春紀「暗殺者だけど喧嘩を売られたからみんなで買うことにした」 (341)


悪魔のリドル、ギャグ。
細かいところは気にしないでもらえると助かる。


春紀「暗殺に失敗して帰ってきたら厄介なことになってた」
春紀「暗殺に成功して帰ってきたのに厄介なことになってた」
春紀「暗殺はせずに大人しく生活してたのに面倒なことに巻き込まれた」
春紀「暗殺の依頼が舞い込んできたけど正直それどころじゃない」
春紀「暗殺者だらけで家の中がすごいことになってきた」

の続き。のんびりやる。

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あたしの名前は寒河江春紀。昔、ミョウジョウ学園というところの生徒だった。
と言っても数ヶ月前の話なんだけど。

とにかくあたしは学園内の仕事に失敗して退学になった。
そこでクラスメートとして関わった連中がいる。
きっともう二度と会うことはないだろうと思っていた。
あたしの前に退学になった二人、武智と神長を見送るときだってそう思っていた。

はずなのに。

「兎角さんが来るってのは予想外だったね」
「私だってこんな汚い家に来ることになるとは思ってもいなかったさ」
「よしわかった、お前ら出てけ」
「なんで!?今のはあたし悪くないじゃん!?」

あたしと会話をしているのは一番に学園を退学になった変態女と、
あたしの暗殺を阻止して退学にまで追い込んだ張本人だったりする。


春紀「兎角サンよー、なんでこんな汚い家に来る必要があるワケ?」

乙哉「ほらぁー、春紀さん怒ってるよー。この人結構根に持つからねー。兎角さんも気を付けた方がいいよ、ホント」

春紀「お前は黙ってろ!!」

兎角「そうか……お前らは、何も知らされていないんだな」

春紀「……どういうことだ?」

乙哉「何が?……え、ちょっと待って。あたしも聞きたいことがあるんだけど」

兎角「お前の聞きたいことと、私が言っていることはおそらく同じことだろう。イチから説明するのも面倒だから質問に答えてやる」

乙哉「なんでそんな偉そうなの?」

春紀「気持ちはわかるけど今すべきはそんな質問じゃないだろ!」

乙哉「だってあの人ー……」

兎角「目の前にいるのにあたかも”聞こえないように話をしてます”って体で指を差されるのは気分が悪いぞ」

春紀「でも半分は自業自得だかんな」


乙哉「じゃあ質問するけど」

兎角「あぁ、こい」

乙哉「なんでいつもカレーばかり食べてたの?」

春紀「真面目にやれっつってんだろインド人ぶつけんぞ」

兎角「美味しいし、栄養的観点から見ても完璧だからだ!」

春紀「アンタも律儀に答えなくていいんだよ!!」

乙哉「しかもなんで若干嬉しそうなの」


兎角「全く、武智だと埒があかないな」

春紀「あたしもそう思ってたところだ。というわけであたしから聞く」

兎角「あぁ」

春紀「そのスカジャンどこで買ったんだ?」

乙哉「真面目にやってよ!!!」

春紀「あたしだって一回くらいやりたいだろ!!」

兎角「しまむらだ」

乙哉「そして安定のファッションセンターだよ」

兎角「あ、真似するなよ?」

春紀「お金もらっても着たくないから安心しろ」

兎角「え……これ、変か……?」

春紀「不安になってんじゃねーよ、自信持てよ」


兎角「もういい、あまり得意ではないが、私が説明する」

春紀「……悪かったよ。教えてくれ、お前はどうしてここにいる」

兎角「……」

春紀「質問の意味はわかるな?」

兎角「あぁ。私がここにいる理由、それは……黒組のゲームが終了したからだ」

春乙「……!」

兎角「驚くことでもないだろう。いつかの黒組はたった数日で終わってしまったようだし」

春紀「晴ちゃんは、無事なのか?」

乙哉「勝者は誰なの!?あたしはもう晴っち殺せないの!?」

春紀「心配するポイントがキチガイじみてる」

兎角「ホントブレないな、こいつ」


兎角「安心しろ。一ノ瀬は生きている」

春紀「そうなのか、よかった」

兎角「お前だって一度は殺そうとしたくせに、よく言う」

春紀「悪かったな」

乙哉「でも晴っちが生きてるってことは……」

兎角「あぁ、ゲームの勝者は私達だ」

春紀「そうなるよな」

兎角「ここからが本題だ」

乙哉「兎角さんがここに来た理由ってこと?」

兎角「そうだ」

春紀「どうせあたしん家の近所に美味いカレー屋を見つけたとかそんなんだろ」

兎角「お前は私をなんだと思っている」

乙哉「ポンコツカレー」

兎角「お前には聞いてない。あとそれ傷付くからやめろ」


乙哉「じゃあなんなの?兎角さんがここに来た理由って」

兎角「……晴が重体で入院してるんだ」

乙哉「え!?」

春紀「だ、大丈夫なのか!?」

兎角「あぁ、手術は成功したからとりあえずは、な」

春紀「そ、そうか……よかったな……」

兎角「あいつの願いは学校を卒業することだったからな。このまま無事に退院できたら、黒組に戻って卒業すると思う」

乙哉「えらいねー。遊んでる春紀さんとは大違いだよ!」

春紀「遊んでねぇよ!仕事してんの!っていうか人殺して回ってるアンタよりマシだろ!」


兎角「で、一ノ瀬が入院している病院というのが、そこの第一病院なんだ」

乙哉「すぐ近くじゃん!」

兎角「あぁ。で、だな……出来れば毎日、側にいてやりたいんだ」

春紀「なるほどな。それでたまたま近くに住んでたあたしの家に厄介になりたいってことか。……いいぜ、泊まってけよ」

兎角「!」

春紀「晴ちゃんの容態も心配だし、兎角サンが一緒にいた方がきっと心強いだろ?」

兎角「……感謝する」

春紀「せめてもの罪滅ぼしだ、気にすんな」

兎角「あと一つ言っておくが、たまたま病院の近くに寒河江の家があったワケではない」

乙哉「え?どゆこと?」

兎角「私が通いやすいように、あえて寒河江の家の近くの病院に入院させた、ということだ」フッ

春紀「やっぱ出てけ」


乙哉「そういえばさー」

兎角「なんだ?」

乙哉「鳰ちゃんは?」

兎角「あいつは腐った海の臭いがするな」

乙哉「今そういうこと聞いてなかったじゃん」

春紀「流れでわかれよ」


乙哉「無事なの?って話だよー」

兎角「あぁ、そういう……いいや、あいつも入院してる」

乙哉「わちゃー……鳰ちゃん、やられちゃったんだ……」

春紀「生きてるのか」

乙哉「え?なんで?」

春紀「伊介様が言ってたんだ。アンタは人を殺せなかったけど殺せるようになったって。そう言われたってさ」

乙哉「そうなの?」

兎角「あぁ、言ったな。犬飼との戦いの最中、私は自分の中の封印に打ち勝ったんだ」

春紀「でも鳰の奴は殺さなかったのか」

兎角「まぁ。そうだが」

乙哉「粋がってる中学生みたいだね」

兎角「おい」

春紀「『出来るけどやらない(キリッ』って小物臭パないな」

兎角「やめろ」

乙哉「しかもその後もやってないからね」

兎角「やめてください!!!」


春紀「しっかし、鳰のやつも入院とは……あいつがそんな怪我するって想像つかないな」

乙哉「ねー。いつも飄々としてるから、なんか変な感じ」

兎角「飄々とということに関しては、武智も人のことを言えないと思うが」

乙哉「えー、そっかなぁ?じゃあ春紀さんも!ねー?」

春紀「あたしは別にそういうキャラじゃないだろ」

兎角「そうだ、寒河江は貧乏で大変なんだからそんな余裕醸し出せるワケないだろ」

春紀「今日あたし達の夕飯はカレーにするけど、お前だけハヤシライスな」


乙哉「どんな感じだったの?最終決戦」

兎角「別にどうということはない。私の格好をした走りと勝負をして私が勝った。それだけだ」

乙哉「えちょっと待って待って、兎角さんの格好をした鳰ちゃん?」

春紀「コスプレか?」

兎角「違うけど私になりすましてだな」

乙哉「そんなカンタンに成り済ませるものなの?」

春紀「成り済まし詐欺ということか……?」

乙哉「それだ!つまりオレオレ詐欺!」

兎角「お前らがバカだということだけはよくわかった」


春紀「でもその話だと、晴ちゃんは無傷じゃんか」

乙哉「そうだよ、晴っちはどこで怪我しちゃったの?」

兎角「………………………………………オレオレ詐欺を真に受けて振り込みに行くところを車に撥ねられたんだ」

春紀「うわ!!こいつさっきバカにした設定使ってお茶を濁したぞ!」

乙哉「あたしらのことはバカって言ったくせに……」

春紀「よっぽどどういう風に怪我させたか言いたくないんだろうな」

乙哉「絶対兎角さんの不注意で怪我させてるよコレ」

兎角「ふ、不注意で晴をそんな危険に晒すものか!私は私の意志で晴を刺したんだ!!」

春紀「なお悪いわ」

乙哉「予想の斜め上をいったね」


乙哉「あんなに晴っちを守ってた兎角さんが……?」

春紀「さぁ……?」

兎角「私はその……」

春紀「?」

兎角「端的に言うと、好きだから殺そうとした」

乙哉「あっれー?兎角さんも目覚めちゃった?ウェルカーム♪」

春紀「やっべぇ、居候二人とも思想がおかしい」


兎角「誤解するな!私は、それまでの日々の証明のため、晴を刺したんだ」

乙哉「えー、よくわかんないよ。ちゃんと説明して?」

兎角「つまりだな、私は私で……いや、えーと、一ノ瀬が理事長の遠い親戚で……これだとわかりにくいか……
女王蜂は……いや、こいつらバカそうだから女王蜂とか言ってもピンとこないだろうし……」

春紀「独り言であたしらをディスるのやめろ」

兎角「ま、とにかく、一ノ瀬と走りはあそこに入院してる」

乙哉「ねぇ説明するの嫌になって投げたでしょ」

ちょっと外す


兎角「今日もこれからお見舞いに行くところなんだ」

春紀「そうか。そりゃご苦労様」

乙哉「ねぇ!あたし達も行こうよ!」

春紀「えー?でも手ぶらで行く訳にいかないだろ?」

乙哉「適当に花でも買ってけばいいよ」

兎角「待て待て。寒河江はとにかく、武智は来るな」

乙哉「えーー!なんで!?」

兎角「お前、まだ一ノ瀬のこと殺したがってるだろ」

乙哉「そりゃそうだけど」

春紀「さらっと怖いこと言うなよ」

兎角「だからだ。お前をあの病室に入れるわけにはいかない」

乙哉「えー、晴っちと久々にお話がしたいなー」チョキチョキ

兎角「せめて鋏しまって言えよ」

春紀「十万歩くらい譲って鋏持っててもいいから、せめてチョキチョキはすんなよ」


乙哉「春紀さんのお守りがあればいいでしょ?ね?」

兎角「うーん……」

春紀「どっちにしろ、今はダメだ」

乙哉「えー!なんで!」

春紀「冬香達が帰って来てないからな。家を空ける訳にはいかない」

乙哉「あー、そっか」

兎角「冬香達……?冬香とは?」

乙哉「あぁ、えっとね、春紀さんの妹だよ。料理ができて可愛くて気が利くいい子なんだよー」

兎角「ほう、一ノ瀬のようだな」

春紀「今度不自然なノロケに移行したら首根っこ引っ掴んで放り出すからな」ニコッ


乙哉「こないだ親戚の人にお呼ばれされたってみんなで家を出て行ったみたいんだけど……まだ帰ってこなくて」

兎角「みたい、とは?」

乙哉「あたし達は別の依頼で家を出てるときだったんだよ。ただ置き手紙がしてあったからわかったの」

兎角「それ、本当に家族のものなのか?」

春紀「あぁ、それは間違いない。で、その後に叔父さんの家に電話したら冬香が出たから問題ない筈だ」

兎角「なるほど。じゃあ何の不安要素もないな。叔父さんとやらの家を満喫しているんだろ」

春紀「だといいけどな」

兎角「……寒河江、心配し過ぎだろ」

春紀「あぁ、わかってる、ただ……二日前くらいから冬香と話してないから、ちょっと気になってるだけだ」

兎角「出ないのか?」

乙哉「ううん、出るよ。でも、絶対に冬香ちゃんには替わってもらえないの」

兎角「なるほど……寒河江」

春紀「ん?」

兎角「私がその親戚の家に電話をかけていいか?」

春紀「はぁ?」


兎角「これは私の学校で支給されたものなんだが……」

乙哉「なにこれ?」

兎角「この機械を通して喋ると、声が変えられるんだ」

春紀「コナンみたいだな」

兎角「まぁ同じようなものだ。ただし、それよりも少し高性能だぞ」

乙哉「どういうこと?」

兎角「二人には黙っていたが、今の会話で二人の声のサンプルを取らせてもらった」

春紀「?」

兎角「まぁみてろ」

兎角『あー、私は寒河江春紀だ』

春乙「!!!」

兎角「どうだ?」

乙哉「すごいよ!春紀さんそのものだったよ!」


春紀「あたし、こんな声なのか?」

乙哉「うん!あ、でもちょっと口調が違ったかな。もっと似せる努力して!」

兎角「ふむ、確かに親戚に気付かれたら厄介だからな。わかった」

兎角『でゅふwwwwww伊介たまのwwwwwwwwwwおバストwwwwwwwwwwwwwww』

春紀「よぉーし、表出ろカレーポンコツ」

乙哉「ねぇ今のマイク通さないで言ってみて」

春紀「無茶言うなよ」

兎角「はぁ……?でゅふwwwwww伊介たまのwwwwwwwwwwおバストwwwwwwwwwwwwwww……これでいいのか?」

春紀「やってくれるのかよ」


乙哉「頂きましたー」ピッ

兎角「は……?」

乙哉「今の録音したから。晴っちがこれ聞いたらなんて思うかなー」アハハハ

兎角「か、返せ……!!」バッ

乙哉「返せ?これはあたしのケータイだけど?」サッ

兎角「何が目的だ……!!」

乙哉「だってさー、兎角さんが電話して何か異常があったら?解決するのに手伝ってくれる?」

兎角「まさか、私は一ノ瀬のお見舞いに行く。そのために居候させてもらうんだ」

乙哉「って言うじゃん?だ・か・ら♥」

兎角「まさか、脅しているのか……?」

乙哉「乗りかかった船じゃん。何か異常があったら手伝ってよ。ね?」

兎角「うっ……」

春紀「武智、有り難いけど怖ぇよアンタ」

乙哉「えー、春紀さんのために頑張ったのにー」


春紀「ま、きっと何も無いさ。あたしが考え過ぎてるだけだ」

乙哉「んー。それが一番いいんだけどね」

春紀「なんだよ」

乙哉「あたしも、なんか変な胸騒ぎがして。気のせいだといいんだけど」

春紀「でも、あたしのフリして電話かけて、なんて聞くつもりだ?」

兎角「カンタンだ。お前の妹が何処にいるのかを突き止めるんだ」

春紀「だからどうやってだよ」

兎角「番号を教えろ」

春紀「……そこのメモ帳に書いてる番号がそうだよ」

兎角「わかった」

ピポパ……

外す。今日中に戻ってこれるかはわからない

戻った。今度は眠くなるまで書く。


叔父「はい、もしもし」

兎角『もしもし?春紀だ。いま大丈夫?』

叔父「お、おー……も、もちろんだぞ!どうした?」

兎角『冬香なんだけど……』

叔父「冬香ちゃんは、その、いま買い出しに行ってるんだ!!残念だがしばらく戻ってこないよ」

兎角『買い出し……?』

叔父「あ、あぁ!そうだ!」

兎角『たった今うちに帰ってきたんだけどなー』

叔父「なっ……!!それは本当か!?!?」

兎角『あぁ。でも、どうした?って聞いても何も話してくれないんだ。だから叔父さんに電話かけたんだけど』

叔父「あぁ……よかったぁ………そうだったのか………俺はてっきり……」

兎角『てっきり?』

叔父「事件に巻き込まれたかと……」

春紀「……!!?」

兎角&乙哉「……」

春紀「兎角、替わってくれ」

兎角「あぁ」スッ


春紀「おいおい、どーゆーこったよ、叔父さん」

叔父「へ……?」

春紀「冬香が帰ってきたってのは嘘だ」

叔父「!?」

春紀「冬香に電話を替わろうとしないおじさんが不自然だったからさ」

叔父「……」

春紀「悪いけど、嘘をつかせてもらった。いつも良くしてくれてるのに、ごめんな」

叔父「………いや、俺の方こそすまなかった。ただ、まだ確定ではなかったから……その、余計な心配はかけたくなかったんだ」

春紀「悪気があったワケじゃないのはわかってる。あたしが知りたいのは、何があったか。それだけさ」

叔父「実は……二日目の朝から冬香の姿が見えないんだ」

春紀「……!!」


叔父「朝、起きてこないから起こしに行ったらもぬけの殻だった」

春紀「……失踪届けは?」

叔父「ちょうどこれから届けに行くところだったんだ、もちろん春紀に連絡してからな。遅くなって悪かった」

春紀「そうか……」

叔父「しかし、まともに捜査してもらえるかはわからない」

春紀「いや、きっと大してされないだろうさ。そーゆーモンだ」

叔父「……俺の責任だ。いなくなる時に気付いてやれれば」

春紀「いいや、そんなことはない。あたしもすぐそっち行く。夕方には着くと思う」

叔父「そうか……わかった」

ガチャン


春紀「話は聞いてたな?」

乙哉「うん。あたしも行くよ」

兎角「頑張れ」

乙哉「ふぅん」ピッ

【でゅふwwwwww伊介たまのwwwwwwwwwwおバストwwwwwwwwwwwwwww】

兎角「何をしている!!一刻も早く出発するぞ!!」

春紀「効果テキメンだな」


prrrrrrrrrr♪

春紀「?はいもしもし?叔父さんか?」

「よく聞け。お前の妹は預かった」

春紀「!?」

「聞こえなかったか?お前の妹は預かった」

春紀「てめぇ……!!何者だ!」

「かつて貴様に仲間を始末されたもの、とでも言っておこう」

春紀「……なんだと」

「お前がアニキを殺しちまったせいでこっちは仕事がやりづらくなってんだよタコ」

春紀「知るか!そんなことより冬香は無事なのか!?」

「あぁ、無事だぜ。まだな」

冬香「お姉ちゃん!!たすk」

春紀「冬香!?冬香!!!」

「おーっとこっからさきは有料だ」

春紀「ちっ!!」


「わかるだろ?俺らがこいつをさらった意味」

春紀「………身代金を要求するのか?あたしに?」

「まさか。金じゃねんだよ」

春紀「……つまり?」

「お前の身柄とこの可愛い可愛い妹ちゃんは交換だ。お前には俺ら組織の得意先の玩具になってもらうぜ」

春紀「下衆野郎……!」

「なんとでも言え。場所は第三ホテル。そこに今日の夕方5時。丸腰でお前一人で来い。来なかった場合は……言わなくてもわかんだろ」

春紀「第三ホテル……?まぁいい、わかった。それまで冬香には手を出すなよ」

「ぎゃははは、多分な」

プッ…ツー……ツー……

春紀「くそぉ!!!」ガシャン!!


