小鳥「私が仕事をしないとかいう風潮」(28)

小鳥「何故なんですかね?」

律子「何故と言われましても」

小鳥「毎日朝から晩まで、身を粉にして働いてるっていうのに!」

律子「まぁ、そうですね。よくやらかしてはいますけど」

小鳥「今日だって! 世間では休日だっていうのに、こうして出勤してるんですよ!」

律子「そりゃ、芸能事務所なんだからみんなそうですよ。私だってプロデューサーだってアイドルのみんなだって…」

律子「世間のみんなが休んでる時こそ、一生懸命働かないと」

小鳥「いえ、別に仕事自体には不満はないんですよ。もう何年もやってますからね」

小鳥「でも! なんで『仕事してください』とか言われなきゃならないんですかね!? やってますよ、仕事!」

律子「うーん…」

律子「やっぱり、日頃の行いのせいでは」

小鳥「日頃の行い! 日頃からちゃんとやってますってば!」

律子「なんと言いますか、休んでいる時に羽目を外しすぎなんじゃ?」

小鳥「私には息抜きすら許されないって言うんですか!?」

律子「いえ、そういうことではなくて…」

春香「あれ、律子さん、小鳥さん。何を話してるんですか?」

小鳥「あ、ちょうどいいところに来たわね春香ちゃん」

春香「はい?」

律子「ちょっと、小鳥さん…」

小鳥「私ってそんなに仕事してないように見える?」

春香「へ? あ、あの…」

律子「そんな答えにくいこと、アイドルに聞かないでください。困ってるじゃないですか」

小鳥「でも…」

春香「いえ、私は大丈夫ですよ!」

律子「そう? ならいいけど」

小鳥「それで、どう思う? 私って、仕事してないと思う?」

春香「えっと、その前に…」

小鳥「?」

春香「小鳥さんって、いつも何やってるんですか?」

小鳥「!?」

春香「あっ、いやっ、すみません! そういう意味じゃなくて!」

春香「私、仕事とかで忙しいし! 帰ってきても、ぼーっとしてあんまり意識してなくて!」ワタワタ

春香「小鳥さんが机に向かってるのは見ても、何やってるのかまであんまり考えたことなくて、それで!」

小鳥「い、いいのよ春香ちゃん…気を遣わなくて…」

春香「じゃなくて、本当に~!!」

春香「………ということが、この前あったんだよ」

千早「それで…?」

春香「今日1日、小鳥さん感謝デーとしてみんなで小鳥さんのお手伝いをすることになりました!」

雪歩「お手伝い、ですか?」

春香「やっぱり、一緒にやってみた方が手っ取り早いかなぁって!」

真「まぁ、小鳥さんにはいつもお世話になってるからね」

美希「なんかメンドーそう…ミキ、寝てていい?」

春香「駄目だよ! 今日だけだから!」

律子「それじゃ、私は仕事があるので行きますけど…あまり無茶させないでくださいよ?」

小鳥「事務仕事なんですから。無茶なんて大げさな」

春香「それで小鳥さん、事務員の仕事ってどんなものがあるんですか?」

小鳥「えーと、まずは…」

・掃除

春香「…掃除? ですか?」

小鳥「大きな事務所だと専門の清掃員なんかがいるけど、こういうのも事務員の領分よ」

春香「でも…掃除って、やよいが毎朝やってますよね?」

小鳥「え、ええ。やよいちゃんには、本当に助けられてるわ…」

千早「音無さんが掃除をしている姿を、見た事がないのですが…やっているのですか?」

小鳥「………い、いえ…あんまり…」

雪歩「やよいちゃんが掃除した後だから、窓もピカピカだし…」

真「ホコリも落ちてないよね。これじゃ、掃除する余地なんてないよ」

美希「やっぱり、仕事してないんじゃないの?」

小鳥「ち、違うわよ!?」

・郵便物の仕分け

ゴッチャ

真「わ、ダンボールの中に手紙がギッシリ!」

小鳥「うちの事務所に毎日送られてくる郵便物よ。これを、宛先別にまとめるの」

雪歩「えっと、宛先の名前を見て…同じ名前のものをまとめればいいんですよね?」

小鳥「そうそう」

美希「これもカンタンそう。すぐ終わるの」

