魔王「っしゃあ!働くぜ!!」(21)

魔王「魔王に就任して早1週間!」

魔王「側近は何もしなくていいつってたけど、もう限界だ!退屈すぎる!」

魔王「魔王として!魔族のみんなのために、バリバリ働くぜ!!」


魔王「…って、何すりゃいいんだ?」

魔王「町で市民に聞きゃいいか!っしゃ!行くぜ!!」

酒場

「おい坊主、どこの誰か知らんが、ここはガキが来るとこじゃねえぞ」

魔王「そうなのか、今度から気をつけるぜマスター!」

マスター「おおよ、じゃあ気い付けて帰れ」

魔王「その前に、聞きたいことがあんだけどよ!」

マスター「お?言ってみな」

魔王「魔王って何すりゃいいと思う?」

マスター「さあ、まあ国の長なんだから統治してりゃいいんじゃねえの?」

魔王「トウチ?難しいこた分かんねえぜ!もっと分かりやすいことにしてくれ!」

マスター「んー、一昔前だと世界征服とかか?勇者が魔王狙ったように人間の国王抹殺とか」

マスター「ああ、あの頃は楽しかったなあ…俺も前線で人間の騎士をばっさばっさと…ってもういねえ」

マスター「何だったんだあいつ」

魔王城

魔王「ただいま!」

「どこに行ってたんですか!心配したんですよ!?」

魔王「そいつは悪かったな、側近!」

側近「はあ…まあ無事で何よりです…」

魔王「ちょっと人間界に行ってたんだ!」

側近「人間界!?何故そんな遠くまで…」

魔王「ちょっくら世界征服にな、大国の王さまシメてきた!」

側近「何てことを!」

魔王「何かまずったか!?」

側近「まずいに決まってるでしょう!」

魔王「まじかよ!」

側近「当然です!人間との争いは、もう30年も前に相互不可侵という形で終結しています」

側近「にもかかわらず、国王に手出しなどすれば、また戦争に逆戻りしてしまうんですよ!?」

魔王「知らなかった…まじですまねえ!」

側近「はあ…もう過ぎたことは仕方ないので、今度こそ!」

側近「何もしないで下さいね?」

魔王「おう…」

1ヵ月後

魔王城

魔王「やっぱじっとしてらんねえ!!」

魔王「周りでみんなきびきび働いてんのに俺だけ食っちゃ寝とか!」

魔王「罪悪感半端ねえ!」

魔王「もっかい町行くぜ!!」

賭博施設

魔王「前回は変に質問しすぎてミスったからな、今回は立ち聞きに徹するぜ!」

「くそ!また負けた!ここ最近何から何までついてねえな」

「どうした?何かあったのか?」

「この前、ダチと親父が殺されてよ、人間にな」

「ああ、この間魔王が馬鹿やってから魔族が襲われること増えたもんな」

「だよな。しかも今度は大軍で攻めてくるって話じゃねえか、俺の家国境付近だぜ?勘弁してくれよ」

「災難だな、お前」

「全くだ、魔王もこういう連中潰してくれりゃいいのによ…」

「おいおい、それじゃまた大事になるだけだろ、がはは」

「違えねえ、はは…」

二日後

魔王城

魔王「ただいま!」

側近「お帰りなさい…」

魔王「側近!あのさ…」

側近「人間の連合国部隊を壊滅させたんですよね!」

魔王「お、おう、何でもう知ってんだ?」

側近「宣戦布告を受けたからですよ、これですこれ!」

魔王「やたらいい紙だな、どれどれ」

…貴国の長が丙の月20日、南北連合国による軍事演習時に部隊を襲撃。

犠牲者総数167850余名、内死者34名、行方不明者3680名、負傷者…


…上記の不当行為に対して、我々南北連合国は誠実な対応を求める。

死傷者に対する別紙事項に基づく補償、及び別紙に記載された条件による領土の割譲…


…以上が期日までになされない場合、我々南北連合への敵意ありとみなし、

連合憲章に基づき集団自衛権の行使することをここに宣言する。

魔王「何が言いてえのかさっぱりわからねえぜ…」

側近「要約すると、この前よくもやったな、許さんぞ!ってことですよ」

魔王「なるほどな!」

側近「詳しくは、許す条件がまだ届いてない上、期限は明日なので、実質攻め込むぞと言われたようなものです」

魔王「よし!じゃあ俺が…」

側近「やめて下さい、もう勝手に動かないで下さい」

魔王「側近…お前、泣いて…」

側近「前回、何もするなと言ったのは言い過ぎでした、ごめんなさい」

側近「今後はあなたの力が必ず必要になります」

側近「そのときは、私たちが、お願いしますから、その通りに動いて下さい」

側近「もう、勝手に一人で動かないって約束して下さい。ね?」

魔王「ああ、分かった…」

半年後

魔王城

側近「人間たちは物資に限界が来たようです」

魔王「ここんとこ大軍で来ないのは理由があったんだな、ところで物資って何だ?親衛隊長」

親衛隊長「戦争に必要なものです。食べ物とか武器とか馬とか、分かりやすいのはこの辺ですかね」

側近「こちらから敵を追うことはないので、戦争の終わりも近いと考えて下さい」

魔王「そりゃいいぜ!で、俺は何すりゃいいんだ!?」

親衛隊長「暫くはゆっくりしててください、必要になればまた呼ぶので」

側近「お勉強でもしましょう、まずは歴史から」

魔王「おう!分かったぜ!!」