春紀「どうしてこんなことに……」

乙哉「横で聞いてて事情はなんとなくわかったよ」

春紀「武智……」

乙哉「でもなんで犯人はこんなことを?」

春紀「あいつらの言葉をそのまま使うと『お前がアニキを殺しちまったせいでこっちは仕事がやりづらくなってんだよタコ』だとさ」

乙哉「酷い……!!」

春紀「あぁ……そんなことで関係のない、冬香を……」

乙哉「春紀さんはタコっていうよりもイカっぽい感じなのに……!!」

春紀「どこに憤ってんだよ」


兎角「で、どうするつもりだ?」

春紀「……アンタ、逆探知してたろ」

兎角「ほう、気付くとは」

春紀「気付くっての。上手くいったか?」

兎角「あぁ」

春紀「地図で言うとどの辺だ?」

兎角「この辺だな」

春紀「はぁ……?何かの間違いじゃないか……?」


乙哉「そこ、森の中じゃん」

兎角「……いや、だけど」

春紀「森の中じゃん」

兎角「森の中だな」

乙哉「いま三人で森の中って言ったから、これって森三中になる……?♥」ドキドキ

春紀「ならねぇよ」

兎角「なんでドキドキしてるんだ」

春紀「武智、アンタ思いついたことすぐ口にするの禁止な」


兎角「しかし逆探知は正確だ。この場所に間違いはないだろう」

春紀「まぁいい。警察に届けられると厄介だ。叔父さんに先に連絡しておこう」

乙哉「それがいいね。あたしらみんな事情持ちだし」

兎角「お前が一番ヤバいけどな」

乙哉「そんな褒めないでー♥」

兎角「すごいな。シリアルキラーって耳までおかしいんだな」

乙哉「ピザみたいな言い方しないでよ」


prrrrr♪

春紀「もしもし、叔父さんか?」

叔父「あぁ。どうしたんだ?手短かに頼む」

春紀「もしかして今から警察行くところか?」

叔父「そうだ」

春紀「それ、もうちょっと待っててくれ」

叔父「何言ってんだ!一刻も早く」

春紀「それはわかってるんだけど!冬香の居場所がわかったかもしれないんだ」

叔父「本当か!?どこだ!?」

春紀「……昨日冬香と遊んだって言ってる子がいて、その子に詳しく事情を聞くつもりだ」

叔父「そうか……!じゃあ警察にいくのはもう少し様子見てからの方がいいな。詳しくわかったら教えてくれ」

春紀「あぁ、もちろんだ。どちらにしても連絡するよ」

叔父「それじゃ」

春紀「あ、ちょっと待ってくれ」


叔父「どうした?」

春紀「叔父さん、昔この辺りに住んでたんだろ?第三ホテルって知ってるか?」

叔父「……!!」

春紀「もしもし?」

叔父「お、おう、もしもし」

春紀「どうしたんだよ?」

叔父「いや、まさか春紀の口からそのホテルの名前を聞くとは思わなくてな」

春紀「なんでだ?」

叔父「第三ホテルは随分前になくなったよ。経営難だったらしいなぁ」

春紀「………!?」


叔父「まぁ俺から言わせりゃ立地が悪かったな」

春紀「立地って、どこなんだ?」

叔父「森だよ。西の方にあるだろ?あの中にぽつんと建ってたんだ。景気のいい時期は隠れ家的だなんて、それなりに流行ってたみたいだけどな」

春紀「……」

叔父「で、なんでこんな話を?」

春紀「いや、なんでもないんだ。ちなみに潰れたのっていつなんだ?」

叔父「もうかれこれ20年以上前だと思うぞ」

春紀「……そうか。わかった。それじゃ、冬香の友達の話聞いたらまた連絡するよ」

叔父「おう、よろしくなー」

ガチャン


春紀「……」

兎角「大丈夫か?潰れたとか聞こえたが……」

春紀「今回の件、想像以上に厄介なことになるかもしれないな」

乙哉「あ、はい。もりそば一つとざるそば一つ。あ!春紀さんは?ざるそばでいい!?」

春紀「なんで真面目な話してんのに蕎麦頼んでんだよ!!ざるでいいよ!」

兎角「ちゃっかり頼んでるじゃないか」

春紀「まぁ、腹は減ったしな。こういうときは武智のおごりだから食っとくに限る」

乙哉「はぁーい♪お願いしまーす♪」ピッ


春紀「そばが届くまでにいま叔父さんから聞いたことを二人に話そうと思う」

乙哉「うんうん。何かわかった?」

春紀「実はな」

ピンポーン

「ちわーっす、出前っすー」

春紀「早ぇよ」


5分後


春紀「にしてもなんで蕎麦を頼んだんだ?」ズゾゾ

乙哉「食べたかったからだよ。あとはカレー以外のものを食べてる兎角さんが見たかったから」

兎角「カレーには及ばないがこれも悪くないな」

乙哉「よく言うよー。さっき注文聞いたらカレーって言ったくせに」モグモグ

春紀「こいつ頭おかしいだろ」

兎角「知らなかったんだ、蕎麦屋にカレーがないなんて」

春紀「あたしこんなヤツに負けて退学になったんだな、つらい」


乙哉「っていうか冬香ちゃんの話、聞かせてよ」

春紀「あぁ。さっきの逆探知の情報に何も間違いはなかった。どうやら逆探知の場所そのものが第三ホテルのようだ」

兎角「なるほど……つまりそいつらは寒河江がやってくるのを時間まで待っているだけの状態なのか」

春紀「でもあのホテルはもう20年以上前に潰れてしまっているらしい」

乙哉「えぇー?でも電話はそこからだったんでしょ?」

兎角「おそらく、寒河江の妹をさらった組織のアジトか何かになっているんだろう」

乙哉「フツー電話まで引く?逆探知できるってことはそういうことだよね?」

兎角「多分、普通は引かない」

春紀「なぁんか抜けてんだよなぁ……この組織……」


春紀「これ食ったら行ってくる」

乙哉「分かった、じゃあすぐ出ようね」

春紀「は?」

乙哉「え?」

兎角「……」ズルズル

春紀「ついてこなくていいぞ」

乙哉「何言ってんの?だって、敵の本拠地にこれから向かうんでしょ?」

春紀「あぁ。でもこれはあたしの自業自得だからな」

兎角「いごーいおうおあ(自業自得とは?)」モグモグ

春紀「アンタは無理に話に参加しなくていいから蕎麦食ってろよ」


乙哉「で?なんであたし達のこと置いてこうとしてるの?」

春紀「昔、あたしが一人でした仕事が原因だからだ」

乙哉「でも」

春紀「他の誰も巻き込みたくないし、冬香は必ず守る。必ずだ」

乙哉「……」

春紀「あぁ、居候の心配してんのか?それは冬香が戻れば大丈夫だろ」

兎角「帰ってこないつもりか」

春紀「……さぁな」

乙哉「なんていうか、春紀さんらしくないよね」

春紀「アンタにあたしの何がわかるってんだ」

兎角「髪の色とか」

春紀「 黙 っ て ろ 」


春紀「とにかく。それじゃな」ガラガラ

ピシャンッ

乙哉「あっ。春紀さん!!」

兎角「……」ズルズル

乙哉「行っちゃった……」

兎角「どうするつもりだ?」

乙哉「まぁ、邪魔するよね」

兎角「そうか、頑張れ」ズルズル

乙哉「またあれ聞かせてあげよっか?」

兎角「……遠慮する。行けばいいんだろ、行けば」ズルズル

乙哉「っていうかさっきから気になってたんだけど、兎角さんあたしの分も食べてるよね」





春紀(くそっ……あたしのせいだ、あたしが……!)

春紀(でも、それ以外にあたしが家族にしてやれることなんてなかった……)

春紀「冬香、待っててくれ。姉ちゃんがいま行くからな」

「何マジな顔で歩いてんのよ」

春紀「!?」

伊介「ビビってんじゃねーっての♥」

春紀「伊介様!!」

伊介「なにー?伊介がせっかく遊びに行ってやろうと思ってたのに。ここで偶然会わなかったらすれ違いになってたってこと?ムカつくー」

春紀「会えたんだからいいだろ?」

伊介「ま、それもそうね」

春紀「このタイミングで会えて良かったよ」

伊介「?」


春紀「あたし、これから行くところがあるんだ」

伊介「ふぅん?」

春紀「もしかしたら、戻ってこれないかもしれない」

伊介「ちょ、ちょっと!それどういうことよ」

春紀「冬香が……さらわれたんだ」

伊介「……!」

春紀「あたしが前に仕事で消した男の組織の連中が……」

伊介「なるほどね。アンタ、迂闊すぎ」

春紀「…だな」


伊介「暗殺者が家族のこと知られてんじゃねーっての」

春紀「……伊介様の言うとおりだ」

伊介「ま、アンタに非がないのもわかるけどね。大方、その時の仕事の依頼人がミスったか裏切ったかしたんでしょ」

春紀「あぁ、そうだろうな」

伊介「でー?アンタはどうすんの?」

春紀「組織は、あたしの身柄と引き換えに冬香を自由にするって言ってる」

伊介「なるほど。くっだらない逆恨みね。殺される方が悪いってのに」

春紀「……だから、もう」

伊介「ほら、行くわよ」グイッ

春紀「は?」


伊介「これからその組織のとこ行くんでしょ?」

春紀「そうだけど……」

伊介「じゃあ伊介も一緒に行く」

春紀「でも」

伊介「でもじゃないわよ。あんた悔しくないの?」

春紀「悔しいに決まってんだろ!」

伊介「じゃあやり返さないと」

春紀「そんなこと言ったって……相手は組織だ。あたしの力じゃ太刀打ちできない。伊介様が加勢してくれたって」

伊介「ばぁーーーーーーっかじゃないの?」

春紀「なんだよ」

伊介「考えてもみなさいよ。本当にアンタ一人が行けばそれで収まると思ってるの?」

春紀「どういうことだよ」

伊介「どうせ冬香ちゃんも殺されるわよ。っていうか家族皆殺しでしょ」

春紀「なっ…!」



伊介「伊介が組織の人間ならそうするわ」

春紀「……」

伊介「だったら潰すしか無いでしょ。その組織」

春紀「だけど、その組織を潰せたとしてもまた別の組織が」

伊介「負の連鎖から簡単に抜けられると思ってんの?伊介達がいる世界っていうのはそういうところでしょ」

春紀「……だな」

伊介「舐められたら終わりよ。だから絶対に屈しちゃ駄目」

春紀「伊介様の言うとおりだ」

伊介「わかったら行くわよ。あの変態は?家に居るの?」

春紀「名前出されてないけど誰のこと言ってるのかわかるのが嫌だな」


伊介「あいつも連れてけば?銃弾の盾くらいにはなるでしょ♥」

春紀「いいんだ。あいつらは置いてきた」

伊介「あいつ、ら?」

春紀「あっ」

伊介「ちょっと。他にも誰かいるの?答えなさいよ」

春紀「えっと、その…」

伊介「言いにくいならヒント。ほら早く」

春紀「ポンコツカレー」

伊介「あいつか……!!」

春紀「さっきと同じこと言いそうになった」


伊介「だったら尚更呼びなさいよ。戦力になるわ」

春紀「……わかったよ、武智のケータイにかけてみる」ピッ

prrrrrr……

春紀「駄目だ、話し中で出ない」

伊介「…話し中?」

春紀「あぁ。多分そうだ」

伊介「あの二人は事情知ってるの?」

春紀「?あぁ。二人といるときに冬香は預かったって連絡がきたからな」

伊介「なるほど、じゃあいいわ。とりあえず向かいましょ」スタスタ

春紀「あ、あぁ……」


乙哉「うんうん、そうなんだよー。だからよろしく。それじゃねー」ピッ

兎角「どうだった?」

乙哉「オッケーだってさ」

兎角「ほう。なんだかんだ協力的なんだな、あいつら」

乙哉「それはどうかなー」

兎角「でも現に」

乙哉「みんな恩があるんだよ、春紀さんには」

兎角「そういうものか」

乙哉「そっ。あたしも、ね」

兎角「まぁ、この場合人数はいた方がいいからな、助かるな」ズゾゾ

乙哉「ねぇいつまで食べてるの?」


兎角「もう少しで食べ終わる」

乙哉「いや……うん……」

兎角「容器はどうしたらいいんだ?」

乙哉「洗って玄関に置いとけばいいよ。取りに来てくれるってさ」

兎角「なるほど。便利だな」

乙哉「あ、そうそう。出発する前に着替えてね」

兎角「?何故だ」

乙哉「そんなチンピラみたいな服絶対目立つから……ね……?」

兎角「むぅ…」

乙哉「黒組の時に着てた服は?無いの?」

兎角「あるぞ。というか色々急だったからな。アレしかない」

乙哉「じゃあそれに着替えよう!?ね!?」

兎角「……やっぱり変なのか?この格好」シュン…

乙哉「いきなりシュンとしないでよ」


ガラガラ……ピシャッ!

乙哉「準備おっけー?」

兎角「鍵かけたのか?」

乙哉「かけたよ。春紀さん、下駄箱の上に置きっぱなしだったから。慌ててたんだろうね」

兎角「なるほど」

乙哉「まさか二回も兎角さんと共闘することになるとは思ってなかったよ」

兎角「二回……?あぁ、そういえば英とやりあったときに……」

乙哉「そうそう」

兎角「気付いたらお前、いなくなってたんだよな」

乙哉「黙って」

限界。寝る。明日は夜に来る。昼間も来れたら来る。
おやすみ。



ザッザッ……

伊介「なんでこんな森の中にホテルなんて建てたのかしらね」

春紀「あたしが地図で見た感じだともう少しだ」

伊介「道はボロいけどちゃんと舗装されてる。この先に建物があるっていうのも頷けるわ」

春紀「だろ?木で見にくいけど、もう結構近いハズなんだ」

伊介「じゃあ警戒しないとね」

春紀「だな。警備装置に引っかかったらマヌケだもんな」

伊介「基本は一応わかってんのね」

春紀「まぁね」ガサガサ

伊介「あれって……!」

春紀「見えたな。思ったよりデカい」


伊介「さっきは半分脅しで言ったつもりだったんだけど……随分と厄介ね」

春紀「どうした?」

伊介「あそこ、分かりにくいけど、土の中にセンサーが埋められてるわ」

春紀「……マジだ。通ったらサイレンが鳴る仕掛けか」

伊介「でしょーよ。ちょっと周り込んでみましょ」

春紀「だな。それにしても、第一段階でこれか」

ザッザッ……

伊介「おそらく中には防犯カメラもあるわね……」

春紀「侵入者を知らせる仕組みが他にもあるみたいだ」チラッ

伊介「何よ?」


春紀「入り口、見にくいけどライトがついてるだろ」

伊介「誰もあんな正面切って入っていかないわよ」

春紀「そりゃそうなんだけど」

伊介「それにあそこにライトがついてるのは別に不自然じゃないでしょ」

春紀「あれ、多分センサーライトだぜ」

伊介「……!」

春紀「前に武智とアキバに行った時に同じ形のものを見かけたよ」

伊介「………………………へぇ、あいつとアキバデートしたんだ」ギロッ

春紀「いや、ちが……今のは完全にやぶ蛇だったな」サッ


伊介「ま、デートについてはあとで追求するとして」

春紀「何もないって!」

伊介「あれがセンサーライトだったとしたら……確かに正面から侵入はしないけど、でも……」

春紀「他の入り口にも何かしらの工夫がされてると考えるのが自然だな」

ザッザッ……

伊介「ねぇ、さっきからホテルの周り歩いてるじゃない?」

春紀「おう」

伊介「センサーが敷地を取り囲むようにぐるっと設置されているようね」

春紀「あたしもそれ思った」

伊介「見張りの人間がいない分、ガチね。ここの装置。見張りが居たほうが楽だったのに」

春紀「つまり、このセンサーは跨ぐしかないのか……いや、飛び越えた方が安全か?」

伊介「着地場所に落とし穴があるかもしれないじゃない」

春紀「その発想はなかった」


伊介「でも、現実的に考えてこのセンサーに引っかからないように進むしかないわね」

春紀「だよな……今ちょうど裏口辺りだよな?」

伊介「じゃない?従業員用の出入口でしょ?あそこ」

春紀「まずは防犯装置に気を付けつつ、慎重に進むしかない、か」

伊介「じゃ、伊介お先にー♥」スッ

春紀「気をつけろよー?」

伊介「アンタと違って、伊介がヘマするワケないでしょ」

ザッザッザッ・・・

春紀「まぁ、伊介様は場慣れしてそうだけどさ」

伊介「そーゆーこと。アンタこそ」

春紀「伊介様!ストップ!」ガシッ!

グイッ!

伊介「!?」


春紀「っぶなー……あそこ、木の上からセンサーきてる」

伊介「!!!」

春紀「ごめん、無理矢理引っ張っちゃって。腕、痛くないか?」

伊介「わ、わかってたし!センサー!そこにあるの!知ってたし!あ、あと馴れ馴れしく触ってんじゃないわよ!」バッ!

春紀「ミスったことが恥ずかしいのかあたしに抱き寄せられたのが恥ずかしいのかどっちかにしてくれ」

伊介「っさいわね!!どっちもよ!!死ね!!!」

春紀「死!?」


春紀「こうもセンサーが多いとな……思うように進めないな……」

伊介「進めないどころか、ちょっとずつ正面に移動してるわよ」

春紀「分かってるけど、あそこを突破するのは無理だからな……戻るのも大変だし」

伊介「これがゲームだったら覚えゲーって割り切って何回もゲームオーバーになるのに」

春紀「縁起でもないこと言うのやめてくれ」

「っおーい!春紀さーん!伊介さーん!♪」タッタッタッ

伊介「武智さん!?」

春紀「って、おいぃぃ!!お前ら何センサー無視して進んできてんだ!!」

兎角「ふっ、問題ない……センサーは私の貫禄に怖じ気づく」ドヤッ

春紀「うわ…………やべぇ………こいつすげぇバカだ……………」

乙哉「兎角さんがくだらないこと言うから春紀さん怖じ気づいちゃったじゃん」


伊介「ったく何やってんのよバカ二人!!アンタらのせいでセンサーが」

乙哉「大丈夫だよ」

春紀「だからぁ、センサーは貫禄()になんか怖じ気づかないんだよ……」

乙哉「それは兎角さんが勝手に言ったことでしょ?あたしはちゃんと根拠があって言ってるもん」

兎角「そういう扱いやめろ。今更すごい恥ずかしくなってきただろ」


春紀「で?なんだ?根拠って」

乙哉「ここのセンサー切れてるよ」

春紀「………はぁ??」

乙哉「正確に言うと、ついさっき切れた、かな」

伊介「どういうこと?」

乙哉「みんな春紀さんに行って欲しくないんだよ」

春紀「……誰かが、やってくれたのか?」

乙哉「そ。PCで管理してる装置については全部ダミーモードになってるから」

春紀「すごいな……見ず知らずの人だけど、お礼言わないとな……」

乙哉「しえなちゃん泣くよ」


伊介「これやったの、あの地味眼鏡なの?」

兎角「私も知らなかったが、どうやらそういう特技があったらしい」

春紀「へぇー。なんで黒組にいたときに発揮しなかったんだろうな」

乙哉「そんな本当のこと言ったらかわいそうだよ??やめよ???」

兎角「お前もな」

また夜に来る
それじゃ

戻った


ホテル内


伊介「従業員出入り口とはいえ……さすがに広いわね」

兎角「荷物の搬入等もあるだろうからな。っと、早速カメラか」

乙哉「そこのカメラは大丈夫だね、進もう」

春紀「なんでわかるんだ?」

乙哉「しえなちゃんが言ってたんだ。ほら、カメラにランプがついてるでしょ?」

春紀「あぁ、赤いやつか」

乙哉「乗っ取りが成功したものについてはあのランプを点滅させておくって言ってたんだ」

伊介「言われてみれば、点滅してるわね」

兎角「点滅なんかさせて不自然に思われないか心配だったが、思いのほか気付かないものだな」

乙哉「よーし、どんどん進もー」スタスタ

「ん?あっちに人影無かったか?」
「マジか、一応見ておくか」

乙哉「!!?」ピュン!!

兎角&春紀&伊介「…………」ジトー

乙哉「ごめんってば」


兎角「全く、仕方がないな。犬飼」

伊介「分かってるっての。指図すんな?」

兎角「私に負けたくせに」

伊介「また試そうか?」

兎角「今度は殺すかもな」

伊介「やってみろよ」

春紀「結局まだ処女のくせに」

兎角「う、うるさい!!」

乙哉「チェリーボーイ、ふぁいとー♪」

兎角「無限回赦さない」


春紀「んじゃ、あたし達は隠れとくか」サッ

乙哉「だね」

カツカツカツ……

男A「誰かそこにいるのか?」

男B「っつか、CとDだろ?またサボってやがるんだ。ったくよー、俺らも混ぜろよな」

伊介「いいわよぉ、混ざっても」バキィッ!

男B「へぶっ!!!」

男A「な、なんだ!?まさかあの人質の知り合いか……!?くそっ、ボスに連絡d」

兎角「そうはさせない」シュッ!!

男A「ぐぁああ……!!」

兎角「しばらく眠ってろ」ブォン!!

ガァアアァァッン!!

男AB「……」チーン

伊介「いっちょあがり」

兎角「想像していた以上に弱いな」

乙哉「すごい……!」

春紀「あぁ、さすがだな」

乙哉「兎角さんって、本当に戦えたんだ……!」

春紀「そこかよ」


兎角「いいか。お前のときは、その、私もまだ本調子じゃなかったんだ」

乙哉「そうなの?」

兎角「そうだ。だからあの時のことは忘れろ」

春紀「なんだ?何があったんだ?」

乙哉「何があったっていうか、何もなかったっていうか……」

兎角「やめろ!!」

伊介「何もなかったってどういうこと?」

乙哉「あたし晴っちに倒されたんだよね」

春紀「えぇ!?そうだったのか!?」

兎角「ストォーップ、ストップですよぉー」

春紀「何キャラだよ」


伊介「でもま、ふざけてる場合じゃないかも」サッ

春紀「だな。……ったく、次から次へと。あれはあたしがやってくるよ。あんたらはこの角で待ってろ」タッ

タッタッ……

乙哉「ちょっと覗いちゃおーっと」

伊介「伊介も春紀の勇姿見るー♥」

兎角「お前ら……」

シュッ…!!バキィ……!!

