博士「豚が成る木を作ったぞい」(26)


助手「 豚が成る木?」

博士「そうじゃ。このヒヅメの形をした種を植えるじゃろ。すると豚が育つんじゃ」

助手「それって家畜でいいんじゃないですか?」

博士「お前は本当に想像力がないのう。植物と動物、育てるならどっちが楽か分かるじゃろ」

助手「植物だって楽ではないですよ」

博士「うるさーい!!とにかく育てるぞ!!日光と水だけで育つ豚が流行らない訳なかろう!」

助手「まあそこまで言うなら育ててみますか」


二日後

博士「見ろ、芽が出たぞい」

助手「普通の植物みたいですね。少し意外だ」

博士「あくまで豚が成る木じゃからな。果実の変わりに豚が育つんじゃ」

助手「臭そうな木だなぁ。ちなみにどれぐらいで育つんですか?」

博士「普通の豚と同じく半年ぐらいで出荷できるぞい」

助手「木なのに早いんですね。流石博士です」

博士「褒めても何も出んぞ」


二ヶ月後

助手「大分育ったけどまだ普通の木ですね」

博士「そりゃ果実が育つのはまだまだ先だぞ」

助手「つまらないなぁ。豚が木になる光景が気になるのに」

博士「確かにつまらん。お前の洒落もな」

助手「....」

博士「まっ、気長に待てばよかろう。そのうちマスコミが騒ぐに決まっとる。楽しみじゃ」


四ヶ月後

博士「果実が実り始めたのう」

助手「凄い。リンゴの木みたいだ。でも足が宙ぶらりんで動いてて気持ち悪い」

博士「どうせ食べられるんだからなんでもよかろう」

助手「まあそうですけど。本当に美味しいんですか?」

博士「保証はできんな。だが予定では普通の豚と大差ないはずじゃ」

助手「適当だなぁ」

博士「まっ、そん時はそん時じゃ」


六ヶ月後

博士「ついに収穫期じゃの」

助手「ようやくこの騒音から解放されるんですね」

博士「まさかここまで育つとは思わんかったからのう」

助手「一本で二十匹はいますよ。本当成長の早い木ですね」

博士「ワシは天才じゃからの」

助手「これを見たら認めざるを得ないですね」

博士「それに今日はマスコミも来るぞ。収穫にピッタリじゃ」


アナウンサー「聞こえますでしょうか。この騒音が。これ全部豚の鳴き声なんです」

アナ「現在私は、豚が成る木の開発に成功した博士さんの元に来ています」

博士「ようこそ、我がラボへ」

アナ「こんにちわ、博士さん。早速なんですが何故豚の成る木を作ろうと思ったのですか?」

博士「なんとなくじゃ」

アナ「なんとなく...ですか。しかしこれは世紀の大発明ですよ!食糧問題を解決する強力な助っ人になると話題になっています!」

博士「そうかい。ま、一つ食べてみなされ。収穫してくる」


博士「助手、一つ持ってきて焼いてくれ」

助手「分かりました」

アナ「ご覧ください!今助手さんが果実の収穫に向かっています」

アナ「....」

アナ「豚が抵抗しています。巨大な鋏を持った助手さんに怯えているのでしょう」

アナ「しかし....あぁ、手足が宙ぶらりんな豚は為す術なくただ鳴くことしかできません」

アナ「....残酷ですね」

博士「なーに言っとる。当たり前じゃろ」


アナ「そ、そうですよね!すみません。こういう現場に慣れてないもので!」

助手「焼けましたよ」

博士「それじゃいただこうかの」

アナ「では、いよいよ実食です!既にいい匂いが漂っています。美味しそう」

助手「お先に。ん、思ってたよりうまいですね」

アナ「美味しい!!普通の豚より美味しいです!!」

博士「流石ワシじゃな」


アナ「ご馳走様でした!本当に美味しかった。博士さん、ありがとうございました」

博士「宣伝になりゃそれでいい」

アナ「え、と。何か最後に一言ありますか?助手さんもよければ」

助手「特に」

博士「来週には食卓に並ぶことを期待してるぞい」

アナ「お二方、ありがとうございました。以上でこのコーナーを終わりたいと思います。また来週~」


助手「アナウンサーさんも帰りましたね」

博士「忙しいのはこっからだぞい。今からこいつらを収穫せねばならん」

助手「業者雇ってないんですか!?」

博士「そんな金はない。来るのはトラックだけじゃ」

助手「ええ、勘弁してくださいよー....」

博士「次の収穫は大量の業者がやってくれるじゃろう。その頃には大金持ちじゃ」

助手「トホホ....」


一週間後

助手「博士!豚全然売れてませんよ!」

博士「なんじゃと、ちゃんと店に並んどるんだろうな」

