾「ん、んん……まぁ、アイツも気持ちを整理してるんだろうな」

摩耶「こっちとしちゃ、パパパーっと決めて欲しいけどなー。落ち着かねえよ」

金剛「テートクゥ……」

一方、その頃。

水平線の彼方に沈む夕日を眺めながら、大鳳が窓を閉めた。


大鳳「ヒトハチマルマル。提督、そろそろ休んだ方が……」

提督「ん?……あぁ。そうだな、ちょうど仕事も片付いたし……ここまでにするか」


ありがとう、と提督が大鳳の髪を撫でた。

擽ったそうに身じろぎしながらも、大鳳がその手を拒むことはない。

大鳳は、温かくて頼もしい、この手の平が大好きだった。


提督「大鳳のおかげで、早く終わったよ」

大鳳「ふふ……提督と一緒だと、どんなことでも楽しくなっちゃうの。不思議ね」


赤らむ頬は、夕日によるものではない。

執務室で、大鳳お手製のカレーを二人で食べる。

肉多めのスタミナが付きそうな、実に彼女らしいカレーだ。

最初はあまり体力に自信が無かったのだが、大鳳を秘書としているうちにすっかり健康的な肉体になってしまった。


大鳳「どうかした?」


内心の苦笑が、表面に出てしまっていたらしい。

首を傾げる大鳳に何でもないと誤魔化し、スプーンを口に運ぶ。


「うん。大分、上手くなったな」

「頑張ったから……あなたのために」


大鳳も、最初はカレーを作るのが下手だった。

秘書官が持ち回りでカレーを作ると知らなかった彼女の作ったソレは、肉が多めであまりにくどかった。

今となっては、それも良い思い出だ。


大鳳「……」

提督「……」


話題が尽きて会話が途切れても、気まずいとは思わない。

お互いの顔が側にあるだけで、食器の音すら心地良く聞こえた。


提督「……ふぅ。ごちそうさま」

大鳳「お粗末さま。食器、片付けるわね」

提督「いや、手伝うよ。一緒にやろう」

食事の後は、少し間を置いてから一緒に軽い運動をしてから汗を流し、風呂に入る。

提督が特注家具職人の妖精に拵えさせた温泉檜風呂に入ることができるのは、秘書艦として一日の執務の補佐をした艦娘の特権である。

と言っても、ここ最近は大鳳の特権となりつつあるが。


「いい湯ね……」


両手で湯船のお湯を掬い、じっと見詰める。

澄んだお湯は鏡のように、ゆらゆらと揺れて大鳳の顔を映した。


「提督……」


ここ最近の、提督の物憂げな表情。

それは単に、ケッコンカッコカリに向けて心の整理をしているから――では、ない。

その胸の奥に、何かもう一つの悩みを抱えていることを、大鳳は知っている。

ずっと隣で、見て来たから。

『そう……私が大鳳。
出迎え、ありがとうございます。
提督……貴方と機動部隊に勝利を!』


自分が建造された時、提督が一瞬だけ見せた、悲しい顔。


『提督……?』


大鳳は、それを不思議に思った。

自惚れるつもりはない。

しかし、最新鋭の装甲空母である自分の性能は、決して提督を落胆させるものではない。

彼女はそう、自負している。


『新造艦の建造が終わったわ!』


疑問が解けたのは、彼の秘書官として毎日の開発・建造任務を手伝うようになってから。

本来なら喜ぶべき新兵器の開発が成功した時、提督は残念そうな顔をする。

逆に、開発に失敗して資源が消費された時には、嬉しそうにするのだ。

そして、戦力増強の為に新しい艦娘の建造を行った時――彼は、悲しい表情を浮かべる。

――彼は、優しい人なのね。

提督は、見た目が普通の娘と変わらない艦娘を戦場に送り出すことを、心の中では良しとしていないのだ。

だからこそ、自分たちの手に持つ武器の開発されることや、新しい艦娘が建造されることを悲しむ。


『お疲れ様です』


だけど、それは朝の一番最初だけ。

遠征の司令を出す時は、そういった内面の苦悩はおくびにも出さない。

むしろ優秀な司令官として、効率よく資源を集められるように、指示を出す。


『提督……私が……』


ぎゅっと、手を握った。

自分が、支えてあげないといけないと思った。


『あなたと勝利を刻むって言ったでしょう? 負けないわ!』


『ふふ……寝顔は、可愛いのね』


戦いの時は、最強の旗艦として。

執務の時は、優秀な秘書艦として。

大鳳は、常に最善を尽くした。

『あの……すみません。誘爆だけは、怖くって……』