伊介「やっるぅ♥」

乙哉「ホントだぁ♥」

兎角「…………」


春紀「よし、オッケーだ。……って、オイ。覗いてたのか」

乙哉「あたし春紀さんが紐使うの楽しみにしてたのに」

春紀「わかったわかった。使ってやるよ」

乙哉「ホント?!やったぁー」

春紀「ほら、首出せ?」ニコッ

乙哉「って、やめてよ!!」


伊介「それにしても……想像してた通り、結構な人数いるわね」

兎角「だな。しかしまだ一階だ」

乙哉「あたしがここのボスだったら、やっぱりスイートルームでふんぞり返ってるかなー?」

春紀「へぇ、意外だ」

乙哉「何が?」

春紀「アンタの場合、ふんぞり返ってるんじゃなくて、可愛い子を切り刻んでるって言いそうだったから」

乙哉「んー。可愛い子切り刻むのに綺麗過ぎる場所や、あまりにも高級そうな場所って、なんかイマイチなんだよね。特別視し過ぎてるっていうか、もっと日常の中で手にかけたいっていうか」

春紀「語るなよ変態」


伊介「とりあえず最上階を目指すってことでいいわね?」

春紀「あぁ、それが一番可能性高いだろ」

兎角「しかしどうする。数を減らすのはワケないが、気絶させた奴が起きたら連絡がいくはずだ」

伊介「そうね、どちらにしてもとっとと進んじゃわないと」

乙哉「全員殺しちゃえばいいじゃん。あたしは自分の鋏を汚すのヤだけど」

伊介「簡単に言うけど、こんだけの人数殺すって大変なんだからね」

乙哉「そうなの?あたしはここにいるのがみーんな綺麗なお姉さんだったらヨユーだよ?♥あはっ、チョー絶倫じゃん♪」

兎角「人殺しといて絶倫ってヤバいな」

伊介「……」ソソッ

春紀「あまりの異常性に伊介様があたしの後ろに隠れたわ」


兎角「確実なのは階段だ。しかし、手っ取り早いのはエレベーター。どうする?私は階段を推すが」

伊介「伊介は断然エレベーター。歩くのダルーい」

兎角「お前今までよく生き延びてこれたな」

乙哉「あたしもエレベーターがいいなー。早く終わらせて帰ろうよー」

春紀「……じゃあ、あたしと兎角サンは階段で行く。伊介様と武智はエレベーターで行け」

兎角「……二手に分かれる作戦か。確かに、悪くない」

伊介「ちょっ、なんで伊介がこいつと二人で」

乙哉「よろしくねー」ギュー

伊介「ちょっ、触ってんじゃないわよ!」

春紀「武智、ちょっといいか」ガシッ

乙哉「なになに?」

春紀「……伊介様に手ぇ出したらマジで殺すからな」ボソッ

乙哉「こっわぁ……」


春紀「それじゃ。最上階で待ってる」

乙哉「おっけー♪」

伊介「待ってるのは伊介達でしょーが♥」

兎角「さぁ、どうだろうな」

伊介「どういうことよ」

兎角「エレベーターでは一気に最上階まで行けないように細工をされている可能性も無くはない」

伊介「……一理あるわ」

乙哉「でもそれまではあたし達はエレベーターなんだし、ヨユーだよ」

春紀「はっ、言ってろ」

兎角「足手まといにだけはなるなよ」

春紀「アンタこそ、カレーの匂いにつられて寄り道したりすんなよ?」

兎角「それは約束できない」

春紀「しろや」


ダッダッダッ……

春紀「これ、何階まであるのか確認したか?」

兎角「あぁ。地上15階、地下3階だった」

春紀「なるほど、一気にダッシュは流石にキツいか」

兎角「そうなのか?別に休んでも構わないが」

春紀「……」

兎角「どうした?」

春紀「いや、スペックだけで見たら優れたアサシンなのに、なんで黒組にいるときはポンコツにしか見えなかったんだろうなって思って」

兎角「褒められてるのか貶されてるのか、判断が難しいところだな」


5階


春紀「っと、気配がするな」

兎角「あぁ、臭う」

春紀「一人……か……?」

兎角「いいや、気配は二つ。私とお前で一人ずつ、どうだ」

春紀「ヨユーだ」

兎角「………来るぞ!」

男D「なんだぁ!?」

男E「あぁ!?」

春紀「っらぁ!!」ガンッ!!

兎角「……」ガスッ!!

男DE「………」チーン

春紀「よし。行くか」

兎角「あぁ」


9階



兎角「さっきの戦いを見ていて思ったんだが」

春紀「なんだ?」

兎角「いや、手合わせした頃から薄々気付いていたんだが……その」

春紀「どうした?」

兎角「お前はなかなかいい反応をする」

春紀「……それ褒めてんの?」

兎角「別に、ただの事実だ」

春紀「ふぅん……」


兎角「それだけに勿体ない」

春紀「どういうことだよ」

兎角「もかしたらもう心に決めているかもしれないが、あえて言わせてもらう」

春紀「なんだ」

兎角「これが終わったらこの世界から足を洗え」

春紀「……」

兎角「それが寒河江のためだ」

春紀「やっぱアンタもそう思うか。実はな、あたしもそう思ってたんだ」

兎角「ちょっと待て!」

春紀「!?また敵か……!」

兎角「違う、いま一瞬カレーの匂いがしたんだ」

春紀「鼻の奥にカレーつまってんじゃねーの」


兎角「やっぱり辞めようと思ってたんだな」

春紀「あぁ。もう二度とこんな危険に家族を晒したくないんだ」

兎角「家族を守る為に暗殺を始めて、そのせいで家族を人質に取られるって……まるでコメディだな」

春紀「言っていいことと悪いことがあるだろーよ!」


兎角「でも、寒河江がそう決めているのならよかった」

春紀「あぁ。だけど、冬香を取り戻すまでは暗殺者だ。必要ならあたしは殺る」

兎角「……なら、一つ言っておく」

春紀「なんだ?」

兎角「私と戦ったときもそうだが、無意識に手加減してるぞ。お前」

春紀「えー……それと似たような話を聞いたことがあるんだけどなぁー……なんだっけ?呪いで?急所を避けて攻撃しちゃう的な?」

兎角「殺すぞ」


兎角「私のとお前のとじゃ、少し違う」

春紀「そりゃそうだ。あたし別に急所外さねーし」

兎角「寒河江の場合は、力加減してるというか、全ての攻撃からは殺意を感じないんだ」

春紀「それはないと思うけど……少なくとも自覚はないな」

兎角「致命傷になる一打を与えるときにスイッチを切り替えて、覚悟してから手を出しているというか……」

春紀「……」

兎角「本当は殺したくないというのが伝わってくるんだ、その一瞬から」

春紀「そうか……わかったようなわからないような」

兎角「まぁ、でも、そうなんだ」

春紀「アンタ、ホントに説明下手だな。よく人に誤解されんだろ」

兎角「?さぁ。それを確かめたことがないからわからないし、私は晴が居ればそれでいい」

春紀「今なら力加減無しで全力で殴れる気がする」

兎角「やめろ」


12階


伊介「ホントに最上階まで行けないとか超ムカつくー」

乙哉「そーだよ、5階分も階段ってちょっとキツいよねー」

伊介「やっと半分くらい?」

乙哉「まだ12階だよぉ」

伊介「はぁ……でも、ま、春紀の家族の為だしね」

乙哉「そうそう。冬香ちゃんにはあたしもお世話になったしね」

伊介「伊介だって……ちょっとは、ね」

乙哉「美味しかったよね。冬香ちゃんのご飯」

伊介「そうね」

乙哉「……帰ったら、またなんか作ってもらおうね」

伊介「アンタ大丈夫?それフラグになってない?」

乙哉「そんなの鋏でチョキンだからへーき」


伊介「階段、なくなったわね。他のところにあるはず、探しましょ」スタスタ

乙哉「たまにあるよね、こういう面倒くさい建物。火災とか起こったときに大変だと思わない?」

伊介「まぁ随分前のホテルだしね。その辺りがうるさくなる前の建物なんでしょ」

乙哉「はぁー……」

伊介「アンタはこの施設、なんだと思う?」

乙哉「へ?元ホテル、現ソッチ系の組織のアジト、じゃないの?」

伊介「まぁ伊介もそう思ってたし、それも間違いじゃないと思うんだけど……」

乙哉「なになに?」

伊介「あのドアの隙間から見えるの、何だと思う?」

乙哉「……あれは、武器?」


伊介「ここ。もしかして、たくさんあるアジトの内の一つというよりも、本部なんじゃない?」

乙哉「えー……?でも武器があるだけで?いや、確かにすごい量だけど」

伊介「隣の部屋も武器庫として使われてるっぽいわね」

乙哉「わぁー♪武器だらけだぁ」

伊介「アンタ、この組織のこと何か知らないの?」

乙哉「えー?知ってるわけないじゃん。あたしは関わりないもん」

伊介「春紀はなんか言ってなかった?」

乙哉「んー?あー。そういえば、春紀さんがアニキって人を殺したせいで商売がしにくくなったって言ってたらしいよ。このタコ!って」

伊介「商売……なるほど、つまりこの組織は武器販売に特化した組織なのかもね」

乙哉「ねぇタコって酷くない?春紀さんってどっちかっていうとイカじゃない?」

伊介「わかる、タコって失礼ね」

乙哉「だよね!!伊介さんもやっぱそう思うよね!!」

伊介「冗談に決まってんでしょーが。春紀はタコでもイカでもないっつの」スパンッ

乙哉「あいたっ」


伊介「武器商人、ね」ガチャ

乙哉「なんか思い当たることあるの?」

伊介「別にー?最近ママがそんな話してたなーと思っただけ。アンタは?拝借してかなくていいワケ?」ゴソゴソ

乙哉「あたしは鋏があればいいよー」

伊介「ヨユーぶっこいてると痛い目みるわよ」

乙哉「でもー」

伊介「ほら、一丁くらい持っておきなさい」スッ

乙哉「……一丁って、銃のこと?」

伊介「へ?そうだけど」

乙哉「へー。銃も”チョウ”って数えるんだ」

伊介「?」

乙哉「わかった。持っとくね」ニコッ

伊介「よくわかんないけど、それが懸命よ。何かあってからじゃ遅いし」


乙哉「それにしても扉開けっ放しってどう思う?」バタンッ

伊介「伊介もそれが気になってたのよ。あと少しでスイートルームに着くってのに、全然気配もないし」

乙哉「まぁ普通に考えれば、何か非常事態があったんだろうなって思うよね」

伊介「……」

乙哉「扉開けっ放しにして飛び出すくらいの何か。たとえば……侵入者とか♥」

伊介「……」

乙哉「さっきから黙ってどうしちゃったの?」

伊介「アンタがまともなこと言うから……」

乙哉「ねぇ、あたしソレ毎回言われてる気がするんだけど」


伊介「そうだとしても妙よね」

乙哉「え?」

伊介「だってそうでしょ?本来なら人質取って数時間後にその取引相手がくる予定があるのよ?」

乙哉「確かにね。先に来て奇襲をかけるなんて想像つくことだし」

伊介「まさか、罠なんてことないでしょうね」

乙哉「それはないと思うよ。しえなちゃんがハッキングしてくれなかったらここまで来れなかったんだし。あのセンサーは全部本当に作動してたってさ」

伊介「だとすると、ボスに知られないように部下が勝手に動いてるって考えるのが自然かしらね」

乙哉「でも勝手にって?どういうシチュエーションだろ」

伊介「そうね、例えば……ボスには時間まで手を出すなって言われてる人質にこっそり乱暴しようとしてて、スケベなこの部屋の見張りが声かけられて飛んでった、とか?♥」

乙哉「……それ、笑えないやつじゃん」

伊介「アンタ変態だからやってる行動は違うけど、同じ方向性のことやってきたって自覚ある???」


乙哉「冬香ちゃん、スイートルームにはいないのかな」

伊介「話逸らしてんじゃないわよ」

乙哉「伊介さんだったらどこに人質隠す?」

伊介「さぁ、どこかしらね。ボスはスイートにいるでしょうけど、人質も一緒かどうかは……案外、地下の一室に閉じ込めて部下に見張りさせてるとか」

乙哉「……そうしたらさっきの伊介さんの”もしもの話”とも辻褄が合うね」

伊介「ま、考えててもしょうがないでしょ。とりあえず進まないと」

乙哉「地下に行った方がいい、のかな」

伊介「……いいけど。伊介はやぁよ?」

乙哉「乙哉もやぁよ?」

伊介「それ伊介の真似だったら殺すから♥」


prrrrr

ピッ

春紀「どうした?」

乙哉『よかったー、出てくれて。いま何階?』

春紀「11階だ」

乙哉『もうそんなに上ってきたの!?あちゃー……』

春紀「へ?なんだ?なんでだ?」

乙哉『伊介さんと話してたんだけど、地下に行った方がいいかもって思って』

春紀「……地下はほとんどが駐車場だろ?」

乙哉『でもさ、相手からしたら憎い奴の妹だよ?一時的にとはいえ、スイートで過ごさせるような真似はしないんじゃない?」

春紀「……確かにな。冬香がボスと一緒にいると思っていたけど、武智の言うことももっともだ」

乙哉『それに、上に来てからあたし達誰とも会ってないんだよね。下の方が警備が厳重なのかも』

春紀「言われてみれば、あたし達も5階で会ったっきり遭遇してないな…」

乙哉『で、問題は誰が行くかって話なんだけど……』

春紀「うーん、せっかくだからこのままペアで移動した方がいくないか?つまりアンタらが」

乙哉『伊介さん、降りるのめんどくさいから嫌だって』

春紀「エレベーターで上がっといて何言ってんだよクソ」


兎角「寒河江。話は大体わかった。それなら私が降りよう」

春紀「い、いいのか?」

兎角「構わない。あと行くのは私一人でいい。足手まといが増えるだけだ」

春紀「……だとさ。聞こえたか?」

伊介『伊介先に降りてるからとっとこいよ暗殺処女』

兎角「ビッチはその辺の男でも漁ってろよ」

春紀「……はぁ。まぁ、そういうことみたいだから。何階にいるんだ?」

乙哉『あたしらは12階だよ!エレベーターは10階までだったからそこからは階段で来たけど」

春紀「なんだ、近いじゃんか。じゃあ伊介様が降りてきてくれれば解決だな……って、東がいねぇ!!」

乙哉『え!?もう行っちゃったの!?』

春紀「みたいだな……伊介様、降りて兎角サンと合流してやってくれ」

乙哉『あはは……実は、あたしの”もう行っちゃったの!?”ってのを聞いた途端、走り出しちゃったんだよねー…』

春紀「はぁー……なるほど、わかったよ。それじゃ、あたしはこれから上がるから待ってろ」ピッ


カンカンカン………!!

春紀「!この足音は、伊介様か?」ヒョコッ

春紀「やっぱそうか、伊介さぶっ!!!!」バキィッ!!

伊介「アンタはちゃんと武智さんと協力しなさいよ?じゃっ」

カンカンカン………

春紀「お、おー……」

春紀「……」

春紀「え、待って。なんであたしすれ違い様にラリアット食らったんだ??」


乙哉「さーてと。あたしはここで春紀さん待ってれば……って、ん?」

サッ…

乙哉「今、人影が……あの部屋だよね?」

乙哉「っていうか今の……女の人だよね?」

乙哉「気のせいかな、どっかで見たことあるような気が……」

乙哉「春紀さん来てからじゃ遅いよね……っていうかそもそもそんなの構ってる暇ないって言われそう」

乙哉「でもさー、他の誰にも連絡させないようにして誰にも見られないように楽しめばいいワケでしょ?」

乙哉「……ごめんね、春紀さん。あたしちょっと行ってくる♪」


12階


春紀「あいつ、どこにいるんだよ……」

春紀「まさか、敵に捕まって……!?」

~~♪

春紀「メールだ」ピッ

『見回りの人が来たらバレないように先行ってるね♪ 乙哉』

春紀「なるほど、そういうことなら仕方ないか……」


伊介「やぁっと追いついたー♥」

兎角「やっと来たか。遅い」

伊介「は?」ピキッ

兎角「来るだろうと思ってペースを落としてたんだ。感謝させてやらないでもない」

伊介「ほぉんとムカつく♥なんならここで決着つけようか?」

兎角「決着はついている。死にたいなら一人で死ね」

伊介「あーん、コイツ無理ー。殺したぁい」

兎角「待て!」

伊介「!?」

兎角「……なんだか異様な臭いがする。来る時もそうだったんだ」

伊介「これでカレーの臭いとか抜かしたらぶっ飛ばすわよ?」

兎角「……ご、ごほん」

伊介「歯ぁ食いしばんなさい♥」


1階


兎角「はぁ……やっと1階に戻ってきたのか」

伊介「最初から気付いてればこんなことにならなかったのに」

兎角「お互い様だろ」

伊介「地下を調べて、異常がなかったらエレベーターであがる。いいわね?」

兎角「お前は楽したかったんだろ?降りてくるときもエレベーター使えば良かっただろ」

伊介「あそこまで煽られて黙ってエレベーター乗るとか無理♥」

兎角「じゃあエレベーターの中で喚き散らせばいい」

伊介「じゃあじゃねーよ。それじゃただのキチガイじゃない」

兎角「いい提案だと思ったんだが」

伊介「でしょうね。そういう顔してたわ」


ガチャ

女「!?」

乙哉「この部屋、おねーさん一人なんだ?」バタンッ

ガチャッ…

女「!」

乙哉「!!?」

女「あ、あんたは……!」

乙哉「は、あははは……すっごぉい…!こんな偶然あるんだね?」

女「ちっ!」

乙哉「おーっと、させないよ」パァン!!

女「!」

乙哉「今どっかに連絡取ろうとしてたでしょー?駄目だよー?」


女「アンタみたいなキチガイにまた会うことになるとはね」

乙哉「あたしだってまたおねーさんに会えるとは思ってなかったよ」

女「やっぱ銃も扱えたんだね。やるじゃない、ケータイを撃ち抜くなんて」

乙哉「あはっ♪でも、あたし銃って好きじゃないんだよねー。ほら、すぐ終わっちゃうでしょ?」

女「……あの日、ヤクザの別荘で会った日も思ったけど、アンタ異常よ」

乙哉「何言ってんの?」

女「わかんないの?アンタみたいな奴は」

乙哉「そんな今更なこと」

女「……!」


乙哉「で?逃げないの?あの時ヤクザさんの家で会った時と同じ目してよ。アレ好きなんだー」

女「……」

乙哉「わかるよ。あたしを喜ばせないようにしてるんでしょ?いじらしいね♥」

女「……」

乙哉「無視しないでよー」ザクッ

女「っくぅ……!!」

乙哉「そういえば、おねーさんなんでこんなところにいるの?」

女「……ったに、は……け、ない……」

乙哉「なんて言ったのか聞こえなかったけど、もしかしてアンタには関係ないって言った?」

女「……だったら、何、よ」

乙哉「えー、フツーに悲しいよー。あたしおねーさんのこと好きなのに」

女「……狂ってる」


乙哉「あのあと聞いたよ。おねーさんって、あたし達と同じ雇われた部外者だったんでしょ?」

女「そう、よ」

乙哉「うっかり口を滑らせたのか、もう会わないと思ったからあえて言ったのかはかわかんないけど、聞いちゃったんだよねー」

女「……?」

乙哉「おねーさん、スパイなんでしょ?」

女「!」

乙哉「ここには何しにきてたの?」グリッ

女「あぁっ……!!」

乙哉「ねぇ、答えてよ。あたしおねーさんのこともっと知りたいんだー♪」

女「っつぅ……」ハァ…ハァ…


乙哉「答えてくれないの?ま、別にいいけど」

女「……?」

乙哉「こっちはこっちで目的があってここに来てるの。その目的に関係ありそうだからこうやって聞いてるだけだから」

女「質問に答えようが答えまいが、私をここで殺すつもりなんでしょ」

乙哉「そ。物わかりのいい人は好きだよ」

女「アンタに好かれてもね」

乙哉「そんな悲しいこと言わないでよ。ほら、一緒に楽しもう?」ジャキッ!!

女「………!!」


春紀「くっそ……武智のヤツ、一体どこまで行ったんだ?」

春紀「それに見つかりそうになったって……人影無いじゃないか」

春紀「…………」

春紀「あいつ、まさか好みの女を見つけたから……それで…………嘘をついた、とか……?」

春紀「いや、いくら武智でもそこまでしないよな………多分」

春紀「まぁいいや。あたしは冬香の無事を信じて進むだけだ」

男F「もうそろそろ持ち場につくぞ」

男G「あぁ」

男H「でも、早過ぎねぇか?もう一章勝負してからでも」

男G「ぎゃはは、てめーは負けたまま終わるのが嫌なだけだろ」

男H「っせぇなー」

春紀(3人、か……ちっ、一旦隠れてやり過ごした方が良さそうだな)ガチャッ

バタンッ

春紀「ふぅ、これで良し」

男「お前は誰だ?」

春紀「!!!!!」


春紀「えーと、あたしは、その…………ちっ」ダッ!

男「!!」

春紀「悪いけど寝ててくれ!」シュッ!

男「ほう、悪くない」サッ

春紀「っらぁ!」ブオン!

男「悪くない、が……まだまだだな」ガシッ!

春紀「!?」

男「アンタ、まさか」

春紀「んだよ!離せ!」

男「暴れるな!すごい馬鹿力だな」グイッ!