助手「勿論、ただ消費者には意図的に避けられてますね」

博士「何故じゃ!!」

助手「倫理的な問題です。木から成る豚は残酷だと....」

博士「何をボケたこと言ってる!家畜と変わらんじゃろうが!」

助手「それが...この記事を見てください」


博士「新聞か...何々...」

植物豚に非難殺到!問われる倫理問題!
現在最も注目を浴びている社会問題の一つ、果実として豚が成る木、通称植物豚についてアンケートを行った。

アンケートの結果『家畜は殺されるまでは幸せなのに植物豚は生まれたこと自体が不幸だ』と言った意見や『豚の手足は地面を歩くためにある。その自由すら奪う植物豚は倫理に反する』と言った意見が多い。

確かに植物豚は食料危機を救う救世主になり得る存在ではあるが、そのために豚の尊い命を軽率にすることが問題視されている。

助手「....」

博士「なーにが倫理じゃ!ふざけたことぬかしよって!」


助手「まあ気持ちは分かりますがね」

博士「どこがじゃ!食うか食われるかの世界で甘えたことぬかすんじゃないぞ!」

助手「まあそう怒らずに。売れない事実は変わりませんから」

博士「やかましい!こうなったら世間の偽善が如何に無駄であるか証明してやる!」

助手「何をするんですか?」

博士「お前は黙って手伝えばいい!作るぞ!」

助手「はあ...」


博士「できたぞ!」

助手「なんですかこれ?イヤホンみたいな形してますけど」

博士「翻訳機じゃ。豚の気持ちが分かるぞい」

助手「それでどうすると?」

博士「まだ分からんのか。家畜の気持ちを知れば奴らの偽善に意味がないことなど一目瞭然なのじゃ」

助手「はぁ...」

博士「とにかく養豚場に行くぞい」

助手「あっ!博士待ってください!」


養豚場

博士「着いたぞい」

助手「疲れた....」

博士「それじゃ、助手よ。早速これをつけて奴らの側に行ってみろ」

助手「分かりました」ピッ !

助手「....!!」

助手「凄い!!豚の言葉が分かる」

博士「当たり前じゃ。早う翻訳せい」


豚1「おい、後何日で出荷だ?」

豚2「後74日だな」

豚1「なんとかして逃げる手段はないのか?」

豚2「無理だな。柵を破るほど数はいないし監視もいる」

豚1「やはり俺たちは出荷される日をただ待つことしかできないのか」

豚2「....そうだ」

豚2「飯を食わず餓死する直前まで耐えた豚は体型を理由に殺された」

豚1「...死にたくない」

豚2「それが俺たちの運命なんだ....」


助手「....」

博士「分かったか。豚とて肥えたくて肥えとる訳じゃないんじゃ」

助手「悲しい世界ですね」

博士「植物豚の方が幸せじゃ。奴らは家畜ほど頭が良くないから出荷されるなんて考えてもおらん」

助手「そうかもしれませんね」

博士「結局は人間のエゴ。ワシの発明を信用できんからそれらしい理由を付けて避けているだけじゃ」

助手「....」


博士「いいか、世の中はどんどん便利になっている。その中には必要性を感じられん便利もあるかも知れん」

博士「ワシの植物豚のようにな」

博士「じゃがな、お前には必要性を感じられない便利でも誰かにとっては必要なものなんじゃ」

博士「科学の発展は世の中を救うこともあるんだぞい」

助手「....終わりですか?」

博士「バッチリオッケーじゃ」

助手「んじゃ録画止めますね」ピッ !


博士「後はこれを動画サイトに投稿すればオッケーじゃろう。それっぽいこと言ったからのう」

助手「本当よくそんな柄にもないこと口からポンポン出てきますね」

博士「植物豚が売れんとワシの研究費が滞るからのう。翻訳機のせいで大赤字じゃ」

助手「まっ、先行投資ってやつでしょ。これで勝手に議論が深まって植物豚が売れれば思うツボなんですけどね」

博士「流石に金の成る木は作れんからのう」


助手「結局本音はそれですか。少し残念です」

博士「そりゃそうじゃ。金があっての世の中じゃ」

助手「....」

博士「じゃがのう」

助手「?」

博士「豚は食ってるくせに植物豚が可哀想だとか、命を重んじろとほざく偽善者にうんざりしたのは本音じゃよ」

助手「そうですか。よかった」

博士「んじゃ、帰って余った植物豚でも食うか。命の恵みに感謝じゃ」

終わりです。ありがとうございました

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