悪魔『魔王の為に、死んどきや』(419)

魔王が書きたいだけの人です。
読んでくれる人いたらありがとうございます。
妄想・爆走・命掛けです。投下スピード遅いのは勘弁してください。
↓からはじめます。


コンコン、とノックの音が部屋に響く

従者「はいな」

返事を待ったとは思えないタイミングで扉が開く
そこからなんの悪びれも無く、とぼけた顔が現れた

魔王「従者いる?」

従者「返事しとるがな」


ニコニコと、部屋にはいりこんできたのは魔王だ
「魔王」のくせに、とても信じてもらえない容貌と態度をとっているが
これがこの世界の魔王

第38代目魔王
魔王史上、もっとも賢く器用で、得体の知れない魔王


従者「……って。なんやの、それ」

魔王「もちろん、書類。 これは申請書類の束だよ」

従者「はあ… 仕事なら執務室でしーや」

魔王「いや、実はお願いがあって」

にっこりと笑うその様子は、どこまでも穏やかで優しげだ
だがこいつのその表情を見ると身の毛がよだつ

魔王というのは、そうして人の心に付け入りなにをするかわからない生き物だ
生存本能に近い何かが、早鐘を打ち付ける


従者「お願いとか…… ほんま嫌やねんけど……」

魔王「従者って 今、疲れてたりする? 集中力ってある?」

話を聞く気は無いらしい
付き合いも随分長くなったし、魔王自身には敵意も悪意もないのはわかりきっている
本能的に警戒してしまう自分を諌めて、いつもどおり対応する

従者「あ? …いや、昼飯くったあとやし、大丈夫やけど。何をさせる気や」

魔王「予知、してほしいんだ」

従者「予知? 何をや?」

魔王「うん。俺が、これらを読んで熟考した末にどれをやることにするか 予知してくれない?」

従者「……どんなインチキやねん。まっとうに仕事してくれや」

魔王「してるよ?」

従者「『選ぶのめんどうやし、未来の自分がどれ選ぶか教えてくれ』っちゅー話の、どこがまっとーやの!?」

魔王「やだなー そんなことしないさ」


ケラケラと笑う魔王
いつもこうだ。頭をかかえるしか他にやりようもない
ため息を隠すことすら出来ない

従者「しようとしてたやろうが…。 ちゃんと読んで、必要なんを選んだりーや」

魔王「ああ、それはもう終わったんだ」

従者「は?」

魔王「これは、最終的にボツになった書類なんだよね、実は」


従者「……ボツやのに、選ぶん? なんでそないなことすんねん」

魔王「楽しそうな遊びをおもいついてね」


クスクス笑う魔王。心底楽しそうな笑いは、どうしても抑えきれないらしい
大抵の場合、こういうときはロクなことをおもいついていない


従者「あー。つまりはアレやな。敗者復活戦、的な…」

魔王「いや…、でもそれはまあ、建前のサービスってやつだけどね」


従者「ああもう! まだるっこしぃーやっちゃな! さっさと腹の内をあかしーな!」

魔王「やだなあ、カルシウム不足? そんなに怒らないでよ、あはは」

従者「……ちょーどええ。一回、ぶちのめしたるわ魔王。正直、単純な攻撃力なら勝てると思うんよ、ワイ」

魔王「やだなあ野蛮で。俺はしないよ、そんなこと」

魔王は手に持っていた書類が床に散らばるのも厭わず、その両手を耳元の高さであげてみせた
降参、降伏のポーズだ

魔王のくせに、いつだって簡単に白旗を振ってみせる
しかしその様子はあまりに楽しげで、自分に自信があるゆえの余裕なのだろうとしか思えない


従者「…部下にこんなん言われてひくんかい。ほんましゃーない魔王やで」

魔王「部下じゃなくて従者じゃないか。それに、今日はお願いにきたんだしね」

従者「……お願い、なぁ」

魔王「頼まれてくれないかな」


すこし、悩む
予知。それは自分の持っている能力のひとつであるが扱いは難しい
特に、誰かに予知した結果を知らせるというのは非常に危険なことである

魔王も もちろんそれをわかっている
というより、それを警告したのは魔王自身だ
それなのにこうして予知を頼みに来たというのは、それだけの理由もあるのだろう

従者「……はぁ。しゃーない…魔王はこーゆー奴やしなぁ…」

魔王「よかった。頼まれてくれるんだね?」

従者「ん。ボツ書類の、再選択の結果やったな? …未来が近すぎてもっと先まで“視て”しまいそうやわ…」

魔王「あ、それはやめて。慎重に、選択結果だけ知りたいんだ」

従者「ほんま無茶苦茶いいはるな!」

魔王「それくらいできるだろう? 悪魔・カーシモラル」

従者「……せやな。そんくらいなら、してみせたるわ」


挑戦的で、自信に満ちた口ぶりに変わる魔王
別にワイを挑発してどうこうしようというつもりでの発言じゃない

悪魔・カーシモラル。それがワイの正体
殺戮に長け、世の中の全てを知り、未来すらも知っているという、悪魔

しかしながら自分はその偽者だ
その悪魔を模倣して この魔王に創られた一魔物に過ぎない
それでも魔王は、自らの創作物であるワイに… 
悪魔として製作したワイに、それだけの自信を持っている


従者(創られた側としちゃ、謙遜すりゃ魔王の創作物を貶めるっちゅーことになるし…)

従者(だからって自分のことを褒めちぎる気にもならんし。ほんま反応しずらいわ…)


確かに戦闘能力は高いと自負している
だが世の中の全てを知る能力などない
ただ、すこし記憶力がよくて本を読むのが上手いだけ

最初から未来を知っているわけでもない
ただ、予知能力のおかげで、知ろうとしたことだけならば知ることが出来るだけ
可能な限り悪魔に似せて、だけれど魔物としての立場からは逸脱できない存在

そんな偽者の悪魔
魔物でも悪魔でもない、魔王の最高傑作。それがワイだ


魔王「従者? どうしたのかな、ぼんやりして」

従者「人生と幸せについて本気出して考えてみた」

魔王「なにそれ?」

従者「気にせんでええ、言う気にもならん」

魔王「人文知識を語る悪魔が、黙秘とは。それはそれで興味深いね、何か不穏そうで」

従者「たいそうなことは考えとらんっちゅーねん・・・はぁ」

ワクワクした期待の視線を向けられる
まさか自分の創った生物が、自分の存在について葛藤してるとは思ってもいないのだろう
この魔王なら、それをわかっていて楽しんでいる可能性もあるけれど

従者「……もうええ。ほれ。 予知するんやろ。 その書類、広げて並べて、どれにするか考え始めてみぃ」

魔王「ああ。 ええと、広げ方はこんな感じでいい?」

従者「魔王がちゃんと真剣に選べるようならそれでええ。 しっかり考えてや…ほな、視るで」


ボンッ


魔王「お、変身した」

従者「悪魔の力をつかうんや、悪魔の姿のほうがやりやすいに決まってるやろ」

魔王「いやー、久しぶりにそっちの姿みたなーと思って。やっぱ魔獣モードの従者はふわふわとして可愛いよね」

従者「あほか。男に可愛いとか言われてもなんも嬉しゅうないねん。さっさと集中せい」

魔王「ずっとその、犬姿でいたら 待遇もうちょっとあげてもいいかなって思えるのに」

従者「魔王の従者が小型愛玩犬ってどんなやねん。ただのペット扱いされるわ」

魔王「それは、困るかなあ」

従者「グダグダいっとらんと、3秒で集中せい。せやなかったらもう二度と予知せーへんで…って…」

魔王「……………………」

従者(集中しきるまでに、3秒もいらんかったな、この魔王はんには)

従者(ほな。しっかり視てやらんとね)


ジッ

魔王「………………」

従者「………………」

魔王「………………」

従者「………………」


魔王「………………」

従者「………………」


従者「魔王。 もう、ええで。 一回集中きりや」

魔王「………………」

従者「魔王」

魔王「………………」


従者「魔王はん。おい、集中しすぎやろ、予知のこと忘れてるんか」

魔王「はっ 予知」

従者「なんか一個はじめると、そっちに没頭する癖 どーにかしーや」

魔王「本末転倒が毎回のお決まりだからね」

従者「あほ、なんの自慢やねん」


頭をかかえてみせたワイに
クスクスとわらいながら またいつもの悪びれた様子の無い笑い方をする
余計な脱力感ばかりが増していく


魔王「それで…… 俺は近い将来、この書類の中から、どれを選んでいた?」

従者「ああ、それはやな… って。その前に…」

魔王「ん?」

従者「あ、いや。 選考までの経過を言おうかと思ってんけど。未来がかわるといややし、やめとくわ」

魔王「?」

従者(あんさん、このあとそれ、まるまる10日悩んだらしいでー、とは言われへん…)

従者(なるべく見いひんようにしたさかい、10日後の魔王がそう叫んでるのを聞いただけやけどな)


魔王「それで……、俺は どれにしてた? もしかして、これかな?」

ピラ

従者「いや。ちゃうなぁ。ええと……確か、右端に緑の血印のはいった紙やってんけどな…」

魔王「緑の血印ってことは…… このあたり? 7枚くらいあるよ」

従者「あ、それ。はじのやつやわ」

魔王「え これ?」

カサ…

従者「あんさんは、このあとそれを選ぶ。それが今現状で進むことになる未来や」

魔王「ふむ……」


魔王は紙をしげしげと眺める
どうやら未来の自分の選考結果に納得がいかないようだ
しばらく黙ったまま唸っているのを見て、うっとうしくなって声をかけることにした


従者「んで、なんでそんなことするん? 本当は最初に聞いた方の…そっちのボツ書類にするつもりやったんちゃう?」

魔王「うん。実はこっちの書類は、さっき、俺が一度選んだ申請書類でね」

従者「なんや。ボツの中からも既にえらんどったんかいな。ほな、それにしーや」

魔王「なんかね。違和感があって…」

従者「違和感? なんや、違和感て」

魔王「なんてゆーか…」




魔王「ダンジョンを徹底攻略してボス倒して抜けてみたけど、どうも取りそびれた隠し宝箱がありそうで気になるような感じ」

従者「魔王なんやし、ゲーム脳はやめーや…」


魔王「まあ、そんな感じでね。もう一度再考してみようと思ったんだけど」

従者「ほんなら、普通に再考してくれや」

魔王「嫌」

従者「なんやねん、そのわがまますぎる“嫌“は」


魔王「…予感、っていうのかな?」

従者「予感?」

魔王「多分、こうでもしなければ選択されない何かを探すための、予感」

従者「どーゆーこっちゃ…」

魔王「未来の俺が、他のものではなくこれを選び出すのを 今の俺は知っている…」

魔王「逆にいえば、考え続けて居ればいつかこれを選ぶ。必ず選ぶとわかっている以上、俺はそれまでこれを最良と思う理由を考え続けなければならない」

従者「ああ、まあ しなきゃならないっちゅーことはないけど…。しなきゃ、未来はかわってまうなぁ」

魔王「確かに違う未来もあるんだろうけど。でも、現状ではこれを選ぶ未来があった。ということは、これを選ぶ理由が確かにあるはずなんだ、それが知りたい」


従者「なんや ややこしいなあ…。じっくり考えるだけでも選べたかもしれへんで? その未来」

魔王「いや。多分、選ばなかった」

従者「なんでそう思うねん」

魔王「コレは俺が、3番目くらいにボツにした書類だからさ」

従者「・・・・・・予選落ちもええとこってことか」

魔王「そう。しかも、もし一番にボツにしたやつだったとしたら 予想外を狙って再選考もするかもしれないけど、3番目くらいのやつまで見直したりはまずしない。なにしろこの量だ」

従者「なるほどなあ」

魔王「予知をしてもらって、結果を知って。…ここまでして、ようやくさっきの未来ってのは生まれる事が出来るんだ」

従者「つまり、ワイの見た未来は… 予知をすることでしか得られることのなかった未来やってことか?」

魔王「そう。俺はさっき、その未来を知ってしまった。未来を知ってるからこそ、これからもう一度再選考をはじめる」


魔王はにこにことしたいつもの顔をやめて、そう言った
まじめな顔をして、書類を見つめながら、再選考を宣言した

まるで、自分が口にする事が、未来予言であるかのように
まるで、自分の発言が、言霊のように力を持てばいいと言い聞かせるように

何かいけないものを察してしまったような気がした
だからそれに気づかなかったように、ワイは会話を続けた


従者「ああ、まあ… 結果だけなぞらえてもな。経過がちゃうなら、その先の未来はまたきっと変わるやろうしなあ」

魔王「出来上がった未来が先にあって、その未来は過去に干渉をもつことで実現されている」

従者「タイムパラドックスもええとこやで。実行しなかったら恐ろしいことになるんちゃうかそんなもん…」

魔王「うん、そうかもしれない。未来の変更はあたりまえのことだけど、“過去の変更”…っていうのは容易じゃないはずだからね」


従者「あかん…… 理屈ばっかこねられて、時空間ってもんがわからんくなってきた」

魔王「つまりね。おそらく、予知をして、その未来のために今を過ごそうとする場合、今をその未来に近づけるための修正がはいるんだ」

従者「……修正がはいるって… 誰が何をするっちゅうねん…」

魔王「そこまではわからないよ。適当な想像くらいはできるけど、俺は科学者でも哲学者でもなければ、無神論者だし、運命論とかも信じないヤツだしね」

従者「神を信じてる魔王とかちょっと嫌やな」

魔王「でも、今という過去を変更させないために、何か外部の干渉によってそれを選ぶ未来が消される可能性っていうのは排除されるんじゃないかと思うんだ」

従者「あのな、魔王…… 想像というより妄想やで、そこまでいくと」

魔王「そうかな。何も証拠は無いけれど、この理屈には確信めいた自信があるんだけど」

従者「魔王っちゅー特殊な立場でそんなん言われると、そんな気がしてくるのが嫌や」

魔王「どうすればいいんだよ」

苦笑しながら、魔王は自分のテンションがすこし昂ぶっていたことに気がついたらしい
小さく咳払いをして またにこやかな笑みを顔に貼り付けた


魔王「ともかく、すごく遠回りをすることになっても。思考を中断したとしても。いつかはこれを選ぶと決めて、それが実現するまでは必ず考えると決めていれば…」

魔王「ほかの何かに邪魔をされて状況が変わったりせず、いつかコレを選ぶ未来が来ると…“確定された”ってわけさ」

従者「ほんまに相当めんどくさいで」

魔王「わかってるよ……はあ」

従者「自分でもため息でてるやないか」

魔王「うん。面倒くさいから、今これを選ぶ未来のほうを実現させる。できなかったとしても、いつかは選べるって保険になったし…まあ、やるだけやってみるって感じかな」

従者「なんでそこまでして、それを選びたいのかがわからんで」

魔王「あはは。予感っていっただろ? そういうタイムパラドックスに囚われでもしなければ
見つけ出せないような…俺にとってレアなお宝が、眠っていそうだったんだよね」

従者「お宝ねえ・・・それにしたって、よくまあそない面倒なやり方を思いつくわ」

魔王「自力でそれを掘り出す自信が無かったからね。ちょっと裏技を考えてみたってトコかな」

従者(あー…まあ、確かに答えがないもんには4日も悩み続けられへんよなぁ…)


魔王「予感を信じて、それを現実にする。運命って言うのは従うものじゃなく、自分で手繰り寄せるものなんだ、俺にとっては」

従者(『予感』に『運命』ねえ…。『予知』を手繰ることのできるワイからすると、ほんま不憫やわ)

魔王「何? なんか考え込んでる?」

従者「いや…… じゃあまあ、うん。 頑張って選びーや…」

魔王「うん。 ありがとうね、従者」

従者(10日……寝食取らずに考え続けて丸10日って 結構長いで…。 ほんまがんばり…)

魔王「~~♪」

従者「・・・・・・ほんま不憫や・・・・・・はぁ」

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中断します
相変わらずの不定期更新になるかとおもいますが、よろしくおねがいします


期待支援
つ④

勇者「仲間募集してます」の作者さんと同じ酉だけど同一?

>>22-23
ありがとうございます! 
進展・投下ペース共にスローですが、よろしくおねがいしますw

>>24 自分の書いたものでは無いですねー
というかこの酉は多分、探すとめちゃくちゃ出てくると思います…(苦笑)

↓より投下します


一日目

魔王「うーん…」

従者「何を唸っとんのや。さっきからうっさいで」

魔王「いや…なんでこれなんだろう、と思って。 無駄ばっかりで必要ないと思うんだけどなー」

従者(知らんわ、それを考えて選ぶ理由を導きたいんやろうが)

魔王「うーん……うーん…?」

従者「……あかん、ワイのが仕事にならん。魔王の執務室、借りるで…」

魔王「うーん……これを選ぶわけがないとおもうんだけどな……」

従者(聞いとらんな……はぁ)

―――――――――――――――――――――


二日目

トントン

従者「はいな……って、魔王はんかい。どないしたん」

魔王「ねぇ、ほんとにこれだった? 隣のやつとまちがってない?」

従者「隣? どれやねん」

魔王「こっち。こっちも、緑の血印だし」

従者「明らかに紙の色がちゃうやん。こっちは羊皮紙、こっちは木皮やで?」

魔王「でもでもだって」

従者(……そこまで信用できないなら、きかんときゃええやん)

魔王「どうしてもコレを選ぶ理由が見当たらないんだよね…」

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三日目

魔王「うああああああ! なんでだよ! なんでこれなんだよ! コレでもコレでもよっぽどいいじゃねえか!」

従者(あかん、魔王はんがキレ始めた…『裏技』は効果あるみたいやけど、えげつないなぁ)

魔王「うああああああ! 書類をガン見しすぎてゲシュタルト崩壊おこしてきた!」

従者「ちょっ……、茶でもいれたるさかい、落ち着きぃや魔王……」

魔王「ブツブツ…ブツブツ…」

従者「ほんまに大丈夫なんかいな、魔王…」

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四日目

魔王「じー…」

従者「…魔王はん? なんや、どこにもおらへんと思ったら、そんな自室の隅に丸まって…何してるん?」

魔王「霊視」

従者「……なんて?」

魔王「霊視」

従者「……そ、そか。ほな、がんばりや…」

魔王「じー…」

従者(……あと6日も…ほんまに考え続けられるんやろうか、この調子で…)

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五日目

魔王「従者! 従者、わかったかもしれない!!」

従者「お? なんや、えらい嬉しそうやないか。なんか気になるトコでもあったんかいな」

魔王「そうなんだよ! よく見ると、ほらここ! 差出人の名前が女の子! もしかしたら、調べてみたらものすごく美人なのかもしれない!」

従者「……な、なあ 魔王はん?」

魔王「なに? 従者!」

従者「……“緑の血印”の書類やったよな? 選ぶのは。 これ、赤い血印の書類やんな?」

魔王「……」

従者「無かったことにしたい気持ちはわかる。でもそんな風に自分を誤魔化してもしゃーないで…」

魔王「……いや、素で混乱してたよ…」

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六日目

魔王「……ええと…こっちは鉱物の採掘の許可証、こっちが新規航路の開発依頼で…」

従者「おお。ついに諦めたんか? あの書類選ぶの」

魔王「いや、諦めてないよ。きちんとあれを選ぶまでは止められない」

従者「せやかて工藤」

魔王「工藤?」

従者「ちゃうかった。せやかて魔王、今見てるのは他の書類やんけ」

魔王「うん。ほら、あれを選ぶ理由が無くても、他のを絶対選ばない理由ならあるかもしれないと思って」

従者「どういうこっちゃ」

魔王「あれが、消去法で残った唯一のセレクトだった可能性も捨てきれない」

従者(えっ、あれってそんなにアカン書類なんか…?)

―――――――――――――――――――――


七日目

魔王「ブツブツ…」

従者(……? 魔王、書類を全部広げなおして、何やってるんやろか…こっそり見たろ)

魔王「ブツブツ……」

従者「……?」

魔王「♪どーれーにーしーよーおーかーなー てーんーのーかーみーさーまーのー いーうーとーおーりー」

従者(そろそろホンマにやばいな)

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8日目

従者「魔王が失踪した」

侍女「!?」

従者「多分、どっかで紙切れ一枚抱えて、おかしゅうなってるのが魔王や。迂闊に近寄っちゃあかんで、見つけたらワイにすぐに言いや」

侍女「は、はいっ! あの、魔王様は一体どうなさったのですか!?」

従者「ノイローゼやな」

侍女「魔王様がノイローゼ!? 一体どのようなお悩み事なのでしょう!」

従者「あー… まあ、なんちゅーかな、宝箱目当てのフルコン目指してドツボにはまったっちゅうか…」

侍女「宝!? 魔王様のお望みの宝とあらば、至急、国中の魔族の長老たちの蔵を調べさせて…!!」

従者「やめたって」

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九日目

従者「カリカリ…カリカリ…」

従者「カリカリ…カリカリ…」

従者「魔王おらへんと、めっちゃ仕事はかどるな」

従者「カリカリ…カリカリ…」

バタンッ!!

従者「うわっ!?」

魔王「ただいま……」

従者「あ、ああ、魔王はんか… どこいっててん…」

魔王「頭、すこし冷やしたくて…。 女神の泉に沈んでみたら、神気すごくて弱っちゃって。浮上できなくなってた」

従者「…………自殺未遂?」

―――――――――――――――――――――


そして、10日目…… 執務室

従者(さて…あれから10日。未来が変わっていなければ、今日はついにあの書類を選択する理由が見つかるはずや)

魔王「……はぁ…」

従者「ま、まだ見つからんの?」

魔王「そろそろ視線で、本当に紙に穴が開いてもおかしくないんだけどね…」


魔王は頭をぐちゃぐちゃと掻き回す
泉にもぐっていたというだけあって、ふけのひとつも落ちてこないものの、その疲労感は目に余る


従者(……未来が、かわってしもたんやろか。あれを選ぶ理由が見つかるっちゅー想像ができひん)


魔王「……なんか、さ。こんだけ考えてるのに なにひとつ進歩が無い」

従者「ああ…そやなあ。でもそんだけ選ぶ理由がなさそうだからこそ、予知をしてまで選びたかったんちゃうん?」

魔王「そうなんだけどね」

従者「せやろ?」

魔王「そうなんだけどね! わかってるんだけどね!」

従者「なんや、そないな大声ださんでも聞こえ…おい、魔王。なんか瘴気立ち上っとんで、あんさん」

魔王「あああああ・・・もう・・・もう・・・ こんな・・・こんな」

従者「ちょっ、魔王はん? 落ち着きや、魔力まで上昇してきて…」

魔王「プチ」

従者「……ぷち?」


魔王「もういい」

従者「な…なにがや」

魔王「未来とか変える!! 修正の観測をしてみたいとこだったんだよ! ってい!」

従者「コラ、書類投げんなや…」

魔王「ははははは!」

従者「おかしゅうなっとるやないけ。 あー、あれ? 修正の観測って、選ばなかったとしたら、どうにかしてそれを選ばせるように、時空や運命が干渉してくるっていう?」

魔王「その通り! つまり“選ばなければ”、ヒントがでるかもしれない! ってことで…」


魔王「いっくぜえええええええ!!!! 焼 ・ 却 ・ 術ううぅぅぅぅぅ!!!」

従者「!?」


魔王が手を広げ、腕を大きく振り払う
すると空中に突如として炎が現れ、腕に払われるようにして書類に飛び込んでいった

ゴゥアアアアアアア!


青黒い、超高温の炎は 書類を火にくるむと火の玉となって燃え広がる
それは爆発めいた音を繰り返しながら、だんだんと威力を増して巨大な火柱に膨れ上がる

魔王「……ふんっ! 見たか、俺の全力の“焼却”を!!」

従者「な…な…」プルプル

魔王「すこしはスッキリしたね!」

従者「~~~っ! まぁぁぁおぉぉぉぉうぅぅぅぅぅぅう!!」

魔王「ん?」

従者「ん?じゃないで! なにしてくれはんのや! 書類一枚燃やすのに最大級で焼却術唱える阿呆がどこにおんねん!」

魔王「ここに!」

従者「胸張んな!! ほんっまに怒るで!!」

魔王「ま、待て! 従者!」

従者「なんや!!」

魔王「執務室の防炎カーペッドが溶けている!?」

従者「あたりまえやろ!? 魔王の焼却術に耐えられるカーペットなんかあるかいな!! どんなマジックアイテムやねん!!」


魔王「まて! 大変だ、従者!」

従者「今度はなんや!?」

魔王「炎熱のせいで、床の材木部分が火事になってる!! っていうか室内が大火事だ!!!」

従者「あんさんがやったんやろが! あっつ! あっついっちゅーねん!! はよ消化しーや! 」

魔王「っ! な… なんてこった! 従者!」

従者「ええ加減にうっさいで!! はよどーにかしろや!! ワイが燃えてまう!!」


魔王「………違う。見ろ」


絶対的な服従を意識させられる、そんな威圧感
魔王の口から放たれる否定の言葉は、意図を問わず、ただそれだけで死刑宣告のようだ
このまま業火に焼かれることになろうと、逃げることは許されないのだとわかる
この、焼かれながらも一瞬で体が冷え切るような体感覚ばかりは、何度経験しても慣れることは無いのだろう


従者「………あ… な、なんやねん…」

魔王「……見えるか、あれが」


視線の先には、一枚の書類
超高熱の炎の中で、熱風に“踊っている”一枚の紙
燃えることなく、ただ焼かれる勢いのままに 業火の中でヒラヒラと…舞い揺れる影が見えた


従者「…………なるほど、なぁ」

魔王「……なるほど、だね。流石にその可能性は考えていなかった」

従者「火を消しや、魔王。 いっくら燃やしても無駄そうやで、コレ」

魔王「悔しいな、灰燼に帰してやりたかったほど憎い書類なのに」

従者「残念やったな」


魔王は炎柱に向かって吐息を吹きかける
まるでバースデーケーキのろうそくを吹き消すような仕草で、簡単に消し去ってしまった

従者(自分で出した炎やゆーても、こういうことを何気なくしてまうところが恐ろしいんよな…)


魔王「これを選ぶ理由…か。 そりゃ、いくら睨めっこしていても見つからないはずだね」

従者「まさかなぁ。書類自体にこんな『永久存続』の術をかけとるとはなぁ…」

魔王「永久存続? 対魔法防御とかではなく?」

従者「魔王の術に耐えられる防御術なんかあらへんやろ… やるなら、もっと基本的なやり方や」

魔王「ふむ…永久存続なんてやつのほうが、ありえなさそうだけどね」

従者「その書類。ちぎってゴミ箱に捨てぇ」

魔王「検証? 大丈夫なのか、そんなことして。 もし物理攻撃には反応しなかったら…」

従者「大丈夫や」

魔王「…んー。まあ、従者がそこまでいうなら。 ……本当に平気かなあ…」


ビリビリビリビリ―

魔王「え゛」


従者「おお、破りやすそうな紙やね。よう裂ける」

魔王「だ、大丈夫っていったじゃないか!! どうすんだよ、破いちゃって!!」

従者「ゴミ箱に捨てる」

魔王「なめてる? 怒るよ?」

従者「うっとうしいねん、魔王。 貸してみ。 ほれ、こう…… びりびりびり、びりびりっと。んで、ぽーい!」

魔王「ああっ そんな紙ふぶきみたいにして…!! 他のごみと混ざってわからなくなるよ!」

従者「魔王、そういや他の書類の束、どこやった?」

魔王「机の上! ああもう、ジグソーパズルは嫌いじゃないけど、ゴミ漁りとかなんで俺が…!」

従者「……机の上…ああ、これか。 多分やけど、ここの中に…」

魔王「あ、あれ? これはこないだちぎった決済ミスの書類で…こっちは…あ、あれ? どれだ!?」

従者「魔王」

魔王「なに! いま忙しい!」

従者「ほしいもんは、コレ、やろ?」


ボツ書類の束に混じって、一枚の羊皮紙がでてくる
緑の血印。まぎれもなく 先ほど破り捨てたはずの書類


魔王「……馬鹿な」

従者「これは相当やな。悪意を持って消滅させようとした途端、身代わりを置いて隠れ逃げるような真似をしはった」

魔王「……すっかり消滅したと思わせて…何気ない顔をして戻っているとはね」

従者「まるでウツセミの術や。どういう仕組みかまではわからんけど」

魔王「永久存続…そんな術があるなんて聞いた事が無かった。便利だな」

従者「ワイかて、そんな術は聞いたことあらへんし見たこともあらへん。でもその可能性があるっちゅー話や」

魔王「つまり?」

従者「古術の類やろうな。大昔に学術研究が流行った、一種の不死の術や」


魔王「不死…そんなものをまだ研究するやつが? いや、それより可能だってことか?」

従者「何者かを不死にするなんちゅー成功事例はきいたことあらへん。まず無理やろうけど…」

魔王「……簡素な“無機物”に対してならば、成功していたってことか。面白い」

術者「あかんで。これは、紙1枚やからええけどな。……それでも、どれだけの術者の魔力を吸い取ったかわからへんシロモノや」

魔王「……物騒だなあ。何人くらい死んだのかね、コレのために」

わかっているのか、わかっていないのか
目の前にあるそれは間違いなく禁忌に抵触する物体だというのに
魔王は苦笑をしつつ、楽しげに目を細めるばかりだ

従者「……送付元はどこや」

魔王「魔樹の森にある、ちいさな村」

従者「なんや、あんな辺鄙なとこに村があったんかいな。ワイ知らんで」

魔王「ああ、正確にいえば『村をつくりたい』、という申請書類だね」

従者「つくりたい? あんな場所に? 物好きやな…どんなやつやねん」


魔王「差出人は……『精霊族・族長分家・末裔』 、か。 これじゃあ、よくわからないな」

従者「精霊族の族長ゆーたら、たしか光の精やったはずや。一族は絶滅しt……あー、衰退したと思てたけどな」

魔王「そうなの?」

従者「魔王なんやし、それくらい知っときや」

魔王「ぶっちゃけ、精霊族なんて見聞きした覚えが無いんだよねー」

従者「神や魔王と同じ、神代から続くとされる古の一族や。どこまでほんまかは知らん、生きてる奴に会うたことないしな」

魔王「そうか…末裔、とあるし。どこかで生き残ったのだろうね。分家ってことは…本家は滅びたか」

従者「まあ、妖精みたいなもんらしいしなあ。隠れて生きる分にはどーにかなるんかもなあ」

魔王「それにしても。名前も性別もわからない書類なんて、不備もいいところだ」

従者「あー。ボツで、それだけはえらばん理由ってそれか?」

魔王「村を作りたいなんていいつつ、目的も規模も、詳細な位置も申請日付も、代表者氏名もない書類だしね」

従者「むしろそこまでいくと、選びそうやな」

魔王「いや…こういうのは、いたづらの投書でよくあるんだよ。珍しくも無いし、やっぱり選ばないかな」

従者(魔王にいたづらとか、規律だいじょうぶなんかいな)


魔王「ああ……。 せめてなー。 性別だけでも書いといてくれればなあ」

従者「……名前は必要かもしれへんけど、性別はどうでもいいやろ?」

魔王「オンナノコだったら、もっと早い段階で選抜してあげてたのになーって」

従者「……まじめに仕事しーや…」

魔王「うん……そうだね!!」

従者「おお、いい返事」

魔王「あたりまえじゃないか!! せっかく10日間もフルに悩み続けて、ようやくこの書類を選んだんだぞ!? さっそく取り掛からない手は無いもんね!!」

従者(あっ、ここか ワイが見た未来は…)

魔王「じゃあ、行ってきてくれるね? 従者! 魔樹の森に!!」

従者「って、仕事するんはワイかい!」

魔王「だって俺、精霊族なんてよく知らないし。情報足りなさ過ぎるし。話、聞いてきてよ」

従者「……明らかに、厄介事なんやけど…」

魔王「がんばっ!」


従者「はあ……。 しゃーない、いってくる……」

魔王「ありがとうー。無事にかえってきてねー」フリフリ


従者「……帰ってきたら、一回魔王のことしばいたんねん、ワイ」

魔王(あっ、それって死亡フラグなんじゃ……)

従者「まあ、こーいうんは実際に見てみたら、たいしたことなかったりすんねん。いってきまー」

魔王(二重の死亡フラグ!?)