春紀「ってぇー……!」

男「確認したいことと言っておきたいことがそれぞれ1つずつある」

春紀「……?」


男「オレはこの組織の人間じゃない」

春紀「は……?」

男「あと、アンタはこの組織のボスが言ってた”アニキを殺した暗殺者”か?」

春紀「…………………そうだ」

男「そういうことなら事情はわかった」

春紀「アンタは誰なんだ」

男「暗殺者は素性を知られるべきではない。基本だろ」

春紀「あー……もう、一日にそんな当たり前のこと何回も言われるとはな……でも」

男「?」

春紀「一つアンタのことがわかった。暗殺者なんだな」

男「……今のはオレが馬鹿だったな」


春紀「いい加減離してくれないか?よくわからんけど、あたしの妹が人質になってることも、それを助けたいことも分かってるんだろ?離してくれ。あたしは行かなくちゃいけない」

男「それはダメだ」

春紀「っはぁ?!なんでだよ!」

男「オレが迷ってるからだ」

春紀「アンタの都合なんて知らねーーーーーーよ!!」

男「おいおい暴れるな。マジですごい力だな、本当に女か?アンタ」

春紀「っるっせぇ!離せ!」

男「慌てるな、組織の連中はまだあの子に何もしてない」

春紀「……………アンタ、冬香に会ったのか!?」


男「あぁ。1時間くらい前に地下で」

春紀「やっぱそっちだったか……」

男「一人で来たのか」

春紀「アンタにそんなこと答える必要はない」

男「オレはあの子のこと教えたのにな」

春紀「………はぁ。あたしは仲間とここに乗り込んだ。地下にも、二人仲間が行ってる」

男「セキュリティはどうした」

春紀「仲間が解除してくれたよ」

男「ほう……すごいな」

春紀「で、冬香はまだ地下にいるのか?」

男「おそらくな。全てが終わったらついでに解放してやろうと思ってたのに」

春紀「は………?アンタ、なんなんだ?」


男「ま、いいか。アンタはこれが終わったら足洗うつもりみたいだし」

春紀「……なんで」

男「わかるさ。そもそも向いてない戦い方をしてる」

春紀「………何者だよ、マジで」

男「まだ取引までは時間がある。オレの話が聞きたいならするけど、どうする?」

春紀「……………聞かせてくれ。あたしもずっと走りっぱなしだったんで疲れた」

男「そうか」

春紀「でも、どういう風の吹き回しだ?自分の素性は教えないんじゃなかったのか?」

男「別に。これといった理由はない。ただなんとなく」

春紀「?」

男「アンタが気に入っただけだ」

春紀「………」

男「警戒するな。そういうつもりじゃない、面白いヤツだと思っただけだ」

春紀「別に」

男「安心しろ、オレはホモだ」

春紀「?!」


男「まぁいいか、そんな話は置いといて。オレがここに来た経緯を話すためには、この組織について話さなければいけないな」

春紀「好きなところから話してくれ。あとこの手、離してくれると有り難いんだがな」

男「おっと。確かに、もう逃げることもないだろうしな」パッ

春紀「……ってぇ」サスサス

男「アンタがここの”アニキ”を殺ったときに聞いたかどうかはわからないが、この組織は武器売買に特化した組織だ」

春紀「そうなのか。知らなかった」

男「それから実の弟である男がこの組織を動かしてきたが、如何せん要領が悪くてな。元は関東の密輸組織のツートップとも言える、それなりにデカい組織だったが、どんどんと傾いていった」

春紀「なるほど。あたしが言われたこととも辻褄が合う」

男「言われたこと?」

春紀「あぁ。あたしのせいで商売上がったりだとさ」

男「商売上がったりなのは自分のせいだと思うがな」

春紀「あたしも、その話を聞いてはっきりとそう感じるな。でもなんでそんな落ち目の組織に暗殺者のアンタが送り込まれるんだ。おかしいだろ、ほっといても潰れるだろうに」

男「いいところに気がついたな」

春紀「?」


男「今のここのボスはやっちゃいけないことに手を出しちまったのさ」

春紀「なんだ?」

男「麻薬の取引だ」

春紀「そういうのって両立できるモンじゃないのか」

男「全ては周りの組織との取り決め次第だ。ここの場合は、客先が被ってる比較的大きな組織な麻薬組織があるから、お互いの商売には手を出さないようにしようという取り決めがあったらしい」

春紀「うわ、ダメじゃん」

男「麻薬組織の販売価格を調べて、それよりも少し安い値段で同等の麻薬を販売する。これがここの連中のやり口だった」

春紀「そりゃ怒りも買うわな…」

男「そうだ。それでその組織に雇われたのがオレ」

春紀「なるほどな」


男「オレはある女と組んでこの組織に潜入した。動きがあったようだったから仕事を開始したところだ」

春紀「動きっていうのは、あたしと冬香のことだよな?」

男「あぁ。元々統率のとれていない組織だったが、それがここ数日、顕著に現れてるな」

春紀「人望ないんだな、ここのボス」

男「だな。それは間違いない」

春紀「あたしがやらなくてもアンタがやる予定だったんだな」

男「……アンタが自分でやりたいならそれでもいい。オレは目標が達成できればそれで。見た目よりずっと腕が立つのはさっきのでわかったしな」

春紀「…………あたしは」


地下



ドガガガガガ

伊介「なんで伊介達が着いた途端、銃撃戦になるのよ!おかしいでしょ!!」

兎角「タイミング的に有り得ない!私達よりも先に誰かと戦闘していたと考えるのが自然だ!」

伊介「誰かって誰よ!!」

兎角「あいつらに決まってるだろ!!・・・・だ!!」

伊介「はぁ!?銃声がうるさくて聞こえないわよ!!」

ドガガガガ

ドゴォーーーン!!

兎角&伊介「?!」

「おめーーーーらさっきから何処狙ってンだよ!!!」

男1「おかしい!さっきから当たってるはずなのに!」

男2「まさか、弾いてるとでも言うのか?!」

「答えが出る前に終わってしまいそうですわね」

伊介「英さん達!?」

兎角「こら!番場!遅いぞ!」

真夜「悪ぃって」ヘヘヘ


真夜「ここはオレらに任せて、東ぁ!!冬香を頼んだゼ!!」

兎角「っ……!!」ダッ!

伊介「仕方ないから伊介も加勢してあげる。で?アンタらこの責任どうやってとるつもりよ?」

英「責任と言いますと?」

伊介「ボスのところに辿り着くまでは秘密裏にやる予定だったでしょーが。こんだけ派手にやり合ったら確実に」

英「それならご心配には及びません」

伊介「へ?」

英「このフロアのセキュリティは剣持さんが全て切ってくれましたし、敵の外部との通信手段も断たせていただきました」

伊介「でも、ケータイとか」

英「えぇ。万全ですわ。使えるのは私達の持っている無線だけ」

伊介「ふ、ふぅん。まぁいいわ。足引っ張ったら殺すから」バキューン!

英「まぁ、怖い♥」ガンッ!ッキィン!!

兎角「冬香はどんな容姿をしているんだ!?お前か!?お前が冬香か!!くっ……!撃たれてるじゃないか!!」

真夜「アホか!!!そんな太った大男が冬香って名前だったら逆に怖ぇよ!!!」

限界。頭が働かない。寝る。

言い忘れてた。明日は深夜に来る。おやすみ。

帰ってきた。大して進まないと思うけど始める。


兎角「冬香の外見的特徴を教えろ!」

真夜「うっ。純恋子!」

英「すみません、真夜さん。私、冬香さんにはお会いしたことがありませんわ……」

真夜「そうだったな……犬飼!パス!」

伊介「なによぅー。そうね、幸薄そうな可愛い子よ。見たら一発でわかるわ。あと春紀にはあんまり似てないわ」

冬香「確かに捕まった私が悪いですけど言い過ぎですよぉ!!」

兎角「っ!!!声が……!こっちか……!!」タッタッタッ

男3「そうはさせっかよぉ!!」バキューン!!

伊介「ヤッバ!?東さん!」


タッ!ゴロゴロ…!!

兎角「ふん、こんなもので私を仕留めたつもりになっているのか?」スクッ

男3「ちぃっ!手元が狂ったか!?外しちまった!」ガチャガチャ

兎角「手元が狂って外した?……私が避けたのだが?」スチャッ

男3「!!」

兎角「舐めるなよ」パァン!パァン!!

男3「ぐあああ!!」

伊介「ちょ、ちょっと、あのポンコツが普通に戦ってるんだけど……」

真夜「だ、大丈夫だ。そろそろバナナの皮でも踏んで転ぶだろ」

兎角「聞こえてるぞ!!!!」


冬香「えと、えっと……」

兎角「東兎角。お前の姉の元クラスメートだ。無事か」

冬香「は、はい…」

兎角「そうか、よかった」

冬香「………もしかして、新しい居候さん?」

兎角「……そうだ。ここへはお前を保護しに、及びに組織を潰しにきた」

冬香「つ、潰しにって………」

兎角「お前がどこまで聞いているのかは知らない。ただ、もう知っているはずだ。お前の姉は普通とは違う世界にいる、と」

冬香「……うん」

兎角「とにかく、保護させてもらう。それが寒河江との約束だ」

英「あっ、そうそう。暇を持て余している方が上に控えていますわ」

伊介「どういうことよ」

真夜「行ったらわかるって。アンタらは先に冬香連れて脱出しな。オレらは残党が上に流れないように掃除すっから」

兎角「………わかった。物陰や背後には十分気をつけるんだぞ」

真夜「はっ。ご忠告ありがとよ」

英「あとで合流しましょう」ニコッ

伊介「じゃっ、行くわよ!」

兎角「あぁ!!」


伊介「結局階段で上ってきちゃったわね」

兎角「あぁ……疲れた……それにしても、駐車場で銃撃戦だなんて……ホント、無茶をする連中だ」

冬香「あ、あの」

伊介「どうしたのよ」

冬香「私!走れます!」

兎角「いい。どうせ遅い。足手まといだ」

冬香「そ、そんなことないですよ!もう縄も解けてるし、どこも怪我してないし……自分で走れます!」

兎角「……わかった。ただ、遅いと思ったらまた担いでくからな」

冬香「はいっ♪」ダッ!

兎角「えっ」

伊介「……あの子、アンタよりも足速いんじゃないの?」

兎角「……」


冬香「走るだけなら足手まといにはならないと思いますけど……ダメですか……?」

兎角「いいや。似てないけど、寒河江の妹なんだもんな……すまない、見くびっていた。似てないけど」

冬香「さっきから似てないって連呼するのやめてもらえます???」

伊介「にしても、番場ちゃんったら、どうしていま夜モードなのかしら」

兎角「戦うときはいつも夜の方だったろう?」

伊介「そりゃそうなんだけど、まだ夕方に差し掛かったくらいじゃない。夜とは言えないわよ」

兎角「戦うときは例外的に真夜の方を呼び出せるんじゃないのか?」

伊介「そういえばそんなこと言ってたような言ってないような……ま、ここ地下の駐車場だしね」

兎角「あぁ。スイッチが入りやすかったのもあるだろうな。問題は地上に出たときもあれで戦えるか、だが」

伊介「あーら、それは問題にならないんじゃないかしら。伊介が活躍するんだもん、あいつらが武器を振るう暇はねーよ♥」


兎角「よし、あとちょっとで従業員出入口だ!冬香、大丈夫か!」

冬香「は、はい!」

伊介「アンタの足が速いのはわかったけど、あんま伊介達を置いていかないでね♥待ち伏せしてるヤツに殺されても知らないわよ?」

冬香「うっ……怖い……」

兎角「……犬飼が右を、私が左の扉を開ける。走ったまま体当たりで突破するぞ、いいな!」

伊介「指図すんな♥でも、りょーかい」

兎角「行くぞ……!!」

伊介「えぇ……!」

ッバァァァァン!!!

兎角「~~~~~~~~!!!!!」ダンダンダンダン!!

伊介「ったぁーーーい!!もう!!!ふざっけんじゃないわよ!!肩おもいっきりぶつけたんですけど!!?何よ!体当たりで開くタイプのドアじゃないじゃない!!」サスサスサス

兎角「お、お前、お前だって同意しただろ!!」ゴロゴロゴロ

冬香「あー……引かないと開かない扉だったんですねー……」ガチャッ


ギイィィィ

冬香「眩しっ……!」

兎角「だな……地下で目が慣れていたせい、か」

伊介「英さん達が言ってた車ってアレでしょ?分かりやすい」

兎角「ほう、オープンカーか」

冬香「ヘッドライトが眩し過ぎて……誰が乗っているか見えませんね……」

伊介「伊介もー。ま、誰でもいいけど」

兎角「そうだな。とりあえず運転手的なものがいると考えればいいだろう」

しえな「お前らホントいつか地獄に落ちるからな!!!」


女「はぁ……はぁ………」

乙哉「えーと、じゃあお姉さん、やっぱり仕事で来てるの?」

女「そうよ。私を殺したらきっと面倒なことになるわよ」

乙哉「……それは、別にいいけど」

女「アンタは何をしにここに来てるの?友達の妹を守りにきてるんでしょ?断言するけど、私に手を出したらアンタらはもちろん、その家族も皆殺しにするから」

乙哉「へぇ?死んでるのに人を殺すの?」

女「私が死んだことによって動く人間がいるってことよ。ガキね」

乙哉「………あっそ」

女「だからもうこんな」

乙哉「あたし、それ関係ない」

女「なっ………………」


乙哉「って、今までなら無視して殺してたのになー。あーもう、今ので完全に萎えちゃった」

女「アンタねぇ……」

乙哉「でもさ、その話の通りだとすると、あたしらって協力したらお互いにラッキーってことじゃない?」

女「アンタはいいわよ、ここはもう私の相方がやるから。大人に任せて子供は帰んなよ」

乙哉「でもそれを決めるのはあたしじゃない」

女「?」

乙哉「おねーさんの言う通り、地下に冬香ちゃんがいるんだとしたら問題ないはず。兎角さんも、伊介さんも向かってるし……」

女「分かってると思うけど、ボスは最上階のスイートルームにいるわよ」

乙哉「んー、やっぱねー。おねーさんは行くの?」

女「私の仕事はもう一人の職業暗殺者を違和感なくこの組織に招き入れることだったから今から帰るところだったのよ」

乙哉「あぁ、そうだったんだ」

女「それをアンタが……!!この間退院したばっかだってのに!いたた……」

乙哉「あちゃー……ごめんね?」

女「小さい子を宥めるような謝り方しないでよ!」


乙哉「だって本当に嬉しかったんだもん。取り逃がしたターゲットと偶然再会するなんて経験なかったしさー」

女「知らないわよ。とにかく金輪際私には関わらないで」

乙哉「じゃあおねーさんが気をつければ?あたしはまたおねーさんを見つけたら殺そうとすると思うよ?」

女「本当に救いようのない変態ね、アンタ」

乙哉「えー酷いよー……ん?」ピッ

しえな『よう』

乙哉「しえなちゃんか。どうしたの?」スタスタ

女「な…?……何よ、電話に集中しなさいよ」

乙哉「しー……」

女「……こっちこないで」

しえな『一つ朗報だ。冬香の保護に成功した』

乙哉「そうなんだ、やったじゃん」チュッ

女「……!?」

乙哉「動かないで」ボソッ

女「……??」


しえな『なんだよ、リアクション薄いな』

乙哉「そう?すごい嬉しいよ。それ、春紀さんには伝えたの?」

しえな『いいや。あいつ無線持ってってないだろ。無線以外は使えないようになっているはずだ』

乙哉「あー……わかった、あたしが伝えるよ」クイクイッ

女「……?」

しえな『いま、地下では番場と英が暴れてる。下からの追っ手はこないはずだ』

乙哉「あはっ。あの二人、間に合ったんだ?」ギュー

女「……キスの次はハグ?なんなのよ、もう」


しえな『あぁ。こっちは逃げるだけだ。犬飼をそっちに戻そうと思ってる』

乙哉「いや、いいよ。実は違うグループの人達と会ってさー、その人達が組織潰す依頼受けてるって言うから」

しえな『そうなのか!?』

乙哉「そうそう。だから、春紀さんに保護できたことを伝えて、英さん達と一緒に建物出ればミッションコンプリートだよ」

しえな『だけど知らないヤツの話は信用できないし』

乙哉「知らない人じゃないよー。前も仕事で会ったおねーさんだよ♥」

女「……っていうか、いつまで抱きついてんのよ」グイッ

しえな『……なんか話し声が聞こえたが?』

乙哉「そう?ごめんねー。でもま、しえなちゃんの言うことも一理あるよね。嘘吐くつもりじゃなくても、作戦失敗しちゃうこともあるかもだし。最後まで見届けるよ」

しえな『あぁ、そうしてくれ。それじゃ犬飼戻すから』

乙哉「あたし達だけでいーよ?なんでそんな伊介さんこっちに戻したがってるの?」

伊介『もしもし!?伊介だけど!』

乙哉「やっほー♪」

伊介『こいつ馬鹿だから2シーターのオープンカーで伊介達のこと迎えに来たのよ!!』

しえな『馬鹿だからって言うことはないだろ!!』

乙哉「2シーターって?」

伊介『運転席と助手席しかない車のことよ!!!』

乙哉「………他人に対して馬鹿過ぎて引くなんて体験、あたしにもあるんだなー……」


伊介『とりあえず、すぐ行くから待ってなさい!伊介と合流したら今度は春紀と合流するわよ!!』

乙哉「りょーかーい。じゃあ12階についたら教えてねー」ピッ

女「……何よ」

乙哉「へ?」

女「無線で喋ってる最中ずっと私のこと触ってたじゃない」

乙哉「んー、したかったから。ダメ?」

女「……私は仕事柄女を相手にしたこともあるからいいけど、普通あんなことされたら驚いて心臓止まるわよ」

乙哉「そうかなぁ」

女「っていうか何の為に……はぁー…………もういいわ、アンタと関わってると命がいくつあっても足りない」

乙哉「んー、かもね。……って、あれ?もう行っちゃうの?」

女「……アンタが私のこと切り刻んだりしなければ、もしかしたら相手してあげてたかもね」チュッ

乙哉「!」

女「それじゃね」ヒラヒラ

乙哉「……ちぇー。ま、別にキョーミ無いからいいけど」


しえな「ったく、あいつは一体何をしてるんだ……」

冬香「乙哉さん、相変わらずだった?」

しえな「あぁ。無線で話しながら女とイチャついてるみたいだった」

兎角「本当に相変わらずだな」

しえな「っていうか、抱きつくって……何やってるんだよ……」

兎角「……そんなことよりも、今はここを離れるのが先決だ」

しえな「…それもそうだな。英達が追っ手を潰してくれてるとはいえ100%じゃない。2シーターの車に3人だからかなり無理することになると思うけど」

兎角「その車を選んだのはお前だろう」

しえな「悪かったよ!!好きなのに乗っていいって言われたから完全に見た目で選んだよ!!」

冬香「なんでオープンカーにしたんですか?やっぱり反撃しやすいように、とか?」

しえな「……………………見た目」ボソッ

兎角「剣持、運転席から降りろ。私が運転する。冬香は助手席、剣持はトランクに移動してくれ」

しえな「テキパキ指示出しながらさり気なくボクのことトランクに追いやるなよ!!!」


春紀「あたしは、ここのボスと会って話すよ」

男「話す?甘いことを言うんだな」

春紀「でもあたしをおびき寄せるために今回の計画を企てたんだろ?じゃあ一度くらい会ってやらないと、な」

男「……はっきり言っておく」

春紀「なんだ?」

男「殺される方が悪いんだ。アンタは何も気に病むことなんてない。それがこの世界のルールだ」

春紀「それでも、さ」

男「……」

春紀「あたし、実はもうウンザリだったんだ。誰かを殺して自分だけ生き延びるの」

男「死ににいくつもりか?」

春紀「まさか。ただ、妹は何があってもあたしが守るけどな」

男「冬香ちゃん、か……よし、わかった。面白そうだ、オレも援護する」

春紀「アンタ、信用できるのか?」

男「ふっ、それは自分で見極めろ」

春紀「……………」



ガチャ、バタン

春紀「あと2階上が最上階、間違いないよな?」スタスタ

男「あぁ。それと一つ言っておく」

春紀「なんだ?」

男「オレを狙おうだなんて考えないことだな」

春紀「……あぁ、分かるよ。あたしじゃアンタには敵わない。一応援護してくれるみたいだしな。強力な味方を減らすつもりはないよ」

男「そうか……さて、この階段だ」

春紀「よし。一気に行くか」ダッ!