小鳥「ふふ、そうね…とりあえず、みんなでこのダンボールの中身を仕分けてくれる?」

春香「よーし! それじゃ、ちゃっちゃとやっちゃおう!」

千早「これは事務所に…これはあずささん、これは…あら、ユニット宛だわ。どうしたら…」

春香「それもユニットごとでいいんじゃない?」

美希「ここ、ここ、ここ、ここ…」

雪歩「あ、美希ちゃん。律子さんのはそこじゃなくて…」

春香「えへへ、自分への手紙がこんなにいっぱいあると思うと嬉しいね」

美希「えーと…そろそろ終わり? かな?」

真「結構いっぱいだと思ったけど、みんなでやればすぐだね」

ドサッ

小鳥「わ、もうなくなってる? 凄いわね、みんな」

雪歩「…え?」

千早「あ、あの…小鳥さん、それは?」

小鳥「2箱目。みんなファンの数が数だし、まだまだ序の口よ」

真「つ、つかれた…」

春香「結局、1人につきダンボール2つくらいの量が届いてたね…」

小鳥「午後にもう1箱分くらい来るわよ」

雪歩「ご、午後からも…!?」

美希「小鳥はなんで手伝ってくれなかったの!」

千早「美希、私達が手伝う側よ。しかし、音無さんは何を?」

小鳥「ちょっとね。電話の応対を…」

春香「電話の応対?」

・電話応対

ガチャ

小鳥「お電話ありがとうございます。こちら765プロです」

小鳥「はい…恐れ入りますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

小鳥「はい、田中様でいらっしゃいますね。いつもお世話になっております」スラスラ

小鳥「はい…では、ただ今高木に取り次ぎいたします。少々お待ちください」ポチッ

タッタッタ

小鳥「社長! ………の田中さんから………の件で…」

ザッ

高木「もしもし? 高木です、お電話代わりました」ガチャ

高木「む? おお、保留の解除を忘れていた」ポチッ

小鳥「…と、こんな感じ」ヒソヒソ

春香「おぉ~…」

真「電話応対って、かっこいいですね!」

美希「ちょっと見直した!」

小鳥「そ、そう? そんなにかっこいいかしら?」テレテレ

春香「はい! なんか、凄く…キャリアウーマンって感じ!」

小鳥「ふ、ふふん。まぁ、そういうわけで仕分けには回れなかったの」

千早「私には…少し、難しいかしら」

雪歩「ちょっと不安です…」

小鳥「あ、いや。言うほど難しくはないんだけど…これは手伝わせるつもりはないから安心して」

春香「え、そうなんですか? 私、ちょっとやってみたかったのに」

高木「ほう。そういうことなら天海君、やってみるといい」

小鳥「え?」

高木「なぁに音無君に教えてもらえば大丈夫だろう」

小鳥「え?」

小鳥「…と、こんな感じ。メモを忘れないで…困ったら手元のマニュアル見てね」

春香「はい、わかりました!」

電話『とぅるるるるるるる』

小鳥「あ、来たわよ春香ちゃん」

春香「はい、行きます!」

ガチャ

春香「もしもし、お電話ありがとうございます! 765プロです!」

春香「へ? あ、はい! そうなんですよ~えへへ…応援、ありがとうございます!」

春香「はい! 佐藤様ですね! それでは、ただいまお呼びします!」

小鳥「春香ちゃん、上手ね」

春香「ふっふっふ。できる女、天海春香です! なんちゃって!」

春香「高木社長、電話でーす!」

小鳥「これからピークになっていくけど、大丈夫?」

春香「はい! 任せてください!」

電話『とぅるるるる、とぅるるるるる』

電話『とぅるるるるるるるるるるる』

春香「え、えーと…どれから取れば!?」

小鳥「大変お待たせいたしました。765プロです。申し訳ございません、ただいま混みあっていまして…」

電話『とぅるるるるるってさっきから呼んでんだろ!!』

春香「お、お待たせしました! 765プロです!」

小鳥「はい、はい。ええ…」

春香「え、えっと…はい、鈴木様…え、プロデューサーさん?」