魔王「………もしかして…なんか、やばいかな…?」

―――――――――――――――――――――

中断しますー

20レスくらいずつのゆったり投下になりそうです
どうぞ長い目でおねがいします…

あと >>19で 従者が4日と言っていますが、10日の間違いですねw


魔樹の森――

うっそうと茂る魔樹の森
魔樹というのは、土中の栄養の変わりに魔素を取り込み、光の変わりに瘴気を取り込んで生育する珍しい樹木だ
それがここまで密林状態に生えるのは、おそらく世界中でここだけのはず


従者「……気色悪いところや。こんな場所に村を作るとか、ほんまに正気の沙汰やないで」

従者「……しっかし。ほんまに詳細な位置もかかん要望書とか、たしかにボツ書類やな」


森の中を歩き回る
かれこれ2時間ほど、森の中を螺旋状に歩いて範囲を狭めているところだ
森の大きさを考えれば、おそらく1日あれば森の中心まで辿り着けるだろうし、
運がよければそこまでかからず、村を作りたいという者に出会えるだろう


従者「ワイが犬の魔物やからできることやで、ほんま…。 こんな樹海じみたとこ、螺旋状に歩いて片っ端から探すとか」

従者「……ワイのしとることも、正気の沙汰やないなぁ」


知らず知らずに、独り言が増える
遠くで、鳥が喉の枯れたような声で鳴いている


従者「……しゃーない。歩こ…」


その後、ワイは1日どころか3日の間歩き続けても、誰にも出会えなかった

―――――――――――――――――――――


従者「……あかん…疲れた」

ボンッ

従者「魔獣(犬)モード… 省エネやな…」

従者「……………」


空を見上げる
魔樹の枝が伸びに伸びて、日光は遮られ、葉色である紫じみて降り注いでくる
現在位置は、おそらく森のほぼ中央に近いだろうと思う
特に大きな木のそばは、その枝ぶりが大きすぎるためか 円を描くように空間が開けているように見えた


従者「あかん。やる気が尽きた。ここでちょい、休憩…。 休憩っちゅーか、もうほんま、こんなん…」

従者「やっとられっかぁぁぁぁぁあああぁぁぁああああああ!!!!!!!」


ワオーーーン!
犬の姿のときには、ヒトの声を出すのはなかなか難しい
練習を重ねたので、今では普通に喋ることもできるとはいえ、左利きの人間が右利きに矯正したような違和感がある

なので、ストレス発散のために ワイはおもいっきり 遠吠えを繰り返した
単なるヤケクソだった


従者「ウワオオオオオオオオン!!!!!!」

従者「アオーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」

従者「ワオーーーーーン!!!!!」


従者「……はぁ、はぁ・・・」

従者「……な、何をやっとんねん、ワイは……魔王のアホが移ったか」


ひとしきり吠えると、なんともいえないやるせなさが襲いくる
べったりと地面に寝そべる
脚も尾も伸びきって、なんともだらしない姿だろうが、ここには誰も居ない

誰も、居ない


従者「……そういやここまで誰もおらへん場所とか…なかなか無いなあ」

従者「あかん、あかんで、ワイ。自制心っちゅーもんが必要や」ウズウズ

従者「……いくら誰もみてへんからといって…」

従者「見られへんからといって…」

従者「………」


スク、っと 立ち上がる
キッ、っと 後方を睨みつける
ピンと伸びた尻尾は、ふっさふっさと風に毛がなびいている


従者「~~~~~~っ」

ぐいっ!
尻尾を体のほうになるべく倒し、体をひねる


従者「気になんのや!! めっちゃ気になんねん、コレ!!!」

従者「自分の尻尾おいかけるとかアホ犬やと思うけどな! あれはアホやからできひんのちゃうかなって思っててん!!」

従者「尻尾全力で倒して、この柔軟な身体特性を生かせば、ワイなら尻尾咥えるのも可能なんちゃうかなーって、思ってん!!!」

従者「~~~~~くぅ~っ! あっかん、あと3cm尻尾が長きゃ余裕なのにッ…!!」


身体をねじりすぎて、半歩 前足が出る
バランスを取るために、反対の後ろ足も出る

身体の向きを考えれば、尻尾の寄っている側の後ろ足が前に出ているほうが咥えやすいにきまっている
もう1歩、後脚と前足をそれぞれ前に出す
ねじれた身体は、自然に前足をもう一歩進めてしまい・・・


ぐる・・・ぐる・・・ ぐる・・・ぐる・・・


従者「うああああああ!! 地味に回っとる!! ワイ回っとる!! アホ犬や!!」


やらなきゃよかった、できるんじゃないかとか思わなければよかった!
苦悶のあまり、地面にべたりと寝そべって 前脚で頭を抱える


従者「ああああ… 穴あったら入りたいわ…。 よし、ほな掘るか」

従者「って、あかん。 それじゃホンマに犬やんけ……はぁ」

?「あ……あの…」

従者「!?!?」

?「その…、お忙しそうなところ、申し訳ないのですが… た、助けていただけませんか…?」

従者「――――!!!!」

―――――――――――――――――――――


大魔樹の根元-


従者「…………はぁ」

?「んっく、んっく……ぷは…」

従者「落ち着いたか?」

?「は、はい。助けていただきまして、本当にありがとうございますっ」

従者「水汲んできただけやし、えーわ…。んで? あんさんは誰や」

?「あ。ご挨拶が遅れました。私は精霊族・族長分家・末裔の者です。精霊とお呼びください」

従者「 お ま え か 」


精霊「え? あ、あの…何か?」

従者「けったいな申請書、出しおったやろ……村を作りたいってやつや」

精霊「!! も、もしやあれがついに認可されたのですか!?」

従者「今日は話を聞きにきただけやけどな。まあほぼほぼ採用は決定やろな……」

精霊「なんてことでしょう!! 曽祖父の代よりの悲願が私の代でついに叶うなんて!」

従者「そ、曽祖父?」

精霊「はいっ! あの書は私の曽祖父が提出したものでございます。以来、ここで認可の下りるのを待ち続けておりました!」

従者(あの書類、そんな前からあったもんなんかい…)


精霊「ですが、年々と魔樹の放つ瘴気に当てられ、私もついに姿を保てなくなるほどに弱ってしまいまして……このまま願いを成就させることなく果てるのかと思っておりました」

従者「あー… 精霊には、この森はキッツイやろな。せやのになんでこんな場所に村を…」

精霊「ですがそこに現れた貴方様にこうして瘴を払っていただき、清き水をお恵みいただいたばかりか、このような朗報まで!」

従者「あんな、それはもーええから、なんでこんなとこに村をつk

精霊「私は今日、世界で一番に天に恵まれた娘に違いありません! ああ本当に感謝の言葉をどう述べればよいか…!!」

従者「 話 を 聞 け や 」

精霊「はっ!」

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


従者「あー。ほな、順番に聞いていくから、必要なことを答えてや」

精霊「は、はい。 ……あの、ところで……それは、一体?」

従者「? 紙と万年筆やな」

精霊「何かこう、クリクリと動かしておられて…おもしろそうですね。それは何に使うものなのですか?」

従者「……は? って、え。 知らんの?」

精霊「す、すみません。曽祖父がここに移住して以来、ここの森はおろか この大樹の元を離れたこともないもので……」

従者「」

精霊「いつ、魔王城よりの報せが来るやもわからぬから、と」

従者「せ、せやけど 誰か一人おったらええわけやし……。って、あ……」


精霊「……えへへ。そう、ですね。私の父が存命だった頃、父は母と私を残して時々森の中を動くこともありました」

従者「……精霊族は、ほんまにもうそれだけしかおらんのか」

精霊「母も私が幼いうちに…それから先、私はひとりでも留守を守る身として、ひと時もこの場を離れることはせずお待ちしておりました」

従者「……そか。ええこやな、ようがんばったわ」ナデ…

精霊「ひゃ。……えへへ。頭を撫でられるなんて、父様にされて以来です…なんだか、嬉しい」

従者「まあ、ワイ ここの場所にくるの3回目やけどな」

精霊「ふぇ!?」

従者「あんさん、おらへんかったけどな」

精霊「い、居ました! その、瘴に当てられて 姿も意識も消えかけていたのです!」

従者「ほな、なんでいきなり出てきてん。しっかもワイにとって最悪なタイミングで」

精霊「? あの、貴方様が瘴を払ってくださったからですが…」

従者「ワイが? なんかしたかいな」


精霊「はい。とても大きな声で、何度も何度も『ワオーーーーーーン』とそれは立派な遠吠えをなs

従者「あああああああああああ!聞こえへん! なんも聞こえへんでワイ!!!」

精霊「? 古来より、狗の吼え声には魔瘴を払う力があると… そのおかげでここのあたり一体の瘴が払われたのです」

従者「そういう伝承は聞いたことあるけど…やったことはなかったしなぁ……。それにしてもヤケクソで瘴気を追い払ったんか、ワイ……」

精霊「ヤケクソ?」

従者「気にせんとって。 ……まあええ、話それすぎや。ともかく目的は聞き取りや、続けるで」

精霊「は、はい! ところであの、もしよろしければ そのマンネンヒツとやら、見ていてもよろしいでしょうか?」

従者「は? ああ、手ぇ出さんかったらええで」


精霊「嬉しいです! では、お近くに失礼いたしますね!」トテテッ ペタンッ

従者「近ッ!」

精霊「え?」

従者「い、いや ええんやけどな。そんな真横にぴっとりくっつかんでも…」

精霊「ここでは、お邪魔になるものなのでしょうか…? はじめて見るものですので、なるべくならば目の前で、と思ったのですが…」

従者「あー……まあ、ええわ…」

精霊「ありがとうございますっ」ニコッ


従者(なんやコレ…。 絶対けったいな絵面になってそうやし、魔王が水晶とかで見てへん事を祈るばかりや……)ハァ

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応援&乙&渇 ありがとうございます! 
元気に入院してました!←オイ

集中して、定期的にキチっと書ける感じでもないので
最悪、「少しづつ書き溜めて一気投下」を視野にいれるかもしれません
現状で手元にある分だけ、投下していきます

久しぶりですが↓から投下します
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・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


従者「ほんならまず、名前から教えてもらおか」

精霊「名前…」

従者「精霊族は、名前をつける習慣は無いんかいな」

精霊「いえ、おそらくはある…のだと 思います。ですがその、呼び合って識別する必要もあまりなかったものですから…」

従者「あー…」

精霊「……」


従者「ああ、せや。 んなら、あんさんは 何の精霊なんや?」

精霊「あ、はい。私は 精霊族・分家 植物の精霊一族です」

従者「植物か。ああ、それで森の中に、村を?」

精霊「はい、自然こそが生きる恵みでございますゆえ」

従者「ちなみに、あんさんの正体はどんな植物なんや」

精霊「あ、ええと…?」

従者「あんさんも、本来はなんかの木なんやろ? なんや?」

精霊「……わ、私はその…」

従者「?」

精霊「エノコログサで、ございます//」


従者「エノコログサ…っちゅーと… あれか?」

精霊「///」

精霊「そ、その。通称、ねこじゃらし…と 呼ばれる者です//」

従者「ねこじゃらし…」

精霊「わ、私はねこじゃらしではありません、エノコログサです…っ」

従者「そ、そか」

精霊「は、はい」

従者「なんちゅーか、こう。 仮にも分家の末裔ゆーてたから、大きな樹とか勝手に想像してもうて、すまんかったな…」

精霊「……切ないので、あまりお気になさらずに…お願いいたします…」


従者「じゃ、じゃあ… 次は 村づくりの動機なんやけどな…」

精霊「はい…」


・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


―――――――――――――――――――

---魔王城


魔王「それで? どうだった、従者。 村づくりの使者さんの様子」

従者「あー、まあ 聞く限りでは問題なさそうやけど… 何しろ精霊族が娘っこ1人しかいいひんしなぁ」

魔王「あ、女の子だったんだ……、って。 一人で、どうやって村を作るの?」

従者「ようわからんけど、精霊族として存在したもんの種子を育てることで、一応、精霊族は仮に生まれる事が出来るらしい」

魔王「それならさっさと、増やせばよかったのに…」

従者「弱い種子らしゅうてな。本来は 光の精霊…本家の族長さえおれば、光の加護でしっかり育てられるのらしいんやけど」

魔王「ああ、加護がないから 種子を育てるために“安全な村”を必要としている…と?」

従者「ま、そーゆーこっちゃな」


魔王「ふむ…まあ、精霊族も 一応は魔族だからね。属性を考えると、人間の王国の方が住環境はよさそうだけど」

従者「人間の王国で精霊なんぞ増やしたら、それこそモノ珍しがられて狩られるやろしな」

魔王「それであんな、辺境の森を選んだのか…なんだか不憫な一族だね、精霊族というのは」

従者「古い一族やしな。弱りきった末裔なんて、そんなもんやろ」

魔王「ふう。可哀相に」

従者「んで、まあ報告はおわりやな。どうする?」

魔王「うん、いいんじゃないかな。村づくりの許可を正式に出すよ」

従者「んなら、認可書を送る手配しとくわ」

魔王「いや、従者がもってってあげてよ」

従者「は?」


魔王「だってほら、あの森で女の子一人も物騒だし」

従者「んなら誰か派遣するか?」

魔王「あそこの魔瘴を払えるのは、犬の遠吠えなんでしょう? 従者が便利だよ。また瘴気にあてられて倒れられても困るし」

従者「便利ゆーな」

魔王「まあ、適当に。ある程度、仲間の種子がそろうまででいいからさ。 手伝ってあげてよ」

従者「なんでそんなん、ワイがせなあかんのや」

魔王「絶滅の危機にある魔族の種の保存は 重要な仕事だよ?」

従者「そ、そりゃそうやけど」


魔王「それとも俺が行こうか?」

従者「……魔王が?」

魔王「カワイイ精霊ちゃんとv 二人きりでv 子作り・村づくりv」

従者「!?」

魔王「なかなかわるくないかもー? 種として繁栄するかもなー、魔王の血いれとけば」

従者「まてまてまてまて、なにゆーとんのやあんさん! 魔王がそんな勝手にあっちこっちに血ぃ混ぜてええとおもっとるんか!?」

魔王「えー? でも由緒正しい 古代からの一族なんでしょう?」

従者「そやけど、魔族としてハンパやから弱って衰退したような種族や! そんなんやったらワイが……!」

魔王「ワイが?」ニヤニヤ

従者「……ワイが……いけば、ええんやろが・・・」

魔王「あはは。よろしくね―?」


従者「ああもう……。 なんで…こうなんねん……。 はぁ…」


・・・・・・・・
・・・・・
・・・

――――――――――――――――――――

魔樹の森 大魔樹の根元


精霊「ふふ♪ まさか、従者様にお力添えまでいただけるなんて…本当に私はどれだけ恵まれた娘なのでしょう!」

従者「ゆーても、そんなたいそうなことはできへんで…?」

精霊「いいえ、とても心強くおもいます。それに…」

従者「…ん? どないしたん」

精霊「…一人ではないというのが…とても、うれしいのでございます。こうして、言葉を交わすだけで。どこまでも満たされるような気さえいたします…」

従者「……」

精霊「…えへへ」」

従者「………あー。まあ、なんや」ポンポン

精霊「ひゃ//」

従者「仲間、できるまで 手伝ったるさかい。もう話し相手にはこまらないんとちゃう?」

精霊「……従者様」


従者「なんてな。んでほれ、村興しゆーても、精霊族のやり方なんぞしらんし。さっさと指示だしーや」

精霊「は、はいっ!! 本当に、心より感謝申し上げます、従者様!!」

従者「んー」

精霊「では、まずはこのあたり一体の瘴気をなるべく払っていただけると大変都合がよく…」

従者「……俺にまた、あれをやれっちゅーんやな、このねこじゃらしが」

精霊「にゃっ! ですから私は猫じゃらしではありませんーー!!」

従者「猫じゃらしは猫じゃらしや! ほんま、なんでこんなんワイがせな…!」

精霊「や、やはり 私などの手伝いをなさるのはお嫌でいらっしゃいますよね…?」ウル

従者「うあああああああああああああ!!!! もおおおおおおおおおおおお!!!」


ボンッ!!!

従者(犬)「ワオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」

精霊「やはり大変に素敵です、従者様っ!」

従者(犬)「~~~~~~~~~っ ワオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」

精霊「従者様ぁっ、がんばってくださいませっっ!!//」


その日
どこかイラただしげな犬の遠吠えが しきりに国中によく響いたという


水晶( ワオオオオオオオオオン!!!! ワン! ワンッッ!!! )

魔王「………ふふ。 従者、なんだか楽しそうかなー?」

・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・

――――――――――――――――――――――

魔樹の森 大木周辺

従者「……っと」

ザクッ、バサッ


精霊「ありがとうございます、従者様」

従者「はぁ…。 んで、次は?」

精霊「その次は、そちらの古い大枝を一本、幹より30cmほど残して落としていただけますか?」

従者「ん……了解や」

ザクッ…、バサッ

従者「こんなんで平気か…? その後は?」

精霊「次は…そうですね、枝ぶりのよさそうな所を重点的に、6~7割ほど葉をおとしてしまいましょうか」


従者「……なあ?」

精霊「? どうかされましたか、従者様。 あ、すこし休憩をなさいますか?」

従者「いや休憩はええんやけど。 その、ほんまにええのか? そんなに木を斬って」

精霊「剪定です。 健康のためのダイエット…みたいなものと思っていただければ」

従者「そんなもんなんかいな… なんかこう、植物の精霊が、植物の枝葉を切るってのは違和感あるなぁ」

精霊「違和感ですか?」

従者「仲間討ちしてるみたいやんけ。健康のためとはいえ、斬りあうってのがどうもな」

精霊「ふふ。ご心配、ありがとうございます!」

従者「心配っちゅーんかな、こーゆーの…」

精霊「そうですね…確かに、若葉の生えたての部分などをもがれると、多少の痛みもあることでしょう」


従者「ふっとい枝を切り落とすとか… 腕を切り落とすようなものなんちゃうん?」

精霊「ふふ、そんなことはありませんよ?」

従者「わからん感覚や」

精霊「葉を落とすのは、髪を切るように。小枝を落とすのは、爪を切るように」

従者「ああ… んなら、痛んだ古い枝を落とすのは、虫歯になった歯―を抜くようなもんかいな」

精霊「すみません、精霊族には、そういった風習はないものですから。それが適当な表現かどうか…」

従者「そりゃそうやな」

精霊「ですが、本当に大丈夫なのです。こうすると、気持ちよく成長していける…とても有難いことなのですよ」

従者「ま、そういってくれるんやったら ワイも素直に斬りおとせるわ」

精霊「もしかして、気に病んでおられましたか?」

従者「ちょっとな」

精霊「……従者様…本当に、お優しい方。私は…」

従者「あー ほら、次や次!」

精霊「は、はい!」


従者「葉っぱおとしゃいいんやな? どれでもいいんか?」

精霊「あ、は はい! ええと、密集してるあたり、色の変わっているあたり、日の当たりにくくなってるあたりを集中して、全体に分散するように…」

従者「おし、んーならもう 思い切って いったるわ!!」シャキン!

精霊「? 爪?」

従者「ハッ!!!」ダッ

シュパッ!

精霊「っ」


フワッ・・・ ヒラヒラ… ヒラヒラ…

従者「……どや?」

精霊「わ、わぁ… いっせいに、葉が落とされて…」

従者「こう見えても一応、武闘派なんやでワイ」


精霊「きれい…まだ、色鮮やかな落ち葉が…こんなに…」

従者「あー、ちょっと落としすぎた…か?」

精霊「いいえ。 …いいえ、従者様」ポロポロ

従者「あ…… え? なんで泣くん?」

精霊「木が… 木が。 とても、喜んでおりますもので。つい、つられてしまいました」ポロポロ

従者「喜ぶ・・・? 木が?」

精霊「ふふ。 …本当は、やはり、ジワジワと刃を向けられるのは すこし不安もあるのですよ」

従者「あー… つまり、おっかなびっくりやってんと 木のほうも怖い、と?」

精霊「」コクン


精霊「…でも、先ほどは、一瞬で 痛みも恐怖もなく さっぱりと…」

従者「……そか。そりゃよかったわ」

精霊「それになにより… この木は、自分がこのような深緑の幻想を作り出している、この美しさに感動しているのです」

従者「そ、か…。 あー… いや、でもなんか…」

精霊「ありがとうございます、従者様… この木の分まで、本当に 心よりの御礼を申し上げます」ニコ


従者(……まあ、本来は 殺戮の術なんやけど。たまにはこんなんも、悪くない、かもしれんなぁ…)ボソ

・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


従者「……穴? ここに?」

精霊「はい。瘴気も随分薄まりましたし、明かりもだいぶとりこめるようになりましたので。そろそろ、と…」

従者「あれか? 種子を埋めるための穴か?」

精霊「いえ、土壌を豊かにするために掘りかえすのです」

従者「耕すっちゅーことか?」

精霊「はい。以前、従者様に刈っていただいた葉も程よく乾燥してきましたので、それを混ぜながら埋めこもうかと」

従者「範囲は…?」

精霊「…………ええ、と…その… ちょっと大変、かも、しれません…」

従者「………お、おこらへんから、希望だけ ちょぉ、ゆってみ?」

精霊「……村を作るにあたり、予定する敷地範囲を、なるべく網羅できれば…と」

従者「…………」


精霊「…………む、無理でしょうか…?」

従者「魔王に、農耕器具どうにか手配してもらうわ…。 さっすがにそれ、鍬ではできひんで…?」

精霊「す、すみません! すみません、お手数をおかけしてばかりで!!」

従者「はは… ほんまワイがおらんかったら、どーするつもりやってん、あんさん…」

精霊「? もちろん、自身の手で切り開いていく所存でございました」

従者「ねこじゃらしのくせに」ボソ

精霊「!? ねこじゃらしかどうかは関係ありませんよね!?」

従者「ほんま 常識なさすぎて参るわ・・・」グッタリ

精霊「むぅ・・・ 従者様が、物知りすぎるのです」

従者「まあ、物知りっちゅーんがウリみたいなもんやしな」

精霊「………あ」クス、クスクス


従者「ど、どないした? 急にへらへらして」

精霊「へ・・・ へらへらしたわけではないです!!」

従者「いや。おもいっきりしとったで」

精霊「そ、その。きっと 従者様は 私では考えもつかないようなことをたくさんしっていらっしゃるのだろうな、と思ったのです」

従者「・・・・・・まあ 筆記道具もしらんかったようなヤツやしな。普通に知っとるやろな」

精霊「まるで、開けるたびに何かがはいっている 不思議な魔法の宝箱のようだな、と思ったのです」

従者「たからばこて。あんさんまでゲーム脳かい!」

精霊「げーむのう?」キョトン

従者「いや。今のはワイがわるかった 気にしんとって」ハァ


精霊「一緒に居るだけで・・・ たくさんの宝物が増えていくみたいな気持ちになります・・・」ボソ

従者「なんかゆーたかー?」

精霊「な、なにもっ//」マッカ

・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・


それから 幾日か経ち・・・


従者「おい、そろそろ 今日の分はおわりにしよーや」

精霊「あ、はい! わわ、もう夕の刻に… すみませんでした従者様!!」

従者「いや、まあワイはえーんやけど、なんか雲行きが…」

ポツ… ポツ、ポツ、

従者「うわ! ほれ、 ゆーてるそばから雨や!!!」

精霊「わー! 恵みの雨ですね!! よかったあ!!」

従者「あほか。いくら精霊族やからって、植物じゃあらへん形態でそないに濡れたら風邪ひくやろが」

精霊「あ// そ、そうですね」

従者「それともあれか? 寝込んでるうちに、ワイに仕事全部やらせる気―か?」

精霊「め、めっそうもありません!!」

従者「ならほれ、さっさと 移動!!」

精霊「は、はい!!」


ザザザー… バタバタバタ…


従者「………あかんな、こんだけ豪雨になるとはさすがに思わんかった」

精霊「本日は、こちらにこのままお泊りになってはいかがです?」

従者「え」

精霊「? このような雨ですので… 幸い、こちらの洞穴は広さもありますゆえ」

従者「あー… ここに? あんさんと?」

精霊「ご不快のようでしたら、植物の姿になって外にでておりますゆえ」

従者「あほか、そんなんさせられるか」

精霊「…近いうちに、きちんとお客人を歓待できるような居住地も必要でしょうか…すみません、従者様。私はそういうのに気づけず…」

従者「いや、もう既に、気にするべきところがあさっての方向にズレてんのやけどな」

精霊「…精霊族の接客には、何か重要な相違点がございますでしょうか?」

従者「まあ、あんさん 娘っこやしなぁ」

精霊「え?」


従者「……いや、まあ、ワイもそういう気―があるわけちゃうからええんやけど…」 

精霊「…………?」

従者「………いや、まあ 気にせんでもええんやけど…」

精霊「………?」

従者「………」ハァ


精霊「……………あっ!!//」ボンッ!

従者「」ビクッ!

精霊「あっ// その// わ、私はその、別にそのように邪な心があって宿泊をお勧め申したわけではなくてですねっ」オロオロ

従者「あほか! んなもんわかっとるわ!!」

精霊「で、ですがその、従者様のことは大変お慕いしておりますゆえ//」モジモジ

従者「え」


精霊「で、ですので私はそういうったことによってなんの問題もないのでッ!」

従者「ちょ、え? は?」

精霊「あとは従者様のご都合のよいようにこちらを利用していただいても、まったく何の問題もないといいますか//」パニック!

従者「あ…ちょ、ちょっと 待ちや」

精霊「そ、その! ですので私は! 従者様が私にそうしてくださったように、私も従者様の居心地のよい場所でありたいだけでっ!!//」

従者「あ、あー? オイ?」

精霊「~~~~~っ// わ、私は何を申し上げてるのでしょう!!// 申し訳ありません、何かすこし口にするものなど探して参りますゆえ、お休みになっていてください!//」

従者「いや、探しにいくも何も、外はワイが出れへんほどの豪雨やで…?」

精霊「!!」


従者「……あ、あー。 なんか、とりあえず… 落ち着いとき?」

精霊「そ、その…!// 私は何を一人で・・・! も、もうしわけっ ありませんっ//」

従者「まあ、ええんやけどな… ワイがなんか困るようなこっちゃないし」

精霊「……こうして。何も作業もせず、従者様と二人でいるのだと思うと…その、何か どうしていいのか…」

従者「そんな気ぃ使わんでええんやで?」

精霊「気を使うというか、そのっ//」

従者「?」

精霊「……う、うれ しく…て。 緊張、すると申しますか//」

従者「あ、いや、ちょ まて? そういう雰囲気つくらんとってくれ、ホンマに」

精霊「~~~~//」マッカ

従者(な…… なんなんや。 どうすりゃええねん こんなもん…!)

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魔王城


魔王「え? それで、夜明けとともに帰ってきたの?」


従者「なんかな、一晩中 なんっとも気まずい雰囲気っつーか…」

魔王「それ、その精霊ちゃんが、誘い受けしてただけなんじゃ…」

従者「んなもん、ワイにわかるかいな! つか誘い受けて! あんなガキに手だすかいな!」

魔王「悪魔は、そういうの弱いの? サキュバスなんかそういうの世界一得意だけど悪魔だよ?」

従者「~~~っ しらんけど、ワイには無理やって」ハァ

魔王「なんか、意外だなぁ。従者にも苦手なものや理解できないものがあるんだね?」クスクス

従者「知識の整理ならええんやけどな。憎しみや葛藤っちゅーのもわりとわかる」

魔王「好意と、憎しみ。両方とも、感情って意味では理性で整理できないんじゃない?」

従者「そうでもないで。憎しみとかは、割と因果関係を整理しやすいしな。でもああいう好意っちゅーのはなあ、どっかトンでるからなぁ」

魔王「そういうもの?」

従者「そういうもんや」


魔王「……んー」

従者「どないしたん、魔王」

魔王「でもさ、これから まだ時間かかるんでしょ? 村おこし」

従者「そやなぁ、土壌が豊かになってから、ようやく種子の育成やしな」

魔王「気まずいんじゃない? それじゃあ しばらく」

従者「やなことゆーなや…」グッタリ


魔王「ねえねえ。 いいこと、おしえてあげようか?」ニヤニヤ

従者「なんや? なんかラクにできるほうほうでもあるんかいな」

魔王「うん。あのね…… 多分だけど……」


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・・・・・・・


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魔樹の森

従者「おい…… “エノコロ”」

精霊「!?//」

従者「なんや どないした?」

精霊「え、あ… その//」

従者「ぼけっとしてんと さっさとそこの落ち葉、埋めてきーや、“エノコロ”」

精霊「!!//」 

スタタタタタタッ!!!!


