男「これが非現実的日常……!」(113)

俺はよく夢を見る

非現実的日常の夢
やれ悪魔と戦ったり、やれ天使と戦ったり、やれ大魔王と戦ったり……

そんな毎日を送る日々

いつしかそれが現実になればと思っていた

友「おい!明日期末だぞ!」

男「俺別に勉強しなくても点とれるし」

友「だから勉強教えろとあれほど言ってるだろ」

男「よしじゃあ2進法からだ」

友「バカにしてんの?」

男「してない」

友「ふざけんなよ頭いいからってバカにすんなよ」


聞いての通り俺は頭がいい
顔もいい

友「顔は普通」

……

男「じゃあカンニングペーパーやるから」

友「それでこそ俺の友達やで」

男「マジかお前……」

こんなことを繰り返す毎日
普通の日常

こいつは頭があまりよろしくないけどいいやつだろう
俺が友達になってやったくらいだ

天才の俺が

友「あぁぁぁあもう嫌!」

友「こんなことならしっかり勉強すればよかった……いやでも今からでも……待てよ? 何か問題起こせばテストは…………普通に問題起こしてもつまらないな、ここは一つスタイリッシュに……スタイリッシュ→オシャレ→……」ブツブツ

男「え?何ぶつぶつ言ってるの?」

友「そうだ、フランスへ行こう」

男「何でだよ」

男「何で問題起こす前にフランス旅行の話が持ち上がるんだよ」

友「ばっちし聞いてんじゃねーか」


今日もこうして一日が終わるんだな

俺はブツブツいってあいつを横目に帰宅

友が割りとガチでフランスに行くみたいだ

明日じゃ間に合わないだろうに

男「ただいまー」

うちには妹がいる…だが……

妹「あぁもうまた靴脱ぎ散らかして!お客さん来たら恥ずかしいでしょ!?」

妹「玄関は家の顔、綺麗にしなきゃダメじゃないの!」

オカンっぽい


この家には俺と妹しかいない
父が単身赴任、母は妹が生まれてすぐ亡くなった
ある日父が母はもういないことを妹に告げた
妹は少し哀しそうな顔をしたがすぐに持ち直し

「あたしがこの家の母になる!」

と、宣言
そう言ってからあいつは家事をよくこなしている

まぁよく覚えないから落ち込みも浅いのだろう
……多分

父は仕事の合間にちょくちょく戻ってくる

だがこの半年は忙しいらしく、帰ってこない

妹「今日はあんたの好きなすき焼きよ!」

男「うん」

妹「まだ若いんだからしっかり食わなきゃね!」

妹「明日はテストでしょ?早く勉強しなさい!」

言ってることが極端すぎる気もする

男「じゃあ出来たら呼んでくれ」

妹「はいよ」

顔はかわいいのになぁ……オカン口調なんとかならねぇかなぁ……

部屋に戻ると夢の続きを妄想する

悪魔来ねぇかなぁ……
天使とチュッチュ出来ねぇかなぁ……
……今日も平和に1日を終えた

生まれてすぐに将来有望な妹だな

翌日、2件のメールを確認

軽くテンションup

妹から

『何で起きないのよ!もう知らないから!兄ちゃんあたしの料理食いたくないなら最初に言ってよ!バーカ!バーカ!』

男「……ああそうか、昨日あのまま寝たんだっけ」

ぼんやりと妹が怒りながら体を揺すってたのを思い出す

男「まぁ何かあげれば機嫌直るだろ……まだ13歳だし」

2件目
友からだった

『おい!フランスだ!お前も来いよ!何か凄いマダムに気に入られて友達も一緒にパーティに来いだってよ!』

よくわからなかったが友が知り合ったマダムにフランスのパーティに誘われたのだろうか

期末のことを教えて二度寝する

まだ4時だ

すぐ着信

『いんだよ!いいから来いって!チケット送るから多分1週間以内に届くと思う!』

強引なやつ……ん?マジであいつフランス行ったのか?

戸惑いながらもメールに写真がついてたのを見て、開く

どこかで見たようなオバハン……

気になったのでネットでググる

…………大手ブランドの社長……

ワォ!

フランス 凄い マダム

まさかこれで引っ掛かるとは……

『考えとく』

そう返信し、二度寝開始

また明日

二度寝の甲斐あってか無事寝坊した

男「……」

男「もういいや」

妹は起こしてくれなかったみたいだ
昨日のことをまだ根に持ってるのか

ホントなら遅刻しても行くのだがなにぶん遅刻欠席が多くもうあとがない状態だった

そして一つの単位を落とし、もう一つ単位を落とすと……退学だ

今日の英語のテストを欠席したら強制退学

男「はぁ……」

何を隠そう一時間目が英語なのだ

家の固定電話に学校からの着信が数えきれないほど入っていた

……明日覚悟決めて行くか

男「父さんにどう報告するかな」

そう呟きながら布団に入る

……

声が聞こえる
女の子?
誰だ?

「おい」
「あの!」

二人いたのか
……?
体が動かない

「ほらみろ手荒な真似するから」

「私のせいですか!?」

「お前が何か変な魔法でぐるぐるしたからだろう」

「うぅ……おーい!」

なんだなんだ何が起きてる

「こりゃだめだな」

「おい、お前がこの先、手にする本は黒を選べ」

「聞こえてるんですか?」

「知らん」

……本?
……黒?

