伊奈帆「姉の腕」2 (69)

伊奈帆「姉の腕」の続き
伊奈帆 ユキ エロ 近親 書きためなし 



「よお、界塚准尉」

「はい」

彼の声に、朝食の最中だったユキは立ちあがった。隣で食事していた伊奈帆も視線だけをその人物に向ける。
彼――毬戸大尉は相変わらずだらしなくネクタイを緩めて、気だるそうな顔で続けた。

「座って構わんから。今晩、連合本部の奴らと懇親会があるんだが、時間空いてるか?」

「え、そうなんですか? 聞いてませんよ」

「バカ、声がでけえ」

毬戸はユキの口を手で覆った。

「上の連中は知らねえよ。息抜きがてらどうだ」

懇親会。伊奈帆は口の中で呟く。
つまり、口実をつけての飲酒。

「こんな時に何を言って」

「分かってねえな。こんな時だからだよ。21時に迎えにいくから、部屋にいろよ」

小声で言って、彼はそそくさとその場を去って行った。

「もお、勝手なんだから」

彼の少し寄れたシャツを伊奈帆は見つめていた。




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「界塚さん、どう? 呑めてる?」

お酒臭い息がユキの顔に吹きかかった。
連合本部の人間は揃いも揃ってお酒に弱い人間が多いのか、開始から30分も経ってないうちに、そこらかしこで寝始める始末だった。

「え、ええ」

かく言うユキもそこまで強い方ではない。
たぶん赤くなっているであろう頬を隠すように、話しかけてきた本部の人間とグラスを交わす。

「それは良かった。俺たちも、実は久しぶりでね。酔いの周りも早いのはそのせいさ。まあ、付き合いも仕事のうちだよ。女性の軍人で、そういうのも分かってくれてるんなら喜ばしい限りさ」

そう言って、彼は強引にユキの隣に座りこんで、体を密着させる。

「ど、どうも」

必要以上にユキの身体に触れつつ、机の上の瓶を開けて、ユキのグラスに注ぎ足した。
こちらが眉根を寄せるのも構わずに、彼はまた『乾杯』の音頭をとった。

(……こういう時って、どうすればいいの……)

それから撮みをとる仕草をしながら、わざとらしくこちらの胸に肘を当ててきた。
向い側に座る毬戸大尉に助けを求める。
彼は、本部の人間としっかりと抱き合って、嗚咽を漏らしていた。
全くこちらの様子に気付く気配もない。

(払いのけた方がいいのかしら……いや、でも心象を悪くするわけにも……。相手は酔っ払いだし)

場に慣れていないユキは、対応が分からずなされるがままだ。
相手はこちらが抵抗しないのをいいことに、先ほどよりもぐいぐいと肘を押し付けてくる。

「あ、あの私もお注ぎしますね」

ユキはとっさに机のボトルを掴み、距離をとった。
感触が消え、ほっと息をつく。

「すまないね」

彼は上機嫌でグラスを差し出した。
もし、自分が好意を寄せている等と勘違いされていたら嫌だな、とユキは思う。
そんなことはおくびにも出さず、清楚な笑顔を顔に貼り付けた。

そして、内心で毬戸大尉に思い切り毒づいていた。

「ユキさんは、弟さんがいるんだって?」

呼称がいきなり変わって、ユキはワンテンポ遅れて返事をする。

「は、はい」

「大変だろう、学生さん? 怖がってはいないかい? もし、俺にできることがあれば言ってくれ」

相変わらず、身体を押し付けてくるので、ユキは口の端を少し歪めた。

「そ、そうですね。でも、しっかり者なので……」

彼女はそこで、この間の夜のことを思い出して、鼓動が一瞬早くなった。
やや下を向いて、

「私の方が、その、世話を焼いてもらってます……あはは」

「へえ、頼もしい限りだね。今度、俺にも紹介してくれよ」

少なくともあなたよりはかなり頼りになる、とユキは頭の片隅で思った。

「おい、准尉、何いちゃついてんだこの野郎ッ」

向いの毬戸が漸くこちらの存在に気が付いた。
遅いです、とユキは若干目を細める。

「毬戸大尉、彼女のような素敵な女性に、俺が手を出せるとでも?」

「素敵だあ?」

毬戸がニヤニヤしながら言った。
が、すぐにユキの視線に気が付いて、顎をぽりぽりと掻く。
どうして男はこうもお酒を飲むと野蛮なのか。

ふと、彼女の脳裏に伊奈帆ののっぺりとしたヒラメ顔が過る。
彼は酔うとどんな感じになるのだろうか。
否、自分は何を考えているのだろう。

ダメダメ。未成年、未成年。

「どうしたぁ、准尉?」

呂律の怪しい大尉がこちらを覗き込む。
顔が近い。

「なんでもないですッ」

大尉の酔っ払いはいつものことだった。ただ、これ程緩み切った彼も珍しい。
よほど胸の内に溜まっていたのかもしれない。
彼が、PTSDに悩んでいることは知っていた。
それから、デューカリオンで一時的にマグバレッジ艦長の元に着いていたことも、詳しくは知らないが荒れの原因だったようだ。

艦長が女生というのも珍しい。ハードな役職をああも毅然とこなす、艦長は女性の目から見ても惚れ惚れする。
ユキは先日、そんな彼女からデューカリオンを降りる際に耳打ちされたことを思い出す。

内容は、弟のことだった。あれほど、即戦力になる学生はそうはいないとか。
冷静な判断力には舌を巻いたとか。最初、そんな風に彼を褒めちぎっていたので、姉としてはこそばゆかった。
けれど、艦長は最後にこう付け加えた。

『彼に気を付けなさい』

その忠告に、ユキは内心大きく頷いていた。

(まさか……あんなことするなんて)

男として、姉に興味を持ってしまう。艦長が忠告したかったことは何なのかわからない。
ただし、伊奈帆の中の性を目覚めさせてしまったのは他ならない自分なのだ。

二人だけの環境が良くなかったのかもしれない
ユキはこの先の関係に、漠とした不安を隠しきれないでいた。

「さーて、イチャラブ准尉はお前が送って行けよ」

「毬戸大尉?!」

終始、本部の男性職員に纏わりつかれていたユキは声を上げた。

「ああ、確か君の部屋は……」

毬戸がこちらにウインクする。

(な……違います!)

そう怒鳴り返すことも、酔った頭ではまともにできなかった。
一人でも帰れる所をアピールしようと立ち上がると、足元がふらついて、本部職員に抱きかかえられてしまう。

「あ、す、すいません」

恥ずかしくなって、ユキはよたよたと身体を離す。

「いやいや。送っていくから、安心して」

彼はこちらをチラチラと見ながら

彼はこちらをチラチラと見ながら、ユキの身体を抱え直した。
骨ばった太くて逞しい指に、彼女は肩を震わせる。
身体に触れられると、どうしても、伊奈帆のことを思い出してしまう。

忘れたい記憶だというのに。

「おいおい、セクハラすんじゃねえぞ」

「ひどいなあ」

毬戸大尉は笑いながら、彼の肩を叩いていた。

「准尉もまんざらじゃねえってか?」

毬戸のアホ面に、ビール瓶を埋め込んでやりたくなった。

「い、いえ」

ユキは弱弱しくそれだけを述べる。これ以上、勘違いさせないで欲しい。
いや、でもよく考えたらあの子が自分のことを諦める良いチャンスなのでは。
たぶん、彼は私の部屋にいるはずだ。

ユキはわざとらしく、職員にすがりつく。

「ただ、良ければ肩を支えてもらっても構いませんか?」

「喜んで!」

「あらあら、大胆」

毬戸大尉が言った。頬が紅潮していくのがわかった。思わず下を向く。
慣れないことはするものではない。

「弟離れにはいいんじゃねえの」

「え?」

冗談めかして言った毬戸大尉の言葉に、ユキは顔を上げる。
毬戸はすでに背を向けて身支度を始めていた。
気のせいだろうか。
ユキは、自分の中のわだかまりを見透かされたような、そんな後ろめたさを感じていた。


両親が亡くなってからもう随分経つ。
ヘブンズ・フォールによる天変地異が世界を一変させた。
漸く二人だけの暮らしに落ち着いてきた所だった。

泣き続けていたユキに対して、伊奈帆は何を考えているのかわからなかった。彼なりに哀しみに耐えていたのかもしれない。それとも、幼心に姉を守らなければいけないと、秘かに熱い想いを抱いていたのか。

最初の方は、自分が面倒を見ていた。けれど、物覚えの良い弟はしだいに何もかもをこなすようになって。
自分が軍に入ってからも、互いに忙しいという時も、姉の世話を焼く、そんな子だった。

少し無口で不愛想なりにも心配してくれて。
そんな弟を、自分も守らないといけないと、何度も強く思った。

時折、彼の見せる微々たる喜怒哀楽がたまらなく好きだった。
けれど、それはあくまでも家族の中でのことで。
彼の中に渦巻いている感情を受け入れる器が、ユキにあるわけではなかった。


「ユキさん、部屋の前に誰かいますよ」

その声に、はっとする。

「あれが、弟です」

彼女は意を決して、職員の身体に腕を回した。
思わず眉間に皺が寄った。

まだ、遠すぎて伊奈帆は気づいていない。

「……ユキさん」

「え?」

彼は、伊奈帆が気付く前に、横の通路へ転がるように移動した。
ユキは咄嗟のことで、つんのめる。

「な、なんですか?」

「今夜のこと覚えておいて欲しいんだ」

ユキの動悸が増す。
彼はユキを壁に押し付けて、顎を掴んだ。
その力が思いのほか強くて、彼女は顔を歪めた。
すごく痛い。
押し付けられた背中がぎりりとしなる。

「誰か来たらッ」

抵抗するも、力が上手く入らない。

「大丈夫、この時間はこないさ。それに、あんたも欲しかったんだろ」

言って、彼はユキの頬っぺたをヤモリのように舐めた。
ざらついた舌が気味悪く、背中を這うものがあった

「ひ……ッ」

今にも獣に襲い掛かられるかのような恐怖を感じ、ユキは思わず身を竦めた。

彼は自分のズボンのチャックに手をかけた。
素早く、自分の勃起したいち物を取り出して、ユキの太ももに打ち付ける。
ユキの全身から、血の気が引いていった。

彼の様子から、理性があまり感じられないのは分かっていたのに。

「や、やめてッ」

弟に感じた時以上の恐怖と嫌悪がユキの心をかき乱した。
大声で助けを呼ぶような判断もできず、彼女は壁伝いにそこから逃れようと身をよじる。
職員が空いた手で、力強く胸を揉んだ。
ただただ、不快だった。痛みを伴っていた。
目じりに涙がたまる。

「ッ……いぁ」

下半身に手がかけられる。両脚がガタガタと震えだした。

「唇、震えてるよ? 初めてかい?」

彼はまるで、自分が紳士的な振る舞いをしているかのように頬を擦る。
これが、普通の男女の営みなのか。
彼の顔が近づいてくる。

「やッ……!?」

バンッ――!

一瞬、壁が振動した。
まるで、壁に鉛玉をぶつけような音に、職員も慌てて周囲を見回した。
それから、廊下にやけに響く甲高い足音。

「だ、誰か来ますッ」

ユキはチャンスとばかりに彼の腕を掻い潜る。

「ユキさんッ」

彼は急いでチャックを引き上げて、彼女の腕を掴もうと腕を伸ばした。
カツン――、足音が止んだ。
それは、ちょうど彼らのすぐ目の前で。

「ユキ姉、そろそろ鎮痛剤飲んだ方がいいよ」

伊奈帆が真顔でそう告げた。

いつの間に、そこにいたのか。
職員の顔はありありとそう書かれている。
ユキも驚いていたが、すぐに伊奈帆の背中に回り、彼の両肩を掴んだ。

「ご、ごめんねなお君。遅いから心配してくれたんだよね」

「まあ、それもあるけれど」

職員とややこしい悶着を起こすのも後々面倒だ。
ユキは気転を利かせつつ、言葉を慎重に選んだ。

「申し訳ありません、せっかく送っていただいたのに。酔いが回ってしまっていたみたいです」

「あ、いえ」

彼も興が冷めたのか、短く言葉を返した。

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ」

「弟が失礼しました。それでは、おやすみなさい」

ユキは深く一礼する。
伊奈帆が直立不動だったため、彼の頭も遅れて下げさせた。
そして、内心かなり胸を撫で下ろしてその場を後にした。

「はあー……」

部屋に戻ると、急に左腕が痛みだした。

「あいったたた」

「お酒を飲んだせいじゃない」

ベッドに寄りかかりユキは安堵の息を漏らす。
いつもの弟の軽口が平和だ。

「って、ちょっとなお君!?」

そして、気が付いて室内を見回すと昼間と打って変わって部屋はすっかり片付いていた。

「ああ、洗濯もしておいたけど」

「おいたけど、じゃないわよッ」

「いつも、家でやっているから、つい」

「ついって」

「ごめん、見てられなくて」

「仕事場ですら、弟に面倒見られてる姉の立場にもなってよぉ……ううッ」

「ごめん、それより、今日は飲む? 塗る?」

先ほどまでの緊張感が嘘のようだった。
ユキは伊奈帆の傍にいることがこんなにも安心するとは思ってもみなかった。
なにより、彼の体に触れることが全く嫌ではないのには自分でも驚いていた。

「塗るッ、飲んでられるかっての!」

「何を言っているの?」

伊奈帆が多少困惑顔を見せる。酔っ払いを見る目。
弟のそんな顔は珍しいのでユキは少し満足した。
安心したら、さっきまでのことが俄然腹立たしく思えてきた。

「飲んでたから混ざると怖いし……」

「じゃあ、アーマチュア外して、腕出して」

「うん……ねえ」

「なに?」

「助けてくれてありがとう」

「……いいよ。大丈夫?」

彼は薬瓶の蓋をきゅぽんと空けた。そして、指で一すくいする。
その顔はいつもの彼のものだったけれど、彼なりに優しい眼差しでユキはちょっとだけ泣けてしまった。


服を脱いで、下着だけになろうかという所で、ユキははたと固まった。
また、この間のようなことになるのではないだろうか。
昔友人に、無防備過ぎる、と言われたのを思い出した。

はたと伊奈帆を見ると、興味なさそうにしていた。

(え……拍子抜け)

「どうしたの?」

「あ、いや」

それとも演技なのだろうか。
ユキはこの間、完全に主導権を握られていたことを思い出して、気を引き締め直す。
あんなに迫ってきたのだ。

彼女は肌を極力見せないように制服で隠しながら、腕を突き出した。
伊奈帆は人差し指でむらのないように引き伸ばしていく。
この間のようないやらしさはどこにもない。

(なんだぁ……って)

これではまるで、自分が期待していたみたいではないか。
ユキは首を振った。

「できたよ」

「ありがと、なお君」

「速乾性だから、服はもう着て大丈夫」

「え、うん」

ユキは残念に思う自分を心底殴ってやりたいと思った。
何を考えているのだろう。
弟に何を求めている。

「あ、すごーいッ……痛みが引いてく」

「良かった」

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