従者「……なんやよぉわからんが、魔王のゆってたとおり 名前でよんでやると鬱陶しくなくなってええなあ」シミジミ

精霊(~~~~~~っきゃぁぁぁぁぁぁっ///)


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一方 そのころ 魔王城・・・


魔王「……」ニヤニヤ


水晶( “エノコロー“  ”じゅっ 従者ひゃまっ!“  ”おわったらこっちこいや“  ”さ、誘っ!?//“  ”次の剪定やるでー“  ”~~っ//“ )


魔王「…………悪魔ってのは、賢くても鈍感なんだねぇ」クスクス

トントン…

魔王「はいはい どなた」

侍女「侍女でございます。…どうかなさいましたか?」

魔王「んー♪ おもしろいものをみてね。微笑ましくて、ついつい顔がにやけるよね」

侍女「面白いもの、でございますか。それはよろしゅうございます」

魔王「それで、俺に何か用事かい?」ニコニコ

侍女「ええ… 財務執行の上席の方々より、ご伝言が」

魔王「伝言? 何?」


侍女「『魔王様、お仕事なさってくださいね』だそうです」

魔王「もう終わったよ」フフン

侍女「いえ、魔王様の分ではなく。 長期不在でいらっしゃる従者様の分でございます」

魔王「え゛」

侍女「聞いていらっしゃらなかったのですか?」

魔王「何も聞いてないよ!? 従者、帰ったら自分でやるんじゃないの!?」

侍女「いえ。なんでも…

 『魔王がどうも協力的なんや。まあ稀少な精霊族の保護やし、力を入れたいのかもしれん
 ワイ、ちょっと集中して向こういってくるさかい 魔王にワイの仕事任せるけどええよな
って聞かれても困るか、まあ ワイの仕事なんや 魔王にすりゃラクなもんやろ
適当に量がたまったら 魔王んとこもってっといて。 まとめて片付けるほうが魔王もラクやろ』

と、いうようなことで 伺っております」

魔王「……従者… 俺が本当に“協力してアドバイスまでしてる”と思ってるのか…」ガーン


侍女「十分量がたまったとのことで、執務室に用意させていただきました」

魔王「どのくらい?」

侍女「『充分量』とのことです」

魔王「……」

侍女「では、魔王様。失礼いたします」




魔王「悪魔って… 本当に、賢くても鈍感なんだな…」ドンヨリ


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中断します
必ず完結はさせますが、次回投下時期は未定です

がんばる(グッ

支援、ありがとうございます。
そろそろペース取り戻してく(グッ
投下量にバラつきがでるかもしれないけどね……(白目

↓下から投下します


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魔樹の森

精霊「7割ほど、ですかね」

従者「そやね。やっぱ農耕器具借りてきたって、そうそう進まんわなぁ、二人っきりじゃ」

精霊「二人きり…//」

従者「あのな、悲観すべきとこやで…労働力として少なすぎるやろ、どう考えても」

精霊「従者様は、おそらく私たち精霊族が10人集まるよりもお力がありますよ? 精霊族は非力なものだと聞いています、私の父もあまり体力は…」

従者「ほー。10人分はたらけっちゅーことか、それ」

精霊「!? ち、ちがいますっ! そうではなく、その…とても助かっているということをお伝えしたかたったのです!」

従者「冗談や、冗談。まあワイはマルチタイプやし、働けーゆわれたら働けるしな」


精霊「働けだなんて! 私が働いて、従者様にはご指導していただくだければそれでも充分すぎるほどだとおもっているのですよ!」

従者「エノコロに任せてみとくだけってか? 何年つきあわせるつもりや」クク

精霊「う……ですがっ 本当に気持ちはそう…!!」

従者「はいはい」ポンポン

精霊「ひゃ//」

従者「残念やけど エノコロにやらせといて、指先で指示出しながら、だらだら見てられるほどエライヤツちゃうしな」

精霊「従者様?」

従者「むしろ、犬やし」

精霊「ふふ。はい、犬でいらっしゃいますね」

従者「エノコロは猫じゃらしやけどな」

精霊「ですから! 猫じゃらしではありません!!」

従者「いやいや猫じゃらしは間違いないやろ…」


精霊「わ、私はエノコログサです!」

従者「エノコロって名前もそうシマるもんでもないけどな。さて! そろそろ休憩も終わりにしよか」

精霊「あ、はいっ! 午後も張り切って、がんばりましょう! ……ふ、ふたりで」ゴニョゴニョ

従者「おお、張り切って犬のように働かせてもらうわ。 魔王の犬が、ついには精霊族の犬にまでされてもーた気分やしな……」ハァ

精霊「じゅ、従者さまったら!! そんな風に…!」

従者「冗談やー、ゆうてるやろ? ほんま、冗談の通じひんやっちゃなあ」アハハ

精霊族「~~~知りませんっ//」

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いくらかの時間が、過ぎた頃

精霊「…もうすぐ、ですね」

従者「せやな。しっかし、ほんまに土に植えるとはおもわんかった」

精霊「ふふ。植物のほうが、本体ですから」

従者「んでこれ… どうやって精霊になるん? この芽」

精霊「それが… 私も実際に、このような種子として温存されたものの再生は初めてなので…」ウーン?

従者「んじゃ よくわからんっちゅーことかいな」

精霊「はい… ですが、ある程度まで育てることさえ可能な環境さえあれば、自己再生能力により再発芽する、と聞いております」

従者「……この、ちっこい双葉がなぁ」

精霊「きっと、可愛らしい子になりますよ。……この子は、必ず、守り育てます」

従者「なんや 急に?」


精霊「従者様に、たくさん大切にしてもらって育てていただいた 記念すべき最初の子ですから」クス

従者「?」

精霊「従者様…」

従者「なんや?」

精霊「………」


精霊「私ども、精霊族のための数数のお力添え、本当に感謝しております」フカブカ

従者「なんや急に…。 そんな かしこまって」

精霊「…感謝だけでは 足りなくて。少しでも外に出さなければ、どこかから壊れて、あふれてしまいそうで…」

従者「どないした…?」


精霊「……このようなこと。出過ぎたことだと、わかってはいるのです… ですが、ですが」ポロ

従者「エノコロ。泣いてるんか?」

精霊「苦しくて。切なくて…… ごめんなさい、ごめんなさい…っ」

従者「エノコロ?」

精霊「仲間を増やすために尽力していただいて… 私は一人ではなくなって」

従者「ああ…そやな。ようやく、ほんもんの エノコロの仲間ができるなぁ…」

精霊「……こんなに、こんなに嬉しいことなのに」

従者「ああ… そか。 嬉し涙か。そういうんも ワイにはようわからんわ」

精霊「私に……仲間が、できれば。 従者様と二人で過ごすこの時間も…終わるのでしょう?」

従者「え?」


精霊「………終わって、しまうのでしょう…?」

従者「……エノコロ…?」


精霊「…従者様。私は…」

従者「……?」

精霊「従者様を…… お慕いしているのですよ」

従者「……………慕う?」

精霊「はい… とてもとても。…でも、この想いは。同じような想いをなさっていない方には…伝わらないものなんですね」ニコ

従者「………」



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わからない
あの日以来、精霊…エノコロは どこかぎこちない笑顔で笑うようになった
なんといえばよかったのかわからない
想いというものに、どう応えればいいのかわからない


従者(わかるわけないやろ……ワイは悪魔や。まがいもんやけど、それでもあの魔王の作り出した、精巧な悪魔の模造品や)


穏やかに微笑みかけてくれるエノコロ
優しく、ワイの手を取ってくれるエノコロ
名前を呼ぶと、嬉しそうに返事をして駆け寄ってくるエノコロ


従者(嫌とか、そういうんは 無い。せやけど……せやけど、それにどう応えたらええかなんて、わからんのや)


魔樹の森に、村を起こし始めて もう4ヶ月以上は過ぎただろう
環境の整理も済み、あの小さな双葉も、そろそろ本葉をつけてきている
初めての、エノコロの精霊族の仲間ができる


従者(ワイは精霊族やあらへん。精霊族は特殊な種族なんや。 んなもん、わかっとるやろ、ワイ)

従者(…魔族よりも神族に近いとすら言われる古代種。稀少で、重要な……)

従者(………その種の存続を助けるために、ワイはココにきとるんや)

従者(ワイが。 その種を、その在り方のバランスを、崩せるわけ…あらへんやろが…)


ガタ

従者「!」

精霊「あ… 従者、様」

従者「ああ、エノコロか… 水やりはおわったんか?」

精霊「はい。あの子も、嬉しそうに葉をゆらしておりました」ニコ

従者「そか」

精霊「はい」


従者「……」

精霊「……」

従者「……」

精霊「あの、従者様? その…今、すこしお時間をいただけますか?」

従者「ん、ええで。 なんや?」

精霊「……この間の、私の失言のことで…何か、お気に障ったのではないかと」

従者「…失言?」

精霊「私ごときが、従者様をお慕いしているなどと…。もしも、ご不快な思いをさせていたら…と、思い。謝らせていただきたく…」

従者「ちょ、待ち? んなことはないで」

精霊「……何か、ご機嫌を損ねてしまったのではないのでしょうか…? 何かいつも、大層難しい顔をなさるようになったので…」

従者「ワイが? エノコロが、やなくて?」


精霊「私も…確かに、とても申し訳なくて…どう謝ったらいいものかと思い悩んではおりました…ですのでご不快にさせてしまったのなら、と…」 

従者「~~~っ ああ、ちゃうちゃう!! そういうのやないねん!」

精霊「?」

従者「あー… ゆーとらんかったっけな…。 ワイはその、魔物なんやけど、なんっちゅーかな、悪魔なんや」

精霊「あ、悪魔???」

従者「そやで。悪魔・カーシモラル。知識と殺戮と司る、悪魔の化身。んでもって魔王の右腕や」

精霊「……従者様が、悪魔…?」

従者「ワイのことが怖いか?」

精霊「いえ、信じられなくて」ケロッ

従者「」


精霊「……怖くなど、ありませんよ? そんなわけ、ないじゃないですか」

従者「まあ、怖がられない魔王の右腕っちゅーのも問題な気ィするけどな」

精霊「ふふ。そうかもしれません… ですが、私の知る従者様は…」

従者「ワイはどんなんや?」

精霊「とても暖かく…優しくて…。 愛しくて。安心できて。心地よくて…」

従者「なんや、それ… なんの威厳もあらへんがな」

精霊「ふふ。それでは従者様は、本当はどのようなお方なのか、お聞かせいただけますか?」

従者「……ワイのこと?」

精霊「はい。 従者様のお話が、従者様についてのことが… 私はたくさん知りたく思います」

従者「……んなもん、聞いたって詰まらんだけやし…」


精霊「聞きたいです。もしも聞けるのならば…ここになにか従者様を引き止められるものがあれば、そうしてでも聞きたいくらいなのですが」

従者「んなもんあらへんし、詰まらん話なんかしたって…」


ザァ・・・ザアアアア…


精霊「……雨、ですね」

従者「雨、やなぁ… なんでいきなり…」

精霊「ふふ。ひきとめる“なにか”、できちゃいました」

精霊「静かな夜分に……私の為に、ほんの少しの夜語りなど、していただけませんか? 従者様」

従者「はは、かなわへんわ。 精霊族は、天候を味方につけるっちゅーのはホンマなんかもな」クク

精霊「ふふ。それならば、私は精霊にうまれて 本当によかったです」


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・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


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魔樹の森 洞穴の中… 小さな、寝所


従者「話すゆーてもな。何が聞きたい?」

精霊「それでは… そうですね。精霊族も魔物ですが、他の魔物というものを私はあまりよく知らないので…従者様のお生まれなどから」

従者「ああ、そやな。 さすがに他の魔物は土から生えたりしいひんからな」クク

精霊「え? そうなのですか?」

従者「……ああいや、ゴーレムとかなら、土から生まれるか」

精霊「なるほど…… え? 私、ゴーレムに近いんですか?」

従者「ゴーレムなエノコロとか想像できひんしやめて」

精霊「ふふ。魔物も、いろいろ。たくさんの種族があるけれど、みんな違うものなんでしょうね。従者様も、従者様でしかない…そんな、ひとり」


従者「……とりあえず、ワイの一番古い記憶から教えたるわ」

精霊「はいっ! 是非!」ノシッ!

従者「近い近い近い!!!」

精霊「はっ// も、申し訳ありません!! 興奮したあまり、つい…!//」

従者「あー… まあええわ、もう…。どうせ今に始まったことでもないさかい…」

精霊「え?」

従者「雨、結構ふっとるしな こっちきとき。冷えるし」

精霊「……はい。ありがとうございます、従者様…」ギュ

従者「……ん。んじゃまあ… そやなぁ、あれはどんくらい前のことやったろうか…」


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・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


~~~~~回想~~~~~

薄ぼんやりと、意識というものが芽生えた
唐突過ぎる感覚
何もないところから、急に明るい場所にひきずり出されて…
ただ、何かとても安心したのを覚えている

じんわりと確かになっていく感覚
それはだんだんと、生命というものを実感させていた
そして、霞んだ視界の向こうから 軽やかに響いた“音”


「うわ…、なにこれ? 随分とかわいらしいのが創生されたな…」


そいつは、ワイの身体をひっくり返したり、抱き上げたり撫でたりした
次第に、何をされているのか、何を言っているのかわかるようになった
その手の体温と、自分の中に埋め込まれた魔力が共鳴して、否応なしにこいつが自分を作ったのだと実感できた


従者(子犬)「……?」

「よしよし、お手」サッ

従者(子犬)「………?」ぽふ

「!! やばい。これは癒されるかもしれない!」むぎゅー

従者(子犬)「!?」ジタバタ

「え? なに、おまえ、嫌なの?」

従者「」コクコク

「……? なんでしゃべらないの?」

従者(子犬)「……きゃんっ」フリフリ

「……おお。 うん、なんか完全に犬だね」

従者(子犬)「わんっ! きゃぅ、わんわんっ!!」

「うーん…失敗、したかな…?」

従者(子犬)「くぅん……?」


「あ、そっか。犬モードだからだ。人間になれるだろう? 変身してみてよ」

従者(子犬)「きゃぅ?」

「魔力たりてない? こう、足が伸びたり、体が膨らむようなイメージしてみなよ」

従者(子犬)「……?」


目を閉じる。そいつの言っている事はすぐにわかったし、意識もはっきりしていた
言葉が発声できないことに、自分でも違和感を感じるほどだった
だからこいつのいっている事は正しいのだろうと思ったし、すぐに集中した



従者(子犬?)「………」ズ、ズムムムム…

「お、できてる できてる。その調子」


従者「………」ズムムム… シュゥゥ…

「うわ……。なに、俺・・・ コレに抱きついてたのか……」

従者「……!?」キョロキョロ


目を開くと、随分と視界が高くなっていた
人型をした自分の掌。伸びた腕、柔らかいだけではなく、艶やかな髪の感触
もしそこに鏡があったのなら、きっとナルシストのように覗き込んでいただろうと思う
そいつは、そんなワイの様子を眺めながら、愉快げに声をかけてきた


「さあ。人の形になったんだ。もう喋れるだろう?」

従者「あ…。 ああ、ひゃべれましゅね」

「……“ましゅね”?」

従者「……はれ? いぁいぁ。にゃんでこんにゃ」

「………」

従者「ひゃべ…ひゃべれ、……ちゃめれな…」

「………」

従者「………」

「………え? なにそれ?」


従者「………ゆまくひゃべれにゃいみひゃいで」

「……なんか、正直 ちょっときもいよね。見た目、割とオッサンな容貌だよ、君」

従者「うっしゃい! ひゃーないぢゃないでしゅか!」

「はい、これあげる」


つ『滑舌を良くするための 1日30分ボイストレーニング教本』


従者「」イラッ

バシッ!!


「ひどいな! 魔王の本を投げ捨てるなんて!」

従者「みゃおう?」

「ああ。 ごめんごめん、そうだったね、自己紹介を忘れていたよ」クスクス



魔王「俺は魔王。 おまえを生み出した、張本人だ」


~~~~~回想おわり~~~~~


従者「…とまあ、そんな感じの、最悪な目覚めやったわ…」ハァ

精霊「子犬の従者様…きっと とても可愛かったのでしょうねえ//」

従者「見た目はそうかわらへんで。相変わらずの白い愛玩犬や」

精霊「ふふ。でも、今はしっかりとお話をなさることができるのですね?」

従者「まあ、練習したさかいな」

精霊「そういえば、従者様はずいぶんと訛りが… 魔王城でお生まれになったのに、何故?」

従者「ああ。しゃべれへんかったんや、標準語」

精霊「?」


従者「牙がな、邪魔やねん。どうしても舌がまわらへん位置に生えとるんやわ」

精霊「牙? どこです?」ズズイ

従者「ちょ」

精霊「カツゼツに丁度悪い場所って、どこでしょう…そこをうまく鍛えたりすれば、私ももうすこししっかりとした話し方が出来るのやも…」ググー

従者「………エノコロ なあ」

精霊「? なんでしょう… できればもう少しお口を開けてくださると見えやすいのですが、この位置では…あまり…」ジー…


従者「……………襲わんとってくれへん?」

精霊「……?」

従者「ただでさえ、ひっついてしゃべっとったのに。そーやって、首かしげながら どこまで顔近づけてくるつもりや? ……くっついてしまうで?」

精霊「はっ//」


従者「あほ」ククク

精霊「……~~っ くっついてしまっても、いいですか!?」

従者「え?」ピタ

精霊「~~~っ//」

従者「あー… エノコロ。なにゆっとるん?」

精霊「し、しし 知りたいので! そう! 知りたいのです! 従者様のこと、たくさん!」

精霊「だからその! その…っ くっつけて、教えていただいてもいいでしょうか…っ」

従者「どんな理由やねん、それ… さすがに無理あるやろ」

精霊「っ、あ……」カァッ

従者「……」

精霊「…………もうしわけ、ありません…」ス…

従者「……」

精霊「その…はしたないところを、おみせしてしまいました…」

従者「……」


従者「…ええよ」

精霊「……え?」

従者「人文知識を把握するといわれる悪魔のワイも、さすがに自分の牙の位置までようけ考えたことあらへんかったしな…よう思いついたわ、そんな理由」クク

精霊「ぅ//」

従者「知識欲については誰よりも貪欲なワイやしな。知りたい気持ちは我慢させられへん。エノコロの知らんもんは、ワイが教えたるわ」

精霊「従者、様…」

従者「どうした? 知りたいんやろ? 」

精霊「……はいっ」


静かな雨の夜。ほんの少しのつもりだった、精霊のための夜語り。
水を得れば、水と触れ合えば、『もっともっと』と吸い込まずにはいられない植物。
ゆっくりと伸ばされ浸食してくる、その舌根。

僅かに触れ合えば、まるで植物に水を吸い込まれた大地のように渇いていく。
渇望していくのが、わかった。絡ませずには、いられなかった。

大地に根を張る植物は
植物に絡みつかれる大地は

きっと こんなふうに心地よく、ひとつになるんだろう。

ひとまず、中断します。
今月中に最後までイケたらいいなって思ってます。
(←イケが標準でカタカナに変換されることについて反省中)

―――――――――――――――――――

魔王城

魔王「どう? その後、精霊族の様子は」

従者「順調やでー…」

魔王「……順調というんだったら、もうすこし嬉しそうにしてほしいね?」クス

従者(くそ…コイツ、絶対みとったやろ……)

魔王「あの子とは、うまくいってる?」ニッコリ

従者「……うっさい」

魔王「もう少し、頻繁に様子を見に行ってあげてもいいのに。何で週1でしか行かないの?」

従者「精霊族は、もう生まれたんや。植物状態の時ならともかく、育成に関しては手伝えることはあらへん」

従者「それに、まだ精霊族の総人口が少なすぎんねん。5人しかおらへん精霊族の中に、他の文化を持つ魔物が入り込んだら 充分に生態系や文化を乱してまう」

魔王「おお、立派な理由があったんだ」

従者「なんやと思っててん…」


魔王「手は出さないとかいってたわりに、あっさり陥落しちゃった自分への戒めとか?」

従者「どついたるわ、魔王。そこに座り」

魔王「怖い怖い。目が本気だよ、従者…」

従者「ホンマにしばきたい思っとるしな。プライベートっちゅー言葉を知らんのか」

魔王「監督義務って言葉をしらないの? 従者」

従者「………。 もーええわ…」


従者「んで? 何しに来てん、魔王。ワイ、一応仕事中やねんけど」

魔王「忙しそうだね、書類仕事」

従者「まあ、誰かさんが留守中はなんだかんだ片付けておいてくれたから、平常業務やけどな」

魔王「忙しい?」

従者「……今度は、なんやねん…」


魔王「うん。実は精霊族のいる魔樹の森で、どうも不穏な魔力反応がある」

従者「な゛」

魔王「…発情期の猫みたいな声になってるよ? 従者」クスクス

従者「はよ言え! そういうことは!!」ガタ

魔王「いやー、昨日いってきたばっかりだし、行きたくないんだったら俺が出ようかと思ったんだけどね?」

従者「余計な気遣いすんなや!! ああもう、ワイが行ってくるし、コレよろしゅう!!」

ダダダ……
バタン!

魔王「おおっと…はやいなあ」

魔王「そして…… また書類仕事、か…。何気に結構な量なんだよね、コレ…」ハァ


魔王「まあでも。理由でも作ってあげなくちゃ…真面目な従者は会いにもいけないだろうし、ね?」クスクス


――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

魔樹の森

ザザザ… ガサッ!

従者「エノコロ! どこにおる!?」

精霊族A「あー。わんこのおにーちゃんだー!」

精霊族B「ねーねー 遊んでー」

従者「……なんや? 平和にいつもどおりやないか…?」

精霊族A「おにーちゃん、今日はどうしたのー?」

従者「あ、ああ。なんや不穏な魔力反応があるって聞いてな… そや、エノコロはどこや?」

精霊族B「おねーちゃんなら、今日は朝から『発芽場』にいるよー」

従者「なんや、もう次の精霊族を育ててんのかい…。幼稚園になってまうで、この村…」


精霊族B「ヨウチエンってなにー?」

従者「あかんあかん、知りたいことはエノコロに聞きや。精霊族は精霊族の文化があんねん、ワイにきいたらあかんゆーとるやろ」

精霊族A「おねーちゃんには、いろいろ教えてあげるくせにー」

従者「エノコロに教える分には『知識』だからええねん。おまえらみたいに未熟なんに教えたら、それが『常識』になってまうやろ」

精霊族B「ジョーシキ? なんかずるいー」

精霊族A「ずるいずるいー! 俺らもなんか知りたいー!」

従者「そしたら今度 童話か昔話でもおしえたる! だから今は勘弁してや」

精霊族A「やったー!」

精霊族B「約束やでー おにーちゃん!」

従者「ワイの言葉を真似すんやない。ほんま、子供の吸収力はおそろしーわ… ほなまたな!」

精霊族A/B「「またねー!! 約束だからねー!!」」フリフリ、ブンブン!

従者「おー。 ほな楽しみに、エノコロの言うこと聞いて、いいこにしとくんやでー」タッタッタ…


タタタタ・・・

従者「って。ワイは何を、この村にすっかり馴染んどんねん… 自分であかんゆーてるやろが…」

従者「……約束、か。 悪魔との約束が、童話の読み聞かせだなんてなあ… なんか、調子狂うわ」

従者(でも…)


存外、心地がいい
まるで、魔国に暮らしている他の普通の魔物のように、穏やかな時間が過ぎる村
魔王城で生まれ、悪魔としての職務を果たす自分にとっては穏やか過ぎる村

領地のどこかでいさかいが起きれば、自分は一番にそこに向かう
必要があれば、原因を“排除”するのが当然で、何度もそうして“殺戮”を繰り返してきた

今代魔王は気性も穏やかで賢明だから、過去の統治より争い自体は少ないのは明白だ
それでも皆無にはならない
人間だけではなく、魔物同士であっても、種族が違えば ふとしたことをきっかけに争いは起きる


「面倒はごめんだよ」と、軽口を叩きながら 本心から争いを嫌う魔王
賢く、“効率を優先することで被害を最小限に抑えられる”と気づいてしまう魔王
そうしてその“最小限の被害”の為に、いつも優しげな笑顔で花を手向ける魔王


従者(アホなことばっかりゆーし、貿易関係のある人間どもには『利益至上主義の感情のない魔王』だのなんだのと、陰口もたたかれとるけど…)

従者(ほんまは… あんとき、ワイを創って抱き上げたあの手と、顔は…)


“魔王”。それは特別な存在だ。代は変わるし、親子関係はもちろん存在する
とはいえ、その魂は唯一普遍。親から子へ、同じ魂が引き継がれ永続する、単独の存在

魔物の頂点に立つのに、それは魔物であって、魔物ではない
数多の魔物を創り出したところで、決して“自分と同じ種”を生み出す事ができない

絶えることなく、永遠に輪廻する魂
それはつまり、永遠の孤独だということに気がついてしまった、賢い魔王


従者(あの魔王はんは… いっつも穏やかに笑いはるけど、な)


魔物であって、魔物でない自分の孤独を埋めるために
精魂こめて、丁寧に創りだした“魔物ではない、魔物”仲間……


従者(それが、ワイや。 唯一、魔王の孤独を癒すことのできる存在として創生された)

従者(あいつはそうとはいわんけど。わかんねん…魂が、魔王の孤独を癒せと命じてくる)

従者(あの魔王の為に。あの魔王が心から願ったがゆえに、ワイは生まれた)

従者(ワイが…、知識によって物事を整理するはずのワイが、自分の存在のあり方に葛藤しつづけてしまうのも、きっと)


魔王の孤独を
魔王の痛みを 理解するために、必要な工程だからなのだろう


従者(せやけどそれはワイにとっても同じ。魔物であって魔物でないのは、ワイの他は魔王しかおらんっちゅーことやしな)

従者(……やっかいな。こんなん、呪いの一種やで、ほんま… まあ、それが嫌なわけじゃないけどな)


魔王としても、悪魔としても
こんな感傷に心を痛めてしまうこと自体が、既に中途半端なのだろう
それぞれの役割にもなりきれない、他のものにもなりきれない

賢くて、未完成な、ふたつのイキモノは
それぞれを埋めあうように、寄り添わずには 生きていけないのだろうか



精霊「……ま。 従者さま……」

従者「あん?」ギロ

精霊「ひっ」ビクッ


従者「……あ、ああ、エノコロか。 すまん、考え事しとった」

精霊「い、いえ。少し驚いただけで、私は大丈夫です…。それよりも、ずいぶんと思い悩んでいらっしゃったようですが… 従者様こそ、大丈夫なのですか?」ジッ…

従者「え? そんな顔しとった?」

精霊「ずいぶん長い間、そちらに立たれたまま難しい顔をされていました。それに、何度か呼びかけてもお気づきにならないようでしたし…」

従者「うそやん、そんなボケっとしてたんか。奇襲にでもあったら終わりやな」

精霊「ふふ。この村の中で従者様に奇襲をするような者がいたら、私めがとっちめてやりますから。ご安心ください」ニッコリ

従者(いや、まあエノコロやチビ精霊に攻撃されたとこでなんもダメージなさそうやけどな)

精霊「何か… 心病ませることがおありでしたら、どうぞ私にもお聞かせくださいませ」

従者「くく、なんやそれ? そんなんあったとして、エノコロに聞かせてどーすんねん」

精霊「……私どもは、植物の化身ですから」クス


精励「植物を身代とする私たちは、長い時間を、同じ場所で、同じようにゆっくりと生きる者です」

精霊「ですから昔から、私たちに多くの悩みを語りかける者が多いのです」

従者「悩みを…… 植物に?」

精霊「数年ぶりに郷里に戻り、昔から変わらぬ大木に話しかける、傷ついた人」

精霊「草原に寝転がり、朝露に満ちた草花の中にそっと涙を溶かし込ませる、苦しむ人」

精霊「そういう者たちの話を、ただ聞いて。同じ姿で在り続けることで癒すのも…植物なのです」

精霊「植物は、大地を癒し、大気を癒し、そうして 生きるもの達の心を癒しながら存続してきた種なのですよ」ニッコリ

従者「はは… なまじ古代種やし、しゃれにもならへんな。歴史がお墨付きする、根っからの癒し系っちゅーことかい」

精霊「ふふ。ですのでどうぞ、私に癒せる事があれば、癒させてくださいませ」


従者「ふうん… やっぱり精霊族についてはほとんど文献もないし、知らんことがおおいな」

精霊「お望みでしたら、どのようなことでも 私の知る限りをお教えしますよ?」

従者「まあ、エノコロに聞いてもらうよりかは、聞かせてもらうほうがタメになりそうやな」

精霊「むぅ…。それでも、私も 従者様のことでしたらいろいろ聞かせていただきたいです」

従者「ほな考えとくわ。毎度のように勢いついて飛び掛ってくるような 肉食みたいな癒し系に聞いてもらう話、下手なこといえそーにないしな」クク

精霊「っ…… ぁ//」マッカー

従者「…いやその反応はちょい待ち。すまん、いまのは失言やった」

精霊「い、いえっ その、別になにか思い出したりしたわけではっ//」カァァ

従者「思い出すな、アホ!!」

精霊「ででで、ですがその、ことあるごとにすぐ頭に浮かんでしまってっ!!//」

従者「ことあるごとにって… 今だけちゃうんかい…」


精霊「あっ!? ち、ちがいますちがいます!! そんな、四六時中考えたりとかしてるわけでは!! って、ああっ!?」

従者「…………四六時中て…。 こんなんゆーのもアレやけど、エノコロのほうこそ大丈夫なんか…?」

精霊「~~~~~~ううううううっ//」

従者「ほんま、アホやな。エノコロは」クク


どこまでもまっすぐに伸びる、純粋なイキモノ

頭を撫でれば、嬉しそうに笑う
その目を見れば、見つめ返してくる
近づけば、寄り添ってくる

コレが、あまりに純粋で、綺麗だから…
悪魔である自分は、これを穢せずにはいられないのではないか、と

手折ってしまいそうなほどに、強くそれを抱き寄せている間
そんな言い訳だけが、脳裏に浮かんでいた


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

中断します。
--------------
以下、私信。
従者がエノコロとどこまでの関係になってるかは
ご想像にお任せしたいんですけどいいですか?←オイ

病み上がりでいちゃらぶ描写とかつらいのねwww
具体的に書くために、まず俺にエノコロみたいな可愛いオンナノコくださいww
ところでここには18歳以下のヒトはいないよね?(ニッコリ 