「いいか?聞こえてるだろう?」

「聞こえてるんですか?」

「知らん」

「黒だ、黒の本を手にしろ」

「じゃないと……の……運命……」

急に声が途切れ出した
漫画みたいな展開だ

「お前は……」

「……で……死ぬ」


意識が遠退く
あぁ……夢だったのか


そして、吸い込まれるように現実に引き戻された

辺りは西陽が差し込んでいた
もう夕方か

そろそろ妹が帰る時間だろう

……さっきの……夢?
えらい物騒な……

死ぬとか言われたし……

まぁ所詮夢だしな

妹「ただいまー」

帰ってきたか
どれ、俺様直々に出迎えてやるとしよう

男「おかえり」

妹「……」

スタスタと奥に行ってしまった

男「着替えて来るかな」

機嫌直しのプレゼントを買いに行こうと準備する

男「何がいいかなー……」

ここは某ショッピングセンター
何から何まで揃ってる凄まじい店だ
今俺は店内の雑貨屋に来ている

男「おぉ……孫の手ってレパートリー多いな」

何かマジシャンがフォークの先をぐにゃぐにゃしたタイプもある

男「これがいい!」

俺は真っ先に先っぽぐにゃぐにゃの孫の手を買う

俺はセンスがいいからな
フフン

「カイケーニマッナッヒャクッス」

20,700円……?

男「クッ……だが機嫌を直すため……」

男「きっとジェット噴射みたいな機能が……」

そう信じて買ってしまった
心なしか満足してる自分がいた

家の玄関を開けると1枚のエアメールが置いてあった
妹が置いたのだろう

誰から……友からだった

男「あぁ……今朝の……え?もう届くものなの?」

不思議に思いつつも封を切り中を確認

それは1枚の手紙と2枚のチケットが入っていた

男「……えーと」

<チケット届いたか?この中に2枚入ってるからそれ使ってこっち来てくれ!
え?金?心配すんなマダム持ちだ
一緒にオサレになろうぜ!
あ、もう1枚は誰呼んでもいいけど知り合いにしてな!>

男「強引なやつだ」

しかしせっかく貰ったのを無駄にするわけにはいかない
どうせ退学だし暇だし

そうだ、なんなら妹も連れてくか
それで機嫌直してさらに俺のプレゼントで上機嫌に……


その晩、早速妹に話すことを決めた

男「あのー」

妹「なに」

男「昨日はどうもすいません、デヘヘ」

男「もう寝ないからさ」

妹「これで何度目だと?」

そう、俺は常習者なのだ

男「9回目」

妹「一回で覚えろよバーカ!バーカ!バーカ!」

男「まぁまぁ」

ここでセンスがいい俺の選んだプレゼントを出す

男「ほら、これ」

ぶっきらぼうに渡した方がいいと何かの本に書いてあったので真似てみる

妹「……」

ビリビリと包装を開ける

フォークの先をぐにゃぐにゃにした孫の手が露になる

さぁ

妹「……」

さぁ!

妹「……」

さぁ!!

突如辺りが暗くなる
静寂に包まれた時が永遠と感じる

男「いやぁぁぁぁぁあ!!」

目の辺りに激痛が走る
痛い……とても痛い

妹「死に去らせ」

そう言い残し
もがき苦しむ俺を残し
去っていく

これが目潰しか

しばらく経ち
若干痛みが引いてきたところで薄目を開ける

孫の手……さらに奇形な姿に……

別に泣いてない
目がいたくて涙が出てるだけ

男「オォン……オォン……」

しかし何がいけないんだ
いつも孫の手を持ち歩いてるくせに
まぁ怒ってるなら失敗だったのか
……


うん、普通に謝ろう

ここでの謝罪文は割愛
残念だけど割愛
もうホント残念だけど割愛

妹「そこまで謝るなら許すけどさ」

妹「次は絶対やめてよ」

男「はい」

妹「うん!」

フフン
俺にかかれば女一人くらい
天才の俺にかかれば

妹「じゃあご飯作るね」

男「はい」

ここで一つ思い出す
フランス旅行だ

男「あ、これ」

妹「……」

男「いやいや変なものじゃないって」

警戒心半端ないな

妹「これなに?」

男「チケットなんだけどさ」

妹「チケット?」

ここで友の事について話す
一応面識があり、昔よく遊んでくれたおかげで、もう一人のお兄ちゃん
という認識みたいだ

妹「友兄ちゃんがフランス……なんで?」

学校でのことを話す

妹「あぁ……」

妹「春休みなら……うん」

男「わかった、伝えとく」

こうして俺は部屋に戻り友にメールした

男「ついでに俺退学……と」

パタンと携帯を閉じ返事を待つ

10分後、着信

『わかった春休みな!しっかしお前退学か
ドンマイ!ハハッ
俺は皆勤だったから今からやすんでも問題ないし
パーティは4月だからまずは観光してから来いよ!妹ちゃんぺろぺろ』

こいつ……学校始まっても来ないつもりかよ
春まで待てるならすぐ来いなんて言うなよ……

まぁあいつらしいかな

晩を済ませ、俺は明日の学校での言い訳を考え布団に潜り、眠る

春休み

花粉が飛び交うこの季節
恋も飛び交うこの季節

今新たな恋が一つ、そして一つと……

妹「なにいってんの」

男「えぇ?」

妹「学校でどれだけ怒られたか知らないけど」

妹「頭の中にまで影響出るならしっかり出ときなよ」

男「……」

あの日……退学がわかった翌日、俺は学校に向かった

学年主任のあの顔はもう忘れないだろう
父さんにも知られたが笑って終わった

そんな父の息子なんだから別に怒っても意味ないのだよ
傷ついてないし反省もしないのだよ

男「お前家の事は俺に任せて勉強しろよ?今が一番大事なんだ
退学なんてなったら……怒るからな」

妹「めっちゃショック受けてない?」

因みに妹のオカンキャラは家の中でないと発揮しない
もしくは異常なまでに母性反応が出たときぐらいだ


先月の仔犬事件も凄かったなぁ

男「てか今日凄いオサレに見えるな」

妹「天才のあたしが本気を出せばこんなもんよ」

男「そうかそうか」

俺の妹だな、うん

友にメールしたら空港で待ってるとのこと

あいつすげぇな……と思う
だってマダムと知り合ってパーティに呼ばれて尚且つ知らない土地に一人だぜ?