春香「え、えーと、プロデューサーはただいま外出中です。申し訳ありません、はい」

小鳥「あ、春香ちゃん! プロデューサーさんが帰ってくる時間を言わなきゃ!」

春香「わーん、なにこれーっ!!」

小鳥「ふぅ…一息ついたわね。まだかかってくるかもしれないけど」

春香「うぅ…」

千早「春香、大丈夫?」

春香「忙しさと緊張で死ぬかと思ったよ…」

春香「って言うか、小鳥さんは一人で応対してるんですか? これ…」

小鳥「ええ、そうだけど」

春香「うぇぇ…」

雪歩「春香ちゃん、お茶飲む?」スッ

春香「ありがと、雪歩…」ゴクッ

美希「小鳥って、実は結構働いてる…?」

小鳥「実はも何も、堂々とやってますからね?」

真「あ、あの…事務員の仕事ってこれで全部ですか…?」

小鳥「いえいえ、そんなまさか。そうね、例えば…」

・文章作成

小鳥「仕事のメール応対。これも大事な仕事よ」

千早「コンピュータを使うのですか」

小鳥「ええ、あとは大体パソコンを使う仕事ね」

雪歩「メール応対って、どんなことを…?」

小鳥「普通に返信したり、あるいは、こちらから送ったりよ。別に、特別なことはしないわ」

春香「も、もしかして内容も小鳥さんが…?」

小鳥「まさか。そういうのを決めるのは社長達であって、私が勝手に決めちゃ駄目よ」

春香「そ、そうですよね…」

高木「音無君。先程の電話だが、田中さんには来週火曜の午後2時に来てくれるようにメール作成頼むよ」

小鳥「あ、はい社長。えーと、予定は被ってないか…大丈夫ね」カタカタカタカタ

真「い、今の一言で10行くらいの文章が出来上がっていく…!?」

春香「…… …………」

小鳥「送信、っと…」ポチ

真「小鳥さん…ただ来週のことを言うだけで、あんな長文になっちゃうんですか…?」

小鳥「へ? そりゃ、相手に対する礼儀もあるし、これくらい普通よ? 長過ぎても迷惑だけど」

雪歩「だとしても、あんな一言でスラスラ書けちゃうものなんですか…?」

小鳥「え、ええ。ある程度テンプレートみたいなものもあるし、そう驚かれると逆に困っちゃうんだけど…」

千早「私達から見て大変そうでも、実際はそこまで大変な仕事ではない…ということですか?」

小鳥「ええ。毎日やってますからね、慣れてるのよ」

美希「ふーん、じゃあ結構カンタンなんだ」

小鳥「うん、簡単簡単。みんなにやってもらった仕分けの方が、単純作業の分精神的にキツいと思うわ」

春香「でも、そういうことをサラっとやっちゃうのってやっぱりかっこいいですね」

小鳥「ふふっ、ありがと」カチッ

ズラーッ…

春香「あ、あの…」

小鳥「?」

春香「簡単だと言っても…これ全部に返信するんですか…?」

小鳥「全部に全部返信しなきゃ、ってものでもないわ。迷惑メールとか、相手しちゃいけないやつとか、返信する必要もないメールも結構あるから」

春香「あ、そうなんですか。それって、どれくらいあるものなんです?」

小鳥「そうね、日によるけど…1割から2割くらいかしら?」

春香「…… …………」

雪歩「1割2割って言っても、そもそも何千通も来てるよね…?」

小鳥「さて、一通り目を通しておかなきゃね…」

真「あの、小鳥さん! ボク達も手伝います!」

小鳥「そう? それじゃ、そっちのパソコンに私が読み終わったメールを送るから、それの返事を書いてくれる?」

真「はい、任せてください!」

小鳥「書き終わったら、私が確認してアドレス入れますからね」

真「よし、それじゃ…」

真「………………」

真「小鳥さーん、どういう風に書けばいいんですかー?」

小鳥「あ、ご、ごめんなさい。これ、マニュアル」

春香「先程の電話応対のもそうですけど、マニュアルは手作りですよね? こんなのも用意しているなんて…」

小鳥「マニュアル作ったのは律子さんよ」

春香「あ、そうなんですか」

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