←今後の展開はいろいろ注意でw


精霊「あの、従者様…?」

従者「なんや?」

精霊「……やはり、なにかありましたか?」

従者「改めてそんなんゆわれると、めっちゃおかしいことしてる気分になるわな」ハハ

精霊「い、いえ! こうしているのはその、とても嬉しいのですが!」

従者「……いや、よう考えんでも、実際におかしいことしてるな…やめやめ」スッ

精霊「う…残念です。せめて もう少し待ってから言うべきでした…」ショボン

従者「そこは『余計なことをいわなきゃよかった』じゃ、あらへんのかい」

精霊「従者様の事をいたわりたい気持ちは、私にとって余計なことではありませんよ?」ニコ

従者「エノコロ、おまえ……」ジッ

精霊「はい… なんでしょう、従者様…」


従者「クサいやっちゃな…草だけに」

精霊「なっ!?」

従者「あ、せや。思い出した」

精霊「ごまかさないでください! クサくなんかないですからね!」

従者「それはもうええっちゅーねん…。じゃなくてな、なんかあったんか、エノコロ」

精霊「ふぇ? ……それは私の先程の言葉ですよ?」

従者「ワイな、今日は魔王に言われて来てん。なんやココで魔力反応があったらしいんやけど、心当たりないか?」

精霊「魔力反応…ですか? あ、ありますね」

従者「大丈夫なんか? 魔王が言うには、不穏な魔力っちゅーことやけど」

精霊「ふ、不穏…… ひどい言われようですね…」ガックリ

従者「何があってん?」

精霊「精霊の種子達に、祈りと願いを込めていたのですよ」

従者「祈りと、願い?」

精霊「はい。精霊の強い祈りは、魔力を持つと言われていますので…それではないかと」


従者「そか…せやけど、不穏な祈りとか。 一体、何を願ってたんや? あれか、実は腹黒なんか?」

精霊「従者様っ! 違いますからね!!」

従者「んなら、どんな祈りを?」

精霊「…産まれてくる精霊全てを、赤子のように育て続けるのは難しいですから、少しでも育てやすくなるように 祈っておりました」

従者「ああ…育てる方のエノコロも、成長途中やしな。さらに精霊族としての知恵も知識も不十分なんや、そりゃ当然の話やなぁ」

精霊「はい。 ですので、こう願っていたのです」

従者「?」

精霊「…『思い出して』、と」

従者「思い出す…?」


精霊「種子になるまえの、精霊族として生きた記憶を」

精霊「かつて、精霊達の生きた世で過ごした生活や、文化や…知恵や、知識を」

精霊「少しでもいいから、思い出して産まれてきてほしいと、願っていたのです」


従者「なるほどな。文化や習慣があらかじめ記憶の中にあれば、『精霊族』として成長させるんが楽になるやろな」

精霊「はい。従者様に気になさっていただいていた、時代や環境の違いによる『生活文化の混合』も起きにくいかと」

従者「そやな」

従者「自分達の本来の文化の記憶があれば、他の文化に対して本能的な違和感がうまれるやろし」

従者「なんでもかんでも吸収して育ってってまう、今みたいな危機感は減るやろな」

精霊「はい。それに、そうすれば…」

従者「なんや、ずいぶん頭働かせたんやな。まだ他にも利点があるんかい」

精霊「はい! そうなれば、従者様が気にせずこちらに遊びにきてくれるようになるかなと思いまして!」エヘヘ

従者「は?」

精霊「これで、ご自分が精霊族とは異文化の持ち主だからと遠慮なさらずに、来ていただく事ができますね」ニコニコ


従者「……やっぱエノコロはエノコロやったか…」


精霊「わ、私にとっては大事なことなんですよ!」ムンッ

従者「お、おう。 せやけど、んなことをそないに力まれてもな」

精霊「少しでもいいから、従者様のお側にいたいのに…私は、この森からあまり離れられませんからっ!」

従者「……なんやそれ。むしろそっちがメインみたいやん?」クク

精霊「昨日、従者様がお帰りになられてから、一生懸命かんがえたのですよ?」

従者「……ワイがここに来ても大丈夫になる方法を?」

精霊「はい!」

従者「あほ、やっぱしそっちがメインなんかい」ペシ

精霊「はっ! も、もちろん種族としての健全な繁栄の方法についても充分に考慮した上でっ……!」

従者「フォローが遅いっちゅーねん。ちょっと感心してもうたのに、勿体ないことしたわー」ハァ…

精霊「そ、そんなっ!? せっかく考えて祈っておりましたのに、いくら従者様でもあまりにご無体な…!」
 
従者「はいはい、そないに怒んなや」


従者「まあ、あれや」

精霊「うう…。 なんですか…?」ムスー

従者「あんがとな」

精霊「え」

従者「そーやって慕われたり、そんな理由で求められることなんかないさかい、なんや癒されるよーな気ぃするかもしれん」ナデナデ

精霊「……従者様…」

従者「あんがとな、エノコロ」

精霊「えへへ。はいっ!!」


・・・・・・・・・・
・・・・・


――――――――――――――――

魔王城 魔王の私室


魔王「………」クス


水晶球 <エヘヘ。ハイッ・・・


魔王「悪魔に恋をした、モノをしらない古代の精霊ねえ…」クスクス

魔王「愚鈍なまでに純粋で、素直すぎる優しさを与えてくれる精霊」

魔王「魔王である俺ですら、羨ましくなってしまいそう」クスクス

魔王「ついついこうして、暖かいキモチで見守りたくなってしまうのも仕方ないね」


~水晶~

精霊『従者様… いつまでもこうしていたいと 願ってもいいですか?』

従者『種子にかい。さすがにそれは無意味なんちゃう?』

精霊『いえ…従者様に、願ってもいいですか?』

従者『あほ』ポンポン

精霊『従者、様…』

従者『………ほんまは、そーゆーのはカミサマとかに祈るもんやろ』ギュー

精霊『ふふ。それこそきっと、無意味ですね。仮とはいえ、悪魔を名乗る方のそばにいたいだなんて…怒られて、しまいそう… ん』チュ

従者『……ん。 せやからって悪魔に祈るのもおかしな話やろ』

精霊『ふふ。でも、その方はとても優しいので…』ギュ

従者『………』グ… ドサ。

精霊『すぐに、願いを叶えてくれるのですもの…』

~~~~~~


魔王「お、おお…」

魔王「従者、なんか段々と大胆になってないか…?」ドキドキ

魔王「さ、さすがに、これ以上見るのはやめといてあげようかな。なんか忘れてそうだよね、見られてる可能性とか」ウンウン


魔王「…う、うらやましくなんかないよ! 多分ね!!」チラッ


水晶
>エノコロ…
>んっ、あっ…従者、さまっ…


魔王「お、おお…っ おまえら、なんて場所で…… って」

魔王「……植物と犬だもんねー。屋外とか、そんなの気にするわけないよねー」アハハ


魔王「……む、むなしくなってきたかなぁ。水晶、消しとこ…」ハァ

パチン
シーン…


魔王「それにしても… 『祈り、願う』…か」


魔王「割と無縁だよね、俺達にとってはさ」

魔王「悪魔が盲目になるほどの恋。そんなものがあるのならば、魔王だって、それを願ってもいいのかな」


魔王「……どうか、憐れな悪魔に穏やかな愛情を」

魔王「どうか、彼らに最良の未来が訪れますように」



魔王「………なんて、ね?」クス



魔王「何に祈ったらいいのかさえ、俺にはわからないんだ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


――――――――――――――――――

そして、数年後 
魔樹の森内 “精霊族の村”

ワイワイ… ガヤガヤ…

<縄文クッキーいかがっすかー
<何? 縄文クッキーって
<あれじゃない? 縄の文様とかついてるクッキー
<まずそうじゃね?
<どんぐりの! 昔ながらの素朴なクッキーです!
<なんだ……。紛らわしい言い方するなよ
<俺、縄文土器みたな形のアーティスティックなの想像してたわ…
<馬鹿じゃないかな、君たち!?


従者「……村人、増えたなあ」

精霊「増えましたねー この村もそろそろ、町って言い方にしてもいいかもしれませんね」


従者「集落の規模によって名前っちゅーのは変えるべきやからな。今は何人くらいおるん?」

精霊「どうでしょう…100にはまだ満たないほどかと。越えてるかもわからないですが…」

従者「たった数年で……? どんだけの種子をもっとったんや、エノコロ」

精霊「持っていたのは20ほどですよ。従者様が環境を整えてくださったおかけで、繁殖に成功したのです」

従者「繁殖て。そんなに成長はやいんか? 精霊は」

精霊「身代にもよりますね。苔さんやミントさんあたりだと、一気に増えますし」

従者「ミントか。あれは植物テロみたいに繁殖するさかいな…精霊としてもそうなんか」

精霊「あと、この森には木が多いですから。私達の影響をうけて、新たに精霊として成った方もいらっしゃいますよ」

従者「元々あった木から? ……そのうちネズミみたいに増えるんちゃうか」

精霊「ふふ。ねずみよりもはやいかもしれませんね」


精霊「増えるといえば、時間はかかりますがどんぐりさんとかすごいですよ。…繁殖の、一回量が」

従者「一回量とかゆーな。しかも“どんぐり”て。木の種類ちゃうやろ」

精霊「みんな親戚みたいなものだと聞いたので…総称?」

従者「てきとーやな」

精霊「もちろん精霊として力を持つのは一部ですが、それでも爆発的に人口がふえるでしょうね」

従者「村、広さたりるんかい…」

精霊「ええ。ですから住居などが増えるに連れて、少しずつ、自分達で開拓をしています」

従者「開拓?」

精霊「それぞれ、居心地のいい住居を求めて… たとえば日陰の多い場所とか、湿った場所とかですね」

従者「そか。まあ、もうこんだけ人口があれば、それくらいはできるもんな」


従者「しっかしほんまに不思議なイキモンやな、精霊は」

精霊「そうですか?」

従者「ほんまに、植物みたいや。生活も、繁殖も。生態も」

精霊「本当に、植物なんですよ」

従者「ワイのしっとる猫じゃらしは しゃべらへんかったよ」

精霊「もうっ! 従者様っ!」

従者「はは。しばらく来んかったけど 相変わらずで、安心したわ」

精霊「魔王城のお仕事で忙しかったんですもの。仕方ありません…」

従者「ん。すまんかったな」

精霊「こうして、お気にかけていてくださったとわかったので…。お会いできなかった期間の寂しさも、すっかり解けました」ニコ

従者「ほんの数ヶ月や。ワイらにしてみれば、そうたいした期間じゃないんやけどな」


精霊「植物にしてみれば、1つの季節で大きな変化を遂げますので…感覚に差があるのかもしれませんね」

従者「そか… そりゃすまんかった」

精霊「いえ。本当にもう大丈夫ですっ」

従者「……挨拶に行ったら、“ジュウシャサマー オアイシタカッタデスー!”って泣きついて来たのは誰や?」

精霊「や、やめてください…//」

従者「それにしても、ようこんだけ育てた。…がんばったな、エノコロ」

精霊「えへへ…ありがとうございます、従者様」

従者「むしろワイがおらんほうが、成長はやいんとちゃう?」

精霊「そ、そういうわけでは!! 成長の速さは、いつかの祈りと願いのおかげだとおもいます!」

従者「そんなに効き目があるんか? まぁ、魔王が魔力を検知するほどやし、ただの神頼みっちゅーもんやないんやろうけど」

精霊「……多分?」

従者「多分て…」


精霊「確かに、従者様のおっしゃるとおり…成長が早いような気がするのです」

精霊「特に、こころの成長が。最初に育てたあの若葉たちよりも…ずっと」

従者「…普通じゃないっちゅーことか? 長く保存されていたことによる種の異常成育反応とかやないやろな」

精霊「身体の成長は、さほどでもないのですが…。物心がつき始めたとたん、様々なことを理解するのが早くなったような…」

従者「ふむ…?」

精霊「ような、気がするのですが… ど、どうなんでしょう?」

従者「おいおい…。しっかりしてくれや、“精霊族代表”さん」

精霊「生き残りってだけで、代表にされただけです! ただ…」

従者「ただ?」

精霊「この森は、とても気が濃いので… 通常とは違うことが起きてもおかしくないかなと、思えてしまいますね」


従者「気…? ああ、瘴気か?」

精霊「あ、いえ。 定期的に従者様が瘴気は払ってくださいましたし」

精霊「これだけ精霊族があつまっていれば、ある程度まとまった神気になりますから…もう、瘴気は寄ってこなくなると思います」

従者「は。……シンキ? なんやねんそれ」

精霊「精霊族は、魔力と神気をもって生活をするのですよ」

精霊「あ、もしかして… 濃い瘴気に閉ざされた中に神気が密閉されるから、こんなに濃いのかしら…」ブツブツ

従者「…魔物やんな? 精霊族って」

精霊「魔物ですよ? 魔力も用いますから」

従者「いやいや、ちゃうやろ。魔力なら人間だって使うっちゅーねん」

精霊「魔力を使うから、魔物なのでは?」

従者「歴代魔王のいずれかによって産み出されたんが、魔物や」

精霊「そう、でしたか…」


従者「精霊族は、魔王によって生み出された種族とちがうんか?」

精霊「……どうなんでしょう? 文献とかはないので、種の起源とかについては何も…あったとしても、本来の族長である“光の精霊”についてでしょうね」

従者「そやろな。歴史上にも、精霊族の存在について残された文献はほとんどないしなぁ…これじゃ調べようがあらへんな」

精霊「ですが人間ではありませんし。やっぱり、魔物なのでは?」

従者「魔王がつくっとったら、使うのは魔力と瘴気のはずなんやけどな。なんやねん、シンキて」

精霊「…なんでしょう? …そういわれてみると、よく知らなかったり…?」

従者「……精霊族に関する文献、ちゃんと作って残しとかなあかんな…」

精霊「! 書いてくださるのですか!? 私たちのことを!」

従者「書くよ。もともと、ある程度いろいろ分かってきたら魔王への提出情報としてまとめるつもりやったしな。本にするか書類にするかの違いや」

精霊「わぁ…! 感動です!」


従者「そーゆーんもワイの仕事のひとつやしなあ…」

精霊「ふふ。本を書く、なんて… なんだか素敵。私も文字を習って、恋物語でも書いてみたいです」

従者「あほか。仕事や、仕事」


従者(種族の、繁栄と衰退。それから、滅亡…そういった記録の管理。 それは決して、物語を描くような綺麗な仕事でもないんや)

従者(そういった仕事が増えるのは、決まって戦争の後)

従者(まだ血なまぐさい戦地で… 遺骸の処理をしながら。 生き残りが居れば、瀕死のそいつにムチうって詳細を吐かせたりな)


従者(でも…こんなに平和な村の繁栄を、一から書いていけるのは ええな)

従者(にこにこと笑うエノコロに話ききながら、雑談交じりに筆を走らせる…か)


精霊「従者様? どうしました?」

従者「え?」


精霊「ふふ。珍しい… お顔が、ほころんでいらっしゃいますよ?」

従者「え。なんやそれ、キモいな我ながら」

精霊「き、きもくなんてないですよ!? いいことだとおもいます!」

従者「そ、そか。それならええんやけど」


従者(……なんや。想像しただけやのに。ほっとしてしもうたわ)


精霊「そういえば、喜ばしいニュースがまだあるんですよー」エヘヘ

従者「なんや?」

精霊「近々、交易をはじめたいと 村の商売役の方がおっしゃっていたんです!」

従者「交易、か。人間の村にいくんか?」

精霊「いえ、まずは 魔界の領地内で…と。構わないでしょうか?」

従者「魔王の領地内やったら問題ないやろ。魔物の行動に関する制限は特にないわ」


従者「あ。せやけど、他の種族のテリトリーにはいるんは 気ぃつけるんやで?」

精霊「気をつける?」

従者「それぞれの判断で土地はまかされとる。つまり、ナワバリ荒らしすんなっちゅーことや」

精霊「ナワバリ…」

従者「大きな争いになれば、ワイや魔王で仲裁にはいることもあるけどな」

従者「火種が小さいうちは、それぞれでやってもらうさかい…あんま無茶はすんな」

精霊「そ、そうですね。精霊族はあまりそういうのは向いてなさそうですので…」

従者「せっかく増やしたんや。あっちゅーまに喰われておわるとかやめてな」

精霊「ひっ…!! 気をつけます! 必ず、よく伝えておきます!」

従者「おお。頼むわ」


従者「まあ、交易が発展すればいろいろとにぎわう。豊かになるやろし、がんばりー」

精霊「はいっ! おもしろいものや、おいしいものや綺麗なもの、いっぱいもってきてもらうのが楽しみなんですよー!!」ニコニコ

従者(………交易による物品の行き来を、旅のお土産かなんかと勘違いしてへんかな、エノコロ…)




コソッ…

?「………………くく…。 今に、見ていろ」スッ


・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

中断します

乙と発破ありがとう!
植物の精霊なだけに、葉っぱと発破をかけてみたとかそういう(ry

10月中とか無理だった!!
うん…投下がおくれてまして申しわけありません(平謝り
今EDまで一気に書き溜めて あちこちストーリー直してますw 

投下まで、こちらの閑話休題をどうぞw
――――――――――――――

悪魔「魔王のせいやし、死んどきや」←オイ

―――――――――――――


従者の目覚め・その後

従者「……まおー…?」

魔王「うん、俺が魔王。そしてお前は、『悪魔・カーシモラル』だ」

従者「あくま…?」

魔王「技能として、変身を含む可能な限りの悪魔の能力を擬似的に再現したんだよ」

魔王「本当の“カーシモラル”ではないけれど、限りなくそれに近いはずだ」

魔王「今日からおまえは俺の『従者』だ。そう呼ぶから、よろしくね」ニッコリ

従者「……」ゴクリ


悪魔「緊張はしなくていいよ。慣れるまでは。わかったら返事をしてくれればいい」

従者「ちゃい、まおーさま」

魔王「……」

従者「ちゃ… ひゃ、ひゃい」

魔王「うん……。ボイトレからはじめようかね。あまりにしまらないし、かっこわるすぎる」ハァ

従者(返事すればいいっていったのに!!)ガーン

・・・・・・・
・・・・・
・・・


数日が経ちました

コンコン

従者「……」テッテッテッテ… カチャ

魔王「やあ」

従者「……」

魔王「そっけないね、従者。 どう? 調子は」

従者「……わん」

魔王「いや、俺犬の言葉はわからないから。……俺がいるときは人型になってよ」

従者「あい」ズモモモモ

魔王「いいこいいこ。素直でいいねえ」ウンウン


従者「……よーじ、なんやの」

魔王「えっ」

従者「なんや?」

魔王「なんで関西弁?」

従者「…は? あー」

魔王「関西弁とか! 方言男子を気取ろうとしてもいいことないよ!?」

従者「ちやう。きばが、じゃまなんや…」

魔王「…もしかして、『だ』が言いにくい?」

従者「そうや」


魔王「Repeat after me. 『だ』」

従者「『や』」

魔王「『だ』だってば!」

従者「~~~やから! ゆえないん“ぢゃ”!!」

魔王「いやー、語尾が“ぢゃ”とか。 ただでさえケモ系だし、要素詰め込みすぎでしょ」

従者「やから。しゃべりにくいんやって」

従者「ふつーにしゃべっても、きよ、きお… きーつけてないと 言葉がおかしいんや」


魔王「なるほどね。関西弁じゃなくて 関西弁みたいな言葉なんだ」

従者「こんなんどーしたらえー…」ガックリ


魔王「じゃあいっそ関西弁で練習したら? そう聞こえるくらいなんだから、きっと話しやすい筈だよ」

従者「……」ジッ

魔王「うん、おれもいいたいことはわかってるよ?」

従者「……」ハァ

魔王「そうだねえ…。関西弁の悪魔は…ちょっとヒクかなあ」

従者(上手く敬語を使えないのを気にしていた自分が馬鹿みたいだ…)ハァ

・・・・・・・・・
・・・・・・


で、さらに数日後


魔王「おーい従者ー! ごめん、ちょっとこっちきてー!」

従者「あ? どしたん」パタパタ

魔王「え。 …飛べたの?」

従者「この羽、あんさんが創ったんやろが。飛べへんかったら、なんのために羽ついてんのや」

魔王「かわいい系のアクセなのかと?」

従者「悪いけどアホなんちゃうかな、魔王」

魔王「しゃべりうまくなったね! 悪口がずいぶんはっきり言えるようになってよかったね!?」

従者「そやねー」


魔王「…な、なんか 魔王にたいしてつめたくない?」

従者「いや、そーゆーわけちゃうけどな。まだ喋りにくいねん。嫌やん、しゃべんの」

魔王「す、すっかりイントネーションまで関西弁になってる…!? なんてこった!」

従者「~~~あのな!! あんさんが! ワイの部屋中に!」

従者「“方言男子”やとか“お笑い基本全集”とかの本をアホほど置いてったんやないか!アレ、相当邪魔やったんやで!!」

魔王「え、何? あれもう見たの? 結構な量をおいていったつもりなんだけど!?」

従者「すぐ読みおわったで」

魔王「すごいなあ… やっぱりそういう、知識の習得に長けているんだね」


従者「あ、せや。あのDVDほしいねんけど」

魔王「DVDも見たのか… で、どれのこと?」

従者「ひとりごっつ。あと○○な話のシリーズ。まっちゃん、おもろくてええなぁ」

魔王「……しまった。悪魔の育て方を間違えた…!」ガーン

従者「失礼すぎやろ…」

魔王「イヤだよ俺! これから来客とか訪問とかの時に、誰かに“魔王様の御付の方はどちらで?”とか聞かれてさ!?」

従者「聞かれて?」

魔王「『これが俺の従者だよ…』とかキリっとキメながら紹介するのが、関西弁の小型愛玩犬!!」

従者「んなもん、知らんわ!!」

魔王「どっかの綺麗なお姫様の前とかだったら、恥ずかしくて死ぬ!!」ウワー!

従者「そんときは、アレや」


従者「全部 魔王のせいやし、死んどきや」

------------------

閑話休題・おわりw

と、いうわけで
従者は聞きかじりの関西弁(もどき)なんだよってお話…
従者がエセ関西弁になってる言い訳をしてるわけじゃないんだからねっ!!

本編を頑張ってきますw

投下量の調整の為に、少しですが投下していきます
↓から続けます


―――――――――――――――――――――

魔王城 執務室

魔王「………」ペラ… カリカリカリ

従者「……」カリカリカリ

魔王「………」ペラ… ペラ… カリカリ

従者「……」カリカリカリ

魔王「………」ペラ… カリ、…ペラ…


従者「……どした、魔王」

魔王「え?」


従者「いや、なんや今日はおとなしゅう仕事してるさかい。いつもみたいな独り言もあらへんしな。元気ないんか?」

魔王「そんなことないよ?」ニッコリ

従者「そか、それならええんやけど」

魔王「従者こそ、今日は不満のひとつも言わずに仕事をしてるじゃないか。珍しいんじゃない?」

従者「そ・・・そーやったか?」

魔王「うん。精霊族の村…行かなくていいの? しばらく行ってないでしょう、本当は気になってるんじゃない?」

従者「……」

魔王「お、当たったかな」クスクス

従者「まあ、気にならんっちゅーたら嘘やけどな。今は関わらんほうがええやろ」

魔王「例の、精霊族の交易の件?」

従者「そ。魔王の領地で商売やる以上、ワイみたいに魔王城のモンが新規のヤツラに肩入れしとったら、余計な妬みや贔屓を買いかねんしな」

魔王「そうだねえ。下手に“魔王御用達”とか言われても困るしね」

従者「いや、それくらいならええんやけど…」


魔王「じゃあどういうのが困るの?」

従者「これでも一応、ワイは“魔王の右腕”を名乗ってるしな。そのワイが肩入れしとるって他の種族のやつらにバレてみ」

魔王「ふむ。まあ、目立つのは利点だよね。“あの従者に気に入られるために、ウチも精霊族のとこと手を結んでおこう”って」

従者「せやな。多分やけどほとんどの種族はそうするやろな」

魔王「…従者は、デメリットをどう考えてる?」

従者「契約を結ぶには苦しい状況の種族も、大多数がそうしているっちゅー圧で、契約をするやろ。不本意でイヤイヤにな」

魔王「ほかには?」

従者「大多数が契約をとることになれば、立派な大手商人の仲間入りや。成金ちゃうけど、昔から地道にやっとるやつらはエエ顔せんやろ」

従者「それで自分のとこの商売の邪魔されるようになるやつもでてくるやろしな」

魔王「・・・・・・そうだね」

従者「せやし、ワイは関わらへんようにしてんのや。今は精霊族の村のほうに、他の商売屋がはいってくる可能性があるしな」

魔王「村の住人たちに少し聞けば、従者が村おこしに関わった事はすぐにバレてしまうんじゃないかな。突然現れた村だ、誰もが関心をもってるに違いないよ」

従者「もちろん手はうっとる。今の話をわかりやすう説明して、エノコロに村の連中以外のヤツらにワイのことをしゃべらへんようにゆっといたわ」


魔王「ああ…なんていうか、アレだよね」

従者「なんや?」

魔王「従者は本当に、手が早いよね」ニッコリ

従者「せやろせやろ。先手必勝や。せやけど褒めてもなんもでーへんで」

魔王「褒めたりしないよ、そんな真面目な話をベッドトークでするような“右腕”のこと」

従者「」ブハッ


従者「……おい、魔王。またヒトの様子を盗み見しとったんかいな」

魔王「えー?」

従者「すっとぼけても無駄や! 説明しとったんを見てたなら、なんでこんなことわざわざ聞きなおすねん!!」

魔王「え? いや、本当に見てないよ。でもまあ今までの様子からして、そういう真剣な話になるといちゃついてるしさ。ちょっとカマかけてみた」

従者「な゛」


魔王「本当に手が早いよね。正直こういうことって初めてだけどさ、予想外だったから俺びっくりだよ」

従者(……………コイツっ…!!)プルプル

魔王「やだなー。流石に“殺戮モード”に入るのは勘弁してねー? 怖いよー?」アハハ



魔王「でも… そっか。従者は精霊族の交易を本当に応援してるんだね」

従者「まあ、発展に力貸してる村やしな。賑わうようにしてやりたいわな」

魔王「うん… そうだね」ニッコリ

従者(……?)


・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・


―――――――――――――――――――――


それから、精霊族は順調に交易の範囲を広げていった
商隊を4組に分け、それぞれ別方向に散っていくというやり方だった
地図で見ると、丁度 魔王の領地のはじにある魔樹の森から根を伸ばすように交易の範囲を広げていくつもりらしい

正直、商売としてはあまり利口ではない
売り物である商品も数に限りはあるし、それを分配してしまっては“品数”はさらに減る…需要に充分に対応できるとは思えない

さらに非力の種族だ。少人数で行動すれば、襲われた場合にはあっという間に全滅だろう。
荷を乗せる車を守る態勢すら取れないままに。連絡用の使いを逃がすことすらも出来ないままに…皆殺しにされてもおかしくない

だが、それは精霊族の知恵なのだという。そういわれてはこちらも口出しは出来ない

非力な種族で、さらに少人数だからこそ 相手も警戒を緩める。温厚で平和主義の一族は、そうして相手の懐にやわらかく溶け込むようにしていくのだと

もとより、争うことなど 視野に入れてはいないのだと…、笑って聞かされた。


従者(単にエノコロがアホなだけかとおもっとったら、ほんまに商隊のにーちゃんも そーゆうしな。…精霊族っちゅーんは、ようわからん種族やで)


基本的に、好戦的なものが多い魔物達
戦いを嫌う物達は、だいたいは小心がゆえに隠れ住む物達、あるいは多種族を嫌う物達が多い


その中で、精霊族のやり方は間違いなく異例だった
そしてそれも当然かと思わせるような温かみを、従者は精霊族の村で体感していた

だから……
だからこそ。従者はそのイレギュラーの中で、その思考力を鈍らせたのだろう

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・・・・・・・・・・
・・・・・・


――――――――――――――――――――――

そして、しばらく経ったある日…

魔王城 執務室


魔王「………」カリ…カリ…

従者「………」カリカリカリカリ

魔王「……はぁ」カタン

従者「…………」カリカリカリカリ


魔王「今日は…いい天気だねー」ノビー

従者「あ? ああ・・・せやな。いい天気ゆーても、このあたりは瘴気で薄暗いけどなぁ」

魔王「こんな日はさ、仕事なんかしないで ゆっくり昼寝でもしてたいんだけどな」

従者「あほ。最近、魔王そんなんばっかりやん。仕事のペースおちてんのわかっとんで」

魔王「え。そんなにおちてるかな」


従者「まあ、一日分はちゃんとやっとるけどな。時間はかかっとるやろ」

魔王「…そっかぁ。じゃあもうちょっと頑張ろうかな」

従者「……まあ、前に仕事かわってもらったしな。たまにはええで、休んできても。変わりにやっといたるさかい」

魔王「え、いいの?」

従者「すっかり忘れてたけどな、魔王に貸しなんかつくったままにしとくのイヤやし。思い出した以上は、さっさと返してまうに限る」

魔王「そんなことを言われると、もうすこし貸しを作ったままにしておきたいなぁ」アハハ

従者「ええから素直に返させぇ。ほれ、その書類束 こっちに寄越しーや」

魔王「うーん… じゃあ、お願いしようかな」ガサ

ピッ

魔王「痛っ」

従者「魔王? どないした?」


魔王「あー… 紙で、指の腹んとこ切っちゃったー」

従者「なっ」

魔王「だいじょぶだよ、すぐ治るから」

従者「おい、魔王」

魔王「…ああほら、もう血が止まった」

従者「血、って・・・」

魔王「はい。傷口、ふさがった。ね、大丈夫だったでしょ?」ニコ

従者「・・・・・・どういうことや」


魔王「どういうことって。そりゃ、自己治癒能力のタマモノ…」

従者「そうやない!!!!」

魔王「……」

従者「なんで! 魔王が、紙なんかで指先を切って、ましてやそれで血ぃがでて!」

従者「そんでもって、なんでそれを癒すのに、十数秒も時間がかかるんや!!!」


従者「ホンマやったら、そんなもんノーダメージやろ! ダメージあったとしても、傷を負ったんを確認する間もないうちに回復してるやろ!?」

従者「それがなんで! 血なんかだしとんねん!!!」

魔王「迂闊だったね」

従者「何が!」

魔王「こんなことでうっかり怪我なんかしなければ、従者に余計な心配をさせずに済んだのになぁって」ニッコリ

従者「…説明しぃ」

魔王「えー…せっかく お昼寝タイムもらったのに」

従者「仕事も昼寝も無しや! ちゃんと聞かせてもらうで!」



従者「魔王。なんでそんなに弱っとるんや…!!」

魔王「……」

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・


従者「精霊族が… 清き、存在?」

魔王「魔物として認知している以上、魔物という分類を書面上ではするけれどね。おそらくあれは、魔物ではない」

魔王「おそらく、というか・・・ まず、間違いなく」


従者「…なら、あれはなんやねん」

魔王「俺らとは、魔逆の存在かもしれない」

従者「魔逆?」

魔王「俺にだってよくはわからない。とても信じられないけれどね。たとえば、魔王がいるのならば… 神がいるとしてもかしくはないだろう?」

従者「は…? 精霊族が、神だとでもゆうんかいな」

魔王「あるいは、それに属する存在。たとえば… 魔王に仕える悪魔がいるようにね」

従者「神に仕える、天使…ってか」

魔王「天使のような微笑だしね、彼女」クスクス

従者「魔王、こないなときに冗談なんか…」


魔王「正体はわからない。だが、そういう“魔”と対なす存在なのはどうやら確かなようでね…そうなると、神だの天使だのという空想話になるのも仕方ないよ」

従者「…“確か”なこと、なんやな?」

魔王「……彼女らの持つ、“シンキ”とやら。おそらく、あれのせいだろうね」

魔王「国中から集まるべき瘴気、魔力… そういうものが、遮断されていっている」

従者「!!」

魔王「おそらく、精霊族の交易路。あれが、障壁になってしまっていてうまく回収できていない。国中に、瘴気と魔力の淀みが生まれている」

従者「な……」

魔王「居心地のよい魔の土地が… 清き気によって、穢されている」

従者「いますぐに精霊族の村に行く。交易は、やめさせるわ」

魔王「いや、構わないよ」

従者「構わないわけあるかい!」

魔王「本当に、構わない。やらせておいていいよ」


魔王「実際はどうであれ、俺は精霊族を“魔物”として迎え入れ、国内に村を作ることを許したんだ」

魔王「“この魔王の領地において、全ての魔物はその益と財産、法によって管理された自由を侵されない“」

従者「…・・・ちっ」

魔王「俺自身の決めた法だからね。破るわけには、いかない」

魔王「彼らが魔物で、俺の領地に住む限り。そして多種族に悪意を持って混乱を招き、騒動を広げない限り、その権利は保障される」

魔王「その権利が侵されるのは… 唯一」


魔王「魔王により、制裁が必要と判断された場合のみだ」

従者「……止めたら、それは制裁になるっちゅーんか…」

魔王「魔王による制裁を受けた種族は、村八分のようなものだ。多種族からは“関わりあいたくない”と避けられるだろうね」


従者「……くっそ。なんでもっと早くいわんかってん、魔王」

魔王「ふふ。これくらいの魔力遮断があったって そうたいした問題じゃないからね」

従者「せやけど、実際に弱っててそーやって傷が…!」

魔王「これくらい、癒せるよ。俺を誰だと思うの?」

従者「……魔王や」

魔王「よく、できました」ニッコリ

従者「………」



魔王(従者が、応援したい者がいるというのなら。俺も、おまえくらいは応援してみたいんだよ)


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・・・・・・・・・
・・・・・・


――――――――――――――――――――――――

魔樹の森 精霊族の村…の、はずれ


精霊「……え? 魔王様が?」

従者「せや…」


従者「そやさかい、交易について自重してくれるように、伝えてもらえへんか。これはもちろん正式なもんやない。ワイの…個人的な、エノコロへのお願いや」

精霊「も、もちろんです!! そんな、まさか私たちの交易で魔王様にご負担をおかけしているなんて、そんな、そんなことは私…!!」

従者「ワイかてそうや、魔王は何もいわへんかったし…気づかんかった」

精霊「なんて…なんて申し訳ないことをしてしまったのでしょう・・・! この村を興すに当たり、たくさんの協力をしていただいた恩人でもありますのに!!」

従者「いや、恩人ちゅーか、国主なんやけどね」

精霊「それで…、それで 魔王様のご様子はいかがなのですか?」

従者「大丈夫や、魔力供給が遮断されとるゆーても、ほんの一部やしな。血の巡りが悪いようなモンで、時間はかかるけどキチっと回復もしとるさかい」

精霊「そう、ですか・・・」ホッ


従者「…魔王は、気にするなっちゅーけどな。交易も精霊族に与えた権利のひとつやーゆうてる」

精霊「魔王様・・・」

従者「せやからワイがこういったところで、それを絶対にしなアカンっちゅーよーなことでは無・・・」

精霊「いいえ! いいえ、それは違います、従者様!」

従者「え」

精霊「知らずとは言え、大変なお方にご迷惑をおかけしたのです。本来ならば、一族ごとその制裁とやらを浴びてもおかしくないのです!」

従者「まあ、そうやけど…」