伊介「はぁ……はぁ……」

乙哉「もう、伊介さん、遅いー」

伊介「アンタは待ってるだけだからいいかもしれないけど伊介は走ってきたんだからね」

乙哉「あー、そっかぁ」

伊介「そっかぁじゃないっての」

乙哉「……」

伊介「何よ、行くわよ?」スタスタ

乙哉「う、うん」

伊介「……何があったのよ」

乙哉「別に。ただ、なぁーんか気分が乗らなくなっちゃったんだよね」

伊介「なんの話?」

乙哉「さっきまでここにいたお姉さんの話」

伊介「そういえばさっき無線で話してるとき、誰かといた風だったわよね、アンタ」

乙哉「あ。やっぱりわかる?」

伊介「アレで分からなかったら暗殺者失格だっての」


乙哉「色々試してみたんだけどさー、いや、色々試すのなんてとうの昔に試したんだけど、改めてっていうの?」

伊介「色々って?ちょっと話が飛び過ぎてワケ分かんないわよ」

乙哉「フツーのこと」

伊介「……大体わかったわ」

乙哉「あたし変態だからさ」

伊介「そんなの、今更なんじゃないの?」

乙哉「うん、そう」

伊介「?」

乙哉「変な話だけど、あたしが何考えてるのか、あたしにはわかんないんだよね」

伊介「……じゃあ誰にもわからないじゃない。アンタ変だし」

乙哉「えー、酷いー」


伊介「なんで今更、普通のソレで満足できるか確認しようと思ったのよ」

乙哉「え?そんなことしてないよ?」

伊介「アンタ今そう言ってたじゃない!」

乙哉「へ?……あぁ!違う違う、おねーさんに触りながら確認してたのはあたしの気持ちだよ」

伊介「はぁ?」

乙哉「だってさー、いざ切ろうとしたらしえなちゃんの顔が頭を過るんだよ!?これ絶対呪いだって!」

伊介「……それは」

乙哉「最中に顔が思い浮かぶなんて、罪悪感があるか、未練があるか、そんなもんだと思わない?」

伊介「……思ったよりわかってんじゃない、アンタ」

乙哉「いやだからわっかんないんだってばー。確かにたまにしえなちゃんのこと刻みたくなるけど、それだけだし」

伊介「……」

乙哉「未練っていうのはまぁあたしの場合は除外ね。あたし達付き合ったりしてなかったし」

伊介「じゃあ罪悪感じゃないの?」

乙哉「でしょ?やっぱそう思うでしょ?」

伊介「……まぁね?」


乙哉「だからあたしは試したんだよ。しえなちゃんと電話しながら、他の女(ひと)に触ったら、あたしはどう思うかなって」

伊介「………なるほどね」

乙哉「あたしにとっては何の意味もない行為だけど、普通の人はそういうことするワケじゃん?」

伊介「まぁね……で?どうだったわワケ?」

乙哉「ぜーんぜん。なんともない。あたしやっぱしえなちゃんのこと好きなのとは違うのかも」

伊介「いま初めてアイツに同情したわ」

寝る。明日の夜に来る。

帰ってきた


最上階 スイートルーム


ガチャッ、バァン!!

ボス「!?」

春紀「よう。冬香を取り戻しにきたぜ」

ボス「なっ!……お前ら、どうやって!!」

春紀「さぁな」

ボス「……ふ、ふん、よくここまで来たな」

春紀「お陰様で」

ボス「……てめぇが……てめぇがアニキを殺さなければなぁ!!」

春紀「それについては悪かったと思ってるよ」

ボス「じゃあ大人しくてめぇの身柄を拘束させろや!」スチャッ!!

春紀「!!」サッ!

パァン!!パァン!!

春紀「ちっ、やっぱ話し合いなんて無理か」

ボス「何ゴチャゴチャ言ってんだよ!」

春紀「悪かったとは、思ってる。だけど…だからこそ……あたしの手でけりをつけにきたんだ!」シュッ!!


ボス「やれるもんならやってみやがれ。おい、てめぇら!!」

男「おっと。そいつは無粋じゃないか?」パァン!!パァン!!

手下1「ぐはっ!」

手下2「ぬっ……!」

ドサッ

男「雑魚はオレが引き受ける。アンタは自分の戦いに集中しろ!」

春紀「悪いな、おっさん!」

男「なっ……!!恵介だ!」パァン!!

春紀「そっか!恵介さん、恩に着るよ!」グイッ!!

ボス「うぐっ!!」

春紀「確かに、アンタのアニキを殺したのはあたしだ。アンタがあたしを恨むのも無理はない」ギリギリ・・・!!

ボス「っくそ……!」

春紀「だけどな、あたしにも譲れないモンがあるんだよ!」


ガチャ!!

恵介「!」

乙哉「間に合ったー?」

伊介「なんでアンタはそう間が抜けてるのよ!」

乙哉「だぁってー」

恵介「伊介!?」

伊介「ママ!?」

春紀「……はぁ!!?」

ボス「今だ……!」バッ!!

春紀「あ、ちょっ!!」

ボス「っぶねぇー……あとちょっとで絞め殺されるところだったぜ……!」

伊介「ママの今回の仕事場って、ここだったの?」

恵介「なんで伊介がここに?」

春紀「ちょっと待ってくれ……理解が追いつかない……」

乙哉「あたしだって置いてけぼりだよー」

ボス「ねぇ無視しないで」


恵介「ま、細かい話はあとだ」

伊介「そうね。春紀、やっちゃいなさい」

春紀「……あぁ!」

恵介「春紀……?あの子が……ふふ、そうか」

伊介「?」

ボス「てめぇらみんなまとめて地獄送りにしてやるぜ!!」

春紀「はっ!それはどうかn」

ドゴォーーーン!!

グラッ…!!

一同「!!?!?」

ピッ!

乙哉「ちょ、ちょっと!聞こえてる!?乙哉だけど、誰かいま」

『あーーーー……すまん、番場達が暴れてる間に各所に爆弾を仕掛けてたんだが、操作を誤った』

乙哉「謝って」


伊介「どうなってるの!?」

乙哉「神長さんがやらかしたみたい」

恵介「まだ仲間がいるのか?」

伊介「そぉーなの。ドジな爆弾魔とその保護者が、ね」

恵介「ドジな爆弾魔って……無差別なテロリストじゃないか……」

伊介「ホントにね」


春紀「ちっ!これからどうなるんだ!?」

乙哉「聞こえた?どうなるの?」

神長『私にはもう制御しきれない。一刻も早く建物から脱出してくれ!私達もそうする!番場達には私達から伝えておくから!よろしくな!』

乙哉「……だってさ」

春紀「あいつ!!」

ボス「この建物が崩れるなら……てめぇも道連れだ!!」ブオン!!

春紀「!?」

伊介「……!」ダッ!!

ガキィイィィィン!!

ボス「なっ!」

伊介「アンタ、よそ見してる場合じゃないでしょーが」

春紀「わ、悪ぃ……あたし、もしかしなくても守られちゃった、か?」

伊介「いいんじゃないの?……伊介は、強いもの!」ギロッ!

ボス「!!」

伊介「春紀に手ぇ出したら許さないから♥」ガスッ!!

ボス「ぐはっ!」

乙哉「あーあ、こりゃ尻に敷かれる流れになるね」

恵介「まぁ二人が幸せならいいんじゃないか?」

春紀「の、のんきにそんなこと言ってる場合じゃないだろ!///脱出するぞ!」


ボス「まだ……まだだ……!!…させるかよぉ!」バッ

乙哉「するんだよ」パァン!!

春紀「武智!?おま、銃なんてどこで……」

ボス「っがぁぁぁあぁ……!!くそっ、指を撃ち抜きやがった……!!」

乙哉「あたし達は脱出するから。おじさんはそこで寝てなよ」

恵介「……面白い子が多いな、伊介の友達は」

伊介「待って。あれは友達じゃない」

乙哉「珍しくあたしがシリアスに頑張ってたのにこれだもん」


しえな「ヤバい!追手がきた!車を発進させるから捕まってろ!」ブゥゥン!!

兎角「っと!急発進にも程があるだろ!」

しえな「仕方ないだろ!!いいから後ろの連中どうにかしてくれ!」

兎角「ちっ!これからどうするつもりだ!」パァン!!パンパン!!

しえな「とりあえずはこの森の外に手配してもらったワゴンに乗り換える!」

兎角「お前が2シーターなんて乗ってこなければこんな手間掛からなかったんだがな!」パァン!!

しえな「じゃあお前は無骨なワゴン車とこのカッコいいオープンカー並べられてワゴン車を選べるのか!?」

兎角「選べるに決まってるだろ!仕事の内容と参加人数考えろよ!」

キキィィ……!!

冬香「しえなさん!飛ばし過ぎじゃないですか……!?」

しえな「一応舗装されてるとは言え道はかなり悪い、ここからはカーブも増えるし、振り落とされないようにしろよ!?」

兎角「お前がオープンカーに乗ってこなければそんな心配する必要も無かったんだがな」

しえな「本当に悪かったと思っている」


冬香「マズいです!追手も車に乗ってきてます!あっちの方が速いです!」

しえな「なに?!何台だ!?」

冬香「1……いえ!カーブで見にくいですが、2台来てます!」

しえな「向こうの方が速いということは、このまま全速力で運転してもいずれは追いつかれるということか」

兎角「車の乗り換えの時間も考えると、森を抜けるまでに始末しなければいけないだろうな」

しえな「東、お願いできるか?」

兎角「別に、お願いされなくてもやるしか無い。だろう?」

しえな「……頼んだ」

兎角「相手してやるよ、雑魚共」スチャッ…

ダァン!!

兎角「?!」ガチャン!!

しえな「問題ない、ただの段差だ。二人とも大丈夫か?」

兎角「………」

冬香「兎角、さん……?」

兎角「剣持!貴様!いまの衝撃にびっくりして銃を道ばたに落としてしまったじゃないか!」

しえな「それボクが悪いの!?っていうか何やってるんだよ!!」

兎角「ふざけるな!」

しえな「こっちの台詞だよ!!」


冬香「ど、どうするんですか!?」

しえな「とにかくもう少しスピードをあげる!その間に何か策を考えてくれ!」

兎角「わかった。それにしても、なんで森の入口に車を手配できたんだ?」

しえな「この車を用意してくれた英の家の担当と連絡が取れるようになっててさ。出来るだけ近くに車を手配してくれるって」

兎角「なるほど。確かにあいつの家は色々な意味でデカいからな。繋がりがあると万が一でも知れ渡ったら面倒だろうな」

しえな「あぁ、だから森の入口が限界ってことなんだと思う」

冬香「でも、有り難いですね……みんな、私のせいで……」

兎角「冬香のせいじゃない。あいつらが悪さをしたせいだ。気にするな。英家の担当と連絡をとったときなんて言われたんだ?」

しえな「……『冗談でオープンカー用意したのに、まさかそっちに乗ってくとは思ってなかった。すぐに乗り換えて欲しい』って」

兎角「ある意味、ネタにマジレスしたんだな。お前」

しえな「考えれば考える程つらい」


冬香「距離、狭まってきてますよ……!」

兎角「ちっ……!剣持!森の入口まではあとどのくらいだ!」

しえな「おそらくあと500mくらい、すぐだぞ!」

兎角「最後のカーブで急ブレーキを踏め!車を当てるんだ!」

しえな「おいおい!それじゃこっちの車の方が小さいんだから、ダメージ半端ないだろ!」

兎角「安心しろ、私は冬香を抱えて衝突前にこの車から飛び降りる」

しえな「それボク生け贄じゃないか」


冬香「もう武器は無いんですか?」

兎角「あるにはあるが……ナイフが数本だ」

冬香「ベタですけど、タイヤ目掛けてナイフを投げるというのはどうですか?」

兎角「あのほとんど露出してないタイヤに当たると思うか?」

冬香「あっ…………無理ですね……うーん……」

しえな「さっきの作戦で行くしかない、か……」

兎角「じゃあ生け贄になるということか」

しえな「死ぬって決まったワケじゃないから!!」


兎角「あれが最後のカーブか」

しえな「あぁ。カーブが終わってすぐに急ブレーキを踏む」

兎角「まぁ直線でスピードが出ているところで衝突するワケじゃ無いから、多分死にはしないだろ」

しえな「多分って言うなよ……」

兎角「冬香、怖いとは思うが」

冬香「平気、です……!」

兎角「……そうか」フッ

しえな「いくぞ!!」

兎角「!!」バッ!!

キィィィィ……!!バッァァァン!!

ゴロゴロ……

兎角「冬香、平気か!」

冬香「うん!」

兎角「よし、そこに隠れてろ!」


タッタッタッ

男H「……」

兎角「運転手は気絶、か」

男I「てめぇよくも!」

しえな「ひっ」

兎角「剣持!」シュッ!!

スコーン!!

男I「……」ドサッ

しえな「眉間にナイフとは……助かったyって、危ない!東!」

兎角「!?」バッ

男J「ははは油断したなぁ!!」

パァン!!

しえな「東!!?大丈夫か?!」

男J「ぐあああああ!!」ドサッ!!ゴロゴロ

兎角「足を撃たれてる……!?」

冬香「すみません、勝手な真似して」

兎角「……!!お前、剣持より強いんじゃないか!?」

しえな「やめて」


兎角「この銃はどこから?」

冬香「運転手のおじさんのです……兎角さんに何か武器を探さないとと思って、それで……危ないと思ったから、咄嗟に……」

兎角「よくやった。しかし危険だ、もう下がってろ。あと、こいつは死んでないから平気だ。正当防衛だ」パァン!!

男J「ぐわっ……!!」パタッ……

しえな「さて、後続の車からも降りて来たぞ!どうする!」

兎角「車は動きそうか?」

しえな「いいや、試してみたけどダメだ」

兎角「じゃあお前も早くこっちにこい」

しえな「わかった。……っつぅ……でもどうする?」

兎角「事故った車を盾に銃撃戦だ。幸い、この車に乗ってた連中の武器がある。お前はこれを使え」

しえな「……わかった!って銃のマガジンだけ渡されても何も出来ないんだけど」

兎角「ったく、暗殺以外は専門外なんだけどな」スチャッ!

しえな「ボクだってこんな武器想定外なんだけど」


兎角「……」サッ…!パァン!パァン!

しえな「東、言いにくいが全然当たってないぞ」

兎角「あれでいいんだ」

しえな「でも」

兎角「……」パンパンパン!!

しえな「……?」

兎角「そろそろかな……」パァン!!

シュボッ……!!

しえな「車に引火した!?」

ドゴォン!!ボウボウ…

冬香「すごい、みるみる燃えていく……」


兎角「一か八かだったけどなんとかなりそうだな」パァン!!

しえな「敵もさすがに動揺してるな」

兎角「あぁ。………よし」パァン!!

しえな「今ので最後の一人か?」

兎角「あぁ、行くぞ!また追手が来たら」

しえな「先に行っててくれ」

兎角「はぁ?」

冬香「行きましょうよ、しえなさん!」

しえな「……さっき車と衝突したときに左足をやったみたいで、さ。ボクは走れない。もし誰かが来たら時間稼ぎくらいはしておくから。早く行け」

兎角「そうか、行くぞ。冬香」スクッ

しえな「うわ今ホントに泣きそうになった」


兎角「事情が分かればなんということはない」ヒョイッ

しえな「!?///」

兎角「特別だ。運んでやる。落ちないように私の首に捕まれ」

冬香「わぁ……おひめさま抱っこだ……」

兎角「ただ抱えてるだけだろ?」

冬香「それをおひめさま抱っこって言うんですよ」

しえな「た、頼む、恥ずかしいから……やめてくれ……///」

兎角「?」

冬香「あとしえなさん、パンツ丸見えです」

兎角「剣持……気をつけろよ……」

しえな「ボクじゃなくてお前の抱え方に問題あるんだろ!?ちょっ、ちゃんと持ってくれよ!」

兎角「重いし……」

しえな「もう!!いいから早く行ってくれ!!」


「っはー……うるさい人達でしたね。というか主に剣持さんが特にアレでしたね」

「まぁそう言うな」

「これで敵を撒いたつもりになってるんだからおめでたいですよ」

「……あと2台は来てるな。東達が車に辿りつくのが早いか、追手に追いつかれるのが早いか」

「この調子だと確実に後者ですね」

「……行くか、桐ヶ谷」

「はいっ、千足さん」


ドゴォーーーン!!

恵介「とにかく走るぞ!」ダッ

伊介「この廊下をまっすぐ走って!突き当たりの階段を使うわよ!」

春紀「そこの階段じゃダメなのか?」

伊介「そこの階段は途中までしか降りられないでしょ」

春紀「あぁ。そういえば途切れてたな」

伊介「下の階がどうなってるかわからないわ、もしかしたらさっきの爆発で通路を塞がれてるかも」

春紀「……なるほど、横移動できるうちにしとくってことか」

恵介「さすが伊介だ」

乙哉「偉いぞ、はなまる付けてあげような」

伊介「それママの真似だったらアンタのこと惨殺して戒名に変態切刻快楽絶頂女って付けてもらうから」

乙哉「死んでもなお嫌がらせするってすごいね」


春紀「そういえば、英達とは合流しなくていいのか?」

乙哉「特に問題がなければ各自脱出でいいと思うけど……一応異常ないか聞いてみるね」ゴソゴソ

ドゴォーーーン!!

伊介「ったく……あの爆弾魔ホンッットに人騒がせなんだから」

春紀「だな。むしろしばらく会ってなかったから懐かしい感じすらする」

乙哉「あー、大丈夫?乙哉だけど……いま?あたし達?うん、めっちゃ逃げてるー」

伊介「知らない人がこっちの相づちだけ聞いたらビックリするんでしょうね」

春紀「この軽い口調とのギャップがまたな」


乙哉「え!?っあー……わかった、じゃあじゃあ、そのまま出口を目指しててよ。あたし達、多分途中で追いつくから」

春紀「……?なんか問題あったのか?」

伊介「さぁ?」

恵介「おっと、次の爆発が来そうだ」

ドゴォーーーン!!

春紀「!?な、なんで、わかったんだ?」

恵介「はは、勘だよ」

春紀「勘って……」

乙哉「この先の階段を降りていけば英さん達と香子ちゃん達がいるよ!」

伊介「あっちのペアは合流してたのね」

乙哉「ただ、香子ちゃんが眼鏡壊して走れないんだってさ」

春紀「神長マジ神長」

ちょっと外す


伊介「でも英さんがいるなら担いでもらえばいいじゃない」

乙哉「ほら、今は真昼ちゃんの時間じゃん?だから英さんはそっちで手一杯みたい」

春紀「聞いた限りだと一人ずつ両肩に担ぐくらいできそうだけどな」

伊介「いや、かなり派手に暴れてたみたいだし、それは無理じゃないかしら」

乙哉「あたしが香子ちゃんをなんとかするから、二人は先に出ててよ」

春紀「はぁ?なんでだよ、力仕事ならあたしの方がいいだろ」

乙哉「そういえば前に施設の破壊で香子ちゃんのことおぶってたよね」

春紀「嫌なこと思い出させるなよ」


乙哉「とにかく、春紀さんは早くここを出てよ」

春紀「……」

乙哉「でさ、早く冬香ちゃんに会ってあげてよ。ね?」

春紀「……わかった」

乙哉「うんうん!そうこなくちゃ!」

春紀「助けられっぱなしだな……」

乙哉「っていうか春紀さん気付いてないかもしれないけど、このシリーズ通して一番案件解決に貢献してないのって春紀さんだからね?」

春紀「!?!?!?」

乙哉「さっきも伊介さんに守られてたし」

春紀「アレは、その……」

乙哉「施設の破壊を依頼されたとき、実際爆弾を作ってくれたのは?」

春紀「いや、でも、ほら、アンタと二人で組んだ時のは、あたしがさ」

乙哉「黒組の情報を持ち出されたときにデータ持ち出した人物を始末したのは?」

春紀「………」

乙哉「っていうか前回、部屋に閉じ込められてずっと伊介さんと何してたの?」

春紀「ごめんなさい」


乙哉「とにかく、そういうことだから。今更気にしなくていいんだよ?」

春紀「伊介様ぁ……あたしって、ヘタレだな……」

伊介「伊介はそれまでの話知らないけど、もっと頑張んなさいよアンタ……」

春紀「ん……」

ドゴォーーーン!!

春紀「今ならこの爆風で吹っ飛べそう」

伊介「気を確かに持ちなさいよ!」

春紀「空も飛べるはず」

乙哉「君と出会った奇跡がその胸に溢れてるの!?」

伊介「君って誰だよ♥」


恵介「そうだ。女を見なかったか?」

伊介「女って……多分見たわよ」

恵介「本当か?彼女は今どこにいる?」

乙哉「お家に帰ったと思いますよー」

恵介「そうなのか……?でも」

乙哉「あたしとはもう関わりたくないって言って、そのまま部屋出てっちゃったから間違いないと思うけどなー…」

恵介「あいつにそんなこと言わせるって」

乙哉「あの人綺麗ですよね。前に仕事で一緒になったことがあるんです。そのときは殺しそびれちゃって……だからさっき感動の再会したから今度こそ殺さないとって思ってたのに」

恵介「…………………伊介、この子は?」

伊介「変態レズシリアルキラーだから気にしないで」

恵介「へぇ……そっかぁ……」

伊介「アンタの発言が常軌を逸してるからママがドン引きしちゃったでしょ!」


伊介「おっと、まだ残党が残ってたのね」スチャ、パァン!!