俺は無理だな

妹「どれくらいでつくの?」

男「さぁ?30分くらいじゃない?」

妹「……そっか」

そんなわけねぇみたいな顔をしたがスルー

そういやこいつ高いとこと狭いところ苦手だったな

妹「……」

男「大丈夫だって、エコノミーも高いのも寝てりゃ終わるから」

妹「うん……」

今から飛行機に乗ると友にメール
さぁ、日本→フランスまでひとっ飛びだ

黒服「あっ、男さんと妹さんですかー?」

なにやらいかつい男が来る
妹はビビって俺の後ろに隠れる

男「は、はい……」

黒服「わたくし、こういうものです」

○○ブランド社長秘書
原鷲 ロイ

日本人とハーフ……だよな

はらわしろい……か
……腹は白い

なんだこいつ

黒服「友様のご学友だそうで、社長から言われてお迎えに上がりました」

もうここまで来るとなにも思わなかった

黒服「席はご用意させております、こちらへ」

男「は、はぁ」

流されるままついていく

一般の人を横目にゴージャスな階段を上がる

見たこともない綺麗な部屋がそこにあった

黒服「ファーストクラスです」

男「え?」

黒服「友様の大切なご学友に失礼はできない、だからファーストを……と」

男「いやいやいやいやそんな……!」

男「いやもうホント申し訳ないです、セカンドとかで良いです、あ、なんならもう飛行機の翼にくっついててもいいです!」

妹「あたし死ぬよ……」

いやでもファーストって……

黒服「いいんですよ、さぁ時間はたっぷりあるのでお好きなように過ごしてください」

黒服「何かありましたらお呼びください」

そういってこの部屋から出ていく黒服
まさかこんな体験ができるなんて……

また明日

おもしろい

部屋の中は快適だった
妹はベッドで寝ている
今日の旅行が楽しみだったらしい

俺は特にすることもなく、目の前のギター……ベースというのか?
……ギターを弾いていた


ペンペンぺペン

男「何か……想像してたのと違うな……」

爆音を響かすのかと思えば地味な音が鳴るだけ
つまらん

ペンペンペン

男「……」

ドアが開き、黒服が入ってきた

黒服「おぉ!あなた三味線が弾けるのですか!」

え……?
三味線……?

黒服「さすがです」

男「あ、いや……」

恥ずかしい……
これは三味線だったのか……

男「ど、どうしたんですか?」

誤魔化すように話を変える
早く忘れロイ

フフ

黒服「いえ、お飲み物を……」

男「あ、あぁ……」

そういうと後ろからメイドが1人来た
何でメイド?

メイド「どうぞ」

差し出したのは……
なんだこれは

カルピスとコーラだった
こんな場所なんだからもっと凄いものを想像したが何やら庶民的だった

男「どうも」

黒服「では……」

そう言い残し部屋を出ていく

妹を起こして一緒に飲む
別に起きないなら二つ飲もうと思ったとか
起きちゃったから飲めなかったとか

そう言うのじゃない、断じて

妹「おいしい!」

確かにおいしい……

男「だな……ふぁぁあ……ちょっと一眠りするかな」

妹「私も二度寝ー……」

疲れていたのか、飲み物を飲んだあと、急に眠くなり、爆睡

……

「はぁ……貴様はホント注意力散漫だな」

「どうします?」

「喋らないように願うしかない」

「悪魔が何を願うんですか?」

「うるさい堕落天使」

「聞き捨てなりませんね」

またあの声……
二人の女の子……

「いや喧嘩しても意味はない、いいかよく聞け人間」

「貴様は薬を飲まされた……自白剤と喪失剤」

はい?

「貴様は起きると何も覚えていない、だが何としてもこれだけは覚えとけ」

「ババアに気を付けろ」

無茶苦茶な台詞を残し、現実に引き戻された

男「んー……」

目が覚め、辺りを見回す
ドアの方が少し開いている
黒服のやつしっかりしめたよな……

妹「スピースピー」

男「まだ寝てんのか……」

男「……あれ……何か……言われたような」

何だっけな……バ……バ……

男「バイトでもするか、ニートになったようなもんだし」

なにか違うような
まぁいい

ドアが開き、黒服が入ってくる

黒服「着きました」

外に出るといかにも……という感じだ
高層ビルが建て並ぶが、どこかアンティークを思わせるレンガ

フランスか

黒服「では私は失礼します、また後程」

そう言って黒服は出ていった

妹「んん……兄ちゃん……」

男「着いたぞ」

妹「ふざけるな……死ね……」

まだ寝ぼけてるようだ

おんぶしながら空港のロビーに向かう

外に出るといかにも……という感じだ
まだ飛行機から出ただけなのに外国感がある

フランスか

黒服「では私は失礼します、また後程」

そう言って黒服は出ていった

妹「んん……兄ちゃん……」

男「着いたぞ」

妹「ふざけるな……死ね……」

まだ寝ぼけてるようだ

おんぶしながら空港のロビーに向かう

ミスしました
>>34は無視の方向で

違う>>33です

寝ぼけてるんじゃないのか

ロビーには鼻が高い奇妙な人間がたくさんいた

その中に一際目立つデカイ看板を持ったやつがいた

友だな

男「恥ずかしいからやめてくれよ……」

そんな切望も儚く

友「男ぉぉぉぉぉお! 妹ちゃぁぁぁぁん! ここだぁぁぁぁぁぁあ!!」

鬼の形相で雄叫びをあげる友に近づく

友「イタァァァァァァァァァアアア!」

断末魔だった

友「いやよく来たな! 待ってたぞ!」

男「あ、ああ……」

妹「スピースピー」

また眠っていたようだ
知らぬが仏だな、妹よ

友「お前どうよここは」

友「非現実的日常を体験したいって前から言ってたからどうだ」

どうだって言われても

友「非現実チェキ……非現実的日常は!」

噛んだな? 今なかったことにしようとしたな?