精霊「私たち精霊族が、悪意をもってしたことではないと信頼していただいたがゆえのご処置であると思います」

従者「ああ…まあ、アホがつくほど平和な種族やて、ワイも魔王にゆーてるしなぁ…」

精霊「ぐっ。…そ、それでありますならなおさらです!」

従者「?」


精霊「信頼とは築こうと思ってできることではないのです。一度失ってしまった信頼は、二度目は容易には築けないものだと思っております」

精霊「ですので、いただいた信頼は決して崩させはいたしません」

精霊「私たち精霊族は、平和主義の温厚な種族であると…そう信じていただけるのであれば。私たちは誠意を持ってお応えします、従者様」

従者「エノコロ…」

精霊「他を傷つけていると知りながら、自分たちの益を求めたりなどしない。知ってしまった以上、その過ちは悔い改めましょう。そう、お約束いたします」

従者「……堪忍な。ありがとう、エノコロ」

精霊「いいえ。こちらこそ、申し訳ありませんでした…」

従者「今回、ワイがきたのは 他のみんなには黙っといてな」

精霊「ですが、魔王様に きちんと謝罪をさせていただかないと…」

従者「ワイがつたえとく。エノコロは精霊族の代表や。代表と魔王の間で、遣いをはさんだ秘密裏のやりとりがあってもおかしゅうない」

精霊「……」


従者「きちんと、ゆーとくよ」

従者「せやから。もーちょっと、安心しぃな…。あんま、ワイの心配事ふやさんといて」

精霊「え…?」

従者「顔色、真っ青や。魔王よりよっぽど体調わるそうやで、エノコロ」

精霊「…・・・私など」

従者「どれ、デコだしてみ」ピト

精霊「ひゃ…」

従者「…ひゃっこいなあ。ほんまに血の気が引いてもうてるやないか」

精霊「……従者様…」


従者「すぐ帰るつもりやったけどな。魔王が無事でも、エノコロがこのまま倒れたら目覚め悪すぎや」

精霊「え?」

従者「血の気、もどるまで。エノコロが元気でるまで。もーちょっと、ここで看といたるわ」

精霊「……ありがとうございます、従者様…」

従者「……ん」




?「もうすこし。……もうすこしなんだ…! うまく、やってくれ…」


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

中断します

>213 親バカw  
魔王「確かに昔、従者(犬モード)にミルク飲ませたときには
そういう気持ちになっちゃったこともあったよね!」
従者「!? んなもん魔王から飲まされた記憶とかないで!?」


↓から投下します
いけるとこまでやって、一度中断すると思います


―――――――――――――――――――――

精霊族の街

精霊「従者様。本日は、おいでいただきまして誠にありがとうございます!」ペコリ

従者「お、おう。って、なんやのこの様子は…。 なんや、催事やっちゅーのはきいとったけど」


ザワザワ…
ヨウコソ!精霊族ノマチヘ!
アクセサリーハ、イカガデスカ―?

精霊「ふふ。今日は、春祭りのお祝いをしているのですよ」

従者「春祭り?」

精霊「はい。年頃の子が上手く花をつけ、実をつけられるように…まだ幼い子たちは、夏に向け多くの若葉をつけられるように、と」


従者「つーても、ここじゃほとんどが若者ばっかりやないか」

精霊「はい。本来はそれぞれの家庭でお祝いをする子供のためのお祭りなのですが…」

従者「なるほど。みんなして若いもんだらけやから、街中がお祭りになってもーたってことか」

精霊「そうなのです。皆とても張り切っておりまして…せっかくなので街中を解放してのお祭りになったのですよ」

従者「で、ワイにもお誘いの手紙を寄越したと」

精霊「魔王様のお城に手紙を出すのは、とても緊張しますね・・・」

従者「文字が書けるヤツがおるんやな、びっくりしたわ」

精霊「あ、そうなのです。商人の方々の中には、精霊族の古来の文字の他に、現在の文字を扱う方がいまして…」

従者「あ。もしかして、あのにーちゃんか?」

精霊「あ、従者様は彼に面識があるのでしたね」

従者「一回話したっきりやけどな。そうか、あの手紙を寄越したんはあいつやったんか」

精霊「彼は青年党のリーダーをしています。今回のお祭りの発案も主催も、彼なんですよ」ニコッ

従者「へぇ。たいしたもんやな」


精霊「そう、ですね。この街の中では彼は古株ですから…賢い方ですし」

従者「古株て。どんだけ若い古株よ」

精霊「精霊族は年齢順にその地位を重ねるのですよ」クスクス

従者「ああ…。そやな、エノコロが一族の代表なくらいやしな。年功序列に文句言うつもりはないんやけど、あんま利口ともいいきれんなぁ」

精霊「ちなみに彼は“第二世代”といわれる世代のリーダーですが、その…」

従者「? どしたん」

精霊「……あの、従者様。覚えておいでですか? 私が若葉に捧げた祈りのことを」

従者「ああ、覚えとんで。精霊族として育てやすいように、っちゅーやつやろ」

精霊「あの時の若葉が、彼なのです」

従者「そうやったんか。それで?」

精霊「その前に私と従者様でお育てした若葉たちが、本来ならば“第一世代”でリーダーになるはずだったのに…」

従者「おお、あんときのがきんちょ共な。せや、そいつらはどうしてる?」

精霊「………」

従者「エノコロ?」

精霊「それは・・・」


ガサ

?「こんばんは、ご使者様。それに猫さんも。こちらにいらっしゃいましたか」


精霊「あ…」

従者「ああ…噂をすればっちゅーやつやな。久しぶりやな、にいちゃん」

精霊「……」

従者「エノコロ?」

青年「すみません、ご使者様。猫さんも・・・お邪魔でしょうか?」

精霊「私をそう呼ぶのはやめてください、青年さん」

青年「猫じゃらしなのですから、猫さんと。可愛くていいでしょう? 族長と呼ぶべきなのでしょうが、似合わないですし」

従者「族長…。あかん、そんな風によばれてるエノコロ見たら わろてまうわ」クク

精霊「じゅ、従者様まで…」

青年「あはは。ですよね? それとも僕も、“エノコロ”とお呼びしてもいいでしょうか?」クス

精霊「絶対に イヤです!!!」キッパリ


従者「えっ… すまん、いややったんか…。ほならワイもなんか呼び方は改めるさかい、堪忍してや…」

精霊「ち、ちがいますよ!? 従者様でしたら、いかようにもお呼びくださって結構なのです! むしろ今までどおりエノコロとお呼びください!?」ワタワタ

従者「お、おう…」

青年「ひどいなあ。どう思います? ご使者様。この通り、僕は猫さんに毛嫌いされていましてね」ハハ…

従者「エノコロが、毛嫌い?」

青年「婚約を申し込んだら、ふられてしまいまして。それ以来、こうして避けられているのですよ」

従者「え」

精霊「ち、違いますよ、従者様。私は婚約なんて絶対に…」

従者「い、いや。ええんちゃうか? 同じ精霊族同士だし、族長の若い娘と青年党のリーダー… 身分的にも問題はないやろし…」

精霊「っ」ズキ

青年「ふふ。さすがご使者様ですね。お話をわかっていただけて光栄です」

従者「あー…」


従者「ま、まあ なんちゅーかな。もしかしてアレか? 兄ちゃん、それでワイらの話しとるとこに割ってはいってきたんか?」

青年「いえ! とんでもありません、そんなつまらないやきもちは焼きませんよ。あはは」

従者「そか。それならまあええけど… 精霊族には精霊族のやり方がある。ワイには、はいりこめへんような文化もあるやろさかい…」


従者「せやさかい…… 邪魔やったら、そう言ってな?」


精霊「従者様! そのようなこと!」

青年「お気遣いありがとうございます」ペコリ

青年「ご使者様のお話は猫さんからきいておりますので・・・この街にも、あまりおいでにならないようにしていただいている、と」

従者「…そやな。手紙もらってきたけど、ずいぶんと久しぶりやったわ」

青年「ええ。ですので、本日こちらにおいでいただいたのも“何かのついで”というわけでもありませんでしょうし」

従者「?」

青年「ですので、このような祭りにお呼び出しをしてしまったお詫びと感謝を伝えに、お邪魔させていただいたのですよ」ニコ


従者「ああ、そやったか。気にせんでええのに、律儀なやっちゃな」

青年「ご挨拶をきっちりと。商人としてやっておりますので、そのあたりははずせない性分でして。ご歓談の最中に邪魔をしました」

精霊「……」

従者「おう、招待ありがとうな。街の様子なんかは魔王に報告させてもらうけど構わへんな?」

青年「ご使者様も、お仕事熱心な方ですね。もちろん構いませんよ、ごゆっくり見て回ってください」

従者「ん、あんがとさん」

青年「猫さん。ご使者様のご案内はお願いしていいですか?」

精霊「え?」

従者「……ええんか? ほんまは にーちゃんが…」

青年「振られた身で、猫さんと見て回ることもありませんし。かといって、猫さんを差し置いて 僕がご使者様をご案内しては…」チラ

精霊「~~~っ」

青年「ただの嫌がらせと思われて、余計に嫌われかねませんので」ハハ…


従者「エノコロ… おまえ、大人になりーや・・・」

精霊「わ、私の問題なのでしょうか!?」

青年「すみません、ご使者様。そういった事情ですので、主催者である僕がご案内できない失礼をお許しください」

従者「おまえも苦労してんやなぁ・・・」

青年「ご、ご使者様に言われてしまうと…。困りましたね、嫌味ではないのでしょうが…」ポリポリ

従者「あー・・・ そ、そやな。 なんか、すまんな」

青年「あはは・・・。じゃあ、僕はそろそろ失礼します。今日は忙しくしておりますので、もしかしたらお帰りの際のご挨拶が間に合わないかもしれませんが…」

従者「ああ、ええで。気ぃつかわれんのも面倒やし、自分のことだけしといてや」

青年「ありがとうございます。では…」


青年「ごゆっくり、おたのしみくださいませ」ニッコリ


・・・・・・・・・
・・・・・・


春祭り

精霊「おいしいですねー」モグモグ

従者「食いモン以外もえらいことになっとるな。精霊族は工芸品が得意なんか?」

精霊「自然に存在するものの細工が得意なのは確かですよ。でも、鉱石とかは苦手ですね」

従者「え、このあたりに売ってるアクセサリーとか… 石ちゃうんか? もしかして鼈甲?」

精霊「そのオレンジのやつですか?」

従者「オレンジサファイヤとかそういうもんちゃうんかいな」

精霊「それは琥珀です。樹液の化石とも言われるものです、特産品ですよー」

従者「へえ… これが琥珀か。絵写真とかではよう見るけどなあ、やっぱホンモンをみて区別するのは難しいな」

精霊「こういったものの色味や輝き・質感は 知識だけでは区別できないですよね」

従者「せやな。やし、こういうもんを見るのはわりと好きやねん。文字情報以外っちゅーのはいつだって新鮮や。頭んナカが補填されてく気がする」

精霊「ふふふ」


従者「…なんやねん」

精霊「ウィンドウショッピング好きな、従者様。ちょっと意外で、おもしろいです」

従者「へんなことゆーなや…」

精霊「これは琥珀のブローチですね、ひとつ買い求めましょうか」

従者「エノコロがつかうんか? ええで、買ったるよ」

精霊「ふぇ!? い、いえ!! そんな!」

従者「なんや、おねだりでもしとるんかと思たわ」

精霊「おねだりだなんて/// じゅ、従者さまに、と思いまして!」

従者「は!? ワイがつけるんかいな!?」

精霊「きっと、お似合いですよ?」

従者「琥珀ねえ・・・ まあ、綺麗なもんやけどな。って なんやこれ」


精霊「あ、気づきましたか?」

従者「なんかはいっとるな、この琥珀の中」

精霊「それが、精霊族特有の加工技術です。琥珀の中に、好きなものを閉じ込められるのですよ」ニコニコ

従者「これは… 水?」

精霊「ですかね? おそらく中が空洞になっていて、そこに水を入れてあるのでしょう。ほら… 光に当てると揺らめいて…」

従者「おお…すごいな。琥珀のカット自体だけでも光の反射に濃淡が出来るのに」

精霊「揺らめく水で、その濃淡すらも一定とならない」

従者「これは… なんや、ずっと見ていたくなるなあ・・・。買おかな」

店主「毎度! ありがとーございます!!」

従者「ああ、袋はええわ。そのままもってくさかい」

店主「はーい、ではお代金のほうが……」


・・・・・・・・・
・・・・


従者「ほんまに買ってしもた… しっかし綺麗なもんやなあ…」

精霊「お買い上げ、ありがとうございます!」

従者「着けるっちゅーより、観賞用やけどな。アクセサリーとしては持ち腐れやわ」

精霊「ふふ。その琥珀が羨ましいですね」

従者「なんで羨ましい・・・? エノコロ、腐れたいんか?」

精霊「ちがいますよ!」

精霊「例え本来の用途ではなくとも・・・従者様にずっと見ていていただけるのなら、きっと嬉しいです。ちょっと、ヤキモチ…なんて?」ニコ

従者「…あほ」

精霊「えへへ…」

従者「ほな、こうしたろ」

精霊「?」

従者「このへんやろかね」カチャカチャ…プチ、パチ

精霊「じゅ、従者様? 何を…」


従者「お、似合うとんで。やっぱアクセサリっちゅーのは女が着けへんとね」

精霊「従者様?」

従者「こないなことでヤキモチやかれてもかなわんしな。着けとき」

精霊「ですが、これは従者様がお気に召して買い求められたものですよ!」

従者「そや。おきにいりやね」

精霊「でしたら、私がいただくわけには!」

従者「あほ。誰もやるとはゆーとらんわ」

精霊「え? ええ?」

従者「着けとき。見に来るから」

精霊「え…」

従者「ずっと見てたくなるもん、あっちこちに増やしてもしゃーないしな。エノコロにつけときゃ、ちょうどええわ」

精霊「従者、さま… その、つまり、それって… わ、私のことも…?」

従者「知らんわ。ほれ、いくで」

精霊「あっ」


従者「なんか飲みもんでも買って、休憩しよかー。ほれ、さっさとせんとおいてくでー」

精霊「ま、待ってくださいっ! いきます! いきますから!!」

従者「案内役が案内されててどーすんのや、ほんっまトロいなー」

精霊「!? 甘いムードっぽかったのにっ!?」

従者「ワイにそーゆーの求めんといてー 無理やわそんなん」

精霊「ぅぅぅ/// ちょっと意地悪ですよ…」

従者「悪魔やからね」

精霊「悪魔なんかじゃないですよっ」プンプン

従者「せやな。出来損ないの悪魔やったわ。しかも」ポフ

精霊「ひゃっ」


従者「なんや最近、エノコロのせいで ほんまに駄目悪魔になっとる気するわ」ポフポフ

精霊「……えへへ。従者様は、悪魔なんかじゃないです。私が、させないです」ニコ

従者「営業妨害やわ」

精霊「ふふふ」


その日、祭りは朝まで続いた
賑わう露天、はしゃぐ若者
炎によって、仄暗い赤銅色に染め上げられた街並み
美しい歌声が、どこよりか響いて流れ去る


悪魔を幸福の渦中に堕としたものは
なんだったのだろうか


その罪は
その責は

どこにあるのだろうか


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・


―――――――――――――――――――

魔王城

魔王「おまつり、たのしかった?」ニコッ

従者「おう、えらい盛況しとったで」

魔王「うん、聞いてる。どうもいろいろな種族が参加していたみたいだよ」

従者「ああ…おったな、そういや。なんやコソコソしてるやつらいたわ」

魔王「新しい街だからね、偵察…ってとこかな」

従者「せやろな。きっと毒気ぬかれて帰ってったんちゃう? 褌で踊っとるアホとかおったしな」

魔王「驚くなかれ」

従者「何や?」

魔王「どうやら、あの攻撃的で警戒心の強いフェンリル君たちのところからも視察が出ていたようだよ」

従者「うっそやん!」


魔王「ほんとー。少数部族で動かないのにね。あんな場所まで視察を出させちゃうなんて、注目度高すぎだよね」

従者「ワイ、フェンリルがきとるのに気付かへんかったわ…。よっぽど強いヤツをだしてたんやな、こりゃ…」

魔王「せ、精霊族が変なことするつもりだったら 街ごと焼いちゃう気だったのかもね?」

従者「うわ… ありうるから怖いわー…」

魔王「まあでも、なんか面白い話もあるみたいじゃないー?」

従者「なんもないで?」

魔王「えー? 精霊ちゃんの、マル秘・婚約話とかは?」

従者「」ブハ

魔王「いやー、なんかなかなか 頭のキレそうな青年だったねえ、彼。モテるんだろうなぁ」

従者「なにがいいたいねん…」

魔王「別に? あっさり乗り換えられなくてよかったねぇ、っておもって?」

従者「乗換えとかちゃうし!!!」


魔王「えー? 贈り物とかして手堅くキープしてたじゃーん」

従者「おま… ちゃうわ!! あともういいかげんに見るのやめーや!!!!」

魔王「だからね、監督義務という言葉を…」

従者「先にプライバシーっちゅー言葉を覚えろゆーとるんやって!!!」

魔王「でもあれだね。あの青年・・・ ちょっと、気をつけn…… あ…れ?」 


魔王「っ!」ガクンッ

従者「魔王!?」


従者「どないした!」ガタッ

魔王「……っ、これ、は・・・・・・」グラ… フラッ


従者「魔王!」

魔王「あ… しまった、やられた…ね」ガクガク…


従者「やられた…?」

魔王「うん…」



魔王「国中に 重複する巨大結界を張られた… 今、一斉に起動したようだ」

従者「!」

魔王「魔の領地が浄化されていく。これは…」


フラッ…


魔王「…・・・戦争に、なるよ」


ドサッ…


従者「魔王!!!」


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・


――――――――――――――――――――――

魔王城 魔王の寝室


魔王「……あ。あれ… 俺…?」

従者「…目、覚めたか」


魔王「あ、従者・・・ ごめん、俺 寝てた?」

従者「寝てたっちゅーか・・・ 倒れてたわ」

魔王「情けないねえ」アハハ


従者「……もう、大丈夫なんか?」

魔王「んー… どうだろう」

モワ… シュワワ…
パチパチ…

従者「一応、瘴気もだせるみたいやな」

魔王「うん、でもやっぱり入ってこないね。出したら出したっきりだ」


従者「…結界ってやつか?」

魔王「うん。いきなり循環供給がとまったから、ちょっとバランス崩したみたい」

従者「……」


魔王「大丈夫だよ。俺の中だけでも十分すぎる量の瘴気が入ってる。少し力を使うのはセーブしないと、いつか使い果たしちゃうかもしれないけどね」

従者「精霊族・・・」

魔王「ふふ。決め付けちゃうの?」

従者「いや、決定や」

魔王「決定・・・?」

従者「精霊族より、魔王城に宣戦布告があったんや」

魔王「・・・・・・そっか。なんて?」


従者「『我等の領地を再び。全ての聖なる生き物に住み良い世界を。穢れた魔王に浄化を』……やて」

魔王「……」

従者「……」


魔王「あはは・・・ 穢れた魔王、かー。ひどいなぁ」

従者「………何が、穢れや・・・ 魔物にとってはあいつらの言う浄化された世界なんてもんこそ死地や・・・」


魔王「ほかの魔物達の反応は?」

従者「弱い魔物達は、それぞれの巣にこもってる。非常事態や、魔王城からも警戒のために何匹か動けそうなヤツを派遣しといた」

魔王「そう、ありがとう。浄気にあてられて、弱って死んでしまう魔物がいないといいのだけれどね」

従者「それから… 戦闘力の強い魔物達が、各部族から数匹づつ。既にこっちに向かってきてるっちゅー連絡がはいっとる」

魔王「俺の護衛のつもりかな、必要ないのに・・・。まあ、直接 精霊族の村に殴りこまないだけマシかな」

従者「……死にぞこないの小物どもは、もうドンパチやっとるみたいやわ」

魔王「そっか……」


魔王「もう、はじまっちゃってたんだ」

従者「ああ。 戦争や」


魔王「・・・・・・そっか」

従者「・・・・・・」


魔王「やっぱり、こうなるか…」ハァ

従者「なんで…… なんで、こんなん…」

魔王「まあ、こうなっちゃうだろうなとは思ってたよ。……俺が手を出して止めない以上はね」

従者「予想しとったんか、魔王!」


魔王「うん。精霊族が増え始めた頃、いっただろう?“不穏な魔力反応がある”、と」

従者「…エノコロの、祈りのことやな」

魔王「新しく産まれて、新しく全てを創りだそうとしていれば、産まれなかったかもしれない未来」

魔王「でも彼女は、孤独の労に耐え兼ねて。一時の愛情を求めて…過去に、すがってしまった」

従者「過去・・・?」

魔王「衰退して滅びた、愚かな記憶」


従者「あいつらは・・・なんで、滅びたんや?」

魔王「さてね。でも、彼らが魔物でないと確信したときにはもうこの予想はついていた」

従者「まさか… 魔物や、先代のどっかの魔王が…?」

魔王「その可能性は高いだろうね。浄気を吐き出す精霊族・・・ その正体は、よくわからないものだけど」


魔王「“魔”にとって、精霊族が 有毒な生物であることに間違いはないのだから」


従者「・・・・・・魔に族するもんに、滅ぼされた一族だったっちゅーんか・・・」

魔王「そうじゃないかなって。推測だよ」


魔王「ただ、生き残りの種族はその歴史をつむがなかった。平和な種族だからこそ、その血塗られた歴史を抹消しようとしたのかもしれないね」

従者「あるいは、弱いもんやから戦争には参加せず・・・ただ、事情もわからず逃げ隠れたヤツだけが生き残ったか」

魔王「事実は闇の中さ。全ては過去に置き去りだ」


魔王「……でも、彼女はその過去を蘇らせてしまった」

従者「種子に残された・・・ 魂か、遺伝情報か。そこにのこされた『精霊族の記憶』、やね」

魔王「この戦争の主導者にでも聞けばわかるのだろうね。“前回の”精霊族の滅亡の理由は・・・」

従者「っ… 前回とか、ゆーてやんなや・・・」


魔王「…歴史を繰り返してしまうのは、あの時点で決まってしまったのかもしれない」

従者「なんや・・・。つまり、それは…」


従者「…ワイに会いたくて。寂しくってしたことが、あいつらの繁栄の未来を閉ざしたっちゅーことかい…」

魔王「……」


魔王「未来なんて不確かなものだよ、従者。あるのかないのかすらわからない」

従者「なんや、それ… どーゆー意味や」


魔王「精霊族からの、一枚の申請書」

魔王「魔王城に送られてきた申請書。永年に眠るはずだった申請書」

魔王「・・・どうして、魔王城に送られたんだろうね。精霊族ならば、人間の王城に送ってもおかしくはないのに」

魔王「それに、俺はどうしてあそこまでして、ソレを選びたかったんだろうね」

魔王「それは、まだわからない。だから俺は手を出さずに・・・その行く末を見守りたかった。こうなることを予想しても、ね」


従者「その行く末ってやつが・・・ こんな、ひどい結果になるかもしれんっておもってても、沈黙したっちゅーんか」

魔王「逆だよ、従者」

従者「逆・・・?」


魔王「もしかしたらさ。 一時的にでもあそこまで発展し、種族としての記録を後世に残せること自体、出来すぎた話かもしれないんだ」

魔王「その種族の記録を残せることが、俺たちにとって有意義なことなのかもしれないんだ」

従者「なにを・・・」

魔王「つまりね これが、精霊族にとっても俺たちにとっても…」 



魔王「“いまある未来の中で”、最良の結末かもしれないっていう話だよ」ニコリ

従者「………っ!」


・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・


―――――――――――――――――――――

精霊族の街


バタバタバタ…

オイ!避難ハスンダノカ!
南区、警戒態勢完了!
ソノ箱、早クモッテコイ! ……


精霊「もうやめて! どうしてこんなことをするんですか!?」

青年「猫さん、あなたは奥へ。おそらくもうしばらくすれば、ほかの魔物達も攻め入ってくるでしょう。ここは危険です」

精霊「そうじゃないでしょ!? どうしてこんな、裏切るようなことをするのですか!?」

青年「裏切る?」

精霊「魔王様は、私たちを信頼してくれて、この街を興すのにもたくさんの協力をしてくれました!」

青年「信頼・・・」


精霊「それに! 交易路で魔王様のお体にご負担をかけてしまったときも、快く許してくださいました! それなのに、それなのにどうして!!!」

青年「ご負担、ね」

精霊「精霊族は、信頼に応えるものだと!」

精霊「何よりも信頼を大切に思い、その信頼のもろさを知り! だからこそ信頼しあい、慈しみあうことの出来る種族なのだと、私は父に習いました!!」

青年「その通りですよ、猫さん」

精霊「だったら、なぜ!!」



青年「最初に裏切ったのは あいつらだから」


精霊「……っ」


青年「どうして俺たちは、自分のことを魔物だなんて思っていたと思います?」

精霊「それは… 他に何も、判断できる資料も伝えも残されていないから…」

青年「違いますよ?」

精霊「え…?」

青年「騙されたのですよ。人間に追われ、住処を失った俺たちは 魔の領地と聖の領地の狭間で生きていた」

青年「そんなある日 当時の魔王が・・・ 魔物として領地に入ることを許したのです」

青年「そして僕らは、魔物になった」

青年「そして。当然のように、わかりきっていたことなのに・・・・・・」


青年「浄気を吐くという理由で。魔王の号令により、魔物達に殲滅されたのです」

精霊「!!」

青年「あっという間ですよね。僕の種子に残された記憶は今でも鮮明ですよ」

青年「ほんの少し、日帰りの商いで出掛けていただけでしたが、帰ってみれば死体の山ですから。それはひどい景色でしたよ。思い出すことより、忘れるほうが難しい」

精霊「な・・・ なんで、そんな」


青年「信頼を裏切った。裏切るほうは簡単ですよね、痛みも少ないでしょうし」

青年「それで、いまさら。裏切られたほうの気も知らずに 信頼しようだなんて・・・」


青年「そんな都合よく、成り立つようなものじゃないんですよ」ニッコリ


精霊「青年さん!」ガシッ

青年「猫さんから迫られるとは、嬉しいですね」

精霊「一体、一体 何をしたというのです!? 裏切られた過去を忘れられないのはわかります! ですが、どうしてこんなことになっているのです!?」

青年「簡単ですよ? 交易をしていただけです」

精霊「な・・・ だって、それは やめてくださるって・・・」

青年「ええ。それまでは堂々と結界を描きながら交易にでていましたからね。それはやめましたよ」

精霊「結界・・・?」

青年「ええ。まあ代わりに…」


青年「国中に、結界の起動術式を 埋め込みましたけどね?」ニッコリ

精霊「それは… それは、一体・・・?」


青年「素直に防護結界だけ張らせておけばよかったのに。見逃すのか止めるのか、決めなくちゃいけなかったのにね」

青年「元々、交易路はその線だけで結界にできるはずだったのに」

青年「その結界の線が、大量の小さな結界によって編み上げられているなんて…… きっと、相当に、辛いんでしょうね?」クス


精霊「そ…んな・・・ そんな・・・」


精霊「やめて! 今すぐ、その結界を止めてください!!」ガシッ、ギュウウ

青年「誰か! 猫さんを奥に連れて行ってください」

精霊「!?」

精霊族「はい」ガシ

精霊「いや!! やめてください、青年さん!!」

青年「全てが落ち着いたら。もう、婚約の心残りであるあの人も・・・いなくなってくれますよ」ニッコリ

精霊「!!!」ビクッ

・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――

魔王城 魔王の寝室

魔王「……ここからでも、領内の混乱が見え始めたね」

従者「城下に、結構な数の魔物達が集まったようやで」

魔王「そう。じゃあ挨拶くらいはしないとまずいかな」ヨロ

従者「フラついとるやんけ・・・魔王、大丈夫なんか」

魔王「うーん…気が、浄化されていってるのが厳しいね。このままだと領地内の魔物達はちいさいものから死んでいってしまう」

従者「魔王、もしかして・・・?」

魔王「うん。なるべく、瘴気を散らしてる」

従者「そんなん・・・!」


魔王「多分、全部を出し切れば 領地だけでなく世界だって一瞬で瘴気に染め上げることも出来るんだろうけどね…ちょっと無駄も多いし」

従者「そんなん、すんなや!」

魔王「ま、さすがにそんなことまでしてあげられるほど、自己犠牲の精神は持ち合わせていないから安心して」クスクス

従者「~~そうやなくて。 今だって、調整の程度だとしても、瘴気を放ち続けていれば魔王のほうが…」

魔王「確かに、さ」


魔王「俺がいれば、俺さえ健在なら どんな魔物だって俺が新たに創り出すことはできるよ?」

従者「・・・・・・せや。せやさかい、みんなこうして魔王のことを守ろうと・・・」


魔王「でもさ。いくら俺が魔物を創れるからって・・・ 死んでしまう魔物達の痛みを取り除けるわけじゃないんだ」

魔王「死んでしまう者の苦しみや恐怖、残された者の悲しみや恨み。そういうものは 俺ではどうしようもないんだ」

魔王「……ここで、そういったものの数を減らす。調整し、管理する。領土の気を整える。それが俺の 一番大切な“仕事”だからね」ニッコリ

従者「……そやな」


従者「支度を手伝う。行こう、魔王」

魔王「ありがとう」


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・


魔王城 城下

ザワザワ……
ザワザワ……


従者「控えろ!」

魔物達「「「!!」」」


従者「皆、集まっているな。ご苦労。魔王より宣旨がある。聞け」

魔物達「「「………」」」シーン…


魔王「やあ、みんな」

魔物A「魔王様… 魔王様だ」

魔物S「ご無事だったのだな、よかった・・・」


魔王城 城下

ザワザワ……
ザワザワ……


従者「控えろ!」

魔物達「「「!!」」」


従者「皆、集まっているな。ご苦労。魔王より宣旨がある。聞け」

魔物達「「「………」」」シーン…


魔王「やあ、みんな」

魔物A「魔王様… 魔王様だ」

魔物S「ご無事だったのだな、よかった・・・」


魔王「心配を掛けたね。領地内の気量の減少で、苦しい思いをした者も多かろう。みんな、無事?」

魔物達「「「魔王様に栄光を!! 魔王様に安寧を!!」」」

魔王「あはは・・・ 俺、それ苦手っていうか 嫌いなんだけど。まあ昔からの習慣だから仕方ないね」アハハ

魔王「さて、本題だ。精霊族による謀反行為だが… 皆、怒りもあることだろうとは思う」

魔物達 ザワザワ… ザワザワザワ…

従者「静粛に!!」


魔王「精霊族に対する、攻撃。魔王よりの指示は現時点で・・・無い」

従者「!?」

魔物E「魔王様!?」

魔物P「どういうことですか!」

魔物Z「精霊族に報復をしないというのですか!?」

魔王「ああ。申し訳ないね、君たち」


魔王「精霊族は本来、浄気の中で生きる生物らしい。魔の領地で生きるのは辛く苦しいこともあるだろう。そしておそらくその困難な状況に引き込んだのは“魔王”だ」

魔王「一度くらい、目をつぶろうとおもってね。交渉の場を設けたい」

魔王「すでに渦中となってしまった現在で、どれだけ先方に話をつけられるかはわからないけれどね」

魔王「その交渉が成立し、この結界を解いてさえくれれば・・・全てを不問と処す」

魔物「「「!?!!?」」」


魔王「安心して、その交渉までは 俺が領地内の気量については調整する。辺境のあたりは少し息苦しいかもしれないから…そうしたらこちらに避難してほしい」

魔王「今は もうすこし。静観をしてほしいんだ」ニッコリ

魔物達「「「…………」」」


従者(魔王の代になってはじめての、全領土・全種族を巻き込んでの全面戦争)

従者(魔物達の被害をおさえるんに、魔王が自分で手ぇ下すかとおもってたけど…まさか・・・)

魔物達「「「ザワ… ザワザワ…」

従者(こんだけの状況になってなお 静観する、なんちゅーんは…)


魔王「ごめんね?」ニッコリ

従者(とてもじゃないけど 抑えられるとは おもえへんで…)ハァ


?「ふざけるなあああああああああ!!!!!!!」

魔王「っ」

従者「チッ… なっ!?」スチャ


精霊族「ふざけるな! 何がいまさら、静観だ!!」


魔物D「精霊族!?」ザッ

魔物R「精霊族だ! こいつ、ぬけぬけと入り込みやがって…!」チャキン!

魔王「皆! 手を出すな!!」

魔物達「「魔王様!?」」

魔王「……そこの精霊族。前へ」

従者「道を開けてやれ」


精霊族「くっ…舐めてるのか」

魔王「そこにいたのであれば、聞いたであろう。交渉の場を設けたい。お前らのところの首謀者に伝えてほしい」

従者(首謀者……たぶんやけど、あのにいちゃんやろな…)


精霊族「交渉なんかするもんか! 俺は聞いたんだ!」

魔王「なんのことだ」

精霊族「お前らがいるせいで、俺らは昔 ひどい目にあわされたって! 魔王なんかいないほうが、世界は幸せなんだって!!」

魔物達「「こいつ!?」」

精霊族「俺らは本当は魔物なんかじゃなくて! もっと明るくて広くて綺麗な場所で、みんなで幸せに暮らしてたんだって! それを全部壊したのが魔王だって! 聞いたんだ!!」

魔王「聞いた聞いたって… おまえ自身の考えではないのか…?」

精霊族「知らない! 俺はそんな記憶は持ってない!!」

従者「まさか… おまえ」


精霊族「俺は精霊族・第一世代のリーダー! 一族代表のエノコログサ様に代わって、魔王を討伐する!!!」

従者「あんときの 若葉のガキンチョ…!!」


精霊族「食らえ、魔王!!」キラリ

魔王「……それは、琥珀? え、投げるつもり?」

バシッ!

魔王「痛っ。 って、まさか 琥珀の投石とは…参ったね」クス

魔物L「貧弱な種族め、なんて無礼を…」

魔物K「待て、その琥珀 見覚えがあるぞ。それは確か…」


魔王「え?」

ジュワアアアアア!!!


魔王「!!!!」

従者「魔王!?」

精霊族「聖水入りの琥珀水晶だ! 穢れた身を清めるがいい!!」

従者「なんちゅーこと…!」


魔王「っ、ぐ…。 いや、まいったね これ…は」

魔物H「貴様!!」

魔王「まて! ……みんな、大丈夫だから。 手を出すんじゃないよ?」ハハ

精霊族「どこまで人を侮辱すれば気が済むんだ 魔王…!!」

魔王「すまない。ただ、話し合いがしたいだけなんだけどね」

精霊族「その口! 二度ときけないようにしてやる!!」バッ

従者「なんちゅー数の琥珀を仕込んで…」

魔王「はは、あれ全部は流石に痛いなあ。万全だったらどうってこともないんだろうけど」

従者(というよりこれは…!)


精霊族「食らえ!!!!」


ザシュ


精霊族「…が…… あ…?」

フェンリル『……グルルル…』

精霊族「あ… 俺、死…?」

従者「おい! 大丈夫か!」

精霊族「エノコログサ様… おねー、ちゃ… ごめ…」

ガクン

従者「~~~~~ちっ」

従者「フェンリル、おまえ…! 魔王の命令を!?」

魔王「………」

フェンリル『このままでは こいつも引けぬだけであろう。魔王に一矢報いたのだ、こやつには十分すぎる』

従者「がきんちょ…」


フェンリル『己の意思をも持たない、傀儡。少しは己の意思で、想う者もあったようだがな』

従者「エノコロのために…やったっちゅーんかい…」

従者「なんで、そんな風になてもうたんや…」