男K「おごぉっ……!!」バタッ

乙哉「あーあ、かわいそうに。でもさ、よっぽど馬鹿じゃない限り、もう建物の異変を察知して避難してるよね?」

伊介「伊介もそう思うわ。英達とやり合ってそれ程動ける連中が存在するかは別として、ね」

春紀「おい…!あれ、神長達じゃないか!?」

英「みなさん……!」

首藤「おぉ、久しぶりじゃの」

神長「しかし話をしている場合じゃない。一刻も早く脱出しなければ……!」

春紀「こうなったきっかけの張本人って誰だっけ?」

伊介「確か、かとかみとかなとかがとかが名前に付く人だったような」

神長「や、やめろ!個人攻撃はよくないぞ!」


乙哉「よいしょっと」ボフッ

神長「!?」

乙哉「こんなペースで歩いてたら死んじゃうよ。あたしがダッシュで運んであげる♥」

神長「そ、そうか……すまないな……よし行け!」

乙哉「ロボット扱いしないで」

首藤「というか香子ちゃん、誤爆させておいて抱えられて脱出とはさすがじゃのう」

春紀「ホントだよ、なんかイライラしてきた」

真昼「喧嘩はやめる、ます……」

伊介「あんた、さっきはあんなに威勢が良かったのに」

英「真昼さんは可愛いところが魅力なんですの」

伊介「ならおひめさま抱っこしてあげてとまでは言わないけど、せめておぶってあげなさいよ」

春紀「あたしも思った。なんで米俵みたいに担いでんだよ」


乙哉「ま、でもさ。ほら、準備はできたでしょ」

伊介「準備?」

乙哉「さっき言ったじゃん。春紀さん達は先に出ててってさ」

春き「……わかったよ」

伊介「あんたらもとっとと来なさいよ?」

首藤「案ずるな。悪運は強い方での」

英「ですわね」

乙哉「そりゃそうだよね、あの高さから落ちて生きてるんだもんね」

英「シャラップ」


タッタッタッ・・・

恵介「さてと、ママも別のルートから出るかな」

伊介「えー」

恵介「伊介達と関わりがあるって、他の業者にバレたら面倒だしな」

伊介「他の業者なんて来てるの?」

恵介「さぁ。ただ、来ててもおかしくないさ。それにしても今回は楽しかったよ、春紀ちゃん」

春紀「な、なんだよ……ですか……」

伊介「なによ、その言葉遣い」

恵介「はは、オレが伊介の親だとは思わなかったんだろ。まぁいいさ。質問と、言っておきたいことが1つずつある」

春紀「……出会ったときと同じ切り出し方するんだな」

恵介「あぁ、そういえばそうだったな」

伊介「で?質問って?」

恵介「伊介のこと、好きだろ?」

春紀「っはぁ!?///」


伊介「ちょっ、何聞いてんのよ!///」

春紀「……………………はい」

伊介「あんたも答えなくていいから!っていうか言っておきたいことって何よ!?」

恵介「……伊介のこと、よろしくな」ポンッ

春紀「……!」

伊介「それって……」

恵介「はは、それじゃな!オレは地下から脱出するから。今日の夕飯はパパと二人で食べる。伊介は帰ってこなくていいよ。じゃっ」

伊介「ちょ、ママ!なんなのよ!さっきから!///」

春紀「……/////」

伊介「アンタも真っ赤になってないで走る!!///」グイッ


柩「しかし、最初の一組潰したらあとは楽ですね」ブォォォォン

千足「桐ヶ谷ぁ!!あぶ、危なっ……!あぶっ、あぶっ!!」ドンッ!!

柩「弱虫ペダルにそういう人いましたよね」

千足「泉田くんの話は今はしてない!!」

キキィィィ!!

千足「!!?!」

柩「もうそろそろですかね、東さん達が車に着くの」

千足「あ、あぁ……じゃないか?桐ヶ谷そんなことより」

柩「車に乗ってるとあまり細かいこと考えなくていいですね、好きかもしれません」ブゥゥン!!!

千足「本当は考えなきゃいけないのにそれを桐ヶ谷が放棄しているだけだ!運転を代わってくれ!」

柩「でも代わってどうするんですか?ぼく達、銃は上手く扱えませんよ?」

千足「うっ……」

柩「だからこうするしかないんです」キキキィイイイ!!

千足「待て待て待て!!だからって車で生身の人間無双はマズいだろ!?人道的に!!」


柩「でもいい感じだと思いません?ちょっと撃たれたくらいじゃこの車ビクともしませんし」

千足「違うんだ桐ヶ谷、私は車の強度の心配をしているんじゃないんだ」

柩「それに……ってあれ、あのワゴン車」

千足「東達か!?」

ブゥゥン……

柩「ですね、マズいです。この車に乗ってたらぼく達だって気付いてもらえずに攻撃されちゃうかもしれません」

千足「だな。その脇道に逃げよう」

柩「了解ですっ」キィィィ!!

千足「頼むから普通に運転してくれ!!!!!」


しえな「んっ……?」

兎角「どうした」

しえな「いや、見間違いだと思うんだけど……今の車……」

兎角「あまり時間がない。逃げた車は放っておけ」

しえな「いや、違うんだ。今の」

冬香「二人とも!前、見て下さい!!」

しえな「!!なんだこれ、地獄絵図じゃないか……!」

兎角「すごいな……しかし致命傷を負っている者は見当たらない、か。わざとなら相当の手練だな」


冬香「あっ、すみません……話の腰を折ってしまって」

しえな「いや、いいよ。ボクが言おうとしてたことを、裏付けることになりそうだ」

兎角「どういうことだ?」

しえな「あの黒塗りの車、桐ヶ谷が運転していたように見えたんだ」

兎角「ま、まさか。それはないだろう。あいつらは……」

しえな「ボク達がここを離れたときよりも、倒れている人が明らかに増えている」

兎角「確かに、車も一台増えてるな」

しえな「生田目と桐ヶ谷の二人が、ボク達が逃げやすいように時間稼ぎしてくれたんじゃ……?って、少しそう思うんだ」

兎角「……この様子からいって、誰かが車で轢きまくったのは確かだろうな」

しえな「今度からあいつのことキチヶ谷って呼ぼうか」

兎角「賛成」

冬香「会ったことないけど桐ヶ谷さんって人が一番ヤバそうですね」






春紀「はぁ……はぁ………」ザッザッザッ……

伊介「さすがに、疲れた、わね……」ハァ…ハァ……

春紀「これくらい、離れれば、とりあえず大丈夫、だろ……?」

伊介「多分、ね……あとはあいつらが出てくるのを、待つだけよ」

春紀「そういえば……冬香はどこに行ったんだ?剣持の車に乗せたって話までは聞いたけど」

伊介「全員が脱出したときに回収車がいるでしょ?」

春紀「あぁ、そうだな?いや、歩いて帰ってもいいけど」

伊介「暗殺稼業やっててあんたくらいよ、そんなこと言うの。とにかく、剣持さんは回収車の乗り換えで一度この森を抜けてるハズだわ」

春紀「神長達の車には乗れないのか?」

伊介「4人乗りらしいわ」

春紀「あちゃ……」

伊介「しかも神長さんの運転って、それ大丈夫なの?」

春紀「いや大丈夫じゃないな」


伊介「何事もなけばいいんだけど……」

春紀「どういうことだ?」

伊介「伊介は武智さんから連絡をもらって上の階に向かったけど、地下では英さん達が足止めしてくれてたでしょ」

春紀「あぁ、らしいな」

伊介「おそらく、いくらあの二人でも、あの人数は捌ききれなかったと思うわ」

春紀「……まさか、剣持達の車にも追っ手が……?」

伊介「残念だけどそう考えるのが普通ね」

春紀「でも車に乗ってるのは剣持と兎角サンなんだろ?」

伊介「そうね。多分剣持さんが運転してると思うわ」

春紀「……大丈夫だと思うんだけどな」

伊介「伊介も。ま、伊介達はとりあえず何もないから信じて待ちまs」

ドゴォーーーン!!

春伊「」


春紀「おいおいおいおい!!どういうことだよ!!?」

伊介「伊介だって知らないわよ!!なんで!?施設内だけじゃないの!?爆弾って!」

春紀「断言はされてないけど、普通そうだと思うよな?!っていうかこれどこまで設置されてんだ!?次はどこが爆発する?!」

ドゴォーーーン!!

春紀「っぶねぇぇぇ!!」

伊介「わからないわよ!とにかく、立って!走るわよ!」グイッ!

春紀「一難去ってまた一難!」ダッ!

伊介「ぶっちゃけありえない!」

春紀「伊介様、あたし達の歳でプリキュアは、その、イタい」

伊介「伊介もちょっと反省してる」


ブオォォォン…!

春紀「な、なんだ!?」

キィィ……!!ガチャ…

しえな「遅くなって悪かった!さぁ早く乗ってくれ!」

春紀「いいや、助かったよ!」

伊介「たまにはアンタでも役に立つのね」

しえな「一言多いんだよ!……っていうか、おい、他のみんなは?」

春紀「あぁ、もうすぐ出てくると思うんだが……」

しえな「まさか!まだあの中にいるのか!?」

兎角「マズいぞ……!至るところで火災が発生してるはずだ!建物の中ではもうまともに呼吸出来なくなってる!」

冬香「待って!!人影が……!!」

英「………」ザッ……ザッ……

ドゴォーーーン!!

兎角「四人を担いでる、だと……?」

しえな「爆発を背に悠然と歩いてくるなんてターミネーターみたいでカッコいい」

春紀「それ多分本人に言っちゃいけないヤツだぞ」


伊介「こいつら、大丈夫なの?」

英「えぇ、みなさん怪我はされていませんわ」

春紀「意識がないだけ、か」

兎角「とにかく早く車に乗せるんだ、一刻も早く脱出する必要がある」

しえな「だな。急いでくれ!」

英「っと……これよし」バタンッ

春紀「全員乗ったか?」

伊介「おっけー♥」

英「私達もオッケーですわ」

しえな「よし、じゃあ」ブゥゥン

ガチャ!

兎角「私のことを置いていく気か!!!」

しえな「え!?てっきり後ろに乗ってるもんだと」

伊介「あら、アンタもう前に乗り込んだんじゃなかったの?」

春紀「伊介様、兎角サンが外にいるの目視してからオッケーって言っただろ」

兎角「ふざけるな!!!」


しえな「と、とりあえず、車出すぞ?ほら、東。扉閉めてくれ」

兎角「うっ……」バタンッ

ドゴォーーン!!

一同「」

伊介「ねぇ、いま一瞬でも扉閉じるの遅かったら」

春紀「爆風で兎角サンの前髪が燃えてたかもな」

しえな「よぉーし!捕まってろ!!」ブオォォン!!

キキキィィ……!!

春紀「うお!?」

伊介「アンタ、案外運転荒いのね」

しえな「状況考えろよ!!丁寧に運転してたら死ぬだろ!!」


ドゴォーーン!!

兎角「!?」

しえな「一体何個爆弾セットしてあるんだよ!」キキィィィ…!!

春紀「さぁな。話を聞こうにもあいつらはダウンしちゃってるし」

英「はぁ……はぁ……」

春紀「お疲れ。番場一人でもきつかったろうに」

英「私がみなさんを担いできたのはほんの数十メートル。それまでみなさんが頑張って走ってくれたお陰ですわ…」

伊介「感謝するのよー、アンタ達」チラッ

兎角「最後まで意識があったのが英で良かっt」

伊介「……って、ちょっと!疲れてるのはわかるけど、意識のない連中のあの乗せ方はないんじゃない!?」

春紀「はぁ?……うわ、マジだ!」

英「疲れていて椅子に座らせるのが大変だったもので……急いでいたし……」

伊介「一番下の番場ちゃん可哀想」

春紀「ペストにかかった人達ってあんな風に積み重ねられてたんだよな」

冬香「そうだね、死体だけどね」

寝る。明日は深夜に来るけどそんなに進められないと思う。
おやすみ。

帰ってきた


しえな「とりあえず危なさそうなところは切り抜けたっぽいな」

兎角「あぁ。それに追手も来ていない」

しえな「そうか、一安心だな」

春紀「……冬香」

冬香「はーちゃん!」ギュー!

春紀「よしよし……怪我はなかったか?」

冬香「うん、平気……ただ」

春紀「どうした?」

冬香「怪我、させちゃったの……咄嗟に、銃で男の人を撃っちゃった……」

春紀「どうしよう、少し会わない間に妹がすごい特殊な大人の階段上ってる」


冬香「……はーちゃんが今まで何をしていたか、聞こうとは思わないよ」

春紀「……」

冬香「だから言わないで」

春紀「…………ごめん」

冬香「ううん、きっとはーちゃんなりに家のこと考えた結果なんだろうなって思うし、実際にそのお金で救われたのは私も含む家族だもん。責めるなんてできないよ」

春紀「……」

冬香「でも、できれば……これ以上………」

春紀「あぁ、足を洗うつもりだ」

冬香「本当!?」

春紀「あぁ。もう家族を危険な目に合わせたりはしないよ」ギュー

冬香「はーちゃん……!」

伊介「伊介も春紀とぎゅーしたい……」ボソッ

英「空気読んでください、犬飼さん」


神長「ん……ここは……」

伊介「あ、起きたの。大丈夫?吐き気とかない?」

神長「多分、大丈夫だ。えっと……?」

伊介「アンタ達4人を英さんが担いで脱出してくれたのよ」

神長「……!!す、すまない!」

英「いえ、いいんですの。お気になさらないで」ニコッ

神長「しかし……本当に、すまなかった」

しえな「神長、ちょうどいいところで目が覚めたな」

神長「なんだ?」

しえな「いや、いま春紀が暗殺から足を洗うという話をしててさ」

神長「そうなのか……!いや、うん。寒河江は、その方がいいな」

しえな「神長も組織を抜けると言っていたろう?上手く行ったのか?」

神長「いいや、私はまだ準備中で、これから決行に移すところだ」

春紀「何か手伝えることはあるか?」

神長「いいや。これは私と首藤の戦いだ。ただ……何かあったらまた泊めて欲しい」

春紀「それは嫌」


伊介「やっぱ組織抜けるのって大変なのね」

しえな「春紀も大変なんじゃないか?犬飼はそういう噂は聞いたことないのか?」

伊介「職業暗殺者をやめるなんて伊介には選択肢がないもん、知らないわよ」

神長「なるほど、でもきっと大変だろうな」

兎角「いや、もしかしたらそうでもないんじゃないか?」

春紀「あたしもそんな気がしてる」

神長「なにそれズルい」


兎角「寒河江はそれ程頻繁に依頼を受けていなかったようだし、何かの組織に属していたわけでもない。そうだろ?」

春紀「あぁ。依頼人はその時によって違うけど、奴らが知ってるのはあたしの電話番号だけだ。とりあえず帰ったらケータイの番号変えるよ」

兎角「それがいいな」

神長「………………………」

英「ひ、人それぞれ事情は異なりますわ?」

春紀「気持ちは分かるけどそんな暗い顔すんなよ」

首藤「ん……?」

英「あら、気が付きましたのね」

首藤「あ、あぁ……なるほど、英。お主に助けられてしまったようじゃの」

英「いいえ、そんな」

しえな「首藤、起きて早々悪いんだが、爆弾はここまでは仕掛けてないんだよな?」

神長「何故私に聞かない」

しえな「あてにならないからだ」

神長「なっ!失礼だぞ!」

しえな「誰のせいでこんな間一髪の脱走劇やったと思ってるんだよ!!?」


首藤「ここまでくればもう平気じゃ。さすがにこんなところまで仕掛けていたら日が暮れるわ」

しえな「だ、だよな……よかった……」

兎角「念のためあの男の死亡確認をしに行くか?」

伊介「その必要はないわよ」

春紀「なんでだ?」

伊介「ママからメール。死亡確認できたらしいわ」

春紀「そう、か……」

伊介「ラッキーだったわね」

春紀「何がだ?」

伊介「あの組織はママが依頼を受けて始末したってことになってるんだから。仲のいい組織が伊介達に目をつけたりする可能性はゼロに等しいわ」

春紀「そうだな……ま、ちょっと派手にやり過ぎた感はあるけど」

伊介「いいじゃない、ご愛嬌ってヤツよ♥」

しえな「そんな愛嬌イヤ過ぎる」


英「亡くなってしまわれたのですね…」

春紀「残念そうに言ってるけどあんたらも相当暴れたんだろ?」

英「確かにその通りですけど、私達は殺めたりしてませんことよ?」

しえな「本当に?一人たりとも?」

英「……空が、青いですわね」

春紀「おいコイツ話逸らしたぞ!!」

伊介「空、茜色に染まってるんだけど??」


兎角「そんなやり取りは無意味だ」

神長「どういうことだ?」

兎角「だってそうだろう。あの爆発と火災。中に居た人間が生きている確率は限りなく低い」

春紀「まぁ、な」

しえな「びっくりさせるのに爆弾は有効だったと思うけど、あそこまでする必要あったか……?」

神長「あ、あれは!首藤がやれって言うから!」

首藤「ワシは止めたぞ」


乙哉「……ん…………ん?」

真夜「あ……?」

乙哉「んー……と、ここは……?」

真夜「んだよ、お前……降りろよ……」

乙哉「何言って……え!?」ガバッ!

真夜「うを!?」ビクッ!

乙哉「なんで、番場ちゃんが……あたし達、ねんごろになっちゃったの?」

真夜「なってねーーーよ殺すぞ」


春紀「なんだお前ら、気が付いたのか」

乙哉「うーん…頭痛い……」

真夜「いーからオレの上から退けろよ」

乙哉「えーやだー番場ちゃん冷たーい」

真夜「あぁ?重たいんだってーの」

英「今すぐ真夜さんの上から退け馬糞」

春紀「まぐそって」

伊介「というかあの二人を重ねたの英さんよね」


首藤「ところでこの車はどこに向かっておるのじゃ?」

兎角「私も気になっていた。どこなんだ?えーと、望月」

しえな「まさかと思うけどそれボクに言ってるんじゃないよな」

伊介「伊介も気になるー♥」

しえな「第一病院に向かってるよ」

春紀「第一病院?なんでだ?」

しえな「さっき移動中に東から聞いたんだ。いま一ノ瀬は第一病院にいるんだろう?」

伊介「そうなの?」

春紀「あぁ、それで第一病院から近いあたしの家に居候させてくれって言ってきたんだ」

伊介「なるほどねー。でもなんで晴ちゃんがそこで出てくるの?」

しえな「東が見舞いに行きたいって言ってたし、これだけ黒組メンバーが集まることって滅多にないだろ?」

兎角「お前にしては気が利くじゃないか、えーと、鞘持」

しえな「わざとやってるだろお前」


英「せっかくですもの、私達もお見舞いさせていただきましょう」

兎角「お前は…」

英「もう黒組は終わったのでしょう?私が一ノ瀬さんを狙う理由はどこにもありませんわ」

兎角「……」

乙哉「いいんじゃない?みんな黒組に居た頃はターゲットだったから晴っちを狙ってたけど、私怨で殺したいなんて人いないワケだし」

春紀「私怨じゃなくて私情で殺したがってる奴はいるけどな」

乙哉「視線が痛い」


しえな「安心しろ、何かあったらボクがこいつを止める」

兎角「どうやってだ?」

しえな「それは…その……」

伊介「まさかと思うけど、何も策が無いのに適当言ったワケ?だとしたらチョー無能ー♥」

しえな「と、止めるし!何も思いつかないけど!!」

兎角「やめてやれ。国持の涙腺が崩壊寸前だぞ」

しえな「たったいま崩壊したよ。国持って誰だよ」


乙哉「っていうか冗談でもやめてよ」

首藤「何がじゃ?」

乙哉「しえなちゃんがあたしを止めるっていうの」

神長「何故だ?上手くいけば抵抗したフリをして剣持をヤれるかもしれないのに」

しえな「おい物騒なこと言うなよ眼鏡」

春紀「お前も眼鏡だろ」


乙哉「だってさぁー……いや、なんでもない」

しえな「気になるだろ、言え」

伊介「あー、アンタもしかしてさっきの気にしてんの?」

乙哉「……まぁ」

伊介「ばぁーっかみたい」

真夜「なんだ?オレらの知らない話か?」

伊介「こいつね、」

乙哉「わぁー!!ストップストップ!やめてよ!」

伊介「何よ、別に大した話じゃないでしょ」

乙哉「それ言ったら移動中に伊介さんが言ってたこと全部言うから」

伊介「……ほら、番場ちゃんも座って」

真夜「なんだよ!!」

伊介「……(ずっと春紀の話してたなんて言えない)」


しえな「そろそろ病院に着くぞ」

兎角「そうか、じゃあおめかししないとな」

春紀「なんでだよ」

兎角「一ノ瀬に会うんだぞ!!」

春紀「可愛いなアンタ」

伊介「…伊介もおめかしするもん」

春紀「だからなんでだよ」


しえな「結局乙哉はいいのか?」

乙哉「何が?」

しえな「一ノ瀬に会わせていいのかってことだよ」

兎角「……うーん」

乙哉「いいよ、へーきへーき。あたしそういう気分じゃないし」

伊介「言っとくけど、これはわりと信頼できるわよ」

春紀「珍しいな、武智の肩持つなんて」

伊介「気にすんな♥」

首藤「ま、ワケありみたいじゃの」

神長「だな。深く詮索するのはよそう」

乙哉「とか言ってー、本当は神長さんあたしにキョーミ無いだけでしょー?」

神長「いや、それは、その、そ、そんなことはない、ぞ?うん、断じてない」

乙哉「そのマジっぽいリアクションやめて」

首藤「こら香子ちゃん!もっと上手く言わんか!そんな言い方したら嘘だとバレてしまうじゃろ!」

乙哉「あたしだって泣くんだからね?」


病院前


しえな「よし、もう降りていいぞ」

冬香「私は車で待ってるね」

春紀「そうか?」

冬香「うん、邪魔しちゃ悪いもん。私その間におじさんに電話しておくね。きっとたくさん心配させちゃったと思うから」

春紀「そういえば連絡するの忘れてたな……。友達と遊んでたっぽいって言ってあるから、上手く誤魔化しておいてくれ」

冬香「わかった」

神長「じゃあ私達は行くか。……それにしても、剣持は車停めるの、上手いんだな」

しえな「運転なんて初めてだったけどな。駐車場が空いてて助かったよ」

神長「……」

春紀「言うな。何も言うな」

神長「うん……」

乙哉「こ、香子ちゃんだって運転上手かったよ!?うん!!」

神長「さっきの仕返しか」

乙哉「バレた?」

神長「みんなは先に行っててくれ、少し泣く」


病院内


春紀「面会時間とか大丈夫なのか?」

兎角「ここは夜の9時までだ。問題ない」

春紀「なるほどな」

しえな「っびゃあああ!!?!?!」

一同「!?」ビクゥッ!!

看護婦「病院前はお静かに!!!!」

しえな「ご、ごめんなさい……」

乙哉「今の看護婦さんが一番うるさかったよね」アハハ

首藤「武智、しっ」


英「でも、何があったんですの?」

しえな「それが……いま、そこに桐ヶ谷がいたように見えたんだ……」

兎角「お前、よく桐ヶ谷を見かけるな」

春紀「よく?」

兎角「あぁ、さっきも見かけたと言っていた。そんなこと、あるハズ無いのに」

首藤「また出たのか、あやつら」

兎角「全くおかしなことを言う。桐ヶ谷は生田目の看病につきっきりだ。外にいるなんて有り得ない」

伊介「え…………?」

乙哉「いま、なんて?」

春紀「おいおい、どういうことだよ…」

神長「わからない…」

真夜「あいつらって死んだんじゃねーのかよ……?」

兎角「死んだ?あいつらは一命を取り留めてこの病院に入院しているぞ。まぁ、桐ヶ谷は先日退院したようだが」

しえな「なん、だって……?」


乙哉「しえなちゃん、大丈夫?顔色悪いよ?」

しえな「大丈夫なワケあるか……だって、え……嘘だろ……?」

春紀「ってことはこの病院には鳰と晴ちゃん、そして桐ヶ谷と生田目がいるのか」

伊介「え?鳰もいるの?」

春紀「そうだったよな?兎角サン」

兎角「あぁ。あいつと一ノ瀬は同じ病室だ。私はやめておけと言ったんだがな。一人は寂しいからと言って聞かなかったんだ。
ふふ、あの時の一ノ瀬、可愛かった…みんなにも見せてやりたかったくらいだ」

英「後半は気持ちが悪かったので聞かなかったことにしてよろしいかしら」

兎角「おい」

春紀「そんなの見せられるあたし達の気持ちも考えろよ」


首藤「桐ヶ谷はどっちに行ったのじゃ?」

しえな「え…あっちだ。だからあそこは絶対に避けよう……な?」

首藤「ふむ、こちらか。行くぞ、お主ら」

春紀「おう」

しえな「あっ!おい!ちょっと!」

ゾロゾロ……

乙哉「何してんのー?置いてくよー?」

しえな「なんでボクが行きたくないって言った方に歩いてくんだよ!クソ!」

看護婦「お静かに!!!!」

しえな「はい……」トボトボ……


千足の病室



コンコン・・・

千足「どうぞ」

柩「ボクが行ってきますね」トテトテ

柩「はい」ガラッ

兎角「見舞いに来た」

柩「……」ピシャン!!

千足「?桐ヶ谷……?」

柩「何でもありません、セールスでした」

千足「セールス……こんなとこにもくるんだな……」

兎角「おい!」ガラッ!!

千足「!?」


英「いきなり閉めるだなんて失礼じゃありませんこと?」

柩「失礼じゃありません、お引取りください」

真夜「よー!お前ら生きてたんだな!具合はどうだー!?」

千足「経過は順調だ」

春紀「あたしはてっきりあんたらは死んだのかと思ってたぜ」

伊介「っていうかみんなそう思ってたでしょ」

乙哉「もー、兎角さんったらなんですぐに教えてくれなかったの?」

兎角「?どうでもいいだろ」

柩「マジ帰れや」


しえな「……」

柩「お久しぶりです、剣持さん」

しえな「……あ、あぁ、元気そうだな」

柩「おかげさまで」

真夜「オレか!?オレのおかげか!?」

春紀「なんでだよ」

首藤「お主が何をしたと言うのじゃ」

真夜「舞台で倒れた時、真昼は心配してたんぜ?」

英「そうですわね、そのおかげで二人とも一命を取り留めたんですわ」

千足「英、番場を甘やかすな」

伊介「アンタも大概だけどね♥」


春紀「変なこと聞くようだけど、二人でここを出てあたし達に会ったりしたか?」

柩「?それは有り得ませんね。千足さんはアレから病院を出ていません」

乙哉「ってことは……やっぱり大変だったんだね。もしかしなくても生死の境を彷徨ってたりとか?」

柩「えぇ、その通りです。僕達二人が揃ってこうしていられるのは、奇跡以外の何物でもないとお医者さんも言っていました」

伊介「伊介も死んだと思ったもの、あのとき」

神長「しかし、そうか……生田目は病院に引きこもっていたのか……」

千足「その言い方やめてくれ」


首藤「ワシら、お主らに何度か会ったのじゃ」

柩「どういうことですか?」

春紀「どういうことも何もなぁ……墓地や施設だよ」

しえな「さっきホテルだった建物でも見かけたぞ」

千足「……」

柩「……」

千足「なんで私達の夢の内容を知っているんだ?」

伊介「はぁ?夢?」

柩「確かにぼく達はいま言われた場所に一緒に行く夢を見ました」

千足「その、寒河江達に会った私達は何をしていた?」

春紀「えーと、墓地では数日迷子になってたな」

千足&柩「!」

首藤「海沿いの倉庫群ではワシらを警察から逃してくれたのう」

柩「もしかして、施設では剣持さんが酸で溶かされそうになりました……?」

しえな「その通りだ。ちなみに墓地では生田目と桐ヶ谷、それぞれに殺されそうになった」

兎角「不憫過ぎて笑えてくるな」

しえな「笑うなよ、せめて同情しろよ」


真夜「っつーことは、桐ヶ谷達の夢が現実とリンクしてたってことか?」

春紀「……信じられない話だけど、そうみたいだな」

千足「不思議なこともあるものだ」

柩「ですね。つまりぼくが夢でしくじらなければ剣持さんは今頃……」

しえな「あぁ、死んでいただろうな」

伊介「ちょっと試してみなさいよ♥」

神長「どういうことだ?」

伊介「今から二人に寝てもらって剣持さんを殺してもらうのよ」

しえな「ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったい嫌だからな!!!!」


英「そろそろ行きましょうか」

兎角「そうだな。晴の見舞いがメインだ。寄り道はこれくらいにしておこう」

柩「せめてぼく達の聞こえないところで言ってください」

乙哉「まぁまぁ。あまり長居しない方がいい方がいいのは事実でしょ?」ニヤニヤ

首藤「じゃな。二人きりの時間を邪魔して悪かったのう」

伊介「伊介達はこれでいなくなるから、あとは二人でどーぞご自由に♥」

千足「なっ、何を……!」

柩「ええ。言われなくてもそうさせてもらいます」ニコッ

英「笑顔で毒を吐くんですわね」

柩「英さんには言われたくないです♪」

春紀「二人とも怖ぇよ」

真夜「わかる」


柩「……行っちゃいましたね」

千足「あぁ。嵐のような奴らだな」

柩「……」

千足「……桐ヶ谷?」

柩「あの夢の中での出来事は、ぼくにとって幸せでした」

千足「……」

柩「分かってます、こんなこと言われても困るって」

千足「……」

柩「でも……ぼくがエンゼルトランペットだと知られる前の関係が、どうしても暖かくて…その……」

千足「桐ヶ谷」

柩「なんですか?」

千足「……色々あったけど、私だってあの夢は楽しかった。しかし……もう少し考える時間が欲しい」

柩「はい……ごめんなさい、こんなこと……」

千足「気持ちの整理をつけたいんだ……恐らく首藤が寿命を迎える頃にはなんとか……」

柩「それ許してくれないってことですよね」


しえな「生田目と桐ヶ谷、やっぱり気まずいのかな」

兎角「思ったより平気そうだったけどな」

首藤「しかし桐ヶ谷は生田目の探しておったエンゼルトランペットじゃった。
いくら二人の仲が良かったと言っても、簡単に埋まるような溝とは思えんのう」

神長「でも、私達の目の前に現れた二人はいつも通りだったぞ」

伊介「それは夢の中だったからじゃないの?」

英「私もそう思いますわ。気付いてらして?いつも手を繋いでいたのに、先ほどは……」

神長「そういえば繋いでなかったな。あんなに近くに座ってたのに」

春紀「……そこまで見てなかったな」

乙哉「あたしは見てたよ。あれちょっと気になったね。出てくる前にちょーっと茶化してみたけど、柩ちゃんは浮かない表情してたから……まぁそういうことなんだろうね」

真夜「オレもあの二人の微妙な距離感は気になったぜ」

春紀「なんで番場まで気付いてるんだよ」

真夜「ダメかよ!!」


兎角「こら、静かにしろ」

真夜「だってこいつが」

兎角「ここから先は特別な区域だ。私語は許されない」

伊介「へぇー?♥一回も赦されないの?」

春紀「さぁ?無限回くらいは赦されるんじゃないか?」

兎角「今すぐ表に出ろ、元2号室」

英「でもどうしてですの?別にVIPフロアでもありませんし……」

春紀「っつか病院ってVIPフロアとかあんの?」

首藤「場所によってはあるようじゃの」

兎角「そんじょそこらのVIP(嘲笑)ルーム(爆笑)なんかと一緒にするな!」

春紀「VIPルームのこと馬鹿にし過ぎだろ」

兎角「ここからもう晴の病室の半径30m以内に入っているんだ……!これを特別と言わずして何と言う!!」

伊介「うーし、そこのバカは無視ねー♥」スタスタ

乙哉「おっけー♪」スタスタ

兎角「こら!!話を聞け!!」

しえな「ったくビビって損したよ。何が半径30m以内だよ。馬鹿馬鹿しい」スタスタ

真夜「くだらなさ過ぎて真昼にバトンタッチするとこだったぜ」スタスタ

兎角「ふざけるな!!待て!!」


鳰と晴の病室



ガラッ

晴「兎角…!?」

兎角「あぁ。それと……その他諸々だ」

神長「その他諸々って」

春紀「あたしらの扱い雑過ぎるだろ」

乙哉「やっほー♪晴っち、兎角さんに刺されたんだって?大丈夫?」

晴「え!?みんな……!」

兎角「こら!武智!晴に近づくな!」

乙哉「言ったじゃん、あたしは今そーゆー気分じゃないって」

兎角「だとしても!」

晴「まぁまぁ。晴もみんなに会えて嬉しいですし。ね?」

兎角「……」

英「こんなに喧しくして、お体に障らないかしら……」

晴「全然平気だよ!あ、あー……でも、その、鳰ちゃんが、ね?」

春紀「鳰?あぁ、あいつどこ行ったんだ?」

兎角「カーテン閉めてるだけで中で寝てると思うぞ」

伊介「ふぅん」

乙哉「ま、どうでもいいね。ねぇねぇ晴っち♥あたしね、」

鳰「いくらなんでも薄情過ぎるんじゃないっスかねー!!!????」シャーッ!


兎角「な。起きてる」

鳰「そりゃ起きてるっスよ!酷いっス!」

春紀「よっ。生きてたんだな」

鳰「そっスね。ウチもまさか生きてるなんて思わなかったっスけど」

晴「そんな言い方したらダメだよ、鳰」

鳰「はぁ……で?よくわかんないんスけど、みなさん晴のお見舞いっスか?」

伊介「そ。あと、ついでにアンタの惨めな姿も見に来てやったわよ♥」

首藤「お主が自分の体を張って戦うタイプとは、正直意外じゃったのう」

鳰「あーあー笑うといいっスよ。敗者は嘲笑われても文句なんて言えないっスからね」

真夜「なぁ純恋子。なんで歯医者さんには人権がないんだ?」

英「わかりません、あとで家に帰ったら一緒に調べましょう」

鳰「帰っていいっスよ、そこのアホ二人」


晴「あれ…?いつものスカジャンは……?」

兎角「あぁ。あれはちょっと、その、武智に脱げって言われて」

晴「そ、そうなんだ!」パアァァァ!

伊介「……(見るからに嬉しそう)」

晴「武智さん!ありがt……じゃなかった、うん!なんでもない!」

春紀「……(晴ちゃんも嫌だったんだな、あの服)」


晴「晴達のお見舞いのためにわざわざ集まってくれて……ありがとうございます!」

乙哉「……」チラッ

春紀「……」チラッ

兎角「………」コクッ

乙哉「お、お安い御用だよー!もう毎日来たいくらいだよー?」

春紀「あ、あー、そうだな。あとどれくらいで退院できるんだ?」

グイッ

兎角「!」

伊介「ちょっと、なんで隠すのよ」ボソッ

兎角「…晴をあまり心配させたくないんだ」ボソッ

神長「わざわざ集まったというか、その前に一仕事してきたからそのついでだ」

晴「一仕事?」

鳰「なんスか?それ」

春乙伊兎「」


首藤「香子ちゃん、ちょっと、今のは、なんというか、空気が読めてなかったぞ?」

神長「え?」

兎角「……」

春紀「神長、お前……」

神長「そ、その、大丈夫だ!武器売買の組織とやりあったりなんて、してないから!!」

乙哉「香子ちゃん、ちょっと」

晴「待ってください♪あとは?あとはどんなことをしてないんですか?♪」

神長「あとは、爆発の中みんなでホテルから逃げたりなんかもしてないぞ!」

真夜「あとヤクザみたいな連中と銃撃戦になったりも、もちろせんしてねーぜ!!」

晴「ふーん♪わかった♪」

神長&真夜「ほっ……」

春紀「『ほっ……』じゃねーーーんだよ!!!バカ!!」

伊介「あんたらのせいでバレバレでしょうが!!」

兎角「笑顔で誘導尋問する一ノ瀬……怖かった………」

乙哉「兎角さん、あの手のタイプは結構尻に敷くの上手いと思うから覚悟した方がいいと思うよ?」サスサス

首藤「待て!確かに今のは香子ちゃんが悪いが、そこまで責めることもないじゃろう?!」

英「そ、そうですわ!確かに真夜さんもちょーっと余計なことを言ってしまったかも知れませんが、過ちは誰にでもあることですわ!」

春紀「お前ら保護者が甘やかすからこういうことになるんだっつの!」

伊介「アンタら子供できたら絶対モンスターペアレントになるわよ」

乙哉「うわ、すごい説得力」


鳰「でも、ヤクザ?との抗争?ってどういうことっスか?ウチは何も依頼してないっスよね?」

春紀「それがな。妹の冬香がそいつらにさらわれたんだ」

晴「え!!えと、妹さんは」

春紀「あぁ、冬香なら平気だ。ちゃんと取り返した。それを兎角サン達が手伝ってくれたんだよ。だから、兎角サンが今回危険なことに巻き込まれたのはあたしのせいだ。ごめんな」

晴「いえ、そんな事情があるとも知らずに……」

乙哉「違うでしょ、春紀さん悪くないでしょ」

春紀「ややこしくなるから黙ってろ!」ボソッ

乙哉「元を正せば兎角さんが春紀さん家に居候したいとか言い出したからじゃん?目の前にいなかったら流石に巻き込まなかったよー」アハハ

晴「………兎角さん、適当な寝床があるから大丈夫って……まさか、春紀さんの?」

兎角「ま、待て一ノ瀬。これには理由があるんだ、理由というかなんだ、その、本当に近いんだ。寒河江の家とこの病院は」

晴「だからってお見舞いする為に人に迷惑かけちゃダメだよね?」ニコッ

兎角「………………」

春紀「こわっ……」

しえな「ノってるときの乙哉と同じくらい怖い」

乙哉「それ生命の危機感じちゃってるってことだよね」


晴「でも晴は嬉しいです」

兎角「へ?」

晴「だって、兎角さんがそうやって心置きなく頼れる人が出来たって、それってきっといいことじゃないですか」

兎角「……」

乙哉「あれは頼りにされてるって言うよりもアテにされてるって感じだったよね」ボソッ

春紀「武智、マジで黙ってろ。話がややこしくなる」ボソッ

晴「しかも、春紀さんの妹さんがさらわれて、その救出を手伝うだなんて……えへへ」

兎角「ち、違う!私はこいつらとそんな、友達なんかじゃ……!」

晴「でも助けることに命をかけたんでしょう?普通ならそんなことできませんよ」

兎角「違う!アレは仕方なく!」

晴「……?」

兎角「……!」ハッ

春紀「あーあ。バーカ」

乙哉「あたしらせっかく黙ってたのに」

兎角「墓穴掘った……」

春紀「あぁ、それも下手したら3人分くらい掘ってる」


晴「仕方なく……?えっと、どういうこと?」

乙哉「……」ピッ

『でゅふwwwwww伊介たまのwwwwwwwwおバストwwwwwwwwwww』

伊介「何これキッモ!!」

晴「…………兎角さん?」ニコッ

兎角「ち、違うんだ!やましいことは何もない!何もないぞ!」

伊介「少なくとも伊介はドン引きですけど」

英「私も結構引きました」

真夜「東……お前……」

兎角「ち、違うんだ!これにはワケがあって!」

しえな「必死になればなる程見苦しいぞ」

鳰「さすがのウチもこれはちょっと……」

春紀「改めて聞くとヤバいな」

兎角「寒河江!ちゃんと説明しろ!!早く!!」

晴「兎角さん、ちょっとこっちに来て?」グイッ

シャー!

神長「カーテン、閉まっちゃったな」

首藤「中で何が行われていることやら」

乙哉「あはははは兎角さんかわいそー」アハハハ

春紀「あたしが言うのもなんだけど、アンタ鬼だな」


鳰「でもみなさんよく協力したっスねー」

神長「寒河江には世話になったからな」

英「真夜さん達がお世話になったんですもの、断る理由はありませんでしたわ」

鳰「へー、結構人望あるんスねー」

春紀「半強制的な人望だけどな」ニコッ

鳰「えー……と?もしかして、怒ってるっスか?」

春紀「怒らない要素がどこにあるんだ?」

鳰「い、今更じゃないっスか!それにぃ、春紀さんだってなんだかんだ結構楽しかったっしょ?」

春紀「……」スッ

ゴツンッ!!

鳰「~~~~~!!!!」

伊介「ふふ、いい気味ー♥」

乙哉「気味ー♥」

鳰「乙哉さんのその積極的にウチに喧嘩売っていく姿勢なんなんスか」

しえな「いじめじゃないか?」

鳰「さらっと悲しいこと言わないで欲しいっス」


乙哉「だってあたし鳰ちゃんのこと好きじゃないし」

鳰「まだ言うんスか?また怖い思いするっスか?」

乙哉「……」サッ

春紀「なんであたしの後ろに隠れるんだよ!」

伊介「そうよ、馴れ馴れしくくっついてんじゃないわよ」グイッ

神長「犬飼は焼いているのか?」

首藤「惜しいのう、香子ちゃん。焼いておるのではなく妬いておるのじゃ」

真夜「焼くってなんだよ、怖ぇよ」

しえな「どちらかと爆発で色々焼いてるのはお前だろ」

神長「だまれ」

乙哉「春紀さんがダメなら伊介さん……」スッ

春紀「やめろって、伊介様の後ろに隠れるなよ」

伊介「……?……??」

英「あれほど動揺している犬飼さんも珍しいですわね」

首藤「追い払わないんじゃな」


シャー…

晴「ごめんなさい……晴、ちゃんと事情わかりました」ニコッ

兎角「あぁ。私が犬飼なんかの胸にそんな執着するワケないだろう」

伊介「すっごいぶっ飛ばしたいんだけど」

春紀「まぁまぁ」

兎角「武智のせいで酷い目にあったな」

乙哉「ごめんねー♪」

真夜「おい、東の顔……」

首藤「あぁ…なんじゃあれは……」

神長「東の顔って粘土だったのかなと思えてしまうほど原型を留めてないんだが」

英「やはり一ノ瀬さんには守護者なんていらなかったと思いますの」

真夜「アンパンマンってあんな顔してたよな」


「あらみなさんお揃いで」

春紀「?誰だ、アンタ」

真夜「さーーーな。知らね」

鳰「なっ!!この人はミョウジョウ学園の理事長、百合目一っスよ!!?失礼な態度は慎むっス!」

目一「初めましての方がほとんどかしらね」クスクス

伊介「……すごい名字ね」ボソッ

乙哉「ねー……なんか名字のせいで鳰ちゃんとそーゆー関係に見えてくるよね」ボソッ

目一「聞こえているわ」


春紀「でもその理事長がどうしてここに?」

目一「ただのお見舞いよ。鳰さんの」

伊介「……いよいよ怪しくなってきたわね」ボソッ

乙哉「だね。わざわざ理事長が来る必要とか皆無なのにね」ボソッ

首藤「コミックスで生田目達のことをキモいと言っとったのは同性愛についてじゃと思っておったが……つまり
『あいつら(ちょっと運命的な出会いしたくらいでなに盛り上がっちゃってんだよ。恋愛は年上の女性としてこそ至高。
思春期特有のなんちゃらに流されてるようにしか見えなくて)キモいな』ということじゃったんじゃな……」

伊介「なるほど……」

乙哉「一理ある……」

鳰「だからさっきから聞こえてるんだよ、出てけコラ」


目一「そうそう、寒河江春紀さん」

春紀「ん?なんだ?」

目一「あなたには感謝しています。鳰さんのお手伝いをしてくれたみたいで、とても助かっていたわ」

春紀「いや、あたしは仕事でやっただけなんで」

目一「私も依頼をお願いしてもいいかしら?」

春紀「……あたしはもう足を洗うんだ。悪いけど」

目一「まぁそう言わずに。この写真の男がターゲットなんだけど」スッ

春紀「……こいつは!」

伊介「さっきの組織のボス、よね?」

目一「報酬は日なたの世界。どうかしら」

春紀「……あんた、どういう」

乙哉「あたしらさっきこの人やっつけてきたよ。ね?」

伊介「……」

目一「あらそうだったの。手間が省けて良かったわ」

春紀「……」

鳰「えーと、理事長?」

目一「じゃあ報酬はこちらで用意させていただくわ。念のため寒河江さんも出来る限りの対策をしておいて頂戴」


春紀「…なんでそこまでしてくれるんすか」

目一「別に、ただの気まぐれよ」

乙哉「なんか春紀さんが鳰ちゃんみたいな口調になってるんだけど」

しえな「ボクも思った」

春紀「しょうがないだろ!!」


鳰「でも、いいんスか?」

目一「別に、大したことではないわ。過去の寒河江さんのミョウジョウグループへの貢献度を考えればこれくらい」

春紀「…っす」

目一「それじゃ。まだ仕事が残ってるから」

英「そうでしたか」

目一「鳰さんにりんごを剥いてひとつ残らずあーんって食べさせて子守唄を歌って寝かしつけてから帰るわ」

伊介「結構長居するつもりじゃない」

鳰「理事長、昨日もそう言って仕事してないっスよね」


神長「よかったな、寒河江。これで確実にこの世界から足を洗えるじゃないか」

春紀「あぁ。でも悔しそうな顔しながら言われても1mmも嬉しくないな」

しえな「神長は、ほら…な?」

乙哉「あー、そっか。組織から抜けるので大変なんだっけ?」

神長「わ、私は自分の力であそこを抜け出すと決めたんだ、別に悔しくなんかある」

春紀「せっかく強がってたのに最後の最後で素直に心情を吐露するなよ」

首藤「ワシも手伝うから共に頑張ろう、な?」

神長「うん……」チラッ

目一「ダメです」

真夜「視線で縋ってんじゃねーよ」


春紀「よーし、じゃああたし達はそろそろお暇するか」

伊介「そうね。それじゃ」

晴「あっ、はい!今日はありがとうございました!」

春紀「また来るよ。ほら、あたし近いし」

兎角「私は毎日来るぞ」

しえな「東はいつまでアンパンマンみたいな顔してるんだよ」

晴「で、でもでも!アンパンマンの兎角さんもきっと素敵ですよ!」

伊介「フォローとしてどうなのソレ」

英「というかやった張本人……」

兎角「一ノ瀬はいいんだ!責めるな!」

春紀「愛と勇気すら友達じゃなさそうだな、このアンパンマン」

神長「ぼっちじゃないか」

伊介「鳰みたい」

鳰「なんで急カーブ切ってウチに飛び火したんスか、今」

乙哉「兎角さんも入院してった方がいいんじゃない?」


しえな「そういえば、車はどうしたらいいんだ?」

英「私の家の者が病院まで引き取りに来ますわ」

春紀「そうか。じゃあ冬香を迎えに行って、そこから徒歩だな」

英「あ、もちろん私達は回収に来た者の車で帰りますわ」

乙哉「えー、乗せてってよー」

首藤「まぁ良いではないか。お主らはすぐ家なんじゃろう?」

しえな「そうだぞ。ボクらなんて駅まで歩きだ」

鳰「そういえば、首藤さんはどこに帰るんスか?神長さんと同じ所に帰るワケにはいかないっスよね?」

真夜「そんなの老人ホームに決まってんだろ!」

首藤「番場、首に爆弾を設置してやろうか?」


駐車場


春紀「冬香、待たせたな」

冬香「ううん、もういいの?」

乙哉「まぁねー。おじさんに連絡はした?」

冬香「はい!なんとか誤魔化せたと思います」

兎角「それは良かったな」

ブゥゥゥン・・・

英「来ましたわ」

しえな「あの車か」

春紀「今回は助かったよ。ありがとな」

英「いいえ、こちらこそ楽しかったですわ」

真夜「またな!真昼もあばよっつってるぜ!」

伊介「真昼ちゃんはそんな言葉遣いしないでしょーが」


帰り道


春紀「終わったんだな」

伊介「何が?」

春紀「色々、だよ。今回の騒動も、黒組も、あたしの暗殺者としての人生も」

乙哉「そうだねー。人生そのものが終了しなくてよかったねー」アハハ

春紀「いま真面目な話してただろ!!」

しえな「乙哉はどうするんだ?」

乙哉「何がー?」

しえな「…いつまでも春紀の家に居るワケにはいかないだろ」

神長「そうだな。私は過去と決別しなければいけないが、お前は過去を清算しなければいけない」

乙哉「……わかってるよ」

伊介「ふーん、で?」

乙哉「あたし、晴っちが退院したら刑務所行くよ」

しえな「…!」


乙哉「晴っちが退院したら兎角さんも出てくことになるだろうし。それを節目にしようかなーって」

春紀「……そうか」

乙哉「寂しくなるだろうけど、こればっかりはね」

春紀「寂しくなる?冗談キツいっての」

冬香「寂しいくせにー」

伊介「認めなさいよ」

春紀「なんだよ、伊介様まで」

乙哉「ま、そういうことだから」

首藤「みんなそれぞれの道を歩むんじゃな、これから」

神長「あぁ…!」

兎角「神長にはまだ修羅場が待っているだろうけどな」

神長「……」ズゥゥゥン……

首藤「こ、香子ちゃん!?だ、大丈夫じゃ!ほれ、ワシもついておるし!」

神長「……本当に、あの組織から抜け出せるんだろうか」

首藤「これ東!お主よくも香子ちゃんのネガティブスイッチを押してくれたな!」

春紀「兎角サンはとりあえず空気と行間読めるようになろうな」


首藤「それじゃ、ワシらはこれで」

神長「また会える日を楽しみにしている…あ、これフラグか…」

首藤「香子ちゃん!そんなことないぞ!?」

冬香「短い間ですけど、楽しかったです」

神長「……あぁ、私もだ。あんな大勢に囲まれて温かい暮らしをした経験は初めてだった」

冬香「神長さん……」

乙哉「あたし達はさっき爆風に囲まれて暖かい経験したけどね」

春紀「今は黙ってような」


乙哉「しえなちゃんは?行かなくていいの?」

しえな「ボクはこの先の駅の方が乗り換えが楽だから」

乙哉「へぇ、そうなんだ」

春紀「……あたしら夕飯の買い出しがあるから先に行くな」

伊介「そうね」

冬香「今日はご馳走にしようね!」

兎角「行ってらっしゃい」

伊介「アンタも来るのよ!!空気読めって何回言わせるの!!」グイッ!!


乙哉「……あはは、行っちゃったね」

しえな「だな」

乙哉「……」

しえな「いつから決めてたんだ?」

乙哉「何が?」

しえな「刑務所に戻る時期だよ」

乙哉「別に?さっきなんとなく思ったんだよ。丁度いいかなーって」

しえな「そうか」

乙哉「……」

しえな「……」


乙哉「……」

しえな「乙哉」

乙哉「なに?」

しえな「まだ、ボクを殺したいと思うか?」

乙哉「正直に言っていいの?」

しえな「正直に言う以外、許さないぞ」

乙哉「……わかんないんだよねー」

しえな「またそれか」

乙哉「でもね、ちょっとこの間とは考え方が変わったっていうか」

しえな「どういうことだ?」

乙哉「んー。あたしさ、多分これから…しえなちゃんのこと殺したくなると思うんだ」

しえな「……そうか」


乙哉「今の、あたしなりのプロポーズなんだけど?」

しえな「……ボクから提案がある」

乙哉「なになに?」

しえな「ボクは確かに弱い。だけど情報戦なら負けない自信がある」

乙哉「そうだね。どうやったのかは知らないし説明されてもわからないだろうけど、今日しえなちゃんってすごいんだーって思ったよ」

しえな「……出所したら、ボクと鬼ごっこをしないか?」

乙哉「え?」

しえな「ボクは情報を駆使してお前から逃げ続ける」

乙哉「それ、あたしに捕まったらしえなちゃん死んじゃうよ?」

しえな「だから一生かけて付き合ってやるって言ってるんだよ」

乙哉「……」

しえな「今の、ボクなりのプロポーズなんだけど?」

乙哉「あはは、言うねー」


しえな「どうする?」

乙哉「でも殺されるのなんて誰だって嫌じゃん。逃げるのは当たり前じゃない?どこがプロポーズなの?」

しえな「他の人を手にかけることは許さない」

乙哉「へぇー、なるほどね。約束したが最後、あたしはしえなちゃんを殺すまで誰も殺せないってことだね」

しえな「そうだ。お前みたいな変態に巻き込まれて危険に晒されるのはボクだけで十分だ」

乙哉「……わかった。面白そう、それやろうよ」

しえな「言ったな?悪いけど、お前がどこにいるかなんてボクには容易く調べられるんだからな」

乙哉「簡単に死なれたらつまらないじゃん、上等だよ」

しえな「よし、じゃあ決まりだ」

乙哉「でもさー、それってしえなちゃんからしたらどうなの?」

しえな「何がだ?」

乙哉「だって会えたと思ったら殺されるんだよ?逃げてたら会えないんだよ?それって切なくない?」

しえな「そう思うならその厄介な性癖を直せ」

乙哉「えー、無理だよー」

しえな「だろうな。分かってた」

乙哉「有り得ないけど…でも、もし、万が一そんなことがあったら一緒に暮らそうよ」

しえな「ふん、ボクも有り得ないとは思うけど…お前に殺されてもいいと思えたら会いに行ってやるよ」


春紀「あいつら、平気そうか?」

伊介「会話までは聞こえないけど、まぁ大丈夫でしょ」

春紀「なんだ、回り込んで様子見る必要なんてなかったか」

兎角「私は剣持に盗聴器を仕掛けて来たから会話まで聞こえてるぞ」

伊介「ちょっと、それ早く言いなさいよ。なんて言ってるの?」

兎角「大丈夫だ、カレーの話はしていない」

春紀「誰もそんなこと気になってねぇよ」


そうしてあたし達は買い物をしてから家路に着いた。
家につくと扉の前で退屈そうにしている武智がいて、遅いだなんて文句を言っていたがその表情はどこか清々しいものだった。
きっと剣持との約束がこいつをそうさせたんだろう。
もちろん、その内容についてあたし達は知らないことになっているから本人に言ったりはしないけど。

それから晴ちゃんが退院するまでにあたしは宣言通り、薄暗い仕事との関係を断ち切った。
更にバイト先のおっちゃんに割のいい仕事を紹介してもらって工事現場で働くことも決まった。
暗殺の片手間で仕事をする必要はもうなくなったんだ。あたしは堂々と太陽の下で汗を流すことができる。
すぐには無理だろうけど、高卒認定試験の合格を目指して勉強することも決めた。
かなり遠回りになったけど、真っ当な人生を歩むために精々足掻いてみようと思う。

武智が家に来てから、本当に色んなことがあった。
振り回されていた記憶しかないのに、何度思い出してもあたしにとっては忌々しい過去とは成り得なかった。
心のどっかじゃあの時間を楽しんでいたんだ。わかってる。

たまに、海辺の道で抱きしめた武智の細い腰の感触が蘇ることがある。
あの時はムショにブチ込まれる武智に同情していたけど、そんなのはあたしの杞憂だったんだ。
きっとあいつは剣持との約束を胸にあいつらしく過ごすだろう。
ま、反省してないのは困りモノだけどな。


-そして今日は晴ちゃんの退院の日。


春紀「だからなんであたしの家で快気祝いやるんだよ!」

首藤「しょうがないじゃろ、お主らは未成年で居酒屋にも行けんのじゃから」

春紀「別に飲まなくたっていいだろ!」

神長「まぁ堅いことは言うな」

春紀「アンタ、どんどん首藤の色に染まっていくな…」

伊介「そういえばこれから動くんでしょ?アンタ達」

神長「あぁ。準備は整ったからな」

首藤「今日はその前祝いでもあるんじゃよ」

春紀「これでアンタらと会うのも最後になるわけか…」

神長「死ぬのを想定して言うな!!!」


英「お待たせしました」ゴトッ

春紀「……これ、アンタが作ったのか?」

英「えぇ。腕によりをかけて作りましたわ」

伊介「……変なこと聞くようだけど、料理したこと、あるの?」

英「ありませんわ。ただ紅茶はよく淹れますから、同じ要領で作りましたの」

首藤「そうか……紅茶を淹れる要領で料理するとこのようなゲテモnいや独創的な料理になるのじゃな……」

神長「組織抜ける前に死にそう」

真夜「ちなみに味見した真昼は心神喪失状態だったからバトンタッチしたぜ」

春紀「ガチじゃん」


しえな「それにしても、乙哉はまだか?」

晴「きっと色々買い物を頼んだから遅れてるんですよ。やっぱり晴も一緒に行けば良かったかな…」

兎角「その必要はない。今日は晴が主役なんだから気にするな」

鳰「えー、ウチは主役じゃないんスかー?」

兎角「お前は悪役だろ」

鳰「そんなことないっスよ!」

兎角「たまたま退院の日が被ったくらいで図に乗るな」

鳰「今日はそういう日でしょうよ!!」


首藤「生田目達も来れれば良かったんじゃがのう」

神長「まだ生田目の調子が良くないらしいから無理じゃないか?」

ピンポーン

春紀「誰だ?」

伊介「武智さんじゃないの?荷物重いと思うから手伝ってあげれば?」

鳰「伊介さんが行ったらいいじゃないっスかー」

伊介「伊介はやーよ。こういうのは怪力の仕事でしょ」

春紀「ったく……はぁーい」スタスタ


春紀「鍵なら開いてるぜー?」

ガラッ

春紀「」

千足「久しぶりだな」

柩「来ちゃいました」

春紀「あ、アンタら…!」

千足「すぐに病院に戻らないといけないんだが、主治医の許可は得ている」

春紀「あたしは許可した覚え無いんだけどな!」


首藤「ご苦労じゃったのう、武智……って、生田目と桐ヶ谷!?」

神長「お前ら、どうして…!!」

千足「走りから連絡があって。体調も落ち着いてきているし、食事さえ気をつけて内臓に負担をかけなければということで許可をもらったんだ」

兎角「そうだったのか。ちょうどその席が空いてる」

春紀「そこさっきまであたしが座ってたところだろ!」

柩「ちょっとつめれば二人で座れそうですね」

千足「…あぁ、そうだな」

柩「あっ…ごめんなさい、馴れ馴れしいこと言って…」

千足「いや、その……今日は無礼講だ。気にするな」

柩「じゃあ千足さんの上に座っていいですか?」

しえな「さすがに無礼だろ」


春紀「っつか鳰!お前また勝手に人の家教えやがったな!」

鳰「まぁまぁいいじゃないっスか。二人だけ除け者にするなんて可哀想っスよー」

春紀「あのなぁ……」

神長「おい、首藤。あの席に座らせるのはマズいだろ」

首藤「そうじゃのう、寒河江が座り直すものじゃとばかり思っておったわ」

春紀「よく見たらさっきのゲテモノ料理がてんこ盛りじゃんか」

伊介「せっかく春紀に食べさせようと思ってたのに」

春紀「伊介様まで…」

千足「これは……?」

英「私が作ったお料理ですわ」

千足「りょう、り……?いや、見た目と匂いと使われているであろう食材で判断するのは良くないな。いただくよ」

柩「どれも大事な判断材料だと思いますけど」

首藤「待つのじゃ生田目!!」


千足「私はそんな失礼なことはしない」パクッ

英「お味はどうですか?」

千足「……おい、しい、よ………」

春紀「絶対ウソだろ!!!おい!!大丈夫か!?」

千足「うっ……」バタッ

柩「きゅ、救急車呼んでください!!」

春紀「お前ら何しにきたんだよマジで」

英「美味しいですって。ふふ」

真夜「あ、あー…そうだな……」

伊介「生田目さんのこのリアクション見て喜べるってのもすごいわね」

英「血生臭いことからは手を引いて、お料理という道もアリですわね」

しえな「そのお料理から血生臭い匂いが漂ってることについてはどう思う?」


千足「……」チーン

柩「千足さぁーーーん!!」

兎角「全く、やかましい連中だな」

鳰「まぁいいじゃないっスか。黒組のメンツとこんな風に過ごせるだなんて、兎角さんだって思ってなかったっしょ?」

兎角「……ふん」

ピンポーン

晴「あれ?また…今度は誰だろう?」

しえな「今度こそ乙哉じゃないか?」

伊介「春紀」

春紀「はいはいっと」スタスタ


春紀「遅かったな」ガラッ

乙哉「警察がいたから見つからないように帰ってきたんだよー」

春紀「なるほどな」

乙哉「あたしが入所するのは明日からだからねー。邪魔されたらたまったもんじゃないよ」

春紀「被害者が聞いたら怒られるぞ、それ」

乙哉「まぁね。あ……そっか……」

春紀「どうした?」

乙哉「ううん。この家に”帰ってくる”の、これで最後なんだなーと思って」

春紀「……言われてみればそうだな」

乙哉「色々あったよね」

春紀「色々あり過ぎだっての」

乙哉「あぁ、ダメかな、やっぱり。しえなちゃんと伊介さんが怒りそう」

春紀「……別に、バレなきゃ構わんよ」

乙哉「ホント?今あたし、春紀さんにただいまって言ってキス&ハグしようとしてるんだけど」

春紀「キスはあたしが怒るわ」


乙哉「だよねー」アハハ

春紀「……」

乙哉「……」

春紀「ったく、早くしろよ」

乙哉「いいの?」

春紀「キスは無しな」

乙哉「んー、しょーがないなー」

春紀「こっちのセリフだっての。……おかえり」

乙哉「ただいま!!」ギュー!

ゴトッ!

春紀「って、バカ!買ってきたもん落とすなよ!」

乙哉「やっば!炭酸入ってるのに!」

春紀「何やってんだよ!!!」



おわり

というわけで終わり。もう続かない。
お疲れ様でした。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月14日 (日) 10:56:23   ID: DUfwzgVp

ちたひつもよろしくお願いします(>人<;)

2 :  SS好きの774さん   2014年09月16日 (火) 03:47:38   ID: YSkugvRK

待ってました!

3 :  SS好きの774さん   2014年09月18日 (木) 23:03:28   ID: rpxYQVfJ

完結おめ!
面白かった‼︎

4 :  SS好きの774さん   2014年09月19日 (金) 04:33:57   ID: affE5DV1

わざわざ刑務所戻らんでも

5 :  SS好きの774さん   2014年09月19日 (金) 18:26:47   ID: WkJ7XsXW

面白かった!
最後とてもあったかくて最高だった!
春紀が乙哉に優しくて···。
乙哉が春紀にハグしたいって···。
凄く好きです!

6 :  SS好きの774さん   2014年09月20日 (土) 00:12:19   ID: AcFHMSkO

面白かった!シリーズ完結お疲れ様!
香子ちゃんの組織抜けシリーズが新たに始まるといいな〜(チラッ

7 :  SS好きの774さん   2014年09月21日 (日) 14:13:33   ID: a8zHrhDx

おつかれ!
楽しませてもらいました。
ありがとう!!

8 :  SS好きの774さん   2014年11月18日 (火) 15:08:17   ID: GBNYwOhg

最高だった…
黒組メンバーに幸あれ!

9 :  SS好きの774さん   2014年11月24日 (月) 02:08:28   ID: 8YI31-2H

最高だった。掛け値なしに

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