1ヵ月後

魔王城

魔王「勉強より戦闘訓練のが性にあってるぜ!」

「若は相変わらず元気ですな」

魔王「まあな!ところで、ゴーレムはどうした!?最近見ねえけど!」

「わしの前任の指導者ですか、先日殺されました」

魔王「まじかよ!誰に殺されたんだ!?」

現指導者「勇者です」

魔王「勇者だあ!!?」

側近「知っています、2週間ほど前に旅立ったようです」

親衛隊長「神の加護を受け、退魔の力を持つ、魔族の天敵といっていいでしょう、勇者は」

魔王「何で教えてくれなかったんだ!」

親衛隊長「だって教えたらあなた、また一人で飛び出してっちゃうでしょうよ」

側近「今回は陛下でも危険のある相手かも知れないので、それは避けようと…」

魔王「おい、誰が一人で飛び出すっつった?」

親衛隊長「今までそうだったでしょう」

魔王「もう違う!俺は馬鹿だけど約束は守る!側近!どうすりゃいい!?」

側近「陛下…!それでは、彼とともに勇者捜索部隊に入って下さい」

親衛隊長「またお守りですか…」

魔王「っしゃあ!行くぜ!!」

1週間後

草原

親衛隊長「俺としたことが、奇襲に気付けないなんて…」

「一体は足止めできたぞ!」

魔王「卑怯な真似しやがって!お前ら、何者だ!」

「魔族に名乗るほど安っぽい名は持ち合わせていません!」

「まあまあ、それじゃゴロツキ同然だぜ?僧侶」

「戦士の言う通りだ!それに俺たちは誰に恥じる名もない!!」

「俺は勇者!神から力を授かり、魔王を退治する者!!」

魔王「お前が勇者だったのか!と、俺は魔王だ!!」

勇者「何!?」

親衛隊長「坊ちゃん…」

魔王「何だ親衛隊長!?」

親衛隊長「勇者が予想以上に強かったらすぐに退いて下さい、逆なら殺さないで下さい」

魔王「おう!分かったぜ!」

勇者「舐めるな!貴様など俺一人で十分だ!くらえ!勇者スラッシュ!」

魔王「うおっと、気迫の割りに遅い技…そうか!小手調べか!」

勇者「愚弄するつもりか!勇者スラッシュ!」

魔王「なら俺も小手調べだ!くらえ!ギガトンパンチ!!」

勇者「うわああああああ!!!」

戦士「うそだろ…?あの勇者を一撃で…」

魔王「おい!さっさと戻って来い!この程度でやられるわけねえだろ!!」

僧侶「あわわ、やられちゃってます鎧の右胸陥没してます回復しなきゃ…」

親衛隊長「人間はゴーレム程打たれ強くはないんです、こんなもんですよ」

魔王「ゴーレム倒したからってあいつより硬いわけじゃねえのか!知らなかったぜ!」

僧侶「ベホイミ!ベホイミ!わあん、回復が間に合わない!」

親衛隊長「このまま死なれると厄介なんで、全快させてやって下さい」

魔王「おう!」

魔王「『緑の精霊たちよ、その輝き光る、聖なる木の恵をここに』」

魔王「生命の樹」

戦士「治しちまったぞ、敵なのに」

僧侶「私まで回復してます!」

親衛隊長「この場の全員が全回復してるんだが」

勇者「…何のつもりだ?敵の傷を癒すなど」

魔王「やれって言われてやっただけだ!で、次はどうすりゃいい!?」

親衛隊長「こっちの話が終わるまで反復横跳びでもやってて下さい」

魔王「おう!っしゃあ!新記録目指すぜ!!」

親衛隊長「と、見ての通り、彼は頭が弱いため、責任能力などない」

戦士「みたいだな」

僧侶「もしかして一連の騒動も…」

親衛隊長「その通り、考えなしに行動した結果だ、が、最近は人の話も聞くようになり、こんなことは繰り返さないようになった」

勇者「だから、俺たちに手を引けと?ふざけ…」

親衛隊長「彼がリベンジしたいそうなんで相手してやって下さ…」

勇者「分かった手を引く!!」

1週間後

魔王城

魔王「ただいま!」

側近「お帰りなさい、一体何をしたんですか?勇者が引きこもったそうですよ?」

魔王「ちょっと戦って治して、後は親衛隊長と何か話してたな!」

親衛隊長「物量作戦やめて勇者に賭けてた分、人間たちは打つ手がなくなったみたいだな」

側近「確かに、これでまた相互不干渉に戻りますね。課題は山積みですが」

親衛隊長「まあな、これとかどうするよ」

側近「要求を呑む他ないでしょう…」

魔王「なあ、次はどうすりゃいい!?」

側近・親衛隊長「「昼寝でもしていて下さい」」

魔王「おう!一旦寝るぜ!!」

魔界に対して、神から通達があった。曰く、

 ・今後は城に侵入でもされない限り魔王を城外に出さないようにすること
 ・魔王が暴走した場合に備え、勇者の剣で斬られると封印される呪いを代々魔王に刻むこと
 ・魔王城に勇者の装備を入れると城内の魔族が弱体化する機構を設置すること

上記3点を滞りなく実施するように、とのこと。

側近たちはこれを承諾した。

以来、魔王が直接人間界で行動することはなくなった。

また、魔王が人間に危害を加えた場合には、勇者が魔王城へ乗り込み粛清するのが慣わしとなった。

そうして今日もまた新たな魔王が誕生し、また粛清される。

めでたしめでたし

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