友「さぁ感想を!」

男「えーと……」

隠すのもアレだし……
友に幼少期のことを話す

父が単身赴任すると、まだ幼い俺たちはチョコマカ着いていくのが日常だった
カナダ、イタリア、イギリス、スペイン……もちろんフランスも

これが俺には当たり前だったし、別に何とも思わなかった

高校生になると同時に、妹は任せた……と言い父は1人で世界を渡り歩いた
悪く言えばしょっちゅう飛ばされてた

男「そんなわけで別に非現実的日常ではない」

男「旅行だしな」

友「……」

不満そうな友を横目に

男「まぁとりあえず案内してくれよ」

友「ここが雑貨屋、隣がパン屋だ」

男「フランスパンある?」

友「もち」

友に町を案内される
来たのは……5年振りかな
今じゃすっかり変わった町並みを眺める

友「さ、そろそろマダムの家行くか」

男「あぁそういや……」

俺たちはパーティに呼ばれたことを思い出す
と、同時に夢の言葉を……思いだしかける

バ……に気を付けろ……だったかな

肝心な部分が思い出せない
しかしマダムに会うと思ったら思い出した、何か意味があるのだろう

友「へいタクシー!」

男「日本語で止まるのかよ」

何とタクシーの運ちゃんは日本人だった

「ワシの若い頃を思い出すよ」

そう言ってただで乗せてもらい、マダム邸へ到着

友は目の前の玄関ではなく反対の……裏門へ歩き出す

男「こっち?」

友「あぁ表はダミーでな、客人しか通さないんだよ」

友「さ、マダムが待ってるぞ」

妹「マダムオクタ……スピースピー……」

男「それは蜘蛛だろ」

友「え?」

男「いやなんでも」

マダムオクタとは「ダレンシャンに出てくるバンパイアのペット」
みたいな感じだ
タランチュラの毒蜘蛛

スティーブが刺されて……いや、知らない人もいるからやめよう

ダレンシャン懐かしいな
好きだったわ

裏門の外観はそれといった特徴はない
強いて言えば
ジャルダン、トゥールヌソル……とかかれていた

男「なぁこれは?」

友「あぁ、単語だけだけどひまわりの庭みたいな感じ」

男「違う違う、何で裏門に書いてあるんだ?」

前にいたからか、フランス語は片言ながらわかる

友「知らん」

男「そうか」

恐らくこの先ひまわりの庭……みたいな

そんなことを思いながら俺たちは第一歩を踏んだ

友「へいマダム!」

マダム「おぉおぉ……よく来たねぇ」

日本語?
ふと疑問をもち友に聞く

友「あの人クォーターっていうのか?4分の1が日本人らしい」

友「ちなみに日本に何度も行ってるからペラペラだぞ」

へぇ……
これといった感想もなかった

友はマダムと何か話している
今はそれより内装に目がいった
豪華なシャンデリア
壁には「華」の文字

和洋折衷というのか、バランス悪くてとてもオサレに見えなかった

まだ眠っている妹を起こし、マダムに接近

マダム「あなたが男くんね?」

男「そうです」

男「あなたが……」

マダム「マダ――」

男「……ババア……」

マダム「まっ!!」

友「ハハッ」

男「あっ、いや! その!」

口が滑った……いや、なぜか口から出てしまった……やっちまった、なぜだ

妹「……」

マダム「……若い頃の私にそっくりだわね」

男「え……」

嘘だろ……?
必死に弁解しようとしたら思わぬ発言

尾も白い

支援

マダム「若いうちに色々経験するものね」

マダム「はい、お勉強です、レディには柔らかく接するものよ」

マダム「じゃあ皆様、夕食で」

友「……すげぇなおまえ」

あの人がレディ?
いやそんなことよりも……

妹「何やってんの?」

男「俺は……年取ったらああなるのか……?」

友「そこちゃうがな」

……しかしなぜあんな口汚いことを……

……ババア……聞き覚えが……
一つの疑問を残し、友に言われ執事らしき男のあとについていく

俺たちが入った部屋は和室だった

畳と障子、掛け軸に和風の机、座布団
妹は隣の部屋で洋室だったらしい

「兄ちゃんと一緒がいい」

そう言ってたが兄弟といえ女1人というのはいささか無用心
だから隣の部屋まで着いていったのだ
かわいいぞ我が妹よ

友「おーここは初めてだな」

男「他の部屋だったん?」

友「部屋って言うか執事さん達の部屋」

友「何でだろうな?」

顔がイヤらしいとは言わない
天才の俺は友達を傷つけない

男「そういやどうやってあのマダムと?」

これがここ最近一番知りたかった情報だ
友が昨日の夕飯を話すかのように語る

友「あんなー」

要約すると

娘さんが街の輩に絡まれたところを救出
何と娘さんから求婚されたが断ったという
その漢気に更に惚れたという

娘さんを探しに来たマダムがその現場を見て、良かったらパーティで娘さんと踊ってくれ
ということらしい

友「そこで友達も一緒に……って言われてな」

なるほど、若干ツッコミたいが我慢

男「お前合気道やってたもんな」

友「あぁ……弱いものを守るために……な」

神妙な顔で言うがイヤらしい顔つきなため、迫力がない

そして夕食

また明日



待ってる

に、向かう途中
2つの扉が目に入った

1つは厳重に鍵をかけられた部屋

もう1つはいわゆる書斎らしき扉
何で書斎かわかるって?

だってエチュードって書いてあるもん
意味は書斎

中から声が聞こえるが声が小さいため聞こえない

男「なぁここ誰かいるのか?」

友「いやぁ旦那さんの部屋だけど……」

そういうや否やバンッ! と扉を開ける友

友「旦那さんいたんですかー!?」

怖いものないのかコイツには……

そこで俺は衝撃的なものを見る

飛行機内にいたメイドが地震もないのに縦に揺れているではないか
お相手は……
…………
ロイィィィィィィィ!!

「オォォォォォォオ!セシボーン!! ウィ! ウィ! セシボーン!!」

セシボーンするなぁぁ!