時には、どうしようもなく、提督に縋り付くこともあったけど。

そんな時には、彼は優しく大きな手で、頭を撫でてくれた。


『提督といると時間が経つのが早い。不思議』


提督は、忙しいからだろうって笑ったけれど。

それだけじゃないって、この胸の高鳴りは告げていた。

「提督……」


その彼が、悩んでいる。

力になりたい。打ち明けて欲しい。


「でも……」


仕事の効率は落ちていない。むしろ、良くなっている。

演習でも気を抜くことなく、勝利を収めている。

悩みを悟られないように、心配をかけないようにしている提督の心遣い。


「だったら、私は……」


信じて、待つ。

葛藤の決着がついて、彼の胸の奥が晴れるその時を。

――この大鳳を、待たせるなんて。


大鳳「なんて……言わないわ」


自分にできることは、彼の悩みが一刻でも速く解決できるようにすること。

その為には執務は勿論、出撃でも全力を尽くす。

そして悩みが解けた、その時には、彼自身の手で――


大鳳「……そ、そろそろ、上がらないと……!」


……真っ赤な顔は、のぼせたからだ。

大鳳はそう自分に言い聞かせて、湯船から上がった。

区切ります

気が付いたら大鳳を書き過ぎてました
もっと緩い話の勘違い系な予定だったのにどうしよう

とりあえず大鳳ヒロインで書いていこうかと思います
ちなみに当初の予定だとレ級がヒロインでした

時刻はマルゴーマルマル。

窓の外が薄く白み始め、眠りについていた妖精たちも次々と目覚めていく時間。

大本営からの任務が通達される時間でもあり、提督の一日はこの午前5時より始まる。


大鳳「……失礼します」


静かな執務室に響き渡るノックの音に、遠慮がちな声。

続いて鍵が開く音がして、そっとドアノブが回された。


大鳳「……ふぅ」


執務室の机に、提督の姿はない。彼は昨日から、仕事でこの基地を留守にしている。

そして彼がいない間の基地のことを、大鳳は任されているのだ。


大鳳「何だか……緊張しちゃうわ」


とはいえ、やる事は変わらない。

提督の残した指示通りに、いつものことを、いつも通りにやればいい。

違いがあるとすれば、ただ一つだけ。


――彼がいるか、いないかということだけだ。

大鳳「……」


普段ならば、提督が座る執務室の椅子。

彼から一定の権利を委任されている大鳳には、この席に座る権利がある。


大鳳「……お、お邪魔しますっ」


この場にはいない彼に一言だけ断って、大鳳はやおらその背もたれに体重を預けた。

今現在、この部屋にいるのは大鳳のみ。

最初のノックも挨拶も、この部屋の鍵を預けられた時点で彼女には不要なものだ。

それでも形式的にこういった礼を忘れないのは、大鳳の生真面目さ故であり、提督の彼女に対する信頼の根拠でもある。


大鳳「――頑張らなきゃ」


彼女は自分の両頬を軽く叩いて気合を入れると、ペンを手に取り、届けられたばかりの書類の束に手を伸ばした。

――何だか、不思議な感覚。


普段とは違う視点。

いつもは横から見る視点。

小柄な大鳳には、提督の椅子は少し大きい。


大鳳「そうね……」


――これが、あの人と同じ視線。


大鳳「……あたたかい」


彼の温もりや残り香がなくとも。

その認識は、大鳳の元から高めの体温を、更に紅潮させた。


大鳳「ん……」


何だか気恥ずかしくなって何気無く窓の外に視線を向ければ、暁の水平線に浮かぶ第二艦隊の影。

40時間の長い遠征を終えて泊地に帰投する彼女たちの姿は、心なしか疲れて見える。


大鳳「労って、あげないと」


補給の手配と、艦隊を出迎える準備。

本来なら提督の仕事だが、彼が不在の今は大鳳がやらなければならない。

深海棲艦が支配する海域への出撃に比べれば、遠征任務は危険が少ない。

砲雷撃戦の少ない遠征任務を宛てがわれて不満の声を漏らす者もいるが、艦隊の維持には欠かせない重要な役割。

艦娘の運用に必須な燃料やボーキサイトを運んで来てくれる彼女たちには感謝が絶えない。

例え結果が失敗に終わったとしても、それは支持を出す側の編成ミスであり、そのような状況でありながらも無事に帰投した彼女たちを嘲ることは許されないだろう。


大鳳「……もしかしたら」


――提督も、こんな気持ちで艦隊を迎えているのかしら?


