娼婦「あら、今日も来て下さったんですね」(22)


男「もちろん。僕は心底、君に惚れているからね」

娼婦「ありがとうございます。嬉しいです」

男「君は?君は僕のこと、好きかい?」

娼婦「ええ、大切な大切なお客様ですよ」

男「…そっか。もうひとつ聞いていいかな?」

娼婦「はい?」

男「僕は少しでも君の助けになれているかな?」

娼婦「…はい」

男「よかった」ニコッ

ホル?


男「やぁ、また来たよ」

娼婦「あら、今日は早いですね…って。びしょ濡れじゃないですか…」

男「傘が壊れていたのを忘れてたんだ。それに、早く君に会いたくてね。雨が止むのを待てなかったよ」

娼婦「そんなに急がなくても、私はどこにも行けやしないのだから」

男「…これを君に見せたくてね」スッ

娼婦「これは…柊南天?」

男「よく知ってるね」

娼婦「花、好きなんですよ」

男「これ、君にプレゼントするよ」

娼婦「…お気持ちは嬉しいですが、こんな暗い所に置いて置くと直ぐに枯れてしまいます。花が、可哀想です」


男「ふふっ。そう言うと思ったよ。安心して。この花は、日陰でもよく育つそうだよ。日陰で育っても、その本来の美しさは変わらない」

男「まるで君のようだ」

娼婦「!…ありがとう、ござい、ます…//」

男「あ、迷惑だった?」

娼婦「そんな!!とても…とても嬉しいです!」

男「よかったぁ!」

男「じゃあ、そろそろ行くね」

娼婦「そう、ですか」

男「また明日来るからね!」

娼婦「…お待ちしております」ニコッ


男「あ、そうそう!」

娼婦「?」

男「柊南天の花言葉はね―――…」






娼婦「…ごめんなさい。男さん…」

娼婦「私は」グッ



娼婦「娼婦、だから」


ボキ ン ッ。

―柊南天(ひいらぎなんてん)の花言葉―

『激情』

『激しい感情』

『愛情は増すばかり』

ホルン?

>>2
>>7
ごめん、分からん
楽器か?


男「やぁ、また来たよ。今日は寒かったね。風邪を引かないように気をつけるんだよ?」

娼婦「…いらっしゃいませ。寒さには慣れていますので大丈夫ですよ」

男「そうかい?でも、女性は体を冷やしてはいけない。ほら、僕の上着を貸すよ」スッ

娼婦「ッ!いらない!!」パンッ

男「痛っ」

娼婦「あ…」


男「…」

娼婦「ご、ごめんなさ、」

男「僕が、嫌いかい?」

娼婦「…ッ」

娼婦「もうここには…来ないで下さい」

男「どうして?僕は君が好きなんだよ。愛してる。そんなの聞けな

娼婦「なおさら!!…なおさら来てはいけません」

娼婦「ねぇ、男さん。気づいているのでしょう?」

娼婦「あなたが送ってくれた花がこの部屋にないことを」

男「…うん」

娼婦「優しい人」


娼婦「そんな優しい人の気持ちを私はッ!!私は…」

娼婦「…この手で折り、まるでゴミのように、棄てたのです」

男「……」

娼婦「男さん。私はあなたの思うような人間ではありません。あなたは私を美しいと言ってくれました」

娼婦「けど私は…私、は…」

娼婦「なんて、汚い…」ポロポロ

娼婦「こんな、汚い私、が、男さんを」


娼婦「愛し、ては、いけない、のです」

男「!」


娼婦「ほ、ほんとは、嬉し、かった…ヒック…花をもらったことも…グスッ…花言葉を知った時も…」ポロポロ

娼婦「け、ど。わた、私は…ヒック…娼婦だから…!」

娼婦「忘れようとした!あなたは『客』で私は『娼婦』で…!けど、けど」

娼婦「なぜあなたはそんなに優しいの…!」

娼婦「なぜ私はあなたを好きになってしまったの…」

娼婦「…好きに、なってごめん、なさ


男「…」ギュッ

娼婦「!…男、さん?」


男「泣かないで…僕は君の笑顔が何より好きなんだ」

娼婦「男さ」

男「僕ね、君が花を棄てるのは知ってたんだ」

娼婦「え…?」

男「そして…君が僕に惹かれていることも、ね」

男「ごめんね。僕はぜんぜん優しい人じゃないんだ」

男「君に花を送ったのは確かに僕の好意からだよ。けどね、君が僕の想いを受けきれないのを知っていてのプレゼントなんだ。だからあえて花言葉を教えた」

娼婦「そんな…」

男「君は優しいからね。花を棄てたことへの罪悪感で、気持ちを爆発させるんじゃないかなって」

男「案の定、君は僕への想いを認めたね」


男「計算だらけで軽蔑したかい?」

娼婦「…いいえ。あなたは、私より私のことを知っていますね」

男「愛してるからね」

娼婦「…っ///」

男「で、僕はまだ君からの返事を聞いていないんだけど」

娼婦「返事?」

男「鈍いなぁ。僕と正式に付き合って下さいってことだよ」


娼婦「…男さん」

男「うん」

娼婦「私は娼婦です」

男「そうだね」

娼婦「そしてあなたはその客」

男「今はね」

娼婦「私はここから出られません」

男「僕が会いに来ればいい」

娼婦「…私はこれまで、幾多の男性に買われ、抱かれてきました」

男「けど君の心は買われたことなんてない」

娼婦「私はこれからもあなたじゃない男性に買われ、抱かれるのです。死ぬまで」

娼婦「それでもいいのですか?」

娼婦「それでも、あなたは私を愛してると言えますか?」


男「…僕は」

娼婦「…」

男「…ああ、ごめん。いい言葉が見つからないや。ただ、ただ言えることは」

男「僕に君を愛させて下さい」

男「何が僕達を別っても、僕は君を愛し続ける。…これじゃあ、ダメかい?」

娼婦「…ダメ、」




娼婦「なわけ、ないじゃないですか…」

娼婦「私も愛しています。男さん…!」ニコッ


男「…やっぱり君は笑顔が似合う。綺麗だ」ギュッ

娼婦「男さん…」

男「あ!そうそう」

娼婦「?」

男「これ、受け取ってくれるかい?」スッ

娼婦「これは…薔薇?」

男「ああ、《紅色》のね」

娼婦「!」

男「花言葉は」

娼婦「『死ぬほど恋焦がれています』…ですよね」クスッ

男「ありゃ、知ってたのか」

娼婦「ふふっ。ありがとうございます。あなたの気持ち、確かに受けとりました」

男「うーん。じゃあ、こっちは知ってるかな?」スッ


娼婦「これは…白い薔薇?ですよね。枯れていますね…」

男「枯れてるから意味があるんだよ。これは君が僕に渡してよ」

娼婦「私があなたに、ですか?」

男「うん。枯れた白い薔薇の花言葉を知っているかい?」

娼婦「いえ…」

男「枯れた白い薔薇の花言葉はね、」

男「『生涯を誓います』。…渡してくれるかい?


娼婦「…私ばかりが貰うばかりと思っていましたが、私にもあげることができるのですね」

娼婦「私を、私の人生を、受け取って下さい男さん」スッ

男「もちろん!!」ガバッ

娼婦「きゃっ!?」ズルッ


トスンッ

男「…あっぶな。ご、ごめんね。大丈夫?」

娼婦「え、ええ」ドキドキ

男「……」

娼婦「……」ドキドキ

男「…ッ。ごめん、すぐ退くね」

娼婦「ま、待って」ギュッ

男「!」

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