友「……」

男「……」

静かに戸を閉める
二人はまだ気付いてないようだった

友「食堂まで遠いから急ぐぞ」

男「おう」

俺たちは話さずともわかっていた

そう、忘れるんだ
ロイも、メイドも
全て忘れるんだ

走って食堂へ向かう友のその足取りは
なぜか重そうだった

夕食はそれなりに豪華だった
それなりとはフランスなのに刺身のマグロだったり
味噌汁があるのになぜかフランスパンだったり

よくわからないが綺麗な食べ物のとなりに漬け物だったり

バランス悪いといった方がいいか

マダム「妹さんはいかがなさったのかしら」

男「あっ……」

忘れていた
ここは広いから迷子になってるのだろうか……
一緒に行けばよかった

別にご飯が食べたくて妹を忘れた訳じゃない
決して

友「探しに行くか」

男「いや俺1人でいくよ」

あいつの迷子には慣れっこだ
妹センサーを使えばすぐわかるだろう

なので友の言葉を断って探しに行った

食堂を出る直前
扉の横に立っている黒服がいた
ロイだったな

入ってくる前はいなかった……し、扉とは向かい合うように座ってたのに……


いつからいた?


一つの疑問を抱きつつも黒服を横目に扉を出る

そして通ってきた道を戻る

さっきまでいた廊下……なぜか違和感がある

なんだ?

男「……鍵の掛かった部屋……?」

そう、厳重に鍵をかけられた部屋が少しだけ開いていたのだ

好奇心からか、中を覗く

「――兄ちゃん!」

ハッと後ろを向く
妹が不思議そうに立っていた

妹「何してるの?」

男「いや……別に」

男「それよりお前よく迷わないで来れたな」

妹「この人に案内してもらったの」

男「この人?」

妹が見るその視線の先には何もなかった

妹「あれっ!?」

男「寝ぼけてんじゃね」

妹「いやでもっ……」

妹「……そうなのかな……」

納得がいかない妹を連れ、食堂へ戻った

ふと後ろを向くと、扉は厳重に鍵をかけられていた

食堂へ戻ると妹はさっきのことを忘れたかのように楽しんでいた

友「でさーマダムがさー」

マダム「友くん」

友「はい」

妹「うわスッゴい気になる!」

和気あいあいとしている
こうして楽しい夕食は終わった
部屋に戻る途中、友に黒服のことを聞いてみた

友は俺のとなりにいたから、いつから黒服がいたのか気付いたのかもしれない

すると驚くべき言葉が

友「いやあの人最初からいたやん」

そんなはずはなかった
いや……俺の気のせいか?

男「だ、だってよ、メイドとセシボーンしてたのに……普通間に合わないだろ?」

友「は? セシボーン? 俺ら直でここに来たろ?」

男「……」

確かに言葉は交わさなかったけど忘れようというのはわかっていたはずだ
それとも本気で忘れているのか?

男「何いって……」

友「だから部屋からここまで走ってきただけだろ?」

友「セシボーンとか間に合わないとか意味わからん」

友は忘れたのではなく
記憶を変えられていたのに気付くのはまだ先の話だった

男「そうか……」

友がそうしたいならそうしよう
天才の俺が空気を読んでやった


しかし納得できない
嘘をついてるようにも
無理しているようにも見えない

本当に「知らなさそう」だった

友「疲れてんじゃねぇの?」

友「露天風呂あるからいくか?」

男「そうだな」

そして露天風呂に入り、部屋に戻った

俺は疲れたと言って布団にもぐる

友「おめー旅行はババ抜きだろーが!」

聞こえない聞こえない、アーーー


多くの疑問を残し、深い眠りにつく

――日は経ちパーティ当日

友「おい!どや!」

真っ赤のスーツ? を着た友
正直ダサい

男「お前このフランスで何を学んだんだ」

友「マダムのような淑女は柔らかく接するもの」

ダメだ洗脳されてる
淑女じゃないだろ熟女だろ

妹「どやー!」

真っ黒のドレス

男「よく似合ってる」

妹「センスないやつに言われた……モウダメダ……」

なんだと!
このセンスの塊である俺を愚弄するとは……!

友「よく似合ってるぜ、とくにそのイヤリング」

友「黒に敢えて白を入れることで視線を独り占め、更にスカートを薄い生地にすることでより魅力が増したな」

なんだこいつ気持ち悪っ

若干不機嫌になりながらもパーティ会場を見回す

ここはマダム邸1階の大広間だ
言ってなかったが俺らがいた食堂やら部屋やらは2階
つまりここに来たのはマダムと最初話した時以来だ
相も変わらず「華」が壁にかかっており、上にはシャンデリア

何かな……バランス……

友「華の字とかセンスいいよな」

妹「だね、敢えて和を取り入れることで全体にバランスがとれてる」

友「和と洋なのに不思議と合ってるよな」

なんなのこいつら
もしかして俺はセンスがないのか?
ハッ、まさかな


時間になったのか、小太りの男がステージらしき場所に昇る
パーティ開始だ

「こんにちはっ」

元気な声がこちらに聞こえる
正確には友に、だな

「ともさまっ」

可愛い……というよりは美人顔
やや大きめな胸
金髪碧眼のポニーテール
身長は俺の胸元辺り
150cmくらい

妹「説明が細かいね」

男「いちいち頭のなか読むな」

この子がマダムの娘さんだろう

美少女「あのときは、ありがとございました!」

片言ながらしっかりとした発言

美少女「ともさまっ、わたくしと、おどってくれますか!」

友「よろこんで」

男「まんざらでもない感じだな」

妹「だねー」

求婚されたかけど断ったというが
テンパりすぎて断っちゃったんだろうな

友「しゃ……さぁ行こうか」

美少女「はいっ」

友にてをとられて嬉しそうに歩き出す
本当に好きなんだろうなぁ

一際目立つ二人を見送りながら、妹の手を取る

男「さ、俺らもいくか」

妹「あいっ!」

可愛いなこいつめ

躍りは苦手ではなかった
父に教えられ社交ダンスを子供の頃にやっていたし、楽しかったから

「こうしてこうな……」

今思い出すと男同士で腰に手を回すのは気味が悪いな

妹「兄ちゃん似合ってるよ」

男「当たり前だろ」

俺は黒のタキシード着ていた
派手すぎず地味すぎず……

他の人たちは皆色とりどり、俺たち二人は黒いので中々に目立つ

だがそこで気付いたことがある
周囲の目は友たちに向けられていた
躍りをやめ、友の方を見る

友「下手でごめん」

美少女「そんなこと、ございませぬっ」

友「ハハッ」

何やら楽しそうに踊っている

娘さんは真っ赤の背中がスゥーっと空いたドレスを着ていた
頭にはさっきまでなかった冠……ティアラか

しかしそればかりに目がいくのではない
異様なまでに美しい躍りなのだ
違うな、ダンスなのだ
すっかり俺も目を奪われる

妹「兄ちゃん」

男「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」

ラブホに誘うような言葉だが、気にしない

一通りダンスが終わったあと、周囲から拍手が飛ぶ

もちろん俺も

照れ臭そうな二人
微笑ましいな

妹「兄ちゃん……」

男「ん?」

妹「あたし食べ物食べてくる」

不機嫌そうに歩いていく

ふと2階に目がいった
なぜかはわからない
反射的に

マダムがいた
いや別に浮いてる訳じゃない
2階の席にいたのだ
ゆっくりと立ち、席を離れる

不思議と体はマダムを追っていた

なぜ? なぜ?
よくわからないが追わないといけない
ここで「逃がしたら」ダメな気がする

気づくと黒服のロイとメイドがセシボーンしていた部屋の前
つまり廊下についた

反対側からマダムの足音が聞こえる

男「ッ!」

バレたらまずい
反射的に隠れる場所を探す

扉が半開きになっていたので、急いで駆け込む

……ん?今どの部屋に?
外からガチャガチャと聞こえる……鍵を開けようとする音
にわかには信じられなかった

恐らく俺はあの厳重に鍵をかけられた部屋にいる

でもどうやって……
扉は半開きだったし……

悩んでる暇もなく鍵を開ける音がする

ガチャン

マズイ……マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ

――れ!

男「え?」

――われ!

「本をさわれ!」

声と同時に扉が開く

マダム「?」

咄嗟に扉の後ろに隠れた
だがいずれ見つかるだろう

マダム「……いるんだろう?」

バレた? いやまさか

「黒い本!」

頭に声が響く
どこかで聞いた声

男「なんなんだよ……」

呟いたつもりだったがマダムには聞こえていた

マダム「そこね」

カツ――カツ――

来る……

マダム「あら……男くんじゃない」

マダム「……何してるの?」

男「――ッ!」

男「い、いや……間違えて……」

マダム「鍵の掛かった部屋に?」

男「いや……」

何とか距離を取る
その時マダムの後ろに真っ黒な本が見えた

因みにここには薄暗い明かりひとつ
そんななかでも一際目立つ黒い本……

男「……黒……」

「早くあれをとりなさい!」

声だ
どこかで聞いた……

男「誰なんだお前……」

「そんなこといいから早く!」

マダム「どうかしたの? ……まぁ勝手に部屋に入るのは感心しないわね」

男「……本」

マダム「まさかあなた契約者に……」

男「契約者?」

マダム「……なにも知らないならいいわ」

マダム「ロイ! ロイはいる!?」

黒服「ハッ」

マダム「あの子を出してちょうだい……いえ、忘れさせて」

そういうや否や黒服が襲いかかる

間一髪で避ける

「だぁもう! 黒い本をとれっていってるのだ!」

カチンときた
こんな状況で何を……

後ろを見ると黒い本と赤い本があった
こっち側に避けたのか

マダム「マズイ……あの子にとらせたらダメよ!」

「黒をとれ!!」

男「うるせぇなぁもう! それどころじゃねーんだよ!!」

半分キレながらも本をとってやった
これで少しは黙るだろう

「あぁぁぁぁぁぁあ!!何してるのだ馬鹿者がぁぁぁ!」

はい?
その悲鳴にも近い声が聞こえた瞬間
黒服が目の前にいた

男「あ……あぁ……」

終わった
もうだめだ
目を閉じる

――何秒たっただろうか
痛みが来ない
それどころか風が吹いている

そっと目を開ける

男「え……?」

両手には赤い本を持ち
見たこともない大草原の上にポツンと立っていた

また明日

悔しいが面白い

深夜でやってるってことは...
待ってるぞ(意味深)

地平の彼方まで続く大草原
空は快晴だった

両手に抱えるように持つ赤い本
黒い本ではなかった

だが今はそれよりも……

男「た、助かった?」

男「……え、でもここ……」

辺りを見回す
すると後ろに天まで昇る大木があった

男「……ち、ちょっと休むか」

状況が理解できない
何だ、何が起きた

マダムの秘書である黒服に何かされかけて……
声が聞こえて……

男「??」

男「もうワケわかんない」

男「1つ確かなのはこの本を手にしたらここに……? ということか」

男「……」

落ち着け俺、今は目の前のことを考えるんだ

男「たしかあのとき……」


「黒い本!」


男「これは赤……」

ふと夢をのことを思い出す

二人の女の子の声

キツイ言い方の方が
運命やら死ぬやら……

まさかこれと関係してる?

男「……」

更に悪魔や天使と聞こえた……いや、ただ単に言っただけなのか……

男「あぁもう!!」

こうしていても埒が明かない

まずはこれを確認するのが先だ

赤い本を開きかける

まさにその時

「だぁぁぁぁあ!! ダメぇぇぇぇぇ!」

え?

しかし時すでに遅し
本を開いてしまった

輝き出す本
行けるか……?

男「第一の術、ザケル!」

なにも起きなかった

男「……」

「はぁ……」

溜め息が背中にかかる
ゆっくりと後ろを向き、溜め息の主を確認する

端正な顔立ちだがどこかキツそう
黒髪ロングヘアーの美少女だ
胸は控えめ

「……」

黙ってしまった
惚れたのかな?