大鳳「……ふふっ」


また少しだけ、彼のことを理解できたような気がして。

大鳳は頬を緩めて、真っ直ぐ執務室へと向かってくる足音に耳を澄ませた。

乙女プラグインが実装された大鳳は提督を想うだけで常にキラ付け状態なお話

短くて申し訳ありませんが、区切ります
次はちょっとだけ安価みたいなのも入れるかもしれません

濡れても大丈夫です、と言っているのに。

彼は無言で、そっと私を抱き寄せてくる。

自分の肩が、傘からはみ出しているのに。


大鳳「雨水なんて、へっちゃらです」


普段から波飛沫が飛び交う戦場に身を置いているのだから、この程度はどうということはない。

艤装――ヘッドギアの部分が、自動で体温を調節してくれる。

そう言うと、彼は小さく苦笑した。


提督「大切にしたいんだ」


その一言で、胸の奥に、小さな火が灯ったような気がした。

この時だけは――私は、艤装の機能を切った。


大鳳「……」


兵器の機能として、体温を調節するよりも。

今は、一人の少女として。


大鳳「……失礼、します」


彼の温もりを、感じていたいから。

大鳳という艦娘は、誘爆を想起させるものをとにかく苦手とする。

鎮守府で秘書艦を勤めている時でも――爆発音が聞こえれば、身が竦んでしまう。


『あの……すみません。誘爆だけは、怖くって……』


大鳳という空母が轟沈した経緯を考えれば、それも無理はない。

彼女以外にも過去の大戦の出来事をトラウマとして引きずる艦娘は多い。


『提督、どう? これが大鳳の、そして私たち機動部隊の本当の力なんです!』


そのような彼女が何故、爆発とは無縁でいられない戦場で戦果を上げることが出来るのか。

それは、艤装の機能によって一時的に精神的な矯正をかけているからだ。

艤装のサポートを受けた艦娘たちは、十二分に真価を発揮する。

便利な機能であり、平時でも艤装の機能を利用する艦娘も少なくない。


『ば、爆発!? どこから!?』


しかし、大鳳は鎮守府にいる間――特に、秘書艦として勤めている時はその機能を意図的に切っている。


『す、すいません……もう少しだけ、こうさせて下さい……』


それは、きっと。

艤装の機能よりもずっと、安心させてくれる存在が身近にいるからかもしれない。

摩耶「お、大鳳じゃん」


艦娘や基地の職員たちでごった返しになる昼時の食堂。

スプーンを加えながら、摩耶は珍しいものを見たというような顔をした。

その声を聞いて、大鳳はトレーを抱えながら慎重に人混みを避けて摩耶の前の席に着いた。


大鳳「ここ、座るわね」

摩耶「おう、珍しいな。お前がここにいるの」


秘書艦は、昼食は提督の執務室でとることが基本となっている。

そして、ここ最近は秘書艦の役割はほぼ大鳳で固定されているために、彼女が食堂に顔を出すことは珍しい。


摩耶「どうした? 提督は――って、ああそっか」


口から出かけた質問を取り消す。

提督は大鳳を鎮守府に残して、他の基地の視察に出かけている。

護衛として連れて行ったのは、彼女ではなく長門だ。


摩耶「ははーん……?」

大鳳「な、なに?」


その口元に浮かぶのは意地悪な笑み。

お固い大鳳をからかってやろうという意思が滲み出ている。

中途半端なところですが、切ります
投下が遅れに遅れたのは本当に面目ない……

摩耶「いやな? 長門も提督とは大分付き合い長いよなーって」

大鳳「……ええ、そうね」


長門がラバウル基地に参戦したのはあ号艦隊決戦時。

ラバウル基地で最も練度が高い艦娘は大鳳だが、提督との付き合いの長さで言えば長門には負ける。


摩耶「それでさ、今回の視察で提督は長門と二人っきりだろ?」

大鳳「……」

摩耶「こりゃ――もしかすると、もしかするかもしれねえよ?」