~~~
従者「エノコロに教える分には『知識』だからええねん。おまえらみたいに未熟なんに教えたら、それが『常識』になってまうやろ」
~~~

従者「…刷り込まれてしもうたのか」


魔王「……フェンリル」

フェンリル『はい。命令違反の御処罰でしたら、いかようにも』

魔王「……いや。俺を守ろうとしたことだし、緊急事態だった」


フェンリル『……魔王、済まない。心痛は察する』

魔王「うん… ありがとう」ニコ

フェンリル『俺のしたことの意味は、わかっているつもりだ…』

魔王「……いや。仕方の無いことだったんだ。君は何も負い目を感じることは無い」

フェンリル『……ああ。必要だったと判断した。その上での行動だ、処罰は任せよう』


魔王「フェンリル候」

フェンリル『はっ』


魔王「魔王の緊急を手助けした事、感謝する。褒章をとらす、後日改めて参れ」

フェンリル『ありがたき、お言葉…』


従者(……これで。精霊族制裁のための舞台は… 整ったっちゅーことや…)

魔王「精霊族を、魔王の目の前で殺処分してしまった。先ほどの交渉はもう決裂ということになるだろう。皆、心して待機せよ」


魔王「戦争となる。必要な休息と準備があれば、今のうちに整えておけ」

従者「……」グッ

魔王「追って、指示を出す。控えて待て」

魔物達「「「「うぉぉぉぉおおおお!! 魔王様万歳!! 魔王様に栄光あれ!!!」」」


従者「……」

魔王「……それは嫌いなんだって、言ってるんだけどね」ハハ…


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

ハッシュドビーフ焦がしたから中断します


――――――――――――――――――

魔王城 玉座

魔王「さて…忙しくなるね」

従者「………」

魔王「従者、指示をひとつ出してもいいかな」

従者「ああ… ええで。なんや。“殲滅”か?」

魔王「まさか」クス


魔王「精霊族の街へ向かえ。首謀者及び一族代表に接触しろ」

従者「!」

魔王「話をしておいで。……号令を出してしまえば、もう間に合わない」

従者「っ……」グッ


魔王「従者…」

従者「……それは、指示なんか。なんの意味があるんや」

魔王「さぁね… “きまぐれ”かな」

従者「いつぐらいにおっぱじめるつもりや?」

魔王「夜。月が、真上に昇る頃… 瘴気の最も濃い時間帯だから。魔物達も動きやすいだろう」

従者「5時間もないやんけ…」

魔王「本気を出せば、行って帰ってこれるだろう? …悪魔・カーシモラル」

従者「ちっ… きっついこというわ」

魔王「うん… でも、このまま何も言わずにすれちがうのは…きっと、悲しいよ」


魔王「後悔を残さないようにね。きっちり、自分の中で物事の整理をつけてくるんだ。そうでないと…」

従者「わかっとる!!」

魔王「……」


従者「くっそ……。 いってくる」


魔王「うん。いってらっしゃい」ニコ…


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――――

魔樹の森 精霊族の村近く

ガササササッ!


従者「…………」

従者(ちっ… 結構な数になっとるな、精霊族。まあ非戦闘民族やし問題はないけど…)

従者(……エノコロ、がんばったんやな)


ガササッ!

従者「!」サッ!

精霊族R「……んだと!? 魔王が!?」

従者(……あれは。先走りの伝令か?)


精霊族L「ああ、やられた… くっそ、ふざけやがって…!」

精霊族R「ともかく、青年様に報告を。急げ!」

精霊族L「許さねえ…! あいつら、どこまで俺たちを馬鹿にしやがるんだ…!!!」


従者(がきんちょの他にも、魔王城にきとった精霊族はおったようやな。まあ、当然やけど…)

従者(だとしたら、きっと。あのがきんちょが一人でしでかしたことやないっちゅーんなら…)


従者(鉄砲玉に、されたんか)ギリッ…


従者「………」ソッ…

精霊族 キョロキョロ…


従者(行こう。まずは…エノコロの所や)


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


精霊族の街


精霊「………」ガクガク…

精霊(ああ…っ なんて、なんて恐ろしいことになってしまったのでしょう!?)ブルッ

精霊(私は、こうして奥の間に押し込められて… 何も出来ないのでしょうか…)

精霊(もうすこし、私に知恵があったのならば)

精霊(どうにか、どうにかできたのでしょうか…)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
青年「婚約の心残りであるあの人も・・・いなくなってくれますよ」ニッコリ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

精霊「っ!」ブルッ!


精霊「従者様… 従者様、従者さま… どうか、どうか」

精霊「どうか、ご無事でいてくださいませ…っ!!」


従者「呼んだか?」ヒョイ


精霊「!?きゃぁあああ!?」

従者「シッ!」ガシッ

精霊「~~~~~~っ!?」

従者「エノコロ… 無事やったんやな」ギュゥ

精霊「あ… じゅうしゃ、さま…? うそ…?」

従者「うそちゃうよ。……魔王に言われてな。密偵みたいなもんや」

精霊「密偵…。では、精霊族を…」ゴクリ


従者「……エノコロ、確認したい事があんねん。わかる範囲でええ。答えてや」

精霊「は、はい」

従者「今回の、魔王への謀反。首謀者は誰や」

精霊「………それ、は…」

従者「……あの、にいちゃんやな?」

精霊「……」

従者「エノコロ…?」

精霊「~~~っ」ポロ

精霊「う… うう… っく、ひっく」ポロポロ

従者「どうした、泣かんといて」


精霊「…っせ、精霊族の行いは、全て私… 一族代表を務める、私の責にあります…」

従者「……」

精霊「このような、このような事になっても… 精霊族代表として、その責を全うせずに仲間を売るような真似はできないのでございます…」ポロポロ…

従者「エノコロ……」

精霊族「誰が悪いのかと尋ねられれば。それはひとえに、私が及ばぬが故の事なのです…」

精霊「ごめんなさい… ごめんなさい、従者様…っ」

精霊「魔王様にも… 本当に… 申し訳のないことでございます……」ポロポロ…

従者「エノコロ…」

精霊「…っ、ひっく、う、うぇ、うぅぅ……」ボロボロボロ…

従者「もう、泣くなや… 今は責めてるわけとちゃうから…」

精霊「ひっく…っ。…う…く。とり…取り乱してしまい、申し訳ありませ…っ」ヒック

従者「ええよ… しゃーないことや」

精霊「……」グス


従者「そや……もう一個、大事なことが…」

精霊「はい、どのようなことでも…」

従者「あのな、エノコロ。 あの、ワイらで育てた若葉のことやけど…」

精霊「あ……。 ごめんなさ…っ 大切に育てると、お約束をしましたのに…っ!」

従者「なんや… もう、知っとんのか」

精霊「……」フルフル

従者「じゃぁ…?」

精霊「何をしたのか…どうなったのか……」ブルッ

精霊「い、今となると 恐ろしい考えばかりしか浮かばなくて…っ」

従者「……」


精霊「きっと、きっと 私の予想は当たっているのだとおもいます…」

従者「…ああ、そうかもしれんな」

精霊「お聞かせ、ください…。聞かねばならぬ立場でございます…」

従者「……魔王に単身でケンカ売ってな。聖水の入った琥珀を投げつけたわ。ようやるで」

精霊「!!」

従者「ほんま無茶しよったで。あんなことするんは、後にも先にもあいつくらいやろな」

精霊「それで… それで、彼は…?」

従者「……魔王が無抵抗なのに激情して大量の琥珀を次いで投げつけようとしたさかい…“処分”されたわ…」

精霊「ああっ!!」

従者「……無謀やけどな。あんな怖いものしらずやわかってたら、ウチでスカウトでもしとったらよかったわ…」ハハ

精霊「ごめんなさい…! ごめんなさい、ごめんなさい…!」


従者「あんな風なヤツちゃうかったと思ったけどな。まあ何があったんかは…聞かんでもわかるわ」

精霊「……ぅ」

従者「エノコロ?」

精霊「私は……ずっと、気づけなくて…」

従者「……」

精霊「いつの頃からだったかもはっきりとしない…。情けないことです…」


精霊「この平和な街で、『ねーちゃんは僕らで守ってやるからな』…なんて言うようになって。私はそれがおかしくて」

精霊「何から守るつもりなのかなんてことを、考えもしませんでした」

精霊「彼らが何を考え、何をするつもりだったのかなんて…」ポロ

精霊「~~~っ 本当は、気づけたはずなのに…っ!」ポロポロ


従者「エノコロ、落ち着きや… 悪いのはおまえやなくて…」

精霊「私のせいです!」

従者「ちがうやろ? エノコロはなんも知らんと、巻き込まれただけで…」

精霊「族長でありながら、何も知らないだなんて…! そんなことは許されないのです!」

従者「っ! 族長とか…!」

精霊「それが精霊族の業ならば、その全ては私の責でございます! 全て、私の落ち度が招いたことなのです…!」ヒック、ヒック…

従者「……そんなん…なんで…不条理すぎるやろ…」

精霊「全部… 全部、私のせいなのです……」ポロポロ……



従者「………古の種族、か」


従者(その文化は厳格で誇り高い。歴史の記憶をもたなくとも、その生き方は根付いとるんか…)

従者(……ほんま利口とはいえへんで。 そんなんは、美しいかもしれんけど残酷や)


従者(性善説が実現しよるような“理想郷”にでも生きないかぎり、うまくいきっこあらへん)

従者(ほんまに。 精霊族っちゅーんは、“天国”出身なのかもしれへんな)


ガヤガヤ・・・!
ザワザワッ!!!


従者「っ、なんや? 急に騒がしゅうなったな・・・?」

精霊「今度は、何が・・・」


バタバタ・・・

精霊「誰かがこちらに!?」

従者「ちっ」

従者「ともかく、静かに。落ち着いて。ワイが来てることを知られたら今は困るんや。黙っといてくれるか?」

精霊「は、はい・・・それは、必ず!」

従者「よし、ほなすまん。ちょぉ、ワイの事 隠してな」

精霊「え・・・?」

従者「」ポンッ


従者(犬)「邪魔するで」スルッ

精霊「ひゃ!? す、スカートの中に!?!?」

従者(犬)「さすがにこの状況でココをめくるやつはおらへんやろ」

精霊「~~~~そ、それはそうですがっ」


従者(犬)「なんや? バレそうか?」

精霊「~~~~~~な、中を見ないでくださいねっ!?」

従者(犬)「あほか。こんな時にパンツみたってなんとも思わへんっちゅーねん。それともフリか?」

精霊「ふ、フリ? よくわかりませんが見ちゃ駄目ですからね!? 絶対ですよ!? 絶対駄目ですからね!!」

従者「なんや、やっぱフリなんか。ほな… おお、まさかの…」

精霊「~~~~~っ//」

従者(犬)「って、つまらんことやらせんなや。はよ静かにしいや。バレてまうやろが」

精霊(~~~~~っ こんな気持ちはとても言葉に出来ません!!!)クッ


ドンドン!

精霊「は、はい!」

従者(犬)(……)


ガチャ

青年「失礼、猫さん。すみませんでした、長いこと閉じ込めるような真似をして…」

精霊「青年さんでしたか…」

青年「ああ…よかった。ずいぶん落ち着かれたようですね?」ニコリ

精霊「え?」

青年「お顔の血色もずいぶんよくなったようですし。…というより」

青年「…少し閉じこめすぎましたか。僅かに赤いくらいです。興奮していらしたようですし、暑かったのでしょうか」

精霊「~~~~~よ、余計な話は結構です!」

従者(? いやいや、真っ青な顔して泣いとったがな)

青年「そうでしたね」クス


青年「では本題に移らせていただきましょうか」

精霊「話とは…?」

青年「第一世代・リーダーが 魔王の手の者により殺されました」

精霊「……っ」

青年「おや、本当に落ち着かれたようですね。もっと取り乱すかと思っていました」

精霊「……続けてください」

青年「平気なのですか?」

精霊「私は全てを知る義務があり、全てを知る権利があります」

青年「確かに。一族代表であるエノコログサ様は 精霊族の全てに実権をお持ちでいらっしゃいますね」ニコリ

精霊「話してください。あなたが何をしているのか、何をするつもりなのか…!」

青年「ここまできて、ようやく決心が付いたようですね。嬉しい限りです」


ザワザワ…
ウォォオオ!! ワァァッ!!


精霊「…っ この、外の騒ぎは一体なんですか」

青年「現在、集会場では魔王城に偵察に行った者達の報告がされています」

精霊「!」

青年「第一世代のリーダーの死を、皆が悼んでいるのでしょうね」ニコリ

従者(っ!!)

精霊「あなたは…! 仲間の死を、このような戦を鼓舞するために利用しているのですかっ!!」

青年「利用だなんて人聞きの悪いことを。あくまで報告ですよ」

精霊「ですが!」


ワァァァァッ!


精霊「!」



倒セ! 倒セ! 倒セ! 倒セ!
世界ニ平和ヲ! 世界ノ浄化ヲ!!
払エ! 払エ! 払エ! 払エ!
世界ノ悪ヲ! 魔王ノ穢レヲ!


従者(……!)ギリッ

精霊「あ… なんて、こと…」

青年「みんな、とても仲間思いですからね。いい仲間たちに恵まれたと思います」


青年「ね。そんな仲間たちに慕われて… 猫さんも、幸せでしょう?」ニッコリ

精霊「―――っ」


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――

魔樹の森 出口

ザザザ…

従者「……ちっ、遅うなってもうたな」シュタッ 

従者「報告の時間、取れるやろか… せめて開戦の号令に間に合えばええんやけど…」

従者「……くそ。なんちゅーアホなやつらや…」


精霊の街は、異様な盛り上がりを見せていた
すっかり頭に血が上り、上気した顔で狂信的な雄たけびをあげる若者たち

その後、青年が集会場に出向き演説をして、それはピークを迎えた…

精霊族は、魔王に対して全面対決を挑む
もはやどのような言葉をかけようと、通じないのは明白だった


従者(馬鹿なことを。あいつらがどれだけ煮えたぎろうと、魔物全体を敵に回して勝てるはずもないやろが…)

従者(今は、魔王が指示を出していない。攻撃なんてしてへん状態なんや)

従者(もし… もしも、ワイや魔王の単身の制裁やなくて…魔物全体が攻撃態勢に出てしもうたら……)


想像するのも容易すぎる
攻撃性の強い獣たちが、無力な精霊族にその牙で食らいつく姿
空を舞う魔物共が、精霊族をその脚で掴み上げ、高所から叩き落す姿
豪腕を誇る魔物は武器を振り回し、近寄るそばから薙ぎ倒されるだろう

鋭い爪をもつものが、あの穏やかな森を切り倒し
炎を吐くものは、あの街を焼き払うのだ

幼い精霊も、花開いたばかりの娘たちも、にこやかな町人も
いまだ、精霊として目覚めてもいない若葉たちも…その全てが


従者(“魔物”のやり方で、制裁されてまう…)


従者「エノコロ…」

シュタッ…
ザザザ…


~~~~回想~~~~~~~~~~~~~~

精霊「―――…」

従者(犬)「……行ったか」

精霊「……もう…いくら謝ったところで…許されることでもないのでしょうね…」

従者(犬)「……」ボシュッ

従者「魔王は…精霊に対して、静観するつもりやった」

従者「その無抵抗な魔王に対して、執拗ともいえる精霊族のやり方や…。もう、魔物達もとまらへん」

精霊「……従者様…」

従者「……」


精霊「もう…謝ることですら。…許しを請うことですら、罪深いことのような気がします」

従者「……そか」

精霊「ただ、ひとつ… 許されるのであれば お伝えしたい言葉が」

従者「なんや…?」

精霊「私は 精霊族・一族代表 族長・エノコログサ…」

精霊「精霊族の総意は、全て私の意」

精霊「そして私の意もまた、精霊族の総意でございます」

従者「……」


精霊「魔王様と従者様よりいただいた恩義、私は決して忘れはいたしません。この大地に植物の根付く限り、感謝の礼を捧げます」

従者「……」

精霊「それから…」

従者「もう、ええよ… わかったから…」


精霊「いいえ… これは、従者様だけに…捧げます」

従者「……?」

精霊「…………従者様…」ソッ…


従者「ん…」

精霊「『――――――。』」ニコ

従者「………」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


従者「………ちっ」


従者「んなもん、捧げられても…どないせえっちゅーんや」

従者「そないなもん… 受け取ってしもたら。あいつはどうなんのや」


従者「あんな変態みたいに覗き見ばっかしとるやつやけど」

従者「ワイの知ってる中では、あいつが…あいつが、いつだって一番……」グッ


穏やかな笑顔と、あたたかく優しい手
人目を避けた真夜中に、寂しげに墓標に花を手向ける横顔
いつだって冗談交じりで、本音を語らない口
たくさんの魔物に慕われながらも、永遠の孤独に住まう、あの魂


従者「………そうや」ギリッ



従者「ワイは… 愛なんて、いらない」

従者「愛なんて選べないんや… んなもんに縋るなんちゅーのは…」



従者「創られた時点で、遅すぎんのや!!」バシュァッ!!


ズモモモモ…!


従者の身体から瘴気が噴出し、その姿を変貌させていく
学者まがいの人間じみた姿では無い
翼を持った犬の姿。だがそれは、可愛らしい小さな愛玩犬のそれではなく…


ソロモンの魔人72柱の内の、1柱
36の軍団を率いるとされる、序列25番の地獄の伯爵
巨大な翼をその背に抱く、虐殺の大総統… その、伝承通りの本来の姿であった



悪魔『ワイは、悪魔・カーシモラルや…』バサッ… 



殺すとしよう
壊すとしよう

愛を、信頼を、希望を、理想を、現実を


選んだ訳じゃない
どちらかに期待をしたわけでも、どちらかに偏ったわけでもない

殺人がしたいわけでもない
争いを好む悪魔をモデルにつくられてこそいるが、そんな性分ではない

いっそのこと、“そう”であれば、楽だったのかもしれないと何度思ったことだろう


悪魔『…ふん。まあ、そんなんやったらそれに悩むことも、悩まずにいられるっちゅーラッキーにも気づきもせぇへんやろがな』

悪魔『いや、まず。そんなんになれるくらいなら、ワイは生まれてへんかったか』クク


悪魔『なにしろ、ワイを創ったのは…』


~~~

魔王「でもさ。いくら俺が魔物を創れるからって・・・ 死んでしまう魔物達の痛みを取り除けるわけじゃないんだ」

魔王「死んでしまう者の苦しみや恐怖、残された者の悲しみや恨み。そういうものは 俺ではどうしようもないんだ」

魔王「……ここで、そういったものの数を減らす。調整し、管理する。領土の気を整える。それが俺の 一番大切な“仕事”だからね」ニッコリ

~~~


悪魔『なんて。そんな、“らしくないこと”を笑って言うような おかしい魔王やからな』


悪魔『そんな魔王に望まれて創られた悪魔やさかい…』

悪魔『ワイの一番大切な仕事は… 魔王の従者でありつづけることなんや』


空を蹴り、風を斬る
巨大な翼は風を受けて、その体躯を持ち上げる
はばたきは最小数
吹き上げる風と風の谷間に飛び込むと…

一直線に、魔王城へと滑り降りていった


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・


―――――――――――――――――

魔王城・玉座


ザザザッ…… ドシャッ!


悪魔『………』バサッ…


魔王「やあ、おかえり」

悪魔『魔王… 自室で寝て無くても平気なんか?』

魔王『普段なら、あそこが一番回復するけれどね。供給がまともに動いていない以上、どこにいても同じだよ』

悪魔『そか… せやけど、あんま無理すんな。見た目でわかる程度に、消耗してるで 魔王』

魔王「そう? うん…結構とられてるかな。まだ、大丈夫だけど」

悪魔『大丈夫じゃなくなったら、困るからゆーてんのや』

魔王「あはは、そうだね。ありがと」


魔王「それにしても…遅いと思っていたら やけに派手に帰城してくれるね、従者」クス

悪魔『久しぶりに“本気”出してんやけどね』

魔王「名前も、姿も、伝承も。本当にいろいろあるヤツだよね、おまえは」

悪魔『それをそのまんま創ってもうたんは誰やねん』

魔王「そうしようと思ったわけではないんだけどね。いろいろあるっていうイメージが捨て切れなかっただけだよ」

悪魔『なんちゅー適当な一世一代や…』


悪魔『ところで… やっぱ、間にあわんかったか?』

魔王「……いや。時間は過ぎたけれど、おまえを待っていたよ」

悪魔『そか… わるいな。ほならもう、こっちには被害が出とるやろな』

魔王「どうかな。防戦はやりにくそうだけれどね、かえって“丁度いい力量差”なんじゃないかな…」

悪魔『ちっ。んなもん、長引かせて消耗させるだけのアホなやり方や』

魔王「うん… でも、どうしても従者を待ちたかったから」


悪魔『……すまん』

魔王「うん?」

悪魔『あんま、ええ話はもってかえってこれへんかった』

魔王「そっか」


魔王「そっか……。 …残念だね」

悪魔『…………ッ』


魔王「従者、来てごらん。ここの窓からは、領地がよく見えるよ」カタ・・・

悪魔『………ほんまやね』

魔王「どう思う? この景色」

悪魔『暴動が起きているのがようわかるわ。このあたりよりも、市街地のほうがよっぽど混乱しとるようやな』

魔王「そうだね、指揮系統の弱いところはすぐに混乱を起こすからね」


悪魔『…騒がしいもんやな』

魔王「うん。騒がしいほどに煌いて…美しい景色だ」

悪魔『……はは。さすが魔王やわ、そのセリフ』

魔王「そうかな。美しいと思わない?」

悪魔『……生命が燃えとる景色や』

魔王「そう。そしてその命は、信念に輝いている」

悪魔『精霊族の…信念、か』

魔王「…美しいね。炎の暖色に包まれて、このまま世界が生まれ変わってしまうかのようにも見えるよ」

悪魔『あほなだけや』

魔王「それが、美しい。生命とは 無我夢中で、何の計算もなく無謀に輝く。生命というランプの油を使い果たすことなど気にも掛けないんだ」

魔王「俺には、とても真似のできないことだよ」クス


悪魔『ランプは燃えるけど……ランプに火をつけるのは、いつだって夜を恐れる者や』

魔王「ふふ。そうだね、俺はすぐに火をつけたがる。怖いからね」

悪魔『そうしてひとつのランプの油を使い果たし、そのランプが暗くなったとして…』

悪魔『魔王が後悔をしないか 聞いておくわ』

魔王「………」


魔王「勘違いをしないで、従者。俺は今回、何をする気もないんだよ。このままでいれば、号令も出すつもりすらないんだ。本当はね」

悪魔『……』


魔王「それに…… 従者に、何かを“させる”気もない」

悪魔『何を…』


魔王「お前は、お前がやりたいことをすればいいんだ」


悪魔『はは……ははは』

魔王「何かおかしいかな」

悪魔『いや、それもそやな、と思って』

魔王「?」

悪魔『よう考えてみたら こんなこと、命令なんかで“させられて”たまるかいな』クルッ


バサッ…!!


魔王「行くの? 無理、してない?」

悪魔『俺を誰だと思っとんの?』ニヤ

魔王「…さあ? かわいい犬の魔物だと思ってたこともあったけどね」クス

悪魔『あほか』


悪魔『俺は、悪魔や。 契約者ですらその歯牙に掛ける悪魔を模ったイキモンや』

悪魔『指図なんかされて動かへん… これは俺が、決めていたことやからな』

魔王「決めていたこと…? 創生の時に与えた、使命のことか? でも、それは…」

悪魔『知らん。そんな使命の影響を受けてるかなんざ興味ないねん』

悪魔『ただ、ワイはな… 生を授かりし時より、この魂に誓いを立てた』


悪魔『“この世界の知識と知恵、過去と未来を 我が君主・魔王に捧げよう”』

悪魔『そして』

悪魔『“我が友、魔王に歯向かう愚かな生命。その全て、なぎ払おう”』


悪魔『精霊族… 魔王の為に、死んどきや』


シュタンッ バサッ!
バサバサバサ…


魔王「……ごめんね」

魔王「ごめんね、従者……。 ありがとう…」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

中断します

さすが従者にして悪魔やなー
どこまで思いを晴らせるのか

それにしても一体どんなパ……いえ、なんでもないです

某レジンの人です。
お話があります。
chocolatehellplasでヤフーメールのアドレスを作っています。
連絡を貰えませんでしょうか。
ウザいとおもう

>>306
いやいや、もしかしたら穿いて無(ry
いえ、なんでもないです←

>>307
遅くなったけど誕生日おめでとーw
ごめん、フォームくらいつけるようにするわwww
でも流石にいただけないな、危ないよ? とりあえず埋めとくねww


魔王城 城下

ウォォ…
グルルル…

悪魔『……防戦、か。手ぇ出すななんちゅーんはキッツイやろな、精神的に』

不浄ノ生物メ!
聖水ヲ掛ケロ!
ギャゥゥア! ガルル!!

悪魔『なるほど、精霊族は“武器”が主戦力っちゅーワケやな』


悪魔『非力な癖に、小手先で生意気やわ』


バサッ!
ビュォオオオオ!!

魔物「! 風ガ…」

精霊族1「なんだっ!?」

精霊族2「くっ、突風か……?!」


悪魔『すまんな。ワイの羽は、ちょっとデカすぎるみたいやわ』


精霊族1・2「「!!!」」

ビュッ… ザンッ!

精霊族1・2「「」」

悪魔『っと。さてはて……ちゃんと聞こえてたんやろか』クル


魔物「……従者…サマ」

悪魔『おお。ご苦労やったな』

魔物「号令ガ、出タノカ?」

悪魔『いや、出とらんで。まだまだやわ、昼寝でもしとき』

魔物「ソレナラバ、従者 サマ…モ 殺スベキデ ナイ」

悪魔『なんでや?』

魔物「魔王サマ ノ 命令 ハ 守ルベキ…ダカラ」

悪魔『せやね。ちゃんと守ってや』


悪魔『せやけどワイは悪魔やからね。ご主人様なんかの命令、素直に聞くよーには創られてへんのや』ニヤ

スッ…


魔物「……行ッテシマッタ」


魔物「……恐ロシイ。流石ハ 魔王ノ右腕。非力ナ精霊族トハイエ…」

魔物「通リ過ギテ 風ヲ斬ルダケデ ソノ首ヲ 刎ネテシマウトハ」


実力で言えば 殺戮の腕は国内一で間違いないだろう
国主であり創造主たる魔王に劣るとも思えない

この国で、魔王に歯向かって謀反を起こし
成功させることが出来る者がいるとするならば… それは、恐らくただ一人


魔物「アノ従者ガ 魔王様ニツイテイル限リ。誰モ歯向カウ事ナド出来ナイ」

魔物「魔王様ハ アノ悪魔ニ…… 何ヲ、願ウノダ」


・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


魔王領地 空中


悪魔『市街地の混戦は後回しやな。魔物も多すぎて、うっかり巻き込みかねへんわ』

悪魔『そやね、森からいこか』

悪魔『精霊族は植物の精。英気を養うためにも森は格好の休憩所やろうからね』

悪魔『何匹くらい隠れてるんやろか… すまんな、全部おわったら数えて報告書にまとめてやるさかい』


悪魔『いまはとりあえず、眠ってや』


大きすぎる翼は、闇に溶けて視認しがたい
翼の色のせいなのか、それともその素早さゆえなのか

ただ、その軽やかに空を駆ける体躯のみが月夜に舞うようで
最期の瞬間を、見蕩れたままに終えた者も多かったのではないだろうか


空から舞い降りる一匹の犬
宵闇に紛れ、あまりにも遠くから一直線に駆け下りてくる

あるものは遠近感を狂わせ、大きさを見間違い
まるで手を差し伸べる天使ののようなソレに、自らの姿を晒すほどであった

その一匹の獣は 次の瞬間には視界を覆い
その差し出された爪で、喉元を一掻きしてしまうというのに


悪魔『ちっ… 惚けた顔したり、幸せそうな顔したりして逝きやがって』

悪魔『んな顔するヒマあったら、少しは逃げ隠れしろっちゅーねん』

悪魔『……おまえらは一瞬かもしれへんけどな。こちとら…』

血に濡れた爪
鮮度を失う間もなく濡れ続ける

その滴りは月明かりの元で美しく煌く
鮮やかな赤、白く尖る爪先を彩る宝飾品の輝き

滴り、悪魔の手先の豊かな毛に染み込んでいく煌きは
染み込んだそばから 鈍く輝きを失っていく


悪魔『こちとら、この感触は長いこと続きよるんやで…』グッ


悪魔『くそ…』


悪魔『くっそがあああああああ!!!!!!!!!!』

大きく、一振り
その翼をはばたかせ、空を真上に駆け上る
森を上から見渡せる程度の高さで翼をバサリと広げ、急停止する


地獄の大総統に相応しき優美な姿
そしてそれに似つかわしくない、苦悶に満ちた大きな瞳
一息の間の後、ゆっくりと開いた口から漏れでた言葉は…


悪魔『阿呆が…… こんなこと しよって……』


悪魔『ふざけんな!!!!』

悪魔『ふざけるなあああああああああああああああああああああ!!!!!!!』


全てを掻き斬り、竜巻のように払い飛ばす
目に触れたものは噛み砕き、悲鳴も嗚咽も断末魔をあげることすら許さない

恐怖も苦しみすらも“与える”ことはない


ただ、そこにいるものの全てを
悪魔は一瞬で“奪い去る”のだ


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――

魔王城

魔王「…派手に、やるね。この世界ごと滅ぼしてしまうつもりかい? 従者」

魔王「それとも… 器用なお前が、その統制すらも取れなくなっているだけなのかな」


魔王「……生き残る者が居れば、責めを得て憎まれる」

魔王「こちらに憎しみの目を向け生きる彼らには、俺たちは花を手向けることも許されない」

魔王「ただいつまでも。向けられる憎しみを正面から受けるほかないんだ」


魔王「何故だろう」

魔王「咆哮のひとつも聞こえやしないのに… お前の遠吠えだけは聞こえる気がするよ」

魔王「こんな世界は俺たちにとって 辛く、苦しすぎるから」

魔王「魔性を払うように… お前の遠吠えが、それを払ってくれてる気がするよ…」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・


―――――――――――――――

その後、悪魔は殺戮の限りを尽くした
事実を知る物達は、悪夢のような一夜だ、と夕闇に呟いた
それもそうだろう

もしもこの戦争に、全魔物が加担するような事態になっていなければ
寝ている間に気づかずに終わっていた、なんていう者もいたのかもしれない

実際、田舎村の警護をしていた魔物の一部は
「今日は風が強いな」などと話しているすぐ後ろの森で
精霊族狩りが行われていたことにも気づかなかったのだ


落ち着きを取り戻し、安堵し喚起する街の中で
時折 小声で呟き続けながら、身を震わすものの姿がある

喧騒が飛び交い、煌々とした炎も時間と共に薄れていく領地
気の狂うような雄たけびの数々はゆるゆるとその数を減らし、沈静化していく
何も知らなければ、時と共に収束していったのだと信じられたのに


魔王の威厳か、あるいは何かの策が働き
それまで激しく争っていた相手たちは諦めて手を引き
逃げたのだと信じられたのに

ただ、偶然
一匹の悪魔の姿を見かけたばかりに…気づいてしまうのだ
 

全てはひっそりと 静かに奪われていただけだ、と……


その不運な彼らは、身を凍えさせて呟き続ける
『こんなもの、悪夢以外ありえない』

あまりに洗練された一方的な略奪
従者のそれは間違いなく、悪魔の手法であった


それは例に漏れず、あの青年にも襲い掛かる
私怨を混ぜることもなく 皆から平等に 奪う

死を意識した最期の瞬間もないまま
辞世の言葉すらも残さないまま
作業の途中で突然に奪われて、終わった


きっと青年は、死のその瞬間まで 思っていたことだろう
自分は特別な終わりを迎えるのだと
他の者とは違う、自分だけのエピローグがあるのだと
そう、信じて生きていただろう

悪魔はそんな希望すらも 当然のように奪い去った


・・・・・・・・
・・・・・
・・・


―――――――――――――――――――

精霊族の街


精霊族A「!?」

シュパッ… ドサッ
精霊族A「」

スッ…
悪魔『……』


ガサッ
精霊族B「! 貴様……!」

悪魔『!』 ビュッ!


精霊族B「」ドサ

悪魔『……ちっ』


「……――」


悪魔『……?』


悪魔『あれ…』ハッ

悪魔『あ、あれ? おまえ 今、なんか言ったか?』

悪魔『…って、言えるわけないわな死んどるのに…。何ゆってんのやろ、ワイ』ハハ

悪魔『はは……ほんま、何を…』


精霊族B「」


悪魔『……何しとんのや、ワイは…。すまん、話くらい聞いてやってもよかったな…』

悪魔『ここまでずっとヤり続けやったしな…。感覚が冴えすぎとるようや…神経過敏やね、堪忍してや?』

精霊族B「」


悪魔『…聞こえるわけないわな。首がなけりゃ、耳もあらへんもんな…。それ以前に、堪忍するとか無茶ゆーなって話やわな…』

悪魔『はぁ… なんやの。これから敵陣突入って時に、冷静になってしもたわ…』

テクテク… 
テクテク…


悪魔『……さて…。なんや テンションが大分おかしゅうなってもうたけど…』ハァ


悪魔『あー… 誰かおらんか!』

悪魔『おい!! さすがにココに、これだけしかおらんちゅーこともあらへんやろ!!』

悪魔『それとも! 全員、戦いに駆り出されたとでもいうつもりか!!』


「はい… 全て、この街の物達は出払っております」


悪魔『!!』


スッ……

精霊「……」

悪魔『おい。そんな、不用意に近づくんやないで…』

精霊「…ですが。お姿が私の知らないものではありますが…」

精霊「貴方様は、従者様…ですよね?」

悪魔『………エノコロ…』

精霊「やはり。 …なんて、立派な翼をお持ちなのでしょう」

悪魔『エノコロ… おまえ、ここで何を…?』

精霊「私は、一族代表。この森を、この住処を離れることの許される身であるがゆえ…」

悪魔『こんなとこに 残されてたっちゅーんか…』

精霊「…本当に情けないですよね。すぐそばの、ほんのしばらく歩いた場所では、戦火が立ち上っていたというのに」

精霊「私はここで、祈ることしか許されていないのです」


悪魔『祈りって… まさか?』

精霊「そう、ですね。本来ならば精霊族の助けとなるはずの祈りなのですが」

精霊「恥ずかしながら、なんの魔力も篭っていなかったようです…。なんて無能な族長なんでしょうね、私は」

悪魔『何を祈ってたんや…?』

精霊「仲間の、安泰を」

悪魔『……』

精霊「…………」


精霊「私…… また、一人になってしまいました」

悪魔『エノコロ…。 一人って、おまえ… 他のチビ共はどないした?』


精霊「精霊族は、植物の精。弱いものほど、多くの植物たちの住まう森の中に一番に逃がしたのですよ」

悪魔『あ…。 あの森に…みんなおったんか? ワイ…よう見もせえへんで…』

精霊「………」フルフル

精霊「ここまで事を大きくしておいて、一部のものだけを逃がすなど元より不可能だったのです。それは、従者様が一番ご理解しておられるはず」

悪魔『……っ』グッ

精霊「あ… ですが」

悪魔『……なんや。ええで、めちゃくちゃに罵ってくれても。…そんだけのことはしたからな』

精霊「いえ。……家屋の中にいるとよく聞こえなかった声も、こうして外にでるとよく聞こえるのだな、と思って」

悪魔『声…?』

精霊「ええ。森の樹木や… 死して、ただの植物へと還っていった物達の声です」


悪魔『はは… きっついな、それ。ワイには聞こえへんでよかったわ』

精霊「そうですか? …従者様に、聞かせてあげたいと私は思います」

悪魔『ひっどいこと言われてるんやろな』

精霊「ふふ… ここから聞こえるのは、そこの森にいた幼き精霊達の声ばかりですよ?」

悪魔『……ちびらか』

精霊「ええ… まだ、本当に幼い子供たちばかり。かわいい盛りでした」

悪魔『すまんな…。こないな風に終わるために、あいつらを目覚めさせたわけでも育てたわけでもあらへんのに…』

精霊「私たちは、植物ですから」

精霊「若葉のころは、身動きも取れぬまま…他の動植物に食まれて終えることは当然のようにあるのです。兄弟の食まれる様を見て育ったものも多いでしょう」

悪魔『うわ… なんやそれ、エラいハードなんやな』


精霊「ですがやはり怖いのですよ。そうして むしゃりむしゃりと食まれていくのを眺めるのは。次は自分か、兄弟か…… そう思いながら怯えることも多いのです」

悪魔『……なんか…そんなんに、聞き覚えが…』

精霊「ふふ。そうですね、まるであの時の剪定のよう…。従者様は、一瞬で全てを斬りおとしてくださいましたから」

精霊「幼き子たちは、理由もわからぬまま…恐怖なども知らぬまま」

精霊「精霊族として終え、植物となった身をおもしろがり、森の中ではしゃいでいるんですよ。おかしいでしょう?」フフ

悪魔『………』

精霊「…不謹慎だとは思います。ですが今は… あの子らを苦しめずに還してくださった従者様に、感謝を…」ペコリ

悪魔『……』

精霊族「……」


悪魔『植物となった精霊族は…どうなるんや?』

精霊「植物として生きるのみ。根をはり、受粉をし、花を咲かせ、種子を残し、枯れるのみでございます」

悪魔『……もう、精霊族にはなれへんのか』

精霊「精霊族は、その生命が特別な力を与えられ、本来以上の活動を許されるものでありますから…」

精霊「その力をなくしてしまえば、元の生命にもどるまでです」

悪魔『…他の、大人の精霊族も…そうなんか?』

精霊「ええ。…死骸は、しばらくの時間の後に 元の植物の姿へと還ります。……ほら、ごらんください 従者様」

悪魔『え?』


精霊族B「」……シュゥゥ… シュッ 

パサ ポトンッ


悪魔『こいつ… さっきの。 フキノトウやったんか…』

精霊「先ほどのお二人は、私の護衛の為に残されたものです。フキノトウとフクジュソウ。春告げの草の名そのままに、暖かく仲のよい二人組でした」

悪魔『……そか。そんなんも、なんも知らんと… ワイはみんな…』

精霊「そう…ですね。この街には間違いなく、もう私しかいませんね…」ニコ…

悪魔『…たった数時間で…元通り、か…』

精霊「……」

悪魔『そうやな… ゆうても、発展途上の一族やもんな。言うほども多くない、か…』

悪魔『すまん、エノコロ… おまえの仲間達を、ワイも育てるのに協力した仲間達を…ワイは…』

精霊「安らかに、逝かせてくださった」

悪魔『……っ』

精霊「申し訳ありませんでした…。本来ならばそれも私が行わねばならぬ責務。罰することもせず…励ますことも、見守ることも…私は、長でありながら 何も……」

悪魔『エノコロ…?』


精霊「仲間の…」

精霊「仲間の、安泰を祈っておりますのに。どうしても、従者様のことを想わずにはいられなくて」

悪魔『っ』

精霊「私にとって、従者様はどうしても“敵”にはなれないのです」

精霊「ですので…おそらく、祈りと現実に矛盾が。魔力は全て、流れ出ては消えるばかり」

悪魔『エノコロ…』

精霊「仲間の安泰を、精霊族の皆のために祈れなかったのは…申し訳ないことですね」

悪魔『……』


精霊「ですが、先ほど… ようやく、祈りが通じたのです」

悪魔『……?』


精霊「ほんの一瞬でしたが…祈りと共に、魔力が正しく流れゆくのを感じたのでございます」

悪魔『なんの、ことや…?』

精霊「矛盾が、解消されたのだと思います。届きませんでしたか? …フキノトウがなくなった後、私の祈りは届いたのではありませんか…?」

悪魔『……あの、声…』

精霊「届いていたんですね。やはり、私の気のせいではなかった…矛盾は解消されたのですね…」

悪魔『解消…って まさか…』

精霊「もう私が祈りを捧げる“仲間”は 従者様おひとりになったのでしょう」ニコ…

悪魔『っ!』

精霊「残された精霊族は、私ひとりでございます」


精霊「あ……」ポロ

悪魔『エノコロ… すまん、ワイは…』


精霊「違… 違います、従者様…。 私は… 私は、とても口には出せない感情を 抱いてしまいました…それで、涙がこぼれでてしまったのです…」

悪魔『……どんな、感情や?』

精霊「……それ、は…」

悪魔『それは…?』

精霊「これで、板ばさみの苦しみから逃れたと… もう、これ以上の苦しみはないのだと…安堵してしまったようです…」ニコリ

悪魔『……っ』グッ


悪魔『エノコロ… エノコロ!』ギュー

精霊「従者様…」ソッ


精霊「私はもうこれで、長でもなんでもありません。私はようやく、個としてお話をすることができるのです…」


精霊「何か、私にお詫びできることがありましたらお申し付けください。御為になることがありましたら、どうぞ御慈悲と思って教えてくださいませ」

精霊「それすらもないと仰るのでしたら、このまま潔く静かに逝きましょう…もはや、感謝も詫びも… 私には不相応ですから」ペコリ…

悪魔『……エノ、コロ…』


悪魔『き』

精霊「……?」

悪魔『…貴重な、種族やから。もはや無力となった今、“貴重な種族”としてお前を残すことも、可能かもしれん…』

精霊「……例え、魔王様がそれをお許しになったとしても。他の魔物の方々は快く思わないはず…私にはそれが最良とは思えません」フルフル

悪魔『……エノコロ… こんな時に、頭はたらかせんなや…』

精霊「たくさんの知識を、従者様に教えていただきましたから」クス

悪魔『ワイは… どうしても、おまえを殺さんとあかんのやろうか…』

精霊「……」


悪魔『ほんま…やっぱりワイは、悪魔なんやね』

精霊「従者様…?」

悪魔『それまで守ってたもん、全部めちゃくちゃに壊して。掌返して、全部自分で殺してしまう』

悪魔『ほんまは、悪魔になんかなりたなかった… “悪魔もどき”なんやって、言い聞かせてきた…っ』

精霊「従者様…」

悪魔『でも、エノコロのことを殺してもうたら…きっと』

悪魔『もう自分が悪魔やとしかおもえへんくなるやろな…。きっと一生、悪魔や悪魔や思うたびに、おまえのこと思い出すんやろな…』

精霊「思い出してもらえるのなら、嬉しいです。ですが…悲しみと共に思い出されるのは、イヤですよ?」

悪魔『………っ でも』


精霊「従者様にお借りしているこの琥珀… これに、その役目を変わってもらいましょう」

精霊「ずっと見ていたくなる、と 仰ってくださった」

精霊「ですから、この琥珀に… 私を重ねてくださいませ」

悪魔『それでも… それでも』

精霊「大丈夫ですよ。従者様…言ったじゃありませんか。精霊族は信頼を大切にする種族。約束事も、守るのですよ?」

悪魔『約束…?』

精霊「この琥珀を買い求めていただいた、精霊族の春のお祭りの時に…おぼえていらっしゃいませんか?」

精霊「『従者様は、悪魔なんかじゃないです。私が、させないです』」ニコッ

悪魔『あ… 』

精霊「ふふ。思い出していただけましたか?」


悪魔『そないな雑談を…よう覚えてたな エノコロ…』

精霊「従者様とのお話は、ほとんどを覚えていますよ。最初に出会ったころのことまで…」

悪魔『ほんまかいな』

精霊「ふふ。信じてもらえないのですか? 信用と信頼がウリの種族なんですよ?」

悪魔『ほな、なんかゆーてみい』

精霊「そう、ですね… では」

―――――

精霊「きっと 従者様は 私では考えもつかないようなことをたくさんしっていらっしゃるのだろうな、と思ったのです」

従者「・・・・・・まあ 筆記道具もしらんかったようなヤツやしな。普通に知っとるやろな」

精霊「まるで、開けるたびに何かがはいっている 不思議な魔法の宝箱のようだな、と思ったのです」

――――


悪魔『……ゆーてたな』

精霊「それから…あの時、私はこうも言ったのですよ。『一緒に居るだけで・・・ たくさんの宝物が増えていくみたいな気持ちになります』、と」


精霊「ふふ… あの時に伝えそこねた言葉を、こうしてもう一度お伝えできる機会があるなんて。私は本当に、幸い」

悪魔『はは…すごいな。ワイの言葉も、自分の言葉も、そっくり覚えとるんかい…』

精霊「はい。従者様と過ごした時間、交わした言葉。学んだ知識。それら全て 私の宝物なのです」

悪魔『……そないなええもんじゃ ないで…』

精霊「あの日の約束も、私の大切な宝物。必ず、かなえて見せましょう。従者様を…悪魔になんてさせません」ニコ

悪魔『エノコロ…? 何を』


精霊「精霊の力の全てを、祈りに。どうか…」スッ…


精霊「『どうか、これ以上優しい人を傷つけないで済むように。どうか、この身を終わらせて』」


悪魔『な…!!』

精霊「~~~っ」シュパアアアア!!

悪魔『エノコロ!』ガシッ


精霊「あ… 祈りが… 成功、してる…」

悪魔『っ! 末端から植物に変化してく…!? なんで… なんで、そないなことを!』


精霊「苦しんでいる従者様に… 私を手にかけて、なんて言えませんから」クス…


悪魔『せやけど自分で、なんて! ワイ、そんなつもりで言ったんとちゃうのに…!』

精霊「私の望んだことです…。全ては私の祈りの結果… その責は、祈りを持って終わらせるのが良いのでしょう…」

悪魔『そないなもんを…望むなや…! なんかちゃう望みがあるやろ!?』

精霊「ふふ… 秘密ですよ? 本当は…もうひとつ、望みがあったんです…」


精霊「従者様にも、一回くらいは『好きだ』って…」

精霊「嘘でも、言われたかったですね…」ニコ…

悪魔『!』


シュゥゥ・・・ 

パサ

悪魔『あ… 植物に… 還った…? 嘘やろ…? なんでそんな、あっけなくいけるんや…!』


ユラ… ユラユラ

悪魔『エノコロ…』


悪魔『……おわったん、やな…』


シュウウウゥゥゥゥ・・・!!!

ポンッ!
従者「………」プハッ


ソッ…

従者「エノコロクサ…か」

従者「俗称、ねこじゃらし」

従者「そして… 別名、狗尾草」


従者「…えのころってのはな。犬っころって言葉からきてるんやで。知らんかったやろ」

従者「犬の尻尾みたいやから、狗尾草。んで、犬っころ草や」

従者「教えてやらんかったけど、ワイと一緒やな。 な、エノコロ」

フサ・・ ユラ

従者「はは。ほんまに尻尾ふっとるみたいやん、やめてーな」

従者「こんなして、犬っころ同士でじゃれあってるとか。なんやそんなんアホみたいやん」


ユラ… ファサ

従者「……『好き』、か」


従者「んなもん… 言えるかいな」


従者「言ったら、ほんまみたいやん」

従者「そりゃ、ワイやて思ったで? これってもしかしてそーゆーキモチなんちゃうのかなって」

従者「でもな、好きやなんてゆーたら、いざってときに殺せへんくなるやん」

従者「ワイは、魔王の右腕やし。何があるか、何を殺すかわからへんのが生業なんや。そやから『好き』とかよう言われへん」

従者「『好きや』いいながら、殺してまうことになったら…」


従者「ほんまに、悪魔になってまうやん…」


従者「こんな風にエノコロが終わるなんて思ってなかったさかい… そんな、小心で… 望みをかなえてやれへんくて…」

従者「…ごめんな、堪忍や」


従者「悪魔にも魔物にもなりきれんで、中途半端ばっかして……いっそ、はっきり断ってやったほうがよかったよな…?」


従者「でもな」

従者「もう、聞こえてへんやろから。もう、終わったから。 …ゆーてもええかな」


従者「なあ、エノコロ… エノコロ。ありがとな」


従者「ワイな、悪魔じゃあらへんって おまえのおかげで思えるんや…」

従者「今まで、どんだけの魔物ころしてきたかわからん。この国や魔王にとって 必要な数を、必要なだけ、殺してきたんやわ」

従者「ワイは 殺戮の悪魔・カーシモラルやからな…」


従者「それなのに、たった一匹のイキモンの死が…」

従者「おまえの死が。それが、こんなに苦しくて 止まらへんのや。こんなに悲しむの、悪魔なんかちゃうって 思えるんよ…」


従者「殺させてもうた…終わらせてもうた」

従者「ワイにとって必要なもんを、ワイを必要にしてくれるヤツを、終わりに追い込んでしもたわ…」

従者「やってることはやっぱり悪魔の仕事や…」

従者「それでも この…

叩きつけられるような痛みや、
苦しくて抉られるような心臓や、
お前だったモンを抱えたまま離せへん手や、
叫びだしたくて止まらへん口や、
震えて動けん脚や…

どないしても止まりそうにない涙が…」

従者「ワイの身の全てが…お前と同じ、悪魔なんかじゃない、ただのイキモンやって、確かめさせてくれるんや……」


従者「エノコロ…なあ、聞いて」

従者「聞いてくれ、お願いや」



従者「好きや…」


従者「めちゃくちゃ好きや」

従者「大好きや、エノコロ」

従者「愛しとるで」


従者「愛してる、大好きや。やっぱり聞いてほしかった、言ってやりたかった」


従者「愛しとるんやで? ほんまに、愛しとってんで、なあ!」

従者「なあ、なあ… エノコロ……」


ユラ…  
シュパァァ・・・

従者「………エノコロ…?」


パシュッ!

従者「え… 消え、た?」

琥珀 コロン… キラッ

従者「・・・あ」

従者「…琥珀の中に…?」


従者「そか…琥珀の中に、なんでも好きなものを閉じ込める事が出来る… それが精霊族の、技術」


琥珀 キラキラ…

従者「はは… そか。植物も、意思はあるんやったな… ワイの言葉、聞こえてたんか…?」

琥珀 キラキラ…

従者「おまえの望み・・・ かなえてやれたんかなあ…」


従者「ただでさえ、ずっと見てたくなるっちゅー琥珀やったのに… どないすんねん」

従者「ほんま、エノコロは 思い込んだら突っ走りよる。好きやいうた途端に、ずっと見ててとでもいうつもりかいな」クク

従者「宝物庫にでもしまっとこかな。めっちゃ怒りそうやな」クックク…


…… 精霊『まるで、開けるたびに何かがはいっている
不思議な魔法の宝箱のようだな、と思ったのです』 ……


従者「あ・・・・・・ なんでそんな言葉、思い出したんや…?」

従者「不思議な…・・・ 魔法の、宝箱…か」


従者「それは、ワイじゃなくて。おまえの方やわ…」ソッ

琥珀 キラ…

従者「もっと、開けておけばよかったなぁ…」

従者「知識の悪魔が知らんもんを、こんなにたくさん 詰めてある箱…こんなにいろんなもん 教えてくれる魔法の宝箱…」

従者「…愛なんて… そんな難しいもん、教えてくれるなんて。おまえは、すごいやつやったんやな」

琥珀 コロン…


従者「ほんま…宝物庫にでもいれておいたら、よかったんかな?」

従者「大事に、手元に置いておいたら… 守れたんかなぁ…?」

従者「もしワイに、魔王みたいな強さや器用さや、賢さがあれば…守れたんやろか、大切なもん」


従者「それとも… こんな、インチキくさい方法でようやく出会えたような奇跡には…そんなにたくさんの未来は、用意されてへんのやろうか」

従者「『どうやったって守れへん未来しかない』なんてことも、あるんやろうか」


従者「なぁ、エノコロ? ワイはいつか、この答えも…知る事が出来るやろか?」

従者「その時、もし どうやっても叶わんかったなんて答えをワイがだしてもうたら…少し、救われてしまうかもしれんワイを、赦してや」

従者「そん時は、堪忍な。それまではずっとずっと 答え探しつづけるから」

従者「なぁ、エノコロ…… お前とあのままいられた未来があったかどうか…探してみるから…」

従者「だから。堪忍な、エノコロ……っ」

琥珀 ユラ・・・ タプンッ


・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


――――――――――――――――

エピローグ


魔王城

魔王「おかえり、従者」

従者「あー…。 ただいま… 疲れたわ」

魔王「ふふ・・・ おつかれさま。おいで」

従者「なんやねん……。ほんまに、疲れてんねん、呼ばんといて」

魔王「お前が仕事をこなしたように、俺も仕事をこなさなければならない」

従者「なんやそれ。なんの仕事が残ってるっちゅーねん…」


テクテクテク…

従者「で? なんや、魔王」

魔王「従者」

従者「なんや」


魔王「……よく、やってくれたね。ありがとう」

従者「…………っ」


魔王「酒でも、呑まない?」クス

従者「…ええな、それ」


魔王「じゃあ はい。用意しておいたんだ」カチャカチャ

従者「ん……ほれ、グラス貸せ」

トクトクトク・・・


魔王「……じゃあ」

従者「ああ」


魔王・従者『献杯』 スッ


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


従者「しっかし… なんや、ほんまに疲れたわ」

魔王「うん…お疲れ様。やっぱり予知は難しいね」

従者「……いっそのこと、ずっと先まで予知していたら…どうなってたんやろな」

魔王「ふふ。タイムパラドックスがひどいだろうね。それこそ世界崩壊に繋がるかもしれないよ」

従者「いっそ壊れてしもたらええんや、こんな世界」

魔王「そうだね。俺も…何度か、同じように思った事があるよ」クスクス

従者「魔王がゆーたら洒落にならへんわ」ゴクン

魔王「悪魔がいうのも似たようなものだよ」コクリ


従者「………」

魔王「……従者? どうしたのかな、ぼんやりして」


従者「人生と幸せについて本気出して考えてみた」

魔王「また? なにそれ?」

従者「……気はすんだんかいな、と思って」

魔王「気?」

従者「“今“っちゅーんは、予知までさせて選びたかった“気になる未来”なんやろ。納得したんか」

魔王「もしかして怒ってる?」

従者「あほか。まあこれでおかしなことゆーたらシバくくらいするかもしれへんけど」

魔王「……んー… じゃあ、従者こそ覚えてるかな」

従者「なにをや?」

魔王「んっと

『ダンジョンを徹底攻略してボス倒して抜けてみたけど、どうも取りそびれた隠し宝箱がありそうで気になるような感じ』

って、俺が言ったヤツ」

従者「」ガクッ


魔王「……だいじょうぶ?」クスクス

従者「そや… そーいやそんなアホくさいゲーム脳な理由やったわ…… しばらくゲーム禁止にしたろかな」

魔王「えー? 割と本気だったんだけどな」クス

従者「あほか!」

魔王「従者は…」

従者「ん? 次こそくだらないことゆーてたら…!」

魔王「取りそびれていた“宝箱”、見つけたんだね?」ニコ

従者「……」


従者「宝箱、か」

魔王「うん。こんな方法でしか見つけることが出来なかった “隠し宝箱“だ」


従者「魔王。やっぱりいろいろ見てたやろ」ジロ

魔王「えー?」ケラケラ

従者「ほんっま、悪趣味なやつやで!」

魔王「魔王としては正当な趣味だと思うけどね。羨ましかったけど、手は出してないんだからいいじゃん」

従者「手だしてたら、ちょっとは変わってたんやろけどな」

魔王「でもまだ、蹴られて死にたくはないよ」クス

従者「蹴られる?」

魔王「馬…じゃなくて。犬に」クスクス

従者「あほ。そーゆー意味ちゃうわ… ま、あいつに手出してたら いつかやりかえしたったかもわからんけどな」


魔王「俺、そーゆーいいヒトいないんだけど?」

従者「いつか、ゆーとるやろ。 魔王をあんさんの代でおわらす気かいな」ハァ

魔王「ありえるかなーって思うんだけどね」

従者「……」

魔王「え だめ?」

従者「はあ……。 手ださへんかった魔王に免じて、ワイもそん時は手ださんといたるから、ちゃんと魔王を次代に継ぎや……」

魔王「ふふ。考えておくよ。ところで話、逸らしてる?」

従者「逸らしたもんを もどすなや」

魔王「えー? 直接ききたいじゃん。宝箱があったかどうかー」

従者「ほんまイヤなやつやなー! …あー、まあ あったよ」


従者「その“隠し宝箱”からしか見つけられへんような ええもんが入ってたわ」


魔王「よかったね、従者」クスクス


従者「ん…。でもまあこんなん、ちょっとした呪いのアクセサリーとか そういう種類のもんなんかもしれへんけどな」

魔王「あはは。呪縛とかステータス異常とか、そんな呪い?」

従者「そんななかんじやね。そのくせに存外 嫌な気分じゃあらへんねん」

魔王「へえ?」

従者「せやからって、楽しいわけでもないんやで」


従者「なんやろな・・・。知識とか意識とか どーでもよなるよーな…
ワイにとって生存理由みたいな大切なもん、うっかり手放してもええんやろかなって思えてくんのや」

従者「深いのにゆるゆると流れる川に漂いながらおぼれて
苦しいような 心地いいような

見上げているときは、きらきら綺麗なもんが見えて幸せやのに
ほんの少し流されて 下向きになってまうと 暗くてゴツゴツした底しかなくて…不安で怖いような」

魔王「……」

従者「それでもな、嫌じゃないんや」

従者「そんなんすら… どっか、あったかいねん」


魔王「……とても感傷的で、感覚的な話をするね 従者」

従者「ほんまやね。自分でも そう思ったところや」ハァ

魔王「それが、宝箱の中に入っていたものなんだね?」

従者「そ。 いっそ、もっと深く呪われてしまいたいような。そんなもんが、はいってたわ」

魔王「ふふ・・・ そっか」


魔王「ねえ、従者」

従者「ああもう!! しつっこいな、なんや。 しょーもないことゆったら噛みきるで!?」

魔王「悪魔は、愛されたいと願うだろうか?」

従者「……やなことばっかし聞くなや、魔王」

魔王「知識として得ることと、経験として知ることは違うしね」クス

魔王「人文知識を語る悪魔なんだから…“情報”がはいっていたとしたら“経験”のように語るかもしれないと、思っちゃって」クスクス


従者「そこまで器用とちゃうわ」

魔王「従者は器用だよ。なんていっても俺の一世一代の最高傑作…『悪魔・カーシモラル』なんだから」

従者「……せやね」


従者「せやけどまー、悪魔やしなー? 誰かにもらう愛なんか、笑って食い散らかすんがせいぜいなんちゃう?」

魔王「おや。意外な答えだね」

従者「利用して嘲笑して突き落として楽しむのも 一興やろな」

魔王「ふーん…そんなもん?」

従者「愛されるだけ、やったらね」

魔王「愛してこそ、ってこと?」

従者「……」ゴクゴク

魔王「……」ジー

従者「……………」ゴクゴクゴクゴク

魔王「……………」ジーー


従者「~~~~~っなんやもう! うっとうしいやっちゃな!」

魔王「いやー 愛されるより愛したい、なんて歌を思い出しちゃったよ」ケラケラ

従者「人間の歌やんけ… しかも古いで」

魔王「愛されるより、愛したほうが幸せなのかなーって。『幸せについて本気出して考えてみた』」

従者「真似すんな・・・・・・。 愛したところで なんや違うっちゅーこともないと思うで」

魔王「そうなの?」

従者「裏切りこそが性分や。結果は、変わらへん」

魔王「そっか……」


魔王「じゃあさ」

従者「もーえーやろ!! いーかげんにしーやほんまに!!!!!」


魔王「悪魔は、愛しあうことは…出来るのかな」ポツリ

従者「………」


従者「知らん」

魔王「ふふ」

従者「あれちゃう?」

魔王「あれ? なに?」


従者「愛されたからそれに応えるなんて きっとできへんけど・・・愛しちゃいけないもんなら、愛せるんちゃう?」

従者「…そんなんに応えてもらえるかどーかは 知らへんけど」

魔王「ハードル高いなあ。いけないものなら、って限定なんだ。なんで?」

従者「裏切りこそが性分やしね。普通に幸せを手に入れたいなんていう自分自身のことも、裏切ってまうんやない?」


魔王「く」

従者「?」


魔王「くっくっく… あは、はははははは!!」

従者「なにわろとんのや…。この話題で笑うとか、魔王こそ悪魔なんちゃうか」ハァ

魔王「いや。ク、クックック… お、俺以外にも、報われないやつはいるもんだなと思って」クスクス

従者「最低や、自分で創っといて」フン


魔王「ごめんごめん。悪魔の性分が裏切りだとするなら、魔王は我儘で残酷なのが性分だからね」

従者「タチわるすぎやろ」

魔王「悪魔と魔王、どっちがたち悪いだろうね?」

従者「どっちもどっちやな、そんなん… 同類や」

魔王「ふふ。うん、同類だね。俺たちは同類だ」

従者「同類……」ゴクン

魔王「ふふ。今度は、同類に“乾杯”しておく?」


従者「いや、ちゃうわ。ワイらは同類ちゃうかったわ」ケロッ

魔王「え゛!?」


従者「ワイはもうええもん手に入れたからなー。まだもっとらん魔王とは同類ちゃうわ。せいぜい、ニアイコールや」アハハ

魔王「せっかく同類認定でほんわかムードだったのに!! 徹底して裏切るね!」

従者「あ」

魔王「なにかな!?」

従者「せやけどやっぱオカしない?」

魔王「そうだよね! やっぱおかしいよね、そんなことで同類じゃなくなるとかそんなこと・・・!」

従者「じゃなくて」

魔王「違うの!? フォローじゃないの!?」ガーン!

従者「落ち着け、魔王」


従者「せやなくてな、宝箱は、ワイがとってもうたやん。それでよかったんか?」

魔王「ああ…うん」


魔王「“とりそびれた”って違和感は もうすっかり消えたよ。取れたってことなんだろうね」クス

従者「……なんで魔王が、ワイの宝箱のことを気にすんねん。あほ」

魔王「えー?」クスクス


魔王「ほんとにさ。俺たちは最低で最悪の、ベストパートナーだねえ」

従者「……なんやそれ、きっしょくわるいこと…… ゆー、な や……」

魔王「ん? どうしたの?」

従者「う……」

ケロケロケロケロ…

魔王「ひいっ!? 吐くほど俺のパートナーって気持ち悪いことなのかな!?」


従者「そや、なくて… 飲みすぎた…あかん、これ  ……倒れる」

魔王「あ」

バッタン
ぼわんっ 

従者(犬)「」ぐでーん

魔王「・・・犬になった」

従者(犬)「……」ビローン


魔王「…ふふ。おつかれさま、従者」ナデナデ

魔王「心配しなくてもいいのに。俺はそんな間抜けじゃないし… 間抜けになれないよ」

魔王「言われなくても、俺はちゃんと、俺の“隠し宝箱”を見つけた」

魔王「そして俺のほうには、呪いのアイテムなんかじゃなく。素敵なものが入っていた」


魔王「悪いね、巻き込んでしまって。
我侭で残酷なのが、性分なんだ… そんなつもりがなくても、そうなってしまうんだ」


魔王「悪魔・カーシモラル…悪魔になりきれない、優しい魔物。そして今は “愛をも知り、それを語る…悪魔もどき”」

魔王「悪魔が愛を学ぶって言うのは、大変なことなんだね。本来だったら、夢物語のようなものなのかもしれない」

魔王「知ってほしいと思うのなら…知りたいと願ったのならさ」

魔王「より悪魔のような誰かのきまぐれな思いつきと、より悪魔のような知略で。夢物語を見せるように…」 

魔王「悪夢の中でしか、知る事が出来ないようなものだったんだね」クス


魔王「でも、まあ悪魔ですら愛を学ぶのは不可能じゃないってのがわかった。それならきっと、いつか・・・」


魔王「…いつか。“魔王”である俺でも 愛を知り、得て、与える事が出来るかもしれない」

魔王「そんな希望が、俺の宝箱には入っていたんだよ」クス


魔王「なんてゆーかな」

魔王「『奥にある本物の宝箱を取るためには、その手前にあるミミック入りの宝箱をあけて
ミミックを倒して手に入るアイテムを装備しないと進めないクエスト』みたいなもんだったんだね、うん」

魔王「あはは。こんなことをいうと、従者にめちゃくちゃ怒られるんだろうなあ」クスクス

魔王「怒らないって事は 狸寝入りでもなさそう。よかった」


魔王「まあでも 魔王が、他のイキモノと同じように… 情欲ではない愛を得るなんてさ」

魔王「そんなことが出来るようになったら、それこそ未来が変わるくらいすごいことなんだよ?」クスクス

魔王「そんな希望を魔王に持たせてしまうなんてすごいことだ。さすが悪魔、と誇っていいよ」


魔王「きっと…そんなことができた時には 本当に未来が変わる」

魔王「子々孫々 ソレに呪われるような…我侭で、残酷な。暖かくて不幸な…」


魔王「そんな悪夢が、始まる」

魔王「こんな魔王を 誰が愛してくれるのかな。いや、それよりも そんなことになったら…」


魔王「いつか、『お前を愛している』なんて言っちゃう魔王が現れたりしてね?」クス


―――――――――――――――――――――――――――
そしてはじまる、魔王の物語


If you lost your lover, you will hugging your love.
If you lost your love, you will hugging your memories.
If you lost your memories, I will hugging your xxxxx......

It is endress loop. It never lost.

Even if not written down, this love will be never-ending story.
I wish xxx all the happiness in the world, With many thanks and love.

―――――――――――――――――――――――――――

おわりです

最終的に一気投下になってしまいましたが
お付き合いくださった皆様には御礼申し上げます

※このSSはシリーズ作品になっています
うざいのわかっていますがスレタイだけ順に紹介させてください

・魔王「姫を愛している。俺と共にあれ」
・騎士王「『魔王、ずっとずっと、だいすきだよ!』」
・姫「とりあえず、新世界でも創りますか?」 【R18】
・魔王「何故だろう。姫に逆らえる気がしない」 【R18】
・女 「私で何人目の彼女?」 男 「知りたいかね?」 【R15・グロ・鬱】
・悪魔『魔王のために死んどきや』←当SSです

以上6作です。俺、お疲れ様でした←

本当におつかれさまでした。
素敵な作品をありがとう!

エノコロちゃん粘り勝ちだったなぁw
魔王様にも幸あれー

乙!

>>376 ありがとう! 投下完了から1時間でレスもらえるとはww
嬉しいー!

>>377 あははw エノコロのEDは相当悩んだんだけどねーwww
乙ありです!!


クッソ泣いた、面白かったよ
前作シリーズ読み返してくる!

>>379
読み返すと、 レス >>34 のど派手な設定暴露に気づいちゃうんだよ?www

……すみません(土下座)
レス >>34 を ↓のと 入れ替えさせてください…
既に遅いだろうけど、脳内補完で訂正してください・・・ww

九日目

従者「カリカリ…カリカリ…」

従者「カリカリ…カリカリ…」

従者「魔王おらへんと、めっちゃ仕事はかどるな」

従者「カリカリ…カリカリ…」

バタンッ!!

従者「うわっ!?」

魔王「ただいま……」

従者「あ、ああ、魔王はんか… どこいっててん…」

魔王「頭、すこし冷やしたくて…。 聖なる泉に沈んでみたら、浄気すごくて弱っちゃって。浮上できなくなってた」

従者「…………自殺未遂?」

―――――――――――――――――――――

読んできたよー



大草原不可避wwwwwwwwww
いや、いい話でした
ご馳走さま!

生キャラさんでしたメルがついちゃいましたすいません。

また戻ってきてください。

安価スレ読んで来た
確かに、姫ちゃんにあの過去は言えねぇわwwwww

活動停止か、お疲れさんでした
また戻ってくるのを楽しみにしてるよー

ああ……>>1に自スレを読んでもらうのが目標だったのに……って妄言はさておき

今までハイペースでいっぱい読めて嬉しかったので
その分ゆるりとご養生くださいまし

できれば、また読みたい


>>392
大草原w 笑って頂けてよかったです!w

>>394
ちょw わざわざ名前を省略しなくてもww
あー… ええと。低空飛行な俺ですので浮上できるようにがんばります…w
←地に足を着けろ

あ、はい。遊び人スレが生キャラメルの最終作となります(苦笑
…まさかここでも創作停止を明かすことになるとはw

>>395
安価で決められる最後まで不憫な騎士さんwwww
ありがとうv 楽しみにしてくれる、その言葉が嬉しいよv

>>396
スレがオチる前にスレタイ晒してくれたら確実に読むよ?wwww
なんてね、ありがとうv
ここの掲示板は見てるから、いいスレタイつけて捕まえてくださいw


それにしてもこの”先代魔王”を書いたスレは
前作に引き続き、どうも雑談化しやすいようで…ww
あ、俺がかまってちゃんだからか!?ww

遊び人もこの悪魔SSも単独成立するよう書いてはいますが
いろいろつながりもひっぱってきたり。
それでもやはり収録し切れなかったストーリもあったりw

今までこの作風で、何度か「泣いた」のレスを頂いた事がありますが
それはそれでとても作者冥利に尽きますけれど
やっぱり最後には笑顔をお届けしたいですねw

なので、せっかく人が残ってくれたようだし
こんなおまけの後日談をどうぞ↓



--------------

『優しい想いの 伝え方』

--------------


静かに精霊を見送った夜
小さな美しい琥珀は、従者の部屋にそっと置かれることとなった

それから百年の月日が流れ……


・・・・・・・
・・・・・
・・・


ある晩の、従者の部屋


ゴォォ…
琥珀(……? 今夜は、嵐なのでしょうか)

琥珀(ですが何か、それにしてはとても人気の少ない気もしますね?)コロ

琥珀(従者様がお部屋にいないからでしょうか…それにしては様子が…)


琥珀(……なんでしょう。まるで、精霊族が私以外にいなくなったあの夜のような静けさです…)カタカタ

琥珀(少し、怖いです。琥珀と化した私には影響もないでしょうが…。ですが、外では一体何が…?)


ゴォォ…


琥珀(何…で、しょう。琥珀を通じて私に伝わるほどに、大気に魔力があふれている??)コロ

琥珀(それに、瘴気も)


琥珀(……うう。少し怖いです。従者様…)

琥珀(こんな晩ならば、せめてお部屋にもどっていらっしゃらないかしら…)

琥珀(言葉を交わすことが出来なくても。やはり従者様の気配だけでも安心できまますのに)ショボン


琥珀(……いえ、それはもちろん、できることならばお話とかもしたいですがっ//)

琥珀(ですがこうして琥珀の中で、精霊族として生を終えた身! それは贅沢すぎる望みですね!)


琥珀(……琥珀へと身を宿したあの時は、もう眠るか死ぬかだと覚悟しましたのに)

琥珀(なぜかはわかりませんが、意識だけこのように残ってしまいました…)

琥珀(仲間たちは皆 植物へもどったというのに私だけ…。仲間に合わせる顔がありませんね)

琥珀(本当に私は駄目な族長でした…)

琥珀(きっとその罰として、こうして一人残され反省しつづけろという事なのかもしれません)ハァ



琥珀(ですが…)

琥珀(そのおかげで、こうして100年という時を経てなお お傍に従者様を感じていられるのです……)ド

キドキ

琥珀(私はなんて幸せな罰をいただいてしまった娘なんでしょうっ!//)

琥珀(ああ、本当にこんな風に思うなんて罰当たりすぎますっ!? 本当に駄目な族長でごめんなさい、精霊族の皆様っっっ!!!)


ゴォォ・・・

琥珀(……なんていってるうちに、段々と…瘴気と魔力の気配が強く…)

琥珀(大気が、泣いている… 嗤っている?)

琥珀(ああ、本当になんだか怖いです…! こんな夜は初めてで、どうしたらいいやら…!))

琥珀(従者様、従者様 従者様っ)



琥珀(従者様、どうか私の元へおいでくださいませ……!!!!)



少し大きな光の粒「」フヨ・・・

スゥ…
シュッ…


精霊(……なんて。このように祈ったところで、私はもう精霊族としての力など…)クルッ

従者「……はぁ…」

精霊「!?!?!?!?」ビク!!


従者「…はぁ…魔王…。…やっぱ無理だったっちゅーことなんやろなぁ…」

精霊「え!? あれ!?」


従者「……姫さんには悪い事をしてもうたなぁ…ほんま堪忍やで…」

精霊「え? ちょ、どうして? あれ?」

精霊「え? ここって琥珀の中ですよね!? なんで従者様が!?」


従者「はぁ…まあ、あたりまえやな。悪魔のワイも、魔王のあいつも…」

精霊「? え? あれ、じゅ、従者様…ですよね? 」


従者「どうやったって…愛だのなんだの上手くいくわけもないんや…それが道理っちゅーもんやな…」ハァ

精霊「…どうして琥珀の中に…って もしかして…魂ですか!? ああ!! 従者さま!!!」ダキッ

従者「!」ビクッ


精霊「ああ! どうしましょう! 本当に従者様ですっ!!!」オロオロ

従者「は? え? …あれ? ここどこや」


精霊「どうしましょうどうしましょう!! 私がうっかり『おいでください』なんて祈ったばかりに!!」

従者「!? エノコロ!?」


精霊「うわぁぁんっ これはきっと本当に罰があたったのですわ!! ごめんなさい従者様!!」

従者「は? ちょ、まちぃや これどーゆーことやねん…」

精霊「まさかその魂までも吸い取ってしまうだなんて! 殺すつもりなんてなかったんですぅっ!!」

従者「は!? 魂を吸うってなんのことやねん、悪魔か!!」

精霊「本当にまるで悪魔の所業ですね! いくら慕っている殿方とはいえ、その想いで魂を吸い取るだなんて!!」

従者「え? 魂? あ… そか。魔王が死んださかい、ワイは身体を失って霊魂に……」


精霊「殺してまで共にいたかったわけではないのですっ! ですがどうやらそれほどに焦がれていたらしく…!」

従者「は? いや、ワイは別にエノコロに殺されたわけでは…って。ほんまになんでエノコロがおんねん?」


精霊「ごめんなさいごめんなさいっ 殺しちゃうくらい好きで本当にごめんなさいっ!!」ペコペコ!

従者「……あのな、エノコロ」


従者「やらかしてもおかしくないって肯定、めっちゃ怖いしやめたってくれへん?」

精霊「え? ……はっ、私は何を…?」

従者「……」ハァ


・・・・・・・
・・・・・
・・・


精霊「……本当に、従者様なのですか?」

従者「あー…せやで。ひさしぶりやなぁ。100年ぶりか? エノコロ」ナデナデ

精霊「~~~~~~っ」ウルウル


従者「いろいろあってなぁ…。魔王が死んで、ワイも魂に還ったんや」

精霊「そんな… 従者様……魔王様も…」


従者「天に昇る間もなく、なんやこんなけったいな場所に引きずりこまれたけど」

精霊「祈りの力ってすごいですね」


従者「……あー、多分やけど、魔王の魔力があふれとったからなぁ」

精霊「魔力の奔流の中で、私の祈りが運よく成功したんですね」

従者「……なんや、あの魔王はんならそれも狙ったんちゃうかなとかも思うわ」

精霊「あの魔力の大嵐……お亡くなりになる際の暴走なんですよね?」

従者「いや、暴走するために死んだよーなもんやで」

精霊(魔王様ってこわい)


従者「……あの魔王は、アホみたいに器用やさかいな」

従者「ただ暴走しとるように見えても、バカやっとるように見えても…」

従者「なんかどっかで、いっつもうまいことコントロールを忘れへんねん」

従者「きっと、今回もそうやろ」

精霊「従者様…」ソッ


従者「……姫さんや、幼魔王や…幼魔王にあげた四天王や」

従者「それに…ワイのことも」

従者「どっかで守ろうとしたがんのが、魔王らしくないんや。ほんましゃーない魔王やわ」

精霊「魔王様……お優しい方だったのですね…」

従者「もっと、そんなんしなければ…まだ他に瘴気の使い道ものこしておけたかもしれへんのに…」


精霊「……きっと」

従者「……」

精霊「きっと。それでもそこまでしなければ、自分を許せないこともあるのです」

従者「自分を…?」

精霊「」コクン


精霊「自分自身が、自分自身でいるために」

従者「……エノコロ」

精霊「えへへ…私だって、生き残る道を従者様に教えていただきましたが、それはできませんでしたから

」ニコ

従者「あ…」

精霊「でも、こうして…きちんと自分らしくいれたからこそ、従者様にまた会えた」


精霊「あの時、一時の欲におぼれて生き残っていたとしたら」

精霊「きっと後悔の中で生きていくことになる。こうして笑顔で従者様に会える未来はなかったんです」


従者「……そう、かも… しれんな」

精霊「えへへ」

従者「エノコロらしいもんな、めっちゃ」

精霊「え?」


従者「ワイが死んで肉体が消えた瞬間、ここぞとばかりに無茶苦茶なやりかたで飛びついてきた」クックック

精霊「~~~ぁぅっ//」

従者「エノコロはエノコロのまんまやわ」アハハハハ

精霊「うううう//」

従者「はは…まさか消えた後で一緒にいられるようになるとはさすがにワイも考えつかんかったしなぁ」

精霊「も、もうやめてくださいぃぃ//」


従者「しっかし、ほんまに。こんな方法があるんなら…」


従者「いつか。あの魔王もまた、あの姫を大切に守れるチャンスが来るかもわからへんな?」

精霊「従者様…」


精霊「ええ!! ええ、きっとありますっ!」

従者「はは。ほならワイはここで一足先に、”エノコロといられる未来”を満喫しとくとするわ」

精霊「従者さまぁっ…!!」


従者「しっかしすごいな、ある意味最強やで?」

精霊「何がですか?」

従者「知識と未来を知るワイと… 文献ものこらへんような過去を知るエノコロ」

精霊「ふふ。その二人がやどるこの琥珀は、”知らないものは何もない!”って感じですね」

従者「ほんまやわ。よし、んじゃワイらの新しい仕事は決まりやね」

精霊「仕事?」

従者「なんちゅーか、今まで働きづめやったしな。仕事せな落ち着かん」


精霊「仕事って、何をするんですか?」キョトン

従者「最良の未来を、探し続ける」

精霊「……ふふ。たしかに今まで、従者様が毎晩していたことですものね」

従者「なんや、知っとったんかい」

精霊「申し訳ない半面、とても嬉しく見ておりました//」

従者「そ、そか…」


精霊「ですが、それを仕事にするってどうするのですか?」

従者「ワイらで視たり考えたりして、伝えていくんや」

精霊「伝える? どなたにです?」

従者「エノコロみたいに、素直に祈ったり願ったりするやつに」

精霊「わ、私みたいに、ですか//」

従者「ワイ好みのやつってことやねー」

精霊「じゅ、従者様ってばっ! もうっ!//」


従者「ま、手始めに ワイが祈っとこか。祈りなんて初めてやわ」

精霊「ふふ。記念すべき最初の祈りをお聞きできるなんて幸せです」


従者「どうか、ワイの大切にするヤツが 最良の未来に進めますように」

精霊「……ふふ。大切なヤツって、新しい魔王様ですか?」

従者「さぁね? まぁでも… やっぱ祈りなんてガラじゃないわな」クス




従者「未来の為に、祈っておきや」

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・・・・・・・
・・・・・
・・・

後に、幼い魔王はその石に祈りを捧げた

それはただ、世話になった重臣の形見を供養するためであったが
その石は未来を視て、魔王に言葉を伝えた


琥珀『ワイのことは人魚に渡してくれ』

幼魔王「え? …喋った?」

琥珀『ああ、なんちゅーかな。なんでもおしえたる石みたいなもんやねん、ワイ』

幼魔王「……この喋り方をする人物に心あたりが…いやでも本人の持ち物だしな…ありうるか…?」

琥珀『そこらへんは気にしんとき』


幼魔王「……人魚に渡せばいいんだな?」

琥珀『伝言しとくとええわ。”ワイを欲しがるやつがいるやろし、願いをかなえる褒章にくれてやったらええよ”って」

幼魔王「そんなことを、一体何のために?」

琥珀『そいつがワイを必要とする。それがおまえの、最良の未来のためになんのや』

幼魔王「……最良の未来などはいらんが…。まあ遺言のようなものだ、伝えておこう」

琥珀『おおきに』


幼魔王(それにしても、その口調はどうにかならないんだろうか…とても俺からはそのまま言えないではないか)

幼魔王(仕方ない、適当な解釈をしてそれっぽく訳して伝言するとしよう…)ハァ

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その石は、海の奥底で ある人物との出会いを果たす
ひとつの出会いが、また新たな出会いのきっかけを産みだした

そうして連鎖する出会いこそが
いまはまだ幼い魔王と、その魂を癒せるようにと…

一人の悪魔の優しい想いが
心の底からのひたむきな願いが
不器用な祈りが 

新しい未来を創りだしていく



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『優しい想いの伝え方』 おわり


最後に少し、書きたくなってしまって書きました
どこか矛盾があるかもしれないけれど、いかがでしょうか
悲しい終わりを迎えるひとは、たとえキャラでも 一人でも少ないほうがいいね(苦笑

こんな想いでこのスレを終える事が出来るなんて思ってなかった
遊び人スレも、最後はとても楽しく書けたし…
いろんな人に支えてもらって、書き終える事が出来ました
本当にありがとうv
 

選んだ未来が、最良であろうとなかろうと
どうか、優しい想いをくれた人に 穏やかな幸せが訪れますように

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