「馬鹿者が……」

そう呟くと殴られた
いきなりで意味がわからないと思うが
グーで顎を撃ち抜かれたのだ

そのまま意識が遠退く
しかしその中でハッキリと見えた

涙が頬を伝う姿を……

意識が戻ると不思議と落ち着いていた
顎はまだ痛むが騒ぐほどじゃない

なぜこんな風にしたられるか……わからない
精神安定剤でも飲まされたのだろうか

寝たまま回りを見る
どこかの部屋だろうか
今にも潰れそうなボロい木の家……

扉の隙間から明かりが見える
といことは部屋は最低でも2つか

それなりの大きさだな
ふと耳を澄ますと声が聞こえた
夢の中での声だ
それも二人

「それじゃあ……」

「あぁ、まずいことになった」

「……」

「でもあの人なら……」

「無理だ」

「記憶が残っていない」

「まだわからないじゃないですか」

「赤い本を開いた時点でわかる……あいつはなにも覚えてない」

「……」


「あんなに待ってたのに……あんまりですよ……」

そのあと片方がどこかへ出掛けた
数分後、この部屋の扉が開いた

咄嗟に寝たふりをする

「ふん……「相も変わらず」下手な演技だ」

相も変わらず?
こいつ俺のこと知ってるのか?
いや夢の声と同じだし知ってるのも……あれ? そもそもあれは夢じゃ……

「起きろ」

命令されて起き上がる

男「……」

「貴様どこまで覚えてる」

覚えてる? 何をだ?
妹の誕生日? 友の秘密?
男「……えと」

男「円周率なら……それなりに……」

「……」

男「ごめんなさいわからないですここどこですか妹いるんです助けてください何でもします足もなめますお願いします殺さないで」

「ホントに覚えてないか……」

そういうと近くの椅子に腰を下ろし事の経緯を説明してきた

あの時全て受け入れようと決めたので
考えず、ただただ言葉を聞いた

「今の貴様にどれほど理解力があるか知らん」

「だから起きたことをそのまま話す」

男「はい」

「まずお前はふらんすと呼ばれるところにいた」

男「あ、それは覚えてます」

「……」

不機嫌そうな顔になるが、可愛い

「じゃあ飛ばす」

「お前は大魔王の契約者であるババアの手下に記憶を消されかけた」

男「質問」

「あとにしろ」

男「はい」

「だが私の天才的な呼び掛けで貴様は本を取った」

男「本に何の意味があるのですか」

「あとにしろ」

「その時貴様の眠っていた契約者としての力が目覚めた」

男「はい?」

「そしてその力を無意識で使い、魔界に飛んだ」

「以上、質問は?」

男「とりあえず10個ほど」

「却下」

なんだこいつ
質問が多いのは就職で覚えて貰えるかもしれないのに

男「えっとじゃあ……大魔王の契約者であるババアの手下に記憶を消されかけた」

男「もう意味がわかりません」

「だから大魔王の契約者であるババアの手下に記憶を消されかけたと言ってるだろう」

男「だからもう意味がわかりません」

「何がわからないんだ!」

男「全部ですよ!」

ダメだ話が平行するだけ
ここで天才の俺は質問を変えた

初歩的な質問
どうやらこいつの見解では俺は記憶がないらしい

ならば記憶喪失中のポピュラーな質問

男「あなたは誰ですか?」

「……契約されたものだが」

男「誰に? 8日以内ならクーリングオフできますよ」

「……」

俺のボケがわからないのか?
面倒になったので真面目に質問してみる

男「あの、契約者って何ですか?」

「この世界においての従事関係を定めることだ」

「つまり契約者にはそれと契約した者がいる」

「契約した者は契約者である者に忠誠を誓う」

男「へぇ……」

男「この世界って言うのは地球ですか」

「ここは魔界だと言っただろう」

男「はぁ……」

男「あれ? じゃあおかしくないですか?」

男「俺魔界出身じゃないですよ」

男「地求人ですよ」

男「なのに俺が契約者って……」

男「そしてババア……たぶんマダムだと思うけど、あの人も黒服も地求人ですよ?」

「ババアと手下は魔族だ」

「傍目じゃ気付かないがな」

男「???」

「その話は一旦置いとけ、先の話だ」

男「はい」

男「あ、じゃあ俺が契約者って……」

「それも先の話だ」

男「はい……」

なんだよなにもわかんねぇよ

男「あ、じゃあ大魔王って……」

「この魔界の王だ」

「これも後で話す」

男「じゃあ……」

男「あなた契約されたものって誰にですか?」

「あぁ?」

男「ごめんなさい」

「……」

聞きたいことは山ほどある
赤い本と黒い本
そしてなぜ黒い本じゃなきゃダメなのか

赤い本を開いたら何が手遅れなのか

察したかのように本のことを話し出す

「その赤い本は終末をもたらす本」

「黒い本は始まりをもたらす本だ」

「やつら魔族は黒い本を探し求めてきた……もちろん我々も」

「数百年前のある戦いで黒い本と赤い本は封印された」

男「あの場所が……封印された場所?」

男「でもここって地球じゃなく魔界なんですよね?何で地球に?」

「知らん、どうやったか知ってるのは貴様だけだ」

男「俺っすか?」

「貴様が本の隠し場所を見つけたのだ」

男「え? 隠されてたんですか?」

「そう、それを貴様が見つけたのだが魔族のやつらが嗅ぎ付けた」

「それが数百年前の戦いの勃発だ」

色々と説明へただなこの人

男「じゃあその中で俺が封印したんですか?」

「……取り残されたこっちの気持ちも考えんでな」

男「ちょ、ちょっと待ってください」

男「封印したのはまだ納得できるんですがなぜ俺がいなくなるんですか?」

「さぁな」

「ただその場に貴様の姿はなく、メッセージが残っていたのだ」

男「?」

「一言「待ってろ」……とな」

男「はぁ」

「貴様はどこに封印したのか教えず姿を消し、数百年も我々を待たせた」

「ここに住みながら数百年、やっと封印の場所がわかったのに回りには大魔王の契約者とその手下」

「前のような力は我々にはない、だから好機を伺っていた」

「そこに貴様が現れた」

どことなく怒りが積もっている
怖い

「嬉しいとかの感情より先に殺意が芽生えた」

ひぃっ

「1回部屋に入ろうとしたのに入らず、2回目に入ったと思ったら隠れる」

怖い怖い怖い

「最初は一時的に記憶がないのだと思い黒い本を取れと言った」

「あろうことか貴様は赤い本を取りのこのこ戻ってきた!!」

「だがまだ開かなければ希望はある」

「だが貴様は何をした? 」

男「本を開きました」

やべぇ怖い
怖い怖い誰か助けて

「思わず手が出たよ」

……

男「あ、でも封印されてるなら大丈夫じゃ……」

「封印が解けかかってるんだよ」

先に言えよ

いや言っても分からなかったろうけど言えよ

「まぁ貴様のおかげで封印は解かれ、魔族は黒い本を持って帰ったろうな」

半分投げやりになってる
ごめんなさい

「あの草原で確信したよ」

「本当に記憶がないって」

「まぁ咄嗟に黒い本って言われても反応は出来ないか」

「予め言っておけば良かったな、ハハハ」

ん?ちょっと待て
夢の話は黒い本をとれと言っていた
こいつ忘れてるのか?

男「ごめんなさい、予め言われてたのに信じてませんでした」

俺は正直者だから答えてやった

「何の話だ?」

え? 俺の無視を流してくれるの?
何だ……いいやつじゃん

「とりあえず今日はもう休め」

「明日もう一度説明してやる」

男「はい」

そう言って彼女は部屋を出ていった

まとまらない話を頭の中でまとめる

俺は契約者らしい
なぜかこの魔界にいたらしい
そして本を巡る戦いで、本の在りかを突き止めた

俺はその本を封印して、彼女とその仲間に「待ってろ」と残した

本は危険なもので、赤い本は終末をもたらす
黒い本は始まりをもたらすらしい

本の封印場所はマダム邸の厳重に鍵をかけられた部屋
2回入ることに成功したが、なにもしなかった
彼女曰、一時的に記憶がないのだと思ったらしい

俺は記憶をなくした覚えはないのだがここに来て何も覚えていないことがわかったらしい

奇跡的に本をもって魔界に来たら、それは赤い本
黒い本でなくてはダメだったらしい

らしいらしいばっかだけど何も知らないから仕方がない

男「頭がパンクしそうだ」

さて寝ようかな
……と思ったらまた話し声が聞こえる

「わかることは説明した」

「あなた教えるの下手だけど理解できたんですかね?」

「なんだと?」

「貴様が買い物なんかに行くから私がやるはめになったのだ!」

「じゃあ今晩ごはんなくてもよかったんですか!」

「……」

「まぁいいです、私が明日説明しますから」

「ふんっ」

「そういえばご飯は食べたんですかね?」

「食べたと言っていた」

「ならいいですね」

食べてないよ
お腹すいたよ
嘘つくなよ

ちょっと拗ねながら布団をかぶり、就寝

誤字は気にしないで下さい

また明日

かなり手が込んでて面白いよ

気になる

翌日、何かの気配を感じて目が覚めた
横を見ると……

昨日見た子より穏やかな雰囲気の少女がいた

ショートヘアーに明るい金髪
片目が青
片目が赤のオッドアイ

「起きました?」

ニコッと笑うその口元には1つだけ、鋭い歯……牙? が吸血鬼のように生えていた

よく似合ってはいるが……

「お久しぶりです、男さん」

男「え?」

「あ、記憶ないんでしたね」

男「は、はい……」

確かに記憶がないと言う記憶がない

「一通り説明しますが、その前に何か質問ありますか?」

説明の前に質問とはよくわからないがとりあえず目の前のこの子の事を質問

男「あの……その歯は……」

「歯?」

は? と言われた気がしてちょっと落ち込む

「あぁ、私、血筋が原因で天界から追放されたハーフなんですよ」

男「はい?」

「バンパイアの母と、大天使の父の娘です」

男「うぇ?」

訳がわからないのでこの質問をやめ、説明を聞くことにした

はよおくれ

「まずあなたは人間です」

男「化け物ではないですからね」

「だけどなぜ私達があなたを知っているか、そこから説明します」

「あなたは科学者でした」

男「え?」

「魔法や術式といった非科学的なことを研究する科学者でした」

男「はぁ……」

高校の科学や化学は万年1だったが……
赤点補習辛かったな
天才も苦手はあるものだ、うん

「今から……1000年くらい前ですかね」

「転生と転送の方法を見つけました」

男「俺が?」

「あなたが」

何を言ってるんだ
1000年も生きられるはずない

「でも人間が1000年も生きられるのは不可能な話です」

「そこであなたが見つけただした転生を使ったのです」

「転生をして、研究……転生をして、研究」

「その繰り返しです」

男「といことは1000年前から会ってたんですか?」

男「でも俺は地求人でここは魔界で……あれ?」

「幾度かの転生をしたあと、あなたは転送を見つけました」

男「同時に見つけだしたわけじゃないんですか?」

「そうですね、恐らく200年後くらいじゃないですか?」

男「へぇ……」

「あなたは転送を使い、ここへ来ました」

男「え?」

男「宇宙空間を移動したってことですか?」

「あれ? ここ一応地球ですよ」

男「はい?」

「魔界と地球は別って言いましたっけ?」

確かに言ってないが……えぇ……

「地球の裏側……というか中というか……」

男「水面下?」

「そう! それです!」

「ここは地球の水面下です!」

男「おぉ……」

「あなたは転送を使って、水面下の魔界に来ました」

なるほど
それならなぜマダム邸に本があったのか頷ける

「そこで初めてあったのがあの似非悪魔です」

男「どちら?」

「え? 昨日話してたじゃないですか」

男「え?」

……え?

「あの子曲がりなりにも悪魔ですよ? 忘れちゃったんですか?」

忘れるもなにも知らんがな

「あっ……そうか、記憶が……」

「じゃあ私のことも知りませんよね」

「私は天界から追放された天使です」

あれま

男「あれま」

ちょっと書き込み遅れてますがちゃんと明日再開します

また明日

あれま

そろそろプリーズ!

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