大鳳「彼女に限ってそんなこと……」


大鳳の長門に対するイメージは『真面目な人』

確かに、道中では提督と長門が二人っきりという状況もあり得るだろうが、今回彼らは視察という用事で出向いている。

浮ついた話はまずないだろう。


168「どうかしらね……」

摩耶「うお、いたのかお前」

大鳳「いつのまに……」


突如として会話に割り込んできたのは168。

Lv98の大鳳ですら察知できなかった神出鬼没っぷりに、摩耶は冷や汗を垂らした。


168「……長門も、ああ見えて結構雰囲気に流されるタイプだから……」

大鳳「そ、そうなの……?」

168「例えば、この写真とか……」

摩耶「い、いや、いい。見せなくていいから」


手元のスマホを操作する168を、慌てて摩耶が制止する。

何処で、どうやって『その写真』を撮ったのかは知らないが、あまり関わりたくない世界だった。


大鳳「……」

摩耶「ん、んん……まー、そういうワケだし、な?」

168「……うっかりしてたら、取られちゃうよ。提督」

大鳳「……で、でも」

168「いらないの? じゃあ、イムヤが貰っちゃうけど」

摩耶「つってもお前、Lvは――」

168「ケッコンだけじゃないもの、方法は」


真顔で言い切る168。

据わった目付きが何とも恐ろしく、摩耶の頬を二滴目の冷や汗が伝った。


大鳳「……」

168「どうなの? いらないの?」

大鳳「……」

摩耶「……まぁ、待つってのもいいけどさ。たまにはこっちから仕掛けても、いいんじゃねえか?」

大鳳をからかう筈が、いつの間にか背中を押すことになっていた。


摩耶(まー……やっぱ焦ってえし、さっさと決めて欲しいよなぁ)


何より168が怖い。

Lvなら168よりも摩耶の方が上だが、この潜水艦は提督が絡むとLv以上の何かを発揮する。

基地が修羅場になる前に、さっさと大鳳に決意を固めて欲しかった。


摩耶「……それにさ、一番Lv高いってもまだ98だろ?」

大鳳「……えぇ」

168「あまりうかうかしてると、抜かされちゃうよ」

摩耶と168の言葉を受けて、大鳳は目を閉じた。

その瞼の裏でどんな葛藤があるのか、摩耶には知る由もないが――


大鳳「……摩耶、休憩が終わったら演習をするから。準備しておいて」

摩耶「あいよー」


大鳳「あと、イムヤ」

168「……」


大鳳「……ありがとう」

168「いいよ、別に」

昼食をさっさと掻き込んで、大鳳は誰よりも早く食堂から出て行った。

覇気とでも言うのか、今の大鳳の迫力はフラグシップにも劣るまい。


摩耶「……で、お前はいいのかよ?」

168「イムヤは、提督が幸せならそれでいいの」

摩耶「ほー……大したヤツだ」


168「それに」

摩耶「ん?」


168「ケッコンカッコカリって――別に、一人に絞らなくてもいいみたいだし」

……それから、数日後。


大鳳「おかえりなさい!」


視察を終えて帰ってきた提督を迎えた大鳳のLvは、遂に上限を迎えていた。

区切ります

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年11月25日 (火) 23:26:54   ID: 2qbVl7sH

面白いです

2 :  SS好きの774さん   2014年11月27日 (木) 10:48:59   ID: i1oT0GeM

これは期待

3 :  SS好きの774さん   2015年11月04日 (水) 22:20:40   ID: zMGlKBqh

終わってしまったのか...残念

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom